(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】化学強化微結晶ガラス、調製方法およびその適用
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230824BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20230824BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20230824BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20230824BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20230824BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20230824BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20230824BHJP
C03C 10/12 20060101ALI20230824BHJP
C03C 10/14 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/089
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/097
C03C10/12
C03C10/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557822
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 CN2022090015
(87)【国際公開番号】W WO2023279819
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】202110774451.0
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521218881
【氏名又は名称】オナー デバイス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュ、ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チウクン
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、ミンガン
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
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4G062NN34
4G062QQ02
4G062QQ09
(57)【要約】
【要約】
本願の実施形態は、化学強化微結晶ガラス、ならびに、その調製方法および適用を開示する。化学強化微結晶ガラスはNa/Li交換層を有し、圧縮応力層を有する。化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度および全体的な厚さtは、圧縮応力層の深度が0.15t~0.22tであることを満たす。加えて、化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの強化深度における圧縮応力強度CS50および化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さtは、CS50が130+(20t-13)×15MPa~230+(20t^13)×15MPaであることを満たす。加えて、圧縮応力層のCS50および深度は、CS50/(Doc-50)が1.4~6であることを満たす。化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する強い耐穿孔性を有し、化学強化微結晶ガラスの調製方法についての化学強化条件は制御が容易であり、その結果、調製された化学強化微結晶ガラスは、安定した性能、高効率、および低減された調製コストを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na/Li交換層を備える化学強化微結晶ガラスであって、前記化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度Docは0.15t~0.22tであり、
前記化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの強化深度における圧縮応力強度CS50は、130+(20t-13)×15MPa~230+(20t-13)×15MPaであり、CS50およびDocは、CS50/(Doc-50)が1.4~6(単位MPa/μm)であることを満たし、tは化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さである、化学強化微結晶ガラス。
【請求項2】
前記化学強化微結晶ガラスが、直径10mm丸頭を有する金属圧縮棒によって圧搾され、圧砕されたとき、断片の最長辺の平均サイズは5mm以上であり、および/または、
前記化学強化微結晶ガラスの前記厚さが0.6mmであるとき、前記化学強化微結晶ガラスについてのグリットサンドペーパー落下試験の高さが1.5m以上であり、および/または、
前記化学強化微結晶ガラスが、温度85℃、湿度85%の環境で72時間保管されたとき、ナトリウム塩は前記化学強化微結晶ガラスの外表面上に析出せず、および/または、
前記化学強化微結晶ガラスの前記厚さが0.8mm以下であるとき、400nm~940nmの波長の光の平均透過率は89.5%以上であり、550nmの波長と400nmの波長との間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である、
請求項1に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項3】
前記化学強化微結晶ガラスを形成するために使用される原微結晶ガラスの主要結晶相は、メタケイ酸リチウム、および、βクオーツ固溶体のいずれかであり、総含有結晶相の質量分率は35%~75%であり、二次結晶相の総含有量は5%未満である、請求項1または2に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項4】
前記原微結晶ガラスは主要成分および核形成剤を含み、前記主要成分は、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、Li
2O、Na
2O、およびK
2Oを含み、SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3の含有量は58~85mol%であること、および、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量は10~32mol%であることを満たし、前記核形成剤は、TiO
2、P
2O
5およびZrO
2を含み、TiO
2+P
2O
5+ZrO
2の含有量が2~8mol%であることを満たす、請求項3に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項5】
前記原微結晶ガラスのガラス基質は、融解・鋳造方法またはカレンダー法を使用することによって調製され、および/または、
前記原微結晶ガラスの前記ガラス基質は、以下の2つの段階、すなわち、
熱処理段階1:温度は500℃~600℃、処理時間は0.1時間~10時間、および、
熱処理段階2:温度は640℃~800℃、処理時間は0.1時間~10時間
によって熱処理される、請求項3に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項6】
前記化学強化微結晶ガラスのヤング率は95GPa以上である、請求項3に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項7】
前記化学強化微結晶ガラスの前記表層はK/Na交換層を更に有する、請求項3に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項8】
前記K/Na交換層の厚さは3μm以下である、請求項7に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項9】
前記化学強化微結晶ガラスは、2次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、または、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスのいずれか1つである、請求項1に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項10】
前記化学強化微結晶ガラスは、2次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラス、および/または、2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであり、2次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラス、および/または、2.5次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラスについて、色座標bの絶対値は0.3以下であり、ヘイズは0.14%以下である、請求項9に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項11】
前記化学強化微結晶ガラスは、3次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラスであり、3次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラスの長辺曲げ角は、15°~89°であり、および/または、
