(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-25
(54)【発明の名称】バルク音響共振器の製造プロセス及びバルク音響共振器
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20230818BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H03H3/02 B
H03H9/17 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517369
(86)(22)【出願日】2020-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2020118175
(87)【国際公開番号】W WO2022061835
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】202011024256.8
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522504282
【氏名又は名称】杭州星▲闔▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】李 林萍
(72)【発明者】
【氏名】盛 ▲荊▼浩
(72)【発明者】
【氏名】江 舟
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108CC11
5J108DD05
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE13
5J108FF06
5J108KK01
5J108MM11
(57)【要約】
バルク音響共振器の製造プロセスを開示し、基板上に音響ミラーを製作するステップと、基板上に、音響ミラーを覆うための底電極層を製作するステップと、底電極層の外周部分を化学処理して、底電極層を取り囲む改質層を形成するステップと、底電極層上に圧電層を製作するステップと、圧電層上に頂電極層を製作するステップと、を含む。バルク音響共振器をさらに開示し、基板と、基板上に形成された音響ミラーと、音響ミラーを有する基板上に順次形成された底電極層、圧電層、及び頂電極層とを含み、底電極層の、音響ミラーのエッジに隣接する部分は、化学処理されて改質層を形成する。改質層の形成により、有効動作領域外の電極の間の電界強度を弱め、または除去し、電極がその間の圧電層を励起して機械波を発生させることができないため、共振器の寄生振動が抑制され、頂電極の配線が大幅に簡単化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク音響共振器の製造プロセスであって、
基板上に音響ミラーを製作するステップS1と、
基板上に、前記音響ミラーを覆うための底電極層を製作するステップS2と、
前記底電極層の外周部分を化学処理して、前記底電極層を取り囲む改質層を形成するステップS3と、
前記底電極層上に圧電層を製作するステップS4と、
前記圧電層上に頂電極層を製作するステップS5と、
を含むことを特徴とする製造プロセス。
【請求項2】
前記底電極の材質は、金属及び/または合金材料を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項3】
前記改質層は、前記底電極層の外周部分に対して局所的な化学処理を行って形成されたものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項4】
前記改質層は、前記底電極層の外周部分に対して全面的な化学処理を行って形成されたものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項5】
前記ステップS4において、前記圧電層が、少なくとも前記改質層を覆うとともに、前記改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成するようにする、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項6】
前記音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層構造を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項7】
前記化学処理は、加硫処理を含み、前記ステップS2は、具体的に、
加硫される領域の底電極が露出するように、前記底電極層上に、パターン化された硬質マスクを製作するステップS21と、
前記硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素、窒素及び硫化水素からなる混合ガスを導入し、前記温度を700~800℃の範囲内に保持して加硫反応を実現するステップS22と、
前記硬質マスクを除去するステップS23と、
