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▶ アーアェムペーペーセー フィンランド オサケ ユキチュアの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】蒸解方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20230821BHJP
   D21C 1/02 20060101ALI20230821BHJP
   D21C 1/10 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
D21C3/02
D21C1/02
D21C1/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023500316
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 FI2021050480
(87)【国際公開番号】W WO2022008790
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】20205724
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523004006
【氏名又は名称】アーアェムペーペーセー フィンランド オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルキ、マッティ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AB02
4L055AB04
4L055AC10
4L055BA18
4L055BA19
4L055BA20
4L055EA03
4L055EA15
4L055EA20
4L055EA23
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA01
4L055FA02
4L055FA05
4L055FA22
(57)【要約】
本発明は、部分的に消化された木質セルロース原料を蒸解の間に圧縮して、高分子量のキシラン、リグニンおよびパルプを提供する蒸解方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸解方法であって、
a)チップ、ピンチップ、削りくず、おがくず、またはそれらの組み合わせを含む木質セルロース原料を提供するステップ;
b)スチームに曝すことによって前記の木質セルロース原料を前処理して、前処理された材料を提供するステップ;
c)任意選択で、前記の前処理された材料をスチームまたは水を用いて予備加水分解して、予備加水分解された材料を提供するステップ;
d)任意選択で、前記の予備加水分解された材料を粉砕および圧縮して、前記の予備加水分解された材料からHMWキシランを加水分解物中に放出し、HMWキシランと共に前記加水分解物を回収するステップ;
e)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウムで中和するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
f)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウム、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を含む蒸解液中で蒸解して、使用済み蒸解液中の蒸解されたセルロース材料を提供するステップ;
g)前記の蒸解されたセルロース材料を粉砕および圧縮して、前記の蒸解されたセルロース材料からHMWリグニンを前記の使用済み蒸解液中に放出し、それによって黒液中のHMWリグニン画分および圧縮セルロース画分を提供するステップ;
h)前記黒液を、NaOHとして1~40%の有効アルカリを含有する置換液もしくは酸性亜硫酸塩蒸解液で置換するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
i)前記黒液中のHMWリグニン画分から、および前記置換液から前記HMWリグニンを回収するステップ;ならびに
j)前記圧縮セルロース画分から溶解パルプを回収するステップ
を含む蒸解方法。
【請求項2】
前記ステップc)およびd)を含み、前記粉砕および圧縮が、ステップc)で使用される予備加水分解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーまで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップc)およびd)を含み、ステップd)における粉砕および圧縮が、少なくとも60重量%のコンシステンシーに至るまで実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップc)およびd)を含み、ステップd)における前記圧縮が、350kg/m~2000kg/mの範囲から選択される密度、好ましくは350kg/m~1525kg/mの範囲から選択される密度に至るまで実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップc)およびd)を含み、ステップd)において前記圧縮の圧力が35kPa~1000kPaの範囲から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップf)における前記蒸解が、120~180℃の範囲から選択される蒸解温度で100~3の範囲から選択されるカッパー価に至るまで継続される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記粉砕および圧縮が、前記の予備加水分解された材料および/または前記の蒸解されたセルロース材料を、間隙を通して加圧することによって実施され、かつ、
この間隙のサイズが以下のように選択される:
木材のチップについて間隙が50mm~8mmの範囲から選択され、
ピンチップについて間隙が35mm~6mmの範囲から選択され、
おがくずについて間隙が20mm~4mmの範囲から選択される、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップg)が、ステップf)で使用される蒸解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーに至るまで実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップe)における中和が、1~45%の硫化度を有する白液、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を使用して実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
