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特表2023-537969胚性幹細胞増殖のための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】胚性幹細胞増殖のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20230830BHJP
【FI】
C12N5/0735
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509667
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 US2021045437
(87)【国際公開番号】W WO2022035895
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】63/063,942
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519336241
【氏名又は名称】リネージ セル セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アロン リラチ
(72)【発明者】
【氏名】スカリター ラミ
(72)【発明者】
【氏名】ティコツキ ラビド
(72)【発明者】
【氏名】ハユーン ネーマン ダナ
(72)【発明者】
【氏名】ワイザー オフェル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA23
4B065BB19
4B065BC41
4B065BC42
4B065BC45
(57)【要約】
本明細書では、マイクロキャリアを含む懸濁性増殖複合体を用いたヒト胚性幹の増殖のための方法及び組成物が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胚性幹細胞(hESC)を未分化の多能性状態で増殖させかつ維持するための方法であって、以下のステップ:
(a)成長培地においてヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを同時に組み合わせて、懸濁性増殖複合体を形成することと、
(b)前記懸濁性増殖複合体を一定期間培養することと
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記マイクロキャリアが、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーン、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロキャリアが、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ECMが、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ECMが、ヒトラミニンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトラミニンが、ヒトラミニン511E8フラグメントである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロキャリアが、コーティングされていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロキャリアが、プロタミンまたはポリリジンと結合している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロキャリアが、中性であるか、または負に帯電している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロキャリアが、中性である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロキャリアが、負に帯電している、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記マイクロキャリアが、親水性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁性増殖複合体が、少なくとも約1日間、培養される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記懸濁性増殖複合体が、約1日間~約14日間、培養される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(a)及び(b)を繰り返すことによって、前記懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに増殖させる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を採取し、さらに分化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を、前記成長培地を変えることによってさらに分化させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を、未分化かつ多能性のままにする、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記未分化細胞が、SSEA-5及びTRA-1-60のそれぞれの少なくとも約80%を発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記未分化細胞が、Oct-4及びNanogのそれぞれの少なくとも約70%を発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記未分化細胞が、SSEA-5の少なくとも約80%、TRA-1-60の少なくとも約80%、Oct-4の少なくとも約70%、及びNanogの少なくとも約70%を発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
ヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを含む、懸濁性増殖複合体組成物。
【請求項23】
成長培地をさらに含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記マイクロキャリアが、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーンのうちの1つ以上を含む、請求項22または請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記マイクロキャリアが、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである、請求項22~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記マイクロキャリアが、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている、請求項22~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記ラミニンが、ヒトラミニンである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記ヒトラミニンが、ヒトラミニン511E8フラグメントである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記マイクロキャリアが、コーティングされていない、請求項22~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記マイクロキャリアが、プロタミンまたはポリリジンと結合している、請求項22~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記マイクロキャリアが、中性であるか、または負に帯電している、請求項22~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記マイクロキャリアが、中性である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記マイクロキャリアが、負に帯電している、請求項31に記載の組成物。
【請求項34】
前記マイクロキャリアが、親水性である、請求項22~29のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月10日に出願された米国仮出願第63/063,942号の利益を主張するものであり、この米国仮出願の全体をあらゆる目的のために参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
背景
ヒト胚性幹細胞(hESC)は、自己複製という基礎的特性を持つため、無尽蔵の細胞源となり、産業規模の細胞治療の構想を可能にする。hESCは、その多能性発生能の可能性により、ほとんどの細胞治療製品の細胞源として位置付けられている。
【0003】
hESCの臨床応用では、hESC由来の治療用細胞を大量に供給することが重要な要件となる。これらの治療用細胞の生産は、現行の医薬品適正製造基準(cGMP)の下で、マスターセルバンク(MCB)またはワーキングセルバンク(WCB)などの認定セルバンクの細胞を解凍することから始まる。細胞バンクの品質は、解凍後のhESCの増殖、その後の系統特異的分化の効率、及びプロセス再現性に影響を与えるので、hESCバイオプロセシングにおいて重要な役割を果たす。
【0004】
このようなセルバンクの製造は労働集約的であり、通常は手動の細胞操作が必要であり、フィーダー細胞、非組み換えマトリックス、血清、及び十分に定義されていないその他の材料の使用など、いくつかの重要な原材料によるロット間変動がある。
【発明の概要】
【0005】
概要
このような細胞治療の構想を実現するために、GMPグレードのhESCバンクまたはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)バンクの生産方法が本明細書で提供される。
【0006】
一態様では、本開示は、ヒト胚性幹細胞(hESC)を未分化の多能性状態で増殖させかつ維持するための方法であって、以下のステップ:(a)成長培地においてヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを同時に組み合わせて、懸濁性増殖複合体を形成することと、(b)懸濁性増殖複合体を一定期間培養することと、を含む方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーン、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである。
【0009】
いくつかの実施形態では、ECMは、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。特定の実施形態では、ECMは、ヒトラミニンである。特定の実施形態では、ヒトラミニンは、ヒトラミニン511E8フラグメントである。
【0010】
特定の実施形態では、マイクロキャリアはコーティングされていない。
【0011】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、プロタミンまたはポリリジンと結合される。
【0012】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、中性であるか、または負に帯電している。特定の実施形態では、マイクロキャリアは中性である。特定の実施形態では、マイクロキャリアは負に帯電している。特定の実施形態では、マイクロキャリアは親水性である。
【0013】
いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体は、少なくとも約1日間、培養される。いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体は、約1日間~約14日間、培養される。
