(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】リラグルチドおよびゲフィチニブの抗ウイルスとしての使用
(51)【国際特許分類】
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【FI】
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A61P43/00 121
C07K14/575
C12N15/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507260
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2021071405
(87)【国際公開番号】W WO2022023533
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523032995
【氏名又は名称】デルタ 4 ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】ペルコ,ポール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、コロナウイルスによる感染に起因するまたはそれと関連する疾患症状の予防的もしくは治療的処置における使用のための有効量のリラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せを含む医薬製剤について言及する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスによる感染に起因する、又は関連する疾患症状の予防的もしくは治療的処置における使用のための有効量のリラグルチド、又はゲフィチニブ、又はそれらの塩若しくは溶媒和物を含む、医薬製剤。
【請求項2】
コロナウイルスが、βコロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-OC43及びHCoV-HKU1からなる群から選択される、又はその突然変異体である、請求項1に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項3】
リラグルチド又はゲフィチニブ及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬品又は薬物製品である、請求項1又は2に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項4】
疾患症状が、一般的な風邪、鼻、のど及び喉頭の感染症、副鼻腔炎、細気管支炎、下痢、皮膚の発疹、肺炎、又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、中枢神経系の病徴、肝臓脂肪症、門脈線維症、リンパ球浸潤および細管増生の発症、小葉胆汁うっ滞、急性肝臓細胞壊死、中心静脈血栓症、腎近位尿細管傷害、巣状膵炎、副腎皮質過形成、並びに脾臓及びリンパ節のリンパ球枯渇、浮腫、ヒアリン膜症、及び肺細胞及び線維芽細胞の増殖、内皮損傷によって特に特徴付けられる肺胞損傷である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項5】
抗ウイルス有効量が、ウイルスに感染性の細胞の感染を防止し、それにより疾患症状を処置するのに有効である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項6】
リラグルチドが、配列His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(1)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(配列番号1)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項7】
約50ng~1gのリラグルチドを含む、請求項6に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項8】
ゲフィチニブが、構造
【化1】
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項9】
製剤が、約50ng~1gのゲフィチニブを含む、請求項8に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項10】
局所投与用、好ましくは上下気道、経鼻、肺、口腔内、眼若しくは皮膚使用への適用用として、又は全身投与用、好ましくは非経口投与用として処方される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項11】
非経口投与用製剤を特に含む、スプレー剤、粉剤、ゲル剤、軟膏、乳剤、泡若しくは液体溶液剤、ローション剤、パッチ剤、うがい溶液、エアロゾル化粉剤、エアロゾル化液体処方、顆粒剤、カプセル剤として対象に投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項12】
製剤が、唯一の物質として投与される、又は処置が、抗ウイルス、抗炎症及び抗生物質からなる群から選択される1つ若しくは複数の活性物質によるさらなる処置と組み合わされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項13】
スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメル、オーラノフィン及びデキサメタゾンからなる群から選択される活性薬剤と組み合わせて投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項14】
コロナウイルスに感染した又は感染する危険性がある対象が処置される、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための医薬製剤。
【請求項15】
有効量のリラグルチド、又はゲフィチニブ、又はそれらの塩、溶媒和物を含み、スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメル、オーラノフィン及びデキサメタゾンからなる群から選択される活性薬剤をさらに含む、医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス科のウイルス感染を処置するためのリラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩もしくは溶媒和物に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、らせん対称のヌクレオカプシドを有する、関連する一本鎖のエンベロープ型RNAウイルスの一群である。コロナウイルスは、リボウイルス域、ニドウイルス目、コロナウイルス科のオルトコロナウイルス亜科を構成する。
【0003】
ゲノム構造に基づいて4つの主要なウイルスサブグループ(アルファ、ベータ、ガンマおよびデルタコロナウイルス)が存在する。
コロナウイルスのゲノムサイズは、およそ26~32キロベースの範囲であり、RNAウイルスの中では最大級のものである。コロナウイルスは、表面から突出する特徴的な棍棒形状のスパイクを有する。コロナウイルスは、ふくらんだ表面突起を持つ大きな、およそ球状の粒子である。ウイルス粒子の平均直径は、およそ125nm(0.125μm)である。電子顕微鏡写真におけるウイルスのエンベロープは、固有の1対の高電子密度のシェルとして現れる。ウイルスエンベロープは、脂質二重層からなり、膜(M)、エンベロープ(E)およびスパイク(S)構造タンパク質は、その中に固定されている。脂質二重層におけるE:S:Mの比は、およそ1:20:300である。平均して、コロナウイルス粒子は74個の表面スパイクを有する。一部のコロナウイルス(特にベータコロナウイルスサブグループAのメンバー)も、赤血球凝集素エステラーゼ(HE)と呼ばれるより短いスパイク様表面タンパク質を有する。
