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特表2023-536635治療、診断及び他の使用のための保護量子ドット
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  • 特表-治療、診断及び他の使用のための保護量子ドット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】治療、診断及び他の使用のための保護量子ドット
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20230821BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230821BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230821BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/32 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/38 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/44 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K9/10
A61K33/30
A61K33/32
A61K33/34
A61K33/38
A61K33/42
A61K33/44
A61K49/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507700
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 US2021043372
(87)【国際公開番号】W WO2022031484
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/060,214
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517032222
【氏名又は名称】ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティー アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF SUPERVISORS OF LOUISIANA STATE UNIVERSITY AND AGRICULTURAL AND MECHANICAL COLLEGE
(71)【出願人】
【識別番号】523037772
【氏名又は名称】クアンタム テクノロジー グループ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】QUANTUM TECHNOLOGY GROUP INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】チャラ、シバ サイ ラマナ クマール
(72)【発明者】
【氏名】サブリオフ、クリスティーナ エム.
(72)【発明者】
【氏名】アステーテ、カルロス イー.
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ハンナ、エバン エイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA64
4C076AA65
4C076EE03
4C076EE06
4C076EE08
4C076EE12
4C076EE13
4C076EE17
4C076EE20
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE31A
4C076EE38
4C076EE41
4C076EE43
4C076EE45
4C076EE50
4C076FF01
4C076FF11
4C076FF36
4C076FF63
4C085HH11
4C085JJ03
4C085JJ11
4C085KA27
4C085KA32
4C085KB68
4C085KB69
4C085KB70
4C085KB72
4C085KB74
4C085KB75
4C085KB82
4C085KB83
4C085KB91
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA03
4C086HA05
4C086HA06
4C086HA07
4C086HA08
4C086HA25
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA38
4C086NA03
(57)【要約】
保護量子ドットは、特に水性環境において、劣化から保護される。系は、量子ドット、疎水性コア、及び親水性シェルを含む。量子ドットは、疎水性コア内に内包され、疎水性コアによって保護される。コアポリマーは、親水性シェルポリマー又はタンパク質に共有結合している。量子収率は、水性環境において封入されていない量子ドットよりも良好に維持される。任意選択で、保護量子ドットの送達を標的化するために、リガンドが親水性シェルに結合される。代替的実施形態では、量子ドットは、親水性シェル内に、又はシェル及びコアの両方に内包される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット及びグラフトコポリマーを含む保護量子ドット組成物であって、
(a)前記量子ドットが、2nm~20nmの平均直径を有し、前記量子ドットが、半導体を含み、前記量子ドットが、紫外スペクトルでの励起をもってルミネセンスを示し、紫外スペクトル、可視スペクトル又は赤外スペクトルで発光し、前記量子ドットが、哺乳動物に対して非毒性であり、
(b)前記グラフトコポリマーが、疎水性ポリマードメインと親水性ポリマー又はタンパク質ドメインとを含み、前記疎水性ポリマードメインと前記親水性ポリマー又はタンパク質ドメインとが、互いに共有結合しており、前記疎水性ポリマー及び前記親水性ポリマー又はタンパク質のそれぞれが、哺乳動物に対して非毒性であり、
(c)前記グラフトコポリマーが、コアシェルナノ粒子を含み、前記コアシェルナノ粒子の内部コアが、前記疎水性ポリマードメインを主に含み、前記コアシェルナノ粒子の外側シェルが、前記親水性ポリマー又はタンパク質ドメインを主に含み、前記外側シェル中の前記疎水性ポリマードメインが、前記組成物を全体的に親水性にし、
(d)前記ナノ粒子が、70nm~500nmの平均直径を有し、
(e)前記量子ドットが、前記ナノ粒子の内部に主に位置し、前記量子ドットは、前記量子ドットの表面が疎水性であり、かつ、静電的に帯電していない場合、主に前記ナノ粒子の内側の疎水性コアと会合し、前記量子ドットは、前記量子ドットの表面が親水性であるか、又は静電的に帯電している場合、主に前記ナノ粒子の外側の親水性シェルと会合し、
(f)前記組成物が水性環境中にあるとき、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットと比較して、前記組成物内の前記量子ドットの劣化速度が少なくとも1.25倍遅いという特性を有する、保護量子ドット組成物。
【請求項2】
