(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-01
(54)【発明の名称】電気伝導性のためにコーティングするための方法およびコーティングを有する部品
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230825BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230825BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C23C28/00 A
B32B15/08 A
B32B27/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509504
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(85)【翻訳文提出日】2023-04-04
(86)【国際出願番号】 US2021044232
(87)【国際公開番号】W WO2022035634
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508353064
【氏名又は名称】ハイ-シアー コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】513128349
【氏名又は名称】リシー・エアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ファム, ハイカイン ダオ
(72)【発明者】
【氏名】ブールジュ, ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン, ジョアン
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB10A
4F100AB12A
4F100AB16B
4F100AB16C
4F100AB31A
4F100AK01C
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4F100BA10A
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4F100YY00C
4K044AA06
4K044AB05
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4K044BB03
4K044BC01
4K044BC02
4K044BC14
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
卑金属およびその上のコーティング系(500)から作製された金属部品(112)は、コーティング系が、卑金属上の導電層(502)、および導電層上の導電性顔料(508)を含む樹脂ベース層(504)を含むことを特徴とする。導電性顔料(508)は、樹脂において電気伝導性の3D網目構造を形成し、その網目構造は、樹脂に無秩序に分布している。卑金属上のニッケルフラッシュ、およびニッケルフラッシュ上のニッケル繊維を含むフェノール樹脂ベースのコーティングのコーティング系を有する航空宇宙用締結具も提供される。さらに、金属部品をコーティングするための方法が開示される。コーティング系(500)は、航空宇宙用締結具、例えばピン、ボルト、カラー、ナットおよびナットプレート、ならびにワッシャー、ならびにスタッド、ラッチ、ヘリコプターローター、および降着装置構造を含めた金属部品に施与することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属およびその上のコーティング系を含む金属部品であって、前記コーティング系が、
前記卑金属上の導電層、および
前記導電層上の樹脂ベース層
を含み、前記樹脂ベース層が、前記樹脂ベース層において電気伝導性の3D網目構造を形成する導電性顔料を含み、このような網目構造が、前記樹脂ベース層に無秩序に分布している、
金属部品。
【請求項2】
前記コーティング系が、前記金属部品の前記卑金属の一部だけに施与される、請求項1に記載の金属部品。
【請求項3】
さらなる潤滑層を含む、請求項1または請求項2に記載の金属部品。
【請求項4】
前記卑金属が、Ti-6Al-4V、A286、およびニッケル-クロムベースの超合金からなる群から選択される、前述の請求項1~3のいずれかに記載の金属部品。
【請求項5】
締結具である、前述の請求項1~4のいずれかに記載の金属部品。
【請求項6】
前記導電層が、ニッケルフラッシュ層である、前述の請求項1~5のいずれかに記載の金属部品。
【請求項7】
前記樹脂ベース層の前記導電性顔料が、ニッケル繊維を含み、前記樹脂ベース層が、フェノール樹脂を含む、前述の請求項1~6のいずれかに記載の金属部品。
【請求項8】
前記ニッケル繊維が、約1.4μm~約88μmの範囲内の長さおよび約0.5μm~約10μmの範囲内の直径を有する、請求項7に記載の金属部品。
【請求項9】
前記樹脂ベース層が、約10wt%~35wt%未満の範囲内の濃度の前記ニッケル繊維を有する、請求項7に記載の金属部品。
【請求項10】
前記コーティング系が、約5μm~約20μmの範囲内の全厚さを有し、前記導電層が、3μm未満かまたはそれに等しい厚さを有し、前記樹脂ベース層が、残部を構成する厚さを有する、前述の請求項1~9のいずれかに記載の金属部品。
【請求項11】
卑金属を含む金属部品をコーティングするための方法であって、
前記金属部品を用意するステップと、
前記金属部品の表面上に導電層を堆積させるステップと、
樹脂に分散させられた電気伝導性顔料を含む液体混合物を、前記導電層上に堆積させるステップと、
