(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230824BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230824BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230824BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230824BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230824BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20230824BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20230824BHJP
【FI】
C08F2/44 C
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y30/00
A61K6/887
A61K6/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506018
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 GB2021051938
(87)【国際公開番号】W WO2022023737
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ミツビシ ケミカル ユーケー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI CHEMICAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】チザム、マイケル ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ステンソン、フィリップ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】カーメル、イザベル サラ
(72)【発明者】
【氏名】ホルト、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ローラー、ジョシュア ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4C089
4J011
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BD01
4C089BD02
4C089CA03
4C089CA05
4C089CA10
4J011AA05
4J011AC04
4J011PA13
4J011PA69
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA02
4J011QA03
4J011QA13
4J011QB24
4J011SA84
4J011UA01
4J011VA05
4J011WA08
(57)【要約】
歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物が記載されている。組成物は:a.エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマー、b.重合可能である少なくとも2つの反応性末端基を有する架橋剤であって、典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基は各々(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、少なくとも2つの反応性末端基の一方又は両方はアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、メタクリレート基である、架橋剤、c.25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤、d.好適な開始剤、及び、任意選択的に好適な共開始剤を有する。付加製造用組成物の製造プロセス、三次元印刷オブジェクト、付加製造プロセス、付加製造及び三次元印刷オブジェクトの製造に係る組成物の使用、並びに、付加製造液槽、浴槽又はカートリッジもまた記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物であって:
a.エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマー、
b.重合可能である少なくとも2つの反応性末端基を有する架橋剤であって、典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基は各々(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基の一方又は両方はアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、メタクリレート基である、架橋剤、
c.25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤、
d.好適な開始剤、及び、任意選択的に好適な共開始剤
を含む、付加製造用組成物。
【請求項2】
前記反応性希釈剤は、25℃で、1~8,000cP(mPa・s)、典型的には2~6,000cP(mPa・s)、より典型的には、5~2,000cP(mPa・s)の範囲内の粘度を有する、請求項1に記載の歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリマーは、総モノマー残基に対して、50%超、典型的には60%超、より典型的には70%超、さらに典型的には80%超又はもっとも典型的には90%超、又は、特に約100%のEMA残基を含む、請求項1又は2に記載の付加製造用組成物。
【請求項4】
前記アクリルポリマーの量は、前記組成物の総重量の、少なくとも0.2重量%、典型的には少なくとも1重量%、より典型的には少なくとも2重量%、もっとも典型的には、少なくとも3重量%又は40重量%以下、典型的には20重量%以下、より典型的には15重量%以下であって、0.2~40重量%、典型的には1~20重量%、より典型的には2~15重量%、もっとも典型的には3~15重量%などである、請求項1~3のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項5】
前記アクリルポリマーは、5,000~3,000,000ダルトン、典型的には50,000~1,500,000ダルトン、より典型的には100,00~800,000ダルトン、もっとも典型的には200,000~600,000ダルトンの分子量(Mw)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項6】
前記架橋剤は、前記組成物の総重量の、少なくとも5重量%、典型的には少なくとも10重量%、より典型的には少なくとも15重量%、又は、94重量%以下、典型的には90重量%以下であり、より典型的には、前記組成物の総重量の85重量%以下であって、前記組成物の総重量の、5~94重量%、典型的には10~90重量%、より典型的には15~85重量%などである、請求項1~5のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項7】
前記架橋剤は架橋基を含み、前記架橋剤の前記架橋基は150g/mol~5,000g/molの分子量(Mw)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項8】
前記架橋剤は架橋基を含み、前記架橋剤の前記架橋基は、前記反応性末端基間のブリッジ中に少なくとも8個の炭素若しくは炭素及びヘテロ原子を含有する、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、エーテル、ポリエーテル、ポリエステル又はポリウレタン基であり得、好ましくは、前記架橋基は、前記ブリッジ中に8~400個の原子、より典型的には、前記ブリッジ中に8~200個の原子、もっとも典型的には、前記ブリッジ中に8~100個の原子を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項9】
前記架橋剤は、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、ビスフェノールAジメタクリレート(BPAMA)、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレート(BPAEDMA)及びビスフェノールA-グリシジルメタクリレート(ビス-GMA)の1つ以上、典型的には、Ebecryl(登録商標)4859及びビスフェノールA(EO)
4ジメタクリレートの1つ以上からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項10】
前記反応性希釈剤は、少なくとも5重量%、典型的には少なくとも10重量%、より典型的には少なくとも15重量%、又は、85重量%以下、典型的には80重量%以下、より典型的には75重量%以下の量であって、前記組成物の総重量の、5~85重量%、典型的には10~80重量%、より典型的には15~75重量%などである、請求項1~9のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項11】
前記反応性希釈剤は、少なくとも2つの反応性モノマー単位又は1つの反応性モノマー単位、及び、嵩高の側基を有する1種以上の主モノマー、並びに、任意選択的に、1種以上の副モノマーを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項12】
前記主モノマーは、ジ-、トリ-又はテトラアルクアクリレートなどの1種以上のジ又はポリ(アルク)アクリレート、より典型的には、ジメタクリレートであり;又は、アルカリール又はアラルキルなどの1種以上の嵩高のアルキル、環式又はアリール(アルク)アクリレート、又は、これらの組み合わせであり、ここで、前記嵩高のアルキル、環式又はアリール基は、t-ブチル、イソボルニル、シクロヘキシル、ジシクロペンテニル、ジヒドロジシクロペンタジエニル、アダマンチル、4-t-ブチルシクロヘキシル、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、テトラヒドロフルフリルベンジル、2-フェノキシエチル及びフェニルから選択され得る、請求項11に記載の付加製造用組成物。
【請求項13】
前記主モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス[4(メタクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、プロポキシル化グリセリルトリメタクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、イソボルニルメタクリレート(IOBMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、t-ブチルメタクリレート(TBMA)、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-フェノキシエチルメタクリレート及びフェニルメタクリレート、典型的にはトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、イソボルニルメタクリレート(IOBMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及びt-ブチルメタクリレート(TBMA)の1つ以上から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項14】
