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特表2023-537474疼痛制御のための関節内コルチコステロイドの医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-01
(54)【発明の名称】疼痛制御のための関節内コルチコステロイドの医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/58 20060101AFI20230825BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230825BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230825BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230825BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P29/00
A61P19/02
A61K47/24
A61K47/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507244
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 US2021044619
(87)【国際公開番号】W WO2022031898
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/061,395
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(71)【出願人】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー シェウ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン カール オスカー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076CC04
4C076DD63
4C076DD70
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA12
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA08
4C086ZA96
4C086ZB11
(57)【要約】
【解決手段】
関節炎を有する対象における関節痛を治療するための方法を提供する。この方法は、判定されたグレードの変形性関節症を有する対象に、医薬組成物中における有効量の関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。関節内コルチコステロイドの投与により、治療目的集団の所定のサブグループにおいて有効性の応答が確実になることが達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節炎を有するヒト対象における関節痛の治療においての使用のための関節内コルチコステロイドの医薬組成物であって、有効量の関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩および脂質混合物を含み、前記ヒト対象における変形性関節症の判定グレードがケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3である、医薬組成物。
【請求項2】
前記変形性関節症の判定グレードは、前記ヒト対象の関節のX線撮影または磁気共鳴画像によって得られ、前記ヒト対象の関節に複数の骨棘が観察される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒト対象が50~65歳または65歳より上である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒト対象が女性である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒト対象が、片側性変形性関節症疼痛または両側性変形性関節症疼痛を有する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
前記ヒト対象のボディマス指数(BMI)が約30以上である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩が、リン酸デキサメタゾンナトリウム、デキサメタゾン、ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フロン酸モメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、トリアムシノロンジアセテート、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸メチルプレドニゾロン、プレドニゾロンテブテート、酢酸ヒドロコルチゾン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、ハルシノニド、フルオコルトロン、フルオシノロンアセトニド、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記関節内コルチコステロイドがリン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記関節内コルチコステロイドの有効量が約6mgから約18mgの範囲である、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記関節内コルチコステロイドの有効量が約10mgから約18mgの範囲である、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記関節内コルチコステロイドの有効量が約12mgから約18mgの範囲である、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記関節内コルチコステロイドの有効量が約12mgである、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記脂質混合物は1種または複数種のリン脂質を含む、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記1種または複数種のリン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)およびホスファチジルグリセロール(PG)を含む、請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
