(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20230830BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230830BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230830BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512292
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2023-04-19
(86)【国際出願番号】 AU2021050921
(87)【国際公開番号】W WO2022036405
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509330264
【氏名又は名称】モノクアント・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】モーレー,アレキサンダー,アラン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA08
4B063QA17
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、一般的に、プライマーの増幅効率を評価する方法に関し、より具体的には、定量的なPCR増幅のためのプライマーの相対的又は絶対的な効率を評価する方法に関する。本発明の方法は、連続的に希釈された試料のCt回帰曲線分析よりは、単一の標的DNA分子について決定されたCtに対するプライマー効率の評価に基づくものである。提供されるプライマー効率を決定するより簡単で信頼性の高い方法は、様々な範囲の用途に有用で得有り、前記範囲は、特定の遺伝子配列によって特徴付けられる疾患状態の診断及び/又はモニタリング、及び目的特定の遺伝子領域の特徴付け又は分析、特に、クローンリンパ系細胞集団によって特徴付けられる疾患状態、又は、特定のV(D)J組換えイベント(例えば、白血病の最小残存疾患を検出)を特徴とし且つ患者特有のプライマーの使用を必要とする疾患状態のモニタリングを含むが、これらに限定されない。
【選択図】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法であって、
(i)目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照核酸テンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)の前記核酸試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
核酸がDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目的核酸領域は、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記目的核酸領域は、再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAは、再配列されたV、D及び/又はJ断片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記再配列されたV、D及び/又はJ断片は、IgH、TCRβ又はTCRδのDJ又はVDJ再配列である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記再配列されたV、D及び/又はJ断片は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記目的核酸領域は、V遺伝子断片領域及び/又はJ遺伝子断片領域である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記V遺伝子断片領域は、超変異を起こす傾向がある領域であり、前記J遺伝子断片領域は、CDR3の一部をコードする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部をコードする遺伝子断片領域に対するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
非特異的に挿入される蛍光色素を使用して、前記定量的PCRによって生成された前記アンプリコンを検出する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して、前記定量的PCRによって生成された前記アンプリコンを検出する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記レポーター分子は蛍光色素である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記蛍光色素はフルオレセインである、請求項12又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH遺伝子、TCR遺伝子又は単一コピー遺伝子であり、好ましくはGALT遺伝子である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
関心対象の核酸領域に対する前記正方向及び逆方向プライマーは、再配列されたIg又はTCR DNAを増幅するように構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対のCtを決定する方法であって、
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる核酸試料の複数のアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)核酸標的分子の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って、ステップ(i)の核酸アリコートを増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)目的核酸領域の前記単一コピーから増幅されるステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定するステップと
を含む、前記方法。
【請求項19】
(i)前記目的DNA領域を含む生物学的試料を限定的に希釈し、且つ前記試料の複数のアリコートを生成し、ここで、前記アリコートの亜群には、前記目的DNA領域のコピーが含まれていないステップと、
(ii)ステップ(i)のアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させ、前記目的DNA領域の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って前記アリコートを増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)前記目的DNA領域の少なくとも2つの開始コピーを含む、ステップ(i)からのアリコートの割合を統計的に決定するステップと、
(iv)増幅反応ステップ(ii)の平均Ctを決定し、ここで、前記平均の計算から、増幅が観察されなかったアリコートから得られたCt結果と、ステップ(ii)で決定された割合値に対応する最低個別のアリコートCt結果との割合を除外するステップと
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる複数のアリコートの核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマーを使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的PCRプロトコルにしたがってステップ(i)のDNAアリコートを増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記テストプライマー及び/又は前記参照プライマーの前記平均Ct値を請求項18に記載の方法にしたがって決定する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記増幅効率を、前記標準化された測定における前記参照プライマーによる前記参照テンプレートDNAの増幅から決定された前記参照の効率ポイントに対して評価する、請求項1~17、20及び21のいずれか1項に記載の方法
【請求項23】
前記参照プライマーの前記平均Ct値であり、前記増幅効率評価は、前記目的DNA領域に対する前記正方向及び逆方向プライマー対の前記平均Ct値と前記参照DNAテンプレート分子に対する前記参照正方向及び逆方向プライマー対の前記増幅のために決定された前記平均Ct値とを比較することにより、前記参照効率ポイントを行う、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記参照効率ポイントは、Nt
(ref)であり、前記増幅効率評価は、前記目的DNA領域に対する前記正方向及び逆方向プライマー対の前記平均Ct値(Ct
(test))を使用して下記式で行われる、請求項22に記載の方法。
E(test)=Nt(ref)1/Ct(test)-1
【請求項25】
前記参照効率ポイントは、(ref)及びCt(ref)であり、前記増幅効率評価は、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値(Ct
(test))を使用して下記式で行われる、請求項22に記載の方法。
E
(test)=(E
(ref)+1)
Ct(ref)/Ct(test)-1
【請求項26】
目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の効率の評価を促進するためのキットであって、参照正方向及び逆方向プライマー及び請求項1~25のいずれか1項に定義された前記標準化された増幅プロトコル方法及び/又は最小効率結果を詳述する説明とともに、任意選択で、請求項1~25のいずれか1項に定義された前記参照核酸テンプレート分子及び前記標準化されたプロトコルに従って前記参照プライマーの前記増幅を促進するために使用するのに適切な試薬を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、プライマーの増幅効率を評価する方法に関し、より具体的には、定量的なPCR増幅のためのプライマーの相対的又は絶対的な効率を評価する方法に関する。本発明の方法は、連続的に希釈された試料のCt回帰曲線分析よりは、単一の標的DNA分子について決定されたCtに対するプライマー効率の評価に基づくものである。提供されるプライマー効率を決定するより簡単で信頼性の高い方法は、様々な範囲の用途に有用で得有り、前記範囲は、特定の遺伝子配列によって特徴付けられる疾患状態の診断及び/又はモニタリング、及び目的特定の遺伝子領域の特徴付け又は分析、特に、クローンリンパ系細胞集団によって特徴付けられる疾患状態、又は、特定のV(D)J組換えイベント(例えば、白血病の最小残存疾患を検出)を特徴とし且つ患者特有のプライマーの使用を必要とする疾患状態のモニタリングを含むが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
本明細書における任意の先行文献(又はそれから派生した情報)又は任意の既知の内容に対する引用は、先行文献(又はそれから派生した情報)又は既知の内容が、本明細書が目的とする当該技術分野における常識の一部を形成することを承認するか、又は許可するか、又は任意の形態で暗示するものとして見なされるべきではない。
【0003】
本明細書において著者が言及する出版物の書誌的詳細は、説明の末尾にアルファベット順に収集される。
【0004】
クローンは、一般的に、一般の前駆細胞に由来する細胞の集団として理解される。被検体の細胞や有機体のクローン集団の存在に対する診断及び/又は検出は、一般に、比較的問題のある手順を構成する。特に、クローン集団は、細胞又は有機体の大きい集団内の小さい成分のみを構成し得る。例えば、哺乳類生物に関して、細胞クローン集団の検出を必要とするより一般的な状況の1つは、癌などの腫瘍の診断及び/又は検出で生じる。しかし、1以上のクローン集団の検出は、骨髄異形成又は真性多血症などの状態の診断において、免疫システムによって生成される抗原駆動クローンの検出においても重要であり得る。
【0005】
一般に、クローンが発生する集団は、身体の特定の組織又はコンパートメント内の細胞集団に対応する。それにもかかわらず、このような細胞の集団のサンプリングが細胞又は有機体のサブグループの検査を効果的に縮小した事実にもかかわらず、これは、依然として、その中でクローン集団が識別されなければならない細胞又は有機体の大きい背景集団を臨床医に示すことが可能である。
【0006】
クローンのメンバーがDNA配列の変化などの分子マーカーによって特徴付けられる場合、検出の問題は、異なる配列を有するより大きな分子集団中の同じ分子配列を有する全ての分子集団を検出する問題に解釈することができ、その分子集団は、全て同じか又は異なるか、又はより大きいか又はより小さい程度で異質である。達成可能なマーカー分子の検出レベルは、検出方法の感度と特異性に大きく左右されるが、ほとんどの場合、分子のより大きな集団内の標的分子の割合が小さくなると、より大きい集団からのシグナルノイズにより、標的分子からのシグナルを検出することが不可能になる。分子マーカーは、その特定のクラスが非常に特異的であるが、その検出に関しては、遺伝子組換えイベントに起因するユニックな複雑性を示す。
【0007】
体細胞内の遺伝子物質の組換えは、最初に単離されたゲノムの2つ以上の領域を結合させることを含む。これは、ランダムプロセスとして発生することもあるが、正常なリンパ系細胞内で開発プロセスの一部として発生することもある。
【0008】
癌に関して、組換えは単純でも複雑でもあり得る。単純な組み換えは、2つの無関係な遺伝子又は領域を並置するものと考えられてもよい。複雑な組換えは、2つより多い遺伝子又は遺伝子断片を組み換えたものと考えられてもよい。複雑な組換えの典型的な例は、リンパ系細胞の正常な開発中に発生し、且つ、V、D及びJ遺伝子断片の組換えに関する免疫グロブリン(Ig)及びT細胞受容体(TCR)可変遺伝子の再配列である。これらの遺伝子断片の遺伝子座は、生殖細胞系列において広く単離されているが、リンパ様開発中の組換えにより、V、D及びJ遺伝子断片の並置又はV及びJ遺伝子断片の並置をもたらし、これらの遺伝子断片間の結合は、ヌクレオチドが挿入及び欠失された小さな領域(N1及びN2領域)によって特徴付けられる。このプロセスは、ランダムに発生するため、各正常なリンパ球は、再配列される遺伝子と再配列の性質の両方に応じて、完全なVDJの再配列又はVJやDJの再配列であり得るユニックのV(D)J再配列を持つようになる。急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、リンパ腫又は骨髄腫などのリンパ様癌は、単一の正常な細胞で腫瘍性変化の結果として発生するため、全ての癌細胞は、少なくとも最初は、創始細胞に本来存在する接合部V(D)J再配列を持つ。サブクローンは、腫瘍性集団の拡大中に発生することができ、それらにおいてでさらなるV(D)J再配列が起こり得る。
【0009】