前記副モノマーは、単官能性モノマーであり、典型的には、メタクリル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート及びα-メチレン-γ-ブチロラクトンの1つ以上から選択される、請求項11~13のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項15】
副モノマーの量は、存在する場合、反応性希釈剤の総量の50重量%以下、より典型的には、反応性希釈剤の総量の40、30又は20重量%以下である、請求項11~14のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項16】
前記1種以上の主モノマーは嵩高の側基(アルク)アクリレートであり、典型的には、前記嵩高の側基は、イソボルニルメタクリレート(IOBMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及びt-ブチルメタクリレート(TBMA)、より典型的にはイソボルニルメタクリレート(IOBMA)などの嵩高のアルキル、環式又はアリール側基である、請求項11~15のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項17】
前記開始剤及び/又は共開始剤の1種以上は、UV及び/又は可視波長光への露光で重合を開始させるのに好適な光開始剤である、請求項1~16のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項18】
前記開始剤は、カンファーキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド光開始剤(BAPO)(Irgacure 819として入手可能)及びエチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート(Speedcure TPO-Lとして入手可能)の1つ以上から選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項19】
開始剤の量は、前記組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約5重量%、好ましくは約0.5重量%~約3重量%である、請求項1~18のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項20】
前記共開始剤は前記開始剤と併用される、請求項1~19のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項21】
共開始剤の量は、前記組成物の総重量に基づいて、約0.5重量%~約10重量%、好ましくは約1重量%~約3重量%である、請求項1~20のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項22】
25℃での前記組成物の粘度が50~30,000cP(mPa・s)の範囲内である、請求項1~21のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項23】
前記組成物は貯蔵安定性である、請求項1~22のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項24】
添加剤をさらに含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の付加製造用組成物であって、前記添加剤は、フィラー、安定化剤、耐衝撃性改良剤、着色剤、流れ調整剤及び/又は静電防止剤の1種以上を含む、付加製造用組成物。
【請求項25】
前記架橋剤及び/又は反応性希釈剤は25℃で液体である、請求項1~24のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項26】
前記付加製造用組成物は、付加製造操作温度、例えば10℃~50℃、典型的には、15℃~40℃、より典型的には18℃~30℃で流動性の液体である、請求項1~25のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項27】
成分b)が25℃で流動性の液体である場合、前記反応性希釈剤は、25℃で成分b)の粘度よりも低い粘度を有する、請求項1~26のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項28】
成分a)は、前記組成物中に、少なくとも部分的に、少なくとも25%、より典型的には50%、もっとも典型的には75%溶解されており、任意選択的に、完全に溶解されている、請求項1~27のいずれか一項に記載の付加製造用組成物。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載の付加製造用組成物の製造プロセスであって:
a.前記架橋剤及び/又は前記反応性希釈剤中に、固体微粒子としての前記アクリルポリマーを少なくとも部分的に溶解して混合物を形成するステップ;
b.前記好適な開始剤、共開始剤及び/又は添加剤を、ステップaの前、最中又はその後に、任意選択的に添加するステップ
を含む製造プロセス。
【請求項30】
少なくとも50重量%、典型的には少なくとも60重量%、より典型的には少なくとも70重量%、さらに典型的には少なくとも80重量%、もっとも典型的には少なくとも90重量%、特に約100重量%の前記アクリルポリマーを、前記架橋剤及び/又は反応性希釈剤中に溶解する、請求項29に記載の付加製造用組成物の製造プロセス。
【請求項31】
硬化された請求項1又は2に記載の付加製造用組成物を含む、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト。
【請求項32】
曲げ強さは、少なくとも65MPa、典型的には少なくとも75MPa、より典型的には少なくとも85MPa、又は、65~120MPa、典型的には75~110MPa、より典型的には85~105MPaである、請求項31に記載の歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト。
【請求項33】
曲げ弾性率は、少なくとも2000MPa、典型的には少なくとも2300MPa、より典型的には少なくとも2500MPa、又は、2000~4000MPa、典型的には2300~3500MPa、より典型的には2500~3000MPaである、請求項31又は32に記載の歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト。
【請求項34】
デジタルライトプロセッシング、ステレオリソグラフィ又はLCDスクリーン法に従う、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトを製造するための付加製造プロセスであって:
a.請求項1~28のいずれか一項に記載の付加製造用組成物の層を形成するステップ;
b.前記層を順次に固体層に硬化し、これにより、要求された固体オブジェクトを造形するステップ;及び
c.任意選択による、さらなる硬化ステップ
を含む付加製造プロセス。
【請求項35】
前記硬化、及び/又はさらなる硬化は、放射線、典型的には、UV又は可視光などの電磁波を用いる、請求項34に記載の付加製造プロセス。
【請求項36】
前記硬化及び/又はさらなる硬化は、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトを製造するために、UV放射線又は可視光、典型的には、10~420nm、より典型的には350~415nm、さらに典型的には375~410nmの範囲内、特に約385又は約405nm又は約410nmのUV放射線を用いる、請求項34又は35に記載の付加製造プロセス。
【請求項37】
請求項34~36のいずれか一項に記載の付加製造プロセスにより得られる、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト。
【請求項38】
付加製造における請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項39】
向上した機械特性を有する歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトを製造するための組成物の使用であって、前記組成物は
a.エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマー、
b.重合可能である少なくとも2つの反応性末端基を有する架橋剤であって、典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基は各々(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基の一方又は両方はアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、メタクリレート基である、架橋剤、
c.25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤、
d.好適な開始剤、及び、任意選択的に好適な共開始剤
を含む、使用。
【請求項40】
請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物を含む、付加製造液槽、浴槽又はカートリッジ。
【請求項41】
請求項40に記載の付加製造液槽、浴槽又はカートリッジであって、再使用可能である液槽、浴槽又はカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科製品、典型的には歯科補綴物、より典型的には義歯などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物に関するが、人工歯、義歯床、スプリント、前装、クラウン及びブリッジ、モデル、装具等などのいずれかの歯科デバイスに適用可能であり得る。より具体的には、本発明は、エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマーを含む、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造はまた、ラピッドプロトタイピング又は三次元印刷として公知である。付加製造は、オブジェクトのデジタル表現から各々得られる層で三次元のオブジェクトを形成する方法である。
【0003】
典型的には、オブジェクトが三次元的に走査され、又は、計算機援用設計(CAD)によってデジタル方式で生成され、特定の厚さの層に分割される。これらの層が順次に三次元プリンタに送られ、描画に係る層の各々が造形される。各層が完了した後には、一つの層の厚さ分だけ描画ソースから離される。次いで、プリンタは、直前に形成した層の上に次の層を形成するプロセスを開始する。これらの層が組み合わされて三次元印刷オブジェクトが形成される。数々の異なる種類の三次元印刷が存在しており、それ故、これらの層を形成するための方法も異なっている。
【0004】
本発明は、光硬化性材料に対する光線の照射を用いる三次元オブジェクトの付加製造に関する。このような技術は、ステレオリソグラフィ(SLA)、又は、デジタルライトプロセッシング(DLP)、又は、液晶ディスプレイ(LCD)スクリーンの使用を含む。ステレオリソグラフィ(SLA)は各層の形状のトレースにレーザビームを用い、液槽中の感光性樹脂を硬化させる。デジタルライトプロセッサ(DLP)は、ボクセルプレーンを順次に光硬化性液体樹脂に投影し、次いで、液体樹脂を固化させる。LCDスクリーンは、可視光光開始剤を含有する液体感光性ポリマーの層を重合させる可視光を放射する。オブジェクトが完全に作製されるまで、重合された材料の連続する層がこれらの方法で付加される。
【0005】
付加製造は、長年にわたって実施されていた(1940年代から)、従来の義歯の製造方法に比べて有利であると考えられている。従来の方法では、患者の口腔の印象を採り、石膏型を形成し、この型に、アクリルポリマー粉末とメタクリレートモノマーとを混合して調製した成形材料を充填し、次いで、硬化し、型から外し、切削し、研磨が行われる。この方法は、患者が複数回来訪し、複数の製造ステップが伴うために、時間と手間が掛かる。
【0006】
