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特表2023-536579蝸牛インプラントの挿入のためのシステムおよび方法
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  • 特表-蝸牛インプラントの挿入のためのシステムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】蝸牛インプラントの挿入のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/20 20160101AFI20230821BHJP
   A61B 34/10 20160101ALI20230821BHJP
   A61B 34/35 20160101ALI20230821BHJP
   A61F 2/18 20060101ALI20230821BHJP
   A61F 11/20 20220101ALI20230821BHJP
【FI】
A61B34/20
A61B34/10
A61B34/35
A61F2/18
A61F11/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506093
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 IB2021057009
(87)【国際公開番号】W WO2022024090
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】63/058,508
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516321259
【氏名又は名称】カスシネーション アーゲー
【氏名又は名称原語表記】CAScination AG
【住所又は居所原語表記】Steigerhubelstrasse 3, Bern 3008, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】マチュリク, マルコ
【テーマコード(参考)】
4C097
4C130
【Fターム(参考)】
4C097AA29
4C130AC11
4C130AD02
4C130AD05
(57)【要約】
挿入計画、電極選択、挿入進行の監視、およびインプラント配置の確認を通じた、外科処置中の蝸牛インプラント挿入進行の評価を可能にする、蝸牛インプラントの外科的移植のためのシステムおよび方法が提供される。本発明のシステムおよび方法は、前記選択された蝸牛インプラントのための所望の挿入状態および進行計画の決定を可能にし、その後、挿入進行を監視することを可能にする。提供されるシステムおよび方法は、所望の挿入状態および進行計画を決定し、前記インプラントを選択する際に画像データ、インプラントデータ、患者データ、および電気生理学的データの使用を可能にし、ならびに、挿入進行を監視し、インプラントが適切に配置されたことを確認する際に、様々な撮像および追跡方法論の使用を可能にする。挿入計画、適切な電極選択、挿入監視、およびインプラント配置の確認を通じて、品質の高い蝸牛インプラント挿入を保証する、本発明のシステムおよび方法が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における蝸牛移植処置中に複数の電極部分を含む蝸牛インプラント電極を挿入するための方法であって、
前記蝸牛インプラント電極の所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定するステップと、
利用可能な患者、蝸牛インプラント電極、および器具のデータを介して挿入進行を監視するステップと、
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定することは、集団固有のデータ、患者固有のデータ、および蝸牛インプラント電極固有のデータに基づくものであり、所望の挿入進行は、挿入深さ、速度、方向、配向、速度プロファイル、および配向プロファイルのいずれかに関して表され得、前記所望の挿入状態は、蝸牛インプラント電極進入位置、蝸牛インプラント電極配向、蝸牛インプラント電極屈曲、蝸牛インプラント電極形状、及び、前記蝸牛の内部の電極部分の個数のいずれかに関して表され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