組換えの結果として発生し、且つ癌クローン又はサブクローンに存在する独特のDNA配列は、治療への反応をモニタリングし、治療に関する決定を下すために使用できる独特の遺伝子マーカーを提供する。クローンのモニタリングは、PCR、フローサイトメトリー又は次世代シーケンシングによって行うことができる。フローサイトメトリーによるモニタリングは、癌細胞検出及び定量化するために、診断時に癌細胞の免疫表現型を決定し、後続試料の同じ表現型を検索することを含む。次世代シーケンシングは、より新しいアプローチであるが、高価な技術である。
【0010】
PCRベースの分析は、その潜在的な高いレベルの特殊性と自動化によって好まれる方法である。PCRによる定量化は、従来、診断時に採取した試料からのDNAを用いたマーカー再配列のシークエンシング、患者特異的プライマーの合成、及び治療中に得られる試料殻抽出されるDNA上のPCRにおけるこれらのプライマーの使用を含む。通常、2つのプライマーは、組換えの部位の両側に配置され、典型的には、J遺伝子断片に対する下流プライマー、及び再配列の最も可変的な領域に対するように設計される上流プライマー(アレル特異的オリゴヌクレオチド[ASO]とも呼ばれる)を有する(Brisco et al. 1991; Bruggemann et al, 2004; Pongers-Willemse et al, 1999; Nakao et al, 2000; van der Velden et al, 2002; van der Velden et al, 2004; van der Velden et al, 2007; van der Velden et al, 2009; van der Velden et al, 2014; Verhagen et al, 2000)。時々上流プライマーはV遺伝子断片に対するもので、ASOプライマーは下流であり、再配列の最も可変な領域に対するものである。したがって、非ASOプライマーは、多くの異なる再配列に共通する保存領域に対するものであるため、共通プライマーである。
【0011】
白血病の最小残存疾患(最小残存疾患、「MRD」に対するPCRによるモニタリングは、臨床実践において広く使用されている。典型的には、誘導治療終了時(約1ヶ月)及び数回の強化治療(約80日)後、白血病細胞(MRD)数を測定して治療を継続するか、又は変更するかについて決定を下す。誘導終了時のMRDのレベルが定義されたカットオフレベルより高い場合、治療の強度を高める決定を下すことができる。このカットオフのレベルは、様々なプロトコルの間でわずかに異なるが、典型的には、10-3(1/1000)~10-4(1/10,000)の白血病細胞/総細胞である。
【0012】
リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)は、DNA標的の分子数を測定するためのPCRの広く使用されている変異体である。蛍光を用いて増幅を連続的にモニタリングし、定義された蛍光閾値(閾値までサイクル、Ct)に達したサイクル数を記録する。同時に、一連の標準希釈液を用いて標準曲線を構成する。典型的には、標準曲線からの様々なCtは、標準濃度の対数に対して描かれるときに直線に近似し、未知の標的の濃度は、標的のCt及び標準曲線のための最良適合線の式によって決定できる。
【0013】
効率的な増幅は、PCRの一般的な使用において重要であるが、PCRがRT-qPCRなどのような定量的方法に使用される場合に特に重要である。また、次世代シーケンシングが最小残存疾患を定量化するために使用されるように、同じ反応で2つの異なる標的を増幅させるために2つの異なるプライマー対を使用する場合や、同じ反応で2つの異なる標的を増幅させるために同じプライマーセットが使用される場合、バイアスを回避したい場合に重要である。
【0014】
効率的な増幅が重要である第3の状況は、様々な異なるプライマー対の一貫した最適な性能を有することが望まれる場合である。これは、全てのプライマーが最大効率に近い効率で動作している場合にのみ本当に可能である。この状況の一例としては、免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)遺伝子の再配列を定量化するために、患者特有のプライマーを使用することである。これらの再配列の定量化は、白血病、リンパ腫及び骨髄腫の残存疾患レベルを評価するために使用される。各患者における再配列は独特であり、その結果、再配列のための2つのプライマーのうち少なくとも1つは、該当患者だけに対して独特で、特異的である。その結果、患者特有のプライマーの効率を決定し、文書化することは容易ではない。患者特有のプライマーの効率に対するこの不確実性は、特に米国で最小残存疾患を定量化するために、それらの日常的かつ広範囲な使用を妨害する。
【0015】
PCRは、最終段階を除き、標的の指数関数的増幅を含む。進行状況は蛍光によって測定される。指数関数的増幅中の任意の時点で、
N=N0
.aC
【0016】
ここで、N0=標的の初期数、N=興味のある点における標的の数、aは増幅/サイクルであり、Cは該当点に到達するまでのサイクル数である。各辺の対数を計算することにより、この式は下記のように表され得る。
log10N=log10(N0)+C.log10(a) ・・・(1)
【0017】
理論上、式内の他の3つの未知数を決定することにより、増幅/サイクルを決定できるはずである。しかし、Cの正確な値の決定は簡単であるが、N0の正確な値の決定は、DNA濃度の測定における不正確さ及びDNA分解の発生によって影響を受ける。後者は、標的が増幅できなくなることにつながる。これらの要因により、N値の決定に問題がある。
【0018】
ある点で、蛍光は閾値と呼ばれる固定点に到達し、ここで明らかに背景の上にあり、依然として指数関数的に増加する。Ntは閾値における標的の数であり、Ctはサイクル閾値に達するまでのサイクル数であると、式(1)は、次のように表すことができる。
Ct=log10(Nt)/log10(a)-log10(N0)/log10(a)
【0019】
一定の条件で一対のプライマーに対して増幅効率は一定であり、次のようである。
Ct=定数-log10(N0)/log10(a) ・・・(2)
【0020】
Ctとlog10(N0)の関係は、次の関係によって与えられた勾配を持つ直線である。
勾配=-1/log10(a)
及び a=10-1/勾配 ・・・(3)
【0021】
増幅効率(E)は、従来、「a」の値から1を引いて、その結果をパーセンテージで表したものである。したがって、下記の通りである。
E=a-1
【0022】
Eの値は式(1)を使用して推定できるが、このアプローチは、前述の制限に加え、分析でき且つ背景より高いが依然として指数関数である幾何級数的な増幅の範囲が制限されているため、難しいことが証明された。現在、増幅は、ほぼ例外なく、式(2)と(3)を使用して分析される。式(3)から、下記を求める。
E=10-1/勾配-1 ・・・(4)
【0023】
したがって、実際には、プライマー効率は、通常、定量的PCRを使用して標的の濃度範囲を増幅させること、標的濃度の対数と観察されたCt値との間の回帰直線を決定すること、及び式(4)を使用してプライマー効率を計算することによって決定される。
【0024】
観測された勾配が-3.322である時、効率は100%であるが、このレベルの効率が達成されることはめったにない。
【0025】
残念ながら、この方法は、あまり正確ではなく、多くの反復及び詳細への細心の注意を必要とする。Ctを入力標的の対数に関連させる標準曲線は、通常、ルーチンRT-qPCRの一部として実行される。しかし、これは、増幅効率の非常に一般的な尺度のみを提供し、結果の不正確さと幅広い変動の両方を示す。例えば、-3.1~-3.9の範囲で標準曲線の傾斜は、PCRによって白血病における最小残存疾患(MRD)を定量化する際に許容されるものとみなされた(van der Velden、2007)。これらの勾配は、110%~80%範囲の効率に対応する。
【0026】
したがって、プライマー効率を評価するための改善された手段の開発が継続的に必要とされている。本発明に至る研究において、驚くべきことに、参照プライマーが単一の参照テンプレート分子が参照プライマーによって増幅されることを可能にするために標準化された測定で単一の標的分子の増幅から決定される平均Ct値を参照することにより、相対的又は絶対的に、プライマー増幅効率をより正確かつ迅速に評価できる。特に、従来のPCR理論は、各希釈点でCtを決定するために、連続希釈を使用してプライマー効率を評価し、その後、標的DNA開始質量の対数に対する回帰直線を描くべきであることを教示し、また、日常的に観察される誤差が生じる可能性があるため、高濃縮又は高希釈された標的DNAの試料を使用して定量的増幅を行うべきではないことも教示している。例えば、標的DNAの濃縮された試料に阻害剤が存在する場合、検出閾値を超えるためにはより多くのサイクルが必要なので、人為的にCtを増加させる。曲線の勾配を改善する1つのメカニズムは、阻害剤が標的DNAとともに希釈されるため、試料を希釈することである。しかし、増幅結果で観察され得る確率的効果に起因する高い変動性のために、分析から高度に希釈された試料を省略することもしばしば推奨される。それにもかかわらず、驚くべきことに、単一の標的DNAコピーからの増幅は、実際に、非常に正確であり、且つ複数の反復にわたって、従来のCt回帰直線モデリングを使用して効率を決定する位置で観察される変動係数よりもはるかに低い変動係数を生成することが決定され、これは、全ての現在の増幅教示とは対照的である。標準化された測定の状況で実行される場合、プライマー対の効率を、参照プライマー及び核酸テンプレートの効率に対して、同じ最適化及び標準化された測定プロトコルを使用して相対的又は絶対的に定量的に評価することができる。さらに、複数のプライマーセットの効率は、同じセットの標準化条件下で評価される程度に、互いに直接比較することもできる。最後に、より予想外に、標的DNAの単一コピーの増幅から得られるCt結果が非常に信頼できるということが確認されたが、特定遺伝子又は遺伝子ファミリーに対するプライマーの効率を評価すると仮定した場合、これは、相同の遺伝子又は遺伝子ファミリーテンプレートに対する参照プライマーと比較して評価するべきであり、実際には、普遍的に発現するGALT遺伝子のような無関係な遺伝子を参照テンプレートとして使用できる。より具体的には、定量的なPCR測定の最適化及び標準化されたプロトコルにおいて、目的テストプライマー標的に対してほとんど又は全く相同性を示さない遺伝子が参照テンプレートとして使用される場合、この標準化された測定は、参照プライマー及びテストプライマー及び目的標的に対してより高いレベルの相同性を示すテンプレートを使用して実行する標準化された測定に対して同等の結果を生成し、したがって、予想外に、所定の標準化された測定は、選択された参照プライマー及びテンプレートと相同性を示すプライマーのみならず、実質的に広い範囲で効率評価を必要とするプライマーに適用することを可能にする。
【0027】
これらの発見は予想外であり、直観に反するものである。プライマー効率を評価するシンプルでありながら信頼性の高い手段の開発は、プライマーの効率を決定する必要があるたびに、時間がかかり、はるかに可変的な Ct 回帰直線効率モデリングを実行する必要性を回避する。現在、プライマー効率は、相対的又は絶対的により迅速かつ正確に決定でき、異なるプライマーセット間の効率の直接比較を直ちに行うことができる。したがって、本発明は、定量的PCR反応を設計又は最適化する状況でプライマー効率を決定する問題が有意なステップであるが、現在、労働集約的であり、かなり可変的な結果を生成できる研究環境を含む幅広い潜在的な用途を持っている。本発明は、最小残存疾患(MRD)分析などの診断及び予後適用の観点から臨床環境にも適用でき、ここで、非常に低いコピー数の標的の高感度検出を必要とし、プライマー効率の変動が望ましくない。さらに、MRDテストは、患者固有のプライマーの生成と使用が必要であるため、新たに生成されたプライマーの効率を評価する迅速かつ簡単な方法であり、すべてのテストで標準化された結果を提供することは非常に価値がある。したがって、本方法は、プライマー増幅効率の評価に関連する既存の制限を克服する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲において、文脈上別途の要求がない限り、「含む」という用語及びその変形は、言及した整数、ステップ、整数又はステップの群を含むことを暗示するが、任意の他の整数、ステップ、整数又はステップの群を除外することを暗示しないこと理解できる。
【0029】
本発明の範囲は、本明細書に記載される具体的な実施形態に限定されず、これらの実施形態は、単に例示を目的とするものである。本明細書に記載されているように、機能的に同等の産物、組成物、及び方法は、明らかに本発明の範囲内に含まれる。
【0030】
本明細書で使用されるように、「由来する」という用語は、特定の整数又は整数群が指定の種から由来するが、必ずしも指定のソースから直接得られたものではないことを示すものとみなされるべきである。さらに、本明細書で使用されるように、単数形の「1つ」、「及び」及び「当該」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0031】
本主題の明細書には、Patent In3.1バージョンプログラムを使用して作成されたヌクレオチド配列情報が含まれ、それを参考文献の後に提示した。各ヌクレオチド配列は、配列表において、数値インジケータ<210>とそれに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって識別される。各ヌクレオチド配列のための、配列(DNAなど)の長さ、タイプ及びソース有機体は、それぞれ、数値インジケータフィールド<211>、<212>及び<213>で提供される情報によって示される。本明細書に言及されるヌクレオチド配列は、インジケータ配列番号とそれに続く配列識別子(例えば、配列番号1、配列番号2など)により識別される。本明細書に言及される配列識別子は、その後に配列識別子(例えば、<400>1、<400>2など)が続く配列表内の数値インジケータフィールド<400>で提供される情報に関連する。すなわち、本明細書に詳述された配列番号1は配列表中に<400>1で示される配列と関連がある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の一態様では、目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法に関し、前記方法は、
(i)目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照核酸テンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)の核酸試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0033】
別の態様では、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)目的DNA領域の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0034】
一実施形態では、前記目的核酸領域には、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域が含まれる。