前記脂質混合物は、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)およびジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)を含む、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
前記脂質混合物はコレステロールをさらに含む、請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が、前記1種または複数種のリン脂質の総量に基づいて約10モル%~約33モル%のコレステロールを含む、請求項16に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
前記変形性関節症が変形性膝関節症である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
関節炎を有するヒト対象における関節痛の治療のための方法であって、変形性関節症の判定グレードを有するヒト対象に、請求項1~18のいずれか一項に記載の医薬組成物における有効量の関節内コルチコステロイド(IACS)またはその薬学的に許容される塩を、関節内投与することを含み、前記変形性関節症の判定グレードがケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象において脂質ベースの送達システムを用いて疼痛または炎症を治療する方法に関する。本開示はまた、脂質ベースの送達システムに適合した徐放性医薬組成物にも関し、それはより長い薬物有効期間を有する。
【背景技術】
【0002】
関節内(IA)ステロイド療法は、国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International、OARSI)の2019年度のガイドラインにより、変形性関節症(OA)の患者に対する目下の治療推奨事項とされている。コルチコステロイドの関節内注射は、変形性関節症に関連する痛みの緩和に寄与することが知られているが、有効性の持続レベルに関しては、不確実なところがあり、その有効率は、疾患の進行具合により患者間で異なり得る。関節内コルチコステロイド(IACS)、関節内ヒアルロン酸、および水中運動は、併存疾患の状態に応じて、膝の変形性関節症の患者に対して推奨されるレベル1B/レベル2の治療であったが、股関節または多関節の変形性関節症の患者に対しては推奨されていなかった。
【0003】
変形性膝関節症の疼痛処置において、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(dexamethasone sodium phosphate、DSP)の徐放性脂質製剤が関節内注射用に設計されているが(国際公開番号W02020/056399Al)、関節内ステロイド治療、特にクープマン分類によるB群およびC群のステロイドに対する有効性反応の確実性を、治療意図集団において立証することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの見方によれば、本開示は、関節炎を有するヒト対象における関節痛の治療のための方法であって、変形性関節症の判定グレードを有するヒト対象に、医薬組成物における有効量の関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩を、関節内投与することを含み、前記変形性関節症の判定グレードがケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3である方法を提供する。
【0005】
他の見方によれば、本開示は、関節炎を有するヒト対象における関節痛の治療のための医薬の製造のための関節内コルチコステロイドの医薬組成物の使用を提供する。この関節内コルチコステロイドの医薬組成物は、有効量の関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩および脂質混合物を含み、変形性関節症の判定グレードがケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3であるヒト対象に関節内投与される。
【0006】
他の見方によれば、本開示は、関節炎を有するヒト対象における関節痛の治療への使用のための関節内コルチコステロイドの医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、有効量の関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩および脂質混合物を含み、前記ヒト対象の変形性関節症の判定グレードがケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3である。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記ヒト対象は50~65歳または65歳より上である。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記ヒト対象は女性である。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記ヒト対象は片側性変形性関節症疼痛または両側性変形性関節症疼痛を有する。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ヒト対象のボディマス指数(BMI)が約30以上である。
【0011】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は以下を含む。(a)1種または複数種のリン脂質を含む脂質混合物、および(b)関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩。例として本開示における関節内コルチコステロイドは、リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)である。例として脂質混合物は、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)およびジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、関節内コルチコステロイドは、医薬組成物1mLごとに約6mg~約18mgの範囲で、または約12mgで存在する。いくつかの実施形態において、関節内コルチコステロイドは、医薬組成物において、約6mg~約18mgの範囲で、または約12mgで存在する。
【0013】
いくつかの実施形態において、対象は、ケルグレンローレンス分類のグレード2またはグレード3の変形性膝関節症を有する。医薬組成物において、関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩の有効量は、約12mg/mоlまたは約12mgである。医薬組成物は、(i)関節内コルチコステロイドまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)DOPCと、DOPGと、コレステロールとを、それらの混合物の総モルを基にしたモル%で、56.25~72.5:7.5~18.75:10~33の比率で含む混合物、とを含む。
