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特表2023-537891カーボンナノチューブの組み込みを介した複合マトリックスの作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの組み込みを介した複合マトリックスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230830BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230830BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230830BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230830BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20230830BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08L83/04
C08K3/013
C08J3/20 B CEQ
C08J3/20 CES
C08J3/20 CEY
C08J3/20 CFF
C01B32/168
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507488
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 US2021045451
(87)【国際公開番号】W WO2022035907
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/065,087
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523036096
【氏名又は名称】アール.ディー.アボット カンパニー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジーベル,リック エー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェルマン,ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4F070
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AA06
4F070AA07
4F070AA08
4F070AA09
4F070AA13
4F070AA16
4F070AA24
4F070AA32
4F070AA52
4F070AA53
4F070AA60
4F070AB04
4F070AC04
4F070AC19
4F070AC22
4F070AC23
4F070AC28
4F070AC92
4F070AD02
4F070AE01
4F070AE02
4F070AE08
4F070AE14
4F070FA03
4F070FA14
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC03
4G146AA12
4G146AB06
4G146CB19
4G146CB35
4J002AA001
4J002AB002
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB151
4J002BB241
4J002BD121
4J002BD151
4J002BG031
4J002CH021
4J002CH041
4J002CK031
4J002CK041
4J002CP031
4J002CP032
4J002CP081
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA046
4J002DJ007
4J002DJ016
4J002DK007
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD312
(57)【要約】
CNTの組み込みを介して複合マトリックスを作製する方法が開示される。この方法は、第1の、低いせん断速度で、CNTと1つ以上の無機界面活性剤とを含む成分を混合して処理された混合物を生成することと、第2の、処理された混合物と1つ以上のポリマーとを含む成分を混合してポリマー系の混合物を生成することと、ポリマー系の混合物を硬化させて複合マトリックスを得ることと、を含む。第1及び第2の混合における個々の成分及び添加剤から生じる効果を、様々なゴム化合物について検討する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合マトリックスを作製する方法であって、
第1の、カーボンナノチューブ(CNT)と1つ以上の無機界面活性剤とを含む成分を混合して処理された混合物を生成することであって、前記第1の混合は、低いせん断速度を有するように構成され、前記1つ以上の無機界面活性剤は、前記CNTの表面と相互作用して束ねられたCNTの隙間を浸透する能力を特徴とする部位を含み、これにより、前記束ねられたCNTの剥離及び脱束を促進することと、
第2の、前記処理された混合物と1つ以上のポリマーとを含む成分を混合してポリマー系の混合物を生成することと、
前記ポリマー系の混合物を硬化させて前記複合マトリックスを得ることと、
を含む方法。
【請求項2】
前記低いせん断速度は、100~100,000 1/秒の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の混合は、コーンミキサー又はピンミキサーを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の混合は、ゴム混合ミル又はミキサーを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記部位は、メチル基、ヒドロキシル基、シラノール群、アリール基、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の無機界面活性剤は、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ジフェニルシロキサンジメチルシロキサン、シラノール末端ポリジメチルシロキサン、水素化物末端ポリフェニル-(ジメチルヒドロシロキシ)シロキサン、水素化物末端ポリフェニルメチルシロキサン、水素化物末端ポリフェニル-(ジメチルシロキシ)シロキサン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の無機界面活性剤は、シラノール末端ポリジメチルシロキサンを含む1つの無機界面活性剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の混合は、前記CNTと、前記1つ以上の無機界面活性剤と、1つ以上の第1の添加剤とを含む成分を混合して、前記処理された混合物を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の第1の添加剤は、前記複合マトリックスにおける前記CNTのカプセル化を向上させるための1つ以上の硬化調整剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の硬化調整剤は、ヒドロシリル化反応前駆体、過酸化物反応前駆体、硫黄反応前駆体、又はこれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の硬化調整剤は、ヒドロシリル化架橋剤と反応阻害剤からなるヒドロシリル化反応前駆体を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の第1の添加剤は、相互接続する導電性ネットワークを形成して導電率を向上させるために前記CNTとの相乗効果を達成するためのカーボンブラックを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上の第1の添加剤は、前記複