前記疎水性ポリマードメインが、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリスチレン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(メチルメタクリレート)、アンモニオメタクリレート、ポリスチレン、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリエチレン、及びポリ(プロピレンオキシド)からなる群から選択される1つ以上のポリマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記親水性ポリマー又はタンパク質ドメインが、ゼイン、大豆タンパク質、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(グルタミン酸)、リグニンスルホン酸ナトリウム(SLGN)、ウシ血清アルブミン(ALB)、アルカリリグニン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、コラーゲン、置換又は非置換セルロース、置換又は非置換デンプン、及びポリヌクレオチドからなる群から選択される1つ以上のポリマー又はタンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記量子ドットが、ZnSe、ZnSe:Mn、ZnSe:Cu、ZnSe:Ag、他のドープZnSe半導体、グラフェンQD、炭素QD、遠赤外線QD、他の亜鉛系QD、InP、CuInSe、AgInSe、CuInS、AgInS、他の金属系QD、及び他のIII-V族半導体からなる群から選択される1つ以上の半導体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、100nm~250nmの平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記量子ドットの表面が疎水性であり、前記量子ドットが主に前記コアシェルナノ粒子の内部コアと会合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記量子ドットの一部の表面が疎水性であり、前記量子ドットの一部の表面が親水性であり、疎水性表面を有する前記量子ドットが、主に前記コアシェルナノ粒子の内部コアと会合し、親水性表面を有する前記量子ドットが、主に前記コアシェルナノ粒子の外側シェルと会合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が水性環境中にあるとき、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットと比較して、前記組成物内の前記量子ドットの劣化速度が少なくとも2倍遅い、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が水性環境中にあるとき、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットと比較して、前記組成物内の前記量子ドットの劣化速度が少なくとも5倍遅い、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記疎水性ポリマードメインが、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)を含み、前記親水性ポリマードメインが、アルカリリグニン又はスルホン化リグニンを含み、前記量子ドットが、ドープZnSe半導体を含み、前記ナノ粒子が、100nm~250nmの平均直径を有し、前記量子ドットの表面が、疎水性であり、前記量子ドットが、主に前記コアシェルナノ粒子の内部コアと会合し、前記組成物が水性環境にあるとき、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットと比較して、前記組成物内の前記量子ドットの劣化速度が少なくとも2倍遅い、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
固体状態組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物の水性懸濁液を含む、水性混合物。
【請求項13】
前記親水性ポリマードメイン、前記疎水性ポリマードメイン、又はその両方がバイオポリマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリマードメインが架橋されていない、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記ポリマードメインの少なくとも1つが架橋されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記ナノ粒子の50%超がそれぞれ複数の前記量子ドットを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物内の前記量子ドットの量子収率が、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットの量子収率の60%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物内の前記量子ドットの量子収率が、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットの量子収率の75%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物内の前記量子ドットの量子収率が、前記グラフトコポリマー及び前記ナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットの量子収率の90%以上である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療、診断、及び他の使用のための保護量子ドット(protected quantum dots)のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット(QD)は、典型的には約2nm~約20nmの直径を有する蛍光性半導体ナノ粒子である。これらのサイズでは量子閉じ込め効果が生じ、同じ化学組成を有するバルク半導体材料の特性とは異なる固有の特性が量子ドットに付与される。量子ドットは、蛍光体として用いられることが多い。量子ドットは、高いフォトルミネセンス、高い量子収率、高い光安定性、広い吸収スペクトル、狭い発光スペクトル、及び大きな有効ストークスシフトなどの、従来の蛍光分子を超える利点を提供する。量子ドットの特性は、それらのサイズ、形状、又は化学組成を調節することによって容易に調整できる。
【0003】
量子ドットのサイズを変更すると、化学組成が変化せず、同じ励起波長が使用される場合であっても、量子閉じ込め効果により、放出される光の波長が変化する。電子/正孔対は、QDの寸法によって空間的に閉じ込められる。興味深いことに、QD半径は、電子正孔対又は励起子のボーア半径よりも短くすることができる。QDの半径が小さくなるにつれて、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギーが増加する。金属は半導体に特徴的なバンドギャップを持たないので、量子閉じ込め効果は、典型的には、金属よりも半導体の方が顕著である。
【0004】
量子ドットの固有の光学特性により、量子ドットは、バイオセンシング、バイオ分析、イメージングプローブ、マルチカラーイメージング、QDベースのレーザー、発光デバイス(LED)、及び光電池などの多くの目的に有用となる。
【0005】
多くのQDは、CdSe又はCdTe半導体に基づいている。使用されてきた別の材料はZnSeである。カドミウム及び他の重金属は毒性である。ZnSeは毒性が低く、毒性が懸念される生物学的用途及び他の用途により適している。更に、ZnSeは、広い直接バンドギャップ(2.7eV)及び高い励起子結合エネルギー(21meV)を有するため、効率的な室温用途のための高い安定性及び高い耐光退色性を与える。
【0006】
ほとんどの従来の水溶性量子ドット組成物は、水分子自体によって補助される表面イオンの比較的急速な酸化、及び表面配位子の損失のために、水性環境において、特に長期保存に不安定であった。ほとんどの従来の量子ドット組成物は、合成中に適用される疎水性コーティングを有する。配位子交換を用いて量子ドット製剤の疎水性を高めた場合、残念な副作用として、量子ドットの輝度が低下した。従来の量子ドット製剤の疎水性、及びその結果として生じる水性環境での不安定性により、診断及び治療などの生物医学的用途における量子ドットの使用が制限されてきた。
【0007】
保護量子ドット組成物、及び保護量子ドット組成物の作製方法、すなわち、水性環境において安定であり、量子ドットを水性環境における生物医学的用途及び他の用途により適するようにする組成物が必要とされている。
【0008】
非特許文献1は、種々の量子ドット-ポリマーハイブリッド材料を作製するために試みられてきた種々のアプローチを記載する総説である。
従来のアプローチの1つは、水性環境中で量子ドットを直接合成することであった。得られた製剤は、典型的には、比較的狭い範囲の粒径を有しているが、多くの場合、その範囲内でサイズ分布が広がっており、発光スペクトルのFWHM(半値全幅)が広くなってしまう。例えば、非特許文献2を参照されたい。ミセルは通常、液相中でのみ安定であり、固体状態では、通常、解離し、安定なミセルとして保存することができない。
【0009】
