IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】一塩基多型及び炎症状態の治療
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20230823BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230823BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230823BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230823BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20230823BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20230823BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230823BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230823BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20230823BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20230823BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C12Q1/6827
A61K45/00 ZNA
A61P9/10
A61P25/00
A61P35/00
A61P15/00
A61P3/06
A61P1/16
A61P13/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6876 Z
C07K16/40
G01N33/50 P
G01N33/53 M
G01N33/542 A
G01N33/536 B
G01N33/536 D
G01N33/536 E
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023508577
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 US2021045005
(87)【国際公開番号】W WO2022032135
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/062,750
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/062,908
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/063,022
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518073309
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナ
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】ジョー ジー.エヌ.ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】モハンマド エヌ.アーメッド
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA13
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA36
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZB26
4C084ZC21
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、または腎線維症等の炎症状態に関連付けられるNAMPTプロモーター内の一塩基多型(SNP)を同定する方法。対象におけるそのような炎症状態を診断及び治療する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、または腎線維症を有するまたは発症するリスクがある対象を同定する方法であって、
a)心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有するまたは発症するリスクがある対象から試料を取得することと、
b)前記試料中のヒトニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)に関連付けられる少なくとも1つの一塩基多型(SNP)の存在を検出することと、を含み、前記SNPが、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、前記方法。
【請求項2】
前記対象が、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも2つのSNP、少なくとも3つのSNP、少なくとも4つのSNP、少なくとも5つのSNP、少なくとも6つのSNP、少なくとも7つのSNP、または少なくとも8つのSNPを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも2つのSNPを検出することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
rs7789066、rs61330082、rs9770242、及びrs59744560からなる群から選択される、少なくとも1つのSNPを検出することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも1つのSNPを検出することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象がアフリカ系である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検出することが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、SNPマイクロアレイ、SNP制限断片長多型(SNP-RFLP)、動的対立遺伝子特異的ハイブリタイゼーション(DASH)、プライマー伸長(MALDI-TOF)質量分析法、一本鎖高次構造多型、及び/または新世代シーケンシング(NGS)を使用することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記検出することが、前記試料を、前記SNPを含むヌクレオチド配列またはそれに相補的なヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブと接触させ、前記オリゴヌクレオチドプローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記オリゴヌクレオチドプローブが検出可能な標識を含み、前記プローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することが、前記検出可能な標識を検出することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記検出可能な標識が、蛍光標識、発光標識、放射性核種、または化学発光標識を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記オリゴヌクレオチドプローブが、蛍光部分及び蛍光消光剤を含む2標識オリゴヌクレオチドプローブを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記SNPが、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルよりも高いNAMPTプロモーター活性レベルに関連付けられ、任意選択で、前記ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルが、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有しない対象に関連付けられるレベルである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が血漿試料である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有するまたは有するリスクがある対象を治療する方法であって、
a)心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有するまたは有するリスクがある対象から試料を取得することと、
b)前記試料中の少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することであって、前記SNPが、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択され、前記少なくとも1つのSNPの前記存在は、前記対象が心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有することまたは発症するリスクがあることを示す、前記検出することと、
c)心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有するまたは発症するリスクがある前記対象に有効量のNAMPT阻害剤を投与することと、を含む、前記方法。
【請求項16】
前記試料が血漿試料である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも2つのSNP、少なくとも3つのSNP、少なくとも4つのSNP、少なくとも5つのSNP、少なくとも6つのSNP、少なくとも7つのSNP、または少なくとも8つのSNPを検出することを含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのSNPの前記存在または不存在を前記検出することが、rs7789066、rs61330082、rs9770242、及びrs59744560からなる群から選択される少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することを含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのSNPの前記存在または不存在を前記検出することが、rs116647506、rs1319501、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することを含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象がアフリカ系である、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記検出することが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、SNPマイクロアレイ、SNP制限断片長多型(SNP-RFLP)、動的対立遺伝子特異的ハイブリタイゼーション(DASH)、プライマー伸長(MALDI-TOF)質量分析法、一本鎖高次構造多型、または新世代シーケンシング(NGS)を使用することを含む、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記検出することが、前記試料を、前記SNPを含むヌクレオチド配列またはそれに相補的なヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブと接触させ、前記オリゴヌクレオチドプローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することを含む、請求項15~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記オリゴヌクレオチドプローブが検出可能な標識を含み、前記プローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することが、前記検出可能な標識を検出することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記検出可能な標識が、蛍光標識、発光標識、放射性核種、または化学発光標識を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記オリゴヌクレオチドプローブが、蛍光部分及び蛍光消光剤を含む2標識オリゴヌクレオチドプローブを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記SNPが、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルよりも高いNAMPTプロモーター活性レベルに関連付けられる、請求項15~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルが、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有しない対象に関連付けられるレベルである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記NAMPT阻害剤が抗NAMPT抗体である、請求項15~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗NAMPT抗体が、
配列番号2として示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、
配列番号3として示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記重鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号4、5、及び6として示されるアミノ酸配列を有し、前記軽鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号7、8、及び9として示されるアミノ酸配列を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記重鎖可変領域が、配列番号2に示される前記アミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号3に示される前記アミノ酸配列を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記抗NAMPT抗体が、
配列番号10として示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、
配列番号11として示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記重鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号12、13、及び14として示されるアミノ酸配列を有し、前記軽鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号15、16、及び17として示されるアミノ酸配列を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記重鎖可変領域が、配列番号10に示される前記アミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号11に示される前記アミノ酸配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗NAMPT抗体が、
配列番号23として示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、
配列番号3として示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインと、を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記重鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号4、24、及び6として示されるアミノ酸配列を有し、前記軽鎖可変領域の前記CDR1、CDR2、及びCDR3ドメインが、それぞれ配列番号7、8、及び9として示されるアミノ酸配列を有する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記重鎖可変領域が、配列番号23に示される前記アミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号3に示される前記アミノ酸配列を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記対象が、心臓虚血を有する、または心臓虚血を発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記対象が、外傷性脳損傷を有する、または外傷性脳損傷を発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記対象が、がんを有する、またはがんを発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記対象が、絨毛膜羊膜炎を有する、または絨毛膜羊膜炎を発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記対象が、NASHを有する、またはNASHを発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記対象が、腎線維症を有する、または腎線維症を発症するリスクがある、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府の支援による研究または開発
本発明は、国立衛生研究所(NIH)による助成番号R41-HD101202-01 STTRの下で、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、2020年8月7日に出願された米国仮出願第63/062,908号、2020年8月7日に出願された米国仮出願第63/063,022号、及び2020年8月7日に出願された米国仮出願第63/062,750号に対する優先権を主張する。前述の優先権出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2021年8月3日に作成された当該ASCIIコピーは、A110808_1010WO_SL_ST25という名称でサイズが16,363バイトである。
【0004】
本発明は、概して、炎症及び分子生物学の分野に関する。本発明は、一塩基多型(SNP)を検出する方法、SNPを使用して、炎症状態を発症するリスクの増加を予測する方法、炎症状態を診断する方法、炎症状態を治療する方法、及び治療に対する患者の応答性を決定する方法を提供する。
【背景技術】
【0005】
炎症は、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及び腎線維症等の様々な状態に関連付けられる。心臓虚血、外傷性脳損傷、及びがんは、世界中の罹患率及び死亡率の主な原因である。そのような状態のリスクを判定し、診断し、治療するための新規かつより効果的な方法が当該技術分野で必要である。
【0006】
羊膜内感染症(IAI)としても知られる絨毛性羊膜炎は、母体に起こり得る周産期の長期的な有害転帰に関連付けられる妊娠の合併症である。絨毛性羊膜炎は、早産症例の約40%を占める(未熟児は世界中の妊娠の10%近くに影響を及ぼし、周産期死亡及び罹患の最も重要な原因である)。絨毛性羊膜炎のリスクを判定し、診断し、治療するための新規かつより効果的な方法が当該技術分野で必要がある。
【0007】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、世界の成人人口の最大25%に影響を及ぼし、肝臓関連の罹患率及び死亡率の増加、心血管疾患、肝外癌、T2DM(肝線維症/肝細胞癌で死亡する8人に1人)及び慢性腎臓病のリスクの増加に関連付けられる。有病率が増加しているにもかかわらず、NAFLDの発症及びその後の単純脂肪肝(脂肪症)からNASH、肝線維症/肝硬変及び肝細胞癌(HCC)への進行に影響を及ぼす因子(Anstee et al.Nat Rev Gastroenterol Hepatol(2019),16:411-428)への理解は不足しており、NAFLD治療のための新しい治療戦略が依然として必要とされている。増加する証拠は、NAFLDの進行の機序が、遺伝的変異、脂質過酸化、酸化ストレス、腸内微生物叢における不均衡を含む複雑かつ多因子なものであり、先天性免疫応答の調節不全に対する非常に深い関係を有することを示している(Diehl et al.,N Engl J Med(2017),377:2063-2072、Friedman et al.,Nat Med(2018),24:908-922)。NASHは米国人口の推定3~6%に影響を及ぼし、有病率は増加している。NASH患者の推定20%が肝硬変を発症し、NASHは米国での肝移植の主要な適応症になると予測されている。NASH患者における死亡率は、一般集団またはこの炎症性サブタイプでないNAFLDの患者よりも著しく高く、年間全死因死亡率は1000人年当たり25.56、肝臓特異的死亡率は1000人年当たり11.77である。米国食品医薬品局によって承認されているNASH特異的療法はない。したがって、NASHのリスクを決定し、診断し、治療するための新規のより効果的な方法の必要性が当技術分野に存在する。
【0008】
