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特表2023-537417アブドラリマブによる皮下抗C5aRアンタゴニスト治療レジメン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】アブドラリマブによる皮下抗C5aRアンタゴニスト治療レジメン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230824BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P17/06
A61P17/10
A61P29/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509752
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2021072027
(87)【国際公開番号】W WO2022033981
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/064,442
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506000184
【氏名又は名称】イナート・ファルマ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA PHARMA S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】パトゥレル,カリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG04
(57)【要約】
本発明は、詳細には慢性炎症性障害又は自己免疫障害との関連における、及び詳細には炎症性皮膚疾患における、C5aRアンタゴニスト、特にアブドラリマブの治療的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性皮膚疾患の治療方法であって、アブドラリマブを皮下投与によって、任意選択で、400~600mg、任意選択で450mgの用量で、週1回の頻度で前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
アブドラリマブの複数の用量が投与され、各用量が同じ量の抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療の継続期間が少なくとも1ヵ月である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療の継続期間が1ヵ月~3ヵ月、任意選択で1ヵ月~6ヵ月である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
負荷用量が、初回投与当日に約100μgアブドラリマブ/mlの目標血中濃度を実現する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
約100μg/mlのアブドラリマブの目標血中濃度が前記治療の継続期間にわたって維持される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
炎症性皮膚疾患の治療における使用のための、アブドラリマブであって、任意選択で、前記炎症が好中球及び/又はマスト細胞によって媒介され、アブドラリマブが、(i)初回投与から24、12又は6時間の期間内に、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関する少なくともEC50を提供する目標血中濃度であって、任意選択で20μg/mlである目標血中濃度を実現するのに有効な、(ii)少なくともステップ(i)の前記目標血中濃度である血中濃度を少なくとも1週間にわたって維持するのに有効な、及び(iii)前記治療中(例えば任意の24又は48時間の継続期間にわたって)、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関するEC100を提供する目標血中濃度(例えば100μg/ml)を2倍を超えて上回らない又は50%を超えて上回らないのに有効な量及びスケジュールで皮下投与によって投与される、アブドラリマブ。
【請求項12】
前記抗体がアブドラリマブであり、前記抗体が毎週450mgの用量で投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
個体における好中球及び/又はマスト細胞の活性を阻害する方法であって、アブドラリマブを皮下投与により、400~600mg、任意選択で450mg、任意選択で6mg/kg体重の用量で、約週1回の頻度で前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項14】
前記用量が、初回投与から24、12又は6時間の期間内に、約20μg/mlの目標血中抗体濃度を実現する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
個体の炎症を治療又は予防する方法であって、前記個体にアブドラリマブを皮下投与によって450mgの負荷用量として週1回投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記治療の継続期間が少なくとも1ヵ月である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記治療の継続期間が1ヵ月~3ヵ月、任意選択で1ヵ月~6ヵ月である、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
5回目又は6回目の投与で、前記治療が少なくとも70μg/mlの目標血中濃度、任意選択で約80、90又は100μg/mlの血中濃度を提供し、及びそれを維持する、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
5回目又は6回目の投与以後、少なくとも70μg/ml、任意選択で約80、90又は100μg/mlの目標血中濃度が前記治療の継続期間にわたって維持される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、請求項19~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗C5aR抗体の初回投与から3ヵ月、2ヵ月、1ヵ月又は2週間以内に炎症性皮膚疾患の改善を判定するステップ、及び炎症性皮膚疾患の改善の決定に応じて、アブドラリマブによる治療を継続するステップを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
毎週の皮下投与用の医薬組成物であって、アブドラリマブを450mgの量で含む組成物。
【請求項30】
請求項29に記載のアブドラリマブの複数の用量を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年8月12日に出願された米国仮特許出願第63/064,442号明細書の利益を主張する;この仮特許出願は、任意の図面を含め、全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は、電子形式の配列表と共に出願されるものである。配列表は、2021年8月5日に作成された22KBのサイズの「C5aR SC_ST25」と題されるファイルとして提供される。本配列表の電子形式の情報は、全体として参照により本明細書に援用される。
【0003】
本発明は、詳細には慢性炎症性障害又は自己免疫障害との関連における、及び詳細には炎症性皮膚疾患における、C5aRアンタゴニストの治療的使用に関する。
【背景技術】
【0004】
補体タンパク質C3~C5の各々がタンパク質分解すると、シグナル伝達分子を有するアミノ末端カチオン性断片が生じ、これはアナフィラトキシンと呼ばれる。そのうち最も強力なC5aは、最も広い範囲にわたる反応を引き起こす。炎症反応の成分を白血球の辺縁趨向及び浸潤、顆粒結合タンパク質分解酵素の放出、活性化酸素及び窒素由来ラジカルの産生、血流の変化並びに毛細血管漏出と見るなら、平滑筋を収縮させる能力と共に、C5a分子は「完全な」炎症誘発メディエーターである。C5a分子は、サブナノモルからナノモルレベルであらゆる骨髄細胞系列(好中球、好酸球及び好塩基球、マクロファージ及び単球)の走化性を引き起こし、プロスタグランジン類及び循環白血球によって著しく強化される血管透過性の原因となる。高いナノモル濃度では、脱顆粒及びNADPHオキシダーゼの活性化が引き起こされる。生物活性のこの幅広さが、他の炎症性メディエーターと対照を成す。
【0005】
C5aの活性は、C5aがその受容体C5aR(C5aR1とも称される)に結合することによって媒介される。C5aRは、7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体ファミリーに属する。C5aRは、Kdが約1nMの、C5aの高親和性受容体であり、白血球を含め、幾つもの異なる種類の細胞上にある。細胞当たりの受容体数は極めて多く、白血球1個に最大200,000部位がある。この受容体の生物学的活性化は、結合が飽和する範囲で起こる。皮膚では、C5aRは、詳細にはマスト細胞及び好中球に発現し、C5aはこれらの細胞の活性化及び/又は遊走を媒介し得る。好中球は、通常は血流中に見られる食細胞の一種であり、炎症の初期(急性期)において、好中球は、炎症細胞の中でもいち早く反応して炎症部位へと遊走する一つである。マスト細胞は長命の組織常在性免疫細胞であり、組織に遊走してそこで分化する。
【0006】
C5aR構造は、7回膜貫通型受容体ファミリーに準じるものであり、細胞外N末端の後に、細胞内ループ及び細胞外ループとして交互に現れるヘリックス間ドメインによってつながった7回膜貫通型ヘリックスが続き、最後に細胞内C末端ドメインがある。C5aRは、伸長したN末端細胞外ドメインを持つ。この大きいN末端ドメインは、IL-8及びfMet-Leu-Phe(FMLP)受容体ファミリーを含め、ペプチドを結合するGタンパク質共役受容体に典型的である。
【0007】
C5a反応をC5aRアンタゴニストで阻害すると、C5aによって媒介される急性炎症反応が他の補体成分への影響なしに低下する。このため、以前には抗C5a受容体アンタゴニスト(rantagonist)抗体が記載されている。例えば、特許文献1は、C5aRのN末端ペプチド(残基9~29)を標的とする抗体について記載している。特許文献2もまた、C5aRを標的とする抗体について記載している。C5aRを標的とする抗体は、C5aのその受容体への結合の遮断、インビトロでのC5aに導かれる好中球遊走の阻止、及び動物モデルの炎症の予防において極めて有効であるなど、優れた特性を有することが示された。最近になって、特許文献3は、数ヵ月又は数年にわたる継続的な抗体の投与により、マウス抗体を標的とする抗体(HAMA反応)が引き起こされるリスクを抑えつつ、慢性疾患の管理に使用することのできるC5aRを標的とする抗体32F3A6 GLを含めた一連のヒト抗体について記載している。
【0008】
C5aは、関節リウマチ、乾癬、敗血症、再灌流傷害、及び成人呼吸窮迫症候群を含め、様々な障害の病因に関与している(非特許文献1;非特許文献2)。
【0009】
最近になって、C5aはまた、詳細には疾患の駆動において肥満細胞が主要な役割を果たす皮膚障害を含め、皮膚障害に関連することも見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第95/00164号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/062278号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2012/168199号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Gerard and Gerard,1994 Annu Rev Immunol(12):775-808
