(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】転移性がん治療または予防
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230830BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230830BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230830BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230830BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230830BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230830BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230830BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230830BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230830BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00 ZNA
A61P35/04
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/02
C07K14/47
C07K16/18
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511614
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 GB2021052109
(87)【国際公開番号】W WO2022034342
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】511150067
【氏名又は名称】オックスフォード ブルックス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ブルックス,スーザン
(72)【発明者】
【氏名】カーター,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ビーマン,エリー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA13
4C085BB31
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための、アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する薬剤に関する。本発明はまた、アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する薬剤を投与することを含む、転移性がんを治療もしくは予防する方法、または上皮細胞から内皮細胞への接着を予防もしくは低減する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための、アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する薬剤。
【請求項2】
1つまたは複数の相互作用パートナーが、プレクチンまたはそのアクチン結合断片を含むかまたはからなる、請求項1に記載の使用のための薬剤。
【請求項3】
薬剤がポリペプチド、小分子、抗原結合ポリペプチド、または核酸分子である、請求項1または請求項2に記載の使用のための薬剤。
【請求項4】
薬剤が、細胞および/またはEVの表面に存在するアクチンに結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項5】
薬剤が抗アクチン抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項6】
薬剤が抗ベータアクチン抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項7】
薬剤がプレクチンもしくはそのアクチン結合断片、または組換えアクチンを含むかまたはからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項8】
そのアクチン結合断片が、プレクチン(配列番号1または配列番号2)のアクチン結合ドメイン(ABD)を含むかまたはからなる、請求項7に記載の使用のための薬剤。
【請求項9】
薬剤が細胞の表面に存在するプレクチンに結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項10】
薬剤が抗プレクチン抗体である、請求項1~3または9のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項11】
抗プレクチン抗体が、プレクチンのアクチン結合ドメイン(ABD)に結合する、請求項10に記載の使用のための薬剤。
【請求項12】
転移性がんが上皮細胞がん転移である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項13】
上皮細胞がん転移が乳がん転移である、請求項12に記載の使用のための薬剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための薬剤を含む、それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための2つ以上の異なる薬剤を含む、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
第1の薬剤が細胞の表面に存在するアクチンに結合し、第2の薬剤が細胞の表面に存在するプレクチンまたはそのアクチン結合断片に結合する、請求項15に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
1つまたは複数の担体または賦形剤をさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
転移性がんを治療または予防する方法であって、治療有効量の1つまたは複数の薬剤を、それを必要とする対象に投与することを含み、薬剤が請求項1から13のいずれか一項に記載のものである、方法。
【請求項19】
請求項1から13のいずれか一項に記載の1つまたは複数の薬剤を、対象または1つもしくは複数の細胞に投与することを含む、上皮細胞から内皮細胞への接着を予防または低減する方法。
【請求項20】
1つもしくは複数の薬剤が上皮細胞に投与される、および/または1つもしくは複数の薬剤が内皮細胞に投与される、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤が、抗アクチン抗体を含むかもしくはからなり、および/または内皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤が、抗プレクチン抗体を含むかもしくはからなる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
上皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤が、組換えプレクチンもしくはそのアクチン結合断片を含むかもしくはからなり、および/または内皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤が、抗プレクチン抗体を含むかもしくはからなる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
組換えプレクチンが、プレクチンのアクチン結合ドメイン(ABD)を含むかまたはからなる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
抗プレクチン抗体が、プレクチンのアクチン結合ドメイン(ABD)に結合する、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
転移性がんが上皮細胞がん転移であり、上皮細胞がん転移は乳がん転移であってもよい、請求項18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移性がんの治療または予防に関する。
【背景技術】
【0002】
導入
癌腫としても知られる上皮細胞がんは、全てのがん症例の80~90パーセントを占める。1つのそのような癌腫、乳がんは、世界で2番目に最もよく見られるがんタイプであり、全てのがんの10%以上を占める。乳がんは女性に最もよく見られるがんであり、年間200万人を超える女性が乳がんと診断され、年間50万人以上の患者が該疾患で死亡している。
【0003】
原発腫瘍の転移性播種はがん関連死の主な原因であり、固形腫瘍がん死亡の最大90%を占める。さ転移は、原発腫瘍から広がった細胞の集団化から始まる遊走性上皮間葉転換(EMT)表現型をがん細胞が獲得すると生じる。そのような細胞の浸潤性表現型は、転移の初期段階でのそのような細胞の血管内皮層(endothelial vascular layer)への浸潤と相関する基本的特性である。さらに、腫瘍が転移していると診断された患者は5年生存率が22%しかない。
【0004】
したがって、転移性がんに対する新たな改善された予防的および治療的処置(therapeutic treatment)を開発する必要性がある。本発明はこれらの必要性を満たし、他の関連する利点をさらに提供するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための、アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する薬剤を提供する。
【0006】
第2の態様では、本発明は、転移性がんを治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に:アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する、治療有効量の1つまたは複数の薬剤を投与することを含む、方法を提供する。薬剤は、本明細書に開示された医薬組成物に製剤化することができる。
【0007】
第3の態様では、本発明は、それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための本発明の薬剤を含む医薬組成物を提供する。
【0008】
第4の態様では、本発明は、アクチンと1つまたは複数のその相互作用パートナーの間の相互作用を予防または低減する1つまたは複数の薬剤を、対象または1つもしくは複数の細胞に投与することを含む、上皮細胞から内皮細胞への接着を予防または低減する方法を提供する。
【0009】
第5の態様では、それを必要とする対象における転移性がんの治療または予防において使用するための抗アクチン抗体が提供される。
【0010】
本発明は、上皮がん細胞および/またはそれに由来する細胞外小胞の表面のアクチンの存在および/またはレベルと、これらのがん細胞の転移能の間の正の相関の発見に一部基づく。本発明はまた、上皮がん細胞および/またはそれに由来する細胞外小胞の表面のアクチンと、その相互作用パートナー、例えばプレクチンまたはプレクチンのアクチン結合断片の間の相互作用の破壊が、上皮細胞から内皮細胞への接着を低減するという発見にも基づく。例えば相互作用を遮断すること、または相互作用に直接的もしくは間接的に関与するタンパク質のうちの1つまたは複数の発現を低減することによる、そのような相互作用の低減または予防は、転移を予防または治療する手段を提供する。上皮間葉転換(EMT)を起こした細胞は、次いで血管を通じて遊走して、転移性腫瘍が進行する第2の部位に侵入することができない。そのような予防的処置または治療的処置は、二次性転移性腫瘍の確立の予防、または既に転移性がんを有する患者の余命の延長において有利である。本発明はまた、その表面でアクチンの発現が上昇している転移性細胞を1つまたは複数の治療薬により標的にすることも可能にする。
