IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セキュリティ マターズ リミテッドの特許一覧

特表2023-537708サプライチェーンプロセスにおける皮革の追跡
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-05
(54)【発明の名称】サプライチェーンプロセスにおける皮革の追跡
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20230829BHJP
   C14B 1/00 20060101ALI20230829BHJP
   C14B 17/00 20060101ALI20230829BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N23/223
C14B1/00
C14B17/00
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507427
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 IL2021050939
(87)【国際公開番号】W WO2022029770
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/060,346
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/069,427
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274043
【氏名又は名称】セキュリティ マターズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SECURITY MATTERS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】バレケット,イファット
(72)【発明者】
【氏名】ファーステンバーグ,ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】シャーデー,ハギット
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ゼレン
(72)【発明者】
【氏名】ナホム,テヒラ
(72)【発明者】
【氏名】タル,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】カプリンスキー,モル
(72)【発明者】
【氏名】ギャスパー,ダナ
(72)【発明者】
【氏名】アロン,ハッガイ
(72)【発明者】
【氏名】ダフニ,ロン
(72)【発明者】
【氏名】ナヒミアス,チェン
(72)【発明者】
【氏名】トラットマン,アヴィタル
(72)【発明者】
【氏名】チュチャエフ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヨラン,ナダフ
(72)【発明者】
【氏名】ブルク ザルツマン,ミハエル
【テーマコード(参考)】
2G001
4F056
5L049
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA02
2G001BA04
2G001CA01
2G001KA20
2G001LA05
2G001MA05
2G001NA11
2G001NA17
2G001NA18
2G001PA03
2G001RA06
4F056AA01
4F056DD02
4F056DD37
4F056DD40
5L049CC04
(57)【要約】
XRF識別可能マーカーを用いて皮から製造された皮革をマーキングする方法であって、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む製剤で皮または処理済み皮革を処理して、前記マーカーを前記皮または処理済み皮革に埋め込み、それによって、マーキングされた皮またはマーキングされた皮革を得る工程を含み、XRF識別可能マーカーは、皮または皮革に対する天然材料ではないか、またはその製造のためのプロセスに関与しない、方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRF識別可能マーカーを用いて皮から製造された皮革をマーキングする方法であって、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む製剤で皮または処理済み皮革を処理して、前記マーカーを前記皮または処理済み皮革に埋め込み、それによって、マーキングされた皮またはマーキングされた皮革を得る工程を含み、前記XRF識別可能マーカーは、皮または皮革に対する天然材料ではないか、またはその製造のためのプロセスに関与しないことを特徴とする、方法。
【請求項2】
皮革またはそれから作製される製品の生産および/または商業的履歴を識別する方法であって、前記皮革または製品が、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーでマーキングされ、前記方法は、X線またはガンマ線放射を前記皮革またはそれから作製される製品に向ける工程、および、それに応答して前記マーカーから放出される応答X線信号を検出する工程を含み、前記応答信号は、前記マーカーの存在、濃度または相対濃度を示し、それによって、前記皮革またはそれから作製される製品の生産または商業的履歴上に前記マーカーによってコード化された情報を提供することを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのXRF識別可能マーカーが、前記処理済みの皮または皮革に関する特定の特性または情報を識別するように選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記皮または処理済み皮革が、異なるマーカー製剤で複数回処理され、前記マーカー製剤の各々は、異なる特性または情報を識別する潜在的なマーキングを提供することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潜在的なマーキングが、皮または皮革の原産地、屠殺場、処理施設、処理の日付、処理プロトコル、皮革のタイプ、皮革の品質、動物のタイプ、なめしの日付、なめし工場、皮の供給者、動作情報およびマーケティング情報のいずれか1つまたは複数を識別することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