(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤によって誘発される免疫毒性を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230821BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230821BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230821BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230821BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230821BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230821BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230821BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20230821BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/02
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P21/00
A61P11/00
A61P1/16
A61P5/00
A61P25/00
A61P1/18
A61P13/12
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K31/519
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506094
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2021071319
(87)【国際公開番号】W WO2022023490
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500257447
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ド パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE-HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】500025477
【氏名又は名称】アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】イブ、アレンバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ジョー-エリー、セイラム
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ、アンクティル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA06
4C084ZA01
4C084ZA51
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA94
4C084ZB07
4C084ZB082
4C084ZB11
4C084ZC42
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZA01
4C086ZA51
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA94
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤によって治療される患者における有害事象を治療もしくは予防するための、または免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて癌を治療するための、JAK阻害剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのJAK阻害剤であって、前記関連有害事象が、中毒疹、大腸炎または関節炎ではない、JAK阻害剤。
【請求項2】
免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の予防のために使用するための、JAK阻害剤。
【請求項3】
前記有害事象が、心筋炎、間質性肺炎、肝炎、下垂体炎、神経学的有害作用、副腎有害作用、筋炎、血液学的有害作用、膵炎、内分泌学的有害作用、および腎炎からなる群から選択される免疫介在性疾患である、請求項1または2に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項4】
前記有害事象が、de novo事象であり、免疫チェックポイント阻害剤によって治療される患者における既存の免疫状態と関連がない、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項5】
前記有害事象が、免疫介在性筋毒性、特に劇症心筋炎または横隔膜に関連する劇症呼吸筋筋炎である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項6】
ルキソリチニブ、トファシチニブ、オクラシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、フェドラチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、セルデュラチニブ、ガンドチニブ、レスタウルチニブ、モメロチニブ、パクリチニブおよびアブロシチニブからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項7】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、および/またはPD-L1阻害剤および/または抗CTLA4からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項8】
前記チェックポイント阻害剤が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、パルタリズマブ、ピディリズマブ、AMP-224、AMP-514、セミプリマブ、トリパリマブ、スパルタリズマブ、セトレリマブおよびササンリマブからなる群から選択されるPD-1阻害剤である、請求項7に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項9】
前記チェックポイント阻害剤が、アテゾリズマブ、アベルマブおよびデュルバルマブからなる群から選択されるPD-L1阻害剤である、請求項7に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項10】
前記チェックポイント阻害剤が、イピリムマブおよびトレメリムマブからなる群から選択される抗CTLA4である、請求項7に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項11】
患者に対してJAK阻害剤が多数回投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項12】
前記JAK阻害剤が、3~20週間の間投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項13】
徐放性組成物の形態であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのJAK阻害剤。
【請求項14】
JAK阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)な使用のための、組成物。
【請求項15】
JAK阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物であって、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)な使用のための、組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
チェックポイント阻害剤療法は、腫瘍治療に大変革をもたらした癌免疫療法の一形態である。この療法の本質は、免疫チェックポイント(これは、免疫系の作用を刺激または阻害する、免疫系の主要制御因子である)を標的にする点にある。腫瘍学におけるチェックポイント療法は、阻害チェックポイント(腫瘍は、免疫系による攻撃から自身を保護するために、この阻害チェックポイントを使用する)をブロックし、それによって免疫系機能を回復し、腫瘍と戦うことを目標とする。
【0002】
現在承認を受けている免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、CTLA4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)、PD-1(膜貫通プログラム細胞死1タンパク質、PDCD1およびCD279とも呼ばれる)、およびPD-L1(これは、PD-1リガンドである)(またはCD274)という分子を標的とする。PD-1は、T細胞活性に対する重要な制御機能を果たし、癌細胞表面上のPD-L1の癌媒介性アップレギュレーションは、それらの癌細胞に対するT細胞の認識および作用を阻害し得る。PD-1またはPD-L1に対する抗体は、これらのタンパク質間の相互作用をブロックし、T細胞が腫瘍を攻撃できるようにする。
