(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ポリマー組成物及び医療用インプラントを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20230824BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20230824BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230824BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20230824BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230824BHJP
A61L 31/18 20060101ALI20230824BHJP
C08L 75/06 20060101ALI20230824BHJP
C08L 75/08 20060101ALI20230824BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230824BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230824BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230824BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20230824BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C08L75/04
A61L27/44
A61L27/58
A61L31/12 100
A61L31/14 500
A61L31/18
C08L75/06
C08L75/08
C08K3/013
C08K3/22
C08G18/48
C08G18/44
C08G18/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569557
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2021064317
(87)【国際公開番号】W WO2021239931
(87)【国際公開日】2021-12-02
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522444508
【氏名又は名称】マーストリヒト ウニヴェルシテール メディッシュ セントルム プラス
【氏名又は名称原語表記】MAASTRICHT UNIVERSITAIR MEDISCH CENTRUM+
(71)【出願人】
【識別番号】517079043
【氏名又は名称】マーストリヒト ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】MAASTRICHT UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】オエベリング, ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ゲリッセン, フランシスカス, ウィルヘルムス, マリア
(72)【発明者】
【氏名】ティーズ, イェンス, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】エマンズ, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ロス, アレックス, クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4C081
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AC03
4C081BA13
4C081BB08
4C081CA162
4C081CA182
4C081CA202
4C081CA211
4C081CB011
4C081CF122
4C081CF142
4C081CF22
4C081DA01
4C081DC13
4C081EA03
4C081EA12
4J002CK021
4J002CK02W
4J002CK02X
4J002CK031
4J002CK03W
4J002CK03X
4J002CK041
4J002CK04W
4J002CK04X
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002FD016
4J002GB01
4J034BA08
4J034CA04
4J034DA01
4J034DA03
4J034DF01
4J034DF02
4J034DM01
4J034DP12
4J034DP18
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034RA02
(57)【要約】
本発明は、損傷した軟骨組織の修復において使用するための整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造するためのポリマー組成物であって、生体内安定性の、熱可塑性ポリウレタン及び生体適合性遷移金属化合物を含む15~70質量%のミクロンサイズの無機粒子を含むポリマー組成物に関する。前記無機粒子を含む相当に剛性のTPU組成物は、例えば、骨組織への頑丈且つ耐久性の結合を形成する事前に穿孔された骨穴の中に挿入又は圧入することのできる、及び例えばX線又はMRI法を用いて可視化できる固定パーツを製造することを可能にすることが見出された。ポリマー組成物は、好都合な特性を示し、射出成形のような一般的技術を用いてインプラントを設計且つ製造する際の自由を可能にする。他の態様では、本発明は、前記ポリマー組成物を製造する方法、及び骨固定パーツをポリマー組成物から成形する工程を含む多成分射出成形プロセスを用いてインプラントを形成する際のような、骨固定パーツを含む整形外科用インプラントを製造する際のポリマー組成物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性、生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン(TPU)及び15~70質量%の遷移金属化合物を含む生体適合性無機粒子を含むポリマー組成物であって、前記無機粒子が0.1~5μmの範囲内の粒径(D
50)を有するポリマー組成物。
【請求項2】
前記TPUは、40~90ShDのショア硬度、好ましくは60~85ShDのショア硬度を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記TPUは、ソフトブロック内に脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート又はそれらの組み合わせを含む、好ましくは前記TPUは、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)のような脂肪族ポリカーボネートを含む、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記TPUは、少なくとも硬度が異なる、2種の生体適合性の生体内安定性TPUグレードのブレンド、好ましくは50~80ShAの硬度を備えるTPU及び70~85ShDの硬度を備えるTPUのブレンドである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記TPUは、前記ポリウレタンの量に基づいて、0.01~5質量%の1種以上の生体適合性添加剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記無機粒子は、遷移金属酸化物、好ましくはTi、Zn、Y、Zr、La、Yb、Hf及びTaの少なくとも1種の酸化物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記無機粒子は、ジルコニアを含む、好ましくは前記粒子はジルコニアからなる、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記組成物は、少なくとも20、25、30、若しくは35質量%及び最大で66、62、58、54若しくは50質量%の前記無機粒子を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリマー組成物は、a)30~65質量%の生体内安定性の、熱可塑性ポリウレタン、b)35~70質量%の無機粒子、及びc)0~10質量%の他の化合物からなり、a)~c)の合計は100質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記TPUは、ASTM D5296-11に基づいてGPCにより測定して、70~400kDaの質量平均モル質量(Mw)を有する、好ましくはMwは80~250kDaである、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
成形時に乾燥させたサンプル上で(ISO527に基づいて)20℃で測定して、800~2000Mpa、好ましくは900~1800Mpaの弾性率を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
水中で状態調節したサンプル上で(ISO527に基づいて)37℃で測定して、200~700Mpa、好ましくは225~500Mpaの弾性率を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
成形時に乾燥させたサンプル上で(ISO527に基づいて)20℃で測定して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%の破断点伸びを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の前記ポリマー組成物を製造する方法であって、
・前記ポリウレタン及び前記無機粒子を最大で250ppmの水分レベルまで乾燥させる工程;及び
・最大で210℃である押出機のバレルの温度設定を用いて、前記乾燥したポリウレタン及び前記乾燥した粒子を溶融混合する工程、
を含む方法。
【請求項15】
整形外科用インプラントを製造する、又はプラグ若しくはスクリューのような整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造する方法であって、前記インプラント又は前記骨固定パーツを請求項1~13のいずれか一項に記載の前記ポリマー組成物から射出成形する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[分野]
本発明は、整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造するために好適なポリマー組成物、ポリマー組成物を製造する方法及び前記ポリマー組成物を含む整形外科用インプラントを製造する方法に関する。
【0002】
[背景]
整形外科用インプラントは、ヒト又は動物の筋骨格系に関与する状態に関する整形外科手術において使用される医療用インプラントである。この系は、身体の形態、安定性及び運動を提供し、身体の骨(骨格)、筋肉、軟骨、腱、靭帯、関節、及びその他の結合組織(組織及び器官を一緒に支持且つ結合する組織)を作り上げている。筋骨格系の主要な機能としては、身体を支持すること、運動を可能にすること、及び重要器官を保護することが挙げられる。ヒトの身体の関節及び筋骨格組織は、外傷、疾患及び変性プロセスを受ける可能性があり、これらは経時的に関節の劣化若しくは障害を引き起こすことがあり、重度の疼痛又は不動状態を惹起する。一般に、関節が無痛の関節接合を提供し、荷重を運搬する能力は、安定した接合部を提供する健常な骨、軟骨、及び関連する筋骨格組織の存在に依存する。本開示に関連して、整形外科手術はさらに、ヒトの身体の様々な関節における運動を維持することにも関する。整形外科用インプラントとしては、部分又は完全人工関節形成術において使用されるデバイス、人工膝関節及び人工股関節、並びに骨軟骨用インプラントが挙げられる。整形外科用インプラントの例としては、人工軟骨及び腱のような、インプラントを固定するために適用される骨アンカー、プラグ及びスクリュー、半月板又は関節唇置換用デバイス、椎間ケージのような脊椎インプラント並びに軟骨置換用デバイスが挙げられる。
【0003】
軟骨は、それらが会合して関節を形成する場所である骨の末端の表面上の平滑な結合組織であり、骨を保護して衝撃を和らげ、全身を通して伝達される力を吸収する。軟骨は、関節の平滑な運動を可能にする弾性組織であるが、直接的な血液供給は行われないため、疲労若しくは外傷の症例では、自己治癒能力に限界がある。疼痛及び/又は不動性を惹起する頻回且つ重大な軟骨損傷は、大腿骨と脛骨との間に形成された関節内にある膝関節における関節軟骨への損傷である。長期に及ぶそのような初期の局所的欠陥は、もし未治療で放置されると、関節における軟骨のさらなる変性及び損傷を引き起こし、人工関節を用いた、部分又は完全人工膝関節置換術手術(UKR/TKR、半/全人工膝関節置換術若しくはHKA/TKAとも呼ばれる)が必要になることがある。しかしながら、そのような全人工関節置換術では、大多数の人工関節は耐久性が限られており、引き続いて必要になる再置換術の手技に、より長い手術時間及び入院期間が伴うので、特に高齢患者においては合併症が誘発されることがある。TKRのような完全関節置換術を先延ばしにするため、及びその必要を回避さえするために、損傷した軟骨を局所的に置換し、それにより損傷部位に新規の平滑な関節表面を作り出すための、整形外科用インプラントが開発されてきた。そのようなインプラントは、軟骨プラグと呼ばれることが多い。
【0004】
骨軟骨構築物、軟骨置換用デバイス、又はリサーフェシングインプラントとも呼ばれるそのような公知の軟骨プラグは、典型的には、例えばチタンなどの金属から製造される。しかしながら、金属製インプラントの使用は高い割合で再置換術を引き起こすが、これは金属と軟骨(下)骨及び軟骨組織との間の、剛性や変形性のような機械的特性における差が大きいことに関連する。数多くの刊行物において、天然及び/又は合成材料から製造された代替器具が記載又は提案されてきた。軟骨プラグは、円筒状又はマッシュルーム様の形態を有することが多く、少なくとも2つのパーツ、軟骨置換パーツ及び骨固定パーツを含み得る。軟骨置換パーツは、典型的には、天然軟骨の一部の特性を模倣する、可撓性で弾力的且つ耐摩耗性である生体適合性材料から製造されるが、他方、骨固定パーツは、金属を含むより剛性且つ硬い材料から製造されてよい。
【0005】
天然材料からプラグを製造するための1つのアプローチは、患者から骨及び軟骨(自家移植片(autogenous graft若しくはautograft))を採取し、同一種の遺伝的には似ていないドナー由来の組織(同種移植片(allograft若しくはhomograft))を使用することである。米国特許第5782835号明細書では、例えば、そのような同種移植片アプローチを実行するための装置及び方法が記載されている。しかしながら、そのような移植片の使用は、感染症又は疾患の伝播のリスクを提示する。
