(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】ホットスタンピング部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20230830BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230830BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230830BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230830BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
B21D22/20 H
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C22C38/00 301Z
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022575420
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 KR2021019945
(87)【国際公開番号】W WO2022145924
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0185203
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒェジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ギュヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ヒョンヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、スンピル
【テーマコード(参考)】
4E137
4K042
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137AA05
4E137AA08
4E137BA01
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4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
4K042DE05
4K042DE07
4K042DF01
(57)【要約】
残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するホットスタンピング部品を製造する方法において、ブランクを加熱する段階、ブランクをホットスタンピングし、成形体を形成する段階、及び成形体を冷却し、ホットスタンピング部品を形成する段階を含み、残留応力分析値は、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値の大きさと、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化したEBSD値の大きさとの積であり、事前設定された条件は、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下である、ホットスタンピング部品の製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するホットスタンピング部品を製造する方法において、
ブランクを加熱する段階と、
前記ブランクをホットスタンピングし、成形体を形成する段階と、
前記成形体を冷却し、ホットスタンピング部品を形成する段階と、を含み、
前記残留応力分析値は、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値の大きさと、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化したEBSD値の大きさとの積であり、
前記事前設定された条件は、2.85*10
-4(degree*MPa/μm
2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm
2)以下である、ホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項2】
前記ブランクを加熱する段階は、
前記ブランクを加熱炉内に具備された複数区間のうち、温度範囲が段階的に増大する区間を通過させながら加熱する多段加熱段階と、
前記ブランクをAc3以上の温度で加熱する均熱加熱段階と、を含む、請求項1に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項3】
前記複数の区間において、前記ブランクを多段加熱する区間の長さと、前記ブランクを均熱加熱する区間の長さとの比は、1:1ないし4:1である、請求項2に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項4】
前記複数区間の温度は、前記加熱炉の入口から前記加熱炉の出口の方向に増大する、請求項2に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項5】
前記多段加熱段階において、前記ブランクの昇温速度は、6℃/sないし12℃/sである、請求項4に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項6】
前記複数区間のうち、前記ブランクを均熱加熱する区間の温度が、前記ブランクを多段加熱する区間の温度より高い、請求項5に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項7】
前記ブランクは、前記加熱炉内に、180秒ないし360秒の間滞留する、請求項2に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項8】
前記成形体を冷却し、ホットスタンピング部品を形成する段階は、
前記成形体を、マルテンサイト変態が始まる温度以下の温度において、プレス金型内に、3秒ないし20秒の間維持する段階を含む、請求項1に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項9】
前記成形体は、前記プレス金型内において、マルテンサイト変態が終わる温度まで、15℃/s以上の平均冷却速度で冷却される、請求項8に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項10】
前記ホットスタンピング部品は、
80%以上の面積分率を有するマルテンサイト相と、
前記マルテンサイト相内部に位置し、前記マルテンサイト相基準5%未満の面積分率を有する鉄系炭化物と、を具備する、請求項1に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項11】
前記鉄系炭化物は、針状形態であり、
前記針状形態は、直径が0.2μm未満であり、長さが10μm未満である、請求項10に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項12】
前記マルテンサイト相は、ラス相を含み、
前記鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向と水平な第1鉄系炭化物と、前記ラス相の長手方向と垂直な第2鉄系炭化物と、を含み、
前記第1鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率は、前記第2鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率より大きい、請求項10に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項13】
前記第1鉄系炭化物は、
前記ラス相の長手方向となす角度が0°以上20°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%以上である、請求項12に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項14】
前記第2鉄系炭化物は、
前記ラス相の長手方向となす角度が70°以上90°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%未満である、請求項12に記載のホットスタンピング部品の製造方法。
【請求項15】
残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するホットスタンピング部品において、
前記残留応力分析値は、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値の大きさと、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化したEBSD値の大きさとの積であり、
前記事前設定された条件は、2.85*10
-4(degree*MPa/μm
2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm
2)以下である、ホットスタンピング部品。
【請求項16】
80%以上の面積分率を有するマルテンサイト相と、
前記マルテンサイト相内部に位置し、前記マルテンサイト相基準5%未満の面積分率を有する、鉄系炭化物と、を具備する、請求項15に記載のホットスタンピング部品。
【請求項17】
前記鉄系炭化物は、針状形態であり、
前記針状形態は、直径が0.2μm未満であり、長さが10μm未満である、請求項16に記載のホットスタンピング部品。