【0003】
腫瘍学において標的にされている別の阻害チェックポイントは、CTLA-4(CD152)であり、これは、制御性T細胞において構成的に発現されており、活性化後のconventional T細胞においてアップレギュレーションされるタンパク質受容体である。CTLA-4は、抗原提示細胞の表面上に発現されているCD80またはCD86に結合した場合に、免疫系の阻害スイッチとして機能する。
【0004】
しかしながら、このような免疫チェックポイント阻害剤を使用した後の免疫系の活性化によって、潜在的にあらゆる器官に影響を及ぼし得る免疫関連有害事象(irAE)も引き起こされる可能性がある。
【0005】
稀にではあるが、ICIによって、劇症かつ致死的なirAEが、治療を受けた患者の約0.36~1.23%に起こり得る(Wangら、JAMA Oncol 2018;4:1721-8)。重篤かつ致死的な毒性は、抗CTLA4療法において、特にPD1またはPDL1ブロッカーと組み合わせた場合に、より一般的である。ICI誘発性心筋炎は、発生は稀(<1%)であるが、死亡率が最も高いirAEである。世界中で122症例の心筋炎の最大規模の症例シリーズにおいて、ICI組合せ療法は、死亡率が50%であり、単独療法と比較して、発症がより早く、死亡率がより高いことが報告されている(Salemら、Lancet Oncol 2018;19:1579-89)。興味深いことに、ICI心筋炎は、一般に、ICI投与後の少数(n=1~3)で発生し、多くの場合、併存する筋、肺および肝irAE(筋炎(25%)を含む)と関連しており、動眼および横隔膜機能不全と関連することが多い独特の表現型を伴っていた。ICI心筋炎における最大の死因は、早期進行性かつ難治性の心臓の電気的不安定性(心ブロックおよび悪性心室性不整脈)および心原性ショックを引き起こす心機能不全であり、強力な免疫抑制に対して抵抗性であることが多い。
【0006】
irAEの治療についての精密な研究が行われていない間、コンセンサスガイドラインは、高用量の副腎皮質ステロイドで初期治療した後に漸減させ、ICIを維持することを推奨していた(Brahmerら、J Clin Oncol 2018;36:1714-68)。副腎皮質ステロイドの用量は、臨床症状の重症度に応じて、0.5~2mg/kg/日のプレドニゾンから、最大で1g/日のメチルプレドニソロンのボーラスの範囲である。症状および検査所見がステロイドによって改善しないか、または悪化する場合、冒されている器官に応じて、他の免疫抑制剤(ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、シクロスポリン、タクロリムス、mTor阻害剤、メトトレキセート、アザチオプリン、抗胸腺細胞グロブリン、アレムツズマブ、インフリキシマブ、およびリツキシマブ)が考慮され得る。併発筋炎および/または重症筋無力症の症例において、症状が重篤および/または副腎皮質ステロイド耐性である場合、静注用免疫グロブリンまたはプラスマフェレーシスが考慮され得る。しかしながら、劇症、および慢性毒性の患者のサブセットにおいて、利用可能な免疫抑制剤によってもたらされる結果は、最適に及ぶものではない(すなわち、PD1/CTLA4遮断によって引き起こされた毒性によって死亡する患者の1.23%)。
【0007】
US20180258088は、新たなJAK阻害剤を開示し、また、使用のための可能性のある効能のリストを提供する。US20180258088の原理は、特に[0003]~[0006]において説明されており、それによって、JAK阻害剤開発の根本的な目的は喘息または種々の特定の肺疾患に対する治療を提供することであることが明らかである。[0007]は、JAK阻害剤についての想定される他の用途を提供する。US20180258088は、実施例において、以下のことを記述している。
・生化学的JAKキナーゼアッセイにおける化合物のin vitro試験(アッセイ1)、
・細胞JAMポテンシーアッセイのためのin vitro試験(アッセイ2)、
・マウスにおける、血漿および肺における薬物動態(アッセイ3)、
・肺組織におけるIL-13誘発pSTAT6産生のマウスモデル(アッセイ4):これは、JAK経路を含むように特にデザインされているこのモデルにおいて、in vitro阻害活性を示す;対照群と処置群の間の臨床的な差に関するデータは示されていない)、
・肺のAlternaria Alternata誘導好酸球炎症のマウスモデル(アッセイ5):これは、ヒト喘息のためのモデルとして示されている。これは、Alternaria誘導BALF好酸球の阻害を示す。Hilliardら(Am J Respir Crit Care Med 193;2016:A1471)に開示されているように、A.alternata炎症が、少なくとも部分的に、JAK-STAT3経路の活性化によって誘導されることが知られていたことに留意すべきである。よって、観察されたデータは、予期されていた。
・in vitro IL-5媒介好酸球生存アッセイ(アッセイ6):[0332]に示されているように、IL-5は、JAKを介してシグナル伝達することが知られている。
・in vitro細胞JAKポテンシーアッセイ:ヒトPBMCにおけるIL-2/抗CD3刺激IFNγの阻害(アッセイ7):[0336]に示されているように、IL-2は、JAKを介してシグナル伝達することが知られている。
・in vitro細胞JAKポテンシーアッセイ:CD4+T細胞におけるIL-2刺激pSTAT5の阻害(アッセイ8)、これもまた、IL-2を介したJAK経路に関与することが知られている。
・in vitro細胞JAKポテンシーアッセイ:CD3+T細胞におけるIL-4刺激pSTAT6の阻害(アッセイ9):[0345]に示されているように、IL-4は、JAKを介してシグナル伝達することが知られている。
・in vitro細胞JAKポテンシーアッセイ:CD3+T細胞におけるIL-6刺激pSTAT3の阻害(アッセイ10):[0004]に示されているように、IL-6は、JAK-STAT経路を介してシグナル伝達する、喘息炎症に関係するサイトカインであることが知られている。
【0008】
要約すると、US20180258088の実際の教示は、新たな化合物がJAK経路を阻害する能力、およびその化合物の潜在的な有効性に焦点を置いている。この実際の教示は、これらの化合物が、本願中に列挙されているもの等、いかなる種類の疾患に使用され得ることを示しておらず、そのように思わせるものでもない。
【0009】
WO2020/092792は、癌の治療および/または阻害のためのJAK1/2阻害剤の使用を提案している。この阻害剤の役割は、チェックポイントタンパク質であるPD-1、PD-L1、PD-L2、またはB7-H3の発現を低減(または、その発現の増加を阻害)すること、および/またはT細胞による腫瘍細胞の死滅を増大させること、および/またはチェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を増大させることである。この文献は、irAEを減少させるためのJAK阻害剤の使用を示唆していない。
【0010】
Esfahaniら(2020,Nat Rev Clin Oncol.2020 Aug;17(8):504-515))は、免疫チェックポイント阻害剤の有害作用、およびそれをどのように治療するかについて議論している総説である。この文献は、JAK-STAT経路について、これらの有害作用を(他の多くの方法の中で)治療するための潜在的な方法であると述べている。この文献は、JAK阻害剤が有効であり得ることを示すいかなるデータも示しておらず、実際に、ICIに応答したirAEの治療のためのJAK阻害剤の使用は未だ報告されるべきものであることを強調している。この文献には、成功の合理的な予測はなく、よくても、せいぜい研究プログラムの実施を示唆するものであろう。
【0011】
US2014/357557は、JAK阻害剤による炎症性疾患または自己免疫疾患の治療に関し、ICI誘発性irAEの治療のための使用については、記載も示唆もしていない。この文献がirAEについて議論していないことについては、ICIの幅広い利用は2016年頃に始まったばかりであり、よって、irAEの多くは、この文献が出版された時点では確認されていなかったので、驚くようなことではない。
【0012】
McGrathら(Neurotherapeutics.2018 Oct;15(4):976-994)は、自己免疫疾患の治療のためのJAK阻害剤の使用を開示しているが、ICI誘発性irAEの治療のための使用については、開示も示唆もしていない。
【0013】
Semperら(Lung Cancer.2016 Sep;99:117-9)は、有効な抗癌応答を示す患者におけるニボルマブを9サイクル行った後の、症候性の薬物誘発心筋炎の症例を示しているが、この有害作用を治療するためのJAK阻害剤の使用については、開示も示唆もしていない。
【0014】
Zhouら(2020,BMC Medicine 18:87)は、免疫関連有害事象(irAE)の発生と、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療を受けている患者における臨床的有効性との間の潜在的関連性に関する総説である。
【発明の開示】
