(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】バイオ適合性の注射用及びインサイチューゲル化用ハイドロゲル並びに組織及び器官修復のための、セルロースナノフィブリルに基づくバイオ適合性の注射用及びインサイチューゲル化用ハイドロゲルの調製及び適用
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20230824BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230824BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230824BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230824BHJP
A61K 47/51 20170101ALI20230824BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230824BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230824BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230824BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61L27/20
A61K45/00
A61K9/10
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/51
A61P43/00 105
A61L27/52
A61L27/54
A61L27/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506481
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 IB2021000508
(87)【国際公開番号】W WO2022023815
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521263722
【氏名又は名称】オーシャン ツニセル エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トロエドソン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】グーデ グデセン,ハンス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA94
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB34
4C076CC29
4C076CC50
4C076EE31
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE38
4C076EE41
4C076EE43
4C076FF31
4C076FF68
4C081AB01
4C081AB11
4C081BA12
4C081BA13
4C081BB01
4C081CD021
4C081DA12
4C081DC12
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA21
4C084MA66
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZC611
4C084ZC612
4C084ZC801
4C084ZC802
(57)【要約】
セルロースナノフィブリルで構成されたバイオ適合性のインサイチューゲル化用及び注射用ハイドロゲルのハイドロゲル及び調製並びに組織及び器官修復及び再生のためのその使用。本発明は、注射用ハイドロゲルのための調整されたサイズ(フィブリル長さ及び分布)、高結晶化度及び高純度、可変水中濃度並びに制御電荷を有するセルロースナノフィブリルを実証する。本願は、カルボキシメチル化を通してセルロースナノフィブリルの置換度を制御することにより、インサイチューゲル化が達成され得ることを発見する。注射後、それらは、3次元ゲルを形成すると共に、組織及び器官修復を促進するために細胞に対して装着部位及び案内を提供し得る。それらは、身体内の標的位置に送達され、及び制御された方法で放出される薬剤、成長因子又はシグナリング分子もロードされ得る。それらは、幹細胞を含めて動物又はヒト細胞と混合され得ると共に、損傷部位への幹細胞、細胞、シグナリング分子及び/又は活性成分の輸送を提供する。
【選択図】
図1A-C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノフィブリルを含むハイドロゲルであって、前記セルロースナノフィブリルは、機械的にホモジナイズ可能であるか、化学修飾可能であるか又はその両方が可能であり、前記セルロースナノフィブリルは、バイオ適合性であり、注射可能であり、及びインサイチューでゲルを形成可能である、ハイドロゲル。
【請求項2】
前記化学修飾は、カルボキシメチル化、TEMPO酸化、過ヨウ素酸塩酸化、酵素的処理又はそれらの組合せの1つ以上から選択される、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記セルロースナノフィブリルは、1種若しくは複数の被嚢動物、木材、1種若しくは複数の植物、細菌、藻類又はそれらの組合せに由来可能である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
ヒト又は動物の組織修復、器官修復、組織再生、器官再生、細胞療法、癌処置又はそれらの組合せに使用可能である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
1種以上のバイオポリマー、1種以上の合成ポリマー又はそれらの組合せをさらに含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
