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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】胚をスクリーニングするための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20230824BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230824BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230824BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230824BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230824BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C12N5/073 ZNA
C12Q1/02
C12Q1/68
C12Q1/6851 Z
G01N33/48 M
G01N33/53 M
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507233
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 US2021071065
(87)【国際公開番号】W WO2022027070
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】63/165,221
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/059,761
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523032504
【氏名又は名称】カヴォッシ シャフリヤール ケイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カヴォッシ シャフリヤール ケイ.
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA27
2G045CB01
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ28
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4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR36
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4B063QS03
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4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA25
4B065CA46
(57)【要約】
例えば、胚盤胞期にある胚由来の生検材料、胞胚腔液、または胚培養調整培地において測定される、パッパリシン-1(PAPPA)の発現に基づいて、胚の産科転帰を評価する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)発生の胚盤胞期にある胚をインビトロで取得する工程、ならびに
(ii)1つもしくは複数の胚細胞における、胞胚腔液における、および/または胚を保存もしくは培養するために用いられた胚培養液における、妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPPA)の発現を測定する工程
を含む、胚をスクリーニングするインビトロの方法であって、
対照レベル未満の減少したPAPPAの発現が、胚が哺乳動物対象中に移植される場合の有害な産科転帰のリスクの増加を示す、前記方法。
【請求項2】
前記PAPPAの発現が、胞胚腔液において測定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記PAPPAの発現が、胚培養液において測定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記PAPPAの発現が、1つまたは複数の胚細胞において測定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の胚細胞が、1つまたは複数の栄養膜細胞または栄養外胚葉細胞を含むかまたはそれからなる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の栄養膜細胞が、合胞体栄養膜細胞を含むかまたはそれからなる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の胚細胞が、1つまたは複数の内部細胞塊細胞を含むかまたはそれからなる、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記有害な産科転帰が、胎盤異常、自然流産、在胎不当過小(SGA)、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、子宮内胎児死亡(IUFD)、または子癇前症である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記測定する工程が、PAPPAをコードするmRNAを検出または測定することを介して行われる、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記測定する工程が、ノーザンブロット解析、ヌクレアーゼプロテクションアッセイ(NPA)、インサイチューハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、または次世代mRNAシーケンシング(mRNA-Seq)を介して行われる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が、逆転写定量PCR(RT-qPCR)としてさらに定義される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記測定する工程が、ウェスタンブロット、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫染色、または電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)によってPAPPAタンパク質を検出または測定することを介して行われる、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記測定する工程が、ELISAを介して行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
異数体について胚を検査する工程(PGT-A)をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物対象中への移植用の胚を選択する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記胚が、体外受精(IVF)法の一部として哺乳動物対象中に移植される、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記胚が、ドナーより取得された卵子から生成された、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ドナーが哺乳動物対象である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記ドナーが、第1のヒト対象であり、かつ前記哺乳動物対象が、第2のヒト対象である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物対象が、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、ライオン、ヒョウ、フェレット、ヤギ、またはブタである、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物対象が家畜である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物対象が絶滅危惧種である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳動物対象がヒトである、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
追加の遺伝子検査を行う工程をさらに含む、請求項1~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記追加の遺伝子検査が、胚における遺伝性疾患の存在についての検査を含むかまたはそれからなる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記胚が、ヒト胚とさらに定義され、かつ前記遺伝性疾患が、ハンチントン病、鎌状赤血球貧血、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症(CF)、BRCA1変異、BRCA2変異、脆弱X症候群、またはテイ・サックス病である、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年7月31日に出願された米国特許仮出願第63/059,761号および2021年3月24日に出願された米国特許仮出願第63/165,221号の恩典を主張し、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
37 C.F.R. 1.821(c)に従って、配列表が、2021年7月30日に作成され、約1キロバイトのサイズを有する、「SHAHP0002WO_ST25.txt」と名付けられたASCII準拠のテキストファイルとして、本明細書と共に提出されている。前述のファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
1. 発明の分野
本発明は、概して、分子生物学および医学の分野に関する。より詳細には、本発明は、生存能力および産科転帰改善について胚をスクリーニングする方法に関わる。
【背景技術】
【0004】
2. 関連技術の説明
体外受精(IVF)は、数十年にわたって成功裡に用いられてきたが、自然流産を含む有害な産科転帰が、IVF手順および患者にとってリスクであり続けている。母体および胎児の有害な出生前転帰の早期検出および予防に対するニーズが存在する。異数体のスクリーニングなどのいくつかの遺伝子スクリーニングは、非常に有用であるが、そのようなリスクは決して排除されていない。胚期でそのような転帰を予測するために用いることができる方法を含む、追加のスクリーニング技術が、IVF例の転帰を改善するために必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、いくつかの局面では、有害な産科転帰のリスクが減少した胚を特定するための改善された方法を提供することによって、当技術分野における限界を克服する。例えば、いくつかの態様では、栄養外胚葉細胞もしくは合胞体栄養膜細胞などの胚組織における、または胞胚腔液における、パッパリシン-1(PAPPA、妊娠関連血漿タンパク質-AまたはPAPP-Aとも呼ばれる)の発現の減少は、(例えば、妊娠中に胚の喪失を結果としてもたらす)有害な産科転帰のリスクの増加を示し得る。いくつかの局面では、体外受精(IVF)手順における使用のための胚を選択する方法が提供される。いくつかの局面では、本明細書で提供される方法は、着床前出生前スクリーニング(PPS)に使用することができる。