【非特許文献2】Murdoch and Finn(2000)Blood 95(10):3032-3043
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現在のところ、かかる疾患に好適な抗C5aR抗体について治療レジメンは開発されていない。従って、抗C5aR抗体に好適な治療レジメンが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、C5aR(C5aR1)に結合する遮断抗体を疾患、詳細には慢性炎症性疾患の治療に使用し、及びかかるC5aRアンタゴニストが有用性を持つ炎症性皮膚疾患適応症の治療に含めるレジメン及び方法を提供する。抗C5aR抗体は、例えば、マスト細胞が炎症に寄与する、特にマスト細胞が活性化されるか、又は脱顆粒する炎症性皮膚疾患の治療に特に有利に使用することができる。抗C5aR1抗体はまた、例えば、好中球が活性化される、及び/又はそれが概して炎症に寄与する炎症性皮膚疾患の治療にも使用することができる。こうした治療は、有利には、有効性に付随する副作用が最小限(高い安全性)でなければならない慢性炎症性皮膚疾患の治療に使用することができ、なおも更には、炎症の遮断を短時間のうちに実現しなければならない急性期又は増悪を特徴とする炎症性皮膚疾患に使用することができる。本明細書に開示されるレジメンは、皮下に、且つ全ての個体に対して一連の固定用量で(例えば体重又は体表面積に関係なく)投与することができる。
【0014】
本開示の一態様は、炎症性疾患(例えば、皮膚疾患、関節リウマチ)の治療又は予防のためのC5aR(C5aR1)アンタゴニスト抗体、例えばアブドラリマブの使用に関し、ここでC5aRアンタゴニスト抗体は、治療継続期間中に目標血中濃度をおよそ近い範囲に維持することが可能となる、且つ治療初日のうちに目標血中濃度に到達することのできる複数の固定用量で投与される。目標血中濃度は、皮膚にあるものを含め、マスト細胞及び/又は好中球のC5aR1の実質的に完全な遮断を提供するように設計される。固定用量治療レジメンは、個体(例えば成人)の集団全体にわたって、マスト細胞及び/又は好中球、特に皮膚に存在するマスト細胞のC5aRの実質的に完全な遮断を提供する血中濃度を達成し、それを維持するのに有用となり得る。更に、この治療がマスト細胞及び/又は好中球の枯渇又は食作用を招くことはない。一実施形態において、C5aRアンタゴニスト抗体は、400~600mg、任意選択で300~600mg、任意選択で400~500mg、任意選択で450~500mg、任意選択で425~475mg、任意選択で約450mgの用量で皮下投与される。一実施形態において、C5aRアンタゴニスト抗体は約週1回投与される。
【0015】
本開示の一態様は、アンタゴニスト抗C5aR1抗体をそれを必要としている個体(例えば炎症性皮膚疾患を有する個体)に投与する方法であって、個体にアンタゴニスト抗C5aR1抗体(例えばアブドラリマブ又はその機能保存的変異体)を投与することを含む方法を提供し、ここで用量は、400~500mg、任意選択で450mgの量で週1回皮下投与される。任意選択で、本方法が複数の用量のアンタゴニスト抗C5aR1抗体を投与することを含むことが本明細書に含まれてもよい。
【0016】
任意選択で、C5aR(C5aR1)アンタゴニストの全ての投与が同じ量のC5aRアンタゴニストを含むことが本明細書に含まれてもよい。例えば、各用量が、初回用量及び全ての後続用量を含め、450mgの量で投与される。
【0017】
抗C5aR1抗体(例えばアブドラリマブ又はその機能保存的変異体)などのC5aRアンタゴニストを使用する治療の効果は、例えば、約1ヵ月、任意選択で2週間、又はそれ未満で治療効果が認められるように、速い反応を提供するのに有用であり得る。本開示の治療(例えば速い反応を提供するもの)は、炎症性疾患、例えば炎症性皮膚疾患、例えば乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡における急性期及び/又は増悪の治療又は予防に特に有利であり得る。一実施形態において、本発明は、急性炎症を治療又は予防する方法における使用のためのC5aRアンタゴニストに関し、ここで効果は、4、3、2又は1回の投薬後に達成可能である。一実施形態において、本発明は、1つ又は複数の急性期及び/又は1つ又は複数の増悪を特徴とする皮膚炎症を治療又は予防する方法における使用のためのC5aRアンタゴニストに関し、ここで効果は、C5aRアンタゴニストの初回投与後1ヵ月以内に達成可能である。
【0018】
C5aRアンタゴニスト(例えばアブドラリマブ)を使用する治療の効果は、例えば、長期間、例えば少なくとも3、6、9又は12ヵ月間にわたって組織(例えば皮膚)の炎症の低下が達成されるように、組織(例えば皮膚)の反応を提供するのに有用であり得る。一実施形態において、本発明は、皮膚炎症を治療又は予防する方法における使用のためのC5aRアンタゴニスト(例えば抗C5aR1抗体、アブドラリマブ)に関し、ここで効果は、4、3、2又は1回の投薬後に達成可能である。一実施形態において、本発明は、皮膚炎症を治療又は予防する方法における使用のためのC5aRアンタゴニストに関し、ここで効果は、アブドラリマブの初回投与後1週間(例えば7、6、5、4、3、2又は1日)以内に達成可能である。
【0019】
一実施形態において、本開示の治療は、初回投与から24、12又は6時間の期間内に、少なくとも約20μg/mlの目標血中抗体濃度を実現する。一実施形態において、本開示の治療は、4回目又は5回目の投与から少なくとも20μg/ml、任意選択で少なくとも50μg/ml、任意選択で少なくとも70μg/mlの血中抗体濃度を実現し始め、治療継続期間中それが維持される。一実施形態において、本開示の治療は、治療中(例えば任意の24又は48時間の継続期間にわたって)、血中抗体濃度が、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関するEC100を提供する濃度(例えば100μg/ml)を2倍を超えて上回らない又は任意選択で50%、30%又は20%を超えて上回らないことを提供する。
【0020】
一実施形態において、アブドラリマブの機能は、アブドラリマブがC5aによるC5aR(C5aR1)への結合を阻害又は低減すること、及び/又はC5aR(C5aR1)の媒介によるC5aの生物学的効果、例えば、a)C5a誘導性マスト細胞及び/又は好中球活性化、b)C5a誘導性細胞遊走及び/又はc)C5a誘導性好中球成熟などを阻害又は低減することのいずれかによってC5aR(C5aR1)をアンタゴナイズする能力に関係していると考え得る。
【0021】
アブドラリマブは、任意選択で1つ以上の医薬賦形剤を含む医薬組成物の一部として投与されるものとして本明細書に含まれてもよい。一態様において本発明は、疾患の治療又は予防方法に関し、この方法は、必要としている個体に、本明細書に記載されるとおりのアブドラリマブの治療有効量を投与することを含むものとして本明細書に含まれてもよい。
【0022】
一実施形態において、個体の治療方法であって、個体に、皮下投与によって、450mgの用量のアブドラリマブを週1回投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、個体の皮膚組織におけるマスト細胞及び/又は好中球の活性を阻害する方法であって、個体にアブドラリマブを皮下投与によって、例えば450mgの用量のアブドラリマブを週1回投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、個体の急性皮膚炎症又は皮膚炎症の増悪を治療又は予防する方法であって、個体にアブドラリマブを皮下投与によって、例えば450mgの用量のアブドラリマブを週1回投与することを含む方法が提供される。
【0023】
更なる態様が本明細書の「実施形態」と題される節に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】関節リウマチ(RA)を有する対象の単回s.c.投与後の経時的平均アブドラリマブ(IPH5401)血清濃度(μg/mL)を示す。
図2】RAを有する対象の複数回s.c.投与後の経時的平均アブドラリマブ血清濃度(μg/mL)を示す。
図3】s.c.用量レベル別の経時的な好中球上の平均C5aR占有率(%)を示す(単回s.c.投与)。
図4】s.c.用量レベル別の経時的な好中球及び顆粒球上の平均C5aR占有率(%)を示す(複数回s.c.投与)。
図5】アブドラリマブのヒトにおける反復静脈内投与後に観察されるPKを記述するために開発したモデルを示す。
図6】好中球上のC5a誘導性CD11b発現(SSChigh CD16+細胞として定義される)を所与のアブドラリマブ濃度についてのPE-Cy5の蛍光強度中央値(MedFI)として定量化したことを示す。
図7】75mg、150mg、300mg、450mg、600mg固定用量についてのQ1wアブドラリマブのPK予想結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において使用されるとき、「ある(a)」又は「ある(an)」は、1つ又は複数を意味し得る。特許請求の範囲において使用されるとき、語句「~を含んでいる(comprising)」と併せて使用されると、語句「ある(a)」又は「ある(an)」は、1つ又は2つ以上を意味し得る。本明細書で使用されるとき「別の」は、少なくとも2つ目又はそれ以上を意味し得る。
【0026】
「~を含んでいる(comprising)」が使用される場合、それは、任意選択で、「~から本質的になる(consisting essentially of)」又は「~からなる(consisting of)」に置き換えることができる。
【0027】
本明細書全体の中でC5aRアンタゴニスト(例えば、抗C5aR1抗体、アブドラリマブ)を参照して「障害(など)の治療又は予防」が言及されるときは常に、本願が出願される国での特許化が許容される主題における、(a)障害を治療する方法であって、(少なくとも1回の治療のため)C5aRアンタゴニスト、(好ましくは薬学的に許容可能な担体材料中にある)をかかる治療を必要としている個体、哺乳類、特にヒトに対し、その障害の治療を可能にする用量、(治療有効量)、好ましくは本明細書に指定されるとおりの用量(量)で投与するステップを含む方法;(b)障害の治療又は予防のためのC5aRアンタゴニストの使用、又は前記治療(特にヒトの)における使用のための、C5aRアンタゴニスト;(c)障害の治療用医薬製剤の製造のためのC5aRアンタゴニストの使用、障害の治療用医薬製剤の製造にC5aRアンタゴニストを使用する方法であって、C5aRアンタゴニストを薬学的に許容可能な担体と混合することを含む方法、又は障害の治療に適切なC5aRアンタゴニストの有効用量を含む医薬製剤;又は(d)a)、b)、及びc)の任意の組み合わせが意味される。
【0028】
