(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体および電動化車両
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20230823BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230823BHJP
【FI】
H02K9/19 Z
F16H57/04 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509862
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 CN2021112159
(87)【国際公開番号】W WO2022033536
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】202010805571.8
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522218725
【氏名又は名称】ヴァレオ、パワートレイン、(ナンジン)、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VALEO POWERTRAIN (NANJING) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】チン、イェーチン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、カイ
(72)【発明者】
【氏名】スン、クオチアン
【テーマコード(参考)】
3J063
5H609
【Fターム(参考)】
3J063AA04
3J063AB01
3J063AC01
3J063BA15
3J063BB48
3J063BB50
3J063CA01
3J063XH03
3J063XH13
3J063XH22
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3J063XH42
5H609BB02
5H609BB03
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5H609PP16
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609RR01
5H609RR63
(57)【要約】
本開示は、電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体に関するものである。ドライブトレイン系は、回転子および固定子を備えた電動機と、固定子に電気エネルギーを供給するように構成されたパワーインバータと、回転子によってもたらされるトルクを受けるように構成された減速機と、単一の流入口と単一の流出口とを有した1つの冷却回路とを具備している。冷却回路は、超低粘度油を貫流させると共に、ドライブトレイン組立体内の全ての構成要素を潤滑および冷却するためにドライブトレイン組立体の全体に亘って超低粘度油を分配するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体であって、
回転子および固定子を備えた電動機と、
前記電動機に対して電気的に接続され、前記固定子に電気エネルギーを供給するように構成されたパワーインバータと、
前記電動機に対して結合され、前記回転子によってもたらされるトルクを受けるように構成された減速機と、
単一の流入口と単一の流出口とを有した1つの冷却回路であって、超低粘度油を貫流させると共に、当該統合型ドライブトレイン組立体内の全ての構成要素を潤滑および冷却するために当該ドライブトレイン組立体の全体に亘って前記超低粘度油を分配するように構成された冷却回路と、
を具備した、ドライブトレイン組立体。
【請求項2】
前記冷却回路を通る前記超低粘度油の流れを制御するために前記流入口と連通するように構成された油ポンプを更に備えている、請求項1記載のドライブトレイン組立体。
【請求項3】
前記油ポンプが、前記電動化車両側によってもたらされていて、当該統合型ドライブトレイン組立体が前記電動化車両内へ設置される際に前記流入口に接続されるか、または、前記油ポンプが当該ドライブトレイン組立体に統合されており、
前記油ポンプは容積式ポンプである、請求項2記載のドライブトレイン組立体。