【0004】
エンベロープ内には、複数コピーのヌクレオカプシド(N)タンパク質から形成され、連続的な数珠玉型配座でプラスセンス一本鎖RNAゲノムに結合しているヌクレオカプシドが存在する。脂質二重層エンベロープ、膜タンパク質およびヌクレオカプシドは、ウイルスが宿主細胞外にある場合にそれを保護する。
【0005】
コロナウイルスは、突然変異および組換えの影響を受けやすく、そのため多様性が高い。約40種の異なる変種が存在し、それらは、主にヒトおよびヒト以外の哺乳動物ならびに鳥類を感染させる。それらは、コウモリおよび野鳥内に生息し、他の動物、それゆえヒトに伝播する場合がある。
【0006】
2019年12月までは、異なる6種のコロナウイルスのみがヒトを感染させるということが公知であった。このうち4つ(HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-OC43およびHKU1)は、正常免疫の人において軽度の感冒型病徴を通常引き起こし、他の2つは、過去20年間に汎発流行を引き起こしてきた。
【0007】
主に呼吸器疾患として現れるCOVID-19の主要な原因である新規コロナウイルスSARS-CoV-2の大発生は、3カ月未満に7百万人を超える患者の感染を招いた。COVID-19の結果400000人を超える患者が死亡し、多くの地域において感染率はなお強く増大している。現在のところ、証明されている利用可能な安全かつ効果的な療法は存在しない。
【0008】
新規コロナウイルスに関する一連の証拠は急速に増加しているが、正確な病理生物学的機序は依然として不明である。しかしながら、コロナウイルス関連SARSの汎発流行2002/2003年(感染患者8000人、死亡率およそ10%)およびMERSの流行2012年(感染患者2500人、死亡率およそ36%)のこれまでの大発生のため、近縁種であるウイルス疾患に利用可能な一連の証拠は存在する。
【0009】
Nakhleh A.らは、コロナウイルス疾患がある2型糖尿病患者の血糖管理およびインスリン療法の考え得る利益について報告している[American Journal of Physiology、2020年、318(6)、E835~E837頁]。
【0010】
Jin T.らは、COVID-19疾患の処置のためのGLP-1に基づく薬物および考え得るその使用について報告している[Acta Pharmaceutica Sinica B、2020年、10(7)、1249~1250頁]。
【0011】
Stoian A.P.らは、Covid-19処置におけるDPPIV阻害薬の考え得る使用およびその役割について開示している[Journal of Cardiovascular Pharmacology and Therapeutics、2020年、25(6)、494~496頁]。
【0012】
Lee M.Y.およびJin T.は、リラグルチドによるC型肝炎ウイルス複製の阻害を報告している[International Journal of Molecular Sciences、2019年、20(18)、4569頁]
Duparc T.らは、リラグルチドが、非アルコール性脂肪性肝炎の動物モデルにおいて肝臓脂肪症および代謝機能不全を改善することを開示している(bioRxiv、前刷り、2019年、1~22頁)。
【0013】
Salgado-Benvindo C.らによると、細胞培養においてSARS-CoV-2感染は、複製サイクルの初期工程と干渉することによりスラミンによって阻害される。[Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2020年、64(8)]。
【0014】
Smetana K.らは、Covid-19関連サイトカインストームおよびARDSを防止するのに有望な候補としてラロキシフェンおよびバゼドキシフェンを開示している[International Journal of Experimental and Clinical Pathophysiology and Drug research、2020年、34(5)、3027~3028頁]。
【0015】
Shamsi A.らは、グレカプレビルおよびマラビロクが、SARS-CoV-2主要プロテアーゼの阻害薬であることを報告している[Bioscience Reports、2020年、40(6)]。
【0016】
Lan L.は、SARS-CoV-2プロテアーゼの阻害薬であるマラビロクの使用について報告している(英国科学者:ザベスカが、新規コロナウイルスを阻害すると期待される、2020年、URL:10.1152/ajpendo.00163.2020)。
【0017】
Machado M.E.らは、Covid-19主要プロテアーゼの考え得る阻害剤の分子ドッキングに基づくスクリーニング方法を報告している[Microbial Pathogenesis、2020年、148、1~6頁]。
【0018】
Rothan H.Aらは、オーラノフィンがコロナウイルスの複製を阻害し、ヒト細胞において炎症を緩和すると報告している[Virology、2020年、547、7~11頁]。
【0019】
Gurjarらは、COVID-19疾患を標的するための潜在的候補として抗がん薬のスクリーニングについて報告している(chemRxiv、前刷り、2020年、1~15頁)。
【0020】
Hondermarck H.らは、ウイルス感染における成長因子受容体の役割について検討している[Faseb BioAdvances、2020年、第2巻(5)、296~303頁]。
【0021】
Venkataraman T.およびFrieman M.Bは、SARS-COV-2誘導性肺線維症におけるEGFRシグナル伝達の役割に言及している[Antiviral Research、Elsevier BV、NL、2017年、第143巻、142~150頁]。
【0022】
公知の医薬化合物を再利用する機会および課題が、Schor S.およびEinav S.[ACS Infectious Diseases、2018年、第4巻(2)、88~92頁]において検討されている。
【0023】
Taurin S.らは、乳がんの処置に対するゲフィチニブとラロキシフェンの組合せの使用について検討している(Cancer Research、American Association for Cancer Research、US、2012年、第72巻、補遺8、4669頁)。
【0024】
CN105138862Aは、乳がんの処置に対するゲフィチニブとキナクリンの組合せの使用について報告している。
治療的選択肢は、ワクチン療法と非ワクチン療法に分けるられうる。専門家によると、新規コロナウイルスに対する安全かつ効果的なワクチンの開発には、最良の場合でも18カ月かかることになる。したがって、非ワクチン療法は、COVID-19の伝播を減速する(抗ウイルス薬)または免疫系の異常調節および制御の効かない炎症反応によってしばしば誘発される呼吸器疾患の影響を和らげる(抗炎症薬)に役に立ちうる。
【0025】
ウイルス感染ならびに/またはウイルス伝播を防止するために、特にウイルスに曝露されたもしくは感染した、もしくは感染する危険性がある対象において使用されうる抗ウイルス処置、医薬品および医薬産物の必要性は依然として高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
目的は、本特許請求の主題によってさらに本明細書に記載されるように解決される。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、コロナウイルスによる感染に起因するまたはそれと関連する疾患症状の予防もしくは治療的処置における使用のための有効量のリラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せを含む医薬製剤を提供する。
【0028】
特定の実施形態においてリラグルチドおよびゲフィチニブまたはその塩もしくは溶媒和物の組合せが、コロナウイルスによる感染に起因するまたはそれと関連する疾患症状の予防もしくは治療的処置に使用するために本明細書に提供される。