【0015】
本願の実施例は、irAEが、対応する特発性の自己免疫有害事象とは異なり、かつ異なる作用機序を有する、独特な状態であることを示していることに留意すべきである。
【0016】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのJAK阻害剤に関する。
【0017】
特に、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される前記免疫関連有害事象は、中毒疹(例えば皮疹および/または潰瘍形成などの皮膚病変)、大腸炎または関節炎ではない。
【0018】
JAK阻害剤は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の発生または再発を予防するためにも使用され得る。この実施形態において、JAK阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用される。この実施形態において、ICIの投与を受ける患者は、JAK阻害剤を投与される時、いかなる有害事象も有していない。言い換えると、JAK阻害剤の投与は、いかなる有害事象もない状態で行われる。目的は、そのような有害事象の発生を回避することである。
【0019】
このような使用は、有害事象がde novo事象である、すなわち、既存の免疫状態と関連がない場合に、特に適切である。この実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤による治療を組み込む前に、患者が自己免疫疾患と診断されたことがない場合が好ましい。
【0020】
この提案された使用は、また、有害事象がT細胞および/またはマクロファージによって引き起こされる場合、すなわち、CD4+および/もしくはCD8+T細胞ならびに/またはCD68+マクロファージの浸潤が関与し、抗体の影響が最小限であるか、または抗体の影響がない(免疫沈殿物がない)場合にも、特別な興味の対象である。
【0021】
JAK阻害剤は、1つまたは複数のヤヌスキナーゼファミリーの酵素の活性を阻害し、それによってJAK-STATシグナル伝達経路を妨害する分子を指すことが意図されている。JAK/STATシグナル伝達経路の作用のいくつかの例は、コロニー刺激因子、プロラクチン、成長ホルモン、および多くのサイトカインの産生である。ヤヌスキナーゼ(またはJAK)は、細胞内の、4つの異なるサブタイプ、すなわちJAK1、JAK2、JAK3、およびTYK2からなる非受容体チロシンキナーゼファミリーである。JAK1、JAK2、およびTYK2は、ユビキタスに発現されるが、JAK3は、主に造血細胞に局在する。
【0022】
JAK阻害剤は、自己免疫疾患(特に、乾癬、関節リウマチ、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、ベーチェット病、多発性硬化症、または全身性エリテマトーデス)、免疫疾患または炎症性疾患、中枢神経系障害、移植臓器、過剰増殖性疾患(癌および骨髄増殖性疾患を含む)、ウイルス性疾患、代謝疾患および血管疾患、肺動脈高血圧、喘息、または慢性閉塞性肺疾患などの種々の疾患を治療するために使用することが提案されてきた。ファシチニブは、また、潰瘍性大腸炎のための治療法にも使用されてきた。これら全ての使用は、薬物誘発性ではなく、特発性と認定され得る疾患に関連する。
【0023】
多くの阻害剤が、この20年にわたって開発されており、それらのいくつかはユビキタス(JAKファミリーの2つ以上のキナーゼの活性を阻害する)であり、他のものはより特異的(基本的にJAKファミリーのただ1つのメンバーのキナーゼ活性を標的とする)である。
【0024】
一実施形態において、JAK阻害剤は、Tyk2阻害剤(TYK2 inhibitor)である。
【0025】
TYK2の阻害剤が、当該技術分野において、特にNorman(Expert Opin.Ther.Patents(2014)24(3):361-368)、Norman(Expert Opin.Ther.Patents(2012) 22(10):1233-1249)、Menet(Pharm.Pat.Anal.(2014)3(4)、449-466)またはHeら(Expert Opin Ther Pat.2019 Feb;29(2):137-149)において言及されている特許などの種々の特許に記載されている。
【0026】
さらに詳細には、DE102009015070A1は、N-[3-(4-アミノピリミジン-2-イル)アミノフェニル]尿素誘導体を開示している。WO2011113802は、3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-4-アミンおよび7H-プリン-6-アミンの誘導体を記載し、WO2012035039は、チアゾロ[5,4-c]ピリジン-4-アミンおよびチアゾロ[4,5-d]ピリミジン-7-アミンの誘導体を記載し、WO2012066061は、2H-ピラゾロ[4,3-c]ピリジン-2-アミン(pyri-din-2-amine)および2H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-アミンの誘導体を記載している。WO2012000970は、アリール置換二環式アミンの誘導体、5-フェニル-[1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-2-アミン(pyri-din-2-amine)(トリアゾロピリジンTyk2阻害剤)を記載し、WO2012062704は、2-アミノピリミジン(2-aminopyrimi-dine)、2-アミノ-1,3,5-トリアジンおよび2-アミノピリジン(単環式Tyk2阻害剤)の誘導体を記載し、WO2013174895は、ピリミジンベースのアナログをTyk2阻害剤として記載し、WO2015032423は、JAK1、JAK2、およびJAK3と比較してTYK2に対して高い選択性を示す置換された5-アミノ-2-フェニルオキサゾール-4-カルボキサミドを記載している。
【0027】
WO2015016206、WO2013146963およびWO2013125543は、2,4-ジアミノピリジン化合物を記載し(WO2013125543は、1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[4,3-c]ピリジン-4-オンスキャフォールドに基づく誘導体に関し、WO2013146963は、1-(2-アリールアミノピリミジン-4-イル)-ピロリジン-2-オン)の誘導体に関する)、JP2016-65023は、3-アミノ-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾロ[4,3-c]ピリジン-4-オンアナログを記載している。US20150299139、WO2015069310、US9505748、およびWO20180162889は、イミダゾ[1,2-b]ピリダジンスキャフォールドに基づく化合物を開示している。また、WO2015089143、WO2017087590、WO2018067432およびWO2018093968も言及され得る。特にWO2015016206の化合物は、高いTyk2阻害効果を示す。
【0028】
EP2634185は、TYK2に対して、ナノモル濃度の活性を有し、かつJAK1、JAK2およびJAK3と比較して高い選択性を有する5-アニリノ-2-(2-ハロフェニル)-オキサゾール-4-カルボキサミドの誘導体に関する。
【0029】
一実施形態において、JAK阻害剤は、JAK3阻害剤である。
【0030】
JAK3阻害剤は、当該技術分野において、特にDymockおよびSee(Expert Opin Ther Pat.2013 Apr;23(4):449-501)またはWilson(Expert Opin.Ther.Patents(2010)20(5):609-623)において言及されている特許および特許出願に記載されている。
【0031】
現在関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎および潰瘍性大腸炎を治療するために使用されているトファシチニブ(3-[(3R,4R)-4-メチル-3-[メチル(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)アミノ]ピペリジン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル)は、特別な興味の対象である。これは、WO200142246またはUS6956041に開示されている。
【0032】
また、臨床試験されているDecernotinib((2R)-2-メチル-2-[[2-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)ピリミジン-4-イル]アミノ]-N-(2,2,2-トリフルオロエチル)ブタンアミド)およびPF-06651600も引用され得る。
【0033】
また、ペフィシチニブ(4-[[(1R,3S)-5-ヒドロキシ-2-アダマンチル]アミノ]-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-5-カルボキサミド)も引用され得る。
【0034】
一実施形態において、JAK阻害剤は、JAK2阻害剤である。
【0035】
