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特表2023-537106組織プラスミノーゲンアクティベーター製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】組織プラスミノーゲンアクティベーター製剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/06 20060101AFI20230823BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230823BHJP
   A61L 33/14 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 47/18 20170101ALN20230823BHJP
【FI】
A61L29/06
A61K38/36
A61K9/08
A61K47/26
A61P43/00 121
A61K31/195
A61K47/02
A61K9/14
A61P9/08
A61P7/02
A61L33/14
A61K47/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509578
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2021071977
(87)【国際公開番号】W WO2022033969
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/063,770
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591095465
【氏名又は名称】キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】アノーヴェー,ライ アントニー ミーナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB12
4C076CC11
4C076CC14
4C076DD07F
4C076DD09F
4C076DD26F
4C076DD51Q
4C076DD67
4C076EE23F
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF61
4C076FF63
4C076GG06
4C076GG47
4C081AC08
4C081BA05
4C081CD18
4C081DA11
4C081DA15
4C084AA01
4C084AA02
4C084DC21
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA43
4C084MA44
4C084MA66
4C084NA03
4C084NA04
4C084ZA391
4C084ZA541
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA01
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA63
4C206MA64
4C206MA86
4C206NA03
4C206NA04
4C206ZA39
4C206ZA54
(57)【要約】
本開示は、組織型プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の安定な製剤に関する。特に、本開示は、特定の新規性剤、その製造方法、その使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
i. 約0.15~0.25単位(U)/mLの組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPa)、
ii. 約1mM~10mMのトラネキサム酸、
iii. 2.5~5.0%(w/w)、好ましくは約3.0%(w/w)のスクロース、
iv. 所望により非イオン性界面活性剤、
v. 所望によりpH緩衝剤
を含む、液体組成物であって;
vi. 製剤のpHが6.0~8.0である、組成物。
【請求項2】
組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)が、レテプラーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
レテプラーゼが、0.2単位(U)/mLの量で含まれる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
tPaが、約0.3~0.4mg/mLにて存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
トラネキサム酸が、約1mMにて存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤を含み、非イオン性界面活性剤がポリソルベート80(PS80)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
PS80が、0.001%(w/w)~0.1%(w/w)の量で含まれる、請求項6に記載の液体組成物。
【請求項8】
PS80が、0.01%(w/w)、0.02%(w/w)、0.03%(w/w)、0.04%(w/w)、0.045%(w/w)、0.06%(w/w)、0.0675%(w/w)、0.07%(w/w)、0.08%(w/w)および0.09%(w/w)からなる群より選択される量で含まれる、請求項6または7に記載の液体組成物。
【請求項9】
リン酸カリウム緩衝系であり、好ましくは、20~30mMリン酸カリウム、より好ましくは約26mMリン酸カリウムを含む、pH緩衝剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項10】
7.0~8.0、好ましくは7.5のpHを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項11】
組成物が、単回使用バイアル中に含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項12】
組成物が、室温にて少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月安定である、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項13】
水を請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物から、好ましくは凍結乾燥により、除去することにより得られる本質的に水を含まない組成物。
【請求項14】
組成物が、粉末形態である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物を含む、単回使用バイアル。
【請求項16】
単回使用バイアルの容量が、2~15mLである、請求項15に記載の単回使用バイアル。
【請求項17】
単回使用バイアルが、約2mlの該組成物を含む、請求項15に記載の単回使用バイアル。
【請求項18】
カテーテルの機能が低下した患者の処置方法であって、該方法が、請求項1~12のいずれか一項に記載の液体製剤を患者の閉塞したカテーテルに注入することを特徴とする、方法。
【請求項19】
カテーテルが中心静脈アクセスデバイス(CVAD)であり、組成物をCVADに直接注入する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者の中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能回復に適する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
液体製剤が、単回使用バイアルで提供される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
該注入が、単回投与である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
該注入が、約60~120分間、好ましくは約90分間の間隔の後に1回繰り返される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
請求項13または14に記載の単位用量組成物、および再構成のための水を含む、キット。
【請求項25】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物を再構成する方法であって、該方法が、請求項13に記載の組成物に水を混合することから本質的になる、方法。
【請求項26】
カテーテルの機能を回復するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物または請求項13に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織型プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の安定な製剤に関する。特に、本開示は、特定の新規性剤、その製造方法およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスミノーゲンアクティベーター(PA)は、凝血塊の溶解に至る一連の事象に関与する内因性のセリンプロテアーゼである。これらのタンパク質は、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター(uPA)および組織型プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の2つの異なるグループに分類される(Nguyen et al., 1993, in Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs: Case Histories, Plenum Press, New York)。組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)は、特に、凝血塊の分解に関与するタンパク質である。それは、血管を覆う細胞である内皮細胞で見られるセリンプロテアーゼ(EC 3.4.21.68)である。酵素として、プラスミノーゲンからプラスミン(血塊の分解を担う主要な酵素)への変換を触媒する。ヒトtPAは、一本鎖の形態で約70kDaの分子量を有する。
【0003】
組み換えtPAは、アルテプラーゼ(Nguyen et al., 1993, in Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs: Case Histories, Plenum Press, New York)、レテプラーゼ(アルテプラーゼより長いインビボ半減期に関連するアルテプラーゼの組み換え変異体(N. Engl. J. Med, 1997, vol. 337, p. 1118-1123)、テネクテプラーゼ(Dillonら、同上))、およびデスモテプラーゼ(Li et al., 2017, Medicine(Baltimore), vol. 96, e6667)を含む。
【0004】