を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の製造プロセス。
【請求項8】
前記ステップS22は、
前記硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素を導入することで酸化を実現し、不活性ガスを担体として利用し、硫黄粉末を前駆体とし、温度を600~700℃の範囲内に保持することで、加硫反応を実現するように構成可能である、
ことを特徴とする請求項7に記載の製造プロセス。
【請求項9】
バルク音響共振器であって、
基板と、基板上に形成された音響ミラーと、前記音響ミラーを有する基板上に順次形成された底電極層、圧電層、及び頂電極層とを含み、前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、化学処理が実施されて改質層を形成する、
ことを特徴とするバルク音響共振器。
【請求項10】
前記圧電層は、前記改質層の形成後に製作されて、少なくとも前記改質層を覆うとともに、前記改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項11】
前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、部分的に化学処理されて前記改質層を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項12】
前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、完全に化学処理されて前記改質層を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項13】
前記改質層の表面は、化学処理されていない前記底電極層よりも高い、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項14】
前記音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層構造を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項15】
前記化学処理は、加硫処理を含み、加硫後の前記改質層は、前記底電極層の外周を取り囲み、前記底電極層の材質は、金属及び/または合金材料を含む、
ことを特徴とする請求項9~14のいずれか1項に記載のバルク音響共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、通信デバイスの分野に関し、主に、バルク音響共振器の製造プロセス及びバルク音響共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁スペクトルがますます混雑し、無線通信機器の周波帯域と機能が増加するにつれて、無線通信に使用される電磁スペクトルは500MHzから5GHz以上に急速に増加しているので、性能が高く、コストが低く、消費電力が低く、体積が小さい無線周波数フロントエンドモジュールに対する需要も日々増加している。フィルタは、無線周波数フロントエンドモジュールの1つであり、信号の発信及び受信を改善することができ、主に複数の共振器によってトポロジーネットワーク構造を介して接続されてなる。Baw(Bulk Acoustic Wave)はバルク音響共振器であり、それからなるフィルタは、体積が小さく、集積能力が強く、高周波動作時に高品質要素Qを保証し、電力受容能力が強い等の利点を有するため、無線周波数フロントエンドのコアデバイスとなる。
【0003】
Fbarは、上下電極と、電極の間に挟まれた圧電層とからなる基本構造である。圧電層は主に、電気エネルギーと機械的エネルギーとの変換を実現する。Fbarの上下電極に電界を印加する場合、圧電層は電気エネルギーを機械的エネルギーに変換し、機械的エネルギーは音波の形で存在する。音波は、横波、縦波という2種類の振動モードがあり、縦波は、Fbarの動作状態での主要なモードである。底電極は、キャビティの上部に跨っていることで共振器の機械的安定性を保証し、電極が他の共振器に接続されるか、または信号源を導入する際には、電気信号の正常な伝送を保証するのに外へ十分な長さ伸ばす必要があり、この場合、有効動作領域外に伸びた頂電極、底電極は、外部信号源の下で電界を形成し、その間の圧電層を励起して機械波を発生させ、寄生振動を引き起こし、共振器の周波数応答に直接影響を与え、さらにフィルタの通過帯域内の波形が不安定になる等の、デバイスの性能を悪化させる状況を起こし、そのため、共振器の構造設計は1つの難題になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術における共振器構造は一般的に、キャビティ境界のAir gapによって上下電極の相互作用を隔離することで、有効領域外の寄生振動及び共振干渉を抑制し、Air gapは、その内部の犠牲層を解放することによって作製されており、圧電層上のオーバーハング部分の頂電極の機械安定性を保証する必要があり、頂電極の薄膜は圧電層上に堆積されており、頂電極の機械安定性を考慮すると、特に高周波帯の場合、電極及び圧電層の厚さが非常に薄くなり(100nm)、応力制御及び機械安定性が非常に挑戦的になる。