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特表2023-536846供給原料の柔軟性を有する水素化分解操作
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】供給原料の柔軟性を有する水素化分解操作
(51)【国際特許分類】
   C10G 65/12 20060101AFI20230823BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20230823BHJP
   C10G 47/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C10G65/12
C10G45/08 Z
C10G47/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023505991
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 US2021043245
(87)【国際公開番号】W WO2022026424
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】63/058,450
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コマラーラチュン、バルト
(72)【発明者】
【氏名】マエセン、テオドルス ルドヴィクス ミカエル
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA01
4H129CA08
4H129CA24
4H129DA21
4H129KA07
4H129KA12
4H129KB02
4H129KB03
4H129KD15X
4H129KD15Y
4H129KD16X
4H129KD16Y
4H129KD22Y
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129MA01
4H129MA12
4H129MB15A
4H129MB20B
4H129NA44
(57)【要約】
石油供給原料をより低沸点の生成物に変換するための水素化分解方法。本方法は、液体生成物を含む水素化処理された流出物流を生成するために、水素の存在下で前処理ゾーンにおいて石油供給原料を水素化処理することを含む。次いで、水素化処理された流出物流の少なくとも一部は、MMS触媒ゾーンに、次いで水素化分解ゾーンに送られる。一実施形態では、MMS触媒ゾーンは、酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された自己担持多金属触媒を含む。前処理ゾーンにおける水素化処理の仕事率は、少なくとも56%のレベルに維持される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油供給原料をより低沸点の生成物に変換するための水素化分解方法であって、
(i)前処理ゾーンにおいて水素の存在下で石油供給原料を水素化処理して、液体生成物を含む水素化処理された流出物流を生成することと、
(ii)前記水素化処理された流出物流を、反応のためのMMS触媒を含むMMS触媒ゾーンに通過させて、生じる流出物を生成することと、
(iii)(ii)からの前記生じる流出物の少なくとも一部を、反応ゾーンを有する水素化分解ゾーンに通過させて、水素化分解された流出物流を生成することと、
を含み、
前記前処理ゾーン(i)の仕事率が、少なくとも56%のレベルに維持される、水素化分解方法。
【請求項2】
(ii)における前記MMS触媒ゾーン中の前記MMS触媒が、酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された自己担持多金属触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MMS触媒ゾーン中の前記MMS触媒が、水酸化物形態の前駆体から調製された自己担持多金属触媒を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化分解された流出物が、蒸留塔に送られる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化分解ゾーンが、最大3つの反応ゾーンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
底部反応ゾーンからの流出物が、蒸留塔に送られる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化分解ゾーンが、水素化脱硫ゾーンである少なくとも1つの反応ゾーンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記底部反応ゾーンが、水素化脱硫ゾーンである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記水素化脱硫ゾーンが、1つの第VIII族貴金属及び2つの第VIB族金属から構成されるバルク多金属触媒を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蒸留塔からの残油の一部が、FCCユニットに送られる、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
軽質ナフサ、重質ナフサ、灯油及びディーゼルの留分が前記蒸留塔から回収される、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記自己担持多金属触媒が、一般式:
[(M)(OH)(L) (MVIB
(式中、
Aは、1つの一価カチオン種であり、
は、第IIA族、第IIB族、第IVA族及び第VIII族金属の1つ以上から選択される、+2又は+4の酸化状態を有する助触媒金属であり、
Lは、有機酸素含有配位子であり、及び
VIBは、第VIB族金属である)
の水酸化物形態の前駆体触媒を硫化することによって調製される、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒前駆体M:MVIBが、100:1~1:100の原子比率を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
がニッケル(Ni)であり、MVIBがモリブデン(Mo)、タングステン(W)又はこれらの組合せから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒前駆体がNi-Mo-Wを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Ni:(Mo+W)が、10:1~1:10のモル比を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
Lがマレアート配位子である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記前処理ゾーン、MMS触媒ゾーン及び前記水素化分解ゾーンが同一の反応器内にある、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記前処理ゾーンが第1の反応器内にあり、前記MMS触媒ゾーン及び前記水素化分解ゾーンが第2の反応器内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記MMS触媒ゾーンが、前記第2の反応器の上半分にあり、水酸化物形態の前駆体から調製された触媒を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
(i)における前記前処理ゾーンが、前記MMS触媒ゾーン及び前記水素化分解ゾーンより前に複数の水素化処理反応床を備える、請求項1に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、反応器システム及び炭化水素改質におけるその使用に関する。より具体的には、本出願は、供給原料の柔軟性も可能にしながら、2つの段階での仕事率(work percentage)の制御を通じて連続運転時間を延長する2段階水素化分解反応器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
市場動向及び規制環境に対する製油所の柔軟性及び応答性は、製油所の競争力に大きな影響を与える。安価なオポチュニティー原油及び適合性のあるカッターストックの利用可能性、残留燃料油に対する規制の強化並びに石油化学供給原料、基油及び輸送燃料間の価格差など、いくつかの要因が応答性に対するこの要求を推進する。より堅牢な触媒システムと相まって、製油所プロセススキームに対する仕様がより厳格になるほど、オポチュニティー供給原料が占める割合がより大きなポートフォリオを、市場動向により合致した製品リストへより持続的に変化させる。
【0003】
製油所は、操作の信頼性を最大化するために操作に対して制約を課している。これらの制約的態度を大幅に低減し、改善する最近のプロセス及び触媒の選択肢が開発されている。軽質原油及び重質原油の生産が増加につれて、並びに中質原油が減少するにつれて、ますます多くの製油所が軽質原油と重質原油のオポチュニティーブレンドを供給している。これらの原油ブレンドは、相溶性に関して懸念を引き起こし、蒸留トレインに問題を引き起こすことがあり得、水素化分解装置供給原料中の残油の混入をしばしば悪化させる。標準的な分析技術の検出限界に近いほど混入が少ない場合でさえ、混入した残油は、水素化分解装置の性能に対して有害な影響を及ぼす。資本が利用可能であれば、水素化分解装置供給原料を改善するために改善されたプロセスの選択肢に投資することが可能であり、それによってオポチュニティー原油の悪影響への曝露が軽減される。相溶性の問題に対処する必要性が現下差し迫っていることの例示として、問題を起こす成分の蒸留及び吸収などの解決策は、それらが最初に提案されたかなり後の、現在でも実践されている。資本中立的な解決策は、水素化分解装置への供給原料の終沸点のごくわずかな上昇に伴うリスクを軽減することができる触媒システム及びシステム全体である。
【0004】
水素化分解操作は、典型的には、水素化処理ゾーンとそれに続く水素化分解ゾーンからなる。水素化処理ゾーンの目標は、水素化(又は「飽和」)によって後続の水素化分解ゾーンに入る阻害剤を選択的に最小限に抑えることである。水素化分解ゾーンの目標は、供給原料の沸点を低下させること、すなわち、VGOをより低い沸点の輸送燃料へと水素化変換することである。純粋なガスツーリキッドワックス以外の供給原料を使用する場合、これは水素化分解ゾーンに入る材料の水素化の程度をさらに増加させる。