組み換えtPAは、血栓溶解に適した医薬として開発されている。特に、組み換えtPAは、肺塞栓症、心筋梗塞、脳卒中などの凝血塊を特徴とする特定の疾患の処置または予防のために開発されている。一般的な用途は、虚血性脳卒中である。組み換えtPAは、例えば急性心筋梗塞または急性虚血性脳卒中の場合に全身投与するか、または特定の血栓の場合に動脈カテーテルによって閉塞部位に直接投与することができる。投与される投与量は、通常、全身投与と、カテーテルなどによる局所投与との間で大きく異なる。
【0005】
一般に、組み換えtPAは、他の多くの生物活性成分と同様に、室温での低い長期安定性が付随する。実際、多くの生物学的活性成分は、一般に、水溶液などの液体中で保存すると、分解を含む望ましくない不安定性になる傾向がある。これは、そのような生物学的活性成分の使用準備済みの製剤を提供する上で問題を引き起こすだけでなく、そのような生物学的製剤の製造および保存中の欠点にも関連し得る。組み換えtPAは、安定な液体としておよびまたはその他の室温で安定な形態で利用できるようにはなっていない。それらは通常、凍結乾燥形態(凍結乾燥物)で提供され、通常は冷蔵温度で保存する必要がある。例えば、凍結乾燥されたCathfloは、冷蔵温度(2℃~8℃/36°F~46°F)で保存する必要がある。Cathfloは、使用直前に再構成する必要がある。
【0006】
室温で保存および商品化できる組み換えtPAの安定な組成物を有することが望ましい。また、組み換えtPAのそのような特定の安定な組成物が、製造プロセス中に望ましくない分解を受けることなく、便利に製造および製剤化できることが望ましい。また、静脈アクセスデバイスなどのカテーテル内で、例えば再構成後に容易に使用できるtPA製剤を得ることも望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、保存および/またはストレスに対して安定であり、閉塞したカテーテルを有する患者を処置するのに適した、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の新規製剤に関する。特に、本開示による製剤中のtPAの量は、本明細書に記載の液体製剤を患者の閉塞したカテーテルに直接注入でき、これによりカテーテルの閉塞を解消することを目的とするような量である。
【0008】
第1態様において、本開示は、
i. 約0.15~0.25単位(U)/mLの組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPa)、
ii. 約1mM~10mMのトラネキサム酸、
iii. 約2.5~5.0%(w/w)、好ましくは約3.0%(w/w)のスクロース
を含む、液体組成物であって、
製剤のpHが、6.0~8.0、好ましくは7.0~8.0、好ましくは7.5である、組成物に関する。
【0009】
所望により、非イオン性界面活性剤およびpH緩衝剤もまた、該組成物に含まれる。該組成物は、下記:
i. 約0.15~0.25単位(U)/mLの組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPa)、
ii. 約1mM~10mMのトラネキサム酸、
iii. 約2.5~5.0%(w/w)、好ましくは約3.0%(w/w)のスクロース、
iv. 所望により非イオン性界面活性剤、
v. 所望によりpH緩衝剤
を含み;
製剤のpHが、6.0~8.0、好ましくは7.0~8.0、好ましくは7.5であると定義される。
【0010】
第2態様において、本開示は、水を第1態様の組成物から、好ましくは凍結乾燥により、除去することにより得られる本質的に水を含まない組成物に関する。
【0011】
第3態様において、本発明は、カテーテルの機能が低下した患者の処置方法であって、該方法が、本開示の第1態様の液体製剤を患者の閉塞したカテーテルに注入することを特徴とする方法に関する。好ましくは、カテーテルが中心静脈アクセスデバイス(CVAD)であり、組成物をCVADに直接注入する。
【0012】
第4態様において、本開示はまた、第1態様の本質的に水を含まない組成物、および再構成のための水を含む、キットに関する。
【0013】
第5態様において、本開示はまた、第1態様の組成物を得る方法であって、該方法が、第2態様の組成物に水を混合することから本質的になる方法に関する。
【0014】
第6態様において、本開示はまた、カテーテルの機能を回復するための、第1および第2態様の組成物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書全体は、特許請求の範囲および図面と共に、本発明の個々の特徴の特定のおよび/または好ましい実施態様および異形体を開示する。本発明はまた、特に好ましい実施態様として、本発明について本明細書に記載される特定のおよび/または好ましい実施態様および異形体の2つ以上を組み合わせることにより生じる実施態様を企図する。したがって、本開示はまた、本明細書で個別にまたは集合的に言及または示される実体、化合物、特徴、ステップ、方法、投与の詳細または組成物のすべて、および前記の実体の任意のおよびすべての組合せまたは任意の2つ以上を含む。したがって、本明細書で他に断らないかまたは文脈上他に要求がない限り、単一の実体、化合物、特徴、ステップ、方法、投与の詳細または組成物への言及は、それらの実体、化合物、特徴、ステップ、方法、投与の詳細または組成物の1つおよび複数(すなわち1より多い、例えば2以上または3以上またはすべて)を包含するとみなされるものとする。他に断らない限りかまたは文脈上他に要求がない限り、本明細書に開示される各実施態様、態様および例は、本明細書に開示される任意の他の実施態様、態様または例に適用可能であり、それらと組み合わせ可能であるとみなされるものとする。
【0016】
当業者は、本明細書に記載の本発明が、具体的に記載されたもの以外の変更および改変を受けやすいことを理解する。したがって、本開示は、本明細書に記載の特定の実施態様によって範囲が限定されるものではなく、それらは、説明および例示の目的で本明細書において提供される。機能的またはその他の実体、化合物、特徴、ステップ、方法、投与の詳細または組成物は、本開示の範囲内である。本開示が、本明細書に文字どおり記載されている実体、化合物、特徴、ステップ、方法、投与の詳細または組成物のすべての変更および改変を含むことは、当業者には明らかである。
【0017】
本明細書で引用する各文献(すべての特許、特許出願、科学公開文献、メーカーの説明書、指示書、プレゼンテーションなどを含む)は、上記または下記にかかわらず、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。本明細書のいかなる内容も、本発明が、特定の教示に先行する権利を持たないことを認めるものとして、および/または技術常識以外の特定の文献が、当業者が過度の負担なく実質するのに十分に明確かつ完全な情報を含むであろうことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0018】
一般に、他に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、当業者(例えば、遺伝学、分子生物学、遺伝子発現、細胞生物学、細胞培養、免疫学、医学、クロマトグラフィー、タンパク質化学および生化学における)によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。例えば英語で発行された教科書および総説は、典型的には、当業者によって一般的に理解される意味を定義する。
【0019】
「および/または」、例えば「Xおよび/またはY」という表現は、「XおよびY」または「XまたはY」のいずれかを意味すると理解されるべきであり、「および」、「または」および両方の意味(「および」または「または」)の明示的な開示を提供するものと解釈されるものとする。
【0020】
本明細書で用いる用語「約(about)」、「約(ca.)」および「実質的に」はすべて、他に断らない限り、およそ(approximately)またはほぼ(nearly)を意味し、本明細書に記載の数値または範囲の文脈において、記載または請求する値または範囲の周りの好ましくは±10%、より好ましくは±5%、より好ましくは±2%、より好ましくは±1%を示す。特定の特徴、ステップ、時間間隔などが存在しないことに関連して用いる「実質的に」は、通常、それぞれの特徴、ステップ、時間間隔などがほぼ存在しないまたは必要最小限の取り扱いに留めるような方法で本発明を実施することを意味する。
【0021】
他に明確に断らない限り、「含む(comprise)」なる用語または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの異形体は、本文書の文脈で、「含む(comprising)」によって導入されるリストの構成要素に加えて、更なる構成要素が所望により存在してもよいことを示すために用いる。しかしながら、本発明の特定の実施態様として、用語「含む(comprising)」は、更なる構成要素が存在しない可能性を包含すること、すなわち、この実施態様の目的のために、「含む(comprising)」は、「からなる(consisting of)」の意味を有すると理解されるべきであることが企図される。
【0022】
他に明確に断らない限り、本発明に関する相対量のすべての表示は、重量/重量ベースで行われる。一般的用語によって特徴付けられる成分の相対量の表示は、当該一般的用語によってカバーされるすべての特定の異形体または構成要素の総量を指すことを意味する。一般的用語によって定義される特定の成分が特定の相対量で存在することが特定されている場合、およびこの成分が一般的用語によってカバーされる特定の異形体または構成要素であるとさらに特徴付けられる場合、一般用語によってカバーされる他の異形体または構成要素が、一般用語によってカバーされる成分の総相対量が特定の相対量を超えるように追加的に存在しないこと;より好ましくは、一般用語によってカバーされる他の異形体または構成要素がまったく存在しないことを意味する。
【0023】
本明細書で用いる組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)は、プラスミノーゲンからプラスミンへの変換を触媒できるセリンプロテアーゼを指す。tPA酵素は、フィブリンクロットの分解(線維素溶解)を触媒するのに適する。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、tPAはフィブリン(血液を凝固させる)を標的とし、血栓(凝血塊)を溶解することによって作用すると考えられる。例えば、ヒトでは、tPAは内皮細胞(血管を覆う細胞)に見られるが、この用語はヒト起源に限定されない。ヒトおよび非ヒトtPAは、本明細書で用いる用語tPAに含まれる。tPAは、組換えであってもそうでなくてもよい。
【0024】
本明細書で用いる組み換えtPAは、組み換えにより発現された、または組み換え供給源から入手可能なあらゆる組織プラスミノーゲンアクティベーターを指す。組み換えtPAには、アルテプラーゼ(Dillon et al., 2019, Adv. Emerg. Nurs. J., vol. 41, p. 271-278)、レテプラーゼ(Dillon et al., 2019, 同上)、テネクテプラーゼ(Dillonら、同上)、デュテプラーゼ(Kalbfleisch et al., 1992, Am. J. Cardiol., vol. 69, p. 1120-1127)、デスモテプラーゼ(Li et al., 2017, Medicine (Baltimore), vol. 96, e6667)を含むが、これに限定されない。
