(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】無症候性脳梗塞及び認知低下の評価のためのESM-1
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023504272
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2021072454
(87)【国際公開番号】W WO2022034162
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】コネン,ダーヴィト
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】キューネ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】オスバルト,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA36
2G045DA44
(57)【要約】
本発明は、対象が、対象において1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法に関し、当該方法は、a)対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量を決定する工程、b)工程a)で決定された量を基準と比較する工程、及びc)対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程を含む。本発明は更に、無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法、並びに対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞の程度を評価及びモニタリングするための方法に関する。対応する用途が本発明によって更に包含される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、及び
c)前記対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記基準よりも大きいESM-1の量が、1回以上の無症候性梗塞に罹患している対象を示し、前記基準よりも低いESM-1の量が、1回以上の無症候性梗塞に罹患していない対象を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、及び
c)前記対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測する工程
を含む、方法。
【請求項4】
対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下についての臨床リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)前記ESM-1の量の値を無症候性脳梗塞の前記臨床リスクスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞の前記臨床リスクスコアの前記予測精度が改善される工程
を含む、方法。
【請求項5】
前記ESM-1の前記量の値をCHA
2D
2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下に対する前記臨床リスクスコアの前記予測精度が改善される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が、1ヶ月から5年以内、例えば1年以内又は2年以内に前記対象において無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが予測される、請求項3から5に記載の方法。
【請求項7】
対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞の程度を評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された前記量に基づいて、前記対象における無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価する工程
を含む、方法。
【請求項8】
対象において白質病変の程度を評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された前記量に基づいて、前記対象における白質病変の程度を評価する工程
を含む、方法。
【請求項9】
対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は白質病変及び/又は認知機能の程度をモニタリングするための方法であって、
a)前記対象からの第1の試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)前記第1の試料の後に得られた前記対象からの第2の試料中のESM-1の量を決定する工程、
c)前記第1の試料中のESM-1の前記量を前記第2の試料中のESM-1の前記量と比較する工程、及び
d)工程c)の結果に基づいて、前記対象の無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は認知機能及び/又は認知機能の程度をモニタリングする工程
を含む、方法。
【請求項10】
a)抗凝固療法を推奨する工程、
b)抗凝固療法の強化を推奨する工程、
c)リスク要因管理を強化する工程、及び
d)専門クリニックでケアする工程
を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、心房細動に罹患している、請求項1又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象がヒトであり、及び/又は前記試料が好ましくは血液、血清若しくは血漿であるか、又は前記試料が組織試料である、請求項1又は11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
対象において無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、前記対象からの試料中のESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った前記値を前記処理ユニットで処理する工程であって、ESM-1の前記量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った前記値を前記1つ以上の閾値と比較することとを含む、処理する工程、
c)出力装置を介して無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測を提供する工程であって、前記予測が工程(b)の結果に基づく、提供する工程
を含む、方法。
【請求項14】
CHA
2D
2-VAScスコアの値を更に含む前記方法が、工程a)の前記処理ユニットにおける受け取る工程に追加される、請求項13のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項15】
a)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するため、
b)対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は白質病変の程度を評価するため、又は
c)対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための
ESM-1又はESM-1に結合する薬剤のIn vitro使用。
【請求項16】
I.ESM-1が、ESM-1ポリペプチドであり、
II.前記対象がヒトであり、
III.前記対象が65歳以上であり、及び/又は
IV.前記対象が、脳卒中及び/又はTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有していない、
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法、又は請求項15に記載のin vitro使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法に関し、当該方法は、a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、b)工程c)で決定された量を基準と比較する工程、及び対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程を含む。
【0002】
無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法、並びに対象における無症候性脳梗塞及び/又は認知低下についての臨床リスクスコアの予測精度を改善するための方法も包含される。
【0003】
ESM-1の量をCHA2D2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下に対する臨床リスクスコアの予測精度が改善される。さらに、本発明は、対象における無症候性の大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞並びに/又は白質病変の程度を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数(disability-adjusted-life years)の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減させるために、抗凝固療法は最も適切な療法であると思われる。
【0005】
心房細動(AF)は、脳卒中の重要なリスク因子である(Hart et al.,Ann Intern Med 2007;146(12):857-67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370-5)。心房細動は、不規則な心臓の鼓動を特徴とし、短時間の異常な鼓動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続的な状態となる場合がある。米国では推定270~610万人、地球規模ではおよそ3300万人が、心房細動を有する(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。心房細動は脳卒中及び全身性塞栓症の重要なリスクファクターであることから、心房細動の早期診断及び脳卒中のリスクの早期診断が非常に望ましい(Hart et al.,Ann Intern Med 2007;146(12):857-67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370-5)。
【0006】
心房細動等の心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、及び不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、及び欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類の指針は主として、単純性及び臨床上の関連性に基づいている。第1のカテゴリーは「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、最初にAFと診断され、以前に検出されなかった発作があったかどうかは不明である。最初に検出された発作が1週間以内に自然に停止したが、その後に別の発作が続く場合、カテゴリーは「発作性AF」に変わる。このカテゴリーの患者は最大7日間続く発作を持つが、発作性AFのほとんどの場合、発作は24時間以内に止まる。発作が1週間以上続く場合は、「持続性AF」に分類される。このような発作がすなわち電気的な又は薬理学的な心臓除細動によって停止することができず、1年を超えて続く場合、分類は「永続性AF」に変わる。
【0007】
近年の根拠は、AF患者が認知機能障害/低下及び認知症のリスク上昇に直面することも示唆している(Conen et al.,J Am Coll Cardiol 2019;73:989-99)。AFと認知症との関連の一部は、AF患者の中で脳卒中リスクが高いことによって説明される。しかしながら、認知症のリスクは、AFを有するが脳卒中の臨床歴のない患者においても増加した。臨床的に認識されていない脳梗塞(すなわち、無症候性脳梗塞)又は他の脳病変、例えば白質病変が、この関連を説明し得る。
【0008】
無症候性の大型の皮質梗塞及び非皮質梗塞(LNCCI)は、明白な脳卒中の認知機能障害と同様の認知機能障害に関連し、認知能力のおよそ10歳の年齢差に対応する。したがって、無症候性脳梗塞の予防は、公衆衛生上大きな関心事のようである。適切な処置手段を開始できるように、これらの病変の適時の特定が必要である。しかしながら、全てのAF患者における脳磁気共鳴画像法(MRI)は、実用的かつ経済的な観点から実行不可能である。したがって、予測ツールは、無症候性脳病変のリスクが高いAF患者を特定するために必要である。
【0009】
磁気共鳴画像法での無症候性の大型の皮質梗塞及び非皮質梗塞(LNCCI)は、認知障害及び鬱病等のいくつかの有害な結果に関連している。例えば、白質変化は、速度及び微細運動協調における運動機能の低下、並びに血管性認知症、レビー小体型認知症、及び精神障害を含む多くの疾患に関連することが報告されている。
【0010】
脳卒中、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下の評価を可能にするバイオマーカーが非常に必要とされている。
【0011】
ESM-1(エンドカンとしても知られる)は、20kDaの成熟ポリペプチドと30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。グリカン鎖のカルボキシレート及びサルフェートは両方とも、生理学的pHで負に帯電しており、したがって、正に帯電したアミノ酸、例えば成長因子及びサイトカインを含むシグナル伝達分子のための結合部位を提供する(Roudnicky F et al.,Cancer Res.2013;73(3):1097-106)。内皮細胞からの生物学的ESM-1発現及び放出は、癌進行に関与する血管新生メディエーターVEGF-A、VEGF-C、FGF-2、PI3K及びサイトカインによって、しかし炎症過程(敗血症)によっても高度に誘導される(Kali A et al.;Indian J Pharmacol.2014 46(6):579-583)。ESM-1は、FGF-2及びHGF等の血管新生促進成長因子に結合してこれを上方制御し、それによって内皮細胞の遊走及び増殖の増加を媒介する。グリカン鎖を欠くエンドカンバリアントは、グリカンの役割を強調するHGF活性化を誘導することができなかった(Delehedde M et al.;Int J Cell Biol.2013:705027)。ESM-1は、血液リンパ球、単球、Jurkat細胞の細胞表面上のLFA-1インテグリン(CD11a/CD18)に結合し、炎症部位への循環リンパ球の動員並びにLFA-1依存性白血球の接着及び活性化を伴う。
【0012】
可溶性ESM-1は、種々の癌型における内皮機能不全のリスクマーカーとして見出されている。さらに、様々な心血管症状又は疾患に関連してマーカーを評価した。例えば、ESM-1は、高血圧(Balta S et al.;Angiology.2014;65(9):773-7)、冠動脈疾患並びに心筋梗塞(Kose M et al.;Angiology.2015,66(8):727-31)に関連して測定されている。さらに、マーカーを糖尿病患者(Arman Y et al.,Angiology.2016 Mar;67(3):239-44)において測定した。慢性腎臓疾患の様々な段階での測定により、このマーカーはまた、慢性腎臓疾患における心血管事象及び死亡率を予測するのに有用であり得るという結論が導かれた(Yilmaz MI et al.,Kidney Int.2014;86(6):1213-20)。
【0013】
Mosevoll et al.(Springerplus.2014 Sep 30;3:571)は、深部静脈血栓症が疑われる患者のエンドカン及びE-セレクチンを分析した。血漿エンドカンレベル及びE-セレクチンレベルは、血栓症を有する患者、健康な対照と、確認された血栓症のない患者(すなわち、様々な炎症性状態及び非炎症性状態を含むそれらの症状の他の原因を有する患者)との間で差はなかった。しかしながら、内皮バイオマーカー、C反応性タンパク質及びDダイマーの併用を使用して、異なる頻度の静脈血栓症を有する患者サブセットを同定することができる。大量の肺塞栓症を有する患者におけるエンドカンレベルの上昇は、元の血栓症及び/又は肺高血圧症/右心不全による影響を受けた循環よりもむしろ、主に塞栓症によるものであった。著者らは、「広範囲の肺塞栓症を有する患者におけるエンドカンレベルの増加は、元の血栓症及び/又は肺高血圧症/右心不全を伴う影響を受けた循環よりもむしろ、主に塞栓症によるものである」と結論付けている(Mosevoll et al.SpringerPlus 2014,3:571)。