【0011】
いずれの態様でも、アクチンは、ベータアクチン、アルファアクチンまたはガンマアクチンのうちの1つまたは複数であってもよい。アクチンは、ベータアクチン、アルファアクチンおよびガンマアクチンの全てであってもよい。好ましくは、アクチンはベータアクチンである。アクチンは、ACTB遺伝子(Uniprot P60709)によってコードされるタンパク質であるベータアクチンを指し得る。アクチンは、ACTA1(Uniprot P68133)またはACTA2(Uniprot P62736)遺伝子によってコードされるタンパク質であるアルファアクチンを指し得る。アクチンは、ACTG1(Uniprot P63261)またはACTG2遺伝子(Uniprot P63267)によってコードされるタンパク質であるガンマアクチンを指し得る。
【0012】
受託番号は、示されている場合、タンパク質に関する包括的情報カタログ['UniProt: a hub for protein information' Nucleic Acids Res. 43: D204-D212 (2015)]である、Uniprot(Universal Protein Resource)を使用して識別可能なものに関する。
【0013】
いずれの態様でも、1つまたは複数の相互作用パートナーは、プレクチン(Uniprot Q15149)またはそのアクチン結合断片を含み得るかまたはからなり得る。そのアクチン結合断片は、プレクチン(配列番号1または配列番号2)のアクチン結合ドメイン(ABD)を含み得るかまたはからなり得る。
【0014】
配列番号1の配列は:
DERDRVQKKTFTKWVNKHLIKAQRHISDLYEDLRDGHNLISLLEVLSGDSLPREKGRMRFHKLQNVQIALDYLRHRQVKLVNIRNDDIADGNPKLTLGLIWTIILHFQISDIQVSGQSEDMTAKEKLLLWSQRMVEGYQGLRCDNFTSSWRDGRLFNAIIHRHKPLLIDMNKVYRQTNLENLDQAFSVAERDLGVTRLLDPEDVDVPQPDEKSIITYVSSLYDAMPである。
【0015】
配列番号2の配列は:
DERDRVQKKTFTKWVNKHLIKAQRHISDLYEDLRDGHNLISLLEVLSGDSLPREKGRMRFHKLQNVQIALDYLRHRQVKLVNIRNDDIADGNPKLTLGLIWTIILHFQISDIQVSGQSEDMTAKEKLLLWSQRMVEGYQGLRCDNFTSSWRDGRLFNAIIHRHKPLLIDMNKVYRQTNLENLDQAFSVAERDLGVTRLLDPEDVDVPQPDEKSIITYVSSLYDAMPRである。
【0016】
いずれの態様でも、相互作用パートナーは内皮細胞などの細胞の表面に存在し得る。相互作用パートナーは細胞外小胞(EV)の表面に存在し得る。
【0017】
アクチンとプレクチンの間、またはアクチンとプレクチンのアクチン結合断片の間の相互作用は、アクチンが細胞の表面で、または2つの細胞間、例えば内皮細胞と上皮細胞間の境界面でプレクチンまたはそのアクチン結合断片と直接的に相互作用するという点で直接的であってもよい。相互作用が2つの細胞間の境界面での場合、好ましくは、アクチンは上皮細胞の表面にあり、プレクチンまたはそのアクチン結合断片は内皮細胞の表面にある。
【0018】
アクチンとプレクチンまたはそのアクチン結合断片の間の相互作用は、アクチンが、細胞の表面に存在し得る中間タンパク質を通じて、プレクチンまたはそのアクチン結合断片と間接的に相互作用するという点で間接的であってもよい。
【0019】
薬剤は、アクチンに結合してもよい。薬剤は、アクチン相互作用パートナー、例えばプレクチンまたはそのアクチン結合断片に結合してもよい。薬剤は、アクチンおよび、アクチン相互作用パートナー、例えばプレクチンまたはそのアクチン結合断片に結合してもよい(例えば、薬剤は二重特異性であってもよい)。
【0020】
いずれの態様でも、薬剤は、ポリペプチド、抗原結合ポリペプチド、核酸分子、または小分子であり得る。
【0021】
薬剤
ポリペプチドである薬剤は、上に定義されるアクチン、または上に定義されるアクチンに対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列を含み得るかまたはからなり得る。
【0022】
ポリペプチドは、上に定義されるプレクチンもしくはそのアクチン結合断片、または上に定義されるプレクチンもしくはそのアクチン結合断片に対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列を含み得るかまたはからなり得る。
【0023】
ポリペプチドは、プレクチン(配列番号1または配列番号2)のABD、または配列番号1もしくは配列番号2に対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列を含み得るかまたはからなり得る。
【0024】
薬剤は、アクチンに結合するポリペプチドであってもよい。薬剤は、アクチン相互作用パートナー、例えばプレクチンまたはそのアクチン結合断片に結合するポリペプチドであってもよい。薬剤は、アクチンおよび、アクチン相互作用パートナー、例えばプレクチンまたはそのアクチン結合断片に結合してもよい(例えば、薬剤は二重特異性であってもよい)。
【0025】
ポリペプチドは、AVIYGGVQ(配列番号6)の配列を含み得るかまたはからなり得る。
ポリペプチドは、WPYKKY(配列番号7)の配列を含み得るかまたはからなり得る。
ポリペプチドは、配列GGCをさらに含み得るかまたはからなり得、HSAとコンジュゲートされ得る。故に、ポリペプチドは、AVIYGGVQGGC-HAS(配列番号8)またはWPYKKYGGC-HAS(配列番号9)の配列を含み得るかまたはからなり得る。HSAは本明細書で使用される場合、ヒト血清アルブミンを指す。
【0026】
ポリペプチドは組換えであってもよい。
【0027】
抗原結合ポリペプチドである薬剤は、抗体もしくはその抗原結合断片、またはT細胞受容体(TCR)を指し得る。抗原結合ポリペプチドは、標的抗原に特異性を有する。
【0028】
抗体またはその抗原結合断片は、抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ポリクローナル抗体、ラクダ化抗体、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、免疫学的に活性な抗体断片[例えば、エピトープに結合できる抗体断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、VLおよび/もしくはVHドメインを含有する断片、またはそのようなVLドメインの相補性決定領域(CDR)の1、2、もしくは3(すなわち、CDRL1、CDRL2、および/またはCDRL3)もしくはVHドメインのCDRの1、2、もしくは3(すなわち、CDRH1、CDRH2、および/またはCDRH3)を含有する断片]等、二機能性または多機能性抗体、ジスルフィド結合二重特異性Fv(sdFv)、イントラボディ、およびダイアボディ、ならびに上記のいずれかのエピトープ結合断片を指し得る。特に、用語「抗体」とは、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、すなわち、抗原結合部位を含有する分子を包含することが意図される。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であってもよい。
【0029】
抗体またはその抗原結合断片には、それぞれが、同じかまたは異なる抗原上の異なるエピトープに特異的に結合する2つの異なる可変領域を含む、二重特異性抗体が含まれ得る。
【0030】
標的抗原は、プレクチンとアクチンの間の相互作用に寄与するタンパク質の抗原であってもよい。タンパク質は、ベータアクチンなどのアクチンであってもよい。タンパク質は、プレクチン、またはプレクチンのABDを含むかまたはからなるそのアクチン結合断片であってもよい。
【0031】
抗原結合ポリペプチドは、抗アクチン抗体であってもよい。抗原結合ポリペプチドは、抗ベータアクチン抗体であってもよい。抗原結合ポリペプチドは、アクチンのアルファ、ベータおよびガンマアイソフォーム全てに結合してもよい。抗原結合ポリペプチドは、抗プレクチン抗体であってもよい。抗原結合ポリペプチドは、プレクチンのABDに結合する抗体であってもよい。
【0032】
二重特異性抗体は、同じタンパク質かまたは異なるタンパク質の2つの異なる抗原を標的にすることができる。例えば、二重特異性抗体は、(a)アクチンまたはプレクチン(またはそのアクチン結合断片)、および(b)樹状細胞、マクロファージ、またはNK細胞表面マーカーなどの免疫細胞マーカーに結合することができる。これにより、二重特異性抗体は、腫瘍細胞に対する宿主の天然の免疫応答において重要なある特定の免疫細胞を、アクチンおよび/またはプレクチンもしくはそのアクチン結合断片をその表面に有する細胞と極めて近付けることになる。
【0033】
当業者が選択する一連のそのような免疫細胞表面マーカーは、当技術分野で公知である。樹状細胞マーカーの非限定的な例には、CD11b、CD11c、CD103、CD14、CD8-アルファ、またはMHCクラスII分子が含まれる。マクロファージマーカーの非限定的な例には、CD14、CD16、CD64、CD68、CD71およびCCR5が含まれる。NK細胞マーカーの非限定的な例には、CD56、CD94、KIRファミリー受容体、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80が含まれる。
【0034】
抗アクチン抗体は、細胞表面でアクチンが増加している転移性細胞の抗体依存性細胞傷害活性を誘導し得る。抗アクチン抗体は、細胞死を誘導する既知の薬剤、例えば、免疫モジュレーター、放射性化合物、酵素、化学療法剤または細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされ得る。
【0035】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および二重特異性抗体を含む抗体またはその抗原結合断片は、当業者に一般に知られているように従来の免疫法を使用して調製することができる。
【0036】
抗体は、抗プレクチン抗体クローンPN753(Cosmo Bio)であってもよい。
抗体は、抗プレクチン抗体クローンPN643(Kerafast)であってもよい。
抗体は、抗プレクチン抗体クローンQO754(Creative Diagnostics)であってもよい。
抗体は、抗アクチン抗体クローンmAbcam 8226(Abcam)であってもよい。
抗体は、抗アクチン抗体クローン15G5A11/E2(ThermoFisher)であってもよい。
抗体は、抗アクチン抗体クローン2-2.1.14.17(Sigma-Aldrich)であってもよい。
抗体は、抗アクチン抗体クローン2A3(BioRad)であってもよい。
【0037】
核酸分子である薬剤は、DNAまたはRNA分子であってもよい。
【0038】
核酸分子は、アクチンまたは1つもしく複数のその相互作用パートナー、あるいはアクチンまたは1つもしくは複数のその相互作用パートナーをコードするDNAまたはRNAに結合し得る。
【0039】
核酸分子は、アクチン、例えばベータアクチンまたはアクチンの全てのアイソフォームに結合するDNAまたはRNAアプタマーであってもよい。核酸分子は、プレクチンまたはそのアクチン結合断片、例えばプレクチンのABDに結合するDNAまたはRNAアプタマーであってもよい。
【0040】
核酸分子は、オリゴヌクレオチド、siRNAまたはshRNAのなどのアクチンまたは1つもしくは複数のその相互作用パートナーの発現を予防または低減し得る。オリゴヌクレオチド、siRNAまたはshRNAは、アクチン、例えばベータアクチンまたはアクチンの全てのアイソフォームの発現を予防または低減し得る。siRNAまたはshRNAは、プレクチンまたはそのアクチン結合断片、例えばプレクチンのABDの発現を予防または低減し得る。一実施形態では、核酸分子は、プレクチンの発現を低減するsiRNAである。
【0041】
一実施形態では、プレクチンの発現を低減するsiRNAの混合物が提供される。混合物は、少なくとも1つまたは複数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つもしくは10またはそれ以上の、プレクチンの発現を低減するsiRNAを含んでもよい。少なくとも1つまたは複数のsiRNAは、GGAAUGAUGACAUCGCUGAUUの配列(配列番号3)および/またはUCAGCGAUGUCAUCAUUCCUGの配列(配列番号4)を含み得るかまたはからなり得る。
【0042】
一実施形態では、少なくとも1つまたは複数のsiRNAは、プレクチンのcDNA標的配列である、配列:
TTCACCAAGTGGGTCAACAAGCACCTCATCAAGGCCCAGAGGCACATCAGTGACCTGTATGAAGACCTCCGCGATGGCCACAACCTCATCTCCCTGCTGGAGGTCCTCTCGGGGGACAGCCTGCCCCGGGAGAAGGGGAGGATGCGTTTCCACAAGCTGCAGAATGTCCAGATTGCCCTGGACTACCTCCGGCACCGCCAGGTGAAGCTGGTGAACATCAGGAATGATGACATCGCTGACGGCAACCCCAAGCTGACCCTTGGCCTCATCTGGACAATCATTCTGCACTTCCAGATCTCAGATATCCAGGTGAGTGGGCAGTCGGAGGACATGACGGCCAAGGAGAAGCTGCTGCTGTGGTCGCAGCGAATGGTGGAGGGGTACCAGGGCCTGCGATGCGACAACTTCACCTCCAGCTGGAGAGACGGCCGCCTCTTCAATGCCATCATCCA(配列番号5)の少なくとも一部を標的にし得る。
【0043】
核酸分子は、プラスミドなどのDNAベクターにコードされてもよい。
【0044】
核酸分子は、ウイルスベクターにパッケージングされてもよい。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターであってもよい。
【0045】
本明細書に記載の核酸分子、DNAベクターおよびウイルスベクターは、従来の遺伝子生物学手法および分子生物学手法を使用して設計および調製することができる。
【0046】
小分子である薬剤は、アクチンまたは1つもしくは複数のその相互作用パートナーに結合することができる分子を指し得る分子である。小分子は、アクチン、例えばベータアクチンまたはアクチンの全てのアイソフォームフォームに結合し得る。小分子は、プレクチン、またはそのアクチン結合断片、例えばプレクチンのABDに結合し得る。小分子は、プレクチンに結合する糖を含んでもよい。
【0047】
医薬組成物は、本明細書に開示された1つまたは複数の異なる薬剤、例えば、本明細書に開示された薬剤の1つ、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、または7つ以上、および薬学的に許容される賦形剤または担体を含み得るかまたはからなり得る。
【0048】
医薬組成物は、抗アクチン抗体、プレクチンまたはそのアクチン結合断片、例えばプレクチンのABDなどの本明細書に開示された薬剤を含み得る。
【0049】
医薬組成物は、抗アクチン抗体を含んでもよい。医薬組成物は、プレクチン、またはプレクチンに対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列を有するポリペプチドを含んでもよい。医薬組成物は、プレクチン(配列番号1または配列番号2)のABD、または配列番号1もしくは配列番号2に対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。
【0050】
医薬組成物は、ベータアクチンなどのアクチンを標的にするshRNAを含んでもよい。医薬組成物は、プレクチンまたはそのアクチン結合断片を標的にするshRNAを含んでもよい。医薬組成物は、プレクチンのABDを標的にするshRNAを含んでもよい。
【0051】
医薬組成物は、本発明の薬剤をコードするウイルスベクターを含んでもよい。医薬組成物は、本発明のshRNAを含むかまたはコードするレンチウイルスベクターを含んでもよい。
【0052】
医薬組成物は、本明細書に開示された2つの異なる薬剤を含んでもよい。本明細書に開示された2つの異なる薬剤を含む医薬組成物は、アクチンに結合する第1の薬剤、およびプレクチンまたはそのアクチン結合断片、例えばプレクチンのABDに結合する第2の薬剤を含み得るかまたはからなり得る。
【0053】
医薬組成物は、抗アクチン抗体および、プレクチンまたはプレクチンに対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列をコードするポリペプチドを含んでもよい。医薬組成物は、抗アクチン抗体および配列番号1もしくは配列番号2のポリペプチド、または配列番号1もしくは配列番号2に対して約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の同一性を有する配列のポリペプチドを含んでもよい。
【0054】
いずれの態様でも、薬剤または医薬組成物は、転移性がんの診断前、または転移性がんの診断後に対象に投与することができる。薬剤または医薬は、無期限または特定期間、対象に投与することができる。薬剤または医薬は、規則的間隔で投与することができる。
【0055】
医薬組成物は、1つまたは複数の担体または賦形剤をさらに含んでもよい。
【0056】
例えば、賦形剤は、形もしくは稠度を与えることができ、または希釈剤として機能することができる。適切な賦形剤には、限定されるものではないが、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、モル浸透圧濃度を変化させる塩、カプセル化剤、緩衝液、および皮膚浸透促進剤が含まれる。組成物は、任意の適切な形態、例えば錠剤、丸薬、粉末、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液、エマルション、溶液、シロップ剤、エアロゾル(固体としてまたは液体媒体の)、軟膏、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、坐薬、滅菌注射液、ならびに滅菌パッケージ粉末であってもよい。そのような組成物は、任意の公知の方法によって、例えば滅菌条件下で有効成分を担体または賦形剤と混合して調製することができる。
【0057】
非経口投与用の適切な製剤には、水溶性形態、例えば、水溶性の塩の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、必要に応じて油性注射懸濁液用の活性化合物の懸濁液が、投与されてもよい。適切な親油性溶媒または媒体には、脂肪酸、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドが含まれる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を高める物質を含有してもよく、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランが含まれ得る。懸濁液は、安定剤も含有してもよい。リポソームも細胞にデリバリーする薬剤をカプセル化するのに使用することができる。
【0058】
本発明による全身投与用の医薬製剤は、腸内、非経口または局所投与用に製剤化されてもよい。実際に、3種類の製剤は全て、全身投与を達成するのに同時に使用されてもよい。
【0059】
経口投与用の適切な製剤には、被覆錠剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップまたは吸入剤およびその制御放出形態を含む、ハードまたはソフトゼラチンカプセル、丸薬、錠剤が含まれる。一般に、これらの薬剤は、注射による投与(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内等)用に製剤化されるが、他の形態の投与(例えば、経口、粘膜等)も使用することができる。したがって、本発明の薬剤は、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液等などの薬学的に許容される媒体と好ましくは組み合わされる。
【0060】
医薬組成物は、当技術分野で公知の手順を使用して患者に投与した後にその有効成分の急速放出、持続放出または遅延放出をもたらすように製剤化することもできる。本発明の組成物の物理的および化学的特性は、投与方法および治療される特定の疾患または障害に応じて、当業者により変更または最適化されてもよい。組成物は、単位剤形、密封容器で、または使用説明書および/もしくは複数の単位剤形を含み得るキットの一部として提供され得る。
【0061】
1つを超える薬剤が投与される場合、薬剤は同じ製剤中に一緒に製剤化されてもよく、または別個の医薬組成物に製剤化されてもよい。別個の組成物は、同時に、連続してまたは別々に投与されてもよい。
【0062】
本発明の薬剤または医薬組成物の様々な投与経路が利用可能である。選択される特定の投与方法は、選択される特定の薬剤または組成物、投与が疾患の予防または治療のためか、治療下の医学的障害の重症度、および治療有効性に必要とされる投与量に依存するであろう。本発明の方法は、医学的に許容され、臨床的に許容できない副作用を引き起こすことなく活性化合物の有効レベルをもたらす任意の投与方法を使用して実施され得る。そのような投与方法には、限定されるものではないが、経口、口腔内、舌下、吸入、粘膜、直腸、鼻腔内、局所、眼、眼周囲、眼内、経皮、皮下、動脈内、静脈内、筋肉内、非経口、または注入方法が含まれる。特定の実施形態では、治療を必要とする領域に本発明の医薬組成物を局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、および限定するものではないが、局所注入、注射によって、またはインプラントを用いて達成することができ、前記インプラントは、サイラスティック膜(sialastic membrane)などの膜、または繊維を含む、多孔質、非多孔質、またはゼラチン材料であり得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」とは、患者利益、すなわち、治療される状態の予防もしくは改善、症状の低減、治癒率の向上、または治療組織もしくは周囲組織における物質のレベルの検出可能な変化をもたらすのに十分な薬剤の合計量、または医薬組成物もしくは方法の各有効成分の合計量を指す。単独で投与される個々の有効成分に適用される場合、該用語はその成分単独を指す。組み合わせに適用される場合、同時に、連続してまたは別々に投与されるかどうかにかかわらず、該用語は、治療効果をもたらす有効成分の合わせた量を指す。
【0064】
本発明の製剤で使用される正確な用量は、投与経路、および状態の重篤度に依存し得、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきであり、標準的な臨床技術によって決定することができる。有効用量は、インビトロ試験系または動物試験系から得られる用量反応曲線から推定することができる。特定の投与レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、故に特定の個体およびその個体の病歴、ならびに投与経路に依存するであろう。
【0065】
薬剤または組成物は、約24時間~約2日、~約1週間、~約2週間、~約3週間、~約1ヶ月、~約2ヶ月、~約3ヶ月、~約4ヶ月、~約5ヶ月、~約6ヶ月に及ぶ間隔でデリバリーされ得る。そのような投与レジメンのスケジュールは臨床医によって最適化され得る。
【0066】
薬剤または組成物は、1回または複数回の用量を含む治療レジメンを使用して投与することができ、治療レジメンは2日、3日、4日、5日、6日または7日、14日、30日にわたって施される。