【0005】
水素化処理ゾーンは、芳香族化合物及び有機窒素化合物を水素化することによって水素化分解阻害剤濃度を低下させる。有機窒素を定量することは比較的簡単であるので、水素化処理ゾーンは、典型的には、有機窒素目標になるように実行される。同時の水素化処理及び水素化分解は、脱アルキル化された(窒素含有)芳香族化合物などのより耐火性の化合物を生成するので、水素化処理ゾーンにおける水素化分解活性は、典型的には、最低20~30%のVGO変換に維持されることが重要である。
【0006】
水素化分解ゾーンは、供給原料の沸点範囲を低下させることによって非変換油の濃度を低下させる。水素化分解ゾーンは、典型的には、VGO水素化変換標的に対して実行される。
【0007】
主要な問題は、供給原料が劇的に変化する場合に、例えば、比較的高価な直留VGOからより安価な前処理されたVGO供給原料に移行する場合に、(プロセス条件を調整することによって)実行標的をどのように調整するかである。この問題に対する答えは、製油所の最終的な損益にとって極めて重要である。適切なプロセス条件を知ることは、連続運転時間に対して、従って製油所の利益に対して大きな影響を及ぼす。さらに、製油所がより動きの激しい原油及び貨物市場にさらされるようになるにつれて、この問題はより一般的になりつつあり、その結果、精製所は現在、水素化分解装置に進む供給原料の品質のより劇的な変化を受け入れる傾向がより大きくなっている。この劇的により動きの激しい原油市場は、製油所が競争力を維持するために、劇的により柔軟な水素化分解装置の操作を要請する。
【発明の概要】
【0008】
水素化分解ユニット内の石油供給原料(petroleum feed)をより低沸点の生成物に変換するための水素化分解方法(hydrocracking process)であって、自己担持混合金属硫化物(MMS:mixed metal sulfide)触媒を含む、方法が提供される。本方法は、液体生成物を含む水素化処理された流出物流(effluent stream)を生成するために、水素の存在下で、2つ以上の水素化処理ゾーンをしばしば有する前処理ゾーンにおいて石油供給原料を水素化処理することを含む。前処理ゾーンからの水素化処理された流れの流出物の少なくとも一部は、MMS(混合金属硫化物)触媒ゾーンに送られ、得られる流出物はそこから、しばしば2つ以上の反応ゾーンを含む水素化分解ゾーンに送られる。前処理ゾーンにおける水素化処理の仕事率(例えば、水素化の率)は、少なくとも56%のレベルに維持される。仕事率(work percentage)を制御し、仕事率を56%以上に維持することにより、供給原料の柔軟性、並びに水素化分解操作の連続運転時間、安定性及び経済性が大幅に改善されることが明らかとなった。
【0009】
水素化分解ユニットの構成は、すべての反応ゾーン、すなわち前処理ゾーン、MMS(混合金属硫化物)触媒ゾーン及び水素化分解ゾーンを含有する単一の反応器を備えることができる。別の実施形態では、異なるゾーンの2つ以上の触媒が同じ床に存在する層状の装填を使用することができる。別の実施形態では、構成は、各反応器内に様々な反応ゾーンを有する2つの反応器を備える。一実施形態では、2つの反応器が使用される場合、第1の反応器は前処理ゾーンを具現化し、第2の反応器はMMS触媒ゾーン及び水素化分解ゾーンを具現化する。
【0010】
さらに、2反応器水素化分解システム中の第2の反応器の上部で、酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された担持されていない多金属触媒を使用すると、触媒は、起こり得る沈降を妨害する反応を引き起こすことが見出された。2反応器システムにおけるその点での触媒反応は、主要な供給成分が非相溶性芳香族コア中に揮散される前に、主要な供給原料成分を飽和させることによってこれを達成する。この実施形態は、水素化分解操作全体の連続運転時間及び経済性をさらに改善する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】単一の反応器を有し、ワンススルー方式の部分的変換を伴う1段階反応器システムを模式的に示す。
【0012】
図2】複数の反応器を有し、リサイクルでの完全な又は部分的な変換を伴う1段階反応器システムを模式的に示す。
【0013】
図3】完全な変換を伴う2段階システムを模式的に示す。
【0014】
図4】段階を逆にした反応器(R)を有し、完全な変換を伴う2段階反応器システムを模式的に示す図である。
【0015】
図5】0.56を上回る前処理仕事率を維持することの重要性をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法及び触媒反応器システムを利用することにより、劇的な供給原料の変化にさえ容易に対応することができる。本発明の方法では、それぞれ、前処理水素化処理ゾーンで、並びにMMS(混合金属硫化物)触媒及び水素化分解ゾーンで行われる水素化及び仕事(work)の程度が、原料の性質に相応していることが保証される。例えば、(通例、水素欠乏の度合いがより低い)従来の直留原料の場合、前処理ゾーンは、MMS触媒及び水素化分解ゾーンの1.2倍水素化する必要があるに過ぎないのに対して、(通例、水素欠乏の度合いがより高い)分解された原料が多い原料の場合、前処理ゾーンは、MMS触媒及び水素化分解ゾーンの4倍多く水素化する必要がある。本発明の方法の触媒を用いると、各ゾーン中の触媒床の温度を制御することによって、必要な制御を維持できることが明らかとなった。
【0017】
本発明の方法は、3ゾーン反応器システムを含む。第1のゾーンは前処理ゾーンである。前処理ゾーンは、一般に、供給原料を水素化処理することを含む。前処理は、単一の水素化処理床で、又は複数の処理床で行うことができる。前処理ゾーン内の反応床の数は変化し得る。一実施形態では、水素化処理反応床の数量は1床より多く、別の実施形態では、反応/水素化処理床の数は最大4床である。この数は、設計に基づいて、1、2、3、4又はそれより多くとすることができる。
【0018】
前処理ゾーンにおける水素化処理は、後続のMMS触媒及び水素化分解ゾーンに入る有機N、有機S及び芳香族化合物などの阻害剤を選択的に最小限に抑えるように設計される。これは、水素化又は飽和を通じて達成される。本質的に、前処理ゾーンは、後続のMMS触媒及び水素化分解ゾーンにおいて、これらの阻害剤に対して感受性であり得る後続の触媒を保護するのを補助するために存在する。本発明の方法によって、前処理ゾーンにおいて特定の仕事率を使用すると、供給原料の大きな変化にもかかわらず、連続運転時間が劇的に増加することが発見された。この仕事率は、特定の触媒システムに関連して発見され、一般的に適用可能であることが明らかとなった。
【0019】
前処理ゾーンに後続する第2のゾーンは、混合金属硫化物(MMS)触媒ゾーンである。MMS触媒は、任意の混合金属硫化物触媒であり得、一般に自己担持される。一実施形態では、MMS触媒は、酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された自己担持多金属触媒である。好ましい実施形態では、前駆体は水酸化物形態である。
【0020】
第3のゾーンは、水素化分解ゾーンである。水素化分解ゾーンは、供給原料の沸点を低下させるために供給原料を水素化分解することを含む。水素化分解ゾーンは、単一の反応床又は複数の反応床を含むことができる。水素化分解ゾーンは、数個の反応床を有することができ、水素化脱硫又は後処理ゾーンなどの他の仕上げ反応ゾーンを含むことができる。合わせた水素化分解ゾーンも、設計に基づいて、2つ以上の床又は複数の反応床を有することができる。
【0021】
本水素化分解システムの構成は、リサイクルあり又はリサイクルなしで、単一の反応器、2つの別個の反応器を含むことができる。生成物の蒸留及び分離は、水素化分解ゾーンの後にのみ行われるべきである。重要な側面は、1つ又は複数の水素化処理反応ゾーンを含む前処理ゾーン、MMS触媒ゾーン及び少なくとも1つの水素化分解反応床を含む水素化分解ゾーンが存在することである。水素化脱硫ゾーンなどの他の仕上げ反応ゾーンと同様に、追加の反応ゾーンも、水素化分解ゾーンの一部とすることができる。水素化脱硫(hydrodesulfurizaton)ゾーンは、存在する場合、しばしば水素化分解ゾーンの最後の反応床である。
【0022】
本発明の方法は、水素化分解、MMS触媒及び水素化処理反応ゾーンが水素化によって供給原料の飽和度を増加させるという事実を利用する。水素化は水素を消費し、反応器の温度を上昇させる。精製機は、反応器を通る供給原料の経路に沿った重要な接合部において「急冷」水素を添加することによって、水素化分解反応器の温度を抑制する。本発明の方法は、前処理水素化処理ゾーンの窒素目標を満たすように平均反応器床温度を調整し続けること、並びにMMS触媒及び水素化分解ゾーンの変換目標を満たすように平均反応器温度を調整し続けることを含むが、さらに、水素化処理において消費される水素及び水素化分解において消費される水素が供給原料の水素欠乏に見合っていることを確実にすることを含む。
【0023】
水素消費を適切に抑制することは、複数の水素化分解反応器構成における供給原料の大きな変化にもかかわらず、連続運転時間を劇的に増加させることが証明された。運転の終了は水素化分解ユニットにおいて最も費用のかかる頻繁に起こる事象であるため、適切な水素化制約の実施を通じた連続運転時間の延長は、製油所の最終的な収益に数百万ドルをもたらすことができる。
【0024】
MMS触媒、特に酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された自己担持多金属触媒を含むものが使用される場合、少なくとも56%の前処理ゾーンの仕事率(work percentage)を維持することによって水素消費を制御することが、このような利点をもたらすことが見出された。仕事率は、MMS触媒及び水素化分解ゾーンの全温度上昇に対して前処理ゾーン中の床又は反応ゾーンの全温度上昇(仕事)を制御することに基づく。前処理ゾーンにおける温度上昇の仕事率は、水素化分解システムにおけるすべての反応床又は反応ゾーンの全温度上昇(仕事)の56%以上でなければならない。前処理ゾーン中の床の全温度上昇は、水素化分解システム全体中のすべての反応床又は反応ゾーンの全温度上昇(仕事)、すなわち、前処理ゾーン、MMS触媒ゾーン及び水素化分解ゾーンのすべての反応床における全温度上昇によって除算される。驚くべきことに、少なくとも56%のこの仕事率は、本MMS触媒を使用する場合に大きな利益をもたらすことが明らかになった。この仕事率の制御は、プロセス全体の容易な制御を可能にし、供給原料の柔軟性と共に、延長された連続運転時間という利点を与える。各反応床又は反応ゾーンにおける温度上昇又は温度変化は、各触媒床の深さに伴った線形的温度増加を利用することによって決定することができる。
