(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-28
(54)【発明の名称】加工可能なテトラフルオロエチレンコポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 214/26 20060101AFI20230821BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20230821BHJP
C08F 214/18 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C08F214/26
C08F214/22
C08F214/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507830
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021044426
(87)【国際公開番号】W WO2022031768
(87)【国際公開日】2022-02-10
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ティー・ゴールドバッハ
(72)【発明者】
【氏名】アダム・ダブリュ・ハウザー
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AC24Q
4J100AC26P
4J100AE02R
4J100AE03R
4J100AE04R
4J100CA05
4J100DA09
4J100DA24
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100FA28
4J100FA29
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】
TFE、VDF及び1~3モル%のフッ素化エーテルを含む、溶融加工可能なフルオロポリマー組成物が開示されている。ポリマーの製造方法も開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF、及び1.0~3.0モル%のフッ素化エーテルを含み、溶融加工可能なフルオロポリマー組成物。
【請求項2】
前記フッ素化エーテルは、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ-n-プロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル(PiPVE)及びパーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテルからなる群から選択される、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項3】
前記エーテルがPPVEを含む、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項4】
前記フルオロポリマーが、7%までの歪みで150℃まで熱応力亀裂挙動を示さない、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【請求項5】
前記フルオロポリマーが、260℃、100s
-1で測定された、1~20kP、好ましくは5~19kPの溶融粘度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【請求項6】
前記フルオロポリマーが、170~220℃、好ましくは180~210℃、より好ましくは185~209℃の融点を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【請求項7】
前記フルオロポリマーが、マイナス80℃まで、アイゾッド衝撃試験によって測定された、100J/mを超える、好ましくは250J/mを超える、より好ましくは500J/mを超える耐衝撃性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【請求項8】
前記フルオロポリマーが、押出、射出成形、又は圧縮成形によって溶融加工可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【請求項9】
51.7~56.0モル%のTFE、42.5~45.5モル%のVDF及び1.5~2.8モル%のPPVEを含み、溶融粘度が10~16kPである、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項10】
溶融加工可能なフルオロポリマー組成物の合成方法であって、TFEモノマー、VDFモノマー及びフッ素化ビニルエーテルモノマーを提供して、連鎖移動剤の存在下で重合を開始するステップを含み、CTAの量は、モノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%であり、好ましくは0.01~0.4モル%であり、最も好ましくは重合プロセスで使用されるモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.3モル%であり、前記フルオロポリマー組成物は、39.5~57モル%のTFE、42~57.5モル%のVDF及び1~3モル%のフッ素化ビニルエーテルを含む、方法。
