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特表2023-537854歯科用アマルガムの代替修復材料として使用される歯科用組成物、キット、および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】歯科用アマルガムの代替修復材料として使用される歯科用組成物、キット、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20230830BHJP
   A61C 5/30 20170101ALI20230830BHJP
【FI】
A61K6/887
A61C5/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023504231
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 AU2021050894
(87)【国際公開番号】W WO2022032351
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】2020902880
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517113646
【氏名又は名称】エスディーアイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファーラー,ポール
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA13
4C089BC03
4C089BC07
4C089BC20
4C089BD01
4C089BD05
4C159DD08
(57)【要約】
本発明は、光開始剤を含有しない重合性接着剤と、レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物と、を含む歯科用組成物または歯科用キットに関する。歯科用組成物は、前記自己硬化性複合修復物と前記接着剤の接触と同時に硬化することで歯科修復物を形成する。本発明はまた歯科用組成物を塗布する方法に関し、また本発明の歯科用組成物または歯科用キットにより歯科用アマルガムを置換する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光開始剤を含有しない重合性接着剤と、
レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物と、
を含む歯科用組成物であって、
前記重合性接着剤と前記自己硬化性複合修復物の接触と同時に前記歯科用組成物が硬化することで歯科修復物が形成されることを特徴とする、
歯科用組成物。
【請求項2】
う窩を修復するために予め包装された複数の成分を有する歯科用キットであって、光開始剤を含有しない重合性接着剤と、レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物と、を含む歯科用キット。
【請求項3】
前記レドックス開始剤システムが実質的にアミンを含まないレドックス開始剤システムであることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物または請求項2に記載の歯科用キット。
【請求項4】
前記自己硬化性複合修復物が2成分型または2成分混合型であって、一方の成分に前記レドックス開始剤システムの少なくとも1つの酸化剤が含まれ、他方の成分に前記レドックス開始剤システムの少なくとも1つの還元剤が含まれている、ことを特徴とする請求項3に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項5】
前記少なくとも1つの酸化剤が、複数の過酸化物酸化剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項6】
前記少なくとも1つの還元剤が、チオ尿酸還元剤を含む複数の有機還元剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項3または4に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項7】
前記接着剤と前記自己硬化性複合修復物の両方に少なくとも1つの重合性成分が含有され、前記少なくとも1つの重合性成分が、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または(メタ)アクリレートプレポリマー、を含む(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項3~6の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項8】
前記自己硬化性複合修復物がさらに少なくとも1つの重合促進剤を含有することを特徴とする請求項3~7の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項9】
前記接着剤がさらに少なくとも1つの重合促進剤を含有することを特徴とする請求項8に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項10】
前記少なくとも1つの重合促進剤が、バナジウム還元剤を含む金属還元剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項8または9に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項11】
前記自己硬化性複合修復物における前記重合促進剤の含有量が、前記接着剤の重量で0.005%~0.5%の範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項12】
前記接着剤における前記重合促進剤の含有量が、前記接着剤の重量で0.001%~2%の範囲内にあることを特徴とする請求項9に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項13】
前記接着剤および/または前記自己硬化性複合修復物に、さらに少なくとも1つの重合防止剤が含まれることを特徴とする請求項3~10の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項14】
前記接着剤における前記重合防止剤の含有量が、前記接着剤の重量で0.01%~3%の範囲内にあることを特徴とする請求項13に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項15】
前記自己硬化性複合修復物における前記重合防止剤の含有量が、前記複合修復物の重量で0.01%~0.3%の範囲内にあることを特徴とする請求項13または14に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項16】
前記接着剤にさらに一以上の含有物が含まれ、前記一以上の含有物が水、少なくとも1つの水溶性有機溶媒、少なくとも1つの充填材料、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの結合剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択されることを特徴とする請求項3~15の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項17】
前記自己硬化性複合修復物にさらに一以上の含有物が含まれ、前記一以上の含有物が水、少なくとも1つの充填材料、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの結合剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択されることを特徴とする請求項3~16の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項18】
前記自己硬化性複合修復物にさらに一以上の充填材料が含まれることを特徴とする請求項16および17に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項19】
前記歯科用組成物または歯科修復物が、口腔内または窩洞内でその場で形成されていることを特徴とする請求項3~18の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キット。
【請求項20】
光開始剤のない重合性接着剤を窩洞に塗布することにより接着剤層を形成するステップと、
レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物を前記接着剤層の上に塗布するステップと、
を含むことを特徴とする、
窩洞に歯科用組成物を塗布する方法。