【0029】
特定の態様によると、コロナウイルス種は、人畜共通感染症など、ヒトおよびヒト以外のコロナウイルス科ウイルス、特に、季節感染もしくは汎発流行の間に進化する可能性がある突然変異体を含めた天然に存在するコロナウイルス、または天然に存在する突然変異体を予測するために人工的に進化させた突然変異体から選択される。
【0030】
特に、コロナウイルスは、βコロナウイルス、より具体的にはヒトβコロナウイルスである。βコロナウイルス属内では、4つの系統(即ちA、B、CおよびD)が、一般に認識されている。特に、βコロナウイルスは、SARS-CoVもしくはSARS-CoV-2などのB系統(サルベコウイルス亜属)のもの、またはMERS-CoVなどのC系統(メルベコウイルス亜属)のもの、またはHCoV-NL63、HCoV 229E、HCoV-OC43もしくはHCoV-HKU1などのA系統(エンベコウイルス亜属)のものである。
【0031】
特に、コロナウイルスは、SARS-CoV-2、MERS-CoV、SARS-CoV-1、HCoV-NL63、HCoV 229E、HCoV-OC43およびHCoV-HKU1からなる群から選択される、またはその突然変異体、特に、天然に存在する、即ち人工的(「人造」)ではないが、天然に見出される突然変異体である。
【0032】
特定の態様によると、医薬製剤は、リラグルチドもしくはゲフィチニブおよび薬学的に許容可能な担体を含む医薬品または薬物製品である。
特に、本明細書に記載される医薬製剤は、一般的な風邪、鼻、のどおよび喉頭の感染症、副鼻腔炎、細気管支炎、下痢、皮膚の発疹、肺炎、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、中枢神経系の病徴、肝臓脂肪症、門脈線維症、リンパ球浸潤および細管増生の発症、小葉胆汁うっ滞、急性肝臓細胞壊死、中心静脈血栓症、腎近位尿細管傷害、巣状膵炎、副腎皮質過形成、ならびに脾臓およびリンパ節のリンパ球枯渇、浮腫、ヒアリン膜症、および肺細胞および線維芽細胞の増殖、内皮損傷によって特に特徴付けられる肺胞損傷でありうるが、限定されない疾患症状の処置または防止に使用される。
【0033】
特に、有効量は、ウイルスに感染性の細胞の感染を防止し、それにより疾患症状を処置するのに有効である。
特に、有効量は、ウイルス感染に関連する炎症性および望ましくない凝固病徴を減少させるまたは阻害することによって有効である。
【0034】
特定の実施形態において、有効量は、局所的または全身的に投与される。
リラグルチドは、ヒトグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の合成類似体であり、GLP-1受容体アゴニストとして作用する。リラグルチドは、34位におけるリジンの代わりにアルギニンを置換することによって天然のヒトGLP-1に対して97%相同である。リラグルチドは、ペプチド前駆体の26位にある残りのリジン残基においてグルタミン酸スペーサーとともにC-16脂肪酸(パルミチン酸)を付加することによって作られる。リラグルチドは、配列:
His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(1)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(配列番号1)を含む。
【0035】
そのタンパク質化学式は、C172H265N43O51である。
リラグルチドは、商品名サクセンダ(登録商標)およびビクトーザ(登録商標)で市販されている。
【0036】
リラグルチドは、心臓、腎臓および神経保護効果を有する。リラグルチドが、炎症過程および酸化的ストレスを打ち消すことも示された。COVID-19感染後の炎症応答において中心的存在であるTNF、IL1b、IL6、IL17およびIL21のレベルは、リラグルチドによって減少する。加えて、リラグルチドは、コロナウイルスの侵入および複製に潜在的に関連する分子であるDPP4レベルをモジュレートする。
【0037】
特に、TNF、IL17、IL21、IL6および/またはIL1bは、リラグルチドによって阻害される。
さらなる実施形態において、ゲフィチニブが、本明細書に記載される医薬製剤中に存在する。ゲフィチニブは、構造(I)
【0038】
【0039】
によって特徴付けられ、または薬学的に許容できるその塩もしくは溶媒和物である。
そのタンパク質化学式は、C22H24ClFN4O3である。
ゲフィチニブは、商品名イレッサ(登録商標)で市販されている。
【0040】
より具体的には、EGFRシグナル伝達経路が、ゲフィチニブによって阻害される。
EGFR阻害剤が、CEACAM1およびCD9の発現をモジュレートする証拠が存在し、2つの分子は、ウイルス侵入および複製において役割を担うと報告されている。EGFRシグナル伝達経路自体の阻害は、CoV感染後の肺線維症の回復をもたらす場合がある。加えてEGFR阻害によるFGF2の減少は、腎臓および肺細胞においてアポトーシスの速度を低下させ、したがってCOVID-19の重症度を低減する可能性がある。EGFR阻害と炎症との関連については、EGFR阻害がTNFを減少させるという利用可能な証拠があるが、報告はTNFレベルがEGFR阻害後に増強されることも示しており、相反している。加えて、SARS CoV-2感染に関連する多数の分子は、EGFR阻害が主に調査される腫瘍学分野の多数の研究に基づいて、EGFR阻害に対する抵抗性をモジュレートする能力がある。
【0041】
特に、医薬製剤は、好ましくは静脈内、筋肉内、皮下、真皮内、経皮もしくは口腔投与による全身投与用として、または局所投与用として、特に上下気道、鼻、肺、口腔内、眼または皮膚使用への適用用として処方される。
【0042】
特に、リラグルチドを含有する液体溶剤または分散剤が、吸入、注入または注射によるなど非経口投与に使用され、好ましくは、用量当たり約50ng~1gの有効量が提供される。特に、リラグルチドは、皮下注射によって投与される。
【0043】
特に、製剤は、リラグルチド約50ng~1g/用量を含み、より具体的には、製剤は、約100ng~800mg、特に500ng~500mg/用量を含む。
特に、リラグルチドの1日の用量は、リラグルチド約50ng~1gの範囲であり、より具体的には、製剤は、約100ng~800mg、特に500ng~500mg/用量を含む。
【0044】
特に、ゲフィチニブは、口腔投与用として錠剤もしくはカプセル剤もしくはナノカプセル剤またはリポソーム型製剤として処方され、好ましくは、有効量は用量当たり約50ng~1g提供される。特に、1日に1回~数回、特に1日に1回~3回投与されうるゲフィチニブを含む錠剤が、使用されてもよい。
【0045】
特に、製剤は、ゲフィチニブ約50ng~1g/用量を含み、より具体的には、製剤は、約100ng~800mg、特に500ng~500mg/用量を含む。
特に、1日の用量は、ゲフィチニブ約50ng~1gの範囲であり、より具体的には、製剤は、約100ng~800mg、特に500ng~500mgを含む。
【0046】
一実施形態によると、医薬製剤は、スプレー剤、粉剤、ゲル剤、軟膏、乳剤、泡もしくは液体溶液剤、ローション剤、パッチ剤、うがい溶液、エアロゾル化粉剤、エアロゾル化液体処方、顆粒剤、ナノ粒子を特に含むカプセル剤、滴下剤、錠剤、シロップ剤、口内錠、ナノカプセル剤、リポソーム製剤または注入もしくは注射用製剤として対象に投与される。
【0047】
特定の実施形態によると、リラグルチドは、吸入によって、より具体的には約1~15μg/kg、特に2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15μg/kg用量で投与されうる。
【0048】
特に、製剤は、唯一の物質として投与される、または処置は、好ましくは抗ウイルス、抗炎症および抗生物質からなる群から選択される1つもしくは複数の活性物質によるさらなる処置と組み合わされる。
【0049】
特定の実施形態において、製剤は、スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメル、オーラノフィンおよびデキサメタゾンからなる群から選択される活性薬剤と組み合わせて投与される。
