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特表2023-536963亜鉛めっき鋼板の表面改質方法及びそれに応じて表面改質された亜鉛めっき鋼板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】亜鉛めっき鋼板の表面改質方法及びそれに応じて表面改質された亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/26 20060101AFI20230823BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230823BHJP
   C23C 22/53 20060101ALI20230823BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20230823BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C23C2/26
C23C2/06
C23C22/53
C22C18/04
C22C18/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507729
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2021011239
(87)【国際公開番号】W WO2022055151
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0114396
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ヨン-キュン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ユン-ハ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジュン―チョル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ヒュン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ジェ-ドン
【テーマコード(参考)】
4K026
4K027
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026BA08
4K026BB06
4K026CA13
4K026EB11
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB09
4K027AB44
4K027AC82
4K027AE02
4K027AE03
(57)【要約】
本発明の一側面に係る亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板;及び、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Al-Mg系めっき層を含み、上記Zn-Al-Mg系めっき層は、上記Zn-Al-Mg系めっき層の表層側にセリウム(Ce)が濃化した表面改質領域を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;及び
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Al-Mg系めっき層を含み、
前記Zn-Al-Mg系めっき層は、前記Zn-Al-Mg系めっき層の表層側に、セリウム(Ce)が濃化した表面改質領域を含む、亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記表面改質領域は、
前記Zn-Al-Mg系めっき層の表層に付着した亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)によって提供される凸部;及び
前記Zn-Al-Mg系めっき層の表層部のマグネシウム(Mg)が除去されて提供される凹部を含む、請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量は、0.01~2.5g/mである、請求項2に記載の亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記表面改質領域の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)基準1.2~1.6μmである、請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記Zn-Al-Mg系めっき層は、重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、0.0005~1.5%のセリウム(Ce)、残りの亜鉛(Zn)、及び不可避不純物を含む、請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
素地鋼板の少なくとも一面にZn-Al-Mg系めっき層が形成された亜鉛めっき鋼板を用意する段階;
セリウムナイトレート水溶液を用意する段階;
前記亜鉛めっき鋼板を前記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階;及び
