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  • 特表-ヒトNSCLC細胞株及びその用途 図1
  • 特表-ヒトNSCLC細胞株及びその用途 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ヒトNSCLC細胞株及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20230824BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573505
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 CN2021098081
(87)【国際公開番号】W WO2021244602
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/094778
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520398445
【氏名又は名称】シャンハイ エルアイディーイー バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI LIDE BIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 302, Bldg 77-78, 887 Zuchongzhi RD, (Shanghai) Free Trade Zone, Shanghai, China
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】ウェン タンイー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA18
4B063QQ61
4B063QR77
4B065AA93X
4B065BA22
(57)【要約】
ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株、本発明のヒトNSCLC細胞株が含まれる試薬とキットを提供する。さらに、薬の有効性を測定し、又は、前記薬の薬理学的データを取得するように、ヒトNSCLC細胞株を利用して抗NSCLC薬の有効性を評価する用途、及び動物モデルの製造方法を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号がCCTCC No.C2020103である、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200717。
【請求項2】
T790M及びC797Sをコードするエクソン20におけるEGFR変異、並びに、エクソン19欠失746_750delを含む、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
受託番号がCCTCC No.C202005である、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200636。
【請求項4】
受託番号がCCTCC No.C2020102である、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200694。
【請求項5】
L858Rをコードするエクソン21におけるEGFR変異を含む、請求項4に記載の細胞株。
【請求項6】
受託番号がCCTCC No.C2020104である、ヒトNSCLC細胞株LD1-0006-215676。
【請求項7】
T790M及びL858Rをコードするエクソン20及び21におけるEGFR変異を含む、請求項6に記載の細胞株。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒトNSCLC細胞株由来の子孫細胞株。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒトNSCLC細胞株、又は請求項8に記載の子孫細胞株を含む、試薬。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒトNSCLC細胞株、請求項8に記載の子孫細胞株、又は請求項9に記載の試薬を含む、キット。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞株、請求項8に記載の子孫細胞株、請求項9に記載の試薬、又は請求項10に記載のキットを、抗NSCLC薬の有効性を評価するために、免疫障害を有する哺乳動物にNSCLCを生成することに用いられる使用方法であって、好ましくは、前記免疫障害を有する哺乳動物は、免疫障害マウスである、使用方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒトNSCLC細胞株、請求項8に記載の子孫細胞株、又は請求項9に記載の試薬を、動物の体内に注入又は移植することを含み、好ましくは、前記動物は免疫障害を有する哺乳動物であり、さらに好ましくは、免疫障害を有するマウスである、動物モデルの製造方法。
