(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-04
(54)【発明の名称】ワンアームド抗原結合分子およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230828BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230828BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230828BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230828BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/00
C07K16/46
A61K39/395 N
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566403
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2021029787
(87)【国際公開番号】W WO2022034920
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2020136920
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、抗原に特異的に結合する抗原結合部分と、第1および第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含む、抗原結合分子であって、第1のFc領域バリアントは、該抗原結合部分に融合されているが、第2のFc領域バリアントは、該抗原結合部分にも、抗原に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されておらず、親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。このフォーマットの抗原結合分子は、ADEのリスクを低下させつつ、目的のウイルスのクリアランスを増強することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFc領域バリアントが、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγR結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分子。
【請求項2】
第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む、請求項1記載の抗原結合分子。
【請求項3】
第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む、請求項1記載の抗原結合分子。
【請求項4】
第2の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分のN末端に融合されている、請求項2または3記載の抗原結合分子。
【請求項5】
第1の抗原結合部分および/または第2の抗原結合部分が、Fab、scFv、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、またはリガンドを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項6】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる234位にAlaおよび235位にAlaを含む、請求項1~5のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項7】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下の(a)~(c)のいずれか1つ:
(a)267位、268位、および324位;
(b)236位、267位、268位、324位、および332位;ならびに
(c)326位および333位
の位置にさらなるアミノ酸改変を含む、請求項6記載の抗原結合分子。
【請求項8】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下:
(a)267位におけるGlu;
(b)268位におけるPhe;
(c)324位におけるThr;
(d)236位におけるAla;
(e)332位におけるGlu;
(f)326位におけるAla、Asp、Glu、Met、またはTrp;および
(g)333位におけるSer
からなる群より選択されるアミノ酸を含む、請求項7記載の抗原結合分子。
【請求項9】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下:
(a)434位におけるAla;
(b)434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;
(c)428位におけるLeu、434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;
(d)428位におけるLeu、および434位におけるAla;ならびに
(e)428位におけるLeu、434位におけるAla、438位におけるArg、および440位におけるGlu
からなる群より選択されるアミノ酸を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項10】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、六量体形成を増強する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、請求項1~9のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項11】
第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、第1のFc領域バリアントと第2のFc領域バリアントとの会合を促進する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、請求項1~10のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項12】
前記抗原を発現する病原体の、細胞内への侵入の抗体依存性感染増強(ADE)をもたらすリスクが低下している、請求項1~11のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項13】
病原体または該病原体に感染した細胞を、補体依存性細胞傷害(CDC)を介して除去するために、C1qを動員する、請求項1~12のいずれか一項記載の抗原結合分子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載の抗原結合分子と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項記載の抗原結合分子をコードする、単離された核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワンアームド(片腕 またはone-armed)抗原結合分子、およびその使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、抗体のFab部分およびFc部分のどちらもが標的を中和するために利用できることから、強力な治療薬となる。抗体がFab領域を介してその標的に結合した後に、Fc領域は、補体またはFc受容体などの分子を動員し、免疫系をさらに活性化することができる。次いで、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、および抗体依存性細胞貪食(ADCP)などの機構によって、標的が排除される。
【0003】
補体依存性細胞傷害(CDC)は、補体タンパク質 C1~C9を伴う酵素反応のカスケードである「古典的」補体経路によって、媒介される。初めに、補体C1qが抗体Fcに結合すると、古典的経路の活性化が誘発される。補体タンパク質C1qは、6つの球状頭部とコラーゲン様尾部とからなる大きなタンパク質複合体であり、各球状頭部は抗体Fcと相互作用することができる。抗体Fcに対するC1qにおける個々の球状頭部のアフィニティは弱いことから、C1qは単量体IgGには弱く結合するだけであり、古典的経路を活性化しない。血中のC1qおよび抗体の濃度が高い場合、この弱いアフィニティは恒常性維持にとって必須である。しかしながら、標的が抗体で密に覆われると、C1qは、複数のFcと会合しかつ高いアビディティで結合することができ、よって補体経路を活性化する。古典的経路カスケードの活性化は、標的の表面上への補体C4bおよびC3bなどのタンパク質の沈着をもたらす。C4bおよびC3bは、CR1~CR4およびCRIgなどの補体受容体を発現する細胞による貪食作用による取り込みのために、標的にしるしをつける。C3bからも、古典的経路カスケードはさらに進行し、C5b、C6、C7、C8、およびC9タンパク質の沈着をもたらし、これらは、膜孔形成C5b-9膜侵襲複合体(MAC)となるように構築される。標的表面上のMACの形成は、膜の完全性を破壊し、最終的に標的溶解をもたらす。抗体媒介性CDC活性は、細菌の死滅を媒介するその能力について長く知られており、Jules Bordetによって1895年に発見された。より最近では、抗体媒介性CDC活性が、複数の異なるタイプのウイルスについてのクリアランスを媒介することも記載されている(NPL 1)。
【0004】
抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性細胞貪食(ADCP)は、抗体FcとFcγ受容体を発現する細胞との間の相互作用によって媒介される。ADCCでは、ナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞傷害性細胞が、抗体が結合している標的を認識し、溶解性酵素を放出して、標的を破壊する。ADCPでは、マクロファージ、単球、および好中球などの貪食細胞が、抗体によりオプソニン化された標的を取り込み、循環からそれらを排除する。ADCPは防御免疫にとって重要なプロセスであるが、一部の病原体は、ADCPの能力を利用して、抗体依存性感染増強(ADE)として公知のプロセスにおいてその感染力を増強させる。ADEは、Fcγ受容体を介する宿主細胞内への病原体の侵入を抗体が増強した場合に生じる。これは、抗体力価が病原体を中和するのに不十分である場合か、または病原体に対する抗体が実際には非中和性である場合に生じる。治療上投与した抗体がADE機能を有するのを避けるためには、Fc領域内に変異を導入し、Fcγ受容体結合機能を低下させるまたはサイレンシングする。あるいは、IgG2およびIgG4などの天然の状態で弱いFcγ受容体結合機能を有するFcサブクラスを用いる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Front Microbiol. 2017; 8: 1117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来型の2アームド二価抗体と比較して、実質的に減少したFcγ受容体結合と、維持されたまたは増加した補体C1q結合活性とを有する、ワンアームド抗原結合分子を設計することには、取り組みがいがあると考えた。そのような分子を生成することは、目的のウイルスの十分なクリアランスを有しつつ、Fcγ受容体を介する宿主細胞へのウイルスの侵入によってもたらされる種々のウイルス関連疾患における抗体依存性感染増強(ADE)のリスクを低下させる、可能性のある戦略の1つである。本発明はそのような考えに基づいて作製されている。本開示の目的は、ADEのリスクを低下させつつ、目的のウイルスのクリアランスを増加させることができる抗原結合分子、該抗原結合分子を産生するための方法、および活性成分としてそのような抗原結合分子を含む医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、抗原に特異的に結合する抗原結合部分と、第1および第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含む、抗原結合分子であって、第1のFc領域バリアントは、該抗原結合部分に融合されているが、第2のFc領域バリアントは、該抗原結合部分にも、抗原に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない、該抗原結合分子が、目的のウイルスのクリアランスの増加をもたらすことができることを見出した。さらに、本発明者らは、親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有するように改変された上述の抗原結合分子が、ADEのリスクを低下させつつ、目的のウイルスのクリアランスを増加させることができることを見出した。
【0008】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1] (i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFc領域バリアントが、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγR結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分子。
[2] 第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む、[1]の抗原結合分子。
[3] 第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む、[1]の抗原結合分子。
[4] 第2の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分のN末端に融合されている、[2]または[3]の抗原結合分子。
[5] 第1の抗原結合部分および/または第2の抗原結合部分が、Fab、scFv、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、またはリガンドを含む、[1]~[4]のいずれか1つの抗原結合分子。
[6] 第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分の各々がFabを含む、[5]の抗原結合分子。
[7] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる234位にAlaおよび235位にAlaを含む、[1]~[6]のいずれか1つの抗原結合分子。
[8] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下の(a)~(c)のいずれか1つ:
(a)267位、268位、および324位;
(b)236位、267位、268位、324位、および332位;ならびに
(c)326位および333位
の位置にさらなるアミノ酸改変を含む、[7]の抗原結合分子。
[9] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下:
(a)267位におけるGlu;
(b)268位におけるPhe;
(c)324位におけるThr;
(d)236位におけるAla;
(e)332位におけるGlu;
(f)326位におけるAla、Asp、Glu、Met、またはTrp;および
(g)333位におけるSer
からなる群より選択されるアミノ酸を含む、[8]の抗原結合分子。
[10] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下:
(a)434位におけるAla;
(b)434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;
(c)428位におけるLeu、434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;
(d)428位におけるLeu、および434位におけるAla;ならびに
(e)428位におけるLeu、434位におけるAla、438位におけるArg、および440位におけるGlu
からなる群より選択されるアミノ酸を含む、[1]~[9]のいずれか1つの抗原結合分子。
[11] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、六量体形成を増強する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、[1]~[10]のいずれか1つの抗原結合分子。
[12] 第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、第1のFc領域バリアントと第2のFc領域バリアントとの会合を促進する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、[1]~[11]のいずれか1つの抗原結合分子。
[13] 前記抗原を発現する病原体の、細胞内への侵入の抗体依存性感染増強(ADE)をもたらすリスクが低下している、[1]~[12]のいずれか1つの抗原結合分子。
[14] 病原体または該病原体に感染した細胞を、補体依存性細胞傷害(CDC)を介して除去するために、C1qを動員する、[1]~[13]のいずれか1つの抗原結合分子。
[15] 病原体がウイルスである、[13]または[14]の抗原結合分子。
[16] [1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[16-1] [1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子の、互いに異なる2つ以上と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[16-2] [1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子を第1の抗原結合分子として含む医薬組成物であって、[1]~[15]のいずれか1つから選択されかつ第1の抗原結合分子と異なる第2の抗原結合分子との組み合わせで使用するための、医薬組成物。
[16-3] 第2の抗原結合分子が、第1の抗原結合分子によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに結合する、[16-2]の医薬組成物。
[16-4] 第1の抗原結合分子が、第2の抗原結合分子と同時に投与される、[16-2]または[16-3]の医薬組成物。
[16-5] 第1の抗原結合分子が、第2の抗原結合分子の投与の前にまたは後に投与される、[16-2]または[16-3]の医薬組成物。
[17] [1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子をコードする、単離された核酸。
[18] [17]の核酸を含む、ベクター。
[19] [17]の核酸または[18]のベクターを含む、宿主細胞。
[20] [19]の宿主細胞を培養する段階を含む、[1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子を産生する方法。
[21] ウイルス感染性疾患の治療で使用するための、[1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子または[16]の医薬組成物。
[22] [1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子を対象に投与する段階を含む、ウイルスに感染しているウイルス感染性疾患の対象の治療のための方法。
[23] ウイルス感染性疾患の治療のための医薬の製造のための、[1]~[15]のいずれか1つの抗原結合分子の使用。
[24] 以下の段階:
(a)親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドを含み、かつ親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分子
を選択する段階;
(b)(a)において選択された抗原結合分子の第1のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分に融合されており、かつ(a)において選択された抗原結合分子の第2のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない、抗原結合分子
をコードする遺伝子を得る段階;ならびに
(c)(b)において得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を産生する段階
を含む、抗原結合分子を産生するための方法。
[25] (b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分に融合されている第2の抗原結合部分を有し、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合するものである、[24]の方法。
[26] (b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分に融合されている第2の抗原結合部分を有し、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合するものである、[24]の方法。
[27] [24]~[26]のいずれか1つの産生方法によって産生される、抗原結合分子。
[28] 以下の段階:
(a)親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドを含み、かつ親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分子
を選択する段階;
(b)(a)において選択された抗原結合分子の第1のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分に融合されており、かつ(a)において選択された抗原結合分子の第2のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない、抗原結合分子
をコードする遺伝子を得る段階;ならびに
(c)(b)において得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を産生する段階
を含む、抗原結合分子をスクリーニングするための方法。
[29] (b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分に融合されている第2の抗原結合部分を有し、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合するものである、 [28]の方法。
[30] (b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分が、第1の抗原結合部分に融合されている第2の抗原結合部分を有し、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合するものである、[28]の方法。
[31] [28]~[30]のいずれか1つの産生方法によって産生される、抗原結合分子。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来型の2アームフォーマットの抗体(図において2アーム-SG1095、2アーム-SG1408、および2アーム-SG192とそれぞれ称する、二価抗HER2-SG1095、二価抗HER2-SG1408、および二価抗HER2-SG192)およびワンアームフォーマットの抗体(図において1アーム-SG1095、1アーム-SG1408、および1アーム-SG192とそれぞれ称する、ワンアーム抗HER2-SG1095、ワンアーム抗HER2-SG1048、およびワンアーム抗HER2-SG192)を用いて抗体媒介性CDCによって溶解された細胞のパーセンテージを示すグラフである。
【
図2】従来型の2アームフォーマットの抗体(図において2アーム-SG1095、2アーム-SG1095R、2アーム-SG1095RG、2アーム-SG1095RGY、2アーム-SG1095ER、2アーム-SG1408、および2アーム-SG192とそれぞれ称する、二価抗HER2-SG1095、二価抗HER2-SG1095R、二価抗HER2-SG1095RG、二価抗HER2-SG1095RGY、二価抗HER2-SG1095ER、二価抗HER2-SG1408、および二価抗HER2-SG192)を用いて抗体媒介性CDCによって溶解された細胞のパーセンテージを示すグラフである。
【
図3】ワンアームフォーマットの抗体(図において1アーム-SG1095、1アーム-SG1095R、1アーム-SG1095RG、1アーム-SG1905RGY、1アーム-SG1095ER、1アーム-SG1408、および1アーム-SG192とそれぞれ称する、ワンアーム抗HER2-SG1095、ワンアーム抗HER2-SG1095R、ワンアーム抗HER2-SG1095RG、ワンアーム抗HER2-SG1095RGY、ワンアーム抗HER2-SG1095ER、ワンアーム抗HER2-SG1048、およびワンアーム抗HER2-SG192)を用いて抗体媒介性CDCによって溶解された細胞のパーセンテージを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
態様の説明
本明細書において記載または参照される技法および手順は、概して十分に理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);ならびにCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993) に記載される広く利用されている方法論などの従来の方法論を使用して当業者によって一般的に用いられるものである。
【0011】
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本開示の理解を容易にするために提供される。
【0012】
定義
アミノ酸
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コードまたはその両方、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vによって記載される。
【0013】
アミノ酸の改変
アミノ酸改変は、置換、欠失、付加、および挿入のいずれか、またはそれらの組み合わせを意味する。本開示において、アミノ酸改変は、アミノ酸変異またはアミノ酸修飾と言い換えてもよい。抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))および重複伸長PCRなどの公知の方法が適宜採用され得る。さらに、非天然アミノ酸に置換するためのアミノ酸改変方法として、いくつかの公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含む無細胞翻訳系 (Clover Direct (Protein Express)) を用いることが適切である。
【0014】
本明細書において、アミノ酸改変の部位を記載する際の用語「および/または」の意味は、「および」と「または」が適切に組み合わされたあらゆる組み合わせを含む。具体的には、例えば、「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換される」は、アミノ酸改変の以下のバリエーションを含む:(a) 33位、(b) 55位、(c) 96位、(d) 33位および55位、(e) 33位および96位、(f) 55位および96位、ならびに (g) 33位、55位、および96位のアミノ酸。
【0015】
さらに、本明細書において、アミノ酸の改変を示す表現として、特定の位置を表す数字の左側および右側に、それぞれ改変前および改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを示す表現が、適宜使用され得る。例えば、抗体可変領域中に含まれるアミノ酸を置換する際に用いられるN100bLまたはAsn100bLeuという改変は、100b位(Kabatナンバリングによる)におけるAsnの、Leuによる置換を表す。すなわち、数字はKabatナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前(数字の左側)に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後(数字の右側)に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。同様に、抗体定常領域中に含まれるFc領域のアミノ酸を置換する際に用いられるP238DまたはPro238Aspという改変は、238位(EUナンバリングによる)におけるProの、Aspによる置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前(数字の左側)に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後(数字の右側)に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。
【0016】
ポリペプチド
本明細書で用いられる用語「ポリペプチド」は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結された単量体(アミノ酸)で構成される分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2アミノ酸以上の任意の鎖を指し、特定の長さの産物を指すものではない。よって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2アミノ酸以上の鎖を指すために用いられる任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりにまたは相互に交換可能に用いられてもよい。用語「ポリペプチド」はまた、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然アミノ酸による修飾を含む、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図する。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源に由来してもよく、または組換え技術によって産生されてもよいが、必ずしも指定の核酸から翻訳される必要はない。それは、化学合成を含む、任意の方法で生成されてもよい。本明細書において記載されるポリペプチドは、約3アミノ酸以上、5アミノ酸以上、10アミノ酸以上、20アミノ酸以上、25アミノ酸以上、50アミノ酸以上、75アミノ酸以上、100アミノ酸以上、200アミノ酸以上、500アミノ酸以上、1,000アミノ酸以上、または2,000アミノ酸以上のサイズのものであってもよい。ポリペプチドは規定された三次元構造を有し得るが、それらは必ずしもそのような構造を有する必要はない。規定された三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれたと称され、規定された三次元構造をもたないが多数の異なる立体構造をとり得るポリペプチドは、折り畳まれていないと称される。
【0017】
パーセント (%) アミノ酸配列同一性
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。%アミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign (DNASTAR) ソフトウェアなどの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のために、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムであるALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0018】
組換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗体および抗原結合分子は組換えの方法や構成を用いて産生することができる。1つの態様において、本明細書に記載の抗体をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような態様の1つでは、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。1つの態様において、宿主細胞は、真核性である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)またはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。1つの態様において、抗体の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、本開示の抗原結合分子を作製する方法が提供される。
【0019】
本明細書において記載される抗体の組換え産生のために、(例えば、上述したものなどの)抗体をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
【0020】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌で産生してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと。(加えて、大腸菌 (E. coli) における抗体断片の発現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと。)発現後、抗体は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0021】
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗体の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗体コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)および Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) を参照のこと。
【0022】
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗体の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用いられる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0023】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0024】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞 (HELA);イヌ腎細胞 (MDCK);Buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳癌 (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR- CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
【0025】
本明細書において記載される抗原結合分子の組換え産生は、抗原結合分子全体または抗原結合分子の一部を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む1つまたは複数のベクターを含む(例えば、それによって形質転換されている)宿主細胞を用いることによって、上記に記載されたものと同様の方法で行うことができる。