【0006】
いくつかの局面では、胚盤胞期着床前ヒト胚の胚生検材料、胚胞腔液、および/または胚培養調整培地における、PAPPAのインビトロ検出の方法が提供される。着床前胚盤胞期胚によるPAPPAのmRNA発現またはタンパク質発現の程度を比較することによって、正倍数体状態に加えて、胚選択の追加の水準が、体外受精患者の子宮への移植用の胚を選択するために提供され得る。
【0007】
本開示の局面は、(i)発生の胚盤胞期にある胚をインビトロで取得する工程、ならびに(ii)1つもしくは複数の胚細胞における、胞胚腔液における、および/または胚を保存もしくは培養するために用いられた胚培養液における、妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPPA)の発現を測定する工程、を含む、胚をスクリーニングするインビトロの方法であって、対照レベル未満の減少したPAPPAの発現が、胚が哺乳動物対象中に移植される場合の有害な産科転帰のリスクの増加を示す、前記方法に関する。いくつかの態様では、PAPPAの発現は、胞胚腔液において、胚培養液において、または1つもしくは複数の胚細胞において測定される。1つまたは複数の胚細胞は、1つまたは複数の栄養膜細胞または栄養外胚葉細胞を含み得るか、またはそれからなり得る。1つまたは複数の栄養膜細胞は、合胞体栄養膜細胞を含み得るか、またはそれからなり得る。1つまたは複数の胚細胞は、1つまたは複数の内部細胞塊細胞を含み得るか、またはそれからなり得る。いくつかの態様では、有害な産科転帰は、胎盤異常、自然流産、在胎不当過小(SGA)、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、子宮内胎児死亡(IUFD)、または子癇前症である。いくつかの態様では、測定する工程は、PAPPAをコードするmRNAを検出または測定することを介して行われる。例えば、測定する工程は、ノーザンブロット解析、ヌクレアーゼプロテクションアッセイ(NPA)、インサイチューハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、または次世代mRNAシーケンシング(mRNA-Seq)を介して行われ得る。いくつかの態様では、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、逆転写定量PCR(RT-qPCR)または半定量PCRとしてさらに定義される。いくつかの態様では、測定する工程は、ウェスタンブロット、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫染色、または電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)によってPAPPAタンパク質を検出または測定することを介して行われる。いくつかの態様では、測定する工程は、ELISAを介して行われる。方法は、異数体について胚を検査する工程(PGT-A)をさらに含み得る。方法は、哺乳動物対象中への移植用の胚を選択する工程をさらに含み得る。いくつかの態様では、胚は、体外受精(IVF)法の一部として哺乳動物対象中に移植される。いくつかの態様では、胚は、ドナーより取得された卵子および/または精子から生成された。ドナーは、ヒトなどの哺乳動物対象である。いくつかの態様では、ドナーは、第1のヒト対象であり、かつ哺乳動物対象は、第2のヒト対象である。いくつかの態様では、哺乳動物対象は、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、ライオン、ヒョウ、フェレット、ヤギ、またはブタである。哺乳動物対象は、家畜であってもよい。いくつかの態様では、哺乳動物対象は絶滅危惧種である。いくつかの態様では、哺乳動物対象はヒトである。方法は、追加の遺伝子検査を行う工程をさらに含み得る。追加の遺伝子検査は、胚における遺伝性疾患の存在についての検査を含み得るか、またはそれからなり得る。いくつかの態様では、胚は、ヒト胚とさらに定義され、かつ遺伝性疾患は、ハンチントン病、鎌状赤血球貧血、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症(CF)、BRCA1変異、BRCA2変異、脆弱X症候群、またはテイ・サックス病である。
【0008】
本明細書において用いられる場合、特定成分に関する「本質的に含まない」は、特定成分のいずれも、意図的に組成物中に製剤化されていない、かつ/または汚染物質としてもしくは微量にしか存在しないことを意味するように、本明細書において用いられる。組成物のいずれかの意図されない汚染に起因する特定成分の総量は、好ましくは0.01%(w/w)未満である。最も好ましいのは、標準的な分析方法でいかなる量の特定成分も検出できない組成物である。
【0009】
ここで本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書において、特許請求の範囲において用いられるように、単語「含む(comprising)」と併せて用いられる場合、単語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは1つよりも多くを意味し得る。
【0010】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみを指すように明示的に示されない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するように用いられるが、本開示は、代替物のみならびに「および/または」を指す定義を支持する。本明細書において用いられる場合、「別の」は、少なくとも第2またはそれ以上を意味し得る。