【0035】
別の実施形態において、前記目的核酸領域は、再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAであり、より具体的には、再配列されたV、D及び/又はJ断片である。
【0036】
本実施形態によれば、1つ以上の再配列されたV、D又はJ遺伝子断片に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)前記再配列されたV、D又はJ遺伝子断片の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0037】
さらに別の実施形態及びV(D)J再配列の文脈では、前記目的核酸領域は、IgH、TCRβ又はTCRδのDJ又はVDJ再配列に対応する。別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列に対応する。
【0038】
別の実施形態では、前記目的核酸領域は、例えば超変異を起こす傾向があるV遺伝子断片領域及び/又はCDR3の一部をコードするJ遺伝子断片領域などである。
【0039】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部を暗号コードする遺伝子断片領域に対するものである。
【0040】
さらなる態様では、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)目的DNA領域の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的PCRプロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0041】
別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、二本鎖DNAに挿入される非特異的蛍光色素を使用して検出される。別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、例えば蛍光レポーターなどの、レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して検出される。
【0042】
さらに別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH遺伝子又はTCR遺伝子である。
【0043】
さらに又別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、単一コピー遺伝子であり、好ましくはGALT遺伝子である。
【0044】
本発明の関連する態様では、目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対のCtを決定する方法を提供し、前記方法は、
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる複数の核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)核酸標的分子の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って、ステップ(i)の核酸試料を増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)目的核酸領域の前記単一コピーから増幅されるステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定するステップと
を含む。
【0045】
より具体的には、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対のCtを決定する方法を提供し、前記方法は、
(i)前記目的DNA領域を含む生物学的試料を限定的に希釈し、且つ前記試料の複数のアリコートを生成し、ここで、前記アリコートの亜群には、前記目的DNA領域のコピーが含まれていないステップと、
(ii)ステップ(i)のアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させ、前記目的DNA領域の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って前記アリコートを増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)前記目的DNA領域の少なくとも2つの開始コピーを含む、ステップ(i)からのアリコートの割合を統計的に決定するステップと、
(iv)増幅反応ステップ(ii)の平均Ctを決定し、ここで、前記平均の計算から、増幅が観察されなかったアリコートから得られたCt結果と、ステップ(ii)で決定された割合値に対応する最低個別のアリコートCt結果との割合を除外するステップと
を含む。
【0046】
本発明の従来の態様によれば、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる複数の核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的PCRプロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0047】
この態様のさらなる実施形態では、テストプライマー及び/又は参照プライマーの平均Ct値は、
(a)前記目的DNA領域を含む生物学的試料を限定的に希釈し、且つ前記試料の複数のアリコートを生成し、ここで、前記アリコートの亜群には、前記目的DNA領域のコピーが含まれていないステップと、
(b)ステップ(a)でのアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対を接触させ、ステップ(a)でのDNAを前記標準化された定量的なPCRプロトコルに従って増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(c)目的DNA領域の少なくとも2つの開始コピーを含むステップ(a)からのアリコートを統計的に決定するステップと、
(d)増幅反応ステップ(b)の平均Ctを決定し、ここで、前記平均の計算から、増幅が観察されなかったアリコートから得られたCt結果と、ステップ(b)で決定された割合値に対応する最低個別のアリコートCt結果との割合を除外するステップとによって決定される。
【0048】
一実施形態では、前記増幅効率は、標準化された測定における参照プライマーによる参照テンプレートDNAの増幅から決定された参照の効率ポイントに対して評価される。
【0049】
別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、参照プライマーの平均Ct値であり、前記増幅効率評価は、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値と参照DNAテンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対の増幅のために決定された平均Ct値とを比較することによって行われる。
【0050】
別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、Nt(ref)であり、前記増幅効率評価は、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値(Ct(test))を使用して下記式で行われる。
E(test)=Nt(ref)
1/Ct(test)-1
【0051】
又別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、E(ref)及びCt(ref)であり、前記増幅効率評価は、式において目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値(Ct(test))を使用して行われる。
E(test)=(E(ref)+1)Ct(ref)/Ct(test)-1
【0052】
別の実施形態では、前記目的核酸領域には、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域が含まれる。
【0053】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAであり、より具体的には、再配列されたV、D及び/又はJ断片である。
【0054】
また別の実施形態及びV(D)J再配列の文脈では、前記目的核酸領域は、IgH、TCRβ又はTCRδのDJ又はVDJ再配列に対応する。別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列に対応する。
【0055】
また別の実施形態では、前記目的核酸領域は、例えば超変異を起こす傾向がある領域及び/又はCDR3の一部をコードするJ遺伝子断片領域などのV遺伝子断片領域である。
【0056】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部をコード化する遺伝子断片領域に対するものである。
【0057】
さらなる実施形態では、前記増幅反応はPCRである。
【0058】
前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、二本鎖DNAに挿入される非特異的蛍光色素を使用して検出される。別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、例えば蛍光レポーターなどの、レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して検出される。
【0059】
さらに別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH遺伝子又はTCR遺伝子である。
【0060】
また別のさらなる実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、単一コピー遺伝子であり、好ましくはGALT遺伝子である。
【0061】
さらなる態様において、本発明の方法は、目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の効率の評価を促進するためのキットに対するものであり、前記キットは、参照正方向及び逆方向プライマー及び本明細書で前に定義した標準化された増幅プロトコル方法及び/又は最小効率結果を詳述する説明とともに、任意選択で本明細書において前に定義した参照核酸テンプレート分子及び標準化されたプロトコルに従って参照プライマーの増幅を促進するために使用するのに適切な試薬を含む。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】IGH参照標的を含むプラスミドの配列の一部を示す模式図である。正方向プライマーの配列は、CGACCACCACCCCACAGTATTACGATA(配列番号2)であり、逆方向Jプライマーの標的配列は、ATGTTCCGAGGGGACCTGGGC(配列番号3)であり、挿入される配列は、下線が引かれて太字で示される。EcoR1制限部位は陰影で示される。
【
図2-1】は、製造業者によって提供されるプラスミドに関する情報を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明は、それらの性能を参照プライマーの性能と比較することによって、高い精度でプライマー増幅効率を再現可能に決定する簡単な手段の開発に基づくものである。この開発は、そのプライマーを使用して標的分子の単一コピーの標準化された増幅によって発生するCt値と実質的に正確に関連することを予想外に決定することにより、部分的に可能になる。これらの標準化条件の文脈において、核酸テンプレートの単一コピーの参照プライマー増幅の効率に対するこのテストプライマー結果を直接的又は間接的に評価することにより、テストプライマーの効率を正確に決定することができる。このアプローチは、従来のCt回帰ラインモデリングよりもむしろ、一般的で信頼性の高い大規模なプライマー効率テストのための手段を設計することを可能にする。例えばMRDテストに使用される患者特異的プライマーの複数のセットなどの大量のプライマーをテストする必要がある場合、本方法は、プライマー効率の簡単で正確な決定を容易にするだけでなく、さらに、測定プロトコルの標準化された性質及びそれから得られた結果により、テストプライマー間の効率を直接比較することが可能になる。複数の異なるプライマーが特定の標的のために開発され、最も効率的なプライマーを識別して使用することが求められている状況で特に望ましい。別の例では、所定のプライマー対が、最低レベルの効率を要求する適用に使用するのに十分効率的かどうかを客観的に決定することができる。そのため、本発明の方法は、幅広い研究と臨床応用に、特に、例えばプライマーが、治療決定を行うための基礎を提供するのに十分に正確な結果を提供するのに十分に効率的であることを確保するためのMRDテストなどの、患者特異的プライマーの特定の設計及びテストに有用である。
【0064】
したがって、本発明の一態様では、目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法に関し、前記方法は、
(i)目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照核酸テンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)の核酸試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0065】
言及される「核酸」、「ヌクレオチド」、「塩基」又は「核酸塩基」とは、デオキシリボ核酸又はヌクレオチドと、リボ核酸、ヌクレオチド、プリン、ピリミジン塩基、それらの誘導体又は類似体との両方であると理解されるべきである。この点に関して、DNA(cDNA又はゲノムDNA)、RNA又はmRNA等を含むリボヌクレオチド及び/又はデオキシリボヌクレオチドのリン酸エステルを含有すると理解されるべきである。本発明の核酸分子は、自然に発生するもの(例えば、生物学的試料からのもの)、組換え的に生成されたもの、又は合成により生成されたものを含む任意のソースであり得る。ヌクレオチドは、イノシンなどの非標準ヌクレオチドであってもよい。
【0066】
言及される「誘導体」とは、天然、合成又は組換えソースからの上記核酸分子の断片、部分、一部、相同体及び模倣体を含むものと理解されるべきである。「官能性誘導体」は、プリン又はピリミジン塩基、ヌクレオチド又は核酸分子の機能的活性のいずれか1つ以上の官能活性を示す誘導体として理解しなければならない。前記ヌクレオチド又は核酸配列の誘導体には、他のタンパク質分子又は非タンパク質分子に融合されたヌクレオチド又は核酸分子の特定の領域を有する断片が含まれる。ヌクレオチド分子又は核酸分子のビオチン化は、本明細書で定義された「官能性誘導体」の一例である。核酸分子の誘導体は、単一又は複数のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は付加に由来し得る。また、「官能性誘導体」という用語は、例えば天然物のスクリーニング後に得られる産物のような、ヌクレオチド又は核酸配列の官能性活性の任意の1つ以上を示すヌクレオチド又は核酸を含有すると理解されるべきである。
