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2023-537870肺がんを診断及び監視するためのバイオマーカー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】肺がんを診断及び監視するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20230830BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230830BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230830BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/09 200
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506010
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2021070781
(87)【国際公開番号】W WO2022023233
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】20315363.0
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500287019
【氏名又は名称】レ ラボラトワール セルヴィエ
【氏名又は名称原語表記】Les Laboratoires Servier
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブリアン・ロックハート
(72)【発明者】
【氏名】ノルウェン・ギガル-ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・ゼレブ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・タリー
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ローラン-プイグ
(72)【発明者】
【氏名】シュファン・ワン-ルノー
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ・ブロン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR50
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、腫瘍学の分野、特に、肺がんの早期診断、肺がん患者の監視、及び患者の臨床転帰の予測に関する。本発明は、遺伝子のメチル化レベルを決定することにより、患者において肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法、及びこの方法を実行するキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを決定することにより、患者の生体試料において肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法。
【請求項2】
メチル化のレベルが高メチル化である場合、肺がんであることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)患者の生体試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)(a)におけるメチル化のレベルを、対照試料における同一遺伝子のメチル化のレベルと比較する工程と
を含み、(a)におけるメチル化のレベルが(b)におけるメチル化のレベルよりも優れている場合、肺がんであることを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
メチル化のレベルを、MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域からなる群より選択される少なくとも1種のヌクレオチド領域において決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
メチル化のレベルを、
a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子において決定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
メチル化のレベルを、次世代シーケンシング(NGS)、定量的PCR(qPCR)又はデジタルPCR(dPCR)により決定する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
生体試料が、尿、便、血漿又は血液試料である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種の遺伝子のメチル化のレベルを、患者の生体試料において同時又は逐次的に決定する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)第1の時点で、患者の生体試料において、
i)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子、又は
ii)MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域、又は
iii) a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群のうちの1つより選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)第2の時点で、患者の生体試料において、(a)で選択された遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
c)選択された遺伝子のメチル化のレベルを、(b)と(a)との間又は(b)と参照値との間で比較する工程と
を含む、肺がんに罹患している患者における肺がんの進展を監視するための方法。
【請求項10】
(a)における試料を、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療の前に評価し、(b)における試料を、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療の後に得る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
患者が(a)の前及び(b)の前に肺がんの治療をされている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
(b)におけるメチル化のレベルが(a)におけるメチル化のレベルよりも低い場合、患者が肺がんの治療に対する奏効者であることを示す、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(b)におけるメチル化のレベルが(a)におけるメチル化のレベルと同等であるか又はより高い場合、患者が肺がんの治療に対する非奏効者であることを示す、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2種の遺伝子のメチル化のレベルを、患者の生体試料において同時又は逐次的に決定する、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
参照値が、健常ドナーにおいて得られる、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
更に工程(c)において、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療を、工程(c)の比較に基づいて適応させる、請求項9から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)患者の生体試料において、
i)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子、又は
ii)MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域、又は
iii) a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群のうちの1つより選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)選択された遺伝子のメチル化のレベルを参照値と比較する工程と、
c)工程b)の比較に基づいて臨床転帰を予測する工程と
を含む、肺がんに罹患している患者の臨床転帰を予測するための方法。
【請求項18】
(a)抗腫瘍治療を施術する前のがん患者由来の生体試料、好ましくは、血漿試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを測定する工程と、
(b)がん患者由来の生体試料、好ましくは、血漿試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを測定する工程と
を含む、抗腫瘍治療により治療した肺がん患者における抗腫瘍治療の活性を評価する方法であって、抗腫瘍治療を肺がん患者に施術する前のメチル化のレベルと比較して、メチル化のレベルが低下する場合、肺がん患者における抗腫瘍治療の活性を示す、方法。
【請求項19】
活性が、用量依存的活性である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
MROH6遺伝子及びHOXB4遺伝子についてメチル化のレベルを決定する、請求項1から8のいずれか一項に記載の肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法。
【請求項21】
MROH6遺伝子及びHOXB4遺伝子についてメチル化のレベルを決定する、請求項9から16のいずれか一項に記載の肺がんの進展を監視するための方法。
【請求項22】
Table4(表4)に記載するプローブのうちの少なくとも1種を含むアレイ。
【請求項23】
(a)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される遺伝子のうちの少なくとも1種を標的とするプライマー、好ましくは、Table4(表4)に記載するプライマー、並びに/又は(b)プローブ、好ましくは、Table4(表4)に記載するプローブを含むキット。
【請求項24】
少なくともMROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子又はchr20:1784267遺伝子の、治療時の肺がん患者の臨床転帰に対する予測バイオマーカーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍学の分野、特に、肺がんの早期診断、及び肺がん患者の長期的監視に関する。本発明は、肺がんと診断された対象において肺がんの進展を監視し、この対象に対して適する治療レジメンを決定又は適応させるために使用することができる。本発明は、血漿試料において高メチル化遺伝子を検出、決定、及び同定するプライマー及び/又はプローブを含むマーカーのリストに関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは、世界的ながん関連死亡率の最も一般的な原因であり、これにより死者は毎年100万人を超える(Bray, F.らGlobal cancer statistics 2018: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA Cancer J Clin. 2018 Nov 68(6):394~424頁)。肺がんは予後が不良であり、肺がんと診断された人の半数超が診断後1年以内に死亡し、5年生存率は18%未満(男性では15%、女性では21%)である(Cecilia Zappa及びShaker A. Mousa Non-small cell lung cancer: current treatment and future advances. Transl Lung Cancer Res. 2016 Jun; 5(3): 288~300頁)。
