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特表2023-537527有機金属触媒前駆体を含有する尿素水溶液の安定化
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  • 特表-有機金属触媒前駆体を含有する尿素水溶液の安定化 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-01
(54)【発明の名称】有機金属触媒前駆体を含有する尿素水溶液の安定化
(51)【国際特許分類】
   F01N 11/00 20060101AFI20230825BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230825BHJP
   F01N 9/00 20060101ALI20230825BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
F01N11/00
F01N3/08 B
F01N9/00
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 400
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509491
(86)(22)【出願日】2020-08-10
(85)【翻訳文提出日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 US2020070392
(87)【国際公開番号】W WO2022035459
(87)【国際公開日】2022-02-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500553730
【氏名又は名称】サウスウエスト リサーチ インスティテュート
【住所又は居所原語表記】6220 CULEBRA ROAD SAN ANT ONIO,TEXAS 78238 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ハートレー,ライアン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー,キャリー エー.
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA18
3G091AB04
3G091BA07
3G091BA14
3G091CA17
3G091DC03
4D148AA06
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AC03
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA41Y
4D148CC32
4D148CC47
4D148CC61
4D148DA01
4D148DA02
4D148DA03
4D148DA20
(57)【要約】
本発明は、有機金属触媒前駆体を含有する尿素水溶液の安定化に関する。安定化は、溶液pHを監視及び制御することによって達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル排出流体のpHレベルを制御する方法であって、
(a)水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含有するディーゼル排出流体リザーバであって、前記溶液のpHを監視するためのpHプローブを含むリザーバを提供することと、
(b)前記pHを10.0以下の値に制御することと
を含む方法。
【請求項2】
前記pHが7.0~10.0の範囲の値に制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHが、COを含む排ガスを前記リザーバに導入することによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記pHが、空気を前記リザーバに導入することによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記pHが、NOxを前記リザーバに導入することによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性有機金属前駆体が、0.1wt.%~25.0wt.%のレベルで前記水性尿素溶液に溶解する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性有機金属前駆体が、酸化チタン触媒に変換される有機チタン化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化チタンが、前記ディーゼル排出流体中0.01wt.%~1.0wt.