(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】細胞組成物及び治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230823BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20230823BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230823BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230823BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230823BHJP
A61K 38/54 20060101ALI20230823BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20230823BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/38 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/49 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/39 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/41 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/43 20060101ALN20230823BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230823BHJP
C07K 14/15 20060101ALN20230823BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20230823BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230823BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/768
A61P35/00
A61K48/00
A61K31/7105
A61K38/54
C12N5/0775
C12N7/00
C12N15/38
C12N15/49
C12N15/39
C12N15/41
C12N15/43
C07K14/705
C07K14/15
C07K14/475
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509566
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 IB2021057381
(87)【国際公開番号】W WO2022034506
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・サンドラサグラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC25
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BC83
4C087CA09
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された細胞組成物に関する。そのような組成物は、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達することによってがんを治療するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
STRO-1+間葉系統前駆体又は幹細胞を含む組成物であって、前記細胞が、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される、組成物。
【請求項2】
対象のがんを治療する方法であって、STRO-1+間葉系統前駆体又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、前記細胞が、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される、方法。
【請求項3】
腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する方法であって、がん細胞を、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾されるSTRO-1+間葉系統前駆体又は幹細胞と接触させることを含む、方法。
【請求項4】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、α1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項5】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍特異的プロモーター及び/又は腫瘍特異的細胞表面分子に結合するキャプシドタンパク質を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項6】
前記腫瘍特異的プロモーターが、サバイビンプロモーター、COX-2プロモーター、PSAプロモーター、CXCR4プロモーター、STAT3プロモーター、hTERTプロモーター、AFPプロモーター、CCKARプロモーター、CEAプロモーター、erbB2プロモーター、E2F1プロモーター、HE4プロモーター、LPプロモーター、MUC-1プロモーター、TRP1プロモーター、Tyrプロモーターである、請求項5に記載の方法又は組成物。
【請求項7】
前記キャプシドタンパク質が、繊維、ペントン又はヘキソンタンパク質である、請求項5又は6に記載の方法又は組成物。
【請求項8】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍細胞を形質導入的に標的化するための腫瘍特異的細胞表面分子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項9】
前記腫瘍特異的細胞表面分子が、インテグリン、EGF受容体ファミリーメンバー、プロテオグリカン、ジシアロガングリオシド、B7-H3、がん抗原125(CA-125)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、血管内皮成長因子受容体1、血管内皮成長因子受容体2、がん胎児抗原(CEA)、腫瘍関連糖タンパク質、表面抗原分類19(CD19)、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD44、CD52、CD74、CD152、ムチン1(MUC1)、腫瘍壊死因子受容体、インスリン様成長因子受容体、葉酸受容体a、膜貫通糖タンパク質NMB、C-Cケモカイン受容体、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、recepteur d’origine Nantais(RON)受容体、及び細胞傷害性Tリンパ球抗原4からなる群から選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項10】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、条件的複製アデノウイルス(CRAd)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ワクシニアウイルス、レンチウイルス、レオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、又は水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びパルボウイルスである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項11】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、
Cx40、Cx43、Cx45、Cx32、及びCx37からなる群から選択されるコネキシン、並びに/又は
α2、α3及びα5からなる群から選択されるインテグリンを発現する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項12】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、前記がん細胞を殺傷するが、前記間葉系統前駆体又は幹細胞の生存率に実質的に影響を及ぼさない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項13】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞は、それらががん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達し得る前に、前記間葉系統前駆体又は幹細胞を殺傷しない前記腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項14】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍細胞への間葉系前駆体系統又は幹細胞融合の誘導を媒介するためにウイルス性融合膜糖タンパク質を発現する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項15】
前記ウイルス性融合膜糖タンパク質が、前記テナガザル白血病ウイルス(GLAV)エンベロープ糖タンパク質、麻疹ウイルスタンパク質F(MV-F)及び麻疹ウイルスタンパク質H(MV-H)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、実質的にSTRO-1
briである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項17】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも0.1μg/10
6個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項18】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも0.5μg/10
6個の細胞の量でAng1を発現する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項19】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも1.0μg/10
6個の細胞の量でAng1を発現する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項20】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、約0.05μg/10
6個の細胞未満の量で血管内皮成長因子(VEGF)を発現する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項21】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、約0.02μg/10
6個の細胞未満の量でVEGFを発現する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項22】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項23】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも約10:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項24】
前記間葉系統前駆体が、少なくとも約20:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項25】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、少なくとも約30:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項26】
前記間葉系統前駆体が、少なくとも約50:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項27】
前記間葉系統前駆体が、Ang1又はVEGFを発現するように遺伝子修飾されない、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項28】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、多能性細胞に由来する、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項29】
前記多能性細胞が、誘導多能性幹(iPS)細胞である、請求項28に記載の方法又は組成物。
【請求項30】
前記方法又は組成物が、STRO-1、並びにα1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択される前記マーカーのうちの1つ又は2つ以上を発現する間葉系統前駆体又は幹細胞を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項31】
前記接触が、前記間葉系統前駆体又は幹細胞が前記がん細胞とギャップ接合部を形成することを可能にする条件下で行われ、それによって前記腫瘍溶解性ウイルスが、前記ギャップ接合部を横断することによって前記がん細胞に送達される、請求項3に記載の方法。
【請求項32】
前記ギャップ接合部が、Cx40又はCx43によって形成される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ギャップ接合部が、Cx43によって形成される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記腫瘍溶解性ウイルスの送達が、Cx43以外のメカニズムを介してである、請求項2又は4~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記がん細胞が、肺がん、膵臓がん、大腸がん、肝臓がん、子宮頸がん、前立腺がん、骨肉腫、乳がん、又は黒色腫細胞である、請求項3~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記がん細胞が、合胞がん細胞である、請求項3~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、前記間葉系統前駆体又は幹細胞によって発現され、前記がん細胞によって発現されないオリゴヌクレオチドに相補的であるヌクレオチド配列を挿入するように修飾される、請求項3~36のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項38】
前記オリゴヌクレオチドが、miRNAである、請求項37に記載の方法又は組成物。
【請求項39】
対象のがんを治療する方法であって、請求項1又は4~30のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、前記対象のがんを含むがん細胞によっても発現されるコネキシンを発現する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記コネキシンが、Cx40又はCx43である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記対象のがんを含むがん細胞が、Cx43を発現する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記がんが、肺がん、膵臓がん、大腸がん、肝臓がん、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、骨肉腫及び黒色腫からなる群から選択される、請求項2、4~30又は39~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞が、前記間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらすように処理されている、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項45】
前記処理が、前記間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらす条件下でのグリコシルストラフェラーゼへの前記間葉系統前駆体又は幹細胞の曝露を伴う、請求項44に記載の方法又は組成物。
【請求項46】
前記グリコシルトランスフェラーゼが、フコシルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、又はシアリルトランスフェラーゼである、請求項45に記載の方法又は組成物。
【請求項47】
前記フコシルトランスフェラーゼが、α1,3フコシルトランスフェラーゼIII、α1,3フコシルトランスフェラーゼIV、α1,3フコシルトランスフェラーゼVI、α1,3フコシルトランスフェラーゼVII、又は、α1,3フコシルトランスフェラーゼIXなどのα1,3フコシルトランスフェラーゼである、請求項46に記載の方法又は組成物。
【請求項48】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、外因性グリコシルトランスフェラーゼに曝露され、前記グリコシルトランスフェラーゼへの曝露が、インビボでの炎症部位における前記細胞の保持の増強をもたらす、請求項44~47のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項49】
前記間葉系統前駆体又は幹細胞が、グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸を導入するように修飾されており、前記細胞内での前記グリコシルトランスフェラーゼの発現が、インビボでの炎症部位での前記細胞の保持の増強をもたらす、請求項44~48のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本国際出願は、2020年8月10日に出願された米国仮出願第63/063,657号の優先権利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された細胞組成物に関する。そのような組成物は、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達することによってがんを治療するために使用され得る。
【背景技術】
【0003】
がんの治療には、典型的には、腫瘍細胞を除去又は殺傷するための外科的切除、標準的な化学療法、及び/又は放射線療法が含まれる。しかしながら、これらの治療の有効性は、腫瘍の浸潤性及び/又は健康な組織への付随的損傷のために制限されることが多い。この状況は、新規の治療戦略の必要性を意味し、そのようなアプローチの1つは、ウイルスの使用である。
【0004】
腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞内で特異的に複製し、腫瘍細胞を破壊することができるウイルスであり、この特性は、固有の又は遺伝的に操作されたものである。残念ながら、有望な研究結果はまだ改善された臨床結果に変換されておらず、これは腫瘍及びその微小環境、ウイルス、及び宿主免疫との複雑な相互作用によって決定されるようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達する改善された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、間葉系統前駆体又は幹細胞が、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達して、がん細胞の増殖を低減させることができることを同定した。本発明者らはまた、間葉系統前駆体又は幹細胞が、標的細胞を腫瘍溶解性ウイルスに感染させるための間葉系幹細胞よりも優れたビヒクルであることを同定した。
【0008】
がん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達のために間葉系統前駆体又は幹細胞を使用することの1つの利点は、がん細胞のホームへの間葉系統前駆体又は幹細胞の能力である。間葉系統前駆体又は幹細胞の遊走及び接着能力は、それらをこの目的のために特に好適にする。
【0009】
