(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】マクロサイブ・タイタンズエキスから得られる新規トリグリセリド、その臨床用途及び製法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/30 20060101AFI20230824BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20230824BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230824BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230824BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230824BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20230824BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230824BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230824BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20230824BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230824BHJP
C07C 67/56 20060101ALI20230824BHJP
C11B 1/10 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C07C69/30 CSP
A61K31/22
A61P3/00
A61P27/02
A61P31/00
A61P27/16
A61P13/12
A61K49/00
A61K36/06 Z
A61P35/00
C07C67/56
C11B1/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568715
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 ES2020070297
(87)【国際公開番号】W WO2021229109
(87)【国際公開日】2021-11-18
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522439939
【氏名又は名称】バイオ テック ステア グローバル ソシエダッド デ レスポンサビリダッド リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】セグラ サラザール ファビアン アントニオ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
4C206
4H006
4H059
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085HH11
4C085JJ01
4C085KA26
4C085KB42
4C085LL18
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
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4C087CA11
4C087CA37
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA34
4C087ZA81
4C087ZB26
4C087ZB32
4C087ZC21
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB07
4C206DB48
4C206MA01
4C206MA04
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4C206ZA33
4C206ZA34
4C206ZA81
4C206ZB26
4C206ZB32
4C206ZC21
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB20
4H006AD17
4H059BA34
4H059CA12
4H059EA21
(57)【要約】
本発明は、マクロサイブ・タイタンズ(Macrocybe titans)真菌のエキスから抽出された、式2R-TG(C18:2, 9z, 12z;C16:0;C18:1, 9z)の新規トリグリセリドに関する。同様に、その医薬としての使用及びアクチン細胞骨格によって制御される疾患の治療におけるその様々な臨床用途を企図する。がん疾患の抗腫瘍薬としてのその使用を主に企図する。最後に、本発明は、本発明のトリグリセリドを含むマクロサイブ・タイタンズエキスを得るための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式2R-TG(C18:2, 9z, 12z;C16:0;C18:1, 9z)のトリグリセリド。
【請求項2】
医薬として使用するための請求項1に記載のトリグリセリド。
【請求項3】
アクチン細胞骨格によって制御される疾患の治療に使用するための請求項2に記載のトリグリセリド。
【請求項4】