任意選択の前記ステップd)および前記ステップg)が実施され、繊維の細胞壁の多孔度が増大される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップg)が、1kPa~250kPaの範囲から選択される圧力で加圧して、少なくとも5重量%のコンシステンシーを有するカラムを形成することを含み、前記の置換ステップh)が、黒液中のリグニン含有量よりも低いリグニン含有量を有する第2の置換液で黒液を置換することによって実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記置換液が、有効アルカリとしてセルロース材料の乾燥重量あたり1%~40%の範囲から選択されるアルカリ装填量、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記の置換ステップh)が70℃~200℃の範囲から選択される温度で実施される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ステップj)の後、前記溶解パルプを脱水して、アルカリ、リグニンおよび溶解キシランならびに他の有機および無機物質の90%以上を前記溶解パルプからの液流として除去し、脱水パルプを提供する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記脱水パルプを酸素によって脱リグニン化して脱リグニン化パルプを提供し、任意選択で、これに続いて洗浄および加圧することを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる高分子量キシラン画分。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる高分子量リグニン画分。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を用いて得られるパルプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セルロース繊維源から高収率で高分子量(HMW)のキシラン、HMWリグニン、亜硫酸塩および溶解パルプ(dissolving pulp)を組み合わせて製造するための蒸解方法、ならびにこの蒸解方法が使用され得る消化器(蒸解器)システムに関する。この方法に従って製造されたパルプは、製紙グレードのパルプ、溶解セルロース製品およびセルロース誘導体を製造するために有用である。
【背景技術】
【0002】
紙パルプまたは溶解セルロースとも呼ばれるパルプは、セルロース含有量が高く、ソーダ法(ソーダプロセス)またはクラフト法(クラフトプロセス)を使用して木材から化学的に製造される漂白木材パルプである。クラフト法とソーダ法は一般的に使用されるパルプ化法であり、従来のクラフト法では、木材は水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの水性混合物で処理される。ソーダ法では、木材は水酸化ナトリウムで処理される。この処理により、リグニンが分解および可溶化され、木材繊維が解繊される。
【0003】
一般に、高レベルのアルファセルロースを含む木材パルプは、溶解パルプとして当該技術分野で知られており、セルロース誘導体および様々な用途の製品を製造するために使用されている。溶解パルプと同義の他の用語は、化学セルロース(ケミカルセルロース)および特別な(特殊)高アルファパルプである。溶解パルプの製造には、一般に次の2つのプロセスが使用される:
1)酸性亜硫酸塩プロセス - その開発は今世紀の初め頃に始まった(Rydholm,S.A.,Pulping Processes,p.280,Interscience Publishers、ニューヨーク-ロンドン-シドニー 1965);および
2)予備的な加水分解 - 1929年にその開発が開始されたクラフト法(クラフトプロセス)(上記のRydholm - p281)。
【0004】
後者のプロセスは、アルカリパルプ化(脱リグニン化)ステップの前にヘミセルロースを除去するために、酸性前処理(「予備的な加水分解」)ステップを利用する。南アフリカ特許第88/4037号は、「ヘミセルロース加水分解物および特別なパルプ」(高アルファグレード):“hemicellulose hydrolysis and special pulp”の製造のための予備的な加水分解-中性亜硫酸塩-アントラキノン法:pre-hydrolysis - neutral sulfite - anthraquinone process(PH-NS-AO)を開示している。この予備加水分解ステップは、溶解グレードのパルプを製造するためのクラフト(硫酸塩)パルプ化方法に先立つ予備加水分解ステップと同じ機能を本質的に実行する。一方、中性亜硫酸塩-アントラキノン脱リグニン化ステップは、半アルカリ性亜硫酸塩-アントラキノン(SAS-AQ)法としても知られるプロセスと本質的に同じであり、Raubenheimer,SおよびEggers,S.H.(両者とも本願の出願人であるSAPPI LIMITEDに雇用された研究員である)によって、1979年の技術会議、すなわち1979年5月にオランダのMaastrichtで開催された第11回欧州ESPRA会議で最初に報告された。
【0005】
さらに、予備加水分解ステップを含むクラフト法またはソーダ法による紙および溶解パルプの従来の製造は、木材中のヘミセルロースおよびセルロースがプロセス中、主に予備加水分解ステップで分解され、低分子量ヘミセルロース、単糖類およびヘミセルロース分解生成物として酸縮合物に移送されるため、低収率になるという不都合を生じる。ソーダ法は、蒸解時間が非常に長いため、蒸解プロセス中に木材中のヘミセルロースおよびセルロースが分解されるため、低収率になるという不都合を生じる。これらの分解生成物を消化器から抽出することは困難であるため、分解された材料はせいぜい成分の蒸発と燃焼によるエネルギー生産に使用されるか、単に廃棄物として廃棄される。
【0006】
WO99/47733は、得られた繊維の重合度を酸加水分解および酸化分解によって調整することができるセルロース繊維の製造方法を開示している。しかしながら、このプロセスによって得られたクラフトパルプは、多量の残留ヘミセルロースを有し、これは、得られたパルプを、例えば、布地(繊維製品)の用途における使用のための再生セルロースの製造にあまり有用でないようにする。というのは、これらの残留化合物はプロセス挙動に悪影響を及ぼし、その結果、そこから製造される繊維の布地としての機械特性にも悪影響を及ぼすからである。
【0007】
US2009/0312536は、冷苛性ソーダ抽出(CCE)タイプの精製ステップと組み合わされたクラフト法を使用してセルロース出発材料から布地の用途に適した溶解パルプを製造するプロセスを開示している。
【0008】