3次元構造を有する前記化学強化微結晶ガラスについて、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である、
請求項9に記載の化学強化微結晶ガラス。
【請求項12】
化学強化微結晶ガラスの調製方法であって、
ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行し、Na/Li交換層を形成する段階を備える、調製方法。
【請求項13】
前記ナトリウム塩含有槽は、NaNO
3、または、NaNO
3およびKNO
3の塩混合物を含み、NaNO
3およびKNO
3の前記塩混合物において、NaNO
3の含有量は50wt%以上であり、および/または、
前記一次化学強化処理において、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.5時間~6時間である、請求項12に記載の調製方法。
【請求項14】
前記一次化学強化処理の後に、カリウム塩含有槽において、前記Na/Li交換層が形成された前記化学強化微結晶ガラスに対して二次化学強化処理を実行してK/Na交換層を形成する段階を更に備える、請求項12または13に記載の調製方法。
【請求項15】
前記カリウム塩含有槽はKNO
3またはNaNO
3およびKNO
3の塩混合物を含み、NaNO
3およびKNO
3の前記塩混合物において、KNO
3の含有量は80wt%以上であり、および/または、
前記二次化学強化処理において、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.2時間~1時間である、請求項14に記載の調製方法。
【請求項16】
ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象となる原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行する前に、前記原微結晶ガラスに対して、
650℃~750℃で前記原微結晶ガラスに対して熱間曲げ処理を実行して3次元の原微結晶ガラスを形成する段階であって、各熱間曲げ処理の時間は30秒~120秒であり、前記熱間曲げ処理の圧力は0.1MPa~0.9MPaである、段階
を実行する段階を更に備える、請求項12に記載の調製方法。
【請求項17】
ガラスコンポーネントを備える電子デバイスであって、前記ガラスコンポーネントは、請求項1に記載の化学強化微結晶ガラス、または、請求項12に記載の調製方法を使用して調製された化学強化微結晶ガラスである、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、「化学強化微結晶ガラス、調製方法およびその適用」と題する、2021年7月8日に中国国家知識産権局に出願された中国特許出願第202110774451.0号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本願は、ガラス製品技術の分野に関し、具体的には、化学強化微結晶ガラスおよび調製方法およびその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスは、透明性および耐高温性などの特性に起因して日常生活において広く使用されている。例えば、ガラスは、防護装置分野、装飾分野および他の分野において広く使用されている。しかしながら、ガラスはまた、弱い耐衝撃性および脆弱性などのいくつかの欠点を有し、いくつかの分野におけるガラスの適用が限定されている。
【0004】
電子製品の普及に伴い、ガラス材料に対して課される要件がますます高くなっている。例えば、現在のスマートフォンの大部分のスクリーン保護材料は、化学強化ガラス材料である。加えて、電子製品の発展に伴い、電子製品の裏カバー材料は、ガラスおよび他の材料で徐々に置き換えられている。
【0005】
現在、業界におけるカバーガラス材料が、一次強化アルミノケイ酸ガラスから二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラスに発展している。化学強化の度合いが増加するにつれて、カバーの荒れた地面に対する耐穿孔性が効果的に改善される。グリットサンドペーパー落下試験における世代的改善を達成するべく、2016年から2021年にかけて、業界における二次強化ガラスの反復方向は、増加した深い応力に向けて発展した。
【0006】
しかしながら、実際の適用では、業界におけるカバーガラス材料および他のアルミノケイ酸ガラスにおいて以下の欠点が見つかっている。
【0007】
二次強化ガラスのボディはリチウムアルミノケイ酸ガラスを使用し、リチウムアルミノケイ酸ガラスのヤング率は通常、約80GPaである。リチウムアルミノケイ酸ガラスの応力強度に対する更なる改善は、基板の圧縮応力蓄積能力によって限定される。過剰な圧縮応力は、高い内部引張応力をもたらす。引張応力が高すぎる場合、無効なガラス断片が過度に小さく(3mm未満)、または、カバーガラスが突然爆発する。従って、二次強化ガラスの機械的強度に対する改善は、ボディ強度によって生じる応力強度に対する制限によって限定され、耐落下性に対する改善は比較的限定される。
【0008】
2020年以降、カバー業界は、カバーガラスの新しい発展方向として、微結晶ガラスを公表した。微結晶ガラス内のナノ結晶は、亀裂および穿孔に耐えることができ、イオン交換によってもたらされる圧縮応力は、亀裂生長に耐えることができる。これら2つの機能は、カバーガラスの耐落下性能力を改善できる(機構については、
図1を参照されたい)。従って、微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐落下性は、二次強化ガラスと比較して大きく改善する。
【0009】
例えば、開示されるタイプの微結晶ガラスの主要結晶相は、葉長石および二ケイ酸リチウムである。表面上のナトリウム塩の濃度を制御するべく、微結晶ガラスの強化ボイラ水にLi2Oが積極的に導入される必要があり、それにより、85℃の温度および85%の湿度で、ナトリウム塩の析出の度合いを低減する。この結晶相設計は、2つの交換、すなわちK/Na交換およびNa/Li交換によって、強度の増加を実装する。しかしながら、微結晶ガラスは、原材料の優れた光学性能(89.5%以上の透過率、0.5以下の色収差bの絶対値、0.15%以下のヘイズ)を確実にするように、比較的高い結晶化度(85wt%以上)の必要性を特徴することが研究から分かっている。しかしながら、3次元熱間曲げ形成プロセスにおいて、このタイプの微結晶ガラスの結晶相は、熱の影響を受けやすく、光学性能が常に劣化する。加えて、微結晶ガラスのイオン交換は、結晶相によって影響を受け、より長い交換経路を必要とする。従って、化学強化によって比較的高い圧縮応力を取得することが難しく、耐落下性に対する改善はなお不十分である。
【発明の概要】
【0010】
本願の目的は、従来技術の欠点を克服し、化学強化微結晶ガラスおよび調製方法およびその適用を提供することにより、既存のアルミノケイ酸ガラスおよび既存の化学強化微結晶ガラスの圧縮応力を更に増加させることが難しく、耐落下性が不十分という技術的問題を解決する。
【0011】
上記適用の目的を実装するべく、本願の実施形態の一態様によれば、化学強化微結晶ガラスが提供される。本願の本実施形態において、化学強化微結晶ガラスはNa/Li交換層を有し、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度Docは、0.15t~0.22tである。化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの強化深度の圧縮応力強度CS50は、130+(20t-13)×15MPa~230+(20t-13)×15MPaである。CS50およびDocは、CS50/(Doc-50)が1.4~6(MPa/μm単位)であることを満たし、tは化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さである。
【0012】
本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、特定の深度の圧縮応力層、特定の圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係を有する。化学強化微結晶ガラスには、比較的高い圧縮応力、および、既存のアルミノケイ酸ガラスおよび微結晶ガラスより遥かに高い応力強度が付与され、従って、亀裂生長に耐えることができる。従って、本願の本実施形態において、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性は著しく改善され、荒れた地面を利用した落下試験の高さは、既存のアルミノケイ酸ガラスおよび微結晶ガラスより高い。
【0013】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスが直径10mm丸頭を有する金属圧縮棒によって圧搾され、圧砕されるとき、断片の最長辺の平均サイズは5mm以上である。
【0014】
任意選択的に、厚さが0.6mmであるとき、化学強化微結晶ガラスのグリットサンドペーパー落下試験の高さは1.5m以上である。
【0015】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスが、85℃の温度および85%の湿度の環境に72時間保管されるとき、化学強化微結晶ガラスの外表面上にナトリウム塩が析出しない。
【0016】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスの厚さが0.8mm以下であるとき、400nm~940nmの波長の光の平均透過率は、89.5%以上であり、波長550nmと波長400nmとの間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である。
【0017】
化学強化微結晶ガラスが圧縮応力層の深度、圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係を有することに基づいて、化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、高い耐落下性高さ、ならびに、優れた熱安定性および耐湿性を有する。加えて、化学強化微結晶ガラスは、優れた光透過性などの優れた光学性能を有する。