前記セリウムナイトレート水溶液に浸漬された前記亜鉛めっき鋼板を水洗及び乾燥する段階を含む、亜鉛めっき鋼板の表面改質方法。
【請求項7】
前記亜鉛めっき鋼板を用意する段階は、
Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階;及び
前記素地鋼板を前記Zn-Al-Mg系めっき浴に浸漬してめっき層を形成する段階を含み、
前記Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階において、
重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、残りの亜鉛(Zn)、及び不可避不純物を含むめっき浴を用意し、前記めっき浴に不可避に添加されるセリウム(Ce)の含有量を0.01%以下(0%含む)に抑制する、請求項6に記載の亜鉛めっき鋼板の表面改質方法。
【請求項8】
前記セリウムナイトレート水溶液を用意する段階において、
水(H0)1000ml当たり15~25gのセリウムナイトレートを溶解した後、硝酸(HNO)で滴定してpH3.2~3.8のセリウムナイトレート水溶液を用意する、請求項6に記載の亜鉛めっき鋼板の表面改質方法。
【請求項9】
前記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階において、
前記セリウムナイトレート水溶液の温度は20~80℃であり、
前記亜鉛めっき鋼板の浸漬時間は10~150秒である、請求項6に記載の亜鉛めっき鋼板の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用めっき鋼板に関するものであり、詳細には、シーラー接着剤に対する接着力が効果的に向上したマグネシウム含有亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用内外板材として炭素が含有された鋼板表面に亜鉛または亜鉛合金めっきを施しためっき鋼板が用いられている。特に、耐食性を向上させるために亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金めっき鋼板のめっき層成分として、マグネシウム(Mg)が添加されためっき鋼板が商用化され、広く用いられている。
【0003】
一般的に自動車用めっき鋼板は、成形、溶接、組立などの工程を経た後、自動車車体の騒音低減のためにエポキシ系シーラー接着剤で内/外板間の空隙を埋める工程を経るようになる。エポキシ系シーラー接着剤は塗装後の硬化工程において約200℃以上で膨らんで気孔性を有するようになり、このとき、エポキシ系シーラー接着剤は、めっき鋼板に密着して自動車車体の騒音及び振動を効果的に低減させることができる。
【0004】
通常の亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金めっき鋼板において、エポキシ系シーラー接着剤とめっき鋼板のシーラー接着力には、特に問題が生じないことが知られている。但し、めっき層の成分としてマグネシウム(Mg)を含む亜鉛合金めっき鋼板において、めっき層の表層部に形成されたマグネシウム酸化物によってシーラー接着剤とめっき鋼板の接着力が劣化するという問題点が存在する。このような問題点を解消するために、めっき層の表面に粗度(粗さ)を付与して接触面積を増加させる方法、またはめっき層の最外側の表面を活性化改質して境界面の化学的結合力を増加させる方法などが提案されたが、これらはマグネシウム(Mg)を含む亜鉛合金めっき層とエポキシ系シーラー接着剤の密着力を向上させるための現実的な方法としては評価されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許公報第10-2018-0073855号公報(2018.07.03.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面によると、マグネシウム含有亜鉛めっき鋼板と接着剤の接着力を向上させるための亜鉛めっき鋼板の表面改質方法、及びそれに応じて表面改質されたマグネシウム含有亜鉛めっき鋼板が提供されることができる。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明の更なる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板;及び、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Al-Mg系めっき層を含み、上記Zn-Al-Mg系めっき層は、上記Zn-Al-Mg系めっき層の表層側にセリウム(Ce)が濃化した表面改質領域を含むことができる。
【0009】
上記表面改質領域は、上記Zn-Al-Mg系めっき層の表層に付着した亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)によって提供される凸部;及び、上記Zn-Al-Mg系めっき層表層部のマグネシウム(Mg)が除去されて提供される凹部を含むことができる。
【0010】
上記亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量は、0.01~2.5g/mであることができる。
【0011】
上記表面改質領域の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)基準1.2~1.6μmであることができる。