【請求項4】
当該ドライブトレイン組立体から排出された前記超低粘度油を冷却すると共に、冷却された前記超低粘度油を当該ドライブトレイン組立体内へと移送するために、前記流出口と前記油ポンプとの間と連通するように構成された放熱器を更に備えている、請求項2記載のドライブトレイン組立体。
【請求項5】
前記放熱器は、当該ドライブトレイン組立体に統合されているか、または前記電動化車両側によってもたらされている、請求項4記載のドライブトレイン組立体。
【請求項6】
前記冷却回路は、前記減速機内に設けられた油溜めを備えている、請求項1記載のドライブトレイン組立体。
【請求項7】
前記冷却回路は、前記パワーインバータによってもたらされる少なくとも1つのパワースイッチングデバイスを冷却するように構成された冷却プレートの内側に配置される配油通路を備え、複数の冷却用スパイクが前記配油通路内に設けられ、前記冷却用スパイクは、前記配油通路の全体ないし一部に高密度で配置されている、請求項1記載のドライブトレイン組立体。
【請求項8】
前記配油通路を密閉するように、前記冷却プレートに対応したカバーが設けられている、請求項7記載のドライブトレイン組立体。
【請求項9】
前記冷却用スパイクは、前記冷却プレート上と前記カバー上とに設けられている、請求項8記載のドライブトレイン組立体。
【請求項10】
前記少なくとも1つのパワースイッチングデバイスは、全波モードまたは所与のRPMから始まるDVPWMモードで制御される、請求項7記載のドライブトレイン組立体。
【請求項11】
前記少なくとも1つのパワースイッチングデバイスを両側から冷却することができるよう、2つの冷却プレート同士の間に当該パワースイッチングデバイスが配置されている、請求項7記載のドライブトレイン組立体。
【請求項12】
前記配油通路は、前記冷却プレートが円形としての形を成している場合において前記冷却プレートの内周縁に沿った形を成すループとして構成されている、請求項7記載のドライブトレイン組立体。
【請求項13】
前記冷却プレートは、直接的な油冷をもたらすようにサーマルグリースを用いることなく前記少なくとも1つのパワースイッチングデバイスと直接接触している、請求項7記載のドライブトレイン組立体。
【請求項14】
前記冷却回路は、前記固定子および回転子が高温状態にあるときに前記固定子および回転子を冷却して高トルク時の相電流を低下させるために、前記電動機へ前記超低粘度油を移送するように構成されている、請求項1記載のドライブトレイン組立体。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の統合型ドライブトレイン組立体を備えた電動化車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は概して、電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体、および当該統合型ドライブトレイン組立体を備えた電動化車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低燃費、低排出の車両を設計し構築することに関する動向は、劇的に増大してきているが、この動向は増大する燃料コストだけでなく環境に対する懸念によっても駆り立てられている。この動向の最先端は電動化車両、例えばBEV、HEV、PHEV、レンジエクステンデッド(航続距離延長型)EV、燃料電池等や、比較的効率的な内燃機関を駆動用電動機と組み合わせた電動化車両の開発となってきている。電動化車両は、熱を発生させる構成要素、特にドライブトレイン系を含んでいる。過剰な熱の蓄積は、性能の低下や構成要素へのダメージを引き起こす可能性がある。具体的には、高出力の電動化車両、例えば200kWを超える出力のBEVのための冷却用の解決策は、ドライブトレイン系内の少なくとも2つの冷却回路(例えば、電動機/減速機用の1つの油冷回路、およびインバータ用の1つの水冷回路)を含むものであり、少なくとも2つのポンプを伴った少なくとも2つの液圧回路を必要とすることになる。しかしながら、ドライブトレイン系内の異なる構成要素を冷却するために異なる冷却液での冷却回路をそれぞれ構成することは、より複雑なものとなり、コストが高くなってしまうであろう。但し、この油冷式の電動機および減速機は、より高い性能や効率は保証してくれる。
【0003】