用語「抗体」は、本明細書で使用されるとき、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を指す。抗体は、重鎖の定常ドメインの種類に応じて、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMのうちの1つに割り当てられる。これらのうちの幾つかは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など、サブクラス又はアイソタイプに更に分けられる。例示的免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体が2つの同一のポリペプチド鎖対で構成され、各対が1本の「軽」鎖(約25kDa)及び1本の「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のN末端には、抗原認識に一義的に関与する約100~110アミノ酸又はそれ以上の可変領域が画成される。可変軽鎖(V)及び可変重鎖(V)という用語は、それぞれこれらの軽鎖及び重鎖を指す。異なる免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、「アルファ」、「デルタ」、「イプシロン」、「ガンマ」及び「ミュー」と称される。異なる免疫グロブリンクラスのサブユニット構造及び三次元配置は周知である。IgGは、生理学的状況で最も一般的な抗体であるため、及びそれが実験室環境で最も容易に作られるため、本明細書で用いられる例示的抗体クラスである。任意選択で、抗体はモノクローナル抗体である。抗体の詳細な例は、ヒト化、キメラ、ヒト、又は他の形でヒトに好適な抗体である。「抗体」にはまた、本明細書に記載される抗体のいずれかの任意の断片又は誘導体も含まれる。
【0029】
用語「~に特異的に結合する」は、抗体が、好ましくは競合的結合アッセイにおいて、組換え形態のタンパク質、そこにあるエピトープ、又は単離された標的細胞の表面上に存在する天然タンパク質のいずれかを使用して判定したとき、結合パートナー、例えば、C5aR(C5aR1)に結合できることを意味する。特異的結合を決定するための競合的結合アッセイ及び他の方法については、以下に更に記載し、及び当該技術分野において周知である。
【0030】
抗体が特定のモノクローナル抗体「と競合する」と言われるとき、それは、その抗体が、組換えC5aR(C5aR1)分子又は表面発現C5aR(C5aR1)分子のいずれかを使用した結合アッセイにおいてモノクローナル抗体と競合することを意味する。例えば、結合アッセイにおいてC5aRポリペプチド又はC5aR発現細胞への参照抗体の結合が試験抗体によって低下した場合、その抗体は、参照抗体とそれぞれ「競合する」と言われる。
【0031】
用語「超可変領域」は、本明細書で使用されるとき、抗原結合に関与する抗体中のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、概して、「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)及び重鎖可変ドメインの31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.1991)及び/又は「超可変ループ」からの残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26~32(L1)、50~52(L2)及び91~96(L3)及び重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol 1987;196:901-917)、又は抗原結合に関与する必須アミノ酸を決定するための類似の方式を含む。典型的には、この領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.、前掲に記載される方法によって実施される。本明細書において「Kabat位置」、「Kabatにあるとおりの可変ドメイン残基の番号付け」及び「Kabatに従う」などの語句は、重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインについてのこの番号付け方式を指す。Kabat番号付け方式を用いると、ペプチドの実際の線状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はCDRの短縮、又はそこへの挿入に対応する、より少ない又は追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後ろへの単一のアミノ酸挿入(Kabatに従う残基52a)及び重鎖FR残基82の後ろに挿入された残基(例えば、Kabatに従う残基82a、82b、及び82c等)を含んでもよい。残基のKabat番号付けは、所与の抗体について、その抗体の配列の相同性領域における「標準的な」Kabatで番号付けした配列とのアラインメントにより決定されてもよい。
【0032】
「フレームワーク」又は「FR」残基とは、本明細書で使用されるとき、抗体可変ドメイン中、CDRとして定義される領域を除いた領域が意味される。各抗体可変ドメインフレームワークは、CDRによって隔てられる連続領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)に更に細かく分けることができる。
【0033】
用語「Fcドメイン」、「Fc部分」、及び「Fc領域」は、抗体重鎖のC末端断片、例えば、ヒトγ(ガンマ)重鎖の約アミノ酸(aa)230から約aa450まで又は他の種類の抗体重鎖(例えば、ヒト抗体についてα、δ、ε及びμ)におけるその対応配列、又はその天然に存在するアロタイプを指す。特に指定されない限り、本開示全体を通じて免疫グロブリンには、一般に認められているKabatアミノ酸番号付けを使用する(Kabat et al.(1991)Sequences of Protein of Immunological Interest,5th ed.,United States Public Health Service,National Institute of Health,Bethesda,MDを参照のこと)。
【0034】
用語「単離されている」、「精製されている」又は「生物学的に純粋な」は、その天然状態で見出されるとき通常はそれに付随する成分を実質的に又は本質的に含まない材料を指す。純度及び均一性は、典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技法を用いて決定される。ある製剤中に存在する優勢種であるタンパク質は、実質的に精製されている。
【0035】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では、アミノ酸残基の重合体を指して同義的に使用される。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸重合体、並びに天然に存在するアミノ酸重合体及び天然に存在しないアミノ酸重合体に適用される。
【0036】
用語「組換え」は、例えば、細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターに関連して使用されるとき、その細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸若しくはタンパク質の導入又は天然核酸若しくはタンパク質の改変によって修飾されていること、又は細胞が、そのように修飾された細胞に由来することを指し示す。従って、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)形態の細胞内には見出されない遺伝子を発現するか、又は本来であれば異常発現となるか、低発現となるか、又は全く発現がなくなる天然遺伝子を発現する。
【0037】
本明細書の文脈の中で、ポリペプチド又はエピトープを「結合する」抗体という用語は、前記決定基を特異性及び/又は親和性を伴い結合する抗体を指示する。
【0038】
「機能保存的変異体」は、限定はされないが、あるアミノ酸から、類似の特性(例えば、極性、水素結合力、酸性、塩基性、疎水性、芳香族など)を有するものに置き換えることを含め、ポリペプチドの全体的なコンホメーション及び機能を変えることなくタンパク質又は酵素中の所与のアミノ酸残基が変更されているものである。あるタンパク質中で、保存されていると指示されるもの以外のアミノ酸は異なり得るため、機能が類似している任意の2つのタンパク質間のパーセントタンパク質又はアミノ酸配列類似性は様々であってよく、例えば、Cluster法によるなど、アラインメントスキームにより決定したとき70%~99%であってよい(ここで類似性は、MEGALIGNアルゴリズムに基づく)。「機能保存的変異体」にはまた、BLAST又はFASTAアルゴリズムにより決定したとき少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、更に好ましくは少なくとも85%、なおも好ましくは少なくとも90%、及び更により好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドであって、それが比較される天然又は親タンパク質(例えば重鎖又は軽鎖、又はそのCDR若しくは可変領域)と同じ又は実質的に類似した特性又は機能を有するポリペプチドも含まれる。
【0039】
用語「同一性」又は「同一の」は、2つ以上のポリペプチドの配列間の関係において使用されるとき、2アミノ酸残基以上の一続きの列の間にあるマッチの数によって決定したときのポリペプチド間の配列の関連性の度合いを指す。「同一性」は、特定の数学的モデル又はコンピュータプログラム(即ち、「アルゴリズム」)によって対処されるアラインメント(存在する場合)を含む2つ以上の配列の小さい方の間における同一マッチのパーセントを測る。関連するポリペプチドの同一性は、公知の方法によって容易に計算することができる。かかる方法としては、限定はされないが、「計算分子生物学(Computational Molecular Biology)」,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;「バイオコンピューティング:インフォマティクスとゲノムプロジェクト(Biocomputing:Informatics and Genome Projects)」,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;「配列データのコンピュータ解析、パート1(Computer Analysis of Sequence Data,Part 1)」,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;「分子生物学における配列解析(Sequence Analysis in Molecular Biology)」,von Heinje,G.,Academic Press,1987;「配列解析プライマー(Sequence Analysis Primer)」,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;及びCarillo et al.,SIAM J.Applied Math.48,1073(1988)に記載されるものが挙げられる。
【0040】
同一性の決定方法は、試験する配列間に最大限の一致が得られるように設計される。同一性の決定方法は、公的に利用可能なコンピュータプログラムに記述されている。2つの配列間の同一性を決定するためのコンピュータプログラム方法としては、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.12,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403-410(1990))を含め、GCGプログラムパッケージが挙げられる。BLASTXプログラムは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)及び他の供給元(「BLASTマニュアル(BLAST Manual)」、Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.,前掲)から公的に利用可能である。周知のSmith Watermanアルゴリズムもまた、同一性の決定に使用し得る。
