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特表2023-538029高ピークパワーレーザパルス生成システムおよび高ピークパワーレーザパルス生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】高ピークパワーレーザパルス生成システムおよび高ピークパワーレーザパルス生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20230830BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230830BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H01S3/10 Z
G02B5/18
G02B5/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511584
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2021072100
(87)【国際公開番号】W WO2022033995
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】2008512
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304032424
【氏名又は名称】イマジン・オプチック
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ゴージュ、ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】レベック、ザビエル
(72)【発明者】
【氏名】アイェブ、アダム
(72)【発明者】
【氏名】バウドリーズ、ファヘム
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
5F172
【Fターム(参考)】
2H149AA00
2H149BA06
2H249AA04
2H249AA18
2H249AA50
2H249AA55
2H249AA62
2H249AA64
5F172AE03
5F172AE06
5F172NN11
5F172NR13
5F172NR14
5F172ZZ01
(57)【要約】
【解決手段】本開示の目的は、高ピークパワーレーザパルス生成システム(200)であり、このシステムは、初期ナノ秒レーザパルス(I)を発光する光源(240)と、レーザパルスを伝送するための、シングルコア(212)を有する少なくとも1つの第1マルチモードファイバ(210)を備えたファイバベースデバイスと、回折光学素子(220)および光学システム(221)と、ファイバベースデバイスの上流側に配置された空間的整形モジュール(230)と、を備える。回折光学素子および光学システムは、いずれもファイバベースデバイスの上流側に配置され、初期ナノ秒レーザパルスの各々からファイバベースデバイスの入力部におけるレーザパルス(I)を生成するように構成される。レーザパルス(I)の各々の第1マルチモードファイバの入力面における空間強度分布は、スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分と合算されるトップハット型の低空間周波数成分を含む。空間的整形モジュールは、第1電場を、少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントなN個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、N≧2である。スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分のコントラストは、空間的整形モジュールがないときに定義される初期コントラストに比べ低減されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ピークパワーレーザパルス生成システム(200)であって、
-初期ナノ秒レーザパルス(I)を発光する光源(240)と、
-前記レーザパルスを伝送するための、シングルコア(212)を有する少なくとも1つの第1マルチモードファイバ(210)を備えたファイバベースデバイスと、
-回折光学素子(220)および光学システム(221)と、
-前記ファイバベースデバイスの上流側に配置された空間的整形モジュール(230)と、を備え、
前記回折光学素子および前記光学システムは、いずれも前記ファイバベースデバイスの上流側に配置され、前記初期ナノ秒レーザパルスの各々から前記ファイバベースデバイスの入力部におけるレーザパルス(I)を生成するように構成され、
前記レーザパルス(I)の各々の前記第1マルチモードファイバの入力面における空間強度分布は、スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分と合算されるトップハット型の低空間周波数成分を含み、
前記空間的整形モジュールは、第1電場を、少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントなN個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
N≧2であり、
スペックルタイプの干渉に起因する前記高空間周波数成分のコントラストは、前記空間的整形モジュールがないときに定義される初期コントラストに比べ低減されていることを特徴とする高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項2】
前記空間的整形モジュール(230)は、前記光学システム(221)の上流側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項3】
前記空間的整形モジュール(230)は、偏光スクランブラ(232)を備え、
前記偏光スクランブラは、第1電場を、2つの直交軸に沿った2つの成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