【0014】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)及び(b)を繰り返すことによって、懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに増殖させる。
【0015】
いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに分化させる。いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を、成長培地を変えることによってさらに分化させる。
【0016】
いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を、未分化かつ多能性のままにする。いくつかの実施形態では、未分化細胞が、SSEA-5及びTRA-1-60のそれぞれの少なくとも約80%を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞が、Oct-4及びNanogのそれぞれの少なくとも約70%を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞が、SSEA-5の少なくとも約80%、TRA-1-60の少なくとも約80%、Oct-4の少なくとも約70%、及びNanogの少なくとも約70%を発現する。
【0017】
別の態様では、本開示は、ヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを含む懸濁性増殖複合体組成物を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本組成物は、成長培地をさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーンのうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである。
【0020】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている。いくつかの実施形態では、ラミニンはヒトラミニンである。特定の実施形態では、ヒトラミニンは、ヒトラミニン511E8フラグメントである。
【0021】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアはコーティングされていない。
【0022】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、プロタミンまたはポリリジンと結合している。
【0023】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、中性であるか、または負に帯電している。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは中性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは負に帯電している。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは親水性である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】継代の間に行った形態評価を示す。MCのP1 グループA-Synthemax(登録商標)II MC、グループB-Enhanced Attachment MC。MC上で成長した細胞を採取し、TC処理したT25フラスコにP2用に播種した。
図2】DC分化中にhESCスケールアップシステムから採取した細胞の形態を示す。
図3】hESC増殖スケールアップシステムプロセスを示す。
図4】hESCスケールアップシステムにおける細胞の形態を示す。
図5】hESCスケールアップシステムから採取した細胞をhESC2次元培養として再播種した後の形態を示す。
図6】試験条件下でのhESCスケールアップシステムの形態を示す。
図7】異なるプラットフォームにおけるhESCスケールアップシステムの形態を示す。
図8】異なるiMatrix-511E8濃度を有するhESCスケールアップシステムの形態を示す。
図9】異なる継代継続期間におけるhESCスケールアップシステムの形態を示す。
図10】2次元培養として凍結保存する前及び解凍後のhESCスケールアップシステムで培養された細胞の形態を示す。
図11】hESCスケールアップシステムで培養し、2次元培養として継代した細胞の培養パラメータ及び多能性マーカー発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本明細書の実施形態は、概して、胚性幹細胞を増殖させるための方法、組成物、及びデバイスに関する。
【0026】
この説明を読んだ後、当業者には、本開示を様々な代替実施形態及び代替用途で実施する方法が明らかになるであろう。しかしながら、本発明の様々な実施形態の全てが本明細書に記載されるわけではない。ここに提示される実施形態は、限定ではなく単なる例示として提示されることを理解されたい。したがって、この様々な代替実施形態の詳細な説明は、本明細書に規定されている本開示の範囲または広さを限定するものと解釈されるべきではない。
【0027】
本技術を開示し説明する前に、特定の組成物、そのような組成物を調製する方法、またはその使用は、当然ながら変えることができるので、以下に説明する態様は、そのようなものに限定されないことを理解されたい。本明細書で使用する用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0028】
詳細な説明は、読者の便宜のためだけに様々なセクションに分割されており、任意のセクションにある開示が、別のセクションにある開示と組み合わされてもよい。タイトルまたはサブタイトルは、読者の便宜のために本明細書で使用され得るが、本開示の範囲に影響を与えることを意図したものではない。
【0029】
定義
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明らかに示さない限り、複数形も含むことを意図する。
【0030】
「任意選択の」または「場合により」とは、その後に記載される事象または状況が発生する場合または発生しない場合があり、その説明は、その事象または状況が発生する場合または発生しない場合を含むことを意味する。
【0031】
範囲を含む数値表示、例えば、温度、時間、量、濃度などの数値表示の前に使用する「約」という用語は、(+)または(-)10%、5%、1%、またはその間の任意の部分範囲または部分値だけ変動し得る近似値を示す。好ましくは、量に関して使用される場合の「約」という用語は、その量が+/-10%だけ変動し得ることを意味する。
【0032】
「含んでいる」または「含む」という用語は、組成物及び方法が、記載されている要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味するよう意図されている。組成物及び方法を規定するために使用される場合、「~から本質的になる」は、明示された目的のための組み合わせにとって本質的に重要な意義を持つ他の要素を除外することを意味するものとする。したがって、本明細書に規定されている要素から本質的になる組成物は、特許請求される発明の基本的かつ新規な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさない他の材料またはステップを除外しないことになる。「からなる」とは、微量以上の他の成分の元素及び実質的な方法ステップを除外することを意味するものとする。これらの各接続句(transition term)によって規定されている実施形態は、本開示の範囲内である。
【0033】
「有効量」は、組成物が存在しない場合と比較して、その組成物が、明示された目的を達成する(例えば、組成物が投与される効果を達成する、疾患を治療する、酵素活性を低減する、酵素活性を増加させる、シグナリング経路を弱める、あるいは疾患または疾病の1つ以上の症状を軽減する)のに十分な量である。「有効量」の例は、疾患の症状または症状類の治療、予防、または軽減に寄与するのに十分な量であり、「治療的有効量」と称されることもある。症状または症状類(及びこの語句の文法上の同等物)の「軽減」は、症状(複数可)の重篤度もしくは頻度の減少、または症状(複数可)の除去を意味する。薬物(例えば、本明細書に記載の細胞)の「予防有効量」は、それが対象に投与されたときに、意図された予防効果、例えば、傷害、疾患、病状、もしくは疾病の発症(もしくは再発)を予防するもしくは遅延させる効果、あるいは傷害、疾患、病状、もしくは疾病の発症(もしくは再発)の可能性を低減する、またはそれらの症状を軽減する効果を有するであろう薬物の量である。完全な予防効果は、1用量の投与によって必ずしも生じるとは限らず、一連の用量の投与後にのみ生じる場合もある。したがって、予防有効量は、1回以上の投与で投与することができる。「活性減少量」は、本明細書で使用されるとき、拮抗剤の非存在在下と比較して、酵素の活性を減少させるのに必要とされる拮抗剤の量を指す。「機能攪乱量」は、本明細書で使用されるとき、拮抗剤の非存在下と比較して、酵素またはタンパク質の機能を攪乱するのに必要とされる拮抗剤の量を指す。正確な量は、治療の目的によって決まり、既知の技術を使用して当業者によって確認可能であろう(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vols.1-3,1992);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999);Pickar,Dosage Calculations(1999);及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,2003,Gennaro,Ed.,Lippincott,Williams & Wilkinsを参照)。
【0034】
本明細書に記載される任意の組成物については、治療的有効量は、最初に細胞培養試験から決定することができる。標的濃度は、本明細書に記載される方法または当技術分野で公知の方法を使用して測定して、本明細書に記載される方法を達成することができる活性組成物(複数可)の濃度(例えば、細胞濃度または細胞数)となる。
【0035】
「対照」または「対照実験」は、その平易な通常の意味に従って使用され、実験の対象または試薬が、実験の手順、試薬、または変数の省略を除き、並列実験として扱われる実験を指す。いくつかの例では、対照は、実験効果の評定における比較の基準として使用される。いくつかの実施形態では、対照は、本明細書(実施形態及び実施例を含む)に記載されている組成物の非存在下でのタンパク質の活性の測定値である。
【0036】
「薬学的に許容される賦形剤」及び「薬学的に許容される担体」は、対象への活性剤の投与及び対象による吸収を助け、患者に対して著しく有害な薬物学的影響をもたらすことなく、本開示の組成物中に含めることができる物質を指す。薬学的に許容される賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、生理食塩水、乳酸リンゲル液、通常のスクロース、通常のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング、甘味料、香料、塩溶液(リンゲル溶液など)、アルコール、油、ゼラチン、例えば、ラクトース、アミロース、またはデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチセルロース、ポリビニルピロリジン、及び顔料などが挙げられる。かかる調製物は、滅菌し、所望により、本開示の組成物と有害に反応しない、潤滑剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝液、着色料、及び/または芳香剤などの助剤と混合することができる。当業者は、他の医薬品賦形剤が、本開示において有用であることを認識するであろう。
【0037】