合マトリックスにおける前記CNTの分散の均一性を促進して導電率を向上させるための分配剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記分配剤は、ガラスビーズ、ガラスバブル、又は導電性金属粉末を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上の第1の添加剤は、相互接続する導電性ネットワークを強化して導電率を向上させるために、前記複合マトリックスにおける空隙を変えるための濃縮剤又は発泡剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記発泡剤は、空隙を増やすための泡形成剤又は膨張可能なセルを含む複合材料を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の混合は、前記処理された混合物と、前記1つ以上のポリマーと、1つ以上の第2の添加剤とを含む成分を混合して、前記ポリマー系の混合物を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上の第2の添加剤は、フィラー、可塑剤、安定剤、硬化開始剤、硬化調整剤、硬化促進剤、触媒、硬化剤、又はこれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記フィラーは、シリカ、発煙シリカ、ナノシリカ、シリコーン樹脂、天然及び合成繊維、多糖、コルク、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、粘土、窒化ホウ素、微細に分割された金属及び金属酸化物、又はこれらの組み合わせを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の第2の添加剤は、前記第1の混合において含まれる硬化調整剤の一部を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記硬化調整剤の前記一部は、ヒドロシリル化架橋剤と反応阻害剤から構成されるヒドロシリル化反応前駆体の前記反応阻害剤であり、前記ヒドロシリル化架橋剤と前記反応阻害剤は、前記第1の混合で使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ以上のポリマーは、メチル、トリフルオロプロピル、又はフェニルの置換基を有するポリシロキサン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-プロピレン-ジエン-ターポリマー又はポリマー、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、イソプレンポリマー、イソブチレン-イソプレンコポリマー、クロロプレンポリマー、ブタジエンポリマー、塩素化ポリエチレンポリマー、エピクロロヒドリンポリマー、エチレン-アクリルコポリマー、ポリアクリレートコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリプロピレンオキシドコポリマー、フルオロカーボンエラストマーコポリマー、テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエラストマーコポリマー、ポリエーテル-ウレタンポリマー、ポリエステル-ウレタンポリマー、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記CNTは、粉末形態の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の少なくとも99%を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の混合後に前記処理された混合物をプレスすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記プレスすることは、突き固めて、前記処理された混合物の嵩密度を、前記CNTと比較して8倍超増加させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
第1の、カーボンナノチューブ(CNT)と1つ以上の無機界面活性剤とを含む成分を混合して処理された混合物を生成することであって、前記第1の混合は、低いせん断速度を有するように構成され、前記1つ以上の無機界面活性剤は、前記CNTの表面と相互作用して束ねられたCNTの隙間を浸透する能力を特徴とする部位を含み、これにより、前記束ねられたCNTの剥離及び脱束を促進することと、第2の、前記処理された混合物と1つ以上のポリマーとを含む成分を混合してポリマー系の混合物を生成することと、前記ポリマー系の混合物を硬化させてゴム化合物を得ることと、を含む方法を使用して作製された前記ゴム化合物であって、
前記ゴム化合物の体積抵抗率は、前記第1の混合なしで原料のままのCNTを使用して作製されたゴム化合物の体積抵抗率よりも低く、
前記ゴム化合物の電気的パーコレーション閾値は、前記第1の混合なしで原料のままのCNTを使用して作製されたゴム化合物の電気的パーコレーション閾値が満たされるCNTの重量パーセントよりも低いCNTの重量パーセントで満たされる、ゴム化合物。
【請求項27】
前記第1の混合における前記成分は、前記処理された混合物を生成するために、前記CNTと、1つの無機界面活性剤と、カーボンブラックと、ガラスバブルとを含み、
前記電気的パーコレーション閾値は、前記第2の混合における前記1つ以上のポリマーが、シリコンゴムベース、フルオロシリコンゴムベース、又はブタジエン-アクリロニトリルコポリマーを含む場合、0~2重量%のCNTで満たされ、前記第2の混合における前記1つ以上のポリマーが、エチレンプロピレンンジエンポリマーを含む場合、2~3重量%のCNTで満たされる、請求項26に記載のゴム化合物。
【請求項28】
前記第1の混合における前記成分は、前記処理された混合物を生成するために、前記CNTと、1つの無機界面活性剤と、カーボンブラックと、ガラスバブルとを含み、
前記第2の混合における前記1つ以上のポリマーは、シリコンゴムベースを含み、
0重量%~3重量%のCNTの範囲で、前記ゴム化合物の破断伸びは、前記第1の混合なしで原料のままのCNTを使用し前記第2の混合においてシリコンゴムベースを使用して作製されたゴム化合物の破断伸びより高い、請求項26に記載のゴム化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月13日に出願された米国仮特許出願第63/065,087号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
背景
カーボンナノチューブ(CNT)は、巻き上げられたグラフェンシートに似ているが、それから作られていなく、その構造の直接的な結果として現れる独自の物理的及び化学的特性を示す。結果、この構造は、実際の2次元グラフェンシートから構成されるならば、ナノチューブが形成されるであろうカイラルベクトル(chiral vector)に起因する。六角形の炭素原子が共役した平面であるグラフェンの結合配列は、ナノチューブを、「ジグザグ」、「アームチェア」、又は「カイラル」と呼ばれる3つの可能なタイプに制限し、それぞれのタイプは、独自の電気特性を示す。例えば、アームチェアタイプは、導電性が高く、ジグザグタイプ及びカイラルタイプは、半導電性である。
【0003】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の両方が生成されることができ、後者は、少なくとも1つを含むが、多くの場合に多数の同心円状のSWCNTを含む。合成条件により、チューブの長さと直径の分布が異なり、加えて炭素質の副生成物又は遷移金属触媒の不純物が存在する。しかし、これらの変動に関係なく、部分的にはCNTの固有の化学的性質により、スケールアップされた生産方法では、数百から数千のばらばらではなく絡み合ったCNTの束が得られる。これらの束の原因となるチューブ間の引力は、CNTをポリマーに組み込む際にCNTの望ましい特性を十分に活用するための最も重要なハードルであると考えられている。