【0018】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスを形成するのに使用される原微結晶ガラスの主要結晶相は、メタケイ酸リチウムおよびβクオーツ固溶体のいずれかであり、総含有結晶相の質量分率は、35%~75%であり、二次結晶相の総含有量は、5%未満である。原微結晶ガラスの主要結晶相のタイプおよび各結晶相の含有量に対する制御を通じて、化学強化微結晶ガラスに含まれるNa/Li交換層がLiの悪影響を受けることを効果的に防止でき、CS50範囲を効果的に制御でき、それによって、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性を更に改善する。加えて、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性、および、光透過率などの光学性能を改善できる。
【0019】
更に、原微結晶ガラスは主要成分および核形成剤を含む。主要成分は、SiO2、Al2O3、B2O3、Li2O、Na2O、およびK2Oを含み、SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が58~85mol%であり、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が10~32mol%であることを満たす。核形成剤は、TiO2、P2O5およびZrO2を含み、TiO2+P2O5+ZrO2の含有量が2~8mol%であることを満たす。原微結晶ガラスのこれらの成分は、原微結晶ガラスおよび化学強化微結晶ガラスに、上記のタイプの主要結晶相および各結晶相の含有量を付与し、それにより、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性を改善し、化学強化微結晶ガラスの光透過率などの光学性能を改善する。
【0020】
更に、原微結晶ガラスのガラス基質は、融解・鋳造方法またはカレンダー法を使用することによって調製される。
【0021】
更に、原微結晶ガラスのガラス基質は、以下の2つの段階において熱処理される。
熱処理段階1:温度は500℃~600℃、処理時間は0.1時間~10時間
熱処理段階2:温度は640℃~800℃、処理時間は0.1時間~10時間。
【0022】
2段階加熱処理は、原微結晶ガラスのガラス基質に対して実行され、その結果、形成された原微結晶ガラスは、必要な主要結晶相、および、主要結晶相の含有量を取得し、他の二次結晶相を調整でき、それによって、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性および光学性能を改善する。
【0023】
更に、化学強化微結晶ガラスのヤング率は95GPa以上である。化学強化微結晶ガラスの主要結晶相のタイプおよび原微結晶ガラスの各結晶相の含有量に基づいて、化学強化微結晶ガラスには高いヤング率が付与され、その結果、化学強化微結晶ガラスには、より大きい圧縮応力に対応できる保管余地が付与され、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力を増加させるための条件を提供する。
【0024】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスの表層は更にK/Na交換層を有する。K/Na交換層(カリウム層)を導入することにより、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性を更に改善し、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐落下性を維持することを助ける。
【0025】
更に、K/Na交換層の厚さは3μm以下である。K/Na交換層(カリウム層)の厚さに対する制御を通じて、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性および荒れた地面に対する耐落下性を更に改善できる。圧縮応力層の深度、圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係に基づいて、K/Na交換層の厚さの要件を効果的に低減できる。
【0026】
任意選択的に、化学強化微結晶ガラスは、2次元構造の化学強化微結晶ガラス、2.5次元構造の化学強化微結晶ガラス、または、3次元構造の化学強化微結晶ガラスのいずれか1つである。化学強化微結晶ガラスは、上記のような、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性および光学性能を有するので、化学強化微結晶ガラスは、2次元構造の化学強化微結晶ガラス、2.5次元構造の化学強化微結晶ガラス、または3次元構造の化学強化微結晶ガラスのいずれか1つであり得る。これにより、化学強化微結晶ガラスの適用範囲を拡張し、対応する製品の品質および性能安定性を改善する。
【0027】
更に、化学強化微結晶ガラスが2次元構造の化学強化微結晶ガラスおよび/または2.5次元構造の化学強化微結晶ガラスであるとき、2次元構造の化学強化微結晶ガラスおよび/または2.5次元構造の化学強化微結晶ガラスについて、色座標bの絶対値は0.3以下であり、ヘイズは0.14%以下である。
【0028】
化学強化微結晶ガラスが2次元構造の化学強化微結晶ガラスである、または、2.5次元構造の化学強化微結晶ガラスであるとき、化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性および優れた光透過率を有する。
【0029】
更に、化学強化微結晶ガラスが3次元構造の化学強化微結晶ガラスであるとき、3次元構造の化学強化微結晶ガラスの長辺曲げ角は15°~89°である。
【0030】
更に、3次元構造の化学強化微結晶ガラスについて、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である。
【0031】
3次元構造の化学強化微結晶ガラスとして、化学強化微結晶ガラスはなお、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性および優れた光透過率を有する。
【0032】
本願の実施形態の別の態様によれば、本願の前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスの調製方法が提供される。本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスの調製方法は、以下の段階、すなわち、ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行し、Na/Li交換層を形成する段階を備える。
【0033】
本願における化学強化微結晶ガラスの調製方法によれば、一次化学強化処理は、ナトリウム塩含有槽において原微結晶ガラスに対して実行され、その結果、原微結晶ガラスの表層にNa/Li交換層が形成される。加えて、一次化学強化処理に対する制御を通じて、化学強化によって形成される化学強化微結晶ガラスは、本願の前述の実施形態における、圧縮応力層の深度、圧縮応力強度CS50範囲、および、化学強化微結晶ガラスの関係を有し得る。このように、調製された化学強化微結晶ガラスには、比較的高い圧縮応力、および、大きく改善された応力強度が付与され、亀裂生長に耐えることができ、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性を有する。加えて、本願において、本願における化学強化微結晶ガラスの調製方法のための化学強化条件は、制御が容易であり、その結果、調製された化学強化微結晶ガラスは、安定した性能、高効率、および低減された調製コストを有する。
【0034】
任意選択的に、ナトリウム含有塩槽は、NaNO3、または、NaNO3およびKNO3の塩混合物を含み、NaNO3およびKNO3の塩混合物において、NaNO3の含有量は50wt%以上である。
【0035】
任意選択的に、一次化学強化処理において、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.5時間~6時間である。
【0036】
ナトリウム含有塩槽のタイプ、NaNO3の含有量、および、一次化学強化処理に対する制御を通じて、原微結晶ガラスに対する化学強化処理の効果が改善され、形成された化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度および圧縮応力強度CS50範囲が最適化され、その結果、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力が増加し、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性および光透過率性能が改善される。
【0037】
任意選択的に、一次化学強化処理の後、方法は更に、カリウム塩含有槽において、Na/Li交換層が形成された化学強化微結晶ガラスに対する二次化学強化処理を実行し、K/Na交換層を形成する段階を備える。一次化学強化処理によって形成される化学強化微結晶ガラスに対する二次化学強化処理を更に実行することによって、K/Na交換層は、形成された化学強化微結晶ガラスの表層に形成され、その結果、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性および荒れた地面に対する耐落下性が更に改善される。
【0038】
更に、カリウム含有塩槽は、KNO3、または、NaNO3およびKNO3の塩混合物を含み、NaNO3およびKNO3の塩混合物において、KNO3の含有量は80wt%以上である。
【0039】
更に、二次化学強化処理において、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.2時間~1時間である。
【0040】