前記1種以上のバイオポリマーは、アルギネート、ヒアルロン酸、コラーゲン、ラミニン、フィブリン、デキストラン、ジェラン及びキトサンの1つ以上から選択される、請求項5に記載のハイドロゲル。
【請求項7】
医薬品、医薬化合物、医薬剤、治療用化合物、治療剤又は薬剤の1つ以上をさらに含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項8】
ヒト又は動物において、前記医薬品、前記医薬化合物、前記医薬剤、前記治療用化合物、前記治療剤又は前記薬剤の前記1つ以上を標的領域、身体部分、組織、器官又はそれらの組合せに送達するために注射される、請求項7に記載のハイドロゲル。
【請求項9】
制御された放出速度が可能である、請求項8に記載のハイドロゲル。
【請求項10】
1種以上の成長因子、1種以上のシグナリング分子又はそれらの組合せをさらに含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項11】
ヒト又は動物において、前記1種以上の成長因子、前記1種以上のシグナリング分子又は前記それらの組合せを標的領域、身体部分、組織、器官又はそれらの組合せに送達するために注射される、請求項10に記載のハイドロゲル。
【請求項12】
制御された放出速度を有することが可能である、請求項11に記載のハイドロゲル。
【請求項13】
ヒト又は動物細胞をさらに含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項14】
ヒト又は動物において、前記ヒト又は動物細胞を標的領域、身体部分、組織、器官又はそれらの組合せに送達するために注射され、ヒト又は動物において、スキャフォールドとして作用するように注射される、請求項13に記載のハイドロゲル。
【請求項15】
1種以上の接着タンパク質、細胞接着に影響を及ぼす1種以上の他の分子又はそれらの組合せとバイオコンジュゲートされる、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項16】
ヒト又は動物において、細胞を誘引するか、細胞を結合するか、スキャフォールドとして作用するか又はそれらの組合せのために標的領域、身体部分、組織、器官又はそれらの組合せに注射される、請求項15に記載のハイドロゲル。
【請求項17】
0.05~20μmの長さを有するフィブリルを含む分散液をさらに含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項18】
0.5重量%超及び5重量%未満の固形分含有率を有する分散液を含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項19】
セルロースナノフィブリルを含むハイドロゲルを注射することにより、組織又は器官の損傷、創傷、欠損、病理又は疾患を有するヒト又は動物を処置する方法であって、前記セルロースナノフィブリルは、機械的にホモジナイズ可能であり、前記セルロースナノフィブリルは、バイオ適合性であり、注射可能であり、及びインサイチューでゲルを形成可能である、方法。
【請求項20】
前記セルロースナノフィブリルは、1種若しくは複数の被嚢動物、木材、1種若しくは複数の植物、細菌、藻類又はそれらの組合せに由来可能である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年7月31日出願の米国仮特許出願第63/059,342号の開示に依拠し、その出願日に対する優先権及びその利益を主張する。その出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、バイオ適合性セルロースナノフィブリル系水分散液及び注射用ハイドロゲルとしてのその使用に関する。これらのハイドロゲルは、組織又は器官を修復するか又は置き換えるための、薬剤、成長因子、細胞外小胞又は細胞を有する又は有しない、動物又はヒトにおける注射に特に好適である。ハイドロゲル、例えば多量の水を保持しながらも、好ましい態様で構造的完全性を維持することが可能な親水性ポリマーネットワークで構成された材料は、バイオ適合性であり得ると共に、治療剤を送達して組織及び器官を修復するように調整され得るため、魅力的なバイオ材料であり得る。態様では、本発明は、組織又は器官を再生するために細胞への十分な構造支持を提供する天然細胞外マトリックスの特性に十分に類似するか又はそれを含み得る。本明細書に説明されるセルロースナノフィブリルは、細胞外マトリックス中のコラーゲンの寸法に類似し、高い純度及び結晶化度、極めて大きい水保持容量並びに剪断減粘性を呈するユニークなフィブリル構造を有する特性のため、組織及び器官修復及び再生のための注射用ハイドロゲルとしての適用の好ましい候補となる。バイオ材料又はハイドロゲルは、すべて注射に使用するのに好適であるとは限らない。注射性に関して、バイオ材料は、最適な又は好ましい流動にとって十分な特定粘度の液体特性を必要とする。ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド又はそれらの2つのコポリマーなどの合成ポリマーに基づくハイドロゲルのほとんどは、比較的低い粘度を有し、粘度に対する剪断速度の適正な又は好ましい効果を有しない。アルギネート又はキトサンなどの天然ポリマーに基づくハイドロゲルに関しても、一般に同じことが言える。低粘度の帰趨は、注射性の制御の欠如であり、それにより標的の組織又は器官部位に達する精度及びハイドロゲルが組織又は器官内に透過して造形する有効性に悪影響を及ぼす。本発明に記載されるようなセルロースナノフィブリル系水分散液は、無剪断での固体様挙動及び非常に強い剪断減粘性によって特徴付けられるユニークなレオロジー性(流動)を有する。これは、良好な注射性を満たす理想的な特性である。本発明に係るレオロジー性(流動)は、態様においてナノセルロース分散液の濃度を制御し、及び/又は態様において機械的ホモジナイゼーションプロセス時にフィブリル長さ及び/又はフィブリル分布を制御することによって変動可能である。注射後のゲル化(例えば、インサイチューゲル化)は、態様では、カルボキシメチル化を通してセルロースナノフィブリルの置換度を制御することにより、達成され得ることが本発明によって示され、発見される。加えて、薬剤、成長因子、細胞外小胞(「EV」)又は細胞との表面相互作用は、本明細書に記載のセルロースナノフィブリルの表面改質によって調整され得る。
