(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-04
(54)【発明の名称】タンパク質を発現するように改変されたレンチウイルスベクターの調製物から遊離第VIII因子を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20230828BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230828BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230828BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230828BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230828BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230828BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230828BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230828BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230828BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230828BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20230828BHJP
C07K 14/745 20060101ALN20230828BHJP
A61K 38/36 20060101ALN20230828BHJP
A61K 38/37 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
A61K48/00
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/22
A61P43/00 111
A61K35/76
A61P7/04
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K14/745
A61K38/36
A61K38/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022579993
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 US2021038871
(87)【国際公開番号】W WO2021262963
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512147244
【氏名又は名称】バイオベラティブ セラピューティクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】511262290
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン イーティーエス
(71)【出願人】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アイマン・イズメール
(72)【発明者】
【氏名】トンヤオ・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ムケッシュ・ミヤニ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA22
4C076DD23
4C076DD23D
4C076DD26
4C076DD26Z
4C076DD60
4C076DD60Z
4C076DD67
4C076DD67D
4C076FF11
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA18
4C084DC10
4C084DC15
4C084MA23
4C084NA20
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZC021
4C084ZC022
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087NA20
4C087ZC02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA66
4H045EA24
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
ウイルスベクター作製プロセスおよび宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法が本明細書において提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、
(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、該導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および
(ii)該クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中の該ウイルスベクターを回収し、それにより、該ウイルスベクターを該導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
(iii)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、該ウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および
(iv)該ウイルスベクターを該第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程
をさらに含み、
工程(iii)および(iv)は、工程(i)の前に実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(iii)工程(ii)から回収されたウイルスベクターを、該ウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および
(iv)該ウイルスベクターを該第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)および(ii)は、複数回繰り返される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(i)は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
薬剤はCaCl
2である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(v)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物の塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程
をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(v)は、工程(i)の前に実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(iii)および(iv)が工程(i)の前に実行される場合、工程(v)は、工程(iv)と(i)の間に実行される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
塩はNaClである、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
標的塩濃度は、約0.2M~約0.6Mである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
標的塩濃度は約0.4Mである、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
標的塩濃度は、約200mMのNaCl~約600mMのNaClである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(i)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液またはリン酸緩衝液を含むローディング緩衝液中における、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、第1のクロマトグラフィーマトリックスにロードすることによって実行される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程(iv)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液またはリン酸緩衝液を含む溶出緩衝液によってウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させることによって実行される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
(vi)ウイルスベクターを含む医薬組成物を作製するために、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクターを、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程
をさらに含み、
該医薬組成物は、該導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない、
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(vi)は、製剤化緩衝液による、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクターの限外濾過/透析濾過(UF/DF)によって実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
UF/DF工程は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
製剤化緩衝液は、NaClとスクロースとを含むリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
医薬組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在する導入遺伝子タンパク質夾雑物の20%未満を含有する、請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ウイルスベクターは、エンベロープウイルスベクターである、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法
【請求項22】
エンベロープウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ウイルスベクターは、導入遺伝子タンパク質夾雑物をコードする、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
導入遺伝子タンパク質夾雑物は、移入プラスミドからの発現によって宿主細胞において産生される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
第1のクロマトグラフィーマトリックスは、親和性クロマトグラフィーカラム、カチオン交換(CEX)クロマトグラフィーカラム、マルチモーダルクロマトグラフィー(MMC)カラム、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムからなる群から選択される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
第1のクロマトグラフィーマトリックスは、導入遺伝子タンパク質夾雑物に特異的に結合する親和性リガンドを含む親和性クロマトグラフィーカラムである、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーマトリックスである、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)膜である、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
導入遺伝子タンパク質は、凝固因子である、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
凝固因子は、FVIIIまたはFVIIIXTENである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
親和性クロマトグラフィーマトリックスは、VIIISelectである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
宿主細胞は、哺乳動物細胞または昆虫細胞である、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
哺乳動物細胞は、CHO細胞、HEK293細胞、またはHeLa細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物は、宿主細胞を培養し、細胞培養上清を該宿主細胞から分離して清澄化することによって生成された細胞培養上清である、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
細胞培養上清は、ヌクレアーゼ処理に供される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
宿主細胞からレンチウイルスベクター(LVV)を精製する方法であって、該レンチウイルスベクターはFVIII導入遺伝子を含み、該方法は:
(i)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、該FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および
(ii)該クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中の該レンチウイルスベクターを回収し、それにより、該レンチウイルスベクターをFVIIIタンパク質夾雑物から分離する工程
を含む、前記方法。
【請求項37】
(iii)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、該レンチウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および
(iv)該レンチウイルスベクターを該第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程
を含み、
工程(iii)および(iv)は、工程(i)の前に実行され、それにより、該レンチウイルスベクターを宿主細胞夾雑物から分離する、
請求項36に記載の方法。
【請求項38】
(iii)工程(ii)から回収されたレンチウイルスベクターを、該レンチウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および
(iv)該レンチウイルスベクターを該第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
工程(i)および(ii)は、複数回繰り返される、請求項36~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
工程(i)は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われる、請求項36~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
薬剤はCaCl
2である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
(v)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物の塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程
をさらに含む、請求項36~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
工程(v)は、工程(i)の前に実行される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
工程(iii)および(iv)が工程(i)の前に実行される場合、工程(v)は、工程(iv)と(i)の間に実行される、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
塩はNaClである、請求項42~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
標的塩濃度は、約0.2M~約0.6Mである、請求項42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
標的塩濃度は約0.4Mである、請求項42~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
(vi)レンチウイルスを含む医薬組成物を作製するために、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたレンチウイルスベクターを1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程
をさらに含み、
該医薬組成物は、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない、
請求項36~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
工程(vi)は、製剤化緩衝液による、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたレンチウイルスベクターの限外濾過/透析濾過(UF/DF)によって実行される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
製剤化緩衝液は、NaClとスクロースとを含むリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
UF/DF工程は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
医薬組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在するFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物の20%未満を含有する、請求項36~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
第1のクロマトグラフィーマトリックスは、親和性クロマトグラフィーカラム、カチオン交換(CEX)クロマトグラフィーカラム、マルチモーダルクロマトグラフィー(MMC)カラム、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムからなる群から選択される、請求項36~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
第1のクロマトグラフィーマトリックスは、組換えFVIIIタンパク質に特異的に結合する親和性リガンドを含む親和性クロマトグラフィーカラムである、請求項36~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
親和性リガンドはVIIISelectである、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、B-ドメイン欠失FVIIIタンパク質である、請求項36~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、配列番号4のアミノ酸配列を含むヒトFVIIIタンパク質である、請求項36~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、FVIIIXTEN分子である、請求項36~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
FVIIIXTEN分子は、配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーマトリックスである、請求項36~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)膜である、請求項36~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
宿主細胞は、哺乳動物細胞または昆虫細胞である、請求項36~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
哺乳動物細胞は、CHO細胞、HEK293細胞、またはHeLa細胞である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
ウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物は、宿主細胞を培養し、細胞培養上清を該宿主細胞から分離して清澄化することによって生成された細胞培養上清である、請求項36~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
細胞培養上清は、ヌクレアーゼ処理に供される、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
請求項1~65のいずれか1項に記載の方法によって作製されたウイルスベクターを含む組成物。
【請求項67】
ウイルスベクターと1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤とを含む医薬組成物であり、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない、請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
導入遺伝子タンパク質は、凝固因子である、請求項66または67に記載の組成物。
【請求項69】
凝固因子は、FVIII、FVIIIXTENまたはFIXである、請求項68に記載の組成物。
【請求項70】
凝固因子は、B-ドメイン欠失FVIIIタンパク質である、請求項68に記載の組成物。
【請求項71】
凝固因子は、配列番号4のアミノ酸配列を含むヒトFVIIIタンパク質である、請求項68に記載の組成物。
【請求項72】
凝固因子は、FVIII-XTEN分子である、請求項68に記載の組成物。
【請求項73】
FVIII-XTEN分子は、配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項72に記載の組成物。
【請求項74】
第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在する導入遺伝子タンパク質の20%未満を含有する、請求項66~73のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年6月24日に出願された米国仮出願第63/043/697号および2020年8月6日に出願された米国仮出願第63/062,120号に対する優先権の利益を主張するものである。先述の仮出願の内容は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
レンチウイルスベクター(LV)および他のウイルスベクターは、遺伝子療法のための魅力的なツールである(非特許文献1)。LVは、肝細胞、ニューロンおよび造血幹細胞などの非分裂細胞を含む広範な組織に形質導入を行うことができる。さらに、LVは標的細胞ゲノムへの組み込みを行い、長期的な導入遺伝子発現をもたらすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遺伝子療法のためのウイルスベクターに対する絶えず増加する需要を考慮すると、改良された精製方法が非常に望まれているであろう。本明細書において、本発明者らは、対象への全身投与に適するウイルスベクター組成物を作製するための改良された方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、遺伝子療法用途のためのエンベロープウイルスベクターの精製に関する。本開示は、少なくとも一部において、従来の精製プロセスの間に望ましくない導入遺伝子タンパク質夾雑物をウイルスベクターと同時精製することができるという発見に基づいている。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、生物学的生産の際に生成されるプロモーター媒介性転写産物に起因する、導入遺伝子活性の副生成物または分泌されたタンパク質である(例えば、ウイルスベクターがコードする導入遺伝子タンパク質夾雑物)。例えば、レンチウイルスベクターのパッケージングは、宿主細胞への2つまたはそれ以上のプラスミドのトランスフェクションを必要とする。一部の実施形態では、プラスミドは、以下:(1)エンベロープタンパク質(例えば、VSB-G)をコードするエンベローププラスミド;(2)目的の導入遺伝子をコードする移入プラスミド;および(3)1つまたはそれ以上のパッケージングプラスミド(例えば、gagおよびpolをコードするプラスミドならびにrevをコードするプラスミド、あるいはgag、pol、およびrevをコードするプラスミド)を含む。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、移入プラスミドのプロモーター媒介性転写産物である。ある特定の実施形態では、移入プラスミドのプロモーター媒介性転写産物は、宿主細胞(例えば、宿主パッケージング細胞)によって産生される。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、ウイルスベクター産物試料中に存在し、検出可能な量において存在し得る。
