(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】間葉系ストローマ細胞由来の細胞外小胞(EV)および前記EVを得るための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230824BHJP
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A61K 38/40 20060101ALI20230824BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230824BHJP
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A61P 9/12 20060101ALI20230824BHJP
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A61P 11/16 20060101ALI20230824BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230824BHJP
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A61P 31/14 20060101ALI20230824BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230824BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230824BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K38/38
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A61P11/00
A61P29/00
A61P9/12
A61P11/06
A61P37/08
A61P43/00 105
A61P31/04
A61P11/16
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61P1/04
C12N5/077
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023500297
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2021068989
(87)【国際公開番号】W WO2022008652
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523004073
【氏名又は名称】エクソ バイオロジクス エスアー
【氏名又は名称原語表記】EXO BIOLOGICS SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】マルチン ユルガ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
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4C087ZC51
(57)【要約】
本発明は、間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)の組成物を製造するプロセスに関するものであり、前記プロセスは、-精製されたヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンを含む無血清ゼノフリー培地でMSCを培養および増殖させることと、-EVを含有する細胞上清を採取することと、前記細胞上清を濾過してEVを得ることと、-前記EVを好ましくは限外濾過によって濃縮することと、を含む。第2の態様およびさらなる態様において、前記発明は、EVを含有する組成物およびその臨床的使用を対象とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)の組成物を製造するプロセスであって、
-精製されたヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンを含む無血清ゼノフリー培地でMSCを培養および増殖させることと、
-EVを含有する細胞上清を採取することと、
-前記細胞上清を濾過してEVを得ることと、
-前記EVを濃縮することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記アルブミンおよびトランスフェリンが、ヒト血漿から精製されたものであるか、または組換えアルブミンおよび組換えトランスフェリンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記培地中のアルブミン濃度が1g/L~5g/Lである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記培地中のトランスフェリン濃度が55mg/L~100mg/L、好ましくは55mg/L~70mg/Lである、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記細胞上清の濾過が、少なくとも2段階の濾過過程である、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
2段階の濾過過程における前記濾過が、メッシュサイズが1~5μmである第1のフィルタを通して行われ、その後、メッシュサイズが1μm未満である第2のフィルタを通して行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記濃縮工程が接線流濾過工程であり、これにより前記濾過過程の濾液を濃縮する、請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記MSCを培養する18~24時間の時間範囲で、細胞培地1mL当たり少なくとも0.25×10
9個の粒子が産生され、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンである前記粒子の少なくとも90%がEVである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)を含有する組成物であって、前記EVのサイズが1μm未満であり、前記組成物のヒトアルブミン濃度が10~30g/Lであり、前記組成物に存在する前記アルブミンの少なくとも90%が前記EVと会合している、組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンを好ましくは60mg/L~600mg/Lの濃度で含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンおよびヒトアルブミンを、アルブミン1gにつきトランスフェリン2~60mgの割合で含む、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記EVのサイズが50~300nmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物がさらに製剤化および/または処理される、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
治療的または予防的な使用のための、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
肺疾患の予防または治療に使用するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記肺疾患が、炎症性肺疾患、肺血管疾患、または急性肺損傷である、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記炎症性肺疾患が、肺高血圧症、喘息、気管支肺異形成症(BPD)、アレルギー、肺炎、または特発性肺線維症である、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記急性肺損傷が、敗血症と関連するか、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記炎症性肺疾患が、ウイルス感染、好ましくはインフルエンザ、SARS-CoV-1、MERS、またはSARS-CoV-2と関連する、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
COVID-19の治療に使用するための、好ましくはCOVID-19誘発肺炎または急性肺炎の治療に使用するための、請求項13~19に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
クローン病などの炎症性腸疾患の予防または治療に使用するための、請求項1~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記治療有効量の前記組成物が患者に投与され、前記患者は成人、乳児または新生児であってよい、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、前記患者または各投与について10
9EV/kg~10
12EV/kgの用量で投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicles;EV)および前記細胞外小胞を含む組成物、ならびにこれを得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EVは、脂質二重層に囲まれた粒子であり、天然では細胞から放出され、細胞とは異なり複製されることがない。EVの直径は、物理的に可能な最小値に近いサイズの一枚膜リポソーム(約20~30ナノメートル)から10ミクロン以上までさまざまであるが、大半は200ナノメートル未満である。これらは、親細胞から、タンパク質、核酸、脂質、代謝産物、さらには細胞小器官などの輸送物(cargo)を輸送する。これまでに研究されてきた細胞のほとんどは、細胞壁に囲まれている細菌、真菌、植物細胞の一部も含め、EVを放出すると考えられている。EVの様々なサブタイプが、サイズ、生合成経路、輸送物、元の細胞、および機能に応じて定義され、エクソソーム、マイクロベシクル、エクトソーム等の用語などの異なる名称がこれまでに提案されている。
【0003】
EVは、疾患に冒された組織および細胞に核酸等の輸送物を送達するなど、治療目的で使用することができる。この関心の高まりと並行して、疾病のバイオマーカーまたは治療法としてのEVの開発に焦点を当てた企業の設立および資金提供プログラムや国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles:ISEV)が設立され、この分野を専門とする科学論文誌Journal of Extracellular Vesiclesが創刊された。
【0004】
EVの治療利用への関心が高まる中、臨床グレードのEVのニーズも高まっている。臨床で有益となるには、EVを良好な再現性でかつ制御して生産する必要がある。製造される各バッチの品質が均一であることを保証するために、EVを含有する組成物の製造における製造管理及び品質管理の基準(GMP)が重要である。細胞由来の治療薬を扱うにあたり、GMPは特に困難である。
【0005】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来のエクソソームの製造プロセスは、例えば、非特許文献1に記載されている。また、非特許文献2には、MSC由来のエクソソームについて、皮膚組織の再生可能性という観点から、特定の条件下で生成されたエクソソームが記載されている。MSCの培養には、各種の培地を用いることができ、そのうちの無血清ゼノフリー培養培地が非特許文献3に開示されている。さらに、特許文献4には、肺疾患の治療におけるMSCセクレトームおよび細胞外小胞(EV)の使用について記載されている。同文献でヒトでの使用に関して記載されているデータはほとんどが推測に基づくものであり、低再現性および低収率など、当該技術分野におけるいくつかの問題点を浮き彫りにしている。さらに、同文献は、EVを製造するためにMSCの大規模培養にバイオリアクターを使用する際の潜在的な問題について警告している。最後に、引用文献5は、肺疾患の治療におけるアルブミンの使用について言及している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Reka Agnes Haraszti et al., 2018
【非特許文献2】Diem Huong Huang at al., 2020
【非特許文献3】Lucas G. Chase et al., 2012
【非特許文献4】Antoine Monsel et al., 2016
【非特許文献5】Youngja Park et al., 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、EVの臨床利用が普及するまでには、いくつかの問題を解決する必要がある。臨床グレードのEVを、信頼性が高くかつ良好な再現性で定量的に生産、保存し、取り扱うためのプラットフォームを開発することは、依然として課題である。MSC由来EVを用いた医薬品およびその後の臨床試験のためには、MSC由来EVを用いた治療法を臨床導入する前に、いくつかの科学的、法規的、技術的、および機構的な問題を解決する必要がある。
【0008】
このため、臨床グレードのMSC由来EVを、GMP条件下で、安定的かつ良好な再現性で、費用対効果の高い大規模で生産することが可能なプロトコールが求められている。さらに、安定性が良好で、商業的に有利な保存期間を持つEVベースの製品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、医薬品規制調和国際会議(ICH)2020GMP品質ガイドラインに準拠したGMP条件下で、安定的かつ良好な再現性でMSCからEVの生産を可能にする方法を提供する。得られるEV組成物は臨床グレードのcGMP製品であり、臨床試験および患者への使用が容易であり、安定性が良好である。
【0010】
この目的のため、本発明は、請求項1に記載の製造プロセス、および請求項9に記載の組成物を提供する。好ましい実施形態は、請求項2~8および請求項10~13に記載されている。
【0011】
前記製品は、様々な臨床用途および治療効果が期待できる。前記製品の使用は、請求項14~23に記載されている。
【発明の効果】
【0012】
前記組成物の長期安定性により、本製品は様々な臨床用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のEVの製造に用いることができるMSC増殖ユニットおよびEV処理ユニットの一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
特段の定義のない限り、技術用語および科学用語を含む、本発明の開示に用いられるすべての用語は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が一般に理解する意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義を記載する。
【0015】
本明細書において、以下の用語は以下の意味を有する。
【0016】
本明細書で使用する「A」、「an」、および「the」は、文脈上明示的に特段の指示のない限り、単数形および複数形を指すものとする。例えば、「a compartmentコンパートメント」は、1つまたは複数のコンパートメントを指す。
【0017】
本明細書において、パラメータ、量、時間などの測定可能な値に言及して用いられる「約」は、本開示の発明において実施するのに適切な限りにおいて、規定される値の±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらに好ましくは±0.1%以下の変動を包含するものとする。ただし、修飾語「約」が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0018】
本明細書で使用する「有し」、「備え」、および「含み」、「~から構成され」は、「有する」、「備える」、「含む」または「~から構成される」と同義であり、例えば、その前に挙げた構成要素を特定する包括的またはオープンエンドの用語であって、当業者に公知であるか当該記載に開示されている追加の記載のない構成要素、特徴、要素、メンバー、工程を排除または排除するものではない。
【0019】
終点による数値範囲の記載は、記載された終点だけでなく、その範囲内に含まれるすべての数値および分数を含む。
【0020】
「重量%」、「重量パーセント」、「%wt」または「wt%」という表現は、別段の定義のない限り、本明細書全体を通じて、製剤の総重量に基づく各成分の相対重量を意味する。
【0021】
1つ以上または少なくとも1つのメンバー(複数可)のような「1つ以上」または「少なくとも1つ」という用語は、それ自体明確であり、さらなる例示として、この用語は、特に、前記メンバーの任意の1つ、または前記メンバーの任意の2つ以上、例えば、前記メンバーの任意の3以上、4以上、5以上、6以上または7以上などへの言及、および前記メンバーのすべてのメンバーまでへの言及を包含する。
【0022】