【0004】
隔絶された物体として、CNTは、主に学術研究の焦点となっているが、複合材料を形成するためにポリマーに組み込まれると、機能的な用途での有用性が見出される。組み込むと、製造されたままのCNTは、カプセル化マトリックスにその特性の一部を与えることができる。この吹き込み(imbuement)は、(1)チューブを結合する強力なファンデルワールス力が中断され、結果、CNTがマトリックス全体に均一に分散し、(3)CNT/マトリックス界面の引力相互作用が最大化されると、大幅に改善される。これらの目標を達成するための2つの重要な戦略が明らかになっている:CNT表面の共有結合官能化(covalent functionalization)及びCNT表面の非共有結合官能化(non-covalent functionalization)。
【0005】
共有結合による官能化では、典型的には、CNTの共役系を切断し、続いて官能基(カルボキシル基、アミノ基、又はその他)を付加することを伴う。この官能化により、複合材料において(及び他の常駐フィラー(resident filler)と同様に)より強力な引力的な相互作用を生成できるが、費用がかかる。共有結合官能化は、主にspハイブリッド形成したシステムからspハイブリッド形成した局在を含むシステムへの変換を必要とし、これらの局在の濃度は官能化の程度に比例して増大する。更に、これらの部位を結合するために必要な過酷な化学処理により、ナノチューブのアスペクト比が大幅に低下することが多く、マトリックスにおけるフィラーとしてのその実際の使用が大幅に制限されることが報告されている。今日まで、生産規模で共有結合官能化法を実施するために考案された方法は、あったとしてもごくわずかである。
【0006】
非共有結合官能化は、CNTの構造又は電子輸送能力を犠牲にすることなく、CNTを剥離してポリマーマトリックスに組み込むための代替手法を提供する。非共有結合手法は、束ねられたCNT間の隙間に浸透し、その可溶化されたコロイド安定性を確保できる溶媒、好ましくは界面活性剤を伴う。化学反応ではなく、物理吸着のこのメカニズムにより、ナノチューブの共役構造が保持され、これは、ファンデルワールス、π-π、及びCH-πを含むがこれらに限定されない一連の相互作用から効率化している。
【0007】
いくつかの非共有結合官能化方法が報告されている。適切な溶媒と界面活性剤の選択によってもたらされる好ましい相互作用は、脱束されたナノチューブの剥離と安定性を促進することが示されている。この技術の有効性は、プロセスに高せん断速度の混合工程が伴われる場合に更に向上されるが、過度に激しいせん断速度(例えば、高出力ジェット混合、超音波処理など)は、ナノチューブのアスペクト比を低下させるだけでなく、ナノチューブの側壁とエンドキャップに沿って望ましくない不純物を導入するため、この方法の利点が部分的に無効になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
実用的な用途で使用するためにCNTを組み込むことに伴う上記の困難さを考慮して、この文書では、様々な処理技術を用いたCNTの非共有結合官能化の効率化に基づいて、生産規模でゴム化合物などの複合マトリックスを作製する新しい方法について記載する。本明細書に記載の方法は、エラストマー特性を保持する導電性ゴム化合物を安価に作製するのに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面の簡単な説明
図1】作製プロセス全体の概要を示すフローチャートである。
図2】処理された混合物を生成する工程100の詳細を示すフローチャートである。
図3A】無機界面活性剤の例を示すリストであり、この場合、Me(メチル基)=CH及びPh(フェニル基)=Cである。
図3B】無機界面活性剤の例を示すリストであり、この場合、Me(メチル基)=CH及びPh(フェニル基)=Cである。
図3C】無機界面活性剤の例を示すリストであり、この場合、Me(メチル基)=CH及びPh(フェニル基)=Cである。
図3D】無機界面活性剤の例を示すリストであり、この場合、Me(メチル基)=CH及びPh(フェニル基)=Cである。
図3E】直鎖状ポリシロキサンの一般的な分子説明図である。
図3F】分岐状ポリシロキサンの一般的な分子説明図である。
図3G】環状ポリシロキサンの一般的な分子説明図である。
図4】複合マトリックスを得る工程300の詳細を示すフローチャートである。
図5】走査型電子顕微鏡画像の写真であり、十分に分散した個々のSWCNTを含むシリコーン系複合マトリックスの例を示している。
図6A】未処理の原料のままのCNTの例を示す写真である。
図6B】プレス後の、処理された混合物の例を示す写真である。
図7A】直鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサンを有するヒドロシリル化反応前駆体の一般的な分子説明図である。
図7B】アセチレン性アルコール等の阻害剤に基づいたヒドロシリル化反応前駆体の一般的な分子説明図である。
図8】処理された混合物1を生成するために使用された成分を列挙した表である。
図9】処理された混合物2を生成するために使用された成分を列挙した表である。
図10】ベースシリコーンゴムを生成するために、処理された混合物以外の第2の混合に使用される成分を列挙した表である。
図11】ベースフルオロシリコーンゴムを生成するために、処理された混合物以外の第2の混合に使用される成分を列挙した表である。
図12】ベースEPDMゴムを生成するために、処理された混合物以外の第2の混合に使用される成分を列挙した表である。
図13】ベースニトリルゴムを生成するために、処理された混合物以外の第2の混合に使用される成分を列挙した表である。
図14】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図15】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図16】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図17】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図18】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図19】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図20】様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2で)の電気特性、物理特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙した表である。
図21図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
図22図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
図23図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
図24図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
図25図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
図26図14図20で集計したデータに基づく特性の主な特徴及び傾向を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本検討では、カーボンナノチューブ(CNT)の非共有結合処理が検討され、その混合物が生成される。次いで、得られた処理された混合物をポリマーと混合して、複合マトリックスを得る。この複合マトリックスは、更に処理されて完成品を作製することができる。このプロセス工程は、高性能ゴム化合物などのポリマー系製品の生産スケールの製造を実現するように構成されている。初期の処理により、CNT束を剥離及び脱束して大部分を個々のチューブにする調整が行われる。電気的、熱的、機械的、及び他の特性が向上した完成品を作製するために、他の添加剤が処理された混合物に含まれることができる。本実施及び用途のいくつかの例を以下に説明する。本明細書では、様々な工程、実験、及び結果を説明するために特定の値が引用されているが、当業者によって理解されることができるように、これらは、例示的な値、近似値、及び/又は機器の公差又は分解能内の値であることを理解されたい。