もっと低い、100kW未満の出力に対しては、1つの系内で油冷と水冷の両方を用いることは、たとえ電動機を小型化するという付加的な可能性による利益は明らかであったとしても、正当化するが難しくなる。従って、系全体について油冷のみを用いることは、インバータを同じくらい効率的に油で冷却できるのであれば、魅力的な解決策となるであろうが、それが従来のインバータ冷却の設計での重大な困難性を成しているのである。
【発明の概要】
【0004】
従って、電動化車両用のドライブトレイン系のための冷却用設計に対する如何なる改善も、少なくとも簡単な構成、高い効率、および低いコストでもたらすことができたなら望ましいであろうに、ということである。
【0005】
本発明の態様や利点は、以下の説明において部分的に示されることとなるか、或いは当該説明から明らかとなったり、本発明の実践を通じて習得されたりするであろう。
【0006】
本明細書に開示される一態様によれば、電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体がもたらされる。当該ドライブトレイン組立体は、回転子および固定子を備えた電動機と、電動機に対して電気的に接続され、固定子に電気エネルギーを供給するように構成されたパワーインバータと、電動機に対して結合され、回転子によってもたらされるトルクを受けるように構成された減速機とを具備している。当該ドライブトレイン組立体は更に、単一の流入口と単一の流出口とを有した1つの冷却回路であって、超低粘度油を貫流させると共に、当該ドライブトレイン組立体内の全ての構成要素を潤滑および冷却するために当該組立体の全体に亘って超低粘度油を分配するように構成された冷却回路を具備している。
【0007】
一実施形態において、冷却回路を通る超低粘度油の流れを制御するために流入口と連通するように構成された油ポンプ。
【0008】
一実施形態においては、油ポンプが、電動化車両側によってもたらされていて、当該統合型ドライブトレイン組立体が電動化車両内へ設置される際に流入口に接続されるか、または、油ポンプが当該ドライブトレイン組立体に統合されている。
【0009】
一実施形態において、油ポンプは容積式ポンプである。
【0010】
一実施形態において、当該ドライブトレイン組立体から排出された超低粘度油を冷却すると共に、冷却された超低粘度油を当該ドライブトレイン組立体内へと移送するために、流出口と油ポンプとの間と連通するように構成された放熱器。
【0011】
一実施形態において、放熱器は、当該ドライブトレイン組立体に統合されているか、または電動化車両側によってもたらされている。
【0012】
一実施形態において、冷却回路は、減速機内に設けられた油溜めを備えている。
【0013】
一実施形態において、冷却回路は、パワーインバータによってもたらされる少なくとも1つのパワースイッチングデバイスを冷却するように構成された冷却プレートの内側に配置される配油(油配給)通路を備え、複数の冷却用スパイクが配油通路内に設けられ、冷却用スパイクは、配油通路の全体ないし一部に高密度で配置されている。
【0014】
一実施形態においては、配油通路を密閉するように、冷却プレートに対応したカバーが設けられている。
【0015】
一実施形態において、冷却用スパイクは、冷却プレート上とカバー上とに配置されている。
【0016】
一実施形態において、少なくとも1つのパワースイッチングデバイスは、全波モードまたは所与のRPMから始まるDVPWMモードで制御される。
【0017】
一実施形態においては、少なくとも1つのパワースイッチングデバイスを両側から冷却することができるよう、2つの冷却プレート同士の間に当該パワースイッチングデバイスが配置されている。
【0018】
一実施形態において、配油通路は、冷却プレートが円形としての形を成している場合において冷却プレートの内周縁に沿った形を成すループとして構成されている。
【0019】
一実施形態において、冷却プレートは、直接的な油冷をもたらすようにサーマル(熱伝導)グリースを用いることなく少なくとも1つのパワースイッチングデバイスと直接接触している。
【0020】
一実施形態において、冷却回路は、固定子および回転子が高温状態にあるときに固定子および回転子を冷却して高トルク時の相電流を低下させるために、電動機へ超低粘度油を移送するように構成されている。
【0021】
本明細書に開示された別の態様によれば、上述のことによる統合型ドライブトレイン組立体を備えた電動化車両がもたらされる。