生産および/または商業的履歴が、皮または皮革の原産地、屠殺場、処理施設、処理の日付、処理プロトコル、皮革のタイプ、皮革の品質、動物のタイプ、なめしの日付、なめし工場、皮の供給者、動作情報およびマーケティング情報を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカー製剤が、なめし前の皮革製造の準備段階において製造中に皮に適用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記マーカー製剤が、なめし中に皮に適用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マーキングが、染色中および/または仕上げプロセス中に皮に適用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マーカー製剤が、皮を塩処理する前またはその間に、または塩処理プロセスの後に、屠殺場において皮に適用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記処理が、前記マーカー製剤による連続洗浄または噴霧、または水性マーカー製剤または溶液への浸漬を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記皮または処理済み皮革のプレソーキングを含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記皮または処理済み皮革の処理が、超音波浴中で行われることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マーカー製剤が、処理剤および中間体または架橋剤を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記処理剤が、界面活性剤、触媒および酵素から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記中間体または架橋剤が、前記マーカーを前記皮または処理済み皮革の領域、材料または原子に化学的に会合させるように選択されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記中間体または架橋剤が、皮中のコラーゲンを構成するアミノ酸中の活性残基および前記XRF識別可能マーカーと会合することができる少なくとも2つの官能基を含む二官能性分子であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記中間体または架橋剤が、アルデヒド含有分子、スルフィド含有分子、メルカプタン含有分子、エポキシド含有分子、イミン含有分子、イミド含有分子、キトサン、リグニン、グルタルアルデヒドまたはEDTAであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
2つ以上のマーキングセッションを含み、各セッションが、同じまたは異なるXRF識別可能マーカーを含むマーカー製剤で皮または皮革を処理する工程を含むことを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
各セッションが、同じXRF識別可能マーカーを含むマーカー製剤による処理を含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
各セッションが、同じまたは異なるXRF識別可能マーカーを含む異なるマーカー製剤による処理を含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
各セッションが、異なるXRF識別可能マーカーを含む異なるマーカー製剤による処理を含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
2つ以上のマーキングセッションが、皮革製造プロセスの異なる段階で実行されることを特徴とする、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
第1のセッションが、製造の準備段階の前の皮上で行われ、さらなるセッションが、なめし中および/または染色または皮革製造の仕上げ段階中に行われることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
XRF分光計を用いた前記XRF識別可能マーカーの検出を含むことを特徴とする、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記XRF識別可能マーカーが、水溶性または水不溶性であることを特徴とする、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記マーカーが、金属原子、金属酸化物、または金属硫化物、金属炭酸塩などの金属塩、有機金属または有機ハロゲン化物材料の形態であることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記有機金属材料が、金属フェノレート、金属アクリレートおよび金属会合アニリンから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記有機ハロゲン化物が、ハロゲン化物置換フェノール、ハロゲン化物置換アニリン、ハロゲン化物置換エポキシ、ハロゲン化物置換アクリレート、ハロゲン化物置換アミド、ハロゲン化物置換酸およびハロゲン化物置換グリコールから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記金属が、アルミニウム、チタン、コバルト、ニッケル、イットリウム、カドミウム、スズ、スカンジウム、チタン、ニオブ、銀、タングステン、亜鉛、ジルコニウム、バナジウム、マンガン、銅、鉛、モリブデン、ビスマス、アンチモン、タンタルおよびセシウムから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記有機ハロゲン化物が、トリヨードフェノール(TIP)、トリブロモフェノール(TBP)、トリクロロフェノール(TCP)、2,2-ビス(ブロモメチル)プロパン-1,3-ジオール、2,4,6-トリブロモアニリン、ペンタブロモベンジルアクリレート、および4,5,6,7-テトラブロモイソベンゾフラン-1,3-ジオンから選択されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
皮革の製造および/または商業的履歴を識別する方法であって、