【0025】
一実施形態では、単一反応器内にすべてのゾーンを含む単一反応器システムの場合、MMS触媒及び水素化分解ゾーンと比較した水素化処理器又は前処理ゾーンにおける水素消費量は、水素化分解システム内のすべての反応ゾーン又は床における全温度上昇(仕事)に対する前処理ゾーン内の反応床又は反応ゾーンの全温度上昇(仕事)の率を制御することによって制御される。本発明の方法のMMS触媒がMMS触媒ゾーンにおいて使用される場合、前処理ゾーンにおける仕事率(work percentage)は、少なくとも56%でなければならない。この率は、水素化分解システム内のすべての床/ゾーンの温度上昇の総量の比率として、前処理ゾーン内の反応床/ゾーンにおける温度上昇(仕事)の率を表す。
【0026】
一実施形態では、2反応器システムの場合、前処理ゾーン水素化処理器反応器とMMS触媒及び水素化分解ゾーンとの間の水素消費は、比が約56/44以上(前処理ゾーンについて56%)であるように制御される。上述のように、水素化分解システム内のすべての反応床における温度上昇(仕事)に対する前処理ゾーン内の反応床の全温度上昇(仕事)の率を制御することによって、この水素消費を適切に制御できることが発見された。反応器システム内のすべての触媒床の温度上昇(仕事)に対する、前処理ゾーン、すなわち水素化処理装置反応ゾーン内のすべての床によって示される温度上昇又は仕事の率である前処理ゾーンについての仕事率を少なくとも56%に制御することによって、大きな利点が実現される。
【0027】
より具体的には、技術サービス又はオペレータがユニットを管理する場合、技術サービス又はオペレータが床の発熱(床を横切る軸方向温度上昇として測定され、反応器制御パネル上に連続的に示される)を管理する。触媒床が過度に活性である場合、水素化プロセス処理活性(hydroprocessing activity)を増大させるために、急冷するためにより多くのHを添加するか、又はより多くの熱を床に添加する。オペレータが達成できることには限界が存在する。オペレータは、急冷限界(フルオープン急冷バルブが、どれだけの量のHを導入することができるかを制限する)に直面し、隣接する床に問題が生じる(過熱)よりずっと前に、個々の床を加熱することしかできないという事実に直面する。床が長すぎる場合、より多くの急冷が利用可能でない限り、床はより熱くなる。触媒が失活している場合、温度をそれほど上昇させることはできない。仕事率の使用は、プラントの安全性の増大を促進した。これは、オペレータが計算された仕事率を観察すると、及び必要に応じて、少なくとも56%を超えた状態を保つように反応器温度を調整すると実現される。56%未満の温度設定は、水素化分解システム内のすべての反応ゾーンにおいて水素化活性を低下させる。これは、水素化分解システム内のゾーンの早期の不活性化を引き起こした。56%を超える温度設定では、活性を残存させる。気付かれずに放置された場合、60%をはるかに超える仕事率及び水素化処理ゾーンにおいて付随して起こる高い熱放出は、温度逸脱の開始につながることがあり、最終的には暴走につながることがある。したがって、仕事率は、最小限の監視で、特に週末及び休日中にプロセス制御の安全性を得るための追加的な安全対策を与える。
【0028】
この着想は、前処理ゾーンで必要最小限の水素化仕事を行うように、MMS触媒ゾーンに達するより前に仕事率を設定することである。これは、反応器システム内のすべての触媒床によって示される温度上昇又は仕事(work)に対する、前処理ゾーンによって示される温度上昇又は仕事の率として定義される、前処理ゾーンの仕事率として表される。前処理ゾーンは、仕事の少なくとも56%、より好ましくは58%、最も好ましくは60%(システム全体にわたった床における総発熱から計算される)をより良好に行うことが発見された。仕事率に上限は存在しないが、前処理ゾーンですべての仕事を行うことは、大きな設計上の欠陥を意味する。仕事率が低すぎる(56%未満)場合、MMS触媒床及びその後の反応ゾーンは急速に不活性化する、すなわち、これらの触媒を含有する床は急速に、ますます低い発熱(軸方向床温度上昇)を示す。
【0029】
図1~5を概観することによって、よりよい理解が可能となる。図1は、1段階反応器システムを示す。示されている単一の反応器Rには、4つの反応ゾーンが存在することができ、2つは前処理ゾーンを含む。反応器はまた、好ましくは酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された触媒を有するMMS(混合金属硫化物)触媒ゾーンと水素化分解ゾーンとを含む。
【0030】
図1では、石油供給原料(petroleum feed)FFが反応器Rに供給される。水素化処理は、前処理ゾーンの2つのゾーンにおいて行うことができる。次いで、生成された水素化処理された流出物は、本触媒を含むMMS触媒ゾーンに供給される。次いで、MMS触媒ゾーンからの流出物は、反応器R内の水素化分解ゾーンに送られる。次いで、反応器Rからの残油を蒸留塔に送ることができる。軽質ナフサ、重質ナフサ、灯油及びディーゼルを塔から回収することができる。塔の残油は、FCC供給原料に送ることができ、及び/又は一部を反応器Rにリサイクルすることができる。
【0031】
反応器では、前処理ゾーンの仕事率(work percentage)を少なくとも56%の値に維持することが重要である。仕事率は、前処理ゾーン内の2つの床の温度上昇を加算し、その値を反応器のすべての床における温度上昇で割ることによって決定される。例えば、前処理ゾーンの第1の床又は水素化処理ゾーンの温度上昇が15℃であり、前処理ゾーンの第2の床又は水素化処理ゾーンの温度上昇が10℃である場合、前処理ゾーンの温度上昇又は仕事(work)は、15°+10°、すなわち25°である。MMS触媒ゾーンにおける温度上昇が8℃であり、水素化分解ゾーンにおける上昇が10℃である場合、計算された仕事率は(15+10)/(15+10+8+10)となり、これは25/43=58%に等しい。これは良好な結果であり、このような仕事率を維持することは、上記の優れた利益をもたらす。
【0032】
図2は、複数の反応器R1及びR2を有する反応器システムを示す。供給原料は、前処理ゾーンを含むことができるR1中に導入される。前処理ゾーンR1は、例えば、4つの水素化処理床又は反応ゾーンを含むことができる。しかしながら、数は変化し得る。水素化は、ヘテロ原子の大部分を除去する。次いで、水素化処理された流出物は、R1の底部からR2に送られる。反応器R2は、2つ以上の床又は反応ゾーンを使用することができるMMS触媒ゾーンと、水素化分解ゾーンとを含む。各ゾーン内の反応床又は反応ゾーンの数は変化し得る。R2中の最初の又は上部の反応ゾーンは、好ましくは酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製される触媒を含むMMS触媒ゾーンである。第2の反応器のこの上部レベル位置において、MMS触媒は、沈降作用をもたらすという追加の利点も提供することができることが明らかとなった。
【0033】
次いで、MMS触媒ゾーンからの流出物は、水素化分解ゾーンの1つ又は複数の反応床に送られる。反応器R2において必要とされる水素化分解機能性に応じて、2種類以上の水素化分解触媒を使用することができる。反応器R2の底部床は、温度を下げてメルカプタンの形成を阻害し、一切の組換えメルカプタンを無機硫黄に変換する目的で、より効果的な脱硫のための触媒的に有効な量の脱硫触媒をしばしば含有する。次いで、水素化分解された流出物は、例えばR2の残油として蒸留塔又は分留装置に供給することができ、そこからナフサ及びディーゼルなどの様々な石油生成物が回収される。
【0034】
図2、反応器R1では、R1(前処理ゾーン)中の4つの床がそれぞれ10℃、15℃、8℃及び5℃の温度上昇を経験すれば、前処理ゾーンの仕事(work)は38℃(10+15+8+5)である。反応器R2では、MMS触媒ゾーンの仕事又は温度上昇が5℃であり、水素化分解ゾーンの2つの反応床における仕事又は温度上昇がそれぞれ10℃及び17℃であれば、MMS触媒及び水素化分解ゾーンの仕事(work)は32℃である。したがって、前処理ゾーンの仕事率(work percentage)は、38/(38+32)、すなわち54%として計算される。本発明の方法及びシステムにおけるようにMMS触媒を使用する場合に前処理ゾーンにおける仕事率は、少なくとも56%、より好ましくは58%以上、最も好ましくは約60%であるべきであることが発見されたので、これは許容されない。このような場合には、仕事率が少なくとも56%に増加するように、反応器R1は、水素化をより活性にする必要がある。
【0035】
図3及び図4は、2段階反応器システムを示す。前処理ゾーンにおける仕事率は、図3及び図4のシステムにも適用される。しかしながら、仕事率を適用するためには、供給原料は、図3及び図4におけるS2へのリサイクル、又は図4におけるRへの新鮮な供給原料などの外来成分の導入なしに連続したゾーンを通って流れる必要がある。仕事率は、すべての反応ゾーンが単一の容器内に存在する任意のシステムに対して、及び容器間分別なしに容器内にゾーンを有するシステムに対して適用される。例えば、図2では、外来成分の妨害又は導入なしにゾーンがR1からR2中に広がる。
【0036】
図5は、供給原料の前処理及び分解のグラフである。グラフは、前処理ゾーン、並びにMMS触媒及び水素化分解ゾーンにおける相対仕事-温度上昇-を示す。この反応では、最初の530日については、ユニットは供給原料を十分に前処理しなかったので、前処理ゾーンの仕事率は低すぎ、すなわち56%を下回った。それは性能の著しい低下を引き起こしていた。図中のグラフは、減少し続けるMMS触媒及び水素化分解ゾーンにおける熱放出によるこのような劣化を示す。熱放出の減少は、性能の低下を意味する。驚くべきことに、前処理ゾーンの仕事率が56%を超えて増加すると、システムが調整され、したがって安定化された。したがって、540日後、前処理ゾーン並びにMMS触媒及び水素化分解ゾーンの両方における熱放出はもはや時間の関数ではなく、性能は大幅に改善される。
【0037】
したがって、論じられている仕事率は、水素化分解システム内のすべての触媒床における全温度上昇(仕事)に対する前処理ゾーンの床における全温度上昇(仕事)と関係がある。これは、図1図4のすべてのシステムに当てはまる。図5は、前処理ゾーンにおける仕事率を少なくとも56%に維持することの重要性を実証している。
【0038】
前処理ゾーンの温度上昇に関する仕事率を少なくとも56%に制御することを含む本発明の方法は、好ましくは酸化物又は水酸化物形態の前駆体から調製された担持されていない多金属触媒を含むMMS触媒ゾーンが水素化分解システムにおいて使用される場合に限って適用可能であることが明らかとなった。一実施形態では、触媒は、第2の反応器の上部床、すなわち図2の反応器R2中の上部床において使用される。一実施形態では、触媒は水酸化物形態の前駆体から調製されることが最も好ましい。
