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特表2023-537061生体組織における生体分子調査のためのウェアラブル分光計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】生体組織における生体分子調査のためのウェアラブル分光計
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20230823BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023508500
(86)(22)【出願日】2021-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 US2021045166
(87)【国際公開番号】W WO2022032218
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/062,478
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523041182
【氏名又は名称】エンデクトラ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クチネリ,ニコラス,エス.
(72)【発明者】
【氏名】オライクアット,イブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ロイ
(72)【発明者】
【氏名】コニクゼク,マーティン
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK04
4C038KK08
4C038KK10
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX01
(57)【要約】
生体分子ラマン分光法を用いて皮下生体組織の状態を非侵襲的に診断する方法及び装置。装置は、光源が皮下組織内の対象となる分子中の生理学的バイオマーカをプローブする光の光子を底部ポートを通して放射できるように、ユーザの皮膚に対して固定される。レイリー散乱光とラマン散乱光が混在した光子は、ポートを通って内部空洞に戻る。レイリー散乱光をフィルタリングにかけ、特定の波長に限定した後、光検出器のアレイで、所定のサンプリング時間にわたってラマン散乱光の光子を1つずつ計数して検出する。装置及び方法は、血糖値の読み取りを含む様々な状態を監視するために、装着可能な形態、例えばリストバンドで構成することができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非侵襲的でウェアラブルな診断用分光計装置であって、
内部空洞を取り囲む側壁と、前記側壁及び前記内部空洞の上に配置されたカバーと、前記側壁の下に配置され、前記内部空洞を少なくとも部分的に囲む基部と、を有し、前記基部が、光学光子が通過できるように構成されたポートを内部に有する、ハウジングと、
前記ハウジングから延び、対象となる領域でユーザの皮膚に対して前記ハウジングを固定するように構成されたラッシングと、
皮下組織内の対象となる分子の生理学的バイオマーカをプローブすることになる光の光子を前記ポートを通して放射し、レイリー散乱光とラマン散乱光が混在した光子を前記ポートを通って前記内部空洞に戻すように構成された光源と、
前記ハウジング内に配置された光検出器のアレイであって、各光検出器が、前記ポートを通って前記空洞に入るラマン散乱光の光子を検出するように構成された別個のチャネルを備える光検出器のアレイと、
各前記光検出器に関連付けられた少なくとも1つの光学フィルタであって、前記光学フィルタは、関連する前記光検出器と前記ポートとの間に動作可能に配置され、各前記光学フィルタは、関連する前記光検出器に到達する光の通過を特定の波長に限定し、レイリー散乱光を排除する、少なくとも1つの光学フィルタと、
前記光検出器のアレイと動作可能に関連付けられたデータ取得電子モジュールであって、各前記光検出器に到達するラマン散乱光の単一光子を所定のサンプリング時間にわたって計数するように構成されたデータ取得電子モジュールと、
を備える装置。
【請求項2】
光検出器のアレイが、基準信号を生成する少なくとも1つの光検出器と、複数の別個のラマン線を検出する複数の光検出器と、を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光検出器が、本質的に、シリコン光電子増倍管(SiPM)、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ショットキーフォトダイオード、光電子増倍管(PMT)、マイクロPMT、CCD、CMOSセンサ、InGaAsセンサ、アバランシェフォトダイオードイメージングアレイ、ファブリ-ペローエタロン、及びプリズムからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記光源と前記複数の光検出器との間の前記内部空洞内に配置された遮光体を更に含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記遮光体が実質的に前記光源から前記ポートに隣接する終端部に向かって延びている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記遮光体が略管状であり、かつ前記光源を取り囲んでいる、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記所定のサンプリング時間が0~1000msの範囲内である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記所定のサンプリング時間が1~10秒の範囲内である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記データ取得電子モジュールが、特定の量子化された振動の基準モードの励起から生じるラマン散乱光の積分強度をデジタル的に測定するための計数装置を含み、前記量子化された振動の基準モードが、電子モード、光学振動モード、音響振動モード、超音波モード及び振電モードのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記光学フィルタが、本質的に、バンドパス、マルチバンドパス、ノッチ、及びエッジパスからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