【0011】
図1は、作製プロセス全体の概要を示すフローチャートである。まず、工程100では、添加剤の有無にかかわらず、1つ以上の無機界面活性剤に非共有結合官能化によってCNTを分散させることにより、処理された混合物を生成する。処理された混合物がどのように得られるかについての工程100の詳細は、図2を参照して後で説明される。得られた処理された混合物は、次いで、生成されたままの又はプレスされた形態で使用することができる。プレスには、圧縮、ペレット化、及びその他の嵩密度を増加させる操作が含まれる。プレスされた形態は、効率的な輸送又は出荷のために多くの場合に必要とされる。従って、工程200では、処理された混合物のプレスは、それが必要とされる場合に実施され得る。プレス操作の詳細及びその効果については、図6A及び図6Bを参照して後で説明される。工程300では、添加剤の有無にかかわらず、処理された混合物と1つ以上のポリマーを含む成分を混合することにより、複合マトリックスを得る。複合マトリックスがどのように生成されるかについての工程300の詳細は、図4を参照して後で説明される。複合マトリックスを得た後、完成品の種類に応じて、複合マトリックスの作製手順が必要となることが多く、作製手順の例は、成形、カレンダー加工、及び押出成形を含む。工程400では、上記の作製手順のうちの1つ以上を用いることによる複合マトリックスの作製が実施される。工程500では、こうして複合マトリックスから必要な特性を有する完成品が得られる。CNTの組み込みを介して複合マトリックスを作製する本方法によれば、フローチャートに示されるプロセスにおける様々な工程は、示される順序である必要はないことに留意されたく、操作の効率、用途又は任意のその他のシナリオの都合に応じて、入れ替える、別の順序にする、又は並行して実施することが可能である。
【0012】
図2は、処理された混合物を生成する工程100の詳細を示すフローチャートである。工程104~112では、必要な成分が提供される。工程104では、CNTが提供される。一般的に、CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、及び不純物を含む。高品質な完成品を得るために、本プロセスでは高純度のSWCNTのバッチが使用される。例としては、炭素純度99%以上、不純物濃度1%未満、及び高アスペクト比(平均直径3~5nm及び長さ100~600μm)の、Zeon Nano Technology Co., Ltd製のSWCNT粉末、ZEONANO(登録商標)SG101が挙げられるが、これに限定されない。
【0013】
一般的に、市販の原料のままのCNTのバッチには、束ねられたCNTが含まれている。従って、CNTを溶液中に分散させるために用いられる手順は、最終的な懸濁特性に大きな影響を与え、これにより、特に高性能ゴム化合物の電気及び熱伝導率に影響を及ぼす。前述のように、CNTの共有結合及び非共有結合官能化を含むいくつかの技術的手法を採用して、CNTの安定した均一な分散物を調製できる。本プロセスでは、CNTの表面構造と導電率が実質的に損なわれないため、非共有結合の手法が採用される。具体的には、非共有結合官能化を介して、個々のCNTに内在する構造及び電子輸送能力を実質的に犠牲にすることなく、束ねられたCNTを剥離及び脱束することが可能である。これは、非共有結合の手法では、化学反応ではなく物理的な吸着のメカニズムで束ねられたCNTの間の隙間に浸透させることができる溶媒又は界面活性剤を利用するためであり、これにより個々のCNTに内在する構造及び電気特性を実質的に維持する。
【0014】
工程108では、1つ以上の無機界面活性剤が提供されて、CNTの非共有結合官能化を実施する。具体的には、CNTの表面への吸引及びその表面に沿った吸着を最適に促進するために、2つ以上の流体ポリマーの組み合わせ又は単一の流体ポリマーを選択することができる。これらの流体ポリマーの各々は、直鎖状、分岐状、又は環状のポリシロキサン骨格を含み得、ペンダント又は末端の置換基を含む。これらの置換基は、CNTとのその相互作用において互いに補完し合うように選択することができる。特定の部位は、CNTのπ電子を多く含む表面と強く相互作用し、このため、嵩高くない部位は、CNT束の間隙に入り込むことができ、これにより、その剥離及び脱束を促進することが報告されている。ここで、「部位」は、炭素又はシロキサン骨格から伸びる有機又は無機分子における分岐であり、これは、メチル基(CH)、水酸基(COH)、シラノール基(SiOH)、アリール基(フェニル基及びナフチル基など)、又はこれらの組み合わせを含む。図3A図3Dは、Me(メチル基)=CH及びPh(フェニル基)=Cである、無機界面活性剤の例を示すリストを提供する。
【0015】
以上のように、本検討では、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ジフェニルシロキサンジメチルシロキサン、シラノール末端ポリジメチルシロキサン、水素化物末端ポリフェニル-(ジメチルヒドロシロキシ)シロキサン、水素化物末端ポリフェニルメチルシロキサン、水素化物末端ポリフェニル-(ジメチルシロキシ)シロキサン、又はこれらの組み合わせなどの1つ以上の無機界面活性剤は、束ねられたCNTに効率的に浸透し、個々のCNTの表面に沿って吸着することができる。これらのポリシロキサン系流体ポリマーは、25℃で測定された0.01~10Pa-sの範囲の粘度を示し、実際の粘度はポリマーの分子量に対応する。場合によっては、低粘度の流体ポリマー(シラノール末端など)と高粘度の流体ポリマー(フェニル化など)を組み合わせると、低粘度のみ又は高粘度のみの流体ポリマーを使用する場合よりも効率的に個々のCNTに吸着することが予想される。後述するように、本検討では、2つ以上の異なる無機界面活性剤を組み合わせて使用するのではなく、例えば、シラノール末端ポリジメチルシロキサンなどのシラノール末端流体ポリマーを単一の無機界面活性剤として使用すると、最適な結果が得られることができることが示された。CNTは、今日の市場では依然として高価であるため、CNTと1つ以上の無機界面活性剤との混合物におけるCNTの重量%は低いことが好ましい。一例では、23重量%のCNT及び77重量%のシラノール末端ポリジメチルシロキサンが使用される。
【0016】
図3E図3F、及び図3Gは、上記の界面活性剤、即ち、それぞれ、直鎖ポリシロキサン、分岐ポリシロキサン、及び環状ポリシロキサンの一般的な分子説明図を示し、この場合、aは、0~3の整数であり、bは、上記粘度を満たすのに十分な値を有し、上記の例のいずれにおいても、Rは、一般的に1~12の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子を有する置換又は非置換の炭化水素基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、及びドデシルなどのアルキル基、フェニル及びトリルなどのアリール基、並びに3,3,3-トリフルオロプロピルなどのハロゲン置換炭化水素基を含み得る。R’の例は、アルキル、アルケニル、フェニル、水素化物、及びヒドロキシル基であり、CNTとの望ましい非共有相互作用を最大化するように選択される。
【0017】
完成品に必要な特性に応じて、特定の特性を向上させるために、処理された混合物の成分として、工程112で1つ以上の添加剤を提供することができる。従って、工程116における第1の混合は、CNTと、本明細書で第1の添加剤と呼ばれる、1つ以上の添加剤の有無にかかわらず、1つ以上の無機界面活性剤と混合するために実施することができる。いくつかの可能性のある第1の添加剤のそれぞれを、以下に説明する。
【0018】
