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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】高コレステロール血症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/445 20060101AFI20230830BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230830BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61K31/445
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/04
A61P9/10
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511906
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 US2021046591
(87)【国際公開番号】W WO2022040371
(87)【国際公開日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】63/067,786
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ベラチュー,シベシー
(72)【発明者】
【氏名】カヒルマクファーランド,エレン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,チャオフイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ,フイ-シン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ルー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA451
4C084ZA452
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC331
4C084ZC332
4C084ZC351
4C084ZC352
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA45
4C086ZC20
4C086ZC33
4C086ZC35
(57)【要約】
対象における、上昇した血漿コレステロール値を低下させる方法を開示する。対象における高コレステロール血症の治療方法もまた開示する。方法は、コレステロール低下薬剤の不在下で対象に、有効量の化合物1:
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における、増加した血漿コレステロール値の低下方法であって、前記対象に、有効量の化合物1:
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
高コレステロール血症の対象の治療方法であって、前記対象に、有効量の化合物1:
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記上昇した血漿コレステロール値が、家族性高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群(ACS)、冠動脈疾患、末梢動脈疾患(PAD)、脳血管疾患、糖尿病由来の心血管疾患、黄斑変性症、またはうっ血性心不全と関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
有効量の第2の薬学的活性剤を前記対象に同時投与することをさらに含み、前記第2の薬学的活性剤がコレステロール低下薬剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コレステロール低下薬剤が、スタチン、PCSK9阻害剤、選択的コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸隔離剤、フィブラート、または脂質低下療法である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記対象に、10mg~60mg/日の化合物1、または、10mg~60mg/日の化合物1に等しい量の、薬学的に許容されるその塩が投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象に、10mg~60mg/日の化合物1が投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象に10mg/日の化合物1が投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象に30mg/日の化合物1が投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象に60mg/日の化合物1が投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条の下で、2020年8月19日に出願された米国特許仮出願第63/067,786号の利益を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