特段の定義のない限り、技術用語および科学用語を含む、本発明の開示に用いられるすべての用語は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が一般に理解する意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために、本明細書に使用する用語を定義する。本明細書に使用する用語または定義は、本発明の理解を補助するためにのみ提供するものである。
【0023】
本明細書全体において「一実施形態」または「ある実施形態」との言及は、当該実施形態に関連して説明する特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の様々な箇所における「一実施形態において」または「ある実施形態において」という表現は、必ずしもすべてが同一の実施形態を指すとは限らないが、同じでもよい。さらに、1つまたは複数の実施形態において、本開示から当業者に明らかなように、特定の特徴、構造または特性が任意の適切な方法で組み合わされてもよい。さらに、当業者であれば理解するように、本明細書に記載する一部の実施形態は、他の実施形態に含まれる一部の特徴を含むものの他の特徴を含まないが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内にあることを意味し、他の特徴は含まないが、異なる実施形態を形成する。例えば、後述の特許請求の範囲において、請求項の実施形態はいずれも任意の組み合わせで用いられてよい。
【0024】
本発明の目的のために、「細胞外小胞」または「EV」という用語は、前記EVと会合しているタンパク質を含む、in vivoおよびin vitroで異なる種類の細胞によって分泌されるマイクロメートルまたはナノメートルサイズの粒子として理解される。EVは、脂質の球体内に封入されたタンパク質、増殖因子、miRNAなどの分子を含む。EVは、そのサイズおよび細胞内起源によって分類される。エクソソームとは、サイズが通常0.1ミクロン以下のEVのサブグループである。エクソソームは、後期エンドソームコンパートメントである多胞体に由来し、多胞体と原形質膜との融合により分泌される。別の種類のEVとして、皮質細胞骨格の破壊によって細胞膜から直接放出される、サイズが1ミクロン以内の膜小胞の異種な集団である脱落小胞(マイクロ小胞とも呼ばれる)がある。細胞から分泌されるあらゆる種類の小胞を総称してEVと定義する。
【0025】
物質との関連において「EV(複数可)と会合している」という用語は、前記物質が、a)EVの表面層に(共有結合もしくは非共有結合などの任意の種類の結合によって)、好ましくは非共有結合によって付着もしくは結合している;および/またはb)前記EVの表面層内に付着もしくは結合している;および/またはc)前記EV内に内在化されている、のいずれかを意味する。
【0026】
EVと会合している前記物質は、どのような種類の物質でもよく、例えば、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、RNAおよびDNAなどの核酸(例えば、ノンコーディングRNA、miRNA、mRNA)、糖類、炭水化物、脂質、ビタミン、増殖因子、血管新生促進分子、心臓保護酵素、抗体、抗炎症分子、抗線維化分子、抗酸化分子、神経新生促進(pro-neurogenic)分子、抗ウイルス分子などの分子;金属イオンまたはカルシウムイオンなどのイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
「細胞培地」または「細胞培養培地」または「培地」という用語は、細胞の維持または成長に用いることができる、規定された組成の栄養成分および他の成分の水溶液を意味する。
【0028】
「無血清」細胞培養培地という用語は、動物またはヒトの血清、血漿または血液リンパを含まない細胞培養培地を意味する。前記無血清培地は、アルブミン、トランスフェリン、低密度脂質、およびホルモン等などの血液、血清または血漿を加工したか、またはこれらに由来する成分を含んでよい。また、血清、血漿または血液リンパではない、好ましくは公知の完全に再生可能な組成および濃度の他の生物学的成分(例えば、増殖因子、ホルモンおよび担体タンパク質)を含んでもよい。
【0029】
「ゼノフリー」細胞培養培地という用語は、非ヒト動物に直接由来する成分も、非ヒト動物のDNA配列から製造された組換え成分も含まない細胞培養培地と理解される。
【0030】
本明細書で使用する「薬学的に許容可能な担体」という用語は、対象に著しい刺激を与えず、投与された組成物の生物学的な活性および特性を損なわない担体または希釈剤を意味する。例えば、薬学的に許容可能な担体は、安定剤および/またはアジュバントとして作用してよい。担体の例としては、限定するものではないが、プロピレングリコール、生理食塩水、有機溶媒と水とのエマルジョン、混合物などが挙げられる。
【0031】
「十分な量」という用語は、所望の測定可能な効果をもたらすのに十分な量、例えば、タンパク質発現プロファイルを変化させるのに十分な量を意味する。
【0032】
「治療有効量」という用語は、疾病の症状を改善するのに有効な量をいう。予防は治療とみなすことができるため、治療有効量は「予防有効量」であってもよい。
【0033】
「治療」という用語は、治療的な処置と予防的な処置との両方を意味し、対象となる病理的状態または障害を予防または遅延(軽減)することを目的とする。治療が必要な対象は、すでに障害を有する対象のほか、障害を有しやすい対象、または障害を予防したい対象である。
【0034】
「組成物」という用語は、製造プロセスのあらゆる段階における組成物を指し、薬学的に許容可能な最終産物、およびそのプロセス途中の中間体を含む。
【0035】
「治療」という用語は、疾患、障害もしくは状態の進行、または疾患、障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状を逆転、予防、緩和または抑制することを意味する。本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、未治療の対照集団と比較して、または治療前の同じ哺乳動物と比較して、哺乳動物における疾患、障害または状態の発生の確率または件数を減少させることを指してもよい。例えば、本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、疾患、障害または状態を予防することを指してよく、疾患、障害もしくは状態の発症を遅延もしくは予防すること、または疾患、障害もしくは状態の症状を遅延もしくは予防することを含んでよい。本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、疾患、障害もしくは状態の重症度、または疾患、障害もしくは状態に罹患する前のそのような疾患、障害もしくは状態の症状を軽減することを指してもよい。疾患、障害または病態の罹患前のこのような予防または重症度の軽減は、投与時には疾患、障害または病態に罹患していない対象への、本明細書に記載の本技術の組成物の投与と関連する。本明細書で使用する「治療」は、疾患、障害もしくは状態の再発、またはそのような疾患、障害もしくは状態の1つ以上の症状の再発を防止することをさらに指してもよい。本明細書で使用する「治療」、「処置」、および「治療的」という用語は、上で定義したように、治療する行為を指す。
【0036】
本明細書で使用する「線維化」という用語は、器官や組織において、修復または反応の過程における過剰な線維性結合組織の形成を指す。
【0037】
本発明の目的のために、「間葉系ストローマ細胞」または「MSC」という用語は、様々な細胞型に分化することができるストローマ付着細胞として理解されるものとする。MSCの由来は、骨髄、臍帯細胞、脂肪組織、羊水、乳腺、血液などである。
【0038】
本発明は、MSCからEVを製造するプロセス、前記方法によって得られる組成物、およびその治療的使用に関する。
【0039】
第1の態様において、本発明は、MSC由来のEVの組成物の製造プロセスに関する。より詳細には、前記プロセスは、
-精製されたヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンを含む無血清ゼノフリー培地でMSCを培養および増殖させる工程と、
-EVを含有する細胞上清を採取する工程と、
-前記細胞上清を濾過してEVを得る工程と、
-前記EVを好ましくは限外濾過によって濃縮する工程と、を含む。
【0040】
MSCは、EVの製造に用いる容器、好ましくはバイオリアクター、より好ましくは撹拌型槽型バイオリアクターで培養および増殖させる。この目的のため、MSCを、ヒト血清アルブミンおよびトランスフェリンを補充した無血清ゼノフリーの培養培地で培養および増殖させる。MSCの培養および増殖に無血清ゼノフリー培地を使用することで、不要な汚染物質のEVへの含有を防止することができる。このような汚染物質は、得られたEV製品(EV product)のさらなる臨床使用を妨げる可能性がある。血清および血小板の溶解液は一般にアルブミンを含み、細胞の成長は培地中のアルブミンのレベルに影響されることが多い。しかし、血清および血小板の溶解液中のアルブミンおよび他の成分のレベルは変動する。臨床グレードのEVを得るためには、血清および血小板の溶解液の使用は避けるべきである。
【0041】
しかし、アルブミンは、前記EVの安定性および機能性を補助するため、最終産物の重要な成分である。本文脈において、EVなどの製品の「安定性」という用語は、容器または閉鎖系などの特定の環境において、特定の製剤または製品が、物理的、化学的、微生物的、毒性的、および機能的な仕様または特性などのパラメータの値の所定の範囲内に所定の期間とどまる能力を指す。このようなパラメータの例としては、限定するものではないが、粒子数、粒子サイズ、内部成分の漏洩、および活性が挙げられる。
【0042】
EVの安定性を補助するため、前記細胞培地中に外因性アルブミンが存在することが望ましい。したがって、ある実施形態では、前記培地は、例えばヒト血漿から精製されたものなどの、組換えまたは精製アルブミンのいずれかのヒトアルブミンを含む。さらなる実施形態では、前記アルブミンは、前記培地中に1g/L~5g/Lの濃度で存在する。後者の濃度は、良好で安定した最終産物を得るうえで特に有用であることが示された。
【0043】
細胞増殖培地は、トランスフェリン、好ましくは、例えば血漿から精製されたものなど、組換えまたは精製トランスフェリンをさらに含む。トランスフェリンは、概算分子量78~80kDaの単鎖糖タンパク質のアイソタイプの広範な微小かつ不均質な(micro-heterogeneous)集団を形成している。トランスフェリンは、細胞外への鉄の貯蔵および輸送を促進するため、培養中の細胞に鉄を供給する方法として生理学的に適切である。トランスフェリンは、in vivoでのEVの細胞への取り込みを補助することが報告されている(例えば、国際公開第2013/084001号を参照)。アルブミンに加え、およびアルブミンと同様に、トランスフェリンも最終EV製品の安定化を補助することができる。ある実施形態では、前記トランスフェリンは、50mg/~100mg/L、好ましくは55mg/L~100mg/L、好ましくは50mg/L~70mg/L、好ましくは55mg/L~70mg/Lの濃度で成長培地に存在する。後者の濃度は、EV製品の品質にとって最適であることが判明した。
【0044】
本プロトコールにより、アルブミンとトランスフェリンとの両方を、アルブミンおよびトランスフェリンの大部分を前記EVと会合させた状態で、最終産物に存在させることが可能となる。
【0045】
さらなる実施形態では、前記培地は、無機金属塩、アミノ酸などの栄養素、およびビタミンの基本混合物であり、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)またはDMEM/F-12の組成から公知のように、pHがpH7.0~7.4の範囲内にある。また、培地は、グルタミンもしくはグルタミン酸、またはL-アラニル-L-グルタミンなどのその前駆体、ならびに4500mg/L以下のレベルのグルコースおよび1種以上の脂肪酸を含んでもよい。
【0046】
さらなる実施形態では、前記培地は、限定するものではないが、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、ヒト血小板由来増殖因子(PDGF、例えばヒトPDGF-BB、ヒトPDGF-ABおよびPDGF-AA)および/またはヒトTGF-β1などのヒト増殖因子、好ましくは組換えPDGF-BBおよび/またはTGF-β1などをさらに含む。また、本発明者らは、増殖因子が他の増殖因子と相乗的に作用して、MSCの成長および増殖を促進することも発見した。ある実施形態では、前記培地は、PDGFおよびTGF-β1をさらに含む。
【0047】
PDGFは、細胞の増殖および分裂の制御因子であり、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)に結合する。化学的には、PDGFは2本のA鎖(-AA)または2本のB鎖(-BB)、あるいはこれらの組み合わせ(-AB)から構成される2量体糖タンパク質である。PDGF-ABは、PDGFαおよびPDGFβ受容体サブユニットと結合し、PDGFα-β受容体2量体およびPDGFα-α受容体2量体を形成することがわかっている。本開示の文脈においては、PDGFは、PDGF-BB、PDGF-ABおよびPDGF-AAを包含する。
【0048】
トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)は、MSCの増殖を刺激し、さらにMSCの免疫調節特性に影響を与え、そのセクレトームを炎症促進または抗炎症の方向に変化させる多面的なサイトカインである。
【0049】
ある例では、PDGFはPDGF-BBである。ある例では、PDGF-BBのレベルは、約1ng/mL~150ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、約7.5ng/mL~120ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、約15ng/mL~60ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約10ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約15ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約20ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約21ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約22ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約23ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約24ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約25ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約26ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約27ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約28ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約29ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約30ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約31ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約32ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約33ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約34ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約35ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約36ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約37ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約38ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約39ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約40ng/mLである。
【0050】
