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特表2023-537141熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置
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  • 特表-熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置 図1
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  • 特表-熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置 図12
  • 特表-熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置 図13
  • 特表-熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置 図14
  • 特表-熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置 図15
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(54)【発明の名称】熱を供給又は排出するため、反応を実施するため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 35/93 20220101AFI20230823BHJP
   B01F 25/431 20220101ALI20230823BHJP
   B01F 35/53 20220101ALI20230823BHJP
   B01J 8/06 20060101ALI20230823BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20230823BHJP
   F28D 7/02 20060101ALI20230823BHJP
   F28F 9/013 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
B01F35/93
B01F25/431
B01F35/53
B01J8/06
B01J8/24
F28D7/02
F28F9/013 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023510348
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 CH2021050018
(87)【国際公開番号】W WO2022032401
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】01018/20
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518458344
【氏名又は名称】ズルツァー・マネージメント・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ストレイフ, フェリックス
【テーマコード(参考)】
3L103
4G035
4G037
4G070
【Fターム(参考)】
3L103BB26
3L103CC12
3L103DD10
4G035AC01
4G035AE13
4G035AE15
4G035AE17
4G037CA04
4G037CA11
4G037EA01
4G070AA01
4G070AA03
4G070AB04
4G070BA10
4G070BB02
4G070BB32
4G070CA21
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB05
4G070CB15
4G070CB21
4G070DA23
(57)【要約】
本発明は、媒体(I)のための内径(D)を有するハウジング(1)において、熱を供給及び排出するため、反応を行うため、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置に関し、当該ハウジングは、好ましくはハウジングの長手方向軸に平行な方向で、外径(d)を有する管(2)の束からなる、又は他の細長い要素からなる組込部材と、細長い要素の間に交差して組み込まれたウェブ又はウェブ層(31,41)とを有し、ここで当該ウェブは、ハウジングの長手方向軸に対して傾斜しており、相互に接触しない。軸方向に連続するウェブの数又は長さ(L)の後、ウェブは、好ましくは90°回転して、管の間に設置される。管内では、熱伝達媒体(II)が並流又は向流で流れることができ、これによって、極めて大きな伝熱容量及びほぼプラグフローを有する混合・熱交換器又は反応器が得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dを有する好ましくは管状のハウジング(1)において、熱を供給及び排出するための、反応を行うための、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための装置であって、前記ハウジングの長手方向軸により、液状、気体状、又は多相の生成物流(I)の主流れ方向が定められており、前記ハウジングが組込部材を備える、装置において、
前記組込部材が、好ましくは前記ハウジングの長手方向軸に対して平行な方向で、好ましくは管束の平方ピッチtで、外径dを有する管(2)の束又は他の細長い要素の束からなり、前記管又は他の細長い要素の間には、少なくとも1つの、好ましくはプレート状の、第1の配置構成のウェブ(31)が組み込まれており、当該少なくとも1つのウェブは、前記ハウジングの長手方向軸に対して角度α、好ましくはα=30~60°、特に好ましくはα=45°で、傾斜しており、当該ウェブに交差して挿入された、少なくとも1つの第2の、好ましくはプレート状の、第2の配置構成のウェブ(41)は、好ましくは同じ傾斜角度を有するが、反対方向の符号を有し、前記ウェブは、幅bを有し、当該幅は、前記管束のピッチtよりも小さいか、又は最大でも同じであり、前記ウェブは相互に接触しない、装置。