【0011】
本出願を通して、用語「約」は、値が、装置、値を決定するために使用されている方法、または研究対象の間に存在する変動について、誤差の固有の変動を含むことを示すために用いられる。
【0012】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の精神および範囲内の様々な変化および改変は、この詳細な説明から当業者に明らかになると考えられるため、詳細な説明および具体的な例は、本発明の好ましい態様を示しているが、例示としてのみ与えられることが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
例示的な態様の説明
本開示は、いくつかの局面では、改善された生存能力または低減された有害な産科転帰のリスクを有する移植用の(例えば、体外受精(IVF)手順用の)胚を選択するための、改善された方法を提供する。いくつかの局面では、mRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかによって測定されるような、胚組織、胞胚腔液、または胚培養培地における減少したPAPPAの発現は、有害な産科転帰(例えば、胎盤異常、自然流産のリスクの増加、在胎不当過小(SGA)、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、子宮内胎児死亡(IUFD)、または子癇前症)のリスクの増加を示し得る。
【0014】
I. PAPPA
PAPPA(パッパリシン-1、妊娠関連血漿タンパク質-A、またはPAPP-Aとも呼ばれる)は、ヒト線維芽細胞を含む細胞によって発現されるセリンプロテアーゼである。PAPPAは、妊娠依存性癌遺伝子であることが示されている。妊娠および退縮中のマウス乳腺におけるPAPP-Aのトランスジェニック発現は、コラーゲンの沈着を促進し、授乳は、これらの影響から保護することができる(Takabatake et al., 2016)。受精していない卵子から取得された卵丘細胞におけるPAPPA mRNAレベルは、卵子の発生能力に関連している(Kordus et al., 2019)。PAPPAは、IGFBP-4およびIGFBP-5を選択的に切断して、IGFの放出を結果としてもたらす、メタロプロテアーゼである。IGFBP-4の切断は、IGFの存在によって増強され得るが、IGFBP-5の切断は、IGFの存在によってわずかに阻害される可能性がある。PAPPAは、骨形成、炎症、創傷治癒、および女性の受精能力において役割を果たし得る。PAPPAは、ヒトを含む様々な哺乳類生物においてシーケンシングされている(例えば、ヒトパッパリシン-1、Gene ID: 5069)。
【0015】
IVFによる妊娠の領域においては、IVFを伴わずに達成された妊娠と比較して、第1三半期の母体血清PAPP-Aレベルに関して相反するデータがある。いくつかのデータは、新鮮胚移植(ET)、凍結胚移植(FET)、または自然受胎に起因する妊娠において、PAPP-Aレベルのいかなる差も示唆しておらず(Cavoretto et al, 2016)、他の研究は、新鮮ETまたはFETのいずれかの結果として得られた妊娠において、自然妊娠と比較してより低い第1三半期の母体血清PAPP-Aレベルを示している(Liao et al, 2001;Hui et al, 2005;Tul et al, 2006;Amor et al, 2009;Gjerris et al, 2009;Matilainen et al, 2011;Gjerris et al, 2012)。1つの研究では、継続中の妊娠において、胚盤胞形態パラメータと第1三半期の母体血清PAPP-A値との間にいかなる相関関係も示されなかった(Perennec et al, 2020)。いくつかのデータにより、新鮮ETに起因する妊娠において、トリガーの日のピークE2レベルは低い母体血清PAPP-Aレベルに関連していないことが示唆される(Dunne et al., 2017)が、別の刊行物は、IVFおよびICSI妊娠における、非IVFおよびICSI妊娠と比較してより低い母体血清PAPP-Aレベルを実証した。後者の研究では、IVF妊娠において、トリガー時のピークE2レベルと低い第1三半期の母体血清PAPP-Aとの間に相関関係が見出された(Giorgetti et al., 2013)。FETを介して達成された妊娠の胎盤体積は、新鮮ETおよび自然妊娠に起因する妊娠の胎盤体積よりも大きいことが示されており、胎盤体積と第1三半期の母体血清PAPP-Aレベルとの間には正の相関関係が観察されている(Choux et al, 2019)。
【0016】
この以前の研究とは対照的に、(i)胚組織、胞胚腔液、もしくは胚培養培地においてPAPPAの発現増加を示す胚を選択すること、および/または(ii)胚組織、胞胚腔液、もしくは胚培養培地においてPAPPAの発現減少を示す胚を除外することのいずれかに基づく、改善された生存能力および/または低減された有害な産科転帰のリスクを有する移植用の(例えば、体外受精(IVF)手順用の)胚を選択するための方法が、本明細書において提供される。実施例に示すように、栄養外胚葉生検後にガラス化された凍結正倍数体胚盤胞期胚を、PAPPA発現について解析した。
【0017】
II. PAPPA検出法
PAPPAをコードするmRNAまたはPAPPAタンパク質を検出するために、様々な技術を用いることができる。PAPPAをコードするmRNAまたはPAPPAタンパク質は、より多くの胚細胞(例えば、栄養膜細胞もしくは栄養外胚葉細胞、合胞体栄養膜細胞、または内部細胞塊細胞)において、胞胚腔液において、および/または胚を保存もしくは培養するために用いられた胚培養液において、測定され得る。