各前記光学フィルタが、レイリー散乱光を除去するように構成された第1のフィルタと、関連する前記光検出器に到達する光の通過を特定の波長に制限するように構成された第2のフィルタと、を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記光源が、本質的に、発光ダイオード、レーザダイオード、量子カスケードレーザ、連続発振レーザ、プラズマ源、中空カソード源、及びキセノンランプからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記光源が、200nm~1500nmのスペクトル帯域の周波数を有する単色光を生成するように構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記光源が、プローブ対象の生体組織からの蛍光又はリン光応答を活性化することができる広帯域光を生成するように構成される、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記光源が、共鳴モードで測定を実行することができる同調可能な単色光を生成するように構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記光源が、対象となる異なる量子化された励起モードを同時に励起する、それぞれが200nm~1500nmのスペクトル帯域の周波数を有する複数の別個の光源を備える、請求項12に記載の装置。
【請求項17】
ラマン分光法を用いて皮下生体組織の状態を非侵襲的に診断する方法であって、
複数の光検出器を内部空洞内に設置するステップと、
前記内部空洞を直接前記ユーザの皮膚に対して固定するステップと、
前記内部空洞内の光源からポートを介して前記ユーザの皮膚上に直接光を放射するステップと、
前記ユーザの皮膚の下の少なくとも1つの皮下分子を前記光を用いて調査するステップであって、前記調査するステップは、前記ポートを通って前記内部空洞に再入射する、ラマン散乱光と混在したレイリー散乱光の光学光子を生成するステップと、
前記光源によって放射された光から前記内部空洞内の前記複数の光検出器を遮蔽するが、前記ポートを通って前記内部空洞に再入射する前記ラマン散乱光からは遮蔽しないステップと、
前記ポートを通って前記内部空洞に再入射する前記光子からレイリー散乱光を除去するステップと、
各光検出器に到達する前記ラマン散乱光を、ラマン活性線に関連する特定の波長に限定するステップと、
各光検出器で受光した単一光子を所定のサンプリング時間にわたって計数し、前記選択されたラマン活性線の積分強度を測定するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記ユーザの皮膚の下の調査される皮下分子が、本質的に、ヘモグロビン及びグルコースからなる群から選択され、前記選択されたラマン活性線は、本質的に、約436cm-1、約456cm-1、約527cm-1、約572cm-1、約796cm-1、約855cm-1、約912cm-1、約1060cm-1、約1125cm-1、約1360cm-1、約1366cm-1、約1456cm-1、及び約1549cm-1からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
光源から光を放射する前記ステップが、200nm~1500nmのスペクトル帯域の周波数を有する光を生成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
光源から光を放射する前記ステップが、本質的に、電子的、振動的、及び共鳴振電的及び非共鳴振電的からなる群から選択される対象となる別個の量子化励起モードを同時に励起することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記選択されたラマン活性線の前記測定された積分強度によって通知されたデータを、安全な通信接続を介してリモートコンピューティング装置に送信するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記選択されたラマン活性線の前記測定された積分強度によって通知されたデータを、治療装置のリモートコントローラに送信するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記選択されたラマン活性線の前記測定された積分強度に応答してアラーム信号を生成するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月7日に出願された米国仮特許出願第63/062,478号の優先権を主張し、その全開示は参照により本明細書に組み込まれ、依拠される。
【0002】
本発明は、一般に、生体組織内の皮下分子の非侵襲的調査に適したウェアラブル(装着可能な)小型分光計装置に関する。
【背景技術】
【0003】
真性糖尿病は、身体が十分なインスリンを産生することができず、したがって血液中のグルコース濃度を制御することができない不治の慢性代謝疾患である。現在、世界中に1億人を超える糖尿病患者がおり、世界保健機関は、今後10年の間に4億人を超えると予想している。糖尿病は、血糖値の測定によって診断及び管理される。糖尿病患者は、自身のグルコースレベルを綿密に監視及び制御し、1日に数回測定する必要がある。現在のアプローチは、数十年にわたって実施されており、一般的には指から採取した少量の血液でグルコースを測定する方法である。この指穿刺による血液の繰り返し採取は痛みを伴い、感染のリスクを呈し、治療不遵守の主な原因である。臨床医や患者が血液サンプルを採取する不快感なしにグルコースレベルを正確に測定できる代替センサ装置は、必要な機器の複雑さと費用のために、まだ広く実装されていない。国際的な専門家パネルは最近、技術的課題を克服することができれば、リアルタイム連続グルコースモニタリング(CGM)が糖尿病管理のための大きな前進となるであろうと結論付けた。
【0004】