別のアプローチは、カルボン酸などの親水性末端基と、チオールなどのQD表面原子と極性共有結合を形成することができる官能基との両方を含有するヘテロ官能性化合物で、QD表面上のキャッピング配位子を交換することであった。次いで、生体分子を、例えばカルボジイミド化学を介して、QD表面上の親水性基に連結することができる。例えば、非特許文献3を参照されたい。
【0010】
配位子交換は、水性環境において量子ドットを保護しようとするために使用されてきた。しかし、配位子交換反応は、QDの表面不動態化に悪影響を及ぼし、量子収率を低下させることがある。量子収率の低下は、非放射性励起子再結合のための経路を提供する表面トラップの形成から生じ得る。表面トラップは、熱、酸化、及び水分などの外部刺激によっても生成され得る。例えば、非特許文献4を参照されたい。
【0011】
非特許文献5では、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)(PSMA)で封入されたCdSe@ZnS/ZnSコアシェル量子ドットを報告した。PSMA-QD複合体は、アミノプロピル末端ポリジメチルスルホキサン(PDMS)樹脂と共に架橋剤として使用され、発光ダイオードに使用され得るフィルムである、QDを有するナノ複合体フィルムが生成される。
【0012】
非特許文献6では、ポリ(グリシジルメタクリレート)(PGMA)内側シェル及びポリ(メチルメタクリレート)外側シェルを有する、二重シェル複合体中で保護されたCdSe/ZnCdS量子ドットを開示している。PMMA外側シェルはPMMA光学フィルムに混和性を付与し、PGMA内側シェルはQD上の表面欠陥を不動態化して表面酸化を抑制する。PMMA及びPGMAは両方とも疎水性ポリマーである。PMMA外側シェルにより、組成物は疎水化されると推定された。
【0013】
量子ドットのコーティングには、合成ポリマーも使用されている。ポリマーは、対象となる波長で透明であるように選択できるため、QDの光学特性に対するポリマーの影響を最小限に抑えることができる。例えば、非特許文献7を参照されたい。
【0014】
ポリマーナノ粒子(PNP)は、バイオポリマーに基づくものもあり、有効成分(AI)の制御放出及び環境劣化からのAIの保護など、様々な用途に使用されてきた。それらの組成の詳細に応じて、PNPは、低毒性、高生分解性、高生体適合性を有し、かつ低コストを実現できる。
【0015】
特許文献1では、リグニンをポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)にグラフトしてグラフトポリマーを形成することによって合成された両親媒性バイオポリマーを開示しており、これはその後、界面活性剤を必要とせずにポリマーナノ粒子に更に組み立てることができる。ナノ粒子の典型的な直径は75nmである。ナノ粒子は、例えば、薬物送達のために使用され得る。
【0016】
非特許文献8では、CdSe-ポリマー複合体の調製が開示され、量子ドットがポリマー全体にわたって均一に分散されていると述べられており、安定性を改善するためにポリマー成分が任意選択で架橋されている。非特許文献9も参照されたい。
【0017】
リグニンは、親水性の分岐状ポリフェノールポリエーテルである。リグニンは、パルプ及び製紙産業からの豊富な副産物である。セルロースに次いで、リグニンは、2番目に豊富な天然再生可能バイオポリマーである。リグニンの特性は、腐敗に対する耐性、生物学的攻撃に対する耐性、紫外線又は可視光線による劣化に対する耐性、高い剛性、及び酸化に対する耐性など、多くの用途に有用である。
【0018】
アルブミンは、球状輸送タンパク質の一種である。肝臓で産生される血清アルブミンは、健康な人の血清タンパク質の約半分を構成する。その機能には、膠質浸透圧の維持、並びに内因性及び外因性リガンドの輸送が含まれる。アルブミンは、薬物送達媒体に使用されるナノ粒子に組み込まれている。非特許文献10を参照されたい。
【0019】
非特許文献11では、ウシ血清アルブミンへのCdS QDの吸着を報告した。蛍光発光は、QDが300nmで励起されたときに増強された。この効果は、QDに対するタンパク質の安定化効果、又はアルブミン中のトリプトファン残基からの量子ドットへのエネルギー移動のいずれかに起因した。
【0020】
非特許文献7では、ポリエチレングリコール(PEG)中にCdSe量子ドットを封入すると、他に発光スペクトルに悪影響を及ぼすトラップ状態を低減することができると報告した。
【0021】
ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)は、2つの天然産物である乳酸及びグリコール酸から生成されるコポリマーである。PLGAは、薬物送達用途に使用されている。PLGAは生分解性であり、in vivoで加水分解して、乳酸及びグリコール酸の成分に戻る。PLGAの劣化速度は、乳酸対グリコール酸の比を変えることによって制御することができる。乳酸の割合が高くなると、劣化が遅くなる。PLGAマトリックスからの有効成分の放出は、乳酸:グリコール酸の比、PLGAの分子量、又はその両方を選択することによっても制御することができる。
【0022】
非特許文献12では、自由溶液中のQDと比較して、ポリスチレン(PS)中に内包されたCdSe/ZnS量子ドットの蛍光強度が40%減少したことを報告した。
非特許文献13では、配位子交換を使用してCdSe/ZnS QDを修飾し、それらをキトサン中に内包したハイブリッドナノスフェアの調製を報告した。得られた量子収率は元の値の約39%であった。
【0023】
ポリマーマトリックス中に量子ドットを内包するための従来のアプローチにおいて、全てではないが多くは、量子収率の低下をもたらした。封入によって酸化及びその他の種類の化学劣化から量子ドットを保護できるが、ポリマーを内包すること自体が、隣接する原子又は化学基への電子移動などの非放射経路を介して量子収率を低下させることがある。配位子交換はまた、量子収率を実質的に減少させる。また、QD濃度が高くなるとポリマー粒子の不可逆的な凝集が促進され、物理的に不安定になり、光学特性が悪くなることがある。これらの制限がある場合であっても、ポリマー封入への従来のアプローチでは、QDの発光波長のシフトが最小限又は全くなく、発光スペクトルのFWHMの広がりが最小限又は全くないことが観察されている。しかし、吸収ピークのシフトは、典型的にはポリマーを封入することによって引き起こされる。
【0024】
量子収率を実質的に低下させることなく、特に水性環境において量子ドットを保護するための改善された組成物及び方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際公開第2020/076886号
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Tomczak,N.,Janczewski,D.,Han,M.,&Vancso,G.J.(2009).Designer polymer-quantum dot architectures.Progress in Polymer Sci.,34(5),393-430.doi:https://doi.org/10.1016/j.progpolymsci.2008.11.004
【非特許文献2】Y.K.Lee et al.(2007).Encapsulation of CdSe/ZnS quantum dots in poly(ethylene glycol)-poly(D,L-lactide)micelle for biomedical imaging and detection.Macromolecular Research,15(4),330-336.doi:10.1007/BF03218795
【非特許文献3】C.Lee et al.(2019).Feasibility of a point-of-care test based on quantum dots with a mobile phone reader for detection of antibody responses.PLOS Neglected Tropical Diseases,13(10),e0007746.doi:10.1371/journal.pntd.0007746
【非特許文献4】Giansante,C.,&Infante,I.(2017).Surface Traps in Colloidal Quantum Dots:A Combined Experimental and Theoretical Perspective.The Journal of Physical Chemistry Letters,8(20),5209-5215.doi:10.1021/acs.jpclett.7b02193