三次元印刷技術を使用することで、義歯の製造プロセスが大きく簡素化される。しかしながら、三次元印刷による義歯は、機械特性の面で従来の義歯に劣ると市場において考えられている。従来の義歯は、ISO 20795-1:2013 歯科-ベースポリマー-第1部:義歯床ポリマー、及び、ISO 22112:2017 歯科-歯科補綴物用人工歯に係る最低要件を大きく上回っていることが知られている。例えば、従来の熱硬化義歯床は90MPaの曲げ強さ及び2,700MPaの曲げ弾性率を示すことが想定可能であり、これは、ISO 20795-1:2013により要求される>65MPaの曲げ強さ及び>2,000MPaの曲げ弾性率を大きく超えている。
【0007】
例えば、従来において調製されていた補綴物などの歯科製品と同等の機械特性を有する補綴物などの付加製造歯科製品といった、向上した機械特性を有する補綴物などの歯科製品の製造に好適である付加製造用組成物を提供することはきわめて有益であろう。
【0008】
本発明者らはここで、エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマーを含有する付加製造用組成物が、向上した三次元印刷オブジェクトをもたらすことを発見した。
【0009】
米国特許第9,456,963号明細書(Dentca)(特許文献1)は、人工歯及び義歯床用の光硬化性組成物に関する。特許文献1に係る組成物は、二官能性ビスフェノールAジメタクリレート、多官能性メタクリレート、ウレタンジメタクリレート、表面改質シリカ系微粒子、光重合開始剤、着色剤及び少なくとも1種の安定剤を含み、65MPaの曲げ強さ及び2750~2900MPaの曲げ弾性率を有する義歯床の製造に用いられる。
【0010】
米国特許出願公開第2014/0131908号明細書(Dentsply)(特許文献2)は、歯科製品を形成するための印刷可能な重合性材料系に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第9,456,963号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0131908号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術に係る少なくとも1つの欠点を克服する歯科補綴物の付加製造に有用な組成物を提供することを目的とする。本発明の態様は特に、歯科製品などの三次元印刷オブジェクト、典型的には、得られる三次元印刷オブジェクトにおいて、高い曲げ強さ、曲げ弾性率及び/又は高い耐久性などの向上した機械特性を有する歯科補綴物のための付加製造用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
意外なことに、本発明者らは、エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマーを含む付加製造用組成物が、得られる三次元印刷オブジェクトにおいて向上した機械特性を有することを発見した。
【0014】
従って、このようなエチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマーを含む組成物は付加製造による歯科補綴物の製造にきわめて有効であり、高い曲げ強さ、曲げ弾性率及び/又はショアD硬度などの利点がもたらされる。
【0015】
本発明の第1の態様によれば、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物であって:
a)エチルメタクリレート(EMA)残基を有するアクリルポリマー;
b)重合可能である少なくとも2つの反応性末端基を有する架橋剤であって、典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基は各々(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、少なくとも2つの反応性末端基の一方又は両方はアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、メタクリレート基である、架橋剤;
c)25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤;
d)好適な開始剤、及び、任意選択的に好適な共開始剤
を含む付加製造用組成物が提供されている。
【0016】
一般に、本発明の付加製造用組成物は、付加製造操作温度で流動性の液体である。典型的には、成分b)及び成分c)は共に、付加製造操作温度で液体である。付加製造操作温度とは、供給温度、液槽温度、硬化温度及び/又は保管温度などの付加製造プロセスの最中に液体が供される温度を意味する。
【0017】
一般に、本発明の付加製造用組成物は、5~35℃又は10~30℃などの通常の保管条件下で流動性の液体である。典型的には、成分b)は、5~35℃又は10~30℃などで流動性の液体である。
【0018】
一般に、成分b)が25℃で液体ではない場合、成分c)によって成分b)が溶解されることとなる。
【0019】
本発明において、成分b)が25℃で流動性の液体である場合、反応性希釈剤は、25℃で成分b)の粘度よりも低い粘度を有することが好ましい。
【0020】
例えば10℃~50℃、典型的には15℃~40℃、より典型的には18℃~30℃といった付加製造操作温度で流動性の液体である組成物を提供するために、成分a)は、組成物中に、少なくとも部分的、少なくとも25%、より典型的には50%、もっとも典型的には75%溶解されており、任意に、完全に溶解されていることが認識されるであろう。
【0021】
アクリルポリマー
本発明の組成物に係るアクリルポリマーは、エチルメタクリレート(EMA)残基、すなわち
【化1】
を含む。
【0022】
好適には、アクリルポリマーは、総モノマー残基に対して、50%超、典型的には60%超、より典型的には70%超、さらに典型的には80%超若しくはもっとも典型的には90%超、又は、特に約100%のEMA残基を含む。
【0023】
従って、アクリルポリマーは、エチルメタクリレート(EMA)残基を有する(コ)ポリマーであり得る。典型的には、アクリルポリマーは、エチルメタクリレート(EMA)のホモポリマーである。
【0024】
いくつかの実施形態において、アクリルポリマーは、エチルメタクリレート(EMA)残基を有すると共に、さらなるアクリル及び/又はビニルコモノマーの1つ以上の残基をさらに含むアクリルコポリマーであり得る。
【0025】
従って、アクリルポリマーは、総モノマー残基に対して、50%未満、典型的には40%未満、より典型的には30%未満、さらに典型的には20%未満、若しくは、もっとも典型的には10%未満のさらなるアクリル及び/又はビニル残基を有し得、又は、総モノマー残基に対して、特に約0%のさらなるアクリル及び/又はビニル残基を有し得る。
【0026】
好適には、本明細書に記載のアクリルポリマーのさらなるアクリル残基は、アルキル、シクロアルキル又はアルケニル(アルク)アクリレート;アルキル、シクロアルキル又はアルケニル(アルク)アクリル酸;官能化(アルク)アクリレート;及び、ジ(アルク)アクリレートの1つ以上から選択されるアクリルモノマーの残基であり得る。
【0027】
さらなるアクリル残基は、C1~C10アルキル、シクロアルキル又はアルケニル(C0~C1アルク)アクリレート若しくはアクリル酸モノマーの1つ以上の残基であり得る。
【0028】
好適なコモノマーは従って、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソ-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソ-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸;アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート及びヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシル-官能性アクリレート;1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート及び/又は1,6-ヘキサンジオールジアクリレートの1つ以上から選択され得る。
【0029】
アクリルポリマーがアクリルコポリマーである実施形態において、典型的には、アクリルコポリマーは、エチルメタクリレート(EMA)と、メチルメタクリレート(MMA)、イソ-ブチルメタクリレート(iBMA)又はn-ブチルメタクリレート(nBMA)とのコポリマーである。
【0030】
好適には、本明細書に記載のアクリルポリマーのビニルコモノマーは、スチレン、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニル、ビニルトルエン、αメチルスチレン及びジビニルベンゼンの1つ以上から選択されるビニルモノマーであり得る。
【0031】
好ましくは、コモノマーは、さらなる(すなわち異なる)アルキル若しくはシクロアルキル(アルク)アクリレート、アルキル若しくはシクロアルキル(アルク)アクリル酸又は官能化(アルク)アクリレートであり、より好ましくは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソ-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソ-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸;2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート及びヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシル-官能性アクリレートから選択される。
【0032】
好適には、単離されたアクリルポリマーは固体であり、典型的には、単離されたアクリルポリマーは粉末であり、より典型的には、単離されたアクリルポリマーは室温で、特に25℃で粉末である。
【0033】
好適には、アクリルポリマーは、特にこれらに限定されないが:バルク、懸濁、エマルジョン、溶液重合又はいずれかの派生法などのいずれかの好適な公知の重合法を用いて調製され得る。
【0034】
好ましくは、アクリルポリマーは、懸濁重合により調製される。従って、アクリルポリマーは、好ましくはビーズポリマーである。アクリルモノマーの懸濁重合は周知であり、例えばSuspension Polymerisation;H.G.Yuan,G.Kalfas、及び、W.H.Ray;JMS-REV.Macromol.Chem.Phys.;C31(2&3);215-299;1991といった多数の文献レビューにおいて記載されている。
【0035】
懸濁重合では、分散相中においてモノマーの重合が行われる。連続相は通常水である。好適な分散剤は技術分野において周知であると共に、改質セルロースポリマー(例えばヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシプロピルメチル)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、これらの酸の部分的及び完全に中和されたもの、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアルコール-コ-酢酸ビニル)コポリマー等を含む。連続相中におけるモノマーの分散体は通常、安定な分散体を維持するために、連続相及び分散小滴又は粒子間における良好な伝熱を可能とするために、及び、ビーズ粒径を制御するために、重合プロセスを全体を通して高速で撹拌される。
【0036】
重合が進行するに伴って、分散相中のモノマーが反応してポリマーが形成され、これが分散相中において球状のビーズ形態で残留する。反応温度は使用されるモノマー及び開始剤の種類に応じて様々であり得、典型的には20~150℃、例えば50~120℃の範囲内である。得られるポリマービーズの平均粒径は、典型的には、10ミクロン~800ミクロン、例えば15~600ミクロンの範囲内である。
【0037】
いずれの場合においても、本発明のアクリルポリマーの好ましい平均粒径の範囲は、20~200ミクロン、好ましくは30~150ミクロン、より好ましくは35~120ミクロンである。平均粒径は、Coulter LS230レーザ回折測定器を用いて測定され得る。