高コレステロールは、心臓発作及び脳卒中の多数のリスク因子のうちの1つである。不十分な食事、及び運動の欠如は、高コレステロールの一般的な原因である。高コレステロールは、家族性高コレステロール血症(FH)などにおいて、根底にある遺伝的要因もまた有する場合がある。多数のコレステロール低下薬剤が現在市場に出回っているが、それらは、特定の病状または他の薬物治療とのリスクまたは禁忌がないわけではない。このような薬剤としては、スタチン、フィブラート、ナイアシン、胆汁酸金属イオン封鎖剤(樹脂)、フィトステロール、または、脂肪の吸収を防ぐ、コレステロールの吸収を減らす、もしくは、コレステロール追跡経路において遺伝子を標的化する他の化合物が挙げられる。現在のコレステロール低下薬剤と関連するリスク及び禁忌のために、高コレステロール値を有する患者においてコレステロールを下げる、さらなる薬物治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
以下に構造を示す化合物1は、LBR/TM7SF2及びEBPを含むコレステロール生合成経路における、複数の酵素の阻害剤であることが今では判明している。
【0004】
【化1】
【0005】
具体的には、化合物1は、用量に依存して、健常なヒトボランティアにおいてコレステロール値を下げ(実施例1)、7-デヒドロコレステロール(7-DHC)の蓄積を引き起こす。7-DHCの蓄積は、化合物1で処理したラットOPCにおいてもまた再現されている(実施例2)。これらの発見に基づき、必要とする対象における血中コレステロール値の低下方法を、本明細書で開示する。
【0006】
本発明の一実施形態は、対象における、上昇した血漿コレステロール値の低下方法であって、上記対象に、有効量の化合物1:
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0007】
本発明の別の実施形態は、高コレステロール血症の対象の治療方法であって、上記対象に、有効量の化合物1:
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0008】
本発明の別の実施形態は、対象において、上昇した血漿コレステロール値を低下させるための、有効量の化合物1またはその薬学的に許容される塩である。
【0009】
本発明の別の実施形態は、対象において、上昇した血漿コレステロール値を低下させるための医薬を製造するための、化合物1またはその薬学的に許容される塩の使用である。
【0010】
本発明の別の実施形態は、高コレステロール血症の対象を治療するための、有効量の化合物1またはその薬学的に許容される塩である。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態は、高コレステロール血症の対象を治療するための医薬を製造するための、有効量の化合物1またはその薬学的に許容される塩の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】28日の期間にわたって、プラセーボ、10mg/日、30mg/日、または60mg/日の化合物1を投与した健常なボランティアにおける、循環平均総コレステロール値が低下する時間経過を示す。
図2】薬力学的定常状態で、プラセーボ、1mg/日、3mg/日、10mg/日、30mg/日、または60mg/日の化合物1を投与した対象に対する、化合物1での治療中の循環コレステロール値の、予想される定常状態濃度を示す棒グラフである。予想される濃度は、化合物1の3つの第I相治験でのデータに基づくシミュレーションに由来する。
図3】化合物1で治療したラットOPC培養物における、7-DHC、コレステロール、及びデスモステロールの値の変化を示す棒グラフである。
図4】コレステロール及びデスモステロールの生合成経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
化合物1による治療はコレステロールの生合成を阻害し、それ故に、患者内でのコレステロール、特に、末梢コレステロールの血漿濃度の低下をもたらす。結果に基づき、対象における、上昇した血漿コレステロール値を低下させる方法、及び、対象における高コレステロール血症の治療方法を、本明細書で開示する。本明細書記載の方法に従うと、いくつかの実施形態では、動物データに基づくと、化合物1またはその薬学的に許容される塩は、ヒトの末梢においてコレステロールを減らすが、中枢神経系でのコレステロールは著しく減らさない。
【0014】
高コレステロール血症の患者では、血漿コレステロール値が上昇している。「血漿コレステロール値の上昇」とは、170mg/dL(ミリグラム/デシリットル)を超える、200mg/dを超える、210mg/dLを超える、220mg/dLを超える、230mg/dLを超える、240mg/dLを超える、250mg/dLを超える、260mg/dLを超える、270mg/dLを超える、300mg/dLを超える、3300mg/dLを超える、または、3600mg/dLを超える血漿値を意味する。
【0015】