前記2つの成分は、所定の軸(y)に沿って可変な位相シフトを持つことを特徴とする請求項1または2に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項4】
-前記軸(y)に沿って可変な位相シフトは周期的であり、その結果、偏光スクランブラの出力部における電場の偏光状態は周期的に変化し、
-前記偏光スクランブラ(232)は、前記第1電場の空間強度分布が前記軸(y)に沿って前記偏光状態の変化周期より大きいサイズを持つように、配置されることを特徴とする請求項3に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項5】
-前記光源は、縦マルチモード光源であり、
-前記空間的整形モジュールは、少なくとも1つの第1回折格子(231)を備え、
前記第1回折格子は、第1電場を、N個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
N≧2であり、
前記N個の成分は、同じ線上にない波数ベクトルで特徴づけられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム(200)。
【請求項6】
Nは2以上10以下であることを特徴とする請求項5に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項7】
前記空間的整形モジュールは、前記第1回折格子の下流側に配置された少なくとも1つの第2回折格子を備えることを特徴とする請求項5または6に記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項8】
前記空間的整形モジュールは、偏光スクランブラをさらに備え、
前記第1回折格子は、前記偏光スクランブラの上流側に配置されることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の高ピークパワーレーザパルス生成システム。
【請求項9】
高ピークパワーレーザパルス生成方法であって、
-光源(240)を用いて、初期ナノ秒レーザパルス(I)を発光するステップと、
-回折光学素子(220)および光学システム(221)を用いて、前記初期ナノ秒レーザパルスの各々からファイバベースデバイスの入力部におけるレーザパルス(I)を生成するステップと、
-シングルコア(212)を有するマルチモードファイバ(210)を備えたファイバベースデバイスを用いて、前記レーザパルス(I)を伝送するステップと、
-前記ファイバベースデバイスの上流側に配置された空間的整形モジュール(230)を用いて、前記初期ナノ秒レーザパルスを空間的に整形するステップと、
を含み、
前記レーザパルス(I)の各々の前記光学システム(221)のフーリエ面における空間強度分布は、スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分と合算されるトップハット型の低空間周波数成分を含み、
前記マルチモードファイバ(210)の入力面は、前記光学システム(221)のフーリエ面と実質的に一致しており、
前記空間的整形モジュールは、第1電場を、N個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
N≧2であり、
前記N個の成分は、少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントであり、
スペックルタイプの干渉に起因する前記高空間周波数成分のコントラストは、前記空間的整形モジュールがないときに定義される初期コントラストに比べ低減されていることを特徴とする高ピークパワーレーザパルス生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特にレーザ衝撃を目的とした高ピークパワーレーザパルスの生成方法および高ピークパワーレーザパルス生成システムに関する。特に本開示は、レーザ衝撃ピーニング、レーザ衝撃分光、レーザ衝撃超音波生成または部品のレーザ洗浄に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
レーザ衝撃に基づく(すなわち、プラズマ形成を含む)表面処理アプリケーションは、非常に高いピークパワー(典型的には、約10MW(メガワット)以上))のパルスを必要とする。これは、典型的には持続時間が数10ナノ秒以下のパルスを意味する。このようなパルスは、約100ミリジュール以上のエネルギーを持ち、典型的には数mmの領域にフォーカスされる。これはレーザ衝撃を形成するため、1平方センチメートルあたり10ジュールのオーダーのエネルギー密度が得られる。これらのアプリケーションは、レーザ衝撃分光、レーザ洗浄、例えば材料の結晶構造を分析するためのレーザ衝撃に基づく超音波生成、部品の耐用年数や機械抵抗を改善するためのレーザ衝撃ピーニングなどを含む。
【0003】
レーザ衝撃ピーニングは、例えば米国特許第6002102号明細書(特許文献1)および欧州特許第1528645号明細書(特許文献2)に開示されている。これらに開示された技術では、第1の薄い吸収層が、処理対象部分の上に配置される。レーザ衝撃ピーニングを実行中、高ピークパワーレーザパルスが吸収層を蒸発させる。これにより高温プラズマが生成される。このプラズマが拡散することにより、強い疎密波が発生する。これにより、材料の処理対象部分の深いところにプレストレスが形成される。閉じ込め層と呼ばれる第2の層(放射に対して透明な層(例えば水)、あるいは入射する放射に対して透明な材料(例えば石英))により、衝撃波が処理対象の表面内部に向けて緩和される。この「レーザ衝撃ピーニング」と呼ばれる方法により、材料の繰り返し疲労に対する機械抵抗が向上する。一般にこの方法は、自由空間において、処理対象領域にビームを伝送することにより実行される。
【0004】
しかしながら、自由空間における高パワーのレーザビームの伝送には、安全上の問題がある。従って、密閉された領域あるいはアクセスしにくい領域(例えば、周囲を取り囲まれた環境)にアクセスすることが困難となる。
【0005】