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【非特許文献8】K.Sill,Quantum dot-polymer nanocomposites:new materials for dispersion,encapsulation,and electronic applications(PhD Dissertation,Univ.Mass.Amherst,2006)
【非特許文献9】Astete,C.E.,De Mel,J.U.,Gupta,S.,Noh,Y.,Bleuel,M.,Schneider,G.J.,&Sabliov,C.M.(2020).Lignin-Graft-Poly(lactic-co-glycolic) Acid Biopolymers for Polymeric Nanoparticle Synthesis.ACS Omega,5(17),9892-9902.doi:10.1021/acsomega.0c00168
【非特許文献10】Hosseinifar,N.,Goodarzi,N.,Sharif,A.A.M.,Amini,M.,Esfandyari-Manesh,M.,&Dinarvand,R.(2020).Preparation and Characterization of Albumin Nanoparticles of Paclitaxel-Triphenylphosphonium Conjugates:New Approach to Subcellular Targeting.Drug Res(Stuttg),70(2-03),71-79.doi:10.1055/a-1016-6889
【非特許文献11】Singh,S.,Kaur,R.,Chahal,J.,Devi,P.,Jain,D.V.S.,&Singla,M.L.(2013).Conjugation of nano and quantum materials with bovine serum albumin(BSA) to study their biological potential.J.Luminescence,141,53-59.doi:https:/doi.org/10.1016/j.jlumin.2013.02.042
【非特許文献12】Ranzoni,A.,den Hamer,A.,Karoli,T.,Buechler,J.,and Cooper,M.A.(2015).Improved Immunoassay Sensitivity in Serum as a Result of Polymer-Entrapped Quantum Dots:’Papaya Particles’.Anal.Chem.,87(12),6150-6157.doi:10.1021/acs.analchem.5b00762
【非特許文献13】Lin,Y.,Zhang,L.,Yao,W.,Qian,H.,Ding,D.,Wu,W.,&Jiang,X.(2011).Water-Soluble Chitosan-Quantum Dot Hybrid Nanospheres toward Bioimaging and Biolabeling.ACS Applied Materials & Interfaces,3(4),995-1002.doi:10.1021/am100982p
【発明の概要】
【0027】
本発明者らは、量子ドットを保護(又は不動態化)し、酸化及び他の種類の化学的劣化から量子ドットを保護するための、特に量子ドットを水性環境中に分散させることを可能にしながら、量子収率を実質的に低下させることのない、組成物及び方法を発見した。系は、少なくとも以下の3つの構成要素、すなわち、量子ドット、疎水性ポリマーコア、及び親水性ポリマー又はタンパク質シェルを含む。量子ドットは、疎水性ポリマーコアに内包されている。コアポリマーは、親水性シェルポリマー又はタンパク質に共有結合している。量子ドットは、疎水性コアによって保護されている。親水性シェルは、主に環境に曝される構成要素である。組成物は、典型的には水性環境において安定である。ポリマー自体の化学的性質が蛍光消光に大きく寄与しない限り、複合構造自体は、量子収率を維持し、遊離量子ドットと比較して、量子収率の低下はほとんど又は全くない。任意選択で、リガンド又は他の部分を親水性シェルに共有結合させて、保護量子ドットの送達を標的化することができる。発光強度は、使用される親水性ポリマー対疎水性ポリマーの比を変化させることによって変化させることができる。
【0028】
代替的実施形態では、量子ドットは、シェルを含む親水性ポリマー又はタンパク質に物理的に内包され、その結果、量子ドットが、疎水性コアではなく親水性シェルに埋め込まれる。例えば、正に帯電したQD間の静電相互作用により、負に帯電したリグニンシェル内にQDを内包することができる。別の代替的実施形態では、2種の量子ドットが、一方はコア内に、他方はシェル内に内包され、固有の特性がもたらされる。コア内のQDは、環境条件からより良好に遮蔽されているが、量子収率がやや低くなることがある。シェル内のQDの量子収率はほとんど変化しないが、また同様に環境条件に曝されることが多くなる。しかし、QDをシェル内に内包することには利点がある場合がある。例えば、シェル及びコアに異なるQDを有する組成物は、多機能センシング用途に使用することができる。疎水性と親水性との2種類のセンサは、互いに異なる環境要因を分析することができる。例えば、外側シェル内におけるQDの輝度の低下は、特定の環境条件の指標となり得る。また、シェル内及びコア内の異なるQD間における蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)などの相互作用の可能性もある。
【0029】
バイオポリマー又は生体適合性ポリマー、例えば、PLGA、アルブミン、及びリグニンが新規組成物において使用される場合、保護量子ドットは、生物医学系において使用され得る。本発明で使用される量子ドットは、当技術分野で知られているもののいずれかであり得、好ましくは低毒性のものである。特に生物医学系において使用される場合、ZnSeから形成される量子ドットなど、それ自体が非毒性である量子ドットを使用することが好ましい。他の非毒性の量子ドット材料としては、例えば、In/P、InP/ZnS、CuInS/ZnS、Si、Ge、及びCが挙げられる。
【0030】
量子ドットを合成するために使用され得る例示的な方法は、米国特許第8,859,000号;同第7,608,237号;G.Karanikolos et al.,“Synthesis and Size Control of Luminescent ZnSe Nanocrystals....”Langmuir,vol.20,pp.550-553(2004);G.Karanikolos et al.,“Templated Synthesis of ZnSe nanostructures....”Nanotechnology,vol.16,pp.2372-2380(2005);G.Karanikolos et al.,“Water-based synthesis of ZnSe nanostructures....”Nanotechnology,vol.17,pp.3121-3128(2006)に記載されている。
【0031】
リグニンは、ナノ粒子シェルにおいて使用され得る材料である。リグニン自体が多少の光子を吸収し、それによって量子収率が低下することはあるが、それでも配位子交換の場合より大幅に高い量子収率が予想される。リグニンは、そうでなければ量子収率を低下させ得る表面欠陥を回避するのに役立ち、in vitro及びin vivoの両方において、酸化及びその他の劣化反応からQD表面を保護するのに役立つ。
【0032】
一方、アルブミンは、より高い蛍光発光をもたらすが、リグニンよりも温度及びpHによる影響を受けやすいと予想される。アルブミンは、pHの変化に応答してそのコンフォメーションを実質的に、しかし可逆的に変化させることができ、コンフォメーション転移はpH2.7、4.3、8、及び10付近で起こる。この効果は、使い方次第で問題にも利点にもなり得る。例えば、「スマート」ナノ粒子は、内包されたQDを放出前の劣化から保護しながら、特定のpH値でQDを放出することができる。
【0033】
疎水性コアを用いてQDを内包することにより、量子収率が、未修飾の合成時のままの遊離QDに近い量子収率になり得る一方で、親水性シェルポリマーは、水性環境において量子ドットを保護する。
