(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】ベトCAR-T細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230823BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230823BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230823BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230823BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230823BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230823BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230823BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20230823BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20230823BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230823BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230823BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230823BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230823BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20230823BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20230823BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230823BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/04
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/02
A61P33/00
A61L27/38
A61P35/02
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/00
C07K14/725
C07K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509690
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(85)【翻訳文提出日】2023-04-04
(86)【国際出願番号】 IL2021050984
(87)【国際公開番号】W WO2022034593
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502379147
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521564870
【氏名又は名称】イチロフ テック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ICHILOV TECH LTD.
【住所又は居所原語表記】6 Weizmann Street, Tel-Aviv, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイズナー イェア
(72)【発明者】
【氏名】グロバーソン レヴィン アナット
(72)【発明者】
【氏名】バチャール-ラスティグ エスター
(72)【発明者】
【氏名】ラスク アッサフ
(72)【発明者】
【氏名】ネイサンソーン-レヴィ バル
(72)【発明者】
【氏名】ワクス トヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ホーン ガリット
(72)【発明者】
【氏名】エシュハー ゼリグ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
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4B065BA21
4B065BB19
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4B065BC03
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C081BA12
4C081BA13
4C081CD34
4C087AA01
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4C087DA32
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
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4C087ZB35
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4C087ZB38
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法を開示する。この方法は、(a)T細胞を含む細胞集団であって、T細胞が少なくとも40%のメモリーCD8
+T細胞を含む集団を用意することと、(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、細胞は移植片対宿主(GVH)反応性を欠くことと、(c)T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを当該細胞に形質導入することとを含み、それによって遺伝子改変ベト細胞集団を作製する。
【選択図】
図3E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法であって、
(a)T細胞を含む細胞集団であって、前記T細胞が少なくとも40%のメモリーCD8
+T細胞を含む集団を用意することと、
(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む前記細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、前記細胞から移植片対宿主(GVH)反応性を除くことと、
(c)T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを前記細胞に形質導入することと
を含み、それによって遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法。
【請求項2】
前記工程(b)を工程(c)と同時に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、末梢血単核細胞(PBMC)を、
(i)CD4
+細胞、CD56
+細胞及びCD45RA
+細胞を枯渇可能な薬剤で処理する、又は
(ii)CD45RO
+細胞、CD8
+細胞を選択可能な薬剤で処理する
ことで、CD45RO
+CD45RA
-CD8
+表現型を含むメモリーCD8
+T細胞が富化されたT細胞を含む細胞集団を得る、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記異種細胞表面受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)又はトランスジェニックT細胞受容体(tg-TCR)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CARは少なくとも1個の共刺激ドメインを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記CARは少なくとも1個のシグナル伝達ドメインを含む、請求項4~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記CARは、抗体又は抗原結合断片である抗原結合ドメインを含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
抗原結合断片はFab又はscFvである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記CAR又は前記tg-TCRは、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、原虫抗原及び寄生虫抗原から成る群から選択される抗原に結合する、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍抗原は固形腫瘍に関連する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍抗原は血液悪性腫瘍に関連する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ベト細胞の標的となる前記1種以上の抗原は、前記CAR又は前記tg-TCRの標的となる前記抗原とは異なる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記メモリーCD8
+T細胞はCD45RA
+細胞を欠いている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記メモリーCD8
+T細胞はCD4
+及び/又はCD56
+細胞を欠いている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記メモリーCD8
+T細胞はCD45RO
+CD45RA
-CD8
+表現型を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む前記細胞集団を1種以上の抗原と共に前記培養することを、
(a)T細胞を含む前記細胞集団をIL-21の存在下で前記1種以上の抗原と接触させて抗原反応性細胞を富化させることと、
(b)工程(a)で得た前記細胞をIL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養して前記Tcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法によって行う、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1種以上の抗原は1種以上のサードパーティー抗原を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1種以上の抗原は、抗原提示細胞、人工媒体又は人工抗原提示細胞によって提示されるものである、請求項16~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1種以上の抗原は、T細胞を含む前記細胞集団と同じ起源の抗原提示細胞によって提示されるものである、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記IL-21の存在下で行うT細胞を含む前記細胞集団と前記1種以上の抗原との前記接触を12時間~6日間行う、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で行う工程(a)で得た前記細胞の前記培養を12時間~20日間行う、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を作製するための合計期間は、12日間の培養である、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
工程(b)の後にアロ反応性細胞を枯渇させることを更に含む、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記アロ反応性細胞の前記枯渇は、前記Tcm表現型を含む前記細胞を宿主抗原提示細胞(APC)と接触させた後にCD137
+細胞及び/又はCD25
+細胞の枯渇によって行う、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記方法はエクスビボで行う、請求項16~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記Tcm表現型はCD3
+、CD8
+、CD62L
+、CD45RA
-、CD45RO
+シグネチャーを含む、請求項16~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
細胞の少なくとも50%がCD3
+CD8
+細胞であり、その少なくとも30%が前記シグネチャーを有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記形質導入は培養の3~7日目に行う、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記形質導入には前記CAR又は前記tg-TCRをコードするポリヌクレオチドを用いる、請求項4~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子改変ベト細胞には抗疾患活性が付与される、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
細胞集団内のベト細胞の少なくとも10%は前記異種細胞表面受容体を発現する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができる遺伝子改変ベト細胞の単離集団。
【請求項33】
請求項32に記載の遺伝子改変ベト細胞の単離集団と、薬学的に有効な担体とを含む医薬組成物。
【請求項34】
疾患の治療を必要とする対象において前記疾患を治療する方法であって、請求項32に記載の遺伝子改変ベト細胞の単離集団の治療有効量を対象に投与し、それによって対象を治療することを含む方法。
【請求項35】
疾患の治療を必要とする対象における前記疾患の治療における、治療有効量の請求項32に記載の遺伝子改変ベト細胞の単離集団の使用。
【請求項36】
疾患の治療を必要とする対象において前記疾患を治療する方法であって、
(a)前記疾患に関連する1種以上の抗原の存在について対象の生体試料を分析することと、
(b)前記疾患に関連する前記1種以上の抗原に対し、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法に従って遺伝子改変ベト細胞を作製することと、
(c)工程(b)の遺伝子改変ベト細胞の治療有効量を対象に投与することと
を含み、それによって対象の疾患を治療する方法。
【請求項37】
対象に細胞又は組織移植片を移植することを更に含む、請求項34又は36に記載の方法。
【請求項38】
治療有効量の遺伝子改変ベト細胞の単離集団が細胞又は組織移植片を更に含む、請求項35に記載の使用。
【請求項39】
細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法であって、
(a)対象に細胞又は組織移植片を移植することと、
(b)請求項32に記載の遺伝子改変ベト細胞の単離集団の有効量を対象に投与することと
を含み、それによって細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法。
【請求項40】
対象への細胞又は組織片の移植のための補助療法として使用するための、治療有効量の請求項32に記載の遺伝子改変ベト細胞の単離集団であって、前記対象は細胞又は組織の移植を必要としている、単離集団。
【請求項41】
前記移植は前記遺伝子改変ベト細胞の前記投与と同時に行うか、或いは前記投与前又は前記投与後に行う、請求項37又は39に記載の方法。
【請求項42】
前記遺伝子改変ベト細胞は、前記細胞又は組織の移植の前、同時、又は後の投与用である、請求項38又は40に記載の治療有効量の使用。
【請求項43】
前記疾患は、悪性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、真菌性疾患、原虫性疾患及び寄生虫性疾患から成る群から選択される、請求項34、36~37、39又は41のいずれか一項に記載の方法、又は請求項35、38、40又は42のいずれか一項に記載の治療有効量の使用。
【請求項44】
前記悪性疾患は固形腫瘍又は腫瘍転移である、請求項43に記載の方法又は治療有効量の使用。
【請求項45】
前記悪性疾患は血液悪性腫瘍である、請求項43に記載の方法又は治療有効量の使用。
【請求項46】
前記悪性疾患は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、黒色腫、肉腫、神経芽細胞腫、結腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、滑膜細胞癌及び膵臓癌から成る群から選択される、請求項43に記載の方法又は治療有効量の使用。
【請求項47】
前記遺伝子改変ベト細胞は対象と非同系である、請求項34、36~37、39、41又は43~46のいずれか一項に記載の方法、又は請求項35、38、40、42又は43~46のいずれか一項に記載の治療有効量の使用。
【請求項48】
前記投与前に亜致死的、致死的又は超致死的前処置プロトコルの下で対象に前処置を行うことを更に含む、請求項34、36~37、39、41又は43~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
亜致死的、致死的又は超致死的前処置プロトコルを更に含む、請求項35、38、40、42又は43~47のいずれか一項に記載の治療有効量の使用。
【請求項50】
前記対象はヒト対象である、請求項34、36~37、39、41又は43~48のいずれか一項に記載の方法、又は請求項35、38、40、42、43~47又は49のいずれか一項に記載の治療有効量の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年8月11日出願の米国仮特許出願第63/064,038号の優先権を主張するものであり、当該仮特許出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本願の出願と同時に提出された、2021年8月10日作成の8192バイトのASCIIファイル「88373 Sequence Listing.txt」を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
本発明は、その幾つかの実施形態において、メモリーT細胞から作製され、細胞表面受容体を発現するように形質導入された遺伝子改変ベト細胞に関し、より詳細には、当該ベト細胞の製造方法と免疫療法における当該ベト細胞の使用に関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0004】
養子細胞療法(ACT)は、癌やウイルス感染症を治療するためにリンパ球(例えば、T細胞)を患者に投与する治療手技である。主な目的は、未熟な造血細胞移植に頼ることなく、完全又は部分的にミスマッチの同種異系細胞を使用し、遺伝子改変T細胞を含むACTを適用することである。或いは、ACTによって、対象の完全な免疫系を事前に根絶させずに未熟な造血細胞の移植を行うことができる。従って、ACTは、重要な免疫再構築期間に伴う移植関連の主な死亡原因(即ち、移植片対宿主病(GvHD)のリスク等、移植後の早い時期に免疫防御が不十分な患者が直面する危険)の克服に役立つことができる。
【0005】
このアプローチでは、腫瘍又はウイルス特異的T細胞のエクスビボの作製と、患者への注入とが必要である。T細胞の受け入れをサポートするために、患者は通常、前処置プロトコル、例えば、プレコンディショニングプロトコル(例えば、照射又は化学療法)及び/又はリンパ球増殖因子(IL-2等)の投与による治療も行う。腫瘍特異的リンパ球を作製するための多くの方法が記載されているが、2つの主なアプローチは、抗原特異的T細胞の増殖又は遺伝子工学を用いたT細胞のリダイレクションである。
【0006】
遺伝子改変アプローチを用い、トランスジェニックTCR鎖又はキメラ受容体の使用によって腫瘍に対してリンパ球をリダイレクトする。現在、標的認識がモノクローナル抗体の単鎖可変領域ドメイン(scFv)に依存しているキメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)のレトロウイルス又はレンチウイルス又はエレクトロポレーションによる伝達が、治療用T細胞(それぞれCAR-T細胞又はTCR-T細胞)の安定した作製に通常用いられている[Fujiwara, Pharmaceuticals (2014) 7: 1049-1068]。
【0007】
CAR-T細胞はHLA拘束を受けない。キメラ受容体(キメラ抗原受容体:CAR)の構築物は通常、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質シグナル伝達ドメインで構成されている。本来のキメラ受容体(即ち「第一世代」)は、CD3ζ鎖由来の細胞内ドメインに融合したscFv断片で構成されていた。様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、CD137、4-1BB、ICOS)由来の細胞内シグナル伝達ドメインをCARの細胞質尾部に付加して、T細胞に更なるシグナルをもたらす「第二世代」キメラ受容体も作製された。前臨床研究では、「第二世代」CARがT細胞の抗腫瘍活性を向上させたことが示されている。CD3ゼータ-CD28-4-1BBやCD3ゼータ-CD28-OX40等の複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせて、効力を更に増強させる「第三世代」CARが最近作製された。
【0008】
様々な腫瘍抗原を標的とする腫瘍特異的CARが、様々な癌の治療用に臨床で試験されている。標的とされるこのような癌及びその抗原の例としては、濾胞性リンパ腫(CD20又はGD2)、神経芽細胞腫(CD171)、非ホジキンリンパ腫(CD20)、リンパ腫(CD19)、神経膠芽腫(IL13Rα2)、慢性リンパ性白血病(即ち、CLL)及び急性リンパ性白血病(即ち、ALL)(両方ともCD19)が挙げられる。卵巣癌、前立腺癌、乳癌、腎臓癌、結腸癌、神経芽細胞腫等の固形腫瘍に対する活性を示すCARが研究中である。HIV等のウイルスを保有する細胞を攻撃するウイルス特異的CARも開発されている。例えば、HIVの治療にGp100に特異的なCARを用いた臨床試験が開始された(Chicaybam, Ibid)。
【0009】
養子細胞療法用にT細胞を改変するための様々なアプローチが検討されており、その一部はGilham et al., Human Gene Therapy (2015) 26:276-285; in Sharpe and Mount, Disease Models and Mechanisms (2015) 8:337-350及びGouble et al. Blood (2014) 124(21) 4689.に記載されている。
【0010】
細胞表面受容体を発現し、移植片対宿主(GVH)活性を欠くように形質導入された、遺伝子改変寛容誘導Tリンパ球の作製と、その免疫療法への使用については様々なアプローチが検討されているが、その一部を以下にまとめる。
【0011】
国際公開第2018/134824号には、単離された細胞障害性Tリンパ球(CTL)が開示されており、このCTLは寛容誘導性であって、アロ反応性が実質的に消失しており、このCTLは、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体(例えば、キメラ抗原受容体、即ち、CAR)を発現するように形質導入されている。このようなCTLを作製する方法と、治療におけるそのCTLの使用も開示されている。
【0012】
国際公開第2017/009853号には、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する単離細胞が開示されており、このTcmは寛容誘導性であって、移植後にリンパ節にホーミングすることができ、このTcmは、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体(例えば、キメラ抗原受容体、即ち、CAR)を発現するように形質転換されている。このようなTcm細胞を作製する方法と、治療におけるその細胞の使用も開示されている。
【0013】
国際公開第/2018/002924号には、Tcm表現型を含む非GvHD誘導性細胞の単離集団が開示されており、この細胞は寛容誘導細胞であり、及び/又は抗疾患活性が付与されており、移植後にリンパ節にホーミングすることができる。WO/2018/002924によって教示されるTcm細胞は、抗原活性化によってメモリーT細胞からアロ反応性クローンを枯渇させることでメモリーT細胞から作製される。このようなTcm細胞を作製する方法と、治療におけるその細胞の使用も開示されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法であって、(a)T細胞を含む細胞集団あって、T細胞が少なくとも40%のメモリーCD8+T細胞を含む集団を用意することと、(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、細胞から移植片対宿主(GVH)反応性を除くことと、(c)T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを当該細胞に形質導入することと、を含み、それによって遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法が提供される。
【0015】
本発明の幾つかの実施形態によれば、工程(b)を工程(c)と同時に行う。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態によれば、工程(b)を工程(c)の前に行う。
【0017】
本発明の幾つかの実施形態によれば、工程(c)を工程(b)の前に行う。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本発明の幾つかの実施形態の方法に従って得ることができる遺伝子改変ベト細胞の単離集団が提供される。
【0019】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団と薬学的に有効な担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0020】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、疾患の治療を必要とする対象において疾患を治療する方法であって、治療有効量の本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団を対象に投与し、それによって対象を治療することを含む方法が提供される。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、疾患の治療を必要とする対象における疾患の治療に使用するための、治療有効量の本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団が提供される。
【0022】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、疾患の治療を必要とする対象において疾患を治療する方法であって、(a)疾患に関連する1種以上の抗原の存在について対象の生体試料を分析することと、(b)疾患に関連する1種以上の抗原に対し、本発明の幾つかの実施形態の方法に従って遺伝子改変ベト細胞を作製することと、(c)治療有効量の工程(b)の遺伝子改変ベト細胞を対象に投与することとを含み、それによって対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0023】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法であって、(a)対象に細胞又は組織移植片を移植することと、(b)有効量の本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団を対象に投与することとを含み、それによって細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法が提供される。
【0024】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、対象への細胞又は組織の移植のための補助療法としての、治療有効量の本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団の使用であって、対象は細胞又は組織の移植を必要としている使用が提供される。
【0025】
本発明の幾つかの実施形態によれば、工程(a)において、末梢血単核細胞(PBMC)を、(i)CD4+細胞、CD56+細胞及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤で処理する、又は(ii)CD45RO+細胞、CD8+細胞を選択可能な薬剤で処理することで、CD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むメモリーCD8+T細胞が富化されたT細胞を含む細胞集団を得る。
【0026】
本発明の幾つかの実施形態によれば、異種細胞表面受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)又はトランスジェニックT細胞受容体(tg-TCR)を含む。
【0027】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは少なくとも1個の共刺激ドメインを含む。
【0028】
本発明の幾つかの実施形態によれば、少なくとも1個の共刺激ドメインは、CD28、CD134/OX40、CD137/4-1BB、Lck、ICOS及びDAP10から成る群から選択される。
【0029】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは少なくとも1個のシグナル伝達ドメインを含む。
【0030】
本発明の幾つかの実施形態によれば、シグナル伝達ドメインはCD3ζ又はFcR-γを含む。
【0031】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは膜貫通ドメイン及びヒンジドメインの内の少なくとも1個を含む。
【0032】
本発明の幾つかの実施形態によれば、膜貫通ドメインはCD8及びCD28から選択される。
【0033】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ヒンジドメインはCD8及びCD28から選択される。
【0034】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは、抗体又は抗原結合断片である抗原結合ドメインを含む。
【0035】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗原結合断片はFab又はscFvである。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CAR又はtg-TCRは、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、原虫抗原及び寄生虫抗原から成る群から選択される抗原に結合する。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態によれば、腫瘍抗原は固形腫瘍に関連する。
【0038】
本発明の幾つかの実施形態によれば、腫瘍抗原は血液悪性腫瘍に関連する。
【0039】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ベト細胞の標的となる1種以上の抗原は、CAR又はtg-TCRの標的となる抗原とは異なる。
【0040】
本発明の幾つかの実施形態によれば、メモリーCD8+T細胞はCD45RA+細胞を欠いている。
【0041】
本発明の幾つかの実施形態によれば、メモリーCD8+T細胞はCD4+及び/又はCD56+細胞を欠いている。
【0042】
本発明の幾つかの実施形態によれば、メモリーCD8+T細胞はCD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含む。
【0043】
本発明の幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養することを、(a)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上の抗原と接触させて抗原反応性細胞を富化させることと、(b)工程(a)で得た前記細胞をIL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養してTcm表現型を含む細胞を増殖させることとを含む方法によって行う。
【0044】
本発明の幾つかの実施形態によれば、1種以上の抗原は1種以上のサードパーティー抗原を含む。
【0045】
本発明の幾つかの実施形態によれば、1種以上の抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍抗原、タンパク質抽出物、精製タンパク質及び合成ペプチドから成る群から選択される。
【0046】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ウイルス抗原は1種以上のウイルスペプチドを含む。
【0047】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ウイルス抗原は、EBVペプチド、CMVペプチド、アデノウイルス(Adv)ペプチド及び/又はBKウイルスペプチドを含む。
【0048】
本発明の幾つかの実施形態によれば、1種以上の抗原は、抗原提示細胞、人工媒体又は人工抗原提示細胞によって提示される。
【0049】
本発明の幾つかの実施形態によれば、1種以上の抗原は、T細胞を含む細胞集団と同じ起源の抗原提示細胞によって提示される。
【0050】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗原提示細胞は樹状細胞である。