集団固有のデータは、解剖学的アトラスデータ、統計的蝸牛形状データ、および遺伝データを含み得、患者固有のデータは、所与の患者の医用画像データ、聴覚データ、電気生理学的データ、および遺伝データを含み得、蝸牛インプラント電極固有のデータは、所与の蝸牛インプラント電極の物理的寸法、材料特性、電気的特性、化学的特性、およびトライボロジープロファイルを含み得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
所望の挿入状態および挿入進行計画を決定する前記ステップは、異なる蝸牛インプラント電極を逐次的に選択することによって決定された好適な蝸牛インプラント電極選択肢を含み、コンピュータ生成スコアが、各蝸牛インプラント電極選択肢に対して計算され、最も高いスコアを有する前記蝸牛インプラント電極が、前記所与の患者のために最適な挿入状態および挿入進行計画を提供する可能性が最も高い、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蝸牛インプラント電極の最終的な選択は、各インプラント選択肢について計算された前記スコアを使用し、患者および蝸牛インプラント電極のデータのデータベースを組み込んだコンピュータ化された計画ツールを採用する、自動化された反復プロセスであり得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
挿入進行を監視することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、前記蝸牛インプラント電極または器具または挿入ツールの追跡による前記蝸牛インプラント電極の定位追跡、位置の関数としての挿入力の測定、および前記蝸牛インプラント電極の形状の監視を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記蝸牛インプラント電極の前記形状を監視することは、術中撮像によって、または利用可能な位置および力データから形状を導出することによって実行され得る、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記所望の挿入状態に達した可能性があるかどうかを評価するために、監視された挿入進行データを、前記所望の挿入進行状態および所望の挿入進行計画と比較するさらなるステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認する前記ステップは、監視された挿入進行データを前記所望の挿入状態と比較するさらなるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、前記蝸牛インプラント電極または器具の定位追跡、挿入力の測定、および、前記蝸牛インプラント電極の形状の視覚化または導出、のうちのいずれかの使用を通じて達成され得る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法に従って蝸牛インプラント電極を挿入するように構成された挿入ツールおよび挿入進行監視機器を備える、蝸牛インプラント電極の自動挿入のためのシステム。
【請求項12】
患者および蝸牛インプラント電極のデータのデータベースを組み込んだコンピュータ化された計画ツールをさらに含み得、挿入進行データを収集し、前記挿入進行データを術前計画と比較することがさらに可能であり得る、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記挿入ツールは、少なくとも3自由度で運動学的移動を実行することができる遠隔操作デバイスである、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記遠隔操作デバイスは、挿入進行データを受信し、受信された挿入進行データに基づいて挿入パラメータを調整し、挿入終了状態に達したときを判定するように構成されたコンピュータを備える、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蝸牛移植(蝸牛インプランテーション、人工内耳手術)の分野に関する。具体的には、本発明は、挿入計画、挿入進行の監視、およびインプラント配置の確認を通して、外科処置中の蝸牛インプラント(人工内耳)挿入進行の評価を可能にする、蝸牛インプラントの外科的挿入のためのシステムおよび方法に関する。本発明のシステムおよび方法は、蝸牛インプラントのための所望の挿入状態および進行計画の判定、患者のための最適なインプラント選択を可能に、続いて、挿入進行の監視を可能にする。具体的には、本発明のシステムおよび方法は、所望の挿入状態および進行計画を決定する際に撮像(イメージング)データ、インプラントデータ、患者データ、および電気生理学的データの使用を可能にし、ならびに、挿入進行を監視し、インプラントが適切に配置されたことを確認する際に、様々な撮像および追跡方法論の使用を可能にする。最も具体的には、本発明のシステムおよび方法は、挿入計画、インプラント選択、挿入監視、およびインプラント配置の確認を通じた品質の高い蝸牛インプラント挿入に関する。