【請求項2】
軸方向に連続するウェブが、前記管又は他の細長い要素の間でウェブ層を形成し、前記ウェブ層のウェブが、好ましくは平行であり、間隔mを有し、前記ウェブ層は、ある数のウェブ及び/又は長さLの後、好ましくは90°回転して(31’,41’)、管の間に組み込まれている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第1のウェブ層(31)が、交差して組み込まれた第2のウェブ層(41)に隣接しており、その間に管又は管列があり、前記ウェブが相互に接触しない、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
主流れ方向に対して横方向に隣接するウェブの間に、間隔が存在し、前記ウェブの最大幅bは、管ピッチtの好ましくは85%未満、特に65%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記ウェブは、凹部なく前記管束の前記管の間に適合し、最大幅b=t-dを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記ウェブがそれぞれ、互いに交差する平面A、Bにあるように、前記ウェブが横方向で整列されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記ウェブの軸方向の間隔mが、少なくとも1つのウェブ位置で0.2~0.4Dである、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記ウェブの軸方向の間隔mが、少なくとも1つのウェブ位置で<4dである、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
ウェブ層の群が、軸方向長さLを有するミキシングエレメントを形成し、連続するミキシングエレメントの前記ウェブ層が、前記管の間で90°回転した状態で挿入され、前記ミキシングエレメントの長さLが、好ましくは0.5~4Dである、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
第1の群の相互に交差するウェブ(31,41)が、90°回転した状態の第2の群の相互に交差するウェブ(31’,41’)と相互に編み組み状になっており、2つの横方向で混合するミキシングエレメントを形成する、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記細長い要素の少なくとも一部が、液状、気体状又は蒸気状の熱伝達媒体(II)のための供給装置及び排出装置を備えた管であり、当該熱伝達媒体が、前記生成物流(I)に対して並流又は向流で、前記管の外部空間を流れる、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記細長い要素の少なくとも一部が、電熱ロッド又は電熱コイルである、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記細長い要素の少なくとも一部が、交換プロセスのための多孔質又は半透過性の壁を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記細長い要素の少なくとも一部が、前記ウェブと固定結合されているか、又は前記ウェブとともにモノリス部分を形成する、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも1つのウェブ層のウェブが、相互に傾斜しており、補助要素又は金属板によって相互に結合されており、波状のウェブ層を形成する、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
ウェブ層の群が、補助要素により横方向又は長手方向に相互に結合されている、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
加熱若しくは冷却のための、又は反応を行うための、特に重合反応を行うための、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置であって、流れる媒体は、一相又は多相の凝集状態で粘度の高い溶液又は溶融物であり、前記管束の表面積と前記装置及び/又は反応器の空体積との比が、少なくとも50m/mである、装置。
【請求項18】
前記管又は前記細長い要素の少なくとも一部が、発光素子、半透過性若しくは多孔性の壁を有する要素、熱伝達媒体を有さない管若しくはロッド、又は管束の意図した位置で構造を補強するための他の細長い異形材である、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記管束の前記管のために意図した位置の少なくとも一部が、占有されていない、請求項1から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の装置において、不均一触媒反応を行うための、又は流れる媒体を物質交換するための方法であって、