【0034】
本発明の特定の実施形態において使用される特定のポリマーにかかわらず、配位子交換ではなくポリマーナノ粒子を使用して量子ドットを保護すると、表面トラップの発生が大幅に減少し、光学特性、特に量子収率が向上する。任意選択で、官能基をポリマーに組み込んで、例えば、標的化又はバイオコンジュゲーションを補助することができる。
【0035】
リグニンスルホン酸ナトリウム(SLGN)は、アルカリリグニン(ALN)などの他の形態のリグニンよりも初めに選択された。この理由は、SLGN-PLGAのシェルがより薄く、全体的なナノ粒子サイズが概ね100nmを超えるからである。Astete et al.(2020)を参照されたい。シェルが薄くなると、系の蛍光特性に対する吸収効果を低減することができる。しかし、より小さい粒径が好ましい用途では、リグニンスルホン酸ナトリウム(SLGN)の代わりにアルカリリグニン(ALN)が使用され得る。
【0036】
アルブミンは、ヒト又は他の動物においてin vivoで使用するための生体適合性の高い粒子をもたらすものである。代替として、カゼインは、アルブミンの代わりに使用することができる低コストの一般的な食品タンパク質である。アルブミンと同様に、カゼインは、グルタミン酸の分率が高いため、生理学的pHで負に帯電している。ゼータ電位は、電荷を確認するために実験的に測定される。
【0037】
疎水性マンガンドープセレン化亜鉛量子ドットは、当技術分野で知られている様々な方法で合成することができる。他のZnSe及びドープZnSe量子ドットが使用され得る。使用され得るドーパントとしては、例えば、Ag、Cu、又はMnが挙げられ、ZnSe:Mn、ZnSe:Cu、又はZnSe:Ag量子ドットが生成される。II-VI族半導体から作製される量子ドットに加えて、III-V族半導体、例えば、InP、GaAs、又はCuInSe、AgInSe、CuInS若しくはAgInSなどの三元組成物も使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】図面は、本発明の実施形態を概略的に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
特定の実施形態では、ZnSe量子ドットは、生分解性コアシェルナノ粒子、例えば、コアシェルリグニンスルホン酸ナトリウム-ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(SLN-PLGA)粒子、コアシェルアルブミン-PLGA(ALB-PLGA)粒子、又はその両方を含むものに内包されることによって保護される。保護量子ドットは、バイオセンシング、治療、マイクロ流体工学、診断、及びバイオイメージングなどの用途において使用される。
【0040】
図面は、本発明の実施形態を概略的に示すものである。量子ドット105は、疎水性コアポリマー102に内包されており、疎水性コアポリマーは、親水性シェルポリマー104に共有結合されている。量子ドットが蛍光を発するとき、量子ドットは、励起波長101によって刺激され、発光波長103で光子を放出する。
【0041】
以下のパラメータを日常的に変化させることによって、特定の用途において、当業者は、ナノ粒子サイズ、シェルの厚さ、コロイド安定性、及びナノ粒子中のグラフトポリマーの疎水性/親水性比などのパラメータを変化させることの光学特性に対する効果を容易に最適化することができる。また、最適な量子収率のための量子ドット濃度を求めることができる。時間の関数としての水溶液中へのQD浸出速度を測定して、特定の系の物理的劣化速度を求めることができる。また、新規な系における量子ドット蛍光が酸化条件に対して十分に耐性があることを確認するために、異なる濃度の過酸化水素の存在下で系を評価して、あるとすればフォトルミネセンスが酸化環境によって影響を受ける大きさを求める。
【0042】
リグニンスルホン酸ナトリウム(SLGN)又はウシ血清アルブミン(ALB)が、それらの生体適合性及び親水性のために、最初の実施形態においてシェルとして選択された。PLGAは、その生体適合性及び疎水性のために、最初の実施形態においてコアとして選択された。SLGN-PLGA及びALB-PLGAはそれぞれ、いかなる外因性界面活性剤も必要とせずにナノ粒子に自己集合する。PLGAの疎水性により、ナノ粒子コア中に疎水性量子ドットを内包することができる。SLGN-PLGA系及びALB-PLGA系はどちらも、直径100~200nmのNPを生成することができる。SLGN-PLGAで形成されたナノ粒子は、アルカリリグニンで形成されたナノ粒子よりも薄いシェルを有する。PLGAに対するアルブミン又はリグニンの比は、疎水性-親水性比、シェルの厚さ、及びナノ粒子サイズを最適化し、それによって量子収率を最適化するために、日常的な実験を通して調節することができる。
【0043】
ポイントオブケア診断:ポイントオブケア診断は、保護量子ドットによって提供される利点から恩恵を得る。量子ドットは、従来の有機蛍光体と比較して、より高い輝度、狭く対称的な発光スペクトル、広いストークスシフト、及び光退色に対する強い耐性などの優れた光学特性を示す。保護量子ドットは、表面酸化に対してより耐性があり、安定性が更に向上する。
【0044】
従来の蛍光体は、pH、温度、光、及びイオン強度による影響を受けやすい。新しい保護量子ドットは、典型的には、より広い範囲のpH、温度、及びイオン強度(当然ながら、使用される特定の組成に依存する)にわたってより高い安定性を有する。また、量子ドット自体の表面積と比較して、ナノ粒子シェルの表面積がより大きいため、任意選択で、生体分子、特により大きなタンパク質への比較的容易なコンジュゲーションが可能となる。例えば、内包されたQDを有する生体機能化ナノ粒子は、in vitro及びin vivoのバイオメディカルイメージング及び診断に使用することができる。
【0045】
in vivo診断:in vivo診断での使用には、生分解性、生体適合性、低毒性、及び高感度が望ましい。ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(エチルシアノアクリレート)などの有機ポリマーは、生分解性であり、生体適合性であり、in vivo診断用の広範囲の製品と適合性があるので、新規組成物に使用することができる。これらのin vivo診断用の新しい材料は、生分解性及び生体適合性のある表面、高輝度、光分解に対する耐性、単一レーザー励起による多重化、高感度、高特異性、及び高検出効率を有し得る。
【0046】
本発明者らは当初、全般的に説明される方法に沿って、保護量子ドットの調製を試みたが、成功しなかった。本発明者らは当初、ナノ粒子中への量子ドットの内包を試み失敗に終わった。つまり、初めは内包されていた量子ドットが、精製中にナノ粒子から流出してしまい、その後の組成物の使用ができなかった。本発明者らは、アプローチを再考し、手順を改良したところ、その後の取り組みで、保護された精製量子ドット製剤を生成することに成功した。
【0047】
ポリマーコアシェルナノ粒子は、本明細書に記載の変更を除いて、それ以外は国際公開第2020/076886号において全般的に提供されているように調製された。本発明者らは、これを採用して、ナノ粒子中に量子ドットをうまく内包し、次いで得られた製剤を精製するか、あるいは精製ステップを不要にした。
【0048】
特定の実施形態では、ナノ粒子の疎水性コアに使用されるポリマーは、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリスチレン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(メチルメタクリレート)、アンモニオメタクリレート、ポリスチレン、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリエチレン、及びポリ(プロピレンオキシド)のうちの1つ以上を含み得る。in vivo用途では、コアのポリマーは、哺乳動物に対して非毒性であることが好ましい。
【0049】
特定の実施形態では、ナノ粒子の親水性シェルにおいて使用されるポリマー及びタンパク質は、ゼイン、大豆タンパク質、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(グルタミン酸)、リグニンスルホン酸ナトリウム(SLGN)、ウシ血清アルブミン(ALB)、アルカリリグニン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、コラーゲン、置換又は非置換セルロース、置換又は非置換デンプン、及びポリヌクレオチドのうちの1つ以上を含み得る。シェルのポリマー又はタンパク質は、哺乳動物に対して非毒性であることが好ましい。