【0006】
ウイルスベクター医薬製品中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の存在は、結果として、治療的処置に使用される場合、1つまたはそれ以上の副作用を生じ得る。これは、ウイルスベクター医薬製品が全身投与される遺伝子療法アプローチにおいて特に重要である。ウイルスベクターの全身投与は、典型的には、患者内での細胞の効率的な形質導入を達成するために、高いウイルスベクター用量を必要とする。導入遺伝子タンパク質夾雑物が十分に減少されないおよび/または排除されない場合、夾雑タンパク質が患者に同時投与され、身体の形質導入された細胞内でのそのタンパク質のウイルスベクター媒介性産生に悪影響を及ぼし得る。したがって、本発明は、ウイルスベクター原体が導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まないように、これらの導入遺伝子タンパク質夾雑物を除去する方法を提供する。
【0007】
一態様では、本発明は、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(ii)クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程を含む方法を提供する。
【0008】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(iii)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、ウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および(iv)ウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程をさらに含み、ここで工程(iii)および(iv)は、工程(i)の前に実行される。
【0009】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(iii)工程(ii)から回収されたウイルスベクターを、ウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および(iv)ウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程をさらに含む。
【0010】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)および(ii)は、複数回繰り返される。
【0011】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われる。ある特定の例示的な実施形態では、薬剤はCaCl2である。
【0012】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(v)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物の塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程をさらに含む。
【0013】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(v)は、工程(i)の前に実行される。
【0014】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(iii)および(iv)が工程(i)の前に実行される場合、工程(v)は、工程(iv)と(i)の間に実行される。
【0015】
ある特定の例示的な実施形態では、塩はNaClである。
【0016】
ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は、約0.2M~約0.6Mである。ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は約0.4Mである。ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は、約200mMのNaCl~約600mMのNaClである。
【0017】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液を含むローディング緩衝液中における、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、第1のクロマトグラフィーマトリックスにロードすることによって実行される。ある特定の実施形態では、ローディング緩衝液は、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0018】
他の例示的な実施形態では、工程(i)は、pH約7.0~約7.5においてリン酸緩衝液を含むローディング緩衝液中における、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、第1のクロマトグラフィーマトリックスにロードすることによって実行される。ある特定の実施形態では、ローディング緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0019】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(iv)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液を含む溶出緩衝液によってウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させることによって実行される。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0020】
他の例示的な実施形態では、工程(iv)は、pH約7.0~約7.5においてリン酸緩衝液を含む溶出緩衝液によってウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させることによって実行される。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0021】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(vi)ウイルスベクターを含む医薬組成物を作製するために、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクターを、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程をさらに含み、ここで医薬組成物は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない。
【0022】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(vi)は、製剤化緩衝液による、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクターの限外濾過/透析濾過(UF/DF)によって実行される。ある特定の例示的な実施形態では、UF/DF工程は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を含む。
【0023】
ある特定の例示的な実施形態では、製剤化緩衝液は、NaClとスクロースとを含むリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である。
【0024】
ある特定の例示的な実施形態では、医薬組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在する導入遺伝子タンパク質夾雑物の20%未満を含有する。
【0025】
ある特定の例示的な実施形態では、ウイルスベクターは、エンベロープウイルスベクターである。ある特定の例示的な実施形態では、エンベロープウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0026】
ある特定の例示的な実施形態では、ウイルスベクターは、導入遺伝子タンパク質夾雑物をコードする。ある特定の例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、移入プラスミドからの発現によって宿主細胞において産生される。
【0027】
ある特定の例示的な実施形態では、第1のクロマトグラフィーマトリックスは、親和性クロマトグラフィーカラム、カチオン交換(CEX)クロマトグラフィーカラム、マルチモーダルクロマトグラフィー(MMC)カラム、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムからなる群から選択される。
【0028】
ある特定の例示的な実施形態では、第1のクロマトグラフィーマトリックスは、導入遺伝子タンパク質夾雑物に特異的に結合する親和性リガンドを含む親和性クロマトグラフィーカラムである。
【0029】
ある特定の例示的な実施形態では、第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーマトリックスである。ある特定の例示的な実施形態では、第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)膜である。
【0030】
ある特定の例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質は、凝固因子である。ある特定の例示的な実施形態では、凝固因子は、FVIIIまたはFVIIIXTENである。
【0031】
ある特定の例示的な実施形態では、第1のクロマトグラフィーマトリックスは、VIIISelect親和性クロマトグラフィーマトリックスである。
【0032】
ある特定の例示的な実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物細胞または昆虫細胞である。ある特定の例示的な実施形態では、哺乳動物細胞は、CHO細胞、HEK293細胞、またはHeLa細胞である。
【0033】
ある特定の例示的な実施形態では、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物は、宿主細胞を培養し、細胞培養上清を宿主細胞から分離して清澄化することによって生成された細胞培養上清である。
【0034】
ある特定の例示的な実施形態では、細胞培養上清は、ヌクレアーゼ処理に供される。
【0035】
別の態様では、本発明は、宿主細胞からレンチウイルスベクター(LVV)を精製する方法であって、レンチウイルスベクターはFVIII導入遺伝子を含み、(i)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(ii)クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のレンチウイルスベクターを回収し、それにより、レンチウイルスベクターをFVIIIタンパク質夾雑物から分離する工程を含む方法を提供する。
【0036】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(iii)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、レンチウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および(iv)レンチウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程をさらに含み、ここで工程(iii)および(iv)は、工程(i)の前に実行され、それにより、レンチウイルスベクターを宿主細胞夾雑物から分離する。
【0037】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(iii)工程(ii)から回収されたレンチウイルスベクターをレンチウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程、および(iv)レンチウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させる工程をさらに含む。
【0038】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)および(ii)は、複数回繰り返される。
【0039】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われる。ある特定の例示的な実施形態では、薬剤はCaCl2である。
【0040】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(v)レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物の塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程をさらに含む。
【0041】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(v)は、工程(i)の前に実行される。
【0042】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(iii)および(iv)が工程(i)の前に実行される場合、工程(v)は、工程(iv)と(i)の間に実行される。
【0043】
ある特定の例示的な実施形態では、塩はNaClである。
【0044】
ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は、約0.2M~約0.6Mである。ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は約0.4Mである。ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は、約200mMのNaCl~約600mMのNaClである。
【0045】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(i)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液を含むローディング緩衝液中における、レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、第1のクロマトグラフィーマトリックスにロードすることによって実行される。ある特定の実施形態では、ローディング緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0046】
他の例示的な実施形態では、工程(i)は、pH約7.0~約7.5においてリン酸緩衝液を含むローディング緩衝液中における、レンチウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、第1のクロマトグラフィーマトリックスにロードすることによって実行される。ある特定の実施形態では、ローディング緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0047】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(iv)は、pH約7.0~約7.5においてTris-HCl緩衝液を含む溶出緩衝液によってレンチウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させることによって実行される。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0048】
他の例示的な実施形態では、工程(iv)は、pH約7.0~約7.5においてリン酸緩衝液を含む溶出緩衝液によってレンチウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させることによって実行される。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、さらに、約200~約600mMのNaClと、場合により約2mMのMgCl2とを含む。
【0049】
ある特定の例示的な実施形態では、方法は、(vi)レンチウイルスを含む医薬組成物を作製するために、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたレンチウイルスベクターを1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程をさらに含み、ここで医薬組成物は、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない。
【0050】
ある特定の例示的な実施形態では、工程(vi)は、製剤化緩衝液による、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたレンチウイルスベクターの限外濾過/透析濾過(UF/DF)によって実行される。ある特定の例示的な実施形態では、製剤化緩衝液は、NaClとスクロースとを含むリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である。ある特定の例示的な実施形態では、UF/DF工程は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を含む。
【0051】
ある特定の例示的な実施形態では、医薬組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在するFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物の20%未満を含有する。
【0052】
ある特定の例示的な実施形態では、第1のクロマトグラフィーマトリックスは、親和性クロマトグラフィーカラム、カチオン交換(CEX)クロマトグラフィーカラム、マルチモーダルクロマトグラフィー(MMC)カラム、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムからなる群から選択される。
【0053】
ある特定の例示的な実施形態では、第1のクロマトグラフィーマトリックスは、組換えFVIIIタンパク質に特異的に結合する親和性リガンドを含む親和性クロマトグラフィーカラムである。ある特定の例示的な実施形態では、親和性リガンドはVIIISelectである。
【0054】
ある特定の例示的な実施形態では、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、B-ドメイン欠失FVIIIタンパク質である。ある特定の例示的な実施形態では、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、配列番号4のアミノ酸配列を含むヒトFVIIIタンパク質である。ある特定の例示的な実施形態では、FVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物は、FVIIIXTEN分子である。ある特定の例示的な実施形態では、FVIIIXTEN分子は、配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0055】
ある特定の例示的な実施形態では、第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーマトリックスである。ある特定の例示的な実施形態では、第2のクロマトグラフィーマトリックスは、アニオン交換(AEX)膜である。
【0056】
ある特定の例示的な実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物細胞または昆虫細胞である。ある特定の例示的な実施形態では、哺乳動物細胞は、CHO細胞、HEK293細胞、またはHeLa細胞である。
【0057】
ある特定の例示的な実施形態では、ウイルスベクターとFVIII導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物は、宿主細胞を培養し、細胞培養上清を宿主細胞から分離して清澄化することによって生成された細胞培養上清である。
【0058】
ある特定の例示的な実施形態では、細胞培養上清は、ヌクレアーゼ処理に供される。
【0059】
別の態様では、本発明は、本明細書において説明される方法に従って作製されたウイルスベクターを含む組成物を提供する。
【0060】
ある特定の例示的な実施形態では、組成物は、ウイルスベクターと1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤とを含む医薬組成物であり、ここで組成物は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない。
【0061】
ある特定の例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質は、凝固因子である。ある特定の例示的な実施形態では、凝固因子は、FVIII、FVIIIXTENまたはFIXである。ある特定の例示的な実施形態では、凝固因子は、B-ドメイン欠失FVIIIタンパク質である。ある特定の例示的な実施形態では、凝固因子は、配列番号4のアミノ酸配列を含むヒトFVIIIタンパク質である。ある特定の例示的な実施形態では、凝固因子は、FVIII-XTEN分子である。ある特定の例示的な実施形態では、FVIII-XTEN分子は、配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0062】
ある特定の例示的な実施形態では、組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物中に存在する導入遺伝子タンパク質の20%未満を含有する。ある特定の例示的な実施形態では、組成物は、第2のクロマトグラフィーマトリックスによって精製されたが第1のクロマトグラフィーマトリックスでは精製されていない参照ウイルスベクター組成物の10%未満の総FVIII活性レベルを有する。例示的な一実施形態では、組成物は、約1IU以下の総FVIII活性レベルを有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1A】遺伝子療法用途のためのエンベロープウイルスベクター原体を製造するための従来のプロセスワークフローの概略図を示す図である。プロセス関連不純物および生成物関連不純物からのウイルスベクターの精製を主に担う単一のベクター捕捉精製クロマトグラフィー工程を伴う、従来の下流ワークフローを示す図である。
【
図1B】遺伝子療法用途のためのエンベロープウイルスベクター原体を製造するための従来のプロセスワークフローの概略図を示す図である。一方が本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程である少なくとも2つの精製クロマトグラフィー工程を伴う、本開示の一実施形態による改良された下流ワークフローを示す図である。
【
図2】
図1Aに示されるような従来の精製プロセスの各工程における、レンチウイルスベクター1E9 TUあたりのFVIIIXTEN導入遺伝子タンパク質の活性を示すプロットである。夾雑FVIIIXTENタンパク質活性は、最終原体(DS)および医薬製品(DP)など、作製プロセスの様々な段階において、一貫して存在する。
【
図3】レンチウイルスベクターによってコードされるFVIII導入遺伝子タンパク質からのレンチウイルスベクターの精製に対するVIIISelect親和性クロマトグラフィーの評価を示すプロットである。実験は、FVIII(Exp1)またはFVIIIXTEN(Exp2)導入遺伝子タンパク質のどちらかによって行った。
図3Aは、従来の1カラムプロセス(例えば、
図1Aに示されるような)または追加の導入遺伝子タンパク質捕捉工程としてVIIISelectを含む本発明の2カラムプロセス(例えば、
図1Bに示されるような)による精製後の産物中に残る導入遺伝子タンパク質活性のレベルを示すプロットである。
図3Bは、1カラムプロセスと比較した2カラムプロセスの導入遺伝子タンパク質活性化のパーセント減少を示すプロットである。
【
図4】本発明の2カラムプロセスにおいて塩化カルシウムを使用した結果を示すプロットである。CaCl
2の存在下(「+CaCl2」)または不在下(「-CaCl2」)においてFVIII導入遺伝子タンパク質を捕捉するために、VIIISelect親和性クロマトグラフィーを用いた。FVIIIXTENをコードするレンチウイルスベクター(LV-FVIIIXTEN)をリン酸緩衝液において精製し(Exp3)、その一方で、FVIIIをコードするレンチウイルスベクター(LV-FVIII)をヒスチジン緩衝液において精製した(Exp4)。