【0038】
好適には、アクリルポリマーは、組成物の総重量の、少なくとも0.2重量%、典型的には少なくとも1重量%、より典型的には少なくとも2重量%、もっとも典型的には、少なくとも3重量%である。
【0039】
好適には、アクリルポリマーは、組成物の総重量の、40重量%以下、典型的には20重量%以下、より典型的には15重量%以下である。
【0040】
従って、アクリルポリマーは、組成物の総重量の、0.2~40重量%、典型的には1~20重量%、より典型的には2~15重量%、もっとも典型的には、3~15重量%であり得る。
【0041】
本発明の態様のいずれかに係るアクリルポリマーは、5,000ダルトン~3,000,000ダルトン、典型的には50,000ダルトン~1,500,000ダルトン、より典型的には100,000~800,000ダルトン、もっとも典型的には200,000~600,000ダルトンの重量平均分子量(Mw)を有し得る。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によりこの目的のために測定し得る。
【0042】
架橋剤
本発明の第1の態様に係る歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクト用の付加製造用組成物は、少なくとも2つの反応性末端基、例えば(アルク)アクリレート又はビニル基を有する架橋剤を含む。
【0043】
本発明の態様に係る架橋剤は少なくとも2つの反応性末端基を含むと共に、架橋基に結合していてもよい。典型的には、従って、本明細書において定義されている架橋剤は、架橋基によって分離されている少なくとも2つの反応性末端基を含む。
【0044】
典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基の一方、又は、両方、又は、すべてが、ビニル又は(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、少なくとも2つの反応性末端基の一方、又は、両方、又は、すべてがアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、一方、又は、両方、又は、すべてがメタクリレート基である。
【0045】
架橋基は、反応性末端基間のブリッジ中に少なくとも8個の炭素又は炭素及びヘテロ原子の鎖を含み得、好ましくは、ヘテロ原子は、ケイ素、硫黄、酸素又は窒素、より好ましくは、酸素又は窒素から選択される。
【0046】
従って、架橋基は、いずれかの好適な有機基であり得る。例えば、架橋基は、脂環式若しくは芳香族基、又は、これらの組み合わせを含む脂肪族であり得る。典型的な例は、アルキル、アルケニル若しくはシクロアルキル基、又は、混ざった基を形成するものの混合物である。架橋基は1つ以上のヘテロ原子を含有し得、従って、前記架橋基は、ヘテロ脂環式若しくは芳香族複素環式、又は、これらの組み合わせを含むヘテロ脂肪族であり得ることが理解される。典型的な例は、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル若しくはヘテロシクロアルキル基、又は、混ざった基を形成するものの混合物である。
【0047】
典型的には、架橋基は、ブリッジ中に少なくとも8個の原子を有する、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、エーテル、ポリエーテル、ポリエステル又はポリウレタン基であり得る。
【0048】
典型的には、架橋基は、ブリッジ中に400個以下の原子を有する、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、エーテル、ポリエーテル、ポリエステル又はポリウレタン基であり得る。
【0049】
典型的には、架橋基は、ブリッジ中に8~400個の原子、より典型的には、ブリッジ中に8~200個の原子、もっとも典型的には、ブリッジ中に8~100個の原子を有する、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、エーテル、ポリエーテル、ポリエステル又はポリウレタン基であり得る。
【0050】
架橋基は、オリゴマーの基であり得る。
【0051】
好適には、架橋基は、ポリウレタン、ビスフェノールA又はビスフェノールAエトキシレート基から選択され得る。
【0052】
好適には、架橋剤は、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、ビスフェノールAジメタクリレート(BPAMA)、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレート(BPAEDMA)、及びビスフェノールA-グリシジルメタクリレート(「ビス-GMA」)の1つ以上、典型的にはEbecryl(登録商標)4859及びビスフェノールA(EO)4ジメタクリレートの1つ以上からなる群から選択され得る。
【0053】
架橋剤の架橋基は、150g/mol~5,000g/molの分子量(Mw)を有し得る。
【0054】
架橋基の分子量は、架橋剤の総分子量から反応性末端基の分子量を減じたものに等しいことが理解される。架橋基の分子量は、少なくとも2つの反応性末端基間の有効な距離を明示するために使用可能である。
【0055】
好適には、架橋剤は、組成物の総重量の、少なくとも5重量%、典型的には少なくとも10重量%、より典型的には少なくとも15重量%であり得る。
【0056】
好適には、架橋剤は、組成物の総重量の、94重量%以下、典型的には90重量%以下、より典型的には85重量%以下である。
【0057】
好適には、架橋剤は、組成物の総重量の、5~95重量%、典型的には10~90重量%、より典型的には15~85重量%である。
【0058】
架橋剤は、付加製造操作温度で液体であり得る。典型的には、架橋剤は、25℃で、200~800,000cP(mPa・s)の範囲内の粘度を有する液体であり得る。或いは、この温度で固体であり得る。
【0059】
架橋剤成分b)はまた、本明細書において定義されている架橋剤2種以上の混合物であり得る。
【0060】
反応性希釈剤
本発明の態様に係る組成物は、25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤を含む。好ましくは、成分b)が液体である場合、反応性希釈剤は、成分(b)の粘度よりも低い粘度を有する。従って、反応性希釈剤は、典型的には、付加製造操作温度で流動性の液体であり、例えば、室温で流動性の液体である。
【0061】
反応性希釈剤は、25℃で、1~8,000cP(mPa・s)、典型的には2~6,000cP(mPa・s)、より典型的には、5~2,000cP(mPa・s)の範囲内の粘度を有し得る。
【0062】
本明細書において定義されている反応性希釈剤は、典型的には、少なくとも2つの反応性モノマー単位又は1つの反応性モノマー単位、及び、嵩高の側基を有する1種以上の主モノマー、並びに、任意選択的に、1種以上の副モノマーを含む。好適には、反応性希釈剤主モノマーは、ジ-、トリ-若しくはテトラアルクアクリレートなどのジ又はポリ(アルク)アクリレート、より典型的には、ジメタクリレート;又は、嵩高のアルキル、環式若しくはアリール(アルク)アクリレート、又は、アルカリール又はアラルキルなどのこれらの組み合わせであり、ここで、嵩高のアルキル、環式又はアリール側基は、t-ブチル、イソボルニル、シクロヘキシル、ジシクロペンテニル、ジヒドロジシクロペンタジエニル、アダマンチル、4-t-ブチルシクロヘキシル、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、テトラヒドロフルフリルベンジル、2-フェノキシエチル及びフェニルから選択され得る。2つ以上である場合、(アルク)アクリレート基は、ジ-若しくは多価アルカン又はアルキルエーテル(後者は複数のエーテル基を含み得る)によって分離されていてもよく、直鎖又は分岐鎖であり得、また、C2~C50、より典型的には、C2~C30、及び、もっとも典型的には、C2~C20であり得る。
【0063】
本明細書において定義されている反応性希釈剤は、嵩高の側基を有する1種以上の主モノマーを含み得る。好適には、1種以上の主モノマーは嵩高の側基(アルク)アクリレートであり、典型的には、嵩高の側基は、イソボルニルメタクリレート(IBOMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及びt-ブチルメタクリレート(TBMA)、より典型的にはイソボルニルメタクリレート(IBOMA)などの嵩高のアルキル、環式又はアリール側基である。
【0064】
嵩高の側基、典型的には、イソボルニルメタクリレート(IBOMA)などの嵩高の側基(アルク)アクリレートを有する主モノマーを含む反応性希釈剤を含む本発明の組成物は、意外な程に高い曲げ強さ及び曲げ弾性率を有する歯科補綴物の付加製造による製造に非常に有効である。
【0065】
好適には、反応性希釈剤主モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス[4(メタクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、プロポキシル化グリセリルトリメタクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、イソボルニルメタクリレート(IBOMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、t-ブチルメタクリレート(TBMA)、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-フェノキシエチルメタクリレート及びフェニルメタクリレート、典型的にはトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、イソボルニルメタクリレート(IBOMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及びt-ブチルメタクリレート(TBMA)の1つ以上から選択され得る。
【0066】
反応性希釈剤副モノマーは、メタクリル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート及びα-メチレン-γ-ブチロラクトンの1つ以上から選択される単官能性モノマーであり得る。
【0067】
使用可能な副モノマーの量は、反応性希釈剤の総量の50重量%以下、より典型的には、40、30又は20重量%以下である。
【0068】
本発明の態様に係る組成物においては、パートb)の架橋剤又はパートc)の反応性希釈剤のいずれもが混合物ではない場合、パート(iii)の反応性希釈剤はパート(ii)の架橋剤成分とは同じ化合物ではないことが認識されるであろう。混合物である場合、パートc)の混合物の粘度は、混合物であってもそうでなくても成分b)の粘度未満であろう。
【0069】
本発明の態様の組成物は、組成物の総重量の少なくとも5重量%、典型的には少なくとも10重量%、より典型的には少なくとも15重量%の量で反応性希釈剤を含む。
【0070】
好適には、反応性希釈剤は、組成物の総重量の85重量%以下、典型的には80重量%以下、より典型的には75重量%以下である。
【0071】
好適には、反応性希釈剤は、組成物の総重量の5~85重量%、典型的には10~80重量%、より典型的には15~75重量%である。
【0072】
反応性希釈剤成分c)はまた、本明細書において定義されている反応性希釈剤2種以上の混合物であり得る。
【0073】
開始剤
本明細書に記載の付加製造用組成物は、好適な開始剤、及び、任意に好適な共開始剤を含む。本明細書において用いられる開始剤及び共開始剤は、特許請求されている付加製造プロセスにおける使用に好適であることが理解される。
【0074】
好適な開始剤及び共開始剤は当業者に周知である。
【0075】
好適には、開始剤及び/又は共開始剤は光開始剤であり得る。光開始剤は、UV及び/又は可視波長光への露光で重合を開始させる。
【0076】
UV光は、およそ10~420nmの範囲内の波長の電磁波と定義されると共に、可視光は、およそ380~800nmの範囲内の波長の電磁波と定義される。