JAK2の阻害剤は、当該技術分野において、特にDymockおよびSee(Expert Opin Ther Pat.2013 Apr;23(4):449-501)またはKiss(Expert Opin Ther Pat.2010 Apr;20(4):471-95)において言及されている特許および特許出願において知られている。
【0036】
特に、WO2007053452に開示されているFedratinib(N-tert-ブチル-3-{5-メチル-2-[4-(2-ピロリジン-1-イル-エトキシ)-フェニルアミノ]-ピリミジン-4-イルアミノ}-ベンゼンスルホンアミド)が引用され得る。
【0037】
また、Gandotinib(3-(4-クロロ-2-フルオロベンジル)-2-メチル-N-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-8-(モルホリノメチル)イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-アミン)も引用され得る。
【0038】
また、レスタウルチニブ((5S,6S,8R)-6-ヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)-5-メチル-7,8,14,15-テトラヒドロ-5H-16-オキサ-4b,8a,14-トリアザ-5,8-メタノジベンゾ[b,h]シクロオクタ[jkl]シクロペンタ[e]-as-インダセン-13(6H)-オン)、またはPacritinib((16E)-11-[2-(1-ピロリジニル)エトキシ]-14,19-ジオキサ-5,7,26-トリアザテトラシクロ[19.3.1.12,6.18,12]ヘプタコサ-1(25),2(26),3,5,8,10,12(27),16,21,23-デカエン)も、興味の対象である。
【0039】
一実施形態において、JAK阻害剤は、JAK1阻害剤である。
【0040】
JAK1阻害剤の阻害剤(inhibitors of JAK1 inhibitors)は、特に、Norman(Expert Opin.Ther.Patents(2012)22(10):1233-1249)において言及されている特許または特許出願に記載されている。
【0041】
Oclacitinib(N-メチル{トランス-4-[メチル(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)アミノ]シクロヘキシル}メタンスルホンアミド)は、特別な興味の対象である。
【0042】
また、ウパダシチニブ((3S,4R)-3-エチル-4-(3H-イミダゾ[1,2-a]ピロロ[2,3-e]ピラジン-8-イル)-N-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピロリジン-1-カルボキサミド)も興味の対象である。これは、WO2009152133に記載されている。
【0043】
また、Filgotinib(N-[5-[4-[(1,1-ジオキソ-1,4-チアジナン-4-イル)メチル]フェニル]-[1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-2-イル]シクロプロパンカルボキサミド)も興味の対象である。
【0044】
また、アブロシチニブ(N-(シス-3-(メチル(7H-ピロロ(2,3-d)ピリミジン-4-イル)アミノ)シクロブチル)プロパン-1-スルホンアミド)も引用され得る。
【0045】
一実施形態において、JAK阻害剤は、JAK1/JAK2阻害剤である。
【0046】
ルキソリチニブ((3R)-3-シクロペンチル-3-[4-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)ピラゾール-1-イル]プロパンニトリル)は、サブタイプであるJAK1およびJAK2に対する選択性を有するヤヌスキナーゼ阻害剤(JAK阻害剤)である。これは、WO2007070514に記載されている。
【0047】
また、バリシチニブ(2-[1-エチルスルホニル-3-[4-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)ピラゾール-1-イル]アゼチジン-3-イル]アセトニトリル)も引用され得る。
【0048】
また、Momelotinib(N-(シアノメチル)-4-{2-[4-(モルホリン-4-イル)アニリノ]ピリミジン-4-イル}ベンズアミド)も興味の対象である。
【0049】
JAKファミリーの酵素の他の阻害剤もまた、WO2011113802、WO2012035039、WO2012066061、WO2013041539、WO2011130146、WO2013055645、WO2012160464、WO2014000032、WO2010142752およびWO2012160464、ならびにKettleら(Expert Opinion on Therapeutic Patents,27:2,127-143;Expert Opinion on Therapeutic Patents,27:2,145-161)に記載されている。
【0050】
また、TYK2、JAK1、JAK2、JAK3、FMS、およびSYKの阻害剤であるCerdulatinib(4-(シクロプロピルアミノ)-2-[4-(4-エチルスルホニルピペラジン-1-イル)アニリノ]ピリミジン-5-カルボキサミド)も引用され得る。
【0051】
したがって、JAK阻害剤は、有効量のJAK阻害剤を、それを必要とする患者に投与するステップを含む、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療するための方法において、またはその発生を予防するための方法において使用され得る。有効量(または治療量)は、有益な、または所望の結果(例えば、臨床結果(免疫関連有害事象の症状の軽減)など)を得るために十分な量である。「有効量」は、免疫関連有害事象の種類、およびそれが適用される文脈に依存し得る。本発明の文脈において、JAK阻害剤の有効量は、例えば、アゴニストの投与を行わずに得られる応答と比較して、免疫関連有害事象の重症度の軽減を達成するために十分な量である。
【0052】
チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象として、間質性肺炎、肝炎、下垂体炎、神経学的有害作用(脳炎、重症筋無力症、ギランバレー症候群を含む)、副腎有害作用、筋炎、心筋炎、血液学的有害作用(溶血性貧血、免疫血小板減少性紫斑病、および再生不良性貧血を含む)、腎炎、膵炎、および1型糖尿病が引用され得る。これら全ての疾患は、ICIの投与と関連付けられ得る。
【0053】
特に、前記の有害作用は、de novo効果であり、これは、ICIによる治療を開始する前には、患者においては存在しないか、または診断されていないことを意味する。
【0054】
JAK阻害剤の使用は、筋毒性(特に免疫介在性筋毒性)、特に劇症心筋炎または劇症横隔膜筋炎(横隔膜に関連する呼吸筋筋炎)のために、特別な興味の対象である。劇症心筋炎(FM)は、特異な臨床症状(抗PD1/PL1抗体とより頻繁に関連する)であり、かつ心筋炎の急性形態であり、その主要な特徴は、血行動態的サポートを必要とする急速進行性の臨床経過であり、これは、腫瘍および骨格筋に存在するものと同一の、心筋に浸潤した選択的クローンのT細胞集団の存在と関係していることが示されており、よって、このイベントは、T細胞によって引き起こされる薬物反応である。このT細胞によって引き起こされるメカニズムは、免疫介在性筋毒性について特徴的である。対照的に、免疫介在性大腸炎においては、自然免疫応答もまた関係している(腸内細菌叢および多核好中球の鍵となる役割によって証明されている)ため、病理機序は異なっている。特に、インフリキシマブは、ICI誘発性心筋炎を有する患者において、腎皮質ステロイド後の第一選択治療としては使用されないと考えられている(Cautelaら、Journal for ImmunoTherapy of Cancer 2020;8:e001887)が、一方で、ICI大腸炎は、抗TNFαによって治療され得る(Somら、World J Clin Cases.2019 Feb 26;7(4):405-418)。
【0055】
この種類の劇症心筋炎は、ヒトに存在する場合、抗体とはほとんど関連がない。
【0056】
JAK阻害剤がルキソリチニブ、トファシチニブ、オクラシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、フェドラチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、セルデュラチニブ、ガンドチニブ、レスタウルチニブ、モメロチニブ、パクリチニブおよびアブロシチニブからなる群から選択される場合が好ましい。
【0057】
ルキソリチニブは、特別な興味の対象である。
【0058】
トファシチニブもまた、特別な興味の対象である。
【0059】
バリシチニブもまた、特別な興味の対象である。
【0060】
有害作用が生じる前の患者の治療のために使用される免疫チェックポイント阻害剤は、このクラスの中の任意のこのような薬物である。
【0061】
特に、以下のものが引用され得る。
PD-1阻害剤:IgG4 PD1抗体であるニボルマブ、ペンブロリズマブ、パルタリズマブ(PDR001)(Novartisが開発)、ピディリズマブ(Cure Techが開発)、AMP-224またはAMP-514(どちらもGlaxoSmithKlineが開発)、セミプリマブ(RegeneronおよびSanofiが開発)、トリパリマブ(Shanghai Junshiが開発)、スパルタリズマブ(Novartisが開発)、セトレリマブ(JNJ-63723283)(Janssenが開発)、またはササンリマブ(PF-06801591)(Pfizerが開発)。