【請求項21】
前記自己硬化性複合修復物に、前記レドックス開始剤システムのための、少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの還元剤と、が含まれることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記接着剤にさらに少なくとも1つの還元剤が含まれることで、前記接着剤が、前記自己硬化性複合修復物に接触すると同時に、硬化が可能となることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項3~19の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キットを用いて歯の構造を修復する方法。
【請求項24】
アマルガム材料を含有しない歯科修復物を現場で形成または提供することのできる請求項3~19の何れか一項に記載の歯科用組成物または歯科用キットの使用による、歯の修復のための歯科用アマルガム材料の置換方法。
【請求項25】
窩洞内部の歯科用アマルガム補綴物を置換する方法であって、a)窩洞から歯科用アマルガム補綴物を除去し、b)同じ前記窩洞の内部に請求項3~19の何れか一項に記載の歯科用組成物を形成する、ことにより置換を行う方法。
【請求項26】
歯構造を修復するための歯科用組成物の作成における請求項2~19の何れか一項に記載の歯科用キットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う窩の修復に使用される歯科用組成物、キット、および方法に関する。特に本発明は、歯科用アマルガムの代替修復材料としての歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科学の分野において、う窩とはう蝕により生じた歯の穴または洞のことを指す。う窩が存在する歯の修復には通常、歯の組織を修復するために、歯科用アマルガムによる窩洞の充填が行われる。
【0003】
歯科用アマルガムは、う蝕により生じた大きなう窩を修復するための信頼できかつ耐久性が持続する材料である。アマルガムはその低廉性、高強度性、留置の容易さおよび確実な臨床上の寿命から、通常一般的に好まれる材料である。しかしながらアマルガムにはいくつかの欠点があり、このために使用されることが減ってきている。まず第1に、歯科用アマルガムは歯の表面に接着しないため、修復を確実に維持するためには大きなアンダーカットが必要である。この修復方法は健全な歯牙組織が不必要に除去されることを意味する。第2にアマルガムは加熱や冷却によって伸び縮みする性質があるため、補綴物を含む歯を破折させてしまう虞がある。第3にアマルガムの銀色/灰色の外観は象牙質やエナメル質の見た目とはマッチしないため、周囲の歯と審美的に上手くマッチせず、このために患者の満足度が低くなる結果となる。
【0004】
さらに通常のアマルガム組成物は毒性の強い重金属である水銀を、最大で50パーセント含有する可能性がある。アマルガム充填材が固まっている状態では水銀が、銀、錫、銅と共形成される金属間化合物に束縛されているために液体水銀は存在しないが、それでも水銀が蒸気の状態でアマルガムから漏れ出す可能性があることが研究からわかっている。この補綴材料はまた時間と共に腐食する傾向があり、これにより補綴材料から水銀が放出される。アマルガムに関連する健康上の懸念に加えて、多くの国際規制機関では、国際的な環境への水銀の懸念から、対象地域で歯科用アマルガムを段階的に減らすあるいは廃止している段階にある。
【0005】
これまでにアマルガムを使用しない歯科修復用の組成物または製品が開発されてきた。これらの組成物あるいは製品には通常、光重合性歯科材料が使用されている。例えば特開2010280630号公報には歯に塗布される前に混合される、2成分型の光硬化性歯科用接着物が開示されている。米国特許第4820744号明細書には同様の2成分型の修復材料が開示されている。特開2019112343号公報には光重合開始剤を配合に含む接着剤あるいは結合剤とすることができる1成分型の歯科用組成物が開示されている。
【0006】
光硬化性修復組成物または光硬化性修復物には、適切な硬化深度に関する問題があり、この硬化深度は使用する(一以上の)修復材料の物理機械的な特性に影響を与える重要因子である。不十分な重合により、修復材料がひどく劣化し、歯と修復材料との間の接着強度が低下し、また歯科用修復物の硬度/耐久性が低下する可能性がある。
【0007】
光硬化修復組成物または光硬化修復物は通常、硬化の実行を可能にするのに十分なエネルギーを送達し、硬化深度を制御するための光硬化ユニットを必要とする。光硬化プロセスまたは光重合プロセスは、光の強度と光硬化時間の両方に依存する。これら因子は数多くの変数から影響を受ける可能性があり、このような変数とは例えば操作者(歯科医師など)、光硬化ユニットの使い方(例えば被硬化材料との相対距離など)、光硬化ユニットの状態(バッテリー、カバーおよび/または硬化チップの状態など)および光硬化ユニットへの電力供給品質などである。これらの因子が単独で、あるいは組み合わさることによって、モノマーからポリマーへの変換水準が不十分になる可能性があり、および/または、硬化深度が不十分になる可能性があり、これにより物理的および/または機械的な特性の悪い修復材料が生じる可能性がある。
【0008】
既存の光重合歯科用組成物ではまた、接着成分または結合剤をまず形成するために2以上の成分を含む混合物を調整する必要がある。この外部での混合ステップは、特に一方の成分が固まりやすい場合には煩雑で手間がかかる可能性がある。
【0009】
既存の歯科用組成物または歯科用品はまたアミン系重合開始剤が使用されていることが多く、これが最終修復物に変色を生じさせる虞がある。
【0010】
本発明は、既存の歯科用修復組成物または歯科用修復材料に関連する上記の問題点または欠点を少なくとも部分的に解消する修復上の解決策の提供を試みるものである。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、光開始剤を含有しない重合性接着剤と、レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物と、を含む歯科用組成物であって、前記自己硬化性複合修復物と前記接着剤の接触と同時に前記組成物が硬化することで歯科修復物が形成されることを特徴とする歯科用組成物が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、う窩を修復するための予め包装された複数の成分を有する歯科用キットであって、光開始剤が含まれない重合性接着剤と、レドックス開始剤システムを含む自己硬化性複合修復物と、を含む歯科用キット、が提供される。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明の第1の態様または第2の態様における接着剤は、少なくとも1つの還元剤を含む一成分型の接着剤である。好ましくは、前記接着剤は、少なくとも1つの重合性成分と少なくとも1つの還元剤とを含む。
【0014】
好ましい実施形態において、本発明の第1の態様または第2の態様における前記自己硬化性複合修復物は、2成分型の修復物または2成分型の複合(あるいは混合)修復物であって、一方の成分にレドックス開始剤システムの少なくとも1つの酸化剤が含まれ、もう一方の成分にレドックス開始剤システムの少なくとも1つの還元剤が含まれる。好ましい実施形態において、本発明の第1の態様または第2の態様におけるレドックス開始剤システムはアミンを含まない、またはアミンを実質的に含まないレドックス開始剤システムである。好ましい実施形態において、前記複合修復物には少なくとも1つの重合性成分が含まれる。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、窩洞に歯科用組成物を塗布する方法であって、光開始剤が含まれない重合性接着剤を窩洞に塗布することで接着剤層を形成するステップと、前記接着剤層の上に、レドックス開始剤システムを含有する自己硬化性複合修復物を塗布するステップと、を含む方法が提供される。
【0016】
好ましい実施形態において、前記自己硬化性複合修復物には、レドックス開始剤システムのための、少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの還元剤と、が含まれる。
【0017】
好ましい実施形態において、本発明の第3の態様における重合性接着剤および自己硬化性複合修復物は、本発明の第1または第2の態様に係るものである。
【0018】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1または第2の態様に係る歯科用組成物または歯科用キットを用いた歯組織の修復方法が提供される。
【0019】