【0051】
本発明の幾つかの実施形態によれば、IL-21の存在下でT細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と接触させることは12時間~6日間行う。
【0052】
本発明の幾つかの実施形態によれば、IL-21の存在下でT細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と接触させることは3日間行う。
【0053】
本発明の幾つかの実施形態によれば、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下、工程(a)で得た細胞の培養を12時間~20日間行う。
【0054】
本発明の幾つかの実施形態によれば、IL-21、IL-15及びIL-7の存在下、工程(a)で得た細胞の培養を4日間~12日間行う。
【0055】
本発明の幾つかの実施形態によれば、IL-21、IL-15及びIL-7の存在下、工程(a)で得た細胞の培養を9日間行う。
【0056】
本発明の幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を作製するための合計期間は12日間の培養である。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法は、工程(b)の後にアロ反応性細胞を枯渇させることを更に含む。
【0058】
本発明の幾つかの実施形態によれば、アロ反応性細胞の枯渇は、Tcm表現型を含む細胞を宿主抗原提示細胞(APC)と接触させた後にCD137+及び/又はCD25+細胞を枯渇させて行う。
【0059】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法はエクスビボで行う。
【0060】
本発明の幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型はCD3+、CD8+、CD62L+、CD45RA-、CD45RO+シグネチャーを含む。
【0061】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞の少なくとも50%がCD3+CD8+細胞であり、その少なくとも30%がシグネチャーを有する。
【0062】
本発明の幾つかの実施形態によれば、形質導入は培養の3~7日目に行う。
【0063】
本発明の幾つかの実施形態によれば、形質導入にはCAR又はtg-TCRをコードするポリヌクレオチドを用いる。
【0064】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞には抗ウイルス活性が付与される。
【0065】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞には抗疾患活性を付与される。
【0066】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞には抗腫瘍活性が付与される。
【0067】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞集団は多様な細胞集団を含む。
【0068】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞集団内のベト細胞の少なくとも10%は異種細胞表面受容体を発現する。
【0069】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法は、細胞又は組織移植片を対象に移植することを更に含む。
【0070】
本発明の幾つかの実施形態によれば、治療有効量の遺伝子改変ベト細胞の単離集団は細胞又は組織移植片を更に含む。
【0071】
本発明の幾つかの実施形態によれば、移植は遺伝子改変ベト細胞の投与と同時に行うか、又は投与前又は投与後に行う。
【0072】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の投与は、細胞又は組織移植片の投与前、投与と同時、又は投与後に行う。
【0073】
本発明の幾つかの実施形態によれば、疾患は、悪性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、真菌性疾患、原虫性疾患及び寄生虫性疾患から成る群から選択される。
【0074】
本発明の幾つかの実施形態によれば、悪性疾患は固形腫瘍又は腫瘍転移である。
【0075】
本発明の幾つかの実施形態によれば、悪性疾患は血液悪性腫瘍である。
【0076】
本発明の幾つかの実施形態によれば、血液悪性腫瘍は白血病、リンパ腫又は多発性骨髄腫を含む。
【0077】
本発明の幾つかの実施形態によれば、悪性疾患は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、黒色腫、肉腫、神経芽細胞腫、結腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、滑膜細胞癌及び膵臓癌から成る群から選択される。
【0078】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ウイルス性疾患は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス(Adv)、BKウイルス、免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザ、T細胞白血病ウイルス1型(TAX)、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)から成る群から選択されるウイルスに起因する。
【0079】
本発明の幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞は対象と非同系である。
【0080】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法は、投与前に亜致死的、致死的又は超致死的前処置プロトコルの下で対象に前処置を行うことを更に含む。
【0081】
本発明の幾つかの実施形態によれば、使用する治療有効量は、亜致死的、致死的又は超致死的前処置プロトコルを更に含む。
【0082】
本発明の幾つかの実施形態によれば、亜致死的、致死的又は超致死的前処置は、骨髄破壊的前処置、非骨髄破壊的前処置、共刺激遮断、化学療法剤、放射線療法及び免疫療法から成る群から選択される。
【0083】
本発明の幾つかの実施形態によれば、非骨髄破壊的前処置はT細胞減量を含む。
【0084】
本発明の幾つかの実施形態によれば、T細胞減量は、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)抗体、抗CD52抗体及び抗CD3(OKT3)抗体から成る群から選択される抗体によって行う。
【0085】
本発明の幾つかの実施形態によれば、気管内、気管支内、肺胞内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、皮下、髄内、髄腔内、心室内、心臓内、筋肉内、漿膜内、粘膜内、経粘膜、経鼻、直腸内及び腸管内から成る群から選択される経路によって投与を行う。
【0086】
本発明の幾つかの実施形態によれば、対象はヒト対象である。
【0087】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価な方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を下に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0088】
本発明の幾つかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【
図1A】Tセントラルメモリーベト細胞を作製するための本発明の幾つかの実施形態のプロトコルの概略図である。
【
図1B】CARレトロウイルスベクター、即ち、pBulletレトロウイルスベクターにクローニングされたscFvN29CARを示す。
【
図2】サードパーティー刺激用にウイルスペプチドをロードした樹状細胞(DC)と共培養したメモリーT細胞から作製された抗ウイルスベトTcm細胞におけるアロ反応性の顕著な消失を示す。ベトTcm細胞のはCD4
-CD56
-(青色/菱形で表示、即ち、ナイーブT細胞とメモリーT細胞の組み合わせ集団)又はCD4
-CD56
-CD45RA
-(緑色/三角で表示、即ち、メモリーT細胞)ドナーレスポンダー細胞から調製し、これらは、3日目に、IL-21の存在下、EBV、CMV、BKV及びアデノウイルスに由来するウイルスペプチドでパルスした照射自己DCに対して3日間共培養し、3日目~15日目にIL-21、IL-15及びIL-7を添加した。15日目に、新鮮なCD4
-CD56
-CD19
-細胞(赤色/四角で表示)の対照集団を新たに解凍したドナー細胞からビーズソーティングした。3種全ての細胞調製物(即ち、抗ウイルスベト細胞TcmCD4
-CD56
-細胞、抗ウイルスベト細胞TcmCD4
-CD56
-CD45RA
-細胞及び新鮮なCD4
-CD56
-CD19
-細胞)を照射宿主末梢血単核細胞(PBMC)に対して5日間培養した後、回収し、エフェクター表現型の誘導用IL-2の存在下、限界希釈アッセイ(LDA)にて照射宿主PBMCに対して6日間再刺激した。21日目に、コンカナバリンA(ConA)芽球宿主起源に対してS35-メチオニンLDAキリングアッセイを行った。混合リンパ球反応(MLR)の5時間後、ウェルから上清を回収し、シンチレーション液を添加した。培養毎の細胞数に対する非応答培養物(%)の線形回帰プロットが示されている。特定の培養物中の抗宿主クローンの頻度(f)を線形回帰勾配から計算した。
【
図3-1】
図3A~Eは、ベトCAR-T細胞のベト活性を示す。(
図3A)形質導入ベト細胞の表現型。(
図3B)培養12日目にFACSで測定した、形質導入ベト細胞におけるN29CAR-GFPの発現。(
図3C)ベトCAR-T細胞は、IFN-γの分泌によって測定されるように、Her2陽性標的細胞(SKOV:卵巣癌細胞株)に対して、通常の形質導入T細胞によって示されるものと同様の反応性を示す。
【
図3-2】(
図3D)CAR形質導入後にベトCAR-T細胞のベト活性を測定すると、ドナー型刺激因子に対するレスポンダー細胞の混合リンパ球反応(MLR)にドナー由来ベト細胞(特異的ベト、1:5の比率)を添加した後の方が、サードパーティー刺激因子に対するレスポンダー細胞のMLRにドナー由来ベト細胞(非特異的ベト、1:5の比率)を添加した場合と比較して、顕著なベト活性を示す。培養終了時のアロ反応性クローンの頻度は、限界希釈分析後に様々なレスポンダー濃度で応答細胞を検出する能力を測定することによって定められる。各頻度の決定に関して、線は推定値(最小x
2)を表す。(
図3E)1個のアロ反応性クローンの培養で検出に必要な細胞の推定数(
図3Dに示す限界希釈分析に基づく)。非特異的培養は、サードパーティー刺激因子に対するMLRへのベト細胞の添加を表す。特異的培養は、ドナーに対するMLRへのドナー由来ベト細胞の添加を表す。
【
図4】
図4A~Cは、INF-γとTNF-αの細胞内染色によって求められるベトTcm細胞の抗ウイルス活性を示す。ブレフェルジンA(eBioscience社)の存在下、37℃、5%のCO
2で6時間、ベト-Tcm細胞を各ウイルスペプチド混合物(EBV、CMV、アデノ、BKV)と共培養した。細胞を固定し、透過処理し(Invitrogen Fix&Permセット)、CD45、CD3、CD8、IFN-γ及びTNF-α(BD)について免疫染色した。陽性対照にはPMA/イオノマイシンによるTCR非依存性刺激が含まれていた。CD45+/FSCリンパ球ゲートとCD3
+CD8
+に細胞をゲートした。
【
図5】ベト-CAR細胞形質導入の較正を示す。示された日にベクターをベト細胞に形質導入し、レポーターGFPも発現するキメラ抗原受容体(即ち、抗ErbB-2(N29))を発現させた。ベト-CAR細胞の形質導入率は、T細胞のCD3染色とCAR T指標としてのGFP発現に基づき分析した。
【発明を実施するための形態】
【0090】
本発明は、その幾つかの実施形態において、メモリーCD8+T細胞から作製され、細胞表面受容体を発現するように形質導入された遺伝子改変ベト細胞に関し、より詳細には、例えば当該ベト細胞の製造方法と免疫療法における当該ベト細胞の使用に関する。
【0091】
本発明の原理と作用は、図面とそれに付随する説明を参照することによってよく理解することができる。
【0092】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示すか又は実施例で例示する詳細に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、様々な手段で実施又は実行することが可能である。また、本明細書で使用される語句や用語は、説明のためのものであり、限定的なものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【0093】
古い免疫系を完全に除去せずに新しい免疫系を移植させるという目標は、癌患者にとって非常に望ましい。これは、重要な免疫再構築期間に伴う移植関連の主な死亡原因(即ち、移植後の早い時期に免疫防御が不十分な患者が直面する危険)(移植片対宿主病(GvHD)のリスク等)に対処する。
【0094】
リンパ球と抗原提示細胞を用いた細胞ベースの治療法は、免疫療法(癌治療等)の有望なアプローチである。CAR-T細胞等の免疫由来細胞の移入を含む養子細胞移入(ACT)は、免疫学的機能と特徴を宿主に導入するという最終ゴールを提供する。しかし、移植片拒絶(移植レシピエントによる)及び/又はGvHD(移植細胞による)の問題は進行中の問題であり、このような細胞の治療可能性を追求する上で克服する必要がある。
【0095】
本発明を実用化するに際し、本発明者らはドナーのT細胞メモリープールから作製され、培養の最初の3日間に亘ってサイトカイン欠乏下でウイルス抗原に対して培養されたベトセントラルメモリーT(Tcm)細胞には固有のベト寛容誘導活性(例えば、移植片拒絶の回避)が付与され、当該細胞が抗ウイルス活性を含み、移植片対宿主病(GvHD)を誘発しないことを明らかにした。本発明者らは更に、ベトTcm細胞が、T細胞受容体(例えば、トランスジェニックT細胞受容体又はキメラ抗原受容体)を発現するように遺伝子改変可能であり、そのベト細胞特性を維持しながら疾患(例えば、腫瘍)との戦いに使用できることを発見した。
【0096】
以下の説明及び後述の実施例で示すように、本発明者らは、先ず、ウイルスペプチド(EBV、CMV、アデノウイルス及びBKウイルス、後述の実施例1を参照)でパルスしたドナー樹状細胞(DC)に対する刺激によってドナーのT細胞メモリープールからセントラルメモリーCD8
+ベト細胞を作製した後、キメラ抗原受容体(例えば、scFv N29 CAR、後述の実施例2を参照)を発現するようにレトロウイルス上清を細胞に形質導入する(例えば、培養5日目)ことによって、数日(例えば、9日)以内でベトCAR-T細胞を作製できることを示した。このプロトコルによって、ヒト抗ウイルスCD8
+ベト細胞で高レベルのCAR発現がもたらされる。具体的には、培養終了時(例えば、培養12日目)に回収されたベト細胞産物は90%超のCD8
+T細胞を示し(
図3A参照)、その内の70%超がトランスフェクトCAR(例えば、抗Her2 CAR、
図3B参照)を発現した。重要なことには、ベトCAR-T細胞はそのベト効果を示し(
図3D~E参照)、その標的抗原に対する特異的な反応性を示した(例えば、Her2抗原、
図3C参照)。
【0097】
本発明のベトCAR-T細胞は、造血幹細胞移植(HSCT)の状況、具体的には非骨髄破壊的ハプロタイプ一致高用量T細胞枯渇移植の状況において使用することができ、重度の移植片対宿主病を防ぎながら移植片拒絶を克服し、癌細胞を積極的に死滅させることができる。特に、非骨髄破壊的前処置は、レシピエント対象の免疫系(T細胞を含む)の全てを除去するのではなく、新たに形成されたドナー由来T細胞が胸腺から出現するまで、病原体に対する免疫防御をもたらす。また、本発明のベトCAR-T細胞はウイルス抗原に対する培養で増殖するため、ウイルス感染、例えば、HSCT後に悪影響を及ぼすことが知られているエプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス及びBKウイルスからの防御を更にもたらす。本発明のベトCAR-T細胞は更に、血液悪性腫瘍を有する患者(例えば、再発した患者)の治療のためにHSCTを行わずに使用することができる。
【0098】
以上をまとめると、本発明のベトCAR-T細胞は、(1)寛容誘導細胞である(移植片拒絶やGvHDを回避する)、(2)抗ウイルス活性を含む、及び(3)抗腫瘍活性を含むという解決策を全て単一細胞でもたらす。従って、ベトCAR-T細胞は、疾患治療のために単独で使用することもでき、造血幹細胞移植片(例えば、ハプロタイプ一致HSCT)と併用して生着や疾患治療を促進することもできる。更に、このような細胞は、「患者毎に」細胞ベースの治療法を生み出す必要性を克服し、治療用の「既製」製品の製造を可能にする。
【0099】
従って、本発明の一様相によれば、遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法であって、(a)メモリーCD8+T細胞を少なくとも40%含むT細胞を含む細胞集団を用意することと、(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有し、GVH反応性を欠く寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養することと、(c)T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを当該細胞に形質導入することを含み、それによって遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法が提供される。
【0100】
本発明の他の様相によれば、遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法であって、(a)末梢血単核細胞(PBMC)をCD4+細胞、CD56+細胞及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤で処理するか、又はCD45RO+、CD8+細胞を選択可能な薬剤で処理することで、CD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むメモリーCD8+T細胞が富化されたT細胞を含む細胞集団を得ることと、(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、細胞からGVH反応性を除くことと、(c)T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを当該細胞に形質導入することとを含み、それによって遺伝子改変ベト細胞集団を作製する方法が提供される。
【0101】
本明細書で使用される「寛容誘導細胞」という語句は、寛容誘導細胞が投与されていないレシピエントの細胞の反応性と比較して、ドナー細胞と接触した際にレシピエントの細胞(例えば、レシピエントのT細胞)の反応性の低下を誘発する細胞を意味する。寛容誘導細胞としては、先に国際公開第2001/049243号及び国際公開第2002/102971号に記載されているようなベト細胞(即ち、宿主T細胞との接触によりそのアポトーシスをもたらすT細胞)が挙げられる。
【0102】
「ベト活性」という用語は、ベト細胞を認識して結合すると、抗ドナーレシピエントT細胞の不活性化をもたらす免疫細胞(例えば、ドナー由来T細胞)に関連するものである。一実施形態によれば、この不活性化によって抗ドナーレシピエントT細胞のアポトーシスがもたらされる。ベト細胞は通常、応答性T細胞(即ち、ベト細胞に対するT細胞)のT細胞受容体に基づいて寛容誘導活性を発揮することが理解されよう。従って、ベト活性は、応答性T細胞によるベト細胞の一方向の認識から生じるが、その逆はない。また、ベト細胞は通常、T細胞受容体(TCR)非依存性機序でその活性を発揮する(Ophir and Reisner, Front Immunol. (2012) 93(3): 1-6、及びArditti et al., Blood (2005) 105(8):3365-71. Epub 2004 Jul 6で先に記載された通りである)。
【0103】
本発明の幾つかの実施形態の寛容誘導細胞は、本明細書では「ベト細胞」とも称される。
【0104】
本発明の幾つかの実施形態のベト細胞はTcm表現型を含む。
【0105】
本明細書で使用される「セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型」という語句は、リンパ節にホーミングするT細胞のサブセットを意味する。Tcm表現型を有する細胞は、ヒトにおいては通常、CD3+/CD8+/CD62L+/CD45RO+/CD45RA-シグネチャーを含む。Tcm細胞は、単一の細胞で全てのシグネチャーマーカーを発現することもあり、単一の細胞でシグネチャーマーカーの一部のみを発現することもあることは理解されよう。細胞表現型の決定は、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)や捕捉ELISA標識等、当業者に知られているいずれかの方法によって行うことができる。
【0106】
一実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%はTcm細胞シグネチャーを有する。
【0107】
特定の実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の約10~20%、約10~30%、約10~40%、約10~50%、約20~30%、約20~40%、約30~40%、約30~50%、約40~50%、約40~60%、約50~60%、約50~70%、約60~70%、約60~80%、約70~80%、約70~90%、約80~90%、約80~100%、又は約90~100%はTcm細胞シグネチャーを有する。
【0108】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約10%を含む。
【0109】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約30%を含む。
【0110】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約50%を含む。
【0111】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約70%を含む。
【0112】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約80%を含む。
【0113】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を有する細胞は遺伝子改変ベト細胞の約90%を含む。
【0114】
本発明のTcm表現型を含むベト細胞は、本明細書では「Tcm細胞」又は「ベトTcm細胞」とも称される。
【0115】
上述のように、Tcm細胞は通常、移植後にリンパ節にホーミングする。幾つかの実施形態によれば、本発明の幾つかの実施形態の細胞は、移植後にいずれかのリンパ節、例えば、末梢リンパ節や腸間膜リンパ節にホーミングすることができる。このようなホーミング性質によって、当該ベト細胞は迅速且つ効率的にベト効果を発揮することができる。
【0116】
本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞は単離細胞である。
【0117】
「単離」という用語は、その自然環境(例えば、細胞、組織、又は人体)から少なくとも一部分離されたことを意味する。
【0118】
一実施形態によれば、遺伝子改変細胞集団は、均一な細胞混合物(クローン集団とも称される)を含む。
【0119】
一実施形態によれば、遺伝子改変細胞集団は、不均一な細胞混合物(細胞の多様な集団とも称される)を含む。
【0120】
幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞は移植片対宿主(GVH)反応性を欠く。
【0121】
幾つかの実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞は非GvHD誘導細胞である。
【0122】
本明細書で使用される「非移植片対宿主」又は「非GVH」という用語は、移植片対宿主疾患(GVHD)を誘発する反応性が実質的に低下しているか、又は全くないことを意味する。従って、本発明の幾つかの実施形態の細胞は、移植後30~120日の移植対象の生存、体重及び全体的な外観によって明らかとなるGVHDを有意に引き起こさないように作製する。GVHDの抑制について対象を評価する方法は当業者に良く知られている。
【0123】
一実施形態によれば、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞は、本開示に従って作製されたものではない細胞(例えば、CAR-T細胞)と比較して、宿主に対する反応性が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は100%低下している。
【0124】
上記に加えて、または代わりに、本発明の幾つかの実施形態のTcm表現型を含む遺伝子改変ベト細胞は、抗疾患活性を含む。
【0125】
「抗疾患活性」という用語は、疾患細胞に対するTcm表現型を含むベト細胞の機能を意味する。抗疾患活性は疾患細胞に対して直接的(例えば、疾患細胞の死滅能力)とすることができる。この活性は、LFA1-I/CAM1結合によって媒介されるTCR非依存性死滅に起因する場合がある[Arditti et al., Blood (2005) 105(8):3365-71. Epub 2004 Jul 6]。上記に加えて、または代わりに、抗疾患活性は、細胞の遺伝子改変(例えば、後述するように、キメラ抗原受容体やトランスジェニックT細胞受容体等のT細胞受容体の発現)に起因する場合がある。上記に加えて、または代わりに、抗疾患活性は間接的な場合がある。例えば、疾患細胞の死をもたらす(例えば、死滅やアポトーシスによるか、又は抗体、サイトカイン等の他の因子の分泌による等)他の種の細胞(例えば、CD4+T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、NK細胞)の活性化による場合がある。
【0126】
「抗ウイルス活性」という用語は、ウイルス感染細胞に対するTcm細胞の機能を意味する(例えば、細胞表面のMHC-ペプチド複合体に関してウイルス抗原を発現する)。通常、抗ウイルス活性はウイルス感染細胞の死滅をもたらす。
【0127】
「抗腫瘍活性」という用語は、腫瘍細胞に対するTcm細胞の機能を意味する。通常、抗腫瘍活性は腫瘍細胞の死滅をもたらす。特定の実施形態によれば、抗腫瘍活性は移植片対白血病/リンパ腫(GVL)活性を含む。
【0128】
疾患細胞は、例えば、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞、癌細胞[例えば、固形腫瘍又は白血病の細胞/リンパ腫細胞(本明細書ではTcm細胞の移植片対白血病(GVL)活性とも称される)]、又はストレス、放射線又は年齢により変化した細胞を含むことができる。
【0129】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を含む遺伝子改変ベト細胞には抗ウイルス活性(例えば、以下に詳述するように、Tcm細胞の作製によってベト細胞に認識される1種以上の抗原を提示するウイルス感染細胞に対する)が付与される。
【0130】
特定の実施形態によれば、Tcm表現型を含む遺伝子改変ベト細胞には抗腫瘍活性(例えば、以下に詳述するように、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体による)が付与される。
【0131】
幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型を含む本発明の幾つかの実施形態のベト細胞は遺伝子改変されている。
【0132】
「遺伝子改変された」という用語は、必要な適用に応じて(例えば、治療する疾患に応じて)、特定の遺伝子、マーカー又はペプチドを発現するか又は発現しないように、或いは特定のサイトカインを分泌するか又は分泌しないように操作された細胞を意味する。
【0133】
一実施形態によれば、Tcm表現型を含む本発明の幾つかの実施形態のベト細胞は、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体を発現するように形質導入される。
【0134】
本明細書で使用される「形質導入された」という用語は、「トランスフェクトされた」又は「形質転換された」という用語と互換的に使用することができ、外因性核酸(異種)を細胞に移入又は導入するプロセスを意味する。「トランスフェクトされた」、「形質転換された」又は「形質導入された」細胞は、外因性核酸をトランスフェクト、形質転換又は形質導入された細胞である。この細胞には初代細胞及びその子孫、又はその細胞株が含まれる。
【0135】
本明細書で使用される「細胞表面受容体」という用語は、リガンド(例えば、抗原)に結合し、細胞の活性化を媒介する、細胞膜に提示される組換え分子又は合成分子を意味する。
【0136】
本明細書で使用される「抗原」又は「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する可溶性又は不溶性(膜結合性等)分子として定義される。当業者であれば、ほぼ全てのタンパク質又はペプチド、及び炭水化物、脂質及びDNA等のあらゆる巨大分子が抗原として作用し得ることを理解するであろう。
【0137】
本発明の幾つかの実施形態によれば、以下で更に詳述するように、抗原は、悪性疾患、即ち、腫瘍抗原(例えば、腫瘍特異的抗原や腫瘍関連抗原)、ウイルスタンパク質抗原、細菌タンパク質抗原、又は真菌タンパク質抗原と関連している。
【0138】
本発明の細胞表面受容体はT細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む。
【0139】
「T細胞受容体シグナル伝達モジュール」という用語は、受容体が配置されたT細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1種の活性化に関与する受容体の細胞内部分を意味する。T細胞の正常なエフェクター機能としては、例えば、免疫賦活性サイトカイン(例えば、IFN-ガンマ、IL-2、TNF-アルファ)の分泌、抗原特異的細胞傷害性、及び細胞増殖を挙げることができる。従って、本発明のT細胞受容体シグナル伝達モジュールは、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特定の機能を実行するように指示するタンパク質の部分を意味する。
【0140】
一実施形態によれば、細胞表面受容体は、トランスジェニックT細胞受容体(tg-TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0141】
本明細書で使用される「トランスジェニックT細胞受容体」又は「tg-TCR」という用語は、T細胞受容体(TCR)の特異性、即ち、主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質によって提示される抗原ペプチド(即ち、抗原)の認識を含む組換え分子又は合成分子を意味する。通常、TCRは抗原、即ち、細胞によって処理され、MHC複合体にロードされ、ペプチド-MHC複合体として細胞膜に輸送された外来(例えば、ウイルス)又は細胞(例えば、腫瘍)起源のペプチドを認識する。
【0142】
本発明のtg-TCRは通常、T細胞受容体(TCR)のアルファ鎖、TCRのベータ鎖、TCRのガンマ鎖、TCRのデルタ鎖、又はその組み合わせ(例えば、αβ鎖やγδ鎖)等の2種の鎖(即ち、ポリペプチド鎖)を含む。tg-TCRのポリペプチドは、上述のようにtg-TCRが抗原特異性及びT細胞エフェクター機能を有するのであれば、いかなるアミノ酸配列をも含むことができる。抗原特異性がTCRヘテロ二量体によって(即ち、αβ又はγδ鎖によって)決定されることは理解されよう。
【0143】
2種の鎖の各々は通常、2種の細胞外ドメイン、即ち、可変(V)領域と定常(C)領域で構成されることは理解されよう。
【0144】
一実施形態によれば、tg-TCRはTCRの可変領域を含む。特定の実施形態によれば、tg-TCRはTCRのα鎖及びβ鎖の可変領域を含む。他の特定の実施形態によれば、tg-TCRはTCRのγ鎖及びδ鎖の可変領域を含む。
【0145】
本発明の幾つかの実施形態によれば、tg-TCRの可変領域は、抗原に特異的に結合することができる相補性決定領域(CDR)を含む。CDRは、CDR1、CDR2、CDR3及び/又はCDR4のいずれかから選択することができる。特定の実施形態によれば、CDRは単鎖に存在し、好ましくは、CDRはtg-TCRの両方の鎖に存在する。
【0146】
一実施形態によれば、tg-TCRはTCRの定常領域を含む。特定の実施形態によれば、tg-TCRはTCRのα鎖及びβ鎖の定常領域を含む。他の特定の実施形態によれば、tg-TCRはTCRのγ鎖及びδ鎖の定常領域を含む。
【0147】
内因性TCR(即ち、形質導入された細胞内に由来するTCR)とtg-TCR鎖との間の混合二量体の形成を回避するため、本発明のtg-TCRは、ネズミ科(例えば、マウス)TCRの定常領域を含むことができる。tg-TCR鎖の特異的な対形成を増加させるために利用できる他のアプローチは、tg-TCR鎖(例えば、α及びβ鎖)の定常領域内に追加のシステイン残基を導入することであり、これによって追加のジスルフィド結合が形成される。或いは、tg-TCR鎖(例えば、α及びβ鎖)の定常領域の重要な相互作用アミノ酸の変異反転を導入して、tg-TCR鎖の対形成を促進し、tg-TCR反応性を高めることもできる。或いは又は更には、内因性TCRのダウンレギュレーションは、例えば、内因性TCRを特異的にダウンレギュレートするために使用する低分子干渉RNA(siRNA)を使用して行うことができる。更なる詳細については、例えば、Zhang and Morgan, Adv Drug Deliv Rev. (2012) 64(8): 756-762(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)を参照。
【0148】
上述のように、tg-TCRはMHC依存的に抗原を認識する。