【0012】
上記Zn-Al-Mg系めっき層は、重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、0.0005~1.5%のセリウム(Ce)、残りの亜鉛(Zn)、及び不可避不純物を含むことができる。
【0013】
本発明の他の一側面に係る亜鉛めっき鋼板の表面改質方法は、素地鋼板の少なくとも一面にZn-Al-Mg系めっき層が形成された亜鉛めっき鋼板を用意する段階;セリウムナイトレート水溶液を用意する段階;上記亜鉛めっき鋼板を上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階;及び、上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬された上記亜鉛めっき鋼板を水洗及び乾燥する段階を含むことができる。
【0014】
上記亜鉛めっき鋼板を用意する段階は、Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階;及び、上記素地鋼板を上記Zn-Al-Mg系めっき浴に浸漬してめっき層を形成する段階を含み、上記Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階において、重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、残りの亜鉛(Zn)、及び不可避不純物を含むめっき浴を用意し、上記めっき浴に不可避に添加されるセリウム(Ce)の含有量を0.01%以下(0%含む)に抑制することができる。
【0015】
上記セリウムナイトレート水溶液を用意する段階において、水(H0)1000ml当たり15~25gのセリウムナイトレートを溶解した後、硝酸(HNO)で滴定してpH3.2~3.8のセリウムナイトレート水溶液を用意することができる。
【0016】
上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階において、上記セリウムナイトレート水溶液の温度は20~80℃であり、上記亜鉛めっき鋼板の浸漬時間は10~150秒であることができる。
【0017】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴の全てを列挙したものではなく、本発明の様々な特徴とそれによる利点及び効果は、以下の具体的な実施例を参照して、より詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によると、表面改質処理を介して接着剤との接着力が効果的に向上したマグネシウム含有亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0019】
本発明の他の一側面によると、マグネシウム含有亜鉛めっき鋼板と接着剤の接着力を効果的に向上させることができる亜鉛めっき鋼板の表面改質方法を提供することができる。
【0020】
本発明の効果は、上述の事項に限定されるものではなく、通常の技術者が以下に記載された事項から類推可能な技術的効果を含むものと解釈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の表層改質処理の概念を概略的に示した模式図であって、(a)は、表層改質処理前のめっき層の断面を、(b)は、表層改質処理後のめっき層の断面を概略的に示した図面である。
図2】(a)及び(b)は、凝集破壊及び界面破壊の概念をそれぞれ概略的に示した図面である。
図3】(a)及び(b)は、凝集破壊の接着面及び界面破壊の接着面をそれぞれ観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、亜鉛めっき鋼板の表面改質方法及びそれによって表面改質された亜鉛めっき鋼板に関するものであり、以下では本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に説明される実施例に限定されると解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供するものである。
【0023】
以下、本発明の一実施例に係る亜鉛めっき鋼板についてより詳細に説明する。
【0024】
本発明の亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板;及び、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Al-Mg系めっき層を含むことができる。
【0025】
上記素地鋼板は、特に制限されるものではなく、通常的に亜鉛めっき鋼板の製造に適用され得るすべての鋼板を含む概念として解釈することができる。一例として、本発明の素地鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板、及び熱処理鋼板を含むだけでなく、線材及び鋼線を含む概念として解釈することができる。また、本発明の素地鋼板は、合金組成、微細組織などについて特に限定しない。好ましくは、本発明の素地鋼板は、炭素(C)の含有量が0.05wt%以下である低炭素鋼冷延鋼板であることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0026】