【請求項18】
前記マルテンサイト相は、ラス相を含み、
前記鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向と水平な第1鉄系炭化物と、前記ラス相の長手方向と垂直な第2鉄系炭化物と、を含み、
前記第1鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率は、前記第2鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率より大きい、請求項16に記載のホットスタンピング部品。
【請求項19】
前記第1鉄系炭化物は、
前記ラス相の長手方向となす角度が0°以上20°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%以上である、請求項18に記載のホットスタンピング部品。
【請求項20】
前記第2鉄系炭化物は、
前記ラス相の長手方向となす角度が70°以上90°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%未満である、請求項18に記載のホットスタンピング部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンピング部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用される部品には、軽量化及び安定性のための高強度鋼が適用される。一方、該高強度鋼は、重量対比で、高強度特性を確保することができるが、強度が増大することにより、プレス成形性が低下され、加工中、素材の破断が生じたり、スプリングバック現象が発生したりし、複雑であって精密な形状の製品成形に困難さが伴う。
【0003】
そのような問題点を改善するための方案として、代表的なものとして、ホットスタンピング工法があり、それを求める関心が高くなりながら、ホットスタンピング用素材に係わる研究も、活発になされている。例えば、韓国公開特許公報第10-2017-0076009号発明に開示されているように、該ホットスタンピング工法は、ホウ素鋼板を適正温度で加熱し、プレス金型内において成形した後、急速冷却し、高強度部品を製造する成形技術である。韓国公開特許公報第10-2017-0076009号発明によれば、高強度鋼板で問題になる、成形時の亀裂発生、または形状凍結不良のような問題が抑制され、良好な精度の部品を製造することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、前述の問題点を含み、さまざまな問題点を解決するためのものであり、ホットスタンピング部品の残留応力を制御し、すぐれた機械的物性及び水素脆性を確保することができるホットスタンピング部品及びその製造方法を提供することができる。しかしながら、そのような課題は例示的なものであり、それにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するホットスタンピング部品を製造する方法において、ブランクを加熱する段階、前記ブランクをホットスタンピングし、成形体を形成する段階、及び前記成形体を冷却し、ホットスタンピング部品を形成する段階を含み、前記残留応力分析値は、X線回折分析(XRD:X-ray diffraction)で残留応力を数値化したXRD値の大きさと、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD:electron backscatter diffraction)で方位を数値化したEBSD値の大きさとの積であり、前記事前設定された条件は、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下である、ホットスタンピング部品の製造方法が提供される。
【0006】
本実施形態によれば、前記ブランクを加熱する段階は、前記ブランクを加熱炉内に具備された複数区間のうち、温度範囲が段階的に増大する区間を通過させながら加熱する多段加熱段階、及び前記ブランクをAc3以上の温度で加熱する均熱加熱段階を含むものでもある。
【0007】
本実施形態によれば、前記複数の区間において、前記ブランクを多段加熱する区間の長さと、前記ブランクを均熱加熱する区間の長さとの比は、1:1ないし4:1でもある。
【0008】
本実施形態によれば、前記複数区間の温度は、前記加熱炉の入口から前記加熱炉の出口の方向に上昇しうる。
【0009】
本実施形態によれば、前記多段加熱段階において、前記ブランクの昇温速度は、6℃/sないし12℃/sでもある。
【0010】
本実施形態によれば、前記複数区間のうち、前記ブランクを均熱加熱する区間の温度が、前記ブランクを多段加熱する区間の温度よりも高い。
【0011】
本実施形態によれば、前記ブランクは、前記加熱炉内に、180秒ないし360秒の間滞留しうる。
【0012】
本実施形態によれば、前記成形体を冷却し、ホットスタンピング部品を形成する段階は、前記成形体を、マルテンサイト変態が始まる温度以下の温度において、プレス金型内に、3秒ないし20秒の間維持する段階を含むものでもある。
【0013】
本実施形態によれば、前記成形体は、前記プレス金型内において、マルテンサイト変態が終わる温度まで、15℃/s以上の平均冷却速度で冷却することができる。
【0014】
本実施形態によれば、前記ホットスタンピング部品は、80%以上の面積分率を有するマルテンサイト相、及び前記マルテンサイト相内部に位置し、前記マルテンサイト相基準5%未満の面積分率を有する鉄系炭化物を具備することができる。
本実施形態によれば、前記鉄系炭化物は、針状形態であり、前記針状形態は、直径が0.2μm未満であり、長さが10μm未満でもある。
【0015】
本実施形態によれば、前記マルテンサイト相は、ラス(lath)相を含み、前記鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向と水平な第1鉄系炭化物と、前記ラス相の長手方向と垂直な第2鉄系炭化物と、を含み、前記第1鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率は、前記第2鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率よりも大きくなる。
【0016】
本実施形態によれば、前記第1鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向となす角度が0°以上20°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%以上でもある。
【0017】
本実施形態によれば、前記第2鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向となす角度が70°以上90°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%未満でもある。
【0018】
本発明の他の態様によれば、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するホットスタンピング部品において、前記残留応力分析値は、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値の大きさと、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化したEBSD値の大きさとの積であり、前記事前設定された条件は、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下であるホットスタンピング部品が提供される。
【0019】
本実施形態によれば、80%以上の面積分率を有するマルテンサイト相、及び前記マルテンサイト相内部に位置し、前記マルテンサイト相基準5%未満の面積分率を有する鉄系炭化物を具備することができる。
【0020】
本実施形態によれば、前記鉄系炭化物は、針状形態であり、前記針状形態は、直径が0.2μm未満であり、長さが10μm未満でもある。
【0021】
本実施形態によれば、前記マルテンサイト相は、ラス相を含み、前記鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向と水平な第1鉄系炭化物と、前記ラス相の長手方向と垂直な第2鉄系炭化物と、を含み、前記第1鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率は、前記第2鉄系炭化物の前記鉄系炭化物基準の面積分率よりも大きくなる。
【0022】
本実施形態によれば、前記第1鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向となす角度が0°以上20°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%以上でもある。
【0023】
本実施形態によれば、前記第2鉄系炭化物は、前記ラス相の長手方向となす角度が70°以上90°以下であり、前記鉄系炭化物基準の面積分率が50%未満でもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明の実施形態によれば、ホットスタンピング部品の残留応力を制御し、すぐれた機械的物性及び水素脆性を確保することができるホットスタンピング部品及びその製造方法を具現することができる。ここで、そのような効果により、本発明の範囲が限定されるものではないということは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の一部を図示する平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の一部を図示する平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の製造方法を概略的に図示するフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の製造方法において、ブランクが多段加熱される場合の温度変化を示すグラフである。