【0039】
本反応器システムにおいて使用されるこの好ましい触媒は、以下の式の前駆体の触媒を硫化することによって調製された、担持されていない多金属触媒(バルク触媒)である。
【0040】
[(M)(OH)(L) (MVIB)、式中、
Aは、1つの一価カチオン種である
は、第IIA族、第IIB族、第IVA族及び第VIII族金属(特に、第VIII族、Niなど)の1つ以上から選択される、+2又は+4の酸化状態を有する助触媒金属(promoter metal)である
Lは、有機酸素含有(例えば、マレアート)である
VIBは、第VIB族金属(例えば、Mo、Wの1つ以上)である
【0041】
(硫化前の)触媒前駆体の重要な側面は、それが水酸化物形態であることである。担持されていない多金属触媒前駆体は酸化物形態であり、例えば、(Ni)(Mo)(W)は有用ではない。
【0042】
一実施形態では、Lは、カルボキシラート、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、アルデヒドのエノラート形態、ケトンのエノラート形態、及びヘミアセタール、並びにこれらの組合せから選択される。
【0043】
一実施形態では、Aは、NH などの一価カチオン、他の四級アンモニウムイオン、有機ホスホニウムカチオン、アルカリ金属カチオン及びこれらの組合せから選択される。
【0044】
モリブデン及びタングステンの両方が第VIB族金属として使用される一実施形態では、モリブデン対タングステンの原子比率(Mo:W)は、約10:1~1:10の範囲内である。別の実施形態では、Mo:Wの比は、約1:1~1:5である。モリブデン及びタングステンが第VIB族金属として使用される一実施形態では、電荷中性触媒前駆体は、式A[(M)(OH)(L) (Mot’)のものである。モリブデン及びタングステンが第VIB族金属として使用されるさらに別の実施形態では、(Cr+W):Moの比が約10:1~1:10の範囲内で、タングステンの一部又は全部をクロムで置換することができる。別の実施形態では、(Cr+W):Moの比は、1:1~1:5である。モリブデン、タングステン及びクロムが第VIB族金属である一実施形態では、電荷中性触媒前駆体は、式A[(M)(OH)(L) (Mot’Cr’t”)のものである。
【0045】
一実施形態では、助触媒金属Mは、少なくとも1つの第VIII族金属であり、Mは+2の酸化状態を有し、式A[(M)(OH)(L) (MVIB)の触媒前駆体は(v-2+2z-x*z+n*y*z)=0有する。
【0046】
一実施形態では、助触媒金属Mは、Ni及びCoなどの2つの第VIII族金属の混合物である。さらに別の実施形態では、Mは、Ni、Co及びFeなどの3つの金属の組合せである。
【0047】
がZn及びCdなどの2つの第IIB族金属の混合物である一実施形態では、電荷中性触媒前駆体は、式A[(ZnCda’)(OH)(L)(MVIB)のものである。さらに別の実施形態では、MはZn、Cd及びHgなどの3つの金属の組合せであり、電荷中性触媒前駆体は、式A[(ZnCda’Hga”)(OH)(L) (MVIB)のものである。
【0048】
がGe及びSnなどの2つの第IVA族金属の混合物である一実施形態では、電荷中性触媒前駆体は、式A[(Ge,Snb’)(OH)(L) (MVIB)のものである。MがGe、Sn及びPbなどの3つの第IVA族金属の組合せである別の実施形態では、電荷中性触媒前駆体は、式A[(GeSnb’Pbab”)(OH)(L) (MVIB)のものである。
【0049】
助触媒金属成分M:一実施形態では、助触媒金属(M)化合物の供給源は溶液状態にあり、助触媒金属化合物の全量が液体に溶解して均一な溶液を形成する。別の実施形態では、助触媒金属の供給源は、部分的に固体として存在し、部分的に液体に溶解している。第3の実施形態では、助触媒金属の供給源は、完全に固体状態である。
【0050】
助触媒金属化合物Mは、硝酸塩、水和硝酸塩、塩化物、水和塩化物、硫酸塩、水和硫酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リン酸塩、次亜リン酸塩及びこれらの混合物から選択される金属塩又は金属塩の混合物であり得る。
【0051】
一実施形態では、助触媒金属Mは、少なくとも部分的に固体状態であるニッケル化合物、例えば、水不溶性ニッケル化合物、例えば、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、亜リン酸ニッケル、ギ酸ニッケル、フマル酸ニッケル、硫化ニッケル、モリブデン酸ニッケル、タングステン酸ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル合金、例えばニッケル-モリブデン合金、ラネーニッケル、又はこれらの混合物である。
【0052】
一実施形態では、助触媒金属Mは、元素、化合物又はイオン形態での、亜鉛、カドミウム、水銀、ゲルマニウム、スズ又は鉛及びこれらの組合せの群などの第IIB族及び第VIA族金属から選択される。さらに別の実施形態では、助触媒金属Mは、元素、化合物又はイオン形態での、Ni、Co、Fe及びこれらの組合せの少なくとも1つをさらに含む。
【0053】
一実施形態では、助触媒金属化合物は、少なくとも部分的に固体状態である亜鉛化合物、例えば、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、フマル酸亜鉛、硫化亜鉛、モリブデン酸亜鉛、タングステン酸亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛-モリブデン合金などの亜鉛合金などの水に難溶性の亜鉛化合物である。
【0054】
一実施形態では、助触媒金属は、少なくとも部分的に固体状態であるマグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物及びバリウム化合物、例えば、炭酸塩、水酸化物、フマル酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫化物、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物又はこれらの混合物などの非水溶性化合物の群から選択される第IIA族金属化合物である。
【0055】
一実施形態では、助触媒金属化合物は、少なくとも部分的に固体状態であるスズ化合物、例えば、スズ酸、リン酸スズ、ギ酸スズ、酢酸スズ、モリブデン酸スズ、タングステン酸スズ、酸化スズ、スズ-モリブデン合金などのスズ合金などの水に難溶性のスズ化合物である。
【0056】
第VIB族金属成分:第VIB族金属(MVIB)化合物は、固体状態、部分的に溶解した状態、又は溶液状態で添加することができる。一実施形態では、第VIB族金属化合物は、モリブデン、クロム、タングステン化合物及びこれらの組合せから選択される。このような化合物の例には、モリブデン、タングステン又はクロムの金属酸アルカリ金属、アルカリ土類又はアンモニウム、(例えば、タングステン酸アンモニウム、メタ-、パラ-、ヘキサ-若しくはポリタングステン酸アンモニウム、クロム酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、イソ-、ペルオキソ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ヘプタ-、オクタ-若しくはテトラデカモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アルカリ金属、オルトモリブデン酸アルカリ金属又はイソモリブデン酸アルカリ金属)、ホスホモリブデン酸のアンモニウム塩、ホスホタングステン酸のアンモニウム塩、ホスホクロム酸のアンモニウム塩、(二及び三)酸化モリブデン、(二及び三)酸化タングステン、酸化クロム(chromium or chromic oxide)、炭化モリブデン、窒化モリブデン、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸、クロム酸、タングステン酸、Mo-Pヘテロポリアニオン化合物、Wo-Siヘテロポリアニオン化合物、W-Pヘテロポリアニオン化合物が含まれるが、これらに限定されない。W-Siヘテロポリアニオン化合物、Ni-Mo-Wヘテロポリアニオン化合物、Co-Mo-Wヘテロポリアニオン化合物又はこれらの混合物は、固体状態、部分的に溶解した状態、又は溶質状態で添加される。
【0057】
キレート剤(配位子)L:一実施形態では、触媒前駆体組成物は、500mg/Kgを超えるLD50比率(ラットへの単回経口投与として)を有する少なくとも1つの非毒性有機酸素含有配位子を含む。第2の実施形態では、有機酸素含有配位子Lは、700mg/Kgを超えるLD50比率を有する。第3の実施形態では、有機酸素含有キレート剤は、1000mg/Kgを超えるLD50比率を有する。本明細書で使用される場合、「非毒性」という用語は、配位子が500mg/Kgを超えるLD50比率(ラットへの単回経口投与として)を有することを意味する。本明細書で使用される場合、「少なくとも1つの有機酸素含有配位子」という用語は、いくつかの実施形態では、組成物が、2つ以上の有機酸素含有配位子を有し得ることを意味し、有機酸素含有配位子のいくつかは500mg/Kg未満のLD50比率を有し得るが、有機酸素含有配位子の少なくとも1つは、500mg/Kgを超えるLD50比率を有する。
【0058】
一実施形態では、酸素含有キレート剤Lは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸及びエタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸などのアリールスルホン酸、並びに安息香酸などのアリールカルボン酸などの非毒性有機酸付加塩の群から選択される。一実施形態では、酸素含有キレート剤Lはマレイン酸(708mg/kgのLD)である。
【0059】
別の一実施形態では、非毒性キレート剤Lは、グリコール酸(1950mg/kgのLD50を有する)、乳酸(3543mg/kgのLD50)、酒石酸(7500mg/kgのLD50)、リンゴ酸(1600mg/kgのLD50)、クエン酸(5040mg/kgのLD50)、グルコン酸(10380mg/kgのLD50)、メトキシ酢酸(3200mg/kgのLD50)、エトキシ酢酸(1292mg/kgのLD50)、マロン酸(1310mg/KgのLD50)、コハク酸(500mg/kgのLD50)、フマル酸(10700mg/kgのLD50)及びグリオキシル酸(3000mg/kgのLD50)の群から選択される。さらなる実施形態では、非毒性キレート剤は、メルカプトコハク酸(800mg/kgのLD50)及びチオジグリコール酸(500mg/kgのLD50)が含まれるが、これらに限定されない有機硫黄化合物の群から選択される。