【0067】
本明細書で検討される「類似体」には、例えば化学組成又は全体の配座又は任意の他のタイプの自然に発生しないヌクレオチドに対する修飾など、ヌクレオチド又は核酸分子に対する修飾が含まれるが、これらに限定されない。これには、例えば骨格形成又は相補的塩基対ハイブリダイゼーションのレベルなど、ヌクレオチド又は核酸分子が他のヌクレオチド又は核酸分子と相互作用する方法に対する修飾が含まれる。本発明は、いずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、核酸は、リン酸骨格と、5炭糖と、リボース及びデオキシリボースのいずれか一方及び4つの塩基のうちの1つとの3つの部分から構成される。類似体は、これらの変形のいずれかを有し得る。典型的には、類似体塩基は、とりわけ、異なる塩基対合及び塩基スタッキング特性を付与する。例えば、4つの基本塩基すべてとペアを組むことができるユニバーサル塩基、及び鎖の特性に影響を及ぼす例えばPNAなどのリン酸糖骨格類似体が含まれる。核酸類似体は、異種核酸とも呼ばれる。非自然発生の核酸には、グリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)だけでなく、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロックド核酸(LNA)も含まれる。これらの各々は、分子の骨格への変化により、自然発生のDNA又はRNAから区別される。
【0068】
目的核酸試料及び/又はテンプレートヌクレオチド配列は、DNA、RNA、誘導体又は類似体であってもよい。前記核酸は、ゲノムDNA、mRNA転写体から生成されたcDNA、核酸増幅によって生成されたDNA、合成DNA、又は組換えで生成されるDNAの形態をとり得る。対象とする核酸試料がRNAである場合、まず、例えばRT-PCRを使用するように、RNAをDNA逆転写する必要があることが理解されるだろう。対象となるRNAは、mRNA、一次RNA転写体、リボソームRNA、トランスファーRNA、マイクロRNA等の任意の形態のRNAであってもよい。好ましくは、前記核酸がDNAである。
本実施形態によれば、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)目的DNA領域の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0069】
言及される「関心対象の核酸領域」(本明細書では互換的に「標的」領域又は配列とも呼ばれる)とは、分析が求められる任意のDNA又はRNA配列であると理解されるべきである。これは、遺伝子、遺伝子断片又は遺伝子領域などの遺伝子の一部、又は遺伝子間領域であり得る。この目的のために、言及される「遺伝子」とは、タンパク質が全長タンパク質であるか、タンパク質断片であるかにかかわらず、タンパク質産物をコードするDNA分子であると理解されるべきである。染色体DNAに関して、遺伝子はイントロン領域とエクソン領域の両方を含むだろう。しかし、例えば標的ヌクレオチド配列がベクターDNA又は逆転写されたmRNAである場合に発生しうるように、核酸試料がcDNAである限り、イントロン領域は存在しない可能性がある。それにもかかわらず、そのようなDNAは5’又は3’の非翻訳領域を含み得る。したがって、本明細書に言及される「遺伝子」とは、例えばゲノムDNA及びcDNAを含む、タンパク質又はタンパク質断片をコードする任意の形態のDNAを包含すると理解されるべきである。対象となる標的ヌクレオチド配列は、また任意の特定の遺伝子に関連することが知られていないゲノムDNAの非コード部分(例えば、一般に「ジャンク」DNA領域と呼ばれる)に対応し得る。それは、ゲノムDNAの2つの領域の間、又は、ゲノムDNAの領域と、ウイルス又は導入された配列などの外来DNAの領域との間の組換えによって生成されるゲノムDNAの任意の領域に対応し得る。それはまた、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の部分又はセクション、遺伝子間領域などが含まれ得る領域に対応し得る。標的配列は、部分的又は全体的な合成又は組換えにより生成された核酸分子の領域にも対応し得る。対象となる標的配列は、また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む任意の核酸増幅方法によって以前に増幅されたDNAの領域(すなわち、増幅法によって生成されたもの)であり得る。
【0070】
一実施形態では、前記目的核酸領域には、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域が含まれる。
【0071】
別の実施形態では、前記目的核酸領域は配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAであり、より具体的には再配列されたV、D及び/又はJ遺伝子断片である。
【0072】
本実施形態によれば、1つ以上の再配列されたV、D又はJ遺伝子断片に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)前記再配列されたV、D又はJ遺伝子断片の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的増幅プロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0073】
本発明は、いずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、再配列可能なゲノムDNAをコードするIg可変領域に重鎖又はκ或いはλ軽鎖に関連する可変領域が含まれる一方、再配列可能なゲノムDNAをコードするTCR可変領域にα、β、γ及びδ鎖が含まれる。この点に関して、細胞は、細胞がすでに少なくとも1つの免疫グロブリン又はTCR遺伝子断片領域のDNAをコードする可変領域を再配列した場合、「リンパ系細胞」の範囲内に入るものと理解されるべきである。細胞が再配列されたDNAも細胞を転写・翻訳する必要はない。この点に関して、「リンパ系細胞」は、その範囲内に、TCR又はIg可変領域遺伝子断片が再配列されたが、再配列された鎖(TCR-胸腺細胞など)がまだ発現されていない、又はTCR又はIg可変領域遺伝子断片の両方の鎖が再配列されていない未熟なT細胞及びB細胞を含むが、これらに限定されない。この定義は、さらに、少なくとも一部のTCR又はIg可変遺伝子領域の再配列を経験したが、成熟したT細胞又はB細胞に伝統的に関連するすべての表現型又は機能的特徴を示さない可能性があるリンパ様細胞にまで拡大される。
【0074】
また、一実施形態では、本発明の再配列は、例えば少なくとも1つの可変遺伝子領域の完全な再配列などの完全な再配列であるが、別の実施形態では、本発明の再配列は部分的再配列であることを理解されたい。例えば、DJ組換えイベントのみを経験したB細胞は、部分的な再配列のみを経験した細胞である。DJ組換え断片がさらにV断片と組み換えられるまで、完全な再配列は達成されない。したがって、本発明のプライマーは、TCR又はIg鎖の部分的又は完全な可変領域再配列をスクリーニングするように設計することができる。
【0075】
本発明をいずれか1つの理論又は作用モードに限定することなく、適応性免疫システムを有する有機体におけるV(D)J組換えは、新しい病原体を認識し、新しい病原体に適応するために、免疫細胞の急速な多様化を助ける部位特異的遺伝子組換えのタイプの一例である。各リンパ系細胞は、約1016の異なる可変領域構造の総抗原多様性を生成するために、特定の遺伝子断片の再配列に応じて、その生殖系列可変領域遺伝子断片(V及びJ、D及びJ又はV、D及びJ断片)の体細組換えを経験する。T細胞又はB細胞のような任意の所定のリンパ系細胞は、少なくとも2つの異なる可変領域遺伝子断片の再配列は、TCR又はIg分子、特にTCRのα、β、γ或いはδ鎖及び/又はIg分子の重鎖及び軽鎖を含む2つ以上の鎖の再配列が原因で発生する可能性がある。任意の所定のIg又はTCR遺伝子のVJ、DJ又はVDJ断片の再配列に加えて、ヌクレオチドは、断片間の連結でランダムに除去及び/又は挿入される。これは、巨大な多様性の生成につながる。
【0076】
これらの遺伝子断片の遺伝子座は、生殖細胞系列において広く単離されているが、リンパ系開発中の組換えによりV、D及び/又はJ遺伝子セグメントの並置がもたらされ、これらの遺伝子間の結合は、ヌクレオチドが挿入及び欠失された小さな領域によって特徴付けられる。このプロセスはランダムに発生するため、各正常なリンパ球が独特のV(D)J再配列を持つようになる。急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、リンパ腫又は骨髄腫などのリンパ様癌は、単一の正常な細胞で腫瘍性変化の結果として発生するため、全ての癌細胞は、少なくとも最初は、創始細胞に本来存在する接合部V(D)J再配列を持つ。サブクローンは、腫瘍性集団の拡張中に発生することができ、それらにおいてでさらなるV(D)J再配列が起こり得る。
【0077】
言及される「遺伝子断片」とは、Ig及びT細胞受容体遺伝子のV、D及びJ領域であると理解されるべきである。V、D、及びJ遺伝子断片は、ファミリーにクラスター化される。例えば、κIg軽鎖のための52個の異なる機能性V遺伝子断片及び5つのJ遺伝子断片がある。Ig重鎖については、55個の機能性V遺伝子断片,23個の機能性D遺伝子断片及び6個のJ遺伝子断片がある。Ig及びT細胞受容体のV、D、及びJ遺伝子断片ファミリーの全体にわたって、多数の個々の遺伝子断片が存在し、それによって、影響を受ける可能性のあるV(D)J再配列の独特の組み合わせの側面で膨大な多様性が可能になる。明確にするために、再配列されたIg又はT細胞受容体[V(D)J]可変核酸領域は、本明細書では再配列された「遺伝子」と呼ばれ、個々のV、D又はJ核酸領域は、「遺伝子断片」と呼ばれる。したがって、「遺伝子断片」という用語は、遺伝子の断片のみを指すものではない。むしろ、Ig及びTCR遺伝子が再配列される場合には、それらの遺伝子断片がファミリーにクラスター化される遺伝子そのものを意味する。「再配列された」Ig又はT細胞受容体可変領域遺伝子は、本明細書では、Vセグメント、Jセグメント、及びDセグメント(Dセグメントが問題の特定の再配列された可変遺伝子に組み込まれる場合)のうちの2つ以上が、単一の再配列された「遺伝子」を形成するように継ぎ合わせられた遺伝子として理解されるべきである。実際には、この再配列された「遺伝子」は、既に継ぎ合わせられたV遺伝子断片、J遺伝子断片及びD遺伝子断片からなるゲノムDNAの拡大解釈である。したがって、それは、実際には継ぎ合わせられた2又は3つの異なるV、D又はJ遺伝子(本明細書では遺伝子断片と呼ばれる)からなるので、「遺伝子領域」と呼ばれることもある。したがって、再配列された免疫グロブリン又はT細胞受容体遺伝子の個々の「遺伝子断片」は、個々のV、D、及びJ遺伝子として定義される。これらの遺伝子は、IMGTデータベースで詳しく説明されている。本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、再配列されたIg又はT細胞受容体可変遺伝子を指す。本明細書で使用される「遺伝子断片」という用語は、V、D及びJ断片を指す。しかし、IgとT細胞受容体の再配列の観点から、「遺伝子」/「遺伝子断片」言語の使用には大きな矛盾があることに留意されたい。例えば、IMGTは個々のV、D及びJの「遺伝子」を指し、一部の科学出版物ではこれらを「遺伝子断片」と呼ぶ。再配列された可変Ig又はT細胞受容体は、一部のソースでは「遺伝子領域」と呼ばれる一方、他のソースでは「遺伝子」と呼ばれる。本明細書で使用される命名法は、前に定義したとおりである。
【0078】
本発明は、依然としていずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、遺伝子組換えイベントの性質は、組み換えられた遺伝子又は遺伝子断片間の 接合部(本明細書に定義されたように)は、「N領域」の形成をもたらすランダムヌクレオチドの欠失及び挿入によって特徴付けられ得ることである。これらのN領域もユニークであり、それら自体が標的配列分析有用な標的となる場合もある。したがって、Nヌクレオチド又はパリンドロミック(P)ヌクレオチドの追加は接合多様性を提供するのに対し、V(D)J再配列は組合せ多様性を提供することが一般的に理解される。
【0079】
V(D)J再配列の場合、これらの二次構造特徴をコードするV(D)J再配列内のDNA配列領域であるにもかかわらず、翻訳されるタンパク質分子の二次構造は、それ自体が分析の対象となる独特の特徴を含むことも理解するべきである。例えば、IgH(当該Ig重鎖)又はTCRβ又はδ鎖 の翻訳された可変領域は、一般に相補的決定領域(CDR)1、2及び3と呼ばれる3つのループ状の超可変領域の形態を取る。これらのCDR領域の側面は4つのフレームワーク領域(FR)1、2、3及び4である。本発明は、いずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、V遺伝子断片は、CDR1、CDR2、リーダー配列、FR1、FR2及びFR3をコードすると理解される。CDR3領域は、V遺伝子断片の一部、すべてのD遺伝子断片、及びJ遺伝子断片の一部によってコードされる。J遺伝子断片の残り部分は、一般的にFR4をコードする。
【0080】
したがって、一実施形態及びV(D)J再配列の文脈では、前記目的核酸領域は、IgH、TCRβ又はTCRδのVJ、DJ又はVDJ 再配列に対応する。別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列に対応する。
【0081】
別の実施形態では、前記目的核酸領域は、例えば超変異を起こす傾向があるV遺伝子断片領域及び/又はCDR3の一部をコードするJ遺伝子断片領域などである。
【0082】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部を暗号コードする遺伝子断片領域に対するものである。
【0083】
