(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-05
(54)【発明の名称】事後修飾されたUSYゼオライトを含有する、希土類含有水素化分解触媒、水素化分解触媒を調製する方法、および水素化分解触媒で炭化水素油を水素化分解する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/89 20060101AFI20230829BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230829BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230829BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230829BHJP
C10G 47/16 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B01J29/89 M
B01J35/10 301A
B01J37/04 102
B01J37/08
C10G47/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023503173
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 US2020066520
(87)【国際公開番号】W WO2022025964
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301041531
【氏名又は名称】一般財団法人JCCP国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】コセオグル,オマール レファ
(72)【発明者】
【氏名】ホジキンズ,ロバート ピーター
(72)【発明者】
【氏名】渡部 光徳
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩司
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
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4H129NA21
4H129NA22
4H129NA23
4H129NA37
(57)【要約】
本開示の1つ以上の実施の形態にしたがって、触媒組成物は、触媒担体およびその触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この触媒担体は、チタンとジルコニウムで置換された骨格を有する少なくとも1種類のUSYゼオライトを含む。この骨格置換USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素を含む。そのような触媒を製造する方法および水素化分解プロセスにそのような触媒を使用する方法も開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒組成物において、
ジルコニウム原子およびチタン原子で置換された少なくとも1種類の骨格置換超安定Y型(USY)ゼオライトを含む触媒担体であって、該少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素を含む、触媒担体、および
前記触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分、
を含む触媒組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、酸化物基準で計算して、0.1質量%から5質量%のジルコニウムおよび0.1質量%から5質量%のチタンで置換されている、請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記希土類元素が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される、請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有する、請求項1から3いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記骨格置換USYゼオライトが、600m
2/gから900m
2/gの比表面積を有する、請求項1から4いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記触媒組成物が、200m
2/gから450m
2/gの比表面積を有する、請求項1から5いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記骨格置換USYゼオライトが、20から100のSiO
2対Al
2O
3のモル比を有する、請求項1から6いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記触媒組成物が、600Å以下の直径を有する複数の細孔を含み、該細孔は、0.4ml/gから0.75ml/gの体積を有する、請求項1から7いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の水素化成分が、前記触媒組成物の0.01質量%から40質量%を構成する、請求項1から8いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種類の水素化成分が、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金、クロム、モリブデン、タングステン、またはそれらの2つ以上の組合せを含む、請求項1から9いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項11】
触媒組成物を製造する方法であって、
500℃から700℃の温度を有する炉内で超安定Y型(USY)ゼオライトを加熱する工程、
ジルコニウム化合物およびチタン化合物を前記超安定Y型(USY)ゼオライトと混合して、骨格置換USYゼオライトを生成する工程、および
前記骨格置換USYゼオライトに希土類元素を取り込む工程、
を含む方法。
【請求項12】
前記混合する工程が、前記USYゼオライトを含有し、5から15の液/固質量比を有する懸濁液を形成し、無機酸または有機酸を加える工程を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液が、前記無機酸または前記有機酸を加えた後、2以下のpHを有する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記希土類元素が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される、請求項11から13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
炭化水素油を水素化分解する方法であって、
炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも1種類の水素化分解触媒組成物および水素と接触させる工程、
を含み、
前記水素化分解触媒組成物は、
ジルコニウム原子およびチタン原子で置換された少なくとも1種類の骨格置換超安定Y型(USY)ゼオライトを含む触媒担体であって、該骨格置換USYゼオライトは、、少なくとも1種類の希土類元素を含む、触媒担体、および
前記触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分、
を含む方法。
【請求項16】
前記反応器が、300℃から500℃の温度を有する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記炭化水素油が、375℃から833℃の沸点を有する、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記水素が、3.5MPaから35MPaの圧力で前記反応器に添加される、請求項15から17いずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記反応器が、500Nm
3/m
3から2500Nm
3/m
3の水素/油比を有する、請求項15から18いずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記反応器が、0.1毎時から10毎時の液空間速度を有する、請求項10から14いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その全ての開示がここに引用される、2020年7月28日に出願された米国特許出願第16/940711号に優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施の形態は、広く、炭化水素油の水素化分解に関し、より詳しくは、炭化水素油を水素化分解するための触媒組成物、そのような触媒組成物を製造する方法、およびそのような触媒組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の水素化分解ユニットにおいて370℃から520℃の範囲で沸騰し、残留物水素化分解ユニットにおいて520℃以上で沸騰する様々な炭化水素供給物を処理するために、数多くの石油精製所において、水素化分解プロセスが商業的に使用されている。一般に、水素化分解プロセスは、炭化水素供給物の分子を、平均揮発性および経済的価値がより高く、より小さい、すなわち、より軽い分子に分割する。それに加え、水素化分解プロセスは、典型的に、水素対炭素比を増加させ、有機硫黄化合物と有機窒素化合物を除去することによって、炭化水素原料の品質を改善する。水素化分解触媒が、水素化分解プロセス技術の重要な特徴である。