【0060】
さらに別の実施形態では、酸素含有配位子Lは、カルボキシラート含有化合物である。一実施形態では、カルボキシラート化合物は、1つ以上のカルボキシラート官能基を含有する。さらに別の実施形態では、カルボキシラート化合物は、ホルマート、アセタート、プロピオナート、ブチラート、ペンタノアート及びヘキサノアートを含むがこれらに限定されないモノカルボキシラート、並びにオキサラート、マロナート、スクシナート、グルタラート、アジパート、マラート、マレアート、フマラート及びこれらの組合せを含むがこれらに限定されないジカルボキシレートを含む。第4の実施形態では、カルボキシラート化合物はマレアートを含む。
【0061】
有機酸素含有配位子は、助触媒金属含有溶液若しくは混合物、第VIB族金属含有溶液若しくは混合物、又は助触媒金属及び第VIB族金属含有沈殿物、溶液若しくは混合物の組合せと混合することができる。有機酸素含有配位子は、有機酸素含有配位子の全量が水などの液体に溶解した溶液状態であり得る。有機酸素含有配位子は、助触媒金属、第VIB族金属及びこれらの組合せとの混合中に部分的に溶解され、部分的に固体状態であり得る。
【0062】
希釈剤成分:希釈剤という用語は、結合剤と互換的に使用され得る。希釈剤の使用は、触媒前駆体の製造において任意である。
【0063】
一実施形態では、触媒前駆体組成物を製造するためのプロセスに、希釈剤が含まれる。一般に、添加される希釈剤材料は、(希釈剤なしに)触媒前駆体組成物から調製された触媒より低い触媒活性を有するか、又は触媒活性を全く有さない。その結果、一実施形態では、希釈剤を添加することによって、触媒の活性を低下させることができる。したがって、本プロセスにおいて添加される希釈剤の量は、一般に、最終触媒組成物の所望の活性に依存する。想定される触媒用途に応じて、全組成物の0~95重量%の希釈剤量が適切であり得る。
【0064】
希釈剤は、助触媒金属成分、助触媒金属含有混合物、第VIB族金属又は金属含有混合物に同時に又は交互に添加することができる。あるいは、助触媒金属と第VIB族金属混合物を一緒に組み合わせることができ、その後、組み合わせた金属混合物に希釈剤を添加することができる。金属混合物の一部を同時に又は交互に組み合わせ、その後、希釈剤を添加し、最後に金属混合物の残りを同時に又は交互に添加することも可能である。さらに、希釈剤を溶質状態の金属混合物と組み合わせ、その後、少なくとも部分的に固体状態の金属化合物を添加することも可能である。有機酸素含有配位子は、金属含有混合物の少なくとも1つに存在する。
【0065】
一実施形態では、希釈剤は、バルク触媒前駆体組成物と混ぜ合わされるより前に、及び/又はバルク触媒前駆体組成物の調製中に添加されるより前に、第VIB族金属及び/又は助触媒金属と混ぜ合わされる。一実施形態では、希釈剤をこれらの金属のいずれかと混ぜ合わせることは、これらの材料による固体希釈剤の含浸によって行われる。
【0066】
希釈剤材料は、水素化プロセス処理(hydroprocessing)触媒前駆体中で希釈剤又は結合剤として従来適用されている任意の材料を含む。例としては、シリカ、シリカ-アルミナ、例えば従来のシリカ-アルミナ、シリカ被覆アルミナ及びアルミナ被覆シリカ、アルミナ、例えば(擬似)ベーマイト、若しくはギブサイト、チタニア、ジルコニア、カチオン性粘土又はアニオン性粘土、例えばサポナイト、ベントナイト、カオリン、セピオライト若しくはハイドロタルサイト、又はこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、結合剤材料は、シリカ、アルミニウムをドープしたコロイド状シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ、チタン、ジルコニア、又はこれらの混合物から選択される。
【0067】
これらの希釈剤は、そのまま又は解膠後に適用することができる。プロセス中に、上述の希釈剤のいずれかに変換されるこれらの希釈剤の前駆体を適用することも可能である。適切な前駆体は、例えば、アルミン酸アルカリ金属若しくはアンモニウム(アルミナ希釈剤を得るため)、水ガラス若しくはアンモニウム若しくは酸安定化シリカゾル(シリカ希釈剤を得るため)、アルミン酸塩とケイ酸塩の混合物(シリカアルミナ希釈剤を得るため)、二価、三価及び/若しくは四価金属源の混合物、例えばマグネシウム、アルミニウム及び/若しくはケイ素の水溶性塩の混合物(カチオン性粘土及び/又はアニオン性粘土を調製するため)、クロロヒドロール、硫酸アルミニウム、又はこれらの混合物である。
【0068】
他の任意に含まれてもよい成分:所望であれば、上記の成分に加えて、他の金属を含む他の材料を添加することができる。これらの材料には、従来の水素化プロセス処理(hydroprocessing)前駆体の調製中に添加される任意の材料が含まれる。適切な例は、リン化合物、ボリウム化合物、追加の遷移金属、希土類金属、充填剤又はこれらの混合物である。適切なリン化合物としては、リン酸アンモニウム、リン酸又は有機リン化合物が挙げられる。リン化合物は、プロセス工程の任意の段階で添加することができる。プロセス工程に添加することができる適切な追加の遷移金属としては、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、白金、パラジウム、コバルトなどが挙げられる。一実施形態では、追加の金属は非水溶性化合物の形態で適用される。別の実施形態では、追加の金属は水溶性化合物の形態で添加される。プロセス中にこれらの金属を添加することとは別に、最終触媒前駆体組成物を任意に含まれてもよい材料と混ぜ合わせることも可能である。例えば、これらの追加の材料のいずれかを含む含浸溶液を最終触媒前駆体組成物に含浸させることが可能である。
【0069】
水素化プロセス処理(hydroprocessing)触媒前駆体を製造するための方法:調製方法は、元素の相対量、試薬の種類、並びに様々な反応及び反応工程の長さ及び過酷さを制御することによって、触媒前駆体の組成及び構造の系統的な変動を可能にする。
【0070】
触媒前駆体の形成において使用される試薬の添加順序は重要ではない。例えば、有機酸素含有配位子は、沈殿又は共ゲル化の前に、助触媒金属と第VIB族金属の混合物と組み合わせることができる。有機酸素含有配位子は、助触媒金属の溶液と混合し、次いで1つ以上の第VIB族金属の溶液に添加することができる。有機酸素含有配位子は、1つ以上の第VIB族金属の溶液と混合し、1つ以上の助触媒金属の溶液に添加することができる。
【0071】
第VIB族/助触媒金属を用いた沈殿物又は共ゲルの形成:プロセスの一実施形態では、第1の工程は沈殿又は共ゲル化工程であり、溶液中の助触媒金属成分と溶液中の第VIB族金属成分とを混合物中で反応させて沈殿物又は共ゲルを得ることを含む。沈殿又は共ゲル化は、助触媒金属化合物及び第VIB族金属化合物が沈殿するか又は共ゲルを形成する温度及びpHで行われる。次いで、触媒前駆体の一実施形態を形成するために、溶液中の又は少なくとも部分的に溶液中の有機酸素含有配位子は沈殿物又は共ゲルと組み合わされる。
【0072】
一実施形態では、触媒前駆体が形成される温度は50~150℃である。この温度が、水の場合における100℃などプロトン性液体の沸点を下回る場合、プロセスは一般に大気圧で行われる。この温度を上回ると、反応は一般に、オートクレーブ中などの増加した圧力で行われる。一実施形態では、触媒前駆体は、0~3000psigの間の圧力で形成される。第2の実施形態では、100psig~1000psigである。
【0073】
混合物のpHは、生成物の所望される特性に応じて、沈殿又は共ゲル化の速度を増加又は減少させるように変化させることができる。一実施形態では、混合物は、反応工程の間、その自然のpHに保たれる。別の実施形態では、pHは、0~12の範囲に維持される。別の実施形態では、4~10の間である。さらなる実施形態では、pHは7~10の範囲である。pHを変化させることは、塩基若しくは酸を反応混合物に添加するか、又は温度上昇時に、それぞれpHを上昇若しくは低下させる水酸化物イオン若しくはHイオンに分解する化合物を添加することによって行うことができる。例としては、尿素、亜硝酸塩、水酸化アンモニウム、無機酸、有機酸、無機塩基及び有機塩基が挙げられる。
【0074】
一実施形態では、助触媒金属成分の反応は、水溶性金属塩、例えば、亜鉛、モリブデン及びタングステン金属塩を用いて行われる。溶液は、他の助触媒金属成分、例えば、Cd(NO又は(CHCOCdなどのカドミウム又は水銀化合物、Co(NO又は(CHCOCoなどのコバルト又は鉄化合物を含む第VIII族金属成分及びクロムなどの他の第VIB族金属成分をさらに含むことができる。
【0075】
一実施形態では、助触媒金属成分の反応は、水溶性の、スズ、モリブデン及びタングステン金属塩を用いて行われる。溶液は、他の第IVA族金属成分、例えばPb(NO又は(CHCOPbなどの鉛化合物、及びクロム化合物などの他の第VIB族金属化合物をさらに含むことができる。
【0076】
反応は、亜鉛/モリブデン/タングステン、スズ/モリブデン/タングステン、亜鉛/モリブデン、亜鉛/タングステン、スズ/モリブデン、スズ/タングステン、又は亜鉛/スズ/モリブデン/タングステン、又はニッケル/モリブデン/タングステン、コバルト/モリブデン/タングステン、ニッケル/モリブデン、ニッケル/タングステン、コバルト/モリブデン、コバルト/タングステン、又はニッケル/コバルト/モリブデン/タングステンの沈殿物又は共ゲルの組合せをもたらす適切な金属塩を用いて行われる。有機酸素含有配位子は、助触媒金属化合物及び/又は第VIB族金属化合物の沈殿又は共ゲル化の前又は後に添加することができる。
【0077】
金属前駆体は、溶液、懸濁液又はこれらの組合せ中の反応混合物に添加することができる。可溶性塩がそのまま添加されれば、可溶性塩は反応混合物中に溶解し、その後沈殿又は共ゲル化する。沈殿及び水の蒸発をもたらすために、溶液は、任意に真空下で、加熱することができる。
【0078】
沈殿又は共ゲル化の後、水を除去するために、触媒前駆体を乾燥させることができる。乾燥は、大気条件下又は窒素、アルゴン若しくは真空などの不活性雰囲気下で行うことができる。乾燥は、水を除去するのに十分であるが有機化合物を除去しない温度で行うことができる。好ましくは、乾燥は、一定重量の触媒前駆体に達するまで約120℃で行われる。
【0079】
任意の結合剤成分を用いた沈殿物の形成:結合剤を使用する一実施形態では、溶液、懸濁液又はこれらの組合せ中に金属前駆体を含有する反応混合物に結合剤成分を添加することができ、沈殿又は共ゲル化を形成する。その後、水を除去するために、沈殿物を乾燥させる。