がん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達のために間葉系統前駆体又は幹細胞を使用する別の利点は、TNF-アルファ及び/又はIL-6などの炎症性メディエーターを抑制する能力である。高レベルのANG1及び比較的低レベルのVEGFを発現する間葉系統前駆体又は幹細胞は、この目的に特に好適であり得る。
【0010】
したがって、第1の例では、本開示は、間葉系統前駆体又は幹細胞を含む組成物に関するものであり、当該細胞は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。一例では、間葉系前駆体系統又は幹細胞は、STRO-1+である。一例では、間葉系前駆体系統又は幹細胞は、STRO-3+である。一例では、間葉系前駆体系統又は幹細胞は、TNAP+である。一例では、間葉系前駆体系統又は幹細胞は、α1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現する。一例では、間葉系統前駆体細胞は、まだ間葉系幹細胞に分化していない。
【0011】
別の例では、本開示は、対象のがんを治療する方法に関するものであり、本方法は、本開示の組成物を投与することを含む。一例では、本方法は、STRO-1+間葉系統前駆体又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、当該細胞は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。別の例では、本開示は、腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する方法に関するものであり、本方法は、がん細胞を、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される間葉系統前駆体細胞と接触させることを含む。一例では、間葉系前駆体系統又は幹細胞は、STRO-1+、並びにα1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現する。一例では、接触は、間葉系統前駆体又は幹細胞ががん細胞とギャップ接合部を形成することを可能にする条件下で行われ、それによって腫瘍溶解性ウイルスは、ギャップ接合部を横断することによってがん細胞に送達される。一例では、ギャップ接合部は、Cx40又はCx43によって形成される。別の例では、ギャップ接合部は、Cx43によって形成される。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスの送達は、Cx43以外のメカニズムを介してである。一例では、がん細胞は、肺がん、膵臓がん、大腸がん、肝臓がん、子宮頸がん、前立腺がん、骨肉腫、乳がん、又は黒色腫細胞である。別の例では、がん細胞は、合胞がん細胞である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系統前駆体又は幹細胞によって発現され、がん細胞によって発現されないオリゴヌクレオチドに相補的であるヌクレオチド配列を挿入するように修飾される。一例では、オリゴヌクレオチドは、miRNAである。
【0012】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、実質的にSTRO-1briである。
【0013】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍特異的プロモーター及び/又は腫瘍特異的細胞表面分子に結合するキャプシドタンパク質を含む。例えば、腫瘍特異的プロモーターは、サバイビンプロモーター、COX-2プロモーター、PSAプロモーター、CXCR4プロモーター、STAT3プロモーター、hTERTプロモーター、AFPプロモーター、CCKARプロモーター、CEAプロモーター、erbB2プロモーター、E2F1プロモーター、HE4プロモーター、LPプロモーター、MUC-1プロモーター、TRP1プロモーター、Tyrプロモーターであり得る。
【0014】
一例では、キャプシドタンパク質は、繊維、ペントン又はヘキソンタンパク質である。
【0015】
別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を形質導入的に標的化するための腫瘍特異的細胞表面分子を含む。
【0016】
一例では、腫瘍特異的細胞表面分子は、インテグリン、EGF受容体ファミリーメンバー、プロテオグリカン、ジシアロガングリオシド、B7-H3、がん抗原125(CA-125)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、血管内皮成長因子受容体1、血管内皮成長因子受容体2、がん胎児抗原(CEA)、腫瘍関連糖タンパク質、表面抗原分類19(CD19)、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD44、CD52、CD74、CD152、ムチン1(MUC1)、腫瘍壊死因子受容体、インスリン様成長因子受容体、葉酸受容体a、膜貫通糖タンパク質NMB、C-Cケモカイン受容体、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、recepteur d’origine Nantais(RON)受容体、及び細胞傷害性Tリンパ球抗原4からなる群から選択される。
【0017】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、条件的複製アデノウイルス(CRAd)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ワクシニアウイルス、レンチウイルス、レオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、又は水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びパルボウイルスである。
【0018】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、Cx40、Cx43、Cx45、Cx32、及びCx37からなる群から選択されるコネキシンを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、α2、α3及びα5からなる群から選択されるインテグリンを発現する。
【0019】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、がん細胞を殺傷するが、間葉系統前駆体又は幹細胞の生存率に実質的に影響を及ぼさない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。
【0020】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、それらががん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達し得る前に、間葉系統前駆体又は幹細胞を殺傷しない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。
【0021】
別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞への間葉系前駆体系統又は幹細胞融合の誘導を媒介するためにウイルス性融合膜糖タンパク質を発現する。例えば、ウイルス性融合膜糖タンパク質は、テナガザル白血病ウイルス(GLAV)エンベロープ糖タンパク質、麻疹ウイルスタンパク質F(MV-F)及び麻疹ウイルスタンパク質H(MV-H)であり得る。
【0022】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.1μg/106個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.3μg/106個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.5μg/106個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.7μg/106個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも1.0μg/106個の細胞の量でアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する。
【0023】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、約0.05μg/106個の細胞未満の量で血管内皮成長因子(VEGF)を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、約0.02μg/106個の細胞未満の量で血管内皮成長因子(VEGF)を発現する。
【0024】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約10:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約20:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約30:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約50:1の比率でAng1:VEGFを発現する。
【0025】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、Ang1又はVEGFを発現するように遺伝子修飾されない。
【0026】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、多能性細胞に由来する。一例では、多能性細胞は、誘導多能性幹(iPS)細胞である。
【0027】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、並びにα1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択されるマーカーのうちの2つ以上を発現する。
【0028】
別の例では、本開示は、対象のがんを治療する方法に関するものであり、本方法は、本明細書に開示される組成物を投与することを含む。一例では、組成物は、STRO-1、並びにα1、α2、α3、α4、及びα5、αv、β1、並びにβ3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現する間葉系統前駆体又は幹細胞を含み、当該細胞は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、対象のがんを含むがん細胞によっても発現されるコネキシンを発現する。例えば、コネキシンは、Cx40又はCx43であり得る。
【0029】
一例では、対象のがんを含むがん細胞は、Cx43を発現する。一例では、がんは、肺がん、膵臓がん、大腸がん、肝臓がん、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、骨肉腫及び黒色腫からなる群から選択される。
【0030】
別の例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらすように処理されている。一例では、処理は、間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらす条件下でのグリコシルストラフェラーゼへの間葉系統前駆体又は幹細胞の曝露を伴う。一例では、グリコシルトランスフェラーゼは、フコシルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、又はシアリルトランスフェラーゼである。例えば、フコシルトランスフェラーゼは、α1,3フコシルトランスフェラーゼIII、α1,3フコシルトランスフェラーゼIV、α1,3フコシルトランスフェラーゼVI、α1,3フコシルトランスフェラーゼVII、又は、α1,3フコシルトランスフェラーゼIXなどのα1,3フコシルトランスフェラーゼであり得る。
【0031】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、外因性グリコシルトランフェラーゼに曝露され、グリコシルトランスフェラーゼへの曝露は、インビボでの炎症部位における細胞の保持の増強をもたらす。
【0032】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸を導入するように修飾されており、細胞内でのグリコシルトランスフェラーゼの発現は、インビボでの炎症部位での細胞の保持の増強をもたらす。
【0033】
本明細書における任意の例は、特に明記されない限り、任意の他の例に準用されるものとする。
【0034】
本開示は、例示のみを目的とする本明細書に記載される特定の実施例によって範囲が限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内である。
【0035】
本明細書全体を通して、別段に具体的に記載されない限り、又は文脈が別様に要求する場合を除き、単一のステップ、物質の組成物、ステップのグループ、又は物質の組成物のグループへの言及は、それらのステップ、物質の組成物、ステップのグループ、又は物質の組成物のグループのうちの1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含するように取られなければならない。
【0036】
本開示は、以下の非限定的な実施例によって、及び添付の図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】(A及びB)MPCへのウイルス送達の概要。
【
図6】(A及びB)HSVQ(親ウイルス)及びHSV-P10(PTENα発現ウイルス)のウイルス骨格。
【
図7】(A及びB)間葉系幹細胞(MSC)のHSV-P10負荷。
【
図8】(A及びB)HSV-P10及びHSVQ充填間葉系幹細胞(MSC)の生存率。
【
図9】(A及びB)HSV-P10充填間葉系幹細胞(MSC)のPTENαの発現及びPI3K/AKTシグナル伝達経路への効果。
【
図10】HSV-P10及びHSVQ充填間葉系幹細胞(MSC)のヒト乳がん細胞への遊走(MDA-468)。
【
図11】(A及びB)ヒト神経膠腫細胞に対するHSV-P10充填間葉系幹細胞(MSC)の効果。
【
図12】HSV-P10及びHSVQ充填間葉系幹細胞(MSC)と共培養したDB7マウス乳がん細胞の腫瘍細胞死の誘導。
【
図13】(A及びB)MSC及びMPCにおける腫瘍溶解性HSV複製。
【
図14】腫瘍溶解性HSV感染後のMSC及びMPC生存率。
【
図15】RSVに感染したA549。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図16】RSVに感染したH1299。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図17】RSVに感染したH1650。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図18】RSVに感染したLLC。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図19】RSVに感染したU2-OS。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図20】RSVに感染したSK-ES1。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図21】RSVに感染した4T1。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図23】RSVに感染したMPC。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図25】RSVに感染したMSC。LHS-蛍光顕微鏡法、RHS-細胞生存率。
【
図26】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後のA549細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【
図27】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後のH1299細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【
図28】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後のH1650細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【
図29】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後のLLC細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【
図30】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後のU2-OS細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【
図31】RSV感染MPC又はMSCからの上清と接触した後の4T1細胞における蛍光顕微鏡法。赤色蛍光マーカーmKate2を発現するRSV。
【発明を実施するための形態】
【0038】
一般的な技術及び選択された定義
別途特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有するものとする(例えば、分子生物学、細胞培養、幹細胞分化、細胞療法、遺伝子修飾、ウイルス学、腫瘍学、生化学、生理学、及び臨床研究)。
【0039】
特に指示がない限り、本開示で利用される分子及び統計技術は、当業者に周知の標準的な手順である。そのような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984),J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989),T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991),D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996),and F.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,including all updates until present),Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988),and J.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(including all updates until present)などソースの文献を通じて記載され、説明されている。
【0040】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形及び単数形「a」、「an」、及び「the」における用語は、例えば、その内容に別段の明確な指示がない限り、任意に、複数参照を含む。したがって、例えば、「分析物」への言及は、任意に、1つ以上の分析物を含む。
【0041】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、反対に記載されない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-1%を指す。
【0042】
「及び/又は」という用語、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味することが理解され、両方の意味又はいずれかの意味を明示的に支持するように解釈される。
【0043】
本明細書全体を通して、単語「comprise(含む)」、又は「comprises(含む)」若しくは「comprising(含む)」などの変形例は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループの包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループの排除を意味するものではないと理解されるであろう。
【0044】