前記液体混合物を乾燥させて、樹脂ベース層を形成し、その結果、前記導電性顔料が、前記樹脂ベース層において電気伝導性の3D網目構造を形成し、このような網目構造が、前記樹脂ベース層に無秩序に分布するようにするステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記導電層が、前記金属部品の表面上に堆積させられたニッケルフラッシュである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ニッケルフラッシュが、前記金属部品の表面上に電着させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記液体混合物が、噴霧によって前記導電層上に堆積させられる、前述の請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記顔料が、ニッケル繊維であり、前記液体混合物におけるニッケル繊維の濃度が、約5wt%~15wt%未満の範囲内である、前述の請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低摩擦係数を提供し、高干渉のアセンブリにおいて役立ち、電気的接地および電気的結合用途における電気伝導性を促進すると同時に、複合材料および/または金属の継手における異種金属接触(galvanic)腐食からの保護、塗料接着性を提供し、化学物質および流体に耐える、航空宇宙部品、例えば締結具および他の部品のための表面処理に関する。
【0002】
コーティングは、いくつかの異なる卑金属および金属の組合せの上に使用するために適用できる。コーティングは、特に、チタンおよびチタン合金、ステンレス鋼、ならびに超合金のコーティングに適用できる。特定の適用は、航空機などのアルミニウムおよび/または炭素繊維強化ポリマー(CFRP)構造に一般に使用されるチタン締結具に関する。例として、コーティングは、航空機のチタン締結具と、アルミニウムおよび/またはCFRP構造の一方または両方を保護するのに有用である。
【背景技術】
【0003】
関連技術
アルミニウムまたはアルミニウム合金構造、例えば航空機の構造を、チタンまたはチタン合金、例えばTi-6Al-4Vの高強度締結具を用いて構築することは、一般的な方法である。他の例では、ステンレス鋼、例えばA286、およびニッケル-クロムベースの超合金、例えばInconel(登録商標)718の締結具が使用されてきた。さらに、アルミニウムベース構造の代わりに、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)が使用されてきた。一部の場合には、Al-CFRPハイブリッド構造が用いられてきた。
【0004】
航空宇宙用締結具のために、主に腐食からの保護のために様々なコーティングが使用されてきた。以下は、これらのコーティングおよびそれらの欠点の一覧である。
【0005】
イオン蒸着(IVD)アルミニウムコーティング:腐食からの保護のためにクロム酸塩に依存し、締り嵌め(interference fit)用途には適しておらず、塗料接着性を促進せず、異種金属接触の面からCFRP構造とは適合しない。
【0006】
アルミニウムで着色された樹脂ベースのコーティング:電気伝導性が低く、電気的結合要件も電気的接地要件も満たさない。
【0007】
カドミウム:腐食からの保護のためにクロム酸塩に依存し、CFRP構造と適合しない。
【0008】
チタン上での硫酸陽極酸化処理(SAA):アルミニウム構造には推奨されず、締り嵌め用途には適しておらず、塗料接着性を促進しない。
【0009】
クロム酸塩を含まず、電気的接地および電気的結合用途のために電気抵抗率が低く、環境省庁の規制または要件に準拠する航空宇宙部品のコーティングが、まだ必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
簡潔には一般的に、本発明は、航空機用締結具ならびに他の航空宇宙部品および表面に適用されることになる、クロム酸塩を含有していない電気伝導性コーティング系を提供する。本明細書の教示によって利益を得る他の航空宇宙部品には、以下に限定されるものではないが、締結具、例えばピン、ボルト、カラー、ナットおよびナットプレート、ワッシャー、ならびにスタッドが含まれる。例えば、非締結具用途、例えばラッチ、ヘリコプターローター、および降着装置構造も、本明細書の教示によって利益を得ることができる。コーティングされた航空機用部品、例えば締結具は、アルミニウムおよびCFRP構造と適合する。
【0011】
したがって、本発明の一態様は、卑金属から作製された部品のためのコーティング系を提供する。コーティング系は、卑金属上の導電層、および導電層上に重ねられた導電性顔料を含む樹脂ベース層を含む。
【0012】
一例では、卑金属から作製された金属部品のためのコーティング系は、例えばチタン航空宇宙部品上などの部品の金属の少なくとも一部の上に、金属フラッシュ層、および金属フラッシュ層上の樹脂ベース層を含む。別の例では、コーティング系は、例えばチタン部品上などの卑金属と樹脂ベース層との間にニッケルフラッシュ層を含む。さらなる例では、コーティング系は、例えばチタン航空宇宙部品上などの金属部品上に、金属フラッシュ層、および金属フラッシュ層にわたる樹脂ベース層における金属繊維を含む。別の例では、コーティング系は、金属部品上の金属フラッシュ層、および金属フラッシュ層にわたる導電性顔料を含む樹脂ベース層を含む。金属部品上の金属フラッシュ層、および金属フラッシュにわたる導電性顔料を含む樹脂ベース層の一例では、金属フラッシュ層および導電性顔料のために使用される金属は、同じ金属を含み、一例では、金属はニッケルである。
【0013】
卑金属から作製された金属部品のためのコーティング系のさらなる例では、コーティング系は、部品の金属の少なくとも一部の上の金属フラッシュ層、および金属フラッシュ層上の着色された樹脂ベース層を含む。別の例では、卑金属から作製された金属部品のためのコーティング系は、例えばチタン航空宇宙用締結具上などの部品の金属表面の少なくとも一部の上に、金属フラッシュ層、および金属フラッシュ層上の金属顔料を有する樹脂ベース層を含む。金属フラッシュ層、および樹脂ベース層に金属顔料を有するこのようなコーティング系の一例では、2種の金属は同じであり、別の例では、2種の金属はニッケルである。金属フラッシュ層、および樹脂ベース層に金属顔料を有するこのようなコーティング系のさらなる例では、金属顔料は、ニッケル繊維であり、金属顔料のさらなる例では、金属顔料は、乾燥前に約5%~約15重量%の間の濃度の溶液で存在し、別の例では約11重量%ある。金属フラッシュ層、および樹脂ベース層に金属顔料を有するこのようなコーティング系の別の例では、金属顔料は、金属製航空宇宙部品の表面に対して垂直以外の向きに延びる金属繊維またはフィラメントから形成され、さらなる例では、金属顔料は、樹脂ベース層に凝集して無秩序に分布している。金属部品上の金属フラッシュ層、および金属フラッシュにわたる導電性構成成分を含む樹脂ベース層の前述の例のいずれかにおいて、一例では、樹脂ベース層における金属は、電気伝導性の三次元網目構造に無秩序に分布している。