WO2011/138633およびWO2011/138634の両方は、冷苛性ソーダ抽出ステップを含むパルプ加工方法を開示している。しかし、開示された方法は、溶解パルプの総収率が低く、費用が高い手順を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、ヘミセルロース含有量が低く、高収率の溶解パルプを製造するための改良された工業規模の蒸解プロセスであって、必要な白色度(brightness)および粘度レベルにまで容易に脱リグニン化および漂白できるプロセスを提供することが、本開示の目的である。
【0010】
パルプ、高分子量キシランおよび高分子量リグニンを硫黄化合物なしで提供する、木質セルロース原料(木材ベースのセルロース原料)用の蒸解システムを提供することが、もう一つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的および他の目的の少なくともいくつかは、独立請求項で定義される本発明によって得ることができる。本発明は、パルプ化に使用されるリグノセルロース原料から、HMWヘミセルロース、HMWキシランおよびHMWリグニンなどの付加価値製品を生成することを可能にするという点で有利である。さらに、本発明は、溶解パルプまたは製紙グレードのパルプの製造において、従来のパルプ化プロセスより少ないエネルギーを使用する。
【0012】
本発明はまた、処理時間および/または蒸解時間を短縮することを可能にする。さらなる利点は、製紙グレードのパルプまたは溶解グレードのパルプを製造する際に、従来の予備加水分解ソーダ法、予備加水分解クラフト法または亜硫酸塩プロセスを使用して達成されうるものよりも、本プロセスにおける製紙グレードのパルプおよび溶解パルプの総収率が高いことである。以下に説明する実施形態は、さらなる利点を提供する。
【0013】
第1の実施形態によれば、以下が提供される:
蒸解方法であって、
a)チップ、ピンチップ、削りくず、おがくず、またはそれらの組み合わせを含む木質セルロース原料(木材ベースのセルロース原料)を提供するステップ;
b)スチームに曝すことによって前記の木質セルロース原料を前処理して、前処理された材料を提供するステップ;
c)任意選択で、前記の前処理された材料をスチームまたは水を用いて予備加水分解して、予備加水分解された材料を提供するステップ;
d)任意選択で、前記の前処理された材料および/または予備加水分解された材料を粉砕および圧縮して、前記の前処理された材料および/または予備加水分解された材料からHMWキシランを加水分解物中に放出し、HMWキシランを含有する前記加水分解物を回収するステップ;
e)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウムで中和するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
f)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウム、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を含む蒸解液中で蒸解して、使用済み蒸解液中の蒸解されたセルロース材料を提供するステップ;
g)前記の蒸解されたセルロース材料を粉砕および圧縮して、前記の蒸解されたセルロース材料からHMWリグニンを前記の使用済み蒸解液中に放出し、それによって黒液中のHMWリグニン画分および圧縮セルロース画分を提供するステップ;
h)前記の使用済み蒸解液を、NaOHとして1~40%の有効アルカリを含有する置換液もしくは酸性亜硫酸塩蒸解液で置換するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
i)前記黒液中のHMWリグニン画分から、および前記置換液から前記HMWリグニンを回収するステップ;ならびに
j)前記圧縮セルロース画分から溶解パルプを回収するステップ
を含む蒸解方法。
【0014】
本蒸解方法は、HMWヘミセルロース、HMWキシラン、HMWリグニン、および溶解パルプの複合生産を提供できるという点で有利である。特に、HMWキシランは、予備加水分解により繊維細胞壁の構造を開放し、次いで圧縮により繊維細胞壁からHMWキシランを押し出すことによって、本方法にて製造され得る。
【0015】
本方法は、キシラン収率、リグニン収率およびセルロース収率の少なくとも1つを改善し、木材の消費量、蒸解時間、およびリグニン含有画分中の水の量を減少させる。これらの効果は、蒸発時のエネルギー消費が少ないという利点がある。さらに、本方法は、パルプ化中に高価値生成物であるHMWキシランおよびHMWリグニンを回収することを可能にする。
【0016】
第2の実施形態によれば、本方法を用いて得られるHMWキシラン画分が提供される。
【0017】
実施例に示されるように、先行技術の蒸解プロセスと比較して、本方法は、HMWキシラン画分において、より高い分子量、より高いキシラン収率、およびより高いキシラン濃度を有するキシランを提供する。
【0018】
第3の態様によれば、本方法を用いて得られるHMWリグニン画分が提供される。
【0019】
本方法を用いて、HMWリグニン画分を、より良好なリグニン収率およびより高いコンシステンシーで得ることができる。HMWリグニンはまた、PCT/FI2011/050651に開示されたものなど、従来のプロセスに従って生成されたものと比較して増大した分子量を有する。
【0020】
第4の態様によれば、本方法を使用することによって得られるパルプが提供される。本発明の方法に従って得られたパルプは、先行技術の方法に従って製造されたパルプと比較して、より高い白色度を有すると共に、必要とされる湿式プレスがより少なく、乾燥におけるスチーム消費量がより低い。さらに、溶解パルプは、従来法で製造されたパルプと比較してより低いヘミセルロース含有量を有し得る。
【0021】
本開示の実施形態は、特定の利点を提供する。実施形態に応じて、以下の利点の1つまたはいくつかを達成することができる:化学物質、水、セルロース繊維源およびエネルギーの消費量の減少;セルロースの収率の向上、キシランおよびリグニンの分子量の増大。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、木質セルロース原料の予備的なスチーム処理および予備的な加水分解を含む本蒸解方法、ならびに、予備加水分解後に木材チップからの凝縮液(コンデンセート)を粉砕および/または圧縮するための消化(蒸解)システムの一実施形態を概略的に示す。図1にて言及されたプロセスパラメータは例示にすぎず、本開示で説明するように、他のプロセスパラメータを使用することができる。
【0023】
図2図2は、予備加水分解されたクラフトまたはソーダ蒸解において木材チップからの蒸解液を圧縮するための消化(蒸解)システムの一実施形態を概略的に示す。図2にて言及されたプロセスパラメータは例示にすぎず、本開示で説明するように、他のプロセスパラメータを使用することができる。
【0024】