【0014】
ベースラインからの疼痛の変化によれば、単回または複数回の注射による本開示による医薬組成物を用いた、治療意図集団の事前に特定されたサブグループにおけるヒト対象における変形性関節症の治療は、関節内コルチコステロイド治療に対する、特に本開示の医薬組成物中のクープマン分類によるグループBおよびグループCのステロイドに対する有効性反応において、安全性および安定性が示された。
【0015】
本発明のその他の目的、利点、および新規な特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読むことでより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】WOMAC疼痛(0~4段階)全体におけるベースラインからのLS平均(SE)変化を示すグラフであり、アスタリスクマーク(*)は、全体群におけるプラセボに対する有意差を示し、片側p<0.05であり、SE=標準誤差である。
図2】、図2Aは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)変化を性別に示したグラフである。図2Bは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)変化を性別に示したグラフである。図2Cは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)変化を年齢別に示したグラフである。図2Dは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)変化を年齢別に示したグラフである。
図3図3Aは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)の変化をケルグレンローレンス分類別に示したグラフである。図3Bは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)の変化をケルグレンローレンス分類別に示したグラフである。図3Cは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)の変化を片側/両側膝痛別に示すグラフであり、両側膝痛は非指標膝におけるVAS疼痛スコア≧3として定義される。図3Dは、WOMAC疼痛(0~4段階)におけるベースラインからのLS平均(SE)の変化を片側/両側膝痛別に示すグラフであり、両側膝痛は非指標膝におけるVAS疼痛スコア≧3として定義される。
図4図4Aは、ベースラインVAS疼痛スコアおよびベースラインWOMAC疼痛スコア(0~4段階)からのLS平均(SE)変化を性別および年齢別に示す一連のグラフの1つである。図4Bは、ベースラインVAS疼痛スコアおよびベースラインWOMAC疼痛スコア(0~4段階)からのLS平均(SE)変化を性別および年齢別に示す一連のグラフの1つである。図4Cは、ベースラインVAS疼痛スコアおよびベースラインWOMAC疼痛スコア(0~4段階)からのLS平均(SE)変化を性別および年齢別に示す一連のグラフの1つである。図4Dは、ベースラインVAS疼痛スコアおよびベースラインWOMAC疼痛スコア(0~4段階)からのLS平均(SE)変化を性別および年齢別に示す一連のグラフの1つである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の用語は、上記および本開示全体を通して使用されるように、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0018】
本明細書で使用される場合、単数形「一」、「一つ」および「前記」は、文脈から明確に指示されない限り、複数であることを排除するものではない。
【0019】
本明細書におけるすべての数値は、「約」がついているものとして理解され得る。これは、量、継続時間などの測定可能な値に言及する場合、他に指定がない限り、所望の量のリポソーム薬剤を得るために適切となるように、指定値から±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0020】
本明細書で使用される「治療する」、「治療される」、または「治療」という用語は、関節痛を引き起こす進行性の構造組織損傷を未然に(例えば予防的に)防ぐ、遅延させる、阻止するまたは逆転させることを含む。また、「治療」または「処置」という用語は、組成物または医薬品を指し得る。また本出願を通して、治療とは、変形性関節症の1つ以上の症状または徴候を軽減、緩和、抑制または遅延させること、または公知の技術によって検出される関節痛の改善、または疼痛制御薬の使用の減少を意味する。これらには、いくつか例を挙げると、臨床検査、血清または関節吸引物の画像化または分析(例えば、リウマチ因子、赤血球沈降速度)が含まれるが、これらに限定されない。痛みとその症状を評価する方法として、一般的に知られている方法が用いられ得る。このような方法には、6段階の指標式疼痛評価スケール、11段階の数値疼痛評価スケール(NPRS)、視覚的アナログスケール、ウィスコンシン簡易疼痛質問票(Wisconsin Brief Pain Questionnaire)、簡易疼痛質問票(Brief Pain Inventory)、マックギル疼痛質問票(McGill Pain Questionnaire)、あるいは、疼痛コントロール方法の患者全般評価(PGA)を含む他のスコアリング方法が含まれるが、これらに限定はされない。ヒト対象の場合、例えば、(0)痛みなし~(10)痛み最大という段階的スケールを使用する自己報告が、痛みのレベルを特定するために使用され得る。場合により、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)が、本開示の医薬組成物の投与後の痛みの減少を特定するために対象に使用され得る。例えば、本開示での方法は、治療前の対象または対照対象と比較して、対象の関節痛が約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%減少するよう治療することが想定される。治療には、単回の関節注射または所望の間隔での複数回の関節注射が含まれる。
【0021】
「関節痛」という用語は、1つまたは複数の関節の炎症や痛みを伴う関節の障害または疾患を指す。本明細書で使用される「関節痛」という用語は、既知または未知の、様々な病因および原因の様々なタイプおよびサブタイプの関節炎を含み、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、感染性関節炎、乾癬性関節炎、痛風性関節炎、ループスに伴う関節炎、または滑液包炎、腱滑膜炎、上顆炎、滑膜炎、あるいは他の障害により影響された疼痛性局所組織を含むが、これらに限定されない。