【0149】
本明細書で使用される「主要組織適合性複合体」又は「MHC」という語句は、マウスではH-2、ヒトではヒト白血球抗原(HLA)と総称される連結遺伝子座のグループによってコードされる抗原の複合体を意味する。MHC抗原の2種の主要なクラス(クラスIとクラスII)は各々、組織の種類と移植適合性を決定する役割を果たす細胞表面糖タンパク質のセットを含む。
【0150】
主要なMHCクラスI分子が本明細書では企図される。
【0151】
主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子は、ほぼ全ての細胞の表面に発現している。このような分子は、αβT細胞受容体との相互作用を介して、主に内因性合成タンパク質に由来するペプチドをCD8+T細胞に提示する際に機能する。ヒトにおいては、例えば、HLA-A2、HLA-A1、HLA-A3、HLA-A24、HLA-A28、HLA-A31、HLA-A33、HLA-A34、HLA-B7、HLA-B45及びHLA-Cw8等の数種のMHCハプロタイプが存在するが、これらの配列は、kabbatデータベース(www.immuno.bme.nwu.edu)で見出すことができる。MHCハプロタイプに関する更なる情報は、Paul, B. Fundamental Immunology Lippincott-Raven Pressで見出すことができる。
【0152】
tg-TCRの選択は、標的細胞のMHC-ペプチド複合体を定める抗原の種類と数に依存する。例えば、tg-TCRを選択して、特定の疾患状態に関連する標的細胞のMHC-ペプチド複合体を認識することができる。従って、例えば、tg-TCRによる認識用の抗原として作用し得るマーカーとしては、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染及び癌細胞に関連するものを挙げることができる。以下にその例を示す。
【0153】
tg-TCRをうまく作製するには、先ず適切な標的配列を特定する必要がある。従って、抗原反応性T細胞(例えば、腫瘍反応性T細胞)からTCRを単離してもよく、これが不可能な場合には、代替技術を利用してもよい。例示的な実施形態によれば、トランスジェニック動物(例えば、ウサギ又はマウス、好ましくは、ヒト-HLAトランスジェニックマウス)をヒト抗原ペプチド(例えば、腫瘍又はウイルス抗原)で免疫して、ヒト抗原に対するTCRを発現するT細胞を作製する[例えば、Stanislawski et al., Nat Immunol. (2001) 2(10):962-70に記載の通りである]。他の例示的な実施形態によれば、疾患(例えば、腫瘍)の寛解を経験している患者から抗原特異的T細胞(例えば、腫瘍特異的T細胞)を単離し、そこから反応性TCR配列を単離する[例えば、de Witte et al., Blood (2006) 108(3):870に記載の通りである]。
【0154】
他の例示的な実施形態によれば、インビトロ技術を利用して、既存のTCRの配列を改変し、標的抗原との反応性が弱い抗原特異的TCRの結合活性を高める(このような方法は以下に記載する)。
【0155】
一実施形態によれば、結合活性(即ち、TCRとペプチド-MHC複合体との単量体相互作用の物理的強度)の高い抗原ペプチド-HLA複合体を認識するように本発明のtg-TCRを選択する。
【0156】
機能的結合活性(即ち、抗原に対して有効に応答する結合活性)が高い細胞は、当業者に知られているいずれかの方法によって作製することができる。従って、一例によれば、tg-TCRの結合活性の増強は、tg-TCRの親和性(即ち、TCRのそのリガンドへの結合強度)を高めるか、又は細胞表面のtg-TCRの発現を高めることによって行う。例示的な一実施形態によれば、TCR親和性の増強はtg-TCR遺伝子の改変によって行う。例えば、tg-TCR遺伝子の1つの可能な改変としては、tg-TCRの相補性決定領域(CDR)(例えば、第3のCDR(CDR3))に対する改変が挙げられる。従って、tg-TCRの親和性を高め、形質導入細胞における抗原特異的反応性を高めるために、CDR鎖(例えば、α鎖又はβ鎖)における単一又は二重アミノ酸置換を利用することができる。他の例示的な実施形態によれば、tg-TCRの機能的結合活性の増強は、tg-TCR鎖の定常ドメインにおける所定のN-グリコシル化モチーフの除去によって行う。他の例示的な実施形態によれば、親和性の増強はコドン最適化によって行う。
【0157】
従って、tg-TCRの希少コドンを、高度発現ヒト遺伝子に最も高頻度に分布するコドンで置換する。最適化プロセス中、シス作用性AT又はGCリッチ配列ストレッチ、潜在的スプライシング及びRNA不安定性モチーフも除去することができる。更なる情報については、例えば、上述のZhang and Morgan, Adv Drug Deliv Rev. (2012)(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)を参照。
【0158】
一実施形態によれば、tg-TCRのシグナル伝達モジュールは、単一のサブユニット又は複数のシグナル伝達ユニットを含むことができる。従って、本発明のtg-TCRは、TCRと協調して作用して抗原受容体結合後のシグナル伝達を開始する共受容体、及び同じ機能的能力を有するその誘導体又は変異体のいずれかを使用することができる。
【0159】
一実施形態によれば、TCRシグナル伝達モジュールはCD3複合体(例えば、CD3鎖、例えば、CD3δ/ε、CD3γ/ε及び/又はゼータ鎖、例えば、ζ/ζ又はζ/η)を含む。
【0160】
上記に加えて、または代わりに、TCRシグナル伝達モジュールは、T細胞に更なるシグナルを提供する共刺激タンパク質受容体を含むことができる。これらに関しては、以下でCAR分子について詳述する。
【0161】
一実施形態によれば、以下でCAR分子について詳述するように、tg-TCRは膜貫通ドメインを含むことができる。
【0162】
細胞にTCRを形質導入する方法を以下に詳述する。
【0163】
本明細書で使用される「キメラ抗原受容体(CAR)」という語句は、所望の抗原に対する特異性をT細胞受容体活性化細胞内ドメイン(即ち、T細胞受容体シグナル伝達モジュール)と組み合わせて、特定の抗原に対して細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を作製する組換え又は合成分子を意味する。通常、CARは、主要組織適合性複合体(MHC)とは無関係に、(内部抗原ではなく)細胞表面に発現する抗原(例えば、タンパク質又は非タンパク質)を認識する。
【0164】
従って、本発明のCARは通常、抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び抗原に対するT細胞の効率的な応答に必要な細胞内ドメイン(即ち、細胞質ドメイン)を含む。
【0165】
抗原結合部分
一実施形態では、本発明のCARは標的特異的結合要素(抗原結合部分とも称される)を含む。部分の選択は、標的細胞の表面を定めるリガンド(即ち、抗原)の種類と数に依存する。例えば、抗原結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞の細胞表面マーカーとして作用するリガンド(即ち、抗原)を認識するように選択することができる。従って、本発明のCARにおける抗原部分ドメインのリガンドとして作用し得る細胞表面マーカーの例としては、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染及び癌細胞に関連するものが挙げられる。
【0166】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗原結合部分は、抗原に特異的に結合することができる相補性決定領域(CDR)を含む。そのようなCDRは抗体から得ることができる。
【0167】
本発明で使用される「抗体」という用語は、インタクトな分子及びその機能的断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、線状抗体、scFv抗体、抗原に結合することができる抗体断片から形成される多特異性抗体等を包含する。これらの機能的抗体断片は次のように定義される。(1)Fab:抗体分子の一価の抗原結合断片を含む断片であり、全抗体を酵素パパインで消化してインタクトな軽鎖と1個の重鎖の一部を作製することによって得ることができる。(2)Fab’:全抗体をペプシンで処理した後に還元し、インタクトな軽鎖と重鎖の一部を作製することによって得ることができる抗体分子の断片。抗体分子1個当たり2個のFab’断片が得られる。(3)(Fab’)2:全抗体を酵素ペプシンで処理した後に還元を行わずに得ることができる抗体の断片。F(ab’)2は、2個のジスルフィド結合によって結合された2個のFab’断片の二量体である。(4)Fv:2個の鎖として発現される軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む遺伝子操作断片として定義される。(5)単鎖抗体(「SCA」):遺伝的に融合された単鎖分子として適切なポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む遺伝子操作分子。(6)CDRペプチドは、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。(7)単一ドメイン抗体(ナノボディとも称される):特定の抗原に選択的に結合する、遺伝子操作された単一の単量体可変抗体ドメイン。ナノボディは分子量が12~15kDaに過ぎず、通常の抗体(150~160kDa)よりも遥かに小さい。
【0168】
本明細書で使用される「抗体重鎖」とは、全ての抗体分子の天然の立体構造に存在する2種のポリペプチド鎖の内の大きい方を意味する。
【0169】
本明細書で使用される「抗体軽鎖」とは、全ての抗体分子の天然の立体構造に存在する2種のポリペプチド鎖の内の小さい方を意味する。カッパ軽鎖とラムダ軽鎖は2種の主要な抗体軽鎖アイソタイプを意味する。
【0170】
本明細書で使用される「合成抗体」という用語は、例えば、本明細書に記載のバクテリオファージによって発現される抗体等、組換えDNA技術によって作製される抗体を意味する。この用語は、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製された抗体を意味するとも解釈されるべきであり、このDNA分子は抗体タンパク質、又は抗体を特定するアミノ酸配列を発現するが、DNA又はアミノ酸配列は。当技術分野で利用可能且つ良く知られている合成DNA又はアミノ酸配列技術によって得られたものである。
【0171】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及びその断片を作製する方法は当技術分野で良く知られている(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)を参照)。
【0172】
本発明に係る抗体断片は、抗体のタンパク質分解加水分解によって、又は断片をコードするDNAの大腸菌又は哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養又は他のタンパク質発現系)における発現によって調製することができる。従来の方法による全抗体のペプシン又はパパイン消化によって抗体断片を得ることができる。例えば、抗体をペプシンで酵素的に切断してF(ab’)2と表される5S断片を得ることによって抗体断片を作製することができる。この断片をチオール還元剤によって更に切断し、必要に応じて、ジスルフィド結合の切断で得られるスルフヒドリル基用のブロッキング基を用いて更に切断して3.5SFab’一価断片を作製することができる。或いは、ペプシンを使用した酵素切断によって、2個の一価Fab’断片とFc断片を直接作製する。このような方法は、例えば、Goldenbergの米国特許第4,036,945号及び第4,331,647号とそれらに含まれる参考文献に記載されており、当該特許の全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。更にPorter, R. R.[Biochem. J. 73: 119-126 (1959)]も参照されたい。インタクトな抗体によって認識される抗原に断片が結合する限り、抗体を切断する他の方法、例えば、一価の軽重鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片の更なる切断、又は他の酵素的、化学的又は遺伝的技法等を利用することもできる。
【0173】
Fv断片はVH鎖とVL鎖の結合を含む。Inbar et al.[Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 69:2659-62 (19720]に記載のように、この結合は非共有結合であり得る。或いは、可変鎖は、分子間ジスルフィド結合によって結合するか、グルタルアルデヒド等の化学物質によって架橋することができる。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーによって連結されたVH鎖とVL鎖を含む。このような単鎖抗原結合タンパク質(sFv)の調製は、オリゴヌクレオチドによって連結されたVHドメインとVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって行う。構造遺伝子は、発現ベクターに挿入した後、大腸菌等の宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単一のポリペプチド鎖を合成する。sFvを作製する方法は、例えば、[Whitlow and Filpula, Methods 2: 97-105 (1991); Bird et al., Science 242:423-426 (1988); Pack et al., Bio/Technology 11:1271-77 (1993)、及び米国特許第4,946,778号(この全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)]に記載されている。
【0174】
CDRペプチド(「最小認識単位」)は、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応によって、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製する。例えば、Larrick and Fry[Methods, 2: 106-10 (1991)]を参照。
【0175】
抗体のCDRが同定されれば、従来の遺伝子工学技法によって、本明細書に記載の抗体の形態又は断片のいずれかをコードする発現可能なポリヌクレオチドを合成し、多くの方法の内の1つで改変して一連の関連産物を作製することができる。
【0176】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CDRは、抗原に特異的に結合するαβT細胞受容体(TCR)に由来する。
【0177】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CDRは、抗原に特異的に結合するγδT細胞受容体(TCR)に由来する。
【0178】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CDRは、(本明細書にて上で詳述のように)抗原に特異的に結合する、操作された親和性増強αβT細胞受容体又はγδT細胞受容体(TCR)に由来する。
【0179】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CDRは、安定性又は他のいずれかの生物物理学的特性が改善された、操作されたαβT細胞受容体又はγδT細胞受容体(TCR)に由来する。
【0180】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CDRは、抗原に特異的に結合するT細胞受容体様(TCRL)抗体に由来する。TCRLの例及びそれを作製する方法については、国際公開第03/068201号、国際公開第2008/120203号、国際公開第2012/007950号、国際公開第2009125395号、国際公開第2009/125394号(これらの各々の全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0181】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗原結合ドメインは単鎖Fv(scFv)分子を含む。
【0182】
本発明の特定の実施形態によれば、Li et al. Cancer Gene Ther (2008) 15(6):382-92(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載のように、scFv分子はHER2、例えば、N29モノクローナル抗体由来のscFv分子等を標的とする。
【0183】
本発明の特定の実施形態によれば、Schneider et al. Journal for ImmunoTherapy of Cancer (2017) 5:42(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載のように、scFv分子は、CD19(例えば、FMC63由来の抗原結合ドメインである)又はCD20(例えば、Leu16由来の抗原結合ドメインである)を標的とする。
【0184】
本発明の特定の実施形態によれば、scFv分子はBCMAを標的とする。
【0185】
細胞質ドメイン
本発明のCAR分子の細胞質ドメイン(「細胞内シグナル伝達ドメイン」又は「T細胞受容体シグナル伝達モジュール」とも称される)は、CARが配置された細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1種の活性化に関与する。
【0186】
通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用できるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分が使用される限りでは、そのような切断部分は、エフェクター機能シグナルを伝達する限り、インタクトな鎖の代わりに使用することができる。従って、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルの伝達に十分な細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分を含むことを意味する。
【0187】
本発明のCAR分子で使用する細胞内シグナル伝達ドメインの好ましい例としては、抗原受容体結合後のシグナル伝達開始と協調して作用するT細胞受容体(TCR)と共受容体の細胞質配列、このような配列の誘導体又は変異体のいずれか、及び同じ機能的能力を有する合成配列のいずれかが挙げられる。
【0188】
TCRのみによって作製されるシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次シグナル又は共刺激シグナルも必要であることが知られている。従って、T細胞活性化は、細胞質シグナル伝達配列の2種の異なるクラス、即ち、TCRを介して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)と、抗原非依存的に作用して二次シグナル又は共刺激シグナルをもたらすもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介される場合がある。
【0189】
一次細胞質シグナル伝達配列は、TCR複合体の一次活性化を刺激的又は阻害的に制御する。刺激的に作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含むことができる。
【0190】
本発明で特に使用される、ITAM含有一次細胞質シグナル伝達配列の例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが挙げられる。本発明のCARにおける細胞質シグナル伝達分子は、CD3ゼータ由来の細胞質シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0191】
好ましい実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメインを単独で含むように、又は本発明のCARに関して有用な他の所望の細胞質ドメインと組み合わせて含むように設計することができる。例えば、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータ鎖部分と共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部を意味する。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な抗原受容体又はそのリガンド以外の細胞表面分子である。このような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83と特異的に結合するリガンド等が挙げられる。
【0192】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインは共刺激シグナル伝達領域とゼータ鎖部分を含む。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCAR分子の一部を意味する。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な抗原受容体又はそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0193】
本明細書で使用される「共刺激リガンド」という用語は、T細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドをロードしたMHC分子とTCR/CD3複合体との結合によって得られる一次シグナルに加えて、T細胞応答(例えば、増殖、活性化、分化等が挙げられるが、これらに限定されない)を媒介するシグナルを提供する、抗原提示細胞[例えば、aAPC(人工抗原提示細胞)、樹状細胞、B細胞等]上の分子を包含する。共刺激リガンドとしては、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニスト又は抗体、及びB7-H3と特異的に結合するリガンドを挙げることができるが、これらに限定されない。また、共刺激リガンドは、特に、T細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体(例えば、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83と特異的に結合するリガンドが挙げられるが、これらに限定されない)も包含する。
【0194】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドと特異的に結合し、それによってT細胞による共刺激応答(例えば、増殖が挙げられるが、これに限定されない)を媒介するT細胞上の同族結合パートナーを意味する。共刺激分子としては、MHCクラスI分子、BTLA及びTollリガンド受容体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
本明細書で使用される「共刺激シグナル」とは、TCR/CD3連結等の一次シグナルと組み合わせて、T細胞増殖及び/又は重要な分子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションをもたらすシグナルを意味する。
【0196】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がその同族リガンドと結合して、シグナル伝達イベント(例えば、TCR/CD3複合体を介したシグナル伝達が挙げられるが、これに限定されない)を媒介することによって誘導される一次応答を意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、及び/又は細胞骨格構造の再編成等、特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0197】
本明細書で使用される「刺激分子」という用語は、抗原提示細胞に存在する同族刺激リガンドと特異的に結合するT細胞上の分子を意味する。
【0198】
本明細書で使用される「刺激リガンド」とは、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)に存在する場合、T細胞上の同族結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と称する)と特異的に結合し、それによってT細胞による一次応答(例えば、活性化、免疫応答の開始、増殖等が挙げられるが、これらに限定されない)を媒介することができるリガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野で良く知られており、特に、ペプチドをロードしたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、及びスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0199】
細胞質ドメインに関しては、本発明の幾つかの実施形態のCAR分子は、CD28及び/又は4-1BBシグナル伝達ドメインを単独で含むように、又は本発明の幾つかの実施形態のCAR分子に関して有用な他の所望の細胞質ドメインと組み合わせて含むように設計することができる。一実施形態では、CARの細胞質ドメインは、CD3ゼータのシグナル伝達ドメインを更に含むように設計することができる。例えば、CARの細胞質ドメインとしては、CD3ゼータ、4-1BB及びCD28シグナル伝達モジュール、及びこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0200】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、CD3ζ(CD247、CD3z)、FcR-γ、CD27、CD28、4-1BB/CD137、ICOS、OX40/CD134、DAP10、腫瘍壊死因子受容体(TNFr)及びLskから成る群から選択されるポリペプチドの内の少なくとも1種、例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、例えば、少なくとも6種を含む。
【0201】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、CD3ζ鎖[CD247分子、別名「CD3-ZETA」及び「CD3z」;GenBank受入番号NP_000725.1及びNP_932170.1]を含むが、これは内因性TCR由来シグナルの主要な伝達物質である。
【0202】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、T細胞に追加のシグナルを提供するCAR(「第2世代」CAR)の細胞質尾部に対する様々な共刺激タンパク質受容体を含む。その例としては、CD28[例えば、GenBank受入番号NP_001230006.1、NP_001230007.1、NP_006130.1]、4-1BB[腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー9(TNFRSF9)、別名「CD137」、例えば、GenBank受入番号NP_001552.2]、ICOS[誘導性T細胞共刺激因子、例えば、GenBank受入番号NP_036224.1]、DAP10[造血細胞シグナルトランスデューサー、例えば、GenBank受入番号NP_001007470、NP_055081.1]及びLsk[LCK癌原遺伝子、Srcファミリーチロシンキナーゼ、例えば、GenBank受入番号NP_001036236.1、NP_005347.3]が挙げられるが、これらに限定されない。前臨床研究では「第2世代のCAR設計がT細胞の抗腫瘍活性を改善する」ことが示されている。
【0203】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、効力を更に増強するためにCD3z-CD28-4-1BB又はCD3z-CD28-OX40等の複数のシグナル伝達ドメインを含む。「OX40」という用語は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー4(TNFRSF4)、例えば、GenBank受入番号NP_003318.1(「第3世代」CAR)を意味する。
【0204】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインはCD28-CD3z、CD3z、CD28-CD137-CD3zを含む。「CD137」という用語は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー9(TNFRSF9)、例えば、GenBank受入番号NP_001552.2を意味する。
【0205】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細胞内ドメインはCD3z、CD28及び腫瘍壊死因子受容体(TNFr)を含む。
【0206】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARはCD3ゼータ鎖を含む。
【0207】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは、CD28、CD134/OX40、CD137/4-1BB、Lck、ICOS及びDAP10から成る群から選択される少なくとも1種の共刺激ドメインを含む。
【0208】
本発明の幾つかの実施形態によれば、CARは、CD28、CD134/OX40、CD137/4-1BB、Lck、ICOS及びDAP10から成る群から選択される少なくとも2種の共刺激ドメインを含む。
【0209】
本発明の特定の実施形態によれば、CARはFcRガンマ鎖(例えば、γITAMサブユニットドメイン)を含む。
【0210】
本発明の特定の実施形態によれば、CARはCD28共刺激ドメインを含む。
【0211】
本発明の特定の実施形態によれば、CARはCD28共刺激ドメインとγITAMサブユニットドメインを含む。
【0212】
膜貫通ドメイン
CARの膜貫通ドメインは天然源又は合成源のいずれにも由来することができる。天然源の場合、ドメインは膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質のいずれかに由来することができる。本発明で特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖又はゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来する(即ち、これらの少なくとも膜貫通領域を含む)ことができる。或いは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、主にロイシンやバリン等の疎水性残基を含む。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に見出される。
【0213】
特定の実施形態によれば、膜貫通ドメインはCD8を含む。
【0214】
特定の実施形態によれば、膜貫通ドメインはCD28を含む。
【0215】
場合によっては、短いオリゴペプチド又はポリペプチドリンカー、好ましくは、長さ2~10個のアミノ酸が、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインの間の結合を形成することがある。グリシン-セリンのダブレットは特に適切なリンカーをもたらす。
【0216】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の幾つかの実施形態のCAR分子に含まれる膜貫通ドメインは、CAR内のドメインの1種と天然に関連する膜貫通ドメインである。本発明の幾つかの実施形態によれば、膜貫通ドメインをアミノ酸置換によって選択又は改変して、同一又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えることができる。
【0217】
本発明の幾つかの実施形態によれば、膜貫通ドメインはCD8αヒンジドメインである。
【0218】
幾つかの実施形態によれば、CAR分子の細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、又はCAR分子の細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間にスペーサードメインを組み込むことができる。本明細書で使用される「スペーサードメイン」という用語は通常、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖の細胞外ドメイン又は細胞質ドメインのいずれかに連結させるように機能するオリゴペプチド又はポリペプチドのいずれかを意味する。スペーサードメインは、最大300個のアミノ酸、好ましくは10~100個のアミノ酸、最も好ましくは25~50個のアミノ酸を含むことができる。
【0219】
特定の実施形態によれば、CARはサブユニットscFv-4-1BB-CD3ζを含む。
【0220】
特定の実施形態によれば、CARはサブユニットscFv-CD28-CD3ζを含む。
【0221】
特定の実施形態によれば、CARはサブユニットscFv-CD28-γITAMを含む。
【0222】
特定の実施形態によれば、CARはサブユニットscFv(N29)-CD28-CD3ζを含む。
【0223】
特定の実施形態によれば、CARはサブユニットscFv(N29)-CD28-γITAMを含む。
【0224】
本発明の一実施形態に従って使用することができる例示的なCARベクターとしては、FMC63(抗CD19)抗体及びLeu16(抗CD20)抗体由来の抗原結合ドメインを利用するものが含まれるが、これらに限定されない[Schneider et al., Journal for ImmunoTherapy of Cancer (2017) 5:42(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載]。更なる例示的なCARベクターとしては、例えば、MUC1-CAR-T、NKG2D-CAR-T、BCMA-CAR-T、EGFRvIII-CAR-T、GD2 CAR-T及び抗CD133 CAR-T細胞(CART133)が挙げられる(Guo et al., Cancers (2021) 13: 1955(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載)。