【0014】
さらに、血中へのエンドカン放出は、内皮機能障害、血管透過性の変化及び敗血症の重症度のバイオマーカーとも考えられている(Chelazzi C et al.;Crit Care.2015;19(1):26)。炎症プロセスに次いで、エンドカンが血管形成プロセス中に発現されることも示されている(Matano F et al.;J Neurooncol.2014 May;117(3):485-91)。
【0015】
Menon et al.のカンファレンス要約には、マウスモデルにおけるESM-1ノックアウトの効果が記載されている。著者らは、ノックアウト心臓において拡張した心房並びにnppa、nppb及びmyh7の上方制御を観察した。著者らは、ESM-1の破壊が心機能障害をもたらすであろうと結論している(Abstract 19140:Targeted Disruption of Endothelial Specific Molecule(ESM-1)Results in Atrioventricular Valve Malformations Leading to Cardiac Dysfunction.Prashanthi Menon,Katherine Spokes,David Beeler,Lauren Janes,and William Aird Circulation.2012;126:A19140 Volume 126,Issue 21 Supplement;November 20,2012/Abstracts From the American Heart Association 2012 Scientific Sessions and Resuscitation Science Symposium)。
【0016】
Xiong et al.は、高血圧症患者におけるエンドカンレベルを測定した。マーカーは、高血圧患者及び非高血圧患者で増加すると記載された。高血圧群の中で、冠動脈疾患CADを有する患者は、有さない患者よりも高いレベルを有していた(Xiong C.et al.,Elevated Human Endothelial Cell-Specific Molecule-1 Level and Its Association With Coronary Artery Disease in Patients With Hypertension.J Investig Med.2015 Oct;63(7):867-70)。
【0017】
Qiu et al.は、急性STEMI心筋梗塞を伴う2型糖尿病患者においてESM-1を測定した(Qiu CR.et al.,Angiology.2017 Jan;68(1):74-78)。著者らは、STEMI(ST上昇心筋梗塞)を有する2型糖尿病群と血管疾患を有さない2型糖尿病群との間の血清ESM-1レベルの差を記載している。内皮機能不全の決定は、心筋梗塞に関する心血管リスクを予測する。
【0018】
Cimen et al.は、閉塞性冠動脈疾患(CAD)、微小血管狭心症(MVA)、及びエンドカンの血漿レベルの間の関係を調査した(Cimen T.et al.,Angiology.2016;67(9):846-853)。例えば心房細動を有する患者は分析しなかった。微小血管狭心症(MVA)を有するCAD患者は、CAD対照と比較してESM-1の増加を示した。著者らは、マーカーが明らかな心血管疾患の前に内皮機能不全の指標として役立ち得ることを提案している。
【0019】
Madhivathanan et al.は、心臓手術(バイパス手術及び複合手術)の合併症としての急性肺損傷に関する心臓手術患者におけるエンドカンの動態を分析した。著者らは、ベースラインのエンドカン濃度が、高血圧症及び重度の冠動脈疾患を有する患者において上昇したと結論付けている。オフポンプ手術を受けている患者は、心肺バイパスを使用して心臓手術を受けている患者よりも周術期に低いエンドカン濃度を有する。(Madhivathanan PR.et al.,Cytokine.2016 Jul;83:8-12)。
【0020】
国際公開第1999/045028号は、ESM-1を検出するための2つの特異的モノクローナル抗体を記載している。
【0021】
国際公開第2002/039123号は、免疫抑制化合物で処置された患者におけるin vitroでのタンパク質ESM-1の定量のための、及び癌に罹患している患者におけるin vitroでのESM-1の定量のための、ヒトにおける内皮血管壁へのin vitro劣化を検出するためのESM-1タンパク質を検出するためのキット及びESM-1の使用を記載している。
【0022】
国際公開第2012/098219号は、敗血症患者における呼吸不全、腎不全及び血小板減少症のリスクを予測するためのマーカーとしてESM-1を記載している。
【0023】
国際公開第2014/135488号は、妊娠関連症候群(例えば子癇前症及びIUGR)を同定するためのマーカーとしてESM-1を記載している。
【0024】
国際公開第2018/024905号は、心房細動及び心不全の評価及び脳卒中の予測のためのマーカーとしてのESM-1を記載している。
【0025】
しかしながら、これまでのところ、変化した循環ESM-1レベルは、脳卒中の評価、無症候性梗塞の評価、又は対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞(SNCI及びLNCCI)若しくは白質病変の程度の評価については記載されていない。
【0026】
有利には、本発明の基礎となる研究において、ESM-1は、脳卒中及び無症候性梗塞の評価のための、並びに無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測のためのバイオマーカーであることが見出された。ESM-1の決定は更に、無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度を改善することを可能にする。
【0027】
さらに、バイオマーカーESM-1は、患者における無症候性の大小の非皮質梗塞又は皮質梗塞(SNCI及びLNCCI)の存在及び白質病変(WML)の存在と正に相関することが示された。
【0028】
SNCI、LNCCI及びWMLの程度は臨床上の無症候性脳卒中(Conen et al.2019;Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60)によって引き起こされ得ることから、バイオマーカーESM-1は、SNCI、LNCCI及びWMLの程度の評価のため、及び対象が過去に1回以上無症候性脳卒中、すなわち臨床上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価のために使用され得る。
【発明の概要】
【0029】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法に関し、当該方法は
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程
を含む。
【0030】
第2の態様では、本発明は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法に関し、当該方法は
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、及び
c)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測する工程
を含む。
【0031】
第3の態様では、本発明は、対象の無症候性脳梗塞及び/又は認知低下の臨床リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)ESM-1の量の値を無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞の当該臨床リスクスコアの予測精度が改善される工程
を含む、方法に関する。
【0032】
第4の態様では、本発明は、対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞の程度を評価するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象における無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価する工程
を含む。
【0033】
第5の態様では、本発明は、対象の白質病変の程度を評価するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象の白質病変の程度を評価する工程
を含む。
【0034】
第6の態様では、本発明は、対象における無症候性の小型及び大型の非皮質又は皮質梗塞及び/又は白質病変及び/又は認知機能の程度をモニタリングするための方法であって、
a)対象からの第1の試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)第1の試料の後に得られた対象からの第2の試料中のESM-1の量を決定する工程、
c)第1の試料中のESM-1の量を第2の試料中のESM-1の量と比較する工程、及び
d)工程c)の結果に基づいて、対象の無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は認知機能及び/又は認知機能の程度をモニタリングする工程
を含む、方法に関する。
【0035】
第7の態様では、本発明は、対象の脳卒中及び/又は無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するためのコンピュータ実装方法に関し、当該方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象からの試料中のESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、ESM-1の量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った値を1つ以上の値と比較することとを含む、処理する工程、
c)出力装置を介して無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測を提供する工程であって、当該予測が工程(b)の結果に基づく、提供する工程
を含む。
【0036】
第8の態様では、本発明は、
a)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するため、
b)対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞及び/又は白質病変の程度を評価するため、又は対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための
ESM-1又はESM-1に結合する薬剤のin-vitro使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】Fazekasスコア<2(なし)対Fazekasスコア≧2(あり)でのSWISS AF研究のEDTA血漿試料中の循環ESM-1の測定:WMLの検出/無症候性脳卒中のリスクの予測:循環ESM-1レベルを評価した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当該技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0039】
いくつかの文献が本明細書中で引用されている。本明細書に引用されている各文献(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、説明書等を含む)は、上記であろうと以下であろうと、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。このように組み込まれた参照の定義又は教示と、本明細書に引用された定義又は教示との間に矛盾がある場合には、本明細書の本文が優先する。
【0040】
以下、本発明の各要素について説明する。これらの要素は特定の実施形態とともに列挙されているが、これらは任意の方法及び任意の数で組み合わせて追加の実施形態を作成することができることを理解されたい。種々の説明された実施例及び好ましい実施形態は、本発明を明示的に説明された実施形態のみに限定するように解釈されるべきではない。この記載は、明示的に記載された実施形態を任意の数の開示及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、かつ包含するものと理解されるべきである。さらに、本出願に記載されている全ての要素の任意の順列及び組み合わせは、文脈が別段の意味を示さない限り、本出願の説明によって開示されていると考えるべきである。
【0041】
本発明の方法は、好ましくはex vivo又はin vitro法である。さらに、方法は、先に明示的に述べられたものに加えて、複数の工程を含んでもよい。例えば、更なる工程は、処置前の試料を採取すること、若しくは上記方法で得られた結果を評価することに関する場合がある。この方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって支援されてもよい。好ましくは、工程(a)、(b)及び/又は(c)は、全体的又は部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定又は工程(b)における当該比較に基づくコンピュータを実装した比較及び/又は予測のため、適切なロボット及び感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0042】
定義
「含む(comprise)」という単語、並びに「含む(comprises)」及び「含むこと(comprising)」のような変形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループの包含を意味するが、いかなる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループの除外を意味しないことが理解されよう。
【0043】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0044】
レベル、濃度、量、及び他の数値データは、本明細書では「範囲」の形式で表現又は提示され得る。このような範囲の形式は、便宜上及び簡潔にするために単に使用されているに過ぎないことが理解され、したがって、その範囲の境界として明示的に列挙されている数値を含むだけではなく、各数値及び部分範囲があたかも明示的に列挙されているかのごとく、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲の全てを含むことを柔軟に解釈するべきである。例示として、「150mgから600mg」の数値範囲は、150mgから600mgの明示的に列挙された値を含むだけでなく、示された範囲内の個々の値及び部分範囲も含むと解釈されるべきである。したがって、この数値範囲には、150、160、170、180、190、...580、590、600mg等の個々の値、及び150から200、150から250、250から300、350から600等の部分範囲が含まれる。この同じ原理は、1つの数値のみを列挙する範囲にも適用される。さらに、このような解釈は、その範囲の幅又は記載されている特性にかかわらず、適用すべきである。
【0045】
「約」という用語は、数値に関連して使用される場合、示された数値よりも5%小さい下限値を有し、かつ示された数値よりも5%大きい上限値を有する範囲内の数値を包含することを意味する。
【0046】
当業者によって理解されるように、本明細書に記載の評価、例えば、脳卒中及び/又は無症候性梗塞の評価、無症候性の大型の非皮質梗塞又は小型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度の評価、白質病変の評価、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測、無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度の改善、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度及び/又は認知機能のモニタリングは、通常、対象の100%に対して正しいことを意図していない。
【0047】
一実施形態において、予測は、統計的に有意な対象の一部において適切かつ正確な方法でなされ得る。一部が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定等の様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者が更に苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0048】