【
図5】ブランクが多段加熱される場合と、単一加熱される場合との温度変化を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施形態を有することができるが、特定実施形態を図面に例示し、詳細な説明によって詳細に説明する。本発明の効果、特徴、及びそれらを達成する方法は、図面と共に詳細に後述されている実施形態を参照すれば明確になるであろう。しかしながら、本発明は、以下で開示される実施形態に限定されるものではなく、多様な形態にも具現される。
【0027】
以下の実施形態において、第1、第2のような用語は、限定的な意味ではなく、1つの構成要素を、他の構成要素と区別する目的に使用されている。
【0028】
以下の実施形態において、単数の表現は、文脈上、明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0029】
以下の実施形態において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴または構成要素が存在するということを意味するものであり、1以上の他の特徴または構成要素が付加される可能性を事前に排除するものではない。
【0030】
以下の実施形態において、膜、領域、構成要素のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間に、さらに他の膜、領域、構成要素などが介在されている場合も含む。
【0031】
図面においては、説明の便宜のために、構成要素がその大きさが誇張されていたり、縮小されていたりもする。例えば、図面に示されている各構成の大きさ及び厚みは、説明の便宜のために任意に示されているので、本発明は、必ずしも図示されているところに限定されるものではない。
【0032】
ある実施形態が異なって具現可能である場合、特定の工程順序は、説明される順序と異なるようにも遂行される。例えば、連続して説明される2つの工程が、実質的に同時に遂行されたり、説明される順序と反対の順序にも進められたりする。
【0033】
本明細書において、「A及び/またはB」は、Aであるか、Bであるか、あるいはA及びBである場合を示す。そして、「A及びBのうち少なくとも一つ」は、Aであるか、Bであるか、A及びBである場合を示す。
【0034】
以下の実施形態において、膜、領域、構成要素などが連結されているとするとき、膜、領域、構成要素が直接連結されている場合、または/及び膜、領域、構成要素の中間に、他の膜、領域、構成要素が介在され、間接的に連結されている場合も含む。例えば、本明細書において、膜、領域、構成要素などが電気的に連結されているとするとき、膜、領域、構成要素などが直接電気的に連結されている場合、及び/またはその中間に、他の膜、領域、構成要素などが介在され、間接的に電気的連結されている場合を示す。
【0035】
以下、添付された図面を参照し、本発明の実施形態について詳細に説明するが、図面を参照して説明するとき、同一であるか、あるいは対応する構成要素は、同一図面符号を付し、それらに係わる重複説明は、省略する。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の一部を図示する平面図である。
【0037】
図1を参照すれば、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品は、鋼板10を具備する。
【0038】
鋼板10は、所定の合金元素を所定含量含むように鋳造されたスラブに対し、熱延工程及び/または冷延工程を進め製造された鋼板でもある。そのような鋼板10は、ホットスタンピング加熱温度において、フルオーステナイト組織として存在し、その後、冷却時、マルテンサイト組織にも変態される。
【0039】
一実施形態として、鋼板10は、炭素(C)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、リン(P)、硫黄(S)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、及び残部の鉄(Fe)、並びにその他不可避な不純物を含むものでもある。また、鋼板10は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか1つの合金元素を添加剤としてさらに含むものでもある。また、鋼板10は、所定含量のカルシウム(Ca)をさらに含むものでもある。
【0040】
炭素(C)は、鋼板10内において、オーステナイト安定化元素として作用する。炭素は、鋼板10の強度及び硬度を決定する主要元素であり、ホットスタンピング工程以後、鋼板10の引っ張り強度(例:1,350MPa以上の引っ張り強度)を確保し、焼き入れ性特性を確保するための目的で添加される。そのような炭素は、鋼板10全体重量につき、0.19wt%ないし0.38wt%で含まれるものでもある。炭素の含量が0.19wt%未満である場合、硬質相(マルテンサイトなど)確保が困難であり、鋼板10の機械的強度を満足させ難い。それと反対に、炭素の含量が0.38wt%を超える場合、鋼板10の脆性発生または曲げ性能低減の問題が引き起こされうる。
【0041】
マンガン(Mn)は、鋼板10内において、オーステナイト安定化元素として作用する。マンガンは、熱処理時、焼き入れ性及び強度の増大目的で添加される。そのようなマンガンは、鋼板10全体重量につき、0.5wt%ないし2.0wt%含まれるものでもある。マンガンの含量が0.5wt%未満である場合、硬化能効果が十分ではなく、焼き入れ性が不十分であり、ホットスタンピング後、成型品内の硬質相分率が不十分になってしまう。一方、マンガンの含量が2.0wt%を超える場合、マンガン偏析またはパーライトバンドによる延性及び靭性が低下され、曲げ性能低下の原因になり、不均質微細組織が生じうる。
【0042】
ホウ素(B)は、フェライト変態、パーライト変態及びベイナイト変態を抑制し、マルテンサイト組織を確保することにより、鋼板10の焼き入れ性及び強度を確保する目的で添加される。また、ホウ素は、結晶粒界に偏析され、粒界エネルギーを低くし、焼き入れ性を増大させ、オーステナイト結晶粒成長温度上昇により、結晶粒微細化効果を有する。そのようなホウ素は、鋼板10全体重量につき、0.001wt%ないし0.005wt%で含まれるものでもある。ホウ素が前記範囲で含まれるとき、硬質相粒界脆性発生を防止し、高靭性と高曲げ性とを確保することができる。ホウ素の含量が0.001wt%未満である場合、焼き入れ性効果が不足し、それと反対に、ホウ素の含量が0.005wt%を超える場合、固溶度が低く、熱処理条件により、結晶粒界において容易に析出され、焼き入れ性が劣化されたり、高温脆化の原因になったりし、硬質相粒界脆性発生により、靭性及び曲げ性が低下されてしまう。
【0043】
リン(P)は、鋼板10の靭性低下を防止するために、鋼板10全体重量につき、0超過0.03wt%以下で含まれるものでもある。リンの含量が0.03wt%を超える場合、リン化鉄化合物が形成され、靭性及び溶接性が低下され、製造工程中、鋼板10にクラックが誘発されうる。
【0044】
硫黄(S)は、鋼板10全体重量につき、0超過0.003wt%以下含まれるものでもある。硫黄の含量が0.003wt%を超えれば、熱間加工性、溶接性及び衝撃特性が低下され、巨大介在物生成により、クラックのような表面欠陥が生じうる。
【0045】
シリコン(Si)は、鋼板10内において、フェライト安定化元素として作用する。シリコンは、固溶強化元素として、鋼板10の強度を向上させ、低温域炭化物の形成を抑制することにより、オーステナイト内において、炭素濃化度を向上させる。また、シリコンは、熱延、冷延、熱間プレス組織均質化(パーライト、マンガン偏析帯の制御)及びフェライト微細分散の核心元素である。シリコンは、マルテンサイト強度不均質制御元素として作用し、衝突性能を向上させる役割を行う。そのようなシリコンは、鋼板10全体重量につき、0.1wt%ないし0.6wt%含まれるものでもある。シリコンの含量が0.1wt%未満である場合、前述の効果を得難く、最終ホットスタンピングマルテンサイト組織において、セメンタイトの形成及び粗大化が生じうる。それと反対に、シリコンの含量が0.6wt%を超える場合、熱延負荷、冷延負荷が増大し、鋼板10のメッキ特性が低下されうる。
【0046】
クロム(Cr)は、鋼板10の焼き入れ性及び強度を向上させる目的で添加される。クロムは、析出硬化を介する結晶粒微細化及び強度確保を可能にする。そのようなクロムは、鋼板10全体重量につき、0.05wt%ないし0.6wt%含まれるものでもある。クロムの含量が0.05wt%未満である場合、析出硬化効果が低調であり、それと反対に、クロムの含量が0.6wt%を超える場合、Cr系析出物及びマトリックス固溶量が増加して靭性が低下され、原価上昇により、生産費が増大してしまう。
【0047】
一方、その他不可避な不純物には、窒素(N)などが含まれるものでもある。
【0048】
窒素(N)は、多量添加時、固溶窒素量が増加し、鋼板10の衝撃特性及び延伸率を落としうる。窒素は、鋼板10の全体重量につき、0超過0.001wt%以下含まれるものでもある。窒素の含量が0.001wt%を超える場合、鋼板10の衝撃特性及び延伸率が低下されうる。
【0049】