【0003】
かかる注射用ハイドロゲルは、例として、軟組織の修復及び再構築に使用可能である。例は、例えば、皮膚、脂肪組織又は軟骨の修復である。注射用ハイドロゲルは、例えば、創傷治癒及び/又は乳房、骨若しくは軟骨の再構築並びに靭帯修復のためにも使用される。注射用ハイドロゲルは、態様では、骨形態形成タンパク質(BMP)又はTGFベータなどの成長因子をロードされ得、メディカル及びデンタル適用の両方で骨などの硬組織の修復に使用可能である。注射用ハイドロゲルは、例として、脊椎修復のための又は癌処置のための薬剤及び成長因子を送達するためにも使用可能である。
【背景技術】
【0004】
関連する技術分野の説明
移植可能器官の不足は、深刻な世界的問題である。米国では、約20人の人々が移植待機で毎日死亡し、10分ごとに新たな患者が器官移植リストに追加される(HRSA、米国)。深刻な器官不足の状況は、待機リストに載っている人々の高死亡率を引き起こすか、又は人々に不法及び非倫理的経路を介して器官を得ようとさせる可能性がある(WHO)。エンドステージ器官不全の処置の合計コストは、米国のみで年間4000億ドルと推定される(1)。例えば、バイオ材料と細胞とを組み合わせる組織工学は、この世界的なヘルスケア問題を解決することを促進する重要な代替手段となる。多量の水を保持しながらも、構造的完全性を維持することが可能な親水性ポリマーネットワークで構成された材料のハイドロゲルは、そのほとんどがバイオ適合性であると共に、治療剤又は細胞を送達して組織及び器官を修復するように調整され得るため、魅力的なバイオ材料である。
【0005】
コラーゲンなどのタンパク質及びアルギネートなどの多糖をはじめとするバイオポリマーは、創傷ドレッシング、組織工学スキャフォールド及び薬剤送達媒体のためのハイドロゲルとして使用されてきた(2~5)。ナノセルロースハイドロゲルは、バイオ適合性とフィブリルモルフォロジーと水保持容量との組合せを提供するため、組織工学用スキャフォールドとして機能することが示されている(6~8)。Basuらは、創傷治癒適用のためのNFCハイドロゲルの木材由来ナノフィブリル化セルロースの使用を提案した(9)。自立性ハイドロゲルを達成するために、Basuらは、ナノファイバーのイオン誘起架橋を適用した。しかしながら、Basuらは、カルボキシル化されたTEMPO酸化NFCを記載したにすぎなかった。本明細書に記載の本発明では、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、TEMPO酸化NFCと比較して増加した2価イオン誘起架橋能を有することが見出されたことから、本発明に係るカルボキシメチル化は、カルボキシメチル基を導入することにより、ナノフィブリルの表面を改質可能な方法である。
【0006】
セルロースナノフィブリル分散液のレオロジー性(粘度及び流動挙動)は、フィブリル長さ及びフィブリル長さ分布によって影響を受ける。Paakkoらは、木材からのナノスケールセルロースフィブリルの調製のために機械的剪断及び高圧ホモジナイゼーションと組み合わされた酵素的加水分解を記載している(10)。しかしながら、Paakkoらは、フィブリル長さ及びレオロジー性に及ぼすホモジナイゼーションサイクルの影響を調べなかったと思われる。
【0007】
文献に報告されたほとんどの注射用ハイドロゲルは、組織及び器官修復のための長期にわたる適用上制約となる相対的に低い剛性/ロバスト性を有する。Yangらは、カルボキシメチルセルロースハイドロゲルを強化するためにセルロースナノ結晶を使用した(11)。De Franceらは、ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリレート)注射用ハイドロゲルを強化するためにセルロースナノ結晶の使用を記載した(12)。
【0008】
最近のレビューは、3Dバイオプリンティング及び細胞培養支持材料のためのバイオインクとしての新たな使用により、バイオメディカル適用でのセルロースナノフィブリルハイドロゲルの使用可能性を記載している(13~15)。2020年6月9日発行の米国特許第10,675,379B2号は、3Dバイオプリンティング、細胞培養、組織工学及び再生医学適用のためのバイオインクとして使用されるセルロースナノフィブリル状ハイドロゲルを提案している(16)。参照文献は、液状媒体中のセルロースナノフィブリル分散液を生成するためのさまざまな機械的、酵素的及び化学的ステップを記載しており、この場合、セルロースナノフィブリルは、約1~100ミクロンの長さ及び約10ナノメートル~20ミクロンの幅を有すると共に、3Dバイオプリンター適用でバイオインクとして使用するのに望ましいモルフォロジー性及びレオロジー性を備える。3Dバイオプリントサンプルは、使用前に架橋されなければならず、次いで、構築物は、外科的に植え込まれる必要がある。このため、手術室でバイオプリンターに加えて熟練者の存在が必要となるため、介入の複雑さ及びコストが加わる。本発明は、植込みのより侵襲的な外科的手順を改善し、態様において、バイオインク及び3Dバイオプリンティングを使用する必要性を伴うことなくハイドロゲルの直接注射を記載する。
【0009】
他の参照文献は、水性媒体と、水性媒体中に懸濁されたセルロースナノフィブリル及び/又はその誘導体を含むハイドロゲル体とを含む、細胞培養のための3D不連続エンティティーを記載している(17)。他の特許の米国特許第10,612,003号は、約0.01~1.7wt%の範囲内のナノファイバー濃度を有する3Dハイドロゲルマトリックスの形態で無菌機械的崩壊セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を含む、細胞培養又は細胞送達のための植物由来細胞培養材料を記載しており、この場合、セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体は、構造的にI型セルロースであり、複数の細胞は、3次元マトリックス内に均一に分配される(18)。両方の特許は、インビトロ細胞培養のための植物ナノセルロースハイドロゲルを記載しているにすぎない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