糖尿病の効果的な治療には、患者が基礎的な健康状態を維持し、低血糖、脳卒中、又は心臓発作などの生命を脅かす可能性のある事象を回避できるように、血糖値を頻繁に(理想的には連続的に)モニタリングすることが必要である。何十年もの間、グルコースモニタリングにおける最先端技術は、不便で痛みを伴う指先穿刺によって得られた物理的血液試料を使う携帯型の電気化学装置であった。より最近では、遠隔送信機と皮下プローブ/パッチ(微小皮膚針、皮膚の下に挿入されたワイヤ、又は他の埋め込み可能なプローブ)を使って、リアルタイムに血糖データを収集し、それをスマートフォンや他の受信機に送信する、いわゆる低侵襲技術が導入されている。このアプローチは、プローブ/センサの品質、間質液や組織構造からの信号干渉、その結果として、実際の血糖値を間接的に近似させるための高度な信号解析が必要になるなど制約がある。更に、使い捨てのプローブが高価であることも課題である。次の最後のステップは、患者の快適性とコンプライアンスを高め、正確でリアルタイムな実用的データを提供し、最新のウェアラブルスマートウォッチプラットフォームに容易に統合することができる、真の非侵襲的な血糖計である。
【0005】
現在、多くの大学及び産業チームが、非侵襲的なグルコースメータという目標を追求しており、レーザ、光ファイバ、ミリ波、超音波、卓上型共焦点ラマン分光計、更には患者に注入する生体機能性ナノ粒子などを巻き込んだ研究を発表している。これらの研究により、経皮的分光法が指先穿刺検査と同程度に有効であり得ることが検証されたが、複雑で動的な環境内で限定された信号を検出するためには、大型で高価な分光計やその他の機器が必要であるという根本的な課題があり、低コストで非侵襲的な装着可能なアプリケーションにはなかなか適さない。
【0006】
使い捨てセンサの機能寿命(通常5~14日間)、センサの皮膚貫通、パッチ/トランスミッタの装着及び身体からの突出に関連する不快感、並びにモニタリングの長期コストに対する患者の不満は広く存在する。このような不満は、連続モニタリングのコストベネフィット価値を理解していないタイプ2患者にとって特に激しい。
【0007】
より重要なことに、現在の解決策は依然として頻繁な較正チェックを必要としており、このアプローチは、測定プロセス中に身体への侵入が最小限という意味では、侵襲が少ない可能性があるが、最終顧客/患者の観点からすれば、較正と安全性のために血糖値を頻繁に直接測定する必要が依然としてあるため、低侵襲性とは言い難い。現段階で、リアルタイムCGMという装着可能な形態で、100%非侵襲的で痛みがなく血糖値をモニタリングする技術は存在しない。更に、現在の技術は、直接的な測定を仄めかしているが、実際には人工知能/AIを用いた間接的な測定手法になりがちで、通常、遅れた定量的に疑わしいデータをもたらす。
【0008】
1999年にMiniMed/Medtronicから最初のCGMが導入されて以来、真に非侵襲的なCGMを開発するために多くの独創的な試みがなされてきたが、現在までに、そのような装置は市場に出ておらず、製品化に近づいているものもない。市販オプションにこの欠点があるため、糖尿病患者は、皮下埋め込み型のプローブを用いてグルコースレベルを管理しなければならず、このプローブを、数日又は数週間ごとに、又はある装置(EUでのみ承認)の場合には、数ヶ月ごとに交換する必要がある。低侵襲性であっても、ほとんどの場合、現在のCGM装置は、毎日痛みを伴う指穿刺による頻繁な較正が依然として必要である。これまでのところ、真に非侵襲的なCGMは、FDAの承認を受けていないが、その主な理由は、特に糖尿病スペクトルの下限値(<70mg/dL)での感度が低いこと、及び特異性も欠如していることである。非侵襲的なプローブのために提案されている方法の多くは、血液や間質液中のグルコース濃度との特定の相関を直接測定しないので、後者の問題は特に限定的である。実際、身体の略全ての生理学的パラメータは、経口グルコース摂取量と何らかの相関を示すため、血糖の非侵襲的なプローブ(例えば、IR透過/吸収、音響結合、組織光反射率、マイクロ波応答など)の従来の試みは、一般的には、複数の生理学的組織の応答によって混乱し、実際の血糖値の信頼できる定量測定となりえない。したがって、センサプローブをグルコース分子自体に直接結合させる方法を見出すことが重要である。残念ながら、これを直接行うことができる非侵襲的プローブアプローチはほとんどなく、ウェアラブル装置において十分に小型化することができるものは更に少ない。
【0009】
ラマン分光法は、グルコース分子の固有の振動指紋周波数を直接感知することができる光学的手法である。理論的には、ミリモル感度を提供するラマン分光法は、グルコースの生理学的濃度の4~10mmol/Lの範囲にわたって正確な測定値を提供することができる。例えば、JINGWEI SHAOら,IN VIVO BLOOD GLUCOSE QUANTIFICATION USING RAMAN SPECTROSCOPY,PLOS ONE 7,E48127(2012年10月)。DOI:10.1371/JOURNAL.PONE.0048127 SOURCEPUBMEDから転載された図1を参照されたい。しかしながら、ラマン分光法をCGMの分野で実用化するためにはいくつかの課題がある。1つは、ラマン散乱断面積が非常に小さい(約1/10)ことである。もう1つは、ラマン信号が生成されている血液組織マトリックスの複雑な化学的性質に起因する、グルコースに関連しない散乱の存在である。最後に、実用的/ウェアラブルCGM装置の商品化という点では、従来のラマン分光装置の大型の体積や幾何学的形状は、小型化には役立たない。
【0010】
US20200107756A1には、腫瘍の検出と治療に関連して、チェレンコフ発光(CE)の低光量検出に使用される画像誘導放射線療法用のシリコン光電子増倍管(SiPM)アレイベースのマルチスペクトル光プローブについて記載されている。しかしながら、この技術をシステム統合して、装着可能なリアルタイム連続診断分光計装置を実現したものは知られていない。
【0011】
したがって、当技術分野では、皮下生体組織に存在する特定の対象となる状態を診断するのに有用な、非侵襲的で、ウェアラブルで、リアルタイムの連続診断分光計装置及び方法に対するニーズが存在する。高精度で信頼性の高い情報を連続的に生成することができる、痛みがなく皮下分子を調査するための装置及び方法が必要とされている。ラマン分光法は有望であるが、ラマン分光法を小型の装着可能な形式で実施する既知の方法はない。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、以下の通りである。非侵襲的でウェアラブルな診断分光計装置は、ハウジングを含む。ハウジングは、内部空洞を囲む側壁を有する。カバーは、側壁及び内部空洞の上に配置される。基部は、内部空洞を少なくとも部分的に囲む側壁の下に配置される。基部は、光子の通過を可能にするように構成されたポートを内部に有する。ラッシング(固定要素)は、ハウジングから延び、対象となる領域でユーザの皮膚に対してハウジングを固定するように構成される。