【0225】
本発明に従って市販のベクターも使用することができ、その例としては、pCDCAR1 CD19h(28ζ)(カタログ番号CAR-YF026)、pCDCAR1 CD19h(BBζ)(カタログ番号CAR-YF025)、pCDCAR1 CD19h(BBζ)(カタログ番号CAR-YF090)、pCDCAR1 HER2h(28BBζ)(カタログ番号CAR-LC252)、pCDCAR1 HER2h(28BBζ)(カタログ番号CAR-LC188)、pCDCAR1 HER2h(28BBζ)(カタログ番号CAR-LC253)、pCDCAR1 BCMAh(BBζ)(カタログ番号CAR-LC002)、pCDCAR1 BCMAh(BBζ)(カタログ番号CAR-LC135)及びpCDCAR1 BCMAh(BBζ)(カタログ番号CAR-LC138)(これらは全て、米国Creative Biolabs社より入手可能)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0226】
本発明に従ってコンボCARベクターも使用することができ、その例としては、抗CD19及び抗CD22CAR-T細胞(CAR19/22T細胞カクテル)及びCD19及びCD123二重発現を伴うCAR-Tが挙げられるが、これらに限定されない(Guo et al., Cancers (2021) 13: 1955(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載)。
【0227】
上述のように、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は(例えば、標的細胞上の)抗原に結合する。
【0228】
一実施形態によれば、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は(例えば、標的細胞上の)複数の抗原に結合する。
【0229】
一実施形態によれば、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は二重特異性である(例えば、CD33やCLL1等の2種の異なる抗原を標的とする)。
【0230】
一実施形態によれば、抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、原虫抗原、及び/又は寄生虫抗原を含むことができる。
【0231】
本明細書で使用される「腫瘍抗原」という語句は、癌等の特定の過剰増殖性疾患に共通する抗原を意味する。腫瘍抗原は、免疫応答、特にT細胞媒介性免疫応答を誘発する腫瘍細胞によって作製されるタンパク質である。本発明の抗原結合部分の選択は、治療する癌の特定の種類に依存する。
【0232】
一実施形態によれば、腫瘍抗原は固形腫瘍に関連する。
【0233】
一実施形態によれば、腫瘍抗原は血液悪性腫瘍に関連する。
【0234】
本発明で言及される腫瘍抗原の種類としては、腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)が挙げられる。「TSA」は、腫瘍細胞に特有のタンパク質又はポリペプチド抗原を意味し、体内の他の細胞では生じない。「TAA」は、腫瘍細胞によって発現されるタンパク質又はポリペプチド抗原を意味する。例えば、TAAは、腫瘍細胞の1種以上の表面タンパク質又はポリペプチド、核タンパク質又は糖タンパク質、又はその断片とすることができる。
【0235】
本明細書に記載の抗原は、単に一例として挙げられているにすぎない。そのリストは排他的であることを意図しておらず、当業者には更なる例が容易に明らかであろう。
【0236】
腫瘍抗原は当技術分野で良く知られており、例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児抗原(CEA)、βヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異的抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、p53、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビン及びテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体及びメソテリンが挙げられる。
【0237】
このような分子としては、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼ及びGP100、前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)及び前立腺特異的抗原(PSA)等の組織特異的抗原が挙げられるが、これらに限定されない。他の標的分子は、癌遺伝子HER2/Neu/ErbB-2等の形質転換関連分子のグループに属する。標的抗原の更に他のグループは、癌胎児抗原(CEA)等の癌胎児性抗原である。B細胞リンパ腫では、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンが、個々の腫瘍に特有の真の腫瘍特異的免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20及びCD37等のB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原の他の候補である。これらの抗原の一部(CEA、HER2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体による受動免疫療法の標的として使用されてきたが、限られた成果しか挙げられていない。
【0238】
TSA又はTAA抗原の非限定的な例としては、以下が挙げられる。MART-1/MelanA(MART-1)、gp100(Pmel17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2等の分化抗原、及びMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15等の腫瘍特異的多系列抗原;CEA等の過剰発現胚性抗原;p53、Ras、HER2/neu等の過剰発現癌遺伝子及び変異腫瘍抑制遺伝子;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RAR等の染色体転座に起因する特有の腫瘍抗原;及びエプスタイン・バーウイルス抗原EBVA及びヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6及びE7等のウイルス抗原。他の大型のタンパク質ベースの抗原としては、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA19-9、CA72-4、CAM17.1、NuMa、K-ras、ベータ-カテニン、CDK4、Mum-1、p15、p16、43-9F、5T4、791Tgp72、アルファ-フェトプロテイン、ベータ-HCG、BCA225、BTAA、CA125、CA15-3/CA27.291/BCAA、CA195、CA242、CA-50、CAM43、CD68/P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733/EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90/Mac-2結合タンパク質/シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP及びTPSが挙げられる。
【0239】
腫瘍抗原の更なる例としては、A33、BAGE、Bcl-2、β-カテニン、BCMA、CA125、CA19-9、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD33/IL3Ra、CD34、CD37、CD45、CD123、CD135(FLT3)、CD138、癌胎児抗原(CEA)、CLL1、c-Met、CS-1、サイクリンB1、DAGE、EBNA、EGFR、EGFRvIII、エフリンB2、エストロゲン受容体、FAP、フェリチン、葉酸結合タンパク質、GAGE、G250、GD-2、GM2、gp75、gp100(Pmel17)、糖脂質F77、HER2/neu、HPV E6、HPV E7、Ki-67、LRP、メソテリン、MY-ESO-1、MART-1、MAGE A3、p53、PRAME、PR1、PSMA、ROR1、SLAMF7、WT1(ウィルムス腫瘍)等が挙げられるが、これらに限定されない。更なる腫瘍抗原については、van der Bruggen P, Stroobant V, Vigneron N, Van den Eynde B. Peptide database: T cell-defined tumor antigens. Cancer Immun (2013), www.cancerimmunity.org/peptide/(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0240】
以下は、本発明の幾つかの実施形態の開示に従って使用することができる腫瘍抗原のリストである。
【0241】
【0242】
【0243】
【0244】
【0245】
【0246】
固形腫瘍に対する更なるCAR標的は、Ma et al., Int. J. Biol. Sci. (2019) 15(12): 2548-2560(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0247】
特定の実施形態によれば、標的抗原はHER2である。
【0248】
特定の実施形態によれば、標的抗原はCD19である。
【0249】
特定の実施形態によれば、標的抗原はBCMAである。
【0250】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は、ウイルス抗原(例えば、標的細胞上)に結合する。
【0251】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ウイルス抗原はどのウイルスにも由来することができ、その例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザ、サイトメガロウイルス(CMV)、T細胞白血病ウイルス1型(TAX)、C型肝炎ウイルス(HCV)、(HBV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス(Adv)、風邪ウイルス、インフルエンザウイルス、A型、B型及びC型肝炎ウイルス、単純ヘルペス、日本脳炎、麻疹、ポリオ、狂犬病、呼吸器合胞体、風疹、天然痘、水痘帯状疱疹、ロタウイルス、西ナイルウイルス、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルス)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、及び/又はジカウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0252】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ウイルス抗原としては、ヒトT細胞リンパ向性ウイルスI型(HTLV-1)転写因子(TAX)、インフルエンザマトリックスタンパク質エピトープ、エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来エピトープ、HIV-1RT、HIVGag、HIVPol、インフルエンザ膜タンパク質M1、インフルエンザヘマグルチニン、インフルエンザノイラミニダーゼ、インフルエンザ核タンパク質、インフルエンザ核タンパク質、インフルエンザマトリックスタンパク質(M1)、インフルエンザイオンチャネル(M2)、インフルエンザ非構造タンパク質NS-1、インフルエンザ非構造タンパク質NS-2、インフルエンザPA、インフルエンザPB1、インフルエンザPB2、インフルエンザBM2タンパク質、インフルエンザNBタンパク質、インフルエンザヌクレオカプシドタンパク質、サイトメガロウイルス(CMV)リン酸化マトリックスタンパク質(pp65)、TAX、C型肝炎ウイルス(HCV)、HBVプレSタンパク質85-66、HTLV-1tax11-19、HBV表面抗原185-194、重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)タンパク質S1、SARS-CoVタンパク質RBD、SARS-CoVヌクレオカプシドタンパク質、SARS-CoVタンパク質Plpro、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)タンパク質S1、SARS-CoV-2タンパク質S2、SARS-CoV-2タンパク質S1+S2ECD、SARS-CoV-2タンパク質RBD、SARS-CoV-2タンパク質N抗原、SARS-CoV-2タンパク質S抗原又はSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質から成る群から選択されるポリペプチド由来のウイルスエピトープが挙げられるが、これらに限定されない。
【0253】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は、細菌抗原(例えば、標的細胞上)に結合する。
【0254】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細菌抗原はどの細菌にも由来することはでき、その例としては、炭疽菌、グラム陰性桿菌、クラミジア、ジフテリア、インフルエンザ菌、ヘリコバクター・ピロリ、マラリア、結核菌、百日咳毒素、肺炎球菌、リケッチア、ブドウ球菌、連鎖球菌及び破傷風菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0255】
本発明の幾つかの実施形態によれば、細菌抗原としては、炭疽菌抗原(炭疽菌防御抗原等が挙げられるが、これに限定されない)、グラム陰性桿菌抗原(リポ多糖類等が挙げられるが、これに限定されない)、インフルエンザ菌抗原(莢膜多糖類等が挙げられるが、これに限定されない)、ジフテリア抗原(ジフテリア毒素等が挙げられるが、これに限定されない)、結核菌抗原(ミコール酸、熱ショックタンパク質65(HSP65)、30kDa主要分泌タンパク質及び抗原85A等が挙げられるが、これらに限定されない)、百日咳毒素抗原(ヘマグルチニン、パータクチン、FIM2、FIM3及びアデニル酸シクラーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない)、肺炎球菌抗原(ニューモリシン及び肺炎球菌莢膜多糖類等が挙げられるが、これらに限定されない)、リケッチア抗原(rompA等が挙げられるが、これに限定されない)、連鎖球菌抗原(Mタンパク質等が挙げられるが、これに限定されない)、及び破傷風抗原(破傷風毒素等が挙げられるが、これに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0256】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗原はスーパーバグ抗原(例えば、多剤耐性細菌)である。スーパーバグの例としては、Enterococcus faecium、Clostridium difficile、Acinetobacter baumannii、Pseudomonas aeruginosa、及びEnterobacteriaceae (Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, Enterobacter spp.等)が挙げられる。
【0257】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の細胞の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)は、真菌抗原(例えば、標的細胞上)に結合する。真菌の例としては、カンジダ、コクシジオイデス、クリプトコッカス、ヒストプラズマ、リーシュマニア、変形体、原虫、寄生虫、住血吸虫、白癬、トキソプラズマ、及びトリパノソーマ・クルージが挙げられるが、これらに限定されない。
【0258】
本発明の幾つかの実施形態によれば、真菌抗原としては、コクシジオイデス抗原(小球抗原等が挙げられるが、これに限定されない)、クリプトコッカス抗原(莢膜多糖類等が挙げられるが、これに限定されない)、ヒストプラズマ抗原(熱ショックタンパク質60(HSP60)等が挙げられるが、これに限定されない)、リーシュマニア抗原(gp63及びリポホスホグリカン等が挙げられるが、これらに限定されない)、熱帯熱マラリア原虫抗原(メロゾイト表面抗原、スポロゾイト表面抗原、スポロゾイト周囲抗原、生殖母細胞/配偶子表面抗原、原虫、及び血液工程抗原pf155/RESA等の他の寄生虫抗原等が挙げられるが、これらに限定されない)、住血吸虫抗原(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ及びパラミオシン等が挙げられるが、これらに限定されない)、白癬菌抗原(トリコフィチン等が挙げられるが、これに限定されない)、トキソプラズマ抗原(SAG-1及びp30等が挙げられるが、これらに限定されない)、及びトリパノソーマ・クルージ抗原(75~77kDa抗原及び56kDa抗原等が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0259】
本発明の幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型を有する遺伝子改変ベト細胞を作製する方法が提供される。
【0260】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法は、(a)T細胞を含む細胞集団であって、T細胞がメモリーCD8+T細胞を少なくとも40%含む集団を用意することと、(b)Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、細胞を非GVH反応性とすることを含む。
【0261】
本発明の幾つかの実施形態によれば、この方法は、(a)末梢血単核細胞(PBMC)をCD4+細胞、CD56+細胞及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤で処理するか、又はCD45RO+細胞、CD8+細胞を選択可能な薬剤で処理することで、CD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むメモリーCD8+T細胞が富化された、T細胞を含む細胞集団を得ることと、(b)セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養し、細胞を非GVH反応性とすることを含む。
【0262】
「T細胞を含む細胞集団」という用語は、多数のシグネチャー、機能を有し、様々な抗原に結合することができるT細胞(例えば、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、エフェクターT細胞等)を通常含むリンパ球の不均一な混合物を意味する。
【0263】
一実施形態によれば、細胞集団はナイーブT細胞を欠いている。
【0264】
一実施形態によれば、細胞集団はメモリーT細胞を含む。
【0265】
幾つかの実施形態によれば、他のリンパ球(骨髄細胞(例えば、単球)及びB細胞等が挙げられるが、これらに限定されない)を細胞集団に含むことができる。
【0266】
本明細書で使用される「メモリーCD8+T細胞」という用語は、先に抗原に遭遇して応答したTリンパ球のサブセットを意味し、抗原経験T細胞とも称される(本明細書では「メモリーT細胞」とも称される)。
【0267】
一実施形態によれば、メモリーCD8+T細胞は、細胞集団中のT細胞の少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、又は100%を含む。
【0268】
一実施形態によれば、メモリーT細胞はCD8マーカーを発現するT細胞(即ち、CD8+T細胞)を含む。
【0269】
他の実施形態によれば、メモリーT細胞はCD8+CD45RO+表現型を含む。
【0270】
他の実施形態によれば、メモリーT細胞はCD8+CD45RA-表現型を含む。
【0271】
他の実施形態によれば、メモリーT細胞はCD8+CD45RO+CD45RA-表現型を含む。
【0272】
一実施形態によれば、メモリーT細胞はCD45RA+細胞を欠いている。
【0273】
一実施形態によれば、メモリーT細胞はCD4+細胞及び/又はCD56+細胞を欠いている。
【0274】
メモリーCD8+T細胞の選択は、CD8+とCD45RA-を共発現する細胞、及び/又はCD8+とCD45RO+を共発現する細胞の選択によって行うことができ、当技術分野で知られているいずれかの方法、例えば、親和性ベースの精製(例えば、MACSビーズ、FACSソーター及び/又は捕獲ELISA標識化を利用する方法等)によって行うことができる。
【0275】
メモリーCD8+T細胞の選択は、エフェクターT細胞及びセントラルメモリーT細胞(後者は、例えば、CD62L、CCR7、CD27及び/又はCD28を発現する)の選択によって更に行うことができる。
【0276】
一実施形態によれば、メモリーT細胞はリンパ節や脾臓等のリンパ組織から得られる。
【0277】
一実施形態によれば、メモリーT細胞は末梢血単核細胞(PBMC)から得られる。
【0278】
高純度のCD8+メモリーT細胞(例えば、全T細胞集団の内、少なくとも約40%がCD8+メモリーT細胞)を含む細胞集団を得るために、又はCD8+メモリーT細胞の数を増加させるために、PBMCはナイーブ細胞(例えば、CD45RA+細胞)が枯渇していてもよく、接着細胞(例えば、単球、マクロファージ)が枯渇していてもよく、CD4+細胞(例えば、Tヘルパー細胞)が枯渇していてもよく、CD56+細胞(例えば、NK細胞)が枯渇していてもよく、メモリーT細胞表現型を含まない他の細胞が枯渇していてもよい。
【0279】
一実施形態によれば、高レベルのメモリーT細胞(例えば、全T細胞の内、少なくとも約40%がCD8+メモリーT細胞)を含む細胞集団を用意することは、T細胞がCD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むCD8+メモリーT細胞で富化された集団を得るように、CD4+、CD56+及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤でPBMCを処理することによって行う。PBMCからの細胞の枯渇は、当技術分野で知られているいずれかの方法、例えば、親和性ベースの精製(例えば、MACSビーズ、FACSソーター及び/又は捕獲ELISA標識化を利用する方法等)によって行うことができる。
【0280】
一実施形態によれば、高レベルのCD8+メモリーT細胞(例えば、全T細胞の内、少なくとも約40%がCD8+メモリーT細胞)を含む細胞集団を用意することは、T細胞がCD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むCD8+メモリーT細胞で富化された集団を得るように、CD45RO+、CD8+細胞を選択可能な薬剤でPBMCを処理することによって行う。PBMCからの細胞の選択は、当技術分野で知られているいずれかの方法、例えば、親和性ベースの精製(例えば、MACSビーズ、FACSソーター及び/又は捕獲ELISA標識化を利用する方法等)によって行うことができる。
【0281】
PBMCからの接着細胞の枯渇は、当技術分野で知られているいずれかの方法、例えば、細胞培養皿でPBMCを培養し(例えば、2~6時間)非接着細胞を回収して行うことができる。
【0282】
メモリーT細胞プールからアロ反応性クローンを枯渇させるために、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、CD8+メモリーT細胞が富化された細胞集団を1種以上の抗原と共に培養する。
【0283】
例えば、1種以上の抗原は、全細胞(例えば、生細胞又は死細胞)、細胞画分(例えば、溶解細胞)、細胞抗原(例えば、細胞表面抗原)、タンパク質抽出物、精製タンパク質又は合成ペプチドとすることができる。例えば、本発明の幾つかの実施形態の1種以上の抗原としては、ウイルスの抗原(即ち、ウイルス抗原)、細菌の抗原(即ち、細菌抗原)、真菌の抗原(例えば、真菌抗原)又は悪性疾患に関連する抗原(例えば、腫瘍抗原)が挙げられる。
【0284】
一実施形態によれば、アロ反応性の消失(即ち、ベト細胞の作製)に使用する1種以上の抗原は、CAR又はtg-TCRによる標的化に使用する1種以上の抗原とは異なる。従って、例えば、アロ反応性の消失に使用する1種以上の抗原は1種以上のウイルス抗原を含むことができるが、CAR又はtg-TCRによる標的化に使用する1種以上の抗原は1種以上の腫瘍抗原を含む。
【0285】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は1種以上のサードパーティー抗原を含む。
【0286】
本明細書で使用される「1種以上のサードパーティー抗原」という語句は、以下で詳述するように、ドナー又はレシピエントの内因性部分ではない、可溶性又は不溶性(膜結合性等)の1種以上の抗原を意味する。
【0287】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は通常、移植患者等の免疫保有対象に影響を及ぼす感染性生物(例えば、ウイルス、細菌、真菌生物)由来である。免疫保有患者に影響を及ぼし得る感染性生物の例としては、パルボウイルス(例えば、パルボウイルスB19)、ロタウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルス)等のウイルス、S pneumoniae、P aeruginosa、Legionella pneumophila、L monocytogenes、Nocardia種、Mycobacterium種、S aureus、Nocardia種、P aeruginosa、Serratia種、Chromobacterium、連鎖球菌、Burkholderia、Mycobacterium(例えば、Mycobacterium avium細胞内複合体)等の細菌、S pneumoniae、H influenzae及びN meningitidis等のカプセル化細菌、P jiroveci、カンジダ、アスペルギルス等の真菌、及びトキソプラズマ種、クリプトスポリジウム、及び糞線虫類等の寄生虫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0288】
メモリーT細胞プールからアロ反応性クローンの枯渇に使用することができるウイルス、細菌、真菌及びスーパーバグ抗原の例は上述されている。
【0289】
特定の実施形態によれば、抗原はウイルス抗原であり、その例としては、アデノウイルス抗原(Adv-ペントン又はAdv-ヘキソン等が挙げられるが、これらに限定されない)、BKウイルス抗原(BKV LT、BKV(カプシドVP1)、BKV(カプシドタンパク質VP2)、BKV(カプシドタンパク質VP2、アイソフォームVP3)、BKV(スモールT抗原)等が挙げられるが、これらに限定されない)、CMV抗原(エンベロープ糖タンパク質B、CMV IE-1及びCMVpp65等が挙げられるが、これらに限定されない)、EBV抗原(EBV LMP2、EBV BZLF1、EBV EBNA1、EBV P18、及びEBV P23等が挙げられるが、これらに限定されない)、肝炎抗原(B型肝炎ウイルスのS、M及びLタンパク質、B型肝炎ウイルスのプレS抗原、HBCAG DELTA、HBV HBE、C型肝炎ウイルスRNA、HCV NS3及びHCV NS4等が挙げられるが、これらに限定されない)、単純ヘルペスウイルス抗原(最初期タンパク質及び糖タンパク質D等が挙げられるが、これらに限定されない)、HIV抗原(HIVgp32、HIVgp41、HIVgp120、HIVgp160、HIV P17/24、HIV P24、HIV P55GAG、HIV P66POL、HIV TAT、HIV GP36、Nefタンパク質及び逆転写酵素等のgag、pol、及びenv遺伝子の遺伝子産物が挙げられるが、これらに限定されない)、インフルエンザ抗原(ヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない)、日本脳炎ウイルス抗原(タンパク質E、M-E、M-E-NS1、NS1、NS1-NS2A及び80%E等が挙げられるが、これらに限定されない)、麻疹抗原(麻疹ウイルス融合タンパク質等が挙げられるが、これに限定されない)、狂犬病抗原(狂犬病糖タンパク質及び狂犬病核タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない)、呼吸器合胞体ウイルス抗原(RSV融合タンパク質及びM2タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない)、ロタウイルス抗原(VP7sc等が挙げられるが、これに限定されない)、風疹抗原(タンパク質E1及びE2等が挙げられるが、これらに限定されない)、及び水痘帯状疱疹ウイルス抗原(gp1及びgp11等が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0290】
上記に加えて、または代わりに、腫瘍抗原に関連する1種以上の抗原を使用して、メモリーT細胞プールからアロ反応性クローンを枯渇させることができるが、そのような抗原は、本明細書で上述されている(tg-TCR及び/又はCARの標的細胞抗原に関して)。
【0291】
一実施形態によれば、抗原は1種の抗原(例えば、ウイルス、細菌又は腫瘍抗原)を含む。
【0292】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は2種以上の抗原(例えば、ウイルス抗原、腫瘍抗原等の1群の抗原群由来の抗原の混合物、又は異なる抗原群由来の抗原の混合物、例えば、ウイルス抗原と細菌抗原、ウイルス抗原と腫瘍抗原等)を含む。
【0293】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は、1種、2種、3種、4種、5種又はそれ以上の抗原を(例えば、単一処方又は数種の処方において)含む。
【0294】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は、1種、2種、3種、4種、5種又はそれ以上の腫瘍抗原を(例えば、単一処方又は数種の処方において)含む。
【0295】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は、1種、2種、3種、4種、5種又はそれ以上のウイルス抗原を(例えば、単一処方又は数種の処方において)含む。
【0296】
一実施形態によれば、1種以上の抗原はウイルスペプチドを含む。
【0297】
特定の実施形態によれば、ウイルスペプチドは、単一のウイルス(即ち、1種のウイルス)由来のペプチド(例えば、1種以上のペプチド)を含む。
【0298】
特定の実施形態によれば、ウイルスペプチドは、2種、3種、4種、5種又はそれ以上のウイルス(即ち、異なる種のウイルス)由来のペプチドを含む。
【0299】
特定の実施形態によれば、1種以上の抗原は3種のウイルス抗原、例えば、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ペプチド、サイトメガロウイルス(CMV)ペプチド及びアデノウイルス(Adv)ペプチドを含む。
【0300】
特定の実施形態によれば、1種以上の抗原は4種のウイルス抗原、例えば、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ペプチド、サイトメガロウイルス(CMV)ペプチド、BKウイルスペプチド及びアデノウイルス(Adv)ペプチドを含む。
【0301】
特定の実施形態によれば、ウイルスペプチドは、EBV-LMP2、EBV-BZLF1、EBV-EBNA1、EBV-BRAF1、EBV-BMLF1、EBV-GP340/350 EBNA2、EBV-EBNA3a、EBV-EBNA3b、EBV-EBNA3c、CMV-pp65、CMV-IE-1、Adv-ペントン、Adv-ヘキソン、BKV LT、BKV(カプシドVP1)、BKV(カプシドタンパク質VP2)、BKV(カプシドタンパク質VP2、アイソフォームVP3)及びBKV(スモールT抗原)の内の少なくとも1種を含む。
【0302】
特定の実施形態によれば、ウイルスペプチドは、EBV-LMP2、EBV-BZLF1、EBV-EBNA1、EBV-BRAF1、EBV-BMLF1、EBV-GP340/350 EBNA2、EBV-EBNA3a、EBV-EBNA3b、EBV-EBNA3c、CMV-pp65、CMV-IE-1、Adv-ペントン、Adv-ヘキソン、BKV LT、BKV(カプシドVP1)、BKV(カプシドタンパク質VP2)、BKV(カプシドタンパク質VP2、アイソフォームVP3)及びBKV(スモールT抗原)の内の2種、3種、4種、5種又はそれ以上を含む。
【0303】
特定の実施形態によれば、1種以上の抗原は、3種のウイルス(CMV、EBV及びアデノウイルス)のタンパク質配列全体に及ぶ重複ペプチドライブラリ(例えば、11種のアミノ酸で重複する15量体)であるペプミックスの混合物を含む(このようなペプミックスは、例えば、ドイツ国、ベルリンのJPT Technologies社から商業的に購入することができる)。
【0304】
他の特定の実施形態によれば、1種以上の抗原は、EBV-LMP2、EBV-BZLF1、EBV-EBNA1、CMV-pp65、CMV-IE-1、Adv-ペントン及びAdv-ヘキソンに及ぶ7種のペプミックスの混合物を、例えば、100ng/ペプチド又は700ng/7種のペプチド混合物の濃度で含む。
【0305】
特定の実施形態によれば、1種以上の抗原はウイルスペプチドと細菌ペプチドを含む。
【0306】
メモリーT細胞プールからアロ反応性クローンの枯渇に使用することができる更なるウイルス及び細菌抗原については、本明細書で上述されている(tg-TCR及び/又はCARの標的細胞抗原に関する項において)。
【0307】
専用のソフトウェアを使用してウイルス、細菌、真菌、腫瘍抗原配列を分析し、免疫原性短ペプチド、例えば、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI又はMHCクラスIIとの関連で提示可能なペプチドを特定することができる。
【0308】
