(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-04
(54)【発明の名称】腫瘍検出及びサージカルガイダンスのための化合物及び組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 209/14 20060101AFI20230828BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230828BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230828BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C07D209/14 CSP
A61K9/12
A61K9/08
A61K49/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511581
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 US2021046181
(87)【国際公開番号】W WO2022036331
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510243539
【氏名又は名称】コーネル ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】516348533
【氏名又は名称】モレキュラー ターゲティング テクノロジーズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥン,チン‐シュエン
(72)【発明者】
【氏名】グレイ,ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】パク,クーン ヤン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076CC50
4C076FF11
4C076FF68
4C085HH11
4C085JJ02
4C085JJ17
4C085KA27
4C085KB18
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】
以下の構造を有する化合物が開示される:
Xは陰イオン(例えば、塩化物イオン、ヨウ化物イオン等の生物学的に適した陰イオン)であり;YはNH、NR
10、又はCR
11R
12であり、Zはヘテロ原子(例えば、O、S、又はSe)であり、R及びR
1は、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)等、及びそれらの組み合わせから独立して選択される。様々な例において、R及びR
1の少なくとも一方は酸素原子ではない(両方ともが酸素原子で-NO
2が形成されることはない)。R
2及びR
3は、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)等、及びそれらの組み合わせから独立して選択される。R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12は、水素、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など)、及びそれらの組み合わせから独立して選択される。また、組成物、ならびに前記化合物及び組成物を使用する方法も開示される。この化合物又は組成物は、腫瘍を可視化又は特定するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する化合物:
【化1】
(式中、
Xは陰イオンであり;
Yは、NH、NR
10、又はCR
11R
12であり;
Zは、O、S、又はSeから選択されるヘテロ原子であり;
R及びR
1は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、n-ブチル、t-ブチル、及びそれらの組み合わせから独立して選択され;
R
2及びR
3は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、n-ブチル、t-ブチル、及びそれらの組み合わせから独立して選択され;
R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12は、水素、アルキル基、及びそれらの組み合わせから独立して選択され;
ただし、前記化合物は、以下の構造を有さない:
【化2】
【請求項2】
前記化合物が以下の構造を有する、請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項3】
前記化合物が以下の構造を有する、請求項2に記載の化合物。
【化4】
【化5】
【請求項4】
前記化合物が以下の構造を有する、請求項3に記載の化合物。
【化6】
【請求項5】
請求項1に記載の化合物及び薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項6】
前記化合物の濃度が0.5~10μMである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、スプレー可能な組成物又は口腔リンスである、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
治療の必要がある個体において、固形腫瘍の存在及び/又は位置を決定する方法であって、
請求項1に記載の化合物又は当該化合物を含む組成物を、個体上/個体内の関心領域に投与又は適用すること;
関心領域を近赤外電磁放射線に曝露すること;及び
関心領域をイメージング及び/又は可視化すること、
を含み、
当該方法において、固形腫瘍の存在及び/又は位置が決定される
方法。
【請求項9】
前記暴露からシグナルが生成され、前記シグナルが5分未満で検出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シグナルが1分未満で検出される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記投与/適用が、局所投与/適用である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記局所投与/適用が、スプレー又は口腔洗浄である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、脳腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記固形腫瘍への前記投与/適用が、前記化合物のプロトン化をもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
固形腫瘍をイメージングする方法であって:
請求項1に記載の化合物を、固形腫瘍に適用又は投与すること;
関心領域を近赤外電磁放射線に曝露すること、及び
前記固形腫瘍の画像を取得すること
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記化合物の適用又は投与後に、前記曝露からシグナルが生成され、前記シグナルが5分未満で検出される、方法。
【請求項17】
前記シグナルが1分未満で検出される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記投与/適用が、局所投与/適用である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記局所投与/適用が、スプレー又は口腔洗浄である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、脳腫瘍、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
固形腫瘍の境界を決定するための方法であって:
請求項1に記載の化合物を固形腫瘍に適用又は投与すること;
関心領域を近赤外電磁放射線に曝露すること;
関心領域をイメージング及び/又は可視化すること、及び
前記固形腫瘍の境界を決定すること
を含み、
当該方法において、非癌性組織に対する固形腫瘍の境界が決定される
方法。
【請求項22】
前記適用/投与が、スプレー又は口腔洗浄である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記暴露からシグナルが生成され、前記シグナルが5分未満で検出される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記シグナルが1分未満で検出される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、脳腫瘍、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
請求項1に記載の化合物を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2020年8月14日に出願された米国仮出願第63/066,072に基づく優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[開示の背景]
癌組織の外科的切除は、固形腫瘍治療のための重要な処置である。手術は、固形腫瘍を治療する最も効果的な方法の1つである。すべての癌組織を処置中に除去できた場合、無病期間が延びる可能性、又は治癒する可能性が高い。しかしながら、肉眼による監視では明らかでない癌組織もあるため、手術成績は変化し得る。
【0003】
MRI、CT、及びPETによる術前イメージングは、癌の診断及び治療計画の有効性を有意に改善しているが、現在の手術中の外科術はなお、外科医の経験、スキル、完全性、及び根気に強く依存している。外科医はたいてい、可能性のある癌組織を特定するために、目視検査及び触診を使用しているが、これらの2つの方法はしばしば不十分である。手術中、外科医は多くの場合、補助なしで、白色光下、肉眼での視診によって癌組織を識別するので、結果は外科医の経験に大きく依存する。肉眼観察によって容易に分かる大きな腫瘍は迅速に除去することができるが、感知がほぼ不可能な小さい病変部は取り残される可能性がある。不完全な切除は、疾患の再発につながる可能性があり、過切除は外科的合併症を引き起こす可能性があるため、新たな技術である蛍光ガイド外科手術(FGS:fluorescence-guided surgery)が、手術中のオペレーションの精度、有効性、及び効率を増すために積極的に試されている。FGSは、癌組織の可視性を高めるための蛍光プローブ、及び、蛍光シグナルをリアルタイム検出するための蛍光イメージングシステムを必要とする。インドシアニングリーン、メチレンブルー、フルオレセインなどの従来の非標的化蛍光色素は、血液、リンパ、及び尿の流れを追跡するためにFDAに承認されているが、それらは腫瘍におけるその集積の受動的性質に起因して、癌イメージングにおける有用性が制限されている。癌独特の生理学的特性(例えば、高い受容体発現及び高い酵素活性)を利用することによって、癌組織を強調するように様々な蛍光プローブが設計されている。フルオロフォアは、標的化リガンド又は応答性トリガーに結合されて、腫瘍結合又は酵素活性化(enzyme-activatable)蛍光プローブを構築してきた。全身投与された蛍光プローブは、優先的結合又は酵素活性化によって癌組織(正常組織ではなく)を特異的に照射し、高い腫瘍対正常組織のコントラストをもたらす。現在、いくつかの有望な蛍光プローブが、FGS臨床治験を受けている。
【0004】