本発明の第5の態様によれば、アマルガム材料を含有しない歯科修復物をその場で形成または提供することのできる、本発明の第1の態様に係る歯科用組成物、または本発明の第2の態様に係る歯科用キット、を使用することによる歯修復のための歯科用アマルガム材料を置換する方法、が提供される。
【0020】
本発明の第6の態様によれば、a)窩洞から歯科用アマルガム補綴物を除去し、b)同じ前記窩洞内に本発明の第1の態様に係る歯科用組成物を形成することにより、窩洞内の歯科用アマルガム補綴物を置換する方法、が提供される。
【0021】
本発明の第7の態様によれば、歯組織の修復のための歯科用組成物の調製における本発明の第2の態様に係る歯科キットの使用、が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本明細書で使用される「備える」、「含む」、「有する」との用語、またはこれらの類義語は、これらの用語の前に記載されている(一以上の)特徴を「含むがこれらには限定されない」といったことを意味するオープンエンドの用語である。
【0023】
本明細書で使用される「組成物」という用語は、個々の成分/構成要素/物質/含有物からなる混合物、複合物、またはシステムのことを指し、これらは全体を形成するために組み合わされているか組み合わせることが可能であり、あるいは本発明に係る歯科用組成物を形成するために組み合わされているか組み合わせることが可能である。好ましい実施形態において、本発明に係る歯科用組成物は、本発明に係る自己硬化性複合修復物と接着剤とを有する各成分/各構成要素からその場で形成することができる。
【0024】
本明細書で「接着剤」とは、歯の組織、空洞または空洞境界面に、および本発明に係る自己硬化性複合修復物に、接着することのできる本発明の歯科用組成物またはキットの成分のことを指す。接着剤との用語は「プライマー」または「結合剤」などの用語と区別なく使用される場合がある。
【0025】
本明細書で使用される「複合修復物」との用語は、歯科分野において損傷した一以上の歯の形状または機能を修復するための修復物のことを指し、当該修復物は2以上の成分、コンポーネント、または材料から構成されている。例えば、複合修復物は、一以上の重合開始剤と一以上の充填材料とを有する様々な有機および無機の含有物/材料を含むことができる。本発明の好ましい実施形態において、複合修復物は2つの成分を有しており、各成分そのものに様々な有機および無機の含有物/材料が含まれ、各成分に少なくとも1つの重合開始剤が含まれることで、本発明のレドックス開始システムが構成される。複合修復物は液体、粉末、樹脂/ペーストなどの形状を有することができ、またはこれら形状の組み合わせ(例えば、一方の成分を液状とし、他方の成分を粉末状にし、または両方を樹脂/ペーストの形状)とすることができる。2成分型の複合修復物の好ましい実施形態では、これら2つの成分は、2つの異なる容器に別々に保存することができ、または区画化された同じ容器(例えばカプセル、カプセルトレイまたは充填されたシリンジ)に保存することができる。
【0026】
本明細書において「自己硬化」とは、本発明に係る修復物/複合修復物が、光開始剤および/または光照射に頼ることなく化学的に重合および/または硬化することができるということを指す。特に本発明の自己硬化性複合修復物はレドックス硬化システムを利用することで(十分な)重合性/硬化性を達成することができる。
【0027】
本明細書において「レドックス開始システム」とは、本発明に係る複合修復物および/または接着剤において重合性成分の重合が許される反応種が、少なくとも1つの酸化剤と少なくとも1つの還元剤が必要とされる一以上のレドックス反応により、生成されるような遊離基開始剤システムのことを指す。本発明に係る一実施形態において、複合修復物にレドックス開始システムの酸化成分と還元成分の両方が含まれる一方で、接着剤にも酸化成分または還元成分の何れか1つが含まれることで、接着剤が複合修復物に接触すると同時に重合化を開始および/または加速させることができる。
【発明の詳細な説明】
【0028】
好ましい実施形態において、本発明の自己硬化性複合修復物は、アミンを含有しないかまたはアミンを実質的に含有しないレドックス開始剤システムを含み、前記レドックス開始剤システムは、少なくとも1つの酸化剤と少なくとも1つの非アミン系還元剤とを有する。前記複合修復物は、本発明の第2の態様に係る歯科用キットにおいて2成分型とすることができ、また本発明の第1の態様に係る歯科用組成物において2成分を組み合わせた/混合した形態とすることができる。有利には、レドックス開始剤システムにより、光開始剤または光重合の必要なくして、歯科用組成物またはその成分を硬化または自己硬化させることが可能となる。有利にはまた、アミンが存在しないことにより、本発明の組成物、キットまたは方法から形成された歯科修復物に長期間の優れた色彩安定性が提供される。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明に係る(1成分または2成分の)接着剤と自己硬化性複合修復物の両方には、少なくとも1つの重合性成分および/または少なくとも1つの還元剤が含まれている。
【0030】
本発明の接着剤および自己硬化性複合修復物における少なくとも1つの重合性成分は、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、およびおれらの組み合わせから選択することができる。
好ましい実施形態において、少なくとも1つの重合性成分は、一以上のアクリル化合物および/またはメタクリル化合物(本明細書において(メタ)アクリル化合物と呼ぶ)であって、このようなものとしては(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル化合物の誘導体、およびこのような誘導体からなる樹脂などが含まれる。さらなる実施形態において、少なくとも1つの重合性成分は、一以上のアクリレート化合物および/またはメタクリレート化合物(本明細書において(メタ)アクリレート化合物と呼ぶ)であって、このようなものとしては(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリレート化合物の誘導体、およびこのような誘導体からなる樹脂などが含まれる。好ましい実施形態において、本発明の接着剤および/または複合修復物における重合性成分は、(メタ)アクリレートからなる種々のモノマー、オリゴマーまたはプレポリマーのうち1つあるいはこれらの組み合わせである。好ましい実施形態において、本発明の接着剤および/または複合修復物における少なくとも1つの重合性成分には、一以上のアクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基(本明細書において(メタ)アクリロイルオキシ基とよぶ)が含まれている。一実施形態において、本発明の一以上の(メタ)アクリレート化合物は、メタクリレート系樹脂、ジメタクリレート系樹脂、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、カプリル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-アクリロキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリロキシ-2-ヒドロキシ)]-P-プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、および、トリスヒドロキシエチル-イソシアヌラートトリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキサ-3,14-ジオキソ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバル酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)の反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの反応生成物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートの反応生成物、および、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートの反応生成物、ビス-メタクリル酸グリシジル(ビス-GMA)系樹脂、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)系樹脂、1,3-ブチレングリコルジメタクリレート(BGD)、2,2-ビス[4-メタクロイルオキシフェニル]プロパン(ビス-MA)、ビス-GMA、2,2-ビス[4-(2-メタクロイルオキシ-エトキシ)フェニル]プロパン(ビス-EMA)、2,2-ビス[4-(3-メタクロイルオキシ-プロポキシ)フェニル]プロパン(ビス-PMA)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(c-HaDMA