%の濃度で形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶性有機チタン化合物が酢酸チタン(IV)を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶性有機チタン化合物がチタン(IV)ビス(アンモニウムラクタト)ジヒドロキシドを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性有機チタン化合物がシュウ酸チタン(III)を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶性有機チタン化合物がシュウ酸チタニルアンモニウムを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶性有機チタン化合物がチタンオキシアセチルアセトナートを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記ディーゼル排出流体が二酸化ジルコニウムも含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ディーゼル排出流体のpHレベルを制御する方法であって、
(a)水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含むディーゼル排出流体リザーバであって、前記溶液のpHを監視するためのpHプローブを含むリザーバを提供することと、
(b)以下のpH調整手順:
(i)COを含む排ガスを前記リザーバに導入すること;
(ii)空気を前記リザーバに導入すること;
(iii)NOxを前記リザーバに導入すること
のうちの少なくとも2つを選択及び実行することによって、前記pHを10.0以下の値に制御することと
を含む方法。
【請求項16】
前記pHが7.0~10.0の範囲の値に制御される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含有するためのディーゼル排出流体リザーバであって、前記溶液のpHを監視するためのpHプローブを含むリザーバと、
以下の:
(i)COを含む排ガスを前記リザーバに導入すること;
(ii)空気を前記リザーバに導入すること;又は
(iii)NOxを前記リザーバに導入すること
のうちの少なくとも1つを選択及び実行することによって、前記pHを10.0以下のレベルに制御するように構成された、前記pHを監視するコントローラと
を含むディーゼル排出流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、有機金属触媒前駆体を含有する尿素水溶液の安定化に関する。安定化は、溶液pHを監視及び制御することによって達成することができる。
【背景技術】
【0002】
自動車及びトラックにおいて見られるような内燃エンジンは燃焼副生成物及び/又は不完全燃焼生成物を生じる可能性があり、これらは、エンジン排気中に存在し、環境に排出され得る。排出規制により、このような生成物の濃度を低下させるために排気は処理され、したがって、汚染が低減され得る。火花点火(すなわち、ガソリン)エンジンは、排出規制を満たすために三元触媒コンバータを使用し得るが、圧縮点火(すなわち、ディーゼル)エンジンは通常二元触媒コンバータを使用し、窒素酸化物(NOx)を効率的に削減することができない。したがって、ディーゼルエンジンは、窒素酸化物濃度の低下を探求するために選択触媒還元(SCR)システムを含み得る。このようなシステムの性能の改善は、依然として進行中の研究開発分野である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、ディーゼル排出流体リザーバのpHレベルを制御する方法に関する。リザーバは、水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含有し、ここで、リザーバは、溶液のpHを監視するためのpHプローブを含む。pHは、10.0以下の値に制御される。
【0004】
関連実施形態では、本発明はさらに、水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含むディーゼル排出物のpHレベルを制御する方法に関し、ここで、リザーバは、前記溶液のpHを監視するためのpHプローブを含む。pHは、以下のpH調整手順のうちの少なくとも1つ又は複数を選択及び実行することによって、10.0以下の値に制御される:(i)COを含む排ガスを前記リザーバに導入すること;(ii)空気を前記リザーバに導入すること;又は(iii)NOxを前記リザーバに導入すること。
【0005】
またさらなる関連実施形態では、本発明は、水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含有するためのディーゼル排出流体リザーバを含むディーゼル排出流体装置に関し、ここで、リザーバは、前記溶液のpHを監視するためのpHプローブを含む。以下のうちの少なくとも1つを選択及び実行することによって、pHを監視し、pHを10.0以下のレベルに制御するように構成されたコントローラが提供される:(i)COを含む排ガスをリザーバに導入すること;(ii)空気をリザーバに導入すること;又は(iii)NOxを前記リザーバに導入すること。
【0006】