添加剤は、鋼板10内において、析出物形成に寄与する炭化物生成元素である。具体的には、該添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含むものでもある。
【0050】
チタン(Ti)は、高温において、TiC及び/またはTiNのような析出物を形成し、オーステナイト結晶粒微細化に効果的に寄与しうる。そのようなチタンは、鋼板10全体重量につき、0.001wt%ないし0.050wt%含まれるものでもある。チタンが前記含量範囲で含まれれば、連鋳不良及び析出物粗大化を防止し、鋼材の物性を容易に確保することができ、鋼材表面に、クラック発生のような欠陥(defect)を防止することができる。一方、チタンの含量が0.050wt%を超えれば、析出物が粗大化され、延伸率及び曲げ性の下落が生じうる。
【0051】
ニオブ(Nb)とバナジウム(V)は、マルテンサイトパケットサイズ(packet size)低減による強度及び靭性を増大させることができる。ニオブ及びバナジウムそれぞれは、鋼板10全体重量につき、0.01wt%ないし0.1wt%含まれるものでもある。ニオブとバナジウムとが前記範囲で含まれるとき、熱間圧延工程及び冷間圧延工程において、鋼板10の結晶粒微細化効果にすぐれ、製鋼/連鋳時、スラブのクラック発生と、製品の脆性破断発生とを防止し、製鋼性粗大析出物生成を最小化させることができる。
【0052】
カルシウム(Ca)は、介在物形状制御のためにも添加される。そのようなカルシウムは、鋼板10全体重量につき、0.003wt%以下で含まれるものでもある。
【0053】
熱延工程及び/または冷延工程を経て、常温に冷却された後、ホットスタンピング工程を経て製造されたホットスタンピング部品の鋼板10内には、残留応力が存在する。ここで、該「残留応力」は、鋼板10に外力が作用していない状態で、ホットスタンピング部品内に存在する応力を意味する。
【0054】
該残留応力は、材料内の欠陥に起因しうる。例えば、空洞(vacancy)、侵入物(interstitial)、不純物(impurity)のような点欠陥(point defect);転位(dislocation)のような線欠陥(line defect);及び外部表面(external surface)、結晶粒界、双晶粒界(twin boundary)、積層欠陥(stacking fault)、相界面(phase boundary)のような界面欠陥(interfacial defect)は、残留応力の発生に起因しうる。すなわち、鋼板10内に欠陥が多く存在するほど、内部残留応力が大きいとも理解される。
【0055】
そのような欠陥、及びそれによる鋼板10の残留応力は、鋼板10の機械的物性(例:引っ張り強度)及び水素脆性に影響を及ぼす。
【0056】
具体的には、ホットスタンピング部品の引っ張り強度は、鋼板10内部の欠陥が、適度なレベルに存在する場合、欠陥が多いほど(または、残留応力が大きいほど)引っ張り強度が高くなり、欠陥が少ないほど(または、残留応力が小さいほど)引っ張り強度が低くなりうる。それは、内部に欠陥が多く存在するほど、元素が不規則に配列され、材料の変形を誘発する転位の移動を困難にするためである。
【0057】
しかしながら、鋼板10の水素脆性は、内部に欠陥が多いほど(または、残留応力が大きいほど)低下され、内部に欠陥が少ないほど(または、残留応力が小さいほど)向上されうる。一般的に、内部に有効な水素トラップサイトが多く存在するほど、活性化水素量が低減され、製品の水素脆性が向上されうる。例えば、内部に存在する微細析出物(例:チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の窒化物または炭化物など)は、有効な水素トラップサイトとして機能し、水素脆性を向上させる役割を行う。なお、内部に存在する欠陥も、水素トラップサイトとして提供されうる。しかしながら、該欠陥は、水素との結合エネルギーが相対的に低いが、該欠陥にトラップされて非活性化された水素は、活性化水素に戻る可能性が高い。従って、該欠陥は、有効な水素トラップサイトとして機能することができず、かえって、該欠陥が多い部分(または、残留応力が大きい部分)に、活性化水素を局所的に集中させることにより、水素脆性を低下させてしまう。特に、ホットスタンピング部品は、自動車の構造体において適用される位置により、少なくとも1つの屈曲部を含むものでもあり、該屈曲部は、ホットスタンピング工程において、平坦な領域に比べ、過激に成形される部分である。すなわち、ホットスタンピング工程において、プレスによる応力が相対的に集中され、残留応力が大きくなりうるので、水素脆性脆弱部として作用しうる。
【0058】
従って、鋼板10内に存在する欠陥、及びそれによる残留応力は、適正なレベルに制御される必要がある。
【0059】
本発明の実施形態によれば、鋼板10内に存在する残留応力を数値化した残留応力分析値を、事前設定された条件を満足するように制御することにより、鋼板10内に存在する欠陥、及びそれによる残留応力を適正なレベルに制御することができる。
【0060】
一実施形態として、残留応力分析値は、X線回折分析(XRD:X-ray diffraction)で残留応力を数値化したXRD値の大きさ(または、XRD値の絶対値)と、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD:electron backscatter diffraction)で方位を数値化したEBSD値の大きさ(または、EBSD値の絶対値)との積でもある。また、前記事前設定された条件は、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下でもある。さらに望ましくは、XRD値の大きさが、5MPa以上であり、15MPa未満である場合は、残留応力分析値が、2.95*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.01(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するように制御され、XRD値の大きさが、15MPa以上であり、55MPa未満である場合は、残留応力分析値が、9.31*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.035(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するように制御され、XRD値の大きさが、55MPa以上であり、70MPa以下である場合は、残留応力分析値が、3.96*10-3(degree*MPa/μm2)以上であり、0.043(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するようにも制御される。
【0061】
「X線回折分析(XRD)」は、結晶格子の規則性により、測定サンプルに照射された入射X線が特定方向に反射されるX線回折を利用して残留応力を測定する分析方法である。具体的には、残留応力は、sin2φ法によっても測定される。該sin2φ法は、被測定部にX線を照射し、回折線のピーク位置を求めるものであり、残留応力が存在する場合、X線の入射角(φ)を変更すれば、回折線のピーク位置が変化される。このとき、変化された回折線のピーク位置を縦軸に取り、X線の入射角のsin2φを横軸に取り、最小自乗法により、直線回帰させてその傾きを得て、得られた傾斜に、ヤング率及びポワソン比から求められた応力定数を乗じ、下記数式1により、応力値(XRD値)を求めることができる。
[数1]
σ=-E/2(1+v)*cotθ*π/180*M=K*M
σ:応力値またはXRD値(MPa)
E:ヤング率(MPa)
v:ポワソン比
M:回帰直線2θ-sin2θの傾斜
2θ:ストレインなしの回折角(°)
K:応力定数(MPa)
【0062】
そのようなX線回折分析(XRD)は、相対的に広い範囲を対象にするので、代表性にすぐれる一方、偏差が大きく、均一性が良好ではないという短所がある。また、そのようなXRD値の偏差は、製品内部の残留応力が大きいほど、大きくなる傾向を帯びる。従って、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値だけでは、材料の残留応力を正確に分析して制御し難いという問題点がある。
【0063】
一方、「後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)」は、一定試片の回折パターン(pattern)を利用し、結晶相(crystallographic phase)と結晶方位(crystallographic orientation)とを決定し、それらを基に、試片微細組織の形状(morphologic)情報と結晶学的(crystallographic)情報とを組み合わせて分析する方法である。
【0064】
具体的には、走査電子顕微鏡(SEM)内において、試片に電子ビームを照射すれば、入射された電子ビームが試片内で散乱され、試片表面方向に回折パターンが示されることになる。それを、後方散乱電子回折パターン(EBSP:electron backscattered diffraction pattern)と言い、該パターンは、電子ビームが照射された領域の結晶方位に反応し、材料の結晶方位を1°以内の正確度で測定することができる。
【0065】
そのような後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)は、相対的に狭い範囲を対象にするので、X線回折分析(XRD)と対比し、偏差が小さく、均一性が良好であるという長所がある。しかしながら、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で残留応力を数値化したEBSD値も、代表性にすぐれていないという短所があるが、EBSD値だけでは、材料の残留応力を正確に分析して制御し難いという問題点がある。