本発明の方法は、プライマー対の増幅効率を決定することに関するものである。「増幅効率」とは、増幅サイクルあたりのアンプリコンの増加を意味する。これは、一般に、同一PCRサイクルの開始部分の標的分子数に対するPCRサイクルの終了部分の標的遺伝子分子数の増加率として表される。理想的には、標的配列の分子数は、各複製サイクル中に2倍になるべきであり、これは100%の増幅効率に相当する。しかし、これは珍しいケースである。本発明は、いずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、100%未満の増幅効率の原因には、不十分なプライマー設計、最適でない試薬濃度、又は最適でない反応条件のうちの1つ以上が含まれ得る。二量体やヘアピンのような二次構造の形成や不適切な融解温度(Tm)も、プライマーテンプレートのアニーリングに影響を及ぼし、増幅が不十分になる可能性がある。当業者は、本発明の方法は標準化された増幅システムにおける正方向及び逆方向プライマー対のテストに基づくので、プライマー自体の効率が唯一の有意な変数であり、したがって、本方法を適用して得られた結果は、アッセイの他の成分よりもむしろプライマー自体の効率を反映することを理解するであろう。したがって、本明細書で言及される「正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率」とは、特定のプライマー対を用いて達成可能な増幅効率を指し、対象となる増幅反応の他の成分の増幅効率への寄与のことを指すものではない。また、本明細書における「プライマー効率」の議論は、本発明の方法に従ってテストされるプライマー対の増幅効率に対する交換可能な参照であることも理解されるべきである。また、本発明の方法は、正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を提供するが、この方法は正方向プライマー又は逆方向プライマーのいずれか単独の効率結果への相対的な寄与の計算も可能であることも理解されるべきである。後でより詳細に論じるように、本方法は、テストプライマー対について、参照プライマーのうちの1つを使用するために潜在的に選択するのに役立つ。参照プライマーの効率は既知であり、参照プライマーの測定とテストプライマーの測定との間の唯一の違いは、参照プライマー(正方向プライマー又は逆方向プライマー)のうちの1つがテストプライマーに置き換えられるという事実であるので、テストプライマーの測定から得られる効率の結果は、参照プライマー対を使用して決定した参照効率ポイントに関して評価する際に、参照プライマーの1つを置き換えするために用いられる単一のテストプライマーの効率に対する効果の読み出しを効率的に提供する。
【0084】
言及される「プライマー」又は「オリゴヌクレオチドプライマー」とは、ヌクレオチドの配列、又はその官能性誘導体、又は類似体を含む任意の分子であると理解されるべきであり、その官能には、目的核酸分子(目的DNAは、「標的DNA」と交換的に呼ばれる)の領域のハイブリダイゼーションが含まれる。プライマーは、ロックされた核酸又は非核酸成分を含み得ることが理解されるべきである。例えば、プライマーはまた、蛍光タグや酵素タグのような非核酸タグ、又は、プローブとしての分子の使用を促進するか、検出若しくは固定化を促進するいくつかの他の非核酸タグを含み得る。上記のプライマーはまた、以下でより詳細に議論するオリゴヌクレオチドタグなどの追加の核酸成分を含み得る。別の例では、プライマーは、核酸側鎖を示すペプチド骨格を含むタンパク質核酸であってもよい。好ましくは、前記オリゴヌクレオチドプライマーはDNAプライマーである。
【0085】
言及される「正方向プライマー」は、標的DNAのアンチセンス鎖にハイブリダイズすることによって、目的DNA試料中の標的DNAを増幅するプライマーであると理解されるべきである。言及される「逆方向プライマー」は、標的DNAのアンチセンス鎖にハイブリダイズすることによって、目的DNA試料及びPCR中の標的DNAを増幅するプライマーであると理解されるべきである。したがって、言及される「正方向及び逆方向プライマー対」は、本発明の方法で一緒にテストされる正方向プライマーと逆方向プライマーとして理解されるべきである。したがって、得られる増幅効率の結果は、選択された正方向及び逆方向プライマーを一緒に使用する際の効率を示すことが望ましい。幾つかの状況では、正方向プライマー及び逆方向プライマーの両方が、特定の用途のために独特かつ特別に選択或いは設計されており、それらの増幅効率の決定のためにテストされることを理解するべきである。しかし、他の状況では、正方向プライマー又は逆方向プライマーの一方のみを独特に設計する必要があり、もう一方のプライマーは、共通プライマー又は市販のプライマー等の既知で入手可能なプライマーであってもよく、さらにはテストプライマーのCt結果が分析される参照効率ポイントを生成するために、標準化された増幅反応で使用される参照プライマーの1つ(以下でより詳細に説明されるように)であってもよい。この場合、効率結果は依然としてプライマーの組み合わせに付加されるが、テストされる複数のプライマー対(例えばIgV(D)J増幅用の共通Jプライマーであるが、各プライマー対用の独特のVプライマーなど)において同一であり、これらのプライマーの全てを用いて、同一の目的核酸領域を増幅し、効率の結果は、それぞれ1つの共通プライマーと1つの異なるプライマーを用いるこれらのプライマー対間で比較時に、独特のプライマーの効率に関連する基礎的な情報を効果的に提供する。このタイプの分析は、例えば、特定のV(D)J再配列に対するプライマーを使用する必要があるB細胞新生物とT細胞新生物のMRD分析の文脈で定期的に起こり得る。このような状況では、再配列の特異性(一般的に「患者特異性」と呼ばれる)は、Vプライマーによって提供されるのが一般的であり、使用のために選択されたJプライマーは、広範囲の異なる患者の再配列に関して使用できる共通又はファミリープライマーであり得る。
【0086】
本発明で使用するのに適したプライマーの設計及び合成は、当業者に周知である。一実施形態では、対象となるプライマーは長さが4~60個のヌクレオチドであり、別の実施形態では長さが10~50個であり、又の別の実施形態では長さが15~40個であり、さらに別の実施形態では長さが20~35個である。さらに別の実施形態では、プライマーの長さは約25、26、27、28、29、30、31、32、33又は34個のヌクレオチドである。
【0087】
本発明の増幅プロトコルは、定量的な増幅反応である。言及される「定量的な」増幅反応とは、典型的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はデジタルPCRが代表であるあるように、反応終了時ではなくリアルタイムで増幅反応中の標的DNA分子の増幅をモニタリングする増幅反応を言う。しかしながら、一部のデジタルPCR機器では、リアルタイムモニタリングを実行し、単一の標的テンプレートの増幅に起因するCt値を決定することも可能であることに注意する必要がある。定量的なPCR(qPCR)は、一般にリアルタイムPCR(RT-PCR)又はリアルタイム定量的なPCR(RT-qPCR)とも呼ばれる。この点において、RT-PCRは、逆転写酵素PCRを表すために使用される略語でもある。しかし、本明細書で言及されるRT-PCRの範囲は、定量的な(リアルタイム)PCRを意図する。
【0088】
本発明をさらに限定することなく、リアルタイムPCRにおいてPCR産物を検出するための2つの一般的な方法は、(1)SYBRGreen、evagreen、及びSyto82などの任意の二本鎖DNAに挿入された非特異的蛍光色素、及び(2)プローブとその相補配列とのハイブリダイゼーション後にのみ検出が可能となる、フルオレセイン、Hex、又はテキサスレッドなどの蛍光レポーターで標識されたオリゴヌクレオチドからなる配列特異的DNAプローブである。
【0089】
一実施形態では、前記増幅反応はPCRである。
【0090】
本実施形態によれば、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)目的DNA領域の単一コピーの存在によって特徴付けられるDNA試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的PCRプロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応のCtを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0091】
別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、二本鎖DNAに挿入される非特異的蛍光色素を使用して検出される。別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、例えば蛍光レポーターなどの、レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して検出される。
【0092】
上記で詳述されるように、本発明の方法は、標的分子の単一コピーを増幅する際に得られたCt値が現在推奨される従来のCt回帰直線モデリング方法よりも正確で一貫した増幅効率の読み取りを提供するという決定に基づいている。本発明は、いずれか1つの理論又は作用モードに限定されず、Ct回帰直線モデリングは、一連の連続的な希釈された標的DNA濃度からCtを決定することに基づく。これらのCt値は、開始DNA濃度の対数スケールでプロットされる。回帰直線の勾配により、増幅反応の計算を可能にする。しかし、増幅効率の変動係数は、標的DNAの単一の開始コピーのCtが決定される時よりも、Ct回帰直線モデリングを使用して計算される時に、実質的により大きい。本方法に従って定量的な増幅反応の効率を計算し、プライマーの効率を拡大することに関して、プライマー及び標的DNAに加え、増幅効率に影響を及ぼし得る変数が実質的に等しくなるように、対象となる反応を標準化しなければならない。この点に関して、対象となる増幅プロトコルにおいて言及される「標準化された」又は「標準化」は、対象となる参照とテストプライマー増幅反応との機能的同等性を示すプライマーの設計及び標的DNAの選択以外の増幅プロトコルの要素として理解されるべきである。「機能的同等性」とは、以下でさらに説明するように、対象となる要素が実際に同一でなくても、同等の機能的成果をもたらすことを意味する。例えば、参照プライマー増幅反応とテストプライマー増幅反応との間で2つの異なるタイプの試薬を使用することを選択することができ、これらの試薬は、化学組成及び/又はソースが異なるにもかかわらず同じ機能活性を示す。別の例では、2つの機器が同一の反応条件を生成することを可能にする限り、2つの異なる機器を使用することを選択してもよい。そうである場合、これらの機器を使用する増幅反応は、標準化されていると見なされる。標準化された要因の例としては、試薬成分と物質(例えば、挿入する色素又は配列特定のレポーター標識プローブのような、増幅産物をリアルタイムで検出するための試薬濃度及び物質)、方法論(例えば、反応体積、Tm、サイクル条件及びその他の反応条件)、増幅をモニタリングし、Ct値を決定するために選択された手段、機器及び設定(しきい値ライン設定など)などが含まれるが、これらに限定されない。したがって、本方法に従って標準化された反応であるいずれの増幅反応は、定義された一連のパラメータに従って実行され、反応における唯一の重要な変数ハ、標的DNAの選択及び目的DNA領域を増幅する反応に使用される正方向及び逆方向プライマー対の設計である。特定のテストプライマーのための標準化された反応プロトコルと異なることが望ましいと判断される場合、テストプライマーから得られるCt値を、テストプライマーの増幅に使用されるのと同じ反応条件で生成された参照プライマーの結果に対して分析し得るように、これらの新しい反応条件で参照プライマーを再調整する必要がある。テストプライマーの結果を、異なるセットの反応条件で生成された元の参照プライマーの結果に対して評価することはできない。一実施形態では、参照プライマー及びテストプライマーに適用される 標準化された増幅プロトコルは同じである。
【0093】
上記の方法で使用される定量的なPCRプロトコルは、参照核酸テンプレート分子の単一コピーの増幅に影響を与えるように設計されたプロトコルである。「単一のコピー」とは、対象となるテンプレート分子の単一コピーを意味し、その後、当該分子を本発明の方法に従って増幅する。目的核酸領域と関連して言及される「単一のコピー」は、相応の意味を有すると理解されるべきである。参照核酸テンプレート分子の単一のコピーを確実かつ再現可能に増幅することにより、本発明に従って使用される標準となる増幅プロトコルの設計は、参照プライマーをその標的核酸テンプレートと一緒に使用して標準化条件を確立するか、又は任意の他の適切なプライマー対及び標的核酸を使用することによって達成され得、目的参照ライマー及びテストプライマーを使用する標的DNAの単一コピーを増幅するのに適すると決定された標準化条件を提供することを理解するべきである。
【0094】
標準化された増幅プロトコルは、参照核酸テンプレート分子の増幅に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して実行される。「参照」プライマー又は「参照」テンプレート核酸は、Ct、Nt、及び/又は参照の増幅効率ポイント(本明細書では「効率参照ポイント」又は「効率ベンチマーク」と呼ぶ)を確立するために使用されるプライマー及び核酸標的を意味し、参照ポイントと対照してテストプライマー増幅結果を評価する。この点に関して、「参照核酸テンプレート」は、参照プライマーが増幅するように設計された核酸分子である。これは、先に定義した「関心核酸領域」(「標的核酸」)とは異なり、本方法による効率分析の対象となるプライマーは、「関心核酸領域」に対するものである。一般に、上記の参照テンプレート分子は、目的核酸領域の分子に直接的に対応せず、このような可能性を排除しないが、テスト対象となる分子種類と構造的又は配列的に相同性を示すように設計又は選択されてもよい。例えば、特定のIgH V(D)J再配列に対する患者特有のプライマーの効率を分析する場合、例えば選択された再配列のV領域及びJ領域に対する共通プライマー又は遺伝子断片ファミリープライマー等の適切な参照プライマーと一緒に、再配列されたIgH配列を参照テンプレート配列として選択してもよい。異なるセットの参照プライマー及び参照テンプレートは、テストプライマー対及び標的、例えば遺伝子ブレークポイント領域等の異なるクラスのテストプライマー対及び標的とともに使用するために、標準化された測定に使用されてもよい。これに関連して、テストプライマーの特定クラスに関連して使用するために選択できるすべての参照プライマーセットについて、効率参照ポイントを決定しなければならず、熟練した技術者はテストプライマーの特定クラスの分析のために各参照プライマーセットを選択できることを理解するべきである。この点に関して、一実施形態では、熟練者は、テストプライマーとして最初に分析されたプライマーが、実際に参照プライマーとして使用されるのに適しており、それにより元の参照プライマーの使用に代わると決定できる。この状況では、参照プライマーとして新たに使用されるテストプライマーが、元の参照プライマーと同じ標準化条件で増幅されるか、又は異なるセットの標準化条件で増幅されるかに関係なく、新しい参照プライマーは、選択された標準化条件でテストされ、そのCt、Nt、及び/又は増幅効率は、将来のテストプライマーが評価される新しい参照効率ポイントを確立するために決定される。別の例では、例えば異なる増幅条件(例えば増幅媒体の構成物質の変化)、異なる方法論(例えば、増幅をモニタリングするための代替プローブ又は蛍光色素の使用)、又は元々使用されたものと異なる機器の使用を可能にするように、所定の参照プライマー対用の推奨の標準化条件と異なることを望む場合、これらの変更された反応条件下での参照プライマーの参照効率ポイント結果を決定し、次に、新しい参照プライマーベンチマーク結果と比較してテストプライマー結果を評価できるようにするために、これらの新しい条件の下でのテストプライマーの増幅効率を分析する必要がある。
【0095】
参照プライマーの増幅反応は、同じセットの標準化条件下で実行される各々のテストプライマーの増幅と同時に実行される必要はないが、これは一般的に好ましい状況である。むしろ、参照プライマーの元の効率ベンチマーク結果(より早い時点で得たもの)は、テストプライマー結果は参照プライマー結果を生成する同じ標準化されたプロトコルを使用して得られるという条件で、後で全ての将来テストプライマー結果を評価(「較正」)する標準として使用できる。