密閉された領域あるいはアクセスしにくい環境に存在する表面にアクセスするのに、光ファイバは好適なツールである。しかしながら、上記で開示されたいくつかの方法(例えば、レーザ衝撃ピーニングやレーザ表面洗浄)は、一般に埃の多い工場環境で実行される。これは、ファイバの入力面および出力面の損傷閾値を著しく低下させる。さらに清潔という観点とは別に、パルス持続時間が1μs未満のパルスレーザの場合、ファイバ内に注入できるピークパワーレベルは、ファイバのコアを形成する材料の誘電損傷閾値により制限される。例えば、波長1064nmで持続時間10nsのパルスの場合、空気/シリカの損傷閾値は約1GW/cmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6002102号明細書
【特許文献2】欧州特許第1528645号明細書
【特許文献3】米国特許第6818854号明細書
【特許文献4】国際公開第2019/233899号
【特許文献5】国際公開第2019/233900号
【特許文献6】米国特許第9599834号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
注入および緩和に伴う損傷リスクを抑制するためには、コア直径の大きい導波管を使うことが好ましい。しかしながら、コア直径が大きい(典型的には1mmより大きい)と、柔軟性が低下する。さらに曲率が大きすぎると、ファイバ損傷の原因となり得るエバネッセント波により損失が発生する。
【0008】
例えば米国特許6818854号明細書(特許文献3)に開示されるように、光ファイバの組(または「バンドル」)が使われることがある。しかしながらこのタイプの部品の場合、注入および伝搬の損失を抑制するためには、光エネルギーを各ファイバに個別に注入することが好ましい。これはエネルギー注入を複雑化させるので、高コスト化の原因となる。さらに、材料の出力部に、口径の大きい光フォーカシングシステムを設けることが必要となる。これは、光学システムを複雑化させるので、高コスト化や大型化の原因となる。
【0009】
従って、ファイバの損傷閾値を向上させ、機械的ストレスに起因する光学性能の低下を防ぎ、ファイベースバデバイスの柔軟性を向上させるためには、シングルコアファイバデバイスを備えたシステムによって、高ピークパワーのナノ秒パルスを生成する必要がある。
【0010】
特に本出願人は、国際公開第2019/233899号(特許文献4)で、ナノ秒レーザパルスを放射するための光源と、レーザパルスを伝送するためのシングルコアのマルチモードファイバデバイスと、ファイバデバイスの出力部にレーザパルスを光学的に増幅するための光増幅器と、を備えた高ピークパワーレーザパルス生成システムを提案した。このシステムにより、レーザ衝撃の対象となる材料への入射パルスに非常に高ピークパワーが得られ、同時にファイバベースデバイスの入出力インタフェースが保護される。これにより、直径の小さい(典型的には1mm未満、さらには300μm未満)のマルチモードファイバの使用が可能となる。その結果、非常に柔軟性の高いファイバベースデバイスが得られ、閉鎖環境へのアクセスが容易となる。
【0011】
本出願人はまた、国際公開第2019/233900号(特許文献5)で、レーザパルスの時間的コヒーレンスを低減することによりファイバデバイスの上流に配置されレーザパルスのパワースペクトル密度(PSD)を低減するように構成された時間的整形モジュールを提案した。PSDを準定常エネルギーまたは微減エネルギーにまで低減することにより、「スペックル」に起因する過大な強度を抑制することができ、ファイバデバイスへの注入を保護し、非線形効果を抑制することができる。前述の特許文献4で述べたように、これにより小径のマルチモードファイバを使うことができる。
【0012】
上記の2つの特許文献(特許文献4および5)は、ファイバベースデバイスの入力部におけるパルスのパワースペクトル密度を均一に分布させるために、ビームを空間的に整形することの可能性に言及している。空間的パワー密度の分布を均一にすることにより、ファイバ内の過大なパワー強度が抑制され、例えばビームの強度分布をガウス分布に関連づけることができる。このように、例えば、パルスを空間的に整形してパルスの形状を正方形または「トップハット型」の空間強度分布とする、すなわち、エネルギー強度の低い領域の空間偏差を例えば+/-10%とすることができるモジュールが開示される。トップハット型の空間的整形により、第1パルスにより生成された光ビームをマルチモードファイバのコア径に適用することができる。
【0013】
このような空間的整形モジュールは、ナノ秒パルスを伝送するマルチモード光ファイバのサイズおよびジオメトリに適合する空間的整形を実行するために、光学レンズなどの光学システムに関連する回折光学素子(DOE)を備えてもよい。実際に、光学システムのフーリエ面(例えば、画像焦点面)でビームを整形することは、DOE上のビームの空間強度分布の空間的フーリエ変換に畳み込まれ、DOEで規定された位相マスクの空間的フーリエ変換に相当する。DOEで規定された位相マスクは、この畳み込みの結果が、ファイバの入力面上で所定の強度分布(例えば「トップハット型」)を形成するように計算することができる。このとき、ファイバの入力面上でのビームの直径は、光学システムの焦点長に比例する。従って、光学レンズタイプの光学システムに関連するDOEは、高ピークパワーのパルスを伝送する目的で、ナノ秒パルスを空間的整形するのに特に有用である。なぜならDOEのパラメータを選ぶことにより、導波路のサイズおよびその開口数に応じて、レーザビームを、光源出力部での空間分布とは独立に、シングルコアファイバに入力できるからである。
【0014】
しかしながら、本出願人は、DOEの存在に関連する過大な強度(または「ホットスポット」)の出現に焦点を当てて検討を続けた。この過大な強度(または「ホットスポット」)は、局所的に過度に強い光密度に起因して、ファイバの入射面に局所的な損傷を引き起こす可能性がある。特に本出願人は、最も強いホットスポットは、ファイバへの入力パルスの平均パワーの6倍のピークパワーを持つ可能性があることを示した。
【0015】