或いは、交錯する電極構造を使用して上下電極の間の寄生干渉という課題を回避し、交錯する簡単な電極構造は基板上のAir gap構造に依存し、上記Air gapを形成するには複雑なプロセスが必要であり、キャビティ側辺は非常に急峻であり、電極と圧電層が急峻なキャビティ側辺で成長すると、応力及び/または薄膜の重大な欠陥が発生してデバイスの性能に影響を与えることになる。或いは、頂部の質量負荷を使用して音響インピーダンス急変領域を形成することで横波がエネルギーを奪うのを抑制してQ値をアップするが、キャビティのエッジ上部の圧電層は、その底電極がエッチングプロセスによってもたらされた格子欠陥及び微孔を複製して、デバイスの性能に影響を与える。或いは、圧電層上に凹溝を製作して音響インピーダンス急変領域を形成することで横波がエネルギーを奪うのを抑制してQ値をアップし、凹溝は、圧電層上に1つの凹没口をエッチングすることによって作製されており、エッチングプロセスは、凹溝の底部及び側壁の圧電層の格子欠陥、微穴をもたらし、さらに、凹溝の周囲の圧電層薄膜の品質は同様に、異なる程度の影響を受け、当初に成長したALN薄膜の応力分布が破壊され、応力変化は制御しにくく、共振器の性能を悪化させる一方、キャビティの上部の共振領域面積を減少させ、フィルタのサイズをある程度増加させる。一部の他の交錯する電極構造も存在し、上下電極の間の寄生干渉を回避するが、エネルギー漏れを起こしやすく、さらにそのQ値を非常に低くさせる。
【0005】
従来技術における以上の技術的課題について、本出願は、バルク音響共振器の製造プロセス及びバルク音響共振器を提案した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
基板上に音響ミラーを製作するステップS1と、
基板上に、音響ミラーを覆うための底電極層を製作するステップS2と、
底電極層の外周部分を化学処理して、底電極層を取り囲む改質層を形成するステップS3と、
底電極層上に圧電層を製作するステップS4と、
圧電層上に頂電極層を製作するステップS5と、
を含むバルク音響共振器の製造プロセスが提案される。
【0007】
具体的な実施例では、底電極の材質は金属及び/または合金材料を含む。金属及び/または合金材料(例えば、Mo)を採用して底電極を製作することは、抵抗の高い半導体または絶縁性質の化合物(例えば、MoS2)を生成するための化学処理を容易にすることができる。
【0008】
具体的な実施例では、改質層は、底電極層の外周部分に対して局所的な化学処理を行って形成されたものである。局所的な化学処理で形成された音響インピーダンス急変領域により、非有効動作領域での電界強度を弱めて寄生振動を抑制する。
【0009】
具体的な実施例では、改質層は、底電極層の外周部分に対して全面的な化学処理を行って形成されたものである。全面的な化学処理で形成された音響インピーダンス急変領域により、非有効動作領域での電界強度を除去して寄生振動を抑制する。
【0010】
具体的な実施例では、ステップS4において、圧電層が少なくとも改質層を覆うとともに、改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成するようにする。当該アモルファスの結晶構造により、さらに音響インピーダンス急変を形成し、音響エネルギー損失及びスプリアス信号を減少し、寄生振動を抑制することができる。
【0011】
具体的な実施例では、音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層構造を含む。異なる音響ミラー構造の選択に応じて、異なる音響反射効果が得られる。
【0012】
具体的な実施例では、化学処理は、加硫処理を含み、ステップS2は具体的に、
加硫される領域の底電極が露出するように、底電極層上にパターン化された硬質マスクを製作するステップS21と、
硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素、窒素及び硫化水素からなる混合ガスを導入し、それに、温度を700~800℃の範囲内に保持して、加硫反応を実現するステップS22と、
硬質マスクを除去するステップS23と、を含む。当該ステップにより、底電極層上の特定領域を加硫処理して音響インピーダンス急変の改質層を形成することができる。
【0013】
具体的な実施例では、ステップS23は、
硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素を導入することで酸化を実現し、