別の例では、PDGFはPDGF-ABである。ある例では、PDGF-ABのレベルは約1ng/mL~150ng/mLである。別の例では、PDGF-ABのレベルは約7.5ng/mL~120ng/mLである。別の例では、PDGF-ABのレベルは約15ng/mL~60ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約10ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約15ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約20ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約21ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約22ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約23ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約24ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約25ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約26ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約27ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約28ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約29ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約30ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約31ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約32ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約33ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約34ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約35ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約36ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約37ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約38ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約39ng/mLである。別の例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約40ng/mLである。
【0051】
別の例では、PDGFはPDGF-AAである。ある例では、PDGF-AAのレベルは、約1ng/mL~150ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、約7.5ng/mL~120ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、約15ng/mL~60ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約10ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約15ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約20ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約21ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約22ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約23ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約24ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約25ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約26ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約27ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約28ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約29ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約30ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約31ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約32ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約33ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約34ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約35ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約36ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約37ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約38ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約39ng/mLである。別の例では、PDGF-AAのレベルは、少なくとも約40ng/mLである。
【0052】
ゼノフリー無血清培養培地は、それぞれの成分を組み合わせて調製してもよいし、本明細書に記載する指針に基づいて市販品から選択し(任意選択で適合させて)よい。例えば、使用できる可能性のある市販のゼノフリー無血清培地を、任意選択で、本明細書に開示する任意の特徴および/または条件(preferences)で適合させた後に、使用することができる。
【0053】
ある実施形態では、前記培地は、緩衝系を含んでよい。pHの調節は最適な培養条件のために重要であり、一般に、天然緩衝系または化学緩衝系の2つの緩衝系のいずれかによって行われる。
【0054】
天然緩衝系では、気体状のCO2が培地中に含有されるCO3
--/HCO3
-と平衡に達する。天然緩衝系を含む培養培地は、5~10%のCO2を含む空気雰囲気で維持する必要があり、通常はCO2インキュベーターを使用して維持する。天然緩衝系は低コストであり、毒性もない。双性イオンであるHEPESを用いた化学緩衝法は、pH7.2~7.4の範囲で優れた緩衝能を有し、気体雰囲気の制御を必要としない。HEPESは比較的高価であり、細胞の種類によっては高濃度で毒性がある。また、HEPESは、蛍光への曝露によって引き起こされる光毒性作用に対する培地の感度を大きく高めることが示されている。
【0055】
ある実施形態では、前記培地は、pH指示薬としてフェノールレッドを含んでもよく、これにより、pHの常時モニタリングが可能となる。細胞の増殖中に、細胞から放出される代謝産物によりpHが変化し、培地の色が変化する。フェノールレッドにより低pHでは培地が黄色に、高pHでは培地が紫色になる。細胞培養に最適なpH値であるpH7.4では、培地は明るい赤色になる。
【0056】
別の実施形態では、前記培地は、無機塩を含んでもよい。前記無機塩は、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどのイオンを供給することで、浸透圧のバランスを保ち、膜電位の調節を補助する。
【0057】
前記培地は、アミノ酸、好ましくは必須アミノ酸を含んでよい。必須アミノ酸であるL-グルタミンは特に重要である。L-グルタミンはNAD、NADPH、およびヌクレオチドに窒素を供給し、代謝のための二次エネルギー源として機能する。L-グルタミンは不安定なアミノ酸であり、細胞で利用できない形に経時変化するため、使用直前に培地に添加する必要がある。L-グルタミンの分解によりアンモニアが蓄積され、アンモニアは一部の細胞株に有害な影響を及ぼすことがあるため、本来の培地の組成よりもL-グルタミンを多く添加する場合は注意が必要である。哺乳類細胞用培養培地のL-グルタミン濃度は、199培地の0.68mMからダルベッコ変法イーグルス培地の4mMと大きく変動してよい。無脊椎動物の細胞培養培地は、12.3mMものL-グルタミンを含んでよい。glutamaxなどの添加物はより安定であり、培地の交換または追加を必要とせずに長期培養のため、およびこの期間のグルタミン濃度をより安定させるために、グルタミンの代わりに用いることができる。
【0058】
また、成長中に減少する非必須アミノ酸を培地に添加してもよい。非必須アミノ酸を培地に補充すると、細胞の成長が促進され、生存期間が延びる。
【0059】
糖類の形態の炭水化物は、主要なエネルギー源である。ほとんどの培地はグルコースおよびガラクトースを含むが、一部、マルトースおよびフルクトースを含むものもある。
【0060】
前記培地は、脂肪酸、脂質、ビタミン、微量元素をさらに含んでよい。無血清培地には、血清中に通常含まれる微量元素を補充することが多い。銅、亜鉛、セレンなどの微量元素、およびトリカルボン酸中間体は、細胞が正常に成長するために微量で必要とされる化学元素である。
【0061】
ある実施形態では、細菌および/または真菌の汚染物質の増殖を制御するために抗生物質を使用してもよく、例えば、この例としては、典型的には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの混合物、あるいは/または、限定するものではないが、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、レボフロキサシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ペニシリン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファンピシン、スペクトロマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、チロシンおよびゼオシンなどの他の化合物が例示される。
【0062】
ある実施形態では、前記MSCは、前記バイオリアクター内に入れたマイクロキャリアまたはマイクロビーズ上で成長および増殖してよい。このようなマイクロキャリアまたはビーズは、当該技術分野で公知であり、商業的に入手可能である。ある実施形態では、前記マイクロキャリアまたはビーズは、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、それらの模倣物またはそれらの組み合わせなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされていてよい。好ましい実施形態では、前記マイクロキャリアまたはビーズは負に帯電している。
【0063】
MSCが所望の濃度および/またはコンフルエンシーに達した後、前記EVを含有する細胞上清を回収し、さらに処理する。本発明において、前記細胞上清は、MSCを成長および増殖させた細胞培地である。ある実施形態において、前記上清は、前記MSCが少なくとも40×106細胞/Lの最小濃度に達したときに回収される。細胞の濃度および生存率は、例えば、ブルカーカウンティングチャンバーおよびトリパンブルー染色等の血球計数装置などの細胞計数法により決定することができる。上記の培養条件下で、前記MSCは、前記MSCを培養する18~24時間の時間範囲で、細胞培地1mL当たり少なくとも0.25×109個の粒子/培地を産生する。
【0064】
上記に使用する「粒子」は、好ましくは粒子サイズが0.05~0.22ミクロンである粒子であればどのようなものでもよいが、EVが挙げられる。粒子の例としては、タンパク質またはペプチドの凝集体を挙げることができる。前記粒子の起源は、MSCまたはMSCを培養および増殖させるための細胞培地である。したがって、前記粒子は、前記細胞培地もしくはMSCに通常存在するか、またはその一部である任意の粒子であってよい。
【0065】
好ましくは、本明細書に記載の方法を使用する場合、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンの前記粒子の少なくとも90%がEVである。
【0066】
続く工程では、前記細胞培地中に存在する汚染物質を除去するために、前記細胞上清が濾過される。後者は最終産物の純度および安定性に寄与する。好ましい実施形態では、前記濾過は、少なくとも2段階の濾過を含む。ある実施形態では、前記濾過工程の少なくとも1段階はデッドエンド濾過である。さらなる実施形態では、前記濾過工程の両方が、デッドエンド濾過によって行われる。好ましくは、上で定義したGMP規格に準拠させるために、濾過工程の少なくとも1段階は、製品の滅菌手段としても使用される。上清から不純物を十分に除去するために、場合によってはデッドエンド濾過を連続して行う必要があることがわかっている。場合によっては、1回の濾過では使用するフィルタが目詰まりを起こし、最終産物の純度が低下し量が減少することが多いこともわかっている。
【0067】
第1の濾過工程では、細胞上清をデッドエンドフィルタで濾過する。さらなる好ましい実施形態では、前記濾過は、前記上清を、メッシュサイズが1~5ミクロン、より好ましくは1~3ミクロンのフィルタにかける手段によって行われる。ある実施形態では、前記第1の濾過工程は、フ
ィルタを通して、一定流量、好ましくは100mL/分を供給する蠕動ポンプを備えた閉鎖系におけるデッドエンド濾過によって行われる。
【0068】
ある実施形態では、第1の濾過の濾液は、第2のフィルタ、本工程では、第1の濾過工程で使用するものよりも小孔径のフィルタにかけられる。好ましくは、最終産物を上記のGMP規格に適合させるために、この第2の濾過工程は滅菌工程である。より好ましい実施形態では、前記フィルタのメッシュサイズは、1ミクロン以下、より好ましくは0.05~1ミクロン、さらに好ましくは0.1~0.5ミクロン、最も好ましくは0.1~0.22ミクロンである。ある実施形態では、前記第2の濾過工程は、好ましくは第1の濾過工程と相互接続され、フィルタを通して、一定流量、好ましくは100mL/分を供給する蠕動ポンプを備えた閉鎖系におけるデッドエンド濾過によって行われる。
【0069】
前記濾過工程の濾液は、本発明に係るEVを含有する。最終工程において、前記EVが洗浄および濃縮される。洗浄および濃縮は、精密濾過または限外濾過のいずれかの膜濾過など、当該技術分野において公知の従来の手段で行われてよい。濃縮とは、溶液から液体を除去し、溶質分子を得る過程である。
【0070】
膜濾過は、ライフサイエンスの研究で広く用いられている分離技術である。膜濾過は、膜の空隙率によって、精密濾過過程と限外濾過過程とに分類される。精密濾過膜は、通常、孔径が0.1μm~10μm程度であり、一般に清澄化、殺菌、および細胞採取のための微粒子の除去に使用される。限外濾過膜は、孔径が0.001~0.1μmと極めて小さく、溶存分子(タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、およびその他の生体分子)の濃縮および脱塩、緩衝液交換、ならびに総分画などに使用される。限外濾過膜は、一般に孔径ではなく分子量カットオフ(MWCO)により分類される。精密濾過膜および限外濾過膜のいずれかを使用することができる膜濾過の主なモードには、1)「デッドエンド」濾過とも呼ばれるダイレクトフロー濾過(DFF)、供給流を膜面に対して垂直に流し、流体の100%を膜に通過させる方式、2)クロスフロー濾過とも呼ばれるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、供給流を膜面に対して平行に流し、一部を膜(透過液)に透過させ、残り(リテンテート)を供給タンクへ再循環させる方式、の2つの方式がある。
【0071】
場合に応じて、前記洗浄および濃縮は、TFFによって行われる。TFF(クロスフロー濾過)は、膜面に対して平行に供給流を流す過程である。圧力をかけると、流れの一部が膜を通過し(濾液または透過液)、残りの部分(リテンテート)が供給タンクに戻り再循環される。
【0072】
ある実施形態では、1以上のデッドエンド濾過工程の濾液がTFF濃縮工程で使用される。さらなる好ましい実施形態では、TFFはカットオフ範囲が100kDaであり、分子量が100kDa未満の粒子および成分を除去し、すべてではないにしてもその大部分をTFF透過液に移す。その結果、リテンテートに残る前記最終組成物では、分子量100kDa未満の遊離の(すなわち、EVと会合していない)構成要素、成分または物質が減少している。前記構成要素、成分または物質は、前記細胞培地に通常存在するか、または培地の一部であるタンパク質またはペプチドなどの任意の粒子であってよい。リテンテートは、必要な濃度に達するまで、TFF装置内で再循環される。再循環中に、不要な成分を除去するために、洗浄用媒質または洗浄バッファ、好ましくは生理食塩水洗浄バッファを用いて、リテンテートを洗浄することができる。濃縮されたリテンテートを、その後、限定するものではないが、回収バッグまたはクライオチューブなどの回収容器に回収し、10℃未満、好ましくは4℃の低温で保持するか、または-20℃~-196℃、好ましくは-40℃~-196℃、さらに好ましくは-80℃~-196℃で凍結することができる。