【0050】
特に、コロナウイルスに感染したまたは感染する危険性がある対象は、本明細書に記載される製剤で処置される。
特定の態様によると、前記ウイルスに感染したまたは感染する危険性がある対象、好ましくは、ヒトもしくはイヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、ウシもしくはブタなどのヒト以外の哺乳動物が、処置される。
【0051】
特に、対象は、ウイルスに曝露されるまたは曝露された、さもなければウイルスに感染する危険性がある。
特に、対象は、ウイルスに感染していると決定されたまたは診断された。
【0052】
特定の実施形態において、病的な対象または胃腸炎、気道疾患もしくは重症急性呼吸器症候群(SARS)などのコロナウイルスウイルスに起因する疾患を患っている患者である対象が処置される。特に、疾患は、βコロナウイルスに起因する疾患、例えば、COVID19などの病原体と接触することによるSARSウイルスに起因する疾患、またはCOVID19に関連する肺炎である。
【0053】
さらなる実施形態によると、リラグルチドもしくはゲフィチニブもしくはリラグルチドおよびゲフィチニブの塩、溶媒和物または組合せを有効量で含み、スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメルおよびオーラノフィンからなる群から選択される活性薬剤をさらに含む医薬製剤が提供される。
【0054】
特定の態様によると、本明細書にさらに記載されるリラグルチドまたはゲフィチニブの1つもしくは複数の個々の単位用量、およびヒトもしくはヒト以外の哺乳動物においてコロナウイルス感染またはコロナウイルスに起因する疾患の処置に使用するための指示書を含むキットが、提供される。
【0055】
特定の態様によると、本発明は、リラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその組合せ、および本明細書にさらに記載されるそれぞれの医薬品もしくは医薬製剤の有効量を投与する工程を含む、コロナウイルスなどのウイルスに感染しているまたは感染する危険性がある対象を処置する方法をさらに提供する。
【0056】
さらなる特定の態様によると、本発明は、本明細書に記載のリラグルチドまたはゲフィチニブの製剤(医薬品、医薬製剤または殺菌薬など)ならびにリラグルチドまたはゲフィチニブの抗ウイルス性有効量を薬学的に許容可能な担体と配合して、製剤、特に、抗ウイルス性、抗炎症性および/もしくは抗凝固性効果を特に有する医薬品もしくは医薬製剤を生産する工程を含む、そのような抗ウイルス性製剤を生産する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】ヌクレオカプシド(N)刺激または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン6(IL-6)のサイトカイン放出アッセイを示す図である。ゲフィチニブ(GEF)単独による免疫調節は、デキサメタゾン(DEX)単独より有意に強かった。ボックスプロットの底の数字は、実験の反復回数を表す。最も強い免疫調節効果は、GEFとDEXの組合せにおいて観察された。
【
図2】ヌクレオカプシド(N)刺激または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン17(IL-17)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFベータ)およびIL-21のサイトカイン放出アッセイを示す図である。ゲフィチニブ(GEF、5μM)、リラグルチド(LIR、2μg/mL)およびデキサメタゾン(DEX、5μM)単独、ならびに組合せによる免疫調節が、陽性対照レジキモド(R848、200ng/mL)による刺激と比較して示される。
【
図3】スパイク(S)、スパイク三量体(St)または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン6(IL-6)のサイトカイン放出アッセイを示す図である。ゲフィチニブ(GEF、0.5μMおよび5μM)単独による免疫調節が、免疫調節を示さないポマリドミド(POM、100ng/mL)と比較して示される。棒グラフの底の数字は、実験の反復回数を表す。
【
図4】SARS-CoV2ヌクレオカプシド[即ちヌクレオカプシド(N)タンパク質で刺激を受けた]対模擬の比較において2倍上方または下方調節されたCOVID-19モデルの遺伝子が示され、ゲフィチニブ(GEF)とリラグルチド(LIR)の両方によって発現が「標準化される」ことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本明細書では用語「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、「有する(have)」および「含む(include)」は、同義的に使用されえ、さらなる部材または部分もしくは要素を許容する開かれた定義として理解されるものとする。「構成する(consisting)」は、構成する定義の特徴のさらなる要素を含まない最も閉じた定義と見なされる。したがって、「含む(comprising)」は、「構成する(consisting)」定義より広く、それを含有する。
【0059】
本明細書では用語「約」は、同じ値または所与の値の+/-10%もしくは+/-5%異なる値のことを指す。
本明細書に記載のゲフィチニブおよびリラグルチドなどの化合物は、「生理的に許容可能な塩」として使用されうる。塩の選択は、化学物質がどれほど酸性または塩基性(pH)か、イオン化形態の安全性、薬物の使用目的、薬物が与えられる方法(例えば、口腔、注射、または皮膚による)および投薬形態の型(錠剤、カプセル剤または液剤など)によって主に決定される。
【0060】
生理的に許容可能な典型的な塩は、ナトリウム塩である。しかしながら、ナトリウム塩の代わりに、他の生理的に許容可能な塩、例えば、他のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩および置換されたアンモニウム塩を利用することも考え得る。特定の例は、カリウム、リチウム、カルシウム、アルミニウムおよび鉄塩である。好ましい置換されるアンモニウム塩は、例えば、低級モノ、ジ、もしくはトリアルキルアミン、またはモノ、ジ、およびトリアルカノールアミンから得られるものである。遊離アミノ酸自体も、使用されうる。特定の例は、エチルアミン、エチレンジアミン、ジエチルアミンまたはトリエチルアミン塩である。
【0061】
「薬理学的に許容可能である」とも称される用語「薬学的に許容可能である」も、動物、特にヒトの処置に適合することを意味する。また用語薬理学的に許容可能な塩は、薬理学的に許容可能な酸付加塩と薬理学的に許容可能な塩基付加塩の両方を含む。
【0062】
本明細書では用語「薬理学的に許容可能な酸付加塩」とは、本開示の任意の塩基性化合物またはその任意の中間体の任意の非毒性の有機もしくは無機塩を意味する。酸付加塩を形成しうる本開示の塩基性化合物には、例えば、塩基性窒素原子を含有する化合物がある。適切な塩を形成する例示的な無機酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸ならびに正リン酸一水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウムなどの金属塩がある。適切な塩を形成する例示的な有機酸には、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸およびサリチル酸などのモノ、ジ、およびトリカルボン酸、ならびにp-トルエンスルホンおよびメタンスルホン酸などのスルホン酸がある。モノ、ジ、またはトリ酸塩のいずれかが形成されえ、そのような塩は、水和、溶媒和または実質的に無水形態のいずれかで存在しうる。一般に、本開示の化合物の酸付加塩は、水および様々な親水性有機溶媒中でより可溶性であり、その遊離塩基形態と比較して一般により高い融点を実証する。適切な塩の選択は、熟練した当業者に公知であろう。他の薬理学的に許容不可能な酸付加塩、例えばシュウ酸塩が、例えば、本開示の化合物の単離において、実験室使用のために、または薬理学的に許容可能な酸付加塩へのその後の変換のために使用されうる。特に、ゲフィチニブは、ゲフィチニブ塩酸塩として存在しうる。