)のジメタクリレート誘導体、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸(c-HeDMA))のジメタクリレート誘導体、ウレタン基(例えばUEDMAやTUDMAなど)を含むジメタクリレートモノマー、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、トリメチルプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、グリセリンジメタクリレート(GDMA)、ポリエチレングリコルジメチアクリレート(poly-EGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UEDMAまたはUDMA)およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)系樹脂、炭素原子数2~20を有するアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールのオリゴマーのジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAから誘導されたジ(メタ)アクリレート、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0031】
本発明の接着剤および/または複合修復物における(メタ)アクリレート化合物には、酸官能基が含まれていても含まれなくとも構わない。好ましい実施形態において、特に本発明の接着剤における少なくとも1つの重合性成分について、本発明の一以上の(メタ)アクリレート化合物には少なくとも1つの酸官能基が含まれる。有利には、少なくとも1つの酸官能基を含むことによって、本発明の接着剤部分または接着剤層の接着性が向上し、またその結果形成された歯科修復物が改善される。好ましくは、(メタ)アクリレート化合物には複数の酸官能基が含まれる。酸官能基は例えば、カルボキシル基、リン酸基、またはこれらの残基とすることができる(例えば、-COO、-PO(OH)、など)。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明の接着剤および/または複合修復物における、少なくとも1つの酸官能基を含む少なくとも1つの重合性成分は、10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸塩(10-MDP)、4-メタクリロキシエチルトリメリット酸(4-MET)、およびこれらの組み合わせから選択されるか、またはこれらを含む。これらの(メタ)アクリレートは接着性の観点から特に好ましい。
【0033】
好ましい実施形態において、本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法に係る接着剤に少なくとも1つの酸官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の含有量は、接着剤の重量で1%~70%の範囲内、より好ましくは1~60%、2~50%または3~40%の範囲内、最も好ましくは重量で5~30%の範囲内である。有利には、本発明の接着剤において少なくとも1つの酸官能基を有する(メタ)アクリレートの含有量が、重量で少なくとも1%~60%の間にある場合には、本発明の歯科用組成物および歯科用キットの接着性と保存安定性が向上する。
【0034】
一実施形態において、酸官能基を含有しないものの、本発明の接着剤および/または複合修復物に使用することができる(メタ)アクリレートは、例えば、UDMA、Bis-GMA、TEGDMA、GDMA、HEMA、これらの組み合わせ、および酸官能基がなく本技術分野で知られている他のモノマー類、から選択することができる。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明の歯科用組成物、キット、または方法に係る接着剤において酸官能基を含有しない(メタ)アクリレート化合物の含有量は、好ましくは接着剤の重量で0.5%~63%の範囲内、より好ましくは1~50%または2~40%の範囲内、また最も好ましくは重量で10~35%の範囲内である。有利には、本発明の接着剤において酸官能基を含有しない(メタ)アクリレートの含有量が重量で0.5%~65%の間にある場合には、本発明の歯科用組成物および歯科用キットの接着性と保存安定性が向上する。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明の2成分型複合修復物における(酸官能基を含有する或いは含有しない)(メタ)アクリレート化合物の総含有量(または混合された含有量)は、好ましくは(組み合わされた/混合された形態にある)複合修復物の重量で、10~80%の範囲内、より好ましくは15~65%の範囲内、また最も好ましくは、重量で20~55%の範囲内である。有利には、自己硬化性複合修復物における(メタ)アクリレート化合物の総含有量が重量で20%~55%の間にある場合には、現場で形成された歯科用組成物または歯科修復物について、良好な粘性、高い機械強度、および低い収縮性が達成される。
【0037】
本発明の歯科用組成物、歯科用キット、または方法に係る好ましい実施形態において、接着剤と、複合修復物の一成分(例えば第2成分)との、両方に少なくとも1つの還元剤が含まれる。
【0038】
一実施形態において、本発明の一以上の還元剤は、有機還元剤、無機還元剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。好ましい実施形態において、接着剤と複合修復物の一成分とには、何れも少なくとも2つあるいは少なくとも2種類の還元剤が含まれ、これら還元剤は有機還元剤および無機還元剤である。好ましい実施形態において、有機還元剤は、尿素還元剤(尿素または尿素誘導体系の還元剤)およびチオ尿素還元剤(チオ尿素またはチオ尿素誘導体系の還元剤)ならびにこれらの組み合わせ、からなる群から選択することができる。
【0039】
好ましい実施形態において、本発明の接着剤および複合修復物の一成分の両方に、一以上の同じ有機還元剤が含まれている。さらなる実施形態において、本発明の接着剤および複合修復物の一成分の両方に、チオ尿素還元剤からなる群から選択される一以上の還元剤が含まれている。別の実施形態では、本発明の接着剤のみ、または複合修復物の一成分のみに、一以上のチオ尿素還元剤が含まれる。別の実施形態では、接着剤、または複合修復物の一成分は、チオ尿素還元剤に加えて、一以上のさらなる還元剤を含むことができ、このようなものとしては例えば他の有機還元剤および/または一以上の無機還元剤などである。
【0040】
本発明で使用することのできるチオ尿素還元剤は特に限定されない。一実施形態では、本発明の接着剤と複合修復物との両方に、チオ尿素、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-オクチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジ-ブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、アリルチオ尿素、フェニルチオ尿素、ベンジルチオ尿素、アセチルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、オクタノイルチオ尿素、1-ベンゾイル-2-チオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N’-イソプロピルチオ尿素、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、1,1,3-トリフェニルチオ尿素、1,1,3-トリメチルチオ尿素、2,4-キシリルチオ尿素、p-トリルスルホニルチオ尿素、1-オクチル-3-フェニルチオ尿素、o-メトキシフェニルチオ尿素、m-ヒドロキシフェニルチオ尿素、1,1-ジアリルチオ尿素、1,3-ジアリルチオ尿素、2-メタリルチオ尿素、o-メトキシベンジルチオ尿素、1-(ヒドロキシメチル)-3-メチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1-(p-クロロフェニル)-3-メチルチオ尿素、1-ブチル-3-ブチリルチオ尿素、1-アセチル-3-フェニルチオ尿素、1-メチル-3-(p-ビニルフェニル)チオ尿素、1-メチル-3-o-トリルチオ尿素、1-メチル-3-ペンチルチオ尿素、3-メチル-1,1-ジフェニルチオ尿素、1-アセチル-3-(2-メルカプトエチル)チオ尿素、(メス)アクリロキシアルキルチオ尿素、1-アリル-3-メチルチオ尿素、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される一以上の還元剤を含むことができる。
【0041】