【0003】
主要な2つ型の肺がんである、非小細胞肺がん(NSCLC)及び小細胞肺がん(SCLC)が存在する。非小細胞肺がんは、症例の80%超を占める、最も一般的な型を表し、扁平上皮癌、腺癌、又は大細胞癌であり得る。小細胞肺がんは、それほど一般的ではない肺がん型であり、非小細胞肺がんよりも増悪が侵襲的である。肺がんの型により、推奨される治療を決定する。
【0004】
肺がんのステージ分類は、がんが局所性であるか又は肺からリンパ節若しくは他の器官に転移したかどうかに基づく。肺は大型であるため、腫瘍は、検出されるまで長時間、肺において増殖し得る。咳嗽及び疲労のような症候が実際に生じる場合であっても、他の原因と混同されることが多い。このため初期の肺がんは、検出が困難である。
【0005】
喫煙は、80%を超える肺がんのあらゆる症例と関連しているが、全くの非喫煙者であるか又は受動喫煙に曝された多くの人が、肺がんを発症している。肺がんと新たに診断された人のうち40%未満が習慣的喫煙者であり、45%超が喫煙経験者であり、10%~15%が全くの非喫煙者であることが推定される。
【0006】
肺がんのステージ分類及び型に応じて、患者は、手術から放射線及び/又は化学療法並びに標的療法に及ぶ特定の治療の対象となる。分子遺伝学及びバイオマーカー検査の進歩により、特定の変異及びゲノム異常(例えば、遺伝子融合)が同定されており、これによって患者個人のための標的治療を向上させることが可能である。
【0007】
根治手術は、ステージI非小細胞肺がん(NSCLC)患者のための標準治療である。ステージII及びIIIAでは、アジュバントであるシスプラチンに基づく化学療法が依然として、完全切除したNSCLC腫瘍に対する代表的標準である。加えて、放射線療法が、N2リンパ節を有する患者に提案されるはずである。進行期IIIB/IV又は手術不能のNSCLC患者では、4サイクルのシスプラチンに基づく化学療法に加えて、第3世代細胞毒性剤又は細胞分裂阻害(抗EGFR、抗VEGFR)薬物からなる集学的治療が計画される。
【0008】
最近では、分子標的療法において、腫瘍が体細胞活性化腫瘍遺伝子、例えば、変異EGFR(Paez, J. G.らEGFR mutations in lung cancer: correlation with clinical response to gefitinib therapy. Science 304、1497~1500頁(2004))又は転座ALK、RET若しくはROS1(Kwak, E. L.らAnaplastic lymphoma kinase inhibition in non-small-cell lung cancer. N. Engl. J. Med. 363、1693~1703頁(2010))を内包する患者のための治療が劇的に向上した。変異BRAF及びERBB2(Stephens, P.らLung cancer: intragenic ERBB2 kinase mutations in tumors. Nature 431、525~526頁(2004))も研究の標的である。しかし、殆どの肺腺癌は、同定可能な動因腫瘍遺伝子を欠いているか又はKRASの変異を内包しているかのいずれかであり、このため、未だに、従来の化学療法により治療している。例えば、TP53 (Takahashi, T.らp53: a frequent target for genetic abnormalities in lung cancer. Science 246、491~494頁(1989))、STK11(Sanchez-Cespedes, M.らInactivation of LKB1/STK11 is a common event in adenocarcinomas of the lung. Cancer Res. 62、3659~3662頁(2002))、CDKN2A8(Shapiro, G.I.らReciprocal Rb inactivation and p16INK4 expression in primary lung cancers and cell lines. Cancer Res. 55、505~509頁(1995))、KEAP1(Singh, A.らDysfunctional KEAP1-NRF2 interaction in non-small-cell lung cancer. PLoS Med. 3、e420(2006))及びSMARCA4(Medina, P. P.らFrequent BRG1/SMARCA4-inactivating mutations in human lung cancer cell lines. Hum. Mutat. 29、617~622頁(2008))における腫瘍抑制遺伝子の異常も一般的であるが、現在のところ、臨床的に実施可能ではない。最終的に、肺腺癌は、高い体細胞変異及びゲノム再編成率を示し、腫瘍ゲノムによるパッセンジャー現象が大きな負荷となるため、最も高頻度のドライバー遺伝子変化以外の全ての同定での難題となっている(Ding, L.らSomatic mutations affect key pathways in lung adenocarcinoma. Nature 455、1069~1075頁(2008))。
【0009】
TNM(腫瘍、壊死、転移)のステージ分類は、疾患増悪レベル及び原発性肺がんの悪性度を示す(Brundage MD、Davies D、Mackillop WJ. Prognostic factors in non-small cell lung cancer: a decade of progress. Chest 2002;122:1037~57頁)。しかし、同一ステージの疾患を有する患者であっても、治癒的切除後の再発率は幅広く異なる。従って、臨床及び病理学的所見に基づく現在のTNMステージ分類システムは、有用性における限界に達したか又は補足的ツールを少なくとも必要とし得る。
【0010】
腫瘍マーカー、例えば、CEAは、再発リスクを予測する独立因子であることが証明された(Kawachi RらEarly recurrence after surgical resection in patients with pathological stage I non-small cell lung cancer. Thorac Cardiovasc Surg 2009;57:472~5頁)。その上、パフォーマンスステータス(PS)及び症候の存在が無病生存率(DFS)の好ましくない予後因子であるため、理学的検査は非常に重要である(Pasini FらLate events and clinical prognostic factors in stage I non-small cell lung cancer. Lung Cancer 2002;37:171~7頁)。また、陽電子放出断層撮影(PET)の標準取込み値(SUV)は、DFSを予測する顕著な独立因子であることが報告されている(Shiono SらPositron emission tomography/computed tomography and lymphovascular invasion predict recurrence in stage I lung cancers. J Thorac Oncol 2011;6:43~7頁)。組織学的分化、血管浸潤、リンパ管浸潤及び胸膜浸潤が全てDFSの予後不良因子であると報告されているため、大規模な病理学的研究も重要である(Maeda RらRisk factors for tumor recurrence in patients with early-stage (stage I and II) non-small cell lung cancer: patient selection criteria for adjuvant chemotherapy according to the seventh edition TNM classification. Chest 2011;140:1494~502頁)。その上、一部に否定的な報告は存在するが、ステージIのNSCLCを有する患者では、縦隔リンパ節(MLN)完全郭清は、ランダムなリンパ節試料採取と比較して生存率の向上と関連する(Gajra AらEffect of number of lymph nodes sampled on outcome in patients with stage I non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol 2003;21:1029~34頁)。
【0011】
この文脈では、肺がん及びこの再発を診断するため、並びに治療中にがんの進展を監視し、この監視に従って患者の治療レジメンを調整するための低侵襲的手段として体液に対して使用可能な、肺がんの高感度かつ特異的なバイオマーカーを同定する必要性が尚存在する。
【0012】
血漿中循環腫瘍DNA(ctDNA)の解析は、がん患者の全ゲノム変化の全身的かつリアルタイムな監視が可能となる有望な手法として最近登場した(Cagle, P.T.ら、Lung cancer biomarkers: present status and future developments. Arch Pathol Lab Med、2013. 137(9):1191~8頁)。
【0013】
非侵襲的血液試料採取により非血液がんを試験する技能は、がんセラノスティクスにおいて最も刺激的かつ急速に進歩している分野のうちの1つである。原発及び転移性の腫瘍進展を監視する侵襲的かつ頻回の組織生検は、患者に対する固有のリスク及び明らかなコストの問題、並びにがんの世界的多様性に関する情報を提供する上で限界があるために問題を孕んでいる。がん患者由来の血漿が、腫瘍体細胞の遺伝的異常に関する情報を有する腫瘍に由来する細胞遊離DNAを含むことを実証することにより、腫瘍の遺伝的特徴、腫瘍量、腫瘍多様性、並びに奏効/増悪の機構及び薬物耐性に関して情報を提供する可能性を有する(Heitzer, E.ら、Current and future perspectives of liquid biopsies in genomics-driven oncology. Nature Reviews Genetics volume 20、71~88頁(2019))。
【0014】
健常な個人において血流に常に放出される循環細胞遊離DNA(ccfDNA)の存在は、数十年前から公知である。実際、DNA断片は、細胞のターンオーバー又は細胞死の他の形態において死にゆく細胞から血中に排出される(Schwarzenbach, H.ら、Cell-free nucleic acids as biomarkers in cancer patients. Nature Reviews Cancer volume11、426~437頁(2011))。この高度断片化2本鎖DNAは主に、ヌクレオソーム間DNAの長さに対応する、およそ150bpの長さの分子からなる。非病態では、アポトーシス性又は壊死性細胞は除去され、ccfDNAのレベルは比較的低い。健常な個人の90%超では、1mLあたり25ng未満のccfDNAしか有しない(Adalsteinsson VAらScalable whole-exome sequencing of cell-free DNA reveals high concordance with metastatic tumors. Nat Commun. 2017 Nov 6;8(1):1324)。
【0015】
上記のように、がん細胞はまた、細胞死、及び原発腫瘍、転移性病変又は循環腫瘍細胞(CTC)からの分泌により血流にDNAを放出する。がんを有する患者の腫瘍由来のccfDNAの画分は、総循環DNA分子の0.1%未満から10%超にわたる可変的な寄与を有する。進行型転移がんを有する患者由来の血漿におけるccfDNAレベルは、典型的に、健常な個人におけるレベルよりも数倍高い。しかし、このようなレベルは、がん患者において0.0~1000ng/mLと大きく異なり得る(Adalsteinsson VAらScalable whole-exome sequencing of cell-free DNA reveals high concordance with metastatic tumors. Nat Commun. 2017 Nov 6;8(1):1324)。ctDNAレベルの可変性は、十分には理解されておらず、腫瘍量、ステージ、転移局在性、細胞ターンオーバー、循環到達性、増殖速度、壊死レベル及び血液量に影響する因子により影響されると考えられている。