【0004】
水素化分解において2種類の触媒:前処理触媒と分解触媒が使用される。前処理触媒は、重質炭化水素油から、硫黄や窒素などの汚染物質を除去するように設計されている。分解触媒は、低付加価値の重分子を価値の高い輸送燃料に分割するように設計されている。分解触媒は、典型的に、水素化のための活性相金属、結合剤としての非晶質担体、および分解成分としてのゼオライトからなる。活性相金属としては、典型的に、ニッケル、モリブデン、およびタングステンが挙げられる。例示のゼオライトに、超安定Y型ゼオライト(USYゼオライト)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より効果的な水素化分解触媒組成物が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その上に少なくとも1種類の希土類元素が配置された、少なくとも1種類のチタンとジルコニウムで骨格置換された超安定Y型(以後、「USY」)ゼオライトを含む触媒組成物が、水素化分解プロセスの有効性を大幅に向上させる可能性があることが見出された。
【0007】
実施の形態によれば、触媒組成物は、少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトを含む触媒担体、およびこの触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この骨格置換USYゼオライトは、ジルコニウム原子およびチタン原子で置換されており、少なくとも1種類の希土類元素を含む。
【0008】
実施の形態によれば、触媒組成物を製造する方法は、500℃から700℃の温度を有する炉内で超安定Y型(USY)ゼオライトを加熱する工程、ジルコニウム化合物およびチタン化合物をこの超安定Y型(USY)ゼオライトと混合して、骨格置換USYゼオライトを生成する工程、およびこの骨格置換USYゼオライトに希土類元素を取り込む工程を含む。
【0009】
実施の形態によれば、炭化水素油を水素化分解する方法は、炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも1種類の水素化分解触媒組成物および水素と接触させる工程を含む。この触媒組成物は、少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトを含む触媒担体およびその触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この骨格置換USYゼオライトは、ジルコニウム原子およびチタン原子で置換されており、少なくとも1種類の希土類元素を含む。
【0010】
ここに記載された実施の形態の追加の特徴および利点が、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、またはその詳細な説明および以下に提供される特許請求の範囲を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態において、触媒組成物は、触媒担体およびその触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この触媒担体は、チタンとジルコニウムで置換された骨格を有する少なくとも1種類のUSYゼオライト(以後、「TiZr-USYゼオライト」)を含む。このTiZr-USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素を含む。これから、実施の形態をより詳しく説明する。
【0012】
ここに用いられているように、「炭化水素油」または「炭化水素原料」という用語は、ほとんどが炭化水素化合物の混合物からなる油性液体を称する。炭化水素油は、原油、合成原油、ビチューメン、オイルサンド、シェールオイル、または石油から得られる精製油を含むことがある。「精製油」という用語は、以下に限られないが、真空軽油(VGO)、溶剤脱歴プロセスから得られた脱アスファルト油(DAO)、脱金属油(DMO)、コーカープロセスから得られた軽質および/または重質コーカー軽油、流動接触分解(FCC)プロセスから得られた循環油、およびビスブレーキングプロセスから得られた軽油を含む。
【0013】
ここに用いられているように、「炭化水素」という用語は、完全に炭素原子と水素原子からなる化合物を称する。
【0014】
ここに用いられているように、「結晶格子定数」という用語は、結晶格子内の単位格子の物理的寸法を称する。結晶格子定数は、その全ての内容がここに引用される、「Standard Test Method for Determination of the Unit Cell Dimension of a Faujasite-Type Zeolite」と題するASTM D3942-03により決定することができる。
【0015】
ここに用いられているように、「比表面積」という用語は、単位質量当たりのゼオライトまたは触媒の全表面積を称する。比表面積は、その全ての内容がここに引用される、「Standard Test Method for Surface Area of Catalysts and Catalyst Carriers」と題するASTM D3663-03によって決定することができる。あるいは、比表面積は、ブルナウアー・エメット・テラー(「BET」)モデルを使用して決定してもよい。あるいは、比表面積は、その全ての内容がここに引用される、「Standard Test Method for Determining Micropore Volume and Zeolite Area of a Catalyst」と題するASTM D4365-19によって決定しても差し支えない。
【0016】
ここに用いられているように、「水素/油比」または「水素対油比」という用語は、供給物の体積に対する反応器を循環する水素の体積流量の標準的尺度を称する。水素/油比は、標準流量計を使用して、水素ガス流の流量と炭化水素供給物の流量を比較することによって、決定してもよい。
【0017】
ここに用いられているように、「液空間速度」または「LHSV」という用語は、触媒体積または質量に対する炭化水素供給物の液体流速の比を称する。
【0018】
ここに用いられているように、「触媒の活性」または「触媒活性」という用語は、触媒が存在することによる水素化分解プロセスの速度の上昇を称し、原料が50%が変換される温度で近似することができる。触媒活性がより高いと、そのような温度がより低くなる。
【0019】
1つの態様において、触媒組成物は、触媒担体および少なくとも1種類の水素化成分を含むことがある。実施の形態において、触媒組成物は、60質量%から99.99質量%の担体を含むことがある。例えば、触媒組成物は、65質量%から95質量%、60質量%から90質量%、65質量%から85質量%、またさらには70質量%から80質量%の担体を含むことがある。触媒組成物は、ここに記載されたそのような範囲の下限のいずれかから、ここに記載されたそのような範囲の上限のいずれかまでで形成された範囲の量で担体を含んでもよいことを理解すべきである。実施の形態において、触媒組成物は、0.01質量%から40質量%の水素化成分を含むことがある。例えば、触媒組成物は、1質量%から40質量%、5質量%から35質量%、10質量%から30質量%、またさらには15質量%から25質量%の水素化成分を含むことがある。触媒組成物は、ここに記載されたそのような範囲の下限のいずれかから、ここに記載されたそのような範囲の上限のいずれかまでで形成された範囲の量で水素化成分を含んでもよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、触媒組成物中の水素化成分の量が、担体の量に対して多すぎると、触媒上の水素化金属の分散が最適ではなくなると考えられる。例えば、触媒組成物が40質量%超の水素化成分を含む場合、水素化金属は、担体上で凝集するかもしれない。
【0020】
触媒担体は少なくとも1種類のUSYゼオライトを含むことがあり、このゼオライトは、チタンとジルコニウムで置換された骨格を有することがある。実施の形態において、触媒担体は、0.1質量%から90質量%のTiZr-USYゼオライトを含むことがある。例えば、触媒担体は、0.1質量%から85質量%、5質量%から80質量%、10質量%から75質量%、15質量%から70質量%、20質量%から65質量%、25質量%から60質量%、30質量%から55質量%、35質量%から50質量%、またさらには40質量%から45質量%のTiZr-USYゼオライトを含むことがある。触媒担体が、ここに記載されたそのような範囲の下限のいずれかから、ここに記載されたそのような範囲の上限のいずれかまでで形成される範囲内の量のTiZr-USYゼオライトを含んでよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、触媒担体中のゼオライトの量が90質量%を超えると、触媒をペレットの形態に加工することが難しくなるであろうと考えられる。
【0021】
実施の形態において、骨格置換は、ゼオライトに脱アルミニウムが行われ、続いて、Tiおよび/またはZrなどの遷移金属が挿入される、事後修飾プロセスによって行うことができる。その結果、チタンとジルコニウムで骨格置換されたゼオライトは、非置換ゼオライトと比べて、シリカ対アルミナ比(以後、「SAR」)が大きくなるであろう。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、この事後修飾によりメソ多孔性が生じ、これにより、ゼオライトに、細孔内により大きい分子を受け入れる能力が与えられると考えられる。また、この事後修飾過程は、中位強度の酸部位の数を増やし、一方で、強酸部位の数を減らして、触媒表面上の水素化金属の分散を向上させると考えられる。それに加え、どの特定の理論でも束縛する意図はないが、事後修飾は、触媒組成物の活性相金属の分散に役立つであろう。
【0022】