【0041】
治療方法
通常リガンド-受容体相互作用によって引き起こされる生物学的反応を阻害し、又は低減する化合物又は薬物は、受容体アンタゴニストと呼ばれる。かかる受容体アンタゴニストは、受容体に結合することになるが、その相互作用が有効性を持つようになることはない。従ってアンタゴニストの存在は、受容体のリガンド(又は複数のリガンド)の生物学的効果を阻害し、又は低減することになる。アンタゴニストの作用は、受容体の活性部位への結合によってリガンド相互作用が遮断され、又は破綻することによって媒介され得る。或いは、アンタゴニストは、リガンド結合又は受容体シグナル伝達を妨げるの同様に有効な別の部位で受容体に結合し得る。
【0042】
ヒトC5aR(C5aR1)タンパク質のアミノ酸配列を以下に示し、ここでは2番目のループ(lop)(2番目の細胞外ループ)を残基171~206の下線によって指示している。
ヒトC5aR(C5aR1):
【化1】
【0043】
C5aRアンタゴニスト、詳細には、ヒトC5aRタンパク質の2番目の細胞外ループに結合してC5aによるC5aRへの結合を阻害する抗体は、幾つかのヒト疾患動物モデルによる結果に基づけば、炎症性疾患及び障害の治療において妥当性があることが分かっている。従って、C5aの結合時にC5a受容体によって媒介されるシグナル伝達が阻害され、又は低減されるため、進行中の炎症過程の阻害又は低減が得られ、ひいては関連する病態の軽減が得られ得る。
【0044】
本明細書における任意の態様において、C5aRアンタゴニストを使用した本明細書に記載される治療は、炎症性疾患、例えば関節リウマチ又は炎症性皮膚疾患、例えば慢性炎症性皮膚疾患であって、マスト細胞(肥満細胞)が炎症に寄与している、特にそれが活性化され又は脱顆粒する場合のもの、及び/又は好中球が活性化される、及び/又は概してそれが炎症に寄与しているものを有する個体における、医薬として使用するためのもの、又は疾患の治療若しくは予防のためのものであるとして本明細書に含まれてもよい。任意選択で、炎症性疾患は急性期であり、及び/又は増悪によって特徴付けられる。
【0045】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、乾癬である。
【0046】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、尋常性ざ瘡である。
【0047】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、化膿性汗腺炎(HS)である。
【0048】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、全身性若しくは皮膚エリテマトーデスである。
【0049】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、皮膚小型血管炎である。
【0050】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎である。本明細書における任意の態様の一実施形態において、蕁麻疹は、慢性(例えば、慢性特発性蕁麻疹;刺激誘発型蕁麻疹;6週間を超える期間にわたって持続する反復性の蕁麻疹様病変によって特徴付けられる蕁麻疹)である。
【0051】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、水疱性類天疱瘡である。
【0052】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、炎症性皮膚疾患は、粘膜類天疱瘡、後天性表皮水疱症、疱疹状皮膚炎又は水疱性全身性エリテマトーデスである。
【0053】
更なる実施形態において、C5aRアンタゴニストは、炎症性疾患(例えば炎症性皮膚疾患)を有する個体の炎症(例えば皮膚炎症)の治療方法、又はそれを減少させる、阻害する、予防する、止める及び/又は好転させる方法における使用、又はかかる疾患の増悪及び/又は急性期、又は皮膚症状発現を減少させる、阻害する、予防する、止める及び/又は好転させるため、速い反応及び/又は長い反応持続期間(例えば、1ヵ月以内、2週間、1週間以内、又はそれ未満で;1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月より長く続く)を達成するための使用のためのものである。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、速い反応を達成するための、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡の治療又は予防方法における使用のためのものである。かかる実施形態において、速い反応は、C5aRアンタゴニストの限られた回数の投薬後に、例えば、高々5回の投薬後など、高々3回の投薬後など、又は好ましくは僅か2回の、若しくは更に1回の投薬後であってもそれが検出可能である場合に存在すると考えられる。一実施形態において、本方法は、6回目の投薬が適用されることになる前、例えば、5回目、4回目、3回目又は2回目の投薬が投与された後などに、反応を判定すること、又は検出することを含む。一実施形態において、反応は、2回目の投薬が投与されることになる前に検出可能であり得る。一実施形態において、本開示の方法は、任意選択で、C5aRアンタゴニストの初回投与から2ヵ月、1ヵ月又は2週間以内に治療反応性を判定するステップ(例えば、炎症性疾患の改善を判定するステップ、又は検出するステップ)、及び炎症性疾患の改善の決定に応じて、C5aRアンタゴニストの投与を(例えば同じ投与レジメンに従い)継続するステップを含み得る。一実施形態において、本開示の方法は、任意選択で、C5aRアンタゴニストの初回投与から2ヵ月、1ヵ月又は2週間以内に炎症性皮膚疾患の改善を判定するステップ、及び炎症性皮膚疾患の改善の決定に応じて、C5aRアンタゴニストの投与を(例えば同じ投与レジメンに従い)継続するステップを含み得る。
【0054】
反応及び/又はその持続時間は、疾患及び求められる効果に妥当と考えられるとおりの、当業者に公知の様々な手段によって検出されてもよい。
【0055】
反応は、例えば、皮膚炎症の理学的症状を観察することにより検出されてもよく、又はサイトカイン及び化学誘引物質など、疾患活動性を表すマーカーなど、妥当な疾患バイオマーカーの測定により検出されてもよい。肥満細胞など、特異的細胞型の存在に対処するマーカー、好中球を検出するMPO、並びに組織リモデリング及び/又は細胞外マトリックス恒常性のマーカーを使用して、早期反応が達成されているかどうかが評価されてもよい。明確にすれば、速い反応はまた、効果が実際には測定されない状況、例えば、妥当な測定が実施されていたら反応が検出されていたであろう状況においても達成されると考えられてよいことが注記される。
【0056】
一実施形態において、速い反応は、局所的に皮膚において又は末梢において妥当なマーカーを測定することによって検出され(又は検出可能であり)、ここで末梢シグナルは、好ましくは血清試料中に検出可能である。
【0057】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、上記に記述したとおりの速い反応が求められる疾患を治療する方法における使用のためのものであり、ここでは、マスト細胞マーカー、好中球マーカー、サイトカインマーカー、化学誘引物質マーカー又は組織リモデリングマーカーの妥当な変化を観察することができる。
【0058】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは皮下投与用である。
【0059】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは毎週の投与用であり、例えば、治療は、1週間毎のアブドラリマブ投与を含む。更なる実施形態において、C5aRアンタゴニストによる治療コースは、約又は少なくとも2週間、約又は少なくとも約1ヵ月間、約又は少なくとも約2ヵ月間、約又は少なくとも約3ヵ月間、約又は少なくとも約4ヵ月間、約又は少なくとも約5ヵ月間又は約又は少なくとも約6ヵ月間にわたる。
【0060】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、治療コースの継続時間(例えば少なくとも2週間、3週間、1ヵ月、3ヵ月)にわたり、循環中の濃度(例えば目標血中濃度)、任意選択で目的の血管外組織における(例えば、皮膚における)濃度を、例えば、カルシウムフラックス、CD11b上方制御、CD62L下方制御及び/又は細胞(例えば好中球)遊走を判定することによって決定したとき、インビトロでの、任意選択でC5aR発現細胞(例えばマスト細胞及び/又は好中球)におけるC5aR(C5aR1)活性の阻害に関するEC50、任意選択でEC70、任意選択でEC90又は任意選択でEC100よりも高い濃度に維持するスケジュール及び量(用量)に従い投与される。任意選択で、維持される濃度は、C5aR発現細胞への結合に関するEC70、任意選択でEC90又は任意選択でEC100と比べて少なくとも50%高い。任意選択で、維持される濃度は、インビトロでのC5aR活性の阻害に関するEC50の少なくとも2、3、4、5又は6倍である。ある特定の活性に関して「EC50」とは、特定の活性に関するその最大値の50%(又はEC70及びEC90について、それぞれ70%又は90%)の反応又は効果を生じる効果のある抗体濃度を指す。任意選択で、(例えば、最初の5回の投与の完了時に)維持されている循環中の濃度(目標血中濃度)は、約又は少なくとも約60、70、80、90又は100μg/mlである。
【0061】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、3回目の投与から後に、循環中(例えば血清中)に定常状態で少なくとも50μg/mLのトラフ濃度(Ctrough;次の用量が投与されるまでに薬物が到達する最も低い濃度)を維持するスケジュール及び量(用量)に従い投与される。一実施形態において、5回目の投与以降(5回目の投与から先は)、治療は循環中(例えば血清中)に定常状態で少なくとも70μg/mLのトラフ濃度を維持する。一実施形態において、5回目、任意選択で6回目の投与以降(5回目、任意選択で6回目の投与から先は)、治療は、皮膚組織中に少なくとも80μg/mLの濃度、任意選択でトラフ濃度を提供する。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、投与されるC5aRアンタゴニストの各用量間の前記トラフ濃度を維持する(例えばこの濃度が少なくとも1週間にわたって維持される)スケジュール及び量(用量)に従い投与される。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、治療コースの継続時間(例えば少なくとも1ヵ月、少なくとも3ヵ月)にわたって前記トラフ濃度を維持するスケジュール及び量(用量)に従い投与される。
【0062】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、治療中、例えば任意の24又は48時間の期間中に、抗体血中濃度が目標血中濃度(例えば100μg/ml又は約100μg/ml)を2倍を超えて上回らない又は50%を超えて上回らないスケジュール及び量(用量)に従い投与される。レジメンが特定の血中濃度を実現及び/又は維持する能力は、成人個体の複数例又は集団中、例えば、ヒト成人集団に代表的な体重及び/又は体表面積を有する個体の集団中で(例えば、観察により、モデル化により)判定することができる。
【0063】