本明細書で使用される場合、「コネキシン」という用語は、細胞間通信、並びにイオン及び小シグナル伝達分子の移動を可能にし、ギャップ接合部を形成するように組み立てる、膜貫通タンパク質のラージファミリーを意味する。コネキシンは、C及びN細胞質末端、細胞質ループ(CL)、並びに2つの細胞外ループ(EL-I)及び(EL-2)の両方を有する4回膜貫通タンパク質である。コネキシンは、6つのグループに分かれて組み立てられ、ヘミチャンネル又はコネクソンを形成し、2つのヘミチャンネル(各細胞に1つずつ)が組み合わされて、2つの細胞間のギャップ接合部を形成する。コネキシンという用語はCxと略され、Cxをコードする遺伝子である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ギャップ接合部」という用語は、細胞型間の特殊な細胞間接続を意味する。ギャップ接合部は、2つの細胞の細胞質を直接接続し、核酸、イオン、電気インパルスなどの様々な分子が細胞間の調節されたゲートを直接通過することを可能にする。
【0046】
様々な対象に、本開示による細胞組成物を投与することができる。一例では、対象は、哺乳類である。哺乳類は、イヌ若しくはネコなどの伴侶動物であり得るか、又はウマ若しくはウシなどの家畜動物であり得る。別の例では、対象は、ヒトである。「対象」、「患者」、又は「個体」などの用語は、文脈において、本開示において互換的に使用することができる用語である。
【0047】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、臨床病理学の経過中に治療される個体又は細胞の自然経過を変更するように設計された臨床介入を指す。治療の望ましい効果としては、疾患悪化速度の低下、疾患状態の改善又は緩和、並びに寛解又は予後の改善が挙げられる。個体は、例えば、疾患に関連する1つ以上の症状が緩和又は排除された場合に、正常に「治療」される。
【0048】
「有効量」とは、所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び期間で少なくとも有効な量を指す。有効量は、1回以上の投与で提供することができる。本開示のいくつかの例では、「有効量」という用語は、本明細書に記載の疾患又は状態の治療をもたらすために必要な量を指すために使用される。有効量は、治療される疾患又は状態に応じて、また、体重、年齢、人種的背景、性別、健康及び/又は身体的状態、及び治療される哺乳類に関連する他の要因に応じて変化し得る。典型的には、有効量は、比較的広い範囲(例えば、「投与量」範囲)内に収まり、これは、医師による定期的な試験及び実験によって決定され得る。有効量は、単回用量で、又は治療期間にわたって1回又は数回繰り返される用量で投与され得る。
【0049】
「治療有効量」は、特定の障害(例えば、がん)の測定可能な改善をもたらすために必要な少なくとも最小濃度である。本明細書における治療有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する細胞組成物の能力などの因子に従って変化し得る。治療有効量はまた、組成物の任意の毒性又は有害な効果が治療上有益な効果によって上回られるものである。がんの場合、治療上有効な量は、がん細胞の数を低減させることができ、原発性腫瘍のサイズを低減させることができ、末梢臓器へのがん細胞の浸潤を阻害する(すなわち、ある程度遅く、及びいくつかの例では停止する)ことができ、腫瘍転移を阻害する(すなわち、ある程度遅く、及びいくつかの例では停止する)ことができ、腫瘍の成長若しくは腫瘍の悪化をある程度阻害若しくは遅らせることができ、かつ/又は障害に関連する症状のうちの1つ以上をある程度緩和することができる。本開示による組成物が、既存のがん細胞の増殖及び/又は殺傷を妨げ得る範囲において、それは、細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性であり得る。がん療法の場合、インビボでの有効性は、例えば、生存期間、疾患悪化までの時間(TTP)、奏効率(RR)、応答期間、及び/又は生活の質を評価することによって測定することができる。
【0050】
一例では、特定のマーカーのレベルは、培養条件下で決定される。「培養条件」という用語は、培養物中で成長する細胞を指すために使用される。一例では、培養条件は、能動的に分裂する細胞集団を指す。そのような細胞は、一例では、指数関数的成長段階にあり得る。例えば、特定のマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。別の例では、特定のマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、細胞溶解物中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。分泌マーカーが培養培地をサンプリングすることによって測定される一方で、細胞の表面上に発現されるマーカーは、細胞溶解物の試料を評価することによって測定され得る当業者。一例では、細胞が指数関数的成長段階にあるときに試料が採取される。一例では、試料は、少なくとも2日間の培養後に採取される。
【0051】
凍結保存された中間体からの細胞を増殖させる培養とは、細胞の増殖に好適な条件下で極低温凍結及びインビトロ培養を受ける細胞を解凍することを意味する。
【0052】
間葉系統前駆体(MPC)又は幹細胞
本明細書で使用される場合、「間葉系統前駆体又は幹細胞」という用語は、多能性を維持しながら自己更新する能力を有する未分化多能性細胞を指し、間葉起源、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱、又は非中胚葉起源、例えば、肝細胞、神経細胞及び上皮細胞のいずれかのいくつかの細胞型に分化する能力を指す。
【0053】
「間葉系統前駆体又は幹細胞」という用語は、親細胞及びそれらの未分化子孫の両方を含む。この用語はまた、間葉系統前駆体又は幹細胞(MPC)、多能性間質細胞、間葉系幹細胞、血管周囲間葉系統前駆体又は幹細胞、及びそれらの未分化子孫を含む。
【0054】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、自己、同種異系、異種、同系又は同種であり得る。自己細胞は、それらが再移植されるのと同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。同系又は同種細胞は、双子、クローン、又は高度に近交系の研究動物モデルなどの遺伝的に同一の生物から単離される。
【0055】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、同種異系である。一例では、同種異系間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養増殖及び凍結保存される。
【0056】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、主に骨髄に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、海綿骨及び歯髄を含む多様な宿主組織にも存在することが示されている。
【0057】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1を発現する。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、本明細書に開示される腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される前にSTRO-1+を発現する間葉系統前駆体又は幹細胞の集団から培養増殖される。培養増殖及びそのための方法は、以下で更に考察する。
【0058】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及び1つ以上のインテグリンを発現する。インテグリンは、細胞-細胞及び細胞外マトリックス接着事象の両方を媒介する細胞接着受容体のクラスである。インテグリンは、単一のα鎖ポリペプチドが、単一のβ鎖と非共有結合的に会合するヘテロ二量体ポリペプチドからなる。現在、細胞接着受容体のインテグリンファミリーを構成する約16個の異なるα鎖ポリペプチド及び少なくとも約8個の異なるβ鎖ポリペプチドが存在する。一般に、異なる結合特異性及び組織分布は、α及びβ鎖ポリペプチド又はインテグリンサブユニットの独自の組み合わせに由来する。特定のインテグリンが関連付けられるファミリーは、通常、βサブユニットを特徴とする。しかしながら、インテグリンのリガンド結合活性は、主にαサブユニットの影響を受ける。
【0059】
一例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及びβ1(CD29)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。
【0060】
別の例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+並びにα1(CD49a)、α2(CD49b)、α3(CD49c)、α4(CD49d)、α5(CD49e)及びαv(CD51)からなる群から選択されるα鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。したがって、一例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα1を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα2を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα3を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα4を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα5を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びαvを発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、α2及びα3を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、α2及びα5を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、α3及びα5を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、α2、α3及びα5を発現する。
【0061】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα1+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α1+細胞を濃縮した集団は、少なくとも約3%又は4%又は5%のα1+細胞を含むことができる。
【0062】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα2+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α2+細胞を濃縮した集団は、少なくとも約30%又は40%又は50%のα2+細胞を含むことができる。
【0063】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα3+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α3+細胞を濃縮した集団は、少なくとも約40%又は45%又は50%のα3+細胞を含む。
【0064】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα4+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α4+細胞を濃縮した集団は、少なくとも約5%又は6%又は7%のα4+細胞を含む。
【0065】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα5+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α5+細胞を濃縮した集団は、少なくとも45%又は50%又は55%のα5+細胞を含む。
【0066】
別の例では、本開示は、STRO-1及びαv+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、αv+細胞を濃縮した集団は、少なくとも約5%又は6%又は7%のαv+細胞を含む。
【0067】
別の例では、本開示は、STRO-1、α1+、α3+、α4+及びα5+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。
【0068】
上記の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、β1鎖ポリペプチドを有し得る。例えば、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、α1β1、α2β1、α3β1、α4β1、及びα5β1からなる群から選択されるインテグリンを発現することができる。したがって、一例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα1β1を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα2β1を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα4β1を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びα5β1を発現する。
【0069】
別の例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及びβ3(CD61)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。一例では、本開示は、STRO-1及びβ3+細胞を濃縮した間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を包含する。この例では、β3+細胞を濃縮した集団は、少なくとも8%又は10%又は15%のβ3+細胞を含む。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びαvβ3を発現する。別の例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及びβ5(ITGB5)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及びαvβ5を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+及びαvβ6を発現する。
【0070】
別の例では、本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞は、CD271を発現する。
【0071】
上記参照インテグリンを発現する間葉系統前駆体又は幹細胞の同定及び/又は濃縮は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して達成され得る。一例では、蛍光活性化細胞選別(FACS)は、市販の抗体(例えば、Thermofisher、Pharmingen、Abcam)を使用して、所望のインテグリンポリペプチド鎖又はそれらの組み合わせを発現する細胞を同定及び選択するために使用することができる。
【0072】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1及びコクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体を発現する。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1、コクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体、並びに上記参照インテグリンのうちの1つ以上を発現する。
【0073】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、コクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体、αvβ3及びαvβ5を発現する。
【0074】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、細胞表面上で上記参照インテグリンの又はコクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体のうちの1つ以上を発現するように遺伝子修飾される。
【0075】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)であるSTRO-1を発現する。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、STRO-1+、CAR、αvβ3及びαvβ5を発現する。
【0076】
一例では、CARを発現する間葉系統前駆体又は幹細胞は、T細胞媒介性免疫応答を誘発することができる。別の例では、CARは、間葉系統前駆体又は幹細胞をがん細胞に付着させる手段として機能する。別の例では、CARは、間葉系統前駆体又は幹細胞のがん細胞への付着の増強を誘発する手段として機能する。
【0077】
一例では、CARは、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインからなる。一例では、抗原結合ドメインは、1つ以上の腫瘍抗原に対する親和性を有する。例示的な腫瘍抗原としては、HER2、CLPP、707-AP、AFP、ART-4、BAGE、MAGE、GAGE、SAGE、b-カテニン/m、bcr-abl、CAMEL、CAP-1、CEA、CASP-8、CDK/4、CDC-27、Cyp-B、DAM-8、DAM-10、ELV-M2、ETV6、G250、Gp100、HAGE、HER-2/neu、EPV-E6、LAGE、hTERT、サバイビン、iCE、MART-1、チロシナーゼ、MUC-1、MC1-R、TEL/AML、及びWT-1が挙げられる。
【0078】
例示的な細胞内ドメインとしては、CD3-ゼータ、CD28、4-IBBなどが挙げられ、場合によっては、CARは、CD3-ゼータ、CD28、4-1BB、TLR-4の任意の組み合わせを含むことができる。
【0079】
例示的な膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファ、ベータ、又はゼータ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CDS、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、35 CD154に由来する(すなわち、少なくともその膜貫通領域を含む)ことができる。別の例では、膜貫通ドメインは、合成であり得、この場合、それは、主に、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を含む。
【0080】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、上記で呼ばれるものなどの宿主組織から単離され、免疫選択によって濃縮され得る。例えば、対象からの骨髄穿刺液は、間葉系統前駆体又は幹細胞の選択を可能にするために、STRO-1又はTNAPに対する抗体で更に処理され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、Simmons&Torok-Storb,1991に記載されているSTRO-1抗体を使用することによって濃縮することができる。
【0081】
STRO-1+細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見られ、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉などの生殖細胞系に分化することができる。したがって、STRO-1+細胞は、脂肪性、骨性、軟骨性、弾性、筋性、及び線維性結合組織を含むが、これらに限定されない多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が入る特定の分化系列決定及び分化経路は、成長因子、サイトカイン、及び/又は宿主組織によって確立された局所的な微小環境条件などの機械的影響及び/又は内因性生物活性因子からの様々な影響に依存する。
【0082】