「細胞」とは、本明細書で使用する場合、そのゲノムDNAを保持または複製するのに十分な代謝機能またはその他の機能を果たす細胞を指す。細胞は、例えば、無傷膜の存在、特定の色素による染色、子孫を産生する能力、または配偶子の場合には、第2の配偶子と合わさって、生存能力のある子を生み出す能力を含む、当技術分野における周知の方法によって同定できる。細胞には、原核細胞及び真核細胞があり得る。原核細胞には、細菌が含まれるが、これに限定されない。真核細胞には、酵母細胞、動植物由来の細胞、例えば哺乳類細胞、昆虫(例えば、スポドプテラ属(spodoptera))細胞及びヒト細胞が含まれるが、これらに限定されない。細胞は、もともと非接着性であるか、または例えばトリプシン処理などによって表面に接着しないように処理されている場合に、有用であり得る。
【0038】
本明細書で使用するとき、「幹細胞」は、特定の特殊化した機能を有する他の細胞型(例えば、完全に分化した細胞)に分化誘導されるまで、培養下の長期間にわたって未分化状態に留まることができる細胞(例えば、多能性幹細胞または複能性幹細胞)を意味する。実施形態では、「幹細胞」には、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、成体幹細胞、間葉系幹細胞及び造血幹細胞が含まれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」または「iPSC」は、体細胞の遺伝子操作によって、例えば、Oct-3/4、Sox2、c-Myc、及びKLF4などの転写因子を用いる、線維芽細胞、肝細胞、胃上皮細胞などの体細胞のレトロウイルス形質導入によって、体細胞から生成することができる細胞である[Yamanaka S,Cell Stem Cell.2007,1(1):39-49;Aoi T,et al.,Generation of Pluripotent Stem Cells from Adult Mouse Liver and Stomach Cells.Science.2008 Feb 14.(Epub ahead of print);IH Park,Zhao R,West JA,et al.Reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors.Nature 2008;451:141-146;K Takahashi,Tanabe K,Ohnuki M,et al.Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.Cell 2007;131:861-872]。他の胚様幹細胞は、卵母細胞への核移植、胚性幹細胞との融合、またはレシピエント細胞が有糸分裂を停止している場合は接合子への核移植によって生成することができる。さらに、iPSCは、例えば小分子または小型RNAの使用などによる非組み込み法を使用して生成することができる。
【0040】
「胚性幹細胞」という用語は、3つの胚性胚葉(すなわち、内胚葉、外胚葉及び中胚葉)全ての細胞に分化できるか、または未分化状態に留まることができる胚細胞を指す。「胚性幹細胞」という語句は、妊娠後に形成された胚組織(例えば、胚盤胞)であって胚の着床前に形成された胚組織(すなわち、着床前胚盤胞)から得られる細胞、着床後/原腸形成前段階の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(WO2006/040763参照)、及び妊娠中の任意の時点、好ましくは妊娠10週より前に、胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を含む。実施形態では、胚性幹細胞は、周知の細胞培養法を使用して得られる。例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離することができる。
【0041】
市販の幹細胞もまた、本開示の態様及び実施形態で使用できることが理解される。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリ(www.grants.nih.govstem_cells/)または他のhESCレジストリから購入できる。市販の胚性幹細胞株の非限定的な例としては、HAD-C102、ESI、BGO1、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY1O、TE03、TE32、CHB-4、CHB-5、CHB-6、CHB-8、CHB-9、CHB-10、CHB-11、CHB-12、HUES1、HUES2、HUES3、HUES4、HUES5、HUES6、HUES7、HUES8、HUES9、HUES10、HUES11、HUES12、HUES13、HUES14、HUES15、HUES16、HUES17、HUES18、HUES19、HUES20、HUES21、HUES22、HUES23、HUES24、HUES25、HUES26、HUES27、HUES28、CyT49、RUES3、WAO1、UCSF4、NYUES1、NYUES2、NYUES3、NYUES4、NYUESS、NYUES6、NYUES7、UCLA1、UCLA2、UCLA3、WA077(H7)、WA09(H9)、WA13(H13)、WA14(H14)、HUES62、HUES63、HUES64、CTI、CT2、CT3、CT4、MA135、Eneavour-2、WIBR1、WIBR2、WIBR3、WIBR4、WIBRS、WIBR6、HUES45、Shef3、Shef6、BINhem19、BJNhem20、SAGO1、SAOO1がある。
【0042】
本明細書で使用するとき、「マイクロキャリア」または「MC」という用語は、接着細胞が動的細胞培養または静的細胞培養で成長することを可能にし、穏やかに混合して懸濁させておくことができる、懸濁性支持マトリックスを意味する。マイクロキャリアは、ポリスチレン、表面修飾ポリスチレン、化学修飾ポリスチレン、架橋デキストラン、セルロース、アクリルアミド、コラーゲン、アルギン酸塩、ゼラチン、ガラス、DEAE-デキストラン、またはそれらの組み合わせなどで構成することができるが、これに限定されない。マイクロキャリアは、ラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない生物学的支持マトリックスでコーティングされ得る。多くの異なるタイプのマイクロキャリアが市販されており、これにはHyQSphere(HyClone)、Hillex(SoloHill Engineering)、及び低濃度Synthemax(登録商標)II(Corning)ブランドがあるが、これらに限定されない。マイクロキャリアは、Cytodexブランド(GE Healthcare)などの架橋デキストランから作製することができる。マイクロキャリアは、球形で滑らかなものにすることができ、CYTOPOREブランド(GE Healthcare)などの微多孔性表面を有したものにすることができ、及び/またはDE-53(Whatman)などの棒状のキャリアにすることができる。マイクロキャリアには、ビーズから細胞を分離するのに役立つ磁性粒子(例えば、Global Cell SolutionsのGEM粒子)を含浸させることができる。μHex製品(Nunc)などのチップベースのマイクロキャリアは、従来のマイクロキャリアの高い表面積対体積比を維持しながら、細胞成長のための平坦な表面を提供する。マイクロキャリアの特性は、増殖率と細胞の複能性または多能性とに大きく影響する可能性がある。
【0043】
方法
ある態様では、ヒト胚性幹細胞(hESC)を未分化の多能性状態で増殖させかつ維持するための方法であって、以下のステップ:(a)成長培地においてヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを同時に組み合わせて、懸濁性増殖複合体を形成することと、(b)懸濁性増殖複合体を一定期間培養することと、を含む方法が本明細書で提供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)及び(b)を繰り返すことによって、懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに増殖させる。
【0045】
いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに分化させる。
【0046】
ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離することができる。ヒト胚盤胞は、通常、ヒト体内着床前胚または体外受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単一細胞のヒト胚を胚盤胞の段階まで増殖させることが可能である。ヒトES細胞の単離では、胚盤胞から透明帯が除去され、穏やかなピペット操作により栄養外胚葉細胞を溶解して無傷の内細胞塊(ICM)から除去する手順で、ICMが単離される。その後、ICMは、その成長を可能にする適切な培地を含む組織培養フラスコ内に蒔かれる。9~15日後、ICM由来の成長物は、機械的解離または酵素分解のいずれかによって凝集塊に解離され、次いで細胞は、新鮮な組織培養培地に再度蒔かれる。未分化形態を示すコロニーが、マイクロピペットによって個別に選択され、機械的に凝集塊に解離させられ、再度蒔かれる。その後、得られたES細胞は、4~7日ごとに定期的に分割される。ヒトES細胞の調製方法のさらなる詳細については、Reubinoff et al.Nat Biotechnol 2000,May:18(5):559;Thomson et al.,[米国特許第5,843,780号;Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844,1995];Bongso et al.,[Hum Reprod 4:706,1989];及びGardner et al.,[Fertil.Steril.69:84,1998]を参照されたい。
【0047】
さらに、ES細胞は、マウス(Mills and Bradley,2001)、ゴールデンハムスター[Doetschman et al.,1988,Dev Biol.127:224-7]、ラット[Iannaccone et al.,1994,Dev Biol.163:288-92]、ウサギ[Giles et al.1993,Mol Reprod Dev.36:130-8;Graves & Moreadith,1993,Mol Reprod Dev.1993,30 36:424-33]、いくつかの家畜種[Notarianni et al.,1991,J Reprod Fertil Suppl.43:255-60;Wheeler 1994,Reprod Fertil Dev.6:563-8;Mitalipova et al.,2001,Cloning.3:59-67]及び非ヒト霊長類種(アカゲザル及びマーモセット)[Thomson et al.,1995,Proc Natl Acad Sci U S A.92:7844-8;Thomson et al.,1996,Biol Reprod.55:254-9]を含む他の種から得ることができる。
【0048】
受精後少なくとも9日経過した胚盤胞から、原腸陥入前の段階で、拡張胚盤胞細胞(EBC)を得ることができる。胚盤胞を培養する前に、内細胞塊を露出させるために、透明帯が[例えばタイロード酸性溶液(Sigma Aldrich,St Louis,MO,USA)によって]消化される。次に、胚盤胞は、標準的な胚性幹細胞培養法を用いてインビトロで、受精後少なくとも9日から14日以内の間(すなわち、原腸陥入事象の前)、全胚として培養される。
【0049】
ES細胞を調製するための別の方法が、Chung et al.,Cell Stem Cell,Volume 2,Issue 2,113-117,7 February 2008に記載されている。この方法は、体外受精プロセス中に胚から単一細胞を除去することを含む。このプロセスで胚が壊されることはない。
【0050】
EG(胚性生殖)細胞は、当業者に知られている実験技術を使用して、妊娠約8~11週の胎児(ヒト胎児の場合)から得られた始原生殖細胞から調製される。生殖隆起は、分離されて、小さく切断され、その後、機械的解離によって細胞に分解される。次いで、EG細胞を、適切な培地を含む組織培養フラスコで成長させる。細胞は、典型的には7~30日後または1~4回の継代後に、EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで、培地を毎日交換しながら培養される。ヒトEG細胞の調製方法のさらなる詳細については、Shamblott et al.,[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998]及び米国特許第6,090,622号を参照されたい。