光源は、皮下組織内の対象となる分子の生理学的バイオマーカをプローブ(精査)する光の光子をポートを通して放射し、レイリー散乱光とラマン散乱光が混在した光子をポートを通して内部空洞に戻すように構成される。複数の光検出器のアレイは、ハウジング内に配置される。各光検出器は、ポートを通って空洞に入るラマン散乱光の光子を検出するように構成された別個のチャネルを備える。各光検出器には、少なくとも1つの光学フィルタが関連付けられている。少なくとも1つの光学フィルタは、関連付けられた光検出器とポートとの間に動作可能に配置される。各光学フィルタは、関連付けられた光検出器に到達する光の通過を特定の波長に限定し、レイリー散乱光を除外する。データ取得電子モジュール(データ取得電子機器モジュール)は、光検出器のアレイと動作可能に関連付けられる。データ取得電子モジュールは、各光検出器に到達するラマン散乱光の単一光子を所定のサンプリング時間にわたって計数するように構成される。
【0013】
本発明はまた、ラマン分光法を使用して皮下生体組織の状態を非侵襲的に診断する方法を考える。本方法は、複数の光検出器を内部空洞内に設置することを含む一連のステップを含む。内部空洞は、ユーザの皮膚に対して直接固定される。光は、内部空洞内の光源からポートを通ってユーザの皮膚上に直接放射される。光は、ユーザの皮膚の下の少なくとも1つの皮下分子を調査するために使用される。この調査ステップにより、レイリー散乱光とラマン散乱光が混在した光学光子が生成され、ポートを通って内部空洞に再入射する。複数の光検出器は、光源から放射された光から内部空洞内で遮蔽されるが、ポートを通って内部空洞に再入射するラマン散乱光からは遮蔽されない。レイリー散乱光は、狭帯域(ナローバンド)光学フィルタなどによって、ポートを通って内部空洞に再入射する光子から除外される。そして、各光検出器に到達するラマン散乱光は、ラマン活性スペクトル線に関連する特定の波長に限定される。最後に、各光検出器で受光された単一光子を所定のサンプリング時間にわたって計数して、選択されたラマン活性線の積分強度を測定する。
【0014】
装置形態及び方法形態の両方において、本発明は、真に非侵襲的で、痛みを伴わず、ウェアラブルなリアルタイムラマン分光診断ツールを可能にして、ユーザの生活を劇的に改善し、健康転帰を向上させる。マルチスペクトルプローブアーキテクチャは、ウェアラブルなフォームファクタで、血糖や他の対象となる健康パラメータの読取りなど、様々な条件に容易に適合する。本発明は、組織を透過した微弱なラマン散乱光(自己内蔵型光源による調査後)を利用し、関連する分子バイオマーカのスペクトル測定を可能にする。ラマン分光法に特徴的な非弾性散乱光は弱く、対象の情報を伝える少数の測定可能な光子しか残らず、特定の周波数内のこれらの光子のサブセットのみが分子測定に有用である。ラマン分光法を用いると、本発明は、対象となる分子の指紋や濃度を伝える散乱光子のごく一部を標的とするのに有用である。物理的に大きく高価な分光器を必要としないため、本発明は、小型、ウェアラブル、低コスト、低消費電力で、対象となる分子バイオマーカを直接かつ非侵襲的に測定する装置及び方法を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のこれら及び他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面と関連して考慮されるとき、より容易に理解されるであろう。
【0016】
図1】Jingwei Shaoら、In Vivo Blood Glucose Quantification Using Raman Spectroscopyから転載したグラフで、グルコース分子固有の振動指紋周波数を示す。
【0017】
図2A】リストバンド型フォームファクタにおける本発明によるウェアラブル装置の一例である。
【0018】
図2B】指先クランプ型フォームファクタにおける本発明によるウェアラブル装置の一例である。
【0019】
図2C】接着剤パッチ型フォームファクタにおける本発明によるウェアラブル装置の一例である。
【0020】
図2D】耳たぶクリップ型フォームファクタにおける本発明によるウェアラブル装置の一例である。
【0021】
図3図2Aに示すものと同様のリストバンド型フォームファクタであり、リモートコンピューティング及び/又は治療装置との有線及び無線通信のために構成された、本発明によるウェアラブル装置の簡略化された部分側面図である。
【0022】
図4図3の線4-4に概ね沿ったウェアラブル装置の底面図である。
【0023】
図5図4の線5-5に概ね沿ったウェアラブル装置の断面図である。
【0024】
図6図5と同様の図であり、対象となる領域においてユーザの皮膚に対して動作位置に固定されたウェアラブル装置を示し、対象となる分子は皮下組織内にある。
【0025】
図7図6と同様の図であり、ポートを通って放射された光の光子が対象となる分子を調査し、レイリー散乱光とラマン散乱光が混在した光子がポートを通って内部空洞に戻る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、皮下生体組織に存在する対象の状態を診断及びモニタリングすることができる非侵襲的、ウェアラブル、リアルタイムの連続診断分光計装置及び使用方法について説明する。本発明は、高精度かつ信頼性の高い情報を継続的に生成することができる無痛手法を用いて、対象となる部位の皮下分子を調査する。本発明の多くの深部組織測定用途としては、連続グルコースモニタリング(CGM)、毒物スクリーニング、癌細胞検出、腫瘍pH、酸素化、癌放射線治療時の放射線量、心筋梗塞リスクに関連するタンパク質(トロポニン)などを含めて考えられるが、これらに限定されない。言い換えれば、本発明のウェアラブル装置は、広範囲の生体分子調査のための分光センサプラットフォームとして広く理解される。ウェアラブル装置は、血液、皮膚、組織脂質膜層など、対象となる分子が存在する場所を問わず、その生理学的バイオマーカを調べるために使用することができる。
【0027】
ウェアラブル装置として、本発明は様々な形態で現れることができる。いくつかの例を図2A図2Dに示す。図2Aでは、ウェアラブル装置10は、スマートウォッチと同様の外観の電子ブレスレットの形態で示されている。図2Bでは、一般に10´で示されるウェアラブル装置は、指先センサの形態で示されている。図2Cでは、ウェアラブル装置10´´は皮膚パッチとして示されている。また、図2Dでは、ウェアラブル装置10´´´は、耳たぶクリップの形態である。当業者であれば、頭部、首、肩、腕、手、胸、腰、脚、足首、足などの上又は周囲に装着される構成など、本発明に関連して使用するために変更又は適合され得る他の形態のウェアラブル医療センサを理解するであろう。