【0025】
本明細書で用いる活性医薬成分は、薬物(医薬)の製造に使用するのに適した物質であり、薬物の製造に使用するとき、医薬品の活性成分となる。
【0026】
本明細書において、活性成分なる用語は、疾患の診断、治癒、緩和、処置または予防において薬理活性または他の直接効果を提供するのに適した、あるいはヒトまたは他の動物の体の構造または任意の機能に影響を与えるのに適した医薬品の任意の成分を指すために使用される。活性成分は、医薬品の製造中に化学変化を受け、特定の活性または効果をもたらすことを意図した改変された形態で医薬品中に存在し得る製剤の成分を含む。
【0027】
本発明の文脈内で、好ましい活性成分は、ヒト組織プラスミノーゲンアクティベーター由来の血栓溶解剤より選択される。最も好ましい活性成分は、レテプラーゼである(Wooster et al., 1999、Ann. Pharmacother., vol 33, p. 318-324)。
【0028】
本明細書で用いる医薬品は、一般に、必ずしも必要ではないが一般に不活性成分と関連して、活性医薬成分を含有する最終剤形、例えば錠剤、カプセル剤、散剤または液剤を指す。特定の文脈において、医薬品は、本開示の第1の態様による組成物および/または第2の態様による組成物を指す。
【0029】
原薬なる用語は、活性成分と相互交換可能に用いられる。
【0030】
本発明によれば、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)を含む特定の組成物が提供される。したがって、特に本発明の文脈において、tPAは原薬とも称し得る。
【0031】
tPAの組成物に言及する場合、「製剤」および「組成物」なる用語は、相互交換可能に用いられ、tPAと1つ以上の添加剤、例えば本明細書に一般的に記載されているものとを含むあらゆる凝集状態の組成物を定義する。
【0032】
より具体的には、本開示は、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の製剤に関する。そのような組成物のいくつかの実施態様が本明細書で提供される。その本質的に水を含まない形態、例えば凍結乾燥形態において、製剤は室温で安定である。本質的に水を含まない製剤は、例えば液体製剤の凍結乾燥によって得ることができる。当該液体製剤は、生物薬剤の商業生産において頻繁に遭遇するストレス条件、特に凍結融解ストレスに対して安定である。したがって、これらすべての利点を組み合わせて考慮すると、保存安定である本質的に水を含まない製剤と、製造中の取り扱いストレスに耐性のある液体製剤とのペアは、一緒に、容易に調製できる適切な医薬製剤を提供する。本開示はまた、本開示の液体組成物を患者に投与することを含む、中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能が低下した患者を処置する方法を企図する。その目的で、本発明の本質的に水を含まない製剤を水で再構成し得る。
【0033】
一般に、具体的に言及するかどうかにかかわらず、本開示のすべての態様および実施態様を通じて、水が高純度グレードの水、より好ましくは注射用水(WFI)であることが一般に好ましい。特に、滅菌注射用水(sWFI)が好ましい。
【0034】
本開示において、活性医薬成分tPA(例えばレテプラーゼ)は、本明細書に記載する、スクロースおよびトラネキサム酸を含む組成物に製剤化される。より具体的には、tPAは、本明細書において、好ましくは、トラネキサム酸(TA)、リン酸塩およびスクロース(まとめてTAPS成分)を含む添加剤系で製剤化される。TAPS含有レテプラーゼ製剤は以前から知られているが(比較例3を参照)、本発明の製剤は、以前から知られているもの(比較例3)とは全く異なる成分比で、液体および本質的に水を含まない形態の両方で特に安定であるだけではないが、希釈を必要とせず、カテーテルへの直接注入にも適する。本開示の組成物は、特に組成物のtPA対他の成分の比において、既知のtPA組成物と著しく区別される。
【0035】
(液体組成物)
第1態様において、本開示は、
i. 約0.15~0.25単位(U)/mLの組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)、
ii. 約1mM~10mMのトラネキサム酸、
iii. 約2.5~5.0%(w/w)、好ましくは約3.0%(w/w)のスクロース
を含む、液体組成物であって、
製剤のpHが、6.0~8.0、好ましくは7.0~8.0、好ましくは7.5である、組成物に関する。
【0036】
所望により、非イオン性界面活性剤およびpH緩衝剤もまた、該組成物に含まれる。該組成物は、下記:
i. 約0.15~0.25単位(U)/mLの組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPa)、
ii. 約1mM~10mMのトラネキサム酸、
iii. 約2.5~5.0%(w/w)、好ましくは約3.0%(w/w)のスクロース、
iv. 所望により非イオン性界面活性剤、
v. 所望によりpH緩衝剤
を含み;
製剤のpHが、6.0~8.0、好ましくは7.0~8.0、好ましくは7.5であると定義される。
【0037】
個々の構成成分およびそれらの関係および関連性について簡単に説明する。
【0038】
液体組成物は、典型的には、液体として水を含む。好ましくは、液体製剤は、水ベースの液体製剤である。
【0039】
一実施態様において、該組成物は、液体である。別の実施態様において、該組成物は、凍結している。凍結組成物の好ましい温度範囲は、-10~-80℃の範囲、例えば約-20℃である。
【0040】
組換え組織プラスミノーゲンアクティベーター
組換え組織プラスミノーゲンアクティベーター(rtPA)は、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の組換え形態であり、rPAとも称し得る。
【0041】
本明細書において、rtPAは、API(活性医薬成分)とも称される。本開示による組成物での使用に適したtPAは、特に限定されず、アルテプラーゼ(Nguyen et al., 1993, in Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs: Case Histories, Plenum Press, New York)、レテプラーゼ:アルテプラーゼより長いインビボ半減期に関連するアルテプラーゼの組み換え変異体(N. Engl. J. Med, 1997, vol. 337, p. 1118-1123)、テネクテプラーゼ(Dillonら、同上)、テネクテプラーゼおよびデスモテプラーゼ(Li et al., 2017, Medicine(Baltimore), vol. 96, e6667)を含む、公知のすべてのtPa、組み換えまたはその他を含む。
【0042】
rtPAの市販製剤は、入手可能であるが、これらは本発明に該当しない(比較例1、2および3)。
【0043】
本開示における好ましいtPAには、アルテプラーゼおよびレテプラーゼが含まれ、レテプラーゼが特に好ましい。レテプラーゼは、特定のrtPAであり、本明細書で最も好ましいrtPAである。レテプラーゼの構造、機能および製造は、文献に広く記載されている。例えばMuhammadi et al., 2019, Adv. Biomed. Res. Vol. 8, 19参照。いくつかの実施態様では、本発明の製剤は、比較例3に例示するレテプラーゼ(Retavase)から、またはレテプラーゼ原薬から得ることができる。
【0044】
好ましくは、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)は、レテプラーゼである。より好ましくは、第1態様によれば、レテプラーゼは、約0.2単位(U)/mLの量で含まれる。別の言い方をすれば、tPa、好ましくはレテプラーゼは、約0.3mg/mL~約0.4mg/mL、より好ましくは約0.35mg/mLにて存在することが好ましい。
【0045】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、tPAはフィブリン(血液を凝固させる)を標的とし、血栓(凝血塊)を溶解することによって作用すると考えられる。本明細書に記載のように投与するとき、本明細書に記載の製剤は、患者の中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能を回復するのに有用である。一般に、例えばアルテプラーゼおよびレテプラーゼなどのtPAは、高いフィブリン特異性を有する。したがって、好ましくは、本発明による組成物に含まれるtPAは、カテーテル閉塞におけるフィブリンに富む血塊に特異的に作用する。
【0046】
トラネキサム酸
本明細書で実験的に証明されるとおり、トラネキサム酸は、レテプラーゼの熱力学的安定性に対して有益な効果を有する(実施例1を参照)。トラネキサム酸の濃度を上げることにより、熱力学的安定性が向上する。特に、高濃度のトラネキサム酸は、有益であり得る(実施例1を参照)。しかしながら、1mMという低い濃度で、安定性がすでに観察されている。したがって、第1の態様による液体製剤中のトラネキサム酸の特に好ましい量は、約1mMである。
【0047】
スクロース
本開示に示すとおり、より高いスクロースレベルは、わずかに有益な効果を有すると考えられたが(実施例1)、極めて高いスクロースレベル(8%)は、更なる有益な効果を提供することなく凍結乾燥プロセスを複雑にする可能性がある(実施例2)。
【0048】
効率的な凍結乾燥のためには、3%スクロース製剤の異形体が、前に進むための最も適切な候補である(実施例4を参照)。
【0049】
本開示によるtPAに対するスクロースの相対量は、当技術分野で知られているように、tPAに対するスクロースの相対量とは著しく異なる(例えば実施例6を参照)。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、これは、本開示による製剤の安定性の利点を提供する上で極めて重要であると考えられる。
【0050】
非イオン性界面活性剤
好ましくは、液体組成物は、第1態様によれば、非イオン性界面活性剤を含む。好ましくは、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート80(PS80)である。液体製剤中のPS80の好ましい濃度は、約0.001(w/w)および0.1%(w/w)、好ましくは約0.01%(w/w)、さらに好ましくは約0.02%(w/w)、好ましくは約0.03%(w/w)、好ましくは約0.04%(w/w)、好ましくは約0.045%(w/w)、好ましくは約0.06%(w/w)、好ましくは約0.0675%(w/w)、好ましくは約0.07%(w/w)、好ましくは約0.08%(w/w)、好ましくは約0.09%(w/w)である。
【0051】
pH