処理された混合物を生成するために、1つ以上の硬化調整剤を第1の添加剤として添加することができる。CNTは、未処理の場合、一般的な(白金系、過酸化物系、又は硫黄系)ゴム硬化システムを妨害する可能性があることが報告されている。ここで、「ゴム硬化系」とは、硬化手順、例えば、熱及び/又は圧力の適用後に熱硬化性物の形成を可能にするゴム配合物に含まれる化学成分を指す。この妨害(interference)は、完成品だけでなく、硬化プロファイルにも見られる。これは、ヒドロシリル化硬化反応を受けるある種の硬化シリコーンゴム、例えば、水素化ケイ素架橋剤を有する白金硬化シリコーンゴムに特に見られる。シリコーンゴムのヒドロシリル化硬化反応の最適化に関する詳細は、この文書において後に説明されており、この場合、複合マトリックス内のCNTカプセル化が改善される。
【0019】
1つ以上の硬化調整剤の添加は、完成品の種類と必要な特性によって異なる。更に、それらは、必要に応じて、プロセスの後の段階、例えば、硬化プロセスの直前に添加することができる。しかしながら、処理された混合物において必要な硬化調整剤を最初から組み込むと、調製段階が統合され、これにより、複合マトリックスのCNTカプセル化が改善されることに加えて、プロセス全体を更に効率化することに留意されたい。
【0020】
処理された混合物を生成するための第1の添加剤としてカーボンブラックを添加することができる。カーボンブラックは、石油製品の不完全燃焼によって生成される材料であり、パラ結晶炭素の形態を有する。従来より、タイヤ及び他のゴム製品の補強用フィラーとして使用されている。高純度の導電性グレードのカーボンブラックの例は、アセチレン系であるTokai Black #5500(日本に本社のあるTokaiより)及びDenka Black Li-400(日本に本社のあるDenkaより)を含む。一般的に、CNT又はカーボンブラックなどの導電性黒色フィラーが絶縁ポリマーに分散されている場合、電気的パーコレーション閾値は、電気抵抗が数桁も急激に低下することで特徴付けられる。電気的パーコレーション閾値は、ホスト媒体内のフィラーの相互接続する導電性ネットワークの形成に関連している。カーボンブラックのみで満たされた媒体と比較して、はるかに高いアスペクト比を示すCNTのみを含む媒体は、はるかに低いフィラーの割合で電気的パーコレーション閾値を達成できる。しかしながら、ホスト媒体にCNTとカーボンブラックの両方を組み込むと、相互接続する導電性ネットワークの形成にそれぞれが関与することから生じる相乗効果が生まれることが報告されている。後述の例に示されるように、処理された混合物に添加されたカーボンブラックは、CNTのみを含む場合よりも、CNTと相乗的に機能して電子輸送経路を橋渡しし、複合マトリックスにおける導電性ネットワークを強化する。
【0021】
分配剤を第1の添加剤として添加して、処理された混合物を生成することができる。ナノスケール又はマイクロスケールの分配剤の例は、ガラスビーズ、ガラスバブル(glass bubble)、及び導電性金属粉末を含む。このような分配剤の例は、3M(商標)Glass Bubbles iM30K及びGlass Bubbles iM16K(米国に本社を置く3Mより)を含む。これらの成分の添加は、ボールベアリング粉砕効果により、後続の第1の混合段階116中にCNTの脱束を容易にすることが予想される。加えて、シリコーンとMWCNTの組み合わせにガラスビーズ(GB)を組み込むと、シリコーン中のMWCNTの分散が大幅に改善されることが報告されており、具体的には、シリコーン/MWCNT/GB複合材料の導電率は、シリコーンにおけるMWCNTの分散の均一性が改善したため、GBを含まない複合材料の導電率の約2倍であった。更に、GBの存在により、導電率に加えて、複合材料の引張り強度及び破断伸びなどの機械的特性が改善されることが予想される。後述の例に示されるように、処理された混合物に添加された分配剤、例えば、グラスバブルは、CNT、例えば、SWCNTの分散の均一性を改善し、これにより複合マトリックスの導電率及び機械的特性を向上させる。
【0022】
濃縮剤又は発泡剤を第1の添加剤として添加して、処理された混合物を生成することができる。濃縮剤又は発泡剤の例は、泡形成剤、膨張可能なセルを含む複合材料、及び他の空隙変更剤を含み、これらは、複合マトリックスにおいて空隙を増やし、相互接続する導電性ネットワークを強化し、導電率を改善する機能を果たす。熱膨張性熱可塑性ミクロスフェアの例は、Expancel(登録商標)Microsphere Products(the Netherlandsに本社を置くNouryonより)のブランドで一般的に知られている噴射剤(propellant)をカプセル化するエチレン性不飽和モノマーから作られたポリマーシェルを含む。プロセスのフロー全体を考慮すると、膨張する球体が追加されて、第1の混合116において処理された混合物が生成され、次いで処理された混合物が第2の混合316において1つ以上のポリマーと混合され、次いでプロセス中に、加熱すると球体が最初に膨張し、次いで複合マトリックスの硬化320により、膨張したセルが永久に固定される。処理された尿素で促進された、アゾジカルボンアミド及びp-p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)に基づくものなどの発泡剤は、硬化された加工品において微細形成及びセル構造を提供することが示されている。これらの薬剤は、膨張可能なセルを含む複合材料と同様の方法で、処理された混合物を生成するための最初の添加剤として添加することができる。特にシリコーンでは、泡形成剤を使用して加熱時に空隙を作り、プロセス中に硬化させることができる。これらの薬剤は、水、水素化ケイ素架橋剤、及びフェニルシリコーンの組み合わせを含む。フェニルシリコーン流体は、メチル-フェニル又はジフェニルのペンダント基が、ポリシロキサン主鎖に沿ってジメチルで置換され、23℃で測定された粘度が0.01~10Pa-sである直鎖ポリシロキサン鎖から構成されるものから選択される。処理された混合物を生成するために添加され、次いでポリマーマトリックスに組み込まれると、これらの薬剤は、硬化時に、表面スキンを維持するために成長する微細発泡気泡の生成をもたらす多くの核生成サイトの生成を通じて、複合マトリックスを効率的に発泡させることになる。
【0023】
上記の工程104~112において全ての必要な成分を用意した後、成分を第1のミキサーに入れ、図2の第1の混合工程116で混合する。第1のミキサーは、簡易な混合メカニズムを備えたコーンミキサー又はピンミキサーであり得る。本実験では、100~100,000 1/秒の範囲のせん断速度を備えたこのような簡易で低コストのミキサーを5分~1時間の範囲の期間で使用すると、CNTの穏やかな脱束が生じて、その共役構造への損傷を最小限に抑えた高品質の分散物が得られることが明らかになった。工程120では、こうして処理された混合物が得られる。
【0024】
一般的に、非共有結合官能化のための従来の混合方法は、ジェットミキサー、超音波処理装置、又は非常に高いせん断速度を伴うその他の高コストで高出力の機械の使用を含む。例えば、ジェットミキサーによって生じる典型的なせん断速度は、100,000 1/秒を超え、これは、多くの場合にCNTに損傷を与える。超音波処理装置による超音波処理もCNTを短くし、これによりアスペクト比が低下し、導電性フィラーとしてのその有用性が大幅に低下する。更に、超音波処理は、自然に熱を発生させ、その手順の中で冷却を必要とする。対照的に、上記の第1の混合工程116を参照して説明したように、低いせん断速度を伴う簡易で低コストのミキサーを、CNTと他の成分を混合するために本プロセスで使用して、破損を最小限にし、高品質の分散特性を備えた、実質的に脱束されたCNTを含む処理された混合物を得る。
【0025】