【請求項11】
重合が0.5MPa~5.0MPaの圧力範囲で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
重合が25℃~125℃の温度範囲で行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
重合が0.5MPa~3.0MPaの圧力範囲で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
重合が50℃~120℃の温度範囲で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フッ素化エーテルは、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ-n-プロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル(PiPVE)及びパーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテルからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記連鎖移動剤エーテルは、以下からなる群から選択される、請求項10に記載の方法:連鎖移動剤として機能できる、アルコール、炭酸塩、ケトン、エステル、エーテルなどの含酸素有機化合物;クロロカーボン、ハイドロクロロカーボン、クロロフルオロカーボン及びハイドロクロロフルオロカーボンなどのハロカーボン及びハイドロハロカーボン;エタン及びプロパン。
【請求項17】
前記ビニルエーテルがPPVEを含み、前記CTAがモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%の量の酢酸エチルを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
CTAの量は、重合プロセスで使用されるモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%であり、前記フルオロポリマー組成物は、51.7~56.0モル%のTFE、42.5~45.5モル%のVDF、及び1.5~2.8モル%のPPVEを含み、重合は、0.5MPa~3.0MPaの圧力範囲、50℃~120℃の温度範囲で行われ、前記フルオロポリマーの溶融粘度は10~16kPである、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載のポリマーを含む物品。
【請求項20】
前記物品は、ワイヤー、ケーブル、温室用フィルム、建築用フィルム、コーティング、バッテリーバインダー、バッテリーセパレーターフィルム又はコーティング、海洋パイプ、誘電体フィルム、圧電フィルム及びセンサー、焦電フィルム及びセンサー、化学処理フィルム、ポリマー加工助剤及び自動車用チューブからなる群から選択され、好ましくはワイヤー又はケーブルである、請求項19に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)及びフッ素化エーテルコポリマーに関する。組成物は、従来の手段によって、ワイヤー、ケーブル、フィルム、及び熱可塑性成形プロセスによって作製される任意の他の部品又は物品に加工することができる。得られた物品は、高温と低温の両方の耐性を持ち、熱応力による亀裂に耐性がある。
【背景技術】
【0002】
高い耐薬品性と耐候性に加えて、高温と低温の両方の耐性を備えた熱可塑性ポリマーは、ワイヤーとケーブル、フィルム、コーティング、バッテリーセパレーター又はバインダー、チューブなどのいくつかの用途に適している。押出(フィルム、ワイヤーなど)、射出成形、ブロー成形、3D印刷など、溶融加工が必要な用途では、加工温度と粘度が妥当な範囲内に収まり、一般的でよく知られた方法で材料を加工できる場合、大きな利点となる。ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)は、非常に優れた耐候性と加工性を示すが、低温及び高温性能に関しては制限がある。
【0003】
ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)及びPTFEベースのコポリマーは、高温性能及び低温性能の両方を有することが知られているが、溶融加工性が低いか又は困難であることが多い。さらに、低分子量PTFEは、機械的ストレスと熱ストレスが同時にかかると破損する(亀裂が入る)ことが知られている。加工が容易で、高温/低温耐性があり、熱応力亀裂耐性のあるフルオロポリマーが必要である。
【0004】
応力亀裂は、ポリマーに作用する外的要因(溶媒、熱、光など)が降伏点をはるかに下回る歪み又は応力で脆性破壊を引き起こす可能性があるポリマー材料の現象である。
【0005】
文献米国特許出願公開第3235537号明細書は、2~50mol%のパーフルオロアルキルパーフルオロビニルエーテル単位、10~85%のVDF、及び3~80%の(-CFX-CFY-)繰り返し単位からなる硬化性樹脂用の固体ポリマーを開示しているが、粘度又は分子量の制御、処理、又は応力亀裂耐性については説明していない。
【0006】