実施の形態において、USYゼオライトの事後修飾は、以下のプロセスによって行われることがある。ゼオライトを、固体ゼオライトに対する液体の質量比が5から15になるように、懸濁液に入れることができる。懸濁液が2未満のpHを有するように、懸濁液に無機酸または有機酸を添加することができる。この酸性懸濁液に少なくとも1種類のジルコニウム化合物および少なくとも1種類のチタン化合物を加え、次いで、混合し、中和して、事後修飾触媒を確保する。チタンとジルコニウムで置換されたUSYゼオライト骨格を調製する例示のプロセスが、その全ての内容がここに引用される、米国特許第10293332号明細書に記載されている。骨格置換は、例えば、紫外可視近赤外分光光度法(UV-Vis-NIRまたはUV-vis)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、または核磁気共鳴分光法(NMR)によって、モニタすることができる。
【0023】
実施の形態において、USYゼオライトは、両方の場合で酸化物基準で計算して、0.1質量%から5質量%のジルコニウムおよび0.1質量%から5質量%のチタンで独立して置換することができる。例えば、USYゼオライトは、0.5質量%から4.5質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から4.5質量%のチタン、0.5質量%から4質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から4質量%のチタン、0.5質量%から3.5質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から3.5質量%のチタン、0.5質量%から3質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から3質量%のチタン、0.5質量%から2.5質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から2.5質量%のチタン、0.5質量%から2質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から2質量%のチタン、0.5質量%から1.5質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から1.5質量%のチタン、0.5質量%から1質量%のジルコニウムおよび0.5質量%から1質量%のチタン、1質量%から4質量%のジルコニウムおよび1質量%から4質量%のチタン、1質量%から3.5質量%のジルコニウムおよび1質量%から3.5質量%のチタン、1質量%から3質量%のジルコニウムおよび1質量%から3質量%のチタン、1質量%から2.5質量%のジルコニウムおよび1質量%から2.5質量%のチタン、およびさらには1質量%から2質量%のジルコニウムおよび1質量%から2質量%のチタンで独立して置換することができる。ここに記載されたジルコニウム置換のどの量を、ここに記載されたチタン置換のどの量と共に使用しても差し支えないことを理解すべきである。さらに、ジルコニウムまたはチタンのいずれの置換の範囲も、ここに記載されたそのような置換の下限のいずれかと、ここに記載されたそのような置換の上限のいずれかにより形成されてもよいことを理解すべきである。
【0024】
どの特定の理論でも束縛する意図はないが、0.1質量%未満の量でジルコニウム化合物および/またはチタン化合物を添加しても、ゼオライトの固体酸特性を改善できないと考えられる。逆に、5質量%を超える量でジルコニウム化合物および/またはチタン化合物を添加しても、ゼオライトの活性はさらに改善されず、結果として得られる触媒の費用が余計に増加するであろう。
【0025】
実施の形態において、TiZr-USYゼオライトは、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有することがある。例えば、このTiZr-USYゼオライトの結晶格子定数は、2.43nmから2.449nm、2.43nmから2.448nm、2.43nmから2.447nm、2.43nmから2.446nm、2.43nmから2.445nm、2.431nmから2.45nm、2.432nmから2.45nm、2.433nmから2.45nm、2.434nmから2.45nm、またさらには2.435nmから2.45nmであることがある。TiZr-USYゼオライトの結晶格子定数は、ここに記載されたそのような結晶格子定数の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような結晶格子定数の上限のいずれか1つまでで形成された範囲にあってよいことを理解すべきである。
【0026】
どの特定の理論でも束縛する意図はないが、2.43nm未満のTiZr-USYゼオライトの結晶格子定数は、最終的に形成される水素化分解触媒の活性を低下させるであろうと考えられる。そのような低下は、ゼオライトの骨格構造における高いSiO2/Al2O3モル比および炭化水素を分解するための活性部位の機能を果たす固体酸部位の数が少ないことの結果であると考えられる。反対に、2.45nmを超えるTiZr-USYゼオライトの結晶格子定数は、TiZr-USYゼオライトの低い耐熱性のために、水素化分解反応中にTiZr-USYゼオライトの結晶構造を破壊することがある。TiZr-USYゼオライトの結晶構造が破壊されると、最終的に形成される水素化分解触媒組成物の活性が低下するであろう。
【0027】
実施の形態において、TiZr-USYゼオライトは、600m2/gから900m2/gの希土類添加後の比表面積を有することがある。例えば、TiZr-USYゼオライトの比表面積は、600m2/gから890m2/g、600m2/gから880m2/g、600m2/gから870m2/g、600m2/gから860m2/g、600m2/gから850m2/g、600m2/gから840m2/g、600m2/gから830m2/g、600m2/gから820m2/g、600m2/gから810m2/g、600m2/gから800m2/g、610m2/gから900m2/g、620m2/gから900m2/g、630m2/gから900m2/g、640m2/gから900m2/g、650m2/gから900m2/g、660m2/gから900m2/g、670m2/gから900m2/g、680m2/gから900m2/g、690m2/gから900m2/g、またさらには700m2/gから900m2/gであることがある。TiZr-USYゼオライトの比表面積は、ここに記載されたそのような比表面積の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような比表面積の上限のいずれか1つまでで形成された範囲内にあってよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、600m2/g未満のTiZr-USYゼオライトの比表面積は、利用できる固体酸部位の数が減少し、それによって、結果として得られる水素化分解触媒組成物の触媒活性が不十分なレベルまで低下するであろうと考えられる。
【0028】
実施の形態において、TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物は、200m2/gから450m2/gの比表面積を有することがある。例えば、TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物の比表面積は、210m2/gから450m2/g、220m2/gから450m2/g、230m2/gから450m2/g、240m2/gから450m2/g、250m2/gから450m2/g、200m2/gから440m2/g、200m2/gから430m2/g、200m2/gから420m2/g、200m2/gから410m2/g、またさらには200m2/gから400m2/gであることがある。TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物の比表面積は、ここに記載されたそのような比表面積の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような比表面積の上限のいずれか1つまでで形成された範囲内にあってよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、水素化分解速度は、比表面積が200m2/g未満である場合に低下し、中間蒸留物の収量が低下すると考えられる。しかしながら、比表面積が450m2/gを上回ると、水素化分解速度が速くなりすぎることがあり、生成物の選択性が望ましくないほど変わることがある。
【0029】
実施の形態において、TiZr-USYゼオライトは、20から100のSiO2対Al2O3のモル比を有することがある。例えば、TiZr-USYゼオライトは、20から99、20から98、20から97、20から96、20から95、20から94、20から93、20から92、20から91、20から90、20から89、20から88、20から87、20から86、20から85、20から84、20から83、20から82、20から81、20から80、21から100、22から100、23から100、24から100、またさらには25から100のSiO2対Al2O3のモル比を有することがある。TiZr-USYゼオライトのSiO2対Al2O3のモル比は、ここに記載されたそのような比の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような比の上限のいずれか1つまでで形成される範囲内にあってよいことを理解すべきである。
【0030】