【
図5】複数の導入遺伝子タンパク質捕捉工程を行った後に、FVIIIをコードするレンチウイルスベクター調製物(LV-FVIII)中に残る総FVIII活性を示すプロットである。ウイルスベクターによってコードされる導入遺伝子タンパク質を捕捉するために、VIIISelect親和性クロマトグラフィー樹脂を複数回通過させることによって、ウイルス試料をリサイクルした。各導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、CaCl
2の存在下で実行した。ウイルスベクターLV-FVIIIは、ヒスチジン緩衝液において精製した。
【
図6】本発明の実施形態により、遺伝子療法用途のためのエンベロープウイルスベクター原体を製造するための下流プロセスワークフローの概略図を示す図である。
図6Aは、本開示の一実施形態による改良された下流ワークフローを示す図であり、ここで第2のクロマトグラフィー精製工程のためのロード試料は調整される。
図6Bは、本開示の一実施形態による改良された下流ワークフローを示す図であり、ここで第1のクロマトグラフィー精製工程のためのロード試料は調整され、第2のクロマトグラフィー精製工程のためのロード試料も調整される。
【
図7】本開示の一実施形態による改良された下流ワークフローを使用する精製の効率に対する塩濃度の影響を示すプロットである。
図7Aは、試料をVIIISelect親和性クロマトグラフィー樹脂に適用する前(黒色の棒)および後(灰色の棒)の全機能的ベクター回収の関数として、検出されたFVIIIXTEN活性のレベルを示すプロットであり、ここでロード試料は、400mMのNaCl(Exp5)または100mMのNaCl(Exp6)を含む。
図7Bは、試料をVIIISelect親和性クロマトグラフィー樹脂に適用する前(黒色の棒)および後(灰色の棒)の総P24カプシド回収の関数としての、検出されたFVIIIXTEN活性のレベルを示すプロットであり、ここでロード試料は、400mMのNaCl(Exp5)または100mMのNaCl(Exp6)を含む。
【
図8】全機能的ベクター回収の関数としての、検出された総FVIIIXTEN活性(黒色の棒)、検出されたFVIIIXTEN活性(暗灰色の棒)、および総P24カプシド回収の関数としての検出されたFVIIIXTEN活性のレベル(薄灰色の棒)を示すプロットである。
【
図9】AEXとその後のTRISまたはリン酸緩衝液を用いたVIIISelectとを使用した2段階精製プロセスにおける、FVIIIをコードするウイルスベクターの精製の際の、夾雑FVIII導入遺伝子タンパク質の除去に対する様々な塩濃度(200mM、400mM、または600mMのNaCl)の影響を示すプロットである。AEX溶出後かつVIIISelect精製前のローディング試料において(TRIS緩衝液は黒色の棒;リン酸ローディング緩衝液は灰色の棒)、ならびにVIIISelect精製後のフロースルー産物フラクションにおいて(TRIS緩衝液は黒色斜線の棒;リン酸緩衝液は灰色斜線の棒)、総夾雑物FVIII導入遺伝子活性(IU)を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本開示は、ウイルスベクターの生物学的生産の際、最終ウイルスベクター製品が導入遺伝子タンパク質夾雑物を含み得るという知見に基づいている。例えば、HEK293T細胞を使用するレンチウイルスベクター(LV-FVIIIまたはLV-FVIIIXTEN)製品の製造の際、予想外なことに、プラスミド(例えば、移入プラスミド)をコードする導入遺伝子における上流CMVプロモーター活性が、結果として夾雑FVIIIまたはFVIIIXTENタンパク質を生じるような導入遺伝子mRNA生成を媒介し得ることが見出された。精製の際、そのようなFVIIIまたはFVIIIXTEN導入遺伝子タンパク質夾雑物は、意図せず、ベクター粒子との非特異的会合を介してレンチウイルスベクターと共に同時精製される可能性があり、ならびに、最終的に、意図せず、患者に同時投与される可能性ある。導入遺伝子タンパク質夾雑物を含むウイルスベクター製品の投与は、標的細胞(例えば、患者内の標的細胞)へ形質導入するウイルスベクターの効率を阻害し得、および/または同じ導入遺伝子タンパク質のウイルスベクター媒介性発現を阻害し得る。さらに、レンチウイルスベクター医薬製品(LV-FVIIIまたはLV-FVIIIXTEN)中の夾雑導入遺伝子タンパク質(例えば、FVIIIまたはFVIIIXTEN)の存在は、導入遺伝子タンパク質夾雑物に対する抗原(例えば、抗薬物抗体(ADA))の生成および/またはLV形質導入細胞に対する潜在的細胞障害性T細胞応答を結果として生じるような望ましくない免疫応答を誘導する可能性があり得る。
【0065】
したがって、ウイルスベクター製品中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の存在の問題を回避するために、本開示は、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、ウイルスベクターがコードする導入遺伝子タンパク質夾雑物の減少および/または排除を含む方法を提供する。ある特定の実施形態では、本明細書において提供される方法を用いたウイルスベクターの精製は、結果として、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まないウイルスベクター製品をもたらす。
【0066】
一般に、本明細書において細胞培養および組織培養、分子生物学、生物物理学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質化学および核酸化学に関連して使用される命名法は、当技術分野において周知であり、一般的に使用されるものである。本明細書中に提供される方法および手法は、別の指示がない限り、一般に、本明細書の全体にわたって引用および考察される様々な一般的およびより特定的な参考文献に記載される、当技術分野において周知の従来法に従って実施される。酵素反応および精製手法は、製造元の仕様書に従って、当技術分野において一般的に遂行されるように、または本明細書に記載されるように実施される。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、ならびにそれらの医薬品化学および製薬化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの検査手順および手法は、当技術分野において周知であり、一般的に使用される。化学合成、化学分析、医薬品調製、製剤化、および送達、ならびに患者の治療には、標準的な手法が使用される。
【0067】
本明細書で別に定義しない限り、本明細書中で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。何らかの潜在的な曖昧性がある場合には、本明細書中に提供される定義が、あらゆる辞書または付帯的な定義よりも優先される。文脈によって必要とされない限り、単数形の語は複数形を含み、複数形の語は単数形を含むものとする。別に明記する場合を除き、「または」の使用は、「および/または」を意味する。「含む(including)」という用語の使用は、「含む(includes)」および「含まれる(included)」などの他の形態と同様に、限定的ではない。
【0068】
本発明がより容易に理解されるように、ある特定の用語をまず定義する。
【0069】
本明細書において使用される場合、「約(about)」という用語は、特定の列挙される数値に関して使用される場合、およそ(approximately、roughly、around、またはin the regions of)を意味する。用語「約」が、数値範囲に関連して使用される場合、それは、説明された数値の上限および下限を拡張することによってその範囲を修飾する。概して、「約」という用語は、本明細書において、言明された値より10パーセント高いまたは低い変動によって、言明された値を上回るおよび下回る数値を修飾するために使用される。例えば、本明細書に使用される場合、表現「約100」は、90および110ならびにその間の全ての値(例えば、91、92、93、94など)を包含する。ある特定の実施形態では、「約」という用語は、値が列挙された値から1%以下において変化し得ることを意味する。例えば、本明細書に使用される場合、「約100」という表現は、99および101ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を包含する。
【0070】
本明細書で用いる場合、「ベクター」という用語は、核酸のクローニングおよび/または宿主細胞への移入のための任意のビヒクルを指す。ベクターは、別の核酸セグメントを結びつけて、結びついたセグメントの複製をもたらすことができるレプリコンであってよい。「ベクター」と言う用語は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで核酸を細胞に導入するためのウイルス性ビヒクルおよび非ウイルス性ビヒクルの両方を含む。例えば、プラスミド、改変真核生物ウイルス、または改変細菌ウイルスを含む多数のベクターが、当技術分野において公知であり、使用される。適するベクターへのポリヌクレオチドの挿入は、相補的な付着末端を有する選択されたベクター中に、適切なポリヌクレオチド断片をライゲートすることによって実現することができる。
【0071】
本明細書において使用される場合、「ウイルスベクター」という用語は、核酸を細胞に導入するための任意のウイルス性ビヒクルを指す。ウイルスベクターは、任意の方式、例えば、インビトロ、エクスビボ、またはインビボにおいて、核酸を任意の細胞内に導入するために用いることができる。当業者に既知であるように、ウイルスベクターは、パッケージング細胞(例えば、パッケージング細胞系)によってパッケージされる(産生される)一部の実施形態では、1つまたはそれ以上のプラスミドが、ウイルスベクターを作製するためにパッケージング細胞に導入される。一部の実施形態では、3つまたはそれ以上のプラスミドが、ウイルスベクターを作製するためにパッケージング細胞に導入される。レンチウイルスベクターの作製において、典型的には、(1)目的の導入遺伝子を含む移入プラスミド;(2)エンベロープタンパク質コード配列(例えば、VSV-G)を含むエンベローププラスミド;および(3)1つまたはそれ以上のパッケージングプラスミドが、パッケージング細胞へコトランスフェクトされる。レンチウイルスパッケージングプラスミドは、単一のプラスミド(例えば、第二世代のレンチウイルスベクター作製の場合)の、または別々のプラスミド(すなわち、1つのパッケージングプラスミドは、gagおよびpol遺伝子を含み、ならびに、別のパッケージングプラスミドは、rev遺伝子を含む;例えば、第三世代のレンチウイルスベクター作製の場合)の、少なくともgag、pol、およびrev遺伝子を含む。アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターの作製において、典型的には、(1)目的の導入遺伝子を含む移入プラスミド;(2)AAVライフサイクルに必要なrepおよびcap電子を含むrep/capプラスミド;および(3)AAV複製を媒介調停する遺伝子を含むヘルパープラスミドが、パッケージング細胞内へとコトランスフェクトされる。ウイルスベクターの作製におけるバリエーションは、当業者に既知である。例えば、当業者は、1つまたはそれ以上のベクターを単一ベクターへと組み合わせることができることを理解するであろう。
【0072】
本明細書で用いる場合、「組換えレンチウイルスベクター」という語句は、パッケージング構成要素の存在下で、標的細胞を感染させ得るウイルス粒子へのRNAゲノム(例えば、異種RNAゲノム)のパッケージングを可能にする十分なレンチウイルス遺伝情報を有するベクターを指す。標的細胞の感染は、逆転写および標的細胞ゲノムへの組み込みを含み得る。組換えレンチウイルスベクターは、ベクターによって標的細胞に送達されることになる非ウイルス性コード配列を保有する。組換えレンチウイルスベクターは、最終的な標的細胞内で独立に複製して感染性レンチウイルス粒子を生成することが不可能である。通常、組換えレンチウイルスベクターは、機能的なgag-polおよび/またはenv遺伝子および/または複製のために必須な他の遺伝子を欠く。
【0073】
本明細書において使用される場合、「異種(heterologous)」または「外因性」という用語は、所定の状況において、例えば、細胞またはポリペプチドにおいて通常は見出されない分子を指す。例えば、外因性または異種分子を細胞に導入することができ、ならびに、それらは、例えば、トランスフェクションなどによる細胞の操作の後にのみ存在し、あるいは、遺伝子操作されたまたは異種アミノ酸配列の他の形態は、それが天然には見出されないようなタンパク質に存在することができる。したがって、異種RNAゲノムを含む組換えレンチウイルスベクターは、レンチウイルスには天然には見出されないRNAゲノムを指す。
【0074】
本明細書において使用される場合、「導入遺伝子タンパク質夾雑物」という用語は、エクスビボでの宿主細胞におけるウイルスベクターの作製の際に宿主細胞において産生される導入遺伝子タンパク質を指す。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質は、ウイルスベクターの導入遺伝子によってコードされるが、ウイルスベクター作製の際に宿主細胞において非意図的に発現される。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質産物は、宿主細胞での望ましくない導入遺伝子活性の副産物であり得る。他の実施形態では、導入遺伝子タンパク質は、プロモーター媒介性転写に起因して、宿主細胞によって分泌され得る。例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、目的の導入遺伝子を含む移入プラスミドからの偽の発現によって宿主細胞において産生され得る。
【0075】
本明細書において使用される場合、「選択的に結合することができる」という用語は、他の分子よりある特定の分子に結合する(例えば、可逆的に結合する)(例えば、特定の分子に優先的に結合する;特定の分子に対してより高い親和性を有する;他の分子と比べてより大きい程度に、または他の分子を除外して、特定の分子に結合する)能力を有することを指す。例えば、ウイルスベクターを含む組成物が、ウイルスベクターに選択的に結合することができるクロマトグラフィーマトリックスに接触した場合、クロマトグラフィーマトリックスは、組成物中に存在し得る他の分子よりも、ウイルスベクターに結合する(例えば、保持する)であろう(例えば、クロマトグラフィーマトリックスは、実質的に、組成物中に存在する他の分子と比べてより多くのウイルスベクターに結合する)。そのため、クロマトグラフィーマトリックスがウイルスベクターに選択的に結合する場合、ウイルスベクターは、クロマトグラフィーマトリックスによって保持される。
【0076】
本明細書において使用される場合、「治療する」という用語は、障害の1つまたはそれ以上の症状の改善または減少を指す。治療は、治癒であり得るが、必ずしも治癒である必要はない。
【0077】
本明細書において使用される場合、「全身投与する」という語句は、医薬製品が対象の循環系(例えば、血流)に導入されるように、医薬製品を含む医薬組成物を対象に処方することまたは与えることを指す。ある特定の実施形態では、全身投与は、ウイルスベクターが対象の循環系(例えば、血流)に導入されるように、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を含む医薬組成物を対象に処方することまたは与えることを指す。全身投与の経路の例としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、中心静脈アクセス、経口投与、筋肉内投与、皮内投与、および皮下投与による、静脈内、例えば、静脈内注射および静脈内注入が挙げられる。
【0078】
A.ウイルスベクターの精製
本開示は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を減じるおよび/または排除するための、ウイルスベクター作製プロセスへの精製工程(本明細書において「導入遺伝子タンパク質捕捉工程」)の導入に基づいている。導入遺伝子タンパク質捕捉工程の導入は、ウイルスベクターを含む組成物からの、導入遺伝子タンパク質夾雑物の減少および/または排除を可能にし、これらに限定されるわけではないが、以下の臨床的有益性:(1)患者の体内の細胞を形質導入するために使用されるウイルスベクター医薬製品の効力を向上させること;(2)全身投与される遺伝子療法製品の有効性を潜在的に向上させること;(3)投与の直後にタンパク質抗原に対する潜在的免疫応答を最小化する(例えば、抗薬物抗体の潜在的発生を最小化する)結果として、インビボ遺伝子療法製品の安全性プロファイルを改善すること;(4)導入遺伝子タンパク質産物の存在に起因する任意の負の治療効果または副作用を最小化すること;ならびに(5)産物品質を改良し、産物純度を増加させることを提供し得る。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物は、移入プラスミドからの発現によって宿主細胞において産生される。
【0079】
ある特定の態様では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(ii)クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程を含む。当業者によって理解されるであろうが、導入遺伝子捕捉工程は、同じまたは異なる導入遺伝子捕捉工程を使用して1回または複数回(2回以上、3回以上など)実行することができる。結果として得られるウイルスベクターは、次いで、任意の方式、例えば、インビトロ、エクスビボ、またはインビボにおいて、核酸を任意の細胞に導入するために利用され得る。ある特定の実施形態では、本開示のウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0080】
当技術分野において既知のように、医薬製品の安全性プロファイルは、医薬製品に対する任意の望ましくない免疫原性の発生(例えば、医薬製品に対する抗薬物抗体の発生)に依存し得る。望ましくない免疫原性の発生は、医薬製品の投与経路(例えば、皮内、皮下、吸入、筋肉内、静脈内経路など)、用量、および投与の頻度によって影響を受ける。本明細書において説明される1つまたはそれ以上の導入遺伝子捕捉工程を組み込んだウイルスベクター精製の方法は、投与可能なウイルスベクター医薬製品中に存在し得る導入遺伝子タンパク質夾雑物を減少させおよび/または排除し、そのため、方法は、導入遺伝子タンパク質夾雑物に対する望ましくない免疫原性の発生を減少させおよび/または排除する。当業者は、望ましくない免疫原性の発生の減少および/または排除が生じさせることができるが、しかしながら、医薬製品(例えば、ウイルスベクター医薬製品)は、任意の投薬量および任意の投薬頻度において投与されることを理解するであろう。
【0081】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程(例えば、導入遺伝子不純物捕捉工程)は、1つまたはそれ以上のクロマトグラフィー分離技術の使用を採用する。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、1つまたはそれ以上のクロマトグラフィーマトリックスの使用を採用する。一部の実施形態では、上記1つまたはそれ以上のクロマトグラフィーマトリックスは、親和クロマトグラフィー、カチオン交換(CEX)クロマトグラフィー、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィー、マルチモーダルクロマトグラフィー(MMC)、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)からなる群から選択される。
【0082】
本明細書において説明される様々な実施形態では、当業者に既知の様々な緩衝液および溶液が使用される。当業者に既知の任意の適する緩衝液および溶液を使用することができる。例えば、精製工程は、いくつかの緩衝液および溶液、例えば、衛生化溶液、平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、ストリッピング緩衝液、再生緩衝液、希釈緩衝液などの使用を必要とし得る。
【0083】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、親和クロマトグラフィーを採用する。「親和性クロマトグラフィー」という用語は、タンパク質が親和性リガンド(例えば、導入遺伝子タンパク質夾雑物に特異的に結合する親和性リガンド)に可逆的および特異的に結合するタンパク質分離技術を指す。本明細書において使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、他の分子に対して非常に優先的である分子との結合反応を媒介する能力を指す。
【0084】
親和性クロマトグラフィーは、成分を分離するために、分子の間の特異的結合相互作用を利用する。親和性クロマトグラフィーでは、親和性リガンドが、固体支持体、例えば、樹脂などに固定され、それにより、組成物が固体支持体を通過した場合、親和性リガンドに対して特異的結合親和性を有する分子は、樹脂によって保持されることになる。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、導入遺伝子タンパク質夾雑物に特異的に結合する親和性リガンドを含む親和性クロマトグラフィーカラムを利用する。一部の実施形態では、親和性リガンドは、親和性リガンド上の特定の官能基(例えば、第一級アミン、スルフィドリル、カルボン酸、アルデヒド)と支持体上の反応基との間の共有化学結合の形成によって、固体支持体材料に直接的に固定されるかまたはカップリングされる。一部の実施形態では、親和性リガンドは、例えば、グルタチオン-GST親和性相互作用によってグルタチオン支持体に捕捉されたグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ付け融合タンパク質による、間接的カップリングアプローチによって固定される。タンパク質の一般的にクラス(例えば、抗体)に結合する親和性リガンドまたは一般的に使用される融合タンパク質タグ(例えば、ヒスチジンタグ、またはHisタグ)は、親和性精製における使用のためにあらかじめ固定された形態において容易に利用可能である。ある特定の実施形態では、より専用化された親和性リガンド、例えば、特異抗体または目的の抗原などを固定することができる。例えば、ペプチド抗原を支持体に固定して、ペプチドを認識する抗体を精製するために使用することができる。したがって、ある特定の実施形態では、本開示は、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる親和性クロマトグラフィー精製に供する工程;および、結果として得られる親和性クロマトグラフィー精製のフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程を含む方法を提供する。ある特定の実施形態では、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法は、(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる親和性クロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(ii)親和性クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程を含む。
【0085】
ウイルスベクター製品中の特定の導入遺伝子タンパク質夾雑物(例えば、FVIIIタンパク質)を減少させるおよび/または排除する目的のために、ある特定の実施形態では、親和性リガンドが、クロマトグラフ固相材料に供給結合によって取り付けられ、それにより、溶液がクロマトグラフ固相材料に接触するときに溶液中の夾雑タンパク質(例えば、FVIIIタンパク質)にアクセス可能である。導入遺伝子タンパク質夾雑物(例えば、FVIIIタンパク質)は、クロマトグラフ工程の際に親和性リガンドに対するその特異的結合親和性を介して保持されるが、その一方で、混合物(例えば、ウイルスベクター)中の他の溶質および/またはタンパク質は、リガンドに感知できるほどには、または特異的には結合しない。固定されたリガンドへの導入遺伝子タンパク質夾雑物の結合により、所望のウイルスベクターはクロマトグラフ媒体を通過することができるが、その一方で、夾雑タンパク質は、固相上の工程されたリガンドに特異的に結合したままとなる。それぞれの特異的結合パートナーを減少させるおよび/または排除する目的のためのリガンドとして、任意の成分を使用することができる。ある特定の実施形態では、親和性リガンドは、導入遺伝子に対して特異的結合親和性を有する抗体、抗体断片、抗体バリアント、ペプチドミメチック、またはペプチド、例えば、FVIIIに対して結合親和性を有する抗体、抗体断片、抗体バリアント、ペプチドミメチック、またはペプチドである。例示的な実施形態では、FVIIIタンパク質に対するリガンドは、GE Healthcare/Cytiva製のVIIISelect(商標)である。
【0086】