【0016】
最近5~10年間にわたって、特に、次世代シーケンシング、例えば、DNASeq(全ゲノムシーケンシング、全エクソームシーケンシング、標的シーケンシング)、RNASeq(包括的及び標的)及びPCRに基づく手法(ddPCR、液滴に基づくデジタルPCR、マルチプレックスPCR等)に関する、がん患者由来の血漿のゲノム解析における新たな更に高感度な技術及び更に改良された方法の出現が認められている。このような手法の多くにより、包括的又は標的にかかわらず、血漿における複数のゲノム異常(変異、メチル化、SCNA、インデル、染色体異常、転座、遺伝子融合等)の検出が可能となっている。
【0017】
血漿において複数の腫瘍由来の遺伝子異常を検出する可能性により、早期診断、微小残存病変(MRD)検出、並びに再燃/増悪及び奏効の監視を含む、がん患者セラノスティクスのための臨床的機会がふんだんにもたらされる。その上、液体生検は、腫瘍進展の更に動的かつ長期的監視に基づく患者治療の力となる可能性を有する(Crowley, Eら、Liquid biopsy: monitoring cancer-genetics in the blood. Nat Rev Clin Oncol. 2013 Aug;10(8):472~84頁)。例えば、ctDNAにおける腫瘍特異的変異の監視により、結腸直腸、肺、乳房又は膵臓のがんを含む種々の型のがんにおいて、患者の長期的経過観察が可能となった(Pecuchet, N.ら、Base-Position Error Rate Analysis of Next-Generation Sequencing Applied to Circulating Tumor DNA in Non-Small Cell Lung Cancer: A Prospective Study. PLoS Med、2016. 13(12):e1002199頁)。
【0018】
しかし、効率的な患者の経過観察を可能とするためには、腫瘍多様性によってこのような変化がかなり異なるため、種々の遺伝子及び変異の大きなパネルを必要とすることが多い。加えて、所要時間の長さ及び費用効果の問題によっても、大きな遺伝子パネルのスクリーニングに基づく手法の臨床診療における更に広範な適用が制限されている。
【0019】
DNAメチル化(低及び高の両メチル化)は、生理学的及び病的状態の両方において、遺伝子制御領域の転写到達性の変化により遺伝子発現を制御する、基本的なエピジェネティック修飾のうちの1つである。実際、DNAメチル化の異常は、がんにおいて生じることが実証されており、この場合、腫瘍抑制遺伝子のエピジェネティック発現抑制が、がん発症及び腫瘍形成の駆動における初期現象として認識される。ヒトゲノムにおけるDNAメチル化は、5番目の炭素のCpGジヌクレオチドにおけるシトシン残基で主に発生し、5-メチルシトシンが生じる。CpGジヌクレオチドは、ヒトゲノムにおいて稀であり、約1%である。CpGジヌクレオチドは、50%を超えるG+C含量及び少なくとも0.6のCpG頻度の割合で200塩基を超えるクラスターで見出されることが多く、これは、CpGアイランドとして知られている。特に、CpG高密度領域(CpGアイランド)の高メチル化は、遺伝子プロモーターに位置することが多く、腫瘍抑制因子の発現抑制及び不完全な分化と関連しており、DNAメチル化の変化を腫瘍化形質転換に直接関連づける(Qureshi, S.A.、M.U. Bashir及びA. Yaqinuddin、Utility of DNA methylation markers for diagnosing cancer. Int J Surg、2010. 8(3):194~8頁)。DNAメチル化の異常は、発癌の初期に生じることが多く、安定であるため、がんの早期検出及び更には疾患負荷の長期的監視のための魅力的な潜在的マーカーであると考えられている。その上、がんスクリーニング、監視及び早期検出のためのバイオマーカーを開発する目的では、メチル化及び高メチル化の上昇により、高感度かつ特異的アッセイ開発のために標的領域が明白な、肯定的読出し情報がもたらされる。
【0020】
最も注目すべきことには、Talyら(Garrigou, S.ら、A Study of Hypermethylated Circulating Tumor DNA as a Universal Colorectal Cancer Biomarker. Clin Chem, 2016. 62(8):1129~39頁)は、メチル化マーカー又は腫瘍特異的変異のいずれかの標的化による、液滴に基づくデジタルPCR(ddPCR)を用いたctDNAの監視によって、同等の結果がもたらされることを示した。
【0021】
変異バイオマーカーを使用する複雑性とは対照的に、限られた数のメチル化バイオマーカーの解析は、多数のがん患者のスクリーニングを可能とする可能性を有する。実際、Talyらは、わずかに2種のメチル化マーカーの使用により、試験した全てのCRC患者の監視が可能となることを実証した。加えて、mCRCの種々の前向きな結果において、ctDNA検出及び監視のためのこのようなマーカー使用の妥当性が実証された(Garlan, F.ら、Early Evaluation of Circulating Tumor DNA as Marker of Therapeutic Efficacy in Metastatic Colorectal Cancer Patients (PLACOL Study). Clinical Cancer Research、2017. 23(18):5416~5425頁)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Bray, F.らGlobal cancer statistics 2018: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA Cancer J Clin. 2018 Nov 68(6):394~424頁
【非特許文献2】Cecilia Zappa及びShaker A. Mousa Non-small cell lung cancer: current treatment and future advances. Transl Lung Cancer Res. 2016 Jun; 5(3): 288~300頁
【非特許文献3】Paez, J. G.らEGFR mutations in lung cancer: correlation with clinical response to gefitinib therapy. Science 304、1497~1500頁(2004)
【非特許文献4】Kwak, E. L.らAnaplastic lymphoma kinase inhibition in non-small-cell lung cancer. N. Engl. J. Med. 363、1693~1703頁(2010)
【非特許文献5】Stephens, P.らLung cancer: intragenic ERBB2 kinase mutations in tumors. Nature 431、525~526頁(2004)
【非特許文献6】Takahashi, T.らp53: a frequent target for genetic abnormalities in lung cancer. Science 246、491~494頁(1989)
【非特許文献7】Sanchez-Cespedes, M.らInactivation of LKB1/STK11 is a common event in adenocarcinomas of the lung. Cancer Res. 62、3659~3662頁(2002)
【非特許文献8】Shapiro, G.I.らReciprocal Rb inactivation and p16INK4 expression in primary lung cancers and cell lines. Cancer Res. 55、505~509頁(1995)
【非特許文献9】Singh, A.らDysfunctional KEAP1-NRF2 interaction in non-small-cell lung cancer. PLoS Med. 3、e420(2006)
【非特許文献10】Medina, P. P.らFrequent BRG1/SMARCA4-inactivating mutations in human lung cancer cell lines. Hum. Mutat. 29、617~622頁(2008)
【非特許文献11】Ding, L.らSomatic mutations affect key pathways in lung adenocarcinoma. Nature 455、1069~1075頁(2008)
【非特許文献12】Brundage MD、Davies D、Mackillop WJ. Prognostic factors in non-small cell lung cancer: a decade of progress. Chest 2002;122:1037~57頁
【非特許文献13】Kawachi RらEarly recurrence after surgical resection in patients with pathological stage I non-small cell lung cancer. Thorac Cardiovasc Surg 2009;57:472~5頁
【非特許文献14】Pasini FらLate events and clinical prognostic factors in stage I non-small cell lung cancer. Lung Cancer 2002;37:171~7頁
【非特許文献15】Shiono SらPositron emission tomography/computed tomography and lymphovascular invasion predict recurrence in stage I lung cancers. J Thorac Oncol 2011;6:43~7頁
【非特許文献16】Maeda RらRisk factors for tumor recurrence in patients with early-stage (stage I and II) non-small cell lung cancer: patient selection criteria for adjuvant chemotherapy according to the seventh edition TNM classification. Chest 2011;140:1494~502頁
【非特許文献17】Gajra AらEffect of number of lymph nodes sampled on outcome in patients with stage I non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol 2003;21:1029~34頁
【非特許文献18】Cagle, P.T.ら、Lung cancer biomarkers: present status and future developments. Arch Pathol Lab Med、2013. 137(9):1191~8頁
【非特許文献19】Heitzer, E.ら、Current and future perspectives of liquid biopsies in genomics-driven oncology. Nature Reviews Genetics volume 20、71~88頁(2019)