まとめると、組織及び器官修復のためのロバストな機械的性質を有するバイオ適合性の注射用、インサイチューゲル化用ハイドロゲルの新たな必要性が存在する。本発明に記載のように調製された被嚢動物セルロースナノフィブリルハイドロゲルは、組織及び器官修復のための注射用ハイドロゲルの好ましい候補であろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのため、本発明は、技術を改善し、態様において、動物及びヒトの組織及び器官修復及び再生のための、被嚢動物セルロースナノフィブリルに基づくバイオ適合性の注射用、インサイチューゲル化用ハイドロゲル製剤の調製を記載する。注射用ハイドロゲルは、外科的植込み材料とは対照的に、最小侵襲的送達手順を呈し、治癒時間を低減し、病院コストを低下させ、患者に対してより少ない疼痛を生じさせ、瘢痕化を低減し、及び術後感染リスクを減少させるため、組織及び器官修復にとって魅力的である。
【0012】
発明の概要
本発明では、組織及び/又は器官修復での適用などのために、好ましくは実施形態では被嚢動物に由来するセルロースナノフィブリルで構成されたバイオ適合性の注射用、インサイチューゲル化用ハイドロゲルの調製が教示される。注射後、態様では、調整されたサイズ(フィブリル長さ及び分布)、結晶化度、濃度、表面化学組成及び電荷を有するセルロースナノフィブリルで構成されたハイドロゲルは、組織及び/又は器官修復を促進するために細胞に対して装着部位及び案内を提供する3次元(「3D」)マトリックスを形成する。それらは、態様では、薬剤、成長因子又はシグナリング分子もプレロードされ得、効能を最適化するためにマトリックスの性質によって調整された放出速度で身体内の標的位置への送達を可能にする。それらは、損傷部位への幹細胞の輸送を提供するために、幹細胞を含めて動物又はヒト細胞と混合され得る。細胞又は幹細胞を使用する代わりに、細胞外小胞(EV)又は自己組織吸引物を使用して、内因性細胞によって行われる修復を刺激することも使用可能である。この際、注射用ハイドロゲルの主成分としてバイオ適合性セルロースナノフィブリル分散液を使用可能である。本発明には、ホモジナイザーでの機械的処理によるセルロースナノフィブリルの長さ及び長さ分布の調整並びに制御された注射性に望まれる粘度及び剪断減粘性を提供するようにフィブリル濃度の範囲を選択することによる粘度調整が記載される。セルロースナノフィブリルの表面は、表面電荷を制御してインサイチューゲル化性を可能にするために、カルボキシメチル化によって修飾され得る。例えば、被嚢動物に由来するセルロースナノフィブリルを注射用ハイドロゲルの成分として使用する利点は、例として、細胞装着及び成長に有利な3Dアーキテクチャーに連動した、剪断減粘及び高速回復(注射後の各種の組織を介した流動)などの有益なレオロジー性、生理学的環境での内因性カルシウム又は他の2価カチオンを用いた架橋によるインサイチューゲル化及び/又はバイオ適合性の組合せである。これらの特徴は、セルロースナノフィブリル分散液に基づく注射用ハイドロゲルが組織及び/又は器官修復のための機能性注射用ハイドロゲルであることを示す。
【0013】
実施形態では、本発明は、限定されるものではないが、
1.バイオ適合性、
2.水保持容量及び保有、
3.レオロジー性(好適な粘度、剪断減粘及びキャビティー充填容量)、
4.制御されたインサイチューゲル化、
5.薬剤、成長因子、伝導性成分、細胞などの他の材料との制御された標的相互作用、及び
6.制御されたインビボ機能
の1つ以上を含む、ハイドロゲルの好ましい性質を付与する能力がある。
【0014】
図面の簡単な説明
添付図は、本発明の実施形態のいくつかの特定の態様を例示するものであり、本発明を限定又は規定するために使用されるべきものではない。本明細書と共に、図面は、本発明の特定の原理を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A-C】
図1Aは、9サイクルでホモジナイズされたフィブリルのAFM画像を示す。
図1Bは、異なるホモジナイゼーションサイクル度でのフィブリル長さの正規分布を示す。
図1Cは、異なるホモジナイゼーションサイクル度でのフィブリル長さの正規分布を示す。
【
図2】各種のサイクル数でホモジナイズされたハイドロゲルの粘度に及ぼす剪断速度の影響を示す。
【
図3】異なる組織密度のモデルとして2%及び10%ゼラチンでの注射性に及ぼす機械的処理の影響を示す。
【
図4】レオロジー性に及ぼすセルロースナノフィブリル濃度の影響を示す。
【
図5】2%及び10%ゼラチンで構成された軟組織モデルでの注射性に及ぼすセルロースナノフィブリル濃度の影響を示す。
【
図6】アルギネート及び各種の被嚢動物セルロースナノフィブリルハイドロゲルでのゲル化実験を示す。
【
図7】ゲル化性プロセスを試験する実験構成を示す。
【
図8】選択されたハイドロゲルのゲル化に及ぼす架橋剤(この例では100mM塩化カルシウム)の添加の影響を示す。架橋剤は、この例では、60秒後に添加された。
【
図9】各種の組成の架橋TUNICELL-アルギネートハイドロゲルからのヘモグロビンの放出プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の各種の実施形態の詳細な説明