【0062】
PD-L1阻害剤:アテゾリズマブ(Roche Genentechが開発)、アベルマブ(Merck SeronoおよびPfizerが開発)、またはデュルバルマブ(AstraZenecaが開発)。
【0063】
抗CTLA4:イピリムマブまたはトレメリムマブ。
【0064】
JAK阻害剤は、製造業者によって正式に定められた用量と同等の用量で、またはそれよりも最大で4倍高い用量で、さらには10倍高い用量で、当該技術分野のグッドプラクティスに従って使用される。適切な用量の選択は、臨床症状の重症度および治療の進展に応じて、医師によって行われ得る。
【0065】
例示として、現在のルキソリチニブの投与は、疾患、および血小板量に応じて、5mg~20mg、1日2回からなる。トファシチニブもまた、このような類の量(5mg~20mg、1日2回)で投与される。
【0066】
よって、JAK阻害剤が多数投与、特に毎日多数回投与によって投与される場合が好ましい。例示として、JAK阻害剤は、患者に対して、毎日2回投与され得る。
【0067】
上述のように、患者に投与される用量は、治療的に有効であるように選択される。よって、有害作用の速やかな低減を試みるために、最初の投与として、そのような製品をより高い用量で使用し、その後、患者の臨床状態が改善したらその用量を低減することが可能である。
【0068】
患者の全身状態が改善したら、患者へのJAK阻害剤の投与を制限し、また、治療を中止することが一般に想定されている。特定の実施形態において、治療は、数週間、または最大数か月間継続すべきである。例えば、治療は、約3~20週間、一般に約4~10週間継続してもよい。このケースにおいて、患者に提供されるJAK阻害剤は、多数回投与されるであろう。
【0069】
JAK阻害剤は、一般に、経口投与に適した形態である。しかしながら、注射投与に適した形態であってもよい。好ましくは、そのような投与は、静脈内注射、筋肉内注射または皮下注射である。
【0070】
特定の実施形態において、JAK阻害剤は、徐放性組成物の形態であり、これによって投与回数の低減が可能になるであろう。
【0071】
実施例で免疫抑制剤の使用が含まれていない場合であっても、COVID-19パンデミックの文脈において、有害作用を治療するために、JAK阻害剤と一緒に免疫抑制剤を使用することは興味の対象である。
【0072】
JAK阻害剤の投与と組み合わせて、上記のように、高用量の糖質コルチコイド(最大1g/日のメチルプレドニゾン等価量を数日間)および/または他の免疫抑制剤もまた使用され得る。後者の免疫抑制剤は、好ましくは、代謝拮抗剤(例えば、ミコフェノール酸モフェチル(mycofenolate mofetil)、アザチオプリン、メトトレキセートなど)、抗カルシニューリン(カルシニューリン阻害剤とも呼ばれる)(シクロスポリン、タクロリムス)、mTOR阻害剤(シロリムス、テムシロリムス、エベロリムス)、抗サイモグルビン(anti-thymoglubin)、静注用免疫グロブリン、インターロイキン6阻害剤(トシリズマブ、シルツキシマブ、サリルマブ、シルクマブ、olokizumab、clazakizumab)、インターロイキン1経路阻害剤(アナキンラ、リロナセプト、カナキヌマブ)、TNF-α阻害剤、CTLA4アゴニストまたは抗CD28である。使用され得る他の化合物としては、バシリキシマブ(マウス-ヒトキメラモノクローナル抗体)またはダクリズマブ(どちらも、T細胞のIL-2受容体のα鎖(CD25)に結合する)、トシリズマブ(atlizumabとしても知られる、インターロイキン6受容体(IL-6R)に対するヒト化モノクローナル抗体)、およびアレムツズマブ(CD52に結合するモノクローナル抗体)もあげられる。
【0073】
コルチコイドを使用することは、特別な興味の対象である。別の実施形態において、CTLA4アゴニスト、特にアバタセプトまたはベラタセプトを使用することは、興味の対象である。静注用免疫グロブリン(IVIg)も使用され得る。コルチコイドおよびCTLA4アゴニスト(特にアバタセプト)と組み合わせて、JAK阻害剤が使用され得る。
【0074】
また、循環中の免疫チェックポイント阻害剤の薬物レベルを低下させるために、プラスマフェレーシスを用いることも可能である。このケースにおいて、JAK阻害剤(特にルキソリチニブまたはトファシチニブ)の投与スキームは、適合させる必要がある。
【0075】
本発明は、また、上述のような使用のためのJAK阻害剤にも関し、これは、別の免疫抑制剤、または以下に開示されている、糖質コルチコイド、代謝拮抗剤(例えば、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオトリン(azathiatrine)、メトトレキセートなど)、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン、タクロリムス)、mTOR阻害剤(mtor inhibitors)(シロリムス、テムシロリムス、エベロリムス)、抗サイモグルビン(anti-thymoglubin)、静注用免疫グロブリン、インターロイキン6阻害剤(トシリズマブ、シルツキシマブ)、抗CD52(アレムツズマブ)、抗CD25(バシリキシマブ、ダクリズマブ)、インターロイキン1経路阻害剤(アナキンラ、リロナセプト、カナキヌマブ)、TNF-α阻害剤、IVIgおよび抗CD28を含む任意の他の薬剤と共に投与される。この共投与は、同時、個別または連続的(時間と共に広がる)であり得る。
【0076】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、JAK阻害剤と、免疫抑制剤または上に開示されている任意の他の薬物とを含む組成物にも関する。
【0077】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のJAK阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0078】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのJAK阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、JAK阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。上述のように、このようなプラスマフェレーシスによって、患者の循環中の免疫チェックポイント阻害剤レベルを低下させることが可能になる。
【0079】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のJAK阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0080】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているJAK阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0081】
本発明によって、免疫チェックポイント阻害剤(ICI-irAE)に関連する重篤な免疫関連有害事象の発生または再発を予防することが可能になる。実際に、本明細書に記載されているトランスクリプトーム分析の結果によって、遺伝子発現に関して、ICI誘発性筋炎(ICIinduced myositis)は特発性炎症性ミオパチーとは異なることが示されている。よって、JAK阻害剤とICIの投与を組み合わせることが想定される。
【0082】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、JAK阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0083】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のJAK阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0084】
癌は、特に、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、結腸直腸癌、胃肉腫、グリオーマ、癌、リンパ腫、急性および慢性リンパ性白血病ならびに急性および慢性骨髄性白血病、メラノーマ、多発性骨髄腫、骨肉腫、卵巣癌、膵癌、立腺癌、胃癌、腎癌、頭頚部腫瘍、および固形腫瘍からなる群から選択される。
【0085】
特に、ニボルマブとルキソリチニブを、特に肺腺癌(転移性であった場合であっても)を治療するために、組み合わせることが可能である。
【0086】
図1に示すように、STAT1、IFI6、TAP1、IRF1、FCγR3A遺伝子は大幅にアップレギュレーションされていたのに対し、STAT2、STAT3およびSTAT6遺伝子もまたアップレギュレーションされていたが、そのレベルは低かった。
【0087】
よって、これらの遺伝子(DNAまたはRNA)またはタンパク質の阻害剤を、JAK阻害剤と同様のやり方で使用することが想定される。実際に、より特異的であるように、かつJAK阻害剤の投与と関連し得る有害作用を潜在的に減少させるように、JAKの下流に位置する遺伝子、RNAまたはタンパク質のための阻害剤を使用することが有利であり得る。