第1態様による液体組成物のpHは、好ましくは6.0~8.0の範囲、好ましくは7.0~8.0、さらに好ましくは7.5である。実験的に示されるように、より高い値(pH7.5)に向かうpHの変化は、コロイドの安定性に関して明らかな有益な効果を示した(実施例1参照)。
【0052】
その目的で、好ましくは、液体組成物はまた、pH緩衝剤を含む。よ好ましくは、該pH緩衝剤は、リン酸カリウム緩衝系である。カリウムの好ましい濃度は、20~30mMカリウム、より好ましくは約26mMカリウムの範囲を含み、上記範囲内のpHを保証するのに適切な量のカリウム対イオンを含む。例えば、リン酸カリウムの濃度は、20~30mMリン酸カリウムの範囲、より好ましくは約26mMリン酸カリウムを含む。
【0053】
第1態様の液体組成物が、例えば冷蔵温度にて少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月、安定であることは、該組成物の好ましい利点である。
【0054】
液体製剤は、凍結融解ストレスに対しても安定している。したがって、必要に応じて、液体製剤を複数回凍結および解凍し得る。これは製造中に極めて有用であり、品質を損なうことなく解凍および再凍結が可能である本明細書で企図されるバイアルなど、バルク製品およびアリコートサンプルの両方の凍結保存を可能にする。
【0055】
液体製剤の製造
本発明による組成物の製剤に用いられるtPA物質の生物活性にはバッチごとの多様性があり得るが、tPAの特定の量は製造プロセスで調整されるので、各バイアルに満たされる単位は、常に本開示の範囲内にある。言い換えれば、血塊溶解活性のバッチ間変動があるとしても、バイアル(アリコート)の充填および凍結乾燥の前に、その後の製造工程でそれに応じて調整/製剤化されるため、これは問題ではない。
【0056】
アリコート
いくつかの実施態様において、液体組成物は、「アリコート」とも呼ばれる単回使用バイアル中に含まれる。本開示による組成物で満たした単回使用バイアルは、単位用量組成物、または用量単位とも称し得る。
【0057】
特に、本開示による製剤中のtPAの量は、本明細書に記載の液体製剤を患者の閉塞したカテーテルに直接注入でき、これによりカテーテルの閉塞を解消することを目的とする量である。
【0058】
好ましくは、本発明の製剤は、本発明による製剤の各バイアル中に0.4単位の血塊溶解活性を含むように等分される。
【0059】
液体製剤を含むそのような単回使用バイアルは、バイアルに液体製剤を充填することによって、または以下に記載する本発明の第2の態様による本質的に水を含まない製剤に水を混合することによって得られる。
【0060】
液体製剤の特定の利点
したがって、第1の態様において、本発明は、本明細書に記載の液体組成物に関する。
【0061】
凍結融解ストレスにさらされた試料では、医薬品(DP)の液体製剤の化学分解は観察されず(例えば実施例2も参照)、医薬品の凍結乾燥製剤に対する適合性を説明する。言い換えれば、液体製剤は、凍結融解ストレスに対して安定であり、これは、凍結融解サイクルの繰り返しが製造プロセスの工程であることが多い製造中の大きな利点を表している。
【0062】
tPAのアミド分解活性は、凍結融解にさらされても本質的に影響を受けないままである(例えば実施例2を参照)。
【0063】
液体製剤の特定の利点を踏まえると、特に以下の点が注目に値する。
【0064】
最初に、一般に、タンパク質分子の分解は、温度が低いほど遅くなる。したがって、多くの場合、より低温での保存が、保存期間を延ばすための好ましい選択肢である。特に、氷点下の温度での保存は、分解および輸送ストレスなどの液体保存に関連する潜在的なリスクを軽減し、長期保存に適した選択肢となることが認識されている(Rayfield et al., 2017, J. Pharm Sci., vol. 106, p. 1944-1951)。
【0065】
しかしながら、凍結と融解の速度が遅いと、特に大型の保存容器(>2L)では、凍結濃縮(すなわち溶質分子の排除)が大きくなり、タンパク質および添加剤の濃度が高くなり、所望の製剤、pH、および添加剤濃度に変化が生じ得る。これらの条件は、製品の品質に悪影響を及ぼし得る。したがって、凍結と解凍は通常、目的製品のプロファイルに影響を与え得る。
【0066】
凍結と解凍は、典型的には、原薬の保存のために使用されるが、例えば臨床試験用医薬品などの医薬品(最終医薬製剤)にとって、長期にわたる可能性のある臨床試験で供給することも重要であり得る(Ho et al., 2008, Am. Pharmaceut. Rev., p. 1-6)。
【0067】
したがって、第1の態様による組成物が凍結融解サイクルに対して安定であるという事実は、当業者が予測し得ないいくつかの利点と関連している。
【0068】
さらに、本明細書の下記により詳細に記載するとおり、本開示の液体組成物から、本開示の本質的に水を含まない組成物も、例えば、実施例4に記載する凍結乾燥によって容易に得ることができる。逆に、本開示の液体組成物は、例えば、液体、好ましくは水、より好ましくは注射用水の添加により、本開示の本質的に水を含まない組成物から直接得ることができる。最も好ましくは、添加される液体は、滅菌注射用水である。
【0069】
液体製剤
本発明による製剤の各バイアル中で0.4単位の血塊溶解活性を達成するために、レテプラーゼ(例えば比較例3)を、その特定のバッチの初期血塊溶解活性に基づく各添加剤の量で希釈する必要がある。例えば、レテプラーゼ活性医薬成分(API)が0.679~0.721mgの範囲である場合、次の推定範囲が添加剤に適し得る。
レテプラーゼ:0.7mg(商業的製造確立時の可能範囲:±3%となる0.679~0.721mg)。同じ±3%を用いと、添加剤の範囲は潜在的に次のようになる。
トラネキサム酸:1mM(目標1mM=0.31mg、範囲:0.30~0.32mg)
スクロース:3%(目標3%=61mg、範囲:59~63mg)
ポリソルベート80:0.001~0.09%(例えば1.9mg、範囲:1.84~1.96mg)
リン酸二水素カリウム:目標8.36mg、範囲:8.11~8.61mg
リン酸:目標0.69mg、範囲:0.67~0.71mg
【0070】
一実施態様において、該組成物は、液体である。別の実施態様において、該組成物は、凍結している。凍結組成物の好ましい温度は、約-20℃である。
【0071】
(本質的に水を含まない組成物)
第2態様において、本開示は、水を第1態様の組成物から、好ましくは凍結乾燥により、除去することにより得られる本質的に水を含まない組成物に関する。
【0072】
したがって、液体、好ましくは水の含有量の違いを除いて、第2の態様の本質的に水を含まない組成物は、第1の態様の液体組成物に対応する。したがって、簡潔さのために、スクロース、トラネキサム酸、非イオン性界面活性剤、pH、pH緩衝剤などのこのような組成物の個々の構成要素の特徴は、第2の態様の文脈では本明細書において特に再度説明しない。第1の態様のそれぞれの開示は、それが第2の態様に関しても本明細書で明示的に記載されているかのように、第2の態様にも読み取られるべきである。したがって、第1の態様の上記の実施態様はすべて、本明細書で明示的に記載されているかどうかにかかわらず、第2の態様の実施態様に明示的に転換可能である。単に説明のために、第2の態様では、本質的に水を含まない組成物中の組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)がレテプラーゼであることが好ましい。第2の態様によるこのような組成物は、例えば、第1の態様によるレテプラーゼ組成物を凍結乾燥することにより得られる。
【0073】
第2態様の本質的に水を含まない組成物が、室温にて少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月安定であることは、該組成物の好ましい利点である。さらにより好ましくは、組成物は、室温にて少なくとも1年間、好ましくは少なくとも2年間、より好ましくは少なくとも3年間安定である。室温は、例えば約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃より選択される、約20~約25℃の温度範囲を指す。
【0074】
一般に、室温での安定性は、より苛酷な条件での実験的に証明された安定性に基づいて予測できる(本明細書の実施例を参照)。
【0075】
第2態様の本質的に水を含まない組成物は、例えば実施例4に記載される、第1態様の液体製剤から水を除去することにより得られる。水を除去するための適切な方法は、凍結乾燥(lyophilization)とも呼ばれる凍結乾燥(freeze-dry)である。組成物は通常、凍結乾燥されたバイアル中の凍結乾燥物質(凍結乾燥ケーキとも呼ばれる)として得られる。好ましくは、凍結乾燥物質は、粉末形態である。
【0076】
好ましくは、第2態様の本質的に水を含まない組成物は、単回使用バイアル中に存在する。好ましくは、単回使用バイアルの容量は、2~15mLである。これにより、再構成後、当該単回使用バイアルが約2mlの第1の態様の液体組成物を含むことが可能になる。当該容量は、本明細書に記載のように、ヒト患者のカテーテルへの部分的または完全な注入に適する。したがって、再構成により得られる液体製剤は、希釈を必要としない。Retavase市販品の相当な希釈が最初に必要とされるため、これは、そのような医療用途のためのRetavase市販品の理論的使用(比較例3)に対する主要な利点を表す。誤解を避けるために、再構成は、水(好ましくは注射用水)を第2の態様の組成物に混合し、これにより第1の態様の組成物を得ることを指す。
【0077】
医薬品は、室温で安定した特性を与えるために凍結乾燥形態で製造される。したがって、本開示による本質的に水を含まない組成物は、医薬品とも称し得る。本明細書で以下に記載するように、患者を処置する方法またはカテーテルの機能を回復する方法に適するために、医薬品は通常、水、好ましくは注射用水(WFI)で再構成する必要がある。
【0078】
したがって、第2の態様において、本発明は、本明細書に記載の本質的に水を含まない組成物に関する。本質的に水を含まないとは、水分含有量(w/w)が2%以下、好ましくは1%以下であることを意味する(実験的裏付けについては、例えば実施例5を参照)。
【0079】
第2の態様の凍結乾燥組成物および第2の態様の本質的に水を含まない組成物は、互いに直接関連しており、水の添加または除去によって相互に変換可能である:
1. 一実施態様において、第2の態様による本質的に水を含まない組成物は、本発明の第1の態様による液体組成物を(必要に応じて分注し、そして)凍結乾燥することにより直接得ることができる。
2. 一実施態様において、第1の態様による液体組成物は、本発明の第2の態様による本質的に水を含まない組成物を、水と混合し、再構成することにより直接得ることができる。
【0080】
したがって、例えば第2の態様による凍結乾燥組成物のみが、技術的利点を伴うわけではなく、第1の態様による液体組成物のみが、利点を伴うわけでもない:個々の組成物のこれらすべての利点の上に、更なる利点が、当該組成物の直接変換可能性に存在する。したがって、本発明において、それぞれの組成物の製造プロセスにおける利点は、そのようなプロセスから得られる生成物における利点に結び付けられる。
【0081】
一実施態様において、本質的に水を含まない組成物は、凍結乾燥により得られる。このような製剤は、凍結乾燥製剤と称し得る。
【0082】