前記アクチン細胞骨格によって制御される疾患が、アミロイドーシス、網膜色素変性症、感染性疾患、腎疾患及び先天性難聴症候群から選択される、請求項3に記載のトリグリセリド。
【請求項5】
がん疾患の治療に使用するための請求項2に記載のトリグリセリド。
【請求項6】
画像処理技術を用いる腫瘍診断に使用するための請求項1に記載のトリグリセリド。
【請求項7】
トレーサーと組み合わせて使用するための請求項6に記載のトリグリセリド。
【請求項8】
請求項1に記載のトリグリセリドを含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のトリグリセリドを含むマクロサイブ・タイタンズ(Macrocybe titans)エキス。
【請求項10】
請求項9に記載のマクロサイブ・タイタンズのエキスを得るための方法であって、下記ステップ:
a. マクロサイブ・タイタンズ真菌のサンプルを、95%エタノールでの抽出に供すること、
b. a)で得られたエキスを30~60分間超音波で処理すること、
c. b)で処理されたエキスを-20℃~-80℃の温度で、24~48時間維持すること、
d. このように処理されたエキスの沈殿相を得ること、及び
e. d)で得られたエキスの沈殿相から、アルカロイド分離を行った後、8:2のIP:CH
2L
2移動相をpH12で用いて、ポリマー樹脂でカラムクロマトグラフィーを行って、請求項1に記載の前記トリグリセリドを含むエキスのフラクションをもたらすこと
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
発明の分野
本発明は、生物医学部門に属する。さらに詳細には、本発明は、真菌起源のエキス及びそれらの臨床用途を包含する。特に、本発明は、重要な臨床用途を導く生体応答のモディファイヤーとして作用するトリグリセリドを含むマクロサイブ・タイタンズ(Macrocybes titans)真菌のエキスに言及する。同様に、前記エキスを得るための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
がんは、発症率が高い深刻な疾患である。2012年に、世界中で1410万の新規がんの診断が下され、この群の疾患が原因で820万人が死亡した。2030年までに1年当たり約2360万の新しい症例が生じると推定される(Cancer Research UK. Worldwide cancer statistics. https://www cancer researchukorg/health-professional/cancer-statistics/worldwide-cancer#heading-Zero 2018)。
人命の深刻な犠牲を別にしても、この疾患は、発展途上国の健康経済にも強い影響を及ぼす。例えば、2017年の米国におけるがん治療に関連する費用は1473億ドルだった(NIH. Cancer statistics. https://www cancer gov/about-cancer/understanding/statistics 2018)。
がんとの闘いにはいくつかの前線がある。第1に、予防は治療介入の最も有効な形態として明らかにされているが、予防は、有害な習慣を変え、がんの主因を避けるために強い政治的及び社会的拘束を必要とする(Vineis P, Wild CP. Global cancer patterns: causes and prevention. Lancet 2014; 383:549-57)。しかし以前検出された疾患を封じ込め得る新薬の開発も重要である(Magalhaes LG, Ferreira LLG, Andricopulo AD. Recent Advances and Perspectives in Cancer Drug Design. An Acad Bras Cienc 2018; 90:1233-50)。
【0003】
伝統的に、治療特性を有する化合物を得る1つの方法は天然物のスクリーニングだった。その結果、がん又は感染性疾患と闘うために現在使用されている薬物の60%までが天然起源を有する(Rates SM. Plants as source of drugs. Toxicon 2001; 39:603-13; Newman DJ, Cragg GM. Natural products as sources of new drugs over the last 25 years. J Nat Prod 2007;70:461-77)。さらに、これらの天然物はリーディング化合物になることができ、これらから合成化学技術及び合理的エンジニアリングを利用して類似化合物のファミリーを作り出し、ひいては原化合物には存在しなかった新機能を得ることができる(Hamburger M, Hostettmann K. Bioactivity in plants: The link between phytochemistry and medicine. Phytochemistry 1991; 30:3864-74)。
伝統的和漢薬においては真菌の治療用途は周知であり、これらの生物は、薬理学的に活性な化合物の繁殖源として役立ち、抗菌、抗ウイルス、抗腫瘍、抗アレルギー、免疫調節、抗炎症等の能力を有する物質を提供する(Lindequist U, Niedermeyer TH, Julich WD. The pharmacological potential of mushrooms. Evid Based Complement Alternat Med 2005; 2:285-99; Strader CR, Pearce CJ, Oberlies NH. Fingolimod (FTY720): a recently approved multiple sclerosis drug based on a fungal secondary metabolite. J Nat Prod 2011; 74:900-7)。