【0018】
PAPPAをコードするmRNAを検出または測定するために、様々な方法が用いられ得る。例えば、様々な態様では、方法は、ノーザンブロット解析、ヌクレアーゼプロテクションアッセイ(NPA)、インサイチューハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、または次世代mRNAシーケンシング(mRNA-Seq)であり得る。
【0019】
いくつかの態様では、PAPPA mRNAを測定するためにRT-PCRが行われる。例えば、いくつかの態様では、以下の方法が用いられ得る。RNAは、試料からTRIzolで抽出することができる。試料を、11,200 gで10分間遠心分離することができ、結果として生じたRNAペレットを、70%エタノールで1回洗浄し、40μlのジエチルピロカルボナート処理水に再懸濁した。cDNAは、例えば、Takara cDNA合成キット(Takara Bio, Inc., Otsu, Japan)を用いて製造業者のプロトコルに従って、合成することができる。qPCRは、SYBRを用いて実施することができる。いくつかの態様では、以下のプライマーを、例えば、約56℃で、PAPPAの増幅に用いることができる:フォワードプライマー
およびリバースプライマー
。いくつかの態様では、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、逆転写定量PCR(RT-qPCR)方法論または半定量PCR方法論である。半定量PCR法は、当技術分野において公知であり、例えば、Chen et al., 1999に記載されているものを含む。
【0020】
いくつかの態様では、次世代シーケンシングが、RNA-seq(RNA-シーケンシング)を介してPAPPA mRNAを測定するために用いられる。次世代シーケンシングを用いるRNA-seq法は、遺伝子の発現を定量化するために用いることができる(例えば、Mortazavi et al., 2008;Trapnell et al., 2010)。用いられ得る次世代シーケンシング法には、核酸が核酸鎖に付加される際の固有の蛍光シグナルの放出に基づいてDNA塩基を特定するシーケンシング法(例えば、llumina(Solexa)によるもの)、パイロシーケンシング法(例えば、454シーケンシング)、および半導体での水素イオンの検出による核酸組み込みの検出(例えば、Ion Torrent法)が含まれる。次世代シーケンシングには、超並列シグネチャーシーケンシング、ポロニーシーケンシング、cPASシーケンシング、SOLiDシーケンシング、DNAナノボールシーケンシング、およびSMRT PacBio単一分子リアルタイムシーケンシング(例えば、Pacific Bioscienceによるもの)が含まれる。
【0021】
PAPPA mRNAを測定するために用いることができる追加の方法には、定量リアルタイムRT-PCRが含まれる。リアルタイムRT-PCRは、以前から多種多様な分野で成功裡に用いられている。この方法は、インビボの関心対象の低コピー数標的のmRNAレベルを測定するために用いることができる。RNAを測定するための他の方法を上回るこの手順の利点には、その感度、大きなダイナミックレンジ、ハイスループットの可能性、および正確な定量化が含まれる(Huggett, et al., 2005)。
【0022】
いくつかの態様では、PAPPAタンパク質レベルは、より多くの胚細胞(例えば、栄養膜細胞もしくは栄養外胚葉細胞、合胞体栄養膜細胞、または内部細胞塊細胞)において、胞胚腔液において、および/または胚を保存もしくは培養するために用いられた胚培養液において、測定される。PAPPAタンパク質の検出のための様々な方法が、用いられ得る。例えば、用いられ得る方法には、ウェスタンブロット、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC/MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫染色、または電気化学発光イムノアッセイ「ECLIA」(Elecsys)が含まれる。いくつかの態様では、マイクロ流体力学が、PAPPAタンパク質を定量化するために用いられ得る。
【0023】
いくつかの局面では、PAPPAの発現のレベルは、発現の対照レベルまたは正常レベルと比較される。いくつかの態様では、発現の正常レベルの対照レベルは、実験において確立され、例えば、陰性対照として培養培地を用いることで、胚レベルで定量化され得る。PAPPAの発現の減少は、有害な産科転帰(例えば、胎盤異常、自然流産、在胎不当過小(SGA)、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、子宮内胎児死亡(IUFD)、または子癇前症)を示し得る。したがって、本明細書で提供される方法は、IVFプロトコルの一部として、健康な生児出産の見込みを増加させるために、移植用の胚の選択において用いられ得る。
【0024】
III. PAPPA検査のための胚組織
発生の胚盤胞期にある様々な胚組織、胞胚腔液、および/または胚培養培地が、例えば、IVF手順における使用のための胚を特定するために、本明細書に開示されるような方法においてPAPPA発現を測定するために用いられ得ることが期待される。いくつかの態様では、組織試料または生検材料が取得され、胚は発生の3、4、5、6、7日目にあり;例えば、3日目からの1つの細胞の生検材料が取得されてもよく、または5日目、6日目、もしくは7日目の胚からの1つもしくは複数の細胞(例えば、1、2、3、4細胞)の生検材料が取得されてもよい。胚組織は、合胞体栄養膜細胞などの栄養膜細胞を含み得るか、またはそれからなり得る。
【0025】