【背景技術】
【0002】
蝸牛インプラント手術(「CI」)は、3つの主要なステップからなる。まず、乳様突起切除術が実施され、それによって乳様突起の骨が開かれ、中耳腔へのアクセスを提供する。次に、外科医は、顔面神経および鼓索などの重要な構造物を回避するように注意しながら、中耳腔をナビゲートする。中耳腔に入ると、外科医は、蝸牛の丸窓膜(丸窓アプローチ)または蝸牛壁(蝸牛切開)のいずれかに開口部を形成する。最後に、電極アレイを蝸牛に挿入する。CIの各ステップは、側頭骨にある神経の損傷可能性、電極アレイの誤ったまたは不完全な挿入、蝸牛内構造の損傷、または個々の患者のための蝸牛インプラントの次善選択を含む、リスクおよび課題を伴う。
【0003】
低侵襲性乳頭切除術などのロボット蝸牛移植のいくつかの要素は、コンピュータ支援およびテンプレートベースのアプローチ(Labadie)を使用して、またはロボット技術(Weber et al., Science Robotics 2017)を使用して実証されている。さらに、自動/メカトロニクス内耳アクセスが実証されている(Peter Brett et al., 2014)。さらに、規定された挿入速度でCI電極を送達するためにメカトロニックアプローチを使用することが研究されている。
【0004】
関連する解剖学的構造(例えば、蝸牛)を識別して、蝸牛へのアクセス経路を計画するために、医用画像を利用したCI処置のコンピュータ支援計画が説明されている。現在では、OTOPLANなどの商用ツールが、所与の患者の利用可能な撮像および聴覚データに関して最適な電極選択を支援するために使用されている。(解剖学的構造に対するCI電極の所望の長さを選択する)。
【0005】
具体的には、このアプローチは、蝸牛上の目的部位への直接アクセスを提供する小径トンネル(直径1.5~2mmの範囲)を生成する目的で、乳様突起表面に直接小孔を開けることを含む。この外科的アプローチは、顔面凹部を横断し、したがって、結果として生じるトンネルは、顔面神経、鼓索、耳道、および耳小骨の近くを通過する。したがって、蝸牛移植に対するRCIアプローチを実施することに関連する最大の課題は、それらの構造、特に顔面神経および鼓索への損傷を回避することである。現在の外科診療は、ある割合の症例において鼓索の犠牲を受け入れているが、それは非常に望ましくなく、いずれにしても、顔面神経の損傷または物理的破壊は、CI手術の許容できない結果である。
【0006】
RCIアプローチに関連する課題のために、安全性を高め、顔面神経および他の構造への損傷の発生率を低減するための様々な戦略が、本発明者らおよび他のグループによって調査されている。既知の戦略はいずれも、単独では、RCI処置を成功させるために必要な安全マージンを提供しない。品質の高い蝸牛インプラント挿入の目標は、当該分野では未だ達成されておらず、ここで、品質の高い挿入とは、患者の聴力を価値ある程度まで真に高める配置を達成しながら、周囲の構造に損傷を与えずに、安全かつ正確に蝸牛インプラントを配置する能力として定義できる。この点に関して、品質の高い蝸牛移植は、外科的アプローチおよび最適なインプラント選択肢の両方の計画、外科的プロセスの監視、および所望の手術結果に達したことの確認を伴う。
【0007】
RCIは、コスト、基礎技術の未熟さ、およびロボット挿入に対する品質の高いアプローチの欠如などの要因のため、普遍的な採用には至っていない。したがって、現在のプラクティスは、依然として、本質的に破壊的な手動の外科的挿入を伴う。蝸牛インプラントを挿入することは、実際には人間の器用さの限界を超えており、したがって、蝸牛インプラントの患者の約50%は、手術後に必要とされる聴力性能を得られない。これは、一般に、挿入プロセスが内耳構造に対して非常に粗く、破壊的であり、患者が有する任意の残留聴力の破壊をしばしばもたらし得るためである。したがって、通常のCI手術は、聴覚障害患者しか受けることができない。このような事情とコストの問題から、蝸牛インプラントの実施率は一般に5%と低くなっている。結果として、蝸牛インプラントによって対処され得る聴覚問題を有する世界中の1500万人の集団(母集団)において、おそらく70,000人のみが、実際にインプラントを装着している。
【0008】
その結果、CI手術に対するより安全で結果を重視したアプローチ、すなわち、蝸牛インプラントの品質の高い低侵襲な配置によってのみ達成される可能性が高いアプローチが、本分野において強く必要とされている。
【0009】