【0088】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのSTAT1の阻害剤に関する。
【0089】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、STAT1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0090】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、STAT1の阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0091】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のSTAT1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0092】
本発明は、また、それを必要とする患者において、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療に使用するための、STAT1の阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、STAT1阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0093】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のSTAT1の阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0094】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているSTAT1の阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0095】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、STAT1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0096】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のSTAT1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0097】
STAT1の阻害剤として、例として、フルダラビン(CAS番号21679-14-1)(これは、STAT1活性化阻害剤(これは、正常細胞と癌細胞の両方においてSTAT1リン酸化を阻害することによって、STAT1をダウンレギュレーションする)であるが、他のSTATの活性化阻害剤ではない)が引用され得る。これは、種々の血液悪性腫瘍(例えば慢性リンパ性白血病など)を治療するために使用される。
【0098】
また、ニフロキサジド(CAS965-52-6、一般に止瀉薬として使用される経口ニトロフラン抗生物質)が引用され得る。
【0099】
また、PIAS(活性化STATのタンパク質阻害剤)タンパク質(Liuら、Proc Natl Acad Sci USA,1998 Sep 1;95(18):10626-31)も使用され得る。
【0100】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのIFI6(インターフェロンアルファ誘導性タンパク質6)の阻害剤に関する。
【0101】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IFI6の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0102】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IFI6の阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0103】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のIFI6の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0104】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのIFI6の阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、IFI6阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0105】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のIFI6の阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0106】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているIFI6の阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0107】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IFI6の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0108】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のIFI6の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0109】
IFI6の阻害剤として、このタンパク質に対する抗体が(種々の企業(Sigma Aldrich、Thermofisher)によって開発および販売されているものとして)使用され得る。
【0110】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのTAP1(抗原プロセシング1関連トランスポーター)阻害剤に関する。
【0111】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、TAP1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0112】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、TAP1の阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0113】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のTAP1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0114】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのTAP1の阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、TAP1阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0115】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のTAP1の阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0116】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているTAP1の阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0117】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、TAP1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0118】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のTAP1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0119】
TAP1阻害剤として、ウイルスTAP阻害剤であるICP47(Matschullaら、Sci Rep 7,2933(2017))が引用され得る。
【0120】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのIRF1の阻害剤(インターフェロン調節因子1)に関する。