【0067】
組み合わせ
本発明の薬剤、医薬組成物または治療方法は、転移性がんを含むがん、自己免疫疾患、炎症、または感染症の治療または予防のための、現在の標準的および実験的化学療法、ホルモン療法、生物療法、免疫療法、放射線療法、または外科手術を含む他の既知の療法と組み合わせることができる。
【0068】
当業者は、転移性がんに対する適切な既知の治療を特定することができ、転移性疾患がどれぐらい広範で進行している可能性があるか、およびがんの分子プロファイルに応じて、転移性がんに対する既知の治療が異なることを理解するであろう。例えば、適切な治療は補助化学療法であってもよく、特定の治療および/またはレジメンは対象の特定の腫瘍の特徴に依存する。一例として、転移性がんの既知の治療は、ハーセプチンまたは別のHer2遮断モノクローナル抗体治療などの、転移性乳がんの治療における使用で知られている治療であってもよい。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「組み合わせ」または「と組み合わせた」とは、それが治療に関するとき、1つを超える治療薬の使用を指す。該用語の使用は、薬剤または医薬組成物がそれを必要とする対象に投与される順序を限定しない。
【0070】
それを必要とする対象
本発明の任意の態様のそれを必要とする対象は、がんと診断されていてもよい。がんは上皮細胞がんであってもよい。上皮細胞がんは、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、甲状腺がん、肺がん、またはメラノーマであってもよい。
【0071】
本発明の任意の態様のそれを必要とする対象は、転移性がんと診断されていてもよい。転移性がんは、任意のがん、例えば、肺がん;前立腺がん;腎臓がん;多発性骨髄腫;甲状腺がん;頭頚部のがん;胃がん、結腸がん、結腸直腸がん、および肝臓がんを含む消化管のがん;卵巣がん、子宮内膜がん、および子宮頚がんを含む女性生殖器の悪性腫瘍;膀胱がん;神経芽細胞腫を含む脳腫瘍;肉腫;骨肉腫;ならびにメラノーマなどの皮膚がんに由来してもよい。好ましくは、がんは転移する傾向がある。転移性がんは、上皮がん、例えば乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、甲状腺がん、肺がん、またはメラノーマに由来してもよい。
【0072】
治療に適した対象の特定
膜結合アクチンは、治療前、治療と同時、または治療後に対象から得られた試料で検出または測定されてもよい。
【0073】
膜結合アクチンは上皮がん細胞などの細胞の膜で検出または測定され得る。膜結合アクチンは、細胞外小胞(EV)の膜で検出または測定され得る。膜結合アクチンは、細胞の膜および細胞外小胞の膜の両方で検出または測定されてもよい。
【0074】
任意の態様では、EVには限定されるものではないが、エキソソーム、エキソマー(exomer)、微小胞、およびアポトーシス小体が含まれ得る。
【0075】
アクチンが、標準試料で検出または測定されるアクチンのレベルに等しいかまたはそれを上回るレベルで検出または測定されるならば、対象は、本発明の医薬組成物の薬剤による治療に適している、または該治療から恩恵を受ける可能性があると決定され得る。
【0076】
標準試料または対象から得られた試料とは、組織、組織試料、生検、細胞試料、腫瘍試料、糞便試料、および生体液、例えば、血漿、血清、血液、尿、リンパ液、腹水、唾液試料を含む、対象、例えばヒト対象から得られた生体物質の試料を指す。一実施形態では、試料は例えば、対象由来の乳房組織の生検からの組織試料である。一実施形態では、試料は対象から得られた血液試料である。
【0077】
膜結合アクチンは、対象から得られた固形乳房組織生検からの乳がん上皮細胞の形質膜から検出または測定され得る。
【0078】
膜結合アクチンは、対象から得られた血液試料から単離された細胞外小胞の膜から検出または測定され得る。
【0079】
標準試料は、陽性または陰性標準試料であってもよい。
【0080】
標準試料が陽性標準試料である場合、その試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルが、標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルに等しいかまたはそれより高い場合に、決定はなされ得る。
【0081】
標準試料が陰性標準試料である場合、その試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルが、標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルより高い場合に、決定はなされ得る。
【0082】
差異の大きさは、対象から得られた試料と標準試料の間の関係、および各試料の特徴に依存し得る。例えば、対象から得られた試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルが、標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルより少なくとも約5%多い、少なくとも約10%多い、少なくとも約20%多い、少なくとも約50%多い、少なくとも約100%多い、少なくとも約200%多い、少なくとも約300%多い、少なくとも約400%多い、少なくとも約500%多い、少なくとも約1000%多い、少なくとも約2000%多い、少なくとも約5000%多い、約少なくとも10,000%多い、少なくとも20,000%以上、少なくとも50,000%多い、少なくとも100,000%多い、少なくとも500,000%多い、少なくとも1,000,000%多い場合に、決定はなされ得る。あるいはまたはさらに、対象から得られた試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルが、標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルより少なくとも約1倍以上、少なくとも約2倍以上、少なくとも約3倍以上、少なくとも約4倍以上、少なくとも約5倍以上、少なくとも約10倍以上、少なくとも約20倍以上、少なくとも約50倍以上、少なくとも約100倍以上、少なくとも約250倍以上、少なくとも約500倍以上、少なくとも約1000倍以上、少なくとも約5000倍以上、少なくとも約10,000倍以上、少なくとも約20,000倍以上、少なくとも約50,000倍以上、少なくとも約100,000倍以上、少なくとも約500,000倍以上高い場合に、決定はなされ得る。
【0083】
対象から得られた試料は、上皮細胞、および/またはEV、および/または循環腫瘍細胞、例えば上皮細胞を含んでもよい。試料が上皮細胞および/またはEVを含むならば、膜結合アクチンの検出または測定はこれらのEVで実施することができ、これらのEVは必要に応じて残りの試料から最初に単離、同定、または分離され得る。
【0084】
同様に、循環腫瘍細胞が必要に応じて残りの試料から単離、同定、または分離されてもよい。細胞および/またはEVが残りの試料から単離、同定、または分離される場合、1つまたは複数の適切なバイオマーカーが使用され得る。例えば、上皮細胞を試料から単離、同定、または分離するために、上皮抗EpCAM抗体が、使用されてもよい。同様に、試料からEVを単離または分離するために、抗体CD9、抗CD63および/または抗CD81抗体のうちの1つまたは複数が、使用されてもよい。循環腫瘍細胞を試料から単離、同定、または分離するために、EpCAM、ER、PR、EGFR、HER2、TOP2Aのうちの1つまたは複数を検出する手段が使用されてもよい(Nadal et al. Breast Cancer Research 2012, 14:R71)。膜結合アクチンを検出する手段は、抗アクチン抗体などのアクチン結合ポリペプチドであってもよい。上に定義される手段は、標的に結合することができるアプタマーなどのDNAまたはRNA分子であってもよい。当業者は、試料から細胞および/またはEVを単離するのに当技術分野で利用可能な任意の試薬セットを選択することができるであろう。選択される的確な試薬は試料の性質に依存し得、例えば、血液試料と特に適合する特定の試薬が選択され得る。膜結合アクチンを検出もしくは測定する手段、および/または目的の細胞タイプを同定する手段は、カラムマトリックス、アレイ、またはマイクロタイタープレートのウェルなどの固体支持体に結合されて提供されてもよい。あるいは、支持体は別個の要素として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】1Dウェスタンブロットを使用して、GalNAcが内皮細胞の複数のタンパク質に結合することを示す。A.全内皮細胞タンパク質が抽出され、SDS-PAGEにかけられ、次いでウェスタンブロットが行われた。左側の膜はGalNAc-BSA-ビオチンでプローブされ、いくつかのバンドを示した。陰性対照として右側の膜がBSA-ビオチンで標識され、バンドは観察されなかった。
【
図2】質量分析による分析用に切除されたバンドを示す。どこでゲル断片が質量分析用に切除され、5つの断片が分析されたかを示す1D SDS-PAGEおよびブロット。
【
図3】2D PAGEを使用して、GalNAcが内皮細胞の複数のタンパク質に結合することを示す。ゲル断片が質量分析用に切除された箇所を示す2D SDS-PAGEおよびブロット(合計13断片)。
【
図4】EVが細胞接着を増加させ得ることを示す。EVは静的接着アッセイの前に乳がん細胞から単離され、乳がん細胞か内皮細胞のどちらか、または両方とインキュベートされた。内皮細胞への乳がん細胞接着は、EVの存在下で有意に増加される。乳がん細胞も内皮細胞も、EVを用いて前処理される場合に最大の増加が見られる。3回の反復からのデータ、エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)であり、行われた統計検定はTukey検定による一元配置ANOVAである。星印は、未処理対照と比べた有意性を示す。
【
図5】プレクチンのノックダウンが、内皮細胞への乳がん細胞の接着を低減することを示す。MCF7および/またはHUVEC細胞は、プレクチンを標的にする陰性スクランブルsiRNAまたはsiRNAで処理された。細胞接着は、プレクチンがどちらか一方の細胞株または両方の細胞株でノックダウンされる場合に有意に減少される。3回の反復からのデータ、エラーバーは平均値の標準誤差であり、行われた統計検定はTukey検定による一元配置ANOVAである。星印は、未処理対照と比べた統計的有意性を示す。
【
図6】組換えプレクチンを用いた乳がん細胞の処理が、内皮細胞への細胞接着を低減することを示す。MCF7細胞は未処理であるか、または静的接着アッセイを行う前に0.1ug/ml組換えプレクチンで処理された。組換えプレクチンによるMCF7細胞の処理は、内皮細胞への細胞接着を有意に減少させる。3回の反復からのデータ、エラーバーは平均値の標準誤差であり、行われた統計検定はTukey検定による一元配置ANOVAである。
【
図7】プレクチンがノックダウンされたがん細胞では、「野生型」がん細胞由来のEVにより細胞接着が部分的に回復され得ることを示す。プレクチンは、MCF7細胞でsiRNAを使用してノックダウンされ(2番目の列)、内皮細胞への接着の低下を示す。野生型MCF7細胞由来のEVで処理されたプレクチンノックダウンMCF7細胞は、内皮細胞への接着の部分的回復を示す。3回の反復からのデータ、エラーバーは平均値の標準誤差であり、行われた統計検定はTukey検定による一元配置ANOVAである。
【
図8】MCF7細胞が、BT474細胞より多くのHPA結合タンパク質を有することを示す。プローブとしてのビオチン化HPAおよびローディング対照として使用される抗GAPDH抗体を使用してウェスタンブロットする前に、2種類の乳がん細胞株からの溶解物がSDS-PAGEにかけられた。MCF7溶解物は、72kDaの1つのHPA結合バンドしかなかったBT474細胞からの溶解物より多くのHPA結合バンドを含有した。
【