本発明は、各種の特徴を有する特定実施形態を参照して記載されている。本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく本発明を実施するうえで、各種の修正形態及び変形形態がなされ得ることは、当業者に明らかであろう。これらの特徴は、所与の適用又は設計の要件及び仕様に基づいて単独で又はいずれかの組合せで使用され得ることが当業者に分かるであろう。各種の特徴を含む実施形態は、そうした各種の特徴からもなり得るか又はそれから本質的になり得る。本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮して本発明を実践することで当業者に明らかになるであろう。提供される本発明の説明は、本質的に単なる例示にすぎず、そのため、本発明の本質から逸脱することのない変形形態は、本発明の範囲内であることが意図される。本明細書で引用された参照文献のすべては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
本発明は、セルロースナノフィブリルが、態様では、注射用ハイドロゲルに調整されたサイズ(フィブリル長さ及び分布)、高結晶化度、高純度、可変水中濃度及び制御電荷を有することを実証する。本願は、カルボキシメチル化を通してセルロースナノフィブリルの置換度を制御することにより、インサイチューゲル化が達成され得ることを示す。注射後、それは3次元ゲルを形成して、組織及び器官修復及び/又は発生及び/又は再生を促進するために細胞に対して装着部位及び案内を提供し得る。それは、例えば、身体内の標的位置に送達されて制御下で放出される1つ以上の医薬、成長因子又はシグナリング分子も含み得る。それは、幹細胞を含めて動物又はヒト細胞とも混合され得、例として損傷部位への幹細胞又は細胞シグナルの輸送を提供する。
【0018】
レオロジー性(流動)は、態様ではナノセルロース分散液の濃度を制御することにより及び/又は態様では機械的ホモジナイゼーションプロセス時にフィブリル長さ及び/又はフィブリル分布を制御することにより変動可能である。実施形態では、フィブリル長さ及び/又は分布は、機械的ホモジナイゼーションプロセスでサイクル数を改変することにより調整され得る。これはハイドロゲルのレオロジー性を変化させて、注射性、インサイチューゲル化及び/又は細胞生存能を促進する。機械的ホモジナイゼーションでの追加サイクルは、態様では繊維長さを低減することにより粘度を低下させ、ハイドロゲルの改善された注射性をもたらすであろう。
【0019】
実施形態では、結晶化度及び/又は純度の差は、異なるセルロース源を用いることによって達成され得る。被嚢動物ナノセルロースは、好ましい結晶化度及び純度を有する。態様では、より高い結晶化度は、特定の望ましい形状を保有するなど、ハイドロゲルの1つ又は複数の機械的性質を促進可能である。態様では、より高い純度は、組織及び器官修復適用のために動物及び/又はヒトにおいてバイオ適合性及び組織インテグレーションを増強可能である。
【0020】
実施形態では、本発明は、水又は他の液体又は溶液中のセルロースナノフィブリルの可変濃度を可能にし得る。より高濃度のセルロースナノフィブリルは、態様では、ハイドロゲルのより高い粘度をもたらし、さらにハイドロゲル中にプレロードされた細胞シグナル又は活性化合物の拡散に見合うように多孔度を変化させるであろう。したがって、セルロースナノフィブリル分散液の濃度は、増強された細胞生存能、特定の拡散速度及び/又は組織要件が得られるようにハイドロゲルの好ましい流動性の調整に使用可能である。
【0021】
実施形態では、セルロースフィブリルの電荷は、置換度を変動させることにより制御可能である。この置換は、セルロースフィブリルの表面改質であり、この場合、単なる例にすぎないがカルボキシル基又はカルボキシメチル基がフィブリルに付加される。異なる数又は量のカルボキシル基又はカルボキシメチル基を用いると、表面性、例えば電荷及びハイドロゲル中の分子及び繊維などへのセルロースフィブリルの架橋能を改変することにより、その架橋速度論に影響を及ぼすことが可能である。カルボキシル基又はカルボキシメチル基の付加は又はイドロゲル中のセルロース繊維に機能性分子をグラフトすることによりさらなる改質を可能にし得ると共に、特定の適用で機能性を促進可能である。
【0022】
本願は、態様では、カルボキシメチル化を通してセルロースナノフィブリルの置換度を制御することにより、インサイチューゲル化が達成され得ることを示す。また、態様では、カルボキシメチル化セルロースナノフィブリルは、例えば、TEMPO酸化セルロースナノフィブリルと比較して増加した2価イオン誘起架橋能を呈することが可能であり、したがって、本発明に係るカルボキシメチル化は、カルボキシメチル基を導入することによりナノフィブリルの表面を改質可能な方法又は機構である。
【0023】
実施形態では、本発明に係るハイドロゲルは、薬剤、成長因子又はシグナリング分子もプレロードされ得、身体内の標的位置への送達を可能にする。態様では、放出速度は、効能及び/又は安全性を最適化するためにマトリックスの性質により調整される。実施形態では、薬剤、成長因子、細胞外小胞、細胞及び自己組織吸引物との表面相互作用は、本明細書に記載のセルロースナノフィブリルの表面改質によって調整され得る。態様では、ハイドロゲル中のナノフィブリルの濃度を変動させることにより、可変多孔度が達成され得、それにより注射後にハイドロゲルから隣接組織、器官及び/又は身体部分中への活性分子の拡散を改変可能である。例えば、限定されるものではないが、カルボキシル基及び/又はカルボキシメチル基を付加することによるナノファイバーの化学修飾は又はイドロゲル中に機能性成分をグラフトすることを可能にし得る。過ヨウ素酸塩酸化などを介してナノセルロースを修飾することにより、酸化されたセルロースナノフィブリルは、細胞相互作用の増強のために、他のバイオポリマー、例えば、限定されるものではないが、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンにバイオコンジュゲート可能である。
【0024】