開示された方法を使用して、上昇した血中コレステロール値と関連する、またはこれを特徴とする疾患または状態において、血漿コレステロール値を下げることができる。「上昇した血中コレステロール値と関連する、またはこれを特徴とする疾患または状態」とは、上昇した血中コレステロール値が一般的な、または典型的な症状である疾患または状態を意味する。例としては、家族性高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群(ACS)、冠動脈疾患、末梢動脈疾患(PAD)、脳血管疾患、糖尿病由来の心血管疾患、黄斑変性症、またはうっ血性心不全が挙げられる。
【0016】
化合物1は、有効量の別のコレステロール低下薬剤と組み合わせて、血漿コレステロール値が上昇した対象、または高コレステロール血症の対象に同時投与することができる。高コレステロール血症を治療するのに、または、上昇した血漿コレステロール値を下げるのに有効な別の薬剤と同時投与する場合、化合物1と他の薬剤は、同時に(同一もしくは異なる製剤中で)、または、異なる時間に投与することができる。
【0017】
「コレステロール低下薬剤」とは、コレステロール値が上昇したヒト患者において、コレステロールを下げる目的で処方及び/または投与される薬剤である。例としては、スタチン、PCSK9阻害剤、選択的コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸金属イオン封鎖剤、フィブラート、または脂質低下療法が挙げられる。
【0018】
スタチンは、HMG-CoAレダクターゼを阻害することで作用する、コレステロール低下薬剤である。例としては、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))、フルバスタチン(LESCOL XL(登録商標))、ロバスタチン(ALTOPREV(登録商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標))、プラバスタチン(PRAVACHOL(登録商標))、ロスバスタチン(CRSTOR(登録商標)、EZALLOR(商標))、及びシムバスタチン(ZOCAR(登録商標)、FLOLIPID(登録商標))が挙げられる。
【0019】
PCSK9阻害剤は、プロタンパクコンベルターゼサブチリシン/ケキシン9型セリンプロテアーゼを阻害することで作用する、コレステロール低下薬剤である。例としては、アリロクマブ及びエボロクマブが挙げられる。
【0020】
選択的コレステロール吸収阻害剤は、腸内でのコレステロールの吸収を阻害することで作用する、コレステロール低下薬剤である。例えば、エゼチマイブ(ZEITA(登録商標))は、トランスポーターであるNiemann-Pick C-1様タンパク質(NPC1L1)を阻害することで作用する、選択的コレステロール分裂阻害剤である。
【0021】
胆汁酸金属イオン封鎖剤は、腸内で胆汁酸を結合し、大便中への胆汁酸の排出を増加させることで作用する、コレステロール低下薬剤である。これにより、肝臓に戻る胆汁酸の量が減り、肝臓に、より多くの胆汁酸を生み出させ、大便中で失われる胆汁酸を置き換える。より多くの胆汁酸を生み出すためには、肝臓はより多くのコレステロールを胆汁酸に転化し、これにより、血中コレステロール濃度が下がる。例としては、コレスチラミン(QUESTRAN(登録商標)、PREVALITE(登録商標))、コレスチポール(COLESTID(登録商標))、及びコレセベラム(WELCHOL(登録商標))が挙げられる。
【0022】
フィブリン酸誘導体(フィブラート)は、血中トリグリセリド濃度を下げる投薬の一種である。フィブラートは、肝臓が産生するVLDL(血液中を循環する、トリグリセリド含有粒子)を減らし、血液からのトリグリセリドの除去を加速させることにより、血中トリグリセリド濃度を下げる。フィブラートはまた、血中HDLコレステロール値を増加させるのに、ほどよく効果的でもある。フィブラートの例としては、ゲムフィブロジル(LOPID(登録商標))及びフェノフィブラート(TRJICOR(登録商標)、FIBRICOR(登録商標))が挙げられる。
【0023】
他のコレステロール低下薬剤としては、魚油、ナイアシン(ニコチン酸)コレスティン、ベンペド酸(NEXLETOL(登録商標))、及びプロブコールが挙げられる。
【0024】
「有効量」とは、疾患もしくは状態の1つ以上の症状を緩和する、及び/または、疾患もしくは状態の進行を遅らせる、薬剤の量を意味する。高コレステロール血症を治療するために、または、上昇した血漿コレステロール値を下げるために使用する化合物1に関して、「有効量」とは、血漿コレステロール値を下げる、または別の場合において、上昇した血漿コレステロール値と関連する疾患もしくは状態の症状を緩和する量を含む。例としては、アテローム性動脈硬化症の低減、動脈壁硬度の低下、孤立性収縮期高血圧症の低減が挙げられるが、これらに限定されない。上昇した血漿コレステロール値を低下させる、または、高コレステロール血症を治療するための化合物1の、例示的な有効量としては、10mg~60mg/日(または、10~60mgの化合物1に等しい、化合物1の薬学的に許容される塩の量)、例えば、10mg/日、30mg/日、または60mg/日が挙げられるが、これらに限定されない。化合物1の薬学的に許容される塩の例示的な有効量としては、10mg/日~60mg/日の化合物1に等しい量、例えば、10mg/日、30mg/日、または60mg/日の化合物1に等しい量が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、化合物1の有効量は、10mg~20mg/日、20mg~30mg/日、30mg~40mg/日、40mg~50mg/日、または、50mg~60mg/日であることができる。いくつかの実施形態では、化合物1の薬学的に許容される塩の有効量は、10mg~20mg/日、20mg~30mg/日、30mg~40mg/日、40mg~50mg/日、または、50mg~60mg/日の化合物1に等しい量であることができる。