「心房細動」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能が結果として悪化する非協調的な心房活動を特徴とする上室頻脈性不整脈を指す。特に、この用語は、急速かつ不規則な心拍を特徴とする異常な心調律を指す。この用語には、心臓の2つの心房が関係している。正常な心調律では、洞房結節によって発生した興奮が心臓全体に広がり、心筋の収縮及び血液の駆出を引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、又は胸痛である。しかしながら、ほとんどの発作には症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、及びタイミングが変化する急速な振動又は細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0049】
The American College of Cardiology(ACC)、American Heart Association(AHA)、及びthe European Society of Cardiology(ESC)は、次の分類システムを提案する。(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster(2006)Circulation 114(7):e257-354を参照されたい、例えば、文書中
図3を参照されたい):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、及び永続的AF。
【0050】
AFに罹患している人々は皆、初めは、最初に検出されたAFと呼ばれる区分にある。しかしながら、対象は、これまで検出されていなかった発作が出たことがあってもなくてもよい。AFが1年以上持続した場合、対象は恒久性AFに罹患している。特に、洞調律へ戻る変換は、行われない(又は医学的介入によってのみ)。AFが7日を超えて続く場合、対象は持続性AFに罹患している。対象が、心房細動を止めるには、薬理学的又は電気的な介入が必要な場合がある。したがって、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、典型的に自発的に(すなわち、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はされない。発作性心房細動とは、好ましくは、心房細動の断続的なエピソードを指し、7日以上持続せずに、自然に(すなわち、医学的介入なしで)終了する心房細動である。発作性AFのほとんどの場合では、発作は24時間も続かない。したがって、発作性心房細動は自然に終了するが、持続性心房細動は自然には終了せず、止めるために電気的又は薬理的心臓除細動、又はアブレーション処置(Fuster(2006)Circulation 114(7):e257-354)等の他の処置が必要である。「発作性心房細動」という用語は、48時間未満、より好ましくは24時間未満、最も好ましくは12時間未満で自然に終了するAFのエピソードとして定義される。持続性及び発作性AFのどちらも再発する可能性がある。
【0051】
上記のように、試験される対象は、発作性、持続性又は恒久性の心房細動罹患していることが好ましい。
【0052】
さらに、心房細動は、対象において以前に診断されていると考えられる。したがって、心房細動は、診断された、すなわち検出された心房細動である。
【0053】
さらに、本発明の方法及び使用に従って試験される対象は、脳卒中及び/又はTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有していなくてもよいことが想定される。
【0054】
一実施形態において、対象は既知の脳卒中の病歴を有さない。他の実施形態において、対象は、脳卒中及びTIAの両方の既知の病歴を有さない。したがって、試験される対象は、臨床的に認識された脳卒中及び/又はTIAに罹患していないものとする。
【0055】
本明細書で使用される「無症候性梗塞を評価する」という用語は、無症候性脳卒中を有するか、又は無症候性梗塞性脳卒中を受けた対象を指す。本発明によれば、無症候性脳卒中の対象は、臨床的脳卒中を発症するリスクがある。本明細書で使用される「無症候性梗塞を評価する」という用語は、無症候性梗塞を診断し、疾患重症度を決定し、(治療強化/減少を目的として)治療を導き、疾患結果(リスク予測、例えば脳卒中)を予測し、治療をモニタリングし(例えば、抗凝固薬onESM-1レベルの効果)、対象の治療を層別化する(治療選択肢の選択;例えば、SWISS AFからの長期及び選択)対象を更に指す。
【0056】
本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、好ましくは、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患する確率を評価することを指す。典型的には、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある(したがって、リスクが高い)か、又は罹患するリスクがない(したがって、リスクが低い)かが予測される。したがって、本発明の方法は、リスクのある対象と、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクのない対象とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、リスクが低減した、平均の、及び上昇した対象を区別することを可能にすることが想定されている。
【0057】
上記のように、特定の時間枠内での無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスク(及び確率)が予測されるものとする。
【0058】
本発明の一実施形態では、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測は、試験される試料が得られた後に決定される。
【0059】
本発明の別の実施形態において、予測枠は、好ましくは、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも10年、少なくとも15年、若しくは少なくとも20年の間隔、又は任意の間欠時間範囲である。
【0060】
好ましい実施形態では、予測枠は1ヶ月から5年の期間である。したがって、1ヶ月から5年以内に無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが予測される。好ましい実施形態では、予測枠は1ヶ月から2年の期間である。好ましくは、予測枠は約1年の期間である。最も好ましくは、予測枠は約2年の期間であり得る。したがって、対象が2年以内に無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが予測される。
【0061】
好ましくは、当該予測枠は、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、当該予測枠は、検査される試料が入手された時点から計算される。
【0062】
好ましい実施形態では、「無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される対象が、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象の群、又は無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがない対象の群のいずれかに割り当てられることを意味する。したがって、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがあるかどうかが予測される。本明細書で使用される場合、「無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象」は、好ましくは、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが高い(好ましくは予測枠内)。好ましくは、当該リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して上昇している。
【0063】
本明細書で使用される場合、「無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがない対象」は、好ましくは、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが低い(好ましくは予測枠内)。好ましくは、当該リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して低減している。無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象は、好ましくは約3年の予測枠内で、好ましくは、少なくとも20%又はより好ましくは少なくとも30%、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクを有する。無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがない対象は、好ましくは2年の予測枠内で、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満の当該有害事象に罹患するリスクを有する。
【0064】
「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。この用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳又はその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症又は塞栓症によって、凝固障害又は非アテローム性血管疾患によって、又は全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中及び小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。
【0065】
対象が、脳卒中、特に虚血性脳卒中を罹患しているかどうかは、周知の方法によって判定することができる。さらに、脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目又は両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランス又は調整の喪失等が挙げられる。
【0066】
「無症候性梗塞」、すなわち「無症候性脳梗塞」又は「無症候性脳梗塞」という用語は当技術分野で公知であり、例えば、Conen et al.(Conen et al.,J Am Coll Cardiol 2019;73:989-99)に記載されており、その開示内容全体に関して参照により本明細書に組み込まれる。無症候性梗塞は、脳卒中又は一過性虚血発作の臨床歴のない患者における臨床的に無症候性の梗塞である。したがって、試験される対象は、脳卒中及び/又はTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有さないものとする。
【0067】
好ましい実施形態では、無症候性梗塞のリスクが予測される。この用語は、好ましくは、無症候性脳梗塞又は無症候性脳梗塞(Krisai et al)を指す。
【0068】
無症候性梗塞は、脳卒中に関連するいかなる外向きの症状も有さない脳卒中であり、患者は、典型的には、彼らが脳卒中に罹患したことに気付かない。特定可能な症状を引き起こさないにもかかわらず、無症候性脳卒中は依然として脳に損傷を引き起こし、患者を将来の一過性虚血発作及び主要な脳卒中の両方のリスク増加にさらす。無症候性梗塞は、一般に気付かれない身体機能及び認知機能のわずかな欠損に関連する。無症候性脳卒中は、様々な思考プロセス、気分調節及び認知機能に関連する脳の領域に影響を及ぼすことが多く、認知低下又は血管認知障害の主な原因であり、膀胱制御の喪失につながる可能性もある。無症候性梗塞は、典型的には、MRI等の神経イメージングの使用によって検出される病変を引き起こす。
【0069】
「無症候性脳梗塞」という用語は、脳卒中又はTIAの病歴のない患者における脳MRI上の脳梗塞 LNCCI及び/又はSNCI)として更に定義される(Conen et.Al,2019)。
【0070】
「LNCCI」という用語は大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞として定義され、「SNCI」という用語は小型の非皮質梗塞として定義される。
【0071】
好ましい実施形態では、「大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞(LNCCI)を有する対象」が評価される。「無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞(LNCCI)」という用語は、皮質を含まず、軸方向セクション上の直径>20mmのFLAIR上の高強度病変として定義される。FLAIR=流体減衰反転回復。これらの病変は、白質、内嚢又は外嚢、脳深部核、視床、又は脳幹(Conen et al.2019)に位置する穿孔性細動脈の領域における虚血性梗塞と一致している。
【0072】
磁気共鳴画像法での無症候性の大小の非皮質梗塞又は皮質梗塞(SNCI及びLNCCI)は、認知障害及び鬱病等のいくつかの有害な転帰に関連している。例えば、白質変化は、速度及び微細運動協調における運動機能の低下、並びに血管性認知症、レビー小体型認知症、及び精神障害を含む多くの疾患に関連することが報告されている。
【0073】
「白質病変」という用語は、当技術分野で周知である。白質とは、主に有髄軸索で構成される中枢神経系(CNS)の領域を指す。白質病変(「白質疾患」とも呼ばれる)は、一般的に、老化個体の脳MRIで白質過強度(WMH)又は「白質萎縮症」として検出される。WMHの存在及び程度は、小脳血管疾患のX線マーカーであり、脳卒中、認知障害及び機能障害の生涯リスクの重要な予測因子であることが記載されている(Chutinet A,Rost NS.White matter disease as a biomarker for long-term cerebrovascular disease and dementia.Curr Treat Options Cardiovasc Med.2014;16(3):292.doi:10.1007/s11936-013-0292-z)。ESM-1の決定は、WMLの程度、すなわちWMLの負担を評価することを可能にする。したがって、バイオマーカーは、対象におけるWMLの定量化を可能にする、すなわち、機能的脳組織の体積の喪失のマーカーである。
【0074】
白質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアが0から3.0の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、及び3は重度WMLを示す。
【0075】
本明細書で使用される「認知低下」という用語は、記憶、注意、及び認知機能の混乱として定義される。認知低下という用語の代わりに、認知機能障害という用語、認知障害という用語又は認知症という用語が使用され得る。
【0076】
この用語は、好ましくは、様々な障害によって引き起こされる知覚又は意識の障害を伴わないが、最も一般的には構造的脳疾患に関連する、認知及び知的機能の通常は進行性の喪失として特徴付けることができる症状を指す。認知試験は、Conen et al.2019に記載されているように、モントリオール認知評価(MoCA)を使用して行うことができる。「認知機能」という用語は、Conen et al.2019 The Montreal Cognitive Assessment(MoCA)evaluates visuospatial and executive functions,confrontation naming,memory,attention,language,and abstractionに記載されているようなスコアを用いた認知機能の評価に関する。患者は最大30点を得ることができ、より高いスコアはより良好な認知機能を示す。患者が12年以下の正規教育を受けた場合、総試験スコアに一点を加算した。
【0077】
認知症の最も一般的なタイプはアルツハイマー病であり、これは症例の50%から70%を占める。他の一般的なタイプとしては、脳血管性認知症(25%)、レビー小体型認知症、及び前頭側頭型認知症が挙げられる。「認知症」という用語は、限定されないが、AIDS認知症、アルツハイマー型認知症、初老性認知症、老人性認知症、脱力性認知症、レビー小体型認知症(びまん性レビー小体型疾患)、多発梗塞性認知症(血管性認知症)、麻痺性認知症、外傷後認知症、プラエコックス型認知症、血管性認知症を含む。
【0078】