【0066】
本発明の実施形態は、前述のX線回折分析(XRD)と後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)とのそれぞれの短所を補完するために、差別化された残留応力分析値を適用する。具体的には、残留応力分析値として、X線回折分析(XRD)で残留応力を数値化したXRD値の大きさ(またはXRD値の絶対値)と、後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化したEBSD値の大きさ(またはEBSD値の絶対値)との積が適用されうる。それにより、XRD値の短所である偏差は、EBSD値によって補完され、EBSD値の短所である代表性は、XRD値によって補完されることにより、残留応力をさらに正確に分析して制御することができるという効果がある。
例えば、該残留応力分析値は、下記数式2のようにも表現される。
[数2]
残留応力分析値(degree*MPa/μm2)=|XRD値(MPa)|*|EBSD値(degree/μm2)|
【0067】
このような残留応力分析値は、ホットスタンピング部品内の欠陥、及びそれによる残留応力と、大体のところ比例関係でもある。具体的には、残留応力分析値が大きいほど、製品内部に欠陥が多く存在し、残留応力が大きく、残留応力分析値が小さいほど、製品内部に欠陥が少なく存在し、残留応力が小さいとも理解される。さらには、残留応力分析値が大きいほど、製品の引っ張り強度が高い一方、水素脆性にすぐれず、残留応力分析値が小さいほど、製品の引っ張り強度が低い一方、水素脆性にすぐれているとも理解される。従って、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するように制御することにより、製品の機械的物性及び水素脆性を適切に確保することができる。
【0068】
なお、高温の素材から、圧延と冷却を介して製品を製造する工程特性上、欠陥、及びそれによる残留応力は、製造工程過程において、鋼板10の幅方向または長手方向に存在する温度差によって生じうる。本発明の実施形態によれば、製造工程過程において差別化された工程条件、例えば、ある加熱条件及び/または冷却条件を適用することにより、前述の残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するように制御することができる。そのような差別化された工程条件に係わる詳細な説明は、
図3ないし
図5を参照して後述する。
【0069】
図2は、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の一部を図示する平面図である。
【0070】
鋼板10は、面積分率で80%以上のマルテンサイト相を含む微細組織を有する成分系によってもなる。また、鋼板10は、面積分率で20%未満のベイナイト相を含むものでもある。
【0071】
マルテンサイト相は、冷却中、マルテンサイト変態の開始温度(Ms)下において、オーステナイトγの無拡散変態結果である。マルテンサイトは、オーステナイトそれぞれの初期結晶粒内において、一方向dに配向されたロッド形態のラス(lath)相を有しうる。
【0072】
また、鋼板10は、マルテンサイト相内部に位置する鉄系炭化物を有しうる。該鉄系炭化物は、針状形態でもある。一実施形態として、該鉄系炭化物の直径は、0.2μm未満であり、該鉄系炭化物の長さは10μm未満でもある。ここで、該「鉄系炭化物の直径」は、該鉄系炭化物の短軸長を意味し、該「鉄系炭化物の長さ」は、鉄系炭化物の長軸長を意味しうる。
【0073】
鉄系炭化物の直径が0.2μm以上であるか、あるいはその長さが10μm以上であるならば、焼きなまし熱処理過程において、Ac3以上の温度でも溶けずに残存し、鋼板10の曲げ性及び降伏比が低下されうる。一方、該鉄系炭化物の直径が0.2μm未満であり、長さが10μm未満である場合、鋼板10の強度と成形性との均衡が改善されうる。
【0074】
そのような鉄系炭化物は、マルテンサイト相を基準に、5%未満の面積分率を有しうる。該鉄系炭化物の面積分率が、マルテンサイト相を基準に、5%以上である場合は、鋼板10の強度ないし曲げ性の確保が困難でもある。
【0075】
一実施形態として、
図2に図示されているように、鉄系炭化物は、第1鉄系炭化物C1及び第2鉄系炭化物C2を含むものでもある。第1鉄系炭化物C1は、ラス相の長手方向dと水平な鉄系炭化物であり、第2鉄系炭化物C2は、ラス相の長手方向dと垂直な鉄系炭化物でもある。ここで、「水平」というのは、ラス相の長手方向dと、0°以上20°以下の角度をなすものを含み、「垂直」というのは、ラス相の長手方向dと、70°以上90°以下の角度をなすものを含むものでもある。例えば、第1鉄系炭化物C1は、ラス相の長手方向dと、0°以上20°以下の角度をなし、第2鉄系炭化物C2は、ラス相の長手方向dと、70°以上90°以下の角度をなしうる。
【0076】
第1鉄系炭化物C1の鉄系炭化物基準の面積分率は、第2鉄系炭化物の鉄系炭化物基準の面積分率よりも大きくなる。それを介し、鋼板10の曲げ性が向上しうる。具体的な例として、ラス相の長手方向dと、0°以上20°以下の角度をなす第1鉄系炭化物C1の鉄系炭化物基準の面積分率は、50%以上、望ましくは、60%以上でもある。また、ラス相の長手方向dと、70°以上90°以下の角度をなす第2鉄系炭化物C2の鉄系炭化物基準の面積分率は、50%未満、望ましくは、40%未満でもある。
【0077】
曲げ変形時に生成されるクラックは、転位(dislocation)がマルテンサイト相内で移動することによっても生じうる。このとき、与えられた塑性変形において、局所的な変形率速度が大きい値を有するほど、マルテンサイトの塑性変形に対するエネルギー吸収程度が高く、衝突性能が向上されるとも理解される。
【0078】
一方、ラス相の長手方向dと水平な第1鉄系炭化物C1の鉄系炭化物基準の面積分率が、ラス相の長手方向dと垂直な第2鉄系炭化物C2の鉄系炭化物基準の面積分率より大きく形成されれば、曲げ変形時、転位がラス相内部で移動する過程において、局所的な変形率速度差による動的変形時効(DSA:dynamic strain aging)、すなわち、押入動的変形時効(indentation dynamic strain aging)が示されうる。該押入動的変形時効は、塑性変形吸収エネルギーの概念であり、変形に対する抵抗性能を意味するために、押入動的変形時効現象が頻煩であるほど、変形に対する抵抗性能にすぐれているとも評価される。
【0079】
すなわち、本実施形態によれば、ラス相の長手方向dと20°以下の角度をなす第1鉄系炭化物C1の鉄系炭化物基準の面積分率が50%以上に形成され、ラス相の長手方向dと、70°以上90°以下の角度をなす第2鉄系炭化物C2の鉄系炭化物基準の面積分率は、50%未満に形成されることにより、押入動的変形時効現象が頻繁に生じ、それを介し、Vベンディング角度を50°以上確保し、曲げ性及び衝突性能を向上させることができる。
【0080】
鋼板10において、20%未満の面積分率を有するベイナイト相は、硬度分布が均一であるために、強度と延性とのバランスにすぐれた組織である。ただし、ベイナイトは、マルテンサイトより軟質であるために、鋼板10の強度及び曲げ性の確保のために、該ベイナイトは、20%未満の面積分率を有するようにすることが望ましい。
【0081】
一方、前述の針状形態の鉄系炭化物は、ベイナイト相の内部にも析出される。ベイナイト内部の鉄系炭化物は、ベイナイトの強度を上昇させ、ベイナイトとマルテンサイトとの強度差を低減させるので、鋼板10の降伏比及び曲げ性を高めることができる。このとき、該鉄系炭化物は、ベイナイト相を基準に、ベイナイト相内部に20%未満で存在しうる。該鉄系炭化物が、ベイナイト相を基準に、20%以上である場合は、ボイドが生成され、曲げ性の低下をもたらしてしまう。
【0082】
図3は、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の製造方法を概略的に図示するフローチャートであり、
図4は、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の製造方法において、ブランクが多段加熱される場合の温度変化を示すグラフであり、
図5は、ブランクが多段加熱される場合と、単一加熱される場合との温度変化を比較して示すグラフである。
【0083】
図3を参照すれば、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品製造方法は、ブランク投入段階(S110)、多段加熱段階(S120)及び均熱加熱段階(S130)を含むものでもある。また、該ホットスタンピング部品製造方法は、均熱加熱段階(S130)以後に遂行される移送段階(S140)、形成段階(S150)及び冷却段階(S160)をさらに含むものでもある。
【0084】
まず、ブランク投入段階(S110)は、複数の区間を具備した加熱炉内にブランクを投入する段階でもある。
【0085】
加熱炉内に投入されるブランクは、ホットスタンピング部品形成のための板材を裁断して形成されたものでもある。前記板材は、鋼スラブに、熱間圧延または冷間圧延を行った後、焼きなまし熱処理する過程を介しても製造される。また、前記焼きなまし熱処理以後、前記焼きなまし熱処理された板材の少なくとも一面に、メッキ層を形成することができる。例えば、該メッキ層は、Al-Si系メッキ層またはZnメッキ層でもある。
【0086】
続いて、多段加熱段階(S120)及び均熱加熱段階(S130)が順に遂行されうる。加熱炉内に投入されたブランクは、加熱炉が具備する複数の区間を通過しても加熱される。一実施形態として、加熱炉内に投入されたブランクは、ローラに実装され、移送方向に沿っても移送される。
【0087】
