(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】異所性骨形成副作用の軽減で治療効果が増進した骨形成タンパク質-9、10の変異体及びこれを含む薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/51 20060101AFI20230830BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230830BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230830BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230830BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230830BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230830BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230830BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230830BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230830BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230830BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230830BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230830BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20230830BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230830BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230830BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230830BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230830BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230830BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230830BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230830BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C07K14/51
A61K38/02 ZNA
A61K47/64
A61K39/395 Y
A61P35/00
A61P29/00
A61P1/16
A61P1/00
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P25/28
A61P3/06
A61P9/12
A61P25/00
A61P19/02
A61P21/02
A61P17/00
A61P17/06
A61P37/02
A61P39/06
A61P7/06
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/62 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023510324
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 KR2021010744
(87)【国際公開番号】W WO2022035260
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0101759
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523044378
【氏名又は名称】ナイベック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NIBEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】チョン ジョンピョン
(72)【発明者】
【氏名】パク ユンジョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,グクジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンウ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC11
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
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4C084ZC21
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4C084ZC37
4C085AA25
4C085BB11
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4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、BMP-9の変異体及びその誘導体に関するものであって、前記変異体は、野生型BMP-9に比べて、内皮細胞特異的な信号伝逹は刺激し、骨形成と関連した信号伝逹は刺激しないので、腫瘍、心血管疾患、線維症疾患、炎症性疾患、代謝性疾患、及び自己免疫疾患を含む多様な疾患に対する治療効果は高め、副作用は低下させ得るという効果を有する。
【選択図】
図4b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2乃至29で構成された群から選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列で表示される骨形成タンパク質-9(BMP-9)変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のBMP-9変異体に免疫グロブリンのFc断片が連結されているBMP-9変異体-Fc融合タンパク質。
【請求項3】
免疫グロブリンのFc断片は、配列番号30のアミノ酸配列で表示されることを特徴とする、請求項2に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質。