三菱レイヨン社の特開2004-219579号公報は、1~30質量%のVDF、30~85%のTFE及び3~40%のCF2=CF-(OCF2CF(CF3))a-O-Rf2で表されるフルオロビニル化合物を有し、1.335~1.370の屈折率を有する光ファイバ及び光ファイバケーブルを開示している。Rf2は、C1~C8のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシアルキル基又はフルオロアルコキシアルキル基であり、aは0~3の整数である。このポリマーは、光ファイバの外側コーティングとして使用される。
【0007】
文献米国特許出願公開第8997797号明細書は、TFE、VDF、及び別のエチレン系不飽和モノマーを含み、170℃で60~400MPaの貯蔵弾性率を有するフッ素樹脂を開示している。米国特許出願公開第8997797号明細書では、TFEの最小量が55mol%である必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)及びフッ素化エーテルコポリマーに関する。好ましくは、フッ素化エーテルは、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)などのパーフルオロアルキルビニルエーテルである。組成物は、従来の手段によって、ワイヤー、ケーブル、フィルム、及び熱可塑性成形プロセスによって作製される任意の他の部品又は物品に加工することができる。得られた物品は、高温と低温の両方の耐性を持ち、熱応力による亀裂に耐性がある。本発明のポリマーは、高い溶融温度(175℃以上)及び-80℃未満の低温耐衝撃性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリマーは、39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF、及び1.0~3.0モル%のフッ素化ビニルエーテルを含む。ポリマーは、溶融レオロジー及び本明細書に記載の方法によってそれぞれ測定すると、溶融加工可能であり、耐応力亀裂性を示す。
【0010】
本発明の態様
態様1 39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF、及び1.0~3.0モル%のフッ素化エーテルを含み、溶融加工可能なフルオロポリマー組成物。
【0011】
態様2 前記フッ素化エーテルは、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ-n-プロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル(PiPVE)及びパーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテルからなる群から選択される、態様1に記載のフルオロポリマー組成物。
【0012】
態様3 前記エーテルがPPVEを含む、態様1に記載のフルオロポリマー組成物。
【0013】
態様4 前記フルオロポリマーが、7%までの歪みで150℃まで熱応力亀裂挙動を示さない、態様1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【0014】
態様5 前記フルオロポリマーが、260℃、100s-1で測定された、1~20kP、好ましくは5~19kPの溶融粘度を有する、態様1~4のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【0015】
態様6 前記フルオロポリマーが、170~220℃、好ましくは180~210℃、より好ましくは185~209℃の融点を有する、態様1~5のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【0016】
態様7 前記フルオロポリマーが、マイナス80℃まで、アイゾッド衝撃試験によって測定された、100J/mを超える、好ましくは250J/mを超える、より好ましくは500J/mを超える耐衝撃性を有する、態様1~6のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【0017】
態様8 前記フルオロポリマーが、押出、射出成形、又は圧縮成形によって溶融加工可能である、態様1~7のいずれか1項に記載のフルオロポリマー。
【0018】
態様9 51.7~56.0モル%のTFE、42.5~45.5モル%のVDF及び1.5~2.8モル%のPPVEを含み、溶融粘度が10~16kPである、態様1に記載のフルオロポリマー組成物。
【0019】
態様10 溶融加工可能なフルオロポリマー組成物の合成方法であって、TFEモノマー、VDFモノマー及びフッ素化ビニルエーテルモノマーを提供して、連鎖移動剤の存在下で重合を開始するステップを含み、CTAの量は、モノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%であり、好ましくは0.01~0.4モル%であり、最も好ましくは重合プロセスで使用されるモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.3モル%であり、前記フルオロポリマー組成物は、39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF及び1.0~3.0モル%のフッ素化ビニルエーテルを含む、方法。
【0020】