-皮のなめしの前の第1の段階において、第1のXRF識別可能マーカーを含む製剤で前記皮を処理して、前記皮に前記第1のマーカーを埋め込む工程;
-前記皮のなめしに続いて、なめされた皮を第2のXRF識別可能マーカーで処理して、なめされた皮に前記第2のマーカーを埋め込む工程;および
-前記なめされた皮またはそれから作製された製品における前記第1および/または第2のXRF識別可能マーカーの存在を分析する工程
を含む、方法。
【請求項33】
前記分析する工程が、X線またはガンマ線放射を前記皮革またはそれから作製される製品に向ける工程、および、それに応答して前記マーカーから放出される応答X線信号を検出する工程を含み、前記応答信号は、前記マーカーの存在、濃度または相対濃度を示し、それによって、前記皮革またはそれから作製される製品の生産または商業的履歴上に前記マーカーによってコード化された情報を提供することを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、概して、皮革、ならびに皮革のサプライチェーン製造における完成した皮革製品を追跡するための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
皮革および皮からの皮革製品の生産は、複雑な多段階プロセスであり、これは、屠殺場から始まり、なめし工場および生産チェーンを経て流通業者に至る複数の化学的工程を含む。これらは、様々な準備工程(すなわち、なめしの前)、例えば、浸漬、フレッシングおよびライミング;および、その後のなめしを含み、なめしは、いくつかのサブプロセスおよびいくつかのなめし後プロセス(染色およびコーティングを含む)を含む。これらのプロセス工程の間、動物の皮膚および皮は、複数の供給源からの皮が混合するバッチで処理され、屠殺場での塩漬けから始まり、なめし工場および生産ラインでの様々なプロセスを経る。したがって、動物が生育した農場および皮の原産地である特定の屠殺場を含む皮の出所に関するすべての情報が失われる。さらに、皮が製造プロセスに沿って移動し、その後、完成した革が革製品の製造サプライチェーンを通って進むにつれて、材料の出所、製造プロセス(例えば、それが受けた様々なプロセス、日付、バッチ番号)ならびにサプライチェーンに関する貴重な情報が失われる可能性がある。
【0003】
なめし工場および革製造施設は、様々な外部タグおよびマーキングを使用することによって、皮または皮のバッチをマーキングする。しかしながら、皮自体から分離できない固有の皮のマーキングが必要である。さらに、動物の皮膚および皮にマーキングし、皮の出所に関する情報(農場、動物が育てられた地域、および/または屠殺場など)および必要に応じて追加の情報が、材料自体において分離できない態様でコード化される必要がある。この情報は、生産ラインおよびサプライチェーンに沿った様々なステーションで読み取られることができ、生産プロセスおよびサプライチェーンのより良好な管理を可能にする。皮および皮革製品のそのようなマーキングシステムはまた、認証、検証、およびブランド保護の目的のために使用され得る。
【0004】
特許文献1は、皮の上下両面の不整合を検出する皮革検査装置を開示している。これは、支持フレームに移動可能に結合され、皮の上面に沿って移動可能な第1のカメラアセンブリと、支持フレームに移動可能に結合され、皮の下面に沿って移動可能な第2のカメラアセンブリとを含む。コンピューティングデバイスが、第1のカメラアセンブリおよび第2のカメラアセンブリに結合され、第1のカメラアセンブリは、皮の上面における不整合の位置を検出し、第2のカメラアセンブリは、皮の下面における不整合の位置を検出する;マーキングキャリッジが、フレームに移動可能に結合され、コンピューティングデバイスに動作可能に結合され、マーキングキャリッジは、皮革の上面に、皮革の上面の不整合の位置および皮革の下面の不整合の位置の両方の視覚的表示を提供する。
【0005】
特許文献2は、動物の生皮を皮革に加工するための方法およびシステムを開示し、なめし管理者が、複数のなめしドラムへの皮のルーティングを指図し、なめし管理者が、複数のなめしドラムの容量を効率的に使用することを可能にし、かつ、皮のなめしにおける整合性が改良される;なめし管理者が、皮のタイプ、皮の重量、および皮のサイズ等の様々な要因に基づいて、皮をなめしドラムにルーティングすることが可能となる;なめし管理者に、皮の処理に対するより大きな制御を提供する;および、様々ななめしプロセスを通してトレーサビリティの指標を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0360992号明細書
【特許文献2】米国特許第9,951,394号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
皮から皮革を製造するプロセスは、長年にわたって比較的ほとんど変化せず、関与する多くの工程は実質的に変化しないままである。典型的なプロセスは、皮を保存し、なめしのために準備するの予備工程と、それに続くなめしおよびその後のさらなる処理の工程とを含む。プロセスの予備的ななめし前段階における典型的な一連の工程は、塩による硬化、浸漬および洗浄、除毛、フレッシング、スプリッティング、脱灰、ベーティングおよびピックリングを含む。
【0008】
塩による硬化は、湿式または乾式塩処理によって、皮をブライン溶液に浸漬することによって達成される。代替的な硬化プロセスは、従来の態様での予備工程を通じた処理および硫酸クロムによるなめしを含み、したがって、ウェットブルーと呼ばれる生成物が得られ、これはその後なめされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術の発明者らは、動物の皮膚、皮および皮革をマーキングするためのプロセスを開発し、これは、皮革処理工程にいかなる変化も導入しない(したがって、得られる処理済み皮革にいかなる影響も及ぼさない)条件下で、上述の処理スキームの任意の段階において、1つまたは複数のXRF識別可能マーカーを含む製剤を皮または処理済み皮革に適用する工程を含み、また、マーカーを皮革内に安全かつ不可逆的に埋め込み、したがって、完成した市場向け皮革製品を含むその後の任意の段階でマーカーの検出を可能にする。
【0010】