図9】細胞のHPA結合能とそれらの細胞によって産生されたEVのHPA結合能の間の正の相関を示す。MCF7およびBT474細胞ならびにこれらの細胞によって産生されたEVのNanoview分析。HPA陰性BC細胞株(BT474、左)およびHPA陽性BC細胞株(MCF7、右)EVは、蛍光コンジュゲート抗体で標識された(第1のカラム=CD81、第2のカラム=CD9、第3のカラム=HPA)。BT474 EVはHPA陰性であることが見出されたが、MCF7 EVはHPA陽性であった。
【
図10】細胞表面アクチンの遮断が、内皮細胞への乳がん細胞接着を低減したことを示す。MCF7細胞は未処理か、またはアクチンもしくはGAPDHに対する抗体で処理された。無処理MCF7 BC細胞と比べて、抗アクチン抗体とインキュベートされた細胞は内皮細胞への接着が有意に少ない。3回の反復からのデータ、エラーバーはSEMである。
【
図11】細胞表面アクチンレベルがHPA結合能/転移能と相関することを示す。表面アクチンを検出するのにフローサイトメトリーが使用された。(A):高転移性およびHPA陽性MCF7 BC細胞の表面のアクチンの発現は、非転移性および弱HPA陽性BT474細胞、ならびに中程度浸潤性および中程度HPA陽性ZR751 BC細胞での発現より多いことを示す。高転移性およびHPA陽性MCF7 BC細胞の表面のアクチンの発現は、浸潤性および高度HPA陽性T47D BC細胞に匹敵する。(B)MCF7およびBT474細胞における表面アクチンの発現が、HPA陰性、正常な乳房細胞HMEよりはるかにより高いことを示す。
【
図12】対照抗体と比べてアクチン抗体治療が、フローサイトメトリーによって検出される骨髄(BM)で見出される陽性単一iRFP-MCF7転移性細胞を低減することを示す。
【
図13】プレクチン抗体が、内皮細胞への転移性細胞接着を低減することを示す。
図13は、内皮細胞へのがん細胞接着を遮断する3つのプレクチン抗体(PN753-Cosmo Bio、PN643-Kerafast、およびQO754-Creative Diagnostics)をそれぞれ使用した静的接着アッセイの結果を示す。プレクチン抗体は、BT474(右側の列)と比べて内皮細胞に接着するMCF7(高悪性度転移性)(左側の列)細胞を低減する。12回の反復に基づく。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【
図14】アクチンおよび/またはプレクチン抗体が、内皮細胞への転移性細胞接着を低減することを示す。
図14は、内皮細胞へのがん細胞接着を遮断する2つのアクチン抗体および1つのプレクチン抗体を使用した静的接着アッセイの結果を示す。全ての抗体は、内皮細胞に接着するMCF7(転移性)細胞を低減する。アクチン1;mAbcam8226、アクチン2;15G5A11-E2、プレクチン;PN753。IgGアイソタイプ対照;ab172730。データは12回の反復に基づく。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【
図15】ペプチドが、内皮細胞への転移性細胞接着を低減するのに使用され得ることを示す。
図15は、内皮細胞へのがん細胞接着を遮断するペプチドおよび対応するペプチドコンジュゲートを使用した静的接着アッセイの結果を示す。SEQ7は、BT474(非転移性)細胞と比べて、内皮細胞に結合するMCF7(転移性)細胞を濃度依存的、特異的に低減する。データは12回の反復に基づく。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【
図16】アクチン抗体が内皮細胞への転移性細胞接着を低減することを示す。
図16は、テストされたどのアクチン抗体も、がん細胞またはがん細胞および内皮細胞の両方とインキュベートされた場合、内皮細胞に結合する転移性MCF7乳がん細胞が有意に低下することを示す、4つのアクチン抗体を使用した静的接着アッセイの結果を示す。ACTB1;2-2.1.14.17(Sigma)、ACTB2;2A3(BioRad)、ACTB3;15G5A11/E2(ThermoFisher)、ACTB4;mbcam8226(Abcam)、IgGアイソタイプ対照;ab172730(Abcam)。データは12回の反復に基づく。エラーバーは平均値の標準誤差である。
【発明を実施するための形態】
【0086】
一般的定義
当業者は、膜結合アクチンのレベルを検出または測定するのに当技術分野のいくつかの方法または手法が使用され得ることを理解するであろう。適切な手法には、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、ラテラルフローアッセイ、膜の生化学的または機械的分離/単離後のウェスタンブロット、ドットブロット、スロットブロット、質量分析が含まれる。本発明はそれ故に、高度に特殊な装置または訓練を必要とすることなく、世界中の多くの病院または検査室で広く採用され得る。
【0087】
当業者は、試料からEVを単離するのに当技術分野のいくつかの方法または手法が使用され得ることを理解するであろう(Konoshenko et al., 2018, BioMed. Res. Intl.で概説されている)。
【0088】
本明細書で言及されるアクチンは、宿主種に内因性であるタンパク質である。ヒトでは、例えば、アクチンは、ACTB遺伝子によってコードされるタンパク質であるベータアクチンを指し得る。アクチンは、ACTA1またはACTA2遺伝子によってコードされるタンパク質であるアルファアクチンを指し得る。アクチンは、ACTG1またはACTG2遺伝子によってコードされるタンパク質であるガンマアクチンを指し得る。
【0089】
「膜結合アクチン」とは、本明細書で使用される場合、細胞の表面、好ましくは細胞の形質膜中/上に存在するかもしくは検出可能な、または細胞外小胞の表面に存在するかもしくは検出可能な、ベータアクチンなどのアクチンを指す。アクチンは、グリコシル化目印などの翻訳後修飾を有してもよい。アクチンは、細胞および/またはEVを化学的または機械的に破壊する必要なしに検出可能であり得る。アクチンは、機械的および/または化学的に破壊された細胞および/またはEVの膜画分で検出可能であり得、前記画分は細胞またはEVの形質膜の膜のみを含む。検出または測定されるアクチンは、内在性膜タンパク質または内在性膜タンパク質と相互作用する表在性膜タンパク質であってもよい。
【0090】
用語「患者」または「対象」とは、本明細書で互換的に使用される場合、任意の哺乳動物、例えばヒトを指す。非ヒト哺乳動物の非限定的な例には、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、家禽、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等が含まれる。
【0091】
「生検」と記載される試料は、関連する医学技術の当業者に周知の方法を使用して、従来の方法によって得ることができる。生検試料を得る方法には、大きな塊への腫瘍の分割、またはマイクロダイセクション、または当技術分野で公知の他の細胞分離方法が含まれる。腫瘍細胞は、小ゲージ針を用いた吸引による細胞診によってさらに得ることができる。試料の保存および取り扱いを簡単にするために、試料は、ホルマリンで固定され、パラフィンに浸されてもよく、または最初に凍結され、次いで、迅速凍結を可能にする極低温媒体への浸漬によるOCT化合物などの組織凍結媒体に浸されてもよい。試料を保存および/または処理する他の方法は当業者に公知である。
【0092】
試料は、目的の細胞タイプを単離する、またはEVを単離するために操作されてもよい。例えば、組織試料または生検中の目的の細胞タイプに対するマーカーが、そのような細胞を単離または分離するのに使用され得る。一例は、ベータアクチンなどの膜結合アクチンが検出されるかまたはレベルが決定される前に、生検で採取された組織から上皮細胞を同定および/または分離するためのEpCAM結合ポリペプチドの使用である。別の例は、試料中の他のEVおよび/または生体物質から、上皮細胞に由来するEVを同定および/または分離するためのEpCAM結合ポリペプチドの使用である。
【0093】
標準試料とは、同等の試料、例えば対象もしくは他の対象から得られた試料と同じ組織および/もしくは細胞タイプか、または対象から得られた試料タイプに非常によく似た細胞株からの同等の試料を指し得る。
【0094】
「陰性標準試料」とは、非がん性であるか、またはがん性である/不死化されているが転移を発症していないかもしくは発症しないことが分かっている標準試料を指し得る。例えば、陰性標準試料は、対象の腫瘍を取り囲む領域由来の対応する試料、例えば生検試料、または1つもしくは複数の健康な対象由来の対応する組織であってもよい。陰性標準試料はまた、性質が非転移性であることが分かっており、対象について得られた試料と同じまたは類似した性質である細胞株、例えば、対象から得られた乳房組織試料の陰性標準試料として浸潤性が低いことが分かっている乳房上皮細胞株、例えばBT474細胞[Lasfargues et al., 1978, J. Nat. Cancer Institute, 61(4): 967-978]、または良性線維嚢胞性乳房組織から単離されたHMT3522ヒト乳房上皮細胞[Briand et al, 1987, In Vitro Cell and Dev. Biol., 23 (3): 181-188]であってもよい。
【0095】
膜結合アクチンの存在またはレベルがEVで検出または測定される場合、陰性標準試料とは、がんを有さない1つもしくは複数の対象、もしくはがんを有する/有した、および転移を発症していないかもしくは発症しなかった1つもしくは複数の対象から、または上記のような浸潤性が低いことが分かっている比較細胞株から単離されたEVを指し得る。
【0096】
故に、そのような陰性標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルは、陰性対照としての役割を果たす。
【0097】
「陽性標準試料」とは、浸潤性であることが分かっているがん性の、および/または転移を発症しているかもしくは発症する可能性があることが分かっている標準試料を指し得る。例えば、陽性標準試料は、転移を発症していることが分かっている1つまたは複数の対象由来の対応する試料、例えば生検試料であってもよい。陽性標準試料はまた、性質が浸潤性および/または転移性であることが分かっており、対象について得られた試料と同じまたは類似した性質である細胞株、例えば、対象から得られた乳房組織試料の陽性標準試料として浸潤性が高いことが分かっている乳房上皮細胞株、例えばMCF7細胞[Soule et al., 1973, J. Nat. Cancer Institute, 51(5): 1409-14-16]であってもよい。
【0098】
膜結合アクチンの存在またはレベルがEVで検出または測定される場合、陽性標準試料とは、がんを有する/有した、および転移を発症した1つまたは複数の対象から、または上記のような浸潤性が高いことが分かっている比較細胞株から単離されたEVを指し得る。
【0099】
故に、そのような陽性標準試料で検出または測定された膜結合アクチンのレベルは、陽性対照としての役割を果たす。
【0100】
がんと診断されており、上記の標準試料より高いレベルの膜結合アクチンが測定される対象由来の試料は、本発明の薬剤、医薬組成物または方法を受け取るのに適切として同定され得る。
【0101】
EVの表面のアクチンのレベルも、治療有効性および腫瘍再発をモニタリングするのに使用することができる。
【0102】
当業者は、転移が確認されているかもしくは記録された転移がない対象から、または性質が転移性であるかもしくは非転移性であることが分かっている細胞株から、所与の試料タイプ中の膜結合アクチンのレベルが記録されているデータベースを調べることができ得る。当業者は、必要に応じてそのような転移性または非転移性細胞株を容易に同定することができる。
【0103】
いずれの態様または実施形態でも、がんは乳がんなどの上皮細胞がんであってもよい。
【0104】
本発明の任意の態様の方法は、インビボ、エクスビボまたはインビトロであり得る。一実施形態では、方法はインビトロ方法である。
