IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラトガース ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニュージャージーの特許一覧 ▶ ファージノヴァ バイオ インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-536570抗原のターゲティング発現による免疫応答の増強法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】抗原のターゲティング発現による免疫応答の増強法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/215 20060101AFI20230821BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230821BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230821BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K39/215 ZNA
A61P37/04
A61P31/14
A61K45/00
A61P43/00 121
C12N15/86 Z
C12N15/62 Z
C12N15/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501206
(86)(22)【出願日】2021-07-03
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 US2021040392
(87)【国際公開番号】W WO2022010813
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】63/048,279
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/161,136
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517349186
【氏名又は名称】ラトガース ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニュージャージー
(71)【出願人】
【識別番号】523005368
【氏名又は名称】ファージノヴァ バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】パスカリーニ レナータ
(72)【発明者】
【氏名】アラップ ワディ
(72)【発明者】
【氏名】リブッティ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】マルコシアン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】スタキシーニ ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】タン フェニー
(72)【発明者】
【氏名】スミス トレーシー
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ バージニア ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA63
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB091
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4C085AA03
4C085BA71
4C085BB11
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
(57)【要約】
本開示には、有効量の操作された治療用ファージと、薬学的に許容される担体とを含む、免疫原性組成物が含まれる。ある特定の局面において、本開示には、有効量の操作された治療用ファージを含む組成物を対象に投与する工程を含む、前記対象における免疫応答を刺激する方法が含まれる。ある特定の局面において、本開示には、有効量の操作された治療用ファージを含む組成物を投与する工程を含む、対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止するための方法が含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の操作された治療用ファージと、薬学的に許容される担体とを含む、免疫原性組成物であって、前記操作された治療用ファージが、抗原性ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む1つまたは複数の融合ポリペプチドを含む、前記免疫原性組成物。
【請求項2】
前記操作された治療用ファージが、組織ターゲティングポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合ポリペプチドをさらに含む、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~2のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記組織ターゲティングポリペプチドがリンパ節組織を標的とする、請求項2~3のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
リンパ節組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:1~2を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
リンパ節組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:7~8を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記組織ターゲティングポリペプチドがリンパ管組織を標的とする、請求項2~3のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
リンパ管組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:3を含むアミノ酸配列を含む、請求項7記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
リンパ管組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:9を含むヌクレオチド配列によってコードされる、請求項7記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記組織ターゲティングポリペプチドが肺組織を標的とする、請求項2~3のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
肺組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:4および28を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記組織ターゲティングポリペプチドがインテグリン結合ドメインである、請求項2~3のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
インテグリン結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:4、5、および86を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
インテグリン結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:6および81を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項12記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
前記組織ターゲティングポリペプチドがGRP78結合ドメインである、請求項2~3のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
GRP78結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項15記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
前記抗原性ポリペプチドがウイルスポリペプチドである、請求項1~16のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記ウイルスポリペプチドが、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択されるウイルスタンパク質由来のエピトープである、請求項17記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
前記エピトープが、SEQ ID NO:10~27、31~80、111、120、124、126、135、および136を含む群からの少なくとも1つである、請求項18記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記操作された治療用ファージが、アデノ随伴ウイルスバクテリオファージ(AAVP)であり、かつウイルス遺伝子をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
前記ウイルス遺伝子が、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択される、請求項20記載の免疫原性組成物。
【請求項22】
前記ウイルス遺伝子がコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:83および85からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする、請求項20および21のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項23】
前記ウイルス遺伝子がコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:82および84からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項20および21のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項24】
前記操作された治療用ファージが、
肺組織を標的としかつトランスサイトーシスドメインとして作用するエアロゾル送達ポリペプチドと、ファージコートタンパク質とを含む、融合ポリペプチド
をさらに含む、請求項20~23のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【請求項25】
前記エアロゾル送達ポリペプチドがSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む、請求項24記載の免疫原性組成物。
【請求項26】
前記エアロゾル送達ペプチドが、SEQ ID NO:81を含む核酸配列によってコードされる、請求項25記載の免疫原性組成物。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項記載の免疫原性組成物を構成する、核酸ベクター。
【請求項28】
抗原性ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項29】
組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項30】
抗原性ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項31】
抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項32】
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項33】
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、およびエアロゾル送達ポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項34】
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、エアロゾル送達ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質コード配列を含む、請求項27記載の核酸ベクター。
【請求項35】
対象における免疫応答を刺激する方法であって、請求項1~26のいずれか一項記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数を前記対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項36】
1つまたは複数の前記免疫原性組成物が、経口、吸入、鼻腔、噴霧化、気管内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、および経皮を含む群より選択される経路によって送達される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止するための方法であって、請求項1~26のいずれか一項記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数の有効量を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項38】
1つまたは複数の前記免疫原性組成物が、経口、吸入、鼻腔、噴霧化、気管内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、および経皮を含む群より選択される経路によって送達される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記コロナウイルス感染症が、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-229E、HCoV-NL63、MERS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、およびネズミ肝炎ウイルス1型(MHV-1)を含む群より選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項37および38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
ウイルス感染細胞への遺伝子送達を促進する方法であって、前記細胞を、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージと接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項41】
前記ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質のうちの少なくとも1つである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記リガンド結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:1~5、28~30、および86を含む群より選択される、請求項40および41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
前記操作された治療用ファージがアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である、請求項40~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
対象におけるウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する方法であって、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージの有効量を前記対象に投与し、それによって、前記対象における前記ウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する工程を含む、前記方法。
【請求項45】
前記ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質のうちの少なくとも1つである、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記リガンド結合ポリペプチドが、SEQ ID:1~5、28~30、および86を含む群より選択される、請求項44および45のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
前記リガンド結合ポリペプチドがGRP78結合ドメインである、請求項44~46のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
GRP78結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記操作された治療用ファージがアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である、請求項44~48のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
前記操作された治療用ファージが抗ウイルス作用物質をさらに含む、請求項44~49のいずれか一項記載の方法。
【請求項51】
前記抗ウイルス作用物質が、抗ウイルス薬またはその前駆体、抗ウイルス性ポリペプチドまたはその前駆体、および抗ウイルス性核酸を含む群より選択される、請求項50記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年7月6日に出願された米国仮特許出願第63/048,279号および2021年3月15日に出願された米国仮特許出願第63/161,136号に対して米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張し、これらの米国仮特許出願はそれぞれ参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
2021年7月3日に作成されたサイズ74KBの「370602-7034WO1_Sequence_Listing.txt」という名称のテキストファイルの内容は、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
本開示の背景
2019~2020年のコロナウイルス大流行は、中国・武漢で最初に認識された重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を原因とするコロナウイルス疾患2019(COVID-19)の、現在も続くパンデミックである。この大流行は2020年3月11日に世界保健機関(WHO)によってパンデミックであると宣言された。2021年6月28日までに、1億8100万例を超えるCOVID-19症例が220を超える国および地域において報告されており、393万例を超える死亡をもたらしている。COVID-19およびSARS-CoV-2をより良く理解することが、特に医学的対策の開発に向けて、最も重要かつ急を要することとしては、有効なワクチンの開発に向けて、公衆衛生上、さし迫って必要とされている。
【0004】
ファージコンビナトリアルペプチドライブラリーの投与後に、血管床へのホーミングが可能なリガンドを同定することができる。バクテリオファージ(ファージ)は細菌だけに自然感染するウイルスである。しかし、ファージは真核細胞上の特異的受容体を標的とするように操作することができる。ファージカプシドはリンパ節(LN)を標的とするリガンドで改変することができ、それはそのファージとそれが含有する抗原に対する免疫応答をかなり増強することが、研究によって実証されている。加えて、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来の要素(ただしAAVカプシドをコードする遺伝子ではない)を使ってファージゲノムをさらに改変することにより、アデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)と呼ばれる新規ベクターを作ることもできる。肺およびLNまたはリンパ管構造を含む抗原提示のための組織に選択的にホーミングするAAVPを製造して、ワクチン接種のための抗原をコードする導入遺伝子を発現させることは容易である。AAVPの全身性投与は、マウス、ラット、イヌおよび非ヒト霊長類において安全である。
【0005】
COVID-19の伝播を抑制するためにSARS-CoV-2に対する有効なワクチンは緊急に必要とされている。本開示はこの必要性に対処する。
【発明の概要】
【0006】
本開示の概要
本明細書に記載するように、本開示は、有効量の操作された治療用ファージを含む免疫原性組成物に関する。本開示には、有効量の操作された治療用ファージを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象における免疫応答を刺激する方法、ならびに有効量の操作された治療用ファージを含む組成物を投与する工程を含む、対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する方法も含まれる。
【0007】
一局面において、本開示には、有効量の操作された治療用ファージと、薬学的に許容される担体とを含む、免疫原性組成物であって、操作された治療用ファージが、抗原性ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む1つまたは複数の融合ポリペプチドを含む、免疫原性組成物が含まれる。
【0008】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージは、組織ターゲティングポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合ポリペプチドを、さらに含む。