カリウム含有塩槽のタイプ、KNO3の含有量、および、二次化学強化処理に対する制御を通じて、二次化学強化処理の効果が改善され、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性および荒れた地面に対する耐落下性が更に改善される。
【0041】
任意選択的に、ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行する前に、方法は更に、原微結晶ガラスに対して、以下の熱間曲げ処理を実行する段階を備える。
【0042】
熱間曲げ処理は、650℃~750℃で原微結晶ガラスに対して実行され、3次元の原微結晶ガラスが形成される。各熱間曲げ処理の時間は30秒~120秒であり、熱間曲げ処理の圧力は0.1MPa~0.9MPaである。
【0043】
3次元の原微結晶ガラスは、原微結晶ガラスに対して熱間曲げ処理を実行することによって形成され、その結果、一次化学強化処理、または、更なる二次化学強化処理の後に、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスが形成され得、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスが高い圧縮応力、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、および優れた光透過率性能を有することを確実にする。
【0044】
本願の実施形態の別の態様によれば、電子デバイスが提供される。本願の本実施形態において電子デバイスは、ガラスコンポーネントを含み、ガラスコンポーネントは、本願の上記実施形態における化学強化微結晶ガラス、または、本願の上記実施形態における化学強化微結晶ガラスの調製方法を使用することによって調製された化学強化微結晶ガラスである。本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、上記の荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、および、光学性能を有し、または、優れた耐衝撃性を更に有する。従って、ガラスコンポーネントには、優れた耐落下性および耐衝突性、ならびに高強度が付与される。このように、本願の本実施形態における電子デバイスには、優れた耐落下性および耐衝突性、ならびに耐衝撃性が付与され、電子デバイスの品質および動作性能安定性は高い。
【0045】
更に、ガラスコンポーネントは、ディスプレイカバー、保護カバー、または保護スクリーンのうち少なくとも1つを含む。ガラスコンポーネントは、優れた光透過性、強い保護、ならびに、耐落下性および耐衝突性を有し、更に、高強度、優れた表示性能、および安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】結晶化ガラスの耐穿孔性機構の概略図である。
【0047】
【
図2】本願の実施形態による、既存の一次強化アルミノケイ酸ガラス、既存の二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラス、および化学強化微結晶ガラスの応力曲線の図である。
【0048】
【
図3】本願の実施形態による、化学強化微結晶ガラスの調製方法の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本願の解決するべき技術的問題、技術的解決手段、および有利な効果をより明確にするべく、以下では更に、実施形態を参照して、本願を詳細に説明する。本明細書において説明される特定の実施形態は単に、本願を説明するために使用されるものであり、本願を限定するために使用されるものではないことを理解されたい。
【0050】
本願の説明において、「および/または」という用語は、関連する対象物の対応関係を説明し、3つの関係が存在し得ることを表すと理解されたい。例えば、Aおよび/またはBは、以下の3つの場合、すなわち、Aのみが存在する、AおよびBの両方が存在する、および、Bのみが存在するという場合を表し得る。AおよびBは単数または複数であってよい。「/」という文字は概して、関連する対象物間の「または」の関係を表す。
【0051】
本願において、「少なくとも1つ」とは、1または複数を意味し、「複数」とは、2以上を意味する。「以下の項目の少なくとも1つ」または類似表現は、単一の項目、または、複数の項目の任意の組み合わせを含む、これらの項目の任意の組み合わせを意味する。例えば、「a、b、またはcの少なくとも1つ」または「a、b、およびcの少なくとも1つ」は両方とも、a、b、c、a-b(すなわち、aおよびb)、a-c、b-c、またはa-b-cを表し得、ここで、a、b、およびcのうち1または複数があり得る。
【0052】
本願の実施形態において使用される用語は単に、特定の実施形態を説明する目的に使用され、本願を限定する意図はない。本願の実施形態および添付の特許請求の範囲において使用される単数形の用語「ある」、「上記」、および「前記」はまた、文脈において明確な別段の定めが無い限り、複数形を含むことを意図する。
【0053】
本願の実施形態において、「および/または」という用語は、関連する対象物の対応関係を説明し、3つの関係が存在し得ることを表す。例えば、Aおよび/またはBは、以下の3つの場合、すなわち、Aのみが存在する、AおよびBの両方が存在する、および、Bのみが存在するという場合を表し得る。AおよびBは単数または複数であってよい。「/」という文字は概して、関連する対象物間の「または」の関係を表す。
【0054】
本願の様々な実施形態において、上記のプロセスの各々のシーケンス番号は、実行の順序を意味するものではないことを理解されたい。段階の一部または全部は、並列に実行され得るか、または、順に実行され得る。プロセスを実行する順序は、プロセスの機能および内部論理に基づいて決定されるべきであり、本願の実施形態の実装プロセスに対して、いかなる限定も課されるできでない。
【0055】
本願の実施形態の明細書において言及される関連する成分の重量は、各成分の特定の含有量を指し得るだけでなく、成分の重量間の比例関係も表し得る。従って、関連する成分の重量が、本願の実施形態の明細書における関連する成分の含有量に従って比例的にスケールアップまたはスケールダウンされる場合でも、関連する成分の重量は、本願の実施形態の明細書に開示される範囲に属する。具体的には、本願の実施形態の明細書において説明される質量は、μg、mg、g、またはkgなど、化学エンジニアリング分野において周知の質量単位であり得る。
【0056】
「第1」および「第2」という用語は、物質などの対象物を互いに区別する説明の目的のために使用されるだけであり、相対的重要性を指示もしくは示唆する、または、示される技術的特徴の量を示唆するものとして理解することはできない。例えば、本願の実施形態の範囲から逸脱することなく、「第1XX」は、「第2XX」とも称され得、同様に、「第2XX」は、「第1XX」とも称され得る。従って、「第1」または「第2」として定義される特徴は、明示的に、または黙示的に、特徴の1または複数を含み得る。
【0057】
以下は、関連する特定の名称の説明である。
【0058】
原微結晶ガラス:強化されていない微結晶ガラス。
【0059】
化学強化微結晶ガラス:高温イオン交換プロセスを使用することによって処理された、化学的に鍛えられた微結晶ガラス。高温溶融塩において、大きいアルカリ金属イオンが、ガラスにおける小さいアルカリ金属イオンを置き換えることにより、交換されたイオン間の体積差を生成し、原ガラスの表層において、高い圧縮応力および低い圧縮応力を生成し、それによって、ガラスの小さい亀裂の伝播を防止および遅延し、ガラスの機械的強度を改善するという目的を達成する。
【0060】
圧縮応力層の深度(Doc):化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度。
【0061】
化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの深度における圧縮応力値(CS50):化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの深度の圧縮応力値を表す。
【0062】
Na/Li交換層:化学強化微結晶ガラスにおける、いくつかのリチウムイオンがナトリウムイオンによって置き換えられたナトリウム含有層を指す。
【0063】
K/Na交換層:化学強化微結晶ガラスにおける、いくつかのナトリウムイオンがカリウムイオンによって置き換えられたカリウム含有層を指す。
【0064】
ナトリウム-リチウムイオン交換:化学強化において、塩槽におけるナトリウムイオンが、ガラスにおけるリチウムイオンを置き換える。
【0065】
カリウム-ナトリウムイオン交換:化学強化において、塩槽におけるカリウムイオンが、ガラスにおけるナトリウムイオンを置き換える。
【0066】
一態様によれば、本願の実施形態は化学強化微結晶ガラスを提供する。本願の本実施形態において、化学強化微結晶ガラスはNa/Li交換層および圧縮応力層を有する。測定結果が示すところによれば、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスの応力曲線が、
図2に示され、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度および圧縮応力強度は、少なくとも以下の特性1から3を有する。
【0067】
1.化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度Docおよび化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さは、次式1-1に示す関係を満たす。
Doc=0.15t~0.22t 式(1-1)
【0068】
2.化学強化微結晶ガラスの表層における圧縮応力強度は、次式1-2に示す関係を満たす。
【0069】
化学強化微結晶ガラスの表層における50μmの強化深度における圧縮応力強度CS50は、次式1-2に示される関係を満たす。
CS50=130+(20t-13)×15Mpa~230+(20t-13)×15MPa 式(1-2)
【0070】
3.化学強化微結晶ガラスの表層における圧縮応力強度と圧縮応力層の深度Docとの間の関係は次式1-3を満たす。