腎線維症は、正常な腎組織構造が細胞外マトリックス(ECM)に徐々に置き換えられたときに起こる(Meng et al.“Inflammatory processes in renal fibrosis,”Nat Rev Nephrol,10:493-503(2014))。糸球体及び尿細管間質区画の両方の線維症は、糖尿病性及び非糖尿病性糸球体疾患の全ての進行性形態における腎機能の低下と相関し、末期腎疾患につながる共通の機序と広く考えられている(Bohle et al.,“Serum creatinine concentration and renal interstitial volume.Analysis of correlations in endocapillary(acute)glomerulonephritis and in moderately severe mesangioproliferative glomerulonephritis,”Virchows Arch A Pathol Anat Histol,375:87-96(1977)、Mackensen-Haen et al.“Correlations between renal cortical interstitial fibrosis,atrophy of the proximal tubules and impairment of the glomerular filtration rate,”Clin Nephrol 15:167-171(1981)、Seron et al.D.,“Number of interstitial capillary cross-section assessed by monoclonal antibodies:relation to interstitial damage,”Nephrol Dial Transplant,5:889-893(1990))。腎臓炎症は、原因を排除し修復を促進するための広範な損傷に対する保護反応として誘発されるが、根底にある病因にかかわらず、進行中の炎症は進行性腎線維症を促進する。しかしながら、進行性腎線維症の根底にある機序は完全には理解されておらず、したがって、有効な治療法を欠いている。したがって、腎線維症のリスクを決定し、診断し、治療するための新規かつより効果的な方法の必要性が当技術分野で存在する。
【発明の概要】
【0009】
炎症疾患に関連付けられる罹患率及び死亡率を低減することは、疾患進行に関連付けられる危険因子の同定、疾患を示すマーカーの同定、並びに/または疾患の重症度及び進行を低減させる新規アプローチの開発を含む。
【0010】
先天性免疫の調節、及び炎症状態に関連付けられる炎症性損傷の低減、特に、NFkB依存性炎症性カスケードの調節は、疾患の治療及び予防に重要であり得る。
【0011】
治療及び転帰を改善するためには、炎症状態を示す及び/または炎症状態を発症するリスクを示すバイオマーカーが必要である。そのようなマーカーの非限定的な例としては、PBEF及びビスファチンとも呼ばれるニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ酵素(NAMPT)等のサイトカインを調節する遺伝子における一塩基多型(SNP)が挙げられる。
【0012】
炎症状態に関連付けられるNAMPTプロモーター内の一塩基多型(SNP)を同定する方法が提供される。少なくとも一部の実施形態において、炎症状態のリスクにあり得る患者を同定する手段を提供する。また、炎症状態を診断及び治療する方法も提供される。
【0013】
いくつかの実施形態は、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、または腎線維症を有する、または発症するリスクがある対象を同定する方法であって、a)心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または発症するリスクがある対象から試料を取得することと、b)試料中のヒトニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)遺伝子に関連付けられる少なくとも1つの一塩基多型(SNP)の存在を検出することとを含み、SNPが、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、方法を含む。いくつかの実施形態において、対象は、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する。
【0014】
いくつかの実施形態において、対象は、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも1つのSNP、少なくとも2つのSNP、少なくとも3つのSNP、少なくとも4つのSNP、少なくとも5つのSNP、少なくとも6つのSNP、少なくとも7つのSNP、または少なくとも8つのSNPを有する。いくつかの実施形態は、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも2つのSNPを検出することを含む。いくつかの実施形態は、rs7789066、rs61330082、rs9770242、及びrs59744560からなる群から選択される、少なくとも1つのSNPを検出することを含む。いくつかの実施形態は、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも1つのSNPを検出することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、対象はアフリカ系である。
【0016】
いくつかの実施形態において、検出することは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、SNPマイクロアレイ、SNP制限断片長多型(SNP-RFLP)、動的対立遺伝子特異的ハイブリタイゼーション(DASH)、プライマー伸長(MALDI-TOF)質量分析法、一本鎖高次構造多型、及び/または新世代シーケンシング(NGS)を使用することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、検出することは、試料を、SNPを含むヌクレオチド配列またはそれに相補的なヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブと接触させることと、オリゴヌクレオチドプローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することと、を含む。ある特定の実施形態において、SNPを含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブは、SNPを取り囲む各側に200塩基対を含む。特定の実施形態において、配列番号18に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs7789066を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号19に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs61330082を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号20に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs9770242を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号21に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs59744560を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、及び/または配列番号22に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs1319501を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズする。
【0018】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、検出可能な標識を含み、プローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することは、検出可能な標識を検出することを含む。いくつかの実施形態において、検出可能な標識は、蛍光標識、発光標識、放射性核種、または化学発光標識を含む。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、蛍光部分及び蛍光消光剤を含む2標識オリゴヌクレオチドプローブを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、SNPは、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルよりも高いNAMPTプロモーター活性レベルに関連付けられる。特定の実施形態において、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルは、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有しない対象に関連付けられるレベルである。
【0020】
いくつかの実施形態において、試料は、血漿試料である。
【0021】
有効量のNAMPT阻害剤を、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または発症するリスクがある対象に投与することによって、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、またはそのリスクを有する対象を治療する方法も提供される。いくつかの実施形態において、対象は、臨床診断(例えば、炎症状態の1つ以上の症状及び/または危険因子を同定すること)、NAMPTのレベルの上昇(例えば、血漿NAMPTレベル)、及び/またはNAMPTプロモーターの活性レベル(例えば、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183)に関連付けられる1つ以上のSNPの同定のうちの1つ以上に基づいて、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または有するリスクがあると判定され得る。
【0022】
心虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または有するリスクがある対象を治療する方法であって、a)心虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または有するリスクがある対象からサンプルを取得することと、b)試料中の少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することであって、SNPが、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択され、少なくとも1つのSNPの存在が、対象が心臓虚血症、脳損傷、脳損傷、NASH、または腎線維症を有することまたは発症するリスクがあることを示す、検出することと、c)心虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有する、または発症するリスクがある対象に、有効量のNAMPT阻害剤を投与することと、を含む方法もまた提供される。いくつかの実施形態において、試料は、血漿試料である。
【0023】
いくつかの実施形態は、rs7789066、rs61330082、rs9770242、rs59744560、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される、少なくとも2つのSNP、少なくとも3つのSNP、少なくとも4つのSNP、少なくとも5つのSNP、少なくとも6つのSNP、少なくとも7つのSNP、または少なくとも8つのSNPを検出することを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することは、rs7789066、rs61330082、rs9770242、及びrs59744560からなる群から選択される少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することは、rs116647506、rs61330082、rs114382471、及びrs190893183からなる群から選択される少なくとも1つのSNPの存在または不存在を検出することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、対象はアフリカ系である。
【0025】
いくつかの実施形態において、検出することは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、SNPマイクロアレイ、SNP制限断片長多型(SNP-RFLP)、動的対立遺伝子特異的ハイブリタイゼーション(DASH)、プライマー伸長(MALDI-TOF)質量分析法、一本鎖高次構造多型、または新世代シーケンシング(NGS)を使用することを含む。いくつかの実施形態において、検出することは、試料を、SNPを含むヌクレオチド配列またはそれに相補的なヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブと接触させ、オリゴヌクレオチドプローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することを含む。ある特定の実施形態において、SNPを含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブは、SNPを取り囲む各側に200塩基対を含む。特定の実施形態において、配列番号18に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs7789066を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号19に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs61330082を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号20に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs9770242を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号21に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs59744560を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、及び/または配列番号22に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs1319501を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズする。
【0026】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、検出可能な標識を含み、プローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することは、検出可能な標識を検出することを含む。いくつかの実施形態において、検出可能な標識は、蛍光標識、発光標識、放射性核種、または化学発光標識を含む。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプローブは、蛍光部分及び蛍光消光剤を含む2標識オリゴヌクレオチドプローブを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、SNPは、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルよりも高いNAMPTプロモーター活性レベルに関連付けられる。いくつかの実施形態において、ベースラインNAMPTプロモーター活性レベルは、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH、または腎線維症を有しない対象に関連付けられるレベルである。
【0028】
いくつかの実施形態において、NAMPT阻害剤は抗NAMPT抗体である。
【0029】
いくつかの実施形態において、抗NAMPT抗体は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、ならびに配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、を含む。特定の実施形態において、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号4、5、及び6として示されるアミノ酸配列を有し、及び/または軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号7、8、及び9として示されるアミノ酸配列を有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含み、及び/または軽鎖可変領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗NAMPT抗体は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、ならびに配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、を含む。特定の実施形態において、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号12、13、及び14として示されるアミノ酸配列を有し、及び/または軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号15、16、及び17として示されるアミノ酸配列を有する。
【0032】
いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含み、及び/または軽鎖可変領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、抗NAMPT抗体は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、ならびに配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメイン、を含む。特定の実施形態において、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号4、24、及び6として示されるアミノ酸配列を有し、及び/または軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインは、それぞれ配列番号7、8、及び9として示されるアミノ酸配列を有する。
【0034】
いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号23に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列のCDR1、CDR2、及びCDR3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、重鎖可変領域は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含み、及び/または軽鎖可変領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、対象は、心臓虚血を有する、または心臓虚血を発症するリスクがある。いくつかの実施形態において、対象は、外傷性脳損傷を有する、または外傷性脳損傷を発症するリスクがある。いくつかの実施形態において、対象は、がんを有する、またはがんを発症するリスクがある。いくつかの実施形態において、対象は、絨毛膜羊膜炎を有する、または絨毛膜羊膜炎を発症するリスクがある。いくつかの実施形態において、対象は、NASHを有する、またはNASHを発症するリスクがある。いくつかの実施形態において、対象は、腎線維症を有する、または腎線維症を発症するリスクがある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】様々な障害性シグナルに対応したNAMPTの分泌、先天性免疫及び炎症の活性化のための細胞外NAMPTのTLR4への結合、ならびに抗NAMPT mAbであるALT-100によってNAMPTを中和することによる炎症の遮断を示す概略図である。
図2】健康な対照女性(2つの左パネル)または絨毛性羊膜炎を有する女性(2つの右パネル)から得られる胎盤組織におけるNAMPTの免疫組織化学(IHC)染色を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。
図3】健康な妊婦(「妊娠中」)、絨毛性羊膜炎を有する妊婦(「ChorP」)、または非妊婦対照(「対照」)から得られた血漿試料中のNAMPTレベルのグラフ表示である。
図4】LPS誘導性絨毛羊膜炎のマウスモデルにおける絨毛羊膜炎関連子宮組織学を示す。Aは、子宮膿瘍(A、上パネル)、ならびにLPSチャレンジされた絨毛性羊膜炎マウスから得られた子宮組織における炎症及びアポトーシスの領域(A、下パネル)を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Bは、LPSチャレンジされた絨毛性羊膜炎マウスに由来する血清(B、上パネル)または子宮組織ホモジネート(B、下パネル)中の炎症促進性サイトカインIL-1B、IL-6、KC(IL-8)及びMCP1のレベルを示すグラフを提供する。
図5A】ヒト化抗NAMPTモノクローナル抗体(mAb)であるALT-100の、絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子のNAMPT及び他の炎症性サイトカインの発現、ならびに絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子の生存率に対する効果を示す。抗NAMPT mAb(ALT-100)処置絨毛膜羊膜炎マウス、PBS処置絨毛膜羊膜炎マウス、または健康なマウス対照に生まれた子の肺組織におけるNAMPT発現を示すウエスタンブロット分析からの代表的な画像を提供する。
図5B】ヒト化抗NAMPTモノクローナル抗体(mAb)であるALT-100の、絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子のNAMPT及び他の炎症性サイトカインの発現、ならびに絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子の生存率に対する効果を示す。抗NAMPT mAb処置絨毛性羊膜炎マウス(「LPS+ALT-100」)またはPBS注射絨毛性羊膜炎マウス(「LPS」)から産まれた子の肺組織ホモジネートにおける炎症促進性サイトカインIL-6、KC(IL-8)及びMCP1のレベルのグラフ表示である。