例えば実施例2に示すとおり、本開示による製剤の本質的に水を含まない(例えば凍結乾燥された)製剤は、保存に対して安定である。
【0083】
本明細書に記載のように、本開示の本質的に水を含まない組成物は、例えば実施例4に記載する凍結乾燥によって、本開示の液体組成物から容易に得ることができる。本質的に水を含まない組成物は、安定である(実施例5を参照)。
【0084】
上記のすべての化合物または少なくとも1つの化合物を含む上記の組成物は、一般に、一般に知られている方法を用いて、本明細書で詳細に概説した手順に従って製造できる。
【0085】
本発明による本質的に水を含まない組成物は、当技術分野で知られている組成物を超えるいくつかの利点を伴う。例えば、Cathfloは、カテーテル内使用のためのtPAの既知の製剤である。簡単に説明すると、Cathfloは、有効成分のアルテプラーゼと、添加剤のアルギニン、ポリソルベート80およびpHを調整するためのリン酸を含む。CathfloTMは、凍結乾燥製剤として販売されているが、凍結乾燥物は冷蔵温度(2~8℃/36~46°F)で保存する必要がある(比較例2を参照)。
【0086】
対照的に、本発明による本質的に水を含まない組成物は、室温で安定である。さらに、本明細書に記載のように、本発明による本質的に水を含まない組成物は、本発明による液体組成物を(必要に応じて分注し、そして)凍結乾燥することにより直接得ることもできる。
【0087】
一実施態様において、本質的に水を含まない製剤は、単回使用の凍結乾燥バイアル形式で提供される。具体的には、特にカテーテルの解消に適しており、それを意図した滅菌注射用水(sWFI)などの水で再構成するために提供され得る。
【0088】
一般に、タンパク質分子の安定性は氷点下の温度に凍結することにより延長できるという一般的な傾向があるが、タンパク質分子の安定性に対する凍結融解の影響に関する一般的な傾向はない。構造的に比較的密接に関連するタンパク質分子でさえも、凍結融解曝露に対する安定性が大幅に異なる可能性がある(Rayfield et al., 2017, J. Pharm Sci., vol. 106, p. 1944-1951)。したがって、凍結融解曝露に対する本開示による液体製剤の具体的な安定性は、当業者の知識に基づいて予測し得なかった。そのような凍結乾燥製剤が室温で安定であることも予測し得なかった。
【0089】
(患者の処置方法)
第3態様において、本発明は、カテーテルの機能が低下した患者の処置方法であって、該方法が、本開示の第1態様の液体製剤を患者の閉塞したカテーテルに注入することを特徴とする方法に関する。本明細書で用いる用語「処置」および「処置する」は、文脈上他に断らない限り、対象体の予防的処置および治療的、すなわち治癒的処置の両方を含む。
【0090】
好ましくは、組成物を患者のカテーテルに直接注入する。したがって、第3の態様において、本発明は、本明細書に記載の患者を処置する方法に関する。このような目的のために、本発明の本質的に水を含まない製剤は、水で再構成し得る。あるいは、本開示の液体組成物を用い得る。
【0091】
この方法では、tPAは、カテーテル内での使用に適する。
【0092】
当該方法を実施するためのカテーテルの好ましいカテゴリーは、カテーテルであり、最も好ましいのは、閉塞したまたは部分に閉塞したカテーテルである。本開示の製剤の投与は、カテーテル内の閉塞または部分的閉塞を解消することを目的とする。このような目的のために、製剤をカテーテルに直接注入する。
【0093】
中心静脈アクセスデバイス(CVAD)は、カテーテルの1つのカテゴリーである。CVADは、本発明による方法において最も好ましいタイプのカテーテルである。簡単に説明すると、本開示はまた、本開示の液体組成物を患者に投与することを含む、中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能が低下した患者を処置する方法を企図する。
【0094】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、tPAはフィブリン(血液を凝固させる)を標的とし、血栓(凝血塊)を溶解し、中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能を回復することによって作用すると考えられる。したがって、好ましくは、カテーテルは中心静脈アクセスデバイス(CVAD)であり、組成物をCVADに直接注入する。好ましくは、該方法は、患者の中心静脈アクセスデバイス(CVAD)の機能回復に適する。
【0095】
該方法の目的のために、本発明による組成物は、好ましくは、単回使用バイアルで提供される。その目的で、単回使用バイアルは、好ましくは、第2態様による本質的に水を含まない組成物を含み、投与前に再構成され、これにより、第1態様による液体組成物が得られる。
【0096】
本明細書において、2つの別の投与様式が企図される:
- 第1実施態様において、投与は、単回投与である。
- 第2実施態様において、投与は、2回投与である。すなわち、最初(1回)の投与後、投与は、約60~120分間、好ましくは約90分間の間隔の後に1回繰り返される。
【0097】
したがって、tPAは、CVADの機能回復に適用される。好ましくは、採血能力によって評価されるCVADの機能の回復。さらに好ましくは、CVADの機能回復は、3mLの血液を採取する能力および/または5mLの生理食塩水を注入する能力として測定される。
【0098】
本発明による再構成されたtPAは、好ましくはカテーテルに注入される。これにより、tPAは、基本的にカテーテル内に留まり、凝血塊に直接曝露されるため、全身への曝露が制限される。ごく一部が血流に入る可能性があるが、循環血漿レベルが薬理学的濃度に達するとは予想されない。
【0099】
このような方法に適した製剤は、好ましくは、本質的に血塊溶解活性が損なわれていない。したがって、製剤が患者への投与前に凍結融解されたかどうかに関係なく、患者は、本質的に血塊溶解活性が損なわれていない活性成分を投与される。このような製剤は、室温で本質的に水を含まない(凍結乾燥)形態で安定であるため、この利点は、特に本開示による凍結乾燥製剤で達成可能である。
【0100】
第3の態様において、言い換えれば、本発明はまた、本開示の液体組成物を患者に投与することを含む、中心静脈アクセスデバイス(CVAD)などのカテーテルの機能が低下した患者を処置するなど、本明細書に記載の患者を処置する方法で使用するためのtPAも包含する。このような目的のために、本開示の本質的に水を含まない製剤を水で再構成し得る。
【0101】
(組成物の変換方法)
第5態様において、本開示はまた、第1態様の組成物を得る方法であって、該方法が、第2態様の組成物に水を混合することから本質的になる方法に関する。水は高純度グレードの水であることが一般に好ましく、より好ましくは注射用水(WFI)である。特に、滅菌注射用水(sWFI)が好ましい。好ましくは、このような方法は、本明細書に記載の単回使用バイアルとの関連で適切である。これにより、第2態様の保存安定組成物を使用場所に輸送し、該使用場所で本質的に水を含まない組成物を液体組成物に変換することが可能になる。限定するものではないが、典型的な使用場所は輸液センターである。典型的な輸液センターには、診療所および病院が含まれる。当該場所での使用は、通常、本明細書に記載の患者への投与である。
【0102】
第6態様において、本開示はまた、第2態様の本質的に水を含まない組成物を得る方法であって、該方法が、第1態様の組成物から水を除去することから本質的になる方法に関する。具体的には、適切な実施態様が以下の実施例に記載されているが、それらは限定と解釈されるべきではない。
【0103】
組成物は、次の表1に示すように変換できる。
【表1】
【0104】
医薬品の製造は、凍結した液体の原薬を融解し、その後それを凍結乾燥して、本質的に水を含まない組成物を生成することを含む。本質的に水を含まない組成物は、好ましくはバイアル中の乾燥粉末化ケーキ(凍結乾燥物)である。凍結乾燥前の液体製剤は、バルク原薬または略してBDSと定義される。
【0105】
医薬品は、室温で安定した特性を与えるために凍結乾燥形態で製造される。
【0106】
(キット)
第4態様において、本開示はまた、第1態様の本質的に水を含まない組成物、および再構成のための水を含む、キットに関する。特に、本発明は、本明細書に記載のキットに関する。その目的で、組成物は、キットとして市販化され得る(水と一緒に包装された薬物バイアル)。
【0107】
簡単に説明すると、このようなキットは、本発明による本質的に水を含まない製剤、および適量の注射用水(WFI)を含み得る。製剤およびWFIは、所望により、しかし好ましくは使用指示書と一緒に包装され得る。
【0108】
しかしながら、いくつかの実施態様において、組成物がキット(水と一緒に包装された薬物バイアル)として商品化されないことがより好ましい。このような場合、処方情報/パンフレットと一緒に箱に市販の包装された薬物バイアルのみである。
【0109】
以下の実施例および比較例は、その範囲を限定することなく本発明を例示する。
【実施例
【0110】
比較例1:Activase(アルテプラーゼ凍結乾燥粉末)
アルテプラーゼは、組み換えtPAである。より具体的には、アルテプラーゼは、527個のアミノ酸からなる精製tPA糖タンパク質である。アルテプラーゼは、ヒト細胞株から得られる天然のヒト組織型プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)の相補的DNA(cDNA)を用いて得られる。製造プロセスは、アルテプラーゼのcDNAが遺伝子的に挿入された確立された哺乳類細胞株(チャイニーズハムスター卵巣、CHO)による培地への酵素アルテプラーゼの分泌を含む。
【0111】
Activaseは、約0.01%ポリソルベート80を含むアルギニンリン酸緩衝液中にアルテプラーゼを含む凍結乾燥製剤である。無菌の凍結乾燥粉末として提供される。アルテプラーゼは、Activase凍結乾燥粉末として製剤化されるとき、制御された室温にて4年超の保存後でも、生物活性の著しい損失または分子の変化を示さない。添加剤とpHの両方が、室温でのActivaseの安定性に寄与すると考えられる。しかしながら、凍結乾燥Activaseの分解は、高温に長時間曝露された後に生じ、固体状態での主な分解経路は、高分子量種の形成であった(Nguyen et al., 1993, in Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs: Case Histories, Plenum Press, New York)。
【0112】
液体状態では、アルテプラーゼは、アルテプラーゼ自体であると言われているプロテアーゼによる切断も受けやすい(Nguyenら、同上)。液体状態での不安定性を反映して、Activaseは液体状態では市販されていないが、使用前に再構成するための凍結乾燥粉末として販売されている。
【0113】
要約すると、Activase凍結乾燥粉末は、一般的に室温で安定であると考えられている(Nguyenら、同上)。
【0114】
比較例2:Cathflo(冷蔵のアルテプラーゼ凍結乾燥粉末)
CathfloTM Activase(登録商標)(Genentech、Inc., South San Francisco、CA)は、2005年にFDAによって最初に承認された、注射および点滴用の溶液を意図した、アルテプラーゼ(比較例1参照)を含む凍結乾燥粉末である。