実施形態では、ハイドロゲルは、創傷、組織、身体部分又は器官に注射され、注射と同時に、注射とほぼ同時に、注射と実質的に同時に、注射とおおよそ同時に又は時間的に分離して2価カチオンなどの1種以上の架橋性分子をハイドロゲルに添加することによりインサイチュー架橋される。ハイドロゲルは、創傷、組織、身体部分又は器官の生理学的条件又は性質、例えば内因性カルシウム濃度によっても架橋され得る。実施形態では、インサイチューゲル化は、活性成分、細胞又は材料を含む又は含まないハイドロゲルの注射、例えばスムーズであり、快適であり、有効であり、医学的に効能があり、及び/又は医学的に安全な注射を可能にし、次いで注射されたハイドロゲルを創傷、組織、身体部分又は器官内で所望の形態で成形又は造形することを可能にする。実施形態では、ハイドロゲルは、機械的強度、例えばハイドロゲルが無限に、永久的に、一時的に又はある期間にわたり所望の形状を保有できるようにインサイチュー成形又は造形を促進するために高い機械的強度などを含む。本発明に係るセルロースナノファイバーは、インサイチュー成形及び造形を可能にする機械的性質を有し得る。インサイチュー架橋は、注射されたハイドロゲルの形状を保有できるようにし得る。
【0025】
態様では、インサイチューゲル化は、注射部位及び/又はハイドロゲルの注射直後のハイドロゲル形成又はゲル化を含む。態様では、ゲル化は、自己ゲル化であり得るか、又は架橋性分子、例えば、限定されるものではないが、カルシウムなどの2価カチオンの添加により生じ得る。例えば、態様では、ゲル化は、例えば、ヒト又は動物の組織、身体部分、器官又は創傷へのハイドロゲルの注射時又はその後に起こるであろう。態様では、これは、より侵襲的な外科的手順を実施する必要もなくハイドロゲルを機能させることを可能にする。態様では、ゲルは、ハイドロゲルの注射時又はその後に硬化、硬質、剛性、半剛性、より粘性、弾性、半弾性、軟質又は半軟質状態になる。態様では、インサイチューゲル化は、注射前にはより低い粘度のハイドロゲルを含み、注射されると注射部位で又は内部で、例えば単なる例にすぎないが、インビボでより粘性に又はゲルになる。このため、他の適用でも、ハイドロゲルを注射すると注射されたハイドロゲルは、スキャフォールディングの形成を可能にし得る。態様では、インサイチューゲル化は、注射の目的ではより低い粘性のハイドロゲルを含み、次いでハイドロゲルの注射時又はその後にはより粘性のものを含む。態様では、ハイドロゲルは、注射直後、注射時又は注射後、遅く、やや遅く、速く、やや速く、自発的に又はほぼ自発的にゲル化可能である。態様では、ハイドロゲル形成は、架橋剤を用いて、それを含めて若しくはそれを添加して又はそうしたことをせずにインサイチューで起こる。態様では、架橋剤は、注射前、その間又はその後のいずれかでハイドロゲルに含まれ得るか又は添加され得る。態様では、ゲルは、巨視的又は微視的である。態様では、ゲル化は、可逆的又は非可逆的である。態様では、ゲルは、セルロースナノフィブリル分散液のみからなるか、又は1種以上のポリマー、バイオポリマー、活性成分、細胞、幹細胞、細胞シグナル若しくはEVも含む。態様では、セルロースナノフィブリルは、例えば、カルボキシメチル化、TEMPO酸化、過ヨウ素酸塩酸化又は酵素的処理により化学修飾される。態様では、セルロース繊維は、他のバイオポリマー、例えば、限定されるものではないが、コラーゲン、ラミニン及び/又はフィブロネクチンとバイオコンジュゲートされる。
【0026】
本発明の理解を深めるために、いくつかの実施形態の特定の態様の下記実施例が与えられる。下記実施例は、なんら本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0027】
実施例1
注射性に及ぼす機械的前処理の影響
酵素的に前処理された被嚢動物セルロースナノフィブリルTUNICELL ETCの分散液を各種のサイクル数(ホモジナイザーへのパス回数)で高圧フリュイダイザー(Microfluidizer M-110EH, Microfluidics Corp. USA)によりホモジナイズした。次いで、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いてフィブリル長さ分布に関してETC分散液を評価した(8)。新たに切断したマイカシートをポリ-L-リシン(0.01%)の溶液で5分間処理し、次いで空気乾燥した。次いで、希釈ETC分散液の液滴(0.02%乾燥含有率)をマイカ上に堆積して5分間インキュベートし、続いてDI水で濯いだ。Nanoscopeソフトウェアを備えたタイプGスキャナー付きAFM NanoScope III走査プローブ顕微鏡(v.4.43;Digital Instruments, Santa Barbara, CA, USA)で乾燥サンプルを調べた。標準的シリコンチップ(高さ:15μm、曲率半径:8nm)を用いてタッピングモードで測定を実施し、ナノセルロースフィブリルの長さ及び幅を決定した。その際、ImageJ(National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA)を用いて5~10フィブリルの平均で計算した。ペルチエアルミニウムプレート(直径20mm、ギャップ=300μm)を用いたTA Discovery HR2レオメーター(TA Instruments, New Castle, DE, USA)でETCのレオロジー性をアセスした。線形粘弾性領域(LVR)を決定するために、振動振幅を1Hzの周波数で0.1Pa~1000Paの範囲に設定した。LVRから、10-3Hz~103Hzの範囲の振動周波数測定に対して10Paの力を選んだ。25℃で剪断速度を0.1s-1から1000s-1に増加させることにより剪断粘度を評価した。
【0028】
表1は、AFMフィブリル長さ決定からの結果をまとめたものである。6サイクルの機械的処理での平均フィブリル長さは、3μm超であった。平均フィブリル長さは、9サイクルのランのときに2.64μmに減少し、12サイクルのホモジナイゼーション後に2.43にさらに減少した。9サイクル後にAFMにより分析されたフィブリル寸法は、
図1aに示され、フィブリルサイズ分布は、
図1bに示される。ホモジナイゼーションによる機械的処理は、平均フィブリル長さを減少させたことに留意することが重要である。機械的処理を20サイクルに増加させると平均フィブリル長さは2.27マイクロメートルに低減するが、おそらく微細材料の形成によりフィブリルサイズ分布は再びより幅広くなった(
図1c参照)。
【0029】
【0030】