【0022】
本開示の関節内コルチコステロイド(IACS)における「薬学的に許容される塩」は、塩基で形成される酸性のIACSの塩、即ち、アルカリおよびアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのような塩基付加塩、並びにアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウムおよびトリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム塩のようなアンモニウム塩を含む。同様に、鉱酸、有機カルボン酸、有機スルホン酸、例えば、塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸などの酸付加塩も塩基性IACSに提供することができる。
【0023】
脂質混合物およびそれを含む医薬組成物
一実施形態において、本開示は、1種または複数種のリン脂質を含む脂質混合物と、有効量の関節内コルチコステロイド(IACS)またはその薬学的に許容される塩とを含む医薬組成物であって、医薬組成物中における1種または複数種のリン脂質の総量が、医薬組成物1mLあたり約20μmоlから約150μmоlである医薬組成物を提供する。
【0024】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、IACSの放出が3ヵ月、4か月、5か月、6ヵ月以上にわたって、あるいは2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、22週間、23週間、24週間、25週間、26週間、27週間、28週間、29週間、30週間、31週間、32週間、33週間、34週間、35週間、または36週間持続する。
【0025】
他の実施形態において、本開示の医薬組成物は、その有効性が、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量が約150μmol以上となる医薬組成物の有効性と比較して増強される。また更に他の実施形態において、本開示の医薬組成物はIACSの治療効果が持続し、且つIACSの副作用が軽減される。
【0026】
一実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は約50μmоl~約140μmоlである。他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は約45μmоl~約135μmоlである。更に他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は約50μmоl~約120μmоlである。更に他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は約60μmоl~約110μmоlである。
【0027】
一実施形態において、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、ビヒクル、担体、有効成分のための媒体、防腐剤、抗凍結剤またはそれらの組み合わせを更に含む。
【0028】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質と、1種または複数種の緩衝剤とを混合してリポソームを形成し、リポソームを1種または複数種の増量剤と共に凍結乾燥してケーキ状の脂質混合物を形成し、脂質混合物のケーキをIACSを含む溶液で再構成して水性懸濁液を形成することによって調製される。
【0029】
別の実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質を溶媒中で混合し、次いで溶媒を除去して、粉末またはフィルム形態の脂質混合物を形成し、脂質混合物の粉末またはフィルムをIACSを含む溶液で再構成して水性懸濁液を形成することによって調製される。別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質を溶媒中で混合し、次いで、溶解した脂質溶液を水溶液中に注入してリポソームを形成することによって調製される。その後、リポソームは、トラックエッチングしたポリカーボネート膜を介してろ過することにより、ダウンサイズされる。溶媒は、半自動タンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムを用いた緩衝液に対する透析濾過によって除去される。次いで、透析濾過されたリポソーム溶液を、凍結乾燥して粉末形態にし、脂質混合物の粉末またはフィルムを、IACSを含む溶液で再構成して、水性懸濁液を形成する。
【0030】
実施形態によって、本開示の医薬組成物は、約10%~約50%の脂質結合IACS、または約50%~約90%の非結合のIACSを含む。「非結合形態」との用語は、医薬組成物のリン脂質/コレステロール画分からゲル濾過を介して分離可能なIACS分子を指し、即時放出成分を提供する。他の実施形態では、リン脂質およびコレステロールの組み合わせのIACSに対する重量比は、約5~80対1であり、更に別の実施形態では、リン脂質およびコレステロールの組み合わせのIACSに対する重量比は、約5~40対1である。リン脂質およびコレステロールの組み合わせのIACSに対する重量比は、例えば、約5対1、10対1、15対1、20対1、25対1、30対1、35対1、40対1、45対1、50対1、55対1、60対1、65対1、70対1、75対1、または80対1であり得る。
【0031】
実施形態によって、本開示の医薬組成物におけるIACSの濃度は、約10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mMまたはそれ以上であり得、そして任意に、約10mM~約40mM、約15mM~約40mM、約20mM~約40mM、約15mM~約35mM、約15mM~約30mM、約15mM~約25mM、約20mM~約25mMの範囲を取り得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、各投与ごとの医薬組成物の総量は、約0.5mLから約1.5mLの範囲であり、そして任意に約1.0mLとすることができる。
【0033】
ここで提供される医薬組成物の脂質混合物とは、リン脂質またはリン脂質の混合物を指す。脂質混合物は、医薬組成物に添加される前に、フィルム、ケーキ、顆粒または粉末の形態であってもよいが、これらに限定されない。
【0034】
一実施形態では、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、脂質混合物として更に加工される前に、予めリポソームに形成される。
【0035】
別の実施形態では、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、脂質混合物として更に加工される前に、予めリポソームに形成されていない。
【0036】