ある特定の実施形態では、親和性精製は、様々な緩衝液および溶液を採用する。当業者に既知の緩衝液および溶液を使用することができる。例えば、好適な衛生化緩衝液は、0.5MのNaOHを含み得;好適な平衡化緩衝液は、20mMのTrisまたは20mMのホスフェート、0mM~2mMのMgCl2、10~30mMのCaCl2、10mM~70mMのNaClを含み得、ならびに、7.2のpHを有し;好適なストリッピング緩衝液または清澄化緩衝液は、0.5MのNaOH、リン酸を含む溶液、ベンジルアルコール、または酢酸を含み得、ならびに好適な再生緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、150mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有する。
【0087】
一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、クロマトグラフ基材(例えば、マトリックス、樹脂、カラム)内に導入遺伝子タンパク質夾雑物を保持することができるイオン交換クロマトグラフィー精製に供する工程を含む。本明細書において使用される場合、「イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、イオン化可能な分子の総表面電荷に基づいたそれらの分子の分離を指す。ある特定の実施形態では、イオン交換クロマトグラフィーは、カチオン交換樹脂を採用する。「カチオン交換樹脂」、「カチオン交換吸着剤」、または「カチオン交換マトリックス」という用語は、負に帯電し、その結果として、固相上または固相中を通過する水溶液中のカチオンと交換するための遊離カチオンを有する、固相を指す。カチオン交換樹脂を形成するために固相に取り付けられた負に帯電したリガンドは、例えば、カルボキシレートまたはスルホネートであり得る。商業的に入手可能なカチオン交換樹脂としてはカルボキシ-メチル-セルロース、アガロース上に固定されたスルホプロピル(SP)(例えば、GE Healthcare Life Sciences製のSP SEPHAROSE-XL、SP-SEPHAROSE- Fast Flow、SP SEPHAROSE-High Performance、CM SEPHAROSE-Fast Flow、CM SEPHAROSE.High Performance、CAPTO-S、およびCAPTO-SP ImpRes、またはEMD Millipore製のFRACTOGEL EMD SE HiCap、FRACTOGEL EMD SO3-、FRACTOGEL EMD COO-、ESHMUNO S、およびESHMUNO. CPX、またはBio-Rad製のUNOSPHERE- SおよびNUVIA- S)が挙げられる。
【0088】
一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、クロマトグラフ基材(例えば、マトリックス、樹脂、カラム)内に導入遺伝子タンパク質夾雑物を保持することができる疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)精製に供する工程を含む。「疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)」という用語は、本明細書に使用される場合、固定相(例えば、樹脂)との疎水性相互作用に基づいた成分の分離を指す。HICの溶出順序は、成分をそれらの相対的疎水性に基づいてランク付けすることを可能にする。HICの利点としては、例えば、非変性条件の使用、それが有機溶媒または高温の使用を必要としないこと、ならびに分離が、ウイルス精製プロセスにおいて使用される場合にウイルス構造を保存するような生理的pHにおいて行われること、が挙げられる。一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを利用する。疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)は、それらの表面疎水性における違いに基づいて生体分子を分離する技術である。HICクロマトグラフ媒体は、疎水性リガンド、例えば、直鎖状炭化水素(例えば、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ヘキシル(C6)、またはオクチル(C8))または芳香族(例えば、フェニル)などを含有する。純水中では、疎水性効果は、リガンドとタンパク質の間、またはタンパク質同士の間の機能的相互作用にとって弱すぎる。しかしながら、リオトロピック塩は、疎水性相互作用を強め、ならびに塩の添加は、HIC媒体へのタンパク質の捕捉を駆動する。この理由のため、HIC樹脂は、通常、高塩濃度下においてロードされ、より低い塩濃度において溶出される。当業者によって理解されるように、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]は、ホーフマイスター系列におけるアンモニウムイオンおよび硫酸イオンの両方の高いリオトロピックランク付けならびに塩の高い溶解性により、HICクロマトグラフィーによるタンパク質の捕捉を制御するために最も一般的に使用される塩である。当業者が理解できるように、塩(例えば、硫酸アンモニウム)の濃度は、導入遺伝子タンパク質夾雑物の結合にとって最適な濃度を達成するように操作することができる。加えて、共溶媒も疎水性相互作用に影響を及ぼし得る。例えば、エチレンまたはプロピレングリコールは、タンパク質と固定されたリガンドとの間の相互作用を減少させることができ、結果として、溶出プロファイルの改良にとって有用であり得る。好適な疎水性樹脂の例としては、これらに限定されるわけではないが、Capto Adhere、Tosoh Butyl 650M、Tosoh SuperButyl 650C、Tosoh Phenyl 650C、およびEMD Fractogel(登録商標) Phenyl (Tosoh Bioscience LLC、PA)が挙げられる。
【0089】
一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、クロマトグラフ基材(例えば、マトリックス、樹脂、カラム)内に導入遺伝子タンパク質夾雑物を保持することができるマルチモーダルクロマトグラフィー精製に供する工程を含む。本明細書において使用される場合、「混合モードクロマトグラフィー」または「マルチモーダルクロマトグラフィー」という用語は、混合物中の成分の分離を達成するために2つ以上のメカニズムの組合せを採用するクロマトグラフィーを指す。一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、ウイルスベクターから生成物関連不純物(例えば、導入遺伝子タンパク質夾雑物)を分離するために、マルチモーダルまたは混合モードクロマトグラフィー(MMC)を利用する。一部の実施形態では、MMCは、少なくとも、ウイルスと不純物との間のサイズの違い、および/または不純物と1つまたはそれ以上のクロマトグラフィーリガンドとの間において生じる化学相互作用に基づいて作動する。物理的MMCおよび化学的MMCを含む、様々なタイプのMMCが、当業者に既知である。化学的MMCは、これらに限定されるわけではないが、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、および親水性相互作用液体クロマトグラフィー、の原理の間の組合せを含む。さらなる例としては、これらに限定されるわけではないが、水素結合、π-π結合、および金属親和性の組合せを利用する樹脂が挙げられる。マルチモーダルクロマトグラフィーの実施例は、ある特定のサイズ、例えば、700キロダルトン(kDA)など、未満の分子を捕獲する疎水性と、正に帯電する特性の両方を有するように設計されたオクチルアミンリガンドを含むCapto(登録商標) Core 700クロマトグラフィー樹脂(GE Healthcare Bio-Sciences)の使用を採用する。そのようなクロマトグラフィー樹脂において、ビーズ外側は、不活性であり、ならびに、所望のウイルスベクターは樹脂を通過するが不純物はそこに保持される、サイズ排除によるウイルスベクターの精製を可能にする。
【0090】
ウイルスベクター精製に関与する工程は、当業者に既知の効率を向上させるある特定の薬剤の存在下で行われる。例えば、ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われる。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を安定化する薬剤の存在下で行われ、ここで薬剤はCaCl2である。
【0091】
本明細書において説明される導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、当業者に既知のウイルスベクター作製プロセスに組み込んでもよい。
図1Aは、上流工程(細胞バックバイアル瓶の解凍;細胞増殖および継代;ウイルスベクターを作製するための宿主細胞のトランスフェクトおよび/または誘導)と、その後の一連の下流工程(細胞除去(清澄化)およびヌクレアーゼ処理を含むウイルスベクターの収穫;他の生成物関連不純物およびプロセス関連不純物からベクターを分離するための少なくとも1つの精製工程(本明細書において「ウイルスベクター捕捉工程」);および、原体の最終製剤化のための限外濾過/透析濾過工程)を含む典型的なウイルスベクター作製プロセスを表す一般的フローダイアグラムである。一般的に、導入遺伝子捕捉工程は、下流プロセスの清澄化工程と最終工程との間の任意のポイントにおいてウイルスベクター作製プロセスに組み込むことができる。
【0092】
ウイルスベクター作製のための上流処理工程は、概して、細胞増加、ベクター産生細胞のトランスフェクションまたは感染、ならびにウイルスベクター作製の工程を含む。概して、ベクター産生細胞のトランスフェクションまたは感染は、一時的トランスフェクション、あるいは哺乳動物細胞または昆虫細胞における安定なプロデューサー細胞系の使用によって達成される。細胞は、構成要素をコードするウイルスベクターによってトランスフェクトされ、ウイルスの数および/またはウイルスの力価を増加するために培養される。トランスフェクションおよび細胞培養の方法は、当業者に既知であり、ならびに、少なくとも、必要な栄養素、例えば、適する培養培地を細胞に提供する工程を含む。細胞を培養する方法としては、例えば、表面付着増殖、懸濁増殖、またはそれらの組合せが挙げられる。培養は、好適な容器、例えば、培養皿、培養フラスコ、またはローラボトルなどにおいて実行することができる。大きなスケールでの培養は、多くの場合、当業者の利用可能な様々なシステム、例えば、バッチシステム、流加バッチシステム、連続システム、中空糸などを使用するバイオリアクターの使用によって実行される。
【0093】
上流処理工程の後、下流処理工程は、典型的には
図1Aに概説される通りであり、清澄化、ヌクレアーゼ処理、ウイルスベクターの捕捉、および無菌濾過の下流処理工程を含む。下流処理の目標は、上流処理の際に生じた様々な不純物からウイルスベクターを分離すること、およびベクターを製剤化および患者への投与にとって適切な状態にすることである。熟練者は、ウイルスベクター製造にとって最も効率的なプロセスを得るために、前述の工程の最適な順序を決定することができるであろう(例えば、最も多くのウイルスベクターをもたらすようなプロセスにおける工程の順序)。
【0094】
清澄化工程は、初期の粗懸濁液からの大きなデブリおよび巨大分子複合体の排除を含む。ある特定の実施形態では、清澄化は、ウイルスベクター収率を向上させるために細胞溶解を含む。溶解を促進するマイクロフルイダイザーまたはヒートショック処理の使用などの物理的方法を含む、細胞を溶解しようとする様々な方法が当業者に既知である。溶解は、多くの場合、界面活性剤の使用によって達成される。界面活性剤は、非イオン性形態、例えば、Triton X-100、Triton X-114、Tween 20、Tween 80、NP-40、オクチルグルコシド、およびオクチルチオグルコシドなど、アニオン性形態、例えば、SDSなど、ならびに双性イオン形態、例えば、CHAPSおよびCHAPSOなどにおいて利用可能である。一部の実施形態では、清澄化は、細胞デブリおよび他の不純物を除去するために濾過工程によって実行される。好適なフィルターとしては、これらに限定されるわけではないが、セルロースフィルター、例えば、無機フィルター助剤(例えば、フュームドシリカ、パーライト、珪藻土)と組み合わされたセルロースフィルター、有機樹脂と組み合わされたセルロースフィルター、またはそれらの任意の組合せ、ならびに高分子フィルター、例えば、ナイロン、ポリエーテルスルホン、またはポリプロピレンを含むものなどを含むフィルターが挙げられる。当業者に既知の任意の清澄化アプローチは、本発明のウイルスベクター作製プロセスに適するであろう。好適な清澄化アプローチとしては、これらに限定されるわけではないが、遠心分離、精密濾過、デッドエンド濾過、深層濾過、膜濾過、またはその組合せが挙げられる。したがって、清澄化は、孔径を、例えば、0.2μmまで減少させるフィルターの組合せの使用を含み得る。
【0095】
宿主細胞(例えば、ウイルスベクター産生細胞)の培養工程と、その後の溶解および清澄化工程は、結果として、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を生じる。ある特定の実施形態では、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物は、宿主細胞を培養し、細胞培養上清を宿主細胞から分離して清澄化することによって生成された細胞培養上清である。宿主細胞は、当業者に既知のウイルスベクター作製に適する任意の宿主細胞であり得る。ある特定の実施形態では、宿主細胞は、CHO細胞、HEK293細胞(例えば、HEK293T細胞)、HeLa細胞、および昆虫細胞からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、宿主細胞はHEK293細胞である。ある特定の実施形態では、宿主細胞はHEK293T細胞である。
【0096】
細胞溶解工程の間および/またはその後に、核酸(例えば、宿主細胞核酸、RNAおよび/またはDNA夾雑物)を分解し、任意の巨大分子複合体を破壊するために、ヌクレアーゼ処理工程を実行してもよい。ヌクレアーゼ処理工程は、清澄化の間および/またはその後に実行される。本発明のウイルスベクター作製プロセスにおける使用に適するヌクレアーゼとしては、これらに限定されるわけではないが、Benzonase、Denarase、ならびに当業者に既知の任意の他のDNaseおよび/またはRNaseが挙げられる。一部の実施形態では、ヌクレアーゼ処理の代わりに、またはそれに加えて、例えば、好適な沈降剤、例えば、これらに限定されるわけではないが、ポリエチレンイミン(PEI)、テトラデシルトリメチル-塩化アンモニウム(TTA)、臭化ドミフェン(DB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンゼトニウム(BTC)、および臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)などを用いた沈殿によって、核酸不純物の選択的沈殿を実行してもよい。
【0097】
ある特定の実施形態では、細胞分離およびヌクレアーゼ処理は、約7のpHを有するリン酸緩衝液またはTris緩衝液を使用して行われる。
【0098】
細胞分離およびヌクレアーゼ処理の後に、様々な宿主細胞夾雑物からウイルスベクターを精製するために、1つまたはそれ以上のウイルスベクター捕捉工程が採用される。本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程は、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、クロマトグラフ基材内の導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができるクロマトグラフィー精製に供する工程を含むが、その一方で、ウイルスベクター捕捉工程は、クロマトグラフ基材(例えば、マトリックス、樹脂、カラム)内のウイルスベクターに選択的に結合することができるクロマトグラフ基材を採用する。ある特定の実施形態では、ウイルスベクター捕捉工程は、(i)ウイルスベクター(および1つまたはほとんどの宿主細胞夾雑物)を含む組成物を、ウイルスベクターに選択的に結合することができるクロマトグラフィーマトリックスに接触させる工程;および(ii)ウイルスベクターをクロマトグラフィーマトリックスから溶出させ、それにより、ウイルスベクターを宿主細胞夾雑物から分離する工程を含む。
【0099】
様々なクロマトグラフ精製技術のうちの1つまたはそれ以上を、ウイルスベクター捕捉のために使用することができる。一部の実施形態では、ウイルスベクター捕捉工程のクロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィー(RPC)、および固定された金属イオン親和性ークロマトグラフィー(IMAC)からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、イオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換樹脂を採用する。「アニオン交換樹脂」、「アニオン交換吸着剤」、または「アニオン交換マトリックス」という用語は、正に帯電し、例えば、固相に取り付けられた1つまたはそれ以上の正に帯電したリガンド、例えば、第四級アミノ基などを有する固相を意味するために本明細書において使用される。アニオン交換クロマトグラフィー樹脂は、正味の負の表面電荷を有する分子に対する親和性を有し、組成物から負に帯電した分子を分離する際に有用である。商業的に入手可能なアニオン交換樹脂としてはGE Healthcare Life Sciences製のDEAE SEPHAROSE(登録商標) Fast Flow、Q SEPHAROSE(登録商標) Fast Flow、Q SEPHAROSE(登録商標) High Performance、Q SEPHAROSE(登録商標) XL、CAPTO(登録商標) DEAE、CAPTO(登録商標) Q、およびCAPTO(登録商標) Q ImpRes、あるいはEMD Millipore製のFRACTOGEL(登録商標) EMD TMAE HiCap、FRACTOGEL(登録商標) EMD DEAE、およびESHMUNO(登録商標) Q、あるいはBio-Rad製のUNOSPHERE(登録商標) QおよびNUVIA(登録商標) Qが挙げられる。
【0100】
ある特定の実施形態では、イオン交換クロマトグラフィーは、膜交換の使用を含む。膜交換クロマトグラフィーは、膜吸収剤を使用するイオン交換クロマトグラフィーのタイプの1つであり、フラットシート、中空糸、および半径流などの様々なタイプが存在する。一部の実施形態では、膜交換カラムは、ウイルスベクターに結合することができる吸着性部分を有する内部細孔を含む微細孔膜を充填される。吸着膜は、それらを精製目的に対して好適にする様々な形状および化学において利用可能である。
【0101】
当業者に既知の様々な緩衝液および溶液を、ウイルスベクター捕捉のために使用してもよい。例えば、好適な衛生化溶液は、0.5MのNaOHを含み得;好適な平衡化緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、150mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有し;好適な洗浄緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、400mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有し;好適な溶出緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、1200mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有し;好適なストリッピング緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、2000mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有し;ならびに好適な再生緩衝液は、20mMのTris、2mMのMgCl2、150mMのNaClを含み得、ならびに7.2のpHを有する。
【0102】
ある特定の実施形態では、
図1Bに示されるように、ウイルスベクター捕捉工程は、導入遺伝子タンパク質精製工程の前に実行することができる。例えば、ある特定の態様では、本開示は、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;(ii)クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程;(iii)工程(ii)から回収されたウイルスベクターを、ウイルスベクターに選択的に結合することができる第2のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(iv)ウイルスベクターを第2のクロマトグラフィーマトリックスから溶出させ、それにより、ウイルスベクターを宿主細胞夾雑物から分離する工程を含む方法を提供する。
【0103】
他の実施形態では、ウイルスベクター捕捉工程は、導入遺伝子タンパク質捕捉工程の後に実行することができる。したがって、ある特定の実施形態では、本開示は、宿主細胞からウイルスベクターを精製する方法であって、(i)ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物を、ウイルスベクターに選択的に結合することができるクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;(ii)ウイルスベクター(および任意の残留する導入遺伝子タンパク質夾雑物)を第2のクロマトグラフィー樹脂から溶出させる工程;(iii)工程(ii)の溶出液を導入遺伝子タンパク質夾雑物に選択的に結合することができる第1のクロマトグラフィーマトリックスと接触させる工程;および(iv)クロマトグラフィーマトリックスのフロースルー中のウイルスベクターを回収し、それにより、ウイルスベクターを導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離する工程を含む方法を提供する。
【0104】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程および/またはウイルスベクター捕捉工程を行った後、ウイルスベクター組成物は、ウイルスベクターをさらに濃縮するために、限外濾過の1つまたはそれ以上の工程に供される。限外濾過工程は、場合により、緩衝液交換のために使用される場合に透析濾過と呼ばれる。ある特定の実施形態では、限外濾過/透析濾過工程は、ベクターを濃縮する工程および/または緩衝液を交換する工程を含む。任意の濾過プロセス、例えば、ダイレクトフロー濾過、タンジェンシャルフロー濾過、は、本明細書において説明されるウイルスベクター作製プロセスの限外濾過/透析濾過工程に適している。概して、濾過プロセスは、希釈液を強制的にフィルターを通過させ、そうすることにより、希釈液は組成物から回収されるがベクターはフィルターを通過できず、それにより、結果として濃縮されたベクター組成物を生じさせることによって、ベクターを濃縮する。ある特定の実施形態では、限外濾過/透析濾過工程において、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)が採用される。TFFシステムは、3つの異なるプロセスストリーム:供給溶液、透過水、および濃縮水(例えば、ウイルスベクターを含む濃縮水)、で構成される。当業者は、ベクターの濃縮および/または緩衝液の交換の目的のためのTFF用途における使用にとって最適な膜および装置を選択するために、流体特性、試料体積、および処理時間に関して容易に考慮するであろう。例えば、典型的には、保持されるウイルスベクターの分子量より3倍~6倍小さい分子量カットオフを有する膜が、濾過システムにおける使用のために選択される。膜は、フラットシートまたは中空糸であり得る。
【0105】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクター捕捉工程が、導入遺伝子タンパク質捕捉工程の後に行われる場合、ウイルスベクター捕捉工程からの溶出液は、濃縮され、さらに、限外濾過/透析濾過(UF/DF)によって精製される。他の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程が、ウイルスベクター捕捉工程の後に行われる場合、導入遺伝子タンパク質捕捉工程からの溶出液は、濃縮され、さらに、UF/DFによって精製される。ある特定の実施形態では、溶出液は、UF/DFに供される前に、最初に希釈される。ある特定の実施形態では、第1の精製工程の溶出液の希釈は、希釈緩衝液、例えば、20mMのTrisまたは20mMのホスフェート、2mMのMgCl2、30mM~120mMのCaCl2を含み、6.5~7.5のpHを有する、希釈緩衝液、の使用を含む。ある特定の実施形態では、希釈緩衝液は、希釈の前に冷やされる(<15℃の温度を有する)。ある特定の実施形態では、希釈後の導電率は、20mS/cm~40mS/cmである。
【0106】
本明細書において説明される様々な実施形態では、本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程を実施するために試料をロードする前に、ロード試料は、好適なロード条件に調整される。本明細書において使用される場合、「ロード試料(load sample)」という用語は、下流クロマトグラフィーマトリックスに適用される試料を指す。例えば、アニオン交換クロマトグラフィーロード試料は、下流アニオン交換クロマトグラフィーマトリックスに適用される試料を指す。別の例として、親和性クロマトグラフィーロード試料は、下流親和性クロマトグラフィーマトリックスに適用される試料を指す。
【0107】
例示的な実施形態では、