【0080】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土を結合剤として使用する一実施形態では、ケイ素成分、アルミニウム成分、マグネシウム成分、助触媒金属化合物及び/又は第VIB族金属化合物を含む第1の反応混合物が形成される。一実施形態では、第1の反応混合物は、周囲圧力及び温度条件下で形成される。一実施形態では、反応は、0.9バール~1.2バールの範囲の圧力及び約0℃~100℃の温度下で行われる。
【0081】
ケイ素成分の例としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゲル、シリカゾル、シリカゲル、ヒドロニウム又はアンモニウムで安定化されたシリカゾル、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法において有用なアルミニウム成分アルミニウムの例としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法において有用なマグネシウム成分の例には、金属マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、硫酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、混合物のpHを約1~約6に調整するために、金属前駆体及び結合剤成分を含有する混合物に十分な量の酸が添加され、第1の反応混合物を形成する。
【0082】
第1の反応混合物の形成後、第2の反応混合物を形成するためにアルカリ塩基が添加される。アルカリ塩基の例としては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられるが、これらに限定されない。得られた第2の反応混合物のpHが約7~約12になるように、十分なアルカリ塩基が第1の反応混合物に添加される。次いで、少なくとも粘土を結合剤として組み込む触媒前駆体を形成するために、第2の反応混合物を十分な時間及び十分な温度で反応させる。複数の実施形態では、時間は少なくとも1秒である。第2の実施形態では、15分である。第3の実施形態では、少なくとも30分。第2の反応混合物の温度は、約0℃~約100℃の範囲であり得る。反応は、周囲圧力で行うことができるが、より高い又はより低い圧力は排除されない。
【0083】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土を結合剤として用いる一実施形態では、ケイ素対アルミニウム対マグネシウムの比は、元素モル比:aSi:bAl:cMgで表すことができ、「a」は3~8の値を有し、「b」は0.6~1.6の値を有し、「c」は3~6の値を有する。
【0084】
触媒前駆体の特性評価:電荷中性触媒前駆体の特性評価は、粉末X線回折(PXRD)、元素分析、表面積測定、平均孔径分布、平均細孔容積を含むがこれらに限定されない当技術分野で公知の技術を使用して行うことができる。多孔度及び表面積の測定は、B.E.T.窒素吸着条件下でBJH分析を使用して行うことができる。
【0085】
触媒前駆体の特性:一実施形態では、触媒前駆体は、窒素吸着によって決定された場合に0.05~5ml/gの平均細孔容積を有する。別の実施形態では、平均細孔容積は0.1~4ml/gである。第3の実施形態では、0.1~3ml/gである。
【0086】
一実施形態では、触媒前駆体は、少なくとも10m/gの表面積を有する。第2の実施形態では、少なくとも50m/gの表面積である。第3の実施形態では、少なくとも150m/gの表面積である。
【0087】
一実施形態では、触媒前駆体は、窒素吸着によって定義された場合に、2~50ナノメートルの平均孔径を有する。第2の実施形態では、3~30ナノメートルの平均孔径を有する。第3の実施形態では、4~15ナノメートルの平均孔径を有する。
【0088】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土を結合剤として含める一実施形態では、触媒前駆体は、基本的な粘土小板の積層から構成される層状材料である。
【0089】
成形プロセス:一実施形態では、触媒前駆体組成物は、一般に、意図される商業的用途に応じて様々な形状に直接形成することができる。これらの形状は、押出、ペレット化、ビーディング、又は噴霧乾燥などの任意の適切な技術によって作製することができる。バルク触媒前駆体組成物の液体の量が多すぎて、直接成形工程に供することができなければ、成形前に固液分離を行うことができる。
【0090】
細孔形成剤の添加 触媒前駆体は、ステアリン酸、ポリエチレングリコールポリマー、炭水化物ポリマー、メタクリラート及びセルロースポリマーを含むが、これらに限定されない細孔形成剤と混合することができる。例えば、100:1~10:1(重量%の触媒前駆体対重量%のセルロース)の比で、乾燥した触媒前駆体をメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又は他のセルロースエーテルなどのセルロース含有材料と混合し、押出可能な稠度の混合物が得られるまで水を添加することができる。市販のセルロース系細孔形成剤の例としては、METHOCEL(商標)(DuPontから入手可能)、Avicel(登録商標)(DuPontから入手可能)及びporocel(Porocelから入手可能)が挙げられるが、これらに限定されない。押出可能な混合物を押し出すことができ、次いで、任意で乾燥させることができる。一実施形態では、乾燥は、窒素、アルゴン又は真空などの不活性雰囲気下で行うことができる。別の実施形態では、乾燥は、70℃~200℃の間の高温で行うことができる。さらに別の実施形態では、乾燥は、120℃で行われる。
【0091】
硫化剤成分:活性触媒を形成するために、電荷中性触媒前駆体を硫化することができる。一実施形態では、硫化剤は、元素状硫黄単独である。別の実施形態では、硫化剤は、一般的な条件下で硫化水素に分解可能な硫黄含有化合物である。さらに第3の実施形態では、硫化剤は、HS単独又はH中のHSである。
【0092】
一実施形態では、硫化剤は、硫化アンモニウム、ポリ硫化アンモニウム([(NH)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、チオ硫酸ナトリウムNa)、チオ尿素CSN、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジブチルポリスルフィド(DBPS)、メルカプタン、第3級ブチルポリスルフィド(PSTB)、第3級ノニルポリスルフィド(PSTN)などの群から選択される。別の実施形態では、硫化剤は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属硫化物、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属硫化水素物、並びにこれらの混合物から選択される。アルカリ及び/又はアルカリ土類金属を含有する硫化剤の使用は、使用済み触媒からアルカリ及び/又はアルカリ土類金属を除去するための追加の分離プロセス工程を必要とし得る。
【0093】
一実施形態では、硫化剤は水溶液中の硫化アンモニウムであり、硫化アンモニウム水溶液は、硫化水素及びアンモニア精製オフガスから合成することができる。この合成された硫化アンモニウムは、水に容易に可溶性であり、使用前にタンク内の水溶液中に容易に貯蔵することができる。一実施形態では、硫化は、硫化アンモニウム水溶液を用いて、並びにチオダゾール、チオ酸、チオアミド、チオシアナート、チオエステル、チオフェノール、チオセミカルバジド、チオ尿素、メルカプトアルコール及びこれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの硫黄添加剤の存在下でも行われる。
【0094】
一実施形態では、触媒前駆体の硫化を行うための硫黄源として、炭化水素供給原料が使用される。炭化水素供給原料による触媒前駆体の硫化は、水素化処理中に1つ以上の水素化処理反応器中で行うことができる。
【0095】
一実施形態では、硫化剤は、触媒前駆体から硫化された触媒を形成するのに必要とされる化学量論量を超える量で存在する。別の実施形態では、硫化剤の量は、触媒前駆体から硫化された触媒を生成するための少なくとも3対1の硫黄対第VIB族金属モル比に相当する。第3の実施形態では、硫黄含有化合物の総量は、一般に、金属を例えばCO、MoS、WS、Niなどに変換するのに必要な化学量論的硫黄量の約50~300%、70~200%及び80~150%のいずれかに対応するように選択される。
【0096】
硫化工程:触媒を形成するための触媒前駆体の硫化(「予備硫化(presulfiding)」と呼ばれることがある)は、水素化処理反応器内への触媒の導入より前に行うことができる(したがって、エクスサイチュ硫化)。別の実施形態では、硫化はインサイチュである。硫化プロセスがエクスサイチュで行われる一実施形態では、水素化処理ユニット内での望ましくない化合物の形成が防止される。一実施形態では、触媒前駆体は、70℃~500℃の範囲の温度で、10分~15日、H含有ガス圧力下で硫化剤と接触すると、活性触媒に変換される。硫化アンモニウム溶液の場合には60~70℃など、硫化温度が硫化剤の沸点を下回る場合、このプロセスは一般に大気圧で行われる。硫化剤/任意に存在し得る成分の沸点より高い温度では、反応は一般に上昇した圧力で行われる。
【0097】
一実施形態では、硫化は、水素とHSに分解可能な硫黄含有化合物とを用いて気相で行うことができる。例としては、メルカプタン、CS、チオフェン、DMS、DMDS及び適切なS含有精製装置排出口ガスが挙げられる。HS単独の使用が十分である。気相中の触媒前駆体と水素及び硫黄含有化合物との間での接触は、一実施形態では125℃~450℃(257°F~842°F)、別の実施形態では225℃~400℃(437°F~752°F)の温度で、1つの工程において行うことができる。一実施形態では、硫化は、例えば毎分0.5~4℃(0.9~7.2°F)の増分で温度を上昇させながら一定期間、完了するまで一定期間、例えば1~12時間にわたって保持して行われる。
【0098】
本明細書で使用される場合、硫化プロセスの完了は、金属を例えばCO、MoS、WS、Niなどに変換するのに必要な化学量論的硫黄量の少なくとも95%が使い果たされたことを意味する。
【0099】