本明細書で使用される「濃縮された」という用語は、1つの特定の細胞型の割合又は多数の特定の細胞型の割合が、未処理の細胞集団(例えば、その天然環境中の細胞)と比較して増加する細胞集団を説明する。一例では、STRO-1+細胞のために濃縮された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1+細胞を含む。この点で、「STRO-1+細胞のために濃縮された細胞の集団」という用語は、「X%STRO-1+細胞を含む細胞の集団」という用語を明示的に支持するために使用され、X%は、本明細書に列挙されるようなパーセンテージである。STRO-1+細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニーを形成することができ、例えば、CFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)は、この活性を有することができる。
【0083】
一例では、細胞集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。この点で、「選択可能な形態」という用語は、細胞が、STRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1であり得るが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示されるように、STRO-2及び/若しくはSTRO-3(TNAP)及び/若しくはSTRO-4及び/若しくはVCAM-1及び/若しくはCD146及び/若しくは3G5を発現する細胞(例えば、MPC)もSTRO-1を発現する(及びSTRO-1brightであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1発現によって選択されることを意味するものではない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらは、STRO-3+(TNAP+)である。
【0084】
細胞又はその集団の選択への言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択されるか、単離されるか、又は濃縮されることができる。とは言うものの、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞を含む任意の組織、又は末梢細胞(例えば、STRO-1+又は3G5+末梢細胞)を含む血管化組織若しくは組織、又は本明細書に列挙される組織のうちのいずれか1つ以上からの選択のためのサポートを提供する。
【0085】
一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+からなる群から個別に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0086】
「個別に」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカーのグループを別々に包含することを意味し、個々のマーカー又はマーカーのグループが本明細書に別々に列挙され得ないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのようなマーカー又はマーカーのグループを、互いに別々にかつ分割可能に定義し得る。
【0087】
「集合的に」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカーのグループの任意の数又は組み合わせを包含することを意味し、そのようなマーカー又はマーカーのグループの数又は組み合わせが本明細書に具体的に列挙され得ないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのような組み合わせ又はサブ組み合わせを、マーカー又はマーカーのグループの任意の他の組み合わせから別々にかつ分割可能に定義し得ることを意味する。
【0088】
所与のマーカーに対して「陽性」であると呼ばれる細胞は、マーカーが細胞表面上に存在する程度に応じて、そのマーカーの低(lo又はdim又はdull)、中間(中央値)又は高(bright、bri)レベルのいずれかを発現してもよく、この用語は、細胞の選別プロセス又は細胞のフローサイトメトリー分析で使用される蛍光又は他のマーカーの強度に関連する。低(lo又はdim又はdull)、中間(中央値)、又は高(bright、bri)の区別は、選別又は分析される特定の細胞集団で使用されるマーカーの文脈で理解される。所与のマーカーに対して「陰性」と呼ばれる細胞は、必ずしもその細胞から完全に不在であるとは限らない。この用語は、マーカーがその細胞によって比較的非常に低いレベルで発現され、検出可能に標識されたときに非常に低いシグナルを生成するか、又はバックグラウンドレベル、例えばアイソタイプ対照抗体を使用して検出されたレベルよりも検出できないことを意味する。
【0089】
本明細書で使用される場合、「bright」又はbriという用語は、検出可能に標識された場合に比較的高いシグナルを生成する細胞表面上のマーカーを指す。理論に限定されることを望まないが、「bright」細胞は、試料中の他の細胞よりも多くの標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1抗体によって認識される抗原)を発現することが提案される。例えば、STRO-1bri細胞は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によって決定されるように、FITC共役STRO-1抗体で標識された場合、非bright細胞(STRO-1lo/dim/dull/中間/中央値)よりも大きな蛍光シグナルを生成する。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、骨髄から単離され、STRO-1+細胞の選択によって濃縮される。この例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、又は少なくとも約2%を構成する。一例では、STRO-1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわち、STRO-1-である細胞と比較して、STRO-1表面発現の2対数高い大きさの発現を有する。比較すると、STRO-1lo/dim/dull及び/又はSTRO-1中間体/中央値細胞は、STRO-1表面発現の2対数未満の大きさ、典型的には約1対数、又は「バックグラウンド」未満の発現を有する。
【0090】
一例では、STRO-1+細胞は、STRO-1brightである。一例では、STRO-1bright細胞は、STRO-1lo/dim/dull又はSTRO-1中間体/中央値細胞に対して優先的に濃縮される。
【0091】
一例では、STRO-1bright細胞は、追加的に、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、及び/又はCD146+のうちの1つ以上である。例えば、細胞は、前述のマーカーのうちの1つ以上について選択され、かつ/又は前述のマーカーのうちの1つ以上を発現するように示される。これに関して、マーカーを発現することが示されている細胞は、特異的に試験される必要はなく、むしろ、以前に濃縮された又は単離された細胞を試験し、その後、同じマーカーも発現すると合理的に仮定することができる。
【0092】
一例では、STRO-1bright細胞は、血管周囲マーカー3G5の存在を特徴とする、WO2004/85630に定義される血管周囲間葉系統前駆体又は幹細胞である。
【0093】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPは、BAPである。一例では、TNAPは、ブダペスト条約の規定に基づいて2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に、寄託受託番号PTA-7282の下で結合することができる分子を指す。
【0094】
更に、一例では、STRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0095】
一例では、STRO-1+細胞の大幅な割合は、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。細胞に深く関与し得る系統の非限定的な例としては、骨前駆体細胞、胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞、乏突起膠細胞及び星状細胞に進行するグリア細胞前駆体を生成することができる神経制限細胞、ニューロンに進行する神経前駆体、心筋及び心筋細胞の前駆体、膵β細胞株を分泌するグルコース応答性インスリンが挙げられる。他の系統としては、象牙芽細胞、象牙質生成細胞及び軟骨細胞、並びにケラチノサイト、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、グリア、ニューロン、星状細胞及び乏突起膠細胞などの網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、皮膚細胞の前駆体細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、MSCである。MSCは、均質な組成物であってもよく、又はMSCを濃縮した混合細胞集団であってもよい。均質なMSC組成物は、接着性骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得られ得、MSCは、独自のモノクローナル抗体で同定される特定の細胞表面マーカーによって同定され得る。MSCを濃縮した細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。従来のプラスチック接着単離によって調製されるMSCは、CFU-Fの非特異的なプラスチック接着特性に依存する。他のプラスチック接着性骨髄集団の不在下で、STRO-1に基づく免疫選択によって骨髄から単離される間葉系統前駆体又は幹細胞は、骨髄集団からクローン原性間葉系統前駆体を特異的に単離する。MSCの代替の供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、MSCは、同種である。一例では、MSCは、凍結保存される。一例では、MSCは、培養増殖及び凍結保存される。
【0097】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性細胞に由来する。一実施形態では、多能性細胞は、ヒト多能性細胞である。多能性細胞からの間葉系統前駆体又は幹細胞の生成のための好適なプロセスは、例えば、US7,615,374及びUS2014/273211、Barberi et al;Plos medicine,Vol 2(6):0554-0559(2005),and Vodyanik et al.Cell Stem cell,Vol 7:718-728(2010)に記載されている。
【0098】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は不死化される。不死化された間葉系統前駆体又は幹細胞の生成のための例示的なプロセスは、例えば、Obinata M.,Cell,Vol 2:235-244(1997),US9,453,203,Akimov et al.Stem Cells,Vol 23:1423-1433 and Kabara et al.Laboratory Investigation,Vol 94:1340-1354(2014)に記載されている。
【0099】
本開示の好ましい実施形態では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、健康なボランティアの骨髄から濃縮された間葉系統前駆体又は幹細胞に由来するマスター細胞バンクから得られる。このような供給源に由来する間葉系統前駆体又は幹細胞の使用は、間葉系統前駆体又は幹細胞ドナーとして機能することができる適切なファミリーメンバーを有していないか、又は即時治療を必要とし、間葉系統前駆体又は幹細胞を生成するのに要する時間中に再発、疾患関連の低下又は死亡のリスクが高い対象に特に有利である。
【0100】
別の例では、間葉系統前駆体細胞は、Cx43を発現する。別の例では、間葉系統前駆体細胞は、Cx40を発現する。別の例では、間葉系統前駆体細胞は、Cx43及びCx40を発現する。別の例では、間葉系統前駆体細胞は、Cx45、Cx32及び/又はCx37を発現する。一例では、間葉系統前駆体細胞は、特定のコネキシンを発現するように修飾されない。
【0101】
単離された又は濃縮された間葉系統前駆体細胞は、培養によってインビトロで増殖され得る。単離された又は濃縮された間葉系統前駆体細胞は、凍結保存され、解凍され、その後、培養によってインビトロで増殖され得る。
【0102】
一例では、単離された又は濃縮された間葉系統前駆体細胞を、培養培地(無血清又は血清補充)、例えば、5%ウシ胎仔血清(FBS)及びグルタミンを補充したα最小必須培地(αMEM)中で50,000個の生存細胞/cm2で播種し、37℃、20%O2で一晩培養容器に付着させる。その後、必要に応じて培養培地を置き換え、かつ/又は改変し、細胞を更に68~72時間、37℃、5%O2で培養する。
【0103】
当業者によって理解されるように、培養された間葉系統前駆体細胞は、インビボでの細胞と表現型的に異なる。例えば、一実施形態では、これらは、以下のマーカー、CD44、NG2、DC146、及びCD140bのうちの1つ以上を発現する。培養された間葉系統前駆体細胞もまた、インビボでの細胞とは生物学的に異なり、インビボでの大部分が非サイクリング(静止)細胞と比較して高い増殖速度を有する。
【0104】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得られ、ドナー試料又は間葉系統前駆体又は幹細胞は、その後プールされ、次いで培養増殖される。
【0105】
本開示によって包含される間葉系統前駆体又は幹細胞もまた、対象への投与前に凍結保存され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、対象への投与前に培養増殖及び凍結保存される。
【0106】
一例では、本開示は、間葉系統前駆体又は幹細胞、並びにその子孫、それに由来する可溶性因子、及び/又はそれから単離される細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系統前駆体又は幹細胞、並びにそこから単離された細胞外小胞を包含する。例えば、本開示の間葉系前駆体系統又は幹細胞を、細胞外小胞を細胞培養培地に分泌するのに好適な条件下で一定期間培養増殖することが可能である。分泌された細胞外小胞は、その後、療法に使用するために培養培地から得ることができる。
【0107】
本明細書で使用される場合、「細胞外小胞」という用語は、典型的には、200nm未満のサイズであるが、細胞から自然に放出され、約30nm~10ミクロンの大きさの範囲の脂質粒子を指す。これらは、放出細胞(例えば、間葉系幹細胞;STRO-1+細胞)からのタンパク質、核酸、脂質、代謝物、又はオルガネラを含有することができる。
【0108】
本明細書で使用される場合、「エクソソーム」という用語は、一般に、約30nm~約150nmのサイズの範囲であり、細胞膜に輸送され、放出される哺乳類細胞のエンドソーム区画に由来する一種の細胞外小胞を指す。それらは、核酸(例えば、RNA、マイクロRNA)、タンパク質、脂質、及び代謝物を含有してもよく、1つの細胞から分泌され、それらのカーゴを送達するために他の細胞に取り込まれることによって、細胞間情報伝達において機能する。
【0109】
細胞の培養増殖
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養増殖される。「培養増殖された」間葉系統前駆体又は幹細胞培地は、細胞培養培地中で培養され、継代された(すなわち、サブ培養された)という点で、新鮮に単離された細胞とは区別される。一例では、培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖された。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10の継代にわたって培養増殖される。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~10の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~8の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~7の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、10を超える継代にわたって培養増殖させることができる。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、7を超える継代にわたって培養増殖させることができる。これらの例では、幹細胞は、中間凍結保存されたMLPSC集団を提供するために凍結保存される前に培養増殖され得る。一例では、本開示の組成物は、中間凍結保存されたMLPSC集団、又は別の言い方をすると、凍結保存された中間体からの細胞を培養することによって産生される。
【0110】
一例では、本開示の組成物は、凍結保存された中間体から培養増殖される間葉系統前駆体又は幹細胞を含む。一例では、凍結保存された中間体から培養増殖された細胞は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10の継代にわたって培養増殖される。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~10の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~8の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~7の継代にわたって培養増殖させることができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、10を超える継代にわたって培養増殖させることができる。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、7を超える継代にわたって培養増殖させることができる。
【0111】
一例では、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞は、動物性タンパク質を含まない培地中で培養増殖させることができる。一例では、凍結保存された中間体から増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞培養物は、ゼノフリー培地中で培養増殖させることができる。一例では、凍結保存された中間体から増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞培養物は、ウシ胎仔血清を含まない培地中で培養増殖させることができる。
【0112】
一実施形態では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得ることができ、ドナー試料又は間葉系統前駆体又は幹細胞は、その後プールされ、次いで培養増殖される。一例では、培養増殖プロセスは、
i.継代増殖によって生存細胞の数を増殖して、少なくとも約10億個の生存細胞の調製物を提供することであって、継代増殖は、単離された間葉系統前駆体又は幹細胞の一次培養物を確立し、次いで、前の培養物から単離された間葉系統前駆体又は幹細胞の第1の非一次(P1)培養物を連続的に確立することを含む、増殖することと、
ii.単離された間葉系統前駆体又は幹細胞のP1培養物を、間葉系統前駆体又は幹細胞の第2の非一次(P2)培養物に継代増殖することによって増殖することと、
iii.間葉系統前駆体又は幹細胞のP2培養物から得られたプロセス中の中間間葉系統前駆体又は幹細胞調製物を調製し、凍結保存することと、
iv.凍結保存されたプロセス中の中間間葉系統前駆体又は幹細胞調製物を解凍し、継代増殖によりプロセス中の中間間葉系統前駆体又は幹細胞調製物を増殖することと、を含む。
【0113】
一例では、増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞調製物は、
i.約0.75%未満のCD45+細胞、
ii.少なくとも約95%のCD105+細胞、
iii.少なくとも約95%のCD166+細胞、を含む抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する。
【0114】
一例では、増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞調製物は、対照と比較して、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Rα発現を少なくとも約30%阻害することができる。
【0115】
一例では、培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖され、間葉系統前駆体又は幹細胞は、更なる培養増殖される前に、少なくとも2又は3継代後に凍結保存されている。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたって培養増殖され、凍結保存し、次いで、本開示の方法に従って培養される前に、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたって更に培養増殖される。