マーカーは、皮革およびそれから作製される最終製品の製造プロセス全体を通して、適切なリーダーを使用して検出され、その濃度が測定され得る。プロセスの任意の段階でマーカーを導入し、その後の任意の段階でマーカーの存在を検出することができるため、本発明のマーキング技術は、皮の出所(すなわち、皮が由来する農場または屠殺場)、生産の様々な日付(例えば、なめしの日付)、処理施設(なめし工場)、皮の供給者または販売者、皮の等級などの潜在的情報を皮にコード化するために特に固有となる。したがって、初期段階およびその後の任意の段階で、皮または処理済み皮革をマーキングまたはコード化する能力を有することによって、生産履歴を最終製品内に潜在的に埋め込むことができる。
【0011】
当技術分野で知られているように、「皮(hide)」は、動物の外皮または天然の被覆を指す。この用語は、時により大きな動物に関連付けられる。本明細書に開示される本発明の文脈において、この用語は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、バッファロー、ワニ、爬虫類などを含む任意のサイズの動物の動物皮膚を指す。皮革は、毛の有無にかかわらず、任意のコラーゲン含有材料であり、本明細書に開示されるようななめしプロセスによって、または任意の皮革処理スキームによって得られる。したがって、皮革は、当技術分野で知られているように、動物の皮膚から製造された任意の処理済みの皮革、毛皮および皮である。皮革は、任意のサイズおよび厚さの任意の動物供給源のものであってもよく、靴、バッグ、衣料品、家具などの任意の皮革ベースの製品を作製するために処理されてもよい。
【0012】
本発明による皮または皮革のマーキングは、皮革の製造工程に沿った任意の段階で行うことができる。本発明によるマーキングの工程を含むように修正することができる皮革製造に関与する工程は、概して、以下の通りである。
【0013】
第1の工程では、動物の皮膚を石鹸および洗剤で洗浄して微生物の増殖を防止し、その後、毛を分解し皮膚をほとんどまたは全く毛のない状態にするアルカリ溶液に皮膚を浸漬することによって脱毛する。残りの毛は、ライミングの工程において除去され、毛のない皮膚がアルカリおよび硫化物溶液に浸漬されて、毛の除去を完了し、さらに皮膚コラーゲンの特性を変化させる。このプロセスにおいて、コラーゲンも化学的に修飾され、その結果、膨潤し、開放構造が残る。
【0014】
次の工程では、脱灰およびベーティングが行われる。この工程において、皮膚構造は、酵素による処理によってさらに開かれる。皮膚から剥がれる不要な物質が除去される。ピックリングは、皮膚を酸で処理して保存期間を延ばす工程、および数年間保存する工程を含む。
【0015】
なめしは、皮革製造において最も重要で化学的に複雑な工程であり得る。なめしの間、皮膚構造は、コラーゲンの一部をクロムの複合イオンと置換または会合させることによって、その開放形態で安定化される。代替的なグリーンなめし手順も利用することができる。使用されるなめし手順に応じて、皮革の色および質感は変化し得る。皮革をなめすと、熱湯などの過酷な条件に耐えることができる。
【0016】
中和、染色および加脂は、なめされた皮膚を中和し、それらの劣化を防ぐことを目的としたアルカリ溶液による処理を指す。その後、皮革を染色し、繊維構造に付着する反応性油で処理し、それによって皮革のしなやかさおよび柔軟性を改良することができる。乾燥および仕上げは、処理され、安定し、着色された皮革を提供するために進行する。
【0017】
本明細書に詳述される処理段階は、変動し得ることに留意されたい。本発明のプロセスは、皮から皮革を製造するためのプロセスに関与するプロセスまたは工程における任意の変化とは無関係である。
【0018】
したがって、皮から皮革を製造するためのプロセスにおいて、プロセスは、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む製剤を用いて、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革に前記マーカーを埋め込むことを可能にする条件下で、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革を処理する工程を含む。皮革を製造するためのプロセスは、皮膚の浸漬、ライミング、脱灰、ベーティング、ピックリングおよび/またはなめしを含み、そのように処理された皮または皮革は、マーカーを含む製剤で処理される。
【0019】
本発明はまた、皮革を識別するためのプロセスを提供し、このプロセスは、以下を含む:少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む製剤を用いて、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革に前記マーカーを埋め込むことを可能にする条件下で、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革を処理する工程;および、前記動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革におけるXRF識別可能マーカーの存在を分析し、それによって皮革を識別する工程。分析は、本明細書に開示されるように実施することができる。
【0020】
XRF識別可能マーカーは、処理された皮または皮革に関する特定の特性または情報を識別するように選択され、その後、明確に識別および監視され得る。皮または皮革が、本明細書で定義されるように、異なるマーカー製剤で複数回処理される場合、マーカー製剤の各々は、異なる特性または情報を識別する潜在的マーキングを提供し得る。さらに、マーカーの濃度も測定することができ、異なる濃度のマーカーに対して異なるコードワードを関連付けることによって情報をコード化することができる。概して、皮革製造プロセスでは、マーキングを使用して、以下のいずれか1つまたは複数を識別することができる:
-皮革の原産地;
-動物が育てられた農場;
-屠殺場;
-処理施設;
-処理の日付;
-処理プロトコル;
-皮革のタイプ、例えば、動物の質およびタイプ;
-なめしの日付;
-なめし工場;
-処理された皮の供給業者;および
-バッチ、年、週、工場、オペレータ、および、顧客、流通業者、収集、および皮、皮革および皮革製品などのサプライチェーンに関する情報を含むマーケティングデータ、などの動作および物流データに関する他の情報。
【0021】
そのような潜在的なコード化を可能にすることによって、処理の任意の段階において、および最終皮革製品においてさえ、皮革の識別および監視が可能になる。
【0022】
本発明の技術は、皮、皮革、および皮革製品の製造および供給の連鎖を管理および監督するために使用され得る。皮上のマーキングを使用して、皮または皮革の原産地;すなわち、動物が育てられた農場、製造業者、様々な供給業者および流通業者を識別することができる。この技術はまた、生産地、年などの1つまたは複数の選択されたパラメータに従って、皮または皮革を分類することを可能にする。