気相中での硫化の別の実施形態では、硫化は2つ以上の工程で行われ、第1の工程はその後の工程より低い温度である。例えば、第1の工程は、約100~250℃(212°F~482°F)、好ましくは約125~225℃(257°F~437°F)である。短時間、例えば、1/2~2時間後(温度は定常に保たれる)。第2の工程は、約225~450℃(437°F~842°F)、好ましくは約250~400℃(482°F~752°F)で行うことができる。硫化工程中の全圧は、大気圧~約10バール(1MPa)であり得る。Hと硫黄含有化合物のガス状混合物は、これらの工程において同一であり得、又は異なり得る。気相での硫化は、固定床プロセス及び移動床プロセス(触媒が反応器に対して移動する、例えば沸騰プロセス及び回転炉)を含む任意の適切な方法で行うことができる。
【0100】
一実施形態では、硫化は液相中で行われる。まず、触媒前駆体の細孔容積の20~500%の範囲の量で、触媒前駆体を有機液体と接触させる。有機液体との接触は、周囲温度~250℃(482°F)の範囲の温度においてであり得る。有機液体の取り込み後、触媒前駆体を水素及び硫黄含有化合物と接触させる。
【0101】
一実施形態では、有機液体は、約100~550℃(212~1022°F)の沸点範囲を有する。別の実施形態では、有機液体は、重油などの石油留分、鉱潤滑油などの潤滑油留分、常圧軽油、減圧軽油、直留軽油、揮発油、ディーゼルなどの中間留分、ジェット燃料及び灯油、ナフサ、及びガソリンである。一実施形態では、有機液体は、10重量%未満の硫黄、好ましくは5重量%未満の硫黄を含有する。
【0102】
一実施形態では、液相中での硫化(又は「開始(start-up)」)は、「迅速な(quick)」プロセスとして行われ、硫化は72時間未満の期間にわたって行われ、温度範囲の上昇は0.5~4℃(0.9~7.2°F)/分である。第2の実施形態では、迅速な開始は48時間未満を要する。第3の実施形態では、24時間未満である。
【0103】
迅速な硫化では、有機液体中の触媒前駆体と水素及び硫黄含有化合物との間での接触は、一実施形態では150~450℃、別の実施形態では225℃~400℃の温度で、1つの工程において行うことができる。迅速な硫化のさらに別の実施形態では、硫化は2つ以上の工程で行われ、第1の工程は後続の工程より低い温度である。例えば、第1の工程は、約100~250℃(212°F~482°F)、又は約125~225℃(257°F~437°F)である。短時間、例えば1/2~2時間後(温度は定常に保たれる)、次いで、温度を第2の工程のために、例えば250~450℃(482°F~842°F)、好ましくは225~400℃(437°F~7520°F)まで上昇させる。温度を1~36時間維持し、その後、硫化が完了する。
【0104】
さらに別の実施形態では、液相での硫化は「低速な(slow)」プロセスとして行われ、硫化は4日~最長3週間の期間にわたって、すなわち少なくとも96時間にわたって行われる。この低速なプロセスでは、有機液体中の触媒前駆体と水素及び硫黄含有化合物との間での接触は、2つ以上の工程で行われ、第1の工程は後続の工程よりも低い温度であり、温度は、迅速な開始におけるように分ごとにではなく、例えば時間ごとの増分でゆっくり上昇する。Hと硫黄含有化合物のガス状混合物は、これらの工程において同一であり得、又は異なり得る。一実施形態では、第1の工程は、約100~375℃(212°F~707°F)、好ましくは約125~350℃(257°F~662°F)であり、温度勾配速度は0.25~4℃(0.45~7.2°F)/時間である。第1の工程の後、温度を2~24時間の期間にわたって一定に保持し、次いで、第2の工程のために1時間当たり5~20℃(9~36°F)の速度で上昇させる。一実施形態では、第2の工程は、約200~450℃(392°F~842°F)、好ましくは約225~400℃(437°F~752°F)で行われる。
【0105】
一実施形態では、硫化は元素状硫黄を用いて行われ、硫黄は触媒前駆体の細孔中に組み込まれる。このプロセスでは、硫黄の融点を下回る温度において、触媒前駆体重量の2~15重量%の量で、元素状硫黄を触媒前駆体と混合する。一実施形態では、混合は180°F~210°F(82°~99℃)である。前駆体及び元素状硫黄の混合と順次に又は同時に、混合物を高沸点有機液体と接触させる。次いで、窒素の存在下で混合物を250~390°F(121°~199℃)の範囲の温度に加熱し、HS及び金属硫化物を生成する。一実施形態では、有機液体は、オレフィン、ガソリン、揮発油、ディーゼル、軽油、鉱潤滑油及びホワイトオイルからなる群から選択される。
【0106】
一実施形態では、触媒前駆体の実施形態から硫化された触媒は、驚くべきことに、気相を介して又は「迅速な」プロセスのように液相で硫化されるかにかかわらず、概ね同じ700°F+変換率を与えることが見出される。一実施形態では、液相で及び「低速な」プロセスを介して硫化された触媒の使用によって、700°F+変換率が少なくとも25%増加することが見出されている。さらに別の実施形態では、700°F+変換は、低速なプロセスを介して硫化された触媒を用いると倍増する。
【0107】
好ましい触媒前駆体は、Ni-Mo-Wマレアート触媒前駆体である。触媒は、好ましくはジメチルスルフィド(DMDS)で硫化される。
【0108】
<供給原料>
広範囲の石油及び化学供給原料を、本発明に従って水素化プロセス処理することができる。適切な供給原料には、全原油及び還元石油残油、常圧残油及び減圧残油、プロパン脱瀝残油、例えばブライトストック、循環油、FCC塔残油、常圧及び減圧軽油及びコーカ軽油を含む軽油、未精製バージン留出物を含む軽質から重質留出物、水素化分解生成物、水素化処理油、脱ろう油、スラックワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ラフィネート、ナフサ、並びにこれらの材料の混合物が含まれる。典型的なより軽質供給原料は、概ね約175℃(約350°F)~約375℃(約750°F)で沸騰する留出物画分を含む。この種の供給原料を用いて、低硫黄ガソリンブレンドストックとして使用することができる相当量の水素化分解されたナフサが製造される。典型的なより重質な供給原料としては、例えば、最高約593℃(約1100°F)、通常は約350℃~約500℃(約660°F~約935°F)の範囲で沸騰する減圧軽油が挙げられ、この場合には、製造されるディーゼル燃料の割合はそれに応じてより大きくなる。
【0109】
一実施形態では、このプロセスは、高レベルの硫黄及び窒素を含有する供給原料を最初の処理反応段階に導いて、供給原料中のかなりの量の硫黄及び窒素を無機形態に変換することによって操作され、この工程の主な目的は、供給原料の窒素含有量の低減である。水素化処理工程は、水素及び水素化処理触媒の存在下で、1つ以上の反応ゾーン(触媒床)において実行される。使用される条件は、供給原料の特性に応じて、水素化脱硫及び/又は脱窒素に適している。次いで、生成物流は、直接(分離せずに)又は分離及び水洗を伴って、沸点範囲変換が行われる水素化分解ゾーンに送られる。最初の水素化変換工程の後に、典型的には第2の反応器(R2)の底部に、バルク多金属触媒の床が与えられ得る。2段階ユニットにおいては、第1の水素化変換段階からの液体炭化水素の流れは、水素化処理ガス並びに硫化水素及びアンモニアを含む他の水素化処理/水素化分解反応生成物と共に、その中で水素、ライトエンド並びに無機窒素及び硫化水素が水素化分解された液体生成物流から除去される分離器に移動する。再循環ガスは、アンモニアを除去するために洗浄され、硫化水素を除去してリサイクルされた水素の純度を向上させ、それにより生成物の硫黄レベルを低減させるためにアミン洗浄に供され得る。第2段階の水素化変換において、水素化分解反応が完了する。第2の水素化変換段階の直後に、典型的には第3の反応器(R3)の底部に、バルク多金属触媒の床が与えられ得る。バルク多金属触媒の床は、「硬質硫黄」種、すなわち、約93℃~約593℃(200°F~約1100°F)の範囲、特に約350℃~約500℃(約660°F~約935°F)の範囲の大気中沸点を有する硫黄種の除去のために、R2及び/又はR3反応条件下で有効である。
【0110】
<水素化処理触媒(Hydrotreating Catalysts)>
第1の反応器又は第2の反応器にかかわらず、従来の水素化処理(水素化脱硫)触媒が水素化脱硫ゾーンにおいて使用され得る。本発明で使用するための典型的な従来の水素化脱硫触媒には、比較的高い表面積の担体材料、好ましくはアルミナ上の、少なくとも1つの第VIII族金属、好ましくはFe、Co又はNi、より好ましくはCo及び/又はNi、最も好ましくはCo;並びに少なくとも1つの第VIB族金属、好ましくはMo又はW、より好ましくはMoから構成されるものが含まれる。他の適切な水素化脱硫触媒担体としては、ゼオライト、非晶質シリカ-アルミナ及びチタニア-アルミナの貴金属触媒が挙げられる。好ましくは貴金属がPd及びPtから選択される場合に、貴金属触媒も使用することができる。1種類より多くの水素化脱硫触媒が、同じ反応容器内の異なる床中で使用される。第VIII族金属は、典型的には、約2~約20重量%、好ましくは約4~約12重量%の範囲の量で存在する。第VIB族金属は、典型的には、約5~約50重量%、好ましくは約10~約40重量%、より好ましくは約20~約30重量%の範囲の量で存在する。すべての金属重量パーセントは担体に対する(担体の重量に基づくパーセント)。
【0111】
<水素化分解触媒(Hydrocracking Catalysts)>
水素化分解段階ゾーンにおいて使用することができる追加の水素化分解触媒の例としては、ニッケル、ニッケル-コバルト-モリブデン、コバルト-モリブデン及びニッケル-タングステン及び/又はニッケル-モリブデンが挙げられ、後者の2つが好ましい。貴金属触媒の非限定的な例としては、白金及び/又はパラジウムをベースとするものが挙げられる。貴金属触媒及び非貴金属触媒の両方に対して使用され得る多孔質担体材料は、アルミナ、シリカ、アルミナ-シリカ、キーゼルグール、珪藻土、マグネシア又はジルコニアなどの耐火性酸化物材料を含み、アルミナ、シリカ、アルミナ-シリカが好ましく、最も一般的である。ゼオライト担体、特にUSYなどの大孔フォージャサイトも使用することができる。
【0112】
多数の水素化分解触媒が異なる商業的供給業者から入手可能であり、供給原料及び生成物要件に従って使用することができ、水素化分解触媒の機能性は経験的に決定され得る。水素化分解触媒の選択は決定的なものではない。従来の水素化分解触媒を含む、選択された操作条件で所望の水素化変換機能性を有する任意の触媒を使用することができる。
【0113】