態様11 重合が0.5MPa~5.0MPaの圧力範囲で行われる、態様10に記載の方法。
【0021】
態様12 重合が25℃~125℃の温度範囲で行われる、態様10又は11に記載の方法。
【0022】
態様13 重合が0.5MPa~3.0MPaの圧力範囲で行われる、態様10に記載の方法。
【0023】
態様14 重合が50℃~120℃の温度範囲で行われる、態様10又は13に記載の方法。
【0024】
態様15 前記フッ素化エーテルは、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ-n-プロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル(PiPVE)及びパーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテルからなる群から選択される、態様10~14のいずれか1項に記載の方法。
【0025】
態様16 前記連鎖移動剤エーテルは、以下からなる群から選択される、態様10~15のいずれか1項に記載の方法:連鎖移動剤として機能できる、アルコール、炭酸塩、ケトン、エステル、エーテルなどの含酸素有機化合物;クロロカーボン、ハイドロクロロカーボン、クロロフルオロカーボン及びハイドロクロロフルオロカーボンなどのハロカーボン及びハイドロハロカーボン;エタン及びプロパン。
【0026】
態様17 前記ビニルエーテルがPPVEを含み、前記CTAがモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%の量の酢酸エチルを含む、態様10~16のいずれか1項に記載の方法。
【0027】
態様18 CTAの量は、重合プロセスで使用されるモノマーの総モル数に基づいて0.01~0.5モル%であり、前記フルオロポリマー組成物は、51.7~56.0モル%のTFE、42.5~45.5モル%のVDF、及び1.5~2.8モル%のPPVEを含み、重合は、0.5MPa~3.0MPaの圧力範囲、50℃~120℃の温度範囲で行われ、前記フルオロポリマーの溶融粘度は10~16kPである、態様10に記載の方法。
【0028】
態様19 態様1~9のいずれか1項に記載のポリマーを含む物品。
【0029】
態様20 前記物品は、ワイヤー、ケーブル、温室用フィルム、建築用フィルム、コーティング、バッテリーバインダー、バッテリーセパレーターフィルム又はコーティング、海洋パイプ、誘電体フィルム、圧電フィルム及びセンサー、焦電フィルム及びセンサー、化学処理フィルム、ポリマー加工助剤及び自動車用チューブからなる群から選択され、好ましくはワイヤー、ケーブルである、態様19に記載の物品。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本出願の文脈において、他に示されない限り、すべての粘度は、260℃の温度及び100s-1のせん断速度で測定される溶融粘度である。より具体的には、溶融粘度は、Dynisco LCR7000キャピラリーレオメーターによって測定することができる。測定は、10~3000s-1のせん断速度で260℃で実行され、ASTM方法D-3835を使用して、100s-1で粘度を記録する。
【0031】
示差走査熱量測定(DSC)を使用して、本発明のポリマーの融点を決定する。DSCは、10℃/分の加熱/冷却速度で実行される。生成のΔHは、ASTM3418を使用して、2番目の加熱中の熱流曲線の吸熱面積(Tm)又は最初の冷却中の発熱面積(Tc)を積分し、昇温速度とサンプル質量で割ることによって定義される。
【0032】
熱応力亀裂は、コポリマーの厚さ3mmの長方形のストリップを成形し、試験温度で30分間予備浸漬し、既知の半径に曲げて応力を加え、各時点で亀裂を視覚的にチェックすることによって実行される。不良は、特定の時点で割れた部品の割合によって定量化される。ここで報告される結果は、単純な合格又は不良として報告される。合格は、3日間の試験後にポリマー部品に亀裂が見られないことを示し、不良は、試験の3日以内に少なくとも1つの部品に亀裂が見られることを示す。より具体的には、厚さ3mm、長さ10cm、幅1cmの部品を成形する。テスト用にラップされている外径は2cmで、外側のポリマー表面に7%の計算歪みがあり、テスト温度は150℃であった。
【0033】
本明細書に記載の材料は、溶融加工可能な半結晶性熱可塑性ポリマーである。ここでの溶融加工可能とは、ポリマーを溶融成形し(例えば、押出機又は射出成形機によって)、次いで冷却して、形状を保持しながら亀裂なく成形品を提供できることを意味する。また、本明細書において、上記のキャピラリーレオメトリーによって決定される、260℃、100s-1での21kP以上での溶融粘度は、溶融加工可能ではない。
【0034】
化学組成を決定するために、固体フッ素NMR分析が使用される。2.5mmのBrukerジルコニアローターに充填された粉末サンプルを使用して、19F固体スペクトルは、2.5mmCP MASプローブを装備したBruker AVIII300WB(7.05T)分光計で、室温で回転速度30kHzで取得できる。バックグラウンドの影響を抑えるために、空のローターの19Fスペクトルをサンプルスペクトルから差し引くことができる。
【0035】