【0051】
ES細胞を調製するためのさらに別の方法は、単為生殖によるものである。このプロセスでも胚が壊されることはない。
【0052】
細胞は、マイクロキャリアの有無にかかわらず懸濁液中で、または単層中で増殖させることができる。単層培養または懸濁培養における混合細胞集団の増殖は、当業者に周知の方法により、バイオリアクターまたはマルチ/ハイパースタックでの大量増殖に変更することができる。
【0053】
いくつかの実施形態によれば、増殖期は、少なくとも1週間から20週間まで、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、またはちょうど10週間、行われる。実施形態では、増殖期は、2週間から10週間、3週間から10週間、4週間から10週間、または4週間から8週間など、1週間から10週間行われる。期間は、端点を含む、列挙した範囲内の任意の値または部分範囲であってよい。
【0054】
さらに他の実施形態によれば、混合細胞集団は、増殖期中に少なくとも1回、増殖期中に少なくとも2回、増殖期中に少なくとも3回、増殖期中に少なくとも4回、増殖期中に少なくとも5回、増殖期中に少なくとも6回、または増殖期中に少なくとも7回継代される。
【0055】
細胞が酵素的に収集される場合、8継代よりも多く、9継代よりも多く、さらには10継代よりも多く(例えば11~15継代)増殖を続けることが可能である。総細胞倍加数は、30を超えて、例えば31、32、33、34、またはそれ以上に増やすことができる。(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際特許出願公開第WO2017/021973号を参照されたい)。
【0056】
細胞外マトリックス(ECM)は、周囲の細胞に構造的及び生化学的なサポートを提供するコラーゲン、酵素、糖タンパク質、及びヒドロキシアパタイトなどの細胞外高分子及びミネラルからなる3次元網目構造である。多細胞性は異なる多細胞系統で独立して進化したため、ECMの組成は多細胞性構造によって異なる。ただし、細胞接着、細胞間コミュニケーション、及び分化は、ECMの共通機能である。
【0057】
動物の細胞外マトリックスには、間質マトリックスと基底膜とがある。間質マトリックスは、様々な動物細胞の間(すなわち、細胞間隙内)に存在する。多糖類及び繊維状タンパク質のゲルが細胞間隙を埋め、ECMにかかるストレスに対する圧縮緩衝材として機能する。基底膜は、様々な上皮細胞が載るECMのシート状堆積物である。動物の結合組織の種類ごとに、ECMには種類がある。すなわち、コラーゲン繊維及び骨ミネラルは、骨組織のECMを含む。細網線維及び基質は、疎性結合組織のECMを含む。血漿は、血液のECMである。
【0058】
本開示の範囲内で使用するための好適な細胞外マトリックス成分には、マトリゲル、ビトロネクチン、ゼラチン、コラーゲンI、コラーゲンIV、ラミニン(例えば、ラミニン521)、フィブロネクチンポリ-D-リジン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせが含まれ得るが、必ずしもこれらに限定されない。特定の実施形態では、ヒトラミニンは、ヒトラミニン511E8フラグメントである。
【0059】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、またはシリコーンのうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレン、表面修飾ポリスチレン、化学修飾ポリスチレン、架橋デキストラン、セルロース、アクリルアミド、コラーゲン、アルギン酸塩、ゼラチン、ガラス、DEAE-デキストラン、またはそれらの組み合わせで構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、表面修飾ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、化学修飾ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、架橋デキストランから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、セルロースから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、アクリルアミドから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コラーゲンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、アルギン酸塩から構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ゼラチンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ガラスから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、DEAE-デキストランから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コーティングされていない。
【0060】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コーティングされている。実施形態では、マイクロキャリアは、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせでコーティングされていてもよい。実施形態では、マイクロキャリアは、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、またはそれらの組み合わせでコーティングされていてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ラミニンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、マトリゲルでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コラーゲンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリリジンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリ-L-リジンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリ-D-リジンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ビトロネクチンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、フィブロネクチンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、テネイシンでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、デキストランでコーティングされている。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ペプチドでコーティングされている。
【0061】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせであり得る。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、プロタミンまたはポリリジンと結合していてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは球形である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは楕円である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは棒状である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアはディスク形状である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは多孔性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは非多孔性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは平滑である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは平坦である。
【0062】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは中性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは負に帯電している。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは親水性である。
【0063】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、25cm、50cm、75cm、100cm、125cm、150cm、175cm、200cm、225cm、250cm、500cm、625cm、750cm、1,000cm、1,250cm、5,000cm、または7,500cmの表面積を有し得る。表面積は、端点を含む列挙された範囲内の任意の値または部分範囲であってもよい。
【0064】
特定の実施形態では、マイクロキャリアは、細胞付着を増強するために表面処理されており、それによって細胞収率及び細胞生存率を最大化する。マイクロキャリアは、一貫したプラットフォームを提供するUSPクラスVIポリスチレン材料で構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、幹細胞増殖のためマイクロキャリア上に合成表面を作り出す。強化された付着表面処理では、細胞付着を改善するために、マイクロキャリアの表面に酸素を注入する。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、非発熱性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、間葉系幹細胞の用途向けに最適化される。特定の実施形態では、ビーズは、125~212μmの様々なサイズであり得る。特定の実施形態では、マイクロキャリアの密度は、1.026±0.004であり得る。特定の実施形態では、マイクロキャリアは、360cm/グラムであり得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、本方法は、キャリア表面への細胞の付着を改善するために、hESCをラミニンまたはその誘導体と組み合わせることを含む。特定の実施形態では、ラミニンは、ヒトラミニン511である。代替実施形態として、ビトロネクチン、フィブロネクチン、コラーゲン、マトリゲル、またはそれらの誘導体などを含むが必ずしもこれらに限定されない、いくつかの他の細胞外マトリックスを細胞付着に使用することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、細胞を、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、または14日の間、培養する場合がある。
【0067】
いくつかの実施形態では、細胞は、10mL~3,000mLの間、例えば、約10mL、20mL、30mL、40mL、50mL、100mL、250mL、500mL、750mL、1,000mL、または3,000mLの作業容量で培養され得る。容量は、端点を含む、列挙した範囲内の任意の値または部分範囲であってよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、培養細胞をさらに増殖させることがある。
【0069】