【0014】
別の態様では、卑金属から作製された部品は、その上に、本明細書に記載されるコーティング系のいずれかを含めたコーティング系を含む。コーティング系は、卑金属上の導電層、および導電層上の導電性顔料を含む樹脂ベース層を含む。
【0015】
さらに別の態様では、卑金属から作製された部品をコーティング系でコーティングするための方法が提供され、その方法は、本明細書に記載されるコーティング系のいずれかを含む。方法は、金属部品を用意するステップと、金属部品の表面上に導電層を堆積させるステップと、樹脂に分散させられた電気伝導性顔料を含む液体混合物を、導電層上に堆積させるステップと、液体混合物を乾燥させ、その結果、導電性顔料が、樹脂において電気伝導性の3D網目構造を形成し、このような網目構造が、樹脂に無秩序に分布するようにするステップとを含む。
【0016】
有機樹脂を含有するコーティング系を対象とする本発明の態様は、純粋な金属堆積物であり、いかなる有機樹脂も含有していないので、カドミウム、硫酸陽極酸化処理および純粋アルミニウムの蒸着コーティングとは異なる。本発明は、アルミニウムで着色された樹脂ベースのコーティングと比較して、改善された電気伝導特性を提供する。
【0017】
本発明のコーティング系は、クロム酸塩を含まず、一部の電気的接地および電気的結合用途を満たすのに十分に電気伝導性である。本発明のコーティング系は、完全金属構造およびCFRP構造、またはその両方の組合せ(いわゆるハイブリッド構造)と適合する。本発明のコーティング系は、締り嵌め用途のための金属締結具上に使用することができる。
【0018】
本発明のこれらおよび他の態様および利点は、本発明の特色を例として例示する、以下の詳細な説明および添付の図から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本明細書に記載される原理と一致する実施形態に従う、締結具を含む締結具アセンブリを含む図式形態の部分的分解構造の側面図である。
【0020】
【
図2】
図2は、
図1の締結具アセンブリのスタッドの側面立面図である。
【0021】
【
図3】
図3は、本明細書に記載される原理と一致する実施形態に従う、
図1のスタッドおよび
図1の締結具アセンブリの一部として代用することができるスリーブの長軸方向の断面図である。
【0022】
【
図4】
図4は、
図3のスタッドおよびスリーブの一部の詳細図である。
【0023】
【
図5】
図5は、
図1~4の締結具スタッドのさらなる詳細図である。
【0024】
【
図6A】
図6A~6Dは、本明細書に記載される実施例の部品の高解像度走査の画像である。
【
図6B】
図6A~6Dは、本明細書に記載される実施例の部品の高解像度走査の画像である。
【
図6C】
図6A~6Dは、本明細書に記載される実施例の部品の高解像度走査の画像である。
【
図6D】
図6A~6Dは、本明細書に記載される実施例の部品の高解像度走査の画像である。
【0025】
【
図7】
図7は、本明細書に記載される原理と一致する実施形態に従う、航空宇宙部品をコーティングする方法の流れ図である。
【0026】
【
図8】
図8は、本明細書に記載される原理と一致する実施形態に従う、ニッケルフラッシュ層およびニッケルで着色された樹脂層を有する締結具の、顔料濃度の関数としての抵抗性の、抵抗率(ミリオーム)および濃度(重量パーセント)の座標上のプロットである。
【0027】
【
図9】
図9は、本明細書に記載される原理と一致する実施形態に従う、比較用の本発明のコーティングを含めた様々なコーティングの抵抗率(ミリオーム)の区間プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
本明細書で使用される場合、冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本発明の技術分野におけるそれらの通常の意味を有する、すなわち「1つまたは複数の」であることを企図される。例えば、「1つの航空宇宙部品」は、1つまたは複数の航空宇宙部品を意味し、したがって、「その(the)航空宇宙部品」は、本明細書では「航空宇宙部品(複数可)」を意味する。また、本明細書における「最上部」、「底部」、「上部」、「下部」、「上」、「下」、「正面」、「背面」、「第1」、「第2」、「左」または「右」へのいかなる言及も、本明細書において限定することを企図されない。本明細書における「約」または「およそ」という用語は、ある値に適用される場合、一般に、層の厚さなどのその値をもたらすために使用される装置の許容差範囲内、もしくは組成物の場合には、小さい測定誤差に起因する構成成分の量の変動を意味し、または別段明確に特定されない限り、プラスもしくはマイナス10%を意味することができる。さらに、「実質的に」という用語は、本明細書で使用される場合、大部分、またはほぼすべて、またはすべて、または約51%~約100%の範囲内の量を意味する。さらに、本明細書の例は、単に例示することを企図され、議論目的で提示されており、決して限定するものではない。
【0029】
航空機の設計および構築中、OEMは、いくつかの技術的機能を満たす締結具の表面処理を選択することができる。これらの機能の一部には、高干渉の締り嵌め締結具を少ない力で挿入できるようにし、かじり(galling)を最小限に抑えるなどのための低摩擦係数特性、腐食の予防、電気伝導性の促進、外部塗料接着性の促進、ならびに/または化学物質および流体への耐性が含まれ得る。現在、クロム酸塩を使用することなくそれらの特性の組合せを可能にし、金属または完全CFRP(炭素繊維強化ポリマー)もしくはCFRP/金属ハイブリッド構造と適合する解決策はない。
【0030】
過去の金属コーティング堆積物は、腐食からの保護のためにクロム酸塩を使用していた。クロム酸塩は、公知の発がん物質であり、突然変異原であり、生殖器系に対して毒性があるため、環境および健康に関して懸念がある。代替のコーティング系は、本来的に電気絶縁性である有機樹脂に基づいていてもよいが、樹脂の電気伝導率は、金属顔料の添加により上昇させられることがある。しかし有機コーティングは、配合不安定性または摩擦などの他の特性に対する有害な影響に起因して、添加できる導電性要素の量に関して制限がある。電気伝導性であり、航空宇宙用締結具を企図された電気的結合および電気的接地適用を満たすことができる公知の工業用着色有機樹脂系は、存在していない。
【0031】