一例として、図1に、ナノ秒パルスを伝送するマルチモード光ファイバ10のサイズおよびジオメトリに適合した空間的整形を実行するための、光学システム21(例えば、光学レンズ)と協働する回折光学素子20を備えた空間的整形モジュールを示す。マルチモード光ファイバ10は、クラッド11と、マルチモードコア12と、を備える。曲線31は、ナノ秒パルスによって形成されたビームの空間強度分布プロファイルを表す。空間強度分布プロファイルは、検出器(図示されない)を用いて、検出器の検出面のビーム中心を通る測定軸に沿って、マルチモード光ファイバ10の入力面で、任意単位(a.u.)で測定される。横軸上の距離は、符号「0」で示される任意の点から検出軸に沿ったビーム外に位置する検出面におけるピクセル(または、基本検出器)の数を表す。画像32は、マルチモード光ファイバ10の入力面におけるビームの強度分布を示す。曲線31または画像32から分かるように、ファイバ10を損傷する可能性がある過大な強度が明らかに存在する。本出願人は、この過大な強度がスペックルタイプの干渉に起因することを示した。
【0016】
本開示の目的の1つは、高ピークパワー(典型的には約10MW以上)のパルスを生成するための方法およびシステムである。これにより、シングルコアファイバベースデバイス内への安全なエネルギー注入が可能となり、伝送区間全体において安全なエネルギー伝搬が保証されると同時に、高い柔軟性が保たれる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本明細書では、「備える」という用語は、「含む」または「含んでいる」と同じ意味であり、インクルーシブまたはオープンであって、言及されていない(または示されていない)他の要素を排除しない。
【0018】
さらに本明細書では、「約」または「実質的に」という用語は、特定の値との10%内外(例えば5%)の差を意味する。
【0019】
第1の態様では、本開示は、高ピークパワーレーザパルス生成システムに関する。このシステムは、
-初期ナノ秒レーザパルスを発光する光源と、
-レーザパルスを伝送するための、シングルコアを有する少なくとも1つの第1マルチモードファイバを備えたファイバベースデバイスと、
-回折光学素子および光学システムと、
-ファイバベースデバイスの上流側に配置された空間的整形モジュールと、を備える。
回折光学素子および光学システムは、いずれもファイバベースデバイスの上流側に配置され、初期ナノ秒レーザパルスの各々からファイバベースデバイスの入力部におけるレーザパルスを生成するように構成され、
レーザパルスの各々の第1マルチモードファイバの入力面における空間強度分布は、スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分と合算されるトップハット型の低空間周波数成分を含み、
空間的整形モジュールは、第1電場を、少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントなN個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
N≧2であり、
スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分のコントラストは、空間的整形モジュールがないときに定義される初期コントラストに比べ低減されている。
【0020】
本開示では、マルチモードファイバの入力面は、光学システムのフーリエ面と実質的に一致している。フーリエ面は、電場のフーリエ変換が形成され、例えばコリメートされたビームの場合、レンズまたは鏡の画像焦点面と一致する面である。
【0021】
1つ以上の実施の形態では、光学システムは、集束光学システムを形成するように構成された1つ以上のレンズ、および/または、1つ以上の反射光学要素(例えば、集束球面鏡または軸外れ放物鏡)を備える。一般に、光学システムは、フーリエ面を生成するために光をフォーカスさせるための1つ以上の光学要素を備えてもよい。
【0022】
DOEは、光学システムの光学素子の1つの面上、例えば、光学システムを形成するための凹面鏡(または放物鏡)の上に生成されてもよいことに注意する。
【0023】
本開示に係る正方形または「トップハット型」の空間強度分布は、実質的に一様な空間強度分布である。低強度の空間変化は、通常+/-10%に抑制されている。
【0024】
本出願人は、このようなシステムにより、整形モジュールを用いて、スペックルタイプの干渉に起因する高周波成分のコントラストを低減できることを見出した。これは、整形されたパルスの空間的コヒーレンスが低減されたことによる。
【0025】
1つ以上の実施の形態では、このような空間的整形モジュールは、光学システムの上流側に配置される。この配置により、空間的整形モジュールは、コリメートされたパルスにより生成されたレーザビームを受信できる。しかし空間的整形モジュールが配置されるのは、DOEの下流側であっても、上流側であってもよい。
【0026】
1つ以上の実施の形態では、空間的整形モジュールは、偏光スクランブラを備える。偏光スクランブラは、第1電場を、2つの直交軸に沿った2つの成分の和で形成される第2電場に変換するように構成される。2つの成分は、所定の軸(y)に沿って可変な位相シフトを持つ。
【0027】
1つ以上の実施の形態では、軸に沿って可変な位相シフトは周期的である。その結果、偏光スクランブラの出力部における電場の偏光状態は周期的に変化する。偏光スクランブラは、第1電場の空間強度分布が軸に沿って偏光状態の変化周期より大きいサイズを持つように配置される。
【0028】
1つ以上の実施の形態では、光源は、縦マルチモード光源である。空間的整形モジュールは、少なくとも1つの第1回折格子を備える。第1回折格子は、第1電場を、N個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、N≧2である。N個の成分は、同じ線上にない波数ベクトルで特徴づけられる。
【0029】
1つ以上の実施の形態では、Nは2以上10以下である。
【0030】
1つ以上の実施の形態では、空間的整形モジュールは、第1回折格子の下流側に配置された少なくとも1つの第2回折格子を備える。
【0031】
1つ以上の実施の形態では、空間的整形モジュールは、偏光スクランブラをさらに備える。第1回折格子は、偏光スクランブラの上流側に配置される。
【0032】
第2の態様では、本開示は、高ピークパワーレーザパルス生成方法に関する。この方法は、