メモリーCD8+T細胞の免疫応答を刺激するために、更なる刺激抗原を使用することができ、その例としては、オボアルブミン、DNP(ジニトロフェニル)、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0309】
一実施形態によれば、1種以上のサードパーティー抗原はサードパーティー細胞を含む。
【0310】
サードパーティー細胞は、ドナー及びレシピエントに対して同種異系又は異種のいずれかとすることができる(以下で更に詳述する)。同種異系のサードパーティー細胞の場合、そのような細胞は、ドナーのHLA抗原とは異なるHLA抗原を有するが、レシピエントHLA抗原とは交差反応しないため、そのような細胞に対して作製されたベト細胞は、移植片又はレシピエント抗原に対して反応しない。
【0311】
本発明の一実施形態によれば、同種異系又は異種のサードパーティー細胞は、末梢血リンパ球(PBL)、脾臓又はリンパ節から精製された細胞、サイトカイン動員PBL、インビトロ増殖抗原提示細胞(APC)、インビトロ増殖樹状細胞(DC)及び人工抗原提示細胞から成る群から選択される刺激細胞である。
【0312】
本発明の抗原は、細胞、ウイルス、真菌又は細菌の表面に提示させるか、又はそこから誘導及び/又は精製することができる。更に、ウイルス、真菌又は細菌抗原を感染細胞に提示させるか、又は細胞抗原を人工媒体(例えば、リポソーム、エキソソーム)又は人工抗原提示細胞(例えば、1種以上の抗原をトランスフェクトした細胞株)に提示させることができる。従って、ウイルス、細菌又は真菌抗原を、それに感染した細胞で提示するか、或いはウイルス/細菌/真菌ペプチドを発現するように作製することができる。同様に、腫瘍抗原は、このようなタンパク質を発現するように作製した細胞によって提示することができる。
【0313】
細胞、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞、ウイルスペプチド提示細胞又は細菌ペプチド提示細胞を抗原として使用することは、そのような抗原が多様な配列の抗原決定基を含み、それ自体が多様な集団のTcm細胞の形成を指示するので特に有利であり、これは、例えば、(以下で詳述するように)致死的又は亜致死的照射や化学療法手順後に、T細胞の再構成が必要か、又は(以下で詳述するように)疾患と闘う場合に、より速い再構成をする上で更に役立つことができる。
【0314】
従って、抗原提示細胞(後述するように、自己又は非自己)、細胞株、人工媒体(リポソーム又はエキソソーム等)又は人工抗原提示細胞(例えば、1種以上の抗原をトランスフェクトした白血病又は線維芽細胞株)を使用して、それに融合又はロードした短い合成ペプチドを提示するか、或いはタンパク質抽出物又は精製タンパク質を提示することができる。そのような短いペプチド、タンパク質抽出物又は精製タンパク質は、ウイルス、細菌、真菌、腫瘍抗原由来のペプチド又は他のいずれかの抗原を表すペプチドとすることができる。
【0315】
一実施形態によれば、MHCクラスI又はMHCクラスIIに関するメモリーCD8+T細胞認識を可能にするために、例えば同じ起源(例えば、同じドナー)のメモリーCD8+T細胞に関して自己の抗原提示細胞(例えば、DC)によって1種以上の抗原を提示する。
【0316】
上記に加えて、または代わりに、本発明の幾つかの実施形態の1種以上の抗原(例えば、ウイルスペプチド)は、人工媒体(例えば、リポソーム)又は人工APC上に提示することができる。本発明の人工媒体又は人工APCを操作して、外因性ペプチドでパルスせずにMHCを示すようにすることができる。従って、一実施形態によれば、人工APCは、MHC決定基(例えば、メモリーCD8+T細胞に関して自己)をトランスフェクトしたK562腫瘍細胞及び共刺激分子[例えば、Suhoski MM et al., Mol Ther. (2007) 15(5): 981-8で先に記載のように]又はそれをトランスフェクトした線維芽細胞を含む。
【0317】
抗原提示細胞は単一細胞上で全ての抗原を発現できるか、又は単一細胞上で抗原の一部のみを発現できることは理解されよう。更に、(例えば、同一の調製物中の)異なる抗原提示細胞は異なる抗原を発現することができる。従って、抗原提示細胞(例えば、DC)は不均一な細胞混合物を含む。
【0318】
一実施形態によれば、1種以上の抗原は、メモリーCD8+T細胞によって認識可能なMHC抗原(ヒト白血球抗原(HLA)とも称される)を示す遺伝子改変抗原提示細胞又は人工抗原提示細胞によって提示される。
【0319】
一実施形態によれば、抗原提示細胞はヒト細胞を含む。
【0320】
一実施形態によれば、抗原提示細胞は樹状細胞(DC)を含む。
【0321】
特定の実施形態によれば、抗原提示細胞はCD14+由来樹状細胞(DC)を含む。
【0322】
特定の実施形態によれば、抗原提示細胞は成熟樹状細胞(mDC)を含む。
【0323】
特定の実施形態によれば、抗原提示細胞は照射樹状細胞を含む。
【0324】
従って、一実施形態によれば、DCは約5~10Gy、約10~20Gy、約20~30Gy、約20~40Gy、約20~50Gy、約10~50Gyで照射する。特定の実施形態によれば、DCは約10~50Gy(例えば、30Gy)で照射する。
【0325】
樹状細胞をAPCとして使用する方法は当技術分野で知られている。従って、非限定的な例として、末梢血単核細胞(PBMC)を細胞ドナー[例えば、メモリーCD8+T細胞と同じ細胞ドナーから」から得ることができる。即ち、PBMCを細胞ドナーから取得し、フィコールを用いて分画し、単核細胞(MNC)を得る。MNC画分からCD14+発現細胞を選択(例えば、CD14結合モノクローナル抗体を使用)してMNC画分から刺激細胞を作製し、樹状細胞成熟因子(例えば、IL-4、GM-CSF、IFN-γ及びLPSを含み、12~20時間、例えば、16時間)を用いてCD14+発現細胞を増殖する。次に、後述するように、成熟樹状細胞(mDC)に1種以上の抗原、例えば、ウイルスペプチド(例えば、EBV、CMV、BKV及びアデノウイルス)をロードし、(例えば、25Gyで)照射する。
【0326】
1種以上の抗原をAPC(例えば、成熟DC)上に提示するために、1種以上の抗原(例えば、ウイルス抗原)をAPC(例えば、DC)と37℃、5%CO2/O2で約30分~3時間(例えば、1時間)共培養する。例えば、37℃、5%CO2/O2で約1時間インキュベートすることにより、ペプミックス(ウイルスペプチド)のカクテルをDCにロードすることができる。抗原ロードAPC(例えば、DC)は、本発明の幾つかの実施形態に従ってメモリーCD8+T細胞集団からTcm細胞を作製するために使用する準備ができている。
【0327】
(後述するように)寛容誘導細胞を富化させる条件下で、メモリーCD8+T細胞が富化された細胞集団を1種以上の抗原(例えば、ウイルス抗原)と共に培養すると、Tcm細胞の抗疾患活性、例えば、抗ウイルス活性が得られることが理解されよう。従って、一実施形態によれば、得られたTcm細胞は、刺激された1種以上の抗原(即ち、抗原特異的細胞)に対して反応性である。
【0328】
幾つかの実施形態によれば、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養することは、
(a)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上の抗原と接触させて抗原反応性細胞を富化させることと、
(b)工程(a)で得た細胞をIL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養してTcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法によって行う。
【0329】
従って、本発明のTcm細胞は、通常、T細胞を含む細胞集団(例えば、メモリーCD8+T細胞が富化されたもの)を、IL-21を補充した培養物(例えば、他のサイトカインを含まない培養物、即ち、更なるサイトカインの添加なし)中の1種以上の抗原(上述の抗原等)と先ず接触させて作製する。この工程は通常、約12~24時間、約12~36時間、約12~72時間、12~96時間、12~120時間、約24~36時間、約24~48時間、約24~72時間、約36~48時間、約36~72時間、約48~72時間、約48~96時間、約48~120時間、0.5~1日間、0.5~2日間、0.5~3日間、0.5~5日間、0.5~6日間、0.5~7日間、1~2日間、1~3日間、1~5日間、1~6日間、1~7日間、1~10日間、2~3日間、2~4日間、2~5日間、2~6日間、2~8日間、3~4日間、3~5日間、3~7日間、4~5日間、4~8日間、5~7日間、6~8日間又は8~10日間行って、抗原反応性細胞を富化させる。
【0330】
特定の実施形態によれば、(例えば、メモリーCD8+T細胞が富化された)T細胞を含む細胞集団の、IL-21を補充した培養物(他のサイトカインを含まない培養物)中での1種以上の抗原(上述の抗原等)との接触は1~5日間(例えば、2~4日間、例えば、3日間)行う。
【0331】
(例えば、メモリーCD8+T細胞が富化された)T細胞を含む細胞集団の、IL-21を補充した培養物中での1種以上の抗原(上述の抗原等)との接触は、通常、約0.001~3000IU/mL、0.01~3000IU/mL、0.1~3000IU/mL、1~3000IU/mL、10~3000IU/mL、100~3000IU/mL、1000~3000IU/mL、0.001~1000IU/mL、0.01~1000IU/mL、0.1~1000IU/mL、1~1000IU/mL、10~1000IU/mL、100~1000IU/mL、250~1000IU/mL、500~1000IU/mL、750~1000IU/mL、10~500IU/mL、50~500IU/mL、100~500IU/mL、250~500IU/mL、100~250IU/mL、0.1~100IU/mL、1~100IU/mL、10~100IU/mL、30~100IU/mL、50~100IU/mL、1~50IU/mL、10~50IU/mL、20~50IU/mL、30~50IU/mL、1~30IU/mL、10~30IU/mL、20~30IU/mL、10~20IU/mL、0.1~10IU/mL、又は1~10IU/mLのIL-21の存在下で行う。特定の実施形態によれば、IL-21の濃度は50~500IU/mL(例えば、100IU/mL)である。
【0332】
特定の実施形態によれば、T細胞を含む細胞集団(例えば、メモリーCD8+T細胞が富化されたもの)を1種以上の抗原と接触させることは、サイトカインを含まない(例えば、IL-21のみを補充した)培養物において行い、このような培養条件は、1種以上の抗原による刺激や活性化を受ける細胞(即ち、抗原反応性細胞)のみの生存と富化を可能にするが、それは、このような細胞がその生存を可能にするサイトカイン(例えば、IL-2)を分泌するためである(他のT細胞クローンはこのような培養条件下ではネグレクトによって死滅しやすい)。
【0333】
従って、このような培養条件下でT細胞(例えば、メモリーCD8+T細胞が富化された)を含む細胞集団を1種以上の抗原と接触させることは、GVH反応性細胞の枯渇を可能にする。
【0334】
1種以上の抗原(例えば、抗原パルス樹状細胞等のAPC上に提示されるもの)のメモリーT細胞に対する比率は、通常、約1:2~約1:10であり、例えば、約1:4、約1:5、約1:6、約1:8又は約1:10である。特定の実施形態によれば、1種以上の抗原(例えば、APC上に提示される)のメモリーT細胞に対する比率は、約1:2~約1:8(例えば、1:5)である。
【0335】
次に、得られたメモリーT細胞(即ち、IL-21と共に培養した後)を、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下、抗原を含まない環境で(即ち、細胞培養物に1種以上の追加抗原を添加せずに)培養し、Tcm表現型を含む細胞を増殖させる。この工程は、通常、約12~24時間、約12~36時間、約12~72時間、約12~96時間、約12~120時間、約12~240時間、24~36時間、24~48時間、約24~72時間、24~96時間、24~120時間、24~240時間、約48~72時間、約48~120時間、約48~240時間、約96~240時間、約120~144時間、約120~240時間、約144~240時間、約0.5~1日間、約0.5~2日間、約0.5~3日間、約0.5~5日間、約0.5~10日間、約0.5~20日間、約1~2日間、約1~3日間、約1~4日間、約1~6日間、約1~8日間、約1~10日間、約1~15日間、約2~3日間、約2~4日間、約2~5日間、約2~6日間、約2~8日間、約2~10日間、約4~5日間、約4~6日間、約4~8日間、約4~10日間、約4~12日間、約4~20日間、約5~6日間、約5~7日間、約5~8日間、約5~10日間、約5~15日間、約6~7日間、約6~8日間、約6~10日間、約7~8日間、約7~9日間、約7~10日間、約7~13日間、約7~15日間、約8~10日間、約10~12日間、約10~14日間、約12~14日間、約14~16日間、約14~18日間、約16~18日間又は約18~20日間行う。
【0336】
特定の実施形態によれば、得られたメモリーT細胞(即ち、IL-21と共に培養した後)を、IL-21、IL-15及びIL-7の存在下、抗原を含まない環境で(即ち、細胞培養物に1種以上の追加抗原を添加せずに)約12時間~20日間、例えば、約4~20日間、例えば、約4~12日間(例えば、9日間)培養する。
【0337】
この工程は通常、約0.001~3000IU/mL、0.01~3000IU/mL、0.1~3000IU/mL、1~3000IU/mL、10~3000IU/mL、100~3000IU/mL、1000~3000IU/mL、0.001~1000IU/mL、0.01~1000IU/mL、0.1~1000IU/mL、1~1000IU/mL、10~1000IU/mL、100~1000IU/mL、250~1000IU/mL、500~1000IU/mL、750~1000IU/mL、10~500IU/mL、50~500IU/mL、100~500IU/mL、250~500IU/mL、100~250IU/mL、0.1~100IU/mL、1~100IU/mL、10~100IU/mL、30~100IU/mL、50~100IU/mL、1~50IU/mL、10~50IU/mL、20~50IU/mL、30~50IU/mL、1~30IU/mL、10~30IU/mL、20~30IU/mL、10~20IU/mL、0.1~10IU/mL、又は1~10IU/mLの濃度のIL-21の存在下で行う。特定の実施形態によれば、IL-21の濃度は50~500IU/mL(例えば、100IU/mL)である。
【0338】
この工程は通常、約0.001~3000IU/mL、0.01~3000IU/mL、0.1~3000IU/mL、1~3000IU/mL、10~3000IU/mL、100~3000IU/mL、125~3000IU/mL、1000~3000IU/mL、0.001~1000IU/mL、0.01~1000IU/mL、0.1~1000IU/mL、1~1000IU/mL、10~1000IU/mL、100~1000IU/mL、125~1000IU/mL、250~1000IU/mL、500~1000IU/mL、750~1000IU/mL、10~500IU/mL、50~500IU/mL、100~500IU/mL、125~500IU/mL、250~500IU/mL、250~500IU/mL、125~250IU/mL、100~250IU/mL、0.1~100IU/mL、1~100IU/mL、10~100IU/mL、30~100IU/mL、50~100IU/mL、1~50IU/mL、10~50IU/mL、20~50IU/mL、30~50IU/mL、1~30IU/mL、10~30IU/mL、20~30IU/mL、10~20IU/mL、0.1~10IU/mL、又は1~10IU/mLの濃度のIL-15の存在下で更に行う。特定の実施形態によれば、IL-15の濃度は50~500IU/mL(例えば、125IU/mL)である。
【0339】
この工程は通常、約0.001~3000IU/mL、0.01~3000IU/mL、0.1~3000IU/mL、1~3000IU/mL、10~3000IU/mL、30~3000IU/mL、100~3000IU/mL、1000~3000IU/mL、0.001~1000IU/mL、0.01~1000IU/mL、0.1~1000IU/mL、1~1000IU/mL、10~1000IU/mL、30~1000IU/mL、100~1000IU/mL、250~1000IU/mL、500~1000IU/mL、750~1000IU/mL、10~500IU/mL、30~500IU/mL、50~500IU/mL、100~500IU/mL、250~500IU/mL、100~250IU/mL、0.1~100IU/mL、1~100IU/mL、10~100IU/mL、30~100IU/mL、50~100IU/mL、1~50IU/mL、10~50IU/mL、20~50IU/mL、30~50IU/mL、1~30IU/mL、10~30IU/mL、20~30IU/mL、10~20IU/mL、0.1~10IU/mL、又は1~10IU/mLの濃度のIL-7の存在下で更に行う。特定の実施形態によれば、IL-7の濃度は1~100IU/mL(30IU/mL)である。
【0340】
IL-21と共に培養した後に(即ち、例えば、IL-21、IL-15及びIL-7の添加を含むTcm増殖工程において)1種以上の残留抗原が細胞培養物中に存在することがあるため、抗原を含まない環境は、1種以上の補充抗原を添加しない細胞培養物に関連することが理解されよう。
【0341】
一実施形態によれば、Tcm細胞を作製するための総培養期間は、約7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20日間(例えば、12日間)である。
【0342】
本開示に従って行うことができる追加の工程は、活性化細胞の選択と除去を含む。そのような選択工程は、潜在的な宿主反応性T細胞の除去を補助する。
【0343】
活性化細胞の単離は2工程のアプローチで行うことができる。第1工程では、IL-21、IL-15及びIL-7の存在下で細胞を培養する前に活性化細胞を選択する。この第1工程は通常、メモリーT細胞をIL-21の存在下で1種以上の抗原と最初に接触させた後に行う。この選択プロセスでは、1種以上の抗原で活性化した細胞(例えば、後述するように活性化マーカーを発現する細胞)のみを選択し、このプロセスは通常、メモリーT細胞を1種以上の抗原と最初に接触させてから、約12~24時間後、約24~36時間後、約12~36時間後、約36~48時間後、約12~48時間後、約48~60時間後、約12~60時間後、約60~72時間後、約12~72時間後、約72~84時間後、約12~84時間後、約84~96時間後、約12~96時間後に行う。特定の実施形態によれば、この選択プロセスは、メモリーT細胞を1種以上の抗原と最初に接触させてから約12~24時間後(例えば、14時間後)に行う。
【0344】
活性化細胞の単離は、親和性ベースの精製(例えば、MACSビーズ、FACSソーター及び/又は捕獲ELISA標識化を利用する方法等)によって行うことができ、活性化マーカー(例えば、細胞表面マーカー(CD69、CD44、CD25、CFSE、CD137等が挙げられるが、これらに限定されない)や非細胞表面マーカー(IFN-γ及びIL-2等が挙げられるが、これらに限定されない)のいずれかに対して行うことができる。活性化細胞の単離は、当技術分野で知られているいずれかの方法(例えば、FACSによる方法)を用いた形態学ベースの精製(例えば、大型細胞の単離)によって行うこともできる。通常、活性化細胞はCD8+細胞の発現に関しても選択される。更に、上述の方法の任意の組み合わせを利用することにより活性化細胞を効率的に単離することができる。
【0345】
本発明の一実施形態によれば、活性化細胞の選択はCD137+及び/又はCD25+細胞の選択によって行う。
【0346】
活性化細胞単離の第2工程は、通常、培養の最後(即ち、IL-21、IL-15及びIL-7を用いて抗原を含まない環境で培養した後)に行う。この工程では、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)を照射宿主抗原提示細胞(APC、例えば、樹状細胞)と接触させた後に活性化した細胞の枯渇によって、アロ反応性細胞が枯渇する。上述のように、活性化細胞の単離は、親和性ベースの精製(例えば、MACSビーズ、FACSソーター及び/又は捕獲ELISA標識化を利用する方法等)によって行うことができ、活性化マーカー(例えば、細胞表面マーカー(CD69、CD44、CD25、CFSE、CD137等が挙げられるが、これらに限定されない)や非細胞表面マーカー(IFN-γ及びIL-2等が挙げられるが、これらに限定されない))のいずれかに対して行うことができる。
【0347】
本発明の一実施形態によれば、アロ反応性細胞の枯渇はCD137+及び/又はCD25+細胞の枯渇によって行う。
【0348】
本発明の一実施形態によれば、Tcm細胞と照射宿主抗原提示細胞(APC、例えば、樹状細胞)との培養を、例えば、培養の開始(即ち、1種以上の抗原と共にメモリーCD8+T細胞を培養する最初の日である0日目)から約6~9日後(例えば、8日目)に12~24時間(例えば、16時間)行ってアロ反応性細胞を枯渇させる。
【0349】
一実施形態によれば、活性化細胞の単離は、上述のように第1工程のみによって行う。
【0350】
他の実施形態によれば、活性化細胞の単離は、上述のように第2工程のみによって行う。
【0351】
一実施形態によれば、Tcm表現型を含むベト細胞はCD3+、CD8+、CD62L+、CD45RA-、CD45RO+シグネチャーを含む。
【0352】
ベト細胞の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%がCD3+CD8+細胞であることは理解されよう。特定の実施形態によれば、ベト細胞はCD3+CD8+細胞を約30~50%含む。特定の実施形態によれば、ベト細胞はCD3+CD8+細胞を約50~70%含む。特定の実施形態によれば、ベト細胞はCD3+CD8+細胞を約70~90%含む。
【0353】
CD3+CD8+細胞の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%がTcm細胞シグネチャーを有することは理解されよう。特定の実施形態によれば、CD3+CD8+細胞の約30~80%はTcm細胞シグネチャーを有する(例えば、40~50%)。
【0354】
一実施形態によれば、細胞の少なくとも50%はCD3+CD8+細胞であり、その少なくとも30%はシグネチャーを有する。
【0355】
一実施形態によれば、細胞の少なくとも50%はCD3+CD8+細胞であり、その少なくとも50%はシグネチャーを有する。
【0356】
一実施形態によれば、細胞の少なくとも50%はCD3+CD8+細胞であり、その少なくとも70%はシグネチャーを有する。
【0357】
一実施形態によれば、本発明のセントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を有する非GvHD誘導ベト細胞は天然には存在せず、天然の産物ではない。このような細胞は通常、エクスビボ操作(即ち、特定のサイトカインの存在下での1種以上の抗原への曝露)によって作製する。
【0358】
本発明の一実施形態によれば、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を含み、寛容誘導細胞であり、及び/又は抗疾患活性が付与されており、移植後にリンパ節へのホーミングが可能な非GvHD誘導ベト細胞の集団を作製する方法であって、
(a)T細胞を含む細胞集団であって、T細胞が少なくとも40%のCD8+メモリーT細胞を含む集団を用意することと、
(b)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上の抗原と接触させて、抗原反応性細胞を富化させる(且つGVH反応性細胞を枯渇させる)ことと、
(c)工程(b)で得た細胞をIL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養してTcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法が提供される。
【0359】
本発明の一実施形態によれば、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を含み、寛容誘導細胞であり、及び/又は抗疾患活性が付与されており、移植後にリンパ節へのホーミングが可能な非GvHD誘導ベト細胞の集団を作製する方法であって、
(a)末梢血単核細胞(PBMC)をCD4+細胞、CD56+細胞及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤で処理するか、又はCD45RO+細胞、CD8+細胞を選択可能な薬剤で処理することで、CD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むメモリーCD8+T細胞が富化されたT細胞を含む細胞集団を得ることと、
(b)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上の抗原と接触させて、抗原反応性細胞を富化させることと、
(c)工程(b)で得た細胞を、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養して、Tcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法が提供される。
【0360】
本発明の一実施形態によれば、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を含む非GvHD誘導ベト細胞の集団であって、細胞が寛容誘導細胞である及び/又は抗ウイルス活性が付与されたものであり、移植後にリンパ節へのホーミングが可能な集団を作製する方法であって、
(a)T細胞を含む細胞集団であって、T細胞が少なくとも40%のCD8+メモリーT細胞を含む集団を用意することと、
(b)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上のウイルス抗原と接触させて、ウイルス抗原反応性細胞を富化させることと、
(c)工程(b)で得た細胞を、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養して、Tcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法が提供される。
【0361】
本発明の一実施形態によれば、セントラルメモリーTリンパ球(Tcm)表現型を含む非GvHD誘導ベト細胞の集団であって、細胞が寛容誘導細胞である及び/又は抗ウイルス活性が付与されたものであり、移植後にリンパ節へのホーミングが可能な集団を作製する方法であって、
(a)末梢血単核細胞(PBMC)をCD4+細胞、CD56+細胞及びCD45RA+細胞を枯渇可能な薬剤で処理するか、又はCD45RO+細胞、CD8+細胞を選択可能な薬剤で処理することで、CD45RO+CD45RA-CD8+表現型を含むメモリーCD8+T細胞が富化されたT細胞を含む細胞集団を得ることと、
(b)T細胞を含む細胞集団をIL-21の存在下で1種以上のウイルス抗原と接触させて、ウイルス抗原反応性細胞を富化させることと、
(c)工程(b)で得た細胞を、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で培養して、Tcm表現型を含む細胞を増殖させることと
を含む方法が提供される。
【0362】
上述のように、IL-21の存在下で細胞集団を1種以上の抗原(例えば、ウイルス抗原)と接触させることにより、抗原(例えば、ウイルス反応性細胞)を富化させると同時にGVH反応性細胞を枯渇させることができる。
【0363】
一実施形態によれば、1種以上の抗原に特異的なメモリーT細胞を得るために、メモリーT細胞ドナーからメモリーT細胞を得る前に(例えば、メモリーT細胞を少なくとも40%含むT細胞を含む細胞集団を用意する前に)、抗原(例えば、腫瘍抗原、ウイルス抗原)をメモリーT細胞ドナーに投与する。免疫原性応答(例えば、メモリーT細胞の作製)を誘発するために、抗原に対して細胞ドナーを免疫化する方法のいずれかを利用することができる。
【0364】
抗原はそのまま投与してもよく、アジュバント(例えば、完全フロイントアジュバント(CFA)又は不完全フロイントアジュバント(IFA))を含む組成物の一部として投与してもよい。一実施形態によれば、抗原をメモリーT細胞ドナーに1回投与する。一実施形態によれば、メモリーT細胞ドナーは、少なくとも1回の追加の(例えば、ブースト)の抗原投与(例えば、2回、3回、4回又はそれ以上の投与)を受ける。このような追加の投与は、抗原の最初の投与から1日後、3日後、5日後、7日後、10日後、12日後、14日後、21日後、30日後又はそれ以上後に行うことができる。
【0365】
本発明の幾つかの実施形態で使用することができる腫瘍抗原に対して対象を免疫化する更なる方法(例えば、ペプチド特異的DCワクチン等の細胞ベースのワクチン、未決定エピトープに対するDCワクチン、ワクチン接種への白血病由来DCの使用、GVAX(登録商標)プラットフォーム)については、Alatrash G. and Molldrem J., Expert Rev Hematol. (2011) 4(1): 37-50(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0366】
特定の抗原に対するメモリーT細胞を更に富化させ、メモリーT細胞プールからアロ反応性クローンを枯渇させるために、上述のように、メモリーT細胞を同一の抗原(例えば、細胞ドナーに投与したのと同じ抗原)と更に接触させることができる。
【0367】
上述のように、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドを本発明のベトTcm細胞に形質導入する。
【0368】
一実施形態によれば、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養することと同時に形質導入を行う。
【0369】
一実施形態によれば、形質導入は通常、培養の3~9日目(例えば、培養の3~8日目、例えば、培養の3~7日目、例えば、培養の4~8日目、例えば、培養の4~7日目、例えば培養の4~6日目、例えば、培養の5~7日目、例えば、培養の5~6日目)に行う。特定の実施形態によれば、形質導入は通常、培養の5~6日目に行う。
【0370】
従って、通常は、IL-21、IL-15及び/又はIL-7の存在下で細胞を培養する工程(即ち、Tcm培養増殖工程)で、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドをTcm細胞に形質導入する。
【0371】
一実施形態によれば、Tcm表現型を有する寛容誘導性抗原特異的細胞を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養する前に形質導入を行う。
【0372】
一実施形態によれば、T細胞を含む細胞集団の形質導入は新鮮な細胞に対して行う。
【0373】
一実施形態によれば、T細胞を含む細胞集団の形質導入はCD4-CD56-CD45RA-細胞に対して行う。
【0374】
従って、Tcm表現型を有し、GVH反応性を欠く寛容誘導性抗原特異的細胞(即ち、ベト細胞)を富化させる条件下で、細胞を1種以上の抗原と共に培養する前に、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドをT細胞(例えば、メモリーCD8+細胞を少なくとも40%含むもの)を含む細胞集団に形質導入することができる。このような条件下では、形質導入は通常、細胞取得(例えば、白血球除去)の1~7日以内、例えば、3~4日以内に行う。
【0375】
一実施形態によれば、培養の1~3日目(例えば、培養の1日目、2日目又は3日目)にT細胞を含む細胞集団に形質導入をし、その後、得られた細胞集団をIL-21の存在下で1種以上の抗原と共に(例えば、約2~4日間、例えば、3日間)培養した後、IL-21、IL-7及びIL-15と共に(例えば、約4~12日間、例えば、9日間)培養する。
【0376】
一実施形態によれば、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドのT細胞を含む細胞集団への形質導入は、細胞周期(例えば、増殖)に入るための細胞活性化を必要としない方法、例えば、後述するように、レンチウイルスを使用するか又は遺伝子編集によって行う。
【0377】
一実施形態によれば、Tcm表現型を有し、GVH反応性を欠く寛容誘導性抗原特異的細胞(即ち、ベト細胞)を富化させる条件下で、T細胞を含む細胞集団を1種以上の抗原と共に培養した後に形質導入を行う。
【0378】
従って、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドをベト細胞に形質導入することができる。このような条件下では、形質導入はベト細胞の作製後いつでも行うことができ、例えば、ベト細胞の作製後12、24、36、48時間の範囲内、又は1、2、3、4、5、6、7、10、12、14、21、30、45、60、90日間以上の範囲内で行うことができる。
【0379】
一実施形態によれば、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む細胞表面受容体をコードするポリヌクレオチドのベト細胞への形質導入は、細胞周期(例えば、増殖)に入るための細胞活性化を必要としない方法、例えば、後述するように、レンチウイルスを使用するか又は遺伝子編集によって行う。
【0380】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、RNA配列、相補的ポリヌクレオチド配列(cDNA)、ゲノムポリヌクレオチド配列及び/又は複合ポリヌクレオチド配列(例えば、上述の組み合わせ)の形態で単離及び提供される一本鎖又は二本鎖核酸配列を意味する。
【0381】
単離ポリヌクレオチドは当技術分野で知られている組換え方法によって得ることができ、例えば、遺伝子を発現する細胞からライブラリーをスクリーニングするか、それを含むことが知られているベクターから遺伝子を誘導するか、又は標準的な技法を利用して、それを含有する細胞や組織から直接単離することによって得ることができる。或いは、目的の遺伝子をクローニングではなく合成によって作製することができる。
【0382】