CS50/(Doc-50)=1.4~6、単位MPa/μm 式(1-3)
【0071】
式1-1および式1-2において、tは化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さである。従って、tは0より大きい正の数であり、tの単位はmmであり得る。本実施形態において、tすなわち本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスの全体的な厚さは0.3mm~0.8mmである。
【0072】
式1-2に関する表層における50μmの強化深度は、化学強化微結晶ガラスの表面から内部への方向に50μmの内部深度における領域を指す。実験のプロセスにおいて、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスのCS50が過度に低いとき、荒れた地面に対する耐穿孔性などの化学強化微結晶ガラスの能力が低減され、信頼性に影響が生じることが分かった。CS50が高すぎるとき、化学強化微結晶ガラスの割れた断片が過度に小さくなる。
【0073】
加えて、
図2に示される既存の一次強化アルミノケイ酸ガラス(主要成分:SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3+P
2O
5=75~85mol%、Na
2O+K
2O=10~16mol%、Li
2Oを含まず、本ガラスの強化プロセスにおいて、純粋なKNO
3が通常、380℃~460℃で1時間~10時間にわたって強化するために使用される)では、一次強化アルミノケイ酸ガラスのCSは、700MPa以上であり、CS50は0にほぼ等しく、強化層(すなわち、K/Na交換層)の深度は、0.04t~0.09tである。既存の二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラス(主要成分:SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3+P
2O
5=75~85mol%、Li
2O+Na
2O+K
2O=10~20mol%、二次強化プロセスが通常使用され、純粋なNaNO
3またはNaNO
3/KNO
3の塩混合物が一次強化に使用され、強化温度は380℃~450℃であり、純粋なKNO
3またはNaNO
3/KNO
3の塩混合物が二次強化に使用される)では、二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラスのCSは700MPa以上であり、カリウム層の強化深度Dolは5μm以上であり、CS50は130+(20t-13)×15MPa未満であり、圧縮応力層の強化深度Docは0.18t以上である。
【0074】
本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスが特定の深度の圧縮応力層、特定の圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係を有するという上記の説明に基づいて、既存の一次強化アルミノケイ酸ガラスおよび二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラスと比較して、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、比較的高い圧縮応力、ならびに、既存のアルミノケイ酸ガラスおよび微結晶ガラスより遥かに高い応力強度を有し、従って、亀裂生長に耐えることができる。現在の生活シナリオにおける一般的な強化ガラスと比較して(例えば、生活シナリオにおける現在の携帯電話の一般的な故障につながる、荒れた地面による穿孔の深度は通常、40~70μmである)、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する耐穿孔性の観点において大きく改善され、荒れた地面を利用した落下試験の高さは、既存のアルミノケイ酸ガラスおよび微結晶ガラスより高い。
図2において、一次強化アルミノケイ酸ガラス(K/Na交換を有する)の曲線が、業界における一般的な表面応力試験デバイスFSM-6000LEUVによって実行される試験を通じて取得され、二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラス(K/NaおよびNa/Li交換の両方を有する)の曲線は、業界における表面応力試験デバイスFSM-6000LEUVおよびScattered Light Photoelastic Stress Meter SLP2000によって実行されるフィッティング試験を通じた合成によって取得され、本願における化学強化微結晶ガラスの曲線は、SLP2000を使用することによって実行される試験を通じて取得される。
【0075】
更なる測定によれば、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは更に、以下の関連する機械的性能および光学性能を有する。
【0076】
本実施形態において、化学強化微結晶ガラスが直径10mm丸頭を有する金属圧縮棒を使用することによって圧搾され、圧砕されるとき、断片の最長辺の平均サイズは5mm以上である。従って、化学強化微結晶ガラスは、適切な内部引張応力および荒れた地面に対する強い耐穿孔性を有し、それによって、偶発的な爆発のリスクを回避する。
【0077】
本実施形態において、厚さが0.6mmであるとき、化学強化微結晶ガラスのグリットサンドペーパー落下試験の高さは1.5m以上である。これは、化学強化微結晶ガラスの優れた耐落下性を反映するものである。グリットサンドペーパー落下試験の高さデータは、180#グリットサンドペーパー/200g荷重のシナリオにおける試験を通じて取得される。具体的には、本願における化学強化微結晶ガラスの試験対象平面は、下に向けられて配置され、他方の表面は、標準的な200gの荷重を保持する。ガラスは最初に0.5mの高さから落下され、落下のたびにガラスの外観が確認される。問題が無い場合、高さは0.1m上げられる。ガラスが割れるまで試験は繰り返し実行され、割れたときの高さが記録される。
【0078】
本実施形態において、化学強化微結晶ガラスが、85℃の温度および85%の湿度の環境に72時間保管されるとき、化学強化微結晶ガラスの外表面上にナトリウム塩が析出しない。これは、化学強化微結晶ガラスの優れた熱安定性および耐湿性を反映するものである。
【0079】
本実施形態において、化学強化微結晶ガラスの厚さが0.8mm以下であるとき、400nm~940nmの波長の光の平均透過率は、89.5%以上であり、波長550nmと波長400nmとの間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である。これは、化学強化微結晶ガラスの光透過率などの優れた光学性能を反映するものである。
【0080】
従って、化学強化微結晶ガラスが、圧縮応力層の深度、圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係を有することに基づいて、以下の表1に説明されるように、化学強化微結晶ガラスは、高い圧縮応力強度、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、高い耐落下性の高さを有する。加えて、化学強化微結晶ガラスは、優れた熱安定性、耐湿性、および光透過率などの優れた光学性能を有する。
【0081】
本実施形態において、化学強化微結晶ガラスを形成するのに使用される原微結晶ガラスの主要結晶相は、メタケイ酸リチウムおよびβクオーツ固溶体のいずれかであり、総含有結晶相の質量分率は、35%~75%であり、二次結晶相の総含有量は、5%未満である。原微結晶ガラスの主要結晶相のタイプおよび各結晶相の含有量に対する制御を通じて、化学強化微結晶ガラスに含まれるNa/Li交換層がLiの悪影響を受けることを効果的に防止でき、CS50範囲を効果的に制御でき、それによって、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性を更に改善する。加えて、化学強化微結晶ガラスの光透過率などの光学性能が更に改善され得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、原微結晶ガラスは主要成分および核形成剤を含む。主要成分は、SiO2、Al2O3、B2O3、Li2O、Na2O、およびK2Oを含み、SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が58~85mol%であり、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が10~32mol%であることを満たす。核形成剤は、TiO2、P2O5およびZrO2を含み、TiO2+P2O5+ZrO2の含有量が2~8mol%であることを満たす。原微結晶ガラスのこれらの成分は、原微結晶ガラスおよび化学強化微結晶ガラスに、上記のタイプの主要結晶相および各結晶相の含有量を付与し、それにより、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性を改善し、化学強化微結晶ガラスの光透過率などの光学性能を改善する。
【0083】
本実施形態において、原微結晶ガラスのガラス基質は、融解・鋳造方法またはカレンダー法を使用することによって調製され得る。いくつかの実施形態において、原微結晶ガラスのガラス基質は、以下の2つの段階において熱処理される。
熱処理段階1:温度は500℃~600℃、処理時間は0.1時間~10時間
熱処理段階2:温度は640℃~800℃、処理時間は0.1時間~10時間。
【0084】
2段階加熱処理は、原微結晶ガラスのガラス基質に対して実行され、その結果、形成された原微結晶ガラスは、必要な主要結晶相、および、主要結晶相の含有量を取得し、他の二次結晶相を調整でき、それによって、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性および光学性能を改善する。
【0085】
主要結晶相のタイプ、および、原微結晶ガラスの各結晶相の含有量に起因して、試験が示すところによれば、原微結晶ガラスは更に、ヤング率などの優れた機械的性能および光透過率などの優れた光学性能を有する。