加熱炉は、加熱炉内に順番通り配された複数の区間を具備することができる。該加熱炉が具備する複数の区間は、ブランクが投入される加熱炉の入口から、ブランクが取り出される加熱炉の出口の方向に、温度範囲が段階的に増大する区間と、温度範囲が均一に維持される区間と、を含む。
【0088】
多段加熱段階(S120)は、ブランクを、加熱炉内に具備された複数区間のうち、温度範囲が段階的に増大する区間を通過させながら加熱する段階である。均一加熱段階(S130)は、多段加熱されたブランクを、加熱炉内に具備された複数区間のうち、温度範囲が均一に維持される区間を通過させながら加熱する段階である。
【0089】
加熱炉内に具備された複数区間の温度範囲は、ブランクが投入される加熱炉の入口からブランクが取り出される加熱炉の出口の方向に、目標温度Tt範囲まで段階的に増大していて、目標温度Tt範囲を有する区間から加熱炉の出口まで均一な温度範囲、すなわち、目標温度Tt範囲にも維持される。このとき、該温度範囲が段階的に増大する区間の個数、該温度範囲が均一に維持される区間の個数、及び区間それぞれの温度範囲には、制限がない。
【0090】
一実施形態として、
図4に図示されているように、加熱炉は、第1温度範囲T
1を有する第1区間P
1、第2温度範囲T
2を有する第2区間P
2、第3温度範囲T
3を有する第3区間P
3、第4温度範囲T
4を有する第4区間P
4、第5温度範囲T
5を有する第5区間P
5、第6温度範囲T
6を有する第6区間P
6、及び第7温度範囲T
7を有する第7区間P
7を具備することができる。他の実施形態として、
図4に図示されているところと異なり、加熱炉は、6個以下または8個以上の区間を具備することができ、区間それぞれの温度範囲も、多様に変更されうる。以下、説明の便宜上、
図4に図示されている実施形態を基に説明する。
【0091】
第1区間P1ないし第7区間P7は、加熱炉内に順番通り配されうる。第1温度範囲T1を有する第1区間P1は、ブランクが投入される加熱炉の入口と隣接し、第7温度範囲T7を有する第7区間P7は、該ブランクが排出される加熱炉の出口と隣接しうる。すなわち、第1温度範囲T1を有する第1区間P1が、加熱炉が具備する複数区間のうち、最初区間でもあり、第7温度範囲T7を有する第7区間P7が、加熱炉が具備する複数区間のうち、最後区間でもある。該ブランクは、加熱炉が具備する第1区間P1ないし第7区間P7を順に移動して加熱されうる。
【0092】
一実施形態として、
図4に図示されているように、第1区間P
1ないし第5区間P
5までは、区間の温度範囲が目標温度T
t範囲まで段階的に増大し、第6区間P
6及び第7区間P
7は、第5区間P
5の温度範囲である目標温度T
t範囲と同一温度範囲にも維持される。ただし、前述の例示に制限されるものではなく、該温度範囲が段階的に増大する区間と、該温度範囲が均一に維持される区間とのそれぞれの個数は、多様に変更されうる。
なお、加熱炉内に具備された複数区間のうち、互いに隣接した2つの区間間の温度満ちる0℃以上100℃以下でもある。例えば、第1区間P1課題2区間P2の温度差は、0℃以上100℃以下でもある。
【0093】
一実施形態として、第1区間P1の第1温度範囲T1は、840℃ないし860℃でもあり、835℃ないし865℃でもある。第2区間P2の第2温度範囲T2は、870℃ないし890℃でもあり、865℃ないし895℃でもある。第3区間P3の第3温度範囲T3は、900℃ないし920℃でもあり、895℃ないし925℃でもある。第4区間P4の第4温度範囲T4は、920℃ないし940℃でもあり、915℃ないし945℃でもある。第5区間P5の第5温度範囲T5は、Ac3ないし1,000℃でもある。望ましくは、第5区間P5の第5温度範囲T5は、930℃以上1,000℃以下でもある。さらに望ましくは、第5区間P5の第5温度範囲T5は、950℃以上1,000℃以下でもある。第6区間P6の第6温度範囲T6、及び第7区間P7の第7温度範囲T7は、第5区間P5の第5温度範囲T5と同一でもある。
【0094】
その場合、第1区間P1ないし第4区間P4においては、多段加熱段階(S120)が遂行され、第5区間P5ないし第7区間P7においては、均一加熱段階(S130)が遂行されうる。そのように、均熱加熱段階(S130)が遂行される区間を、1つの区間ではなく、複数の区間、例えば、第5区間P5ないし第7区間P7として具備することにより、該区間内において、温度差が生じることを、防止したり最小化させたりすることができる。
【0095】
均一加熱段階(S130)は、第5区間P5の温度範囲で遂行され、第5区間P5の温度範囲は、目標温度Tt範囲として、Ac3以上の温度でもある。すなわち、均熱加熱段階(S130)においては、第1区間P1ないし第4区間P4を通過して多段加熱されたブランクを、Ac3以上の温度で均熱加熱するものでもある。望ましくは、均熱加熱段階(S130)においては、多段加熱されたブランクを、930℃以上1,000℃以下の温度で均熱加熱することができる。さらに望ましくは、均熱加熱段階(S130)においては、多段加熱されたブランクを、950℃以上1,000℃以下の温度で均熱加熱することができる。
【0096】
一実施形態として、加熱炉は、ブランクの移送経路に沿い、20mないし40mの長さを有しうる。該加熱炉は、互いに異なる温度範囲を有する複数の区間を具備することができ、該複数区間のうち、ブランクを多段加熱する区間の長さD
1(
図4)と、複数区間のうち、ブランクを均熱加熱する区間の長さD
2(
図4)との比は、1:1ないし4:1を満足しうる。すなわち、該加熱炉内に具備された複数区間のうち、均一加熱区間の長さD
2は、加熱炉の総長(D
1+D
2)の20%ないし50%に該当する長さを有しうる。
【0097】
ブランクを均熱加熱する区間の長さが増大し、ブランクを多段加熱する区間の長さD1と、ブランクを均熱加熱する区間の長さD2との比が1:1を超える場合、均熱加熱区間において、オーステナイト(FCC)組織が生成され、ブランク内への水素浸透量が増大し、遅れ破断が増大しうる。また、ブランクを均熱加熱する区間の長さが低減され、ブランクを多段加熱する区間の長さD1と、ブランクを均熱加熱する区間の長さD2との比が4:1未満である場合、均熱加熱区間(時間)が十分に確保されず、ホットスタンピング部品の製造工程によって製造されたホットスタンピング部品の強度が不均一になってしまう。
【0098】
一実施形態として、多段加熱段階(S120)及び均熱加熱段階(S130)において、ブランクは、約6℃/sないし約12℃/sの昇温速度を有することができ、均熱時間は、約3分ないし約6分でもある。さらに具体的には、ブランクの厚みが、約1.6mmないし約2.3mmである場合、該昇温速度は、約6℃/sないし約9℃/sであり、該均熱時間は約3ないし約4分でもある。また、ブランクの厚みが、約1.0mmないし約1.6mmである場合、該昇温速度は、約9℃/sないし約12℃/sであり、該均熱時間は、約4分ないし約6分でもある。
【0099】
図5を参照し、ブランクB’が単一加熱される場合と、ブランクBが多段加熱される場合との温度変化について説明する。
【0100】
比較例として、ブランクB’が単一加熱される場合を仮定しうる。単一加熱段階においては、加熱炉の内部温度が、ブランクの目標温度Ttと同一に維持されるように、加熱炉の温度を設定する。その場合、ブランクB’の目標温度Ttは、Ac3以上でもある。望ましくは、ブランクB’の目標温度Ttは、930℃でもある。さらに望ましくは、ブランクB’の目標温度Ttは、950℃でもある。
【0101】
単一加熱段階におけるブランクB’の温度は、多段加熱段階におけるブランクBの温度に比べ、目標温度Ttにさらに早く逹しうる。例えば、該単一加熱段階において、ブランクB’の昇温速度は、多段加熱段階におけるブランクBの昇温速度に比べ、約2℃/s以上も早いのである。該単一加熱段階は、該多段加熱段階に比べ、目標温度Ttに早く逹するために、該単一加熱段階の均熱時間ET2は、該多段加熱段階の均熱時間ET1より長く形成されうる。該単一加熱段階の場合のように、均熱時間ET2が長くなれば、粒界の大きさが均一に形成されず、前述の欠陥が必要以上に過多に形成されてしまう。
【0102】
それにより、本発明の一実施形態によるホットスタンピング部品の製造方法においては、多段加熱方式を介し、ブランクが目標温度Ttに逹する時間を遅延させ、適正な均熱時間ET1を確保することにより、粒界サイズの均一性を確保し、適正レベルの欠陥が形成されるように制御しうる。従って、多段加熱方式を適用して製造されたホットスタンピング部品は、事前設定された範囲の欠陥及び残留応力を有するように制御することができ、前述の事前設定された範囲の満足できるか否かは、前述の残留応力分析値を介して確認することができる。
【0103】
再び、
図3を参照すれば、均熱加熱段階(S130)以後、移送段階(S140)、形成段階(S150)及び冷却段階(S160)がさらに遂行されうる。
【0104】
移送段階(S140)は、加熱されたブランクを、加熱炉からプレス金型に移送する段階でもある。加熱されたブランクを、加熱炉からプレス金型に移送する段階において、加熱されたブランクは、10秒ないし15秒の間空冷されうる。
【0105】
形成段階(S150)は、移送されたブランクをホットスタンピングし、成形体を形成する段階でもある。冷却段階(S160)は、形成された成形体を冷却する段階でもある。
【0106】
プレス金型で最終部品形状に成形された後、該成形体を冷却し、最終製品が形成されうる。該プレス金型には、内部に冷媒が循環する冷却チャネルが具備されうる。該プレス金型に具備された冷却チャネルを介して供給される冷媒の循環により、加熱されたブランクを急冷させうる。このとき、板材のスプリングバック(spring back)現象を防止すると共に、所望する形状を維持するためには、該プレス金型を閉じた状態で加圧しながら急冷を実施することができる。すなわち、ブランクが該プレス金型内に配された状態で、成形工程(または、形成段階(S150))と冷却工程(または、冷却段階(S160))とを同時に遂行することができる。
