IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イナート・ファルマ・ソシエテ・アノニムの特許一覧

特表2023-537115抗CD73抗体を使用する癌処置方法
<>
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図1
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図2
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図3
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図4
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図5A
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図5B
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図5C
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図6A
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図6B
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図7
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図8
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図9
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図10A
  • 特表-抗CD73抗体を使用する癌処置方法 図10B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】抗CD73抗体を使用する癌処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230823BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20230823BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230823BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230823BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61P35/00
A61P1/00
A61P43/00 121
A61K31/337
A61K45/00
C07K16/28 ZNA
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509614
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2021072020
(87)【国際公開番号】W WO2022033978
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/065,085
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506000184
【氏名又は名称】イナート・ファルマ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA PHARMA S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ゴーティエ,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】パトゥレル,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ペロ,イヴァン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、癌の処置のための方法及び組成物に関する。具体的には、本開示は、抗CD73抗体を投与する方法、及び個体の癌、好ましくは、HER2陽性の胃腺癌又は胃食道接合部腺癌の処置のために抗CD73抗体を使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体のHER2陽性の胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を処置する方法であって、前記個体に、ヒトCD73タンパク質に結合しその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体との組合わせ処置で使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
個体の胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を処置する方法であって、前記個体に、ヒトCD73タンパク質に結合しその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体と、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体とのそれぞれの治療的有効量を投与することを含む方法。
【請求項4】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、化学療法剤との組合わせ処置で使用する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記処置は、(i)前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、2週間毎又は3週間毎に投与すること、(ii)前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、1週間毎又は3週間毎に投与することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記処置は、(i)前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、2週間毎又は3週間毎に投与すること、(ii)前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、3週間毎に投与すること、及び(iii)パクリタキセルを、3週間毎に投与することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の最初の3週間毎の投与の1週間前に、ヒトHER2タンパク質抗体に結合する抗体の負荷用量を投与する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記個体は、表面でHER2を発現している腫瘍細胞を特徴とする癌を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
それを必要としている個体のHER2陽性癌を処置する方法であって、前記個体に、(i)ヒトCD73タンパク質に結合し且つその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体と、(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体とのぞれぞれの治療的有効量を投与することを含む方法。
【請求項10】
前記HER2陽性癌は、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記個体に、化学療法剤の治療的有効量を投与することをさらに含み、任意選択により、前記化学療法剤はタキサンであり、任意選択によりパクリタキセルである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項12】
前記個体は、IHC又はFISHで決定した場合にHER2陽性である癌を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記処置は、(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、2週間毎又は3週間毎に投与すること、(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、1週間毎又は3週間毎に投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記処置は、(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、2週間毎又は3週間毎に投与すること、(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、3週間毎に投与すること、及び(iii)化学療法剤を投与することを含み、任意選択により、前記化学療法剤はタキサンであり、任意選択によりパクリタキセルである、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の複数回の投与、及びヒトHER2タンパク質に結合する抗体の複数回の投与を含み、前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の複数回の投与のそれぞれを、抗CD73抗体の投与後に行なう、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の複数回の投与、及び化学療法剤の複数回の投与を含み、前記化学療法剤の投与のそれぞれを、抗CD73抗体の投与後に行なう、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の複数回の投与のそれぞれを、前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の投与後1時間~約1週間で行なう、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の複数回の投与、及びヒトHER2タンパク質に結合する抗体の複数回の投与を含み、前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の投与のそれぞれを、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の投与と同日又はヒトCD73タンパク質に結合する抗体の投与の7日後のいずれかで行なう、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記化学療法剤の複数回の投与のそれぞれを、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体後1時間~約1週間で行なう、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の複数回の投与、及び化学療法剤の複数回の投与を含み、前記化学療法剤の複数回の投与のそれぞれを、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の投与と同日又はヒトCD73タンパク質に結合する抗体の投与の7日後のいずれかで行なう、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
個体の癌を処置する方法であって、前記個体に、ヒトCD73タンパク質に結合し且つその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を投与することを含み、前記抗体は、配列番号43、44、45、又は46のいずれか1つのアミノ酸配列を有する軽鎖改変領域と、配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗体又は抗体断片であり、前記抗体を、前記個体に、(a)1500~3000mgの固定用量(体重若しくは体表面積を問わない)で、任意選択により1500mgの用量で、任意選択により2400mgの用量で、2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの固定用量で、任意選択により2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、若しくは3000mgの用量で、3週間毎に投与する、
方法。
【請求項22】
前記処置は、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の複数回の投与、化学療法剤の複数回の投与、及びヒトCD73タンパク質に結合する抗体の複数回の投与を含み、抗HER2抗体のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を投与し、任意選択により、さらには、化学療法剤のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を投与する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記処置は、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、(a)1500~3000mgの用量で2週間毎に投与するか、又は2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、3~6mg/kg体重の用量で静脈内投与により3週間毎に投与するか、又は600mgの用量で皮下投与により3週間毎に投与すること、
並びに任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記処置は、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、(a)1500~3000mgの用量で2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、8mg/kgの負荷用量で投与し、続いて1週間後に、6mg/kg体重の処置用量で3週間毎に投与すること、
並びに任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
個体のHER2陽性癌を処置する方法であって、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、(a)1500~3000mgの用量で2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、3~6mg/kg体重の用量で静脈内投与により3週間毎に投与するか、又は600mgの用量で皮下投与により3週間毎に投与すること、
並びに任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む方法。
【請求項26】
抗HER2抗体の最初の3週間毎の投与の1週間前に、抗HER抗体の負荷用量を投与する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の最初の投与(例えば負荷用量)と、パクリタキセルの最初の投与とを、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の最初の用量の2週間後に行なう、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
個体のHER2陽性癌を処置する方法であって、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合し且つその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を、(a)1500~3000mgの用量で2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、8mg/kgの負荷用量で投与し、続いて1週間後に、6mg/kg体重の処置用量で3週間毎に投与すること、
並びに、任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む方法。
【請求項29】
前記処置は、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、(a)1500若しくは2400mgの用量で2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、3~6mg/kg体重の用量で3週間毎に投与すること
並びに任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記処置は、前記個体に、
(i)ヒトCD73タンパク質に結合する抗体を、(a)1500若しくは2400mgの用量で2週間毎に投与するか、又は(b)2000~3000mgの用量で3週間毎に投与すること、
及び
(ii)ヒトHER2タンパク質に結合する抗体を、8mg/kgの負荷用量で投与し、続いて1週間後に、6mg/kg体重の処置用量で3週間毎に投与すること、
並びに任意選択により、
(iii)パクリタキセルを、175mg/m体表面積の用量で3週間毎に投与すること
を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の最初の投与(例えば負荷用量)と、パクリタキセルの最初の投与とを、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の最初の用量の2週間後に行なう、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体、及び/又は化学療法剤を、静脈内投与する、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体と、前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体とは、個別投与用に製剤化されている、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記HER2陽性癌は、乳癌、胃腺癌、又は胃食道接合部腺癌である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記個体は、化学療法剤による一連の治療を過去に受けている、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記個体は、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体による一連の治療を過去に受けている、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体は、変異A99S、E129A、K133A、E134N、A135S、及びK136A(配列番号1に関する)を含む変異体CD73ポリペプチドに対する結合が、それぞれの場合において、前記抗体と、配列番号1のアミノ鎖配列を含む野生型CD73ポリペプチドとの間の結合と比較して低下している、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体は、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗体若しくは抗体断片であるか、又はその機能保存変異体である、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体は、配列番号24のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗体又は抗体断片である、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
進行性の胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を処置する方法であって、必要な患者に、配列番号24のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の有効量を、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む、ヒトCD73タンパク質に結合する抗体の有効量と同時に投与するか、別々に投与するか、又は連続的に組み合わせて投与することを含む方法。
【請求項41】
前記ヒトHER2タンパク質に結合する抗体は、配列番号26のアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を有する重鎖とを含む、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記ヒトCD73タンパク質に結合する抗体は、配列番号48のアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号47のアミノ酸配列を有する重鎖とを含む、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、任意の図面を含む、その全体において参照により本明細書中に組み込まれる2020年8月13日提出の米国仮特許出願第63/065,085号明細書の利益を主張する。
【0002】
配列表の参照
本願は、電子方式の配列リストと共に提出されている。本配列リストは、2021年8月5日作成の「CD73-9 PCT SEQ LIST_ST25」という名称で提供されており、サイズは79Koである。本配列リストの電子方式の情報は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0003】
本開示は、癌の処置のための方法及び組成物に関する。具体的には、本開示は、抗CD73抗体を投与する方法、及び癌の処置のために抗CD73抗体を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
CD73(エクト-5’-ヌクレオチダーゼ)は、70kDaのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質であり、通常、内皮細胞及び造血細胞のサブセットに発現する。CD73は、CD39と共にアデノシン三リン酸(ATP)の代謝を調節する。CD39(NTPDase-1)は、ATPをAMPに変換し、微量のADPのみが放出される一方、CD73は、AMPからアデノシンへの変換を触媒する。
【0005】
アデノシン三リン酸(ATP)並びにその代謝物であるAMP及びアデノシンは、細胞代謝、シグナル伝達及び免疫恒常性において重要な役割を有する。細胞死又は細胞ストレスに応答した細胞外アデノシン三リン酸(ATP)の放出は、免疫応答を活性化するように作用する。しかし、その代謝物であるアデノシンは、免疫抑制作用を有する。細胞外アデノシンは、癌性組織に蓄積し、腫瘍の免疫回避の重要なメカニズムを構成する。他の効果の中でも、腫瘍由来のアデノシンは、アデニル酸シクラーゼを活性化するA2A受容体を介して浸潤性エフェクターT細胞を大幅に阻害する。
【0006】
CD73発現は、白血病、膀胱癌、神経膠腫、神経膠芽腫、卵巣癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、食道癌及び乳癌を含む様々な腫瘍細胞で報告されている。CD73発現は、黒色腫及び乳癌の転移促進性の表現型とも関連付けられている。マウスCD73に結合する抗体による治療は、マウスの乳房腫瘍の成長及び転移を阻害できることが報告されている(非特許文献1)。A2A受容体の遺伝子欠失は、T細胞依存性腫瘍拒絶反応を誘発できることが示されている(非特許文献2)。siRNAを使用したノックダウン又は腫瘍細胞でのCD73の過剰発現は、腫瘍の成長と転移を調節することができる(非特許文献3;非特許文献1;非特許文献4)。CD73-/-マウスは、移植及び自然発生の腫瘍から保護されている(非特許文献5)。ヒトでは、CD73の高発現がトリプルネガティブ乳癌の予後不良であることが示されていた(非特許文献6)。
【0007】
抗CD73抗体の開発は、複雑である。CD73は腫瘍細胞により発現されるが、免疫系の様々な細胞(特に、CD4及びCD8 T細胞、並びにB細胞)によっても発現される。さらに複雑する要因の1つは、文献で説明されている抗体の多くは、その活性及び作用様式が大きく異なるということである。CD73に関する初期の報告の多くでは、特異性を欠いている場合がある及び/又はインビボ試験にとって過度に毒性の場合がある低分子阻害剤が使用されていた。抗73抗体の多くの報告は、一般的に、Fcγ受容体が結合可能なマウスアイソタイプのものであり、Fc媒介性の効果からあらゆる潜在的な遮断効果を分離することが困難となっている。より近年では、様々な治療用抗CD73抗体が報告されている。これらの一部は、CD73の細胞内内在化を引き起こすことにより機能しており、他は、様々な程度の有効性で、さらには可溶性CD73タンパク質を阻害する能力の有するか又は有することなく、膜結合CD73を阻害する。
【0008】
西欧での胃癌患者の約12~20%は、HER2癌遺伝子を過剰発現している(非特許文献7、非特許文献8)。さらには、化学療法と組み合わされたトラスツズマブは、進行性の転移性HER2陽性疾患の患者における選択肢と考えられている。しかしながら、乳癌とは異なり、胃癌では、トラスツズマブの導入により疾患の自然史が変化することはなく、生存期間の中央値は、ほとんど1年を超えなかった。したがって、胃癌の処置に最大限の有効性を付与する改善された処置レジメンが目的となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Stagg,et al.(2010)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 104:1547-1552
【非特許文献2】Ohta,et al.,(2006)Proc Natl Acad Sci USA 103:13132-13137
【非特許文献3】Beavis et al(2013 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 110:14711-716
【非特許文献4】Jin et al.(2010)Cancer Res.70:2245-55
【非特許文献5】Stagg et al.(2010)Cancer Res.71:2892-2900
【非特許文献6】Loi et al(2013 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 110:11091-11096
【非特許文献7】Jan B et al..;J Clin Pathol 2010
【非特許文献8】Tanner M et al.;Ann Oncol 2005
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施形態において、本明細書で提供されるのは、表面でHER2を発現する腫瘍細胞を特徴とするHER2陽性癌(任意選択により、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌)の処置のための、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体の使用である。
【0011】
ある実施形態において、本明細書で提供されるのは、必要な個体の胃癌(例えば、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌)の増殖を減少させるか又は阻害する方法であって、この個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体と、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体とのそれぞれの治療的有効量を投与することを含む方法である。任意選択により、この方法は、この個体に、化学療法剤の治療的有効量を投与することをさらに含む。ある実施形態において、この癌は、HER2陽性癌である。ある実施形態において、この腫瘍又は癌は、表面でHER2タンパク質を発現する腫瘍細胞を特徴とする。ある実施形態において、この腫瘍又は癌は、表面でCD73タンパク質を発現する細胞を含む腫瘍間質を特徴とする。