図6Aに示されるように、ウイルスベクター作製のための下流処理工程が、ウイルスベクター捕捉工程の後に行われる導入遺伝子タンパク質捕捉工程を含む場合、ウイルスベクター捕捉工程の溶出液(第1のクロマトグラフィー精製工程;ウイルスベクター捕捉工程の溶出液は、本明細書において、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード使用とも呼ばれる)は、導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックスに適用される前に好適なロード条件に調整される。そのような実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料(すなわち、ウイルスベクター捕捉工程の溶出液)は、約300mM~約1,500mMの塩(例えば、NaClまたはKCl)濃度を有する溶出緩衝液を使用して、ウイルスベクター捕捉クロマトグラフィーマトリックス(例えば、アニオン交換媒体)から結合したベクターを溶出させることによって得られる。導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料は、次いで、本明細書において説明される好適なロード条件に調整される。
【0108】
別の実施形態では、
図6Bに示されるように、ウイルスベクター作製のための下流処理工程が、導入遺伝子タンパク質捕捉工程の後に行われるウイルスベクター捕捉工程を含む場合、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料は、導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックスに適用される前に適するロード条件に調整される。導入遺伝子タンパク質捕捉工程からのフロースルー(精製されたウイルスベクターを含むフロースルー)を収集した後、フロースルー試料は、後続のウイルスベクター捕捉クロマトグラフィーマトリックスに適用するために適するロード条件に調整される。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のフロースルー試料(例えば、ウイルスベクター捕捉工程のためのロード試料)は、20mS/cm未満の標的試料導電率を達成するために標的塩濃度に調整される。
【0109】
そのため、ある特定の実施形態では、本開示において説明されるウイルスベクター作製のための下流処理工程は、ウイルスベクターと導入遺伝子タンパク質夾雑物とを含む組成物の塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程を含む。
【0110】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料の調整工程は、塩の濃度を標的塩濃度に調整する工程を含む。導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料の調整は、塩およびイオン成分、例えば、これらに限定されるわけではないが、NaCl、KCl、CaCl2、およびMgCl2など、の濃度を調整する工程を含み得る。一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料を調整する工程は、ロード試料中の塩の濃度を標的塩濃度まで減少させるために、ロード試料を1:0、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10などの倍率に希釈する工程を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料を調整する工程は、ロード試料中の塩の濃度を標的塩濃度まで増加させるために、塩の追加(例えば、ストック塩のボーラス追加)を含む。当業者は、必要な希釈剤の量、あるいは導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックスへの適用に適する標的塩濃度を達成するためにロード試料に加える必要のある塩の量を容易に特定することができるであろう。導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、約200mM(0.2M)~約600mM(0.6M)の標的塩濃度を有し得る。例えば、ある特定の実施形態では、標的塩濃度は、約200mM、約250mM、約300mM、約350mM、約400mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mMである。ある特定の例示的な実施形態では、標的塩濃度は、約400mMである。一部の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料中の塩は、NaClまたはKClである。そのため、一部の実施形態では導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、約200mMのNaCl~約600mMのNaClの標的塩濃度を有し得る。ある特定の例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、約400mMの標的NaCl濃度を有する。他の実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、約200mMのKCl~約600mMのKClの標的塩濃度を有し得る。ある特定の例示的な実施形態では、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、約400mMの標的KCl濃度を有する。理論に拘束されるわけではないが、本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料の塩濃度を調整する工程は、ウイルスベクターが全ての結合した夾雑導入遺伝子タンパク質から分離される最適な塩濃度を提供することによって、導入遺伝子タンパク質捕捉工程の効率を向上させ得る。
【0111】
本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程での夾雑導入遺伝子タンパク質の最適な除去を促進するために、他のイオン成分および/賦形剤を調整するための、導入遺伝子タンパク質捕捉工程のためのロード試料への追加またはその希釈が実行される。緩衝系、例えば、Tris、ホスフェート、ビス-Tris、または本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程に適する当技術分野において既知の他の緩衝系など、が使用される。そのような緩衝系は、賦形剤、例えば、糖(例えば、スクロース)、ポロクサマー、ポリソルベート、および当技術分野において既知の他の適する賦形剤などを含み得る。ある特定の実施形態では、緩衝系は、導入遺伝子タンパク質捕捉の効率および本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程での除去を高めるために、1つまたはそれ以上のイオン成分、例えば、MgCl2、CaCl2、または当技術分野で既知の他のもの、も含有する。ある特定の例示的な実施形態では、イオン成分、例えば、MgCl2およびCaCl2など、は、0mM~約20mMの標的濃度に調整される。ある特定の例示的な実施形態では、本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための好適な調整されたロード試料は、約200mM~約600mMのNaClまたはKCl、約0mM~約20mMのMgCl2またはCaCl2を含み得、ならびに、賦形剤、例えば、糖(例えば、スクロース)、ポロクサマー、ポリソルベート、および/または当技術分野において既知の適する任意の他の賦形剤などを含有し得るかまたは含有し得ない。
【0112】
本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程のための調整されたロード試料は、処理の必要性に応じて、一時的保持のために低温において貯蔵される。ある特定の実施形態では、調整されたロード試料は、導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックスに直接適用される。本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程を実施するために好適な条件(例えば、約4℃~約25℃の温度)は、当業者に既知であり、ならびに導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックスの製造元によって提供され得る。調整された試料は、導入遺伝子タンパク質夾雑物が導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックス内に保持されるために十分な時間が経過することを可能にする、約4~約12分の範囲の滞留時間値において、導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーマトリックス(例えば、導入遺伝子タンパク質捕捉クロマトグラフィーカラム)へロードされる。結合していないウイルスベクター粒子はマトリックスをフロースルーし、結果として、精製されたウイルスベクター産物が得られる。任意の残留するウイルスベクター粒子をクロマトグラフィーマトリックス(例えば、充填されたカラムのボイドスペース)から回収するために、平衡化緩衝液の追加がクロマトグラフィーマトリックスに適用され、所望のレベルのウイルスベクター粒子が得られるまで、フロースルーが収集される。
【0113】
本明細書において説明されるウイルス作製プロセスにおけるこの段階において、ウイルスベクター組成物(すなわち、ウイルスベクター溶出液)は、医薬組成物を作製するために、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わされ、次いで、場合により、組成物を臨床使用にとって好適にするために、濾過滅菌に供される。様々な濾過滅菌プロセスおよび滅菌フィルターが、当業者に既知である。したがって、本明細書において説明されるウイルスベクター作製プロセスは、ウイルスベクターを含む医薬組成物を作製するために、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクター(例えば、ウイルスベクター溶出液)を、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程を含む。ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクター(例えば、ウイルスベクター溶出液)を、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わせる工程は、製剤化緩衝液による導入遺伝子タンパク質夾雑物から分離されたウイルスベクター(例えば、ウイルスベクター溶出液)のUF/DFによって達成される。
【0114】
ある特定の実施形態では、本明細書において説明されるウイルスベクター作製プロセスは、結果として、ウイルスベクターを含む組成物をもたらし、ここで組成物は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない。本明細書において使用される場合、「導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない」という用語は、本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程を用いずに精製された参照ウイルスベクター組成物(例えば、ウイルスベクター捕捉工程を用いるが導入遺伝子タンパク質捕捉工程は用いない従来の精製プロセスに従って精製されたウイルスベクター組成物)中に存在する導入遺伝子タンパク質夾雑物の約50%未満を含む組成物を指す。例えば、組成物が、本発明の導入遺伝子タンパク質捕捉工程を用いずに精製された参照ウイルスベクター組成物の約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満を含む場合、組成物は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を実質的に含まない。ある特定の実施形態では、組成物は、参照ウイルスベクター組成物中に存在する導入遺伝子タンパク質夾雑物の20%未満を含有する。
【0115】
導入遺伝子タンパク質夾雑物の量をアッセイする様々な方法が、当業者に既知であり、ならびに、好適である。ある特定の実施形態では、特定の活性(例えば、酵素活性)を有する導入遺伝子タンパク質夾雑物に対して、本発明の組成物中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の活性をアッセイすることができ、ならびに、参照ウイルスベクター組成物中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の活性と比較することができる。例えば、FVIII導入遺伝子活性のレベル(mU/ml)は、当業者に既知の様々なクロマトグラフアッセイによってアッセイすることができる。ある特定の実施形態では、精製された本発明のFVIIIウイルスベクター組成物は、50000mU/ml未満のFVIII活性(例えば、40000mU未満、30000mU未満、20000mU未満、10000mU未満、または500mU未満のFVIII活性)を有する。ある特定の例示的な実施形態では、精製された本発明のFVIIIウイルスベクター組成物は、約1IU以下の総FVIII活性を有する。
【0116】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子タンパク質夾雑物の量は、実際の夾雑タンパク質の存在を定量化する当技術分野において既知の様々な技術によって検出することができる。ある特定の実施形態では、本発明の組成物中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の存在をアッセイすることができ、ならびに、参照ウイルスベクター組成物中の導入遺伝子タンパク質夾雑物の存在と比較することができる。例えば、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を実行して、導入遺伝子タンパク質夾雑物の存在を検出することができる。好適であり得る他の例としては分光分析法(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、および:液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC/MS)など)、およびタンパク質検出の抗体ベースの方法(例えば、タンパク質免疫沈降、免疫電気泳動など)が挙げられる。
【0117】
B.ウイルスベクター
本明細書において提供される方法およびプロセスは、あらゆるウイルスベクターの作製および精製にとって好適である。ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、エンベロープウイルスベクターである。当技術分野で既知であるように、エンベロープウイルスベクターとしては、これらに限定されるわけではないが、エンベロープDNAウイルスベクター、例えば、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスなど、ならびにエンベロープRNAウイルスベクター、例えば、アルファウイルスおよびパラミクソウイルスなどが挙げられる。エンベロープRNAウイルスベクターとしては、レトロウイルス、例えば、 オンコレトロウイルス、レンチウイルス、およびスプーマウイルスなど、も挙げられる。ある特定の実施形態では、エンベロープウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。レンチウイルスベクターは、より大きな群であるレトロウイルスベクターの一部である(Coffinら(1997年)、「Retroviruses」、Cold Spring Harbor Laboratory Press Eds:J M Coffin、S M Hughes、H E Varmus 758~763頁)。霊長類レンチウイルスの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞および非分裂細胞の両方を感染させる能力を有する点で、レトロウイルスとは異なる(Lewisら(1992年);LewisおよびEmerman(1994年))。
【0118】
本明細書において使用される場合、「レンチウイルスベクター」という用語は、レンチウイルスに由来し得る少なくとも1つの構成部分を含むベクターを指す。一部の実施形態では、上記構成部分は、ベクターが細胞を感染させる、遺伝子を発現する、または複製されるための生物学的機構に関与する。一部の実施形態では、組換えレンチウイルスベクターにおいて、複製のために必須である1つまたはそれ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部をウイルスから除去することができる。したがって、一部の実施形態では組換えレンチウイルスベクターは、複製能欠損性である。また、ウイルスゲノムの一部を導入遺伝子に置換して、それにより、ベクターが、標的非分裂宿主細胞の形質導入および/またはそのゲノムの宿主ゲノム中への組み込みを行えるようにしてもよい。
【0119】
ある特定の実施形態では、組換えエンベロープウイルス(例えば、組換えレンチウイルス)は、組換えレンチウイルスベクターの指向性を変更または修正するようにシュードタイプ化される。シュードタイプ化は、1つまたはそれ以上の利点を付与することができる。例えば、HIVを基にしたベクターのenv遺伝子産物は、これらのベクターがCD4と呼ばれるタンパク質を発現する細胞のみを感染させるように制限するであろう。一部の実施形態では、これらのベクター中のenv遺伝子が他のRNAウイルス由来のenv配列で置き換えられている場合、それらは、より広い感染スペクトルを付与し得る(VermaおよびSomia(1997年))。ラブドウイルスの1つである水疱性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、ある特定のレトロウイルスをシュードタイプ化し得ることが示されているエンベロープタンパク質である。シュードタイプ化されたVSV-Gベクターは、広範な哺乳動物細胞の形質導入のために使用することができる。VSV-Gタンパク質などの非レンチウイルス性シュードタイプ化エンベロープを組み込むことには、ベクター粒子を、感染性を失うことなく高力価に濃縮し得るという利点がある(Akkinaら(1996年)、J.Virol.70:2581~5頁)。
【0120】
レンチウイルスには、ウシレンチウイルス群、ウマレンチウイルス群、ネコレンチウイルス群、ヒツジ様レンチウイルス群、ヤギレンチウイルス群、および霊長類レンチウイルス群のメンバーが含まれる。遺伝子療法のためのレンチウイルスベクターの開発は、Klimatchevaら(1999年)、Frontiers in Bioscience 4:481~496頁にレビューされている。遺伝子療法に適するレンチウイルスベクターの設計および使用は、例えば、米国特許第6,207,455号および同第6,615,782号に記載されている。レンチウイルスの例には、HIV-1、HIV-2、HIV-1/HIV-2シュードタイプ化、HIV-1/SIV、FIV、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス、およびウシ免疫不全ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、「第三世代」レンチウイルスベクターである。本明細書で用いる場合、「第三世代」レンチウイルスベクターという用語は、第二世代ベクターシステムの特徴を有し、さらに機能的tat遺伝子を欠くレンチウイルスパッケージングシステム、例えば、tat遺伝子が欠失しているかまたは不活性化されているものを指す。典型的には、revをコードする遺伝子は、別個の発現構築物上に提供される。例えば、Dullら(1998年)、J.Virol.72:8463~8471を参照のこと。本明細書で用いる場合、「第二世代」レンチウイルスベクターシステムとは、機能的アクセサリー遺伝子を欠くレンチウイルスパッケージングシステム、例えば、アクセサリー遺伝子vif、vpr、vpu、およびnefが欠失しているかまたは不活性化されているものを指す。例えば、Zuffereyら(1997年)、Nat.Biotechnol.15:871~875頁を参照のこと。本明細書で用いる場合、「パッケージングシステム」とは、組換えウイルスのパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードするウイルス構築物のセットを指す。典型的には、パッケージングシステムの構築物は、最終的にパッケージング細胞に組み込まれる。
【0122】
ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を感染させることができる組換えレンチウイルスのベクターである。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、肝臓細胞(例えば、肝細胞)を感染させることができる組換えレンチウイルスのベクターである。レンチウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、典型的には、レトロウイルスに見出される3つの遺伝子、gag、polおよびenvを有し、これらには2つの長末端反復(LTR)配列が隣接している。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、カプシドおよびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし;pol遺伝子はRNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードし;env遺伝子はウイルスのエンベロープ糖タンパク質をコードする。5’および3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製のために必要な他の全てのシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、vif、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含む追加の遺伝子を有する(HIV-1、HIV-2および/またはSIVにおいて)。5’LTRには、ゲノムの逆転写のため(tRNAプライマー結合部位)、およびウイルスRNAの粒子への効率的なカプシド形成のため(Psi部位)に必要な配列が隣接している。
【0123】
一部の実施形態では、非分裂細胞を感染させることができる組換えレンチウイルスを作製方法は、パッケージング機能、すなわち、gag、pol、およびenv、ならびにrevおよびtatを有する2つまたはそれ以上のベクターを、好適な宿主細胞にトランスフェクトする工程を含む。それ故に、例えば、第1のベクターがウイルスgagおよびウイルスpolをコードする核酸を提供し、別のベクターがウイルスenvをコードする核酸を提供することで、パッケージング細胞を生成することができる。本明細書で移入ベクターとして特定される、異種遺伝子を提供するベクターをパッケージング細胞に導入することにより、目的の外来遺伝子を保有する感染性ウイルス粒子を放出するプロデューサー細胞が生じる。
【0124】
ベクターおよび外来遺伝子の上記の構成によれば、第2のベクターは、ウイルスエンベロープ(env)遺伝子をコードする核酸を提供することができる。env遺伝子は、レトロウイルスを含む、ほぼあらゆる適するウイルスに由来し得る。一部の実施形態では、envタンパク質は、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性エンベロープタンパク質である。
【0125】
レトロウイルス由来のenv遺伝子の例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLVまたはMMLV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSVまたはHSV)、マウス乳がんウイルス(MuMTVまたはMMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLVまたはGALV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)が挙げられるが、これらに限定されない。他のenv遺伝子、例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)タンパク質G(VSV-G)、肝炎ウイルスおよびインフルエンザのそれも使用することができる。
【0126】
ある特定の実施形態では、本開示のレンチウイルスベクターは、gagタンパク質、Rev応答エレメント、セントラルポリプリン配列(cPPT)、またはその任意の組合せをコードする1つまたはそれ以上のヌクレオチド配列を含む。
【0127】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクターまたはコードされるFVIIIポリペプチドの標的化および/または活性を改善する1つまたはそれ以上のポリペプチドをその表面に発現する。1つまたはそれ以上のポリペプチドは、レンチウイルスベクターによってコードされるか、または宿主細胞からのレンチウイルスベクターの出芽の間に組み込むことができる。レンチウイルスの生成の間に、ウイルス粒子は産生宿主細胞から出芽する。出芽過程の間に、ウイルス粒子は脂質コートを獲得し、それは宿主細胞の脂質膜に由来する。その結果として、ウイルス粒子の脂質コートは、宿主細胞の表面に前から存在していた膜結合ポリペプチドを含むことができる。