【請求項13】
一種又は複数種の候補薬を、請求項1から7のいずれか一項に記載のヒトNSCLC細胞株、請求項8に記載の子孫細胞株、請求項9に記載の試薬、又は請求項10に記載のキットに接触させるステップ(i)と、
細胞増殖の阻害を測定するステップ(ii)と、を含む、抗NSCLC薬の有効性を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株、及び抗NSCLC薬の有効性を評価することにおけるその用途に関する。本発明は、ヒトNSCLC細胞株が含まれる動物モデル、その製造方法、及び、薬の有効性の試験又は前記薬の薬理学的データの取得における該動物モデルの用途をさらに開示する。本発明は、さらに、本発明のヒトNSCLC細胞株が含まれるキットに関する。本発明は、ヒトNSCLC細胞株を用いて抗NSCLC薬の有効性を評価する方法をさらに開示する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、世界で最も一般的な悪性腫瘍の1つであり、中国の都市人口における悪性腫瘍の死因の第1位となっている。非小細胞肺癌(NSCLC)は、扁平上皮癌(SCC)、腺癌及び大細胞癌を含む。小細胞癌と比較して、癌細胞は、成長と分裂が遅く、拡散と転移が比較的遅い。非小細胞肺癌は、すべての肺癌患者が罹った癌の約80%を占める。患者の約75%が、中期及び後期で発見され、5年生存率は低い。
【0003】
細胞株は、初代細胞培養の最初の継代後に増殖する細胞集合を指す。また、長期連続で継代できる培養細胞も指す。ところが、生き残り、連続的に継代できる細胞はほとんどなく、即ち、細胞株になれる細胞はほとんどない。
【0004】
EGFR(上皮成長因子受容体)は、EGF細胞増殖及びシグナル伝達の受容体である。研究により、EGFRが多くの固形腫瘍で高発現又は異常に発現することが示されている。EGFRは、腫瘍細胞の増殖、血管新生、腫瘍浸潤、転移及びアポトーシス抑制と関連する。EGFRチロシンキナーゼ領域の変異は、主にエクソン18~21で発生し、エクソン19と21における変異がすべてのEGFRの変異の90%を占めている。EGFR変異は、例えば、PCR及び直接シーケンシング技術を用いて検出することができる。EGFRは、腫瘍細胞の増殖、成長、修復及び生存において重要な役割を果たす。EGFRは、非小細胞肺癌、乳癌、グリオーマ、頭頸部癌、子宮頸癌、膀胱癌、胃癌など、多くの上皮性腫瘍において過剰に発現する。そのほか、EGFRの異常な発現は、新生血管形成、腫瘍浸潤と転移、化学療法耐性及び予後と密接に関連する。EGFR変異のほぼ80~90%は、小さいエクソン19欠失、又はエクソン21におけるL858R変異であるが、他のTKI感受性EGFR変異は、エクソン12、19、20、21で起こる可能性がある。エクソン20におけるT790MなどのTKI耐性に関連する変異は、小腫瘍細胞サブクローンにおいても進行することができ、同定が必要である(Dario de Biaseら、「Next-Generation Sequencing of Lung Cancer EGFR Exons 18-21 Allows Effective Molecular Diagnosis of Small Routine Samples(Cytology and Biopsy)」、2013年12月23日、第8巻、第12期.e83607に掲載、https://doi.org/10.1371/journal.pone.0083607)。NSCLC細胞におけるEGFR変異を検出するための方法は、当該技術分野において周知である(Huili Chuら、「Direct sequencing and amplification refractory mutation system for epidermal growth factor receptor mutations in patients with non-small cell lung cancer」、オンラインで2013年8月29日に公開、https://doi.org/10.3892/or.2013.2709、第2311~2315ページ、及び、Ching-Hsiung Linら、「Rapid detection of epidermal growth factor receptor mutations with multiplex PCR and primer extension in lung cancer」、J Biomed Sci.2010;17(1):37、オンラインで2010年5月12日に公開、doi:10.1186/1423-0127-17-37,http://www.jbiomedsci.com/content/17/1/37参照)。
【0005】