図4は、工程300の詳細を示すフローチャートであり、複合マトリックスを生成するために処理工程が実施される。工程304及び308では、必要な成分が提供される。工程304では、1つ以上のポリマーが提供される。本プロセスでは、2つ以上のポリマーの組み合わせを使用して、特定の特性を改変するために、例えば、硬化後の強度を高めるために、ベースポリマーマトリックスを形成することができる。本プロセスで使用できるポリマーの例は、ポリシロキサン(メチル、トリフルオロプロピル、又はフェニルの置換基を有する)、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、イソプレンポリマー、イソブチレン-イソプレンコポリマー、クロロプレンポリマー、ブタジエンポリマー、塩素化ポリエチレンポリマー、エピクロロヒドリンポリマー、エチレン-アクリルコポリマー、ポリアクリレートコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリプロピレンオキサイドコポリマー、フルオロカーボンエラストマーコポリマー、テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロ-エラストマーコポリマー、ポリエーテル-ウレタンポリマー、ポリエステル-ウレタンポリマー、その他の市販のポリマー又はコポリマー、及びこれらの任意の組み合わせを含む。
【0026】
工程308では、工程100で得られた生成されたままの形態、又は工程200で得られたプレスされた形態における処理された混合物が提供される。工程312では、完成品に要求される特性に応じて、特定の特性を向上させるために他の成分を添加することができる。こうして、工程316における第2の混合は、本明細書において第2の添加剤と呼ばれる、1つ以上の添加剤の有無にかかわらず、図2に示されるように、1つ以上のポリマーと前の工程に従って得られた処理された混合物を混合するために実施され得る。このような第2の添加剤の例は、フィラー、可塑剤、安定剤、硬化開始剤、硬化調整剤、硬化促進剤、触媒、硬化剤、及びこれらの任意の組み合わせを含む。フィラーの例は、シリカ、ヒュームドシリカ、ナノシリカ、官能化又は非官能化シリコーン樹脂、天然及び合成繊維、多糖、コルク、グラファイト及びカーボンブラック、グラフェン、粘土、窒化硼素、微細に分割された金属及び金属酸化物、並びにこれらの任意の組み合わせを含む。
【0027】
上記の工程304~312における全ての必要な成分を用意した後、成分は、図4の第2の混合工程316において、第2のミキサーに入れられ、その中で混合される。第2のミキサーは、100 1/秒未満の低いせん断速度を伴う従来のゴム加工ミル又はミキサーであり得、実質的に脱束されたCNT及び他の成分を有する、ポリマー系混合物、即ち、硬化前の加工されたままの原料のままの複合マトリックスを得る。
【0028】
工程320では、上記混合によって生成されたポリマー系混合物を硬化プロセスに付し、その際に不可逆的に硬化させて熱硬化物を生成する。一般的に、硬化は、熱又は適切な照射によって誘導され、高圧又は触媒との混合によって促進され得る。触媒は、第2の混合工程316で添加されることができる。本硬化には、塩化白金酸とクロロ白金酸から合成される遷移金属系触媒を使用することができる。硬化は、ポリマー鎖間に広範な架橋を生じさせて、実質的に注入可能で不溶性のポリマーネットワークを生成する化学反応に基づく。従って、意図された特性を有する複合マトリックスは、工程324において安定化され得られる。図5は、走査型電子顕微鏡画像であり、十分に分散した個々のSWCNTを含むシリコーン系の複合マトリックスの例を示している。次いで、複合マトリックスは、必要に応じて、図1の工程400において、成形、カレンダー加工、及び押出成形などの作製手順を受け、最終的に図1の工程500において完成品を得ることができる。
【0029】
図1の工程200のプレス手順に戻って参照すると、プレスは、圧縮、ペレット化、及び他の嵩密度を増加させる操作を含み得る。ペレット化手順の例は、処理された混合物をペレットに円筒化するペレタイザーの使用を含む。環状ポリシロキサンなどのバインダーをペレタイザーに添加することができる。得られたペレットは、処理された混合物中の他の添加剤、即ち、第1の添加剤の活性化温度未満の温度で、バインダーを除去するために加熱される。冷却後、ペレットは、出荷用に包装されることができる。しかしながら、界面活性剤は、多くの場合に、バインダーとして機能するように十分作用することに留意されたい。従って、環状ポリシロキサンなどの特定のバインダーの添加は、必要ない場合があり、従って、この場合では、加熱及び冷却のその後のプロセスも必要ない。ペレット化に代えて、嵩密度を上げるために、軽いプレス又は突き固めを行うことができる。一般的に、市販の原料のままのCNT、例えば、SWCNT粉末の出荷及び取り扱いは、その嵩密度が極めて低いため、軽量の原料のままのCNTで大きな貨物スペースを占有することになる点で、効率が悪い。
【0030】
図6Aは、未処理の原料のままのCNTの例を示す写真であり、この場合、質量は、7.122gであり、占有体積は、約270cmであり、従って、嵩密度は、約26kg/mであると計算される。図6Bは、処理されたCNT、即ち、工程200におけるプレス後の処理された混合物の例を示す写真であり、この場合、質量は19.339gであり、占有体積は約91cmであり、従って、嵩密度は、約213kg/mであると計算される。本明細書におけるプレス操作は、追加のバインダーを使用せずに、手動で又は機械的に圧力をかけて突き固める又はプレスすることを伴い、8倍、例えば、約8.2を超える圧縮率を達成する。
【0031】
図2の工程112に戻って参照すると、前述したように、処理された混合物を作製する際に、1つ以上の硬化調整剤を添加することができる。本検討では、シリコーンゴムにおけるヒドロシリル化硬化反応は、Si-H対ビニルの化学量論的平衡を維持することによって最適化される。不均衡なヒドロシリル化硬化系は、エラストマー特性が劣る硬化不足の状態、或いは金型表面及び他の基材への望ましくない接着を引き起こす硬化過剰の状態のいずれかを生じさせる。記載されたように、水素化物官能ポリシロキサンは、CNTと非共有相互作用を形成し、加えて、それらは、ヒドロシリル化反応前駆体でもある(架橋剤と記載される)。結果として、硬化反応とCNTの架橋剤に対する親和性の間で競合が起こる。この競合は、反応速度が異なるため、経時的な化学量論的平衡を妨げる可能性がある。
【0032】
CNTを含む複合マトリックスを処理する場合、更なる問題が浮かび上がってくる。記載されたように、カーボンナノチューブは、CNTの束から別個の個々のチューブに剥離されるときに、複合マトリックスが最適化される。又、これらの個々のチューブは、複合マトリックス内に完全にカプセル化されている必要がある。任意の露出したCNT、又はCNTを含む未硬化の複合マトリックスは、露出したチューブが摩耗又は擦過によって除去され、接触した表面に黒い跡がつくという望ましくない表面効果が生じる。これは、CNTが複合マトリックスの表面に沿って黒い油状の残留物を生成するため、退廃(sloughing)と呼ばれることがある。
【0033】
CNTが複合マトリックスに及ぼす悪影響を是正するために、本検討は、工程116での第1の混合で処理された混合物に添加される、ヒドロシリル化架橋剤と反応阻害剤を含むヒドロシリル化反応前駆体からなる硬化調整剤を使用することを含む。架橋剤の添加は、CNTを介した吸収を補償し、ヒドロシリル化反応におけるSi-H対ビニルの化学量論比を平衡させる。阻害剤の添加により、スコーチ(早発(premature)硬化と定義される)の望ましくない問題を引き起こすことなく、複合マトリックスをより高い温度で硬化させることができる。これらのより高いプロセス温度により、より拡張的で完全な架橋形成が可能になり、結果、ポリマーリンクが、個々のCNTをより完全にカプセル化できるようになる。複合マトリックスの表面は、きれいであり、完全にカプセル化されたCNTを含む。ヒドロシリル化阻害剤は、塩化白金と塩化白金酸から合成される遷移金属触媒の活性化を阻害することが報告されている。Karstedt触媒錯体として知られるこれらの白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体は、典型的には、次のとおりである:白金(0)-1,3-ジビニル、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン)、白金(0)-2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、ビス(アセチルアセトナート)白金、(m-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体、白金トリアゼニド錯体、白金、鉄、パラジウム及びロジウム錯体、又はこれらの任意の組み合わせ。