【0006】
又は、軟骨プラグのような整形外科用インプラントは、生分解性又は生体内安定性であり得る生体適合性ポリマーのような合成材料から製造することができる。合成ポリマーの使用は、ポリマーが極めて広範囲の特性を提供し、接触組織に損傷を生じさせることが少なく、磁性ではないために、MRIのような医療イメージング技術とより適合性であるので、金属製インプラントに比して利点を提示するであろう。
【0007】
米国特許出願公開第2008/0249632A1号明細書は、4つ以上の層を含む段付きショルダー形状を有し、移植されるプラグ及び周囲組織により良好な負荷を分布させ、望ましくない運動を低減することを目的とする、軟骨プラグについて記載している。プラグの異なる層は、数多くの天然及び合成材料から選択することができ、多孔性又は非多孔性であってよい、同一材料又は異なる材料から製造することができる。
【0008】
米国特許出願公開第2011/0218647A1号明細書は、親水性ポリマー、線維性充填剤及び40~80質量%の水を含有する、ヒドロゲルを含む軟骨プラグについて開示している。ポリマーは、好ましくは架橋ポリビニルアルコールである。このインプラントは、適正な取り付けのために開口部内への配置及びその後の拡張を可能にするための初期の圧縮を可能にする、0.75~50MPa、好ましくは23~30MPaのヤング弾性率を有するであろう。
【0009】
米国特許第6626945B2号明細書は、修復部位の生理学的要件に適合するように、積層構造に形成されている軟骨プラグについて記載している。このプラグは、円筒形状であってよく、1つに融合又は結合されている3種の材料から形成され得る。一実施形態では、移植後に軟骨下骨に最も近くなる第1層は、ショア硬度75ShDの生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン(TPU)から製造される。インプラントの中間層は、硬度55ShDのTPUから製造されるが、他方移植されたプラグを取り囲む軟骨の表面に最も近い第3層は、硬度80ShAのTPUのような、より可撓性の材料又は熱可塑性ヒドロゲルから製造される。この最後の層は、連接型関節の外面での軟骨のタイプであるヒアリン軟骨の特性に類似する特性を示すと述べられており、75ShDの材料は、軟骨下骨に類似する弾性係数を有する。
【0010】
国際公開第2011/098473A1号パンフレットは、各々が異なる、しかし化学的に関連するポリマー材料を含む2つ以上の別個の区間を有するが、それらの区間が相互に、前記材料間の相互作用によって接触面で付着している、半月板若しくは脊椎円板インプラントのような整形外科用インプラントについて記載している。好ましくは、材料は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)のようなブロックコポリマーから選択される。これらのインプラントは、多成分成形技術によって作成することができる。それぞれ最大で100MPa及び少なくとも101MPaの引張弾性率を有する2種の非再吸収性ポリマー材料から製造された異なるパーツを含む半月板補綴具は、国際公開第2015/0135907A1号パンフレットにも記載されている。実験では、ショア硬度80ShA及び75ShDを備えるTPU材料が使用された。この材料は、TPU及び25質量%までの硫酸バリウムのような放射線不透過性充填剤粒子を含むポリマー組成物であってよいと指示されている。
【0011】
国際公開第2007/007062A2号パンフレットでは、弾力性の層が固定相に結合しており、その固定パーツが、骨の内包成長を促進するカルシウムイオンを含有するアクリレート系ポリマーを含む骨セメント組成物から製造される、軟骨修復用インプラントが記載されている。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0188011A1号明細書は、炭素繊維強化ポリマーから製造された剛性裏層材を含み、その裏層材が軟質弾性ポリウレタン製軸受ライナーを支持している補綴用軸受要素を製造する方法であって、軸受ライナーへの裏層材の改良された接着がレーザー溶接によって達成される、即ち、レーザー光線を透明な軸受ライナーに通過させることによって、ライナーとレーザー不透過性裏層材との界面での熱融合が惹起される、方法を開示している。
【0013】
米国特許出願公開第2009/043398A1号明細書では、粘性材料に例えば回転成形により遠心力を受けさせることによって、インプラント内の密度、多孔性及び/又は濃度における勾配が作り出される、例えば置換用プラグなどの関節面インプラントを製造する方法が記載されている。粘性材料は、ポリマーマトリックス及びその中に分散している粒子若しくは繊維を含む複合材料であってよい;この方法は、粒子若しくは繊維内の濃度勾配を有する、したがって剛性の勾配を有する製品を生じさせる。
【0014】
米国特許出願公開第2008/0081061A1号パンフレットは、その中に分散しているセラミック粒子を有する生体適合性ポリマーをベースとする複合材料を含み、さらに複合材料に完全に結合したセラミックフリーポリマーをさらに含み得る整形外科用デバイスについて開示している。セラミック材料は、粒子又は繊維の形態にあってよく、ポリマーのように、広大なリストから選択することができる。一実施形態では、ポリマーは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であり、セラミックとしては、ハイドロキシアパタイト(HA)粒子が挙げられる。そのような複合パーツは、UHMWPE粉末を(任意選択によりコーティングされた)HA粒子と混合し、その混合物を圧縮成形することによって製造される。
【0015】
Gearyらは、Mater.Sci.Mater.Med(2008)19:3355-3363(DOI 10.1007/s10856-008-3472-8)において、市販で入手できるBionate(登録商標)ポリカーボネートウレタングレードのような熱可塑性ポリウレタンが、極めて優れた加水分解及び耐老化性を有すること;及び例えば罹患若しくは損傷した関節を置換する際に使用するためのデバイス、生体内(in vivo)生物医学デバイスを製造する際に使用するための好適な生体内安定性材料であることを記載している。溶融配合を介してそのようなポリウレタン内に炭素繊維又はヒドロキシアパタイト(HA)粒子を組み込むことは、ポリマー材料の機械的特性の改善を生じさせ得る。しかしながら、さらに、そのような配合工程がポリマーの劣化を増強し、ポリマー組成物中のポリマーのモル質量の有意な低減を生じさせることも指摘されている。特にTPUをHAと配合する場合には、前記の劣化は、射出成形のような溶融加工工程中においてより顕著になることが証明されている。炭素繊維とは対照的に、TPU及びHA粒子をベースとするポリウレタン組成物は、引張特性の改善を示さなかった。
【0016】
中国特許第1215890C号明細書は、50nm未満の粒径を有する80~99%の粒子とともに、0.1~30質量%の酸化亜鉛、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムナノ粒子を含むポリウレタン組成物について開示している。溶媒をベースとする組成物は、ナノ粒子をポリウレタンに溶液中に高速混合する工程によって調製され、その組成物は、基質をコーティングするため、又はフィルムをキャスティングするために使用することができる。これらのフィルム又はコーティングされた基質は、抗凝固特性を示し、例えばカテーテル及び人工血管などの血液と接触する医療製品としての使用に適合すると言われている。
【0017】
[概要]
文献において、整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造するために様々な合成ポリマー材料が提案若しくは記載されてきたが、依然として、例えば関節における局所的軟骨欠損をより耐久性をもって置換するためのインプラントを製造することを可能にする、及びそのインプラントを一般的医療技術を用いて移植中及び移植後に監視できる、インプラント材料に対する必要がある。
【0018】
本開示の目的としては、整形外科用インプラント、例えば膝関節における局所的に損傷した軟骨組織を置換するためなどの、関節をリサーフェシングするためのインプラントを製造するための、そのようなポリマー材料を提供することが挙げられる。より詳細には、本開示は、インプラントの骨固定パーツを製造するために好適である、及びその材料が骨組織への耐久性のある監視可能な結合を可能にする、そのようなポリマー材料を提供することを目的とする。
【0019】
本明細書の以下で記載し、特許請求の範囲で特徴付けた本発明の態様及び実施形態は、特に、整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造するために好適であり、優れた生体適合性及び骨組織と適合する機械的特性を示し、そのインプラントがX線及びMRIのような医療用イメージング技術を用いて移植中及び/又は移植後に監視できるポリマー組成物、及び前記ポリマー組成物を製造する方法を提供する。したがって本発明の一態様は、請求項1に記載のポリマー組成物、より詳細には、整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造するために好適なポリマー組成物であって、そのインプラントは関節内の損傷した軟骨組織を局所的に置換するために適合する可能性があり、そのポリマー組成物は、生体内安定性熱可塑性ポリウレタン及び生体適合性遷移金属化合物を含む15~70質量%の無機粒子を含み、その無機粒子は0.1~5μmの範囲内の粒径(D50)を有するポリマー組成物である。
【0020】
ポリマー組成物が使用される軟骨置換用プラグのような整形外科用インプラントは、円筒状又はマッシュルーム様の形態を有する可能性があり、少なくとも2つのパーツを含み得る;前記骨固定パーツ及び軟骨置換パーツは、典型的には弾力性及び耐摩耗性の生体適合性材料から製造される。前記無機粒子を含む相当に剛性のTPU組成物は、例えば、骨への頑丈且つ耐久性の結合を形成する、事前に穿孔された骨穴の中に挿入及び/又は圧入することのできる、及びインプラントパーツ及び骨へのその結合を例えばX線又はMRI法を用いて経時的に可視化又は監視できる固定パーツを製造することを可能にすることが見出された。ポリマー組成物は、好都合な結晶化挙動を示し、その(機械的)特性は、例えばHA充填剤粒子に基づく類似の組成物の特性よりも良好である。ポリウレタン組成物を使用するまた別の利点としては、インプラントの設計及び寸法記入、及びさらにより複雑な形状を可能にする射出成形のような一般的技術によりインプラントを製造する際の自由さが挙げられる。特にインプラントがさらに軟骨置換パーツとしてのより可撓性のタイプのTPUのようなポリウレタン組成物と適合性の熱可塑性材料から製造されたまた別のパーツを含む場合は、インプラントは2成分射出成形技術を用いて製造することができる;これは、一般に、接着成分を必要とせずに、軟骨置換パーツ内の骨固定パーツと可撓性TPUにおけるポリウレタン組成物間の十分な接着を生じさせる相当に単純な方法である。
【0021】
他の態様では、本発明は、前記ポリマー組成物を製造する方法に関する。
【0022】
また別の態様では、本発明は、整形外科用インプラント又は整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造する際の本開示によるポリマー組成物の使用、整形外科用インプラント又はプラグ又はスクリューのような整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造する方法であって、例えば、ポリマー組成物から骨固定パーツを成形する工程を含む多成分射出成形プロセスを用いてインプラントを形成することによる、本開示によるポリマー組成物からインプラント又は骨固定パーツを射出成形する工程を含む方法に関する。また別の態様は、前記ポリマー組成物を含む骨固定パーツを有する整形外科用インプラントに関連する。
【0023】
以下では、下記の例示的な図面によって、それらに限定することなく、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】2成分の円筒状の軟骨プラグを示す略図である。
【
図2A】2枚の異なる図面でマッシュルーム様の軟骨プラグを示す略図である。
【
図2B】2枚の異なる図面でマッシュルーム様の軟骨プラグを示す略図である。
【
図3】2本の「ステム」(3b’及び3b’’)を有する骨固定パーツ(3a)を含むマッシュルーム様プラグの略断面図である。
図1~3では、同様の数字は同様の要素を表す。
【
図4】3グレードのジルコニア上で測定した粒径分布を示す図である。
【
図5】無充填ポリウレタン上及び20、40及び60質量%のジルコニア(SA)を含有する対応するポリマー組成物上で得られたDSC曲線(加熱-冷却-再加熱)を表す図である。
【
図6】ヤギの膝関節への移植6及び12カ月後の、移植されたプラグM(金属)、U(無充填ポリウレタン)及びI(発明;ジルコニア充填ポリウレタン、BCPコーティング)についてのオッセオインテグレーション(骨性結合)の指標としての骨対インプラント接触率(BIC、%)のスコアリングを示すグラフである。
【
図7A】ヤギに移植されたプラグM、U及びI(6カ月後)から採取した組織学的切片の代表的な顕微鏡写真を示す図である。
【
図7B】ヤギに移植されたプラグM、U及びI(6カ月後)から採取した組織学的切片の代表的な顕微鏡写真を示す図である。
【
図7C】ヤギに移植されたプラグM、U及びI(6カ月後)から採取した組織学的切片の代表的な顕微鏡写真を示す図である。
【
図8】疑似手術関節と比較した(6及び12カ月後の)移植されたプラグM又はIを有する関節の対向する骨表面上の連接型軟骨の品質の修正Mankinスコア(MMS)の結果を示す図である。
【0025】
[詳細な説明]
本開示の状況内では、生体適合性材料は、生体組織と接触する時に毒性の、有害な、又は免疫学的応答を生じないことによって生物学的に適合性である。生分解性とは、材料が、生物学的手段によって、例えば酵素作用によって、生理学的条件下でより単純な成分への化学的分解又は変質を受けることを意味する。生体内安定性又は生体不活性は、材料が、生体組織と接触した場合に、意図された使用の条件及び時間において実質的に生分解性ではないことを意味する。
【0026】
一態様によると、本発明は、生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン及び15~70質量%の遷移金属化合物を含む生体適合性無機粒子を含むポリマー組成物であって、整形外科用インプラント又は少なくともその骨固定パーツ、例えば、関節内の軟骨組織のような損傷した組織の修復に使用するために適合する、生体内安定性のインプラントを製造するために好適に使用することができるポリマー組成物を提供する。