【0012】
本明細書でさらに提供されるのは、必要な個体の癌(特に胃癌)を処置する方法であって、この個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体と、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体とのそれぞれの治療的有効量を投与することを含む方法である。任意選択により、この方法は、この個体に、化学療法剤の治療的有効量を投与することをさらに含む。ある実施形態において、この腫瘍又は癌は、表面でHER2タンパク質を発現する腫瘍細胞を特徴とする。ある実施形態において、この腫瘍又は癌は、表面でCD73タンパク質を発現する細胞を含む腫瘍間質を特徴とする。
【0013】
本明細書でさらに提供されるのは、癌(特に胃癌)を有する個体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体による処置に対して感作させる方法であって、この個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体の治療的有効量を投与することを含む方法である。任意選択により、この方法は、この個体に、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の治療的有効量を投与することをさらに含む。ある実施形態において、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体と同日に投与し、及び/又はこの抗体の前に投与する。
【0014】
本明細書でさらに提供されるのは、癌(特に胃癌)を有する個体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体及び/又は化学療法剤による処置に対して感作させる方法であって、この個体は、化学療法剤及びヒトHER2タンパク質に結合する抗体で処置されており(又は処置される予定であり)、この方法は、この個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を投与とすることを含む、方法である。ある実施形態において、この方法は、この個体に、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体及び化学療法剤を投与することをさらに含む。ある実施形態において、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体の投与と同日に投与し、及び/又はこの抗体の投与の前に投与し、任意選択により、さらには、化学療法剤の投与と同日に投与し、及び/又はこの化学療法剤の投与の前に投与する。
【0015】
任意の実施形態において、抗CD73抗体の最初の投与を、抗HER2抗体の最初の投与の前に行なう。
【0016】
ある実施形態において、処置は、抗HER2抗体の複数回の投与、及び抗CD73抗体の複数回の投与を含み、CD73抗体のそれぞれの投与を、抗HER2抗体の投与の1時間~7日前に行なう。ある実施形態において、処置は、抗HER2抗体の複数回の投与、及び抗CD73抗体の複数回の投与を含み、抗HER2抗体のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、抗CD73抗体を投与する。例えば、抗CD73抗体を、抗HER2抗体の投与と同日(例えば、抗HER2抗体の1~12時間前)又は抗HER2抗体の投与に先行して1週間以内のいずれかで投与する。ある実施形態において、抗CD73抗体の複数回の投与のそれぞれを、抗HER2抗体の投与と同日(例えば、抗HER2抗体の1~12時間前)又は抗HER2抗体の投与の約1週間(例えば7日)前のいずれかで行なう。ある実施形態において、抗HER2抗体の複数回の投与のそれぞれを、抗CD73抗体の投与と同日(例えば、抗CD73抗体の投与の1~12時間後)又は抗CD73抗体の投与の約1週間(例えば7日)後のいずれかで行なう。
【0017】
化学療法剤を含む組合わせ処置の任意の実施形態において、抗CD73抗体の最初の投与を、化学療法剤の最初の投与の前(例えば、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与のさらに前)行なうように指定し得る。
【0018】
ある実施形態において、処置は、抗HER2抗体の複数回の投与、化学療法剤の複数回の投与、及び抗CD73抗体の複数回の投与を含み、抗CD73抗体のそれぞれの投与を、抗HER2抗体の投与の1時間~7日間前に行ない、さらには、抗CD73抗体のそれぞれの投与を、化学療法剤の投与の1時間~7日間前に行なう。ある実施形態において、処置は、抗HER2抗体の複数回の投与、化学療法剤の複数回の投与、及び抗CD73抗体の複数回の投与を含み、抗HER2抗体のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、抗CD73抗体を投与し、化学療法剤のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、抗CD73抗体を投与する。例えば、抗CD73抗体を、化学療法剤の投与と同日(例えば、化学療法剤の1~12時間前)又は化学療法剤の投与に先行して1週間以内のいずれかで投与する。ある実施形態において、抗CD73抗体の複数回の投与のそれぞれを、化学療法剤の投与と同日(例えば、化学療法剤の1~12時間前)又は化学療法剤の投与の約1週間(例えば7日)前のいずれかで行なう。ある実施形態において、化学療法剤の複数回の投与のそれぞれ及び抗HER2抗体の複数回の投与のそれぞれを、抗CD73抗体の投与と同日(例えば、抗CD73抗体の投与の1~12時間後)又は抗CD73抗体の投与の約1週間(例えば7日)後のいずれかで行なう。
【0019】
任意選択により、抗HER2抗体の複数回の投与、及び抗CD73抗体の複数回の投与を、同日に行なう。ある実施形態において、抗HER2抗体を、3週間毎に皮下投与し、抗CD73抗体を、3週間毎に投与し、抗HER2抗体及び抗CD73抗体を、同日に投与する。ある実施形態において、抗HER2抗体を、3週間毎に静脈内投与し、抗CD73抗体を、3週間毎に投与し、抗HER2抗体及び抗CD73抗体を、同日に投与する。
【0020】
ある実施形態において、化学療法剤の複数回の投与、及び抗HER2抗体の複数回の投与を、それぞれ、抗HER2抗体及び化学療法剤を同日に投与しないように(例えば、抗HER2抗体及び化学療法の投与は、少なくとも1週間離れている)、並びに抗HER2抗体のそれぞれの投与、及び化学療法剤のそれぞれの投与に1時間~7日間先行して、抗CD73抗体を投与するように、ずれたスケジュールで3週間毎に投与する。
【0021】
任意の実施形態において、腫瘍又は癌は、表面でHER2タンパク質を発現する(例えば過剰発現する)腫瘍細胞を特徴とする。ある実施形態において、腫瘍又は癌は、表面でCD73タンパク質を発現する細胞を含む腫瘍間質を特徴とする。
【0022】
任意の実施形態において、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体は、ヒトCD73ポリペプチドに特異的に結合し得る。ある実施形態において、この抗体は、抗体断片である。ある実施形態において、この抗体は、完全長抗体である。ある実施形態において、この抗体は、可溶性ヒトCD73ポリペプチドの5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し得る。ある実施形態において、この抗体は、二価でCD73ポリペプチド二量体に結合し、例えば、この抗体は、CD73ポリペプチド二量体に対して10倍高いモル過剰で提供される場合には、可溶性ヒト二量体CD73ポリペプチドの5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し得る。
【0023】
ある実施形態において、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体は、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR1、2、及び3領域を含む。ある実施形態において、CDRは、Kabat付番に従って決定されている。ある実施形態において、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体は、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖の可変領域を含む。
【0024】
ある実施形態において、化学療法剤は、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する薬剤であり、例えば、化学療法剤は、免疫原性の癌細胞死を誘発し得る。ある実施形態において、化学療法剤は、タキサンであり、例えば、パクリタキセル又はその類似体である。ある実施形態において、化学療法剤は、カンプトテシン類似体又はその誘導体であり、例えば、SN-38、エキサテカン、又はエキサテカン誘導体である(例えば、DX-8951誘導体、DXd;Ogitano et al.(2016)Cancer Sci 107(2016)1039-1046を参照されたい)。ある実施形態において、化学療法剤(例えばパクリタキセル)を、(別の薬剤(例えば、抗体又は活性剤)にコンジュゲートしていないか又は共有結合していない)遊離化学療法剤として投与する。別の実施形態において、化学療法剤(例えば、カンプトテシン類似体又は誘導体)を、この化学療法剤が、HER2タンパク質に結合する抗体にコンジュゲートしている(例えば共有結合している)、抗体薬物コンジュゲート(ADC)として投与する。
【0025】
ある態様において、提供されるのは、HER2陽性癌(例えば胃癌)を有する個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体、及びヒトHER2タンパク質に結合する抗体を投与し、任意選択により、さらには化学療法剤(例えばタキサン)と組み合わせて投与することを含む処置である。ある実施形態において、HER2陽性癌は、腫瘍細胞の表面でのHER2発現を一般的に特徴とすることが既知の癌である。ある実施形態において、HER2陽性癌は、腫瘍中又は腫瘍環境中(例えば、腫瘍細胞中又は腫瘍間質組織中における細胞中)での可溶性CD73タンパク質及び/又はCD73発現細胞の存在を一般的に特徴とすることが既知の癌である。ある実施形態において、HER2陽性癌は、例えば、抗HER2抗体を使用する免疫組織化学(IHC)で評価した場合での、HER2発現腫瘍細胞の存在を特徴としており、任意選択により、この腫瘍は、基準(例えば健康な組織)と比較した数若しくはHER2発現細胞の頻度が増加しており、及び/又は基準(例えば健康な組織)と比較してHER2染色強度が強い。ある実施形態において、癌は、例えば抗CD73抗体を使用する免疫組織化学で評価した場合での、CD73発現腫瘍細胞及び/又は腫瘍間質組織中でのCD73発現細胞を特徴としており、任意選択により、この腫瘍は、基準(例えば健康な組織)と比較した数若しくはCD73発現細胞の頻度が増加しており、及び/又は基準(例えば健康な組織)と比較してHER2染色強度が強い。
【0026】
ある実施形態において、HER2陽性癌を有する個体を、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体、及び腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する化学療法剤(特に、免疫原性の癌細胞死を誘発する薬剤又は処置(例えば、タキサン剤、パクリタキセル))で処置する。
【0027】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、HER2陽性胃癌を有する個体を処置する方法であって、このHER2陽性胃癌は、HER2発現細胞を含むと決定された腫瘍を特徴としており、この方法は、この個体に、ヒトCD73タンパク質に結合してこのタンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を阻害する手段(又はそのような手段を含む医薬品)を投与することを含む、方法である。任意選択により、ヒトCD73タンパク質に結合してこのタンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を阻害し得る抗体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体と組み合わせて投与し、任意選択により、さらには、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する化学療法剤(特に、免疫原性の癌細胞死を誘発する薬剤又は処置(例えば、タキサン剤、パクリタキセル))と組み合わせて投与する。
【0028】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、CD73に結合する抗体で、癌を有する個体を処置する方法における、HER2発現細胞を含むと決定された胃腫瘍を特徴とするHER2陽性胃癌を有する個体を同定すること、及びこの個体に、ヒトCD73タンパク質に結合してこのタンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を阻害し得る抗体を投与することを含む改善である。任意選択により、ヒトCD73タンパク質に結合してこのタンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を阻害し得る抗体を、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体と組み合わせて投与し、任意選択により、さらには、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する化学療法剤(特に、免疫原性の癌細胞死を誘発する薬剤又は処置(例えば、タキサン剤、パクリタキセル))と組み合わせて投与する。
【0029】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、CD73に結合する抗体で、癌を有する個体を処置する方法における、HER2発現細胞を含むと決定された胃腫瘍を特徴とするHER2陽性胃癌を有する個体を同定すること、及びこの個体に、ヒトCD73タンパク質に結合してこのタンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を阻害し得る抗体に加えて、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体、及び任意選択により、さらには、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する化学療法剤(特に、免疫原性の癌細胞死を誘発する薬剤又は処置(例えば、タキサン剤、パクリタキセル))を投与することを含む改善である。
【0030】
本明細書の任意の実施形態において、HER2陽性胃癌を有する個体を同定することは、IHC及び/又はFISHで決定した場合に生物学的試料中の癌細胞がHER2を発現するかどうかを評価することを含み得る。
【0031】
本明細書の任意の実施形態において、HER2陽性癌を有する個体は、腫瘍細胞からのATPの細胞外放出を誘発する化学療法剤(特に、免疫原性の癌細胞死を誘発する薬剤又は処置(例えば、タキサン剤、パクリタキセル))による処置(少なくとも1回の処置の経過又はサイクル)を過去に受けている。任意選択により、この個体は、そのような過去の処置後に再発した腫瘍又は癌を有する。
【0032】
本明細書の任意の実施形態において、HER2陽性癌を有する個体は、ヒトHER2タンパク質に結合する抗体による処置(少なくとも1回の処置の経過又はサイクル)を過去に受けている。任意選択により、この個体は、そのような過去の処置後に再発した腫瘍又は癌を有する。
【0033】
さらなる態様において、本開示は、抗CD73抗体を投与するための有利な2週間又は3週間処置レジメンを提供し、そのようなレジメンは、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを有する抗体、又はその機能保存変異体による処置に特に有用であり得る。そのような処置レジメンで投与される抗CD73抗体を、他の治療薬(例えば、化学療法剤及び/若しくは抗HER2抗体)との組合わせ処置で投与し得るか、又は(単剤療法として)他の治療薬との組合わせ処置ではなく投与し得る。ある態様において、提供されるのは、個体の抗腫瘍免疫反応を強化するか、増強するか、若しくは誘発する方法、個体の免疫抑制(例えば腫瘍媒介性免疫抑制)を軽減する方法、腫瘍微小環境中におけるCD73の活性を中和する方法、腫瘍微小環境中におけるアデノシンの生成及び/若しくは濃度を減少させる方法、腫瘍細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、及び/若しくはB細胞による発現されるCD73の活性を中和する方法、個体のリンパ球(例えばT細胞)の活性を増強するか、若しくはリンパ球(例えばT細胞)の活性を回復させる方法、並びに/又は個体のリンパ球活性(例えばT細胞)のアデノシン媒介性阻害を軽減する方法であって、この個体に、ヒトCD73タンパク質に結合してその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する本開示の抗体(例えば、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗体若しくは抗体断片、又はその機能保存変異体)を投与することを含み、この抗体を、この個体に、(a)1500~3600mgの固定用量(体重若しくは体表面積を問わない)で、任意選択により1500mgの用量で、任意選択により2400mgの用量で、2週間毎に1回投与するか、又は(b)2000~3000mgの固定用量で、任意選択により、2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、若しくは3000mgの用量で、3週間毎に1回投与する、方法である。
【0034】
ある態様において、提供されるは、個体の癌を処置する方法であって、この個体に、ヒトCD73タンパク質に結合してその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体を投与することを含み、この抗体は、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗体若しくは抗体断片、又はその機能保存変異体であり、この抗体を、この個体に、1500~3600mgの固定用量(体重若しくは体表面積を問わない)で、任意選択により1500mgの用量で、任意選択により2400mgの用量で、2週間毎に1回投与するか、又は2000~3000mgの固定用量で、任意選択により、2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、若しくは3000mgの用量で、3週間毎に1回投与する、方法である。
【0035】
これらの態様は、本明細書に記載されている説明においてより完全に説明されており、さらなる態様、特徴、及び利点は、本明細書に記載されている説明から明らかであるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】左側のパネル:診断時の胃原発腫瘍におけるCD73染色強度(あらゆる処置前)。CD73を発現する腫瘍細胞(TC)及び間質細胞(SC)に対するCD73強度スコアの分布を示す積み上げバー。1~3の強度スコア。右側のパネル:Her2状態に従う診断時の胃腫瘍細胞中におけるCD73発現。腫瘍細胞に対するCD73割合スコアの分布を示す積み上げバー。統計解析:ノンパラメトリックマン・ホイットニー検定(p=0.0343)。スコア0=陽性細胞なし;スコア1=1~9%の陽性細胞;スコア2=10~50%の陽性細胞;スコア3=51~80%の陽性細胞、及びスコア4=80%超の陽性細胞。
図2】ネオアジュバント化学療法前後でのCD73発現胃腫瘍細胞の比較。腫瘍細胞に対するCD73割合スコアの分布を示す積み上げバー(左側のパネル)、及びCD73+腫瘍細胞の割合を示すバイオリンプロット(右側のパネル)。スコア0=陽性細胞なし;スコア1=1~9%の陽性細胞;スコア2=10~50%の陽性細胞;スコア3=51~80%の陽性細胞、及びスコア4=80%超の陽性細胞。
図3】ネオアジュバント化学療法前後でのCD73発現胃間質細胞の比較。間質細胞に対するCD73割合スコアの分布を示す積み上げバー(左側のパネル)、及びCD73+間質細胞の割合を示すバイオリンプロット(右側のパネル)。スコア0=陽性細胞なし;スコア1=1~9%の陽性細胞;スコア2=10~50%の陽性細胞;スコア3=51~80%の陽性細胞、及びスコア4=80%超の陽性細胞。
図4】ネオアジュバント化学療法前後でのCD73発現胃間質免疫細胞の比較。間質免疫細胞に対するCD73割合スコアの分布を示す積み上げバー(左側のパネル)、及びCD73+間質免疫細胞の割合を示すバイオリンプロット(右側のパネル)。スコア0=陽性細胞なし;スコア1=1~9%の陽性細胞;スコア2=10~50%の陽性細胞;スコア3=51~80%の陽性細胞、及びスコア4=80%超の陽性細胞。
図5A-5C】T細胞増殖が全ての抗CD73抗体によって回復することを示す。図5Aは、T細胞亜集団の増殖の制御及びAMPによるその阻害を示す。図5Bは、CD4+及びCD8+T細胞の増殖を回復するためのH4+Lx抗体及び親抗体HPLPの有効性を示す。図5Cは、CD4+及びCD8+T細胞の増殖を回復するための2H4+2Lx抗体(2L1、2L2、2L3又は2L4鎖と組み合わせた2H4+鎖)及び親抗体2HP2LPの有効性を示す。データは、重複の平均+/-標準偏差として表される。
図6A-6B】ヒト化変異体によって回復されたT細胞増殖が、それぞれ2人の代表的なヒトドナーで再現可能であることを示す。CD4及びCD8T細胞の増殖を回復するための2H4+2Lx抗CD73抗体変異体の有効性が示されている。データは、重複の平均+/-標準偏差として表される。
図7】CD4+T細胞の増殖がATPによって阻害され、2H4+2Lx抗体変異体で回復することを示す。2つの代表的なドナーであるD795(図7、上側パネル)及びD664(図7、下側パネル)について試験したものとして示される、100μMのATPによるCD4+T細胞の増殖及び阻害の制御。データは、重複の平均+/-標準偏差として表される。
図8】抗CD73抗体の薬物動態/薬力学モデルを示す。このモデルは、下記を含む:コンパートメント間クリアランス(Q)と、中心コンパートメント及び末梢コンパートメントの分布量(それぞれVc及びVp)とを特徴とする2コンパートメント分布(血液から末梢へ);単一クリアランスパラメータCLを特徴とする、中心コンパートメントからの1次除去;Vmax及びKmを特徴とする、中心コンパートメントからのミカエリス・メンテン飽和除去。PDモデルのCD73飽和レベルは、50%受容体占有率をもたらす抗CD73抗体血清中濃度であるEC50を表すKmから予測される。
図9】カニクイザルでの非GLP毒性試験及びGLP毒性試験で予測された抗CD73抗体血清中濃度と観察された抗CD73抗体血清中濃度との重複を示す。左側のパネルは、非GLP毒性試験で観察されたPKデータへのモデルフィッティングを表しており;右側のパネルは、GLP毒性試験で観察されたPKデータへのモデルフィッティングを示しており;記号は、観察されたデータを表しており;実線は、モデル予測を表す。
図10図10Aは、2週間毎の投与-時間に関して予測される抗CD73抗体血清中濃度と、CD73占有率-時間プロファイルとを示す。図10Bは、3週間毎の投与に関して予測される抗CD73抗体血清中濃度を示す。左側のパネルは、ヒトでの予測された抗CD73抗体PKを示す。右側のパネルは、ヒトでの予測されたCD73受容体占有率を示す。EC50は、PKモデル化により推定されたミカエリス・メンテン定数Kmであった。EC90を、EC50から算出した。下から上への線は、抗CD73抗体の用量の増加に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ以上を意味し得る。請求項で使用される場合、「含む」という語と組み合わせて使用されるとき、「1つの(a)」又は「1つの(an)」という語は、1つ又は2つ以上を意味し得る。本明細書中で使用される場合、「別の」は、少なくとも第2又はそれを超えるものを意味し得る。
【0038】
「含む」が使用される場合、これは、任意選択により、「から基本的になる」又は「からなる」により置き換えられ得る。
【0039】
エクト-5’-ヌクレオチダーゼ及び5-プライムリボヌクレオチドホスホヒドロラーゼとしても知られるヒトCD73、EC3.1.3.5は、NT5E遺伝子によってコードされ、5’-ヌクレオチダーゼ、とりわけAMP-、NAD-及びNMN-ヌクレオチダーゼ活性を示す。CD73は、プリン5-プライムモノヌクレオチドの中性pHでのヌクレオシドへの変換を触媒し、好ましい基質は、AMPである。酵素は、原形質膜の外面にグリコシルホスファチジルイノシトール結合によって結合された2つの同一の70kDサブユニットの二量体からなる。アミノ酸1~26にシグナル配列を含むヒトCD73プレタンパク質(モノマー)のアミノ酸配列は、以下のようにGenbankにおいて受託番号NP_002517で示され、この開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【化1】
【0040】
本明細書に関連して、「CD73の酵素活性を中和する」とは、CD73の5’-ヌクレオチダーゼ(5’-エクトヌクレオチダーゼ)活性が阻害されるプロセスを指す。これは、とりわけ、CD73を介したアデノシンの生成の阻害、すなわちCD73を介したAMPのアデノシンへの異化の阻害を含む。これは、例えば、直接又は間接的に、AMPのアデノシンへの変換を阻害する試験化合物の能力を測定する無細胞アッセイで測定することができる。ある実施形態において、抗体調製物は、例えば、本明細書に記載のアッセイを参照して、AMPからアデノシンへの変換の少なくとも50%の減少、AMPからアデノシンへの変換の少なくとも70%の減少又はAMPからアデノシンへの変換の少なくとも80%の減少を引き起こす。
【0041】
本明細書全体において、「癌の処置」などが抗CD73抗体に関して言及される場合には常に、(a)癌の処置の方法であって、このような治療を必要とする個体、哺乳動物、特にヒトに、癌の処置を可能にする用量で(治療的有効量)、好ましくは本明細書中で指定されるような用量(量)で(好ましくは薬学的に許容可能な担体物質中で)抗CD73抗体を投与する(少なくとも1回の処置)ステップを含む方法;(b)(特にヒトにおける)癌の処置のための抗CD73抗体の使用又はその処置における使用のための抗CD73抗体;(c)癌の処置用の医薬品の製造のための抗CD73抗体の使用、抗CD73抗体を薬学的に許容可能な担体と混合することを含む、癌の処置用の医薬品又は有効用量の癌の処置に適切な抗CD73抗体を含む医薬品の製造のために抗CD73抗体を使用する方法;又は(d)本願が提出される国で特許を得ることを可能とする主題に従う、a)、b)及びc)のいずれかの組み合わせを意味する。
【0042】