【0009】
ある特定の態様において、ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される、請求項1および2のいずれか一項記載の免疫原性組成物。
【0010】
ある特定の態様において、組織ターゲティングポリペプチドはリンパ節組織を標的とする。
【0011】
ある特定の態様において、リンパ節組織ターゲティングペプチドは、SEQ ID NO:1~2を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
ある特定の態様において、リンパ節組織ターゲティングペプチドは、SEQ ID NO:7~8を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0013】
ある特定の態様において、組織ターゲティングポリペプチドはリンパ管組織を標的とする。
【0014】
ある特定の態様において、リンパ管組織ターゲティングペプチドは、SEQ ID NO:3を含むアミノ酸配列を含む。
【0015】
ある特定の態様において、リンパ管組織ターゲティングペプチドは、SEQ ID NO:9を含むヌクレオチド配列によってコードされる。
【0016】
ある特定の態様において、組織ターゲティングポリペプチドは肺組織を標的とする。
【0017】
ある特定の態様において、肺組織ターゲティングペプチドは、SEQ ID NO:4および28を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
ある特定の態様において、組織ターゲティングポリペプチドはインテグリン結合ドメインである。
【0019】
ある特定の態様において、インテグリン結合ポリペプチドは、SEQ ID NO:4、5、および86を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
ある特定の態様において、インテグリン結合ポリペプチドは、SEQ ID NO:6および81を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0021】
ある特定の態様において、組織ターゲティングポリペプチドはGRP78結合ドメインである。
【0022】
ある特定の態様において、GRP78結合ポリペプチドは、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージは、肺組織を標的としかつトランスサイトーシスドメインとして作用するエアロゾル送達ポリペプチドと、ファージコートタンパク質とを含む、融合ポリペプチドをさらに含む。
【0024】
ある特定の態様において、エアロゾル送達ポリペプチドはSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む。
【0025】
ある特定の態様において、エアロゾル送達ペプチドは、SEQ ID NO:81を含む核酸配列によってコードされる。
【0026】
ある特定の態様において、抗原性ポリペプチドはウイルスポリペプチドである。
【0027】
ある特定の態様において、ウイルスポリペプチドは、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択されるウイルスタンパク質由来のエピトープである。
【0028】
ある特定の態様において、エピトープは、SEQ ID NO:10~27、31~80、111、120、124、126、135、および136を含む群より選択される。
【0029】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージはアデノ随伴バクテリオファージ(AAVP)であり、かつウイルス遺伝子をさらに含む。
【0030】
ある特定の態様において、ウイルス遺伝子は、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択される。
【0031】
ある特定の態様において、ウイルス遺伝子はコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:83および85からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする。
【0032】
ある特定の態様において、ウイルス遺伝子はコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:82および84からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0033】
別の一局面において、本開示には、請求項1~26のいずれか一項記載の免疫原性組成物を構成する核酸ベクターが含まれる。
【0034】
ある特定の態様において、ベクターは、抗原性ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0035】
ある特定の態様において、ベクターは、組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0036】
ある特定の態様において、ベクターは、抗原性ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0037】
ある特定の態様において、ベクターは、抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0038】
ある特定の態様において、ベクターは、5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0039】
ある特定の態様において、ベクターは、5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、およびエアロゾル送達ポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む。
【0040】
ある特定の態様において、ベクターは、5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、エアロゾル送達ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質コード配列を含む。
【0041】
別の一局面において、本開示は、対象における免疫応答を刺激する方法であって、上記局面もしくは態様のいずれかまたは本開示の他の任意の局面もしくは態様の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0042】
ある特定の態様において、1つまたは複数の免疫原性組成物は、経口経路、吸入経路、鼻腔経路、噴霧化経路、気管内経路、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮下注射、および経皮注射を含む群より選択される経路によって送達される。
【0043】
別の一局面において、本開示は、上記局面もしくは態様のいずれかまたは本開示の他の任意の局面もしくは態様の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数の有効量を投与する工程を含む、対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止するための方法を提供する。
【0044】
ある特定の態様において、1つまたは複数の免疫原性組成物は、経口経路、吸入経路、鼻腔経路、噴霧化経路、気管内、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮下注射、および経皮注射を含む群より選択される経路によって送達される。
【0045】
ある特定の態様において、コロナウイルス感染症は、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-229E、HCoV-NL63、MERS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、およびネズミ肝炎ウイルス1型(MHV-1)を含む群より選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。
【0046】
別の一局面において、本開示は、細胞を、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージと接触させる工程を含む、ウイルス感染細胞への遺伝子送達を促進する方法を提供する。
【0047】
ある特定の態様において、ファージコートタンパク質は、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される。
【0048】
ある特定の態様において、リガンド結合ポリペプチドは、SEQ ID NO:1~5、28~30、および86を含む群より選択される。
【0049】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージはアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である。
【0050】
別の一局面において、本開示は、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージの有効量を投与し、それによって、ウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する工程を含む、対象におけるウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する方法を提供する。
【0051】
ある特定の態様において、ファージコートタンパク質は、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される。
【0052】
ある特定の態様において、リガンド結合ポリペプチドは、SEQ ID:1~5、28~30、および86を含む群より選択される。
【0053】
ある特定の態様において、リガンド結合ポリペプチドはGRP78結合ドメインである。
【0054】
ある特定の態様において、GRP78結合ポリペプチドは、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0055】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージはアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である。
【0056】
ある特定の態様において、操作された治療用ファージは抗ウイルス作用物質をさらに含む。
【0057】
ある特定の態様において、抗ウイルス作用物質は、抗ウイルス薬またはその前駆体、抗ウイルス性ポリペプチドまたはその前駆体、および抗ウイルス性核酸を含む群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本開示の具体的態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読めば、より良く理解されるであろう。本開示を例示するために、典型的な態様を図面に示す。しかし本開示は、図面に示される態様の装置および手段そのものに限定されるわけではないと理解すべきである。
図1】LNホーミングファージが非ターゲティング対照ファージよりも強い体液性免疫応答を誘発することを表すグラフである。雌2ヶ月齢BALB/cマウスに、表示のとおりPTCAYGWCA(SEQ ID NO:1)もしくはWSCARPLCG(SEQ ID NO:2)をディスプレイするファージ、またはペプチドをディスプレイしないファージ(インサートレス(insertless)fd-tetファージ、陰性対照)の静脈内(i.v.)注射を行った。抗ファージ抗体血清力価を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。1:500の血清希釈液による、2回目のワクチン接種の3日後の体液性免疫応答が示されている。データはp-ニトロフェニルリン酸基質の吸光度(A450nm)を表す(Trepel et al.,2001)。ファージベースのワクチンはファージ粒子のカプシドを抗原担体として使用する。これらの粒子は、ターゲティングされていなくてもよいし、抗原提示を改良または増強するためにある特定の器官または細胞にターゲティングすることもできる。
図2】マウスのネズミ肝炎ウイルス(MHV)(すなわちネズミコロナウイルス)スパイク(S)タンパク質に対する免疫応答を生成させるように設計されたLNターゲティングAAVPのマップを表す図である。MHV Sタンパク質をコードする遺伝子を送達するAAVPコンストラクトは、定型的な分子生物学的戦略を使って作製される。免疫応答を増強するために、LNターゲティングペプチドをpIIIマイナーコートタンパク質中に発現させて、AAVPの内在化と、それに続く関心対象の抗原の発現および免疫系の細胞への提示を指示する。AAVPベースのワクチンでは、関心対象の抗原をコードする遺伝子を送達するために、ファージ粒子のカプシドを利用して、ある特定の器官または細胞を標的とする。AAVPによって形質導入された細胞は、免疫応答を改良または増強するために、抗原を発現し、提示する。
図3】SARS-CoV-2(COVID-19)を標的とするワクチンとして作用する、非限定的なファージおよびAAVPコンストラクトを表す一連の図である。AAVPベースのワクチンは、粒子送達および抗原エピトープのために、非限定的なペプチドを利用することができる。
図4A図4A~4Cは、ファージコートタンパク質pIIIまたはpVIII(またはrpVIII)との融合タンパク質として、またはAAVPベクターコンストラクトの遺伝子ペイロードとして、発現させることができる、本開示のある特定の組織ターゲティング送達抗原性ポリペプチドを列挙する、一連の表である。
図4B図4Aの説明を参照のこと。
図4C図4Aの説明を参照のこと。
図5図5A~5Cは、ヒトCOVID-19患者における、本開示の2つのSARS-CoV-2エピトープに対する抗体の存在を図解する、一連のグラフおよび図である。
図6】ファージベースおよびAAVPベースのワクチン候補の概略を表す図である。このスキームは、ファージ粒子を使ったSARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫処置の2つの戦略の構想、デザインおよび応用に使用されるアプローチを表している。工程1:二重ディスプレイファージ粒子および完全長Sタンパク質をコードするAAVPを作製するための、構造解析、構造的に規定されたエピトープの選択、およびクローニング工程。工程2:単一および二重ディスプレイファージ粒子およびAAVP Sコンストラクトの分子操作。工程3:マウスにおけるインビボでの機能検証およびワクチン接種研究。
図7A】SARS-CoV-2 Sタンパク質三量体上の構造的エピトープの同定を図解している。(図7A)SARS-CoV-2 Sタンパク質にまたがる6つのエピトープを、組換えファージメジャーコートタンパク質pVIII(rpVIII)上にディスプレイさせるために選択した。4つのエピトープ、エピトープ1(SEQ ID NO:22)、エピトープ2(SEQ ID NO:23)、エピトープ3(SEQ ID NO:24)、エピトープ4(SEQ ID NO:25)は、S1サブユニット内に位置し、2つ、エピトープ5(SEQ ID NO:26)およびエピトープ6(SEQ ID NO:27)は、S2サブユニット内に位置する。これらのエピトープは、Sタンパク質三量体の主としてクローズド状態(closed state)コンフォメーションの表面表現において、溶媒露出している(PDB ID:6ZP0)。エピトープ1(SEQ ID NO:22)のみがグリコシル化のための部位を(N343に)含有している。
図7B】SARS-CoV-2 Sタンパク質三量体上の構造的エピトープの同定を図解している。(図7B)これらのエピトープはすべて、Sタンパク質プロトマーのリボン表現において環状コンフォメーションを維持しており、エピトープ2(SEQ ID NO:23)上を除くすべてのエピトープの隣接ジスルフィド間に、ジスルフィド架橋が存在する。1つの受容体結合ドメイン(RBD)が直立しているSタンパク質三量体のオープン状態コンフォメーションでは、エピトープ1、2および3の配向に変化が見られるが、いずれも溶媒露出したままである(PDB ID:6ZGG)。
図8図8A~8Cは、単一ディスプレイファージ粒子上のSエピトープの免疫原性を図解している。(図8A~8B)5週齢雌スイスウェブスター(Swiss Webster)マウスを、rpVIII上に発現する6つの異なるエピトープのそれぞれを含有する単一ディスプレイファージコンストラクトまたは対照インサートレスファージの皮下注射によって免疫処置した。動物には1回目の投与の3週間後にブースト注射を行った。免疫処置の2週間後および5週間後のマウスの血清において、(図8A)Sタンパク質特異的IgG抗体および(図8B)ファージ特異的IgG抗体を、ELISAによって評価した(各群n=3匹のマウス)。(図8C)5週齢の雌BALB/cマウスを、気管内投与により、エピトープ4(SEQ ID NO:25)/CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)二重ディスプレイファージ粒子、エピトープ4(SEQ ID NO:25)単一ディスプレイファージ粒子、または対照インサートレスファージで免疫処置した。動物には1回目の投与の3週間後にブーストを与えた。Sタンパク質特異的IgG抗体をELISAアッセイで毎週評価した(各群n=10匹のマウス)。データは±SEMを表す(***P<0.001)。
図9-1】図9A~9Hは、RGD4C AAVP SARS-CoV-2 Sの免疫原性を図解している。AAVPベースのワクチン候補の概略図。(図9A)SARS-CoV-2 Sタンパク質遺伝子をpUC57ベクターから切り出し、RGD4CターゲティングAAVPゲノムにクローニングした。CoV2 Sタンパク質導入遺伝子カセットの発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによって駆動され、AAV ITRに挟まれている。(図9B)RGD4C AAVP Sファージゲノムおよび対照RGD4C AAVP導入遺伝子ヌル(AAVP S-ヌル)ファージゲノムの概略図。(図9C)異なる投与経路によってRGD4C AAVP Sで免疫処置されたマウス(各群n=5匹のマウス)の血清中のSタンパク質特異的IgG抗体応答を、組換え完全長Sタンパク質でコーティングされた96ウェルプレートにおけるELISAによって定量した。(図9D)皮下投与によってRGD4C AAVP Sまたは対照RGD4C AAVP S-ヌル(各群n=12匹のマウス)で毎週免疫処置されたマウスの血清中のSタンパク質特異的IgG抗体をELISAによって定量した。グラフはデータ±SEMを表す(**P<0.01)。(図9E)RGD4C AAVP Sで免疫処置されたマウスにおける、1回目の投与の5週間後の、Sタンパク質導入遺伝子の組織特異的発現は、リンパ節が一番高かった。グラフはデータ±SEMを表す(***P<0.001)。(図9F)異なる投与経路によってRGD4C AAVP Sで免疫処置されたマウスの血清におけるファージ特異的IgG抗体応答(各群n=5匹のマウス)。RGD4C AAVP S(図9G)またはRGD4C AAVP S-ヌル(図9H)で免疫処置されたマウスの血清におけるファージ特異的IgG抗体応答は、最初の投与の5週間後に増加した。処置されたマウスの血清におけるファージ特異的IgG抗体応答は、各ウェル1010個のAAVP粒子でコーティングされた96ウェルプレートにおけるELISAによって評価した。TetR、テトラサイクリン耐性遺伝子。AmpR、アンピシリン耐性遺伝子。Ori、複製起点。
図9-2】図9-1の説明を参照のこと。
図10】査読付き刊行物からのSARS-CoV-2 Sタンパク質エピトープマッピングの図である。COVID-19患者血清のB細胞、T細胞および抗体スクリーニングによって同定されたS1サブユニットおよびS2サブユニットにまたがるSタンパク質の免疫原性領域の一次配列表現。ファージメジャーコートタンパク質rpVIII上にディスプレイされた6つの構造的に選択されたエピトープが強調されている(橙色)。
図11】単一および二重ディスプレイファージ粒子クローニング戦略を図解する図である。単一ディスプレイファージ粒子を作製するために、f88-4ファージベクターを使用した。このベクターは、メジャーカプシドタンパク質pVIIIをコードする2つの遺伝子、すなわち野生型(pVIII、灰色で表示)および組換え(rpVIII、緑色で表示)を含有する。rpVIIIは、Sタンパク質エピトープをコードするアニールしたオリゴヌクレオチドをrpVIII遺伝子とインフレームにクローニングすることを可能にするHindIIIおよびPstIクローニング部位の間に、外来DNAインサートを含有する。二重ディスプレイファージ粒子の場合は、エピトープ4(CDIPIGAGIC-SEQ ID NO:25)を含有するf88-4ベクターと、fUSE55ファージベクターを、BamHI制限酵素およびXbaI制限酵素で消化する。次に、その消化産物を精製し、標準的ライゲーションプロトコールに従って融合する。その結果がキメラベクター(f88-4/fUSE55)である。次に、CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)ターゲティングペプチドをコードするアニールしたオリゴヌクレオチドを、pIIIコートタンパク質遺伝子のSfiI制限部位(pIII、淡青色で表示)内にクローニングすることで、rpVIII上にエピトープ4(SEQ ID NO:25)を含有しpIII上にCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)ペプチドを含有する二重ディスプレイファージベクターを作製した。単一または二重ディスプレイファージdsDNAの両方を使って、エレクトロコンピテントDH5α大腸菌(E.coli)細胞を形質転換した。ファージ粒子はK91大腸菌で産生させた。