いくつかの実施形態では、培養細胞を未分化のままにすることがある。未分化細胞は、SSEA-5、TRA-1-60、Oct-4、及びNanogなどを含むが必ずしもこれらに限定されない様々なマーカーの発現によって同定することができる。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、SSEA-5を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、TRA-1-60を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、Oct-4を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、Nanogを発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、SSEA-5及びTRA-1-60の両方を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、Oct-4及びNanogの両方を発現する。いくつかの実施形態では、未分化細胞は、SSEA-5、TRA-1-60、Oct-4、及びNanogを発現する。
【0070】
いくつかの実施形態では、細胞を、フィーダー細胞馴化培地で培養する場合がある。ES培養法には、幹細胞の繁殖に必要とされる因子を分泌すると同時に、一方で、それらの分化を阻害するフィーダー細胞層の使用が含まれ得る。培養は、典型的には固体表面、例えばゼラチンまたはビメンチンでコーティングされた表面の上で行われる。例示的なフィーダー層としては、ヒト胚性線維芽細胞、成体卵管上皮細胞、初代マウス胚性線維芽細胞(PMEF)、マウス胚性線維芽細胞(MEF)、マウス胎児線維芽細胞(MFF)、ヒト胚性線維芽細胞(HEF)、ヒト胚性幹細胞の分化から得られたヒト線維芽細胞、ヒト胎児筋細胞(HFM)、ヒト胎児皮膚細胞(HFS)、ヒト成人皮膚細胞、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)、ヒト臍帯線維芽細胞、臍帯または胎盤から得られたヒト細胞、及びヒト骨髄間質細胞(hMSC)が挙げられる。ESCを未分化状態に維持するために、培地に成長因子が添加され得る。そのような成長因子には、bFGF及び/またはTGFがある。別の実施形態では、hESCを未処理の未分化状態に維持するために、培地に薬剤が添加され得る。例えば、Kalkan et al.,2014,Phil.Trans.R.Soc.B,369:20130540を参照されたい。
【0071】
hESCは、典型的には支持培地(例えば、NUTRISTEM(登録商標)またはヒト血清アルブミンを含むNUT(+))中で1~4日経過後にフィーダー細胞の上に蒔かれる。bFGF及びTGFI3などのESCの分化を防ぐために、追加の因子を培地に添加する場合がある。十分な量のhESCが得られたら、次は細胞を(例えば、無菌チップまたは使い捨ての無菌幹細胞ツール(14602 Swemed)を使用することによって)機械的に破砕する。あるいは、酵素処理(例えば、コラゲナーゼA、またはTrypLE Select)によって細胞を除去してもよい。このプロセスは、必要な量のhESCに到達するまで数回繰り返され得る。いくつかの実施形態によれば、第1回の増殖に続いて、hESCはTrypLE Selectを使用して除去され、第2回の増殖に続いて、hESCはコラゲナーゼAを使用して除去される。
【0072】
フィーダー細胞を含まないシステムもES細胞培養に使用されており、そのようなシステムは、フィーダー細胞層の代わりとして、血清代替物、サイトカイン、及び成長因子(IL6及び可溶性IL6受容体キメラを含む)を補充したマトリックスを利用する。幹細胞は、培養培地(例えば、Lonza L7システム、mTeSR、StemPro、XFKSR、E8、NUTRISTEM(登録商標))の存在下で、細胞外マトリックス(例えば、MATRIGELR(商標)、ラミニンまたはビトロネクチン)などの固体表面の上で成長させることができる。フィーダー細胞及び幹細胞の同時成長を必要とし、細胞集団が混在する可能性があるフィーダーベースの培養とは異なり、フィーダーフリーシステムで成長した幹細胞は表面から容易に分離される。幹細胞の増殖に使用される培養培地は、MEF馴化培地及びbFGFなど、分化を効果的に阻害し、成長を促進する因子を含有する。
【0073】
また、本開示の範囲内には、ヒト胚性幹細胞(hESC)を未分化の状態で増殖させかつ維持するための方法であって、非接着性表面上でヒト多能性幹細胞を培養して未分化hESCの集団を得ることと、前記未分化hESCの集団を成長培地中のマイクロキャリアと組み合わせることと、前記細胞集団を増殖させることとを含む方法も含まれる。
【0074】
非接着細胞培養プレートの例には、Nuncによって製造されたもの(例えば、Hydrocell Cat No.174912)などがある。他の実施形態では、非接着性懸濁培養皿が使用され得る(例えば、Corning)。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、細胞が非接着性基材上、例えば細胞培養プレート上で培養される場合、大気酸素状態は20%である。また一方、大気中酸素の割合が、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、またはさらに約5%未満(例えば、1%~20%、1%~10%または0~5%の間)となるように、大気酸素状態を操作することも企図される。他の実施形態によれば、細胞は、最初は通常の大気酸素状態下で、その後、通常よりも低い大気酸素状態下で、非接着性基材上で培養される。
【0076】
いくつかの実施形態では、本方法は、増殖した細胞集団を凍結させる(例えば、凍結保存する)ことをさらに含んでもよい。凍結保存に適した培地の例には、90%ヒト血清/10%DMSO、Media 3 10%(CS10)、Media25%(CS5)及びMedia12%(CS2)、Stem Cell Banker、PRIME XV° FREEZIS、HYPOTHERMASOL(登録商標)、Trehaloseなどがあるが、これらに限定されない。
【0077】
さらなる実施形態では、凍結保存培地には、プリンヌクレオシド(例えば、アデノシン)、分岐グルカン(例えば、デキストラン40)、両性イオン有機化学緩衝剤(例えば、HEPES(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンEN′-(2Eエタンスルホン酸)))、及び細胞耐性極性非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO))が含まれる。さらにさらなる実施形態では、プリンヌクレオシド、分岐グルカン、緩衝剤、及び極性非プロトン性溶媒のうちの1つ以上は、一般に、米国FDAによって安全であると認められている。
【0078】
いくつかの実施形態では、凍結保存培地には、糖酸(例えば、ラクトビオン酸)、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)のうちの1つ以上、抗酸化剤(例えば、L-グルタチオン)、1つ以上のハロゲン化物塩(例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム)、塩基性塩(例、炭酸水素カリウム)、リン酸塩(例、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム)、1つ以上の糖(例えば、デキストロース、スクロース)、糖アルコール(例えば、マンニトール)、及び水、のうちの1つ以上がさらに含まれる。
【0079】
他の実施形態では、糖酸、塩基、ハロゲン化物塩、塩基性塩、酸化防止剤、リン酸塩、糖、糖アルコールのうちの1つ以上は、一般に、米国FDAによって安全であると認められている。
【0080】
DMSOは、凍結保存プロセス中に細胞を死滅させる可能性のある氷晶の形成を防ぐための凍結保護剤として使用することができる。いくつかの実施形態では、凍結保存可能な培地は、約0.1%~約2%のDMSO(v/v)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保存可能な培地は、約1%~約20%のDMSOを含む。いくつかの実施形態では、凍結保存可能な媒体は、約2%のDMSOを含む。いくつかの実施形態では、凍結保存可能な媒体は、約5%のDMSOを含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、本方法は、分化細胞を得るために、分化剤を含む培地中、接着性表面上で、増殖した細胞集団を培養することをさらに含み得る。接着性基質または物質の混合物の例には、フィブロネクチン、ラミニン、ポリD-リジン、コラーゲン、及びゼラチンが含まれ得るが、これらに限定されない。一実施形態において、分化は、ニコチンアミドの存在下(例えば、0.01~100mM、0.1~100mM、0.1~50mM、5~50mM、5~20mMの間、例えば、10mM)で、かつアクチビンAの非存在下で行われる。濃度は、端点を含む列挙された範囲内の任意の値または部分範囲であり得る。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、細胞は、最初は通常の大気酸素状態下で、非接着性基材上で培養され、その後、酸素が通常の大気酸素状態下よりも低くされる。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、細胞が接着性基質上、例えばラミニン上で培養される場合、大気酸素状態は20%である。大気酸素状態は、大気中酸素の割合が、約20%未満、約15%未満、約10%未満、より好ましくは約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、及びより好ましくは約5%(例えば、1%~20%、1%~10%、または0~5%)となるように操作され得る。量は、端点を含む、列挙した範囲内の任意の値または部分範囲であってよい。
【0084】
いくつかの実施形態では、上記で詳細に説明したように、細胞がフィーダー細胞馴化培地で培養される。
【0085】
いくつかの実施形態では、細胞は、フィーダー細胞の非存在下で培養される。
【0086】
いくつかの実施形態では、最初の増殖の後、細胞をさらに増殖させることができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、細胞は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、または7日間、培養され得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、培養細胞をさらに増殖させることがある。
【0089】
いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を採取し、さらに分化させる。いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を、成長培地を変えることによってさらに分化させる。いくつかの実施形態では、懸濁性増殖複合体の培養細胞を、未分化かつ多能性のままにする。
【0090】
追加の実施形態
本開示は、以下の例示的な実施形態を提供する。
【0091】
実施形態1-ヒト胚性幹細胞(hESC)を未分化の多能性状態で増殖させかつ維持するための方法であって、以下のステップ:(a)成長培地においてヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを同時に組み合わせて、懸濁性増殖複合体を形成することと、(b)前記懸濁性増殖複合体を一定期間培養することと、を含む、前記方法。
【0092】
実施形態2-前記マイクロキャリアが、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーン、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む、実施形態1に記載の方法。
【0093】
実施形態3-前記マイクロキャリアが、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである、実施形態1または実施形態2に記載の方法。