本開示の種々の態様及び利点は、添付図面と共に以下の詳細な説明を参照することにより、より良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】排ガス後処理システムに排ガスを放出するディーゼルエンジンの概要をブロック図形式で説明する。
図2】SCRシステムの排ガス環境において、ありうる尿素の反応を説明する。
図3A】堆積物の形成に関して、0.1mol%のATOの尿素水溶液への添加の効果を説明する。
図3B】堆積物の形成に関して、0.05mol%のATOの尿素水溶液への添加の効果を説明する。
図3C】堆積物の形成に関して、ATOを添加しないときの尿素水溶液の効果を説明する。
図4】熱重量分析(TGA)により評価される、尿素水溶液へのATOの添加の効果を説明する。
図5】排ガスを放出するディーゼルエンジンの概要と、ディーゼル排出流体リザーバのpHを調節するためのpH制御の使用とをブロック図で説明する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
尿素は、ディーゼルエンジンからのNOx排出量を削減するために、SCRシステムにおいてアンモニア(NH)還元剤の便利な供給源として使用される。したがって、尿素(HNCONH)は、好ましくはSCR触媒の上流で排ガスへの噴霧として導入されるディーゼル排出流体(DEF)と呼ばれるものの成分である。DEFは蒸発し、尿素は熱分解してNH及びHNCO(イソシアン酸)になり、続いてHNCOの加水分解により、COと共に付加的な量のNHが生じる:
【化1】
【0009】
上記で形成されたアンモニアは次に、選択触媒還元(SCR)において還元剤として利用され、NOxを窒素及び水に還元することができる。このような反応は以下を含む:
4NH + 4NO + O → 4N + 6H
2NH + NO + NO → 2N + 3H
8NH + 6NO → 7N + 12H
【0010】
しかしながら、尿素は、固体尿素として、又は尿素及びイソシアン酸の堆積混合物として、排気システムの壁及び/又はSCR触媒に堆積することが観察される。時間と共に、比較的熱い排ガスの存在下で、このような堆積物(尿素及びイソシアン酸)が様々な比較的高分子量の化合物に変換される二次反応が起こり得る。このような高分子量化合物の堆積物には、以下のうちの1以上が含まれ得る:
【0011】
【表1】
【0012】
【表2】
【0013】
堆積物が形成されると、堆積物は、排ガスの流れを低下させることにより、及び/又はNOxガス濃度を低下させるのに効率的なアンモニアとの反応から、SCR触媒の効率を低下させることにより、排ガス処理の効率を低下させるよう働く。加えて、例えば193℃~700℃の範囲の高温への加熱は、上記で特定される比較的高分子量の堆積物、及びポリマータイプの堆積物を分解するのに役立つことがあるが、これにより、システムがある程度複雑になり、他の関連する問題がおこる可能性があることが認識され得る。
【0014】
図1に目を向けると、排ガス後処理システム12に排ガスを放出するディーゼルエンジンなどの圧縮点火エンジン10の概要がブロック図形式で示されており、排ガス後処理システム12はディーゼル酸化触媒(DOC)チャンバ14を含んでもよく、これはディーゼル微粒子フィルタ(DPF)16に接続し、そしてこれは選択触媒還元(SCR)システム20にフィードする。DOC14は、以下の一般的な反応に従って、NOをNOに変換し、炭化水素(HC)を除去する働きをすることができる:
2NO + O → 2NO
2CO + O → 2CO
4HC + 5O → 4CO + 2H
【0015】
ディーゼル排出流体(DEF)インジェクタ及びリザーバが18で提供され、これは、このときは触媒前駆体も含有する水性尿素溶液を収容する。好ましくは、使用される尿素ベースの水溶液(aqueous urea based solution)は、通常、30.0wt.%~40.0wt.%の尿素、好ましくは32.5wt.%の尿素を有するものを含む。
【0016】
本明細書における触媒前駆体は、好ましくは、尿素水溶液中で必要量の溶解性を有し、そして尿素をアンモニアに変換するために必要とされる温度と同様の温度で分解することができるものである。好ましくは、触媒前駆体の分解のための温度範囲は45℃~180℃であり、より好ましくは75℃~125℃の範囲である。このような触媒前駆体は、排ガス後処理システム内でこのような温度で分解すると、以下のうちの1以上を達成する働きをする目的の触媒を与えるように作用する:(1)イソシアン酸を加水分解させて、SCRを補助するアンモニアを形成すること;(2)さもなければイソシアン酸から形成され得る比較的高分子量の堆積物の蓄積を低減及び/又は排除すること;並びに(3)SCRシステム20などの排ガス後処理システム内で見られる比較的高分子量の堆積化合物(例えば、ビウレット、トリウレット、シアヌル酸、アンメリド、アンメリン、及び/又はメラミン)を分解すること。この分解は、その熱分解(例えば、パイロリシス)及び除去のために通常必要とされる温度よりも低い温度で起こることが企図される。
【0017】