【0034】
以下の配合物は、硬化調整剤としての架橋剤及び阻害剤の添加がどのように行われるかを例示するものであり、具体的には、ヒドロシリル化架橋剤及び反応阻害剤からなるヒドロシリル化反応前駆体が使用される。以下の表のphrは、ゴム100に対する部(parts per hundred rubber)として定義されていることに留意されたく、配合物における値は、成分の量を合計量で割り、100をかけることでパーセントに変換できる。
【0035】
表1は、配合例1に使用されたphr値のリストであり、これはあまり最適ではない配合例であり、金型及び他の基材への高度の接着、及び不十分なCNTカプセル化を特徴とする複合マトリックスをもたらす(退廃)。
【0036】
【表1】
【0037】
表2は、より最適な配合例である配合例2に使用されたphr値のリストであり、金型及び他の基材への低い接着性及び良好なCNTカプセル化を特徴とする複合マトリックスをもたらす。
【0038】
【表2】
【0039】
上記の表1及び2において、「第1の混合」の列は、処理された混合物を生成するために、1つ以上の第1の添加剤の有無にかかわらず、CNT及び無機界面活性剤を混合する工程116に関し、「第2の混合」の列は、複合マトリックスを作製するために、1つ以上の第2の添加剤の有無にかかわらず、ポリマーと処理された混合物を混合する工程316に関し、「第1の混合と第2の混合の組み合わせ」の列は、第1の混合と第2の混合の両方における全ての成分の組み合わせた合計を列挙する。
【0040】
表2の「第1の混合と第2の混合の組み合わせ」の列では、架橋剤のレベルを3.55phrから0.73phrに下げ、第1の混合でのみ添加し、阻害剤のレベルは0.28phrから0.56phrに増加し、第1と第2の混合のそれぞれにその半分が添加された。本実験は、処理された混合物の一部として、最初に第1の混合において、この順序で添加された硬化調整剤が、Si-H対ビニルの化学量論的平衡をより良好に維持し、得られた複合マトリックスにおけるCNTカプセル化の改善を可能にすることを示している。
【0041】
硬化調整剤のヒドロシリル化反応前駆体による硬化特性の変化を更に示すために、以下の表は、第1の混合で硬化調整剤を添加すると、硬化開始時間(TS2)と硬化完了時間(TC90)がどのように変化するかを示している。これらの硬化速度は、硬化効率に直接関係している。一般的に、混合にCNTが含まれると硬化効率が低下する傾向にある。この問題に対する1つの解決策は、上記の表1の配合例のように、第2の混合で硬化調整剤を添加することであるが、これにより、多くの場合、金型及び他の基板への接着度が高く、CNTカプセル化が不十分な複合マトリックスが得られる(退廃)。好ましい方法は、表2のように、第1の混合で硬化調整剤を添加することである。以下の表3は、このように硬化調整剤を添加すると硬化効率が改善することを示しており、この場合、硬化速度は、「処理されたCNT混合物なし」の場合の値、例えば、TS2=30秒及びTC90=66秒(177℃)に近づく。具体的には、第1の混合における硬化調整剤の架橋剤及び阻害剤のレベルを調整して、硬化効率を元に戻して高い処理量を提供し、これにより経済的に作製された複合マトリックスを達成することができる。
【0042】
【表3】
【0043】
硬化調整剤の組成物は、直鎖オルガノ水素ポリシロキサンを有するヒドロシリル化反応前駆体を含むことができ、その一般的な分子説明図が図7Aに示されており、この場合、yは、1~98の整数であり、zは、2~50の整数であり、但し、y+zは、9~100であり、R2は、独立して、任意に置換された1~10の炭素原子を含む一価の炭化水素基であり、R3は、R2又は水素原子である。
【0044】
図7Bは、アセチレン系アルコールなどの阻害剤に基づく別のヒドロシリル化反応前駆体の一般的な分子説明図であり、この場合、同一又は異なる置換基R1及びR2は、互いに独立して、直鎖又は分岐の一価アルキル基、シクロアルキル基、(シクロアルキル)アルキル基、芳香族基又はアリールアルキル基を示し、1つ以上の置換基で任意に置換された5、6、7又は8員脂肪族環を形成するように2つずつ結合することができる。
【0045】
本検討では、CNTの組み込みに基づく上述の方法を用いてゴム化合物を生成するために様々な実験を行い、その性質及び特性を分析して、CNT及び様々な添加剤に起因する効果を理解した。以下、図8図26を参照して、その結果及び特別な技術的特徴を記載する。
【0046】
図2を参照して先に説明したように、第1の混合に基づいて、2種類の処理された混合物である、処理された混合物1及び処理された混合物2が生成される。図8及び図9は、それぞれ、処理された混合物1及び処理された混合物2を生成するために使用された成分を列挙した表である。処理された混合物中の各成分の重量%(weight percent)(重量%(wt%))は、各表の右端の列に示されている。ここで、CNTとしては、炭素純度99%以上のSWCNT粉末が使用され、図8図26の表及びチャートにおいて、CNTとSWCNTの用語は、互換的に使用される。処理された混合物1及び2の両方を生成するための第1の添加剤として、カーボンブラック及びガラスバブルが使用される。処理された混合物1は、1種類の無機界面活性剤を30重量%含む。処理された混合物2は、3種類の無機界面活性剤をそれぞれ10重量%含む。
【0047】
次いで、第1の混合に基づいて生成された処理された混合物を、1つ以上のポリマー及び第2の混合に基づく第2の添加剤と混合して、ポリマー系の混合物を生成し、これは、図4を参照して先に説明したように、硬化されて、複合マトリックス、即ち、本実験ではゴム化合物を生成する。次いで、必要に応じて、成形、カレンダー加工、及び押出成形などの作製手順を実行して、複合マトリックスを処理し、この場合はゴム生成物である、最終生成物を生成する。図10図13は、ベースシリコーンゴム、ベースフルオロシリコーンゴム、ベースEPDMゴム、及びベースニトリルゴムをそれぞれ生成するための、処理された混合物以外の第2の混合で使用される成分を列挙している表である。即ち、図10図13のそれぞれは、ゴム化合物を生成するための第2の混合において処理された混合物と混合される、1つ以上のポリマー及び第2の添加剤を含むベースゴム配合物を示す表である。ベースゴム中の各成分の重量%は、各表の右端の列に示されている。
【0048】
図14図20は、様々なベースゴム及びゴム化合物(処理された混合物1又は2を含む)の電気的特性、物理的特性、及びレオロジー特性に関する実験結果を列挙している表である。レオロジー特性は、ML(最小トルク)、MH(最大トルク)、TS2(硬化開始時間)、及びTC90(硬化完了時間)に関して示される。
【0049】
図14は、ベースシリコーンゴム、並びにそれぞれ1重量%、2重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%でベースシリコーンゴム配合物と処理された混合物1を混合することによって得られたシリコーンゴム化合物の配合の詳細を含む。図15は、ベースシリコーンゴム、並びにそれぞれ1重量%、2重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%でベースシリコーンゴム配合物と処理された混合物2を混合することによって得られたシリコーンゴム化合物の配合の詳細を含む。ここで、有効重量%は、各ゴム化合物の全成分の総重量における成分の重量%である。
【0050】
図16は、ベースシリコーンゴム、並びにそれぞれ1重量%、2重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%で、処理なしで(即ち、1つ以上の無機界面活性剤との第1の混合なし)、ベースシリコーンゴム配合物と原料のままのSWCNTを混合することによって得られたシリコーンゴム化合物の配合の詳細を含む。
【0051】