発生の胚盤胞期にある胚組織は、栄養膜、胚盤胞腔(胞胚腔)、および内部細胞塊(胎芽胚葉)を含む。栄養膜(栄養外胚葉細胞)は、胚盤胞の外層を形成し、通常、ヒトにおいて受精後4~6日以内に観察される。いくつかの栄養外胚葉細胞は、分化して胚体外構造物になることができ、栄養外胚葉細胞は、胚に直接寄与しない。合胞体栄養膜細胞は、血管胚性胎盤絨毛の上皮性被覆を形成する栄養膜細胞のタイプであり、子宮の壁に侵入して、母親からの栄養取得に関与する。
【0026】
いくつかの態様では、内部細胞塊由来の1つまたは複数の細胞を、PAPPAレベルを測定するための組織生検材料として用いることができる。いくつかの例では、これらの細胞は発生中の哺乳動物対象を形成するため、胚組織生検材料は、内部細胞塊ではない;それにもかかわらず、最近の研究により、胚盤胞由来の内部細胞塊細胞は、発生中の胚を有害に損なうことなく取得され得るという考えが支持されている(Scott et al., 2013)。
【0027】
いくつかの態様では、組織生検材料が、PAPPAの発現を検出および測定するために胚から取得される。例えば、栄養外胚葉(TE)および/または内部細胞塊(ICM)細胞であり得る生検用の胚細胞にアクセスするために、レーザーパルスを、胚盤胞期胚を取り囲む透明帯に適用することができ、次いで、生検材料を取得するために、レーザーを胚細胞間の接合部に適用する。次いで、生検を行った胚細胞を、(例えば、ピペットによって)取り出すことができ、緩衝液中に入れることができる。次いで、PAPPAを、例えば、PAPPA mRNAまたはタンパク質を検出または定量化することによって、本明細書に記載されるように測定することができる。胚盤胞生検材料を取得した後、胚が崩壊し、結果として、胞胚腔液が周囲の培地中に押し出される可能性がある。
【0028】
胞胚腔液調整培地(BFCM)とも呼ばれる、胞胚腔液を含有する胚培養培地(ECB)もまた、取得して、PAPPA発現について検査するために用いることができる。様々な方法を、胞胚腔液の試料を取得するために用いることができる。ECBを取得するための方法は、例えば、Li et al., 2018またはStigliani, 2014に記載されている。いくつかの態様では、ECBは、以下の方法を介して取得することができる。赤外線レーザーを用いて、内部細胞塊から遠く離れた透明帯(ZP)における小さな尾部をレーザー処理し、胞胚腔液を培養液中に放出することができる。培養培地と混合した放出された胞胚腔液(例えば、約25μl)を、その後の解析(例えば、PCR)のためにRNase-DNaseフリーのチューブに移すことができる。培地の汚染を防ぐために、異なるパスツールピペットを、各試料に用いることができる。
【0029】
栄養外胚葉細胞は、当技術分野において公知の様々な技術によって取得することができる。例えば、レーザーまたは生検ピペットを用いて、栄養外胚葉細胞を取得することができる。いくつかの態様では、栄養外胚葉細胞は、生検ピペットでの穏やかな吸引を適用することによって、帯から脱出するように促された。1つまたは複数の栄養外胚葉細胞(例えば、1、2、3、4、または5細胞)は、レーザー(例えば、持続時間が3秒の4回のレーザーパルス)を用いて胚盤胞から切り離され得る。生検を行った細胞は、本明細書に記載されるような(例えば、PCRなどを用いる)PAPPA発現のさらなる解析のために、RNase-DNaseフリーのチューブに直ちに入れることができる。
【0030】
いくつかの態様では、胞胚腔液を含有する胚培養培地(ECB)が用いられる。日常的に廃棄される胞胚腔液調整培地を、5日目、6日目、または7日目の胚盤胞期哺乳動物胚(ヒト胚など)から収集して、保存することができる(例えば、生検後)。いくつかの態様では、生検材料は、例えば、異数性についての着床前遺伝子検査と共に、IVFを受けている患者における着床の可能性について解析されている胚から取得される。用いられ得る胞胚腔液調整培地を取得するための追加の方法には、例えば、Chosed et al., 2019;Vera-Rodriguez et al., 2018;Rule et al., 2018;およびXu et al., 2016が含まれる。
【0031】
IV. 体外受精(IVF)
胚盤胞期にある胚においてPAPPAの発現を測定して産科転帰を予測することは、IVF手順の一部として行われ得る。体外受精は、子供の受胎および出産を補助するための様々な技術を含む。いくつかの好ましい態様では、IVF手順は、ヒト患者のためである。それにもかかわらず、本明細書に開示される技術は、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、もしくはブタを含む家畜、または様々なライオンおよびヒョウなどの絶滅危惧種を含む、多種多様な哺乳動物に適用することができる。
【0032】
概して、IVF中に、成熟卵を、哺乳動物由来の卵巣から収集し、実験室において精子により受精させる。次いで、1つまたは複数の受精卵(胚)を、子宮に移植する。IVFの1つの完全なサイクルは、約3週間かかる。これらのステップは、望ましい場合には、別々の部分に分離することができる。IVF手順は、細胞質内精子注入(ICSI)を含み得る(例えば、Neri et al., 2014)。IVFは、1978年のその導入以来、様々な形態で用いられてきた。
【0033】
様々な追加の検査が、IVF手順における移植の前に、胚に対して行われ得る。例えば、胚由来の胞胚腔液または組織生検材料(例えば、本明細書に記載されるようにPAPPA発現を評価するためにも用いられる栄養外胚葉細胞)を、異数性について検査し、胚の染色体状態を決定するため、および/または移植用の望ましい胚の選択を容易にするために、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)、一塩基多型(SNP)アレイ、マルチプレックス定量PCR、または次世代シーケンシング(NGS)で解析することができる。