【0073】
本発明のEVは、MSC由来である。前記MSCは、ヒト由来であり、骨髄、臍帯、ホウォートンゼリー、臍帯血、羊膜、骨髄、脂肪組織、歯髄、末梢血、卵管、乳腺、肝臓および肺の組織などに由来するものであってよい。好ましい実施形態では、前記MSCは、臍帯由来である(UC-MSC)。
【0074】
ある実施形態では、MSCは、上記のように組織の1つから新鮮に単離され、バイオリアクターでさらに増殖される。別の実施形態では、凍結保存されたMSCが使用される。様々な起源からMSCを得るための方法は、当該技術分野において一般に公知であり、本発明に容易に適用可能である。簡略に記載すると、臍帯などの組織を、例えば、コラゲナーゼおよび/またはトリプシンなどの酵素によって酵素的に消化させ、洗浄し、遠心分離してよい。得られたペレットを、培養フラスコ内で適当な細胞培地にプレートし、適当な条件で培養する。前記培養フラスコが、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、それらの模倣物またはそれらの組み合わせなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされてよい。後者は、接着および細胞の成長を促進することがある。別の実施形態では、前記培養フラスコが、例えばフィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、それらの模倣物またはそれらの組み合わせなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされたコーティング済みマイクロキャリアまたはマイクロビーズを含んでよい。細胞が所定の最小限の割合のコンフルエンシー、好ましくは80%以上のコンフルエンシーに達するまで培地をリフレッシュし、その後、細胞を採取する。
【0075】
継代すると、培養細胞を剥離して、培養基および細胞同士を解離させる。細胞の剥離および解離は、当該技術分野において一般的に公知のように行うことができ、例えば、タンパク質分解酵素(例えば、トリプシン、I型、II型、III型またはIV型などのコラゲナーゼ、ディスパーゼ、プロナーゼ、パパインなどから選択される)による酵素処理、二価イオンキレート剤(例えば、EDTAもしくはEGTA)による処理、または機械的処理(例えば、小口径ピペットもしくはピペットチップを用いたピペット処理の繰り返し)、またはこれらの任意の組合せによって行うことができる。
【0076】
細胞の剥離および分散の適切な方法は、培地中の生存細胞の大部分を保存しつつ、細胞を所望の程度剥離および分散させるものでなければならない。好ましくは、培養細胞の剥離および解離により、細胞のかなりの割合(例えば、細胞の少なくとも50%、70%、80%、90%またはそれ以上)が単一の生存細胞として得られる。残りの細胞は、それぞれが比較的少数の細胞(例えば、平均で1~100の細胞)を含む細胞クラスター中に存在してよい。
【0077】
次に、このように剥離および解離させた細胞(通常は等張緩衝液または培地中の細胞懸濁液として)を、細胞が接着できる基材上に再プレーティングし、その後、上記のような培地で培養して、さらに増殖を持続させてよい。その後、これらの細胞を、10~105細胞/cm2の濃度で、約1/16~1/2、好ましくは約1/8~1/2、より好ましくは約1/4~1/2の分割比で再プレーティングして培養してよい。分割比は、継代した細胞のうち、細胞を得た容器と同じ表面積の空の(通常は新しい)培養容器に播種する割合を示す。培養容器、ならびに培養容器および細胞培養培地に細胞を付着させる表面の種類は、上記のように最初に使用したものと同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
好ましい工程では、その後、細胞をより大型のレシピエントに播種し、増殖させる。細胞が望ましい量に達したら、そのままバイオリアクターに入れてさらに増殖させEVを採取しても、適量の細胞を凍結保存して後で使用してもよい。前記MSCの凍結保護は、典型的には、1種または複数種の凍結保護剤の存在下で行われる。このような薬剤は凍結および融解時の細胞損傷を防止するもので、当業者には一般に公知である。凍結保護剤の例としては、例えば細胞培地が挙げられ、DMSOをに混ぜて使用する。細胞を、それに適した容器またはクライオバッグで凍結保存してよい。
【0079】
さらなる工程において、前記MSC(新鮮単離MSCまたは凍結保存MSCのいずれか)が、バイオリアクター、好ましくは閉鎖撹拌式槽型バイオリアクターでさらに増殖されてよい。細胞を、バイオリアクター内で、上記のように適切な増殖条件(無血清ゼノフリー培地)で増殖させる。ある実施形態では、上記のように凍結保存に使用される容器またはクライオバッグは、無菌状態でバイオリアクターに取り付けられるように設計されており、(層)流キャビネットが不要となる。これにより、EVの製造プロセスで(高度な無菌状態の)クリーンルームが必要ではなくなる。
【0080】
上記のような方法は、MSC細胞増殖ユニットとEV処理ユニットとを備えるEV用精製システムにおいて実施することができる。2つのユニットとそれぞれのコンパートメントおよび/または部品とは、互いに流体的に接続され、一方のユニットから他方のユニットへ細胞培地および材料が流れるようになっている。流体の接続は、チューブ、パイプ、バルブ、ポンプなど、当該技術分野における従来の手段で実現される。ある実施形態では、前記MSC細胞増殖ユニットは、バイオリアクター、好ましくは撹拌式バイオリアクターと、冷却コンパートメントとを備える。前記冷却コンパートメントは、周囲温度および前記冷却コンパートメント内の物体を4度などの10度未満の温度に冷却する手段によって設けられる。好ましい実施形態では、前記冷却コンパートメントは冷蔵庫である。前記冷却コンパートメントは、バイオリアクターに移す新鮮な細胞培養培地と、前記バイオリアクターから出る細胞上清とをそれぞれ貯蔵するためのタンクまたは容器を備えてよい。この目的のために、細胞培養培地容器またはタンクの出口が、バイオリアクターの入口と流体的に接続される。培地が正常に流れるように、ポンプ、好ましくは蠕動ポンプが設けられる。バイオリアクターの出口は、冷却コンパートメント内の細胞上清容器の入口と流体的に接続される。この場合も、製品が流れるようにするために(蠕動)ポンプが設けられてよい。この構成では、バイオリアクターからの上清が細胞上清回収容器またはタンクに流れ、バイオリアクターに新鮮な培地が供給されてよい。バイオリアクターは、場合に応じて撹拌式バイオリアクターである。好ましくは、前記新鮮な培地は、少なくとも室温であるか、より好ましくはインキュベーターのような当該技術分野において公知の任意の加熱装置によって、好ましくは約37℃に予熱される。当該技術分野における従来の手段、例えば、マグネチックスターラーまたは前記バイオリアクターに設置されたスターラーによって撹拌が行われてよい。前記バイオリアクターは、CO2が供給されてもよいし、CO2インキュベーター内に配置されてもよい。後者の実施形態では、バイオリアクターは、気体交換を可能にする手段を備える。細胞増殖ユニットには、様々なプロセスを監視するためのセンサーが設けられてよい。ある実施形態では、前記バイオリアクターおよび/またはCO2インキュベーター内の温度、湿度およびCO2レベルを測定するためのセンサーが設けられる。また、冷却コンパートメント内の状態を監視するために、例えば温度を監視するためのセンサーが設けられてよい
【0081】
EVを含有する細胞上清は、MSCが所望の量に達した時点でバイオリアクターから供給され、10℃未満、例えば4℃の温度で保存される。適量の細胞上清が得られたら、前記上清がEV処理ユニットへ移される。ある実施形態では、この適量がEV処理ユニットへ一括で移される。処理前に、複数のバッチを再度プールしてから可能である。代替的な実施形態では、この量がEV処理ユニットに連続的に移される。EV処理ユニットは、好ましくは、1つ以上のフィルタ装置、TFF濃縮器などの膜濾過装置、および最終産物の貯蔵コンパートメントを(ここに記載の順で)備える。これらの装置およびコンパートメント同士は流体的に接続され、ある装置から別の装置への流体の輸送ができるようになっており、場合に応じて閉ループ系である。さらに好ましい実施形態では、前記EV処理ユニットは、フィルタメッシュサイズが1~5ミクロン、より好ましくは1~3ミクロンの第1のフィルタ装置を備える。次に、第1の濾過の濾液が、第1の濾過工程で使用したメッシュサイズよりもメッシュサイズの小さい第2のフィルタ装置に移される。より好ましい実施形態では、前記フィルタ装置のメッシュサイズは、1ミクロン以下、より好ましくは0.05~1ミクロン、さらに好ましくは0.1~0.5ミクロン、最も好ましくは0.1~0.22ミクロンである。ある実施形態では、前記フィルタ装置は、好ましくは、第1の濾過工程と相互接続され、フィルタを通して、一定流量、好ましくは100mL/分を供給する蠕動ポンプを備えた閉鎖系で行われるデッドエンド濾過を可能にする。
【0082】
濾過ののち、濾液がTFF装置に移される。この目的のため、最終フィルタ装置が、再び前記TFFと流体接続される。これらの装置は、通常、分子量カットオフ(MWCO)により分類される。分子量カットオフ(MWCO)または公称分子量カットオフ(NMWCO)は、膜によって90%が保持される溶質の最小分子量として定義される。好ましい実施形態では、前記TFFは、カットオフ範囲が100kDaである。前記TFFは、サンプルの洗浄、濃縮、さらに精製に用いられる。TFFから、濃縮および精製されたサンプルが、充填および最終製造ユニットに移され、最終産物を得る。ある実施形態では、最終産物が、充填装置に接続されたバッグに回収され、充填装置がサンプルを最終レシピエントのために分割(aliquoting)してよい。また、最終レシピエントのための分割を手動で行うことも可能である。
【0083】
ある例では、上記のような製造プロセスを用いる場合、バイオリアクター内の最小濃度が少なくとも40×106粒子/LのMSCの100倍濃縮上清から、最終産物組成物1mLあたり少なくとも1×1011の粒子を得ることができる。MSCのコンフルエンシーは最大80%であった。好ましくは、0.5Lのバイオリアクター1台に約8×106個のMSCを植え付け、培養し、完全に増殖させる。その後、前記MSCが上清にEVを放出し始め、上清が24時間ごとに、例えば培養バッグに回収される。この例では、前記培養バッグの内容物を4回プールし、濾過(本例では、メッシュサイズ0.22ミクロンを使用)して100倍濃縮すると、1mLあたり少なくとも1×1011の粒子が得られる。
【0084】
上記の例で使用される「粒子」は、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンであるどのような粒子でもよく、その中でもEVが挙げられる。粒子の他の例としては、タンパク質またはペプチドの凝集体を挙げることができる。前記粒子の起源は、MSCまたはMSCを培養および増殖させるための細胞培地である。したがって、前記粒子は、前記細胞培地もしくはMSCに通常存在するか、またはその一部である任意の粒子であってよい。
【0085】
好ましくは、上記のような方法を用いる場合、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンである前記粒子の少なくとも90%が、EVである。
【0086】
さらなる態様において、本発明は、MSCに由来するEVを含有する組成物も対象とする好ましい実施形態では、前記EVは、サイズが1μm未満であり、前記組成物のヒトアルブミン濃度は、10~30g/Lである。
【0087】
別の実施形態またはさらなる実施形態では、本発明に係る組成物は、MSC由来の1μm未満のサイズのEVを含有し、トランスフェリンとアルブミンとを含有し、その割合は、アルブミン1gあたりトランスフェリン約2~60mg、好ましくはアルブミン1gあたりトランスフェリン約5~55mg、より好ましくはアルブミン1gあたりトランスフェリン10~45mg、最も好ましくはアルブミン1gあたりトランスフェリン10~40mgである。
【0088】
ある実施形態では、組成物のEVのサイズは、1μm未満である。好ましい実施形態では、組成物のEVのサイズは、約750nm未満、好ましくは500nm未満、好ましくは400nm未満、好ましくは300nm未満である。別のまたはさらなる好ましい実施形態では、組成物のEVのサイズは、少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、より好ましくは少なくとも25nm、より好ましくは少なくとも50nmである。別のまたはさらなる好ましい実施形態では、組成物のEVのサイズは、25~500nm、好ましくは25~400nm、より好ましくは約50~約300nmである。
【0089】
EVのサイズ測定およびカウントには、光学的手法が通常用いられる。本発明のある実施形態では、前記EVの粒子サイズが、液体緩衝液中に懸濁させたナノ粒子の定量およびサイズ測定のための好ましい方法であるナノ粒子追跡分析(NTA)によって測定される。別の実施形態またはさらなる実施形態では、NTAの基準法として用いられる調整可能抵抗パルスセンシング(TRPS)を用いて粒子サイズが測定される。別の実施形態またはさらなる実施形態では、高解像度フローサイトメトリーを用いて粒子サイズが測定される。
【0090】
上述のプロセスによって得ることができる本発明に係る組成物は、ヒトアルブミンを10~30g/Lの濃度、より好ましくは10~20g/Lの濃度、より好ましくは15~20g/L、または好ましくは12~16g/Lの濃度で含有する。前記アルブミン濃度は、比色法または抗アルブミン抗体によるELISA法により測定することができる。ある実施形態では、前記比色測定は、ブロモクレゾールグリーンアッセイである。
【0091】
前記アルブミンの起源は、MSCの細胞培地である。アルブミンは、MSCによって産生されないため、理論上は本製造プロセスの汚染物質とみなされるが、実際には、本発明の最終産物、ひいては組成物の安定性および機能性を担保するためにはアルブミンの存在が必要であることが意外にも明らかにされた。アルブミンは、必要な濃度であれば、部分的に薬物の安定剤および活性の増強剤として作用する。アルブミンを強制的に除去すると活性が低下することがわかっている(Hyungtaek Jeon et al, 2020)。
【0092】
好ましくは、前記アルブミンは、動物および/またはヒトへの使用が許容されるために、臨床グレードの製品である。
【0093】
ある実施形態では、前記組成物中に存在する前記アルブミンの少なくとも90%が、前記組成物中の前記EVと会合している。
【0094】
ヒトアルブミンの分子量は約66kDaである。したがって、EVと会合していないアルブミンはTFF処理によって除去され、組成物中に残ったアルブミンはEVと会合している。さらなる好ましい実施形態では、前記組成物中のアルブミンの少なくとも93%、より好ましくは94%、より好ましくは95%、より好ましくは96%、より好ましくは97%、より好ましくは98%、より好ましくは99%がEVと会合している。
【0095】
ある実施形態では、前記組成物は、ヒトトランスフェリンも含有する。前記組成物中のトランスフェリンのレベルは、好ましくは25mg/L~95mg/L、より好ましくは55mg/L~75mg/Lである。ある実施形態では、前記組成物中のトランスフェリンのレベルは、好ましくは60~600mg/L、好ましくは100~500mg/L、より好ましくは150~450mg/Lである。トランスフェリンは、細胞膜を介した粒子の移動に関与することが報告されており、in vivoでのEVの安定性および細胞への取り込みに関与していると言われている。このため、トランスフェリンの存在は、前記EV組成物のさらなる使用に好影響を与えることが知られている。
【0096】
ある実施形態では、前記組成物中に存在する前記トランスフェリンの少なくとも90%が、前記組成物中の前記EVと会合している。
【0097】
ヒトのトランスフェリンの分子量は約80kDaである。そのため、前記EVと会合していないトランスフェリンは、TFF処理によってある程度除去され、組成物中に残存するトランスフェリンはEVと会合している。さらなる好ましい実施形態では、前記組成物中のトランスフェリンの少なくとも93%、より好ましくは94%、より好ましくは95%、より好ましくは96%、より好ましくは97%、より好ましくは98%、より好ましくは99%が前記EVと会合している。
【0098】
アルブミンおよびトランスフェリンの両者、ならびに他のタンパク質の濃度は、当該技術分野におけるELISAなどの従来の手段によって測定することができる。
【0099】
ある実施形態では、前記組成物は、分子量が100kDa未満の遊離成分を5%未満含む。
【0100】
「遊離成分」という用語は、最終産物に含まれる成分や構成要素のうち、EVと会合しておらず、このため最終産物中に遊離した形態で利用できるものを指す。
【0101】
例えば、カットオフ値100kDaのTFF濾過によって、MWが100kDa未満の遊離成分を5%未満とすることにより、組成物が十分に規定され、GMPに適合していることが保証される。MSCの細胞増殖培地中のほとんどの成分の分子量は、100kDa未満である。このような低分子量の成分は、最終産物に残っていると汚染物質とみなされるため、最小限に抑えることが望ましい。さらなる好ましい実施形態では、前記組成物は、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の遊離成分を含有する。