不活性ガスを担体として利用し、硫黄粉末を前駆体とし、温度を600~700℃の範囲内に保持することで、加硫反応を実現するように構成可能である。上記2種類の異なる加硫プロセスは、異なるパラメータを制御することで加硫層の厚さを調節することにより、異なる性能のバルク音響共振器を得ることができる。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、基板と、基板上に形成された音響ミラーと、音響ミラーを有する基板上に順次形成された底電極層、圧電層、及び頂電極層と、を含み、底電極層の、音響ミラーのエッジに隣接する部分は、化学処理が実施されて改質層を形成するバルク音響共振器が提案される。底電極層上への化学処理で形成された改質層により音響インピーダンス急変領域を形成することは、横波を効果的に反射し、有効領域外の電界強度を弱めてさらに寄生振動を抑制し、バルク音響共振器の性能を向上させることができる。
【0015】
具体的な実施例では、圧電層は、改質層の形成後に製作されて少なくとも改質層を覆うとともに、改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成する。当該アモルファスの結晶構造により、さらに音響インピーダンス急変を形成し、スプリアス信号を減少し、寄生振動を抑制することができる。
【0016】
具体的な実施例では、底電極層の、音響ミラーのエッジに隣接する部分は、部分的に化学処理されて改質層を形成する。局所的な化学処理で形成された音響インピーダンス急変領域により、非有効動作領域での電界強度を弱めて寄生振動を抑制する。
【0017】
具体的な実施例では、底電極層の、音響ミラーのエッジに隣接する部分は、完全に化学処理されて改質層を形成する。全面的な化学処理で形成された音響インピーダンス急変領域により、非有効動作領域での電界強度を除去して寄生振動を抑制する。
【0018】
具体的な実施例では、改質層の表面は、化学処理されていない底電極層よりもわずかに高い。化学処理されていない電極層よりもわずかに高い改質層により、横波をよりよく反射することができる。
【0019】
具体的な実施例では、音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層を含む。異なる音響ミラー構造の選択に応じて、異なる音響反射効果が得られる。
【0020】
具体的な実施例では、化学処理は加硫処理を含み、加硫後の改質層は、底電極層の外周を取り囲み、底電極の材質は金属及び/または合金材料を含む。金属及び/または合金材料(例えば、Mo)を採用して底電極を製作することは、抵抗の高い半導体または絶縁性質の化合物(例えば、MoS2)を生成するための化学処理を容易にすることができ、当該設置により、底電極層のエッジの非動作領域で改質層を形成することで音響インピーダンス急変を実現し、さらに寄生振動を抑制することができる。
【0021】
本発明は、有効動作領域外の金属性質、例えば、Moの底電極の部分または全末端に対して加硫処理等の化学手段によって、導電率の低い(高抵抗)半導体または絶縁体性質の化合物、例えば、MoS2を合成することにより、有効動作領域にすぐ隣接する非有効動作領域が音響インピーダンス急変領域の改質層を形成し、有効動作領域外の寄生振動を抑制してデバイスの性能を向上させる。当該改質層と圧電層は、結晶面指数、原子間距離の大きい違いにより、格子不整合を持ち、有効動作領域外の改質層の上方の界面には、アモルファス、またはC軸配向性の悪い圧電層薄膜が成長することにより、有効動作領域外の寄生振動がさらに抑制される。当該構造のバルク音響共振器は、有効動作領域外の電極の間の電界強度を弱め、または除去し、電極がその間の圧電層を励起して機械波を発生させることができないため、共振器の寄生振動が抑制され、頂電極が共振器の頂部から直接引き出されることができ、頂電極の配線が大幅に簡単化される。
【0022】
実施例のさらなる理解を提供するために添付の図面を含み、それに、添付の図面は、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する。図面は、実施例を図示し、説明とともに本発明の原理を解釈するために用いられる。他の実施例、及び実施例の多くの予想される利点は、以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されるようになるから、容易に認識されることになる。図面の要素は、必ずしも互いに比例するとは限らない。同じ参照符号は、対応する類似している部材を指す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施例による、バルク音響共振器の断面模式図を示す。
【
図2】本発明の1つの具体的な実施例による、バルク音響共振器の断面模式図を示す。
【
図3a】
図3aは、本発明の1つの具体的な実施例による、直列、並列の構造でのバルク音響共振器の断面模式図を示す。
【
図3b】
図3bは、本発明の1つの具体的な実施例による、直列、並列の構造でのバルク音響共振器の断面模式図を示す。
【
図3c】
図3cは、本発明の1つの具体的な実施例による、直列、並列の構造でのバルク音響共振器の断面模式図を示す。
【
図4a】