【0077】
典型的には、好適な開始剤及び/又は共開始剤は、三次元プリンタの光源として同一の波長を多く吸収するであろう。
【0078】
好適な開始剤の例としては、これらに限定されないが、5,7-ジヨード-3-ブトキシ-6-フルオロン、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート、アセトフェノン、アニソイン、アントラキノン、(ベンゼン)トリカルボニルクロム、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4-ベンゾイルビフェニル、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、カンファーキノン、2-クロロチオキサンテン-9-オン、(クメン)シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロリン酸、ジベンゾスベレノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジメチルベンジル、2,5-ジメチルベンゾフェノン、3,4-ジメチルベンゾフェノン、4’-エトキシアセトフェノン、2-エチルアントラキノン、3’-ヒドロキシアセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、3-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、ギ酸メチルベンゾイル、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、フェンタントレンキノン、4’-フェノキシアセトフェノン、チオキサンテン-9-オン、トリアクリルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩及び(ビス)アシルホスフィンオキシドの1つ以上が挙げられる。
【0079】
典型的には、(ビス)アシルホスフィンオキシドは、1種以上のアシルホスフィンオキシドから選択され得、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメチルオキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド及びベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシドの例としては、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロフィルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド及び(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0080】
本明細書において定義されている光開始剤を含む組成物であって、例えば(ビス)アシルホスフィンオキシド化合物を光開始剤として含むものが、三次元印刷に重要な特性である、薄層表面の優れた硬化性を示すことが意外なことに見出された。人工歯及び義歯床に用いられる光開始剤は、典型的には、(ビス)アシルホスフィンオキシド又はカンファーキノンから選択され得る。
【0081】
本発明の態様によれば、好ましい開始剤は、カンファーキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(TPO)、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート(Speedcure TPO-Lとして入手可能)及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド光開始剤(BAPO)、(Irgacure 819として入手可能)からなるリストから選択され得る。
【0082】
共開始剤は、光開始剤と併用され得る。共開始剤は、第三級アミン及び/又はスルフィネート化合物を含んでいてもよい。従って、共開始剤の例としては、エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸塩、2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸塩、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノフェネチルアルコール、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム及びトルエンスルフィン酸ナトリウムが挙げられる。
【0083】
他に記載のない限り、「有機部分」は、いずれかのヒドロカルビル基又はヒドロカルビル基の群、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族基、ヘテロ芳香族基、複素環基、アルケニル基、前記基のいずれかであって、アルデヒド、ハロゲン、ケトン、カルボン酸又はエステル、エーテル、チオエーテル、アミン、アミド官能基によって置換若しくは一緒にリンクされているものから選択される1種以上のヒドロカルビル基を意味することが意図されている。
【0084】
用いられるべき光開始剤の量は、組成物の総重量に基づいて、約0.01%~約5%、好ましくは約0.5%~約3%であり得る。
【0085】
用いられるべき共開始剤の量は、組成物の総重量に基づいて、約0.5%~約10%、好ましくは約1%~約3%であり得る。
【0086】
添加剤
本発明の態様のいずれかに係る組成物はさらに、1種以上の添加剤を含み得る。添加剤は、フィラー、安定化剤、耐衝撃性改良剤、着色剤、流れ調整剤及び/又は静電防止剤の1種以上から選択され得、より典型的には、添加剤は、フィラー、着色剤及び安定化剤の1種以上から選択される。
【0087】
フィラー
本発明の組成物はフィラーを含有し得る。典型的には、フィラーは、印刷可能な重合性樹脂中に懸濁可能である。フィラーは、有機フィラー若しくは無機フィラー、又は、有機フィラー及び無機フィラーの組み合わせであり得る。本発明のフィラーは、天然のフィラー又は合成フィラーであり得る。
【0088】
本発明に係る無機フィラーは、シリカ、ケイ酸、ガラス、酸化鉄、窒化ケイ素、二酸化チタン、タルク及び石英などの材料を含み得る。
【0089】
シリカは、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、シラン化ヒュームドシリカの1種以上から選択され得る。
【0090】
ケイ酸は、アルミナシリケート、バリウムシリケート、ホウケイ酸ガラス、リチウムアルミナシリケート、リチウムシリケート、カオリン、ストロンチウムボロシリケートの1種以上から選択され得る。典型的には、ガラスは、シラン化バリウムホウ素アルミノシリケート(silanized barium boron aluminosilicate)及びシラン化フッ化バリウムホウ素アルミノシリケート(silanized fluoride barium boron aluminosilicate)の1種以上から選択され得る。
【0091】
ガラスは、バリウム、カルシウム、セリウム、鉛、リチウム、ストロンチウム、錫、亜鉛、ジルコニウム、及びアルミニウム系ガラスの1種以上から選択され得る。例えば、ガラスは、ホウケイ酸ガラス、フルオロアルミニウムホウケイ酸ガラス、リチウムホウケイ酸ガラス、ガラスセラミック、ソーダガラスであり得る。
【0092】
シリカ粒子は、約300nm未満、典型的には200nm未満の平均直径を有し得る。シリカ粒子は、典型的には、実質的に球状及び/又は実質的に非多孔性である。好適なナノサイズのシリカは、DeGussa AG(ハーナウ、ドイツ)から、製品名Aerosil OX-50、-130、-150及び-200で、又は、Cabot Corp(タスコラ、イリノイ州)から、製品名Cab-o-sil M5で市販されている。
【0093】
無機フィラーは、シラン化合物などのカップリング剤で表面処理されていてもよい。表面処理された無機フィラー粒子は、粒子と樹脂マトリックスとの結合が向上する。
【0094】
シリカ粒子は、ジルコニウム、ケイ素及び酸素原子を含有し得る酸化物中にコーティングされていてもよい。酸化物コーティング層は官能化されて、表面改質シリカ粒子とされてもよい。表面改質シリカ粒子は、一定の期間室温で静置された後にも粒子が凝集せず、かつ、沈降しないために、組成物が用いられる前において溶液中に安定な分散体をもたらす。表面改質粒子は光硬化性組成物中に良好に分散し、それ故、実質的に均質な組成物の達成が補助される。
【0095】
メタクリレート組成物中において重合反応に関与可能であるアクリル基又はメタクリル基などの官能基を有するシラン処理剤でシリカ粒子の表面が改質又はコーティングされている場合、シリカ粒子は、官能化シラン処理粒子と称される。シリカ粒子の表面が改質又はコーティングされていない場合、シリカ粒子は無官能化シラン処理シリカと称される。
【0096】
硬化中の重合において反応可能である官能基を有する表面改質剤は、例えば、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリルオキシ基とケイ素原子との間に3~15個の炭素原子を有するω-メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン、メタクリルオキシ基とケイ素原子との間に3~15個の炭素原子を有するω-メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及び、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含み得る。典型的には、シラン処理剤は、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-メタクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルジクロロメチルシラン及び11-メタクリロイルオキシウンデシルトリクロロシランを含む。
【0097】
市販されている表面改質剤の例としては、Wacker Chemie AG製のGenosil GF31、Genosil XL33、Genosil GF80及びGF82、並びに、Evonik製のAerosil R7200が挙げられる。
【0098】
上記に列挙されている表面改質剤は、本発明の実施形態において、単独で、又は、組み合わせで用いられ得る。
【0099】
或いは、本発明のフィラーは有機フィラーであり得る。
【0100】
このような有機フィラーは、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、架橋ポリアクリレート、架橋PMMAビーズ、ポリ(メチルメタクリレート-コ-ブチルメタクリレート)、メチルメタクリレート及びアクリレートモノマーのコポリマー、熱可塑性及び架橋ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート並びにポリエポキシドの1種以上を含み得る。
【0101】
好ましくは、有機フィラーは、印刷可能な重合性樹脂中に溶解又は懸濁可能である。
【0102】
組成物に添加され得る他のフィラーは、無機繊維(例えばガラス繊維又はアルミナ繊維)又は有機繊維(ポリマー繊維、例えば、ナイロン繊維、ポリアミド繊維、ビスコースレーヨン繊維、ポリエステル繊維等など)のいずれかなどの繊維を含む。このような繊維は、染料又は顔料などの着色剤を含み得る。
【0103】
フィラー成分は、不在であっても、又は、組成物全体の少なくとも約1又は2重量%の量で存在していてもよい。さらに、フィラー成分は、組成物全体の約75重量%未満、より好ましくは約70又は65重量%未満の量で存在し得る。例えば、フィラー成分は、組成物全体の約0~約75重量%、好ましくは、約1~約70重量%、より好ましくは、2~約65重量%の範囲で存在し得る。
【0104】
耐衝撃性改良剤
耐衝撃性改良剤は、材料の衝撃強度を変える添加剤である。好適には、耐衝撃性改良剤は、材料の衝撃強度を向上させるために添加され得る。
【0105】