【非特許文献20】Schwarzenbach, H.ら、Cell-free nucleic acids as biomarkers in cancer patients. Nature Reviews Cancer volume11、426~437頁(2011)
【非特許文献21】Adalsteinsson VAらScalable whole-exome sequencing of cell-free DNA reveals high concordance with metastatic tumors. Nat Commun. 2017 Nov 6;8(1):1324
【非特許文献22】Crowley, Eら、Liquid biopsy: monitoring cancer-genetics in the blood. Nat Rev Clin Oncol. 2013 Aug;10(8):472~84頁
【非特許文献23】Pecuchet, N.ら、Base-Position Error Rate Analysis of Next-Generation Sequencing Applied to Circulating Tumor DNA in Non-Small Cell Lung Cancer: A Prospective Study. PLoS Med、2016. 13(12):e1002199頁
【非特許文献24】Qureshi, S.A.、M.U. Bashir及びA. Yaqinuddin、Utility of DNA methylation markers for diagnosing cancer. Int J Surg、2010. 8(3):194~8頁
【非特許文献25】Talyら(Garrigou, S.ら、A Study of Hypermethylated Circulating Tumor DNA as a Universal Colorectal Cancer Biomarker. Clin Chem, 2016. 62(8):1129~39頁)
【非特許文献26】Garlan, F.ら、Early Evaluation of Circulating Tumor DNA as Marker of Therapeutic Efficacy in Metastatic Colorectal Cancer Patients (PLACOL Study). Clinical Cancer Research、2017. 23(18):5416~5425頁
【非特許文献27】Mandardら
【非特許文献28】Talyら2013
【非特許文献29】PecuchetらClinical Chemistry 2016
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本開示は、肺がん患者の診断及び/又は経過観察のための高感度及び特異度を有する新たなDNAメチル化バイオマーカーに関する。ctDNAにおける腫瘍特異的メチル化マーカーの同定は、腫瘍検出及び患者監視を向上させ、以下の変異又は他のゲノム現象と関連する既存の困難の一部を回避する可能性を有する。従って、以後「本発明のバイオマーカー」と呼ぶMROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301、chr20:1784267 OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子及びNPR3遺伝子のctDNAにおける高メチル化は、液体生検による肺がん検出及び患者管理に重要な意味を有する。
【0024】
この手法の利点により、実際、実施する検査回数の減少、各がん患者のための個別化アッセイの開発を必要としない腫瘍DNA動態の監視を可能とし、原始腫瘍の特性決定を必要としない可能性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子及びNPR3遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを決定することにより、患者の生体試料において肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法に関する。
【0026】
本明細書において使用する場合、「患者」、「対象」又は「個人」の用語は、互換的に使用し、哺乳動物、好ましくは、ヒトを指す。患者は、肺がんのいかなる症候もなく健常であるか、又はがん、特に、肺がんを発症していると考えられるか若しくはこれに罹患していると疑われ得る。この患者は、例えば、次の症候:持続性の咳、胸痛、嗄声、食欲低下、体重減少、喀血、息切れ、再発性の気管支炎又は肺炎の少なくとも1つを呈する。また、この患者は、過去に肺がんに罹患したことがあり、治療していて、潜在的な疾患の再発について監視されている可能性を有する。また、この患者は、健常であると考えられ得るが、遺伝的素因又は家族歴により、肺がんを発症し易い。
【0027】
本明細書において使用する場合、「生体試料」の表現は、固形組織、例えば、肺生検、又は液体、体流出物、及び排泄物、例えば、痰、たん、便、血液、血清、血漿、尿、糞便を指す。好ましくは、生体試料は、血液又は血漿試料である。
【0028】
発明者らは、初期であっても、肺がんに罹患している患者における肺がんの高感度かつ特異的バイオマーカーとして、このような遺伝子の高メチル化を使用することを示した。MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301、chr20:1784267 OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子及びNPR3遺伝子は、以後「本発明のバイオマーカー」と呼ぶ(Table1(表1))。
【0029】
【表1A】
【0030】
【表1B】
【0031】
本発明の方法は、使用する検出技術に応じて「メチル化のレベル」、「メチル化レベル」又は「メチル化の量」の検出を必要とする。このような用語は、互換的に使用することができ、定量的測定値の決定を指す。
【0032】
本明細書において使用する場合、「再燃」又は「再発」は、治療しているがんが再発するリスクを意味する。
【0033】
好ましい実施形態では、本開示は、患者の生体試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子及びOPLAH遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを決定することによる、肺がんの診断方法又はこの再燃の診断方法に関する。
【0034】
より好ましい実施形態では、本開示は、患者の生体試料において、4種の遺伝子の群:MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを決定することによる、肺がんの診断方法又はこの再燃の診断方法に関する。
【0035】
ある態様では、肺がんの診断方法又は肺がんの再燃の診断方法は、患者の生体試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子及びNPR3遺伝子からなる群より選択される少なくとも2種の遺伝子、3種の遺伝子、4種の遺伝子、5種の遺伝子、6種の遺伝子、7種の遺伝子、8種の遺伝子又は9種の遺伝子の組合せのメチル化のレベルを決定する工程で構成される。
【0036】
2種のバイオマーカーの好ましい組合せは、Table2(表2)に開示する。2種のバイオマーカーの好ましい組合せは、Table2(表2)において灰色で着色する。
【0037】
【表2】
【0038】
本開示による診断の方法は、本発明の少なくとも1種のバイオマーカーの高メチル化に基づく。「高メチル化」は、参照試料において測定した対応するバイオマーカーのメチル化値と比較した場合、検査対象の生体試料において、本発明のバイオマーカーのいずれかのメチル化値が有意に高いことを意味する。参照試料における正常量のメチル化と比較した場合、対象の生体試料において有意に高い量の、本発明の少なくとも1種のバイオマーカーは、検査患者が肺がんを有するか、又は肺がんを有するか若しくは肺がんを再燃するリスクが高いことを示す。
【0039】
メチル化の有意に高い量又はレベルは、このレベルのメチル化の評価に利用したアッセイの標準誤差よりも高いメチル化量を指す。
【0040】
別の実施形態では、本開示における、肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法は、
a)患者の生体試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)(a)におけるメチル化のレベルを、対照試料における同一遺伝子のメチル化のレベルと比較する工程と
を含み、ここで、(a)におけるメチル化のレベルが(b)におけるメチル化のレベルよりも優れている場合、肺がんであることを示す。
【0041】
より好ましい実施形態では、診断するための方法の工程(a)は、患者の生体試料において、5種の遺伝子:MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子及びOPLAH遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程で構成される。
【0042】
別の好ましい実施形態では、診断するための方法の工程(a)は、患者の生体試料において、4種の遺伝子の群:MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程で構成される。
【0043】
ある態様では、肺がんの診断方法又は肺がんの再燃の診断方法の工程(a)は、患者の生体試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、chr7:129425301遺伝子、chr20:1784267遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子及びNPR3遺伝子からなる群より選択される少なくとも2種の遺伝子、3種の遺伝子、4種の遺伝子、5種の遺伝子、6種の遺伝子、7種の遺伝子、8種の遺伝子又は9種の遺伝子の組合せのメチル化のレベルを評価する工程で構成される。
【0044】
本開示は、メチル化のレベルを決定することにより、その生体試料において患者の肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法に関する。メチル化のレベルは、MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域からなる群より選択される少なくとも1種のヌクレオチド領域において決定する。
【0045】
好ましい実施形態では、メチル化のレベルは、MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域及びOPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域からなる群より選択される少なくとも1種のヌクレオチド領域において決定する。
【0046】
より好ましい実施形態では、メチル化のレベルは、MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域及びchr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域からなる群より選択される少なくとも1種のヌクレオチド領域において決定する。
【0047】
別の好ましい実施形態では、本発明の診断方法におけるメチル化のレベルは、MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域からなる群より選択される少なくとも2種のバイオマーカー、3種のバイオマーカー、4種のバイオマーカー、5種のバイオマーカー、6種のバイオマーカー、7種のバイオマーカー、8種のバイオマーカー又は9種のバイオマーカーの組合せにより決定する。
【0048】
肺がんを診断するか又は肺がんの再燃を診断するための方法は、