組成物は、39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF及び1.0~3.0モル%のフッ素化エーテルを含む、溶融加工可能なフルオロポリマー組成物である。2つ以上のエーテルが使用される場合、ポリマー中に存在する全モル%エーテルは1~3モル%である。好ましくは、エーテルはパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)を含む。
【0036】
フッ素化エーテルには、限定的ではないが、フッ素化又は過フッ素化ビニルエーテル(パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロ-n-プロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル(PiPVE)、パーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテル、パーフルオロブチルビニルエーテル(PBVE)、長鎖パーフルオロビニルエーテル及びそれらの組み合わせなど)が含まれる。
【0037】
フルオロビニルエーテルは、CF2=CF-(OCF2CF(CF3))a-O-Rで表されることが好ましい。RはC1~C8のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシアルキル基又はフルオロアルコキシアルキル基であり、aは0~3の整数である。フルオロビニルエーテルは、以下の式の1つを有することができる:CF2=CF-O-(CH2)n-(CF2)m-(CF3)(n、mは0~3の整数);CF2=CF-O-(CH2)n-(CH3)(nは0~3の整数);CF2=CF-O-(CF2)n-O-CF3(nは0~3の整数)。
【0038】
本発明のコポリマーは、アイゾッド衝撃試験ASTM D256によって測定された、マイナス80℃で100J/mを超える、250J/mを超える、500J/mを超える耐衝撃性を示す。
【0039】
本発明のコポリマーは、本明細書に記載の方法によって決定される応力亀裂耐性を示す。
【0040】
本発明のコポリマーの融点は、DSCで測定して170~220℃、好ましくは180~210℃である。
【0041】
本発明のコポリマーは、PVDFコポリマーに一般的に使用される溶媒に周囲温度で一般に不溶である。そのような溶媒には、極性非プロトン性溶媒(ジメチルスルホキシド、n-メチルピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)など)、及びエーテル類(テトラヒドロフラン(THF)やメチルt-ブチルエーテル(MTBE)など)が含まれる。本発明のコポリマーはまた、水及び水溶液、脂肪族アルコール、アルキル及び芳香族炭化水素、ならびに塩素化脂肪族及び芳香族溶媒など、PVDF及びPVDFコポリマーも不溶である溶媒に一般に不溶である。
【0042】
重合
本発明のTFE/VDF/エーテルポリマーは、重合に使用される全モノマーに対して、モノマー連鎖移動剤(CTA)の全モル数に基づいて0.01~0.5モル%で合成される。本発明のポリマーを得るためには、重合反応においてフッ素化エーテルとCTAの存在の両方が必要である。本発明のポリマーは、溶融加工可能であり、耐応力亀裂性である。
【0043】
コポリマーは、当技術分野で公知であり、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8765890号明細書に記載されているように、乳化重合又は懸濁重合を介して調製される。乳化重合では、0.5MPa~5.0MPaの圧力範囲及び25℃~125℃の温度範囲が、当技術分野で知られている無機過酸化物、レドックス系、及び有機過酸化物からなる開始系とともに、しばしば使用される。TFE/VDFコモノマーペアが構造の主成分である場合、反応性比は、得られるポリマー主鎖全体にモノマーがランダムに分布し、材料全体に均一な組成が得られるようなものである。
【0044】
重合反応に使用できる一般的な手順は次のとおりである:テトラフルオロエチレン(TFE)を、活性炭床を通過することによって精製し、保持タンク内で再循環によってフッ化ビニリデン(VDF)と所望の比率で混合する。反応器に所望の量の脱イオン水と界面活性剤を入れる。反応器を窒素で加圧し、撹拌しながらその圧力を保持し(例えば、少なくとも5分間)、次いで0psigまでガス抜きすることにより、水充填物を脱酸素化する。このサイクルは繰り返すことができる。連鎖移動剤(chain transfer agent、CTA)を、規定量のフッ素化エーテルと共に反応器に注入する。反応器の内容物を撹拌し、加熱し、TFE/VDF混合物で加圧する。開始剤を添加して重合を開始する。次いで、TFE/VDF混合物を加えて圧力を維持する。開始剤溶液のさらなる分量を添加して、モノマーの取り込みを所望の速度で維持する。規定量のTFE/VDF混合物が反応に添加されると、反応を完了し、その時点で、TFE/VDF混合物の供給を停止し、圧力を自然に低下させる。反応物を室温まで冷却し、排気し、生成物を反応器の底口から排出する。ラテックス製品の固形分は、既知の質量のラテックスを乾燥させて一定重量にし、質量差を使用してラテックス製品の固形分パーセントを計算することによって決定される。
【0045】