【0115】
FDAによって提供されている情報(https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/103172s5260lbl.pdf)によれば、CathfloTM Activase(登録商標)粉末の1バイアルは、2.2mgのアルテプラーゼ(10%の過充填を含む)、77mgのL-アルギニン、0.2mgのポリソルベート80、およびpH調整のためのリン酸を含む。CathfloTM Activase(登録商標)粉末は、冷蔵温度(2~8℃/36~46°F)で保存しなければならない。CathfloTM Activase(登録商標)粉末は、無菌の白色から淡黄色の凍結乾燥粉末である(Lindemannら、同上)。
【0116】
CathfloTM Activase(登録商標)は、使用直前に、最終濃度1mg/mlに再構成する必要がある(Lindemann et al., 2004, Clin. J. Oncol., Nurs., vol. 8, p. 417-419)。再構成された各バイアルには、約7.3のpHで2mgのCathflo Activaseが含まれる。
【0117】
比較例3:Retavase(登録商標)(レテプラーゼ凍結乾燥粉末)
Retavase(登録商標)は、Chiesi USA, Inc.(Cary, NC)が販売する製品であり、活性成分としてレテプラーゼを含有する。レテプラーゼは、野生型tPA分子の特定の領域が削除されたtPAの欠失変異体である(Ross, 1999, Clin. Cardiol., vol. 22, p. 165-171)。
【0118】
実施例1:9つの異なる製剤の初期スクリーニング
活性医薬成分レテプラーゼ(比較例3で配合)の既知の製剤の理論的評価に基づいて、適切な条件(pHおよびトラネキサム酸(TA)、リン酸塩、スクロース(まとめてTAPS)成分の変更)が選択され、活性医薬成分(API)の安定化との関連性に関して試験した。
【0119】
活性成分を、Wacker(ドイツ)からレテプラーゼAPI溶液として入手した。
【0120】
特に下記を試験した:
- 合計9つの製剤の異形体の実験計画法(DoE)テストマトリックスの定義
- テストマトリックスのすべての異形体の製造(透析による)および分析
- CG-MALSによるコロイド安定性(分子間相互作用、A2)の決定
【0121】
また、異形体の熱力学的安定性を、変性の開始温度(T開始)を決定するためにnanoDSCを用いて評価した。
【0122】
次の9つの製剤の異形体のマトリックスを設計した(表E1)。pH、トラネキサム酸(TA)濃度およびスクロース濃度に関するAPIの一般的な挙動を評価した。試料を、対応する製剤バッファーへのAPIの透析により製造した。
【0123】
pHを6.0~7.5に調整した。各pH値について、2つのトラネキサム酸濃度(1mMおよび10mM)と2つのスクロース濃度(2%および8%)を試験した。第9の異形体として、pH6.75、5mMトラネキサム酸および5%スクロースを有する中心点を選択した。緩衝液(リン酸カリウム)濃度は、50mMで一定に保った。
【表2】
【0124】
製剤の異形体におけるレテプラーゼのコロイド安定性を、第2ビリアル係数A2の決定のために組成勾配多角度光散乱(CG-MALS)を用いて評価した。製剤の異形体におけるレテプラーゼの熱力学的安定性を、変性の開始温度(T開始)を決定するためにnanoDSCにより評価した。
【0125】
透析中、すべての異形体で沈殿が観察された。分子間力は溶解した分子間でのみ測定できるため、CG-MALS測定の前に試料を遠心分離し、ろ過して沈殿物を除去した。
【0126】
トラネキサム酸は、レテプラーゼの熱力学的安定性に有益な効果があると考えられたが、コロイド安定性への影響は実証できなかった。
【0127】
スクロース濃度が低いほど、熱変性プロセスの開始温度(T開始)が低下すると考えられる。熱力学的安定性に有益な最高T開始値は、異形体#4、#7および#8について決定した。
【0128】
pH値は、APIの熱力学的安定性にわずかな影響しか与えなかった。より高い値(pH7.5)に向かうpHの変化は、コロイドの安定性に関して明らかな有益な効果を示した。
【0129】
9つの製剤を、ナノ示差走査熱量測定(Nano DSC)、組成勾配多角度光散乱(CG-MALS)、CG-MALS測定、およびその他の分析方法により評価した。
【0130】
NanoDSCは、溶液中のタンパク質および他の巨大分子の変性温度と変性エンタルピーを決定するように特別に設計されており、分子安定性スクリーニングを実施するための汎用性と精度を備えている(データは示していない)。熱変性の開始温度、すなわちアンフォールディング転移の開始点を、T開始として定義し、このデータは下記表E3に示されている。
【0131】
溶液中のタンパク質分子間の相互作用を、CG-MALSによる様々な濃度での光散乱挙動の変化によって特徴付けた。この一連の光散乱測定により、分子相互作用を評価するための特有パラメーターである第2ビリアル係数A2を計算した。A2は巨大分子とその溶媒に特有であり、溶解した巨大分子間の分子相互作用を表す。マイナスのA2は、溶解した物質の分子間の引力相互作用を示し、一方、プラスのA2は、溶解したタンパク質分子間の反発的相互作用に特有である。CG-MALS技術は、多角度光散乱検出器のフローセルに直接注入される一連の異なる濃度の巨大分子溶液に基づく。注入された各濃度ステップの後、シグナルの安定化とその後の検出のために、反応が平衡に達するようにフローを停止する。見かけの重量平均分子量(Mwapp)を、光散乱および濃度データを分析することにより、濃度勾配の各ステップについて決定する(データは示していない)。
【0132】
レテプラーゼの熱力学的安定性およびコロイド安定性の評価結果を次の表にまとめる(表E3)。
【表3】
【0133】
観察された沈殿は、白色のアモルファスであった。トラネキサム酸を添加すると、ほとんどの沈殿が溶解した。残りの沈殿(異形体#1、#2、#3および#5)を、遠心分離およびその後の0.1μmシリンジフィルターユニットを用いたろ過により除去した。
【0134】
次の一般的な観察結果は、CG-MALSおよびnanoDSC測定から導き出すことができた(データは示していない):
APIの沈殿は、すべての製剤の異形体で透析中に観察された。透析後にAPIの濃度が著しく低下したため(表E3)、rPAが沈殿した可能性が最も高いと考えられる。この効果は、透析後に観察されたAPI濃度(pH6.0の対応する異形体と比較してpH7.5で高かった)に基づいて、pH7.5と比較してpH6.0でより顕著であると考えられる。
【0135】
しかしながら、rPAの標的濃度が0.36mg/mLと低いため、以下の実施例では沈殿は問題にならないはずである。
【0136】
pH6.0の異形体では、CG-MALSデータを解釈できなかった。
【0137】
実施例1および上記からの結論
試験したすべての異形体は、TA濃度に関係なく分子間の引力相互作用を示した。より高いスクロースレベルのみが、わずかに有益な効果があると考えられた。
【0138】
トラネキサム酸の濃度を高くすることにより、熱力学的安定性が向上する。熱転移の開始温度は、1mM TA(例えば異形体#6~#2)での約60℃から10mM TA(例えば異形体#4~#8)での約64℃に上昇する。
【0139】
pH値は、APIの熱力学的安定性にわずかな影響を与えた。
【0140】
熱力学的安定性は、10mMのTA濃度でわずかに高くなったが、測定した両方のTA濃度のコロイド安定性は、8%スクロースを含みpHが7.5の異形体と同等であった。
【0141】
60℃は適切な取り扱い条件とはかけ離れているため、異形体#6をさらに試験し、開発を検討できる。言い換えれば、60℃での10mMトラネキサム酸の1mMトラネキサム酸に対するわずかな利点が、病院での取り扱い条件での製剤の安定性に直ちに影響を与えるとは予想されない。結果として、1~10mMのトラネキサム酸を含む範囲が適切であると考えられる。
【0142】
5%を超えるスクロース濃度は、凍結乾燥中の乾燥時間の延長につながるため、レテプラーゼの安定化のための実際のスクロース濃度(特に凍結および凍結乾燥保護剤)は、次の実施例で評価する。
【0143】
実施例1の最初の9つの異なる製剤の中で、本明細書で請求される製剤に最も近い製剤は、実施例1のプロトタイプ#2である。主な違いは、プロトタイプ#2が2%w/wのスクロースを有するのに対し、本明細書で請求される製剤は最も好ましくは3%w/wのスクロースを有することである。
【0144】
実施例2:様々なスクロース濃度の比較:上位3つの製剤の異形体を3つのストレス条件にさらすことによる強制分解試験
9つの異なる製剤を評価する実施例1からのデータに基づいて、3つの製剤が、それらを強制分解下に供することにより後続の実施例2に含まれた。3つの製剤は、スクロースの量(3%、5%、8%)によって区別される。
【0145】
製剤の異形体(表E2-1)を、対応する製剤バッファーに対する透析により製造した。各製剤バッファーを、対応する成分(PS80なしでは、PS80ミセルが透析膜を通って移動しないため、透析後にPS80を原薬溶液に添加した)を個別に秤量してガラスビーカーに入れ、精製水に溶解させ、続いて85%o-リン酸溶液を用いてpH7.5に調整することにより調製した。
【0146】
3mLのレテプラーゼAPIタンパク質バルク溶液(c=5.1mg/mL)を、対応する透析バッファーで15mLに希釈し、前処理した(透析バッファー中)透析カセットに移した。充填したユニットを、660mLの透析バッファー中で2~8℃にてインキュベートした。バッファー交換を3回行った(2時間、2時間、一晩)。透析後、回収したAPI溶液を、対応する透析バッファーで0.36mg/mLの目標濃度に希釈し、10%PS80ストック溶液(透析バッファー中)を0.9%w/w PS80まで添加した。DP溶液を滅菌ろ過し、滅菌6Rガラスバイアルに充填した(バイアル当たり2mL)。バイアルに栓をして、以下に記載する所定のストレス条件に曝露させた。
【0147】
したがって、実施例1の結論に基づいて、投与中の最大アミド分解活性を保証する1mM TA濃度およびpH7.5での強制分解試験で試験した異形体は、下記である(表E2-1):
【表4】
【0148】
実施例2の目的は、強制分解試験において、約0.36mg/mLの目標濃度で3つの最も有望な製剤の異形体(表E2-1)を試験することであった。
【0149】
レテプラーゼの製剤の異形体を、選択したストレス条件への曝露の前後に、分析手段および代表的な酵素活性アッセイにより分析した。
【0150】
配合した試料を、下記のストレス条件1)~3)に曝露させた。
1)強制熱ストレスおよび撹拌:35℃、200rpmにて5日間および2週間保存。
2)光への曝露:750W/m2/35℃BSTにて(ICH Q1Bに従う)7.5時間。
3)凍結融解ストレス:液体試料を、室温(20℃)から-50℃まで1℃/分の制御された凍結速度で凍結し、制御された加熱速度(バルク凍結条件を模倣する1℃/分)で再び室温まで温めた。保持時間なしで3サイクルを連続して実施した。
【0151】
各ストレス条件の各時点の前後に、各異形体の2つの液体試料を分析のために採取した。沈殿についてバイアルを視覚的に分析した。試料を、比濁分析の濁度測定(欧州薬局方、5.0、2.2.1に従う)による濁度、A280nmによる濃度、SE-HPLCによる凝集状態、およびRP-HPLCによる化学分解に関して分析した。分析的評価に加えて、所定のアミド分解活性アッセイにおいて、FDS試料を酵素活性の分析に供した。