【0028】
便宜上、ウェアラブル装置10は、図2Aのような例示的な手首装着形態で説明する。しかしながら、本発明は手首装着形態に限定されないことを理解されたい。言及された形態のいずれか、および言及されていないが当業者によって容易に理解される形態は、本発明を実施するための適切な代替形態であり得ると考えられる。
【0029】
図3図5の例を参照すると、ウェアラブル装置10は、高感度電子機器及び光学ハードウェアを収容する1つのハウジング(又は複数のハウジング)を含む。ハウジングは、内部空洞を取り囲む側壁12を有する。図示の例では、側壁12は、略円形又は円筒形である。しかしながら、他の考えられる実施形態では、側壁12は、別の幾何学的形状又は非対称であり得る。カバー14は、側壁12の上及び内部空洞の上に配置される。カバー14は、一般的には、ウェアラブル装置10の最も上側又は最も外側の目に見える特徴である。いくつかの実施形態では、ディスプレイ画面又はグラフィックユーザインタフェース(GUI)16をカバー14の外側に取り付けてもよい。例えば、単純な表示画面16は、テキスト、画像、ビデオ、グラフなどの形式で情報を表示することができる。GUI16として構成され、ウェアラブル装置の設定や属性の変更、データの送受信などのために、ユーザから入力を受信することもできる。図示されていないが、関連情報又はアラートをユーザに通信する可聴メッセージ、又はトーン/ビープ音を伝えるために、ウェアラブル装置10にスピーカを含めてもよい。同様に、ボタン、LED、ダイヤル、及び/又はタッチ感知要素などの追加のユーザインタフェース要素を、ウェアラブル装置10のハウジング又は他の何らかの機能に配置することができる。
【0030】
図3に概略的に示すように、ウェアラブル装置10は、有線及び/又は無線接続を介してリモートコンピューティング装置18と通信するように構成することができる。ウェアラブル装置10は、インターネット、ワールドワイドウェブ、又は他の所望のネットワークへの接続を可能にする適切なデータ送信/受信機能を備えてもよいと考えられる。当然ながら、ユーザ及び他の認可された個人のみがウェアラブル装置10にリモートでアクセスすることができるように、ウェアラブル装置10との間のデータの安全な伝送を保証するための予防措置が実施されることになる。リモートコンピューティング装置18と通信する能力は、ユーザ、ユーザの介護者、及び他の認可された個人に対して、ウェアラブル装置10によって生成された診断情報をモニターし、ウェアラブル装置10の動作を管理する能力を提供する。更に、通知は、リモートコンピューティング装置18を介して、ユーザ及び/又はユーザの介護者、及び/又は認可されたヘルスケア専門家と送受信することができる。このような通知は、ウェアラブル装置10によって取得された測定値、及び/又は所定の条件が満たされたときにトリガされる警報に由来し得る。更に、インスリンや他の薬剤物質用ポンプ、除細動器(ウェアラブル又は埋め込み型)、脳刺激装置などの遠隔治療装置のコントローラ19との間でデータを送受信することができる。
【0031】
基部20は、側壁12の下に配置され、内部空洞を少なくとも部分的に閉じる。図3図7に示すものを含む多くの場合、基部20は、皮下生体組織の診断調査が存在する、対象となる場所の真上で、ユーザの皮膚22を直接押し当てることを目的として作られている。図3図7に示すような手首ウェアラブル装置10の場合、調査される皮下生体組織は手首のすぐ近くに存在しなければならない。更に、基部20は、意図された用途に応じて、快適さのために曲線を付けて作ることができる。図2Bの例では、基部(容易には見えない)は、人間の指を挟むように成形される。
【0032】
基部20は、図4及び図5に示すように、内部に形成されたポート24を有する。ポート24は、光学光子の通過を可能にするように構成される。即ち、光学光子は、図7に示唆されるように、ポート24を通って伝達可能である。光学光子のこのような伝達性は、様々な形態をとることができる。いくつかの想定される例では、ポート24は、所望の光学光子が自由に通過し、場合により不要な光(例えば、レイリー散乱光)又は他の電磁信号をフィルタリングすることができる膜又は窓ガラス状の要素である。しかしながら、図示の例では、ポート24はカバーされていない開口部を備え、したがって、内部空洞とその下にあるユーザの皮膚22との間で光学光子の直接移動が可能になる。
【0033】
ポート24は、任意の適切な形状であってもよい。図4に示す実施形態では、ポート24は略円形であるが、他の形状も確かに可能である。ポート24はまた、1つの大きな開口部ではなく、複数の別個なより小さいポートで構成されていてもよい。添付の図は、ポート24を取り囲むエラストマーガスケット26を示す。ガスケット26の主な機能は、基部20と内部空洞の真下のユーザの皮膚22との間の遮光封止を完全にすること、又は単に快適さを向上させることであり得る。代替的に、基部20は、ユーザの皮膚22の輪郭に対して自己適合するように可撓性にすることができ、したがって所望の遮光及び/又は快適さの目的を達成することができる。
【0034】
ラッシング28のいくつかの形態は、対象となる領域にわたってユーザの皮膚22に対してハウジングを固定するように構成される。もちろん、ラッシング28は、所望の機能及び/又はスタイルに合うように多くの異なる形態をとることができる。図2A及び図3図7の例では、ラッシング28は、腕時計及びブレスレットを固定するために使用されるタイプのリストバンドを含む。図2Cの例は、接着剤の形態のラッシングを示す。図2B及び図2Cでは、ラッシングは、ばねクランプを備える。実際、意図する用途に大きく基づいて、ラッシングには多くの選択肢が用意されている。頭、首、肩、腕、手、胸、腰、脚、足首、及び足の上又は周囲に装着される衣類に用いられる現在の固定要素を見るだけで、ウェアラブル装置10と共に使用するのに適したラッシュ構成についてのインスピレーションを得ることができる。また、ラッシング28は、ユーザインタフェース、通信、電力、測定、光源などのための追加の要素又はセンサを含むこともできることに留意されたい。
【0035】