【0105】
一態様では、本発明は、本発明の1つまたは複数の薬剤を、対象または1つもしくは複数の細胞に投与することを含む、上皮細胞から内皮細胞への接着を予防または低減する方法を提供する。1つまたは複数の薬剤は、上皮細胞および/または内皮細胞に投与されてもよい。上皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤は、抗アクチン抗体を含み得るかもしくはからなり得、および/または内皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤は、抗プレクチン抗体を含み得るかもしくはからなり得る。あるいは、またはさらに、上皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤は、組換えプレクチンもしくはそのアクチン結合断片を含み得るかもしくはからなり得、および/または内皮細胞に投与される1つもしくは複数の薬剤は、抗プレクチン抗体を含み得るかもしくはからなり得る。組換えプレクチンは、プレクチンのアクチン結合ドメイン(ABD)を含み得るかまたはからなり得る。抗プレクチン抗体は、プレクチンのアクチン結合ドメイン(ABD)に結合し得る。
【0106】
当業者は、本発明の任意の1つの実施形態および/または態様の好ましい特徴が、本発明の全ての他の実施形態および/または態様に適用され得ることを理解するであろう。
【0107】
材料および方法
細胞培養
細胞は、以下の条件下で37℃、5% CO2雰囲気で維持された。
【0108】
【0109】
内皮細胞からのタンパク質抽出および定量化
HUVEC細胞をコンフルエンスまでT175フラスコで増殖させ、次いで完全増殖培地で加湿雰囲気中、37℃、2時間、10ug/ml TNFαで処理した。細胞を氷冷PBSで洗浄した。細胞を短時間遠心分離してペレット化し、上清を捨て、プロテアーゼ阻害剤カクテル10ul/mlを添加した1×RIPA緩衝液にペレットを再懸濁し、4℃で30分間エンドオーバーエンドミキサーに入れた。この時間後、チューブを13,000RPMで4℃、20分間遠心分離した。上清を新しい1.5mlチューブに移し、ペレットを捨てた。抽出したタンパク質をBCAアッセイを使用して定量化した。
【0110】
SDS-PAGEおよびウェスタンブロット
タンパク質試料10ugを、Laemmli試料緩衝液3ulおよび1M DTT 1ulを用いたSDS-PAGEに使用した。これを混合し、100℃に10分間加熱し、次いで氷上に置いた。試料をPrecision Plus Protein Dual Colour Standardと共に、1×TGS緩衝液中ミニPROTEAN TGXステインフリープレキャストゲル(12%)に流した。ゲルを100ボルトで2時間実行した。Trans-Blot Turbo Midi PVDF転写パックを使用してタンパク質を転写した。ゲルを膜の上に置き、層の間に挟み、次いでTransblot Turbo機に高MW設定で入れた。膜を振盪台で5分間、TBST(0.05% Tween)で3回洗浄した。膜を次いで振盪台RTで2時間、5% BSA/TBSTとインキュベートして遮断した。遮断した膜は、5% BSA/TBST中1ug/ml GalNAc-BSA-ビオチン10ml、または5% BSA/TBST中1ug/ml BSA-ビオチン10mlで一晩、4℃でインキュベートした。膜を5% BSA/TBSTで5分間、3回洗浄した後、膜を5% BSA-TBST中5ug/mlストレプトアビジン-HRP 10mlで1時間、室温でインキュベートした。膜を5% BSA-TBSTで5分間、2回、次いで1回、15分間洗浄した。HRP基質を1:1比で調製し(Clarity+Clarity Max Western ECL Substrate、BioRad、170-5060)、混合した。これを膜に添加し、Chemidoc(登録商標)トランスイルミネーターで画像化した。
【0111】
2D PAGE
プロテアーゼ阻害剤を添加した1×RIPA緩衝液中1ug/ulの濃度で活性化した全HUVECタンパク質を、2D PAGEで使用するためにGE Healthcare製の2D Clean-upキットを用いて、製造者の説明書(80-6484-51)に従って精製した。試料を、BioRad製のReadyPrep 2-Dスターターキットを用いて製造者の説明書(163-2105)に従って2D PAGE用に調製した。これにより、試料を11cm IPGストリップに吸収させ、次いでその後Ettan IPGphor 3で等電点電気泳動によって16時間分離できるようになった。IPGストリップを洗浄し、再水和し、次いでCriterion(商標)XT Bis-Trisプレキャストゲルに入れ、12%ゲルをタンクに充填し、標準物質を添加し、ゲルをアガロースで封入した。アガロースは、タンクに充填する前に1×MOPS緩衝液で固定した。NuPage Antioxidant(Thermo、NP0005)250ulをゲルごとに添加した。ゲルを200ボルトで70分間実行した。ブロッティングするゲルをそのカセットから除去し、dH2Oで2回洗浄した。残りの手順を室温で実施した。ゲルをInvitrogen(商標)Novex(商標)SimplyBlue(商標)SafeStain(Thermo、LC6065)に入れ、振盪台に1時間置いた。次いで、ゲルを振盪台で一晩、dH2Oで脱染した。ゲルをiBlot(商標)2 Dry Blotting Systemを使用してブロッティングした。膜をdH2Oで簡単に洗浄し、次いでロッキングプラットフォームで5% Marvel/TBSTを用いて1時間遮断した。膜をロッキングプラットフォームで5% BSA/TBST中1ug/ml GalNAc-BSA-ビオチンと2時間インキュベートし、次いでロッキングプラットフォームで3回、それぞれ10分間、TBSTで洗浄した。膜をロッキングプラットフォームで1時間、5% BSA/TBST中5ug/mlストレプトアビジン-ペルオキシダーゼとインキュベートし、次いでロッキングプラットフォームで3回、それぞれ10分間、TBSTで洗浄した。ECL HRP基質を調製し、膜に添加し、次いでChemidoc(登録商標)トランスイルミネーターを使用して画像化した。
【0112】
質量分析用のゲルの調製
1Dゲルをクマシーブルーで染色し、2Dゲルを銀染色で染色し、次いで参照としてブロットを使用して、目的のバンドおよびドットを1Dおよび2D ゲルから切除した。ゲルを次いでPorton Biopharma Ltd.での質量分析に送った。
【0113】
乳がん細胞からのEV抽出
MCF7乳がん細胞を70%コンフルエンシーまでT175フラスコで増殖させ、25ml/フラスコのEV除去培地(FBSを前もって120,000gで16時間回転させて存在するEVを除去した、10% FBS含有DMEM培地)を供給し、48時間馴化させた。培地を除去し、300×gで5分間、次いで16,000×gで20分間、4℃で回転させた。0.1% BSAで遮断した0.22umフィルターにより上清を濾過した。Vivaspin 20、100kDa濃縮装置を使用して上清を500ulに濃縮した。SECカラム(BioRad、7321010)を、セファロース14mlおよびPBS 10mlを添加して調製し、これを2時間沈殿させ、次いでカラム支持体を添加し、PBSを通過させた。カラムを次いでPBS 10mlで3回洗浄した。試料500ulをカラム支持体に添加し、吸着させ、次いでPBS 10mlを添加した。フロースルー2.5mlを回収し、捨て、次いでフロースルー2mlを回収した(EVを含有)。Particlematrix(商標)粒子分析器を使用してEVを定量化した。
【0114】
EVありまたはなしの内皮静的接着アッセイ
活性化内皮細胞を含むカバースリップを上記のように調製した。MCF7乳がん細胞をT75フラスコで70%コンフルエンシーまで増殖させ、完全培地中10mg/ml 8-ヒドロキシピレントリスルホン酸(HTPS)で37℃、5% CO2で2時間処理した。この時間後、HTPSを除去し、洗浄液が透明に流れるまで細胞をPBS 10mlで5回洗浄した。細胞を擦り取り、カウントした。20,000細胞/mlを調製した。MCF7細胞をEV 500ulまたはPBS 500ulのどちらかで処理し、RTで10分間混合した。HUVEC細胞をEV 500ulまたはPBS 500ulのどちらかで37℃、5% CO2で30分間処理した。EVまたはPBSを細胞から除去し、20,000細胞/mlのMCF7細胞をウェルごとに添加し、10分間をインキュベートし、細胞を除去し、加温したPBSでウェルを穏やかに洗浄して全ての結合していない細胞を除去した。ウェルを次いで4% PFAで10分間、RTで固定した。固定液を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄し、次いでフルオロマウント(商標)を使用してカバースリップを乗せた。カバースリップごとの全接着細胞をカウントした。
【0115】
活性化内皮細胞を含むカバースリップを上記のように調製した。MCF7乳がん細胞をT75フラスコで70%コンフルエンシーまで増殖させ、完全培地中10mg/ml HTPSで37℃、5% CO2で2時間処理した。HTPSを除去し、洗浄液が透明に流れるまで細胞をPBS 10mlで5回洗浄した。細胞を擦り取り、カウントした。20,000細胞/mlを調製した。MCF7細胞を、PBS中0.1ug/ml組換えプレクチン(2b Scientific SKU RPC754Hu01(ヒトプレクチンUniprot ID Q15149の残基Asp 175~Pro 400(配列番号1)、アクチン結合ドメインに対応)、またはPBSのどちらかで10分間、RTで処理した。組換えプレクチンまたはPBSを細胞から除去し、20,000細胞/mlのMCF7細胞をウェルごとに添加し、10分間インキュベートし、細胞を除去し、加温したPBSでウェルを穏やかに洗浄して全ての結合していない細胞を除去した。ウェルを次いで4% PFAで10分間、RTで固定した。固定液を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄し、次いでフルオロマウントを使用してカバースリップを乗せた。カバースリップごとの全接着細胞をカウントした。
【0116】
プレクチンサイレンシングおよびEVレスキューありまたはなしの内皮静的接着アッセイ
MCF7およびHUVEC細胞を70%コンフルエンシーまで24ウェル細胞培養プレートで増殖させ、細胞をDharmafect(商標)トランスフェクション試薬および5uMのプレクチンsiRNAまたはスクランブル陰性対照で24時間処理した。一部のHUVECおよびMCF7細胞は無処理であった。HUVEC細胞を完全培地中10ug/ml TNFaで37℃、5% CO2で2時間処理して活性化した。MCF7乳がん細胞をT75フラスコで70%コンフルエンシーまで増殖させ、完全培地中10mg/ml HTPSで37℃、5% CO2で2時間処理した。HTPSを除去し、洗浄液が透明に流れるまで細胞をPBS 10mlで5回洗浄した。細胞を擦り取り、カウントした。20,000細胞/mlを調製した。MCF7細胞を、上に概説した抽出方法を使用して単離したEV 500ul、またはPBS 500ulのどちらかで10分間、RTで処理した。EVまたはPBSを除去し、MCF7細胞1mlをHUVEC細胞に添加し、37℃、5% CO2で10分間インキュベートした後、細胞を除去し、加温したPBSでウェルを穏やかに洗浄して全ての結合していない細胞を除去した。ウェルを次いで4% PFAで10分間、RTで固定した。固定液を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄し、次いでフルオロマウントを使用してカバースリップを乗せた。カバースリップごとの全接着細胞をカウントした。
【0117】
抗体およびペプチドありまたはなしの内皮静的接着アッセイ
これは上記の通りであったが、以下に述べるストック抗体およびペプチド1/1000を使用した。
プレクチン1 ab=https://www.2bscientific.com/Products/Cosmo-Bio-Ltd/CAC-NU-01-PLN/Anti-plectin.