最大のシグナル対バックグラウンドのコントラストを得るために、たいていのプローブは、イメージングの数時間前又は1日あるいは数日前に静脈内(IV)注射されて、非結合プローブのバックグラウンドシグナルのクリアランス又は酵素活性化プローブのシグナル生成を可能にする。したがって、患者は、造影剤注入のために、実際の外科処置の前に病院に何時間も、ときには数日間も滞在しなければならず、これは彼らが病院で過ごす時間を増大させる。さらに、IV投与されたプローブは、小さな腫瘍(<2mm)に対して限定された感受性を有し得る(これは、腫瘍の低発達脈管構造のせいで、それらがそのような腫瘍に到達しないことがあるためである)。小さな腫瘍は、ただでさえ処置中の肉眼観察では見落とされやすく、再発の源となり得るので、全身性の薬剤はその状況を手助けしないかもしれない。プローブの全身投与はまた、多くの投与量を必要とするので、全身的な副作用を引き起こす可能性がある。
【0005】
腫瘍に対して速いオンレート(on-rate)を有する典型的な「常時オン(always-on)」の蛍光結合プローブは、「spray-and-see」アプローチにはうまく適合しない(正常組織上に適用された余分な薬剤を、イメージングの前に洗い流さなければならないため)。逆に、低バックグラウンドの酵素活性化プローブは、洗浄工程の必要はないが、遅い触媒酵素反応が、即時画像化の実現を妨げる。腫瘍細胞は、通常、それらの急速な成長及び増殖を維持するために、解糖系の増強を示し、固形腫瘍における好気性環境は、それらの代謝経路を変化させて、グルコースをピルビン酸塩ではなく乳酸に変換する。それらは、プロトンを能動的にポンプアウトして細胞内の乳酸蓄積を減少させ、これは最終的に、腫瘍内の細胞外pHを7.4から6.2~6.9へと有意に減少させる。腫瘍酸性度は、腫瘍増殖、侵襲性、及び転移の増強と相関がある。この腫瘍関連酸性度はまた、腫瘍標的化基(抗体又はペプチドなど)に、pH感受性色素を結合させることによって、多数のIV送達pH応答性蛍光プローブを開発するために使用されてきた。それらの腫瘍特異的結合ならびに酸性エンドソーム及びリソソーム(pH=4.5~5.0)への内部移行は、腫瘍に強い蛍光を放出させる。しかしながら、このタイプのプローブは、一般的なIV投与プローブと同様の欠点を有する。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本開示は、化合物を提供する。前記化合物は、処置中に癌組織を可視化(例えば、ハイライト)するために使用され得る。
【0007】
様々な例において、本開示は、以下の構造を有する化合物を提供する:
【化1】
Xは、陰イオン(例えば、生物学的に適した陰イオン、例えば、塩化物イオン、ヨウ化物など)である。Yは、NH、NR
10、又はCR
11R
12である。Zは、ヘテロ原子(例えば、O、S、又はSe)である。R及びR
1は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。様々な例において、R及びR
1が同時に酸素原子であることはない(-NO
2が形成されることはない)。様々な例において、R及びR
1が同時に水素原子であることはない。R
2及びR
3は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、及びR
12は、独立して、水素、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル))など、及びそれらの組み合わせから選択される。様々な例において、R
4及びR
5は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。様々な例において、R
6及びR
7は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。
【0008】
一態様では、本開示は、本開示の1つ以上の化合物を含む組成物を提供する。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0009】
一態様では、本開示は、本開示の1つ以上の化合物又は組成物を使用する方法を提供する。本開示の方法は、癌(例えば、固形腫瘍)を有する又は有する疑いのある個体に使用され得る。この方法は、固形腫瘍を検出する、識別する、可視化する、又は画像化するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示の性質及び目的の十分な理解のために、本明細書に添付の図面と併せて、以下の詳細な説明が参照される。
【0011】
【0012】
【0013】
図3は、pH5.0及び7.5における発光極大及び強度差を示す。
【0014】
【0015】
図5は、本開示の化合物の細胞傷害性(細胞毒性)データを示す。CCK8 MMTアッセイを、1μMの各化合物と、0.1%DMSOと、RPMIとを用いて実施した。細胞を0.5又は1時間インキュベートし、新鮮な培地で洗浄し、次いで3日間インキュベートした。
【0016】
図6は、CypH-11(pH5.0のリン酸緩衝液中、2μM)の吸光度及び蛍光スペクトルを示す。Ex
max=766 nm、及び、Em
max=785 nm
【0017】
図7は、pH応答性CypH-11とpH非感受性Cy7との比較を示す。
【0018】
図8は、CypH-1とCypH-11との比較を示す。
【0019】
図9は、様々な時点におけるCypH-11、CypH-1及びCy7の腫瘍/筋肉コントラスト比を示す。
【0020】
図10は、本開示の化合物の一般的な合成スキームを示す。
【0021】
【0022】
図12は、CypH-11及びCypH-1の化学構造及び特徴評価を示す。
(A)CypH-1の構造
(B)プロトン化によるCypH-11の蛍光活性化の概略図。
(C)CypH-11及びCypH-1のpKa値の測定(それぞれ、6.0及び4.7)。プレートリーダーを用いて、pH範囲(2.0~11.0)におけるそれらの蛍光強度を測定した(λ
ex=725nm、λ
em=785nm)。
(D)様々なpHにおける96ウェルプレート中のCypH-11及びCypH-1の蛍光画像。
【0023】
図13は、CypH-11、CypH-1、及びCy7の細胞イメージング及び細胞内局在性を示す。
(A)OVASAHO細胞を、CypH-11、CypH-1、Cy7(それぞれ2μM)と1時間インキュベートし、洗浄を行わずに細胞画像を取得した。スケールバー:50μm
(B)CypH-11及びCypH-1の、ミトコンドリア及びリソソームとの共局在。OVASAHO細胞を、CypH-11及びCypH-1(それぞれ、2μM)と1時間インキュベートした後、細胞をさらにオルガネラトラッカー(ミトコンドリア又はリソソーム追跡剤)で10分間染色した。NIRチャネル(励起:690-730nm、発光:770-850nm)及びGFPチャネル(励起:457-487nm、発光:502-538nm)を用いて細胞画像を取得した。スケールバー:50μm
(C)CypH-11及びCypH-1の細胞生存率。OVASAHO細胞をまずCypH-11又はCypH-1(それぞれ、2μM)で1時間処理し、古い培地を新鮮な細胞培養培地に置き換えた後、細胞をさらに72時間増殖させた。細胞生存率は、CCKアッセイで評価した。各カラムは、3つの別個の実験の平均を表す。
【0024】
図14は、皮下OVASAHO/RFP-Luc腫瘍モデルにおけるCypH-11、CypH-1、及びCy7のインビボ及びエクスビボ画像を示す。
(A)手術領域に、CypH-11及びCy7(それぞれ、2μM)をスプレーする前後の様々な時点におけるヌードマウスの代表的な白色光と蛍光の合成画像(CypH-11については10の腫瘍、Cy7については3の腫瘍)。RFP画像は、腫瘍のサイズ及び位置を示し、NIR画像は、スプレー後のCypH-11及びCy7の蛍光変化を示した。スケールバー=1cm
(B)CypH-11(2μM、右側腹部)及びCypH-1(2μM、左側腹部)のスプレー前後における白色光と蛍光の合成画像。スケールバー=1cm
(C)プローブをスプレーした後の切除腫瘍及び筋肉のエクスビボ蛍光画像。スケールバー=1cm
(D)プローブを手術領域にスプレーした後の、様々な時点における、蛍光の腫瘍-対-正常組織比。
【0025】
図15は、皮下SKOV3/GFP-Luc腫瘍モデルにおけるCypH-11のインビボ画像を示す。
(A)CypH-11(2μM、6腫瘍)のスプレー前後の様々な時点における、ヌードマウスの代表的な白色光と蛍光の合成画像。GFP画像は、腫瘍の位置及びサイズを示し、CypH-11画像は、CypH-11によって生成されたNIR蛍光を示した。スケールバー=1cm
(B)手術領域にCypH-11をスプレーした後の、様々な時点における蛍光強度の腫瘍-対-正常組織比。N=6
(C)腫瘍の蛍光シグナルとCypH-11シグナルの組織学的相関。GFP及びDAPIシグナルは腫瘍部全体にわたっており、CypH-11からのNIRシグナルは縁のみであった。スケールバー=100μm
【0026】
図16は、CypH-11をIP投与した後の、腹腔内の播種性SKOV3/RFP-Luc腫瘍の インビボ及びエクスビボの白色光と蛍光の合成画像を示す。
(A)代表的な3匹のマウスを、CypH-11(200μL、2μM溶液)のIP投与の1時間後に画像化した。GFP画像は、播種性腫瘍の位置とサイズを示し(上段)、CypH-11画像は、CypH-11によって生じた蛍光シグナルを示した(下段)。スケールバー=1cm
(B)摘出した担癌臓器(腫瘍、脾臓、胃、肝臓、腸)のエクスビボの白色光と蛍光の合成画像。スケールバー=5mm
(C)IP投与後のSKOV3マウスの蛍光強度の組織-対-腹膜比
(D)腫瘍の蛍光シグナルとCypH-11シグナルの組織学的相関。スケールバー=100μm
【0027】
図17は、CypH-11の化学合成及びスペクトルを示す。
(A)CypH-11の合成スキーム
(B)pH=5のPBS緩衝液におけるCypH-11の正規化吸収及び発光スペクトル。Ex
max=765nm; Em
max=785nm
【0028】
図18は、GE HealthcareからのCy7の化学構造及び光学特性を示す。
(A)Cy7の構造
(B)様々なpHにおけるCy7の蛍光強度の測定(λ
ex=725nm、λ
em=785nm)。プレートリーダー使用。
(C)様々なpHにおける96ウェルプレート中のCy7の蛍光画像。
【0029】
図19は、CypH-11、CypH-1、及びCy7(それぞれ、2μM)と共に1時間インキュベートされ、PBSで洗浄され、次いで撮像されたOVASAHO細胞を示す。スケールバー:50μm。細胞画像はNIRチャネル(励起:690-730nm、発光:770-850nm)で取得した。
【0030】
図20は、スプレーされた腫瘍及びIP注射された腫瘍におけるCypH-11シグナルの深度測定を示す(40X)。
(A)核DAPI染色は、スプレーされたCypH-11が、15分で2~3層の細胞しか透過できないことを示した。
(B)IP注入されたCypH-11は、1時間で6~7層の細胞に到達することができた。スケールバー=50μm
【0031】
図21は、生組織及び死組織におけるCypH-11シグナルの発生を示す。
(A)インビボスプレー:CypH-11をまず生きた動物の組織にスプレーした後、組織を20分後に摘出した。腫瘍GFPとNIRシグナルとの良好な相関が観察された。
(B)エクスビボスプレー:組織を切除し、20分間保持した後、CypH-11をスプレーした。腫瘍又は筋肉内でCypH-11シグナルは観察されず、これは、死組織がCypH-11シグナルを生成することができないことを示した。これはおそらく、プローブの取り込みが乏しいためである。スケールバー=5mm
【0032】
図22は、CypH-11の特性評価データを示す。
(A)
1H NMR;(B)
13C NMR;及び(C)質量分析
【開示の詳細な説明】
【0033】
特許請求される主題が、特定の例により説明されるが、他の例(本明細書に記載される利点及び特徴のすべてを提供しない例を含む)も、本開示の範囲内である。様々な構造、論理、及びプロセスステップの変更が、本開示の範囲から逸脱することなく行われ得る。