耐衝撃性改良剤は、本明細書に記載のとおり、付加製造用組成物に添加され得る。好適には、本発明の態様に係る組成物は、耐衝撃性改良剤を含み得る。本発明の態様に係る組成物は、少なくとも1又は2重量%など、少なくとも0.2又は0.5重量%の耐衝撃性改良剤を含み得る。典型的には、存在する場合、この組成物は、組成物の総重量に基づいて、20重量%未満の未満耐衝撃性改良剤を含む。
【0106】
耐衝撃性改良剤は、フリーの耐衝撃性改良剤(free impact modifier)として添加し得る。耐衝撃性改良剤は、ゴム状のオリゴマー、反応性オリゴマー及び(コ)ポリマーに組み込まれ得る、耐衝撃性改良ポリマービーズ及び/又はコア/シェル粒子などの粒子として、独立して添加し得る。或いは、ゴム状のオリゴマー、反応性オリゴマー及び(コ)ポリマーは、直接添加し得る。耐衝撃性改良剤はまた、組成物のパートa)~c)のいずれかに組み込まれていてもよい。
【0107】
耐衝撃性改良剤は、以下に記載のとおり、付加製造用組成物のアクリルポリマーに添加し得る。
【0108】
アクリルポリマーは、懸濁重合により生成され得るビーズの形態であり得る。アクリルポリマーがビーズの形態である場合、耐衝撃性改良剤は、重合プロセスの最中に、典型的には、懸濁重合プロセスの最中にアクリルポリマービーズに組み込まれて、耐衝撃性改良ポリマービーズがもたらされ得る。
【0109】
耐衝撃性改良剤は、コア/シェル粒子の形態であり得る。このようなコア/シェル耐衝撃性改良粒子は当業者に公知である。例えば、このような粒子は、ゴム状コア及びガラス状アウターシェル又はガラス状コア及びゴム状シェルを有していることが可能である。加えて、ゴム状であってもなくても、いずれの場合においても、さらなるシェルが存在していてもよい。この意味におけるゴム状とは比較的低いTgを有する(コ)ポリマーを意味すると共に、ガラス状とは、比較的高いTgを有するものを意味する。コア/シェル耐衝撃性改良剤がゴム状コア又はゴム状シェルを有しているかどうかに関わらず、これらは通常、容易な取り扱いのためにガラス状アウターシェルを有する。典型的には、コア/シェル粒子は、エマルジョン重合技術を用いて生成され得る。
【0110】
従って、耐衝撃性改良剤は、組成物の衝撃強度、従って、これから製造される材料又は物品の衝撃強度を向上させる添加剤を含む。
【0111】
好適には、耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤を含有しないものと比して、少なくとも20%又は30%など、少なくとも10%、本発明の組成物由来の付加製造製品の衝撃強度を向上し得る。典型的には、上記に定義されている向上した衝撃強度は、ASTM D256又はISO 180に記載の方法に従うノッチ付アイゾッド衝撃強度により計測される。本発明に用いられる耐衝撃性改良剤中においては、エラストマー領域が存在し得る。耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤中に分離したエラストマー相を有し得る。さらに、エラストマー領域自体の形成に加えて、又は、その代わりに、耐衝撃性改良剤は、ポリマー鎖中にエラストマー領域を形成するために、ポリマー又はオリゴマー成分に重合され得る。さらに、耐衝撃性改良剤は、マトリックス(コ)ポリマーを架橋して、得られるネットワーク中にエラストマー領域をもたらすか、又は、マトリックス(コ)ポリマーから分岐を形成し得る。
【0112】
上記のとおり、本発明の態様に係る好適な耐衝撃性改良剤は当業者に公知のものであり、これらに限定されないが、コア-シェル粒子及び改質ビーズが挙げられる。
【0113】
典型的には、耐衝撃性改良剤は、アクリル(n-ブチルアクリレート系コア-シェル粒子など)、スチレン(MBS及びSBRなど)、シリコーン(シリコーン-アクリル系を含む)、ニトリルゴム、ポリイソプレンなどのイソプレン、ポリブタジエンなどのブタジエン、イソブチレン、脂肪族ポリウレタン、ポリエーテルオリゴマー、ポリエステルオリゴマー系のものから選択される。
【0114】
好適な耐衝撃性改良剤(コ)ポリマーとしては、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ニトリルゴム及び脂肪族ポリウレタン(コ)ポリマーが挙げられる。
【0115】
ニトリルゴム誘導耐衝撃性改良剤は、通例、フリーラジカル触媒によるアクリロニトリルとブタジエンとのランダム重合から誘導される合成ゴムである。このような耐衝撃性改良剤は、アクリロニトリルのレベルが異なっていてもよく、及び、本発明の目的のために、結合したアクリロニトリル含有量が、約18~約50%w/wニトリルゴムの範囲内であることが望ましい。典型的なニトリルゴム成分は、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマーである。
【0116】
耐衝撃性改良剤の例としては、ゴム耐衝撃性改良剤、アクリル系耐衝撃性改良剤及びゴム改質PMMAが挙げられる。
【0117】
本発明の好適な市販されている耐衝撃性改良剤としては、Arkema製のDurastrength(登録商標)アクリル系耐衝撃性改良剤;Arkema製のClearstrength(登録商標)MBS(MMA-ブタジエンスチレン)耐衝撃性改良剤;MCC製のMetablen(登録商標)Wタイプアクリル系耐衝撃性改良剤;MCC製のMetablen(登録商標)C-タイプMBSタイプ耐衝撃性改良剤;MCC製のMetablen(登録商標)S-タイプシリコーンアクリル系耐衝撃性改良剤;Omnova Solutions製のChemigum(登録商標)ポリ(アクリロニトリル-コ-ブタジエン)エラストマー;CVC Thermoset Specialties製のHypro(商標)ポリブタジエン反応性液体ゴム、及び、Sartomer製の脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられる。歯科用途における好ましい耐衝撃性改良剤は、メタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)、アクリル系耐衝撃性改良剤、シリコーン系耐衝撃性改良剤及びシリコーン-アクリル系耐衝撃性改良剤である。
【0118】
安定化剤
本発明の態様に係る組成物は、保管中に組成物を安定化し、及び、ラジカル重合による未成熟重合を防止し、及び/又は、三次元オブジェクトにおける硬化したポリマーの分解を防止する、少なくとも1種の好適な安定化剤を含み得る。従って、安定化剤は、組成物の保管寿命を延ばすよう作用し得る。
【0119】
典型的には、安定化剤は、ヒンダードアミン光安定化剤であり得る。より典型的には、安定化剤は、4-メトキシフェノール、フェノチアジン、ビストリデシルチオジピロピオネート、立体障害型モノフェノール、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール又はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の1種以上であり得る。さらなる例示的な安定化剤としては、アルキル化チオビスフェノール、例えば2,2-メチレンビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)及び2,2-ビス(1-ヒドロキシ-4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)スルフィドが挙げられる。
【0120】
好適には、本発明の態様に係る組成物は、2種の安定化剤を含み得る。典型的には、安定化剤は、2,6-ジ-第三級ブチル-4-メチルフェノール及び二置換ジフェニルアミンから選択される。
【0121】
本発明のアクリルモノマーは、任意に、ハイドロキノン(HQ)、メチルハイドロキノン(MeHQ)、2,6-ジ-第三級-ブチル-4-メトキシフェノール(Topanol O)及び2,4-ジメチル-6-第三級-ブチルフェノール(Topanol A)などの付随する好適な阻害剤を含む。
【0122】
流れ調整剤
本発明の態様に係る組成物は、組成物の流れ特性を高めるために、少なくとも1種の流れ調整剤を含み得る。好適な流れ調整剤は、アルミナ、シリカ、ステアリン酸亜鉛及びステアリン酸被覆炭酸カルシウムを含む。
【0123】
着色剤
本発明の態様に係る組成物は、三次元印刷オブジェクトの用途に応じて所望の色とするために好適な着色剤を含んでいてもよい。着色剤は従って、特定の色に限定はされず、可能な色としては、例えば、白色、黄色、オレンジ色、黒色、緑色、赤色、ピンク色及び/又は紫色が挙げられ、典型的には着色剤はピンク色である。
【0124】
好適な着色剤は当業者で公知であろう。好適な着色剤は、顔料又は染料の種々の組み合わせを含み得る。
【0125】
本明細書に記載の組成物中の着色剤の量は、組成物の総重量に基づいて、約1.0重量%未満、好ましくは約0.5重量%未満であり得る。
【0126】
歯科補綴物などの歯科製品は、典型的には、ヒトの歯肉を真似た着色剤を含むこととなる。
【0127】
組成物
好ましくは、付加製造用組成物は、硬化に際して半相互侵入高分子網目構造(SIPN)を形成する。付加製造用組成物のアクリルポリマーは、硬化に際して架橋剤又は反応性希釈剤と共有結合を形成しない。好ましくは、アクリルポリマーは本発明の組成物中に架橋を形成しない。従って、アクリルポリマーは、b)、及び、任意にc)の重合から、任意に、本明細書において詳述されているいずれかの他の添加されたモノマーと一緒に形成されるポリマーネットワークに、少なくとも部分的に相互侵入し得るが、化学結合を切断することなく分離され得る。
【0128】
典型的には、本明細書に記載の付加製造用組成物から形成されるいずれかの物品は、任意に、本明細書に記載のいずれかの他の添加されたモノマーを伴う、成分b)及び任意にc)の重合ネットワークとのアクリルポリマーの半相互侵入高分子網目構造を含む。
【0129】
本発明の態様のいずれかに係る付加製造用組成物は、25℃で、50~30,000cP(mPa・s)、典型的には80~25,000cP(mPa・s)、より典型的には150~20,000cP(mPa・s)の範囲内の粘度を有し得る。
【0130】
本発明の好ましい実施形態において、付加製造用組成物は貯蔵安定性組成物である。
【0131】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書に記載の付加製造用組成物の製造プロセスであって:
a.架橋剤及び/又は反応性希釈剤中に、固体微粒子としてのアクリルポリマーを少なくとも部分的に溶解して混合物を形成するステップ;
b.好適な開始剤、共開始剤及び/又は添加剤を、ステップaの前、最中又はその後に、任意選択的に添加するステップ
を含むプロセスが提供されている。
【0132】
微粒子の形態であり得るアクリルポリマーを、本明細書に記載の架橋剤及び/又は反応性希釈剤と少なくとも部分的に溶解及び混合することで、得られる三次元印刷オブジェクトにおいて向上した機械特性を有する組成物をもたらすことが可能であることが意外なことに見出された。
【0133】
好適には、少なくとも50重量%、典型的には少なくとも60重量%、より典型的には少なくとも70重量%、さらに典型的には少なくとも80重量%、もっとも典型的には少なくとも90重量%、特に約100重量%のアクリルポリマーが、架橋剤及び/又は反応性希釈剤中に溶解される。
【0134】
従って、「部分的に溶解」とは、少なくとも25又は50重量%の材料、典型的には少なくとも60重量%、より典型的には少なくとも70又は75重量%、さらに典型的には少なくとも80重量%、もっとも典型的には少なくとも90重量%、特に約100重量%の材料が溶解されることを意味する。
【0135】
添加剤の製造
本発明の態様に係る組成物は、付加製造における使用に特に好適である。従って、本発明のさらなる態様によれば、本明細書において特許請求されている付加製造プロセスが提供されている。
【0136】
普通、DLPプリンタ又はステレオリソグラフィプリンタ又は型開閉間隔プリンタを、本発明の組成物を用いる三次元オブジェクトの作製に使用することが可能である。このようなプリンタは、UV又は可視光源のいずれかを用いて運用可能である。
【0137】
いずれのアプローチにおいても、重合可能な組成物はフロアブル剤である。プリンタは、造形面に光を投影又は照射することにより重合された組成物の連続層を造形する。