【0128】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、ヒト対象への投与後のレンチウイルスベクターに対する免疫応答を阻害する、1つまたはそれ以上のポリペプチドをその表面に発現する。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターの表面は、1つまたはそれ以上のCD47分子を含む。CD47は「自己マーカー」タンパク質であり、ヒト細胞上に遍在的に発現される。CD47の表面発現は、CD47とマクロファージにより発現されるSIRPαとの相互作用を通じて、内因性細胞のマクロファージ誘導食作用を阻害する。高レベルのCD47を発現する細胞は、インビボでヒトマクロファージによって標的化されて破壊される可能性が低い。
【0129】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、高濃度のCD47ポリペプチド分子をその表面に発現する。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、高いCD47発現レベルを有する細胞系において生成される。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターはCD47high細胞で生成され、細胞は細胞膜上にCD47の高発現を有する。特定の実施形態では、レンチウイルスベクターはCD47highHEK 293T細胞で生成され、HEK 293Tは細胞膜上にCD47の高発現を有する。一部の実施形態では、HEK 293T細胞は、非改変HEK 293T細胞に比してCD47の発現が増加するように改変される。ある特定の実施形態では、CD47はヒトCD47である。
【0130】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)の表面発現をほとんどまたは全く有しない。表面に発現されるMHC-Iは、細胞内からの「非自己」タンパク質のペプチド断片、例えば、感染を示すタンパク質断片を提示し、細胞に対する免疫応答を促進する。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターはMHC-Ilow細胞で生成され、細胞は細胞膜上のMHC-Iの発現低下を有する。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、MHC-I-(または「MHC-Ifree」、「MHC-1neg」または「MHC陰性」)細胞において生成され、細胞はMHC-Iの発現を欠く。
【0131】
特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、高濃度のCD47ポリペプチドを含みMHC-Iポリペプチドを欠く脂質コートを含む。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、CD47high/MHC-Ilow細胞系、例えば、CD47high/MHC-IlowHEK 293T細胞系において生成される。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、CD47high/MHC-Ifree細胞系、例えば、CD47high/MHC-IfreeHEK 293T細胞系において生成される。
【0132】
レンチウイルスベクターの例は、米国特許第9,050,269号ならびにWO9931251、WO9712622、WO9817815、WO9817816、およびWO9818934に開示されており、これらはその全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0133】
発現制御エレメント
一部の実施形態では、本開示の核酸分子またはベクターは、さらに、少なくとも1つの発現制御配列を含む。発現制御配列は、本明細書に使用される場合、プロモーター配列またはプロモーターとエンハンサーの組合せなどの任意の調節ヌクレオチド配列であって、その配列が作動可能に連結するコード核酸の効率的な転写と翻訳を促進する配列である。例えば、本開示の単離された核酸分子は、少なくとも1つの転写制御配列に作動可能に連結される。
【0134】
遺伝子発現制御配列は、例えば、哺乳動物またはウイルスのプロモーター、例えば構成的または誘導可能なプロモーターであってよい。哺乳動物の構成的プロモーターとしては、以下の遺伝子に関するプロモーター:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、アデノシンデアミナーゼ、ピルベートキナーゼ、ベータアクチンプロモーター、および他の構成的プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。真核細胞において構成的に機能する例示的なウイルスプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス(例えば、SV40)、パピローマウイルス、アデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ラウス肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルスの長鎖末端反復配列(LTR)、および他のレトロウイルスからのプロモーター、ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。
【0135】
他の構成的プロモーターは、当業者に知られている。本開示の遺伝子発現配列として有用なプロモーターとして、誘導性プロモーターも挙げられる。誘導性プロモーターは、誘導剤の存在下で発現する。例えば、メタロチオネインプロモーターは、ある特定の金属イオンの存在下で、転写および翻訳を促進するように誘導される。他の誘導性プロモーターは、当業者に知られている。
【0136】
一実施形態では、本開示は、組織特異的プロモーターおよび/またはエンハンサーの制御下で、導入遺伝子を発現させることを含む。別の実施形態では、プロモーターまたは他の発現制御配列は、肝細胞における導入遺伝子の発現を選択的に増強する。肝特異的プロモーターの例として、マウスチレチンプロモーター(mTTR)、内因性ヒト第VIII因子プロモーター(F8)、ヒトアルファ1-アンチトリプシンプロモーター(hAAT)、ヒトアルブミン最小プロモーター、およびマウスアルブミンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、プロモーターは、mTTRプロモーターを含む。mTTRプロモーターは、R.H.Costaら、1986年、Mol.Cell.Biol.6:4697頁に記載されている。F8プロモーターは、FigueiredoおよびBrownlee、1995年、J.Biol.Chem.270:11828~11838頁に記載されている。ある特定の実施形態では、プロモーターは、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2019/0048362号に開示されているmTTRプロモーターのいずれか(例えば、mTTR202プロモーター、mTTR202optプロモーター、mTTR482プロモーター)を含む。
【0137】
1つまたはそれ以上のエンハンサーを使用して、発現レベルをさらに高めて、治療効能を達成することができる。1つまたはそれ以上のエンハンサーは、単独でまたは1つまたはそれ以上のプロモーターエレメントと一緒に提供することができる。典型的には、発現制御配列は、複数のエンハンサーエレメントおよび組織特異的プロモーターを含む。一実施形態では、エンハンサーは、α1-ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーの1つまたはそれ以上の複製を含む(Rouetら、1992年、J.Biol.Chem.267:20765~20773頁;Rouetら、1995年、Nucleic Acids Res.23:395~404頁;Rouetら、1998年、Biochem.J.334:577~584頁;Illら、1997年、Blood Coagulation Fibrinolysis 8:S23~S30頁)。別の実施形態では、エンハンサーは、EBP、DBP、HNF1、HNF3、HNF4、HNF6のような肝特異的転写因子結合部位に由来し、Enh1は、HNF1、(センス)-HNF3、(センス)-HNF4、(アンチセンス)-HNF1、(アンチセンス)-HNF6、(センス)-EBP、(アンチセンス)-HNF4(アンチセンス)を含む。
【0138】
特定の一例において、本開示のために有用なプロモーターは、ETプロモーターであり、これは、GenBank番号AY661265としても公知である。Vignaら、Molecular Therapy 11(5):763頁(2005年)も参照のこと。他の好適なベクターおよび遺伝子調節エレメントの例は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる、WO02/092134、EP1395293、または米国特許第6,808,905号、同第7,745,179号、もしくは同第7,179,903号に記載されている。
【0139】
一般に、発現制御配列は、必要に応じて、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列、例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などを含むものとする。特に、そのような5’非転写配列は、作動可能に連結されたコード核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。遺伝子発現配列は、場合により、所望に応じたエンハンサー配列または上流の活性化因子配列を含む。
【0140】
ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクター内に、例えば、レンチウイルスベクター内の導入遺伝子に作動可能に連結される、1つまたはそれ以上のmiRNA標的配列を含めることは有用であろう。レンチウイルスベクターに含まれるmiRNA標的配列の1つを上回るコピーは、システムの有効性を高めることができる。
【0141】
異なるmiRNA標的配列も含められる。例えば、1つを上回る導入遺伝子を発現するレンチウイルスベクターは、同じであっても異なってもよい、1つを上回るmiRNA標的配列の制御下にある導入遺伝子を有し得る。miRNA標的配列は縦列性であってよいが、他の配置も含まれる。miRNA標的配列を含有する導入遺伝子発現カセットを、アンチセンスの向きでレンチウイルスベクター内に挿入することもできる。アンチセンスの向きは、ウイルス粒子の生成において、通常であればプロデューサー細胞に有毒な可能性のある遺伝子産物の発現を回避するために有用となり得る。
【0142】
他の実施形態では、レンチウイルスベクターは、同じまたは異なるmiRNA標的配列の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つのコピーを含む。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、いかなるmiRNA標的配列も含まない。miRNA標的配列を含めるか否か(およびその数)の選択は、意図する組織標的、要求される発現のレベルなどの公知のパラメーターによって導かれると考えられる。
【0143】
一実施形態では、標的配列は、骨髄球拘束前駆細胞において最も効果的に、およびより初期のHSPCにおいて少なくとも部分的に発現をブロックすることが報告されている、miR-223標的である。miR-223標的は、顆粒球、単球、マクロファージ、骨髄樹状細胞を含む分化した骨髄系細胞における発現をブロックすることができる。miR-223標的はまた、リンパ球系列または赤血球系列における強固な導入遺伝子発現に依拠する遺伝子療法の適用に適する可能性もある。miR-223標的はまた、ヒトHSCにおいて非常に効果的に発現をブロックすることもできる。
【0144】
別の実施形態では、標的配列は、miR142標的(tccataaagtaggaaacactaca(配列番号7))である。一実施形態では、レンチウイルスベクターは、miR-142標的配列の4つのコピーを含む。ある特定の実施形態では、造血特異的マイクロRNAの相補的配列、例えばmiR-142(142T)は、レンチウイルスベクターの3’非翻訳領域に組み込まれ、導入遺伝子をコードする転写物をmiRNA介在ダウンレギュレーションに対して感受性にする。この方法により、導入遺伝子発現を、非造血細胞では維持しながら、造血系列の抗原提示細胞(APC)で阻止することができる(Brownら、Nat Med、2006年)。この戦略は、導入遺伝子発現に対してストリンジェントな転写後制御を課すことができ、それ故に、導入遺伝子の安定した送達および長期発現を可能にする。一部の実施形態では、miR-142調節は、形質導入された細胞の免疫介在性除去を阻止し、かつ/または抗原特異的調節性T細胞(T reg)を誘導して、導入遺伝子によってコードされる抗原に対する強固な免疫寛容を媒介する。
【0145】
一部の実施形態では、標的配列は、miR181標的である。Chen C-ZおよびLodish H、Seminars in Immunology(2005年) 17(2):155~165頁は、マウス骨髄内のB細胞において特異的に発現されるmiRNAであるmiR-181を開示している(ChenおよびLodish、2005年)。それはまた、一部のヒトmiRNAが白血病に関連付けられることも開示している。
【0146】
標的配列は、miRNAに対して完全または部分的に相補的であり得る。「完全に相補的な」という用語は、標的配列が、それを認識するmiRNAの配列に対して100%相補的である核酸配列を有することを意味する。「部分的に相補的な」という用語は、標的配列が、それが認識するmiRNAの配列に対して部分的にのみ相補的であり、その際、部分的に相補的な配列が依然としてmiRNAによって認識されることを意味する。換言すれば、本開示の文脈において、部分的に相補的な標的配列は、対応するmiRNAを認識して、そのmiRNAを発現する細胞における導入遺伝子発現の阻止または低下を生じさせるのに有効である。miRNA標的配列の例は、WO2007/000668、WO2004/094642、WO2010/055413、またはWO2010/125471に記載されており、これらはその全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0147】
一部の実施形態では、適する第三世代レンチウイルスベクターは、自己不活性化レンチウイルスベクターである。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、VSV.Gシュードタイプレンチウイルスベクターである。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、導入遺伝子発現のための肝細胞特異的プロモーターを含む。一部の実施形態では、肝細胞特異的プロモーターは、強化トランスサイレチンプロモーターである。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターは、導入遺伝子産物に対する免疫応答を低下させるためのmiR-142の1つまたはそれ以上の標的配列を含む。一部の実施形態では、miR-142の1つまたはそれ以上の標的配列を本開示のレンチウイルスベクターに組み込むことは、所望の導入遺伝子発現プロファイルを可能にする。例えば、miR-142の1つまたはそれ以上の標的配列を組み込むことで、血管内および血管外の造血細胞系列における導入遺伝子発現を抑制することができ、一方、非造血細胞では導入遺伝子発現が維持される。
【0148】
C.ウイルスベクター導入遺伝子
本明細書において説明される方法にとって好適なウイルスベクターは、疾患または障害を患う対象におけるそれらの治療ための、導入遺伝子タンパク質、例えば、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子発現カセットを含む。ウイルスベクターが、インビボにおいて対象に投与される場合、ウイルスベクターは、所望どおりに対象において導入遺伝子のタンパク質産物が発現されるように、導入遺伝子発現カセットによって対象の細胞を形質導入する。しかしながら、導入遺伝子が、エクスビボでのウイルスベクター作製の際に発現される場合、導入遺伝子タンパク質は、ウイルスと共に同時精製することができる夾雑物と見なされる。したがって、本発明の方法は、導入遺伝子タンパク質夾雑物を除去するために採用することができる。
【0149】
導入遺伝子タンパク質夾雑物は、目的の任意の導入遺伝子に対応し得る。ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、凝固因子、増殖因子、抗体、または代謝酵素から選択されるタンパク質をコードし得る。本明細書において使用される場合、「凝固因子」という用語は、対象における出血エピソードを防ぐかまたはその持続時間を減少させる、天然に存在するかまたは組換え的に産生された分子またはその類似体を指す。換言すれば、それは、凝固促進活性(pro-clotting activity)を有する分子を意味し、すなわち、それは、不溶性フィブリンのメッシュへの線維素原の変換を引き起こし、それは、血液を固まらせるかまたは凝固させる原因となる。「凝固因子」は、本明細書に使用される場合、活性化凝固因子、そのチモーゲン、または活性化可能な凝固因子を含む。「活性化可能な凝固因子」は、活性化形態へと変換することができる不活性形態(例えば、チモーゲン形態)の凝固因子である。「凝固因子」という用語は、これらに限定されるわけではないが、第I因子(FI)、第II因子(Fll)、第V因子(FV)、FVII、FVIII、FIX、第X因子(FX)、第XI因子(FXI)、第XII因子(FXII)、第XIII因子(FXIII)、フォンビルブランド因子(VWF)、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン、フィブロネクチン、アンチトロンビンIII、ヘパリン補因子II、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連のプロテアーゼ阻害因子(ZPI)、プラスミノーゲン、α2-アンチプラスミン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(PAI-1)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子2(PAI2)、そのチモーゲン、その活性化形態、またはそれらの任意の組合せを含む。ある特定の実施形態では、凝固因子は、FVIIIまたはそのバリアントもしくは断片を含む。他の実施形態では、凝固因子は、FVIIIXTENまたはそのバリアントもしくは断片を含む。ある特定の実施形態では、凝固因子は、FIXまたはそのバリアントもしくは断片を含む。
【0150】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、異種アミノ酸配列をコードする。異種アミノ酸配列は、FVIIIアミノ酸配列またはFIXアミノ酸配列のN末端またはC末端に結合することができ、あるいはFVIIIアミノ酸配列またはFIXアミノ酸配列における2つのアミノ酸の間に挿入することができる。一部の実施形態では、異種アミノ酸配列はその全体が参照によって本明細書に組み入れられる、国際公開WO2013/123457A1および同WO2015/106052A1または米国特許出願公開第2015/0158929A1号に開示される任意の部位において、FVIIIポリペプチド内に挿入することができる。
【0151】
一部の実施形態では、異種アミノ酸配列は、FVIIIのBドメインまたはその断片の中に挿入される。一部の実施形態では、異種アミノ酸配列は、FVIIIの中の、成熟ヒトFVIII(配列番号4)のアミノ酸745に対応するアミノ酸のすぐ下流に挿入される。特定の一実施形態では、FVIIIは、成熟ヒトFVIIIに対応するアミノ酸746~1646の欠失を含み、異種アミノ酸配列は、成熟ヒトFVIIIに対応するアミノ酸745のすぐ下流に挿入される。
【0152】
一部の実施形態では、異種部分は、1つまたはそれ以上のXTEN配列、その断片、バリアントまたは誘導体を含む。本明細書で使用する場合、「XTEN配列」は、小型の親水性アミノ酸で主に構成され、生理的条件下では二次構造または三次構造をとる程度が低いかまたはとらない、天然に存在しない実質的に非反復性の配列を有する、伸長したポリペプチドを指す。異種部分として、XTENは、半減期延長部分としての役割を果たすことができる。加えて、XTENは、薬物動態パラメーターおよび溶解特性の強化を含むがこれらに限定されない、所望の特性をもたらすことができる。
【0153】
一部の実施形態では、本開示に関して有用なXTEN配列は、約20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、150個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、550個、600個、650個、700個、750個、800個、850個、900個、950個、1000個、1200個、1400個、1600個、1800個、または2000個を上回るアミノ酸残基を有するペプチドまたはポリペプチドである。ある特定の実施形態では、XTENは、約20~約3000個を上回るアミノ酸残基、30~約2500個を上回る残基、40~約2000個を上回る残基、50~約1500個を上回る残基、60~約1000個を上回る残基、70~約900個を上回る残基、80~約800個を上回る残基、90~約700個を上回る残基、100~約600個を上回る残基、110~約500個を上回る残基、または120~約400個を上回る残基を有するペプチドまたはポリペプチドである。特定の一実施形態では、XTENは、長さが42アミノ酸よりも長く144アミノ酸よりも短いアミノ酸配列を含む。
【0154】
本開示のXTEN配列は、5~14個(例えば、9~14個)のアミノ酸残基の1つもしくはそれ以上の配列モチーフ、または配列モチーフと少なくとも80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含むことができ、ここでモチーフは、グリシン(G)、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、グルタミン酸(E)およびプロリン(P)からなる群から選択される4~6種のアミノ酸(例えば、5種類のアミノ酸)を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなる。本開示のキメラタンパク質において異種部分として使用し得るXTEN配列の例は、例えば、それぞれその全体が参照によって本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2010/0239554A1号、同第2010/0323956A1号、同第2011/0046060A1号、同第2011/0046061A1号、同第2011/0077199A1号もしくは同第2011/0172146A1号、または国際特許出願公開WO2010/091122A1、同WO2010/144502A2、同WO2010/144508A1、同WO2011/028228A1、同WO2011/028229A1、もしくは同WO2011/028344A2に開示されている。
【0155】
ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、表1に示されるようなFVIIIコード配列を含む。ある特定の実施形態では、導入遺伝子によってコードされる導入遺伝子タンパク質は、表1に示されるようなアミノ酸配列を含む。
【0156】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0157】
D.製剤の賦形剤、担体、および他の構成物
ある特定の実施形態では、本明細書で提供されるプロセスまたは方法によって作製されるウイルスベクター組成物は、ウイルスベクターを含む医薬組成物を作製するために、1つまたはそれ以上の薬学的賦形剤と組み合わされる。