本発明は、エクソン19、20及び21において、1つ又は1つ以上のEGFR変異を有する新規なNSCLC腫瘍細胞株を開示し、それは、細胞癌、腫瘍転移のメカニズムを研究し、及びNSCCLCの薬の有効性を評価することに対して重要な意義を持っている。癌研究のための異なる腫瘍細胞株の確立は、新薬の研究開発に有用なデータを提供することができる。EGFR変異を有する腫瘍細胞株は、インビトロとエクスビボの両方で抗NSCLC薬を評価するための有用なツールである。例えば、腫瘍細胞株を皮下に移植して、薬の有効性評価のための動物モデルを形成することができ、該モデルは、患者の体内環境をシミュレートして、患者の反応を反映することにより、より効果的になる。従って、本関連技術分野では、増殖過程中に安定した遺伝的特徴を維持し、且つ動物モデルにおいて腫瘍に成長する、エクソン19、20及び21に1つ又は1つ以上のEGFR変異を有するNSCLC細胞株と、参照として用いることができる同じ起源の野生型NSCLC細胞株とが必要である。本発明のヒトNSCLC細胞株、前記細胞株を含む試薬、キット、又は動物モデルが、薬物の研究開発に有用であることを証明する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ヒトNSCLC(hNSCLC)細胞株、即ち、LD1-0025-200636、LD1-0025-200694、LD1-0006-215676、及びLD1-0025-200717を提供する。
【0007】
具体的に言えば、ヒトNSCLC(hNSCLC)細胞株LD1-0025-200636は、EGFR WT NSCLCの患者から直接確立され、LD1-0025-200694は、EGFR L858R NSCLCの患者から直接確立され、LD1-0006-215676は、EGFR二重変異(L858R/T790M)の患者から直接確立され、LD1-0025-200717は、EGFR三重変異(19del/T790M/C797S)の患者から直接確立される。
【0008】
本発明のヒトNSCLC細胞株は、インビトロで増殖し、且つ動物モデルにおいて腫瘍に成長し、同時にその遺伝的特徴を維持することができる。
【0009】
本発明は、LD1-0025-200636、LD1-0025-200694、LD1-0006-215676、及びLD1-0025-200717の子孫細胞株をさらに含む。
【0010】
実施形態において、本発明は、連続継代を通して患者のNSCLCサンプルから本発明のhNSCLC細胞株を生成する方法に関する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株は、10世代以上、特に20世代以上、より特に30世代以上、より特に50世代以上、さらに、特に70世代以上、さらに、特に100世代を超える。好ましくは、本発明のhNSCLC細胞株は、10世代、30世代、35世代、40世代、45世代、50世代、55世代、60世代、65世代、70世代、75世代、80世代、85世代、90世代、95世代、100世代に受け継がれている。
【0011】
本発明は、本発明のhNSCLC細胞株を含む組織又は臓器サンプルにも関する。特に、前記組織又は臓器サンプルは、本発明のhNSCLC細胞株を移植又は注入した動物モデルに由来する。実施形態において、前記組織又は臓器は、動物モデルの肺に由来し、好ましくは、免疫障害マウスの肺に由来する。実施形態において、前記組織又は臓器サンプルは、本発明の転移性hNSCLC細胞株を含み、特に、前記組織又は臓器サンプルは、哺乳動物の脳又は骨における本発明の転移性hNSCLC細胞株を含む。
【0012】
一態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬に関する。前記試薬は、抗hNSCLC薬の評価に用いることができる。
【0013】
他の一態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株、又は本発明のhNSCLC細胞株を含む組織若しくは臓器サンプルを含むキットに関する。実施形態において、前記キットは、薬理学的データ又は他の関連データを取得するために、抗NSCLC薬の有効性の評価、又は、薬の研究開発を行うことに用いることができる。
【0014】
他の一つの態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株を含む動物モデルを開示する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株を動物の体内に皮下移植又は注入することにより動物モデルを取得する。実施形態において、前記動物モデルは、免疫障害を有する哺乳動物であり、好ましくは免疫障害マウスである。
【0015】