図5C】ヒト化抗NAMPTモノクローナル抗体(mAb)であるALT-100の、絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子のNAMPT及び他の炎症性サイトカインの発現、ならびに絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子の生存率に対する効果を示す。PBSチャレンジされた対照マウス(「対照」)、LPSチャレンジされた絨毛膜羊膜炎マウス(「LPS」)、または抗NAMPT mAb(「LPS+ALT-100」)で処置したLPSチャレンジされた絨毛膜羊膜炎マウス、に生まれる子の生存率のグラフ表現である。*はp<0.05を示す。
図6】BPDのマウスモデルから得られた肺組織における、H&E染色によって評価される、ヒト化抗NAMPT mAb ALT-100の炎症及び気管支肺異形成(BPD)に対する効果を示す。Aは、対照室内気に曝露された子から得られる肺組織におけるH&E染色を示す代表的な顕微鏡写真である。Bは、LPS/高酸素チャレンジされたBPD子から得られる肺組織におけるH&E染色を示す代表的な顕微鏡写真である。Cは、抗NAMPT mAbで処置されたLPS/高酸素チャレンジされたBPD子から得られる肺組織におけるH&E染色を示す代表的な顕微鏡写真である。
図7】BPDのマウスモデルにおいて、LPS及び高酸素に曝露したマウスから得られた新生児肺組織における、ウエスタンブロット解析によって評価したNAMPT発現を示す。Aは、対照室内気に曝露された(「対照」)、LPS/高酸素に曝露された(「LPS/高酸素」)、またはLPS/高酸素に曝露されたが抗NAMPT Ab(「LPS/高酸素+抗NAMPT Ab」)で処置された子の肺組織におけるNAMPT発現のウエスタンブロット分析を示す代表的な画像を提供する。Bは、対照室内気に曝露された子(「対照」)、LPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS/高酸素」)、または抗NAMPT mAbで処置したLPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS/高酸素+ALT-100」)の肺組織においてGAPDHに対して正規化されたNAMPTバンド強度の濃度測定値のグラフ表示である。
図8】絨毛膜羊膜炎誘導性PAHの2ヒットマウスモデルから得られた肺組織ホモジネートにおける、RT-PCR分析によって評価される、ヒト化抗NAMPT mAb(ALT-100)の絨毛膜羊膜炎誘導性肺高血圧症(PAH)に対する効果を示す。Aは、対照室内気に曝露された子(「RA」)、室内気でLPSチャレンジされた子(「RA LPS」)、抗NAMPT mAbで処置されたLPSチャレンジされた子(「RA LPS NAMPT」)、LPS及び高酸素チャレンジされた子(「HO LPS」)、または抗NAMPT mAbで処置されたLPS/高酸素チャレンジされた子(「HO LPS NAMPT」)の肺組織におけるp-SMAD1/5/8/9発現のグラフ表現である。Bは、対照室内気に曝露された子(「RA」)、室内気でLPSチャレンジされた子(「LPS RA」)、抗NAMPT mAbで処置したLPSチャレンジされた子(「LPS NAMPT RA」)、LPS及び高酸素チャレンジされた子(「LPS高酸素」)、または抗NAMPT mAbで処置したLPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS NAMPT高酸素」)からの肺組織におけるSTAT3/GAPDHの倍率変化のグラフ表現である。
図9】絨毛性羊膜炎誘導性PAHの2ヒットマウスモデルからの子のFulton指数のグラフ表現であり、対照室空気に曝露された子、LPS及び高酸素チャレンジされた子、または抗NAMPT mAbで処置されたLPS/高酸素チャレンジされた子のRV/LV隔壁比を示す。
図10】ヒト非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、マウス非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)組織、及びマウス脂肪肝組織からの肝臓組織におけるNAMPT発現を示す代表的な画像を提供する。Aは、正常な肝臓組織(挿入図)と比較した、NAFLD対象(n=4~5)の肝臓切片におけるNAMPTのIHC染色を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Bは、正常な肝臓組織(挿入図)と比較した、6週(n=8)に撮影されたNASH(STZ/HF)マウスSTAMモデルの肝臓切片におけるNAMPTのIHC染色を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Cは、正常な肝臓組織(挿入図)と比較した、高脂質高スクロース(HFHS)を給飼された(8週、16週に屠殺)西洋食誘導性NASHモデルのマウスの肝臓切片におけるNAMPTのIHC染色を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Dは、正常食及びHFHS給餌マウス(16週、n=4マウス)からの肝臓組織溶解物中のNAMPT発現のウエスタンブロット分析を示す代表的な画像を提供する。Eは、正常な肝臓切片及び脂肪肝疾患を有するマウスの肝臓切片におけるNAMPTのIHC染色を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。
図11】高脂肪食で維持されたストレプトゾトシンチャレンジされたNASHマウス(STZ/HF(STAM)マウス)から得られた肝臓組織における、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色によって評価される、NASH媒介性肝損傷に対するヒト化抗NAMPT mAbの効果を示す。Aは、12週における対照マウス(左パネル、挿入図)と比較した、ビヒクル(IgG Ab)処置したSTZ/HF(STAM)マウス(左パネル)における脂肪症の証拠、ならびに抗NAMPT mAb処置したSTZ/HFマウスにおける脂肪症、肝内脂肪球、肝細胞傷害及びバルーニングの低減(右パネル)を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Bは、図10Aからの画像の拡大版(200倍)を提供する。
図12A】STZ/HF誘導性マウスNASH(STAM)の複数の指標に対するヒト化抗NAMPT mAbの効果を示す。抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」、n=8)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」、n=8)、またはテルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」、n=8)からの、肝臓組織中で評価される脂肪症スコアのグラフ表示である。
図12B】STZ/HF誘導性マウスNASH(STAM)の複数の指標に対するヒト化抗NAMPT mAbの効果を示す。抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」、n=8)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」、n=8)、またはテルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」、n=8)からの、肝臓組織で評価される肝臓トリグリセリドレベルのグラフ表示である。
図12C】STZ/HF誘導性マウスNASH(STAM)の複数の指標に対するヒト化抗NAMPT mAbの効果を示す。抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」、n=8)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」、n=8)、またはテルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」、n=8)からの、肝臓組織で評価される肝線維症のマーカーであるコラーゲンのシリウス染色のグラフ表示である。
図12D】STZ/HF誘導性マウスNASH(STAM)の複数の指標に対するヒト化抗NAMPT mAbの効果を示す。抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」)、テルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」)、またはSTZ/HFに曝露しなかった対照マウス(「Ctrl」)において評価したNAMPT血漿レベルのグラフ表示である。*p<0.01、#p<0.0001。
図13】新規のNASH治療標的としてのNAMPTを示す概略図である。左パネルは、NASHにおける炎症及び線維症の調節におけるNAMPTの役割を示している。右側のパネルは、抗NAMPT mAbであるALT-100を中和する保護効果を示している。
図14】片側尿管閉塞(UUO)のマウスモデルにおける腎線維症の重症度に対するヒト化抗NAMPTであるmAb ALT-100の効果を示す。Aは、対照組織と比較した、UUO後14日目のUUOマウスの腎組織におけるシリウスレッド染色/コラーゲン沈着を示す代表的な顕微鏡写真を提供する(挿入図)。Bは、抗NAMPT mAbであるALT-100で処置したUUOマウス由来の腎組織におけるシリウスレッド染色/コラーゲン沈着を示す代表的な顕微鏡写真を提供する。Cは、正常腎組織、UUOマウス由来の腎組織、及び抗NAMPT mAbであるALT-100で処置したUUOマウス由来の腎組織におけるシリウスレッド染色/コラーゲン沈着のグラフ表現である。*p<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義
本発明をより容易に理解できるようにするために、特定の用語を最初に定義する。更に、パラメータの値または値の範囲が列挙されるときはいつでも、列挙された値及び列挙された値の間の範囲も本発明の一部であることが意図されることに留意されたい。本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「及び」及び「the」は、文脈により明らかにそうではないと規定されない限り、複数の参照を含むことにも留意されたい。
【0038】
「一塩基多型」または「SNP」という用語は、本明細書で互換的に使用され、ゲノム(または他の共有配列)内の一塩基が種のメンバー間(または個体内の対染色体間)で異なる場合に生じるDNA配列変異を指す。SNPは、生物のゲノムのコード領域または非コード領域のいずれかで発生し得る。
【0039】
「NAMPT」または「eNAMPT」という用語は、本明細書で互換的に使用され、非分泌型(例えば、細胞内NAMPTまたはNAMPT核酸)に関連すると具体的に言及されない限り、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の分泌型を指す。分泌されたヒトNAMPT(ヒトeNAMPTとも称される)のアミノ酸配列は、配列番号1として以下に提供される(NCBI Gene参照番号NC_000007.14及びタンパク質参照番号NP_005737.1も参照されたい)。
MNPAAEAEFN ILLATDSYKV THYKQYPPNT SKVYSYFECR EKKTENSKLR KVKYEETVFY GLQYILNKYL KGKVVTKEKI QEAKDVYKEH FQDDVFNEKG WNYILEKYDG HLPIEIKAVP EGFVIPRGNV LFTVENTDPE CYWLTNWIET ILVQSWYPIT VATNSREQKK ILAKYLLETS GNLDGLEYKL HDFGYRGVSS QETAGIGASA HLVNFKGTDT VAGLALIKKY YGTKDPVPGY SVPAAEHSTI TAWGKDHEKD AFEHIVTQFS SVPVSVVSDS YDIYNACEKI WGEDLRHLIV SRSTQAPLII RPDSGNPLDT VLKVLEILGK KFPVTENSKG YKLLPPYLRV IQGDGVDINT LQEIVEGMKQ KMWSIENIAF GSGGGLLQKL TRDLLNCSFK CSYVVTNGLG INVFKDPVAD PNKRSKKGRL SLHRTPAGNF VTLEEGKGDL EEYGQDLLHT VFKNGKVTKS YSFDEIRKNA QLNIELEAAHH(配列番号1)
【0040】
NAMPTは、プレB細胞コロニー増強因子(PBEF)またはビスファチンとも称される。
【0041】
「ベースライン」という用語は、本明細書で使用される場合、参照または対照測定値、例えば、健康な対象(すなわち、炎症状態を有しない対象)または健康な対象の群からのNAMPT発現の対照レベルを指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「NAMPT阻害剤」または「NAMPTの阻害」は、NAMPT活性を低減または予防する薬剤を指す。いくつかの実施形態において、NAMPT阻害剤は、NAMPTに結合し、NAMPTの生物学的活性の阻害をもたらす。
【0043】
本明細書にて使用されるように、本明細書で互換的に使用される「NAMPT抗体」または「抗NAMPT抗体」または「抗eNAMPT抗体」という用語は、NAMPTの分泌形態(本明細書ではeNAMPTとも称される)に特異的に結合する抗体を指す。好ましい実施形態において、抗体は、ヒトNAMPT(hNAMPT)に特異的に結合する。好ましくは、NAMPT抗体は、NAMPTの生物活性を阻害する。改変されたNAMPT活性は、当技術分野で認識される技術を使用して直接測定されてもよく、または改変された活性が下流に及ぼす影響によって測定されてもよいことを理解が理解されよう。
【0044】
本明細書で使用される「レベル」または「量」という用語は、測定可能な量のバイオマーカー、例えば、NAMPT発現のレベルを指す。この量は、(a)単位体積または細胞当たりの分子、モル、または重量で測定した絶対量、または(b)例えば、濃度測定分析によって測定した相対量のいずれかであり得る。
【0045】
本明細書で使用される「試料」という用語は、対象から得られた材料(例えば、同様の細胞または組織の集合体)を指す。試料は、新鮮な、凍結された及び/または保存された臓器もしくは組織試料もしくは生検材料もしくは吸引物からの固体組織(例えば、胎盤組織)、血液もしくは任意の血液成分、または血液、血清、血漿、尿、唾液、汗もしくは滑液等の体液であり得る。いくつかの実施形態において、滑膜炎バイオマーカーは血清試料から得られる。いくつかの実施形態において、軟骨分解バイオマーカーは尿試料から得られる。
【0046】
「患者」、「個体」、または「対象」という用語は、本明細書において互換的に使用され、哺乳動物、特に、ヒト(例えば、妊娠中のヒト女性)を指す。患者は、疾患を有しないか、軽度、中等度または重度の疾患を有し得る。患者は、治療未経験であってもよく、任意の形態の治療に応答してもよく、または難治性であってもよい。患者は、治療を必要とする、または特定の症状または家族歴に基づいて診断を必要とする個体であり得る。いくつかの実施形態において、対象は、炎症状態と診断されている、または炎症状態の症状を有するヒト対象である。他の実施形態において、対象は、炎症状態と診断されていない、または炎症状態の症状を有しない健康なヒト対象である。
【0047】
「治療すること(treating)」または「治療」または「治療すること(to treat)」または「緩和すること(alleviating)」または「緩和すること(to alleviate)」等の用語は、状態または障害の進行を治癒する、遅延させる(slow down)、症状を軽減する、及び/または停止させるもしくは遅延させる(slow)治療手段を指す。
【0048】
「予防する」等の用語は、標的とする状態の発症を予防する予防的または防止的措置を指す。
【0049】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書において互換的に使用され、特定の生物学的結果を達成するのに有効な薬剤の量を指す。そのような結果には、当該技術分野において好適な任意の手段によって決定される、NAMPT発現もしくは活性の阻害、またはNAMPTの下流にあるシグナル伝達分子の発現もしくは活性が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0050】
疾病/状態
NAMPT発現に関連付けられる状態を発症するリスクを決定する方法が提供される。また、そのような状態を診断及び/または治療する方法も提供される。いくつかの実施形態において、NAMPT関連状態は、心臓虚血、心筋梗塞、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、または腎線維症等の炎症状態である。いくつかの実施形態において、この状態は、2021年2月11日に公開されたGarciaによるWO/2021/026487に記載される状態であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる(例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、放射線誘発性肺損傷(RILI)、肺高血圧、肺線維症、COVID-19、または前立腺癌)。
【0051】
カロリー過剰及び座りがちなライフスタイルは、肥満、メタボリックシンドローム及び非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の世界的な流行につながり、これは慢性肝疾患の主要な原因として浮上している(Ali and Cusi,“New diagnostic and treatment approaches in non-alcoholic fatty liver disease(NAFLD),”Ann Med,41:265-278(2009)、Younossi et al.“Global burden of NAFLD and NASH:trends,predictions,risk factors and prevention”Nat Rev Gastroenterol Hepatol,15:11-20(2018))。NAFLDは、単純な脂肪肝(脂肪症)からNASH、肝線維症/肝硬変までの範囲に進行するスペクトルを表し、肝細胞癌(HCC)のリスク増加させる(Adams et al.“The natural history of nonalcoholic fatty liver disease:a population-based cohort study,”Gastroenterology,129:113-121(2005)、Anstee et al.“From NASH to HCC:current concepts and future challenges,”Nat Rev Gastroenterol Hepatol,16:411-428(2019)、White et al.“Association between nonalcoholic fatty liver disease and risk for hepatocellular cancer,based on systematic review,”Clin Gastroenterol Hepatol,10:1342-1359 e1342(2012))。有病率が増加しているにもかかわらず、NAFLDの発症及びその後の進行に影響を及ぼす要因は十分に理解されていない。進行性NAFLDの複雑な病因における治療の進歩は、現在、NAFLDのNASHへの進行において先天性免疫駆動型炎症応答及び酸化/タンパク質毒性ストレスの役割を強調している(Febbraio et al.“Preclinical Models for Studying NASH-Driven HCC:How Useful Are They?”Cell Metab,29:18-26(2019))。本発明者らは、システム生物学及びゲノム戦略を利用して、TLR 4媒介性炎症経路の活性化を介して先天性免疫媒介性炎症及び線維症を強力に調節する新規の損傷関連分子パターンタンパク質(DAMP)としてNAMPTを同定した(Ye et al.“Pre-B-cell colony-enhancing factor as a potential novel biomarker in acute lung injury,”Am J Respir Crit Care Med,171:361-370(2005)、Camp et al.“Unique Toll-Like Receptor 4 Activation by NAMPT/PBEF Induces NFkappaB Signaling and Inflammatory Lung Injury,”Sci Rep,5:13135(2015)、Oita et al.“Novel Mechanism for Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Inhibition of TNF-alpha-mediated Apoptosis in Human Lung Endothelial Cells,”Am J Respir Cell Mol Biol,59:36-44(2018))。循環NAMPTは、多臓器炎症、損傷及び線維症(肺、肝臓、腎臓、心臓)ならびに特異的ながんの発症及び重症度への非常に重要な関与体である(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))。NAMPT中和ヒト化ALT-100mAbを用いた予備的前臨床試験は、循環NAMPTの中和が、TLR4炎症性カスケード活性ならびに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、人工呼吸器誘発性肺損傷(VILI)、外傷誘発性肺損傷、肺高血圧、放射線肺炎、肺線維症、腎線維症、心臓線維症、及び前立腺癌の重症度を低下させることを示す(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020)、Hong et al.,“Essential role of pre-B-cell colony enhancing factor in ventilator-induced lung injury,”Am J Respir Crit Care Med,178:605-617(2008)、Quijada et al.,“Endothelial eNAMPT Amplifies Preclinical Acute Lung Injury:Efficacy of an eNAMPT-Neutralising mAb,”Eur Respir J,2002536(2020)、Chen et al.,“Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Promotes Pulmonary Vascular Remodeling and Is a Therapeutic Target in Pulmonary Arterial Hypertension,”Circulation,135:1532-1546(2017)、Sun et al.,“Direct Extracellular NAMPT Involvement in Pulmonary Hypertension and Vascular Remodeling.Transcriptional Regulation by SOX and HIF-2alpha,”Am J Respir Cell Mol Biol,63:92-103(2020))。これを図1に示す。図1に記載されるように、NAMPTは、様々な有害なシグナル(例えば、感染(細菌、ウイルス等)、低酸素症、脂肪毒性、ROS等)に応答して分泌され、ARDS等の急性炎症性肺疾患におけるような「サイトカインストーム」の結果として、臓器に閉じ込められた炎症(例えば、胎盤、肺、肝臓、前立腺、腎臓、心臓)または多臓器の炎症及び損傷を生じさせる可能性がある。NAMPTは、TLR4に結合し、TLR4炎症カスケードを誘発することによってDAMPとして機能し、これはNAFLDからNASHへの移行に寄与する。したがって、ヒト化NAMPT中和mAbであるALT-100は、炎症性カスケードを抑制し、急性適応症(例えば、ARDS、外傷誘発性脳損傷及び/または肺損傷、子宮内感染及び/または早産(例えば、絨毛膜羊膜炎に関連付けられるもの)、心臓虚血等)、急性及び慢性(例えば、RILI)、ならびに慢性適応症(例えば、肺高血圧、肺線維症、NASH、肝線維症、腎線維症、前立腺癌等)等の様々な炎症適応症を改善、遅延及び/または阻害し得る。例えば、ヒト化NAMPT中和mAbであるALT-100は、NAFLDから関連する致死性を有する侵襲性NASH表現型への移行を遅延、または阻害し得る。