ハウジングの内部空洞内に含まれる構成要素は、主に図4及び図5を参照してここで説明される。ハウジングの中もしくは上、ラッシング28の中もしくは上、又はウェアラブル装置10と動作可能に関連付けられたいくつかの適切な場所には、電源30がある。電源30は、内部空洞内に配置して示されているが、ウェアラブル装置10と動作可能に関連付けられた任意の場所で十分であり得る。電源30は、バッテリ、ベータボルタ電源、スーパーキャパシタ、燃料電池、無線電力、太陽電池、エネルギーハーベスタなどを含むがこれらに限定されない、任意の適切な電気エネルギー貯蔵・供給装置を備え得る。電源30は、回路基板32に動作可能に接続されるか、そうでなければウェアラブル装置10の電子機器(電子回路)に電力供給及びそれを制御するオペレーティングシステムに統合される。
【0036】
光源34は、ポート24を通って光を放射するように構成される。光源34は、好ましくは内部空洞の中に配置されるが、光源34によって生成された光のみが内部空洞を通って進む実施形態が考えられる。本発明に有用な光源34は、皮下生体組織と相互作用したときに関連する特徴の光学光子を生成することができなければならない。即ち、光源34は、プローブされたときに、ラマン散乱、赤外発光、蛍光及びリン光を含むがこれらに限定されない、組織からの複数の応答を活性化することができる。一般的には、ウェアラブル装置に関連して使用するのに適した光源は、約200nm~1500nmのスペクトル帯域の光を生成する。一実施形態では、光源34は、単色光を生成するように構成される。別の想定された実施形態では、光源34は広帯域(ブロードバンド)光を生成するように構成される。したがって、ウェアラブル装置10に適した光源34は、本質的に、発光ダイオード、ダイオードレーザ、量子カスケードレーザ、連続レーザ、プラズマ源、中空カソード源、及びキセノンランプからなる群から選択することができる。他のタイプの適切な光源34も可能であり、ひいては、本発明の範囲内で、特に、約200nm~1500nmのスペクトル帯域の光を生成することができる光源も可能である。別のタイプの適切な光源34は、対象となる分子の振動の基準モードを励起する単色光源、例えば、対象の選択された励起モードと共鳴(共振)又は非共鳴になるように選択された近紫外線-可視光線-赤外線(UV-VIS-IR)スペクトル帯域(200nm~1500nm)の特定の周波数を有する単色光源であり得る。
【0037】
いくつかの用途では、光源34を、光学光子を計数することができるデューティサイクルで、変調可能に構成することが望ましい場合がある。光学光子は、光源がオンにされたときにデューティサイクルにわたって計数することができる。又は代替的に、光源がオフにされたとき(バックグラウンド測定を可能にする)、デューティサイクルにわたって光学光子を計数することができる。測定信号は、光源がオン・オフのときに計数された光学光子の差として決定される。特に、本発明の光源34は、プローブされる組織内で放射線治療ビームによって光が内部で生成される、US20200107756A1に記載されているものと区別することができる。
【0038】
図面では、光源34を単一の光生成物体として描いているが、光源34は、代わりに、電子的、振動的、及び共鳴振電的又は非共鳴振電的モード含むがこれらに限定されない、対象となる別個の量子化された励起モードを順次又は同時に励起する、複数の別個の光源34を備えることができることが理解されよう。特に、共鳴モード(即ち、励起源がサンプルシステムの特定の周波数応答に同調している場合)で行う測定は、信号対雑音比の考慮事項を高めるために有効であり得る。
【0039】
ウェアラブル装置10は、ハウジング内に配置された複数の光検出器36のアレイを更に含む。各光検出器36は、ポート24を通って内部空洞に入る光子を検出するように構成された別個のチャネル(λ)を備える。アレイは、少なくとも2つの光検出器36(例えば、λ及びλ)を備える。好ましくは、少なくとも1つの光検出器が基準信号を生成するために使用され、複数の光検出器36は、必要に応じて、組織光学パラメータの変化を捕捉するために複数の分光線を検出するための別々の、即ち、別個なチャネルを作り出すために使用される。
【0040】
図示の例では、6つの光検出器36(λ~λ)が、光源34の周りに円形又は環状のパターンで内部空洞内に戦略的に配置されている。光検出器36の他の配置も確かに可能であり、設計者がそれを有益であると判断する場合もある。光検出器36は、本質的に、シリコン光電子増倍管(SiPM)、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ショットキーフォトダイオード、光電子増倍管(PMT)、マイクロPMT、CCD、CMOSセンサ、InGaAsセンサ、アバランシェフォトダイオードイメージングアレイ、ファブリ-ペローエタロン、及びプリズムからなる群から選択されるものを含む、任意の適切なタイプのものであってもよい。
【0041】
少なくとも1つの光学フィルタは、各光検出器36に関連付けられる。光学フィルタは、関連する光検出器36に到達する光を特定の波長(ラムダ)に限定し、レイリー散乱光を除外する。光学フィルタは、その関連する光検出器36と直接一体化することができると考えられるが、図示の例では、光学フィルタは光検出器36とは別個のものとして示されている。同様に、光学フィルタは単一の要素とすることができるが、図5図7では第1のフィルタ38及び第2のフィルタ40として示されている。第1のフィルタ38は特定のラムダでの狭帯域フィルタを備え、一方、フィルタ40はレイリー散乱光を除外するスパイクフィルタを備える。したがって、図に示す実施形態は、各チャネル(λ)に対して2つのフィルタ38,40を利用する。第1のフィルタ38は、特定の選択された波長(λ)のみを通過させる。第2のフィルタ40は、残留する光源光周波数を遮断する。一般的には、光がフィルタ38,40をどの順序で通過するかは問題ではなく、関連する光検出器36に対する配置は設計者の選択に委ねられる。また、前述したように、レイリー散乱光を除外するための第2のフィルタ40は、ポート24又は他の何らかの便利な共通の場所など、全ての光検出器36に役立つ共通フィルタであると考えられる。
【0042】
ウェアラブル装置10と共に使用するのに適した光学フィルタは、本質的に、バンドパス、マルチバンドパス、ノッチ、エッジパス、スパイク、レイリー散乱排除、回折格子、ファブリ-ペロー干渉計、MEMベースの干渉法、色素、及びナノフォトニックタイプ、及びこれらの組合せを含む群から選択することができる。任意選択的に、遮光塗料(又はエポキシ、又は他の適切なコーティングもしくは表面処理)を、既知の手法に従って一方又は両方のフィルタ38,40の側端に塗布してもよい。また、前述のように、一方又は両方の光学フィルタは、それぞれの光検出器36と一体化してもよく、又は光検出器36から離隔してもよい。