【0034】
値の範囲が本明細書に開示される。範囲は、下限値と上限値とから設定される。特に断らない限り、範囲は、下限値、上限値、及び下限値と上限値との間のすべての値を含み、これらに限定されないが、すべての値を、範囲の最小値(下限値又は上限値のいずれか)の桁まで含む。
【0035】
本明細書で使用される場合、特に言及しない限り、「基」という用語は、一価(すなわち、他の化学種に共有結合することができる1つの末端を有する)、二価、又は多価(すなわち、他の化学種と共有結合することができる2つ以上の末端を有する)の化学物質を指す。用語「基」はまた、ラジカル(例えば、一価及び多価の、例えば、二価のラジカル、三価のラジカルなど)を含む。基の例示的な例には、以下のものが含まれる:
【化2】
【0036】
本明細書で使用される場合、特に断らない限り、用語「アルキル基」は、分岐又は非分岐の飽和炭化水素基を指す。アルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アルキル基は、C1~C20であり、その間のすべての整数の炭素及びその間の炭素数の範囲(例えば、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20)を含む。アルキル基は、非置換であってもよく、1つ以上の置換基で置換されていてもよい。置換基の例には、例えば、ハロゲン(-F、-Cl、-Br、-I)、脂肪族基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)、アリール基、アルコキシド基、カルボキシレート基、カルボン酸、エーテル基、アミン基等、及びそれらの組み合わせなどの様々な置換基が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
本開示は、固形腫瘍を可視化するのに適した化合物及び組成物を提供する。本開示の化合物又は化合物を含む組成物は、処置(例えば、医療処置、例えば、手術(例えば、腫瘍除去)など)の間に癌組織を可視化(例えば、ハイライト)するために使用されてもよい。可視化は、望ましくない見落としを最小限にし、良好な手術結果を全体として達成するために使用されてもよい。また、前記化合物及び組成物を使用する方法も提供される。
【0038】
一態様では、本開示は、化合物を提供する。化合物は、処置中に癌組織を可視化(例えば、ハイライト)するために使用されてもよい。
【0039】
様々な例において、本開示は、以下の構造を有する化合物を提供する:
【化3】
Xは、陰イオン(例えば、生物学的に適した陰イオン、例えば、塩化物イオン、ヨウ化物イオンなど)である。Yは、NH、NR
10、又はCR
11R
12である。Zは、ヘテロ原子(例えば、O、S、又はSe)である。R及びR
1は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。様々な例において、R及びR
1の両方ともが酸素原子である(-NO
2が形成されるように)ことはない。様々な例において、R及びR
1の両方ともが水素原子であることはない。R
2及びR
3は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、及びR
12は、独立して、水素、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル))など、及びそれらの組み合わせから選択される。様々な例において、R
4及びR
5は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。様々な例において、R
6及びR
7は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。
【0040】
様々な例において、本開示は、以下の構造を有する化合物を提供する:
【化4】
式中、
Xは、陰イオン(例えば、生物学的に適した陰イオン、例えば、塩化物イオン、ヨウ化物イオンなど)である。Yは、NH、NR
10、又はCR
11R
12である。Zは、ヘテロ原子(例えば、O、S、又はSe)である。R及びR
1は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。様々な例において、R及びR
1の両方ともが酸素原子である(-NO
2が形成されるように)ことはない。様々な例において、R及びR
1の両方ともが水素原子であることはない。R
2及びR
3は、独立して、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから選択される。R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、及びR
12は、独立して、水素、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル))など、及びそれらの組み合わせから選択される。本開示の化合物は、以下の構造を有さない:
【化5】
【0041】
いかなる特定の理論にも拘束されることを意図しないが、本開示の化合物は、pH感受性である。化合物は、正常組織では非蛍光性であり得るが、酸性である癌組織に吸収されると蛍光を発し得る。癌選択的染色能力は、外科的処置を正確かつ効果的にするであろう。医療従事者は、サイズ及び形状に関係なく腫瘍の位置を正確に特定することができ、適時に必要なすべての手順を精度よく実行することができるであろう。
【0042】
本開示の化合物は、望ましいpKa値を有する。化合物は、5.5~6.5の範囲(それらの間のすべての値及び範囲を含む)のpKaを有することができる。5未満のpKa値を有する化合物は、局所適用(例えば、スプレー塗布)のための望ましい蛍光を有していないかもしれない。
【0043】
本開示の化合物の例として、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
【化6】
【化7】
【化8】
【0044】
一態様では、本開示は、本開示の1つ以上の化合物を含む組成物を提供する。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0045】
本明細書に記載の組成物は、1つ以上の標準的な薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物、ならびに組成物を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定され得る。したがって、本開示の医薬組成物の幅広い適切な製剤が存在する。化合物は、薬学的に許容される担体中にフリーで懸濁させてもよく、又は化合物をリポソームに封入してから、薬学的に許容される担体中に懸濁させてもよい。担体の例には、溶液、懸濁液、エマルジョン、使用の前に溶媒に溶解又は懸濁される固体の注射用組成物などが含まれる。注射剤は、1つ以上の有効成分を希釈剤に溶解、懸濁又は乳化させることによって調製することができる。希釈剤の例としては、注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、アルコール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、注射剤は、安定剤、可溶化剤、懸濁剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤などを含有してもよい。注射剤は、最終処方工程において滅菌されてもよく、又は滅菌手順によって調製されてもよい。本開示の組成物はまた、滅菌固形製剤として製剤化されてもよく(例えば、凍結乾燥によって)、使用直前に、滅菌注射用水又は他の滅菌希釈剤中で滅菌した後又は滅菌注射用水又は他の滅菌希釈剤中に溶解した後に使用することができる。薬学的に許容される担体のさらなる例としては、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;コーンスターチ及び馬鈴薯澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースを含むセルロース;粉末トラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、ココアバター及び坐剤ワックス;ピーナッツオイル、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブオイル、コーンオイル、及び大豆油などのオイル;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;アガー;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等の緩衝剤;アルギン酸;発熱性物質除去水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、リン酸緩衝液、及び医薬製剤に使用される他の非毒性の適合物質が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される担体のさらなる非限定的な例は、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2005) 21st Edition, Philadelphia, PA. Lippincott Williams & Wilkins」に見出すことができる。効果的な製剤としては、経口製剤及び鼻腔投与製剤、局所用製剤、非経口投与用製剤、及び持続放出のために製剤化された組成物が挙げられるが、これらに限定されない。非経口投与には、注入、例えば、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下投与などが含まれる。
【0046】
様々な例において、組成物は、望ましい透過特性及び生物学的に適切なオスモル濃度を有する。望ましい透過特性を有する担体としては、プロピレングリコール、イソプロパノール、オレイン酸、及びポリエチレングリコール類似体など、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、細胞に対して非致死性であることが望ましい。オスモル濃度調整剤も使用できると考えられる。オスモル濃度調整剤の例としては、糖、例えば、単糖類、例えば、グルコース、フルクトース、ソルボース、キシロース、リボース等、及びそれらの組み合わせなど、二糖類、例えば、スクロースなど、糖アルコール、例えば、マンニトール、グリセロール、イノシトール、キシリトール、アドニトールなど、及びそれらの組み合わせなど、ならびに、アミノ酸、例えば、グリシン、アルギニン等、及びそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
様々な例において、組成物は局所投与に適している。組成物は、固形腫瘍を有する対象又は固形腫瘍を有する疑いのある対象に、対象が固形腫瘍を有すると考えられる位置あるいは対象が固形腫瘍を有している位置に、スプレーされてもよく、又は、口腔癌及び/又は食道癌用の口腔リンスとして使用されてもよい。スプレーはまた、卵巣癌、結腸癌、膀胱癌、食道癌、子宮頸部癌、口腔癌及び他の癌を有する患者における内視鏡/腹腔鏡による診断を支援するために適用され得る。組成物は、内視鏡、結腸鏡、又は腹腔鏡から直接投与(例えば、スプレー)することができる。様々な例において、化合物又は組成物は、すべての外科的切除において投与されてもよく、又は切除された組織を検証するために投与されてもよい。
【0048】
様々な例において、組成物は、0.5~10μM(その間のすべての0.01μM値及び範囲を含む)の本開示の化合物を、pH6.5~7.5(その間のすべての0.01pH値及び範囲を含む)のリン酸緩衝生理食塩水、及び0.1~1.0体積%(その間のすべての0.01体積%値及び範囲を含む)のDMSO中に含んでもよい。様々な例において、組成物は、0.5~10μM(その間のすべての0.01μM値及び範囲を含む)の化合物を、pHが6.5~7.5(その間のすべての0.01pH値及び範囲を含む)のリン酸緩衝生理食塩水中に含んでもよい。