-光源を用いて、初期ナノ秒レーザパルスを発光するステップと、
-回折光学素子および光学システムを用いて、初期ナノ秒レーザパルスの各々からファイバベースデバイスの入力部におけるレーザパルスを生成するステップと、
-シングルコアを有するマルチモードファイバを備えたファイバベースデバイスを用いて、レーザパルスを伝送するステップと、
-ファイバベースデバイスの上流側に配置された空間的整形モジュールを用いて、初期ナノ秒レーザパルスを空間的に整形するステップと、
を含む。
レーザパルス(I)の各々の光学システム(221)のフーリエ面における空間強度分布は、スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分と合算されるトップハット型の低空間周波数成分を含み、
マルチモードファイバ(210)の入力面は、光学システム(221)のフーリエ面と実質的に一致しており、
空間的整形モジュールは、第1電場を、N個の成分の和で形成される第2電場に変換するように構成され、
N≧2であり、
N個の成分は、少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントであり、
スペックルタイプの干渉に起因する高空間周波数成分のコントラストは、空間的整形モジュールがないときに定義される初期コントラストに比べ低減されている
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明のその他の利点と特徴を、以下の図面を参照しながら説明する。
【0034】
図1】従来技術に係る高ピークパワーパルス生成システムの要素を簡略化して示す図である。
【0035】
図2】本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの要素を簡略化して示す図である。
【0036】
図3】本開示に係るシステム内のパルスを空間的に整形するための偏光スクランブラと、その効果とを簡略化して示す図である。
【0037】
図4図3の偏光スクランブラを有する空間的整形モジュールを備えた本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの要素を簡略化して示す図である。
【0038】
図5A】本開示に係るシステム内のパルスを空間的に整形するための第1回折格子を備えた空間的整形モジュールと、その効果とを簡略化して示す図である。
【0039】
図5B】本開示に係るシステム内のパルスを空間的に整形するための第1回折格子および第2回折格子を備えた空間的整形モジュールと、その効果とを簡略化して示す図である。
【0040】
図6図5Aの回折格子を有する空間的整形モジュールを備えた本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの要素を簡略化して示す図である。
【0041】
図7図3の偏光スクランブラおよび図5Aの回折格子を有する空間的整形モジュールを備えた本開示に係る高ピークパワーパルス生成システムの要素を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
見やすさのため、異なる図面における同じ要素は同じ符号で示される。
【0043】
図2に、本開示に係る高ピークパワーレーザパルス生成システム200を簡略化して示す。
【0044】
システム200は、初期ナノ秒レーザパルスIを発光する光源240と、レーザパルスを伝送するファイバベースデバイスと、を備える。ファイバベースデバイスは、少なくとも1つの第1マルチモードファイバ210を備える。第1マルチモードファイバ210は、シングルコア212と、クラッド211と、を備える。
【0045】
この例では、光源240は、ナノ秒パルスを発光するレーザ源241(例えば、QスイッチNb:YAG型レーザ)を備える。レーザは、波長532nmを発光するための周波数ダブラーモジュールを備えてもよい。より一般的には、レーザ源は、例えば、高ピークパワー(10MWを超える)ナノ秒パルスを発光する能動的または受動的Qスイッチ固体レーザである。これは、利用する波長に応じて、例えばYb:YAGまたはチタニウムサファイアレーザであってもよい。レーザ源は、自然に偏光している。この偏光は、直線、円または楕円であってよい。
【0046】
光源240は、(選択的に)出力光パワーのための減衰器245を含んでもよい。その一例として、1つ以上の偏光フィルタに続く半波長板がある(例えば、ブリュースター板、グランプリズム、グラン-トムソンプリズムなど)。
【0047】
システム200はさらに、回折光学素子(DOE)220と、光学システム221と、を備える。回折光学素子220と光学システム221とは、ファイバベースデバイスの上流側に配置される。回折光学素子220と光学システム221とは、第1マルチモードファイバ210の入力面に対して、各初期レーザパルスから、ファイバ入力部IFでのレーザパルスを生成する。このファイバ入力部Iでのレーザパルスは、「トップハット型」空間強度分布を持つ電場によって定義される。システム200は、例えば、空間的整形モジュール230(これについては後で詳述する)と、フィルタリングデバイス250と、を備える。フィルタリングデバイス250は、例えば、中間焦点面を形成するように構成されたレンズ251、253の組を備える。中間焦点面にはダイヤフラム252が、回折次数(典型的には、0次および2次以上のすべての次数)を除去するように構成される。
【0048】
光源240の出力部では、各初期ナノ秒レーザパルスIは、パルスωを含む初期電場によって定義される。例えば場がz方向に伝播し、直線偏光している場合、ベクトル
【数1】
に従い、初期レーザパルスIの場は、以下のように表される(式1)。
【数2】
【0049】
レーザの出力部における場は、空間的コヒーレンスを持つ。この空間的コヒーレンスは、コヒーレンス度によって識別される。伝搬方向zに垂直な平面上に配置された2つの点(x1、y1)および(x2、y2)の間の放射の空間的コヒーレンス度は、以下のように表される(式2)。
【数3】
【0050】