【0026】
抗原結合分子
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合部位や抗原結合部分を含む任意の分子、または抗原に対する結合活性を有する任意の分子を指し、約5アミノ酸以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子をさらに指し得る。ペプチドおよびタンパク質は、生物に由来するものに限定されず、例えば、それらは、人工的に設計された配列から産生されたポリペプチドであってもよい。それらは、いかなる天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等であってもよい。スキャフォールドとしてα/βバレルなどの公知の安定な立体構造を含み、分子の一部が抗原結合部位になる、スキャフォールド分子もまた、本明細書において記載される抗原結合分子の一態様である。
【0027】
1つの局面において、本開示の抗原結合分子は「ワンアームド (one-armed) (またはワンアーム (one-arm))抗原結合分子」であり得る。1つの局面において、「ワンアームド抗原結合分子」は、「ワンアームド抗原結合分子」の、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチド中に含まれる、第1のFc領域バリアントに融合されている、抗原結合部位、抗原結合部分、または抗原に対する結合活性を有する任意の分子を通じて、抗原に特異的に結合する、抗原結合分子を指す。ある特定の局面において、「ワンアームド抗原結合分子」のFcポリペプチド中に含まれる第2のFc領域バリアントは、上述の第1の抗原結合部位や第1の抗原結合部分等が結合するものと同じ抗原に結合することができる他のいかなる抗原結合部位や抗原結合部分等にも融合されておらず、かつ/または上述の第1の抗原結合部位や第1の抗原結合部分等が結合するものと異なる抗原(またはエピトープ)に結合することができる他のいかなる抗原結合部位や抗原結合部分等にも融合されていない。本明細書において提供される「ワンアームド」抗原結合分子は、従来型の2アームド抗原結合分子と比較して、増強された六量体形成を示すことができ、補体C1qへの結合を増強することができる。
【0028】
これに対して、「2アームド (two-armed) (または2アーム (two-arm))抗原結合分子」は、2つの抗原結合部位、2つの抗原結合部分、または抗原に対する結合活性を有する任意の2つの分子を通じて、抗原に特異的に結合する、抗原結合分子を指す。2つの抗原結合部位や2つの抗原結合部分等の一方およびもう一方は、別段明示しない限り、「2アームド抗原結合分子」のFcポリペプチドに含まれる第1のFc領域および第2のFc領域にそれぞれ融合されている。1つの非限定的な態様において、IgG型の従来型の二価抗体は、「2アームド抗原結合分子」の例であり得る。
【0029】
本明細書において用いられる場合、抗原結合部分の少なくとも1つが抗原分子中の第1のエピトープに結合しかつ抗原結合部分の少なくとも別の1つが抗原分子中の第2のエピトープに結合する、少なくとも2つの抗原結合部分(または抗原結合ドメイン)を含有する抗原結合分子は、その反応特異性の観点から多重特異性抗原結合分子と呼ばれる。
【0030】
単一の抗原結合分子が、抗原結合分子に含まれる2種類の抗原結合部分を通じて2種類の異なるエピトープに結合する場合、この抗原結合分子は「二重特異性抗原結合分子」と呼ばれる。単一の抗原結合分子が、抗原結合分子に含まれる3種類の抗原結合ドメインを通じて3種類の異なるエピトープに結合する場合、この抗原結合分子は「三重特異性抗原結合分子」と呼ばれる。
【0031】
1つの態様において、抗原分子中の第1のエピトープに結合する抗原結合部分におけるパラトープは、第1のエピトープと構造的に異なる第2のエピトープに結合する抗原結合部分におけるパラトープの構造とは異なる構造を有する。したがって、抗原結合部分の少なくとも1つが抗原分子中の第1のエピトープに結合しかつ抗原結合部分の少なくとも別の1つが抗原分子中の第2のエピトープに結合する、少なくとも2つの抗原結合部分(またはドメイン)を含有する抗原結合分子は、その構造および特異性の観点から「多重パラトープ性(multiparatopic)抗原結合分子」と呼ばれる。
【0032】
単一の抗原結合分子が、抗原結合分子に含まれる2種類の抗原結合部分を通じて2種類の異なるエピトープに結合する場合、この抗原結合分子は「二重パラトープ性抗原結合分子」と呼ばれる。単一の抗原結合分子が、抗原結合分子に含まれる3種類の抗原結合部分を通じて3種類の異なるエピトープに結合する場合、この抗原結合分子は「三重パラトープ性抗原結合分子」と呼ばれる。
【0033】
1つまたは複数の抗原結合部分を含む多価多重特異性または多重パラトープ性抗原結合分子およびそれらを調製するための方法は、Conrath et al. (J. Biol. Chem. (2001) 276 (10) 7346-7350)、Muyldermans (Rev. Mol. Biotech. (2001) 74, 277-302)、およびKontermann R. E. ((2011) Bispecific Antibodies (Springer-Verlag))などの非特許文献、ならびにWO1996/034103およびWO1999/023221などの特許文献に記載されている。本発明の抗原結合分子は、これらの文献に記載されている多重特異性または多重パラトープ性抗原結合分子およびそれらを調製するための方法を用いて産生することができる。
【0034】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとする、
該抗原結合分子を提供する。
【0035】
1つの態様において、本開示の抗原結合分子は、二重パラトープ性抗原結合分子(またはワンアームド二重パラトープ性抗原結合分子)であり、すなわち、 抗原結合分子に含まれる2つの抗原結合部分を通じて、目的の抗原の2種類の異なるエピトープに特異的に結合する。
【0036】
いくつかの態様において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとする、
該抗原結合分子を提供する。そのような態様の1つにおいて、本開示の抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。
【0037】
いくつかの態様において、本願の抗原結合分子は二価抗原結合分子(ワンアームド二価抗原結合分子)であり、該抗原結合分子は、抗原上の同じエピトープに特異的に結合する第1および第2の抗原結合部分を含む。
【0038】
いくつかの態様において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとする、
該抗原結合分子を提供する。そのような態様の1つにおいて、本開示の抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じ抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。
【0039】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。
【0040】
1つの態様において、本開示の抗原結合分子は二重パラトープ性抗原結合分子(またはワンアームド二重パラトープ性抗原結合分子)であり、すなわち、抗原結合分子に含まれる2つの抗原結合部分を通じて、目的の抗原の2種類の異なるエピトープに特異的に結合する。
【0041】
いくつかの態様において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。そのような態様の1つにおいて、本開示の抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。
【0042】
いくつかの態様において、本願の抗原結合分子は二価抗原結合分子(ワンアームド二価抗原結合分子)であり、該抗原結合分子は、抗原上の同じエピトープに特異的に結合する第1および第2の抗原結合部分を含む。
【0043】
いくつかの態様において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。そのような態様の1つにおいて、本開示の抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じ抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。
【0044】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、かつ第1および第2のバリアントFc領域が、六量体形成を増強する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、
該抗原結合分子を提供する。1つの態様において、本開示の抗原結合分子は、実質的に減少したFcγR結合活性を有する。1つの態様において、本開示の抗原結合分子は、維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性を有する。1つの態様において、本開示の抗原結合分子は、実質的に減少したFcγR結合活性を有し、かつ維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性を有する。
【0045】
いくつかの態様において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFc領域バリアントが、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、かつ第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる234位におけるAlaおよび235位におけるAla、ならびにEUナンバリングによる236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、
該抗原結合分子を提供する。あるいは、第1および/または第2のFc領域バリアントは、表1に記載されるアミノ酸改変の任意の1つまたは複数を含んでもよい。そのような態様の1つにおいて、抗原結合分子は、上述のアミノ酸改変を有さない親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する。1つの態様において、抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。別の態様において、抗原結合分子は、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じ抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分をさらに含む。
【0046】
いくつかの態様において、本開示の第1の抗原結合部分および/または第2の抗原結合部分は、Fab、scFv、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、またはリガンドを含む。より具体的な態様において、本開示の第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分はFabドメインを含む。
【0047】
上記態様のいずれかによれば、抗原結合分子の構成成分(例えば、抗原結合部分、Fcポリペプチド、第1のFc領域(または「Fcドメイン」)、第2のFc領域)は、直接的に、または種々のリンカー、特に、本明細書において記載されているかまたは当技術分野において公知である1つまたは複数のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを通じて、融合させてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーとしては、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、またはG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれ、ここで、nは概して1~10、典型的には 2~4の数である。例えば、第1の抗原結合部分は、直接的にまたは適切なリンカーを通じて、第1のFc領域バリアントのN末端に融合させてもよい。第2の抗原結合部分は、直接的にまたは適切なリンカーを通じて、第1の抗原結合部分のN末端に融合させてもよい。
【0048】
第1および第2の抗原結合部分を有する本開示の二重パラトープ性または二重特異性抗原結合分子において、第1および第2の抗原結合部分は、同じ第1のFc領域バリアントに(直接的にまたは間接的に)融合させ、それによって「ワンアームド」分子フォーマットの抗原結合分子を提供してもよく、または第1の抗原結合部分は第1および第2のFc領域バリアントの一方に融合させ、かつ第2の抗原結合部分はもう一方に融合させ、それによって従来型の「2アームド」分子フォーマットの抗原結合分子を提供してもよい。第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分を含む、上記に記載されるワンアームドまたは2アームド二重パラトープ性もしくは二重特異性抗原結合分子のいずれかの1つの態様において、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分が結合するものと同じ抗原上または第1の抗原結合部分が結合するものと異なる抗原上の、異なるエピトープに結合することができる。
【0049】
ピログルタミル化
抗体が細胞において発現する場合、抗体は翻訳後に修飾されることが知られている。翻訳後修飾の例としては、カルボキシペプチダーゼによる重鎖C末端のリジンの切断;重鎖および軽鎖N末端のグルタミンまたはグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾;グリコシル化;酸化;脱アミド;および糖化が挙げられ、そのような翻訳後修飾は種々の抗体で生じることが公知である(Journal of Pharmaceutical Sciences, 2008, Vol. 97, p. 2426-2447)。
【0050】
本開示の抗原結合分子には、翻訳後修飾を受けた抗体も含まれる。翻訳後修飾を受けている本開示の抗原結合分子の例としては、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化および/または重鎖C末端のリジンの欠失を受けた抗体が挙げられる。当分野では、N末端のピログルタミル化およびC末端のリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことは公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0051】
抗原に特異的に結合する抗原結合部分
本明細書において用いられる場合、用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。1つの態様において、抗原結合部分は、それが付着している実体を、標的部位に方向付けることができる。抗原結合部分には、本明細書においてさらに定義されるような抗体、その断片、またはリガンドが含まれ得る。
【0052】
ある特定の態様において、抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインまたは抗体可変領域が含まれ得る。ある特定の態様において、抗原結合部分は、本明細書においてさらに定義されかつ当技術分野において公知である抗体定常領域を含んでもよい。有用な重鎖定常領域としては、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ、またはμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域としては、2つのアイソタイプ:κおよびλのいずれかが含まれる。
【0053】
本明細書において用いられる場合、抗原結合部分等に関する用語「第1の」、「第2の」、および「第3の」は、部分等の各タイプが2種類以上存在する場合に区別するという利便性のために用いられる。これらの用語の使用は、別段明示しない限り、抗原結合分子の特定の順序または配向を付与することを意図しない。
【0054】
ある特定の態様において、本開示の第1の抗原結合部分は概して、Fab分子、特に従来型のFab分子である。ある特定の態様において、抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、「単鎖 Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖 Fv2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、または任意の抗体断片である。
【0055】
ある特定の態様において、第2の抗原結合部分は概して、Fab分子、特に従来型のFab分子である。ある特定の態様において、抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、「単鎖 Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖 Fv2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、または任意の抗体断片である。
【0056】
1つの非限定的な態様において、本開示の第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分は、Fab分子、特に従来型のFab分子を含む。
【0057】
別の非限定的な態様において、本開示の抗原結合分子がその構造において第3のまたはそれ以上の抗原結合部分をさらに含む場合、第3の(またはそれ以上の)抗原結合部分は概して、Fab分子、特に従来型のFab分子である。さらなる非限定的な態様において、第3の(またはそれ以上の)抗原結合部分は、「単鎖 Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖 Fv2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、または任意の抗体断片である。
【0058】
ある特定の態様において、本開示の抗原結合部分は、抗原の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する。本開示の抗原結合部分が結合することができる抗原の例としては、これらに限定されないが、リガンド(サイトカインおよびケモカイン等)、受容体、がん抗原、ウイルス抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリン、および免疫グロブリンを部分的に含む免疫複合体が挙げられる。特定の態様において、抗原はヒト抗原またはカニクイザル抗原またはマウス抗原、特にヒト抗原である。特定の態様において、抗原結合部分は、ヒトおよびカニクイザル抗原に対して交差反応性である(すなわち、それらに特異的に結合する)。別の態様において、抗原は、病原性実体、例えば、ウイルス、細菌、マイコバクテリア、真菌、原生動物等を含む病原性微生物の抗原である。1つの非限定的な態様において、抗原は、それに結合する抗原結合分子の存在下で抗体依存性感染増強(ADE)のリスクをもたらし得るウイルスまたはその一部分である。
【0059】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。
【0060】
特定の態様において、本開示の第1の抗原結合部分はHER2に特異的に結合し、かつHER2抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、H鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3、ならびにL鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3の、以下の(b1)の組み合わせ:
(b1)配列番号:8のアミノ酸配列に含まれる、相補性決定領域(CDR) 1、CDR 2、およびCDR 3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:9のアミノ酸配列に含まれる、CDR 1、CDR 2、およびCDR 3を含む軽鎖可変領域
を含む。
【0061】
特定の態様において、HER2抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、ヒト抗体フレームワークまたはヒト化抗体フレームワークを含む抗体可変領域を含む。
【0062】
特定の態様において、第1の抗原結合部分は、以下の(d1):
(d1)配列番号:8のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
【0063】
1つの態様において、HER2抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、配列番号:8のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:9のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。
【0064】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および17のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:17のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:24のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0065】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および11のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:11のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:18のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0066】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および12のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:12のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:19のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0067】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および13のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:13のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:20のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0068】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および14のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:14のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:21のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0069】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および15のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:15のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:22のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0070】
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、以下:
配列番号:8および16のアミノ酸配列(配列番号:8のアミノ酸配列を含む可変重鎖ドメイン(VH)と、配列番号:16のアミノ酸配列を含む、定常重鎖ドメイン 1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)およびFc領域とを含む、「鎖1」);
配列番号:9および10のアミノ酸配列(配列番号:9のアミノ酸配列を含む可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)と、配列番号:10のアミノ酸配列を含む定常軽鎖ドメイン(CL)とを含む、「鎖2」);ならびに
配列番号:23のアミノ酸配列(Fc領域を含む「鎖3」)
を含む。
【0071】
本開示の抗原結合分子には、翻訳後修飾を受けた抗体も含まれる。翻訳後修飾を受けた本開示の抗原結合分子の例としては、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化および/または重鎖C末端のリジンの欠失を受けた抗体が挙げられる。当分野では、N末端のピログルタミル化およびC末端のリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことが公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0072】
抗原
本明細書において用いられる場合、用語「抗原」は、抗原結合部分が結合するポリペプチド巨大分子の全体または該分子上のある部位(例えば、連続した一続きのアミノ酸、または非連続アミノ酸の別々の領域から構成される立体構造)を指し、抗原結合部分-抗原複合体を形成する。有用な抗原決定基は、例えば、ウイルスの表面上に、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中に遊離した状態で、および/または細胞外基質(ECM)中に見出すことができる。別段示さない限り、本明細書において抗原と称するタンパク質は、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源由来のタンパク質の任意の天然形態であり得る。本明細書において特定のタンパク質への言及がなされる場合、該用語は、「全長」の、プロセシングを受けていないタンパク質、ならびに細胞中でのプロセシングによって生じるタンパク質の任意の形態を包含する。該用語はまた、タンパク質の天然バリアント、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。
【0073】
1つの態様において、本開示の抗原は、ヒト抗原またはカニクイザル抗原またはマウス抗原、特にヒト抗原である。抗原は、リガンド(サイトカインおよびケモカイン等)、受容体、がん抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリン、および免疫グロブリンを部分的に含む免疫複合体であってもよい。特定の態様において、抗原はHER2である。
【0074】
1つの態様において、本開示の抗原は、ウイルスまたはウイルスタンパク質である。いくつかの態様において、本開示のウイルスは好ましくは、アデノウイルス、アストロウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、コロナウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ピコルナウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、またはトガウイルスから選択される。
【0075】
好ましい態様において、アデノウイルスには、これに限定されないが、ヒトアデノウイルスが含まれる。好ましい態様において、アストロウイルスには、これに限定されないが、ママストロウイルスが含まれる。好ましい態様において、ヘパドナウイルスには、これに限定されないが、B型肝炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、ヘルペスウイルスには、これらに限定されないが、単純ヘルペスウイルスI型、単純ヘルペスウイルス2型、ヒトサイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ロゼオロウイルス、および カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが含まれる。好ましい態様において、パポバウイルスには、これらに限定されないが、ヒトパピローマウイルスおよびヒトポリオーマウイルスが含まれる。好ましい態様において、ポックスウイルスには、これらに限定されないが、痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、天然痘ウイルス、偽牛痘ウイルス、丘疹性口内炎ウイルス、タナ痘ウイルス、ヤバサル腫瘍ウイルス、および伝染性軟属腫ウイルスが含まれる。好ましい態様において、アレナウイルスには、これらに限定されないが、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、ラッサウイルス、マチュポウイルス、およびフニンウイルスが含まれる。好ましい態様において、ブニヤウイルスには、これらに限定されないが、ハンタウイルス、ナイロウイルス、オルソブニヤウイルス、およびフレボウイルスが含まれる。好ましい態様において、カリシウイルスには、これらに限定されないが、ベシウイルス、ノロウイルス、例えば、ノーウォークウイルスおよびサポウイルスが含まれる。好ましい態様において、コロナウイルスには、これらに限定されないが、ヒトコロナウイルス(重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原因子)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)が含まれる。好ましい態様において、フィロウイルスには、これらに限定されないが、エボラウイルスおよびマールブルグウイルスが含まれる。好ましい態様において、フラビウイルスには、これらに限定されないが、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス(DENV-1、DENV-2、DENV-3、およびDENV-4)、C型肝炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、 セントルイス脳炎ウイルス、ロシア春夏脳炎ウイルス、オムスク出血熱ウイルス、ウシウイルス性下痢症ウイルス、キャサヌール森林病ウイルス、およびポワッサン脳炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、オルソミクソウイルスには、これらに限定されないが、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、およびインフルエンザウイルスC型が含まれる。好ましい態様において、パラミクソウイルスには、これらに限定されないが、パラインフルエンザウイルス、ルブラウイルス(ムンプス)、モルビリウイルス(麻疹)、ニューモウイルス、例えば、ヒト呼吸器多核体ウイルス、および亜急性硬化性全脳炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、ピコルナウイルスには、これらに限定されないが、ポリオウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA、コクサッキーウイルスB、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、およびエンテロウイルスが含まれる。好ましい態様において、レオウイルスには、これらに限定されないが、コロラドダニ熱ウイルスおよびロタウイルスが含まれる。好ましい態様において、レトロウイルスには、これらに限定されないが、レンチウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス、およびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)が含まれる。好ましい態様において、ラブドウイルスには、これらに限定されないが、リッサウイルス、例えば、狂犬病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、および伝染性造血器壊死症ウイルスが含まれる。好ましい態様において、トガウイルスには、これらに限定されないが、アルファウイルス、例えば、ロスリバーウイルス、オニョンニョンウイルス、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、および西部ウマ脳炎ウイルス、および風疹ウイルスが含まれる。1つの非限定的な態様において、本開示のウイルスは、抗体依存性感染増強(ADE)のリスクをもたらし得る任意のウイルスである。
【0076】
抗原結合ドメイン(または抗原結合部分)
1つの態様において、本開示の「抗原結合ドメイン」または「抗原結合部分」は、抗原の一部またはすべてに特異的に結合しかつそれに相補的である領域を含む抗体の一部を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によってもたらされてもよい。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の両方を含む。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「単鎖Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。抗原結合ドメインはまた、シングルドメイン抗体によってもたらされてもよい。
【0077】
シングルドメイン抗体
本明細書において、用語「シングルドメイン抗体」は、該ドメインがそれ単独で抗原結合活性を発揮できる限りは、その構造によって限定されない。一般的な抗体、例えば、IgG抗体は、可変領域がVHおよびVLのペアリングによって形成されている状態で抗原結合活性を示すのに対して、シングルドメイン抗体のそれ自体のドメイン構造は、別のドメインとのペアリングなしにそれ単独で抗原結合活性を発揮できることが公知である。通常、シングルドメイン抗体は、比較的低い分子量を有し、単量体の形態で存在する。
【0078】
シングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、軽鎖を生来欠いているラクダ科の動物のVHHおよびサメVNARなどの抗原結合分子、および抗体VHドメインの全体もしくは一部または抗体VLドメインの全体もしくは一部を含有する抗体断片が挙げられる。抗体VHドメインまたは抗体VLドメインの全体または一部を含有する抗体断片であるシングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、米国特許第6,248,516号B1などに記載されているようなヒト抗体VHまたはヒト抗体VLを起源とする、人工的に調製したシングルドメイン抗体が挙げられる。本発明のいくつかの態様において、1つのシングルドメイン抗体は、3種類のCDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)を有する。
【0079】
シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を産生できる動物から、またはシングルドメイン抗体を産生できる動物の免疫化によって、得ることができる。シングルドメイン抗体を産生できる動物の例としては、これらに限定されないが、ラクダ科の動物、およびシングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物が挙げられる。ラクダ科の動物には、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコ等が含まれる。シングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物の例としては、これらに限定されないが、国際公開公報番号WO2015/143414および米国特許公報番号US2011/0123527 A1に記載のトランスジェニック動物が挙げられる。該動物から得られたシングルドメイン抗体のフレームワーク配列は、ヒト化シングルドメイン抗体を得るために、ヒト生殖系列配列またはそれに類似する配列に変換されてもよい。ヒト化シングルドメイン抗体(例えば、ヒト化VHH)もまた、本発明のシングルドメイン抗体の一態様である。
【0080】
あるいは、シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリからELISAまたはパニング等によって得ることができる。シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリの例としては、これらに限定されないが、種々の動物またはヒトから得られたナイーブ抗体ライブラリ(例えば、Methods in Molecular Biology 2012 911 (65-78);およびBiochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics 2006 1764: 8 (1307-1319))、種々の動物の免疫化によって得られた抗体ライブラリ(例えば、Journal of Applied Microbiology 2014 117: 2 (528-536))、および種々の動物またはヒトの抗体遺伝子から調製した合成抗体ライブラリ(例えば、Journal of Biomolecular Screening 2016 21: 1 (35-43); Journal of Biological Chemistry 2016 291:24 (12641-12657);およびAIDS 2016 30: 11 (1691-1701))が挙げられる。
【0081】
可変領域
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0082】
HVRまたはCDR
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域を指す。超可変領域(HVR)は、「相補性決定領域」(CDR)とも称され、これらの用語は、本明細書では、抗原結合領域を形成する可変領域の部分に関して相互に交換可能に用いられる。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組み合わせ。
【0083】
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらに従ってナンバリングされる。
【0084】
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3は、それぞれ、「H-CDR1」、「H-CDR2」、「H-CDR3」、「L-CDR1」、「L-CDR2」、および「L-CDR3」とも記載される。
【0085】
Fab分子
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVHおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)ならびに軽鎖のVLおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)からなるタンパク質を指す。
【0086】
融合される
「融合される」は、構成成分(例えば、Fab分子およびFcドメインサブユニット)が、直接的に、または1つもしくは複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合によって連結されることを意味する。
【0087】
「クロスオーバー」Fab
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)は、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されている、Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域および重鎖定常領域で構成されたペプチド鎖と、重鎖可変領域および軽鎖定常領域で構成されたペプチド鎖とを含む。明確にするために記すと、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖定常領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。反対に、Fab軽鎖およびFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖可変領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。
【0088】
「従来の」Fab
それに対して、「従来の」Fab分子は、その天然の形式でのFab分子、すなわち、重鎖の可変領域および定常領域で構成された重鎖(VH-CH1)、ならびに軽鎖の可変領域および定常領域で構成された軽鎖(VL-CL)を含むFab分子を意味する。用語「免疫グロブリン分子」は、天然の抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合で結合された2つの軽鎖および2つの重鎖で構成された、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端へ、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)と、その後に続く重鎖定常領域とも呼ばれる3種類の定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)とを有する。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端へ、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)と、その後に続く軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインとを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプのうちの1つに割り当てられてもよく、それらの一部は、サブタイプ、例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)、およびα2(IgA2)にさらに分類されてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、κおよびλと呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てられもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して連結された、2つのFab分子およびFcドメインから本質的になる。
【0089】
アフィニティ/アビディティ
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗原結合分子または抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度を指す。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティを指す。分子Xの、そのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)との比である、解離定数(KD)により表すことができる。したがって、速度定数の比が同じままである限り、等価のアフィニティは異なる速度定数を含んでもよい。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当技術分野において公知の確立した方法によって測定することができる。アフィニティを測定するための具体的な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0090】
エピトープに結合する抗体の抗原結合ドメインの構造は、パラトープと呼ばれる。パラトープは、エピトープとパラトープとの間に作用する水素結合、静電力、ファンデルワールス力、または疎水結合等を通じてエピトープに安定的に結合する。このエピトープとパラトープとの間の結合力は「アフィニティ」と呼ばれる(上記も参照)。複数の抗原結合ドメインが複数の抗原に結合する場合の総結合力は「アビディティ」と呼ばれる。アフィニティは、例えば、複数の抗原結合ドメインを含む抗体(すなわち、多価(polyvalent)抗体または多価(multivalent)抗体)が複数のエピトープに結合する場合に相乗的に働き、アビディティはアフィニティより高くなる可能性がある。
【0091】
アフィニティを決定する方法
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子または抗体は、その抗原に対して、≦1μM、≦120nM、≦100nM、≦80nM、≦70nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、≦20nM、≦10nM、≦2nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、10-8M~10-13M、10-9M~10-13M)の解離定数 (KD) を有する。特定の態様において、抗原に対する、抗体/抗原結合分子のKD値は、1~40、1~50、1~70、1~80、30~50、30~70、30~80、40~70、40~80、または60~80nMの範囲内に入る。
【0092】
1つの態様において、KDは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。1つの態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0093】
別の態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。1つの態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示に従いN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。会合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
【0094】
抗原結合分子または抗体のアフィニティを測定するための上記の方法に従って、当業者は、様々な抗原に対する他の抗原結合分子または抗体のアフィニティ測定を行うことができる。
【0095】
抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0096】
抗体のクラス
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0097】
別段示さない限り、軽鎖定常領域中のアミノ酸残基は、本明細書ではKabatらに従ってナンバリングされ、重鎖定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているような、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
【0098】
フレームワーク
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0099】
ヒトコンセンサスフレームワーク
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。1つの態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。1つの態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0100】
キメラ抗体
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体を指す。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体可変領域を指す。
【0101】
ヒト化抗体
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体を指す。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体を指す。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域を指す。
【0102】
ヒト抗体
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域を指す。
【0103】
ポリヌクレオチド(核酸)
本明細書で相互に交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはそれらのアナログ、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに組み込まれ得る任意の物質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらのアナログなどの修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドの配列に、非ヌクレオチド成分が割り込んでいてもよい。ポリヌクレオチドは、標識へのコンジュゲーションなどの、合成後になされる修飾を含み得る。他のタイプの修飾は、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然のヌクレオチドとアナログとの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミド酸、カルバメート等)および荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を伴うもの、例えばタンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等)などのペンダント部分を含むもの、インターカレート剤(例えば、アクリジン、ソラレン等)を伴うもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾連結(例えば、アルファアノマー核酸等)や非修飾形態のポリヌクレオチドを伴うものを含む。さらに、通常糖に存在する任意のヒドロキシル基は、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置き換えられ得、標準的な保護基によって保護され得、もしくはさらなるヌクレオチドへのさらなる連結を調製するよう活性化され得、または固体もしくは半固体支持体にコンジュゲートされ得る。5'および3'末端のOHは、リン酸化またはアミンもしくは1~20炭素原子の有機キャップ基部分で置換され得る。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドはまた、例えば以下のものを含む、当技術分野で一般に公知となっているリボースまたはデオキシリボース糖の類似形態を含み得る:2'-O-メチル-、2'-O-アリル-、2'-フルオロ-、または2'-アジド-リボース、炭素環式糖アナログ、α-アノマー糖、アラビノースまたはキシロースまたはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、およびメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシドアナログ。1つまたは複数のホスホジエステル結合は、代替の連結基によって置き換えられ得る。これらの代替の連結基は、これらに限定されるものではないが、ホスフェートが以下のものによって置き換えられている態様を含む:P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO、またはCH2(「ホルムアセタール」)、ここで、各RまたはR'は独立してH、または、任意でエーテル(-O-)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、もしくはアラルジルを含む置換もしくは非置換アルキル(1~20C)である。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。上記の説明は、RNAおよびDNAを含む本明細書で言及されるすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0104】
単離された(核酸)
「単離された」核酸分子は、そのもともとの環境の成分から分離されたものを指す。単離された核酸分子はさらに、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
【0105】
ベクター
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。ベクターは、ウイルスまたはエレクトロポレーションを用いて宿主細胞に導入することができる。しかしながら、ベクターの導入は、インビトロでの方法に限定されない。例えば、ベクターは、インビボでの方法を用いて対象に直接導入することもできる。
【0106】
宿主細胞
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0107】
特異性
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」はまた、抗原結合部位が、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合分子が抗原に特異的に結合する場合、それは「抗原結合分子が、抗原に/抗原に対して特異性を有する/示す」とも記載される。抗原結合部位が結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合部位を含む抗原結合分子は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
【0108】
抗体断片
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子を指す。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、およびシングルドメイン抗体を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みインビボにおける半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097; WO1993/01161; Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003); Hollinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 90, 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) に記載されている。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
【0109】
可変断片(Fv)
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗体の重鎖可変領域(VH)とのペアから構成される抗体由来の抗原結合部位の最小単位を指す。1988年にSkerraとPluckthunは、細菌のシグナル配列の下流に抗体遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性な抗体が大腸菌のペリプラズム画分から調製され得ることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいては、抗原に結合するような様式でVHとVLが会合している。
【0110】
scFv、単鎖抗体、およびsc(Fv)
2
本明細書において、用語「scFv」、「単鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はいずれも、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片を指す。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造の形成を可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際公開公報WO1988/001649、米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照のこと。特定の態様において、単鎖抗体は、二重特異性でありかつ/またはヒト化され得る。
【0111】
scFvはFvを形成するVHとVLとがペプチドリンカーによって共に連結された単鎖低分子量抗体である(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
sc(Fv)2は、2つのVLと2つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を形成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この2つのVHと2つのVLは異なるモノクローナル抗体に由来してもよい。そのようなsc(Fv)2としては、例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような、単一抗原中に存在する2つのエピトープを認識する二重特異性sc(Fv)2が好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって産生され得る。例えば、sc(Fv)2は、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで連結することによって産生され得る。
【0112】
本明細書において、sc(Fv)2は、一本鎖ポリペプチドのN末端を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL])の順に並んでいる2つのVH単位および2つのVL単位を含む。2つのVH単位と2つのVL単位の順序は上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。構成の例を以下に列挙する。
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
【0113】
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されている。当業者であればこれらの記載に従って、所望のsc(Fv)2を適宜調製することができる。
【0114】
さらに本開示の抗原結合分子または抗体に、PEG等の担体高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。あるいは、糖鎖が所望の効果をもたらすように、糖鎖付加配列が抗原結合分子または抗体に好適に挿入される。
【0115】
抗体の可変領域の連結に使用するリンカーは、遺伝子工学により導入され得る任意のペプチドリンカー、合成リンカー、および例えばProtein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを含む。しかしながら、本開示においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能である。長さは、好ましくは5アミノ酸以上(特に限定されないが、上限は通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、それらの長さはすべて同じであってもよいし異なってもよい。
【0116】
例えば、そのようなペプチドリンカーには以下のものが含まれる:
Ser、
Gly-Ser、
Gly-Gly-Ser、
Ser-Gly-Gly、
Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:26)、
Ser-Gly-Gly-Gly(配列番号:27)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:28)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:29)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:30)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:31)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:32)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:33)、
(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:28))n、および
(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:29))n。
ここでnは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0117】
合成リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられており、例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、およびビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)が挙げられる。これらの架橋剤は市販されている。
【0118】
4つの抗体可変領域を連結するには、通常、3つのリンカーが必要となる。用いられるリンカーは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。
【0119】
Fab、F(ab')
2
、およびFab'
「Fab」は、1本の軽鎖、ならびに1本の重鎖のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
【0120】
「F(ab')2」または「Fab」は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をペプシンおよびパパイン等のプロテアーゼで処理することにより産生され、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することによって生成される抗体断片を指す。例えばパパインは、IgGを、2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流で切断し、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)を含むL鎖がVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)を含むH鎖断片とそれらのC末端領域でジスルフィド結合により連結されている、相同な2つの抗体断片を生成する。これら2つの相同な抗体断片はそれぞれFab'と呼ばれる。
【0121】
「F(ab')2」は、2本の軽鎖、ならびにジスルフィド結合が2本の重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む2本の重鎖からなる。本明細書において開示されるF(ab')2は、次のように好適に産生され得る。所望の抗原結合部位を含むモノクローナル全部抗体等を、ペプシン等のプロテアーゼで部分消化し、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させることにより除去する。プロテアーゼは、pH等の適切な設定酵素反応条件下で選択的にF(ab')2をもたらすように全部抗体を切断し得るものである限り、特に限定はされない。例えば、そのようなプロテアーゼにはペプシンおよびフィシンが含まれる。
【0122】
C1q
「C1q」は、免疫グロブリンのFc領域に対する結合部位を含むポリペプチドである。C1qは、2種類のセリンプロテアーゼであるC1rおよびC1sと一緒に、補体依存性細胞傷害(CDC)経路の第1の構成成分である複合体C1を形成する。ヒトC1qは、例えばQuidel, San Diego, CAから商業的に購入することができる。
【0123】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。古典的補体経路の活性化は、その同種抗原に結合している(適切なサブクラスの)抗体への、補体系の第1の構成成分(C1q)の結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているような、CDCアッセイを実施してもよい。改変されたFc領域アミノ酸配列(Fc領域バリアントを有するポリペプチド)および増加または減少したC1q結合能を有するポリペプチドバリアントが、例えば、米国特許第6,194,551号 B1およびWO1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参照のこと。本明細書における「補体依存性細胞傷害」または「CDC」はさらに、補体による、標的ウイルスの溶解(ウイルス溶解(virolysis))または細胞へのウイルスの感染力の低下を指し得る。補体依存性溶解または補体依存性のウイルス感染力低下を評価するための方法は、加熱により非働化された血清または補体成分を枯渇させた血清の使用等、当技術分野において広く知られている。補体依存性ウイルス溶解または非働化の例は、Springer Semin Immunopathol. 1983; 6(4): 327-347に詳述される。
【0124】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、抗体のアイソタイプによって異なる生物学的活性を指す。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC); Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方制御;およびB細胞活性化が挙げられる。
【0125】
本明細書において用いられる語句「実質的に減少した」、「実質的に増加した」、または「実質的に異なる」は、2つの数値の間(通常、ある分子に関するものと、参照/比較用分子に関するものの間)の差が、当業者がそれら2つの数値の間の差が該数値(例えば、Kd値)によって測定される生物学的特徴の観点で統計学的に有意であるとみなす程度に、十分に大きいことを指す。
【0126】
Fcポリペプチド
本明細書において、用語「Fcポリペプチド」は、Fcポリペプチドが、定常領域の少なくとも一部分、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH2およびCH3ドメイン、Fc領域、またはそれらのバリアントを含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を含む限り、その構造によって限定されない。
【0127】
本明細書における用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、定常領域の少なくとも一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように用いられる。該用語には、天然型配列Fc領域およびバリアントFc領域が含まれる。1つの態様において、用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、抗体分子中の、ヒンジまたはその一部、ならびにCH2およびCH3ドメインからなる断片を含む。IgGクラスのFc領域は、例えば、システイン226(EU ナンバリング(本明細書においてEUインデックスとも称される))からC末端まで、またはプロリン230(EUナンバリング)からC末端までの領域を意味するが、それに限定されない。Fc領域は、好ましくは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体を、ペプシンなどのタンパク質分解酵素で部分消化した後に、プロテインAカラムまたはプロテインGカラムに吸着された画分を再溶出することによって取得することができる。そのようなタンパク質分解酵素は、適宜設定される酵素の反応条件(例えば、pH)の下で制限的にFabまたはF(ab')2を形成するように全長抗体を消化することができる限り、特に限定されない。その例には、ペプシンおよびパパインが含まれ得る。
【0128】
本発明において、例えば、天然の(野生型)IgGに由来するFc領域を、抗原結合分子の「Fc領域」として用いることができる。ここで、天然のIgGとは、天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を含有し、免疫グロブリンγ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。天然のヒトIgGとは、例えば、天然のヒトIgG1、天然のヒトIgG2、天然のヒトIgG3、または天然のヒトIgG4を意味する。天然のIgGにはまた、自然発生的にそれに由来するバリアントなども含まれる。遺伝子多型に基づく複数のアロタイプ配列が、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4抗体の定常領域としてSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されており、それらはいずれも、本開示において用いることができる。特に、ヒトIgG1の配列は、EUナンバリング356~358位のアミノ酸配列として、DELまたはEEMを有してもよい。
【0129】
Fc受容体
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を指す。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0130】
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
【0131】
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたはFc領域バリアントを有するポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体バリアントを記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
【0132】
Fcγ受容体