図4aは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4b】
図4bは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4c】
図4cは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4d】
図4dは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4e】
図4eは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4f】
図4fは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4g】
図4gは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4h】
図4hは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4i】
図4iは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4j】
図4jは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【
図4k】
図4kは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面及び実施例を結合して本出願をさらに詳しく説明する。理解するように、ここで記述される具体的な実施例は、関連発明に対する限定ではなく、当該発明を解釈するためのものだけである。また、さらに説明しようとするのは、記述の便宜上、図面には、発明に係る関連部分だけが示される。
【0025】
なお、矛盾がなければ、本出願における実施例、及び実施例における特徴を互いに組み合わせることができる。以下、添付の図面を参照して実施例を結合して本出願を詳しく説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の断面模式図を示し、
図1に示すように、当該バルク音響共振器は、基板101と、音響ミラー102と、底電極103と、圧電層104と、頂電極105と、底電極改質層106と、音響インピーダンス急変領域107とを含む。音響ミラー102は基板101上に形成され、底電極103、圧電層104、及び頂電極105は音響ミラー102上に順次形成され、当該バルク音響共振器における、化学処理されていない底電極103、圧電層104、及び音響ミラー102の垂直方向における投影が重なる位置は、有効動作領域Iであり、他の領域は、非動作領域IIである。底電極改質層106は、底電極103が化学処理されて形成された半導体、または絶縁性質の化合物であり、好ましくは、化学処理の方式について、加硫処理が採用されることができる。処理後の底電極103が半導体または絶縁性質の化合物になることができることが満たされれば、他の化学処理の方式を採用して底電極改質層106を形成してもよいことは認識すべきである。後続の実施例では、いずれも加硫処理を例とする。
【0027】
具体的な実施例では、底電極103の材料は、金属及び/または合金材料を含み、本実施例では、好ましくはMoであり、有効動作領域I外の底電極103の末端は、加硫処理されて底電極改質層106を形成し、底電極改質層106は、抵抗の高い不良導体MoS2であり、底電極改質層106の厚さは、有効動作領域I外の底電極103の末端の一部または全部のMoがMoS2に化学合成されるように、加硫処理のプロセスによって制御することができ、バルク音響共振器の性能要求に応じて、カスタマイズ可能な底電極改質層106の厚さの設置を行うことで、異なる程度の寄生振動の抑制効果を実現することができ、電界強度を異なる程度で弱め、または除去するのを実現して異なる程度の抑制効果を得ることができる。有効動作領域I外の底電極103の一部、または全部を加硫し、有効動作領域I外の底電極改質層106が音響インピーダンス急変エリアを形成して横波を反射するようにすることは、電界強度を(局所的に改質する場合)弱め、または(全面的に改質する場合)除去して寄生振動を抑制することができ、底電極改質層106は、共振器の非有効動作領域IIで頂電極105及び圧電層104と底電極103を遮断し、3層構造の間に寄生振動が発生することを抑制し、これにより、スプリアス信号及びエネルギー損失を大きく減少する。底電極103の材料について、Moの他に、Cu、Au、Ag、Pt、Ru等の金属を用いてもよく、同様に本発明の技術的効果を実現できることを認識すべきである。
【0028】
具体的な実施例では、加硫処理された底電極改質層106は、音響インピーダンス急変領域107を形成し、横波は、エネルギーの減衰による共振器のQ値の低減を回避するために、音響インピーダンス急変領域107で有効動作領域Iに反射することができる。基板101上部の音響インピーダンス急変領域107の垂直方向における投影は、少なくとも音響ミラー102の境界と重なり、または、一部分が音響ミラー102の内部にあって一部分が基板にある。この構造は同様に、SMR-BAW構造の共振器に適用される。