【0116】
間葉系統前駆体又は幹細胞単離及びエクスビボ増殖のプロセスは、当該技術分野で既知の任意の装置及び細胞ハンドリング方法を使用して実施され得る。本開示の様々な培養増殖実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、播種、栄養補給、接着培養物の解離、又は洗浄のステップを採用する。細胞を操作する任意のステップは、細胞を侵襲する可能性を有する。間葉系統前駆体又は幹細胞は、一般に、調製中にある程度の侵襲に耐えることができるが、細胞への侵襲を最小限に抑えながら、所与のステップを適切に実行する手順及び/又は装置を取り扱うことによって、細胞を操作することが好ましい。
【0117】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS6,251,295に記載される、細胞源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する回転膜フィルタ、濾液バッグ、混合ゾーン、洗浄細胞用の最終生成物バッグ、及び適切なチューブを含む装置において洗浄される。
【0118】
一例では、本開示に従って培養した間葉系統前駆体又は幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であり、CD45陰性であることに関して95%均質である。一例では、この均質性は、エクスビボ増殖を通じて持続する。すなわち、複数の集団が倍増する。
【0119】
一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物中で培養増殖される。例えば、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内で培養増殖することができる。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物中で更に増殖される前に、2D培養物中で最初に培養増殖される。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、マスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物に播種する前に、2D培養物中のマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に少なくとも3日間、2D培養物中のマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に少なくとも4日間、2D培養物中のマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に3~5日間、2D培養物中のマスター細胞バンクから培養増殖される。これらの例では、2D培養物は、セルファクトリーにおいて実施され得る。様々なセルファクトリー製品が市販されている(例えば、Thermofisher、Sigma)。
【0120】
Ang1及びVEGFレベル
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.1μg/106個の細胞の量でAng1を発現する。しかしながら、他の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも0.2μg/106個の細胞、0.3μg/106個の細胞、0.4μg/106個の細胞、0.5μg/106個の細胞、0.6μg/106個の細胞、0.7μg/106個の細胞、0.8μg/106個の細胞、0.9μg/106個の細胞、1μg/106個の細胞、1.1μg/106個の細胞、1.2μg/106個の細胞、1.3μg/106個の細胞、1.4μg/106個の細胞、1.5μg/106個の細胞の量でAng1を発現する。
【0121】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、VEGFを約0.05μg/106個の細胞未満の量で発現する。しかしながら、他の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、約0.05μg/106個の細胞、0.04μg/106個の細胞、0.03μg/106個の細胞、0.02μg/106個の細胞、0.01μg/106個の細胞、0.009μg/106個の細胞、0.008μg/106個の細胞、0.007μg/106個の細胞、0.006μg/106個の細胞、0.005μg/106個の細胞、0.004μg/106個の細胞、0.003μg/106個の細胞、0.002μg/106個の細胞、0.001μg/106個の細胞未満の量でVEGF発現する。
【0122】
間葉系統前駆体又は幹細胞の組成物又は培養物中に発現される細胞Ang1及び/又はVEGFの量は、当業者に既知の方法によって決定され得る。そのような方法としては、例えば、定量的ELISAアッセイなどの定量的アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。この例では、間葉系統前駆体又は幹細胞の培養物からの細胞溶解物を、ELISAプレートのウェルに添加する。ウェルは、Ang1又はVEGFに対して、モノクローナル又はポリクローナル抗体のいずれかの一次抗体でコーティングされ得る。次いで、ウェルを洗浄し、次いで、一次抗体に対してモノクローナル又はポリクローナル抗体のいずれかの二次抗体と接触させる。二次抗体は、例えば、ワサビペルオキシダーゼなどの適切な酵素にコンジュゲートされる。次いで、ウェルをインキュベートすることができ、次いで、インキュベーション期間後に洗浄する。次いで、ウェルを、1つ以上の色素原などの二次抗体にコンジュゲートされた酵素のための適切な基質と接触させる。使用され得る色素原としては、過酸化水素及びテトラメチルベンジジンが挙げられるが、これらに限定されない。基質を添加した後、ウェルを適切な期間インキュベートする。インキュベーションが完了すると、酵素と基質との反応を停止するために、「停止」溶液をウェルに添加する。次いで、試料の光学密度(OD)を測定する。試料の光学密度は、試験される幹細胞の培養によって発現されるAng1又はVEGFの量を決定するために、既知量のAng1又はVEGFを含有する試料の光学密度と相関する。
【0123】
別の態様では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約2:1の比でAng1:VEGFを発現する。しかしながら、他の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも約10:1、15:1、20:1、21:1、22:1、23:1、24:1、25:1、26:1、27:1、28:1、29:1、30:1、31:1、32:1、33:1、34:1、35:1、50:1の比率でAng1:VEGFを発現する。
【0124】
Ang1:VEGF発現比を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。例えば、Ang1及びVEGF発現レベルは、上で考察された定量的ELISAを介して定量化され得る。Ang1及びVEGFのレベルを定量化した後、Ang1及びVEGFの定量化レベルに基づく比は、(Ang1のレベル/VEGFのレベル)=Ang1:VEGF比として表すことができる。
【0125】
一例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、上記の例示レベル又は比でAng1及び/又はVEGFを発現するように遺伝子修飾されない。Ang1及び/又はVEGFを発現するように遺伝子修飾されない細胞は、Ang1及び/又はVEGFを発現又はコードする核酸によるトランスフェクションによって修飾されていない。疑義を避けるために、本開示の文脈において、Ang1及び/又はVEGFをコードする核酸でトランスフェクトされた間葉系統前駆体又は幹細胞は、遺伝的に修飾されるとみなされる。本開示の文脈では、Ang1及び/又はVEGFを発現するように遺伝子修飾されない細胞は、Ang1及び/又はVEGF1をコードする核酸によるトランスフェクションなしに、Ang1及び/又はVEGFをある程度自然に発現する。
【0126】
腫瘍溶解性ウイルス
「腫瘍溶解性ウイルス」という用語は、本開示の文脈において、腫瘍細胞の成長を感染及び減少させることができるウイルスを指すために使用される。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、細胞増殖を阻害することができる。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を殺傷することができる。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞と比較して、腫瘍細胞の成長に優先的に感染及び阻害する。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞と比較して、腫瘍細胞内で優先的に複製し、腫瘍細胞の成長を阻害する。
【0127】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を自然に感染させ、腫瘍細胞の成長を低減させることができる。そのようなウイルスの例としては、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎、粘液腫、レオウイルス、シンドビス、麻疹、及びコクサッキーウイルスが挙げられる。腫瘍細胞の成長を自然に感染及び低減させることができる腫瘍溶解性ウイルスは、一般に、これらの細胞で発生する細胞収差を利用することによって腫瘍細胞を標的とする。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、Ras、Akt、p53及び/又はインターフェロン(IFN)経路欠損などの活性化されたがん遺伝子である表面付着受容体を利用し得る。
【0128】
別の例では、本開示によって包含される腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞に感染し、腫瘍細胞の成長を低減するように操作される。そのような操作に好適な例示的なウイルスとしては、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、及びワクシニアウイルスなどの腫瘍溶解性DNAウイルス、並びにレンチウイルス、レオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びげっ歯類プロトパルボウイルスH-1PVなどのパルボウイルスなどの腫瘍溶解性RNAウイルスが挙げられる。
【0129】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、正常細胞内でのウイルスの生存に必要であるが、がん細胞内で消費可能な遺伝子を変異又は欠失させるように操作することができる。疑義を避けるために、変異又は欠失した遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系統前駆体又は幹細胞において、がん細胞への転移を可能にするのに十分な期間生存することができる。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、核酸代謝に必要な酵素であるチミジンキナーゼをコードする遺伝子を変異又は欠失させることによって操作することができる。この例では、ウイルスは、増殖性がん細胞では高いが、正常細胞では抑制される、細胞チミジンキナーゼ発現に依存する。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍特異的細胞表面分子に結合するキャプシドタンパク質を含むように操作される。一例では、キャプシドタンパク質は、繊維、ペントン又はヘキソンタンパク質である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を形質導入的に標的化するための腫瘍特異的細胞表面分子を含むように操作される。例示的な腫瘍特異的細胞表面分子としては、インテグリン、EGF受容体ファミリーメンバー、プロテオグリカン、ジシアロガングリオシド、B7-H3、CA-125、EpCAM、ICAM-1、DAF、A21、インテグリン-α2β1、血管内皮成長因子受容体1、血管内皮成長因子受容体2、CEA、腫瘍関連糖タンパク質、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD44、CD52、CD74、CD152、CD155、MUC1、腫瘍壊死因子受容体、インスリン様成長因子受容体、葉酸受容体、膜貫通糖タンパク質NMB、C-Cコカイン受容体、PSMA、RON受容体、及び細胞傷害性Tリンパ球抗原4が挙げられる。
【0130】
別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスのペイロードをがん細胞に送達するために、感染した間葉系統前駆体又は幹細胞の能力を増加させるように操作される。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞への間葉系前駆体系統又は幹細胞融合の誘導を媒介するために、ウイルス誘発性膜糖タンパク質を発現するように操作することができる。ウイルスフソゲン膜糖タンパク質の例としては、テナガザル白血病ウイルス(GLAV)エンベロープ糖タンパク質、麻疹ウイルスタンパク質F(MV-F)及び麻疹ウイルスタンパク質H(MV-H)が挙げられる。
【0131】
一例では、ウイルス性融合性膜糖タンパク質は、アデノウイルスメジャー遅発性プロモーターなどの遅発性プロモーターの制御下にある。一例では、ウイルス誘発性膜糖タンパク質は、ウイルスDNA複製の開始後にのみ活性であるUL38p(WO2003/082200)などの厳密な遅発性プロモーターの制御下にある。そのようなプロモーター及び遺伝子操作ウイルスの例は、Fu et al.(2003)Molecular Therapy,7:748-54 and Guedan et al.(2012)Gene Therapy,19:1048-1057に開示されている。
【0132】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、複製可能がある。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞及び/又は間葉系統前駆体若しくは幹細胞と比較したとき、腫瘍細胞内で選択的に複製する。一例では、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、腫瘍細胞内で構成的に活性化される転写活性(すなわち、条件的複製)に依存することによってウイルス複製を制限するように操作され得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、条件的複製性レンチウイルスである。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、条件的複製性アデノウイルス、レオウイルス、麻疹、単純ヘルペスウイルス、ニューカトル病ウイルス又はワクシニアである。
【0133】
一例では、条件的複製は、重要な遺伝子の発現を駆動する腫瘍特異的プロモーターの挿入によって達成される。そのようなプロモーターは、腫瘍、対応する周囲組織及び/又は間葉系統前駆体若しくは幹細胞間の遺伝子発現の違いに基づいて同定することができる。例えば、適切な腫瘍特異的プロモーターを同定する1つの方法は、腫瘍、対応する正常組織と間葉系統前駆体又は幹細胞との間の遺伝子発現レベルを比較して、腫瘍内で高レベルで発現され、対応する健康な組織及び/又は間葉系統前駆体又は幹細胞内で低レベルで発現されるそれらの遺伝子を同定することである。腫瘍特異的プロモーターは、天然又は複合であり得る。例示的な天然プロモーターとしては、AFP、CCKAR、CEA、erbB2、Cerb2、COX2、CXCR4、E2F1、HE4、LP、MUC1、PSA、サバイビン、TRP1、STAT3、hTERT及びTyrが挙げられる。例示的な複合プロモーターとしては、AFP/hAFP、SV40/AFP、CEA/CEA、PSA/PSA、SV40/Tyr及びTyr/Tyrが挙げられる。当業者は、適切な腫瘍特異的プロモーターが、いくつかの例では、標的腫瘍によって指示されることを理解するであろう。例えば、cerb2プロモーターは、乳がん及び膵臓がんに適していてもよく、PSAプロモーターは、前立腺がんに適していてもよい。
【0134】
別の例では、腫瘍特異的プロモーターは、対応する正常細胞及び/又は間葉系統前駆体若しくは幹細胞と比較した腫瘍細胞におけるプロモーター活性の差に基づいて同定することができる。例えば、適切な腫瘍特異的プロモーターを同定する1つの方法は、腫瘍細胞、対応する正常細胞及び/又は間葉系統前駆体又は幹細胞間のプロモーター活性を比較して、腫瘍細胞内での活性が高く、対応する正常細胞及び/又は間葉系統前駆体若しくは幹細胞内での活性が低いプロモーターを同定することである。一例では、腫瘍特異的プロモーターは、遅発性又は厳密な遅発性ウイルスプロモーターであり得る。「後期」及び「厳格後期」という用語は、ウイルスDNA複製の開始に依存する活性を有するプロモーターを指すために使用される。したがって、遅発性及び厳密な遅発性プロモーターは、腫瘍細胞で複製することができるが、非分裂正常細胞で複製する能力が限られている腫瘍溶解性ウイルスに含めるのに好適である。例示的な遅発性又は厳密な遅発性プロモーターとしては、メジャー遅発性プロモーター(MLP)及びUL38pが挙げられる。
【0135】
例では、腫瘍溶解性ウイルスは、遅発性又は厳密な遅発性プロモーターを含む呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、単純ヘルペスウイルス又はアデノウイルスである。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、UL38pプロモーターを含む単純ヘルペスウイルスである。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、MLPを含むアデノウイルスである。
【0136】
別の例では、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、腫瘍特異的な向性を利用するように操作することができる。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、低レベルで発現されるか、又は腫瘍細胞中に存在しない、正常細胞及び/又は間葉系統前駆体若しくは幹細胞中で発現されるオリゴヌクレオチド又は結合タンパク質に感受性である。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系統前駆体又は幹細胞及び/又は正常細胞によって発現され、がん細胞によって発現されないオリゴヌクレオチドに相補的であるヌクレオチド配列を挿入するように操作され得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、miRNAなどの阻害性オリゴヌクレオチドに感受性であり得る。いくつの腫瘍細胞で低レベルで発現し、対応する正常細胞で高レベルで発現する例示的なmiRNAとしては、let-7a-5p、miR-122-5p、miR-125b-5p、miR-141-3p、miR-143-3p、miR-15a-5p、miR-16-5p、miR-181a-5p、miR-181b-5p、miR-192-5p、miR-195-5p、miR-200b-3p、miR-200c-3p、miR-211-5p、miR-215-5p、miR-22-3p、miR-29a-3p、miR-29b-3p、miR-29c-3p、miR-30a-5p、miR-30c-5p、miR-34a-5p、miR-34c-5p、miR-424-5p、miR-497-5p、miR-7-5p、miR-101-3p、miR-124-3p、miR-126-3p、miR-137、miR-138-5p、miR-140-5p、miR-152-3p、miR-185-5p、miR-214-3p、miR-25-3p、miR-26a-5p、miR-26b-5p、miR-372-3p、miR-517a-3p、miR-520c-3p、miR-128-3p、miR-145-5p、miR-200a-3p、miR-502-5p、let-7d-5p、let-7e-5p、let-7f-5p、miR-155-5p、miR-98-5p、let-7b-5p、miR-1、miR-100-5p、miR-125a-5p、miR-133a-3p、miR-133b、miR-146a-5p、miR-150-5p、miR-193a-3p、miR-193b-3p、miR-196b-5p、miR-206、miR-218-5p、miR-223-3p、miR-23b-3p、miR-24-3p、miR-34b-3p、miR-449a、miR-542-5p、miR-99a-5p、let-7c-5p、let-7g-5p、let-7i-5p、miR-142-3p、miR-216b-5p、miR-622、miR-96-5p、miR-1291、miR-370-3p、miR-296-5p、miR-335-5p、miR-483-3p、miR-483-5p、miR-486-5pが挙げられ得る。