本発明は、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬又はキットを用いて薬の有効性を評価する方法をさらに開示する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、又は本発明のキットは、薬の研究開発のデータを取得することに用いられる。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、又は本発明のキットから得られるデータは、薬の有効性を評価するためのコンピュータモデルを確立することに用いられ、特に、コンピュータソフトウェアを介して前記データを処理して、抗NSCLC薬の有効性を評価するためのコンピュータモデルを確立することに用いられる。
【0016】
生体材料の寄託情報
本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200636を提供し、受託番号はCCTCC No.C202005であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。
【0017】
本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200694を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020102であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。
【0018】
本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0006-215676を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020104であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。
【0019】
本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200717を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020103であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、LD1-0025-200636(EGFR WT細胞株、図1A)、LD1-0006-215676(図1B)及びLD1-0025-200717(図1C)の細胞増殖試験の結果を示す。
図2A図2Aは、hNSCLC細胞株LD1-0006-215676で検出されたT790M及びL858Rをコードするエクソン20及び21におけるEGFR変異を示す。
図2B図2Bは、hNSCLC細胞株LD1-0025-200717で検出されたT790M及びC797Sをコードするエクソン20におけるEGFR変異、並びに、エクソン19欠失746_750del(「19欠失」)を示す。
図3】Aは、LD1-0025-200636(EGFR WT細胞株)の阻害曲線である。Bは、LD1-0025-200694(EGFR L858R)の細胞株の阻害曲線である。Cは、LD1-0006-215676の細胞株の阻害曲線である。Dは、LD1-0025-200717の細胞株の阻害曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての専門用語、記号、及びその他の技術と科学用語は、保護を必要とする主題が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有することを意図している。場合によって、明確に及び/又は参照しやすいように、本明細書は、普遍的に理解された意味を有する用語を定義する。且つ、本明細書に含まれるそのような定義は、必ずしも当該技術分野で一般的に理解されるものとの実質的な相違を表すものとして解釈されるものではない。
【0022】
本明細書において、「1つ」、「1種」及び「前記」という単数形は、文脈によって特に明確に示されない限り、複数形も含むものである。また、本明細書において「及び/又は」という用語は、1つ又は1つ以上の関連リスト項目の可能なすべての組み合わせを意味し、カバーすることを理解すべきである。さらに、「含む」、「包含する」、及び/又は「含有する」という用語は、本明細書において使用される場合、前記特徴、整数、ステップ、操作、構成要素、成分及び/又はユニットの存在を指定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、構成要素、成分、及び/又はそれらのグループが存在するか、又は追加されたかは除外されない。
【0023】
本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200636を提供し、受託番号はCCTCC No.C202005であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。
【0024】