【0049】
一態様では、本開示は、本開示の1つ以上の化合物又は組成物を使用する方法を提供する。本開示の方法は、癌(例えば、固形腫瘍)を有する又は有する疑いのある個体に使用され得る。この方法は、固形腫瘍を検出する、識別する、可視化する、又は画像化するために使用することができる。
【0050】
本開示の方法は、固形腫瘍の存在及び/又は位置を決定する、及び/又は固形腫瘍を画像化するために使用され得る。前記方法は、固形腫瘍を識別又は除去するために使用される他の方法と組み合わせて使用されてもよい。
【0051】
個体において固形腫瘍の存在及び/又は位置を決定するための方法は、本開示の化合物又は組成物を、個体上又は個体内の関心領域に投与することを含んでもよい。関心領域は、個体が腫瘍を有する領域であってもよいし、又は有すると疑われる領域であってもよい。化合物又は組成物は、電磁放射(例えば、近赤外領域(NIR)(例えば、750~1500nm)内の波長を有する光)に曝される(例えば、照射される)。照射に続いて、関心領域を撮像又は可視化することができる。イメージング又は可視化は、関心領域における蛍光シグナルを測定又は観察することを含み得る。化合物又は組成物を適用した後、シグナルを数分以内に検出することができる(例えば、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満)。様々な例において、イメージング及び/又は可視化の前に、洗浄は行われない。蛍光シグナルは、新生物腫瘍組織において発現されるであろう。
【0052】
本開示の方法は、固形腫瘍をイメージングする方法であってもよい。方法は、本開示の化合物又は組成物を固形腫瘍に適用(塗布)又は投与すること、関心領域を電磁放射線に暴露すること、及び固形腫瘍の画像を取得することを含み得る。様々な例において、イメージング及び/又は可視化の前に、洗浄は行われない。化合物又は組成物を適用した後、シグナルは数分以内に検出されてもよい(例えば、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満)。投与は、局所投与(例えば、関心領域にスプレーする)又は腹腔内送達(i.p.)などの様々な非静脈送達方法によって行われてもよい。
【0053】
腫瘍の存在、識別、及び/又はイメージングは、蛍光シグナルを測定することを含み得る。励起及び発光は、蛍光シグナルを生成するために使用される化合物に応じて変化し得る。測定は、バックグラウンド蛍光を測定することを含んでもよい。シグナルは、様々な時点(例えば、1、3、5、7、10、及び15分の時点)で測定することができる。測定は、腫瘍の平均蛍光強度を、正常領域のそれで算出することによって、腫瘍-対-正常組織比を決定するために使用されてもよい。
【0054】
投与は、局所投与(例えば、関心領域にスプレーされる)又は腹腔内送達(i.p.)のような、様々な非静脈送達方法によって行われてもよい。さらに、化合物又は組成物は全身投与されてもよい。本明細書で使用される「全身」という用語は、非経口、局所、経口、スプレー吸入、直腸、経鼻、及びバッカル投与を含む。本明細書で使用される「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜嚢内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内、及び頭蓋内投与を含む。様々な例において、化合物又は組成物は、局所適用(局所塗布)又は局所投与を介して適用又は投与される。様々な例において、化合物又は組成物は、関心領域上にスプレーされる。他の例において、組成物は、口腔リンスである。例えば、本方法は、「スプレー&可視化(spray and see)」技術であってもよい。
【0055】
本開示の方法は、腫瘍(例えば、固形腫瘍)の腫瘍境界(腫瘍マージン)を決定することを含み得る。例えば、化合物又は組成物は、腫瘍(例えば、固形腫瘍)部位に適用され、蛍光シグナルを測定する。励起及び発光は、蛍光シグナルを生成するために使用される化合物に応じて変化し得る。測定は、バックグラウンド蛍光を測定することを含んでもよい。シグナルは、様々な時点で測定することができる(例えば、1、3、5、7、10、15分の時点)。シグナルは、腫瘍の境界を決定するために、関心領域内/関心領域の非癌性組織の蛍光シグナルと比較され得る。比較は、関心領域のどの部分が癌性及び非癌性であるかを決定するために使用されてもよい。シグナルは、腫瘍の完全な切除を確実にするために腫瘍境界を決定するために使用されてもよい。
【0056】
本開示の方法は、様々な個体において使用され得る。様々な例において、個体は、ヒト又は非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物の例には、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ等のような家畜だけでなく、例えば、ウマ、イヌ、ネコ等のようなペット動物又はスポーツ動物が挙げられるが、これらに限定されない。個体のさらなる非限定的な例としては、ウサギ、ラット、マウスなどが挙げられるが、これらに限定されない。本開示の化合物又は組成物は、例えば、薬学的に許容される担体(身体の1つの器官又は部分から、体の別の器官又は部分への化合物の輸送を促進する)中で個体に投与されてもよく、又は、関心のある体の器官又は部分に直接適用されてもよい。
【0057】
様々な腫瘍が、本開示の方法を使用して識別され、画像化され、又は可視化され得る。例えば、腫瘍は固形腫瘍である。腫瘍の例としては、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、脳腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍等、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書に開示される様々な実施形態及び実施例に記載される方法のステップは、本開示の化合物を製造するか、又は本開示の方法を実施するのに十分である。したがって、様々な実施形態において、方法は本質的に、本明細書に開示される方法のステップの組み合わせからなる。様々な他の実施形態では、方法はこのようなステップのみからなる。
【0059】
ある態様において、本開示はキットを提供する。キットは、組成物又は組成物を調製するための材料(例えば、医薬担体及び本開示の1つ以上の化合物)及び印刷物を含んでいてもよい。
【0060】
様々な例において、キットは、医薬製剤を含有する密閉又は密封されたパッケージを含む。様々な例において、パッケージには、1つ以上の密閉又は密封されたバイアル、ボトル、ブリスター(バブル)パック、又は本開示の化合物及び本開示の化合物を含む組成物の販売、流通、又は使用のための任意の他の適切なパッケージが含まれる。印刷物は、印刷された情報を含んでもよい。印刷された情報は、ラベル上、又は挿入紙上に提供されてもよく、又はパッケージ材自体に印刷されてもよい。印刷された情報は、パッケージ内の化合物、他の活性成分及び/又は不活性成分の量及び種類を特定する情報、ならびに組成物の投与に関する指示、例えば、一定期間にわたる投与回数、及び/又は薬剤師及び/又は他の医療提供者(医師など)又は患者に向けられた情報を含んでもよい。様々な例において、製品は、容器の内容物を記述するラベルを含み、容器の内容物の使用に関する表示及び/又は指示を提供する。キットは、単一用量又は複数用量を含むことができる。キットは、化合物又は組成物を投与するために必要な装置又は物品をさらに含んでもよい。物品又は装置は、例えば、スプレーボトル又はアトマイザー等であってもよい。
【0061】
以下の例は、本開示を例示するために提示される。これらの例は、いかなる方法による限定も意図していない。
【0062】
例A.以下の構造を有する化合物:
【化9】
式中、Xは陰イオン(例えば、塩化物イオン、ヨウ化物イオンなどの生物学的に適した陰イオン)であり;Yは、NH、NR
10、又はCR
11R
12であり;Zは、ヘテロ原子(例えば、O、S、又はSe)であり;R及びR
1は、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから独立して選択され;R
2及びR
3は、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など、及びそれらの組み合わせから独立して選択され;R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12は、水素、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)など)、及びそれらの組み合わせから独立して選択され、ただし、前記化合物は、以下の構造を有さない:
【化10】
例えば、様々な例において、R
4及びR
5は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。例えば、様々な例において、R
6及びR
7は、同一のアルキル基(例えば、メチル基)であってもよい。様々な例において、化合物は以下の構造を有する:
【化11】
【化12】
【化13】
様々な例において、化合物は以下の構造を有する:
【化14】
【0063】
例B:例Aに記載の化合物及び薬学的に許容される担体を含む組成物
例えば、組成物は、望ましい透過特性を有し得る。望ましい透過特性を有する担体としては、プロピレングリコール、イソプロパノール、オレイン酸、及びポリエチレングリコール類似体など、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、細胞に対して非致死性であることが望ましい。オスモル濃度調整剤を使用することができると考えられる。オスモル濃度調整剤の例としては、例えば、単糖類、例えば、グルコース、フルクトース、ソルボース、キシロース、リボース等、及びそれらの組み合わせなど、二糖類、例えば、スクロースなど、糖アルコール、例えば、マンニトール、グリセロール、イノシトール、キシリトール、アドニトールなど、及びそれらの組み合わせなど、ならびに、アミノ酸、例えば、グリシン、アルギニン等、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。安定剤を使用してもよい。安定剤の例は、当該技術分野で知られている。様々な例において、組成物は、0.5~10μM(その間のすべての0.01μM値及び範囲を含む)の化合物を、pH6.5~7.5(その間のすべての0.01pH値及び範囲を含む)のリン酸緩衝生理食塩水、及び0.1~1.0体積%(その間のすべての0.01体積%値及び範囲を含む)のDMSO中に含んでもよい。様々な例において、組成物は、0.5~10μM(その間のすべての0.01μM値及び範囲を含む)の化合物を、pH6.5~7.5(その間のすべての0.01pH値及び範囲を含む)のリン酸緩衝生理食塩水中に含んでもよい。組成物は、局所投与及び/又は経口投与に適した組成物(例えば、スプレー可能な組成物)である。
【0064】