一実施形態において、認知症という用語は、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び/又は前頭側頭型認知症を指す。したがって、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び/又は前頭側頭型認知症に罹患するリスクが予測される。
【0079】
一実施形態において、「アルツハイマー病」に罹患するリスクが予測される。「アルツハイマー病」という用語は、当該技術分野において周知である。アルツハイマー病は、通常、ゆっくりと始まり、経時的に徐々に悪化する慢性神経変性疾患である。疾患が進行するにつれて、症候としては、言語の問題、見当識障害、気分変動、動機の喪失、セルフケアを管理しないこと、及び行動上の問題が挙げられる。
【0080】
一実施形態において、「血管性認知症」に罹患するリスクが予測される。「血管性認知症」という用語は、好ましくは、脳内の血管損傷又は疾患によって引き起こされる記憶及び他の認知機能の進行性喪失を指す。したがって、この用語は、脳への血液の循環の問題によって引き起こされる認知症の症状を指すものとする。これは、無症候性脳梗塞後又は脳卒中が経時的に蓄積した後に起こり得る。
【0081】
本発明の方法は、より多くの対象の集団のスクリーニングにも使用できる。したがって、少なくとも100人の対象、特に少なくとも1000人の対象が例えば、無症候性梗塞のリスクに関して評価されることが想定される。したがって、バイオマーカーESM-1の量は、少なくとも100人の、又は特に少なくとも1000人の対象由来の試料で決定される。その上、少なくとも1万人の対象が評価されることが想定されている。
【0082】
「抗凝固療法」という用語は、好ましくは、当該対象における抗凝固のリスクを低下させることを目的とする療法である。少なくとも1種の抗凝固剤を投与することは、血液の凝固及び関連する脳卒中を抑制又は防止することを目的とする。好ましい一実施形態では、少なくとも1種の抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリン又はジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバン又はアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、及びトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。
【0083】
特に好ましい一実施形態において、抗凝固剤は、ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬である。ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬は、安価であるが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い処置が多いため、患者のコンプライアンスを改善する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)及びPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0084】
試験対象が抗凝固療法を受けている場合、及び(本発明の方法によって)対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがないと識別された場合、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量を減らすことが推奨される場合がある。投与量を減らすことで、副作用(出血等)に罹患するリスクが減る可能性がある。
【0085】
「臨床脳卒中リスクスコア」という用語は、当技術分野で周知である。例えば、当該スコアは、Kirchhof P.et al(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態において、スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。別の実施形態では、スコアは、CHADS2 Score(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)及びABCスコア、すわなち、ABC(age,biomarkers,clinical history)脳卒中リスクスコア(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)である。この段落の全ての出版物は、その全ての開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
したがって、一実施形態において、臨床脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。本発明の代替実施形態では、臨床脳卒中リスクスコアはCHADS2スコアである。
【0087】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、対象に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療は、本発明の方法によって、例えば予測の結果に依存する。
【0088】
本明細書で使用される「モニタリング」という用語は、好ましくは、本明細書の他の箇所で言及される疾患進行の評価に関する。さらに、患者に対する治療の有効性を監視することができる。
【0089】
本発明の方法及び使用に従って試験される「対象」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。好ましくは、対象とは、ヒト対象である。「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0090】
特定の実施形態では、対象はヒト患者である。いくつかの実施形態において、患者は、任意の年齢である。いくつかの実施形態において、患者は、50歳以上、特に60歳以上、特に65歳以上である。さらに、検査される患者は、70歳以上であることが想定されている。
【0091】
本発明の方法及び使用の好ましい一実施形態において、対象は、年齢65歳以上である。別の好ましい実施形態において、対象は70歳以上である。別の実施形態において、対象は75歳以上である。
【0092】
「試料」という用語は、体液の試料、分離された細胞の試料、又は組織若しくは器官由来の試料を指す。体液の試料は、周知の技術によって採取することができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、唾液、涙液、脳脊髄液又はその他の体分泌物若しくはその誘導体の試料が含まれる。組織又は器官の試料は、例えば生検によって、いずれかの組織又は器官から入手してもよい。分離された細胞を、体液又は組織若しくは器官から、遠心分離又は細胞選別等の分離技術によって得てもよい。例えば、バイオマーカーを発現又は生成する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官の試料を採取してもよい。例えば、試料は心筋組織試料であり得る。さらに、試料は、神経組織試料又は腸組織試料であり得る。いくつかの実施形態において、試料は、骨髄試料である。試料は、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、及び/又は包埋(例えばパラフィン包埋)等であり得る。細胞試料は、試料中のマーカーの量を評価する前に、当然のことながら、種々の周知の収集後調製及び保管技法(例えば、核酸及び/又はタンパク質抽出、固定、保管、冷凍、超濾過、濃縮、蒸発、遠心分離等)に供され得る。
【0093】
したがって、試料は組織試料であり得る。好ましい実施形態において、組織試料は、心筋組織試料等の心臓組織試料である。特に、試料は、右心耳由来の組織試料である。他の好ましい実施形態において、試料は、脳組織試料又は脊髄試料等の神経組織試料である。
【0094】
他の好ましい一実施形態において、試料は、血液(すなわち、全血)、血清又は血漿試料である。例えば、試料は、静脈血、血清又は血漿試料であり得る。あるいは、試料は毛細管血液試料(例えば、指から得られる)であってもよい。いくつかの実施形態において、試料は、末梢血試料である。血清とは、血液を凝血させた後に入手される全血の液体画分である。血清を得るためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿試料を得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理又はEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞を試料から除去し、上清(すなわち、血漿試料)を入手する。
【0095】
さらに、試料は、骨髄又は末梢血由来の幹細胞、リンパ球、心筋細胞、神経細胞又は腸細胞等の幹細胞を含み得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、試料は、脳脊髄液試料である。
【0097】
バイオマーカーの検出:
本明細書でいうバイオマーカーは、当該技術分野で概して公知の方法を使用して検出することができる。検出方法は概して、試料中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のいずれがバイオマーカーの定性的及び/又は定量的検出に適しているかは、当業者に概して公知である。試料は、例えば、ウエスタン法並びにELISA、RIA、蛍光及び発光に基づく免疫学的検定法のような免疫学的検定法、並びに市販されている近接伸長法を使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するための更に適切な方法は、ペプチド又はポリペプチドに特異的な物理的又は化学的特性、例えば、その正確な分子量又はNMRスペクトル等を測定することを含む。当該方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連関した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析機、又はクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化した又はロボットによる免疫学的検定(Elecsys(商標)分析装置で利用可能)、CBA(酵素によるCobalt Binding Assay、例えば、Roche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)分析装置で利用可能)が含まれる。
【0098】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、このようなアッセイ形式を使用する広範な免疫学的検定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号、第4,424,279号、及び第4,018,653号を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位及び2部位又は「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイはまた、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0099】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。このような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、該金属錯体は、励起状態から基底状態へ緩和して、電気化学発光を放出する。総説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照されたい。
【0100】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、ルテニウム化(ruthenylated)又はイリジウム化(iridinylated)されている。そのため、抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態では、当該ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(又はその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態では、当該イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号において開示されているような錯体である。
【0101】
ESM-1の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)ESM-1に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、及び検出抗体としてESM-1と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2-断片を含む。2つの抗体は、試料中のESM-1とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0102】
ポリペプチドの量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを当該ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させる工程、(b)(任意で)結合していない薬剤を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定する工程を含んでよい。好ましい実施形態によれば、当該接触させる工程、除去する工程及び測定する工程は、分析装置ユニットにより実施してもよい。いくつか実施形態によれば、当該工程は、当該システムの単一の分析装置ユニットによって、又は互いに作動可能な通信状態にある複数の分析装置ユニットによって実施され得る。例えば、具体的な実施形態によれば、本明細書で開示される当該システムは、当該接触させる工程及び除去する工程を実施するための第1の分析装置ユニットと、当該測定する工程を実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、当該第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットとを備えていてもよい。
【0103】
バイオマーカーを特異的に結合する作用物質(本明細書では「結合剤」ともいう)は、結合した作用物質の検出及び測定を可能にする標識に、共有結合又は非共有結合していてもよい。標識化は、直接又は間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。当該第2の結合剤は、適切な標識と結合することができ、及び/又は第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)であってよい。適切な二次的な及びより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含むことができる。結合剤又は基質はまた、当該技術分野で公知の1つ以上のタグで「タグ付けされ」ていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性及び超常磁性標識を含む)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnostics製の既成の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組み合わせにより、着色された反応産物、蛍光又は化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法によって(例えば感光フィルム又は適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することに関しては、上述の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。更なる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜又はホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。
【0104】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り決定され得る:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含む試料と接触させること、及び(b)支持体に結合したペプチド又はポリペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための材料は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等が挙げられる。