実施形態において、本発明はヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200694を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020102であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。細胞株LD1-0025-200694は、L858Rをコードするエクソン21におけるEGFR変異を含む。
【0025】
実施形態において、本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0006-215676を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020104であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。細胞株LD1-0006-215676は、T790M及びL858Rをコードするエクソン20及び21におけるEGFR変異を含む。
【0026】
実施形態において、本発明は、ヒトNSCLC細胞株LD1-0025-200717を提供し、受託番号はCCTCC No.C2020103であり、2020年6月3日に中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)(所在地:中国、武漢、武漢大学、430072)に寄託された。細胞株LD1-0025-200717は、T790M及びC797Sをコードするエクソン20におけるEGFR変異、並びにエクソン19欠失746_750delを含む。
【0027】
具体的に言えば、ヒトNSCLC(hNSCLC)細胞株LD1-0025-200636は、EGFR WT NSCLC患者から直接確立され、LD1-0025-200694は、EGFR L858R NSCLCの患者から直接確立され、LD1-0006-215676は、EGFR二重変異(L858R/T790M)の患者から直接確立され、LD1-0025-200717は、EGFR三重変異(19del/T790M/C797S)の患者から直接確立される。
【0028】
そのため、実施形態において、本発明は、EGFR WT NSCLC患者、EGFR L858R NSCLC患者、EGFR二重変異(L858R/T790M)患者及びEGFR三重変異(19del/T790M/C797S)患者を含むNSCLC患者から生成されるPDX(患者由来異種移植片)モデルを提供する。PDXモデルは、遺伝子発現プロファイルや薬物反応などの、原発性患者の腫瘍の特徴を保持するため、体内でのヒト癌の最も信頼性の高いモデルである。
【0029】
表皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)を用いて活性化EGFR変異を有する非小細胞肺癌(NSCLC)患者の治療は、NSCLC標的療法の画期的な成果を表す。ところが、獲得耐性の出現が避けられないため、臨床において患者の長期的な利益を制限する。T790変異の上に二次治療としての第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブ(osimertinib)によるって引き起こされるEGFR C797S変異の出現は、特に課題であり、最終的には治療の失敗につながる。19del、T790M及びC797SにおけるEGFR三重変異を有する天然細胞株又は患者由来異種移植片(PDX)が存在していないことは、オシメルチニブの獲得耐性の生物学の理解、及びC797S変異による獲得耐性を克服する効果的な戦略の開発を著しく遅らせている。
【0030】
そのため、本発明者は、19del及びT790MのEGFR変異を有するNSCLC患者からPDXの確立に成功した。該患者は、C797Sの出現のためにオシメルチニブに対して薬剤耐性を有していた。さらに、発明者は、このようなEGFR三重変異のPDXから細胞株を生成した。したがって、該PDX及びそれに対応する細胞株は、EGFR C797S変異に起因するオシメルチニブの獲得耐性を理解し、克服するための貴重な研究モデルを提供する。
【0031】
C797S変異を有する細胞株及び患者由来PDXの可用性は、C797S変異の獲得によって引き起こされるオシメルチニブ耐性を克服するための効果的な薬物又は手段を開発する上で極めて重要である。しかし、残念ながら、19del、T790M及びC797S三重変異EGFRを発現する工学的EGFR変異細胞株を除き、これらの患者由来の細胞株及びPDXは、我々の研究業界には存在しない。生体内モデルでは、細胞由来異種移植片(CDX)は、工学的EGFR変異細胞株によって確立することができるが、しかしながら、CDXモデルは、腫瘍内不均一性の低下と臨床的に有効な治療法の予測の記録が乏しいことによって制限される(Whittleら、2015及びその中の参照文献)。加えて、工学的三重変異のEGFR変異細胞株は、C797Sを含む多くの要因によって薬剤耐性が引き起こされる可能性があるため、オシメルチニブ耐性の複雑な自然メカニズムを完全にシミュレートすることはできない。
【0032】
実施形態において、本発明は、本発明のhSCLC細胞株に由来する子孫細胞株に関する。