【請求項4】
BMP-9変異体及び免疫グロブリンのFc断片は、リンカーによって連結されていることを特徴とする、請求項2に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質。
【請求項5】
前記リンカーは、配列番号31のアミノ酸配列で表示されることを特徴とする、請求項4に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質。
【請求項6】
請求項1に記載のBMP-9変異体又は請求項2乃至請求項5のいずれか1項のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記腫瘍は、乳癌、肺癌、結腸癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌、脳腫瘍、前立腺癌、皮膚癌、骨肉腫、及び血液癌で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項6に記載の腫瘍治療用薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のBMP-9変異体;又は請求項2~5のいずれか1項に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む炎症性疾患治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記炎症性疾患は、脂肪肝炎、肝炎及び腸炎で構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とする、請求項8に記載の炎症性疾患治療用薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のBMP-9変異体;又は請求項2~5のいずれか1項に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む代謝性疾患治療用薬学的組成物。
【請求項11】
前記代謝性疾患は、肥満、体重減少、糖尿病、粥状硬化症、動脈硬化症、心肺疾患、神経疾患、アルツハイマー疾患、認知障害、酸化的ストレス、皮膚疾患、皮膚老化、UV照射による損傷、高血圧、高コレステロール血症(LDL、HDL、VLDL)、高脂血症(トリグリセリド)、免疫欠乏、癌、及び代謝性症侯群で構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とする、請求項10に記載の代謝性疾患治療用薬学的組成物。
【請求項12】
前記心肺疾患は、心筋梗塞、高血圧、肺高血圧症、心筋線維症、及び肺線維症で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項11に記載の代謝性疾患治療用薬学的組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のBMP-9変異体;又は請求項2~5のいずれか1項に記載のBMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む自己免疫疾患治療用薬学的組成物。
【請求項14】
前記自己免疫疾患は、インスリン-依存性糖尿病、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎、関節リウマチ、骨関節炎、重症筋無力症、甲状腺炎、ぶどう膜炎、橋本甲状腺炎、甲状腺中毒症、悪性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性白血球減少、原発性硬化性胆管炎、アルコール性/非アルコール性脂肪肝炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性腸疾患、乾癬、シェーグレン症侯群、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、多発性筋炎、皮膚筋炎、円板状LE、及び全身性エリテマトーデスで構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とする、請求項13に記載の自己免疫疾患治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BMP-9の変異体及びその誘導体に関し、より詳細には、腫瘍、心血管疾患、線維症疾患、及び代謝性疾患を含む多様な疾病、障害及び疾患の治療において、異所性骨形成副作用の軽減で治療効果が増進したBMP-9の変異体及びその誘導体に関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
BMP-9は、既存に知られているBMP受容体と結合するのではなく、独特の受容体と結合する特性を有しており、多くの細胞内プロセスで多様な役割をするので他のBMP類と区分される。例えば、BMP-9は、肝で生成され、脂質代謝を抑制することができ、肝のぶどう糖生成を制御することができ、心血管系では、内皮細胞の成長と移動を調節し、心筋芽細胞の線維化を抑制する。特に、心血管系では、BMP-10と共に、内皮細胞のALK-1受容体、BMPR-II及びエンドグリン(Endoglin)と結合し、血管の恒常性及び血圧調節にも関係する。多数の文献では、該当の受容体の欠損などによって発生した肺高血圧症、心筋線維症に対してBMP-9及びBMP-10を適用したとき、該当の症状が軽減することを報告したので、治療用物質としてのBMP-9の活用性が高いことが分かる。また、BMP-9は、腫瘍の種類によって前立腺癌細胞の死滅を誘導することができ、骨組織では骨形成分化を調節できる強力なBMPのうち一つであって、インスリン感受性の改善効果もあり、新しい抗-糖尿病又は抗-肥満治療剤のターゲットとして潜在性が高いものとして知られている。
【0004】
これによって、BMP-9を含む成長因子をターゲットとする新しい治療用薬剤の開発のために、野生型成長因子をベースにして一部のアミノ酸を置換、導入、及び除去して突然変異を製作することによって、成長因子の生物学的活性を高めた試みがあった(WO2010/065439)。しかし、BMP-9を含む成長因子を生物治療剤として直接使用することと連関した問題は、異所性骨形成及び変形成長因子作用が同時に発現されることである。これは、BMP-9を含む成長因子の受容体の複雑性のためであって、異所性骨形成と関連した副作用を軽減した事例は未だに不足している。BMP-9及びBMP-10の受容体は、主に血管内皮細胞に存在するが、Alk-1及びBMPR-IIのリガンドとして作用しながら血管機能調節に関連するものとして知られている。すなわち、BMPR-IIがALK-1と複合体を形成し、選択的にBMP-9、10と反応するが、このとき、受容体が欠損したり、BMP-9、10が欠乏する場合に頻発する疾患は、肺高血圧症及び心筋線維症である。特に、BMP-9は、内皮細胞に直接作用しながら血管内壁のインテグリティ(integrity)を増進させ、血管安定性を増進させることによって血管細胞死滅や新生血管形成を抑制する。特に、他の類のBMP、例えば、BMP-2、4、6などと異なり、BMP-9は、骨形成を起こさない低濃度でも内皮細胞の活性を促進させるものとして知られている。しかし、高濃度の適用時には、BMP-9も異所性骨形成を誘導することができ、実際に臨床に適用するとき、異所性骨形成機能が制御された状態の変異体の適用が必要な状況である。