本明細書における触媒前駆体は、好ましくは、分解すると上記の触媒活性を提供し得る水溶性有機金属化合物を含む。好ましくは、このような有機金属化合物には、水溶性であると共に117℃の沸点を有し、したがって、ディーゼル排出流体の一部として使用するのに適している、酢酸チタン(IV)(C12Ti)などの酢酸チタンが含まれる。加熱すると(高温排ガスへの曝露)、酢酸チタン(IV)は分解して、触媒の酸化チタンを提供することになり、これは、以下の一般的な反応に従って進行し得る:
12Ti + 8O → TiO + 8CO + 6H
【0018】
したがって、目的の触媒としての酸化チタン(TiO)は、ここで、比較的高分子量の堆積物の蓄積を低減及び/又は排除するために、存在するイソシアン酸をアンモニアに加水分解することにより、好都合にも、排ガス処理を改善する働きをし得る。加えて、前述のように、TiOは、存在し得るあらゆる比較的高分子量の堆積物を分解させることができ、熱分解(パイロリシス)に通常使用されるよりも比較的低い温度で、このような分解をさせることができる。
【0019】
DEF中に混合され得る他の水溶性有機金属は、別の水溶性チタン錯体であるチタン(IV)ビス(アンモニウムラクタト)ジヒドロキシド(C18Ti)を含むことが企図され、これは、50wt.%水溶液(Sigma-Aldrich)で入手可能であり、引火点は27℃である。したがって、排ガス中で高温にさらされると、以下のことにより、目的の二酸化チタン触媒の形成が説明される:
[CHCH(O-)CONHTi(OH)+6O→TiO+6CO+6HO+2NH
【0020】
別の候補の触媒前駆体は、シュウ酸チタン(III)十水和物(Ti(C-10HO)を含むことが企図される。したがって、好ましくは、触媒前駆体は、それにより酢酸チタン(IV)、Ti(IV)ビス(アンモニウムラクタト)ジヒドロキシド又はシュウ酸チタン(III)の1以上を含み得ることが認識され得る。したがって、このような水溶性有機金属触媒前駆体の混合物が使用されてもよい。
【0021】
他の好ましい触媒前駆体は、以下の構造を有するシュウ酸チタニルアンモニウム(ATO)、CTiを含むことが企図される:
【化2】
【0022】
よりさらに好ましい前駆体には、以下の構造を有するチタンオキシアセチルアセトナート、C1014Tiが含まれる:
【化3】
【0023】
よりさらに好ましい前駆体には、二酸化ジルコニア(zirconia dioxide)(ZrO)などのZr4+化合物が含まれる。上記に開示されるTiOと同様に、ZrOは、存在するイソシアン酸をアンモニアに加水分解することにより、同様に排ガス処理を改善する働きをし得ることが企図される:
【化4】
【0024】
したがって、分解してTiOを形成する上記の有機金属化合物などの水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含有する所与の尿素水溶液に関して、ZrOなどのZr4+タイプの化合物が含まれ得ることが本明細書において企図される。ここで認識され得るように、排気システムの壁又はSCR触媒上にイソシアン酸堆積物が形成される場合、ZrOは、付加的に、このような堆積物を低減し、SCR性能を改善する働きをすることができる。
【0025】
したがって、本開示の広い文脈において、有機金属化合物は、好ましくは、前述のように、水における溶解性を有する有機チタン化合物から選択され、ここで、溶解性は、好ましくは、触媒前駆体としての有機チタン化合物を排ガス中で分解させ、そして存在するイソシアン酸をアンモニアに加水分解するのに十分な量の触媒(TiO)を与えるのに、十分なレベルである。有機金属化合物触媒前駆体の水における水溶性は、0.1wt.%~25.0wt.%、より好ましくは0.1wt.%~10.0wt.%、及び0.1wt.%~5.0wt.%の範囲のレベルであることが企図される。溶解性は、-11℃(32.5%の尿素水溶液の凝固点)と50℃の間の温度範囲で保持されることが企図されるようなものである。
【0026】
さらに、水溶性有機金属前駆体から誘導される触媒の量は、好ましくは排ガス後処理システム12において、導入された尿素水溶液を含むDEF中に0.01wt%~1.0wt%のレベルで形成されることが企図される。したがって、好ましくは、排ガス後処理システムにおける送り出し及び酸化チタンへの分解の際に、注入されたDEF中の酸化チタンのレベルが0.01wt.%~1.0wt.%の範囲であるような量の、例えば、尿素水溶液中の酢酸チタン(IV)(C12Ti)前駆体が使用され得る。さらに、上記で示唆されるように、任意に、イソシアン酸堆積物を低減する能力を高めるために尿素水溶液中にZrOを含ませることができる。したがって、尿素水溶液中のZrOのレベルは同様に、それ自体で又は有機金属前駆体触媒と組み合わせて、0.01wt%~1.0wt.%の範囲であることが企図される。
【0027】
次に図2に目を向けると、本明細書中の開示の別の有用な概要がここに提供されている。図示されるように、DEF(尿素水溶液)は、排ガス(約100℃)からの熱にさらされると分解して、イソシアン酸と、SCRシステムへフィードするのに望ましいアンモニアとの両方を提供し得る。イソシアン酸は、望ましくない反応経路として広く特定されている経路により、ビウレット、シアヌル酸、アンメリド、アンメリン、メラミン、並びに他の高分子及びポリマータイプの化合物のうちの1以上を含有する比較的高分子量の化合物の堆積物に変換される傾向にある。このような化合物は、NOxのレベルを低下させるためのSCRシステムの効率を損なうこととなる。