図12図12A~12Bは、単一および二重ディスプレイファージ粒子上のSタンパク質エピトープの免疫原性を図解している。5週齢雌BALB/cマウスを、109形質導入単位(TU)のエピトープ4/CAKSMGDIVC二重ディスプレイファージ粒子、エピトープ4単一ディスプレイファージ粒子、または対照インサートレスファージの気管内(IT)経路によって免疫処置した。(図12A)長期特異的免疫応答を評価するために、5、8および18週後のマウスの血清中のSタンパク質特異的IgG抗体を、ELISAによって分析した(各群n=5匹のマウス)。21週目に追加のブーストを投与し、22週目に抗体応答を評価した。(図12B)単一および二重ディスプレイファージ粒子で免疫処置されたマウスの血清におけるファージ特異的IgG抗体応答(各群n=10匹のマウス)。グラフはデータ±SEMを表す(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図13-1】図13A~13Gは、CAKSMGDIVC AAVP Sの免疫原性を図解している。AAVPベースのワクチン候補の概略図。(図13A)SARS-CoV-2 Sタンパク質遺伝子をpUC57ベクターから切り出し、fUSE5 AAVPファージゲノムにクローニングした。CAKSMGDIVCターゲティングペプチドをコードするリン酸化されたアニールしたオリゴヌクレオチドを、fUSE5 AAVP CoV2 SファージゲノムまたはfUSE5 AAVP導入遺伝子ヌル(fUSE5 AAVP S-ヌル)ファージゲノムのfUSE5 pIII配列中のSfiI部位に挿入した。AAVP導入遺伝子カセットはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによって駆動され、AAV ITRに挟まれている。(図13B)CAKSMGDIVC AAVP Sおよび対照CAKSMGDIVC AAVP導入遺伝子ヌルファージゲノム(CAKSMGDIVC AAVP S-ヌル)の概略図。(図13C)免疫処置スケジュールの概略図。5週齢雌BALB/cマウスに、IT経路により、109TUのfd-AAVP-CoV2-S(インサートレス対照AAVP S)、CAKSMGDIVC AAVP SまたはCAKSMGDIVC AAVP S-ヌルファージを、毎週投与した。(図13D)肺から体循環へのCAKSMGDIVC AAVP SまたはCAKSMGDIVC AAVP S-ヌルの輸送を、IT投与の1時間後に測定した。(図13E)インサートレスAAVP SまたはCAKSMGDIVC AAVP Sで免疫処置されたマウスにおけるSタンパク質の組織特異的発現を、1回目の免疫処置の3週間後に観察した。(図13F)処置されたマウスの血清におけるスパイクタンパク質特異的IgM抗体応答を、組換え完全長Sタンパク質でコーティングされた96ウェルプレートにおけるELISAによって定量した。(図13G)処置されたマウスの血清におけるスパイクタンパク質特異的IgG抗体応答を、組換え完全長Sタンパク質でコーティングされた96ウェルプレートにおけるELISAによって定量した。
図13-2】図13-1の説明を参照のこと。
図14A】SARS-CoV-2 Sタンパク質免疫原性領域のエピトープマッピングの相互参照分析を提示する表である。
図14B】SARS-CoV-2 Sタンパク質免疫原性領域のエピトープマッピングの相互参照分析を提示する表である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
詳細な説明
定義
別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用する技術用語および科学用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本開示の試験のための実施では、本明細書に記載するものと類似するかまたは等価な任意の方法および材料を使用することができるが、本明細書では選ばれた材料および方法を説明する。本開示の説明および特許請求では、以下の術語を使用する。
【0060】
本明細書において使用する術語には、特定の態様を説明する目的しかなく、限定を意図していないことも、理解すべきである。
【0061】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書では、1つのまたは1つより多い(すなわち少なくとも1つの)その冠詞の文法上の対象を指すために使用される。一例として「ある要素(an element)」とは、1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0062】
本明細書において使用する「約」は、測定可能な値、例えば量、持続時間などを指す場合には、明示された値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、より一層好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。そのような変動は開示される方法を実施するのに適しているからである。
【0063】
本明細書において使用する「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を惹起する分子と定義される。この免疫応答は抗体の生産もしくは特異的免疫適格細胞の活性化またはその両方を伴いうる。事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が、抗原として機能しうることは、当業者には理解されるであろう。さらにまた、抗原は、組換えデオキシリボ核酸(DNA)またはゲノムDNAに由来することもできる。したがって、免疫応答を誘発するタンパク質またはペプチドをコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列で構成される任意のDNAが、本明細書において使用する用語としての「抗原」をコードすることは、当業者には理解されるであろう。さらにまた、抗原がもっぱら遺伝子の完全長ヌクレオチド配列によってコードされる必要もないことは、当業者には理解されるであろう。本開示が、限定するわけではないが、2つ以上の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を包含すること、およびこれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を誘発するためにさまざまな組合せで配置されることは明白である。さらにまた、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要も全くないことは、当業者には理解されるであろう。抗原を合成的に生成させうること、または抗原が生物学的試料に由来しうることは、明白である。そのような生物学的試料としては、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液を挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。
【0064】
本明細書において使用する「自己由来」という用語は、後でその物質を再導入することになる個体と同じ個体に由来する任意の材料を指すものとする。
【0065】
「同種異系」とは、同じ種の異なる動物に由来する任意の材料を指す。
【0066】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する任意の材料を指す。
【0067】
「切断」という用語は、共有結合の破壊、例えば核酸分子の骨格中の共有結合の破壊、またはペプチド結合の加水分解を指す。切断は、限定するわけではないが、ホスホジエステル結合の酵素的加水分解または化学的加水分解などといった、さまざまな方法で開始させることができる。一本鎖切断と二本鎖切断の両方が考えられる。二本鎖切断は2つの相異なる一本鎖切断事象の結果として起こりうる。DNA切断は平滑端または突出端のいずれかの生成をもたらしうる。ある特定の態様では、切断される二本鎖DNAを標的とするために融合ポリペプチドを使用しうる。
【0068】
本明細書において使用する「保存的配列改変」という用語は、ヌクレオチド改変またはアミノ酸改変であって、それぞれ、アミノ酸配列を変化させることも、そのアミノ酸配列を含有する抗体の結合特徴に著しい影響を及ぼすことおよびその結合特徴を著しく変化させることもない、ヌクレオチド改変またはアミノ酸改変を指すものとする。アミノ酸の保存的改変には、アミノ酸の置換、付加および欠失が含まれる。改変は、例えば部位指定変異導入法やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)媒介変異導入法などといった当技術分野において公知の標準的技法によって、本開示の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が類似する側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換である。当技術分野では類似する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を持つアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を持つアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ-分岐側鎖を持つアミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、抗体の相補性決定領域(CDR)内の1つまたは複数のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置き換えることができ、変化させた抗体を、本明細書記載の機能アッセイを使って、抗原結合能について試験することができる。
【0069】
「疾患」とは、動物がホメオスタシスを維持できず、その疾患が改善されなければ、その動物の健康が悪化し続けるという、動物の健康状態である。これに対し、動物における「障害」とは、動物はホメオスタシスを維持することはできるが、その動物の健康状態は、その障害がない場合よりも好ましくないという、健康状態である。無処置のまま放置しても、障害は、その動物の健康状態のさらなる低下を、必ずしも引き起こさない。
【0070】
本明細書において使用する「ダウンレギュレーション」という用語は、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の減少または排除を指す。
【0071】
「有効量」または「治療有効量」は本明細書では相互可換的に使用され、特定の生物学的結果を達成しまたは治療上もしくは予防上の利益を与えるのに有効な、本明細書記載の化合物、製剤、材料または組成物の量を指す。そのような結果としては、当技術分野における適切な任意の手段によって決定される抗腫瘍活性を挙げることができるが、それに限定されるわけではない。
【0072】
「コードする」とは、生物学的プロセスにおいて、所定のヌクレオチド配列[すなわちリボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)およびメッセンジャーRNA(mRNA)]または所定のアミノ酸配列のどちらか一方とそれがもたらす生物学的性質とを有する他のポリマーおよび高分子を合成するためのテンプレートとして役立つという、例えば遺伝子、相補DNA(cDNA)またはメッセンジャーリボ核酸(mRNA)などといったポリヌクレオチド中の特定ヌクレオチド配列の固有の性質を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物学的な系においてタンパク質を生産するのであれば、その遺伝子はタンパク質をコードしている。コード鎖、すなわちmRNA配列と同一であって通常は配列表に掲載されているヌクレオチド配列と、遺伝子またはcDNAの転写にテンプレートとして使用される非コード鎖は、どちらも、タンパク質またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードしているということができる。
【0073】
本明細書において使用する「内在性」とは、ある生物、細胞、組織もしくは系の内部に由来するか、またはある生物、細胞、組織もしくは系の内部で産生される、任意の物質を指す。
【0074】
本明細書において使用する「外因性」という用語は、ある生物、細胞、組織もしくは系の外部から導入されるか、ある生物、細胞、組織もしくは系の外部で産生される任意の材料を指す。
【0075】
本明細書において使用する「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の、そのプロモーターによって駆動される、転写および/または翻訳と定義される。
【0076】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは発現にとって十分なシス作用性要素を含み、発現のための他の要素は、宿主細胞によって供給されるか、またはインビトロ発現系中に供給されうる。発現ベクターには、例えば組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば裸のプラスミドまたはリポソームに含まれているプラスミド)およびウイルス(例えばセンダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびAAV)など、当技術分野において公知のものはすべて包含される。
【0077】
本明細書において使用する「相同」とは、2つのポリマー分子、例えば2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子などといった2つの核酸分子間、または2つのポリペプチド分子間の、サブユニット配列同一性を指す。2つの分子の両方で、あるサブユニット位置が同じモノマーサブユニットで占められている場合、例えば2つのDNA分子のそれぞれにおけるある位置がアデニンで占められているなら、それらはその位置において相同である。2つの配列間の相同性は、一致位置または相同位置の数の直接的関数である。例えば2つの配列中の位置の半分(例えば長さ10サブユニットのポリマー中の5つの位置)が相同であるなら、それら2つの配列は50%相同であり、位置の90%(例えば10中の9)が一致するかまたは相同であるなら、それら2つの配列は90%相同である。
【0078】
本明細書において使用する「同一性」とは、2つのポリマー分子間の、特に2つのアミノ酸分子間、例えば2つのポリペプチド分子間の、サブユニット配列同一性を指す。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する場合、例えば2つのポリペプチド分子のそれぞれにおけるある位置がアルギニンで占められているなら、それらはその位置において同一である。同一性、または2つのアミノ酸配列がアラインメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する程度は、パーセンテージとして表されることが多い。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致位置または同一位置の数の直接的関数である。例えば2つの配列中の位置の半分(例えば長さ10アミノ酸のポリマー中の5つの位置)が同一であるなら、それら2つの配列は50%同一であり、位置の90%(例えば10中の9)が一致するかまたは同一なら、それら2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0079】
本明細書において使用する「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現される抗体は、B細胞受容体(BCR)または抗原受容体と呼ばれる場合もある。このタンパク質のクラスに含まれる5つのメンバーはIgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、乳汁、胃腸分泌物、ならびに気道および尿生殖路の粘液分泌物などといった身体からの分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは最も一般的な循環抗体である。IgMは、ほとんどの対象において一次免疫応答中に産生される主要免疫グロブリンである。これは、凝集、補体結合および抗体応答において最も効率のよい免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御において重要である。IgDは、抗体機能は未知であるが抗原受容体として役立ちうる免疫グロブリンである。IgEは、アレルゲンへのばく露時に肥満細胞および好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏反応を媒介する免疫グロブリンである。
【0080】
本明細書において使用する「免疫応答」という用語は、リンパ球および抗原提示細胞が抗原分子を外来と識別した時に起こる細胞性および体液性の応答であって、抗原を除去するために抗体の形成を誘導しおよび/またはリンパ球を活性化する、応答と定義される。免疫応答は無細胞性成分および細胞性成分によって媒介されうる。無細胞性成分には物理的障壁およびサイトカインなどのシグナリング分子が含まれる。細胞性応答は、マクロファージ、好中球、樹状細胞などの先天免疫細胞と、リンパ球(TおよびB)などの適応免疫細胞との両方によって媒介される。細胞性局面と体液性局面はどちらも、抗体の産生、抗原のクリアランスおよび免疫記憶の発生に寄与する。
【0081】
「免疫学的有効量」、「自己免疫疾患阻害有効量」または「治療量」が示される場合、投与されるべき本開示の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍サイズ、感染症、または転移の程度および状態の個体差を考慮して、医師または研究者によって決定されうる。
【0082】
「単離され」たとは、自然状態から変更されまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物中に自然に存在する核酸またはペプチドは「単離され」ていないが、その自然状態の共存物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在するか、または例えば宿主細胞などの非ネイティブ環境に存在することができる。
【0083】
本明細書において使用する「ノックダウン」という用語は、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の減少を指す。
【0084】
本明細書において使用する「ノックアウト」という用語は、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の消失を指す。
【0085】
本明細書において使用する「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」という用語は、デペンドパルボウイルス属(Dependoparvovirus)の小さな非病原性の一本鎖DNAウイルスを指す。これは分裂中でも休止中でもヒトの細胞および組織に容易に感染することができ、免疫応答はごくわずかであり、目立った病原性もないことが、遺伝子治療およびワクチン用のベクターとしてのAAVの使用につながっている。
【0086】
本明細書において使用する「コロナウイルス」という用語は、エンベロープ一本鎖プラス鎖RNAウイルス(enveloped,positive-sense single-strand RNA virus)の一科であるコロナウイルス科(Coronaviridae)のメンバーを指す。コロナウイルスは鳥類および哺乳動物において疾患を引き起こすことができる。最もよく研究されているコロナウイルスの一つは、実験動物において流行性感染症を引き起こすネズミコロナウイルスMHVである。ヒトでは、コロナウイルスは、典型的には、重症度が普通感冒からより致死的な疾患、例えばSARS、中東呼吸器症候群(MERS)およびCOVID-19に及ぶ、呼吸器感染症を引き起こす。
【0087】
本明細書において使用する「ファージ」または「バクテリオファージ」という用語は、原核細胞または古細菌細胞に感染しその中で複製するように進化したウイルスを指す。バクテリオファージは、RNAゲノムまたはDNAゲノムを含むことができ、多様な複雑さのタンパク質カプシド構造を有することができる。ヒトでは、ファージ治療が、細菌感染症を処置するために、抗生物質の代わりとして使用されている。ファージ粒子は真核細胞に感染するように操作することもでき、そうすることで、遺伝子治療用の魅力的ベクターを作ることもできる。というのも、それらは細菌培養中で容易に増大させることができ、それらの新規な構造はヒトにおける既存の免疫が比較的低いことを意味するからである。
【0088】
本明細書において使用する「限定的毒性」という用語は、本開示のペプチド、ポリペプチド、細胞および/または抗体が、インビトロまたはインビボのどちらかにおいて、健常細胞、非腫瘍細胞、非疾患細胞、標的ではない細胞またはそのような細胞の集団に対する、実質的に負の生物学的効果、抗腫瘍効果、または実質的に負の生理学的症状の欠如を示すことを指す。
【0089】
本明細書において使用する「改変された」という用語は、本開示の分子または細胞の、変化した状態または構造を意味する。分子は、さまざまな方法で、例えば化学的、構造的および機能的に改変されうる。細胞は核酸の導入によって改変されうる。
【0090】
本明細書において使用する「モジュレートする」という用語は、ある処置または化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較した、および/または無処置である点を除けば同一である対象における応答のレベルと比較した、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、ネイティブなシグナルまたは応答に摂動を加えおよび/または影響を及ぼし、それによって、対象、好ましくはヒトにおける有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0091】
本開示では、核酸配列の議論に際してよく現われる核酸塩基について、以下の略号を使用する。「A」または「a」はアデノシンを指し、「C」または「c」はシトシンを指し、「G」または「g」はグアノシンを指し、「T」または「t」はチミジンを指し、「U」または「u」はウリジンを指す。
【0092】
別段の明示がある場合を除き、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重物であって同じアミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列をすべて包含する。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部のバージョンではイントロンを含有しうるという限りにおいて、イントロンも包含しうる。
【0093】
「機能的に連結される」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の機能的連結であって、後者の発現をもたらす、機能的連結を指す。例えば、第1核酸配列が第2核酸配列と機能的な関係に配置されている場合、第1核酸配列は第2核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼすのであれば、そのプロモーターはそのコード配列に機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合には、同じ読み枠にある。