前記管束の前記管の周囲にある生成物空間(I)が、触媒担体又はイオン交換樹脂の固定床又は流動床によって満たされている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上記概念による、組込部材を有するハウジング内において、熱を供給又は排出するための、反応を実施するための、並びに流れる媒体を混合及び分散させるための、装置に関する。当該装置は、好ましくはハウジングの長手方向軸に対して平行な方向な、管の束又は他の細長い要素と、管若しくは細長い要素の間に挿入されるとともに、ハウジングの長手方向軸に対して傾斜している第1の配置構成のウェブ及び/又はウェブ層と、少なくとも1つの第2の配置構成のウェブ層とからなり、第1の配置構成のウェブの傾斜角は、第2のウェブ層の配置とは反対方向の符号(Vorzeichen)を有し、互いに交差はするものの、接触はしない。ウェブは、管束の管の間に組み込まれ、相互に接触しない。相互に交差するウェブ同士の間に、第1及び第2の配置構成があり、これは好ましくは、管又は管列である。流れる媒体(生成物)は、ハウジング内にある管の周囲を主流の軸方向に流れる。管及び/又はハウジング軸に対して傾斜している、交差状に配置されたウェブによって、流れる媒体は、管の周囲を横方向に流れることとなり、同時に一定にクロスミックスされる。管内では、熱交換媒体が生成物に対して並流又は向流で流れることができるが、必ずしもそうである必要はない。ハウジングとしては、丸い管、又は管束型熱交換器のシェル空間を用いるのが好ましい。本発明による装置は好ましくは、層流媒体に適しているが、乱流でも使用することができる。本発明は更に、本発明による装置内を流れる媒体において、不均一触媒反応又は物質交換を行うための方法に関する。
【0002】
背景技術
特許文献CH 642 564により、粘性の高い生成物の層流に用いる非常に効率的なスタチックミキサ装置が知られており、この装置ではミキシングエレメントが、断面の投影に対して相互に交差する6~10個のウェブ群からなり、相互に交差する平面に配置されている。ここでウェブ及び/又は平面は、流れ方向に対して好ましくは45°傾斜しており、隣接するウェブ同士は、交差箇所において接触している。ミキシングエレメントは長さが0.75~1.5Dであり、連続するミキシングエレメントは90°回転された状態で、ハウジング内に組み込まれている。特に層流を貫流させる管内における熱伝達を改善するために、相互に交差するウェブを流れ方向に対して30°傾斜させただけの拡張的な変法(例えばCH 627 263に記載)も知られているが、圧力損失係数は比較的低いものの、混合及び熱交換作用はもちろん比較的低い。これらのミキシングエレメントは今日まで、若干のバリエーションはあるものの、いわゆるXミキサーとして(例えば、SMX、SMXL、KMX、GX、CSE-X、AMX又はUM、ここに列挙したものが全てではない)、多くの供給元から提供されている。これらは、非常に良好な混合作用、高い熱伝達及び/又はヌセルト数(Nu=αD/λ)、及び非常に狭い滞留時間スペクトルを特徴とする。ここでαは生成物側の熱伝達率を、D(又はdともいう)は管直径を、そしてλは生成物の熱伝導率を意味する。更にヌセルト数は、層流であっても、一定のクロスミックス及び境界層の更新が原因で、空塔とは異なり、管の長さに依存しない。熱伝達率αは層流の場合、空塔に比べて5~10倍増加する。粘性の高い物質についてこれらの装置を用いた場合の熱貫流率kは通常、150~250W/(m2K)の範囲にある。X構造を有するスタチックミキサは、既知のあらゆるスタチックミキサのうち、滞留時間スペクトルが最も狭い。測定されたボーデンシュタイン数Boは、50~100m-1、又は例えば長さ2mの反応器の場合、最大200である(F. Streiff, “Waerme-uebertragung bei der Kunststoffaufbereitung“, p.241/275, VDI-Verlag, Duesseldorf 1986)。これにより実質的に、理想プラグフロー(Bo=∞)が達成される。ボーデンシュタイン数は、分散モデル(Bo=vL/Dax)に従って、滞留時間分布の幅及び/又は軸方向の逆混合の幅を表す一般的な無次元尺度である。ここで、vは軸方向の平均流速を、Daxは軸方向の分散係数を、そしてLは装置の軸方向の長さを意味する。直列に接続された数jの攪拌槽のカスケードモデルの滞留時間スペクトルと比較すると、Bo=2jに相当する。このようなBo=200の反応器の滞留時間挙動はつまり、100個の理想的な攪拌槽のカスケードに匹敵する。スタチックミキサの多くの用途では、集中的なクロスミックス、大きな熱伝達能力、及び狭い滞留時間スペクトルが、同時に要求される。その例は、反応器、特に層流反応器、例えば重合反応器である。その他の用途では、望ましくない反応及び生成物変化(重合、分解)を起こさずに、短時間で生成物を加熱又は冷却する必要がある。空塔の場合、層流で壁に対するクロスフローは起こらない。このことは、熱伝達、滞留時間分布、及び生成物の品質に非常に不利に働く。いくつかの用途では、流れる媒体がさらに二相(気体/液体)であり、装置には熱交換に加えて更に、相の集中的な混合及び分散をもたらすことが求められる。その例は、揮発成分を有するポリマー溶液の加熱、又は発泡剤を有するプラスチック溶融物の冷却である。これらの問題に対しては、低スループットの場合、外部からの加熱又は冷却が可能なハウジングにおけるXミキサーが、理想的な解決策である。しかしながら工業的なスループットでは、スケールアップができない。直径の大きな管では体積に対する表面積の比率が非常に迅速に低下し、熱を充分に伝えることができないからである。この問題の解決策として、多数の管を管束熱交換器内で並列に接続し、ミキシングエレメントを管内に組み込むことが考えられる。これによって確かに、混合器の有利な特性は保たれるものの、残念ながら1つの管でしか保たれない。管ごとに、スループット及び滞留時間に非常に大きな差が生じ得る。このリスクは、粘稠な生成物を冷却する場合、又はポリマー溶液が熱交換器内で同時に反応したり、少なくとも部分的に脱気したりする場合に、特に高くなる。各管内の温度及び粘度が異なることにより、いわゆる偏在(Maldistribution)をもたらす。偏在は、各管における流速、温度及び粘度について著しい不均等につながる。その結果、装置の動作不良、又は生成物の品質低下が起こり得る。
【0003】