Fcγ受容体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに結合し得る受容体を指し、これにはFcγ受容体遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーに属するすべてのメンバーが含まれる。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI (CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII (CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII (CD16);ならびに未同定のヒトFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。しかしながら、Fcγ受容体はこれらの例に限定されない。Fcγ受容体には、これらに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルに由来するものが含まれる。Fcγ受容体は任意の生物に由来してよい。マウスFcγ受容体には、これらに限定されないが、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)、およびFcγRIII-2 (CD16-2)、ならびに未同定のマウスFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。そのような好ましいFcγ受容体には、例えば、ヒトFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32)、FcγRIIB (CD32)、FcγRIIIA (CD16)、および/またはFcγRIIIB (CD16) が含まれる。FcγRIのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号NM_000566.3およびRefSeq登録番号NP_000557.1に示され;FcγRIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC020823.1およびRefSeq登録番号AAH20823.1に示され;FcγRIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC146678.1およびRefSeq登録番号AAI46679.1に示され;FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC033678.1およびRefSeq登録番号AAH33678.1に示され;ならびにFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC128562.1およびRefSeq登録番号AAI28563.1に示される。Fcγ受容体がIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに対する結合活性を有するかどうかは、上記のFACSおよびELISAフォーマットに加えて、ALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)、表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法、およびその他によって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0133】
その一方で、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体Fcドメインに結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、および好ましくはポリペプチドを指す。該分子は任意の生物に由来してよい。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは1つまたは複数のエフェクター機能を誘導する。そのようなFcリガンドには、Fc受容体、Fcγ受容体、Fcα受容体、Fcβ受容体、FcRn、C1q、およびC3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA、スタフィロコッカスプロテインG、ならびにウイルスFcγ受容体が含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、Fcγ受容体と相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体ホモログ (FcRH) (Davis et al., (2002) Immunological Reviews 190, 123-136) もまた含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未同定の分子もまた含まれる。
【0134】
Fcγ受容体結合活性
FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、および/またはFcγRIIIBのいずれかのFcγ受容体に対するFcドメインの結合活性が損なわれていることは、上記のFACSおよびELISAフォーマット、ならびにALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)および表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法を用いることによって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0135】
ALPHAスクリーンは、2種類のビーズ:ドナービーズおよびアクセプタービーズを用いる、下記の原理に基づいたALPHA技術によって実施される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と生物学的に相互作用し、かつ2つのビーズが近接して位置する場合にのみ、発光シグナルが検出される。ドナービーズ内の光増感剤は、レーザー光によって励起されて、ビーズ周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素がドナービーズ周辺に拡散し、近接して位置するアクセプタービーズに到達すると、アクセプタービーズ内の化学発光反応が誘導される。この反応によって最終的に光が放出される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と相互作用しないのであれば、ドナービーズによって生成される一重項酸素はアクセプタービーズに到達せず、化学発光反応は起こらない。
【0136】
例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体をドナービーズに固定化し、グルタチオンSトランスフェラーゼ (GST) でタグ付けされたFcγ受容体をアクセプタービーズに固定化する。競合的変異Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体の非存在下では、Fcγ受容体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と相互作用し、結果として520~620 nmのシグナルを誘導する。タグ付けされていない変異Fcドメインを有する抗原結合分子または抗体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と、Fcγ受容体との相互作用に関して競合する。競合の結果としての蛍光の減少を定量化することによって、相対的結合アフィニティを決定することができる。Sulfo-NHS-ビオチンなどを用いて抗体などの抗原結合分子または抗体をビオチン化するための方法は公知である。GSTタグをFcγ受容体に付加するための適切な方法には、Fcγ受容体をコードするポリペプチドとGSTをコードするポリペプチドをインフレームで融合し、該融合遺伝子を保有するベクターが導入された細胞を用いて該遺伝子を発現させ、次いでグルタチオンカラムを用いて精製することを伴う方法が含まれる。誘導されたシグナルは好ましくは、例えば、GRAPHPAD PRISM(GraphPad;San Diego)などのソフトウェアを用いて非線形回帰分析に基づく一部位競合モデルに適合させることにより、解析することができる。
【0137】
相互作用を観察するための物質の一方を、リガンドとしてセンサーチップの金薄膜上に固定化する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射が起こるようにセンサーチップの裏面から光を当てると、ある特定の部位において反射光の強度が部分的に低下する(SPRシグナル)。相互作用を観察するための他方の物質を、分析物としてセンサーチップの表面上に注入する。分析物がリガンドに結合すると、固定化リガンド分子の質量が増加する。これにより、センサーチップの表面上の溶媒の屈折率が変化する。屈折率の変化は、SPRシグナルの位置のシフトを引き起こす(逆に、解離するとシグナルは元の位置にシフトして戻る)。Biacoreシステムでは、上記のシフトの量(すなわち、センサーチップ表面上での質量の変化)を縦軸にプロットし、そのようにして経時的な質量の変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムの曲線から動態パラメーター(会合速度定数 (ka) および解離速度定数 (kd))が決定され、これら2つの定数の比率からアフィニティ (KD) が決定される。BIACORE法では、阻害アッセイが好ましく用いられる。そのような阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103(11), 4005-4010に記載されている。
【0138】
Fc領域バリアント(またはバリアントFc領域/Fcドメインバリアント/バリアントFcドメイン)
1つの局面において、本開示のFcポリペプチドは、親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変(または置換を含む変異もしくは修飾)を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含む。第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むそのようなFcポリペプチドは、本開示において「バリアントFcポリペプチド」と呼ばれ得る。
【0139】
ある特定の態様において、抗体のFc領域(親Fc領域)に、1つまたは複数のアミノ酸改変(アミノ酸置換、欠失、および挿入を含む、変異または修飾)を導入して、それによってFc領域バリアントを生成してもよい。Fc領域バリアントは、1つまたは複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域)を含んでもよい。例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4の重鎖定常領域はそれぞれ、配列番号:63~66に示される。例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4のFc領域は、配列番号:63~66の部分配列として示される。
【0140】
ある特定の態様において、本開示は、すべてではないが一部のエフェクター機能を持つ抗原結合分子を企図し、これにより、抗原結合分子は、インビボでの抗体の半減期が重要であるが、ある特定のエフェクター機能(ADCCなど)は不要または有害である場合の適用に望ましい候補となる。CDCおよび/またはADCC活性を測定するために、インビトロおよび/またはインビボでの細胞傷害アッセイを行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合有する(よってADCC活性を有する可能性が高い)かどうか、および/またはFcRn結合能を有するかどうかを確認するために行うことができる。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、一方単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991)の第464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)およびHellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法が利用されてもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACT1(商標)非放射性細胞傷害アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照)。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95: 652-656 (1998)に開示されるような動物モデルにおいて、インビボで評価してもよい。また、抗体がC1qに結合でき、よってCDC活性を有するのかどうかを確認するために、C1q結合アッセイを行ってもよい。例えば、WO2006/029879およびWO2005/100402におけるC1qおよびC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。また、C1q結合/補体活性化を評価するために、補体依存性溶解または補体依存性のウイルス感染力低下を評価するための公知の方法、例えば、加熱により非働化された血清または補体成分を枯渇させた血清の使用を用いてもよい。FcRn結合およびインビボクリアランス/半減期の決定もまた、当技術分野において公知の方法を用いて実施することができる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0141】
ある特定の態様において、第1および/または第2のFc領域バリアント(本明細書において、総称して「Fc領域バリアント」または「バリアントFc領域」という)は、天然型または参照バリアント配列のFc領域(本明細書において、場合によって総称して「親」Fc領域という)中の対応する配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変(例えば、置換)を含む。
【0142】
「親Fc領域」は、本明細書において用いられる場合、本明細書において記載されるアミノ酸改変の導入前のFc領域を指す。親Fc領域の好ましい例としては、天然型抗体に由来するFc領域が挙げられる。抗体には、例えば、IgA(IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、およびIgM等が含まれる。抗体は、ヒトまたはサル(例えば、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、チンパンジー、またはヒヒ)に由来し得る。天然型抗体には、天然の変異も含まれ得る。遺伝子多型を原因とするIgGの複数のアロタイプ配列は、"Sequences of proteins of immunological interest", NIH Publication No. 91-3242に記載されており、それらのいずれかが本発明において用いられてもよい。特に、ヒトIgG1では、356 位~358位(EUナンバリング)のアミノ酸配列は、DELまたはEEMのいずれかであり得る。親Fc領域の好ましい例としては、ヒトIgG1(配列番号:63)、ヒトIgG2(配列番号:64)、ヒトIgG3(配列番号:65)、およびヒトIgG4(配列番号:66)の重鎖定常領域に由来するFc領域が挙げられる。親Fc領域の別の好ましい例は、重鎖定常領域SG1(配列番号:67)に由来するFc領域である。親Fc領域の別の好ましい例は、重鎖定常領域SG182(配列番号:48)に由来するFc領域である。さらに、親Fc領域は、天然型抗体に由来するFc領域に、本明細書に記載されるアミノ酸改変以外のアミノ酸改変を加えることによって産生されたFc領域であってもよい。
【0143】
ある特定の態様において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有する。ある特定の態様において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)、または増加したC1q結合活性を有する。ある特定の態様において、Fcγ受容体は、ヒトFcγ受容体、サルFcγ受容体(例えば、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、チンパンジー、またはヒヒFcγ受容体)、またはマウスFcγ受容体である。
【0144】
1つまたは複数のヒトFcγ受容体に対する実質的に減少した結合活性を有する本開示のバリアントFcポリペプチド(またはバリアントFcポリペプチドを含む抗原結合分子)では、典型的には、抗原結合分子のFcポリペプチドを構成する2つのバリアントFc領域の各々において、1つまたは複数の同じアミノ酸変異が存在する。ある特定の態様において、本明細書において記載されるバリアントFc領域は、天然型IgG1 Fc領域と比較して、Fcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す。本明細書において、ヒトFcγ受容体(FcγR)には、これらに限定されないが、FcγRIa、FcγRIIa(対立遺伝子バリアント167Hおよび167Rを含む)、FcγRIIb、FcγRIIIa(対立遺伝子バリアント158Fおよび158Vを含む)、およびFcγRIIIb(対立遺伝子バリアントNA1およびNA2を含む)が含まれる。さらなる局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(対立遺伝子バリアント167Hおよび167Rを含む)、FcγRIIb、FcγRIIIa(対立遺伝子バリアント158Fおよび158Vを含む)、およびFcγRIIIb(対立遺伝子バリアントNA1およびNA2を含む)に対する実質的に減少した結合活性を有する。
【0145】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、これらに限定されないが、FcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、およびFcγRIVを含む、1つまたは複数のマウスFcγRに対する実質的に減少した結合活性を有する。さらなる局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、およびFcγRIVに対する実質的に減少した結合活性を有する。
【0146】
「Fcγ受容体」(本明細書においてFcγ受容体、FcγR、またはFcgRと称する)は、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体を指し、実際には、Fcγ受容体遺伝子によってコードされるタンパク質ファミリーの任意のメンバーを意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォーム FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォーム FcγRIIa(アロタイプH131(H型)およびR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびにアイソフォーム FcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)、およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、ならびにまだ発見されていない任意のヒトFcγR、FcγRアイソフォームまたはアロタイプが含まれるが、これらに限定されない。FcγRIIb1およびFcγRIIb2は、ヒトFcγRIIbのスプライシングバリアントとして報告されている。加えて、FcγRIIb3と称するスプライシングバリアントが報告されている(J Exp Med, 1989, 170: 1369-1385)。これらのスプライシングバリアントに加えて、ヒトFcγRIIbには、NCBIに登録されているすべてのスプライシングバリアント、NP_001002273.1、NP_001002274.1、NP_001002275.1、NP_001177757.1、およびNP_003992.3が含まれる。さらに、ヒトFcγRIIbには、FcγRIIbに加えて、以前に報告されているあらゆる遺伝子多型(Arthritis Rheum. 48:3242-3252 (2003); Kono et al., Hum. Mol. Genet. 14:2881-2892 (2005);およびKyogoju et al., Arthritis Rheum. 46:1242-1254 (2002))、ならびに将来報告されるであろうあらゆる遺伝子多型が含まれる。
【0147】
FcγRIIaでは、2つのアロタイプが存在し、一方はFcγRIIaの167位のアミノ酸がヒスチジンであり(H型)、もう一方は167位のアミノ酸がアルギニンに置換されている(R型)(Warrmerdam, J. Exp. Med. 172:19-25 (1990))。
【0148】
FcγRには、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサル由来のFcγRが含まれるが、それらに限定されず、任意の生物に由来してよい。マウスFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIV(CD16-2)、ならびに任意のマウスFcγR、またはFcγRアイソフォームが含まれるが、これらに限定されない。
【0149】
ヒトFcγRIaのアミノ酸配列は配列番号:34に示され;ヒトFcγRIIa(167H)のアミノ酸配列は配列番号:35に示され;ヒトFcγRIIa(167R)のアミノ酸配列は配列番号:36に示され;ヒトFcγRIIbのアミノ酸配列は配列番号:37に示され;ヒトFcγRIIIa(158F)のアミノ酸配列は配列番号:38に示され;ヒトFcγRIIIa(158V)のアミノ酸配列は配列番号:39に示され;ヒトFcγRIIIb(NA1)のアミノ酸配列は配列番号:40に示され;かつヒトFcγRIIIb(NA2)のアミノ酸配列は配列番号:41に示される。
【0150】
マウスFcγRIのアミノ酸配列は配列番号:42に示され;マウスFcγRIIbのアミノ酸配列は配列番号:43に示され;マウスFcγRIIIのアミノ酸配列は配列番号:44に示され;かつマウスFcγRIVのアミノ酸配列は配列番号:45に示される。
【0151】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域(または該バリアントFc領域を含む抗原結合分子)は、親Fc領域(または該親Fc領域を含む抗原結合分子)のFcγR結合活性との相関関係において50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満、または0.1%未満である実質的に減少したFcγR結合活性を有する。1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、実質的に減少したFcγR結合活性を有し、これは、[FcγRとバリアントFc領域との相互作用の前と後で変化したセンサーグラムのRU値の差]/[センサーチップにFcγRが捕捉される前と後で変化したセンサーグラムのRU値の差]の比が1未満、0.8未満、0.5未満、0.3未満、0.2未満、0.1未満、0.08未満、0.05未満、0.03未満、0.02未満、0.01未満、0.008未満、0.005未満、0.003未満、0.002未満、または0.001未満であることを意味する。1つの態様において、バリアントFc領域(または該バリアントFc領域を含む抗原結合分子)は、Fcγ受容体に実質的に結合しない。
【0152】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)、または増加したC1q結合活性を有する。「維持された」または「実質的には減少していない」C1q結合活性は、本開示のバリアントFc領域と親Fc領域との間のC1q結合活性の差が、親Fc領域のC1q結合活性との相関関係において50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満であることを意味する。バリアントFc領域が「増加した」C1q結合活性を有する場合、本開示のバリアントFc領域と親Fc領域との間のC1q結合活性の差は50%超であってもよく、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域のC1q結合活性との相関関係において100%以上、150%以上、200%以上、400%以上、800%以上、または 1600%以上であるC1q結合活性を有し得る。任意の濃度の抗原結合分子で比較が行われ得るが、バリアントFc領域または親Fc領域(対照)を含む抗原結合分子が六量体を構築するのを可能にする高濃度の抗原結合分子の存在下で、比較が行われることが好ましい。C1qに対する抗原結合分子の結合活性は、従来のC1q結合アッセイ(例えば、WO2006/029879およびWO2005/100402でのC1qおよびC3c結合ELISA)を用いて、またはCDCアッセイ(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)を用いることによって評価することができる。補体依存性溶解または補体依存性のウイルス感染力低下を評価するための公知の方法、例えば、加熱により非働化された血清または補体成分を枯渇させた血清の使用もまた、C1q結合を評価するために用いられ得る。
【0153】
六量体抗原結合分子とC1qとの間の結合は、公知の方法、例えば、ELISAに基づく方法、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく方法等を用いて評価することができる(例えば、Biologicals 2019 Sep;61:76-79を参照)。そのようなアッセイは、特に、バリアントFc領域または親Fc領域(対照)を含む抗原結合分子が六量体を構築するのを可能にする条件下で行われ得る。
例えば、C1qに対するバリアントFc領域を含むポリペプチドの結合活性を決定するために、C1q結合ELISAを実施してもよい。簡単に言うと、アッセイプレートは、コーティング緩衝液中のバリアントFc領域を含むポリペプチドまたは親Fc領域(対照)を含むポリペプチドで4℃にて一晩コーティングされ得る。次いで、プレートは洗浄およびブロックされ得る。洗浄を行った後、ヒト C1qのアリコートが、各ウェルに添加され、室温にて2時間インキュベートされ得る。さらなる洗浄後、100マイクロリットルのヒツジ抗補体C1qペルオキシダーゼコンジュゲート抗体が、各ウェルに添加され、室温にて1時間インキュベートされ得る。プレートは再び洗浄緩衝液で洗浄され、OPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩(Sigma))を含む100マイクロリットルの基質緩衝液が各ウェルに添加され得る。黄色の呈色の出現によって観察される酸化反応が、30分間にわたって進められ、100マイクロリットルの4.5N H2SO4の添加によって停止され得る。次いで、吸光度が(492~405)nmで読み取られ得る。C1qに対するFc領域の結合活性は、WO2018/052375に記載される方法によって決定することができる。
【0154】
別の例では、C1qに対する抗原結合分子の結合活性は、CDCアッセイを用いて評価することができ、これは、CDCによる標的溶解の発生が、古典的補体経路を誘発する抗体FcへのC1qの結合の発生を示すためである。Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)に記載されるCDCアッセイが適切に用いられ得る。例えば、C1q結合は、本開示の実施例に詳述されるようにアッセイされ得る。簡単に言うと、抗原を過剰発現するように安定にトランスフェクトされた細胞を、適切な濃度で懸濁し、アッセイプレートの上に播種する。適切な濃度のヒト血清を各ウェルに添加する。抗体を、適切な範囲にわたって希釈し、各ウェルに添加する。構成成分を十分に混合した後に、プレートをインキュベーター内に置き、5% CO2で37℃にて1時間インキュベートする。細胞を緩衝液で洗浄し、生死判定用色素、例えば7AADで染色し、フローサイトメトリーによって分析し、抗体媒介性CDCによって溶解された細胞のパーセンテージを決定する。
【0155】
1つの局面において、本開示は、実質的に減少したADCC活性を有するバリアントFc領域を含む抗原結合分子を提供する。1つの局面において、本開示は、維持されたCDC活性を有する(実質的に減少したCDC活性を有さない)または増加したCDC活性を有するバリアントFc領域を含む抗原結合分子を提供する。1つの局面において、本開示は、実質的に減少したADCC活性を有しかつ維持されたCDC活性を有する(実質的に減少したCDC活性を有さない)または増加したCDC活性を有するバリアントFc領域を含む抗原結合分子を提供する。
【0156】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域を含む抗原結合分子のADCC活性との相関関係において50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満、または0.1%未満である実質的に減少したADCC活性を、バリアントFc領域を含む抗原結合分子に付与する。
【0157】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、維持された(すなわち、実質的には減少していない)CDC活性または増加したCDC活性を、バリアントFc領域を含む抗原結合分子に付与する。「維持された」または「実質的には減少していない」CDC活性は、バリアントFc領域を含む抗原結合分子と親Fc領域を含む抗原結合分子との間のCDC活性の差が50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満であることを意味する。1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域を含む抗原結合分子に対して100%超、200%超、400%超、800%超、または1600%超である増加したCDC活性を、バリアントFc領域を含む抗原結合分子に付与し、ここで、CDC活性は、標的細胞の最大補体依存性溶解の50%を達成するのに必要とされる抗体の濃度として決定される。
【0158】
さらなる局面において、本開示のバリアントFc領域は、EUナンバリングによる、234位、235位、236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む(例えば、WO2018/052375を参照)。
【0159】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる、234位におけるAla、235位におけるAla、ならびに236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0160】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる、234位におけるAlaと、235位におけるAlaと、以下の(a)~(c)のいずれか1つ:(a)267位、268位、および324位;(b)236位、267位、268位、324位、および332位;ならびに(c)326位および333位のさらなるアミノ酸改変とを含む。
【0161】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる、以下:(a)267位におけるGlu;(b)268位におけるPhe;(c)324位におけるThr;(d)236位におけるAla;(e)332位におけるGlu;(f)326位におけるAla、Asp、Glu、Met、またはTrp;および(g)333位におけるSerからなる群より選択されるアミノ酸を含む。
【0162】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にAla、および333位にSerのアミノ酸を含む。
【0163】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にAsp、および333位にSerのアミノ酸を含む。
【0164】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にGlu、および333位にSerのアミノ酸を含む。
【0165】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にMet、および333位にSerのアミノ酸を含む。
【0166】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)または増加したC1q結合活性を有するバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にTrp、および333位にSerのアミノ酸を含む。
【0167】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、酸性pH下で増加したFcRn結合活性を有する。
【0168】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、親Fc領域と比較して、特にpH7.4で、実質的に増加したFcRn結合活性を有さないことが好ましい。
【0169】
「FcRn」は、主要組織適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しており、MHCクラスI分子と22%~29%の配列同一性を示す。FcRnは、膜貫通αまたは重鎖と複合体を形成した可溶性βまたは軽鎖(β2ミクログロブリン)からなるヘテロ二量体として発現される。MHCと同様に、FcRnのα鎖は、3つの細胞外ドメイン(α1、α2、およびα3)を含み、その短い細胞質ドメインはそれらを細胞表面へ繋ぎ止める。α1およびα2ドメインは、抗体Fc領域のFcRn結合ドメインと相互作用する。ヒトFcRnのポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列はそれぞれ、例えば、NM_004107.4およびNP_004098.1に示される前駆体(シグナル配列を含む)に由来し得る。
【0170】
ヒトFcRn(α鎖)のアミノ酸配列は配列番号:46に示され、ヒトβ2ミクログロブリンのアミノ酸配列は配列番号:47に示される。
【0171】
1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、特にpH7.4で、親Fc領域のFcRn結合活性と比較して1000倍未満、500倍未満、200倍未満、100倍未満、90倍未満、80倍未満、70倍未満、60倍未満、50倍未満、40倍未満、30倍未満、20倍未満、10倍未満、5倍未満、3倍未満、または2倍未満である実質的に増加したFcRn結合活性を有さないことが好ましい。1つの局面において、本開示のバリアントFc領域は、特にpH7.4で、実質的に増加したFcRn結合活性を有さず、これは、[FcRnとバリアントFc領域との相互作用の前と後で変化したセンサーグラムのRU値の差/センサーチップにFcRnが捕捉される前と後で変化したセンサーグラムのRU値の差]の比が0.5未満、0.3未満、0.2未満、0.1未満、0.08未満、0.05未満、0.03未満、0.02未満、0.01未満、0.008未満、0.005未満、0.003未満、0.002未満、または0.001未満であることを意味する。
【0172】
別の局面において、本開示のバリアントFc領域は、EUナンバリングによる、428位、434位、436位、438位、および440位からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変をさらに含むことができる。
【0173】
さらなる局面において、バリアントFc領域は、EUナンバリングによる、以下:(a)434位におけるAla;(b)434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;(c)428位におけるLeu、434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;(d)428位におけるLeuおよび434位におけるAla;ならびに(e)428位におけるLeu、434位におけるAla、438位におけるArg、および440位におけるGluからなる群より選択されるアミノ酸をさらに含むことができる(バリアントFc領域のアミノ酸改変と結合活性との間の関連性を記載するWO2016/125495も参照)。
【0174】