以下、本発明のめっき層についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、めっき層の合金組成に関して記載された%は、重量%を意味する。
【0027】
本発明のめっき層は、その形成方法が特に限定されるものではない。一例として、本発明のめっき層は、溶融めっき方法、電気めっき方法、真空蒸着めっき方法などによって形成されることができ、合金化処理を伴うめっき層形成方法によることもできる。好ましくは、本発明のめっき層は、亜鉛系溶融めっき層であることができ、より好ましくは、本発明のめっき層は、Zn-Al-Mg系溶融めっき層であることができる。
【0028】
本発明のめっき層は、重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、残りの亜鉛(Zn)、及び不可避不純物を含むZn-Al-Mg系めっき層であることができる。また、本発明のめっき層は、めっき浴には人為的に添加されてはいないが、表面改質処理を介してめっき層に導入される成分として、0.0005~1.5重量%のセリウム(Ce)をさらに含むことができる。
【0029】
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及び亜鉛(Zn)は、めっき浴内で3元系工程反応を起こして均一な組成の液状溶融-アルミニウム-マグネシウム合金を形成する。このような3元系めっき浴を通過した鋼帯(Steel strip)の表面には、液状の亜鉛-アルミニウム-マグネシウムがコーティングされる。液状の亜鉛-アルミニウム-マグネシウムは、大気中で冷却されながら、1~4%のアルミニウム(Al)を含むZn単相組織、1~2%の亜鉛(Zn)を含むMg単相組織、MgZn単相組織、Zn-MgZnの2元工程組織、Zn-Alの2元工程組織、及びMgZn-Zn-Alの3元工程組織で形成されることができる。このような金属間化合物(単相組織、2元工程組織、3元工程組織)は、めっき浴内の成分の組成範囲、めっき浴温度、及び冷却速度に応じてめっき層内で2種、またはそれ以上の組み合わせで構成されることができる。
【0030】
めっき層内のマグネシウム(Mg)は、大気中に露出する場合、亜鉛(Zn)より先に反応してマグネシウム水酸化物を形成するため、めっき鋼板の耐食性を効果的に向上させる役割を果たす。特に、マグネシウム(Mg)は、主にMgZn単相組織として存在するが、2元工程組織または3元工程組織内にも存在するか、1~2%の亜鉛(Zn)を含むMg単相組織としても存在することができる。めっき層の表層部側には、主にMgZn単相組織が層をなして存在することにより、めっき鋼板の耐食性をより効果的に向上させることができる。したがって、本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、0.1重量%以上のマグネシウム(Mg)を含むことができる。好ましくは0.5%以上のマグネシウム(Mg)を含むことができ、より好ましくは1.0重量%以上のマグネシウム(Mg)を含むことができる。
【0031】
但し、マグネシウム(Mg)の含有量が過度の場合、耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、めっき浴内にマグネシウム(Mg)酸化物の関連ドロスが形成されてめっき性が悪化することがあり、めっき層の表層部に過量のマグネシウム水酸化物が形成されて表面改質処理を行っても、エポキシ系シーラー接着剤との接着力が劣化する可能性がある。また、めっき層の微細組織として硬度の高いZn-Al-Mg系金属間化合物が過度に形成されて、曲げ加工性が低下するおそれがある。したがって、本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、16重量%以下のマグネシウム(Mg)を含むことができる。好ましくは12重量%以下のマグネシウム(Mg)を含むことができ、より好ましくは8重量%以下のマグネシウム(Mg)を含むことができる。
【0032】
アルミニウム(Al)は、めっき浴内で亜鉛(Zn)及びマグネシウム(Mg)と工程反応を起こして合金化を容易にし、凝固過程で形成されたアルミニウム(Al)を含有する金属間化合物は、腐食障壁として作用して耐食性向上に効果的に寄与することができる。また、アルミニウム(Al)は、マグネシウム(Mg)系酸化物ドロス形成を抑制して、めっき層内に十分な量のZn-Al-Mg系金属間化合物を形成するようにするため、めっき鋼板の耐食性向上に効果的に寄与することができる。したがって、本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、0.1重量%以上のアルミニウム(Al)を含むことができる。好ましくは0.5重量%以上のアルミニウム(Al)を含むことができ、より好ましくは1.0%以上のアルミニウム(Al)を含むことができる。但し、アルミニウム(Al)の含有量が過度である場合、耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、めっき浴温度を高くする必要があるため、このときに発生するマグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)の蒸気ガスは、めっき装置の耐久性に悪影響を及ぼすことがある。さらに、めっき層の微細組織として硬度の高いZn-Al-Mg系金属間化合物が過度に形成され、曲げ加工性が低下するおそれがある。したがって、本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、12重量%以下のアルミニウム(Al)を含むことができる。好ましくは9重量%以下のアルミニウム(Al)を含むことができ、より好ましくは6重量%以下のアルミニウム(Al)を含むことができる。