【0094】
実施形態4-前記ECMが、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
【0095】
実施形態5-前記ECMが、ヒトラミニンである、実施形態1に記載の方法。
【0096】
実施形態6-前記ヒトラミニンが、ヒトラミニン511E8フラグメントである、実施形態5に記載の方法。
【0097】
実施形態7-前記マイクロキャリアが、コーティングされていない、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
【0098】
実施形態8-前記マイクロキャリアが、プロタミンまたはポリリジンと結合している、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
【0099】
実施形態9-前記マイクロキャリアが、中性であるか、または負に帯電している、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
【0100】
実施形態10-前記マイクロキャリアが、中性である、実施形態9に記載の方法。
【0101】
実施形態11-前記マイクロキャリアが、負に帯電している、実施形態9に記載の方法。
【0102】
実施形態12-前記マイクロキャリアが、親水性である、実施形態1~11のいずれかに記載の方法。
【0103】
実施形態13-前記懸濁性増殖複合体が、少なくとも約1日間、培養される、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
【0104】
実施形態14-前記懸濁性増殖複合体が、約1日間~約14日間、培養される、実施形態13に記載の方法。
【0105】
実施形態15-ステップ(a)及び(b)を繰り返すことによって、前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を採取し、さらに増殖させる、実施形態1に記載の方法。
【0106】
実施形態16-前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を採取し、さらに分化させる、実施形態1に記載の方法。
【0107】
実施形態17-前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を、前記成長培地を変えることによってさらに分化させる、実施形態16に記載の方法。
【0108】
実施形態18-前記懸濁性増殖複合体の前記培養細胞を、未分化かつ多能性のままにする、実施形態1に記載の方法。
【0109】
実施形態19-前記未分化細胞が、SSEA-5及びTRA-1-60のそれぞれの少なくとも約80%を発現する、実施形態16に記載の方法。
【0110】
実施形態20-前記未分化細胞が、Oct-4及びNanogのそれぞれの少なくとも約70%を発現する、実施形態16に記載の方法。
【0111】
実施形態21-前記未分化細胞が、SSEA-5の少なくとも約80%、TRA-1-60の少なくとも約80%、Oct-4の少なくとも約70%、及びNanogの少なくとも約70%を発現する、実施形態16に記載の方法。
【0112】
組成物
別の態様では、ヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを含む懸濁性増殖複合体組成物が本明細書で提供される。
【0113】
ヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス、及びマイクロキャリアについては、本明細書の他の箇所で詳細に説明されている。
【0114】
増殖複合体の範囲は変動し得る。以下の表では、複合体成分の範囲が、ECM成分の単位を変えて列挙される。
【0115】
【表1】
【0116】
ECM成分は、ラミニン511E8フラグメントの分子量(150KDa)を使用して、mol/cmで表すことができる。
【0117】
【表2】
【0118】
ECM成分はまた、アボガドロ数(6.022×1023)を乗じた分子量(150KDa)を用いることにより、分子数/cmで表すことができる。
【0119】
【表3】
【0120】
いくつかの実施形態では、以下の仕様パラメータを拡張することができる:
hESCの数(細胞数) - マイクロキャリア1cmあたり4,000~600,000細胞;
ラミニン511E8フラグメント(マイクロキャリア1cmあたりのμg) - 0.125μ/cm以上
【0121】
いくつかの実施形態では、組成物は、成長培地をさらに含む。本開示に従って利用され得る市販の基礎培地の非限定的な例は、NUTRISTEM(登録商標)(ESC分化のためのbFGF及びTGFなし、ESC増殖のためのbFGF及びTGFあり)、NEUROBASAL(商標)、KO-DMEM、DMEM、DMEM/F12、CELLGRO(商標)幹細胞成長培地、またはX-VIVO(商標)を含む。基礎培地には、細胞培養を扱う当技術分野で知られている様々な薬剤を補充することができる。以下は、本開示に従って使用されることになる、培養物に含まれ得る様々な補足物への非限定参照である。すなわち、ノックアウト血清代替物(KOSR)、NUTRIDOMA-CS、TCH(商標)、N2、N2誘導体、もしくはB27または組み合わせなどであるがこれらに限定されない血清または血清代替物含有培地、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン及びゼラチンなどであるがこれらに限定されない細胞外マトリックス(ECM)成分である。そして、ECMは、成長因子のTGFI3スーパーファミリーの1つ以上のメンバー、すなわち、ペニシリン及びストレプトマイシンなどであるがこれらに限定されない抗菌剤、及びBDNF、NT3、NT4などであるがこれらに限定されない、培養物中のSCの生存を促進する役割を果たすことが知られている非必須アミノ酸(NEAA)であるニューロトロフィンを運ぶために使用され得る。
【0122】
上記のように、マイクロキャリアは、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーンのうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、表面修飾ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、化学修飾ポリスチレンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、架橋デキストランから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、セルロースから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、アクリルアミドから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コラーゲンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、アルギン酸塩から構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ゼラチンから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、ガラスから構成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、DEAE-デキストランから構成される。
【0123】
上記のように、マイクロキャリアは、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0124】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせでコーティングされていてもよい。いくつかの実施形態では、ラミニンは、ヒトラミニン511である。
【0125】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、コーティングされていない。
【0126】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、25cm~7,500cm、例えば、約25cm、50cm、75cm、100cm、125cm、150cm、175cm、200cm、225cm、250cm、500cm、625cm、750cm、1,000cm、1,250cm、5,000cm、または7,500cmの表面積を有する。表面積は、端点を含む列挙された範囲内の任意の値または部分範囲であってもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは、プロタミンまたはポリリジンと結合している。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは中性である。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは負に帯電している。いくつかの実施形態では、マイクロキャリアは親水性である。
【0128】
本明細書に記載の実施例及び実施形態が例証のみを目的とするものであり、それを考慮した様々な修正または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書に引用される全ての出版物、特許、及び特許出願は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0129】
追加の実施形態
本開示は、以下の例示的な実施形態を提供する。
【0130】
実施形態22-ヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを含む、懸濁性増殖複合体組成物。
【0131】
実施形態23-成長培地をさらに含む、実施形態22に記載の組成物。
【0132】
実施形態24-前記マイクロキャリアが、ポリスチレン、架橋デキストラン、磁性粒子、マイクロチップ、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーンのうちの1つ以上を含む、実施形態22または実施形態23に記載の組成物。
【0133】
実施形態25-前記マイクロキャリアが、球形、平滑、マクロ多孔性、棒状、またはそれらの組み合わせである、実施形態22~24のいずれかに記載の組成物。
【0134】
実施形態26-前記マイクロキャリアが、マトリゲル、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている、実施形態22~25のいずれかに記載の組成物。
【0135】
実施形態27-前記ラミニンが、ヒトラミニンである、実施形態26に記載の組成物。
【0136】
実施形態28-前記ヒトラミニンが、ヒトラミニン511E8フラグメントである、実施形態27に記載の組成物。
【0137】
実施形態29-前記マイクロキャリアが、コーティングされていない、実施形態22~28のいずれかに記載の組成物。
【0138】
実施形態30-前記マイクロキャリアが、プロタミンまたはポリリジンと結合している、実施形態22~29のいずれかに記載の組成物。
【0139】
実施形態31-前記マイクロキャリアが、中性であるか、または負に帯電している、実施形態22~30のいずれかに記載の組成物。
【0140】
実施形態32-前記マイクロキャリアが、中性である、実施形態31に記載の組成物。
【0141】
実施形態33-前記マイクロキャリアが、負に帯電している、実施形態31に記載の組成物。
【0142】
実施形態34-前記マイクロキャリアが、親水性である、実施形態22~29のいずれかに記載の組成物。
【実施例
【0143】
実施例1:hESC増殖の方法
hESC生産のスケールアップが、多くの成長プラットフォームで行われている。成長中のhESC細胞懸濁液から、あるいはローラーボトルなどの2次元フラスコ、細胞工場または3次元中空糸、及びBioNocII及びFibra Cell discなどのマクロキャリアに付着させる。
【0144】