リポソームは、ナノサイズであり得、内部の水性薬剤担持成分を囲む脂質二重層を含み得る。リポソームの非限定的な例としては、小型ユニラメラ小胞(SUV)、大型ユニラメラ小胞(LUV)、多胞性リポソーム(MVL)および多ラメラ小胞(MLV)が挙げられる。
【0037】
脂質混合物は、一重層構造または二重層構造を形成するか、またはそれに取り込まれることができる様々な脂質から調製することができる。本開示で使用される脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)のうちの一種または複数種の脂質を含むが、これらに限定されない。実施形態によって、脂質混合物は、卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、卵ホスファチジン酸(EPA)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、大豆ホスファチジルグリセロール(SPG)、大豆ホスファチジルエタノールアミン(SPE)、大豆ホスファチジルセリン(SPS)、大豆ホスファチジン酸(SPA)、大豆ホスファチジルイノシトール(SPI)、またはこれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、脂質混合物は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ヘキサデシルホスホコリン(HEPC)、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、モノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)、l-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、ポリエチレングリコールジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルイノシトール(DOPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、またはこれらの組み合わせを含む。
【0038】
実施形態によって、脂質混合物は、第1のリン脂質および第2のリン脂質を含む。いくつかの実施形態では、第1のリン脂質は、EPC、EPE、SPC、SPE、DPPC、DOPC、DMPC、HEPC、HSPC、DSPC、DOPE、PSPC、MOPE、POPCまたはこれらの組み合わせからなる群から選択され、第2のリン脂質は、PG、PS、PA、PIまたはこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、第1のリン脂質は、EPC、EPE、SPC、SPE、DPPC、DOPC、DMPC、HEPC、HSPC、DSPC、DOPE、PSPC、MOPE、POPCまたはこれらの組み合わせであり、第2のリン脂質は、EPG、EPS、EPA、EPI、SPG、SPE、SPS、SPA、SPI、DPPG、DOPG、DMPG、DSPG、PSPG、DPPS、DOPS、DMPS、DSPS、DPPA、DOPA、DMPA、DSPA、DPPI、DOPI、DMPI、DSPI、およびリン脂質分子に結合した高水和性の柔軟な中性ポリマーの長鎖を有する親水性ポリマーからなる群から選択される。親水性ポリマーの例としては、これらに限定されないが、分子量約2000ダルトン~約5000ダルトンのポリエチレングリコール(PEG)、メトキシPEG(mPEG)、ガングリオシドGMi、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドとも)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも)、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルトアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースなどの誘導体化されたセルロース類、合成ポリマーなどが挙げられる。
【0039】
一実施形態では、脂質混合物は、ステロールを更に含む。本開示で使用されるステロールは特に限定されないが、その例として、コレステロール、フィトステロール(シトステロール、スティグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)、エルゴステロール、コレスタノン、コレステノン、コプロステノール、コレステリル-2‘-ヒドロキシエチルエーテル、およびコレステリル-4‘-ヒドロキシブチルエーテルが挙げられる。脂質混合物のステロール成分は、存在する場合、リポソーム、脂質小胞または脂質粒子の調製の分野で従来から使用されているステロールのいずれかであり得る。別の実施形態では、脂質混合物は、約10%~約33%のコレステロール、約15モル%~約30モル%未満のコレステロール、約18モル%~約28モル%のコレステロール、または約20モル%~約25モル%のコレステロールを含む。
【0040】
例示的な実施形態では、脂質混合物は、第1のリン脂質、第2のリン脂質、およびステロールを、モル%で、29.5%~90%:3%~37.5%:10%~33%の割合で含む。
【0041】
更なる実施形態では、第1のリン脂質はDOPC、POPC、SPC、またはEPCであり、第2のリン脂質はPEG-DSPEまたはDOPGである。
【0042】
更なる実施形態では、第1のリン脂質はDOPCであり、第2のリン脂質はDOPGである。
【0043】
一実施形態では、脂質混合物は、脂肪酸またはカチオン性脂質(すなわち、生理的pHで正味の正電荷を運ぶ脂質)を含まない。
【0044】
本開示で調製されるリポソームは、小胞を形成するために使用される従来の技術によって生成することができる。これらの技術には、エーテル注入法(Deamerら、Acad. Sci. (1978) 308: 250)、界面活性剤法(Brunnerら、Biochim. Biophys. Acta (1976) 455: 322)、凍結融解法(Pickら, Arch. Biochim. Biophys. (1981) 212: 186)、逆相蒸散法(Szokaら、Biochim. Biophys. Acta. (1980) 601: 559 71)、超音波処理法(Huangら、Biochemistry (1969) 8: 344)、エタノール注入法(Kremerら、Biochemistry (1977) 16: 3932)、エクストルージョン法(Hopeら、Biochim. Biophys. Acta (1985) 812:55 65)、フレンチプレス法(Barenholzら、FEBS Lett. (1979) 99: 210)、およびSzoka, F., Jr.らによる, Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)に記載された方法が含まれる。上記の方法はすべて、小胞の形成のための基本的な技術であり、これらの方法は参照により本明細書に組み込まれるものとする。滅菌後、予め形成されたリポソームを無菌的に容器に入れ、凍結乾燥して粉末またはケーキを形成する。脂質混合物が予め形成されたリポソームを含む実施形態では、前記リポソームを溶媒注入法により得て、その後、増量剤や緩衝剤が存在するまたは存在しない状況下で凍結乾燥して脂質混合物を形成する。一実施形態では、脂質混合物は、1種または複数種の増量剤を含む。一実施形態では、脂質混合物は、1種または複数種の緩衝剤を更に含む。