【0094】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、例えば皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)もしくは胸骨内注射、または注入技法が含まれる。
【0095】
本明細書において使用する「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらにまた、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書において使用する核酸およびポリヌクレオチドは相互可換である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それを単量体型「ヌクレオチド」に加水分解することができるという一般知識を有している。単量体型ヌクレオチドはヌクレオシドに加水分解することができる。本明細書において使用するポリヌクレオチドとしては、当技術分野において利用可能な任意の手段によって、例えば限定するわけではないが、組換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを使った組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングによって得られる、および合成手段によって得られる、すべての核酸配列が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0096】
本明細書において使用する「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は相互可換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合的に連結されたアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質の配列またはペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに接合された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を包含する。本明細書において使用する場合、この用語は、当技術分野においてペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーなどともよく呼ばれる短い鎖と、当技術分野において一般にタンパク質と呼ばれて多くのタイプが存在する長い鎖を、どちらも包含する。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、改変されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質などを包含する。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組合せを包含する。
【0097】
本明細書において使用する「プロモーター」という用語は、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識され、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するのに必要な、DNA配列と定義される。
【0098】
本明細書において使用する「プロモーター/調節配列」という用語は、そのプロモーター/調節配列に機能的に連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。ある場合、この配列はコアプロモーター配列であることができ、また別の場合、この配列はエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要な他の調節要素も含みうる。プロモーター/調節配列は、例えば、遺伝子産物を組織特異的に発現させるものでありうる。
【0099】
「構成的」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードしまたは指定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、ある細胞におけるその遺伝子産物の生産を、その細胞の大半のまたはすべての生理条件下で引き起こすヌクレオチド配列である。
【0100】
「誘導性」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードしまたは指定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、ある細胞におけるその遺伝子産物の生産を、実質上、そのプロモーターに対応する誘導物質がその細胞内に存在する場合にのみ、引き起こすヌクレオチド配列である。
【0101】
「組織特異的」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードしまたは指定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合に、ある細胞におけるその遺伝子産物の生産を、実質上、その細胞が当該プロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合にのみ、引き起こすヌクレオチド配列である。
【0102】
抗体に関して本明細書において使用する「特異的に結合」という用語は、特異的抗原を認識するが、試料中の他の分子は実質的に認識も結合もしない抗体を意味する。例えば、ある種からの抗原に特異的に結合する抗体は、1つまたは複数の種からのその抗原にも結合しうる。しかし、そのような異種間反応性、それ自体によって、特異的であるという抗体の分類が変更されることはない。もう一つの例において、ある抗原に特異的に結合する抗体は、その抗原の異なるアレル型にも結合しうる。しかし、そのような交差反応性、それ自体によって、特異的であるという抗体の分類が変更されることはない。
【0103】
場合によっては、抗体、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関して、その相互作用が化学種上の特定構造(例えば抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存すること、例えば抗体が、タンパク質一般ではなく、特異的なタンパク質構造を認識し、それに結合することを意味するために、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を使用することができる。抗体がエピトープ「A」に特異的であるとすると、標識された「A」を含む反応において、エピトープAを含有する分子(または遊離の非標識A)の存在は、抗体に結合される標識されたAの量を低減するだろう。
【0104】
「対象」という用語は、生きている生物であって、その体内での免疫応答を引き出すことができる、生物(例えば哺乳動物)を包含するものとする。ここで使用する「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物でありうる。非ヒト哺乳動物としては、例えば家畜およびペット、例えばヒツジ類、ウシ類、ブタ類、イヌ類、ネコ類およびネズミ類が挙げられる。好ましくは、対象はヒトである。
【0105】
本明細書において使用する「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞タイプを本質的に含まない細胞である。実質的に精製された細胞とは、その細胞の天然状態において通常はその細胞に付随している他の細胞タイプから分離された細胞も指す。いくつかの例において、実質的に精製された細胞の集団とは、細胞の均一な集団を指す。他の例において、この用語は、単に、その細胞の天然状態において通常はその細胞に付随する細胞から分離された細胞を指す。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。別の態様において、細胞はインビトロでは培養されない。
【0106】
「標的部位」または「標的配列」とは、核酸のうち、結合が起こるのに十分な条件下で結合分子が特異的に結合しうる部分を画定する、ゲノム核酸配列をいう。「標的部位」または「標的配列」とは、タンパク質のうち、結合が起こるのに十分な条件下で結合分子またはポリペプチドが特異的に結合しうる部分を画定する、タンパク質配列をいう場合もある。
【0107】
本明細書において使用する「治療」という用語は、処置および/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0108】
本明細書において使用する「トランスフェクト」または「形質転換」または「形質導入」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入されるプロセスを指す。ターゲティングファージの場合、外因性核酸は、リガンド受容体結合事象によって開始され、続いて受容体を介した内在化事象が起こる。「トランスフェクト」細胞または「形質転換」細胞または「形質導入」細胞とは、外因性核酸によるトランスフェクションまたは形質転換または形質導入を受けた細胞である。細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0109】
疾患を「処置する」とは、この用語を本明細書において使用する場合には、対象が経験する疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0110】
本明細書において使用する「転写制御下」または「機能的に連結された」という語句は、プロモーターが、RNAポリメラーゼによる転写の開始とポリヌクレオチドの発現を制御するために、そのポリヌクレオチドに対して正しい位置と配向にあることを意味する。
【0111】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、その単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる組成物である。限定するわけではないが、例えば線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスなど、当技術分野では数多くのベクターが公知である。したがって「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを包含する。この用語は、例えばポリリジン化合物、リポソームなど、細胞への核酸の移入を助長する非プラスミドおよび非ウイルス化合物を包含するとも解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、AAVPなどが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0112】
範囲:本開示の全体を通して、本開示のさまざまな局面は、範囲形式で表される場合がある。範囲形式での説明は、単に便宜上および簡潔な表現のためであると理解すべきであり、本開示の範囲に対する確固たる限定であると解釈してはならない。したがって、ある範囲の記載は、その範囲内の考えうる部分的範囲および個々の数値を具体的に開示しているとみなすべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲、ならびにその範囲内の個々の数字、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3および6などを、具体的に開示しているとみなすべきである。これは範囲の幅とは無関係に適用される。
【0113】
本明細書における可変部または局面に関する態様の記載は、任意の単一態様としての、または他の任意の態様もしくはその一部分との組合せでの、当該態様を包含する。
【0114】
本明細書において提供される任意の組成物または方法は、本明細書において提供される他の組成物および方法のいずれかのうちの1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0115】
説明
一局面において、本開示は、特異的組織によって発現されるリガンドタンパク質に結合することをファージ粒子に指示する1つまたは複数のポリペプチドを発現し、かつ特異的抗原に対する有益な免疫応答を誘導するように、繊維状ファージベクターを改変することができるという、知見を述べる。これらの操作されたファージ粒子は、ターゲティングポリペプチドの存在下または非存在下で、抗原性ポリペプチドを発現することができる。組織ターゲティングポリペプチドと抗原性ポリペプチドはどちらも、それらがファージ粒子の外表面上にディスプレイされるように、1つまたは複数のファージコートタンパク質との融合タンパク質として発現される。このようにして、これらの改変は、治療用および予防用ワクチンとして使用される操作されたファージベクターの有用性を高める。ある特定の態様において、ファージコートタンパク質は野生型である。ある特定の態様において、ファージコートタンパク質は組換え型である。
【0116】
いくつかの態様において、組織ターゲティングポリペプチドは、ファージ粒子を肺組織、LN組織および/またはリンパ管組織に向かわせる。いくつかの態様において、組織ターゲティングポリペプチドは細胞表面インテグリンに結合する。いくつかの態様において、組織ターゲティングポリペプチドはGRP78に結合する。いくつかの態様において、組織ターゲティングポリペプチドはPPP2R1Aに結合する。いくつかの態様において、組織ターゲティングポリペプチドはC16-セラミドに結合する。
【0117】
いくつかの態様において、操作された治療用ファージは、肺組織を標的としかつトランスサイトーシスドメインとして作用するエアロゾル送達ポリペプチドを、さらに含む。いくつかの態様において、抗原性ポリペプチドは、コロナウイルスタンパク質由来のエピトープである。好ましい一態様において、抗原性ポリペプチドは、SARS-CoV-2のSタンパク質由来のエピトープである。
【0118】
いくつかの態様において、操作された治療用ファージ粒子は、AAVおよびファージのゲノム要素をさらに含み、ポリヌクレオチドペイロードのためのベクターとして作用し、それらが、前記粒子による哺乳動物細胞の形質導入と外因性ポリペプチドの発現を可能にする。いくつかの態様において、AAVPベクターは、ウイルス遺伝子を抗原提示細胞に送達し、次にそれが、そのタンパク質に対する生産的な(productive)免疫応答を誘導することにより、ワクチンとして作用する。いくつかの態様において、ウイルス遺伝子はコロナウイルスSタンパク質をコードする。いくつかの態様において、Sタンパク質はSARS-CoV-2またはMHVに由来する。いくつかの態様において、AAVPベクターは細胞表面GRP78にターゲティングされる。いくつかの態様において、AAVPベクターはLNまたはリンパ管にターゲティングされる。いくつかの態様において、AAVPベクターは肺にターゲティングされる。いくつかの態様において、AAVPは、次に、ウイルスの機能を阻害する抗ウイルス作用物質を送達する。この阻害は、限定するわけではないが、化学治療薬またはプロドラッグを送達すること;ウイルスのプロテアーゼおよび構造タンパク質を間接的または直接的に阻害することによってウイルスの機能に対して毒性を示すポリペプチドを発現させること;および/またはさまざまなアポトーシス促進性ポリペプチドの発現によって細胞死を誘導することなど、さまざまな方法によって達成することができる。
【0119】
有効量の、本開示の操作された治療用ファージ粒子を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象における免疫応答を刺激する方法も提供される。本開示は、有効量の本開示の操作された治療用ファージ粒子を含む組成物を投与する工程を含む、対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止するための方法も提供する。
【0120】
繊維状ファージディスプレイ
ある特定の態様において、本開示には、ファージ粒子をある特定の組織にターゲティングするために使用されるポリペプチドおよび特異的免疫応答を刺激するためのエピトープとして作用するように使用されるポリペプチドをディスプレイするファージ粒子が含まれる。これらのポリペプチドは、ファージディスプレイ法で使用される方法と同様にしてファージコートタンパク質に融合することによって、ファージ粒子の表面にディスプレイさせることができる。ファージディスプレイは、ペプチドまたはタンパク質の組換えライブラリーをディスプレイするための、および推定上のリガンド分子または抗原に結合するペプチドまたはタンパク質を回収し増幅するための媒体にするための、スキャフォールドとして、バクテリオファージ粒子を使用する方法である。本開示のいくつかの態様では、免疫応答を刺激するためのおよび特異的組織にファージ粒子を向かわせるための抗原として、ファージコートタンパク質に融合されたポリペプチドが使用される。いくつかの態様において、ファージ粒子のコートタンパク質は、抗原性ポリペプチドまたは組織ターゲティングポリペプチドのどちらか一方を含むことができる。いくつかの態様において、ファージ粒子は、組織ターゲティングポリペプチドと抗原性ポリペプチドの両方を発現するコートタンパク質を含む。
【0121】
タンパク質またはペプチドをファージコートタンパク質との融合物としてディスプレイするファージは、コートタンパク質の適切なコード領域を含有するように設計される。さまざまなバクテリオファージおよびコートタンパク質を使用しうる。例として、M13遺伝子III、遺伝子VI、遺伝子VII、遺伝子VIIIおよび遺伝子IX;fdマイナーコートタンパク質pIII(Saggio et al,Gene 152:35,1995);f88-4メジャー組換えpVIII(rpVIII)コートタンパク質(Scott and Smith,Science 249(4967):386,1990);ラムダDタンパク質(Sternberg&Hoess,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1609,1995;Mikawa et al.,J.Mol.Biol.262:21,1996);ラムダファージテイルタンパク質pV(Maruyama et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:8273,1994;米国特許第5,627,024号);frコートタンパク質(WO 96/11947、DD 292928、DD 286817、DD 300652);X29テイルタンパク質gp9(Lee,Viol.69:5018,1995);タンパク質に対するMS2コート;T4小外側カプシドタンパク質(small outer capsid protein)(Ren et al.,Protein Sci.5:1833,1996)、T4非必須カプシドスキャフォールドタンパク質(nonessential capsid scaffold protein)IPIII(Hong and Black,Virology 194:481,1993)またはT4延長フィブリチンタンパク質(T4 lengthened fibritin protein)遺伝子(Efimov,Virus Genes 10:173,1995);PRD-1遺伝子III;Q33カプシドタンパク質(二量体化が妨害されない限り);およびP22テイルスパイクタンパク質(Carbonell&Villaverde,Gene 176:225,1996)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。外来コード配列をファージ遺伝子配列に挿入するための技法は、当業者には周知である(例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Approach,Cold Spring Harbor Press,NY,1989、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Co.,NY,1995参照)。
【0122】
他のバクテリオファージと比べて、繊維状ファージは概して、ポリペプチドのためのディスプレイスキャフォールドとしての使用には魅力的であり、M13は、以下に挙げるいくつかの理由で、特に好適である:(1)ビリオンの3D構造が公知である;(2)コートタンパク質のプロセシングがよく理解されている;(3)ゲノムが十分に小さく比較的大きなペイロードタンパク質が許される;(4)ゲノムの配列が公知である;(5)ビリオンは、剪断、熱、低温、尿素、塩化グアニジウム、低いpHおよび高い塩濃度に対して物理的に耐性である;(6)培養と貯蔵が容易であり、珍しい培地または高価な培地は感染細胞には必要ない;(7)バーストサイズが大きく、感染後に100~1,000個のM13子孫を与える;および(8)収集と濃縮が容易である。
【0123】
繊維状ファージには、M13、fl、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1、f88-4または「タイプ88」およびPf3が含まれる。(Kayら編(1996)「Phage Display of Peptides and Proteins」のWebster(1996)Chapter 1,Biology of the Filamentous Bacteriophage)。一般的クローニングおよび配列決定ベクターである繊維状ファージM13の全生活環は、当技術分野ではよく理解されている。M13の遺伝子構造(相補配列、10個の遺伝子の実体と機能、ならびに転写の順序およびプロモーターの位置)は、ビリオンの物理構造と同じく、周知である。ゲノムが小さい(6423bp)ので、M13ではカセット変異導入が実用的であり、一本鎖オリゴヌクレオチド指定変異導入も同様である。M13ゲノムは拡張可能であり、M13は細胞を溶解しない。M13ゲノムは膜を貫いて突き出していて、多数の同一タンパク質分子で覆われているので、クローニングベクターとして使用することができる。したがって、ペイロード遺伝子を操作してM13に入れることができ、ペイロードはM13と共に安定的に運ばれうる。
【0124】