RCIを改善するための様々な不完全な試みが、以前に開示されている。国際公開第2019/157004号では、発明者らは、電磁気および/または電位追跡を使用して蝸牛インプラントをナビゲート/ローカライズするために使用される追跡アプローチを記載している。米国特許出願公開第2018/0050196号明細書は、ECoGデータに少なくとも部分的に基づく蝸牛インプラントの遠隔制御アーム挿入を記載している。そして、米国特許第8594799号明細書USは、配置制御の方法として、主に力検知に基づく蝸牛インプラント挿入の方法におけるロボットユースケースの限定された開示を提供する。
【0010】
利用可能な文献には様々な安全対策が記載されているが、重大な欠点は、現在のアプローチのいずれも、蝸牛移植への品質の高いアプローチに到達するために、計画および監視のモダリティを十分に組み合わせていないことである。例えば、いくつかの公知の方法は、挿入を案内し、および/または配置を確認するための追跡アプローチを使用するが、移植処置を事前に首尾よく計画することはない。他のアプローチは、インプラントの機械的挿入を案内するために電気生理学的データまたは力検知を使用するが、事前に所望の挿入経路を決定せず、それに応じて蝸牛インプラントを選択しない。既知のアプローチのいずれも、手術計画および/または監視を、術前に取得された患者データおよび集団データの既知のデータベースを使用して、特定の患者に最適な蝸牛インプラントを選択するプロセスと組み合わせていない。
【0011】
これらの欠点を念頭に置いて、本発明者らは、挿入計画、インプラント選択、挿入進行の監視、およびインプラント配置の確認を含む統合されたアプローチにより、以前は利用可能でなかった方法で、品質の高い、信頼性のある、正確な、および安全な蝸牛インプラントの配置をもたらすことを認識した。
【発明の概要】
【0012】
これらの目的および他の利点は、低侵襲またはロボット手段による蝸牛インプラントの品質の高い挿入のための新しいシステムおよび方法によって達成される。本発明のシステムおよび方法は、利用可能な医用画像データ、電気生理学的データ、遺伝子データ、聴覚データおよび他の臨床データを使用して、所望の挿入進行計画を決定することを可能にする。挿入進行は、術中撮像(イメージング)データ、電気生理学的データ、ツールの位置に関するデータ、インピーダンスデータ、インプラントの特性、および様々な組織タイプとのインプラントの相互作用を使用して監視することができる。所望のインプラント配置の確認は、撮像データ、電気生理学的データ、インプラント特性、組織とのインプラントの相互作用、およびインプラント性能によって達成することができる。
【0013】
したがって、本発明の実施形態によれば、所望の蝸牛インプラント挿入状態および挿入進行計画を策定するために、複数の多様なデータポイントが組み合わされる。これは、生理学的、聴覚、画像、遺伝子および化学的データを含む、特定の患者データを含むことができる。集団レベルデータはまた、蝸牛の形状およびサイズ、ならびに様々な耳構造の組織特性のための一般的なパラメータを設定するために組み込まれ得る。所望の挿入状態および進行を計画することはまた、電気生理学的データの使用を組み込むことができる。
【0014】
実施形態では、計画データは、深さ、速度、方向、配向、速度プロファイル、および配向プロファイルなどの挿入パラメータを決定するために組み合わされる。データはまた、所望の挿入進行を決定するために組み合わされる。したがって、例えば、所望のインプラントの位置、配向、屈曲、および形状が、位置および時点にわたって測定された所望の挿入状態に達するように評価される。
【0015】
代替実施形態では、計画データは、患者データおよびその履歴データまたは平均データとの比較に基づいて、特定の患者に最適な蝸牛インプラントの選択において使用され得る。
【0016】
代替実施形態によれば、医用撮像データ、ツールの位置に関するデータ、電気生理学的データ、およびインプラントの特性、ならびに組織タイプとのその相互作用を使用して、挿入進行を監視し、測定された挿入進行を挿入計画と比較する。この比較は、挿入軌道、速度、配向、および他のパラメータを変更して挿入進行を挿入計画と整合させることができるフィードバックループを作成するために使用することができる。
【0017】
代替実施形態によれば、医用画像データ、電気生理学的データ、インプラント特性、インプラントと蝸牛組織との相互作用、およびインプラント性能を使用して、品質の高い、正確な、および安全なインプラント配置を確認することができる。
【0018】
代替実施形態では、計画データ、監視データ、およびインプラント配置の確認が、蝸牛インプラントの品質の高い挿入のためのシステムおよび方法において組み合わされる。
【0019】