電気的接地および電気的結合用途を満たすために、本明細書に記載される原理の実施形態によれば、本明細書に開示される解決策は、導電層と、導電層上の導電性顔料を含む樹脂ベース層とを組み合わせた、航空宇宙部品のためのコーティング系、ならびにこのようなコーティング系でコーティングされた航空宇宙部品である。第1の層だけが電気伝導性であり、第2の層は電気伝導性でないことを暗示するものではないことに留意されたい。これらの層は共に電気伝導性であるが、必ずしも等しく導電性であるわけではなく、一緒に共同して、電気的接地および/または電気的結合に適合した所望の電気抵抗率を提供する。
【0032】
航空宇宙部品は、例えば締結具を含めた、先に列挙される航空宇宙部品のいずれであってもよい。航空宇宙部品は、チタンまたはチタン合金、例えばTi-6Al-4V、ステンレス鋼、例えばA286、およびニッケル-クロムベースの超合金、例えばInconel(登録商標)718からなる群から選択される金属を含むことができる。
【0033】
本明細書の実施形態の実施に適切に用いられる締結具の例は、
図1~5に図示される。
図1に示される通り、締結具アセンブリ100は、締結具110を含む。
【0034】
例として、コーティングの構築は、航空機構造に一般に使用されるタイプの締結具110を用いて実装することができ、その一例は、例えば、本明細書に記載される外部コーティング系500を有する、組み合わせて使用される典型的なねじ付き(threaded)ボルトまたはスタッド112およびねじ付きナット114であり得る(コーティング系の詳細は、
図5に模式的に示されており、例示される締結具要素の1つまたは複数は、それらの表面の一部またはすべてが本明細書に記載される通りコーティングされているが、それらのコーティング(複数可)は、
図1~4では例示しやすくするために目に見えていないと理解される)。
図1および2を参照すると、ボルト112は、シャンクの一端にシャンク116およびヘッド118を含み、シャンクの他端にねじ付き部分120を含んでいる。ボルトはすべて、本発明の実施例における、先に言及したタイプであり得る固体金属から作製され、ボルトおよびナットの表面全体のすべてまたは一部は、本明細書に記載されるコーティング系500によってコーティングされていてもよい。コーティング系500また、ボルト112およびナット114のそれぞれのねじ山の間のかじり効果を低減するために、潤滑効果を提供することができる。さらに
図1に示される通り、締結具100は、航空機構造の2つの部品、例えば位置合わせされた開口部を有する第1の部品124と第2の部品126とを一緒に固定するために使用することができる。
【0035】
図1に例示されるものなどのスタッドもしくはボルト112および嵌め合い(mating)部品114のアセンブリ100、または引き上げ軸(pulling stem)およびカラー(示さず)を有する締結具は、いくつかの用途のための一般的な締結具アセンブリである。別の代替の締結具アセンブリでは、スタッド112は、スリーブ122を軸方向に通ることができ(
図3~4)、このスリーブ122は、例えば、スタッド112が、締り嵌めのためにスリーブと共に構成されると同時に、スリーブが、構造124および126の位置合わせされた開口部に隙間嵌めだけで嵌合するように構成されている。ナット114または他の締め付け部品(示さず)を有するこのような配置は、複合構造、または一緒に固定されることになる複合構造と金属構造における使用に適することができる。
図3~4に例示される配置では、スタッド112のヘッド118は、平面取り付け(flush mounting)を提供し、スリーブ122の張り出し端部128に嵌合するが、他のスタッドおよびスリーブ配置を代替として使用することもできる。スタッドに対するスリーブの材料およびスリーブの幾何構造は、本明細書に記載されるコーティングをスリーブの表面の1つまたは複数の上に使用可能であることを除いて、従来通りであってもよい。
【0036】
本明細書に記載されるものを含めた締結具部品または金属部品の1つまたは複数の、すべての外表面および内表面または1つもしくは複数のパーツは、以下に限定されるものではないが、電気伝導性、耐腐食性、または材料間の異種金属接触作用の低下を含めた、本明細書に記載される利益の1つまたは複数を提供する助けになるコーティング系500でコーティングすることができる。
図1~4に例示される部品は、1つまたは複数の表面上に本明細書に記載されるコーティングを含むと理解することができるが、コーティングの表示は、それらの図において明確にする目的で省略されている。コーティング系の例は、
図5に模式的に例示されており、コーティング系の要素の表示は、見やすくするために拡大されている。コーティング系およびそれらの部品の化学組成、厚さおよび他の物理的特徴を含めた、例示的なコーティング系の特徴は、本明細書の議論から理解することができる。ボルト112の拡大図である
図5は、ボルト112の外表面に施与された二層502、504を有するコーティング系の例を例示している。一例では、導電層とも呼ばれる第1の層502は、金属部品の金属表面、本発明の実施例では、スタッド112、ナット114および/またはスリーブ122の1つまたは複数の金属表面、および
図5に例示される通りボルトの外表面に施与された、高度に導電性の金属層である。典型的に、導電層は、卑金属部品の材料とは異なる材料である。「高度に導電性」とは、本明細書では、電気抵抗率が1mΩ未満かまたはそれに等しいことを意味する。樹脂ベース層とも呼ばれる
図5の系の第2の層504は、導電性顔料508を含有する樹脂組成物である。ある配置では、第1の層502は、ニッケルフラッシュ層からなり、第2の層504は、導電性顔料508、例えばニッケル繊維を含む樹脂組成物506を含む。これらの層は、
図5に模式的に示されており、以下により完全に論じられる。樹脂組成物506は、導電性顔料508を含む層を形成するものとして
図5に模式的に例示されているが、
図5に例示される参照番号506によって特定される樹脂組成物は、樹脂材料だけでなく、樹脂ベース層504を構成する導電性顔料508に加えて、任意の他の構成成分も指すことを理解されたい。このような他の構成成分は、一般に、バインダー配合物、例えば腐食防止剤、潤滑剤、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および可塑剤、例えばテレフタレート、他のポリマーなどにおいて使用されるいずれの構成成分であってもよい。
【0037】