fd pIIIマイナーコートタンパク質は、数コピーしか存在せず、ビリオンにおけるその場所および配向は公知であることから、多くのファージディスプレイ系において利用されている、非限定的な外表面タンパク質である。例えばタンパク質pIIIは各ファージ粒子の末端上に3~5コピーしかディスプレイされない。存在するpIIIタンパク質の数が限られていることにより、それらに融合されたペプチドは、1粒子あたり低い価数で存在することになる。これは、例えば高アフィニティ相互作用を選択する場合など、ディスプレイされるペプチドのファージ粒子あたりの数が限られていることが望まれる状況では、望ましい。ある特定の態様では、組織ターゲティングポリペプチドと抗原性ポリペプチドを、それらがファージ粒子の表面上にディスプレイされるように、pIIIタンパク質に融合させることができる。
【0125】
各fdバクテリオファージは約2,700コピーのpVIIIメジャーコートタンパク質を発現し、それらはタンパク質5個の積み重なったらせん状アレイとして配置される。f88ベクター(GenBankアクセッションAF218363のf88-4を含む)は、ファージゲノムがタイプの異なる2種のpVIII分子をコードする2種の遺伝子VIIIを保持している、88型(タイプ88)ベクターである。一方のpVIIIは組換え型であり(すなわち外来DNAインサートを保持し)、他方は野生型である。組換え遺伝子VIIIは合成物であり、野生型遺伝子とはヌクレオチド配列が異なる(ただし大部分は野生型アミノ酸配列をコードする)。f88ビリオンはモザイクであり、そのコートは野生型pVIIIサブユニットと組換え(r)pVIIIサブユニットとの両方で構成され、後者は典型的には3900サブユニットうちの約150サブユニットである。これにより、ハイブリッドタンパク質それ自体はファージの組み立てを支援することができなくても、極めて大きな外来ペプチドを持つハイブリッドpVIIIタンパク質を、ビリオン表面上にディスプレイさせることが可能になる。結果として、rpVIIIタンパク質と融合して発現されるペプチドは、ファージ粒子あたり200コピー前後という比較的高い価数で存在する。高価数pVIIIディスプレイの増加したアビディティ効果は、低アフィニティリガンドの選択を可能にするか、または比較的多量の融合ペプチドが必要な場合に有利である。本開示のある特定の態様では、組織ターゲティングポリペプチドおよび抗原性ポリペプチドを、操作された治療用ファージ粒子のpVIIIまたはrpVIIIタンパク質と融合させることができる。いくつかの態様において、操作された治療用ファージ粒子は、最適な免疫応答を刺激するために抗原性ペプチドを特異的組織にターゲティングすることができるように、pIII融合コートタンパク質と、pVIIIまたはrpVIII融合コートタンパク質との両方を、発現させることができる。
【0126】
ワクチンとしてのバクテリオファージ
バクテリオファージは、それらをワクチンプラットフォームとして使用するのに理想的な候補にする性質をいくつか持っている。ファージ粒子は苛酷な条件下で高度に安定であり、十分に確立された製造技法を使って大量に容易かつ安価に生産することができる。ファージ粒子は、哺乳動物の免疫系によって容易に認識され、真核細胞には感染できないので病原性ではないことから、強力なアジュバント能も有する。医学的処置としてのファージの使用は当初はそれらに固有の抗細菌機能に焦点があったが、現在の使用はそれらの強力な免疫原性を利用している。本開示のある特定の態様において、ファージ粒子は、ファージコートタンパク質と融合された特異的抗原性ポリペプチドを発現するように操作される。このようにして、ファージ粒子に対する免疫認識とプライミングが、融合ポリペプチドに対する免疫応答も刺激することで、特異的エピトープに対する有益な免疫応答を与える。いくつかの態様において、これらの免疫応答は、コロナウイルスタンパク質由来のエピトープに向けられ、よってコロナウイルス感染症に対する免疫治療として作用するか、または潜在的コロナウイルス感染症に対する防御免疫を提供する。いくつかの態様において、ファージ粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ゲノムの要素をさらに含み、ウイルス遺伝子またはそのフラグメントを標的細胞に送達することができるAAVPハイブリッドベクターであり、その標的細胞は、グリコシル化されたウイルス抗原を発現し、それを免疫系に提示することになる。
【0127】
アデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)
AAVは、末端逆位反復配列(ITR)に挟まれた約4kbのゲノムを持つ比較的小さい非エンベロープウイルスである。このゲノムは2つのオープンリーディングフレームを含有し、そのうちの一方は複製に必要なタンパク質を提供し、他方はウイルスカプシドの構築に必要な構成要素を提供する。アデノウイルスはAAVゲノムがビリオンにパッケージングされるのに不可欠なヘルパータンパク質を提供するので、野生型AAVは典型的にはアデノウイルスの存在下で見いだされる。したがって、AAV産生はアデノウイルスとの同時感染に便乗して起こり、3つのキー要素、すなわちITR隣接ゲノム、オープンリーディングフレームおよびアデノヘルパー遺伝子に依存する。AAVは、ヒト細胞に容易に感染するその非病原性の能力ゆえに、遺伝子送達のためのベクターとして詳しく研究されている。AAVは容易に入手することができ、遺伝子送達用のベクターとしてのその使用は、例えばMuzyczka,1992、米国特許第4,797,368号およびPCT公開番号WO 91/18088に記載されている。AAVベクターの構築は、Lebkowski et al.,1988、Tratschin et al.,1985、Hermonat and Muzyczka,1984を含むいくつかの刊行物に記載されている。
【0128】
AAVPは、2型AAVと繊維状バクテリオファージゲノムの要素を併せ持つハイブリッドベクターである(Nature Protocols 2,523-531(2007)、Cell 125,385-398(2006))。すなわち、AAVP遺伝子発現は、バクテリオファージゲノムのゲノム間領域に挿入された、AAV2の内部末端反復配列(internal terminal repeat)(ITR)に挟まれた真核生物導入遺伝子カセットの制御下にある。こうして、このベクターは、ファージベクターの特異性をAAVによる導入遺伝子発現の特徴と組み合わせることで、原核細胞中で特異的かつ容易に複製し、ターゲティングペプチドリガンドによって媒介されるリガンド-受容体相互作用を介して受容体に効率よく結合し、続いて起こる受容体媒介事象によって哺乳動物細胞中に内在化して、AAVと同様に導入遺伝子を発現させることができるウイルスを与える。したがって、AAVPベクターは、哺乳動物ウイルスと原核生物ウイルスの好ましい特徴を有し、個々のベクターが通常は有する欠点に悩まされることがない。
【0129】
抗原担体ワクチンとしてのファージまたはAAVP粒子の利点を列挙する。(1)苛酷な環境条件下で高度に安定であり、ワクチン生産に使用される伝統的な方法と比べると、費用対効果が極端に高い;(2)ファージベースのワクチンが検出可能な毒性副作用を誘導しないことはいくつかの研究で実証されており、ファージおよびAAVPは真核細胞内で複製しないので、それらの使用は、他の古典的なウイルスベースのワクチン接種戦略と比較すれば一般に安全であると考えられる;(3)ごくわずかな温度変動(約1℃)で失活することも少なくない従来のペプチドベースのワクチンとは異なり、ファージまたはAAVPワクチンには、フィールド適用時に、特に開発途上国において、厳格ないわゆる「コールドチェーン」を保つための面倒で費用のかかる要件がない。
【0130】
本開示のある特定の態様において、本開示の操作された治療用ファージ粒子は、AAVのゲノム要素をさらに含み、AAVPハイブリッドベクターである。ある特定の態様において、本開示のAAVPは、特異的標的リガンドを発現する細胞にAAVPを向かわせる組織ターゲティングポリペプチドを含む融合コートタンパク質を含む。ある特定の態様において、本開示のAAVPは、標的細胞において外因性タンパク質を発現させる遺伝子送達ベクターである。例えばある特定の態様において、外因性タンパク質は、組織常在性の抗原提示細胞において発現されることによってその外因性タンパク質に対する適応免疫応答を刺激するウイルスタンパク質である。ある特定の態様において、ウイルスタンパク質はコロナウイルス由来のSタンパク質であり、かつ本開示のAAVPはワクチンまたは免疫治療として作用する。いくつかの好ましい態様において、Sタンパク質はSARS-CoV-2に由来する。いくつかの好ましい態様において、Sタンパク質はMHVに由来する。
【0131】
組織ターゲティングリガンド
身体の細胞は、それらを含む組織の広範囲にわたる形態学的および機能的多様性の理由となるユニークな表面タンパク質または表面分子を発現する。これらのユニークな分子または分子群は、インビトロ実験モデルでもインビボ実験モデルでも、また直接的にヒト患者でも、薬物またはイメージング分子などの作用物質を特異的組織に送達するために、特異的リガンドの標的にすることができる。これらの組織ターゲティングリガンドは、限定するわけではないが、がん、ウイルス感染症、細菌感染症を含む疾患もしくは障害、または疾患状態に関与する本来な正常細胞に特異的である他、正常組織に特異的であることもできる。
【0132】
組織ターゲティングポリペプチドは、限定するわけではないが、例えば抗体またはその抗原結合フラグメント、および標的細胞が発現する受容体のリガンドまたはそのフラグメントなど、いくつかの形態をとりうる。約7~15アミノ酸長のペプチドは細胞表面リガンドに比較的高いアフィニティおよび特異性で結合できることが、最近の研究によって確認されている。それらの長さが比較的短いことを考えると、これらのリガンド結合ポリペプチドは、化学的コンジュゲーションによって分子またはタンパク質に容易に取り付けることができ、または遺伝子操作により融合タンパク質として容易に発現させることができる。
【0133】
いくつかの態様において、本開示の操作された治療用ファージは、主として肺組織において発現する受容体タンパク質に結合する融合ポリペプチドを発現する。そのような肺ターゲティングポリペプチドの非限定的な例は、スフィンゴ脂質C16-セラミドに結合し、ヒトおよびネズミの肺血管内皮細胞上に多量に発現する配列CGSPGWVRC(SEQ ID NO:28)である。セラミドが誘導する多くの刺激とは対照的に、このペプチドはアポトーシスを活性化しない。このことは、肺組織に対する毒性を誘導しない肺ターゲティングにとって有利である。別の態様では、組織ターゲティングリガンドがαvインテグリンを標的とし、アミノ酸配列ACDCRGDCFCG(SEQ ID NO:5)を含む。αvインテグリンは、腫瘍上でもある特定の内皮細胞上でも過剰発現する細胞表面受容体である(Arap et al.,1998;Hood et al.,2002)。イメージング分子および治療分子を腫瘍組織に向かわせるためのそのようなターゲティングペプチドの使用は、最近の研究によって実証されている(Hajitou et al.,2006)。
【0134】
本開示のいくつかの態様において、リガンド結合ポリペプチドは配列CGLTFKSLC(SEQ ID NO:3)を含み、リンパ管において多量に発現して転移性黒色腫と関連する分子であるPPP2R1Aタンパク質を標的とする(Christianson et al.,2015)。
【0135】
本開示のいくつかの態様において、リガンド結合ポリペプチドはLN組織を標的とし、アミノ酸配列PTCAYGWCA(SEQ ID NO:1)およびWSCARPLCG(SEQ ID NO:2)を含むことができる。そのようなLNターゲティングペプチドの使用は、抗体産生および抗原特異的T細胞応答のプライミングを含む適応免疫機能の主要部位であるリンパ組織に抗原を向かわせるのに有用であり、ワクチンおよび免疫アジュバントとして作用するファージ粒子には特に有用である(Trepel et al.,2001)。
【0136】
本開示のいくつかの態様において、リガンド結合ポリペプチドはGRP78タンパク質を標的とする。GRP78は、熱ショックタンパク質ファミリーA(HSP70)メンバー5またはHSPA5としても公知であり、通常は細胞内で小胞体(ER)に発現して、そこで、ER内腔におけるタンパク質フォールディングを指示するのに重要な役割を果たす、シャペロン分子である。ウイルス感染症によるストレスやがんへの形質転換によるストレスを含めて、ストレスを受けている細胞は、その細胞表面上にかなりの量のGRP78を発現しうる。こうして、GRP78のターゲティングは、細胞表面GRP78を発現しない正常細胞を避けつつ、ストレスを受けている細胞またはがん性細胞に分子を特異的にターゲティングするために利用することができる。
【0137】
本開示のいくつかの態様では、ストレス条件下にある細胞に本開示の操作された治療用ファージ粒子をターゲティングするために、アミノ酸配列CSNTRVAPC(SEQ ID NO:29)およびWIFPWIQL(SEQ ID NO:30)のGRP78ターゲティングポリペプチドが使用される。いくつかの態様において、ストレス条件はウイルス感染症である(Ferrara et al.,2016)。
【0138】
これらのファージ粒子は、ウイルスの機能を遮断または阻害して最終的には炎症を処置するために使用することができる抗ウイルス作用物質を、さらに含むことができる。そのような抗ウイルス作用物質には、限定するわけではないが、例えば化学治療薬またはそのプロドラッグおよび/もしくは活性代謝産物、ウイルスの酵素または構造タンパク質を直接的に阻害するタンパク質、ならびにウイルス感染細胞の選択的消失を誘導するアポトーシス促進ポリペプチドを含めることができる。
【0139】
薬学的組成物
本開示の薬学的組成物は、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わされた、本明細書記載の操作された治療用ファージ粒子を含みうる。そのような組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの緩衝液、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなどの糖質、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤、EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、アジュバント(例えば水酸化アルミニウム)、および保存剤を含みうる。本開示の組成物は、好ましくは、経口、吸入、鼻腔、噴霧化、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、および/または経皮注射を含むいくつかの投与経路用に製剤化される。
【0140】
本開示の薬学的組成物は、処置(または防止)されるべき疾患にとって適切な方法で投与されうる。適切な投薬量は治験によって決定されうるが、投与の量および頻度は、患者の状態、患者の疾患のタイプおよび重症度、ならびにファージ粒子に対する患者の免疫応答のタイプおよび機能的性質などといった因子によって決まるだろう。
【0141】
本開示の操作された治療用ファージ粒子は、適切な前臨床的および臨床的実験および治験において決定される投薬量および経路で、そのようにして決定された時期に、投与することができる。ファージ粒子組成物は、これらの範囲内の投薬量で複数回投与されうる。本開示のファージ粒子の投与は、当業者によって決定される所望の疾患または状態を処置するのに有用な他の方法と、組み合わせうる。
【0142】
一般に、本明細書記載の操作されたファージ粒子を含む薬学的組成物は、少なくとも約107、約108、約109、約1010、約1011、約1012、または約1013形質導入単位(TU)またはファージ粒子/kg(これらの範囲内の任意の整数値を含む)の投薬量で投与しうるということができる。投薬量サイズは、処置される対象の体重、年齢および疾患ステージに合わせて調節することができる。ファージ粒子は、それらの投薬量で、複数回投与することもできる。ファージ粒子は、免疫治療またはワクチン学の分野で一般に公知である注入技法を使って投与することができる。医学分野の当業者であれば、患者を疾患の徴候についてモニターし、それに応じて処置を調節することにより、特定の患者に最適な投薬量および処置レジメンを容易に決定することができる。
【0143】
本開示のファージ組成物の投与は、当業者に公知の任意の好都合な方法で実行されうる。本開示のファージは、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸注、植え込みまたは移植によって対象に投与されうる。本明細書記載の組成物は、患者に、経動脈投与、皮下投与、鼻腔内投与、皮内投与、腫瘍内投与、節内投与、髄内投与、筋肉内投与、静脈内投与または腹腔内投与されうる。別の例では、本開示のファージが、対象の炎症部位、対象の局所的疾患部位、LN、器官、腫瘍などに、直接注射される。
【0144】
本開示において有用であるだろう方法および組成物が実施例において説明される特定の製剤に限定されないことは理解すべきである。ファージ粒子を作成し使用する方法、拡大および培養の方法、ならびに本開示の治療方法を当業者に完全に開示し説明するために、以下に実施例を提起するが、これらの実施例は、本発明者らが自らの開示であるとみなしているものの範囲を限定しようとするものではない。
【0145】
本開示の実施には、別段の表示がある場合を除き、十分に当業者の認識範囲内である分子生物学(組換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技法が使用される。そのような技法は「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」第4版(Sambrook、2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos、1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002);「Polymerase Chain Reaction:Principles,Applications and Troubleshooting」(Babar、2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)などの文献に詳述されている。これらの技法は本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの生産に応用可能であり、したがって本開示をなし、実施する際に考慮しうる。特定態様にとって特に有用な技法については以下のセクションで議論する。
【実施例
【0146】
実験例
以下、実施例を参照して、本開示を説明する。これらの実施例は例示を目的として提供されるに過ぎない。本開示がこれらの実施例に限定されることはなく、むしろ、本明細書において提供される教示内容の結果として明白なバリエーションはすべて、本開示に包含される。
【0147】
これらの実験において使用した材料および方法を以下に説明する。
【0148】
動物:4~6週齢のスイスウェブスターマウスおよびBALB/cマウスをJackson Laboratory(カリフォルニア州サクラメント)から購入し、ニュージャージー州ラトガースがん研究所(Rutgers Cancer Institute of New Jersey)の動物実験施設において、温度(20±2℃)、湿度(50±10%)、明暗周期(明、7:00~19:00;暗、19:00~7:00)を制御した、特定病原体および日和見病原体フリー(specific pathogen and opportunist free:SOPF)室中、食物および水を自由に摂取させて飼育した。同腹仔をランダムに実験群に割り当てた。動物実験はすべて、ニュージャージー州ラトガースがん研究所の施設内動物実験委員会(IACUC)によって承認された。
【0149】
エピトープ選択のためのSタンパク質の構造解析:rpVIII上にディスプレイするエピトープを選択するために、UCSF Chimeraソフトウェアを使って、SARS-CoV-2 Sタンパク質の構造(PDB ID:6VXX、6VYB)を解析した。エピトープ3(SEQ ID NO:24)はこれらの初期構造では解像されなかったが、この領域の隣接するシステイン残基はジスルフィド架橋を形成すると予測された。これは、その後決定された構造(例えばPDB ID:6ZP0、6ZGG)で実験的に確認されている。
【0150】
AAVPコンストラクトのインビトロでのクローニングおよび活性:SARS-CoV-2 S糖タンパク質、1型MHV Sタンパク質、または対照遺伝子をコードするDNAを合成し、CDCRGDCFC、CAKSMGDIVC、LNまたはリンパ管ターゲティングペプチドをディスプレイするAAVPコンストラクトのバックボーンに、十分に確立された方法を使って組み入れる。対照遺伝子またはタンパク質分泌もしくは膜貫通ドッキング(transmembrane docking)に関する改変を保持するLNターゲティングAAVPコンストラクトも試験する。同じ戦略をSARS-CoV-2 S糖タンパク質およびMHV-1 Sタンパク質にも適用する。AAVPゲノムDNAをエレクトロコンピテント大腸菌細胞(MC1061、Invitrogen)で増幅し、プラスミド精製キット(QiagenまたはInvitrogen)を使って、製造者の説明書に従って精製する。ファージ産生および大規模生産のために、すべてのコンストラクトを完全に配列決定する。各AAVPコンストラクトを細菌培養上清から精製し、K91/Kan大腸菌を感染させることとqPCRとの両方によって定量する。
【0151】
Sタンパク質エピトープ単一ディスプレイファージ粒子の作製:単一ディスプレイまたは二重ディスプレイファージコンストラクトを作製するために、組換え遺伝子VIIIを含有するM13由来のベクターf88-4(GenBankアクセッション番号:AF218363.1)を、MC1061F-大腸菌に形質転換した。一晩(O.N.)培養した、テトラサイクリン(40μg/mL)およびストレプトマイシン(50μg/mL)を含むルリア-ベルターニ(LB)寒天プレート上で、単一コロニーを選択した。まず、標準的なプラスミド精製キット(Qiagen)によって、各プラスミドDNAを単離した。次に、選択された6つのエピトープ:
エピトープ1:fwd
のそれぞれをコードするアニールしたオリゴヌクレオチドを等モル比で混合し、サーモサイクラーを使ってアニールさせた(93℃で3分、80℃で20分、75℃で20分、70℃で20分、65℃で20分、40℃で60分)。アニールした二本鎖オリゴヌクレオチドを、記載のとおり、前もってHindIIIおよびPstI制限エンドヌクレアーゼで消化しておいたf88-4プラスミドにクローニングした。制限酵素消化し配列を検証した個々のクローンをDH5α大腸菌エレクトロコンピテント細胞にエレクトロポレートした。1mM IPTG、テトラサイクリン(40μg/mL)およびカナマイシン(100μg/mL)を含有するLB培地中で培養したK91大腸菌中でファージ粒子を産生させ、それをポリエチレングリコール(PEG)-NaCl法で精製した。単一ディスプレイファージ粒子のタイトレーションは、コロニー計数のための宿主細菌細胞K91大腸菌の感染によって行い、形質導入単位(TU/μL)として表した。