【0004】
コスタリカの国立生物多様性研究所(National Institute of Biodiversity)(INBio)との共同研究を通じて、本発明の立案者らは、治療用途を有する新しい天然物を探すために、この国の熱帯林から得た天然真菌の種々のエキスの抗腫瘍能力について研究した。結果として、彼らは、インビボで腫瘍増殖を停止する能力がある新規化合物をマクロサイブ・タイタンズ(Macrocybe titans)真菌から同定した。マクロサイブ属は、直径1メートル及び重さ18kgにまで達する大型子実体を生成する、世界の熱帯及び亜熱帯地域に分布している7つの種を分類する(Pegler DN, Lodge Dj, Nakasone KK. The pantropical genus Macrocybe gen. nov. Mycologia 1998; 90:494-504)。マクロサイブ・タイタンズ種は、アメリカ大陸で見られるこの属の唯一の種である(Ramirez NA, Niveiro N, Michlig A, Popoff OF. First record of Macrocybe titans (Tricholomataceae, Basidiomycota) in Argentina. Check List 2017; 13:153-8)。それらは食用種であるが(Razaq A, Nawaz R, Khalid AN. An Asian edible mushroom, Macrocybe gigantea: its distribution and ITS-rDNA based phylogeny. Mycosphere 2016; 7:525-30)、それらの治療真菌としての使用は文献に記載されていない。いくつかのマクロサイブ・タイタンズ多糖類がメラノーマ細胞遊走を阻止し得ること(Milhorini SDS, Smiderle FR, Biscaia SMP, Rosado FR, Trindade ES, Iacomini M. Fucogalactan from the giant mushroom Macrocybe titans inhibits melanoma cells migration. Carbohydr Polym 2018; 190:50-6)及びマクロサイブ・ギガンテア(Macrocybe gigantea)の増殖体が抗菌化合物を含有すること(Gaur T, Rao PB. Analysis of Antibacterial Activity and Bioactive Compounds of the Giant Mushroom, Macrocybe gigantea (Agaricomycetes), from India. Int J Med Mushrooms 2017; 19:1083-92)が示唆されたことがあるだけである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】マクロサイブ・タイタンズ(M. titans)の初期エキスを用いた株A549(腫瘍)及びNL20(非腫瘍)の毒性分析、腫瘍株<0.1mg/mlについてのIC
50;非腫瘍株=0.5mg/mlについてのIC
50を示す。
【
図2】精製エキスの
1H-NMRスペクトルを示し、グリセロールの典型的プロトン、アルキル及びオレフィン基の典型的プロトンを指し示している。
【
図3】精製エキスの
13C-NMRスペクトルを示し、グリセロールの典型的カーボン、アルキル、オレフィン及びカルボニル基の典型的カーボンを指し示している。
【
図4】TG10による処理前(コントロール)及び処理後(処理済)のアクチン線維(緑)を標識する蛍光ファラシジン(falacidine)で染色されたA549及びNL20細胞を示す。
【
図5】ビヒクルを注射した腫瘍(コントロール、菱形)又はTG10を注射した腫瘍(TG、正方形)について異種移植実験における腫瘍体積の進化を示し、各群の体積の経時的な平均を表している(d=腫瘍細胞の注射からの日数)。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明の立案者らは、マクロサイブ・タイタンズ真菌エキスから、インビボで腫瘍増殖を停止する能力がある新規化合物を同定した。
本発明の主態様は、下記スキームによって表される式2R-TG(C18:2, 9z, 12z;C16:0;C18:1, 9z)(以降TG10)のトリグリセリドである前記化合物を提供する。
【0007】
【0008】
この化合物は、アクチン細胞骨格を特異的に変えるので、生体応答モディファイヤー(BRM)として作用する。従って、それは、細胞骨格のこの成分によって制御されるすべての当該現象に直接的用途があり、とりわけ、下記非排他的道筋:i)細胞形態の変化、ii)細胞運動性(転移を含めて)、iii)筋肉収縮、iv)細胞-細胞接合部の修飾、v)エンドサイトーシス及びファゴサイトーシスの制御、vi)胚形成、vii)遺伝子発現の制御、viii)免疫系の制御、ix)病原体(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫等)に対する防御、及びx)アポトーシスの制御が挙げられる。