【0050】
量子ドットは半導体を含む。特定の実施形態において、量子ドットは、紫外スペクトルでの励起をもってルミネセンス/蛍光を示し、紫外スペクトル又は可視スペクトルで発光する。いくつかの用途では、量子ドットは、哺乳動物に対して非毒性であることが好ましい。一方、他の用途では、毒性はあまり懸念されない場合がある。特定の実施形態において、量子ドットは、2nm~20nmの平均直径を有する。特定の実施形態において、量子ドットは、ZnSe又はドープZnSe量子ドット、例えばZnSe:Mn、ZnSe:Cu、又はZnSe:Agを含む。特定の実施形態では、量子ドットは、グラフェンQD、炭素QD、遠赤外線QD、亜鉛系QD、若しくは他の金属系QD;又はInPなどのIII-V族量子ドット;又は、CuInSe、CuInS、AgInSe、若しくはAgInSなどの三元組成量子ドットを含む。
【0051】
特定の実施形態において、ナノ粒子は、100nm~250nmの平均直径を有する。特定の実施形態において、ナノ粒子は、70~500nmの平均直径を有する。
特定の実施形態では、量子ドットは、主にナノ粒子の内部に位置し、量子ドットは、量子ドットの表面が疎水性であり、かつ静電的に帯電していない場合、主にナノ粒子の内側の疎水性コアと会合し、量子ドットは、量子ドットの表面が親水性であるか、又は静電的に帯電している場合、主にナノ粒子の外側の親水性シェルと会合する。
【0052】
特定の実施形態では、量子ドットは、組成物内で保護されており、これは、水性環境において、グラフトコポリマー及びナノ粒子を欠くが他の点では化学的に同一である遊離量子ドットと比較して、当該組成物内の量子ドットの劣化速度が、少なくとも1.25倍、又は少なくとも1.5倍、又は少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも8倍、又は少なくとも10倍遅いことを意味する。
【0053】
実施例1:PLGA-ビオチンコンジュゲートの合成。
PLGAを、2ステップのアシル化でポリエチレングリコール-ビオチン(MW5,000)にコンジュゲートすることによって官能化した。第1のステップでは、PLGAカルボキシル末端基を塩化オキサリルで活性化した(室温で4時間)。第2のステップでは、活性化PLGAをPEG-ビオチンと反応させて(室温で24時間)、PLGA-ビオチンコンジュゲート(PLGA-Bio)を形成した。生成物をエチルエーテル及びエタノールで洗浄した。白色沈殿物を高真空下で24時間乾燥させ、次いで使用するまで-20℃で保存した。
【0054】
実施例2:不成功に終わったPLGA-Bioによる保護量子ドットの調製及び精製の試み。
保護量子ドットを調製及び精製しようとする本発明者らの最初の試みは不成功に終わった。本発明者らは、エマルジョン蒸発技術を用いてPLGA-Bioナノ粒子中に量子ドットを内包し、遠心分離によってナノ粒子を精製することを試みた。
【0055】
簡潔に述べると、実施例1からのPLGA-Bioポリマーを酢酸エチル(有機相)に30分かけて溶解した。次に、ZnSe:Mn(MnドープZnSe)量子ドット(QD)を有機相に添加し(QD:PLGA-Bioの重量比10重量%)、室温で更に30分間混合した。次いで、有機相を、2重量%のポリ(ビニルアルコール)(PVA)を含有する水相に添加した。マイクロフルイダイザーM-110P(Microfluidics Corp.、マサチューセッツ州ウエストウッド)において、30,000psiで4回通過させて均質化することによって、2つの相を乳化した。次いで、Rotavapor R-300(Buchi Inc、デラウェア州ニューキャッスル)中、真空下、33℃で溶媒を2時間蒸発させた。次に、試料を、29,000rpm(Beckman Coulter、インディアナ州インディアナポリス)で、4℃で2.5時間遠心分離して、ナノ粒子を精製した。得られたペレットを、バスソニケーターを用いて水中に20分間再懸濁した。最後に、ポリマーナノ粒子懸濁液を-80℃で2日間凍結乾燥させた(Labconco、ミズーリ州カンザスシティ)。トレハロースを凍結防止剤として1:1の質量比で添加した。
【0056】
得られたナノ粒子を透過型電子顕微鏡で調べた。(写真はここには示されていないが、優先権出願第63/060,214号の図1として見ることができる)。PLGA-Bioナノ粒子は球状を示し、動的光散乱(DLS)に基づいて、平均サイズが156±6.4nm、多分散指数が0.232±0.031、ゼータ電位が-23.4±2.9mVであった(優先権出願第63/060,214号の図2を参照)。
【0057】
TEM顕微鏡写真では、ポリマーナノ粒子がより大きな灰色の球体(約100nm)として、量子ドットがより小さな黒い点(約5nm)としてはっきりと示された。しかし、量子ドットはポリマーナノ粒子中に内包されておらず、明らかにナノ粒子の外側に位置していた。本発明者らは当初、量子ドットの内包を試み失敗に終わった。つまり、量子ドットは、初めは内包されていたが、その後、おそらく遠心分離中にナノ粒子から移動した。
【0058】
実施例3:成功して終わったPLGA-Bioによる保護量子ドットの調製及び精製。
本発明者らは、実施例2における失敗が精製ステップ中に起こったと仮定した。本発明者らの仮説は、最初の内包が意図したように機能した可能性が高いが、その後、半導体QDの密度が高くなったことにより、遠心分離ステップ中に量子ドットがナノ粒子の内部から移動したというものであった。
【0059】
この仮説を検証し、仮説の遠心分離の問題を回避するために、本発明者らは次に、代わりに量子ドット/ナノ粒子複合体を透析によって精製することを試みた。この試みは成功して終わっていることが証明された。量子ドットはナノ粒子中にうまく内包され、透析後、量子ドットは精製されたナノ粒子中に残存していた。
【0060】
遠心分離ステップの前までは実施例2に記載したようにして複合体を調製した。遠心分離は行わず、その代わりに有機溶媒が蒸発した後に試料を透析した。
PLGA-Bio-Quantum Dot試料を、室温で低抵抗率水中、30時間透析した(SpectraPor regenerate CE、MW cutoff 300 KD)。水は6時間毎に交換した。透析後、懸濁液を-80℃で2日間凍結乾燥した(Labconco、ミズーリ州カンザスシティ)。トレハロースを凍結防止剤として1:1の質量比で添加した。
【0061】
透過型電子顕微鏡によって見られるように、ポリマーナノ粒子は球状で(優先権出願第63/060,214号の図3参照)、平均サイズが108±1.7nm、多分散指数が0.228±0.031、ゼータ電位が-25.6±3.1mVであった。TEM顕微鏡写真では、より小さく、より高密度の量子ドットが実際にポリマーナノ粒子内に内包されていることが示された。共焦点顕微鏡(励起350nm、発光590nm)でもまた、蛍光による量子ドットの内包が確認された。共焦点顕微鏡による観察では、量子ドットの位置を可視化し、その蛍光強度を定性的に示すことができた。遊離量子ドットでは、蛍光の凝集が見られると予想される。量子ドットが内包されている場合、蛍光はよりランダムに分布して見えると予想される。
【0062】
実施例4:成功に終わった別個の精製ステップを伴わないPLGA-リグニンを用いた保護量子ドットの調製。
本発明者らは、最初にPLGAのカルボキシル末端基を活性化し、次いでリグニンを共有結合させる2ステップの反応においてアシル化することで、アルカリリグニン-PLGA(ALN-PLGA)コポリマーを合成した。リグニン-PLGAコポリマーは、外因性界面活性剤を必要とせずに、水溶液中でナノ粒子に自己集合できる。外因性界面活性剤がない場合、混合物は、遠心分離や透析などの別個の精製ステップを必要としない。
【0063】
簡単に説明すると、2gのPLGAを、三つ口丸底フラスコ中、室温で30mLのDCMに溶解した。次いで、窒素流を、1MのNaOHを入れたバブラーボトルに接続して、反応中に生成したHClを中和した。室温でPLGAを完全に溶解させた後、5当量の塩化オキサリルをガラスシリンジで滴下した。反応を室温で穏やかに撹拌しながら4時間行った。反応後、溶液をRotavapor Buchi R-300(Buchi Corporation、デラウェア州ニューキャッスル)で濃縮した。蒸発中に溶液が粘稠になってから、20mLのDMSOを添加し、残りのDCMを蒸発させた。その後、500mgのALNを20mLのDMSOに添加することによって第2の反応を進行させた。次いで、PLGA-Cl溶液をALN溶液に添加した。反応を窒素流下、室温で一晩継続させた。次いで、150~200mLのエチルエーテルを添加することによって(ALN-グラフト-PLGA)ポリマーを沈殿させ、エチルエーテルで3回洗浄した。次いで、沈殿したポリマーを20mLのDCMに懸濁させ、有機相を水で洗浄して未反応リグニンを除去し、透明な上澄みを得た。最後に、DCMをRotavapor Buchi R-300で蒸発させ、ポリマーを30℃、高真空下で3日間乾燥させた。ナノ粒子合成に使用するまで、ALN-PLGAコポリマーを2~4℃で保存した。