【0152】
二重ディスプレイファージ粒子の作製:エピトープ4(SEQ ID NO:25)と肺輸送ペプチドCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)とを同時にディスプレイするファージ粒子を産生させるために、単一ディスプレイファージコンストラクト(上述)とfUSE55ゲノムを融合させてキメラベクターを作製した。両方のベクターをXbaIおよびBamHI制限酵素により37℃で4時間、二重消化することにより、rpVIII遺伝子を含有するf88-4ベクター由来のDNAフラグメントを、fUSE55ファージベクターに挿入した。インキュベーション後に、DNAフラグメントをアガロースゲル(0.8%、wt/vol)にローディングした。紫外線トランスイルミネーターで、fUSE55の3,925bpのDNAフラグメントと、f88-4ベクターのエピトープ4(rpVIII遺伝子とインフレーム)の5,402-bp DNAフラグメントとを切り出した。20μLの最終体積中、O.N.、16℃で16時間、T4 DNAリガーゼ(1U)を使って、50ナノグラム(ng)のfUSE55 DNAフラグメントを68.8ngのf88-4 DNAフラグメントにライゲートした。そのライゲーション反応の一部をDH5α大腸菌エレクトロコンピテント細胞に形質転換し、40μg/mLのテトラサイクリンを含有するLB寒天プレート上に接種した。陽性クローンをシーケンシング解析によって選択し、キメラベクターを含有するプラスミドをQIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen)で精製した。次に、CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)ターゲティングモチーフをコードするオリゴヌクレオチドをpIIIコートタンパク質遺伝子(pIII)のSfiI制限部位内にクローニングすることで、rpVIII上のエピトープ4(SEQ ID NO:25)とpIII上のCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)モチーフとを含有する二重ディスプレイファージベクターを作製した。二重ディスプレイファージ粒子のタイトレーションは、宿主細菌K91大腸菌の感染によって行った。
【0153】
RGD4C-AAVP S粒子およびRGD4C-AAVP S-ヌル粒子の遺伝子操作および産生:3.821kbのSARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(S)コード配列(Genbankアクセッション番号NC_045512.2)は、RGD4C-AAVP-TNFゲノムへのサブクローニングを簡単にするための改変を加えて、GeneWiz(ニュージャージー州サウスプレインフィールド)において合成された。1380番目のチミジンヌクレオチドをシトシンに置き換えることによって、SARS-CoV-2 S遺伝子(SEQ.ID NO:84)の1371bpにある単一のEcoRI制限部位を欠失させた。翻訳された460番目のアスパラギン残基がこれによって変化することはなかった(SEQ ID NO:85)。ヒトインターフェロンリーダー配列の69ヌクレオチド配列およびRGD4C-AAVP-TNFのポリA領域の19ヌクレオチド配列を、改変合成CoV-2 S遺伝子のそれぞれ5'端または3'端に付加することで、3.909kbの改変CoV-2 S遺伝子を作製し、それをGeneWizにおいて、pUC57/AmpRのEcoRIおよびSalI制限部位にサブクローニングした。Q5部位指定突然変異導入キット(New England Biolabs、マサチューセッツ州イプスウィッチ)を使用し、製造者のプロトコールに従って、RGD4C-AAVP-TNFのAgeIおよびKasI制限部位内の829bpにある最初のEcoRI制限部位を2段階で欠失させることで、833番目のチミジンをシトシンヌクレオチドに変異させた。これにより、アミノ酸残基200のアスパラギン残基はアスパラギン酸に変化した。陽性クローンをEcoRI制限酵素マッピングによって検証し、BigDye Terminator v.3.1 Cycle Sequencing and XTerminator Purificationキット(Applied Biosystems、Thermo Fisher Scientific)を使ったサンガー(Sanger)シーケンシング(SeqStudio、Thermo Fisher Scientific)により、オーバーラップするセンスおよびアンチセンスプライマーで確認し、SnapGeneソフトウェア(GSL Biotech、カリフォルニア州サンディエゴ)を使って解析した。PureLink HiPure Plasmid MidiPrepキット(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific)を使って100μg/mLストレプトマイシン(VWR、ペンシルベニア州ラドナー)および40μg/mLテトラサイクリン(Gold Biotechnology,Inc.、ミズーリ州セントルイス)を含有する50mLの終夜アニマルフリーLBブロス、pH7.4培養から精製されたdsDNAのEcoRI制限酵素マッピングにより、ユニークなEcoRI部位を10,191kbに含有する陽性RGD4C-AAVP-TNFΔEcoRI829/MC1061 F-コロニーを同定した。AgeIおよびKasIクローニング部位付近の配列を、上述のように、両方向のSangerシーケンシングによって確認した。改変合成CoV-2 S遺伝子を、EcoR1-HFおよびSalI-HF(New England Biolabs)で消化した脱リン酸化ゲル精製RGD4C-AAVPΔEcoRI829のEcoRI/SalI部位に、1:3のベクター:インサート比および15ngのベクター質量を使ってライゲートした。そのライゲーション産物をアニマルフリーエレクトロコンピテントMC1061 F-大腸菌に形質転換し、100μg/mLストレプトマイシンおよび40μg/mLテトラサイクリン(MilliporeSigma)を含有するアニマルフリーLB寒天上にプレーティングした。上述のように、陽性クローンを制限酵素マッピングによって検証し、精製dsDNAのSangerシーケンシングによって確認した。
【0154】
停止コドン(太字、下線付き)で終わる上流AAVPヒトインターフェロンリーダー配列を含有する84bpの導入遺伝子ヌル(TGN)配列は、5'端にEcoRI部位を持ち3'端にSalI部位を持つ134bpのdsDNA G-ブロックとして、Integrated DNA Technologies(カリフォルニア州サンディエゴ)において合成された。
【0155】
FORプライマー:
およびREVプライマー:
を使ってTGN配列をPCR増幅し、EcoRI-HFおよびSalI-HF(New England Biolabs)で消化し、精製し(Invitrogen PureLink Quick Gel Extraction and PCR Purification Comboキット、Thermo Fisher Scientific)、同じ制限酵素で消化した脱リン酸化ゲル精製RGD4C-AAVP-TNFΔEcoRI830にサブクローニングし、アニマルフリーエレクトロコンピテントMC1061 F-に形質転換し、100μg/mLストレプトマイシンおよび40μg/mLテトラサイクリンを含有するLB寒天レノックス(Lennox)プレート上にプレーティングした。TGN配列の存在を1.2%E-gel(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific)における963bpのPCR産物として確認するために、FORプライマー:
およびREVプライマー:
を用いるコロニーPCRによって、単一形質転換コロニーをスクリーニングした。推定陽性RGD4C-AAVP-導入遺伝子ヌルファージ(AAVP S-ヌル)を、推定陽性クローンにおいて、上述のように、制限酵素マッピングおよび両方向のサンガーシーケンシングによって検証した。
【0156】
インサートレス-AAVP S、CAKSMGDIVC-、CGLTFKSLC-、およびPTCAYGWCA-AAVP SならびにCAKSMGDIVC-、CGLTFKSLC-、およびPTCAYGWCA-AAVP S-ヌルファージ粒子の遺伝子操作:pIII遺伝子中にターゲティングペプチド配列の代わりに2つのSfiI制限部位を持つ23bpのスタッファー(stuffer)領域を含有するfUSE5 dsDNAの3.139kb BsrGI-PacIフラグメントを、脱リン酸化ゲル精製RGD4C-AAVP-TNFΔEcoRI829のBsrGI-HF(New England Biolabs)およびPacI(Thermo Fisher Sci)部位にサブクローニングすることで、fUSE5-AAVP-TNFΔEcoRI829を作製した。上述のようにサンガーシーケンスによって3.139kbのBsrGI-PacIフラグメントの配列を確認した。
【0157】
非ターゲティングfd-AAVP-TNFΔEcoRI829を作製するために、fd-Tet(GenBankアクセッション番号AF217317)からの3.116kb BsrGI-PacIフラグメントを、fUSE5-AAVP-TNFΔEcoRI829にサブクローニングした。ライゲーション産物をアニマルフリーエレクトロコンピテントMC1061 F-大腸菌に形質転換し、コロニーPCRによってスクリーニングした。陽性クローンから二本鎖DNAを、上述のように、精製し、制限酵素マッピングによって検証し、サンガーシーケンシングによって確認した。改変合成SARS-CoV-2 S遺伝子によるtnfα遺伝子の置き換えは上述のように行われた。推定fd-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-クローンからのdsDNAを、上述のように、コロニーPCR、制限酵素マッピングによって検証し、サンガーシーケンシングによって確認した。
【0158】
上述のようにfUSE5-AAVP-TNFΔEcoRI829およびfd-AAVP-TNFΔEcoRI829においてTNF遺伝子を改変合成CoV-2 S遺伝子で置き換えることにより、それぞれfUSE5-AAVP-CoV2 Sまたはfd-AAVP-Sを作製した。形質転換されたfUSE5-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-コロニーを、SARS-CoV-2 S遺伝子内およびSARS-CoV-2 S遺伝子外のプライマーのセットを使ったコロニーPCRによってスクリーニングし、DreamTaqポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific)で増幅した。5'領域をフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を使って増幅することにより、1.058kbのPCR産物を生成させた。3'領域をフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を使って増幅することにより、268bpのPCR産物を生成させた。推定陽性fUSE5-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-またはインサートレスAAVP S/MC1061 F-コロニーをPCR産物のゲル電気泳動によって同定した。上述のように、推定陽性クローンからの精製dsDNAを、制限酵素マッピングによって検証し、コロニーPCR産物または精製dsDNAのどちらか一方をテンプレートとして使用するサンガーシーケンシングによって確認した。
【0159】
ターゲティングペプチド配列CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)、CGLTFKSLC(SEQ ID NO:3)またはPTCAYGWCA(SEQ ID NO:1)をコードする合成センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド(MilliporeSigma)を、ヌクレアーゼフリー水(Life Technologies、Thermo Fisher Scientific)で100μMに再構成し、5'ヒドロキシル基をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)でリン酸化した。リン酸化オリゴヌクレオチドペアを95℃で3分間変性させ、80℃~65℃から開始して、各20分間で5℃ずつ下げてアニールさせ、40℃で60分間インキュベートし、4℃で保持した(Applied Biosystems Proflex PCR System、Thermo Fisher Scientific)。アニールしたオリゴヌクレオチドを、SfiI(New England Biolabs)を使って16℃で一晩消化したfUSE5-AAVP-CoV2 SまたはfUSE5-AAVP-S-ヌルのfUSE5スタッファー領域に、20:1のインサート:ベクター比を使ってライゲートし、アニマルフリーエレクトロコンピテントMC1061 F-細菌に形質転換することで、CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)AAVP S、CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)AAVP S-ヌル、CGLTFKSLS(SEQ ID NO:3)AAVP S、CGLTFKSLC(SEQ ID NO:3)AAVP S-ヌル、PTCAYGWCA(SEQ ID NO:1)AAVP SまたはPTCAYGWCA(SEQ ID NO:1)S-ヌルを生成させた。形質転換体をコロニーPCRによってスクリーニングし、fUSE5フォワード(
)およびリバース(
)プライマーを使ってDreamTaqポリメラーゼによって増幅した。予想される274bpのPCR産物を、陽性対照(RGD4C-AAVP-TNF)および陰性対照(fUSE5)とのサイズ比較のために、4%E-Gel(Thermo Fisher Scientific)で電気泳動した。推定陽性クローンからのdsDNAを、上述のように、制限酵素マッピングによって検証し、サンガーシーケンシングによって確認した。
【0160】
ターゲティングされたAAVP SまたはAAVP S-ヌルファージの作製:単一形質転換RGD4C-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-もしくはRGD4C-AAVP-CoV2 Sヌル/MC1061 F-、CAKSMGDIVC-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-もしくはCAKSMGDIVC-AAVP-CoV2 Sヌル/MC1061 F-、CGLTFKLSC-AAVP-CoV2 S/MC1061 F-もしくはCGLTFKLSC-AAVP-CoV2 Sヌル/MC1061 F-、またはインサートレスAAVP-CoV2 S/MC1061 F-コロニーを使って、100μg/mLストレプトマイシンおよび40μg/mLテトラサイクリンを含有する10mLのアニマルフリーLBブロス、pH7.4に接種し、暗所、37℃および250rpmで対数増殖期中期まで成長させた。30℃、250rpmで20時間のファージ増幅のために、1ミリリットルの対数増殖期中期の前培養を使って、滅菌2L振とうバッフルフラスコ中の、100μg/mLストレプトマイシンおよび40μg/mLテトラサイクリンを含有する750mLのアニマルフリーLBブロス、pH7.4に接種した。ファージを滅菌PEG8000/3.3M NaCl(15%v/v)中で沈殿させ、最終ファージペレットを1mLの滅菌リン酸緩衝食塩水、pH7.4に再懸濁し、残存細菌デブリを除去するために遠心分離し、0.2μmシリンジフィルターで滅菌濾過した。アニマルフリーテリフィックブロス(terrific broth)で成長させたK91大腸菌を1×107、1×108または1×109の希釈ファージに感染させ、感染細菌を、100μg/mL硫酸カナマイシンおよび40μg/mLテトラサイクリン含有するアニマルフリーLB寒天プレートにプレーティングし、翌日、細菌コロニーを計数することによって、ファージ力価(形質導入単位(TU)/μL)を決定した。TaqMan Fast Advancedマスターミックス(Applied Biosystems)を使用し、qPhageフォワード(
)およびリバース(
)プライマー(Invitrogen)ならびにTaqManプローブ:
(Applied Biosystems、Thermo Fisher Scientific)を使って85bpのアンプリコンを生成させるTaqMan qPCR(QuantStudio(商標)7、Thermo Fisher Scientific)により、ファージゲノムコピー数/μLを定量した。
【0161】
マウスの免疫処置および防御免疫:マウスを、公表された手順に従い、1型MHV Sタンパク質または対照遺伝子をコードするLNターゲティングAAVPを使って、静脈内、皮下、気管内または鼻腔内経路で免疫処置する。免疫処置の2週間後に、マウスを、1型MHVウイルスに対する防御免疫の存在について調べる。防御免疫実験には、MHV-1型に感染させた場合にこのマウス系統が重症肺疾患を発症することを示す公表されたプロトコールを利用して(De Albuquerque,et al.(2006)J Virol 80:10382-10394)、C57BL/6J A/Jマウスを使用する(6~8週齢、雌20匹および雄20匹)。曝露(challenge)時には、マウスに、ダルベッコ変法イーグル培地に懸濁した5×103PFUの1型MHVの鼻腔内接種を行う(0日目)。マウスを、疾患の症状、被毛の逆立ち、振戦、および身体活動の欠如について、毎日、モニターする。感染後、0日目、2日目、7日目、14日目および21日目にマウスを屠殺する(各時点8匹)。各時点で、心臓穿刺によって血液を収集し、-80℃で保存する。PBS中で右肺をホモジナイズし、L2細胞での標準的プラークアッセイによって感染量(ID50)を決定することによって、肺感染をモニターする。左肺は組織学検査および免疫組織化学検査のために10%ホルマリンで固定する。肺の切片を、肺気腔における浮腫および血管周囲炎症の存在についてスコア化する。ウイルス抗原は、ウサギ抗ヌクレオカプシド抗体および適切な検出試薬を利用する免疫組織学検査によって検出される。
【0162】
スイスウェブスターマウスまたはBALB/Cマウスを3~12匹の群にランダム化した。群サイズは、十分な統計的有意性を得るために、統計学的考察に基づいて算出した。動物の腹腔内、静脈内、気管内または皮下に、109TUのファージまたはAAVPコンストラクトを接種した。皮下注射の場合、109TUのファージまたはAAVP粒子を、前肢および後肢ならびに頸部の後ろ側に、100μL(各部位約20μL)投与した。気管内ワクチン接種の場合、高圧シリンジ(Penn-Century)および小動物用喉頭鏡(Penn-Century)と接続されたMicroSprayer(登録商標)エアロゾル発生装置を使用し、50μLのPBS中、2回の逐次的投与で、109TUの単一、二重ディスプレイファージ粒子または陰性対照インサートレスファージ粒子を投与した。これらのデバイスは、1%イソフルランで深麻酔された動物の気管にエアフリー(air-free)液体エアロゾルを直接投与するために使用した。尾静脈血収集のためにマウスを外用液(topic solution)で局所麻酔した。0日目にベースライン用の血液試料を収集し、続いて免疫処置後は1~2週間ごとに継続的に血液を収集した。どの投与経路でも、各用量の投与前に、各精製ファージまたはAAVP調製物について、エンドトキシン除去を行った。エンドトキシンを含有する精製ファージまたはAAVPを、エンドトキシンフリー水中の10%Triton X-114により、氷上で10分処理し、37℃まで10分間温めた後、14,000rpmで1分間の遠心分離によって、Triton X-114相を分離した。ファージを含有する上側の水相を滅菌微量遠心管に吸引した。このプロセスを3~5回繰り返した。Lonzaのリムルス変形細胞溶解物(LAL)Kinetic-QCLキットを使ってエンドトキシンのレベルを測定した。この試験では、含有するエンドトキシンのレベルが<0.05EU/mLであるファージまたはAAVP調製物を使用した。
【0163】
AAVPが産生する抗原に対する抗体応答:組織ターゲティングAAVPコンストラクト抗体の血清力価を測定するために、96ウェルプレートを、報告されているように、SARS-CoV-2 S糖タンパク質または1型MHV Sタンパク質または対照タンパク質(10ug/mL;Sigma、ミズーリ州セントルイス)の溶液でコーティグする(D.E Portal,et al.(2019)Cancer Gene Ther)。PBS+ウシ胎児血清(FCS)によるブロッキングに続いて、処置前および処置後のマウス血清の希釈系列をウェルに加え、1時間インキュベートする。それらのプレートを洗浄し、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG重鎖および軽鎖第2試薬(Caltag、カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)およびo-フェニレンジアミン基質を使って、血清抗体を可視化する。力価はこのアッセイにおいて50%最大吸光度を与える血清希釈倍数の逆数として、492nmで読み取られる。
【0164】
血清学的分析:Sタンパク質特異的抗体またはファージ特異的IgG抗体の存在を検出するために、4℃において一晩、150ng/ウェルのSARS-CoV-2スパイク(aa16~1213)Hisタグ付き組換えタンパク質(ThermoFisher)および1010個のファージまたはAAVP粒子/50μLリン酸緩衝食塩水(PBS)でコーティングされた、96マイクロウェルプレート(Nunc MaxiSorp平底、ThermoFisher Scientific)において、ELISAアッセイを行った。コーティングされたプレートを、5%低脂肪乳および1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBSにより、37℃で1時間、ブロッキングした。ブロッキング緩衝液中の2倍段階希釈液(1:32から出発)または1:50固定希釈液を加えてウェルを分け、37℃で1~2時間インキュベートした。PBSおよび0.1%のTween20を含有するPBSで3回洗浄した後、結合している抗体を、HRPコンジュゲート抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch)により、450nmの光学密度(OD)で検出した。市販のポリクローナルIgG抗スパイクタンパク質抗体(Thermo Fisher、MA5-35949)または抗fdバクテリオファージ抗体(Sigma Aldrich)を陽性対照とした。