【0102】
さらなる実施形態では、前記EVの少なくとも60%は、アネキシンVを含有する。
【0103】
アネキシンは、カルシウム依存のリン脂質結合タンパク質であり、EVと会合することでEVの抗炎症性を高める。アネキシンVなど、アネキシンの一部は、炎症促進活性に関与している。しかし、アネキシンVがEVと会合すると、EVの抗炎症活性が高まることがわかっている。アネキシンVの分子量は約37kDaである。
【0104】
本発明のある実施形態によれば、EV会合アルブミンとEV会合アネキシンVとの比は、1:4.500~1:350.000である。
【0105】
本発明のある実施形態では、組成物は、1種または複数種の第2の治療剤をさらに含んでよい。本明細書で使用する場合、治療薬は、本明細書に記載するような疾患の予防、治療および/または管理に使用することができる任意の薬剤を意味する。このような薬剤は、小胞内に存在し(例えば、EVの本体内に含まれ)ていてもよいし、EVと会合していてもよい。適切な治療薬は当業者に公知であり、ノンコーディングRNA、miRNA、mRNA、増殖因子、血管新生促進分子、心臓保護酵素、抗体、抗炎症分子、抗線維化分子、抗酸化分子、神経新生促進分子、抗ウイルス分子などを挙げることができる。一部の実施形態では、単離されたEVが、第2の薬剤と併用される。一部の実施形態では、第2の薬剤は、ステロイド、抗酸化剤、または吸入一酸化窒素である。一部の実施形態では、ステロイドは、コルチコステロイドである。一部の実施形態では、コルチコステロイドは、メチルプレドニゾロンまたはデキサメタゾンである。一部の実施形態では、抗酸化剤は、スーパーオキシドジスムターゼである。
【0106】
限定するものではないが肺高血圧症を含む特定の肺疾患の治療または管理に用いられる特定の第2の治療剤としては、酸素、ワルファリン(クマジン)などの抗凝固剤;フロセミド(ラシックス(登録商標))またはスピロナラクトン(アルダクトン(登録商標))などの利尿剤;カルシウムチャネルブロッカー;K-dur(登録商標)などのカリウム;ジゴキシンなどの強心薬;ニフェジピン(Procardia(登録商標))またはジルチアゼム(カルディゼム(登録商標))などの血管拡張薬;ボセンタン(トラクリア(登録商標))およびアンブリセンタン(レタイリス(登録商標))などのエンドセリン受容体拮抗薬;ポプロステノール(フローラン(登録商標))、トレプロスチニルナトリウム(リモデュリン(登録商標)、Tyvaso(登録商標))、およびイロプロスト(ベンタビス(登録商標))などのプロスタサイクリン類似物質;ならびにシルデナフィル(レバチオ(登録商標))およびタダラフィル(アドシルカ(登録商標))などのPDE-5阻害剤などが挙げられる。
【0107】
前記組成物は、好ましくは、液体として製剤化される。保存は、バイアル、点滴バッグ、アンプル、カートリッジ、液体吸入器、ネブライザーまたは粉末吸入器などの吸入器、およびプレフィルドシリンジなどの手段によって行われてよい。前記液体製剤は、活性主体または医薬品としてのEVのほかに、保存後の活性薬物が確実に安定して保たれるようにするための様々な化合物をさらに含有してよい。これらとしては、可溶化剤、安定剤、緩衝剤、張力調整剤、増量剤、粘度向上剤・低下剤、界面活性剤、キレート剤、アジュバントなどが挙げられる。
【0108】
別の実施形態では、前記組成物が、凍結乾燥またはフリーズドライされてよい。前記凍結乾燥製剤は、バイアル、カートリッジ、液体吸入器、ネブライザーまたは粉末吸入器などの吸入器、デュアルチャンバーシリンジ、およびプレフィルド混合システムに保管されてよい。投与前に、凍結乾燥組成物が液体として再溶解(reconstituted)される。この場合、凍結乾燥粉末に液体希釈剤を配合し、混合した後、注入してよい。通常、再溶解には、薬剤が正しく混合され投与されるようにするための再溶解および送達システムが必要である。
【0109】
好ましい実施形態では、前記組成物は水性である。本発明の一実施形態では、EVは、薬学的に許容可能な担体をさらに含む組成物として製剤化される。薬学的に許容可能な担体または希釈剤は、本発明のEVが存在可能(viable)な状態に保たれ、その特性を保持するように選択される。薬学的に許容可能な担体は、予防的または治療的な活性を有する薬剤の運搬または輸送に関与する、液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒またはカプセル化材料などの薬学的に許容可能な材料、組成物またはビヒクルである。各担体は、製剤の他の成分と適合し、対象に害を与えないという意味で「許容可能な」ものでなければならない。薬学的に許容可能な担体として機能することが可能な材料の例の一部としては、ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖類;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;水酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、パイロジェンフリー水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;ならびにその他医薬製剤に用いられる無毒の適合物質が挙げられる。
【0110】
前記組成物の保存は、4℃、より好ましくは、前記組成物を-20℃~-196℃、好ましくは-40℃~-196℃、より好ましくは-80℃~-196℃の温度で凍結する凍結保存によって行われてよい。前記凍結手順は、好ましくは、スナップフリージングまたはガラス化凍結手順であり、凍結過程の間および解凍後に製品が存在可能となる。別の凍結手順としては、製品の安定性を高めるために、速度制御凍結、好ましくは結晶化点での発熱反応の補正も行ってよい。後者の手順では、速度制御フリーザーを使用することができる。
【0111】
ある実施形態では、前記組成物が、注射、静脈内投与、吸入、気管内注入、全身への注入、鼻腔内注入による投与用に適合される。また、前記組成物は、EVを徐放させるために、単独で、またはハイドロゲル、ポリマーもしくはポリマー医療機器と組み合わせて、外用のために処方されてもよい。
【0112】
一部の実施形態では、本組成物が、静脈内投与用に適合される。一部の実施形態では、本組成物が、対象の肺または気管への投与用に適合される。一部の実施形態では、組成物が、吸入による投与のために製剤化される。一部の実施形態では、組成物が、エアロゾルとして投与するために製剤化される。一部の実施形態では、単離されたEVが、ネブライザーを用いて投与される。一部の実施形態では、単離されたEVが、気管内チューブを用いて投与される。
【0113】
一部の実施形態では、単離されたEVが、界面活性剤、好ましくは肺サーファクタントと共に投与または製剤化される。この界面活性剤は、好ましくは、組成物の安定性に影響を与えないように選択される。一部の実施形態では、肺サーファクタントは、単離された天然由来の界面活性剤である。一部の実施形態では、肺サーファクタントは、ウシ肺またはブタ肺に由来する。一部の実施形態では、肺サーファクタントは、合成界面活性剤である。肺サーファクタントは、(例えば、肺胞壁同士の癒着を防ぐことによって)肺の気道を開いた状態に保つのに有用なリポタンパク質混合物である。肺サーファクタントは、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスホチジルコリン(PC)、ホスホチジルグリセロール(PG)などのリン脂質;コレステロール;およびSP-A、SP-B、SP-C、SP-Dなどのタンパク質から構成されていてもよい。一部の実施形態では、肺サーファクタントは、ウシ肺またはブタ肺の組織などの天然の起源に由来する。例えば、Alveofact(商標)(牛肺洗浄液由来)、Curosurf(商標)(豚肺ミンチ由来)、Infasurf(商標)(子牛肺洗浄液由来)、Survanta(商標)(牛肺ミンチにDPPC、パルミチン酸、トリパルミチンなどの成分を追加したもの)などが挙げられる。また、肺サーファクタントは合成であってもよい。例としては、Exosurf(商標)(DPPCにヘキサデカノールおよびチロキサポールを添加したもの)、Pumactant(商標)または人工的肺拡張コンパウンド(Artificial Lung Expanding Compound:ALEC)(DPPCおよびPGを含む)、KL-4(DPPC、パルミトイル-オレイルホスファチジルグリコール、パルミチン酸、およびSP-Bを摸倣する合成ペプチドを含む)、Venticute(商標)(DPPC、PG、パルミチン酸、組換え型SP-Cを含む)等が挙げられる。肺サーファクタントは、市販品の販売業者から入手することができる。
【0114】
また、本発明は、パッケージングされラベル付けされた医薬品を包含する。この製造品またはキットは、ガラスバイアルもしくはプラスチックアンプルなどの容器または密封された他の容器に適切な単位投与形態を含む。単位投与形態は、例えばエアロゾルによる肺への投与用に適合されることが望ましい。好ましくは、製造品またはキットは、医薬品の投与方法を含む使用方法に関する説明書をさらに含む。説明書は、医療提供者、技師または対象に、標的とする疾病または障害を適切に予防または治療する方法について助言を与える情報資料をさらに含んでよい。換言すれば、製造品は、限定するものではないが、実際の投与量、モニタリング手順、および他のモニタリング情報を含む、使用のための投与レジメンを示すまたは示唆する指示を含む。
【0115】
他の医薬品と同様に、包装材および容器は保管および輸送中の製品の安定性を保護するように設計されており、安定性を保証するために乾燥剤を含んでよい。
【0116】
キットは、滅菌水性懸濁液中にEVを含んでよく、直接使用されるか、または静脈内注射もしくはネブライザーでの使用のために通常の生理食塩水で希釈されるか、または気管内投与のために界面活性剤で希釈もしくはこれと組み合わせられる。このため、キットは生理食塩水または界面活性剤などの希釈液や薬剤を含んでよい。また、キットは、ネブライザーなどの肺送達デバイス、またはマウスピース、ノーズピース、またはマスクのような使い捨て部品を含んでもよい。
【0117】
最終的な態様において、本発明は、上記のような組成物の使用にも同様に関する。より詳細には、前記組成物は、治療的または予防的な使用のために適合される。本発明は、特定の疾患を予防および治療することを企図する。疾病の予防とは、疾病が顕在化する可能性を低減すること、および/または疾病の発症を遅らせることを意味する。疾病の治療とは、疾病の症状を低減または消失させることを意味する。したがって、本発明は、対象の疾患を治療および/または予防するための方法を提供することも企図する。
【0118】
対象は好ましくはヒト対象であるが、本発明の特定の態様は、ヒト対象、農業用家畜(例えば、牛、豚など)、愛玩動物(例えば、馬)、伴侶動物(例えば、犬、猫など)など、恩恵を得る可能性がある任意の対象に実施することができる。好ましい実施形態では、前記対象は、ヒト、好ましくはヒトの患者であり、前記患者は、成人、乳児、または新生児であってよい。
【0119】
ある実施形態では、上記いずれかの実施形態に係る組成物は、肺疾患の予防または治療に使用される。ある実施形態では、前記肺疾患は、炎症性肺疾患、肺血管疾患、または急性肺損傷であってよい。より好ましくは、前記炎症性肺疾患は、肺動脈高血圧症(PAH)とも呼ばれる肺高血圧症、喘息、気管支肺異形成症(BPD)、アレルギー、特発性肺線維症または肺炎などである。前記炎症性肺疾患は、ウイルス感染症などの感染症に起因するものであってよい。好ましい実施形態では、前記ウイルス感染症は、インフルエンザ、SARS-CoV-1、MERS、またはSARS-CoV-2である。別の実施形態では、前記急性肺損傷は、敗血症と関連するか、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。
【0120】
また、これらの疾患には、炎症性の要素を有さない肺血管疾患も含まれる。本発明に従って治療されてよいさらに別の肺の状態には、敗血症または換気と関連する可能性のある急性肺障害が含まれる。後者の例としては、急性呼吸促迫症候群がある。
【0121】
肺高血圧症は、肺動脈の血圧が正常値を大きく上回ることを特徴とする肺疾患である。症状としては、息切れ、特に運動時の胸痛、脱力感、疲労感、失神、特に運動時の軽い頭痛、めまい、心音および雑音の異常、頚静脈怒張、腹部、脚および足首の体液貯留、爪床の青色化などが挙げられる。
【0122】
気管支肺異形成症は、酸素吸入を受けているか人工呼吸器を装着している新生児、早産、特に超早産(妊娠32週より前)で生まれた新生児が罹患する疾患である。新生児慢性肺疾患とも呼ばれる。BPDの原因としては、例えば人工呼吸などによる機械的損傷、例えば酸素療法などによる酸素毒性、感染症などが挙げられる。この疾患は、時間の経過と共に非炎症性から炎症性へと進行することがある。症状は、皮膚の青色化、慢性の咳、速い呼吸、息切れなどが挙げられる。BPDの患者は、RS(respiratory syncytial)ウイルス感染症などの感染症にかかりやすい。BPDの患者は、肺高血圧症を発症することがある。
【0123】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、呼吸窮迫症候群(RDS)または成人呼吸窮迫症候群とも呼ばれ、肺の損傷または急性疾患の結果として生じる状態である。肺の損傷は、換気、外傷、火傷、および/または誤嚥の結果であることがある。急性疾患は、感染性肺炎または敗血症のことがある。これは、急性肺損傷の重症例とされ、命にかかわることも多い。肺の炎症、ガス交換の障害、炎症性メディエータの放出、低酸素血症、および多臓器不全を特徴とする。また、ARDSは、胸部X線で両側の浸潤をみとめる場合、吸入酸素量(FiO2)に対する動脈血酸素分圧(PaO2)が200mmHgを下回る比率としても定義することができる。両側の浸潤を伴いPaO2/FiO2比が300mmHg未満であれば、急性肺障害を示し、RDSの前兆であることが多い。ARDSの症状としては、息切れ、頻呼吸、および酸素レベルの低下による精神錯乱が挙げられる。
【0124】
特発性肺線維症は、原因不明の肺の瘢痕化または肥厚を特徴とする。50~70代に多く発症する。症状は、息切れ、規則的な咳(一般的には乾いた咳)、胸痛、および活動レベルの低下などである。
【0125】
予防および/または治療で、場合によっては、EVを単独で、または1種以上の第2の薬剤もしくは有効成分と共に使用されてよい。また、対象に、外部からの酸素投与を伴う、または伴わない換気などの機械的介入を行ってもよい。
【0126】
対象は、本発明のEVを用いた治療に適応可能な肺の疾患(または状態)を有する対象であっても、そのような疾患(または状態)を発症するリスクのある対象であってもよい。そのような対象には、新生児、特に低妊娠期に生まれた新生児が含まれる。本明細書において、ヒト新生児とは、出生時から生後約4週間までのヒトを指す。本明細書において、ヒト乳児とは、生後約4週間から約3歳までのヒトを指す。本明細書において、低妊娠期間とは、特定の種の生物の正常な妊娠期間より前に起こる出産(または分娩)を意味する。ヒトの場合、妊娠満期は約40週であり、37週から40週以上までと幅がある。低妊娠期間とは、ヒトにおいては、早産と同様に、妊娠37週以前の出生として定義される。したがって、本発明は、妊娠37週以前、さらに短い妊娠期間(例えば、36週以前、35週以前、34週以前、33週以前、32週以前、31週以前、30週以前、29週以前、28週以前、27週以前、26週以前、または25週以前)に生まれた対象の予防および/または治療を企図する。通常、このような未熟児は新生児として治療されるが、本発明では、新生児の段階を超えて、小児期および/または成人期まで治療することを企図する。対象の中には、例えば肺高血圧症などの特定の形態の肺疾患に対する遺伝的素因を有するものもあり、このような対象も本発明に従って治療されてよい。
【0127】
新生児、特に低妊娠期間齢の新生児に関して、本発明は、生後4週間、3週間、2週間、1週間、6日、5日、4日、3日、2日、1日、12時間、6時間、3時間、または1時間以内にEVを投与することを企図する。一部の重要な例では、生後1時間以内にMSCエクソソームが投与される。
【0128】
本開示は、限定するものではないが、BPDなどの肺疾患を示す症状がない場合であっても、EVを投与することをさらに企図する。
【0129】
ある実施形態では、本発明に係るEVを含有する前記組成物は、COVID-19、より詳細にはCOVID-19誘発肺炎または急性肺炎の治療に使用されてよい。COVID-19は、ヒトの呼吸器系および肺の上皮組織を攻撃する重症急性呼吸器症候群による新興感染症である。COVID-19疾患では、より重篤な症状を発症するリスクの高い患者層が存在することが報告されている。主な合併症は、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、多臓器不全、敗血症性ショック、および死亡が挙げられる。
【0130】
COVID-19は、SARS-CoV-2とも呼ばれ、これを原因とし、サイトカインストーム、多臓器不全、敗血症性ショックおよび血栓を前駆症状とする急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進行することがある肺感染症の異なるメカニズムに関連していることが示されている。これに対し、細菌性肺炎は、肺全体または肺の肺胞の一部が炎症を起こし、液体、膿、細胞破片で満たされる一般的な肺感染症で、ほとんどがウイルス、真菌、または細菌によって引き起こされ、多くの場合、抗生物質で治療される。その他の症例では、心血管系合併症が生じ、肝障害の影響による肝酵素の上昇、神経症状が発現する。小児では、感染が進行すると川崎病に似た症状の小児多臓器不全症候群を発症し、死に至ることもある。現在のデータでは、報告される症例に占める子どもの割合は少なく、10歳未満が約1%、10~19歳が約4%である。