好ましい実施形態において、接着剤および複合修復物の一成分(例えば第2成分など)は両方とも、1-ベンゾイル-2-チオ尿素、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される一以上のチオ尿酸還元剤を含んでいる。有利には、これらのチオ尿酸還元剤は良好な保存安定性を有している。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明の接着剤における一以上のチオ尿酸還元剤の含有量は、好ましくは接着剤の重量で0.01%~5%、の範囲内、より好ましくは0.03%~3%の範囲内、最も好ましくは0.1%~1%の範囲内である。有利には、接着剤におけるチオ尿酸化合物の含有量が重量で0.03%~3%の間にある場合には、本発明の歯科用組成物と歯科用キットは良好な接着性と保存安定性を有する。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明の複合修復物の一成分(例えば、第2成分など)における一以上のチオ尿酸還元剤の含有量は、チオ尿酸還元剤を含む当該複合修復物の成分の重量で、好ましくは0.01~5%の範囲内、より好ましくは0.02%~2%または0.1%~1%の範囲内である。有利には、複合修復物の関連成分におけるチオ尿酸化合物の含有量が重量で0.02%と2%の間にある場合、本発明の歯科用組成物と歯科用キットは迅速な硬化と良好な保存安定性の利点を示す。
【0044】
好ましい実施形態において、本発明の歯科用組成物、歯科用キットおよび方法における接着剤および/または(例えば一成分における)複合修復物には、少なくとも1つの重合促進剤がさらに含まれる。好ましい実施形態において、少なくとも1つの重合促進剤は少なくとも1つの還元剤の形態をとり、例えば少なくとも1つの無機還元剤の形態をとる。好ましくは、重合促進剤は金属還元剤の形態をとる。さらなる実施形態において、金属還元剤は、銀還元剤、銅還元剤、ロジウム還元剤、マンガン還元剤、コバルト還元剤、バナジウム還元剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましい実施形態において、本発明の少なくとも1つの重合促進剤は、一以上のバナジウム化合物(すなわちバナジウム還元剤)である。
【0045】
本発明で使用することのできるバナジウム化合物は特に限定されない。一実施形態において、本発明の接着剤および/または複合修復物の一成分(例えば、第2成分)は、五酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトナート、バナジウムベンゾイルアセトナート、ステアリン酸バナジル、ナフテン酸バナジウムおよびこれらの組合せ、からなる群から選択される、一以上のバナジウム還元剤を含むことができる。特定の一実施形態において、本発明の接着剤および複合修復物の両方に、バナジルアセチルアセトナートの形態でバナジウム化合物が含まれる。有利には、バナジルアセチルアセトナートは、モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマのポリマーへの高速度での変換を提供することができるため、本発明で良好な接着性が得られる。さらにバナジルアセチルアセトナートは良好な保存安定性を有する。
【0046】
一実施形態において接着剤にはさらに一以上のバナジウム重合促進剤化合物が含まれており、本発明の接着剤における一以上のバナジウム化合物の含有量は、接着剤の重量で好ましくは0.001~5%の範囲内、より好ましくは0.001~2%の範囲内、最も好ましくは0.1~1%の範囲内にある。本発明の接着剤におけるバナジウム化合物の含有量が重量で0.001~2%の間にある場合には、本発明の歯科用組成物と歯科用キットは良好な接着性と保存安定性を有する。
【0047】
複合修復物の一成分(例えば第2成分など)にさらに一以上のバナジウム重合促進剤化合物が含まれる一実施形態において、複合修復物の関連する成分における一以上のバナジウム化合物の含有量は、バナジウム化合物を含有する複合修復物の成分の重量で、好ましくは0.003~0.8%の範囲内、より好ましくは0.004~0.6%の範囲内、最も好ましくは0.005~0.5%の範囲内にある。有利には、バナジウム化合物の含有量が重量で0.005%~0.5%の範囲内にある場合には、バナジウム化合物が重合促進剤としての所望とされる水準での効果を提供するだけでなく、バナジウム化合物を含有する複合修復物の成分が、保存中に自己硬化することが防止される。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、複合修復物の一成分(例えば第1成分)に、レドックス開始剤システムの少なくとも1つの酸化剤が含まれる。好ましい実施形態において、少なくとも1つの酸化剤は過酸化物酸化剤からなる群、とりわけ有機過酸化物から選択される。例示的な有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ケトンペルオキシド、ケタールペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシル過酸化物、ジアルキル過酸化物、ペルオキシ酸エステル、およびペルオキシ-ジカーボネートが挙げられる。
【0049】
一実施形態において、本発明の一以上の酸化剤はヒドロペルオキシドからなる群から選択される。当技術分野で一般的に使用される過酸化水素酸化剤を本発明に使用することもまた可能である。本発明で使用することのできる例示的なヒドロペルオキシド酸化剤としては、クミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシドアミルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシダーゼ、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、およびこれらの組み合わせ、が挙げられる。さらに好ましい実施形態において、本発明の一以上の酸化剤は、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。有利にはこれらのヒドロペルオキシドがより良好な保存安定性を示す。
【0050】
本発明の複合修復物の関連成分における一以上の過酸化水素酸化剤の含有量は、複合修復物の成分の重量で好ましくは0.02~5%の範囲内、より好ましくは重量で0.03~3%の範囲内にある。有利には、過酸化水素酸化剤の含有量が重量で0.03~3%の範囲にある場合、所望とされる水準でレドックス重合開始剤の効果が提供されるだけでなく、酸化剤を含有する複合修復物の成分に良好な保存安定性が提供される。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、接着剤および複合修復物の一方あるいは両方に、一以上の重合防止剤または安定剤が含まれる場合があり、これにより例えば、本発明の歯科用組成物、キット、および関連成分の、自家重合が防止され、また保存安定性が向上する。
【0052】
本発明に使用できる重合防止剤は特に限定されない。当技術分野で通常使用される重合防止剤を本発明に使用することもまた可能である。例示的な重合防止剤としては例えば、モノメチルエーテル、ヒドロキノン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、2,6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(ジメチルアミノ)メチルフェノール;2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン等、またはこれらの組み合わせ、が好適である。一実施形態において、例えば安全性の観点からは、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が特に好ましい重合防止剤(および安定化剤)である。
【0053】
本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法に係る、接着剤における一以上の重合防止剤の含有量、および複合修復物(または複合修復物の各成分)における一以上の重合防止剤の含有量は、接着剤の重量で0.005~5%の範囲内、複合修復物が組み合わされた重量で0.005~5%の範囲内、または複合修復物の各成分もしくは関連成分の重量で0.005~5%の範囲内にある。より好ましくは、各場合における一以上の重合防止剤の含有量は、重量で0.01~3%、または0.01~2%である。接着剤の場合、有利には、重合防止剤の含有量が重量で0.01%以上であれば歯科用組成物の保存安定性が向上し、また重合防止剤の含有量が重量で3%以下の場合には接着性が向上する。
【0054】
本発明の歯科用組成物、キット、および方法における接着剤は、水、少なくとも1つの水溶性有機溶媒、少なくとも1つの充填材料、増粘剤もしくは結合剤などの他の好適な成分、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される一以上の含有物を、追加で含むことができる。