【実施例
【0034】
V. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下に続く実施例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましい様式を構成すると考えることができると、当業者によって理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示される具体的な態様において多くの変更を行うことができ、依然として同様のまたは類似の結果を得ることができると、理解するべきである。
【0035】
実施例1
体外受精(IVF)法用の胚を選択するためのPAPPAの解析
体外受精(IVF)用の胚を選択するためのPAPPAの解析は、以下の方法を介して行うことができる。胚盤胞期胚生検の前におよび/またはその時に、胞胚腔液収集物および/または胚培養培地を、25μLの体積で収集し、参照研究実験室への発送前に急速凍結する。栄養外胚葉および/または内部細胞塊細胞であり得る生検用の胚細胞にアクセスするために、レーザーパルスを、胚盤胞期胚を取り囲む透明帯に最初に適用し、次いで、生検を行うために、レーザーを胚細胞間の接合部に適用する。次いで、生検を行った胚細胞を、ピペットによって取り出し、例えば研究実験室での、その後のPAPP-A検査用の緩衝液中に入れる。胚盤胞生検の完了時に、胚は崩壊し、結果として、胞胚腔液が周囲の培地中に押し出される。
【0036】
日常的に廃棄される胞胚腔液調整培地を、異数性についての着床前遺伝子検査を伴うIVFを受けている患者から取得された5日目または6日目の胚盤胞期ヒト胚から、生検後に収集して保存する。およそ25μLの体積を有する胚盤胞液調整培養培地を、参照研究実験室への発送前に急速冷凍する。
【0037】
胚培養調整培地(使用済み培地)を、患者の胚培養培地から収集する。およそ25μLの使用済み培地を、参照研究実験室への発送前に急速冷凍する。
【0038】
生検材料由来のいくつかの細胞を、商業的参照実験室での次世代シーケンシング(NGS)を介したPGT-A解析用に送るため、生検を行った胚は、シーケンシング結果の成果が出るまで凍結保存する。胚細胞生検材料由来の細胞、胞胚腔液、および胚培養液を、研究実験室に送り、PAPP-Aタンパク質およびPAPP-A mRNAについて試験することになる。
【0039】
実施例2
ヒト胞胚腔液調整培地における妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPP-A)の発現
方法:胞胚腔液調整培地(BFCM)を、標準的な日常的に制御される卵巣刺激およびその後のIVFプロセスに続いて、胚盤胞期胚から取得した。女性患者は、外来性ゴナドトロピンでの制御される卵巣刺激、黄体形成ホルモンの抑制のためのゴナドトロピンホルモンアンタゴニストの使用、その後の最終卵子成熟のためのロイプロリド酢酸塩および/または組換えヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)でのトリガー、その35時間後の経膣超音波ガイド下卵子回収からなる、計画された日常的なIVF例を受けていた。卵子を単離し、細胞質内精子注入を行って体外受精を達成し、胚の培養を、胚培養の5日目および6日目まで、胚発生の胚盤胞期まで行った。良質の胚盤胞は、Gardner and Schoolcraftの胚盤胞についてのグレード付けシステム(Gardner et al, 2000)に従って、2BB以上のグレードを有するものと考えられた。この研究における80個の胚盤胞はすべて,胚盤胞ガラス化およびBFCM収集の前に、異数性についての着床前遺伝子検査(PGT-A)のために栄養外胚葉生検を受けていた。
【0040】
日常的な発生学実験プロトコルに従って、各胚盤胞を、20μLの油下培地滴に置いて、生検を行った細胞を、次世代シーケンシングを介したPGT-Aのために参照遺伝学実験室に送ることができるように、レーザーパルスを用いて栄養外胚葉細胞間の細胞接合部を開き、栄養外胚葉生検を行った。胚盤胞が崩壊するため、胞胚腔液は培地の液滴中に押し出され、胚盤胞を、その後の胚盤胞ガラス化のために培地滴から取り出した。BFを含有する培地滴を、ピペット操作を介して収集し、混合した。各BFCM試料を、その後、さらなる解析のために-20℃で保存した。
【0041】
PAPP-AについてRT-qPCRを行った。個々の正倍数体着床前胚由来の胞胚腔液調整培地を、RNA 6000 Pico KitをAgilent 2100 Bioanalyzerと共に用いて、RNA含有量について評価した。個々の試料を、RNaseフリーDNase 1で30分間、37℃で処理し、その後、熱不活化した。次いで、試料を、製造業者の説明書に従ってHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)でのcDNA合成に供した。次いで、cDNA量を、High Sensitivity DNA KitとAgilent 2100 Bioanalyzerで決定した。次いで、cDNAを、製造業者の説明書(Applied Biosystems)に従って、2× TaqMan Master Mix、20× Gene Expression Assay(GAPDHおよびPAPP-A特異的)、ならびにRNaseフリー水と合わせた。各試料について二連の反応を、関心対象の各遺伝子について7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems, USA)を用いて、50℃で2分間、95℃で20秒間、その後の95℃で3秒間および60℃で30秒間の40サイクルで行った。
【0042】