【0121】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IRF1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0122】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IRF1の阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0123】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のIRF1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0124】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのIRF1の阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、IRF1阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0125】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のIRF1の阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0126】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているIRF1の阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0127】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、IRF1の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0128】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のIRF1の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0129】
IRF1阻害戦略として、Szelagら(Oncotarget.2016 Jul 26;7(30):48788-48812)に列挙されているもの(例えば、siRNA、ミノサイクリン(Nikodemovaら、J Biol Chem.2007 May 18;282(20):15208-16)、もしくはHS-Cf(Liuら、J Clin Immunol.2011 Dec;31(6):1131-42)を使用する)、またはAntoczyk(Front.Immunol.,24 May 2019|https://doi.org/10.3389/fimmu.2019.01176)に列挙されているものが使用され得る。
【0130】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのFCγR3A(Fcガンマ受容体3A)阻害剤に関する。
【0131】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、FCγR3A阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0132】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、FCγR3A阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0133】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のFCγR3A阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0134】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのFCγR3A阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、FCγR3A阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0135】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のFCγR3A阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0136】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているFCγR3A阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0137】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、FCγR3A阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0138】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のFCγR3A阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【0139】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される免疫関連有害事象の治療に使用するためのSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤に関する。
【0140】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、 STAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0141】
よって、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療または予防における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、STAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤と免疫抑制剤を含む組成物に関する。
【0142】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫抑制剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防するための方法にも関する。
【0143】
本発明は、また、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象の治療において、それを必要とする患者に使用するためのSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤にも関し、ここで、前記患者は、IRF1阻害剤の投与前にプラスマフェレーシスを受けている。
【0144】
本発明は、また、それを必要とする対象を治療するための方法であって、ここで、前記対照は、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害作用を呈しており、前記対象に対して(前記対象の循環中の免疫チェックポイント阻害剤のレベルを低下させるために)プラスマフェレーシスを行うこと、ならびに前記プラスマフェレーシスの前および後に有効量のSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤を(単独で、または別の免疫抑制剤と共に)投与することを含む、方法にも関する。
【0145】
本発明は、また、対象における、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって誘発される有害事象を治療または予防することを意図する薬剤を調製するための、上に開示されているSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤の使用にも関する。この薬剤は、また、上に開示されている免疫抑制剤を含む組合せでもあり得る。
【0146】
よって、本発明は、癌の治療における、同時使用、個別使用または連続的(時間と共に広がる)使用のための、STAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物に関する。
【0147】
本発明は、また、それを必要とする対象に治療有効量のSTAT2、STAT3またはSTAT6の阻害剤を投与することを含むと共に、前記対象に有効量の免疫チェックポイント阻害剤を同時、個別または連続的(時間と共に広がる)に投与する、対象において癌を治療するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【
図1】空間的トランスクリプトーム分析を、筋炎を有するICI患者由来の筋バイオプシー(n=5)および組織学的に正常な筋組織(n=5;筋炎を有さないICI患者または非ICI患者由来)に対して行った。教師なしクラスター分析によって、炎症性浸潤を有する領域に対応する2つ(クラスター1および12)を含む、13のクラスターが同定された。炎症性クラスター(1および12)、および炎症性浸潤を有さない2つの代表的なクラスター(0および2)において、JAK1/2-STAT1刺激遺伝子のアップレギュレーションが示された。
【実施例】
【0149】
実施例1
67歳の男性が、転移性肺腺癌について、第二選択療法としてニボルマブによる治療を受けたが、ニボルマブによる2回の治療の後(治療開始の4週間後)、筋肉痛、複視および両側性下垂を発症した。
【0150】
筋炎は、上昇したクレアチンキナーゼレベルに起因することが疑われ、筋バイオプシーによって確認された。心筋炎は、トロポニン上昇、心室性期外収縮および左室駆出率の低下によって確認されたが、血管造影図上では急性冠動脈症候群の徴候は見られなかった。