【0023】
皮および皮革のサプライチェーンを管理するためのシステムは、皮およびそれらのマーキングに関するデータが記憶されるデータベースシステム(中央または分散型)を含み得る。例えば、データベースシステムは、皮の原産地、皮から生産された皮革の製造業者、皮のバッチ、皮革、皮革製品、ならびに将来の目的地(例えば、流通業者および買い手)に関する情報を含み得る。このために、マーキングを読み取るデバイス(例えば、XRF分析器)は、データベースシステムと通信することができる。データベースシステムは、オンプレミス、クラウドベースシステム、または分散型元帳であってもよい。ある例では、データベースシステムは、複数の当事者が関連データを記憶し、それにアクセスする分散型ブロックチェーンシステムであってもよい。そのようなブロックチェーンシステムでは、複数の当事者(例えば、同じサプライチェーンのメンバーである当事者)が、データを記憶し、アクセスすることができ、記憶されたデータは、不変であり、容易に検証可能であり、分散設計により、本質的に修正に耐性がある。ある例では、ブロックチェーンシステムの当事者は、農場、なめし工場および生産施設、供給業者、配送業者、およびエンドユーザさえも含み得る。
【0024】
例えば、皮、皮革および皮革製品上のマーキングは、適切なXRF装置によって読み取られ(検出され)、サプライチェーンに沿って手を変えるたびに記録され、ブロックチェーン上に記録され(例えば自動的に)、各当事者が皮および/または皮革の出所および完全な履歴を容易に検証することを可能にする。マークされた物体および製品のサプライチェーンを管理するのに適したブロックチェーンシステムは、国際特許出願第PCT/IL2018/050499号明細書および同第PCT/IL2019/050283号明細書またはそれから派生する任意の米国特許出願に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本発明はさらに、皮革の生産および/または商業的履歴を識別するためのプロセスを提供し、このプロセスは、以下の工程を含む:
-動物の皮膚または未処理の皮のなめしの前の第1の段階で、動物の皮膚または未処理の皮を第1のXRF識別可能マーカーを含む製剤で処理して、動物の皮膚または未処理の皮に前記第1のマーカーを埋め込む工程;ここで、第1のマーカーは、例えば、動物の皮膚または未処理の皮またはそれに関連するプロセスに関する少なくとも1つの第1の情報セットをコード化する;
-未処理の皮のなめしに続いて、なめされた皮を第2のXRF識別可能マーカーで処理して、なめされた皮に前記第2のマーカーを埋め込む工程;ここで、第2のマーカーは、例えば、なめし段階に関する少なくとも1つの第2の情報セットをコード化する;および
-前記なめされた皮またはそれから製造された製品における第1および/または第2のXRF識別可能マーカーの存在を分析し、第1および/または第2の情報セットにコード化された情報を識別する工程。
【0026】
概して、皮膚、皮、または皮革にマーカーを埋め込むために使用される条件は、皮革処理工程で使用されるものである。特別な条件は利用されない。これは、本発明のプロセスの独自性を支持し、皮革の適切かつ効果的なマーキングを可能にするために処理条件のいずれも修正する必要がない。
【0027】
別のプロセスでは、皮は、処理前、なめし前の処理中、およびなめし中またはなめし後にマーキングされる。したがって、このプロセスは、以下を含んでもよい:
-未処理の動物の皮膚または未処理の皮を(場合によっては塩処理後または塩処理中に)、1つまたは複数のXRF識別可能マーカーの第1のセットを含む製剤を用いて処理し、動物の皮膚または未処理の皮に前記第1のマーカーを埋め込む工程;ここで、第1のマーカーは、動物の皮膚または未処理の皮またはそれに関連するプロセスに関する少なくとも1つのパラメータをコード化する(例えば、第1のセットのマーカーは、皮が由来する農場、屠殺場、動物の品種、および皮の等級/品質などをコード化することができる);
-なめし前の処理中(例えば、準備段階)に、1つまたは複数のXRF識別可能マーカーの第2のセットを含む製剤で皮を処理し、皮に前記第2のセットのマーカーを埋め込む工程;ここで、第2のセットのマーカーは、なめし段階、なめし前の準備処理を受けた後の皮の等級、バッチ番号などに関する少なくとも1つのパラメータをコード化する;
-なめし中またはなめし後(例えば染色中)に、1つまたは複数のXRF識別可能マーカーの第3のセットを含む製剤でなめし皮を処理し、なめし皮に前記第3のセットのマーカーを埋め込む工程;ここで、第3のセットのマーカーは、例えば、なめし後の皮の等級、染色プロセスに関するパラメータ、染色された皮革の目的地など、なめし後の処理に関する少なくとも1つのパラメータをコード化する;
-必要に応じて、プロセスの任意の段階で1つまたは複数の他のマーキング工程を含む工程;および
-前記なめし皮またはそれから製造された製品における、第1および/または第2および/または第3および/または必要に応じてさらなるセットのXRF識別可能マーカーの存在を分析し、コード化されたパラメータのいずれかを特定する工程。
【0028】
皮膚、皮または処理済み皮革をマーカー製剤で処理することによって、マーカーは、皮膚、皮または処理済み皮革内に埋め込まれ、または化学的に会合され、または捕捉されて、マーカーとの実質的に不可逆的な相互作用を生じる。未処理の(場合によっては塩処理された)皮に適用されるマーカーは、製造の準備段階(すなわち、なめし前の全ての製造プロセス)の後、および皮がなめしを受けた後に、検出することができる。マーカーは、皮が染色およびコーティング(仕上げ)を受けた後に皮上で検出することができる。マーカーはまた、製造後の完成した皮革から、さらには最終皮革製品から読み取ることもできる。
【0029】
いくつかの実施形態では、動物の皮膚または皮は、なめし前の段階で処理される。いくつかの実施形態では、皮膚または皮は、屠殺場またはなめし工場で処理される。この初期段階で皮に施されるマーキングは、皮革製造の様々なしばしば積極的なプロセスに耐えるのに充分な弾力性であると特定された。
【0030】
いくつかの実施形態では、マーキングは、なめし前の生産準備段階における生産中に皮に適用される。他の実施形態では、マーキングは、なめし中に皮に適用される。
【0031】
さらなる実施形態では、マーキングは、染色中および/または仕上げプロセス中に皮に適用される。
【0032】