【0107】
一実施形態として、加熱されたブランクに対し、成形工程及び冷却工程を遂行するにおいて、ブランクは、マルテンサイト変態が始まる温度(Ms温度)以下の温度において、プレス金型内に事前設定された時間、例えば、3秒ないし20秒の間維持されうる。また、ブランクは、マルテンサイト変態が終わる温度(Mf温度)まで、平均冷却速度を15℃/s以上に維持しながら冷却されうる。そのように冷却時間を確保することにより、マルテンサイト組織をオートテンパリング(auto-tempering)させ、オートテンパード(auto-tempered)マルテンザイトを得て成形された部品のねじれを防止することができるが、製品内部の残留応力を低減させることができるという効果がある。
【0108】
プレス金型内の維持時間が3秒未満である場合、素材の十分な冷却がなされず、製品の残存熱と部位別温度との偏差により、熱変形が生じうる。また、ブランクがプレス金型内に維持される時間が20秒を超える場合、必要以上の欠陥、及びそれによる残留応力が生じ、プレス金型内の維持時間が長くなり、生産性が低下されてしまう。
【0109】
一実施形態として、ホットスタンピング部品の製造方法によって製造されたホットスタンピング部品の引っ張り強度は、1,350MPa以上であり、活性化水素量は、0.7wppm以下でもある。
【0110】
以下においては、実施形態及び比較例を介し、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、下記の実施形態及び比較例は、本発明について、さらに具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態及び比較例によって限定されるものではない。下記の実施形態及び比較例は、本発明の範囲内において、当業者によって適切に修正されたり変更されたりしうる。
【0111】
【0112】
前記表1は、試片A-1ないしA-9それぞれにつき、XRD値、引っ張り強度及び活性化水素量を測定した結果を示す。具体的には、前記表1は、試片について測定したXRD値の大きさが、5MPa以上であり、70MPa以下である範囲を満足するか否かということを確認し、範囲を満足する場合と、満足しない場合とのそれぞれの引っ張り強度及び活性化水素量を比較分析するためのデータを示す。
【0113】
XRD値は、前述のX線回折分析(XRD)で残留応力を数値化した値である。該XRD値は、試片のコーティング層を除去し、目標位置(例:1/4地点)まで電解研磨した後、X線を照射して測定した。また、前記電解研磨は、5%の2-ブトキシエタノール(2-butoxyethanol)、20%の過塩素酸(perchloric acid)、35%のエタノール、及び40%の水を含む電解研磨液によって遂行された。
【0114】
活性化水素量は、加熱脱ガス分析(thermal desorption spectroscopy)方法を利用して測定することができる。該加熱脱ガス分析方法は、試片を、事前設定された加熱速度で加熱して昇温させながら、特定温度以下において、試片から放出される水素量を測定するものであり、試片から放出される水素は、試片内に流入された水素のうち、捕獲されずに、水素遅れ破壊に影響を与える活性化水素とも理解される。すなわち、該加熱脱ガス分析の結果、測定された水素の量が多ければ、捕獲されていない水素遅れ破壊を起こしうる活性化水素が多く含まれていることを意味する。
【0115】
具体的には、表1の活性化水素量は、試片それぞれにつき、20℃/分の加熱速度で、常温から500℃まで昇温させつつ、350℃以下において、試片から放出される水素量を測定した値である。
【0116】
試片A-1ないしA-5は、測定されたXRD値の大きさが、5MPa以上であり、70MPa以下である範囲を満足する。すなわち、試片A-1ないしA-5の内部には、適正なレベルの欠陥、及びそれによる残留応力が存在するとも理解される。それにより、試片A-1ないしA-5の引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足し、試片A-1ないしA-5の活性化水素量は、0.7wppm以下を満足するということを確認することができる。
【0117】
一方、試片A-6及びA-7の場合、測定されたXRD値の大きさが、5MPaに達していない。すなわち、試片A-6及びA-7の内部には、欠陥が必要なレベルより少なく存在し、それによる残留応力が過度に小さいということが分かる。それにより、試片A-6及びA-7それぞれの活性化水素量は、0.7wppm以下を満足する一方、引っ張り強度は1,350MPaに達していないということを確認することができる。
【0118】
また、試片A-8及びA-9の場合、測定されたXRD値の大きさが、70MPaを超える。すなわち、試片A-8及びA-9の内部には、欠陥が必要以上に存在し、それによる残留応力が過度に大きいことが分かる。それにより、試片A-8及びA-9それぞれの引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足する一方、活性化水素量は、0.7wppmを超え、水素脆性が低下されたことを確認することができる。
【0119】
なお、表1を参照すれば、XRD値が大きいほど、XRD値の偏差も増大する傾向を帯びることを確認することができる。すなわち、内部応力が大きい製品であればあるほど、XRD値の誤差範囲が大きくなるが、それを補正する必要性が大きくなる。
【0120】
【0121】
前記表2は、試片B-1ないしB-8それぞれにつき、EBSD値、引っ張り強度及び活性化水素量を測定した結果を示す。具体的には、前記表1は、試片について測定したEBSD値の大きさが、5.71*10-5(degree/μm2)以上であり、7.14*10-4(degree/μm2)以下の範囲を満足するか否かということを確認し、範囲を満足する場合と、満足しない場合とのそれぞれの引っ張り強度及び活性化水素量を比較分析するためのデータを示す。
【0122】
EBSD値は、前述の後方散乱電子回折パターン分析(EBSD)で方位を数値化した値である。該EBSD値は、4,000倍、25μm*70μmの試料面積につき、50nmステップでスキャンして測定した。また、そのような測定は、5個の観察面について行われた。
【0123】
活性化水素量は、表1と同一条件下において、加熱脱ガス分析方法を利用して測定した。
【0124】
試片B-1ないしB-4は、測定されたEBSD値の大きさが、5.71*10-5(degree/μm2)以上であり、7.14*10-4(degree/μm2)以下である範囲を満足する。すなわち、試片B-1ないしB-4の内部には、適正なレベルの欠陥、及びそれによる残留応力が存在するとも理解される。それにより、試片B-1ないしB-4の引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足し、試片B-1ないしB-4の活性化水素量は、0.7wppm以下を満足することを確認することができる。
【0125】
一方、試片B-5及びB-6の場合、測定されたEBSD値の大きさが、5.71*10-5(degree/μm2)に達していない。すなわち、試片B-5及びB-6の内部には、欠陥が必要なレベルより少なく存在し、それによる残留応力が過度に小さいことが分かる。それにより、試片B-5及びB-6それぞれの活性化水素量は、0.7wppm以下を満足する一方、引っ張り強度は、1,350MPaに達していないことを確認することができる。
【0126】
また、試片B-7及びB-8の場合、測定されたEBSD値の大きさが、7.14*10-4(degree/μm2)を超える。すなわち、試片B-7及びB-8の内部には、欠陥が必要以上に存在し、それによる残留応力が過度に大きいことが分かる。それにより、試片B-7及びB-8それぞれの引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足する一方、活性化水素量は、0.7wppmを超え、水素脆性が低下されたことを確認することができる。
【0127】
【0128】
前記表3は、試片C-1ないしC-12それぞれにつき、XRD値、EBSD値、残留応力分析値、引っ張り強度、活性化水素量及び4点屈曲試験(4point bending test)の結果を示す。
【0129】
当該のXRD値、EBSD値、引っ張り強度及び活性化水素量は、表1及び表2と同一の条件及び方法で測定した。また、残留応力分析値は、XRD値の大きさ(または、絶対値)とEBSD値の大きさ(または、絶対値)との積として算出された。
【0130】
該4点屈曲試験は、試片を腐食環境に露出させた状態を再現して製造した試片に対し、特定地点において、弾性限界以下レベルの応力を加え、応力腐食亀裂の発生するか否かを確認する試験方法である。このとき、該応力腐食亀裂は、腐食と、持続的な引っ張り応力とが同時に作用するときに生じる亀裂を意味する。
【0131】
具体的には、表1の4点屈曲試験結果は、試片それぞれにつき、空気中において、1,000MPaの応力を100時間印加し、破断発生するか否かを確認した結果である。
【0132】
本発明の実施形態によれば、残留応力分析値として、XRD値の大きさと、EBSD値の大きさとの積を適用することにより、XRD値及びEBSD値それぞれの不正確な情報を相互補正することにより、製品内部の残留応力を、さらに正確に分析及び制御することができる。具体的には、該残留応力分析値は、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するように制御される。