どの特定の理論でも束縛する意図はないが、20未満のTiZr-USYゼオライトのシリカ-アルミナモル比は、高い酸強度を有する高酸部位を有することがあり、それゆえ、最終的に形成される水素化分解触媒の水素化および水素化分解における活性が低下する傾向があると考えられる。それに加え、より大きいアルミナ含有量は、TiZr-USYの低い安定性に関連付けられる。反対に、100を超えるTiZr-USYゼオライトのシリカ-アルミナモル比は、水素化分解に効果的な固体酸部位の数が少ないために、最終的に調製された水素化分解触媒の分解反応器内での水素化分解活性の低下をもたらすであろう。
【0031】
実施の形態において、TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物は、600Å以下の直径を有する複数の細孔を含むことがある。600Å以下の直径を有するこれらの細孔は、0.4ml/gから0.75ml/gの体積を有する。例えば、細孔体積は、0.4ml/gから0.74ml/g、0.4ml/gから0.73ml/g、0.4ml/gから0.72ml/g、0.4ml/gから0.71ml/g、0.4ml/gから0.7ml/g、0.4ml/gから0.69ml/g、0.4ml/gから0.68ml/g、0.4ml/gから0.67ml/g、0.4ml/gから0.66ml/g、0.4ml/gから0.65ml/g、0.41ml/gから0.75ml/g、0.42ml/gから0.75ml/g、0.43ml/gから0.75ml/g、0.44ml/gから0.75ml/g、0.45ml/gから0.75ml/g、0.46ml/gから0.75ml/g、0.47ml/gから0.75ml/g、0.48ml/gから0.75ml/g、0.49ml/gから0.75ml/g、またさらには0.5ml/gから0.75ml/gの範囲にあることがある。600Å以下の直径を有する、TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物の細孔の細孔体積は、ここに記載されたそのような細孔体積の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような細孔体積の上限のいずれか1つまでで形成される範囲内にあってよいことを理解すべきである。
【0032】
どの特定の理論でも束縛する意図はないが、細孔体積が0.40ml/g未満である場合、比表面積は減少すると考えられる。その結果、水素化分解触媒の活性と中間蒸留物の収量が減少する。反対に、細孔体積が0.75ml/gを超えると、比表面積は増加する。その結果、水素化分解速度と生成物の選択性が、不都合に変化することがある。
【0033】
TiZr-USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素(ここでは「希土類金属」とも称される)を含む。希土類金属は、ランタノイドの15元素に加え、スカンジウムとイットリウムを含む。このように、TiZr-USYゼオライトは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウムの内の1つ以上を含むことがある。実施の形態において、希土類元素は、ランタン、スカンジウム、イットリウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される。
【0034】
どの特定の理論でも束縛する意図はないが、希土類金属は、TiZr-USYゼオライトの酸部位と酸強度を増加させると考えられる。その結果、希土類添加TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物は、非希土類添加TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物に対して、水素化分解プロセス中に向上したナフサ選択性を示し、生成される灯油と軽油が少なくなる。さらに、希土類添加TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物は、希土類ドーパントを含まないTiZr-USYゼオライトを含む類似の触媒組成物の水素化分解活性と同程度の水素化分解活性を有する。
【0035】
実施の形態において、触媒組成物は、他の添加剤を含むことがある。例えば、この触媒組成物は、上述したゼオライトに加え、1種類以上の無機酸化物を含むことがある。この無機酸化物は、造粒剤または結合剤の機能を果たすことがある。例示の無機酸化物としては、以下に限られないが、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-チタニア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-ボリア、リン-アルミナ、シリカ-アルミナ-ボリア、リン-アルミナ-ボリア、リン-アルミナ-シリカ、シリカ-アルミナ-チタニア、およびシリカ-アルミナ-ジルコニアが挙げられる。
【0036】
実施の形態において、1種類以上の無機酸化物は、触媒担体の一成分であることがある。TiZr-USYゼオライトと無機酸化物の両方を有する実施の形態において、存在するTiZr-USYゼオライトは、担体の1質量%から90質量%、1質量%から85質量%、1質量%から80質量%、10質量%から75質量%、20質量%から70質量%、またさらには30質量%から60質量%を構成することがある。そのような実施の形態において、無機酸化物の含有量は、担体の99質量%から10質量%、99質量%から15質量%、99質量%から20質量%、90質量%から25質量%、80質量%から30質量%、またさらには70質量%から40質量%を占めることがある。TiZr-USYゼオライトは、ここに記載されたそのような濃度の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような濃度の上限のいずれか1つまでで形成される範囲内で存在してもよいことを理解すべきである。さらに、無機酸化物は、ここに記載されたそのような濃度の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような濃度の上限のいずれか1つまでで形成される範囲内で存在してもよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、触媒は、無機酸化物の含有量が10質量%を下回ると、十分な機械的強度を持たないであろうと考えられる。さらに、触媒は、ゼオライトの含有量が1質量%を下回ると、十分な分解能力を持たないであろうと考えられる。
【0037】
実施の形態において、水素化金属成分は、従来の水素化分解触媒に使用するための公知の金属成分を含むことがある。その例としては、以下に限られないが、周期表の長周期の8族の金属成分(鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金または金)および/または6族の金属成分(クロム、モリブデンまたはタングステン)が挙げられる。例えば、水素化金属成分は、白金族(白金、ロジウム、パラジウムなど)の金属成分、もしくは6族のモリブデンまたはタングステンと8族のコバルトまたはニッケルとの組合せを含むことがある。
【0038】
別の態様において、触媒組成物を製造する方法は、500℃から700℃の温度を有する炉内でUSYゼオライトを加熱する工程、2.0未満のpHでか焼したUSYゼオライトの懸濁液を製造する工程、ジルコニウム化合物およびチタン化合物をこのUSYゼオライトと混合する工程、得られた懸濁液を中和して、TiZr-USYゼオライトを生成する工程、およびこのTiZr-USYゼオライトに少なくとも1種類の希土類元素を加える工程を含む。得られた触媒組成物は、先に記載されたようなものである。
【0039】
TiZr-USYゼオライトを調製する詳細な方法が、その全ての内容がここに引用される、米国特許第10293332号明細書に与えられている。超安定Y型ゼオライトを最初に、30分から10時間に亘り、500℃から700℃、例えば、550℃から650℃でか焼する。超安定Y型ゼオライトのか焼温度が500℃より低いと、か焼が500℃から700℃で行われるプロセスと比べて、その後の工程で骨格置換処理を行うときに、取り込まれるジルコニウム原子およびチタン原子の量が少なくなる傾向にある。しかしながら、か焼温度が700℃を超えると、か焼が500℃から700℃で行われるプロセスと比べて、超安定Y型ゼオライトの比表面積が低下することがあり、その後の工程で骨格置換処理を行うときに、取り込まれるジルコニウム原子およびチタン原子の量が少なくなる傾向にある。か焼は、以下に限られないが、空気を含む様々な雰囲気内で行ってよい。
【0040】
次に、か焼した超安定Y型ゼオライトを、約20℃から約30℃の温度を有する水中に懸濁させて、懸濁液を形成することができる。この懸濁液の液/固質量比は、5から15の範囲にあることがある。例えば、液/固質量比は、8から12であることがある。
【0041】
次に、この懸濁液に無機酸または有機酸を加えて、酸性懸濁液を得ることができる。例示の酸としては、以下に限られないが、硫酸、硝酸、塩化水素酸、カルボン酸、およびそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。酸を使用して、懸濁液のpHを2未満、例えば、1から2に調節することが都合良いことがある。上記範囲のpHにより、下記にさらに述べられている骨格置換処理のために、ジルコニウム化合物の水溶液とチタン化合物の水溶液を懸濁液と混合する際に沈殿を防ぐことができることに気づいた。
【0042】
ジルコニウム化合物および/またはチタン化合物を含有する溶液を酸性懸濁液に加え、混合することができる。ジルコニウム化合物とチタン化合物の添加は、徐々に、例えば、滴下により行うことができる。混合は、3から5時間に亘り、室温で、すなわち、約25℃から約35℃で行うことができる。次に、塩基を加えることによって、混合溶液を7から7.5のpHに中和し、80℃から180℃で乾燥させ、以前はゼオライト骨格の一部であったアルミニウム原子を置換することによって、ジルコニウム原子とチタン原子がゼオライト骨格の一部を形成している、TiZr-USYゼオライトを得ることができる。例示の塩基としては、以下に限られないが、アンモニア水が挙げられる。