本発明のポリマーは、適切な連鎖移動剤をモノマーの総モル数に基づいて、0.01~0.5モル%、好ましくは0.01~0.4モル%、最も好ましくは0.01~0.25モル%で合成される。生成物の分子量を調節するために、連鎖移動剤が重合に添加される。それらは、反応の開始時に一度に重合に添加してもよいし、反応全体を通して徐々に又は連続的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加の量及び方法は、使用される特定の連鎖移動剤の活性、及びポリマー生成物の所望の分子量に依存する。本発明において有用な連鎖移動剤の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:連鎖移動剤として機能できる、アルコール、炭酸塩、ケトン、エステル、エーテルなどの含酸素有機化合物;クロロカーボン、ハイドロクロロカーボン、クロロフルオロカーボン及びハイドロクロロフルオロカーボンなどのハロカーボン及びハイドロハロカーボン;エタン及びプロパン。使用できる連鎖移動剤の具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:エタン、プロパン、ブタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;アセトンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノールやエタノールなどのアルコール;メチルメルカプタン等のメルカプタン;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチルなどのハロゲン化炭化水素、及びポリアクリル酸。
【0046】
一実施形態において、39.5~57.0モル%のTFE、42.0~57.5モル%のVDF、及び1.0~3.0モル%のPPVEを含む溶融加工可能なフルオロポリマー組成物は、連鎖移動剤として、0.01~0.5モル%の酢酸エチル(モノマーの全モル数に基づく)を使用して合成される。
【0047】
重合は、当技術分野で周知のように、乳化剤としてフルオロ界面活性剤又は非フッ素化界面活性剤を使用することができる(米国特許第8080621号明細書、米国特許第8158734号明細書が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0048】
使用
【0049】
本発明のポリマーは、PVDFコポリマーを押出し又は成形するために使用される通常の加工装置で熱処理することができる。本発明のポリマーは、任意の所望の形状に押出成形又は熱成形することができる。
【0050】
このようなポリマーの用途には、ワイヤー、ケーブル、建築用フィルム(温室)、コーティング、バッテリーバインダー、バッテリーセパレーターフィルム又はコーティング、海洋パイプ、誘電体フィルム、圧電フィルム及びセンサー、焦電フィルム及びセンサー、化学処理フィルム、ポリマー加工助剤、複合材用マトリックス、及び自動車用チューブが含まれる。
【実施例】
【0051】
手順-10L反応器でのラテックス合成:
以下の手順は、モデルコポリマーとしてポリ(テトラフルオロエチレン-co-フッ化ビニリデン-co-パーフルオロプロピルビニルエーテル)(p(TFE-VDF-PPVE))を使用して書かれている。当業者は、以下の実施例、及び本出願の教示を使用して、本発明を本発明の他のフルオロポリマーに拡張することができる。表1は、実施例の反応パラメータを示す。
【0052】
テトラフルオロエチレン(TFE)を、活性炭床を通過することによって精製し、保持タンク内で再循環によってフッ化ビニリデン(VDF)と所定の比率で混合する。内部冷却コイルと機械的撹拌を備えた容量10Lのオートクレーブに、所望の量の脱イオン水と9.0gの(界面活性剤)パーフルオロ(2,5-ジメチル-3,6-ジオキサノナン酸)を入れる。反応器を超高純度窒素で60psigに加圧し、撹拌しながらその圧力を5分間保持し、次いで0psigまでガス抜きすることにより、この水充填物を脱酸素化する。このサイクルをさらに2回繰り返す。その時点で、酢酸エチル(EA)連鎖移動剤(CTA)を、所定量のパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)と共に反応器に注入する。反応器の内容物を撹拌し、80℃に加熱し、TFE/VDF混合物を1.4MPaに加圧する。過硫酸カリウム1.0%及びリン酸二カリウム1.0%の水溶液(KPS/K2HP)1.0gを高圧シリンジポンプを用いて添加し、重合を開始する。次いで、加圧中と同じ比率でTFE/VDF混合物を添加して、1.4MPaの圧力を維持する。KPS/K2HP溶液のさらなる分量を添加して、500g/時を超える速度でモノマーの取り込みを維持する。規定量のTFE/VDF混合物が反応器に添加されると、反応を完了し、その時点で、TFE/VDF混合物の供給を停止し、圧力を30分間自然に低下させる。反応器を室温まで冷却し、排気し、生成物を反応器の底口から排出する。ラテックス製品の固形分は、既知の質量のラテックスを乾燥させて一定重量にし、質量差を使用してラテックス製品の固形分パーセントを計算することによって決定される。
【0053】
各実験は、記載された材料量及びプロセスパラメータを用いて、一般的な手順で説明されたように単一のバッチを構成する。
【0054】
【0055】
溶融温度及び溶融粘度は、上記のように測定した。
【0056】
【0057】
溶融粘度が21以上の組成物は溶融加工できない。
【国際調査報告】