「抗体」という用語は、本明細書中で使用される場合、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を指す。重鎖における定常ドメインのタイプに依存して、抗体は、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの1つに割り当てられる。これらの一部は、サブクラス又はアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4などにさらに分類される。代表的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対から構成され、各対は、1本の「軽」鎖(約25kDa)及び1本の「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識に主に関与する約100~110又はそれを超えるアミノ酸の可変領域を定める。可変軽鎖(V)及び可変重鎖(V)という用語は、これらの軽鎖及び重鎖をそれぞれ指す。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、「アルファ」、「デルタ」、「イプシロン」、「ガンマ」及び「ミュー」とそれぞれ呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は、周知である。IgGは、生理学的状況において最も共通する抗体であるため及び実験室で最も容易に作製されるため、本明細書中で使用される抗体の代表的なクラスである。任意選択により、本抗体は、モノクローナル抗体である。抗体の特定の例は、ヒト化、キメラ、ヒト又はそうでなければヒトに適切な抗体である。「抗体」は、本明細書中に記載の抗体のいずれかの何らかの断片又は誘導体も含む。
【0043】
「特異的に結合する」という語は、単離標的細胞の表面上に存在するタンパク質、その中のエピトープ又はネイティブタンパク質のいずれかの組み換え形態を用いて評価した場合、抗体が好ましくは競合的結合アッセイにおいて結合パートナー、例えばCD73に結合し得ることを意味する。競合的結合アッセイ及び特異的な結合を決定するための他の方法を以下でさらに記載し、これらは、当技術分野で周知である。
【0044】
抗体が特定のモノクローナル抗体と「競合する」と言われる場合、これは、本抗体が、組み換えCD73分子又は表面発現CD73分子のいずれかを用いた結合アッセイにおいて、モノクローナル抗体と競合することを意味する。例えば、試験抗体が結合アッセイにおいて参照抗体のCD73ポリペプチド又はCD73発現細胞への結合を減少させる場合、本抗体は、参照抗体とそれぞれ「競合する」と言われる。
【0045】
「親和性」という用語は、本明細書中で使用される場合、エピトープへの抗体の結合の強度を意味する。抗体の親和性は、[Ab]×[Ag]/[Ab-Ag](式中、[Ab-Ag]は、抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は、未結合抗体のモル濃度であり、[Ag]は、未結合抗原のモル濃度である)として定められる解離定数Kdにより与えられる。親和性定数Kは、1/Kdにより定義される。mAbの親和性を決定するための方法は、Harlow,et al.,Antibody:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988),Coligan et al.,eds,Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1992,1993)及びMuller,Meth.Enzymol.92:589-601(1983)に見出すことができ、この参考文献は、全体的に参照により本明細書中に組み込まれる。mAbの親和性を決定するための当技術分野で周知のある標準的な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)スクリーニング(BIAcore(商標)SPR分析装置による分析など)の使用である。
【0046】
本明細書に関連して、「決定基」は、ポリペプチド上の相互作用又は結合の部位を指す。
【0047】
「エピトープ」という用語は、抗原性決定基を指し、抗体が結合する抗原上のエリア又は領域である。タンパク質エピトープは、直接結合に関与するアミノ酸残基並びに特異的な抗原結合抗体又はペプチドにより効果的に阻止されるアミノ酸残基、すなわち抗体の「フットプリント」内のアミノ酸残基を含み得る。これは、例えば、抗体又は受容体と組み合わせ得る複合抗原分子上の最も単純な形態又は最小構造領域である。エピトープは、直鎖状又は立体構造/構造であり得る。「直鎖状エピトープ」という用語は、アミノ酸の直鎖状配列(一次構造)上で隣接するアミノ酸残基から構成されるエピトープとして定義される。「立体構造又は構造エピトープ」という用語は、全てが隣接しておらず、したがって分子の折り畳みにより互いに対して近接するようになるアミノ酸の直鎖状配列の分離部分を表す(二次、三次及び/又は四次構造)アミノ酸残基から構成されるエピトープとして定義される。立体構造エピトープは、三次元構造に依存する。したがって、「立体構造」という用語は、「構造」と交換可能に使用されることが多い。
【0048】
「枯渇させる」又は「枯渇させること」という用語は、CD73発現細胞に関して、結果として、試料又は対象中に存在するこのようなCD73発現細胞の数に負の影響を与えるように死滅させるか、排除するか、溶解するか、又はこのような死滅、排除若しくは溶解の誘導を引き起こす過程、方法又は化合物を意味する。
【0049】
「内在化」という用語は、「細胞内内在化」と互換的に使用され、細胞の細胞外表面から細胞の細胞内表面に分子を移動させるプロセスに関連する分子的、生化学的及び細胞的事象を指す。分子の細胞内内在化に関与するプロセスは、周知であり、とりわけ細胞外分子(ホルモン、抗体、有機小分子など);膜関連分子(細胞表面受容体など);細胞外分子に結合した膜結合分子の複合体(例えば、膜貫通受容体に結合したリガンド又は膜結合分子に結合した抗体)の内在化に関与し得る。したがって、「内在化の誘導及び/又は増加」は、細胞内内在化が開始され、且つ/又は細胞内内在化の速度及び/又は程度が増加する事象を含む。
【0050】
「薬剤」という用語は、本明細書中では、化学的化合物、化学的化合物の混合物、生体高分子又は生体物質から作製される抽出物を指すために使用される。「治療剤」という用語は、生物学的活性を有する薬剤を指す。
【0051】
本明細書中での目的のために、「ヒト化」又は「ヒト」抗体は、1つ以上のヒト免疫グロブリンの定常及び可変フレームワーク領域が動物免疫グロブリンの結合領域、例えばCDRと融合される抗体を指す。このような抗体は、結合領域が由来する非ヒト抗体の結合特異性を維持するが、非ヒト抗体に対する免疫反応を回避するために設計される。このような抗体は、抗原負荷に反応して特異的なヒト抗体を作製させるために「操作」されているトランスジェニックマウス又は他の動物から入手し得る(例えば、全体的な教示が参照により本明細書中に組み込まれるGreen et al.(1994)Nature Genet 7:13;Lonberg et al.(1994)Nature 368:856;Taylor et al.(1994)Int Immun 6:579を参照されたい)。全て当技術分野で公知である、遺伝学的又は染色体導入法並びにファージディスプレイ技術によって完全ヒト抗体も構築し得る(例えば、McCafferty et al.(1990)Nature 348:552-553を参照されたい)。ヒト抗体は、インビトロ活性化B細胞によっても作製し得る(例えば、参照によりそれらの全体において組み込まれる米国特許第5,567,610号明細書及び同第5,229,275号明細書を参照されたい)。
【0052】
「超可変領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」又は「CDR」(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)及び重鎖可変ドメイン中の31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.1991)及び/又は「超可変ループ」からの残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基26~32(L1)、50~52(L2)及び91~96(L3)及び重鎖可変ドメイン中の26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol1987;196:901-917)又は抗原結合に関与する必須アミノ酸を決定するための同様の系からのアミノ酸残基を含む。一般的には、この領域中のアミノ酸残基の付番は、Kabat et al.、前出に記載の方法により行われる。「Kabat位置」、「Kabatにおけるような可変ドメイン残基付番」及び「Kabatによる」などの句は、本明細書中では、重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに対するこの付番系を指す。Kabat付番系を用いて、ペプチドの実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR若しくはCDRの短縮又はそれへの挿入に対応する少数の又はさらなるアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後に1つのアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後に残基の挿入(例えば、Kabatによる残基82a、82b及び82cなど)を含み得る。残基のKabat付番は、「標準的な」Kabat付番配列での抗体の配列の相動性の領域でのアライメントにより、特定の抗体に対して決定され得る。
【0053】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書中で使用される場合、CDRとして定められる領域を除く抗体可変ドメインの領域を意味する。各抗体可変ドメインフレームワークは、CDRによって分離される近接領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)にさらに分けられ得る。
【0054】
「Fcドメイン」、「Fc部分」、及び「Fc領域」という用語は、例えば、ヒトγ(ガンマ)重鎖の約アミノ酸(aa)230~約aa450からの、抗体重鎖のC末端断片、若しくは他のタイプの抗体重鎖(例えば、ヒト抗体の場合には、α、δ、ε、及びμ)におけるその対応配列、又はその天然に存在するアロタイプを指す。別途指定されない限り、本開示全体を通して、免疫グロブリンに関して一般的に受容されるKabatアミノ酸付番が使用されている(Kabat et.al.(1991)Sequences of Protein of Immunological Interest,5th ed.,United States Public Health Service,National Institute of Health,Bethesda,MDを参照されたい)。
【0055】
「単離」、「精製」又は「生物学的に純粋」という用語は、実質的に又は基本的に、そのネイティブ状態で見られるような通常それに付随する成分を含まない物質を指す。純度及び均一性は、一般的にはポリアクリルアミドゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーなどの分析学的化学技術を用いて決定される。標品中に存在する主要な種であるタンパク質は、実質的に精製されている。
【0056】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書中で交換可能に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー並びに天然のアミノポリマー及び非天然のアミノポリマーに適用される。
【0057】
「組み換え」という用語は、例えば、細胞又は核酸、タンパク質又はベクターに関して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸若しくはタンパク質の導入又はネイティブ核酸若しくはタンパク質の改変により修飾されているか、又は細胞が、そのように修飾された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組み換え細胞は、細胞のネイティブ(非組み換え)形態内で見出されない遺伝子を発現するか、又はそうでなければ異常に発現されるか、発現が少ないか又は全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。
【0058】
本明細書に関連して、ポリペプチド又はエピトープに「結合」する抗体という用語は、特異性及び/又は親和性をもって前記決定基に結合する抗体を指す。
【0059】
「同一性」又は「同一である」という用語は、2つ以上のポリペプチドの配列間の関係において使用される場合、2つ以上の一連のアミノ酸残基間の一致数により決定される場合のポリペプチド間の配列関連性の度合いを指す。「同一性」は、特定の数学的モデル又はコンピュータープログラム(すなわち「アルゴリズム」)により扱われるギャップアライメント(存在する場合)を用いた2つ以上の配列のより小さいものの間の完全な一致のパーセントを評価する。関連ポリペプチドの同一性は、公知の方法により容易に計算され得る。このような方法としては、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and DevereuX,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;及びCarillo et al.,SIAM J.Applied Math.48,1073(1988)に記載のものが挙げられるが、限定されない。
【0060】
同一性を決定するための方法は、試験される配列間の一致が最大となるように設計される。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータープログラムに記載されている。2つの配列間の同一性を決定するためのコンピュータープログラム法としては、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.12,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.),BLASTP、BLASTN and FASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403-410(1990))を含むGCGプログラムパッケージが挙げられる。BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)及び他のソース(BLAST Manual,Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.、前出)から公開されている。周知のSmith Watermanアルゴリズムも同一性を決定するために使用し得る。
【0061】
処置方法
説明されているのは、癌の診断、予後、モニタリング、及び処置で有用な方法である。ある実施形態において、この癌は、表面でHER2を発現する腫瘍細胞を特徴としており、処置は、個体に、本明細書で説明されている抗CD73抗体を投与することを含む。ある実施形態において、本開示に従って処置される個体は、胃癌を有する。ある実施形態において、本開示に従って処置される個体は、乳癌を有する。本明細書の任意の実施形態において、胃癌は、胃腺癌、又は胃食道腺癌、又は胃食道接合部腺癌を特徴とし得る。任意の実施形態において、この癌は、HER2タンパク質に対して陽性の検査(又は陽性と検査されていること)を特徴とし得、任意選択により、この癌は、過剰なHER2タンパク質を発現しており(HER2過剰発現)、任意選択により、この癌は、低レベルのHER2タンパク質を発現している(過剰なHER2発現又はHER2過剰発現と比べて低い)。
【0062】
本明細書で示されるように、胃癌におけるHER2状態に従う患者階層化により、HER2+胃癌患者は全て、CD73発現腫瘍を有していること、及びHer2+患者は、Her2-患者と比べてCD73+腫瘍細胞の割合が高いことが示された。Her2状態に関係なく、全ての患者は、CD73+間質細胞を有していた。さらに、本明細書で示されているように、ネオアジュバント化学療法(CT)により、CD73を発現する患者の割合又はCD73+腫瘍細胞の割合のいずれにおいても、CD73発現腫瘍細胞が有意に変更されなかった。しかしながら、ネオアジュバントCTにより、CD73+間質細胞を有する患者の割合は、CT前の60%(n=12/20)からCT後の95%(n=19/20)へと上昇した。CD73発現間質細胞の割合は、CT前とCT後とで有意差がなかった(図15、右側のパネル)。CTにより、CD73+間質免疫細胞を有する患者の割合は、30%(n=6/20)から70%(n=14/20)へと上昇した。したがって、抗CD73抗体を、化学療法剤による処置を過去に受けている個体で有利に使用し得る。さらに、CD73陽性試料中でのCD73発現細胞の割合に対する化学療法の効果の欠如から、抗CD73抗体の処置レジメン及び投与量(例えば、CD73受容体を飽和させるように設計された用量)は、例えば、化学療法剤による処置と組み合わせて投与された場合に有効であることが示され得る。
【0063】
「HER2」(HER2/neu、C-erbB-2、及びErbB-2としても既知である)という用語は、「ヒト上皮増殖因子受容体2」を表す。HER2、並びにその変異体及びアイソフォームは、HER受容体ファミリメンバーである、チロシンキナーゼ活性を有する膜貫通タンパク質をコードする、染色体17q21上に位置する癌原遺伝子であり、シグナル伝達経路に関与しており、細胞の増殖及び分化を引き起こす。胃癌及び胃食道癌では、HER2過剰発現の頻度は、文献によって大きく異なる。しかしながら、胃癌でのHER2検査は、腫瘍生物学での固有の差違、胃腫瘍で一般に観察されるHER2発現の腫瘍内不均一及び不完全な膜染色により、乳癌での検査とは異なっている。
【0064】
HER2状態は、典型的には、免疫組織化学(IHC)又はインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)アッセイにより評価される。両方の方法を、ホルマリン固定及びパラフィン包埋生検組織、又は外科的検体、時には細胞診試料を使用して実行し得る。蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)は、ゴールドスタンダードと見なされており、HER2遺伝子のコピー数の計数を可能にする。しかしながら、FISHは費用が高く、結果としてIHCも広く使用されており、IHCによる3+スコアは、HER2過剰発現と見なされており、ICHによる曖昧な(2+スコア)症例が、FISHへとさらに供される。
【0065】
HER2の腫瘍細胞発現を評価するためのアッセイは、当該技術分野で公知である。FISHアッセイの例として、下記が挙げられる:HER2 IQFISH pharmDx(Agilent)又はHER2 FISH pharmDx(商標)(Dako)、ホルマリン固定パラフィン包埋でのHER-2/neu遺伝子の増幅を検出するよう設計されているPathVysion(商標)HER-2 DNA Probe Kit II(Abbott)。例示的なアッセイとして、FDAにより承認されたSPoT-Light HER2 CISHアッセイも挙げられる。発色性インサイチュハイブリダイゼーション(CISH)により、HER2遺伝子増幅が検出される。減算プローブテクノロジー発色性インサイチュハイブリダイゼーション(Subtraction Probe Technology Chromogenic In Situ Hybridization)とも称されるこの技術は、乳癌細胞が細胞表面でHER2受容体タンパク質を過剰発現するかどうかを調べるために使用される検査である。HER2に関して別の広く使用されるアッセイは、ホルマリンで固定されてパラフィンに包埋された癌組織でのHER2タンパク質過剰発現を決定するために使用される半定量免疫組織化学アッセイであるHercepTest(商標)(Dako North America,Inc.)である。例えば、低レベルのHER2を発現する腫瘍は、HercepTest(商標)により+1~+2のスコアで同定され得る。
【0066】
ある実施形態において、本開示に従って処置される個体は、HER2タンパク質に対して陽性という検査結果である胃癌(gastric cancer)(例えば、胃癌(stomach cancer)、又は胃食道癌、又は胃食道接合部癌)を有しており、任意選択により、この癌は、(特に、HER2遺伝子増幅の結果として)HER2タンパク質を過剰発現しており、例えば、この腫瘍は、IHCでの3+スコアを特徴としており、及び/又は遺伝子増幅に関してFISHにより陽性である。ある特定の任意な実施形態において、腫瘍は、低レベルのHER2タンパク質(過剰なHER2発現と比べて低い)を特徴としており、例えば、この腫瘍は、IHCでの2+スコアを特徴とし得、且つ遺伝子増幅に関してFISHにより陰性である。ある実施形態において、この個体を、HER2ポリペプチドに結合する抗体(例えば、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を含む抗体)と組み合わせて、任意選択により、さらには化学療法剤と組み合わせて、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体で処置する。
【0067】
いくつかの実施形態において、提供されるのは、胃癌を有する個体の腫瘍を処置する方法であって、(a)この個体の腫瘍(又は腫瘍細胞)によるHER2発現を評価すること、及び(b)この個体が、HER2発現(任意選択によりHER2過剰発現)を特徴とする腫瘍(又は腫瘍細胞)を有する場合には、この個体に、ヒトCD73タンパク質の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和する抗体の有効量を、任意選択により、HER2ポリペプチドに結合する抗体(例えば、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を含む抗体)の有効量と組み合わせて投与し、任意選択により、さらには化学療法剤と組み合わせて投与することを含む方法である。
【0068】
ある実施形態において、HER2発現又はHER2過剰発現を特徴とする腫瘍は、FISHアッセイにおけるHER2遺伝子増幅に関する陽性結果を特徴とする。ある実施形態において、腫瘍は、IHCによる2+又は3+スコアを特徴とする。ある実施形態において、腫瘍は、IHCによる3+スコアを特徴とする。ある実施形態において、HER2過剰発現腫瘍は、IHCによる3+スコアを特徴とする腫瘍である。ある実施形態において、HER2発現又はHER2過剰発現は、胃癌及び胃食道接合部癌でのHER2検査に関するToGA FISH採点スキームに従って決定される(van Cutsem et al.Gastric Cancer.2015;18(3):476-484を参照されたい)。一例において、HER2過剰発現は、少なくとも6つのシグナル/核のHER2遺伝子コピー数を特徴とする。一例において、HER2過剰発現は、6つのシグナル/核よりも大きいHER2遺伝子コピー数を特徴とする。別の例において、17番染色体セントロメアシグナルに対するHER2シグナルの比が決定されている。例えば、FISH増幅の場合には、DNAプローブキットは、HER2のコピー数(オレンジ色)及び17番染色体セントロメアのコピー数(緑色)を決定するために二色プローブを使用し得る。一例において、HER2過剰発現は、少なくとも2の、任意選択により少なくとも2.2の、又は任意選択により2.2超のHER2シグナル対17番染色体セントロメアの比を特徴とする。
【0069】
ある実施形態において、本開示の組合わせ処置で使用される、HER2に結合する抗体は、細胞傷害剤にコンジュゲートしていないヒトアイソタイプの抗体(例えばヒトIgG1)である(例えば、この抗体は、「裸の」抗体である」)。任意選択により、本方法は、化学療法剤の治療的有効量の個体への投与をさらに含む。
【0070】
別の実施形態において、本開示の組合わせ処置で使用される、HER2に結合する抗体は、抗体薬物コンジュゲート(ADC)である。例えば、HER2に結合する抗体を細胞傷害剤にコンジュゲートさせ得、任意選択により、オーリスタチン、マイタンシノイド(例えばDM1)、又はカンプトテシン(例えば、カンプトテシン誘導体若しくはエキサテカン誘導体、DXd、又はSN38)にコンジュゲートさせ得、任意選択により、ADCは、トラスツズマブエムタンシン又はトラスツズマブデルクステカン(DS-8201a)である。
【0071】
組合わせ投与として、剤形が異なる化合物の同時投与、又は化合物の別個の投与(例えば連続投与)が挙げられ得る。そのため、CD73結合抗体と、HER2結合抗体(及び任意選択によりさらなる化学療法剤)とを、組み合わせて使用し得る。抗CD73抗体と、HER2結合抗体とを、別個の投与用に製剤化して、同時に又は連続して投与し得る。CD73結合抗体とHER2結合抗体とをまた、化学療法剤(例えば、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン、パクリタキセル)と組み合わせても使用し得る。抗CD73抗体、HER2結合抗体、及び/若しくは化学療法剤を、それぞれ、別個の投与用に製剤化して、同時に若しくは連続して投与し得るか、又はHER2結合抗体が化学療法剤にコンジュゲートしている(例えば共有結合している)場合には、抗CD73抗体及びHER2結合ADCを、別個の投与用にそれぞれ製剤化して、同時に若しくは連続して投与し得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、本開示の組合わせ処置は、少なくとも1回の処置の経過を含み、処置の各経過に関して、抗CD73抗体の複数回(例えば、2回、3回、又は4回)の連続した用量を投与し、抗HER2抗体の複数回(例えば、2回、3回、又は4回)の連続した用量を投与する。任意選択により処置レジメンは、化学療法剤(例えばタキサン)の複数回(例えば2回、3回、又は4回)の連続した用量の投与をさらに含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、本開示の組合わせ処置は、
(a)抗CD73抗体の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗CD73抗体を、2週間毎又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与;
及び
(b)抗HER2抗体の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗HER2抗体を、毎週1回投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与
を含む。一投与レジメンにおいて、抗CD73抗体を、2週間毎に1回投与し、抗HER2抗体を、3週間毎に1回投与する。別の投与レジメンにおいて、抗CD73抗体を、3週間毎に1回投与し、抗HER2抗体を、3週間毎に1回投与し、抗CD73抗体及び抗HER2抗体を、同日に投与する。
【0074】
いくつかの実施形態において、本開示の組合わせ処置は、
(a)抗CD73の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗CD73抗体を、2週間毎又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与;
及び
(b)化学療法剤(例えば、白金剤、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン、カンプトテシン)の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この化学療法剤を、毎週投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与
を含む。例示的な一投与レジメンにおいて、抗CD73抗体を、3週間毎に1回投与し、化学療法剤を、3週間毎に1回投与し、抗CD73抗体及び化学療法剤を、同日に投与する。
【0075】
いくつかの実施形態において、本開示の組合わせ処置は、
(a)抗CD73の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗CD73抗体を、2週間毎に1回投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与;
(b)抗HER2抗体の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗HER2抗体を、毎週1回投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与;