完全に制御された閉鎖システムが、単純な哺乳類細胞の成長に長年使用されてきた。それらのシステムは、大量の工業用抗体及びタンパク質の製造を可能にした。これらのシステムのほとんどは、もともと成長している細胞、または単一細胞として懸濁液中で成長するように適応させた細胞を必要とする。懸濁液中でhESCを増殖させる初期の試みは、それらが多能性を失い、自発的に分化する傾向がある凝集体を形成したため、成功しなかった。ほとんどの場合、単一細胞懸濁液として成長するhESCへの適応は、遺伝的安定性を損ない、核型異常を引き起こした。最近、このような方法論が大幅に改善された(AMIT Michal,Itzkvitz Eldor Joseph 特許番号EP2059586B1,US9040297B2)。その革新性は、無血清、無血清代替物、ゼノフリー、フィーダーフリー、及びタンパク質キャリアフリーで、いかなる種類の基質またはコーティングにも付着させることなくhESCを成長させることにある。これは、可溶性インターロイキン-6受容体(sIL6R、>10ng/ml)、可溶性インターロイキン-6(IL6)、白血病抑制因子(LIF、1000~3000u/ml)、ならびにbFGF、TGFb1及びTGFb3の添加によって部分的に可能になった。
【0145】
いくつかの研究では、マイクロキャリアを使用してhESC培養物を成長させている。接着細胞が成長するための表面を提供しながら溶液に懸濁するというマイクロキャリアの特性は、閉鎖され制御された環境で接着細胞培養物を成長させるのに理想的であった。大量生産のためにマイクロキャリアを使用する潜在的な利点は、表面積対体積比が、従来の静的培養プロセスよりも大幅に増加するため、細胞密度が増加し、必要なフットプリントが減少し得ることである。
【0146】
多くの異なる種類のマイクロキャリア(MC)が市販されている。MCは、HyQSphere(HyClone)及びHillex(SoloHill Engineering)ブランドなどのポリスチレンから作製することも、Cytodexブランド(GE Healthcare)などの架橋デキストランから作製することもできる。ほとんどのマイクロキャリアは球形かつ平滑であるが、他には、Cytoporeブランド(GE)などのマクロ多孔性の表面を持つものや、DE-53(Whatman)などの棒状キャリアなどの代替物を持つものもある。追加の技術的進歩としては、ビーズ(Global Cell SolutionsのGEM粒子)からの細胞分離に役立つ可能性のある、MCへの磁性粒子の注入や、従来のマイクロキャリアの高い表面積対体積比を維持しながら、細胞成長のための従来の平坦な表面を提供するμHex製品(Nunc)などのチップベースのマイクロキャリアが挙げられる。細胞増殖用のマイクロキャリアの選択は簡単なタスクではない。マイクロキャリアの様々な特性は、増殖率、細胞多能性、実行能力(hESCの場合、異なる系統に分化する能力)、遺伝的安定性などに大きく影響する可能性がある。表面化学修飾によっては、細胞接着を改善できるものもある。このような方法には、正電荷または負電荷を加えること、及び細胞外マトリックスタンパク質による任意選択のコーティングが含まれる(Lam 2015 BioResearch Open Access Volume 4.1,Cherian 2020 Frontiers in Pharmacology Volume 11Article 654)。
【0147】
撹拌懸濁液中のマイクロキャリア上で胚性幹細胞(ESC)を増殖させる最初の試みは、2005~2007年に発表された(Fok et al Stem Cells 2005;23:1333-1342,Abranches et al Biotechnol.Bioeng.96(2007),pp.1211-1221,及びStefanie Terstegge & Oliver Brustle US20070264713A1)。MCへのhESCの増殖と継代とは、2009年にCytodex1、3及びSolohilPlastic、Plastic plus、及びHillex II(Nelson,Janssen Biotech Inc,US20180265842A1,US9969972B2)を使用して、MC上の胚体内胚葉細胞及び膵臓細胞、または心筋細胞への分化を含めて実証された(Oh et al.EP2479260B1)。開発されたプロセスのほとんどには、マトリゲルによるMCのコーティングが含まれており、場合によっては、コラーゲンでプレコーティングされたMCのコーティングとして、ラミニンまたはビトロネクチンが使用された。ある研究では、Synthemax(登録商標)IIでコーティングされたMCを使用して、制御環境でhESCの増殖が行われた(Corning,Silva 2015)。これらの研究の主な条件と結果とを表4にまとめる。これらの研究では、まだ大型容器には進展していないが、概して、静的フラスコでの標準的技法に匹敵する結果を打ち立てた。しかし、制御環境での大量生産に向けた次のステップは、本開示の前にはまだなされていない。
【0148】
【表4】
【0149】
GMPグレードのフィーダーフリー及び無血清hESCバンクを、臨床的に承認されたhESC株(HADC102、H1)から以前に生成した。ここでは、iMatrix-511-E8(No.2009-234583/PCTJP2010-067618/WO2011-043405,Miyazaki et al.2012 Nat Commun.2012 Dec 4;3:1236)合成フラグメントを播種溶液に添加することにより、hESCをコーティングしていないフラスコで数回継代してhESCを繁殖させた。この方法論を、スケールアッププロセスの開発のためのMCでのhESC培養のスケールアップに使用した。概念実証研究では、hESC(H1)は、iMatrix-511-E8(0.125μgr/cm)を添加したmTeSRプラス培地で非接着性T25フラスコにて、Synthemax(登録商標)IIまたはEnhanced Attachment(Corning)MCを使用して培養した。
【0150】
コーティングとしてのヒトラミニン511、具体的にはiMatrix-511-E8(ラミニン511の合成画分)を、懸濁液中の特定の2つのMC(その他はPOC研究で試験され、失敗した)と組み合わせて、培養システムでのhESCの増殖を可能にすることで、スケールアップが可能になる。ヒトラミニン511、具体的にはiMatrix E8は、スケールアップシステムでMCをコーティングするために、初めてここで使用した。以前の出版物は、ラミニンでコーティングされた組織培養でのhESCの培養、または概して全てのタンパク質マトリックス(マトリゲル、コラーゲン、ゼラチン、ビトロネクチン、ラミニン、またはそれらの誘導体もしくは組み合わせ)をカバーする様々な基質を有した異なるMCでのhESCの培養について教示している。
【0151】
上記のように、この組み合わせにより、hESCの増殖にシングルユースのバイオリアクターを使用することを意図する場合、大規模への移行がはるかに簡単に、かつ直線的に行えるようになる。
【0152】
追加のポイントとして、コーティング手順は、iMatrix 511 E8のhESCに対する高い特異性を利用して行ったため、細胞播種前に基質をプレコーティングするための薬剤としてではなく、むしろ、プロセスを簡略化し、MCと接触する前に細胞懸濁液に直接この薬剤を添加することで使用した。このように、細胞を播種するとき、MCにはプレコーティングしないが、播種溶液にiMatrix 511 E8が含まれていると、その特定のMCへの特定の付着が強化される。
【0153】
現在の標準的技法では、マイクロキャリアは細胞接種前にコーティングされる。プレコーティングステップの期間は、37℃で4時間から4℃で1か月までと非常に可変的であり、長時間の静的なインキュベーションではMCがコンパクトになり、表面の一部は隣接するビーズと接触しているためにコーティングしにくくなるので、全ての表面で均一になるようにコーティング手順を制御することは困難である。MC平衡化及び細胞接種の前に、成長培地中のMCに対する平衡化ステップより先に、コーティング溶液を完全に除去する必要がある。ラミニンコーティングは低湿度に敏感であるため、コーティング除去ステップはリスクを伴う。ラミニンが乾燥すると、接着特性が変化する。大容量のスケールアップしたシステムでは、このステップは、播種した細胞の数に影響を与える可能性があるだけではなく、細胞の特性を変化させる可能性があるので、重要である。これまでに記載したhESC増殖システム及び技術に対する本開示の革新性は、hESCスケールアップシステムの簡便な接種を可能にする単一ステップでの成分の組み合わせまたは接種にある。特に、本明細書に記載のシステム及び方法は、上記の単一ステップである播種ステップ、すなわち、(a)成長培地でヒト胚性幹細胞、細胞外マトリックス成分(ECM)、及びマイクロキャリアを同時に組み合わせて、懸濁性増殖複合体を形成することと、(b)懸濁性増殖複合体を一定期間培養することとを含む。例えば、スケールアップしたシステム(特定のMCタイプ、細胞を含むiMatrix511E8)に接種するために、関連する全ての材料を共に混合することにより、プレコーティングと、その後の別のステップである播種とを行う必要がない。これには、GMP条件下で閉鎖されかつ制御された環境でのhESCの増殖も含まれる。スケールアップシステム用のこれらの材料の特定の組み合わせにより、容易かつ安全にGMPへの移行が可能になる。
【0154】
結果
播種を、未処理のT25(Corning)において、Synthemax(登録商標)IIまたはEnhanced Attachment(Corning)MC上に20,000細胞/cmで2時間行った。播種ステップの最後に、8mlのmTeSR plusを添加した。培地の80%を24時間ごとに交換し、乳酸レベル及び細胞形態(図1及び表6)を監視した。採取は、TrypLE Selectを使用して播種後4日目に行った。細胞を70μmストレーナーでろ過してMCを除去した。細胞をCS10で凍結保存した。TC処理フラスコでの追跡継代(P2)の後、解凍した細胞の多能性を評価した(表5、SSEA-5/TRA-1-60、Oct4/Nanog)。
【0155】
表6に要約されている研究の結果は、両方のタイプのMCで細胞の多能性(SSEA-5/TRA-1-60>98%、Oct-4の割合/Nanog>84%)と自己複製(P1~4、P2~3における集団倍加(PDL))とを低下させることなく、MCでの効率的なhESCの増殖が達成されたことを示している。
【0156】
【表5】
【0157】
【表6】
【0158】
実施例2:製造能力とスケールアップ計画
完全に統合されたチームには、PD、QC、QA、及び製造が含まれる。PSC技術の世界的な専門家は、細胞を特定の機能系統に分化させるよう導いた。マイクロキャリアを使用したバイオリアクターでのプロセス開発、製剤化、及び大量生産のための経験豊富なチームが存在する。社内に特化したcGMP生産能力には、1)2つの独立したクリーンルーム、2)バイオリアクター細胞生産(現在、バッチあたり50億個の細胞)、及び3)充填/仕上げ能力が含まれる。
【0159】
実施例3:hESCの増殖をスケールアップするためのシステム
上記のように、単一ステップで成分を組み合わせることにより、本開示の教示に従って、hESCスケールアップシステムの簡便な接種が可能になる。現在の標準的技法では、マイクロキャリアは細胞接種前にコーティングされる。プレコーティングステップの期間は、37℃で4時間から4℃で1か月までと非常に可変的であり、長時間の静的なインキュベーションではMCがコンパクトになり、表面の一部は隣接するビーズと接触しているためにコーティングしにくくなるので、全ての表面で均一になるようにコーティング手順を制御することは困難である。MC平衡化及び細胞接種の前に、成長培地中のMCに対する平衡化ステップより先に、コーティング溶液を完全に除去する必要がある。ラミニンコーティングは低湿度に敏感であるため、コーティング除去ステップはリスクを伴う。ラミニンが乾燥すると、接着特性が変化する。大容量のスケールアップしたシステムでは、このステップは、播種した細胞の数に影響を与える可能性があるだけではなく、細胞の特性をも変化させる可能性があるので、重要である。
【0160】
本開示の革新性は、プレコーティングと播種の追加ステップとを必要とせずに、スケールアップしたシステム(特定のMCタイプ、細胞を含むiMatrix511E8)に接種するために、全ての関連材料を共に混合する、上述の播種ステップを含むところにある。これには、GMP条件下で閉鎖されかつ制御された環境でのhESCの増殖も含まれる。スケールアップシステム用にこれらの材料を特定の組み合わせにすることで、容易かつ安全なGMPへの移行が可能になる。