【0052】
心臓虚血(心筋虚血とも呼ばれる)は、心臓への血流の減少を特徴とする状態である。心臓虚血は、心筋の血液ポンプ能力を低下させ、心臓の動脈の部分的または完全な閉塞から生じると考えられている。
【0053】
心臓虚血の症状には、典型的には体の左側にある胸部圧迫または痛み(狭心症)、首及び/または顎の痛み、肩及び/または腕の痛み、頻脈、息切れ、特に身体活動に伴う息切れ、吐き気、嘔吐、発汗、及び疲労のうちの1つ以上が含まれる。理論に縛られることなく、心臓虚血は、冠動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)、血栓、または冠動脈痙攣によって引き起こされ得、そしてそれは、労作、感情的ストレス、低温、コカイン使用、重たい食事または大量の食事、及び/または性交によって引き起こされ得ると考えられる。心臓虚血の危険因子には、タバコ使用、糖尿病、高血圧、高血中コレステロールレベル、高血中トリグリセリドレベル、肥満、大胴囲、及び/または身体活動の欠如が含まれる。心臓虚血に関連付けられる有害転帰には、心臓発作、不規則な心拍(不整脈)、及び/または心不全が含まれる。心臓虚血については、Shimokawa et al.,“Myocardial:Current concepts and future perspectives,”J.Cardiology,52(2):67-78(2008)により詳細に考察されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
心臓発作としても知られる心筋梗塞は、心臓への血流が遮断されたときに起こる。理論に拘束されることなく、閉塞はほとんどの場合、冠動脈にプラークを形成する、脂肪、コレステロール、及び他の物質の蓄積であると考えられている。心筋梗塞の症状には、首、顎、または背中に広がり得る胸または腕の圧迫感、緊張感、疼痛、または圧迫感もしくは痛みの感覚;吐き気;消化不良;胸やけ;腹痛;息切れ;冷や汗;疲労;意識朦朧;及び突然のめまいのうちの1つ以上が含まれる。心筋梗塞の危険因子には、年齢(例えば、45歳以上の男性、55歳以上の女性)、タバコ使用、高血圧、高血中コレステロールまたはトリグリセリドレベル、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、心臓発作の家族歴、身体活動の欠如、ストレス、違法薬物使用、子癇前症の病歴、及び自己免疫状態が含まれる。心筋梗塞に関連付けられる有害転帰には、不整脈、心不全、及び心停止が含まれる。心筋梗塞については、Saleh et al,“Understanding myocardial infarction,”F1000 Research,7(F1000 Faculty Rev):1378(8 pages)(2018)により詳細に考察されている。
【0055】
外傷性脳損傷は、頭もしくは体への打撃もしくは衝撃、または脳組織を貫通する物体によって引き起こされる脳への損傷である。外傷性脳損傷は、打撲傷、組織の引き裂き、出血、及び脳への他の物理的損傷を引き起こす可能性がある。理論に拘束されることなく、外傷性脳損傷の原因は、転倒、車両関連の衝突、暴力、スポーツ傷害、爆発性爆風及び他の戦闘傷害が含まれると考えられている。外傷性脳損傷のリスクが最も高い被験者には、小児(特に新生児から4歳まで)、若年成人(特に15~24歳)、60歳以上の成人、及び男性が含まれる。外傷性脳損傷の症状には、数分から数時間の意識喪失、持続的な頭痛または悪化する頭痛、嘔吐または吐き気の繰り返し、痙攣または発作、目の片方または両方の瞳孔の拡張、鼻または耳から排出される透明な液体、眠りから目覚めることの不能、指及びつま先の脱力感またはしびれ、調整の喪失、深刻な混乱、興奮、戦闘性または他の異常な行動、不明瞭発語、昏睡及び他の意識障害、食事または授乳習慣の変化、異常または容易な怒りっぽさ、持続的な泣きと慰められない状態、注意を払う能力の変化、睡眠習慣の変化、悲しいまたは抑うつ気分、眠気、及び好きな玩具への興味の喪失、のうちの1つ以上が含まれる。外傷性脳損傷は、Ng et al.,“Traumatic Brain Injuries:Pathophysiology and Potential Therapeutic Targets,”Front.Cell.Neurosci.,13(Article528):1-23(2019)により詳細に考察されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
炎症は多くの場合、がんの発症及び進行と関連付けられる。理論に拘束されることなく、がん関連炎症は、細菌及びウイルス感染、自己免疫疾患、肥満、タバコ喫煙、アスベスト曝露、及び/または過剰なアルコール摂取等の腫瘍外因性因子、またはがん性変異(cancer-initiated mutations)等の腫瘍内因性因子によって引き起こされ得ると考えられる。がん関連炎症は、Singh et al.,“Inflammation and Cancer,”Annals of African Medicine,18(3):121-126(2019)、及びGreten et al.,“Inflammation and Cancer:Triggers,Mechanisms,and Consequences,”Immunity Review,51:27-41(2019)においてより詳細に考察されており、これらの双方は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0057】
絨毛性羊膜炎は、分娩前または分娩中または出産後に発生する状態であり、好中球浸潤及び/または母体胎児界面での炎症を特徴とし得る。それは急性、亜急性、または慢性であり得る。絨毛膜羊膜炎は、伝統的に、例えば、膜破裂の状態において、細菌感染と関連付けられ、膜の急性炎症及び/または胎盤の絨毛膜に関連付けることができる。絨毛性羊膜炎の症状には、発熱、発汗、膣分泌物、変色及び悪臭を放つ羊水、羊水中の低グルコースレベル、羊水中の高濃度の白血球及び/または細菌、子宮圧痛、母体白血球増加、化膿性子宮頸部廃液、及び/または胎児頻拍が含まれる。
【0058】
絨毛性羊膜炎は、妊娠中の対象(例えば、新生児を出産する対象)または新生児の対象のいずれか、または両方に様々な有害な結果をもたらす可能性がある。例えば、絨毛膜羊膜炎は、出生母親が絨毛膜羊膜炎を有した胎児または幼児における慢性肺疾患、脳損傷、脳性麻痺、未熟児網膜症、呼吸窮迫症候群、気管支肺異形成、超低出生体重(すなわち、1,500グラム未満)、新生児敗血症、髄膜炎、肺炎、脳発達障害、死産、及び/または死亡をもたらし得る。有害な母体転帰には、産後感染、敗血症、菌血症、子宮内膜炎、帝王切開の必要、分娩による大量の失血、肺及び/または骨盤の血栓及び/または死亡が含まれる。
【0059】
絨毛性羊膜炎は、Cappelletti et al.,“Immunobiology of Acute Chorioamnionitis,”Front.Immunol.,11(649):1-21(2020)、Tita et al.“Diagnosis and Management of Clinical Chorioamnionitis,”Clin.Perinatol.,37(2):339-54(2010)、及びCommittee on Obstetric Practice,“Intrapartum Management of Intraamniotic Infection,”The American College of Obstetricians and Gynecologists:ACOG Committee Opinion No.712:7 page(2017)にてより詳細に考察されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0060】
NASHは、肝臓における脂肪の蓄積によって引き起こされる肝臓の炎症及び損傷を特徴とする状態である。それは、過度のアルコール消費の不在下で、小葉炎症、肝細胞損傷、及び線維症の有無にかかわらず、Malloryヒアリンを伴う脂肪変化を特徴とする。NASHの症状としては、肝臓の肥大、皮膚の斑点の黒ずみ(例えば、手首、肘、及び/または膝の上)、疲労、かゆみ、右上腹部の痛み、打撲傷及び出血しやすい、皮膚表面のすぐ下にあるクモのような血管、腹部の腫れ、皮膚の下にある血管の肥大、男性の乳房の肥大、赤い手のひら、肝性脳症、及び/または黄疸(すなわち、黄色がかった皮膚及び目)が挙げられる。
【0061】
理論に拘束されないが、NASHは、過体重または肥満であること、インスリン抵抗性を有すること、血中の脂肪レベルが異常に高いこと(例えば、高レベルのトリグリセリド、高レベルの総コレステロール、高レベルのLDLコレステロール、低レベルのHDLコレステロール)、脂質異常を有すること、高トリグリセリド血症を有すること、メタボリックシンドロームを有すること、またはメタボリックシンドロームのうちの1つ以上の形質を有すること、2型糖尿病を有すること、高血圧を有すること、身体が脂肪を不適切に使用または貯蔵する障害を有すること、急速な体重減少、特定の感染症(C型肝炎等)、特定の薬(アミオダロン、ジルチアゼム、グルコルチコルコイド、高活性抗レトロウイルス治療剤、メトレキセート、合成エストロゲン、タモキシフェン、またはバルプロ酸)及び毒素への曝露のうちの1つ以上によって引き起こされると考えられる。上記のいずれも、NASHのリスク要因とみなすことができる。
【0062】
NASHは、肝線維症、肝硬変、肝細胞癌、末期肝疾患、及び肝移植の必要性等、様々な有害な結果をもたらす可能性がある。NASHは、Sheka et al.,“Nonalcoholic Steatohepatitis:A Review,”JAMA Review,323(12):1175-83(2020)においてより詳細に考察されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0063】
NAFLDの進行及び管理における治療的進歩は、NASHの発症、肝繊維化、及び肝細胞癌(HCC)への進行において炎症性経路活性化の役割を強調している(Schuster et al.,“Triggering and resolution of inflammation in NASH,”Nat Rev Gastroenterol Hepatol,15:349-364(2018))。本発明者らは、システム生物学及びゲノム戦略を利用して、TLR4のライゲーションを介して先天性免疫媒介性炎症及び線維症を強力に調節する新規の損傷関連分子パターンタンパク質(DAMP)(Camp et al.,“Unique Toll-Like Receptor 4 Activation by NAMPT/PBEF Induces NFkappaB Signaling and Inflammatory Lung Injury,”Scientific Reports,5:13135(2015)、Oita et al.,“Novel Mechanism for Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Inhibition of TNF-alpha-mediated Apoptosis in Human Lung Endothelial Cells,”Am J Respir Cell Mol Biol,59:36-44(2018))として、細胞外ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(eNAMPT)(Ye et al.,“Pre-B-cell colony-enhancing factor as a potential novel biomarker in acute lung injury,”Am J Respir Crit Care Med,171:361-370(2005))を同定した。NAMPTは、多臓器炎症、損傷及び線維症(肺、肝臓、腎臓、心臓)ならびにがん(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT) in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))への非常に重要な役割を果たす(図1)。同じNAMPTタンパク質は、iNAMPTとして細胞内の場合、NAD代謝を酵素的に調節し、臨床がん治験において小分子阻害剤(SMI)で標的化されているが、利益の欠如及び毒性のために失敗した(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))。本開示は、NAMPT(例えば、eNAMPT)を、NAFLDのNASHへの進行の重要な調節因子として、及びNAFLDの後のステージへの進行を低減するための魅力的な治療標的として示す。「実施例」セクションに記載されているように、肝臓NAMPT発現の増加は、マウスNAFLD/NASHモデル及びNAFLDを有するヒトに見られる。更に、NAMPT中和mAb(ALT-100mAb)は、NASHの重症度の複数の指標を低減し、ALT-100mAbが、NASHの進行/致死性を防止するための緊急の満たされていない必要性に対処するための実行可能で新規なアプローチであることを示唆した。
【0064】
尿細管間質性線維症及び糸球体硬化症を特徴とする腎線維症は、慢性腎疾患の最終的な症状発現である。腎線維症は、細胞外マトリックス成分の過度の蓄積及び沈着を特徴とする。この病理学的結果は、通常、上皮から間葉への移行、線維芽細胞活性化、単球/マクロファージ浸潤、細胞アポトーシス等の基礎となる複雑な細胞活動と、形質変換成長因子ベータ及びアンジオテンシンII等のシグナル伝達分子の活性化の両方に由来する。しかしながら、腎線維症の病因は極めて複雑であり、この状態に関する知識は依然として限られているため、更なる研究が必要である。腎線維症については、Nogueira et al.,“Pathophysiological Mechanisms of Renal Fibrosis:A Review of Animal Models and Therapeutic Strategies,”In Vivo,31(1):1-22(2017)、Liu,“Cellular and Molecular Mechanisms of Renal Fibrosis,”Nat Rev Nephrol,7(12):684-696(2011)、Arai and Yanagita,“Janus-Faced:Molecular Mechanisms and Versatile Nature of Renal Fibrosis,”Kidney360,1(7):697-704(2020)、Meng et al.,“Inflammatory processes in renal fibrosis,”Nat Rev Nephrol,10:493-503(2014)、及びBoor et al.,“Treatment targets in renal fibrosis,”Nephrol Dial Transplant,22:3391-3407(2007)においてより詳細に考察されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0065】
バイオマーカー、一塩基多型、及びそれらの使用
心虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症等の炎症状態を有する、または発症するリスクがある対象を特定するための方法が提供される。いくつかの実施形態は、炎症状態を診断する方法を含む。いくつかの実施形態は、炎症状態の進行を決定することを含む。いくつかの実施形態は、炎症状態治療の有効性を決定することを含む。
【0066】
いくつかの実施形態は、試料中のNAMPTの存在または不存在を検出することを含む。いくつかの実施形態は、試料中のNAMPTのレベルを検出することを含む。いくつかの実施形態において、対象は、試料中のNAMPTの存在またはレベル(例えば、レベルの増加)に基づいて、炎症状態を有する、または炎症状態を発症するリスクがあると判定される。いくつかの実施形態において、対象は、試料中のNAMPTの不存在、または低レベルもしくはNAMPTのレベルの低下に基づいて、もしくは少なくとも部分的に基づいて、炎症状態を有しない、または発症するリスクがないと決定される。
【0067】
いくつかの実施形態は、サイトカインケモカイン(例えば、IL-6、IL-8、IL-1b、及び/またはIL-RA)、マクロファージ遊走阻害因子等の二重機能酵素)、血管損傷マーカー(例えば、VEGRA、S1PR3、及び/またはアンジオポエチン2)、及び/または進行グリコシル化最終生成物経路マーカー(例えば、HMGB1及び/または可溶性RAGE)等の1つ以上の追加のバイオマーカーの存在、不存在、またはレベルを検出することを含む。いくつかの実施形態は、前述のマーカーのうちの1つ以上のレベルに基づいて、または少なくとも部分的に基づいて(例えば、NAMPTの存在、不存在、またはレベルと組み合わせて)、対象が炎症状態を有するかまたは発症することになるリスクの増加または減少を決定することを含む。
【0068】
一塩基多型(SNP)は、遺伝子プロモーター、エクソン、イントロン、及び5‘及び3’非翻訳領域(UTR)に位置し、異なる機序によって遺伝子発現に影響を及ぼす。ヒトNAMPT遺伝子のプロモーター領域に位置するSNPが提供される。
【0069】
いくつかの実施形態において、以下のSNPのうちの1つ以上は、炎症状態に関連付けられる:rs7789066(位置:chr7:106287306(GRCh38.p12))、rs116647506(位置:chr7:106287180(GRCh38.p12))、rs61330082(位置:chr7:106286419(GRCh38.p12))、rs114382471(位置:chr7:106286288(GRCh38.p12))、rs9770242(位置:chr7:106285885(GRCh38.p12))、rs59744560(位置:chr7:106285832(GRCh38.p12))、rs190893183(位置:chr7:106285663(GRCh38.p12))、及びrs1319501(位置:chr7:106285307(GRCh38.p12)。
【0070】
いくつかの実施形態は、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される2、3、4、5、6、7、または8個のSNPを検出することを含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法で使用されるSNPは、rs7789066、rs61330082、rs9770242、及び/またはrs59744560である。代替の実施形態において、本明細書に記載の方法で使用されるSNPは、rs116647506、rs114382471、rs190893183、及び/またはrs1319501である。
【0072】
理論に拘束されることなく、本明細書に記載のSNPは、炎症性シグナル伝達経路(例えば、NFkB依存性炎症性カスケード)の調節不全を含む細胞プロセスの調節不全に寄与し、炎症状態の進行をもたらす可能性があると考えられる。ヒトNAMPTのプロモーター領域内で生じる,本明細書に開示されるSNPは、NAMPTプロモーター活性の増加を引き起こすことが企図される。活性の増加は、NAMPTの発現の増加をもたらし、それに続いてNAMPTの血漿レベルの増加をもたらす。NAMPTレベルの増加の可能性は、Toll様受容体4(TLR4)を介した、進化的に保存されたNFkB依存性炎症カスケードを活性化する可能性がある。サイトカインの産生の増強は、次いで炎症状態表現型を増強し、したがって、対象が状態を発症するリスクを増加させる。NAMPTはまた、炎症状態によって影響を受ける細胞を取り巻く微小環境に影響を及ぼし、したがって疾患の発症及び/または進行に影響を及ぼす。
【0073】