【0137】
別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、感染した腫瘍細胞内で遺伝子を発現するように操作することができる。一例では、遺伝子の発現は、間葉系統前駆体又は幹細胞において抑制される。一例では、遺伝子は、感染した腫瘍細胞に対する免疫応答を増強する。例えば、遺伝子は、GM-CSF、FLT3L、CCL3、CCL5、IL2、IL4、IL6、IL12、IL15、IL18、IFNA1、IFNB1、IFNG、CD80、4-1BBL、CD40L、ヒートショックタンパク質(HSP)、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0138】
上記の例に概説されるように、様々なウイルスを操作され得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、修飾呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、又は組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)などの組換え形態、並びに自己相補性AAV(scAAV)及び非統合AVなどのその誘導体である。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、修飾レンチウイルスであり得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、修飾RSVであり得る。
【0139】
他の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、様々なAV又はAAV血清型のうちの1つであり得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、血清型1である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、血清型2である。他の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、血清型3、4、7、8、9、10、11、12又は13である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、血清型5である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、血清型6である。
【0140】
本開示による間葉系統前駆体又は幹細胞に導入され得る例示的な腫瘍溶解性ウイルスとしては、T-Vec(HSV-1、Amgen)、JX-594(Vaccina、Sillajen)、JX-594(AdV、Cold Genesys)、Reolysin(Reovirus、Oncolytics Biotech)が挙げられる。腫瘍溶解性ウイルスの他の例は、WO2003/080083、WO2005/086922、WO2007/088229、WO2008/110579、WO2010/108931WO2010/128182、WO2013/112942、WO2013/116778、WO2014/204814、WO2015/077624及び第WO2015/166082、WO2015/089280に開示されている。
【0141】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、複製欠損性である。例えば、複製遺伝子は、腫瘍特異的プロモーターを有する発現カセットで変異、欠失、又は置換され得る。一例では、E1/E3遺伝子は、変異、欠失、又は置換される。別の例では、E1A/E1B遺伝子は、変異、欠失、又は置換される。例えば、AVとの関係においては、E1/E3遺伝子は、変異、欠失、又は置換され得る。AAVの文脈においては、E1A及びE1B遺伝子は、変異、欠失、又は置換され得る。好適な腫瘍特異的プロモーターの様々な例を上で考察する。
【0142】
他の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、変異E1、E3、E1A又はE1B遺伝子を含むことができる。例えば、E1A遺伝子は、網膜芽細胞腫タンパク質(RB)結合部位をコードする領域内で変異させることができる。別の例では、E3遺伝子は、小胞体保持ドメインをコードする領域内で変異させることができる。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、γ-34.5遺伝子及び/又はα-47遺伝子の変異を含むことができる。
【0143】
一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系統前駆体又は幹細胞において複製欠損性であり、腫瘍細胞において複製可能である。複製欠損ウイルスを複製可能ウイルスに切り替える例は、Nakashima et al.(2014)Journal of Virology,Vol88:345-353に記載されている。このタイプの他の例示的なウイルスとしては、Shen et al.(2016)PlosOne 11:e0147173に記載されているものなどのRGD変異体、pRb又はp53不活性腫瘍細胞内での複製を可能にするδ24変異及び/又はα-ケモカインSDF-1受容体(CXCR4)、サバイビン、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)、及びミッドカンなどの腫瘍細胞特異的プロモーターの制御下でのE1の調節された発現を含むウイルスが挙げられる。
【0144】
修飾
本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、上記参照の腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾することができる。間葉系統前駆体又は幹細胞は、腫瘍溶解性ウイルスが任意の好適な人工操作手段によって細胞内に移入された場合、又は細胞が腫瘍溶解性ウイルスを保有する元の改変細胞の子孫である場合、「修飾された」とみなされる。
【0145】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して修飾することができる。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、インビトロで腫瘍溶解性ウイルスと接触する。例えば、腫瘍溶解性ウイルスを、間葉系統前駆体又は幹細胞培養培地に添加することができる。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、腫瘍溶解性ウイルスで遠心分離される。
【0146】
感染の効率はめったに100%ではなく、通常、正常に修飾された細胞の集団を濃縮することが望ましい。一例では、修飾細胞は、新しい遺伝子型の機能的特徴を利用することによって濃縮することができる。修飾された細胞を濃縮する1つの例示的な方法は、ネオマイシンなどの薬物に対する耐性を使用した陽性選択、又はlacZの発現に基づく比色選択である。
【0147】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、がん細胞を殺傷するが、間葉系統前駆体又は幹細胞の生存率に実質的に影響を及ぼさない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。
【0148】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、間葉系統前駆体又は幹細胞と比較して、がん細胞を優先的に殺傷する腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。
【0149】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、それらががん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達し得る前に、間葉系統前駆体又は幹細胞を殺傷しない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾される。
【0150】
がん細胞への送達
本発明者らは、間葉系統前駆体又は幹細胞が、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを移動させることができることを同定した。したがって、一例では、本開示は、上記参照腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞とそれらを接触させることによって、上記参照腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する方法を包含する。疑義を避けるために、がん細胞に送達される腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系統前駆体又は幹細胞に導入される腫瘍溶解性ウイルスである。
【0151】
「接触すること」という用語は、「直接的」又は「間接的」接触を指すために、本開示の文脈で使用される。「直接接触」は、本開示の文脈において、がん細胞と、腫瘍溶解性ウイルスの移動を容易にする修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞との間の物理的接触を指すために使用される。例えば、がん細胞及び修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、共通のコネキシン(すなわち、がん細胞及び修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞の両方によって発現されるコネキシン)を介して直接接触し得る。この例では、共通コネキシンは、間葉系統前駆体又は幹細胞から、ギャップ接合部を介してがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの移行を促進する。したがって、一例では、接触は、間葉系統前駆体又は幹細胞ががん細胞とのギャップ接合部を形成することを可能にする条件下で発生し、それによって、腫瘍溶解性ウイルスがギャップ接合部を横断することによってがん細胞に送達される。一例では、ギャップ接合部は、Cx40によって形成される。別の例では、ギャップ接合部は、Cx43によって形成される。別の例では、ギャップ接合部は、Cx45、Cx32及び/又はCx37によって形成される。
【0152】
「間接接触」は、本開示の文脈において、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞から直接接触せずにがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達を指すために使用される。例えば、がん細胞に近接している修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、がん細胞と間接的に接触していてもよい。一例では、がん細胞と間接的に接触する修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、エクソソームを介してがん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達することができる。
【0153】
別の例では、がん細胞と直接接触する修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、共通のコネキシンを介して、及びエクソソームを介して間接的にがん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達することができる。
【0154】
修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞から腫瘍溶解性ウイルスを受けたがん細胞は、腫瘍溶解性ウイルスの移動を容易にするために修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞によって直接又は間接的に接触させることができる限り、特に限定されない。一例では、がん細胞は、膵臓がん細胞である。別の例では、がん細胞は、肺がん細胞である。別の例では、がん細胞は、子宮頸がん細胞である。別の例では、がん細胞は、結腸直腸がん細胞である。別の例では、がん細胞は、肝がん細胞である。別の例では、がん細胞は、骨肉腫細胞である。別の例では、がん細胞は、乳がん細胞である。別の例では、がん細胞は、前立腺がん細胞である。別の例では、がん細胞は、黒色腫細胞である。
【0155】
別の例では、がん細胞は、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞との共通コネキシンを有する。一例では、がん細胞は、Cx40を発現する。別の例では、がん細胞は、Cx43を発現する。別の例では、がん細胞は、Cx45、Cx32及び/又はCx37を発現する。
【0156】
別の例では、がん細胞は、合胞がん細胞である。「合胞性」という用語は、本開示の文脈において、作用電位において電気的に同期される、ギャップ接合部を有する特殊な膜によって相互接続された細胞からなるがん性組織又は塊を指すために使用される。
【0157】
修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞からがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達は、インビトロ又はインビボで促進され得る。一例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞からがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達は、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞をがん細胞と共培養することによってインビトロで促進することができる。一例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞からがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達は、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞を対象に投与することによってインビボで促進され得る。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、例えば、静脈内、動脈内、又は腹腔内投与によって全身投与され得る。他の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、鼻腔内又は筋肉内投与によって投与され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、周囲の組織などのがん細胞に近接した部位に投与される。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、がんに直接投与される。
【0158】
修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞の保存及び/又はホーミングの改善
一態様では、本明細書に定義される間葉系統前駆体又は幹細胞は、それらの細胞表面グリカンを修飾するために処理される。CD44などの細胞表面タンパク質上のグリカンの修飾は、炎症部位の微小血管上でインビボで発現されるEセレクチン分子に結合することができるEセレクチンリガンドを作製することが示されている。このようにして、間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンの修飾は、間葉系統前駆体又は幹細胞のインビボでの組織損傷部位へのホーミングを改善する。
【0159】
本発明者らはまた、細胞表面グリカンのグリコシルトランスフェラーゼ媒介修飾が、細胞生存率を低温保存後に改善する(すなわち、より多くの細胞が凍結融解サイクル後に生存可能である)ことを同定した。したがって、一例では、本開示は、細胞上の細胞表面グリカンを修飾する条件下でグリコシルトランスフェラーゼ(E.C2.4)で処理された間葉系統前駆体又は幹細胞の凍結保存された集団を包含する。別の例では、本開示は、間葉系統前駆体又は幹細胞を凍結保存する方法を包含し、本方法は、細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらす条件下で、間葉系統前駆体又は幹細胞の集団をグリコシルトランスフェラーゼで処理することと、組成物中で細胞を凍結保存することと、を含む。別の例では、本開示は、治療細胞の産生方法を包含し、本方法は、細胞上の細胞表面グリカンの修飾をもたらす条件下で、間葉系統前駆体又は幹細胞の集団をグリコシルトランスフェラーゼで処理することと、組成物中で細胞を凍結保存することと、を含む。
【0160】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞の「処理」は、グリコシルトランスフェラーゼが酵素活性を有する条件下で細胞をグリコシルトランスフェラーゼと接触させることを含む。この例では、グリコシルトランスフェラーゼは、間葉系統前駆体又は幹細胞上の細胞表面グリカンを修飾する。細胞表面グリカン修飾の例は、フコシル化である。一例では、CD44が修飾される。別の例では、CD14が修飾される。別の例では、CD44、CD14、CD3、及びCD19のうちの1つ以上が修飾される。
【0161】
一例では、表面グリカン修飾は、フローサイトメトリーを使用して同定される。この例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化細胞表面グリカンの発現が1対数大きい。別の例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化細胞表面グリカンの発現が2対数大きい。別の例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化細胞表面グリカンの発現が3対数大きい。例えば、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化CD14の発現が1対数大きいことがあり得る。別の例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化CD14の発現が2対数大きい。別の例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、未処理の間葉系統前駆体細胞よりもフコシル化CD14の発現が3対数大きい。
【0162】
一例では、「処理」は、ヌクレオチド糖ドナー基質の存在下で、間葉系統前駆体又は幹細胞をグリコシルトランスフェラーゼと接触させることを含む。好適なドナー基質としては、フコース、ガラクトース、シアル酸、又はN-アセチルグルコサミンが挙げられる。例えば、基質は、GDPフコースであり得る。
【0163】
例えば、処理は、間葉系統前駆体又は幹細胞の集団を、フコシルトランスフェラーゼなどの外因性グリコシルトランスフェラーゼと接触させることを含むことができる。この例では、グリコシルトランスフェラーゼを、細胞培養培地、又は間葉系統前駆体又は幹細胞を含む他の生理学的に許容される溶液に添加することができる。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、グリコシルトランスフェラーゼを含む培地中で培養することができる。別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、グリコシルトランスフェラーゼを含む培養培地中に懸濁される。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養から解離され、グリコシルトランスフェラーゼを含む好適な培地に再懸濁され得る。一例では、細胞は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用して解離することができる。別の例では、EDTAと組み合わせて、トリプシン単独のoFrなどのプロテアーゼを使用して、細胞を解離することができる。
【0164】