【0043】
好ましくは、遮光体42は、光源34と複数の光検出器36との間の内部空洞内に配置される。遮光体42の目的は、光源34からの直接光又は皮膚22の表面から反射された光が光検出器36のいずれかに到達するのを防止又は少なくとも低減することである。当然ながら、遮光体42は、多くの異なる形態をとることができる。図示の例では、光源34を取り囲む遮光体42が示されている。しかしながら、代替的な形態は、光検出器36を取り囲むか、そうでなければ光源34を仕切る1つ又は複数の遮光体を考える。設計上のバリエーションの可能性を考慮すると、図5に示す遮光体42は、実質的にカバー14の下側からポート24に隣接する終端部に向かって延びる略円筒形の管状構造体である。遮光体42の末端は、好ましくは、遮光機能を最大にするために皮膚22の表面に近接して配置される。任意選択的に、遮光体42の遠位端は、皮膚22に対する遮光封止をより完璧にするために、適合可能又は伸長可能にすることができる。図5及び図6は、下方に付勢され、ウェアラブル装置10が所定の位置に押し込まれると、皮膚22と接触し、圧縮する単純なアコーディオン状部材44を想像線で示す。代替的に、遮光体42の末端には、可撓性リップシール又は伸縮部材を取り付けることができる。遮光体が皮膚22に対する遮光封止をより完璧にすることが望まれる場合、多くの代替構成が可能である。更に、窓ガラス又は膜がポート24を覆う場合、アコーディオン部材44又は伸長可能な先端部が、機能性を犠牲にすることなく、通過するように適切な調整を行うことができる。
【0044】
前述の回路基板32は、好ましくは、所定のサンプリング時間にわたって単一光子の計数が可能な、適切なデータ取得電子モジュールを含む。サンプリング時間は用途に応じて異なり得る。場合によっては、割り当てられたサンプリング時間は0~1000msの範囲内になる。他の用途では、1~10秒の範囲で割り当てられたサンプリング時間でおそらく十分な場合がある。更に、データ取得電子モジュールは、好ましくは、特定の量子化された分子振動の基準モードの励起から生じる、対象の特定のラマン線の強度をデジタル的に記録するスカラー(計数装置)又は他の機能を含む。量子化された振動の基準モードは、電子モード、超音波モード、音響モード及び/又は振電モードを含むことができる。
【0045】
ウェアラブル装置10の基本的な物理的構成要素を上で説明してきたので、システムの動作は図7と連携して理解することができる。一般に、背景として、光が分子又は結晶から散乱されると、ほとんどの光子は弾性的に散乱される(即ち、周波数が変化しない)。これはレイリー散乱と呼ばれる。しかしながら、入射光子の周波数とは異なりかつ通常は入射光子の周波数よりも低い光周波数では、光のごく一部(10光子のうち約1個)が散乱される。この非弾性プロセスはラマン散乱として知られており、分子の振動、回転又は電子エネルギーの励起によって起こることができる。振動励起は、散乱光のスペクトルにおいて、レイリーピークに隣接する弱いラマンシフト側波帯として現れる。量子的考察によれば、アップシフト(高波数側)及びダウンシフト(低波数側)した側波帯をもたらす。ストークスラマンスペクトルと呼ばれるエネルギーがダウンシフトしたピークは、一般にアップシフトしたピークよりも強いため、測定はダウンシフトしたケースに限定することができる。特定の振動モードからのラマンシフトΔνは、下式によって(波数で)与えられる。
【0046】
ここで、添字i及びsは、それぞれ入射光子及び散乱光子を指す。この式は、本質的に、エネルギー保存の記述であり、本発明に密接に関係する。
【0047】
図7では、例示的なウェアラブル装置10は、対象となる場所の上のユーザの皮膚22に対して所定の位置に固定されている。ウェアラブル装置10のポート24は、装置10が、対象の状態を診断するために、非侵襲的、リアルタイム、連続的な方法で皮下分子46を調査することを可能にするように配置される。前述のように、多くの異なる対象の状態が考えられる。1つの主要な例は、血糖モニタリングとして捕らえることができるが、これは決してウェアラブル装置10の唯一の可能な用途ではない。それにもかかわらず、血糖モニタリングは、本発明の動作特性を説明するための良い例として役立つ。血中グルコースモニタリングは、連続グルコースモニタリングに関連して、CGMと略されてもよい。
【0048】
対象である皮下分子の特性(例えば、血液中のグルコース濃度)に固有の信号を得るために、ラマン検出器(λs)は、対象となる分子(例えば、グルコース分子)の特定の振動周波数について上記の式を満たすように調整される。この調整ステップは、様々な方法で達成することができる。一例では、第1の狭帯域バンドパス(スペクトル幅約10nm)の光学フィルタ38を、高利得(約10)SiPM光検出器チップ36の上に直接配置することができる。この目的には、この波長の光だけを送る(通す)ように選択されたエタロン(狭帯域フィルタ)を用いた干渉フィルタが便利である。第2の光学ノッチフィルタ40を第1の狭帯域光フィルタ38と組み合わせて用いることにより、はるかに強いレイリー散乱光をラマンスペクトルから除外して、検出される信号がラマン散乱光だけからのものであることを確実にすることができる。
【0049】
この洗練されたマルチスペクトル検出アプローチにより、基準(対照)として機能することができる水やヘモグロビンなどの組織マトリックスに関連する近傍ラマンピークに対して、選択したラマン活性線の積分強度を測定することによって、対象となる皮下分子の特性、例えば、血糖濃度を直接、正確に、読み取ることができるようになる。この手法は、リアルタイムのグルコース(又は対象となる他の分子の特性)モニタリングへのラマン分光法の適用を妨げている小型化に対する2つの障壁を同時に克服する:(1)分光バンドパスフィルタ38は各々、特定のラマンピークに正確に同調され、したがって、大型の走査分光計の必要性が排除される、(2)高利得のSiPM光検出器36は、弱いラマン信号にも感度があり、非常にコンパクト(<2mm)である。設計案では、必要に応じて、組織の光学パラメータ(例えば、皮膚22の色、皮膚22のかぶれなど)の変化を捕捉するために、基準信号及び複数のラマン線を検出するためのいくつかの別個のチャネルを可能にするマルチチャネルアレイが組み込まれる。考えられるアレイは、2×2、および図4によって提案された6チャネルアレイを含む。もちろん、他のアレイ構成も可能であり、用途に応じて前述の2×2及び6チャネルアレイよりも好ましい場合がある。