X型ミキシングエレメントの圧力損失係数は比較的高いため、管束式熱交換設備は、多数の短い管で構築しなければならない。これによって、組込要素のコストに加えて、管のプレートが厚くなり、塔頂部の体積が非常に大きくなるため、当該設備は非常に高価になる。部分的な脱気を伴う生成物加熱器の場合、ミキシングエレメントの圧力損失により早期の部分的な脱気が妨げられ、これによって生成物が損なわれ、又は完全な脱気が妨げられる。X構造の更なる欠点は、流れの力を受容するための機械的な脆弱性である。特に引張荷重がかかると、X構造は折り畳み式フェンスのような挙動を示し、簡単に引き離されてしまう。また圧力がかかっても、X構造はバネのような挙動を示し、安定的ではない。よって、粘度が高い生成物の場合には、ウェブを非常に厚く構築しなければならない。これによって圧力損失が、更に大きく増加することになる。補強要素又は外部リングによって、構造をより安定的にすることが試みられている。
【0004】
特許文献DE 28 39 564では、X構造の基本的な考え方を採用しつつ、ウェブを加熱媒体又は冷却媒体が流れる管に置き換えたスタチックミキサ熱交換器又は反応器が提案されている。これによって、スケールアップした際の体積あたりの熱交換比表面積を、ハウジング直径が比較的小さい場合と同等に保つと同時に、Xミキサーの場合と同じような混合作用及び滞留時間挙動を得るための解決策が見い出された。この構造は、相互に交差しながら蛇行して曲がったコイル状の管から形成される。この管はまた、好ましくは、流れ方向に対して45°傾斜しており、ウェブの機能を担っている。このように相互に交差する多数のコイルがそれぞれ、ミキシングエレメントを形成し、連続するエレメントは90°回転されて、ハウジングに組み込まれる。各エレメントは、熱伝達媒体用のコレクタを独自に備えなければならない。これらの設備の設計及び構築は、非常に要求が高く、高価である。コストを限界に収めるため、エレメントの長さはできるだけ長く選択するが、これによってもちろん、90°回転の数が少なくなるので、混合作用には不利な影響がある。生成物側の圧力損失は、熱伝達側と同様に、非常に大きい。各コイル状管内の貫流量は、非常に不均一になり得る。この問題は、ハウジングが実用的な理由で、当初想定していたような正方形ではなく、円形になった場合に、特に大きくなる。これにより生成物側で、さらなる偏在のリスクが生じる。コイル状管の直径及び数を選択することにより、体積Vに対する熱交換面積Aの比が大きい、及び/又は高い比熱容量(Q/VΔT)=(kA/V)>10KW/mKを有する、非常に大きな反応容積を、反応器の体積とは独立して実現することも可能である(前掲文献の265頁参照)。式中、Qは伝達可能な熱流量、ΔTは生成物と熱伝達媒体との平均温度差、kは熱貫流率を意味する。これによってスケールアップが容易になり、平行な管を使用する必要がなくなる。これによって偏在のリスクは、小さくなる。しかしながら、熱交換面積を有する容積の利用性は、コイル状管の最小限の曲げ半径及び圧力損失によって制限される。この設備でも、滞留時間分布は、Xミキサーの場合と同じように狭い。測定されたボーデンシュタイン数は同様に、約60m-1である。ただし、ウェブが丸い形状をしているため、またエレメントが長いため、層流混合のための均質化長さは、SMXミキサーよりも最大で2倍となる(W. Mueller, Chem.-Ing.Tech. 54 1982, No. 6)。この構造は、安定性が充分ではないため、粘度の高い生成物に対しては、支持要素を追加しない限り使用できない。US 2004/0125691によると、追加の細長い支持要素により安定性が改善されるものの、弱点が残り、コストがかかる。このような欠点及び困難があるにもかかわらず、SMR反応器として知られる当該設備の価値は実証されており、重合反応器として、又は粘性生成物用の冷却器として、例えば繊維プラントで、又はプラスチック溶融物を冷却するために、よく使用されている。
【0005】
特許文献EP 1 067 352では、管束と統合された、相互に交差するX構造ウェブを有する別のスタチックミキサ熱交換器及び/又は反応器が提案されている。当該X構造は、断面の投影に対してウェブが4つしかなく、管は、流れ方向に対して45°傾斜したウェブの穴に通す。これらのウェブは、互いに90°の角度をなすように相互に交差した平面群にある。当該ウェブは互いに接触し、少なくとも部分的に管と接続されている。まず、断面にわたる4つのウェブからX構造を作製し、完成した構造のウェブの穴に、管を通す。軸方向のウェブ間隔は、0.2~0.4Dとのことである。特許文献WO 2008/141472では、この構造の改良が提示され、ここでは、内管の直径に対する軸方向のウェブ間隔は、<6とされている。こうして、熱伝導率が改善される。ここでも、管の直径及び数を選択することにより、体積に対する熱交換表面の比率が大きい、及び/又はSMRの場合のように比熱容量の高い、非常に大きな反応器容積を実現することができる。伝熱側の圧力損失は、SMRの場合よりもかなり低減され、曲げ半径による機械的な制限もなくなる。この特許文献によれば、当該構造の滞留時間挙動も非常に良好であり、Xミキサーと同等である。ただし、その構成は非常に複雑で、非常に高い精度が要求される。ミキサー及び管プレートのすべての穴を直線的に、あまり公差なく揃えるのは非常に難しい。X構造と同様、機械的強度に問題が残る。
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、管状のハウジングにおいて、偏在を起こさずに、狭い滞留時間分布で、好ましくは粘稠な生成物のための、X構造を有する、熱を供給及び排出するための、反応を行うための、又は光合成のための反応器としての、流れる液体状、気体状又は多相の媒体を混合及び分散させるための装置を提供することであって、当該X構造は、従来知られている装置よりもかなりシンプルでコスト的にも有利に、X構造を有する装置を製造することを可能にするものであり、必要に応じて、熱伝達側でも生成物側と同様に、流れの力に対して高い安定性と、より小さな圧力損失とを有するものである。この課題は、請求項1に記載の特徴によって解決される。特に有利な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0007】