【0022】
本開示のこれらの、またその他の、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明を参照することで、もっと深く理解されることとなる。添付図面(これは、この明細書に組み込まれて、その一部を構成するものである)は、本発明の諸実施形態を図示し、当該説明と共に本発明の原理を明らかとするのに役立つものである。
【0023】
当業者に向けての本発明の完全かつ実施可能な開示(本発明の最良の形態を含む)が、添付図面を参照する本明細書に明記されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の例示的態様による電動化車両用の統合型ドライブトレイン組立体の模式図。
【
図2A】パワーインバータのパワースイッチングデバイスおよび冷却プレートのための例示的な一構成の模式図。
【
図2B】パワーインバータのパワースイッチングデバイスおよび冷却プレートのための例示的な別構成の模式図。
【
図3】水での間接接触型の冷却と油での直接接触型の冷却との間における熱抵抗の比較を示すグラフ。
【
図4】本開示の例示的態様によるパワーインバータの一部の模式図であって、冷却プレート内に配置された一例の配油通路を示す図。
【
図5A】本開示の例示的態様によるパワーインバータの一部の模式図であって、一例の冷却プレートおよびそのカバーを示す図。
【
図5B】本開示の例示的態様によるパワーインバータの一部の模式図であって、別例の冷却プレートおよびそのカバーを示す図。
【
図6】配置される配油通路の例示的な構成による、相対的な熱抵抗と油流量との間の関係を示すグラフ。
【
図7】冷却プレート内に配置される別の例示的な配油通路の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで、本発明の諸実施形態に対して詳細に言及することとなるが、その1つないし複数の例が添付図面に描写されている。詳細な説明は、図面における諸特徴を参照するのに数字や文字の符号を用いている。図面および説明における類似ないし同様の符号は、本発明の類似ないし同様の部分に言及するのに用いられている。本明細書で用いるとき、用語「a(英語の不定冠詞)」、「an(英語の不定冠詞)」、および「the(英語の定冠詞)」は、文脈が明らかに別様に規定していない限り、1つないし複数の当該要素が存在している旨を意味することを企図している。用語「備えている/具備している」、「含んでいる」、および「有している」は、包括的なものであって列挙された要素以外に付加的な要素が存在し得る旨を意味することを企図している。用語「第1(の)」および「第2(の)」は、1つの構成要素をもう1つの構成要素から識別するために交換可能に用いられ得るものであり、個々の構成要素の所在や重要性を表明することを企図するものではない。
【0026】
ここで図面を参照するが、各図を通じて同一の数字符号は同様な要素を示している。
図1は、本開示の一実施形態によるドライブトレイン組立体1を示している。ドライブトレイン組立体1は概して、(
図4に示すような)パワー(電力)インバータ11、電動機12、および減速機13と統合されている。図示するようなドライブトレイン組立体1は、従って単一のユニットである。
【0027】
電動機12は、同期電動機または非同期電動機とすることができる。同期電動機である場合には、巻線型回転子または永久磁石型回転子を含んでいてよい。電動機によって供給される最大出力は、48Vから400V(或いは、もっと高い出力のための800Vまで)の公称供給電圧に対して、10kWから80kWの間、例えば40kW程度とすることができる。高電圧電源に適合された電動機の場合、この電動機によって供給される公称出力は25kWであってよい。図示の実施形態において、電動機12は、10kWから80kWの間の最大出力をもたらす、永久磁石を有した同期電動機である。電動機12は、三相巻線(或いは、2つの三相巻線ないしは五相巻線同士の組合せ)を有した固定子を含んでいることができる。
【0028】
減速機13は、電動機12に対して結合されている。減速機13は、電動機の高速、低トルクを、低速、高トルクへ変換することができる。減速機13は、減速を通じてのトルク増大のために2つ以上の歯車(例えば、歯車のうちの1つが電動機12によって駆動される)を備えていてよい。減速機は更に、伝達軸(即ち、電動機の1つの伝達軸(図示せず)によって駆動される駆動歯車と、機械的な従動負荷(図示しないが、例えば車両の車輪軸)に結合されたより大径な別の歯車とを連結する中間軸)を備えていてもよい。