【0131】
EVを含有する前記組成物は、炎症過程の抑制を主な作用機序とするマルチターゲット治療効果を提供する。
【0132】
EVは、過度の炎症およびサイトカインストーム、線維化、(機械的)換気による酸化ストレス、ウイルスの活動および炎症反応による上皮細胞のアポトーシスなど、肺損傷の複数のメカニズムを標的とする。
【0133】
別の実施形態では、EVを含有する前記組成物は、COVID-19、より詳細にはCOVID-19誘発肺炎または急性肺炎の補助治療として用いられる。
【0134】
別の実施形態では、上記のいずれかの実施形態に係る前記組成物は、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)の予防または治療に使用される。IBDは、消化管に炎症を生じる疾病の総称であり、最も一般的なIBDに潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)とがある。UCは、結腸および直腸の最内側の粘膜に長期間にわたる炎症およびただれを引き起こす疾病である。CDは消化管のどこにでも発生し、患部組織の深層部まで浸透することがある。CDの症状として、肛門周囲瘻孔の発生がある。しかし、これらの疾患は、いずれも、腹痛、激しい下痢、倦怠感、および体重減少などを引き起こすという点で類似する。
【0135】
肺疾患に関してEVを投与する場合、好ましい投与方法は、気管内注入または吸入である。神経疾患に関しては、好ましくは全身への注入、鼻腔内への注入、または吸入である。クローン病の瘻孔、潰瘍、または軟骨の修復に関しては、局所注射が好ましい。創傷治癒、火傷および/または潰瘍の治療に関しては、EVは、好ましくは、EVの徐放のためのハイドロゲルまたはポリマー医療機器と組み合わせて、身体の外側に投与される。
【0136】
本発明のEVは、有効量投与される。有効量とは、単独で所望の結果を促す薬剤の量を意味する。絶対量は、投与のために選択された材料、単回投与か複数回投与か、年齢、身体状態、身体の大きさ、体重、疾患のステージなどの個々の患者のパラメータを含む様々な要因に依存する。これらの要因は、当業者には公知であり、日常的な実験を超えることなく対応することができる。また、投与量は、前記組成物を投与する対象によって異なってよい。
【0137】
本発明のある実施形態では、前記EVは、前記患者の109EV/kg~1012EV/kgの用量で投与されるか、または前記患者の1010EV/kg~1012EV/kgの用量で投与される。さらなる実施形態では、投与量は、小児(0ヶ月から12歳までの年齢)では109EV/kg~1011EV/kgの範囲である。12~19歳および成人では、前記用量は、109EV/kg~1012EV/kgの範囲であってよい。
【0138】
本発明のある実施形態では、前記EVは、CDの肛門周囲瘻孔の治療のために、患者1人につき約1010~約1012EVの用量で投与される。
【0139】
また、本開示は、2回、3回、4回、5回またはそれ以上の投与を含む、EVの反復投与も企図する。場合によっては、前記EVが、連続的に投与されてよい。反復または連続投与は、治療する状態の重症度に応じて、数時間(例えば、1~2、1~3、1~6、1~12、1~18もしくは1~24時間)、数日(例えば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6日もしくは1~7日)、または数週間(例えば、1~2週間、1~3週間もしくは1~4週間)の期間行われてよい。投与が繰り返されるが連続的でない場合、投与間隔は、数時間(例えば、4時間、6時間、もしくは12時間)、数日(例えば、1日、2日、3日、4日、5日、もしくは6日)、または数週間(例えば、1週間、2週間、3週間、もしくは4週間)であってよい。投与間隔は同じでも、異なっていてもよい。例えば、疾病の症状が悪化しているようであれば、EVをより頻回に投与し、症状が安定または軽減したら、EVの投与頻度を減らしてよい。
【0140】
場合によっては、低用量のEVを繰り返し静脈内投与してよい。したがって、本開示は、EVの低用量形態の反復投与、およびEVの高用量形態の単回投与を企図する。低用量形態は、限定するものではないが、1キログラムあたりまたは1回の局所注入あたり1010~1011EVの範囲であってよく、高用量形態は、限定するものではないが、1キログラムあたりまたは1回の局所注入あたり1011~1012の範囲であってよい。とりわけ、疾患の重症度、対象の健康状態、および投与経路に応じて、低用量または高用量のEVの単回または反復投与が企図されることが理解されるであろう。
【0141】
EVは、肺または消化管への送達を可能にする任意の経路で投与されてよい。全身への投与経路としては、静脈内ボーラス注射または持続的注入が適している。鼻腔内投与、(例えば、挿管による)気管内投与、および(例えば、口または鼻からエアロゾルを介した)吸入などのより直接的な経路も本発明によって企図され、場合によっては、特に迅速な作用が必要な場合は、より適切なことがある。本明細書で使用されるように、エアロゾルとは気体中に微粒子として分散した液体の懸濁液であり、そのような粒子を含む細かい霧または噴霧も含む。本明細書で使用されるように、エアロゾル化とは、液体懸濁液を微粒子または液滴に変化させることによってエアロゾルを生成する過程である。これは、加圧パックまたはネブライザーなどのエアロゾル送達システムを使用して行われてよい。ネブライザーとしては、限定するものではないが、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適切な噴射剤の使用による、気流(すなわち空気圧)、超音波、および振動メッシュネブライザーが挙げられる。ネブライザーのほかにも、肺への送達用のデバイスとしては定量噴霧式吸入器(MDI)および乾燥粉末吸入器(DPI)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。吸入器または送気器に使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジが、凍結乾燥エクソソームおよび乳糖またはデンプンなどの適切な粉末基剤を含んで製剤化されてよい。
【0142】
EVは、全身への送達が望ましい場合、例えばボーラス注入または連続注入を含む注入による非経口投与用に製剤化されてよい。注入用製剤は、保存剤を添加した、または添加しない単位用量形態、例えば、アンプルまたはマルチ用量容器で提供されてよい。
【0143】
組成物は、油性または水性のビヒクル中の水溶性懸濁液、溶液またはエマルションなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤を含んでよい。好適な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステルなどが挙げられる。水性注入用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど、懸濁液の粘度を高める物質を含んでよい。任意選択で、懸濁液が、溶解性を向上させる適切な安定剤または薬剤を含んでよい。あるいは、エクソソームは、使用前に、適切なビヒクル、例えば、滅菌パイロジェンフリー水で再溶解(constitution)するための凍結乾燥された形態または他の粉末もしくは固体の形態であってもよい。
【0144】
本明細書に記載のEVおよび組成物は、好ましくは、上記のような方法によって得られる。
【0145】
次に、本発明を、限定するものではない実施例を参照しながらより詳細に説明する。
【実施例】
【0146】
実施例1-MSCからのEVの単離
臍帯組織またはホウォートンゼリーから得た臍帯由来MSCを、細胞培養培地供給容器(1)と流体接続されている撹拌式バイオリアクター(2)を備える増殖装置で増殖させた。
図1を参照すると、参照符号は以下を示す。
1.細胞培養培地容器
2.撹拌式バイオリアクター
3.細胞上清容器
4.冷蔵庫
5a,5b,5c.蠕動ポンプ
6.第1のフィルタユニット
7.第2のフィルタユニット
8.TFFカセット
9.最終産物
【0147】
前記バイオリアクター(2)内に入れた三次元マイクロキャリアの存在下、および精製ヒトアルブミンを3g/Lの濃度で含有するゼノフリー無血清培地の存在下で、細胞を増殖させる。この培地は、60mg/Lの濃度の組換え精製トランスフェリンをさらに含有していた。
【0148】
バイオリアクター(2)内の最小濃度が少なくとも40×106細胞/Lに達し、MSCのコンフルエントが最大80%に達するまでMSCを増殖および成長させた。細胞濃度は、マイクロビーズに付着したMSCの細胞計数および蛍光標識によって規定した。この段階で、細胞はEVの分泌を開始できるようになっていた。このため、新鮮な無血清ゼノフリー培地を基礎培地(DMEM/グルコース高含有/フェノールレッドなし/glutamax、サーモサイエンティフィック)で1:10に希釈し、細胞培養に供給した。24時間後には、EVの採取を開始できるようになった。この目的のために、バイオリアクター(2)内の調整した細胞培養物または細胞上清を、4℃に設定した冷蔵庫(4)に入れた細胞上清容器(3)にポンプで移した。この上清は、MSCが産生したEVを含んでいた。その後、容器(3)に収集した上清を、蠕動ポンプ(5c)により、2ミクロンのフィルタを有する第1のフィルタユニット(6)にポンプで送った。上清を、蠕動ポンプ(5c)を備えた閉鎖系で、フィルタ(6)を通して100mL/分で一定流量を供給するデッドエンド濾過により濾過した。その後、第1の濾過工程の透過物を、第1のフィルタユニット(6)と流体接続され、0.2ミクロンのフィルタを有する第2のフィルタユニット(7)で濾過した。フィルタ(7)を通して100mL/分で一定流量を供給する蠕動ポンプ(5c)を備えた閉鎖系で、デッドエンド濾過により濾過を行った。EVを含有する透過物を1Lのバッグに回収し、その後4℃で保存した。
【0149】
最終工程では、前記透過物を、デッドエンドフィルタユニット(6,7)と流体接続されたカットオフが100kDaのTFFカセット(8)にかけた。TFFカセット(8)を通ったEVを含有するリテンテートを生理食塩水緩衝液で洗浄し、回転子速度300rpmの蠕動ポンプ(5c)を用いてTFFカセット(8)を循環させて最終容量が10mLとなるまで濃縮した。TFF(8)から最終産物(9)を回収し、-80℃以下で凍結するか、またはクライオチューブ、バッグもしくはその他の適当な容器に入れ4℃で保存した。
【0150】
前記最終産物に対し、生成物の品質を確認するために分析を行った。品質管理として、EVの純度および安定性を保証するための比色分析およびELISAによる、EVと会合しているアルブミン濃度の測定、ナノ粒子トラッキングアナライザー(NTA)、調整抵抗パルスセンシング(TRPS)、電子顕微鏡ならびに/またはRAMAN顕微鏡などの技術による粒子分析を行った。生成物のサンプルにエンドトキシンおよび/またはマイコプラズマが含まれているかどうかを検査した。その他の品質管理としては、定性クロマトグラフィー、質量分析、ELISA、シークエンシング、qRT-PCR、in vitroでのT細胞、B細胞およびマクロファージの偏光などの活性試験を行った。
【0151】
上記の培養条件において、前記MSCは、前記MSCを培養する18~24時間の時間範囲で、細胞培地1mL当たり少なくとも0.25×109個の粒子を産生する。
【0152】
上記実験は、UC由来のMSCで実施したが、限定するものではないが、乳腺、骨髄、ホウォートンゼリー、(臍帯)血、末梢血、羊膜、脂肪組織、歯髄、卵管、肝臓および肺の組織など、他の組織または起源に由来するMSCでも繰り返した。
【0153】
実施例2:EV製品中のアルブミン濃度測定
実施例1に記載の方法で得られたEV製品について、アルブミン濃度を分析した。アルブミン濃度は、以下の2種類の方法で測定した。
-比色測定
-ELISA
簡略に記載すると、ブロモクレゾールグリーンを用いて、サンプル中のアルブミン濃度を比色反応により評価した。ELISAによる濃度測定は、抗ヒトアルブミン抗体で行った。
【0154】
比色反応により測定した最終産物のアルブミン濃度は16g/Lであった。
【0155】
ELISAで測定した濃度は約17g/Lであった。アルブミンの分子量は約66kDaであり、EVと会合していないアルブミンはカットオフが100kDaのTFFにより除去されることが予想される。そのため、残ったアルブミンはEVと会合していると考えられる。
【0156】
実施例3:EV製品中のトランスフェリン濃度測定
実施例1に記載の方法で得られたEV製品のトランスフェリン濃度を分析する。トランスフェリン濃度は、ELISA(アブカム)を用いて、製造業者のプロトコールに従って定量化する。
【0157】
最終産物においてELISA(アブカム)により測定したトランスフェリン濃度は70mg/Lであった。
【0158】
実施例4:EV製造用臨床グレード培養培地の純度
EV製造に使用する様々な培地における汚染粒子の濃度を評価するための実験を行った。試験対象は以下の培地である。
1.精製ヒトアルブミン0.3g/Lと組換え精製トランスフェリン7mg/Lとを含むゼノフリー無血清培地(実施例1で用いた培地に対しDMEM培地を用いて約1:10に希釈したもの)
2.基礎DMEM培地(添加物なし)(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
3.未規定製品を添加した培養培地(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
【0159】
新鮮な培地のサンプルを、NTA、TRPS、およびFACSの各装置を使用して分析する。粒子のサイズおよび量を定量化した。コントロールとして精製水を使用した。
【0160】
EVを、実施例1で説明したような方法で、上述した培地のいずれかを用いて製造する。品質管理の結果、異なる培地で生産したEVについて、汚染粒子の数が最も少ないのは培地2であるものの、この培地は長期の細胞培養には対応できない。汚染粒子が最も多いのは、培地3である。培地1は、他の培地の中間の数の汚染粒子を含むが、長期的な細胞培養に対応できる。
【0161】
実施例5:EV製造のための臨床グレードの培地での細胞培養
本実験は、以下における細胞数、細胞増殖曲線、および細胞生存率を示すものである。
1.精製ヒトアルブミン3g/Lと組換え精製トランスフェリン60mg/Lとを含むゼノフリー無血清培地(実施例1で使用したものと同様の培地)。
2.基礎DMEM培地(添加物なし)(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
3.未規定製品を添加した培養培地(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
【0162】
方法
第1の実験では、MSCを、培地1、培地2または培地3の存在下で、細胞が70~80%のコンフルエンシーに達するまで、第1の実施例で上述したような培養系で増殖させる。
【0163】
その後、第2の実験では、第1の実験で培地1、培地2、および培地3で増殖させた細胞を同じ培地でリフレッシュする。
【0164】
第3の実験では、第1の実験で培地1に増殖させた細胞を、培地2と2:8の割合で混合した培地1でリフレッシュする。同じ実験で、第1の実験で培地3に増殖させた細胞を、培地2と2:8の割合で混合した培地3でリフレッシュする。
【0165】
第4の実験では、第1の実験で培地1、培地2、および培地3に増殖させた細胞を、培地2でリフレッシュする。
【0166】
実験2、実験3、および実験4では、細胞培養を少なくとも5日間続け、24時間ごとに培地をリフレッシュした。培地のリフレッシュは、古い培地を100%除去し、同量の新しい培地を加えて行う。
【0167】
結果
第1の実験では、培地1および培地3のMSCがマイクロキャリアに付着することが確認されるが、培地2ではこれがみとめられない。MSCは、培地1および培地3の両方で成長/増殖することができるが、培地2では生存能力を維持することができない。以降の実験では、培地1および培地3で培養した細胞のみを使用する。
【0168】
実験2では、未希釈の培地1および培地3の細胞培養物が、24~48時間以内に急速に過剰増殖し、その後、細胞が死滅する。実験3では、希釈した培地1および培地3を用いた細胞培養物は非常にゆっくりと成長を続け、細胞は少なくとも5日間存在可能である。実験4では、培地1および培地3に代えて培地2を用いた細胞培養物は2日しか生存できず、その後、細胞が死滅する。
【0169】
実施例6:臨床グレードの培養培地におけるEVの濃度および効率性
本実験は、以下におけるEVの濃度を示すものである。
1.精製ヒトアルブミン0.3g/Lと組換え精製トランスフェリン7mg/Lとを含むゼノフリー無血清培地(実施例1で用いた培地に対してDMEM培地を用いて約1:10に希釈したもの)
2.基礎DMEM培地(添加物なし)(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
3.未規定製品を添加した培養培地(サーモサイエンティフィック/ロンザ)
【0170】