従って、すべての2点の対に関するコヒーレンス度が一定値になると、放射は空間的にコヒーレントになる。逆に、すべての2点の対に関するコヒーレンス度が低くなると、空間的コヒーレンスは0に近づく。ソースのコヒーレンス度を実験的に観測する手段の1つは、干渉パターン(ヤングスリットまたはスペックルパターンタイプ)のコントラストの測定に関係する。入射放射が空間的にコヒーレントであればあるほど、干渉パターンのコントラストが強くなる。
【0051】
実際、本出願人は、本開示のパルス生成システムにDOEが使われたとき、入射放射のコヒーレンスによって、スペックルタイプの干渉に起因する高周波成分のコントラストが強まることを見出した。
【0052】
透過部品の場合、DOE220は、例えばシリカなどの材料から既知の方法で作られたプレートを備える。これは、マルチモードファイバ210の入射面と一致したフーリエ面内(この場合、光学システム221の焦点面内)で所望の強さの電場を得る目的で、入射電場の空間的に可変な位相シフトを生み出すために配置される。
【0053】
光学システム221は、集束光学システムおよび/または1つ以上の反射光学要素(例えば、集束球面鏡または軸外れ放物鏡)を形成するように構成された1つ以上のレンズを備えてもよい。一般に、光学システム221は、フーリエ面を生成する目的で光をフォーカスするための1つ以上の光学要素を備えてもよい。
【0054】
図2には2つの別々の要素が示されているが、DOE220は、光学システム221を形成する光学要素の1つに直接配置されてもよい。
【0055】
図2ではDOE220は透過部品として動作するが、DOEを反射部品として動作させるためにマウンティングが適用されてもよい。t(x、y)をDOEの位相伝達係数とすると、DOEの直後に伝達する電場は、以下のように書ける(式3)。
【数4】
【0056】
フーリエ面では、電場は以下で与えられる(式4)。
【数5】
ここで
【数6】
は、レンズのフーリエ空間の座標である。関数
【数7】
および
【数8】
は、それぞれ、E(x、y、t)およびt(x、y)のレンズ焦点面における空間的フーリエ空間を表す。
【0057】
場の空間的コヒーレンス度が非常に高い場合(例えば、TEM00ガウシアンパルスの場合)、フーリエ面でのパルスの光強度は以下のように書ける(式5)。
【数9】
【0058】
場が、光軸(z)に対して角度θをなす波数ベクトル
【数10】
でDOEに入射する場合、強度パターンは、光軸から距離uだけ空間的にオフセットするだろう。ここで
【数11】
である。
【0059】
前述の式では、DOEは「完全」、すなわち粗さがないと仮定した。しかし実際には、DOEの製造方法は、DOEの表面にランダムな粗さを伴う。これは、DOEの透過において、ランダム位相項
【数12】
で表される。従って、レンズのフーリエ面で形成される電場は以下のように表される(式6)。
【数13】
【0060】
従って、場は、所望の整形を実現する決定部分と、DOEの粗さに起因するランダム部分と、から構成される。従って、フーリエ面における電場は、2つの部分からの寄与の和として以下のように書ける(式7)。
【数14】
ただし、
【数15】
である。Erandは、DOEの粗さに起因するレンズのフーリエ面でのランダム位相項を表す。
【0061】
電場の2つの寄与は互いに干渉する。これにより、フーリエ面でのパルスの強度に、「スペックルされた」特性が生まれる。より具体的には、フーリエ面での光強度は、以下のように書ける(式8)。
【数16】
【0062】
従って、光強度は、トップハット型の第1の低周波項と、ランダム位相高周波項と、を含む。これは、マルチモードファイバの入力面でのパルスの整形に影響を与える。これにより、図1のグラフ31に示されるように、ランダム強度(「スペックル」)の「グレーン」から構成される回折パターン
【数17】
が生じる。
【0063】
システム200の空間的整形モジュール230は、前述の第1マルチモードファイバの入力面におけるスペックルタイプの干渉に起因する高周波成分のコントラストを低減することを目的とする
【0064】
回折パターン
【数18】
のコントラストは、以下のように表される(式9)。
【数19】
ただし<I>は「トップハット型」の光強度の平均であり、σは標準偏差である。
【0065】
本出願人は、ファイバベースデバイスの上流側に配置されて、第1電場を、第2電場(これは複数のN個の成分の和で形成され、これらの成分は少なくとも部分的には互いに空間的にインコヒーレントである)に変換する空間的整形モジュール230を選択することにより、マルチモードファイバの入力部におけるスペックルタイプの干渉に起因する高周波成分のコントラストを低減することができ、従ってマルチモードファイバへの高ピークパワーパルスの入射を保護できることに気がついた。
【0066】
図3に、偏光スクランブラ232を簡略化したものと、当該偏光スクランブラによる効果を示す。偏光スクランブラ232は、本開示に係るシステム内で、パルスを空間的に整形するように構成される。偏光スクランブラは、例えば、コルニュ・デポラライザ(またはクォーツ・デポラライザ)、液晶デポラライザ、ダブルプリズム・デポラライザなどである。
【0067】
第1の偏極した電場は、レーザ241の出力部における直線、円または楕円偏光であると考えられる。以下の説明では、ポラライザまたは偏光スクランブラによる効果は、図3の両向き矢印31で示される直線偏光であるとする。しかし、レーザの出力部における初期偏光に関わらず、すべての効果は同等である。デポラライザの出力部における偏光状態は、図3の矢印32でシンボル化されている。さらに以下では、デポラライザはコルニュ(またはクォーツ)・デポラライザであるとする。しかし他のタイプのデポラライザでも同様の効果が得られる。
【0068】
偏極した電場は、上記の(式1)で表される。コルニュ・デポラライザは、45°の角度を持つ2つのプリズムを含む。これらのプリズムはクォーツ製であり、立方体を形成するように互いに接触する。クォーツは複屈折結晶なので、プリズムは進相軸が90°となるように構成される。従って各プリズムは、位相板として動作する。光が通過する物質の厚さは空間的に変化するので、ビームの位相シフトは空間的に変化する。これらの位相シフトは、以下の式で与えられる(式10)。
【数20】