【0133】
なお、表3のXRD値を参照すれば、XRD値が大きいほど、XRD値の偏差も増大する傾向を帯びることを確認することができる。すなわち、内部応力が大きい製品であればあるほど、XRD値の誤差範囲が大きくなるが、それを補正する必要性が大きくなる。従って、製品の内部残留応力が大きい場合(または、XRD値の偏差が大きい場合)、残留応力分析値の役割がさらに注目されるところとなる。
【0134】
それを考慮し、該残留応力分析値は、XRD値の範囲により、さらに精密に制御されうる。具体的には、該XRD値の大きさが、5MPa以上であり、15MPa未満である場合は、該残留応力分析値が、2.95*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.01(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するように制御され、該XRD値の大きさが、15MPa以上であり、55MPa未満である場合は、該残留応力分析値が、9.31*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.035(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するように制御され、該XRD値の大きさが、55MPa以上であり、70MPa以下である場合は、該残留応力分析値が、3.96*10-3(degree*MPa/μm2)以上であり、0.043(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足するようにも制御される。
【0135】
試片C-1ないしC-6は、前述の工程条件を適用し、S110段階ないしS160段階を介して製造されたホットスタンピング部品である。すなわち、試片C-1ないしC-6は、前述の多段加熱段階(S120)及び均一加熱段階(S130)に適用された条件を適用し、冷却段階(S160)において、ブランクをマルテンサイト変態が終わる温度(Mf温度)まで、平均冷却速度15℃/s以上を適用し、マルテンサイト変態が始まる温度(Ms温度)以下の温度で、プレス金型内に、3秒ないし20秒の間維持して製造された試片である。
【0136】
それにより、試片C-1ないしC-6は、測定されたXRD値の大きさが、5MPa以上であり、70MPa以下である範囲を満足し、測定されたEBSD値の大きさが、5.71*10-5(degree/μm2)以上であり、7.14*10-4(degree/μm2)以下である範囲を満足する。それだけではなく、試片C-1ないしC-6の残留応力分析値(XRD値の大きさと、EBSD値の大きさとの積)も、2.85*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.05(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足する。
【0137】
さらに詳細には、試片C-1及びC-2は、XRD値の大きさが、5MPa以上であり、15MPa未満であるが、残留応力分析値が、2.95*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.01(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足する。また、試片C-3及びC-4は、XRD値の大きさが、15MPa以上であり、55MPa未満であるが、残留応力分析値が、9.31*10-4(degree*MPa/μm2)以上であり、0.035(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足する。また、試片C-5及びC-6は、XRD値の大きさが、55MPa以上であり、70MPa以下であるが、残留応力分析値が、3.96*10-3(degree*MPa/μm2)以上であり、0.043(degree*MPa/μm2)以下である範囲を満足する。
【0138】
すなわち、試片C-1ないしC-6は、XRD値の大きさ及びEBSD値の大きさだけではなく、残留応力分析値も、事前設定された条件を満足するが、試片C-1ないしC-6の内部には、適正なレベルの欠陥、及びそれによる残留応力が存在するとも理解される。それにより、試片C-1ないしC-6の引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足し、活性化水素量が0.7wppm以下を満足することを確認することができる。それだけではなく、試片C-1ないしC-6は、4点屈曲試験の結果、破断されていないことを確認することができる。すなわち、試片C-1ないしC-6は、前述の工程条件を適用して製造されることにより、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足するように制御することにより、適正なレベルの引っ張り強度及び水素脆性が確保された。
【0139】
一方、試片C-7ないしC-12は、前述の工程条件のうち少なくとも一部が異なる工程条件を適用して製造されたホットスタンピング部品である。
【0140】
表3を参照すれば、試片C-7ないしC-12は、測定されたXRD値の大きさが、5MPa以上であり、70MPa以下である範囲を満足し、測定されたEBSD値の大きさが、5.71*10-5(degree/μm2)以上であり、7.14*10-4(degree/μm2)以下である範囲を満足する。それにより、試片C-7ないしC-12の引っ張り強度は、1,350MPa以上を満足し、試片C-7ないしC-12の活性化水素量は、0.7wppm以下を満足することを確認することができる。
【0141】
しかしながら、試片C-7ないしC-12の残留応力分析値は、前述の事前設定された条件を満足することができない。
【0142】
試片C-7は、XRD値の大きさが、5MPa以上であり、15MPa未満であり、残留応力分析値は、2.95*10-4(degree*MPa/μm2)に達していない。すなわち、試片C-7内部には、欠陥が必要なレベルより少なく存在し、それによる残留応力が過度に小さいとも理解される。それにより、試片C-7は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0143】
試片C-8は、XRD値の大きさが、5MPa以上であり、15MPa未満であり、残留応力分析値は、0.01(degree*MPa/μm2)を超える。すなわち、試片C-8内部には、欠陥が必要以上に存在し、それによる残留応力が過度に大きいとも理解される。それにより、試片C-8は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0144】
試片C-9は、XRD値の大きさが、15MPa以上であり、55MPa未満であり、残留応力分析値は、9.31*10-4(degree*MPa/μm2)に達していない。すなわち、試片C-9内部には、欠陥が必要なレベルより少なく存在し、それによる残留応力が過度に小さいとも理解される。それにより、試片C-9は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0145】
試片C-10は、XRD値の大きさが、15MPa以上であり、55MPa未満であり、残留応力分析値は、0.035(degree*MPa/μm2)を超える。すなわち、試片C-10内部には、欠陥が必要以上に存在し、それによる残留応力が過度に大きいとも理解される。それにより、試片C-10は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0146】
試片C-11は、XRD値の大きさが、55MPa以上であり、70MPa以下であり、残留応力分析値は、3.96*10-3(degree*MPa/μm2)に達していない。すなわち、試片C-11内部には、欠陥が必要なレベルより少なく存在し、それによる残留応力が過度に小さいとも理解される。それにより、試片C-11は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0147】
試片C-12は、XRD値の大きさが、55MPa以上であり、70MPa以下であり、残留応力分析値は、0.043(degree*MPa/μm2)を超える。すなわち、試片C-12内部には、欠陥が必要以上に存在し、それによる残留応力が過度に大きいとも理解されることができる。それにより、試片C-12は、4点屈曲試験の結果、破断されていることを確認することができる。
【0148】
試片C-7ないしC-12は、XRD値の大きさ及びEBSD値の大きさそれぞれは、事前設定された条件を満足するにもかかわらず、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足することができず、4点屈曲試験の結果、破断されている。それは、XRD分析またはEBSD分析だけでは、ホットスタンピング部品内部の欠陥、及びそれによる残留応力を完璧に制御し難いとも理解される。
【0149】
なお、試片C-1ないしC-6のように、残留応力分析値が、事前設定された条件を満足する場合には、4点屈曲試験の結果、破断されていないが、該残留応力分析値を介し、ホットスタンピング部品内部の欠陥、及びそれによる残留応力を、さらに正確に分析及び制御することができることを確認することができる。
【0150】
本発明は、図面に図示されている実施形態を参照して説明されたが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において当業者であるならば、それらから、多様な変形、及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって定められるものである。
【国際調査報告】