【0025】
本明細書で使用する場合、ある範囲の値が表されるとき、この範囲は両方の端点を含む。例えば、10mg~60mgの量は、10mg及び60mgを含む。同様に、10mg~20mgの量は、10mg及び20mgを含む。
【0026】
「対象」及び「患者」は、同義で使用される場合があり、治療を必要とする哺乳類、例えば、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコなど)、家畜(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなど)、及び実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモットなど)を意味する。典型的には、対象は、治療を必要とするヒトである。
【0027】
化合物1の合成調製、及び、化合物1に対する好適な製剤は、米国特許第9,340,527号に記載されており、その教示全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0028】
化合物1のシクロヘキシル基上にある2つの置換基は、互いにcis配置を有する。名称または構造により化合物1に言及する場合、その立体化学純度は、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、またはまたは少なくとも99重量%である。立体化学純度は、cis及びtrans配置となっている化合物の合計に対する、cis配置となっている化合物の重量比である。
【0029】
本発明は以下の実施例により説明され、これらは、いかなる方法でも限定を行うことを意図するものではない。
【実施例
【0030】
実施例1-7-DHCの蓄積により実証されるように、化合物1は、DHCR7の活性を阻害する
42名の健常なボランティアが、28日間(または、初期撤退前まで)化合物1をQDで受け、コホート当たり6名の参加者が、1mg(コホート1)、3mg(コホート2)、10mg(コホート3)、30mg(コホート4)、10mgの維持用量と共に60mgの負荷投与量(コホート5)、60mgの化合物1(コホート6)、または、1日目に90mgの負荷投与量、及び2日目に30mgの維持用量(コホート7)を受けた。本研究でプラセーボを受けた患者も14名いた。コホート4の患者1名は19日目に誤って投与を行い、少なくとも1回、30mgの用量の化合物1を受けたようであった。以下の手順のばらつきが、コホート1~5の参加者で報告された:彼らは、投与前に水を自由に受け取り(投与の前後それぞれ1時間の制限がなかった)、投与の30分後に食事を受けた(投与の4時間後ではなく)。積極的治療を受けた37名の患者を含む、合計で49名の患者が治療を完了した。
【0031】
参加者は、研究治療の最初の投与(化合物1またはプラセーボ)を1日目に受け、28日目まで、1日1回研究治療を受け続けた。参加者は投与期間を通して、クリニックに留まった。参加者は、評定を全て完了した後、29日目に退院した。
【0032】
各ボランティアから定期的に採血をし、直ちに-80℃で保管した。ヒト血清中での代謝産物濃度を測定するために、試料を遠心分離にかけ、得られた上清をさらなる分析に使用した。
【0033】
Biocrates Kitのフィルタープレートを使用して、メタノールにより、試料から遊離オキシステロールを抽出した。事前に、プレートに内標準混合物をのせた。エレクトロスプレーイオン化(ESI)を備えたSCIEX API 5500 QTRAP(登録商標)(AB SCIEX,Darmstadt,German)機器を使用して、ポジティブモードで、複数反応モニタリング(MRM)でUHPLC-MS/MSにより、代謝産物の濃度を測定した。適切な質量分析ソフトウェアを使用してデータを定量化し、さらなる分析のために、Biocrates Met/DQ(商標)ソフトウェアにインポートした。
【0034】
健常なボランティアにおける、循環平均総コレステロール値を図1に示し、これは、全循環コレステロールにおける、漸進的な時間及び用量依存性低減を示している。
【0035】
これらの観察に基づき、Monolixを使用して、化合物1の血漿濃度及び曝露の関数として、循環コレステロール濃度を説明する、集団PK/PDモデルを開発した。上述の研究(研究1)、加えて、健常なボランティアにおける、2つの追加臨床研究(研究2及び研究3)からのコレステロールデータからモデルを開発した。研究2において、30名の健常なボランティアが、1回投与量の化合物1を受け、コホート当たり6名の、個々の患者がおり、3mg(コホート1)、10mg(コホート2)、30mg(コホート3)、60mg(コホート4)、100mg(コホート5)を受けた。本研究でプラセーボを受けた患者も9名いた。研究3において、8名の健常な成人ボランティアが、単回用量の30mgの化合物1を受けた。
【0036】