【0029】
図示の実施形態において、電動機12および減速機13は高熱容量で設計されている。パワーインバータ11は、電線によって電動機12へ取り付けられると共に、電動機12の壁体、または減速機13の壁体、または電動機12と減速機13との両方の壁体に対して機械的に取り付けられている。パワーインバータ11は、公称電圧の電気エネルギーをもたらす電気エネルギー貯蔵ユニット(図示せず)によって供給される直流(「DC」)を、電動機12に用いられる交流(「AC」)へと変換する。パワーインバータ11は、少なくとも1つのスイッチングデバイス(
図2Aおよび
図2Bに示すように、符号17)、例えば、電界効果トランジスタ(「FETs」)、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(「MOSFETs」)、または絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(「IGBTs」)などを備えることができる。48Vの公称供給電圧の場合、パワースイッチングデバイス11はMOSFETトランジスタとすることができる。高電圧に相当する供給電圧の場合、パワースイッチングデバイス11はIGBTsとすることができる。
【0030】
図1を参照すると、電動機12が1つのハウジング(図示せず)内に収容され、減速機13が別のハウジング(図示せず)内に収容されている。2つのハウジング同士を一体品とすることができる。2つのハウジング同士は、例えばネジによって、一緒に堅く固定することができる。この場合、2つのハウジング同士の間に密封壁が設けられる。
【0031】
ドライブトレイン組立体1の外部に向かっての放熱のために冷却フィン(図示せず)を設けてもよい。冷却フィンは、各ハウジングの外側表面によって支持されていていてよい。これらの冷却フィンは、例えば各ハウジングと一体に作られる。これらの冷却フィンによって、各ハウジングの外側表面を増大させ、かくして各ハウジングを介したドライブトレイン組立体1の外部への放熱を促進することが可能となる。これにより、独立型の放熱器5を統合する可能性が与えられるのである。各ハウジングの外側表面の全体が冷却フィンを帯びていてもよい。冷却フィン同士が列を成して配置されていてよく、隣り合う2つの列同士の間に(一定ないしは一定でない)配置間隔が存在していてもよい。これらの列は、全てが同じ向きを有していても、いなくてもよい。適切な場合には、同じフィンが、最初に一方のハウジングへと、次に他方のハウジングへと伸びていてもよい。
【0032】
描写されている実施形態については、冷却液の貫流される冷却回路3が、ドライブトレイン組立体1の全体に亘って冷却液を分配するために設けられている。冷却回路3内を流れる冷却液は、超低粘度の油とすることができる。この種の超低粘度油の40℃における動粘度値は40未満であることになり、100℃における動粘度値は10未満であることになる。冷却回路3を介してドライブトレイン組立体全体に亘って流れる、この種の超低粘度油を用いることによって、ドライブトレイン組立体内に含まれる全ての構成要素に、より低い圧力損失で、より効率的に、潤滑と冷却の両方を行うことができるであろう。
【0033】
冷却回路3は、ドライブトレイン組立体1上に設けられた単一の流入口31と単一の流入口32とを備えている。流入口31は、冷却回路3に与えられるべき超低粘度油の流れを必要な流量に制御するための油ポンプ4に接続させることができるが、流出口32は、冷却回路3から排出される温められた油を冷却するための放熱器5に接続させることができる。一方、放熱器5は、冷却された油を油ポンプ4を介してドライブトレイン組立体1内へと移送するよう、油ポンプ4に接続されることができる。図示の実施形態では、油ポンプ4と放熱器5とが電動化車両側2に定置されている。ドライブトレイン組立体1が電動化車両内へと設置されるときに、流入口31および流出口32が(電動化車両側2内の幾つかのホース6を介して)油ポンプ4および放熱器5と、それぞれ流体的に連通(流体が流通可能に連絡)させられることとなる。それは、作動中の冷却および潤滑のためにドライブトレイン組立体1の全体に亘って超低粘度油を自律的に流すことができるようにである。
【0034】