図3図3は、木材チップを圧縮して蒸解液を押し出す概略プロセスの一実施形態を示す。図3にて言及されたプロセスパラメータは例示にすぎず、本開示で説明するように他のプロセスパラメータを使用することができる。
【0025】
図4図4は、圧縮された木材チップからの使用済み液の置換プロセスの一実施形態を概略的に表す。図4にて言及されたプロセスパラメータは例示にすぎず、本開示で説明するように、他のプロセスパラメータを使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
本明細書で使用される場合、用語“comprising”(「含む」)は、“including”(「含む」)、“containing”(「含む」)、および“comprehending”(「包含する」)というより広い意味、ならびに“consisting of”(「からなる」)および“consisting only of”(「のみからなる」)というより狭い表現を包含する。
【0027】
一実施形態では、プロセスステップは、いずれかの態様、実施形態、または請求項で特定された順序で実行される。別の実施形態では、先行するプロセスステップで得られた生成物または中間体に対して実行されるように指定されたいずれかのプロセスステップが、前記生成物に対して直接的に、すなわち、前記の2つのステップの間で生成物を化学的または物理的に変化させ得る追加の、任意選択の、または補助的な処理ステップなしで実行される。
【0028】
一実施形態では、本蒸解方法で使用される木質セルロース原料は、チップ、ピンチップ(pin chips)、削りくず(shaving:シェイビング)、もしくはおがくず(saw dust:木屑)、またはそれらの組み合わせの形態である。木材チップを使用することが好ましく、ユーカリ、マツまたはトウヒ(spruce)のチップなどの軟材(針葉樹)または硬材(広葉樹)のチップを使用することがより好ましい。しかし、木材チップを主原料として用いる場合、原料は、より少ない量の、例えばピンチップおよび/またはおがくずを含有し得る。
【0029】
特に明記しない限り、すべてのパーセンテージ値は乾燥重量%を指す。
【0030】
本プロセスは、プラントまたは工場(mill)、すなわち工業(大)規模のプロセスでの使用に好適である。
【0031】
図1を参照すると、一実施形態では、前処理はチップのスチーミング(スチーム処理)を含み、これは、スチーム(蒸気)を3.5バール(bar)で30分間供給することによってサイロ内で実施することができる。一実施形態では 予備加水分解は、175℃で20分間行うことができる。一実施形態では、蒸解は、蒸解液中155℃で50~70分間行うことができる。
【0032】
図2を参照すると、一実施形態では、蒸解は155℃で操作される蒸解容器内で50~70分間行われ、圧縮は155℃で50~70分間行われ、置換(displacement)は90℃で行われる。
【0033】
図3を参照すると、一実施形態では、蒸解ステップからのチップは、155℃にて、カッパー価100-2で粉砕および加圧ステップに供給され、そこで、これらのチップは7mmの間隙(ギャップ)を通じて取り出される。
【0034】
図4を参照すると、一実施形態では、チップのカラム(柱状物)は、1~15g/lの有効アルカリを含む90℃の液の存在下で1バールにて圧縮され、これにより高分子量の使用済み液(HMWリグニンを含む)およびセルロースの収集が可能になる。
【0035】
一実施形態では、木質セルロース原料は4重量%以上のキシラン含有量を有する。
【0036】
高分子量キシラン(HMWキシラン)という用語は、硬材(広葉樹)および軟材(針葉樹)について45000g/モル以上の重量平均分子量(MW)を有するキシランを意味する。
【0037】
高分子量リグニン(HMWリグニン)という用語は、硬材(広葉樹)では4580g/mol以上、軟材(針葉樹)では4980g/mol以上の重量平均分子量(MW)を有するリグニンを意味する。
【0038】
一実施形態では、分子量はサイズ排除クロマトグラフィーによって測定され、平均分子量(MW)として表される。
【0039】
ヘミセルロースは、ステップdで加水分解物から回収され得る。
【0040】
一実施形態によれば、多孔質木材への液の浸透を改善するために、木材チップ内部の空気の排出を達成するため、スチーム処理による前処理を行うことが好ましい。予備的なスチーム処理は、別のスチーム処理容器またはチップサイロで行うことができる。スチーム処理は、約3.5バールの圧力を有する低圧スチームを少なくとも10分間、好ましくは20分間超の間使用することによって行うことができる。一実施形態では、予備的スチーム処理は、1~4バールの低圧スチームで1~100分間予備的にスチーム処理して、前処理された材料を提供することを含む。
【0041】
前処理(予備的な処理)に使用される温度は、好ましくは80~120℃の範囲から、より好ましくは100~120℃の範囲から、さらにより好ましくは110~120℃の範囲から選択される。
【0042】
一実施形態では、予備加水分解は、150~220℃の範囲から選択される温度でスチームまたは水によって実施される。一実施形態では、予備加水分解ステップは、150~220℃の範囲から選択される温度で、1~150分間、8~15バールのスチームで予備的に加水分解することを含む。
【0043】
木材チップは、典型的に、高さ、長さ、および幅を備えたほぼ長方形の形状を有する。しかし、木材チップの幾何形状は、例えばその製造プロセスによって異なり得る。チップの長さ(最長の寸法)および幅(2番目に長い寸法)は、チップの一般的な「平面」(“flat side”)を決定するものと見なすことができ、その厚みはチップの最小寸法である。ピンチップの場合、幅および厚みを互いに近くすることができ、それによってマッチのような細長い物体が形成される。チップの正確な寸法は変動し得る。
【0044】
一実施形態では、木質セルロース原料の繊維源として機能するセルロース原料は、木材チップを含むか、または木材チップからなり、粉砕および圧縮は、木材チップの表面積が最大になるまで適用される。好ましくは、HMWキシランおよび/またはHMWリグニンを放出するために、250~2000kg/m、好ましくは350~1525kg/mの密度を達成するように粉砕および圧縮が実施される。最大の表面積への粉砕および圧縮は、チップの最小寸法、つまり「側面」(“side”)が最初に入ることを可能にする間隙(ギャップ)を用いることによって実現され得る。この目的に使用される装置は、セグメント化されたプレート間、距離が減少するブレードを備えた供給スクリュー、回転セグメントプレートに対して供給されるプラグ供給スクリュー、セグメント化されたプレートを備えたローターおよびステーター(stator)、ポンプのステーターおよびローターが加圧および供給動作を可能にするセグメント化されたプレートを有する変更(改造)されたポンプ、間隙およびセグメント化された表面を備えるドラムプレス、変更されたステーターおよびローターシステムであってよい。課題の解決手法は、上述のものに限定されず、当業者によって応用可能である。