本発明の幾つかの実施形態に係るポリヌクレオチドは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び/又は細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)のシグナル伝達モジュールをコードする核酸配列を含む単一のポリヌクレオチドを含むことができる。或いは、2個以上のポリヌクレオチドを使用することもでき、この場合、1個のポリヌクレオチドが、例えば、細胞外ドメインと膜貫通ドメインをコードする核酸配列を含むことができ、他のポリヌクレオチドが、シグナル伝達モジュールをコードする核酸配列を含むことができる。
【0383】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本発明の幾つかの実施形態の分子をコードする核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドと、単離ポリヌクレオチドの宿主細胞への転写を指示するためのシス作用性調節エレメントとを含む核酸構築物が提供される。
【0384】
従って、本発明の細胞表面受容体(例えば、tg-TCR又はCAR分子)をコードする天然又は合成核酸の発現は、通常、細胞表面受容体(例えば、tg-TCR又はCAR)ポリペプチド又はその一部をコードする核酸をシス作用性調節エレメント(例えば、プロモーター配列)に作動可能に連結し、構築物を発現ベクターに組み込むことによって行うことができる。
【0385】
本発明の核酸構築物は、エンハンサー、転写及び翻訳開始配列、転写及び翻訳ターミネーター及びポリアデニル化シグナル、5’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第2鎖DNA合成の起点、及び3’LTR又はその一部;例えば、内部リボソーム侵入部位(IRES)等、単一のmRNAからの数種のタンパク質の翻訳を可能にする追加のポリヌクレオチド配列、及びプロモーターキメラポリペプチドのゲノム組込み用配列;発現ペプチドの安定性、作製、精製、収率又は毒性を高めるように操作された配列を含むこともできる。
【0386】
エンハンサーは転写開始の頻度を調節する。通常、プロモーター要素は開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターが開始部位の下流にも機能的要素を含むことが最近示された。プロモーター要素間のスペーシングは柔軟であることが多いため、要素が相対的に反転又は移動してもプロモーター機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーター要素間のスペーシングを50bpまで大きくすることができる。プロモーターに応じて、個々の要素が協調的又は独立的に機能して転写を活性化できるようである。
【0387】
適切なプロモーターの一例は最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、作動可能に連結されたいずれのポリヌクレオチド配列をも高レベルで発現させることができる強力な構成的プロモーター配列である。適切なプロモーターの他の例は、伸長成長因子-1α(EF-1α)である。しかし、他の構成的プロモーター配列も使用することができ、その例としては、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の長い末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、及びヒト遺伝子プロモーター(アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明は構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として企図される。誘導性プロモーターの使用によって、発現が望まれる場合には作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を活性化し、発現が望まれない場合にはその発現を遮断することができる分子スイッチがもたらされる。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0388】
本発明の単離ポリヌクレオチドは複数の種類のベクターにクローニングすることができる。例えば、単離ポリヌクレオチドはベクター(プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、及びコスミド等が挙げられるが、これらに限定されない)にクローニングすることができる。特に対象となるベクターとしては、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及び配列決定ベクターが挙げられる。
【0389】
哺乳動物発現ベクターの例としては、Invitrogen社から入手可能なpcDNA3、pcDNA3.1(+/-)、pGL3、pZeoSV2(+/-)、pSecTag2、pDisplay、pEF/myc/cyto、pCMV/myc/cyto、pCR3.1、pSinRep5、DH26S、DHBB、pNMT1、pNMT41、pNMT81、Promega社から入手可能なpCI、Strategene社から入手可能なpMbac、pPbac、pBK-RSV及びpBK-CMV、Clontech社から入手可能なpTRES、及びこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0390】
レトロウイルス等の真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターも使用することができる。SV40ベクターとしてはpSVT7とpMT2が挙げられる。ウシパピローマウイルス由来のベクターとしてはpBV-1MTHAが挙げられ、エプスタイン・バーウイルス由来のベクターとしてはpHEBO及びp2O5が挙げられる。他のベクターの例としては、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、及びSV-40初期プロモーター、SV-40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、又は真核細胞での発現に有効であることが示されている他のプロモーターの指示下でタンパク質の発現を可能にする他のベクターが挙げられる。
【0391】
現在のインビボ又はインビトロ核酸導入技術としては、アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)等のウイルス又は非ウイルス構築物によるトランスフェクションが挙げられる。組換えウイルスベクターによって側方感染や標的特異性等の利点がもたらされる。ウイルス感染による核酸の導入によって、ウイルスの感染性に起因する高いトランスフェクション効率が得られるため、リポフェクションやエレクトロポレーション等の他の方法に勝る幾つもの利点がもたらされる。
【0392】
ウイルスベクター技術は当技術分野で良く知られており、例えば、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、及び他のウイルス学や分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。一般に、適切なベクターは、少なくとも1種の生物で機能的な複製起点、プロモーター配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1種以上の選択マーカーを含む(例えば、国際公開第01/96584号、国際公開第01/29058号、及び米国特許第6,326,193号明細書)。
【0393】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の核酸構築物はウイルスベクターである。
【0394】
レンチウイルス等のレトロウイルスに由来するベクターは、導入遺伝子の長期的で安定した組込みと娘細胞での増殖を可能にするため、長期的な遺伝子導入を行うために適したツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞等の非増殖細胞に形質導入できるという点で、マウス白血病ウイルス等のオンコレトロウイルスに由来するベクターよりも優れた利点がある。
【0395】
更に、レンチウイルスベクターは高い遺伝子挿入能力をもたらし、免疫原性が低いという利点もある。或いは、ガンマレトロウイルスベクターを使用することもできる。ガンマレトロウイルスベクターは形質導入効率が高く、ベクター関連の毒性がない[例えば、上述のZhang and Morgan, Adv Drug Deliv Rev. (2012)を参照]。
【0396】
例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達系に便利なプラットフォームを提供する。選択された遺伝子をベクターに挿入し、当技術分野で知られている技術によってレトロウイルス粒子にパッケージすることができる。次に、組換えウイルスを単離し、インビボ又はエクスビボのいずれかで対象の細胞に送達することができる。
【0397】
細胞表面受容体(例えば、tg-TCR又はCAR)ポリペプチド又はその一部の発現を評価するため、細胞に導入する核酸構築物に、選択可能マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子のいずれか又はその両方を含めて、ウイルスベクターを介してトランスフェクト又は感染しようとする細胞集団からの発現細胞の同定及び選択を容易にすることができる。他の様相では、選択可能マーカーを別のDNA断片に担持し、同時形質移入手順において使用することができる。選択可能マーカーとレポーター遺伝子の両方に、宿主細胞での発現を可能にする適切な調節配列が隣接していてもよい。有用な選択可能マーカーとしては、例えば、neo等の抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0398】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を特定し、調節配列の機能を評価するために使用する。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物又は組織に存在又は発現せず、その発現が容易に検出可能な特性(例えば、酵素活性)によって明らかにされるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入された後の適切な時点でアッセイする。適切なレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼ、又は緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子を挙げることができる(例えば、Ui-Tel et al., 2000 FEBS Letters 479: 79-82)。適切な発現系はよく知られており、公知の技術を利用して調製するか又は商業的に入手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最高レベルの発現を示す最小の5’フランキング領域を有する構築物がプロモーターとして同定される。このようなプロモーター領域をレポーター遺伝子に連結し、プロモーター駆動転写を調節する能力について剤を評価することに使用することができる。
【0399】
様々な方法によって、本発明の核酸構築物を宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、又は昆虫細胞に導入することができる。このような方法は通常、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (1989, 1992), in Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, Md. (1989), Chang et al., Somatic Gene Therapy, CRC Press, Ann Arbor, Mich. (1995), Vega et al., Gene Targeting, CRC Press, Ann Arbor Mich. (1995), Vectors: A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses, Butterworths, Boston Mass. (1988) and Gilboa et at.[Biotechniques 4 (6): 504-512, 1986]に記載されており、その例としては、物理的、化学的、又は生物学的手段(例えば、安定的又は一過性トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション及び組換えウイルスベクターによる感染)が挙げられる。更に、ポジティブ-ネガティブ選択法については、米国特許第5,464,764号及び第5,487,992号明細書を参照。
【0400】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等が挙げられる。ベクター及び/又は外因性核酸を含む細胞を作製する方法は当技術分野で良く知られており。例えば、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)を参照。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための好ましい方法はリン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0401】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段としては、コロイド分散系、例えば、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及びリポソームを含む脂質ベース系が挙げられる。インビトロ及びインビボで送達媒体として使用するコロイド系の例は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0402】
目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法としては、DNA及びRNAベクターの使用が挙げられる(上述の通り)。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、ヒト細胞等の哺乳動物細胞への遺伝子挿入に最も広く用いられる方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス等に由来することができる。例えば、米国特許第5,350,674号及び第5,585,362号明細書を参照。
【0403】
非ウイルス送達系を利用する場合、例示的な送達媒体はリポソームである。
【0404】
「リポソーム」は、封入された脂質二重層又は凝集体の作製によって形成される、様々な単層及び多層状の脂質媒体を包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜と内部水性媒体を有する小胞構造を有することを特徴とすることができる。多層状リポソームは水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過剰の水溶液に懸濁すると自然に形成される。
【0405】
脂質成分は、閉じた構造を形成する前に自己再構成し、脂質二重層間に水と溶質を捕捉する(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。しかし、通常の小胞構造とは異なる構造を溶液中に有する組成物も包含される。例えば、脂質はミセル構造を呈することもあり、単に脂質分子の不均一な凝集体として存在することもある。また、リポフェクタミン-核酸複合体も企図される。
【0406】
宿主細胞への核酸の導入(インビトロ、エクスビボ又はインビボ)のために脂質製剤の使用が企図される。他の様相では、核酸は脂質と結合することができる。脂質と結合した核酸は、リポソームの水性内部にカプセル化する、リポソームの脂質二重層内に散在させる、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方に結合した連結分子を介してリポソームに結合させる、リポソーム内に捕捉する、リポソームと複合体を形成する、脂質を含む溶液に分散させる、脂質と混合する、脂質と結合させる、懸濁液として脂質中に含有させる、ミセルと含有させるか複合体を形成させる、又は脂質と会合させることができる。脂質、脂質/DNA又は脂質/発現ベクター関連組成物は、溶液中のどの特定の構造にも限定されない。例えば、ミセルとして、又は「崩壊した」構造を有する二重層構造で存在することができる。また、単に溶液中に散在しているだけで、サイズや形状が均一でない凝集体を形成している可能性もある。脂質は脂肪性物質であり、天然脂質又は合成脂質とすることができる。例えば、脂質としては、細胞質で自然に発生する脂肪滴、並びに脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール及びアルデヒド等の長鎖脂肪族炭化水素及びその誘導体を含む化合物のクラスが挙げられる。
【0407】
使用に適した脂質は商業的供給源から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、ミズーリ州、セントルイス、Sigma社から入手可能であり、リン酸ジセチル(「DCP」)は、K&K Laboratories社(ニューヨーク州、プレインビュー)から入手可能であり、コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behring社から入手可能であり、ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)及び他の脂質はAvanti Polar Lipids,Inc(アラバマ州、バーミングハム)から入手可能である。上記に加えて、または代わりに、DOTMA、DOPE、及びDC-Chol[Tonkinson et al., Cancer Investigation, 14(1): 54-65 (1996)]脂質を使用することができる。クロロホルム又はクロロホルム/メタノール中の脂質原液は約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも容易に蒸発するため、唯一の溶媒として使用される。
【0408】
本発明に従って使用することができる他の非ウイルス送達系の例は、トランスポゾンベースの非ウイルス遺伝子送達系、例えば、Sleeping BeautyやPiggyBac等である。
【0409】
本発明に従って使用することができる他の非ウイルス送達系の例は、CRISPR/Cas系等の遺伝子編集系である。この系は、RNA成分を作製するクラスター化一定間隔の短い回文反復(CRISPR)遺伝子と、タンパク質成分をコードするCRISPR関連(Cas)遺伝子とを含む。更に、ゲノム編集用のCRIPSR/Cas系は通常、2種の異なる成分、即ち、gRNAとエンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)を含む。
【0410】
外因性核酸を宿主細胞の導入に利用される方法とは関係なく、宿主細胞における組換えDNA配列の存在を確認するために様々なアッセイが行うことができる。このようなアッセイとしては、例えば、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、RT-PCR及びPCR等の当業者に良く知られる「分子生物学的」アッセイや、例えば、免疫学的手段(ELISA及びウエスタンブロット)又は本明細書に記載のアッセイによって特定のペプチドの存在又は非存在を検出して、本発明の範囲内の剤を同定するような「生化学的」アッセイが挙げられる。
【0411】
細胞表面受容体(例えば、tg-TCR及び/又はCAR)を形質導入した細胞は、細胞内の少なくとも1種の内因性免疫学的チェックポイント遺伝子の発現を抑制するために更に遺伝子改変可能であることが理解されよう。
【0412】
免疫学的チェックポイント遺伝子はPD遺伝子又はCTLA遺伝子を含むことができる。
【0413】
本明細書で使用される「免疫学的チェックポイント遺伝子」という用語は、免疫応答の振幅を調節するように作用する阻害プロセス(例えば、フィードバックループ)、例えば、有害な免疫応答の無制御な伝播を抑制する免疫阻害フィードバックループに関与する遺伝子のいずれかを意味する。
【0414】
免疫学的チェックポイント遺伝子の非限定的な例としては、受容体の拡張CD28ファミリーのメンバーとそのリガンド、及び共抑制経路に関与する遺伝子(例えば、CTLA-4及びPD-1)が挙げられる。
【0415】
従って、一実施形態によれば、米国特許出願第20140120622号(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載のように、PD1及び/又はCTLA-4標的ヌクレアーゼ又は転写リプレッサーを用いることができる。
【0416】
上記に加えて、または代わりに、T細胞の活性化又は機能を調節する免疫チェックポイントタンパク質(例えば、PD1、PDL-1、B7H2、B7H4、CTLA-4、CD80、CD86、LAG-3、TIM-3、KIR、IDO、CD19、OX40、4-1BB(CD137)、CD27、CD70、CD40、GITR、CD28及び/又はICOS(CD278))は、免疫チェックポイント制御因子を使用して、形質導入細胞内で調節(例えば、必要に応じてアップレギュレート又はダウンレギュレート)することができる。
【0417】
特定の実施形態によれば、免疫チェックポイント制御因子は、抗CTLA4、抗PD-1、抗PDL-1、CD40アゴニスト、4-1BBアゴニスト、GITRアゴニスト及びOX40アゴニストから成る群から選択される。
【0418】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本発明の幾つかの実施形態の方法に従って取得可能な遺伝子改変ベト細胞の単離集団が提供される。
【0419】
一実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の単離集団はCD8+T細胞を少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%又はそれ以上含み、その内の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%又はそれ以上が、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体(例えば、CAR又はtg-TCR)を発現する。
【0420】
特定の実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の単離集団はCD8+T細胞を少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%含み(例えば、50%CD8+T細胞、例えば、70%CD8+T細胞)、その内の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上の細胞(例えば、50%)が、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体(CAR又はtg-TCR)を発現する。
【0421】
一実施形態によれば、遺伝子改変ベト細胞の単離集団は寛容誘導細胞であり、形質導入されたCAR又はtg-TCRを介してその標的抗原(例えば、腫瘍抗原)に対して特異的な反応性を示し、Tcm細胞の作製及び抗宿主クローンの除去に使用されるサードパーティー抗原(例えば、ウイルス抗原)に対する培養による抗疾患活性(例えば、抗ウイルス活性)を含む。本発明の幾つかの実施形態のベトCAR-T細胞は、その治療効果を発揮させるためにTCR依存的機序とTCR非依存的機序の両方を利用することが理解されよう。
【0422】
本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団は、それ自体を生物に投与するか、又は適切な担体又は賦形剤と混合し医薬組成物として投与することができる。
【0423】
本明細書で使用される「医薬組成物」とは、本明細書に記載の1種以上の有効成分と生理学的に適切な担体や賦形剤等の他の化学成分とから成る調製物を意味する。医薬組成物の目的は化合物の生物への投与を容易にすることである。
【0424】
本明細書において「有効成分」という用語は、生物学的効果に対して責任を負う遺伝子改変ベトTcm細胞を意味する。
【0425】
以下、互換的に使用される「生理学的に許容される担体」と「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性及び特性を抑制しない担体又は希釈剤を意味する。このような語句にはアジュバントが含まれている。
【0426】
本明細書において「賦形剤」という用語は、医薬組成物に添加して有効成分の投与を更に容易にする不活性物質を意味する。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖及び各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0427】
薬物の処方と投与の技法については、“Remington’s Pharmaceutical Sciences,” Mack Publishing Co., Easton, PA, latest edition(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0428】
適切な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に経鼻、腸管内又は非経口送達を挙げることができ、例えば、筋肉内、皮下及び髄内注射や、髄腔内、直接心室内、心臓内、例えば、右心室腔又は左心室腔や冠動脈への注射、静脈内、腹腔内、鼻腔内、又は眼内注射を挙げることができる。
【0429】
中枢神経系(CNS)への薬物送達のための従来のアプローチとしては、神経外科的戦略(例えば、脳内注射又は脳室内注入)、BBBの内因性輸送経路の1個を利用するための剤の分子操作(例えば、内皮細胞表面分子に対して親和性を有する輸送ペプチドを含むキメラ融合タンパク質の作製と、それ自体がBBBを通過できない剤との組み合わせ)、薬剤の脂溶性を高めるように設計された薬理学的戦略(例えば、脂質又はコレステロール担体への水溶性剤の結合)、及び高浸透圧破壊によるBBBの完全性の一時的な破壊(頸動脈へのマンニトール溶液の注入又はアンジオテンシンペプチド等の生物活性剤の使用に起因)が挙げられる。しかし、これらの戦略の各々には制限があり、例えば、侵襲的な外科処置に伴う固有のリスク、内因性輸送系に固有の制限によって課されるサイズ制限、中枢神経系外で活性化する可能性のある担体モチーフで構成されるキメラ分子の全身投与に伴う潜在的に望ましくない生物学的副作用、及びBBBが中断された脳の領域内で脳損傷の可能性のリスクがあるため、最適な送達方法にはならない。或いは、例えば、患者の組織領域への直接的な医薬組成物の注射を介して、全身的ではなく局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0430】
一実施形態によれば、投与経路としては、例えば、注射、経口摂取、輸注、注入又は移植が挙げられる。本明細書に記載の組成物の患者への投与は、皮下、皮内、腫瘍内、節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射、又は腹腔内によって行うことができる。一実施形態では、本発明の医薬組成物を皮内又は皮下注射によって患者に投与する。他の実施形態では、本発明の医薬組成物を静脈内投与によって投与することが好ましい。腫瘍、リンパ節、又は感染部位に医薬組成物を直接注射することができる。
【0431】
本発明の幾つかの実施形態の医薬組成物は、当技術分野で良く知られたプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、粉末化、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
【0432】
従って、本発明の幾つかの実施形態に従って使用する医薬組成物は、薬学的に使用可能な調製物への有効成分の処理を容易にする、賦形剤及び助剤を含む1種以上の生理学的に許容される担体を使用して従来の方法で処方することができる。適切な製剤は選択する投与経路によって決まる。
【0433】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩緩衝液等の生理的に適合性のある緩衝液に処方することができる。経粘膜投与の場合、浸透するバリアに適した浸透剤を処方に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では一般に知られている。
【0434】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物を当技術分野で良く知られた薬学的に許容される担体と組み合わせて容易に処方することができる。そのような担体によって、患者が経口摂取できるように医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤等として処方することができる。経口使用のための薬理学的調製物は固体賦形剤を使用して作製し、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して錠剤又は糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖等の充填剤、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロース等のセルロース調製物、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)等の生理学的に許容されるポリマーである。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸又はその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤を添加することができる。
【0435】
糖衣錠コアには適切なコーティングを設ける。この目的のために、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を必要に応じて含み得る濃縮糖溶液を使用することができる。染料又は顔料を錠剤又は糖衣錠コーティングに添加して識別に用いたり、活性化合物用量の様々な組み合わせを特徴付けたりすることができる。
【0436】
経口使用可能な医薬組成物としては、ゼラチンで形成されたプッシュフィットカプセルや、ゼラチンとグリセロールやソルビトール等の可塑剤で形成されたソフトシールカプセルが挙げられる。プッシュフィットカプセルには、有効成分と混合させて、ラクトース等の充填剤、デンプン等のバインダー、タルク又はステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、及び必要に応じて安定剤を配合することができる。ソフトカプセルにおいては、有効成分を適切な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィン、又は液体ポリエチレングリコール)に溶解又は懸濁させることができる。更に安定剤を添加することができる。経口投与用の全ての製剤は、選択した投与経路に適した投与形態とすべきである。
【0437】
口腔内投与の場合、組成物は従来の方法で処方された錠剤又はトローチの形態をとることができる。
【0438】
経鼻吸入による投与の場合、本発明の幾つかの実施形態に係る使用のための有効成分は、適切な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン又は二酸化炭素)を使用して、加圧パック又はネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で簡便に送達する。加圧エアロゾルの場合、計量された量を送達するバルブを設けることによって投与単位を決定することができる。ディスペンサーで使用する、例えば、ゼラチンのカプセル及び薬包は、化合物と適切な粉末基剤(例えば、ラクトースやデンプン)との粉末混合物を含むように処方することができる。
【0439】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えば、ボーラス注射又は持続注入による非経口投与用に処方することができる。
【0440】
注射用製剤は単位剤形、例えば、アンプルで供給するか、又は必要に応じて防腐剤を添加した複数回投与容器で供給することができる。組成物は油性媒体又は水性媒体中の懸濁液、溶液又は乳濁液とすることができ、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤などの調合剤を含むことができる。
【0441】
非経口投与用の医薬組成物には水溶性の活性製剤の水溶液が含まれる。更に、有効成分の懸濁液は適切な油性又は水ベースの注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又は媒体としては、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド又はリポソーム等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。
【0442】
水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストラン等の懸濁液の粘度を上昇させる物質を含むことができる。必要に応じて、懸濁液は、有効成分の溶解度を上昇させて高濃度溶液の調製を可能にする適切な安定剤又は薬剤を含むこともできる。
【0443】
或いは、有効成分は、適切な媒体(例えば、無菌でパイロジェンフリーの水ベース溶液)で用事調製するための粉末形態とすることができる。
【0444】
本発明の幾つかの実施形態の医薬組成物は、例えば、カカオバターや他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を使用して坐剤又は保持浣腸等の直腸組成物に処方することもできる。
【0445】
本発明の幾つかの実施形態の状況での使用に適した医薬組成物としては、本来の目的を達成するために有効な量の有効成分を含む組成物が挙げられる。より具体的には、治療有効量とは、障害(例えば、悪性疾患又は非悪性疾患)の症状を予防、緩和又は改善するか、又は治療される対象の生存を延長するために有効な有効成分(遺伝子改変ベトTcm細胞)の量を意味する。
【0446】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0447】