図17は、ベースシリコーンゴム、並びにそれぞれ1重量%の原料のままのSWCNTと3.1重量%の原料のままのカーボンブラック、及び2重量%の原料のままのSWCNTと7.1重量%の原料のままのカーボンブラック(CB)で、処理なしで(即ち、1つ以上の無機界面活性剤との第1の混合なし)、ベースシリコーンゴム配合物と原料のままのSWCNTと原料のままのカーボンブラックを混合することによって得られたシリコーンゴム化合物の配合の詳細を含む。
【0052】
図18は、ベースフルオロシリコーンゴム、並びにそれぞれ1重量%、2重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%で、ベースフルオロシリコーンゴム配合物と処理された混合物1を混合して得られたフルオロシリコーンゴム化合物の配合の詳細を含む。
【0053】
図19は、ベースEPDMゴム、並びにそれぞれ0.9重量%、1.7重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%でベースEPDMゴム配合物と処理された混合物1を混合して得られたEPDMゴム化合物の配合の詳細を含む。
【0054】
図20は、ベースニトリルゴム、並びにそれぞれ0.9重量%、2重量%、及び3重量%の有効SWCNT重量%で、ベースニトリルゴム配合物と処理された混合物1を混合することによって得られたニトリルゴム化合物の配合の詳細を含む。
【0055】
図21図26は、図14図20にまとめたデータに基づく特性の主要な特徴及び傾向を示すチャートである。これらのチャートにおけるCNTの重量%は、図14図20の表におけるSWCNTの有効重量%に相当することに留意されたい。
【0056】
図21は、それぞれ、処理された混合物1、処理された混合物2、原料のままのCNT、及び原料のままのCNT+原料のままのカーボンブラック(CB)を含むシリコーンゴム化合物、並びにベースシリコーンゴム配合物に基づくベースシリコーンゴムにおけるCNT重量%に応じた体積抵抗率を示すチャートである。CNTとCBの重量%が等しい場合、処理された混合物1と処理された混合物2を含むシリコーンゴム化合物はいずれも、原料のままのCNTを含むシリコーンゴム化合物及び原料のままのCNT+原料のままのCBを含むシリコーンゴム化合物のいずれかと比較して、低い体積抵抗率を示している。又、処理された混合物1及び処理された混合物2を含むシリコーンゴム化合物の両方についての電気的パーコレーション閾値は、原料のままのCNTを含むシリコーンゴム化合物及び原料のままのCNT+原料のままのCBを含むシリコーンゴム化合物のいずれよりも低い重量%のCNTで満たされることが示される。又、処理された混合物中に添加されたカーボンブラックは、CNTのみを含む場合よりも、CNTと相乗的に機能して電子輸送経路を橋渡しし、複合マトリックスにおける導電性ネットワークを強化していることが分かる。更に、処理された混合物に添加された分配剤、例えば、ガラスバブルは、CNTの分散の均一性を改善させ、これによりゴム化合物における導電性を向上させることができる。
【0057】
図22は、それぞれ、処理された混合物1、処理された混合物2、原料のままのCNT、及び原料のままのCNT+原料のままのカーボンブラック(CB)を含むシリコーンゴム化合物、並びにベースシリコーンゴム配合物に基づくベースシリコーンゴムにおけるCNT重量%に応じたデュロメーターを示すチャートである。典型的なゴム用途は、40~70のショアAのデュロメーター範囲内に入る。図21及び図22を参照すると、処理された混合物1及び処理された混合物2を含むシリコーンゴム化合物はいずれも、この望ましい範囲内のデュロメーターを示す一方、原料のままのCNTを含むシリコーンゴム化合物及び原料のままのCNT+原料のままのCBを含むシリコーンゴム化合物のいずれかと比較して、低い重量%のCNTで電気的パーコレーション閾値を満たす。
【0058】
図23は、それぞれ、処理された混合物1、処理された混合物2、原料のままのCNT、及び原料のままのCNT+原料のままのカーボンブラック(CB)を含むシリコーンゴム化合物、並びにベースシリコーンゴム配合物に基づくベースシリコーンゴムにおけるCNT重量%に応じた引張り強度を示すチャートである。図21及び図23を参照すると、処理された混合物1及び処理された混合物2を含むシリコーンゴム化合物はいずれも、原料のままのCNTを含むシリコーンゴム化合物及び原料のままのCNT+原料のままのCBを含むシリコーンゴム化合物のいずれよりも低い重量%のCNTで電気的パーコレーション閾値を満たす一方、評価できる引張り強度を維持する。典型的には、導電性材料を求めている多くのゴム用途では、必要な機能として引張り強度を優先させることはなく、このような用途では、400psiの引張り強度で十分であると多くの場合に考えられる。
【0059】
図24は、それぞれ、処理された混合物1、処理された混合物2、原料のままのCNT、及び原料のままのCNT+原料のままのカーボンブラック(CB)を含むシリコーンゴム化合物、並びにベースシリコーンゴム配合物に基づくベースシリコーンゴムにおけるCNT重量%に応じた破断伸びを示すチャートである。処理された混合物1を含むシリコーンゴム化合物は、他の場合と比較して、向上したエラストマー特性を示す。例えば、図21及び図24を参照すると、2重量%のCNTにおいて、処理された混合物1を含むシリコーンゴム化合物は、最も低い体積抵抗率(最も高い導電率)及び最も高い破断伸びを示す。又、1重量%のCNT及び2重量%のCNTを含む0重量%のCNT~3重量%のCNTの範囲では、処理された混合物1を含むシリコーンゴム化合物が最も高い破断伸びを示す。又、処理された混合物に添加された分配剤、例えば、ガラスバブルは、CNTの分散の均一性を改善させ、これによりゴム化合物における機械的特性を向上させることが分かる。
【0060】
図25は、それぞれ、処理された混合物1、処理された混合物2、原料のままのCNT、及び原料のままのCNT+原料のままのカーボンブラック(CB)を含むシリコーンゴム化合物、並びにベースシリコーンゴム配合物に基づくベースシリコーンゴムにおけるCNT重量%に応じた引裂強度を示すチャートである。処理された混合物1を含むシリコーンゴム化合物は、1及び2重量%のCNTで、ベースシリコーンゴムと同等の引裂強度を示す。図1及び図25を参照すると、この引裂強度は、電気的パーコレーション閾値を満たすのに必要なCNT重量%で、著しく損なわれていない。
【0061】
図26は、それぞれ、処理された混合物1を含むシリコーンゴム化合物、処理された混合物1を含むフルオロシリコーンゴム化合物、処理された混合物1を含むEPDMゴム化合物、及び処理された混合物1を含むニトリルゴム化合物におけるCNT重量%に応じた体積抵抗率を示すチャートである。本明細書に記載の方法を利用し、処理された混合物1を用いた場合、シリコーンゴム化合物、フルオロシリコーンゴム化合物、及びニトリルゴム化合物は全て、0~2重量%のCNTで電気的パーコレーション閾値を通過しており、一方、EPDMゴム化合物は、2~3重量%のCNTで電気的パーコレーション閾値を通過している。
【0062】
本書には多くの具体的な説明が含まれているが、これらは、発明の範囲又は特許請求される可能性のあるものに対する限定として解釈されるべきではなく、むしろ本発明の特定の実施形態に固有の特徴の記載として解釈されるべきである。別々の実施形態の文脈で本書に記載される特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実施することもできる。反対に、単一の実施形態の文脈で記載される様々な特徴は、複数の実施形態において別々に又は任意の適切な下位の組み合わせで実施されることもできる。更に、特徴は、特定の組み合わせで作用するものとして上述されることができ、当初はそのように特許請求されることさえあるが、特許請求された組み合わせからの1つ以上の特徴は、場合によっては組み合わせから行使されることができ、特許請求された組み合わせは、下位の組み合わせ又は下位の組み合わせの変形に向けられることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【国際調査報告】