【0033】
実施形態において、本発明は、連続継代を通して患者のNSCLCサンプルから本発明のhNSCLC細胞株を生成する方法に関する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株は、10世代以上、特に20世代以上、より特に30世代以上、より特に50世代以上、さらに、特に70世代以上、さらに、特に100世代を超える。好ましくは、本発明のhNSCLC細胞株は、10世代、30世代、35世代、40世代、45世代、50世代、55世代、60世代、65世代、70世代、75世代、80世代、85世代、90世代、95世代、100世代に受け継がれている。実施形態において、本発明のhNSCLCは、以下のステップを含む方法によって取得される。(a)免疫障害を有する動物に患者から得られる腫瘍組織を移植するか、又は免疫障害を有する動物に患者から得られる腫瘍細胞を注入する。(b)腫瘍細胞を収集するように、免疫障害を有する動物から腫瘍細胞を含む組織又は臓器を解剖する。(c)非腫瘍組織及び壊死腫瘍組織を取り除き、腫瘍を1~2mmの断片に切断し、その後、消化バッファーで沈殿を懸濁し、37℃でインキュベートする。(d)単一細胞を70uMフィルターで収集し、1000rpmで3分間遠心分離する。(e)細胞を懸濁し、10mlのHistopaque溶液で遠心分離し、中層から細胞を収集する。(f)コンディショナルリプログラミング細胞培養キット(上海リディから入手可能)を使用して細胞を培養する。(g)細胞を10~100世代にわたって継代させる。(h)安定した細胞株を取得する。実施形態において、患者のサンプルは、in-situでのNSCLC組織、又は転移性NSCLC組織に由来する。
【0034】
本発明は、本発明のhNSCLC細胞株を含む組織又は臓器サンプルにさらに関する。特に、前記組織又は臓器サンプルは、本発明のhNSCLC細胞株を含む哺乳動物に由来する。実施形態において、前記組織又は臓器は、免疫障害を有する哺乳動物の肺に由来し、好ましくは、免疫障害マウスの肺に由来する。実施形態において、前記組織又は臓器サンプルは、本発明の転移性hNSCLC細胞株を含み、ここで、前記組織又は臓器サンプルは、動物の脳又は骨に由来する。
【0035】
他の一つの態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株、又は本発明のhNSCLC細胞株を含む組織若しくは臓器サンプルを含む試薬に関する。実施形態において、前記試薬は、薬理学的データ又は他の関連データを取得するために、抗NSCLC薬の評価、又は、薬の研究開発を行うことに用いることができる。
【0036】
他の一つの態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株、又は本発明のhNSCLC細胞株を含む組織若しくは臓器サンプルを含むキットに関する。実施形態において、前記キットは、薬理学的データ又は他の関連データを取得するために、抗NSCLC薬の評価、又は、薬の研究開発を行うことに用いることができる。実施形態において、前記キットは、本発明のヒトNSCLC細胞株の存在を検出するための試薬又はツールをさらに含む。
【0037】
他の一つの態様において、本発明は、本発明のhNSCLC細胞株を含む動物モデルを開示する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株を、動物の体内に皮下移植又は注入することにより動物モデルを取得する。実施形態において、前記動物は、免疫障害を有する哺乳動物である。実施形態において、前記免疫障害を有する哺乳動物はマウスある。
【0038】
本発明は、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、キット又は動物モデルを用いて薬の有効性を評価する方法をさらに開示する。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、キット又は動物モデルは、薬の研究開発のためのデータを取得することに用いられる。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、キット又は動物モデルから取得したデータは、薬のスクリーニングのためのコンピュータモデルを確立することに用いられ、特に、コンピュータソフトウェアを介して前記データを処理して、抗NSCLC薬の有効性のコンピュータモデルを取得することに用いられる。
【0039】
評価される抗NSCLC薬は、任意の適切な経路、経口又は非経口によって投与することができる。例えば、候補薬は、経口投与又は筋肉内注射(例えば、筋肉内、皮下又は静脈内注入)、局所投与、吸入、皮膚貼付剤等の経皮的送達、インプラント、坐剤等によって本発明の動物モデルに投与される。当業者は、必要に応じて適切な投与経路を選択する。
【0040】