その特性のため、本発明の第2の態様では、本発明のTG10トリグリセリドが医薬として使用するために提供される。
TG10トリグリセリドは、アクチン細胞骨格と関連する全ての当該疾患に良い影響を与える。従って、本発明の別の態様は、アクチン細胞骨格制御疾患、例えば、限定するものではないが、アミロイドーシス、網膜色素変性症、感染性疾患、腎疾患及び先天性難聴症候群等の治療におけるトリグリセリドの使用を提供する。
【0009】
本発明のトリグリセリドは、ヒト腫瘍のサイズを縮小させるのに有効であることが分かった。従って、本発明の別の主態様は、動物及びヒトの両患者のがん疾患の治療における、単独で又は他の療法(放射線療法、化学療法、免疫療法等)と組み合わせたTG10トリグリセリドの使用を提供する。
さらに、本発明の立案者らは、トリグリセリドは腫瘍細胞に優先的に結合するので、診断用撮像装置(PET、蛍光等)という状況下で、それは、トレーサー(蛍光性、放射性等)と一緒に、生体において、動物患者でもヒト患者でも、腫瘍の場所を探すことを可能にすることを示した。腫瘍細胞に対するトリグリセリドの前記親和性は、治療処置として、薬物又はナノ粒子を腫瘍細胞の方へ向かわせることをも可能にする。
【0010】
本発明の別の主態様では、本発明のトリグリセリドを含む医薬組成物が提供される。
上述したように、本発明の立案者らはマクロサイブ・タイタンズのエキスからトリグリセリドを得た。従って、本発明の別の主態様は、マクロサイブ・タイタンズのエキスを得るための方法であって、下記ステップ:
a. マクロサイブ・タイタンズ真菌のサンプルを、95%エタノールでの抽出に供すること、
b. a)で得られたエキスを30~60分、好ましくは30分間超音波で処理すること、
c. b)で処理されたエキスを-20℃~-80℃の温度、好ましくは-20℃で、24~48時間、好ましくは24時間維持すること、
d. このように処理されたエキスの沈殿相を得ること、及び
e. d)で得られたエキスの沈殿相から、アルカロイド分離を行った後、8:2のIP:CH2L2移動相をpH12で用いて、ポリマー樹脂でカラムクロマトグラフィーを行って、式2R-TG(C18:2, 9z, 12z;C16:0;C18:1, 9z)のトリグリセリドを含むエキスのフラクションをもたらすこと
を含む、方法を提供する。
【0011】
本発明のトリグリセリドが同定され、その式が決定された時点で、最初の起源からそれを抽出する代わりに、その化学合成を利用してそれを得ることも可能であり、経済性、再現性及び薬理学的安全性の観点から有利である。
【実施例】
【0012】
実施例1. 毒性分析による反復スクリーニング及びクロマトグラフィーによる新フラクションの分離
コスタリカ雨林でINBioによって収集された9つの大型真菌種からエキス(水性、エチル、酸性)を得た。それらの全てに2つのヒト細胞株:A549(肺腺癌)及びNL20(不死化、非腫瘍株、肺上皮から得た)で細胞毒性試験を施した。細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり2,000(A549)又は10,000(NL20)細胞の濃度で蒔いた。細胞が底部に固着したらすぐに、シリアル濃度の各エキスを添加し、37℃で5日間、加湿(85%の相対湿度)及び5%のCO2を含有する雰囲気下でインキュベートした。8リピート(ウェル)を各濃度について調べた。インキュベーションプロセスの最後に、20μlのCell Titer(Promega)をウェル毎に添加し、4時間放置して着色ホルマザン塩を形成させた。プレートリーダー(POLARstar Omega)で490nmの波長を用い、既に公表されたプロトコル(Coderch C, Diaz de CM, Zapico JM, Pelaez R, Larrayoz IM, Ramos A, et al. In silico identification and in vivo characterization of small molecule therapeutic hypothermia mimetics. Bioorg Med Chem 2017;25:6597-604)に従って比色定量化を行った。エキスの選択基準は、非腫瘍細胞の完全性に配慮しながら低濃度でさえ腫瘍細胞に対して毒性を有するものを選ぶこと、又は少なくとも両細胞株間の広い治療濃度域を与えることから成った。第1ラウンドで選択したエキスを異なるカラム及びクロマトグラフプロトコルで分別した。新しい各ピークを分けて、再び毒性分析を施した。このプロセスを、その大半の化合物を分析化学的方法によって同定できる十分に純粋なフラクションを最終的に得るために必要なだけの回数繰り返した。
【0013】
結果:第1ラウンドで分析した全エキスのうち、マクロサイブ・タイタンズ(M. titans)種に相当するエキスは、A549細胞が全ての濃度で、0.1mg/mlでさえ、破壊されたので最も広い治療濃度域を有するものでありながら、NL20細胞は、0.42mg/mlの濃度でさえ問題なく生き延びた(
図1)。この種の様々なエキスの中で、95%のエタノールでの抽出によって得られ、30分間超音波で処理し、-20℃で24時間保持したエキス、特に、この処理後の沈殿相が最も有効だった。このエキスの脂質性のため、アルカロイド分離後に様々な移動相を用いてポリマー樹脂(HP20-SS)を有するカラムクロマトグラフィーを行うことを決めた。得られた全てのフラクションに再び毒性試験を施した。最良の治療濃度域を維持したフラクションは、pH12及び8:2のIPA:CH
2Cl
2移動相で得られたフラクションに相当した。