別の局面において、本開示のバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にAla、333位にSer、428位にLeu、434位にAla、436位にThr、438位にArg、および440位にGluのアミノ酸を含む。別の局面において、本開示のバリアントFc領域は、EUナンバリングによる234位にAla、235位にAla、326位にAla、333位にSer、428位にLeu、434位にAla、438位にArg、および440位にGluのアミノ酸を含む。
【0175】
別の局面において、本開示のバリアントFc領域は、以下の表1に記載されるアミノ酸改変のいずれかを、単独でまたは組み合わせで含む(例えば、WO2018/052375も参照)。別の局面において、本開示のバリアントFc領域は、表1に記載されるアミノ酸改変の少なくともいずれか1つを含む。
【0176】
【0177】
本明細書において記載される2つ以上のバリアントFc領域は、抗体のように2つのバリアントFc領域が会合している1つのFcポリペプチドに含まれ得る。抗体のタイプは限定されず、IgA(IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、およびIgM等を用いることができる。
【0178】
上記に記載されるように、本開示の抗原結合分子は第1および第2のバリアントFc領域を含む。1つの態様において、本開示の抗原結合分子はワンアームド抗体である。ある特定の態様において、ワンアームド抗体はキメラ抗体、またはヒト化抗体である。ワンアームド抗体の起源は特に限定されないが、例としては、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、およびウサギ抗体が挙げられる。さらなる態様において、抗原結合ポリペプチドはFc融合タンパク質である。さらなる態様において、本開示のFcポリペプチドを含む抗原結合分子は、抗ウイルスワンアームド抗体である。
【0179】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとする、
該抗原結合分子を提供する。
【0180】
1つの局面において、本開示の抗原結合分子は、実質的に減少したFcγR結合活性を有する。1つの局面において、本開示の抗原結合分子は、維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性を有する。
【0181】
1つの局面において、本開示の抗原結合分子は、実質的に減少したFcγR結合活性を有し、かつ維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性を有する。
【0182】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドに含まれる第1および/または第2のFc領域バリアントが、以下の(f1)または(f2):
(f1)234位におけるAlaおよび235位におけるAla;
(f2)234位におけるAla、235位におけるAla、および297位におけるAla
を含み、アミノ酸位置が、EUインデックスによりナンバリングされる、
該抗原結合分子を提供する。
【0183】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性をさらに示し、
Fcポリペプチドに含まれる第1および/または第2のFc領域バリアントが、以下の(f1)または(f2):
(f1)234位におけるAlaおよび235位におけるAla;
(f2)234位におけるAla、235位におけるAla、および297位におけるAla
を含み、かつ
Fcポリペプチドに含まれる第1および/または第2のFc領域バリアントが、以下の(f3)~(f9):
(f3)267位におけるGlu;
(f4)268位におけるPhe;
(f5)324位におけるThr;
(f6)236位におけるAla;
(f7)332位におけるGlu;
(f8)326位におけるAla、Asp、Glu、Met、またはTrp;および
(f9)333位におけるSer
からなる群より選択されるアミノ酸をさらに含み、アミノ酸位置が、EUインデックスによりナンバリングされる、該抗原結合分を提供する。
【0184】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性をさらに示し、かつ
Fcポリペプチドが、親Fcポリペプチドと比較して、酸性条件下でヒトFcRnに対するより強いFcRn結合アフィニティをさらに示す、
該抗原結合分子を提供する。
【0185】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、維持された(実質的には減少していない)または増加したC1q結合活性をさらに示し、
Fcポリペプチドが、親Fcポリペプチドと比較して、酸性条件下でヒトFcRnに対するより強いFcRn結合アフィニティをさらに示し、
Fcポリペプチドに含まれる第1および/または第2のFc領域バリアントが、上記の(f1)または(f2)および上記の(f3)~(f9)からなる群より選択されるアミノ酸に加えて、428位にLeu、434位にAla、436位にThr、438位にArg、および/または440位にGluを含み、アミノ酸位置が、EUインデックスによりナンバリングされる、
該抗原結合分子を提供する。
【0186】
加えて、他の目的のために実施されるアミノ酸改変を、本明細書において記載されるバリアントFc領域中に組み合わせることができる。
【0187】
例えば、234位および235位におけるアミノ酸改変に加えて、E233、N297、P331、およびP329の群から選択される位置におけるアミノ酸置換が、Fcγ受容体に対するFc領域の結合アフィニティを低下させるために導入され得る。1つの態様において、バリアントFc領域は、P329の位置におけるアミノ酸置換を含む。より具体的な態様において、アミノ酸置換はP329AまたはP329G、特にP329Gである。1つの態様において、バリアントFc領域は、P329の位置におけるアミノ酸置換、ならびにE233、L234、L235、N297、およびP331から選択される位置におけるさらなるアミノ酸置換を含む。より具体的な態様において、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、またはP331Sである。特定の態様において、Fcドメインは、P329、L234、およびL235の位置におけるアミノ酸置換を含む。より具体的な態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異 L234A、L235A、およびP329G(「P329G LALA」)を含む。1つのそのような態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。PCT公報番号WO2012/130831に記載されているように、アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(ならびに補体)結合をほぼ完全に消失させる。WO2012/130831はまた、そのような変異体 Fcドメインを調製する方法、およびFc受容体結合またはエフェクター機能などのその特性を決定するための方法も記載している。
【0188】
ある特定の態様において、Fc領域のN-グリコシル化は除去されている。1つのそのような態様において、Fc領域は、N297位にアミノ酸変異、特に、アスパラギンをアラニン(N297A)またはアスパラギン酸(N297D)によって置換するアミノ酸置換を含む。
【0189】
特定の態様において、天然型IgG1 Fcドメインと比較してFc受容体に対する低下した結合アフィニティを示すバリアントFc領域は、アミノ酸置換L234A、L235A、およびN297Aを含むヒトIgG1 Fc領域である。
【0190】
例えば、FcRn結合活性を改善するアミノ酸置換(Hinton et al., J. Immunol. 176(1):346-356 (2006); Dall'Acqua et al., J. Biol. Chem. 281(33):23514-23524 (2006); Petkova et al., Intl. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006); Zalevsky et al., Nat. Biotechnol. 28(2):157-159 (2010); WO2006/019447; WO2006/053301;およびWO2009/086320)および抗体の不均一性または安定性を改善するためのアミノ酸置換(WO2009/041613)を加えてもよい。あるいは、WO2011/122011、WO2012/132067、WO2013/046704、またはWO2013/180201に記載されている、抗原クリアランスを促進する特性を有するポリペプチド、WO2013/180200に記載されている、標的組織に特異的に結合する特性を有するポリペプチド、WO2009/125825、WO2012/073992、またはWO2013/047752に記載されている、複数の抗原分子に繰り返し結合する特性を有するポリペプチドを、本明細書に記載されるバリアントFc領域と組み合わせることができる。あるいは、他の抗原への結合能力を付与する目的で、EP1752471およびEP1772465に開示されたアミノ酸改変を、本明細書に記載されるバリアントFc領域のCH3に組み合わせてもよい。あるいは、血漿保持を増加させる目的で、定常領域のpIを減少させるアミノ酸改変(WO2012/016227)を、本明細書に記載されるバリアントFc領域に組み合わせてもよい。あるいは、細胞内への取り込みを促進する目的で、定常領域のpIを増加させるアミノ酸改変(WO2014/145159)を、本明細書に記載されるバリアントFc領域に組み合わせてもよい。あるいは、血漿からの標的分子の除去を促進する目的で、定常領域のpIを増加させるアミノ酸改変(WO2016/125495およびWO2016/098357)を、本明細書に記載されるバリアントFc領域に組み合わせてもよい。
【0191】
酸性pH下でヒトFcRn結合活性を増強するアミノ酸改変もまた、本明細書に記載されるバリアントFc領域に組み合わせることができる。具体的には、そのような改変には、例えば、EUナンバリングによる428位におけるMetからLeuへの置換および434位におけるAsnからSerへの置換(Nat Biotechnol, 2010, 28: 157-159);434位におけるAsnからAlaへの置換(Drug Metab Dispos, 2010 Apr; 38(4): 600-605);252位におけるMetからTyrへの置換、254位におけるSerからThrへの置換、および256位におけるThrからGluへの置換(J Biol Chem, 2006, 281: 23514-23524);250位におけるThrからGlnへの置換および428位におけるMetからLeuへの置換(J Immunol, 2006, 176(1): 346-356);434位におけるAsnからHisへの置換(Clin Pharmacol Ther, 2011, 89(2): 283-290)、ならびにWO2010/106180、WO2010/045193、WO2009/058492、WO2008/022152、WO2006/050166、WO2006/053301、WO2006/031370、WO2005/123780、WO2005/047327、WO2005/037867、WO2004/035752、またはWO2002/060919等に記載される改変が含まれ得る。別の態様において、 そのような改変には、例えば、428位におけるMetからLeuへの置換、434位におけるAsnからAlaへの置換、および436位におけるTyrからThrへの置換からなる群より選択される少なくとも1つの改変が含まれ得る。それらの改変は、438位におけるGlnからArgへの置換および/または440位におけるSerからGluへの置換(WO2016/125495)をさらに含んでもよい。
【0192】
1つの態様において、改変されたエフェクター機能を有するバリアントFc領域を含む本開示の抗原結合分子には、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、および329の1つまたは複数の置換を有するものが含まれる(米国特許第6,737,056号)。そのようなFc変異体には、残基265および297のアラニンへの置換を有するいわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7,332,581号)を含む、アミノ酸265位、269位、270位、297位、および327位の2つ以上に置換を有するFc変異体が含まれる。
【0193】
1つの態様において、バリアントFc領域を含む本開示の抗原結合分子は、記載されるようにFcRへの結合が変更されていてもよい。(例えば、米国特許第6,737,056号;WO2004/056312、およびShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)を参照のこと。)
【0194】
ある特定の態様において、本開示の抗原結合分子は、ADCCを変更する1つまたは複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298位、333位、および/または334位(残基のEUナンバリング)での置換を有するFc領域を含む。
【0195】
いくつかの態様において、例えば米国特許第6,194,551号、WO99/51642、WO2011/091078、およびIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)に記載されているように、改変された(すなわち、増加したか減少したかのいずれかである)C1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらす改変が、Fc領域においてなされる。
【0196】
1つの態様において、増加した半減期、および母体IgGを胎児に移行させる役割を負う(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))新生児型Fc受容体(FcRn)に対する増加した結合を有する本開示の抗原結合分子が、US2005/0014934A1(Hinton et al.)に記載されている。そのような抗体は、FcRnへのFc領域の結合を増加させる1つまたは複数の置換をその中に有するFc領域を含む。そのようなFcバリアントには、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434の1つまたは複数での置換、例えば、Fc領域残基434の置換(米国特許第7,371,826号)を有するものが含まれる。
【0197】
Fc領域バリアントの他の例については、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO94/29351も参照のこと。
別の態様において、抗原結合分子は、本明細書の以下に詳細に記載される本開示のFc領域バリアントを含んでもよい。
【0198】
いくつかの態様において、抗原結合分子のFcポリペプチドは、Fc領域またはFcドメインの対からなり、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含むポリペプチド鎖である。例えば、免疫グロブリン G(IgG)分子のFcポリペプチドは、各々のサブユニットがCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む、二量体である。Fcポリペプチドの2つのサブユニットは、互いに安定に会合することができる。1つの態様において、本明細書において記載される抗原結合分子は、1つ以下のFcポリペプチドを含む。
【0199】
本明細書に記載される1つの態様において、抗原結合分子のFcポリペプチドはIgG Fcポリペプチドである。特定の態様において、FcポリペプチドはIgG1 Fcポリペプチドである。別の態様において、FcポリペプチドはIgG1 Fcポリペプチドである。さらなる特定の態様において、FcポリペプチドはヒトIgG1 Fcポリペプチドである。
【0200】
いくつかの態様において、本発明のFcポリペプチドを含む抗原結合分子は、抗原に結合することができるドメインを含むワンアームド抗体またはFc融合タンパク質である。そのような抗体およびFc融合タンパク質によって結合され得る抗原の例としては、これらに限定されないが、リガンド(サイトカインおよびケモカイン等)、受容体、がん抗原、ウイルス抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリン、および部分的に免疫グロブリンを含む免疫複合体が挙げられる。1つの非限定的な態様において、本開示の抗原結合分子は、抗原結合分子が投与された場合、抗体依存性感染増強(ADE)のリスクをもたらし得るウイルスに特異的に結合する。
【0201】
いくつかの態様において、本開示の第1のFc領域バリアントおよび第2のFcバリアントの各々は、第1のFc領域バリアントと第2のFc領域バリアントとの会合を促進する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0202】
所望の組み合わせを有するH鎖間でのおよびL鎖とH鎖との間の会合を促進するための技術は、本開示の第1のFc領域バリアントと第2のFcバリアントとの会合に適用することができる。
【0203】
ある特定の態様において、本開示の抗原結合分子は、IgG抗体を産生する2種類のハイブリドーマを融合することによって産生されるハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)から分泌することができる(Milstein et al., Nature (1983) 305, 537-540)。
【0204】
ある特定の態様において、二重特異性抗体を効率的に産生するために抗体H鎖の第2の定常領域または第3の定常領域(CH2またはCH3)の界面に静電気的反発を導入することにより望ましくないH鎖の会合を抑制するための技術を、本開示の第1のFc領域バリアントと第2のFcバリアントとの会合に適用することができる(例えば、WO2006/106905を参照)。
【0205】
CH2またはCH3の界面に静電気的反発を導入することにより意図しないH鎖会合を抑制する技術において、H鎖の他方の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基の例には、CH3領域におけるEUナンバリング位置356位、439位、357位、370位、399位、および409位の残基に対応する領域が含まれる。
【0206】
より具体的には、2種のH鎖CH3領域を含む抗体であって、第1のH鎖CH3領域における、以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の対から選択される1~3対のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体が、例として挙げられる:(1)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置356位および439位のアミノ酸残基、(2)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置357位および370位のアミノ酸残基、ならびに(3)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置399位および409位のアミノ酸残基。
【0207】
さらに、該抗体は、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域におけるアミノ酸残基の対が、前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対から選択され、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対に対応する1~3対のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体であってもよい。
【0208】
上記(1)~(3)に示されるそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)~(3)のアミノ酸残基に対応する位置を見出すことができ、適宜、これらの位置のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0209】
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の群のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい:
(a) グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)、ならびに
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
【0210】
上記抗体において、語句「同じ電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。語句「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される場合に、残りのアミノ酸残基が他の群に含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。
【0211】
好ましい態様において上記抗体は、その第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
【0212】
本発明において、改変に供するアミノ酸残基は、上述した抗体可変領域または抗体定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、変異ポリペプチドまたは異種多量体において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を同定することができ、次いでこれらの位置のアミノ酸残基を、会合を制御するように改変に供することが可能である。
【0213】
他の公知の技術もまた、本開示の第1のFc領域バリアントと第2のFcバリアントとの会合のために使用することができる。抗体の一方のH鎖 Fc領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(ノブ)と置換し、かつもう一方のH鎖の対応するFc領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さな側鎖(ホール)に置換して、ホール内へのノブの配置を可能にすることによって、異なるアミノ酸を含むFc領域含有ポリペプチドを互いに効率的に会合させることができる(WO1996/027011; Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621; Merchant A. M. et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681;およびUS20130336973)。
【0214】
加えて、本開示の第1のFc領域バリアントと第2のFcバリアントとの会合には、他の公知の技術も用いることができる。抗体の一方のH鎖CH3の一部を対応するIgA由来の配列に変え、対応するIgA由来の配列をもう一方のH鎖CH3の相補的な部分に導入することによって産生された鎖交換操作ドメインCH3(strand-exchange engineered domain CH3)を用いて、異なる配列を有するポリペプチドの会合をCH3の相補的会合によって効率的に誘導することができる(Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知の技術は、関心対象の二重特異性抗体を効率的に形成するために用いることもできる。
【0215】
加えて、本開示の抗原結合分子の形成には、WO2011/028952、WO2014/018572、およびNat Biotechnol. 2014 Feb; 32(2):191-8に記載されるような抗体のCH1とCLとの会合およびVHとVLとの会合を用いる抗体産生技術;WO2008/119353およびWO2011/131746に記載されるような別々に調製したモノクローナル抗体を組み合わせて用いる二重特異性抗体を産生するための技術(Fabアーム交換);WO2012/058768およびWO2013/063702に記載されるような抗体重鎖CH3間の会合を制御するための技術;WO2012/023053に記載されるような2種類の軽鎖と1種類の重鎖とで構成される二重特異性抗体を産生するための技術;およびChristoph et al.(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))によって記載されるような1本のH鎖と1本のL鎖とを含む抗体の鎖の一方を個々に発現する2つの細菌細胞株を用いる二重特異性抗体を産生するための技術等を用いてもよい。
【0216】
あるいは、目的の抗原結合分子を効率的に形成できない場合であっても、産生された分子から目的の抗原結合分子を分離し精製することによって、本発明の抗原結合分子を得ることができる。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入することにより等電点の差を付与することによって、2種類のホモマー形態と目的のヘテロマー分子とをイオン交換クロマトグラフィーによって精製することを可能にする方法が報告されている(WO2007114325)。ヘテロマー抗原結合分子を精製するための方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2a H鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2b H鎖とを含むヘテロ二量体抗体を、プロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431およびWO95033844)。さらに、IgG-プロテインA結合部位であるEUナンバリング位置435位および436位のアミノ酸残基を、異なるプロテインAアフィニティをもたらすアミノ酸残基であるTyrまたはHis等に置換したH鎖を用いて、または異なるプロテインAアフィニティを有するH鎖を用いて、各H鎖とプロテインAとの相互作用を変化させ、次いでプロテインAカラムを用いることによって、ヘテロ二量体抗原結合分子自体を効率的に精製することができる。
【0217】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、安定に会合することができる第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントで構成される、
該抗原結合分子を提供する。
【0218】
1つの局面において、本開示は、
(i)親の天然型ヒトIgG1 Fc領域を含む親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcポリペプチド
であるFcポリペプチドを含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、以下の(e1)または(e2):
(e1)349位にCys、366位にSer、368位にAla、および407位にValを含む第1のFc領域バリアント、ならびに354位にCysおよび366位にTrpを含む第2のFc領域バリアント;
(e2)439位にGluを含む第1のFc領域バリアント、および356位にLysを含む第2のFc領域バリアント
を含み、アミノ酸位置が、EUインデックスによりナンバリングされる、
該抗原結合分子を提供する。
【0219】
1つの局面において、本開示は、
(i)抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、
(ii)Fcポリペプチドと
を含む、抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドが、
親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアント
を含み、第1のFcバリアント領域が、第1の抗原結合部分に融合されており、ただし、第2のFc領域バリアントは、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていないものとし、
親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、該抗原結合分子を提供する。
【0220】
1つの態様において、本開示の第1および第2のバリアントFc領域は、六量体形成を増強する少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0221】
六量体形成を増強するための技術は一般によく理解されており、当業者により従来の方法論を用いて通常利用される(例えば、WO2018/224609、WO2018/146317、WO2016/164480、WO2013/004842、WO2014/108198、WO2014/006217、WO2018/031258を参照)。
【0222】
ある特定の態様において、本開示の抗原結合分子は、六量体形成を増強できる1つまたは複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の置換E345R、E430G、S440Y、K248E、および/またはT437R(残基のEUナンバリング)を有するFc領域を含む。
【0223】
ある特定の態様において、本開示は、Fcポリペプチドを含む抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドに含まれる第1および/または第2のFc領域バリアントが、以下の(a1)~(a5):
(a1)345位におけるArg;
(a2)430位におけるGly;
(a3)440位におけるTyr;
(a4)248位におけるGlu;および
(a5)437位におけるArg
からなる群より選択されるアミノ酸を含み、アミノ酸位置が、EUインデックスによりナンバリングされる、
該抗原結合分子を提供する。
【0224】
ある特定の態様において、本開示は、Fcポリペプチドを含む抗原結合分子であって、
Fcポリペプチドに含まれる第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントの各々が、EUナンバリングによる、以下:
(a)345位におけるArg;
(b)345位におけるArg、および430位におけるGly;
(c)345位におけるArg、430位におけるGly、および440位におけるTyr;ならびに
(d)248位におけるGlu、および437位におけるArg
からなる群より選択されるアミノ酸を含む、
該抗原結合分子を提供する。
【0225】
本発明では、アミノ酸改変は、置換、欠失、付加、挿入、および修飾のいずれか、またはそれらの組み合わせを意味する。本発明では、アミノ酸改変は、アミノ酸変異と言い換えてもよい。
【0226】
アミノ酸改変は、当業者に公知の様々な方法によってもたらされる。そのような方法には、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh et al., Gene 152:271-275 (1995); Zoller, Meth. Enzymol. 100:468-500 (1983); Kramer et al., Nucleic Acids Res. 12: 9441-9456 (1984)); Kramer and Fritz, Methods Enzymol. 154: 350-367 (1987);およびKunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488-492 (1985))、PCR変異法、およびカセット変異法が含まれるが、これらに限定されない。
【0227】
Fc領域に導入されるアミノ酸改変の数は限定されない。ある特定の態様において、それは、1、2以下、3以下、4以下、5以下、6以下、8以下、10以下、12以下、14以下、16以下、18以下、または20以下であり得る。
【0228】
さらに、本発明のバリアントFc領域を含む抗原結合分子は、ポリエチレングリコール(PEG)および細胞傷害性物質など様々な分子によって化学的に修飾され得る。ポリペプチドのそのような化学的修飾のための方法は当技術分野において確立されている。
【0229】
第1および第2のFc領域バリアントを含む本開示の抗原結合分子は、親のFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ/または維持されたC1q結合活性を有する(実質的に減少したC1q結合活性を有さない)かまたは増加したC1q結合活性を有し、かつ/または酸性pH下で増加したFcRn結合活性を有し、かつ/または中性pHで実質的に増加したFcRn結合活性を有さない。
【0230】
1つの態様において、「親Fc領域を含む抗原結合分子」は、本開示の抗原結合分子と同じ第1の抗原結合部分と、2つの親Fc領域で構成される「親」Fcポリペプチドとを含む、ワンアームド抗原結合分子である。「親Fc領域を含む抗原結合分子」では、2つの親Fc領域のうち一方は第1の抗原結合部分に融合されているが、2つの親Fc領域のうちもう一方は、第1の抗原結合部分にも、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない。上記に記載されるように、「親」Fcポリペプチドは、本明細書に記載されるアミノ酸改変以外は第1および第2のFc領域バリアントと同一であるアミノ酸配列を有する2つの親Fc領域で構成される。「親Fc領域を含む抗原結合分子」と比較した場合、本開示の抗原結合分子((i)第1の抗原結合部分と、(ii)親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含む)は、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ/または維持されたまたは増加したC1q結合活性を有し、かつ/または酸性pH下で増加したFcRn結合活性を有し、かつ/または中性pHで実質的に増加したFcRn結合活性を有さない。
【0231】
別の態様において、「親Fc領域を含む抗原結合分子」は、2つの第1の抗原結合部分と、2つの親Fc領域で構成される親Fcポリペプチドとを含む、従来型の2アームド抗原結合分子である。2つの親Fc領域のうち一方は、2つの第1の抗原結合部分のうち一方に融合されており、2つの親Fc領域のうちもう一方は、2つの第1の抗原結合部分のうちもう一方に融合されている。上記に記載されるように、「親」Fcポリペプチドは、本明細書に記載されるアミノ酸改変以外は第1および第2のFc領域バリアントと同一であるアミノ酸配列を有する2つの親Fc領域で構成される。「親Fc領域を含む抗原結合分子」と比較した場合、本開示の抗原結合分子((i)第1の抗原結合部分と、(ii)親Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含む)は、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ/または維持されたまたは増加したC1q結合活性を有し、かつ/または酸性pH下で増加したFcRn結合活性を有し、かつ/または中性pHで実質的に増加したFcRn結合活性を有さない。
【0232】
抗原結合分子を産生するための方法
さらに、本発明は、親Fc領域を含む抗原結合分子と比較して実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さない第1および第2のバリアントFc領域(または第1および第2のFc領域バリアント、本明細書において総称して「Fc領域バリアント」もしくは「バリアントFc領域」という)を含むFcポリペプチドを含む抗原結合分子を産生するための方法であって、少なくとも1つのアミノ酸改変を親Fc領域に導入する段階を含む、方法を提供する。いくつかの局面において、産生される抗原結合分子はワンアームド抗体である。ある特定の態様において、ワンアームド抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体である。いくつかの局面において、産生される抗原結合分子はFc融合タンパク質である。