プレクチン2 ab=https://www.kerafast.com/item/750/anti-plectin-n-terminal-actin-binding-domain-pn643-antibody.
プレクチン3 ab=https://www.creative-diagnostics.com/search.aspx?keys=cabt-b160&cid=0.
ACT1=https://www.abcam.com/beta-actin-antibody-mabcam-8226-loading-control-ab8226.html.
ACT2=https://www.thermofisher.com/antibody/product/beta-Actin-Antibody-clone-15G5A11-E2-Monoclonal/MA1-140.
SEQ7コンジュゲート=AVIYGGVQGGC-HAS.
SEQ7ペプチド=AVIYGGVQ.
SEQ8コンジュゲート=WPYKKYGGC-HAS.
ACTB1 抗ガンマ=https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/sigma/a8481?lang=en&region=GB&cm_sp=Insite-_-caSrpResults_srpRecs_srpModel_a8481-_-srpRecs3-1.
ACTB2抗ガンマ=https://www.bio-rad-antibodies.com/monoclonal/human-actin-gamma-antibody-2a3-vma00049.html?f=Antibody-only&_ga=2.15891637.2017118208.1608138841-1927149081.1608138841.
ACTB3抗ベータ=https://www.thermofisher.com/antibody/product/beta-Actin-Antibody-クローン-15G5A11-E2-Monoclonal/MA1-140.
ACTB4抗ベータ=https://www.abcam.com/beta-actin-antibody-mabcam-8226-loading-control-ab8226.html
【0118】
MCF7およびBT474乳がん細胞のウェスタンブロット後のHPAプロービング
MCF7およびBT474細胞株は、記載したようにT75フラスコで70%コンフルエンスまで増殖させ、それらのタンパク質を抽出し、定量化し、SDS-PAGEにかけ、次いでブロッティングした。ビオチン化HPAまたは抗GAPDH抗体を使用して膜をプローブした。
【0119】
Nanoview
Nanoviewマニュアルに従った。SEC(記載の通り)を使用してMCF7およびBT474乳がん細胞からEVを抽出し、蛍光コンジュゲート抗体(CD81およびCD9-キットに公表されていないクローン)およびHPAレクチン(Sigma)で標識した。
【0120】
カバースリップ上での活性化内皮細胞の調製
滅菌13mm Dガラスカバースリップを24ウェルプレートのウェルに置き、100,000HUVEC細胞を播種した。細胞が単層になるまで細胞を37℃、5% CO2雰囲気でインキュベートした。HUVEC細胞を完全培地中10ug/ml TNFaで37℃、5% CO2で2時間処理して活性化した。
【0121】
アクチン抗体阻害ありまたはなしの内皮接着アッセイ
活性化内皮細胞を含むカバースリップを上記のように調製した。MCF7乳がん細胞をT75フラスコで70%コンフルエンシーまで増殖させ、完全培地中10mg/ml HTPSで37℃、5% CO2で2時間処理した。この時間後、HTPSを除去し、洗浄液が透明に流れるまで細胞をPBS 10mlで5回洗浄した。細胞を擦り取り、カウントした。20,000細胞/mlを調製した。MCF7細胞を1:1,000アクチンIgG(Abcam ab8227)、1:1,000 GAPDH IgGまたはPBSのどちらかで30分間、RTで処理した。抗体またはPBSを細胞から除去し、20,000細胞/mlのMCF7細胞をウェルごとに添加し、10分間インキュベートし、細胞を除去し、加温したPBSでウェルを穏やかに洗浄して全ての結合していない細胞を除去した。ウェルを次いで4% PFAで10分間、RTで固定した。固定液を除去し、ウェルをPBSで3回洗浄し、次いでフルオロマウントを使用してカバースリップを乗せた。カバースリップごとの全接着細胞をカウントした。
【0122】
フローサイトメトリー
細胞を収集し、冷PBSに再懸濁した。細胞を抗アクチンAbと4℃で1時間インキュベートした(Proteintechカタログ:60008-1-Ig)。細胞を次いで洗浄し、PBSに再懸濁後、375nm、405nm、488nmおよび638nmレーザーを備え、CytExpertソフトウェアを使用して操作する13カラー、4レーザーCytoFLEX S N-V-B-Rフローサイトメーターを使用して、フローサイトメトリーを行った。
【0123】
動物試験
これは、ドイツのCharles River Discovery Research Servicesによって行われた。実験は、マウスモデルにおいて腫瘍細胞コロニー形成モデルを阻害する抗体被験物質の有効性をテストするために計画した。モデルは、NSGマウスに静脈内(iv)注射する乳がん腫瘍細胞株iRFP-MCF7を含む。10匹のNSGマウスが5×10^6 iRFP-MCF7細胞(300ul PBS懸濁液)の静脈内注射を受けた;注射の当日を0日目とする。マウスを2つの治療群にランダム化した(1群あたり5匹);1群は対照抗体、1群はアクチン抗体(クローン2A3)。MCF7細胞がエストロゲン受容体を発現し、細胞質エストロゲン受容体を通じてエストラジオールを処理する能力を維持することを考慮して(www.atcc.org)、マウスにエストラジオールを飲料水(10μg/ml)で与えた。エストロゲンは、MCF7細胞のインビボでの増殖に不可欠と考えられる[Gierthy JF,et al., Cancer Res.(1993): 53(13):3149-53]。実験は腫瘍細胞のi.p.治療と、それに続く30分後のi.v.注射により開始する;これを実験開始日(d=0)と定義した。マウスに対照抗体30mg/kg/日を与えるか、またはアクチン抗体5ml/kgを生理食塩水媒体でip投与し、週1回処理した。20日後、動物を安楽死させた。フローサイトメトリーによってiRFP-MCF7細胞について骨髄(BM)を分析した;iRFPシグナル、前方側方散乱およびmCD45の細胞集団を分離。これらを一重線についてゲーティングした。
【実施例】
【0124】
実施例1-転移能のバイオマーカーとしての膜結合アクチンの同定
エスカルゴ由来のレクチンであるリンゴマイマイ凝集素(HPA)の、乳がん(BC)および他の上皮がんへの結合は、転移能および患者の予後不良と関連している[Brooks S., 2000, Histology and Histopathology, 15(1): 143-158]。HPAが何に特異的に結合するかは不明であるが、HPAは末端α-GalNAc(HPAが最も高い親和性を有する単糖)を有する一連の糖タンパク質に結合することが示されている。これらの糖タンパク質の1つががん関連Tn抗原(Ser/Thr-GalNAc)である。がん関連Tn抗原は、O結合型グリコシル化で作られる初期構造であり、通常は常にさらに精密に作られるが、がんで頻発している(Brooks S.A. & Leathem A.J.C., 1995, British J. Cancer, 71: 1033-1038)。
【0125】
高HPA陽性BC細胞は、静的接着アッセイにおいて弱HPA陽性またはHPA陰性BC細胞より有意に多く内皮細胞に接着する。このアッセイは、狭い毛細血管における転移性がん細胞停止を模倣している。がん細胞が転移に成功するには、がん細胞は血管に結合し、血管外遊出しなければならない。細胞をHPAまたはBSA-GalNAcとインキュベートすると細胞結合を阻害することから、結合はこのグリコシル化目印を通じて媒介されることが示されている。
【0126】
HPA陽性細胞接着を媒介する内皮細胞上の受容体の同定
BC細胞のHPA結合グリカンを認識している内皮細胞上の推定受容体を同定するために、TNFα(内皮受容体を上方制御することが知られている炎症性サイトカイン)を使用して活性化してある内皮細胞から全タンパク質を抽出した。タンパク質をSDS-PAGEにかけ、次いでブロッティングした。GalNAc-BSA-ビオチン(GalNAcは、HPAが名目上最大の特異性を有する糖である)をプローブとして使用して、目的の内皮タンパク質を同定した。陰性対照としてBSA-ビオチンも使用して膜をプローブした。
図1に例示するように、膜をGalNAc-BSA-ビオチンでプローブするといくつかのバンドが観察されたが、膜をBSA-ビオチンでプローブした場合、バンドは観察されなかった。
【0127】
GalNAc-BSA-ビオチンをプローブとして使用して、いくつかのバンドが一貫して同定された。これらから、5つのゲル断片を選択し、質量分析用に切除した(