及び
(c)化学療法剤(例えば、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン、カンプトテシン)の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この化学療法剤を、毎週投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与
を含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、抗HER2抗体が化学療法剤にコンジュゲートしている場合には、本開示の組合わせ処置レジメンは、
(a)抗CD73の用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗CD73抗体を、2週間毎に1回投与するか、又は3週間毎に1回投与する、複数回の投与;
(b)抗HER2抗体化学療法剤コンジュゲートの用量の複数回の投与(例えば、少なくとも2回、3回、又は4回)であって、任意選択により、この抗HER2抗体化学療法剤コンジュゲートを、3週間毎に1回投与する、複数回の投与
を含み得る。
【0077】
実施形態のいずれかにおいて、本開示の処置は、抗CD73抗体の少なくとも4回、5回、又は6回の投与を含む。実施形態のいずれかにおいて、本開示のレジメンに係る処置は、抗HER2抗体の少なくとも4回、5回、又は6回の投与を含む。実施形態のいずれかにおいて、本開示に係る処置は、化学療法剤の少なくとも4回、5回、又は6回の投与を含む。実施形態のいずれかにおいて、本開示のレジメンに係る処置は、抗CD73抗体の少なくとも6回の投与、抗HER2抗体の少なくとも4回の投与、及び任意選択により、さらには化学療法剤の少なくとも4回の投与を含む。
【0078】
実施形態のいずれかにおいて、抗CD73抗体の最初の投与を、抗HER2抗体及び/又は化学療法剤の最初の投与の前に行なう。例えば、抗CD73抗体の最初の投与を、抗HER2抗体及び/又は化学療法剤の最初の投与の1週間前又は2週間前に行ない得る。
【0079】
実施形態のいずれかにおいて、抗CD73抗体と抗HER2抗体とを同日に投与する場合には、任意選択により、抗CD73抗体の投与を、抗HER2抗体の投与の前(例えば1~12時間前)に行なう。実施形態のいずれかにおいて、抗CD73抗体と化学療法剤とを同日に投与する場合には、任意選択により、抗CD73抗体の投与を、化学療法剤の投与の前(例えば1~12時間前)に行なう。
【0080】
本処置方法において、抗HER2抗体と抗CD73抗体とを、別々に投与し得るか、一緒に若しくは連続して投与し得るか、又はカクテルで投与し得る。いくつかの実施形態において、抗CD73抗体を、抗HER2抗体の前に投与する。例えば、抗CD73抗体を、抗HER2抗体の投与の約1時間~7又は8日前に投与し得る。いくつかの実施形態において、抗CD73抗体を、抗HER2抗体の投与の約30分~約1週間前、約1時間~約1週間前、約1時間~約2時間前、約1時間~約6時間前、約1時間~約12時間前、約2時間~約4時間前、約4時間~約6時間前、約6時間~約8時間前、約8時間~1日前、又は約1~8日前に投与する。いくつかの実施形態において、抗CD73抗体を、抗HER2抗体の投与と同時に投与する。
【0081】
実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体及び/又は化学療法剤の投与を、抗CD73抗体の投与後約1週間以内に行なう。例えば、方法が、抗HER2抗体の用量の複数回の投与、及び抗CD73抗体の用量の複数回の投与を含む場合には、抗HER2抗体の各投与を、抗CD73抗体の投与と同日又はこの投与の約1週間(例えば、7日、8日)後のいずれかで行ない得る。
【0082】
実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体の複数回の投与のそれぞれ、及び化学療法剤のそれぞれの投与を、抗CD73抗体の投与後14日又は約2週間以内に行ない、任意選択により、この投与の7日又は約1週週間後に行なう。実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体の複数回の投与のそれぞれ、及び化学療法剤の複数回の投与のそれぞれを、抗CD73抗体の投与後14日又は約2週間以内に行ない、任意選択により、この投与の7日又は約1週間後に行なう。
【0083】
任意選択により、処置を、抗HER2抗体の最初の投与、及び/又は化学療法剤の最初の投与を、抗CD73抗体の投与後14日又は約2週間以内に行ない、抗HER2抗体の各後続(即ち、2回目以降)の投与、及び/又は化学療法剤の各後続の投与を、抗CD73抗体の投与と同日に投与するか、又は抗CD73抗体の投与後7日(例えば1週間)以内に投与する。
【0084】
したがって、実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体の各後続(即ち、2回目以降)の投与、及び/又は化学療法剤の各投与を、抗CD73抗体の投与と同日に投与するか、又は抗CD73抗体の投与後8日以内又は8日(例えば約1週間)以内に行なう。
【0085】
実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体の各後続(即ち、2回目以降)の投与を、抗CD73抗体の投与と同日に行なうか、又はこの投与後7若しくは8日以内又は約1週間以内に行なう。実施形態のいずれかにおいて、抗HER2抗体の各投与を、抗CD73抗体の投与と同日に行なうか、又はこの投与後7若しくは8日以内又は約1週間以内に行なう。
【0086】
実施形態のいずれかにおいて、化学療法剤の各後続(即ち、2回目以降)の投与を、抗CD73抗体の投与と同日に行なうか、又はこの投与後7若しくは8日以内又は約1週間以内に行なう。実施形態のいずれかにおいて、化学療法剤の各投与を、抗CD73抗体の投与と同日に行なうか、又はこの投与後7若しくは8日以内又は約1週間以内に行なう。
【0087】
そのため、抗CD73抗体を、例えば2週間毎に投与し得、抗HER2抗体(及び使用される場合には化学療法剤)を、3週間毎に投与し得る。例示的な治療レジメンは、2週間毎の抗CD73抗体の投与、3週間毎の抗HER2抗体(及び使用される場合には化学療法剤)の投与を含み、抗HER2抗体(及び使用される場合には化学療法剤)の最初の投与を、抗CD73抗体の最初の投与の約2週間後に行なうか、又はこの投与後2週間以内(例えば15日以内)に行なう。
【0088】
任意の実施形態において、個体は、過去の治療後に進行している若しくは再発している癌を有するか又は過去の治療に反応しなかった癌を有することを特徴とし得、任意選択により、さらには、この過去の治療は、化学療法剤の投与を含み、任意選択により、白金剤(例えばシスプラチン)又はタキサン剤(例えばパクリタキセル)の投与を含む。
【0089】
任意の実施形態において、個体は、進行しているか、再発しているか、又はHER2ポリペプチドに結合する抗体(例えば、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR、可変領域、又はポリペプチド鎖を含む抗体)による過去の処置に反応しなかった癌を有することを特徴とし得る。
【0090】
別の例において、抗CD73抗体を、(例えば、CD73発現細胞(例えばMDA-MB-231細胞)上の抗CD73抗体を滴々することにより評価した場合に)CD73発現細胞への結合に関するEC50(任意選択によりEC70、又は任意選択によりEC90)と比べて高い循環中の濃度(任意選択により、目的の血管外組織(例えば、腫瘍又は腫瘍環境)中の濃度)を、指定された期間(例えば、少なくとも1週間、2週間、3週間)にわたり達成するか又は維持する量で投与し得る。任意選択により、達成される濃度は、CD73発現細胞への結合に関するEC50(任意選択によりEC70、又は任意選択によりEC90)と比べて少なくとも20%、50%、又は100%高い。
【0091】
別の例において、抗CD73抗体を、(例えば、アデノシンへのAMPの加水分解を定量することによりMDA-MB-231細胞又はA375細胞における5’エクトヌクレオチダーゼ活性の中和を評価することによる)アデノシンへのAMPのCD73媒介性異化の阻害に関する少なくともEC50(任意選択によりEC70、又は任意選択により実質的にEC90)の血中濃度を、少なくとも1週間(任意選択により、少なくとも2週間若しくは3週間)にわたり及び/又は個体中の抗CD73抗体の後続の投与まで達成するのに及び/又は維持するのに有効な量で投与し得る。ある実施形態において、抗CD73抗体の量は、個体の血管外組織中でのアデノシンへのAMPのCD73媒介性異化の阻害に関するEC50(任意選択によりEC70、又は任意選択により実質的にEC90)を(任意選択により少なくとも1週間にわたり、任意選択により2週間にわたり)達成するのに(又は維持するのに)有効な量である。
【0092】
抗CD73抗体は、本明細書でさらに説明されている。例えば、本開示の抗体の重鎖及び軽鎖のCDRを有する抗体(例えば、47及び48のそれぞれの重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を有する抗体)又はその機能保存変異体を、900~3000mgの用量で投与し得、任意選択により、この抗体を、少なくとも900mgの用量で投与するか、任意選択により1500mg若しくは少なくとも1500mgの用量で投与するか、又は任意選択により2400mg若しくは少なくとも2400mgの用量で投与する。この抗体を、静脈内投与し得る。
【0093】
別の例において、重鎖及び軽鎖のCDR、配列番号42及び43の重鎖及び軽鎖の可変領域を有する抗体を、少なくとも900mgの用量で投与し得るか、任意選択により1500mg若しくは少なくとも1500mgの用量で投与し得るか、又は任意選択により2400mg若しくは少なくとも2400mgの用量で投与し得る。この抗体を、静脈内投与し得る。
【0094】
化学療法剤を、抗HER2抗体とコンジュゲートしていない場合には、特定の溶剤に好適な用量で投与し得る。例えば、タキサン剤を投与し得る。タキサンは、細胞微小管を安定化させ、それにより細胞分裂を阻害することにより抗腫瘍活性を生じる化学療法剤(例えば、パクリタキセル及びドセタキセル)である。例えば、パクリタキセルを、3時間注入による175mg/m体表面積の用量で、3週間毎に投与し得る。任意選択によるある実施形態において、本開示の組合わせ処置は、白金系薬剤(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン)の非存在下での(この白金系薬剤による処置の非存在下での)、化学療法剤(例えば、タキサン、抗HER抗体にコンジュゲートしている化学療法剤)による処置を含む。任意選択によるある実施形態において、本開示の組合わせ処置は、アントラサイクリン誘導体(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン)の非存在下での(このアントラサイクリン誘導体による処置の非存在下での)、化学療法剤(例えば、タキサン、抗HER抗体にコンジュゲートしている化学療法剤)による処置を含む。
【0095】
本明細書の任意の実施形態において、本開示の処置は、PD-1を中和する抗体による組合わせ処置の非存在下であると指定され得る。「PD-1を中和する」という用語は、PD-1が、このPD-1と、その結合パートナー(例えば、PD-L1又はPD-L2)の内の1つ又は複数との相互作用によるシグナル伝達能を阻害されるプロセスを指す。PD-1を中和する抗体は、例えば、ヒトのPD-1タンパク質又はPD-L1タンパク質に結合し得る。例として、ペンブロリズマブ(商品名Keytruda(登録商標))、アテゾリズマブ(商品名Tecentriq(商標))、デュルバルマブ(商品名Imfinzi(商標))が挙げられる。
【0096】
ヒトHER2に特異的に結合するいくつかの抗体(抗HER2抗体)が開発されており、特にトラスツズマブが挙げられる。ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、並びに抗体-薬物コンジュゲートであるトラスツズマブ-エムタンシン及びトラスツズマブ-デルクステカン等の他の分子HER2標的抗体が試験されているか、又は現在試験中である。
【0097】
特定の実施形態において、特に胃癌の処置に関して、抗HER2抗体を、例えば、(静脈内投与の場合には)後続の連続的な処置用量に先行する追加の負荷用量の投与と共に、又はこの投与なしで、3週間毎に静脈内投与し得るか又は皮下投与し得る。実施形態のいずれかにおいて、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与は、負荷用量であり得、続いて1週間後に、抗HER2抗体の後続の処置用量を投与し得、この後続の処置用量を、3週間毎に1回投与する。例えば、1日目(1週目の開始)に、個体を、抗CD73抗体で処置し得;15日目(3週目の開始)に、この個体を、抗CD73抗体と、抗HER2抗体及び化学療法剤の負荷用量とで処置し得;21日目に、この個体を、抗HER2抗体の処置用量で処置し得;抗CD73抗体の後続の用量を、抗CD73抗体の先行する投与後2週間毎又は3週間毎に投与し、抗HER2抗体の処置用量の後続の用量を、抗HER2抗体の処置用量の先行する投与後3週間毎に投与し、化学療法剤の後続の用量を、化学療法剤の先行する投与後3週間毎に投与する。
【0098】
抗HER2抗体は、本明細書でさらに説明されている。例えば、抗体は、トラスツズマブのそれぞれの重鎖及び軽鎖のCDR、可変領域、又は完全ポリペプチド鎖を含み得、2~8mg/kg体重の用量(負荷用量を含む)で投与され、任意選択により2~6mg/kg体重(処置用量)で投与される。Herceptin(商標)として承認された抗体組成物等のヒトIgG1アイソタイプの裸の抗体(細胞傷害剤とコンジュゲートしていない)として表された場合には、そのような抗体を、90分間注入による8mg/kg体重の負荷用量(最初の投与)として投与し得、続いて1週間後に、6mg/kg体重の処置用量を30分間注入により3週間毎に投与し得る。Herceptin(商標)として承認されたトラスツズマブをまた、例えば、90分間IV注入としての4mg/kgの初期用量で、続いて30分間IV注入による2mg/kgの後続の毎週用量で、(特に乳癌の場合に)毎週の投与でも使用し得る。トラスツズマブはまた、皮下投与に好適な製剤であり且つ新規の賦形剤(薬物の有効成分の担体)であるrHuPH20を含むHerceptin(商標)SCとしても承認されている。rHuPH20(組換えヒトヒアルロニダーゼ)は、皮膚下での細胞間の組織中に障壁を形成するゲル状物質(ヒアルロン酸)を可逆的に分解する。Herceptin(商標)SCを、最大5分間の期間をかけて、負荷用量なしに、5mlの総固定量で、600mgの固定用量として3週間毎に投与する。
【0099】
別の例において、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR、可変領域、又は完全ポリペプチド鎖を含む抗体は、細胞傷害剤にコンジュゲートしており、それにより、抗HER2と化学療法剤とが単一の分子又は組成物で組み合わされる。そのようなADC、例えば、ADCトラスツズマブデルクステカン(DS-8201;fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki;Enhertu(登録商標),Daiichi Sankyo)を、静脈内注入により、3週間毎に投与される5.4mg/kg体重の用量で投与し得る。ADCトラスツズマブエムタンシン(ado-トラスツズマブエムタンシン;Kadcyla(登録商標),Genentech)を、静脈内注入により、3週間毎に投与される3.6mg/kg体重の用量で投与し得る。
【0100】
本開示の処置レジメンを有利に使用して、腫瘍間質組織中におけるCD73発現細胞の存在を特徴とするHER2陽性の胃食道接合部腺癌を処置し得る。そのため、CD73陽性癌は、腫瘍中又は腫瘍環境中におけるCD73発現細胞の存在を特徴とし得る。本明細書で示されるように、HER2発現腫瘍は、腫瘍間質中におけるCD73発現を特徴とする。したがって、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を有する個体を、腫瘍微小環境中における細胞(例えば、内皮細胞及び/又は免疫細胞、例えば、B細胞、CD8 T細胞、ナイーブCD8 T細胞)によるCD73の発現を評価するための事前検出工程と共に、又はこの工程なしに、本開示の処置レジメンにより処置し得る。
【0101】
任意選択により、処置方法は、個体からの腫瘍の生物学的試料(例えば、癌組織、癌の近位又は周辺の組織、癌隣接組織、隣接非腫瘍組織、又は正常な隣接組織)中におけるCD73の核酸又はポリペプチドを検出する工程を含み得る。この生物学的試料が、CD73ポリペプチドを特徴とする(例えば、CD73を発現する細胞を含む)という決定は、患者が、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択によりさらには化学療法剤)による処置から大きな利益を受け得る癌を有することを示し得る。本開示に係る処置に好適な癌を有する患者を、表面でCD73を発現する細胞、(例えば、参照値と比較して、健康な個体と比較して、抗CD73剤による処置に対して低い応答者である個体に対応するレベルにて)高レベルでCD73を発現する細胞、又は(例えばIHCで決定した場合に)抗CD73抗体による高強度の染色を示す細胞を特徴とする腫瘍間質を有すると決定し得る。
【0102】
ある実施形態において、本方法は、生物学的試料(例えば、腫瘍及び/又は腫瘍間質組織を含む生物学的試料)中におけるCD73の核酸又はポリペプチドの発現のレベルを決定すること、並びにこのレベルと、健康な個体に対応する参照レベルとを比較することを含む。この生物学的試料が、参照レベルと比較して高いレベルでCD73の核酸又はポリペプチドを発現する細胞を含むという決定は、患者が、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択によりさらには化学療法剤)により有利に処置され得る(例えば、特定の利益を引き出し得る)癌を有することを示す。任意選択により、生物学的試料中におけるCD73ポリペプチドを検出することは、悪性細胞、内皮細胞、T細胞、及び/又はB細胞の表面上で発現されているCD73ポリペプチドを検出することを含む。ある実施形態において、CD73ポリペプチドは、個体から採取した腫瘍組織試料又は腫瘍隣接組織試料(例えば生検)中における細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80、又はより多くに存在している。
【0103】
個体が、CD73ポリペプチドを発現する細胞を特徴とする癌を有するかどうかを決定することは、例えば、癌環境(例えば、腫瘍又は腫瘍隣接組織)由来の細胞を含む個体由来の生物学的試料を(例えば生検を実施することにより)得ること、前記細胞を、ヒトCD73ポリペプチドに特異的に結合する抗体と接触させること、及びこの細胞がその表面上でCD73を発現するかどうかを検出することを含み得る。任意選択により、個体が、CD73を発現する細胞を有するかどうかを決定することは、免疫組織化学アッセイを実行することを含む。
【0104】
ある実施形態において、本開示は、必要な個体(例えば、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を有する対象)のHER2陽性胃癌の処置又は予防の方法であって、
a)個体由来の腫瘍組織試料(任意選択により腫瘍及び/又は腫瘍隣接組織を含む)中におけるCD73ポリペプチド(例えばCD73発現細胞)を検出すること、
並びに
b)腫瘍組織試料が、CD73ポリペプチド(例えばCD73発現細胞)を含み、任意選択により、参照レベルと比較して高いレベルで含むとの決定時に、この個体に、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択によりさらに化学療法剤)を投与すること
を含む方法を提供する。任意選択により、腫瘍組織試料中におけるCD73ポリペプチド又はCD73発現細胞を検出することは、この個体から、腫瘍組織及び/又は腫瘍の近位若しくは周辺の組織(例えば、腫瘍隣接組織、隣接非腫瘍組織、若しくは正常な隣接組織)を含む生物学的試料を得ること、並びにCD73ポリペプチド又はCD73発現細胞のレベルを検出することを含む。CD73発現細胞は、例えば、内皮細胞、腫瘍細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞を含み得る。
【0105】
ある実施形態において、HER2発現及びCD73発現の両方を評価し得る。例えば、ある実施形態において、本開示は、必要な個体(例えば、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を有する対象)の胃癌の処置又は予防の方法であって、
a)任意選択により腫瘍及び/又は腫瘍隣接組織内の、腫瘍環境中におけるCD73ポリペプチド(例えばCD73発現細胞)を検出すること、
b)腫瘍細胞上でのHER2発現(例えば発現レベル)を検出すること、
並びに
c)腫瘍環境が、CD73(例えばCD73発現細胞)を含み、任意選択により、参照レベルと比較して高いレベルで含むとの決定時、及び腫瘍細胞上でのHER2発現(例えば過剰発現)の検出時に、この個体に、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択によりさらに化学療法剤)を投与すること
を含む方法を提供する。任意選択により、腫瘍環境内でのCD73ポリペプチド又はCD73発現細胞を検出することは、この個体から、腫瘍組織及び/又は癌の近位若しくは周辺の組織(例えば、腫瘍隣接組織、隣接非腫瘍組織、若しくは正常な隣接組織)を含む生物学的試料を得ること、並びにCD73ポリペプチド又はCD73発現細胞のレベルを検出することを含む。CD73発現細胞は、例えば、内皮細胞、腫瘍細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞を含み得る。任意選択により、腫瘍細胞上でのHER2発現(例えば過剰発現)を検出すること(又はこの発現の検出)は、腫瘍細胞中におけるHER2過剰発現を検出すること(又はこの過剰発現の検出)を含む。任意選択により、HER2発現腫瘍細胞又はHER2過剰発現腫瘍細胞を検出することは、この個体から、腫瘍組織を含む生物学的試料を得ること、並びに任意選択によりFISHにより決定したように(例えば、高いHER2遺伝子コピー数の存在)及び/又はIHCにより決定したように(例えば、IHCアッセイにおける3+スコア)、HER2ポリペプチドの発現レベルを検出することを含む。
【0106】
ある実施形態において、本開示の処置レジメンを有利に使用して、HER2陽性癌を有し且つ化学療法剤(例えば、白金系薬剤、カルボプラチン、タキサン剤、パクリタキセル)による一連の処置を過去に受けている個体(又は固体の集団)を処置し得る。任意選択により、化学療法剤による過去の一連の処置は、過去1、2、3、4、5、又は6ヶ月以内に完了している。ある実施形態において、ある態様では、本開示の処置レジメンを、細胞中での(例えば、生検での;腫瘍間質からの細胞中での;腫瘍細胞上での)CD73発現を事前に試験する工程が存在しないと指定し得る。ある実施形態において、提供されるのは、化学療法剤(例えば、白金剤、カルボプラチン、タキサン剤、パクリタキセル)による一連の処置を過去に受けている個体(又は固体の集団)の胃癌の処置又は予防の方法であって、
a)任意選択により腫瘍及び/又は隣接組織内の、HER2発現腫瘍細胞を検出すること、
並びに
b)HER2発現(例えば過剰発現)腫瘍細胞の検出時に、この個体に、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択によりさらに化学療法剤)を投与すること
を含む方法である。任意選択により、HER2発現腫瘍細胞又はHER2過剰発現腫瘍細胞を検出することは、この個体から、癌組織を含む生物学的試料を得ること、並びに任意選択によりFISHにより決定したように(例えば、高いHER2遺伝子コピー数の存在)及び/又はIHCにより決定したように(例えば、IHCアッセイにおける3+スコア)、HER2ポリペプチドの発現レベルを検出することを含む。
【0107】
処置の有効性及び/又は治療的有効量を、癌処置の評価で一般的に使用される様々なエンドポイントにより測定し得る。例示的なエンドポイントとして、下記が挙げられる:生存(例えばOS及びPFS)の延長;客観的奏効(例えばCR若しくはPR)という結果;腫瘍退縮、腫瘍の重量若しくはサイズの縮小、疾患進行までの時間の増加、生存期間の増加、より長いPFS、OS率の改善、奏効期間の増加、及び生活の質の改善、並びに/又は癌の徴候若しくは症状の改善。改善及び/又は有効性を、他の処置と比較し得、例えば、抗CD73抗体の非存在下での抗HER2抗体及び化学療法剤の投与を含む処置と比較し得る。
【0108】
本明細書で使用される場合、「進行性疾患」(PD)という用語は、試験時の最小の合計(これには、試験で最小の場合にはベースライン合計が含まれる)を基準として、標的病変の直径の合計の少なくとも20%の増加を指す。20%の相対的増加に加えて、この合計は、少なくとも5mmの絶対的増加も示さなければならない。1つ又は複数の新たな病変の出現も、進行と見なされる。
【0109】
本明細書で使用される場合、「部分奏効」(PR)という用語は、ベースラインの直径の合計を基準として、標的病変の直径の合計の少なくとも30%の減少を指す。
【0110】
本明細書で使用される場合、「完全奏効」(CR)という用語は、任意の標的リンパ節の短軸が10mm未満まで減少している全ての標的病変の消失を指す。
【0111】
本明細書で使用される場合、「安定している疾患」(SD)という用語は、試験時の直径の最小の合計を基準として、PRの資格を得るのに十分な収縮もPDの資格を得るのに十分な増加もないことを指す。
【0112】
本明細書で使用される場合、「客観的奏効率」(ORR)という用語は、RECIST 1.1に従う部分奏効又は完全奏効(PR+CR)の内の最良の全体奏効を達成した患者の割合と等しい。
【0113】
本明細書で使用される場合、「全生存」(OS)という用語は、診断時又は処置時から1年、5年等の規定の期間にわたり生存している患者の割合を指す。好ましい実施形態において、OSは、試験中の無作為化日から任意の原因による死亡日までの時間を指す。患者が、フォローアップ期間の終了時に生存している場合には、又はフォローアップに失敗している場合には、OSデータを、この患者が生存していることが分かっている最終日に打ち切る。全生存は、Kaplan-Meier法により評価され、各処置群のOS中央値に関して95%信頼区間(CI)が提供される。
【0114】
本明細書で使用される場合、「無増悪生存」(PFS)という用語は、癌が進行するか又は悪化することなく生存している患者を指す。本発明の好ましい態様において、PFSは、試験での無作為化からRECIST(Version 1.1)により定義される客観的進行の最初のX線撮影記録又は任意の原因による死亡までの時間と定義される。事前の進行が報告されることなく死亡した患者は、その死亡日に進行していたと見なされる。進行していなかったか又はフォローアップに失敗している患者を、最後のX線撮影腫瘍評価日に打ち切る。
【0115】
本明細書で使用される場合、「疾患制御率」(DCR)という用語は、疾患進行の欠如及びその割合を指す。この用語は、CR、PR、又はSDと分類された最良の全体奏効を有する患者の群(特に、PDを有する患者を除く)を指しており、この最良の全体奏効は、処置開始からPDまで記録された最良奏効である。
【0116】
本明細書で使用される場合、「臨床的利益率」とう用語は、分析時のSD以上を指す。SD以上(即ち、CR+PR+SD)の腫瘍奏効率は、RECIST 1.1により定義されるように、SD以上の奏効率を有する患者の割合と定義される。
【0117】
本明細書で使用される場合、「生存の延長」という用語は、i)未処置患者、ii)特定の組合わせ療法において抗腫瘍剤の一部で処置された患者、又はiii)コントロール処置プロトコルと比較した、処置された患者でのOS又はPFSの増加を意味している。生存を、処置の開始後又は癌の最初の診断後にモニタリングする。