【0233】
1つの局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、EUナンバリングによる、234位、235位、236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、少なくとも1つのアミノ酸が改変される。
【0234】
別の局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、234位および235位において、2つのアミノ酸が改変される。
【0235】
別の局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸が改変され、かつ改変は、EUナンバリングによる、(a)234位および235位における2つのアミノ酸改変、ならびに(b)236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0236】
別の局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸が改変され、かつ改変は、EUナンバリングによる、(a)234位および235位における2つのアミノ酸改変、ならびに(b)以下の(i)~(iii)のいずれか1つ:(i)267位、268位、および324位;(ii)236位、267位、268位、324位、および332位;および(iii)326位および333位の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0237】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、バリアントFc領域が、EUナンバリングによる、以下:(a)234位におけるAla;(b)235位におけるAla;(c)267位におけるGlu;(d)268位におけるPhe;(e)324位におけるThr;(f)236位におけるAla;(g)332位におけるGlu;(h)326位におけるAla、Asp、Glu、Met、Trp;および(i)333位におけるSerからなる群より選択される改変アミノ酸を含むように、1つまたは複数のアミノ酸が改変される。
【0238】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるAla、および333位におけるSerである。
【0239】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるAsp、および333位におけるSerである。
【0240】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるGlu、および333位におけるSerである。
【0241】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるMet、および333位におけるSerである。
【0242】
さらなる局面において、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有しかつ実質的に減少したC1q結合活性を有さないバリアントFc領域を含む抗原結合分子を産生するための上述の方法では、アミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるTrp、および333位におけるSerである。
【0243】
別の局面において、少なくとも1つのアミノ酸は、上述の方法においてさらに改変され、そのようなさらなる改変は、EUナンバリングによる428位、434位、436位、438位、および440位からなる群より選択される少なくとも1つの位置で作製される。
【0244】
さらなる局面において、上述の方法における上記のさらなるアミノ酸改変は、EUナンバリングによる、以下の(a)~(d):(a)434位におけるAla;(b)434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;(c)428位におけるLeu、434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGlu;(d)428位におけるLeuおよび434位におけるAla;ならびに(e)428位におけるLeu、434位におけるAla、438位におけるArg、および440位におけるGluから選択されるアミノ酸のセットについての改変である(バリアントFc領域のアミノ酸改変とFcRn結合活性との間の関連性を記載するWO2016/125495も参照)。
【0245】
さらなる局面において、上述の方法におけるアミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるAla、333位におけるSer、428位におけるLeu、434位におけるAla、436位におけるThr、438位におけるArg、および440位におけるGluである。
【0246】
さらなる局面において、上述の方法におけるアミノ酸改変は、EUナンバリングによる234位におけるAla、235位におけるAla、326位におけるAla、333位におけるSer、428位におけるLeu、434位におけるAla、438位におけるArg、および440位におけるGluである。
【0247】
1つの局面において、本発明の第1および第2のFc領域バリアントを含むバリアントFc領域またはバリアントFcポリペプチドは、親Fc領域と比較して、特にpH7.4で、実質的に増加したFcRn結合活性を有さないことが好ましい。
【0248】
さらなる局面において、上述の産生方法におけるアミノ酸改変は、任意の単一の改変、単一の改変の組み合わせ、または表1に記載される組み合わせ改変から選択される。
【0249】
上述の方法または当技術分野において公知の他の方法のいずれかによって産生されるバリアントFc領域を含む抗原結合分子は、本発明に含まれる。
【0250】
1つの局面において、生物学的活性を有するバリアントFc領域を含む抗原結合分子を特定するためのアッセイが提供される。生物学的活性には、例えば、ADCC活性およびCDC活性が含まれ得る。インビボおよび/またはインビトロでそのような生物学的活性を有するバリアントFc領域を含む抗原結合分子もまた、提供される。
【0251】
ある特定の態様において、本発明のバリアントFc領域を含む抗原結合分子は、そのような生物学的活性について試験される。ある特定の局面において、本発明のバリアントFc領域を含む抗原結合分子は、親Fc領域を含むポリペプチドと比較してエフェクター機能を調節する。ある特定の局面において、この調節はADCCおよび/またはCDCの調節である。
【0252】
CDCおよび/またはADCC活性を確認するために、インビトロおよび/またはインビボでの細胞傷害アッセイを行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγ受容体結合を有する(よってADCC活性を有する可能性が高い)かどうか、およびFcRn結合能を保持しているかどうかを確認するために行うことができる。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγ受容体 IIIのみを発現するが、一方単球はFcγ受容体 I、Fcγ受容体 II、およびFcγ受容体 IIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu Rev Immunol (1991) 9, 457-492の第464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom et al, Proc Natl Acad Sci USA (1986) 83, 7059-7063を参照)およびHellstrom et al, Proc Natl Acad Sci USA (1985) 82, 1499-1502;US5,821,337(Bruggemann et al, J Exp Med (1987) 166, 1351-1361を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法が利用されてもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTI(商標)非放射性細胞傷害アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照)。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al, Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95, 652-656に開示されるような動物モデルにおいて、インビボで評価してもよい。また、抗体がC1qに結合し、よってCDC活性を有するのかどうかを確認するために、C1q結合アッセイを行ってもよい。例えば、WO2006/029879およびWO2005/100402におけるC1qおよびC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al, J Immunol Methods (1997) 202, 163-171; Cragg et al, Blood (2003) 101, 1045-1052;およびCragg and Glennie, Blood (2004) 103, 2738-2743を参照)。FcRn結合およびインビボクリアランス/半減期の決定もまた、当技術分野において公知の方法を用いて実施することができる(例えば、Petkova et al, Int Immunol (2006) 18, 1759-1769を参照)。
【0253】
1つの態様において、本開示は、以下の段階:
(a)親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチド含み、かつ親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分
を選択する段階;
(b)(a)において選択された抗原結合分子の第1のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分に融合されており、かつ(a)において選択された抗原結合分子の第2のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない、抗原結合分子
をコードする遺伝子を得る段階;ならびに
(c)(b)において得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を産生する段階
を含む、抗原結合分子を産生するための方法を提供する。
さらなる態様において、(b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分は、それに融合されている、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分を保有する。さらなる態様において、(b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分は、それに融合されている、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分を保有する。1つの非限定的な態様において、本開示の抗原結合分子は、上記の産生方法によって産生することができる。
【0254】
1つの態様において、本開示は、以下の段階:
(a)親Fc領域に対して少なくとも1つのアミノ酸改変を各々含む第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドを含み、かつ親Fc領域を含む抗原結合分子と比較した場合に、実質的に減少したFcγ受容体結合活性を有し、かつ維持されたまたは増加したC1q結合活性を有する、抗原結合分子
を選択する段階;
(b)(a)において選択された抗原結合分子の第1のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分に融合されており、かつ(a)において選択された抗原結合分子の第2のFc領域バリアントが、抗原に特異的に結合する他のいかなる抗原結合部分にも融合されていない、抗原結合分子
をコードする遺伝子を得る段階;ならびに
(c)(b)において得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を産生する段階
を含む、抗原結合分子をスクリーニングするための方法を提供する。
さらなる態様において、(b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分は、それに融合されている、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと異なる抗原上のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分を保有する。さらなる態様において、(b)において得られた遺伝子によってコードされる抗原結合分子における第1の抗原結合部分は、それに融合されている、第1の抗原結合部分によって結合される抗原上のエピトープと同じエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分を保有する。1つの非限定的な態様において、本開示の抗原結合分子は、上記の産生方法によって産生することができる。
【0255】
所望の結合活性を有する抗体を産生するための方法
所望の結合活性を有する抗体を産生するための方法は当業者に公知である。以下は、HER2に結合する抗体を産生するための方法を記載する例である。
【0256】
抗HER2抗体は、公知の方法を用いて、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。好ましく産生される抗HER2抗体は、哺乳動物に由来するモノクローナル抗体である。そのような哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を保有する発現ベクターで形質転換されたハイブリドーマまたは宿主細胞によって産生された抗体が含まれる。
【0257】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば以下に記載されるような、公知の技術を用いて産生することができる。具体的には、HER2タンパク質を感作抗原として用いて、従来の免疫方法によって哺乳動物を免疫化する。その結果生じた免疫細胞を、従来の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させる。次いで、従来のスクリーニング方法を用いてモノクローナル抗体産生細胞についてスクリーニングすることによって、抗HER2抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
【0258】
具体的には、モノクローナル抗体は以下に記述されるように調製される。まず、HER2遺伝子を発現させて、以下のように示されるHER2タンパク質を産生することができる。これらのタンパク質は、抗体調製のための感作抗原として用いられる。あるいは、HER2の細胞外ドメイン(ECD)をコードするヌクレオチドを発現させて、HER2 ECD含有タンパク質を産生することができる。すなわち、全長HER2またはHER2 ECDをコードする遺伝子配列が、公知の発現ベクターに挿入され、適切な宿主細胞がこのベクターによって形質転換される。HER2の細胞外ドメインを用いることができる。所望のヒト全長HER2またはHER2 ECDタンパク質は、公知の方法によって宿主細胞またはそれらの培養上清から精製される。あるいは、精製された天然のHER2タンパク質を感作抗原として用いることが可能である。
【0259】
精製された全長HER2またはHER2 ECDタンパク質は、哺乳動物の免疫化における使用のための感作抗原として用いることができる。全長HER2またはHER2 ECDの部分ペプチドもまた、感作抗原として用いることができる。この場合、部分ペプチドは、ヒトHER2アミノ酸配列からの化学合成によって得てもよい。さらに、それらは、HER2遺伝子の一部を発現ベクターに組み入れて、それを発現させることによって得てもよい。さらに、それらは、プロテアーゼを用いてHER2タンパク質を分解することによって得てもよいが、部分ペプチドとして用いるHER2ペプチドの領域およびサイズは、特別な態様に特に限定されない。
【0260】
あるいは、全長HER2またはHER2 ECDタンパク質の所望の部分ポリペプチドまたはペプチドを異なるポリペプチドと融合することによって調製された融合タンパク質を感作抗原として用いることも可能である。例えば、感作抗原として用いられる融合タンパク質を産生するために、抗体のFc断片およびペプチドタグが好適に用いられる。そのような融合タンパク質を発現させるためのベクターは、2つまたはそれ以上の所望のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合し、該融合遺伝子を上記のように発現ベクターに挿入することによって構築することができる。融合タンパク質を産生するための方法は、Molecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. Press) に記載されている。感作抗原として用いられるHER2を調製するための方法およびHER2を用いた免疫方法はまた、一般に公知である。
【0261】
該感作抗原で免疫化される哺乳動物について、特に限定はない。しかしながら、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して哺乳動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類、例えばマウス、ラット、およびハムスター、ウサギ、ならびにサルが好適に使用される。
【0262】
公知の方法によって上記の動物が感作抗原により免疫化される。例えば、一般的に実施される免疫方法は、哺乳動物への感作抗原の腹腔内注射または皮下注射を含む。具体的には、感作抗原は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、生理食塩水等で適当に希釈される。所望により、従来のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントが該抗原と混合され、該混合物が乳化される。次いで、該感作抗原が哺乳動物に4~21日毎に数回投与される。感作抗原による免疫化においては適当な担体が使用され得る。特に低分子量の部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、免疫化のためにアルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と該感作抗原ペプチドを結合させることが望ましい場合もある。
【0263】
あるいは、所望の抗体を産生するハイブリドーマを、以下のようにDNA免疫を使用して調製することができる。DNA免疫とは、抗原タンパク質をコードする遺伝子が動物中で発現され得るように構築されたベクターDNAを投与することにより免疫化動物中で感作抗原を発現させることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。タンパク質抗原が免疫化動物に投与される従来の免疫方法と比べて、DNA免疫は、次の点で優位性が期待される:
-HER2のような膜タンパク質の構造を維持しながら免疫刺激が与えられ得る;および
-免疫化のための抗原を精製する必要が無い。
【0264】
DNA免疫を用いて本発明のモノクローナル抗体を調製するために、まず、HER2タンパク質を発現するDNAが免疫化動物に投与される。HER2をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、次いでこのベクターが免疫化動物に投与される。好適に使用される発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1などの市販の発現ベクターが挙げられる。ベクターは、従来の方法を用いて生物に投与され得る。例えば、遺伝子銃を用いて、発現ベクターでコーティングされた金粒子を免疫化動物の体内の細胞内に導入することによって、DNA免疫が実施される。また、HER2を認識した抗体は、WO2003/104453に記載された方法によっても産生され得る。
【0265】
上記のように哺乳動物が免疫化された後、血清中でHER2結合抗体の力価の上昇が確認される。その後、哺乳動物から免疫細胞が採取され、次いで細胞融合に供される。特に脾細胞が免疫細胞として好適に使用される。
【0266】
上記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーは、細胞に、特定の培養条件の下で生存する(あるいは死滅する)ための特徴を与える。選択マーカーとしては、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、およびチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)が公知である。HGPRTまたはTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができないため死滅する。しかしながら、該細胞が正常な細胞と融合すると、正常細胞のサルベージ経路を利用してDNAの合成を継続することができるため、該細胞はHAT選択培地中であっても増殖できる。
【0267】
HGPRT欠損およびTK欠損の細胞は、それぞれ、6-チオグアニン、8-アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'-ブロモデオキシウリジンを含む培地中で選択され得る。正常な細胞は、これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込むため、死滅する。一方、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないため、選択培地中で生存することができる。さらに、ネオマイシン耐性遺伝子によってもたらされるG418耐性と呼ばれる選択マーカーは、2-デオキシストレプタミン抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0268】
例えば、以下の細胞を含むミエローマ細胞が好適に使用され得る:P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. (1979) 123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol. (1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell (1976) 8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature (1978) 276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods (1980) 35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med. (1978) 148 (1), 313-323)、R210(Nature (1979) 277 (5692), 131-133)等。
【0269】
基本的には、公知の方法、例えば、KohlerおよびMilsteinらの方法(Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)を用いて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0270】
より具体的には、例えば、細胞融合促進剤の存在下で従来の培地中で、細胞融合が行われ得る。融合促進剤には、例えばポリエチレングリコール(PEG)およびセンダイウイルス(HVJ)が含まれる。必要に応じて、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助物質も添加される。
【0271】
免疫細胞とミエローマ細胞の割合は任意に設定され得、例えば、免疫細胞1~10に対してミエローマ細胞1が好ましい。細胞融合に用いる培地としては、例えば、RPMI1640培地およびMEM培地等のミエローマ細胞株の増殖に好適な培地、ならびにこの種の細胞培養に用いられる他の従来の培地が挙げられる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が培地に好適に添加され得る。
【0272】
細胞融合のためには、上記免疫細胞とミエローマ細胞の所定量を上記培地中でよく混合する。次いで、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量が1000から6000程度)を通常30%~60%(w/v)の濃度でそこに添加する。これを緩やかに混合すると所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が産生される。次いで、上記の適当な培地が細胞に逐次添加され、これを繰り返し遠心して上清を除去する。このようにして、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0273】
このようにして得られたハイブリドーマは、従来の選択培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。通常、この期間は数日から数週間である。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
【0274】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに基づく選択培地を用いて選択され得る。例えばHGPRT欠損細胞またはTK欠損細胞は、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、正常細胞との融合に成功した細胞がHAT培地中で選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。具体的には、一般的に数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
【0275】
所望の抗体は、公知の抗原/抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に選択および単一クローニングされ得る。例えば、HER2に結合するモノクローナル抗体は、細胞表面上に発現したHER2に結合することができる。そのようなモノクローナル抗体は、蛍光活性化細胞選別(FACS)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞または細胞表面への抗体の結合を評価するシステムである。
【0276】
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずHER2を発現する細胞を調製する。スクリーニングのために好適に用いられる細胞は、HER2を強制発現させた哺乳動物細胞である。対照としては、宿主細胞としての形質転換されていない哺乳動物細胞を用いて、細胞表面のHER2に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、HER2強制発現細胞には結合するが宿主細胞には結合しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、抗HER2モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが単離され得る。
【0277】
あるいは、固定化したHER2発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。例えば、ELISAプレートのウェルにHER2発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウス免疫グロブリン抗体を用いて検出され得る。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは上記のスクリーニングによって選択され、これらは限界希釈法等によりクローニングされ得る。
【0278】
このようにして調製されるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは従来の培地中で継代培養され得、液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0279】
上記ハイブリドーマを従来の方法によって培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が調製され得る。あるいはハイブリドーマを、適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水からモノクローナル抗体が調製される。前者の方法は、高純度の抗体を調製するのに好適である。
【0280】
上記のハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに挿入し、これを宿主に導入して、当該遺伝子によってコードされる抗体を発現させる。抗体遺伝子の単離、当該遺伝子のベクターへの挿入、および宿主細胞の形質転換のための方法は、例えばVandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem. (1990) 192(3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体を産生するための方法もまた公知である。
【0281】
好ましくは、本発明は、本発明の抗原結合分子をコードする核酸を提供する。本発明はまた、該抗原結合分子をコードする核酸が導入されたベクター、すなわち該核酸を含むベクターを提供する。さらに、本発明は、該核酸または該ベクターを含む細胞を提供する。本発明はまた、該細胞を培養することによって、該抗原結合分子を産生するための方法を提供する。本発明はさらに、該方法によって産生された抗原結合分子を提供する。
【0282】
例えば、抗HER2抗体を発現するハイブリドーマ細胞から、抗HER2抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが調製される。そのために、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するために用いられる方法としては、例えば次のものが挙げられる:
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18(24), 5294-5299)、および
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162(1), 156-159)。
【0283】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GE Healthcare Bioscience)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GE Healthcare Bioscience)などの、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。そのようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが調製され得る。調製されたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)等を用いて合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech)およびPCRに基づく5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85(23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17(8), 2919-2932)が適宜利用され得る。こうしたcDNAの合成の過程において、後述する適切な制限酵素サイトがcDNAの両末端に導入され得る。
【0284】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが構築され、大腸菌(E.coli)等に導入される。コロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAヌクレオチド配列を有しているかどうかについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により試験される。
【0285】
可変領域をコードする遺伝子を単離するためには、プライマーを用いて可変領域遺伝子を増幅する5'-RACE法が簡便に用いられる。まず、ハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型として用いたcDNA合成によって、5'-RACE cDNAライブラリが構築される。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0286】
調製された5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として用いたPCRによって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列に基づき、マウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーのヌクレオチド配列は、免疫グロブリンのサブクラスごとに異なる。したがって、Iso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche Diagnostics)などの市販キットを用いてサブクラスを予め決定しておくことが好ましい。
【0287】
具体的には、例えば、マウスIgGをコードする遺伝子を単離するためには、γ1、γ2a、γ2bおよびγ3重鎖、ならびにκおよびλ軽鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用される。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に、3'側のプライマーとして、可変領域に近い定常領域部位にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーとしては、5' RACE cDNAライブラリ構築キットに付属するプライマーが利用される。
【0288】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合わせからなる免疫グロブリンが再構成される。再構成された免疫グロブリンのHER2結合活性を指標として用いて、所望の抗体が選択され得る。例えばHER2に対する抗体の単離を目的とするとき、抗体のHER2への結合は、特異的であることがさらに好ましい。HER2に結合する抗体は、例えば次の段階によってスクリーニングされ得る:
(1)ハイブリドーマから単離されたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をHER2発現細胞に接触させる段階、
(2)HER2発現細胞と抗体との結合を検出する段階、および
(3)HER2発現細胞に結合する抗体を選択する段階。
【0289】
抗体とHER2発現細胞との結合を検出するための方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とHER2発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにHER2発現細胞の固定試料が適宜利用される。