【0064】
合成されたLGN-PLGAポリマーから、エマルジョン蒸発によってナノ粒子を調製した。簡潔には、LGN-PLGAポリマーを酢酸エチル(有機相)に溶解し、20分間混合しながらQDを添加した。有機相を、5mLの酢酸エチルを含む50mLの脱イオン水(水相)に添加した。次いで、Microfluidics M-110P(Microfluidics Corp.、マサチューセッツ州ウエストウッド)を用いてエマルジョンを調製した。次に、Rotavapor Buchi R-300(Buchi Inc.、デラウェア州ニューキャッスル)を用いて溶媒を蒸発させた。次いで、凍結防止剤としてトレハロースを1:1の質量比で添加して、試料を2日間凍結乾燥した。その後、凍結乾燥粉末を水に再懸濁し、特徴付けを行った。
【0065】
TEM顕微鏡写真では、より親水性の高いリグニンの灰色シェルに囲まれた疎水性PLGAの白色球状コアを有する、球状のポリマーナノ粒子が示された。(写真はここでは再現されていないが、優先権出願第63/060,214号の図6として見ることができる。)QDは、コア内に効率的に内包されており、白色PLGAコア内の灰色斑点として見られた。遠心分離したPLGA-Bio-QD製剤で見られたように、粒子の外側に暗いスポットは検出されなかった。ナノ粒子は、DLS測定に基づいて、平均サイズが102.7±5.3nm、PDIが0.189±0.021、ゼータ電位が-68.3±4.3mVであった。内包されたQDの蛍光を、共焦点顕微鏡(励起350nm、発光590nm)によって確認した。
【0066】
実施例5.SLN-PLGAコポリマー合成:Astete et al.(2020)から適合された方法を介してSLN-PLGAコポリマーを合成する。簡単に説明すると、2gのPLGAを、三つ口丸底フラスコ内で、室温で30mLのDCMに溶解する。次いで、窒素流を、1MのNaOHを入れたバブラーボトルに接続して、反応から発生したHClを中和する。室温でPLGAが完全に溶解した後、5当量の塩化オキサリルをガラスシリンジで滴下する。反応物を穏やかに撹拌しながら室温で4時間保持する。反応後、溶液をBuchi R-300 Rotavapor(Buchi Corporation、デラウェア州ニューキャッスル)で濃縮する。蒸発中に溶液が粘稠になってから、20mLのDMSOを添加し、残りのDCMを蒸発させる。次いで、500mgのSLNを20mLのDMSOに添加することによって、第2の反応を進行させる。次いで、PLGA-Cl溶液をSLN溶液に添加する。反応物を窒素流下、室温で一晩保持する。次いで、150~200mLのエチルエーテルを添加することによって(SLN-グラフト-PLGA)ポリマーを沈殿させ、沈殿物をエチルエーテルで3回洗浄する。沈殿したポリマーを20mLのDCMに懸濁し、有機相を水で洗浄して未反応のリグニンを除去し、透明な上澄みを得る。最後に、DCMをBuchi R-300 Rotavaporで蒸発させ、ポリマーを高真空下、30℃で3日間乾燥させる。SLN-PLGAコポリマーを、使用するまで2~4℃で保存する。
【0067】
実施例6.ALB-PLGAコポリマー合成:ALB-PLGAの合成は、概して、上記の実施例5に記載のSLN-PLGA合成にいくつかの変更を加えたものに従う。第1の反応(PLGAの活性化)は本質的に同じである。第2の反応は、500mgのアルブミンを20mLのDMSOに添加することによって開始する。溶解後、PLGA-Cl溶液をALB溶液にピペットで加える。窒素流下、室温で24時間反応を行う。次いで、150~200mLのエチルエーテルを添加してALB-グラフト-PLGAポリマーを沈殿させ、エチルエーテルで3回洗浄する。沈殿したポリマーを20mLのDCMに懸濁し、有機相を水で洗浄して未反応のアルブミンを除去し、透明な上澄みを得る。最後に、DCMをRotavapor Buchi R-300で蒸発させ、ポリマーを高真空下、30℃で3日間乾燥させる。ALB-グラフト-PLGAポリマーを、使用するまで2~4℃で保存する。
【0068】
実施例7及び8.SLN-PLGAナノ粒子合成及びALB-PLGAナノ粒子合成:Astete et al.(2020)のエマルジョン蒸発技術によってバイオポリマーナノ粒子を合成する。外因性界面活性剤を添加しないため、精製ステップが不要である。簡単に述べると、150~500mgのSLN-PLGA又はALB-PLGAを5mLの酢酸エチルに室温で強く撹拌しながら溶解する。次に、有機相を水相(5mLの酢酸エチルを含む50mLの脱イオン水(DI)水)に添加する。10分間混合した後、懸濁液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp.、マサチューセッツ州ウエストウッド)を用いて、30,000psi、4℃で4回均質化する。その後、Rotavapor R-300(Buchi Corporation、デラウェア州ニューキャッスル)で真空下、32℃で有機溶媒を少なくとも45分間蒸発させる。最後に、トレハロースを凍結防止剤として添加し(1:1質量比)、試料を凍結乾燥機FreeZone 2.5(Labconco Corporation,ミズーリ州カンザスシティ)に-80℃で2日間入れて水を除去する。バイオポリマーナノ粒子試料を、特徴付け又は使用するまで、4℃で保存する。
【0069】
実施例9~14.SLN-PLGA又はALB-PLGAナノ粒子への内包によるQDの保護:SLN-PLGA及びALB-PLGAポリマーを、3つの異なるSLN:PLGA又はALB:PLGA質量比、すなわち、2:1、1:1、及び1:2(w/w)で、他の点は上記のように、合成する。
【0070】
次いで、NP(QD)コンジュゲートを調製する。次いで、以下の2つの基準、すなわち、(1)QDがNP間で比較的均一に分布していること、及び(2)NP(QD)複合体の直径が100~250nmであることも満たす限り、最も量子収率の高い試料として好ましいNP(QD)複合体が選択される。
【0071】
異なるQD量(グラフトポリマーの10質量%、30質量%、又は50質量%に相当)をポリマーナノ粒子に内包する。すなわち、150~500mgのSLN-PLGA又はALB-PLGAポリマーを、室温で5mLの酢酸エチル中にQDと共に溶解させる。次いで、この有機相を50mLのDI水(水相)に添加し、10分間撹拌する。この懸濁液を、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp.、マサチューセッツ州ウエストウッド)を用いて30,000psi、4℃で4回均質化する。次いで、Rotavapor R-300(Buchi Inc、デラウェア州ニューキャッスル)を用いて、真空下、33℃で有機溶媒を懸濁液から2時間蒸発させる。次いで、トレハロースを1:1の質量比で粒子懸濁液に添加した後、-80℃で2日間凍結乾燥する。得られた粉末を、特徴付け又は使用するまで、4℃で保存する。
【0072】
内包効率を求めるために、粒子をヘキサン及び膜フィルタ(Novamem Membrane Filters、PEEK20、0.02Micron、MF、47mm、25/Pk)で3回洗浄する。上澄みを回収し、蛍光強度を測定する。標準曲線を作成して、観察された蛍光をQD濃度に相関させる。
【0073】
実施例15~20.SLN-PLGA及びALB-PLGA NP(QD)コンジュゲートの光学的及び物理的特徴付け
好ましいNP(QD)系は、その粒子が好適なサイズ(例えば、直径100~250nm)を有し、合成時のままの量子ドットの光学特性を、変化なしで又はわずかな変化のみで保持するものである。
【0074】
10~100nmのナノ粒子は、リンパ毛細管に入り、そこでクリアランスを受けることがある。したがって、粒子は、好ましくは、100nm以上の直径を有する必要がある。250nm~1μmの粒子は、マクロファージによってエンドサイトーシスされ、次いで、細網内皮系によって除去され得る。したがって、粒子は250nm以下の直径を有することが好ましい。両方の因子を合わせると、コンジュゲートの好ましいサイズ範囲は、直径100~250nmである。