「治療量」が示されている場合、投与する本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、疾患状態、例えば、腫瘍サイズ、感染又は転移の程度、及び患者(対象)の病態における個人差を考慮して医師が決定することができる。一般に、本明細書に記載の細胞を含む医薬組成物は、104~109個(細胞)/kg体重(この範囲内の全ての整数値を含む)の用量で投与することができると言える。
【0448】
例えば、レシピエントに注入する細胞の数は、1×104個/Kg体重超とする必要がある。レシピエントに注入する細胞の数は通常、1×103個/Kg体重~1×104個/Kg体重の範囲、1×104個/Kg体重~1×105個/Kg体重の範囲、1×104個/Kg体重~1×106個/Kg体重の範囲、1×104個/Kg体重~1×107個/Kg体重の範囲、1×104個/Kg体重~1×108個/Kg体重の範囲、1×103個/Kg体重~1×105個/Kg体重の範囲、1×104個/Kg体重~1×106個/Kg体重の範囲、1×106個/Kg体重~10×107個/Kg体重の範囲、1×105個/Kg体重~10×107個/Kg体重の範囲、1×106個/Kg体重~1×108個/Kg体重の範囲、又は1×106個/Kg体重~1×109個/Kg体重の範囲とする必要がある。特定の実施形態によれば、レシピエントに注入する細胞の数は、1×106個/Kg体重~10×108個/Kg体重の範囲とする必要がある。
【0449】
本発明の幾つかの実施形態の細胞組成物はこのような用量で複数回投与することもできる。免疫療法で一般に知られている注入技術(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照)によって細胞を投与することができる。特定の患者に対する最適な投与量と治療計画は、疾患の徴候について患者をモニターし、それに応じて治療を調整することによって、医療の当業者が容易に決定することができる。
【0450】
例えば、病理に対する有効成分(例えば、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞)の効果は、治療対象の生体試料における細胞マーカー、ホルモン、グルコース、ペプチド、炭水化物、サイトカイン等のレベルを良く知られた方法(例えば、ELISA、FACS等)によりモニターすることによって評価するか、又は良く知られた方法(例えば、超音波、CT、MRI等)により腫瘍サイズをモニターすることによって評価することができる。
【0451】
本発明の方法で使用されるいずれの調製物についても、治療有効量又は用量は先ずインビトロ及び細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、動物モデルにおいて用量を処方して所望の濃度又は力価を得ることができる。このような情報を利用してヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0452】
本明細書に記載の有効成分の毒性及び治療効果は、細胞培養物又は実験動物においてインビトロでの標準的な製薬手順によって確認することができる。このようなインビトロ及び細胞培養アッセイ及び動物試験から得たデータを用いて、ヒトで使用される範囲の投与量を処方することができる。
【0453】
投与量は使用する剤形及び利用する投与経路に応じて変わり得る。正確な処方、投与経路及び投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、Fingl, et al., 1975, in“The Pharmacological Basis of Therapeutics”, Ch. 1 p.1を参照)。
【0454】
投与量と投与間隔は個別に調整して、生物学的効果を誘発又は抑制するために十分な有効成分のレベル(最小有効濃度、MEC)を得ることができる。MECは調製毎に変わるが、インビトロデータから推定することができる。MECを得るために必要な投与量は、個々の特性と投与経路によって決まる。検出アッセイにより血漿中濃度を確認することができる。
【0455】
治療する病態の重症度と応答性に応じて投薬は単回又は複数回の投与であり、治療過程は数日間~数週間続くか、或いは治癒が成されるか又は病状が軽減されるまで続く。
【0456】
当然のことながら、投与する組成物の量は、治療する対象、苦痛の重症度、投与方法、処方医師の判断等に依存する。
【0457】
本発明の幾つかの実施形態によれば、本発明の治療剤は、病状を治療するために設計された他の薬物と併用して[即ち、併用療法、例えば、遺伝子改変ベト細胞の投与前、投与と同時、又は投与後に]対象に提供することができる。
【0458】
本発明の特定の実施形態では、本発明の幾つかの実施形態の細胞は、任意数の関連治療法と併せて患者に投与され、例えば、抗ウイルス剤(例えば、ガンシクロビル、バラシクロビル、アシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、シドフォビル、マリバビル、レフルノミド)、化学療法剤(例えば、抗悪性腫瘍薬、例えば、シクロホスファミド、ブスルファン、メクロレタミン又はムスチン(HN2)、ウラムスチン又はウラシルマスタード、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、ベンダムスチン、ニトロソウレア、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、チオテパ、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、四硝酸トリプラチン、プロカルバジン、アルトレタミン、トリアゼン(ダカルバジン、ミトゾロミド、テモゾロミド)、ダカルバジン、テモゾロミド、ミレラン、ブスルフェクス、フルダラビン、ジメチルミレラン又はシタラビン等のアルキル化剤が挙げられるが、これらに限定されない)、MSの治療剤(例えば、ナタリズマブ)、又は乾癬の治療剤(例えば、エファリズマブ)等の剤による治療が挙げられるが、これらに限定されない。
【0459】
更なる実施形態では、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞は、化学療法、放射線療法、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、及びFK506)、抗体、又は他の免疫破壊剤(以下で更に詳述)と併用することができる。
【0460】
更なる実施形態では、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞組成物は、未成熟造血細胞(例えば、骨髄)移植と併せて(例えば、移植前、移植と同時、又は移植後に)患者に投与する。
【0461】
更なる実施形態では、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞組成物は、非形質導入ベト細胞(即ち、T細胞受容体シグナル伝達モジュールを含む異種細胞表面受容体(例えば、CAR又はtg-TCR)を発現するように形質導入されていないベト細胞)と併用して(例えば、その投与前に、投与と同時に、又は投与後に)患者に投与する。
【0462】
更なる実施形態では、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞組成物は、例えば、フルダラビン、外照射療法(XRT)、シクロホスファミド等の化学療法剤、又は抗胸腺細胞グロブリン(ATG)抗体、抗CD3(OKT3)抗体又はCAMPATH(登録商標)(アレムツズマブ、抗CD52抗体)等の抗体を用いたT細胞除去療法(T細胞減量とも称される)の後に患者に投与する。
【0463】
他の実施形態では、本発明の遺伝子改変ベトTcm細胞組成物は、CD20と反応する剤(例えば、リツキサン)等のB細胞除去療法の後に投与する。
【0464】
併用療法によって治療対象における本発明の剤の治療効果を高めることができる。
【0465】
本発明の幾つかの実施形態の組成物は、必要に応じて、有効成分を含む1種以上の単位剤形を含むことのできる、FDA承認キット等のパック又はディスペンサーデバイスで提供することができる。パックは、例えば、ブリスターパック等の金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサーデバイスには投与用説明書を添付することができる。パック又はディスペンサーには、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の容器に関連する通知(組成物の形態又はヒトや動物への投与に関する機関による承認を反映している通知)を収容することもできる。このような通知は、例えば、処方薬について米国食品医薬品局で承認されたラベル表示、又は承認された製品挿入物とすることができる。上で更に詳述したように、適合性医薬担体に処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、示された病態の治療用にラベルすることもできる。
【0466】
キットは、例えば、ブリスターパック等の金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサーデバイスには投与用説明書を添付することができる。パック又はディスペンサーには、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の容器に関連する通知(組成物の形態又はヒトや動物への投与に関する機関による承認を反映している通知)を収容することもできる。このような通知は、例えば、処方薬について米国食品医薬品局で承認されたラベル表示、又は承認された製品挿入物とすることができる。上で更に詳述したように、適合性医薬担体に処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、示された病態の治療用にラベルすることもできる。
【0467】
一実施形態によれば、キットは化学療法剤(例えば、以下で詳述する抗悪性腫瘍剤)を更に含む。
【0468】
一実施形態によれば、キットは抗ウイルス剤(本明細書にて上で詳述)を更に含む。
【0469】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、疾患の治療を必要とする対象において疾患を治療する方法であって、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞の単離集団の治療有効量を対象に投与し、それによって対象を治療することを含む方法が提供される。
【0470】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、疾患の治療を必要とする対象における疾患の治療に使用するための、本発明の幾つかの実施形態の治療有効量の遺伝子改変ベトTcm細胞の単離集団が提供される。
【0471】
「治療する」という用語は、病状(疾患、障害又は病態)の発生を抑制、防止又は阻止すること、及び/又は病状の軽減、寛解、又は後退を引き起こすことを意味する。当業者であれば、様々な方法やアッセイにより病状の発生を評価することができ、同様に、様々な方法やアッセイにより病状の軽減、寛解又は後退を評価することができることを理解するであろう。
【0472】
本明細書で使用される「対象」又は「~を必要とする対象」という用語は、細胞又は組織の移植を必要としているか、又は遺伝子改変ベト細胞で治療可能な疾患に罹患しているあらゆる年齢の哺乳動物、好ましくはヒト、男性又は女性を意味する。
【0473】
一実施形態によれば、対象は、障害又は病理学的状態又は望ましくない状態、状況、又は症候群、又は細胞又は組織の移植による治療に適した身体的、形態学的又は生理学的異常に起因して、細胞又は組織の移植(本明細書ではレシピエントとも称される)を必要としている。そのような障害の例を更に後述する。
【0474】
従って、本発明の方法はいずれの疾患の治療にも適用することができ、その疾患の例としては、悪性疾患(例えば、癌)、移植片の移植に伴う疾患(例えば、移植片拒絶、移植片対宿主病)、感染症(例えば、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染、原虫感染又は寄生虫感染)、非悪性血液疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0475】
一実施形態によれば、対象は悪性疾患を有する。
【0476】
癌性疾患
本発明の幾つかの実施形態の方法によって治療することができる悪性疾患(癌とも称される)は、固形腫瘍又は非固形腫瘍のいすれか及び/又は腫瘍転移とすることができる。
【0477】
癌の例としては、細胞腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。そのような癌のより詳細な例としては、扁平上皮癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、黒色腫、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、及び肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(消化器癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、カルチノイド癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、中皮腫、多発性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、及び様々な種類の頭頸部癌(例えば、脳腫瘍)が挙げられる。本発明の治療に適した癌病態としては転移性癌が挙げられる。
【0478】
一実施形態によれば、悪性疾患は血液悪性腫瘍である。血液悪性腫瘍の例としては、白血病[例えば、急性リンパ性、急性リンパ芽球性、急性リンパ芽球性プレB細胞、急性リンパ芽球性T細胞白血病、急性-巨核芽球性、単球性、急性骨髄性、急性骨髄球性、好酸球増加症を伴う急性骨髄球性、B細胞、好塩基性、慢性骨髄性、慢性、B細胞、好酸球性、フレンド、顆粒球性又は骨髄球性、有毛細胞、リンパ球性、巨核芽球性、単球性、単球マクロファージ、骨髄芽球性、骨髄性、骨髄単球性、形質細胞、プレB細胞、前骨髄球性、亜急性、T細胞、リンパ系腫瘍、骨髄性悪性腫瘍の素因、急性非リンパ球性白血病、T細胞急性リンパ球性白血病(T-ALL)及びB細胞慢性リンパ球性白血病(B-CLL)]及びリンパ腫[例えば、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキット、皮膚T細胞、組織球、リンパ芽球、T細胞、胸腺、B細胞、例えば、低悪性度/濾胞性;小リンパ球(SL)NHL;中等度/濾胞性NHL;中級びまん性NHL;高悪性度の免疫芽細胞NHL;高悪性度のリンパ芽球NHL;高悪性度の小型非切断細胞NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;及びワルデンストレームマクログロブリン血症]が挙げられるが、これらに限定されない。
【0479】
特定の実施形態によれば、悪性疾患は白血病、リンパ腫、骨髄腫、黒色腫、肉腫、神経芽細胞腫、結腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、滑膜細胞癌又は膵臓癌である。
【0480】
本発明の幾つかの実施形態によれば、病状は固形腫瘍である。
【0481】
本発明の幾つかの実施形態によれば、病状は腫瘍転移である。
【0482】
本発明の幾つかの実施形態によれば、病状は血液悪性腫瘍である。
【0483】
特定の実施形態によれば、悪性疾患は白血病又はリンパ腫である。
【0484】
特定の実施形態によれば、悪性疾患は多発性骨髄腫である。
【0485】
本発明の幾つかの実施形態の方法によって治療可能な悪性疾患の例を以下の表2及び3に列挙する。
【0486】
【0487】
【0488】
特定の実施形態によれば、悪性疾患は、白血病、リンパ腫、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)、黒色腫、肉腫、神経芽細胞腫、結腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、食道癌、滑膜細胞癌及び膵臓癌である。
【0489】
特定の実施形態によれば、疾患としては、白血病[例えば、急性リンパ性、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性リンパ芽球性プレB細胞、急性リンパ芽球性T細胞白血病、急性-巨核芽球性、単球性、急性骨髄性、急性骨髄球性、好酸球増加症を伴う急性骨髄球性、B細胞、好塩基性、慢性骨髄性、慢性、B細胞、好酸球性、フレンド、顆粒球性又は骨髄球性、急性骨髄球性白血病(AML)又は慢性骨髄球性白血病(CML)、有毛細胞、リンパ球性、巨核芽球性、単球性、単球マクロファージ、骨髄芽球性、骨髄性、骨髄単球性、形質細胞、プレB細胞、前骨髄球性、亜急性、T細胞、リンパ系腫瘍、骨髄性悪性腫瘍の素因、急性非リンパ性白血病、急性非リンパ球性白血病(ANLL)、T細胞急性リンパ球性白血病(T-ALL)及びB細胞慢性リンパ球性白血病(B-CLL)]、リンパ腫(例えば、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、B細胞、バーキット、皮膚T細胞、組織球、リンパ芽球、T細胞、胸腺)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0490】
非悪性血液疾患
非悪性血液疾患の例としては、貧血、骨髄障害、深部静脈血栓症/肺塞栓症、ダイヤモンド・ブラックファン貧血、ヘモクロマトーシス、血友病、免疫血液障害、鉄代謝障害、鎌状赤血球症、サラセミア、血小板減少症、フォン・ヴィルブランド病、重度複合免疫不全症候群(SCID)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、再生不良性貧血、及び他の先天性又は遺伝的に決定された造血異常が挙げられるが、これらに限定されない。
【0491】
感染性疾患
感染性疾患の例としては、慢性感染性疾患、亜急性感染性疾患、急性感染性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、原虫疾患、寄生虫疾患、真菌性疾患、マイコプラズマ疾患及びプリオン病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0492】
本発明の開示に従って治療可能な感染性疾患を引き起こすウイルス病原体の具体的な種類としては、レトロウイルス、サーコウイルス、パルボウイルス、パポバウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、イリドウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、ピコルナウイルス、カリシウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、コロナウイルス、アレナウイルス、及びフィロウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0493】
本発明の開示に従って治療することができるウイルス感染症の具体例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)誘発性後天性免疫不全症候群(AIDS)、インフルエンザ、ライノウイルス感染症、ウイルス性髄膜炎、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、A型、B型又はC型肝炎ウイルス感染症、麻疹、パピローマウイルス感染症/疣贅、サイトメガロウイルス(CMV)感染症、COVID-19感染症、単純ヘルペスウイルス感染症、黄熱病、エボラウイルス感染症、狂犬病、アデノウイルス(Adv)、風邪ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎、ポリオ、呼吸器合胞体、風疹、天然痘、水痘帯状疱疹、ロタウイルス、西ナイルウイルス及びジカウイルスに起因するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0494】
特定の実施形態によれば、ウイルス性疾患は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、BKウイルス、アデノウイルス(Adv)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザ、サイトメガロウイルス(CMV)、T細胞白血病ウイルス1型(TAX)、C型肝炎ウイルス(HCV)又はB型肝炎ウイルス(HBV)から成る群から選択されるウイルスに起因する。
【0495】
本発明の開示に従って治療することができる細菌感染症の具体例としては、炭疽菌、グラム陰性桿菌、クラミジア、ジフテリア、インフルエンザ菌、ヘリコバクター・ピロリ、マラリア、結核菌、百日咳毒素、肺炎球菌、リケッチア、ブドウ球菌、連鎖球菌及び破傷風に起因するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0496】
本発明の開示に従って治療することができるスーパーバグ感染症(例えば、多剤耐性細菌)の具体例としては、Enterococcus faecium、Clostridium difficile、Acinetobacter baumannii、Pseudomonas aeruginosa、及び腸内細菌科(Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter spp.等)に起因するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0497】
本発明の開示に従って治療することができる真菌感染症の具体例としては、カンジダ、コクシジオイデス、クリプトコッカス、ヒストプラズマ、リーシュマニア、マラリア原虫、原虫、寄生虫、住血吸虫、白癬、トキソプラズマ、及びtrypanosoma cruziに起因するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0498】
移植片拒絶疾患
他の実施形態によれば、疾患は移植片の移植に関連する。移植片の移植に関連する疾患の例としては、移植片拒絶、慢性移植片拒絶、亜急性移植片拒絶、超急性移植片拒絶、急性移植片拒絶、同種移植片拒絶、異種移植片拒絶及び移植片対宿主病(GVHD)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0499】
本発明の遺伝子改変ベト細胞は通常、非同系の用途に使用される。従って、メモリーT細胞又はPBMC(即ち、遺伝子改変ベト細胞の作製に使用)は通常、対象に対して同種異系(例えば、同種異系ドナー由来)である。同様に、異種への用途が有益となり得る場合、使用するメモリーT細胞又はPBMCは、後述するように異種起源のものとすることができる。しかし、同系への適用が有益となり得る場合、メモリーT細胞又はPBMC(即ち、遺伝子改変ベト細胞の作製に使用)は、対象に対して自己(例えば、対象由来)とすることができる。このような決定は、特に記載された開示を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0500】
本明細書で使用される「同系」細胞という用語は、対象と本質的に遺伝的に同一である細胞、又は対象の本質的に全てのリンパ球である細胞を意味する。同系細胞の例としては、対象に由来する細胞(当技術分野では「自己」とも称される)、対象のクローンに由来する細胞、又は対象の一卵性双生児に由来する細胞が挙げられる。
【0501】
本明細書で使用される「非同系」細胞という用語は、対象と本質的に遺伝的に同一ではない細胞、又は対象の本質的に全てのリンパ球ではない細胞(例えば、同種異系細胞又は異種細胞)を意味する。
【0502】
本明細書で使用される「同種異系」という用語は、レシピエント対象と同種ではあるが、レシピエント対象とは実質的に非クローン性であるドナー対象に由来する細胞を意味する。通常、同種の非近交系、非接合性の双子哺乳動物は互いに同種異系である。同種異系細胞は、レシピエント対象に対してHLA同一、部分的にHLA同一、又はHLA非同一(即ち、1種以上の異なるHLA決定基を表示)であり得ることが理解されよう。
【0503】
本明細書で使用される「異種」という用語は、対象のリンパ球のかなりの比率の種に対して異なる種の抗原を実質的に発現する細胞を意味する。通常、異なる種の非近交系哺乳動物は互いに異種である。
【0504】
本発明は異種細胞が様々な種に由来することを企図している。従って、一実施形態によれば、細胞は哺乳動物のいずれかに由来することができる。細胞の起源として適した種には、主要な家畜動物及び霊長類が含まれる。そのような動物としては、ブタ科(例えば、ブタ)、ウシ科(例えば、雌ウシ)、ウマ科(例えば、ウマ)、ヒツジ科(例えば、ヤギ、ヒツジ)、ネコ科(例えば、Felis domestica)、イヌ科(例えば、Canis domestica)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター)、及び霊長類(例えば、チンパンジー、アカゲザル、マカクザル、マーモセット)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0505】
異種起源(例えば、ブタ起源)の細胞は、ブタ内在性レトロウイルス等の人獣共通感染症を持たないことが知られている供給源から得ることが好ましい。同様に、ヒト由来の細胞又は組織は、実質的に病原体を持たない供給源から得ることが好ましい。
【0506】
一実施形態によれば、細胞は対象と非同系である。
【0507】
一実施形態によれば、細胞は対象と同種異系である。
【0508】
一実施形態によれば、細胞は対象と同系(例えば、自己)である。
【0509】
本発明の一実施形態によれば、対象はヒトであり、細胞はヒト起源(例えば、非同系)である。
【0510】
従って、メモリーT細胞又はPBMC(即ち、遺伝子改変ベト細胞を得るために使用)の供給源は、細胞の使用目的に対して決定する(以下の更なる詳述を参照)が、特に本明細書に記載の詳細な開示に鑑みて十分に当業者の能力の範囲内である。
【0511】
上述のように、本発明のベトTcm細胞には寛容誘導活性が付与されている。従って、遺伝子改変ベト細胞の使用は、移植片拒絶を排除し、移植片対宿主病(GvHD)を克服する必要がある状況では特に有益である。従って、本発明のベトTcm細胞は、細胞又は組織の移植用の補助療法として使用することができる。
【0512】
本発明のTcm細胞には抗疾患活性も付与されているため、本発明の方法は更に、細胞又は組織移植片の生着を促進すると同時に、対象の疾患を治療する上で有利に使用することができる。従って、遺伝子改変ベト細胞は、同種異系又は異種の細胞又は組織の移植等において、罹患細胞(例えば、再発中の癌細胞や残存細胞)を死滅させ、感染を防止する上で有利に使用することができる。
【0513】
従って、上述のように、本発明の遺伝子改変ベト細胞は、抗疾患活性(例えば、抗ウイルス活性及び/又は抗腫瘍活性)を付与されているため、対象(例えば、移植を受けた対象)が、移植前又は移植後(例えば、免疫再構築がなされる前)に疾患又は病態(例えば、悪性疾患、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染)を有すると同時に移植片拒絶を排除し、移植片対宿主病(GvHD)を克服している状況では有益である。
【0514】
一実施形態によれば、この方法は、細胞又は組織移植片を対象に移植することを更に含む。
【0515】
一実施形態によれば、細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法であって、(a)対象に細胞又は組織移植片を移植することと、(b)本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベト細胞の単離集団の有効量を対象に投与することを含み、それによって細胞又は組織の移植を必要とする対象を治療する方法が提供される。
【0516】
一実施形態によれば、対象への細胞又は組織の移植のための補助療法として使用するための、本発明の幾つかの実施形態の治療有効量の遺伝子改変ベト細胞の単離集団であって、対象は細胞又は組織の移植を必要としている、単離集団が提供される。
【0517】
一実施形態によれば、移植は遺伝子改変ベト細胞の投与と同時に行うか、又は投与前又は投与後に行う。
【0518】
本明細書で使用される「細胞又は組織移植片」という語句は、身体細胞(例えば、単一細胞又は細胞群)又は組織(例えば、完全又は部分的に移植することができる固形組織/臓器又は軟部組織)を意味する。本開示に従って移植することができる組織又は臓器の例としては、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、心臓、肺、皮膚、腸及びリンパ組織/造血組織(例えば、リンパ節、パイエル板、胸腺又は骨髄)が挙げられるが、これらに限定されない。本開示に従って移植することができる細胞の例としては、未成熟造血細胞、例えば、幹細胞、心臓細胞、肝細胞、膵臓細胞、脾臓細胞、肺細胞、脳細胞、腎細胞、腸管/腸細胞、卵巣細胞、皮膚細胞(例えば、これらの細胞のいずれかの単離集団)が挙げられるが、これらに限定されない。更に、本発明は、例えば、腎臓、心臓、肝臓又は皮膚等の臓器全体の移植も企図する。
【0519】
用途に応じて、対象と同系又は非同系の細胞又は組織を使用してこの方法を行うことができる。
【0520】
本発明の一実施形態によれば、対象と細胞又は組織ドナーの両方がヒトである。
【0521】
用途及び仕様可能な供給源に応じて、本発明の細胞又は組織は、出生前の生物、出生後の生物、成体又は死体ドナーから得ることができる。更に、必要な用途に応じて、細胞又は組織をナイーブ又は遺伝子改変とすることができる。そのような決定は十分に当業者の能力の範囲内である。
【0522】
当技術分野で知られているいずれかの方法によって細胞又は組織(例えば、移植用)を得ることができる。
【0523】
対象への細胞又は組織の移植は、様々なパラメータ、例えば、細胞又は組織の種類、レシピエントの疾患の種類、ステージ又は重症度(例えば、臓器不全)、対象に特異的な物理的又は生理学的パラメータ、及び/又は望ましい治療結果等に応じて多くの方法で行うことができる。
【0524】
本発明の細胞又は組織移植片の移植は、用途に応じて、細胞又は組織移植片を様々な解剖学的位置のいずれかに移植することによって行うことができる。細胞又は組織移植片は、同所性解剖学的位置(移植片用の正常な解剖学的位置)又は異所的解剖学的位置(移植用の正常ではない解剖学的位置)に移植することができる。用途に応じて、細胞又は組織移植片は、腎被膜下、又は腎臓、精巣脂肪、皮下組織、大網、門脈、肝臓、脾臓、心臓腔、心臓、胸腔、肺、皮膚、膵臓及び/又は腹腔内空間に有利に移植することができる。
【0525】
例えば、本開示による肝臓組織は、肝臓、門脈、腎被膜、皮下組織、大網、脾臓、及び腹腔内空間に移植することができる。このような様々な解剖学的位置への肝臓の移植は、肝臓移植による治療に適した疾患(例えば、肝不全)を治療するために当技術分野で通常行われている。同様に、本発明による膵臓組織の移植は、組織を門脈、肝臓、膵臓、精巣脂肪、皮下組織、大網、腸ループ(小腸のUループの漿膜下)及び/又は腹腔内空間に移植することによって有利に行うことができる。膵臓組織の移植は、膵臓移植による処置に適した疾患(例えば、糖尿病)を治療するために使用することができる。同様に、組織の移植、例えば、腎臓組織、心臓組織、肺組織又は皮膚組織の移植は、例えば、腎不全、心不全、肺不全又は皮膚損傷(例えば、火傷)に罹患しているレシピエントを治療するという目的のために上述のいずれかの解剖学的場所に対して行うことができる。単離細胞を移植する場合、そのような細胞は、例えば、静脈内経路、気管内経路、腹腔内経路、又は鼻腔内経路を介して投与することができる。
【0526】
本発明の方法は、例えば、未成熟造血細胞移植を必要とする疾患に罹患しているレシピエントを治療するために利用することもできる。
【0527】
後者の場合、例えば、ドナーの骨髄、動員末梢血(例えば、白血球除去法によるもの)、胎児肝臓、卵黄嚢及び/又は臍帯血に由来し得る未成熟な自己、同種異系又は異種の造血細胞(幹細胞を含む)を疾患に罹患しているレシピエントに移植することができる。一実施形態によれば、未成熟造血細胞はT細胞枯渇CD34+未成熟造血細胞である。
【0528】
本発明の未成熟な自己又は同種異系造血細胞は、細胞移植のために当技術分野で知られているいずれかの方法によって(例えば、細胞注入(例えば、I.V.)又は腹腔内経路を介する方法が挙げられるが、これらに限定されない)レシピエントに移植可能であることが理解されよう。
【0529】
必要に応じて、本発明の細胞又は組織移植片を欠損臓器を有する対象に移植する際には、最初、その不全な臓器を対象から少なくとも部分的に除去して、移植片の最適な発育及び、対象の解剖/生理機能とその構造的/機能的な統合を可能にすることが有利な場合がある。
【0530】
一実施形態によれば、細胞又は組織移植片は同種異系ドナーに由来する。一実施形態によれば、細胞又は組織移植片はHLA同一同種異系ドナー又はHLA非同一同種異系ドナーに由来する。一実施形態によれば、細胞又は組織移植片は異種ドナーに由来する。
【0531】
一実施形態によれば、細胞又は組織移植片と遺伝子改変ベトTcm細胞は同一(例えば、非同系)ドナーに由来する。
【0532】
一実施形態によれば、細胞又は組織移植片と遺伝子改変ベト細胞は異なる(例えば、非同系)ドナーに由来する。従って、細胞又は組織移植片は遺伝子改変ベトTcm細胞と非同系とすることができる。
【0533】
一実施形態によれば、未成熟造血細胞と遺伝子改変ベトTcm細胞は同一(例えば、非同系)ドナーに由来する。
【0534】
一実施形態によれば、未成熟造血細胞と遺伝子改変ベトTcm細胞は異なる(例えば、非同系)ドナーに由来する。従って、未成熟造血細胞は遺伝子改変ベトTcm細胞と非同系とすることができる。
【0535】
本発明の方法は、対象にとってそのような処置が有利となる場合には、数種の臓器(例えば、心臓組織と肺組織)の同時移植も想定している。
【0536】
一実施形態によれば、同時移植は、未成熟造血細胞と1種の固形組織/臓器又は複数の固形臓器/組織の移植を含む。
【0537】
一実施形態によれば、未成熟造血細胞と固形臓器は同一のドナーから得る。
【0538】
他の実施形態によれば、未成熟造血細胞と1種以上の固形臓器/組織は異なる(例えば、非同系)ドナーから得る。
【0539】
一実施形態によれば、未成熟造血細胞は固形臓器の移植前、移植と同時、又は移植後に移植する。
【0540】