【0290】
結合活性を指標として用いる好ましい抗体スクリーニング方法としては、ファージベクターを利用したパニング法も挙げられる。抗体遺伝子をポリクローナルな抗体発現細胞集団からの重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリより単離した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結して単鎖Fv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に提示するファージが産生され得る。このファージを目的の抗原と接触させる。その後、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが単離され得る。この過程を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0291】
目的とする抗HER2抗体のV領域をコードするcDNAが単離された後に、当該cDNAの両末端に導入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子のヌクレオチド配列において出現する頻度が低いヌクレオチド配列を認識して切断する。さらに、1コピーの消化断片を正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える酵素の制限酵素サイトをベクターに導入するのが好ましい。抗HER2抗体のV領域をコードするcDNAを上記のように消化し、適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが構築される。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、「キメラ抗体」とは、定常領域の起源が可変領域の起源とは異なることを意味する。したがって、マウス/ヒト異種キメラ抗体に加え、ヒト/ヒト同種キメラ抗体も、本発明のキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、例えば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保有する発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を切除する制限酵素の認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両遺伝子がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0292】
抗HER2モノクローナル抗体を産生するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに挿入される。抗体を発現するための発現制御領域には、例えば、エンハンサーおよびプロモーターが含まれる。さらに、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。発現されたポリペプチドは典型的にはシグナル配列のカルボキシル末端で切断され、その結果生じたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌される。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換され、抗HER2抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得される。
【0293】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAが、別々に異なる発現ベクターに挿入される。H鎖遺伝子およびL鎖遺伝子がそれぞれ挿入されたベクターによって、同じ宿主細胞が同時にトランスフェクト(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいは、H鎖およびL鎖をコードするDNAが挿入された単一の発現ベクターによって、宿主細胞が形質転換され得る(WO94/11523を参照のこと)。
【0294】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を調製するための宿主細胞/発現ベクターの様々な組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗体可変領域を含むドメインを単離するのに応用され得る。宿主細胞として使用される適当な真核細胞としては、動物細胞、植物細胞、および真菌細胞が挙げられる。具体的には、動物細胞としては、例えば次のような細胞が挙げられる。
(1)哺乳動物細胞:CHO、COS、ミエローマ、仔ハムスター腎細胞(BHK)、HeLa、Veroなど;
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など;および
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など。
【0295】
さらに、植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞を用いた抗体遺伝子発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0296】
さらに真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア(Pichia)属;および
糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属。
【0297】
さらに、原核細胞を利用した抗体遺伝子発現系も公知である。例えば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌細胞、枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが本発明において適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を保有する発現ベクターがトランスフェクションによって導入される。トランスフェクトされた細胞をインビトロで培養し、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が調製され得る。
【0298】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち目的の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、例えば、ヤギβカゼインなどが利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、次いでこの胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁から、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギにより産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、必要に応じてホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Ebert, K. M. et al., Bio/Technology (1994) 12 (7), 699-702)。
【0299】
ヒト化抗体を産生するための方法
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子の抗体可変領域を含むドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来のドメインが適宜使用され得る。そのような遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化抗体が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法により適宜産生される。さらに、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に導入することができる。
【0300】
具体的には、非ヒト動物の抗体、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植することによって調製したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子工学的手法も公知である。具体的には、マウス抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、例えばオーバーラップエクステンションPCRが公知である。オーバーラップエクステンションPCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードするヌクレオチド配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列を含むヒトFRを利用するのが好ましい。
【0301】
連結されるヌクレオチド配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーを用いてヒトFRが個別に合成される。その結果、FRをコードする各DNAにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードするヌクレオチド配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、相補鎖合成反応が行われ、ヒト抗体遺伝子を鋳型として用いて合成された産物のオーバーラップしたCDR領域をアニールさせる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDR配列を介して連結される。
【0302】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結された全長V領域遺伝子は、その5'末端または3'末端にアニールするプライマーを用いて増幅され、該末端には適当な制限酵素認識配列が付加される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで連結するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体用発現ベクターを産生することができる。該組換えベクターを宿主にトランスフェクトして組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該細胞培養物中に産生される(欧州特許出願公開EP 239400、および国際公開公報WO1996/002576参照)。
【0303】
上記のように産生されたヒト化抗体の抗原結合活性を定性的または定量的に測定し評価することによって、CDRを介してヒト抗体FRが連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成可能であるヒト抗体FRを、好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。例えば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。より具体的には、FRにアニールするプライマーに部分的なヌクレオチド配列の変異を導入することができる。そのようなプライマーを用いて合成されたFRには、ヌクレオチド配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって、所望の特徴を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K. et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-856)。
【0304】
ヒト抗体を産生するための方法
または、DNA免疫により、ヒト抗体遺伝子のすべてのレパートリーを有するトランスジェニック動物(WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫化することによって、所望のヒト抗体が取得され得る。
【0305】
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パニングによりヒト抗体を調製する技術も公知である。例えば、ヒト抗体のV領域が単鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列が決定される。当該V領域配列を所望のヒト抗体のC領域配列とインフレームで融合させ、適当な発現ベクターに挿入することによって、発現ベクターが調製される。当該発現ベクターを、上記の細胞のような発現に好適な細胞中に導入する。該ヒト抗体をコードする遺伝子を該細胞中で発現させることにより当該ヒト抗体が産生される。これらの方法は既に公知である(WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0306】
エピトープ
「エピトープ」は、抗原中の抗原決定基を意味し、本明細書において開示される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインまたは部分が結合する抗原上の部位のことをいう。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。あるいは、当該エピトープを認識する抗原結合分子または抗体の抗原結合活性によって当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチドまたはポリペプチドである場合には、エピトープを形成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。あるいは、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
【0307】
直線状エピトープは、そのアミノ酸一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。そのような直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8~10個または6~20個のアミノ酸を、その固有の配列中に含む。
【0308】
「立体構造エピトープ」は、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸一次配列が、認識されるエピトープの単一の決定因子ではないエピトープである(例えば、立体構造エピトープのアミノ酸一次配列は、必ずしも、エピトープを規定する抗体により認識されない)。立体構造エピトープは、直線状エピトープと比べて増大した数のアミノ酸を包含してもよい。立体構造エピトープを認識する抗原結合ドメインは、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、エピトープは、抗原結合ドメインにより認識可能となる。エピトープの立体構造を決定するための方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴、部位特異的なスピン標識および電子常磁性共鳴が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996), Vol. 66, Morris (ed.)を参照されたい。
【0309】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価するための方法の例が、以下に記載される。以下の例に従って、HER2以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価する方法もまた、適宜行うことができる。
【0310】
例えば、抗HER2抗原結合ドメインまたは部分を含む被験抗原結合分子または抗体が、HER2分子中の直線状エピトープを認識するかどうかは、例えば下記のように確認することができる。上記の目的のために、HER2の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドを合成する。該ペプチドは化学的に合成することができ、またはHER2cDNA中の細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を用いて遺伝子工学的手法によって得ることができる。次いで、抗HER2抗原結合ドメインまたは部分を含む被験抗原結合分子または抗体を、該細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドに対するその結合活性について評価する。例えば、ELISAによって、固定化した線状ペプチドを抗原として用いて、該ペプチドに対するポリペプチド複合体の結合活性を評価することができる。あるいは、線状ペプチドが、HER2発現細胞に対する抗原結合分子または抗体の結合を阻害するレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性を評価することもできる。これらの試験によって、線状ペプチドに対する抗原結合分子または抗体の結合活性が実証され得る。
【0311】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が立体構造エピトープを認識するかどうかは、以下のように評価することができる。上記の目的のために、HER2発現細胞を調製する。抗HER2抗原結合ドメインまたは部分を含む被験抗原結合分子または抗体が、接触した際にHER2発現細胞には強く結合するが、HER2の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む固定化線状ペプチドには実質的に結合しない場合、それは立体構造エピトープを認識すると判定され得る。本明細書において、「実質的に結合しない」とは、結合活性が、HER2を発現する細胞に対する結合活性と比較して80%以下、一般的に50%以下、好ましくは30%以下、および特に好ましくは15%以下であることを意味する。
【0312】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のHER2発現細胞に対する結合活性をアッセイするための方法には、例えば、Antibodies: A Laboratory Manual (Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420) に記載される方法が含まれる。具体的には、評価は、HER2発現細胞を抗原として用いて、ELISAまたは蛍光活性化細胞選別 (FACS) の原理に基づいて行うことができる。
【0313】
ELISAフォーマットにおいて、抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のHER2発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生じるシグナルのレベルを比較することによって定量的に評価することができる。具体的には、被験ポリペプチド複合体を、HER2発現細胞が固定化されたELISAプレートに添加する。次いで、細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体を、該被験抗原結合分子または抗体を認識する酵素標識抗体を用いて検出する。あるいは、FACSが用いられる場合には、被験抗原結合分子または抗体の希釈系列を調製し、HER2発現細胞に対する抗体結合力価を決定して、HER2発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することができる。
【0314】
緩衝液等に懸濁された細胞または細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子または抗体の結合は、フローサイトメーターを用いて検出することができる。公知のフローサイトメーターには、例えば以下の装置が含まれる:
FACSCanto(商標)II
FACSAria(商標)
FACSArray(商標)
FACSVantage(商標)SE
FACSCalibur(商標)(いずれもBD Biosciencesの商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta/Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulterの商品名)。
【0315】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体の抗原に対する結合活性をアッセイするための好ましい方法には、例えば以下の方法が含まれる。最初に、HER2発現細胞を被験抗原結合分子または抗体と反応させ、次いで該抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識二次抗体でこれを染色する。被験抗原結合分子または抗体は、所望の濃度の抗原結合分子または抗体を調製するために、適切な緩衝液で適宜希釈する。例えば、抗原結合分子または抗体は、10μg/ml~10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。次いで、FACSCalibur (BD) を用いて、蛍光強度および細胞数を決定する。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって得られた蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均(Geo-mean)値を測定することにより、結合している被験抗原結合分子または抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
【0316】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、別の抗原結合分子または抗体と共通のエピトープを共有するかどうかは、同じエピトープに対する2つの抗原結合分子または抗体間の競合に基づいて評価することができる。抗原結合分子または抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイ等によって検出することができる。例えば、競合ELISAアッセイは好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0317】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイでは、マイクロタイタープレートのウェルに固定化されたHER2タンパク質を、候補競合物の抗原結合分子もしくは抗体の存在下または非存在下でプレインキュベートし、次いで被験抗原結合分子または抗体をそこへ添加する。ウェル中のHER2タンパク質に結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、同じエピトープへの結合に関して競合する候補競合物抗原結合分子または抗体の結合能と間接的に相関する。すなわち、同じエピトープに対する競合物抗原結合分子または抗体のアフィニティが高ければ高いほど、被験抗原結合分子または抗体のHER2タンパク質コーティングウェルに対する結合活性はより低くなる。
【0318】
HER2タンパク質を介してウェルに結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、該抗原結合分子または抗体を予め標識しておくことにより、容易に決定することができる。例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体は、アビジン/ペルオキシダーゼコンジュゲートおよび適切な基質を用いて測定される。特に、ペルオキシダーゼなどの酵素標識を用いる交叉ブロッキングアッセイは、「競合ELISAアッセイ」と称される。抗原結合分子または抗体はまた、検出または測定を可能にする他の標識物質で標識することもできる。具体的には、放射標識、蛍光標識等が公知である。
【0319】
候補競合物の抗原結合分子または抗体が、該競合物抗原結合分子または抗体の非存在下で行われた対照実験における結合活性と比較して、抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体による結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20~50%、およびより好ましくは少なくとも50%ブロックし得る場合、該被験抗原結合分子または抗体は、該競合物抗原結合分子または抗体が結合する同じエピトープに実質的に結合するか、または同じエピトープへの結合に関して競合すると判定される。
【0320】
抗HER2抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が結合するエピトープの構造が既に同定されている場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、該エピトープを形成するペプチドにアミノ酸変異を導入することによって調製されたペプチドに対する両者の抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することによって評価することができる。
【0321】
上記の結合活性を測定するには、例えば、上記のELISAフォーマットにおいて、変異が導入された線状ペプチドに対する被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体の結合活性を比較する。ELISA法に加えて、カラムに被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を流し、次いで溶出液中に溶出された抗原結合分子または抗体を定量化することによって、カラムに結合している変異ペプチドに対する結合活性を決定することもできる。例えばGST融合ペプチドの形態で、変異ペプチドをカラムに吸着させるための方法は公知である。
【0322】
あるいは、同定されたエピトープが立体構造エピトープである場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、以下の方法によって評価することができる。最初に、HER2発現細胞、およびエピトープに変異が導入されたHER2を発現する細胞を調製する。これらの細胞をPBSなどの適切な緩衝液に懸濁することによって調製された細胞懸濁液に、被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を添加する。次いで、細胞懸濁液を緩衝液で適宜洗浄し、該被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識抗体をそこへ添加する。FACSCalibur (BD) を用いて、標識抗体で染色された細胞の蛍光強度および数を決定する。被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体は、適切な緩衝液を用いて適宜希釈し、所望の濃度で使用する。例えば、それらは10μg/ml~10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって決定された蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している標識抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均値を測定することにより、結合している標識抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
【0323】
上記の方法において、抗原結合分子または抗体が「変異HER2を発現する細胞に実質的に結合しない」かどうかは、例えば以下の方法によって評価することができる。最初に、変異HER2を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を、標識抗体で染色する。次いで、細胞の蛍光強度を決定する。フローサイトメトリーによる蛍光検出にFACSCaliburが用いられる場合、決定された蛍光強度は、CELL QUEST Softwareを用いて解析することができる。抗原結合分子または抗体の存在下および非存在下における幾何平均値から、以下の式に従って比較値(ΔGeo-Mean)を算出して、抗原結合分子または抗体による結合の結果としての蛍光強度の増加率を決定することができる。
ΔGeo-Mean = Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の存在下)/Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の非存在下)
【0324】
変異HER2を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映する、上記の解析によって決定された幾何平均比較値(変異HER2分子に対するΔGeo-Mean値)を、HER2発現細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映するΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合、HER2発現細胞および変異HER2を発現する細胞に対するΔGeo-Mean比較値を決定するために用いられる被験抗原結合分子または抗体の濃度は、等しいかまたは実質的に等しくなるように調整されることが特に好ましい。HER2中のエピトープを認識することが確認されている抗原結合分子または抗体が、対照抗原結合分子または抗体として用いられる。
【0325】
変異HER2を発現する細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値が、HER2発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値よりも少なくとも80%、好ましくは50%、より好ましくは30%、および特に好ましくは15%小さいのであれば、被験抗原結合分子または抗体は、「変異HER2を発現する細胞に実質的に結合しない」。Geo-Mean(幾何平均)値を決定するための式は、CELL QUEST Software User's Guide (BD biosciences) に記載されている。比較によって比較値が実質的に等しいことが示される場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体のエピトープは同じであると判定され得る。
【0326】
抗原結合分子の産生および精製
いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子は、単離された抗原結合分子である。
【0327】
1つの態様において、本明細書において記載される抗原結合分子は、Fcポリペプチドの2つのサブユニットの一方(第1のFc領域バリアント)に融合された、少なくとも1つ以上の抗原結合部分(例えば、「第1の抗原結合部分」および「第2の抗原結合部分」)を含み、よって、Fcドメインの2つのサブユニットは典型的には、2本の同一でないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチド鎖の組換え同時発現および続いての二量体化は、2つのポリペプチド鎖の複数の組み合わせの可能性をもたらす。よって、組換え産生における抗原結合分子の収量および純度を改善するために、所望のポリペプチド鎖の会合を促進する改変を抗原結合分子のFcドメイン中に導入することは有利となる。
【0328】
したがって、特定の態様において、本明細書において記載される抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する改変を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間での最も広範囲のタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメイン中にある。したがって、1つの態様において、該改変はFcドメインのCH3ドメイン中にある。
【0329】
特定の態様において、該改変は、Fcドメインの2つサブユニットの一方における「ノブ」改変と、Fcドメインの2つのサブユニットのもう一方における「ホール」改変とを含む、いわゆる「ノブ-イントゥ-ホール」改変である。
【0330】
ノブ-イントゥ-ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号;米国特許第7,695,936号;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996);およびCarter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般に、方法は、突起(「ノブ」)が空隙(「ホール」)中に位置し、ヘテロ二量体の形成を促進しかつホモ二量体の形成を妨げることができるように、突起を第1のポリペプチドの界面に、および対応する空隙を第2のポリペプチドの界面に導入する段階を伴う。突起は、第1のポリペプチドの界面の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。突起と同じまたは同様のサイズの補償的な空隙は、大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えば、アラニンまたはスレオニン)で置き換えることによって第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0331】
したがって、特定の態様においては、抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙中に位置することができる第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置することができる第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙が生成される。
【0332】
突起および空隙は、ポリペプチドをコードする核酸を例えば部位特異的変異誘発によって変更することによって、またはペプチド合成によって、作ることができる。
【0333】
特定の態様において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基は、トリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、407位のチロシン残基は、バリン残基で置き換えられる(Y407V)。1つの態様において、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、366位のスレオニン残基は、セリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基は、アラニン残基で置き換えられる(L368A)。
【0334】
なおさらなる態様において、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、さらに、354位のセリン残基は、システイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、349位のチロシン残基は、システイン残基によって置き換えられる(Y349C)。これらの2つのシステイン残基の導入は、Fcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋の形成をもたらし、二量体をさらに安定化する(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0335】
他の態様において、本開示の抗原結合分子には、所望の組み合わせを有するH鎖間およびL鎖H鎖間の会合を促進するための他の技術を適用することができる。