【0096】
また、本発明は、テストプライマーの効率性を決定する測定における参照プライマーの使用にまで及ぶことを理解されるべきである。例えば、前述したように、特定の目的核酸領域の特異性を正方向プライマー又は逆方向プライマーのいずれかが単独で提供することができる場合、その領域に対する独特のプライマーを1つのみを必要とすることができる。この状況では、目的テストプライマーのための標準化された増幅プロトコルにおける参照効率ポイントを確立するために使用された参照プライマー及び参照テンプレートの性質に応じて、参照プライマーのいずれかを問題のテストプライマーとペアにすることができ、例えば、参照プライマーは、目的核酸領域を標的として増幅するのに適した共通プライマーであり、テストプライマーは必要な特異性を提供する独特のプライマーである。
【0097】
当業者は、標準化された増幅プロトコルに関連して使用するために、適切な基準プライマーとテンプレートを設計又は選択し、さらに、この標準化されたプロトコル及び参照プライマーの組合せが使用できるテストプライマー及び対応する目的核酸領域の範囲を決定することができ、参照DNAテンプレートの単一コピーの増幅からの増幅効率、Nt及び/又はCtは参照効率ポイントを確立し、この参照効率ポイントと比較して、テストプライマー測定のCtが相対的又は絶対的に評価されることに留意されたい。この目的のために、本発明者らは、驚くべきことに、事実上標的核酸領域とほとんど又は全く相同性を示さない参照テンプレート分子を使用して標準化された測定を行う場合にも、本発明の方法が効果的であることを確認した。例えば、T細胞起源であろうとB細胞起源であろうと、任意のV、D及び/又はJ遺伝子組み換えを標的とし、テンプレート再配列の増幅を達成する任意のプライマー対と共に、任意のV(D)J再配列に対してテストプライマーの増幅効率を評価することを可能にするのに必要な参照効率ポイントを効果的に提供すると決定された。実際、目的核酸領域(普遍的に発現されるGALT遺伝子など)と相同性のない参照テンプレートを使用して、高いレベルの効率性を示すように測定が最適化され標準化された場合、これら標準化条件の適用及び標準化条件により決定されたテストプライマーの効率を評価する参照効率ポイントは依然としてテストプライマーの正確な効率評価を達成し、このような事情にもかかわらず、従来の教示は、従来の教示は、増幅される標的配列の性質自体が増幅効率の変動に寄与することを示していることがさらに決定されている。単一コピー遺伝子(GALT遺伝子など)に対するプライマーを使用して、他の単一コピー遺伝子に対するプライマーをテストするための参照システムを提供することは、参照テンプレートは一般的に使用でき、同じテンプレート内で参照ものとテストプライマーを比較する場合、参照ものとテストテンプレートの質量が同じであるという利点がある。したがって、本方法は、遺伝子(GALT遺伝子など)を使用して標準化された測定を実行することだけでなく、この標準に関連するプライマーのすべての増幅効率テストを実行するか、又はそれぞれ目的核酸領域に対するプライマーの効率のテストに対する複数の異なる標準化された測定を確立することまで拡大されることを理解でき、上記の核酸領域は、所定の標準化された測定に関連して使用される特定の参照テンプレートと相同性を示す。
【0098】
一実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH又はTCR配列である。
【0099】
別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、単一コピー遺伝子であり、特にGALT遺伝子である。
【0100】
定量的なPCRプロトコルは、熟練者によく知られている任意の適切な方法によって標準化され得ることを理解するだろう。本発明をいかなる方式でも限定することなく、一実施形態でプロトコルは高い水準の効率で遂行されるよう標準化され、すなわち、高い水準/最大増幅効率で実行されるようにプライマーを最適化した。そのような最適化を達成するには、通常、反応条件の最適化、増幅のモニタリング方法、及びCt値と機器選択の決定方法を最適化する必要がある。しかしながら、ほとんどの場合、対象となる測定は、達成可能な最高レベルの効率で実行するように最適化されるが、対象となる測定が標準化されていても、これらの標準化条件が必ずしも最適ではない状況もあり得る。標準化されたプロトコルを使用して、本方法に従って評価されるテストプライマーを評価するので、標準化されたプロトコルの効率は参照の増幅効率ポイントを提供し、テストプライマーCt結果が当該参照の増幅効率ポイントに対して分析(較正)される。したがって、非常に効率的なプライマーを同定することに関して最も可能性の高い結果を達成することを求める実施形態では、高レベルの効率で機能する標準化されたプロトコルを確立することが望ましい。
【0101】
本発明の方法は、標準化されたPCRプロトコルに従って、目的核酸領域の単一コピーと共にテストプライマーを増幅することによって、テストプライマー対の効率の相対的又は絶対的な決定を可能にする。それにより決定されたCt値は、以下でさらに議論されるように、参照プライマー測定の初期Ct回帰直線モデリング分析を使用して決定されるように、標準化された参照プライマー測定の増幅効率に関して評価することができる。「Ct」とは、サイクル閾値を指す。本発明をいかなる方式でも限定することなく、定量的なPCRにおいて、陽性反応は、各増幅サイクル中にリアルタイムで生成される陽性シグナル(例えば特異的プローブ又は非特異的挿入色素から放出される蛍光シグナルなど)の蓄積によって検出される。したがって、Ctとは、シグナルが閾値に達するのに必要な増幅サイクル数であると理解されるべきである。明確かつ確実に背景レベルを超えている最小レベルの蛍光を「閾値」と呼び、この閾値は、熟練者が手動で設定したり、使用のために選択された増幅システムのソフトウェアによって自動的に設定したりすることができる。したがって、Ctレベルは、一般的に試料中の標的核酸の量に反比例する。ただし、Ctレベルが低いほど、試料中の開始標的核酸の量が多くなる。しかし、他の測定の変数だけでなく、測定の効率もCt値に影響を与える可能性がある。したがって、Ctは、一般に試料中の核酸標的開始濃度の相対的な尺度とされているが、標的DNAの開始濃度だけでなく、Ct値にも影響を与える要因が多い。
【0102】
本発明の文脈では、測定を標準化し、目的DNA領域の単一の開始コピーからテストプライマーの増幅を行うことによって、Ctに影響を与える変数を最小限にする。熟練者は、参照プライマー又は参照プライマー対の増幅効率以外の要因が、観察されたCt値、及びその故のNt値に影響を及ぼし得ることも認識するであろう。そのような要因には、反応体積、操作者又は機器のソフトウェアによる閾値の位置付け、PCRの過程における蛍光レベルの測定方法、及び機器の性質がある。この測定構造が、実際には、目的DNAの単一コピーから得られるCt値に基づいて、テストプライマーの効率をより正確、簡単かつ再現可能に決定することを可能にするということは常識に反し、高度に希釈された試料から誘導されるqPCR増幅のCt分析が信頼できないという現在の教示を考慮する場合、このような高度に希釈された試料は、増幅結果で観察できる確率的な効果に起因する高い変動性のために分析から除外する必要がある。さらに、より予想外に標的DNAの単一コピーの増幅から得られるCt結果が非常に信頼できるということが確認されたが、特定の遺伝子又は遺伝子ファミリーに対するプライマーの効率を評価すると仮定した場合、これは、相同の遺伝子又は遺伝子ファミリーテンプレートを使用して標準化された測定条件に関して評価されるべきであり、非相同の遺伝子を参照テンプレートとして使用することができ、依然としてテストプライマーに関連して正確な効率結果を得ることができる。これらの発見により、目的すべてのテストプライマーに対してCt回帰直線分析を実行する必要がなくなり、この回帰直線は、本発明の方法よりも高い変動係数を示し、実行するのにより多くの時間と労力を要し、複数のプライマーセットの効率を評価し、直接互いに比較するのが容易ではなく、その理由は、先行技術の方法では、全てのテストプライマーCt結果を評価できる客観的な参照効率ポイントが確立されていないからである。したがって、先行技術の方法は、確実性を提供する方式でプライマーの効率を客観的に実証する手段を提供していない。
【0103】
したがって、本発明は、標準化されたプロトコルに従って、目的正方向及び逆方向プライマー対を用いて目的核酸領域の単一コピーを増幅することに基づいている。目的核酸領域の単一コピーを正方向及び逆方向プライマー対と接触させることは、相互作用(例えば、ハイブリダイゼーション)が発生するように、プライマーと前記核酸試料との混合を容易にするための参照として理解されるべきである。この目的を達成する方法は、当業者に周知であるでしょう。プライマーによる増幅を達成する方法も、当業者に非常によく知られている。参照プライマーについて、増幅効率の決定の精度及び参照テンプレートの単一コピーが増幅されるときに観察されるCtを最大化するために、増幅効率及び単一コピーCtの多重推定を行い、次いで閾値でのコピー数を推定するために平均値を計算することを選択できることも、熟練者には理解されるだろう。また、標準化条件下で、プライマーとテンプレートの集団を分析し、それらの増幅効率と単一のコピーCtの単一推定を行い、これらの統計の平均値を決定し、閾値での該当コピー数の平均を計算することにより、類似の参照値を得ることができる。
【0104】
言及される「核酸試料」は、生物学的又は非生物学的試料であると理解されるべきである。非生物学的試料の例には、例えば合成的に生成された核酸集団の核酸産物が含まれる。言及される「生物学的試料」とは、動物、植物又は微生物(微生物の培養物を含む)に由来する生物学的物質の任意の試料として理解されなければならず、当該生物学的物質は、例えば細胞物質、血液、粘液、糞便、尿、組織生検標本、動物の体に流入してから排出される液体(例えば、肺洗浄後に肺から抽出される生理食塩水又は浣腸液から回収される溶液)、植物物質又は植物繁殖物質(例えば種子、花又は微生物群など)などであるが、これに限定されない。本発明の方法に従ってテストされる生物学的試料は、直接テストされてもよいし、テスト前に何らかの形態の処理を必要としてもよい。例えば、生検試料は、テスト前に均質化する必要があるか、又はin-situ検査のためにスライスする必要がある。さらに、生物学的試料が液体形態でない限り(そのような形態がテストに必要な場合)、試料を移動させるために緩衝材などの試薬の追加が必要になる場合がある。
【0105】
標的DNAが生物学的試料中に存在する限り、生物学的試料を直接テストしてもよいし、生物学的試料中に存在する核酸物質の全部又は一部をテスト前に単離してもよい。標的核酸分子がテスト前に前処理されるのは、例えば生ウイルスの不活性化又はゲル上での実行は、本発明の範囲内にある。また、生物学的試料は、新たに採取されたものであってもよいし、テスト前に(例えば凍結によって)保存されていたものであってもよいし、テスト前に(例えば、培養によって)他の処理が行われたものであってもよいことが理解されるべきである。
【0106】
本明細書に開示されている方法に従って、テストするのに最も適した試料のタイプの選択は、モニタリングされる状態の性質などの状況の性質に依存する。例えば、好ましい実施形態では、腫瘍の状態が分析の対象となる。腫瘍の状態が白血病の場合、適切なテスト試料が血液試料、リンパ液試料又は骨髄吸引液によって提供される可能性が高い。腫瘍の状態がリンパ腫である場合、リンパ節生検又は血液又は骨髄試料は、テストに適した組織源を提供する可能性が高い。腫瘍細胞の元の起源をモニタリングするか、又は転移の存在或いは起源からの腫瘍の他の形態の広がりをモニタリングするかを考慮する必要もある。この点に関して、いずれか1つの哺乳動物から多数の異なるサンプルを採取してテストすることが望ましい場合がある。任意の所定の検出シナリオのために適切なサンプルを選択することは、当業者の技術の範囲内にある。
【0107】
本明細書で使用される「哺乳類」という用語は、ヒト、霊長類、家畜(例えば、馬、牛、羊、豚、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット)、ペット(例えば、犬、猫)、捕獲された野生動物(例えば、カンガルー、鹿、キツネ)を含む。好ましくは、哺乳動物はヒト又は実験動物である。さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0108】
しかしながら、本発明の方法は、目的核酸領域の単一コピーのみの増幅を必要とするので、熟練者は、反応中に単一コピーのみが存在するように対象となる試料を調製する必要があることを理解されたい。これを達成するための手段は、熟練者によく知られており、この使用される方法は、マイクロマニピュレーション、フローサイトメトリーを使用した個々の細胞の個々のウェルへの沈着、及び限界希釈を使用した個々の細胞の個々のウェルへの分割などを含むが、これらに限定されない。
【0109】
この点に関して、本発明の関連する態様では、増幅前に連続てきに希釈された核酸標的で行われる増幅反応から得られるCt結果に対する統計的分析を適用して平均Ct値を計算することにより、単一の標的核酸分子を増幅するための信頼できる正確なCt結果を推定できることが驚くべきことに確認された。この方法は、時間と手間を要する、単一の標的核酸分子が正常に単離され、増幅されたかを確実に識別し決定する必要がない。直接的な限界希釈測定から得た統計的分析結果に基づいて平均Ct結果を信頼できる方法を開発することにより、プライマー効率を決定するための大規模な自動分析への本発明の方法の適用が容易になる。
【0110】
本発明のこの態様の方法は、一連の反応ウェル又は任意の他の適切な区画化或いは分割されたシステムにわたって、反応ウェルの一部のみが目的核酸領域の1つ以上のコピーを含み、残りのウェルは目的核酸領域のコピーを含まないような濃度で希釈された目的核酸試料に基づいている。所定のウェルが目的核酸領域の開始コピーを0、1、2、又はそれ以上含む確率は、ポアソン分布によって説明される。したがって、ポアソン分布計算を適用することにより、DNAの開始コピーを2つ以上含むウェルの数を決定することができる。Ctが低いほど標的DNAの開始濃度が高いため、ポアソン計算によって目的核酸領域の開始コピーを2つ以上含有することが決定されたウェルの割合が最も低いCt結果を捨て、増幅を示さないウェルの結果も捨て、これらのウェルにはDNAが含有まされていないことを示す。平均Ct値を得るために、ポアソン分布計算の適用により、関心核酸領域の単一の開始コピーが含有されていると決定された残りのウェルのCt結果を平均化する。本発明者らは、この方法によって算出された平均Ct値が、実際には、目的プライマー対を使用した、標的核酸の単一開始コピーが増幅された実際のCtの信頼できる推定値であり、その信頼限界は、標準的な統計技法を使用して決定できるということを確定した。
【0111】
本発明の関連する態様では、目的核酸領域に対する正方向及び逆方向プライマー対のCtを決定する方法を提供し、前記方法は、