代替実施形態では、医用画像データ、電気生理学的データ、遺伝子データ、聴覚データ、および他の臨床データは、コンピュータ上で実行されるアルゴリズムに入力され、それに応じて所望の挿入状態および所望の挿入進行計画が生成される。アルゴリズムは、任意選択で、患者固有のデータとともに、所望の挿入進行計画および所望の挿入状態に対するインプラント固有のパラメータをテストして、特定の患者に最適な蝸牛インプラントを選択することができる。同様に、アルゴリズムは、特定のインプラントおよび患者のための挿入状態および進行パラメータの最適化されたセットに到達するように反復的に動作することができる。
【0020】
本発明の本発明のシステムおよび方法は、蝸牛移植への低侵襲アプローチにおいて最適に使用することができる。本発明者らのデータソースの組み合わせ、ならびに低侵襲技術を用いた計画、監視および配置の確認の組み合わせは、患者にとって最良の品質の結果をもたらす。任意選択的に、品質の高いインプラント配置への低侵襲アプローチは、本発明者らによって教示された計画、監視、および確認アプローチによってガイドされるロボット蝸牛移植を含んでもよい。
【0021】
本発明のシステムおよび方法のこれらおよび他の実施形態は、添付の図面を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態による、術前計画ならびに術中監視および確認を伴う、蝸牛インプラントの挿入方法の概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態による、利用可能な電極のデータベースへの患者および集団のデータの適用、および結果として得られるスコアの生成を含む電極選択の方法の概略図である。
図3図3は、本発明の実施形態による、コンピュータ化された計画ツールおよびロボット挿入ツールを組み込んだ蝸牛インプラントの挿入のためのシステムの図を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を、その様々な実施形態に関連して、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
第1の実施形態では、蝸牛インプラント電極の患者への挿入のための方法が提供される。従来、蝸牛インプラント電極は、複数の電極部分を含む。一般に、蝸牛インプラント電極は、蝸牛移植処置中に埋め込まれ、これは任意の公知の外科的アプローチを通して、しかし好ましくは当業者によく知られているような低侵襲アプローチで実施され得る。
【0025】
図1を参照すると、蝸牛インプラント電極の挿入のための方法は、蝸牛インプラント電極のための所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定するステップと、利用可能な患者、蝸牛インプラント電極および器具データを介して挿入進行を監視するステップと、蝸牛インプラント電極が所望の挿入状態に達したことを確認するステップとを含むことができる。
【0026】
蝸牛インプラント電極のための所望の挿入状態は、蝸牛または周囲組織にいかなる損傷も引き起こすことなく、電極が患者の蝸牛内の所望の位置に達し、それによって、蝸牛インプラント電極の電極部分が、患者のための改善された聴力性能を提供するように配置される状態である。
【0027】
蝸牛インプラント電極の移植(埋め込み)を行う医療従事者は、外科的処置の前に、蝸牛インプラント電極の挿入のための挿入進行計画を策定することができる。この計画の策定は、当業者に知られている従来の手段によって測定される、挿入速度、挿入角、挿入深さ、挿入方向、および挿入配向のためのパラメータを含むことができる。
【0028】
蝸牛インプラント電極移植処置の間、挿入進行は、利用可能な患者データ、利用可能な蝸牛インプラント電極データ、および利用可能な器具データを通して監視され得る。この利用可能な情報は、移植処置が所望の挿入状態に向かって進行しているかどうかを継続的に評価するために、蝸牛インプラント電極挿入進行計画と比較され得る。処置データが所望の挿入状態に密接に一致すると、蝸牛インプラント電極移植処置を停止することができる。所望の挿入状態を設定し、挿入進行計画を策定し、処置によって得られたデータを挿入進行計画と比較することによって、この方法を実行することは、患者のためのより安全な移植処置と、蝸牛インプラント電極配置の向上された精度とをもたらす。
【0029】
さらに図1を参照すると、所望の挿入状態および所望の挿入進行計画の決定は、患者固有のデータ、蝸牛インプラント電極固有のデータ、および集団固有のデータに基づくことができる。挿入状態および進行計画は、これらの利用可能なデータソースを参照することによって、移植処置の前に最適に決定される。当業者は、すべての利用可能なデータソースへの参照が所望の挿入状態および挿入進行計画の計画策定を改善するが、すべての利用可能なデータソースより少ないデータを参照しても、術前計画、所望の結果の決定、および1つの移植方法における進行の監視に頼ることを含まない技術水準と比較して、依然として精度および安全性を改善することを理解するのであろう。