【0105】
更なる他の態様において、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、試料が除去される。そのため、一態様では、結合剤は固形支持体上に固定されていてもよい。更なる他の態様において、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成された複合体から試料が除去され得る。
【0106】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、又は固体基質上に固定化することができ、そして検査される試料を、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能にするのに十分な時間の、適切なインキュベート時間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識した第2の(検出)結合剤を添加し、結合剤-バイオマーカーで標識した結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を許容してインキュベートする。いかなる未反応の物質も洗い流すことができ、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察によって決定される。その結果は、可視シグナルの単純な観察によって定性的であってもよいか、又は既知量のバイオマーカーを含有する対照試料との比較によって定量されてもよいかのいずれかである。
【0107】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤及びバイオマーカーが共インキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析される試料及び標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析される試料及び標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、又は固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0108】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、試料中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性及び/又は感度が、試料中に含まれる、特異的に結合することができる少なくとも1つのマーカーの比率の程度を規定することは理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、試料中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量へと変換されるものとする。
【0109】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「分析対象特異結合剤」、「検出剤」「バイオマーカーに結合する薬剤」、及び「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では相互互換可能に使用される。好ましくは、該用語は、相当するバイオマーカーを特異的に結合する結合部分を含む作用物質に関する。「結合剤」、「検出剤」、「作用物質」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)又は化合物である。好ましい作用物質は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用されており、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を呈する限りの抗体フラグメント断片(すなわち、その抗原結合フラグメント)を含むが、これらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(又は、それ由来の抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体(又は、それ由来の抗原結合断片)である。さらに、本明細書の他の箇所に記載されるように、(サンドイッチイムノアッセイにおいて)ESM-1ポリペプチドの異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、ESM-1の量を決定するために少なくとも1つの抗体が使用される。
【0110】
薬剤又は検出剤は、バイオマーカーESM-1に特異的に結合するものとする。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、結合対の分子が、別の分子に有意に結合しない条件下で、互いへの結合を呈する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質又はペプチドに関するとき、好ましくは、結合剤が、相当のバイオマーカーに少なくとも107M-1の親和性(「会合定数」Ka)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は好ましくは、標的分子に対して、少なくとも108M-1、又は更により好ましくは少なくとも109M-1の親和性を指す。「特異的な」又は「特異的に」という用語は、試料中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0111】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、ESM-1)の絶対量、当該バイオマーカーの相対量又は濃度、及びそれらと相関する又はそれらから導き出され得る任意の値又はパラメータを包含する。このような値又はパラメータは、直接的な測定により当該ペプチドから得られる、全ての具体的な物理的又は化学的特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値又はパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチド又は強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量が包含される。上述の量又はパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。
【0112】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、対象からの試料におけるバイオマーカー(ESM-1)の量を、本明細書の他の箇所で明示されるバイオマーカーの基準と比較することを指す。本明細書で使用する場合の比較することは、通常、対応するパラメータ又は値の比較を指し、例えば、絶対量は基準の絶対量と比較されるのに対し、濃度は基準の濃度と比較され、又は試料中のバイオマーカーから得られた強度シグナルは基準試料から得られた同じ種類の強度シグナルと比較されることを理解されたい。比較は、手作業又はコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、コンピューティングデバイスによって実施することができる。対象からの試料中のバイオマーカーの決定量又は検出量、及び基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。当該評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評価を提供する。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果を更に評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果を更に評価する、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の予測を自動的に提供してもよい。
【0113】
本発明によれば、バイオマーカーESM-1の量は、基準、すなわち基準量(又は複数の基準量)と比較されるものとする。したがって、基準は、好ましくは基準量である。「基準量」又は「基準」という用語は、当業者によく理解されている。
【0114】
基準量は、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測、対象の無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度の改善、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度の評価、対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度及び/又は認知機能のモニタリング、並びに本明細書の他の箇所に記載されているような対象の心房細動の診断を可能にすることを理解されたい。
【0115】
例えば、無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測するための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象の群、又は(ii)無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象の群のいずれかへの対象の割り当てを可能にする量を指す。例えば、無症候性梗塞の診断のための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)無症候性梗塞に罹患している対象の群又は(ii)無症候性梗塞に罹患していない対象の群のいずれかへの対象の割り当てを可能にする量を指す。適切な基準量は、検査試料と一緒に、すなわち同時に又は続いて分析される基準試料から決定されてもよい。
【0116】
基準量は、原則として、統計学の標準的な方法を適用することによって、所定のバイオマーカーの平均又は平均値に基づいて、先に指定したような対象のコホートについて算出することができる。特に、事象を診断するかどうかを目的とする方法等の検査の精度は、受け手の作動特徴(ROC)により最良に説明されている(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感度対特異性の対のプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象をある特定の予後又は診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重なりを示す。y軸は、感度、又は真陽性率であり、真陽性の検査結果の数及び偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、又は1-特異性であり、これは、真陰性の数及び偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率及び偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感度/1-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、又は100%(完全な感度)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、検査の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導くことができ、これにより、感度及び特異性の適切な平衡状態をそれぞれ備えた所与の事象についての診断が可能になる。
【0117】
したがって、本発明の方法に使用される基準、すなわち、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測、対象の無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度の改善、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度の評価、対象が1つ以上数の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価、無症候性大非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度及び/又は認知機能のモニタリング等のそれぞれの評価を可能にする閾値は、好ましくは、上記のように当該コホートのROCを確立し、そこから閾値量を導出することによって生成することができる。
【0118】
評価における所望の感度及び特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導き出すことができる。例えば、無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクがある対象(すなわち、除外する)を除外するためには最適な感度が望ましいが、無症候性梗塞のリスクがある及び/又は無症候性梗塞と予測される対象(すなわち、除外)には最適な特異度が想定されることが理解されよう。
【0119】
本明細書では、「基準量」とは、所定の値をいう。当該所定の値は、無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測、対象の無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度の改善、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度の評価、対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価、無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度のモニタリング、及び/又は対象の認知機能等、本明細書で言及される評価を可能にするものとする。
【0120】
無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測するための方法では、例えば、基準、すなわち基準量は、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがある対象と、無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクがない対象とを区別することを可能にする。
【0121】
バイオマーカーである内皮細胞特異的分子1(略してESM-1)は、当技術分野で周知である。バイオマーカーは、しばしばエンドカンとも呼ばれる。ESM-1は分泌タンパク質であり、主にヒトの肺及び腎臓組織の内皮細胞で発現される。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織でも発現することを示唆している。例えばProtein Atlas database(Uhlen M.et al.,Science 2015;347(6220):1260419)のESM-1のエントリーを参照されたい。この遺伝子の発現はサイトカインによって調節されている。ESM-1は、20kDaの成熟ポリペプチドと30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。
【0122】
本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量は、対象からの試料において測定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照されたい、例えば、Uniprotデータベースを介して評価することができ、エントリーQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照されたい。ESM-1の2つのアイソフォームは、選択的スプライシングによって生成され、アイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)及びアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)である。アイソフォーム1は、長さ184アミノ酸である。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101から150が欠損している。アミノ酸1から19は、シグナルペプチドを形成する(該シグナルペプチドは切断され得る)。
【0123】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1の量が決定され、すなわち、アイソフォーム1はUniProt受入番号Q9NQ30-1の下に示されるような配列を有する。
【0124】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2の量が決定され、すなわち、アイソフォーム2はUniProtアクセッション番号Q9NQ30-2の下に示されるような配列を有する。