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる複数のアリコートの核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)核酸標的分子の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って、ステップ(i)の核酸アリコートを増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)目的核酸領域の前記単一コピーから増幅されるステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定するステップと
を含む。
【0112】
一実施形態では、前記核酸はDNAである。
【0113】
より具体的には、目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対のCtを決定する方法を提供し、前記方法は、
(a)前記目的DNA領域を含む生物学的試料を限定的に希釈し、且つ前記試料の複数のアリコートを生成し、ここで、前記アリコートの亜群には、前記目的DNA領域のコピーが含まれていないステップと、
(ii)ステップ(i)のアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させ、前記目的DNA領域の単一コピーの増幅を達成するように設計される定量的増幅プロトコルに従って前記アリコートを増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(iii)前記目的DNA領域の少なくとも2つの開始コピーを含む、ステップ(i)からのアリコートの割合を統計的に決定するステップと、
(iv)増幅反応ステップ(ii)の平均Ctを決定し、ここで、前記平均の計算から、増幅が観察されなかったアリコートから得られたCt結果と、ステップ(ii)で決定された割合値に対応する最低個別のアリコートCt結果との割合を除外するステップと
を含む。
【0114】
言及される「平均」Ctは、関心核酸領域の単一の開始コピーに対して複数の独立した増幅反応が行われた場合の平均値として理解されるべきである。しかし、熟練者が目的核酸領域の単一のコピーに対して増幅反応を1回のみ行うことを選択した場合、「平均」は、単純に、得られた単一のCt値に対応する。熟練者は、平均Ct値が任意の適切な実験設計によって決定されることができること、及び、前述のポアソン分布に基づく方法は、1つの可能性を例示するに過ぎないことを理解するである。
【0115】
言及される「複数の」試料は、2つ以上の試料であると理解されるべきである。本発明をいずれの方式で限定することなく、複数のアリコートを生成するために、核酸の単一の開始試料の限界希釈を実行することによって前記複数の試料が生成される。「アリコート」とは、元の試料から分割された試料を意味し、試料は、このプロセス中に希釈されることもできる。その後、対象となるアリコートは維持され、別々の反応で増幅される。これらのアリコートを分割する方法は、任意の好適な形態をとることができ、例えば、個々の管又は多孔板を使用することによって行うことができる。一実施形態では、平均Ct値は、本発明の増幅方法の開始前に、目的核酸領域のコピーが1つのみ存在することによって特徴付けられる少なくとも2つの核酸アリコートのCt結果から決定される。別の実施形態では、ステップ(i)の限界希釈は、2~384個のアリコートを生成するように、別の実施形態では、8~96個のアリコートを生成するように、又の別の実施形態では、12、16又は24個のアリコートを生成するように設計される。さらに別の実施形態では、アリコートの数は、デジタルPCR中に生成される分割された試料の数に対応する。この点に関して、限界希釈の実行する方式は、当業者によく知られている。
【0116】
標的DNAの2つ以上の開始コピーを含むアリコートの割合を統計的に決定するステップは、任意の適切な時点で実行されることができ、増幅ステップの後に厳密に計算する必要はないことを理解されたい。つまり、限界希釈ステップが実行された直後に、この計算を実行することもできる。
【0117】
本発明のこの態様は、目的対象となり得、且つ標的DNAの単一コピーのCtが要求される任意のプライマー対の適用範囲内で有用である。例えば、この方法によって得られた結果を、従来の回帰直線分析を使用して決定した増幅効率と組み合わせて、特定の目的プライマー対の閾値で生成される増幅分子の数を決定することができる。これは、参照プライマーとして使用するためのプライマーの適合性を分析するという点で、独立した方法として特定の有用性を見つけることができる。その代わりに、Ctを決定するこの方法は、前述したように、参照プライマーに対するテストプライマーの絶対効率又は相対効率の決定と結合され且つ関連して使用することができる。
【0118】
本実施形態によれば、目的DNA領域を対象とする正方向及び逆方向プライマー対の増幅効率を評価する方法を提供し、前記方法は、
(i)そのうちの少なくとも2つが目的核酸領域の単一コピーの存在によって特徴付けられる複数の核酸試料と、前記正方向及び逆方向プライマー対とを接触させるステップと、
(ii)前記テンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対を使用して参照DNAテンプレート分子の単一コピーの増幅を達成するように標準化された定量的PCRプロトコルにしたがってステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)の増幅反応の平均Ctを決定し、前記Ct値から前記プライマーの増幅効率を評価するステップと
を含む。
【0119】
さらなる実施形態では、テストプライマー及び/又は参照プライマーの平均Ct値は、
(a)前記目的DNA領域を含む生物学的試料を限定的に希釈し、且つ前記試料の複数のアリコートを生成し、ここで、前記アリコートの亜群には、前記目的DNA領域のコピーが含まれていないステップと、
(b)ステップ(a)でのアリコートと、前記正方向及び逆方向プライマー対を接触させ、ステップ(a)でのDNAを前記標準化された定量的なPCRプロトコルに従って増幅し、各アリコートのCtを決定するステップと、
(c)目的DNA領域の少なくとも2つの開始コピーを含むステップ(a)からのアリコートを統計的に決定するステップと、
(d)増幅反応ステップ(b)の平均Ctを決定し、ここで、前記平均の計算から、増幅が観察されなかったアリコートから得られたCt結果と、ステップ(b)で決定された割合値に対応する最低個別のアリコートCt結果との割合を除外するステップとによって決定される。
【0120】
一実施形態では、前記目的核酸領域には、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域が含まれる。
【0121】
別の実施形態において、前記目的核酸領域は、再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAであり、より具体的には、再配列されたV、D及び/又はJ断片である。
【0122】
また別の実施形態及びV(D)J再配列の文脈では、前記目的核酸領域は、IgH、TCRβ又はTCRδのDJ又はVDJ再配列に対応する。別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列に対応する。
【0123】
また別の実施形態では、前記目的核酸領域は、例えば超変異を起こす傾向がある領域及び/又はCDR3の一部をコードするJ遺伝子断片領域などのV遺伝子断片領域である。
【0124】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部をコード化する遺伝子断片領域に対するものである。
【0125】
さらなる実施形態では、前記増幅反応はPCRである。
【0126】
前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、二本鎖DNAに挿入される非特異的蛍光色素を使用して検出される。別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、例えば蛍光レポーターなどの、レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して検出される。
【0127】
さらに別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH遺伝子又はTCR遺伝子である。
【0128】
また別のさらなる実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、単一コピー遺伝子であり、好ましくはGALT遺伝子である。
【0129】
上に詳述されるように、目的DNA領域の1つの開始コピーを増幅する標準化されたPCR測定から得られる平均Ctは、目的プライマー対の増幅効率を評価するための予想外に正確で再現可能なパラメータを提供する。この評価は、相対的でも絶対的でもあり得る。この評価を可能にするために、標準化された測定(本明細書では「標準化された参照測定」と呼ぶ)を使用して参照DNAテンプレート分子を増幅する際の参照プライマーの効率、及び/又は、参照プライマーを使用して参照DNAテンプレートの単一コピーを増幅することから得るCtの一方又は両方を決定しなければならない。標準化された参照測定の増幅効率決定は、前述のように、従来のCt線形回帰モデリングを実行することによって達成できる。しかし、最適化され標準化された測定に関連して実行されるこの初期線形回帰分析以外には、標準化された測定を使用して後続にテストされるプライマーに関して、このようなモデリングはもはや必要がない。むしろ、テストプライマーの増幅からの平均Ct値は、問題のテストプライマーの増幅効率の評価を可能にするために必要な唯一の値である。この点に関して、テストプライマーの増幅効率を「評価する」という言及されることは、テストプライマー効率の相対的、絶対的、定性的又は定量的な側面のいずれであれ、対象となるテストプライマーの効率に関連して結論を導き出すための参照として理解されるべきである。このような評価には、(i)~(iv)が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
(i)平均Ct値自体からテストプライマーの増幅効率に対する推論を導き出し、ここでCt値が低いほどプライマー効率がより良い。1つの標的コピーに対するCtは、増幅効率が100%の場合には36.53であり、95%の効率の場合には37.91であることが経験的に知られているため、標準化された参照測定プロトコルが高いレベルの効率で機能するように最適化された場合、38未満のテストプライマーCt値は優れたプライマー効率を示す。この形態の分析に従って、Ct値は、実際の増幅効率ではなく、増幅効率の尺度を提供する。
【0131】
(ii)参照プライマーを用いた参照テンプレートの単一コピーの増幅のCtが決定されるか、又は、以前に決定された場合、(i)に記載の推測は、参照プライマーの単一の標的分子Ctとテストプライマーの単一標的分子Ctを比較することによって行うことができる。標準化条件下で得られたテストプライマーテンプレートの単一のコピーの増幅に起因するCtが、以前に参照テンプレートの単一コピーの増幅から観察された順序である場合、テストプライマーは、参照プライマーと同様の順序の効率で動作していると結論づけることができる。さらに、参照プライマーのCtに対するテストプライマーのCt値の増加は、テストプライマーが参照プライマーよりも低い効率を示すことを推測する。
【0132】
(iii)標準化された参照測定のCt線形回帰モデルの線の勾配が決定された場合、その反応の効率は、次の式を使用して決定することができる。
E=10-1/slope-1 ・・・(4)
【0133】
標的分子の初期数(N0)、増幅効率(E)、サイクル閾値(Ct)、及び閾値(Nt)でのアンプリコンの数の間の関係は次の通りである。
Nt=N0
.(1+E)Ct
【0134】
1つの標的核酸分子を増幅する場合、この式は次のように簡略化される。
Nt=1.(E+1)Ct ・・・(5)
【0135】
したがって、本明細書に記載される標準化条件下で参照プライマーの増幅効率を決定することによって、及び、それらの標準化条件下で単一の参照テンプレート分子を増幅することによって得られたCtを決定することによって、Ntを計算することができる。Ntは定数であり、本発明者らは驚くべきことに、前記標準化された測定において標的DNA分子の単一コピーを増幅するテストプライマーのCtは、非常に正確で再現可能なであることと、同じの標準化条件下で増幅された参照プライマー及びテンプレート分子が、テストプライマー結果を分析するために信頼できる参照効率ポイントを提供することとを確認したため、式(5)を使用して、テストプライマーの効率を確実かつ迅速に決定することができ、ここで、Ctは、標的DNAの単一コピーのテストプライマー増幅から決定され、Ntは、標準化された参照測定から計算される。式(5)の導出では、式(6)を使用してテストプライマー(Et)の増幅効率を決定できる。
E(test)=Nt(ref)
1/Ct(test)-1 ・・・(6)
【0136】
ここで、Nt値は、目的テスト核酸領域の単一分子が増幅される時、テストプライマー増幅が閾値(Ct.t)に達するのにかかるサイクル数とともに、参照プライマー増幅結果から決定される。
【0137】
本発明の方法は、上に詳述されるように、使用のために選択された参照核酸テンプレートが参照プライマー及び目的標的核酸と相同性をほとんど又は全く示さない場合であっても、予期せぬ決定により、さらに有用であり、標準化された測定においてその増幅は、参照プライマー及びテストプライマー及び目的標的に対してより高いレベルの相同性を示すテンプレートを使用して実行する標準化された測定に匹敵する結果を生成し、したがって、予想外に、所定の標準化された測定は、選択された参照プライマー及びテンプレートと相同性を示すプライマーのみならず、実質的に広い範囲で効率評価を必要とするプライマーに適用することを可能にする。
【0138】
(iv)参照プライマーを使用して参照テンプレートの1つのコピーを増幅するための増幅効率とCtが既知である場合、Ntは、参照及びテストの両方で同じであるため、標準化された測定でテストされるいずれのテストプライマーの効率は、効率とCt値のみを使用して迅速かつ簡単に計算できる。より具体的には、Ntは定数であるため、ErとEt(それぞれ参照及びテストプライマーの増幅効率である)、及びCt.rとCt.t(それぞれ参照及びテストテンプレートの単一コピーが増幅される際のしきい値までの周期)は、次のように関連付けられる。
1.(E(test)+1)Ct(test)=1.(E(ref)+1)Ct(ref)
したがって、
E(test)=(E(ref)+1)Ct(ref)/Ct(test)-1 ・・・(7)
【0139】
一実施形態では、前記増幅効率は、標準化された測定における参照プライマーによる参照テンプレートDNAの増幅から決定された参照の効率ポイントに対して評価される。
【0140】
別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、参照プライマーの平均Ct値であり、前記増幅効率評価は、目的DNA領域に対する正方向と逆方向テストプライマー対の平均Ct値と参照DNAテンプレート分子に対する参照正方向及び逆方向プライマー対の増幅のために決定された平均Ct値とを比較することによって行われる。
【0141】