【0030】
所望の挿入状態は、蝸牛インプラント電極進入位置、蝸牛インプラント電極配向、蝸牛インプラント電極屈曲、蝸牛インプラント電極形状、および蝸牛内部の電極部分の個数のいずれかに関して表すことができる。
【0031】
本発明の様々な実施形態において、集団固有のデータ、患者固有のデータ、および蝸牛インプラント電極固有のデータは、所望の挿入状態および所望の挿入進行計画の策定において使用され得る。集団固有のデータは、解剖学的アトラスデータ、統計的蝸牛形状データ、および遺伝データ(遺伝子データ)を含み得る。患者固有のデータは、所与の患者の医用画像データ、聴覚データ、電気生理学的データ、および遺伝データを含むことができる。蝸牛インプラント電極固有のデータは、所与の蝸牛インプラント電極の物理的寸法、材料特性、電気的特性、化学的特性、およびトライボロジープロファイルを含むことができる。
【0032】
本発明の代替実施形態では、所望の蝸牛インプラント電極挿入進行計画および所望の挿入状態の決定は、患者のための適切な蝸牛インプラント電極の選択を含む。単なる例として、所望の挿入状態が、蝸牛インプラント電極進入位置、蝸牛インプラント電極配向、蝸牛インプラント電極屈曲、蝸牛インプラント電極形状、および蝸牛内部の電極部分の個数のパラメータを含む場合、これらのパラメータの各々は、患者および集団固有のデータに基づいて変化する。
【0033】
ここで図2を参照すると、本発明の一実施形態では、コンピュータ化または自動化された反復プロセスが提供され、それによって、患者および集団固有のデータが、関連するソフトウェアを用いてコンピュータに入力される。提供されたデータに基づいて、コンピュータは、蝸牛インプラント電極の1つ以上の選択肢(チョイス)を選択し、選択された電極の特性と入力されたデータとの間の所望の相関に基づいて電極選択肢のスコアを生成することができる。反復方法では、スコアは、1つ以上の蝸牛インプラント電極選択肢の各々について計算され得、選択プロセスの終了時に、所望の挿入状態を生成し、所望の挿入進行計画に適合する可能性が最も高いので、最も高いスコアを有する蝸牛インプラント電極が、移植処置において使用されるように選択される。
【0034】
本発明のこの実施形態によれば、このようにして、蝸牛インプラント電極の最終的な選択は、各インプラント選択肢について計算されたスコアを使用し、患者および蝸牛インプラント電極データのデータベースを組み込んだコンピュータ化された計画ツールを採用する、自動化された反復プロセスであり得る。
【0035】
当業者は、挿入進行を監視することは過去に説明されているが、本発明者らによるような非常に多くの異なる挿入パラメータを考慮しながら記説明されてはおらず、特定の患者のための最適な蝸牛インプラント電極のための反復選択プロセスによって知らされる所望の挿入状態および進行計画の術前の策定と併せて説明されていないことを理解するのであろう。
【0036】
したがって、挿入進行を監視することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像(イメージング)、蝸電図検査(electrocochleography)、組織インピーダンス測定、蝸牛インプラント電極または器具または挿入ツールを追跡することによる蝸牛インプラント電極の定位追跡、位置の関数としての挿入力の測定、および蝸牛インプラント電極の形状の監視を使用して、実行され得る。蝸牛インプラント電極の形状を監視することは、術中撮像によって、または利用可能な位置および力データから形状を導出することによって達成され得る。列挙された監視手段は当業者に周知であり、既知の利用可能な方法によって達成することができる。
【0037】
同様に、本発明の別の実施形態によれば、蝸牛インプラント電極が所望の挿入状態に達したことを確認することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、蝸牛インプラント電極または器具の定位追跡、挿入力の測定、および蝸牛インプラント電極の形状の視覚化または導出のいずれかの使用によって達成され得る。すでに本明細書で説明したように、形状の可視化は、視線によって、または術中撮像によって達成することができ、形状はまた、利用可能な位置および力データから導出することができる。
【0038】