データの匿名性、およびガラス化のために胚盤胞を崩壊させる時に日常的に廃棄されるBFCMの使用のゆえに、St. David's Institutional Review BoardによってIRBの免除が得られた。
【0043】
結果:IVF/ICSI/PGT-A/凍結のすべてを受けた36人の患者由来の80個の栄養外胚葉を検査した正倍数体の5日目の良質胚盤胞の試料サイズを、PAPP-A mRNA発現についてBFCM解析した。患者および胚の特徴を、表1に列記する。PAPP-A mRNAは、80個のBFCM試料のうち45個(56.3%)において検出され、試料間で発現のレベルが変動していた(表2)。PAPP-A mRNAが検出された少なくとも1つのBFCM試料を有していた対象(n=26)および検出可能なPAPP-A mRNAを有するBFCM試料がなかった対象(n=10)の平均年齢は、それぞれ36.1歳および36.4歳であった。そのBFCM試料中にPAPP-A mRNAが検出された45個の胚盤胞のうち、36個の胚盤胞(80%)は、Aの栄養外胚葉グレード付けを有し、9個の胚盤胞は、Bの栄養外胚葉グレード付けを有していた;そのBFCM試料中に検出可能なPAPP-A mRNAを有しなかった35個の胚盤胞のうち,28個(80%)は、Aの栄養外胚葉グレード付けを有し、7個の胚盤胞は、Bの栄養外胚葉グレード付けを有していた。胚移植の妊娠転帰データ(n=28)を、表2に示す。
【0044】
(表1)研究対象についての人口統計および転帰を含む、特徴および変数
【0045】
(表2)正倍数体胚盤胞移植の妊娠結果、BFCM中PAPP-A発現あり 対 BFCM中PAPP-A発現なし
*フィッシャーの正確検定
【0046】
(表3)胚移植後の妊娠
変化倍率比率の意味:B18における発現は、B23におけるものよりも16.19倍大きく、B18における発現は、B28におけるものよりも16.19/9.23倍大きい。
表2におけるSABおよびSAB/化学の定義:
SAB=自然流産/超音波検査を介して臨床的に検出可能である、妊娠5週以降であるが妊娠20週前の妊娠喪失。
SAB/化学=ヒト絨毛性ゴナドトロピンを母体血流中で測定することができるが、超音波検査で胎嚢を検出するにはタイミングが早すぎる時である、妊娠5週よりも前に起こる妊娠喪失。
【0047】
ヒト卵巣のレベルでの、具体的には顆粒膜細胞、卵胞膜細胞(Conover et al, 2001;Spicer et al, 2004)、卵胞液(Botkjaer et al, 2015;Jepsen et al, 2016)における、および卵丘顆粒膜細胞塊(Kordus et al, 2019)における、ならびに下流の栄養膜細胞におけるインビトロでのPAPP-Aの測定とは対照的に、ここではPAPP-A発現が、ヒト胚盤胞期にインビトロで観察された。免疫反応性PAPP-Aの存在は、ヒト卵巣顆粒膜細胞によって調整された培養培地において実証されている(Conover et al, 1999)。PAPP-Aは、卵胞液において発現していることが見出され、免疫染色により、PAPP-Aは直径4~6 mmの小さな胞状濾胞における卵胞膜細胞層に局在し、卵胞のサイズが成熟し、排卵前になるにつれてPAPP-A発現が顆粒膜細胞層に対して内向きにシフトすることが示されている(Botkjaer et al, 2015)。妊娠中のPAPP-A産生の潜在的な供給源の調査において、2003年のインビトロ研究により、総胎盤抽出物におけるPAPP-A mRNAの発現が報告され、PAPP-Aタンパク質は、細胞栄養芽層細胞および合胞体栄養膜細胞の細胞質において検出され、後者の細胞型の形成と共に発現が多くなった(Guibourdenche et al, 2003)。
【0048】
本研究は、栄養外胚葉生検後にガラス化された凍結正倍数体胚盤胞期胚を解析することを含んでおり、これは、正倍数体胚盤胞移植の臨床結果を追跡する能力により、研究の長所と考えることができる。
【0049】
PAPP-Aの発現が、インビトロで着床前胚盤胞期胚のBFCMにおいて観察された。ヒト胚盤胞期胚のレベルでのPAPP-A発現、および栄養外胚葉を検査した正倍数体胚盤胞移植の母体/胎児妊娠転帰に関して、より大規模な前向き研究を行うことが可能であり、進行中である。BFCMおよび/または生検を行った胚細胞におけるPAPP-Aが、有害な産科転帰を予測できることを示す追加のデータが期待される。これらのアプローチは、正倍数体状態に加えて、胚選択のプロセスにおいて用いられ得る。このように、これらの方法は、IVF患者の生児出産の可能性または確率を最適化または改善するために用いられ得る。
【0050】
本明細書において開示され、特許請求される方法のすべては、本開示に照らして過度の実験を伴わずに作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を、好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、変形が、本明細書に記載される方法に、および方法の工程においてまたは工程の順序において適用され得ることが、当業者に明らかであろう。より具体的には、同じかまたは類似の結果が達成されながら、化学的にかつ生理学的に関連するある特定の作用物質が、本明細書に記載される作用物質と置き換わり得ることが、明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような類似の置換および改変は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の精神、範囲、および概念の内にあるとみなされる。
【0051】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示されるものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
2023537340000001.app
【国際調査報告】