本発明の更なる態様は、方法に係る独立請求項20の対象である。
【0008】
「ピッチt」又は「管ピッチt」とは特に、管軸及び/若しくはハウジング軸に対して横方向の管列において、2つの隣接する管の管中心点の間隔、又は細長い要素及び/若しくはハウジング軸の軸に対して横方向の列において、2つの隣接する細長い要素間の中心点の間隔と理解される。
【0009】
「正方形ピッチ」とは特に、隣接する管中心点間の間隔が、管軸及び/又はハウジング軸に対して横方向の第1の方向と、管軸及び/又はハウジング軸に対して横方向の第2の方向とで等しく、また第2の方向が、第1の方向に対して直交することを意味する。同じことが、細長い要素についても同様に当てはまる。この正方形ピッチは例えば、VDI-Waermeatlas, 6. Auflage, 1991, Abschnitt Ob6, Bild 9に示されており、説明されている。
【0010】
本発明の有利な実施形態は添付図面に示されており、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による装置の一実施形態の一部を示す側面図であり、ここで当該装置は、9つの管を備え、切断されたハウジングにおける断面の投影に対して、相互に交差する4つのウェブを有する。
図2】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、ここで当該装置は、断面の投影で9つの管及び4つのウェブ層を有する。ウェブは、最大幅b=t-dを有し、管の間に適合する。
図3】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、当該装置は、断面の投影で21本の管及び/又はロッドと、6つのウェブとを有するものであり、ここで管の領域におけるウェブの最大幅はb=t-dであり、その間でさらに減少する。ウェブは、管の間に適合する。
図4】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、当該装置は、断面の投影で16本の管及び5つのウェブを有するものであり、ウェブの幅は、管の領域に切り欠きを有し、ウェブ幅bは、管ピッチよりも小さいが、隣接する管同士の間にある空間よりは大きい。断面の軸方向に、管はない。この配置構成により、U字管ループが可能になる。
図5】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、ここで当該装置は、断面の投影で16本の管及び7つのウェブ層を有する。
図6図5のような本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図を示し、ここで当該装置は、管又は細長い要素のための位置のうち一部のみが利用されている。
図7】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、当該装置は、断面の投影で45本の管及び8つのウェブ層を有するものであり、ここで、ウェブの傾きの符号はそれぞれ、隣接する2つのウェブ層(ハッチングで示した)で同じであり、群ごとに入れ替わる。
図8】本発明による装置の一実施形態による、断面の流れ方向での投影図であり、ここで当該装置は、相互に編み組み状になったウェブを90°回転させた十字形で有する。
図9】本発明による装置の一実施形態の透視図であり、当該装置は、混合要素の長さLで部分的にカットオフしたウェブ(31a、41b)を有するものである。ウェブは、最大幅b>(t-d)を有し、管を部分的に取り囲む。
図10】本発明による装置のさらなる実施形態を示す透視図であり、ここではウェブが、長手方向で少なくとも部分的に互いに変位し、ミキシングエレメントが軸方向に間隔を置いて配置されている。
図11】本発明による装置のさらなる実施形態の透視図であり、ここでは、図8に示したようにウェブが90°回転した十字形で編み組み状になっている。
図12】ウェブ及び細長い要素又は管について、さらなるあり得る形状及び断面を示す。この説明は、その他の可能性を排除するものではない。
図13】保持バーにより、ウェブを格子状に接続してウェブ層にする一例を示す透視図である。
図14】ウェブ層の1つの変形例を示す透視図であり、ここでは傾斜したウェブが連結されて波状のウェブ層になっている。
図15】断面の投影で8つのウェブを有するCH642 564によるスタチックミキサと比較した、図9(RWX)に示す本発明による構造を用いた混合試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示的な実施形態
本発明の思想によれば本装置は、内径Dを有する、好ましくは円形のハウジング1と、外径dを有し、長手方向軸に対して、また主流れ方向に対して平行な管2を有する、組み込まれた管束とからなる。管の代わりに、他の細長い要素を使用することもできる。管束は、好ましくは平方管ピッチtを有する。管の間には、長手方向軸に対して角度α、好ましくはα=30~60°、特に好ましくはα=45°傾斜しているウェブ(31,41)又はウェブ層が組み込まれる。互いに交差するウェブ(31,41)の傾斜角度は、好ましくは反対方向の符号を有し、管の間にあり軸方向に互いに連続するウェブ層のウェブは、好ましくは互いに平行であり、好ましくは全てが同じ間隔mを有する。相互に交差するウェブの間には、管又は管列があるのが好ましいものの、管又は管列の両側でウェブの傾斜角が同じ符号を有すること、及び符号の変化が、複数の隣接するウェブ又はウェブ層の後にのみ起こることも可能である。ウェブ層のウェブは、横方向に、好ましくは相互に平行に、長手方向軸に対して傾斜角αを有する、互いに交差する平面A、Bにある。