【0033】
本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、上述したマグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)以外に、残りの亜鉛(Zn)及び不可避不純物を含むことができる。ここで、不可避不純物とはめっき鋼板の製造工程で不可避に流入する成分または素地鋼板から流入する成分を意味することができ、不可避に流入する成分に対する具体的な限定がなくても、本技術分野の通常の技術者は、これらの成分を容易に理解することができる。
【0034】
本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、0.0005~1.5重量%のセリウム(Ce)をさらに含むことができる。本発明のZn-Al-Mg系めっき層に含まれるセリウム(Ce)は、めっき浴組成で人為的に添加される成分ではないが、めっき層の形成後に実施される表面改質処理によってZn-Al-Mg系めっき層の成分として流入する可能性がある。目的とするシーラー接着性の確保のために、本発明のZn-Al-Mg系めっき層に流入するセリウム(Ce)の含有量を0.0005重量%以上に制限することができる。好ましくは、セリウム(Ce)の流入量を0.001重量%以上に制限することができ、より好ましくはセリウム(Ce)の流入量を0.005重量%以上に制限することができる。但し、Zn-Al-Mg系めっき層に流入するセリウム(Ce)の含有量が過度である場合、シーラー接着性向上の効果は飽和するのに対し、Zn-Al-Mg系金属間化合物の結晶粒界にセリウム(Ce)が析出して、耐衝撃性及び耐摩耗性などの機械的物性が劣化することがある。したがって、本発明は、Zn-Al-Mg系めっき層に流入するセリウム(Ce)の含有量を1.5重量%以下に制限することができる。好ましくはセリウム(Ce)の流入量を1.2重量%以下に制限することができ、より好ましくはセリウム(Ce)の流入量を1.0重量%以下に制限することができる。
【0035】
本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、通常のZn-Al-Mg系めっき層に含まれる微細組織を備えることができる。一例として、本発明のZn-Al-Mg系めっき層は、微細組織として1~4%のアルミニウム(Al)を含むZn単相組織、1~2%の亜鉛(Zn)を含むMg単相組織、MgZn単相組織、Zn-MgZnの2元工程組織、Zn-Alの2元工程組織及びMgZn-Zn-Alの3元工程組織からなる群から選択された1種以上と、製造工程中に不可避に流入するその他の組織を含むことができる。
【0036】
本発明のZn-Al-Mg系めっき層の表層部には、表面改質処理を介して導入された表面改質領域を含むことができ、表面改質領域には、Zn-Al-Mg系めっき層の中心部に比べて多量のセリウム(Ce)が濃化している可能性がある。後述するように、本発明はセリウムナイトレート水溶液を用いて、めっき層の表面改質処理を実施するため、めっき層の表面に亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)が付着することができる。したがって、一定量以上のセリウム(Ce)が表層に濃化した表面改質領域を形成することができる。
【0037】
図1は、本発明の表層改質処理の概念を概略的に示した模式図であって、(a)は、表層改質処理前のめっき層の断面を、(b)は、表層改質処理後のめっき層の断面を概略的に示す。図1の(b)において、本発明の表層改質処理の概念を説明するために、凹部及び凸部の形状を多少誇張して示したが、本発明の凹部及び凸部の形状が必ずしも図1の(b)に示した形状に限定されるものではないことに留意する必要がある。
【0038】
図1の(a)に示したように、素地鋼板1上に形成されたZn-Al-Mg系めっき層10には、Zn単相組織11、Zn-Mg-Al系金属間化合物12及びMgZn単相組織13が混在し、このうち酸化性が鋼板マグネシウム(Mg)を多量に含むMgZn単相組織13は、主にめっき層10の表層部側に主に分布する。Zn-Al-Mg系めっき層10の表層に分布するMgZn単相組織13のマグネシウム(Mg)の成分は、大気中で水分(HO)と反応してマグネシウム水酸化物を優先形成するため、めっき層10とエポキシ系シーラーの接着性を低下させる要因として作用することがある。
【0039】