【0063】
また、リラグルチドは、塩基の形態もしくはその塩の形態またはそれらの混合物で組成物中に存在しうる。塩の代表的な例には、塩酸、臭化水素酸、等などの適切な無機酸を含む塩がある。塩の代表的な例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酒石酸、アスコルビン酸、等などの有機酸を含む塩もある。塩の代表的な例は、トリエタノールアミン、ジエチルアミン、メグルミン、アルギニン、アラニン、ロイシン、ジエチルエタノールアミン、オラミン、トリエチルアミン、トロメタミン、コリン、トリメチルアミン、タウリン、ベンザミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、メチルエタノールアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、等の塩基を含む塩も含む。リラグルチドは、リラグルチド酢酸塩として存在してもよい。別の実施形態において、リラグルチドは、トロメタミン塩として存在する。
【0064】
リラグルチドは、機能的なバリアントまたはコンジュゲートとして存在してもよい。
用語「溶媒和物」とは、固体の状態の化合物のことを指し、適切な溶媒の分子が結晶格子に組み込まれている。治療的投与に適切な溶媒は、投与される投薬量で生理的に許容できる。治療的投与用として適切な溶媒の例は、エタノールおよび水であるが、イソプロパノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸ならびにアミノエタノールであってもよい。水が溶媒である場合、溶媒和物は水和物と称される。一般に、溶媒和物は、適切な溶媒中に化合物を溶解し、冷却または逆溶媒を使用することによって溶媒和物を単離することによって形成される。溶媒和物は、周囲条件下で乾燥または共沸させうる。
【0065】
本明細書では抗ウイルス性、抗炎症性または抗凝固性効果に関する用語「有効量」とは、証明された抗ウイルス性、抗炎症性または抗凝固性効果を有する量(特に所定量)のことを指すものとする。一般に量は、対象に投与された場合に、抗ウイルス性または臨床的結果を含めた所望の結果の有益性をもたらすのに充分な分量もしくは活性であり、このように、有効量またはその同義語は、それが適用される文脈によって決まる。
【0066】
医薬製剤または薬物の有効量とは、疾患、疾患症状もしくは障害を処置、防止または阻害するのに十分な化合物の量を意味することを意図する。そのような有効な用量とは、本明細書に記載される疾患もしくは障害に関連する症状の治癒、防止または回復をもたらすのに十分な化合物の量のことを特に指す。
【0067】
疾患との関連で、本明細書に記載のリラグルチドまたはゲフィチニブの有効量(特に予防的または治療的有効量)は、その抗ウイルス性、抗炎症性もしくは抗凝固性効果から利益を得る疾患もしくは症状を処置、モジュレート、緩和、後退または影響を及ぼすために特に使用される。そのような有効量に相当することとなる化合物の量は、所与の薬物または化合物、処方、投与経路、疾患もしくは障害の型、処置される対象もしくは宿主の素性、医学的状況の評価および他の関連する因子などの様々な因子に応じて変動することになるが、それにもかかわらず当業者によって常法通り決定されうる。
【0068】
本明細書では用語「抗ウイルス薬」とは、ウイルスの生物学に影響を与え、ウイルスの結合、侵入、複製、排出、潜伏もしくはその組合せを減弱または阻害し、ウイルス量もしくは感染力の減少をもたらす任意の物質、薬物もしくは製剤のことを指すものとする。用語「減弱する」、「阻害する」、「減少させる」、もしくは「防止する」、またはこれら用語の任意の変形は、特許請求および/または明細書中で使用される場合、所望の結果を達成するための任意の測定可能な低下もしくは完全な阻害、例えば、ウイルス感染の危険性の減少(感染前)、もしくは曝露後のウイルスの生存、負荷もしくは成長の減少を含む。
【0069】
本明細書では用語「抗凝固薬」とは、血液の凝固に影響を与える任意の物質、薬物または製剤のことを指すものとする。用語「減弱する」、「阻害する」、「減少させる」、もしくは「防止する」、またはこれら用語の任意の変形は、特許請求および/または明細書中で使用される場合、所望の結果を達成するための任意の測定可能な低下もしくは完全な阻害、例えば、血液凝固時間の延長を含む。
【0070】
用語「抗炎症薬」とは、炎症または腫脹を減少させる任意の物質、薬物もしくは製剤のことを指す。
本明細書に記載されるリラグルチド、ゲフィチニブもしくはその組合せの有効量による対象の処置または防止の方針は、単一の適用もしくは投与からなってもよく、または別法として、一連の適用および投与をそれぞれ含んでもよい。例えば、ゲフィチニブまたはリラグルチドは、1カ月に少なくとも1回、または1週間に少なくとも1回、または1日に少なくとも1回使用されうる。しかしながら、急性期の特定の事例において、例えば、ウイルスへの曝露が疑われたもしくは確認されたらすぐに、またはウイルス感染が決定された後、ゲフィチニブまたはリラグルチドは、より頻繁に、例えば1日に1~10回使用されてもよい。
【0071】
特に、本明細書に記載される製剤による処置およびコロナウイルスに起因する疾患の標準的な療法を含む併用療法が提供される。
用量は、例えば、対象のウイルス伝播の危険性に応じて、病原体関連反応を防止するために、抗ウイルス剤、抗炎症薬または抗生物質などの他の活性薬剤と組み合わせて適用されてもよい。
【0072】
処置は、抗ウイルス性、抗炎症性または抗生物質処置と組み合わせることができ、好ましくは、医薬製剤は、前記抗ウイルス性、抗炎症性もしくは抗生物質処置の前、間(例えば、同時投与によってまたは並列で)、または後に投与される。薬剤は、別々の容器中にありうる、または単一の容器中に混合されうる。
【0073】
処置期間の長さは、疾患の重症度、急性もしくは慢性疾患のいずれか、患者の年齢、およびゲフィチニブ、リラグルチドまたはその組合せの濃度など、様々な因子によって決まる。処置または予防に使用される有効な投薬量が、特定の処置または予防方針の過程で増減しうることも認識されよう。投薬量の変更は、当業者に公知の標準的な診断アッセイによって生じ、明らかになりうる。
【0074】
特に、製剤は、スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメルおよびオーラノフィンのうち1つまたは複数と組み合わせて投与される。
【0075】
特に、製剤は、スラミン、ラロキシフェン、マラビロク、ミグルスタット、キナクリン、酢酸ガラティラメル、オーラノフィンおよびデキサメタゾンのうち1つまたは複数を含む。
【0076】
スラミンは、抗寄生虫剤である。スラミンは、分子式C51H40N6O23S6を有し、以下の構造である:
【0077】
【0078】
ラロキシフェン[Evista(商標)]は、エストロゲン受容体モジュレータであり、構造:
【0079】
【0080】
を有する。
マラビロク、4,4-ジフルオロ-N-[(1S)-3-{(1R,3S,5S)-3-[3-メチル-5-(プロパン-2-イル)-4H-1,2,4-トリアゾール-4-イル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-8-イル}-1-フェニルプロピル]シクロヘキサンカルボキサミドは、抗感染性薬剤およびCCR5補助受容体アンタゴニストである。それは、構造
【0081】
【0082】
を有する。
ミグルスタット(N-ブチル-デオキシノジリマイシン、N-ブチルモラノリン)は、構造
【0083】
【0084】
を有する抗感染性薬剤として有効な小分子である。
キナクリン(メパクリン)は、いくつかの使用法がある薬品である。それはクロロキンおよびメフロキンと関連し、構造
【0085】
【0086】
を有する。