【0086】
例えば、本実施形態において、原微結晶ガラスの厚さが0.8mm以下であり、400nm~940nmの波長の光の平均透過率が89.5%以上であるとき、550nmの波長と400nmの波長との間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.3以下であり、ヘイズは0.14以下である。主要結晶相のタイプ、原微結晶ガラスの各結晶相の含有量に対する制御を通じて、原微結晶ガラスは、光透過率などの優れた光学性能を有し、安定した光学性能を有する。
【0087】
本実施形態において、原微結晶ガラスのヤング率は95GPa以上である。原微結晶ガラスの主要結晶相のタイプ、および、各結晶相の含有量に基づいて、原微結晶ガラスには高いヤング率が付与され、その結果、化学強化微結晶ガラスには高いヤング率が付与され、例えば、化学強化微結晶ガラスの高いヤング率は95GPa以上である。このように、化学強化微結晶ガラスには、より大きい圧縮応力に対応できる貯蔵空間が付与され、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力を増加するための条件が提供される。加えて、原微結晶ガラスおよび化学強化微結晶ガラスには、高い耐衝撃性が付与される。例えば、試験が示すところによれば、化学強化微結晶ガラスは、既存のアルミノケイ酸ガラスより高い約25~30GPaの衝撃に耐えることができ、それによって、K/Na交換層に対する化学強化微結晶ガラスの要件および依存を効果的に下げる。
【0088】
本実施形態において、化学強化微結晶ガラスの表層は更にK/Na交換層を有する。K/Na交換層は更に、化学強化微結晶ガラスの表層に形成され、すなわち、カリウム層が化学強化微結晶ガラスの表層に追加される。化学強化微結晶ガラスが荒れた地面に対する高い耐穿孔性を有することに基づいて、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐落下性が更に改善され、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性が更に改善される。
【0089】
加えて、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスが高いヤング率を有することに基づき、例えば、ヤング率が95GPa以上であり、高いヤング率は比較的優れた耐衝撃性をサポートし、それによって、K/Na交換層に対する依存を効果的に下げる。
図2に示される、応力曲線と、既存の一次強化アルミノケイ酸ガラスの曲線との比較によれば、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、比較的大きいK/Na交換層を必要としない。例えば、本実施形態において、前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスに含まれるK/Na交換層の厚さは、3μm以下である。K/Na交換層(カリウム層)の厚さに対する制御を通じて、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性および荒れた地面に対する耐落下性を更に改善できる。圧縮応力層の深度、圧縮応力強度、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度との間の関係に基づいて、K/Na交換層の厚さの要件を効果的に低減できる。
【0090】
前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスが、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、耐落下性、光透過率などの光学性能を有することに基づいて、化学強化微結晶ガラスは更に、高いヤング率および高い耐衝撃性を有し得る。本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、2次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、または、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスのいずれか1つであり得る。化学強化微結晶ガラスは、上記の荒れた地面に対する優れた耐穿孔性および光学性能を有する。これは、化学強化微結晶ガラスの適用範囲を拡張し、対応する製品の品質および性能安定性を改善する。
【0091】
前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスが、2次元構造を有する化学強化微結晶ガラスまたは2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであるとき、本実施形態において、化学強化微結晶ガラスのCS50およびDocは、以下を満たす。すなわち、CS50/(Doc-50)は1.4~6である。
【0092】
いくつかの他の実施形態において、化学強化微結晶ガラスの厚さが0.8mm以下であるとき、400nm~940nmの波長の光の平均透過率は、89.5%以上であり、波長550nmと波長400nmとの間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.3以下であり、ヘイズは0.14%以下である。
【0093】
従って、前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスが、2次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、または、2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであるとき、化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性および光透過率を有する。加えて、原微結晶ガラスの光学性能と比較して、化学強化微結晶ガラスの光透過率などの光学性能は安定する。
【0094】
前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスが、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであるとき、本実施形態において、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスの長辺曲げ角は15°~89°である。加えて、化学強化微結晶ガラスのCS50、Doc、および、CS50とDocとの間の関係は、上記の式1-1~1-3に示される特性を満たす。化学強化微結晶ガラスはなお、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性を有し、なお優れた耐衝撃性を当然に有する。化学強化微結晶ガラスの測定された光学的特性が上で説明された。400nm~940nmの波長の光の平均透過率は89.5%以上であり、550nmの波長と400nmの波長との間の単一点透過率の差は1%未満であり、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.15%以下である。原微結晶ガラスの光学性能と比較するとわずかな差が存在するが、差は明白でない。従って、前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスが、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであるとき、化学強化微結晶ガラスはなお、光透過率などの優れた光学性能を有する。
【0095】
別の態様によれば、本願の実施形態は、本願の実施形態における上記の化学強化微結晶ガラスの調製方法を提供する。
図3に示されるように、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスの調製方法のプロセス手順は以下の段階を含む。
【0096】
S01:ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行し、Na/Li交換層を形成する。
【0097】
一次化学強化処理プロセスにおいて、ナトリウム含有塩槽におけるナトリウムイオンは、熱力学的挙動で原微結晶ガラスの表層に拡散し、原微結晶ガラスの表層におけるリチウムイオンと交換され、すなわち、ナトリウム-リチウムイオン交換が実行され、その結果、Na/Li交換層が原微結晶ガラスの表層上に形成される。加えて、一次化学強化処理に対する制御を通じて、化学強化によって形成される化学強化微結晶ガラスは、本願の前述の実施形態における化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度、圧縮応力強度CS50範囲、および、圧縮応力層の深度と圧縮応力強度CS50範囲との間の関係(上記の式1-1から1-3に示される)を有し得る。このように、調製された化学強化微結晶ガラスには、比較的高い圧縮応力、および、大きく改善された応力強度が付与され、亀裂生長に耐えることができ、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性を有する。加えて、本願において、本願における化学強化微結晶ガラスの調製方法のための化学強化条件は、制御が容易であり、その結果、調製された化学強化微結晶ガラスは、安定した性能、高効率、および低減された調製コストを有する。
【0098】
本実施形態において、ナトリウム含有塩槽は、NaNO3、または、NaNO3およびKNO3の塩混合物を含む。ナトリウム含有塩槽が、NaNO3およびKNO3を含む塩混合物であるとき、NaNO3の含有量は、NaNO3およびKNO3の塩混合物において、50wt%以上である。本実施形態において、一次化学強化処理については、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.5時間~6時間である。ナトリウム含有塩槽のタイプ、NaNO3の含有量、および、一次化学強化処理に対する制御を通じて、原微結晶ガラスに対する化学強化処理の効果が改善され、形成された化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度および圧縮応力強度CS50範囲が最適化され、その結果、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力が増加し、化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性および光透過率性能が改善される。