【0055】
本発明の歯科用組成物、キット、および方法における自己硬化性複合修復物(一成分または両成分)はさらに、水、少なくとも1つの充填材料、少なくとも1つの顔料(またはシェード顔料)、増粘剤もしくは結合剤などの他の好適な成分、およびこれらの組み合わせ、などの、一以上の含有物を、追加で含むことができる。
【0056】
本発明における増粘剤もしくは結合剤は特に限定されない。例えば、当分野で使用されるフュームドシリカ増粘剤およびシランカップリング剤を本発明に使用することもできる。
【0057】
有利には、接着剤に水が含まれる場合、本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法を用いて補修されるべき歯の表面湿潤性と脱灰が改善されることがわかった。
これはしたがって接着性の向上(口腔あるいは窩洞においてその場で形成される歯科用組成物または修復剤が含まれる)につながる。
【0058】
本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法に係る接着剤の水分含有量は好ましくは、接着剤の重量で1~40%の範囲内、より好ましくは重量で5~30%の範囲内である。有利には、接着剤の水分含有量が重量で1%以上になると、歯表面のスメア層の溶解性、象牙質の脱灰特性、および象牙質の透過性が向上し、また接着剤の水分含有量が重量で40%以下になると、現場で形成される歯科用組成物または歯科修復物の均一性が向上する。
【0059】
さらなる実施形態において、本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法における接着剤は、水を含有することに加えて、少なくとも1つの水溶性有機溶媒を含むことができる。本発明に使用することのできる一以上の水溶性有機溶媒は、揮発性を有する限りは特に限定されない。例示的な有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、テトリヒドロフランおよび/またはメチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。好ましい実施形態において、本発明に係る接着剤における少なくとも1つの水溶性有機溶媒は、エタノール、2-プロパノール、e-メチル-2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフアン、メチルエチルケトン、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。さらなる実施形態において、水溶性有機溶媒はアセトン、および/または、メチルエチルケトンである。
【0060】
溶媒を含む接着剤の実施形態における一以上の水溶性有機溶媒の含有量は、接着剤の重量で好ましくは5~60%の範囲内、より好ましくは重量で10~40%の範囲内である。有利には、接着剤における水溶性溶媒の含有量が重量で5%以上になると、その場で形成される歯科用組成物または歯科修復物の均一性が向上し、また水溶性溶媒の含有量が重量で60%以下になると接着性が向上する。
【0061】
本発明の歯科用組成物、歯科用キットまたは方法の好ましい実施形態において、接着剤および/または複合修復物(1成分または2成分)はさらに少なくとも1つの充填材料を含むことができる。本発明で使用することのできる少なくとも1つの充填材料は特に限定されない。本分野で使用される通常の充填材料を本発明に使用することも可能である。好ましい実施形態において、本発明に係る一以上の充填材料は、無機充填材料、有機充填材料、ポリマー系またはファイバー系の充填材料、およびこれらの組み合わせ、から選択することができる。無機充填材料および有機充填材料は、無機粒子および有機粒子の形態をとることができる。無機充填材料は、必要に応じて、シランカップリング剤などの表面処理剤で処理することができる。
【0062】
一実施形態において、本発明の接着剤および/または複合修復物における少なくとも1つの充填材料は、結晶性シリカアモルファスシリカフュームドシリカ三フッ化イッテルビウムセラミックパウダーグラファイト高分子充填材料(例えばセルロース、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリウレタン、ビニルエステル、スチレン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリアセタール、ポリカーボネートなど)、ガラス粉末(バリウムガラス、ストロンチウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラスなどを含むことができる)、シリケートガラス、石英、酸化亜鉛、硫酸バリウム、珪酸バリウム、ストロンチウムシリケート、ホウケイ酸バリウム、ホウケイ酸ストロンチウム、ホウケイ酸塩、ケイ酸リチウム、脱アンモニア化リン酸カルシウム、アルミナ、ジルコニア、酸化スズ、チタニア、アパタイト、ケイ酸カルシウム系フィラー、ヒドロキシアパタイト、硫酸バリウム、サブカーボネートビスマス、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択することができる。
【0063】
複合修復物における充填材料の含有量は、複合修復物(2成分複合/混合)の重量で好ましくは10~80%の範囲内、より好ましくは重量で20~55%の範囲内である。有利には、本発明の複合修復物における充填材料の含有量が重量で20%と55%の間にあると、形成された歯科修復物または歯科用組成物に、良好な粘性、より高い機械強度、およびより小さな収縮性が得られる。
【0064】
好ましい実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、または第3の態様における接着剤は一成分型の接着剤とすることができ、これは修復を必要とする窩洞に(外部での事前混合ステップが必要なく)直接塗布することができる。
【0065】
好ましい実施形態において、本発明の一成分型接着剤には、少なくとも1つの重合性成分(例えば、少なくとも1つの(メタ)アクリレート化合物など)と、少なくとも1つの還元剤(例えば、少なくとも1つのチオ尿酸還元剤など)と、が含まれる。さらに好ましい実施形態において、本発明の一成分型接着剤には、さらに少なくとも1つの重合促進剤(例えば、少なくとも1つのバナジウム化合物など)が含まれる。さらなる実施形態において、本発明の一成分型接着剤にはさらに、少なくとも1つの重合防止剤(例えば、少なくともBHTなど)、少なくとも1つの充填材料(例えば無機充填剤など)、水、少なくとも1つの水溶性有機溶媒(例えば、アセトン、MEKなど)、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される一以上の含有物が含まれる。
【0066】
好ましい実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、または第3の態様で定められた自己硬化性複合修復物には第1成分が含まれ、前記第1成分には、少なくとも1つの酸化剤(例えば、少なくとも1つの過酸化物または過酸化水素酸化剤)と、少なくとも1つの重合性成分(例えば、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマー、および(メタ)アクリレートプレポリマーから選択される少なくとも1つの(メタ)アクリレート化合物など)と、が含まれる。さらなる実施形態において、自己硬化性複合修復物の第1成分にはさらに一以上の含有物が含まれ、前記一以上の含有物は、少なくとも1つの重合防止剤(例えば、少なくともBHT)、少なくとも1つの充填材料(例えば、少なくとも1つの無機充填剤)、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの結合剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0067】
好ましい実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、または第3の態様で定められた自己硬化性複合修復物には第2成分が含まれ、前記第2成分には、少なくとも1つの還元剤(例えば少なくとも1つの有機還元剤、例えば少なくとも1つのチオ尿酸還元剤など)と、少なくとも1つの重合性成分(例えば、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマー、および(メタ)アクリレートプレポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの(メタ)アクリレート化合物など)と、が含まれる。好ましい実施形態において、自己硬化性複合修復物の第2成分にはさらに、少なくとも1つの重合促進剤(例えば、少なくとも1つのバナジウム化合物または還元剤)が含まれる。さらなる実施形態において、自己硬化性複合修復物の第2成分にはさらに一以上の含有物が含まれ、前記一以上の含有物は、少なくとも1つの重合防止剤(例えば、少なくともBHT)、少なくとも1つの充填材料(例えば、少なくとも1つの無機充填剤)、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの結合剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0068】