【0005】
また、成長因子の特性上、野生型の体内半減期が非常に短いことも、治療剤として商用化しにくい点として指摘されてきた(Kharitonenkov,A.et al.,Journal of Clinical Investigation,115:1627-1635,2005)。BMP-9の生体内半減期は、マウスでは10分乃至1時間、猿では1.5時間乃至2時間と短いので、これを治療剤として開発すると毎日投与しなければならないという短所がある。現在まで、組換えタンパク質の生体内半減期を増加させるために多様な技術が報告された。タンパク質に高分子物質であるポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)を連結して分子量を増加させ、腎排泄を抑制することによって体内残留時間を増加させた例がある(WO2012/066075)。また、成長因子分子に、ヒトアルブミンに結合する脂肪酸を融合させ、半減期を向上させた例もある(WO2012/010553)。さらに、ヒト成長因子受容体単独又はベータ-クロトとの複合体に特異的に結合するアゴニスト抗体を作り、成長因子の作用メカニズムと同一の薬理学的活性を示しながら半減期を増加させた例もある(WO2012/170438)。また、成長因子分子に免疫グロブリンIgGのFcを連結した持続型融合タンパク質を作り、半減期を向上させた例もある(WO2013/188181)。
【0006】
そこで、本発明者等は、異所性骨形成を抑制し、作用時間を延長させるためのBMP9ベースの治療用変異体タンパク質の研究に邁進した結果、一部の変異体の場合、異所性骨形成が阻害され、生体内半減期が増加することを確認することによって、本発明を完成するに至った。
【0007】
本背景技術部分に記載された前記情報は、本発明の背景に対する理解を向上させるためのものに過ぎないので、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって、既に知られている先行技術を形成する情報を含まない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kharitonenkov,A.et al.,Journal of Clinical Investigation,115:1627-1635,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、異所性骨形成副作用が軽減された骨形成タンパク質-9(BMP-9)変異体及びその融合体を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)変異体及びその融合体の多様な治療的用途を提供することにある。
【0016】
本発明の更に他の目的は、前記BMP-9変異体又はその融合体を含む腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、前記BMP-9変異体又はその融合体を投与する段階を含む腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0018】
本発明の更に他の目的は、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療のための前記BMP-9変異体;及びその融合体の用途を提供することにある。
【0019】
本発明の更に他の目的は、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造において、前記BMP-9変異体及びその融合体の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明は、配列番号2乃至29で構成された群から選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列で表示される骨形成タンパク質-9(BMP-9)変異体を提供する。
【0021】
また、本発明は、前記BMP-9変異体に免疫グロブリンのFc断片が連結されているBMP-9変異体-Fc融合タンパク質を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む炎症性疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0024】
また、本発明は、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む代謝性疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0025】
また、本発明は、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む自己免疫疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0026】
また、本発明は、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を投与する段階を含む腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療のための前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質の用途を提供する。
【0028】
また、本発明は、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造において、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【0030】
【
図2】BMP-9、BMP-9変異体及びFcと融合されたBMP-9が導入される発現ベクターを示す図である。
【0031】
【
図3】
図3aは、発現及び精製されたBMP-9変異体のSDS-PAGE、ウェスタンブロット(western blot)結果を示す図で、
図3bは、発現及び精製されたFcと融合されたBMP-9のSDS-PAGE、ウェスタンブロット結果を示す図である。
【0032】
【
図4】
図4aは、発現及び精製されたBMP-9及び変異体の血管内皮細胞に対する信号伝逹活性を示す図で、
図4bは、骨形成信号伝達活性を示す図である。
【0033】
【