【0028】
したがって、本明細書における触媒前駆体をDEF内に配置することにより、図2に示されるように、触媒前駆体は、排ガス、及び好ましくは約100℃~300℃の範囲の温度にさらされたときに、触媒前駆体(可溶性有機金属化合物)が触媒(例えば、酸化チタン)に変換されるようなものであり、触媒は、イソシアン酸(HNCO)から比較的高分子量の堆積物への変換を低減又は排除する。代わりに、図示されるように、イソシアン酸は、SCRプロセスのための付加的な量のアンモニアに変換される。堆積物の形成は、185℃~250℃の範囲の温度で特に顕著であり得ることに注意すべきである。したがって、185℃~250℃の温度範囲で起こる付着物の形成を低減するために本明細書における触媒前駆体を使用することは、特に有利である。
【0029】
加えて、本明細書における触媒前駆体は、ビウレット、シアヌル酸、アンメリド、アンメリン及びメラミンを含む堆積物を形成する比較的高分子量の化合物の比較的低温での分解を促進する働きをすることができ、このような分解は、ここでは130℃~300℃の温度範囲で起こり得る。
【0030】
次に図3を参照すると、識別画像「A」、「B」及び「C」において、ATOの尿素水溶液への添加が堆積物の形成にどのように影響を与え得るかが示されている。図3の画像「A」は、0.1mol%(1.74gのATO/1リットルのUWS)の最高濃度のATOを有する。図3の画像「B」は、0.05mol%(0.87gのATO/1リットルのUWS)の濃度のATOを有する。図3の画像「C」は、ATOが添加されないUWSである。UWS中に取り込まれるATOの濃度を増大させると、結果として、形成される堆積物の量が低下することが明らかである。
【0031】
次に図4を参照すると、フーリエ変換赤外(FTIR)分光光度計と関連付けた熱重量分析(TGA)の使用が特定されている。凍結乾燥(フリーズドライ)により特定濃度のATOを尿素と共に取り込むことによって、サンプルを調製した。次にサンプルにTGAを行い、IR分光法を用いて発生したガスを分析した。図4は、3つのサンプル:純粋な尿素、尿素中0.5mol%のATO、及び尿素中2.0mol%のATOからのTGAデータを重ね合わせて示す。プロットに示されるグラムシュミット値は、サンプルから最大量のガスが発生したときの温度の表示である。一般的な傾向として、サンプル中のATOの濃度が増大するにつれて、最大オフガス(off-gassing)事象はより低温で発生した。グラムシュミット最大値の温度の低下は、以下の反応で示されるように、ATOが尿素の全分解を触媒することを示す:
CO(NH + HO → 2NH + CO
【0032】
本明細書における触媒前駆体の使用が堆積物を低減することをさらに確認するために、添加試験評価を実行した。2つの条件を考慮した。条件1は、比較的低温における中程度のデューティサイクルの注入で構成した。より具体的には、1.0時間の間に、DEFインジェクタのデューティサイクル13.1%、目的のガス温度215℃、エンジン速度1375rpm、排気流量670kg/hrであった。条件2は、高温における高デューティサイクルの注入で構成した。いずれの場合も、1.0時間後に排気パイプを分解し、堆積物を採取して秤量した。
【0033】
条件1では、DEF、すなわち尿素水溶液を利用して、1.0時間の運転後に、ミキサー領域から0.4gの堆積物が回収され、エルボ領域から4.2gが回収され、堆積物の総量は4.6gであった。対照的に、同じ尿素水溶液中に0.2mol.%のATOを使用する場合、ミキサー領域から0.2gの堆積物だけが回収され、エルボ領域から0.7gの堆積物だけが回収され、回収された堆積物の総質量は0.9gであった。したがって理解できるように、ATO触媒前駆体の非存在下では、堆積物の質量が411%増大した(0.9g対4.6g)。条件2では、再度尿素水溶液を利用して、1.0時間の運転後に、ミキサー領域から6.4gの堆積物が回収された。対照的に、同じ尿素水溶液中に0.2mol.%のATOを使用する場合、ミキサー領域から3.5gの堆積物が回収されただけである。したがって認識できるように、ATO触媒前駆体の非存在下では、堆積物の質量が45%増大した(6.4g対3.5g)。
【0034】
したがって、本明細書における触媒前駆体の上述の使用の顕著な利益のいくつかには、それにより、比較的低い排気温度(例えば、185℃~250℃)におけるDEF注入を可能にすることにより、ここで排出を改善する能力が含まれ、そして、SCRシステムの効率を損なう堆積物の形成を低減する。言い換えると、本明細書における触媒前駆体は、SCR触媒を備えた車両における低温始動排出量の削減を提供することになる。加えて、本明細書に記載される堆積物形成の低減は、システムの背圧を低下させることが企図されるようなものである。システムの背圧は、次に、燃料消費の増大をもたらす。したがって、堆積物を低減することにより、車両の燃料消費が削減されることになる。加えて、堆積物を低減することにより、堆積物を破壊及び除去するための高温再生期間の要求を低減又は回避することができる。さらに、本明細書において特定される高分子量堆積物は、排気パイプに利用される金属と接触したときに腐食作用を有する傾向があるようなものである。したがって、このような堆積物の低減又は除去は、金属排気システムの寿命を延ばし、その構造的完全性の損失を低減又は排除することが企図される。