いくつかの実施形態では、マーキングは、皮を塩処理する前またはその間に、または塩処理プロセスの後に、屠殺場において皮に適用される。
【0033】
本明細書に示されるように、マーキング工程は、処理工程のいずれにも変更も課すことなく、皮および皮革の任意の処理工程内、その前、またはその後に固定されてもよい。許容可能な皮革処理工程を何ら変更する必要がないだけでなく、マーキングは、皮およびそれから作製される皮革に害を及ぼさない。当業者は、XRFによって検査されない限り、マーキングされた皮またはマーキングされた皮革を、本発明に従ってマーキングされていないものと区別することができないであろう。
【0034】
マーキング工程のいずれも、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む製剤を用いて、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革に前記マーカーを埋め込むことを可能にする条件下で、動物の皮膚、未処理の皮または処理済みの皮革を処理する工程を含む。「処理する」なる用語またはその任意の言語変形は、1つまたは複数のマーカーを含む水性製剤または他の非水性溶液、本明細書では「マーカー製剤」での連続洗浄または噴霧またはその中での浸漬によって、皮のシートを製剤と接触させる工程を含む。マーキング工程の前に、必要に応じて、先行する皮革処理工程で使用される化学物質が洗い流されるプレソーキングの工程があってもよい。例えば、未処理または塩処理済みの皮を水および石鹸の溶液に浸漬し、不要な皮膚成分および場合によっては塩を皮から除去してもよい。その後の段階において、マーキングは、マーカー製剤中で皮を処理することによって、例えば浸漬することによって行われる。いくつかの実施形態では、皮は、30分~12時間の期間にわたってマーキング製剤に浸漬され得る。浸漬は、撹拌容器中で行うことができる。特定の皮、処理の段階などの様々な要因に応じて、製造中に皮を長時間浸漬することは、非実用的または不都合であり得る。マーキングプロセスを短縮する目的で、プロセスを超音波浴中で実施し、したがってマーキング段階を数分間に短縮することができる。
【0035】
マーカー分子またはマーカー要素とは別に、マーカー製剤はまた、界面活性剤、触媒および酵素などの処理剤;および、マーカーを処理済みの皮または皮革の領域、材料または原子に化学的に会合させることができる中間体または架橋剤を含んでもよい。
【0036】
皮膚または皮のシートは、皮革製造プロセスの異なる段階において、マーカー製剤で1回処理されてもよく、または2つ以上のマーカー製剤で処理されてもよく、2つ以上のマーカー製剤のそれぞれは、同じまたは異なるマーカーを含有してもよい。連続的なマーキングセッションを可能にすることによって、皮膚のシートの各々は、出所、処理の日付、処理の場所などに関する様々な重要な情報でコード化され得る。例えば、第1のマーキングセッションは、製造の準備段階の前、次いでなめし中および/または皮革製造の染色もしくは仕上げ段階中に再度、未処理の皮上で行われる。驚くべきことに、適用段階にかかわらず、皮に適用されるマーカーは、製造前の初期段階であっても、製造プロセス全体を通して皮の中または上に埋め込まれたままであり、最終完成製品からでも読み取られ得る。
【0037】
マーカーまたはマーキング製剤は、少なくとも1つのXRF識別可能マーカーを含む。マーカーは、マーカー応答(シグネチャー)信号を検出および識別するX線蛍光(XRF)分光計(リーダー)によって検出および測定され得る。XRFリーダーは、エネルギー分散型X線蛍光EDXRF分光計であり得る。XRFマーカーは柔軟性がある、すなわち、様々な担体および材料と組み合わされ、ブレンドされ、または化合物を形成し得る。
【0038】
マーカーは、水溶性であってもよく、皮または皮革への容易かつ効果的なマーカー浸透を可能にする。しかしながら、マーカーが水不溶性である場合、水性製剤は、懸濁または分散形態でマーカーを含み得る。マーカーは、金属原子、金属酸化物、または金属硫化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属炭化物などの金属塩の形態;または有機金属または有機ハロゲン化物材料の形態であり得る。有機金属材料は、少なくとも1つの金属原子とイオン的に会合する有機アニオン(金属カチオン)から選択されることができる。非限定的な例としては、金属フェノレート、金属アクリレート、金属会合アニリンなどが挙げられる。有機ハロゲン化物は、少なくとも1つのハロゲン化物、例えば臭化物、ヨウ素、塩化物で置換された少なくとも1つの有機材料である。このような有機ハロゲン化物としては、ハロゲン化物置換フェノール、ハロゲン化物置換アニリン、ハロゲン化物置換エポキシ、ハロゲン化物置換アクリレート、ハロゲン化物置換アミド、ハロゲン化物置換酸、ハロゲン化物置換グリコールなどが挙げられる。
【0039】
マーカーの種類にかかわらず、マーカーは、シルク繊維中に存在しない原子または材料である;また、シルク製造において典型的に使用される処理溶液のいずれにおいても存在しない。本明細書に開示されるように、皮革またはその製造プロセスに天然でないマーカーを使用することにより、正確かつ確実なコード化が可能になり、さらに複雑なコード化スキームを生成することが可能になる。皮革中に存在し得るまたはその製造プロセスに関与し得る、およびそれらの組成または性質によりXRF識別可能とみなされ得る原子または材料は、そのような天然のまたは偶発的な材料が履歴を特定するためのコードを構成しないため、シルクベースの製品の生産および商業的履歴を特定するための本明細書で企図される能力に寄与しない。コードは、所定の濃度、組成で、および必要に応じて1つまたは複数の追加のマーカー(原子または材料)と組み合わせて、加えられる材料のみに依存する。したがって、本明細書で使用される場合、XRF識別可能マーカーは、マーカー製剤中に存在し、本明細書で開示される目的のために積極的に添加または使用されるものである。
【0040】
したがって、プロセスまたはプロセスの特定の工程に応じて、当技術分野の典型的なプロセスで使用される金属を含む材料が除外される。このような材料は、クロム、アルミニウムおよびジルコニウムなどの金属の金属塩または錯体または有機材料であり得る。別の言い方をすれば、皮を処理するためにアルミニウム金属を利用するプロセスまたはプロセス工程において、例えば、なめしの工程において、マーカー材料はアルミニウムでないまたはアルミニウムを含まない。クロムおよびジルコニウムについても同様である。
【0041】