導電層502は、ニッケルフラッシュまたはストライクとして施与することができる。ニッケルフラッシュ層は、電着することによって施与することができるが、他の形態の施与または堆積、例えば無電解、ブラシ処理、ペースト処理、浸漬処理、噴霧処理、プリント処理、PVD(物理的気相成長法)、CVD(化学蒸着)、またはIVD(イオン蒸着)を用いることもできる。ニッケルの代わりに、以下に限定されるものではないが、銅、亜鉛、スズ、銀、鉛、スズ/鉛、金、および白金を含めた他の金属を用いることもできる。例として、ニッケルフラッシュは、SAE AMS-QQ-N-290規格に従って、スルファミン酸ニッケル溶液中で電着することができる。
【0038】
樹脂組成物506は、一般にビヒクルと呼ばれるバインダーであり、第2の層504の実際の膜形成構成成分である。樹脂組成物506は、接着性を付与し、顔料508を一緒に結合させ、潜在的な光沢可能性、耐久性、可撓性、および靱性などの特性に影響を及ぼす。
【0039】
樹脂ベース層504のためのバインダーは、フェノール樹脂であってもよい。これは、熱硬化性樹脂であり、耐化学性を提供する。フェノール樹脂は、非常に硬く、永続的な耐化学性を有している(このことは、油圧油、油などに曝露されることが多いので有用である)ので、締結具にとって望ましい。フェノール樹脂はまた、耐摩耗性が高く、このことは、多くの締結具用途にとって、特に締り嵌め用途にとって望ましい。一部の実施形態では、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂を使用してもよい。
【0040】
樹脂組成物には、さらなる構成成分、例えば熱可塑性であり得る第2のバインダー、および/またはバインダー配合物に一般に使用される他の添加剤、例えば腐食防止剤、潤滑剤、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および可塑剤、例えばフタレートが含まれていてもよい。また多くの用途では、樹脂組成物に、非金属顔料としてポリテトラフルオロエチレンが含まれていてもよい。PTFEは、摩擦係数を低下させるように働く。これらの機能の1つまたは複数を果たす、添加することができる他のポリマーには、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、ナイロンおよび他のポリアミド、アセタール(ポリオキシメチレン、POM)、およびポリエステル、ならびにそれらの変形が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
導電性顔料508は、ニッケル、銅、銀もしくはアルミニウムなどの金属、または二硫化モリブデンもしくはグラフェンなどの非金属を含めた、低抵抗率のいかなる材料であってもよい。異種金属接触腐食を最小限に抑えるために、導電層502および導電性顔料508は、同じ金属であってもよい。ニッケルが、例えば電気伝導性について、銀およびグラフェンなどの他の樹脂添加剤よりも望ましい結果をもたらしたこと、ならびにニッケル繊維が、電気伝導性について、ニッケルプレートレットおよびニッケル球よりも信頼できる結果をもたらしたことが見出された。幸運にも、低抵抗率の金属であるニッケルは、自己腐食および異種金属接触腐食を遅延させるので、優れた組合せである。
【0042】
一部の実施形態では、液体混合物とも呼ばれる液体状態の樹脂組成物に対するニッケル顔料の比率は、金属部品に施与する前、液体混合物の約5重量パーセント(wt%)~15wt%未満の範囲であってもよい。一部の実施形態では、ニッケル顔料の最大濃度は約11wt%であってもよく、約9wt%が好ましいことがある。ポリテトラフルオロエチレンが使用される場合、PTFEは、液体混合物の約1wt%~約10wt%の範囲であってもよい。一実施形態では、PTFEは、液体混合物のおよそ2wt%であってもよい。PTFE、ニッケル、および腐食防止剤などの他の構成成分は、重合中にコーティングに焼結されない(その温度は、PTFEの可溶性に寄与するには十分に高くない)ので、CPVC(臨界顔料体積濃度、以下を参照されたい)に寄与し得る。ニッケル濃度に加えて、PTFEおよび/または他の構成成分の量は、それらが添加される場合にはCPVCに寄与する。
【0043】
一部の実施形態では、ニッケル顔料の濃度範囲は、液体混合物の約9wt%~約11wt%の間である。約10wt%未満では、典型的に、一部の用途において望ましいとされ得るほど高い電気伝導率を得られない。他方では、約5wt%~約10wt%の範囲での電気抵抗率は、まだ10mΩ未満であり、これは一部の用途では許容され得る。
【0044】
液体混合物中、約14wt%~約15wt%の間の濃度のニッケル顔料では、樹脂および顔料の混合物は、配合安定性(臨界顔料体積濃度、CPVCとして公知)を超えることがある。CPVCは、顔料粒子間の間隙を満たすのに十分なだけのバインダーが存在している点であり、この点を超えると、間隙を満たすのに十分なバインダーが存在することができない。したがってCPVCは、液体混合物における顔料濃度の好ましい上限値を制限することができる。
【0045】
導電性顔料508は、有利なことには、無秩序に成形されたニッケル繊維、例えばNovamet Specialty Products Corp.(Lebanon、TN)から商業的に入手可能な525 Conductive Nickel Powderである。ニッケル繊維で着色された樹脂ベース層504の分析により、ニッケル繊維が、
図6に図示される通り、ニッケル繊維の無秩序な三次元凝集塊または凝集体を示したことが示された。
図6Aは、ニッケル繊維が樹脂組成物の22.9wt%である、ニッケル繊維602で着色された樹脂ベース層604だけを有する締結具600の断面の走査電子顕微鏡からのエネルギー分散型X線分光測定(EDS)を示し、
図6Bは、ニッケル繊維が樹脂組成物の30.8wt%である、ニッケル繊維で着色された樹脂ベース層604を示し、無秩序性、および凝集塊または凝集体を実証している。(新しい参照番号は、特定の要素を示す場合にはこれらの画像に適用され、本明細書に記載される要素と同一の特徴を有する)。これらの画像は、破線608によって表される表面まで及ぶチタン締結具606の一部を示し、本発明の拡大率で示されたばらつきのある表面を表している。チタン表面608は、破線610によって表される厚さを有する樹脂ベース層604によって直接被覆されており、本発明の拡大率でチタン表面上にわたるばらつきのある厚さを表している。樹脂ベース層604の外側の材料612は、試料のための、フェノール樹脂を載せている支持体である。