【0075】
ポリマーナノ粒子の組成は、内包される量子ドットの光学特性に影響を与える潜在的可能性がある。サイズ、ゼータ電位、多分散指数(PDI)、コンジュゲート構造、量子収率、及び吸収/発光スペクトルに対する粒子組成及び量子ドット濃度の影響を測定して、これらの特性が全て許容範囲内にあることを確認する。コンジュゲートの特性は、例えば、動的光散乱(DLS)、極低温透過型電子顕微鏡法(Cryo-TEM)、X線粉末回折(XRD)、UV-Vis分光法、蛍光分光法、及び蛍光顕微鏡法について当技術分野で他に知られている技法を使用して特徴付けることができる。DLSを使用して、サイズ、多分散指数、及びゼータ電位を測定する。ナノ粒子の形態及びそれらのコアシェル構造をTEMによって分析する。NPの構造は、XRDによって更に特徴付けられる。吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを、それぞれ、UV-Vis分光法及び蛍光分光法によって測定する。コンジュゲートのフォトルミネセンス強度の画像を蛍光顕微鏡で撮影する。
【0076】
量子収率を求めるために、UV-Vis吸光度測定を、異なる濃度のQD-NP懸濁液及び比較のための標準(アントラセン又は2-アミノピリジン)で行う。再吸収及び他の非線形効果を最小にするために、最大吸光度は約0.1未満であることが好ましい。各試料について蛍光測定も行う。蛍光強度を積分し、各試料の吸光度に対してプロットして勾配を求める。得られる測定値は、以下の関係に(近似的に)適合する必要がある。
【0077】
【数1】
【0078】
式中、X及びSTは、それぞれ試料及び標準を示し、Φは蛍光量子収率であり、Gradは、それぞれのプロットからの勾配(すなわち、蛍光対吸光度のプロットの傾き)であり、ηは、溶媒の屈折率である。
【0079】
空のNP、合成時のままのQD、及びQD-NPコンジュゲートについて、吸光度及び発光スペクトルが得られる。NP濃度対フォトルミネセンス(PL)の曲線は、最も高いPL強度のための好ましい濃度を評価するのに役立つ。
【0080】
実施例21~26.pH、温度、及び酸化電位が異なる条件下でのSLN-PLGA(QD)コンジュゲート及びALB-PLGA(QD)コンジュゲートの劣化/安定性及びQD浸出の測定。
【0081】
新規コンジュゲートを用いて送達されるQDの物理的安定性及び光安定性を、異なるpH、温度、及び酸化電位で測定する。安定性/劣化特性は、例えば、薬物送達追跡デバイス又はバイオセンサで使用される場合に重要である。溶液中の遊離QDの光学特性は、酸化及び他のメカニズムにより時間と共に劣化する。NPに内包されたQDコンジュゲートは、劣化からより良好に保護されているため、溶液中の遊離QDよりも長い時間、それらのフォトルミネセンス特性をより良好に維持する。遊離QDの光学特性の劣化は、主にQD表面が溶媒に直接曝露される場合に生じると考えられる。したがって、新規コンジュゲートの劣化は、主にナノ粒子が劣化してQDが効果的に内包されなくなった時点で起こると予想される。(フォトルミネセンス特性の低下については、ポリマーマトリックス内での量子ドットの拡散は、ナノ粒子を内包することの劣化よりも重要ではないと予想される。)新規コンジュゲートの光学特性を、pH、温度、及び酸化電位の様々な条件下で観察して、それらの物理的劣化及び消光の速度を評価する。
【0082】
速度論試験では、異なるpH(例えば、pH5、7、及び9)、一定温度(例えば、25℃)でのコンジュゲートの物理的劣化速度を求める。本発明者らはまた、異なる温度(例えば、25℃及び37℃)、一定のpH(例えば、pH7)での物理的劣化を観察する。最初に、コンジュゲートの懸濁液15mLを、磁気撹拌しながら20mLバイアル内で調製する。次いで、最初の12時間にわたって1時間毎にバイアルから0.2μLの試料を抜き取り、その後、2週間にわたって24時間毎に0.2μLの試料を抜き取る。抜き取られたアリコートについてのQD封入効率を求めるための方法は、本質的に上記で考察したとおりである。膜フィルタ(Novamem Membrane Filters、PEEK20、0.02Micron、MF、47mm)を用いて試料をヘキサンで3回洗浄し、上澄みを回収する。試料を蛍光分光法によって分析して、NPからのQDの浸出速度を求める。先に作成した標準曲線を使用して、上澄み中のQDの濃度を時間の関数として求める。これらのデータを0次、1次、2次の速度論モデルに当てはめ、最適な適合度を決定し、見かけ上の劣化メカニズムについて推測を行う。
【0083】
0次:[QD]=[QD]-kt
1次:ln[QD]=ln[QD]-kt
【0084】
【数2】
【0085】
式中、[QD]は所与の時間におけるQD濃度、[QD]は初期QD濃度、kは浸出速度定数、tは経過時間である。
過酸化水素は、量子ドットの酸化によって蛍光を消光する。過酸化水素を用い、合成時のままのQDと比較して、コンジュゲートの酸化されやすさを評価した。コンジュゲートを、黒色の96ウェルマイクロタイタープレートにおいてDI水中で10nMに希釈する。(Nalge Nunc、ニューヨーク州ロチェスター)。次いで、Hを0.1~50μMの最終濃度まで添加し、Hをコンジュゲートと0、12、24時間、及び48時間反応させる。特定の時点(すなわち、0、12、24時間、及び48時間)の後、Hの濃度を50μMまで徐々に増加させる。マイクロプレートを暗所、室温で保存し、過酸化水素の添加と添加との間、パラフィルムで覆う。プレートを蛍光マイクロプレートリーダーで読み取る。温度を25℃で一定に保ち、酸化試験をpH5、7、及び9で繰り返す。観察された消光は、Stern-Volmerの式に当てはめられる。
【0086】
【数3】
【0087】
式中、F及びFは、それぞれ過酸化水素の非存在下及び存在下での蛍光強度を示す。KSVはStern-Volmer消光定数であり、[Q]は消光剤である過酸化水素の濃度を表す。
【0088】
実施例27~32:予想される結果
QD濃度を増加させると、PL強度は最大値まで徐々に増加し、その後、NPマトリックス内でQD同士が近接することにより、隣接する粒子間の自己消光再吸収が起こると予想される。ナノ粒子シェルの厚さもフォトルミネセンスに影響を及ぼす。概して、シェルが薄くなるとPL値が高くなることが予想される。一方、アルブミンの特性は、全体的な蛍光特性を高める可能性がある。
【0089】
実施例33~36:コアシェルナノ粒子
SLN-PLGA及びALB-PLGAナノ粒子(量子ドットなし)の本発明者らによる試験では、コアシェル構造を首尾よく形成していることが確認された。例えば、1:2(w/w)SLN-PLGA系では、平均直径102.7±5.3nm、多分散指数(PDI)0.189±0.021、及びゼータ電位-68.3±4.3mVのナノ粒子が形成されていた(ナノ粒子は、TEM及び動的光散乱によって撮像及び測定された。)。
【0090】
別の実施例として、1:2(w/w)ALB-PLGA系では、平均直径137.9±0.4nm、PDI0.084±0.007、及びゼータ電位42.0±0.5のナノ粒子が形成された。
【0091】
別の実施例として、1:1(w/w)SLN-PLGA系では、平均シェル厚50.98±8.84nm、平均直径229.7±2.03nm、PDI0.164±0.021、及びゼータ電位-43.7±6.03mVのナノ粒子が形成された。
【0092】
実施例37~43:動的光散乱及び透過型電子顕微鏡測定。
SLN-PLGA「空」ナノ粒子を、SLNとPLGAとの3つの異なる比(1:2、1:1、及び2:1)で調製した。また、量子ドットを内包した1:1のSLN-PLGAナノ粒子も調製した。表1は、動的光散乱及び透過型電子顕微鏡で行った測定の結果をまとめたものである。SLNとPLGAとの比が1:2から2:1まで変化するにつれて、粒径及びゼータ電位の両方が低下した。シェル厚さは、リグニンの比の増加と共に減少した。QDの添加により、測定された特性が多少変化した。
【0093】
【表1】
【0094】
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参照による援用。本明細書に引用された全ての参考文献の完全な開示を、参照により本明細書に援用する。また、米国優先権仮出願第63/060,214号の完全な開示も参照により援用する。その他、相容れない矛盾が生じた場合は、参照により援用する資料よりも本明細書が優先されるものとする。
図1
【国際調査報告】