概して、マーカーとして使用される金属または原子は、周期表の任意の原子であり得る。原子は、塩、錯体、有機化合物または無機化合物として存在し得る。例えば、マーカーが金属または金属含有材料、例えば有機金属材料または金属塩である場合、金属原子は、アルミニウム(例えば硫酸アルミニウムとして提供される)、チタン(例えば硫酸チタンとして提供される)、コバルト(例えば硝酸コバルト六水和物、グルコン酸コバルト水和物、グリシン酸コバルトとして提供される)、ニッケル(硝酸ニッケル水和物、グリシン酸ニッケルとして提供される)、イットリウム(例えば硝酸イットリウム六水和物として提供される)、カドミウム(例えば硝酸カドミウム四水和物として提供される)、スズ(例えば塩化スズとして提供される)、スカンジウム、ニオブ、銀、タングステン、亜鉛、ジルコニウム、マンガン、銅、鉛、モリブデン、バナジウム、ビスマス、アンチモン、タンタルおよびセシウム(例えば炭酸セシウムとして提供される)から選択され得る。
【0042】
他の金属ベースのマーカーは、水不溶性形態で提供され得る。そのようなものとしては、酸化アルミニウム、酢酸スカンジウム、酸化チタン、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、ジブロモコバルト、ニッケルアセチルアセトナート、アクリル酸ニッケル、酸化イットリウム、酸化ニオブ、炭酸銀、塩化銀、エチルヘキサン酸スズ、酸化タングステンなどが挙げられる。
【0043】
ハロゲン化物ベースのマーカーとしては、トリヨードフェノール(TIP)、トリブロモフェノール(TBP)、トリクロロフェノール(TCP)、2,2-ビス(ブロモメチル)プロパン-1,3-ジオール、2,4,6-トリブロモアニリン、ペンタブロモベンジルアクリレート、4,5,6,7-テトラブロモイソベンゾフラン-1,3-ジオン、臭化アンモニウムなどが挙げられる。
【0044】
本明細書に記載されるように、皮または皮革と接触させられるマーカー製剤、または皮または皮革が浸漬されるマーカー製剤は、マーカーおよび以下を含む:界面活性剤、触媒および酵素などの様々な処理剤;および、処理された皮または皮革の領域、材料または原子にマーカーを化学的に会合させることができる中間体または架橋剤。処理剤は、親水性および疎水性基を有するイオン性または非イオン性、シリコーン系またはポリマー性界面活性剤、酵素界面活性剤(酵素活性を生成する)、および過酸化水素を含み得る。過酸化水素は、主な構造タンパク質として皮または皮革中に存在するコラーゲン中の官能基を活性化するために使用することができ、したがって、皮または皮革へのマーカーのより良好な付着を促進する。処理剤は、以下のブランドファミリーを含み得る:Peltec、Supralan、Trupowet、Max uni、Max 1、Max T2、Boron A、Truponat、Oropon、Pellvit、Actazym、Atlox、Hypermer、Proviera、ProSoak、Feliderm、Bemanol、Aglutan、Silastol、Derugan、Pristolamin、Basozym、Trupowetなど。
【0045】
金属イオンは、そのような会合が可能なコラーゲン上の官能基と直接会合し得る。しかしながら、マーカーがコラーゲンに直接会合できない場合、架橋分子が必要とされ得る。したがって、中間分子または架橋分子は、マーカー原子またはマーカー材料を皮に付着または結合させるために選択される。理論または操作様式に拘束されることを望むものではないが、中間分子は、二官能性分子であり、これは、皮中のコラーゲンを構成するアミノ酸中の活性残基およびマーキング要素または分子にも会合することができる少なくとも2つの官能基を含む。中間分子は、コラーゲンアミノ酸のいずれかに存在するカルボキシル、ヒドロキシルまたはアミン活性残基と結合し得る。例えば、中間分子は、芳香族アルデヒドなどのアルデヒドであり得る。同様に、中間分子は、キトサン、リグニン、グルタルアルデヒドおよびその誘導体、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、またはEDTAおよびその誘導体であってもよい。
【0046】
他の中間分子は、スルフィド基、メルカプタン基、エポキシド、イミン基、イミド基、およびコラーゲン官能基、例えば、コラーゲンアミノ酸のいずれかに存在するカルボキシル、ヒドロキシルまたはアミン活性残基と反応することができる他の官能基を含有するものであってよい。
【0047】
読み取りユニットは、マーキング組成物を検出するため、および/または皮革または処理済みの皮の表面上の予め選択された領域または完全な領域におけるそれらの濃度または相対濃度を測定するために使用され得る。一例では、マーキング組成物は、XRF分析によって識別可能なマーカーを含み、検証ユニットは、X線またはガンマ線放射を物体に向けて放出し、それに応答してマーカーから放出されるX線信号(応答信号)を検出するXRF分析器を含む。そのようなXRF分析器は、検出された応答信号に従って各マーカーの濃度または相対濃度を測定/推定するように構成され得る。マーカーの濃度は、物体上のマーキング組成物によってコード化された情報を示し得る。したがって、測定/推定された濃度に基づいて、システムは、適用されたマーカー組成物が、物体上にマーキングされたはずであった意図された情報/認証データと実際に合致/コード化されることを検証し、場合によってはマーキングデバイスによって適用されたマーキングの品質も検証するように構成および動作可能であり得る(すなわち、品質は、検出された信号の信号対雑音比(SNR)に基づいて決定され得る)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
実施例1:本発明による製剤
様々な皮および処理済み皮革が、本発明によるマーキング製剤で処理されている。そのような処理プロトコルの非限定的な実施例を以下の表1に列挙する。
【0049】
表1には、マーカー原子または元素を含むマーカー分子、皮曝露時間(混合時間A)、混合方法(混合方法B)、第2の曝露時間(混合時間B)、および追加の処理工程が含まれるか否かが示されている。これらは、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、酵素性界面活性剤、リグニン、キトサン、EDC、NHSまたは過酸化水素による処理であり得る。
【表1】
【0050】
追加の実施例において、表1に列挙される例示的なマーカーは、イオン性界面活性剤の存在下で、水または水性製剤中で数分~数時間の期間にわたって混合され、様々な処理工程において、皮または処理済み皮革にマーカーを埋め込む。