いくつかの実施形態は、炎症状態を有する、または炎症状態を発症するリスクがある対象から試料を得ることと、その状態に関連付けられる1つ以上のSNPの存在または不存在を検出することとを含む。いくつかの実施形態において、炎症状態を有する、または炎症状態を発症するリスクがある対象は、炎症状態のうちの1つ以上の症状を呈する。心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、及び腎線維症等のうちの1つ以上の炎症状態に特異的であり得る症状を含む、炎症状態のかかる症状は、当該技術分野で周知である。いくつかの実施形態において、対象は無症状であるが、炎症状態を発症するための1つ以上のリスク因子を有する。心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、及び腎線維症等のうちの1つ以上の炎症状態に特異的であり得るリスク因子を含む、炎症状態のかかるリスク因子は、当該技術分野で周知である。いくつかの実施形態において、試料中の少なくとも1つのSNPの存在は、対象が炎症状態を有することまたは炎症状態を発症するリスクがあることを示す。いくつかの実施形態において、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される2、3、4、5、6、7、または8個のSNPの存在は、対象が炎症状態を有することまたは炎症状態を発症するリスクがあることを示す。いくつかの実施形態は、1つ以上のSNPの存在に基づいて、炎症状態を有する対象を診断することを含む。いくつかの実施形態において、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、または8個のSNPの存在は、対象が、本明細書の他の場所に記載されるNAMPT阻害剤での治療に応答する可能性が高い、またはNAMPT阻害剤での治療から利益を得る可能性が高いことを示す。当業者であれば、当該技術分野で既知である日常的な臨床情報の収集及び評価に基づいて、どの1つ以上の炎症状態を対象が有するかまたは発症するリスクがあるかを決定することができるであろう。1つ以上のSNPの存在を使用して、診断を強化または確証し得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、試料からのNAMPTのプロモーター要素内の少なくとも1つのSNPの検出は、SNP遺伝子型決定によって達成され得る。概して、SNP遺伝子型決定は、例えば、被検対象から生体試料(例えば、生検組織、細胞、流体、分泌物等の試料)を採取するステップ、核酸(例えば、ゲノムDNA、mRNAまたはその両方)を試料の細胞から単離するステップ、標的核酸領域のハイブリタイゼーション及び増幅が起こるような条件下で、標的SNPを含有する単離された核酸の領域に特異的にハイブリタイズする1つ以上のプライマーと核酸を接触させるステップ、及び目的のSNP位置に存在するヌクレオチドを決定するステップ、または、いくつかのアッセイにおいて、増幅生成物の存在または不存在を検出するステップ(アッセイは、特定のSNP対立遺伝子が存在するか存在しない場合にのみ、ハイブリタイゼーション及び/または増幅が起こるように設計することができる)を含む。SNP遺伝子型決定は、ホモ接合型またはヘテロ接合型のいずれかであるSNPを同定することができる。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つのSNPは、ホモ接合型である。他の実施形態において、少なくとも1つのSNPは、ヘテロ接合型である。
【0075】
SNPを検出する他の方法は当技術分野で既知であり、本方法に適用され得る。例えば、市販されており、1つ以上のSNPのヌクレオチド出現を識別するために使用することができるアッセイシステムは、SNP-IT(商標)アッセイシステム(Orchid BioSciences,Inc.、Princeton N.J.)である。概して、SNP-IT(商標)法は、3段階のプライマー伸長反応である。第1のステップでは、標的核酸分子は、捕捉プライマーへのハイブリタイゼーションによって試料から単離され、これは、第1のレベルの特異性を提供する。第2のステップでは、捕捉プライマーは、標的SNP部位から終端ヌクレオチドトリホスフェートにおいて伸長され、これは、第2のレベルの特異性を提供する。第3のステップにおいて、伸長ヌクレオチドトリホスフェートは、例えば、直接蛍光、間接蛍光、間接比色アッセイ、質量分析、または蛍光偏光によって含む、様々な既知の方式を用いて検出され得る。反応は、SNPstream(商標)機器(Orchid BioSciences,Inc.)を使用して、自動化された形式によって384ウェル形式で便利に処置することができる。
【0076】
当業者に既知の方法によって、対象から採取された試料からの核酸試料を遺伝子型決定して、目的のSNPの存在及び同一性を判定することができる。隣接する配列を使用してオリゴヌクレオチドプローブ等のSNP検出試薬を設計することができ、これは、任意選択で、キット形式で実装され得る。例示的なSNP遺伝子型決定方法は、Chen et al.,“Single nucleotide polymorphism genotyping:biochemistry,protocol,cost and throughput”,Pharmacogenomics J.2003;3(2):77-96、Kwok et al.,“Detection of single nucleotide polymorphisms”,Curr Issues Mol.Biol.2003 April;5(2):43-60;Shi,“Technologies for individual genotyping:detection of genetic polymorphisms in drug targets and disease genes”,Am J Pharmacogenomics.2002;2(3):197-205、及びKwok,“Methods for genotyping single nucleotide polymorphisms”,Annu Rev Genomics Hum Genet 2001;2:235-58に記載されている。高スループットのSNP遺伝子型決定のための例示的な技術は、Marnellos,“High-throughput SNP analysis for genetic association studies”,Curr Opin Drug Discov Devel.2003 May;6(3):317-21に記載されている。一般的なSNP遺伝子型決定法としては、TaqManアッセイ、分子ビーコンアッセイ、核酸アレイ、対立遺伝子特異的プライマー伸長、対立遺伝子特異的PCR、配列プライマー伸長、均一プライマー伸長アッセイ、質量分析による検出によるプライマー伸長、ピロシーケンシング、遺伝子アレイ上で選別された多重プライマー伸長、ローリングサークル増幅によるライゲーション、均一ライゲーション、OLA(米国特許第4,988,167号)、遺伝子アレイ上で選別された多重ライゲーション反応、制限断片長多型、単一塩基伸長タグアッセイ、及びインベーダーアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。そのような方法は、例えば、発光または化学発光検出、蛍光検出、時間分解蛍光検出、蛍光共鳴エネルギー伝達、蛍光偏光、質量分析、及び電気検出等の検出メカニズムと組み合わせて使用され得る。多型を検出するための様々な方法には、限定されないが、切断剤からの保護を使用して、RNA/RNAまたはRNA/DNA二本鎖中のミスマッチ塩基を検出する方法(Myers et al,Science 230:1242(1985)、Cotton et al,PNAS 85:4397(1988)、及びSaleeba et al.,Meth.Enzymol.217:286-295(1992))、変異体及び野生型核酸分子の電気泳動移動度の比較(Orita et al.、PNAS 86:2766(1989)、Cotton et al.,Mutat.Res.285:125-144(1993)、及びHayashi et al.,Genet.Anal.Tech.Appl.9:73-79(1992)を参照されたい)、及び変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)を使用した変性剤の勾配を含有するポリアクリルアミドゲル中の多形または野生型断片の移動をアッセイすること(Myers et al.,Nature 313:495(1985))が含まれる。特定の位置における配列変異は、RNase及びSI保護または化学的切断法等のヌクレアーゼ保護アッセイによって評価することもできる。
【0077】
いくつかの実施形態において、NAMPTプロモーター配列中のSNPを検出することは、対象からの試料を、SNPを含むヌクレオチド配列またはそれに相補的なヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブと接触させることと、オリゴヌクレオチドプローブの選択的なハイブリタイゼーションを検出することと、を含む。特定の実施形態において、SNPを含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブは、SNPを取り囲む各側に100~500(例えば、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、または500)塩基対を含む。特定の実施形態において、SNPを含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズするオリゴヌクレオチドプローブは、SNPを取り囲む各側に200塩基対を含むことができる。特定の実施形態において、配列番号18に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs7789066を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号19に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs61330082を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号20に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs9770242を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、配列番号21に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs59744560を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズし、及び/または配列番号22に示されるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドプローブはrs1319501を含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズする。SNPを含むヌクレオチド配列に選択的にハイブリタイズすることができる例示的なオリゴヌクレオチドプローブが、以下の表1に提供される。
【表1-1】
【表1-2】
【0078】
いくつかの実施形態において、SNP遺伝子型決定は、5’ヌクレアーゼアッセイ(米国特許第5,210,015号及び同第5,538,848号)としても知られるTaqManアッセイを使用して実施される。TaqManアッセイは、PCR中の特定の増幅産物の蓄積を検出する。TaqManアッセイは、蛍光レポーター色素及び消光剤色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを利用する。レポーター色素は、適切な波長の照射によって励起され、蛍光共鳴エネルギー伝達(FRET)と呼ばれるプロセスを介して、同じプローブ内の消光剤色素にエネルギーを伝達する。プローブに取り付けた時、励起されたレポーター色素は信号を発しない。無傷のプローブ内で消光剤色素がレポーター色素に近接することで、レポーターの蛍光の低減が維持される。レポーター色素及び消光剤色素は、それぞれ5’端及び3’端にあってもよく、またはその逆であってもよい。代替的に、レポーター色素は、消光剤色素が内部ヌクレオチドに結合されているにもかかわらず、5’もしくは3’末端にあってもよく、またはその逆であってもよい。更に別の実施形態において、レポーターと消光剤との両方が、互いに距離を置いて内部ヌクレオチドに結合され、その結果、レポーターの蛍光が低減されるようにしてもよい。PCR中、DNAポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性がプローブを切断し、それによってレポーター色素と消光剤色素とを分離し、レポーターの蛍光の増加をもたらす。PCR生成物の蓄積は、レポーター色素の蛍光の増加を監視することによって直接検出される。DNAポリメラーゼは、プローブがPCR中に増幅される標的SNP含有鋳型にハイブリタイズする場合にのみ、レポーター色素と消光剤色素との間のプローブを切断し、プローブは、特定のSNP対立遺伝子が存在する場合にのみ、標的SNP部位にハイブリタイズするように設計される。方法のいくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、蛍光部分及び蛍光消光剤を含む、2標識オリゴヌクレオチドプローブを含む。
【0079】
好ましいTaqManプライマー及びプローブ配列は、本明細書に提供されるSNP及び関連する核酸配列情報を使用して容易に決定することができる。Primer Express(Applied Biosystems、Foster City,Calif.)等の多数のコンピュータプログラムを使用して、最適なプライマー/プローブセットを迅速に取得することができる。本発明のSNPを検出するためのそのようなプライマー及びプローブが、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、NASH及び腎線維症を含む様々な炎症状態の予後アッセイに有用であり、容易にキット形式に組み込むことができることは、当業者には明らかであろう。本発明はまた、分子ビーコンプローブ(米国特許第5,118,801号及び同第5,312,728号)ならびに他の変形形態(米国特許第5,866,336号及び同第6,117,635号)の使用等の、当該技術分野で周知のTaqmanアッセイの改変も含む。
【0080】
SNPはまた、リボプローブを使用するRNase保護方法(Winter et al,Proc.Natl.Acad Sci.USA 82:7575,1985、Meyers et al,Science 230:1242,1985)、及びE.coli mutSタンパク質等のヌクレオチドミスマッチを認識するタンパク質(Modrich,P.Ann.Rev.Genet.25:229-253,1991)を含むが、それらに限定されないミスマッチ検出技法を使用しても検出され得る。代替的に、SNPは、一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)分析(Orita et al.,Genomics 5:874-879,1989、Humphries et al.,in Molecular Diagnosis of Genetic Diseases,R.Elles,ed.,pp.321-340,1996)、または変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)(Wartell et al.,Nuci.Acids Res.18:2699-2706、1990、Sheffield et al.、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:232-236,1989)によって同定され得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSNPは、質量分析に基づく方法を使用して検出され得る。質量分析は、DNAの4つのヌクレオチドの各々に固有の質量を利用する。SNPは、質量分析によって、SNPを欠く対照対象からの試料と比較したSNPを有する核酸の質量の差を測定することによって明確に検出することができる。MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization-Time of Flight)質量分析技術は、SNP等の分子量の非常に正確な測定に好ましい。SNP分析に対する多数の手法は、質量分析に基づいて開発された。SNP遺伝子型決定の好ましい質量分析ベースの方法は、プライマー伸長アッセイを含み、これは、従来のゲルベースのフォーマット及びマイクロアレイ等の他のアプローチと組み合わせて利用することもできる。
【0082】
SNP遺伝子型決定は、SNP-疾患関連分析、疾患素因スクリーニング、疾患診断、疾患予後、疾患進行モニタリング、個体の遺伝子型に基づいた治療戦略の決定、疾患または薬物に応答する可能性に関連付けられるSNP遺伝子型に基づいた有効な治療薬(例えば、抗NAMPT抗体)の開発、ならびに治療レジメンの臨床試験のための患者集団の層別化を含むがこれらに限定されない多数の用途に有用である。
【0083】
治療方法
また、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛膜羊膜炎、NASH、または腎線維症等の炎症状態を有する、または発症するリスクがある対象を治療する方法も提供される。いくつかの実施形態は、炎症状態を有する、または炎症状態を発症するリスクがある対象を特定することと、状態の発症または進行を防止または低減するように対象を治療することと、を含む。いくつかの実施形態は、状態を有するか、または状態を発症するリスクがある対象を治療することによって、炎症状態の有害な結果を予防することを含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、対象は、対象にNAMPT阻害剤を投与することによって治療される(例えば、NAMPTのレベルを低下させる、及び/またはNAMPT活性を低下させるために)。いくつかの実施形態において、NAMPT阻害剤は、抗NAMPT抗体である。いくつかの実施形態において、抗NAMPT抗体は、2021年3月11日に発行されたGarcia et al.に対する米国出願公開第2021/0070883号に記述され抗体であり、本出願公開は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例示的な抗NAMPT抗体は、以下の表2に記載のように、Ab1、Ab2、及びAb3、またはその抗原結合部分を含む。
【表2-1】
【表2-2】
【0085】
いくつかの実施形態は、心臓虚血を有するか、または心臓虚血のリスクがある対象に、アスピリン、硝酸塩、β遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、コレステロール低下薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、及びラノラジンのうちの1つ以上を投与することを含む。いくつかの実施形態において、上記治療剤のうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0086】
いくつかの実施形態は、心筋梗塞を有する、または心筋梗塞のリスクがある対象に、アスピリン、血栓溶解剤、血栓溶解剤、抗血小板剤、血液希釈剤、鎮痛剤、ニトログリセリン、ベータ遮断薬、ACR阻害剤、及びスタチンのうちの1つ以上を投与することを含む。いくつかの実施形態は、上記治療剤のうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0087】
いくつかの実施形態は、外傷性脳損傷を有する、またはそのリスクがある対象に、手術(例えば、血腫を除去する、頭蓋骨骨折を修復する、脳出血を停止する、または頭蓋骨内の圧力を低減するために頭蓋骨内の窓を開く)を行うこと及び/または酸素、血液、利尿剤、抗発作薬、及び昏睡誘発薬のうちの1つ以上を投与することを含む。いくつかの実施形態は、上記治療剤のうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0088】
いくつかの実施形態は、がんを有する、またはがんのリスクがある対象に、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗有糸分裂剤、細胞傷害性抗生物質、ポリアミン阻害剤、鉄調節薬、化学療法剤、キナーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、セリン/スレオニン-タンパク質キナーゼ阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、放射線療法、及びキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)のうちの1つ以上を投与することを含む。例示的な治療法は、Falzone et al.,“Evolution of Cancer Pharmacological Treatments at the Turn of the Third Millennium,”Front.Pharmacol.,9(Article1300):1-26(2018)に記述されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態は、上記治療剤のうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0089】
いくつかの実施形態は、絨毛性羊膜炎を有する、または絨毛性羊膜炎を発症するリスクがある対象に1つ以上の抗生物質を投与することを含む。例示的な抗生物質としては、アンピシリン、ペニシリン、ゲンタマイシン、クリンダマイシン、セファゾリン、バンコマイシン、及びメトロニダゾールが挙げられる。いくつかの実施形態において、抗生物質(複数可)は静脈内投与される。いくつかの実施形態において、抗生物質は経口投与される。いくつかの実施形態は、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて1つ以上の抗生物質を投与することを含む。
【0090】
いくつかの実施形態は、NASHを有する、またはNASHを発症するリスクがある対象に、酸化防止剤(例えば、ビタミンE)、PPAR-γアゴニスト(例えば、ピオグリタゾン等のチアゾリジンジオン)、及びグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)アゴニストのうちの1つ以上を投与することを含む。いくつかの実施形態は、酸化防止剤、PPAR-γアゴニスト、及びGLP-1アゴニストのうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0091】