【0035】
上記の全てからここで認識されるように、水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含有する水性尿素溶液の注入は、堆積物を低減するために有効な方法である。しかしながら、有機金属触媒前駆体の安定性は、前駆体を含有する水性尿素溶液のpHの変動により問題になり得ることも観察された。水性尿素溶液の温度が上昇すると、溶解したアンモニウム及び水酸化物イオンの濃度の増大のために、溶液のアルカリ度も上昇する。このpHの変化は、有機金属化合物を溶液から沈殿させ、その有効性を低下させ得る。したがって、有機金属触媒前駆体を含有する水性尿素溶液のpHを監視し、適切なpHウィンドウ内に保持することが好ましいことがここで認められた。より具体的には、有機金属触媒前駆体を含有する水性尿素溶液のpHを監視し、10.0未満であるか又はそれに等しい(すなわち、10.0以下)のpH、より好ましい実施形態では、7.0~10.0の範囲のpHに保持することが好ましい。
【0036】
図5に目を向けて、排気管の排気は、6.0体積%~16.0体積%のレベルで存在し得る二酸化炭素(CO)排出物を含むことが示される。したがって、図5に示されるように、そして経路22で概略的に示されるように、COを含有する排ガスの一部を、有機金属触媒前駆体を含有する水性尿素溶液に再循環させることができることが企図される。次に以下が起こり、炭酸を形成することができる:
CO + HO → HCO
【0037】
COの導入、及びその後の炭酸(HCO)の形成の結果として、リザーバ18に含有される有機金属前駆体を含有する水性尿素溶液のアルカリ度(さもなければ、温度上昇のために上昇する傾向のあり得る)は、pHを10.0以下の値に保持することができ、特に7.0~10.0の範囲に保持するように調節することができる。したがって、24で概略的に示されるように、有機金属前駆体を含有する水性尿素溶液中に、フィードバックを有するイオン選択電極又はpHプローブなどのpHインジケータを配置することも好ましい。加えて、より好ましい配置では、排気管の排気経路22は、排気管排出物をろ過し、排気管排出物からCOだけを通過させるためのCO膜フィルタ26を含み得る。このような膜は、好ましくは、米国特許第8,454,732号に記載されるCO膜を含み得る。したがって、イオン選択電極又はpHインジケータ24を監視することにより、COの量を選択的に制御して、有機金属前駆体を含有する水性尿素溶液のpHを、本明細書で言及される所望のレベルに保持できることが認識され得る。
【0038】
さらに、図示されるように、リザーバ18には、空気取入口28を設けることができる。したがって、比較的高濃度のCOと、その後の炭酸形成とのために、有機金属前駆体を含有する尿素水溶液が酸性(例えば、7.0未満のpHになれば、空気を導入することができ、これは、リザーバ18内のCO濃度を低下させ、したがって、酸性pHが最低限にされるか又は回避され得ることも企図される。したがって、pHプローブ24をそれにより再度監視することが可能であり、水性尿素溶液及び有機金属触媒前駆体を含有するリザーバのpHが酸性になるか、又は容認できない速度でpHが低下し始める場合には、空気を導入して、このようなpH変化を減衰又は防止することができる。
【0039】
さらに、DOCチャンバ14内では、NOがNOに変換されており、したがって、チャンバ14のすぐ上流の排気の一部は、経路30を介して、尿素水溶液及び有機金属前駆体を含有するリザーバ18へ送られ得る。NOx(NO及び/又はNO)の導入により、水中で加水分解され、硝酸(HNO)及び/又は亜硝酸(HNO)が形成され得る。このような酸のチャンバ18への導入は、本明細書に記載されるように、それにより再度、酸性度を提供し、温度上昇のために10.0よりも高いpH値を達成することから、尿素水溶液及び有機金属触媒前駆体のpHを制御する働きをすることになる。
【0040】
上記のことから、水溶性有機金属化合物を含む触媒前駆体を含む水性尿素溶液を含むディーゼル排出流体リザーバのpHレベルの制御は、以下のpH調整手順のうちの1つ又は複数を実行することによって達成され得ることが、ここで認識されるはずである:(1)COを含む排ガスをリザーバに導入すること;(2)空気をリザーバに導入すること;及び/又は(3)NOx(NO及び/又はNO)を導入すること。好ましくは、それにより、これらのpH調整手順のうちの1つ、2つ又は3つ全てを選択及び実行することができる。このような制御は、リザーバ18のpHを監視し、pH示度を受信し、上記で特定されるpH調整手順のうちの1つ又は複数を選択して、10.0以下の値のpH、好ましくは言及されるように7.0~10.0の範囲内のpHを保持するようにプログラムされたコンピュータ処理装置によって実行され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】