【0027】
骨固定パーツを製造するために好適なポリマー組成物は、生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン(TPU)を含む。熱可塑性ポリウレタンは、本質的に線状ポリマー鎖を有し、良好な溶媒中では可溶性であり、温度を上昇させると溶融させることができ、その後に冷却すると再固化させることができ;例えば、押出成形又は射出成形を介する溶融加工を可能にする非架橋ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンは、典型的には、ブロックコポリマーである(セグメント化コポリマーとも呼ばれる)。
【0028】
ブロックコポリマーは、化学的に別個であり、且つ異なる熱特性及び機械特性並びに異なる溶解度を示すポリマー(オリゴマーを含む)の複数のブロック(セグメントとも呼ばれる)を含むポリマーである。しばしば、2つ(又はそれ以上)の種類のブロックを含むブロックコポリマー中のブロックは、「ハード」及び「ソフト」ポリマーブロックと記載され、そのような(化学的に)異なるブロックは、ハード又はソフトいずれかのブロックが富裕であるドメインへのミクロ相分離をもたらす。ブロックコポリマー内のハードブロックは、典型的には、生物医学的用途の場合には、約35~40℃の、使用温度よりも高い溶融温度(Tm)若しくはガラス転移温度(Tg)を備える剛性若しくは高弾性のポリマーを含む。ブロックコポリマー内のソフトブロックは、一般に25℃未満、好ましくは0℃未満のTgを備える可撓性の低弾性非晶質ポリマーを含む。大多数の機械的特性に関しては、Tm及びTgのような熱パラメータは一般に、DSC若しくはDMAのような周知の技術を用いて、乾燥サンプル上で決定される。そのような相分離ブロックコポリマーでは、ハードセグメントは、可撓性のソフトセグメントのための物理的(及び非磁性、熱可逆性の)架橋として機能し、及び例えばハードブロック対ソフトブロックの比率に依存して、非常に剛性であるものから可撓性で弾性のものまでの範囲の特性を有する材料が生じる。ハードブロックの種類及び含量に依存して、ポリウレタンブロックコポリマーは、化学的架橋を必要とすることなく、所望の温度範囲において良好な安定性及び弾性を示し得、及び熱可塑性物質として一般に処理され得る。熱可塑性ポリウレタンという用語は、基本的に、ジイソシアネート、ジオール連鎖延長剤及びポリマージオール又はマクログリコールである少なくとも3つの主成分の反応生成物を含む主鎖を有するポリマーの系統群を意味する。任意選択的に、単官能基化合物が、連鎖停止剤として機能し、且つ(非反応性)末端基を形成するさらなる成分として使用されてもよい。実施形態では、本発明で適用されたポリウレタン若しくはTPUの主鎖は、実質的に線状である。
【0029】
実施形態では、TPUは、繰り返し単位中に、ジイソシアネートの反応性連鎖延長剤としてのジオール及び任意選択的にジアミンとの反応から得られたウレタン基及び任意選択的に尿素基を含むハードブロックを含む。
【0030】
好適なジイソシアネートは、1分子あたり平均1.9~2.1個のイソシアネート基を有する芳香族、脂肪族及び脂環式化合物を含む。一実施形態では、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート(TDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(CHMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)又はそれらの混合物を含む。一実施形態では、ジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はそれらの混合物を含む。一実施形態では、ジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はそれらの混合物からなる。別の実施形態では、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート又は1,4-フェニレンジイソシアネートを含む。一実施形態では、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート又はそれらの混合物からなる。一実施形態では、ジイソシアネートのモル質量は、100~500g/molである。一実施形態では、ジイソシアネートのモル質量は、150~260g/molである。
【0031】
連鎖延長剤は、典型的には2個以上、好ましくは2個のヒドロキシル基又はアミン基を有する低モル質量脂肪族化合物である。二官能基連鎖延長剤は、線状、一般に熱可塑性ポリマーをもたらすが、他方多官能基連鎖延長剤及び/又はイソシアネートは、分枝状又は架橋生成物を導く。一実施形態では、二官能基連鎖延長剤は、少なくとも60g/mol、少なくとも70g/mol、少なくとも80g/mol、少なくとも90g/mol、又は少なくとも100g/molのモル質量を有する。一実施形態では、連鎖延長剤は、最大で500g/mol、最大で400g/mol、最大で300g/mol、最大で200g/mol、又は最大で150g/molのモル質量を有する。一実施形態では、連鎖延長剤は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、又は1,8-オクタンジオール、及び/又はそのような対応するジアミンを含む。実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、ジオール連鎖延長剤しか含まない。
【0032】
他の実施形態では、TPUは、ウレタン及び尿素結合の両方を有するハードブロックを含む。その利点はハードブロック間の強化された相互作用であり、より高い軟化温度及び/又はより高いソフトブロックの含有量を許容し;強化された可撓性及び弾性、並びに優れた曲げ強さ又は疲労抵抗を示すブロックコポリマーが得られる。ジオール/ジアミンの比率次第で、ポリウレタン鎖はそのような強度の相互作用を示し得るため、溶融加工温度において熱分解があり得、最適性能のために溶液加工が好ましい。ポリウレタン尿素とも呼ばれる、ウレタン及び尿素結合の両方を含むそのようなポリウレタンの商業的に入手可能な例には、Biospan(登録商標)製品(例えば、DSM Biomedical BV,Sittard-Geleen NLから入手可能)が挙げられる。
【0033】
さらなる実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、ポリマーがヒドロキシ(又はアミン)末端基を有する二官能性である、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリオレフィン及びポリシロキサン(シリコーンとも呼ばれる)からなる群から選択される、少なくとも1種の脂肪族ポリマージオール又はポリオールから誘導されるソフトブロックを含む。ソフトブロックのためのそのようなポリマージオールは、本明細書中では、オリゴマー、ホモポリマー及びコポリマーを含むと理解されており、及びポリエステルはポリカーボネートを含むと考えられている。これらのコポリマーを調製するために一般に既知のポリウレタンブロックコポリマー及び方法は、とりわけ米国特許第4739013号明細書、同第4810749号明細書、同第5133742号明細書及び同第5229431号明細書に記載されている。
【0034】
本開示の実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、脂肪族ポリエステルジオール、脂肪族ポリエーテルジオール、ポリ(イソブチレン)ジオール及びポリシロキサンジオールから選択される少なくとも1種のポリマージオールをソフトブロックとして含む。連鎖延長剤に関しては、追加的な尿素結合がもたらされる一部のアミン官能性ソフトブロックを使用することができる。ヒトの身体内でのそのようなポリウレタンブロックコポリマーの生体適合性及び生体内安定性は証明されている。
【0035】
熱可塑性ポリウレタンの機械的特性及びその他の特性は、ブロックの化学的組成及び/又はモル質量を変化させることによって調整することができる。本発明の組成物中に含有される熱可塑性ポリウレタンのハードブロックは、約160~10,000Da、より好ましくは約200~2000Daのモル質量を有し得る。ソフトセグメントのモル質量は、典型的には、200~100,000Da、及び好ましくは少なくとも約400、600、800若しくは1000Da、及び最大で約10,000、7500、5000、4000、3000若しくは2500Daであり得る。本開示の内容の範囲内では、ポリマー内のブロックを形成するポリマー及びオリゴマーのモル質量は、例えばGPC測定値から誘導される、数平均モル質量(Mn)を指す。ソフトブロック対ハードブロックの比率は、ポリウレタンの所定の剛性又は硬度をもたらすように選択することができる。典型的には、A若しくはDスケールを使用するショアデュロメーター硬度試験によって測定されるポリウレタンの硬度は、一般に約10~2000のMPaの曲げ弾性率範囲を表す、40ShA~90ShDであってよい。実施形態では、本組成物中に含まれる熱可塑性ポリウレタンは、45ShA~90ShA、好ましくは少なくとも50、55又は60ShAの硬度を有する。相当に低硬度のTPUを用いる利点は、さらにジルコニアのような遷移金属化合物を含む、結果として生じる組成物のより高い強靭性である可能性がある。他の実施形態では、ポリマー組成物中のTPUは、組成物のより高い剛性を生じさせるであろうから、90ShA~90ShDの硬度を有する。さらなる実施形態では、TPUは、剛性と加工挙動との間の良好なバランスのために、少なくとも40、50若しくは60ShDの剛性及び最大で85若しくは80ShDの硬度を有する。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、ソフトブロック内に、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリカーボネート、より特別には脂肪族ポリカーボネートを含む。ソフトブロックの組成物は、好ましくは、10、0及び好ましくは-10℃未満のTgを有する本質的に非晶質のオリゴマー又はポリマーが生じるように選択される。適切な脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(プロピレンオキシド)ジオール、ポリ(テトラメチレンオキシド)ジオール、及びそれらのコポリマーが挙げられる。好適な脂肪族ポリエステルは、一般に少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸及び少なくとも1種の脂肪族ジオールから製造される。脂肪族ポリカーボネートジオールは、ポリエステルジオールのために使用されるものと類似の脂肪族ジオールをベースとしており、当該技術分野において公知の様々な経路を介して合成することができる。好適な例としては、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール及びポリ(テトラヒドロフランカーボネート)ジオールが挙げられる。そのようなポリカーボネート系TPUは、血液適合性のような好都合な生体適合性及び強化された生体内安定性を示す。一実施形態では、TPUのソフトブロックは、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、ポリ(ポリテトラヒドロフランカーボネート)ジオール、又はそれらの混合物をベースとする。好ましい実施形態では、TPUのソフトブロックは、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールを含有する、又は実質的にそれをベースとする。
【0037】
さらなる実施形態では、TPUのソフトブロックは、ポリ(ジメチルシロキサン)ジオール、ポリカーボネートジオール、又はポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールなどのポリシロキサンジオールを含む。一実施形態では、ソフトブロックは、ポリシロキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリ(テトラメチレンオキシド)ジオール、又はそれらの混合物をベースとする。一実施形態では、ソフトブロックは、ポリシロキサンジオール、ポリカーボネートジオール、又はポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールの2種以上の混合物を含む。そのような混合物は、高い強靭性と結合された加水分解安定性の強化を示す生体適合性ポリウレタンの製造を可能にする。一実施形態では、ソフトブロックは、ポリシロキサンジオール、ポリカーボネートジオール又はポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールの2種以上の混合物をベースとする。一実施形態では、ソフトブロックは、ポリシロキサンジオール、並びにポリカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールの1種以上を含む。一実施形態では、ソフトブロックは、ポリシロキサンジオール、並びにポリカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールの1種以上をベースとする。
【0038】
一実施形態では、ソフトブロックは、C2~C16フルオロアルキルジオール又はC2~C16フルオロアルキルエーテルジオールをさらに含み得る。一実施形態では、ポリウレタン主鎖中のソフトブロックは、1H,1H,4H,4H-ペルフルオロ-1,4-ブタンジオール、1H,1H,5H,5H-ペルフルオロ-1,5-ペンタンジオール、1H,1H,6H,6H-ペルフルオロ-1,6-ヘキサンジオール、1H,1H,8H,8H-ペルフルオロ-1,8-オクタンジオール、1H,1H,9H,9H-ペルフルオロ-1,9-ノナンジオール、1H,1H,10H,10H-ペルフルオロ-1,10-デカンジオール、1H,1H,12H,12H-ペルフルオロ-1,12-ドデカンジオール、1H,1H,8H,8H-ペルフルオロ-3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジオール、1H,1H,11H,11H-ペルフルオロ-3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジオール、フッ素化トリエチレングリコール、又はフッ素化テトラエチレングリコールの残基を含む。
【0039】