【0029】
図1に示す音響ミラー102は、基板101上のキャビティ構造であるが、認識すべきであるように、音響ミラー102は、
図2に示すような、基板101上に加工して生成されたブラッグ反射層構造202であってもよく、ブラッグ反射層構造202は、高低音響インピーダンスが交互にする膜層によってスタックされてなり、その他の構造は、
図1と一致であり、ここでは贅言しなく、同様に本発明の技術的効果を実現できる。
【0030】
本発明のバルク音響共振器は、従来技術におけるバルク音響共振器の構造と比較すると、直接に有効領域I外の底電極103を不良導体に化学合成して電極の間の分離を実現し、頂電極105の薄膜は、圧電層104上に堆積されており、かつ頂電極の機械安定性を考慮する必要がなく、特に高周波帯の場合、電極及び圧電層の厚さが非常に薄くなり(100nm)、応力制御及び機械安定性の制御について、従来技術よりも容易になり、寄生干渉という課題の場合に応力及び/または薄膜の欠陥の影響を受けることをさらに解決し、また、従来技術に比べて、圧電層薄膜の品質を破壊することがなく、デバイスのサイズに影響を与えることもない。なお、当該構造のバルク音響共振器の頂電極105は共振器の頂部から直接引き出されることができ、頂電極105の配線は極めて便利である。
【0031】
引き続き
図3a~cを参照し、
図3a~cは、本発明の1つの具体的な実施例による、直列、並列の構造でのバルク音響共振器の断面模式図を示し、
図3aは、底電極並列構造のバルク音響共振器の断面模式図であり、
図3aに示すように、両共振器が底電極303を介して並列に接続された場合、接続箇所の改質層306の投影は、互いに並列される共振器の間の基板301上を覆い、さらに、改質層306の投影は、2つのキャビティ302の内部に入り、または2つのキャビティ302の境界と重なり、従来技術に比べて、当該並列構造は、底電極の間が接続される際の寄生を効果的に抑制し、スプリアス信号及び音響エネルギー損失を減少することができ、これは、従来技術では実現し難しいことである。
図3bは、頂電極305の並列構造のバルク音響共振器の断面模式図であり、
図3bに示すように、両共振器が頂電極305を介して並列に接続された場合、圧電層304と両底電極303との間が改質層306によって分離されるため、この場合、寄生損失を抑制し、共振器の性能を向上させることもできる。
図3cは直列構造のバルク音響共振器の断面模式図であり、前の共振器の頂電極305は後の共振器の底電極303に接続され、両共振器の電極が接続されている部位は、改質層306によって分離されてはならず、さもないと、改質層306の高抵抗特性により電気信号を大きく減衰させてデバイスのQ値を低減させることになる。
【0032】
図4a~kは、本発明の一実施例による、バルク音響共振器の製作フローチャートを示す。当該プロセスは以下の流れを含む。
まず、
図4a、4bに示すように、基板401上にフォトリソグラフィまたはエッチングのプロセスによりキャビティ402を製作し、PVDプロセスを利用してキャビティ402内に犠牲層408を成長させた後、化学機械研磨プロセスにより基板401と犠牲層408とを水平に保持させる。基板401の材料について、Si、SiC、サファイア、または尖晶石等の材質を選択することができ、犠牲層408の材質はPSG(PドープSiO
2)である。好ましくは、化学機械研磨プロセス後の犠牲層の厚さ(即ち、Rlease後のキャビティの高さ)は1~2umである。
【0033】
図4cに示すように、基板401及び犠牲層408上に、パターン化されることが必要な底電極403を加工し、底電極403の材質について、Mo、Cu、Au、Ag、PtまたはRu等の金属を選択することができる。好ましくは、本実施例では、Moを底電極403として採用し、Moを採用した底電極403は、加硫処理時に、より高い抵抗を有するMoS
2を生成することができる。そして、底電極403を加硫処理し、具体的には、底電極403上にパターン化された硬質マスク409を製作し、当該硬質マスク409の材質はSiO
2であり、
図4dに示すように、加硫処理される領域の底電極403の部分を露出させる。
【0034】
具体的な実施例では、底電極403を加硫処理するプロセスは以下の2種を含み、即ち、パターン化された硬質マスク付きウエハを気相成長炉または管状炉に置き、H2、N2、H2Sの混合ガスを導入し、温度を750℃程度(700~800℃の範囲内)に制御し、最終的にMoS2薄膜が得られる。或いは、パターン化された硬質マスク付きウエハを気相成長炉または管状炉中に置き、O2を導入して露出した底電極Moを酸化する。さらにArガス等の不活性ガスを担体とし、S粉末を前駆体とし、温度を650℃程度(600~700℃の範囲内)に制御し、最終的にMoS2薄膜が得られる。
【0035】
具体的な実施例では、上記2種のプロセスにより底電極403における一部の領域を加硫処理することで、Moの一部分がSと結合してMoS