【0138】
本発明においては、異なる色調及び色の数々の印刷可能な重合性組成物を調製し、且つ、個別に貯蔵容器に入れておくことが可能である。従って、義歯を造形する場合、義歯床を、義歯床遮光貯蔵容器から、層毎に造形し得る。次いで、この義歯床を洗浄し、人工象牙質遮光貯蔵容器に移して、象牙質様の歯を義歯床上に層毎に造形し得る。その後、洗浄し、及び、エナメル質遮光貯蔵容器に移し、これにより、エナメル質様の層を層毎に造形して、義歯床に歯が一体とされた最終的な義歯デバイスを形成し得る。
【0139】
或いは、義歯床のみ、又は、歯のみを、付加製造により調製し、次いで、異なるプロセスで製造した歯又は義歯床と組み合わせてもよい。
【0140】
洗浄用溶剤(例えば、酢酸エチル、アルコール、アセトン、THF、ヘプタン等、又は、これらの組み合わせ)は、本発明の三次元オブジェクトから未硬化の樹脂を除去するために使用し得る。
【0141】
最終的な硬化又は熱処理は、本発明の三次元オブジェクトの機械的及び物理特性、並びに、その性能を高めるために使用し得る。
【0142】
本発明において開発された組成物は、宇宙空間、アニメーション及びエンターテイメント、建築及び芸術、自動車、消費者用物品及びパッケージング、教育、電子機器、補聴器、スポーツ用品、宝飾品、医療、製造等などの数々の産業において使用可能である。義歯の製造において使用される場合、これにより調製された義歯は、一時的義歯(即時義歯としても公知である)又は永久義歯のいずれかであり得る。
【0143】
本発明の態様の組成物は、付加製造における使用に特に好適である。従って、本発明は、付加製造における本明細書に記載の組成物の使用にも及ぶ。
【0144】
従って、さらなる本発明の態様によれば、硬化された本明細書に記載の付加製造用組成物を含む、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトが提供されている。
【0145】
典型的には、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトは、少なくとも65MPa、より典型的には少なくとも75MPa、もっとも典型的には少なくとも85MPaの曲げ強さを有する。
【0146】
好適には、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトは、65~120MPa、典型的には75~110MPa、より典型的には85~105MPaの曲げ強さを有する。
【0147】
典型的には、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトは、少なくとも2000MPa、より典型的には少なくとも2300MPa、より典型的には、少なくとも2500MPaの曲げ弾性率を有する。
【0148】
好適には、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトは、2000~4000MPa、典型的には2300~3500MPa、より典型的には2500~3000MPaの曲げ弾性率を有する。
【0149】
本発明のさらなる態様によれば、デジタルライトプロセッシング、液晶ディスプレイスクリーン又はステレオリソグラフィ法に従う、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元オブジェクトを製造するための付加製造プロセスであって:
a.本発明の第1の態様に記載の付加製造用組成物の層を形成するステップ;
b.前記層を順次に固体層に硬化し、これにより、要求された固体オブジェクトを造形するステップ;及び
c.任意選択的に、さらに硬化するステップ
を含む付加製造プロセスが提供されている。
【0150】
形成するステップとは液体層が形成されることを意味し、この用語は、光源から遠ざかるに伴って三次元オブジェクトが造形台上に徐々に形成されると共に、液体貯蔵容器中において組成物層が形成及び硬化される技術を包含している。
【0151】
付加製造プロセスは、放射線、典型的にはUV又は可視光などの電磁波を用いて付加製造用組成物を硬化し得る。本発明の好ましい実施形態において、組成物は、UV放射線、典型的には10~420nm、より典型的には350~415nm、さらに典型的には375~410nmの範囲内、特に約385又は405又は410nmのUV放射線で硬化されて、歯科製品、典型的には歯科補綴物などの三次元印刷オブジェクトがもたらされる。
【0152】
任意選択のさらなる硬化ステップは、三次元印刷オブジェクトの最初の印刷が完了した後に実施され得る。一般に、さらなる硬化ステップでは組成物が確実に完全に硬化され、これにより、硬化した組成物、従って、歯科製品、典型的には、歯科補綴物などの最終的な三次元オブジェクトの機械特性の向上がもたらされ得る。
【0153】
従って、本発明は、本明細書に記載の付加製造プロセスによって入手可能である歯科製品、典型的には、歯科補綴物などの三次元オブジェクトに及ぶ。
【0154】
本発明はまた、本明細書に記載の組成物を含む三次元プリンタ用の付加製造カートリッジ又は交換ホッパーに及ぶ。
【0155】
本発明のさらなる態様によれば、向上した機械特性を有する歯科製品、典型的には、歯科補綴物などの三次元オブジェクトを製造するための組成物であって:
a.EMA残基を有するアクリルポリマー;
b.重合可能である少なくとも2つの反応性末端基を有する架橋剤であって、典型的には、前記少なくとも2つの反応性末端基は各々(アルク)アクリレート基であり、より典型的には、少なくとも2つの反応性末端基の一方又は両方はアルクアクリレート基であり、もっとも典型的には、メタクリレート基である、架橋剤;
c.25℃で流動性の液体の形態である反応性希釈剤;
d.好適な開始剤、及び、任意選択的に好適な共開始剤
を含む、組成物の使用が提供されている。
【0156】
本発明の態様のいずれかについて本明細書に記載されている特徴又は任意の特徴のいずれかはまた、他の態様のいずれかに準用され得ることが認識されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0157】
定義
「アルキル」という用語は、本明細書において用いられる場合、別段の規定がある場合を除き、飽和炭化水素、典型的にはC1~C12アルキルを意味すると共に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシルを含み、典型的には、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル及びヘキシル、より典型的には、メチルから選択される。別段の規定がある場合を除き、アルキル基は直鎖又は分岐鎖であり得る。
【0158】
さらに、別段の規定がある場合を除き、アルキル基は、無置換であるか、-OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)OR、-NR2、-C(O)NR2、-SR、-C(O)SR、-C(S)NR2(式中、ここで、及び、本明細書において一般に、Rは、各々独立して、水素を表すか、又は、無置換若しくは置換アルキルである)から選択される1つ以上の置換基によって置換又は末端封止されている。アルキル基は飽和基であり、典型的には、アルキル基は無置換であり、典型的には、アルキル基は直鎖である。
【0159】
「アルケニル」という用語は、本明細書において用いられる場合、別段の規定がある場合を除き、不飽和炭化水素、典型的には、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合官能基を有する炭化水素、より典型的にはC2~C12アルケニルを意味すると共に、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニルを含み、典型的には、アルケニル基は、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンチル及びヘキセニル、より典型的には、エテニルから選択される。別段の規定がある場合を除き、アルケニル基は直鎖又は分岐鎖であり得る。
【0160】
さらに、別段の規定がある場合を除き、アルケニル基は、無置換であるか、-OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)OR、-NR2、-C(O)NR2、-SR、-C(O)SR、-C(S)NR2(式中、ここで、及び、本明細書において一般に、Rは、各々独立して、水素を表すか、又は、無置換若しくは置換アルキル又はアルケニルである)から選択される1つ以上の置換基によって置換又は末端封止されている。アルケニル基は不飽和基であり、典型的には、アルケニル基は無置換であり、典型的には、アルケニル基は直鎖である。
【0161】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書において用いられる場合、別段の規定がある場合を除き、環式飽和炭化水素、典型的には環式C3~C12アルキルを意味すると共に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル及びシクロドデシルを含み、典型的には、シクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル、より典型的にはシクロヘキシルから選択される。別段の規定がある場合を除き、シクロアルキル基は、分岐部分を含み得る。
【0162】
さらに、別段の規定がある場合を除き、シクロアルキル基は、置換、無置換であり得、又は、-OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)OR、-NR2、-C(O)NR2、-SR、-C(O)SR、-C(S)NR2(式中、ここで、及び、本明細書において一般に、Rは、各々独立して、水素を表すか、又は、無置換若しくは置換アルキルである)から選択される1つ以上の置換基によって末端封止されている。シクロアルキル基は飽和基であり、典型的には、シクロアルキル基が無置換である。
【0163】
「アルク」等といった用語は、反する情報が存在しない場合、「アルキル」に係る上記の定義に従うべきとされ、ここで、括弧を付した(アルク)という用語は、アルキルの存在が任意であることを意味し、及び、ここで、「C0アルク」はまた、アルキルで置換されていないことを意味する。
【0164】
「嵩高の側基」という用語は、本明細書において用いられる場合、別段の規定がある場合を除き、嵩高のアルキル、環式又はアリール基を意味し、典型的には、嵩高のアルキル基は、本明細書において、1つ以上の第三級及び/又は第四級炭素を含有するC4~C20アルキル基であり、より典型的には、1つ以上の第三級及び/又は第四級炭素を含有するC4~C15アルキル基である。典型的には、環式基はC5~C20環式アルキル又はアルケニル基であり、より典型的には、環式基は、アルケニル基のC5~C15環式アルキルである。典型的には、アリール基はC5~C20アリール基であり、より典型的には、C5~C15アリール基である。嵩高の側基は、嵩高のアルキル、環式又はアリール基の組み合わせであり得る。嵩高のアルキル、環式又はアリール基、又は、これらの組み合わせは、前記基の炭素鎖に割り込む1つ以上のヘテロ原子を含有し得、ここで、ヘテロ原子は、好ましくは、硫黄、酸素又は窒素、より好ましくは、酸素又は窒素から選択される。好適には、炭素原子鎖は、3つ以下、より典型的には、2つ、又は、もっとも典型的には1つのヘテロ原子によって割り込まれ得、嵩高の側基は、本明細書において定義されている反応性希釈剤とされるために、親分子に要求される立体障害をもたらす十分に嵩高いものであるべきであることが理解される。「嵩高い」又は「立体障害」という用語は、当業者に十分に理解されているために定義は不要である。
【0165】
「貯蔵安定性」とは、通常許容される温度及び時間保管条件下で、すなわち5~30℃及び1~10日間、より典型的には、15~25℃及び1~170日間、もっとも典型的には、15~25℃及び1~250日間、組成物が重合しないことを意味する。
【0166】