【0125】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム-1及びアイソフォーム2の量、すなわち総ESM-1が決定される。
【0126】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドのアミノ酸85~184に対するモノクローナル抗体(マウス抗体等)及び/又はヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0127】
本発明の方法及び使用の好ましい実施形態において、バイオマーカーESM-1はESM-1ポリペプチドである。したがって、ESM-1ポリペプチドの量が決定される。
【0128】
本発明の方法及び使用の好ましい実施形態において、バイオマーカーESM-1はESM-1mRNAである。したがって、ESM-1 mRNAの量を決定する(直接又は間接的に行うことができる)。
【0129】
明細書でいうバイオマーカー(ESM-1等)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを測定することを指す。「測定する」及び「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0130】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、試料をバイオマーカーに特異的に結合する作用物質と接触させ、それにより作用物質と当該バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから当該バイオマーカーの量を測定することによって、決定される。
【0131】
実施形態では、ESM-1のレベルは、抗体を使用して、特にモノクローナル抗体を使用して決定される。実施形態では、患者の試料中のESM-1のレベルを測定する工程a)は、イムノアッセイを実施することを含む。実施形態では、イムノアッセイは、直接的又は間接的な形式のいずれかで行われる。実施形態では、そのようなイムノアッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、又は発光、蛍光、化学発光若しくは電気化学発光の検出に基づくイムノアッセイからなる群から選択される。
【0132】
特定の実施形態では、患者の試料中のESM-1のレベルを測定する工程a)は、
i)患者からの試料を、ESM-1に特異的に結合する1つ以上の抗体とインキュベートし、それにより、抗体とESM-1との複合体を生成させること、及び
ii)工程i)で生成された複合体を定量し、それによって患者の試料中のESM-1のレベルを定量することを含む。
【0133】
特定の実施形態では、工程i)において、試料は、ESM-1に特異的に結合する2つの抗体とともにインキュベートされる。当業者に明らかなように、試料は、第1の抗ESM-1抗体/ESM-1/第2の抗ESM-1抗体複合体を形成するのに十分は時間及び条件下で、いずれかの所望の順序で、すなわち、最初に第1の抗体、次いで第2の抗体と、又は最初に第2の抗体、次いで第1の抗体と、又は同時に第1の抗体及び第2の抗体と接触させ得る。当業者が容易に認識するように、特異的抗ESM-1抗体及びESM-1抗原/分析物の間の複合体(=抗ESM-1複合体)、又はESM-1に対する第1の抗体、ESM-1(分析物)及び第2の抗ESM-1抗体(=抗ESM-1抗体/ESM-1/第2の抗ESM-1抗体複合体)を含む二次複合体又はサンドイッチ複合体の形成に適切又は十分な時間及び条件を確立することは、日常的な実験に過ぎない。
【0134】
抗ESM-1抗体/ESM-1複合体の検出は、何らかの適切な手段によって実施することができる。第1の抗ESM-1抗体/ESM-1/第2の抗ESM-1抗体の複合体の検出は、任意の適切な手段によって実施し得る。当技術分野の当業者は、このような手段/方法に完全に精通している。
【0135】
ある特定の実施形態では、ESM-1に対する第1の抗体、ESM-1(分析物)及びESM-1に対する第2の抗体を含むサンドイッチが形成され、第2の抗体は検出可能に標識されている。
【0136】
一実施形態では、GDF-15に対する第1の抗体、ESM-1(分析物)及びESM-1に対する第2の抗体を含むサンドイッチが形成され、ここで、第2の抗体は検出可能に標識化され、第1の抗ESM-1抗体は固相に結合することができるか、又は固相に結合されている。
【0137】
実施形態では、第2の抗体は、直接的又は間接的に検出可能に標識される。特定の実施形態では、第2の抗体は、発光色素、特に化学発光色素又は電気化学発光色素で検出可能に標識される。
【0138】
特定の実施形態では、試料中の抗原、ビオチン化モノクローナルESM-1特異的抗体、及びルテニウム錯体で標識されたモノクローナルESM-1特異的抗体は、サンドイッチ複合体を形成する。ストレプトアビジン被覆微粒子の添加後、複合体はビオチンとストレプトアビジンとの相互作用を介して固相に結合する。
【0139】
発明の詳細な説明
本発明によって言及される方法は、本質的に上述の工程からなる方法、又は更なる工程を含む方法を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、ex vivo、より好ましくは in vitroの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えて、工程を含んでもよい。例えば、更なる工程は、更にマーカーを決定すること、及び/又は処置前の試料を採取すること、若しくは上記方法で得られた結果を評価することに関し得る。この方法は、手動で実行しても、自動化によって支援してもよい。好ましくは、工程(a)、(b)及び/又は(c)は、全体的又は部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定又は工程(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボット及び感覚的機器によって、補助されてもよい。
【0140】
本発明の方法の好ましい一実施形態において、試験される対象は、心房細動に罹患している。心房細動は、発作性、持続性、又は恒久性の心房細動であってもよい。したがって、対象は、発作性、持続性又は恒久性の心房細動に罹患している可能性がある。特に、対象は、発作性、持続性、又は恒久性の心房細動を罹患していることが想定される。ベストパフォーマンスは、持続性の心房細動の患者で観察された。
【0141】
したがって、本発明の方法の一実施形態では、対象は、発作性心房細動に罹患している。本発明の別の実施形態では、対象は、持続性心房細動に罹患している。本発明の別の実施形態では、対象は、恒久性心房細動に罹患している。
【0142】
第1の態様では、本発明は、対象の脳卒中を評価するための方法であって、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)ESM-1の量を基準量と比較し、それによって脳卒中を評価する工程
を含む、方法に関する。
【0143】
好ましい実施形態では、基準よりも大きいESM-1の量は、脳卒中に罹患している対象を示し、基準よりも低いESM-1の量は、脳卒中に罹患していない対象を示す。
【0144】
好ましい実施形態では、基準よりも大きいESM-1の量は、脳卒中に罹患している対象を示し、基準よりも低いESM-1の量は、脳卒中に罹患していない対象を示す。
【0145】
更に好ましい実施形態では、対象は心房細動に罹患している可能性がある。
【0146】
好ましい実施形態では、対象はヒトである。さらに、対象の試料は、好ましくは血液、血清、血漿又は組織試料である。
【0147】
第2の態様では、本発明は、対象が1つ以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法に関し、当該方法は
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程
を含む。
【0148】
好ましい実施形態では、基準よりも大きいESM-1の量は、1回以上の無症候性梗塞に罹患している対象を示し、基準よりも低いESM-1の量が、1回以上の無症候性梗塞に罹患していない対象を示す。
【0149】
更に好ましい実施形態では、対象は心房細動に罹患している可能性がある。
【0150】
好ましい実施形態では、対象はヒトである。さらに、対象の試料は、好ましくは血液、血清、血漿又は組織試料である。
【0151】
第3の態様では、本発明は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法であって、当該方法は、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、及び
c)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測する工程
を含む。
【0152】
好ましい実施形態では、無症候性梗塞のリスクが予測される。この用語は、好ましくは、無症候性脳梗塞又は無症候性脳梗塞(Krisai et al.)を指す。
【0153】
更に好ましい実施形態では、ESM-1の量の値をCHA2D2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞の臨床リスクスコアの予測精度が改善される。
【0154】
好ましい実施形態では、認知低下が予測される。あるいは、対象が認知低下/認知症のリスクがあるかどうかを予測することができる。認知機能の低下及び認知症のリスクは、認知検査によって評価され得る。
【0155】
好ましくは、基準よりも大きいESM-1の量は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測し、基準よりも低いESM-1の量は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測しない。
【0156】
好ましい実施形態ではESM-1の量の値をCHA2D2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下に対する臨床リスクスコアの予測精度が改善される。
【0157】
さらに、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクは、1ヶ月から5年以内、例えば1年以内又は2年以内に予測される。
【0158】
更に好ましい実施形態では、対象は心房細動に罹患している可能性がある。
【0159】
さらに、対象の試料は、好ましくは血液、血清、血漿又は組織試料である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0160】
第4の態様では、本発明は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下に対する臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量を決定する工程、及び
b)バイオマーカーESM-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせることにより、無症候性梗塞及び/又は認知低下に対する当該臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される工程
を含む、方法に関する。
【0161】
本発明の基礎となる研究では、ESM-1の決定が、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下に対する臨床脳卒中リスクスコアの予測精度の改善を可能にすることが示されている。したがって、無症候性梗塞及び/又は認知低下に対する臨床脳卒中リスクスコアとESM-1の量との組み合わせ決定は、ESM-1単独の決定又は臨床脳卒中リスクスコア単独の決定と比較して、臨床脳卒中の更に信頼性の高い予測を可能にする。さらに、ESCガイドラインによって推奨されているリスクスコアは十分に高感度ではなく、抗凝固療法のために患者を見逃す。本発明は、ESCガイドラインによって推奨される現在の脳卒中リスクスコアよりも高い確率で抗凝固療法の患者を検出する。
【0162】
したがって、無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測するための方法は、ESM-1の量と臨床的脳卒中リスクスコアとの組み合わせを更に含み得る。ESM-1の量と臨床リスクスコアとの組み合わせに基づいて、対象の無症候性梗塞のリスクが予測される。
【0163】
あるいは、本方法は、臨床脳卒中リスクスコアの値を取得すること又は提供することを含んでもよい。好ましくは、上記値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、この値は、対象についての脳卒中の臨床リスクスコアについての値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、対象の値は、その対象の患者記録データベース及び病歴から得られる。したがって、スコアについての値はまた、対象の病歴又は公開データを使用して決定することもできる。
【0164】
本発明によれば、ESM-1の量は、無症候性梗塞及び/又は認知低下の臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせることができる。これは、好ましくは、ESM-1の量についての値が、脳卒中の臨床リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクを予測するために機能的に組み合わされる。値を組み合わせることにより、単一の値を計算することができ、それ自体を予測に使用することができる。
【0165】
臨床脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、当該スコアは、Kirchhof P.et al(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態において、スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。別の実施形態では、スコアは、CHADS2 Score(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)及びABCスコア、すわなち、ABC(age,biomarkers,clinical history)脳卒中リスクスコア(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)である。この段落の全ての出版物は、その全ての開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0166】
したがって、一実施形態において、臨床脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。本発明の代替実施形態では、臨床脳卒中リスクスコアはCHADS2スコアである。
【0167】
好ましい実施形態では、ESM-1の量の値をCHA2D2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下の臨床リスクスコアの予測精度が改善される。
【0168】
更に好ましい実施形態において、(本明細書の他の個所に記載されるように)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測するための上記方法は、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨する工程、又は抗凝固療法の強化を推奨する工程を更に含む。
【0169】
この方法は、c)工程b)の結果に基づいて、当該脳卒中の臨床リスクスコアの予測精度を改善する更なる工程を含んでもよい。
【0170】
無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクの予測の方法に関連して本明細書で上述した定義及び説明は、好ましくは上述の方法にも適用される。例えば、対象は、無症候性梗塞及び/又は認知低下についての既知の臨床脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。あるいは、本方法は、無症候性梗塞及び/又は認知低下についての臨床脳卒中リスクスコアの値を取得又は提供することを含み得る。
【0171】
さらに、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクは、1ヶ月から5年以内、例えば1年以内又は2年以内に予測される。
【0172】
一実施形態では、対象は心房細動に罹患している可能性がある。さらに、対象の試料は、好ましくは血液、血清、血漿又は組織試料である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0173】