【0043】
実施の形態において、例示のジルコニウム化合物としては、以下に限られないが、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、およびそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。実施の形態において、添加されるジルコニウム化合物の量は、使用するUSYゼオライトの質量に対して酸化ジルコニウムの基準で0.1質量%から5質量%であることがある。例えば、0.2質量%から4質量%のジルコニウム化合物を添加してよい。0.1質量%未満の量のジルコニウム化合物を添加しても、所望のUSYゼオライトの特性を達成することができない。5質量%を超える量のジルコニウム化合物を添加すると、ゼオライトの細孔が詰まることがある。実施の形態において、水にジルコニウム化合物を溶かすことによって調製されたジルコニウム化合物の水溶液をジルコニウム化合物として使用することができる。
【0044】
実施の形態において、例示のチタン化合物としては、以下に限られないが、硫酸チタン、酢酸チタン、塩化チタン、硝酸チタン、乳酸チタン、およびそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。実施の形態において、添加されるチタン化合物の量は、使用するUSYゼオライトの質量に対して酸化チタンの基準で0.1質量%から5質量%であることがある。例えば、0.2質量%から4質量%のチタン化合物を添加してよい。0.1質量%未満の量のチタン化合物を添加しても、所望のUSYゼオライトの特性を達成することができない。5質量%を超える量のチタン化合物を添加すると、ゼオライトの細孔が詰まることがある。実施の形態において、水にチタン化合物を溶かすことによって調製されたチタン化合物の水溶液をチタン化合物として使用することができる。
【0045】
次に、上述したように調製されたTiZr-USYゼオライトに、水溶液中でのイオン交換を使用して、希土類塩を添加することができる。例示の希土類塩としては、以下に限られないが、希土類塩化物、希土類硝酸塩、および希土類酢酸塩などの+3の酸化状態にある希土類金属の塩;希土類硫酸塩などの+4の酸化状態にある希土類金属の塩;およびそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。希土類塩は、1質量%から10質量%の濃度で水溶液中に分散させることができる。例えば、水溶液中の希土類塩の濃度は、2質量%から9質量%、3質量%から8質量%、4質量%から7質量%、またさらには5質量%から6質量%に及ぶことがある。希土類塩が、ここに記載されたそのような濃度の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような濃度の上限のいずれか1つまでで形成される濃度範囲内で存在してよいことを理解すべきである。イオン交換は、10分から4時間の期間に亘り25℃から70℃で進行することができる。
【0046】
別の態様において、炭化水素油を水素化分解する方法は、炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で、少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも1種類の水素化分解触媒組成物および水素と接触させる工程を含む。水素化分解触媒は、上述したようなものであってよい。すなわち、水素化分解触媒は、触媒担体およびその触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化金属成分を含むことがある。この触媒担体は、少なくとも1種類の希土類元素を含む少なくとも1種類のTiZr-USYゼオライトを含むことがある。
【0047】
この反応器は、300℃から500℃の温度範囲内で作動することがある。例えば、反応器は、310℃から490℃、320℃から480℃、330℃から470℃、340℃から460℃、350℃から450℃、360℃から440℃、370℃から430℃、380℃から420℃、390℃から410℃、またさらには395℃から405℃の温度範囲内で作動することがある。反応器が、ここに記載されたそのような温度の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような温度の上限のいずれか1つまでで形成される温度範囲内で作動することがあることを理解すべきである。
【0048】
炭化水素油は、375℃から833℃の沸点を有することがある。例えば、炭化水素油は、400℃から800℃、450℃から750℃、500℃から700℃、550℃から650℃、またさらには575℃から625℃の沸点を有することがある。炭化水素油が、ここに記載されたそのような温度の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような温度の上限のいずれか1つまでで形成される温度範囲内の沸点を有してもよいことを理解すべきである。
【0049】
水素化分解プロセス中に飽和炭化水素を生成するために、水素が使用されることがある。水素は、3.5MPaから35MPaの圧力で反応器に添加されることがある。例えば、水素は、4MPaから34.5MPa、4.5MPaから34MPa、5MPaから33.5MPa、5.5MPaから33MPa、6MPaから32.5MPa、6.5MPaから32MPa、7MPaから31.5MPa、7.5MPaから31MPa、8MPaから30.5MPa、8.5MPaから30MPa、9MPaから29.5MPa、9.5MPaから29MPa、10MPaから28.5MPa、10.5MPaから28MPa、11MPaから27.5MPa、11.5MPaから27MPa、12MPaから26.5MPa、12.5MPaから26MPa、13MPaから25.5MPa、13.5MPaから25MPa、14MPaから24.5MPa、14.5MPaから24MPa、15MPaから23.5MPa、15.5MPaから23MPa、16MPaから22.5MPa、16.5MPaから22MPa、17MPaから21.5MPa、17.5MPaから21MPa、18MPaから20.5MPa、18.5MPaから20MPa、またさらには19MPaから19.5MPaの圧力で反応器に添加されることがある。水素が、ここに記載されたそのような圧力の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような圧力の上限のいずれか1つまでで形成される圧力の範囲内で反応器に添加されてもよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、プロセス性能は、それより低い水素圧力では著しく低下すると考えられる。反対に、高い水素圧力を使用するプロセスには、プロセスの費用を著しく増加させるであろう専用設備が必要になると考えられる。
【0050】
水素供給物および炭化水素油供給物は、反応器内の水素/油比が、500標準立方メートル(normal cubic meters)毎立方メートル(以後、「Nm3/m3」)から2500Nm3/m3であるように調製されることがある。ここで、標準立方メートルは、標準温度と圧力(15℃および0.1MPa)での立方メートルの体積と定義される。例えば、水素/油比は、550Nm3/m3から2450Nm3/m3、600Nm3/m3から2400Nm3/m3、650Nm3/m3から2350Nm3/m3、700Nm3/m3から2300Nm3/m3、750Nm3/m3から2250Nm3/m3、800Nm3/m3から2200Nm3/m3、850Nm3/m3から2150Nm3/m3、900Nm3/m3から2100Nm3/m3、950Nm3/m3から2050Nm3/m3、1000Nm3/m3から2000Nm3/m3、1050Nm3/m3から1950Nm3/m3、1100Nm3/m3から1900Nm3/m3、1150Nm3/m3から1850Nm3/m3、1200Nm3/m3から1800Nm3/m3、1250Nm3/m3から1750Nm3/m3、1300Nm3/m3から1700Nm3/m3、1250Nm3/m3から1650Nm3/m3、1300Nm3/m3から1500Nm3/m3、またさらには1350Nm3/m3から1450Nm3/m3であることがある。水素/油比が、ここに記載されたそのような比の下限のいずれか1つから、ここに記載されたそのような比の上限のいずれか1つまでで形成される比の範囲内にあってもよいことを理解すべきである。どの特定の理論でも束縛する意図はないが、プロセス性能は、それより低い水素/油比では著しく低下すると考えられる。反対に、高い水素/油比を使用するプロセスには、プロセスの費用を著しく増加させ、システム内のガスホールドアップを増加させ、それによって、プロセス性能を低下させるであろう専用設備が必要になると考えられる。
【0051】
反応器内の炭化水素供給物の液空間速度(以後、「LHSV」)は、0.1毎時から10毎時であることがある。例えば、液空間速度は、0.5毎時から9.5毎時、1毎時から9毎時、1.5毎時から8.5毎時、2毎時から8毎時、2.5毎時から7.5毎時、3毎時から7毎時、3.5毎時から6.5毎時、4毎時から6毎時、またさらには4.5毎時から5.5毎時であることがある。LHSVが、ここに記載されたLHSVの下限のいずれか1つから、ここに記載されたLHSVの上限のいずれか1つまでで形成される範囲内にあってよいことを理解すべきである。
【0052】
先に述べたように、水素化分解する方法は、1つ以上の反応器内で行われることがある。フロー式反応器がこのプロセスによく適しているが、ここに記載された主題はそのように限定されるものではない。例示のフロー式反応器としては、以下に限られないが、撹拌槽型反応器、沸騰床反応器、バッフル付きスラリー槽(baffled slurry tank)、固定床反応器、回転式管型反応器、スラリー床反応器、移動床反応器、およびこれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0053】