図5】心筋線維細胞でのBMP-9変異体の線維症関連マーカーの抑制効果を示す図である。
【0034】
【
図6】血液で精製されたBMP-9及びFcが融合されたBMP-9の血中濃度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同一の意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法及び以下で記述する実験方法は、本技術分野でよく知られており、通常的に使用されるものである。
【0036】
本発明では、BMP-9遺伝子をクローニングし、これに対する多様な変異体を製作した後、これを哺乳類細胞(CHO細胞及びヒト胎児腎細胞株)で発現及び精製し、腫瘍、炎症性疾患、心血管疾患、代謝性疾患及び自己免疫疾患に効果が良いBMP-9変異体を選別し、これにFcを融合させることによって血中半減期を増加させることができた。具体的には、本発明では、BMP-9タンパク質のうちリストエピトープ(Wrist epitope)及びナックルエピトープ(Knuckle epitope)に該当するアミノ酸配列で1個又は多数個のアミノ酸を置換し、受容体結合力を調節することによって最適なBMP-9治療効果を誘導するように設計した。すなわち、本発明は、内皮細胞特有の信号伝逹は維持しながらも、異所性骨形成は10分の1以下に抑制できる変異体を選別することを目的とした。また、本発明に係る変異体は、マウスの心筋線維細胞(C2C12)での異所性骨形成力が野生型に比べて著しく減少していることをアルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase)活性とアリザリンレッド(Alizarin Red)染色法を通じて確認することができた。
【0037】
したがって、本発明は、一観点において、配列番号1乃至29で構成された群から選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列で表示される骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体に関するものであって、他の観点において、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体に免疫グロブリンのFc断片が連結されているBMP-9変異体-Fc融合タンパク質に関するものである。
【0038】
配列番号1のアミノ酸配列は、BMP-9の野生型を示すものであって、これは、下記のように、ボールド体で表示された信号配列と、下線で表示されたPro-BMP-9の配列とを全て含む。このうち、FFPLADDVTPTKHAIVQTLVHLKF配列は、ALK-1と結合する領域であって、全体のBMP-9の構造から見たとき、リストエピトープに属し、KVGKACCVPTKLSPISVLYK配列は、BMP-2受容体と結合するナックルエピトープに属する。
【0039】
【0040】
前記野生型BMP-9配列で導出された変異体配列は、配列番号2乃至配列番号29のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示され得る。また、これらの変異体は、野生型BMP-9配列で一部のアミノ酸配列が置換されたものである。しかし、本発明に係る変異体は、配列番号で表示された特定のアミノ酸配列に限定されなく、該当のアミノ酸配列と均等なものと見なすことができるアミノ酸配列が本発明の権利範囲に属することは当業者にとって自明であろう。例えば、配列番号2で335番目のアミノ酸は、野生型に比べてAspよりもAlaに置換されているが、このような変異体の核心的構成を除いた残りの配列のうち一部が、BMP-9のタンパク質の機能及び構造に影響を与えないように突然変異している場合であれば、該当の変異体も本発明の権利範囲に属することは当業者にとって自明であろう。よって、本発明は、配列番号2乃至配列番号29のうちいずれか一つのアミノ酸配列において、変異体の核心になるアミノ酸の置換以外の残りの配列の少なくとも95%以上、少なくとも90%以上、少なくとも80%以上、少なくとも70%以上の相同性が認められる変異体も本発明の権利範囲に属するものと理解されるだろう。
【0041】
一方、本発明の変異体は、骨形成タンパク質の他のサブタイプ(subtype)、例えば、BMP-7、10にも適用可能であろう。
【0042】
本発明では、野生型又は変異型のBMP-9の血中半減期を増進させるために、免疫グロブリンのFc断片を融合させ得る。ここで、前記免疫グロブリンのFc断片は、配列番号30のアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。一方、免疫グロブリンのFc断片以外にも、タンパク質に融合されて血中半減期を増加できる多様なペプチドやタンパク質、例えば、アルブミンの融合が可能である。
【0043】
本発明において、前記免疫グロブリンのFc断片は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体のN-末端又はC-末端に連結され得る。
【0044】
本発明において、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体;及び免疫グロブリンのFc断片は、リンカーによって連結されていることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0045】
本発明において、前記リンカーは、配列番号31のアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0046】
本発明において、前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質は、配列番号32又は配列番号33のアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0047】
本発明に係るBMP-9又は変異体、又はその融合タンパク質は、治療用、診断用、又は研究用試薬(reagent)として活用できるが、治療的用途で活用することが最も好ましい。
【0048】
具体的には、本発明は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体;又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物を提供する。
【0049】
本発明において、前記腫瘍は、乳癌、肺癌、結腸癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌、脳腫瘍、前立腺癌、皮膚癌、骨肉腫及び血液癌で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0050】