例C.治療を必要とする個体において、固形腫瘍の存在及び/又は位置を決定する方法であって、例Aに係る化合物、又は例Bに係る組成物を、個体上又は個体内の関心領域に投与すること;関心領域を電磁放射線(例えば、近赤外領域(NIR)内の波長を有する光)(例えば、750~1500nm)に曝露すること;関心領域を撮像(イメージング)及び/又は可視化すること;を含み、これにより、固形腫瘍の存在及び/又は位置が決定される。化合物又は組成物の適用後、シグナルは、数分以内(例えば、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満)で検出され得る。蛍光発生シグナルは、新生物腫瘍組織において発生するであろう。投与は、局所投与(例えば、関心領域にスプレーされる)又は腹腔内送達(i.p.)のような、様々な非静脈送達方法によって行われてもよい。投与は局所投与であってもよい。局所投与は、スプレーで行われてもよい。様々な例において、局所投与は、口腔リンスである。様々な例において、撮像及び/又は可視化の前に、洗浄は行われない。様々な例において、固形腫瘍は、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、脳腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍など、及びそれらの組み合わせから選択される。固形腫瘍への適用又は投与は、化合物のプロトン化をもたらし得る。様々な例において、電磁放射線は近赤外領域内にある。
【0065】
例D.固形腫瘍をイメージングする方法であって、例Aに係る化合物又は例Bに係る組成物を固形腫瘍に適用又は投与すること;関心領域を電磁放射線に暴露すること;及び固形腫瘍の画像を取得することを含む。化合物又は組成物を適用した後、シグナルは数分以内に検出されてもよい(例えば、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満)。投与は、局所投与(例えば、関心領域にスプレーする)又は腹腔内送達(i.p.)などの様々な非静脈送達方法によって行われてもよい。適用又は投与は、局所適用又は局所投与である。局所投与は、スプレーであってもよい。固形腫瘍は、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、脳腫瘍、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍など、及びそれらの組み合わせから選択され得る。電磁放射線は近赤外領域内であってもよい。
【0066】
例E.固形腫瘍の境界を決定する方法であって、例Aに係る化合物又は例Bに係る組成物を、個体上/個体内の関心領域に投与すること;関心領域を電磁放射線(例えば、近赤外領域(NIR)内の波長を有する光)(例えば、750-1500nm)に曝露すること;関心領域を撮像及び/又は可視化し、固形腫瘍の境界を決定すること;を含む。化合物又は組成物の適用後、シグナルは、数分以内(例えば、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満)で検出することができる。シグナルは、腫瘍の境界を決定するために、関心領域内の/関心領域の非癌性組織の蛍光シグナルと比較されてもよい。投与は、局所投与(例えば、関心領域にスプレーされる)又は腹腔内送達(i.p.)などの、様々な非静脈送達方法によって行われてもよい。適用又は投与は、局所適用又は局所投与である。局所投与は、スプレーであってもよい。固形腫瘍は、卵巣腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、泌尿生殖器癌、脳腫瘍、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、子宮頸部腫瘍、口腔腫瘍など、及びそれらの組み合わせから選択されてもよい。電磁放射線は、近赤外領域内であってもよい。
【0067】
例F.例Aに係る化合物又は例Bに係る組成物を含むキット。キットは、前記化合物(例えば、凍結乾燥粉末又はフィルムとしての前記化合物)及び薬学的に許容される担体を含んでもよい。2つの成分が、混合されて、関心のある組織上にスプレーされてもよい。
【0068】
[実施例1]
以下の例は、本開示の化合物、ならびに前記化合物のための毒性データ及びインビボデータを示す。
【0069】
【0070】
図3は、pH5.0及び7.5における発光極大及び強度差を示す。
【0071】
【0072】
図5は、本開示の化合物の細胞傷害性データを示す。CCK8 MMTアッセイを、1μMの各化合物、0.1%DMSO、RPMIを用いて実施した。細胞を0.5又は1時間インキュベートし、新鮮な培地で洗浄し、次いで3日間インキュベートした。
【0073】
図6は、CypH-11(pH5.0のリン酸緩衝液中、2μM)の吸光度及び蛍光スペクトルを示す。Ex
max=766nm、Em
max=785nm
【0074】
生体内イメージング研究
RFP-ovsaho細胞を側腹部に接種した動物を、イメージング研究に使用した。転移したヒト卵巣癌の形態を模倣するために、腫瘍サイズを2mmに制御した。色素(2μM、生理食塩水中)をスプレーする前に、皮膚を除去した。腫瘍領域にスプレーして、様々な時点で、設定されたCy7フィルターを用いて撮像した。腫瘍のコレジストレーション(co-registration)のためにRFP画像も取得した。コントラスト比は、[腫瘍のシグナル]/[隣接筋肉のシグナル]により算出した。
【0075】
インビトロ及び細胞での検証を受けて、我々は、最良の候補であるCypH-11(異なるpHにおいて及び細胞において優れた蛍光特性を有する)が、小さい癌性病変の検出を増強する(そうしなければ、外科医には知覚できない小さい癌性病変)ための理想的な薬剤である可能性があると考えた。推定を検証するために、RFP陽性ovsaho卵巣癌細胞をマウスに皮下接種した。腫瘍が約2mmの大きさになった場合、皮膚を除去し、CypH-11溶液(生理食塩水中2μM)を、腫瘍領域上にスプレーした。腫瘍を強調する蛍光シグナルは、スプレーの適用後1分以内に速やかに発生した。コントラストは微増し続け、急速にプラトーに到達した(約7分)。腫瘍のシグナルは、隣接する筋組織よりも約150%高く、CypH-11シグナルは、RFPシグナルとよくコレジストレートした。特に、正常組織においてシグナル増加は観察されず、このCypH-11シグナル増強が腫瘍特異的であることを示唆した。別セットの実験では、動物に2つの腫瘍を接種した。各腫瘍に、プロトタイプ色素CypH-1又はCypH-11のいずれかをスプレーし、同時に撮像した。CypH-11は、ほぼ瞬間的なシグナル増強を示し、一方、CypH-1は、最小のコントラストを示しただけであった。この結果は、我々の修正の利点を強くサポートしている。
【0076】
シグナル増強がpH依存性であることをさらに確認するために、同様の吸収及び発光特性を有する市販のalways-on色素であるCy7を、全く同じ条件で腫瘍に適用した。予期されたように、このpH非依存性Cy7色素は、すべての組織において強いシグナルを与えた。CypH-11とは全く異なり、Cy7は、感知できるほどのコントラスト差を示さなかった。CypH-11の蛍光特性のため、シグナル発生は、洗浄工程を必要とせずに直接撮像することができた。これらのスプレー実験は、pH依存性CypH-11が、リアルタイム腫瘍検出のためのエアロゾルスプレーとして使用できることを示唆した。
【0077】
図7は、pH応答性CypH-11及びpH非感受性Cy7の比較を示す。
【0078】
図8は、CypH-1とCypH-11との比較を示す。
【0079】
図9は、様々な時点におけるCypH-11、CypH-1、及びCy7の腫瘍/筋肉コントラスト比を示す。
【0080】
[実施例2]
以下の例は、本開示の化合物、ならびにその合成及び特性の解明を示す。
【0081】
特性の解明
すべての新しいCypH色素について、アイデンティティーを確認するために、プロトンNMR及び質量分析によって特性を明らかにした。NMRデータは構造と一致し、質量分析結果は、色素±0.5amuの予想質量を与えた。HPLC法を開発し(以下参照)、色素純度を評価するために使用した。すべての色素は、95%を超える良好な純度を示した。カラムでの保持時間は、一般的に色素の親油性と相関し、硫酸基を含有する水溶性色素は、CypH-1(11.9分)より早く溶出し(CypH-3, 6, 9では、10.6分)、より親油性の色素はより遅く溶出する。色素の光学特性、酸解離定数、及び溶解度も決定した。特性評価データを表1にまとめる。合成中間体についても、プロトンNMRによって特性を明らかにした。
【0082】
色素純度のために使用されるHPLC法は、溶媒A(50%メタノール水溶液+0.1%TFA)及びB(100%メタノール+0.1%TFA)を用いる、Phenomenex逆相Luna C8(2)カラム(5μm, 100A, 250×4.6mm, cat # 00G-4248-30)から構成される。溶媒グラジエントは、0~3分(0%B)、3~10分(100%B)、10~20分(100%B)、20~25分(0%B)であり、流量は1mL/minであった。色素の吸収最大値にてフォトダイオードアレイにより検出を行った。
【0083】
【0084】
【0085】
構造最適化
新しいpH応答性色素を、以前に公開されたリードプローブであるCypH-1(中性及び塩基性条件(≧7.0)ではほとんど蛍光を示さず、穏やかな酸性条件(≦pH 5.0)で蛍光を発するヘプタメチンシアニン色素)から改変した。CypH-1の励起と発光の最大値は、それぞれ、760及び777nmである。pH5とpH7.5のシグナル強度比は約10であった。CypH-1のメソ架橋環サイズ、親油性及び電気密度は、より良好な光学特性を提供するように改変された。10の類似体のライブラリーからの第1ラウンドのスクリーニングにおいて、メソ-シクロペンタン環を有する色素は、pH5及びpH7.5の両方において低い蛍光特性を有し、- CH
2CH
2SO
3-置換を有する親水性CypHは、良好な蛍光特性を有するが、細胞膜への取り込みが低いことが見出された。このグループのうち最良の化合物は、pH5.0/pH7.5の蛍光比が22まで増加したCypH-5であった。この初期構造及び特性関係に基づいて、10個の新規類似体の第二ラウンドを、CypH-5をコアとして用いて設計し、アニリン環及びインドリニウム環上の電子密度を改変することに着目した。メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、及びそれらの組み合わせ等の様々なアルキル基を、これらの2つの位置に適用した。一般的な合成経路は、
図10に示されている。
【0086】
蛍光強度の直接測定は、インドリニウム環にメチル基を有するCypH類似体(CypH-11~20)が、pH7.5にてより高いバックグラウンド蛍光を有することを示した。他のより長いアルキル鎖を有するCypH類似体は、はるかに低いバックグラウンド蛍光を有していた。pH5.0/pH7.5のそれらの蛍光比は、10~20から50~110まで有意に改善された。それらの中でも、インドリニウム環上にメチルイソプロピルアニリン及びイソプロピル基を有するCypH-11は、蛍光シグナルの112倍の増強を与えた。CypH-11は、766nm及び785nmにおいてそれぞれ吸光及び発光極大を有しており(
図4)、リード化合物として選択された(下記参照)。
【0087】
リード化合物であるCypH-11の合成の詳細及びさらなる特徴解明
【0088】
CypH-11を、以下の実験手順を用いて、
図11に示すスキームに従って合成した。
【0089】
4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノール出発物質の調製
4-N-メチルアミノフェノール(1.72g、0.01mol)、ヨウ化イソプロピル(1.70g、0.01mol)及びトリエチルアミン(2.8mL、0.02mol)を室温で一晩、10mLの無水クロロホルム中で撹拌する。次いで、溶液を濃縮し、最小体積のジクロロメタンに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し(溶出には、ヘキサン中で酢酸エチルを増加させる勾配を用いた。5%ずつ増加させて25-40%)、4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノールを得た(0.926g、56%収率)。