別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、Nt(ref)であり、前記増幅効率評価は、式において目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値(Ct(test))を使用して行われる。
E(test)=Nt(ref)
1/Ct(test)-1
【0142】
また別の実施形態では、前記参照効率ポイントは、E(ref)及びCt(ref)であり、前記増幅効率評価は、式において目的DNA領域に対する正方向及び逆方向プライマー対の平均Ct値(Ct(test))を使用して行われる。
E(test)=(E(ref)+1)Ct(ref)/Ct(test)-1
【0143】
別の実施形態では、前記目的核酸領域には、SNP、点突然変異、超変異、染色体転座、ゲノム遺伝子断片再配列、DNA挿入、DNA欠失又はブレークポイント(例えば、染色体ブレークポイント)、特定の遺伝子断片、特定の領域、遺伝子の一部又はセクション、又は遺伝子間領域が含まれる。
【0144】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、再配列された免疫グロブリン(Ig)又はT細胞受容体(TCR)DNAであり、より具体的には、再配列されたV、D及び/又はJ断片である。
【0145】
また別の実施形態及びV(D)J再配列の文脈では、前記目的核酸領域は、IgH、TCRβ又はTCRδのDJ又はVDJ再配列に対応する。別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Igκ、Igλ、TCRα又はTCRγのVJ再配列に対応する。
【0146】
また別の実施形態では、前記目的核酸領域は、例えば超変異を起こす傾向がある領域及び/又はCDR3の一部をコーディングするJ遺伝子断片領域などのV遺伝子断片領域である。
【0147】
さらに別の実施形態では、前記目的核酸領域は、Vリーダー配列、IgH FR1、IgH FR2又はIgH FR3の全部又は一部をコード化する遺伝子断片領域に対するものである。
【0148】
さらなる実施形態では、前記増幅反応はPCRである。
【0149】
前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、二本鎖DNAに挿入(インターカレート)される非特異的蛍光色素を使用して検出される。別の実施形態では、前記定量的PCRによって生成されたアンプリコンは、例えば蛍光レポーターなどの、レポーター分子に操作可能に連結された配列特異的DNAプローブを使用して検出される。
【0150】
さらに別の実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、再配列されたIgH遺伝子又はTCR遺伝子である。
【0151】
また別のさらなる実施形態では、前記参照核酸テンプレートは、単一コピー遺伝子であり、好ましくはGALT遺伝子である。
【0152】
本発明の方法は、定量増幅反応、特に定量PCRに使用するように設計されたプライマー対の正方向と逆方向プライマーのいずれか又は両方の効率を評価する手段を提供する。この方法は、目的プライマーのそれぞれを評価するために、従来の時間を要する線形回帰モデリングを行う必要がなくなり、効率を評価するための迅速、簡単、及びより信頼性の高い手段を提供する。より一層、これらのプライマーをテストする標準化されたシステムの設計と適用により、システム内でテストされた任意のプライマーの効能を、システム内でテストされる任意の他のプライマーと直接比較することができる。したがって、複数のプライマーが単一の標的を増幅するように設計されている場合、最も効率的なプライマーを迅速かつ容易に識別することができる。別の例では、標準化された増幅プロトコルの性能を新しい機器(例えば、新しい実験室で発生する可能性がある)に移し、反応条件のいくつかの側面を変更しようとする場合、上記の評価分析オプションを使用して、測定の正確で簡単な再校正を容易にすることができる。例えば、新しい機器のための特に簡単なアプローチは、新しい条件下で参照核酸テンプレートを増幅し、単一の標的テンプレートのCtを決定してNtを計算することにより、閾値におけるアンプリコンの数を決定することである。次いで、これらの結果に関連してテストプライマー効率を決定することができる。また、目的核酸領域(例えば、GALT遺伝子)との相同性をほとんど又はまったく示さない参照プライマーとテンプレートを使用して最適化及び標準化された測定を使用できることが予想外に決定されたため、単一の標準化された測定の場合にテストできるプライマーの範囲が広く、それによって広範囲のプライマーをテストする複雑さ及びコストがさらに削減される。
【0153】
したがって、本方法は、診断、予後、分類、疾患リスクの予測、疾患の再発の検出、1つ以上の標的ヌクレオチド配列の発現によって特徴付けられ得る任意の疾患状態又は非疾患状態である状況での予防効果又は治療効果の免疫監視又はモニタリングのためのプライマーのテスト及び選択に有用である。より一層、この方法は、特定の標的DNA及びRNA領域の配列の分析、又は特定の標的DNA及びRNA配列の存在に対するスクリーニングが必要なすべての他の状況、たとえば研究開発又は品質管理の状況で適用される。例えば、本発明は、科学者及びバイオテクノロジー産業がゲノミクス、ファーマコゲノミクス、創薬、食品特性及び遺伝子型決定の分野で取り組もうとしている現在及び新たなニーズに対する解決策を提供する。
【0154】
本発明は、非限定的な例としてリンパ様腫瘍を使用し、qPCR反応で使用するためのプライマーをテスト及び選択するための手段を提供し、哺乳動物(例えば、ヒト)の腫瘍の有無、及び哺乳動物から採取された生物学的試料の腫瘍性細胞又は腫瘍性細胞に由来するDNA含有の有無を決定すること、乳動物が腫瘍を発症するリスク又は可能性を推定すること、抗癌治療の効能をモニターすること、又は癌を有する哺乳動物における適切な治療を選択することに使用される。このような方法は、ンパ様腫瘍が特異的なV(D)J再配列を発現する細胞のクローン拡大によって特徴づけられるという決定に基づいている。
【0155】
本発明の方法は、腫瘍を有することが知られているか又は疑われる個体を評価するために、又は必ずしも腫瘍を有すると疑われない個体における通常の臨床試験として使用することができる効率的なプライマーの設計を可能にする。さらに、本方法は、治療コースの効能を評価するために使用され得る。例えば、リンパ癌にかかった哺乳動物において、MRDを経時的にモニタリングすることにより、抗癌治療の効能を評価することができる。典型的には、治療後に哺乳動物から採取した生物学的試料において、特定の標的ヌクレオチド配列によって特徴付けられるクローン集団の減少又は欠如は、効果的な治療を示す。
【0156】
本発明の方法は、新しい若しくは継続的に突然変異するDNA標的を検出又は増幅するために新しいプライマーを継続的に生成する必要がある場合、又は、患者によってDNA標的が異なる場合、患者特異的(例えば、MRD分析)又は疾患特異的プライマーの設計などの用途に関連おいて特に有用である。本発明の方法は、このようなプライマーの効能をテストする現在の方法が異なる結果をもたらす場合、又は異なるプライマーの正確なテストがリソースを過度に消費する場合に、プライマーの効率を客観的に一貫して迅速に評価し、必要に応じて、同じシステムでテストされた任意の他のプライマーの効率と比較することを可能にする標準化されたシステムを提供する。したがって、標準化された参照測定が規制当局等によって適切な効率レベルとして機能すると仮定すると、本方法により、参照実験室又は内部実験室が標準化された測定を確立することが可能になり、その後、既知の承認標準と比較して、目的プライマーの効能をテスト及び証明する。参照プライマー及びテンプレート分子は、例えば、標準化されたプロトコルの詳細とともに実験室に提供され、すべてのその実験室で測定確立及び検証され得ることが企図される。あるいは、テストされるプライマーは、評価のために中央の参照研究室に送られてもよい。
【0157】
したがって、本方法の別の態様では、目的核酸領域を対象とする正方向及び逆方向プライマー対の効率の評価を促進するためのキットを対象とし、前記キットは、任意に本明細書で前に定義した参照核酸テンプレート分子及び標準化されたプロトコルに従って参照プライマーの増幅を促進するために使用するのに適切な試薬と共に、参照正逆プライマーと、本明細書で前に定義した標準化された増幅プロトコル方法及び/又は最小効率結果を詳述する説明とを含む。
【0158】
本発明のさらなる特徴は、以下の非限定的な実施例においてより完全に説明される。
【実施例1】
【0159】
1つのコピーCtのための標準化されたプロトコルの開発
当業者は、対象となるプロトコルで例示される増幅の一般原理を熟知しているであろう。
【0160】
【0161】
【0162】
PCRの温度プロトコル
91℃ 3mins
97℃、15sec、72℃、30sec ×5サイクル
96℃、15sec、72℃、30sec ×5サイクル,
94℃、15sec、72℃、30sec ×35サイクル
【0163】
注:
単一コピー実験の目的は、各ウェルに標的テンプレートの平均約0.5~1コピーを含めることであり、これによりウェルの約39%-63%が陽性となる。非腫瘍性細胞集団からのDNAである場合、これは通常2~4pgDNA/ウェルをアリコートすることによって達成される。腫瘍性細胞集団を研究する場合、腫瘍性細胞が集団全体で占める割合が未知である可能性があり、その場合、一部のウェルが陽性になり、一部のウェルが陰性になるために必要なDNAのおおよその質量を決定するために、初期研究を行うことができる。
【0164】
Syto82は、一部の実験でのみ使用され、使用されない場合は同量の水に置き換えられる。前に、使用された濃度がCtを抑制しないことが示されていた。Syto82は、PCRの進行に伴い、二本鎖DNAの蓄積をモニタリングする。これは、遺伝子特異的なプローブではなく、一般的なプローブである。それで遺伝子特異的プローブと同じ結果が得られたが、時折、陽性ウェルが遺伝子特異的プローブで陰性であるため、後の実験ではその使用が省略された。
【0165】
この標準化されたプロトコルのいくつかの特徴は、ほとんどのPCRプロトコルの特徴と若干異なる。(a)Taq濃度が比較的高い。(b)PCR中の変性温度は、初期サイクル中のゲノムDNAの変性を最適化する。(c)研究されているプリマーは長いプリマーであるため、アニーリング温度は、大多数の実験者が使用するよりも高い。
【0166】
表されたプローブは、IGHPCRに使用されるものである。関連する遺伝子特異的プローブは、他の遺伝子に使用される。閾値の設定は、操作者と機器アルゴリズムの両方によって行われた。機器アルゴリズムは、操作者よりも閾値を高く設定し、機器の閾値によって提供されるCtは、ユーザの閾値によって提供されるCtよりも約1.5大きい。特に明記しない限り、表された結果は機器によって提供されたものである。
【実施例2】
【0167】
【0168】
この例では、平均Ctの計算に使用される特定のウェルを選択する方法を示し、24個のウェルを分析する。観察された陽性孔の数とポアソン分布によって提供される確率を用いて、ウェルが0や1以上のテンプレートから発生する確率を計算する。例えば、13個のウェルが陽性の場合、おそらく9個は1つのテンプレートから、4個は2つ以上のテンプレートから生成される。2つ以上のテンプレートから生成した増幅は、1つのテンプレートから生成した増幅よりもCtが低くなる。したがって、最も低い4つのCt値を捨て、残りの9つのCt値から平均Ctが計算される。
【実施例3】
【0169】
1つのテンプレートコピーからの平均Ctの計算
【表3】
【0170】
1つの試料からの24個のアリコートを、いくつかの陽性及びいくつかの陰性ウェルを生じる希釈中で増幅した。連続する列は、Ct結果、Ct結果を降順で並べること、いずれの異常値を除去すること、ポアソン確率に基づいて複数のコピーの増幅に起因すると判断された場合に結果を除去すること、最終平均、標準偏差及びウェル数を示す。この例では、19個の陽性ウェルがあり、ポアソン確率に基づいて、最も低い11個のCt結果を捨て、残りの8個から平均Ct値が決定された。
【実施例4】
【0171】
【0172】
この実施例は、勾配及び単一コピーのCt結果の要約を提供する。2つの参照遺伝子のそれぞれについて、結果は、それぞれが同じテンプレート配列及びそれに対応するプライマーを含む複数の実験に基づいている。IGH集団の結果は、各配列に対する2つのプライマーとともに、異なる患者からのIGH配列を含む。すべてのIGHPCRに同じプローブが使用される。表のCt結果は、機器に提供されたソフトウェアアルゴリズムを使用して決定されたものである。
【0173】
勾配推定と単一コピー推定との間の精度の有意差に留意されたい。
【0174】
増幅効率の結果は、勾配推定からのみ導き出される。
【0175】
閾値での標的の結果は、増幅効率及び平均単一コピーCtの両方に基づく。
【実施例5】
【0176】
【0177】
この表は、さまざまなグループのプライマーの増幅効率の平均と95%信頼区間を示す。Ct結果は、ソフトウェアアルゴリズムではなく、操作者によって設定された閾値から決定された。操作者によって設定された閾値は、ソフトウェアアルゴリズムによって設定された閾値よりもCtが約1.5単位小さい。IGHとTCRの結果は、実験室のプライマーの分析研究を意味し、MRDの結果は、MRD測定中に得られたデータの遡及分析であった。増幅効率は、1コピーのCt結果から、及び閾値でのアンプリコン数の参照値1.1×1011から計算される。1コピーのCt結果の変動は、ランダムな実験誤差又はプライマー間の変動のいずれかによって引き起こされ得るので、プライマー間の変動を決定するために、各グループに対して分散の分析が実行され、この値と平均値を使用して、増幅効率の95%信頼区間を決定した。
【実施例6】
【0178】
【0179】
結果は、1つのコピーCtと勾配に由来する増幅効率を決定するために、異なる遺伝子のプライマーを分析した場合に見られる高度の一致を示している。すべての遺伝子標的は、標準化条件下で増幅されたが、各遺伝子に特異的プローブが使用された。表のCt結果は、機器に提供されたソフトウェアアルゴリズムを使用して決定されたものである。IGH集団及び参照のための数は、以前に与えられた。GALT参照結果は、1つのコピーCtと勾配の22個の推定値に基づいており、残りの遺伝子については、各々の所定の結果は、1つのコピーCtと勾配の各々について少なくとも2つの推定値に基づいている。TCRの結果は、TCRβ遺伝子とTCRγ遺伝子の両方の推定を含んでいるため、異質であり、TCRβの結果には、異なる標的に対する3つの異なるプローブを含む結果が含まれる。
【0180】
当業者は、本明細書に記載された発明が、具体的に記載されているもの以外の変形及び修正の影響を受けやすいことを理解するであろう。本発明は、そのような変更及び修正をすべて含むものと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書で個別に又は集合的に言及又は示されるすべてのステップ、特徴、組成物及び化合物、並びに、前記ステップ又は特徴の任意の2つ以上の任意の組み合わせ及びすべての組み合わせを含む。
【0181】
参考文献
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【配列表】
【国際調査報告】