【0165】
RNAの単離および定量リアルタイムPCR:AAVP Sで免疫処置されたマウスにおけるSタンパク質導入遺伝子の組織特異的発現を測定するために、RNeasy Miniキット(Qiagen)を使って、マウス組織から全RNAを得た。第1鎖cDNA合成はImProm-II逆転写システム(Promega)で行った。定量リアルタイムPCR分析はQuantStudio 5リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)で行った。プライマーおよびTaqManプローブは次のとおりであった:
、カスタマイズされたAAVP S 6FAM
NFQ、18S用のMm04277571_s1、およびGapdh用のMm99999915_g1。遺伝子発現比を18Sのそれに対して規格化した。
【0166】
(表1)ファージ構成要素配列
【0167】
1型マウス肝炎ウイルス(MHV)スパイク(S)タンパク質ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:82)
配列はAAVPゲノムDNA由来の5'および3'隣接配列(太字)と5'EcoRIおよび3'SalI制限部位(下線)を持つ70~4161ヌクレオチドをカバーする。太字、下線付き、斜体のヌクレオチドは、S遺伝子の148~150におけるEcoRI配列を欠失させるための「aat→aac」の変化を表す。1型MHV Sタンパク質の翻訳された配列は、27番目の対応するアミノ酸(N)が変化していない(下線)ことを示す。
【0168】
1型MHVスパイク(S)タンパク質配列(SEQ ID NO:83)
隣接5'および3'AAVP配列を太字で表す。
【0169】
SARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質遺伝子ヌクレオチド配列(SEQ ID NO:84)
配列はAAVPゲノムDNA由来の5'および3'隣接配列(太字)と5'EcoRIおよび3'SalI制限部位(下線)を持つ70~3891ヌクレオチドを含む。太字、下線付き、斜体のヌクレオチドは、S遺伝子の1378~1380におけるEcoRI配列を欠失させるための「aat→aac」の変化を表す。SARS-CoV-2スパイクタンパク質遺伝子の翻訳された配列は、460番目の対応するアミノ酸(N)が変化していない(太字、下線、斜体)ことを示す。
【0170】
SARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質配列(SEQ ID NO:85)
隣接5'および3'AAVP配列を太字で表す。
【0171】
実施例1:リンパ節(LN)ホーミングファージは非ターゲティング対照ファージよりも強い体液性免疫応答を誘発する
雌2ヶ月齢BALB/cマウスに、表示のとおりPTCAYGWCAもしくはWSCARPLCGをディスプレイするファージ、またはペプチドをディスプレイしないファージ(fd-tetファージ、陰性対照)のi.v注射を行った(図1)。抗ファージ抗体の血清中力価をELISAによって決定した。1:500の血清希釈液による、2回目のワクチン接種の3日後の体液性免疫応答が示されている。データはp-ニトロフェニルリン酸基質の吸光度(A450nm)を表す(Trepel et al.,2001)。
【0172】
図2は、1型MHV Sタンパク質に対する免疫応答を生じさせるために設計されたLNターゲティングAAVPのマップを図解している。1型MHV Sタンパク質または対照抗原のどちらかをコードする遺伝子を送達するターゲティングAAVPベクターは、定型的な分子生物学的戦略を使って作製される。免疫応答を増強するために、pIIIマイナーコートタンパク質においてLNターゲティングペプチドを発現させる。図3および図4は、SARS-CoV-2 Sタンパク質に対する免疫応答を生じさせるために設計された追加のコンストラクトを図解している。
【0173】
実施例2:ヒトCOVID-19患者におけるSタンパク質エピトープに対する抗体の検出
次に、本開示のエピトープのうちの2つについて、臨床との関連性を、ヒトCOVID-19患者において評価した。エピトープ5(SEQ ID NO:26)およびエピトープ6(SEQ ID NO:27)に対する抗体が、COVID-19から回復した3人の患者のうち2人の血清中に検出された(図5A~5B)。正常血清を対照として使用した。野生型バクテリオファージへの非特異的結合のバックグラウンド値を他のすべての実験条件から差し引いた(図5C)。
【0174】
実施例3:SARS-CoV-2に対する新規なファージベースおよびAAVPベースのワクチンプラットフォームの開発
本開示では、2つの異なるファージベースのワクチン戦略、すなわち1)それぞれ異なるSタンパク質エピトープをディスプレイするリガンド指向型ファージワクチン候補、および2)SARS-CoV-2 Sタンパク質全体に対するAAVPベースのワクチン候補を探究した(図6)。どちらの戦略でも、特異的細胞表面受容体を標的とし、免疫応答の発生を助長するために、リガンドペプチドをウイルス抗原と共にファージまたはAAVPに組み込んだ。
【0175】
第1の戦略では、f88-4ベクターを使って、ファージカプシドの高度の露出しているrpVIIIメジャーコートタンパク質上に、免疫学的に妥当なSタンパク質エピトープ(下記参照)をディスプレイするように、ファージを遺伝子操作した(図6、工程1)。これらのファージ粒子の組織特異的ターゲティングが可能になるように(図6、工程2)、新規ペプチドリガンドCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)のコード配列も、fUSE55ベクターのpIIIマイナーコートタンパク質遺伝子中にサブクローニングすることで、二重ディスプレイファージを生成させた。CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)リガンドはα3β1インテグリンに結合し、肺上皮を横切って体循環に至るファージ粒子の輸送を媒介し、そこではファージ粒子が、ファージカプシド上にディスプレイされる抗原に対して、強くて持続的な肺および全身性の体液性応答を誘発する(Staquicini et al.,2020)。対照として、ネイティブのpVIIIおよびpIIIタンパク質をディスプレイする非ターゲティング親インサートレスファージ粒子を使用した。
【0176】
第2の戦略では、宿主細胞における遺伝子送達および形質導入のための、完全長Sタンパク質導入遺伝子およびヒトCMVプロモーターを含有する発現カセットを、AAVPゲノム中の5'および3'ITR内に、シスに挿入した(図6、工程2)。このアプローチでは、ターゲティングモチーフと遺伝子コード配列の迅速な「交換(swapping)」が可能であり、これにより、さまざまなワクチンを設計し、構造設計されたエピトープのタンパク質コンフォメーションにおける潜在的制限を克服するための、貴重な自由度が得られる。対照として、ターゲティングAAVP空ベクター(AAVP S-ヌルと呼ぶ)を使用した。ターゲティングは異なるインテグリン結合ペプチドACDCRGDCFCG(RGD4C)(SEQ ID NO:5)のディスプレイによって与えられる。このペプチドは、αvインテグリンに対するその高いアフィニティについて詳しく記載されており、流入領域リンパ節および炎症領域に移動する白血球に高発現される。RGDモチーフ(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)は樹状細胞による粒子の取り込みを助長し、ペプチド抗原、DNAワクチンおよびアデノウイルスベクターの免疫原性を増強する。
【0177】
二重ディスプレイファージ粒子であるRGD4C AAVP S粒子およびそれらに対応する対照を、マウスでのインビボ試験に付すことで、異なる投与経路を検討し、誘導される抗原特異的体液性応答をELISAによって評価した(図6、工程3)。全体的ワクチン接種スケジュールには、1~2週間以内の間隔で少なくとも2回の109形質導入単位(TU)のファージまたはAAVP粒子の投与を含めた。
【0178】
実施例4:二重ディスプレイファージベースワクチンの同定および選択
第1の戦略のための適切なエピトープを同定するために、Wuhan-Hu-1株の実験的に決定されたウイルスSタンパク質構造(GenBankアクセッション番号:NC_045512.2)のインシリコ解析を使用した。隣接システイン残基と環状コンフォメーションを持つ溶媒露出しているアミノ酸ストレッチを優先した。なぜなら、これらのアミノ酸配列は、内在性エピトープのコンフォメーションを再現する可能性がより高く、それゆえに宿主免疫系による抗原認識およびプロセシングの可能性が増すからである。構造予測に続いて、たとえ隣接システイン残基が存在しなくても、他のエピトープも検討した。また、ファージ粒子が原核宿主細胞によって産生されることを考慮して、翻訳後修飾が予期される部位を持たないエピトープを優先した。
【0179】
クローズド状態のSタンパク質でもオープン状態のSタンパク質でもアクセス可能な6つのSタンパク質エピトープを選択した。これらのエピトープのうちの少なくとも5つは完全にまたは部分的に免疫原性であることが後に示された(図10および図14)。これらの6つのエピトープは長さが9~26アミノ酸(aa)の範囲にある。4つはS1サブユニット中に位置し、2つはS2サブユニット中に位置する(図7A)。S1エピトープのうちの3つ、エピトープ1(SEQ ID NO:22)、エピトープ2(SEQ ID NO:23)およびエピトープ3(SEQ ID NO:24)は、受容体結合ドメイン(RBD)中に位置する。S1サブユニットの残るエピトープであるエピトープ4(SEQ ID NO:25)は、S1サブユニットとS2サブユニットの間の切断部位に隣接して位置する。S2サブユニットのエピトープであるエピトープ5(SEQ ID NO:26)およびエピトープ6(SEQ ID NO:27)は、それぞれ融合ペプチド(FP)(aa788~806)およびヘプタペプチドリピート配列1(HR1)(aa912~984)の近くに位置する。選択されたエピトープの大部分は、ジスルフィド架橋が存在しないのにループ様のコンフォメーションを維持しているエピトープ2(SEQ ID NO:23)を例外として、隣接システイン残基ゆえに、コンフォメーションが環状である(図7B)。
【0180】
Sタンパク質が高度にグリコシル化されることは多くの研究によって実証されており、それらグリコシル化部位の一部は、変異体の感染性を変化させ、宿主免疫応答の回避を助長することが報告されている(Walls et al.(2020)Cell.181,281-292);Li et al.(2020)Cell.182,1284-1294)。エピトープがコンフォメーションに基づいて選択されたことを考慮して、エピトープ1(SEQ ID NO:22)が残基N343にグリコシル化部位を含有することも確認された。注目すべきことに、この部位はウイルスの感染性において重要であると思われ、グリコシル化の欠失N343QはD614G変異体の感染性を激しく低減する(Li et al.(2020)Cell.182,1284-1294)。しかし、理論に束縛されることは望まないものの、目下の系では、他のSARS-CoV-2株で同様に観察されているように(Kumar et al.(2020)Virusdisease.31,13-21)、N-グリコシル化の欠如は、ファージカプシド上にディスプレイされた場合にエピトープコンフォメーションの著しい構造逸脱をもたらさないと予想される。エピトープ1(SEQ ID NO:22)のグリコシル化部位はそのN末に位置し、残りの構造の抗体認識を妨害する可能性は低いので、このエピトープの効力も調べることにした。
【0181】
実施例5:構造的に規定されたSエピトープの、マウスにおける免疫原性に関する特性解析
各Sエピトープの免疫学的能力を評価し、ファージベースのワクチンを開発するための最も有望な候補を選択するために、それらの免疫応答誘導能力をマウスで試験した。ファージカプシド上のエピトープディスプレイを増加させるために、野生型pVIIIタンパク質および組換えpVIII(rpVIII)をコードする2つのカプシド遺伝子を含有する親f88-4ファージゲノムを使用した。それぞれがrpVIIIタンパク質中に融合された6つのSタンパク質エピトープのうちの1つをファージ粒子1つあたり約300コピー上に呈する、6種のf88-4ファージを生成させた(これを単一ディプレイファージと呼ぶ)(図11)。
【0182】
rpVIIIファージカプシド上に発現させたエピトープの免疫原性を、最初の投与(プライム)および2回目の投与(ブースト)後に得られたマウス血清(スイスウェブスターまたはBALB/c)において評価し、対照インサートレスファージと比較した。抗原特異的IgG価を、捕捉のために固定化組換え完全長SARS-CoV-2 Sタンパク質(aa16~1213)を用いるELISAによって定量した。S1サブユニット由来のエピトープ4(SEQ ID NO:25)は高レベルのSタンパク質特異的IgG抗体を誘導し、ブースター免疫処置は抗体レベルをさらに増加させた(図8A)。他の5つのファージコンストラクトは、Sタンパク質特異的IgG抗体の有意な産生を誘導せず、対照インサートレスファージで免疫処置されたマウスでも同様の観察結果であった。これらの結果は、選択されたエピトープの中ではエピトープ4(SEQ ID NO:25)が最も免疫原性であることを示しており、インシリコ解析で予測されたとおり、特異的免疫応答の発生には、エピトープの、そのネイティブコンフォメーションでのディスプレイが必要であることが示唆される。
【0183】
ネイティブ繊維状ファージに固有の免疫原性は詳細に記録されていることから、これらのマウスの血清におけるファージ特異的IgG抗体のレベルも調べた。注目すべきことに、すべての単一ディスプレイファージコンストラクトは、高力価のファージ特異的IgG抗体を生成し、それは、rpVIIIカプシド上にディスプレイされるSタンパク質エピトープの存在下または非存在下で、2回目の投与後は著しく増加した(図8B)。注目すべきことに、ファージ特異的IgG抗体の生成は、Sタンパク質特異的体液性応答を損なわないようである。というのも、エピトープ4(SEQ ID NO:25)と対照インサートレスファージを含む他のファージ粒子との間には明確な違いが観察されたからである。そこで、ターゲティング部分を付加することによる二重ディスプレイファージベースワクチン開発において試験するためのリード候補として、エピトープ4(SEQ ID NO:25)を選択した。
【0184】
実施例6:肺ワクチン接種用の二重ディスプレイファージコンストラクト
二重ディスプレイファージワクチンを作製するために、エピトープにおけるいかなる潜在的変異も軽減しおよび/またはファージを標的細胞または標的組織に向かわせて免疫応答を改良することができる高効率ワクチンを作製するために、ファージゲノム上のエピトープおよび/またはターゲティングリガンドペプチドの迅速な交換を可能にする、簡単な二段階クローニング戦略を最適化した。空中病原体(airborne pathogen)に対する粘膜免疫および全身性免疫を生じさせ、SARS-CoV-2に曝露させた非ヒト霊長類の上気道および下気道において免疫学的防御を有意に増加させるには、肺ワクチン接種が最も効率のよい経路であることが示されていることから、肺上皮ターゲティングモチーフとして使用するために、ペプチドCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)を選んだ。このペプチドは、ファージカプシドのタンパク質に対する局所的および全身性免疫応答を誘発しつつ、いかなる副作用もなく、エアロゾル化されたファージ粒子の選択的ターゲティングと肺バリアを横切る輸送を可能にする。こうして、rpVIII上のエピトープ4(SEQ ID NO:25)(約300コピー)とpIII(3~5コピー)上のペプチドCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)とを同時に発現する二重ディスプレイファージ粒子を作製した。
【0185】
エピトープ4(SEQ ID NO:25)/CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)二重ディスプレイファージ粒子の免疫原性を評価するために、5週齢BALB/c雌マウスの群を気管内経路で免疫処置した。マウスのコホート(各群n=10)に、109TUの二重ディスプレイファージ、単一ディスプレイファージまたは対照インサートレスファージを、3週間間隔で2回、投与した。毎週収集した血清試料中の、組換えSタンパク質に対するエピトープ特異的IgG抗体を、ELISAによって評価した。Sタンパク質特異的IgG抗体の力価は、エピトープ4(SEQ ID NO:25)/CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)二重ディスプレイファージ粒子で免疫処置したマウスの方が、とりわけ免疫処置の3週間後は、対照より高く、2回目の投与後(第4週および第5週)は大幅に増加した(図8C)。これらのレベルは、免疫処置後18週超にわたって上昇したままで、さらなるブースト後に検出可能な増加はなかった(図12A)。注目すべきことに、単一ディスプレイファージ粒子(エピトープ4のみ;SEQ ID NO:25)も全身性Sタンパク質特異的IgG抗体を誘導したが、そのレベルは二重ディスプレイファージ粒子よりも低かった。これらの結果は、CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)ペプチドの付加が、体循環への二重ディスプレイファージの輸送を可能にして、免疫原性を増加させることを示唆している。予想どおり、二重ディスプレイファージ粒子は、強い持続的抗ファージ体液性応答も誘導し(図12B)、これにより、エピトープ4/CAKSMGDIVC二重ディスプレイファージ粒子は、エピトープ4単一ディスプレイファージ粒子よりも高レベルの抗体応答を誘導することが、確証された。
【0186】
総合すると、これらのデータは、エピトープ4(SEQ ID NO:25)は、単一ディスプレイ体(単一ディスプレイファージ粒子)としてファージのrpVIIIカプシド上にディスプレイされた場合に、ロバストなSタンパク質特異的体液性応答を誘導すること、そして肺輸送ペプチドCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)と組み合わせると、この免疫原性が増強されることを実証している。これは、エピトープ4(SEQ ID NO:25)/CAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)二重ディスプレイファージ粒子がSARS-CoV-2に対する肺ワクチン接種の適切な候補であることの有望な証拠になる。
【0187】
実施例7:効率のよい遺伝子送達およびウイルスSタンパク質に対する体液性応答のための新規AAVPベースワクチン
二重ディスプレイファージデザインと並行するアプローチとして、AAVP遺伝子送達プラットフォームに手を加えて、SARS-CoV-2用の新規AAVPベースワクチン候補を作製した。したがって、二次リンパ器官へのリンパ球および抗原提示細胞(すなわち樹状細胞)の移動を調節することが公知であるαvインテグリンを標的とするACDCRGDCFCG(RGD4C)(SEQ ID NO:5)リガンドペプチドをpIIIマイナーコートタンパク質上にディスプレイする、完全長Sタンパク質遺伝子(AAVP S)(Wuhan-Hu-1株、GenBankアクセッション番号:NC_045512.2)をコードするターゲティングAAVP粒子を設計し、作製した。対照として、S遺伝子を除くファージ要素とAAV要素のすべてを含有するAAVP空ベクター(AAVP S-ヌル)を作製した(図9A、B)。
【0188】
RGD4C-AAVP Sの免疫原性を評価するために、5週齢雌非近交系スイスウェブスターマウスを免疫処置した。マウスのコホート(n=5)に、109TUのターゲティングRGD4C-AAVP Sを、腹腔内(第1群)、静脈内(第2群)、気管内(第3群)または皮下(第4群)経路で投与した。Sタンパク質特異的IgG抗体応答をELISAによって14日後に評価した。ベースライン血清を対照として使用した(図9C)。RGD4C-AAVP S粒子の投与は、すべての実験群において、Sタンパク質に対する血清IgG応答を誘発したが、皮下経路で免疫処置されたマウスは血清中IgG価が他の群より高かった。したがって、以降のインビボアッセイではRGD4C-AAVP Sを皮下経路で投与することにした。
【0189】
次に、5週齢雌近交系BALB/cマウスで免疫処置レジメンを試験した。マウスのコホート(各群n=12)に、毎週、用量109TUのRGD4C-AAVP Sまたは対照RGD4C-AAVP S-ヌルを、皮下投与した。RGD4C-AAVP Sをワクチン接種したマウスでは、ベースライン血清およびRGD4C-AAVP S-ヌルと比べて、ワクチン接種の5週間後には特に、高力価のSタンパク質特異的IgG抗体が観察されたことから、RGD4C-AAVP Sは適切な遺伝子送達用ベクターであり、全身性の体液性免疫応答を誘発することが確認された(図9D)。
【0190】
RGD4C-AAVP Sが媒介するSタンパク質導入遺伝子発現について理解を深めるために、免疫処置28日後に、主な所属リンパ節(腋窩、鼠径部、腸間膜および縦隔リンパ節)を含むマウス組織において、形質導入されたゲノムの運命を調べた。注目すべきことに、導入遺伝子発現はもっぱら流入領域リンパ節においてさまざまなレベルで検出された。骨格筋および脾臓を対照器官として使用したが、これらは検出可能な導入遺伝子発現を示さなかった(図9E)。RGD4C-AAVP S-ヌルで免疫処置されたマウスでは、予想どおり、Sタンパク質導入遺伝子は検出されなかった。これらの結果から、AAVPによる遺伝子送達と流入領域リンパ節におけるSタンパク質の発現は、全身性のSタンパク質特異的体液性応答をトリガーすることが確認される。さらにまた、これらのデータは、細網内皮系(RES)によるクリアランス時でさえ、オフターゲット効果を排除して、非標的組織または遠隔組織を温存し、同時に形質導入細胞では強力なプロモーターが導入遺伝子の発現を駆動する、AAVP粒子の十分に確立された属性を再現している。この知見は、新規候補AAVPベースワクチンにおける潜在的副作用を評価する上で、特に重要である。オフターゲット効果は多くのアデノウイルスワクチン毒性試験で報告されているからである。それゆえに、がん遺伝子治療において現在までにAAVPを使って生成した広範なデータは、潜在的に時間とリソースを節約して、AAVPワクチン候補の将来の臨床開発を加速するのに役立ちうる。