【0046】
図6Cも、締結具のベアメタル表面上に堆積させられたニッケルフラッシュ層614を有する締結具620の断面の走査電子顕微鏡からのEDSであり、ニッケル繊維が樹脂組成物の30.8wt%である、ニッケル繊維で着色された樹脂ベース層604は、顔料分布と比較してより連続的なフラッシュ層を示しており、ニッケルフラッシュは、ベアメタルベース表面608に沿って、ニッケル顔料繊維よりも均一に分布しており、ニッケル顔料の無秩序性、および凝集塊または凝集体を示している。
図6Dは、ニッケル繊維が樹脂組成物の22.9wt%である、ニッケル繊維で着色された樹脂ベースのコーティング604だけを含む裸締結具630の平面図の走査電子顕微鏡からのEDSを示し、この走査では、締結具表面の一部が、樹脂ベースのコーティング604を通して示されている。この図はまた、樹脂ベース層604におけるニッケル繊維602の無秩序性、および凝集塊または凝集体を実証している。ニッケル顔料508は、枝分かれのような構造を有しており、これが樹脂組成物506に実質的に無秩序に分散され得る。枝分かれのような構造は、樹脂組成物に無秩序に分布している有益な3D凝集体を提供し、導電層と接触しているものもあれば、導電層502に対して一部だけ垂直方向に延びているものもあり、例えば電気伝導性の3D網目構造を形成している。
【0047】
ニッケルは、試験したものの中で最高の性能を有していた材料である。ニッケルは、良好な耐腐食性および電気伝導性を有している。ニッケルは、強磁性材料であり、これは一部の用途で有用となり得る。ニッケル顔料はまた、溶媒ベース系などの液体混合物において高度に適切な親和性を示した。要素としてニッケルと同様に重要な、繊維状および/またはフィラメント状形態は、許容されるコーティング厚さ(5μm~20μm)を可能にした。ニッケルは、酸化に対して抵抗性が極めて高く、それによって、塩水噴霧でも電気伝導性を経時的に維持することが可能になった。これらの形態は、浸透(網目構造形成)を可能にし、樹脂組成物(一旦乾燥させた)におけるニッケルの濃度がCPVC未満となるのに十分に低い百分率で電流を促進しながらも、依然として電気的結合および電気的接地のための導電性を促進する。
【0048】
繊維状および/またはフィラメント状ニッケル顔料508は、樹脂組成物506に分散させられた場合、三次元で絡み合うことができる。無秩序な空間的配位および顔料の絡み合いは、性能に望ましい電気伝導性にとって有益であり、有用である。ニッケル繊維は、ニッケルフラッシュと結合すると、CPVC未満の着色されたコーティングを可能にしながらも、電気的結合および電気的接地要件を満たす。
【0049】
ニッケル繊維508は、平均で長さが約20μmであってもよく、約1.4μm~約88μmの範囲の長さを有する。ニッケル繊維508の直径は、平均で約2μmであってもよく、約0.5μm~約10μmの範囲の直径を有する。
【0050】
導電層502および樹脂ベース層504の組合せの全厚さは、約5μm~約20μmの範囲であってもよく、導電層は2.5μm未満の厚さを有し、樹脂ベース層504は、残部を構成する厚さを有する。この全厚さ範囲は、締結具に許容されるコーティング寸法のオフセットであると考えられる。締結具などの他の航空宇宙部品のための導電層502および樹脂ベース層504の厚さ範囲は、このような航空宇宙部品とのそれらの特定の使用に応じて、その使用に関して従来の厚さと合致する、ある程度異なる厚さを有することができる。
【0051】
本明細書に記載される原理の実施形態によれば、航空宇宙部品110をコーティング系500でコーティングするための方法が提供される。
図7は、方法700の流れ図を示しており、この方法は、航空宇宙部品を用意するステップ705を含む。航空宇宙部品110は、例えば締結具、例えばピン、ボルト、カラー、ナットおよびナットプレート、ワッシャー、ならびにスタッドを含めた、先に列挙される航空宇宙部品のいずれであってもよい。航空宇宙部品110は、チタンまたはチタン合金、例えばTi-6Al-4V、ステンレス鋼、例えばA286、およびニッケル-クロムベースの超合金からなる群から選択される卑金属から形成することができる。
【0052】
方法700はさらに、航空宇宙部品100の表面上に導電層502を堆積させるステップ710を含む。表面は、ベアメタル、陽極酸化処理された表面、または機械処理された、ブラスト処理されたもしくはまたはその他の方法で機械的に調製された表面を有する金属であってもよい。一実施形態では、導電層502は、航空宇宙部品の表面上に堆積させられたニッケルフラッシュ層である。ニッケルフラッシュ502は、航空宇宙部品の表面上に電着することができる。
【0053】
方法700はさらに、導電性顔料を含有する樹脂ベース層504を形成するために、樹脂および電気伝導性顔料508を含む液体混合物を、導電層502上に堆積させるステップ715を含む。
【0054】
導電性顔料508は、揮発性溶媒に溶解している樹脂に懸濁させられ、混合物に液体粘稠度を与えるが、施与後に急速乾燥をもたらす。例えば、顔料508は、従来のミル粉砕技術に従ってミル粉砕して樹脂に投入することができる。
【0055】
液体混合物は、従来の塗料混合技術に従って、溶媒中で十分かつ均一に混合することができる。溶媒は、低分子量アルキルアルコール、例えばメチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルアルコール、または類似の溶媒、例えばメチルエチルケトン、または揮発性溶媒の範囲の石油蒸留物、例えばキシレンもしくはトルエン、またはこれらの溶媒の2種もしくはそれよりも多くの混合物であってもよい。使用される溶媒の量は、噴霧、浸漬またはブラッシングなどによって施与されるかどうかにある程度応じて、所望の流動度を提供するのに十分な量であってもよい。
【0056】
一部の実施形態では、液体混合物は、噴霧によって施与され得るが、その代わりに、浸漬またはブラッシングのいずれかを使用することができる。溶媒は揮発性なので、急速に乾燥し、固化する。溶媒を蒸発させ、樹脂組成物506に無秩序に分布しているニッケル繊維508の3D凝集体と共に固体樹脂ベース層504を形成するために、施与後に、航空宇宙部品を例えば加熱によって乾燥させることができる(720)。加熱は、従来の方法に従って、例えば所望の架橋により所望の結果を得るのに十分な温度および時間で行うことができる。温度は、所望の時間(例えばおよそ1時間であってもよい)にわたって、およそ150℃~205℃の間であり得る。