好ましい実施形態において、複合修復物の第1成分と第2成分とが何れも少なくとも1つの増粘剤を含むことで、ペースト状で提供され、維持される。一実施形態において、複合修復物の第1成分および第2成分の(任意選択的および/または必須の)各コンポーネントをそれぞれの樹脂/ペーストに混ぜることができる。
【0069】
好ましい実施形態において、複合修復物の樹脂/ペーストの第2成分に対する複合修復物の樹脂/ペーストの第1成分の質量/重量の割合が、好ましくは5:1~1:5の範囲内、より好ましくは3:1~1:3、2:1~1:2または1:1の範囲内にあることにより、良好なまたは十分なレドックス重合化が確実となる。
【0070】
一実施形態において、本発明の歯科用組成物、キットおよび方法における接着剤に増粘剤を含有させることで所望とされる粘度を維持することも可能である。
【0071】
好ましい実施形態において、自己硬化性複合修復物は全体として、一以上の(メタ)アクリレート化合物と、アミンを含まないかまたはアミンを実質的に含まないレドックス重合開始システムまたはレドックス開始剤システムと、を含んでいる。レドックス開始剤システムは、少なくとも1つの非アミン系酸化剤(例えば、少なくとも1つの過酸化物またはヒドロペルオキシド化合物など)と、少なくとも1つの非アミン系還元剤(例えば、少なくとも1つのチオ尿素化合物など)と、を含んでいる。自己硬化性複合修復物は好ましくはさらに、少なくとも1つの重合促進剤(例えば、バナジウム化合物など)を含む。自己硬化性複合修復物はさらに、少なくとも1つの充填材料および/または少なくとも1つの重合防止剤を含むことができる。自己硬化性複合修復物はさらに、一以上の含有物を含むことができ、前記一以上の含有物は、少なくとも1つの水溶性有機溶媒、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つの結合剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0072】
自己硬化性修復物は、本発明の第1の態様に係る歯科用組成物において「2成分混合」型をとることができ、また本発明の第2の態様に係る歯科用キットにおいて「2成分」(即ち2成分が別々に包装されている)型をとることができる。本発明の複合修復物は、液状、粉末状、樹脂/ペースト状、またはこれらを組み合わせた形態とすることができる。一実施形態において、本発明の第2の態様に係る歯科用キットは別々に包装された複合修復物を含むことができ、すなわち区分化されたカプセル、トレイ、シリンジなどの区分化された容器内に包装された複合修復物を含むことができ、複合修復物の一方の成分が他方の成分と同じまたは異なる形態を有する。
【0073】
本発明の第2の態様に係る歯科用キットの実施態様において、キットに3つの別個に包装された成分を含むことができ、2つの別個の成分となっている接着剤および自己硬化性複合修復物が含まれる。
【0074】
使用の際、本発明の第3の態様にしたがって、窩洞に歯科用組成物を塗布する方法が提供され、ここにおいて窩洞に本発明の重合性接着剤を塗布することができる。一実施形態において、本方法は、例えばう蝕部分を除去し、および/または、窩洞境界面を(例えば境界面に空気/水を吹き付けることによって)洗浄するなどして窩洞を形成する事前のステップを、任意選択的に含むことができる。その後、形成された窩洞、または窩洞境界面に接着剤を塗布することによって、接着剤層を形成することができる。接着剤に少なくとも1つの有機溶媒が含まれる一実施形態において、本発明に従って自己硬化性複合修復物を塗布する前に、接着剤層にオイルのない清浄な空気を吹き付けて、有機溶媒をすべて除去することができる。一度接着剤層が塗布される(場合によっては任意選択的に有機溶媒が除去される)と、その後、本発明の自己硬化性複合修復物を接着剤層に塗布することができる。好ましい実施形態において、自己硬化性複合修復物の第1成分(例えば、レドックス開始剤システムに係る少なくとも1つの酸化剤が含まれる)を、複合修復物の第2成分(例えば、少なくとも1つの還元剤が含まれる)と混合することができ、その後、この混合された/組み合わされた複合修復物を、接着剤層の上に塗布することができる。本発明の接着剤に既に少なくとも1つの還元剤が含まれている好ましい実施形態において、複合修復物が接着剤層に接触することにより接着剤が急速に硬化し、修復物/窩洞の境界面で安定的な結合が速やかに確立される。対して、容量の大きな自己硬化性複合物でのより遅い硬化速度により、容積の収縮が主に自由表面で起こり、これにより修復物/窩洞の境界面における重合収縮によって生じる残留応力が低減される。本方法の一実施形態において、接着剤層に型を設け、2成分を組み合わせた/混合した複合修復物を充填することができる。いずれにせよ、本発明の複合修復物の成分は(例えば、複合修復物における重合促進剤および/または重合抑制剤の水準に応じて)自己硬化が可能な一方で、接着剤に接触しない場合には遅い速度で硬化する。
【0075】
好ましい実施形態において、本発明の第3の態様に係る方法における接着剤と自己硬化性複合修復物は、本発明の第1の態様または第2の態様のものと同じものであって、或いは本発明の接着剤および自己硬化性複合修復物に係る何れかの実施態様において定められた成分/含有物を有する。一実施形態において、本発明の第1の態様の歯科用組成物を窩洞に塗布する方法には、本発明の第2の態様に係る歯科用キットの使用が含まれる。
【0076】
自己硬化性複合修復物が2成分型のペースト/ペースト形状をとる一実施形態において、本発明の第3の態様に係る方法には、組み合わされ/混合された自己硬化性複合修復物樹脂/ペーストを接着剤層に塗布することを行うことができる。一実施形態において、2成分の自己硬化性複合修復物を通常、2つのバレル(一方のバレルに1成分の修復物が含まれる)と自動ミキシングチップを備える既存の歯科用混錬装置を用いて1ステップで混合し送達することができる。
【0077】
複合修復物が2成分の粉末/液状の形態にある別の実施形態において、(送達チップが設けられ)区画化されたカプセルを使用することで混合物を保存、混合し、この2成分を混合された形態で送達することができる。別の実施形態では、2成分を別々に包装することができ、各成分の一部分をトレイに入れて単にヘラで混ぜることができる。
【0078】
有利に発明の接着剤は、光開始剤/光開始システムを一切含まず、自己硬化性複合修復物が接着剤または接着剤層の上に塗布されて直接的に接触するとその場で(急速に)硬化するという点で少なくとも市販の接着剤とは異なる。したがって窩洞に歯科用組成物を塗布する本方法は、まず窩洞境界面に重合性接着剤を塗布した後に、(既に混合された形態にある)本発明の自己硬化性複合修復物を接着剤層の上に塗布する簡単な2ステップのみとすることができる。
【0079】
本発明の第4の態様に係る方法の一実施形態では、本発明の第1の態様に係る歯科用組成物または本発明の第2の態様に係る歯科用キットを用いて歯を修復する方法が提供され、接着剤および自己硬化性複合修復物は、本明細書に記載される接着剤および複合修復物の実施形態のうち何れか1つにおいて定められた成分/含有物を含有する。例えば、接着剤は、少なくとも1つの(メタ)アクリレート化合物と、少なくとも1つの還元剤(例えば、少なくとも1つのチオ尿素還元剤)と、を含むことができ、また自己硬化性複合修復物は、少なくとも1つの(メタ)アクリレート化合物と、少なくとも1つの酸化剤(例えばヒドロペルオキシドなど)と、少なくとも1つの還元剤(例えば、少なくとも1つのチオ尿酸還元剤など)と、を含むことができる。接着剤および/または自己硬化性修復物は追加で、少なくとも1つの重合促進剤(例えば、少なくとも1つのバナジウム化合物など)および/または一以上の含有物を含むことができ、当該一以上の含有物は、少なくとも1つの重合防止剤(例えば、少なくともBHTなど)、少なくとも1つの充填材料(例えば無機充填材など)、水、少なくとも1つの水溶性有機溶媒(例えば、アセトンやMEKなど)、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。本発明の歯科用組成物または歯科用キットは、一以上のう窩を有する者に一以上の歯科修復物を提供する役割を果たすことができる。
【0080】