2改質層406になり、好ましくは、プロセスにおけるガス比、ガス流量、温度、パワー等のパラメータにより、最終的なMoS
2改質層406の厚さを調節することができ、具体的には、実際に必要なデバイスの性能に応じて適切なパラメータを調節することができる。加硫後の改質層406は、加硫されていない底電極403よりもわずかに高く、改質層406と底電極403との高度差が0~100nmの範囲内にあり、形成された高度差である。
図4eは、露出した底電極403を局所的に加硫処理して一定の厚さの改質層406を生成したことを示し、この厚さは、上記のプロセスによって調節されることができ、改質層406の音響インピーダンス急変特性は、横波を反射することができ、異なる厚さの改質層406は、電界強度を異なる程度で弱めて寄生振動を抑制することができ、
図4fは、露出した底電極403を全面的に加硫処理して改質層406を生成したことを示し、改質層406の音響インピーダンス急変特性は、横波を反射することができ、完全に加硫処理された改質層406は、電界強度を除去して寄生振動を抑制することができる。
【0036】
引き続き
図4gを参照し、硬質マスク409を除去し、具体的には、フッ化水素酸エッチング剤を利用して硬質マスク409の除去を行うことができる。
図4hにおける平面図に示すように、底電極403は少なくとも一側が加硫処理され、キャビティ402の内部に投影され、またはキャビティ402の境界と重なる。加硫後の改質層406は底電極403の末端を取り囲み、音響インピーダンス急変領域を形成して横波を反射し、有効領域外の電界強度を弱め、または除去して寄生振動を抑制する。
【0037】
図4iに示すように、上記を基礎として引き続き圧電層404を製作し、圧電層404はALN薄膜であってもよい。改質層406のMoS
2と圧電層404のALNは、結晶面指数及び原子間距離の差が大きいために格子不整合となり、これにより、有効動作領域外のMoS
2の界面上に、C軸配向性の悪い、さらにアモルファスのAlN薄膜409が成長する。
図4jに示すように、引き続き圧電層404及びアモルファスのAlN薄膜409上に頂電極405を製作してパターン化処理を行い、C軸配向性の悪い、さらにアモルファスのAlN薄膜409は、その上面の頂電極405及び下面の底電極403によってその間の圧電層404が励起されて機械波を発生させることが困難であるため、音響インピーダンス急変をさらに形成し、音響エネルギー損失及びスプリアス信号を減少し、寄生振動を大きく抑制することができる。最後に、フッ化水素酸エッチング剤を利用して犠牲層408を解放して(
図4kに示すように)キャビティ402を得、バルク音響共振器の製造プロセスを完了する。
【0038】
上記プロセスを利用して底電極403のエッジの非動作領域で加硫処理プロセスにより改質層406を形成することで音響インピーダンス急変を実現し寄生振動を抑制し、異なるデバイスの性能要求に応じて改質層406の厚さを調整することで、電界強度を弱め、または除去するのを実現して、さらに寄生振動を抑制することもできる。なお、改質層406の上方に、改質層406のMoS2と圧電層404のALNとが格子不整合のために形成されたアモルファスの結晶構造により、さらに音響インピーダンス急変を形成し、音響エネルギー損失及びスプリアス信号を減少し、寄生振動を抑制することができる。
【0039】
上記のプロセス方法は、バルク音響共振器の製造に使用できるだけでなく、同様に、Fbar、SMR-BAW、CRF、SCF、SBAR、RBAR、またはDBAR等の、無線通信機器(2G、3G、4G、5Gの携帯電話、Wi-Fi、Pad、スマートウォッチ、IOT、自動車、またはGPS等の端末のシーン)、無線周波数等で使用される、任意の構造や方式のBAWフィルタにも適用されることができ、を含む。ZnO、PZT、及び炭酸リチウムLN、またはニオブ酸リチウムLT等の任意の圧電材料で作られたSAW共振器、圧電デバイス、またはセンサ等のmems類のすべてのデバイスタイプにも適用可能である。
【0040】
以上は、本出願の具体的な実施形態を記述したが、本出願の保護範囲はこれに限定されず、本技術分野に精通した任意の当業者は、本出願に開示された技術範囲内で、変化または差し替えを容易に想到することができ、いずれも本出願の保護範囲内に含まれるべきである。従って、本出願の保護範囲は、請求項の保護範囲を基準とすべきである。
【0041】
本出願の記述において、理解されるものとするように、「上」、「下」、「内」、「外」等の用語で示される方位または位置関係が図面に基づいて示される方位または位置関係であり、示される装置または素子が必ず特定の方位を有し、特定の方位で構造、操作されることを指示または示唆することがなく、本出願の説明を容易にし、説明を簡単化するためだけであり、よって、本出願への限制と理解されることができない。「含む」という言葉は、請求項に挙げられない要素またはステップの存在を排除しない。要素の前の言葉である「1」または「1つ」は、複数のこのような要素の存在を排除しない。互いに異なる従属請求項にある措置が記載されるという簡単な事実は、これらの措置の組み合わせが改善に適用されることができないことを示すものではない。請求項における任意の参照符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク音響共振器の製造プロセス