【0099】
加えて、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスは、上記の化学強化微結晶ガラスの原微結晶ガラスであり、例えば、主要結晶相は、メタケイ酸リチウムおよびβクオーツ固溶体のいずれかであり、総含有結晶相の質量分率は35%~75%であり、二次結晶相の総含有量は5%未満である。特定の実施形態において、原微結晶ガラスは主要成分および核形成剤を含む。主要成分は、SiO2、Al2O3、B2O3、Li2O、Na2O、およびK2Oを含み、SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が58~85mol%であり、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が10~32mol%であることを満たす。核形成剤は、TiO2、P2O5およびZrO2を含み、TiO2+P2O5+ZrO2の含有量が2~8mol%であることを満たす。
【0100】
本実施形態において、調製された化学強化微結晶ガラスが、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスであるとき、ナトリウム塩含有槽において、化学強化処理の対象である原微結晶ガラスに対して一次化学強化処理を実行する前に、方法は更に、原微結晶ガラスに対して以下の熱間曲げ処理を実行する段階を備える。すなわち、650℃~750℃の原微結晶ガラスに対して熱間曲げ処理を実行して3次元の原微結晶ガラスを形成し、各熱間曲げ処理の時間は30秒~120秒であり、熱間曲げ処理の圧力は0.1MPa~0.9MPaである。
【0101】
3次元の原微結晶ガラスは、原微結晶ガラスに対して熱間曲げ処理を実行することによって形成され、その結果、一次化学強化処理、または、更なる二次化学強化処理の後に、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスが形成され得、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスが高い圧縮応力、荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、および優れた光透過率性能を有することを確実にする。
【0102】
特定の実施形態において、3次元の原微結晶ガラスの長辺曲げ角は、15°~89°である。いくつかの他の特定の実施形態において、3次元の原微結晶ガラスの色座標bの値変化の差の絶対値は0.1以下である。上記熱間曲げ処理の条件に対する制御を通じて、調製された3次元の原微結晶ガラスは、必要な長辺曲げ角を有し、安定した光学性能を有する。
【0103】
背景技術において言及され、主要結晶相が葉長石および二ケイ酸リチウムである微結晶ガラスなどの既存の微結晶ガラスと比較して、主要結晶相が葉長石および二ケイ酸リチウムである既存の微結晶ガラスの熱間曲げ温度は、750℃より大きく、結晶相のサイズが熱間曲げプロセスにおいて成長し、結果として、3次元成形後に光学性能が急激に劣化する(色収差bの絶対値は2以上であり、ヘイズは0.25%以上である)。熱間曲げ3次元CGカバーの適用の要件を満たすことができない。対照的に、本願の本実施形態における、主要結晶相がメタケイ酸リチウムおよびβクオーツ固溶体のいずれかである上記の原微結晶ガラスは、上で説明された650℃~750℃の範囲である最高熱間曲げ温度を使用する。熱間曲げの前および後で、ガラスの色座標bの値変化の差の絶対値は0.1以下であり、色座標bの絶対値は0.4以下であり、ヘイズは0.14%以下である。3次元熱間曲げ3次元CGカバーの適用の要件を満たすことができる。
【0104】
本実施形態において、一次化学強化処理の後、方法は更に、
図3に示される段階S02を備え、すなわち、カリウム塩含有槽において、Na/Li交換層が形成された化学強化微結晶ガラスに対する二次化学強化処理を実行し、K/Na交換層を形成する段階を備える。
【0105】
二次化学強化処理プロセスにおいて、カリウム含有塩槽におけるカリウムイオンは、熱力学的挙動で化学強化微結晶ガラスの表層内に拡散し、Na/Li交換層におけるナトリウムイオンと交換され、すなわち、カリウム-ナトリウムイオン交換が実行され、K/Na交換層が化学強化微結晶ガラスの表層において形成され、それによって、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性、および、荒れた地面に対する耐落下性を更に改善する。
【0106】
本実施形態において、カリウム含有塩槽は、KNO3、または、NaNO3およびKNO3の塩混合物を含む。カリウム含有塩槽がNaNO3およびKNO3を含む塩混合物であるとき、KNO3の含有量は、NaNO3およびKNO3の塩混合物において80%wt以上である。本実施形態において、二次化学強化処理では、温度は380℃~450℃であり、強化時間は0.2時間~1時間である。カリウム含有塩槽のタイプ、KNO3の含有量、および、二次化学強化処理に対する制御を通じて、二次化学強化処理の効果が改善され、化学強化微結晶ガラスの耐衝撃性および荒れた地面に対する耐落下性が更に改善される。
【0107】
加えて、本願の前述の実施形態における化学強化微結晶ガラス、および、その調製方法を使用することによって調製された化学強化微結晶ガラスは、背景技術において言及される、主要結晶相が葉長石および二ケイ酸リチウムである微結晶ガラスなどの既存の微結晶ガラスと比較される。主要結晶相が葉長石および二ケイ酸リチウムである既存の微結晶ガラスは比較的高い結晶化度(この材料は、複数の主要結晶相を含み、優れた光学性能を維持するために比較的高い結晶化度を必要とする)を有し、より高いポテンシャルエネルギーがイオン交換に必要なので、より高い化学強化温度/より長い化学強化時間が必要である。加えて、微結晶ガラスは、化学強化ボイラ水におけるLiの濃度の影響を受け、化学強化プロセスにおけるLiの濃度に対する正確な制御を必要として、化学強化プロセスにおけるNa/Li交換においてLiによる抑制によって限定される。従って、既存の微結晶ガラスを化学的に強化することによって形成される化学強化微結晶ガラスについては、CS50は、130+(20t-13)×15MPa未満である。しかしながら、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラス、特に、主要結晶相がメタケイ酸リチウムおよびβクオーツ固溶体のいずれかを含む化学強化微結晶ガラスは、比較的低い結晶化度、例えば、75wt%以下の結晶化度を有する。化学強化処理プロセスはLiの影響を受けない。化学強化処理によって取得された化学強化微結晶ガラスのCS50、Doc、および、CS50とDocとの間の関係は、上記の式1-1~1-3に示す特性を満たす。特に、CS50は、130+(20t-13)×15MPa~230+(20t-13)×15MPaである。このように、荒れた地面に対するより優れた耐穿孔性が取得される。
【0108】
なお別の態様によれば、上記の化学強化微結晶ガラスおよびその調製方法に基づいて、本願の実施形態は電子デバイスを提供する。本願の本実施形態における電子デバイスはガラスコンポーネントを含み、ガラスコンポーネントは、本願の上記の実施形態における化学強化微結晶ガラスである。このように、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスは、上記の荒れた地面に対する優れた耐穿孔性、光学性能、および耐衝撃性を有するので、ガラスコンポーネントには、優れた耐落下性および耐衝突性、ならびに高強度が付与される。従って、ガラスコンポーネントを含む本願の本実施形態における電子デバイスはまた、優れた耐落下性および耐衝突性ならびに耐衝撃性を有し、電子デバイスは、高品質および高動作性能安定性を有する。
【0109】
本実施形態において、電子デバイスのガラスコンポーネントは、ディスプレイカバー、保護カバーまたは保護スクリーンの少なくとも1つを含む。ガラスコンポーネントは、優れた光透過性および優れた表示効果を有し、優れた保護を更に提供できる。加えて、ガラスコンポーネントは、耐落下性および耐衝突性ならびに高強度を有し、その結果、電子デバイスが安定する。ガラスコンポーネントは更に、2次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、2.5次元構造を有する化学強化微結晶ガラス、または、3次元構造を有する化学強化微結晶ガラスのいずれか1つであり得る。これは、化学強化微結晶ガラスの適用範囲を拡張し、対応する電子デバイスの品質および性能安定性を改善する。
【0110】
本実施形態において、電子デバイスは、通信モバイル端末、電子ウォッチ、バンドおよびコンピュータのうち少なくとも1つを含む。特定の実施形態において、電子デバイスが携帯電話などの通信モバイル端末であるとき、電子デバイスに含まれるガラスコンポーネントは、携帯電話の表カバーまたは裏カバーとして使用され得る。電子デバイスはガラスコンポーネントを含むので、電子デバイスは、優れた耐落下性を有し、または、優れた耐衝撃性を更に有し、高強度を有し、その結果、電子デバイスの性能が安定する。
【0111】
以下では、特定の実施形態を参照して、上記の化学強化微結晶ガラスおよびその調製方法を詳細に説明する。
[実施形態1]
【0112】
本実施形態は、3次元構造を有するβクオーツ固溶体ベースの化学強化微結晶ガラスおよびその化学強化方法を提供する。化学強化微結晶ガラスの関連する性能およびその化学強化方法の関連するプロセスパラメータは、以下の表2において別個に説明される。
【0113】
化学強化微結晶ガラスの調製方法は、以下の段階を備える。
【0114】
S1:原微結晶ガラスおよびその調製
【0115】