【0050】
本発明は、例示的なCGM用途に特に関連するラマン分光法の2つの態様を強調すると理解してもよい。
【0051】
第1は、この測定が実行される複雑な生体環境に関係していることであり、グルコース分子は、血液/間質液に浸かっており、対象となる周波数帯域内で主にヘモグロビンや水に関連する多数の振動モードを有する。しかしながら、量子選択則によって、ラマン活性過程は、特定の振動モードの対称性によって、分子の分極率が変化する過程だけに限定されることに留意されたい。これにより、ラマンスペクトルの複雑さは、少数の強い線と十分に分離された線とに大幅に低減される。例えば、ここで最も興味深いラマン線は、グルコース環の「呼吸モード」に関連する約1125cm-1図1)のラマン線である。図1は、約572cm-1、796cm-1、1060cm-1及び1360cm-1の対象の他のラマン線を示す。ヘモグロビンの1549cm-1の強いラマン線(図1では見えない)もまた、約436cm-1、456cm-1、527cm-1、855cm-1、912cm-1、1060cm-1、1366cm-1及び1456cm-1のラマン線と共に、血糖濃度を較正するための可能な基準として興味深い。このレシオメトリックアプローチの考え方は、血液中のグルコース濃度以外の変化に起因する任意のグルコースラマン強度の変動を除去するために基準を使用することである。例えば、ウェアラブル装置10が対象の測定領域に対して移動する場合、全体的な強度は変動し得るが、基準に対する差分信号は変動し得ない。また、効果的なラッシング28は、ウェアラブル装置10と調査される皮下分子46との間の相対移動によって生じる強度変動を低減又は排除するのにも役立つ。サンプリングをパルス測定(即ち、パルス中のサンプリング及びパルス間のサンプリング)と連携させることによっても、間質液グルコース測定から血糖測定値を説明することができる。
【0052】
第2の重要な生理学的態様は、入射光が分子46に到達するまでに通過しなければならない皮下組織と真皮は、不透明で、かなり短い吸収長(数mm)を有することである。しかしながら、光源34(例えば、レーザ又はLED、励起波長、λなど)の賢明な選択によって、入射光及び散乱光の吸収をかなり最小限に抑えることができる。1つの有効な手法は、軟組織を通って適度に良好に(数cm)伝播する赤色光や近赤外(NIR)光(λ≧660nm)を使用することである。更なる利点として、赤色光(Rシリーズ)に最適化されたSiPM型光検出器36が市販されている。したがって、ラマン分光法の固有の柔軟性及び選択性をウェアラブル装置10によって効果的に活用して、CGMのための非侵襲的で、ウェアラブルで、リアルタイムの連続診断分光計及び方法並びに他の多くの用途の設計を進めることができる。したがって、本発明のウェアラブル装置10は、糖尿病患者の生活を劇的に改善し、健康転帰を改善するための連続グルコースモニタリング(CGM)として構成することができる。
【0053】
説明された光検出器36技術の高感度と高利得は、この技術革新の重要なイネーブラ(実現手段)の一つである。ウェアラブル装置10は、組織を透過した微弱な非弾性散乱光を利用して、関連する分子バイオマーカのスペクトル測定を可能にする。非弾性散乱光は、人体組織によって強く吸収及び散乱され、対象の情報を運ぶほんの少数の測定可能な光子しか残らず、特定の波長内のサブセットのみが分子測定に有用である。同様に、エネルギー効率の良い光源34は、非常に限られた分光学的にユニークな信号を生成するため、同様に高感度で洗練された技術的アプローチを必要とする。CGMの用途では、ウェアラブル装置10は、ラマン分光法を採用し、血液又は間質液中の対象となる分子46の「指紋」及び濃度を伝える散乱光子のごく一部を標的としている。ウェアラブル装置10とその使用方法は、SiPM検出器の高感度によって大幅に緩和される対象の弱い信号の強度に関する懸念を独自に克服している。本開示に説明される用途(ラマン散乱によってプローブされる生体分子)では、ラマン散乱光の特定の成分、即ち、対象となる特性(例えば、血糖)を測定するのに必要な関連する波長を有する成分のみが標的とされるため、物理的に大きく高価な高性能分光計が不要となり、コンパクトで、ウェアラブルで、低コストの装置が可能になる。
【0054】
本発明の原理により、真に非侵襲的なラマンプローブがウェアラブルフォームファクタで可能になる。独自の新しいアーキテクチャにより、ウェアラブル装置10は、対象となる分子46の特定のラマンピークの測定を可能にするために、狭帯域の第1の光学フィルタ38と結合した高利得光検出器36を組み込んだ高感度マルチチャネル光検出器36の緊密な統合を実現している。更に、データ取得、信号処理、及びリアルタイム解析に必要なデジタル電子機器(電子回路)の小型化により、他のラマン散乱用途における信号対雑音比が改善されたが、特に光子計数モードにおいて大きく改善された。マルチスペクトルデータの取得は、単一のピークだけでなく、複数のラマン線の測定に基づいて高い定量精度を達成するのに役立つことが示されている多変量較正モデルを用いた定量分析にとって重要である。ウェアラブル装置10は、強力で確立されたラマン分光手法を、ウェアラブルの生体センサ技術として実用化の領域に到達させる。本発明は、真に非侵襲的なリアルタイムCGMとしてだけでなく、他の多くの重要な生理学的バイオマーカを測定するためのプラットフォームとしても役立つ。
【0055】
CGMの特定の例では、ウェアラブル装置10は、ラマン分光法に基づいて血中グルコース濃度を測定する非侵襲的アプローチを示している。一実施形態では、単色光が(例えば、レーザダイオード34から)皮下組織に向けられる。発生した光は、間質液や血管から散乱する。この光の一部はまた、このマトリックス内のグルコース分子46と相互作用し、グルコースに特有の振動モードを励起する。これらの特徴的なモード(結合の伸縮、変角など)の周波数は、ラマン散乱光に刻印され、身体を出た後に、小型狭帯域分光計36のアレイによって分析される。このようにして、ラマン分光法は、化学及び生物学における分子結合を「指紋採取」し、血糖濃度の信頼性の高い定量的プローブを提供する。
【0056】
上記の発明は、関連する法的基準に従って説明されているので、説明は本質的に限定するものではなく例示的なものである。開示された実施形態に対する変形及び修正は、当業者には明らかとなり、本発明の範囲内に入る。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】