酢酸ガラティラメル(コポリマー1、Cop-1またはコパキソンとしても公知である)は、多発性硬化症を処置するために現在のところ使用されている免疫調節薬品である。それは、構造
【0087】
【0088】
を有する。
オーラノフィン[商標名リドーラ(商標)]は、抗炎症剤であり、構造
【0089】
【0090】
を有する。
デキサメタゾンは、糖質コルチコイド薬品であり、炎症性および自己免疫性疾患の処置に使用され、商標名デクステンツァ(Dextenza)(登録商標)、オズールデックス(登録商標)、ネオフォルデックス(登録商標)で販売されている。それは、構造
【0091】
【0092】
を有する。
デキサメタゾンは、約0.1~10mg/錠、特に約0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10mgの量で化合物を特に含有する錠剤の形態で投与されうる。
【0093】
デキサメタゾンは、特に0.1~5mg/用量の範囲、特に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、5、5mg/用量の溶液として投与されてもよい。
【0094】
本明細書に記載される製剤は、単一または複数の投薬量の使用法で提供されてもよい。
単位用量もしくは複数用量容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアルまたは多目的スプレーが使用されてもよく、液相または乾相、例えば、使用直前に、無菌の液状担体、例えば注射用水を添加することのみ必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵されうる。好ましい単位剤形処方は、リラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せを含む日用量もしくは単位日副用量もしくは複数回用量を含有するものである。
【0095】
単回用量または単回使用の量とは、単一の事例/手順/投与のために、ヒトまたは動物のいずれかの患者など、単一の対象における使用に向けた投与を意図する量である。単回用量を含む包装は、製造業者によってそのように一般に標識される。単回用量とは、有効量を提供するための、子供または成人のような個体に対する日用量と特に理解される。
【0096】
本明細書に記載される医薬製剤または医薬品は、ヒトまたは獣医用の医薬組成物もしくは医薬品として特に提供される。医薬品は、疾患を処置する、病訴を和らげる、またはそのような疾患もしくは病訴を防止するために第一に使用される物質と理解される。この定義は、医薬品が、ヒトに投与されるか動物に投与されるかにかかわらず適用される。物質は、体内または体外の両方で作用しうる。
【0097】
本明細書に記載される医薬製剤は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な添加物を好ましくは含有し、高い生物学的利用能で活性な医薬化合物が投与されることを可能にする医薬形態である。適切な添加物は、例えば、シクロデキストリンに基づいてもよい。例えば、適切な処方は、アクリレート、メタクリレート、シアノアクリレート、アクリルアミド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアンハイドレート(polyanhydrates)、ポリオルトエステル、ゼラチン、アルブミン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクロレイン、ポリグルタルアルデヒドからなる群から選択されるポリマーならびにその誘導体、コポリマーおよび混合物の形状をなす合成重合ナノ粒子を組み込みうる。
【0098】
本明細書に記載される特定の医薬品または医薬組成物は、リラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその組合せおよび薬学的に許容可能な担体もしくは賦形剤を含む。
「薬学的に許容可能な担体」とは、活性成分以外の、医薬または医学的使用のための処方中の成分のことを指し、対象に対して無毒である。薬学的に許容可能な担体には、緩衝剤、賦形剤、安定化剤または保存剤、等があるが、これに限定されない。
【0099】
本明細書ではリラグルチドまたはゲフィチニブは、通常の慣行にしたがって選択されることになる従来通りの担体および賦形剤とともに処方されうる。
市販のリラグルチドおよびゲフィチニブ処方も、本明細書に記載されるコロナウイルスによる感染に起因するまたはそれと関連する疾患症状の予防もしくは治療的処置に使用されうる。
【0100】
薬学的に許容可能な担体は、本明細書に記載される抗ウイルス性小分子化合物もしくは関連する組成物または組合せ製剤と生理的に適合するあらゆる適切な溶媒、分散媒、コーティング剤、抗ウイルス、抗菌および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤、等を一般に含む。
【0101】
特定の態様によると、リラグルチド、ゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せは、所望の投与経路に適切な1つもしくは複数の担体と組み合わせることができる。リラグルチド、ゲフィチニブまたはその組合せは、例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、アルカン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸ならびに硫酸のナトリウムおよびカルシウム塩、アカシア、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールのいずれかと混合されてもよく、任意選択で、従来通りの投与のためにさらに錠剤化もしくはカプセル化されてもよい。別法として、リラグルチドおよびゲフィチニブは、生理食塩水、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、エタノール、トウモロコシ油、ピーナッツ油、綿実油、胡麻油、トラガカントゴムおよび/もしくは様々な緩衝液中に分散または溶解されてもよい。他の担体、アジュバントおよび投与の様式は、医薬技術者に周知である。担体は、モノステアリン酸グリセリルもしくはジステアリン酸グリセリルなどの制御放出材料もしくは時間遅延材料を単独で、またはワックスもしくは当業者に周知の他の材料とともに含んでもよい。
【0102】
本明細書に記載の化合物は、リラグルチドもしくはゲフィチニブの放出を制御し、調節して、より少ない頻度の与薬を可能にしまたは所与の活性成分の薬物動態学もしくは毒性プロファイルを改善する制御放出医薬(「放出制御処方」)で提供されうる。
【0103】
医薬組成物は、対象薬剤が、所望の局所適用の近傍で、または様々な時間に消化管内で放出されて所望の作用を拡大するように、一般にpHまたは時間依存的コーティングで従来の方法によってコーティングされうる。そのような投薬形態には、一般に、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース、ワックスおよびセラックのうち1つまたは複数があるが、これに限定されない。
【0104】
さらなる薬学的に許容可能な担体は、当業者に公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第22改定版(Allen Jr、LV編、Pharmaceutical Press、2012年)に記載される。液体処方は、溶剤、乳剤または懸濁剤であることができ、懸濁化剤、可溶化剤、界面活性剤、保存剤およびキレート化剤などの賦形剤を含むことができる。
【0105】
好ましい製剤は、すぐに使用でき、少なくとも1年または2年の貯蔵期限がある保存に安定した形態である。
本明細書では用語「処方」とは、特定の方法ですぐに使用できる製剤のことを指す。特に、本明細書に記載される組成物は、リラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せ、および薬学的に許容可能な希釈剤、担体もしくは賦形剤を含む。