1H NMR (in d6-DMSO): 8.60 (s, 1H,-OH), 6.67-6.61 (m, 4H), 3.80 (m, 1H), 2.50 (s, 3H, -CH3), 1.02 (d, J=6.6Hz, 6H, -(CH3)2)
【0090】
N-イソプロピル-2,3,3-トリメチルインドリニウムヨウ化物(2)の合成
2,3,3-トリメチルインドレイン(2,3,3-trimethylindoleine)(1)(4g、0.025mol)及び2-ヨードプロパン(14mL、0.140mol)を140℃で72時間加熱した。冷却後、得られた濃厚なオイルをジエチルエーテルで洗浄して余分な出発物質を除去し、次いでオイルを高真空下に置いて残留性揮発物質を除去する。粗物質(4.08g、49.6%)を、プロトンNMRにより分析し、次の反応に用いる。
1H NMR (CDCl3): 7.86-7.84 (m, 1H), 7.61-7.56 (m, 3H), 5.51 (m, 1H, N-CH), 3.31 (s, 3H, -CH3), 1.92 (d, 6H, J= 6.9 Hz, -(CH3)2), 1.67 (s, 6H, -(CH3)2)
【0091】
2-[2-[2-クロロ-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1-イソプロピル-3,3-ジメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1-イソプロピル-3,3-ジメチル-3H-インドリウム ヨージド(4)の合成
無水酢酸ナトリウム(0.158g, 1.93mmol)を含有するエタノール(20mL)中で、N-[(3-(アニリノメチレン)-2-クロロ-1-シクロヘキセン-1-イル)メチレン]アニリン一塩酸塩(3)(0.281g, 0.78mmol, Millipore Sigma, St Louis)、及びN-イソプロピル-2,3,3-トリメチルインドリニウム ヨージド(0.575g, 1.75mmol)を、3時間加熱還流する。反応混合物を濃縮し、ジクロロメタン中でメタノールの量を増加させて(1%刻みで2-5%)溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、(4)を緑色固体(0.25g、48%)として得た。
1H NMR (CDCl3): 8.38 (d, J=14.0 Hz, 1H), 7.41-7.37 (m, 3H), 7.26 (m, 1H), 6.43 (d, J=14Hz, 1H), 5.10 (m, 1H), 2.81 (t, J=6.2Hz, 2H), 2.02 (m, 1H), 1.80-1.60 (m, ~12H)
【0092】
CypH-11の合成
無水N,N-ジメチルホルムアミド(5mL)中の4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノール(0.081g、0.491mmol)の溶液を、RTで撹拌し、水素化ナトリウム(0.022g、オイル中60%、0.55mmol)を添加し、次いでさらに15分間撹拌してナトリウムフェノキシド塩を形成する。次いで、色素(2)(0.150g、0.225mmol)を添加し、混合物をRTで一晩撹拌する。DMFを真空下で除去し、残渣を少量のジクロロメタンに溶解し、ジクロロメタン中でメタノールの勾配を増加させて(1%刻みで0-6%)溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、緑色固体(51.0mg、28.5%)としてCypH-11を得る。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.99 (d, J=14.1 Hz, 2H), 7.33-7.24 (m, 6H), 7.20-7.13 (m, 2H), 6.95 (d, J=9.1 Hz, 2H), 6.82 (d, J=9.1 Hz, 2H), 6.21 (d, J=14.1 Hz, 2H), 4.96-4.87 (m, 2H), 3.94-3.86 (m, 1H), 2.76 (t, J=6.0 Hz, 4H), 2.63 (s, 3H), 2.10-2.00 (m, 2H), 1.66 (d, J=7.0 Hz, 12H), 1.35 (s, 12H), 1.07 (d, J=6.6 Hz, 6H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 171.81, 165.23, 152.98, 146.18, 142.71, 141.85, 141.05, 128.22, 124.54, 123.07, 122.26, 116.84, 114.98, 112.76, 100.48, 50.97, 48.94, 48.75, 30.63, 28.19, 24.77, 21.22, 19.72, 18.83
【0093】
[実施例3]
以下の実施例は、化合物、その合成及び特性評価、ならびに本開示の方法を示す。
【0094】
近赤外pH応答性蛍光性色素であるCypH-11は、外科手術中に癌組織をハイライトするための感受性癌スプレーとして使用され、外科医の主観的判断を最小限にするように設計された。CypH-11(pKa6.0)は、中性のpHではほとんど蛍光を放出せず、酸性環境下(癌細胞増殖のユビキタスな帰結である)では明るく蛍光を発する。局所適用後、CypH-11は迅速に吸収され、癌組織においてその蛍光シグナルは1分以内に発生した。シグナル対バックグラウンド比は、1分及び10分でそれぞれ1.3及び1.5であった。蛍光性及びほぼ即時のシグナル発現能力は、「spray-and-see」の概念を可能にする。この速効性CypH-11スプレーは、蛍光ガイド手術のための手軽で有効なツールであり得、全身毒性を伴わずに、最適な切除のために、小さい癌性病変をリアルタイムで同定することができる。
【0095】
pH応答性蛍光性CypH-11の設計及び特性評価
解糖の増強によって引き起こされる腫瘍微小環境における酸性pHは、腫瘍診断及び治療開発のために広く使用されているターゲットである。pH応答性蛍光色素であるCypH-1は、pH感受性アミノ部分を、NIRシアニンフルオロフォア上にインストールすることによって以前作製された(
図12A)。生理学的pH(pH=7.4)では、ジメチルアミノフェノール基はプロトン化されず、CypH-1は、光誘起電子移動(PeT)クエンチングによる極めて低い蛍光を示した。一方、酸性条件下では、CypH-1上のアミノ基がプロトン化され、PeTクエンチングがブロックされ、高い蛍光回復が得られる(
図12)。IP注入によってマウス卵巣癌モデルで試験された場合、CypH-1は、小さな病変で正常組織よりも有意に高い蛍光を示したが、おそらくその低いpKa(pKa=4.7)に起因して、スプレーによる卵巣腫瘍の検出には失敗した。したがって、この蛍光プローブのpKaは、スプレーによる最適なイメージングには適していなかった。腫瘍内のpHが6.2~6.9付近であり、正常組織のpHが7.4であることを考慮すると、この6.2~6.9ウィンドウに近いpKaを有する蛍光プローブが好ましいであろう。したがって、CypH-1の4-(ジメチルアミノ)フェノール部分は、より電子リッチな4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノール基で置換され、インドリニウム環上のメチル基は電子供与性イソプロピル基で置換され、より最適化された色素であるCypH-11(
図12B)を提供した。
【0096】
塩基性条件下で、4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノールをフルオロフォア1と反応させて、CypH-11を合成した(
図17A)。それぞれの吸収及び放出ピークは、765nm及び785nmにセンタリングされ(
図17B)、pH4.0におけるCypH-11の量子収率(Φ)は3.3%であった。設計通り、CypH-11は、CypH-1(pKa=4.7)よりも顕著に高いpKa値(pKa=6.0)を示した。CypH-11及びCypH-1の両方は、中性及び塩基性溶液において低蛍光を示したが、酸性溶液中では強い蛍光を示した(
図12C及び12D)。様々なpH溶液中の滴定曲線及び画像は、CypH-11が、生理学的環境におけるpH変動(pH 5.0~7.0)に対してより敏感であることを確認した。同様の励起及び発光波長を有する市販のpH-非感受性フルオロフォアであるCy7が、生物学的研究において参照として含まれた。Cy7は、すべてのpH値で明るく蛍光を発し、pH依存性を示さなかった(
図18)。
【0097】
癌細胞におけるCypH-11の評価
卵巣癌細胞株であるOVASAHOを用いて、CypH-11、CypH-1、及びCy7の性能を評価した。OVASAHO細胞をそれぞれのプローブ(2μM)と1時間インキュベートし、細胞蛍光画像を色素含有媒体の存在下で取得した(
図13A)。強い細胞内蛍光及び低/中程度の蛍光が、CypH-11及びCypH-1処理されたウェルで観察されたが、Cy7処理されたウェルは過飽和蛍光を示した。この明確な違いは、CypH-11及びCypH-1のpH感受性のためである。両者は細胞培養培地(pH=7.4)中で低い蛍光を有するが、細胞酸性区画に入るとそれらの蛍光がオンになる。対照的に、Cy7は、生理学的pH範囲においてコンスタントな高い蛍光を示した。新鮮な培地で洗浄した後、細胞画像を再び取得した(
図19)。CypH-11及びCypH-1で処理された細胞は両方とも、高い蛍光を示し、それらの有意な細胞透過性及び保持性を示唆したが、Cy7では非常に不鮮明な蛍光が観察され、細胞透過性又は保持性が悪いことを示唆した。ミトコンドリア、リソソーム及び核のトラッカーと共染色することによって、色素の細胞内分布を調査した(
図13B)。CypH-11及びCypH-1の両方は、リソソームトラッカーよりも、ミトコンドリアトラッカーとはるかに優れたオーバーラップを示した(ピアソン値:それぞれ、0.70及び0.90)。さらに、OVASAHO細胞による細胞傷害性研究は、2μMのCypH-11又はCypH-1による1時間の処理が、細胞生存率に有意な影響を与えないことを示した(それぞれ、91.0±4.6%及び95.5±6.9%)(
図13C)。
【0098】
スプレーによる皮下腫瘍の検出
「spray-and-see」技術による蛍光プローブのインビボ性能を評価するために、OVASAHO皮下腫瘍モデルを使用した。簡易なシグナルコレジストレーションのために、まず細胞を操作して赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現させた。OVASAHO/RFP-Luc細胞を両側腹部に皮下接種してから2週間後、腫瘍は5mm付近のサイズに達した。腫瘍領域上の皮膚を除去し、次いで、CypH-11又はCy7溶液(PBS中2μM)を、露出した領域上に一回スプレーした。全身蛍光画像を、洗浄することなく、様々な時点で連続的に取得した(
図14A)。腫瘍組織は、それらの固有のRFP蛍光によって明らかになった。CypH-11によって生成されたNIR蛍光は、腫瘍領域では即座に(<1分)発生したが、隣接する正常な領域では発生せず、10分以内にプラトーに到達した。対照的に、Cy7は、そのpH非感受性の「always-on」特性のために、スプレーされた領域全体において強い蛍光を示した。
【0099】
CypH-11及びCypH-1を、対照比較のために腫瘍のいずれか側にスプレーした。CypH-11は、腫瘍でのみ高い蛍光を示したが、正常組織では示さず、一方CypH-1は、腫瘍及び隣接正常組織の両方で非常に低い蛍光増強を示した(
図14B)。次いで、スプレーした領域をPBSで洗浄し、シグナルが腫瘍内に残存することを見出した(これは、CypH-11が腫瘍組織に吸収され、シグナルが内部から発生したことを示唆する)(
図14B)。切除された腫瘍及び隣接正常組織についても同様の結果が観察された(