【0152】
結論:
すべての製剤の異形体(表E2-1)は、化学分解を対象にするストレス条件に対するrPAの明確な感受性を示した。これは、光曝露および熱ストレスによって明確に観察された(データは示していない)。rPAの安定性と製剤のスクロースレベルとの間に明確な相関関係は観察されなかった。
【0153】
これらの弱点は、医薬品(DP)の安定な液体製剤を予測しない。凍結融解ストレスに曝露された試料では化学的分解は観察されず、これは医薬品の凍結乾燥製剤としての適性を示している。
【0154】
すべての製剤の異形体は、ストレス曝露後に、十分に保持された酵素活性を示した。具体的なアミド分解活性の低下は確認できなかった。
【0155】
レテプラーゼの凍結乾燥医薬品に移行するのに適した製剤は、#1と#2であり、一方、製剤#3の高いスクロースレベル(8%)は、更なる有益な効果を提供せずに凍結乾燥プロセスを複雑にする可能性がある。
【0156】
アミド分解活性アッセイ:Retavase(レテプラーゼAPI溶液)の既存の光分析によるアミド分解活性アッセイのプロトコールを適用し、この例(rPA)に適合させた。アミド分解活性アッセイのプロトコールは、アルカリ条件下でのレテプラーゼAPI溶液のアミド分解活性による基質S-2288(Chromogenix, Cat. No. 82085239)からの4-ニトロアニリンの放出に基づく。アミド分解活性を、405nmでの吸収の増加(ΔA/分)から酵素単位[U]で計算する。少なくとも2.5分の測定時間にわたって、レテプラーゼAPI溶液活性の吸収の増加(ΔA/分値)は、直線的に比例する(0.05~0.2の範囲)。FDS試料のアミド分解活性を、この実行活性試験を用いて試験した。方法の実施結果によれば、8~22μg/mLの濃度を用いて、基質制限に達することなく、経時的に適切な線形吸収勾配を達成した。アミド分解活性は、勾配に反映される。アミド分解活性は、凍結融解時に本質的に影響を受けないままであった(データは示していない)。高温(35℃)に供したすべての試料は、アミド分解活性の有意な増加を示し、これは、rPAからのクリングルドメインの分割の影響である可能性があり、タンパク質分解活性種であるクリングルドメインおよびプロテアーゼドメインのモル濃度が高くなる(データは示していない)。
【0157】
RP-HPLC:逆相HPLC分析を用いて、レテプラーゼAPI溶液中の2本鎖タンパク質含有量を決定する。レテプラーゼAPIは、変性および還元されている。この還元により、分子内のジスルフィド架橋が開く。このプロセス中に、2本鎖レプレターゼ分子はクリングルドメインとプロテアーゼドメインに分割され、HPLC中に、ドメインはクリングルピークとプロテアーゼピーク(メインピーク)に分離される。無傷のレテプラーゼ分子は、どのクリングルドメインも分離せず、それらの分子はHPLCでメインピーク(プロテアーゼピーク)としてのみ測定される。すべての異形体は、光曝露および熱ストレスに供されると、化学的分解に対するレテプラーゼ分子の感受性を示した。これらの弱点は、DPの安定な液体製剤を予測しない。しかしながら、凍結融解後に、3つの製剤間に大きな違いは観察されなかった。
【0158】
実施例3:凍結乾燥の熱特性および実現可能性
実施例2の結果に基づいて、以下のrPAの2つの好ましい製剤の異形体を、凍結乾燥医薬製剤(6Rバイアルに2.0mL充填)についてさらに評価した:
#1:0.35mg/mL rPA、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、pH7.5
#2:0.35mg/mL rPA、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、5%(w/w)スクロース、pH7.5
【0159】
本実施例は、示差走査熱量測定(DSC)によって凍結乾燥溶液の熱特性を評価し、その後、DSC測定の結果に基づいて特性評価することを目的とする。評価を様々なスクロース割合で実施し、多段階臨界圧力スキャン(CPS)での凍結乾燥中の各製剤の異形体の崩壊挙動をモニターし、0℃の棚温度で50μbar~590μbarの間の様々な圧力レベルでの崩壊挙動をモニターした。
【0160】
製剤候補#1および#2を、0.35mg/mL rPAのそれぞれの濃度で製造した。DSC測定は、2つの熱事象を示した。製剤#1と#2の両方で、2次熱事象の開始またはガラス転移点Tgが、-33.7℃付近で検出された(対応する蒸気圧:0.27mbar、データは示していない)。臨界圧力スキャンは、製剤の異形体1と2の両方で50μbar~100μbarの間で凍結乾燥ケーキの崩壊を示した。これらの知見に基づいて、50μbarのチャンバー圧力を、最初の実現可能性のある凍結乾燥の実施に選択した。
【0161】
また、試料の凍結乾燥の実現可能性を評価し、保守的なプロトタイプ凍結乾燥サイクルを用いて試料を凍結乾燥した。その目的で、所定の製剤の異形体自体が十分に安全な条件で凍結乾燥するのに適することを原則的に示すことを目的とした、最初の実現可能性のある凍結乾燥を実施した。製剤候補#1および#2を、0.35mg/mL rPAのそれぞれの濃度で製造した。上記の知見を考慮して、1つの保守的なプロトタイプ凍結乾燥サイクルを実施した。プロトタイプの凍結乾燥サイクルを実施することに成功した。
【0162】
凍結乾燥された医薬品を、次の方法で分析した:
- マクロ撮影により記録した外観
- 再構成挙動(2mL精製水中)
- 一般的なカールフィッシャーオーブン法を用いた残存水分含量
- 再構成したバイアルの化学分析:UV280nmによる濃度、比濁分析の濁度測定による濁度、SE-HPLCによる凝集状態、およびRP-HPLCによる化学分解。
【0163】
両方の製剤の異形体について、許容可能な凍結乾燥ケーキが得られ、選択した製剤の異形体が凍結乾燥に適することが証明された。試料分析は、凍結乾燥中のrPA分解の識別可能な兆候は示さなかった。
【0164】
結論として、両方の製剤の異形体は、保存的な凍結乾燥サイクルを用いた凍結乾燥に適することが証明された。凍結乾燥物は、10秒未満で自発的かつ完全に再構成する無傷の凍結乾燥ケーキを示した。濁度値は、5NTU以下の許容範囲内であった。残留水分量は、凍結乾燥生物薬剤で一般に許容される湿度レベルである1~5%(ガイドラインに従って)に十分収まっていた。再構成した試料では、APIの分解も凝集の傾向も観察できなかった。異形体#2(5%スクロース)と比較して、3%スクロース(異形体#1)も、欠陥することなく無傷の凍結乾燥ケーキを生成するのに十分であることが証明された。異形体#1は、より少ない材料で同じ最終製品特性を達成できるため、3%(w/w)スクロースを含む製剤の異形体#1が、開発を進めるのに最も適切な候補といえる(例えばWP5へ、凍結乾燥サイクル開発)。
【0165】
実施例4:選択した製剤の凍結乾燥
先の実施例に記載するとおり、3つの製剤(実施例2)は、次に2つの製剤(3%対5%スクロース)に絞り込まれ、熱特性試験によって、3%スクロースを含む製剤が凍結乾燥サイクル開発のその後の試験に用いる製剤として最終的に選択された:この開発作業の目的は、3つの開発凍結乾燥サイクル内で、選択した最終TAPS製剤の異形体#1の効率的で頑健な凍結乾燥プロセスを開発することであった:
#1:0.35mg/mL rPA、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.09%(w/w)PS80(ポリソルベート80)、pH7.5
【0166】
試料を、先の実施例に従って製造した。
【0167】
実施例3より選択した最良の製剤のための頑健で効率的な凍結乾燥サイクル(凍結、昇華および二次乾燥について最適化されたプロセスパラメーター)を、実施例3の結果に基づいて3回の開発凍結乾燥サイクル内で開発した。
【0168】
凍結乾燥サイクル開発の目標には、(a)安定なケーキを提供し、(b)分析において安定であるサイクルを開発することが含まれる。
【0169】
APIのrPAを、適切な量(バイアル当たり0.70mgの量;0.35mg/mL;バイアル当たり2.0mLの充填量)の選択した製剤システム(上記の#1)に透析した。各サイクルで、混合バッチを用いた:約30個の試料「実薬」および50個の試験試料「プラセボ」を、実施ごとに充填し、処理した。製剤化バルク溶液(実薬およびプラセボ)を配合した。バルク溶液を、洗浄および加熱滅菌した6Rガラスバイアルに充填し、オートクレーブおよび乾燥した凍結乾燥栓で半打栓し、凍結乾燥機に投入し、凍結乾燥した。プラセボバイアルで、実薬試料を取り囲んだ。プラセボバイアル(最終製剤のバッファーのみを充填)を、実薬バイアルの周囲に配置して、大規模条件をシミュレートした(内部/熱遮蔽されたバイアルと、トレイ外縁で熱遮蔽されていないバイアルでは、乾燥が遅くなると予想される)。
【0170】
バイアル内の温度を、バイアル内のマイクロ熱電対によりモニターした。チャンバー圧力を、静電容量圧力センサーおよびピラニ圧力センサーによりモニターし、オンラインデータ取得により記録した。プロセス分析データを収集し、評価した。凍結乾燥パラメーターを、体系的に適合させ、最適化した。
【0171】
凍結乾燥したバイアルを、窒素を通気した後に密閉した。圧力調整を、真空および投与バルブ(窒素注入)により管理した。二次乾燥または1段階サイクルにおける一次乾燥のそれぞれ完了後、バイアルを窒素雰囲気下で800mbarの圧力にて密閉した。
【0172】
実薬試料を次の方法で分析した:
- マクロ撮影により記録した外観
- 再構成挙動
- 一般的なカールフィッシャーオーブン法を用いた残存水分含量
【0173】
残りの予備のバイアルは保存した。
【0174】
実施例3および更なる予備実験(示していない)に基づいて、適切な凍結乾燥サイクルを以下のように開発した:1段階凍結乾燥サイクルに適用されるプロセスパラメーターを表E4-1に示す。
【表5】
【0175】
本凍結乾燥サイクルにおいて、変曲点は、全処理時間での約18.5時間/一次乾燥時間での約5.5時間である。熱電対測定の結果は、昇華時間に関してバイアルの位置(中央(1)と縁(2)バイアルの熱電対1と2)の間に顕著な差はほとんどないことを示す(データは示していない)。すべての試料バイアルは、ガラスの破損のない無傷であった。
【0176】
得られた凍結乾燥物は、注射用水(WFI)を用いて10~12秒以内に溶解した。
【0177】
全体として、本凍結乾燥サイクルは、本発明による本質的に水を含まない組成物を得るのに特に適すると判断された:特に、開発したサイクルは、(a)安定なケーキを提供し、(b)分析において安定である。本実施例で選択したサイクルは、これらの要件を満す。
【0178】
実施例5:凍結乾燥製剤は、高温および再構成でも安定している
凍結乾燥物を様々な温度にて数週間(0w:0週間;4w:4週間;8w:8週間;12w:12週間)保存し、分析した。
【0179】
凍結乾燥バイアルの外観をマクロ撮影により記録した。すべての凍結乾燥物は、大きな欠陥のない無傷の凍結乾燥ケーキを示した。
【0180】
濃度:rPA濃度を、吸光係数1.69mL/(mg×cm)を用いて、ランベルトベールの法則に従って計算した。タイムポイント当たり2つのバイアルを2回分析した。その結果、濃度は、保存期間を通じて目標値の0.35mgに対して許容範囲内であると判断された。