【0118】
本明細書で使用される場合、「最良の全体奏効」という用語は、試験処置の開始から最早期の客観的な進行又は新規の抗癌治療の開始まで記録された最良奏効であり、確認の必要性を考慮する。患者の最良の全体奏効の割り当ては、標的疾患と非標的疾患との両方の所見に依存しており、新規の病変の出現も考慮される。最良の全体奏効は、試験中に治験責任医師により提供された評価回答を使用して、アルゴリズにより算出される。
【0119】
癌(例えば、進行性の胃腺癌又は胃食道接合部腺癌)を処置する例示的な方法は、必要な患者に、配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号42のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗ヒトCD73抗体の有効量と同時に、別々に、又は連続して組み合わせて、配列番号24のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域とを含む抗ヒトHER2抗体の有効量を投与することを含み;任意選択により、この抗ヒトHER2抗体は、配列番号26のアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を有する重鎖とを含み;任意選択により、この抗ヒトCD73抗体は、配列番号48のアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号47のアミノ酸配列を有する重鎖とを含む。
【0120】
HER2に結合する抗体
HER2への結合、及びHER2シグナル伝達の遮断、及びHER2の利用可能な膜分子の数の制限は、いくつかの治療アプローチの焦点となっている。トラスツズマブ(Herceptin(登録商標),Roche)は、HER2の膜近傍領域に結合するネズミ4D5抗体のヒト化バージョンである。トラスツズマブは、結合する腫瘍細胞に対する抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介することにより、HER2の内在化及び分解を引き起こすことにより、並びにHER2二量体化の阻害を介してMAPK経路及びPI3K/Akt経路を阻害することにより、抗増殖活性を発揮する。トラスツズマブは、下記に示す重鎖及び軽鎖の可変領域を含み、ヒトIgG1アイソタイプとして生成されている。トラスツズマブの完全な重鎖ポリペプチド鎖及び軽鎖ポリペプチド鎖を、下記に示す(配列番号25及び26)。抗HER2抗体の別の例は、トラスツズマブが結合するHER2上の同一のエピトープに結合するマルゲツキシマブである。マルゲツキシマブは、配列番号27及び28に示される重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を有する(Kabat CDRに下線が引かれている)。
【0121】
より近年では、様々な化学療法剤にコンジュゲートしているトラスツズマブが開発されている。このイムノコンジュゲート又はADCとして、特に下記が挙げられる:トラスツズマブエムタンシン(PRO132365、RG3502、T-DM1、トラスツズマブ-MCC-DM1、Kadcyla(登録商標)としても既知である)、トラスツズマブデルクステカン(DS-8201、DS-8201a、fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki、Enhertu(登録商標)としても既知である)、及びトラスツズマブデュオカルマジン(SYD985、トラスツズマブvc-セコ-DUBA、トラスツズマブバリン-シトルリン-セコ-デュオカルマイシンヒドロキシベンズアミド-アザインドールとしても既知である)。トラスツズマブデルクステカン、トラスツズマブデュオカルマジン、及びトラスツズマブエムタンシンは、同一の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、並びにトラスツズマブの完全ポリペプチド鎖を共有しており、但し、トラスツズマブエムタンシンは、トラスツズマブの重鎖上の末端リシンを欠いている。トラスツズマブデルクステカン(DS8201a)は、平均して8個のシステイニル残基でリンカーを介して、DXd(DX-8951誘導体、DXd)と称されるカンプトテシン又はエキサテカン誘導体であるデルクステカンとコンジュゲートしている(Ogitano et al.(2016)Cancer Sci 107(2016)1039-1046(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい)。トラスツズマブデルクステカンを、米国特許第10,195,288号明細書及び国際公開第2019/044946号パンフレット(これらの開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)で説明されているように調製し得る。トラスツズマブエムタンシンは、平均して3~4個のリシル残基で開裂不能のスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)リンカーを介して、マイタンシノイドDM1にコンジュゲートしている。トラスツズマブデュオカルマジンは、平均して2又は4個のシステイニル残基で、開裂可能なリンカーN-[2-(2マレイミドエトキシ)エトキシカルボニル]-L-バリル-L-シトルリンイル-p-アミノベンジルオキシカルボニル-N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-N-[2-(メチルアミノ)エチル]カルボニルを介してセコ-DUBAとコンジュゲートしている。
トラスツズマブ重鎖可変領域
【化2】
トラスツズマブ軽鎖可変領域
【化3】
トラスツズマブ重鎖
【化4】
トラスツズマブ軽鎖
【化5】
マルゲツキシマブ重鎖
【化6】
マルゲツキシマブ軽鎖
【化7】
【0122】
CD73を阻害する抗体
本明細書で説明されている組合わせ処置方法に従って使用され得る例示的な抗CD73抗体として、ヒト起源のVHフレームワーク及びVLフレームワーク(例えば、FR1、FR2、FR3、及びFR4)を含む、ヒトCD73ポリペプチドに結合する抗体又は抗体断片が挙げられる。ある態様において、抗体又は抗体断片は、配列番号2に記載のアミノ酸配列SYNMYを含むHCDR1(重鎖CDR1);配列番号12に記載のアミノ酸配列YIDPYNGGSSYNQKFKGを含むHCDR2(重鎖CDR2)であって、任意選択によりさらに、配列番号12の13位のグルタミン残基(Q)は、ロイシン残基(L)で置換され得、配列番号12の14位のリシン残基(K)は、任意選択により、スレオニン残基(T)で置換され得る、配列;配列番号13に記載のアミノ酸配列GYNNYKAWFAYを含むHCDR3(重鎖CDR3)であって、任意選択によりさらに、配列番号13の3位のアスパラギン残基(N)は、グリシン残基(G)で置換され得る、配列;配列番号14に記載のアミノ酸配列KASQSVTNDVAを含むLCDR1(軽鎖CDR1)であって、任意選択によりさらに、配列番号14の7位のスレオニン残基(T)は、セリン残基(S)で置換され得る、配列;配列番号15に記載のアミノ酸配列YASNRYTを含むLCDR2(軽鎖CDR2)であって、任意選択により、配列番号15の4位のアスパラギン残基(N)は、スレオニン残基(T)で置換され得る、配列;配列番号7に記載のアミノ酸配列QQDYSSLTを含むLCDR3(軽鎖CDR3)を含む。
【0123】
ある実施形態において、HDCR2は、式Iのアミノ酸配列:
Y-I-D-P-Y-N-G-G-S-S-Y-N-Xaa-Xaa-F-K-G(配列番号3)又はその部分配列を含み、ここで、XaaはQ(Gln)又はL(Leu)であり、XaaはK(Lys)又はT(Thr)である。
【0124】
ある実施形態において、HDCR3は、式IIのアミノ酸配列:G-Y-Xaa-N-Y-K-A-W-F-A-Y(配列番号4)又はその部分配列を含み、ここで、Xaaは、N(Asp)又はG(Gly)である。
【0125】
ある実施形態において、LDCR1は、式IIIのアミノ酸配列:K-A-S-Q-S-V-Xaa-N-D-V-A(配列番号5)又はその部分配列を含み、ここで、Xaaは、T(Thr)又はS(Ser)である。
【0126】
ある実施形態において、LDCR2は、式IVのアミノ酸配列:Y-A-S-Xaa-R-Y-T(配列番号6)又はその部分配列を含み、ここで、Xaaは、T(Thr)又はN(Asn)である。
【0127】
ある態様において、本発明に記載の処置方法において使用するための、ヒトCD73ポリペプチドに結合する抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列SYNMYを含むHCDR1;配列番号8に記載のアミノ酸配列YIDPYNGGSSYNLTFKGを含むHCDR2;配列番号9に記載のアミノ酸配列GYGNYKAWFAYを含むHCDR3;配列番号10に記載のアミノ酸配列KASQSVSNDVAを含むLCDR1;配列番号11に記載のアミノ酸配列YASTRYTを含むLCDR2;及び配列番号7に記載のアミノ酸配列QQDYSSLTを含むLCDR3を含む。
【0128】
ある態様において、本発明に記載の処置方法において使用するための、ヒトCD73ポリペプチドに結合する単離抗体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列SYNMYを含むHCDR1;配列番号12に記載のアミノ酸配列YIDPYNGGSSYNQKFKGを含むHCDR2;配列番号13に記載のアミノ酸配列GYNNYKAWFAYを含むHCDR3;配列番号14に記載のアミノ酸配列KASQSVTNDVAを含むLCDR1;配列番号15に記載のアミノ酸配列YASNRYTを含むLCDR2;及び配列番号7に記載のアミノ酸配列QQDYSSLTを含むLCDR3を含む。
【0129】
ある実施形態において、抗体は、ヒトサブグループIGHV1-3からの重鎖フレームワークを含み(任意選択によりIGHJ4と共に)、任意選択により、IGHV1-3は、IGHV1-3*01である。ある実施形態において、ヒト化抗体は、ヒトサブグループIGKV1-33(任意選択によりIGKJ2と共に)、任意選択によりIGKV1-33*01からの軽鎖フレームワークを含む。
【0130】
抗体は、例えば、抗体の親和性、安定性又は他の特性を強化するために、ヒト重鎖及び/又は軽鎖フレームワーク全体にわたる1、2、3、4、5つ又はそれを超える数のアミノ酸置換をさらに含み得る。
【0131】
抗CD73抗体のVH及びVLアミノ酸配列の例を実施例2(H4+鎖を示し、2H4+2Lx抗体について表3に示す)に示し、L1-L4鎖について表1に示す。
【0132】
ある態様において、本発明は、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H1;
(b)配列番号3、8又は12のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
(c)配列番号4、9又は13のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(d)配列番号5、10又は14のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(e)配列番号6、11又は15のアミノ酸配列を含むCDR-L2;
(f)配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR-L3;及び
(g)ヒト重鎖及び軽鎖フレームワーク配列
を含む、本発明に記載の処置方法において使用される抗CD73抗体又は抗体断片を提供する。
【0133】
ある実施形態において、抗体は、IGHJ4と共に、ヒトサブグループIGHV1-3からの重鎖フレームワークを含み、任意選択により、抗体は、IGHJ4と共に、IGHV1-3*01を含む。ある実施形態において、ヒト化抗体は、IGKJ2と共に、ヒトサブグループIGKV1-33、任意選択によりIGKV1-33*01からの軽鎖フレームワークを含む。
【0134】
任意選択により、ヒトフレームワークは、1つ以上の突然変異、例えば非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)の特定の位置に存在する残基を導入するための逆突然変異を含む。
【0135】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置2のアミノ酸は、イソロイシンである。
【0136】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置30のアミノ酸は、アラニンである。
【0137】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置48のアミノ酸は、イソロイシンである。
【0138】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置69のアミノ酸は、ロイシンである。
【0139】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置73のアミノ酸は、リシンである。
【0140】
ある実施形態において、VHは、Kabat位置2にイソロイシン残基を、位置30にアラニンを、位置48にイソロイシンを、位置69にロイシンを、且つ位置73にリシンを含む。
【0141】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat軽鎖位置67のアミノ酸は、チロシンである。
【0142】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat軽鎖位置60のアミノ酸は、セリン又はアスパラギン酸である。
【0143】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat軽鎖位置2のアミノ酸は、バリン又はイソロイシンである。
【0144】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat軽鎖位置87のアミノ酸は、チロシン又はフェニルアラニンである。
【0145】
ある実施形態において、VLは、Kabat位置67にチロシン残基を、位置60にセリンを、位置2にイソロイシンを、且つ位置87にチロシンを含む。
【0146】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置28のアミノ酸は、スレオニン(T)である。
【0147】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置66のアミノ酸は、アルギニン(R)である。
【0148】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置67のアミノ酸は、バリン(V)である。
【0149】
本明細書の任意の実施形態のある態様において、Kabat重鎖位置71のアミノ酸は、アルギニン(R)である。
【0150】
本明細書のVH及びVLドメインにおける位置は、Kabat付番系(Kabat et.al.(1991)Sequences of Protein of Immunological Interest,5th ed.,United States Public Health Service,National Institute of Health,Bethesda,MD)を使用して記載される。
【0151】
ある態様において、抗CD73抗体は、配列番号37又は42のVHドメインに対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有するVHドメインを含む。
【0152】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗体断片は、配列番号33~36又は43~46のいずれかのVLドメインに対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性又は100%の同一性)を有するVLドメインを含む。
【0153】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗体断片は、配列番号42のVHドメインに対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有するVHドメイン及び配列番号43~46のいずれかのVLドメインに対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性又は100%の同一性)を有するVLドメインを含む。
【0154】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗体断片は、H4+L1抗体の配列番号38の重鎖に対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有する重鎖を含む。ある実施形態において、抗体又は抗体断片は、H4+L1抗体の配列番号39の軽鎖に対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有する軽鎖を含む。
【0155】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗体断片は、2H4+2L1抗体の配列番号47の重鎖に対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有する重鎖を含む。ある実施形態において、抗体又は抗体断片は、2H4+2L1抗体の配列番号48の軽鎖に対して少なくとも約80%の配列同一性(例えば、少なくとも約85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性又は100%の同一性)を有する軽鎖を含む。
【0156】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗CD73抗体断片は、配列番号42のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号43のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0157】
ある態様において、抗CD73抗体又は抗CD73抗体断片は、配列番号47のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号48のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0158】
別の態様において、本発明の処置方法に従う使用のための抗CD73抗体は、別の好適なCD73抗体由来の重鎖及び軽鎖のCDR1、2、及び3(例えば、Kabat付番に従って決定されている)又は重鎖及び軽鎖の可変領域を有し得る。
【0159】
CD73二量体の各サブユニットは、2つの構造ドメイン:N末端ドメイン(残基27~317、Knapp et al.(2012)で言及されている付番)と、C末端ドメイン(残基337~549)からなり、CD73のより大きなN末端ドメインは、金属イオン結合部位を含み、且つ2つの挟まれた混合bシートを含む4層のa/b-b-b-a構造を有している。C末端ドメインは、基質結合部位と、二量体化界面とを含み、且つ組成a/b-b-a-bの4層構造を有する。これら2つのドメインは、小さいヒンジ領域を含む単一のヘリックス(残基318~336)により連結されており、このヒンジ領域により、酵素は大きなドメイン移動を受けることが可能となり、それにより開構造と閉構造との間で切り替わる。閉構造で観察される活性部位は、N末端ドメインとC末端ドメインとの間の界面に位置しており、両方のドメインの残基で形成されている。例えば、Knapp et al.(2012)Structure 20,2161-2173(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい。
【0160】
特に関心のある好適なCD73抗体のクラスは、過去の抗CD73抗体で観察された「フック効果」を欠いている抗体(例えば、11E1、6E1、3C12、及び8C7)(国際公開第2016/055609号パンフレット、Innate Pharma(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい)で表される。フック効果を欠くと報告されている他の例示的な抗CD73抗体として、抗体350、356、358、373(例えば373.A)、374、376、377、379、又はHu101-28が挙げられる(国際公開第2018/237157号パンフレット及び同第2018137598号パンフレット(これらの開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい)。フック効果は、可溶性二量体タンパク質としてのCD73の阻害に関して偽陽性として現れる抗CD73抗体の傾向を指す。国際公開第2016/055609号パンフレットで論じられているように、酵素活性の真の阻害ではなくCD73二量体の架橋を引き起こすと考えられるそのような抗CD73抗体は、CD73二量体に対して高過剰で試験した場合に、CD73を阻害する能力を失う。11E1、6E1、3C12、及び8C7等の抗体は、(1つのCD73二量体に二価で結合することにより)可溶性CD73の酵素活性を阻害し、(内在化に依存することなく)細胞膜に結合したCD73の特に強力な非競合的阻害剤として作用し得る(国際公開第2016/055609号パンフレットを参照されたい)。(例えば腫瘍間質中の)CD73を実質的に完全に中和する能力を考慮して、これらの抗体を、特に、腫瘍間質でのCD73の発現の誘発に関連する化学療法剤と組み合わされた及び/又は抗HER2抗体と組み合わされた処置レジメンで、有利に使用し得る。
【0161】
抗体は、好ましくは、腫瘍細胞等の細胞の表面で発現されたCD73上に存在するエピトープに結合し、CD73酵素(例えば、細胞の表面で発現された膜結合CD73タンパク質)の酵素(エクト-5’ヌクレオチダーゼ)活性を阻害する。ある実施形態において、この抗体を、純粋なCD73遮断抗体として使用し得、例えば、この抗体は、Fc受容体に実質的に結合することなく及び/又はCD73発現細胞にADCCを実質的に導くことなく、細胞の表面で発現された膜結合CD73タンパク質の酵素活性を阻害する。任意選択により、この抗体は、Fcドメインを保持しており、且つヒトFcRnへの結合を保持する。
【0162】
ある態様において、抗CD73抗体は、基質に結合していない場合だけでなく基質(例えば、AMP等の天然の基質、又は阻害剤、又はAMP類似体であるアデノシン5’-(α,β-メチレン)二リン酸(APCP)等の活性部位に結合する他の化合物)に結合している場合にも、CD73上に存在しているCD上のエピトープに結合し得る。ある態様において、抗CD73抗体は、CD73ポリペプチドへの結合に関して、CD73の基質と競合しない。CD73の基質の例として、下記が挙げられる:例えば、AMP等の天然の基質、又は阻害剤、又はAMP類似体であるアデノシン5’-(α,β-メチレン)二リン酸(APCP)等の活性部位に結合する他の化合物。
【0163】
ある態様において、抗CD73抗体は、アロステリック阻害剤として作用し、且つインタクトな完全長抗体とCD73二量体との間の1:1化学量論にて、二量体内結合モードでCD73に結合する。ある態様において、抗CD73抗体は、AMPが加水分解され得ない中間状態(開(不活性)状態と、閉(活性、基質結合)状態との間)で、CD73ポリペプチドに結合してこのCD73ポリペプチドを拘束し得る。
【0164】
ある実施形態において、抗体は、CD73が可溶性組換えCD73タンパク質として存在する場合に、CD73の酵素活性を阻害し、例えば、抗体は、この抗体がオリゴマーを形成し得ない設定/構成である場合に、例えば、CD73ポリペプチド二量体に対して実質的なモル過剰(例えば、少なくとも10倍、20倍、100倍等)で提供される場合に、可溶性ヒト二量体CD73ポリペプチドの酵素活性を阻害し得る。残留するCD73酵素活性が、免疫抑制効果を媒介するのに十分なアデノシン生成をもたらし得ることから、治療効果を媒介するためには、高レベルの抗体媒介性酵素遮断が有利である。
【0165】
そのような抗体の例は、本明細書及びPCT出願国際公開第2016/055609号パンフレットで説明されている(例えば、抗体11E1、6E1、3C12、及び8C7)。抗体11E1、6E1、3C12、及び8C7は、残基K136(配列番号1のCD73ポリペプチドに関する)での置換を有するCD73変異体への結合を失っている。抗体11E1、6E1、3C12、及び8C7はまた、残基A99、E129、K133、E134、及びA135(配列番号1のCD73ポリペプチドに関する)での置換を有する変異体、並びに残基K97、E125、Q153、及びK330(配列番号1のCD73ポリペプチドに関する)での置換を有する変異体への結合も失っている。抗体の他の例は、配列番号1の残基131~162のセグメントで結合し得、特に、アミノ酸残基L131、K136、S155 L157 K162 K330(配列番号1のCD73ポリペプチドに関する)で結合し得る。
【0166】
抗体11E1、6E1、3C12、及び8C7は、二量体内モードでCD73二量体に結合する抗体の例であり、二量体内モードで相互作用する他の抗体とは対照的に、AMPが加水分解され得ない不活性状態でCD73酵素を拘束する。そのようなCD73機能遮断抗体を同定するために使用され得る可溶性CD73を使用するアッセイは、国際公開第2016/055609号パンフレット及び同第2016/131950号パンフレットに記載されている。ある態様において、抗CD73抗体は、本発明を開示する出願の出願日で入手可能であるか若しくは他の方法で既知である任意の抗体であるか、又はこの抗体の、CD73に結合してCD73の酵素活性を阻害する能力を保持する抗体断片(例えば、重鎖及び軽鎖のCDRを含む断片)である。
【0167】
したがって、抗体は、CD73ポリペプチドのアロステリック阻害剤であり得、例えば、この抗体は、CD73ポリペプチドに結合するCD73ポリペプチドの基質の能力を妨げることなく、細胞(例えば限定されないが腫瘍細胞)の表面で発現されたヒトCD73ポリペプチドに結合してCD73ポリペプチドの酵素(エクト-5’ヌクレオチダーゼ)活性を阻害する。
【0168】
本明細書では、同一面上に存在しているCD73上のエピトープに結合する例示的な抗体が説明されており、CD73がCD73二量体として存在しており、例えば、抗体が1つのCD73二量体に二価で結合することが潜在的に可能となる場合には、この抗体は、インタクトな完全長抗体とCD73二量体との間の1:1化学量論にて、二量体内結合モードでCD73に結合する。リガンド結合CD73への結合を考慮して、本明細書で説明されている抗体は、例えば、上流のADP及び/又はAMPが処置前の有意なレベルで存在している腫瘍環境中において、AMPに結合した場合でのCD73への結合に有用であり得る。腫瘍微小環境は、任意の適切なパラメータを特徴とし得、例えば、高レベルのADP(例えば、瀕死の細胞により生成される)、AMP、アデノシン、CD73発現又はCD73発現細胞の存在又はレベル、アデノシン受容体発現又はアデノシン受容体発現細胞の存在又はレベルを特徴とし得る。そのため、腫瘍環境中のCD73分子は、基質結合構造で存在し得、非基質結合CD73に加えて基質結合細胞性CD73(例えば、AMP等の基質と共に予めインキュベートされた、CD73を発現する細胞)に結合して阻害する能力は、インビボでCD73を阻害する能力をより大きくし得る。任意選択により、ADP又はAMP(及び/又はATP又はアデノシン)のレベルを、処置前に腫瘍環境中で評価し得る。この抗体は、腫瘍試料中の有意なレベル(例えば、基準と比較して高レベル)のADP、AMP、ATP、又はアデノシンを有する個体での処置に特に有利であり得る。
【0169】
例示的な抗体は、細胞の表面で発現されたヒトCD73ポリペプチドに結合して、このCD73ポリペプチドの酵素(エクト-5’ヌクレオチダーゼ)活性を阻害し得、この抗体は、単一のCD73ポリペプチド二量体(細胞により発現された可溶性CD73ポリペプチド二量体又はCD73ポリペプチド二量体)に二価で結合し得る。任意選択により、この抗体は、二量体内の第1のCD73ポリペプチドに第1の抗原結合ドメインで結合し、第2のCD73ポリペプチドに第2の抗原結合ドメインで結合する。