一例では、細胞培養培地は、少なくとも1.8μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも2.0μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも2.5μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、2~15μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、2~10μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、2~5μgのグリコシルトランスフェラーゼを含む。一例では、細胞培養培地は、少なくとも1.8μgのフコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも2.0μgのフコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも2.5μgのフコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、2~15μgのフコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、細胞培養培地は、2~10μgのフコシルトランスフェラーゼを含む。別の例では、2~5μgのフコシルトランスフェラーゼを細胞培養培地に添加する。これらの例では、グリコシルトランスフェラーゼは、約5×105個の間葉系統前駆体又は幹細胞に30μlの反応体積で提供され得る。
【0165】
例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、エキソフコシル化として知られるプロセスで外因性グリコシルトランスフェラーゼで処理することができる。この実施形態では、グリコシルトランスフェラーゼは、低レベルの二価金属補助因子を有する生理学的に許容される溶液中に提供され得る。様々な実施形態では、生理学的に許容される溶液は、緩衝される。生理学的に許容される溶液は、例えば、HEPES緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの、Hank’s Balanced Salt Solution,Dulbecco’s Modified Eagle Medium,a Good’s buffer(see N.E.Good,G.D.Winget,W.Winter,T N.Conolly,S.Izawa and R.M.M.Singh,Biochemistry 5,467(1966);N.E.Good,S.Izawa,Methods Enzymol.24,62(1972)であり得る。
【0166】
一例では、生理学的に許容される溶液は、グリセロールを実質的に含まない。
【0167】
別の例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、グリコシルトランスフェラーゼを発現するように細胞を修飾することによってグリコシルトランスフェラーゼで処理される。例えば、グリコシルトランスフェラーゼは、間葉系統前駆体又は幹細胞によって細胞内で生成され得る。この実施形態では、グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸分子が、間葉系統前駆体又は幹細胞に導入される。次いで、グリコシルトランスフェラーゼは、間葉系統前駆体又は幹細胞によって発現され、その表面グリカンの修飾をもたらす。
【0168】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸が人工的操作の任意の好適な手段によって細胞内に移入された場合、又は細胞がグリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸を担持する元々変更された細胞の子孫である場合、「グリコシルトランスフェラーゼを発現するように遺伝子修飾された」とみなされる。細胞は、グリコシルトランスフェラーゼを発現するように、安定的に又は一過性に修飾され得る。
【0169】
一例では、遺伝子修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞におけるグリコシルトランスフェラーゼの発現は、インビボでの炎症部位における細胞の保持の増強をもたらす。例えば、遺伝子修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、腫瘍又はその転移に保持され得る。別の例では、遺伝子修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、臓器移植拒絶反応の部位に保持され得る。別の例では、遺伝子修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、梗塞した心臓などの損傷部位に保持され得る。遺伝子修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞がインビボで炎症部位に保持されているかどうかを決定するための様々な方法が利用可能である。一例では、細胞は、放射線トレーサー又は他の好適な標識を使用してインビボで撮像される。
【0170】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、当該技術分野で既知の様々な方法を使用して遺伝子修飾され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、インビトロでウイルスベクターで処理される。遺伝子修飾されたウイルスは、核酸を細胞に送達するために広く適用されてきた。本明細書に記載される細胞の遺伝子修飾のための例示的なウイルスベクターとしては、ガンマレトロウイルスベクター、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV又はMuLV)、及びアデノウイルスなどのレトロウイルスベクターが挙げられる。例えば、ウイルスを、間葉系統前駆体又は幹細胞培養培地に添加することができる。非ウイルス性の方法も用いられ得る。例としては、インテグラーゼ又はトランスポザーゼ技術、リポソーム又はタンパク質形質導入ドメイン媒介送達、及びエレクトロポレーションなどの物理的方法の使用によるプラスミド移動及び標的遺伝子組み込みの適用が挙げられる。
【0171】
遺伝子修飾の効率は、稀に100%であり、通常、修飾に成功した細胞の集団を濃縮することが望ましい。一例では、修飾細胞は、新しい遺伝子型の機能的特徴を利用することによって濃縮することができる。修飾された細胞を濃縮する1つの例示的な方法は、ネオマイシンなどの薬物に対する耐性を使用した陽性選択、又はlacZの発現に基づく比色選択である。
【0172】
様々な実施形態では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、2つ以上のグリコシルトランスフェラーゼ及びその適切なドナー基質(例えば、糖)と接触される。例えば、細胞は、2つのグリコシルトランスフェラーゼと同時に、又は連続して接触され、各々が、(伸長)コアグリカン構造に適切な連結で異なる単糖を添加する。別の例では、遺伝子修飾された細胞は、2つのグリコシルトランスフェラーゼを発現する。
【0173】
一実施形態では、処理された間葉系統前駆体又は幹細胞は、CD44、例えば、α(2,3)シアリル化CD44を発現する。別の実施形態では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、CD34又はPSGL-1を発現しない。一例では、処理された間葉系統前駆体又は幹細胞は、E-セレクチン及び/又はL-セレクチンに結合する。一例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、P-セレクチンに結合しない。
【0174】
別の例では、CD14は、処理された間葉系統前駆体又は幹細胞上でフコシル化される。別の例では、CD14及びCD3は、処理された間葉系統前駆体又は幹細胞上でフコシル化される。
【0175】
一実施形態では、グリコシルトランスフェラーゼは、37℃でpH6.5で1分間当たり1.0ミリモルの糖を移動させることができる。
【0176】
一例では、グリコシルトランスフェラーゼは、フコシルトランスフェラーゼ(L-フコース糖の移動を触媒する)である。別の例では、グリコシルトランスフェラーゼは、α1,3フコシルトランスフェラーゼIII、α1,3フコシルトランスフェラーゼIV、α1,3フコシルトランスフェラーゼVI、α1,3フコシルトランスフェラーゼVII、α1,3フコシルトランスフェラーゼIX、α1,3フコシルトランスフェラーゼX、α1,3フコシルトランスフェラーゼXI)などのα1,3フコシルトランスフェラーゼである。例えば、細胞は、α1,3フコシルトランスフェラーゼVIIで処理され得る。別の例では、細胞は、α1,3フコシルトランスフェラーゼVIで処理され得る。これらの実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞のフコシル化は、HECA-452を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で既知のsLeXに結合する抗体との、E-セレクチンなどのセレクチンに結合する処理された細胞の能力の増加及び/又は処理された細胞の反応性の増加を検出することによって同定され得る。
【0177】
別の例では、グリコシルトランスフェラーゼは、ガラクトシルトランスフェラーゼ(ガラクトースの移動を触媒する)である。別の例では、グリコシルトランスフェラーゼは、シアリルトランスフェラーゼ(シアリル酸の移動を触媒する)である。
【0178】
治療の方法
一例では、本開示による組成物は、がんの治療のために投与することができる。「がん」という用語は、典型的には無制御な細胞増殖を特徴とする哺乳類における生理学的状態を指すか、又は説明する。がんの例としては、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。そのようながんのより具体的な例としては、扁平上皮がん(例えば、上皮性扁平上皮がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん及び肺の扁平上皮がんを含む肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がん及び胃腸の間質がんを含む胃又は胃がん、膵臓がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、尿路がん、肝腫、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん又は子宮内膜がん、唾液腺がん、腎臓又は腎臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓がん、肛門がん、陰茎がん、黒色腫、浅く広がる黒色腫、悪性黒色斑、肢端扁平上皮性黒色腫、結節性黒色腫、多発性骨髄腫及びB細胞性リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中等度/濾胞性NHL、中等度びん性NHL、高悪性度免疫芽球NHL、高悪性度リンパ芽球NHL、高悪性度非腫瘍性NHL、大きな疾患NHL、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連のリンパ腫、及びワルデンストロームマクログロブリン血症を含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、毛細胞性白血病、慢性骨髄芽球性白血病、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びにファコマトーゼ、浮腫(脳腫瘍に関連するものなど)、メグ症候群、脳、並びに頭頸部がん、及び関連転移に関連する異常な血管増殖が挙げられる、これらに限定されない。
【0179】
一例では、がんは、膵臓がんである。別の例では、がんは、肺がんである。別の例では、がんは、子宮頸がんである。別の例では、がんは、結腸直腸がんである。別の例では、がんは、肝がんである。別の例では、がんは、骨肉腫である。別の例では、がんは、前立腺がんである。別の例では、がんは、黒色腫である。
【0180】
別の例では、本開示による治療されるがんは、本開示に従って間葉系統前駆体又は幹細胞と共通のコネキシンを共有する細胞を含む。この例では、共通コネキシンは、間葉系統前駆体又は幹細胞からがん細胞への核酸の異動を促進する。
【0181】
一例では、がんは、Cx40を発現する細胞を含む。別の例では、がんは、Cx43を発現する細胞を含む。別の例では、がんは、Cx40及びCx43を発現する細胞を含む。
【0182】
細胞組成物
本開示の方法を実施する際に、間葉系統前駆体又は幹細胞は、組成物の形態で投与され得る。
【0183】
本開示による例示的な組成物は、腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞を含むことができる。例示的な腫瘍溶解性ウイルスは、上記に記載されている。一例では、本開示による組成物は、上述の腫瘍溶解性ウイルス又はそれらの組み合わせを導入するように修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞を含むことができる。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、条件的複製アデノウイルス(CRAd)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、レンチウイルス、ワクチンウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、シンビスウイルス、RSV、麻疹、及びげっ歯類プロトパルボウイルスH-1PVなどのパルボウイルスとして特徴付けられる腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、条件的に複製するレンチウイルスを導入するように修飾され得る。
【0184】
別の例では、本開示による組成物は、間葉系統前駆体又は幹細胞の生存率に実質的に影響を与えない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞を含むことができる。
【0185】
別の例では、本開示による組成物は、腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する前に間葉系統前駆体又は幹細胞を殺傷しない腫瘍溶解性ウイルスを導入するように修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞を含むことができる。
【0186】
一例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0187】
「担体」及び「賦形剤」という用語は、活性化合物の貯蔵、投与、及び/又は生物学的活性を促進するために、当該技術分野で従来使用される物質の組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mac Publishing Company(1980)を参照。担体はまた、活性化合物の任意の望ましくない副作用を低減し得る。好適な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療のために使用される投与量及び濃度で、レシピエントに有意な局所的又は全身的な有害作用をもたらさない。
【0188】
本開示に好適な担体としては、従来使用されているもの、例えば、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、ラクトース、リンガー溶液、緩衝溶液、ヒアルロナン及びグリコールが挙げられ、特に(等張の場合に)溶液用の例示的な液体担体である。好適な薬学的担体及び賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0189】
別の例では、担体は、例えば、細胞が増殖又は懸濁される培地組成物である。そのような培地組成物は、それが投与される対象にいかなる有害作用も誘導しない。
【0190】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存率及び/又は疾患を治療若しくは予防する細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0191】
一例では、担体又は賦形剤は、細胞及び/又は可溶性因子を好適なpHに維持し、それによって生物学的活性を発揮する緩衝活性を提供し、例えば、担体又は賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、細胞及び因子と最小限に相互作用し、細胞及び因子の急速な放出を可能にするため、魅力的な担体又は賦形剤を表し、このような場合、本開示の組成物は、血流に直接適用するための液体として、又は例えば、注射によって、組織の周囲又は隣接する組織又は領域に直接適用するための液体として産生され得る。
【0192】
本明細書に開示される細胞組成物は、単独で、又は他の細胞との混合物として投与され得る。異なるタイプの細胞を、投与の直前又はすぐ前に本開示の組成物と混合してもよく、又は投与の前に一定期間共培養してもよい。
【0193】
一例では、組成物は、有効量又は治療有効量の細胞を含む。例えば、組成物は、約1×105個の細胞~約1×109個の細胞、又は約1.25×103個の細胞~約1.25×107個の細胞を含む。投与される細胞の正確な量は、対象の年齢、体重及び性別、並びに治療される障害の程度及び重症度を含む様々な因子に依存する。
【0194】
例示的な投与量としては、少なくとも約1.2×108~約8×1010個の細胞、例えば約1.3×108~約8×109個の細胞、約1.4×108~約8×108個の細胞、約1.5×108~約7.2×108個の細胞、約1.6×108~約6.4×108個の細胞、約1.7×108~約5.6×108個の細胞、約1.8×108~約4.8×108個の細胞、約1.9×108~約4.0×108個の細胞、約2.0×108~約3.2×108個の細胞、約2.1×108~約2.4×108個の細胞が挙げられる。例えば、用量は、少なくとも約1.5×108個の細胞を含むことができる。例えば、用量は、少なくとも約2.0×108個の細胞を含むことができる。
【0195】
言い換えれば、例示的な用量としては、少なくとも約1.5×106個の細胞/kg(80kg対象)が挙げられる。一例では、用量は、少なくとも約2.5×106個の細胞/kgを含むことができる。他の例では、用量は、約1.5×106~約1×109個の細胞/kg、約1.6×106~約1×108個の細胞/kg、約1.8×106~約1×107個の細胞/kg、約1.9×106~約9×106個の細胞/kg、約2.0×106~約8×106個の細胞/kg、約2.1×106~約7×106個の細胞/kg、約2.3×106~約6×106個の細胞/kg、約2.4×106~約5×106個の細胞/kg、約2.5×106~約4×106個の細胞/kg、約2.6×106~約3×106個の細胞/kgを含むことができる。
【0196】
一例では、修飾された間葉系統前駆体又は幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を含む。
【0197】
本開示の組成物は、凍結保存され得る。間葉系統前駆体又は幹細胞の凍結保存は、当該技術分野で既知の低速冷却方法又は「高速」凍結プロトコルを使用して行われ得る。好ましくは、凍結保存の方法は、凍結していない細胞と比較して、凍結保存された細胞の類似の表現型、細胞表面マーカー及び増殖速度を維持する。
【0198】
凍結保存された組成物は、凍結保存溶液を含み得る。凍結保存溶液のpHは、典型的には6.5~8、好ましくは7.4である。
【0199】
凍結保存溶液は、例えば、プラズマライトA(商標)などの滅菌された非発熱性等張溶液を含み得る。100mLのプラズマライトA(商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(C2H3NaO2・3H2O)、37mgの塩化カリウム、USP(KCl)、及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl2・6H2O)を含有する。抗菌剤は含有されない。pHは、水酸化ナトリウムで調整される。pHは、7.4(6.5~8.0)である。
【0200】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含み得る。凍結保存溶液は、追加的又は代替的に、培養培地、例えば、αMEMを含み得る。
【0201】
凍結を容易にするために、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤を通常、凍結保存溶液に添加する。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者に対して無毒、非抗原性、化学的に不活性であるべきであり、解凍後に高い生存率を提供し、洗浄することなく移植を可能にするべきである。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤、DMSOは、ある程度の細胞毒性を示す。ヒドロキシルエチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を低減させるために、代替物として又はDMSOと組み合わせて使用され得る。