本発明で評価される抗NSCLC薬は、既知の抗腫瘍薬若しくはその組み合わせ、新規な抗腫瘍薬若しくはその組み合わせ、又は既知の抗腫瘍薬の新規な組み合わせであってもよい。本発明の方法において、スクリーニングされる薬は、固体、半固体、又は液体の形態で使用することができる。
【0041】
本発明の動物モデルは、経口投与又は筋肉内注射(例えば、筋肉内、皮下又は静脈内注入)、局所投与、吸入、皮膚貼付剤等の経皮的送達、インプラント、坐剤等によって、抗NSCLC薬を投与される。当業者は、必要に応じて適切な投与経路を選択する。
【0042】
実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株の細胞増殖は、CTG(CELL TITER-GLO)を通してテストされる。CTGテスト用キットは市販されたものである。実施形態において、本発明のhNSCLC細胞株のゲノム解析は、Sangerシーケンシングを通してテストされ、これは当業者に既知の方法である。
【0043】
本発明は、エクソン19-21におけるEFGR変異を含むhNSCLC細胞の薬物有効性データベースを作るための薬物有効性データの取得における、本発明のhNSCLC細胞株、本発明のhNSCLC細胞株を含む試薬、キット又は動物モデルの方法又は用途をさらに提供する。実施形態において、薬物有効性データベースは、1つ又は1つ以上の候補薬の細胞増殖阻害率を含む。実施形態において、本発明は、以下のステップを実現するためのコンピュータ読み取り可能な媒体を提供する。
【0044】
(i)下記の式によって本発明のhNSCLC細胞株が1つ又は1つ以上の候補薬と接触した後の増殖阻害率を算出する。
阻害率(%)=((Vコントロール群-V媒体群)-(V薬剤治療群-V媒体群))/(Vコントロール群-V媒体群)×100%
【0045】
(ii)XLfit(IDBS)による阻害曲線を作成し、対応するIC50を計算する。
【0046】
(iii)前記1つ又は1つ以上の候補薬剤の名前、本発明のhNSCLC細胞株の増殖阻害率、阻害曲線及び対応するIC50を含むデータベースにアクセス可能なコンピュータを任意に確立する。
【実施例
【0047】
実施例1.PDXモデルの構築
LD1-0025-200636PDXモデルは、EGFR WT NSCLC患者から確立した。LD1-0025-200694PDXモデルは、EGFRL 858R NSCLC患者から確立した。LD1-0006-215676PDXモデルは、EGFR二重変異(L858R/T790M)患者の胸水サンプルから確立した。
【0048】
LD1-0025-200717PDXモデルは、NSCLCと診断され、オシメルチニブ(AZD9291)に耐性を有する患者から得られた生検サンプルから確立した。患者はEGFR三重変異体(19del/T790M/C797S)である。該患者の治療履歴の詳細は以下の通りである。
【0049】
【表1-1】
【0050】
EGFR変異は19delから19del/T790Mに徐々に進行し、その後19del/T790M/C797Sに進行した。他の人工モデルでは、この治療履歴の影響を模倣することはできなかった。天然由来のPDX及び細胞株は、オシメルチニブに対する獲得耐性に対抗するための効果的な薬又は手段を開発するための貴重な研究ツール又はモデルとなる。
【0051】
表1:細胞株PDXモデルのWES(全エクソングループシーケンシング)の結果は以下の通りである。すべての変異は、対応するPDXモデルに保存される。
【表1-2】
【0052】
実施例2.細胞株の確立
PDX腫瘍を採取し、HBSSに浸漬した。HBSSで腫瘍組織を洗浄して、バイオセーフティキャビネットで非腫瘍組織と壊死腫瘍組織を取り除いた。腫瘍を1~2mmの断片に切断し、沈殿を消化バッファーで懸濁し、37℃で2~4時間インキュベートした。単一細胞を70uMフィルターで回収し、1000rpmで3分間遠心分離した。細胞を懸濁し、10mlのHistopaque溶液で遠心分離し、中層から細胞を収集した。コンディショナルリプログラミング細胞培養キットを用いて、細胞を懸濁し、培養した。安定した細胞株が得られるまで、10世代以上の細胞を連続継代させた。
【0053】
実施例3.細胞増殖とゲノム解析
CTGによって、細胞増殖をテストした。ゲノム解析は、Sangerシーケンシングによってテストした。
【0054】
LD1-0025-200636:細胞は4.0倍の増殖を示し、良好な細胞生存率を有していた。(図1A
【0055】
LD1-0006-215676:細胞は3.3倍の増殖を示し、良好な細胞生存率を有していた。(図1B
【0056】
LD1-0025-200717:細胞は3.7倍の増殖を示し、良好な細胞生存率を有していた。(図1C
【0057】
本発明の細胞株のゲノム解析結果を図2に示す。
【0058】
本発明のhNSCLC細胞株におけるEGFR変異は、Sangerシーケンシングにより確認された。9~50世代に受け継がれた後、本発明のhNSCLC細胞株における変異をSangerシーケンシングにより再度検出し、関連する細胞株に残存するすべての変異を同定した。
【0059】
実施例4