【0106】
特に、ゲフィチニブは、例えば、不活性希釈剤または吸収可能なもしくは食用の担体とともに経口的に投与されうる。例えば、製剤は、硬殻もしくは軟殻ゼラチンカプセルに封入されてもよく、または錠剤へと圧縮されてもよい。口腔治療的投与の場合、ゲフィチニブは、賦形剤と組み込まれてもよく、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤、等の形態で使用されてもよい。組成物および製剤中の化合物のパーセンテージは、当然ながら、変動されてもよい。治療上有用な組成物中のゲフィチニブの量は、適切な投薬量が得られることになるような量である。
【0107】
錠剤は、賦形剤、滑走剤、充填材、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯味剤、等を含有することになる。顆粒剤は、イソマルトースを使用して作製されてもよい。粘膜の部位、例えば粘膜部位(鼻、口、眼、食道、喉、肺など)で、例えば全身作用なしに局所的に作用するように処方された製剤を提供することがさらに好ましい。水溶性処方は、無菌形態で調製され、口腔投与以外による送達が意図される場合、一般に等張性であることになる。
【0108】
特にリラグルチドを投与するための注射可能な使用に適切な医薬組成物は、滅菌水溶液(特に、化合物または薬学的に許容できる塩が水溶性である場合)または無菌の注射可能な液剤もしくは分散剤を即時調製するための分散剤および無菌の粉剤を含む。特に、組成物は、特に無菌であり、容易な注射可能性が存在する程度に流動的であり;製造および貯蔵条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護される。
【0109】
適切な薬学的に許容可能な媒体には、リン酸緩衝食塩水など、経口、非経口、経鼻、粘膜、経皮、脈管内、動脈内、筋肉内および皮下投与経路に適切な任意の非免疫原性の医薬アジュバントがあるがこれに限定されない。
【0110】
リラグルチドおよびゲフィチニブは、同時にまたは連続して投与されてもよい。
本明細書では用語「対象」とは、温血哺乳動物、特にヒト、または例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシおよびブタを含めたヒト以外の動物のことを指すものとする。特に本明細書に記載される処置および医学的使用は、コロナウイルス感染に関連する疾患症状の予防または療法を必要とする対象に適用される。特に、処置は、コロナウイルスが症状の病原である疾患症状の病因に干渉することによってもよい。対象は、そのような疾患症状の危険性があるまたは疾患を患っている患者でもよい。
【0111】
用語、特定の疾患症状の「危険性がある」とは、そのような疾患症状を、例えば、特定の素因、ウイルスもしくはウイルス感染した対象への曝露によって潜在的に発症する、または他の原因となる疾患症状もしくはウイルス感染の結果であるその他の症状もしくは合併症に特に関連するそのような疾患症状を様々な段階ですでに患っている対象のことを指す。疾患がまだ診断されていない場合、危険性の決定は、対象において特に重要である。したがって、この危険性の決定は、予防的療法を可能にするための早期診断を含む。特に、リラグルチドもしくはゲフィチニブまたはその塩、溶媒和物もしくは組合せは、危険性が高い、例えば疾患を発症する確率が高い、対象に使用される。
【0112】
用語「患者」は、予防的または治療的処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物対象を含む。本明細書では用語「患者」は、健康な対象を常に含む。したがって、用語「処置」は、予防的および治療的処置両方を含むことを意味する。
【0113】
特に、用語「予防」とは、病因の発病の防止を包含することを意図する防止措置または病因の危険性を減少させる予防措置のことを指す。
対象を処置することに関連して本明細書では用語「療法」とは、「疾患症状」として個々にまたは一緒に理解される疾患、病的状態もしくは障害を治癒、改善、安定化する、発生率を減少させるまたは防止することを意図して対象を医学的に管理することを指す。用語は、疾患症状の改善を特に行う積極的処置、疾患症状の防止を特に行う予防を含み、さらに関連する疾患症状の原因の除去を行う原因処置を含む。加えて、本用語は、疾患症状の治癒、さらには関連する疾患症状の発症を最小化するまたは部分的もしくは完全に阻害することへ向けられた疾患症状の治癒というよりも病徴の軽減のために設計された姑息的処置、ならびに関連する疾患症状の改善のために行われる別の特定の療法を補助するために利用される支持処置を含む。
【0114】
前述の説明は、以下の例を参照することにより完全に理解されることになる。そのような例は、しかしながら、本発明の1つまたは複数の実施形態を実施する方法を単に代表するものであり、発明の範囲を限定するものと読まれるべきでない。
【実施例】
【0115】
実施例1
in vitro試験
腹膜免疫細胞および末梢血単核細胞(PBMC)は、感染因子に対する自然免疫のセンサー機能を代替系として複製するための最適なin vitro試験系を提供し、PBMCの場合、細胞培養において適応免疫との関連を提供する。体内のウイルスの除去および防除は、自然免疫系および適応免疫系のカスケード様に組織化された機能ならびにウイルス感染を克服するその効率によって決まる。ウイルス感染の大多数に対する自然免疫応答(自然免疫/防衛機構の最前線)は、重要な調節因子としてNK(ナチュラルキラー)細胞およびI型インターフェロン(IFN)を基本的に含む。形質細胞様樹状細胞(pDC)によって主に産生されるI型IFNに加えて、従来通りのDCによって産生される高レベルのIL12およびIL18が、役割を果たしうる。T細胞および肥満細胞に加えて、マクロファージまたは好中球顆粒球などの他の骨髄性細胞型が、ウイルス感染に対する初期の応答を組織化するのに寄付する。PD流出物中の免疫細胞の組成は、自然免疫の代表例の代表的な集団を表し、非常に豊富な生物学的廃棄物(一般に90%単球/マクロファージ、5%リンパ球、3%好中球顆粒球、2%その他)に読み出すことができる。いくつかの予備研究において、この環境は、腹膜免疫適格を試験するための、ex vivo刺激されるサイトカイン放出の臨床的に適用可能なアッセイを開発するために活用され(Herzogら、Sci Rep2017年、PMID:28740213)、腹膜透析(PD)を受けている患者における介入無作為比較第2相研究の一次パラメータとして成功裏に使用された[Vychytilら、Kidney Int 2018年、94(6)1227~1237頁(PMID:30360960)]。代わりの刺激薬(例えばウイルス抗原、生ウイルスまたはポリ:ICなどの偽ウイルス物質)も、本アッセイに使用されうる。このアッセイは、ウイルス感染(刺激条件、読み出し)に適しており、したがって新規のツールを表す。組み合わせて、これらのよく確立されているin vitro試験系は、自然免疫と適応免疫に対する界面の両方の細菌性およびウイルス性作用物質に対する免疫学的活性プロファイルの分析に有益なツールであることが証明されている読み出し系を形成する(Sadeghiら、J Infect Dis 2007年 PMID:17191175;Sadeghiら、PLoS ONE 2016年、PMID:27695085;Wisgrillら、J Leukoc Biol 2016年 PMID:26965638;Wisgrillら、J Leukoc Biol 2019年 PMID:31211458)。この免疫プロファイリング系は、SARS-CoV-2感染モデルに適用される。
細胞の培養および刺激
PBMC/mL(1×106個)を、IL-3(10ng/mL;PeproTech、Rocky Hill、NJ、USA)で補充したAIM-V細胞培養培地(Thermo Fisher Scientific)中で培養した。細胞を、4~6時間もしくは20~22時間、SARS-CoV2タンパク質(スパイクまたはヌクレオカプシド)で刺激した、または無処置のままにした(模擬)。培養を、加湿した5% CO2環境において37℃でインキュベートした。細胞内サイトカイン実験の場合、2時間後に1.5Mモネンシンを全てのウェルへさらに添加して、細胞内タンパク質輸送を遮断した。8、20または40時間後、細胞を氷上に採取し、上清を、ELISAによるさらなるサイトカイン分析のために-80℃で凍結した(Schueller S.ら、J.Leukocyte Biol.93、2013年、781~787頁)。