方法であって、
基板上に音響ミラーを製作するステップS1と、
基板上に、前記音響ミラーを覆うための底電極層を製作するステップS2と、
前記底電極層の外周部分を化学処理して、前記底電極層を取り囲む改質層を形成するステップS3と、
前記底電極層上に圧電層を製作するステップS4と、
前記圧電層上に頂電極層を製作するステップS5と、
を含むことを特徴とする製造プロセス
方法。
【請求項2】
前記底電極の材質は、金属及び/または合金材料を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス
方法。
【請求項3】
前記改質層は、前記底電極層の外周部分に対して局所的な化学処理を行って形成されたものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス
方法。
【請求項4】
前記改質層は、前記底電極層の外周部分に対して全面的な化学処理を行って形成されたものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス
方法。
【請求項5】
前記ステップS4において、前記圧電層が、少なくとも前記改質層を覆うとともに、前記改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成するようにする、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス
方法。
【請求項6】
前記音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層構造を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス
方法。
【請求項7】
前記化学処理は、加硫処理を含み、前記ステップS
3は、具体的に、
加硫される領域の底電極が露出するように、前記底電極層上に、パターン化された硬質マスクを製作するステップS21と、
前記硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素、窒素及び硫化水素からなる混合ガスを導入し
、温度を700~800℃の範囲内に保持して加硫反応を実現するステップS22と、
前記硬質マスクを除去するステップS23と、
を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の製造プロセス
方法。
【請求項8】
前記ステップS22は、
前記硬質マスク付きウエハを反応炉に入れ、酸素を導入することで酸化を実現し、不活性ガスを担体として利用し、硫黄粉末を前駆体とし、温度を600~700℃の範囲内に保持することで、加硫反応を実現する
ことである、
ことを特徴とする請求項7に記載の製造プロセス
方法。
【請求項9】
バルク音響共振器であって、
基板と、基板上に形成された音響ミラーと、前記音響ミラーを有する基板上に順次形成された底電極層、圧電層、及び頂電極層とを含み、前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、化学処理が実施されて
、前記底電極層を取り囲む改質層を形成する、
ことを特徴とするバルク音響共振器。
【請求項10】
前記圧電層は、前記改質層の形成後に製作されて、少なくとも前記改質層を覆うとともに、前記改質層の上方にアモルファスの結晶構造を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項11】
前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、部分的に化学処理されて前記改質層を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項12】
前記底電極層の、前記音響ミラーのエッジに隣接する部分は、完全に化学処理されて前記改質層を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項13】
前記改質層の表面は、化学処理されていない前記底電極層よりも高い、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項14】
前記音響ミラーは、キャビティまたはブラッグ反射層構造を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のバルク音響共振器。
【請求項15】
前記化学処理は、加硫処理を含み、加硫後の前記改質層は、前記底電極層の外周を取り囲み、前記底電極層の材質は、金属及び/または合金材料を含む、
ことを特徴とする請求項9~14のいずれか1項に記載のバルク音響共振器。
【国際調査報告】