a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに/又は配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに/又は配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに/又は配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに/又は配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに/又は配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに/又は配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに/又は配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに/又は配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに/又は配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを決定する工程で構成される。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
好ましい実施形態では、メチル化のレベルは、次世代シーケンシング(NGS)、定量的PCR(qPCR)又はデジタルPCR(dPCR)により決定する。バイオマーカー(a)~(i)のメチル化のレベルは、好ましくは、dPCRにより決定する。
【0052】
本明細書において使用する場合、「dPCR」の用語は、「デジタルPCR」を表し、「液滴デジタルPCR」を表す「ddPCR」の用語と互換的に使用することができる。これは、従来のPCR法の改良であり、ここでは、試料を多数の区分に分割してPCR反応を各区分において個別に実行する。この分割により、更に信頼のおける核酸量の採取及び高感度測定が可能となる。この方法は、遺伝子配列における変異の試験に有用であるとして実証されている。より正確には、PCR溶液を、水油乳濁技術により小反応物に分け、次いで、これにPCRを個別に行う。例えば、PCR試料は、ピコ~ナノリットルサイズの試料に分配して、油滴に被包することができる。使用する系に応じて、5~10百万ピコリットルの液滴から20,000ナノリットルの油滴まで生成することができる。
【0053】
本発明の診断方法では、遺伝子発現を検出するための方法、例えば、dPCRを使用することができ、これは、蛍光発生プローブを使用して、PCR中に蓄積したPCR産物の検出の特異度及び感度を向上させる。このようなアッセイは、例えば、適合及び不適合プローブ間のTm差を増強する副溝結合(MGB)部分を含むプローブを使用するTaqMan遺伝子発現アッセイである。加えて、このようなMGBプローブは、反応において複数の色素を使用する場合にスペクトル分解を増強する非蛍光クエンチャー(NFQ)を含み得る。
【0054】
好ましい実施形態において使用するプローブは、Table4(表4)に記載する。
【0055】
また、本発明の方法は、バイオマーカーのメチル化のレベルを、参照試料において決定するものと同一のバイオマーカーのメチル化レベルと比較する工程を含む。
【0056】
検査対象の生体試料における少なくとも1~9種のバイオマーカーが、参照試料における同一のバイオマーカーと比較して高メチル化されている場合、検査対象は、肺がんを有するか、又は肺がんを発症するか若しくは肺がんを再燃するリスクが高い。
【0057】
ある実施形態では、本開示による生体試料は、体流出物又は固形組織、例えば、生検標本である。患者から採取した体流出物は、尿、便、喀出物、血漿又は血液試料、好ましくは、血液試料である。
【0058】
本開示の方法では、少なくとも2種の遺伝子のメチル化のレベルは、患者の生体試料において同時又は逐次的に決定する。
【0059】
別の態様では、本発明のバイオマーカーは、肺がん患者の転帰を監視及び/又は予測する方法において使用する。監視及び予測のこのような方法は、患者の生存率を最大化するための適切な治療を選択するのに腫瘍専門医により使用される。適切な治療は、例えば、化学療法、免疫療法、放射線療法、及び/又は手術である。化学療法剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、プラチン(platin)に基づく成分、特定のキナーゼ阻害剤、ホルモン、サイトカイン、抗血管新生剤、抗体、免疫療法又は血管破壊剤で構成されるリストより選択される。
【0060】
本開示は、
a)第1の時点で、患者の生体試料において、
i)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子、又は
ii)MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域、又は
iii) a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子又は少なくとも1種のヌクレオチド領域のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)第2の時点で、患者の生体試料において、第1の時点(a)で選択された遺伝子のメチル化のレベルを評価する工程と、
c)選択された遺伝子又はヌクレオチド領域のメチル化のレベルを、第2の時点(b)と第1の時点(a)との間又は第2の時点(b)と参照値との間で比較する工程と
を含む、肺がんに罹患している患者における肺がんの進展を監視するための方法に関する。
【0061】
また、患者における肺がんの進行を監視するための方法におけるメチル化のレベルは、
i)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子、又は
ii)MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域、又は
iii) a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに/若しくは配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群より選択される少なくとも2種のバイオマーカー、3種のバイオマーカー、4種のバイオマーカー、5種のバイオマーカー、6種のバイオマーカー、7種のバイオマーカー、8種のバイオマーカー又は9種のバイオマーカーの組合せにより決定する。
【0062】
監視するための本発明の方法では、第1の時点(a)における試料は、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療の前に評価し、第2の時点(b)における試料は、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療の後に得る。
【0063】
工程(b)におけるメチル化のレベルが工程(a)において決定したレベルよりも有意に高い場合、肺がんの悪性度は、悪化していると結論づけられる。患者の治療の前に工程(a)が達成され、この患者が肺がんのための治療を終了した後に工程(b)が達成される場合、治療の効率を評価することができる。
【0064】
また、別の態様では、肺がんの進行を監視するための方法は、工程(a)の前及び工程(b)の前に肺がんの治療をされている患者に関する。
【0065】
治療に対する応答は、例えば、RECIST(固形腫瘍における奏効評価基準)の1.1基準(Mandardら)に従って定義する。完全奏効(CR)は、全ての標的病変の消失として定義する。いかなる病的リンパ節(標的又は非標的にかかわらず)も、短軸において10mm未満まで減少していなければならない。部分奏効(PR)は、標的病変の直径の和における少なくとも30%の減少として定義し、参照として、直径和のベースラインと解釈する。疾患増悪(PD)は、標的病変の直径和における少なくとも20%の増大として定義し、参照として、試験における最小和と解釈する(これが試験において最小である場合、和のベースラインを含む)。20%の相対的増大に加えて、和は、少なくとも5mmの絶対的増大をも実証しなければならない。疾患安定(SD)は、PRと認定するのに十分な収縮もPDと認定するのに十分な増大もないものとして定義し、参照として、試験における最小直径和と解釈する。評価時間は、疾患に依存することが多い。
【0066】
本開示の少なくとも1種のバイオマーカー又はバイオマーカーの組合せのメチル化において、工程(b)におけるメチル化のレベルが、同一バイオマーカーと比較した工程(a)におけるメチル化のレベルよりも低い場合、患者は、検査した治療に対して効率的に応答している。従って、メチル化のレベルのこの低下は、患者が肺がんの治療に対する奏効者であることを示す。奏効者は、完全奏効RECIST1.1基準において定義されている。
【0067】
反対に、治療の施術後に得られた生体試料における本開示の少なくとも1種のバイオマーカー又はバイオマーカーの組合せのメチル化レベルが、治療の施術前に得られた試料における同一バイオマーカーと比較して同等であるか又はより高い場合、検査した患者は、肺がんの治療に対して効率的には応答していない。従って、工程(b)におけるメチル化のレベルが、工程(a)におけるメチル化のレベルと同等であるか又はより高い場合、患者が肺がんの治療に対する非奏効者であることを示す。本明細書において使用する場合、「非奏効者」は、RECIST1.1基準により定義する疾患増悪又は疾患安定を有する患者であると考えられる。
【0068】
肺がんの進展を監視するための方法では、少なくとも2種の遺伝子のメチル化のレベルは、患者の生体試料において同時又は逐次的に決定する。
【0069】
本明細書において使用する場合、本開示による参照値は、健常ドナー由来の試料、又は治療前の若しくは治療初期に採取した肺がんに罹患している患者由来の試料において得られる。
【0070】
一部の実施形態では、肺がんに対する治療施術後に肺がん患者から得られた生体試料におけるメチル化バイオマーカーのレベルは、肺がんに対する治療のがん患者への施術前に肺がん患者から得られた生体試料におけるメチル化バイオマーカーのレベルと比較した場合、少なくとも約1.1分の1、少なくとも約1.2分の1、少なくとも約1.3分の1、少なくとも約1.4分の1、少なくとも約1.5分の1、少なくとも約2分の1、少なくとも約2.5分の1、少なくとも約3分の1、少なくとも約4分の1、少なくとも約5分の1、少なくとも約6分の1、少なくとも約7分の1、少なくとも約8分の1、少なくとも約9分の1、少なくとも約10分の1、少なくとも約15分の1、少なくとも約20分の1、少なくとも約25分の1、少なくとも約30分の1、少なくとも約35分の1、少なくとも約40分の1又はこれ以下に低下する。
【0071】
また、本発明は、肺がんに罹患している患者に治療レジメンを適応させるための方法に関する。この方法では、肺がんに罹患している患者の肺がんのための治療は、肺がんの進展を監視するための方法に記載のように、工程(a)及び(b)の比較に基づいて、最終工程(c)において適応させる。
【0072】
本開示は、
a)患者の生体試料において、
i)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子、又は
ii)MROH6遺伝子における配列番号1のヌクレオチド領域、HOXB4遺伝子における配列番号2のヌクレオチド領域、chr7:129425301遺伝子における配列番号3のヌクレオチド領域、chr20:1784267遺伝子における配列番号4のヌクレオチド領域、OPLAH遺伝子における配列番号5のヌクレオチド領域、CRCT1遺伝子における配列番号6のヌクレオチド領域、KCNQ4遺伝子における配列番号7のヌクレオチド領域、GP5遺伝子における配列番号8のヌクレオチド領域及びNPR3遺伝子における配列番号9のヌクレオチド領域、又は
iii) a)配列番号10及び配列番号11の配列のプライマー並びに配列番号28の配列のプローブの使用によるMROH6遺伝子、
b)配列番号12及び配列番号13の配列のプライマー並びに配列番号29の配列のプローブの使用によるHOXB4遺伝子、
c)配列番号14及び配列番号15の配列のプライマー並びに配列番号30の配列のプローブの使用によるchr7:129425301遺伝子、