全てのウェブが、同じ傾斜角度αを有するのが好ましい。しかしながら、ウェブ又はウェブ層が任意で互いに軸方向にオフセットされていてよく、かつ/又はウェブの直交方向間隔m、若しくはウェブ層内の傾斜角、若しくはウェブ位置からウェブ層への傾斜角が異なっていてよい。この場合、ウェブは横方向において共通平面で前後に並んでいないことになる。ウェブは幅bを有し、この幅は管ピッチtより小さいか、最大でも同じである。ウェブは好ましくは、その幅bで管に直交する。ただし、当該幅を有するウェブを、管に対して傾斜させて組み込むことも可能である。ウェブは、ハウジングの壁まで完全に到達することができ(ただし、そうである必要はない)、又は点状にのみ接触することができる。流れる媒体(I)及び/又は生成物は、管束のハウジング内及び/又はシェル空間内で管及び/又は細長い要素の周囲を、及び管内を流れることができ、熱伝達媒体(II)は管内を並流又は向流で流れることができるが、必ずしもそうである必要はない。それぞれの場合、軸方向に互いに連続する数nのウェブがウェブ層を形成し、長さL内の断面にあるすべてのウェブ層がミキシングエレメントを形成する。連続するミキシングエレメントのウェブ層は、90°回転した状態で管の間に挿入される。長さLは、好ましくは0.5~4Dである。長手方向でカットオフされたミキシングエレメントは、完全長ウェブ(31,41)及びカットオフ・ウェブ(31a,41b)からなる。ウェブは好ましくは、圧力損失を低くするために管ピッチtよりも小さい幅bを有し、最大幅が最高でb=t-dである場合に、その組み込みは特に容易である(図2及び3参照)。幅広のウェブには、管を通すための凹部(図4)があり、組み込み時にやや斜めに配置すれば、既存の管束にも容易に組み込むことができる。幅広のウェブにより、管に対するコンタクトラインを増やすことができる。このことは、管がウェブと接続されている場合には、構造の強度及び熱伝達に有利に働く。もちろん、装置の全てのウェブが、同じ幅及び形状である必要はない。図9は、ハウジングがない本発明による装置の一実施形態を透視図で示したものであり、ここで当該装置は、9つの管からなる管束と、断面で4つのウェブを有する、長さL=Dのミキシングエレメントとを備えている。この実施形態のウェブは、管列の間にあるフリースペースよりもやや広く、その最大幅b>(t-d)である。ウェブは必ずしも長さLにカットオフされていなくてもよく、90°回転した後続のウェブと競合しない限り、ウェブ層のウェブが後続のエレメント内へと突出していてよく、又は図10に示されているようにミキシングエレメントが、間隔をあけて組み込まれていてよい。それ自体としては、クロスミックス及び管への熱伝達のために、ウェブの方向を頻繁に90°回転させることが望ましいだろう。しかしながら、長さLが短すぎる場合には、全断面にわたる搬送が不充分となり、構造がより複雑になる。一方で、90°回転の数が少なすぎる場合、クロスミックスが低下する。
【0013】
驚くべきことに、本発明による装置によれば、図8及び図11に示すように、さらに別の、これまで知られていなかったタイプのウェブ配置が提供される。ここでは、ウェブ(31,41)及び90°回転させたウェブ(31’,41’)が、管2の間に相互に編み組された一つの要素で、挿入されている。こうして、2つの横方向で同時に混合が行われるエレメントが出来上がる。連続するエレメントはすべて、同じ構造である。これらのエレメントは、間隔を空けて、又はできる限り相互に入れ子にして、組み込むことができる。各要素の典型的な90°回転が省略され、均一な構造を作り出す。
【0014】
好ましくは、本発明による装置内の全てのミキシングエレメントが同一であり、同じウェブ間隔で構成されている。しかしながら、例えば局所的な分散混合のため、又は局所的に熱伝達若しくは物質交換を増大させるための特別な課題では例えば、装置内の各ミキシングエレメント又はミキシングエレメント群について、ウェブの軸方向間隔m、ウェブ幅b若しくはキシングエレメントの長さLをより狭く及び/又は小さく選択することが必要になり得る。高い安定性を得るために、ウェブは、交差する箇所の全て又は一部のみで、溶接、はんだ付け又は接着により、管と接続されていてよい。しかし、実用的な理由でこれが望ましくない場合、ウェブは必ずしも管に接続される必要はなく、ウェブ又はウェブ層の群は、スペーサ及び追加の支持体5によって互いに接続されていてよい。しかしながら実用的な理由から、このようにすることが望ましくない場合、ウェブは管と必ずしも接続されていなくてもよく、ウェブ又はウェブ層の群は、スペーサ及び追加の支持体5により相互に接続されていてよい。最後に、ある層のウェブは、金属板により接続することができ、傾斜されていてよい。この場合、ウェブ層は波型シートの形をとることができる。図2では変形例として、幅b=tの直線的なウェブを示しているが、図4ではさらなる実施形態として、ウェブの幅をより広くして、管用の凹部が設けられている。ウェブの幅は、その長さにわたって可変であってよく、図3にさらなる変形例として示されているように、横方向の境界は湾曲した形状を有することができる。ここでは最大幅が、最大b=tである。図2図8では、相互に交差するウェブの傾斜角度が異なることが、ハッチング方向の違いにより示されている。説明を簡単にするため、以下では「管」又は「管束」(これらを通って熱の供給又は排出のために好ましくは媒体が流れる)と述べるが、必要に応じてこれらの代わりに、熱伝達媒体がなくても、その他の細長い要素、例えばロッド、異形材、加熱ロッド、ロッド状の照明器具、又は半透過性若しくは多孔性の壁を有する管を使用することができる。さらに、本発明の適用可能性は、金属材料に限定されない。ウェブは好ましくは、金属板製の平らなプレート状の異形材であるか、又はU字形若しくはV字形の異形材若しくは管、又は中空異形材若しくはロッドである。最後に、ウェブの表面も構造化されていてよい。図12は、ロッドとしても細長い要素としても使用可能な、あり得る異形材形状の選択肢を示す。