n2およびn1はそれぞれクォーツの異常屈折率および常屈折率であり、aは2つのプリズムが接触する長さであり、dはデポラライザの長さである。デポラライザの出力部において、ビームの伝搬軸(z)に垂直な面(x、y)内で、電場の空間的整形が行われる。デポラライザの出力部における電場は、以下のように書ける(式11)。
【数21】
【0069】
従って入射ビームが均一な直線偏光を持つ場合、部品の出力部において、ビームはy方向に周期的偏光を持つだろう。より具体的には、ビームの各空間座標は異なる偏光状態を持つ。上記の仮定の下で、ビームは、y軸に沿って連続的に、異なる方向の直線、円および楕円偏光状態を示すだろう。偏光状態の変化は、y軸に沿って連続的となるだろう。偏光状態の変化の周期は、以下のように表される(式12)。
【数22】
【0070】
従って、効果的な偏光解消を実現するためには、y軸に沿った入力ビームのサイズが、デポラライザの出力部における偏光状態の変化周期より大きいことが望ましい。
【0071】
例えばThorlabs(登録商標)のクォーツ・デポラライザの場合、偏光の空間的変化周期は、波長635nmに対して、4mmである。実際、効果的な偏光解消を実現し、従って偏光度をゼロに近づけるためには、デポラライザ上の入力ビームのサイズを、少なくとも偏光変化周期の2倍とすることが望ましい。
【0072】
図3の33、34に、入力パルスの空間的整形におけるデポラライザの効果が示される。
【0073】
グラフ33は、偏光板の入力部における偏光状態、例えば一様偏光(直線偏光)を示す。
【0074】
グラフ34は、偏光版の出力部における偏光状態を示す。考察対象のビームの空間座標(x、y)に応じて変化する偏光が見られる。それぞれの座標が(x1、y1)および(x2、y2)の2つの点AおよびBに注目すると、上記の(式2)で定義されたように、正規化されたコヒーレンス度が低下している様子が見られる。
【0075】
この例では、2つの点AおよびBは直交偏光している。従って、コヒーレンス度は0に落ちている。なぜなら、(x1、y1)および(x2、y2)における場のスカラー積は0になるからである。従って、初期パルスを空間的に偏光解消することによってコヒーレンス度を下げることができるので、スペックルパターンのコントラストを下げることができると結論づけることができる。ビームの偏極度(DOP)が0に近づくと、ビームは完全に偏光解消され、デポラライザの出力部における電場は2つの直交偏光(すなわち、空間的にインコヒーレントな寄与)の和で書くことができる。
【0076】
図4に、本開示に係る高ピークパワーレーザパルス生成システムの要素を簡略化して示す。このシステムは、例えば図3に示される偏光スクランブラ232を備えた空間的整形モジュールを備える。
【0077】
本出願人は、DOE220上の入力電場が少なくとも部分的に偏光解消されていれば、スペックルコントラストを効果的に低減できることに気がついた。特に、前述のように完全に空間的に偏光解消された場は、2つの直交偏光状態に分けられ、互いに干渉しない。偏光状態の各々は、他方の偏光状態と空間的に相関しないスペックルパターンを生むだろう。
【0078】
より具体的には、入力光が2つの独立な(直交する)偏光状態から構成される場合、整形に使われる光学システム221のフーリエ面内のパルスIの場は、以下のように書ける(式13)。
【数23】
すなわち、
【数24】
である(式14)。
【0079】
従ってマルチモードファイバ210(図4)の入力面での光強度は、以下のように書ける(式15)。
【数25】
【0080】
上記の式から、強度プロファイルは、2つの独立したランダム信号の重ね合わせから構成されることが分かる。これらのランダム信号の各々は、標準偏差
【数26】
を持つ。ただし、σは整形モジュールがないときの強度分布の標準偏差である。従って、強度分布は、
【数27】
に等しい2つの独立した信号の標準偏差の二乗平均に相当する標準偏差を持つだろう。その結果、スペックルコントラストは、
【数28】
のファクターで減少する。
【0081】
従って、図4に、マルチモードファイバの入力部におけるトップハット型の強度プロファイル(グラフ42)が見られる。この例では、スペックルコントラストは、整形がない場合のスペックルコントラスト(図4のグラフ41)に比べて、
【数29】
のファクターで減少する。
【0082】
上記の計算は、レーザの偏光状態を整形することにより、放射の空間的コヒーレンス度を低減できることを示す。放射が2つの直交する偏光状態と同等であれば、スペックルパターンのコントラストは、
【数30】
のファクターで低減できる。もちろん偏光解消の効果がより低い場合もスペックルコントラストは低減できるが、その程度は小さくなる。上記の計算は、コルニュ・デポラライザを用いて実行された。他のタイプのデポラライザを用いた場合も、スペックルコントラストに関する偏光解消の効果が同等であることはいうまでもない。
【0083】
例えば液晶デポラライザが、コルニュ・デポラライザの場合と同様の位相シフトを持つように構成されてもよい。このような液晶デポラライザは、例えば米国特許第9599834号明細書(特許文献6)に開示されており、2つのガラスプレート(例えば、N-BK7)に挟まれた液晶ポリマーの薄フィルムを備える。
【0084】
ダブルプリズム・デポラライザ(それぞれ、クォーツおよびシリカから構成される)はコルニュ・デポラライザに似ているが、2つのプリズム間の角度は遥かに小さく(典型的には2°)、第1プリズムのみが複屈折性を持つ。第2プリズムは、石英ガラスからなり、クォーツに極めて近い屈折率を持つ。クォーツプリズムの進相軸は、一般にコーナーに向かって45°である。部品全体は、(同じ開口の)コルニュ・デポラライザよりコンパクトである。部品の出力部では、偏光は周期的である。プリズムの角度がコルニュ・デポラライザより小さいため、空間的偏光解消の周期はより長い。
【0085】
図5Aに、本開示に係るシステム内のパルスを空間的に整形するための空間的整形モジュールの他の例を簡略化して示す。この例では、空間的整形モジュール231は、分散素子502(例えば、回折格子)を備える。図5Aに示されるように、この例では、回折格子は、2つのプリズム501、503(これに代えて、鏡であってもよい)の間に配置される。これらのプリズムは、入射ビームを偏向させ、所望の角度(例えば、回折格子の回折効果が最大となる入射角)で回折格子に到達させるように構成される。