【0045】
増量剤としては、ポリオールや、マンニトール、グリセロール、ソルビトール、デキストロース、スクロース、などの糖アルコールや、トレハロースや、ヒスチジン、グリシン、などのアミノ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい増量剤の一種としてマンニトールが挙げられる。
【0046】
緩衝剤としては、リン酸ナトリウム一塩基性二水和物およびリン酸ナトリウム二塩基性無水物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
脂質混合物が予めリポソームに形成されていない脂質を含む実施形態では、脂質混合物は、エタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、エーテルおよびクロロホルムといった適切な有機溶媒に溶解し、加熱、真空蒸発、窒素蒸発、凍結乾燥、またはその他の従来の溶媒除去方法によって乾燥することによって調製することができる。
【0048】
本開示に対応した脂質混合物の調製の具体例は以下に記載する。
【0049】
関節内コルチコステロイド
関節内コルチコステロイド(IACS)は、国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International、OARSI)の膝、股関節および多関節変形性関節症の非外科的管理に関するガイドライン(Osteoarthritis and Cartilage 27 (2019) 1578-1589)により、変形性関節症の患者に対する目下の治療推奨事項とされている。
【0050】
本開示において有用なIACSは、任意の天然由来のステロイドホルモン、合成ステロイドおよびそれらの誘導体を含む。IACS、誘導体またはその薬学的に許容される塩の例としては、これらに限らないが、クープマン分類によるグループBおよびグループCのコルチコステロイドが含まれる(S. Coopmanらによる「Identification of cross reaction patterns in allergic contact dermatitis from topical corticosteroids」Br J Dermatol. 1989 Jul;l2l(l):27-34)を参照)。
【0051】
IACSの薬学的に許容される塩には、非毒性の無機または有機塩基から形成される非毒性の塩が含まれる。非毒性の塩は、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、あるいはマグネシウムといったアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物等の無機塩基から、またはアミン等の有機塩基から形成することができる。
【0052】
IACSの薬学的に許容される塩には、非毒性の無機酸または有機酸から形成される非毒性の塩も含まれる。有機酸および無機酸の例としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、チョール酸、パモ酸、ムチン酸、D-グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、ソルビン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0053】
一実施形態において、IACSは、これらに限定されないが、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾンナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸ベタメタゾン、プレドニゾロン、トリアミシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサセトニドを含み、これを、医薬組成物1mLあたりの用量で、約0.1mg~約300mg、約0.1mg~約100mg、約0.1mg~約20mg、約0.1mg~約18mg、約1mg~約300mg、約1mg~約100mg、約1mg~約20mg、約1mg~約18mg、約4mg~約300mg、約4mg~約100mg、約4mg~約20mg、約4mg~約18mg、約6mg~約18mg、約6mg~約16mg、約8mg~約16mg、約6mg~約12mg、約6mg~約16mgの範囲の用量で投与することができる。
【0054】
一例では、IACSはデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DPS)である。DPSは溶液形態であり、脂質混合物をケーキの形態に再構成して本開示の医薬組成物を得るために、上記のようにIACSを含む溶液として使用され、結果として医薬組成物中のIACSの濃度は約2mg~約100mg/mL、約4mg~約80mg/mL、約5mg~約60mg/mL、約6mg~約40mg/mL、約8mg~約20mg/mL、または約10mg~約16mg/mLとなる。
【0055】
ヒトにおけるIACSの効果的な投与量は、当技術分野で知られている推奨または標準的な投与量よりも多くてもよく、例えば、参照により本明細書に組み込まれる「The Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 3(5), 2325967115581163 (DOI: 10.1177/2325967115581163)」を参照されたい。例えば、IACSとしてのトリアムシノロンヘキサセトニドの推奨される有効かつ耐容性のある投与量は20mgであるが、本発明に係る組成物および方法におけるIACSの投与量は、少なくとも20mg以上であってもよい。
【0056】
なお、投与される治療剤の用量は、治療対象疾患の重症度、特定の製剤、および体重や被治療者の全体的な状態および副作用の重症度などの他の臨床的要因にも依存する。
【0057】
実施形態によって、医薬組成物は更に標的分子を含むことができ、標的分子は、これらに限らないが、TNF-αやCD20といったB細胞表面抗原が挙げられる。他の抗原としては、CD19、HER-3、GD2、Gp75、CS1タンパク質、メソセリン、cMyc、CD22、CD4、CD44、CD45、CD28、CD3、CD123、CD138、CD52、CD56、CD74、CD30、Gp75、CD38、CD33、GD2、VEGF、またはTGFも使用することができる。標的分子は、標的分子を有する標的細胞に特異的に結合することを可能にする標的部位として作用する抗体またはペプチドの脂質コンジュゲートの形態であり得、所望の疾患修飾療法を達成するためにIACSを所望の微小環境に送達することを可能にする。