【0015】
あり得る製造方法
拡張可能な管束のための本発明による装置の製造は、非常に容易である。ウェブ又はウェブ群は、完成した管束に挿入することができる。これは特に、ウェブ幅がどこもt-dより小さく、外部からアクセス可能な箇所でのみ管に接続されている場合に、当てはまる。しかしながら、b=tまでの幅広いウェブはまた、組み込む際に相応する傾斜によって、完成した管束の管の間に個別に組み込むことも容易である。外部からアクセスできない箇所でもウェブが管と接続するのが望ましい場合にのみ、管束を構築する際にウェブを導入する必要がある。ウェブをU字管束で組み込むのが好ましい。これによって装置が拡張可能となり、熱応力が発生しないからである。この場合、ハウジング断面の主軸に管は存在しない。この配置構成の欠点は、熱伝達媒体に対する適切な向流ができないことである。
【0016】
固定管床及びバッフル板により熱交換器を構築する場合、まずバッフル板をシェルに組み込み、最後に管を引き込むのが一般的である。この製造方法は、本発明による装置にも適用することができる。このために、ウェブは多数の細長い要素とのみ接続され、これによって安定した構造が形成され、こうすれば通常のバッフル板と同じように、装置のシェルに組み込むことができる。最後に、残りの管が所定の位置に、管床及びX構造を通して挿入される。この場合に管は、支持要素を除いて、ウェブと接続されていない。上記製造方法に加えて、寸法及び材料が許せば、3Dプリンタにより組込部材及び管又は細長い要素の全体を、モノリス部材として製造することも可能である。別の製造変法では組込部材が3Dプリンタにより、容易に溶融する材料から製造され、大部分がセラミック状物質でコーティングされる。その後、硬化した型の中にある材料が溶け出し、液状の金属(インベストメントキャスト)又は硬化樹脂を流し込む型が残る。
【0017】
さらなる例示的実施形態
長手軸に平行な管の数及び大きさは、装置の体積に対する交換面積の必要な比率によって、及び/若しくは必要な比熱容量(Q/VT)=(kA/V)によって、又は熱を伝達すべきでない場合は、ウェブ及び構造に必要な支持力及び安定性によって決まる。本発明による反応器における比交換面積(A/V)は、>50m/mであり、最大400m/mであり得る。本発明による反応器の比熱容量は、高粘度生成物の場合、100kW/mK超に達することがある。例えば強度に発熱性の重合反応では、反応器の比熱容量が充分に大きくないと、ホットスポットの形成及び反応の暴走につながる。そのためこのような反応は、直径の小さな管型反応器でしか制御できない。本発明による反応器は、熱伝達容量、混合挙動及び滞留時間分布について、管径10mm(A/V=400m/m)~80mm(A/V=50m/m)のX型ミキシングエレメントを有する管状反応器に相当する。これらの管型反応器とは対照的に、本発明による反応器では、比交換面積及び比熱容量を、反応器又は設備の容積とはほぼ無関係に選択することができる。これによって、スケールアップが特に容易になる。例えば重合反応は、強度の発熱性で、高粘度で行われる。当該反応を安全に狭い分子量分布で制御可能にするためには、本発明による装置のような設備が必要である。非常に高い比熱容量及び狭い滞留時間スペクトルにより、重合反応をわずかな温度差のもと実質的に等温で制御することができる。反応及び熱伝達は、ハウジング内で一定のクロスミックスにより行われるため、偏在が生じることはない。X型ミキシングエレメントを備えた小型の管型反応器によるパイロットテストの結果は、本発明による装置を用いれば、同等の混合挙動及び滞留時間挙動で工業規模まで容易にスケールアップすることができる。
【0018】
管ピッチは好ましくは、全断面にわたって均等に選択される。平方管ピッチの場合、全てのミキシングエレメントの構成部材が同じであるため、その構築は特に容易である。また、90°回転させた群について両方の横方向でピッチ及びウェブ幅が異なっていること、又は局所的に逸脱していることもあり得る。しかしながらまた、ピッチを局所的に異なるように選択すること、又は管のいずれか若しくは群を取り除くこと、必要な熱伝達容量が許すならば、熱交換用の管の代わりに、他の特性を有する管若しくは細長い素子、例えば光素子、若しくは半透過性若しくは多孔性の壁を有する要素、又は熱伝達媒体のない単純な管若しくはロッド、又は意図した管位置で構造を補強するための他の細長い異形材を、完全に又は部分的に使用することもできる。断面積に対する投影でウェブの数nは、n=r+1に相当し、ここでrは、断面軸又はその近傍にある管列の管の数である。既知のXミキサーとは対照的に、ウェブの数は、管の数及び/又はハウジングの直径とともに、このようにして増加する。驚くべきことに、横方向のウェブの数は、圧力損失にわずかな影響しか及ぼさないことが判明している。また、ウェブの数が少なくともn=4であれば、混合作用は非常に良好であり、n=8からはそれ以上、ほとんど増加しない。図5には、断面にわたり32本の管と7つのウェブとを有する本発明による装置の一実施形態について、流れ方向で見た図が示されている。
【0019】
本発明による装置の多くの実用的な用途では、流れる媒体を静的に混合又は分散するだけでよく、同時に熱を供給又は除去する必要はないか、又は生成物を温度調整する必要がない。この場合、管の位置を部分的に占有されていないようにすることができ、かつ/又は管を、構造の補強に役立つ完全な異形材で全体的に又は部分的に置き換えることができる。これにより、粘性のあるプラスチック溶融物の押出成形又は射出成形の際に生じる流れの力に対して、非常に高い安定性を有するスタチックミキサが得られる。
【0020】