【0161】
ここで紹介するプロセス(図3)には、従来のフィーダーを使用しない2次元培養としてのhESCの解凍と増殖とが含まれる。次に、hESCを採取し、iMatrix-511E8を培地に補充したMC上のhESC増殖スケールアップシステムに、それを直接播種する。スケールアップシステムでのhESC増殖の終わりに、採取した細胞を、さらなる増殖のために、hESC多能性バンクとして凍結保存すること、及び/または直接継続して分化を開始することができる。
【0162】
細胞成長の評価では、いくつかのパラメータを評価することができる:
1)乳酸測定結果 - 培養に沿った培地中の乳酸濃度の増加は、hESC培養中の生細胞数に比例する。
2)形態学的評価 - スケールアップシステムでのhESC増殖中に観察されるビーズの塊は、培養中の細胞成長を反映している。
3)継代パラメータ - 収率
パラメータに加えて、細胞の採取密度(生細胞/cm)。
【0163】
他のhESC特性評価方法を使用して、hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を評価した:
1)多能性マーカーの発現 - hESC増殖スケールアップシステムでの培養から凍結保存された採取細胞を、4つのよく知られた多能性マーカー(SSEA-5/TRA-1-60、Oct-4/Nanog)で染色し、フローサイトメトリーで分析した。これらのマーカーの高度発現により、hESCスケールアップ培養システムから採取した細胞の同一性及び多能性の状態を確認した。
2)核型分析 - 発育の中で細胞を、hESCスケールアップ培養システムから採取した後に培養し、固定した。細胞核型は、遺伝的安定性を確保するためにギムザバンディング法によって試験した。
【0164】
いくつかの種類のMCでのhESCの培養
hESCをTフラスコから採取し、播種培地にiMatrix-511E8を補充した数種類のMCに、1回の接種ステップで播種した。細胞をhESCスケールアップシステムで4日間継代培養した。hESC増殖スケールアップシステムで評価したMCタイプの詳細を表7に示す。さらに、他のタイプのマイクロキャリア及びマクロキャリア(Pall Solohill Star-Plus、Pall Solohill Hillex(登録商標)II、Pall Solohill Plastic、Pall Solohill Plastic Plus、ESCO BioNOC II、CelliGen Fibracell Disk、Advanced Biometrix SphereCol(登録商標)Type I コラーゲンコーティングビーズ、Cytodex(登録商標)3)でのhESCの培養を試験した(データは示していない)。これらのマイクロキャリア及びマクロキャリアは、MCの最初の選別後は継続を止めた。
【0165】
【表7】
【0166】
表7に示す両方のグループからのhESC増殖スケールアップシステムの形態評価を図4に示す。
【0167】
hESC増殖スケールアップシステムにおける培養後1継代の細胞における採取密度、収率及び多能性マーカーの発現に加えて、2日目から4日目までの培養培地中の乳酸の上昇を表8に示す。
【0168】
【表8】
【0169】
さらなる培養のために播種した採取細胞の形態評価を図5に示す。細胞は典型的なhESCの形態を示しており、細胞質に対する核の比率が高いコンパクトな細胞のコロニーとして組織化されている。
【0170】
細胞は、hESC増殖スケールアップシステム条件下のCorning Synthemax(登録商標)II及びCorning Enhanced Attachment MCで、正常に培養され、多能性hESCが生成された。
【0171】
hESC増殖スケールアップシステムの接種前採取方法
図3に示すように、完全なプロセスには、hESC増殖スケールアップシステムに接種する前に、hESCを2次元培養物として培養することが含まれる。hESC増殖スケールアップシステム接種の前に、従来のフィーダーを使用しない2次元培養に由来する2つの採取方法(非酵素的 - 細胞の小塊が得られる、酵素的 - 単一細胞が得られる)を使用した。両方の採取法を、上記の両方の種類のMCについて試験した。グループを表9に示す。
【0172】
【表9】
【0173】
表9のhESC増殖スケールアップシステムでの培養の形態評価を図6に示す。さらに、全てのグループからの細胞の培養パラメータと多能性マーカーの発現とを表10に示す。
【0174】
【表10】
【0175】
採取密度及び収率に加えて、多能性マーカーの発現(全ての試験済みマーカーで86%を超える陽性)、培養中の乳酸濃度の上昇は、hESC増殖スケールアップシステムでの接種前の採取細胞が、TrypLE SelectだけでなくReLeSRでも達成されたことを示した。どちらの方法も、hESC増殖スケールアップシステムで接種する前にhESCを採取するのに適している。
【0176】
両方のMC(Corning Synthemax(登録商標)II及びCorning Enhanced attachment)と両方の採取法(ReLeSR及びTrypLE Select)とは、hESC増殖スケールアップシステムに適している。さらに、上記のデータに基づいて、MCからTrypLE Selectを使用して採取し、hESC増殖スケールアップシステムでの追加の継代のために播種したhESCの培養が実現可能であると仮定することは合理的である。
【0177】
hESC増殖スケールアップシステムの培養プラットフォーム
hESC増殖スケールアップシステムでのhESCの増殖を、様々な培養プラットフォームで、様々な作業容量とMC表面積とで試験した。いくつかの培養プラットフォームの例を表11に示す。
【0178】
【表11】
【0179】
表11のプラットフォームからのhESC増殖スケールアップシステムの形態評価を図7に示す。
【0180】
培養に沿って乳酸濃度を測定することにより、培養物の成長を評価した。さらに、採取密度と収率とを算出した。培養の最後に、多能性マーカー発現のフローサイトメトリー分析によって、hESCの同一性及び多能性を評価した。さらに、発育中に、hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞の核型を試験した。これらの結果を表12に要約する。
【0181】
【表12】
【0182】
hESC増殖スケールアップシステムにおけるhESCの成長を、異なるMC表面積(25cm、125cm、250cm、625cm、1,250cm及び7,500cm)及び作業容量(10mL、50mL、100mL、250mL、500mL、3,000mL)の、いくつかの培養容器(未処理T25、0.1L PBSホイール、0.5L PBSホイール、3L PBS-MAG)で実現させた。hESC増殖スケールアップシステムで培養すると、培養容器や培養条件を変更した後でも、多能性マーカーの非常に高度な発現が維持された。
【0183】
効率的な接種のためのiMatrix-511E8濃度
hESC増殖スケールアップシステムでの接種を、2つのiMatrix-511E8濃度で行った。試験した条件と細胞成長(4日間の継代の2日目~4日目の乳酸濃度の増加、及び細胞-MC凝集塊の形成によって評価した)とを、表13及び図8にまとめる。
【0184】
【表13】
【0185】
接種中に0.125及び0.250ug/cmのiMatrix-511E8を使用した場合に、hESC増殖スケールアップシステムにおけるhESCの増殖を達成した。さらに、上記のデータに基づいて、0.125~0.250ug/cmのiMatrix-511E8濃度が、hESC増殖スケールアップシステムにおけるhESCの効率的な成長をもたらすようになると予測することができる。
【0186】
hESC増殖スケールアップシステムにおけるMCでのhESCの継代継続期間
hESC増殖スケールアップシステムでのhESC培養の柔軟性を確保するために、4日間及び5日間の継代を評価した。異なる継代継続期間のhESC播種密度の調整を行った。4日間の継代後(グループ5.1)及び5日間の継代後(グループ5.2)に採取したhESCの採取密度、採取時の乳酸、形態及び多能性マーカー発現の比較を表14及び図9に示す。採取時の形態評価と乳酸とは、4日~5日の間の継代培養で類似性を示した。さらに、多能性マーカーの発現は両方のグループで高かった(全てのマーカーで>89%)。
【0187】
【表14】
【0188】
4日間及び5日間の継代継続期間の両方で、hESC増殖スケールアップシステムでのhESC培養を実現させた。継代継続期間に従って播種密度を調整することにより、hESC培養物は、同様の乳酸濃度と採取密度とに達した。さらに、播種密度を調整することにより、hESC増殖スケールアップシステムにおけるMC上でhESCを培養することは、3~7日間の継代で遂行することが可能である。
【0189】
hESC増殖スケールアップシステムで培養した細胞からのhESCバンクの凍結保存
hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を凍結保存した。次に、解凍した細胞を多能性マーカーの発現について試験し、2次元の従来のフィーダーフリー培養としてさらに培養するために播種した。解凍した細胞は、hESC増殖スケールアップシステムでの培養後に、hESCの形態を維持することに加えて、多能性マーカーの高度な発現を示した(表15)。hESC増殖スケールアップシステムにおける培養パラメータと多能性マーカー発現とを表15に示す。追跡のため、解凍後2日目及び5日目に、従来の2次元フィーダーフリーフラスコへ播種したものとともに、hESC増殖培養システムにおけるMC上で培養中の細胞の形態を図10に示す。
【0190】
【表15】
【0191】
hESC増殖スケールアップシステム細胞からのhESCバンクの凍結保存が達成された。細胞は、解凍した細胞を再播種した後、2次元培養としてhESCの典型的な形態を維持することに加えて、多能性マーカーの高度発現を示した(試験した全てのマーカーで95%を超える陽性)。
【0192】
hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を、2次元hESC培養として、さらに培養する
hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞は、hESC2次元培養としてさらに増殖させることができる。次の例では、hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を、フィーダーを使用しない従来の2次元培養でさらに培養した。hESC増殖スケールアップシステムで培養された細胞の形態に加えて、2回連続継代の2次元培養としての培養パラメータ(採取時の乳酸)を、表16及び図11に示す。
【0193】
【表16】
【0194】
hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞は、高度な多能性マーカー発現を示した(試験した全てのマーカーで94%を超える)。さらに、hESCの典型的な形態が、2次元のさらなる継代の培養の両方で観察された。iMatrix-511E8を直接コーティングしたフラスコで、hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞のさらなる培養を実現させた。
【0195】
hESC増殖スケールアップから採取した細胞の分化
多能性幹細胞の主な特徴は、3つの胚葉全てに分化する能力である。hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を播種し、確立されたプロトコルに従って樹状細胞に分化させた。分化終了時の樹状細胞マーカーの発現を表17に示す。
【0196】
【表17】
【0197】
樹状細胞の分化過程に沿った細胞の形態評価を図2に示す。
【0198】
hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞の樹状細胞への分化が、効率的に達成された。hESC増殖スケールアップシステムから採取した細胞を、任意の系統及び細胞型へ分化させることは、採取の有無にかかわらず、hESC増殖スケールアップシステムの細胞から可能であると推定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】