d)配列番号16及び配列番号17の配列のプライマー並びに配列番号31の配列のプローブの使用によるchr20:1784267遺伝子、
e)配列番号18及び配列番号19の配列のプライマー並びに配列番号32の配列のプローブの使用によるOPLAH遺伝子、
f)配列番号20及び配列番号21の配列のプライマー並びに配列番号33の配列のプローブの使用によるCRCT1遺伝子、
g)配列番号22及び配列番号23の配列のプライマー並びに配列番号34の配列のプローブの使用によるKCNQ4遺伝子、
h)配列番号24及び配列番号25の配列のプライマー並びに配列番号35の配列のプローブの使用によるGP5遺伝子、
i)配列番号26及び配列番号27の配列のプライマー並びに配列番号36の配列のプローブの使用によるNPR3遺伝子
からなる群のうちの1つより選択される少なくとも1種の遺伝子又はヌクレオチド領域のメチル化のレベルを評価する工程と、
b)選択された遺伝子のメチル化のレベルを参照値と比較する工程と、
c)工程b)のメチル化レベルの比較に基づいて臨床転帰を予測する工程と
を含む、肺がんに罹患している患者の臨床転帰を予測するための方法に関する。
【0073】
患者の生体試料における、少なくとも1種のバイオマーカー並びに2種のバイオマーカー、3種のバイオマーカー、4種のバイオマーカー、5種のバイオマーカー、6種のバイオマーカー、7種のバイオマーカー、8種のバイオマーカー又は9種のバイオマーカーの組合せが、参照試料における同一バイオマーカーと比較して高メチル化されている場合、患者は、臨床転帰が不良である可能性を有する。反対に、患者の生体試料における、少なくとも1種のバイオマーカー並びに2種のバイオマーカー、3種のバイオマーカー、4種のバイオマーカー、5種のバイオマーカー、6種のバイオマーカー、7種のバイオマーカー、8種のバイオマーカー又は9種のバイオマーカーの組合せが、参照試料における同一バイオマーカーと比較して有意には高メチル化されていない場合、患者は、臨床転帰が良好である可能性を有する。
【0074】
別の態様では、
(a)抗腫瘍治療を施術する前のがん患者由来の生体試料、好ましくは、血漿試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを測定する工程と、
(b)がん患者由来の生体試料、好ましくは、血漿試料において、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子のメチル化のレベルを測定する工程と
を含む、抗腫瘍治療により治療した肺がん患者における抗腫瘍治療の活性を評価する方法であって、抗腫瘍治療を肺がん患者に施術する前のメチル化のレベルと比較して、メチル化のレベルが低下する場合、肺がん患者における抗腫瘍治療の活性を示す、方法を本開示において提供する。
【0075】
一部の実施形態では、肺がん患者における抗腫瘍治療の活性は、用量依存的活性である。
【0076】
アレイは、Table4(表4)に記載するプローブのうちの少なくとも1種を含む。
【0077】
キットは、(a)MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される遺伝子のうちの少なくとも1種を標的とするプライマー、好ましくは、Table4(表4)に記載するプライマー、並びに/又は(b)プローブ、好ましくは、Table4(表4)に記載するプローブを含む。
【0078】
一部の実施形態では、キットは、肺がん患者を治療するための抗腫瘍治療の用量(例えば、維持用量)を選択するための、生体試料における、MROH6遺伝子、HOXB4遺伝子、OPLAH遺伝子、CRCT1遺伝子、KCNQ4遺伝子、GP5遺伝子、NPR3遺伝子、chr7:129425301遺伝子及びchr20:1784267遺伝子からなる群より選択される遺伝子のうちの少なくとも1種のメチル化のレベルを検出するための手段を含む。
【0079】
本発明は、以下の図及び実施例により例示するが、これにより制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】主成分分析(全てのバイオマーカーDMR180 897種)を示す図である。図1では、NSCLC腫瘍組織(n=10)及び対応する隣接非腫瘍組織(n=10)のMethyl-Seqに基づくDNAメチル化データの主成分分析を開示する。DNAメチロームライブラリーをSeqCap Epi CpGiant Enrichmentキット(Roche社)を使用することにより調製し、試料をNextseqTM500シーケンサー(Illumina社)に通した。主成分分析のプロットにより、腫瘍試料(大型の円)と健常対照(小型の円)との間で、これらのメチル化プロファイルに基づく明白な差が明らかとなる。
図2】ddPCRによる肺腫瘍組織における候補バイオマーカーのDNAメチル化を示す図である。図2では、ddPCRによる肺がん患者由来の腫瘍及び隣接非腫瘍組織DNA(第1のコホート)(n=20~22)における選択されたバイオマーカーのメチル化レベル並びに各バイオマーカーに対するこれらの検出感度及び特異度を開示する。試料の数は、各バイオマーカーについてDNAの有効性に応じて運用する。正常及び隣接組織DNA間の高メチル化の差の解析では、対応ノンパラメトリックWilcoxon検定を使用する。非腫瘍組織DNAにおけるメチル化レベルの平均値及び標準偏差の和を、選択された各バイオマーカーの感度及び特異度を算出するための閾値として設定した。
図3】ddPCRによる軟膜DNAにおける候補バイオマーカーのメチル化プロファイルを示す図である。図3では、ddPCRにより測定した健常軟膜DNAにおける選択されたバイオマーカーのメチル化レベルを開示する。健常な個人由来の軟膜(n=10)は、Biopredic Internal社から購入した。DNAは、QIAmp Circulating Nucleic Acid Kit (Qiagen社)を使用することにより抽出した。軟膜における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルは、ddPCRにより測定した。
図4】ddPCRによる健常血漿における候補バイオマーカーのメチル化プロファイルを示す図である。図4では、ddPCRにより測定した健常血漿循環細胞遊離DNA(ccfDNA)における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルを開示する。健常血漿は、Biopredic Internal社から購入した。循環細胞遊離DNAは、Maxwell(登録商標)RSC ccfDNA Plasma Kitを使用することにより抽出した。血漿ccfDNA(n=8~11、ccfDNAの有効性に応じる)における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルをddPCRにより測定した。
図5】ddPCRによる肺腫瘍組織における候補バイオマーカーのDNAメチル化を示す図である。図5では、ddPCRによる肺がん患者由来の腫瘍(n=39)及び隣接非腫瘍組織DNA(n=38)の第2のコホートにおける選択されたバイオマーカーのメチル化レベル並びに各バイオマーカーに対するこれらの検出感度及び特異度を開示する。
図6】ddPCRによる死後組織における候補バイオマーカーのメチル化プロファイルを示す図である。図6では、ddPCRにより測定した死後組織における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルを開示する。死後冷凍組織は、Indivumed GmbH社から購入した。非腫瘍組織(n=10)における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルは、ddPCRにより測定した。
図7】ddPCRによる死後組織における候補バイオマーカーのメチル化レベルを示す図である。図7では、ddPCRにより測定した死後組織における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルを開示する。死後冷凍組織は、Indivumed GmbH社から購入した。非腫瘍組織(n=36)における選択されたバイオマーカーのメチル化レベルは、ddPCRにより測定した。
図8】腫瘍及び死後組織における選択されたマーカー間のメチル化レベルの比較を示す図である。図8では、ddPCRによる肺がん患者由来の腫瘍の第3のコホート(n=40)及び非がん患者由来の死後組織DNA(n=36)における選択されたバイオマーカー間のメチル化レベルの比較を開示する。Mann-whitney検定を正常及び死後組織DNA間の高メチル化の差の解析に使用した。
図9】健常血漿におけるバイオマーカー対HOXB4/MROH6及びChr7/Chr20のメチル化レベルを示す図である。図9では、2種の異なるトリプレックスアッセイ(即ち、アルブミン参照並びにHOXB4及びMROH6の両マーカーを標的とするか又はアルブミン参照並びにChr7及びChr20の両マーカーを標的とする)を使用して検査するddPCRにより測定した健常血漿の第2のコホート(n=48、Biopredic International社)におけるマーカー対のメチル化レベルを開示する。
図10】軟膜DNAにおけるバイオマーカー対HOXB4/MROH6及びChr7/Chr20のメチル化レベルを示す図である。図10では、2種の異なるトリプレックスアッセイ(即ち、アルブミン参照並びにHOXB4及びMROH6の両マーカーを標的とするか又はアルブミン参照並びにChr7及びChr20の両マーカーを標的とする)を使用して検査するddPCRにより測定した軟膜DNAの第2のコホート(n=10、Biopredic International社)におけるマーカー対のメチル化レベルを開示する。
図11】肺がん患者のctDNAの監視の例を示す図である。図11では、患者4人の経過観察におけるメチル化ctDNA(MetctDNA)及び変異ctDNA(MutctDNA)の解析を開示する。(A)MetctDNAレベルは、HOXB4及びMROH6マーカーについて観察される百分率の平均値として示し(白色の四角)、MutctDNAレベルは、高感度NGS解析により観察された最も高頻度の変異の百分率を使用することにより示す(黒色の円)。(B)MROH6(白色の四角)又はHOXB4(黒色の十字)により測定したMetctDNA、並びに高感度NGS解析により観察された最も高頻度の変異により決定したMutctDNA百分率を示す(黒色の円)。RECIST基準を示す(PD=疾患増悪、PR=部分奏効、SD=疾患安定、PTT=治療前の時点)。
【実施例
【0081】
1.材料及び方法
患者及び健常対象
非小細胞肺がん(NSCLC)患者(59.0±11.5歳; T1~T4ステージ)23人由来の適合した腫瘍及び隣接する非腫瘍組織の生検をddPCR確認検査について検査した。これは、非小細胞肺がん(NSCLC)患者(57.0±9.6歳;T1~T4ステージ)10人由来の組織を含むメチルシーケンシング(MethylSeq)に使用した組織を含む。
【0082】
MethylSeqに使用した組織は、腺癌(ADC)6人、腺癌/気管支肺胞上皮癌(ADC/BAC)2人及び扁平上皮癌(SCC)2人の患者を含む非小細胞肺がん(NSCLC)患者10人から得られた。女性1人を除いて他の患者9人は男性である。ddPCRに使用した第1のコホートの組織は、腺癌(ADC)12人、腺癌/気管支肺胞上皮癌(ADC/BAC)3人、大細胞癌(LCC)3人、気管支肺胞上皮癌(BAC)2人及び扁平上皮癌(SCC)3人の患者を含む非小細胞肺がん(NSCLC)患者23人から得られた。女性8人を除いて他の患者15人は、男性である。
【0083】
他の2つのコホートの試料は、ddPCRにより更に検査した(n=39及び40試料)。
【0084】
健常な個人由来の血漿試料及び軟膜は、Biopredic International社(Saint Gregoire、フランス)から供給された。
【0085】
この試験は、現地の倫理委員会により認可され、インフォームドコンセントの文書は、全ての患者から得られた。
【0086】
試料調製、保存、DNA抽出及び定量
- 腫瘍及び非腫瘍隣接組織