図6は、図5の変形例を示し、ここではあり得る管位置の全てには敷設されておらず、いくつかの管が完全なロッド又は異形材で置き換えられている。図12は、細長い要素についてあり得る形状の選択肢を示す。この選択肢は完全なものではない。これらの細長い要素は、管2の代わりに軸方向に設置することも、ウェブ(31,41)の代替形態として管2に対して傾斜させて設置することもできる。軸方向に連続するウェブ31は、補助要素5により連結されてウェブ層を形成することができ、管の間へと挿入することができる(図13参照)。接続部としては、傾斜した金属板も使用することができ、ウェブ層は図14に示したような波型シート状構造になる。
【0021】
ハウジング軸に対して傾斜した、相互に交差するウェブ又は異形材は、集中的なクロスミックス及びクロスフローを保証し、管への熱伝達及び物質交換を改善する。流れ方向に連続するウェブの直交方向間隔mは、本発明による管束構造の圧力損失を決定づける指標となる。当該間隔mにより、反応器内の組込部材の濡れ表面が実質的に影響を受けるからである。このため、僅かな熱交換で又は熱交換無しで、良好なクロスミックスのみが必要な場合、間隔mをできるだけ大きく選択するのが望ましく、0.2~0.4Dにするのが好ましい。管とウェブとが頻繁に交差すること、及びウェブ方向が頻繁に回転することが、管への熱伝達に有利であると予測される。層流では、比m/d<4の場合に、管への熱伝達又は物質交換が著しく増加することが判明した。しかしながらまた、間隔mが小さくなると、装置の圧力損失が大きくる。よって、最適な間隔m又は内管の最適な内径d、及び最適な管ピッチtは、用途の具体的な必要性に依存する。
【0022】
試験結果
硬化性ポリエステル樹脂による混合試験において、9つの管の管束と、それぞれが相互に交差して挿入された4つのウェブとを有する本発明による装置を、図9による断面の流れ方向への投影で実施した。90°まで回転させた要素の長さLは1Dであり、ウェブの最大幅bは、管ピッチtの60%であった。その結果を、CH 642 564に準拠した従来技術によるXミキサーと比較したのだが、当該Xミキサーは、断面の流れ方向の投影で8つのウェブを有するとともに、ウェブの軸方向のウェブ間隔mが同じであり、要素の長さが同じであり、ウェブの傾斜角が同じものであった。硬化させた混合物バーを、それぞれ長さ1Dで切断し、混合品質の指標として層の最大厚さIを測定し、初期厚さI0と比較した。この測定方法は、層流の場合のスタチックミキサにおける混合プロセス及び混合品質を、特に初期混合領域において検証するために、非常に単純かつ効率的である。当該混合試験の結果が、図15に示されている。驚くべきことに、4つのウェブしか有さない本発明による装置では、8つのウェブを有する従来技術によるスタチックミキサとほぼ同じ最大層厚(混合品質)が達成されるのである!本発明による装置のウェブについて濡れ面は、従来技術による設計と比較して、約60%しかない。よって層流の場合の圧力損失も、ほぼ同じ比率で低下することが予測される。軸方向に整列した管は、圧力損失にほとんど関与しないからである。この試験からは、本発明による装置では、ウェブ幅が管ピッチよりかなり小さい場合でも、又はそれどころかウェブが凹部なしで管の間に挿入される場合(ウェブ幅が最大のb=t-d)であっても、低い圧力損失で優れた混合作用が得られることが分かる。
【0023】
本発明による装置で予測される狭い滞留時間分布を実証するため、CFD流れ計算で上記装置による滞留時間分布をシミュレーションし、既知のXミキサーと比較した。当該計算により、本発明による装置の滞留時間挙動は予測されたとおり、既知のX構造と同等であることが確認された。このようにして本発明による装置により、熱伝達容量が極めて大きく、クロスミックスが良好で、ほぼ理想的なプラグフローを有するスタチック反応器を作製することができる。
【0024】
適用領域
本発明による装置の用途は、層流の分野に限られることはない。X構造は、低粘度媒体の乱流において液体又は気体を分散させるために非常に良好に適していることが知られている。よって本装置はまた、発熱量が大きい反応のための低粘度媒体にも、又はバイオリアクターにも適している。管をロッド状の光発生装置又は導電体に置き換えれば、光合成も可能である。また鉛直方向に設置した場合、固定床又は流動床で比較的発熱量が大きい不均一系触媒反応を行うために、触媒担体をハウジング内に容易に装填することができる。
【0025】
本発明による装置は、以下の用途のために、横方向には高く、軸方向にはわずかな逆混合を有する混合式熱交換器として使用するのが好ましい:
・層流用の熱交換器全般
・ポリマー溶液又はポリマー溶融物の加熱又は冷却
・脱気チャンバ前の部分脱気を備える生成物加熱器
・粘性のある生成物の冷却
・敏感な又は反応性のある、粘性生成物の加熱
・反応器、特に重合反応器
・気液反応器
・光合成を行うバイオリアクター
・固定床又は流動床を備える不均一系触媒反応器
あるいはまた、熱媒体を使用せずに、安定した構造で圧力損失の低いスタチックミキサとして、好ましくは粘性生成物の場合に、使用することができる。プラスチック溶融物のためのスタチックミキサは、非常に大きな流れの力に耐える必要があり、稼働温度を所望の範囲に保つための温度調整が、常に必要となる。そのためにこのミキサーは、加熱可能なダブルシェル管を備えている。ミキシングエレメントはしばしば、流れの力に耐えられるように、ハウジングの壁面で支持する必要がある。この場合には、ミキシングエレメントを取り外すことができなくなり、圧力容器規則で要求される溶接継ぎ目試験も、常に可能とは限らない。本発明による装置は、加熱が容易で、非常に安定しており、拡張性のある、当該用途及び同様の用途のためのXミキサーを提供する。非常に高価なダブルシェル管は省略され、内部を熱伝達媒体が流れるU字管コイルで置き換えられる。管の位置にある更なる細長い異形材は、必要に応じて構造の補強を担う。また、本発明によるミキサーは、稼働温度まで迅速に加熱することができる。ダブルシェル管のように、ハウジング内で高い応力は予測されないからである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15
【国際調査報告】