MSCを、上述の培地のうちの1つで上述のように増殖させる。培養は少なくとも5日間続け、すべての培地を24時間ごとにリフレッシュする。
【0171】
実施例1および実施例5のEV製造プロトコールを使用する。培地1は、全粒子から新鮮な培地に存在する粒子を減算して求めた細胞分泌粒子(真性EV)の濃度が最も高い。特にこの実施例では、粒子の少なくとも95%、最大99%が、MSC(EV)によって分泌される。
【0172】
実施例7:3DバイオリアクターシステムにおけるEVの生産効率
本実験は、以下におけるEV生成の効率性を示すものである。
i)
図1に図示し実施例1に記載の3次元培養システム
ii)2次元培養システム
【0173】
MSCを、3次元培養システム(0.5Lおよび1Lの撹拌式バイオリアクター)ならびに2次元多層フラスコで、増殖用の培地(i)に続いてEV生成用の希釈培地(i)を使用して製造する。細胞数、培地の量、フットプリント、およびEV収量を算出し、より大容量のバイオリアクターに外挿する。3Dバイオリアクター法は、2D培養システムと比較して、フットプリントが小さく、培地の消費量が少なく、バッチあたりのEV収量が高い。
【0174】
実施例8:TFFシステムを用いたEVの分離効率
本実験は、以下を用いたEVの精製効率を示すものである。
i)最終濃縮工程としてカットオフ100kDaのTFFシステム
ii)サイズ排除クロマトグラフィー
iii)超遠心分離
【0175】
TFF濃縮を使用することにより、SECと比較して格段に高いEV回収率が得られる。TFFの収量はUCの収量と同等であるが、後者ではEVが損傷し、品質が低下する。また、UCはGMP/大量生産には適さない。
【0176】
実施例9:BPD治療への使用を意図したin vitroアッセイにおけるEVの活性
EVを、実施例1に従って製造し、BPDの以下の主要な症状の治療に使用する。
【0177】
a)炎症
EVのインターナリゼーションアッセイ。蛍光標識したEVをヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養する。標識したEVを内包する免疫細胞の集団をフローサイトメトリーにより定量化する。抗CD4、抗CD8、抗CD11c、抗CD14、抗CD19、抗CD56、および抗CD15の各マーカーを調べる。分析は、0時間、1時間、6時間、12時間、および時間24時間後に行い、好中球については6時間後に行う。線維芽細胞が産生するEVをネガティブコントロールとして使用する。
【0178】
リンパ球の遊走アッセイ。EVをトランスウェルシステムでPBMCと共培養する。ケモカインSDF-1に対する細胞遊走を調べる。細胞の表現型の分析および定量化は、フローサイトメトリーにより行う。
【0179】
B細胞アッセイ。EVを、CpG刺激したヒト末梢血単核細胞と共培養する。細胞の増殖および形質細胞への分化を調べ、フローサイトメトリーで表現型を調べ定量化を行う。サイトカインおよび抗体の定量は、ELISAで行う。
【0180】
T細胞アッセイ。EVを、ヒト末梢血単核細胞およびT細胞アクティベーターCD3/CD28ビーズと共培養する。CD4+T細胞の増殖およびCD4+T細胞のアポトーシスを、フローサイトメトリーを用いて定量化する。Treg/Teff比を求める。増殖Tregはフローサイトメトリーにより定量化する。IL10、TGF-β、ガレクチン-1、HGF、PGE2、GM-CSF、IL2、TNF-α、IFN-γの各サイトカインの定量は、ELISAで行う。
【0181】
CD細胞アッセイ。CD細胞の活性化を、EVと共培養してフローサイトメトリーにより調べる共刺激分子CD80およびCD86、ならびに成熟マーカーCD83のアップレギュレーションをフローサイトメトリーにより定量化する。IL6、IL8、IL12、CCL3、CCL4、IL10、TGF-βの各サイトカインの定量は、ELISAで行う。フローサイトメトリーを用いて貪食アッセイを行う(FITC-デキストランによるインキュベーション)。トランスウェルアッセイおよびフローサイトメトリーにより、マイグレーションアッセイを行う。
【0182】
マクロファージアッセイ。EVを、M1刺激(LPS)およびM2刺激(IL4/IL13)を行ったマクロファージと共培養する。M1/M2比率をフローサイトメトリーにより算出する。IL6、TNFα、IFNγ、IL1β、IL12、IL10、VEGF、MCP1、TGF-β、FGFの各サイトカインの定量は、ELISAで行い、qPCR遺伝子の発現解析で確認した。トランスウェルマイグレーションアッセイ(fMLP方向)を行い、フローサイトメトリーにより定量化する。
【0183】
NK細胞アッセイ。EVを、PBMC由来のNK細胞と共培養する。TNFα、IFNγの各サイトカインの定量は、ELISAで行う。CD27、CD11b、CD107a、IFN-γの各成熟マーカー、および細胞増殖はフローサイトメトリーにより定量化する。
【0184】
b)線維症
正常なヒト肺線維芽細胞およびヒト上皮細胞を用いて、市販の線維化アッセイを用いて実験を行う。ヒト肺線維芽細胞を、時間を変え、複数用量で濃度を変えて送達したEVと共培養する。その後、α-SMAおよびコラーゲンI/フィブロネクチンの解析を行う。
【0185】
別の実験では、ヒト初代気管支上皮細胞における上皮間葉転換(EMT)に対するEVの影響を測定する。EMTを、市販のアッセイを用い、製造業者のプロトコールに従って調べる。一実験では、健常組織または特発性肺線維症患者由来の実験用初代細胞をTGF-βで刺激してEMTを誘導し、非刺激細胞をコントロールとして使用する。その後、ヒト上皮細胞を、時間を変え、複数用量で濃度を変えて送達したEVと共培養する。FACSならびにE-カドヘリンおよびフィブロネクチンの発現を用いてEMTを検出し定量化する。
【0186】
別の実験では、ヒト気管支初代線維芽細胞における線維芽細胞-筋線維芽細胞転換(FMT)に対するEVの影響を測定する。FMTを、市販のアッセイを用い、製造業者のプロトコールに従って調べる。ある実験では、健常組織または特発性肺線維症患者由来の実験用初代細胞をTGF-βで刺激してFMTを誘導し、非刺激細胞をコントロールとして使用する。その後、ヒト線維芽細胞を、時間を変え、複数用量で濃度を変えて送達したEVと共培養する。α-平滑筋アクチンマーカーを用いてFMTを検出し定量化する。
【0187】
c)酸化ストレスおよび細胞のアポトーシス
線維症の研究で報告されているアッセイおよび細胞株を使用して、細胞のアポトーシスおよび酸化ストレスを定量化(ELISA、フローサイトメトリー)する。
【0188】
H2O2または他の試薬を用いて酸化ストレスを誘発する。細胞を、時間を変え、かつ酸化ストレス誘発物質の量を変えて酸化ストレスに曝露させる。その後、細胞を、時間を変え、複数用量で濃度を変えて送達したEVと共培養する。酸化ストレスの直接的な影響を活性酸素の検出および定量化により測定し、間接的な影響を核酸損傷、脂質過酸化、およびタンパク質酸化を測定することにより測定する。酸化ストレスの直接的および間接的なマーカーの検出および定量化は、ELISAおよびFACSを用いて行う。
【0189】
酸化ストレスに反応した細胞のアポトーシスを、市販のアッセイを用い、製造業者のプロトコールに従って検出および定量化する。一実験では、LIVE/DEAD(商標)(サーモフィッシャー)を使用して、FACSによる細胞生存率の検出を行う。
【0190】
別の実験では、アネキシンV免疫蛍光染色法により、初期のアポトーシスを検出し、FACSを用いて定量化する。
【0191】
別の実験では、活性化されたカスパーゼ-3およびカスパーゼ-7をFACSにより定量化することで、初期のアポトーシスを検出する。
【0192】
実施例10:クローン病の治療に使用することを目的としたin vitroアッセイにおけるEVの活性
本実験は、クローン病の主要な症状の治療における、実施例1に従って製造したEVの活性を示す。実施例9(a)~(c)に記載の実験に加えて、EVを用いた血管新生アッセイも実施する。
【0193】
一実験では、マトリゲル上でHUVEC細胞をEVと共培養し、チューブ形成を調べる。ヒトHUVEC細胞を用いて市販の血管新生チューブ形成アッセイを使用して実験を行う。血管形成に必要な天然の細胞外マトリックスの特性を模倣するため、ハイドロゲルなどの3次元環境で細胞を培養する。EVを、時間を変え、複数用量で濃度を変えて送達する。HUVEC細胞の免疫標識および蛍光標識、ならびにEVに反応したチューブの長さおよび分岐の測定などを用いて解析を行う。
【0194】
実施例11:BPDのin vivoモデルにおけるEVの生体内分布の研究
本実験は、BPDのin vivoモデルにおける、実施例1に従って製造したEVの生体内分布を評価する。
【0195】
BPDのための確立された広く使用されている動物モデル、すなわち高濃度酸素環境に曝露した新生児ラットを用いてin vivo非臨床試験を行う(O'Reilly M et al, 2014; Thebaud B, 2018)。新生児ラットは出生時に肺の構造が未熟(後期管状期/早期嚢状期)であり、生後5日目に肺胞期に達するため、このモデルは人工呼吸を行った未熟児の状態を模倣したものであるといえる。ラットは生後30日目頃に完全な肺胞形成に達するが、生後間もない時期に高濃度酸素環境に曝露すると、肺胞の発達が妨げられ、肺胞マクロファージが増加し、肺血管の形成に悪影響を及ぼすことが知られている。このように、構造的な観点では、新生児期の齧歯類の肺は、24~28週の早産児のヒト新生児とほぼ近似している(Porzionato A et al, 2019; Porzionato A et al, 2021)。
【0196】
高濃度酸素環境誘発BPDの新生児ラットモデルにおいて、気管内(IT)投与したEV製品の生体内分布の評価を、以下のように行う。
【0197】
生成物のEVを親油性蛍光マーカー(ヨウ化DiR[ヨウ化1,1-ジオクタデシル-3,3,3-テトラメチルインドトリカルボシアニン])で染色し、in vivo投与後の生成物の生体内分布を評価する。
【0198】
合計40匹の野生型Sprague-Dawleyラットの仔ラットのうち、20匹を正常濃度酸素環境(normoxia)に曝露させ、残りの20匹は上述のように高濃度酸素環境(hyperoxia)に曝露させる。生後7日目に20匹の仔ラット(高濃度酸素環境10匹、正常濃度酸素環境10匹)に、1×109粒子のEV製品をIT投与し、これは1×1011/kgBWに相当する。20匹の対照仔ラット(高濃度酸素環境10匹、正常濃度酸素環境10匹)にPBS対照を注入する。IT注入は、肺の損傷部位にEV製品を直接局所投与するために選択され、この方法を臨床に応用することを最終的な目標とする。
【0199】
蛍光分析により全身の分布を評価し、これにより、注入後異なる時点(3時間および24時間)での10匹の仔ラットの各群の個々の臓器における色素濃度を評価する。
【0200】
このアッセイの結果、正常濃度酸素環境条件に曝露させた仔ラットでは、注射後3時間で、EV製品が様々な臓器に均一に分布し、鼠径リンパ節に大きなシグナルがみられることが判明した。正常濃度酸素環境条件では注射後24時間に、リンパ節(鼠径部および腋窩部)にシグナルをみとめることができる。これらの仔ラットでは、標識されたEV製品が肺から速やかに排出され、全身に分布する。特にリンパ節(鼠径部および腋窩部)にシグナルが集中し、24時間後はこの位置でしか観察されない。
【0201】
高濃度酸素環境に曝露させた仔ラットでは、注射後3時間で肺のシグナルが完全に消失し、他の臓器のシグナルもほとんど消失した。ほとんどすべてのシグナルが腋窩リンパ節および鼠径リンパ節にみられる。このことは、高濃度酸素環境条件では、投与部位からのEV製品の取り込みが速いことを示していると考えられる。高濃度酸素環境処置を行った仔ラットでは、注射後24時間で、シグナルのほとんどが腋窩リンパ節にみられる(鼠径リンパ節にはシグナルがみられない)。
【0202】
リンパ節は、これまでEVの生体内分布研究において標的組織として評価されたことがないため、これらの結果は新規のものであることを述べておく。これらの結果は、リンパ節がEV製品が主として蓄積する部位であり、EV製品の投与に対する免疫学的反応を引き起こす基本的なエフェクター部位であることを明確に示している。
【0203】
実施例12:BPDのin vivoモデルを用いたEVの活性
本実験は、BPDのin vivoモデルにおいて、実施例1に従って製造したEVの活性を示すものである。Porzionato et al. 2018の記述に従ったモデルを採用する。
【0204】
簡潔に記載すると、倫理委員会の承認を受けて、30匹の野生型Sprague-Dawleyラットを研究に使用する。高濃度酸素環境への曝露の方法は、様々な研究チームによって確立され、複数の文献に発表されている(Grisafi et al., 2012, 2013; Marconi et al., 2014; Porzionato et al., 2012 2018)。チャンバー内で酸素を連続的にモニターしながら飼育した仔ラットに実験を行う。実験動物を60%の酸素に2週間曝露させ、本発明のEV製品を気管内投与により処置する。対照動物は60%酸素に2週間曝露させ、生理食塩水(プラセボ)を気管内投与することで処置する。正常濃度酸素環境の対照動物は、21%の酸素に2週間曝露させ、本発明のEV製品または生理食塩水を気管内投与する。EVを生後3日目、7日目、10日目に注入する。
【0205】
EV製品の単回または複数回のIT注入の有効性を試験する。本製品の投与量は、6.4×109粒子/投与であり、3つの異なる時点で3.19×1011~5.71×1011粒子/kg体重の範囲に相当する。
【0206】
その後、Porzionato et al., 2018に記載されたプロトコールに従って動物の肺を固定し、Scherleの方法(Scherle, 1970)に従って肺の体積を測定する。肺のスライスを用いて、組織学的および免疫組織学的解析を行う。組織収縮係数は、Porzionato et al., 2018に記載されたプロトコールに沿って推定する。立体分析は、Porzionato et al., 2018に記載のように行い、以下のいくつかのパラメータを定量化する。i)肺胞空間および肺胞隔膜の体積分率、ii)肺胞空間および肺胞隔膜の総体積、iii)空間の表面積密度、iv)肺胞空間の総表面、v)全肺体積、vi)肺胞数および平均肺胞容積、ならびに他のパラメータ。
【0207】
特に、EV製品のIT投与の有効性を、形態学的測定、サイトフロリメトリおよびqRT-PCR分析によって評価し、治療後の高濃度酸素環境誘発肺障害の回復および炎症反応を確立する。形態学的解析では、肺体積の推定、組織学的評価、免疫組織化学的解析、筋線維芽細胞の免疫蛍光分析、II型肺胞上皮細胞の免疫蛍光分析、免疫蛍光法で染色したサンプルの定量化、アルシアンブルー染色および定量化、タンパク質カルボニル化アッセイ、肺胞形成の立体評価、動脈筋層の形態学的測定、微小血管密度、およびマクロファージ集団の形態学的測定などを行った。
【0208】
すべての病理組織学的および形態学的評価は、実験群に対して盲検的に行う。生後3日目、7日目、10日の時点で、すべての動物に対し、それぞれ対照(ビヒクルのみ)またはEV製品溶液を3回IT注入することを含む治療サイクルを完了させる。
【0209】
出生後に高濃度酸素環境に曝露させると、肺胞が破壊され、その結果、列挙したすべての組織形態学的パラメータが悪化する。これらのパラメータのうち、高濃度酸素環境暴露群では肺胞表面の減少が統計的に有意にみとめられた。また、隔壁の厚みも有意に増加しており、これは炎症過程に起因する可能性がある(表1)。
【0210】
【0211】
多重比較(ボンフェローニ検定)により、肺胞表面については、高濃度酸素環境暴露群は、正常濃度酸素環境暴露群および高濃度酸素環境暴露+EV製品処置群の両方に対し統計的な差があり、EV製品が治療効果を示すことが示された。隔壁の厚さについては、高濃度酸素環境暴露群と高濃度酸素環境暴露+EV製品処置群とに統計的な差はない。
【0212】
II型肺上皮細胞(ATII)の特異的マーカーである肺サーファクタント関連タンパク質C(SFTPC)陽性細胞を免疫蛍光法で定量化したところ、低酸素誘導障害後にATIIが著しく減少することが示された。EV製品を投与すると、肺組織中のSFPTCの量が増加する。グリコサミノグリカン生成のマーカーであるアルシアンブルー染色でも同様の結果が得られる。さらに、高濃度酸素環境暴露処置とそれに伴う炎症過程とによって生じる活性酸素種(ROS)によって引き起こされるタンパク質の酸化損傷の確立されたマーカーであるタンパク質カルボニル化に対するEV製品の効果を試験する。その結果、高濃度酸素環境条件で増加した損傷がEV製品の投与により回復した。EV製品処置群では死亡率の増加はみとめられず、気管内投与の安全性が確認された。
【0213】
これらの結果は、確立された新生児ラットモデルにおいて、気管支肺異形成の治療におけるEV製品の使用の有効性を示すものである。予備的データから、EV製品が肺実質を酸化ストレスから保護し、BPDの発症に重要な因子であるAT2細胞によるサーファクタントの生成を増加させることが示唆される。
【0214】
実施例13:クローン病のin vivoモデルを用いたEVの活性の評価
本実験は、クローン病のin vivoモデルにおいて、実施例1に従って製造したEVの活性を示すものである。簡潔に記載すると、8週齢の雌B57BL/6Jマウスで実験を行う。飲料水に3%のドデシル硫酸ナトリウム(DSS)を添加し、5日間にわたって自由摂取で投与することで大腸炎を誘発させた。これは確立され、広く用いられている動物モデルであり、PubMedで何百回も引用されている(総括論文については、Kawada et al., 2007を参照)。すべての動物を、適切な倫理規範に従って扱う。動物を以下の3つの実験群に分ける。