一実施形態では、C2~C16フルオロアルキルジオール又はC2~C16フルオロアルキルエーテルジオールは、少なくとも150g/mol、少なくとも250g/mol又は少なくとも500g/molのMnを有する。一実施形態では、フルオロアルキルジオール又はフルオロアルキルエーテルジオールは、最大で1500g/mol、最大で1000g/mol、又は最大で850g/molのモル質量を有する。一実施形態では、C2~C16フルオロアルキルジオール又はC2~C16フルオロアルキルエーテルジオールは、ポリウレタンの全質量に基づき、少なくとも1質量%、少なくとも2質量%又は少なくとも5質量%の量で存在する。一実施形態では、C2~C16フルオロアルキルジオール又はC2~C16フルオロアルキルエーテルジオールは、ポリウレタンの全質量に基づき、最大で15質量%、最大で10質量%、又は最大で8質量%の量で存在する。
【0040】
実施形態では、ポリウレタンは、1種以上の疎水性又は親水性末端基を含み得る。一般に、末端基は、分子の末端に存在する非反応性の部分である。一実施形態では、ポリウレタンは、主鎖の各終点で末端基を含み;即ち、ポリウレタンは、平均約2個の末端基を有する。一実施形態では、末端基は、線状化合物である。別の実施形態では、末端基は、分岐状である。末端基は、ポリマー主鎖の形成中又は形成後に存在する末端イソシアネート基を、連鎖停止剤とも呼ばれる単官能化合物上の共反応性基と反応させることによって形成された可能性がある。例えば、ポリウレタンを形成するための配合物は、ジイソシアネート、ポリマー脂肪族ジオール、連鎖延長剤、及びC8アルキル末端基を形成するための1-オクタノール若しくはオクチルアミンのような単官能性アルコール又はアミンを含み得る。
【0041】
一実施形態では、末端基は、例えば、それらのコポリマーを含めて、C2~C20アルキル、C2~C16フルオロアルキル、C2~C16フルオロアルキルエーテル、疎水性ポリ(アルキレンオキシド)又はポリシロキサンを含む疎水性末端基である。一実施形態では、疎水性ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(テトラメチレンオキシド)又はそれらのコポリマーである。一実施形態では、疎水性末端基は、ポリ(ジメチルシロキサン)のようなポリシロキサンである。一実施形態では、末端基は、C2~C20アルキル、C2~C16フルオロアルキル、C2~C16フルオロアルキルエーテル又は疎水性ポリ(アルキレンオキシド)を含む。そのような末端基は、カルビノールを含む単官能性アルコール又は上記のアミン類を用いて形成され得る。疎水性末端基を有するそのようなポリウレタンエラストマーは、ポリウレタンの特性、並びにポリオレフィンなどの他のポリマーを含む他の材料並びに体組織及び血液のような体液とのその相互作用に肯定的に影響を及ぼすことは判明している。
【0042】
一実施形態では、疎水性末端基は、C2~C16フルオロアルキル又はC2~C16フルオロアルキルエーテルを含む。そのような末端基は、C2~C16フルオロアルキル又はC2~C16フルオロアルキルエーテルを含む単官能性アルコール又はアミンによって形成され得る。一実施形態では、末端基は、1H,1H-ペルフルオロ-3,6-ジオキサヘプタン-1-オール、1H,1H-ノナフルオロ-1-ペンタノール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ヘキシルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-3,6,9-トリオキサデカン-1-オール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ヘプチルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-3,6-ジオキサデカン-1-オール、1H,1H-ペルフルオロ-1-オクチルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ノニルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-3,6,9-トリオキサトリデカン-1-オール、1H,1H-ペルフルオロ-1-デシルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ウンデシルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ラウリルアルコール、1H,1H-ペルフルオロ-1-ミリスチルアルコール、又は1H,1H-ペルフルオロ-1-パルミチルアルコールから形成される。
【0043】
また別の実施形態では、末端基は、親水性単官能性アルコール又はアミン化合物から形成される親水性末端基である。そのような化合物は、典型的には水溶性であり、ポリエチレンオキシド若しくはスルホネート官能性化合物のように、界面活性を示し得る。そのような親水性末端基は、他の材料との相互作用又は他の材料への接着に影響を及ぼし、例えば、所定の無機充填剤粒子の分散を強化し得る。
【0044】
また別の実施形態では、ポリウレタンは、疎水性末端基と親水性末端基との混合物を含む。そのような修飾は、ポリマーの疎水性対親水性のバランスの調節を可能にする。末端基を有するTPUを使用する一般的利点は、ポリマー組成物及びインプラントからの移動の潜在的問題を導入し得る添加剤を組み込まずに、ポリマー及びポリマー組成物の特性を修飾且つ制御することである。
【0045】
一実施形態では、末端基はモノマー性であり、200g/mol以上、300g/mol以上、又は500g/mol以上、及び1,000g/mol以下又は800g/mol以下のモル質量を有する。他の実施形態では、末端基は、ポリマー性であり、10,000g/mol以下、8,000g/mol以下、6,000g/mol以下又は4,000g/mol以下のモル質量を有する。一実施形態では、末端基はポリマー性であり、500g/mol以上、1,000g/mol以上又は2,000g/mol以上のモル質量を有する。
【0046】
一実施形態では、末端基は、ポリウレタンの全質量に基づくと、少なくとも0.1質量%、少なくとも0.2質量%、少なくとも0.3質量%、又は少なくとも0.5質量%の量で存在する。一実施形態では、末端基は、ポリウレタンの全質量に基づくと、最大で3質量%、最大で2質量%又は最大で1質量%の量で存在する。一実施形態では、末端基は、ポリウレタンの全質量に基づくと、少なくとも0.1質量%、少なくとも0.2質量%、少なくとも0.3質量%、又は少なくとも0.5質量%の量で、且つ最大で3質量%、最大で2質量%又は最大で1質量%の量で存在する。
【0047】
一実施形態では、ポリウレタンは、ポリウレタンの全重量に基づくと、0.1質量%未満の末端基を含む。一実施形態では、ポリウレタンは、実質的に末端基を含まない。一実施形態では、ポリウレタンは、末端基を含まない。
【0048】
TPU中のハードブロックは、典型的には、トルエンジイソシアネート(TDI)又はメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)のような芳香族ジイソシアネート及び1,4-ブタンジオールのような低モル質量の脂肪族ジオールをベースとする。ポリエーテル及びポリカーボネートポリウレタンは、それらの可撓性、強度、生体内安定性、生体適合性及び耐摩耗性を考慮して、生物医学的用途のために適切に使用され得る。ソフトブロック中にポリエーテルとポリシロキサン又はポリカーボネートとポリシロキサンの組み合わせを含有するTPUは、ユニークな特性の組み合わせを示し、且つポリマー組成物中でポリウレタンとして有利に使用され得る。そのようなポリマーの商業的に入手可能な例としては、Pursil(登録商標)及びCarbosil(登録商標)製品(DSM Biomedical BV,Sittard-Geleen NLから入手可能)が挙げられる。
【0049】
さらなる実施形態では、TPUは、2種以上のポリウレタンのブレンド、例えば、少なくとも異なる強度、50~80ShA及び70~85ShDグレードを有する生体適合性TPUの組み合わせのような、2種の生体内安定性の生体適合性TPUグレードのブレンドであってよい。そのようなTPUのブレンドでは、2種のポリマーは、ソフトブロックのタイプもまた異なっていてもよい。その例は、ソフトブロック内にポリシロキサンを含む低硬度のTPUとソフトブロック内にポリカーボネートを含む剛性のTPUの混合物である。そのようなTPUブレンドは、剛性及び強靭性の有益な組み合わせを提供することができる。
【0050】
他の実施形態では、TPUは、例えば触媒残渣に加えて、即ち、医療用インプラントにおけるTPUと目標とされるポリマー組成物の使用を可能にする、1種以上の生体適合性である慣習的な添加剤を含み得る。添加剤の例としては、安定剤、酸化防止剤、加工助剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤、着色剤などが挙げられる。添加剤は、ポリウレタン及び添加剤の量に基づくと、例えば0.01~5質量%、好ましくは0.1~2質量%などの当該技術分野において公知の典型的に有効な量で存在し得る。また別の実施形態では、TPUは、実質的に添加剤を含んでいない。
【0051】
実施形態では、ポリマー組成物は、a)30~85質量%の生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン、及びb)遷移金属化合物を含む15~70質量%の生体適合性粒子から実質的になる、又はなるが、ここでa)及びb)の合計は、100質量%である。
【0052】
他の実施形態では、ポリマー組成物は、a)20~85質量%の上述した生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン、b)遷移金属化合物を含む15~70質量%の生体適合性粒子、及びc)0~10質量%の他の化合物からなるが、ここでa)~c)の合計は、100質量%である。他の化合物の例としては、抗菌剤若しくは抗炎症剤のような生物活性化合物、疼痛を低減する、又は治癒若しくは骨形成を改善する活性化合物若しくは薬;安定剤、分散剤のようなポリマー複合組成物に典型的に適用される添加剤、又は意図的に添加される他の化合物だけではなく、さらに例えば使用される装置を洗浄するためのものを含む組成物を作成するために使用され得る残留量の溶媒が挙げられる。実施形態では、組成物及びそれから製造されたパーツは、最大で5、4、3若しくは2質量%の他の化合物、及び最大で1000ppmの溶媒、好ましくは最大で800、600、500若しくは400ppmの溶媒を含む。
【0053】
ポリマー組成物は、X線不透過性の遷移金属化合物を含む生体適合性無機粒子を含む。遷移金属は、本出願の状況内では、ランタニド系列を含む、元素周期表において遷移金属と呼ばれる元素の1種であると規定されている。好適な遷移金属化合物は、それらの化合物がTPU及び関連加工条件にとっての不活性、生体適合性、放射線不透過性、及びMRI適合性を結合している、1種以上の遷移金属の酸化物(又はその他の塩)である。放射線不透過性若しくはX線不透過性、及び放射線不透過性の若しくはX線不透過性のは、医療用X線イメージング技術(放射線イメージングとも呼ばれる)を用いて天然組織との十分なコントラスト視認できる程度まで、無機粒子が電磁スペクトルの電波及びX線部分の通過(若しくは吸収)を阻害することを意味する。放射線不透過性に寄与する要素は、電子密度及び原子番号である。MRI適合性若しくは適合性であるとは、材料が全てのMRI環境において公知の危険性を有していないことを意味する;即ち、非導電性、非金属及び非磁性である。そのような放射線不透過性且つMRI適合性粒子は、MRI画像上で天然組織とのコントラストを示し得る。
【0054】
実施形態では、ポリマー組成物は、生体適合性金属塩粒子、又は好ましくは無機粒子としての生体適合性遷移金属酸化物粒子を含む。
【0055】
実施形態では、ポリマー組成物は、塩、好ましくはチタン(Ti)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、ハフニウム(Hf)、及びタンタル(Ta)の少なくとも1種の酸化物を含む生体適合性無機粒子を含む。他の実施形態では、ポリマー組成物は、塩、好ましくはTi、Zn、Y、Zr、及びTaの少なくとも1種の酸化物を含む無機粒子を含む。或いは、ポリマー組成物は、前記塩若しくは酸化物の1種以上から実質的になる、又はなる無機粒子を含む。さらなる実施形態では、ポリマー組成物は、塩、好ましくはTi、Zn、及びZrの少なくとも1種の酸化物から実質的になる、又はなる無機粒子を含む。
【0056】
実施形態では、ポリマー組成物は、チタンの酸化物を含む粒子を含む、好ましくは実質的にチタニアから実質的になる、又はなる粒子を含む。チタニアは、二酸化チタン若しくはTiO2とも呼ばれる。チタニアは、ルチル及びアナターゼのような異なる鉱物形態で発生し、殆どは、塗料、プラスチック、食品、練り歯磨き及びピルにおける白色顔料として使用される。
【0057】
実施形態では、ポリマー組成物は、亜鉛の酸化物を含む粒子を含む、好ましくは、ポリマー組成物は、酸化亜鉛(ZnO)から実質的になる、又はなる粒子を含む。天然で出現する酸化亜鉛は、典型的には多数の不純物を含有しており、このため一般には金属亜鉛から合成される。純粋の酸化亜鉛は、塗料、プラスチック、ゴム及びセメントにおける充填剤、セラミックスにおいて、並びに(その抗菌特性を考慮して)歯科及びスキンケア製品を含む多数の様々な用途に適用される白色粉末である。
【0058】
実施形態では、ポリマー組成物は、ジルコニウムの酸化物を含む粒子を含む、好ましくは、ポリマー組成物は、ジルコニアを含む粒子を含む。実施形態では、無機粒子は、ジルコニアから実質的になる、又はなる。ジルコニアは、二酸化ジルコニア若しくはZrO2とも呼ばれる、ジルコニウムの白色の結晶状酸化物である。
【0059】
ジルコニアの主要な使用は、例えば、高温での焼結によるなどの、硬質セラミックスの製造においてである。生物医学分野内でのそのようなセラミックスの使用は、典型的には、歯科における歯冠及びブリッジとしてである。その他の使用としては、保護的、光学的及び遮熱コーティング、セラミックス製ナイフ及び宝飾品におけるダイヤモンド類似物としてが挙げられる。多数の他の鉱物粒子とは異なり、ジルコニアは、熱可塑性ポリマー組成物(ポリマー化合物とも呼ばれる)における充填剤又は強化剤として使用されることは滅多にない。
【0060】
ジルコニア自体は化学的に安定性であるが、高温では;つまり、本組成物の射出成形中又はそれから製造されたインプラントの使用中に、熱可塑性ポリウレタンとの配合中よりもはるかに高い温度では、相変化に曝される可能性がある。商業的に入手可能なジルコニアグレードは、所定の層へ熱的に安定化させるためのドーパントとしての、1~10mol%超までの量で添加されているMgO、Y2O3、CaO若しくはCe2O3などの他の要素を含有する可能性がある。さらに、ジルコニアグレードは、Hf、Al、Si、Fe、Naのような元素を少量含み得る。したがって本開示の状況内では、ジルコニアは、実質的に純粋なZrO2並びにZrO2及び約20質量%まで、好ましくは最大の15、10若しくは5質量%の上記で言及した他の無機酸化物を含む混合酸化物を含むと理解されている。
【0061】