【0058】
医薬組成物の投与
医薬組成物は、治療対象疾患に対して適切な期間にわたって、単回または複数回投与され得る。医薬組成物は、利便性を考慮した上で、適切な間隔、例えば、1週間ごと、2週間ごと、6週間ごと、1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、3ヶ月またはそれ以上の期間ごと、6ヶ月またはそれ以上の期間ごとに1回の間隔で投与してよく、あるいは疾患(即ち関節痛)の症状と徴候が寛解するまで投与してもよい。
【0059】
一群の実施形態では、少なくとも2回の関節注射による複数回投与治療において、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、および24週間からなる群から選択された投与間隔で投与される。
【0060】
一群の実施形態では、少なくとも2回の関節注射による複数回投与治療において、少なくとも12週間の投与間隔、例えば13週間から6ヵ月の投与間隔で投与される。
【0061】
実施形態によって、医薬組成物は、関節注射1回分につき約0.5mL~約1.5mL、約0.6mL~約1.2mL、約0.8mL~約1.2mLの範囲の量、または約1.0mLで投与される。
【0062】
1つの例示的な実施形態では、医薬組成物は単回の注射で投与され、この場合の関節内コルチコステロイドの有効量の範囲は、約6mg~約18mg、約10mg~約18mg、約12mg~約18mg、約10mg~約15mg、約11mg~約13mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約13mg、約14mg、約15mg、あるいは約12mgである。脂質混合物は、第1のリン脂質、第2のリン脂質、およびステロールを、モル%で29.5%~90%:3%~37.5%:10%~33%の割合で含み、リン脂質の総量は、50μmol~約140μmol、45μmol~135μmol、50μmol~120μmol、または60μmol~110μmolである。
【0063】
関節痛を治療する方法
本開示の一態様は、以下の方法の提供に向けたものであり、即ち、対象における関節痛を治療する方法であって、本明細書に記載の医薬組成物の有効量を、関節痛の治療を必要とする対象に投与することを含み、それによって、IACSによって誘発される副作用が、即時放出または標準的な配合のIACSの投与後の対象における副作用と比較して低減され、また、医薬組成物のIACSの有効性および放出速度が、医薬組成物1mLあたり約150μmоl以上のリン脂質を含む医薬組成物の有効性および放出速度と比較して増大される。
【0064】
一実施形態において、対象者は、変形性関節症、関節リウマチ、急性痛風関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、または、エーラス-ダンロス症候群、ヘモクロマトーシス、肝炎、ライム病、シェーグレン病、橋本甲状腺炎、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症、炎症性腸疾患、ヘノッホ・ショーンライン紫斑病、再発性熱を伴うD型高免疫グロブリン血症、サルコイドーシス、ウィップル病、TNF受容体関連周期性症候群、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、家族性地中海熱、全身性エリテマトーデスに起因する関節炎を患った患者である。
【0065】
変形性膝関節症の患者の評価には、膝関節の単純X線写真または磁気共鳴画像法(MRI)を用いることができる。MRIは、変形性膝関節症における骨および軟部組織の変化を評価するための診断ツールとして好まれている。変形性膝関節症のケルグレンローレンス分類のグレードは、膝関 節のレントゲン写真に基づいて評価することができる。
【0066】
変形性関節症の重症度分類には、ケルグレンローレンス分類が広く用いられている。以下はその元の説明である。
グレード0(なし):変形性関節症のX線変化が全くない。
グレード1(疑いあり):関節腔の狭小化が疑われ、骨棘がある可能性がある。
グレード2(最小):前方体重負荷X線写真において明白な骨棘が見られ関節腔の狭小化の可能性がある。
グレード3(中度):骨棘が中程度に多く、関節腔の狭小化が明白で、骨端において若干の硬化が見られ変形の可能性がある。
グレード4(重度):骨棘が大きく、関節腔が著しく狭まっていて、骨端における硬化が激しく、変形が明らかである。
【0067】
変形性関節症は、グレード2から重症度はまだ低いものの存在するとみなされる。この分類は1957年にケルグレンとローレンス(Kellgren & Lawrence)によって提案され、その後1961年に世界保健機関(WHO)によって疫学研究のための変形性関節症の放射線学的定義として採用された。
【0068】
ここで有効性とは、疾患に対して好ましい臨床反応を誘導するIACSの能力を意味する。また、有効性とは、不安定性や身体的障害につながる関節痛、圧痛、一過性の朝のこわばり、関節運動時のクレピタス音などの臨床的徴候の軽減を指す。一実施形態では、IACSの有効性は、WOMAC OA指数、VASスコアなどによって決定される。実施形態によっては、本明細書に記載の医薬組成物からのIACSの持続的な定常放出は、例えば軟骨細胞のアポトーシス、プロテオグリカンの損失、関節軟骨のシスト、関節軟骨の劣化または関節破壊などの関節軟骨の損傷または破壊といった副作用を誘発しない。本明細書に記載の対象における副作用の減少は、本明細書に記載の医薬組成物を用いて配合されていない、例えば、脂質混合物を含まないIACSを注射した対象と比較して、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の範囲であり得る。
【0069】
本明細書で提供される医薬組成物は、様々な付加的な化学物質のいずれかと組み合わせて使用することができ、これらに限定されないが例えば鎮痛剤(例としてブピバカイン、ロピバカイン、リドカイン)またはヒアルロン酸製剤(例としてSynvisc One)と組み合わせて使用することができる。実施形態によっては、本願請求項に記載の医薬組成物および付加的な化学物質は、単一の治療用組成物となるよう製剤され、本願請求項に記載の医薬組成物および付加的な化学物質が同時に投与される。また別の態様として、本願請求項に記載の医薬組成物および付加的な化学物質は、互いに分離されており、例えば、それぞれが別の治療用組成物に製剤され、本願請求項に記載の医薬組成物および付加的な化学物質が、単回投与または複数回投与にて、同じ経路または異なる経路で、治療計画中に同時に、または異なる時間に投与される。
【0070】
以下では具体的かつ非限定的な例を参照して本開示をさらに説明する。
【0071】
実施例
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態の調製および特性を例示する。