腫瘍及び隣接非腫瘍組織生検を、切除直後に更なる解析まで液体窒素で急速冷凍した。各腫瘍は、病理医により点検され、腫瘍細胞含量をヘマトキシリン-エオシン-サフラン染色により評価した。DNAをQIAampDNAMini Kit(Qiagen社)により製造者の指示に従って抽出した。DNA濃度は、Qubit2.0蛍光光度計(Invitrogen、Life Technologies社)によってdsDNA BR Assay(Invitrogen)を使用することにより測定した。抽出したDNA試料は、検査前に-20℃で保存した。
【0087】
- 血漿
健常な個人の血漿試料をドライアイスで受け、一定分量に分けた直後に-80℃で冷凍した。抽出前に、血漿試料を3000gで10分間遠心分離し、次いで、QIAmp Circulating Nucleic Acid Kit(Qiagen社)又はRSC Maxwell instrumentによるccfDNA Plasmaキット(Promega社)を製造者の指示に従って使用することにより抽出した。DNAの量は、Qubit2.0蛍光光度計(Invitrogen、Life Technologies社)によってdsDNA HS Assay(Invitrogen)を使用することにより測定した。抽出したDNA試料は、検査前に-20℃で保存した。
【0088】
- 軟膜
軟膜は、健常対象の全血から調製し、次いで、QIAmp Circulating Nucleic Acid Kit(Qiagen社)を製造者の指示に従って使用することにより抽出した。DNAの量は、Qubit2.0蛍光光度計(Invitrogen、Life Technologies社)によってdsDNA BR Assay(Invitrogen)を使用することにより測定した。抽出したDNA試料は、検査前に-20℃で保存した。
【0089】
- 死後組織
冷凍した死後組織は、lndivumed GmbH社から得られた。DNAをQIAampDNAMini Kit(Qiagen社)により製造者の指示に従って抽出した。DNA濃度は、Qubit2.0蛍光光度計(Invitrogen、Life Technologies社)によってdsDNA BR Assay(Invitrogen)を使用することにより測定した。抽出したDNA試料は、検査前に-20℃で保存した。
【0090】
腫瘍組織DNA、軟膜DNA、血漿ccfDNAの亜硫酸水素塩変換
腫瘍DNA、軟膜DNA又は血漿DNAを、EZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research社)を使用して亜硫酸水素塩により修飾した。簡潔には、亜硫酸水素塩反応をサーモサイクラーにおいて98℃で12分間及び64℃で2時間と35分間実行した。亜硫酸水素塩変換DNAの精製は、製造者の推奨に従い、変換したDNAは、M-Elution Bufferに溶出して-20℃で保存した。
【0091】
Methyl-Seqによる肺がん患者における全ゲノムDNAメチロームプロファイリング
DNAメチロームライブラリーを、SeqCap Epi CpGiant Enrichmentキット(Roche社)を使用することにより製造者の指示に従って調製した。500ng~1μgの腫瘍若しくは非腫瘍組織DNA又は軟膜DNAを、Bioruptor(Diagenode s.a社、ベルギー)を使用することにより断片化した。NGSアダプター(次世代シーケンシングアダプター)を断片化DNAにライゲーションした後、EZ DNA Methylation-Lightning Kit(Zymo research社)を使用することにより亜硫酸水素塩変換処理を行った。いくつかの工程の精製及び増幅の後、亜硫酸水素塩変換試料を、SeqCap Epiプローブプールとハイブリダイズし、次いで、SeqCap Pure Capture Beadにより捕捉した。捕捉後の増幅を適用した後、試料をNextseqTM500シーケンサー(Illumina社)に通した。
【0092】
Methyl-Seqデータに基づくDNAメチル化バイオマーカーの解析及び同定
品質管理の後、配列データを、亜硫酸水素塩変換参照ゲノムに対してアラインメントし、腫瘍及び非腫瘍DNA間の差示的メチル化CpG部位(DMC)及び差示的メチル化領域(DMR)について、Metilene:Rスクリプトを使用することにより解析した。DMRは、80%を超える試料において少なくとも5つのDMCを含む領域である。異なる情報:非腫瘍組織DNAにおけるメチル化のレベル、腫瘍組織DNAにおけるメチル化のレベル、腫瘍及び非腫瘍組織DNA間のメチル化レベルの差、q値、同定したDMRに対応する遺伝子記号、染色体内のDMRの位置を含むDMRのリストを作成した。次いで、作成したこのDMRリストに基づいて、種々のパラメータを、肺がん患者のためのDNAメチル化バイオマーカーを同定するために使用した。第1に、0.05未満のq値を有する全てのDMRを選択した。第2に、腫瘍及び非腫瘍DNA間で20%を超えるメチル化レベルの差、並びに5%未満の非腫瘍DNAにおけるメチル化レベルを有するDMRを選択した。一方、腫瘍及び非腫瘍DNA間で30%を超えるメチル化レベルの差、並びに10%未満の非腫瘍DNAにおけるメチル化レベルを有するDMRをも選択した。この後、(a)軟膜DNAにおけるDMRのメチル化レベルが5%を超えるか、(b)DMRが遺伝子間領域に存在するか、又は(c)DMRが公表データに既に記載されている場合、DMRは、候補バイオマーカーリストから除外した。
【0093】
腫瘍、腫瘍隣接組織、死後組織、軟膜DNA及び血漿ccfDNAにおける液滴に基づくデジタルPCR(ddPCR)による選択されたバイオマーカーのメチル化レベルの検出及び測定
腫瘍、対応する非腫瘍、軟膜DNA及び血漿ccfDNAにおける選択されたバイオマーカーのメチル化レベルをddPCR(Bio-Rad社のQX200ddPCR System)により検査する。デュプレックス型式を使用し、インプットDNA量を正規化するためにアルブミンを用いて各バイオマーカーの高メチル化を解析する。
【0094】
一態様では、使用するMROH6バイオマーカーのための配列番号10~11のプライマー対及び配列番号28のプローブ、HOXB4バイオマーカーのための配列番号12~13のプライマー対及び配列番号29のプローブ、chr7:129425301バイオマーカーのための配列番号14~15のプライマー対及び配列番号30のプローブ、chr20:1784267バイオマーカーのための配列番号16~17のプライマー対及び配列番号31のプローブ、OPLAHバイオマーカーのための配列番号18~19のプライマー対及び配列番号32のプローブ、CRTC1バイオマーカーのための配列番号20~21のプライマー対及び配列番号33のプローブ、KCNQ4バイオマーカーのための配列番号22~23のプライマー対及び配列番号34のプローブ、GP5バイオマーカーのための配列番号24~25のプライマー対及び配列番号35のプローブ、NPR3バイオマーカーのための配列番号26~27のプライマー対及び配列番号36のプローブを本発明において提供する。
【0095】
ddPCR Supermix(dUTP不含)(Bio-Rad laboratories社)11μLを、8μMのフォワード及びリバースプライマー、バイオマーカーを標的とする4μMの6-FAMプローブ及びアルブミンを標的とする12μMのVIC Taqman(登録商標)標識プローブを含む20×Assay Mix 1.1μL、並びに亜硫酸水素塩処理修飾DNA鋳型と混合して、最終反応量22μLとする。最低10ngの修飾DNAを各反応に使用する。次いで、液滴を生成した後、PCR増幅を行う。
【0096】
陰性対照:正常対照ゲノムDNAの使用によるブランク限界(LOB)は、Talyら2013により記載のように算出されている。これは、高メチル化DNAが存在しない正常対照DNA試料(n=10)において測定した陽性液滴の頻度により定義される。算出したLOBを各試料から減算して、これらのメチル化レベルを算出した。
【0097】
観察された液滴の数がLOB値よりも高い場合、試料は陽性であると考えた。各試料のメチル化レベルは、検出されたアルブミン配列のコピー数に対する各バイオマーカーのメチル化配列のコピー数の比率として算出した。
【0098】
2つのDNA対照を使用して、修飾処理が適切に実行されたことを確かめた(陽性対照:ユニバーサル高メチル化DNA(Zymo research社)及び陰性対照:正常ヒトゲノムDNA)(Promega社)。
【0099】
血漿ccfDNAに対する高感度次世代シーケンシング(NGS)を使用した変異レベルの検出及び測定
高感度NGS(BPER塩基位置誤差率解析)を実施して、メチル化状態の変異状態に対する相関性を示した。シーケンシングライブラリーは、Ion AmpliSeq(商標)Colon and Lung Cancer Research Panel v2(Thermo Fisher社)を使用して循環遊離DNAから調製した。製造者のプロトコールに従って、各試料にDNA 10ngをインプットとして使用して、Ion AmpliSeq(商標)Library Kit2.0(Thermo Fisher社)によりライブラリー調製を行った。貯蔵したバーコード化ライブラリーは、Ion Chef(商標)System上でIon PI Hi-Q Chef Kit(A27198)を使用して処理し、Ion Proton(商標)System上でIon PI Chip Kit v3(A26771)を使用してシーケンシングした。NGS解析方法(BPER)は、低アレル頻度変異を検出するために特異的に開発されており、この感度及び特異度は、陽性及び陰性対照において検証されている(PecuchetらClinical Chemistry 2016を参照)。
【0100】
検出感度及び特異度の算出
非腫瘍組織DNAにおけるメチル化レベルの平均値及び標準偏差の和を、選択された各バイオマーカーの感度及び特異度を算出するための閾値として使用する。感度は、定義の閾値よりも高い腫瘍組織におけるメチル化レベルを示す患者の百分率である。特異度は、定義の閾値よりも低い非腫瘍組織におけるメチル化レベルを示す患者の百分率である。
【0101】
統計学的解析
統計学的解析は、Prism Software(GraphPad Software Inc.社)を使用して実施した。正常及び隣接組織間の高メチル化の差の解析では、対応ノンパラメトリックWilcoxon検定を使用する。Methyl-Seqデータは、Rスクリプト(metilene)に含まれる主成分分析(PCA)ツールを使用して可視化及び分類する。
【0102】
2.結果
2.1 DNAメチル化バイオマーカーの同定ワークフロー
Methyl-Seqデータに基づくDNAメチル化バイオマーカーの同定
第1の大規模スクリーニングでは、SeqCap Epi CpGiant Enrichmentライブラリー調製後、非小細胞肺がん(NSCLC)患者10人由来の試料(対応する腫瘍及び非腫瘍組織DNA)合計20種を、Methyl-Seqによりメチロームプロファイルについて解析する。その後、肺腫瘍組織DNA及び適合する健常組織DNAにおけるメチル化プロファイルの主成分分析(PCA)を実施した(図1)。腫瘍及び非腫瘍組織由来の組織DNA間でメチル化プロファイルに明白な差が存在し、試料が2つの主要なクラスターに分かれた。ワークフローに記載のように、非腫瘍組織DNAと比較して、180 897種のDMRが、肺腫瘍組織DNAにおいて同定される。このうち16 653種のDMRは、0.05未満のq値を示した。この第1の工程後、第2の閾値(腫瘍DNAと非腫瘍DNAとの間の20%を超えるメチル化レベルの差及び非腫瘍DNAにおける5%未満のメチル化レベル)を肺がんの潜在的DNAメチル化バイオマーカーの同定に適用し、197種のDMRが選択される。一方、腫瘍DNAと非腫瘍DNAとの間の30%を超えるメチル化レベルの差及び非腫瘍DNAにおける10%未満のメチル化レベルを肺がんの潜在的DNAメチル化バイオマーカーの同定に適用し、その後、80種のDMRが選択される。共通のものの除外後、267種のバイオマーカーが残された。
【0103】
軟膜シーケンシングデータに基づくDNAメチル化バイオマーカーの選別