ポリウレタンとチタニア、ジルコニア及び/又は酸化亜鉛粒子のような無機粒子とを含むポリマー組成物は、放射線不透過性であり、したがって医療用X線技術を用いると他の材料及び組織から識別することができる。磁性ではない粒子の、ポリウレタンへのそれらの添加もまた、本組成物から作製されたパーツをMRI技術を用いてイメージングすることを可能にするが、これは整形外科手技において一般に使用されている金属製インプラントを用いた場合には不可能である。したがって本ポリマー組成物から製造されたインプラントは、X線及びMRIのような一般的医療用イメージング技術を用いて可視化することができ、外科手技中に標的移植部位でのインプラントの位置の適正な監視並びに周囲組織と関連させてその位置の術後検査を可能にする。
【0062】
ポリマー組成物中の無機粒子は、典型的には、0.1~5μmの範囲内の粒径を有する。本開示の範囲内では、無機粒子の粒径は、D50値、即ち、例えばMalvern Mastersizer 2000を用いて、ISO 13320:2009に従った光回折により測定して、メジアン径又は粒径分布の中央値である。粒径とは、一次粒子はポリマーとの混合中に同一方法では脱凝集若しくは分散しない可能性があるので、ポリマー組成物中の粒径分布とは異なる可能性がある、水中に分散した粒子のサイズを指す。
【0063】
ポリマー組成物中の無機粒子は、異なるタイプの粒子形状を有する可能性があり、規則的形態又は不規則な形態の可能性がある。粒子の形状は、円形、楕円形、三角形、四角形であり得る断面、及び1~10超までの平均縦横比とともに、実質的に球状からより細長い、又は平坦な形状;葉巻様、血小板形、針状又は繊維状の形状に及ぶ。実質的に円形の粒子の利点は、組成物の等方性の特性であるが、他方細長い形状は、より優れた機械的特性を備える組成物を生じさせる可能性があるが、これは前記粒子の配向性に左右されることが多い。実施形態では、ポリマー組成物は、様々な形状の粒子の混合物を含む。
【0064】
実施形態では、粒子は、一般に粒径に伴って向上する、流動挙動及び投与挙動のような操作性として、少なくとも0.10、0.15、0.20、0.25若しくは0.30μmのD50サイズを有する。ポリウレタンにおける分散性及びポリマー組成物の機械的特性を考えると、粒径は、最大で5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、2.5又は2.0μmである。組成物中の粒子は、さらにまた、例えば組成物の密度及び剛性又は強靭性のような機械的特性を最適化するために、前記範囲の下端にあるサイズと上端にあるサイズを有する粒子の混合物のような様々なサイズの混合物であり得る。
【0065】
実施形態では、ポリマー組成物は、生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン及び15~70質量%の遷移金属化合物、好ましくはジルコニアの粒子を含む無機粒子を含有する。相当に大量のそのような粒子は、本組成物から製造されたパーツの剛性、例えば引張弾性率及び放射線不透過性を強化するであろうが、本組成物の伸展性及び強靭性を悪化させる可能性がある。さらに、組成物を製造するための配合中のせん断に起因するポリマー分解は、大量の粒子によって増強される場合がある。したがって実施形態では、本組成物は、少なくとも20、25、30、又は35質量%及び最大68、66、64、62、60、58、56、54 52、50、48又は46質量%の無機粒子を含有する。
【0066】
ポリマー組成物は、さらに様々な粒子の組み合わせ、例えば、1種以上の、チタニア及び酸化亜鉛のような上記に定義した他の遷移金属化合物粒子を含む他の生体適合性無機粒子、及び/又は粘土、雲母、タルカムなどのような天然鉱物粒子と組み合わせたジルコニア粒子を含有し得る。その他の無機粒子は、典型的には遷移金属化合物若しくは酸化物粒子と類似の粒径範囲及び形状を有する;しかしさらに、例えば球状及び針状又は繊維状粒子の組み合わせを生じさせるために、様々な粒子形状を有する可能性がある。他の粒子は、ジルコニアのように(生体)不活性であり得るが、さらに例えばバイオガラス又は他のシリケート処理バイオセラミックスなどの骨伝導性のような生物活性も示し得る。
【0067】
実施形態では、ポリマー組成物中に存在するジルコニア及び他の無機粒子のような遷移金属化合物粒子の総量の最大で25質量%は、好ましくは最大で20、15、10又は5質量%の他の無機粒子によって形成される。
【0068】
さらなる実施形態では、ポリマー組成物は、文献に報告された、及びそのようなポリウレタン組成物の製造後に観察される(実験を参照されたい)ような分解が増強されるとの観点から、ハイドロキシアパタイトのようなリン酸カルシウムをベースとする粒子を実質的に含まない。より一般的には、実施形態では、本組成物は実質的にポリウレタンの(加水分解性)分解を開始又は強化する可能性のある無機粒子又は他の化合物を含まないが、それはそのような粒子又は化合物がそのような分解を促進する反応性基を含む、又はそのような吸湿特性を有するので、それらを例えば250、150若しくは100ppm未満などの十分に低含水量まで適切に乾燥させることができないからである。
【0069】
他の態様では、本発明は、上述のようなポリマー組成物を製造する方法であって:それらの全ての変形及び好ましい実施形態並びにそれらの組み合わせを含めて:
・最大で300ppmの含水量を備える生体内安定性の熱可塑性ポリウレタンを提供する工程;
・生体適合性の遷移金属化合物を含み、最大で250ppmの含水量を有する無機粒子を提供する工程;
・任意選択的に、無機粒子を機械的又は化学的に処理する工程;
・任意選択的に、最大で250ppmの含水量を有する他の化合物を提供する工程;及び
・ポリウレタン、無機粒子及び他の化合物を混合する工程、を含む方法を提供する。
【0070】
ポリマー組成物を製造する方法は、例えば、溶媒支援混合プロセス又は溶融混合プロセスを使用することによる、当業者には公知である様々な混合装置及びプロセスを使用することができる。一般に、ポロウレタンポリマー及び任意の遷移金属化合物、ジルコニア又は他の無機粒子及び/又は添加できる添加剤のような他の化合物は、公知の方法を使用して混合する前に完全に乾燥させられる。典型的には、上述した、全ての変形及び好ましい実施形態を含むポリウレタンは、最大で300ppm、好ましくは最大で250、200又は150ppmの含水量を得るために、その軟化点又は融点未満の温度で、数時間、例えば、4~30時間にわたって乾燥させられる。上述した、全ての変形及び好ましい実施形態を含む無機粒子は、最大で250ppm、好ましくは最大で150又は100ppmの含水量を得るために、長時間にわたり相当に高い温度で、例えば20~40時間にわたり100~200℃で乾燥させられ得る。
【0071】
実施形態では、本方法は、生じるポリマー組成物の特性を強化するために、(乾燥した)無機粒子を機械的又は化学的に(予備)処理する工程を含む。実施形態では、機械的に処理する工程は、任意選択的に補助成分の存在下で、粒子をミリングする、又はグラインドする工程を含む。そのような補助成分は、それぞれが生体適合性でポリウレタンと適合する、低粘度若しくは低粘性の液体、分散助剤及び/又はポリマーであってよい。そのような処理は、粒子の凝集体を破壊する及び/又は分散を強化するための音波処理を用いて促進され得る。そのような機械的処理工程は、無機粒子を含む粉末、分散剤、ペースト又は固体組成物を生じさせることができ、それらの使用は、その後の混合工程におけるポリウレタン中の粒子の改善された分散レベルを生じさせ得る。処理した無機粒子は、最大で250ppmの所望の水分レベルに達するように乾燥させることができる。
【0072】
さらなる実施形態では、本方法は、粒子の表面での官能性基のタイプ及び量;及びそれとともに粒子のポリウレタン中の分散性及び/又はポリウレタンへの界面接着を変化させるために、(乾燥した)無機粒子を化学的に処理する工程を含む。この処理は、コロナ処理、プラズマ処理、及び/又は湿式化学処理を含み得る。コロナ若しくはプラズマ処理自体が、当業者には公知であるように粒子の表面を就職することができるが、さらに湿式化学的修飾と組み合わせることができる。湿式化学処理では、粒子は、典型的には最初に好適な溶媒中に分散させられ、次に試薬が、一般に粒子に対して5~300質量%の量で添加される。分散は、粒子の凝集体を破壊するために音波処理を用いて促進することができる。好適な試薬は、例えば、アルキル、アミン、カルボン酸若しくは過酸化物官能基、又はシラン化合物である。例としては、二酸化炭素、酸素、不飽和炭化水素、アルキルアミン、カルボン酸、及び様々なアミン官能性及び/又は3-アミノプロピルトリエトキシシランのようなアルコキシ官能性シランが挙げられる。そのような化合物は、当該技術分野においてはカップリング剤とも呼ばれる。ポリマー組成物の目的とされる医学的使用を考慮すると、触媒のような他の成分の添加は、除外されるのが好ましく、溶媒は、予備処理後には実施的に完全に除去され、水分レベルは最大で250ppmにされる。当業者であれば、一般的知識及び任意選択的に一部の日常的実験に基づいて、試薬及び好適な処理条件を選択することができるであろう。
【0073】
実施形態では、ポリマー組成物のための上述した他の化合物が提供されてよいが、それらの化合物は、最大で250ppmの含水量を有する。他の化合物の例としては、生物活性化合物、安定剤及び混合中のTPU内の無機粒子の分散を補助する化合物が挙げられる。
【0074】
実施形態では、生体内安定性ポリウレタン及び15~70質量%の無機粒子を含むポリマー組成物を製造するための方法は、ポリウレタンの合成中に乾燥した粒子又はそのような粒子を含む乾燥したマスターバッチを添加する工程を含む。例えば、そのような添加は、第1工程-重合反応の前に、例えば、液体、出発化学薬品と混合することによって、又は第2工程-重合中に、例えば第2の重合工程前又は重合工程中に粒子をプレポリマーと混合することによって実施することができる。
【0075】
他の実施形態では、生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン及び無機粒子を含むポリマー組成物を製造するための方法は、重合したポリウレタンを提供する工程及び溶媒支援混合工程を使用する工程を含む。例えば、最初にTHFのようなポリマーのための優れた溶媒中の乾燥したポリウレタンの溶液が作製され、その後に液体中、好ましくは同一の優れた溶媒中に乾燥した無機粒子又は事前に分散させた無機粒子と混合する工程が行われる。実施形態では、生体適合性分散剤は、無機粒子を均質に分散させるのに役立つように、任意選択的に添加することができる。ポリウレタンの濃度及び混合物中の粒子の量に依存して、液体分散剤又はペースト様混合物を入手することができる。その後の工程では、溶媒は、好ましくは高温及び/又は減圧下で、蒸発のような公知の方法によって除去することができる。得られた固化したポリマー組成物は、次に圧縮成形又は射出成形のような成形工程において使用するために、例えば切断又は研磨することによって好適な形態に作成することができる。そのような溶媒支援混合法の利点としては、相当に低いせん断力及び低温、つまりポリマー分解のリスクが低いこと、及びそれを操作できる相当に小規模が挙げられる。
【0076】
さらなる実施形態では、ポリマー組成物を製造する方法は、配合とも呼ばれる、成分をポリウレタンの軟化点又は融点を超える温度で、バッチ型ミキサー又は一軸若しくはニ軸スクリュー押出機などの連続式ミキサーのような公知の装置を使用して溶融混合する工程を含む。任意選択的に、粒子の分散を強化するために、溶融混合の前又は溶融混合中に生体適合性湿潤剤又は分散剤を添加することができる。溶融混合前に、ポリウレタン及び粒子は、上記で指摘したように、溶融中及び混合中の加水分解性分解を最小限に抑えるために、完全に乾燥させられる。同様の理由のため、溶融混合装置及び混合条件は、組成物の温度ができる限り低く維持されるように選択される。実施形態では、ポリマー組成物は、過熱及びポリマー鎖切断又はモル質量の低減を最小限に抑えながらポリウレタン内の無機粒子の適正な分散のために十分なせん断若しくはトルクを生じさせる、スクリューの構成、スクリュー速度、押し出し量及び温度設定のような条件を適用しながら、ニ軸スクリュー押出機上で乾燥した成分を混合する工程によって製造される。実施形態では、押出機のバレルの温度設定は、最大で210℃、好ましくは約205又は200℃である。そのような条件下でポリウレタンを乾燥した粒子と溶融混合する工程がより優れた分散及びハイドロキシアパタイト及び酸化ビスマスのような同一の熱可塑性ポリウレタンについて見出されるよりも有意に低いポリマー分解を生じさせることが観察された。
【0077】
実施形態では、それから整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造できるポリマー組成物中のTPUは、少なくとも70kDaの質量平均モル質量(若しくは重量平均分子量)Mwを有する。モル質量及びモル質量分布は、典型的には実験の部で記載するように、GPC法を用いて測定される。本開示においては、ISO用語の「質量」及び「モル質量」は、今も一般に使用される用語「重量」及び「分子量」よりもむしろ一般に使用されることに留意されたい。TPUと無機粒子を(溶融)混合する工程によって製造されるポリマー組成物から製造されたパーツは、組成物中のTPUがそのような最小モル質量を有する場合は、所定の強度又は破断点伸びのような所定の最小所望特性を示すことが見出されている。好ましい実施形態では、組成物中のTPUは、少なくとも75、80、85、90、95若しくは100kDaのモル質量Mwを有する。本組成物を製造するために使用されるTPUのモル質量Mwもまたそのような最小値を満たすが、典型的にはより高い;それでも好ましくはその溶融粘度が無機酸化物粒子との加工処理及び混合を妨害するであろうほどは高くない;これはさらに、得られる組成物中のTPUのモル質量も制限する。実施形態では、製造されたポリマー組成物中のTPUは、加工性及び機械的特性のバランスの取れた組み合わせを生じさせるために、最大で400、300、250、又は200kDaのモル質量を有する。
【0078】
実施形態では、ポリマー組成物は、成形時に乾燥させたサンプル上で20℃で測定して、少なくとも800Mpa、好ましくは少なくとも850若しくは900Mpa、及び最大で3000、好ましくは最大で2500、2000、1800又は1600Mpaの弾性率を有する。又は、ポリマー組成物は、インプラント内でのその標的とする使用中の生物学的条件をより良好に模倣する、湿潤状態調節下のサンプル(37℃の水中)上で測定して、少なくとも200若しくは少なくとも225Mpa、及び最大で700、好ましくは最大で600、550、500若しくは450Mpaの弾性率を有することを特徴とする。何らかの理論に拘束されることを望まなくても、本発明者らは、インプラントの骨固定パーツがより耐久性の結果を得るためには、周囲の骨組織の機械的特性、特に剛性又は弾性率を模倣すべきであると考える。この点において、本発明者らは、インプラントの骨固定パーツが、骨の軟骨下の硬質層及び骨の硬い外層各々を形成する、軟骨下骨又は皮質骨とよりもむしろ海綿骨(小柱骨又は海綿骨質とも呼ばれる)と主として接触するであろうこと;硬い外層及び骨の硬質外層と接触するであろうことに注目した。例えば、固定パーツが前記レベルを下回る弾性率を有する場合は、インプラントと周囲の骨との間の微動が、所望の直接的接合の代わりに線維組織界面の形成を誘導する可能性がある。インプラントパーツが高すぎる弾性率を有する場合は、応力遮蔽が発生し得る;その場合には、インプラント上、例えば軟骨置換キャップ上への荷重は、周囲骨組織に荷重をかけずに、主としてインプラント自体全体に伝播され得る。骨に荷重がかからない場合は、骨は荷重を受けずに領域内で再構成及び/又は再吸収され得る;最終的にはインプラントの緩みを生じさせる。インプラントの剛性が低すぎる場合は、インプラントは、荷重がかけられると変形又は損傷し得る。さらに、本ポリマー組成物は、未充填ポリウレタンのような低剛性材料と比較して、低減したクリープ変形及び可塑性変形を示す;これはインプラントのより良好な安定性に寄与する。