【0202】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分、及び他のタンパク質増量剤のうちの1つ以上を含み得る。一例では、凍結保存溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。凍結保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、及びトレハロースのうちの1つ以上を更に含み得る。
【0203】
一実施形態では、細胞を42.5%Profreeze(商標)/50%αMEM/7.5%DMSO中に懸濁し、制御速度冷凍庫中で冷却する。
【0204】
凍結保存された組成物は、解凍され、対象に直接投与され得、又は例えば、ヒアルロン酸を含む別の溶液に添加され得る。代替的に、凍結保存された組成物を解凍し、投与前に間葉系統前駆体又は幹細胞を代替的担体中に再懸濁され得る。
【0205】
一例では、本明細書に記載の細胞組成物は、単回用量として投与され得る。別の例では、細胞組成物は、複数回用量にわたって投与される。例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回の用量である。
【0206】
一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、投与前に培養増殖させることができる。間葉系統前駆体又は幹細胞培養の様々な方法が当該技術分野で既知である。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、投与前に無血清培地中で培養増殖される。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、投与前に少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回以上継代することができる。
【0207】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、例えば、静脈内、動脈内、又は腹腔内投与によって全身投与され得る。間葉系統前駆体又は幹細胞はまた、鼻腔内、筋肉内、又は心内投与によって投与され得る。一例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、対象の腫瘍に直接投与される。
【実施例】
【0208】
実施例1-間葉系統前駆体細胞のウイルス送達系の評価
3つの異なるウイルス送達系の有効性を、ヒト間葉系前駆体細胞(MPC)において評価した。2バッチのMPCを凍結ストックから調達し、5,000、10,000、及び15,000個の細胞/cm2で96ウェルプレートに直接播種した。細胞を5%CO2で37℃で一晩接着させた後、ウイルス粒子を添加した。3つのウイルス送達系、レンチウイルス、アデノウイルス及びrAAVを試験し、各々がCMVプロモーターの制御下でGFPをコードする。
【0209】
各ウイルス送達系を、3つのMOIで各細胞密度に添加した。
a.レンチウイルス粒子を、10、50、及び100のMOIで添加した。
b.アデノウイルス粒子を、50、100、及び200のMOIで添加した。
c.両方のrAAV血清型を、1,000、10,000、及び100,000のMOIで試験した。
【0210】
ウイルス粒子を、5%CO2で37℃で細胞とともに一晩インキュベートした。翌日、レンチウイルス及びアデノウイルス粒子を除去し、新鮮な培地に置き換えた。アッセイの間、細胞上にrAAV粒子を残した。GFP蛍光及び細胞コンフルエンスは、感染後24、48、及び72時間で、Incucyte ZOOM(商標)cell imager(Essen)を使用して決定した。コントラストベースのアルゴリズムを使用して、細胞コンフルエンス及びGFPを発現する細胞を決定した。各ウェルについて、GFPコンフルエンスを位相コンフルエンスで分割することによって、GFP/位相コンフルエンスを計算した。
【0211】
100のMOIでのレンチウイルス送達は、感染の72時間後にGFPを発現するほぼ全ての細胞で最も効率的であった(
図1及び2)。MPCの各バッチの送達効率はほぼ同等であった。アデノウイルス又はrAAV感染後にGFPを発現する細胞の割合は、レンチウイルスよりもはるかに低く、これらの方法を使用してGFPを発現する細胞はほんの一握りであった(
図3~5)。
【0212】
実施例2-間葉系幹細胞(MSC)のHSV-P10負荷
腫瘍溶解性ウイルスである単純ヘルペスウイルス(HSV-P10)を発現するPTENαを、修飾PTENα遺伝子配列を使用して生成し、これによって、PTENα CUG開始コドンをAUGに変異させて、全長N末端伸長タンパク質の翻訳を強化し、内部正準PTEN AUG開始コドンをAUAに変異させて、構築物から正準PTEN発現を廃止した。PTENαは、ウイルスのICP6遺伝子座内のγ34.5の両方のコピーに対して欠失した腫瘍溶解性HSV1骨格に組み込まれた。
図6は、本研究で使用される対照(HSVQ)及びHSV-P10ウイルス中のICP6遺伝子座内で操作された遺伝子操作の構造を示す。
【0213】
間葉系幹細胞を、多重感染(MOI)0.025、0.05、0.1、0.2、及び0.5でHSVQ又はHSV-P10のいずれかで充填し、感染を、経時的な細胞内のGFPの検出によって決定した(
図7A及び2E)。GFPを、BioSpa8自動インキュベーター(Biotek Instruments,INC.)と併せて、Cytation 5 Cell Imaging Multi-Mode Readerを利用して経時的にモニタリングした。GFPオブジェクト数を、処理群±SEM当たり平均4ウェルとして定量化し、グラフ化した。細胞内の複製速度は、間葉系幹細胞に感染するために使用されるHSVQ又はHSV-P10のMOIと相関した。
【0214】
間葉系幹細胞におけるHSV-P10及びHSVQウイルス複製の動態を決定するために、HSV-P10及びHSVQ充填間葉系幹細胞の比較を実施した(
図7A)。3×10
6個の細胞の間葉系幹細胞を6ウェルプレートに配置し、24時間培養した。配置した間葉系幹細胞を1MOIのHSVQ又はHSV-P10で1時間感染させた。インキュベーション後、培地を取り除き、新鮮なDMEMに置き換え、更に24時間培養した。HSVQ又はHSV-P10充填間葉系幹細胞及び条件付けられた培地を採取し、vero細胞上で滴定試験を実施した。
【0215】
HSV-P10は、HSVQと比較して、ウイルス複製の動態が優れているように見えた(
図7A)。しかしながら、HSV-P10充填間葉系幹細胞のウイルスタイヤは、HSVQ充填間葉系幹細胞のウイルスタイヤと同等であった(
図7B)。HSV-P10及びHSVQのウイルス複製は、インビトロでの5回継代後であっても、装填間葉系幹細胞において観察された。
【0216】
間葉系幹細胞の生存率に対するウイルス充填の効果を決定するために、フローサイトメトリーによって評価され、定量化され、ヒストグラムとして表される、充填間葉系幹細胞において、細胞質活性(アクア生/死染料)及びGFP発現を決定した(
図8)。データは、HSV-10及びHSVQ充填間葉系幹細胞が、感染の24時間後に生存可能であったことを実証する(
図8A)。フローサイトメトリー象限を
図8Bに示す。
【0217】
実施例3-HSV-P10充填間葉系幹細胞(MSC)によって発現される機能性PTENαの評価
HSV-P10によって発現されるPTENαの機能性を評価するために、HSV-P10充填間葉系幹細胞のPI3K/AKTシグナル伝達経路に対するHSV-P10の影響を決定した。ウエスタンブロット分析は、HSVQ充填間葉系幹細胞におけるAKTの増加を明らかにしたが、PTENαを発現したHSV-P10充填間葉系幹細胞は、対照ウイルス充填と比較して、リン酸化AKTを低減させた(
図9A)。PTENαは、HSV-P10充填間葉系幹細胞の条件培地中で検出され、HSV-P10充填間葉系幹細胞によるPTENαの分泌を示唆した(
図9B)。
【0218】
実施例4-HSV-P10充填間葉系幹細胞の腫瘍細胞に対する効果
HSV-P10充填間葉系幹細胞がHSV-P10をがん細胞に送達する能力を決定するために、BioSpa8自動インキュベーター(Biotek Instruments,INC.)と併せて、Cytation 5 Cell Imaging Multi-Mode Readerを利用してウイルスGFPを経時的にモニタリングすることによって、Boydenチャンバアッセイを実施し、遊走を実施した。しかしながら、HSVQ及びHSV-P10充填間葉系幹細胞遊走の分析は、HSVQ充填間葉系幹細胞と比較して、ヒト乳がん細胞(MDA-468)に対するHSV-P10充填間葉系幹細胞の動態の増加を驚くほど明らかにした(
図10)。
【0219】
実施例5-原発性ヒト神経膠腫細胞に対するHSV-P10充填間葉系幹細胞の効果
HSVQ及びHSV-P10充填間葉系幹細胞を、GMB12原発性ヒト神経膠腫細胞を発現するRPFと共培養した(
図11A)。PI3K/AKTシグナル伝達経路上のHSV-P10充填間葉系幹細胞によって発現されるPTENαの機能性を決定した。ウエスタンブロット分析により、MSCとの共培養後の神経膠腫細胞におけるPTENαの増加及びリン酸化AKTの低減が明らかになった(
図11B)。
【0220】
実施例6-乳がん細胞に対するHSV-P10充填間葉系幹細胞の効果
HSV-P10充填間葉系幹細胞とDB7マウス乳がん細胞との共培養により、HSV-P10ががん細胞に移動し、細胞質活性(アクア生/死染料)及びGFP発現によって決定されるがん細胞における細胞死の誘導をもたらした。HSV-Q充填間葉系幹細胞との共培養後、非充填間葉系幹細胞(対照)と比較して、死んだDB7マウス乳がん細胞の総量の増加が観察された(
図12)。HSV-P10充填間葉系幹細胞との共培養後、非充填間葉系幹細胞(対照)及びHSV-Q充填細胞と比較して、死んだDB7マウス乳がん細胞の総量の更なる増加が観察された(
図12)。
【0221】
実施例7-MSC及びMPCに対する腫瘍溶解性HSVの効果
間葉系幹細胞(MSC)及び間葉系前駆体細胞(MPC)には、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(HSV)が徐々に増加する多重感染(MOI)0.1~5で充填された。感染は、経時的な細胞における蛍光の検出によって決定された。
【0222】
ウイルス複製は、感染の24、48、及び72時間後に細胞からウイルスを採取することによって決定され、Vero細胞上でプラークアッセイによって滴定された。驚くべきことに、MPCにおいて、MSCと比較して、全ての時点及び試験された両方のMOIにおいて、HSV複製の増加が観察された(
図13A、MOI0.1、
図13B、MOI1)。
【0223】
MSC及びMPCにおけるHSV細胞毒性を、感染の72時間後にMTTアッセイによって決定した。繰り返すが、驚くべきことに、特にMOIが0.1を超えて増加したときに、MPCにおいて、MSCと比較して細胞生存率の増加が観察された(
図14)。
【0224】
これらの知見は、腫瘍溶解性ウイルスのペイロードのキャリアとしてのMPCの使用及びがん療法などの用途でのMPCの使用の一般的な概念を裏付けるものである。
【0225】
実施例8-MPC及びMSCにおける腫瘍溶解性ウイルス
方法
いくつかのがん細胞株は、肺がん細胞株A549(継代15)、H1299(継代13)、H1650(継代8)及びLLC(継代12)、肉腫細胞株U2-OS(継代9)及びSK-ES1(継代9)、並びに乳がん細胞株MCF-7(継代13)及び4T1(継代9)を含む呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に感染した。がん細胞株を96ウェルプレートに配置し、Opti-Mem培地を用いて、1、5、及び10の多重感染(MOI)で、RSVで90分間感染させた。90分後、培地は各細胞株について完全培地に置き換えられた。細胞生存率アッセイを、感染後48時間及び72時間で、Cell Titer Gloアッセイを用いて実施した。
【0226】
ヒト間葉系前駆体細胞(MPC)及び間葉系幹細胞(MSC)も、1、5、及び10のMOIを有するRSVに感染させた。感染後48時間及び72時間で細胞生存率も評価した。
【0227】
感染後72時間で、感染したMSC及びMPCからの上清を、様々なMOI(1、5、及び10)のウェルから回収し、がん細胞株の感染に使用した。それぞれのMOIについて上清で一晩感染した後、感染上清を交換した後、完全培地を添加した。72時間後に細胞生存率を測定した。感染したMPC及びMSCから得られた上清の力価を、vero細胞を用いたプラークアッセイを介して決定した。結果におけるMOI0への言及は、模擬感染、すなわち、感染のない対照ウェルからの上清を表す。
【0228】
結果
RSV腫瘍溶解性ウイルスによる様々ながん細胞株の感染は、著しいがん細胞死を誘導した。より高い細胞死は、一般に、感染の72時間後及びより高いMOIで観察された。
【0229】
肺がん細胞株:
-A549細胞:72時間時点で、全MOIにおいて有意な細胞死が観察された。RSV MOI1では、ほぼ40%の細胞死があった。MOI5及び10については、それぞれ50%及び60%の細胞死があった(
図15)。
-H1299細胞:72時間時点で、全MOI5及び10において有意な細胞死が観察された。RSV MOI10では、ほぼ40%の細胞死があった(
図16)。
-H1650細胞:感染後48時間及び72時間の両方で、ほぼ40%の細胞死がRSV MOI5で観察され、65%の細胞死がMOI10で観察された(
図17)。
-LLC細胞:48時間で、35%の細胞死がRSV MOI10で観察された。72時間時点で、ほぼ25%の細胞死がMOI1で、65%がMOI5で、75%がMOI10であった(
図18)。
【0230】
肉腫細胞株:
-U2-OS細胞:48時間時点で、MOI10で有意な細胞死が観察された。72時間時点で、有意な細胞死が全MOIで観察され、この時点で、ほぼ60%の細胞死がMOI10で観察された(
図19)。
-SK-ES1細胞:感染後48時間で、RSV MOI5及び10による有意な細胞死が観察された。72時間で、MOI5及び10によるほぼ90%の細胞死が観察された(
図20)。
【0231】
乳がん細胞株:
-4T1細胞:72時間時点で、MOI5及び10で有意な細胞死が観察された。25%の細胞死が、RSV MOI 10による感染の72時間後に観察された(
図21)。
【0232】
これらのデータは、腫瘍溶解性ウイルスRSVが、様々な系統の複数のがん細胞株に感染して殺傷することが可能であることを示す。
【0233】
幹細胞:
-MPC細胞及びMSC細胞:RSV感染後72時間で、40%の細胞死が、MOI5で観察され、50%が、MOI10で観察された(
図22及び
図23)。同様の結果が、72時間でMSCについて観察された(
図24及び
図25)。
【0234】
データは、RSV腫瘍溶解性ウイルスがMPC及びMSCの両方に感染し、MPC及びMSCの両方が感染の少なくとも72時間後に生存可能であることを示す。上記の実施例7で考察したHSV感染結果と一致して、RSV感染の48時間後、特にMOI5及び10において、より多くのMPCがMSCよりも生存可能であり、MPCが、特に48時間で、ウイルス感染に対してより耐性があることを示唆している。
【0235】
RSV感染MPCとMSCの両方が、培養細胞の上清に存在する新しいRSVを産生し、新しいRSVは、がん細胞株に感染することができる(
図26~31)。しかしながら、驚くべきことに、このデータは、MPCがMSCよりも多くのウイルスを周囲の環境に流入させ、がん細胞のより大きな感染をもたらすことを示した。この所見は、MPC由来の上清によって感染されたがん細胞の数が、MSC由来の上清と比較して増加したことを考慮すると特に顕著であった(特に、
図26~28、30及び31に示されるA549、H1299及びH1650肺がん細胞、U2-OS肉腫細胞、及び4T1乳がん細胞についてのMOI5の結果を参照されたい)。すなわち、腫瘍溶解性ウイルスに感染したMPCからの培地(v/v)では、腫瘍溶解性ウイルスに感染したMSCよりも、がん細胞の感染性が高いことが観察された。
【0236】
これらの結果は、上記の知見を更に支持し、腫瘍溶解性ウイルスの担体としてのMPCの使用の一般的な概念を更に支持する。したがって、本発明者の知見は、特に、がん細胞に腫瘍溶解性ウイルスを送達するためのこれらの知見の潜在的な応用を考慮して、当該技術分野における重要な進歩を表す。
【0237】
実施例9-抗がん療法
間葉系統前駆体細胞は、がんと診断された対象に投与される前に、RSV又はアデノウイルスなどの腫瘍溶解性ウイルスを含有する。約2億個の充填間葉系統前駆体細胞が対象に投与される。
【0238】
治療された対象は、約2~6週間にわたって療法の安全性及び有効性について評価される。必要に応じて、充填間葉系統前駆体細胞の更なる用量を投与する。
【0239】
実施例10-膵臓がん療法
間葉系統前駆体細胞は、膵臓がんと診断された対象に投与される前に、条件的に複製される腫瘍溶解性アデノウイルス(CRAd)を含有する。間葉系統前駆体細胞には、間葉系統前駆体細胞培養培地に腫瘍溶解性CRAdを添加することにより、約10~50個の感染性単位(i.u.)/MPCを充填する。約2億個の充填間葉系統前駆体細胞が対象に投与される。
【0240】
治療された対象は、約2~6週間にわたって療法の安全性及び有効性について評価される。必要に応じて、充填間葉系統前駆体細胞の更なる用量を投与する。
【0241】
広く記載される本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように、本開示に多数の変形及び/又は修正が行われ得ることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0242】
上で考察された全ての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0243】
本出願は、2020年8月10日に出願された63/063,657からの優先権を主張し、それらの開示は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0244】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、物品などの任意の議論は、単に本開示のための文脈を提供する目的のためである。これらの事項のいずれか又は全てが、本出願の各特許請求の範囲の優先日より前に存在していたように、先行技術の基礎の一部を形成するか、又は本開示に関連する分野における共通の一般的な知識であったことを認めるものではない。
【0245】
参考文献
・Ausubel et al.(editors)(1988,including all updates until present)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience。
・Bader et al.(2011)Gene Ther.18:1121-6。
・Brown TA(editor)(1991)Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press。
・Coligan et al.(editors)(including all updates until present)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons。
・Glover and Hames(editors)(1995 & 1996)DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press。
・Griffiths-Jones,S.2004 Nucl Acids Res,32,D109-D111。
・Harlow and Lane(editors)(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory。
・Kozomara et al.2013;Nucl Acids Res,42,D68-D73。
・Lennox and Behlke(2011)Gene Ther.18”1111-20。
・Perbal J(1984)A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons。
・Sambrook et al.,(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press.
・Simmons & Torok-Storb(1991)Blood.78:55-62。
【国際調査報告】