図2)。分離はサイズ上に過ぎないことから、1Dゲルからのブロットで観察されたバンドは多数のタンパク質に相当し得る。バンドをよりうまく解明するために、2D-PAGEを使用してタンパク質をサイズおよびpHの両方について分離した。2Dゲルをブロッティングし、GalNAc-BSA-ビオチンでプローブした。13個のスポットを目的のスポットとして同定し、2D PAGEゲルから切除した(
図3)。
【0128】
質量分析データは、1Dおよび2D-PAGEの両方からのゲル断片中のいくつかのタンパク質を明らかにし、これらの一部は両方で重複していた。同定されたそれらのタンパク質の一つが、通常は細胞内スカフォールドタンパク質であるプレクチンであった。しかし、Shin et al (2013)は、プレクチンがエキソソーム分泌により細胞の膜に局在化できることを示した。これを調べるために、EVをBC細胞から単離し、静的接着アッセイの前にBC細胞か内皮細胞のどちらか、または両方とインキュベートした。BC細胞および内皮細胞の両方をEVとインキュベートすると、無処理、BC細胞のみまたは内皮細胞のみの処理と比べて、内皮細胞へのBC細胞の結合を有意に増加させることが見出された(
図4)。この知見は、内皮細胞へのBC細胞接着を助ける上でEVが積極的な役割を果たし得ることを示唆するものである。
【0129】
これをさらに調べるために、siRNAを使用してプレクチンをBC細胞か内皮細胞のどちらか、または両方でノックダウンした。無処理およびスクランブルsiRNA処理細胞(グラフでは陰性と呼ばれる)陰性対照細胞と比べて、全ての場合において内皮細胞へのBC細胞の結合は有意に低下し、それ故に、プレクチンはBC細胞が内皮細胞に結合するのに必要であることを示唆している(
図5)。
【0130】
内皮細胞上の受容体が、BC細胞におけるグリコシル化目印に特異的であり、細胞結合を媒介することの確認
内皮細胞上の受容体が、BC細胞におけるグリコシル化目印に特異的であることを確認するために、組換えプレクチン断片[プレクチンのアクチン結合ドメインを含有、該ドメインは全てのアクチンアイソフォームに結合することができる(Fontao et al., 2001, J. Cell. Sci., 114: 2065-2076)]を使用して、内皮細胞の添加前に10分間インキュベートしてBC細胞を遮断した。内皮細胞への細胞接着は、無処理対照細胞と比べて有意に低下した(
図6)。BC細胞を組換えプレクチンとインキュベートした場合に観察される結合の低下は、HPA陽性グリコシル化目印へのプレクチン結合の結果であり、それによってBC細胞に「キャップし」、内皮細胞への結合を防ぐという仮説を立てた。
【0131】
BC細胞由来のEVが内皮細胞への接着をどのように増加させるかの調査
BC細胞におけるプレクチンのノックダウンの知見は、BC細胞由来のEVは内皮細胞へのBC細胞の接着を増加させ得るという観察と合わせて、EVはプレクチンをBC細胞から内皮細胞の表面に運び、次いでBC細胞が結合する有効な「上陸プラットフォーム(landing platform)」を増加させ得るという仮説をもたらした。この仮説のテストに取りかかるために、「レスキュー」実験を行った。BC細胞においてプレクチンをノックダウンすると、内皮細胞へのBC細胞の結合は低下した(
図7)。興味深いことに、内皮細胞を対照BC細胞由来のEVで処理すると、この結合の低下は部分的にレスキューされた。これは、正常な細胞(プレクチンを有する)由来のEVが、結合の発生を可能にする「上陸プラットフォーム」を提供しているという仮説と一致する。
【0132】
モデル系では、高HPA陽性(MCF7)および弱HPA陽性(BT474)であることが報告されている2つのBC細胞株を使用して、上記の仮説を検証した。2つの細胞株からタンパク質を抽出し、SDS-PAGEにかけ、次いでブロッティングし、HPAでプローブした。HPA陽性BC細胞株(MCF7)は、75kDaに1つのバンドしか持たない弱HPA陽性BC細胞株(BT474)より広範なHPA陽性糖タンパク質を有し、それによってこのモデル系の使用を確認した(
図8)。
【0133】
NanoViewを使用すると、HPA結合陽性細胞はHPA結合陽性EVを産生し、同様にHPA結合陰性細胞はHPA結合陰性EVを産生することが示された。これを行うために、2つの一般的に使用されるEVマーカーおよびHPAに特異的な蛍光コンジュゲート抗体で2つのEV集団を標識して、2つのBC細胞株(一方はHPA結合陰性、他方はHPA結合陽性)からEVを単離し、EVが「HPA結合陽性」を有する量を定量化することができた。HPA結合陰性BC細胞由来のEV(BT474左、
図9)はHPA結合陰性であることが見出されたが、HPA結合陽性BC細胞由来のEV(MCF7右、
図9)はHPA結合陽性であった。特に、HPAは小胞においてCD9と優勢的に共局在化された - CD81陽性小胞の13%、およびCD63陽性小胞の9%と比べて、CD9陽性小胞の最大45%がHPA陽性である。APC発光スペクトルとの重複のため、蛍光コンジュゲート抗体CD63はこの実験に含めなかった。
【0134】
内皮細胞上の受容体への結合を媒介するBC細胞での糖タンパク質の同定
細胞骨格プレクチンは、アクチンを含む、そのアクチン結合ドメイン(ABD)と相互作用するいくつかの結合パートナーを有する。グリコシル化アクチンが細胞表面プレクチンの潜在的結合パートナーであるかどうかを調べるために遮断実験を行い、抗アクチンIgG(Abcam ab8227)を使用して、内皮細胞とのインキュベーションの前にアクチンを30分間マスキングした)。未処理対照細胞と比べて、アクチンを遮断すると細胞接着は有意に低下し、それ故に、アクチンがプレクチンの結合パートナーであること、およびこの相互作用が内皮細胞へのBC細胞の結合に寄与することを示唆している(
図10)。
【0135】
異なる細胞株における表面アクチンのレベル
既知の浸潤性およびHPA結合プロファイルが分かっている一連の細胞を使用して、異なる細胞タイプにおける表面アクチンのレベルをフローサイトメトリーによって決定した。これらは、正常/HPA陰性から、非転移性/弱HPA陽性~高転移性/高HPA陽性にわたった(
図11)。HME細胞は正常な乳房細胞であり、HPA陰性である;BT474は、転移の証拠がない原発性浸潤性腺管がんに由来し[Lasfargues et al. 1978, J. Nat. Institute, 61(4): 967-978]、HPAで弱く標識される;ZR751は、浸潤性原発性乳管がんからの悪性腹水-すなわち既に転移していた細胞に由来し(Engel et al. 1978, Canc. Res., 38, 3352-3364)、HPAで中程度に標識される;T47Dは、浸潤性原発性乳管がんからの悪性胸水-すなわち既に転移していた細胞に由来し[Keydar et al 1979, Eur J Cancer, 15 (5):65 9-70]、HPAで高度に標識される;MCF7は、浸潤性原発性乳管がんからの悪性胸水-すなわち既に転移していた細胞に由来し[Soule et al. 1973, J. Nat. Cancer Institute, 5 1(5): 1409-14-16]、HPAで高度に標識される。アクチン標識は、表面アクチンの増加がより浸潤性/転移性細胞で測定される点でHPA標識と類似した傾向に沿っているようである。
【0136】
実施例2-アクチンおよび/またはプレクチン抗体処理が転移性細胞コロニー形成/接着を低減することの実証
マウスモデルでの転移性乳がん細胞コロニー形成モデルは、抗アクチン抗体で処理すると低下することが示されている(
図12)。同様に、内皮細胞への転移性乳がん細胞接着は、3つの異なるプレクチン抗体で処理すると低下する(
図13)。同様の試験は、2つの異なるアクチン抗体かまたはプレクチン抗体のどちらかで処理すると、内皮細胞への転移性乳がん細胞接着が低下することを示している(
図14)。さらに、ペプチドの場合、他の試薬も、内皮細胞への転移性乳がん細胞接着を低減できることが示されている(
図15)。さらに、がん細胞、内皮細胞のどちらか、またはがん細胞および内皮細胞の両方とインキュベートした異なるアクチン抗体の使用は、内皮細胞に結合する乳がん細胞を低減する(
図16)。まとめると、データは、膜結合アクチンとプレクチンの間の相互作用の阻害、および/または膜結合アクチンもしくはプレクチンの遮断が、転移が発症するのに必要とされる生物現象である内皮細胞への転移性細胞接着を低減することを示している。
【0137】
考察
まとめると、上皮がん細胞もしくはEVの表面(膜結合)のアクチンとその相互作用パートナーの1つ、例えばプレクチンもしくはそのアクチン結合断片の間の相互作用を遮断すること、または相互作用のレベルを低下させること、または1つもしくは複数の相互作用パートナーの発現レベルの低下は、転移性がん、特に、乳がんなどの原発性上皮細胞がんに由来する転移性がんに対する予防的または治療的処置として有利には機能する。これは特に、
図6、7、10および12~15に実証されている。
【配列表】
【国際調査報告】