【0079】
実施形態では、及び上記の段落に類似して、ポリマー組成物は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10、20、30、40若しくは50%の引張試験中の破断点伸び(Eab;乾燥時/20℃)、又は少なくとも10、20、30、40若しくは50%のEab(湿潤時/37℃)を示す。実施形態では、ポリマー組成物は、少なくとも30、35若しくは40Mpaの破断点引張強度(TS;乾燥時/20℃)、又は状態調節後に少なくとも15、20若しくは25MPaのTS(湿潤時/37℃)を有する。海綿骨のそれらと同一指標で状態調節された状態にある本組成物のそのような剛性及び強度の特性は、本組成物から製造されたインプラントとそのような生体組織との経時的な適合性及び接着を強化することが見出された。それはさらに、組織を損傷させるリスクを低く抑えて、金属から製造されたより剛性のインプラントと比較して、骨穴内へのインプラントの挿入を容易にする、又は改善する。さらに、ポリマー組成物から製造されたインプラントは、移植後だけではなく移植中の力に抵抗できるほど十分に強いことが見出されている。例えば、整形外科医によって適用される典型的な移植手技は、欠損した軟骨部位でハンマー及びさらに浸透深さを制限する可能性があるディレクショナルガイド及び典型的には彼の知覚の反応性(ハンマリング中の音響の変化に気づくなど)を使用して、骨内に穿孔された穴の中にインプラントを挿入及び圧入する工程を含み得る。
【0080】
実施形態では、ポリマー組成物は、76~85ShD、典型的には78~82ShD(乾燥時/20℃)のショア硬度を有する。
【0081】
さらなる態様では、本発明は、整形外科用インプラント及び整形外科用インプラント、特にその骨固定パーツを製造する際の、全ての特徴、実施形態及びそれらの組み合わせを含む、上述した生体内安定性の熱可塑性ポリウレタン及び15~70質量%の無機粒子を含むポリマー組成物の使用に関する。そのような使用の例としては、射出成形プロセス、特に本組成物から骨固定パーツを成形する工程を含むそのようなプロセスを用いて形成されたインプラントが挙げられる。
【0082】
また別の態様では、本発明は、整形外科用インプラントを製造する、又は整形外科用インプラントの骨固定パーツを製造する方法であって、整形外科用インプラント又は整形外科用インプラントの骨固定パーツを上記に規定した本発明のポリマー組成物から成形する工程を含む、射出成形プロセスを用いてインプラントを形成する工程を含む方法に関する。そのような成形プロセスは、一般に、平均的技量を備える当業者には公知である。
【0083】
ポリマー組成物の使用及び/又は整形外科用インプラント又はインプラントの骨固定パーツを製造する方法は、プラグ、スクリュー又はインプラントのパーツを骨に、例えば縫合糸、人工靭帯若しくは腱、半月板、寛骨臼唇置換器具又は軟骨置換パーツなどの結合又は固定に使用できる他のパーツに関する可能性がある。実施形態では、そのようなさらなるパーツは、骨固定パーツ及び軟骨置換パーツのようなインプラントの一体部分を形成する可能性がある、又は縫合糸のように着脱可能に結合され得る。
【0084】
実施形態では、使用及び/又は方法は、骨固定パーツ及び軟骨置換パーツのような少なくとも2つのパーツを含むインプラントを製造することを含む。軟骨置換パーツは、典型的には、ポリエステル、ポリアミド又はポリウレタンをベースとするハードセグメントを備えるセグメント化ブロックコポリマーなどの弾力性且つ耐摩耗性の生体適合性材料から製造される。実施形態では、軟骨置換パーツは、好ましくはポリマー組成物のTPUと化学的に類似するハードブロック及びソフトブロックを含む、生体内安定性の弾力性熱可塑性ポリウレタン(TPU)から製造される。実施形態では、使用及び/又は方法は、軟骨置換パーツが、硬度55~100ShAの生体内安定性の弾力性の熱可塑性ポリウレタンから製造されるインプラントを製造する工程を含む。骨固定パーツ及びインプラントのさらなるパーツの両方のためにTPU材料を使用する利点は、これら2つのパーツが接着性の一体型パーツを有する製品を形成するために、例えばインサート成形法を適用することにより、又は2成分成形法によって射出成形され得ることである。
【0085】
実施形態では、使用及び/又は方法は、そのパーツが実質的にポリマー組成物からなるインプラントの骨固定パーツを製造する工程を含む。骨固定パーツは、平滑な外表面又はテクスチャー加工表面を有し得、及び任意選択的に、例えば身体組織との相互作用に影響を及ぼすために、表面コーティングが提供されてもよい。
【0086】
実施形態では、使用及び/又は方法は、骨固定パーツ及び軟骨置換パーツを含む整形外科用インプラントを製造する工程を含み、本方法は、骨固定パーツを形成するために軟骨置換パーツの形態にあるインサートを含む金型内に本発明のポリマー組成物を射出成形する工程を含む多成分射出成形プロセスによりインプラントを形成する工程を含み、その後の金型からインサートを取り除く工程、及び骨固定パーツ上に軟骨置換パーツを形成するためにポリマー組成物が部分的に充填された金型内に弾力性且つ耐摩耗性の生体適合性TPU材料を射出する工程を含む。異なるポリマーグレードから多成分成形技術によってインプラントを製造することは、当該技術分野において公知である。例えば、国際公開第2011/098473A1号パンフレットは、半月板又は脊椎円板インプラントのような、それぞれが異なる、しかし化学的には関連している、異なるTPUグレードのポリマー材料を含む2つ以上の別個の区間を有する整形外科用インプラントを製造することについて記載している。
【0087】
さらなる実施形態では、使用及び/又は方法は、移植後の周囲の骨組織との相互作用を強化するために、少なくとも1、3又は5μmの表面粗さを備える表面などのテクスチャー加工表面を有する骨固定パーツを製造する工程を含む。そのような表面粗さは、組成物からのパーツの製造中又は製造後に導入され得る。実施形態では、そのようなパーツは、例えば、一般に産業界で使用されるVDI3400スケールによって規定される、所定の表面テクスチャーを有する金型を適用することによって製造される。そのようなテクスチャー加工表面を有する骨アンカーを備えるポリマー製インプラント及びそれを製造する方法の例については、国際公開第2019/068903A1号パンフレットを参照されたい。さらなる実施形態では、インプラントの骨固定パーツは、少なくとも6、8、10、12、14、16、18若しくは20μm及び最大で25μmの表面粗さRaを有する。
【0088】
他の実施形態では、使用及び/又は方法は、表面コーティング;例えば組織との相互作用をさらに促進するための生物活性コーティング、好ましくは骨伝導性コーティングを備えるインプラントの骨固定パーツの(平滑又はテクスチャー加工)表面を提供するさらなる工程を含む。インプラントの骨固定パーツ上には、有機及び無機両方の生物活性材料をベースとする、及び当該技術分野において記載されているような様々な生物活性若しくは骨伝導性コーティングを適用することができる。
【0089】
さらなる実施形態では、使用及び/又は方法は、そのパーツに骨伝導特性を誘導するために、ポリマー組成物から製造された骨固定パーツの表面の少なくとも一部に生物活性セラミックス粒子を提供する工程を含む。ポリマー組成物から成形された骨固定パーツの表面に生物活性コーティングを提供する好適な方法は、国際公開第2019/068903A1号パンフレットに記載されているように、表面の少なくとも一部をポリマー組成物に含まれるポリウレタンのための溶媒中で生物活性セラミック粒子の分散液を用いて処理する工程を含む。
【0090】
好適な生物活性セラミック粒子としては、例えば、周囲の体液との相互作用又は化学反応を通して生物活性骨様アパタイトの形成によって、生体骨への直接的に接着する能力を示す全ての無機材料が挙げられる。好適な材料の例としては、様々なリン酸カルシウム、いわゆるバイオガラス及びその他のシリカをベースとするセラミックス(いわゆるシリカ被覆セラミックス)が挙げられる。そのような用途のために、リン酸二カルシウム無水物(CaHPO4;DCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO4.2H2O;DCPD)、リン酸オクタカルシウム(Ca8(HPO4)2.5H2O;OCP)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2;TCP)、及びハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;HA)のような様々なタイプのリン酸カルシウムが記載されてきた。さらに、HA及びTCP又はHA及びバイオガラスの混合物のような異なるタイプのブレンドも適用することができる、又は利点さえ示し得る。セラミック粒子は、さらにそれらの主要構成要素に加えて、粒子の特定の特性を改善し得る、Si、Na、Mg、Fe、Zn、Ti、Ag、Cu若しくは-SO4、又は-CO3のような少量又は微量の他の(無機)元素若しくはイオンを含む。
【0091】
商業的Bioglass(登録商標)製品を含む用語「バイオガラス」は、組織と適合性の表面反応性ガラスフィルムを有する;及び医療用及び歯科インプラントにおける表面コーティングとして使用され得る、混合無機酸化物若しくはシリカ被覆セラミックスを指す。例えば、Bioglass(登録商標)45S5グレードは、45質量%のSiO2、24.5質量%のCaO、24.5質量%のNa2O、及び6.0質量%のP2O5から構成されるガラスであると述べられている。この材料中のカルシウム対リンの高い比率は、アパタイト結晶の形成を促進するであろう;カルシウムイオンとシリカイオンは、結晶化核として機能し得る。ガラスは、一般に少量の他の無機元素を含むシリカをベースとする材料から構成される、非結晶状の非晶質固体である。
【0092】
一実施形態では、生物活性セラミック粒子は、0.1~10μmの範囲内の粒径を有する。粒径及び粒径分布は、SEM若しくは光学顕微鏡を用いて、又は(レーザー)光屈折技術を用いて測定され得る。本開示の範囲内では、例えば、Malvern Mastersizer 2000を用いてISO 13320:2009に従った光屈折法によって測定されるD50値が、バイオセラミック粒子の粒径であると規定されている。この粒径は、特に重要であるとは思われないが、体液及び細胞と相互作用する際にはより大きな粒子がより効果的な可能性がある。操作性を考えると、少なくとも200nm、又は少なくとも300、400、若しくは500nmの粒径を有するセラミック粒子が好ましい。さらなる実施形態では、インプラントは、骨固定パーツの表面で、最大で10、8、6、5、4、3、2μm、又は最大で1μmの粒径を有するセラミック粒子を有する。
【0093】
実施形態では、ポリマー組成物及び/又は骨固定パーツ及び軟骨置換パーツを含む整形外科用インプラントを製造する方法は、実質的に軸対称を有するインプラント又は少なくとも1パーツが実質的軸対称を有するインプラントのような、当該技術分野において提案された様々な形態若しくは形状のインプラントに関する。斜め上面図を示している
図1の単純化図面によって略図で示した、例示的な相当に単純な実施形態では、インプラント1は、実質的に一定の直径を備える円筒形状であり、ここで円筒形の大きな区間3は骨固定パーツを表し、軟骨置換パーツは円筒形の1つの末端での区間(又は層)2である。円筒の直径は、5~20mm、10~18mm、12~17mm、又は典型的には約15mmであってよい。或いは、実質的な円筒形態は、ある程度のテーパリングを示し得るが、軟骨置換パーツ若しくは層は、骨固定パーツの最小直径より最大で10%大きい直径を有する。わずかにテーパリングされた骨固定パーツは、それがその中で製造される金型からパーツを離型する際だけではなく、骨穴にそれを配置して、移植後に骨との接触を保証する際にも有益であることが見出されている。固定パーツの縦方向と比較して、外側は、1~5°、好ましくは少なくとも1.5、若しくは2.0°及び最大で4.5、4.0、3.5若しくは3.0°のテーパリングを示し得る。軟骨置換パーツ、又は少なくともその上面は、実質的に平坦であってよい、又は湾曲していてよい、若しくはその中にそれが移植される連接型関節の湾曲を模倣するように形成されていてよい。実施形態では、軟骨置換術のための整形外科用インプラントの軟骨置換パーツは、実質的に一定又は一様な厚みのものであるが、その厚みは、好ましくはそれが置換する軟骨;例えば、そのパーツが弾力性層としても機能する骨固定パーツ上の材料の層と同一範囲内にある。
【0094】
他の実施形態では、インプラント1は、基本的な軸対称を有し得、及び異なる直径を有するキャップ及びステムを備えるマッシュルーム様形状を有し得る。
図2A及び2Bに示した単純化した図面は、そのようなマッシュルーム様インプラントの斜めの上面図及び側断面図を略図で示している。ステム3bは、実質的に一定の直径又はわずかにテーパリングを備える円筒形であり、キャップの下方区間3aとともに骨固定パーツ3を形成している。その縦方向と比較して、ステムの外側は上述したように1~5°のテーパリングを示し得る;ここでステムの直径は、キャップから下端部に向けてわずかに減少する。骨固定パーツ3を形成する両方の区間3a及び3bは、本開示において記載されている、同一ポリマー組成物から製造されている。キャップの上部区間(若しくは層)2は、例えば、硬度が55~100ShAの弾力性のTPUから製造された軟骨置換パーツを表す。ステムの直径は、約5~15mm、典型的には約6~10mmであってよい;及びキャップは約5~25、10~20、12~18、又は約15mmの直径を有し得る。実際に、典型的には(特にキャップの)サイズが様々な一連のインプラントは、治療対象の患者に依存して好適なインプラントの選択を可能にする、例えばキットの一部として製造され得る。軟骨置換パーツ2、又は少なくともその上面は、湾曲していてよい、又はその中にそれが移植される連接型関節の湾曲を模倣するように1つ以上の方向に形成されてよい。実施形態では、軟骨置換術のためのそのような整形外科用インプラントの軟骨置換パーツは、実質的に一定の厚みの層であり、その厚みは、好ましくはそれが置換する軟骨層と同一範囲内にある。骨固定パーツの区間を形成するキャップ3aの下側は、基本的には平坦であり;好ましくはステムに丸みを帯びた縁及び丸みを帯びた移行部を備える。同様に、ステムの底部縁は丸みを帯びている(