本研究は、ショートタンデムリピート(STR)DNA分析法を用いて、上記の新たに確立された細胞株の真正性を調査するために実施した。プロトコルは、下記のとおりである。
【0060】
1.細胞沈殿及びPDX組織からゲノムDNAを抽出した。
【0061】
2.GenePrint 10 System(Promega)を用いて、ポジティブ及びネガティブコントロールと共にサンプルを増幅した。
【0062】
3.ABI3730xlGenetic Analyzerを用いて、増幅産物を処理した。
【0063】
4.GeneMapper4.0ソフトウェアを用いてデータを分析した後、細胞を細胞に対応するPDX組織と比較した。
【0064】
STR分析に用いた細胞株の詳細情報及び結果を下記表2~3に示す。
【0065】
表2:STR分析に用いた細胞株の詳細情報
【表2】
【0066】
表3:初代細胞株とPDXとの一致率のプロファイル
【0067】
【表3-1】
【0068】
【表3-2】
【0069】
【表3-3】
【0070】
【表3-4】
【0071】
この実施例は、新たに確立された細胞株の真正性を証明するものである。
【0072】
実施例5.薬の有効性の研究
本開示の細胞株(即ち、LD1-0025-200636、LD1-0025-200694、LD1-0006-215676、及びLD1-0025-200717)を、96ウェルの丸底超低付着板に、2×10の細胞/ウェルで播種した。細胞株に薬を添加し、細胞を37℃及び5%COで6日間培養した。CellTiter-Gloを用いてATP量を測定した。薬の濃度に対応する阻害率を計算した。阻害率の計算式は下記の通りである。
【0073】
阻害率(%)=((Vコントロール群-V媒体群)-(V薬剤治療群-V媒体群))/(Vコントロール群-V媒体群)×100%
【0074】
XLfit(IDBS)によって阻害曲線を作成し、IC50を計算した。
【0075】
NSCLC細胞株に対するAZD9291のインビトロ有効性試験
本開示のNSCLC細胞株(即ち、LD1-0025-200636、LD1-0025-200694、LD1-0006-215676、及びLD1-0025-200717)に対するAZD9291のインビトロ有効性試験を実施した。結果は、図3における、AのLD1-0025-200636(EGFR WT)細胞株の阻害曲線、BのLD1-0025-200694(EGFR L858R)細胞株の阻害曲線、CのLD1-0006-215676(EGFR L858R/T790M)細胞株の阻害曲線、DのLD1-0025-200717(EGFR 19del,T790M&C797S変異体)細胞株の阻害曲線に示される。
【0076】
表4:4つのhNSCLC細胞株におけるAZD9291のIC50。各用量の平均阻害を示す(3連(triplicate))。誤差線(Error bars)、SEM。
【表4】
【0077】
PDXモデル内では、腫瘍細胞は、患者の原発腫瘍部位に見られる酸素、栄養及びホルモンのレベルを模倣する生理学的に関連する腫瘍微小環境で増殖する。また、移植された腫瘍組織は、患者の体内で見られる遺伝的及びエピジェネティックな異常を維持する。この研究では、PDXモデルが、抗癌剤(即ちAZD9291)に対して腫瘍サンプルを提供した実際の患者に見られるものと類似する反応を示すことを発見した。したがって、この実施例は、PDXモデルがNSCLC薬の治療応答のテストに有利であることを証明した。
【0078】
実施例6.CDX(細胞株由来の異種移植片)動物モデルの構築
NCGマウスは三重免疫不全であり、機能性/成熟T、B及びNK細胞を欠いており、マクロファージ及び樹状細胞の機能が低下している。これらの動物モデルは、異種移植細胞、組織及びヒト免疫系成分を定着させることができる。NCGマウスモデルの特性は、腫瘍学研究に理想的である。
【0079】
本開示のNSCLC細胞株(即ち、LD1-0025-200636、又はLD1-0025-200717)の細胞を、トリプシンによって単一細胞に消化させた。細胞を計数し、5×10個の細胞を遠心管に移した。細胞をPBSで洗浄し、遠心分離し、上清を除去した。100uLのPBSで沈殿を懸濁し、すぐに試験管を氷の上に置いた。細胞懸濁液を100uLのマトリゲルと氷の上で混合し、NCGマウスに対して混合物で皮下接種した。細胞移植後、動物の罹患率と腫瘍の進展状況を毎日検査した。本発明のNSCLC細胞株(即ち、LD1-0025-200636及びLD1-0025-200717)のCDXモデルがうまく確立されたことが観察された。
【0080】
本開示におけるCDX及びPDXモデルの作製は、本開示の細胞株が臨床前の薬の開発のための有望なツールとして使用できることを示唆している。
【0081】
なお、本明細書に記載される実施例及び実施形態は、例示的な目的のみを目的としており、それによる様々な修正又は変更を当業者に提示し、且つ本出願の精神及び範囲、並びに添付の特許請求の範囲に含まれることを理解すべきである。
図1
図2A
図2B
図3
【国際調査報告】