図14C)。これら3つの色素の腫瘍-対-筋肉のシグナル比を、時間に対してプロットした(
図14D)。CypH-11をスプレーした直後は、腫瘍において有意なレベルの蛍光シグナルが検出され、シグナルは10分まで増加し続けた。1、5、及び10分でのシグナル-対-バックグラウンド比は、それぞれ1.3、1.4及び1.5であった。対照的に、ダークなCypH-1及び常時オンのCy7の腫瘍-対-筋肉比は、1.0付近のままであり、これは腫瘍を検出することができないことを示唆する。
【0100】
OVASAHO腫瘍の染色が唯一のインシデンスではなかったことを確認するために、CypH-11をさらに、第二の皮下腫瘍モデルであるSKOV3/GFP-Lucで評価した。CypH-11を手術領域にスプレーした後、腫瘍の周囲で迅速なシグナル発生が観察された(
図15A)。腫瘍の正確な位置を示すGFPシグナルと比較して、NIRシグナルは、SKOV3腫瘍の境界上で最も高い。興味深いことに、シグナルのパターンは、OVASAHO腫瘍で見られたもの(シグナルが領域にわたって一定であった)とは異なっていた。SKOV3腫瘍におけるシグナル増加傾向は、OVASAHO腫瘍で見られたものと同様であり(
図15B)、シグナル-対-バックグラウンド比は、1、5、及び10分で、それぞれ1.3、1.4及び1.6に達した。前述と同様に、PBS洗浄は、蛍光シグナルを洗い流すことができず、スプレーされたCypH-11の内在化をサポートする(
図15A)。
【0101】
スプレー後の腫瘍におけるCypH-11分布を評価するために、腫瘍を切除し、14μm厚の複数のスライドに薄片を載せた。スライドをH&E及びDAPI核染料で染色した。蛍光顕微鏡下で、GFP及びDAPI蛍光シグナルは、腫瘍全体に均一に分布しているが、CypH-11シグナルは主に腫瘍の外層にあった(
図15C)。高倍率画像は、NIRシグナル深さが約2-3層の細胞であることを示した(
図20A)。この浅い表面透過は、スプレーされたCypH-11との短く限定された接触に起因する可能性がある。
【0102】
採取した組織上で、CypH-11が使用できるか調査した。成功した場合、CypH-11を、手術後の組織評価に使用することができる。CypH-11を生きた動物の組織にスプレーしたとき、シグナルは迅速に発生し、腫瘍内に留まる(
図21A)。切除した組織内のシグナルは、保管後数週から数ヶ月検出することができた。逆に、腫瘍及び筋肉組織をまず採取して、次いで、CypH-11をこれらの20分たった「死」組織上にスプレーした場合、NIRシグナルは検出できず(
図2IB)、生きた組織のみが、局所的に適用された蛍光性CypH-11を吸収及び変換できることを示唆した。
【0103】
腹腔内送達されたCypH-11による微小播種性卵巣腫瘍の検出
CypH-11の有望な「spray-and-see」適用に続いて、この高速応答性の蛍光色素が、腹腔内播種性小卵巣腫瘍の迅速な検出のために使用できるかどうかを知ることも注目された。腹膜播種性卵巣癌を再現するために、SKOV3/GFP-Luc細胞をマウスの腹腔内に直接注入し、腫瘍増殖を、D-ルシフェリン誘導性生物発光をモニターすることによって経過観察した。それは、腫瘍の成長を示す強い生物発光シグナルに達するのに約2週間かかった。CypH-11(PBS中2μM、200μL)を腹腔内投与し、一時間後、腹腔内を外科的に暴露し、洗浄を行うことなく明視野及びNIR蛍光画像を直ちに取得した。GFPシグナルは腫瘍位置を示し、NIR蛍光はCypH-11によって生成される(
図16A)。CypH-11の蛍光特性のため、バックグラウンドシグナルは、正常な組織及び器官で非常に低く、洗浄工程は不要であった。CypH-11が生成した蛍光と、腫瘍GFPシグナルとの間に優れたオーバーラップが観察された。腹腔の大きな表面腫瘍(>3mm)の報告のみが可能な全身イメージングに続いて、組織及び主要な器官(脾臓、胃、肝臓、及び腸)を回収して、小さい及びバリア性の腫瘍を特定した。ズームインビューはまた、腫瘍とCypH-11シグナルとの間の望ましい相関を示した(
図16B)。サイズの異なるすべての腫瘍がハイライトされ、腹膜、肝臓及び腸のバックグラウンドよりも3倍~4倍高いシグナルが観察された(
図16C)。より重要なことには、外科医にとって除去するのに大きな困難を伴う1mm程度の小さい腫瘍が明確に検出された。組織学的分析はまた、CypH-11が主に腫瘍の外層にあることを示したが、そのシグナルは一時間内に6~7層の細胞まで下りた(
図16D及び20B)。スプレーによるその適用と比較してここで観察されたより深いCypH-11浸透は、おそらくより大量のCypH-11溶液とのより長い接触に起因する可能性がある。
【0104】
考察
【0105】
FGSは、そのリアルタイム可視化能力のため、有望な技術である。励起光の下で、腫瘍特異的蛍光プローブのアシストにより、外科医は、ビデオカメラを通して蛍光腫瘍を「見る」ことができる。局所スプレー可能なプローブは、外科処置中、特に小さな腫瘍の特定及び腫瘍境界確認のために、非常に有益であり得る。必要に応じて、プローブは、切除すべき癌組織が存在するかどうか、又は回避されるべき正常な組織であるかどうかを強調するために、疑わしい領域にスプレーされることができ、それによって安全性を向上させることができる。最近、少なくとも2つの局所的薬剤である、β-ガラクトシダーゼ感受性SPiDER-βGal、及びγ-グルタミルトランスペプチダーゼ感受性gGL-HMRGが、腫瘍を検出するために報告されたが、それらの用途は、標的酵素を発現する腫瘍に限定される。即時腫瘍可視化のためのユニバーサルな「spray-and-see」プローブを提供するには、プローブは一般的な癌の特徴を標的とするべきであり、シグナル変換は腫瘍特異的かつ即時であるべきである。腫瘍アシドーシスは、癌細胞の増殖及び成長のユビキタスな結果であり、プロトン化反応は瞬間的であるため、腫瘍pH感受性の蛍光発生性CypH-11は、過剰な色素を洗い流すことを必要とせずに癌組織を画像化するように設計された。
【0106】
CypH-11は、以前に開発されたNIRシアニン色素であるCypH-1から誘導された。CypH-1はpH応答性であるが、そのpKaは腫瘍環境におけるpHに対して最適化されていなかった。いかなる特定の理論に拘束されることも意図しないが、pKaが腫瘍環境のpHに近い色素は、腫瘍検出のために改善された色素である。電子供与性基の導入により、CypH-11のpKaは、6.0に上昇した。塩基性条件下では、イソプロピル-メチルアミノ基上の孤立電子対とCypH-11のシアニン骨格との間のPeT効果によって、蛍光がクエンチされる(
図12B)。酸性条件下では、アミノ基がプロトン化され、孤立電子対がマスクされ、強い蛍光シグナルをもたらす。溶液中のプローブ蛍光アウトプットの測定は、pH6.0-6.5におけるCypH-11の正規化蛍光が、CypH-1より約3.4倍高いことを示した(
図12C、12D)。
【0107】
細胞イメージング実験は、蛍光発生特性の利点を確認した(
図13)。CypH-11及びCypH-1の両方は、中性培地(pH=7.4)において非常に低いバックグラウンドシグナルを与え、そのため、細胞内の酸性区画へのそれらの分布が明確に可視化され(洗浄工程なしで)、一方、高蛍光性のpH非感受性Cy7は、細胞培養及びインビボの両方においてすべてを強調し過ぎた。CypH-1は、おそらくその低pKaにより、腫瘍領域にスプレーされた場合に最小のシグナル増強を示し、効果的でない蛍光作動をもたらした。対照的に、CypH-11は、腫瘍を強調し、最小限のバックグラウンドシグナルで腫瘍境界を明らかにした(
図14及び15)。プロトン化工程はほぼ瞬間的な反応であるので、腫瘍におけるCypH-11の蛍光の作動は急速であり(<1分)、ほぼ待ち時間を必要としない。その場で蛍光発生の切り替えを即時に可視化する能力は、スプレー剤の重要な特徴である。
【0108】
以前に、IP投与されたポリマー系プロテアーゼ活性化プローブが、IV投与されたものと比較して、小型の卵巣腫瘍をより良好に検出することができ、IP投与されたCypH-1が、小さな腫瘍の検出に有効であることが実証された。今回の研究では、IP注入されたCypH-11が、一時間以内に非常に小さな卵巣腫瘍(<1mm)を標識することができ、イメージング前に洗浄工程は不要であることが示された(
図16)。この速い応答速度及び腫瘍選択性に基づいて、IP送達CypH-11は、最適な細胞切除のため、容易に臨床に橋渡しされ得る。
【0109】
腫瘍におけるCypH-11蛍光性シグナル発生は、腫瘍組織との直接接触による。当然のことながら、局所スプレー送達及び限定されたプローブ溶液により、NIRシグナルは細胞の最上層部に限定された(
図20)。酸性pHはユニバーサルな癌マーカーであるため、pH感受性スプレー技術は、卵巣、子宮頸部及び結腸癌のような多くの種類の表在性腫瘍に有用であり得る。最大の細胞切除で治療されたステージIII又はIVの卵巣癌患者の研究(肉眼的な残存病変なし)は、最適な細胞切除の各10%増加が、生存期間中央値の5.5%増加に関連することを実証した。13ヶ月よりも長い生存期間中央値が、残留腫瘍のある患者と比較して、最適な細胞切除後の腫瘍が残存していない患者で報告されており、完全な外科的細胞切除が生存の最も重要な予後指標であることを示唆する。残念なことに、現在の外科手術は、40%の確立で、すべての腫瘍及び顕微鏡的残存及び未検出腫瘍小結節を除去しないため、十分とは言えない。CypH-11のような、手術中に疾患組織を可視化して切除する外科医の能力を向上させるスプレー剤は、大きなインパクトを有し得る。
【0110】
結論
【0111】
CypH-11は、中性pHにおいて無視できる蛍光を示すが、穏やかな酸性条件下では迅速に明るい蛍光を発する、シンプルなpH感受性フルオロフォアである。そのpKa値(6.0)は、腫瘍関連pH変化を検出するために好適である。腫瘍を検出し、腫瘍境界を決定するためのスプレー剤としてのそのイメージングポテンシャルが、皮下腫瘍モデルを使用して確認された。小サイズの卵巣腫瘍を検出するその能力は、播種性腫瘍モデルにおけるCypH-11のIP投与によってさらに実証された。
【0112】
材料及び方法
【0113】
化学合成のための一般的な情報
合成のためのすべての化学物質及び溶媒は、Sigma-Aldrich(St.Louis, MO)又はFisher Scientific(Waltham, MA)から購入した。CypH-11の合成に使用した4-(N-イソプロピル, N-メチル)アミノフェノール及び化合物1は、必要な修正を加えて報告された手順で合成された。化合物CypH-1は、以前に報告されたようにして合成し、Cy7は、GE Healthcare(Chicago, IL)から購入した。両者を用いて、それらのイメージング能力をCypH-11と比較した。化合物及び中間体を分離し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製した。1H及び13C NMRスペクトルは、Bruker Ascend-500分光計でまとめ、高分解能質量分析(HRMS)は、PE Sciex API 100質量分析計でまとめた。
【0114】
CypH-11の合成及び特性評価