【0191】
研究では、RGD4C-AAVP SまたはRGD4C-AAVP S-ヌルファージがワクチン接種されたマウスにおける、ファージに対する抗体応答も調べた。RGD4C-AAVP Sの投与後は、すべての投与経路で、強くて持続的なファージ特異的IgG抗体応答が観察され(図9F)、皮下投与されたマウスの群における応答は有意に高かった(図9G)。同様に、RGD4C-AAVP S-ヌルファージを投与されたマウスもファージ特異的IgG応答を生じ(図9H)、AAVPが強い免疫原であり、AAVPベースのワクチン接種にとって重要なアジュバントとして役立ちうることを示した。総合すると、これらの結果は、ターゲティングAAVP Sが導入遺伝子発現のための効率のよいツールであり、ウイルスSタンパク質に対して効果的な免疫応答を誘導できることを示唆している。
【0192】
加えて、pIIIマイナーコートタンパク質上にCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)リガンドペプチドをディスプレイするAAVP粒子を設計し、それを、肺上皮ターゲティングモチーフとして使用するために作製した。対照として、本発明者らは、導入遺伝子をコードするスパイク(S)は含有するが、pIII上のリガンド配列を欠くインサートレス-AAVP S、ならびにS遺伝子を除くファージ要素およびAAV要素をすべて含有するCAKSMGDIVC-AAVP導入遺伝子ヌルベクター(AAVP S-ヌル)を使用した(図13A図13B)。研究では、1時間後に、肺を横切って血流に入るCAKSMGDIVC-AAVP SまたはCAKSMGDIVC-AAVP S-ヌルの受容体媒介輸送も調べた。(図13C)。予想どおり、CAKSMGDIVCターゲティングAAVPコンストラクトは肺バリアを横切り、ファージおよびAAVP粒子の受容体媒介輸送を可能にするCAKSMGDIVCリガンドペプチドの特徴を再現した。導入遺伝子発現は脾臓および上部(upper)リンパ節においてさまざまなレベルで検出されたことから、血流におけるCAKSMGDIVC-AAVP Sの存在は全身性免疫応答の誘導を助長することが示唆される。骨格筋を対照器官として使用したが、これは検出可能な導入遺伝子発現を示さなかった(図13D)。CAKSMGDIVC-AAVP S-ヌルで免疫処置されたマウスではS遺伝子発現は検出されなかった。これらの結果から、AAVPによる遺伝子送達と脾臓および流入領域リンパ節におけるSタンパク質の発現は、全身性のSタンパク質特異的体液性応答をトリガーすることが確認される。CAKSMGDIVC-AAVP S粒子の投与は、Sタンパク質に対する血清IgM(図13F)およびIgG(図13G)応答を誘発した。
【0193】
実施例8:考察
本開示では、SARS-CoV-2に対する戦略としてエピトープディスプレイおよび遺伝子送達を使用して、ファージベースおよびAAVPベースのワクチン候補を設計し、作製し、トランスレーショナル医療としての可能性(translational potential)について評価した。どちらの戦略も、Sタンパク質に対する抗原特異的なまたはポリクローナルな体液性応答をそれぞれ誘導するためにうまく使用できることができ、ワクチン開発のための妥当なアプローチになりうることが実証された。
【0194】
現在のワクチンに付随する大きな難題の一つは、Sタンパク質上の防御エピトープに対する免疫応答の強さを、とりわけ新しい遺伝子変異体に直面して、予測することである。原理的には、構造的抗原マッピングと、強力な中和活性を伴う防御免疫応答をトリガーする免疫優性B-およびT-細胞エピトープに集中すれば、長期防御ワクチンにつながるだろう。したがって、SARS-CoV-2 Sタンパク質および他の構造タンパク質に由来する、B細胞およびT細胞からのエピトープを予測することに、多くの研究が費やされてきた。同様に、ファージカプシド上でのディスプレイのための特別な構造的制約を課し、宿主免疫系による抗原認識およびプロセシングの可能性が高くなるように、Sタンパク質の6つの露出領域を選択した。エピトープ4(SEQ ID NO:25)が、おそらくはrpVIII腫瘍カプシドタンパク質上に発現された時にネイティブに近いエピトープのコンフォメーションを再現することにより、Sタンパク質に対して強くて特異的な全身性の体液性応答をトリガーすることがわかった。注目すべきことに、エピトープ4は、3つの主要新興SARS-CoV-2ウイルス系統、すなわち英国で最初に同定されたアルファ、(Thomson et al.,2021)、南アフリカで最初に同定されたベータ(Tegally et al.,2020)、およびブラジルで最初に同定されたガンマ(Faria et al.,2021)において変化していない。したがって、コンフォメーションの制約およびそれらの構造的性質をインシリコで評価することに基づいて抗原を選択するコンビナトリアルアプローチにより、感染症に対する自然の免疫応答を再現する可能性が最も高いエピトープを同定することができる。理論に束縛されることは望まないが、この観察結果から、ジカウイルスのためのワクチン候補などの抗原操作戦略は、中和抗体および細胞媒介性応答を生じる効力が高いワクチンを生成させる可能性が高いことが示唆される。
【0195】
ファージベースのワクチンのトランスレーショナル応用を支援するために、マウスにおける免疫処置のプロトコールを、SARS-CoV-2に対する肺ワクチン接種に向けた原理証明として設計した。組換えメジャーカプシドpVIIIタンパク質上のエピトープ4(SEQ ID NO:25)と、マイナーpIIIコートタンパク質上の、体循環へのファージ粒子の選択的ターゲティングおよび輸送を担うCAKSMGDIVC(SEQ ID NO:4)ターゲティングリガンドとを同時にディスプレイする二重ディスプレイファージ粒子の設計により、SARS-CoV-2に対する免疫処置のエアロゾル戦略は、従来の免疫処置経路と比べて、顕著な利点を付与しうることが確認された。第1に、皮下注射または筋肉内注射とは異なり、吸入は針を使わないので、投与のために専門の医療スタッフを使用する必要が最小限に抑えられる。さらにまた、高度に血管化された肺上皮を持つ大きくて到達しやすい肺表面は、空中病原体に対する局所免疫防御を誘導することが公知のユニークな特徴である。鼻腔内または気管内免疫処置の新たな研究では、マウスおよび非ヒト霊長類におけるSARS-CoV-2曝露に対する防御の成功が示されつつある。もちろん、本開示のターゲティングファージベースのエアロゾル製剤を、ヒト患者における適正な肺沈着にとって最適なサイズおよび質量の粒子を生成させるための適切なデバイス、例えばポータブル吸入器(例えば市販の加圧定量吸入器、乾燥粉末吸入器、およびネブライザー)によって送達することができるとも考えられる。
【0196】
ここに記載する研究は、代替SARS-CoV-2ワクチン候補としてS遺伝子を送達するためのAAVPの潜在的価値も明らかにした。この10年間で、AAVP技術は、マウスモデルにおけるさまざまなヒト固形腫瘍およびペット犬における自然発生腫瘍を撮像し処置するために適切に調整することができるモジュール式プラットフォームであることが判明した。これらの属性は、AAVPを、遺伝子送達のためのユニークなプラットフォームにしている。実際、本研究は、ターゲティングAAVP S粒子の投与が、コードされている導入遺伝子Sタンパク質に対する抗体応答を誘発することを示した。プロトタイプAAVP Sワクチンは、αvインテグリンに対して高いアフィニティで結合するインテグリン結合ペプチド(RGD4C)を使ってターゲティングされるので、これは、遺伝子発現および抗原提示が起こるリンパ節に移動する炎症細胞の形質導入を助長しうる。加えて、Sタンパク質のRBDドメイ内にRGDモチーフが同定されることは、インテグリンが補助受容体またはウイルス侵入のための代替経路として作用しうることを示唆している。それゆえに、リンパ節、リンパ管または肺上皮細胞内での組織特異的導入遺伝子発現とそれに続く全身性送達のための異なる機能的リガンド(例えばCAKSMGDIVC;SEQ ID NO:4)によって、AAVPベースのワクチンの効力および幅広い投与が強化されうる可能性は高い。
【0197】
結論として、本開示の研究は、ファージ粒子が、SARS-CoV-2 Sタンパク質特異的体液性応答に対するファージベースまたはAAVPベースのワクチンを開発するための極めて有効なツールであることを示している。加えて、本開示の研究を実行するプロセスは、操作されたファージ粒子の作製、生産および精製に製造管理および品質管理の基準(Good Manufacturing Practices:GMP)の開発および最適化を必要とした。これらのプロセスは、今や、迅速な商品化のために工業的な大規模レベルで応用することができる。
【0198】
態様の列挙
以下に態様を列挙するが、その番号付けが重要性のレベルを指定していると解釈してはならない。
態様1は、以下を提供する:
有効量の操作された治療用ファージと、薬学的に許容される担体とを含む、免疫原性組成物であって、操作された治療用ファージが、抗原性ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む1つまたは複数の融合ポリペプチドを含む、免疫原性組成物。
態様2は、以下を提供する:
操作された治療用ファージが、組織ターゲティングポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合ポリペプチドをさらに含む、態様1の免疫原性組成物。
態様3は、以下を提供する:
ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される、態様1および2のいずれかの免疫原性組成物。
態様4は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチドがリンパ節組織を標的とする、態様2~3のいずれかの免疫原性組成物。
態様5は、以下を提供する:
リンパ節組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:1~2を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様4の免疫原性組成物。
態様6は、以下を提供する:
リンパ節組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:7~8を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる、態様4の免疫原性組成物。
態様7は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチドがリンパ管組織を標的とする、態様2~3のいずれかの免疫原性組成物。
態様8は、以下を提供する:
リンパ管組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:3を含むアミノ酸配列を含む、態様7の免疫原性組成物。
態様9は、以下を提供する:
リンパ管組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:9を含むヌクレオチド配列によってコードされる、態様7の免疫原性組成物。
態様10は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチドが肺組織を標的とする、態様2~3のいずれかの免疫原性組成物。
態様11は、以下を提供する:
肺組織ターゲティングペプチドが、SEQ ID NO:4および28を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様10の免疫原性組成物。
態様12は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチドがインテグリン結合ドメインである、態様2~3のいずれかの免疫原性組成物。
態様13は、以下を提供する:
インテグリン結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:4、5、および86を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様12の免疫原性組成物。
態様14は、以下を提供する:
インテグリン結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:6および81を含む群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる、態様12の免疫原性組成物。
態様15は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチドがGRP78結合ドメインである、態様2~3のいずれかの免疫原性組成物。
態様16は、以下を提供する:
GRP78結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様15の免疫原性組成物。
態様17は、以下を提供する:
操作された治療用ファージが、
肺組織を標的としかつトランスサイトーシスドメインとして作用するエアロゾル送達ポリペプチドと、ファージコートタンパク質とを含む、融合ポリペプチド
をさらに含む、態様1、20~26のいずれかの免疫原性組成物。
態様18は、以下を提供する:
エアロゾル送達ポリペプチドがSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む、態様17の免疫原性組成物。
態様19は、以下を提供する:
エアロゾル送達ペプチドが、SEQ ID NO:81を含む核酸配列によってコードされる、態様17の免疫原性組成物。
態様20は、以下を提供する:
抗原性ポリペプチドがウイルスポリペプチドである、態様1~19のいずれかの免疫原性組成物。
態様21は、以下を提供する:
ウイルスポリペプチドが、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択されるウイルスタンパク質由来のエピトープである、態様20の免疫原性組成物。
態様22は、以下を提供する:
エピトープが、SEQ ID NO:10~27、31~80、111、120、124、126、135、および136より選択される少なくとも1つである、態様21の免疫原性組成物。
態様23は、以下を提供する:
操作された治療用ファージが、アデノ随伴ウイルスバクテリオファージ(AAVP)であり、かつウイルス遺伝子をさらに含む、態様1~22のいずれかの免疫原性組成物。
態様24は、以下を提供する:
ウイルス遺伝子が、コロナウイルスSタンパク質、コロナウイルスNタンパク質、コロナウイルスMタンパク質、およびコロナウイルスEタンパク質を含む群より選択される、態様23の免疫原性組成物。
態様25は、以下を提供する:
ウイルス遺伝子がコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:83および85からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする、態様23および24のいずれかの免疫原性組成物。
態様26は、以下を提供する:
ウイルス遺伝子がコロナウイルスSタンパク質であり、かつ、SEQ ID NO:82および84からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、態様23および24のいずれかの免疫原性組成物。
態様27は、以下を提供する:
態様1~26のいずれかの免疫原性組成物を構成する、核酸ベクター。
態様28は、以下を提供する:
抗原性ポリペプチド-pVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様29は、以下を提供する:
組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様30は、以下を提供する:
抗原性ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様31は、以下を提供する:
抗原性ポリペプチド含有pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様32は、以下を提供する:
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様33は、以下を提供する:
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、組織ターゲティングポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、およびエアロゾル送達ポリペプチド-pIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様34は、以下を提供する:
5'ITR、CMVプロモーター、抗原性ポリペプチドコード配列、ポリA配列、3'ITR、Tacプロモーター、エアロゾル送達ポリペプチド-pVIIIまたはrpVIIIコートタンパク質融合タンパク質コード配列、および組織ターゲティングポリペプチド-pIIIコートタンパク質コード配列を含む、態様27の核酸ベクター。
態様35は、以下を提供する:
対象における免疫応答を刺激する方法であって、態様1~26のいずれかの免疫原性組成物のうちの1つまたは複数を対象に投与する工程を含む、方法。
態様36は、以下を提供する:
1つまたは複数の免疫原性組成物が、経口経路、吸入経路、鼻腔経路、噴霧化経路、気管内経路、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮下注射、および経皮注射を含む群より選択される経路によって送達される、態様35の方法。
態様37は、以下を提供する:
対象におけるコロナウイルス感染症を処置、改善、および/または防止するための方法であって、態様1~26のいずれかの免疫原性組成物のうちの1つまたは複数の有効量を投与する工程を含む、方法。
態様38は、以下を提供する:
1つまたは複数の免疫原性組成物が、経口経路、吸入経路、鼻腔経路、噴霧化経路、気管内、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮下注射、および経皮注射を含む群より選択される経路によって送達される、態様37の方法。
態様39は、以下を提供する:
コロナウイルス感染症が、SARS-CoV、SARS-CoV-2、HCoV-229E、HCoV-NL63、MERS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、およびネズミ肝炎ウイルス1型(MHV-1)を含む群より選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、態様37および38のいずれかの方法。
態様40は、以下を提供する:
ウイルス感染細胞への遺伝子送達を促進する方法であって、細胞を、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージと接触させる工程を含む、方法。
態様41は、以下を提供する:
ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される、態様40の方法。
態様42は、以下を提供する:
リガンド結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:1~5、28~30、および86を含む群より選択される、態様40および41のいずれかの方法。
態様43は、以下を提供する:
操作された治療用ファージがアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である、態様40~42のいずれかの方法。
態様44は、以下を提供する:
対象におけるウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する方法であって、リガンド結合ポリペプチドとファージコートタンパク質とを含む融合タンパク質を含む操作された治療用ファージの有効量を投与し、それによって、ウイルス感染症を処置、改善、および/または防止する工程を含む、方法。
態様45は、以下を提供する:
ファージコートタンパク質が、pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質、pVIIIタンパク質、rpVIIIタンパク質、およびpIXタンパク質を含む群より選択される、態様44の方法。
態様46は、以下を提供する:
リガンド結合ポリペプチドが、SEQ ID:1~5、28~30、および86を含む群より選択される、態様44および45のいずれかの方法。
態様47は、以下を提供する:
リガンド結合ポリペプチドがGRP78結合ドメインである、態様44~46のいずれかの方法。
態様48は、以下を提供する:
GRP78結合ポリペプチドが、SEQ ID NO:29および30を含む群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様47の方法。
態様49は、以下を提供する:
操作された治療用ファージがアデノ随伴ウイルス/ファージ(AAVP)である、態様44~48のいずれかの方法。
態様50は、以下を提供する:
操作された治療用ファージが抗ウイルス作用物質をさらに含む、態様44~49のいずれかの方法。
態様51は、以下を提供する:
抗ウイルス作用物質が、抗ウイルス薬またはその前駆体、抗ウイルス性ポリペプチドまたはその前駆体、および抗ウイルス性核酸を含む群より選択される、態様50の方法。
【0199】
他の態様
本明細書における可変部の任意の定義における要素の一覧の記載は、列挙された要素の任意の単一要素または組合せ(または副組合せ)としての当該可変部の定義を含む。本明細書における態様の記載は、任意の単一態様または他の任意の態様もしくはその一部分との組合せとしての当該態様を包含する。
【0200】
本明細書において言及した特許、特許出願および刊行物の開示はいずれも皆、ここに、参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。具体的態様を参照して本開示を開示したが、他の当業者が、本開示の真の要旨および範囲から逸脱することなく、本開示の他の態様および変形を工夫しうることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような態様および等価な変形をすべて包含すると解釈されるべきものとする。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14A
図14B
【配列表】
2023536570000001.app
【国際調査報告】