本発明の第5の態様に係る方法の一実施形態では、アマルガム材料を含有しない歯科修復物を現場で形成することのできる本発明の第1の態様に係る歯科用組成物または本発明の第2の態様に係る歯科用キットを用いて歯を修復するための、通常の歯科用アマルガム材料等を置換する方法が提供される。一実施形態において、発明の第5の態様に係る方法には、本発明の第2の態様に係る1つの、好ましくは複数の、歯科用キットを提供することで、歯科医療業界一般のまたは歯科消耗品市場で商業的に提供されている一以上の歯科用アマルガム物を、歯科修復処置で置換することを含むことができる。
【0081】
本発明の第6の態様によれば、窩洞内部に存在する歯科用アマルガム補綴物を置換する方法であって、a)前記窩洞から歯科用アマルガム補綴物を除去し、b)本発明の第2の態様に係る歯科用キットを用いて本発明の第1の態様に係る歯科用組成物を現場で形成する、ことにより置換を行う方法が提供される。
【0082】
本発明の第5および第6の態様に係る方法における接着剤と自己硬化性複合修復物は、本発明の第1または第2の態様におけるものと同様のものとするか、または本発明の接着剤および自己硬化性複合修復物に関する何れか1つの実施形態で定められた成分/含有物を有する。
【0083】
本発明の第7の態様によれば、歯構造修復のための歯科用組成物の調製で本発明の第2の態様に係る歯科用キットの使用が提供され、前記歯科用キットには、本発明の接着剤および複合修復物に関する何れか1つの実施形態で定められた、接着剤と自己硬化性複合修復物の、成分/含有物が含まれる。好ましい実施形態において、歯科用組成物を現場で形成するために歯科用キットが使用される。好ましい実施形態において、前記歯科用組成物は、本明細書に記載の実施形態に係る本発明の第1の態様のものである。
【0084】
有利には、本発明の接着剤と自己硬化性複合修復物を現場で組み合わせて、歯科用アマルガムの代替(または当該分野で既存の光硬化性修復組成物、材料、またはシステムの代替)となる、安定的で強靭かつ耐久性のある修復組成物またはシステムを創出することができる。
【0085】
また有利には、アマルガムの代替となる本発明の歯科用組成物およびキットは、歯の硬組織に対して高い接着性を示し、強度/耐久性と色彩安定性に優れていると共に、最小限の専門器具を用いて臨床的に使用または置換するのが容易な修復システムを提供する。また有利には、歯科用アマルガムと同様にして、本修復システム(組成物またはキット)は充填材料を硬化させるために光硬化を必要としない。
【0086】
以下の実施例および比較例を用いて、本発明の接着剤および自己硬化性複合修復物に関する限定されない説明を以下でさらに行う。
【実施例
【0087】
実施例1
【0088】
本発明に係る接着剤の実施例A1~A3および接着剤の比較例1
【表1】
【0089】
実施例2
【0090】
本発明に係る自己硬化性複合修復物の実施例RC1~RC3および樹脂複合物の比較例1
【表2-1】

【表2-2】

上記の表1および表2中:
MEK:メチルエチルケトン
HEMA:メタクリル酸ヒドロキシエチル
UDMA:ウレタンジメタクリレート
MDP:10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸塩
4-META:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物。4-メタクリロキシエチルトリメリット酸(4-MET)は、含まれている水と4-METAが反応することによって生成される。
VacAc:バナジルアセチルアセトナート
BHT:ブチル化ヒドロキシトルエン
Aerosil R812:フュームドシリカ
Aerosil R202:フュームドシリカ
バリウムガラス粉末:2.8μm(D50)、2%シラン処理バリウムガラス
FASガラス粉末:4.0μm(D50)、2%シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス
YbF:フッ化イッテルビウム(III)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリラート
CHPO:クミルヒドロペルオキシド
TMBH-L:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド
顔料:酸化鉄と酸化チタンの混合物(商品名:IRON OXIDE BC、Cosmetic YELLOW OXIDE C33-8073およびTIDIOX8100)
【0091】
実施例3
【0092】
実施例1および実施例2に示された接着剤A1~A3および自己硬化性複合修復物RC1~RC3から形成された本発明に係る例示的な歯科用組成物と、比較例1の接着剤および比較例1の樹脂複合物から形成された比較例に係る光硬化性歯科用組成物に対して、せん断接着試験、曲げ試験、および不透明度試験を含む様々な試験を行った。
せん断接着試験
【0093】
本発明に係る歯科用組成物/接着剤の接着性を評価するため、本発明の歯科用組成物と比較例の光硬化性歯科用組成物に対し、ISO29022:2013(歯科-接着-ノッチ付きエッジせん断接着強度試験)に従うせん断接着試験を行った。
【0094】
牛歯を#600の耐水研磨紙を用いて研磨し、その平坦な研磨面を接着(試験)面として使用した。
【0095】
本発明に係る歯科用組成物(接着剤A1~A3と修復物RC1~RC3を含む)を形成するため、それぞれの場合において、作成した牛歯の表面に接着剤を塗布した後、5秒間優しく風乾させた。その後、接着表面/作成表面にウルトラデント製の型を取付け、混合樹脂/ペースト複合修復物で充填した。標本(n=5)を37℃のオーブンで1時間保管し、37℃の水に23時間浸した後、万能材料試験機であるINSTRON5942を用いてせん断接着試験を行った。
接着性の判断基準は以下の通りである。
合格:せん断強度の平均値が10MPa以上の場合
不合格:せん断強度の平均値が10MPa未満の場合
【0096】
比較例の光硬化性歯科用組成物については、作成した牛歯の表面に接着剤と塗布した後、5秒間優しく風乾させた。WSDI radii xpertを使用して接着剤を10秒間光硬化させた。接着表面/作成表面にウルトラデント製の型を取付け、樹脂複合物の比較例1で充填した後、20秒間光硬化させた。標本(n=5)を37℃のオーブンで1時間保管し、37℃の水に23時間浸した後、万能材料試験機であるINSTRON5942を用いてせん断接着試験を行った。
曲げ試験
【0097】
本発明の歯科用組成物/自己硬化性複合修復物の機械強度を評価するため、ISO4049:2019(ポリマーベースの修復材料)に従って曲げ試験を行った。
不透明度試験
【0098】
本発明の歯科用組成物/自己硬化性複合修復物の美感を評価するために不透明度を測定した。試験標本をISO7.13およびISO4049:2019(ポリマーベースの修復材料)に従って作成した後、37℃のオーブン内で1時間後、色測定装置x-rite SP64を用いて不透明度の測定を行った。
【表3】
【0099】
表3のせん断接着試験から、本発明の自己硬化性複合修復物(特に接着剤A1~A3)が接着強度基準(>10MPa)を超えていることがわかる。これらの接着強度は、光硬化の縮み応力によって積層充填法が臨床的に必要とされている比較例の光硬化樹脂と同等であるかあるいはこれよりも著しく高い。この充填法は時間がかかる。一方で、バルクフィル技術(これはより効果的である)は、現場で形成されたときのその低収縮性から、本発明の自己硬化性複合修復物(RC1~RC3)に対し臨床的に推奨できるものである。せん断接着試験はまた、提示されている機能に係る接着剤が接着剤、プライマー、または結合剤として、高度に優れていることを示している。
【0100】
図3の曲げ試験から、曲げ強度として測定された機械強度に、本発明の自己硬化性複合修復物(A1~A3+RC1~RC3)と一般的に使用されている光硬化性樹脂システム(接着剤の比較例1)とで、大きな違いが認められないことがわかる。重要なことに、本発明に係る歯科用組成物の機械強度は、典型的な歯科用アマルガムの機械強度に匹敵する。
【0101】
不透明度試験については、ヒトの生体歯には適度な透明性があり、不透明度は透明性の度合いを表すものである。本発明の自己硬化性複合修復物(実施例RC1~RC3)は、審美的な光硬化性樹脂システム(樹脂複合物の比較例1)と同様の不透明度を有する。
【0102】
したがって本発明は、通常のところアマルガムが必要とされる歯修復処置の代替として使用することのできる強い結合強度を有する、望ましい程に審美的で強く、かつ耐久性のある歯科修復物を提供するための簡単な2ステップで塗布することのできる、アマルガムの代替となる複合修復物の解決策(本発明の歯科用組成物を含む)を達成した。本発明はまた既存の光硬化性修復材料を置換することができる。本発明はまた、窩洞内に歯科用組成物または修復物を形成する上で、使用が容易な歯科用キット、または容易な方法を提供する。
【0103】
当業者に明らかであろう改良例および変形例は本発明の範囲内にあると見なされる。

【国際調査報告】