或いは、「貯蔵安定性」とは、組成物が易流動性の液体のままであることを意味する。典型的には、組成物は、典型的には、最初の混合から少なくとも1日、より典型的には、最初の混合から少なくとも1、2、3、4、5又は6ヶ月間、より典型的には、最初の混合から、少なくとも12ヶ月間、もっとも典型的には少なくとも24ヶ月間の間、25℃で50~20,000cP(mPa・s)の粘度を有する。従って、組成物は、開始剤が活性化されるまで易流動性の液体のまま維持される。
【0167】
「液体」という用語は、本明細書において、当業者によって十分に理解されるため定義を必用としない。しかしながら、疑問を回避するために、液体は、スラリー又はペーストを含むフロアブル材料を含む。典型的には、液体という用語は、少なくとも5~35℃、より典型的には、5~30℃に適用される。
【0168】
「ブリッジ」という用語は、架橋基に関連して、反応性末端基間のブリッジ中の原子を意味し、ブリッジ中の原子の置換基である原子は含まない。
【0169】
「歯科補綴物」という用語は義歯を含み、典型的には、義歯床及び/又は人工歯を含む。
【0170】
本明細書に記載の温度は一般に、他に記載のない限り、大気圧(1atm/101KPa)である。
【0171】
アクリルポリマービーズの平均粒径は、Coulter LS230レーザ回折測定器を用いて測定し得る。
【0172】
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し得る。他に記載のない限り、本明細書において、粘度はブルックフィールド粘度(BV、センチポアズ(cP))を意味し、ブルックフィールド粘度計モデルRVDV-Eを用いて25℃で計測され得る。
【0173】
添付の実施例を参照して、本発明の実施形態をここに定義する。
【0174】
実験
特徴付け技術
アクリルポリマービーズの平均粒径は、Coulter LS230レーザ回折測定器を用いて測定される。
【0175】
分子量は、トラヒドロフラン溶剤を用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)及びポリ(メチルメタクリレート)標準を用いて較正した示差屈折率検出器により測定される。
【0176】
ブルックフィールド粘度(BV、センチポアズ(cP))は、ブルックフィールド粘度計モデルRVDV-Eを25℃で用いて実施した。
【0177】
曲げ強さ、曲げ弾性率、破壊靭性及び総破壊仕事は、ISO 20795-1:2013 歯科-ベースポリマー-第1部:義歯床ポリマーに準拠して測定した。
【0178】
ショアD硬度は、ASTM D2240に準拠してデュロメータを用いて計測される。
【0179】
実施例1
30部のウレタンジメタクリレート(UDMA)オリゴマーと70部のトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)モノマー/架橋剤との混合物中のPEMAの13重量%固形分溶液を、以下のように調製した:TEGDMA(107.8グラム)及びUDMA(Ebecryl 4859)(46.2グラム)を、水浴中のガラスジャーに加えた。オーバーヘッド撹拌機に接続した4枚羽根インペラをガラスジャーに取り付け、PEMA粉末(Lucite International Speciality Polymers and Resins Ltdから入手可能であるColacryl(登録商標)TS1364/1))(26.0グラム)を、撹拌しながらモノマー/オリゴマー混合物に添加した。シリカフィラー(20.0グラム)もまた添加した。混合物を水浴を用いて80℃に加熱し、PEMAが溶解するまで、撹拌を4時間維持した。室温に冷却した後、ブルックフィールド粘度は、19,600cP(mPa・s)と計測された。溶液の一部(130グラム)を先に蓋付きの不透明なビーカに計量し、次いで、遮光に注意しながらオーバーヘッド撹拌機を用いて、室温で1時間撹拌することにより、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドTPO(0.65グラム)を溶解した。
【0180】
上記の液体配合物を、UV光(410nm)で操作される、LCDディスプレイを備えたPhotocentric’s LC Dental三次元プリンタの樹脂浴槽に仕込んだ。テストパート(例えば、曲げ強さ及び曲げ弾性率テスト用のまっすぐな棒)を、2秒の硬化速度及び50ミクロンの層厚を用いて三次元印刷した。三次元印刷条件は以下のとおりであった。
・露光時間=2秒間
・底の露光=20秒間
・底層の数=4
・層厚=50μm
・Z上昇距離=10mm
・Z上昇速度=50mm/分
・Z底速度=50mm/分
・Z後退速度=500mm/分
次いで、Formlabs Formcure後硬化ボックス中において、テストパートをUV光(405nm)照射下で180分間、72℃で後硬化させた。
【0181】
印刷物の機械特性テストで以下の結果が得られた。
【0182】
【0183】
比較例1
実施例1のとおりであるが、PEMA粉末及びシリカフィラーが省かれる。印刷物の機械特性テストで以下の結果が得られた。
【0184】
【0185】
比較例2
実施例1のとおりであるが、PEMAポリマー及びシリカフィラーが同質量のエチルメタクリレート(EMA)モノマーで置き換えられる。この結果、三次元印刷の実施は失敗であった。印刷されたテスト棒は、完全に形成されておらず、且つ、プリンタから取り出す際に壊れる傾向にあった。
【0186】
実施例2
80部のビスフェノールA(EO)4ジメタクリレートオリゴマーと20部のイソボルニルメタクリレート(IBOMA)モノマーとの混合物中のPEMAの4.2重量%固形分溶液を、以下のように調製した:ビスフェノールA(EO)4ジメタクリレート(Miwon Speciality Chemical Co., Ltd.から入手可能であるMiramer(登録商標)M241)(76.64グラム)及びIBOMA(19.16グラム)を、水浴中のガラスジャーに加えた。オーバーヘッド撹拌機に接続した4枚羽根インペラをガラスジャーに取り付け、PEMA粉末(Lucite International Speciality Polymers and Resins Ltdから入手可能であるColacryl(登録商標)TS1364/1))(4.20グラム)を、撹拌しながらモノマー/オリゴマー混合物に添加した。混合物を水浴を用いて80℃に加熱し、PEMAが溶解するまで、撹拌を4時間維持した。室温に冷却した後、ブルックフィールド粘度は、2100cP(mPa・s)と計測された。ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド光開始剤(BAPO)、IGM Resins B.V.から入手可能であるIrgacure 819(0.75グラム)を添加し、撹拌を実施して確実に均質混合物とした。混合物を、三次元印刷の前に、遮光下に室温で、2~4時間維持した。
【0187】
上記の液体配合物を、UV光(410nm)で操作される、LCDディスプレイを備えたPhotocentric’s LC Dental 1.5三次元プリンタ樹脂浴槽に仕込んだ。テストパート(例えば、曲げ強さ及び曲げ弾性率テスト用のまっすぐな棒)を、2秒の硬化速度及び50ミクロンの層厚を用いて三次元印刷した。三次元印刷条件は以下のとおりであった。
・露光時間=2秒間
・底の露光=20秒間
・底層の数=4
・層厚=50μm
・Z上昇距離=10mm
・Z上昇速度=50mm/分
・Z底速度=50mm/分
・Z後退速度=500mm/分
次いで、Formlabs Formcure後硬化ボックス中において、テストパートをUV光(405nm)照射下で180分間、72℃で後硬化させた。
【0188】
印刷物の機械特性テストで以下の結果が得られた。
【0189】
【0190】
比較例3
実施例2のとおりであるが、PEMA粉末が省かれる。印刷物の機械特性テストで以下の結果が得られた。
【0191】
【0192】
比較例4
30部のウレタンジメタクリレート(UDMA)オリゴマーと70部のトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)モノマー/架橋剤との混合物中のPMMAの7重量%固形分溶液を、以下のように調製した:TEGDMA(116.2)及びUDMA(Ebecryl 4859)(49.8グラム)を水浴中のガラスジャーに加えた。オーバーヘッド撹拌機に接続した4枚羽根インペラをガラスジャーに取り付け、PMMA粉末(Lucite International Speciality Polymers and Resins Ltdから入手可能であるColacryl(登録商標)LS600/1))(14.0グラム)を、撹拌しながらモノマー/オリゴマー混合物に添加した。シリカフィラー(20.0グラム)もまた添加した。混合物を水浴を用いて80℃に加熱し、PMMAが溶解するまで、撹拌を4時間維持した。室温に冷却した後、ブルックフィールド粘度は、17,320cP(mPa・s)と計測された。溶液を先に蓋付きの不透明なビーカに計量し、次いで、遮光に注意しながらオーバーヘッド撹拌機を用いて、室温で1時間撹拌することにより、Irgacure 819BAPO(0.75グラム)を溶解した。
【0193】
上記の液体配合物を、UV光(410nm)で操作される、LCDディスプレイを備えたPhotocentric’s LC Dental三次元プリンタの樹脂浴槽に仕込んだ。テストパート(例えば、曲げ強さ及び曲げ弾性率テスト用のまっすぐな棒)を、2秒の硬化速度及び50ミクロンの層厚を用いて三次元印刷した。三次元印刷条件は以下のとおりであった。
・露光時間=2秒間
・底の露光=20秒間
・底層の数=4
・層厚=50μm
・Z上昇距離=10mm
・Z上昇速度=50mm/分
・Z底速度=50mm/分
・Z後退速度=500mm/分
次いで、Formlabs Formcure後硬化ボックス中において、テストパートをUV光(405nm)照射下で180分間、72℃で後硬化させた。
【0194】
印刷物の機械特性テストで以下の結果が得られた。
【0195】
【0196】
実施例3~5
イソボルニルメタクリレート(IBOMA)モノマーを、同量のシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)(実施例3)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)(実施例4)又はt-ブチルメタクリレート(tBMA)(実施例5)で置き換えたことを除き、実施例2を繰り返した。実施例2と同様に、実施例3~5で製造したテストパートは強固で、且つ、硬いものであった。試験片のショアD硬度テストで以下の結果が得られた。
【0197】
【0198】
本出願に関連してこの明細書と同時、又は、それ以前に提出され、この明細書と共に一般に縦覧に供されるすべての論文及び書面に対して注目されるべきであり、このような論文及び書面の内容のすべてが本明細書において参照により援用される。
【0199】
この明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面のすべてを含む)において開示されている特徴のすべて、及び/又は、同様に開示されているいずれかの方法又はプロセスのステップのすべては、このような特徴及び/又はステップの少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除き、任意の組み合わせで組み合わされ得る。
【0200】
この明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面のすべてを含む)において開示されている各特徴は、別段の明確な定めがある場合を除き、同一、均等又は同様の目的に役立つ代替的な特徴によって置き換えられ得る。それ故、別段の明確な定めがある場合を除き、開示されている各特徴は、一般的な一連の均等又は同様の特徴の単なる一例である。
【0201】
本発明は、前述の実施形態の詳細によって限定されない。本発明は、この明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面のすべてを含む)において開示されている、好ましい、典型的な、又は、任意の発明の特徴の新規ないずれか1つ、若しくは、いずれかの新規な組み合わせ、又は、同様に開示されているいずれかの方法若しくはプロセスの好ましい、典型的な、又は、任意の、発明ステップの新規ないずれか1つ、若しくは、いずれかの新規な組み合わせに及ぶ。
【国際調査報告】