図1の(b)に示したように、セリウムナイトレート水溶液を用いて、表面改質処理を施したZn-Al-Mg系めっき層10の表層部には、凹凸形状の表面を有する表面改質領域20が備えられることができる。めっき層10の表面側のマグネシウム(Mg)は、セリウムナイトレート水溶液の硝酸と反応して水溶液に溶出するため、対応する領域は、凹部21で形成されることができる。一方、めっき層10の表面側の亜鉛(Zn)は、セリウムナイトレート水溶液のセリウム(Ce)と反応して亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)を形成するため、亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)が付着した領域は、凸部22で形成されることができる。すなわち、表面改質処理が実施されたZn-Al-Mg系めっき層10の表層部には、凹凸形状の表面を有する表面改質領域20が形成されるため、エポキシ系シーラー接着剤との接着時に物理的な接触面積を増加させることができる。また、亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)は、エポキシ系シーラー接着剤との接着時に化学的な結合力を増加させるため、めっき層10とエポキシ系シーラー接着剤の接着力をより効果的に向上させることができる。
【0040】
亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量は、0.01~2.5g/mのレベルであることが好ましい。これは、亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量が0.01g/m未満のレベルである場合、目的とする接着力向上の効果を十分に期待することができないためである。より好ましい亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量は0.1g/m以上であることができる。また、亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量が増加するほど、エポキシ系シーラー接着剤との接着力は、増大する傾向を示すが、一定レベル以上の場合、その効果が飽和するだけでなく、この後、塗装工程でブリスター及びピンホールなどの塗装欠陥を引き起こすことがあるため、亜鉛-セリウムナイトレート塩(Zn-Ce-NO-HO)の付着量は、2.5g/m以下のレベルで管理することができる。
【0041】
表面改質領域の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)基準1.2~1.6μmの範囲であることができる。表面改質領域の表面粗さが一定レベルに満たない場合、表面改質領域の表面の凹凸形状が目的とするレベルに形成されていないことを意味するため、本発明は表面改質領域の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)基準1.2μm以上に制限することができる。また、表面改質領域の表面粗さが一定レベルを超える場合、却って有効接触面積が小さくなるにつれて接着力が劣化することがあるため、本発明は表面改質領域の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)基準1.6μm以下の範囲に制限することができる。
【0042】
以下、本発明の他の一実施例による亜鉛めっき鋼板の表面改質方法についてより詳細に説明する。
【0043】
本発明の亜鉛めっき鋼板の表面改質方法は、素地鋼板の少なくとも一面にZn-Al-Mg系めっき層が形成された亜鉛めっき鋼板を用意する段階;セリウムナイトレート水溶液を用意する段階;上記亜鉛めっき鋼板を上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階;及び、上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬された上記亜鉛めっき鋼板を水洗及び乾燥する段階を含むことができる。
【0044】
上記亜鉛めっき鋼板を用意する段階は、Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階;及び、上記素地鋼板を上記Zn-Al-Mg系めっき浴に浸漬してめっき層を形成する段階を含み、上記Zn-Al-Mg系めっき浴を用意する段階において、重量%で、0.1~16%のマグネシウム(Mg)、0.1~12%のアルミニウム(Al)、残りの亜鉛(Zn)及び不可避不純物を含むめっき浴を用意し、上記めっき浴に不可避に添加されるセリウム(Ce)の含有量を0.01%以下(0%含む)に抑制することができる。
【0045】
本発明の表面改質方法に提供される素地鋼板は、上述しためっき鋼板の素地鋼板と対応するため、表面改質方法に提供される素地鋼板に対する説明は、上述しためっき鋼板の素地鋼板に対する説明に代える。また、本発明の表面改質方法に提供されるZn-Al-Mg系めっき浴組成は、セリウム(Ce)を人為的に添加しないという事項以外には、上述のめっき鋼板のめっき層組成と対応するため、表面改質方法に提供されるZn-Al-Mg系めっき浴組成は、上述のめっき鋼板のめっき層組成に対する説明に代える。なお、めっき浴温度、めっき浴浸漬時の素地鋼板温度などのめっき条件は、通常のZn-Al-Mg系めっき条件を適用するため、これに対する特別な説明がなくても、当該技術分野の通常の技術者は、特別な技術的手段の付加無しに、本発明のZn-Al-Mg系めっき浴を製造し、目的とするめっき層を形成することができる。
【0046】