ある態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、触媒組成物は、少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトを含む触媒担体、およびこの触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この骨格置換USYゼオライトは、ジルコニウム原子およびチタン原子で置換されており、少なくとも1種類の希土類元素を含む。
【0054】
第2の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトは、酸化物基準で計算して、0.1質量%から5質量%のジルコニウム原子および0.1質量%から5質量%のチタンで置換されている。
【0055】
第3の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、希土類元素は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される。
【0056】
第4の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、骨格置換USYゼオライトは、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有する。
【0057】
第5の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、骨格置換USYゼオライトは、600m2/gから900m2/gの比表面積を有する。
【0058】
第6の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、触媒組成物は、200m2/gから450m2/gの比表面積を有する。
【0059】
第7の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、骨格置換USYゼオライトは、20から100のSiO2対Al2O3のモル比を有する。
【0060】
第8の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、触媒組成物は、600Å以下の直径を有する複数の細孔を含み、その細孔は、0.4ml/gから0.75ml/gの体積を有する。
【0061】
第9の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、少なくとも1種類の水素化成分は、触媒組成物の0.01質量%から40質量%を構成する。
【0062】
第10の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、少なくとも1種類の水素化成分は、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金、クロム、モリブデン、タングステン、またはそれらの2つ以上の組合せを含む。
【0063】
第11の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、触媒組成物を製造する方法は、500℃から700℃の温度を有する炉内で超安定Y型(USY)ゼオライトを加熱する工程、ジルコニウム化合物およびチタン化合物をこの超安定Y型(USY)ゼオライトと混合して、骨格置換USYゼオライトを生成する工程、およびこの骨格置換USYゼオライトに希土類元素を取り込む工程を含む。
【0064】
第12の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、USYゼオライトは、この方法において、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有する。
【0065】
第13の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、骨格置換USYゼオライトは、この方法において、600m2/gから900m2/gの比表面積を有する。
【0066】
第14の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、骨格置換USYゼオライトは、この方法において、20から100のSiO2対Al2O3のモル比を有する。
【0067】
第15の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、混合する工程は、USYゼオライトを含有し、5から15の液/固質量比を有する懸濁液を形成し、無機酸または有機酸を加える工程を含む。
【0068】
第16の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、懸濁液は、この方法において、無機酸または有機酸を加えた後、2以下のpHを有する。
【0069】
第17の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、希土類元素は、この方法において、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される。
【0070】
第18の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、少なくとも1種類の水素化成分は、この方法において、少なくとも1種類の水素化成分が触媒組成物の0.01質量%から40質量%を構成するように加えられる。
【0071】
第19の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、この方法は、結合剤を、希土類元素を有する骨格置換USYゼオライトと混合する工程をさらに含み、この結合剤は、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-チタニア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-ボリア、リン-アルミナ、シリカ-アルミナ-ボリア、リン-アルミナ-ボリア、リン-アルミナ-シリカ、シリカ-アルミナ-チタニア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される。
【0072】
第20の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、炭化水素油を水素化分解する方法は、炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも1種類の水素化分解触媒組成物および水素と接触させる工程を含む。この触媒組成物は、少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトを含む触媒担体およびその触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分を含む。この骨格置換USYゼオライトは、ジルコニウム原子およびチタン原子で置換されており、少なくとも1種類の希土類元素を含む。
【0073】
第21の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、反応器は、300℃から500℃の温度を有する。
【0074】
第22の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、炭化水素油は、375℃から833℃の沸点を有する。
【0075】
第23の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、水素は、3.5MPaから35MPaの圧力で反応器に添加される。
【0076】
第24の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、反応器は、500Nm3/m3から2500Nm3/m3の水素/油比を有する。
【0077】
第25の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、反応器は、0.1毎時から10毎時の液空間速度を有する。
【0078】
第26の態様によれば、単独または任意の他の態様との組合せのいずれかで、反応器は、撹拌槽型反応器、沸騰床反応器、バッフル付きスラリー槽、固定床反応器、移動床反応器、回転式管型反応器、スラリー床反応器、およびこれらの2つ以上の組合せからなる群より選択されるフロー式反応器を含む。
【実施例】
【0079】
上述した実施の形態を使用して、例示の触媒組成物を、以下のように、調製し、特徴付けた。
【0080】
TiZr-USYの合成
TiZr-USYゼオライトを、その全ての内容がここに引用される、米国特許第10293332号明細書に記載されているように調製した。
【0081】
Y型ゼオライト(Na-Y)に、従来の方法によってナトリウムイオンのアンモニウムイオンによる交換を行う。1つの例示の方法において、Y型ゼオライトを水中に分散させて、懸濁液を調製し、これに硫酸アンモニウムを加える。次に、固体物質を水で洗浄し、続いて、40℃から80℃の温度の硫酸アンモニウム水溶液で洗浄する。次に、固体を40℃から95℃の水でさらに洗浄し、30分間に亘り100℃から180℃で乾燥させ、このようにして、Y型ゼオライト中に含まれるナトリウムの50%から70%がNH4と置換されたアンモニウム交換Y型ゼオライトを生成する。
【0082】