-第1群(n=4、正常対照):PBS(ビヒクルのみ)、0.2mLを1~5日目に毎日腹腔内(ip)投与。
-第2群(n=5、大腸炎誘発):飲料水に3%のDSSを添加する以外は第1群と同様に行う。
-第3群(n=4、大腸炎誘発およびEVによる治療):0.2mLのPBSに懸濁させたMSC-EVをIP経路で添加する以外は第2群と同様に行う。
【0215】
6日目にCO2を用いて動物を犠牲にする。大腸を摘出し、組織の一部をホルマリンで固定して組織学的解析を行い、他の部分は直ちに液体窒素で凍結して、-80℃で保存してRNAの抽出を行う。
【0216】
EVの用量および投与経路
EVを前述の手順で単離し、投与する。
投与経路:EVを0.2mLのPBSに懸濁させ、0日目から5日目まで毎日腹腔内投与。
【0217】
-腸管損傷の評価
動物の体重
疾患活動性指標(糞便評価;Tanaka F, 2008参照)
-催炎性(Flogosis)の病理組織学的徴候
-大腸組織抽出物中の炎症メディエータ発現の滴定。RT-PCRによるTNFalfa、IL6、IL-1β、およびCo×2の解析。
【0218】
結果の統計解析
データは平均値±SDで示す。群間差をt検定で解析し、p<0.05を有意とする。
【0219】
結果
結論として、EVは実験的大腸炎の炎症反応を低減し、疾患活動性指数を低下させ全身状態を改善させるために適していることが結果より示される。EVは腸管炎症性疾患動物モデルにおいて、臨床像および催炎性(flogistic)反応を改善する。
【0220】
実施例14:ヒトでのBPDの治療に使用するためのEV製品の投与および安全性および有効性の評価のためのプロトコール
BPDの治療に使用するための実施例1に記載の方法により得られたEV製品の安全性および有効性を、ヒトの臨床試験で調べる。簡潔に記載すると、妊娠期間23~28週、かつ出生体重1500g以下のBPDリスクの高い早産児であって、気管内挿管され、吸入酸素分率(FiO2)25%超の人工呼吸器下にある新生児を対象として試験を行う。EV製品を気管内投与する。気管内チューブによる侵襲的換気下にある早産児のみが試験の参加対象となるため、EV製品または生理食塩水対照液の気管内(IT)適用がさらなるリスクを引き起こすことはない。
【0221】
この試験は以下の2相に分けられる。
第I相EV製品の安全性および忍容性
第I相では、18人の被験者を3人ずつの6つのコホートに分け、各コホートに3とおりの投与量(低用量(LD):1×1010EV/kg体重(BW)、中用量(MD):3×1010EV/kgBW、または高用量(HD):9×1010EV/kgBW)のいずれか、および2とおりのレジメン(1回または3回のIT投与、複数回投与の場合は間隔は24時間)のうちのいずれかでEV製品を投与する。
【0222】
主な目的は、3の異なる投与レベルのEV製品を単回または複数回IT投与した場合の用量制限毒性(DLT)または最大耐容量(MTD)を同定することにある。
【0223】
この相では、以下のいくつかの側面を評価する。
-月経後齢36週(PMA)または退院時にEV製品をIT投与(投与量を変えて単回投与または複数回投与)した場合の急性毒性および短期毒性。
-EV製品投与後6時間および24時間以内のDLT。
-PMA36または退院までの異なる時点で報告されたAE(有害事象)およびSAE(重篤な有害事象)(死亡症例を含む)(関連ありおよび関連なし)。
-退院までの複数の時点における、臨床検査および血液検査(肝および腎機能検査、造血指標、血圧、体温など)、肺の超音波検査、ならびに心エコー検査によるEV製品の中期的毒性の評価。
-生後28日に酸素吸入および人工呼吸を行った被験者の人数(Jobe AH et al., 2001によるBPDの定義)。
-修正NICHD重症度分類(グレードI~IIIA)症例定義(Higgins RD et al., 2018に準拠)によるPMA36週にEV製品を投与した後のBPDの発生率および重症度。これを過去の同様の症例と比較。
-試験終了時(EOS)のEV製品投与後の総合的な健康状態(1歳調整年齢)。
-PMA36週およびEOS(1歳調整年齢)での死亡率。
【0224】
第IIa相。BPD治療におけるEV製品の有効性
第IIa相では、70人の被験者を35人ずつの2群に分ける。一方の群には、第I相の結果に基づいて選択する用量レベルおよびレジメンでEV製品による治療を行い、他の群には生理食塩水を対照溶液として投与する(プラセボ群)。
【0225】
主な目的は、無作為化二重盲検プラセボ対照試験において、BPDの治療におけるEV製品の有効性を評価することにある。
【0226】
この相では、以下のいくつかの側面を評価する。
-プラセボ群(生理食塩水)と比較した、PMA36週時点におけるBPDの発症件数および重症度に対するEV製品の有効性の結果。BPDの状態および重症度を、修正NICHD重症度分類(グレードI~IIIA)の定義に従って評価する。
-両群について、生後28日後に酸素が必要な被験者および人工呼吸器の補助を受けた被験者の人数。
-EOS(1歳調整後)におけるEV製品投与後およびプラセボ群の総合的な健康状態。
-両群について、PMA36週およびEOS(1年調整後年齢)での死亡率。
-両群について、PMA36週または退院までの異なる時点で報告されたAEおよびSAE(関連ありおよび関連なし)。
-両群について、EOSまでの受動的サーベイランスで報告されたSAE(関連ありおよび関連なし)。
-両群について、PMA36週または退院までのMV/呼吸器補助の期間、ROP、NEC、IVH、敗血症の評価。
-被験児を挿管するまでの数回の時点における気管内吸引液中の免疫マーカー(IL-6、IL-8、TNFa、TGFb1、IL1b、IL1ra)の検査。
-両群について、1歳調整年齢またはEOSの乳児の神経発達状態の評価。
【0227】
本発明は、実施例に記載、および/または図に図示した実施形態に限定されない。むしろ、本発明に係る方法は、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの異なる方法で実施することができる。
【符号の説明】
【0228】
1 細胞培養培地容器
2 撹拌式バイオリアクター
3 細胞上清容器
4 冷蔵庫
5a,5b,5c 蠕動ポンプ
6 第1のフィルタユニット
7 第2のフィルタユニット
8 TFFカセット
9 最終産物
【手続補正書】
【提出日】2022-05-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)の組成物を製造するプロセスであって、
-ヒトアルブミンおよびヒトトランスフェリンを含む無血清ゼノフリー培地でMSCを培養および増殖させることと、
-EVを含有する細胞上清を採取することと、
-前記細胞上清を濾過してEVを得ることと、
-前記EVを濃縮することと、を含
み、前記培地中の前記ヒトアルブミン濃度が1g/L~5g/Lである、プロセス。
【請求項2】
前記
ヒトアルブミンおよび
ヒトトランスフェリンが、ヒト血漿から精製されたものであるか、または組換えアルブミンおよび組換えトランスフェリンである、請求項1に記載のプロセス
。
【請求項3】
前記培地中の
ヒトトランスフェリン濃度が55mg/L~100mg/L、好ましくは55mg/L~70mg/Lである、請求項1
または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記細胞上清の濾過が、少なくとも2段階の濾過過程である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
2段階の濾過過程における前記濾過が、メッシュサイズが1~5μmである第1のフィルタを通して行われ、その後、メッシュサイズが1μm未満である第2のフィルタを通して行われる、請求項
4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記濃縮工程が接線流濾過工程であり、これにより前記濾過過程の濾液を濃縮する、請求項
4または
5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記MSCを培養する18~24時間の時間範囲で、細胞培地1mL当たり少なくとも0.25×10
9個の粒子が産生され、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンである前記粒子の少なくとも90%がEVである、請求項
6に記載のプロセス。
【請求項8】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)を含有する組成物であって、前記EVのサイズが1μm未満であり、前記組成物のヒトアルブミン濃度が10~30g/Lであり、前記組成物に存在する前記
ヒトアルブミンの少なくとも90%が前記EVと会合している、組成物。
【請求項9】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンを好ましくは60mg/L~600mg/Lの濃度で含有する、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンおよびヒトアルブミンを、アルブミン1gにつきトランスフェリン2~60mgの割合で含む、請求項
8または
9に記載の組成物。
【請求項11】
前記EVのサイズが50~300nmである、請求項
8~1
0のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物がさらに製剤化および/または処理される、請求項
8~1
1のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
治療的または予防的な使用のための、請求項
8~1
2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
肺疾患の予防または治療に使用するための、請求項
8~1
2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記肺疾患が、炎症性肺疾患、肺血管疾患、または急性肺損傷である、請求項1
4に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記炎症性肺疾患が、肺高血圧症、喘息、気管支肺異形成症(BPD)、アレルギー、肺炎、または特発性肺線維症である、請求項1
5に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記急性肺損傷が、敗血症と関連するか、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項1
5に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記炎症性肺疾患が、ウイルス感染、好ましくはインフルエンザ、SARS-CoV-1、MERS、またはSARS-CoV-2と関連する、請求項1
5に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
COVID-19の治療に使用するための、好ましくはCOVID-19誘発肺炎または急性肺炎の治療に使用するための、請求項
8~
12のいずれか1項に記
載の組成物。
【請求項20】
クローン病などの炎症性腸疾患の予防または治療に使用するための、請求項
8~
12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
治療有効量の前記組成物が患者に投与され、前記患者は成人、乳児または新生児であってよい、請求項
13~
20のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記組成物が、前記患者または各投与について10
9EV/kg~10
12EV/kgの用量で投与される、請求項
21に記載の使用のための組成物。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)の組成物を製造するプロセスであって、
-精製されたヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンを含む無血清ゼノフリー培地でMSCを培養および増殖させることと、
-EVを含有する細胞上清を採取することと、
-前記細胞上清を濾過してEVを得ることと、
-前記EVを濃縮することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記アルブミンおよびトランスフェリンが、ヒト血漿から精製されたものであるか、または組換えアルブミンおよび組換えトランスフェリンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記培地中のアルブミン濃度が1g/L~5g/Lである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記培地中のトランスフェリン濃度が55mg/L~100mg/L、好ましくは55mg/L~70mg/Lである、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記細胞上清の濾過が、少なくとも2段階の濾過過程である、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
2段階の濾過過程における前記濾過が、メッシュサイズが1~5μmである第1のフィルタを通して行われ、その後、メッシュサイズが1μm未満である第2のフィルタを通して行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記濃縮工程が接線流濾過工程であり、これにより前記濾過過程の濾液を濃縮する、請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記MSCを培養する18~24時間の時間範囲で、細胞培地1mL当たり少なくとも0.25×10
9個の粒子が産生され、粒子サイズが0.05~0.22ミクロンである前記粒子の少なくとも90%がEVである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
間葉系ストローマ細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)を含有する組成物であって、前記EVのサイズが1μm未満であり、前記組成物のヒトアルブミン濃度が10~30g/Lであり、前記組成物に存在する前記アルブミンの少なくとも90%が前記EVと会合している、組成物。
【請求項10】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンを好ましくは60mg/L~600mg/Lの濃度で含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、ヒトトランスフェリンおよびヒトアルブミンを、アルブミン1gにつきトランスフェリン2~60mgの割合で含む、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記EVのサイズが50~300nmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物がさらに製剤化および/または処理される、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
治療的または予防的な使用のための、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
肺疾患の予防または治療に使用するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記肺疾患が、炎症性肺疾患、肺血管疾患、または急性肺損傷である、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記炎症性肺疾患が、肺高血圧症、喘息、気管支肺異形成症(BPD)、アレルギー、肺炎、または特発性肺線維症である、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記急性肺損傷が、敗血症と関連するか、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記炎症性肺疾患が、ウイルス感染、好ましくはインフルエンザ、SARS-CoV-1、MERS、またはSARS-CoV-2と関連する、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
COVID-19の治療に使用するための、好ましくはCOVID-19誘発肺炎または急性肺炎の治療に使用するための、請求項13~19に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
クローン病などの炎症性腸疾患の予防または治療に使用するための、請求項1~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記治療有効量の前記組成物が患者に投与され、前記患者は成人、乳児または新生児であってよい、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、前記患者または各投与について10
9EV/kg~10
12EV/kgの用量で投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【国際調査報告】