【0151】
患者は、糖質コルチコイドによる治療を受け、プラスマフェレーシスで1回の血漿交換を行った。しかしながら、SARS-Cov-2感染が陽性(入院中に検出された)であり、またその時のCOVID-19のための糖質コルチコイドの使用が不明であったため、副腎皮質ステロイドを漸減させた。
【0152】
ルキソリチニブを開始(15mg、毎日2回)したところ、トロポニンが速やかに低下し、動眼障害が改善した。15mg、毎日2回で1か月間ルキソリチニブを継続したところ、筋毒性は完全に消失し、3か月において、腫瘍進行のエビデンスは存在しなかった。
【0153】
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)関連筋毒性(心筋炎および筋炎)は、希発であるが、潜在的に致死的な免疫関連有害事象(irAE)である。病理学的には、ICI筋毒性は、マクロファージおよびTリンパ球の筋浸潤によって特徴付けられ、筋壊死のメカニズムは、部分的には、インターフェロンなどの炎症性サイトカインの産生が原因である。
【0154】
JAK1およびJAK2の経口選択的阻害剤であるルキソリチニブは、筋毒性症状の軽減をもたらし、フォローアップにおいて、腫瘍進展に対する効果はなかった。
【0155】
これは、重篤なICI-irAEの治療における、JAK阻害剤の役割を示している。
【0156】
さらに10人の患者を治療した。ここで、ICI曝露に関連する筋毒性は、全ての種類の免疫関連有害事象irAEの中で、最も高い致死率を有することに留意されたい。専門家によって現在推奨されている唯一の治療は、第一線の副腎皮質ステロイドであるが、患者は、副腎皮質ステロイドに対して、しばしば無反応性である。最終的に、筋毒性を有する患者において、アバタセプトのポジティブな効果が見られた(WO2020/161045)ことが想起される。これらのICI筋毒性を有する患者(patients with and ICI-myotoxicity)についての生命を脅かす重度の心血管および筋毒性イベントを低減させるために、副腎皮質ステロイドおよびアバタセプトと組み合わせてJAK阻害剤を使用した。JAK阻害剤は、副腎皮質ステロイド用量を低減するためにも使用されたが、これは、副腎皮質ステロイドは(i)ICIの効力低下、および(ii)感染性および代謝性合併症のリスク上昇に関係するためである。
【0157】
患者:
irAEを有する11人のICI患者を試験した。患者は、69.9±13.2歳であり、多くが男性(73%)であった。4人の患者は腺癌(結腸:n=1;肺:n=2および子宮:n=1)を有しており、3人の患者は類表皮癌(皮膚:n=1;中咽頭:n=1;原発不明:n=1)を有しており、2人は尿路上皮癌または腎癌を有しており、1人は胸腺腫を有しており、1人はメラノーマを有していた。
【0158】
患者は、抗PD1/PDL-1療法(PD1:n=10;PDL1:n=1)で治療した。ICI曝露からirAEの発症までの平均期間は、47.9±44.1日であり、全ての患者は、心筋炎ならびに/または呼吸筋および末梢筋に関わる筋炎と診断された。6人は、併存性のirAEを有しており、そのうち5人は筋無力症様の症状、1人は肝炎、1人は甲状腺炎を有していた。
【0159】
全ての患者は、≧1mg/kg/日のプレドニゾン投与を受けた。1人(上述の67歳の患者)を除く全員は、アバタセプトと組み合わせてJAK阻害剤の投与を受けた。最初の患者は、SARS-CoV2についても陽性であったためアバタセプトの投与を受けなかったが、上述のように良好に進展した。アバタセプトの用量および注射の回数は、体重および臨床的応答に基づくものであった。
【0160】
治療:
ルキソリニチニブ(Ruxolinitinib)(JAK1/2阻害剤)をJAK阻害剤として使用した。ルキソリチニブの薬量は、ヘモグロビンレベルおよびICI筋毒性の進展経過に応じて10~30mg/日であった。JAK阻害剤の治療期間は、患者のアウトカムおよび血液学的耐容性に応じて12~31日間の範囲であった。
【0161】
患者のアウトカム:
最初の3か月のフォローアップの間、11人の患者の中に、irAE関連死は記録されなかった(3人の死亡が記録されたが、irAEに関連するものではなかった(出血性choc:n=1;COVID19:n=2)。全ての併存するirAEは、良好に進展した。
【0162】
実施例2
ICI誘発性筋炎に関連する病理学的メカニズムを、正常組織または他の特発性炎症性ミオパチー(傍腫瘍性皮膚筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチー、封入体筋炎)と比較して同定するために、筋組織のRNAシークエンシングを行った。合計で30のサンプル(6人の患者のグループが5つ)を、教師なし分析、特異的発現遺伝子の分析、およびパスウェイ解析を用いて分析した。
【0163】
ICI誘発性筋炎は、両方の対照および他の種類の筋炎を有する患者とは異なる、ユニークなサブグループに集中していた。これらの結果は、ICI誘発性筋炎の病理機序(遺伝子発現)が特異的であることを示している。
【0164】
ICI誘発性筋炎は、健常対象と比較して特異的に発現している6000を超える遺伝子のクラスターを示していた。遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)を、アップレギュレーションされている遺伝子およびダウンレギュレーションされている遺伝子に関して行った。上位10個の同定された経路において、インターフェロンγ媒介シグナル伝達経路およびI型インターフェロンシグナル伝達経路が見出され、これは、JAK-STAT経路の重要性を示している。
【0165】
より詳細には、irAEが対応する特発性の有害事象に対して示す臨床的類似性は限られているにもかかわらず、ICIは、ユニークな病理機序を誘導する。特発性筋炎(DM:皮膚筋炎;IBM:封入体筋炎;IMNM:免疫介在性壊死性ミオパチーおよびHD:健常ドナー)およびICI誘発性筋炎を有する患者由来の筋組織のバルクトランスクリプトーム分析を行った。
【0166】
教師なしクラスター分析によって、irAEは、CD8+T細胞に関係する特発性の自己免疫疾患とは異なるユニークなクラスターを示すことが実証され、これは、伝統的な治療手段が、必ずしもirAEにあてはまり得るものではないことを示す。よって、irAEは、対応する特発性の自己免疫有害事象とは異なる、ユニークな状態である。
【0167】
irAEの特異的な病理機序を明らかにするために、まず、ICI筋炎を有する患者(n=10)およびICI対照の患者(n=10)において、末梢血単核球FACS分析を行った。
【0168】
ICI筋炎において、活性化した表現型を有するCD8+T細胞集団の減少が見られ、筋肉ホーミングが示唆された。実際に、ICI筋炎(n=5)の筋肉の空間的トランスクリプトーム分析によって、対象の筋肉(n=5;正常な組織学的筋肉)と比較して、CD8+T細胞の富化が示された(10x Genomics(登録商標))。細胞デコンボリューション解析(炎症性クラスターにおけるxCellシグネチャー解析)によって、CD8+T細胞は、細胞傷害活性を有する活性化した表現型(グランザイムおよびパーフォリン)を示すことが実証された。
【0169】
免疫パスウェイ解析(IPA、Ingenuty(登録商標))によって、JAK1/2-STAT1刺激遺伝子のアップレギュレーションによるインターフェロン(IFN)-γシグナル伝達の活性化が裏付けられた。
【0170】
特に、STAT1、IFI6、TAP1、IRF1、FCγR3Aは、ICI患者における筋肉の炎症がある領域で、炎症がない領域と比較して(ICI患者と対照)大幅にアップレギュレーションされていたが、STAT2、STAT3およびSTAT6もまた、少し小幅ではあるが、アップレギュレーションされていた[
図1]。よって、JAK1/2経路の下流の遺伝子は、炎症性クラスターにおいてアップレギュレーションされ、非炎症性クラスターにおいてはアップレギュレーションされない(0および2)。
【0171】
JAKは中程度にアップレギュレーションされることが認められ得るが、これは、JAKはリン酸化された際に活性化されるだけであるという事実に基づくと考えられている。
【0172】
よって、irAEは、JAK/STATシグナル伝達に関与する、CD8+T細胞によって引き起こされる状態である。
【0173】
CD8+T細胞に加えて、ICI-筋炎患者の筋肉内に高密度の単球/マクロファージが見出された。空間的トランスクリプトーム分析によって、マクロファージは、IFN-γを産生するTh1リンパ球に応答して、炎症誘発性表現型(ファゴサイトーシスおよび炎症性サイトカイン産生:M1極性化)を示すことが示された。
【0174】
IFNγ-JAK-STAT経路は、CXCL-9ケモカインおよびCXCL-10ケモカインの産生において、決定的な役割を果たし、これは、ICI筋炎中で(炎症性クラスター中で)大幅にアップレギュレーションされることが見出された。CXCL-9/10は、CD8+T細胞の動員のために決定的に重要である。
【0175】
合わせると、これらのデータによって、筋肉内の細胞傷害性CD8+T細胞の存在、およびIFNγ-JAK-STAT経路の強い活性化が示された。筋肉の損傷およびIFNγ-Th1環境によって、マクロファージのM1極性化が引き起こされる。M1マクロファージにおけるIFNγ-JAK-STAT活性化は、CXCL9/10ケモカインによって、CD8+T細胞の動員をもたらす。
【国際調査報告】