また、本発明は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体;又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む炎症性疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0051】
本発明において、前記炎症性疾患は、脂肪肝炎、肝炎及び腸炎で構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0052】
また、本発明は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体;又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む代謝性疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0053】
本発明において、前記代謝性疾患は、肥満、体重減少、糖尿病、粥状硬化症、動脈硬化症、心肺疾患、神経疾患、アルツハイマー疾患、認知障害、酸化的ストレス、皮膚疾患、皮膚老化、UV照射による損傷、高血圧、高コレステロール血症(LDL、HDL、VLDL)、高脂血症(トリグリセリド)、免疫欠乏、癌及び代謝性症侯群で構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0054】
本発明において、前記心肺疾患は、心筋梗塞、高血圧、肺高血圧症、心筋線維症及び肺線維症で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0055】
また、本発明は、前記骨形成タンパク質-9(BMP-9)又はその変異体;又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を有効成分として含む自己免疫治療用薬学的組成物を提供する。
【0056】
本発明において、前記自己免疫疾患は、インスリン-依存性糖尿病、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎、関節リウマチ、骨関節炎、重症筋無力症、甲状腺炎、ぶどう膜炎、橋本甲状腺炎、甲状腺中毒症、悪性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性白血球減少、原発性硬化性胆管炎、アルコール性/非アルコール性脂肪肝炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性腸疾患、乾癬、シェーグレン症侯群、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、多発性筋炎、皮膚筋炎、円板状LE及び全身性エリテマトーデスで構成された群から選ばれた1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0057】
前記治療目的のために、本発明での活性型のBMP-9変異体及び誘導体が単独でも投与され得るが、薬学的組成物(剤形)の形態で投与されることが好ましく、滅菌剤形の形態で投与されることが好ましい。
【0058】
本発明において、前記薬学的組成物は、注射剤、経口投与用製剤、水溶液、懸濁液、乳濁液などの液剤(例えば、注射用)、カプセル、顆粒、錠剤、及び粘膜投与製剤で構成された群から選ばれるいずれか一つの剤形に製剤化されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。これらの製剤は、当分野で製剤化に使用される通常の方法又はRemington’s Pharmaceutical Science(最新版)、Mack Publishing Company,Easton PAに開示されている方法で製造可能であり、各疾患又は成分によって多様な製剤に製剤化され得る。
【0059】
一方、本発明の薬学的組成物は、前記治療用BMP-9変異体及び誘導体以外に、薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含むことができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びこれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができる。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、必要によって薬剤学的に許容可能な補助剤をさらに含有することを特徴とすることができる。前記補助剤は、賦形剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、抗菌性保存剤、静菌剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤、酸化防止剤、増粘剤、及び粘度改質剤で構成された群から選ばれる一つ以上であり得るが、これに限定されない。
【0061】
本発明に係る薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内又は局所に適用)することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、及び疾患の重症度などに応じて、その範囲が専門家の所見によって多様に変更されて使用され得る。
【0062】
本発明の一実施様態として、前記タンパク質の1回投与量は、1μg/kg乃至100mg/kg、好ましくは5μg/kg乃至50mg/kgであって、前記タンパク質は、1日1回又は週に1回~3回投与することを特徴とすることができるが、投与量及び投与間隔はこれに限定されない。
【0063】
本発明は、更に他の観点において、前記BMP-9変異体;又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質を投与する段階を含む腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療方法に関するものである。
【0064】
本発明は、更に他の観点において、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の予防又は治療のための前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質の用途に関するものである。
【0065】
本発明は、更に他の観点において、腫瘍、炎症性疾患、代謝性疾患又は自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造において、前記BMP-9変異体又は前記BMP-9変異体-Fc融合タンパク質の使用に関するものである。
【実施例】
【0066】
実施例
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0067】
実施例1.組換えヒトproBMP-9及びproBMP10の製作
【0068】