続いて、飽和蒸気雰囲気内で10分から10時間に亘り500℃から800℃で上記アンモニウム交換Y型ゼオライトをか焼することによって、水素型Y型ゼオライト(HY)を調製する。次に、先に得られた水素型Y型ゼオライトを40℃から95℃の水に分散させて、懸濁液を調製し、これに、硫酸アンモニウムを加えることによって、初期Y型ゼオライト(Na-Y)中に含まれたナトリウムの80%から97%がNH4でイオン交換されたアンモニウム交換Y型ゼオライトを得ることができる。この懸濁液を、10分から3時間に亘り40℃から95℃で撹拌する。次に、固体物質を40℃から95℃の水で洗浄し、その後、40℃から95℃の硫酸アンモニウム水溶液で洗浄する。次に、この固体を40℃から80℃の水でさらに洗浄し、30分から30時間に亘り100℃から180℃で乾燥させる。この点に関して、最終的なアンモニウムイオン交換率は、少なくとも90%である。
【0083】
このようにして得られたアンモニウム交換Y型ゼオライトを、例えば、飽和蒸気雰囲気内で10分から10時間に亘り500℃から700℃でか焼して、超安定Y型ゼオライトを提供する。
【0084】
次に、アンモニウム交換Y型ゼオライトに、骨格外(extra-skeletal)アルミニウム(ゼオライト骨格を形成していないアルミニウム原子)を除去するための処理を施す。骨格外アルミニウムは、例えば、上述した超安定Y型ゼオライトを40℃から95℃の温水中に分散させて、懸濁液を調製し、この懸濁液に硫酸を加え、温度を40℃から95℃に維持しつつ、10分から3時間に亘り懸濁液を撹拌し、それによって、骨格外アルミニウムを溶かすことによって、除去することができる。骨格外アルミニウムを溶かした後、懸濁液を濾過し、フィルタ残留物を40℃から95℃の精製水で洗浄し、3から30時間に亘り、100℃から180℃で乾燥させる。このようにして、骨格外アルミニウムが除去された超安定Y型ゼオライトが得られる。
【0085】
骨格外アルミニウムが除去された超安定Y型ゼオライトを30分から10時間に亘り500℃から700℃でか焼する。か焼した超安定Y型ゼオライトを、約20℃から約30℃の温度を有する水中に懸濁させて、5から15の範囲の液/固質量比を有する懸濁液を形成する。次に、懸濁液のpHが2未満となるように、無機酸または有機酸を加え、続いて、ジルコニウム化合物およびチタン化合物を含有する溶液を徐々に加え、混合する。次に、混合溶液を中和し(pH7.0から7.5)、80℃から180℃で乾燥させ、このようにして、TiZr-USYゼオライトを提供する。
【0086】
希土類添加TiZr-USYゼオライトの合成
上記のように調製したTiZr-USYゼオライトにイオン交換条件を施す。TiZr-USYゼオライトを、1質量%から10質量%の塩化ランタンの水溶液(La2O3に基づいて計算)に加える。次に、この混合物を10分から4時間に亘り50℃から70℃に加熱する。次に、イオン交換したUSYゼオライトを50℃から70℃の温水で洗浄し、30分から30時間に亘り100℃から180℃で乾燥させ、このようにして、希土類添加TiZr-USYゼオライトを提供する。
【0087】
希土類添加TiZr-USYゼオライトおよび非添加TiZr-USYゼオライトを分析して、それらの比表面積(SA)、シリカ対アルミナ比(SAR)、および相対的結晶化度、並びに存在するTiO2、ZrO2、およびLa2O3の濃度を決定した。SAは、上述したように決定することができる。定量的組成分析は、X線蛍光分光法(XRF)により決定し、そのXRFデータから、モル基準で、SARを導いた。相対的結晶化度は、試料(ゼオライト)のX線回折ピークから計算した。X線回折により測定したTiZr-USYゼオライトの(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、および(555)面からのピークの全高(H)を決定する。市販のYゼオライト(Union Carbide Corporation製のSK-40)の同じ面からのピークの全高(H0)を基準として決定する。結晶化度は、以下の式(1):
結晶化度(%)=(H/H0)×100
を使用して決定する。これらの分析の結果が表1に示されている。
【0088】
【0089】
触媒組成物の配合
30質量%の希土類添加TiZr-USYゼオライト、および70質量%のアルミナのみの結合剤を使用して、触媒組成物1を配合した。希土類ドーパントを含まない30質量%のTiZr-USYゼオライトおよび70質量%のアルミナのみの結合剤を使用して、触媒組成物2を配合した。この組み合わされたTiZr-USYゼオライトと結合剤を、「担体」と称する。触媒組成物の成分の濃度を規定する目的のために、触媒組成物1と触媒組成物2の両方について、ニッケルとモリブデンを含む水素化成分は、担体の成分として計算した。この水素化成分は、最終的な触媒組成物(触媒+金属)に関する濃度を与えるために、担体濃度に加えられている。例えば、100kgの担体および32kgの水素化成分を含有する触媒組成物は、全触媒組成物の24質量%で水素化成分を有することになるであろう。
【0090】
表2には、触媒組成物1と触媒組成物2の組成分析が与えられている。比表面積および細孔体積は、以下のように決定した。吸着測定装置(例えば、Quantachrome Instruments Corp.により製造されている全自動気体吸着装置「AUTOSORB-1」)を使用して、0.02から0.05gの試料(ゼオライトまたは触媒組成物)に5時間に亘り室温で脱気処理を行った。液体窒素温度下で吸脱着等温曲線を測定して、多点法のBET方程式を使用して、質量当たりの比表面積を計算した。さらに、BJH法により、窒素吸着等温曲線から細孔分布および細孔体積(孔径:600Å以下)を計算した。圧縮嵩密度を以下のように決定してもよい。試料を1時間に亘り500℃で予めか焼した。次に、試料をデシケーター内で冷却した。体積シリンダーに100gの乾燥試料を装填し、これを軽く叩いて詰めた。試料の体積から、圧縮嵩密度を、その体積で除算された試料の質量として計算した。
【0091】
【0092】
パイロットプラント水素化分解プロセス
真空軽油(VGO)供給物に関する水素化分解プロセスに、触媒組成物1と触媒組成物2の両方を使用した。VGOは、0.923g/cm3の密度、2.51質量%の硫黄含有量、および960ppmの窒素含有量を有していた。ナフサ分画は、C5カットポイントからの分画、すなわち、約32℃から145℃までの分画であると考えた。灯油分画は、145℃から260℃の分画であると考えた。軽油分画は、260℃から360℃の分画であると考えた。中間蒸留物分画は、145℃から360℃の分画であると考えた。未変換の底部分画は、360℃を上回る任意の分画であると考えた。
【0093】
水素化分解プロセスについて、パイロットプラントに100mlの市販の前処理触媒を装填し、続いて、100mlの触媒組成物1または触媒組成物2のいずれかを装填した。パイロットプラントに、水素を0.5毎時のLHSVおよび1000Nm3/m3の水素/油比で、13.5MPaの分圧で加えた。反応を、昇温の間に冷却を行わずに、連続して、360℃、375℃、390℃、および405℃で行った。
【0094】
表3には、50質量%の変換が観察された温度で表された、触媒組成物1および触媒組成物2の触媒活性の尺度が与えられている。また、表3には、各触媒組成物を使用して得られた様々な蒸留物の質量%も与えられている。
【0095】
【0096】
これらの結果は、全ての他の変数がかなり似ている場合、希土類ドーパントを含んだ触媒組成物1が、非添加TiZr-USYゼオライトを含む触媒組成物2が、50%の変換を達成した温度よりわずかに(0.1℃)低い温度で50%の変換を達成したことを示している。それに加え、希土類金属を添加した触媒組成物1は、意外なことに、中間蒸留物、特に灯油を消費して、同じ量のC1~C4ガスおよび著しく(1.5質量%)多いナフサを生じた。
【0097】
本開示の構成要素が、特定の方法で、特定の性質を具現化するために、または特定の方法で機能するために、「動作可能」または「十分」であるという本開示における記述は、目的の使途の記述とは対照的に、構造的記述であることに留意されたい。より具体的には、構成要素が「動作可能」または「十分」である方法に関する本開示の言及は、構成要素の既存の物理的状態を示し、それゆえ、構成要素の構造的特徴の明確な記述として解釈されるべきである。
【0098】
本開示の主題を詳細に、特定の実施の形態を参照して説明してきたが、本開示に開示された様々な詳細は、これらの詳細は、本開示に記載された様々な実施の形態の必須の構成要素である要素に関連することを暗示するものと解釈されるべきではないことに留意されたい。さらに、以下に限られないが、付随の特許請求の範囲に定義された実施の形態を含む本発明の範囲から逸脱せずに、改変および変更が可能であることが明らかであろう。
【0099】
名詞は、特に明記のない限り、複数の対象を含む。
【0100】
本開示を通じて、範囲が提供されている。範囲によって包含される各離散値もまた、包含されることが想定される。さらに、明白に開示された範囲に包含される各離散値によって形成され得る範囲も、同様に想定される。
【0101】
本開示および添付の特許請求の範囲で使用されるように、「構成する」、「有する」および「含む」という用語、並びにそれらの全ての文法的変形の各々は、追加の要素または工程を除外しない、開放的で非限定的な意味を有する意図がある。
【0102】
本開示で使用されるように、「第1」および「第2」などの用語は、任意に割り当てられ、単に2つ以上の場合または構成要素を区別することを意図している。「第1」および「第2」という単語は、他の目的を果たさず、構成要素の名称や説明の一部ではなく、また、構成要素の相対的な場所、位置、または順序を必ずしも定義するものではないことを理解すべきである。さらに、「第1」および「第2」という用語の単なる使用は、任意の「第3」の構成要素が存在することを必要としないが、その可能性は本開示の範囲内で考えられることを理解すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0102
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0102】