このように同定したバイオマーカーの最終用途は、血漿ccfDNAにおける循環腫瘍DNA(ctDNA)を正確に検出及び定量することである。このような同定は、ccfDNAにおけるこの希釈により複雑化する可能性を有し、解析前組織(血液採取及び処理、血漿調製、血漿保存、DNA抽出、DNA保存を含むが、これらに限定されない)により悪化し得る。特に、不適切な血液及び血漿の処理及び調製により血液細胞の溶解が引き起こされて、DNAが血漿中に放出され、ctDNA画分が更に希釈されて、解析が複雑化し得る。その上、血液細胞DNAにおける同定したメチル化マーカーの存在により、血漿におけるctDNAの偽陽性検出又はctDNA画分の過剰評価が引き起こされ得る。結果的に、Methyl-Seq解析は、正常対象由来の軟膜画分から抽出したDNAに対して実施し、軟膜DNAにおいて5%を超えるメチル化を示す潜在的バイオマーカーを除外した。この工程の後、それまでの267種のDMRから223種のDMRマーカーが選択された。
【0104】
更なる選別工程
その後、定義の基準に基づく一連の工程(腫瘍及び非腫瘍組織におけるメチル化画分間の差、非腫瘍組織におけるメチル化レベル、q値、第1のコホート解析に基づくマーカーの特異度及び感度の算出値、軟膜DNAにおけるメチル化レベルを含む)を使用して、選択されたメチル化バイオマーカーの数を22種に減少させる。
【0105】
液滴に基づくデジタルPCRアッセイの開発(図2)
このようなバイオマーカー各22種のためのプライマー及びプローブの組合せを設計し、RT-PCR及びddPCRにより検査する。ddPCRアッセイを開発し、市販の陽性対照:ユニバーサル高メチル化DNA及び正常ヒト全血ゲノムDNAからなる陰性対照を使用することにより検証する。選択されたバイオマーカー22種のうち一部のバイオマーカーは、陰性対照DNAにおいて明白な陽性液滴クラスターを示した。これらは、このようなアッセイのバックグラウンド限界(LOB)の上限を示したため、この後、最終リストから除外した。マーカー22種の最初のリストから、15種のマーカーが更なる評価のために選択され、15種のうち9種のマーカーを図2において例証する。
【0106】
ddPCRによる軟膜DNAにおける選択されたバイオマーカーのメチル化プロファイル(図3)
マーカーの選択を更に洗練するために、直交検査(ddPCR)を使用する更なる軟膜解析を実施して、軟膜において高いDNAメチル化を示す潜在的マーカーを除外する。軟膜DNAにおいて無視することが不可能なメチル化レベルを示したバイオマーカーは、解析前工程中の患者の血漿における血液細胞の溶解により偽陽性検出を生じ得るため、最終リストから除外する。この工程の後、11種のマーカーが更なる評価のために選択され、11種のうち9種のマーカーを図3において例証する。
【0107】
ddPCRによる健常な個人由来の血漿ccfDNAにおける選択されたバイオマーカーのメチル化プロファイル
このようなバイオマーカーの目的は、健常な個人ではなく肺がん患者におけるDNA高メチル化を検出することである。これを検証するために、健常な個人由来の血漿ccfDNAにおけるメチル化レベルをddPCRにより調査した。健常血漿ccfDNAにおいて明白に検出可能なメチル化レベルを示すバイオマーカーは、このようなバイオマーカーを患者の血漿に適用した場合、バックグラウンドノイズを生じ得るため、最終リストから除外する。最終的には、このような種々の全ての検査に基づいて、9種のバイオマーカーが同定され(MROH6、CRTC1、GP5、HOXB4、Chr7:129425301、Chr20:1784266、KCNQ4、NPR3及びOPLAH)、肺がん患者、特に、非小細胞肺がん患者の診断及び監視のためのバイオマーカーとして選択された(図4)。
【0108】
2.2 独立コホートに対するバイオマーカーの検証
選択されたバイオマーカー9種を、肺腺がん39種の第2の独立組織コホートに対してddPCRにより評価する(図5)。このような同一の患者の腫瘍周囲組織38種をも試験して、バイオマーカー9種それぞれの感度及び特異度を算出及び検証する。
【0109】
HOXB4のマーカーでは92.3%の最高感度が得られ、CRCT1のマーカーでは97.4%の最高特異度が得られる(Table5(表5))。
【0110】
【表5】
【0111】
腫瘍組織及び腫瘍周囲組織に対するddPCRによるバイオマーカー9種の検証に加えて、死後組織に対してddPCRによりバイオマーカー9種を再度評価する(n=10、図6)。死後組織において明白に検出可能なメチル化レベルを示すバイオマーカー、例えば、KCNQ4及びCRCT1は、このようなバイオマーカーを患者の血漿に適用した場合、バックグラウンドノイズを生じ得るため、最終リストから除外する。健常対象10人(非喫煙者5人及び喫煙者5人)由来の血漿DNAに対するDNAメチル化レベルの解析を、図4よりも高いDNAのロード量を使用して実施した。このような解析では、GP5マーカーが、試料5種において0.04%、1.31%、2.23%、3.71%及び4.65%の有意なメチル化レベルを示す。血漿に対する高メチル化レベルを示すGP5バイオマーカーは、バックグラウンドノイズを生じ得るため、第2選択バイオマーカーとして使用する。NPR3及びKCNQ4は、同一アッセイにおいて1/10の陽性試料を示す(それぞれ0.12%及び0.28%)。肺がん患者由来の試料13種に対して、ctDNAを検出するKCNQ4及びNPR3の性能をHOXB4及びMROH6マーカーと比較し、NGS変異検出方法を行った(NGS並びにHOXB4及びMROH6に対するメチル化を使用して試料6種が陽性、NGS並びにHOXB4及びMROH6のメチル化解析を使用して試料3種が陰性、NGSを使用して試料4種が陰性)。従って、KCNQ4及びNPR3は、ctDNAを検出する能力を示したが、メチル化アレルの低い百分率及び陰性試料に関する同等の結果の両方により最低の性能を示した。
【0112】
非がん患者の更なる死後組織36種の解析(図7図8)を使用して、バイオマーカー5種のそれぞれの感度及び特異度を算出及び検証した(第1の非腫瘍組織コホート又は死後組織のいずれかを使用して陽性閾値を算出)(Table6(表6))。HOXB4及びMROH6では最高感度が得られ(92.5%)、97.2%及び100%の特異度をそれぞれ有した。
【0113】
【表6】
【0114】
MROH6/HOXB4及びChr7/Chr20マーカーを血漿において、トリプレックスアッセイ(即ち、参照として、マーカー及びアルブミンの対を標的とする)を使用して検査した。各患者に入手可能な血液量が限られるため、実際、マルチプレックスアッセイを実行することが妥当である。その上、1回のアッセイにおいていくつかのバイオマーカーを使用した血漿に対するDNAメチル化解析(ここでは、トリプレックスアッセイ)により、限られた量の血液の使用並びに解析時間及び関連コストの削減が可能となる。
【0115】
バイオマーカーの対Chr7/Chr20及びHOXB4/MROH6を、健常患者の第2のコホートの血漿(図9)及び軟膜DNA(図10)におけるddPCRにより評価する。
【0116】
また、バイオマーカーの各対を、肺がん患者の血漿(治療前又は経過観察中のいずれかに採取した患者44人由来の試料n=73)におけるddPCRにより評価した。
【0117】
肺がん患者の血漿試料73種のうち50種を陽性として、高感度NGS(BPER方法)を使用して選択した。
【0118】
BPER NGSとMROH6及びHOXB4マーカーを標的とする(検査した殆どの血漿で陰性であると思われるChr7及びChr20マーカーではなく)メチル化ddPCRとの間の高い相関性
高感度NGS方法(最高頻度で検出されたアレルの百分率)又はMROH6及びHOXB4マーカーのメチル化解析(MROH6メチル化配列の百分率のみ、HOXB4メチル化配列の百分率のみ、最高メチル化アレル頻度(MROH6又はHOXB4間)、各マーカー間のメチル化アレル頻度の平均値)を考慮してctDNA測定値間の相関性解析を実施した。全ての測定値は、NGS陽性試料のみ(n=50)及び全ての試料の両方を考慮すると、高度に相関した(P<0.0001(****)、Spearman及びノンパラメトリックPearson相関検定)。
【0119】
NGS陽性試料50種のうち、45種がHOXB4又はMROH6マーカーについて陽性であり(本発明のマーカーの血漿における感度90%が生じた)、41種がHOXB4及びMROH6マーカーについて陽性であった(本発明のマーカーの血漿における感度82%に対応する)。同様に、健常血漿に対して得られるデータを考慮すると(図9参照)、血漿におけるマーカーの特異度は、HOXB4又はMROH6に対する陽性(即ち、HOXB4又はMROH6陽性のいずれか)を考慮する場合79%であり(n=48)、HOXB4及びMROH6に対する陽性(即ち、両方のマーカーについて陽性)を考慮する場合100%であると評価された。
【0120】
その上、陰性又は不確定の試料23種を更に使用し、高感度NGS(BPER方法)を使用して、本発明の技術の性能を解析した。このような試料のうち10種が、メチル化解析により陽性であると思われる(43.4%)。
【0121】
2.3 患者の経過観察
MROH6及びHOXB4マーカーを、患者における肺がんの進展を監視するために使用する。
【0122】
循環腫瘍DNAを肺がん患者の血漿の循環細胞遊離DNAについて監視し、RECIST基準と比較する。ctDNA解析を、メチル化マーカー解析を使用して実施し、高感度NGS解析(BPER)により血漿ctDNAについて監視する特異的変異と比較する。メチル化マーカー単独(例えば、各マーカーのうち最高百分率のメチル化マーカー)又は両マーカーの百分率の平均値のいずれか1つを使用して同等のデータが得られた。患者4人の経過観察は、図11に示す。4人の患者は、次の臨床的特徴を有する。患者35は、ステージIVの肺腺がんを有し、カルボプラチン/アリムタ(登録商標)(ペメトレキセドジナトリウム)/アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)の併用により治療された。患者120は、ステージIVの肺腺がんを有し、カルボプラチン/タキソール(登録商標)(パクリタキセル)/アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)の併用により治療された。患者105は、ステージIVの大細胞肺がんを有し、カルボプラチン/タキソール(登録商標)(パクリタキセル)/アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)の併用により治療された。患者137は、ステージIVの肺腺がんを有し、カルボプラチン/アリムタ(登録商標)(ペメトレキセドジナトリウム)/アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)の併用により治療された。
【0123】
患者は、試験参加中(試験薬物を初めて投与する時点又はPTTに開始)並びに治療薬の最終投与後の患者及びその臨床応答に応じて200、300又は400日まで、腫瘍の奏効及び増悪について監視した。
【0124】
図11に示すように、変異ctDNA及びメチル化ctDNAの結果は、RECISTバージョン1.1に従って評価した腫瘍の奏効及び増悪と首尾一貫している。4人全ての患者が、治療(PTT)から疾患安定(SD)又は更には部分奏効(PR)までの変異ctDNA及びメチル化ctDNA血漿レベルの低下を示した。その上、4人の患者は、疾患安定(SD)から疾患増悪(PD)までの変異ctDNA及びメチル化ctDNA血漿レベルの上昇をも示した。患者120は、変異ctDNA及びメチル化ctDNAの上昇をも示したが、RECISTの解釈によれば、患者はそれでも部分奏効に分類される。従って、変異ctDNA及びメチル化ctDNAは、患者120では、RECISTによる評価と比較して高感度な応答を示す。
【0125】
これは、本発明のバイオマーカーのメチル化ctDNAの程度と臨床応答との間の相関性を示す。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図7-5】
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10
図11-1】
図11-2】
【配列表】
2023537870000001.app
【国際調査報告】