【0057】
締結具上で一旦固化したコーティング系500の厚さは、有利なことには、約5μm~約20μmの間である。この厚さ制御は、特にねじ付き締結具の場合には、適切なねじ適合を確保するために望ましく、航空機品質の、干渉または非干渉型の締結具の場合にも望ましい。締り嵌め締結具は、一般に、それが固定されるべき構造部材に空いた穴の直径よりもわずかに大きい直径を有するように作製される。このような締結具パーツを、その締結具パーツのための穴に押し込むことにより、典型的に、締結具パーツのコーティングされた表面に摩耗が引き起こされ、締結具パーツが押し込まれる穴および周辺ワークピース構造の表面が損傷することがある。これらの発明に従って施与されたコーティング系500は、締結具パーツ110を潤滑させて、コーティング劣化を回避し、締結具パーツへのコーティングの接着を維持する助けになり得ることが見出された。例えば、このようなコーティング系500は、34,000Nの取付け力を維持し、EN4473規格の要件を満たす。
【0058】
導電性顔料508を、液体混合物に空間的に無秩序に分散させるために、導電性顔料508を、最初に、界面活性剤、例えばBYK(Austin、TX)から入手可能な不飽和ポリアミンアミドおよび低分子量酸性ポリエステルの塩の溶液である湿潤分散添加剤のAnti-Terra-U、ならびに/または分散もしくは懸濁安定性を改善し、BASF(Florham Park、NJ)から入手可能な修飾ポリエーテルであるEFKA 7500に投入することができる。次に、上記のように界面活性剤を含む導電性顔料508を機械的せん断、例えばミル粉砕下で樹脂に投入することができる。
【0059】
チタンは水素および酸素の取込みに対して高度に感受性なので、従来技術では、航空宇宙用途についてはチタン締結具を電気めっきしないよう推奨されている。このことにより、容易にチタンの脆化が引き起こされ、または応力亀裂が引き起こされることがある。電気めっきは、典型的に塩素ベースの塩酸を用いて実施されるが、これは航空宇宙用途では禁止されている。航空宇宙以外では、はんだ付け性を加え、高温酸性環境における耐腐食性を改善し、潤滑性を加え、抗かじり特性を改善する目的で、チタンが電気めっきされる例がある。それにもかかわらず、電気めっきを利用することができる本明細書において用いられる導電層502は、明らかにその持続時間が十分短いので、水素および酸素の取込みが最小限に抑えられ、またはさらには排除される。
【0060】
チタン、ステンレス鋼およびニッケルベースの合金などの一部の材料は、自然に不動態化し(酸化物を含まない表面が空気または水と接触すると、表面上に薄い酸化膜が形成される)、したがってこの粘着性の強い酸化膜を克服することなしには、電気めっきの接着は不可能である。めっき産業では、ニッケルまたは銅などの材料を含むこのような金属をフラッシュして、不動態化酸化層を克服し、その後の最終電気めっき層、例えば金の接着を可能にする方法が開発されてきた。
【0061】
樹脂ベース層504のためのベースとしてニッケルフラッシュを利用することは、常識では理解しがたいものである。ニッケルフラッシュは、普通、不動態化膜を克服して、その後の電気めっき接着を可能にすることが企図されており、チタン、ステンレス鋼またはニッケル合金から作製された締結具などの金属ベース部品上に樹脂ベース層を置く前にニッケルフラッシュが実施されることは知られていない。ニッケルフラッシュは、樹脂ベース層の接着を促進せず、コーティング前には機能的目的は考慮されない。コーティングは、通常、締結具基材上に直接コーティングされることが企図され、接着の促進が必要とされる場合、これは通常、ニッケルフラッシュではなく、サンドブラストまたはプライマーなどのベース塗料などの化学的または機械的表面調製を用いることによって行われる。
【0062】
樹脂ベース層504は、チタン締結具上に形成され得る。チタン自体は金属であり、高伝導率を提供する。やはり金属製である導電層502も、高度に電気伝導性である。金属コーティングの電気伝導性を得ることを可能にするために、樹脂ベース層は、通常、コーティングのCPVCを抑制することなしには、この性能に適合できなかった。しかし、チタン上に導電層502を結合させる場合、層502および504の両方の組合せによって電気伝導率が予期せず上昇し、それによって、コーティング系500の電気抵抗率が樹脂ベース層の抵抗率よりもはるかに低く抑えられる。導電層502および樹脂ベース層504は、共に仕上げであるが、両方を組み合わせて金属基材上の電気伝導性の増強を達成するということは、常識では理解しがたいものである。正味の効果は、予期されなかったものであり、電気的結合および電気的接地の望ましくは高伝導率(低抵抗率)を可能にしながらも、樹脂による耐燃料油性/耐化学性の防御効果、異種金属接触腐食からの保護を維持して材料適合性を可能にし、低摩擦を維持して、高干渉での取付けおよびトルク-張力の助けとなる。
【0063】
コーティング系500は、金属部品の表面全体に施与することができ、またはごく一部に施与することができる。例えば、部品が締結具アセンブリ100である場合、ヘッド118の上面は裸であってもよく、一方、シャンク116の全表面およびねじ付き部分118は、コーティング系500で被覆することができる。別の例では、ヘッド118および隣接するシャンク116の環状部分は、裸であってもよく、シャンク116の残りの表面およびねじ付き部分118は、コーティング系500で被覆される。別の例では、ボルトのシャンク116、ならびに/またはスリーブ122の内表面および/もしくは外表面は、長軸方向の2つ、3つ、4つもしくはそれよりも多いストライプ、または1つ、2つもしくはそれよりも多い環状バンド、または任意の他の形状でコーティングすることができる。
【0064】
コーティング系500によって被覆される卑金属部分は、部品の表面全体の少なくとも50パーセントであってもよく、または部品の表面全体の少なくとも60パーセントであってもよく、または部品の表面全体の少なくとも70パーセントであってもよく、または部品の表面全体の少なくとも80パーセントであってもよい。
【0065】