【0086】
図5Aに示される回折格子空間的整形モジュールにより、初期レーザパルスを、その電場が複数のスペクトル線を含むように整形することができる。この目的のために、レーザ源241は、縦マルチモードレーザ(非注入Qスイッチ型Nd-YAGレーザ)の源である。
【0087】
図5Aに示されるように、回折格子により、レーザのN本のスペクトル線が空間的に非相関化される。従って、回折格子を使うことにより、レーザビームを整形するときに存在するスペックルのコントラストを、回折光学素子を用いて軽減することができる。
【0088】
より具体的には、このような空間的整形モジュールの効果を示すために、以下、ピッチaの回折格子への縦マルチモードの入射平面電磁波を考える。この波は、以下のように表される(式16)。
【数31】
パラメータ
【数32】
は、使われるレーザキャビティの自由スペクトル領域に結び付けられる。
【数33】
は、各スペクトル成分に関連するランダム位相項である。
【0089】
回折格子502(図5A)への入射波は、回折格子の回折角に沿って回折され、以下の規則で与えられる(式17)。
【数34】
θ、θおよびmは、それぞれ、回折格子による回折角、入射角および回折格子の回折次数である。例えば回折格子が-1次に最適化され、リトロー角度を取るとき(θ=-θ)、回折角は、
【数35】
で与えられる。
【0090】
回折角は、照明波長(すなわち、使用されるレーザのスペクトル)に依存する。レーザが、中心波長λの周りに広がる複数のスペクトル線を発光する場合、回折格子による角度分散は、以下で与えられる(式18)。
【数36】
【0091】
レーザが、自由スペクトル間隔で分けられた複数の線を発光する場合、レーザの各線は、回折格子によって以下の角度で回折されるだろう(式19)。
【数37】
この場合、nは、レーザによって発光される縦モードを表す(例えば、n=0はモードνに対応し、n=1はモードν+Δνに対応する、等)。
【0092】
一例として、レーザが自由スペクトル間隔(FSI)を持つ場合を考える。FSI=c/2L、Lはキャビティの長さであり250MHzで1、064nm、入射角67.7°の場合、各モード間の角分散は、1.075μラジアンとなる。
【0093】
従ってレーザが縦モードを発光する場合、回折された全電場は、以下で与えられる。(式20)
【数38】
【0094】
N個の光周波数ν=ν+n・Δνによって形成された回折格子上の入力場に関しては、各光周波数が異なる方向に伝搬するので、光学的場のコヒーレンス度の低下が観測される。
【0095】
より具体的には、各スペクトル成分に関する波数ベクトルは、以下で与えられる(式21)。
【数39】
【0096】
回折格子の出力部における多くの波数ベクトルの存在は、レーザのスペクトル成分の角度分布と等価である。従って、ソースの空間的コヒーレンス度は低減される。
【0097】
回折された電場がDOEに入射すると、レンズのフーリエ面に光強度分布が存在し、以下の式に従う(式22)
【数40】
【0098】
従って、フーリエ面での強度パターンは、u方向に空間的にオフセットした回折パターンの和に一致する。このとき各空間成分は、同じ決定部分と、同じランダム部分と、から構成される。縦モードに相当する回折パターンは、隣の縦モードに相当する回折パターンから、
【数41】
の距離だけオフセットしている。レーザのN個のスペクトル線が
【数42】
の条件を満たしていれば、強度プロファイルは、互いに相関しないノイジーなプロファイルの和から構成されるだろう。観測されるスペックルのコントラストは、
【数43】
のファクターで減少するだろう。
【0099】
図5Aの例では、整形モジュールは単一の回折格子を備えることに注意する。
【0100】
図5Bに、本開示に係るシステム内のパルスを空間的に整形するための、第1回折格子511と、第2回折格子512と、を備えた空間的整形モジュールを簡略化して示す。この例では、それぞれの効果を最大化するために、入射角を持つビームを各回折格子に導くための2つの鏡513、514が配置される。単一の回折格子(図5A)に代えて、2つの回折格子使うことにより、角度分散を2倍にすることができる。
【0101】
図6に、本開示に係る、高ピークパワーレーザパルスを生成するためのシステムの要素を簡略化して示す。これは、例えば図5Aまたは図5Bを参照して説明した1つ以上の回折格子を備えた空間的整形モジュール231を備える。
【0102】
グラフ61(図6)は、整形モジュールがないときの、マルチモードファイバ210の入力部における「トップハット型」強度プロファイルを示す。この例では、スペックルコントラストは0.72に等しい。
【0103】
グラフ62(図6)は、例えば図5Aに示される単一の回折格子を備えた空間的整形モジュールがあるときの、マルチモードファイバ210の入力部における「トップハット型」強度プロファイルを示す。この例の回折格子は、575nmのピッチを備え、波長1、064nmの波長で最適化されており、入射角67.7°でリトロー角度を取る。この例に使用される光源は、1、964nmで発光するレーザであり、複数の縦モードを持つ(FSI=250MHz)。空間的整形モジュールにより、初期コントラストは2.5のファクターで低減されている。
【0104】
図7に示されるように、整形モジュールが、偏光スクランブラ232と、回折デバイス231と、を備えてもよいことはいうまでもない。
【0105】
この場合、回折デバイス231は、デポラライザ232の上流側に配置される必要がある。実際には、回折は、入射ビームの偏光解消の影響を受ける可能性がある。グラフ71、72から分かるように、モジュール231、232の効果は、スペックルのコントラストが0.72(グラフ71、整形モジュールがない場合)から0.2(グラフ72)に変化することで示される。
【0106】
以上、いくつかの詳細な実施の形態を用いて説明したが、本開示に係る方法およびシステムは、様々な変形、変更、改良が可能であることは当業者に明らかである。こうした変形、変更、改良も、以下の請求項で定義される本発明の範囲内にあることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
【国際調査報告】