【0170】
例示的な抗体は、細胞の表面で発現されたヒトCD73ポリペプチドに結合して、このCD73ポリペプチドの酵素(エクト-5’ヌクレオチダーゼ)活性を阻害し得、この抗体は、基質結合構造でCD73ポリペプチドに結合し得る。
【0171】
抗CD73抗体を、CD73の酵素活性を阻害する能力に関して評価して選択し得、特に、CD73の5’-ヌクレオチダーゼ活性を遮断し、CD73発現細胞によるアデノシンの産生を減少させ、次に、リンパ球のアデノシン媒介性阻害の活性を回復させる及び/又は軽減する能力に関して評価し得る。
【0172】
CD73の酵素活性を阻害する抗体の能力を、(二量体としての)組換え可溶性ヒトCD73及びAMPを使用する無細胞アッセイで試験し得、アデノシンへのAMPの変換(及び/又はその阻害)が、(例えば、基質及び生成物(即ち、AMP、アデノシン、及び/又はリン酸塩)の測定により)直接的に検出されるか、又は間接的に検出される。一例において、AMP及び/又はアデノシンは、試験化合物と組換えCD73とのインキュベーション前後に、HPLCにより検出される。組換えCD73は、例えば国際公開第2016/055609号パンフレット及び同第2016/131950号パンフレットで説明されている。
【0173】
抗体の阻害活性をまた、多くの他の方法のいずれかでも評価し得る。例えば、間接アッセイでは、ルシフェラーゼ系試薬(例えば、Promegaから入手可能なCellTiter-Glo(登録商標)システム)を使用して、AMPの消失が検出される。このアッセイにおけるルシフェラーゼ反応は、AMPにより阻害される。反応物へのCD73酵素の添加により、AMPが分解されて阻害が軽減され、検出可能なシグナルが生じる。
【0174】
可溶性CD73を使用するアッセイは、抗体が、CD73ポリペプチド二量体に対して実質的なモル過剰(例えば、10倍、20倍、50倍、100倍等)で提供される条件下での試験を有利に含み得る。酵素に対してモル過剰で提供される場合には、抗CD73抗体は、抗体とCD73二量体との多量体複合体をもはや形成し得ず;次いで、CD73の酵素活性の阻害を保持する抗体が選択され得る。
【0175】
或いは、又は加えて、細胞アッセイ(CD73を発現する細胞を使用する)では、CD73の5’-エクトヌクレオチダーゼ酵素活性を阻害する抗体の能力も試験し得る。有利には、抗体を、CD73の内在化を引き起こすことによりCD73を阻害する抗体を選択する可能性を低減するために、無細胞アッセイにおいて最初に試験するか又はスクリーニングして、酵素の活性を遮断する抗体を同定し、次いで、細胞アッセイにおいて精製抗体として試験し得る。細胞アッセイを、国際公開第2016/055609号パンフレットで示されるように実行し得る。例えば、CD73発現細胞株(例えばMDA-MB-231細胞株)を、抗CD73抗体の存在下で平底96ウェルプレートに蒔いてインキュベートする。この細胞にAMPを添加し、4℃でインキュベートする(CD73の下方調節を回避するため)。次いで、プレートを遠心分離し、上清を平底96ウェル培養プレートに移す。次いで、アデノシンへのAMPの加水分解により生成された遊離リン酸塩を定量する。抗体の存在下でのアデノシンへのAMPの加水分解の減少は、抗体が細胞性CD73を阻害することを示す。
【0176】
ある実施形態において、抗体調製物は、CD73ポリペプチドの酵素活性の少なくとも50%の減少を引き起こし、好ましくはCD73ポリペプチド(例えば、可溶性ホモ二量体CD73ポリペプチド;細胞によって発現されるCD73)の酵素活性の少なくとも60%、70%、又は80%の減少を引き起こす。
【0177】
抗体の活性をまた、リンパ球の活性を調節する能力に関しても、例えば、リンパ球活性のアデノシン媒介性阻害を軽減するか又はリンパ球活性の活性化を引き起こす能力に関しても、間接的アッセイで測定し得る。このことに、例えば、サイトカイン放出アッセイを使用して対処し得る。別の例において、抗体を、リンパ球の増殖を調節する能力に関して間接的アッセイで評価し得る。
【0178】
抗体を、CD73を内在化する能力又はCD73の下方調節を誘発する能力に関して試験し得、例えば、内在化又は細胞表面からのCD73脱落の誘発のいずれかにより試験し得る。抗CD73抗体が、哺乳動物細胞上のCD73への結合時に内在化するかどうか、又はCD73ポリペプチドが、(例えば抗体の結合時に)細胞内在化を受けるかどうかを、例えば国際公開第2016/055609号パンフレット(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)で説明されているもの等の様々なアッセイにより決定し得る。
【0179】
ある例において、抗体を、この抗体がオリゴマーを形成し得ない設定/構成である場合に、例えば、この抗体がCD73ポリペプチド二量体に対して実質的なモル過剰(例えば、少なくとも10倍、20倍、100倍等)で提供される場合に、可溶性ヒト二量体CD73ポリペプチドの酵素活性を阻害する能力に関して選択し得る。オリゴマー化を引き起こすことにより機能する抗体は、この抗体がCD73ポリペプチド二量体に対して実質的なモル過剰で提供される場合に、CD73を阻害し得ない。さらに、この抗体は、CD73が細胞表面上で発現されている場合に維持されているCD73上のエピトープに結合する。このアッセイの使用により、単一のCD73二量体に二価で結合する抗体も同定し得;そのような抗体は、CD73発現細胞中においてインビトロ及びインビボで、改善されたCD73結合活性及びCD73遮断活性を有し得る。次いで、この方法により同定された抗体を、精製抗体を使用する細胞酵素活性アッセイで試験し、細胞性CD73の酵素活性を中和することが分かった。主に内在化を誘発することによりCD73を阻害する抗体、又は細胞性CD73への有意な結合を失う抗体は、効力が低く、酵素活性を中和し得ず、よくて細胞中でCD73の酵素活性を部分的に阻害するだけであった。
【0180】
これらの抗体が結合するCD73上のエピトープは、様々な細胞(例えば、癌細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞、遺伝子導入細胞)により発現されるCD73ポリペプチド上に存在しており、フローサイトメトリーにより決定した場合に高親和性で結合する。例えば、抗体は、フローサイトメトリーにより決定した場合に、本明細書で説明されている抗CD73抗体(例えば抗体6E1)のEC50に相当するか、若しくはこのEC50と比べて2log以下で大きい、任意選択により1log大きいEC50を特徴とし得るか、又は表面でCD73ポリペプチドを発現する細胞への結合に関して、5μg/ml以下、任意選択により2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.5μg/ml以下、0.1μg/ml以下、若しくは0.05μg/ml以下のEC50を特徴とし得る。ある実施形態において、細胞は、表面でCD73を発現するように作られた細胞である。ある実施形態において、細胞は、表面でCD73を内因的に発現する細胞(例えば癌細胞)である。
【0181】
ある実施形態において、CD73中和抗体は、細胞のCD73の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性の少なくとも60%、75%、又は80%の減少を引き起こし得ることを特徴とし得る。ある実施形態において、CD73中和抗体は、本明細書で説明されている抗体のEC50に相当するか若しくはこのEC50以下の、本明細書で説明されている抗CD73抗体(例えば抗体6E1)のEC50と比べて2lo以下で大きい、任意選択により1log大きい、又は1μg/ml以下、任意選択により0.5μg/ml以下、任意選択により0.2μg/ml以下の、細胞により発現されるCD73の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性の阻害に関するEC50を特徴とし得る。
【0182】
任意選択により、細胞により発現されるCD73の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性の阻害は、アデノシンへのAMPの加水分解を定量することによりMDA-MB-231細胞中での5’エクトヌクレオチダーゼ活性の中和を評価することにより決定される(例えば、国際公開第2016/055609号パンフレットの実施例5を参照されたい)。
【0183】
ある実施形態において、抗体は、細胞の表面でヒトCD73に特異的に結合し、且つ細胞性CD73(細胞により発現されるCD73)の5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し得る。ある実施形態において、抗体は、細胞の表面でヒトCD73に特異的に結合し且つその5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し、CD73への結合時にCD73発現細胞中に内在化されず、例えば、この抗体は、そのCD73中和活性のために、CD73の多量体化及びその後の内在化を必要としない。ある実施形態において、抗体は、非枯渇活性であり、例えばFcサイレント抗体である。抗体は、溶液中の二量体ヒトCD73ポリペプチドの5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し得、さらには、CD73ポリペプチド抗CD73抗体のオリゴマーの誘導に依存しない。
【0184】
ある態様において、抗体は、AMPと共に予めインキュベートされた細胞の表面でヒトCD73に特異的に結合し、その5’-エクトヌクレオチダーゼ活性を中和し得る。任意選択により、5’-エクトヌクレオチダーゼ活性の中和は、アデノシンへのAMPの加水分解を定量することによりMDA-MB-231細胞での5’エクトヌクレオチダーゼ活性の中和を評価することにより決定される(例えば、国際公開第2016/055609号パンフレットの実施例5を参照されたい)。
【0185】
任意選択により、抗CD73抗体は、可溶性CD73と細胞表面で発現されたCD73との両方上に存在する共通の抗原決定基に結合し得る。
【0186】
任意選択により、抗CD73抗体は、CD73活性部位が基質(例えばAMP、APCP)により占有されていない/結合していない場合に、及びCD73活性部位が基質(例えばAMP、APCP)により占有されている/結合している場合に、CD73上に存在する共通の抗原決定基に結合する。
【0187】
ある態様において、抗CD73抗体は、CD73二量体内の各CD73ポリペプチド鎖内の抗原決定基に結合し、例えば、この抗原決定基は、CD73二量体の共通面上に存在している。
【0188】
ある態様において、抗CD73抗体は、セグメント158~171の残基及び/又はセグメント206~211の残基でアミノ酸置換を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下しており、例えば、任意の1つ又は複数の残基V170、K206、及びN211(配列番号1に関する)でアミノ酸置換を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下している。
【0189】
ある態様において、抗CD73抗体は、セグメント65~83での残基及び/又はセグメント157~172での残基(配列番号1に関する)でアミノ酸置換を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下している。
【0190】
ある態様において、抗CD73抗体は、残基K136(配列番号1に関する)を含むCD73上のエピトープに結合する。
【0191】
ある態様において、抗CD73抗体は、K97、E125、Q153、及びK330(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基の内の1、2、3、又は4個を含むCD73上のエピトープに結合する。
【0192】
ある態様において、抗CD73抗体は、A99、E129、K133、E134、及びA135(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基の内の1、2、3、4、又は5個を含むCD73上のエピトープに結合する。
【0193】
ある態様において、抗CD73抗体は、Y345、D399、E400、R401、及びR480(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基の内の1、2、3、4、又は5個を含むCD73上のエピトープに結合する。
【0194】
ある態様において、抗CD73抗体は、アミノ酸残基K97、A99、E125、E129、K133、E134、A135、K136、Q153、及びK330(配列番号1に関する)を含むヒトCD73タンパク質(例えばCD73ホモ二量体タンパク質)上のアミノ酸残基のドメイン又はセグメント内に少なくとも部分的に結合する。ある態様において、抗CD73抗体は、K97、A99、E125、E129、K133、E134、A135、K136、Q153、及びK330(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基の内の少なくとも1、2、3、4、又は5個、又はより多くを含むCD73上のエピトープに結合する。
【0195】
ある態様において、抗CD73抗体は、残基K136(配列番号1に関する)で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下しており;任意選択により、この変異体CD73ポリペプチドは、変異:K136Aを有する。
【0196】
ある態様において、抗CD73抗体は、K97、E125、Q153、及びK330(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下しており;任意選択により、この変異体CD73ポリペプチドは、変異:K97A、E125A、Q153A、及び/又はK330A(例えば、K97A、E125A、及びK330A;K97A、E125A、及び/又はQ153A)を有する。
【0197】
ある態様において、抗CD73抗体は、A99、E129、K133、E134、及びA135(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下しており;任意選択により、この変異体CD73ポリペプチドは、変異:A99S、E129A、K133A、E134N、及びA135Sを有する。
【0198】
ある態様において、抗CD73抗体は、L131、K136、S155、L157、K162、及びK330(配列番号1に関する)からなる群から選択される残基の内の1、2、3、4、5、又は6個を含むCD73上のエピトープに結合する。
【0199】
ある態様において、抗CD73抗体は、L131、K136、S155、L157、及びK162(配列番号1に関する)からなる群から選択される1つ又は複数(又は全て)の残基で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下している。
【0200】
ある態様において、抗CD73抗体は、L131、K136、S155、L157、K162、及びK330(配列番号1に関する)からなる群から選択される1つ又は複数(又は全て)の残基で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が低下している。
【0201】
ある態様において、抗CD73抗体は、Y345、D399、E400、R401、及びR480(配列番号1に関する)からなる群から選択される1つ又は複数(又は全て)の残基で変異を有するCD73ポリペプチドへの結合が減少している。
【0202】
ある態様において、抗CD73抗体は、抗体11E1、8C7、3C12、6E1、373.A、及び/又はHu101-28が結合するCD73上のエピトープへの結合に関して競合する(例えば、CD73ポリペプチド上のエピトープへの結合に関して、前記抗体の重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を有する抗体と競合する)。
【0203】
本明細書の実施形態のいずれかの一態様において、抗原結合化合物は、モノクローナル抗体11E1、8C7、3C12、及び/若しくは6E1と、同一のエピトープに結合し、並びに/又はCD73ポリペプチド上のエピトープへの結合に関して競合する(例えば、11E1、8C7、3C12、又は6E1のいずれかの重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を有する抗体と、CD73ポリペプチドへの結合に関して競合する)。ある実施形態において、抗原結合化合物は、下記からなる群から選択される抗体と、同一のエピトープに結合し、及び/又はCD73ポリペプチド上のエピトープへの結合に関して競合する:
(a)配列番号49及び50のVH領域及びVL領域をそれぞれ有する抗体(6E1);
(a)配列番号51及び52のVH領域及びVL領域をそれぞれ有する抗体(11E1);
(c)配列番号53及び54のVH領域及びVL領域をそれぞれ有する抗体(8C7);
並びに
(d)配列番号55及び56のVH領域及びVL領域をそれぞれ有する抗体(3C12)。
【0204】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、11E1、6E1、3C12、又は8C7が結合するCD73上のアミノ酸残基からなる群から選択される1、2、又は3個のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
【0205】
本明細書の実施形態のいずれかの一態様において、抗体は、11E1、6E1、3C12、8C7、373(例えば373.A)、又はHu101-28からなる抗体の群から選択される抗体のそれぞれの重鎖及び/又は軽鎖の1、2、又は3個のCDRを有する重鎖及び/又は軽鎖を有し得る。
【0206】
抗体11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、及びHu101-28の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を、表Aに列挙する。具体的な実施形態において、本開示は、モノクローナル抗体11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、又はHu101-28と同一又は実質的に同一のエピトープ又は決定基に結合する抗体を提供し;任意選択により、この抗体は、抗体11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、又はHu101-28の超可変領域を含む。本明細書の実施形態のいずれかにおいて、抗体11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、又はHu101-28は、アミノ酸配列及び/又はこのアミノ酸配列をコードする核酸配列を特徴とし得る。ある実施形態によれば、抗体は、11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、又はHu101-28の重鎖可変領域の3個のCDR(例えば、Kabat付番、Chothia付番、又はIGMT付番に従う)を含み得る。同様に提供されるのは、11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、若しくはHu101-28の可変軽鎖可変領域をさらに含むか、又は各11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、若しくはHu101-28抗体の軽鎖可変領域のCDR(例えば、Kabat付番、Chothia付番、又はIGMT付番に従う)の1、2、若しくは3個をさらに含むモノクローナル抗体である。任意選択により、前記軽鎖又は重鎖のCDRのいずれか1つ又は複数は、1、2、3、4、又は5個、又はより多くのアミノ酸改変(例えば、置換、挿入、又は欠失)を含み得る。任意選択により、提供されるのは、抗体であって、抗体11E1、6E1、3C12、8C7、373.A、又はHu101-28の抗原結合領域の一部又は全てを含む軽鎖及び/又は重鎖の可変領域のいずれかが、ヒトIgGタイプの免疫グロブリン定常領域に融合しており、任意選択によりヒト定常領域に融合しており、任意選択によりヒトIgG1アイソタイプ、IgG2アイソタイプ、IgG3アイソタイプ、又はIgG4アイソタイプに融合している、抗体である。ある実施形態において、エフェクター機能(ヒトFcγ受容体への結合)を減少させるためのアミノ酸置換を任意選択によりさらに含むヒト定常領域。ある実施形態において、CD73の細胞内内在化を増加させるか又は誘発するためのアミノ酸置換を任意選択によりさらに含むヒト定常領域(任意選択によりヒンジ領域)。
【0207】
本明細書の実施形態のいずれかの別の態様において、重鎖及び軽鎖のCDR1、2、及び/又は3のいずれかは、その少なくとも4、5、6、7、8、9、若しくは10個の連続したアミノ酸の配列を特徴とし得、及び/又は特定のCDR若しくはCDRのセット(例えば、配列番号で列挙されている)と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、若しくは95%の配列同一性を共有するアミノ酸配列を有することを特徴とし得る。これらの抗体のいずれか(例えば、11E1、8C7、3C12、又は6E1)において、特定の可変領域配列及びCDR配列は、配列改変を含み得、例えば、置換(1、2、3、4、5、6、7、8個、又はより多くの配列改変)を含み得る。ある実施形態において、重鎖及び軽鎖のCDR1、2、及び/又は3は、1、2、3個、又はより多くのアミノ酸置換を含み、置換された残基は、ヒト起源の配列で存在している残基である。ある実施形態において、置換は、保存的改変である。保存的配列改変は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意な影響を及ぼさないか又はこの結合特性を有意に変更しないアミノ酸改変を指す。そのような保存的改変として、アミノ酸の置換、付加、及び欠失が挙げられる。改変は、部位特異的変異誘発及びPCR媒介変異誘発等の当技術分野で既知の標準的な技術により、抗体に導入され得る。保存的アミノ酸置換は、典型的には、アミノ酸残基が、物理化学的特性が類似している側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられているものである。特定の可変領域配列及びCDR配列は、1、2、3、4個、又はより多くのアミノ酸の挿入、欠失、又は置換を含み得る。置換が行なわれる場合には、好ましい置換は、保存的改変である。側鎖が類似しているアミノ酸残基のファミリは、当技術分野で定義されている。このファミリとして、下記が挙げられる:塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。そのため、抗体のCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸残基を、同一の側鎖ファミリ由来の他のアミノ酸残基に置き換え得、変更された抗体を、本明細書で説明されているアッセイを使用して、保持された機能(即ち、本明細書に記載されている特性)に関して試験し得る。
【0208】
表Aに示されているVH配列及びVL配列を有する抗体のHCDR1、2、3、及びLCDR1、2、3は、任意選択により、全て(又はそれぞれ独立して)Kabat付番系のもの、Chothia付番系のもの、IMGT付番系のもの、又は任意の他の好適な付番系であると指定され得る。下線が引かれた太字の配列は、Kabat CDRを示す。
【0209】
【表1】
【0210】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、それらがヒトFcγ受容体、例えばCD16A、CD16B、CD32A、CD32B及び/又はCD64のいずれか1つ以上に実質的な結合を有しないように調製され得る。このような抗体は、Fcγ受容体に対する結合を欠くこと又は低い結合性を有することが知られている様々な重鎖の定常領域を含み得る。代替的に、Fc受容体結合を回避するために、F(ab’)2断片など、定常領域を含まない(又は部分的に含む)抗体断片を使用し得る。Fc受容体結合は、例えば、BIACOREアッセイにおけるFc受容体タンパク質への抗体の結合を試験することを含め、当技術分野で公知の方法に従い評価し得る。また、Fc受容体への結合を最小化又は除外するためにFc部分が修飾される(例えば、1、2、3、4、5つ又はそれを超えるアミノ酸置換を導入することによって)何らかの抗体IgGアイソタイプを一般に使用し得る(例えば、その開示が参照により本明細書中に組み込まれる国際公開第03/101485号パンフレットを参照されたい)。Fc受容体結合を評価するためのそのようなアッセイは、当技術分野で周知であり、例えば国際公開第03/101485号パンフレットに記載されている。
【0211】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、エフェクター細胞との最小限の相互作用を有する「Fcサイレント」抗体を生じるFc領域における1つ以上の特異的突然変異を含み得る。サイレンシングされたエフェクター機能は、抗体のFc領域における突然変異によって得ることができ、当技術分野において記載されてきた。N297A突然変異、LALA突然変異(Strohl,W.,2009,Curr.Opin.Biotechnol.Vol.20(6):685-691);D265A(Baudino et al.,2008,J.Immunol.181:6664-69)及びHeusser et al.,国際公開第2012/065950号パンフレットを参照されたい。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。ある実施形態において、抗体は、ヒンジ領域に1、2、3つ又はそれを超えるアミノ酸置換を含む。一実施形態では、抗体は、IgG1又はIgG2であり、残基233~236、任意選択により233~238(EU付番)において1つ、2つ又は3つの置換を含む。一実施形態では、抗体は、IgG4であり、残基327、330及び/又は331(EU付番)に1つ、2つ又は3つの置換を含む。サイレントFc IgG1抗体の例は、IgG1 Fcアミノ酸配列におけるL234A及びL235A突然変異を含むLALA突然変異体である。Fcサイレント突然変異の別の例は、例えば、DAPA(D265A、P329A)突然変異(米国特許第6,737,056号明細書)としてIgG1抗体において用いられる、残基D265又はD265及びP329における突然変異である。別のサイレントIgG1抗体は、残基N297における突然変異(例えば、N297A、N297S突然変異)を含み、その結果、グリコシル化/非グリコシル化抗体を生じる。他のサイレント突然変異は、残基L234及びG237における置換(L234A/G237A);残基S228、L235及びR409における置換(S228P/L235E/R409K、T、M、L);残基H268、V309、A330及びA331における置換(H268Q/V309L/A330S/A331S);残基C220、C226、C229及びP238における置換(C220S/C226S/C229S/P238S);残基C226、C229、E233、L234及びL235における置換(C226S/C229S/E233P/L234V/L235A;残基K322、L235及びL235における置換(K322A/L234A/L235A);残基L234、L235及びP331における置換(L234F/L235E/P331S);残基234、235及び297における置換;残基E318、K320及びK322における置換(L235E/E318A/K320A/K322A);残基(V234A、G237A、P238S)における置換;残基243及び264における置換;残基297及び299における置換;EU付番系によって定義される残基233、234、235、237及び238がPAAAP、PAAAS及びSAAASから選択される配列を含む置換(国際公開第2011/066501号パンフレットを参照されたい)を含む。