本開示の一態様は、個体の疾患の治療又は予防方法であって、必要としている個体(例えば、炎症性皮膚疾患を有する個体)に、治療有効量のC5aRアンタゴニスト(例えば抗C5aR1抗体、アブドラリマブ、アブドラリマブの重鎖及び軽鎖CDRを有する抗体、アブドラリマブの機能保存的変異体)を投与することを含む方法に関し、ここでC5aRアンタゴニストは、長期継続期間、例えば、1~6ヵ月間又はそれ以上を伴う治療コースとして投与される。
【0064】
本明細書に記載される実施形態は、マスト細胞及び/又は好中球媒介性皮膚炎症(例えば、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡、又は前述のいずれかの急性期若しくは増悪)のリスクが高い又はそれに罹り易い個体への投与に有用である。
【0065】
本明細書に記載される実施形態は、炎症又は皮膚炎症の進行(例えば、重度の皮膚炎症、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡)を遅らせ、止め、及び/又は阻害することが個体にとって有益となる疾患又は障害の治療又は予防に特に有用である。一実施形態において、皮膚炎症の治療又は予防方法、必要としている個体への治療有効量のC5aRアンタゴニスト、ここで前記C5aRアンタゴニストは、少なくとも1ヵ月、少なくとも2ヵ月、少なくとも3ヵ月の継続時間を伴う治療コースで皮下投与される。一実施形態において、C5aRアンタゴニストの初回投与の各投与は負荷用量であり、1つ又は複数のC5aRアンタゴニストは、初回(初期)用量及び後続の用量を含め、同じ量のC5aRアンタゴニストを含む。
【0066】
一実施形態において、用量は、例えば体重又は体表面積と無関係に、複数の個体集団にわたって好適な固定用量であり、例えば用量は、400~600mg、任意選択で400~500mg、任意選択で約450mg)の用量であり得る。別の実施形態において、用量は、6mg/kg体重である。
【0067】
本明細書の任意の実施形態において、用量は毎週投与される。複数の投与のため用量を週1回反復し得ることが本明細書に含まれてもよい。任意選択で、治療のコースは、少なくとも1ヵ月、2ヵ月又は3ヵ月である。
【0068】
一実施形態において、本発明は、炎症の治療又は予防方法であって、必要としている個体に治療有効量のアブドラリマブを投与することを含む方法に関し、ここでは速い反応を検出可能である。本明細書において上記に記載されるとおり、速い反応とは、マスト細胞マーカー(例えばマスト細胞活性化マーカー)、好中球マーカー(例えば好中球活性化マーカー)、サイトカインマーカー、化学誘引物質マーカー又は組織リモデリングマーカーの妥当な変化を限られた回数の投薬後又は1回目の投与からの限られた時間後に観察することのできる状況を指し得る。
【0069】
C5aRアンタゴニスト
補体第5因子のA断片であるC5aは、その受容体C5aR(C5aR1とも称される)に結合し、炎症反応を刺激する。C5aRアンタゴニストでC5a反応を阻害すると、C5aによって媒介される急性炎症反応が、他の補体成分に影響が及ぶことなく低下する。これまでに、環状ペプチドなどのペプチド分子及び抗C5a受容体抗体を含め、様々な種類のC5aRアンタゴニストが記載されている(背景の節を参照のこと)。
【0070】
アブドラリマブは、C5aRの2番目のループ(2番目の細胞外ループとも称される)に結合する抗体であって、C5aRアンタゴニストとして作用する抗体である。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、ヒトC5aRの2番目のループに結合する抗体であり、C5aRと特異的に相互作用する(結合する)が、同様にC5aの受容体であるC5L2など、他の受容体とは相互作用しない。C5aR(C5aR1)アンタゴニストはC5aR(C5aR1)に特異的に結合する。詳細には、C5aRアンタゴニストはC5L2(C5aR2)に結合しない。C5aRへのC5a結合の阻害又は低減につながるこの相互作用。
【0071】
アブドラリマブの重鎖及び軽鎖(WHO Drug Information,Vol.33,No.2,2019を参照のこと)を配列番号2及び3、並びに以下に示す。
アブドラリマブ重鎖
【化2】
アブドラリマブ軽鎖
【化3】
【0072】
アブドラリマブ、又はより一般的には、配列番号4の重鎖可変領域と配列番号8の軽鎖可変領域とを有する抗体は、C5aRの2番目のループ(2番目の細胞外ループとも称される)と結合し、C5aRアンタゴニストとして作用するものである。アブドラリマブは、C5aR2タンパク質には結合しない。アブドラリマブは、抗体32F3A6のVH及びVLドメイン、及びCDRを含む。一部の実施形態において、C5aRアンタゴニスト(例えば、抗体)は、配列番号4のアミノ酸配列を有するVHに由来するH-CDR1、H-CDR2及び/又はH-CDR3配列を含む。一部の実施形態において、C5aRアンタゴニスト(例えば、抗体)は、配列番号8のアミノ酸配列を有するVLに由来するL-CDR1、L-CDR2及び/又はL-CDR3配列を含む。一部の実施形態において、C5aRアンタゴニスト(例えば、抗体)は、配列番号4のアミノ酸配列を有するVHの、Kabatの番号付けに従い決定されるとおりのH-CDR1、H-CDR2及び/又はH-CDR3配列を含み、及び配列番号8のアミノ酸配列を有するVLの、Kabatの番号付けに従い決定されるとおりのL-CDR1、L-CDR2及び/又はL-CDR3配列を含む。一実施形態において、C5aRアンタゴニスト(例えば、抗体)は、それぞれ配列番号5、6及び7のH-CDR1、H-CDR2及び/又はH-CDR3配列、並びにそれぞれ配列番号9、10及び11のL-CDR1、L-CDR2及び/又はL-CDR3配列を含む。
【0073】
一部の実施形態において、C5aRアンタゴニストは、配列番号4のKabat残基31~35に対応するH-CDR1と、配列番号4のKabat残基50~65に対応するH-CDR2と、配列番号4のKabatに従う)Kabat残基95~102に対応するH-CDR3とを含む抗体である。一部の実施形態において、抗C5aR抗体は、配列番号8のKabat残基24~34に対応するL-CDR1と、配列番号8のKabat残基50~56に対応するL-CDR2と、配列番号8のKabat残基89~97に対応するL-CDR3とを含む抗体である。任意選択で、CDRは、1、2、3、4個、又はそれ以上のアミノ酸置換を含み得る。
【0074】
一部の実施形態において、C5aRアンタゴニストは、前記抗体の重鎖の可変領域が配列番号4と少なくとも96、97、98又は99%同一の配列を含む抗体、及び/又は前記抗体の軽鎖の可変領域が配列番号8と少なくとも96、97、98又は99%同一の配列を含む抗体であるか、又はそれを含む。
【化4】
32F3A6重鎖CDR(Kabatの番号付けに従う):
HCDR1:SYVMH(配列番号5)。
HCDR2:AIDTGGGTYYADSVK(配列番号6)。
HCDR3:DYYYYASGSYYKAFDI(配列番号7)。
32F3A6 VL
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSRYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGSPLTFGQGTKLEIK(配列番号8)。
32F3A6軽鎖CDR(Kabatの番号付けに従う):
LCDR1:RASQSVSSRYLA(配列番号9)。
LCDR2:GASSRAT(配列番号10)。
LCDR3:QQYGSPLT(配列番号11)。
【0075】
抗C5aRアンタゴニスト抗体の機能は、詳細には抗C5aRアンタゴニストによるC5aRへの結合によって、前記アンタゴニストがC5aによるC5aRへの結合を有意に阻害し、又は低減する能力に依存する。これは、例えば国際公開第2012/168199号パンフレット(この開示は参照により本明細書に援用される)の実施例2に記載されるとおりの置換アッセイ(SPA)により決定されてもよく、このアッセイからは、EC50値を決定することができる。一実施形態において、EC50は50nM未満である。本発明の更なる実施形態において、C5aRアンタゴニストはSPAアッセイにおいて、50nM未満、例えば、40nM未満など、30nM未満など、20nM未満など、10nM未満など、5nM未満など又は更には4nM未満のEC50で、又は3nM未満又は更には2.5nM又は2.0nM未満のEC50でC5aを置換する。
【0076】
用語の結合「親和性」は、一価の相互作用(内因活性)を表して使用される。2つの分子間、例えばアンタゴニストと受容体との間の一価の相互作用を通じた結合親和性は、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法による、複合体形成及び解離の反応速度の測定による解離定数(K)の決定により定量化されてもよい。一価の複合体の会合及び解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数k(又はkon)及び解離速度定数k(又はkoff)と称される。Kは、k及びkと式K=k/kによって関係付けられる。更に、「親和性」は、分子(例えば、アンタゴニスト)の単一の結合部位とリガンド(ここでは受容体)との間の結合の強度に関係する。分子XのリガンドYに対する親和性は解離定数(K)によって表され、Kは、溶液中に存在するX分子の半分の結合部位を占めるのに必要なYの濃度である。Kが小さいほど、親和性相互作用が強い又は高いことを意味し、それらの部位を占めるのに必要なリガンドの濃度は低くなる。同様に、相互作用の特異性が、アンタゴニストと受容体との間の特異的相互作用など、目的の相互作用についてのK値を決定し、目的以外の相互作用のK値と比較することにより判定されてもよい。
【0077】
用語「有意に」は、ある効果が、少なくとも10若しくは20%の阻害など、又は少なくとも10若しくは20%の誘導など、生物学的に妥当性があることを表して使用される。
【0078】
C5aRアンタゴニストの親和性は、或いは、好中球又はマスト細胞を使用して実施される競合リガンド結合アッセイで決定されてもよい。この機能性は、競合アッセイで測定したときのアンタゴニストの親和性と称されるが、また、相互作用のアビディティの測定と見なされる可能性もある。エキソビボアッセイでは、インビトロセッティングでC5aRアンタゴニストがC5a媒介性の作用を中和する能力が測定される。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、好中球に関して競合リガンド結合アッセイにより測定したとき、0.50nM又は0.35nM未満など、1.0nM又は0.80nM未満の親和性を有する。
【0079】
C5aRアンタゴニストの更なる機能的特性は、好中球のC5a依存性遊走を阻害する能力である。この機能は、国際公開第2012/168199号パンフレット(この開示は参照により本明細書に援用される)の実施例2に記載されるとおり評価されてもよい。この機能を呈する抗体の例については、国際公開第2012/168199号パンフレットに記載されている。従って一実施形態において、本発明は、C5aRアンタゴニストであって、C5a誘導性細胞遊走を(インビトロ又はインビボで)阻害するC5aRアンタゴニストに関する。
【0080】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、ヒト好中球の遊走を有意に阻害する能力を有する。
【0081】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、インビトロで好中球の遊走を有意に阻害する。