【0014】
実施例2. 抗腫瘍活性の原因となる分子の化学的特徴づけ。
前の実験で得られたフラクションを用いて抗腫瘍生成物の化学構造を解明した。このため、1H、13C及びDEPT-135による核磁気共鳴(NMR)分析、質量分析(Q-TOF)並びに二次元HMQC及びCOSY実験を行った。
【0015】
結果:
1H-NMR研究は、生成物が多くのアルキルプロトン、一連のα-プロトンからアルコール、及びいくつかのオレフィンプロトンを含有することを示唆した。これらのプロトンの分布は、天然エキスがその成分脂肪酸のいくつかと混ざったトリグリセリド(TG)を含有することを示唆した。2.77ppmの三重線は、2つの二重結合間に位置するメチレンの2個のプロトンだと分かり、1つの脂肪酸の二重不飽和を意味している(
図2)。
13C及びDEPT-135実験は、生成物カーボンの帰属を可能にした(
図3)。二次元実験は、TGのカーボン及びプロトンの帰属を確証した。他方で、精密質量決定(MS-QTOF)は、TGを構成する脂肪酸の同定を可能にした。この全ては、TGが3つの異なる脂肪酸(C18:1、9z)、パルミチン酸(C16:0)、及び18又は20個の炭素の二重不飽和脂肪酸を含有することを示唆することにつながった。しかしながら、サンプルは純粋でなく、脂肪酸の順序及びサイズを正確に割り当てることは困難だったので、一連の類似TGを合成して一つ一つの抗腫瘍活性を実験的に判定することを決めた。光学活性を有するいくつかのTGについては、2つのエナンチオマーを合成した(表1)。毒性試験は、合成した全てのTGのうち、TG10[2R-TG(C18:2、9z、12z;C16:0;C18:1、9z)](
図4)だけがA549に対する抗腫瘍活性を示し、それは正常細胞(NL20)に毒性でないことを示唆した。他のTGは、細胞への認識できる活性を持たなかった。活性TG(TG10)のSエナンチオマー(TG9)も細胞に効果を及ぼさず、この活性に関する高度の特異性を示唆していることに留意すべきである。
【0016】
【0017】
実施例3. インビトロ試験:アクチン細胞骨格の修飾。
多くの抗腫瘍物質は、腫瘍細胞の細胞骨格を修飾し、微小管又はアクチンフィラメントのいずれかに作用することによってそれらの効果を発揮する(Zhang S, Menche D, Zahler S, Vollmar AM, Liebl J, Forster F. In vitro anti-cancer effects of the actin-binding natural compound rhizopodin. Pharmazie 2015;70:610-5.)。化合物TG10が他の抗腫瘍薬と類似の作用機序を有するかどうかを調べるため、腫瘍細胞(A549)及び非腫瘍細胞(NL20)に0.03mg/mlのTG10で24時間の処理を施した。この時間の最後に、細胞を10%のホルムアルデヒドで10分間固定し、0.1%のTriton X-100で10分間透過処理し、1:200のBodipy-ファラシジン及び1:1000のDAPI(Molecular Probes)に1時間さらした。共焦点レーザー顕微鏡(TCS SP5, Leica)で画像を得た。
【0018】
結果:予想どおりに、A549及びNL20の両細胞は、処理前はそれらの細胞質に典型的な張力線維(アクチンフィラメントで構成)を有する。TG10処理後、A549細胞は重合アクチン線維を完全に失い、これは細胞末端に移動し、そこで小さい糸状仮足が形成された。対照的に、NL20(非腫瘍)細胞は、TG10処理後でさえアクチンのフィラメント様構造を維持した(
図4)。これらの結果は、TG10が腫瘍細胞のアクチン細胞骨格に作用することを確証した。
【0019】
実施例4. インビボアッセイ:免疫抑制マウスにおけるヒト肺がん異種移植。
新規抗腫瘍薬がインビボで働くことを実証する通常の方法は、ヒト腫瘍細胞を用いて免疫不全マウスに注射する異種移植実験を行うことである(Zitvogel L, Pitt JM, Daillere R, Smyth MJ, Kroemer G. Mouse models in oncoimmunology. Nat Rev Cancer 2016;16:759-73)。この場合、NOD scidガンマ系統(NSG, Stock No. 005557, The Jackson Laboratory)の20匹の雄性マウスを使用した。それらの全てに1000万のA549細胞を皮下注射し、腫瘍が測定可能になるまで2週間放置した。それぞれ10匹のマウスの2つの群をランダム化し、コントロール群(菱形)及びTG10治療群(正方形)と表示した。この点から、100μlのPBS(コントロール群)又はPBS中0.1mg/mlのTG10(治療群)の腫瘍内注射を1週間に3回施した。各注射前に、腫瘍体積をキャリパーで測定した。腫瘍が動物福祉と相いれないサイズに達したときにマウスを安楽死させた。
【0020】
結果:腫瘍細胞の初期注射後15日目にTG10注射を開始した。この時点から、PBSを注射した腫瘍のサイズは、48日目に(倫理及び動物福祉の理由で)許容される最大サイズに達するまで徐々に大きくなり続けた。他方で、TG10を注射した腫瘍は、コントロール群の腫瘍の増殖速度より遅い速度だが大きくなり続けた(
図5)。実験の最後に、コントロール群の腫瘍は2900mm
3の平均体積を有したが、治療した腫瘍は1600mm
3の平均体積を有した。二元配置分散分析(ANOVA)を行い、治療した腫瘍及びコントロール腫瘍の体積間に、治療に起因する有意差があることが分かった(<0.05)。
【国際調査報告】