【0158】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、ウイルスベクター(例えば、組換えレンチウイルスベクター)の有効用量を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、レンチウイルスベクターの有効用量を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、製剤化緩衝液を含む。ある特定の実施形態では、製剤化緩衝液は、NaClとスクロースとを含むリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、以下:(a)組換えレンチウイルスベクターの有効用量;(b)TRIS不含緩衝系;(c)塩;(d)界面活性剤;および(e)炭水化物を含み、ここで医薬組成物は、ヒト対象への投与に好適である。ある特定の実施形態では、緩衝系のpHは、6.0~8.0の間である。ある特定の実施形態では、緩衝系はリン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液である。ある特定の実施形態では、リン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液の濃度は、5mM~30mMの間である。ある特定の実施形態では、リン酸緩衝液の濃度は、約10~約20mM、約10~約15mM、約20~約30mM、約20~約25mM、または約15~約20mMである。ある特定の実施形態では、塩は塩化物塩である。ある特定の実施形態では、塩化物塩の濃度は、80mM~150mMの間である。ある特定の実施形態では、塩の濃度は、約100mM、約110mM、約130mM、または約150mMである。ある特定の実施形態では、界面活性剤はポロクサマーまたはポリソルベートである。ある特定の実施形態では、ポロクサマーまたはポリソルベートの濃度は、0.01%~0.1%の間である。ある特定の実施形態では、炭水化物はスクロースである。ある特定の実施形態では、炭水化物の濃度は、0.5%~5%の間である。ある特定の実施形態では、塩化物塩はNaClである。ある特定の実施形態では、ポロクサマーは、ポロクサマー101(P101)、ポロクサマー105(P105)、ポロクサマー108(P108)、ポロクサマー122(P122)、ポロクサマー123(P123)、ポロクサマー124(P124)、ポロクサマー181(P181)、ポロクサマー182(P182)、ポロクサマー183(P183)、ポロクサマー184(P184)、ポロクサマー185(P185)、ポロクサマー188(P188)、ポロクサマー212(P212)、ポロクサマー215(P215)、ポロクサマー217(P217)、ポロクサマー231(P231)、ポロクサマー234(P234)、ポロクサマー235(P235)、ポロクサマー237(P237)、ポロクサマー238(P238)、ポロクサマー282(P282)、ポロクサマー284(P284)、ポロクサマー288(P288)、ポロクサマー331(P331)、ポロクサマー333(P333)、ポロクサマー334(P334)、ポロクサマー335(P335)、ポロクサマー338(P338)、ポロクサマー401(P401)、ポロクサマー402(P402)、ポロクサマー403(P403)、ポロクサマー407(P407)、およびそれらの組合せからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、ポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、およびそれらの組合せからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、リン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液のpHは、6.1、6.3、6.5、6.7、6.9、7.1、7.3、7.5、7.7、または7.9である。ある特定の実施形態では、リン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液の濃度は、10mM、15mM、20mM、または25mMである。ある特定の実施形態では、塩化物塩は、100mM、110mM、130mM、または150mMである。ある特定の実施形態では、ポロクサマーまたはポリソルベートの濃度は、0.03%、0.05%、0.07%、または0.09%である。ある特定の実施形態では、炭水化物の濃度は、1%、2%、3%、または4%である。ある特定の実施形態では、ポロクサマーはポロクサマー188(P188)である。ある特定の実施形態では、ポロクサマーはポロクサマー407(P407)である。
【0159】
本開示のウイルスベクターは、静脈内、皮下、筋肉内に、または任意の粘膜表面を通して、例えば、経口、舌下、口腔内、舌下、経鼻、直腸、経膣により、または肺経路を介して投与することができる。ウイルスベクターは、所望の部位へのベクターの徐放を可能にするバイオポリマー固体支持体の中に植え込むか、またはそれに接続することができる。
【0160】
一実施形態では、ウイルスベクターを含む製剤化された原体の投与の経路は、非経口である。非経口的という用語は、本明細書中で使用する場合、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸または膣投与を含む。静脈内形態の非経口投与が好ましい。投与のこれらの全ての形態は本開示の範囲内にあると明らかに企図されるが、投与のための形態は注射用溶液になると考えられ、特に静脈内または動脈内の注射または点滴のためにはそうである。通常、注射のための好適な医薬組成物は、緩衝液(例えば、酢酸、リン酸またはクエン酸緩衝液)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、場合により安定化剤(例えば、ヒトアルブミン)などを含むことができる。しかし、本明細書における教示に適合する他の方法では、ウイルスベクターは、有害な細胞集団の部位に直接送達して、それにより、患部組織の治療剤への曝露を増加させることができる。
【0161】
非経口投与のための調製物としては、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳剤が挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、植物油、例えばポリエチレングリコール、オリーブ油、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体としては、食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性の溶液、乳濁液または懸濁液が挙げられる。本開示では、薬学的に許容される担体としては、0.01~0.1M、好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液または0.8%食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。他の一般的な非経口ビヒクルとしては、リン酸ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖液、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、補液および栄養素補液、電解質補液、例えば、リンゲルブドウ糖液をベースにするものが挙げられる。保存剤および他の添加物、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスが存在してもよい。
【0162】
より詳細には、注射用に適する医薬組成物としては、無菌の水性溶液(水溶性)または分散液、および無菌の注射用溶液または分散液の即時使用調製物のための無菌の粉末が挙げられる。そのような場合、組成物は無菌でなければならず、容易に注射し得る程度に流動性である必要がある。それは製造および貯蔵の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に抗して保存されることが好ましいと考えられる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)およびその好適な混合物を含有する、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用によって、分散液の場合は要求される粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0163】
微生物活動の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合には、等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましいと考えられる。吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによって、注射用組成物の長期吸収をもたらすことができる。
【0164】
いずれの場合にも、無菌の注射溶液は、必要に応じて、本明細書に列挙された成分の1つまたはその組合せと一緒に、活性化合物(例えば、ポリペプチド単独または他の活性剤との組合せ)を必要な量で適切な溶媒に組み込み、続いて濾過滅菌を行うことによって調製することができる。一般に、分散液は、塩基性分散媒体および上に列挙されるものからの必要とされる他の成分を含有する無菌ビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合は、好ましい調製方法は、有効成分とあらかじめ濾過滅菌しておいた溶液からの任意の所望の追加成分との粉末が得られる真空乾燥および凍結乾燥である。注射のための調製物は、処理されて、アンプル、バッグ、ボトル、シリンジまたはバイアルなどの容器に充填され、当技術分野で公知の方法に従って無菌条件下で密封される。さらに、調製物をキットの形でパッケージ化して販売することができる。そのような製造品は、付随する組成物が、凝固障害に罹患しているかまたはその素因を有する対象を治療するために有用であることを示すラベルまたは添付文書を有することが好ましいと考えられる。
【0165】
また、医薬組成物を、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含有する、坐薬または滞留浣腸として直腸投与用に製剤化することもできる。
【0166】
状態の治療のための本開示の組成物の有効用量は、投与の手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるかまたは動物であるか、投与される他の医薬品、および治療が予防的であるかまたは治療的であるかを含む、多くの異なる因子によって異なる。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物を治療することもできる。安全性および有効性を最適化するために、当業者に公知である慣行的な方法を使用して、治療投薬量を調節することができる。
【0167】
ウイルスベクターを含む医薬組成物は、単回用量としてまたは複数回用量として投与することができ、複数回用量は連続的にまたは特定の時間間隔で投与することができる。最適な用量範囲および/または投与スケジュールを決定するために、インビトロアッセイを用いることができる。凝固因子活性を測定するインビトロアッセイは、当技術分野で公知である。加えて、有効用量を、動物モデル、例えば血友病のイヌ(Mountら、2002年、Blood 99(8):2670頁)から得られる用量反応曲線から外挿して推定することもできる。
【0168】
上記の範囲内にある中間の用量も、本開示の範囲内にあるものとする。そのような用量を、毎日、隔日、毎週または実証的分析によって決定される任意の他のスケジュールに従って、対象に投与することができる。例示的な治療は、長期間、例えば、少なくとも6カ月にわたる複数の投薬による投与を必要とする。
【0169】
ウイルスベクターを含む医薬組成物は、複数の機会に投与することができる。単一の投薬の間隔は、週、週、月または年の単位であってよい。また、間隔が、患者で改変ポリペプチドまたは抗原の血中レベルを測定することによって指示される通りに不規則であってもよい。ウイルスベクターの投薬量および頻度は、患者における導入遺伝子タンパク質産物の半減期によって異なり得る。
【0170】
ウイルスベクターを含む医薬組成物の投与の投薬量および頻度は、治療が予防的であるかまたは治療的であるかに応じて異なり得る。予防的適用では、ウイルスベクターを含有する組成物は、まだ疾患状態にはない患者に対して、患者の抵抗性を強化するかまたは疾患の影響を最小にするために投与される。そのような量は、「予防的有効用量」と定義される。長期間にわたって、比較的低頻度の間隔で、比較的低い投薬量が投与される。一部の患者は、残りの存命期間中、治療を受け続ける。
【0171】
ウイルスベクターを含む医薬組成物は、場合により、治療(例えば、予防的または治療的)を必要とする障害または状態の治療において有効である他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0172】
本明細書で使用する場合、補助療法と併用してまたは組み合わせてのウイルスベクターを含む医薬組成物の投与は、その療法および開示されるポリペプチドの逐次的な、同時の、共存性の、並行性の、併存性のまたは同時発生的な投与または適用を意味する。当業者は、組み合わせる治療レジメンの様々な構成要素の投与または適用の時間を、治療の全体的な効果を強化するために調整し得ることを理解するであろう。当業者(例えば、医師)は、選択される補助療法および本明細書の教示に基づいて、不必要な実験を行わずに有効な併用療法レジメンを容易に見極めることができると考えられる。
【0173】
ウイルスベクターを含む医薬組成物は、(例えば、併用療法レジメンを提供するために)1つまたはそれ以上の薬剤と併用して、または組み合わせて使用することができることは理解されるであろう。ウイルスベクターを含む医薬組成物と組み合わせることができる例示的な薬剤としては、治療される特定の障害に対する現行の標準医療に相当する薬剤が挙げられる。そのような薬剤は、化学的または生物学的な性質のものであり得る。「生物学的」または「生物学的薬剤」という用語は、生体および/またはその産物から作製される、治療薬としての使用を目的とする任意の薬学的活性薬剤を指す。
【0174】
ウイルスベクターを含む医薬組成物と組み合わせて使用される薬剤の量は、対象によって異なることがあり、または当技術分野で公知であるものに従って投与することができる。例えば、GOODMAN&GILMAN’S THE PHARMACOLOG ICAL BASIS OF THERAPEUTICS 1233~1287頁の、Bruce A Chabnerら、Antineoplastic Agents(Joel G.Hardmanら編、第9版、1996年)を参照のこと。別の実施形態では、標準医療に合致するそのような薬剤の量が投与される。
【0175】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターを含む医薬組成物は、免疫抑制剤、抗アレルギー剤または抗炎症剤と併用して投与される。これらの薬剤は一般に、本明細書において治療される対象の免疫系を抑制またはマスキングするように作用する物質を指す。これらの薬剤には、サイトカイン産生を抑制するか、自己抗原の発現をダウンレギュレートもしくは抑制するか、またはMHC抗原をマスキングする物質が含まれる。そのような薬剤の例としては、2-アミノ-6-アリール-5置換ピリミジン;アザチオプリン;シクロホスファミド;ブロモクリプチン;ダナゾール;ダプソン;グルタルアルデヒド;MHC抗原およびMHC断片に対する抗イディオタイプ抗体;シクロスポリンA;糖質コルチコイドなどのステロイド、例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、およびデキサメタゾン;抗インターフェロン-γ、-βまたは-α抗体、抗腫瘍壊死因子-α抗体、抗腫瘍壊死因子-β抗体、抗インターロイキン-2抗体および抗IL-2受容体抗体を含むサイトカインまたはサイトカイン受容体アンタゴニスト;抗CD11aおよび抗CD18抗体を含む抗LFA-1抗体;抗L3T4抗体;異種抗リンパ球グロブリン;pan-T抗体;LFA-3結合ドメインを含有する可溶性ペプチド;ストレプトキナーゼ;TGF-β;ストレプトドルナーゼ;FK506;RS-61443;デオキシスペルグアリン;ならびにラパマイシンが挙げられる。ある特定の実施形態では、薬剤は抗ヒスタミン剤である。本明細書で使用される「抗ヒスタミン剤」は、ヒスタミンの生理作用に拮抗する薬剤である。抗ヒスタミン剤の例としては、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、クロモリンナトリウム、アステミゾール、マレイン酸アザタジン、マレイン酸ブロフェニラミン、マレイン酸カルビノキサミン、塩酸セチリジン、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、d-マレイン酸ブロムフェニラミン、d-マレイン酸クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、塩酸ジフェンヒドラミン、コハク酸ドキシラミン、塩酸フェキソフェンダジン、塩酸テルフェナジン、塩酸ヒドロキシジン、ロラチジン、塩酸メクリジン、クエン酸トリペラナミン、塩酸トリペレナミン、および塩酸トリプロリジンが挙げられる。
【0176】
免疫抑制剤、抗アレルギー剤、または抗炎症剤を、ウイルスベクターを含む医薬組成物の投与レジメンに組み込んでもよい。例えば、免疫抑制剤または抗炎症剤の投与を、ウイルスベクターを含む医薬組成物の投与の前に開始してよく、その後に単回またはそれ以上の回数の用量において続けてもよい。ある特定の実施形態では、免疫抑制剤または抗炎症剤は、ウイルスベクターを含む医薬組成物の前投薬として投与される。
【0177】
ウイルスベクターを含む医薬組成物は、投与を容易にするように、ならびに安定性を促進するように、製剤化することができることは理解されるであろう。好ましくは、本開示による医薬組成物は、生理的食塩水、非毒性緩衝液、保存剤などの薬学的に許容される非毒性無菌担体を含む。当然ながら、本開示の医薬組成物は、ポリペプチドの薬学的有効量を提供するために、単回または複数回の用量で投与することができる。
【0178】
本開示を詳細に説明したが、同じことが、例示目的のみのために本明細書に含められかつ、本開示の限定であることを意図しない以下の実施例を参照することによってより明確に理解されるであろう。本明細書において言及される全ての特許、刊行物、および記事は、参照により明確にそして詳細に本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0179】
材料および方法:
以下は、実施例1~6において概説されるように、本開示の方法を実施するために適する例示的な試薬(表2)および一般的方法である。
【0180】
【0181】
FVIIIXTENまたはFVIII活性の特定:FVIII活性のインビトロ診断光度定量のために、発色アッセイキットChromogenix Coatest(登録商標) SP Factor VIII(カタログ番号K824086;Diapharma(商標))を使用することができる。簡潔に説明すると、第X因子は、カルシウムおよびリン脂質の存在下で第IXa因子によって第Xa因子へと活性化される。この生成は、FVIIIによって非常に刺激される。最適な量のCa2+およびリン脂質ならびに過剰な第IXa因子および第X因子を使用して、第X因子の活性化速度をFVIIIの量に依存させた。第Xa因子は、発色基質(Z-D-Arg-Gly-Arg-pNA)S-2765(商標)を加水分解し、その結果、発色団pNA(p-ニトロアニリン)を遊離する。生成された第Xa因子とその結果として生じる色の純度は、試料のFVIII活性に比例する。この色は、次いで、405nmにおいて光度測定的に読み取ることができる。
【0182】
ウイルスベクターの作製:エンベロープウイルスベクターLV-FVIIIXTENまたはLV-FVIIIを、ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞において作製した。この細胞は培養培地に適合されており、ならびに以下のどちらか:(1)プラスミドDNAおよびトランスフェクション剤、例えば、PEIpro(登録商標)(カタログ番号115-400、Polyplus Transfection(登録商標))、リポフェクタミン(登録商標)2000(カタログ番号11668019、Thermo Fisher(商標))、リポフェクタミン(登録商標)(カタログ番号L300075、Thermo Fisher(商標))、または他の同等な試薬などを使用して 一過性にトランスフェクトされるか、または(2)振盪フラスコまたはバイオリアクター(ディスポーザブルシステム、管内の吸着媒体の有無における従来の攪拌式タンク)において安定なプロデューサー細胞が誘導され、ウイルス粒子を作製するために、バッチ式培養、流加バッチ式培養、または連続ケモスタット培養として実行される。ベクター産生細胞は、作製培地、例えば、FreeStyle(商標) 293発現培地、LV-Max(商標)、または、概して血清不含かつ既知組成である同等な培地などにおいて培養することができる。典型的には、懸濁培養は、培地の潅流、交互のタンジェンシャルフロー(ATF)を使用する培地の交換、または栄養素の連続的追加を使用する新鮮な培地の追加を伴い、細胞数を増加させてバッチ培養システムを超える力価を生じさせるために実行される。産物収量、産物純度、および不純物の量は、ベクターを産生する細胞の能力、使用される作製のシステム、またはその組合せに依存する。細胞から産生されるウイルスベクターは、他のプロセス関連不純物および生成物関連不純物ならびにプロセスの間に生じたタンパク質と共に培養上清中に残る。
【0183】
細胞分離および核酸処理:ベクター産生細胞、細胞デブリ、および他の微粒子不純物は、濾過工程を使用して上清から分離することができる。好適なフィルターとしては、連続して2つまたはそれ以上のフィルターを含むものが挙げられ、再生セルロース繊維、無機フィルター助剤もしくは有機樹脂と組み合わされたセルロース繊維、またはそれらの任意の組合せ、ならびに高分子フィルターを利用してもよい。例えば、ナイロンフィルター、ポリプロピレン(PE)フィルター、ポリエーテルスルホン(PES)フィルターを使用することにより、細胞デブリおよび他の微粒子不純物の効果的な除去を達成することができ、
ならびに、結果として、許容可能な回収をもたらし得る。多段階処理を使用することにより、ベクター収量および不純物減少を向上させることができる。例示的な二段階または三段階プロセスは、細胞、大きな沈殿物、および細胞デブリを除去するための粗フィルターと、その後の0.65、0.45、0.22、または0.2マイクロメートルの公称孔径を有するポリシング第二段階フィルターとからなるであろう。最適な組合せは、デプスフィルターサイズのグレーディング、細胞保持能力、およびフィルター接触表面とウイルスベクターおよび不純物との相互作用の関数であり得る。あるいは、清澄化のために段階操作を実行してもよく、遠心分離を使用する単一段階操作と、その後の0.65、0.45、0.22、または0.2マイクロメートルの公称孔径を有するポリシング段階濾過とを含んでもよい。概して、清澄化アプローチは、これらに限定されるわけではないが、以下の、デッドエンド濾過、精密濾過、遠心分離、および深層濾過のうちの1つまたはそれ以上の組合せを含み、適する清澄度または濁り度の上清ならびに後続の精製工程にとって好適な、粒状物質の不在を提供する。例えば、5~10マイクロメートルおよび1.2~2.0マイクロメートルの深層濾過を含む2段階深層濾過を、その後の0.2~0.65μmの膜濾過と組み合わせて使用することができる。
【0184】
上清は、宿主細胞によって生成された核酸(DNA/RNA)不純物または一過性トランスフェクションプロセスの産物を含有する。そのような核酸は、適するヌクレアーゼ、例えば、Benzonase(登録商標)エンドヌクレアーゼ(カタログ番号1.01697.001、Millipore Sigma(商標))あるいは求めていないまたは夾雑DNAおよび/またはRNAを排除する目的のために当技術分野において一般的に使用される任意の他のDNaseおよび/またはRNaseを使用することによって分解することができる。全ての形態のDNAおよびRNA(一本鎖、二本鎖の直鎖状または環状)を攻撃または分解することによるそのようなヌクレアーゼの機能が、上清の調製のために、細胞分離操作の前または後に実行される。一部の実施形態では、使用するヌクレアーゼの濃度は、1~100単位/mLの範囲内であり、それらは、細胞分離単位操作の前または後に加えられ、許容可能なレベルへの核酸の消化のために、20~37℃において5~60分の、または可能性のある2~8℃において一晩の、上清培養物によってインキュベートすることができる。あるいは、ヌクレアーゼのそのような添加なしに、ヌクレアーゼ酵素分泌を担う非ベクター産生細胞を加えることができ、あるいは、DNA/RNA不純物の除去に適する沈殿剤を使用して、選択的沈殿を実行することができる。
【0185】
ウイルスベクターの精製:ウイルスベクターの精製は、ウイルスベクター産物ならびに、導入遺伝子発現カセットの上流のプロモーター(例えば、CMVプロモーター)によって媒介される導入遺伝子タンパク質夾雑物などの他のタンパク質関連不純物および非タンパク質関連不純物を含む上清から機能的ベクターを分離する工程を伴う。上清は、
図1Aおよび1Bに概説されるように、精製のいくつかの段階、例えば、クロマトグラフィーの潜在的複数段階、TFF、および精密濾過プロセスを受ける。原体を実現するために、後続の精製が実行される。
【0186】
一部の実施形態では、2つまたはそれ以上の連続したクロマトグラフィー工程は、より高いウイルスベクター粒子純度を達成するため、および夾雑タンパク質、核酸、エンドトキシン、および他の産物関連バリアントの除去を確保するために有用であり得る。高いウイルスベクター粒子純度は、疾患を治療するためのヒト対象での使用のためのエンベロープウイルスベクターの製造の要件である。連続するクロマトグラフィー工程は、異なる樹脂を使用することができ、異なる順序において連続して実行することができ、機能的ウイルスベクターのより高い回収率および最終医薬製品中の不純物の最小化のために、最適化することができる。例えば、
図1Bに示されるように、2つの連続したクロマトグラフィー工程によって達成されるベクター粒子精製は、ウイルスベクター捕捉クロマトグラフィー(第1のクロマトグラフィー精製)と、その後の、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィー(第2のクロマトグラフィー精製)によってコードされる導入遺伝子タンパク質とを採用してもよい。ウイルスベクター捕捉クロマトグラフィー工程および導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィー工程は、任意の順序、例えば、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィー工程が最初に実行され、続いてウイルスベクター捕捉クロマトグラフィー工程が実行される