【0082】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、10nM C5aの存在下でC5aRアンタゴニストがないときに観察される遊走レベルと比較して50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、又は10%未満にまで遊走を阻害する。一つのかかる実施形態において、遊走は、10nM C5a及びC5aRアンタゴニストの存在下で30分後に測定され、10nM C5aの存在下でC5aRアンタゴニストなしに30分後に観察される遊走レベルと比較される。或いは、C5aRアンタゴニストが好中球遊走を阻害する能力は、同じセットアップに基づいたEC50値を使用して表すことができる。一つのかかる実施形態において、EC50は、2.5μg/ml未満、例えば、2.5μg/ml未満など、1.5μg/ml未満など、1.2μg/ml未満など又は更には1.0μg/ml未満である。
【0083】
インビトロでC5aRアンタゴニストの機能を決定する更なる方法は、エキソビボでC5aRアンタゴニストがC5a誘導性細胞(例えば好中球)活性化を阻害する能力を測定するカルシウムフラックスアッセイであり、これについては、同様に国際公開第2012/168199号パンフレットの実施例2にも記載されている。更なる実施形態において、本発明は、カルシウムフラックスアッセイで決定したときのEC50が7.0μg/ml未満、例えば5.0μg/ml未満など、2.5μg/ml未満などであるC5aRアンタゴニストに関する。
【0084】
追加的なエキソビボアッセイを使用して、C5aRアンタゴニストがC5a誘導性好中球成熟を阻害し、又は中和する能力を、CD11b及びCD62L発現などの副次的効果に基づき決定することができる。CD11b及びCD62Lは、C5a/C5aR相互作用による活性化を受けてそれぞれ上方制御及び下方制御されるため、好中球の成熟マーカーである。
【0085】
一実施形態において、本発明は、CD11b上方制御アッセイで決定したときのEC50が3.0μg/ml未満、例えば、2.0μg/ml未満など、1.5μg/ml未満など又は1.0μg/mlなど又は更には0.5μg/ml未満、0.3μg/ml~1.0μg/ml、0.3μg/ml~2.0μg/ml、0.3μg/ml~0.5μg/ml、又は約0.5μg/ml、又は約0.3μg/mlであるC5aRアンタゴニストに関する。
【0086】
同様に、CD62L下方制御アッセイにおいてC5aRアンタゴニストの効果が決定されてもよい。一実施形態において、本発明は、CD62L下方制御アッセイで決定したときのEC50が1.8μg/ml未満、例えば、1.5μg/ml未満など、1.2μg/ml未満など又は更には1.0μg/ml未満であるC5aRアンタゴニストに関する。
【0087】
当業者は、所与の化合物が好適なC5aRアンタゴニストであるかどうかを決定するための更なる判定基準を認識しているであろうことから、従って本発明の範囲内にある好ましいアッセイを選択し得る。C5aRアンタゴニストのインビトロ試験については、例えば、国際公開第2014/180961号パンフレット(この開示は参照により本明細書に援用される)の実施例2に提供される。
【0088】
例えば、本明細書の実施例に記載される以下の材料及び方法に従い、C5aに応答したCD11b発現の上方制御を阻害するその能力に関して抗C5aR抗体を試験することができる。一つのアッセイでは、C5aRアンタゴニストは、C5a誘導性マスト細胞活性化を中和するその能力に関して試験することができる。別のアッセイでは、C5aRアンタゴニストは、C5a誘導性好中球活性化を中和するその能力に関して試験することができる。例えば、CD11bの変化は、本明細書に更に記載するとおりのCD11bアッセイを用いて判定することができ、又はCD62L発現は、国際公開第2014/180961号パンフレットに記載されるとおり、CD62Lを認識するコンジュゲート型抗体(BD Biosciences、カタログ番号559772)を使用することによりCD62L検出に適合させたCD11bアッセイを用いて測定することができる。
【0089】
一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、C5aRの2番目のループに結合する抗体である。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、ヒトC5aR(例えば、配列番号1に示されるとおり)の2番目のループ(AA175~206)に結合する抗体である。一実施形態において、C5aRアンタゴニストは、配列番号1に示されるとおりに示される)ヒトC5aRタンパク質のAA179~186(EEYFPPKV、配列番号12)に結合する抗体である。
【0090】
抗C5aR抗体のCDR配列又は可変領域は、国際公開第03/062278号パンフレット、WO/022390号及び国際公開第2012/168199号パンフレットのいずれか1つに記載されている。任意の実施形態において、C5aRアンタゴニスト抗体は、その天然の環境の別の/他の1つ又は複数の成分から分離されている、及び/又はそれから回収されている、及び/又はその天然の環境にある成分の混合物から精製されている抗体を指して単離されていると記載されてもよい。
【0091】
C5aRの2番目のループに結合するC5aRアンタゴニスト抗体の更なる例としては、以下に示すとおりの抗体35F12A2、35F24A3及び35F32A3の重鎖及び軽鎖CDR、可変領域及び/又はポリペプチド鎖を有する抗体が挙げられる。
【0092】
Kabatの番号付けに従う35F12A2可変領域及びCDR:
【化5】
VH CDR1:NYGMH(配列番号14)。
VH CDR2:VIWYDGINKYYADSVK(配列番号15)。
VH CDR3:TYYTSGSSKHFQP(配列番号16)。
35F12A2 VL:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLSWYQQKPGQAPRLLIYDAS NRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPTFGPGTKVDIKR(配列番号17)。
VL CDR1:RASQSVSSYLS(配列番号18)。
VL CDR2:DASNRAT(配列番号19)。
VL CDR3:QQRSNWPT(配列番号20)。
Kabatの番号付けに従う35F24A3可変領域及びCDR:
【化6】
VH CDR1:NYDMS(配列番号22)。
VH CDR2:AFSSDGYTFYPDSLK(配列番号23)。
VH CDR3:HADYANYPVMDY(配列番号24)。
35F24A3 VL:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPEKAPKSLIYAAS SLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYNSYPRTFGQGTKVEIKR(配列番号25)。
VL CDR1:RASQGISSWLA(配列番号26)。
VL CDR2:AASSLQS(配列番号27)。
VL CDR3:QQYNSYPRT(配列番号28)。
Kabatの番号付けに従う35F32A3可変領域及びCDR:
【化7】
HCDR1:DYGMH(配列番号30)。
HCDR2:VIWFDGINKYYGDSVK(配列番号31)。
HCDR3:TYFGPGTTEFFQH(配列番号32)。
35F32A3 VL:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDAS NRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPTFGPGTKVDIKR (配列番号33)。
CDRL1:RASQSVSSYLA(配列番号34)。
CDRL2:DASNRAT(配列番号35)。
CDRL3:QQRSNWPT(配列番号36)。
【0093】
一実施形態において、C5aRアンタゴニスト抗体は、IgG1、IgG2又はIgG4など、IgGアイソタイプのものである。
【0094】
抗体は、Fcドメインを介して様々なFc受容体と相互作用し、従ってそれは、E233P、L234A又はV234A又はF234L又はF234V、L235E又はL235A、G236R又はG236A、G237A、S239D、S254W、N297Q、L328R、A330S、P331S及びI332Eから選択される1つ以上のFc突然変異を有する抗体など、国際公開第2012/168199号パンフレットに記載されるとおり、かかる相互作用が有利に働くか否かを考察することが妥当である。一実施形態において、抗体Fcは、突然変異234A、L235E、G237A、A330S及びP331S(Kabat番号付け)を含むヒトIgG1ドメインである。抗体は、加えて、D327Q突然変異を含み得る。
【0095】
一実施形態において、本発明に係る抗体は、インビトロで好中球の食作用を有意に誘導せず、これはつまり、その食作用レベルが、抗C5aR抗体の非存在下で測定したときのバックグラウンドを有意に上回らないということを意味する。一実施形態において、本抗体は、いかなる検出可能な食作用の誘導も生じさせない。食作用レベルを評価するアッセイは、国際公開第2012/168199号パンフレットの実施例4に記載されるとおり、ヒト好中球を使用して実施されてもよい。
【0096】
代替的なアッセイでは、抗hC5aR抗体が細胞枯渇を媒介して、例えば、ADCC(抗体依存性細胞傷害)及びCDC(補体依存性細胞傷害)を誘導する能力が評価されてもよい。このようなアッセイでは、標的細胞としてのC5aR発現細胞及びエフェクター細胞(単球枯渇PMBC)又は補体含有血清を適用して反応を引き起こす。このアッセイについては、国際公開第2012/168199号パンフレットの実施例4に更に記載されている。
【0097】
医薬製剤
本開示は、本明細書に記載される投薬法に従う、薬学的に許容可能な担体と本開示に係るC5aRアンタゴニストとを含む医薬組成物及び/又は製剤を更に含む。
【0098】
本開示に係るC5aRアンタゴニストは、本発明のある態様では、医薬組成物の調製に使用されてもよい。かかる医薬組成物は、薬局方又はRemingtonにあるような本分野における一般的知識に基づき調製されてもよい。
【0099】
ある実施形態において、本開示に係る医薬組成物は、本明細書に記載されるとおりの抗体を薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む。本製剤は、液体製剤、又は投与前に水若しくは緩衝水溶液組成物中に再構成される乾燥製剤の形態であってもよい。本製剤は、水溶液製剤の形態であってもよい。ある実施形態において、製剤は滅菌されている。
【0100】
本開示に係る抗体の医薬組成物は、国際公開第2011/104381号パンフレットに記載される組成物など、塩及び/又は緩衝剤を含み得る。
【0101】
更なる実施形態において、本開示に係る抗体の医薬組成物は、国際公開第2011/147921号パンフレットに記載される組成物など、複数回の使用に好適であり得る。
【0102】
更なる実施形態において、C5aRアンタゴニストの医薬組成物は、皮下投与用であってもよい。
【0103】
更なる実施形態において、C5aRアンタゴニストの医薬組成物は、毎週の投与用である。
【0104】
実施形態
1.炎症性皮膚疾患の治療方法であって、抗C5aRアンタゴニスト抗体を皮下投与により、任意選択で400~600mg、任意選択で450mgの用量で、週1回の頻度で個体に投与することを含む、方法。
【0105】
2.抗体が、アブドラリマブ又はその機能保存的変異体である、実施形態1に記載の方法。
【0106】
3.抗体の複数の用量が投与され、各用量が同じ量の抗体を含む、実施形態1又は2に記載の方法。
【0107】
4.治療の継続期間が少なくとも1ヵ月である、実施形態1~3のいずれか一つに記載の方法。
【0108】