(1)ガラス基質は、融解・鋳造方法を使用することによって調製される。ガラス基質の成分組成は、SiO2+Al2O3+B2O3=85mol%、Li2O+Na2O+K2O=10mol%である。核形成剤については、TiO2+P2O5+ZrO2=2mol%であり、別の成分はMgOである。
【0116】
(2)2段階加熱処理が、調製されたガラス基質に実行され、必要な結晶相を取得する。第1加熱処理段階において、温度は600℃であり、処理時間は0.1時間である。第2加熱処理段階において、温度は750℃~900℃であり、処理時間は0.1時間である。取得された結晶の主要結晶相は、βクオーツ固溶体であり、XRD試験を通じて取得された結晶化度は、35wt%である。
【0117】
S2:3次元の原微結晶ガラスおよびその調製。
【0118】
段階S1において調製されたβクオーツ固溶体ベースの微結晶ガラスは、0.35mmの厚さの未加工ガラスシートに切断/研削/研磨される。次に、3次元黒鉛型を使用することによって熱間曲げが実行されて3次元モデルが形成され、最高熱間曲げ温度は650℃であり、熱間曲げ圧縮応力は0.9MPaであり、単一処理の熱間曲げ時間は30秒である。
【0119】
S3:段階S2において熱間曲げの後に取得された3次元ガラスは、3次元研磨ブラシを使用することによって、凹面および凸面上で研磨され(研磨後の厚さは0.3mm)次に、化学強化処理が実行されて、3次元構造を有するβクオーツ固溶体ベースの化学強化微結晶ガラスが形成され、化学強化のための強化条件は表2で説明される。
[実施形態2]
【0120】
本実施形態は、2.5次元構造を有するメタケイ酸リチウムベースの化学強化微結晶ガラスおよびその化学強化方法を提供する。化学強化微結晶ガラスの関連する性能およびその化学強化方法の関連するプロセスパラメータは、以下の表2において別個に説明される。
【0121】
化学強化微結晶ガラスの調製方法は以下の段階を備える。
【0122】
S1:原微結晶ガラスおよびその調製。
【0123】
(1)融解・鋳造方法を使用することによってガラス基質が調製される。ガラス基質の成分組成は、SiO2+Al2O3+B2O3=58mol%、Li2O+Na2O+K2O=32mol%である。核形成剤については、TiO2+P2O5+ZrO2=8mol%であり、別の成分は2mol%のMgOである。
【0124】
(2)2段階加熱処理が、調製されたガラス基質に実行され、必要な結晶相を取得する。第1加熱処理段階において、温度は500℃であり、処理時間は10時間である。第2加熱処理段階において、温度は640℃であり、処理時間は10時間である。取得された結晶の主要結晶相はメタケイ酸リチウムであり、XRD試験を通じて取得された結晶化度は75wt%である。
【0125】
S2:2.5次元の原微結晶ガラスおよびその調製。
【0126】
段階S1において調製されたメタケイ酸リチウムベースの原微結晶ガラスは、切断され、研削され、コンピュータ数値制御マシン(Computer numerical control, CNC)を使用することによって処理され、2.5次元構造を有する0.65mmキャリアに研磨される。
【0127】
S3:段階S2における2.5次元の原微結晶ガラスは、研磨ブラシを使用することによって、凹面および凸面上で研磨され、次に、化学強化処理が実行され、2.5次元構造を有するメタケイ酸リチウムベースの化学強化微結晶ガラスが形成され、ここで、最終生成物の厚さは0.6mmであり、化学強化の強化条件が表2において説明される。
[実施形態3]
【0128】
本実施形態は、3次元構造を有するメタケイ酸リチウムベースの化学強化微結晶ガラスおよびその化学強化方法を提供する。化学強化微結晶ガラスの関連する性能およびその化学強化方法の関連するプロセスパラメータは、以下の表2において別個に説明される。
【0129】
化学強化微結晶ガラスの調製方法は以下の段階を備える。
【0130】
S1:原微結晶ガラスおよびその調製。
【0131】
(1)融解・鋳造方法を使用することによってガラス基質が調製される。ガラス基質の成分組成は、SiO2+Al2O3+B2O3=65mol%、Li2O+Na2O+K2O=30mol%である。核形成剤については、TiO2+P2O5+ZrO2=5mol%である。
【0132】
(2)2段階加熱処理が、調製されたガラス基質に実行され、必要な結晶相を取得する。第1加熱処理段階において、温度は550℃であり、処理時間は6時間である。第2加熱処理段階において、温度は800℃であり、処理時間は2時間である。取得された結晶の主要結晶相はメタケイ酸リチウムであり、XRD試験を通じて取得された結晶化度は65wt%である。
【0133】
S2:3次元の原微結晶ガラスおよびその調製。
【0134】
段階S1において調製されたメタケイ酸リチウムベースの原微結晶ガラスが、0.7mmの厚さの未加工ガラスシートに切断/研削/研磨される。次に、3次元黒鉛型を使用することによって熱間曲げが実行されて3次元モデルが形成され、最高熱間曲げ温度は750℃であり、熱間曲げ圧縮応力は0.1MPaであり、単一処理の熱間曲げ時間は120秒である。
【0135】
S3:段階S2における原微結晶ガラスは、3次元研磨ブラシを使用することによって、凹面および凸面上で研磨され、次に、化学強化処理が実行され、3次元構造を有するメタケイ酸リチウムベースの化学強化微結晶ガラスが形成され、ここで、最終生成物の厚さは0.65mmであり、化学強化の強化条件が表2において説明される。
[実施形態4]
【0136】
本実施形態は、2.5次元構造を有するメタケイ酸リチウムベースの化学強化微結晶ガラスおよびその化学強化方法を提供する。化学強化微結晶ガラスの関連する性能およびその化学強化方法の関連するプロセスパラメータは、以下の表2において別個に説明される。
【0137】
化学強化微結晶ガラスの調製方法は以下の段階を備える。
【0138】
S1:原微結晶ガラスおよびその調製。
【0139】
(1)融解・鋳造方法を使用することによってガラス基質が調製される。ガラス基質の成分組成は、SiO2+Al2O3+B2O3=65mol%、Li2O+Na2O+K2O=30mol%である。核形成剤については、TiO2+P2O5+ZrO2=5mol%である。
【0140】
(2)2段階加熱処理が、調製されたガラス基質に実行され、必要な結晶相を取得する。第1加熱処理段階において、温度は550℃であり、処理時間は6時間である。第2加熱処理段階において、温度は800℃であり、処理時間は2時間である。取得された結晶の主要結晶相はメタケイ酸リチウムであり、XRD試験を通じて取得された結晶化度は65wt%である。
【0141】
S2:2.5次元の原微結晶ガラスおよびその調製。
【0142】
段階S1において調製されたメタケイ酸リチウムベースの原微結晶ガラスは、2.5次元構造を有する1mmの厚さの未加工ガラスシートに切断/研削/研磨される。
【0143】
S3:段階S2において、化学強化処理が2.5次元の原微結晶ガラスに対して実行され、化学強化の強化条件は表1において説明される。
【0144】
化学強化微結晶ガラスの関連する性能試験:
【0145】
以下の表2において説明される関連する性能試験は、前述の実施形態1~実施形態4に基づいて別個に実行される。試験方法は次の通りである。試験結果は以下の表1において説明される。
表1
【表1】
【0146】
各実施形態において、化学強化微結晶ガラスの圧縮応力層の深度Docおよび化学強化微結晶ガラスの厚さは、Docが0.15t~0.22tであることを満たすことが表1から分かる。化学強化微結晶ガラスの各タイプの表層における50μmの強化深度における圧縮応力強度CS50および化学強化微結晶ガラスの厚さは、CS50が130+(20t-13)×15MPa~230+(20t^13)×15MPaであることを満たす。CS50およびDocは、CS50/(Doc-50)が1~7.5である関係を満たす。加えて、化学強化微結晶ガラスは、荒れた地面に対する高い耐穿孔性、光透過率などの優れた光学性能、および、優れた熱安定性および耐湿性を有する。
【0147】
更に、業界における既存の0.6mmの厚さの一次強化アルミノケイ酸ガラス(K/Na交換を有する)および0.6mmの厚さの二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラス(K/NaおよびNa/Li交換の両方を有する)は、実施形態3と同一である原微結晶ガラスおよび化学強化処理を使用することによって取得される化学強化微結晶ガラスと比較し、それにより、これら3つのタイプのガラスに対してCS50(MPa)試験および180#グリットサンドペーパーを利用した落下高さ試験を実行するための例として使用れる。本願の本実施形態における一次強化アルミノケイ酸ガラス、二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラスおよび化学強化微結晶ガラスは、同一の構造および同一の厚さを有する。試験結果が表2に説明される。
表2
【表2】
【0148】
本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスについてのCS50およびグリットサンドペーパー落下試験の高さは、既存の一次強化アルミノケイ酸ガラスおよび二次強化リチウムアルミノケイ酸ガラスについてのCS50およびグリットサンドペーパー落下試験の高さより著しく高いことが表2から分かる。従って、本願の本実施形態における化学強化微結晶ガラスの荒れた地面に対する耐穿孔性は著しく改善される。従って、本願の本実施形態において提供される化学強化微結晶ガラスは電子製品において使用される。例えば、ガラスは、携帯電話の表カバーまたは裏カバーとして使用され、具体的には、2次元カバー、2.5次元カバー、3次元カバー、または同様のものであり得、それにより、携帯電話および他の電子製品の耐落下性を改善し、対応する電子製品に優れた耐衝突性を付与する。ガラスは更に、携帯電話および他の電子製品の耐衝撃性を改善でき、電子製品の性能を安定的にする。
【0149】
上記の説明は単に本願の例示的な実施形態であり、本願を限定するために使用されるものではない。本願の思想および原理において加えられる任意の修正、同等の置き換え、または、改善は、本願の保護範囲に属するものとする。
【国際調査報告】