【0181】
残存水分含量(カールフィッシャー滴定):凍結乾燥後、残存水分含量測定用の試料を、試料当たり1つの凍結乾燥ケーキをカールフィッシャーバイアルに移して調製し、すぐに密閉した。凍結乾燥ケーキの水分含有量を、試料をカールフィッシャーオーブン中で90℃に加熱し、乾燥窒素をフラッシュして、蒸発した水分をクーロメーターに移すことにより測定した。2つのバイアルを各々1回の測定で分析した(各々1つの試料製剤)。ブランク補正には空のバイアルを用いた。残存水分含量の結果を、表E5-1にまとめる。両方のT0試料の残存水分値は、凍結乾燥物の一般に認められる残存水分含量である2%を大幅に下回る。凍結乾燥医薬品について2%未満の残存水分含量は、一般に安全と考えられる(Daukas, L.A., Trappler, E.H., 1998. Assessing the quality of lyophilized parenterals. Pharm. Cosmetic Quality 2, 21-25)。T8およびT12の週でわずかではあるが無視できる程度の高い水分含有量を示した。これは、栓の平衡水分に起因する可能性がある(増加と保存温度の相関関係に基づく仮定)。
【表6】
【0182】
T0、T4w、T8w、およびT12wの2つの凍結乾燥物を、2.0mLの精製水で再構成した。再構成時間をモニターした。T0、T4w、T8wおよびT12wの時点でのすべての凍結乾燥物は、10秒以内に凍結ケーキの自発的かつ完全な溶解を示した。
【0183】
比濁分析計による濁度:再構成後、較正した比濁計を用いて、未希釈の試料の濁度を測定した。その結果、すべての試料で濁度が極めて低いことがわかった。T0~T12週の試料時点で凍結乾燥バイアルを再構成した後、目に見える濁りは観察できなかった。
【0184】
再構成後の凍結乾燥物のRP-HPLCによる分析評価により、保存期間にわたるメインピークの安定性が確認された(データは示していない)。
【0185】
各時点および保存条件の凝集状態を、SE-HPLCにより決定し、本質的に安定であることがわかった。
【0186】
アミド分解活性を、実施例2に記載する実行活性試験を用いて試験した。アミド分解活性は、勾配に反映される。活性アッセイの結果を表E5-2に要約する。
【表7】
【0187】
アミド分解活性は、すべての試料で試験コース中一貫していた。
【0188】
実施例6:Retavase市販品との概要比較
本開示の製剤の背後にある1つの目標は、構成成分に関して希釈Retavaseに類似しているが、安定性および他のパラメーターにおいて優れている商品的に適した製剤である。その目的で、発明者は、同じ添加剤を有する安定な製剤を開発した。
【0189】
比較を容易にするために、以下の表E6-1は、市販の081対臨床用081(希釈Retavase)対Retavase(市場で承認された適応症に利用される)の製剤を要約し、表E6-2は、本発明による製剤をさらに示す:
【表8】
【0190】
表E6-2:TAPS含有製剤の他の例
製剤A2 - 0.35mg/mLレテプラーゼ、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.0675%(w/w)PS80、pH7.5(レプレターゼ:PS80の比は0.52:1)
製剤A3 - 0.35mg/mLレテプラーゼ、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.045%(w/w)PS80、pH7.5(レプレターゼ:PS80の比は0.78:1)
製剤A4 - 0.35mg/mLレテプラーゼ、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.02%(w/w)PS80、pH7.5(レプレターゼ:PS80の比は1.75:1)
製剤A5 - 0.35mg/mLレテプラーゼ、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.01%(w/w)PS80、pH7.5(レプレターゼ:PS80の比は3.5:1)
【0191】
上記のように、本開示の製剤A、A1~A4は、最初に9つの異なるプロトタイプから開始して、最も安定な製剤として開発された。特に、スクロースおよび/またはポリソルベート80の相対量は、以前から知られているRetavaseの希釈および非希釈調製物と本開示の製剤を著しく区別する。
【0192】
実施例7:非血液透析中心静脈アクセスデバイス(CVAD)が機能不全である被験者における臨床試験
第III相多国籍多施設無作為化二重盲検並行群間実薬およびプラセボ対照試験において、2mL当たり0.7mg(0.4単位)レテプラーゼ(希釈Retavase)を含むTAPS緩衝レテプラーゼ製剤の投与を、プラセボまたはアルテプラーゼに対して非血液透析中心静脈アクセスデバイス(CVAD)が機能不全である被験者において調べる。
【0193】
参加者は、2mL当たり0.7mg(0.4単位)の製剤B(実施例6を参照)を1回または2回、カテーテル内腔に直接投与される。参加者は、0分に1回目の投与を受け、必要に応じて90分に2回目の投与を受ける。
【0194】
試験中、処置期間は、スクリーニングと同じ日または翌日に行われてもよい1回の来院で構成される。すべての組入れ基準を満たした後、被験者は、製剤A、A1~A5:プラセボ:アルテプラーゼについて9:1:6の比率で無作為化される。治験薬での処置後30日目(±2日)にフォローアップ評を実施する。
【0195】
ルーチンの血圧測定、心拍数および尿妊娠検査を、試験への登録前に実施する。治療緊急AE(TEAE)、薬物有害反応(ADR)および特別な関心のある有害事象(AESI)を含む安全性は、試験全体で記録される。治験の終了を、治験で治験薬を投与された最後の被験者の最後のフォローアップコンタクトとして定義する。
【0196】
臨床試験は、一般的に、2mL当たり0.7mg(0.4単位)を含むTAPS緩衝レテプラーゼ製剤の効果を示す。
【0197】
本発明の製剤(例えば、製剤A、A1~A4の実施例6を参照)は、室温での保存安定性および製造の観点を含め、少なくとも本開示で議論される様々な安定性パラメーターにおいて希釈レテプラーゼ(製剤B、実施例6)より優れている。
【0198】
実施例8:臨床現場での使用指示書
商業現場での使用指示書は、例えば商用設定で使用するための説明書は、例えば、次の指示書または類似の指示書を含み得る。以下を、説明のための例として提供する。
【0199】
1. 本発明による本質的に水を含まない組成物を注射用水(WFI)で再構成し、異物および変色について投与前に製品を検査する。
2. 再構成されたバイアルから2mL(2mg)の溶液を抜き取る。
3. 閉塞したカテーテルに適切な用量のtPA製剤を注入する。
4. 30分間の滞留時間の後、血液を吸引してみることによりカテーテルの機能を評価する。カテーテルが機能している場合は、手順7に進む。カテーテルが機能していない場合は、手順5に進む。
5. 90分間の滞留時間の後、血液とカテーテルの内容物を吸引みることによりカテーテルの機能を評価する。カテーテルが機能している場合は、手順7に進む。カテーテルが機能していない場合は、手順6に進む。
6. 本発明の製剤の1回の投与後にカテーテル機能が回復しない場合、同量の2回目の投与を注入してもよい。溶液の調製の工程1から手順を繰り返す。
7. カテーテル機能が回復した場合は、10kg以上の患者では4~5mL、10kg未満の患者では3mLの血液を吸引して、tPA製剤を取り除く。
【0200】
実施例9:2段階凍結乾燥サイクルの開発
実施例4に記載されるとおり、((a)安定なケーキであり、(b)分析において安定である医薬品を生成できる1段階凍結乾燥サイクルが開発された。更なる1段階凍結乾燥サイクルの開発の後、より従来型の2段階凍結乾燥サイクルも開発するための試験を実施した。先の実施例に記載するとおり、3%スクロース製剤が、凍結乾燥サイクル開発のその後の試験に用いる製剤として最終的に選択された。この開発作業の目的は、4つの開発凍結乾燥サイクル内で、選択した最終TAPS製剤の異形体#1(#1:0.35mg/mL rPA、26mMリン酸カリウム、1mMトラネキサム酸、3%(w/w)スクロース、0.09%(w/w)PS80(ポリソルベート80)、pH7.5)の効率的で頑健な2段階凍結乾燥プロセスを開発することであった。
【0201】
凍結乾燥サイクル開発の目標には、(a)安定なケーキを提供し、(b)分析において安定であるサイクルを開発することが含まれる。
【0202】
製剤化バルク溶液(実薬およびプラセボ)を配合した。APIのrPAを、適切な量の調整バッファーを用いて、目標製剤および目標濃度(バイアル当たり0.70mgの量;0.35mg/mL;バイアル当たり2.0mLの充填量)に調整した。バルク溶液を滅菌ろ過し、洗浄および加熱滅菌した6Rガラスバイアルに充填し、オートクレーブおよび乾燥した凍結乾燥栓で半打栓し、その後凍結乾燥した。
【0203】
各サイクルで、混合バッチを用いた:約10個の試料「実薬」および350個の試験試料「プラセボ」を、実施ごとに充填し、処理した。プラセボバイアル(最終製剤のバッファーのみを充填)を、実薬バイアルの周囲に配置して、大規模条件をシミュレートした(内部/熱遮蔽されたバイアルと、トレイ外縁で熱遮蔽されていないバイアルでは、乾燥が遅くなると予想される)。
【0204】
バイアル内の温度を、バイアル内のマイクロ熱電対によりモニターした。圧力調整を、真空および投与バルブ(窒素注入)により管理した。チャンバー圧力を、静電容量圧力センサーおよびピラニ圧力センサーによりモニターし、オンラインデータ取得により記録した。昇華の終わりを、容量圧力センサー/ピラニ圧力センサーの差により検出した。プロセス分析データを収集し、評価した。凍結乾燥パラメーターを、体系的に適合させ、最適化した。
【0205】
凍結乾燥したバイアルを、窒素を通気した後に密閉した。二次乾燥の完了後、バイアルを窒素雰囲気下で800mbarの圧力にて密閉した。
【0206】
実薬試料を次の方法で分析した:
- マクロ撮影により記録した外観
- 再構成挙動
- 一般的なカールフィッシャーオーブン法を用いた残存水分含量
【0207】
実施例3および4ならびに更なる予備実験(示していない)に基づいて、適切な凍結乾燥サイクルを以下のように開発した:2段階凍結乾燥サイクルに適用されるプロセスパラメーターを表E9に示す。
【表9】
【0208】
本凍結乾燥サイクルにおいて、変曲点は、全処理時間での約44時間/一次乾燥時間での約37時間である。凍結乾燥を静電容量圧力センサー(MKS)により制御した。すべての試料バイアルは、ガラスの破損のない無傷であった。
【0209】
製剤A、A1~A5のDPについての保守的な2段階凍結乾燥サイクルは、均一な色および構造を有する欠陥のない凍結乾燥物をもたらした。得られた凍結乾燥物は、精製水を用いて10秒以内に溶解した。凍結乾燥試料が達成した残存水分含量は、1%未満であり、これは、凍結乾燥医薬品の許容限界である5%をはるかに下回る。
【0210】
全体として、本凍結乾燥サイクルは、本発明による本質的に水を含まない組成物を得るのに特に適すると判断された:特に、開発したサイクルは、(a)安定なケーキを提供し、(b)分析において安定である。本実施例で選択したサイクルは、これらの要件を満す。
【国際調査報告】