一実施形態においては、ドライブトレイン組立体1から温められた油を受け入れて、冷却された油をドライブトレイン組立体へ送り返すために、放熱器5をドライブトレイン組立体1に統合することができる。
【0035】
一実施形態において、油ポンプ4は、電動式ポンプや機械式ポンプとすることができ、またドライブトレイン組立体1と統合する(特に、減速機13上に機械的に統合する)ことができる。油ポンプ4は、必要な流量(特に、速められた流量)をもたらすために容積式ポンプとすることができる。遠心式ポンプに代えて容積式ポンプが用いられるのは、冷却用の高い油圧を加えることを可能とするためである。これにより、スイッチングデバイスから熱を取り除くヒートシンクを通じての放熱能力が増大することとなる。
【0036】
一実施形態において、冷却回路3は減速機13内に設けられた油溜め(図示せず)を備えることができる。油溜めは、その中に必要な超低粘度油を残しておくために用いられる。それにより、ドライブトレイン組立体1内部の冷却および潤滑のための最低限の油の流れを確保することができる。
【0037】
ここで
図2Aおよび
図2Bを参照すると、パワーインバータ11の冷却プレート18,181の内側に配置された配油通路内を流れる油によって、パワースイッチングデバイス17(例えば、IGBT)を片面から冷却することができる。パワースイッチングデバイス17は、2つの冷却プレート内を流れる油によって両側から冷却することができる(即ち、パワースイッチングデバイスと両冷却プレートとがサンドイッチ構造を形成する)。
【0038】
一実施形態において、パワースイッチングデバイス17は、放熱の熱抵抗を改善することができるように、油と直接接触している(ここでは、
図3参照する)。直接冷却式のパワースイッチングデバイス17(即ち、IGBTモジュール)においてはサーマルグリースや付加的なアルミニウム製ヒートシンクが取り除かれるからである。現在の市場では、最大出力~60kWについては間接接触式の冷却方法が用いられている。直接接触式の冷却の適用は、コストを限定的に上昇させることとはなるが、例えば小型化された油冷式の電動機の使用(これが、インバータに対して油冷の使用を関連付けるものである)によって容易に埋め合わせることができるのである。
【0039】
一実施形態において、パワースイッチングデバイス17は、IGBTからの電力損失を減少させることかできるであろうように、全波モードまたは所与のRPMから始まるDVPWMモードで制御される。これにより、油冷を用いることが可能になることとなる。
【0040】
そのような構成により、電動機12が油によって冷却され、高トルク時の効率が有意に改善される。油冷式の電動機は、熱くなった状態で水冷式の電動機よりも5%高い効率であることができる。IGBTを通って流れる電流を有意に減少させて、冷却プレートと油とによって放散されるべき熱を制限することができるのである。
【0041】
ここで
図4を参照すると、パワーインバータ11の内部に配油通路が配置されている。具体的には配油通路は、ケースないし冷却プレート18の半径方向展開面内に定置され、冷却プレート18の内周縁に沿って、基本的に環状のループ15となるように形成されている。追加的な放熱をもたらすよう、配油通路内に補助熱伝達要素が設けられている。当該実施形態で図示されるように、補助熱伝達要素は、冷却プレート18(特に、当該冷却プレートの内側の半径方向展開面)によってもたらされる幾つもの金属製スパイク16ないしは突出壁(図示せず)とすることができる。各スパイク16は、内側の半径方向展開面からX方向に沿って伸びている。補助熱伝達要素は、熱伝導性材料、例えばアルミニウムで作られている。一実施形態においては、円形および/または正方形(図示せず)の横断面を有した金属製スパイク16が、ループ15の全体ないし一部に高密度で存在していることができる。高密度のスパイクは、従来の遠心式の水ポンプ回路にとっては、高くなる圧力損失のせいで大きな負担となるのに対して、容積式の油ポンプは、高くなる圧力損失の影響を殆ど受けないのである。
【0042】
ここで
図6を参照すると、配油通路15の例示的な構成による、相対的な熱抵抗と流量との間の関係が示されている。その図では、線「W」が、水冷についての相対的な熱抵抗の値を示し、線「A」が、補助熱伝達要素のない、或いは限定的な数しかない配油通路を用いた油冷についての当該値を示し、線「C」が、