図2は、セルロースナノフィブリルハイドロゲルのレオロジー性に及ぼす各種のサイクル数のホモジナイゼーションの影響を示す。ハイドロゲルは剪断減粘性を有する。このことは一般に剪断速度の増加がより低い粘度をもたらすことを意味する。下側の図のパネルは、1×1/sの剪断速度での拡大された領域を示す。この倍率では、20サイクルのホモジナイゼーションは、すべての剪断速度でより低い粘度をもたらすことがより容易に分かる。このことは表1でも分かる。油系赤色色素で着色してニードルから現れたハイドロゲルの形状を観察することにより、異なるハイドロゲルの注射性を比較した。
図3のパネルの上側の並びでは、6サイクルでホモジナイズされたハイドロゲルは、ディスペンスされたときにドロップレットを形成したことが分かる。ホモジナイゼーションの増加は、ニードルを介してディスペンスされたときに相対的により良好な流動をもたらした。20サイクルにおいて、この実施例では、分散液は、ニードルを介して相対的によりスムーズに流れた。これらのハイドロゲルの注射性を軟組織のシミュレーションにより研究及び試験した。異なる密度の組織をシミュレートするために2つの異なる濃度2%及び10%でゼラチンゲルをキャストした。次いで、ゼラチンマトリックスの入ったバイアルのトップに挿入されたニードルでハイドロゲルをディスペンスした(
図3の下側パネルを参照されたい)。ゼラチンマトリックス中に進入した後の注射されたハイドロゲルの長さ、幅及び形状の定性的比較により評価を行った。ホモジナイゼーションの増加に伴って改善された注射性を示す傾向が見られた。20サイクルでホモジナイズされたハイドロゲルは、より少ないサイクル数でホモジナイズされたハイドロゲルと比較して最も狭い幅で直線状の長いトラックを呈した。
【0031】
実施例2
注射性に及ぼす濃度の影響
酵素的に前処理された被嚢動物セルロースナノフィブリルTUNICELL ETCの分散液を9サイクルのホモジナイゼーションで生成し、濃度を増加させるように後処理した。後処理は真空濾過を含んでいた。濃度を2.5%から3.25%及び4%に増加させた。実施例1に記載の条件下でレオメーターを用いて、粘度-剪断速度関係に及ぼす濃度の影響を調べた。
図4は、調べた剪断速度範囲の全範囲にわたり3種のすべてのハイドロゲルがより高いナノセルロース濃度でより高い粘度で剪断減粘を呈したことを示す。20ゲージシリンジニードルからディスペンスされたハイドロゲルの目視検査並びに2%及び10%ゼラチン軟組織モデル中にディスペンスされたハイドロゲルの形状を比較することにより、注射性を比較した(
図5)。実施例を介して、より高い又は最高の濃度のハイドロゲルが好ましい注射性を有するという結論に達した。
【0032】
実施例3
インサイチューゲル化
異なる表面電荷を有するディスペンスされたハイドロゲルを塩化カルシウムで架橋してそれをアルギネートと比較することにより、セルロースナノフィブリル分散液のインサイチューゲル化能を調べた。3つの異なるセルロースナノフィブリルハイドロゲル:酵素的被嚢動物セルロースETC、カルボキシメチル化被嚢動物セルロースCTC及びTEMPO酸化被嚢動物セルロースTTCを試験に選択した。DLS(Nano ZS-ZEN3600;Malvern Instruments, Malvern, UK)を用いてゼータ電位測定(ζ電位、すなわち、フィブリルの平均電荷)により表面電荷を決定した。
【0033】
CTCサンプルを伝導度滴定に付したところ、電荷密度は367μmol/gであった。これは0.062の置換度(DS)に対応する。TEMPO酸化サンプルTTCの電荷密度は664μmol/gであった。アルギネート(Nova Matrix, Norway製のPronova SLG100)を比較に使用した。表2は、ゼータ電位測定の結果をまとめたものである。
【0034】
【0035】
架橋性溶液は、DI水中の100mM塩化カルシウムであった。ゲル化は、20ゲージニードルを介してディスペンスされたマトリックス上に塩化カルシウム溶液を滴下することによりスクリーニングされた。アルギネートサンプルは、DI水中の3%溶液として評価された。次いで、ゲル化は、Discovery HR-2レオメーター(TA Instruments, Crawley, UK)を用いて1.5%の歪み及び1Hzの周波数で振動-時間測定を10分間行うことにより試験された。すべての測定は、20mmのプレート-プレートジオメトリーを用いて25℃で行われた(ギャップ:500μm)。測定開始後60秒で、貯蔵弾性率及び損失弾性率のデータを収集しつつ、1mlの0.1M CaCl
2をサンプルの周りにディスペンスした。
図7は、ハイドロゲルのゲル化を試験するための実験構成を示す。
図8は、選択されたハイドロゲルのゲル化に及ぼす架橋剤100mM塩化カルシウム溶液添加の影響を示す。架橋剤は60秒後に添加された。ハイドロゲルの剛性を記述する剪断モードでの貯蔵弾性率は、時間の関数として提示される。時間0では、架橋前はハイドロゲルでないアルギネート溶液と、異なるTUNICELLハイドロゲルと、の差を観察することが可能である。修飾されていないETC材料は、より高い又は最高の貯蔵弾性率を有し、カルボキシメチル化TUNICELL(CTC)次いでTEMPO酸化TUNICELL(TTC)がそれに続く。100mM塩化カルシウム溶液の添加後、アルギネートの貯蔵弾性率は、迅速な架橋に起因して増加し、場合によりただちに増加する。この架橋されたハイドロゲルは、場合により架橋剤の添加直後、分析されたハイドロゲルのより高い又は最高の剛性を有していた。場合により、非修飾TUNICELL ETCは、架橋剤の添加により実質的に影響を受けなかった。TTCハイドロゲルは、貯蔵弾性率の中程度の増加を示して平衡に達成し、場合により急速又は迅速に平衡に達する。CTCハイドロゲルは、貯蔵弾性率の速度の相対的により遅い増加を示し、500秒後にアルギネートよりも好ましい貯蔵弾性率を呈した。これは、カルボキシメチル化が架橋能及びインサイチューゲル化性を提供するのに好適なセルロースナノフィブリル分散液修飾法であることを示す。表3は、100mM塩化カルシウム溶液の添加後540秒で分析された材料の貯蔵弾性率をまとめたものである。CTCは、分析された材料の中で最高の貯蔵弾性率を有していた。
【0036】
【0037】
実施例4.