【0045】
好ましい実施形態では、最大の表面積を有するチップの平らな面が最初に間隙に入らないように、チップを間隙に強制的に入れる。これは、チップがその平らな面に適合しない間隙に、前もってチップを向けることによって実現され得る。
【0046】
一実施形態では、粉砕および圧縮は、材料を蒸解条件において間隙を通じて取り出し、HMWリグニンを使用済み液中に放出することによって行われ、それによって黒液中にHMWリグニン画分が提供される。
【0047】
一実施形態では、任意選択の予備加水分解ステップまたは蒸解ステップなどの先行ステップの条件は、例えばキシランまたはリグニンを放出するために次のステップで間隙を通じて材料を取り出すときに維持される。
【0048】
一実施形態では、粉砕および圧縮は、10%を超える、好ましくは20%を超える、またはより好ましくは30%を超える、好ましくは65%を超えるコンシステンシーに至るまで実施される。コンシステンシー(稠度)は、パルプ懸濁液の標準TAPPI T240 Consistency(Concentration(濃度))または対応するISO 4119標準を使用して測定され得る。
【0049】
一実施形態では、本方法はステップc)およびd)を含み、ステップd)における粉砕および圧縮は、ステップc)で使用される予備加水分解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーに至るまで実施される。
【0050】
一実施形態では、粉砕および圧縮は、木材チップを50mm~8mmの範囲の間隙を通じて取り出すことによって行われ、その結果、木材の多孔度(porosity:多孔率、空孔率、気孔率)が間隙内で少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%以上減少し、HMWリグニンが放出される。それに対応して、本方法が任意選択の予備加水分解ステップと、この予備加水分解ステップの直後の任意選択の粉砕および圧縮ステップとを含む場合、HMWキシランが放出され得る。
【0051】
一実施形態では、粉砕および圧縮は、ピンチップを35mm~6mmの範囲の間隙を通じて取り出すことによって行われ、その結果、木材の多孔度が、間隙内で少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または70%を超えて減少し、HMWリグニンが放出される。それに対応して、本方法が任意選択の予備加水分解ステップと、この予備加水分解ステップの直後の任意選択の粉砕および圧縮ステップとを含む場合、HMWキシランが放出され得る。
【0052】
一実施形態では、粉砕および圧縮は、おがくず(saw dust:木屑)を20mm~4mmの範囲の間隙を通じて取り出すことによって行われ、その結果、木材の多孔度が間隙内で少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または70%を超えて減少し、HMWリグニンが放出される。それに対応して、本方法が任意選択の予備加水分解ステップと、この予備加水分解ステップの直後の任意選択の粉砕および圧縮ステップとを含む場合、HMWキシランが放出され得る。
【0053】
一実施形態では、粉砕および圧縮が、予備加水分解された材料および/または蒸解されたセルロース材料を、間隙を通して加圧することによって実施され、かつ、
この間隙のサイズが以下のように選択される:
木材のチップについて間隙が50mm~8mmの範囲から選択され、
ピンチップについて間隙が35mm~6mmの範囲から選択され、
おがくずについて間隙が20mm~4mmの範囲から選択される。
【0054】
木質材料の多孔度は、1-間隙内の木の量(kg/m)/1500kg/mで計算される。
【0055】
本発明における黒液(black liquor)という用語は、使用された蒸解液、すなわち使用済み液または使用済みの蒸解液を意味する。
【0056】
一実施形態では、黒液または使用済み液は、NaOHもしくはNaOH蒸解液として1~40%の有効アルカリを含む置換液、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸、およびリンゴ酸から選択される有機酸を含む置換液で置換される。したがって、置換液は、黒液(使用済み蒸解液)を置換または変化させ、置換ステップの後、蒸解および圧縮されたセルロース含有材料(先行ステップでHMWキシランおよびHMWリグニンが除去されたセルロース画分)が置換液中に残留する。
【0057】
一実施形態では、HMWリグニンは、使用済み液中のHMWリグニン画分から、および置換液から回収される。回収は、例えば、黒液中の水分を蒸発させ、リグニンを回収することによって行うことができる。
【0058】
HMWキシランが細胞壁から押し出されるとき、HMWキシラン画分を含む液体、および圧縮された材料を含む固形画分が形成される。
【0059】
一実施形態では、木材チップが0.66~0.9、好ましくは0.67~0.9、より好ましくは0.7~0.85の多孔度のレベルに達する前に、ステップd)で粉砕および圧縮が開始される。多孔度のレベルは、1-(乾燥材料の質量/セルロースの密度(1500kg/m))として計算されうる。
【0060】
一実施形態では、本方法はステップc)およびd)を含み、ステップd)における圧縮は、350kg/m~2000kg/m、好ましくは350kg/m~1525kg/mの範囲から選択される密度に達するまで実施される。
【0061】
一実施形態では、蒸解方法は、予備加水分解ステップc)、ならびに粉砕および圧縮ステップd)を含む。
【0062】
一実施形態では、ステップe)における中和は、1~45%の硫化度を有する白液、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を使用して実施される。
【0063】
一実施形態では、ステップd)およびg)が実施され、繊維の細胞壁(セル壁)の多孔度が増大される。
【0064】
全アルカリ(total alkali)、活性アルカリ(active alkali)、および有効アルカリ(effective alkali)とは、標準方法SCAN-N 30:85または対応するTAPPIもしくはISO標準(規格)による、ソーダ、白液および緑液の測定値を意味する。
【0065】
一実施形態では、中和は、1~45%の硫化度を有するNaOH、NaOH液として1~45%の有効アルカリを含有するアルカリ液(方法SCAN-N 30:85または対応するTAPPIもしくはISO標準によって測定される)、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を使用して実施される。有機酸を使用する場合、この化学物質の装填量は1~100g/kgの有機酸の範囲から選択され得る。化学物質の装填量は、選択された化学物質の質量として、初期の乾燥木材質量(kg)から計算される。蒸解液とバイオ材料との比率は、質量(kg)として2~10から選択され得る。