5.治療の継続期間が1ヵ月~3ヵ月、任意選択で1ヵ月~6ヵ月である、実施形態1~4のいずれか一つに記載の方法。
【0109】
6.負荷用量が初回投与当日に目標血中濃度約100μg/mlを実現する、実施形態1~5のいずれか一つに記載の方法。
【0110】
7.約100μg/mlの目標血中濃度が治療の継続期間にわたって維持される、実施形態1~6のいずれか一つに記載の方法。
【0111】
8.炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、実施形態1~7のいずれか一つに記載の方法。
【0112】
9.炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、実施形態1~8のいずれか一つに記載の方法。
【0113】
10.炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、実施形態1~9のいずれか一つに記載の方法。
【0114】
11.炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、実施形態1~10のいずれか一つに記載の方法。
【0115】
12.炎症性皮膚疾患の治療における使用のための、抗C5aRアンタゴニスト抗体であって、任意選択で、炎症が好中球及び/又はマスト細胞によって媒介され、抗体が、(i)初回投与から24、12又は6時間の期間内に、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関する少なくともEC50を提供する目標血中濃度であって、任意選択で20μg/mlである目標血中濃度を実現するのに有効な、(ii)少なくともステップ(i)の目標血中濃度である血中濃度を少なくとも1週間にわたって維持するのに有効な、及び(iii)治療中(例えば任意の24又は48時間の継続期間にわたって)、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関するEC100を提供する目標血中濃度(例えば100μg/ml)を2倍を超えて上回らない、又は50%を超えて上回らないのに有効な量及びスケジュールで皮下投与によって投与される、抗体。
【0116】
13.抗体がアブドラリマブであり、抗体が毎週450mgの用量で投与される、実施形態12に記載の方法。
【0117】
14.個体における好中球及び/又はマスト細胞の活性を阻害する方法であって、アブドラリマブを皮下投与により、400~600mg、任意選択で450mg、任意選択で6mg/kg体重の用量で、約週1回の頻度で個体に投与することを含む、方法。
【0118】
15.用量が、初回投与から24、12又は6時間の期間内に、約20μg/mlの目標血中抗体濃度を実現する、実施形態1~14のいずれか一つに記載の方法。
【0119】
16.4回目又は5回目の投与から治療の継続期間にわたって、少なくとも20μg/ml、任意選択で少なくとも50μg/ml、任意選択で少なくとも70又は80μg/mlの血中抗体濃度が維持される、実施形態12~15のいずれか一つに記載の方法。
【0120】
17.血中抗体濃度が、治療中(例えば任意の24又は48時間の継続期間にわたって)、組織中の好中球上のC5aR活性の阻害に関するEC100を提供する濃度(例えば100μg/ml)を2倍を超えて上回らない又は50%を超えて上回らない、実施形態12~16のいずれか一つに記載の方法。
【0121】
18.炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、実施形態12~17のいずれか一つに記載の方法。
【0122】
19.炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、実施形態12~18のいずれか一つに記載の方法。
【0123】
20.炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、実施形態12~19のいずれか一つに記載の方法。
【0124】
21.炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、実施形態12~20のいずれか一つに記載の方法。
【0125】
22.個体の炎症を治療又は予防する方法であって、個体にアブドラリマブを皮下投与によって450mgの負荷用量として週1回投与することを含む、方法。
【0126】
23.治療の継続期間が少なくとも1ヵ月である、実施形態22に記載の方法。
【0127】
24.治療の継続期間が1ヵ月~3ヵ月、任意選択で1ヵ月~6ヵ月である、実施形態22又は23に記載の方法。
【0128】
25.5回目又は6回目の投与で、治療が少なくとも70μg/mlの目標血中濃度、任意選択で約80、90又は100μg/mlの血中濃度を提供し、及びそれを維持する、実施形態22~24のいずれか一つに記載の方法。
【0129】
26.5回目又は6回目の投与以後、少なくとも70μg/ml、任意選択で約80、90又は100μg/mlの目標血中濃度が治療の継続期間にわたって維持される、実施形態22~25のいずれか一つに記載の方法。
【0130】
27.炎症性皮膚疾患の急性期又は増悪を治療又は予防するためのものである、実施形態22~26のいずれか一つに記載の方法。
【0131】
28.炎症が、皮膚のマスト細胞によって媒介される、実施形態22~27のいずれか一つに記載の方法。
【0132】
29.炎症が、皮膚の好中球によって媒介される、実施形態22~28のいずれか一つに記載の方法。
【0133】
30.炎症性皮膚疾患が、乾癬、尋常性ざ瘡、化膿性汗腺炎(HS)、全身性若しくは皮膚エリテマトーデス、皮膚小型血管炎、蕁麻疹若しくは蕁麻疹様血管炎又は水疱性類天疱瘡である、実施形態22~29のいずれか一つに記載の方法。
【0134】
31.治療が、速い反応を得るためのものである、実施形態1~30のいずれか一つに記載の方法。
【0135】
32.抗C5aR抗体の初回投与から3ヵ月、2ヵ月、1ヵ月又は2週間以内に炎症性皮膚疾患の改善を判定するステップ、及び炎症性皮膚疾患の改善の決定に応じて、抗C5aR抗体による治療を継続するステップを含む、実施形態1~31のいずれか一つに記載の方法。
【0136】
33.抗体が、
a.C5a誘導性好中球活性化、
b.C5a誘導性マスト細胞活性化、
c.C5a誘導性細胞遊走及び/又は
d.C5a誘導性好中球成熟
など、C5aのC5aR媒介性生物学的効果を阻害し、又はそれを低減する、実施形態1~32のいずれか一つに記載の方法。
【0137】
34.治療が、
a.C5a誘導性好中球活性化、
b.C5a誘導性マスト細胞活性化、
c.C5a誘導性細胞遊走及び/又は
d.C5a誘導性好中球成熟
など、組織中のC5aのC5aR媒介性生物学的効果を阻害し、又はそれを低減する、実施形態1~33のいずれか一つに記載の方法。
【0138】
35.抗体が、好中球上のC5a誘導性CD11b発現を0.3~1μg/mlのEC50で、任意選択で1μg/ml未満のEC50で、任意選択で0.5μg/ml未満のEC50で、任意選択で0.3~0.5μg/mlのEC50で阻害する、実施形態1~34のいずれか一つに記載の方法。
【0139】
36.抗体がC5aRの2番目のループに結合する、実施形態1~35のいずれか一つに記載の方法。
【0140】
37.抗体が、C5aRを介したC5aシグナル伝達を阻害する、実施形態1~36のいずれか一つに記載の方法。
【0141】
38.抗体が、C5aによるC5aRへの結合を阻害し、又はそれを低減する、実施形態1~37のいずれか一つに記載の方法。
【0142】
39.抗体が、SPAアッセイにおいて50nM未満のEC50でC5aを置換する、実施形態1~38のいずれか一つに記載の方法。
【0143】
40.好中球に関する競合リガンド結合アッセイで測定したときの抗体の親和性が0.80nM未満である、実施形態1~39のいずれか一つに記載の使用のための抗体。
【0144】
41.抗体が、カルシウムフラックスアッセイで決定したとき7.0μg/ml未満のEC50でエキソビボでC5a誘導性好中球活性化を中和する、実施形態1~40のいずれか一つに記載の方法。
【0145】
42.抗体が、C5a誘導性細胞遊走を阻害する、実施形態1~41のいずれか一つに記載の方法。
【0146】
43.抗体が、インビトロで好中球の遊走を有意に阻害する、実施形態1~42のいずれか一つに記載の方法。
【0147】
44.抗体が、好中球遊走を50%未満にまで低減する、実施形態1~43のいずれか一つに記載の方法。
【0148】
45.抗体が、好中球遊走を2.5μg/ml未満のEC50で低減する、実施形態1~44のいずれか一つに記載の方法。
【0149】
46.抗体が、エキソビボでC5a誘導性好中球成熟を阻害する、実施形態1~45のいずれか一つに記載の方法。
【0150】
47.抗体が、
a.CD11b上方制御アッセイで決定したとき3.5μg/ml未満、任意選択で2.5μg/ml未満、任意選択で1.5μg/ml未満、任意選択で1.0μg/m未満のEC50又は
b.CD62L下方制御アッセイで決定したとき1.8μg/ml未満、任意選択で1.5μg/ml未満、任意選択で1.2μg/ml未満又は任意選択で1.0μg/ml未満のEC50
でエキソビボでC5a誘導性好中球成熟を阻害する、実施形態1~46のいずれか一つに記載の方法。
【0151】
48.C5aRアンタゴニストが、インビトロで好中球の食作用を有意に誘導しない抗体である、実施形態1~47のいずれか一つに記載の方法。
【0152】
49.インビトロでADCCを有意に誘導しない抗体、実施形態1~48のいずれか一つに記載の方法。
【0153】
50.抗体が、インビトロでCDCを有意に誘導しない、実施形態1~49のいずれか一つに記載の方法。
【0154】
51.抗体が、配列番号5、6及び7の重鎖CDRと配列番号9、10及び11の軽鎖CDRとを有する、実施形態1~50のいずれか一つに記載の方法。
【0155】
52.抗体がアブドラリマブ又はその機能保存的変異体である、実施形態1~51のいずれか一つに記載の方法。
【0156】
53.毎週の皮下投与用の医薬組成物であって、アブドラリマブを450mgの量で含む組成物。
【0157】
54.実施形態1~53のいずれか一つに記載の抗体の複数の用量を含むキット。
【0158】
本発明は更に、限定はされないが、ここで以下に記載する実施形態により説明され得る。その知見もまた、本明細書に提示する実施例により例示される。
【実施例
【0159】
実施例1:ヒト第I相臨床試験におけるアブドラリマブの受容体飽和
用量漸増第I相試験でアブドラリマブについて調べた。合計45例の患者がアブドラリマブの投与を受け、15例の患者が、2試験のいずれにおいても安全性への懸念が発生しないプラセボの投与を受けた。
【0160】
単回用量投与試験では、36例の関節リウマチ(RA)患者が、プラセボ(n=9)又はアブドラリマブ、0.02、0.08、0.3、1、3又は10mg/kg(i.v.、n=18)又は皮下投与によるアブドラリマブ0.2、0.8又は4mg/kg(s.c、n=9)のいずれかの単回用量を受けた。試験実施期間は10週間であり、4週間スクリーニング期間、1週目の投与来院及び9週間フォローアップ期間からなった。
【0161】
複数回用量投与試験では、24例の関節リウマチ患者が、プラセボ(n=6)又はアブドラリマブ、0.25mg/kg(s.c.、n=6)又は1.0mg/kg(s.c.、n=6)又は4.0mg/kg(s.c.、n=6)のいずれかの複数回用量を受けた。対象は合計7週間にわたって毎週投与が行われ、次に最終回の治療用量後13週まで、6回のフォローアップ来院に通った。総研究実施期間は、各対象について約19週間であった。
【0162】