本発明の代替実施によれば、蝸牛インプラント電極の自動挿入のためのシステムが提供される。提供されるシステムは、挿入ツールおよび挿入進行監視機器を備える。システムは、その最も一般的な意味において、蝸牛インプラント電極のための所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定し、利用可能な患者、蝸牛インプラント電極および器具データを通して挿入進行を監視し、蝸牛インプラント電極が所望の挿入状態に達したことを確認することによって、蝸牛インプラント電極の挿入を提供するように構成される。
【0039】
ここで図3を参照すると、システムは、少なくとも3自由度で運動学的移動を実行することができる遠隔操作デバイスを含むことができる。この遠隔操作デバイスは、任意選択的に、3軸デカルトロボットまたは完全な手術用ロボットまたは本発明の方法を実行することができる任意の他の遠隔操作デバイスであってもよい。システムは、挿入進行データを受信し、受信された挿入進行データに基づいて挿入パラメータを調整し、挿入終了状態に達したときを判定するように構成されたコンピュータをさらに含むことができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態によれば、さらに図3を参照すると、遠隔操作デバイスおよびコンピュータを備えるシステムは、患者、集団、および蝸牛インプラント電極データのデータベースを含むことができる、コンピュータに関連付けられたコンピュータ化された計画ツールをさらに含むことができる。コンピュータ化された計画ツールは、特定の蝸牛移植処置のための患者固有のデータを受信し、所望の挿入状態および所望の挿入進行計画に到達するために、集団固有のデータおよびインプラント固有のデータを組み込むように構成される。遠隔操作デバイスと、コンピュータと、コンピュータ化された計画ツールとを備えるシステムは、挿入状態を所望の挿入進行計画と比較し、次いで、挿入状態が所望の挿入進行計画に適合することを確実にするように外科パラメータを調整することによって、移植処置の監視を可能にする、コンピュータ化された計画ツール間のフィードバックまたは制御ループを可能にするように構成され得る。
【0041】
先の実施形態を参照して本明細書で説明したように、集団固有のデータは、解剖学的アトラスデータ、統計的蝸牛形状データ、および遺伝データを含むことができ、患者固有のデータは、所与の患者の医用画像データ、聴覚データ、電気生理学的データ、および遺伝データを含むことができ、蝸牛インプラント電極固有のデータは、所与の蝸牛インプラント電極の物理的寸法、材料特性、電気的特性、化学的特性、およびトライボロジープロファイルを含むことができる。
【0042】
この実施形態によれば、遠隔操作デバイスと、所望の挿入状態および進行計画を策定するように構成されたコンピュータとを備えるシステムは、処置監視データを生成および受信し、得られたデータを所望の挿入状態および進行計画と比較することも可能である。挿入進行を監視することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、蝸牛インプラント電極または器具または挿入ツールを追跡することによる蝸牛インプラント電極の定位追跡、位置の関数としての挿入力の測定、および蝸牛インプラント電極の形状の監視を使用して実行され得る。
【0043】
システムは、挿入進行データを連続的に監視および受信し、所望の挿入状態および進行計画に対する挿入進行データの比較が、継続的な挿入パラメータのためのガイダンスを提供するフィードバックループを作成するように構成される。最後に、所望の挿入状態に達すると、システムは、移植処置を停止する。
【0044】
本発明はその特定の実施形態を参照して示され、説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更が行われ得ることが、当業者によって理解されるのであろう。単なる例として、限定としてではなく、当業者は、本明細書に開示される方法/システムが他の外科分野に適用され得ることを容易に理解するのであろう。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-04-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における蝸牛移植処置中に複数の電極部分を含む蝸牛インプラント電極を挿入するための、コンピュータにより実行される方法であって、
前記蝸牛インプラント電極の所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定するステップと、
利用可能な患者、蝸牛インプラント電極、および器具のデータを介して挿入進行を監視するステップと、