図4に示すような金属製スパイク16で一杯になっている配油通路を用いた油冷についての当該値を示している。当該グラフからは、線「C」の値が線「W」(即ち、水冷)の値に近く、流量の変化に拘わらず常に1であることを見て取ることができるであろう。「W」と「C」との間には最大2%の差しかないことになるのである。従って、線「C」に関しての(
図4に示すような)改良された構成と、油の超低粘度の特性とによって、1つの油冷回路だけで水によるのと同じ冷却効果を実現し得るのである。
【0043】
ここで
図5Aおよび
図5Bを参照すると、冷却プレート18と、冷却プレート18内の配油通路を密閉するのに用いる19対応したカバーとの、異なる例示的な構成が示されている。カバーに関しての従来の設計では、
図4に示すように冷却プレート18上にはスパイク16を設ける一方で、カバー19は(
図5Aに示すように)平坦なプレートとすることができる。カバーに関しての本設計では、(
図5Bに示すように)カバー19と冷却プレート18との両方にスパイク16を設けることができる。カバー19によってもたらされるスパイクが冷却プレート18に向かって軸線方向に伸びるのに対して、冷却プレートによってもたらされるスパイクはカバー19に向かって軸線方向に伸びている。それらのスパイクは、冷却プレート18およびカバー19からのスパイクが、スパイク16同士の間の流路間隙を狭めることができるようにして間隔を置いて伸びている。それにより、各スパイク16の周囲の流速を増大させて、冷却プレート18の冷却性能を更に向上させることとなる。たとえ、元来の水冷回路が多数のスパイクを伴っていたとしても、この両側スパイク配置は、油を用いて水と同水準の冷却に達するのを可能にすることとなるのである。
【0044】
ここで
図7を参照すると、冷却プレートの別の例示的な構成が示されている。図示の実施形態においては、冷却プレート181が、矩形の形状として構成され、異なる形状と異なる配置のスパイク16で一杯になっている。具体的には、円形および/または正方形(図示せず)の横断面を有した幾つものスパイク16が、(その中に配油通路を形成するところの)冷却プレート181の冷却側の全体に亘っている。油ポンプの供給で、配油通路を通じて冷却プレート181の一側から反対側へと油が流れる。放熱を増大させるよう油流Fの速度を上げるために、油ポンプが速められた流量をもたらしてくれるのである。
【0045】
上述したような構成で、ドライブトレイン組立体用の冷却と潤滑の両方のための1つだけの液体回路が達成される。更に、冷却用通路内の高密度スパイクによって生じる圧力損失を最小限にしながら水冷によるのと同等のインバータ冷却効果を得て、特にスイッチングデバイス(即ち、IGBT)を冷却するための液体について、超低粘度の油が用いられている。直接接触式の冷却装置を用いて油への熱抵抗経路を減らすことによって、このIGBTの冷却性能を、より高出力の要求される用途についてさえも向上させることができるのである。一方、油の使用によって極めて能動的な潤滑を実現することができると共に、電動機をその内部の回転子から効率的に冷却することができる。それにより、減速機と電動機の効率がそれぞれ向上する。従って、同じ機械的トルクを発生させるのにインバータによって消費される電流を低下させることができ、一方では熱の発生を減少させ、他方では電力を提供するためのバッテリの寸法を小さくすることができるのである。その上、1つしかない液体回路のおかげで、水冷のための設備(例えば、水タンク、ホース類、ポンプなど)を取り除くことができるであろうし、ドライブトレイン組立体の全体寸法を縮小させることができるのである。
【0046】
この明細書は、本開示の諸実施形態(最良の形態を含む)を開示するため、また当業者が本開示の諸実施形態(装置やシステムの作成および使用、並びに如何なる織り込まれた方法をも含む)を実践することを可能とするために実例を用いている。本明細書で説明された諸実施形態の特許化可能な範囲は、特許請求の範囲によって規定されているが、当業者の思い付くその他の例を包含し得るものである。それらのような他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造的要素を有しているならば、或いは特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない均等な構造的要素を有しているならば、特許請求の範囲内にあるものと企図される。
【国際調査報告】