【0066】
一実施形態では、中和は、硫化度を有する水酸化ナトリウムを使用して実施される。
【0067】
一実施形態では、中和は、NaOH液を使用して実施される。
【0068】
一実施形態では、中和液は、1~45%の硫化度を有するNaOH、NaOH蒸解液としての1~45%の有効アルカリ、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を含み、使用済み液中の蒸解済みセルロース材料を提供する。この化学物資の装填量は、選択された化学物質の質量として、初期の乾燥木材質量(kg)から計算される。
【0069】
中和液の木質セルロース材料に対する質量比は、木質セルロース材料の乾燥質量として2~10の範囲から選択されうる。
【0070】
一実施形態では、HMWキシランと共に加水分解物が回収され、続いて中和される。これらの条件において、本発明は、キシランを細胞壁から押し出し、キシランを分解しないように維持することができる。これは、キシランの大部分が、中和ステップにおいて高アルカリ濃度に入る前に除去されるためである。
【0071】
一実施形態では、中和は、少なくとも120℃、好ましくは150℃を超える温度、またはより好ましくは170℃を超える温度で実施される。
【0072】
重量%は、木質セルロース原料(木材ベースのセルロース原料)の木材の乾燥重量などの乾燥重量を指す。
【0073】
本発明のHMWキシランは、キシランが蒸解段階で使用されるアルカリと接触しないので、予備加水分解の直後に収集することができる。したがって、キシランの収率および分子量が最大化される。また、加水分解物は中和液で置き換えられ得る。しかし、その後、キシランの一部が中和液のアルカリによって分解され、キシラン収率が低下する。先行技術文献PCT/FI2011/050651では、リグニン、ヘミセルロースおよびセルロースが蒸解段階後にてそれらの軟化点に達した後にのみ加圧およびせん断が開始され、それによって化学的および物理的に異なる製品が得られた。
【0074】
中和ステップの一実施形態によれば、NaOHまたは純粋なNaOHとしての有効アルカリとして10%、15%、20%、25%、30%、35%または70%w/w(重量%)のアルカリ装填量が中和に使用される。好ましくは、約20%w/wのアルカリ装填量が使用される。一実施形態では、中和ステップは、中和液をポンプによって圧縮材料に圧入することによって、セルロース材料を中和液と接触させることで実施される。
【0075】
蒸解液(cooking liquor)という用語は、蒸解段階で化学パルプ化に一般的に使用される白液、黒液、白液および黒液、ソーダ、またはこれらの混合物を意味する。白液は、水中に水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを含み、白色不透明色を有する強アルカリ性溶液である。白液は、少量の炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、およびその他の蓄積された塩を含んでいてよい。ソーダは、水酸化ナトリウム、および木材に含まれる微量の化合物群を含む。
【0076】
一実施形態では、蒸解は、1~45%の硫化度を有するNaOHとして1~45%の有効アルカリを含有するアルカリ蒸解液中で、またはNaOHを用いて、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を用いて実施され、使用済み液中の蒸解済みセルロース材料を提供する。
【0077】
蒸解液の木質セルロース材料に対する質量比は、原料の乾燥質量として2~10の範囲から選択されうる。
【0078】
一実施形態によれば、蒸解は、蒸解液中で少なくとも120℃の温度で、好ましくは150℃を超える温度で、より好ましくは170℃を超える温度で実施される。
【0079】
蒸解中、少なくとも5重量%、例えば5~10重量%、好ましくは10重量%超の乾燥木材原料が使用される。
【0080】
蒸解中は、総重量に対して10重量%を超える蒸解液が使用される。
【0081】
蒸解液中の蒸解されたセルロース材料は、60重量%を超える、好ましくは70重量%を超える、さらにより好ましくは80重量%を超えるアルファセルロース含有量を有し得る。
【0082】
一実施形態によれば、蒸解は、最終カッパー価に達するまで続けられ、その後、木材のチップについて50mm~8mmの間隙、またはピンチップについて35mm~6mmの間隙、およびおがくずについて20mm~4mmの間隙を通して圧縮および/または粉砕が行われる。
【0083】
カッパー価は、蒸解ステップで120~1の間で選択され得る。より具体的には、溶解パルプについては、所望のカッパー価は1~15の間で選択することができ、製紙グレードのパルプについては、カッパー価は15~50の間であってよい。蒸解温度は、120℃~180℃の範囲から選択され得る。温度は、カッパー価の目的に応じて当業者が選択することができる。
【0084】
一実施形態では、溶解パルプのためのパルプを製造する場合、蒸解は、100~1の間で選択されるカッパー価に達するまで継続される。
【0085】
一実施形態では、製紙グレードのパルプを製造する場合、蒸解は、50~15の間で選択されるカッパー価に達するまで継続される。
【0086】
一実施形態では、本方法はステップc)およびd)を含み、ステップd)における粉砕および圧縮は、少なくとも60重量%のコンシステンシーに達するまで実施される。
【0087】
一実施形態では、ステップf)の蒸解は、120~180℃の範囲から選択される蒸解温度で、100~3の範囲から選択されるカッパー価に達するまで継続される。
【0088】
一実施形態によれば、ステップg)において木材チップの粉砕および圧縮は、上述のように、蒸解ステップの条件で木材チップを間隙に押し込み、HMWリグニンを蒸解液中に放出し、それにより液体HMWリグニン画分および圧縮された材料を含む固形画分を形成することによって行われる。
【0089】
一実施形態では、ステップg)における粉砕および圧縮は、木材チップが0.65~0.9、好ましくは0.66~0.9、より好ましくは0.7~0.85の多孔度レベルに達する前に開始することができる。
【0090】
圧縮セルロース画分は、85%を超える、より好ましくは90%を超える、より好ましくは95%を超えるアルファセルロース含有量を有する。
【0091】