本発明の第5の態様では、本方法は、対象における無症候性の小型の及び大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞の程度の評価に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象における無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価する工程
を含む。
【0174】
上記の本明細書に示される定義は、好ましくは、白質病変の程度の評価のための以下の方法に準用される。
【0175】
興味深いことに、本発明の基礎となる研究では、バイオマーカーESM-1は、心房細動患者の認知低下及び認知機能障害の原因としての脳血管損傷のリスク、存在及び/又は重症度を推定するために使用できることが示された。具体的には、ESM-1は、患者における無症候性の大小の非皮質梗塞又は皮質梗塞(LNCCI又はSNCI)及び白質病変(WML)の存在と相関することが示された。「LNCCI」という用語は大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞として定義され、「SNCI」という用語は小型の非皮質梗塞として定義される。
【0176】
好ましい実施形態では、「無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞(LNCCI)を有する対象」が評価される。
【0177】
前述の方法の一実施形態では、対象は心房細動に罹患している可能性がある。さらに、対象の試料は、好ましくは血液、血清、血漿又は組織試料である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0178】
本発明の第6の態様では、本方法は、対象の白質病変の程度を評価することに関し、当該方法は、
a)対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象における白質病変の程度を評価する工程
を含む。
【0179】
ESM-1の量が多いほど、LNCCI又はSNCI又はWMLの程度が高くなる(逆もまた同様である)。したがって、ESM-1は、対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞及び/又は白質病変及び/又は認知機能の程度を評価するためのマーカーとして使用することができる。
【0180】
本明細書で提供する上記の定義は、好ましくは、以下の方法について準用する。
【0181】
白質病変又は無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度は、臨床的に無症候性梗塞によって引き起こされ得る。したがって、バイオマーカーESM-1は、対象が過去、すなわち試料が得られる前に1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価に更に使用することができる。
【0182】
好ましい実施形態では、試験対象は心房細動に罹患している。さらに、対象が、1ヶ月から5年以内、例えば1年以内又は2年以内に対象において無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが予測される。
【0183】
本発明の第7の態様では、本方法は、対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は白質病変及び/又は認知機能の程度をモニタリングするための方法であって、
a)対象からの第1の試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)第1の試料の後に得られた対象からの第2の試料中のESM-1の量を決定する工程、
c)第1の試料中のESM-1の量を第2の試料中のESM-1の量と比較する工程、及び
d)工程c)の結果に基づいて、対象の無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は認知機能及び/又は認知機能の程度をモニタリングする工程
を含む、方法に関する。
【0184】
本発明の一実施形態では、本方法は、
a)抗凝固療法を推奨する工程、
b)抗凝固療法の強化を推奨する工程、
c)リスク要因管理を強化する工程、及び
d)専門クリニックでケアする工程
を更に含む。
【0185】
本発明の方法は、個別化医療を補助することができる。好ましい一実施形態において、対象の無症候性梗塞のリスクを予測するための方法は、対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがあると特定された場合に、i)抗凝固療法を推奨する工程、又はii)抗凝固療法の強化を推奨する工程を更に含む。他の好ましい一実施形態において、対象の無症候性梗塞のリスクを予測するための方法は、(本発明の方法によって)対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがあると識別された場合、i)抗凝固療法を開始する工程、又はii)抗凝固療法を強化する工程を更に含む。
【0186】
特に、以下が適用される。
【0187】
試験される対象が抗凝固療法を受けていない場合、対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0188】
試験される対象がすでに抗凝固療法を受けている場合、対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0189】
好ましい一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0190】
特に好ましい一実施形態では、現在投与されている抗凝固剤のより効果的な抗凝固剤への置き換えることにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0191】
Hijazi at al.,The Lancet 2016 387,2302-2311(
図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0192】
したがって、試験される対象は、ワルファリン又はジクマロール等のビタミンK拮抗薬で処置される対象であることが想定される。対象が無症候性梗塞に罹患するリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバン又はアピキサバンによる置き換えが推奨される。したがって、ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0193】
「対象」及び「試料」という用語は上記で定義されている。先の定義は適宜、適用される。特に、対象は心房細動に罹患していないことが想定される。さらに、試料は、例えば、血液、血清若しくは血漿試料、又は組織試料であり得る。
【0194】
好ましくは、診断アルゴリズムとして以下が適用される。
【0195】
基準よりも大きいESM-1の量は、1回以上の無症候性梗塞を経験した対象を示し、及び/又は基準よりも低いESM-1の量は、無症候性梗塞を経験していない対象を示す。
【0196】
本明細書での上記の定義は、好ましくは、以下について準用する。
【0197】
本発明の研究で行われた研究は、ESM-1の量の変化に基づいて対象をモニタリングすることが可能であることを示している。例えば、無症候性の大小の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度、及び白質病変の程度、すなわち大小の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度が増加するか否かをモニターすることができる。無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞及び白質病変の程度の増加は認知機能の低下に関連し得ることから、バイオマーカーESM-1の決定はまた、対象の認知機能のモニタリングを可能にする。
【0198】
したがって、本発明は更に、対象をモニタリングするための方法であって、
a)対象からの第1の試料中のバイオマーカーESM-1の量を決定する工程、
b)第1の試料の後に得られた対象からの第2の試料中のバイオマーカーESM-1の量を決定する工程、
c)第1の試料中のバイオマーカーESM-1の量を第2の試料中のバイオマーカーESM-1の量と比較する工程、
d)工程c)の結果に基づいて対象をモニタリングする工程
を含む、方法に関する。
【0199】
また、本発明は更に、対象をモニタリングするためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーESM-1又は薬剤は、対象由来の第1及び第2の試料において使用される。
【0200】
モニタリングされる対象は、無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクを予測するための方法に関連して定義される対象であり得る。例えば、対象は心房細動に罹患している可能性がある。
【0201】
好ましくは、白質病変及び/又は無症候性の小型及び/又は大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞及び/又は対象の認知機能の程度がモニターされる。しかしながら、心筋心房の形態変化、脳梗塞、脳微小出血、不整脈の進行、併存症(高血圧又は糖尿病)の進行及び/又は鬱病症状の進行をモニタリングすることも想定される。あるいは、機能的脳組織の量をモニタリングしてもよい。
【0202】
モニタリングは、第1の試料中のバイオマーカーESM-1の量と第2の試料中のバイオマーカーESM-1の量との比較に基づくものとする。「第2の試料」は、第1の試料におけるESM-1量と比較したバイオマーカーESM-1量の変化を反映させるために得られる試料であると理解される。したがって、第2の試料は第1の試料の後に取得するものとする。好ましくは、第2の試料は、(モニタリングを可能にするのに十分に有意な変化を観察するために)第1の試料の直後には得られない。一実施形態において、第2の試料は、第1の試料の少なくとも1ヶ月後に得られる。別の実施形態において、第2の試料は、第1の試料の1ヶ月後に得られる。他の実施形態において、第2の試料は、第1の試料の少なくとも1年後又は2年後に得られる。さらに、第2の試料は、第1の試料から15年以内、10年以内、又は特に5年以内に得られることが想定される。したがって、第2の試料は、例えば、第1の試料の少なくとも1ヶ月後であるが5年以内に得ることができる。
【0203】
さらに、対象は、第1の試料と第2の試料との間に無症候性梗塞を示したことが想定される。「無症候性梗塞」という用語は、本明細書では上記で定義されている。
【0204】
好ましくは、第1の試料と比較して第2の試料中のバイオマーカーESM-1の量の増加、特に有意な量の増加は、対象の無症候性梗塞LNCCIの程度の上昇及び/又は対象の認知機能の低下を示す。したがって、第1の試料と第2の試料との間で、LNCCIの程度が増加し、及び/又は認知機能が低下した。バイオマーカーESM-1の有意に増加した量は、対照の対象の群における平均減少よりも大きい増加であると理解されるべきである。いくつかの実施形態において、バイオマーカーESM-1の量の少なくとも1%(例えば1年毎)の増加等の少なくとも0.5%(例えば1年毎)の増加は、無症候性梗塞LNCCIの程度の上昇及び/又は認知機能の低下を示す。
【0205】
本明細書での上記の定義は、好ましくは、以下について準用する。
【0206】
本発明は更に、認知低下に罹患している対象における認知低下の重症度を診断するための方法に関し、当該方法は、
a)対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、及び
c)好ましくは、工程c)の結果に基づいて、対象の認知低下の重症度を診断する工程
を含む。
【0207】
「対象」及び「試料」という用語は上記で定義されている。先の定義は適宜、適用される。例えば、試料が得られた時点で対象が洞調律であったことが想定される。
【0208】
白質病変、無症候性の大型非皮質梗塞又は皮質梗塞及び/又は臨床的に無症候性梗塞(病変のサイズ、位置及びタイプを含む)等の脳血管損傷の診断は、今日では、典型的には長く費用のかかる磁気共鳴画像法(MRI)を使用して行われている。しかしながら、ESM-1の決定によって、脳MRIのための迅速かつ費用効率の高い事前選択が可能になる。
【0209】
本発明の方法は、無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクがあると同定された患者、高度の無症候性の小型及び/又は大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞及び/又は白質病変を有すると同定された患者、過去に1回以上の無症候性梗塞を経験したと同定された患者、及び/又はAFを罹患していると診断された患者を、脳の磁気共鳴画像法(MRI)、特に脳血管損傷を評価するためのMRIに供する工程を更に含み得る。
【0210】
本発明の第8の態様では、本方法は、対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測のためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。
【0211】
本発明は更に、対象における無症候性の小型及び/又は大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。
【0212】
本発明は更に、対象における白質病変の程度の評価を補助するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。
【0213】
本発明は更に、対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価を補助するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。
【0214】
本発明は更に、対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用に関する。
【0215】
好ましくは、上述の使用は、in vitro使用である。したがって、それらは好ましくは対象から得られた試料中で行われる。さらに、検出剤は、好ましくは、バイオマーカーESM-1に特異的に結合するモノクローナル抗体(又はその抗原結合断片)等の抗体である。
【0216】
本発明の方法はまた、コンピュータ実装方法として実施されてもよい。
【0217】
本発明の第9の態様では、本方法は、対象の脳卒中及び/又は無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するためのコンピュータ実装方法に関し、当該方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、バイオマーカーESM-1の量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、処理する工程、及び
c)出力装置を介して無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測を提供する工程であって、当該予測が工程(b)の結果に基づく、提供する工程
を含む。
【0218】
本発明は更に、対象における無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価するためのコンピュータ実装方法に関し、当該方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、バイオマーカーESM-1の量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、処理する工程、及び
e)出力装置を介して対象の白質病変の程度の評価を提供する工程であって、当該評価が工程b)の結果に基づく、提供する工程
を含む。
【0219】
本発明は更に、対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価のためのコンピュータ実装方法に関し、当該方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象からの試料中のバイオマーカーESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、バイオマーカーESM-1の量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、処理する工程、及び
c)出力装置を介して対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかの評価を提供する工程であって、当該評価が工程(b)の結果に基づく、提供する工程
を含む。
【0220】
本発明の方法の一実施形態において、(本発明のコンピュータ実装方法の最後の工程による)予測、評価又は診断に関する情報は、予測、評価又は診断を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。例えば、情報は、対象が無症候性梗塞及び/又は認知低下のリスクがあるか否かにかかわらず提供され得る。さらに、適切な治療法の推奨を表示することができる。