いくつかの実施形態は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)、アンジオテンシンII受容体1型遮断薬(ARB)、カリクレイン遺伝子治療剤(例えば、ヒト組織カリクレイン遺伝子のアデノウイルス送達)、ヒト組換えリラクシン、IL-1受容体アンタゴニスト、BMP-7、抗TNF抗体、CCR1アンタゴニスト、抗PDGF-D抗体、及びVEGF121のうちの1つ以上を、腎線維症を有する、または腎線維症を発症するリスクがある対象に投与することを含む。そのような治療薬は、静脈内に、経口的に、またはアデノウイルスベクターを介して投与され得る。いくつかの実施形態は、ACEI、ARB、カリクレイン遺伝子治療剤、ヒト組換えリラクシン、IL-1受容体アンタゴニスト、BMP-7、抗TNF抗体、CCR1アンタゴニスト、抗PDGF-D抗体、及びVEGF121のうちの1つ以上を、1つ以上のNAMPT阻害剤(例えば、抗体)と組み合わせて投与することを含む。
【0092】
文脈から明らかに実行可能でないまたは実用的でない限り、本明細書に開示される態様または実施形態のいずれも、互いに組み合わせることができる。例えば、一実施形態の任意の特徴は、別の実施形態の特徴に追加されてもよく、または別の実施形態の対応する特徴を置き換えてもよい。以下の実施例は、本開示の組成物及び方法を更に記載及び例証する。実施例は、決して開示を限定することを意図するものではない。他の態様は、当業者には明白であろう。例えば、本明細書の各例では、「含む」、「本質的にからなる」、及び「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかで置き換えられてもよく、更に、用語のいずれかも、本明細書に開示される特徴に関連して使用されてもよい。
【実施例
【0093】
実施例1:炎症状態に関連付けられるSNPの同定
NAMPTプロモーターSNPは、心臓虚血、外傷性脳損傷、がん、絨毛性羊膜炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、または腎線維症等の炎症状態を有する、またはそのリスクが高い患者を特定するために使用され得る指標として同定されている。
【0094】
NAMPT SNPは、炎症状態のリスクを評価するためにレビューされ、改良され、いくつかはアフリカ系の個体では大きな比率を占めた。SNPは、rs7789066(位置:chr7:106287306(GRCh38.p12))、rs116647506(位置:chr7:106287180(GRCh38.p12))、rs61330082(位置:chr7:106286419(GRCh38.p12))、rs114382471(位置:chr7:106286288(GRCh38.p12))、rs9770242(位置:chr7:106285885(GRCh38.p12))、rs59744560(位置:chr7:106285832(GRCh38.p12))、rs190893183(位置:chr7:106285663(GRCh38.p12))、及びrs1319501(位置:chr7:106285307(GRCh38.p12))である。
【0095】
これらのNAMPT SNPは、NAMPTプロモーターSNP-948T、-1001G、及び-2422Gに有意に影響を受けるが、一部の状況では保護性SNPであることが知られている-1535Gに影響を受ない低酸素誘導転写因子HIF2αによる重要な関与を有する機械的ストレス及び低酸素に応答して、炎症状態の感受性に寄与し及びNAMPTプロモーター活性を変化させる。
【0096】
実施例2:心臓虚血を有する、または心臓虚血を発症するリスクがある対象を特定するためのNAMPT SNP及び/またはNAMPT発現
本実施例は、心臓虚血を有する、または心臓虚血を発症するリスクがある対象の同定に、NAMPT SNP及び/またはNAMPT発現レベルをどのように使用できるかを記述する。これらの方法は、疾患の1つ以上の症状を示す対象、または疾患を発症するための1つ以上のリスク因子を有する無症状対象における心臓虚血の存在または心臓虚血を発症するリスクを診断するために有用であり得る。そのような対象から得られた生物学的試料を、NAMPT SNPの存在について評価し、及び/またはNAMPT発現レベルについて評価することができる。
【0097】
例えば、そのような対象から得られた生体試料は、本明細書に記載の少なくとも1つのNAMPT SNPの存在(例えば、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、または8個のSNPの存在)について評価することができる。生体試料からのNAMPTのプロモーター要素内の少なくとも1つのSNPの検出は、SNP遺伝子型決定等本明細書で上述された方法によって達成され得る。SNP遺伝子型決定は、ホモ接合型またはヘテロ接合型のいずれかであるSNPを同定することができる。対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在は、対象が心臓虚血を有することまたは心臓虚血を発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在はまた、対象を、中和抗NAMPT抗体(Ab)等のNAMPT阻害剤を使用した心臓虚血の治療により応答性が高いものとして同定し得る。いくつかの場合において、対象からの生体試料中に前述のSNPが存在しないことは、対象が心臓虚血を有しない、または心臓虚血を発症するリスクが低いことを示し得る。
【0098】
加えて、または代替的に、かかる対象から得られた生体試料を、NAMPTタンパク質発現レベルについて評価することができる。対象(例えば、被験者)からの生体試料中のNAMPTの発現レベルは、免疫組織化学(IHC)、ウエスタンブロット分析、ELISA、免疫沈降、オートラジオグラフィー、抗体アレイ、及びリアルタイム定量的逆転写PCR(リアルタイムqRT-PCRまたはRT-qPCR)を含むがこれらに限定されない様々な方法によって評価され得る。被験者由来の生体試料で評価されるようなNAMPTの発現レベルは、健康な対照(例えば、心臓病を有しない対象及び/または炎症性疾患を有しない対象)におけるNAMPT発現レベル等の標準対照と比較することができる。標準対照と比較して、被験者におけるNAMPT発現レベルの増加は、対象が心臓虚血を有することまたは心臓虚血を発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中のNAMPT発現レベルの増加はまた、対象を、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤を使用した心臓虚血の治療により応答性が高いものとして同定し得る。いくつかの場合において、標準対照と比較して被験者のNAMPT発現レベルが同様または低いことは、被験者が心臓虚血を有しない、または心臓虚血を発症するリスクが低いことを示し得る。
【0099】
実施例3:心臓虚血の治療及び/または予防のための抗NAMPT Ab
本実施例は、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤が心臓虚血を有する、または心臓虚血を発症するリスクがある対象を治療するために使用できるかを記述する。そのような対象は、前述の実施例に記載の方法によって同定することができる。
【0100】
心臓虚血を有する対象、または心臓虚血を発症するリスクがある対象は、例えば、本明細書に記載のヒト化抗NAMPTモノクローナルAb(mAb)等の治療有効量の抗NAMPT Abを対象に投与することによって治療することができる。対象は、ヒト化抗NAMPT mAbを単独で用いて、またはアスピリン、硝酸塩、ベータ遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、コレステロール低下薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、及びラノラジンを含むがこれらに限定されない1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて治療することができる。単独でのまたは1つ以上の追加の治療剤と組み合わせた、抗NAMPT Abによる対象の治療は、心臓虚血の発症を予防または低減することができ、心臓虚血の進行を予防または低減することができ、及び/または心臓虚血に関連付けられる1つ以上の症状を軽減することができる。ヒト化抗NAMPT mAbを使用した心臓虚血の治療は、前述の実施例に記載されるように、より高いNAMPT発現及び/または少なくとも1つのNAMPT SNPの存在を有する対象において、より効果的であり得る。
【0101】
実施例4:外傷性脳損傷を有する、または発症するリスクを有する対象を同定するためのNAMPT SNP及び/またはNAMPT発現
本実施例は、外傷性脳損傷を有する、または外傷性脳損傷を発症するリスクがある対象の同定に、NAMPT SNP及び/またはNAMPT発現レベルをどのように使用できるかを記述する。これらの方法は、疾患の1つ以上の症状を示す対象、または疾患を発症するための1つ以上のリスク因子を有する無症状対象における外傷性脳損傷の存在または外傷性脳損傷を発症するリスクを診断するために有用であり得る。そのような対象から得られた生体試料を、NAMPT SNPの存在について評価し、及び/またはNAMPT発現レベルについて評価することができる。
【0102】
例えば、そのような対象から得られた生体試料は、本明細書に記載の少なくとも1つのNAMPT SNPの存在(例えば、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、または8個のSNPの存在)について評価することができる。生体試料からのNAMPTのプロモーター要素内の少なくとも1つのSNPの検出は、SNP遺伝子型決定等、本明細書で上述される方法によって達成され得る。SNP遺伝子型決定は、ホモ接合型またはヘテロ接合型のいずれかであるSNPを同定することができる。対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在は、対象が外傷性脳損傷を有することまたは発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在はまた、対象を、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤を使用した外傷性脳損傷の治療により応答性が高いものとして同定し得る。いくつかの場合において、対象からの生体試料中に前述のSNPが存在しないことは、対象が外傷性脳損傷を有しない、または外傷性脳損傷を発症するリスクが低いことを示し得る。
【0103】
加えて、または代替的に、かかる対象から得られた生体試料を、NAMPT発現レベルについて評価することができる。対象(例えば、被験者)からの生体試料中のNAMPTの発現レベルは、IHC、ウエスタンブロット分析、ELISA、免疫沈降、オートラジオグラフィー、抗体アレイ、及びRT-qPCRを含むがこれらに限定されない様々な方法によって評価され得る。被験者由来の生体試料で評価されるようなNAMPTの発現レベルは、健康な対照(例えば、外傷、脳疾患、及び/または炎症性疾患を有しない対象)におけるNAMPT発現レベル等の標準対照と比較することができる。標準対照と比較した、被験者におけるNAMPT発現レベルの増加は、対象が外傷性脳損傷を有することまたは発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中のNAMPT発現レベルの増加はまた、対象を、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤を使用した外傷性脳損傷の治療により応答性が高いものとして同定し得る。いくつかの場合において、標準対照と比較して被験者のNAMPT発現レベルが同様または低いことは、被験者が外傷性脳損傷を有しない、または外傷性脳損傷を発症するリスクが低いことを示し得る。
【0104】
実施例5:外傷性脳損傷の治療及び/または予防のための抗NAMPT Ab
本実施例は、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤が外傷性脳損傷を有する、または外傷性脳損傷を発症するリスクがある対象を治療するために使用できるかを記述する。そのような対象は、前述の実施例に記載の方法によって同定することができる。
【0105】
外傷性脳損傷を有する、または外傷性脳損傷を発症するリスクがある対象は、例えば、本明細書で上述のヒト化抗NAMPT mAb等の治療有効量の抗NAMPT Abを対象に投与することによって治療することができる。対象は、ヒト化抗NAMPT mAbを単独で用いて、あるいは手術(例えば、血腫を除去する、頭蓋骨骨折を修復する、脳出血を止める、または頭蓋骨内の圧力を減少させるために頭蓋骨内の窓を開く)を行うこと、及び/または酸素、血液、利尿剤、抗発作薬、及び昏睡誘発薬のうちの1つ以上を投与することを含むがこれらに限定されない、1つ以上の追加の療法と組み合わせて治療することができる。単独でのまたは1つ以上の追加の治療と組み合わせた、抗NAMPT Abによる対象の治療は、外傷性脳損傷の発症を予防または低減することができ、外傷性脳損傷の進行を予防または低減することができ、及び/または外傷性脳損傷に関連付けられる1つ以上の症状を軽減することができる。ヒト化抗NAMPT mAbを使用した外傷性脳損傷の治療は、前述の実施例に記載されるように、より高いNAMPT発現及び/または少なくとも1つのNAMPT SNPの存在を有する対象においてより効果的であり得る。
【0106】
実施例6:がんを発症している、またはがんを発症するリスクがある対象を特定するためのNAMPT SNP及び/またはNAMPT発現
本実施例は、がんを有する、またはがんを発症するリスクがある対象の同定に、NAMPT SNP及び/またはNAMPT発現レベルをどのように使用できるかを記述する。これらの方法は、疾患の1つ以上の症状を示す対象、または疾患を発症するための1つ以上のリスク因子を有する無症状対象におけるがんの存在またはがんを発症するリスクを診断するために有用であり得る。そのような対象から得られた生体試料を、NAMPT SNPの存在について評価し、及び/またはNAMPT発現レベルについて評価することができる。
【0107】
例えば、そのような対象から得られた生体試料は、本明細書に記載の少なくとも1つのNAMPT SNPの存在(例えば、rs7789066、rs116647506、rs61330082、rs114382471、rs9770242、rs59744560、rs190893183、及びrs1319501からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、または8個のSNPの存在)について評価することができる。生体試料からのNAMPTのプロモーター要素内の少なくとも1つのSNPの検出は、SNP遺伝子型決定等本明細書において上述の方法によって達成され得る。SNP遺伝子型決定は、ホモ接合型またはヘテロ接合型のいずれかであるSNPを同定することができる。対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在は、対象ががんを有することまたはがんを発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中の少なくとも1つのSNPの存在はまた、対象が、中和抗NAMPT抗体(Ab)等のNAMPT阻害剤を使用したがんの治療により応答性が高いであろうと同定し得る。いくつかの場合において、対象からの生体試料中に前述のSNPが存在しないことは、対象ががんを有しない、またはがんを発症するリスクが低いことを示し得る。
【0108】
加えて、または代替的に、かかる対象から得られた生体試料を、NAMPT発現レベルについて評価することができる。対象(例えば、被験者)からの生体試料中のNAMPTの発現レベルは、IHC、ウエスタンブロット分析、ELISA、免疫沈降、オートラジオグラフィー、抗体アレイ、及びRT-qPCRを含むがこれらに限定されない様々な方法によって評価され得る。被験者由来の生体試料で評価されるようなNAMPTの発現レベルは、健康な対照(例えば、がんを有しない対象及び/または炎症性疾患を有しない対象)におけるNAMPT発現レベル等の標準対照と比較することができる。標準対照と比較した、被験者におけるNAMPT発現レベルの増加は、対象ががんを有することまたはがんを発症するリスクがあることを示し得る。更に、対象からの生体試料中のNAMPT発現レベルの増加はまた、対象が、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤を使用したがんの治療により応答性が高いものとして同定し得る。いくつかの場合において、標準対照と比較して被験者のNAMPT発現レベルが同様または低いことは、対象ががんを有しない、またはがんを発症するリスクが低いことを示し得る。
【0109】
実施例7:がんの治療及び/または予防のための抗NAMPT Ab
本実施例は、中和抗NAMPT Ab等のNAMPT阻害剤が、がんを有する対象、またはがんを発症するリスクがある対象を治療するためにどのように使用できるかを記述する。そのような対象は、前述の実施例に記載の方法によって同定することができる。
【0110】
がんを有する、またはがんを発症するリスクがある対象は、本明細書に記載のヒト化抗NAMPT mAb等の治療有効量の抗NAMPT Abを対象に投与することによって治療することができる。対象は、ヒト化抗NAMPT mAbを単独で用いて、またはアルキル化剤、代謝拮抗剤、抗有糸分裂薬、細胞傷害性抗生物質、ポリアミン阻害剤、鉄調節薬、化学療法剤、キナーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、セリン/スレオニン-タンパク質キナーゼ阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、放射線療法、及びキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)を含むが、それらに限定されない1つ以上の追加の治療剤と組わせて治療することができる。単独でのまたは1つ以上の追加の治療剤と組み合わせた抗NAMPT Abによる対象の治療は、がんの発症を予防または低減することができ、がんの進行を予防または低減することができ、及び/またはがんに関連付けられる1つ以上の症状を軽減することができる。ヒト化抗NAMPT mAbを使用するがんの治療は、前述の実施例に記載されるように、より高いNAMPT発現及び/または少なくとも1つのNAMPT SNPの存在を有する対象においてより効果的であり得る。
【0111】
実施例8.絨毛性羊膜炎におけるNAMPT発現の評価
絨毛性羊膜炎におけるNAMPTの役割を評価するために、NAMPTの発現を、健常な対照女性または絨毛性羊膜炎を有する女性から得られた胎盤組織における免疫組織化学(IHC)染色によって評価した。図2に示すように、絨毛性羊膜炎を有する女性からの胎盤組織(図2、右パネル、「ChorP胎盤」)は、健常対照からの胎盤組織と比較して、NAMPT発現の著しい増加を示した(図2、左パネル、「対照胎盤」)。
【0112】
絨毛性羊膜炎におけるNAMPTの役割を更に評価するために、血漿サンプルを、健康な妊婦(「妊娠」)、絨毛性羊膜炎を有する妊婦(「ChorP」)、または非妊婦対照(「対照」)から得て、NAMPT血漿レベルをELISAによって評価した。これらの結果を図3に記述する。図3に記述されるように、NAMPT血漿レベルの増加は、非妊婦対照と比較して妊婦において観察され、一方、絨毛性羊膜炎を有する妊婦においてNAMPT血漿レベルの著しい増加が観察された。
【0113】
したがって、結果は、絨毛性羊膜炎におけるNAMPT発現及び分泌の調節不全を例証し、絨毛性羊膜炎の病因におけるNAMPTの役割を示す。
【0114】
実施例9.LPS誘発性絨毛性羊膜炎の前臨床モデルを使用した絨毛性羊膜炎の治療標的としてのNAMPTの検証
前述の実施例に概説された結果は、絨毛性羊膜炎の病因におけるNAMPTの役割を例証し、したがって、絨毛性羊膜炎における治療標的としてのNAMPTの可能性を示す。次に、絨毛性羊膜炎における治療標的としてのNAMPTの可能性を探るために、絨毛性羊膜炎及び早産の前臨床マウスモデルを使用し、妊娠14日目に20μg/KgのLPSで妊娠マウスにチャレンジすることによって絨毛性羊膜炎を誘導した。PBSチャレンジされた妊娠マウスを対照として使用した。
【0115】
前臨床モデルは、絨毛性羊膜炎関連の病因についてマウスを評価することによって確認された。このために、まず、マウスの子宮組織をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色に供して、子宮膿瘍、炎症及びアポトーシスを評価した。図4Aにも示すように、LPSチャレンジマウスからの子宮組織は、子宮膿瘍(図4A、上パネル)及び炎症及びアポトーシスの領域(図4A、下パネル)も示し、したがって、前臨床モデルにおける絨毛膜羊膜炎の誘導を示す。前臨床モデルにおける絨毛性羊膜炎関連の病因を更に確認するために、LPSチャレンジされたマウスの産後母体血清(図4B、上部パネル)及び子宮組織ホモジネート(図4B、下部パネル)中の炎症促進性サイトカインIL-1B、IL-6、KC(IL-8)及びMCP1のレベルをELISAによって評価した。図4Bに示されるように、IL-6、IL-8、及びMCP1の血清レベルは、対照(図4B、下部パネル)と比較して、LPSチャレンジマウスにおいて有意に上昇した(p<0.05)、一方、LPSチャレンジマウス由来の子宮組織ホモジネートは、それらのビヒクルチャレンジ対応物(図4B、下部パネル)と比較して、IL-6及びMCP1のレベルにおいて有意な増加を示した(p<0.05)。したがって、結果は、LPSチャレンジされた妊娠マウスにおける絨毛性羊膜炎関連の病因を実証し、絨毛性羊膜炎の前臨床モデルを検証している。
【0116】
次に、絨毛性羊膜炎における治療標的としてNAMPTを検証するために、絨毛性羊膜炎のマウスモデルからの妊娠マウスを、0.4mg/Kgの中和抗NAMPTモノクローナル抗体(mAb、「ALT-100」もしくはAb3(例えば、本明細書中の上記表2を参照))またはビヒクル対照(PBS)で処置した。抗NAMPT mAb処置またはPBS処置された絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子を、肺組織における生存率及びNAMPT及び他の炎症促進性サイトカインの発現について評価した。健康なマウスに生まれた子が対照として用いられた。これらの結果を図5A~5Cに示す。