サイトカイン放出アッセイ
例は、上記の通り、よく確立されているin vitro抗原接種モデル(初代ヒト免疫細胞との感染性接触)に基づく。SARS-CoV2によって駆動される「炎症性署名」を特徴付けるために、多重タンパク質分析(定性的および定量的)および分子パターンを、多重オミクス適用を使用して分析した。
【0116】
末梢血単核細胞(PBMC)を、感染物質SARS-CoV2に対する体自然免疫系のセンサー機能の代用系として使用し、防御最前線の免疫学的活性プロファイルを採取した細胞培養上清および凍結細胞を使用してそれぞれモニタリングする。この目的のために、よく確立されたアッセイ系を、市販のSARS-CoV2抗原(スパイクタンパク質およびヌクレオカプシドタンパク質)を使用することによってさらに開発し、SARS-CoV2にnaiveなドナー由来のPBMCをこれらの代用感染性抗原とインキュベートした。細胞培養上清を、炎症性ならびに調節性タンパク質、主にサイトカインについて定性的および定量的に調べた。さらに、この細胞培養手法を拡大して、抗炎症剤の物質スクリーニングとしてデジタルアルゴリズムを使用してこれまでに定義されている承認済みの治療的薬剤による免疫調節を試験した。
【0117】
また、COVID-19に関連する炎症は、病気の患者においてIL-6を使用して監視されるので、インターロイキン6は、最適な読み出しパラメータの1つとして定義された。加えて、進行中のより大規模な実験のために、さらなる炎症性および抗炎症性/調節性因子を少数の選択した試料において測定して、免疫調節の間に関連する可能性があるさらなるパラメータを定義した。これらの拡張された炎症性/調節性署名は、最終的な今後の臨床試験に使用されるものとする。
【0118】
図1は、ヌクレオカプシド(N)刺激または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン6(IL-6)の放出を示す。ゲフィチニブ(GEF)単独による免疫調節は、デキサメタゾン(DEX)単独より強かった。最も強い免疫調節効果は、GEFとDEXの組合せにおいて観察された。
【0119】
図2は、ヌクレオカプシド(N)刺激または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン17(IL-17)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFベータ)およびIL-21などの、さらなる炎症性および抗炎症性/調節因子の放出を示す。ゲフィチニブ(GEF、5μM)、リラグルチド(LIR、2μg/mL)およびデキサメタゾン(DEX、5μM)単独、ならびに組合せによる免疫調節が、陽性対照レジキモド(R848、200ng/mL)による刺激と比較して示される。
【0120】
図3は、スパイク(S)、スパイク三量体(St)または対照としての模擬刺激に応答するインターロイキン6(IL-6)の放出を示す。ゲフィチニブ(GEF、0.5μMおよび5μM)単独による免疫調節が、デジタル物質スクリーンで同定されなかった化合物の例でありアッセイにおいて免疫調節を示さないポマリドミド(POM、100ng/mL)と比較して示される。
【0121】
実施例2
3’RNA配列決定による転写フィンガープリント
NGSライブラリ製剤(Lexogen QuantSeq3’mRNA-seq)
トータルRNAの量を、Qubit4.0蛍光分析定量システム(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を使用して定量化し、RNA完全性数(RIN)を、2100バイオアナライザ機器(Agilent、Santa Clara、CA、USA)を使用して決定した。RNA-seqライブラリを、Illumina(Lexogen、Vienna、Austria)用のQuantSeq3’mRNA-Seq Library Prep Kit(FWD)を用いて調製した。ライブラリ濃度を、Qubit4.0蛍光分析定量システム(Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)で定量化し、サイズ分布を、2100バイオアナライザ機器(Agilent、Santa Clara、CA、USA)を使用して評価した。配列決定のために、試料を希釈し、等モル量でNGSライブラリにプールした。
次世代配列決定および生データ収集
発現プロファイルライブラリを、50塩基対、シングルエンドレシピにしたがってHiSeq3000/4000機器(Illumina、San Diego、CA、USA)で配列決定した。生データ収集(HiSeq Control Software、バージョン3.4.0.38)およびベースコール(Real-Time Analysis Software、バージョン2.7.7)を機器上で実行し、その後の機器外での生データ処理を、2つの特別注文のプログラムで行った。第1の工程において、ベースコールを、長期保管に適したレーン特異的、多重化、非整列BAMファイルに変換した。第2の工程において、保管BAMファイルを、試料特異的、非整列BAMファイルに非多重化した。
トランスクリプトーム分析
NGSリードを、参照トランスクリプトームとしてバージョンe100の「基本的な」Ensembl転写産物注釈[2020年4月、Dobinら、Bioinformatics、2013年、29(1)、15~21頁]を利用する「Spliced Transcripts Alignment to a Reference」(STAR)によってゲノムリファレンスコンソーシアムGRCh38アセンブリにマップした。STARは、ENCODEプロジェクトによって推奨される選択肢で行われた。Ensembl転写産物の特徴に重なり合う整列されたNGSリードを、Bioconductor(バージョン3.12)GenomicAlignments(バージョン1.26.0)パッケージを用いてUnionモードのsummarizeOverlaps機能により計数し、全てのリードが計数前に反転を必要とするようにQuant-seqプロトコールが第2鎖の配列決定をもたらすことを考慮した。転写産物レベルの計数を、遺伝子レベルの計数に集計し、Bioconductor DESeq2[1.30.0、Love MI、ら(2014年)、Genome Biology、15、550頁]パッケージを使用して、負の2項分布を使用するモデルに基づいて差異的発現について試験した。
結果
図4は、SARS-CoV2ヌクレオカプシド[即ちヌクレオカプシド(N)タンパク質で刺激を受けた]対模擬の比較において2倍上方または下方調節されたCOVID-19モデルの遺伝子が、GEFとLIR両方によりその発現を「標準化される」ことを示す。
【0122】
この目的のために、N対模擬の比較において少なくとも2倍上方または2倍下方調節された遺伝子を抽出し、同じ遺伝子についてN+GEF対NおよびN+LIR対Nそれぞれと比較した。
【0123】
ボックスプロットは、調節が、その方向に明らかに逆転したこと、例えば、4時間時にN対模擬で上方調節された遺伝子が、N-LIR対NおよびN-GEF対Nの比較において強く下方調節されたことを示す。
【0124】
専用の分子疾患病態生理学モデルにおいて表される遺伝子の多くは、SARS-CoV2ヌクレオカプシドによる刺激と比較してその調節が実際に逆転される。ヌクレオカプシド(N)刺激対模擬の比較において上方調節された遺伝子は、ゲフィチニブ(GEF)および/もしくはリラグルチド(LIR)またはデキサメタゾン(DEX)との組合せの効果によって下方調節された。ヌクレオカプシド(N)刺激対模擬の比較において下方調節された遺伝子は、GEFおよび/もしくはLIRならびに/またはDEXとの組合せによって上方調節された。
【配列表】
【国際調査報告】