【0212】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、Fc領域に1つ以上の特異的突然変異を含むことができる。例えば、そのような抗体は、ヒトIgG1起源のFcドメインを含み、Kabat残基234、235、237、330及び/又は331における突然変異を含む。そのようなFcドメインの一例は、Kabat残基L234、L235及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/P331S又は(L234F/L235E/P331S))を含む。このようなFcドメインの別の例は、Kabat残基L234、L235、G237及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/G237A/P331S)を含む。このようなFcドメインの別の例は、Kabat残基L234、L235、G237、A330及びP331における置換(例えば、L234A/L235E/G237A/A330S/P331S)を含む。ある実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択によりヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X置換、L235X置換及びP331X置換を含み、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残であり基、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸残基であり、任意選択により、Xは、アラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、グルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、セリン又はその保存的置換である。別の実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択によりヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X置換、L235X置換、G237X置換及びP331X置換を含み、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、プロリン以外のアミノ酸残基であり、任意選択により、Xは、アラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、グルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、アラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、セリン又はその保存的置換である。別の実施形態において、抗体は、Fcドメイン、任意選択によりヒトIgG1アイソタイプのFcドメインを含む抗体であり、L234X置換、L235X置換、G237X置換、G330X置換及びP331X置換を含み、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、グリシン以外の任意のアミノ酸残基であり、Xは、アラニン以外のアミノ酸残基であり、Xは、プロリン以外のアミノ酸残基であり、任意選択により、Xは、アラニン若しくはフェニルアラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、グルタミン酸又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、アラニン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、セリン又はその保存的置換であり;任意選択により、Xは、セリン又はその保存的置換である。
【0213】
本明細書で使用されている略記法では、形式は、野生型残基:ポリペプチド中の位置:突然変異体残基であり、残基位置は、KabatによるEU付番に従って示される。
【0214】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化8】
【0215】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化9】
【0216】
ある実施形態において、抗CD73抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一のアミノ酸配列を含むが、Kabat位置234、235、237、330及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化10】
【0217】
ある実施形態において、抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域又はそれらと少なくとも90%、95%若しくは99%同一の配列を含むが、Kabat位置234、235、237及び331にアミノ酸残基を保持する(下線)。
【化11】
【0218】
Fcサイレント抗体は、ADCC活性を生じないか又は低いADCC活性を生じ、すなわち、Fcサイレント抗体は、50%未満の特異的細胞溶解であるADCC活性を示す。好ましくは、抗体は、実質的にADCC活性を欠き、例えば、Fcサイレント抗体は、5%未満又は1%未満のADCC活性(特異的細胞溶解)を示す。Fcサイレント抗体は、CD73発現細胞の表面でのCD73のFcγR媒介性架橋の欠如も生じ得る。
【0219】
ある実施形態において、抗体は、220、226、229、233、234、235、236、237、238、243、264、268、297、298、299、309、310、318、320、322、327、330、331及び409(重鎖定常領域における残基の付番は、KabatによるEU付番に従う)からなる群から選択される任意の1、2、3、4、5つ又はそれを超える残基において重鎖定常領域に置換を有する。ある実施形態において、抗体は、残基234、235及び322における置換を含む。ある実施形態において、抗体は、残基234、235及び331における置換を含む。ある実施形態において、抗体は、残基234、235、237及び331における置換を含む。ある実施形態において、抗体は、残基234、235、237、330及び331における置換を含む。一実施形態では、Fcドメインは、ヒトIgG1サブタイプのものである。アミノ酸残基は、KabatによるEU付番に従って示される。
【0220】
任意選択により、本明細書の任意の実施形態において、抗CD73抗体は、本明細書で説明されている抗体、その重鎖及び/若しくは軽鎖、CDR、又は可変領域のいずれかの機能保存変異体であることを特徴とし得る。「機能保存変異体」は、ポリペプチドの全体的な構造及び機能を変更することなくタンパク質又は抗体中の所与のアミノ酸残基が変更されているものであり、同様の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族、及び同類のもの)を有するものによるアミノ酸の置き換えが挙げられるが、これに限定されない。保存されていると示されているもの以外のアミノ酸はタンパク質が異なり得、そのため、機能が類似している任意の2つのタンパク質間のタンパク質配列又はアミノ酸配列の類似割合は変化し得、例えば、類似性がMEGALIGNアルゴリズムに基づくCluster Method等のアラインメントスキームに従って決定した場合に70%~99%であり得る。「機能保存変異体」はまた、BLAST又はFASTAアルゴリズムにより決定した場合に、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有し、且つ比較される天然タンパク質又は親タンパク質(例えば、その重鎖若しくは軽鎖、又はCDR、又は可変領域)と同一の又は実質的に類似の特性又は機能を有するポリペプチドも含む。ある実施形態において、抗体は、抗体11E1、6E1、3C12、又は8C7の重鎖可変領域の機能保存変異体である重鎖可変領域と、各11E1、6E1、3C12、又は8C7抗体の軽鎖可変領域の機能保存変異体である軽鎖可変領域とを含む。ある実施形態において、抗体は、本明細書で開示されているヒト重鎖定常領域(任意選択によりヒトIgG4定常領域、任意選択により改変IgG(例えばIgG1)定常領域、例えは本明細書で開示されている定常領域)に融合した抗体11E1、6E1、3C12、又は8C7の重鎖可変領域の機能保存変異体である重鎖と、ヒトカッパ軽鎖定常領域に融合した各11E1、6E1、3C12、又は8C7抗体の軽鎖可変領域の機能保存変異体である軽鎖とを含む。
【0221】
キット及び製剤
活性剤、例えば、抗CD73抗体、抗HER2抗体、又は化学療法剤はいずれも、薬学的に許容される組成物及びキット等の組成物に具体化されると指定され得る。薬学的に許容される組成物は、典型的には、組成物の製剤化、送達、安定性、又は他の特性を促進する活性成分又は不活性成分であり得る1種又は複数種の追加成分(例えば、様々な担体)を含む。
【0222】
さらなる実施形態において、提供されるのは、胃癌(任意選択により、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌)を有する対象の処置での使用のための、抗CD73抗体の治療的有効量を含む医薬製剤であって、この対象は、HER2陽性である癌を有しており、前記医薬製剤を、抗HER2抗体及び任意選択によりさらに化学療法剤(例えばパクリタキセル)と組み合わせて(例えば、これらとの組合わせ処置で)投与する、医薬製剤である。さらなる実施形態において、提供されるのは、胃癌(任意選択により、胃腺癌又は胃食道接合部腺癌)を有する対象の処置での使用のための、抗HER2抗体の治療的有効量を含む医薬製剤であって、この対象は、HER2陽性癌を有しており、前記医薬製剤を、抗CD73抗体及び任意選択によりさらに化学療法剤(例えばパクリタキセル)と組み合わせて(例えば、これらとの組合わせ処置で)投与する、医薬製剤である。
【0223】
「医薬組成物」又は「治療組成物」という用語は、本明細書で使用される場合、対象に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘発し得る化合物又は組成物を指す。いくつかの実施形態において、本開示は、薬学的に許容される担体と、本開示の少なくとも1種の阻害剤の治療的有効量とを含む医薬組成物を提供する。「薬学的に許容される担体」又は「生理学的に許容される担体」という用語は、本明細書で使用される場合、本開示の1種又は複数種の薬剤の送達の達成又は増強に好適な1種又は複数種の製剤材料を指す。
【0224】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示されている薬剤を、医薬組成物として、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤と共に製剤化し得る。特定の実施形態において、そのような医薬組成物は、当技術分野で既知の方法を使用する任意の1種又は複数種の投与経路によるヒト又は非ヒト動物への投与に好適である。「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分の生物学的活性の有効性を阻害しない1種又は複数種の非毒性物質を意味する。そのような調製物は、塩、緩衝剤、保存料、適合性担体、及び任意の他の治療薬を日常的に含み得る。そのような薬学的に許容される調製物はまた、ヒトへの投与に好適な適合性の固体又は液体の充填剤、希釈剤、又はカプセル化物質も含み得る。本明細書で説明されている製剤に利用され得る他の企図される担体、賦形剤、及び/又は添加剤として、例えば下記が挙げられる:香味料、抗菌剤、甘味料、抗酸化剤、帯電防止剤、脂質、タンパク質賦形剤、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン、塩形成対イオン、例えばナトリウム、及び同類のもの。本明細書で説明されている製剤での使用に好適なこれらの及び追加の既知の薬学的な担体、賦形剤、及び/又は添加剤は、例えば”Remington:The Science & Practice of Pharmacy,”21st ed.,Lippincott Williams & Wilkins,(2005)、及び”Physician’s Desk Reference,”60th ed.,Medical Economics,Montvale,N.J.(2005)で列挙されているように、当技術分野で既知である。所望されるか又は必要とされる投与様式、溶解度、及び/又は安定性に好適な薬学的に許容される担体を選択し得る。
【0225】
ある実施形態において、本開示の製剤は、エンドトキシン及び/又は関連する発熱物質を実質的に含まないパイロジェンフリー製剤である。エンドトキシンとして、微生物内に閉じ込められており且つこの微生物が分解したか又は死滅した場合にのみ放出される毒素が挙げられる。発熱物質として、細菌及び他の微生物の外膜から熱を誘発する熱安定性物質(糖タンパク質)も挙げられる。これらの物質は両方とも、ヒトに投与され場合には、発熱、低血圧、及びショックを引き起こす可能性がある。潜在的な悪影響に起因して、少量のエンドトキシンであっても、静脈内投与される医薬品溶液から除去されなければならない。食品医薬品局(「FDA」)は、静脈内薬物適用に関して、単一の1時間の期間で体重1キログラム当たり1回の用量当たり5エンドトキシン単位(EU)の条件を設定している(The United States Pharmacopeial Convention,Pharmacopeial Forum 26(1):223(2000))。特定の実施形態において、組成物中のエンドトキシン及びパイロジェンのレベルは、10EU/mg未満、又は5EU/mg未満、又は1EU/mg未満、又は0.1EU/mg未満、又は0.01EU/mg未満、又は0.001EU/mg未満である。
【0226】
インビボでの投与に使用される場合には、本開示の製剤は、無菌であるべきである。本開示の製剤を、例えば滅菌ろ過又は放射線照射等の様々な滅菌方法により、滅菌し得る。注射用の無菌組成物を、”Remington: The Science & Practice of Pharmacy,”21st ed.,Lippincott Williams & Wilkins,(2005)で説明されている従来の薬務に従って製剤化し得る。
【0227】
いくつかの実施形態において、治療組成物を、特定の投与経路(例えば、経口、経鼻、肺、局所(頬及び舌下を含む)、直腸、膣、及び/又は非経口投与)用に製剤化し得る。「非経口投与」及び「非経口で投与する」という用語は、本明細書で使用される場合、通常は注射による、腸及び局所投与以外の投与の様式を指しており、下記が挙げられるが、これらに限定されない:静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、 皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、胸骨内の注射及び注入。阻害剤及び他の活性剤を、薬学的に許容される担体、及び必要とされ得る任意の保存料、緩衝剤、又は噴霧剤と、無菌条件下で混合し得る(例えば、米国特許第7,378,110号明細書;同第7,258,873号明細書;及び同第7,135,180号明細書;米国特許出願公開第2004/0042972号明細書、及び同第2004/0042971号明細書を参照されたい)。
【0228】
同様に提供されるのは、キットであって、例えば、
(i)抗CD73抗体を含む医薬組成物、
(ii)抗CD73抗体、抗HER2抗体、及び任意選択によりさらに化学療法剤(例えば、タキサン、パクリタキセル)を含む医薬組成物、
又は
(iii)抗CD73抗体を含む第1の医薬組成物、及び抗HER2抗体を含む第2の医薬組成物、及び任意選択により、さらに、化学療法剤(例えば、タキサン、パクリタキセル)を含む第3の医薬組成物、
又は
(iv)抗CD73抗体を含む医薬組成物、及び前記抗CD73抗体を、抗HER2抗体と共に投与し、任意選択によりさらには化学療法剤(例えば、タキサン、パクリタキセル)と共に投与するための説明書、
又は
(v)抗HER2抗体を含む医薬組成物、及び前記PD-1中和剤を、抗CD73抗体と共に、任意選択によりさらには化学療法剤(例えば、タキサン、パクリタキセル)と共に投与するための説明書
を含むキットである。
【0229】
医薬組成物は、任意選択により、薬学的に許容される担体を含むと指定され得る。抗CD73抗体、抗HER2抗体、及び化学療法剤は、任意選択により、本明細書の方法のいずれかでの使用に適した治療的有効量で存在すると指定され得る。本キットはまた、任意選択により、実施者(例えば、医師、看護師、又は患者)が、このキットに含まれている組成物を、癌を有する患者(例えば、HER2陽性である胃腺癌若しくは胃食道接合部腺癌を有する患者、又は腫瘍細胞でのHER2発現が低レベルであるか若しくは中程度のレベルである胃腺癌若しくは胃食道接合部腺癌を有する患者、又は腫瘍細胞がHER2を過剰発現している胃腺癌若しくは胃食道接合部腺癌を有する患者)に投与することを可能にする説明書(例えば投与スケジュールを含む)も含み得る。任意の実施形態において、キットは、任意選択により、本開示の処置レジメンに従って前記CD73抗体、抗HER2抗体、及び任意選択により化学療法剤を投与するための説明書を含み得る。このキットはまた、シリンジも含み得る。
【0230】
任意選択により、本キットは、上記の方法に従う単回投与のための、有効量の抗CD73抗体、抗HER2抗体、及び任意選択により化学療法剤をそれぞれ含む単回用量医薬組成物の複数のパッケージを含む。このキットには、この医薬組成物を投与するのに必要な説明書又はデバイスも含まれ得る。例えば、キットは、抗CD73抗体又は抗HER2抗体のある量を含む1つ又は複数のプレ充填シリンジを提供し得る。
【0231】
ある実施形態において、本発明は、子宮頚部癌に罹患しているヒト患者の癌又は腫瘍を処置するためのキットであって、
(a)配列番号42のいずれかに記載されている配列を有する重鎖可変領域のH-CDR1ドメイン、H-CDR2ドメイン、及びH-CDR3ドメインと、配列番号43に記載されている配列を有する軽鎖可変領域のL-CDR1ドメイン、L-CDR2ドメイン、及びL-CDR3ドメインとを含む抗CD73抗体の用量;
並びに/又は
(b)抗HER2抗体の用量、任意選択により、トラスツズマブの重鎖及び軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、及びCDR3ドメインを含む抗体の用量、任意選択により、配列番号23に記載されている配列を有する重鎖可変領域のH-CDR1ドメイン、H-CDR2ドメイン、及びH-CDR3ドメインと、配列番号24に記載されている配列を有する軽鎖可変領域のL-CDR1ドメイン、L-CDR2ドメイン、及びL-CDR3ドメインとを含む抗体の用量;
並びに/又は
(c)任意選択により、化学療法剤の用量、任意選択によりタキサンの用量、任意選択によりパクリタキセルの用量;
並びに/又は
(d)任意選択により、本明細書で説明されている方法のいずれかで前記抗CD73抗体、前記抗HER抗体、及び/若しくは前記化学療法剤を使用するための説明書
を含むキットを提供する。
【0232】
いくつかの実施形態において、抗CD73抗体は、配列番号47のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号48のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含み、抗HER2抗体は、トラスツズマブであるか、又は配列番号25のアミノ酸配列を有する重鎖と、配列番号26のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含み、化学療法剤は、パクリタキセルである。いくつかの実施形態において、抗CD73抗体を、2週間毎に固定用量(体重を問わず、例えば、少なくとも900mg、任意選択により1500mg若しくは少なくとも1500mg、又は任意選択により2400mg若しくは少なくとも2400mgの固定用量)で投与する。いくつかの実施形態において、抗CD73抗体を、3週間毎に固定用量(例えば、2000~3000mgの固定用量、例えば、2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、又は3000mgの固定用量)で投与する。いくつかの実施形態において、抗HER2抗体を、3週間毎に、3~6mg/kg体重の用量で静脈内投与し、任意選択により6~8(例えば6又は8)mg/kg体重の用量で静脈内投与し(任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与は、6mg/kgの3週間毎投与の開始1週間前に投与する8mg/kgの負荷用量である)、化学療法剤は、175mg/m体表面積の固定用量で投与されるパクリタキセルを含む。いくつかの実施形態において、抗HER2抗体を、4mg/kgの初期用量で静脈内投与し、続いて2mg/kgの後続毎週用量で静脈内投与する。いくつかの実施形態において、抗HER2抗体を、3週間毎に600mgの固定用量で皮下投与する。
【0233】
ある実施形態において、抗CD73抗体及び抗HER2抗体(及び任意選択により化学療法剤)を、下記の用量で投与する:
(a)(i)900~3600mg、任意選択により1500~3600mg、任意選択により1500~2400mg、任意選択により900、1500、若しくは2400mgの抗CD73抗体を2週間毎、及び(ii)3~6mg/kg(例えば5~6若しくは6mg/kg)体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;
(b)(i)900~3600mg、任意選択により1500~3600mg、任意選択により1500~2400mg、任意選択により900、1500、若しくは2400mgの抗CD73抗体を2週間毎、及び(ii)600mg 抗HER2抗体の固定用量の3週間毎の皮下投与(例えばHerceptin(商標)SC);
(c)(i)2000~3000mg、任意選択により2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、若しくは3000mgの抗CD73抗体の固定用量を3週間毎、及び(ii)3~6mg/kg(例えば5~6若しくは6mg)体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;
(d)(i)2000~3000mg、任意選択により2100mg、2200mg、2300mg、2400mg、2500mg、2600mg、2700mg、2800mg、2900mg、若しくは3000mgの抗CD73抗体の固定用量を3週間毎、及び(ii)600mg 抗HER2抗体の固定用量の3週間毎の皮下投与(例えばHerceptin(商標)SC);
(e)(i)900~3600mg、任意選択により1500~3600mg、任意選択により1500~2400mg、任意選択により900、1500、若しくは2400mgの抗CD73抗体を2週間毎、(ii)3~6mg/kg(例えば5~6若しくは6mg)体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;及び(iii)175mg/m体表面積のパクリタキセルの3週間毎の投与;
(f)(i)1500mgの抗CD73抗体を2週間毎、及び(ii)6mg/kg体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;
(g)(i)1500mgの抗CD73抗体を2週間毎、(ii)6mg/kg体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;及び(iii)175mg/m体表面積のパクリタキセルの3週間毎の投与;
(h)(i)2400mgの抗CD73抗体を2週間毎、及び(ii)6mg/kg体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;
又は
(i)(i)2400mgの抗CD73抗体を2週間毎、(ii)6mg/kg体重の抗HER2抗体を3週間毎、任意選択により、抗HER2抗体の最初の投与に先行して、抗HER2抗体の負荷用量(例えば8mg/kg体重)を1週間前に投与する;及び(iii)175mg/m体表面積のパクリタキセルの3週間毎の投与。
【0234】
本開示を限定することなく、本開示の多くの実施形態が、例示のために本明細書で説明されている。
【実施例
【0235】
方法
ヒト胃癌試料での免疫染色
CD73免疫染色を、Ventana Benchmark Ultraで実施した。簡潔に説明すると、5μm厚のFFPE切片を脱脂し、100℃で64分にわたり、CC1を使用して抗原回収を実施した。次いで、発見抗体希釈液(discovery antibody diluent)で1μg/mLまで希釈した抗CD73抗体を、37℃で1時間にわたりアプライし、ULTRAVIEW-RTを使用して可視化した。各IHCランでは、ホルマリンで固定されたhCD73細胞ペレットを、陰性対照及び陽性対照として使用した。腫瘍細胞、間質細胞、及び免疫細胞に対して免疫染色解析を実施し、CD73を発現している細胞の割合を記録した。次いで、この割合を、下記のように割合スコアとして表した:0=陽性細胞なし;1=10%未満の陽性細胞;2=10~50%の陽性細胞;3=51~80%の陽性細胞;4=80%超の陽性細胞。
【0236】
腫瘍細胞及び間質細胞に対するCD73染色の半定量的強度も、0、1+、2+、及び3+として記録した。腫瘍細胞に対するCD73に関しては、Hスコアも算出した。各染色強度レベルでの細胞の割合を算出し、最終的には、下記式を使用してHスコアを割り当てた:[1×(1+細胞%)+2×(2+細胞%)+3×(3+細胞%)]。
【0237】
0~300の範囲の最終スコアは、所与の腫瘍試料におけるより高強度の膜染色に、より相対的な重さを与える。染色陽性対照として、内皮細胞に対してもCD73発現を記録した。
【0238】

組換えhuCD73のクローニング、産生及び精製
分子生物学
huCD73タンパク質は、以下のプライマーTACGACTCACAAGCTTGCCGCCACCATGTGTCCCCGAGCCGCGCG(配列番号20)(フォワード)及びCCGCCCCGACTCTAGAtcaGTGATGGTGATGATGGTGcttgatccgaccttcaactg配列番号21)(リバース)を使用して、MIAPACA-2cDNAからクローン化された。次に、精製されたPCR産物を、InFusionクローニングシステムを使用して発現ベクターにクローニングした。精製ステップのために、タンパク質のC末端部分に6xHisタグを加えた。
【0239】
クローン化huCD73のアミノ酸配列:
【化12】
【0240】
huCD73タンパク質の発現及び精製
クローン化された配列の検証後、細胞をヌクレオフェクトし、次に産生プールをサブクローニングして、huCD73タンパク質を産生する細胞クローンを得た。ローラーで増殖させたhuCD73クローンからの上清を回収し、Ni-NTAカラムを使用して精製し、250mMイミダゾールを使用して溶出した。次に、精製したタンパク質をS200サイズ排除クロマトグラフィーカラムに充填した。二量体に対応する精製タンパク質は、酵素活性アッセイのためにTris 20mM pH7.5、NaCl 120mM及びCaCl2 4mM緩衝液で製剤化される一方、製剤緩衝液には20%グリセロールが補充される。
【0241】
組換えCD73タンパク質のAb KDを評価するためのSPR分析
SPR測定は、Biacore(商標)T200装置で25℃において行った。プロテイン-A(GE Healthcare)は、Sensor Chip CM5(GE Healthcare)に固定化された。チップ表面をEDC/NHS(N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩及びN-ヒドロキシスクシンイミド(Biacore(商標)、GE Healthcare)で活性化した。プロテイン-Aを結合緩衝液(10mM酢酸塩、pH5.6)中で10μg/mLに希釈し、適切な固定化レベルに達するまで(すなわち2000RU)注入した。残りの活性化された基の失活は、100mMエタノールアミンpH8(Biacore(商標)、GE Healthcare)を用いて行った。親和性研究は、製造業者(Biacore(商標)GE Healthcare kinetic wizard)によって推奨される標準的なCapture-Kineticプロトコルに従って実施した。1.23~300nMの範囲のヒト組換え可溶性CD73タンパク質の段階希釈液を、捕捉した抗CD73抗体に順次注入し、再分化前に10分間分離させた。センサーグラムセット全体を、1:1動態結合モデルを用いてフィッティングした。二価の親和性並びに動態結合速度定数及び解離速度定数が計算される。