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記所望の挿入状態および所望の挿入進行計画を決定することは、集団固有のデータ、患者固有のデータ、および蝸牛インプラント電極固有のデータに基づくものであり、所望の挿入進行は、挿入深さ、速度、方向、配向、速度プロファイル、および配向プロファイルのいずれかに関して表され得、前記所望の挿入状態は、蝸牛インプラント電極進入位置、蝸牛インプラント電極配向、蝸牛インプラント電極屈曲、蝸牛インプラント電極形状、及び、前記蝸牛の内部の電極部分の個数のいずれかに関して表され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
集団固有のデータは、解剖学的アトラスデータ、統計的蝸牛形状データ、および遺伝データを含み得、患者固有のデータは、所与の患者の医用画像データ、聴覚データ、電気生理学的データ、および遺伝データを含み得、蝸牛インプラント電極固有のデータは、所与の蝸牛インプラント電極の物理的寸法、材料特性、電気的特性、化学的特性、およびトライボロジープロファイルを含み得る、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
所望の挿入状態および挿入進行計画を決定する前記ステップは、異なる蝸牛インプラント電極を逐次的に選択することによって決定された好適な蝸牛インプラント電極選択肢を含み、コンピュータ生成スコアが、各蝸牛インプラント電極選択肢に対して計算され、最も高いスコアを有する前記蝸牛インプラント電極が、前記所与の患者のために最適な挿入状態および挿入進行計画を提供する可能性が最も高い、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蝸牛インプラント電極の最終的な選択は、各インプラント選択肢について計算された前記スコアを使用し、患者および蝸牛インプラント電極のデータのデータベースを組み込んだコンピュータ化された計画ツールを採用する、自動化された反復プロセスであり得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
挿入進行を監視することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、前記蝸牛インプラント電極または器具または挿入ツールの追跡による前記蝸牛インプラント電極の定位追跡、位置の関数としての挿入力の測定、および前記蝸牛インプラント電極の形状の監視を使用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記蝸牛インプラント電極の前記形状を監視することは、術中撮像によって、または利用可能な位置および力データから形状を導出することによって実行され得る、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記所望の挿入状態に達した可能性があるかどうかを評価するために、監視された挿入進行データを、前記所望の挿入進行状態および所望の挿入進行計画と比較するさらなるステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認する前記ステップは、監視された挿入進行データを前記所望の挿入状態と比較するさらなるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記蝸牛インプラント電極が前記所望の挿入状態に達したことを確認することは、器具または挿入ツールの運動学的データ、術中撮像、蝸電図検査、組織インピーダンス測定、前記蝸牛インプラント電極または器具の定位追跡、挿入力の測定、および、前記蝸牛インプラント電極の形状の視覚化または導出、のうちのいずれかの使用を通じて達成され得る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法に従って蝸牛インプラント電極を挿入するように構成された挿入ツールおよび挿入進行監視機器を備える、蝸牛インプラント電極の自動挿入のためのシステム。
【請求項12】
患者および蝸牛インプラント電極のデータのデータベースを組み込んだコンピュータ化された計画ツールをさらに含み得、挿入進行データを収集し、前記挿入進行データを術前計画と比較することがさらに可能であり得る、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記挿入ツールは、少なくとも3自由度で運動学的移動を実行することができる遠隔操作デバイスである、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記遠隔操作デバイスは、挿入進行データを受信し、受信された挿入進行データに基づいて挿入パラメータを調整し、挿入終了状態に達したときを判定するように構成されたコンピュータを備える、請求項13に記載のシステム。
【国際調査報告】