一実施形態では、蒸解済みセルロース材料は、黒液中で1~250kPaの範囲から選択される圧力で圧縮されて、少なくとも5重量%のコンシステンシーを有する固形のカラム(柱状物)を形成する。選択された目標コンシステンシー値に達するための好適な圧力の非限定的な例としては、1kPa、2kPa、3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPa、8kPa、9kPa、10kPa、20kPa、30kPa、40kPa、50kPa、60kPa、70kPa、80kPa、90kPa、100kPa、110kPa、120kPa、130kPa、140kPa、150kPa、160kPa、170kPa、180kPa、190kPa、200kPa、210kPa、220kPa、230kPa、240kPa、および250kPaが挙げられる。好適なコンシステンシー値の非限定的な例としては、重量基準で5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、5~50%、5~40%、5~30%、および5~20%が挙げられる。
【0092】
ステップh)において、黒液は、好ましくは、黒液よりも低いリグニン含有量を有する置換液で置換される。ステップg)の最後にて材料の圧縮されたカラムは、2~35重量%の範囲から選択されるコンシステンシー、例えば、重量基準で2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、2~30%、2~25%、2~20%、2~10%または2~5%のコンシステンシーに達するまで希釈することによって置換され得る。
【0093】
一実施形態では、ステップi)において、HMWリグニン画分は黒液および置換液の両方から回収される。
【0094】
一実施形態では、ステップj)において、セルロース画分または溶解パルプが回収される。
【0095】
一実施形態では、ステップg)は、ステップf)で使用される蒸解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーに達するまで実施される。
【0096】
一実施形態では、本方法はステップc)およびd)を含み、ステップd)では、圧縮圧力は35kPa~1000kPaの範囲から選択される。
【0097】
一実施形態では、ステップg)は、1kPa~250kPaの範囲から選択される圧力で加圧して、少なくとも5重量%のコンシステンシーを有するカラムを形成することを含み、ここで置換ステップh)は、黒液中のリグニン含有量よりも低いリグニン含有量を有する第2の置換液で黒液を置換することによって実施される。
【0098】
一実施形態では、置換液は、有効アルカリとしてセルロース材料の乾燥重量あたり1%~40%の範囲から選択されるアルカリ装填量、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を有する。
【0099】
一実施形態では、置換ステップh)は、70℃~200℃の範囲から選択される温度で実施される。
【0100】
一実施形態では、ステップj)の後、溶解パルプは脱水され、パルプからの液流として、アルカリ、リグニン、および溶解キシラン、ならびに他の有機および無機物質の90%以上が除去され、脱水パルプが提供される。
【0101】
一実施形態では、本方法は、酸素によって脱水パルプを脱リグニン化して脱リグニン化されたパルプを提供し、任意選択で続いて洗浄および加圧を行うことを含む。
【0102】
一実施形態では、少なくともHMWリグニン画分および少なくともHMWキシラン画分が、使用済み液および第二の置換液から回収される。任意選択で、より小さな分子量の化学種を含むリグニン画分および/またはキシラン画分も回収される。
【0103】
本方法は、キシラン収率、リグニン収率およびセルロース収率を改善し、木材消費量、蒸解時間を減少させ、回収されるリグニンおよびキシランが含まれる液量を増大させる。
【実施例
【0104】
本発明の方法の実施形態によって得ることができる効果は、以下の実験によって証明されるが、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。略語REF(参照)は、従来技術の方法、すなわち、本発明による圧縮ステップを伴わない蒸解方法を指す。蒸解条件は、蒸解段階の最後に目標カッパー価を得るために当業者によって選択され得る。
【0105】
例1
この例では、予備加水分解ステップならびに粉砕および圧縮ステップを含む本発明による方法を実施した場合に、キシラン分子量の増大が観察された。ユーカリのチップおよびマツ材のチップを、本方法および参照方法(REF)、すなわちEP0442806A1に示される方法の両方に従って処理した。木材チップを、チップから空気を除去するために115℃で5分間スチームによって予備的に処理した。予備加水分解は、水を用いて 175℃で25分間行った。その後、チップをローターで粉砕し、圧力容器の壁に押し付けて圧縮することで狭い間隙を通して供給し、続いて原料源からの加水分解物を圧縮して、材料のコンシステンシーが65%超になるようにした。加水分解物からHMWキシランを回収した。次いで、予備加水分解された原料を、ソーダ蒸解においてNaOHとしての有効アルカリ装填量6mol/kgを有し、予備加水分解されたクラフト蒸解において28%の硫化度を有するアルカリで中和した。温度は150℃であった。中和時間は17分であったが、その後、中和液は、蒸解液と木材との比率4を使用して蒸解液に置き換えられた。NaOHとしての有効アルカリ装填量は2.5mol/kg、予備加水分解されたクラフト蒸解での硫化度は28%であった。蒸解温度は156℃で、H-ファクター25にて蒸解した後、チップは狭い間隙を通じて供給され、そこでチップをローターで粉砕し、圧力容器の壁に押し付けて圧縮することで粉砕および圧縮が引き起こされ、HWMリグニンを含有する使用済み液が洗浄ろ液で置換された。予備加水分解のソーダおよび予備加水分解クラフト蒸解についての蒸解の結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1によれば、蒸解が本発明に従ってなされるとき、キシランおよびリグニンのMw分子量は増大し、蒸解時間は減少する。
【0108】
例2
この例では、本発明を使用することによって得られたキシランの収率およびコンシステンシーを提示し、従来の蒸解方法と比較する。これらのサンプルでは、木材チップを粉砕し、15MPaの圧力で予備加水分解した後、50mm~8mmの間隙を通して圧縮し、キシランの分析のために加水分解物を収集した。REFとマークされた従来技術では、粉砕および圧縮を使用しなかった。
【0109】
【表2】
【0110】
表2によれば、蒸解が本発明に従ってなされるとき、キシラン収率(%)が増大する。
【0111】
これらの結果から確認されるとおり、本方法は、両方の原料からの収率を改善し、蒸解時間を減少させ、また異なるカッパー価を与える。
【0112】
前述の説明は、本発明の特定の実行手法および実施形態の非限定的な例として、本発明を実施するために発明者が現在考えているベストモードの完全かつ有益な説明を提供している。しかし、当業者には明らかなように、本発明は前述の実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明の特徴から逸脱することなしに、同等の手段を使用する他の実施形態、または実施形態の異なる組み合わせで実行することができる。