図1Bに示される順序とは逆の順序において実行することができる。
【0187】
ある特定の実施形態では、上清が、第1のアニオン交換カラムに適用される。ある特定の実施形態では、アニオン交換カラムは、膜とDEAEまたはQ化学との組合せを含む。本発明による使用のためのいくつかの好適なアニオン交換器としては、これらに限定されるわけではないが、CIMモノリス(QまたはDEAE、強または弱アニオン交換器、BIA Separations)、Sartobind Q(QまたはDEAE、強または弱アニオン交換器、Sartorius Stedim)、TOYOPEARLE 650C(DEAE、UNOSPHERE Q、またはDEAE、強または弱アニオン交換器、BioRad, Hercules);POROS 50(HQ、強アニオン交換器、Life Technologies)、POROS 50(XS、強アニオン交換器、Life Technologies)、POROS 50(D、弱アニオン交換器、Life Technologies)、POROS 50(PI、弱アニオン交換器、Life Technologies)、SEPHAROSE(DEAE、弱アニオン交換器、Cytiva);SEPHAROSE(Q、強アニオン交換器、Cytiva)、およびCapto Q(強アニオン交換器、Cytiva)が挙げられる。
【0188】
アニオン交換カラムは、最初に、製造元の仕様書に従って標準的緩衝液を使用して、または当業者に周知の緩衝液を使用して平衡化される。そのような緩衝液は、これらに限定されるわけではないが、Tris、ホスフェート、ヒスチジン塩、および他の賦形剤を、生理的条件に近いpH値において含み得る。例えば、カラムは、10~50mMのTris-HCl、2mMのMgCl2、150mMのNaClを含むpH7.2の緩衝液、または10~50mMのホスフェート、2mMのMgCl2、150mMのNaClを含むpH7.2の緩衝液によって平衡化される。次いで、試料がロードされ、一方が低塩緩衝液でもう一方が高塩緩衝液である2つの溶出緩衝液が適用される。低塩洗浄および高塩洗浄のそれぞれの後に、フラクションが収集され、標準的技術、例えば、260nmおよび/または280nmでのUV吸収のモニタリングなどを使用してフラクション中のタンパク質が検出される。アニオン交換器を使用することにより、より高い塩の溶出液からのタンパク質のピークは、ウイルスベクター粒子を含み、それは、低塩または無塩含有溶出緩衝液を使用して希釈され、次の工程のために処理される。あるいは、ベクター含有産物フラクションは希釈され、次の操作工程まで2~15℃で貯蔵される。アニオン交換カラムの使用を含むウイルスベクター捕捉クロマトグラフィー工程での使用にとって適切な緩衝液は、当分野において周知であり、概して、本質的にカチオン性または双性である。そのような緩衝液としては、これらに限定されるわけではないが、以下の緩衝液イオン:トリエタノールアミン;Tris;リン酸ナトリウムもしくはカリウム;Bis-Tris;ビスートリスプロパン;N-メチルジエタノールアミンなどを含む緩衝液が挙げられる。
【0189】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクタークロマトグラフィー工程の溶出液は、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィー工程によってさらに処理することができ、その場合、ウイルスベクターによってコードされる導入遺伝子タンパク質夾雑物などの所望ではない不純物が捕捉される。ウイルスベクターを含む精製された組成物は、フロースルー産物において受け取られ、ここでウイルスベクターは、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィーマトリックスに特異的に結合することなく、クロマトグラフィー装置を通過する。
【0190】
導入遺伝子不純物質捕捉クロマトグラフィー工程は、以下:導入遺伝子タンパク質夾雑物の相互作用が生じるように架橋する十分なマトリックスを有するポリマーの使用を含み、ここで例えば、親和性、イオン交換性、マルチモーダル、混合モード、または本質的に疎水性であるものなどを含むいずれかの結合基のいくつかも存在する。第2の導入遺伝子不純物質捕捉クロマトグラフィー工程は、ウイルスベクターよって媒介される導入遺伝子タンパク質夾雑物などの不純物の捕捉を伴い、ならびに親和性(例えば、Cytivaから入手可能なVIIISelect)、イオン交換(例えば、複数の供給元から入手可能なカチオン交換)、マルチモーダル/混合モード(例えば、Cytivaから入手可能なCapto MMC)、および疎水性相互作用(例えば、Cytivaから入手可能なCapto Adhere)クロマトグラフィー樹脂のうちの1つまたはその組合せを使用する。
【0191】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクター捕捉クロマトグラフィー工程の後に結果として得られる試料は、カラムへの適切な不純物の結合条件およびウイルスベクターの非結合条件を可能にする試料の希釈の後に、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィーマトリックス上にロードされる。例えば、ローディング試料は、これらに限定されるわけではないが、2 mMのMgCl2、10mM~120mMのCaCl2を伴う、pH6.5~7.5の、10~50mMのTris-HClまたは10~50mMのホスフェートを含み得、20mS/cm~40mS/cmの範囲の希釈試料導電率を有する。導入遺伝子不純物質捕捉クロマトグラフィー樹脂は、当業者に既知の平衡化緩衝液、例えば、これらに限定されるわけではないが、0mM~2mMのMgCl2、10~30mMのCaCl2、10mM~70mMのNaClを含むpH7.2の0~50mMのTrisまたは10~50mMのホスフェートを含む緩衝液によって平衡化される。
【実施例1】
【0192】
ウイルスベクターによってコードされる導入遺伝子タンパク質
LV-FVIIIXTEN/LV-FVIIIは、血友病Aの治療における使用のためのウイルスベクターの投与後の血液中において、それぞれFVIIIXTEN/FVIIIタンパク質を発現するように開発されたLV-FVIIIXTEN/LV-FVIIIである。FVIIIXTEN/FVIII活性は、バイオリアクター細胞培養物、清澄化された上清、精製クロマトグラフィー後に原体において、ならびに精製された医薬製品において、それぞれ、LV-FVIIIXTEN/LV-FVIIIウイルスベクター作製プロセスの間に得られた。バイオリアクターにおいて作製され、
図1Aに示されるようなプロセスに従って精製された、精製エンベロープウイルスベクターは、医薬製品中にかなりのレベルのタンパク質不純物を含むことが見出された。理論に拘束されるわけではないが、タンパク質不純物は、FVIIIXTEN/FVIII発現カセットの上流のCMVプロモーターによって媒介された導入遺伝子タンパク質の発現に起因して存在し得る。タンパク質不純物(例えば、導入遺伝子タンパク質夾雑物)は、例えば
図1Aに示されたような標準的(すなわち、従来の)下流プロセスワークフローを使用して効率的に精製することができなかった。機能的ウイルスベクターの1E9 TUあたりの導入遺伝子タンパク質の活性は、
図2に示されるように、精製プロセスにおける複数の段階および最終製品試料において一貫していることが見出された。理論に拘束されるわけではないが、ウイルスベクター粒子を捕捉するために利用される精製クロマトグラフィーカラムは、おそらくウイルスベクター産物との導入遺伝子タンパク質夾雑物の同時精製に起因して、導入遺伝子タンパク質夾雑物からエンベロープウイルスベクターを分離することにおいてあまり効率的でないことが見出された。
【実施例2】
【0193】
精製の際の夾雑導入遺伝子タンパク質産物の減少
夾雑導入遺伝子タンパク質産物を減少させるため、
図1Bに示されるように、下流プロセスワークフローのウイルスベクター精製全体を向上させるためにウイルスベクターによってコードされる導入遺伝子タンパク質を捕捉するために、第2の精製クロマトグラフィー樹脂または媒体を調査した。
図3Aおよび3Bにおいて、第2の精製クロマトグラフィーカラムを追加してExp1およびExp2を実行した。カラムXK16/20(GE Healthcare、カタログ番号17-5450)に、23mLのカラム容量(CV)の11.5cmの床高さまでVIIISelect樹脂(カタログ番号17-5450-01)を充填した。カラムおよびVIIISelect樹脂は、Cytiva(USA)から購入した。出発材料は、4トランスフェクションプロセスを用いる、HEK293細胞(自前)、FreeStyle 293発現(カタログ番号12338-002、Thermo Fisher Scientific)作製培地、プラスミド(自前)、およびPEIproトランスフェクション剤(カタログ番号115-400、Polyplus Transfection)を用いる頓用攪拌タンクバイオリアクターを使用して懸濁培養において作製した。
【0194】
第2の精製クロマトグラフィー樹脂は、特定の導入遺伝子タンパク質夾雑物を捕捉し、ウイルス粒子がカラムに特異的に結合されることなくウイルスベクターがクロマトグラフィーカラムを通過することを可能にした。1カラムプロセスを、導入遺伝子タンパク質夾雑物を捕捉するための第2のクロマトグラフィー樹脂としてVIIISelect親和性樹脂を伴う2カラムプロセスと比較し、2カラムプロセスは、医薬製品中におけるより低いレベルのFVIIIXTENまたはFVIIIタンパク質夾雑物を可能にすることを見出した。導入遺伝子タンパク質夾雑物のレベルが、LV-FVIII試料において20IU/mL~3IU/mLへ(Exp1)、ならびにLV-FVIIIXTEN試料において129IU/mL~63IU/mLへと減少することが見出された(
図3A)。これは、それぞれ、LV-FVIIIおよびLV-FVIIIXTENウイルスベクター試料における導入遺伝子タンパク質夾雑物レベルの約51%および48%の総減少に一致する(
図3B)。
図3Aおよび3Bにおいて、VIIISelect親和性樹脂へのローディングのためのLV-FVIIIおよびLV-FVIIIXTEN試料を、pH7.2の、10mMのリン酸ナトリウム、100mMのNaCl、3%(w/v)のスクロース、および0.05%(w/v)のポロクサマーにおいて製剤化した。
【実施例3】
【0195】
精製の間の夾雑導入遺伝子タンパク質の減少の増強
2カラム精製ワークフローでの導入遺伝不純物捕捉を改良するため、ウイルスベクター精製の改良の可能性に対して、CaCl2の追加を調査した。10mMのCaCl2を、捕捉クロマトグラフィーの前にウイルスベクター試料に加え(+CaCl2)、または加えず(-CaCl2)、ロード試料を10分間インキュベートした後、VIIISelect親和性クロマトグラフィー媒体を使用する精製カラムに試料を供した。第2のクロマトグラフィー精製工程において、カラムにて450μLのVIIISelect樹脂を使用して、親和性クロマトグラフィーを実行した。カラムを、分離のためにFVIIIに対してはヒスチジン(Exp3)またはFVIIIXTENに対してはホスフェート(Exp4)を含む製剤化緩衝液を伴う10体積の樹脂によって平衡化した。実験において、ウイルスベクター試料を、結果として得られる試料500μlを、10mMのCaCl2と混合して(+CaCl2)、または混合せず(-CaCl2)、カラムにロードした。10分間の接触時間の後、フロースルー中のベクター産物を回収するために、製剤化緩衝液をロードした。
【0196】
フロースルー試料中に残留するFVIIIXTENまたはFVIII活性を、発色アッセイによって測定した(上記の材料および方法を参照のこと)。
図4は、ウイルスベクター試料がLV-FVIIIと混合される、ヒスチジンを含む製剤化緩衝液のフロースルーまたはウイルスベクター試料がLV-FVIIIXTENと混合される、ホスフェートを含む製剤化緩衝液のフロースルー中の残留するFVIIIXTENまたはFVIII活性を示している。
【0197】
図4に示されるように、「1カラムプロセス」とラベルされた棒は、1つの専用の精製クロマトグラフィー工程を伴う下流ワークフローを示しており、その一方で、「2カラムプロセス」とラベルされた棒は、2つの専用の精製クロマトグラフィー工程を伴う下流ワークフローを示している。Exp3において、FVIIIタンパク質活性は、+CaCl2条件では15.1IU/mL~2.4IU/mLに減少し、-CaCl2条件では4.8IU/mLに減少した。Exp4において、FVIIIXTENタンパク質活性は、+CaCl2条件では168.0IU/mL~13.4IU/mLに減少し、-CaCl2条件では28.0IU/mLに減少した。
図4に示されるように、プレカラム試料中のCaCl
2の存在は、ウイルスベクター精製の改良を提供する。
【実施例4】
【0198】
リサイクルモードを使用する夾雑導入遺伝子タンパク質の減少の増強
導入遺伝子タンパク質夾雑物を含む試料を、導入遺伝子不純物捕捉精製クロマトグラフィーカラムを複数回通過させるリサイクルモード技術を使用したさらなる減少のために、導入遺伝子タンパク質夾雑物減少を調査した。LV-FVIIIウイルスベクターとヒスチジン緩衝液中に存在するFVIIIタンパク質不純物とを含むロード試料(すなわち、ロード)を、10mMのCaCl
2でスパイクし(+CaCl2)、10分間インキュベートして、 VIIISelect親和性クロマトグラフィーカラムを通過させた。調製したロード試料を、6分の滞留時間(RT)においてカラムを通過させ、「FT_パス1」と呼ばれるカラムのフロースルーを収集し、不純物の活性または濃度について分析した。次いで、「FT_パス1」を、10mMのCaCl
2濃度に調整し、10分間インキュベートして、カラムを洗浄または再生することなく再び同じカラムにロードした。第2の通過のフロースルーを「FT_パス2」と呼んだ。同様に、CaCl
2濃度の調整と、前のパスと同様のインキュベーション時間の後に、FT_パス2ロード試料を、三度目としてカラムを通過させた。三度目のパスのフロースルーを「FT_パス3」として収集した。ロード試料、FT_パス1試料、FT_パス2試料、およびFT_パス3試料を使用して、不純物活性の含量を特定した。
図5に示されるように、導入遺伝子不純物捕捉クロマトグラフィーによって精製される試料中に存在する総活性量は98IUであることが見出された。この活性は、複数回のサイクルの後、52IU(FT_パス1)、42IU(FT_パス2)、および10IU(FT_パス3)に減少した。夾雑FVIIIタンパク質活性の量の全減少は、3回のサイクルの後、90%であることが見出された。
【実施例5】
【0199】
賦形剤を用いずTris緩衝系を使用した精製における夾雑導入遺伝子タンパク質の減少
改良された下流ワークフロースキーム(例えば、
図1B、
図6A、および
図6Bに示されるような)において第2のクロマトグラフィー精製工程を使用する夾雑導入遺伝子タンパク質のさらなる除去のために、ベクターの精製を調査した。改良されたスキームにおいて、ベクター産物は、特に夾雑導入遺伝子タンパク質不純物の除去のために設計されたクロマトグラフィー媒体に供される。本発明の改良された下流ワークフロースキームでは、夾雑導入遺伝子タンパク質不純物の除去の工程は、第2のクロマトグラフィー精製工程であってもよく(
図6Aに示されるように)、または第1のクロマトグラフィー精製工程であってもよい(
図6Bに示されるように)。
【0200】
図7は、第2のクロマトグラフィー精製の精製効率に対するローディング試料中の塩の濃度の影響を示しており、ここで第2のクロマトグラフィー精製は、VIIISelect樹脂の使用を含む。この実験において、アニオン交換(AEX)カラムを使用する第1のクロマトグラフィー精製を実行し、400mMのNaClを含む緩衝液によってAEXカラムからベクター産物を溶出させた。次いで、AEX溶出液(すなわち、VIIISelect樹脂を含む第2のクロマトグラフィー精製に対するロード試料)を、400mMのNaCl(Exp5)または100mMのNaCl(Exp6)のどちらかの塩濃度を有するように調整した。Exp5では、調整されたロード試料は、pH7.2にて、Tris-HCl緩衝液中における400mMのNaCl、2.5mMのCaCl
2、および2.0mMのMgCl
2を含んだ。Exp6では、ロード試料は、pH7.2にて、Tris-HCl緩衝液中における100mMのNaCl、2.5mMのCaCl
2、および2.0mMのMgCl
2を含んだ。
【0201】
図7Aは、VIIISelect精製工程の前(黒色の棒;「VIIISelectロード」)および後(灰色の棒;「VIIISelect産物」)に検出された、回収された全機能的レンチウイルスベクターの関数としてのFVIIIXTENのレベルを示している。上記において説明されるExp5およびExp6に従って、VIIISelectロード試料の調整を実行した。
図7Aに示されるように、VIIISelect精製工程が400mMのNaClを含むロード試料を使用して実行される場合(Exp5)、VIIISelect精製工程は、結果として、194.6IU/1E9形質導入単位(TU)から15.3IU/1E9 TUへのFVIIIXTEN活性の減少を生じ、これは、FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の92%の減少に相当した。比較において、VIIISelect精製工程が100mMのNaClを含むロード試料を使用して実行される場合(Exp5)、VIIISelect精製工程は、結果として、127.6IU/1E9 TUから64IU/1E9 TUへのFVIIIXTEN活性の減少を生じ、これは、FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の50%の減少に相当した。Tris緩衝化ロード試料を使用することにより、ロード試料が400mMのNaCl(Exp5)に調整された場合、100mMのNaCl(Exp6)と比較して、夾雑FVIIIXTENの除去において約2倍の向上を達成した。
【0202】
図7Bは、総レンチウイルス粒子数(IU/1E6ng P24)の関数として測定されたFVIIIXTENレベルに対する、400mMのNaCl(Exp5)または100mMのNaCl(Exp6)に調整されたロード試料の結果を示している。
図7Bに示されるように、VIIISelect精製工程が400mMのNaClを含むロード試料を使用して実行される場合(Exp5)、VIIISelect精製工程は、結果として、167.9 IU/1E6ng P24から16.3 IU/1E6ng P24へのFVIIIXTEN活性の減少を生じ、これは、FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の90%の減少に相当した。比較において、VIIISelect精製工程が100mMのNaClを含むロード試料を使用して実行される場合(Exp5)、VIIISelect精製工程は、結果として、125.6IU/1E6ng P24から75.8IU/1E6ng P24へのFVIIIXTEN活性の減少を生じ、これは、FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の40%の減少に相当した。
【実施例6】
【0203】
賦形剤を用いたリン酸緩衝系を使用する精製における夾雑導入遺伝子タンパク質の減少
FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の減少に対するVIIISelect樹脂を使用する第2のクロマトグラフィー精製工程の精製効率を、賦形剤を含むリン酸緩衝系を使用して調査した。この実験において、ロード試料を、400mMのNaClおよび1mMのCaCl
2、ならびに10mMのリン酸ナトリウム、スクロース(3w/v%)、およびポロクサマー(0.05w/v%)を含むように調整した。
図8に示されるように、試料をVIIISelectカラムにおいて10分間の滞留時間においてインキュベートすることができる場合、検出されたFVIIIXTENの総活性は、精製前の1768IUから精製後の423IUへ減少し、これは、単一パスにおけるFVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質の76%の減少に相当した。400mMのNaClホスフェート緩衝化ロードの機能的ベクターの回収に関して、検出されたFVIIIXTEN活性は、精製前の324IU/1E9 TUから精製後の86IU/1E9 TUに減少し、これは、不純物レベルにおける73%の減少を表し;総レンチウイルス粒子数の関数として検出されたFVIIIXTEN活性は、精製前の766IU/1E6ng P24から精製後の199IU/1E6ng P24に減少し、これは、不純物レベルにおける74%の減少に相当した。
【0204】
100mMのNaCl(NaCl濃度の調整は行わず)を含む同じリン酸緩衝化されたロード試料、2カラムプロセスのみを使用する実施例2、exp2(
図3Aおよび
図3Bを参照のこと)は、結果として、FVIIIXTEN活性の51%減少を生じた。比較では、この実験において、リン酸緩衝化ロード試料が400mMのNaClに調整される場合、70%を超えるFVIIIXTEN活性の減少が観察され、これは、FVIIIXTEN夾雑導入遺伝子タンパク質のレベルの減少の著しい増強を表している。
【実施例7】
【0205】
200mM~600mMの塩濃度においてTrisおよびリン酸緩衝液を使用する精製における夾雑導入遺伝子タンパク質の減少
改良された下流ワークフロースキーム(例えば、
図1B、
図6A、および
図6Bに示されるような)においてクロマトグラフィー精製工程を使用する夾雑導入遺伝子タンパク質の除去のために、ベクターの精製を調査した。改良されたスキームにおいて、ベクター産物は、ある範囲の塩濃度を含むTrisまたはリン酸緩衝液のどちらかに含まれる、特に夾雑導入遺伝子タンパク質不純物の除去のために設計されたクロマトグラフィー媒体に供される。本発明の改良された下流ワークフロースキームでは、夾雑導入遺伝子タンパク質不純物の除去工程は、第2のクロマトグラフィー精製工程であってもよく(
図6Aに示されるように)、あるいは第1のクロマトグラフィー精製工程であってもよい(
図6Bに示されるように)。
【0206】
図9は、第2のクロマトグラフィー精製工程の精製効率に対するローディング試料中の塩の濃度の影響を示しており、ここで第2のクロマトグラフィー精製工程は、VIIISelect樹脂の使用を含む。 この実験において、アニオン交換(AEX)カラムを使用する第1のクロマトグラフィー精製工程を実行し、Trisまたはホスフェートのどちらかと200mM~600mMの総塩濃度とを含む溶出緩衝液によって、AEXカラムからベクター産物を溶出させた。AEX溶出液(すなわち、VIIISelect樹脂を含む第2のクロマトグラフィー精製に対するロード試料)は、AEXプールの塩濃度が<600mMの場合は、調整を必要としなかったが、AEXプールの塩濃度が>600mMのNaClの場合は、調整を必要とした。調整されたロード試料は、200mM~600mMの範囲のNaCl、Tris-HCl緩衝液中の2.0mMのMgCl
2、pH7.2+0.3;または、200mM~600mMの範囲のNaCl、リン酸緩衝液中の2.0mMのMgCl
2、pH7.2+0.3、のどちらかを含んだ。次いで、調整されたロード試料を、タンパク質不純物に結合し、精製されたベクター製品としてエンベロープベクターが通過することができる、第2のクロマトグラフィー樹脂に適用した。
【0207】
図9に示されるように、ベクター製品中のタンパク質不純物活性値を活性アッセイの定量化の限界未満(<LoQ)に減少させつつ、FVIIIタンパク質活性の量は、10IU超の活性値~1IU未満まで低下し、これは、夾雑導入遺伝子活性において少なくとも10倍の減少を実証しており、その一方で、ベクター製品試料中のタンパク質不純物活性値を活性アッセイの定量化の限界未満(<LoQ)に減少させた。したがって、試料からの導入遺伝子タンパク質不純物の除去は、VIIISelectクロマトグラフィーにおいてローディング緩衝液としてTris緩衝液(黒色の棒を黒色斜線の棒と比較する)またはリン酸緩衝液(灰色の棒を灰色斜線の棒と比較する)のどちらが使用されるかにかかわらず、>90%において達成された。さらに、夾雑導入遺伝子産物の除去は、緩衝種および塩濃度にかかわらず、一貫して達成された。したがって、これらの実験は、機能的エンベロープウイルスベクターの著しい損失なしに導入遺伝子夾雑物を除去するための、改良された精製プロセスの有効性を実証しており、ならびに、改良された精製プロセスにおける様々な緩衝種および塩濃度の全般的な適性を実証している。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0156
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0156】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年6月24日に出願された米国仮出願第63/043/697号および2020年8月6日に出願された米国仮出願第63/062,120号に対する優先権の利益を主張するものである。先述の仮出願の内容は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。
配列表
本出願は、ASCII書式で電子的に提出された配列表を含み、これはその全体が参照によって本明細書に組み入れられる。2021年9月16日に作成された前記ASCIIの写しは、718206_SA9-477PC_SL.txtの名称であり、サイズは53,707バイトである。
【国際調査報告】