【0051】
実施例2:
30グラムの水および0.01~0.07グラムのアニオン性界面活性剤の溶液に、10グラム片の皮を25℃の温度で15分間浸漬した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、皮を、0.02~0.08グラムのアニオン性界面活性剤、0.01~0.08グラムの酵素、0.01~0.08グラムの非イオン性界面活性剤を含む、0.03~0.2グラムのマーキング組成物を含む30グラムの緩衝溶液の溶液中に超音波撹拌機で2分間浸漬し、その後、0.01~0.04グラムの過酸化水素を溶液に添加し、超音波撹拌機でさらに1分間撹拌した。
【0052】
次いで、皮をXRF分析器で検査し、マーキング組成物の存在を検出した。
【0053】
異なる皮サンプルを、他の皮革処理工程のそれぞれでマーキングし、マーカーの存在を、その後に確認した。
【0054】
これらのマーキングプロセスに続いて、皮はさらに、浸漬、ライミング、脱灰およびなめしの一般的な皮革製造プロセスを受けた。
【0055】
全プロセスの終わりに、すなわち浸漬、ライミング、脱灰、およびなめしの後、皮はXRF分析器によって検査され、マーカーの存在が検出された。
【0056】
実施例3:
30グラムの水および0.01~0.07グラムのアニオン性界面活性剤の溶液に、10グラム片の皮を25℃の温度で15分間浸漬した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、皮を、0.01~0.5グラムのWOを含むマーキング組成物、0.01~0.08gのアニオン性界面活性剤、0.01~0.08グラムの酵素、0.01~0.08グラムの非イオン性界面活性剤、0.01~0.08グラムの架橋剤(リグニン)を含む、30グラムの緩衝溶液の溶液中に超音波撹拌機で2分間浸漬し、その後、0.01~0.04グラムの過酸化水素を溶液に添加し、超音波撹拌機でさらに1分間撹拌した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、実施例1に記載したものと同様に、皮は通常の浸漬、ライミング、脱灰およびなめしのプロセスを受けた。浸漬、ライミング、脱灰、およびなめしのプロセスの終わりに、皮をXRF分析器によって検査した。マーキング組成物の存在を検出した。
【0057】
実施例4:
30グラムの水および0.01~0.07グラムのアニオン性界面活性剤の溶液に、10グラム片の皮を25℃の温度で15分間浸漬した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、皮を、0.02~0.1グラムのトリクロロアニリンを含むマーキング組成物、0.01~0.08グラムの酵素、0.01~0.08グラムの非イオン性界面活性剤、0.01~0.08グラムの酵素、および0.04グラムの0.01~0.05NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)を含む、30グラムの緩衝溶液の溶液中に超音波撹拌機で2分間浸漬し、その後、0.03グラムの過酸化水素を溶液に添加し、超音波撹拌機でさらに1分間撹拌した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、実施例1に記載したものと同様に、皮は通常の浸漬、ライミング、脱灰およびなめしのプロセスを受けた。浸漬、ライミング、脱灰、およびなめしのプロセスの後、皮をXRF分析器によって検査した。マーキング組成物の存在を検出した。
【0058】
実施例5:
30グラムの水および0.01~0.07グラムのアニオン性界面活性剤の溶液に、10グラム片の皮を25℃の温度で15分間浸漬した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、皮を、20グラムの緩衝溶液、0.05~0.3グラムのY(NOを含むマーキング組成物、5~20グラムのキトサン、0.01~0.08グラムの酵素、0.01~0.08グラムの非イオン性界面活性剤、0.01~0.05グラムのHを含む、溶液中に超音波撹拌機で2分間浸漬し、その後、1MのNaOH溶液を添加して、溶液のPHレベルを6に設定し、超音波撹拌機でさらに2分間撹拌した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、実施例1に記載したものと同様に、皮は通常の浸漬、ライミング、脱灰およびなめしのプロセスを受けた。浸漬、ライミング、脱灰、およびなめしの後、皮をXRF分析器によって検査した。マーキング組成物の存在を検出した。
【0059】
実施例6:
30グラムの水および0.01~0.07グラムのアニオン性界面活性剤の溶液に、10グラム片の皮を25℃の温度で15分間浸漬した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、皮を、20グラムの緩衝溶液、0.05~0.3グラムのSnClを含むマーキング組成物、5~20グラムのキトサン、0.01~0.08グラムの酵素、0.01~0.08グラムの非イオン性界面活性剤、0.01~0.05グラムのHを含む、溶液中に超音波撹拌機で2分間浸漬し、その後、1MのNaOH溶液を添加して、溶液のPHレベルを6に設定し、超音波撹拌機でさらに2分間撹拌した。次いで、この皮を清浄水に5分間浸すことによって洗浄した。次の工程において、実施例1に記載したものと同様に、皮は通常の浸漬、ライミング、脱灰およびなめしのプロセスを受けた。浸漬、ライミング、脱灰、およびなめしの後、皮をXRF分析器によって検査した。マーキング組成物の存在を検出した。
【0060】
実施例7:
10gの皮片を、なめし段階まで製造工程に従って処理した。ピックリング工程の後、マーカーを0.0025%~0.06%の濃度でドラムに添加し、20分間混合した。ピックリング工程で使用した酸(ギ酸、硫酸など)でpHを3.2~3.5に調整した。6.5%のクロム塩、0.025%~0.30%の殺生物剤または洗浄剤をドラムに加えることによってなめしを行った。なめし反応はまた、0.8%の湿潤剤、0.65%~0.70%の定着剤、または0.15%のスリップ剤などの他の添加剤を含むことができる。反応物を、2.8~3.0のpHにおいて27~30℃の温度で一晩混合した。水および0.05%脱脂剤で10分間、次いで水および0.05%殺生物剤の溶液に20分間浸漬することによって、皮を連続的に洗浄した。皮をペーパータオル上に置いて過剰の水を吸収し、XRF分析器によって検査した。マーキング組成物の存在を検出した。
【国際調査報告】