【0336】
さらに、本開示のFc領域として、Fc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、本開示は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のFc領域を構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングによって特定される446位のグリシンおよび447位のリジンを欠失させることにより産生されたFc領域を提供する。
【0337】
本明細書において記載されるように調製された抗原結合分子は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィー等の当技術分野において公知の技術によって精製されてもよい。特定のタンパク質を精製するために用いられる実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性等の因子に一部依存し、当業者に明らかである。アフィニティークロマトグラフィー精製では、抗原結合分子が結合する、抗体、リガンド、受容体、または抗原を用いることができる。例えば、本発明の抗原結合分子のアフィニティークロマトグラフィー精製では、プロテインAまたはプロテインGを有するマトリックスが用いられてもよい。抗原結合分子を単離するために、連続したプロテインAまたはGアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動および高圧液体クロマトグラフィー等を含む、様々な周知の分析方法のいずれかによって決定することができる。
【0338】
医薬組成物
1つの局面において、本開示は、本開示の抗原結合分子を含む医薬組成物を提供する。
【0339】
本明細書において提供される、第1のFc領域バリアントおよび第2のFc領域バリアントを含むバリアントFc領域またはバリアントFcポリペプチドを含む、抗原結合分子のいずれかは、治療方法において用いてもよい。
【0340】
1つの局面において、医薬として使用するためのバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子が提供される。ある特定の態様において、治療の方法で使用するためのバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子が提供される。いくつかの局面において、抗原結合分子はワンアームド抗体である。いくつかの局面において、抗原結合分子はFc融合タンパク質である。ある特定の態様において、本発明は、バリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子の有効量を個体に投与する段階を含む、障害を有する個体を治療する方法で使用するためのバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子を提供する。1つのそのような態様において、方法は、少なくとも1つの追加治療剤の有効量を個体に投与する段階をさらに含む。1つの態様において、障害はウイルス感染である。1つの態様において、「個体」はヒトである。
【0341】
さらなる局面において、本開示は、医薬の製造または調製におけるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子の使用を提供する。1つの態様において、医薬は障害の治療のためのものである。いくつかの局面において、抗原結合分子はワンアームド抗体である。いくつかの局面において、抗原結合分子はFc融合タンパク質である。さらなる態様において、医薬は、治療される障害を有する個体に有効量の医薬を投与する段階を含む、障害を治療する方法で使用するためのものである。1つのそのような態様において、方法は、少なくとも1つの追加治療剤の有効量を個体に投与する段階をさらに含む。1つの態様において、障害はウイルス感染である。1つの態様において、「個体」はヒトである。
【0342】
さらなる局面において、本開示は、障害を治療するための方法を提供する。1つの態様において、方法は、そのような障害を有する個体にバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子の有効量を投与する段階を含む。いくつかの局面において、抗原結合分子はワンアームド抗体である。いくつかの局面において、抗原結合分子はFc融合タンパク質である。1つのそのような態様において、方法は、少なくとも1つの追加治療剤の有効量を個体に投与する段階をさらに含む。1つの態様において、障害はウイルス感染である。1つの態様において、「個体」はヒトである。
【0343】
さらなる局面において、本発明は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子を含む医薬製剤を提供する。1つの態様において、医薬製剤は、治療方法、例えば、本明細書において記載される治療方法のいずれかにおいて使用するためのものである。1つの態様において、医薬製剤は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子と、薬学的に許容される担体とを含む。別の態様において、医薬製剤は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む抗原結合分子と、少なくとも1つの追加治療剤とを含む。いくつかの局面において、抗原結合分子はワンアームド抗体である。いくつかの局面において、抗原結合分子はFc融合タンパク質である。
【0344】
さらなる局面において、医薬製剤は障害の治療のためのものである。1つの態様において、医薬製剤は、障害を有する個体に投与される。1つの態様において、障害はウイルス感染である。1つの態様において、「個体」はヒトである。
【0345】
1つの局面において、本明細書における医薬製剤または医薬組成物は2つ以上の本開示の抗原結合分子を含んでもよい。例えば、医薬製剤は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子と、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子とを含む。第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子は互いに異なる。第1および第2の抗原結合分子は、同じ抗原上の異なるエピトープまたは異なる抗原上の異なるエピトープに結合し得る。例えば、第1の抗原結合分子は、(i)抗原上のエピトープに特異的に結合する抗原結合部分と(ii)本明細書において提供される第1および第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含み、第1のFc領域バリアントが、該抗原結合部分に融合されており、第2のFc領域バリアントが、いかなる抗原結合部分にも融合されていない、「ワンアームド」抗原結合分子であってもよく、第2の抗原結合分子は、(i)抗原上のエピトープに特異的に結合する抗原結合部分と(ii)本明細書において提供される第1および第2のFc領域バリアントを含むFcポリペプチドとを含み、第1のFc領域バリアントが、該抗原結合部分に融合されており、第2のFc領域バリアントが、いかなる抗原結合部分にも融合されていない、「ワンアームド」抗原結合分子であってもよい。この例における第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子は、例えば、同じ抗原上の異なるエピトープに結合する点で、互いに「異なる」が、それらは、他の局面、例えば分子中に含まれる抗原結合部分の数などの点で異なっていてもよい。
【0346】
1つの局面において、本発明は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子との組み合わせ投与のための、活性成分として本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子を含む治療剤または医薬組成物を提供する。医薬組成物は、疾患、より具体的にはウイルス感染性疾患を治療または予防するためのものである。第1の抗原結合分子を含む医薬組成物は、第2の抗原結合分子と同時に、別々に、または連続的に対象に投与される。別の言い方をすると、第1の抗原結合分子を含む医薬組成物と第2の抗原結合分子を含む医薬組成物とが、並行して(すなわち、同時に)または連続的に(すなわち、異なる時点で)投与され得る。第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が連続的に(すなわち、異なる時点で)投与される、いくつかの態様において、投与間の時間間隔は特に限定されず、投与経路および剤形を含む種々の要因を考慮して適切に決定され得る。例えば、時間間隔は0~168時間、0~72時間、0~24時間、または0~12時間であってもよいが、これらの例に限定されない。いくつかの態様において、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は同時に投与される。いくつかの他の態様において、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子はある間隔で投与される。第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、同じ剤形、または異なる剤形へと製剤化され得る。例えば、第1および第2の抗原結合分子は、非経口調製物、注射、注入、静脈内注入等から選択される異なる形態として製剤化され得る。あるいは、第1および第2の抗原結合分子はどちらも、1つの非経口調製物、注射、注入、静脈内注入等として製剤化され得る。本開示は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子との組み合わせでウイルス感染性疾患の治療または予防において使用するための、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子を提供する。本開示は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子を対象に投与する段階、および本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子を対象に投与する段階を含む、ウイルス感染性疾患を治療または予防するための方法をさらに提供する。本開示は、ウイルス感染性疾患を治療または予防するための医薬の製造における、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子の使用であって、医薬が、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子との組み合わせ投与のためのものである、使用をさらに提供する。第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子は互いに異なる。第1および第2の抗原結合分子は、同じ抗原上の異なるエピトープまたは異なる抗原上の異なるエピトープに結合し得る。1つの態様において、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、治療方法、例えば、本明細書において記載される治療方法のいずれかにおいて使用するためのものである。いくつかの態様において、第1および第2の抗原結合分子はワンアームド抗体である。いくつかの態様において、第1および第2の抗原結合分子はFc融合タンパク質である。1つの態様において、第1および第2の抗原結合分子は、同じ抗原上の異なるエピトープに結合する「ワンアームド」抗原結合分子である。
【0347】
1つの局面において、本開示は、本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第1の抗原結合分子と本明細書において提供されるバリアントFc領域またはポリペプチドを含む第2の抗原結合分子との組み合わせを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、疾患、より具体的にはウイルス感染性疾患を治療または予防するためのものである。そのような組み合わせを含む医薬組成物は、第1および第2の抗原結合分子がウイルス感染性疾患を治療するために対象に同時に、別々に、または連続的に投与されるように、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が組み合わされている、医薬組成物を意味する。例えば、医薬組成物は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を一緒に含む混合物または配合剤として調製してもよい。別の例では、第1の抗原結合分子を含む調製物および第2の抗原結合分子を含む調製物を別々に調製し、これらの調製物を同時にまたは別々に用いてもよい。
【0348】
1つの局面において、本発明のバリアントFc領域またはポリペプチドを含む、ウイルスに結合することができる抗原結合分子は、従来型の抗ウイルス抗体で観察される抗体依存性感染増強(ADE)を抑制することができる。ADEは、抗体に結合しているウイルスが、活性化Fcγ受容体を介して貪食され、細胞へのウイルスの感染が増強する、現象である。活性化Fcγ受容体との相互作用を低下させるFc改変は、ADEのリスクを軽減できる。LALA変異体を形成する234位および235位におけるロイシンからアラニンへの変異は、インビボでデング感染のADEのリスクを低下させることが示されている(Cell Host Microbe (2010) 8, 271-283)。しかしながら、そのような改変は、抗体によって媒介される他のエフェクター免疫機能、例えばADCCおよびCDCを低下させる。特に、CDCは、ADEを阻害するのに重要な役割を果たすことが期待できるため、Fc領域の補体成分C1q結合は、治療有効性のために低下させるべきではない。上記に記載されるように、本明細書において提供される抗原結合分子の「ワンアームド」分子フォーマットは、六量体形成を増強し、補体C1qへの結合を維持するまたは増加させるのを助ける。EUナンバリングによるアミノ酸236位、267位、268位、324位、326位、332位、および333位における1つまたは複数の変異もまた、C1qに結合する活性の維持または増加に寄与する。さらに、抗原結合分子の半減期は、例えば、EUナンバリングによるアミノ酸428位、434位、436位、438位、および440位に1つまたは複数の変異を導入することによって、そのサルベージ受容体であるFcRnに対する結合アフィニティを変化させるようにFc領域を改変することによって伸ばすことができる。延長された半減期は、ウイルス感染から対象を保護するための抗体の予防的使用をもたらし得る。
【0349】
1つの態様において、本開示におけるウイルスは好ましくは、アデノウイルス、アストロウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、ポックスウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、コロナウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ピコルナウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、またはトガウイルスから選択される。
【0350】
好ましい態様において、アデノウイルスには、これに限定されないが、ヒトアデノウイルスが含まれる。好ましい態様において、アストロウイルスには、これに限定されないが、ママストロウイルスが含まれる。好ましい態様において、ヘパドナウイルスには、これに限定されないが、B型肝炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、ヘルペスウイルスには、これらに限定されないが、単純ヘルペスウイルスI型、単純ヘルペスウイルス2型、ヒトサイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ロゼオロウイルス、および カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが含まれる。好ましい態様において、パポバウイルスには、これらに限定されないが、ヒトパピローマウイルスおよびヒトポリオーマウイルスが含まれる。好ましい態様において、ポックスウイルスには、これらに限定されないが、痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、サル痘ウイルス、天然痘ウイルス、偽牛痘ウイルス、丘疹性口内炎ウイルス、タナ痘ウイルス、ヤバサル腫瘍ウイルス、および伝染性軟属腫ウイルスが含まれる。好ましい態様において、アレナウイルスには、これらに限定されないが、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、ラッサウイルス、マチュポウイルス、およびフニンウイルスが含まれる。好ましい態様において、ブニヤウイルスには、これらに限定されないが、ハンタウイルス、ナイロウイルス、オルソブニヤウイルス、およびフレボウイルスが含まれる。好ましい態様において、カリシウイルスには、これらに限定されないが、ベシウイルス、ノロウイルス、例えば、ノーウォークウイルスおよびサポウイルスが含まれる。好ましい態様において、コロナウイルスには、これらに限定されないが、ヒトコロナウイルス(重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原因子)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)が含まれる。好ましい態様において、フィロウイルスには、これらに限定されないが、エボラウイルスおよびマールブルグウイルスが含まれる。好ましい態様において、フラビウイルスには、これらに限定されないが、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス(DENV-1、DENV-2、DENV-3、およびDENV-4)、C型肝炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、 セントルイス脳炎ウイルス、ロシア春夏脳炎ウイルス、オムスク出血熱ウイルス、ウシウイルス性下痢症ウイルス、キャサヌール森林病ウイルス、およびポワッサン脳炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、オルソミクソウイルスには、これらに限定されないが、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、およびインフルエンザウイルスC型が含まれる。好ましい態様において、パラミクソウイルスには、これらに限定されないが、パラインフルエンザウイルス、ルブラウイルス(ムンプス)、モルビリウイルス(麻疹)、ニューモウイルス、例えば、ヒト呼吸器多核体ウイルス、および亜急性硬化性全脳炎ウイルスが含まれる。好ましい態様において、ピコルナウイルスには、これらに限定されないが、ポリオウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA、コクサッキーウイルスB、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、およびエンテロウイルスが含まれる。好ましい態様において、レオウイルスには、これらに限定されないが、コロラドダニ熱ウイルスおよびロタウイルスが含まれる。好ましい態様において、レトロウイルスには、これらに限定されないが、レンチウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス、およびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)が含まれる。好ましい態様において、ラブドウイルスには、これらに限定されないが、リッサウイルス、例えば、狂犬病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、および伝染性造血器壊死症ウイルスが含まれる。好ましい態様において、トガウイルスには、これらに限定されないが、アルファウイルス、例えば、ロスリバーウイルス、オニョンニョンウイルス、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、および西部ウマ脳炎ウイルス、および風疹ウイルスが含まれる。
【0351】
本明細書に記載の抗原結合分子または抗体を含む医薬組成物は、所望の純度を有する抗原結合分子または抗体を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の投与量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0352】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
【0353】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0354】
必要に応じて、本開示の抗原結合分子または抗体は、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリレート]などから作製されたマイクロカプセル)中に封入してもよく、コロイド薬物送達系(リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の構成成分としてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Science 16th edition」、Oslo Ed. (1980)を参照)。さらに、薬剤を徐放性薬剤として調製するための方法も公知であり、これらは本開示の抗原結合分子に適用することができる(J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 267-277; Chemtech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3773719号;欧州特許出願 (EP)番号EP58481およびEP133988;Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
【0355】
必要に応じて、本開示の抗原結合分子または抗体を対象内で直接発現させるために、本開示の抗原結合分子をコードする核酸分子を含むベクターを、対象に導入してもよい。使用することが可能なベクターの例としては、アデノウイルスであるが、これに限定されない。本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を対象に直接投与すること、またはエレクトロポレーションを介して本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を対象に移入すること、または発現および分泌させるべき本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を含む細胞を対象に投与して、対象において本開示の抗原結合分子または抗体を連続的に発現および分泌させることも可能である。
【0356】
本開示の医薬組成物は、経口または非経口のいずれかで患者に投与され得る。非経口投与が好ましい。具体的には、そのような投与法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本開示の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射により局所的にまたは全身的に投与することができる。さらに、適切な投与方法が患者の年齢および症状に応じて選択することができる。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001 mg~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、1患者あたり0.001 mg~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の医薬組成物の用量は、これらの用量に限定されない。
【0357】
1つの局面において、本開示は、補体因子の存在下で標的細胞または標的ウイルスを本開示の抗原結合分子または医薬組成物と接触させる段階を含む、標的細胞または標的ウイルスの溶解を誘導するための方法を提供する。いくつかの態様において、そのような方法で用いられる本開示の抗原結合分子は、標的細胞または標的ウイルス上の抗原に特異的に結合する抗原結合部分を含む。
【0358】
本開示において、「接触」は、例えば、インビトロで培養された目的の抗原を発現する細胞/ウイルスの培地に本開示の抗原結合分子を添加することによって行うことができる。この場合、添加すべき抗原結合分子は、溶液、または凍結乾燥等によって調製された固体などの適切な形態で用いることができる。本開示の抗原結合分子を水溶液として添加する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。添加濃度は特に限定されない;しかしながら、培地中の最終濃度は、好ましくは1 pg/ml~1 g/mlの範囲内、より好ましくは1 ng/ml~1 mg/ml、およびさらにより好ましくは1μg/ml~1 mg/mlの範囲内である。
【0359】
本開示の別の態様において、「接触」はまた、目的の抗原を発現する細胞を有する動物、または目的の抗原を発現するウイルスに感染した動物への投与によって行うこともできる。投与方法は、経口または非経口であってよい。非経口投与が特に好ましい。具体的には、非経口投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。抗原結合分子を水溶液として投与する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、各患者につき0.001~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の抗原結合分子の用量は、これらの例に限定されない。
【0360】
本開示はまた、本開示の抗原結合分子または本開示の方法によって産生された抗原結合分子を含有する、本開示の方法において使用するためのキットも提供する。該キットは、追加の薬学的に許容される担体もしくは媒体、またはキットの使用方法を記載した取扱説明書等と共に包装され得る。
【0361】
本発明の別の局面において、上述の障害の治療および/または予防に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療および/または予防のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本開示の抗体または抗原結合分子である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a)第1の容器であって、その中に収められた本開示の抗体または抗原結合分子を含む組成物を伴う、第1の容器;および、(b)第2の容器であって、その中に収められたさらなる抗ウイルス剤、抗菌剤、またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第2の容器を含んでもよい。本発明のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第2の(または第3の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
【0362】
添付文書
用語「添付文書」は、治療用製品の市販パッケージに通常含まれる説明書を指すために用いられ、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、投与量、投与方法、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む。
【0363】
医薬製剤
用語「医薬製剤」または「医薬組成物」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される対象に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物を指す。
【0364】
薬学的に許容される担体
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒な、医薬製剤中の有効成分以外の成分を指す。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
【0365】
治療
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子または抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0366】
他の剤および治療
本明細書において記載される抗原結合分子は、治療において1つまたは複数の他の剤との組み合わせで投与されてもよい。例えば、本明細書において記載される抗原結合分子は、少なくとも1つの追加治療剤と同時投与されてもよい。用語「治療剤」は、そのような治療の必要がある個体において症状または疾患を治療するために投与される任意の剤を包含する。そのような追加治療剤は、治療される特定の適応症に適している任意の有効成分、好ましくは、互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものを含み得る。特定の態様において、追加治療剤は、抗ウイルス剤、抗菌剤、免疫調節剤、細胞分裂阻害剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害剤、細胞アポトーシスの活性化剤、またはアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増加させる剤である。特定の態様において、追加治療剤は、抗がん剤、例えば、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、または抗血管新生剤である。
【0367】
そのような他の剤は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。そのような他の剤の有効量は、用いられる抗原結合分子の量、障害または治療の種類、および上で論じた他の要因に依存する。抗原結合分子は概して、本明細書に記載されるものと同じ投与量および投与経路で、または本明細書に記載される投与量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の投与量および任意の経路で用いられる。
【0368】
上記のそのような併用療法は、併用投与(2種類以上の治療剤が同じまたは別々の組成物中に含まれている)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、本明細書に記載される抗原結合分子の投与が追加治療剤および/またはアジュバントの投与に先立って、と同時に、および/または、続いて、行われ得る。
【0369】
本明細書において引用したすべての文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0370】
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【実施例】
【0371】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【0372】
実施例1
改善された特性の抗体CHバリアントの生成
ヒトIgG1重鎖定常領域CHに複数の変異を導入し、その結果として、ヒトIgG1 CHバリアントである、SG192(配列番号:1)、SG1095(配列番号:2)、SG1095R(配列番号:3)、SG1095RG(配列番号:4)、SG1095RGY(配列番号:5)、SG1095ER(配列番号:6)、およびSG1408(配列番号:7)を生成した。CHバリアントをコードする遺伝子を、抗HER2抗体のVH(HER2H、配列番号:8)と組み合わせた。抗HER2抗体のVL遺伝子(HER2L、配列番号:9)をヒトCL(SK1、配列番号:10)と組み合わせた。それらの各々を発現ベクター内にクローニングした。CHバリアントの詳細、すなわち、CHのアミノ酸配列およびその配列中のEUナンバリングによって特定される変異を、表2にまとめている。「LALA」は変異L234AおよびL235Aの組み合わせを表し;「KAES」は変異K326AおよびE333Sの組み合わせを表し;かつ「R」、「RG」、「RGY」、および「ER」はそれぞれ、「E345R」、「E345RおよびE430G」、「E345R、E430G、およびS440Y」、ならびに「K248EおよびT437R」を表す。
【0373】
【0374】
実施例2
組換え抗体の発現および精製
組換え抗体を、Expi293細胞株(Thermo Fisher, Carlsbad, CA, USA)を用いて一過性に発現させた。抗体精製を、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーおよびゲルろ過を用いて行った。同時トランスフェクションに用いた各抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の組み合わせを表3および表4にまとめている。CH領域にRG(E345RおよびE430G)またはRGY(E345R、E430GおよびS440Y)変異を有する抗体試料については、オリゴマー形態をゲルろ過で分画し、その後の研究で用いた。
【0375】
【0376】
【0377】
実施例3
Freestyle 293-F細胞(Life Technologies)に、CAGプロモーターを含むプラスミドを安定的にトランスフェクトし、C末端ヒスチジンタグを有する全長HER2(配列番号:25)を過剰発現させた。抗体のCDC活性を評価するために、アッセイを以下のように行った。HER2を過剰発現するFreestyle 293-F細胞を、293発現培地(Gibco)を用いて約1.25×10
6細胞/mLの濃度で再懸濁し、細胞20マイクロリットルをV底プレートに播種した。ヒト血清(Biopredic)を293発現培地で40%の作業濃度に希釈し、希釈した血清25マイクロリットルを各ウェルに添加した。評価する抗体を、まず最終的な所望濃度の10倍に293発現培地で希釈し、10倍濃縮抗体5マイクロリットルを各ウェルに添加した。これによって、各ウェルにおいて20%の最終濃度のヒト血清および1倍濃度の抗体がもたらされる。陰性対照として、抗体の代わりに、293発現培地5マイクロリットルを添加した。陽性対照として、抗体の代わりに、1% Triton-X(Biorad)5マイクロリットルを添加した。プレートをオービタルシェーカー内に置いて1000 rpmにて10秒間、成分を十分に混合し、その後、5% CO
2の37℃インキュベーター内に1時間置いた。インキュベーション後、細胞を緩衝液で1回洗浄し、フローサイトメトリーによる分析のために7AAD生死判定用色素(Sigma)で染色した。抗体媒介性CDCによって溶解された細胞のパーセンテージを算出するために、抗体を含まない陰性対照を0%溶解として定義し、Triton-Xを含む陽性対照を100%溶解として定義した。データは2回の実験を表す。エラーバーは二つ組のウェルのS.Dを示す。
図1に示すように、LALAおよびKAES変異を有するワンアームド抗原結合分子(1アーム-SG1095)は、HER2発現細胞の用量依存性溶解を示したのに対して、LALA変異のみを有するワンアームド抗原結合分子、またはLALA変異もしくはLALAおよびKAES変異を有する2アームド抗原結合分子はそれを示さなかった。六量体形成を増強する、R、RG、RGY、またはER変異の導入は、HER2発現細胞に対する1アーム-SG1095の溶解活性を高めた(
図3)。LALAおよび KAES変異を有する2アームド抗原結合分子は、R、RG、RGY、またはER変異をさらに導入した場合、HER2発現細胞に対して溶解活性を示したが、この活性は、対応するワンアームド抗原結合分子のものより低かった(
図2および
図3)。
【配列表】
【国際調査報告】