【0117】
図5Aのウエスタンブロット分析に示すように、PBS処置絨毛性羊膜炎マウスに生まれた子(図5A、中央パネル)の肺組織は、健常対照に生まれた子(図5A、左パネル)と比較して、NAMPT発現の強い増加を示した。対照的に、PBS処置絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子と比較して、抗NAMPT mAb処置絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子(図5A、右パネル)は、肺におけるNAMPT発現の著しい減少を示した。したがって、図5Aに示す結果は、子におけるNAMPT発現の絨毛膜羊膜炎誘発性上昇の低減における抗NAMPT mAbの有効性を例証する。更に、図5Bに示すように、抗NAMPT mAb処置絨毛膜羊膜炎マウス(「LPS+ALT-100」)に生まれた子からの肺組織ホモジネートは、PBS処置絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子と比較して、炎症促進性サイトカイン(IL-6、IL-8及びMCP1)の発現の有意な減少を示した(p<0.05、「LPS」)。したがって、図5A及び5Bに示される結果は、NAMPT及び他の炎症性サイトカインの絨毛性羊膜炎関連発現の低減における抗NAMPT mAbの有効性を例証する。更に、図5Cに示すように、PBS処置絨毛膜羊膜炎マウス(「LPS」)に生まれた子は、健常対照(「対照」)に生まれた子と比較して、生存率の著しい低下を示した(p<0.05)。対照的に、PBS処置絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子と比較して、抗NAMPT mAb処置絨毛膜羊膜炎マウスに生まれた子(「LPS+ALT-100」)は、生存率の著しい増加を示した(p<0.05)。したがって、図5A~5Cに示される結果は、子の炎症を減少させ、絨毛性羊膜炎の雌に生まれた子の生存を増加させることにおける抗NAMPT mAbの有効性を例証し、絨毛性羊膜炎の治療標的としてNAMPTを検証する。
【0118】
実施例10.気管支肺異形成の前臨床モデルにおける絨毛性羊膜炎に曝露された子を使用した絨毛性羊膜炎の治療標的としてのNAMPTの検証
絨毛性羊膜炎における治療標的としてのNAMPTを更に検証するために、気管支肺異形成(BPD)のマウスモデルにおいて、絨毛性羊膜炎に曝露された子を用いて抗NAMPT mAb(「ALT-100」)の有効性を試験した。このために、絨毛性羊膜炎の雌から生まれた子を、出生後14日間、LPS及び高酸素(FiO2 85%)に曝露させ、その後10~14日間、室内気(RA)に収容した。次いで、LPS/高酸素チャレンジされた子を中和抗NAMPT mAbで処置した、または未処置のまま放置した。マウスからの肺組織をH&E染色に供して、LPS/高酸素チャレンジの28日後に炎症及び気管支肺異形成を評価した。絨毛性羊膜炎の雌に生まれ、対照室内気に曝露された子の肺組織が対照として使用された。これらの結果を図6A~6Cに示す。
【0119】
図6A~6Cに示されるように、LPS/高酸素チャレンジされた子由来の肺組織(図6B)は、対照室内気に曝露した子由来の肺組織と比較して、炎症及び気管支肺異形成の強い増加を示した(図6A)。対照的に、抗NAMPT mAb処置マウスから得られた肺組織は、炎症及び気管支肺異形成の顕しい減少を示した(図6C)。したがって、結果は、新生児の子を気管支肺異形成から保護する上での抗NAMPT mAbの有効性を実証し、絨毛性羊膜炎の治療標的としてのNAMPTを更に検証する。
【0120】
次に、マウス由来の肺組織ホモジネートをウエスタンブロット分析に供し、LPS/高酸素チャレンジの28日後にNAMPT発現を評価した。絨毛性羊膜炎の雌に生まれ、対照室内気に曝露された子の肺組織が対照として使用された。これらの結果を図7A~7Bに示す。図7A~7Bに示されるように、LPS/高酸素チャレンジされた子由来の肺組織(「LPS/高酸素」)は、対照室内気に曝露した子(「対照」)由来の肺組織と比較して、NAMPT発現の強い増加を示した。対照的に、抗NAMPT pAb(Bethyl Laboratories)(「LPS/高酸素+抗NAMPT Ab」)で処置したマウスから得られた肺組織は、NAMPT発現の著しい低下を示した。したがって、結果は、気管支肺異形成モデルからNAMPT発現を低減する際の抗NAMPT Abの有効性を実証し、絨毛性羊膜炎の治療標的としてのNAMPTを更に検証する。
【0121】
実施例11.絨毛膜羊膜炎誘発性絨肺高血圧の前臨床マウスモデルを使用した絨毛性羊膜炎の治療標的としてのNAMPTの検証
絨毛性羊膜炎における治療標的としてのNAMPTを更に検証するために、絨毛膜羊膜炎誘導性肺高血圧(PAH)の2ヒットマウスモデルにおいて、抗NAMPT mAb(「ALT-100」)の有効性を試験した。このために、絨毛性羊膜炎の雌に生まれた子は、出生後14日間LPS及び高酸素に曝され、その後10~14日間室内気(RA)に収容された。次いで、LPS/高酸素チャレンジされた子を中和抗NAMPT mAbで処置した、または未処置のまま放置した。室内空(RA)に保持されたマウスが対照として用いられた。マウス由来の肺組織ホモジネートをRT-PCR分析に供し、p-SMAD1/5/8/9及びSTAT3発現を評価した。その結果を図8A及び8Bにそれぞれ示す。
【0122】
図8Aに示されるように、LPS/高酸素チャレンジされた子由来の肺組織(「HO LPS」)は、対照室内気に曝露した子(「RA」)または室内気でLPSチャレンジされた子(「RA LPS」)由来の肺組織と比較して、p-SMAD1/5/8/9発現の著しい低下を示した。対照的に、p-SMAD1/5/8/9発現の有意な増加は、抗NAMPT mAb(「HO LPS NAAMPT」)で処置されたLPS/高酸素チャレンジされた子から得られた肺組織において見られた。したがって、結果は、絨毛性羊膜炎誘発性PAHモデルにおけるp-SMAD発現の回復における抗NAMPT mAbの有効性を例証する。
【0123】
図8Bに示されるように、LPS/高酸素チャレンジされた子由来の肺組織(「LPS高酸素」)は、対照室内気に曝露した子(「RA」)または対照室内気でLPSチャレンジされた子(「LPS RA」)由来の肺組織と比較して、STAT3発現の顕著な増加(ヒトPAHにも見られる)を示した。対照的に、STAT3発現の有意な減少は、抗NAMPT mAbで処置されたLPSチャレンジされた子(「LPS NAMPT RA」)及び抗NAMPT mAbで処置されたLPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS NAMPT 高酸素」)から得られた肺組織において見られた。したがって、結果は、絨毛性羊膜炎誘発性PAHモデルにおけるベースラインへのSTAT3発現の回復における抗NAMPT mAbの有効性を実証する。したがって、図8A~8Bに記載される結果は、絨毛性羊膜炎における治療標的としてのNAMPTを更に検証する。
【0124】
絨毛性羊膜炎の治療標的としてNAMPTを更に検証するために、心エコー図データ、血行動態データ、及びfulton指数を、絨毛性羊膜炎誘発性PAHの2ヒットマウスモデルからの子で評価した。エコーデータ及び血行動態データを示す結果を表3~4及び図9に記載する。
【表3】
【表4】
【0125】
表3~4及び図9に示すように、LPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS高酸素」)は、対照室空気に曝露した子(「対照RA」)と比較して、RV分画壁肥厚、RV/LV比、及びRVPの著しい増加を示した。対照的に、これらのパラメータの有意な減少は、抗NAMPT mAbで処置されたLPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS/高酸素+ALT-100」)において見られた。他方では、PAT/PET及びTAPSEは、対照室内気に曝露された子(「対照RA」)と比較して、LPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS高酸素」)で減少し、これらのパラメータの回復は、抗NAMPT mAbで処置したLPS/高酸素チャレンジされた子(「LPS/高酸素+ALT-100」)で見られた。
【0126】
したがって、表3~4及び図9に記載される結果は、絨毛膜羊膜炎誘発性PAHモデルにおけるPAHの様々なパラメータの調節における抗NAMPT mAbの有効性を実証し、絨毛膜羊膜炎における治療標的としてのNAMPTを更に検証する。
【0127】
実施例12.ヒトNAFLD肝組織及びマウスNASH組織におけるNAMPT発現の評価
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)におけるNAMPTの役割とその脂肪症からNASHへの最終的な進行を評価するために、肝臓NAMPT発現を、NAFLDを有するヒト及びNASHの2つのマウスモデルで評価した。1つのマウスNASHモデルは、高脂肪/高スクロース(HFHS)の「西洋食」を与えられたマウスが含まれていた。STAM NASHマウスモデルとも呼ばれる、第2のマウスモデルは、出生後に低用量ストレプトゾトシン(STZ)を投与され、第4週に高脂肪食(STZ/HF)で開始されたマウスを含み、これはヒトNASHと同様の組織学的特徴(類洞周囲線維症を含む)を有するNASHを7週までに誘導した。更に、脂肪肝疾患を有するマウスにおいて肝臓NAMPTの発現を評価した。これらの結果を図10A~10Eに示す。
【0128】
図10Aに記載されるように、NAFLDを有する5人のヒト対象からの肝組織のIHC分析は、正常な肝臓組織と比較して、NAMPT発現の有意な増加を示した(挿入図に示す)。図10B~10Dは、2つの前臨床マウスNASH/線維症モデルにおけるIHCによるNAMPT発現及びウエスタンブロット分析を記述する。図10Bに記載されるように、NASH肝組織におけるNAMPT発現は、STZ/HF曝露マウスにおいて著しく増加する。同様に、強化されたNAMPT発現を、西洋式食事を給餌されたマウスの肝臓においてIHCによって検出し(HFHS、16週間)(図10C)、これを、肝組織溶解物中のNAMPTレベルの免疫ブロット分析によって更に検証した(図10D)。図10Eは、更に、脂肪肝疾患を有するマウスにおけるIHC分析によるNAMPTの発現を記述する。図10Eに記述されるように、マウス脂肪肝は、正常なマウス肝臓と比較して、NAMPT発現の顕著な増加を示した。これらの結果は、ヒトNASH進行に影響を与える潜在的なNAMPT関与と一致する。したがって、図10A~10Eに記述される結果は、NAFLD及びNASHのNAMPT発現の調節不全を例証し、NASHの病因におけるNAMPTの役割を示す。
【0129】
実施例13.NAMPTの抗体媒介性中和は、NASHのマウスモデルにおける肝臓の炎症、損傷及び線維症を減少させる
前述の実施例に概説された結果は、NASHの病因におけるNAMPTの役割を実証し、したがって、NASHにおける治療標的としてのNAMPTの可能性を示す。次に、NASHにおける治療標的としてのNAMPTの可能性を探るために、循環抗NAMPT mAbの中和の有効性をSTZ/HF(STAM)マウスにおいて評価した。STZ/HFマウスは、出生2日後にストレプトゾトシン(STZ)チャレンジされ、高脂肪食(HF)で維持したC57/B6マウスであった。第9~12週の間に、STZ/HFマウスに、0.4mg/kgのヒト化抗NAMPT mAb(ALT-100)またはビヒクル対照(対照IgG1 Ab)を毎週腹腔内(i.p.)に注射した。この戦略は、NASH/肝線維症の発症を標的とし、次いで陽性対照として働く前臨床NASHを減少させることが知られているアンジオテンシン受容体遮断薬である毎日経口投与されたテルミサルタンと所見を比較するように設計された。
【0130】
まず、STZ/HF曝露マウス(「STZ/HF」)及び抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「STZ/HF+eNAMPT mAb」)から得られた肝臓組織をH&E染色に供して、NASH媒介性肝損傷を評価した。分析からの結果は、図11A~11Bに記載されている。図11A~11Bに記載されるように、対照マウス由来の肝組織(図11A、左パネル、挿入図)と比較して、STZ/HFマウス由来の肝組織(図11A~11B、左パネル)は、有意な肝脂肪症、肝内脂肪球及び肝細胞損傷/バルーニングを示した。しかしながら、抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス由来の肝組織(図11A~11B、右パネル)は、肝脂肪症、肝内脂肪球及び肝細胞傷害/バルーニングの著しい減少を示した(テルミサルタン保護に匹敵する、データ示さず)。したがって、図11A~11Bに記載される結果は、抗NAMPT mAbによるNAMPTの中和が、STZ/HFマウスにおける脂肪症及びNASHの組織学的進行を減衰させるのに有効であることを示す。
【0131】
次に、抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」)またはテルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」)から得られた肝臓組織を、脂肪症スコア及び肝臓トリグリセリドレベルについて分析した。分析からの結果は、図12A~12Bに記載されている。図12Aに記載されるように、抗NAMPT mAb処置マウスは、ビヒクル対照を注射されたマウスと比較して、脂肪症スコアの有意な減少を示した(p<0.01)。また、図12Bに記載されるように、ビヒクル対照を注入したマウスと比較して、抗NAMPT mAb処置マウスにおいて肝臓トリグリセリドレベルの強い減少が観察された(p<0.01)。したがって、図12A~12Bに記載される結果は、抗NAMPT mAbによるNAMPTの中和がNASHの炎症指標を効果的に低減させることを示す。
【0132】
次に、抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」)またはテルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」)から得られた肝臓組織を、コラーゲン、繊維症マーカーに対してシリウスレッド染色に供し、NASH媒介性肝線維症を評価した。分析からの結果は、図12Cに記載されている。図12Cに示すように、ビヒクル対照を注射したマウスと比較して、抗NAMPT mAb処置マウスからの肝臓組織において、線維症マーカーであるコラーゲンの発現の有意な減少を示すシリウスレッド陽性領域の割合の有意な減少が観察された(p<0.05)。したがって、図12Cに記載される結果は、抗NAMPT mAbによるNAMPTの中和が、NASH媒介性肝線維症を減衰させるのに有効であることを示す。
【0133】
次に、抗NAMPT mAb処置STZ/HFマウス(「mAb」)、ビヒクル注射STZ/HFマウス(「Veh」)、テルミサルタン処置STZ/HFマウス(「Telm」)、またはSTZ/HFに曝露されなかった対照マウス(「Ctrl」)においてNAMPTの血漿レベルを評価した。これらの結果を図12Dに示す。図12Dに記載されるように、未処置の対照マウスと比較して、ビヒクル注入STZ/HFマウスは、NAMPT血漿レベルの著しい増加を示し、これは、抗NAMPT mAbによる処置によって有意に減少した。したがって、結果は、NASHにおける血漿NAMPTレベルの調節不全を例証し、NASHの病因におけるNAMPTの役割を検証する。
【0134】
全体として、図10A~10E、11A~11B及び12A~12Dに概説されるように、前述の研究の結果は、炎症及び線維症を調節する新規のNASH治療標的としてのNAMPTを例証し、また、NASH媒介性肝炎、損傷及び線維症を減衰させることにおける抗NAMPT抗体の有効性を示し、したがって、NASHにおける治療標的としてのNAMPTを検証する。これは、図13に提供される概略図において更に要約される。図13に記載されるように、NASHをもたらす炎症の3つのサイクルは、肥満及びインスリン抵抗性によって引き起こされる末梢炎症サイクル、腸間膜脂肪細胞の腸炎症及び活性化によって引き起こされる局部的炎症サイクル、ならびに肝臓内の肝臓脂肪毒性及び先天性免疫細胞活性化によって引き起こされる局所炎症サイクルを含む。腸炎症は、「漏出腸症候群」及び門脈を介して肝臓に流入する管腔内容物によって引き起こされる。NAMPTは、各炎症サイクルに関与し、脂肪細胞、腸上皮、及び活性化肝細胞によって強く産生され得る。DAMPとして、NAMPTは、TLR4/NFkB炎症性シグナル伝達を誘発して、局所的に、肝細胞傷害、線維症及び新生物への移行を促進するケモカイン/サイトカイン及び成長因子を産生し、これらのプロセスは、NAMPT中和mAbによって著しく減衰される。
【0135】
本開示で提示される注目すべき前臨床及び臨床データは、(i)NAMPT血漿レベル及び肝臓NAMPT発現がマウスNASHモデルにおいて有意に上昇している;、(ii)NASH及びNASH肝硬変を有するヒトは、肝臓NAMPT発現の増加を示す、(iii)現在GMP製造プロセス中のNAMPT中和性mAb(ALT-100)、肺及び腎線維症(下記の実施例14を参照)、ならびにNAFLD進行からNASH線維症への複数の指標を低減させたので、NAMPTをNAFLDからNASHへの進行のリスクを減少させるための魅力的な標的として強く示唆する。したがって、ヒト化された、配列最適化された、NAMPT中和mAb(例えば、ALT-100またはAb3)は、生命を脅かすNASH及びHCCへの進行を遅らせるまたは停止させるための安全かつ効果的なアプローチを表し得る。
【0136】
本開示は、ヒト化抗NAMPT中和抗体(例えば、ALT-100mAb)等のNAMPT阻害剤に加えて、NAMPT血漿バイオマーカーアッセイ及びNAMPT遺伝子型決定アッセイを含むプラットフォーム(ENAMPTOR(商標)プラットフォーム)を提供する。血漿NAMPTレベル(Bime et al.,Am J Respir Crit Care Med(2018),197:1421-1432)及び5つのNAMPTプロモーターSNPの双方は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を予測する(Bajwa et al.,Crit Care Med(2007),35:1290-1295)及び肺動脈高血圧死亡率及びは、重度の炎症性損傷の危険因子であることが示されている。各NAMPT SNPは、機械的ストレス及び低酸素に応答して(HIF-2αを介して)NAMPTプロモーター活性を変化させる(Sun et al.,Am J Respir Cell Mol Biol(2014),51:660-667、Sun et al.,Am J Respir Cell Mol Biol(2020),63:92-103)。各SNPは、黒人では重要でない対立遺伝子頻度>1%を有し、黒人では3つのNAMPT SNPが著しく過剰に表されている。本明細書に開示される精密医療プラットフォームは、NAMPT療法(例えば、ALT-100mAbによる治療)に応答する可能性が最も高い患者の同定を可能にする。NAMPT血漿レベル及びNAMPTリスク遺伝子型の両方は、NAFLDからNASHへの進行等の炎症状態の進行/死亡における新規の危険因子を表し得る。本明細書に開示される精密医療プラットフォームは、例えば、NAMPT阻害剤(例えば、NAMPT中和ALT-100mAb)による治療の臨床試験に登録するための対象(例えば、NASH対象)を層別化する上で重要な価値であり得る。
【0137】
実施例14.NAMPTの抗体媒介性中和は、尿管閉塞誘発性マウス腎線維症を減少させる
次に、尿管閉塞誘発性マウス腎線維症モデルにおいて、臓器線維症の重症度の低減または予防における循環抗NAMPT mAbの中和の有効性を評価した。片側尿管閉塞(UUO)は、比較的短期間での慢性腎疾患、尿細管壊死及び炎症性細胞浸潤の主要な病態生理学的特徴を有する腎線維症の十分に特徴付けられた疾患モデルである。腎臓の炎症及び線維症の低減に対するNAMPT中和ALT-100mAbのNAMPT発現及び有効性を、前臨床マウスUUOモデルにおいて評価した。
【0138】
このために、8匹の雌C57BL/6マウス(7週齢)の3つのグループを、尿管閉塞の実施によって外科的にチャレンジして、腎線維症を開始させた。野生型(WT)マウスには、術後1日目及び8日目に0.4mg/kgのALT-100mAb(i.p.)を受け、14日目に全てのマウスを屠殺した。シリウスレッド陽性腎組織染色のUUO媒介性増加を腎線維症の指標として評価した。これらの結果を図14A~14Cに示す。図14A~14Cに記載されるように、NAMPT mAb ALT-100は、UUOモデルにおけるシリウスレッド陽性染色を有意に減少させ、腎臓ヒドロキシプロリン含量の減少を伴ったが、これは統計学的有意性に達しなかった(データ示さず)。
【0139】
したがって、前述の研究の結果は、臓器線維症(例えば、腎線維症)の重症度を低減させることにおける中和循環抗NAMPT mAbの有効性を強調する。
【0140】
実施例15.更なる研究設計及び方法
NAFLDにおけるNAMPTの関与の最初の探索(前述の実施例に概説されているように)は、NAFLDを有するヒト及び2つのNASHのマウスモデルの両方において、肝臓NAMPT発現の著しい増加を明らかにした。1つのマウスNASHモデルは、高脂肪/高スクロース(HFHS)の「西洋食」を与えられたマウスが含まれていた。第2のマウスモデルは、出生後に低用量ストレプトゾトシン(STZ)を与えられ、4週目(STZ/HF)に高脂肪食で開始されたマウス(STAM NASHマウスモデルとも称される)を含んでいた。重要なことに、ALT-100mAbは、マウスSTAMモデルにおけるNASH重症度の複数の指標を減少させた。NAMPTは、多発性炎症性障害における新規の上流治療標的であるため、NAMPT中和ヒト化ALT-100mAbは、NAFLDのNASH及び線維症/肝硬変への進行を遅らせるはずである。この第I相試験は、NAFLDのNASH及び肝線維症/肝硬変への進行を遅らせる治療戦略として、NAMPT中和ALT-100mAbを確認するように設計されている。前臨床NASHモデルにおけるALT-100mAbの治療的送達も最適化される。
【0141】
研究(1):NASHの前臨床マウスSTAMモデル(STZ/HFD)におけるNAMPT mAb送達(ALT-100)の最適化。NAMPT中和mAbは、NASHの前臨床マウスSTAMモデルにおいて、3用量及び2時点(第5週または第9週)で評価される。mAbの有効性の読み出しは、肝臓炎、脂肪症及び線維症の既知の指標を含む肝細胞損傷、ならびに死亡率の有意な減衰である。