図1は、RAを有する対象の単回s.c.投与後の経時的平均アブドラリマブ(IPH5401)血清濃度(μg/mL)を示す。LLoQ=0.05μg/mL。LLOQ未満の試料は全て0に設定した。4.0mg/kgの最も高い用量レベルの対象、及び0.8mg/kgの対象1例に限り、濃度がLLOQを上回った。平均PKパラメータは、4mg/kgコホートのみ計算することができた。吸収は比較的遅く、平均Tmax実測値は4.0日(SD=0.1)であった。s.c.コホート4mg/kgの平均AUCは4930μg.h/mL(51.9%CV)であった。終末相半減期は、非線形PKのため、解釈することができなかった。
【0163】
図2は、RAを有する対象の複数回s.c.投与後の経時的平均アブドラリマブ血清濃度(μg/mL)を示す。用量レベルの漸増に伴い、アブドラリマブへの全身曝露量は投与期間全体を通じて増加した。1mg/kgと4mg/kgとのコホート間の定常状態血清アブドラリマブレベルの差は、用量の差である4倍よりもはるかに大きかったことから、非線形PKが指摘される。5週間の投与後に定常状態に達し、Ctauは4mg/kg用量レベルで5~7週目に平均して50μg/mLであった。
【0164】
図3は、s.c.用量レベル別の経時的な好中球上の平均C5aR占有率(%)を示す(単回s.c.投与)。4.0mg/kgの単回s.c.用量の後、全受容体占有は平均1.8週間にわたって維持され、単回注射後平均5.5週間の時点で20%未満にまで下がった。
【0165】
図4は、s.c.用量レベル別の経時的な好中球及び顆粒球上の平均C5aR占有率(%)を示す(複数回s.c.投与)。複数回s.c.用量の後、1及び4mg/kgで治療した対象において全受容体占有が実現し、最も高い用量コホートではそれが平均9週間にわたって維持された。
【0166】
総じて、全受容体占有が、s.c.単回用量研究では最も高い用量4mg/kgで治療した対象について平均1.8週間の持続時間にわたって実現し、複数回s.c.用量研究では1mg/kg及び4mg/kgの両方の用量群について、後者の群では平均9週間の持続時間にわたって実現した。
【0167】
実施例2:アブドラリマブのPKPDモデルの開発
Phoenix 64 WinNonLinバージョン8.1.0.3530でPKPDモデルを構築し、s.c.投与後の血中アブドラリマブ血清濃度、並びにC5aR飽和を予測した。治療用mAbの薬物動態は、通常、2コンパートメントモデルを用いてモデル化される(Deng et al.2011 MAbs 3(1):61-66)。実施例1に記載されるPK結果に基づけば、アブドラリマブは、化合物特異的な標的介在性薬物動態(target-mediated drug disposition:TMDD)を除き、ヒトにおける他の治療用抗体と類似したPK特性を示すことが予想される。このTMDD効果は、追加的な非線形消失をモデルに加えることによってモデル化することができる(Wang et al.2016 Biopharm.Drug Dispos.37:51-65)。中心コンパートメントからの平行の一次(線形)及び飽和性(非線形、ミカエリス・メンテン)消失を有する2コンパートメントモデルを開発することにより、図5に示されるとおり、及び以下の表1に挙げるパラメータ値を使用して、ヒトにおける反復s.c.投与に伴うアブドラリマブの観察されるPKを的確に記述した。実施例1のPK結果に基づき、s.c.投与の吸収速度(Ka)及びバイオアベイラビリティ(Ba)を推定した。PKPDモデルのPDパートにおけるEC50は、第I相臨床試験で観察されたPK/RSAデータから導き出され、FACSタイトレーションアッセイでは、インビトロでのヒト好中球へのEC50結合=0.34nM=51ng/mLと類似している。
【0168】
【表1】
【0169】
実施例3:皮下投与用の複数回用量アブドラリマブ治療レジメンの設計
アブドラリマブがヒト好中球のCD11b発現の上方制御を阻害する能力
アブドラリマブについて、C5a誘導性好中球成熟を中和するその能力を、CD11b発現の変化を測定することによって判定した。
【0170】
健常ボランティアから末梢静脈血をヘパリンコートチューブに採取した。採取後、培養処理済み96ウェルプレートU字型(BD Falcon、353077)に入ったPBS中の種々の濃度の35μLのアブドラリマブ(IPH5401)に35μLの血液を加え、ピペッティングによりホモジナイズし、+37±3℃、+5±1%CO2で20分間インキュベートした。インキュベーション後、アブドラリマブとインキュベートした50μLの血液を、各ウェルにPBS中の10μLの18nMヒト組換えC5a(R&D systems)が入った新しい96ウェルプレートに移し替える。各ウェルをピペッティングによりホモジナイズし、プレートを+37±3℃、+5±1%CO2で20分間インキュベートした。
【0171】
次に、PBS(Lonza)、2mM EDTA(Invitrogen)、0.2%BSA(Sigma、A9418)、及び0.02%ナトリウムアジド(Sigma、71290-100g)を含有する染色緩衝液中に飽和濃度の抗CD16 FITC(BD Biosciences、556616)及び抗CD11b PE-Cy5(BD Biosciences)を含有する25μlのマスターミックスを使用して50μLの各試料をフローサイトメトリー用に染色した。暗所下に+37±3℃、+5±1%CO2で20分間インキュベートした後、500μLのOptilyse C溶液(Beckman Coulter、A11895)を加え、暗所下に室温で10分間インキュベートし、次に500μLのPBS(Lonza)を加え、暗所下に室温で10分間インキュベートすることにより、赤血球を溶解させる。PBS(Lonza)を使用して細胞を洗浄し、CytoFix(BD Bioscience)に再懸濁することによって暗所下に4℃で30分間固定し、続いてLSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)でFACS Divaソフトウェアを使用して分析する。最後に細胞を染色緩衝液で洗浄し、染色緩衝液に再懸濁し、FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)でFACS Divaソフトウェアを使用して分析する。
【0172】
結果:好中球上のC5a誘導性CD11b発現(SSChigh CD16+細胞として定義される)を所与のアブドラリマブ濃度についてのPE-Cy5の蛍光強度中央値(MedFI)として定量化した。C5aを加えなかった血液から得られた値を0%とし、C5a有り及びアブドラリマブなしの血液から得られた値を100%として、MedFIを正規化した。結果は図6に示す。アブドラリマブのEC50値は、GraphPad Prismソフトウェア(v.7)で5PL非線形曲線当てはめを用いて0.34μg/mLと計算された。アブドラリマブのEC100値は約2μg/mLであった。
【0173】
実施例1からの細胞上のC5aRの結合及び飽和に必要なアブドラリマブの濃度を、好中球上のC5a誘導性CD11b発現を測定することによって判定したときのC5aRの阻害に必要な濃度と比較した。C5aRの阻害に関するアッセイでは、アブドラリマブは、0.34μg/mLのインビトロEC50及び約2μg/mLのEC100を示した。加えて、全体的なインビトロEC50値は、考察した4つのアッセイ(カルシウムフラックス、CD11b上方制御、CD62L下方制御、及び好中球遊走)のパネルでは約0.5~約2μg/mLの範囲であった。
【0174】
従って、C5aR阻害アッセイでのインビトロEC50は、飽和のEC50の約6倍~20倍であることが分かった。従って、C5aとの競合下でC5aRを完全に阻害するためには、アブドラリマブは、C5aRの100%飽和を提供する濃度の数倍高い濃度を提供する量で提供しなければならないように見える。
【0175】
これらの知見に基づけば、好中球の阻害のための目標血中濃度は、インビトロ有効性アッセイの約EC100に対応する約20μg/mlとなるであろうとともに、更に、アブドラリマブが組織(例えば、皮膚)の好中球を阻害するための最適な濃度を実現するのに十分な目標血中濃度は、約100μg/mlである。
【0176】
長期アブドラリマブ治療、複数回用量(MD)、皮下投与(sc)用のレジメン
ソフトウェアPhoenix WinNonLinバージョン8.1.0.3530を使用してPD/PKシミュレーションを実施し、GraphPad Prism 8バージョン8.0.2(263)で結果のプロットを行った。実施例2に記載したモデルをWinNonLinで実現し、それを使用して、ある範囲の用量レベルについて、毎週の投与としたヒトへのアブドラリマブの皮下(s.c.)投与後の経時的なPKをシミュレートした。これに基づき、定常状態での目標Ctroughの維持が可能となるであろう用量及びスケジュールを同定した。
【0177】
PD/PKシミュレーションを実施して、約100μg/mlの目標血中濃度を実現してそれを維持するような毎週のアブドラリマブs.c.投与の用量を同定した。結果からは、1週間毎に投与した(Q1w)、6mg/kg体重換算用量(75kgの個体についての450mgの固定用量に等しい)の用量により目標血中濃度を実現できることが示された。図7は、Q1w 75mg、150mg、300mg、450mg、600mg固定用量(75kgの個体に対し)についてのPK予想結果を示す。
【0178】
本明細書に引用される全ての参考文献は、刊行物、特許出願、及び特許を含め、本明細書によって全体として、及び本明細書の他の部分で行われる特定の文書の任意の別個に提供される援用に関係なく、各参考文献が参照によって援用されることが個別且つ具体的に指示され、且つ全体として(法的に許容される限り最大限に)本明細書において説明されたものとするのと同程度に、参照により援用される。
【0179】
特に指定されない限り、本明細書に提供される全ての厳密な値は、対応する近似値を代表するものである(例えば、特定の係数又は測定値に関して提供される全ての厳密な例示的値は、適切な場合には、「約」によって修飾された対応する近似測定値もまた提供すると見なすことができる)。数字に関して「約」が使用される場合、それは、指定される数字の±10%に対応する値を含むものとして本明細書に含まれてもよい。
【0180】
1つ又は複数の要素に関連して「~を含んでいる(comprising)」、「~を有する(having)」、「~が含まれる(including)」、又は「~を持つ(containing)」などの用語を使用した本発明の任意の態様又は実施形態の本明細書における記載は、特に指定されない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、その特定の1つ又は複数の要素「からなる(consists of)」、それ「から本質的になる(consists essentially of)」、又はそれ「を実質的に含む(substantially comprises)」という本発明の類似の態様又は実施形態のサポートを提供することが意図される(例えば、ある特定の要素を含むと本明細書に記載される組成物は、特に指定されない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、その要素からなる組成物も記載していると理解されなければならない)。
【0181】
本明細書に提供されるありとあらゆる例、又は例示的文言(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をより良く照らし出すことが意図され、特に主張されない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書中のいかなる文言も、何らかの特許請求されていない要素が本発明の実施に不可欠であることを指示するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023537417000001.app
【国際調査報告】