無水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、5mL)中の4-(N-イソプロピル,N-メチル)アミノフェノール(81mg、0.491mmol)の溶液に、水素化ナトリウム(NaH、22mg、オイル中60%、0.55mmol)を添加した。反応物を15分間撹拌して、ナトリウムフェノキシド塩を形成した。次いで、化合物1(150mg、0.225mmol)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。完了後、DMF溶媒を真空下で除去した。残渣を、ジクロロメタン中でメタノール勾配を増加させた(0-6%)シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。所望のCypH-11化合物を、緑色固体(0.051mg、28.5%)として取得した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.99 (d, J=14.1 Hz, 2H), 7.33-7.24 (m, 6H), 7.20-7.13 (m, 2H), 6.95 (d, J=9.1 Hz, 2H), 6.82 (d, J=9.1 Hz, 2H), 6.21 (d, J=14.1 Hz, 2H), 4.96-4.87 (m, 2H), 3.94-3.86 (m, 1H), 2.76 (t, J=6.0 Hz, 4H), 2.63 (s, 3H), 2.10-2.00 (m, 2H), 1.66 (d, J=7.0 Hz, 12H), 1.35 (s, 12H), 1.07 (d, J=6.6 Hz, 6H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 171.81, 165.23, 152.98, 146.18, 142.71, 141.85, 141.05, 128.22, 124.54, 123.07, 122.26, 116.84, 114.98, 112.76, 100.48, 50.97, 48.94, 48.75, 30.63, 28.19, 24.77, 21.22, 19.72, 18.83. ESI-HRMS: [C46H58N3O]+について: 予測m/z=668.4580 [M]+; 実測m/z=668.4557 [M]+; 3.4 ppm 誤差
【0115】
分光分析
CypH-11、CypH-1、及びCy7のストック溶液(DMSO中1mM)を、-30℃の冷凍庫で保存し、以下の実験に使用した。pKa測定のために、それぞれの化合物を20mMのリン酸緩衝溶液(PBS、pH2.0-11.0)で、2μMの最終濃度まで希釈した。蛍光強度(λex=725nm、及びλem=785nm)を、プレートリーダー(Tecan Infinite M1000 Pro)で測定し、蛍光イメージングシステム(Bruker In-vivo F Pro)で蛍光画像を記録した。量子収率測定のために、標準化合物としてインドシアニングリーン(ICG,Φ=1.2%, 水中)を用いた。PBS溶液中の各化合物(0.4、0.8、1.2、1.6、及び2.0μM)(pH=4.0及びpH=7.4)を、Cary 60 UV-Vis分光光度計及びCary Eclipse蛍光分光光度計(Agilent)を用いて測定した。蛍光-対-吸光度の傾きをICGと比較して、相対量子収率を算出した。
【0116】
細胞株及び培養
卵巣がんOVASAHO細胞株を、JCRB細胞バンク(Osaka, Japan)から購入し、OVSAHO/RFP-Luc細胞を、FLus-F2A-RFP-IRES-Puroレンチウイルス(Biosettia, San Diego, CA)で形質導入し、ピューロマイシンで選択し、SKOV3/GFP-Luc細胞を、Cell Biolabs(San Diego, CA)から購入した。OVASAHO及びOVASAHO/RFP-Luc細胞の両方を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地中で維持し(5%CO2下,37℃にて)、SKOV3/GFP-Luc細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したMcCoy’s 5A培地中で維持した(5%CO2下,37℃にて)。
【0117】
インビトロ蛍光顕微鏡法
OVASAHO細胞を使用して、CypH-11、CypH-1、及びCy7の細胞性能及び細胞分布を比較した。OVASAHO細胞(1.0×104)を、96ウェルのブラックプレート(Corning, NY)上に播種し、補充培地中で24時間インキュベートした。化合物(2μM)を添加し、細胞を1時間インキュベートした。PBS洗浄の前に、細胞蛍光画像を蛍光顕微鏡(Cy7フィルター、励起:690-730nm、発光:770-850nm)でキャプチャーした。PBS洗浄(3x)の後、細胞画像を再度キャプチャーした。共局在化実験のために、OVASAHO細胞(5.0×103)を、透明で平らな底部を有する96ウェルプレート(ibiTreat, 180μmカバースリップ, ibidi)で、インキュベートした。CypH-11(2μM)又はCypH-1(2μM)で1時間処理した後、細胞を培地で洗浄した(3x)。細胞をMitoview Green(Biotium, Parkway Fremont, CA)で15分間、又はLysoview 488(Biotium)で30分間染色し、細胞をさらにDAPI(Invitrogen)で染色した。培地で洗浄(3x)した後、細胞をDAPI(Invitrogen)でさらに10分間染色した。培地を新鮮な細胞培養培地で置換した後、蛍光顕微鏡(EVOS)を用いて蛍光画像をキャプチャーした。CypH-11及びCypH-1画像は、Cy7フィルター、DAPIフィルター(励起:352-402nm、発光:417-477nm)を用いるDAPIイメージ、GFPフィルター(励起:457-487nm、発光:502-538nm)を用いるMitoview Green & Lysoview 488イメージを用いて得た。
【0118】
細胞生存率
CypH-11及びCypH-1の細胞生存率を、Dojindo(Rockville, MD)の細胞計数キット-8(CCK-8)を用いて評価した。OVASAHO細胞(5.0×103)を、96ウェルプレートに播種し、24時間培養した。次いで、細胞をCypH-11(2μM)及びCypH-1(2μM)で1時間処理した。培地を新鮮な細胞培養培地に置換した後、細胞をさらに72時間インキュベートした。CCK-8溶液で3時間処理し、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を読み取ることによって、細胞生存率を調べた。
【0119】
皮下インプラント及び腹膜インプラントの腫瘍モデル
すべての動物処置は、Weil Cornell Medical Collegeの動物実験委員会の承認アニマルプロトコル及びガイドラインに従って実施した。マウス(雌、SCID Hairless Outbred Mouse)は、Charles River(Wilmington, MA)から購入した。皮下インプラントを確立するために、OVASAHO/RFP-Luc細胞(5.0×106)又はSKOV3/GFP-Luc細胞(5.0×106)の懸濁液(100μLのPBS中)を、雌ヌードマウスの各側腹部に接種した(両サイド)。2週間後、腫瘍インプラントは、5mm程度の大きさになり、スプレー実験のために使用された。腹膜インプラントを確立するために、200μLのPBS中に懸濁させたSKOV3/GFP-Luc細胞(5.0×106)を、メスヌードマウスの腹腔内に注入した。2週間後、インビボ生物発光イメージングシステムとそれに続くD-ルシフェリンカリウム溶液(200μL、15mg/mL)の腹膜注入を用いて(10分間)、腫瘍増殖を調べた。一般に、直径5mmの多発性播種腹膜インプラントを有するマウスを、実験に使用した。
【0120】
皮下腫瘍のインビボ蛍光イメージング
2つの皮下腫瘍モデル(OVASAHO/RFP-Luc、SKOV3/GFP-Luc)を用いて、CypH-11、CypH-1、及びCy7のイメージング能力を比較した。皮下インプラントを有するマウスを、誘導チャンバ内で2%イソフルランを使用して麻酔し、ノーズコーンを介して1.5~2.0%のイソフルランで麻酔を維持した。滅菌外科用ツールを使用して、腫瘍の周囲の皮膚を除去した。マウスの画像を、PerkinElmer(Waltham, MA)のIVIS SpectrumCT Systemを用いてキャプチャーした。OVASAHO/RFP-Lu及びSKOV3/GFP-Luc腫瘍を、それぞれRFPチャネル(励起:520-550nm、発光:570-590nm)及びGFPチャネル(励起:450-480nm、発光:510-530nm)下でキャプチャーした。Cy7チャネル(励起:730-760nm、発光:790-810nm)を適用して、CypH-11、CypH-1、及びCy7によって生成される蛍光を評価した。皮膚除去後、Cy7チャネル下の腫瘍領域及びバックグラウンド蛍光を最初に測定した。CypH-11、CypH-1、Cy7(各2μM)の溶液を、手術領域にスプレーし、各時点(1、3、5、7、10、15分)にて、Cy7チャネルの蛍光を連続的に測定した。10、5、及び3つのOASAHO腫瘍を使用して、CypH-11、CypH-1、及びCy7をそれぞれ評価した。6つのSKOV3腫瘍を用いてCypH-11を評価した。腫瘍-対-正常組織の比を評価するために、腫瘍領域全体及び隣接する開放皮膚領域を描画し、その蛍光強度をIVISソフトウェアによって取得した。腫瘍の平均蛍光強度を正常領域の平均蛍光強度で割ることにより、腫瘍-対-正常組織比の値を算出した。腫瘍を有するマウスは、二酸化炭素吸入又は高用量のイソフルラン(5%)によって安楽死させた。次いで、皮下腫瘍及び隣接する筋肉を抽出し、これらにCypH-11(2μM)をスプレーした。その後、GFP/RFP/Cy7チャネル下で画像をキャプチャーした。
【0121】
播種性腹膜腫瘍のインビボ蛍光イメージング
腹腔内の播種性微小転移を強調するCypH-11のイメージング能力をさらに評価するために、SKOV3/GFP-Luc腫瘍を移植し、マウス腹腔内で増殖及び播種させた(卵巣癌患者のそれと同様に)。腫瘍を有するマウスに、PBS中のCypH-11溶液(200μL、2μM)を腹腔内注射した。1時間後、マウスを誘導チャンバ内で2%イソフルランを使用して麻酔し、1.5%~2%のイソフルランを用いてノーズコーンを介して麻酔を維持した。滅菌外科ツールを使用して、腹部キャビティを開放した。GFPチャネル及びCy7チャネルの両方の下、キャビティ全体について蛍光画像をキャプチャーした。イメージング後、マウスを高用量のイソフルラン(5%)で安楽死させ、播種性腫瘍及び関心のある主要器官(すなわち、心臓、肝臓、肺、腎臓、脾臓、胃、及び腸)を採取した。採取した器官をガラスプレート上に置き、GFPチャネル及びCy7チャネルの両方下で撮像した。腹腔内の腫瘍小結節内及び隣接する正常領域内の関心領域(ROI[Regions of Interest]、n=6、及び平均面積=0.28±0.1cm2)を描き、腫瘍-対-正常組織比を算出した。
【0122】
組織学
スプレー及びi.p.注入による投与後の腫瘍におけるCypH-11分布に関する知識を得るために、腫瘍を切除し分析した。まず腫瘍を、20分間ドライアイス上で、最適切断温度(OCT)コンパウド(Tissue-Tek, Sakura Finetek, Torrance, CA)を用いて、モールド内に包埋した。冷凍した組織を、クリオトーム(cryotome)を用いて所望の厚さ(14μm)の切片とした。スライドは、さらなる使用まで-80℃で保存した。スライドを最初に蛍光顕微鏡(EVOS, Thermofisher Scientific, Waltham, MA)で撮像し、続いてヘマトキシリン及びエオシンY溶液(H&E)で染色し、光学顕微鏡の下でそれらの組織学的変化を評価した。
【0123】
統計的解析
細胞傷害性、蛍光比、及び組織学的分析を、対応の無いt検定にかけた。すべてのp値は、両側であり、p値<0.05は有意と考えられた。プロットされた値は、平均±標準偏差として表される。統計的解析は、GraphPad Prism(GraphPad Software Inc, San Diego, CA)を用いて実施した。
【0124】
本開示を、1つ以上の特定の実施形態及び/又は例を参照して説明してきたが、本開示の他の実施形態及び/又は例が、本開示の範囲から逸脱することなく作られ得ることが理解される。
【国際調査報告】