図2における単純化した図面には示していない)。一般に、応力集中を排除するために、鋭い辺縁及び移行部は排除される。移植されると、骨穴は、プラグのステム3bの直径と同一、又はわずかに小さい直径から形成されるが、他方損傷した軟骨はそのような直径及び深さで骨組織が露出するように、好ましくは区間3aの側面及び下面が挿入時に患者の骨組織と接触するように、同様にステム3bの表面が海綿骨と接触するように除去される。軟骨置換パーツ2は、次に好ましくはその側面で天然軟骨(及び、パーツ2の上面を備える関節内の対向する骨の軟骨表面)とのみ接触することになるであろう。
【0095】
他の実施形態では、ポリマー組成物の使用及び/又は整形外科用インプラントを製造する方法は、全体として軸対称を有していないが、例えばシャム双生児(Siamese twins)のように、部分的に一緒に融合している上記で考察したパーツに類似して、軸対称を備える2つの類似するマッシュルーム様インプラントパーツを含むと考えることができる。輪郭が形成された上面及び2つの実質的に同一の円筒形若しくはテーパリングされたステムを備える、実質的に卵形若しくは楕円形のキャップを含有するそのようなインプラントの例は、
図3に略図により示した。ここで実質的に一様な厚みを有するキャップの輪郭が形成された上層2は、軟骨置換パーツを形成し、キャップ3a及び2本のステム3b’及び3b’’は、一緒に骨固定パーツ3を形成する。
【0096】
さらなる実施形態では、使用及び/又は方法は、例えば骨固定パーツ及び軟骨置換パーツの界面でなどの、インプラント内の配向マーカーを含む工程をさらに含み得る。例えば、マーカーは、成形中に骨固定パーツの上面に凹んだ、又は突き出たライン若しくはポインターを含み得る、又はポリマー組成物を射出する工程と、軟骨置換パーツ形成する生体適合性材料を金型内に射出する工程との間に金型内に小さな細長い物体を配置することによって骨固定パーツを形成することができる。そのようなマーカーは、未充填TPUから製造された場合は、透明若しくは半透明の軟骨置換パーツを通して視認することができ、移植部位で所望の配向を備える完全軸対称を有していないインプラントの配置を可能にする。配向マーカーは、移植中及び移植後のプラグの配向の可視化もまた可能にするために放射線不透過性であり得る。例えば、骨の湾曲により良好に適応するために2つ以上の輪郭半径を備える表面を有する軟骨置換パーツを備えるインプラントの場合には、整形外科用インプラントは、長さの短い細い金属線又は金属片のような相当に小さな放射線不透過性の細長いマーカー、又は小さなマーカー粒子の列をさらに含有し得る。そのような放射線不透過性の配向マーカーは、例えば、一片のタンタル線のような約2~6mmの長さを有し得る。実施形態では、そのような配向マーカーは、骨固定パーツと軟骨置換パーツとの間の領域内に存在する。そのような配向マーカーは、
図2bにおける線4として示した。したがって外科医は、彼の目及び/又は医学的イメージングを用いてプラグを所望の配向で配置することができる;及びさらに医学的イメージング技術を用いてその位置及びその中の何らかの潜在的変化について術後検査することもできる。
【0097】
さらなる態様では、本発明は、骨固定パーツを含む整形外科用インプラントであって、そのパーツが本明細書に記載した、全ての特徴、実施形態及びそれらの組み合わせを含む本発明のポリマー組成物を含み、及びそのインプラントが上記に記載した本発明の方法によって入手されている整形外科用インプラントに関する。
【0098】
本発明の記載に関連する(特に以下の特許請求の範囲に関連する)用語「1つの(a)」、及び「1つの(an)」、及び「その」並びに類似の使用は、本明細書中に他に示されない限り又は明らかに文脈上相反しない限り、単数及び複数の両方を含むものとして解釈される。「含む」、「有する」、「包含する」及び「含有する」という用語は、特に明記されない限り、非限定的な用語として解釈される(即ち「含むが、限定されない」ことを意味する)。本明細書中の値の範囲の詳述は、単に、範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個々に参照する簡単な方法として役立つように意図され、及びそれぞれの別個の値は、それが本明細書中に個々に記載されるように、明細書中に組み込まれる。他に請求されない限り、本明細書に提供される任意の、及び全ての実施例、又は例示的な言語(例えば、「など」又は「のような」))の使用は、単に本発明をより良好に説明するためにのみ意図されており、本発明の範囲に対する制限を課すものではない。明細書中の言語は、本発明を実行するために本質的な任意の請求されない要素を示すものとして解釈されてはならない。
【0099】
本発明を実行するための本発明者に既知の最良のモードを含む、本発明の好ましい実施形態は、本明細書中に記載されている。それらの好ましい実施形態の変形形態は、上記の記載を読むと、当業者には明らかになり得る。本発明者らは、当業者がそのような変形を適切に使用することを期待し、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明を実施することを意図している。したがって、本発明は、適用法によって容認される、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正形態及び均等物を含む。特定の任意の特徴が本発明の実施形態として記載されるが、この記載は、特に別途示されるか又は物理的に不可能でない限り、これらの実施形態の全ての組み合わせを含み、特に開示するように意味される。
【0100】
以下の実験及びサンプルは、本発明の実施形態をさらに説明するが、もちろん、いずれかの様式において特許請求の範囲を制限するように解釈されてはならない。
【0101】
[実験の部]
[方法]
[モル質量]
サンプルのモル質量及びモル質量分布は、ASTM D5296-11に記載されているように、TDA302トリプル検出器アレイ及び3基のPhenogel(商標)カラム(10μmの10E6A、10μmの10E4A、及び10μmの100A)を装備したViscotek GPCMax VE2001システム上で、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー、又はサイズ排除クロマトグラフィー若しくはSECとも呼ばれる)によって測定した。検出器及びカラムは、80℃で作動させた。ポリマーサンプルは、最大で4時間にわたり70℃で0.05質量%のLiBr及び300mg/lのDHTを含有するDMF中に1.0mg/mlの濃度で溶解させ、0.2μmのPTFE膜に通して濾過した。この溶媒組成物を溶出液としても使用した。モル質量の計算は、EasyCalポリスチレン標準物質を用いて得られた校正曲線に基づき、公知のモル質量を備えるポリウレタンサンプルを用いて結果を調整した。
【0102】
[硬度]
成形サンプルの硬度は、ISO868に従ってZwickショア硬度計3131を使用して測定した(測定時間15秒間、20.9℃/相対湿度51.1%で平均5回の検査)。
【0103】
[引張特性]
引張弾性率、(絶対)引張強度及び破断点伸びは、ISO 527に基づく方法を用いて、2.5kNの空気圧式つかみ具及び温度チャンバを装備したZwick Z010万能引張試験装置上で測定した。射出成形したテストバー(ISO 527の1BA型)は、成形品として乾燥した状態で20℃で及び37℃の水中で状態調節した後に37℃で試験した。成形品として乾燥した状態で測定するためのサンプルは、小さなN2流量を備える80℃の真空オーブンを用いて一晩乾燥させ、シリカゲルを充填した密閉した箱中に保管した。サンプルは37℃に維持した水中にサンプルを浸漬することにより変化が0.1質量%未満になるまで(典型的には少なくとも360時間)状態調節し、24時間毎に質量の増加を測定した。各サンプルは、引張試験機の温度チャンバ内にそれを配置する前の短時間、前記条件で保管した。試験の直前に、サンプルの幅及び厚みを試験片の中央部で測定した。サンプルは、開始位置で54mmのつかみ具間距離をあけたつかみ具に配置した。引張実験を開始する前に0.5Nの予荷重を適用した。サンプルの弾性率は、1mm/分の速度で最初の0.05~0.25%の歪み間に決定した。その後、応力及び歪みの測定は、サンプルが破断するまで50mm/分で、伸びは伸縮計で60%の歪みが測定されるまで実施した。
【0104】
[粒径]
粒径分布及び粒径(D10、D50及びD90)は、ISO 13320:2009に従って、Malvern Mastersizer 2000を用いて水中に分散させたサンプル上で測定した。
【0105】
[結晶化挙動]
示差走査熱量測定(DSC)は、Mettler Toledoの標準熱流束DSCを用いて実施した。約5mg質量のサンプルをペレットから切断し、精密てんびんを用いて計量し、公知の質量の(圧着)アルミニウム製鍋の中に封入した。参照物質として同一の空の鍋を使用した。窒素を50ml/分の速度でパージした。調査対象の材料の熱挙動を数値により特徴付けるパラメータを決定するために、加熱-冷却-加熱サイクルを適用した。適用した温度プログラムは:[1]0.0~70.0℃、10.00K/分;[2]70.0℃、60.00分;[3]70.0~90.0℃、-10.00K/分;[4]-90.0℃、10.00分;[5]-90.0~240.0℃、10.00K/分;[6]240.0℃、2.00分;[7]240.0~90.0℃、-10.00K/分;[8]-90.0℃、10.00分;[9]-90.0~240.0℃、10.00K/分であった。
【0106】
[ポリマー組成物]
[実験1~3]
実験では、MDI、ブタンジオール及びポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールをベースとする、75ShDの硬度及び388kDaの質量平均モル質量Mwを有するポリカーボネートウレタンを、24時間中に80℃で含水量113ppmへ乾燥させた後に使用した。粒径5μmのハイドロキシアパタイト(Merck、バイオセラミックス用のハイドロキシアパタイト)を約2650ppmの水分レベルに達するまで120℃で24時間乾燥させた。
【0107】
ポリウレタン及び充填剤成分は、2基のColortronic LabLineフィーダーを装備し、3mmの開口部1つを備えるダイ・プレートを有するCoperion ZSK Mc18二軸スクリュー押出機上で溶融混合した。ポリウレタン顆粒を取り込みバレルに投入し、HA粉末をバレル2への取り込みサイドフィーダー上にTPU/HAの80/20の質量比で投入した。全てのゾーンの温度設定は、190℃であった。スクリューは、150~200rpmで回転し、押し出し量は約2.5kg/hであり、トルクレベルは50~70%の範囲内である程度変動した。押出条件は、平滑且つ規則的なストランドを生じさせる安定した配合を可能にするために、最大で約200℃の溶融温度が生じるように選択した。押し出したストランドは、2mの全冷却長さを備える水浴中で冷却し、次に電動式ストランドピックアップ及びScheer 50Eペレタイザー(低速で作動させた)を用いてペレットに切断した。
【0108】
押出機は、2kg/hの押し出し量で5~10分間中のポリウレタンを用いた混合実験の前後にすすぎ洗いした。
【0109】
得られたペレットは、ペレットを24時間中に120℃で真空/N2下で乾燥させた後、Xplore IM12マイクロインジェクション成形機上で試験バーに射出成形した。バレル温度は200℃、成形温度は100℃に設定した。少なくとも5分間の溶融時間後、材料は2.2秒間中に10barの射出圧力及び10秒間中に10barの充填圧力で通気式金型内に射出した。
【0110】
引張特性は、成形時に乾燥させた試験片上で室温(20℃)で、並びにインプラント材料として使用される場合の条件を模倣するために湿潤状態の37℃で決定した。
【0111】
表1には、結果を(比較)実験2として要約した。この表には、さらにペレット及び成形試験片上で決定したモル質量データ(Mw)も提示した。
【0112】
実験1は、上記の実験2と同様に射出成形及び試験されたが、成形温度が235℃及び15barの圧力が適用された、未充填ポリウレタンペレット上で実施された参照試験の結果に関する。
【0113】
実験3は、実験 2と同様に実施されたが、押出機に投入されたHAの量は、40質量%であった。
【0114】
表1に要約した引張試験測定結果は、ヒドロキシアパタイト粒子がポリウレタン中の非補強充填剤として作用することを示唆している;乾燥時弾性率は有意には変化せず、引張強度及び伸びは顕著に減少したが、水の取り込みは減少し、特性への作用はほとんど及ぼさなかった(20℃/乾燥時対37℃/湿潤時)。成形バーのショア硬度は、75.7ShD(実験1)~80.2ShD(実験2)へ増加した。GPCの結果は、おそらく溶融加工処理工程中;主として配合工程中のポリマーの分解を誘導する結晶状HA粒子に含有される残留含水量によって誘発される、未充填材料と比較して、モル質量における有意な低下を示している。さもなければ安定性のストランド押し出しが可能ではないために、配合中の溶融温度が200℃未満に維持されなければならないという観察は、そのような説明を支持するであろう。
【0115】
[実験4]
実験2及び3の配合手法に類似して、HAの代わりに、24時間中に120℃で153ppmの含水量に乾燥させた、粒径4μmの酸化ビスマス粒子(Bi2O3)(D50;5N Plus Productデータシート(Helos/Rodos)を使用した。加工処理条件における様々な変化を試したが、安定性の加工処理が出現するのが不可能になった時、及び/又は押出物の発泡及び変色が観察された時点に実験を停止した。これは、おそらくポリウレタンの過剰な分解によって誘発される。この材料を用いたそれ以上の実験は、実施しなかった。
【0116】
[実験5~6]
これらの実験では、一次粒径が0.04μm(Tosoh社のパンフレットによる)の自由流動粉末である酸化ジルコニウムTZ-0(Tosoh Europe BV))を配合中のポリウレタンに充填剤として添加した。サンプルは24時間中に120℃で乾燥させ、実験2及び3の手法を適用して同一の75ShDのポリウレタンと配合した。バレルの温度を200℃に設定し、スクリュー速度を300rpmに上昇させることによって、配合中のストランド破断が防止され、粒径分布が改良されるように思われた。トルクのレベルは60~70%に制限され、溶融温度は最大で212℃であった。粉末の投与挙動は極めて良好であったが、押出ストランドにおいて厚-薄の変動が観察され、これは粒子が良好に分散していないことを示唆している。
【0117】
20及び40質量%の荷重でのこれらのジルコニア粒子の添加は、強度の低下を生じさせる;40質量%の荷重では、組成物は脆性ですらある。これは、ポリウレタンマトリックス内の凝集した一次粒子の不十分な分散によって誘発される可能性が高い。分散性を強化するためには、及び機械的特性を改善するためには、粒子の前処理及び/又は分散剤の添加を適用することができる。