【0072】
実施例1.脂質混合物の調製
DOPC、DOPG、およびコレステロールを含む脂質を、モル%で56.25~72.5:7.5~18.75:10~33、例えば67.5:7.5:25の割合で配合し、フラスコ内で約40℃の99.9%エタノールに溶解して脂質溶液を形成した。脂質の溶解には、卓上型超音波浴を用いた。
【0073】
溶解した脂質溶液を、蠕動ポンプにより100mL/分で1.0mMリン酸ナトリウム溶液に添加し、プロリポソーム懸濁液を形成した。次に、このプロリポソーム懸濁液を、孔径0.2μmのポリカーボネートメンブレンに6~10回通した。これによりリポソームの平均小胞径が約120nm~140nmであるリポソーム混合物が得られた(英国ウスターシャーにあるマルバーン社(Malvern Instruments Ltd)によるMalvern ZetaSizer Nano ZS-90で測定)。
【0074】
リポソーム混合物を、ミリポアペリコン2ミニ限外ろ過モジュールバイオマックス―100C(Millipore Pellicon 2 Mini Ultrafiltration Module Biomax-100C) (0.1m)(米国マサチューセッツ州ビレリカにあるミリポア社(Millipore Corporation)による製造)を備えたタンジェンシャルフローろ過システムにより透析および濃縮を行い、その後0.2μmの滅菌フィルターを用いて滅菌した。
【0075】
ろ過したリポソーム混合物の脂質濃度をリン酸測定で定量し、ろ過したリポソーム混合物にマンニトールを2%の濃度で配合した後、0.2μmの減菌フィルターを用いて再度滅菌した。滅菌されたリポソーム混合物を凍結乾燥し、ケーキ形態の脂質混合物を得た。
【0076】
実施例2.医薬組成物の調製
本開示による医薬組成物は、実施例1に記載された脂質混合物を、DSP溶液と混合することによって調製されたものであり、このDSP溶液は、13.2mg/mLのデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)(C2228FNaP、分子量516.41g/L)および4mg/mLのクエン酸ナトリウムを本開示で用いる医薬組成物として含むDSP溶液であり、これにより医薬組成物1mLあたりのDSPおよびリン脂質の含量は、それぞれ約12.0mg/mLおよび90μmol~100μmolとなった。
【0077】
実施例3.変形性膝関節症患者におけるデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)医薬組成物の有効性および安全性に関するランダムオープンラベル試験
DSP医薬組成物は、上述の方法で調製されたものである。
主要治療対象分析のフェーズII二重盲検ランダム化プラセボ対照多施設臨床試験(ClinicalTrials.gov ID: NCT03005873)において、12mgのDSPを含むDSP医薬組成物の単回関節内投与(以下、TLC599 12mgと表記) は、変形性膝関節症の痛みを有する患者において、プラセボと比較して有意かつ持続的な痛みの軽減と機能の改善を24週間にわたって示した。この有効性反応の確実性を調べるために、治療意図集団の事前に指定されたサブグループにおけるベースラインからの痛みの変化を分析した。
【0078】
方法:上記フェーズIIの試験では、米国リウマチ協会が定める変形性膝関節症の基準を満たし、ケルグレンローレンス分類においてグレード2または3であり、指標膝における視覚的アナログスケール(Visual Analog Scale、VAS)の疼痛スコアが(1~10段階のうちの)5~9である被験者を対象とした。患者は1:1:1の割合でランダム化され、それぞれDSP12mgまたはDSP18mgのTLC599、あるいは生理食塩水のプラセボが投与された。ランダム化は、非指標膝のVAS疼痛スコア>3という定義による両膝痛の有無で割り付けされた。主要評価項目は、WOMAC指数疼痛サブスケール(Western Ontario and McMaster Universities Index pain subscale、略称WOMAC疼痛)で、0~4段階で標準化されている。ベースラインからの最小二乗平均変化(LS平均変化)は、被験者内相関のための無構造共分散行列を用いた制限付き最尤推定による混合効果モデル反復測定(MMRM)分析を用いて推定し、これには、治療や来院の要因、固定要因であるベースライン値、ランダム要因である施設、交互作用である来院治療を含む。サブグループ分析では、統計学的分析プランに定められた層別およびベースライン因子を用い、これには、カテゴリカル変数として、性別、年齢別(50~65歳または65歳より上)、ケルグレンローレンス分類別(グレード2またはグレード3)、片側または両側膝痛、ベースラインVAS疼痛スコア(7未満または7以上)、ベースラインWOMAC疼痛スコア(1.2未満または1.2以上)といった因子が含まれる。
【0079】
【表1】
【0080】
TLC599 12mg群とプラセボ群について、サブグループのカテゴリーを含む層別特性およびベースライン特性を表1にまとめた。要因は各群間で概ね同じであり、TLC599 12mg群はプラセボ群と比較して、男性患者が多く(42%対28%)、ケルグレンローレンス分類グレード2の患者も多い(50%対36%)。盲検化治療を受けた患者のうち、TLC599 12mg群では26人中25人(96%)が、プラセボ群では25人中22人(88%)が試験を完了した。図1は、WOMAC疼痛(0~4段階)全体におけるベースラインからの変化を示す。図2は、性別、年齢別の重症度ごとのサブグループの変化を、図3は、ケルグレンローレンス分類別、両膝痛の状態別の重症度ごとのサブグループの変化を示している。また、ベースラインVASとベースラインWOMAC疼痛による疾患重症度サブグループの変化を図4に示す。全体として、第1週から両治療法において痛みの平均的な減少が認められ、群間の有意差は第24週まで維持された。VASまたはWOMAC疼痛のベースラインの痛みのスコアが高い患者ほど痛みの軽減が大きかった。
【0081】
有効性のパターンは全体群で見られたが、TLC599 12mg群は、第1週から第24週まで、プラセボ群よりも大きな痛みの軽減を示し、その効果はサブグループ間で顕著に一貫していた。ベースラインでの性別とケルグレンローレンス分類グレードの若干の不均衡は、各サブグループで同様の傾向が観察されたため、結果に影響を与えないものと見受けられる。TLC599 12mgの有効性を比較するに当たって、米国リウマチ協会膝関節疾患評価基準とケルグレンローレンス(K-L)分類グレード(グレード2およびグレード3)、男女、年齢(55~65歳および65歳より上)、疼痛(片側性および両側性)で層別化し比較したところ、数週間、特に第12週において有効性に差が認められた。その結果を以下の表2に示す。
【0082】
【表2】
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
【国際調査報告】