本開示で使用されるように、「第1」および「第2」などの用語は、任意に割り当てられ、単に2つ以上の場合または構成要素を区別することを意図している。「第1」および「第2」という単語は、他の目的を果たさず、構成要素の名称や説明の一部ではなく、また、構成要素の相対的な場所、位置、または順序を必ずしも定義するものではないことを理解すべきである。さらに、「第1」および「第2」という用語の単なる使用は、任意の「第3」の構成要素が存在することを必要としないが、その可能性は本開示の範囲内で考えられることを理解すべきである。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
触媒組成物において、
ジルコニウム原子およびチタン原子で置換された少なくとも1種類の骨格置換超安定Y型(USY)ゼオライトを含む触媒担体であって、該少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素を含む、触媒担体、および
前記触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分、
を含む触媒組成物。
実施形態2
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、酸化物基準で計算して、0.1質量%から5質量%のジルコニウムおよび0.1質量%から5質量%のチタンで置換されている、実施形態1に記載の触媒組成物。
実施形態3
前記希土類元素が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される、実施形態1または2に記載の触媒組成物。
実施形態4
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有する、実施形態1から3いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態5
前記骨格置換USYゼオライトが、600m
2
/gから900m
2
/gの比表面積を有する、実施形態1から4いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態6
前記触媒組成物が、200m
2
/gから450m
2
/gの比表面積を有する、実施形態1から5いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態7
前記骨格置換USYゼオライトが、20から100のSiO
2
対Al
2
O
3
のモル比を有する、実施形態1から6いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態8
前記触媒組成物が、600Å以下の直径を有する複数の細孔を含み、該細孔は、0.4ml/gから0.75ml/gの体積を有する、実施形態1から7いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態9
前記少なくとも1種類の水素化成分が、前記触媒組成物の0.01質量%から40質量%を構成する、実施形態1から8いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態10
前記少なくとも1種類の水素化成分が、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金、クロム、モリブデン、タングステン、またはそれらの2つ以上の組合せを含む、実施形態1から9いずれか1つに記載の触媒組成物。
実施形態11
触媒組成物を製造する方法であって、
500℃から700℃の温度を有する炉内で超安定Y型(USY)ゼオライトを加熱する工程、
ジルコニウム化合物およびチタン化合物を前記超安定Y型(USY)ゼオライトと混合して、骨格置換USYゼオライトを生成する工程、および
前記骨格置換USYゼオライトに希土類元素を取り込む工程、
を含む方法。
実施形態12
前記混合する工程が、前記USYゼオライトを含有し、5から15の液/固質量比を有する懸濁液を形成し、無機酸または有機酸を加える工程を含む、実施形態11に記載の方法。
実施形態13
前記懸濁液が、前記無機酸または前記有機酸を加えた後、2以下のpHを有する、実施形態12に記載の方法。
実施形態14
前記希土類元素が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される、実施形態11から13いずれか1つに記載の方法。
実施形態15
炭化水素油を水素化分解する方法であって、
炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも1種類の水素化分解触媒組成物および水素と接触させる工程、
を含み、
前記水素化分解触媒組成物は、
ジルコニウム原子およびチタン原子で置換された少なくとも1種類の骨格置換超安定Y型(USY)ゼオライトを含む触媒担体であって、該骨格置換USYゼオライトは、、少なくとも1種類の希土類元素を含む、触媒担体、および
前記触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分、
を含む方法。
実施形態16
前記反応器が、300℃から500℃の温度を有する、実施形態15に記載の方法。
実施形態17
前記炭化水素油が、375℃から833℃の沸点を有する、実施形態15または16に記載の方法。
実施形態18
前記水素が、3.5MPaから35MPaの圧力で前記反応器に添加される、実施形態15から17いずれか1つに記載の方法。
実施形態19
前記反応器が、500Nm
3
/m
3
から2500Nm
3
/m
3
の水素/油比を有する、実施形態15から18いずれか1つに記載の方法。
実施形態20
前記反応器が、0.1毎時から10毎時の液空間速度を有する、実施形態10から14いずれか1つに記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒組成物において、
ジルコニウム原子およびチタン原子で置換された少なくとも1種類の骨格置換超安定Y型(USY)ゼオライトを含む触媒担体であって、該少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトは、少なくとも1種類の希土類元素を含む、触媒担体、および
前記触媒担体上に配置された少なくとも1種類の水素化成分、
を含む触媒組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、酸化物基準で計算して、0.1質量%から5質量%のジルコニウムおよび0.1質量%から5質量%のチタンで置換されている、請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記希土類元素が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群より選択される、請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の骨格置換USYゼオライトが、2.43nmから2.45nmの結晶格子定数を有する、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記骨格置換USYゼオライトが、600m
2/gから900m
2/gの比表面積を有する、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記触媒組成物が、200m
2/gから450m
2/gの比表面積を有する、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記骨格置換USYゼオライトが、20から100のSiO
2対Al
2O
3のモル比を有する、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記触媒組成物が、600Å以下の直径を有する複数の細孔を含み、該細孔は、0.4ml/gから0.75ml/gの体積を有する、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の水素化成分が、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金、クロム、モリブデン、タングステン、またはそれらの2つ以上の組合せを含む、
請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項10】
請求項1記載の触媒組成物を製造する方法であって、
500℃から700℃の温度を有する炉内で超安定Y型(USY)ゼオライトを加熱する工程、
ジルコニウム化合物およびチタン化合物を前記超安定Y型(USY)ゼオライトと混合して、骨格置換USYゼオライトを生成する工程
、
前記骨格置換USYゼオライトに
添加用希土類元素を取り込
んで、希土類添加骨格置換USYゼオライトを提供する工程、
および
前記希土類添加骨格置換USYゼオライトおよび少なくとも1種類の水素化成分を組み合わせて、前記触媒組成物を提供する工程、
を含む方法。
【請求項11】
前記混合する工程が、前記USYゼオライトを含有し、5から15の液/固質量比を有する懸濁液を形成し、無機酸または有機酸を加える工程を含む、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
炭化水素油を水素化分解する方法であって、
炭化水素油流を水素化分解するために、反応器内で少なくとも1種類の炭化水素油流を少なくとも
請求項1記載の触媒組成物および水素と接触させる工程、
を
含む方法。
【請求項13】
前記反応器が、300℃から500℃の温度を有する、
請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記炭化水素油が、375℃から833℃の沸点を有する、
請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
前記反応器が、500Nm
3/m
3から2500Nm
3/m
3の水素/油比を有する、
請求項12または13記載の方法。
【国際調査報告】