水素化プロセス処理されるにつれて軽油と相溶可能でなくなった分子の沈降は、二段階リサイクルで実行される水素化分解装置において特に深刻な問題である。リサイクル操作は、溶媒を水素化分解して輸送燃料にすることによって、及びこれらの燃料を生成物として留去することによって多環式芳香族溶質を濃縮するので、リサイクル操作は非相溶性の影響を増大させる。これは、既にあまり相溶性でない芳香族溶質を濃縮し、濃縮は、芳香族溶質をその溶解限度よりはるかに上回らせるリスクをさらに高める。リサイクルループ内での沈降による稼働の壊滅的な停止のリスクが伴うことは周知である。沈降は、典型的には、沈降物を形成する重質芳香族化合物の蓄積についてリサイクルループを慎重にモニタリングすることによって、及びこれらの芳香族化合物を溶解限度より下に保つために非変換油の適切な割合を放出することによって制御される。i)色、見た目による;ii)多環式(PolyCyclic)芳香族指数(Index)(又はPCI、非相溶性リスクのマーカー)をそこから導出することができるUV Vis分光法による;iii)高分解能質量分析を用いて芳香族化合物の蓄積を抜き取り検査することによるなど、いくつかのモニタリングの選択肢が存在する。非相溶性芳香族化合物の蓄積を軽減するためのこの事後に対処するアプローチは、価値の低い非変換油の放出流を生じさせ、この油を価値の高い輸送燃料に水素化プロセス処理する機会を失わせる。水酸化物形態の前駆体から調製された本発明の触媒を使用することによって、非相溶性化合物の蓄積が開始されるより前にそのリスクを軽減するより事前に対処するアプローチが可能であることが実証された。この事前に対処するアプローチは放出流を最小限に抑え、それに応じて、連続運転時間に対して大きな影響を与えることなく輸送燃料の生産率を向上させる。この事前に対処するアプローチは、2つの反応器を含む2段階システムの第1の水素化分解ゾーンにおいて、水酸化物形態の前駆体から調製された本発明の触媒を使用する。
【0114】
多環式芳香族化合物が凝集し、乳化し、又はその他の様式で水素化プロセス処理に対して厄介な存在になる機会を得る前に、水素化プロセス処理流中の多環式芳香族をそれらの水素化平衡に選択的に維持することによって、沈降を事前に打ち消すことができる。非相溶性の大きな芳香族化合物は低濃度で既に凝集しているので、並びに非相溶性の大きな芳香族化合物は典型的な水素化分解装置供給原料の沸点範囲の終わりに向かうにつれて、及び沸騰範囲の終わりを超えると沸騰するので、従来の水素化処理触媒は、大部分の供給原料(溶媒)の飽和に重点を置き、多環式芳香族化合物(溶質)がかなりの(及び望ましくない)レベルに蓄積するまで低濃度の多環式芳香族化合物(溶質)を飽和させることを開始しない。これとは全く対照的に、本発明の触媒の特有の細孔構造及び高い水素化活性により、本発明の触媒は、多環式芳香族化合物が凝集し始めるレベルをはるかに下回る濃度であっても、多環式芳香族化合物を選択的に標的とすることができる。典型的な触媒システムと比較した、第2段階水素化分解装置の第1の床位置に本発明の触媒を有する触媒システムの有効性の比較は、中東系の典型的な真空軽油中にドープされた代表的な多環式芳香族化合物の選択的な水素化を例証した。ほぼ専ら常圧残油脱硫(ARDS)から得られた真空軽油(VGO)供給原料をワンススルー方式の操作で水素化プロセス処理するために配備された触媒システムに本発明の触媒を添加することによるPCI(非相溶性リスクのマーカー)の著しい低下もまた、沈降をさらに破壊する上での本発明の触媒を使用することの利点を実証した。
【0115】
本発明の方法及び反応器システムは、延長された連続運転時間を提供し、それによって二段階水素化分解設備の経済性を大幅に改善する。仕事率を制御することにより、大きな供給原料柔軟性も可能にしながら、延長された連続運転時間が達成される。本発明の触媒、特に水酸化物形態の前駆体から調製された本発明の触媒を使用することはまた、これらの利点を大きく増幅する。さらに、本発明の触媒を2段階システムの第2の反応器の最上レベルで使用すると、沈殿物破壊も実現され、これにより連続運転時間をさらに改善することができる。本発明の方法及び反応器システムは、劇的により柔軟な改良された水素化分解装置の操作をもたらす。
【実施例
【0116】
本発明の方法において使用するための触媒の調製を以下の例で例示する。以下の例示的な例は、非限定的であることを意図している。
【0117】
[例1] Ni-Mo-W-マレアート触媒前駆体
式(NH){[Ni2.6(OH)2.08(C 2-0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を以下のように調製した:52.96gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを室温で2.4Lの脱イオン水中に溶解した。得られた溶液のpHは5~6の範囲内であった。次いで、73.98gのメタタングステン酸アンモニウム粉末を上記溶液に添加し、完全に溶解するまで室温で撹拌した。絶えず撹拌しながら、90mlの濃(NH)OHを溶液に添加した。得られたモリブダート/タングスタート溶液を10分間撹拌し、pHを監視した。溶液は9~10の範囲のpHを有していた。150mlの脱イオン水に溶解された174.65gのNi(NO・6HOを含有する第2の溶液を調製し、90℃に加熱した。次いで、熱いニッケル溶液をモリブダート/タングスタート溶液に1時間にわたってゆっくり添加した。得られた混合物を91℃に加熱し、撹拌を30分間継続した。溶液のpHは5~6の範囲であった。青緑色の沈殿物が形成し、濾過によって沈殿物を収集した。1.8LのDI水中に溶解された10.54gのマレイン酸の溶液中に沈殿物を分散させ、70℃まで加熱した。得られたスラリーを70℃で30分間撹拌し、濾過し、集めた沈殿物を室温で一晩真空乾燥した。次いで、材料を120℃で12時間さらに乾燥させた。得られた材料は、2.5Åに幅広いピークを有する典型的なXRDパターンを有し、非晶質Ni-OH含有材料であることを示す。得られた材料のBET表面積は101m/gであり、平均細孔容積は約0.12~0.14cc/gであり、平均孔径は約5nmであった。
【0118】
[例2] Co-Mo-W-マレアート触媒前駆体
式(NH){[Co3.0(OH)3.0-c(C 2-c/2](Mo0.340.66}の触媒前駆体を以下のように調製した:2.0gのマレイン酸を800gの脱イオン水に室温で溶解した。得られた溶液のpHは2~3の範囲内であった。17.65gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HO粉末を上記溶液に溶解した後、24.67gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240xHO(>66.5%W)を添加した。得られた溶液のpHは4~5の範囲内であった。絶えず撹拌しながら、30mlの濃(NH)OHを溶液に添加した。得られたモリブダート/タングスタート溶液を10分間撹拌し、pHを監視した。溶液は室温で9~10の範囲のpHを有し、90℃に加熱された。50gの脱イオン水に溶解された58.28gの硝酸コバルトを含有する第2の溶液を調製した。次いで、熱いモリブダート/タングスタート溶液に、熱いコバルト溶液を25分間にわたってゆっくり添加した。得られた混合物を90℃で1時間、連続して撹拌した。溶液のpHは約6であった。このプロセスで形成された濃い紫褐色の沈殿物を濾過によって収集した。沈殿物を70℃で250gのDI水中に分散させた。得られたスラリーを30分間撹拌し、濾過し、集めた沈殿物を室温で一晩真空乾燥させた。次いで、材料を120℃で12時間さらに乾燥させた。
【0119】
[例3] Co-Mo-W触媒前駆体
式(NH{[Co3.31(OH)3.62](Mo0.30.7}の触媒前駆体を以下の手順に従って調製した:17.65gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HO粉末を800.00gの脱イオン水に室温で溶解させた後、24.66gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・xHO(>66.5%W)を添加した。得られた溶液のpHは5.2~5.4の範囲内であった。50.0gの脱イオン水に溶解された58.26gの硝酸コバルト六水和物を含有する第2の溶液を調製した。得られた溶液のpHは1~2の範囲内であった。絶えず撹拌しながら、30mlの濃(NH)OHを溶液に添加した。最初に、モスグリーン色の沈殿物が形成され、その後、底部の緑色がかった懸濁液及び茶色がかった上層を有する2層混合物に変化した。次いで、モリブダート/タングスタート溶液に、コバルト含有混合物を室温で25分間にわたってゆっくり添加した。得られた溶液のpHは8~8.5の範囲内であった。混合物を80℃に加熱し、1時間連続して撹拌した。紫色がかった灰色の懸濁液を熱いうちに濾過した。沈殿物を70℃で2.5LのDI水に分散させた。得られたスラリーを30分間撹拌し(pH約7.6)、濾過し、集めた沈殿物を室温で一晩真空乾燥させた。次いで、材料を120℃で12時間さらに乾燥させた。
【0120】
[例4] 押出プロセス
本例では、例1~3に従って調製した40gの乾燥された触媒前駆体を0.8gのMETHOCEL(商標)(DuPontから市販されているメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースポリマー)と混合し、約7gのDI水を添加した。混合物が押出可能な稠度になるまで、さらに7gの水をゆっくりと加えた。次いで、混合物を押し出し、硫化前に、N下、120℃で乾燥させた。
【0121】
[例5] 硫化DMDS液相
例1~3の触媒前駆体を管状反応器中に配置した。N2(g)下、8ft/時間で、100°F/時間の速度で室温から250°Fまで温度を上昇させた。反応を1時間継続し、その後、Nを停止に切り替え、8ft/時間及び200psigで1時間Hと交換した。8立方フィート/時に水素ガス速度を維持しながら、軽質VGO油(950°F未満の終点)を250°Fで、130cc/時(1LHSV)の速度で触媒前駆体上にポンプで送った。次いで、触媒前駆体を25°F/時の速度で430°Fまで加熱し、ジメチルジスルフィド(DMDS)を4cc/時の速度で約4時間軽質VGOに添加した。次いで、触媒前駆体を600°Fに加熱し、DMDS添加の速度を8cc/時間に増加させた。温度を600°Fで2時間維持し、その後、硫化が完了した。
【0122】
[例6] DMDS気相による硫化
例4に従って押し出された例1~3の触媒前駆体を管状反応器中に配置した。N2(g)下、8ft/時間で、100°F/時間の速度で450°Fまで温度を上昇させた。反応を1時間継続し、その後、Nを停止に切り替え、8ft/時間及び100psigで1時間Hと交換した。次いで、H圧力を300psigに増加させ、1時間未満維持し、その後、ジメチルジスルフィド(DMDS)を4cc/時間の速度で添加し、次いで、反応を4時間進行させた。次いで、触媒前駆体を600°Fに加熱し、DMDS添加の速度を8cc/時間に増加させた。温度を600°Fで2時間維持し、その後、硫化が完了した。

図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】