【0242】
抗体による抗CD73認識を評価するためのフローサイトメトリー分析
FCSBに再懸濁した10個のMDA-MB-231細胞を丸底96Wマイクロプレート(ウェルあたり50μL)に分配した。抗CD73 mAbの用量範囲をプレートに加え、細胞を+5±3℃で1時間インキュベートした。プレートを400g、4℃で3分間回転させることにより、細胞をFCSBで3回洗浄した。FCSBで希釈したPE複合化ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG(H+L)二次Abを細胞に添加し、プレートを+5±3℃でさらに30分間インキュベートした。上記のように細胞を3回洗浄し、フローサイトメーターで分析した。
【0243】
蛍光強度の中央値対mAb濃度をグラフにプロットし、GraphPad Prism(商標)プログラムを使用してEC50を計算した。
【0244】
組換えヒト又はカニクイザルCD73を用いたインビトロ酵素アッセイ
簡潔には、組換えヒト又はカニクイザルCD73を、ある用量範囲の抗CD73又はアイソタイプ対照mAbの存在下において白色の96W平底マイクロプレートでインキュベートした。プレートを+37±1℃で1時間インキュベートした。ATP(12.5μM)及びAMP(125μM)を各ウェルに添加し、プレートを+37±1℃でさらに30分間インキュベートした。ルシフェラーゼ/ルシフェリン含有CellTiter-Glo(商標)(Promega)をウェルに加え、プレートを暗所で室温において5分間インキュベートし、Enspire(商標)装置(Perkin Elmer)を使用して放出光を測定した。
・条件:
・ATP+AMP:最大ルシフェラーゼ阻害(100%)
・CD73+ATP+AMP:ルシフェラーゼ阻害なし(0%)
【0245】
GraphPad Prism7(商標)ソフトウェアを使用して、残留酵素活性と抗CD73 Ab濃度をグラフにプロットした。
【0246】
T細胞増殖アッセイ
健常ドナーから末梢血を採取し、フィコール勾配で単核細胞を単離した。リンパ球は、52%Percoll(商標)勾配(細胞ペレット)でさらに濃縮され、2μM CellTrace(商標)Violet(Thermofisher)で染色された。5×10~1×10の染色細胞を96w丸底プレートに分配し、抗CD73 Abと共に37℃で1時間インキュベートし、抗CD3/抗CD28コーティングビーズを添加して3~5日間活性化した。T細胞増殖の阻害は、200μMのAMPを添加することで達成された。T細胞増殖及びAMPの免疫抑制効果を遮断するAbの能力は、増殖するT細胞の色素希釈を定量化することによりフローサイトメトリーによって評価された。GraphPad Prism(商標)ソフトウェアを使用して、抗CD73Ab濃度に対する増殖T細胞のパーセンテージをグラフにプロットした。一部の実験は、健常ドナー又は癌患者からのPBMC全体で行われた。プロトコルは、T細胞抑制が0.5~1mMのATPの添加によって達成されたことを除いて上記のとおりであった。
【0247】
ドナー又は患者を比較するために、T細胞増殖は、以下の式を使用して正規化された。
【数1】
【0248】
同種混合リンパ球反応(MLR)アッセイ
健常ドナーからの単核細胞をフィコール勾配で単離し、単球をCD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用した免疫磁気選択によって精製した。単球は、GM-CSF(400ng/ml)及びIL-4(20ng/ml)の存在下で5~7日間培養することにより、樹状細胞(MoDC)に分化した。DC回復の日、同種異系ドナーからのCD4+T細胞は、非CD4+T細胞(Miltenyi Biotec)の免疫磁気枯渇によって精製され、Cell Trace(商標)Violetで染色された。DC(10細胞/ウェル)及びT細胞(5×10細胞/ウェル)を96W丸底マイクロプレートである用量範囲の抗huCD73抗体及び固定用量のATPの存在下において混合した。T細胞増殖及びATP媒介性抑制を逆転させるAbの能力は、T細胞増殖アッセイについて記載されているように評価された。
【0249】
実施例1:胃癌でのCD73及びHER2の発現
胃癌コホートにおけるこの試験のために、下記の腫瘍試料を調べた:診断時の原発腫瘍からの合計60例の外科的試料、これらの試料の内、10例の外科的試料は、原発腫瘍由来であり、10例の外科的試料は、最初の再発時の関連する転移由来であり、20例は、診断時の生検であり、20例は、ネオアジュバント化学療法(エピルビシン、シスプラチン、及び5-FU)後の対応する腫瘍の外科的試料であった。
【0250】
診断時(あらゆる処置前)に、患者の83%(n=50/60)で腫瘍細胞(TC)にCD73が発現されていることが分かり、CD73を発現する腫瘍細胞の割合は、患者間で5~80%と変動した。腫瘍細胞に対する染色は、先端レベル(管腔部分)の細胞で主に極性化していた。患者の95%は、CD73発現間質細胞(SC)を有しており、CD73発現間質細胞の割合は、1~50%の範囲であった。患者の5%のみが、CD73発現腫瘍内免疫細胞を有しており(n=3/60)、患者の78%が、間質中においてCD73発現免疫細胞を有しており、割合の範囲はCD73+の1~20%であった。
【0251】
腫瘍細胞に対するCD73のHスコアは、0~210で変動しており、中央値のスコアは37.5であった(図1、左側のパネル)。
【0252】
Her2状態に従うCD73発現
腫瘍細胞及び間質細胞によるCD73発現を、Her2状態に従って解析した。IHC染色により評価したHer2採点は、1+、2+、3+と示されており、Her2遺伝子の増幅をFISHで評価した。データ解析のために、及び病理医に従って、「解析のためのHer2状態(-/+)」がIHCにより3+と記録された場合にのみ、患者をHer2陽性と見なした。
【0253】
解析により、Her2+患者は全員、CD73発現腫瘍細胞を有していることが分かった(図1、右側のパネル)。Her2+患者(n=7)は、Her2-(n=30)と比べて少数であったが、Her2+患者は、CD73+腫瘍細胞の割合が有意に高かった(図1、右側のパネル)。CD73発現間質細胞は、Her2状態により変化しなかった。
【0254】
まとめると、Her2状態に従う患者階層化により、Her2+患者は全員、CD73発現腫瘍を有していること、及びHer2+患者は、Her2-と比べてCD73+腫瘍細胞の割合が有意に高いことが強調された。患者は全員、Her2状態に関係なくCD73+間質細胞を有していた。
【0255】
ネオアジュバント化学療法前後の胃癌でのCD73発現の比較
ネオアジュバント化学療法(CT)前の原発腫瘍の生検と、ネオアジュバント化学療法(エピルビシン、シスプラチン、及び5-FU)後の腫瘍切除との間で、CD73発現を比較した。
【0256】
ネオアジュバントCTにより、CD73を発現する患者の割合(図2、左側のパネル)又はCD73+腫瘍細胞の割合(図2、右側のパネル)のいずれにおいても、CD73発現腫瘍細胞が有意に変更されなかった。しかしながら、ネオアジュバントCTにより、CD73+間質細胞を有する患者の割合は、CT前の60%(n=12/20)からCT後の95%(n=19/20)へと上昇した(図3、左側のパネル)。CD73発現間質細胞の割合は、CT前とCT後とで有意差がなかった(図3、右側のパネル)。CTにより、CD73+間質免疫細胞を有する患者の割合は、30%(n=6/20)から70%(n=14/20)へと上昇した(図4、左側のパネル)。CD73+間質免疫細胞の割合のより厳密な解析により、CTは、最初に高い場合にはこの割合を低下させる傾向があるが、最初に陰性の場合には免疫細胞にCD73を誘導することが示された(図4、右側のパネル)。
【0257】
実施例2:ヒト化抗CD73抗体の設計
ヒト化抗CD73抗体を、インタクトな完全長抗体とCD73二量体との間で1:1化学量論での二量体内結合モードでCD73に結合することが観察されたマウス抗体に基づいて、2020年4月20に出願された、共同係属中のPCT出願第PCT/EP2020/060955パンフレット(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)で説明されているように調製した。
【0258】
簡潔に説明すると、IGHJ4*01(FR4)と共に、ヒトサブグループIGHV1-3*01からの重鎖フレームワーク(FR1、FR2、FR3)をVHに導入し、且つIGKJ2*01(FR4)と共に、ヒトサブグループIGKV1-33*01からの軽鎖フレームワーク(FR1、FR2、FR3)をVLに導入することにより、抗体を改変した。
【0259】
ヒト化抗体の第1のセットに関して、4種の異なるヒト化重鎖と、4種の異なるヒト化軽鎖とを設計した。配列番号29に示されるアミノ酸配列を有する第1の重鎖変異体(H1)は、V2I及びT73K置換を有していた。配列番号30に示されるアミノ酸配列を有する第2の重鎖(H2)変異体は、置換V2I、T28A、R71V及びT73Kを有していた。配列番号31に示されるアミノ酸配列を有する第3の重鎖変異体(H3)は、置換V2I、T28A、M48I、R66K、V67A、R71V及びT73Kを有していた。配列番号32に示されるアミノ酸配列を有する第4の重鎖変異体(H4)は、置換V2I、T28A、T30A、M48I、R66K、V67A、I69L、R71V及びT73Kを有していた。置換の付番は、Kabatによる。
【0260】
配列番号33に示されるアミノ酸配列を有する第1の軽鎖変異体(L1)は、置換S67Yを有していた。配列番号34に示されるアミノ酸配列を有する第2の軽鎖(L2)変異体は、置換S60D及びS67Yを有していた。配列番号35に示されるアミノ酸配列を有する第3の軽鎖変異体(L3)は、置換I2V、S60D及びS67Yを有していた。配列番号36に示されるアミノ酸配列を有する第4の軽鎖変異体(L4)は、置換I2V、S60D、S67Y及びY87Fを有していた。置換の付番は、Kabatによる。
【0261】
それぞれの重鎖(表1の「H」鎖)及び軽鎖(表1の「L」鎖)可変領域のアミノ酸配列を以下の表1に示す。
【0262】
【表2】
【0263】
下記の表2に示す重鎖及び軽鎖の組合わせを有する抗体を製造した。
【0264】
【表3】
【0265】
驚くべきことに、実験は、フローサイトメトリー滴定とCD73の酵素活性の阻害における効力との間に直接的な相関関係がないことを示した。興味深いことに、H1、H2、H3及びH4変異体は、SPRアッセイ及びCD73発現細胞のフローサイトメトリーにおけるCD73組換えタンパク質への結合親和性に基づいて本質的に区別できなかったが、H2及びH3変異体は、T細胞増殖を回復する能力において、H4変異体よりも機能アッセイにおいて効力が低かった。1つの可能性は、CD73を阻害する効力に有害であった(しかし、CD73に対する結合親和性には有害でなかった)H2及びH3フレームワークに導入された突然変異が、H4変異体フレームワークに導入された突然変異によって代償されたことである。その結果、重鎖フレームワーク及び/又はCDR残基に置換を有する新しい変異体が設計された。これらの観察に基づいて、H2、H3及びH4鎖で行われた置換は、機能に重要であると考えられる残基、機能に影響を与えない可能性が高い残基、機能に負の影響を与える残基及び機能を回復させる残基のいずれかに分類された。
【0266】
以下に示すアミノ酸配列(配列番号37;アミノ酸置換は太字、Kabat CDRは下線)を有する「H4+」と呼ばれる新しい重鎖変異体が設計され、これは、(それぞれ配列番号33、34、35及び36の)L1、L2、L3及びL4軽鎖と組み合わされて、4つの新しい抗体、H4+L1、H4+L2、H4+L3及びH4+L4を生成した。
【0267】
H4+VH:
【化13】
【0268】
L234A/L235E/G237A/A330S/P331S置換を有するヒトIgG1 Fcドメインを含む完全なH4+重鎖のアミノ酸配列を以下に示す。
【化14】
【0269】
H4+L1抗体には、ヒトCkappaドメインを含むL1軽鎖が含まれており、その完全な配列を以下に示す。
【化15】
【0270】
同じフレームワーク置換が、重鎖と軽鎖のCDRが異なる抗体にどのように影響するかを調べるために、共通の重鎖及び4つの異なる軽鎖の1つを有する4つの抗体のシリーズをさらに産生した。「2H4+」と呼ぶ共通の重鎖は、HCDR2のKabat位置59(Q59)のグルタミン(すなわちH4+鎖と比較したL59Q置換)、HCDR2のKabat残基60(K60)のリシン(すなわちH4+鎖と比較したT60K置換)及びHCDR3のKabat位置97(N97)のアスパラギン(すなわちH4+鎖と比較したG97N置換)を有していた。2L1、2L2、2L3及び2L4と呼ぶ4つの軽鎖は、それぞれL1、L2、L3及びL4鎖と同じフレームワーク残基を有し、LCDR1のKabat位置30(T30)のスレオニン(すなわちL1~L4鎖と比較したS30T置換)及びLCDR2のKabat残基53(N53)のアスパラギン(すなわちL1-L4鎖と比較したT53N置換)の存在でL1~L4鎖からのそのCDRと異なっていた。
【0271】
得られた4つの新しい抗体は、以下で2H4+2L1、2H4+2L2、2H4+2L3及び2H4+2L4と呼ばれた(重鎖及び軽鎖の組み合わせに関して以下の表4を、個々の鎖のアミノ酸配列に関しては以下の表3を参照されたい)。マウスフレームワークでCDRを共有する親抗体は、2HP及び2LPと呼ばれる重鎖及び軽鎖の可変領域(以下の表3を参照されたい)で産生された。
【0272】
【表4】
【0273】
【表5】
【0274】
全ての抗体を、Fc受容体結合を減少させるためにL234A/L235E/G237A/A330S/P331S置換を有するヒトIgG1アイソタイプとして製造した。
【0275】
L234A/L235E/G237A/A330S/P331S置換を有するヒトIgG1 Fcドメインを含む完全な2H4+重鎖のアミノ酸配列を以下に示す。
【化16】
【0276】
ヒトCkappaドメインを含む抗体の完全な2L1軽鎖のアミノ酸配列を以下に示す。
【化17】
【0277】
実施例3:組換えCD73タンパク質を用いたインビトロ酵素アッセイの新しい変異体の研究
組換えCD73タンパク質の酵素活性を阻害するヒト化変異体の有効性を、親抗体と比較した。簡潔に説明すると、ATP基質及びCTG基質を混合した場合に、高レベルの発光を測定した。反応混合物にAMPを添加した場合には、CTG反応が阻害されて発光が減少した。AMPを加水分解する組換えヒトCD73タンパク質の存在下では、発光レベルが回復した。実施例2で産生された全ての新しいヒト化変異体は、CD73タンパク質の活性を強力に阻害した。
【0278】
H4+Lx抗体は、その親抗体と同程度に効率的でであった。さらに、全ての2H4+2Lx(2H4+L1、2H4+L2、2H4+L3及び2H4+L4)変異体は、H4+Lx変異体と比較してCD73阻害の効力の増加を示した。2H4+2Lx変異体は、親2HP2LP抗体と同様の効果でCD73の活性を阻害した。
【0279】
異なる濃度のCD73タンパク質(50、100、200、400ng/mL)を使用してさらなる実験を実施した。この実験の目的は、大量のCD73タンパク質の活性を遮断するヒト化抗体の能力を研究することであった。この場合にも、2H4+2Lx変異体は、親2HP2LP抗体と同程度に強力であった。
【0280】
実施例4:カニクイザルCD73タンパク質に対する有効性に関する新しい変異体の研究
組換えrec cyCD73タンパク質に対する実験は、2H1Lx及び2H4+2Lx変異体を使用して実施された。実験条件は、使用したcyCD73タンパク質の濃度(400ng/mL)を除いて、ヒトタンパク質での実験と同じであった。
【0281】
cyCD73タンパク質の酵素活性を遮断するヒト化変異体の有効性は、親(キメラ)抗体の有効性と同じであった。
【0282】
実施例5:T細胞増殖アッセイにおける新しい変異体の研究
異なる抗体のヒト化変異体は、AMPによって阻害されたT細胞増殖を回復する能力について試験された。簡潔に説明すると、健康なドナー(HD)の末梢血をEFSから入手し(抗凝固剤:クエン酸塩)、単核細胞を、Ficoll勾配で単離した。リンパ球を、PBS溶液で調製した52%Percoll勾配でさらに富化した。細胞を、Cell Trace色素で染色した。染色した細胞を、96丸底プレートに分配し、抗huCD73 Abと共に+37±1℃で1時間にわたりインキュベートし、抗CD3/抗CD28ビーズ(ビーズ対細胞比=1:4)の添加により、3~5日にわたり活性化した。T細胞増殖の阻害を、AMP(800μM)の添加により達成した。T細胞増殖と、AMPの免疫抑制効果をブロックするAbの能力とを、増殖しているT細胞に対する色素希釈を定量することによるフローサイトメトリーにより評価した。
【0283】
図5Aは、T細胞増殖に対するAMPの阻害効果を示す。全てのヒト化変異体は、T細胞増殖に対するAMPの阻害効果を強力に遮断した(図5B及びC)。大半のヒト化変異体は、一般に、AMP媒介性T細胞抑制を逆転させるうえでキメラ親対応物と同程度に効率的であるようであるが、2H4+2Lx変異体は、全ての変異体の中で最も強力であり、驚くべきことに、AMPの抑制効果を遮断することにおいて親2HP2LP抗体よりもさらに強力であった。
【0284】
実施例6:2人のヒトドナーでのT細胞増殖アッセイにおける新しい変異体の比較研究
以前に得られた結果によると、2H4+2Lxヒト化変異体は、さらなる一連のT細胞増殖実験でさらに特徴付けられた。
【0285】
図6A及び6Bは、それぞれ2人の健常ドナーからの細胞を使用したT細胞増殖アッセイで得られた結果を示す。以前に観察されたように、2H4+2Lx変異体は、それぞれ親2HP2LPよりも強力にT細胞増殖を回復した(図6A及びB、右パネル)。異なる2H4+2Lx変異体間で明確な違いは観察されなかった。したがって、この場合にも、2H4+2Lx変異体は、AMPの抑制効果を遮断することにおいて親の2HP2LP抗体よりもさらに強力であった。
【0286】
総合すると、T細胞増殖アッセイで得られた結果は、H4+鎖のフレームワークを有するヒト化変異体が最も強力な抗体変異体であり、2H4+2Lx変異体が全体として全ての抗体の中で最大の効力を有することを示す。
【0287】
実施例7:同種混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおける新しい変異体の研究
2H4+2Lx抗体変異体は、T細胞増殖アッセイで以前に得られた結果を確認するために同種MLRで試験された。簡潔に説明すると、健康なヒトドナー由来のPBMCを、Ficoll密度勾配で富化し、単球を、陽性磁気選択(Miltenyi Biotec)により精製した。単球を、GM-CSF(400ng/mL)及びIL-4(10ng/mL)の存在下での5~7日間の培養により、樹状細胞(DC)へと分化させた。DC回収日に、同種ドナー由来のCD4+ T細胞を、非CD4+ T細胞(Miltenyi Biotec)の免疫磁気枯渇により精製し、Cell Trace色素で染色した。DC及びT細胞を、用量範囲の抗huCD73 mAb及び固定用量の100μM ATPの存在下において、96丸底マイクロプレート中で混合した。次いで、T細胞増殖と、ATP媒介性抑制を反転させるmAbの能力とを、6日間の共培養後に評価した。T細胞増殖は、2つのヒトドナー試料について図7に示すように、100μMのATP(CD39によってADP及びAMPに分解される)を添加することによって阻害された。
【0288】
図7の左パネルに示すように、ATPの添加によりT細胞の増殖が阻害された。T細胞の増殖は、抗CD73抗体の存在下で回復した(中央及び右側のパネル)。全ての2H4+2Lxヒト化変異体は、親2HP2LP抗体と同等の又はそれより優れた有効性でT細胞増殖を回復させることができた。全ての2H4+2Lx変異体は、これらの設定でT細胞増殖を回復するために親2HP2LPよりも強力であった。これらの結果は、AMPを阻害剤として使用したT細胞増殖アッセイで得られた結果と一致していた。
【0289】
要約すると、H4+及び2H4+可変領域に導入された置換は、L1及び2L1鎖(及びL2、L3、L4、2L2、2L3、2L4鎖)に導入された置換と共に、それらの親マウス抗体の重要な機能的特性を回復し(及びさらに改善し)、さらにヒトフレームワーク領域を有するようであるため、ヒトにおける免疫原性のリスクがより低い。2H4+2Lx抗体は、全ての中で最も強力である。
【0290】
実施例8:抗CD73抗体のヒト用量予測
2H4+2L1抗CD73抗体(配列番号47の重鎖、及び配列番号48の軽鎖)の血清中濃度と、血液中のCD73占有率との間の関係を特徴付けるために、PK/PDモデルを構築した。最初に、カニクイザルでの非GLP毒性試験及びGLP毒性試験のデータを使用して、抗CD73抗体血清中濃度を説明するためにPKモデルを構築した。
【0291】
治療用mAbの薬物動態を、2コンパートメントモデルを使用してモデル化した(Deng et al.2011 MAbs 3(1):61-66)。カニクイザルでの前臨床PK結果に基づいて、抗CD73抗体を、化合物特異的な標的媒介性薬物動態(TMDD)を除いて、ヒトにおける他の治療用mAbと同様のPK特性を示すと予測した。このTMDD効果を、このモデルに追加された追加の非線形除去によりモデル化し得た(Wang et al.2016 Biopharm.Drug Dispos.37:51-65)。図8に示すように、カニクイザルでの反復IV投与後に観察された抗CD73抗体のPKを適切に説明するために、中央コンパートメントからの平行な一次(線形)及び飽和(非線形、ミカエリス・メンテン)除去を有する2コンパートメントモデルを開発した。
【0292】
非GLP毒性試験及びGLP毒性試験で予測された抗CD73抗体濃度と観察された抗CD73抗体濃度との重複を、図9に示す。パネルAは、非GLP毒性試験で観察されたPKデータへのモデルフィッティングを表しており;パネルBは、GLP毒性試験で観察されたPKデータへのモデルフィッティングを表しており;記号は、観察されたデータを表しており;実線は、モデル予測を表す。
【0293】
カニクイザル用に開発されたPKモデルを、ヒトPK予測に使用した。カニクイザルで実施された2種の抗CD73抗体毒性試験において、抗CD73抗体に関する線形PKパラメータは、より高いクリアランス(CL)を除いて、文献(Deng et al.,2011)で説明されているNHP試験で見出されたものに近いことが分かった。したがって、ヒトでのIgG1 PKパラメータを、クリアランス及び化合物特異的TMDDの両方を除いて、ヒトPKの線形コンパートメントの予測に使用した。
【0294】
PDモデルに関するCD73飽和レベルは、50%受容体占有率をもたらす抗CD73抗体血清中濃度であるEC50を表すKmから予測される。
【0295】
2週間毎の投与に関して提案された臨床用量での予測されたヒトPK及びCD73受容体占有率プロファイルを、図10Aに示す(線は、下から上へと、用量の増加に対応する)。3週間毎の投与に関する様々な用量での予測されたヒトPK及びCD73受容体占有率プロファイルを、図10Bに示す(線は、下から上へと、用量の増加に対応する)。
【0296】
100mgの開始用量は、Cmaxが32.5μg/mLであると予測され、このCmaxは、PKモデルからのミカエリス・メンテン定数Kmにより推定された42.3μg/mLのEC90(90%での標的飽和)未満である。100mgのこの開始用量にて、Cmaxで約90%のCD73占有率が予測され、次の用量前に0に戻る。
【0297】
さらに、100mgのこの開始用量にて(2週間毎)、抗CD73抗体濃度は、次の用量前に50ng/mL未満まで戻ると予測される。この濃度は、ヒト血清(IC50=12.3ng/mL)、A375腫瘍細胞(IC50=34ng/mL)、MDA-MB231腫瘍細胞(IC50=126.8ng/mL)、並びにCD4+ T細胞及びCD8+ T細胞によるAMP阻害T細胞増殖の反転(それぞれ、IC50=8.1ng/mL及び7.7ng/mL)によるインビトロアッセイにおいて、100%未満の酵素的阻害を媒介する。この濃度はまた、CD73+腫瘍細胞への抗CD73抗体の結合のEC50値と同様であるか又はこのEC50値未満であり、且つ組換え可溶性ヒトCD73に対する抗CD73抗体親和性と同様である。このことは、開始用量が、次の用量前にCD73の完全飽和の喪失を引き起こすことをさらに示唆する。
【0298】
100、300、及び900mgの3つの最初の漸増用量は、2週間毎に投与した場合に、次の用量前に、80%未満のCD73占有率をもたらし、抗CD73抗体濃度は、次の用量前にEC90未満になると予測される。1500mg及び2400mgの2つの最高用量レベルは、2週間毎に投与した場合に、処置期間全体を通して、90%を超えるCD73占有率を維持すると予測される。
【0299】
実施例9:進行性固形腫瘍を有する患者での、トラスツズマブによる化学療法と組み合わされた抗CD73の第1相ファースト・イン・ヒューマン試験
2H4+2L1抗CD73抗体(IPH5301)は、機能的にサイレントなFcドメインを有するヒト化IgG1アンタゴニストモノクローナル抗体である。この抗体は、CD73に特異的に結合し、腫瘍微小環境中の細胞により発現されているCD73の酵素活性を阻害することにより、抗腫瘍免疫反応を増強するように設計されている。前臨床モデルは、現在臨床試験中である、CD73を標的とする他の薬剤と比較して、区別されており且つ優れたインビトロでの活性を示している。これは、IPH5301を調べるファースト・イン・ヒューマン臨床試験である。
【0300】
主要目的は、選択された進行性固形腫瘍を有する患者において、トラスツズマブによるか又はよらない化学療法と組み合わされたIPH5301の安全性プロファイル及び最大耐量(MTD)/推奨第2相用量(RP2D)を評価することである。副次的目的として、トラスツズマブによるか又はよらない化学療法と組み合わされたIPH5301の予備的な臨床活性の評価が挙げられる。
【0301】
この試験は、パクリタキセル及びトラスツズマブによる処置の対象である(コホート2)、不治性の進行性及び/又は転移性癌を有する患者を含み、過去の全身療法の数は限定されない。HER2陽性の乳癌又は胃癌を有する患者が含まれる。適格性は、局所的に決定されるHER2+過剰発現(免疫組織化学による+3、又はFISHによる陽性)に基づく。患者が、過去の処置の最初の3ヶ月以内に疾患の進行を経験していなかった限り、高度な設定でのパクリタキセル、カルボプラチン、及び/又はトラスツズマブによる過去の処置が許容される。
【0302】
IPH5301の5つの漸増用量レベルを、下記のように評価する:(100mg、300mg、900mg、1500mg、及び2400mg)。全ての患者に、1日目(1週目)にIPH5301のみを投与する。15日目(3週目の開始)に、下記のように、IPH5301に化学療法及びトラスツズマブを追加する:
- パクリタキセル(175mg/m、3時間注入)3週間毎、
及び
- トラスツズマブ(8mg/kg体重負荷用量、90分注入、次いで6mg/kg 3週間毎、30分)。
【0303】
IPH5301を、試験用量に関係なく1時間かけて静脈内注入として投与し、続いてトラスツズマブを投与し、次いで化学療法を投与する。化学療法(トラスツズマブとの組合わせ)を、最大6サイクルにわたり施す。この期間の最中に、IPH5301を、用量レベルに関係なく2週間毎に投与する。6サイクルの終了時に疾患進行の証拠がない患者には、この患者が臨床的利点を得ている限り、HER2陽性コホートの場合にIPH5301及びトラスツズマブ(両方とも3週間毎に投与する)を投与し続け得る。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
【配列表】
2023537115000001.app
【国際調査報告】