【0118】
[実験7~8]
実験5~6と同一の条件及び手法を適用して、酸化ジルコニウムTZ-Y3-E(Tosoh)を含む75ShDのポリウレタンの組成物を製造した。このジルコニアグレードTZ-Y3は、3モル%のイットリウムを含有しており、(一次)粒径が0.04μmの自由流動粉末としても市販されている。加工処理は、TZ-0粉末について観察されたものと類似であった。純粋ジルコニアグレードの場合と同様に、ポリウレタン組成物は、特に60質量%の荷重では、引張試験中に脆性破損を示す傾向が見られた。決定して
図6に示したTZ-0及びTZ-Y3グレードの粒径分布は、実際の粒子がそれらの一次粒子よりはるかに大きく、最大値はそれぞれ約60及び50μmであり、より小さな最大値が約1μmであることを確証している。これは再び、これらの粒子がポリマーと混合する前に前処理及び/又は(部分的に)脱凝集化されていれば、及び/又は混合中に分散助剤が添加されていれば、観察された加工処理及び脆性問題が克服され得ることを示唆している。さらに、使用した小型の実験室規模の装置ではなくより高い出力を可能にする混合装置を適用することもまた分散を強化する可能性がある。
【0119】
[実験9~11]
これらの実施例では、Sigma Aldrichから入手した医療用グレードの酸化ジルコニウム(本明細書では、ZrO/SAと記す)は、24時間中に120℃で乾燥させた後に使用した。これらの粒子は、約1.8μmの粒径D
50を有することが見出された;これは
図6に示したような、上記の実験5~8において使用した粒子について見出された粒径よりはるかに小さい。配合は、同様に実施したが、乾燥させて、いくらか粘性の粉末の適正な投入を保証するために、フィーダー内で幾つかの追加の混合素子を使用した。安定性プロセスにおいてポリマーストランド及び顆粒を作製した。製造した組成物は、ジルコニア荷重に伴う引張弾性率の増加(20、40及び60質量%)を示したが、引張強度及び伸びは低下した。全サンプルは、骨アンカーを製造する際の組成物を使用するためには(状態調節状態においても)好適であろう引張特性プロファイルを示している。ジルコニアの添加は、硬度を75.7ShD(実験1)~81.1及び80.2ShD(実施例10及び11)へ増加させた。
【0120】
GPCの測定値は、溶融加工処理後、特に配合中のモル質量の低下を示している;しかしこれらの低下は、HA粒子を含む組成物について観察された低下より有意に小さいと思われる。未充填ポリウレタンは、射出成形後のより高いモル質量を示している;しかしこの材料は、先行する配合工程を受けていなかった。
【0121】
選択したサンプルの結晶化挙動を従来型DSCを用いて調査した;関連する結果(温度及びエンタルピー(J/g(サンプル)))を表2にまとめ、実験1及び9-10-11についてのDSC曲線を
図7に示した。組成物TPU/HA 80/20(実験2)については、結晶化は参照ポリウレタンのための温度より高温での冷却中に開始すると思われ、これは分解したポリウレタンの低モル質量及び/又はハイドロキシアパタイト粒子のある程度の核形成作用に関連する可能性がある。他方では、特に大量の充填剤粒子について見られる結晶化及び溶融ピークの広がりは、ポリマー結晶化の妨害(速度を下げる)を指摘するであろう。ジルコニア粒子を含む組成物は、冷却における核形成作用及び再加熱スキャンにおけるより高い溶融温度を示す。
【0122】
【0123】
【0124】
[軟骨プラグ]
図2A~Bに示したマッシュルーム様形状を有するプロトタイプの軟骨プラグは、2パーツ金型を含有する金型ホルダーパーツを用い、2成分成形を可能にするために1セットのインサートを適用して、ベンチトップ型Xplore IM12マイクロインジェクション成形機上で作製した。
【0125】
使用した材料は、60質量%のジルコニア(実験11)及び硬度が80ShAの未充填の末端基修飾ポリカーボネートウレタン(Bionate(登録商標)II 80A;DSM Biomedical BV,Sittard-Geleen,NL)を含むTPU組成物であった。材料は、使用前にそれぞれ120℃で24時間中又は80℃で72時間中、真空/窒素ガスフラッシュ下で乾燥させた。
【0126】
異なる金型のパーツは一緒に、次の基本的寸法:長さ6.5mm、直径6.1mm、及び45℃の角度で丸みを帯びた下端部を備えるステム区間;直径10.1mm、2つの半径11及び18mmを備える相互に矩形の輪郭の上面、3.5mmの総キャップ高さを備える、その下方1.0mmが剛性ポリマー組成物から製造されたステムへ結合するキャップ区間を備えるインプラントパーツを定義する。全てのその他の辺縁は、半径0.5mmで丸められた。ステム区間を定義する金型パーツは、粗さVDI3400 36を備えるテクスチャーを生じさせるためにエッチング加工された。
【0127】
第1工程では、ポリウレタン/ジルコニア組成物は、210℃のバレル温度、80℃の金型温度、2.2秒間中の10barの射出圧、及び10秒間中の充填圧を適用して、キャップ区間内にインサートを含む金型に射出された。次にインサートが金型から取り外され、キャップの18mm半径を用いて配向された、250℃に設定したホットプレート上で予備加熱された長さ4mmのタンタル線が射出表面上の金型内に配置された。引き続いて、弾力性のポリウレタン材料が、キャップのトップ区間を形成するために、2.2秒間中の235℃のバレル温度、80℃の金型温度、12barの射出圧及び10秒間中の12barの充填圧を適用して射出された。
【0128】
成形されたプラグは、ステム及びキャップの下側をTHF中のBCP粒子(二相性リン酸カルシウム;Cam BioCeramics)の分散液でコーティングし;サンプルを風乾させ、エタノールを用いた複数回の(50℃の減圧下で)すすぎ洗及び乾燥することによりバイオセラミック粒子を用いて官能化した。本発明によるこれらのプラグは、プラグI)と指定した。
【0129】
上記の手法に類似して、プラグは対応する未充填材料から、即ちステム区間は75ShDの硬度のポリカーボネートウレタン(Bionate(登録商標)75D;DSM Biomedical BV,Sittard-Geleen NL)及びキャップ区間はBionate(登録商標)II 80A材料から成形した。これらの未充填プラグは、下記ではプラグUと呼ぶ。
【0130】
さらに、ポリマー製プラグに対応する形状及び寸法を備える金属製プラグを製造したが、この場合、ステムパーツはチタンから、キャップパーツはコバルト-クロムから製造され、及びステムは、コランダム噴射加工によって後処理した(プラグMと指定した)。
【0131】
[In vivo試験]
上述した3つのタイプのプラグは、動物試験において、32匹の雌のオランダ産乳用山羊の膝関節内に器具を移植することにより評価した。本試験は、プロジェクトライセンス番号PV2015-018-003の下で地元及び国の動物倫理委員会によって承認された。
【0132】
動物の膝関節(32×2)を4群に分け、そのうち3群に各16個のプラグI、U及びMを移植した;及び残りの群は、天然軟骨変性の参照として、疑似手術(プラグを挿入しないプラセボ手術)を実施した。
【0133】
外科手技は、内側膝蓋骨周囲の皮膚切開の作製、内側大腿顆を露出させるための関節包の開口、及びその体重のかかるパーツの中心の位置決めを含んでいた。プラグを移植するために、Kワイヤーの誘導下で挿管ドリルを用いて骨軟骨欠損を作製した。ドリル穴の深さは、インプラントが隣接軟骨に対して同一平面上又はいくらか凹んでいるように調節した。プラグは次に、膝関節の形態に対応させるために(配向マーカーを用いて)キャップの二重曲がりを調整しながら圧入固定を用いて挿入した。術中又は術後合併症は全く発生しなかった。
【0134】
Maastricht大学の実験動物試験施設での26週間(6カ月間)後、各群の動物4匹は、ペントバルビタールの過量投与(200mg/kg(体重))により安楽死させた。膝関節を切除し、その後に解剖した。内側大腿顆及び脛骨プラトーを単離し、中性緩衝ホルマリン液中で固定した。固定した試験片は、エタノール水溶液中で100%のエタノールまで濃度を上昇させながらインキュベーションすることによって脱水させた。大腿骨内側顆は、真空下でヒドロキシエチルメタクリレート系樹脂(Technovit 8100,Hereaus Kulzer,Hanua,DE)に埋め込んだ。次に、腫脹を防止するために、各ブロックについてポリメチルメタクリレート(PMMA,Technovit 3040,Hereaus Kulzer,Hanua,DE)製マントルを作製した。次にプラスチック製ブロックは、インプラントを水平に配向するために帯のこを用いて切断し、ブロックは、超低粘度のシアノアクリレート糊を用いてダイヤモンドソー(SP1600,Leica Biosystems,Nussloch,DE)に取り付けた。インプラントの中央に通して切断した。サフラニン-O/ファスト・グリーン(Carl Roth,Karlsruhe,DE)染色を適用した。組織を乾かすために緩徐に拭き、5~10分間風乾させた。ガラス製カバースリップは、シアノアクリレート糊を用いて組織に接着させた。50~70μmの区間を切断し、シアノアクリレート糊を用いてスライドガラスに接着させた。これらの区間は、倍率200倍で高照度光学顕微鏡(M8 Microscope,Precipoint,Freising,DE)を用いてスキャンした。特注のMATLABスクリプト(MathWorks,Natick MA,US)を使用して、骨と直接接触しているインプラント表面のパーセンテージであると規定された、骨-インプラント-接触率(BIC)を決定した。残りの動物は、12カ月後に安楽死させ、膝関節及びインプラントは、上述の手法を用いて評価した。平均の数値スコア(%)として表示した6及び12カ月後のインプラントのBICスコアリングの結果は、
図6に示した。ジルコニア-TPU複合材料から製造されたステムを有し、表面上にBCP粒子が提供されたプラグIは、最高平均BICスコアを示した;これは、プラグM及びUについて観察されたよりも良好な骨-インプラント接触又はプラグの生体内オステオインテグレーションを示している。1つのプラグM及びプラグIは、6カ月後に骨接触をほとんど示さないことが認められた。これは、金属製プラグのミスアラインメント又は傾斜、及び例えば充填されたポリマー組成物をベースとするプラグ内の空気封入場所で開始された亀裂によって誘発されたと思われた。全体が未充填ポリウレタンから製造されたインプラント8個中4個は、おそらく相当に柔らかいプラグの変形によって誘発された、極めて低いBICスコアを有していた。
【0135】
移植の12カ月後、8本のプラグM中1本、8本のプラグI中4本、及び8本のプラグU中8本は、(ほぼ)0%のBICスコアを有した。同様に、未充填のプラグは、十分な剛性が欠如すると思われ、金属及び複合プラグの場合には、これは、適正に製造且つ配置されたプラグの実際の性能からではなく、使用された小規模の配合及び/又は成形プロセス又は手術中のプラグ挿入の方法によって誘発された欠損に起因すると思われる。他のプラグM及びIは、写真では6カ月後に比較して骨接着の増加を示しており、どちらも良好に機能した。金属製プラグについては、そのようなプラグは最初は骨への相当に低い接着を示すであろうから予想外ではなかったが、数年後には、いわゆる応力遮蔽効果が一般に剥離を誘発する。誤りのある結果を度外視すれば、12カ月後のBICスコアは、それぞれプラグM及びIについて40及び46%である。ポリマー組成物及び複合プラグの製造が規模拡大且つ改善されれば、プラグの移植はより良好に制御され、観察された欠損及び芳しくない結果は低減又は防止されると予想される。
【0136】
上記は、さらにプラグタイプ各々について
図7に示した組織学的切片の代表的な写真によって例示した(6カ月後、及び透過光を用いて)。これらの写真は、オリジナルのカラー写真のグレースケールバージョンであることに留意されたい。それでも、プラグIが界面又は組織内で空洞又は他の凸凹を伴わずに、周囲組織への密接な適合を示すと明確に結論付けることができる。さらに、TPUをベースとするプラグの上部軟骨置換パーツと骨固定パーツとの間の明確に目に見える差異、及び両パーツの界面でのタンタル線配向マーカー(切片に垂直に配向されている黒っぽいドットとして示されている)の存在に留意されたい。
【0137】
さらに、移植の6カ月後のインプラントを含む膝関節について撮影されたMRI画像はプラグIとUとの間に実質的な差を示さなかったが、プラグIの画像は、プラグと組織とのより明確なコントラストを示したことも認められた。どちらのプラグも関節内の軟骨のMRI評価を妨害するとは思えなかったが、他方金属プラグMと隣接軟骨のMRIイメージングは、金属製パーツによって惹起されたアーチファクトのために実現可能ではなかった。プラグMと同様に、プラグIのステムパーツはX線写真上で明瞭に可視化できたが、プラグUは、部分的にのみ、かすかにしか可視化できなかった。
【0138】
脛骨プラトーの固定及び脱水後、6及び12カ月間後に、厚さ3~4mmの冠状の骨軟骨スラブを脛骨プラトーから帯のこを用いて切断した。次に個々のスラブは、少なくとも6週間中に室温のギ酸中で脱灰させた。試験片を次にパラフィン中に包埋し、厚さ5μmの切片を標準のマイクロトーム(Leica RM2245,Leica Biosystems, Nussloch,DE)を使用して作製した。切片はサフラニン-O/ファスト・グリーン(Carl Roth,Karlsruhe,DE)を用いて染色し、続いて倍率200倍(M8 Microscope,Precipoint,Freising,DE)で高照度光学顕微鏡スライドスキャナーを用いてデジタル化した。最後に、脛骨軟骨品質のスコアリングは、Little et al.(DOI:10.1016/j.joca.2010.04.016)によって記載されたように、修正Mankinスコアリング(MMS)システムを用いて実施した。
図8には、対向する骨表面上での軟骨損傷若しくは変性の数値によるスコアリングの結果を要約した。これらの場合では、金属製インプラントは、TPUをベースとするプラグ及び疑似手術群よりも実質的に重篤な軟骨損傷を惹起したことが見出された。ジルコニア充填ポリウレタン製ステム及び未充填ポリウレタン製の軟骨接触パーツを有するプラグIは、疑似手術された、即ちそれらの膝関節内に天然の軟骨しか有していない山羊と同様に機能することが見出された。プラグUは、損傷を誘発していない、軟質ポリウレタンであるプラグIと同様のスコアリングを示したが;これは
図8に示していない。
【0139】
これらを要約すると、ジルコニア/TPU組成物から製造されたステム及び非強化TPUから製造された軟骨置換キャップを有する軟骨プラグ(プラグI)は、適正な操作性及び移植可能性を伴って、優れたオッセオインテグレーションを示し、対向する軟骨表面上に損傷をほとんど惹起せず、マイクロCT、X線及びMRI技術を用いてインプラントとしてイメージングすることができ、最良の全体的性能を示した。さらに、本開示では、充填TPU組成物、及びそれを用いて製造されるインプラントの性能の特性をさらに改善するための幾つかの選択肢について記載した。
【国際調査報告】