バイオ適合性
TUNICELLハイドロゲルは、検証されたクリーンルーム設備で高圧フリュイダイザーを用いて処理されさらにリファインされた。処理プロトコルは、高結晶性、高アスペクト比、>99%純セルロース、汚染ヘミセルロース及びリグニンフリーをもたらした。表4は、TUNICELLの炭水化物組成をまとめたものである。TUNICELLの完全酸加水分解後の放出炭水化物は、Carbopac PA1カラム(Dionex, Sunnyvale, CA, United States)を用いてICS3000システム(Dionex, Sunnyvale, CA, United States)によりパルスアンペロメトリー検出(HPAEC-PAD)で高性能陰イオン交換クロマトグラフィーにより調べられた。クリーンルーム規格下で生成されたメディカルグレード超高純度TUNICELLは、電子ビーム滅菌され、植込み型デバイスに対するFDA規制を遵守して<10CFU/mlのバイオ負荷レベル及び≦0.5EU/mlの内毒素レベルを有していた。TUNICELLの内毒素レベルは、LonzaのPyroGene(商標)Recombinant Factor C Assayを用いて試験された。バイオ負荷試験は、欧州薬局方(European Pharmacopoeia)、第2.6.12章に準拠して行われた。
【0038】
【0039】
実施例5.
ヘモグロビン送達
TUNICELLハイドロゲルは、薬剤及び成長因子送達に関しても評価された。例として、組織酸素化を増強して創傷治癒プロセスを加速するために、ヘモグロビン送達を評価した。80:20及び40:60のTUNICELL-アルギネート混合物の2つの異なるハイドロゲルを調製した。架橋ハイドロゲルをヘモグロビン溶液中に浸漬することにより、100mM塩化カルシウム溶液を用いて架橋されたハイドロゲルにヘモグロビンをロードした。HBSS溶液中に架橋ハイドロゲルを配置したときにUV分光法を用いてヘモグロビン濃度を決定することにより、ヘモグロビン放出速度を評価した。TUNICELLとアルギネートとの比を変動させてハイドロゲルの組成を変化させることにより、創傷及び創傷治癒要件に合わせて調整される及び調整可能なヘモグロビンの差次的拡散速度を可能した(
図9)。より速いヘモグロビン放出は、より高濃度のTUNICELLを用いたハイドロゲルで見られた。それゆえ、これは、制御下で創傷組織にヘモグロビンをディスペンスして送達するのに適用可能な方法であることが発見された。
【0040】
実施例6.
細胞相互作用の増強
細胞接着を制御するために、過ヨウ素酸塩酸化、続いて選択された細胞外タンパク質のバイオコンジュゲーションにより、TUNICELLハイドロゲルETCを修飾した。15gのETC(2.4%濃度)を含有するアルミニウムフォイルでカバーされたガラスボトル中に、5mLのDI水中の0.73gの過ヨウ素酸ナトリウム(1.5モルの過ヨウ素酸塩/無水グルコース単位)の溶液を添加した。反応を室温で24時間撹拌し、次いでハイドロゲルを遠心分離してDI水で濯いだ。次いで、酸化ハイドロゲルに1~15mlの100μgタンパク質/ml溶液を添加してから37℃で24時間インキュベートすることにより、酸化構築物にフィブロネクチン、コラーゲンI及びラミニンをバイオコンジュゲートした。次いで、バイオコンジュゲートされたハイドロゲルを脱イオン水中で短時間濯ぎ、そして遠心分離して所望の濃度にした。軟組織中に注射して欠損を修復するために、バイオコンジュゲートされたハイドロゲルを細胞との併用及び非併用で使用した。バイオコンジュゲートされたハイドロゲルは、増強された細胞接着を示して、組織修復に寄与すると共に、組織修復を改善した。バイオコンジュゲートされたハイドロゲルをヒト軟骨細胞と混合して、軟骨修復のために関節に注射した。28日後、ハイドロゲルが植え込まれた領域内でヒト軟骨が発生した。
【0041】
開示された特徴は、所与の適用又は設計の要件及び仕様に基づいて単独で、いずれかの組合せで又は省略して使用され得ることが当業者に分かるであろう。ある実施形態が特定の特徴を「含む」として参照するとき、実施形態は、代替的にその特徴のいずれか1つ以上「からなる」又は「それから本質的になる」ことが可能であるものと理解されるべきである。本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮して本発明を実践することで当業者に明らかになるであろう。本明細書で用いられる藻類は、限定されるものではなく、マクロ藻類及びマイクロ藻類並びにすべての形態の藻類を含む。
【0042】
本明細書で値の範囲が提供された場合、その範囲の上限と下限との間の各値も具体的に開示されることに特に留意されたい。これらのより小さい範囲の上限及び下限は同様に、独立してその範囲に含まれ得るか又はそれから排除され得る。単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、特に文脈上明確に規定されない限り複数の参照を含む。本明細書及び実施例は、本質的に例示とみなされ、本発明の本質から逸脱しない変形形態は、本発明の範囲内に含まれることが意図される。本開示で引用された参照文献のすべては、それぞれ個別に、その全体が参照により本明細書に組み込まれるため、本発明の実施可能な開示を補充する効率的方法を提供すること及び当業者のレベルを詳述する背景を提供することが意図される。
【0043】
参照文献
以上に述べたように、下記の参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
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【国際調査報告】