【0142】
研究(2):NASHの前臨床マウスAMLNモデル(HFHCD)における抗-NAMPT mAb送達(ALT-100)の最適化。抗NAMPT mAbの投与/タイミングは、前臨床ラット西洋食NAFLDモデル(高脂肪、高フルクトース、高コレステロール食、つまりHFHCD)において最適化される。mAbの有効性のリードアウトは、脂肪症及び線維症の既知の指標を含む肝臓炎、肝細胞損傷の有意な減少であろう。
【0143】
第II相の計画。第I相試験の成功裏の完了に続く第II相試験では、ALT-100mAbの薬物動態(PK)、薬力学(PD)、及び安全性(毒性)プロファイルが評価され、臨床開発をサポートするCMCインフラストラクチャが確立される。第II相試験の成功裏の完了に続いて、健康なボランティア(第I相試験)及びNASHを有する対象(第II相試験)における治療的アプローチとしてのALT-100mAbの検証が行われる。
【0144】
生物学的理論的根拠。NAFLDの進行及び管理における治療的進歩は、NASHの発症、肝繊維化、及びHCCへの進行について炎症性経路活性化の役割を強調している(Schuster et al.,“Triggering and resolution of inflammation in NASH,”Nat Rev Gastroenterol Hepatol,15:349-364(2018))。システム生物学及びゲノム戦略を利用して、本発明者らは、TLR4のライゲーションを介して先天性免疫媒介性炎症及び線維化を強力に調節する新規の損傷関連分子パターンタンパク質(DAMP)として細胞外ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(eNAMPT)を同定した(Ye et al.,“Pre-B-cell colony-enhancing factor as a potential novel biomarker in acute lung injury,”Am J Respir Crit Care Med,171:361-370(2005)、Camp et al.,“Unique Toll-Like Receptor 4 Activation by NAMPT/PBEF Induces NFkappaB Signaling and Inflammatory Lung Injury,”Sci Rep,5:13135(2015)、Oita et al.,“Novel Mechanism for Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Inhibition of TNF-alpha-mediated Apoptosis in Human Lung Endothelial Cells,”Am J Respir Cell Mol Biol,59:36-44(2018))。NAMPTは、多臓器炎症、損傷及び線維症(肺、肝臓、腎臓、心臓)ならびにがんへの非常に重要な役割を果たす(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT) in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))(図1)。同じNAMPTタンパク質は、iNAMPTとして細胞内の場合、NAD代謝を酵素的に調節し、臨床がん治験においてSMIで標的化されているが、有益性の欠如及び毒性のために失敗した(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020)).本開示に記載の研究は、NAMPT(例えば、eNAMPT)を、NAFLDのNASHへの進行の重要な調節因子として、及びNAFLDの後のステージへの進行を低減するための魅力的な治療標的として注目する。前臨床試験では、マウスNAFLD/NASHモデル及びNAFLDを有するヒトにおける肝臓NAMPT発現の増加が示されている。更に、NAMPT中和mAb(ALT-100mAb)は、NASH重症度の複数の指標を低減させ、ALT-100mAbが、NASHの進行/致死性を防止するための緊急の未充足のニーズに対処するための実行可能なかつ新規のアプローチであり得ることを示唆する。
【0145】
提案された製品。NASHの治療パイプラインは拡大しているが、進行性NAFLDの標的化に成功することへの需要は、依然として満たされていない。腸間膜脂肪組織及び「漏出性腸」によって生成されるNAMPTは、TLR4/NFkB依存性炎症カスケードを直接活性化するはずであり(Camp et al.,“Unique Toll-Like Receptor 4 Activation by NAMPT/PBEF Induces NFkappaB Signaling and Inflammatory Lung Injury,”Sci Rep,5:13135(2015)、Oita et al.,“Novel Mechanism for Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Inhibition of TNF-alpha-mediated Apoptosis in Human Lung Endothelial Cells,”Am J Respir Cell Mol Biol,59:36-44(2018))、したがって、脂肪症からNASH及び肝線維症への肝移行に寄与する(図13)。NAMPTは、非常にdruggableな治療標的であり、本発明者らは、NASH治療のための新規治療剤として、ヒト化NAMPT中和mAbであるALT-100mAbを開発した。ALT-100mAbは、前臨床ARDS/VILIにおけるTLR4/NFkB炎症性カスケード活性化(Hong et al.,“Essential role of pre-B-cell colony enhancing factor in ventilator-induced lung injury,”Am J Respir Crit Care Med,178:605-617(2008)、Quijada et al.,“Endothelial eNAMPT Amplifies Preclinical Acute Lung Injury:Efficacy of an eNAMPT-Neutralising mAb,”Eur Respir J,2002536(2020)、Chen et al.,“Nicotinamide Phosphoribosyltransferase Promotes Pulmonary Vascular Remodeling and Is a Therapeutic Target in Pulmonary Arterial Hypertension,”Circulation,135:1532-1546(2017)、Sun et al.,“Direct Extracellular NAMPT Involvement in Pulmonary Hypertension and Vascular Remodeling.Transcriptional Regulation by SOX and HIF-2alpha,”Am J Respir Cell Mol Biol,63:92-103(2020))、放射線誘発性肺損傷及び前立腺癌(Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))を効果的に低下させる.抗NAMPT ALT-100mAbは、2つの親マウスmAb(Fusion Antibodies Inc、Belfast,UK)に由来する50個のNAMPT中和mAbの総合的なインビトロ及びインビボスクリーニングの後に選択した。抗NAMPT ALT-100mAbは、免疫原性配列を除去するために配列最適化されており、SPRにより得られた4.5nMのKdという強いNAMPT結合力を示す。強力な前臨床/臨床データに支持され、2つの前臨床NASHモデルを利用して、本明細書で提案される研究は、NAFLDの、脂肪症からNASH、肝線維症/肝硬変への進行を低減するための治療戦略として、抗NAMPT ALT-100mAbの概念の更なる証明を提供するように設計されている。
【0146】
革新。第一に、NAFLD及び脂肪症からNASH及び肝線維症への進行を予防する有望なアプローチとして細胞外NAMPT(例えば、eNAMPT)を標的とすることは非常に革新的であり、私たちの知る限り、この生物学的アプローチを利用するNASH治療の競合者は存在しない。第二に、図13に示される私たちの仮説は非常に革新的であり、増加した漏出性腸症候群、活性化された腸間膜脂肪組織、脂肪症関連脂肪毒性、ROS、及び低酸素に応答するDAMPとしてのeNAMPTの役割を強調する。TLR4ライゲーション及びNFkB炎症性シグナル伝達を介して、NAMPTはNASH進行微小環境の誘導に寄与し、NAFLDの進行に機能的に影響を与える。NAMPT中和は、末梢、腸(漏出性腸由来エンドトキシン)、及び肝臓局在性炎症機構によって産生される炎症負荷を抑制する非常に有利な特性を有する。第三に、抗NAMPT mAb自体は革新的であり、免疫原性を低減するために配列最適化されており、Sprague Dawleyラットにおける我々の薬力学的/薬物動態研究は、最大50mg/kgの用量であっても、観察される毒性なしに14~18日のmAb半減期を示している。最後に、精密医療アプローチの要件は、NAFLDを首尾よく標的にするための重要な要素として認識されている。本発明者らは、i)NAMPT(例えば、eNAMPT)血漿バイオマーカーアッセイ、及びii)5SNP NAMPT遺伝子型決定アッセイからなるENAMPTOR(商標)精密医学プラットフォームを開発した。これらの両方は、重度の炎症性損傷のリスク因子として示されている。我々は、eNAMPT血漿バイオマーカー/遺伝子決定アッセイ及びヒト化抗NAMPT ALT-100mAbからなるENAMPTOR(商標)精密医学プラットフォームが、革新の追加のソースである抗NAMPT ALT-100mAbに応答する可能性が最も高いNAFLD患者の同定を可能にするであろうと推測する。
【0147】
研究設計:前述の実施例に提示された結果は、非常にdruggableな標的としてのNAMPTを例証し、脂肪症からNASH及びNASH肝硬変への致死的移行を制限する際のヒト化NAMPT中和ALT-100mAbの有効性を強調する。ALT-100mAbは、ARDS、放射線誘発性肺損傷、肺高血圧症、及び前立腺癌等の疾患の前臨床炎症モデルにおいて劇的な有効性を有する(Quijada et al.,“Endothelial eNAMPT Amplifies Preclinical Acute Lung Injury:Efficacy of an eNAMPT-Neutralising mAb,”Eur Respir J,2002536(2020)、Sun et al.,“Role of secreted extracellular nicotinamide phosphoribosyltransferase(eNAMPT)in prostate cancer progression:Novel biomarker and therapeutic target,”EBioMedicine,61:103059(2020))。次に、抗NAMPT mAbを、NASHの前臨床マウスモデルにおいて、以下により試験する。(1)NASH(STZ/HFD)のマウスSTAMモデルにおけるALT-100の有効性及び最適な投与/タイミングを評価すること(図10A~10E、11A~11B、及び12A~12Dを参照されたい)、ならびに(2)西洋食を模倣し、NAFLD(脂肪症、NASH、肝線維症)の全スペクトルを誘導するラットAMLNモデル(HFHCD)におけるALT-100の有効性及び最適な投与/タイミングを評価すること。一般的なエンドポイントには、肝機能障害/損傷、炎症、及び線維症の有意な減少が含まれる。ラットにおける薬物動態研究として、ALT-100mAbの半減期が16~18日であることが例証されたため、ALT-100mAbを毎週投与する。
【0148】
研究(1)-NASHのマウスSTAMモデル(STZ/HF)におけるNAMPT中和mAb投与の最適化
研究(1)の理論的根拠:NAMPTは、NASHの前臨床マウスモデル(STAM)を利用して、NASHにおいて非常にdruggableな標的として試験される。具体的には、生後2日後のマウスに低用量のSTZを注射してb細胞損傷を誘導し、その後4週齢で高食事給餌を行う。このモデルは、NAFLD進行の全スペクトルを発達させ、単純な脂肪症はSTZ後5週目、NASHは7週目、線維症は9週目に観察される。本開示には示されていないが、HCCは、STZ後16週までに発症する。予備データ(図10A~10E、及び11A~11B)は、このマウスSTAMモデルにおけるNASHの発症及びNASHの低減における抗NAMPT mAbの予備的成功を示す。研究(1)(すなわち、NASHのマウスSTAMモデルにおけるALT-100の有効性及び最適な投与/タイミングを評価するため)について、抗NAMPT mAbの毎週の腹腔内注射は、肝臓損傷及びNAFLDのNASHへの進行の有意な減少をもたらす有効性について評価される。これらの研究のための3つの抗NAMPT mAb用量は、肺高血圧症及び放射線線維症の適応症のためのいくつかの前臨床試験に基づいて選択され、NASH患者におけるSTTR第II相試験及び第1B相臨床試験を可能にする、効果的にNASH進行を減少させるALT-100mAbの最適な投与量を決定することに導いた。加えて、本研究は、このSTAMモデルにおける2つの時間的NASH段階に対処し、NASH標的化戦略として第5週に抗NAMPT中和mAb送達を開始し、線維症標的化戦略として第8週に別個の群に分ける。
【0149】
試験(1)実験設計及び方法:8群のC57BL/6マウス(各群20匹)を、出生2日後に単回の皮下注射を介して200μgのSTZに曝露し、続いて4週齢でHF給餌する。I群は、5週目から毎週、IP送達対照IgG Ab 1.0mg/kgを受ける。VIII群は、8週目から毎週、IP送達対照IgG Ab 1.0mg/kgを受ける。II及びV群は、第5週(II群)または第8週(V群)から0.4mg/kgのALT-100mAbを受ける。III及びVI群は、第5週(III群)または第8週(VI群)に1.0mg/kgのALT-100mAbを受ける。最後に、IV及びVII群は、第5週(IV群)または第8週(VII群)に4.0mg/kgのALT-100mAbを受ける。全ての動物は20週目に屠殺される。臨床的に同等なエンドポイント及びmAb有効性の読み取り値は、i)NAFLD活動スコア(NAS)の肝臓H&E組織学的分析、ii)肝臓対体重比、iii)血漿ALT、AST及びコレステロール、iv)肝臓トリグリセリド及びコレステロール、v)コラーゲン染色の面積%に対するシリウス染色(線維症スコア)、及びvi)死亡率(STZ/HF、IgG群では、16週目で30%、20週目で45%と予想される)の減少となる。予備的研究に基づくと、これらの実験は、本研究者らは介入ごとに20匹のラットを利用していることを考えると、0.1のアルファにおいて90%の信頼性で線維症指数の40%の低下が検出されるはずである。
【0150】
研究(1)予想される結果、予想し得ない欠陥及び代替案:HF摂食を伴うSTZチャレンジされたマウスはNASHを発症し、未治療のマウスは20週間以内にNASHの進行と死亡率を示し始めるはずである。IgG対照と比較して、ALT-100mAbは、抗NAMPT mAb開始のタイミングに依存する潜在的な逆転を伴うNASH進行を有意かつ用量依存的に減少させるはずである。マイルストーン:M1)STZ/HFマウスモデルでは、抗NAMPT中和ALT-100mAbは、NAFLDの重症度/進行の用量依存的な減少を例証する。M2)最適な抗NAMPT ALT-100mAb用量が確立される。M3)早期のeNAMPT ALT-100mAb介入の重要性が確立される。
【0151】
研究(2)-NASHのラットAMLNモデル(HFHCD)における抗NAMPT mAb用量の最適化
研究(2)の理論的根拠:糖尿病と肥満(NAFLDの2つの主要なリスク因子)の両方を組み込んだ研究(1)に記載されているマウスSTAMモデル(STZ/HF)における抗NAMPT mAb研究を補完するために、研究(2)は、前臨床研究のための最良な食事誘発性NASHモデルの1つである、食事誘導性ラットモデルであるAMLN食(40%kcal脂肪(主にPrimex水添植物油ショートニング、すなわちトランス脂肪)、20%kcalフルクトース、及び2%w/wコレステロール(HFHCD)からなる)を利用する。HFHCD動物は、16~20週間にわたってNAFLDの全スペクトル(脂肪症、NASH、及び肝線維症)をカバーするヒトNAFLDに見られる代謝特徴を示す(Clapper et al.,“Diet-induced mouse model of fatty liver disease and nonalcoholic steatohepatitis reflecting clinical disease progression and methods of assessment,”Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,305:G483-495(2013)、Kristiansen et al.,“Obese diet-induced mouse models of nonalcoholic steatohepatitis-tracking disease by liver biopsy,”World J Hepatol,8:673-684(2016)、Trevaskis et al.,“Glucagon-like peptide-1 receptor agonism improves metabolic,biochemical,and histopathological indices of nonalcoholic steatohepatitis in mice,”Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,302:G762-772(2012)、Zeng et al.,“Effects and therapeutic mechanism of Yinzhihuang on steatohepatitis in rats induced by a high-fat,high-cholesterol diet.J Dig Dis,21:179-188(2020))。AMLN/HFHCDモデル(研究(2))ではNAFLDの様々な段階が遥かに遅く発症するが、研究(1)のSTAM(STZ/HF)モデルと比較して、有毒な化学物質の注射なしでヒトの疾病を忠実に模倣する最新のモデルの1つである。このAMLNモデル(HFHCD)は、HFHSモデル(図10C~10D)よりも優れており、より大きな小葉炎症及びより重度のNASHを示す。研究(1)と同様に、研究(2)は、肝臓損傷の有意な減少を提供する、毎週の抗NAMPT mAb腹腔内注射の有効性を評価するこれらの研究は、NASHの進行を効果的に減少させるためのALT-100mAbの最適用量の決定を可能にし、NASH患者におけるSTTR第II相試験及び第1B相臨床試験を可能にする。
【0152】
研究(2)実験設計及び方法:合計8群(I~VIII群)のSprague-Dawleyラット(各群20匹のラット)に、40%の脂肪(約18%のトランス脂肪)、22%のフルクトース、及び2%のコレステロールを含む食餌(Research Diets,Inc、カタログ番号D09100301)を給餌する。対照ラットの2つの群(IX~X群)は、同じ会社からの正常な脂肪の対照食餌(カタログ番号D09100304)で維持される。12週目から開始して、I~IV群は、対照IgG Ab(1.0mg/kg)(I群)、ALT-100mAb(0.4mg/kg)(II群)、ALT-100mAb(1.0mg/kg)(III群)、またはALT-100mAb(4.0mg/kg)(IV群)のいずれかのIP送達を毎週受ける。16週目から開始して、V~VIII群は、対照IgG Ab(1.0mg/kg)(V群)、ALT-100mAb(0.4mg/kg)(VI群)、ALT-100mAb(1.0mg/kg)(VII群)、またはALT-100mAb(4.0mg/kg)(VIII群)のいずれかのIP送達を毎週受ける。正常な食物を受けた対照群(IX~X群)は、12週目から、対照IgG Ab(1.0mg/kg)(IX群)、またはALT-100mAb(1.0mg/kg)(X群)のいずれかのIP送達を毎週受ける。全ての動物は30週目に屠殺される。臨床的に同等なエンドポイント及びmAbの効力の読み取り値は、i)NAFLD活動スコア(NAS)の肝臓H&E組織学的分析、ii)肝臓対体重比、iii)血漿ALT、AST及びコレステロール、iv)肝臓トリグリセリド及びコレステロール、v)コラーゲン染色の%面積に対するシリウス染色(線維症スコア)の減少である。本研究者らの予備的研究に基づくと、これらの実験は、介入ごとに20匹のラットを利用していることを考えると、0.1のアルファで90%の信頼性で線維症指数の40%の低下が検出されるはずである。
【0153】
研究(2)予想される結果、潜在的な予想し得ない欠陥及び代替案:NASHの発症は、IgG対照と比較して、ALT-100mAb処置で用量依存的に低減されるはずである。マイルストーン:M4)AMLN(HFHCD)マウスモデルでは、抗NAMPT中和ALT-100mAbは、NASHの重症度/進行の用量依存的な減少を例証する。M5)AMLN(HFHCD)ラットモデルにおける最適なNASH低減ALT-100mAb用量を決定する。M6)ラットAMLN(HFHCD)モデルにおいて早期のeNAMPT ALT-100mAb介入の重要性が確立される。
【0154】
統計上の考慮事項
20匹のマウス/群の試料サイズの妥当性は、以下に基づく:
(i)少なくとも80%の予想される生着率(n=16 NASH/群)。NASHの存在は、各マウスについて線維症容積対時間の混合線形モデルを適合させることによって分析される。結果として生じる傾き(線維化率)は、階乗モデルを使用して比較される。
(ii)「非治療」応答と「治療」応答との比較。80%の検出力により、両側アルファが0.05であると仮定して、2つの群間の平均(差をSDで割ったもの)間で1.325の標準化された減少を検出することができる。統計学的検定は、ボンフェローニ多重比較検定を使用して実施する。P値0.05は統計的に有意とみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
【配列表】
2023537073000001.app
【国際調査報告】