上記セリウムナイトレート水溶液を用意する段階で、水(H0)1000ml当たり15~25gのセリウムナイトレートを溶解した後、硝酸(HNO)で滴定してpH3.2~3.8のセリウムナイトレート水溶液を用意することができる。目的とするレベルの表面改質の反応性のために、水(H0)1000ml当たりのセリウムナイトレートの溶解量は15g以上であることができる。但し、セリウムナイトレートの溶解量が過度である場合、スラッジが発生するおそれがあるため、水(H0)1000ml当たりのセリウムナイトレートの溶解量を25g以下に制限することができる。セリウムナイトレート水溶液のpHが過度に低い場合、めっき層のエッチングがセリウム(Ce)基盤のコーティング層形成より速く進行されて、表面改質が遅く進行されることがあるため、セリウムナイトレート水溶液のpHを3.2以上に制限することができる。但し、セリウムナイトレート水溶液のpHが過度に高い場合、めっき層のエッチング速度及び表面改質速度が遅くなるため、セリウムナイトレート水溶液のpHを3.8以下に制限することができる。
【0047】
また、上記セリウムナイトレート水溶液に浸漬する段階において、上記セリウムナイトレート水溶液の温度は20~80℃であることができ、上記亜鉛めっき鋼板の浸漬時間は10~150秒であることができる。セリウムナイトレート水溶液の温度が過度に低いか、亜鉛めっき鋼板の浸漬時間が過度に短い場合、目的とするレベルの表面改質が行われないため、セリウムナイトレート水溶液の温度を20℃以上に制限し、亜鉛めっき鋼板の浸漬時間を10秒以上に制限することができる。セリウムナイトレート水溶液の温度が過度に高いか、亜鉛めっき鋼板の浸漬時間が過度に長時間の場合、ヒューム(fume)発生により作業が困難になることがあるため、セリウムナイトレート水溶液の温度を80℃以下に制限し、亜鉛めっき鋼板の浸漬時間を150秒以下に制限することができる。
【0048】
本発明の表面改質方法を用いて表面改質処理が実施されたマグネシウム含有亜鉛めっき鋼板は、マグネシウム添加による耐食性向上の効果を維持しながらも、エポキシ系シーラー接着剤との接着力を効果的に向上させることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものにすぎず、本発明の範囲が下記実施例に限定するためのものではない点に注意する必要がある。
【0050】
(実施例)
炭素含有量が0.05重量%以下の低炭素鋼を75×150mm(厚さ0.8mm)に切断してアセトンで脱脂した後、溶融Zn-Al-Mg系めっき浴に浸漬してZn-Al-Mg系合金めっき鋼板(めっき層厚さ:20μm)を試験片として用意した。このとき、同じ条件の試験片を2つずつ製作して一対を成すようにし、溶融Zn-Al-Mg系めっき浴の組成は表1の条件をそれぞれ適用した。
【0051】
セリウムナイトレート粉末20gを1000mlの水(HO)に溶解した後、硝酸(HNO)で滴定してpH3.5のセリウムナイトレート水溶液を用意した。この後、それぞれの試験片を用意したセリウムナイトレート水溶液に浸漬し、水洗及び乾燥して表面改質処理を実施した。このとき、セリウムナイトレート水溶液の温度は50℃を維持し、各試験片の浸漬時間は表1の条件をそれぞれ適用した。
【0052】
表面改質処理後に、各試験片に対するシーラー接着力の評価を実施した。一対からなる各試験片について、エポキシ系シーラー接着剤(サンライズ社の766MD)を15×15mmの面積に塗布して接着し、この後、200℃の温度で2分間発泡硬化した。発泡硬化接着された一対の試験片に対してシーラー接着面と平行な方向に20MPaのせん断応力を加えて個別試験片に分離し、分離された接着面を観察してシーラー接着力を評価した。図2の(a)及び(b)は、凝集破壊及び界面破壊の概念をそれぞれ概略的に示した図面である。このとき、両試験片の接着面に残存するエポキシ系シーラー接着剤の面積割合に基づいて、シーラー接着力を評価した。すなわち、分離された試験片の全ての接着面でエポキシ系シーラー接着剤が塗布された領域が95%以上の場合を凝集破壊(非常に優秀、◎)と評価し、分離された試験片のいずれか一つの接着面でもエポキシ系シーラー接着剤が塗布された領域が80%以上である場合を準凝集破壊(優秀、○)と評価し、分離された試験片のいずれか一つの接着面でもエポキシ系シーラー接着剤が塗布された領域が80%に満たさない場合を界面破壊(不十分、×)と評価した。下記表1に記載されたエポキシ系シーラー接着剤の面積割合は、一対の試験片の結合体から分離された各試験片の接着面で観察されるエポキシ系シーラー接着剤の塗布領域を意味する。図3の(a)及び(b)は、凝集破壊の接着面及び界面破壊の接着面をそれぞれ観察した写真であって、図3の(a)及び(b)において、比較的最も暗い領域はエポキシ系シーラー接着剤が塗布された部分であり、灰白色領域は、素地鋼板部分である。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に記載したように、本発明の表面改質の条件を満たす試験片No.4~No.11は、シーラー接着力が優秀または非常に優秀なレベルであるのに対し、本発明の表面改質の条件に満たない試験片No.2及びNo.3のシーラー接着力は、不十分なレベルであることが分かる。
【0055】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載された特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0056】
1 素地鋼板
10 めっき層
11 Zn単相組織
12 Zn-Mg-Al系金属間化合物
13 MgZn単相組織
20 表面改質領域
21 凹部
22 凸部
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
【国際調査報告】