コーティング系500はまた、接着性が低い第3の潤滑(lubricious)層で被覆することができ、それによって、構造の穴への取付け中の締結具アセンブリの摩擦係数が低下する。例えば、この第3の潤滑層は、US2020/0149566(参照により組み込まれる)として公開されている米国特許出願番号第16742274号に記載されているグリース、セチルアルコール、またはコーティングであってもよい。接着性が低いこのような潤滑層は、締結具の干渉取付け中に少なくとも部分的に剥離されるので、コーティング系500の電気伝導性を損なわないことが見出された。
【0066】
第3の潤滑層は、金属部品の表面全体に施与することができ、またはごく一部に施与することができる。第3の潤滑層は、コーティング系500によって被覆されていない部分上に施与することができ、コーティング系500でコーティングされた全表面上に施与することができ、またはコーティング系500によって被覆された表面上に部分的に施与することができる。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
いくつかのチタンベースの締結具112を、コーティング系500でコーティングした。締結具は、Ti-6Al-4V合金からなっていた。第1の層502はニッケルフラッシュ層であり、この層は、SAE AMS-QQ-N-290規格に従って、スルファミン酸ニッケルプロセスによりチタン上に電気めっきしたニッケルによって形成した。
【0068】
締結具上にニッケルフラッシュ層を堆積させた後、次に、ニッケルで被覆された表面を研磨ブラストして、樹脂ベース層504の機械的接着を促進した。第2の層504は、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂組成物506であり、これにニッケル顔料508を分散させた。フェノール-ホルムアルデヒド樹脂組成物は、一般的構成成分、例えば溶媒、PTFE、腐食防止剤、および可塑剤も含んでいた。次に、樹脂組成物を、研磨剤をブラストしたニッケルフラッシュ層上に直接噴霧した。次に、航空宇宙部品を204℃で1時間加熱することによって、コーティングを架橋重合させた。ニッケル顔料は、平均長20μmおよび平均直径2μmのニッケル繊維508であった。以下の表Iに記載される通り、樹脂組成物において様々な濃度のニッケル繊維を用いた。樹脂組成物におけるニッケル繊維の、本明細書の実施例において論じられる濃度は、重合前の液体状態(湿潤)の樹脂組成物に基づく濃度であったが、以下の表1は、
図1~5に例示されるものなどの締結具アセンブリに使用することができる最終生成物を考慮する目的で、重量による等価乾燥濃度も列挙していることに留意されたい。
【0069】
コーティングされた各締結具112の電気抵抗率を測定した。締結具を、隙間を持たせてアルミニウム試験片に取り付けた。これにより、締結具ヘッドの皿穴および試験片の皿穴が互いにぴったり収まることが可能になった。締結具のヘッドの上部を剥離して、締結具への路を作り、そこにケルビンプローブを接触させた。電気コネクタを、試験片に接続した。抵抗率を、4端子式ミリオームメーターであるATEQ AX6000を用いて測定した。結果は、表Iに列挙され、
図8にプロットされている。第2列は、液体混合物中のニッケル顔料濃度であり、第3列は、液体混合物の溶媒を一旦蒸発させた樹脂組成物中のニッケル顔料濃度であり、第4列は、各締結具の電気抵抗率を示す。
【表1】
【0070】
顔料による網目構造形成は、液体混合物中約6.9wt%濃度のニッケル顔料で開始した。最高の性能は、約11wt%のニッケル顔料で得られ、電気抵抗率が1ミリオーム未満に低下した。約13wt%のニッケル顔料も1ミリオーム未満であったが、この液体配合は、臨界顔料体積濃度を超えたことに起因して、望ましいとみなされる配合を超えた。
【0071】
約4.7wt%の濃度のニッケル顔料は、7.1mΩの電気抵抗率を有していたが、その値はやはり10mΩ未満であり、ある特定の用途では許容され得ることに留意されたい。
(実施例2)
【0072】
前述の二層コーティング系500を有する締結具112と、他のコーティングされた締結具およびコーティングされていない締結具との比較を行った。結果は、表IIに列挙され、
図9にプロットされている。表IIの実施例2Cは、本発明の実施例の範囲内のコーティング系である。
【表2】
【0073】
電気的結合について、一般的要件は10mΩ未満となることであり、電気的接地について、要件は1mΩ未満となることである。すべてが純粋金属めっきの2Eおよび2Gは、どちらの要件も満たしていないが、一方、樹脂ベースのコーティング2Aは、35~55mΩの範囲である。11wt%のニッケル繊維だけ(液体混合物における濃度)を含むニッケルベース樹脂層2Bは、平均でおよそ16mΩである。ニッケルフラッシュ502と組み合わされた約11wt%のニッケル繊維508(液体混合物における濃度)を含むニッケルベース樹脂層(実施例2C1および2C2、特許請求の範囲にここで開示され、含まれるコーティング系500)は、10mΩの閾値未満に低下し、電気的接地範囲における純粋な金属めっきによく似た電気抵抗率を有している。驚くべきことに、より薄いニッケルフラッシュ502層は、コーティング系500の電気抵抗率全体を0.5mΩ未満に低下させる(実施例2C2)。SAA処理の2DおよびIVDコーティングの2Gは、以前に記載した理由で、電気的結合および電気的接地コーティングとしてあまり望ましくないと考えられる。裸チタン2Fは、アルミニウム構造に異種金属接触腐食をもたらすおそれがあったので、許容できなかった。ニッケルフラッシュだけの2Eも、同じ理由で許容できなかった。
【0074】
本明細書に記載されるコーティング系を、締結具のためのコーティング系としての使用に特に言及しながら記載してきたが、コーティング系は、締結具に限定されず、一般に、他の表面、特に低電気伝導率、ならびに腐食からの保護および潤滑が望ましい航空宇宙部品、例えばチタンおよびチタン合金、高温工具鋼、または合金鋼および超合金から作製された他のパーツに施与することができる。同様に、締結具に通常施与されることになるコーティングのように、コーティングを非常に薄いものとして常に施与する必要はなく、他の用途では、より厚いコーティングを使用することができる。
【0075】
本発明の特定の形態を例示し、記載してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な修正を加えてもよいことが、前述のことから明らかになる。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による制限を除いて、制限されることを企図されない。
【国際調査報告】