ヒトpre-proBMP9のオープンリーディングフレーム(open reading frame)を含む全範囲のcDNAをpcDNA3.4ベクターに挿入及びクローニングし(
図2)、これはDNAシーケンシングで確認した。Pro-BMP9の変異体は、QuickChange部位特異的変異導入キット(Site-directed mutagenesis kit)を用いて獲得し、これもDNAシーケンシングで確認した。
【0069】
本発明で使用されたBMP-9野生型及び変異体配列は、次の通りである。
【0070】
配列番号1.野生型潜在性(latent)BMP-9(NIBEC-J)
【0071】
【0072】
野生型配列において、ボールド体は信号ペプチド配列を示し、下線はPro-BMP配列を示し、BMP-9配列には何ら表示もしなかった。
【0073】
PreproBMP9を含有するプラスミドは、CHO-S細胞株にポリエチレンイミン(Polyethylene imine)でトランスフェクション(transfection)させた後、エンハンサー(enhancer)を添加して8日間培養した。発現されたProBMP9及びProBMP10は、ウェスタンブロット方法でantiBMP9抗体及びantiBMP10抗体を用いて測定した。
【0074】
発現されたタンパク質は、1~5リットルの条件培地(Conditioned media)を緩衝液として用いて既に平衡状態に到逹したQ-セファロース(Sepharose)カラムを通じて分離した。カラムに付着した目的タンパク質は、塩化ナトリウム勾配(gradient)によって分画されるようにし、分画されたサンプルは、濃縮後、ゲルクロマトグラフィーを通過して目的分子量を獲得できるようにした。これを通じて獲得したタンパク質は、95%以上の純度を有していることを確認した。
【0075】
実施例2.組換えヒトproBMP-9変異体の製作
【0076】
BMP9やBMP10が血管内皮細胞のALK1受容体に選択的に結合し、これによって心血管系疾患治療剤として有望であるが、これらは、依然として間葉細胞や筋芽細胞(Myoblast)を刺激し、骨形成を促進できる潜在性を有するので、治療剤として開発するときは該当の性格を無力化する必要がある。現在まで、如何なる受容体がBMP9や10の骨分化力と関連するのかは未だに明らかになっていない。本発明の研究者は、BMP-9の構造のうち、リストエピトープ及びナックルエピトープが主要信号伝逹に媒介するリガンド役割をするものと把握したので、これらの配列を調節することによって、内皮細胞信号伝逹は維持しながらも骨分化力を抑制できることを確認した(配列1-29、
図4)。このような変異体は、生体内でも類似する生理活性を有するものと判断されたので、副作用の憂いを最小化しながらも、治療効果を増進できるという利点を提供すると見込まれた。
【0077】
実施例3.内皮細胞でのBMP-9変異体及び誘導体による信号伝逹
【0078】
各ProBMP9変異体の量は、ELISAで測定してから細胞に処理した。血清を添加していない状態で、HUVEC細胞に前記導出された変異体を指示された濃度範囲で加えた。8時間処理した後、細胞を採取し、mRNAを抽出することによってID1及びBMPR-IIの発現を定量(quantitative)PCRで測定した。また、pSmad1/5/8の発現のためには、前記細胞に無血清状態でBMP9変異体を処理した後、これを1時間後に観察した。細胞を溶解バッファー(Lysis buffer)で処理した後で獲得したタンパク質の発現量は、抗pSmad1/5/8抗体に対して免疫ブロット(immunoblotting)を行うことによって測定した。観察の結果(
図4)、各変異体は、ID1及びBMPR-IIを有意に増加させ、増加した量は、野生型BMP-9に比べて大きな差を示さなかったことを確認した。これは、以前の報告でも確認した通り、血管内皮細胞において、BMP9やBMP10がALK1受容体のリガンドとして作用することを確認することができた。文献によると、BMP9は、循環系で内皮細胞の移行、増殖及び内皮細胞による血管新生を抑制するものとして知られている。
【0079】
実施例4.C2C12細胞培養でのBMP9変異体による骨分化信号伝逹
【0080】
マウスの心筋細胞であるC2C12は、間葉系幹細胞と類似する分化力を有するので、骨分化力を観察するために選択された。C2C12細胞は、DMEM培地で0.25%FBS下で16時間培養した後、各BMP9変異体で処理された。その後、72時間さらに培養した後、細胞を1%トリトン(Triton)X-100/PBSで破砕して得たタンパク質に対してALP酵素活性を測定した。ALP酵素活性は、該当の酵素の基質である4-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム塩(nitrophenyl phosphate disodium salt)と反応させて生成される水溶性物質の405nmでの吸光度を測定して確認し、標準物質としてはBMP-9を購入して対照した。観察の結果、各変異体は、標準物質に比べて骨分化力が著しく低下したことを確認することができた(
図4)。これによって形成された各変異体は、前記実施例3での血管内皮細胞信号伝逹は維持しながらも骨形成力が無力化され、治療効果を提供すると同時に、異所性骨形成副作用はないと判断された。
【0081】
実施例5.生体内でのBMP9-Fc誘導体の半減期延長効果
【0082】
BMP-9とBMP-9がFcに融合された誘導体を1mg/kgの用量でマウスの尾静脈を通じて注射した後、一定の時間間隔で血液を採取し、血中BMP-9の量をBMP-9定量キットを用いて測定した。測定の結果(
図5)、Fcが結合されたBMP-9誘導体(配列番号32-33)の場合、著しく増加した血中濃度曲線を獲得できることを確認した。
【0083】
以上では、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は好ましい実施様態に過ぎなく、これによって本発明の範囲が制限されないことは明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の各請求項とそれらの等価物によって定義されると言えるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明では、BMP-9の治療効果を極大化し、副作用は著しく減少できるように変異体を設計し、哺乳類細胞において高効率で発現及び精製すると共に、BMP-9の血中半減期を延長するために免疫グロブリンのFc部位と融合された融合タンパク質をさらに製作した。これらの変異体と融合タンパク質は、試験管内及び動物実験を通じて腫瘍、線維症、心肺血管疾患、肥満及び脂肪肝などの多様な疾患に対して優れた治療効果を発揮するので、これらの疾患治療のための新規の治療剤として活用可能であろう。
【0085】
【配列表フリーテキスト】
【0086】
電子ファイルを添付した。
【配列表】
【国際調査報告】