一実施形態によれば、本発明の幾つかの実施形態の遺伝子改変ベトTcm細胞と共に未成熟造血細胞を移植することによって造血キメリズムが対象に先ず誘導され、これによって同一ドナーから移植された他の組織/臓器の寛容をもたらす。
【0541】
一実施形態によれば、本発明の遺伝子改変ベトTcm細胞はそれ自体を、同一ドナーから移植された移植組織/臓器の拒絶反応を抑制するために使用する。
【0542】
一実施形態によれば、本発明の遺伝子改変ベトTcm細胞はそれ自体を、残存癌細胞を死滅させるため、又は疾患再発に対して使用する。
【0543】
一実施形態によれば、本発明の遺伝子改変ベトTcm細胞はそれ自体を、感染性疾患(例えば、ウイルス性疾患)の治療に使用する。
【0544】
本開示に従って細胞又は組織移植片を対象に移植した後、標準的な医療行為により、様々な標準的技法のいずれかによって臓器の成長機能性や免疫適合性をモニターすることが望ましい。例えば、膵臓組織移植片の機能性は、移植後に標準的な膵臓機能試験(例えば、インスリンの血清レベルの分析)によってモニターすることができる。同様に、肝組織移植片は、移植後に標準的な肝機能検査(例えば、アルブミン、総タンパク質、ALT、AST及びビリルビンの血清レベルの分析、及び血液凝固時間の分析)によってモニターすることができる。細胞又は組織の構造発達は、コンピュータ断層撮影法や超音波画像法によってモニターすることができる。
【0545】
移植状況に応じて、細胞又は組織移植片の生着を容易にするために、この方法は、移植前に亜致死的、致死的又は超致死的条件下で対象に前処置を行うことを更に有利に含むことができる。
【0546】
本明細書において、本発明の対象の前処置に関して使用される「亜致死」、「致死」及び「超致死」という用語はそれぞれ、対象の代表的集団に適用した場合に、通常は、集団の本質的に全てのメンバーに対して非致死的であるか、集団の一部のメンバーに対しては致死的であるが全てのメンバーに対しては致死的ではない、又は通常の無菌条件下で集団の本質的に全てのメンバーに対して致死的となる骨髄毒性及び/又はリンパ球毒性の処理を意味する。
【0547】
本発明の幾つかの実施形態によれば、亜致死的、致死的又は超致死的な前処置は、全身照射(TBI)、全身リンパ節照射(TLI、即ち、全てのリンパ節、胸腺及び脾臓への照射)、部分身照射(例えば、肺、腎臓、脳等への特異的照射)、骨髄破壊的前処置及び/又は非骨髄破壊的前処置を、例えば、各種(共刺激遮断、化学療法剤及び/又は抗体免疫療法が挙げられるが、これらに限定されない)と組み合わせて含む。本発明の幾つかの実施形態によれば、前処置は上述の前処置プロトコルのいずれかの組み合わせ(例えば、化学療法剤とTBI、共刺激遮断と化学療法剤、抗体免疫療法と化学療法剤)を含む。
【0548】
一実施形態によれば、TBIは、0.5~1Gy、0.5~1.5Gy、0.5~2.5Gy、0.5~5Gy、0.5~7.5Gy、0.5~10Gy、0.5~15Gy、1~1.5Gy、1~2Gy、1~2.5Gy、1~3Gy、1~3.5Gy、1~4Gy、1~4.5Gy、1~1.5Gy、1~7.5Gy、1~10Gy、2~3Gy、2~4Gy、2~5Gy、2~6Gy、2~7Gy、2~8Gy、2~9Gy、2~10Gy、3~4Gy、3~5Gy、3~6Gy、3~7Gy、3~8Gy、3~9Gy、3~10Gy、4~5Gy、4~6Gy、4~7Gy、4~8Gy、4~9Gy、4~10Gy、5~6Gy、5~7Gy、5~8Gy、5~9Gy、5~10Gy、6~7Gy、6~8Gy、6~9Gy、6~10Gy、7~8Gy、7~9Gy、7~10Gy、8~9Gy、8~10Gy、10~12Gy又は10~15Gyの範囲内の単回照射線量又は分割照射線量を含む。
【0549】
特定の実施形態によれば、TBIは1~7.5Gyの範囲内の単回照射線量又は分割照射線量を含む。
【0550】
一実施形態によれば、前処置は、骨髄破壊的条件下等の超致死的条件下で対象に前処置して行う。
【0551】
或いは、前処置は、骨髄抑制条件下又は非骨髄破壊的条件下で対象に前処置する等、致死的又は亜致死的条件下で対象に前処置して行うことができる。
【0552】
一実施形態によれば、前処置は、骨髄破壊的薬物(例えば、ブスルファン及び/又はメルファラン)又は非骨髄破壊的薬物(例えば、シクロホスファミド及び/又はフルダラビン)で対象に前処置して行う。
【0553】
対象に前処置を行うために使用可能な前処置剤の例としては、照射及び薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0554】
薬剤の例としては、骨髄毒性薬、リンパ球毒性薬及び免疫抑制薬が挙げられる(以下で詳述する)。
【0555】
骨髄毒性薬の例としては、ブスルファン、ジメチルミレラン、メルファラン及びチオテパが挙げられるが、これらに限定されない。
【0556】
上記に加えて、または代わりに、この方法は、細胞又は組織移植片の移植前、移植と同時、又は移植後に免疫抑制レジメンで対象に前処置を行うことを更に含むことができる。
【0557】
適切な免疫抑制レジメンの例としては、免疫抑制薬の投与及び/又は免疫抑制照射が挙げられる。
【0558】
移植に適した免疫抑制レジメンを選択し、施すための十分なガイダンスが当技術分野の文献に記載されている(例えば、Kirkpatrick CH. and Rowlands DT Jr., 1992. JAMA. 268, 2952、Higgins RM. et al., 1996. Lancet 348, 1208、Suthanthiran M. and Strom TB., 1996. New Engl. J. Med. 331, 365、Midthun DE. et al., 1997. Mayo Clin Proc. 72, 175、Morrison VA. et al., 1994. Am J Med. 97, 14; Hanto DW., 1995. Annu Rev Med. 46, 381、Senderowicz AM. et al., 1997. Ann Intern Med. 126, 882、Vincenti F. et al., 1998. New Engl. J. Med. 338, 161、Dantal J. et al. 1998. Lancet 351, 623を参照)。
【0559】
好ましくは、免疫抑制レジメンは、対象に少なくとも1種の免疫抑制剤を投与することで構成されている。
【0560】
免疫抑制剤の例としては、タクロリムス(FK-506又はフジマイシンとも称される、商品名:プログラフ、アドバグラフ、プロトピック)、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸ナトリウム、プレドニゾン、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D-ペニシリン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE)、エタネルセプト、TNFα阻害剤、炎症性サイトカインを標的とする生物学的薬剤、及び非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が挙げられるが、これらに限定されない。NSAIDの例としては、アセチルサリチル酸、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナム酸、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox-2阻害剤、トラマドール、ラパマイシン(シロリムス)及びラパマイシン類似体(CCI-779、RAD001、AP23573等)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの薬剤は個々に投与してもよく、組み合わせて投与してもよい。
【0561】
移植片の種類に関係なく、移植片拒絶及び移植片対宿主病を回避するために、本発明の方法は(上で詳述したように)新規の遺伝子改変ベトTcm細胞を使用する。
【0562】
本発明の方法によれば、このような遺伝子改変ベトTcm細胞は、細胞又は組織移植片の移植と同時に、又は移植前又は移植後に投与する。
【0563】
遺伝子改変ベトTcm細胞は、上述のように、細胞移植用の当技術分野で知られているいずれかの方法によって投与することができ、その例としては、細胞注入(例えば、静脈内)又は腹腔内経路を介しての投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0564】
遺伝子改変ベトTcm細胞の抗疾患活性を高めるために、治療する疾患に関連する1種以上の抗原を選択し、治療用に抗原特異的Tcm細胞を作製することが有益である。
【0565】
従って、一実施形態によれば、疾患の治療を必要とする対象において疾患を治療する方法であって、
(a)疾患に関連する1種以上の抗原の存在について対象の生体試料を分析することと、
(b)疾患に関連する1種以上の抗原に対し、本発明の幾つかの実施形態の方法に従って遺伝子改変ベト細胞を作製することと、
(c)工程(b)の遺伝子改変ベト細胞の治療有効量を対象に投与することを含み、それによって対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0566】
本明細書で使用される「生体試料」とは、対象に由来する体液試料又は組織試料を意味する。「生体試料」の例としては、全血、血清、血漿、脳脊髄液、尿、リンパ液、組織生検、及び呼吸器、腸管及び泌尿生殖器の様々な外分泌物、涙、唾液、乳及び白血球、組織、細胞培養物(例えば、初代培養物)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0567】
そのような生体試料を得る方法は当技術分野で知られており、その例としては、標準的な血液回収手順、尿採取、及び腰椎穿刺が挙げられるが、これらに限定されない。
【0568】
生体試料中の1種以上の抗原の存在の決定は、当技術分野で知られているいずれかの方法で行うことができ、例えば、血清学的検査(病原体の存在の検査)、細菌培養、細菌感受性検査、真菌検査、ウイルス検査、マイコバクテリア検査(AFB検査)及び/又は寄生虫検査、電気泳動、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット分析及び蛍光活性化細胞選別(FACS)によって行うことができる。
【0569】
一旦分析がなされると、1種以上の抗原を選択し、上述のように、疾患に特異的な1種以上の抗原(例えば、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原等)を用いてメモリーCD8+T細胞集団から遺伝子改変ベトTcm細胞を作製し、治療用に対象に投与する。
【0570】
本明細書で使用される「約」という用語は±10%を意味する。
【0571】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0572】
「から成る」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0573】
「から実質的に成る」という用語は、組成物、方法又は構造が追加の成分、工程及び/又は部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程及び/又は部分が、請求項に記載の組成物、方法又は構造の基本的且つ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0574】
本明細書において、単数形を表す「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数をも対象とする。例えば、「化合物(a compound)」又は「少なくとも1種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物をも含み得る。
【0575】
本願全体を通して、本発明の様々な実施形態は範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性及び簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。従って、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、及びその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6といった範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5及び6も具体的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0576】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは常に示す範囲内の任意の引用数(分数又は整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数及び第2の指示数と、それらの間の分数及び整数の全部を含むことを意図する。
【0577】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学及び医療の各分野の従事者に既知のもの、又は既知の様式、手段、技術及び手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0578】
本明細書で使用する「治療する」という用語は、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延又は逆転、病態の臨床的又は審美的な症状の実質的な寛解、或いは病態の臨床的又は審美的な症状の悪化の実質的な予防を含む。
【0579】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、又は任意の好適な部分的な組み合わせ、又は適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。様々な実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0580】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明の様々な実施形態及び態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【0581】
本出願に開示の配列番号(SEQ ID NO)はいずれも、その配列番号がDNA配列フォーマット又はRNA配列フォーマットのみで表されている場合であっても、その配列番号が言及される文脈に応じてDNA配列又はRNA配列のいずれかに言及し得ることは理解されよう。例えば、配列番号1はDNA配列フォーマットで表されている(例えば、チミンをTと表記している)が、CARレトロウイルスベクター核酸配列に対応するDNA配列、又はRNA分子核酸配列のRNA配列のいずれかに言及し得る。同様に、一部の配列はRNA配列フォーマットで表されている(例えば、ウラシルをUと表記している)が、記載される分子の実際の種類に応じて、dsRNAを含むRNA分子の配列、又は示されたRNA配列に対応するDNA分子の配列のいずれかに言及し得る。いずれにせよ、開示された配列を有するDNA分子とRNA分子の両者が交換可能に想定される。
【実施例】
【0582】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0583】
一般に、本明細書で使用される命名法や本発明で利用される実験手順には、分子、生化学、微生物学及び組換えDNA技術が含まれる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、"Molecular Cloning: A laboratory Manual" Sambrook et al., (1989); "Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994); Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989); Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988); Watson et al., "Recombinant DNA", Scientific American Books, New York; Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998);米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号及び第5,272,057号明細書に記載の方法、"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994); "Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994); Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology" (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994); Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)、利用可能なイムノアッセイは特許及び科学文献に広く記載されている(例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号及び第5,281,521号参照)、"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984); "Nucleic Acid Hybridization" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985); "Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., Eds. (1984); "Animal Cell Culture" Freshney, R. I., ed. (1986); "Immobilized Cells and Enzymes" IRL Press, (1986); "A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984) and "Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press; "PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990); Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)。これら文献の全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。他の一般的な参考文献はこの文書全体で提供される。そこに記載の手順は、当技術分野で良く知られていると考えられており、読者の便宜のために提供される。そこに含まれる全ての情報を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0584】
一般材料と実験手順
セントラルメモリー抗ウイルスCD8
+ベト細胞(Tcm)の作製
図1Aに示すように、白血球除去及びフィコール分画後に得られた単核細胞は、磁気ビーズ分画によってCD4
+T細胞及びCD45RA
+T細胞とCD56
+NK細胞とが枯渇している。残りの細胞(CD8
+CD45RA
-メモリーCD8
+T細胞が富化)を同一ドナーから得た樹状細胞(DC)と共培養し、CMV、EBV、アデノ及びBKウイルスを含む4種ウイルスの異なるウイルスペプチドでパルスし、30Gyで照射した。培養の最初の3日間は、IL-21のみを培地に使用し、その後、IL-15とIL-7も添加した。セントラルメモリーT細胞(Tcm)を培養12日後に回収した。
【0585】
CARレトロウイルスベクターの構築
ヒトErbB-2に対するN29モノクローナル抗体をscFvの供給源として使用し、N29CARの構築を行った[Stancovski 1991]。N29をCD28共刺激ドメインとγITAMサブユニットドメインに連結した。scFvN29CARをpBulletレトロウイルスベクターにクローニングした(
図1B及び配列番号2参照)。
【0586】
パッケージング細胞の調製
Ca2PO4を使用して、GAG-POLpCL-AmphoレトロウイルスエンベロープとCARをコードするMSGV-1/pBulletベクターを293T細胞にトランスフェクトした。レトロウイルス上清を回収して使用し、アンホトロピックPG13パッケージング細胞を安定的に形質導入した。感染細胞を選別して、CAR発現細胞を富化させた。CAR発現と感染力価が最高レベルのパッケージング細胞を回収し、再増殖させ、アリコートにて-80℃で凍結させた。
【0587】
T細胞の形質導入
T細胞のレトロウイルス形質導入は先に記載されているように行った[Eshhar Z. et al., Functional expression of chimeric receptor genes in human T cells. J Immunol Methods (2001) 248:67-76]。即ち、Ficoll-Paque(ノルウェー国、オスロ、Axis-shield社)の密度勾配遠心分離によって健康なヒトドナーの血液からヒト末梢血リンパ球(PBL)を単離した。ヒト抗ウイルスベト細胞を上述のように調製した。精製抗ヒトCD3と精製抗ヒトCD28の両方でプレコートした非組織培養処理6ウェルプレートにて37℃で48時間、対照PBMCを活性化した。ベト細胞又は活性化PBMCの両方をそれぞれ、ヒトIL-2(100IU/mL)又はベト用IL-21、IL-15及びIL-7を含むサイトカインカクテルを補充したRetroNectin(Takara社)プレコート非組織培養処理6ウェルプレートにて2回連続してレトロウイルス形質導入に供した。形質導入後、350IU/mLのIL-2とベトの存在下及びサイトカインカクテルの存在下で活性化PBMCを培養した(上述の通り)。形質導入6日目にフローサイトメトリーによって形質導入効率をモニターした。非感染細胞がT細胞対照として含まれていた。
【0588】
フローサイトメトリー分析
N29特異的CAR受容体の細胞表面発現の分析は、その細胞外scFv部分の検出に基づいた。CAR形質導入T細胞と抗N29ビオチン抗体との最初のインキュベーションと、それに続くストレプトアビジン-APCとのインキュベーションを含む2工程染色プロトコルを用いた。緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光に基づいてN29の発現も推定した(N29CAR遺伝子配列の後に、発現ベクター内の内部リボソーム侵入部位(IRES)とGFPの結合配列が続く)。FACS緩衝液(PBS中に2%ウシ胎仔血清、0.05%のアジ化ナトリウム、及び2mMのEDTA(pH=8)を含む)で染色と細胞洗浄を行った。
【0589】
リンパ球CAR-T細胞とベトCAR-T細胞による反応標的のインビトロ評価
リンパ球CAR-T細胞又はベトCAR-T細胞とその対応する非感染対照細胞を、標的SKOV細胞と共に1:2の標的:エフェクター(T:E)比で24時間インキュベートした。無細胞増殖培地を回収し、ヒトIFN-γELISAキットを使用し、製造元の説明書(R&D Systems社)に従い、ELISAによってIFN-γ分泌について分析した。
【0590】
CAR-T細胞を介した細胞死滅
トランスフェクトしたT細胞の細胞毒性はメチレンブルー染色ベースのアッセイによって確認した。N29CAR-Tリンパ球、N29ベトCAR-T細胞又は非感染細胞を96ウェルプレートにて標的細胞と共に1:4、1:2、1:1、1:0.5及び1:0.25のT:E比でインキュベートした。16時間後、プレートをPBSで洗浄し、T細胞と死滅した標的細胞を除去した。培養プレートに付着したままの生細胞を4%のホルムアルデヒドで室温(RT)にて2時間固定し、0.1Mのホウ酸ナトリウム(pH8.5)で2回洗浄し、0.1Mのホウ酸ナトリウムで希釈した0.5%のメチレンブルー(Sigma Aldrich社)で室温にて15分間染色した。次に、細胞を水道水で洗浄して過剰のメチレンブルー溶液を除去した。分析前に0.1MのHCLを添加した。620nmでの吸光度をMultiskan FC ELISAリーダー(Thermo Fisher Scientific社)で読み取った。死滅率を次の式に従って計算した:100-(CAR-T細胞と共にインキュベートした標的細胞の吸光度/CAR-T細胞なしでインキュベートした標的細胞の吸光度×100)。
【0591】
トランスフェクション前後のベト活性の推定
ベト活性の評価は次の3工程で構成されていた。
【0592】
第1工程は、Pen/Strepと5%HSを補充したCellgro培地(Cellgenix社)において37℃、5%のCO2で5日間、ドナー型ベト細胞の存在下で行った宿主由来PBMC(エフェクター)とドナー由来照射刺激因子又はサードパーティー照射刺激因子との異なる比率(1:1又は1:5)でのバルク培養であった。
【0593】
次に、バルク培養物からの限界希釈アッセイ(LDA)を行い、宿主抗ドナーエンドポイントシグナルの増幅と滴定を行った。具体的には、各バルク培養由来の細胞をFicoll-Paque Plus勾配(スウェーデン国、ウプサラ、Amersham Pharmacia Biotech社)で分画し、PBSで洗浄し、5%のHS L-グルタミン、pen/strep、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、NEAA、2β-メルカプトエタノールを補充したRPMI-1640培地に再懸濁させた。次に、各培養物由来の細胞を計数し、0.4×106個(細胞)/mLの濃度にした。次に、各培養物由来の100μLのレスポンダー細胞を含む16個の複製物を2倍希釈し、U字型底96ウェルプレート(デンマーク国、ロスキレ、Nunc社)においてウェル1個当たりのレスポンダー細胞数を様々な値とした(40000、20000、10000、5000、2500、1250、625、312、156、78、39、19、9、4、2、0)。次に、105個の照射刺激因子(ドナー型特異的又はサードパーティー型非特異的)を含む100μLを10U/mLのIL-2と共に各ウェルに添加した。プレートを37℃、5%のCO2で7日間インキュベートした。
【0594】
最後に、培養終了時に、各ウェル由来の100μL(レスポンダー細胞を含む)を96ウェルV字型プレート(イタリア国、Greiner Bio One社)に移して標的細胞の死滅有効性を測定し、コンカナバリンA(ミズーリ州、セントルイス、Sigma社)で刺激し、Easy-Tag35S Met(Perkin Elmer社)で放射性標識した特異的ドナー又はサードパーティー(非特異的ドナー)由来の5×103個の芽細胞(標的細胞)と共に5時間(37℃、5%CO2)インキュベートした。注目すべきは、特異的ドナーはCARベトが作製されたのと同一のドナーから作製された芽細胞であり、非特異的ドナーはCARベト細胞のドナーとは異なるHLAタイピングセット(即ち、異なるHLAアレル)を有する他のドナーから作製された芽細胞であった。インキュベーション後、プレートを遠心分離し、50μLの上清(細胞を含まない)を計数96プレート(Optiplate、Perkin Elmer社)に移し、150μLのシンチレーション液(microscint40)を各ウェルに添加した。各プレートをプラスチックスティックでカバーし、室温で一晩インキュベートした。上清中の放射性物質の崩壊に起因する発光は、TopCount Luminescenceカウンター(Packard Instrument Co.,Inc)によって測定した。培地のみで培養した標的細胞による35S Metの放出を自然放出と定義した。更に、1%ドデシル硫酸ナトリウムによる細胞溶解を全放出と定義した。限界希釈培養の読み取り値から宿主CTL-pの頻度を計算するために[Taswell. C, Limiting dilution assays for the determination of immunocompetent cell frequencies. I. Data analysis. Journal of Immunol (1981) 126(4): 1614-1619]、次の式を使用した:lnY=-fx+lna(ポアソン分布のゼロ次項を表す)(式中、yは応答しない培養物の割合、xは培養物当たりの応答細胞の数、fは応答する前駆体の頻度、aは理論的に100%に等しいy切片である)。値が平均自然放出値を平均値の少なくとも3SD超えた場合、マイクロウェル培養物が細胞溶解応答に対して陽性であると見なした。応答培養物の割合は陽性培養物の割合を計算することによって定めた。データの線形回帰分析によって引かれた線の勾配からCTL-p頻度(f)を求めた。
【0595】
細胞内染色によって確認されるTcm細胞の抗ウイルス活性
ブレフェルジンA(eBioscience社)の存在下、ベト-Tcm細胞を各ウイルスペプチド混合物(EBV、CMV、Adeno、BKV)と37℃、5%のCO2で6時間共培養した。細胞を固定し、透過処理し(Invitrogen Fix&Permセット)、CD45、CD3、CD8、IFN-γ、及びTNF-α(BD)について免疫染色した。陽性対照にはPMA/イオノマイシンによるTCR非依存性刺激が含まれていた。CD45+/FSCリンパ球ゲートとCD3+CD8+に細胞をゲートした。
【0596】
実施例1
メモリーT細胞から作製された抗ウイルスCD8
+ベト細胞調製物におけるアロ反応性の明確化
本発明者らは、ウイルスペプチド(EBV、CMV、アデノウイルス及びBKウイルス)でパルスしたドナー樹状細胞(DC)に対する刺激を利用して、ドナーのT細胞メモリープールからセントラルメモリーCD8
+ベト細胞を作製した。具体的には、(
図1Aに示したように)CD4
+細胞、CD56
+細胞及びCD45RA
+細胞の枯渇によってCD8
+メモリーT細胞を正常なPBMCから単離し、ウイルスペプチドをロードしたDCと共培養した。次に、得られた細胞の抗宿主反応性を、このような細胞が抗宿主反応性を発揮しないことを示す限界希釈分析(LDA)死滅アッセイにより試験した(
図2)。
【0597】
実施例2
ヒトベトCAR-CD8+T細胞の抗腫瘍活性
血液悪性腫瘍患者における同種異系造血幹細胞移植(HSCT)は、自己HSCTによる結果と比較して(同種異系ドナーに由来する新たに確立された免疫系によって)移植片対白血病(GvL)効果を高めることが十分に確立されている。しかし、前者では移植関連死亡率(TRM)のリスクが高くなる。本明細書に記載の新しいアプローチ(弱い前処置を高用量T細胞枯渇HSCT及び抗ウイルスベト細胞と組み合わせる)によって、GvL活性を維持しながらTRMのリスクを大幅に低下させることが可能であろう。移植後の免疫再構築には少なくとも数ヶ月要することを考慮すると、このアプローチは主に寛解状態の患者、又は移植日に残存疾患が最小限の患者に適している。従って、CAR-T細胞療法の特性を同種異系HSCTと組み合わせると、ベトCAR-T細胞を用いることによって、異なる機序を介して作動する2種のモダリティは、重大な残存疾患の患者又は再発患者へのアプローチを拡大できるため、非常に魅力的となり得る。
【0598】
以前の実験では、OVAに対するT細胞受容体導入遺伝子を発現する遺伝子改変ベト細胞は、そのベト活性によって耐性を誘導し、それによってミスマッチのレシピエントマウスの生存を延長できることが実証された(データは示さず)。更に、このような遺伝子改変ベト細胞はOVA発現黒色腫細胞を排除することができたが、これはベトCAR-T細胞の有用性の概念実証を示唆している(データは示さず)。トランスフェクション手順は一連のインビトロ研究によって最適化され、ヒト抗ウイルスCD8
+ベト細胞で高レベルのCAR発現が得られた(上述)。9日間の培養を含む、抗ウイルスセントラルメモリーベトCD8
+T細胞を作製するための現在のプロトコルを用い、概念実証モデルとしてのHer2抗原に対するCARを使用して、培養中の異なる時点でのトランスフェクション有効性を評価した。その結果、最適なトランスフェクションは培養5日目に達成されたことが示唆された(
図5)。従って、9日目に回収されたベト細胞産物は92%のCD8
+T細胞を示し(
図3A)、その内の72%は形質導入された抗Her2CARを発現し(
図3B)、通常の形質導入T細胞を用いた対照実験で示されたものと同様のHer2抗原に対する特異的反応性を示した(
図3C)。特に、トランスフェクション後、細胞はベト活性を示し続けた(
図3D~E)。
【0599】
更に、ベト細胞産物は、INF-γ及びTNF-α染色(
図4A~C)で示されるように、ウイルスペプチドの混合物、即ち、EBV、CMV、アデノ、BKVに対する抗ウイルス活性を独自に示した。
【0600】
以上をまとめると、このようなベトCAR-T細胞の2種類の臨床応用が想定される。
【0601】
(1)ハプロタイプ一致HSCTの状況ではHSCTドナー由来のベト細胞を使用する。このようなドナー由来のベトCAR-T細胞は3種類の主な特性、即ち(a)生着の増強、(b)抗ウイルス活性、及び(c)移植片対白血病活性をもたらすが、これら全てによって残存疾患が最小限に抑えられ、移植後の白血病の再発を防ぐ。
【0602】
(2)HSCTの状況外では、血液悪性腫瘍や固形腫瘍の患者、例えば、再発又は転移のある患者の治療用にベトCAR-T細胞を既製品として使用する。
【0603】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正及び変種が当業者には明らかであろう。従って、そのような代替、修正及び変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0604】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許及び特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別に本明細書に援用する場合と同程度に、それらの全体を本明細書の一部を構成するものとして援用する。加えて、本願における如何なる参考文献の引用又は特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。更に、本出願の優先権書類は、その全体が本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【配列表フリーテキスト】
【0605】
配列番号1: N29-cd28-FcRガンマ ヒトのアミノ酸配列
配列番号2: N29 CAR(N29-cd28-FcRガンマ) ヒトの核酸配列
【配列表】
【国際調査報告】