本モデルにおける循環コレステロールの濃度は、10mgを超える1日用量全てにおいて低下する。データの変動性は予想される効果に影響を及ぼすものの、モデルは、循環コレステロール濃度における用量依存性の低下に対しての、明確なエビデンスを示している。この低下に対するEC50は約3μg/mLであり、これは、60mgの1日用量における、化合物1の定常状態濃度を概算している。
【0037】
研究1において60mgの用量を受ける健常な患者は、総コレステロールが平均でおよそ20%まで減少し、これは現在、高密度リポタンパク質画分よりも大きく、低密度リポタンパク質画分が影響を及ぼしていると考えられている。本モデルは、循環コレステロールが、60mg QDの用量レベルで、およそ35%減少することを予測している。高用量の化合物1は、循環コレステロール値をより大きく低下させ得るが、好中球減少症を引き起こす可能性もまた高い。循環コレステロールの減少は、血漿中での化合物1の定常状態濃度の増加に見合った時間枠(およそ15日)で生じると予想されており、この後、循環コレステロール値が、投与期間を安定化させると予想されている。本モデルは、化合物1治療を中止した後、循環コレステロールがおよそ30日以内にベースラインまで戻ることを予測している。循環コレステロール値の低下速度及び回復速度の両方が、血漿中での、化合物1の蓄積及びクリアランス率により制限されることもまた、本モデルは予測している。臨床研究で用いた用量範囲での、化合物1による治療の間の循環コレステロールの、予想される定常状態濃度を、図2に示す。
【0038】
実施例2-化合物1は7-DHCの蓄積、デスモステロールの減少を引き越し、ラットOPC中でのコレステロールは変化しない
出生後2日(P2)のメスSprague Dawleyラットの希突起膠細胞の、濃縮した集団を培養液中で増殖させた。簡潔に述べると、前脳を解剖し、ハンクス緩衝塩溶液(HBSS)(Life technologies)に入れた。組織を1mm断片に切り出し、37℃で15分間、0.01%トリプシン及び10μg/mL DNase中でインキュベートした。分離した細胞を、ポリ-D-リジン(PDL)でコートしたT75組織培養フラスコに入れ、20%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Life technologies)で、37℃で10日間増殖させた。フラスコを一晩、200rpm、37℃で振盪させることで、希突起膠細胞前駆体(A2B5+)を収集し、95%純度の集団が得られた。培養液を、10ng/mLの線維芽細胞増殖因子/血小板由来増殖因子(FGF/PDGF)を含む、規定の増殖培地(高グルコースDMEM、0.1% BSA、50ug/mLのAアポトランスフェリン、5ug/mLのインスリン、30nMの亜セレン酸ナトリウム、10nMのビオチン、及びハイドロコルチゾン)で2~3日間保持した。化合物1が、ラットA2B5+前駆細胞を成熟ミエリン塩基性タンパク質正(MBP+)有髄オリゴデンドロサイトに分化するのを促進する能力を測定するために、A2B5+細胞を、10ng/mLのCNTF及び15nMのT3を補充したFGF/PDGF非含有増殖培地中で、10cmのPDLでコートした培養プレートに入れ、直ちに化合物1で処理した。細胞ペレットを培養液中で、24時間及び72時間で収集し、-80℃で保管した。その後、細胞ペレットをMetabolon(Morrisville,NC,USA)まで輸送し、輸送、及び処理するまでの保管中は-80℃で維持した。細胞ペレット試料を、2分間激しく撹拌しながら(Glen Mills GenoGrinder 2000)メタノールで抽出し、タンパク質を沈殿させて、タンパク質に結合した、または、沈殿したタンパク質マトリックスにトラップされた低分子を分離させ、その後、遠心分離により化学的に多様な代謝産物を回収した。得られた抽出物を次にアリコート処理し、MetabolonのHD4プラットフォームで分析した。抽出前に添加した回収標準、各実験試料、プロセス、及び溶媒対照液から合わせ、QC規格のカクテルをスパイクしたプールからの技術的複製物を含む、いくつかの種類の品質対照試料を、品質評価、及び失敗した試料の選別のためのサンプル調製及び分析中にアプライした。
【0039】
Metabolonデータにより、同じ時点のビヒクル対照と比較して、培養液中で、化合物1処理が、DHCR7基質による7-DHC蓄積の増加、及び、DHCR7生成物であるデスモステロール及びコレステロールの蓄積の減少、または減少傾向をもたらしたことが明らかとなった。24時間の時点で、化合物1で処理したOPC培養液は、8.3倍の7-DHC(p=2.5e-5、q=0.005)、0.44倍のデスモステロール(p=0.002、q=0.15)、及び0.64倍のコレステロール(p=0.018、q=0.15)を示した。72時間までに、化合物1で処理したOPC培養液は、12.86倍の7-DHC(p=8.1e-8、q=2.6e-5)、0.4倍のデスモステロール(p=0.001、q=0.022)、及びコレステロールのわずかな変化を示した。図3を参照されたい。
【0040】
化合物1は、ヒトにおいて末梢コレステロール値を下げることを示すものの、ラットOPCではコレステロール値を下げないことを、データは示唆している。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】