【0113】
さらに、本発明の前述の実施形態の特徴のいくつかは、他の特徴を対応させて使用することなく、有利に使用することができる。したがって、前述の説明は、本発明の原理を単に例示するものであり、本発明を限定するものではないと見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。

図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸解方法であって、
a)チップ、ピンチップ、削りくず、おがくず、またはそれらの組み合わせを含む木質セルロース原料を提供するステップ;
b)スチームに曝すことによって前記の木質セルロース原料を前処理して、前処理された材料を提供するステップ;
)前記の前処理された材料をスチームまたは水を用いて予備加水分解して、予備加水分解された材料を提供するステップ;
)前記の予備加水分解された材料を粉砕および圧縮して、前記の予備加水分解された材料からHMWキシランを加水分解物中に放出し、HMWキシランと共に前記加水分解物を回収するステップ;
e)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウムで中和するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
f)硫黄を含む水酸化ナトリウムもしくは水酸化ナトリウム、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を含む蒸解液中で蒸解して、使用済み蒸解液中の蒸解されたセルロース材料を提供するステップ;
g)前記の蒸解されたセルロース材料を粉砕および圧縮して、前記の蒸解されたセルロース材料からHMWリグニンを前記の使用済み蒸解液中に放出し、それによって黒液中のHMWリグニン画分および圧縮セルロース画分を提供するステップ;
h)前記黒液を、NaOHとして1~40%の有効アルカリを含有する置換液もしくは酸性亜硫酸塩蒸解液で置換するか、または、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸で置換するステップ;
i)前記黒液中のHMWリグニン画分から、および前記置換液から前記HMWリグニンを回収するステップ;ならび
記圧縮セルロース画分から溶解パルプを回収するステップを含む蒸解方法であって、
j)前記粉砕および圧縮が、ステップc)で使用される予備加水分解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーまで実施される蒸解方法
【請求項2】
テップd)における粉砕および圧縮が、少なくとも60重量%のコンシステンシーに至るまで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
テップd)における前記圧縮が、350kg/m~2000kg/mの範囲から選択される密度、好ましくは350kg/m~1525kg/mの範囲から選択される密度に至るまで実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
テップd)において前記圧縮の圧力が35kPa~1000kPaの範囲から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップf)における前記蒸解が、120~180℃の範囲から選択される蒸解温度で100~3の範囲から選択されるカッパー価に至るまで継続される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉砕および圧縮が、前記の予備加水分解された材料および/または前記の蒸解されたセルロース材料を、間隙を通して加圧することによって実施され、かつ、
この間隙のサイズが以下のように選択される:
木材のチップについて間隙が50mm~8mmの範囲から選択され、
ピンチップについて間隙が35mm~6mmの範囲から選択され、
おがくずについて間隙が20mm~4mmの範囲から選択される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップg)が、ステップf)で使用される蒸解温度で、少なくとも10重量%のコンシステンシーに至るまで実施される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップe)における中和が、1~45%の硫化度を有する白液、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を使用して実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
任意選択の前記ステップd)および前記ステップg)が実施され、繊維セル壁の多孔度が増大される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップg)が、1kPa~250kPaの範囲から選択される圧力で加圧して、少なくとも5重量%のコンシステンシーを有するカラムを形成することを含み、前記の置換ステップh)が、黒液中のリグニン含有量よりも低いリグニン含有量を有する第2の置換液で黒液を置換することによって実施される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記置換液が、有効アルカリとしてセルロース材料の乾燥重量あたり1%~40%の範囲から選択されるアルカリ装填量、または水酸化ナトリウム、または乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸およびリンゴ酸から選択される有機酸を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記の置換ステップh)が70℃~200℃の範囲から選択される温度で実施される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップj)の後、前記溶解パルプを脱水して、アルカリ、リグニンおよび溶解キシランならびに他の有機および無機物質の90%以上を前記溶解パルプからの液流として除去し、脱水パルプを提供する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記脱水パルプを酸素によって脱リグニン化して脱リグニン化パルプを提供し、任意選択で、これに続いて洗浄および加圧することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる高分子量キシラン画分。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を用いて得られる高分子量リグニン画分。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を用いて得られるパルプ。
【国際調査報告】