【0221】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態において、該方法は、工程c)で行われた判定に関する情報を対象の電子医療記録に転送する更なる工程を含み得る。
【0222】
あるいは、本発明の方法の最後の工程で行われた評価を、プリンタによって印刷することができる。印刷出力は、患者にリスクがあるか、リスクがないか、及び/又は適切な治療措置の推奨に関する情報を含むものとする。
【0223】
本発明は更に、コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムが実行される際に、本発明による方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムに関する。典型的には、コンピュータプログラムは、具体的には、本明細書に開示される方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むことができる。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データ媒体に記憶され得る。
【0224】
本発明は更に、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されるときに、脳卒中及び/又は認知低下の予測のためのコンピュータ実装方法等の本発明によるコンピュータ実装方法を実行するために、機械可読キャリア上に記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、例えばコンピュータプログラムの文脈で論じられた上述の工程の1つ以上に関する。本明細書で使用される場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙のフォーマット等の任意のフォーマットで、又はコンピュータ可読データキャリア上に存在する。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0225】
本発明は更に、少なくとも1つの処理ユニットを備えるコンピュータ又はコンピュータネットワークに関し、処理ユニットは、本発明によるコンピュータ実装方法の全ての工程を実施するように適合される。
【0226】
さらに、本発明はまた、以下を企図する。
- 当該プロセシングユニットが、この説明で記載され実施形態の1つによる方法を実行するように適合された少なくとも1つの処理ユニットを備えるコンピュータ又はコンピュータネットワーク、
- データ構造がコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つによる方法を実行するように適合されたコンピュータロード可能データ構造、
- プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するように適合されたコンピュータスクリプト、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
- プログラム手段がコンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に記憶された、先行する実施形態によるプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
- データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造が、コンピュータ若しくはコンピュータネットワークの主記憶装置及び/又は作業記憶装置にロードされた後、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように適合された、記憶媒体、
- コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つによる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶されることができる、又は記憶媒体上に記憶されることができる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、
- 典型的には暗号化された、本明細書中上記で特定されるような個体から得られるグルコースデータ測定値を含むデータストリームシグナル、及び
-本発明の方法によって得られたガイダンスの評価を補助する情報を含む、典型的には暗号化されたデータストリームシグナル。
【0227】
更なる実施形態では、本発明は、以下の項目に関する。
【0228】
以下では、本発明の実施形態を要約する。上記の本明細書で与えられる定義は、好ましくは、以下の実施形態に適用される。
【0229】
1.対象の脳卒中を評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)前記ESM-1の量を基準量と比較し、それによって脳卒中を評価するための方法。
【0230】
2.対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、及び
c)対象が1回以上の無症候性梗塞を経験したかどうかを評価する工程
を含む、方法。
【0231】
3.前記基準よりも大きいESM-1の量が、脳卒中及び/又は無症候性梗塞に罹患している対象を示し、及び/又は前記基準よりも低いESM-1の量が、脳卒中及び/又は無症候性梗塞に罹患していない対象を示す、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【0232】
4.対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、及び
c)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測する工程
を含む、方法。
【0233】
5.前記ESM-1の量の値をCHA2D2-VAScスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞及び/又は認知低下に対する前記臨床リスクスコアの予測精度が改善される、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【0234】
6.対象の無症候性梗塞及び/又は認知低下についての臨床リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)前記ESM-1の量の値を無症候性脳梗塞の前記臨床リスクスコアと組み合わせることにより、無症候性脳梗塞の前記臨床リスクスコアの予測精度が改善される工程
を含む、方法。
【0235】
7.前記対象が、1ヶ月から5年以内、例えば1年以内又は2年以内に対象において無症候性梗塞及び/又は認知低下に罹患するリスクが予測される、請求項6に記載の方法。
【0236】
8.対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞及び皮質梗塞の程度を評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された前記量に基づいて、対象における無症候性の大型の非皮質梗塞又は皮質梗塞の程度を評価する工程
を含む、方法。
【0237】
9.対象の白質病変の程度を評価するための方法であって、
a)前記対象からの試料中のESM-1の量を決定する工程、及び
b)工程a)で決定された前記量に基づいて、対象における白質病変の程度を評価する工程
を含む、方法。
【0238】
10.前記対象が、心房細動に罹患している、実施形態1又は9のいずれか一項に記載の方法。
【0239】
11.前記心房細動が発作性又は持続性心房細動である、実施形態1又は10のいずれか1項に記載の方法。
【0240】
12.前記対象がヒトであり、及び/又は前記試料が好ましくは血液、血清若しくは血漿であるか、又は前記試料が組織試料である、実施形態1又は11のいずれか一項に記載の方法。
【0241】
13.前記バイオマーカーESM-1がESM-1ポリペプチドである、実施形態1から12のいずれか一項に記載の方法。
【0242】
14.前記対象が65歳以上である、実施形態1から13のいずれか一項に記載の方法。
【0243】
15.前記対象が、脳卒中及び/又はTIA(一過性脳虚血発作)の病歴を有する、実施形態1から14のいずれか一項に記載の方法。
【0244】
16.前記試料が得られた時点で前記対象が洞調律であった、実施形態1から15に記載の方法。
【0245】
17.対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は白質病変及び/又は認知機能の程度をモニタリングするための方法であって、
a)前記対象からの第1の試料中のESM-1の量を決定する工程、
b)前記第1の試料の後に得られた前記対象からの第2の試料中のESM-1の量を決定する工程、
c)前記第1の試料中のESM-1の前記量を第2の試料中のESM-1の前記量と比較する工程、及び
d)工程c)の結果に基づいて、前記対象の無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は認知機能及び/又は認知機能の程度をモニタリングする工程
を含む、方法。
【0246】
18.
e)抗凝固療法を推奨する工程、
f)抗凝固療法の強化を推奨する工程、
g)リスク要因管理を強化する工程、及び
h)専門クリニックでケアする工程
を更に含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【0247】
19.対象において脳卒中及び/又は無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、前記対象からの試料中のESM-1の量の値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った前記値を前記処理ユニットで処理する工程であって、ESM-1の前記量について1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った前記値を1つ以上の値と比較することとを含む、処理する工程、
a)出力装置を介して無症候性梗塞及び/又は認知低下の予測を提供する工程であって、前記予測が工程(b)の結果に基づく、提供する工程
を含む、方法。
【0248】
20.前記CHA2D2-VAScスコアの値を更に含む前記方法が、工程a)の前記処理ユニットにおける受け取る工程に追加される、請求項19のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【0249】
21.
a)対象における無症候性梗塞及び/又は認知低下を予測するため、
b)対象における無症候性の小型及び大型の非皮質梗塞若しくは皮質梗塞及び/又は白質病変の程度を評価するため、又は
c)対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための
ESM-1又はESM-1に結合する薬剤のIn vitro使用。
【0250】
22.
I.ESM-1が、ESM-1ポリペプチドであり、
II.前記対象がヒトであり、
III.前記対象が65歳以上であり、及び/又は
IV.前記対象が、脳卒中及び/又はTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有していない、
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法、又は請求項14に記載のin vitro使用。
【0251】
23.対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評価するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用。
【0252】
24.対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するためのバイオマーカーESM-1又はバイオマーカーESM-1に結合する薬剤のin vitro使用。
【0253】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容及び本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0254】
実施例1:循環ESM-1レベルに基づく無症候性脳梗塞(LNCCI及びSNCI)の予測
無症候性脳梗塞の評価におけるESM-1は、
1.血清/血漿中の循環ESM-1 レベル(SWISSAF試験、表1+2)に基づく心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクを予測すること、
2.血清/血漿中の循環ESM-1レベル(例えば、CHA2DS2-VASc、CHADS2スコア)(SWISS AF研究、表3)に基づく無症候性脳梗塞の臨床的脳卒中リスクスコアの臨床的精度の予測を改善することに対する方法を提供する。
【0255】
循環ESM-1 が無症候性梗塞の発生のリスクを予測する能力を、SWISS AF研究(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862;Conen et al.,Swiss Med Wkly.2017;147)で評価した。SWISS AFコホートの患者は、年齢中央値74歳、以前の臨床脳卒中又はTIAの割合20%、血管疾患の割合34%及び糖尿病の病歴17%を有する。
【0256】
ESM-1(内皮細胞特異的分子-1)の検出のため、cobas Elecsys(登録商標)ECLIAプラットフォーム(高スループットElecsys(登録商標)イムノアッセイ;Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)についてサンドイッチ免疫アッセイを開発した。
【0257】
この市販前のESM-1アッセイを用いて、SWISS AF研究全体でESM-1を測定した。
【0258】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値にはバイアスがかかるため(症例と対照の比率が変化するため)、重み付け比例ハザードモデルを使用した。加重は、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づいている。二分されたベースラインESM-1測定(≦中央値対>中央値)に基づいて2つのグループにおける絶対生存率についての推定を得るために、カプラン・マイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0259】
【0260】
bMRI上のLNCCI又はSNCIを有する患者はより高齢であり(75.0対68.1歳、p<0.0001)、より頻繁に永続的AFを有し(28.4対17.8%、p=0.0002)、より高い収縮期BPレベル(136.7対131.3mmHg、p<0.0001)及びより高いCHA2DS2-VAScスコア(3.2対2.1点、p<0.0001)を有していたが、経口抗凝固療法の速度に差を示さなかった(90.3対88.5%、p=0.32)。表1に示すように、ESM-1は、脳病変を有する患者において有意に高いレベルを有する。
【0261】
表1に示すように、心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクは、血清/血漿中の循環ESM-1レベルに基づいて評価することができる。
【0262】
【0263】
モデル1を年齢及び性別について調整した。
【0264】
モデル2を、収縮期血圧、以前の大出血、動脈性高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、末梢血管疾患、BMI、喫煙状態、経口抗凝固薬及び抗血小板薬の使用について更に調整した。
【0265】
バイオマーカー及び体積を対数化した。
【0266】
表2に示すように、ESM-1は、年齢及び性別(モデル1)又は年齢、性別、収縮期血圧、以前の大出血、動脈性高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、末梢血管疾患、BMI、喫煙状態、経口抗凝固薬の使用及び抗血小板薬の使用についての多変量調整後に、LNCCIと有意に関連していた。
【0267】
したがって、心房細動患者における無症候性脳梗塞のリスクは、血清/血漿中の循環ESM-1レベルに基づいて評価することができる。
【0268】
【0269】
本発明者らが個々のバイオマーカーをCHA2DS2-VAScスコアに追加した場合、表3に示すように、AUC(95%CI)はESM-1(0.638(0.594;0.682)p=0.02)によって改善された。
【0270】
ESM-1とCHA2DS2-VASCスコアの臨床パラメータとの組み合わせは、臨床的に無症候性脳梗塞を十分に予測し、CHA2DS2-VAScスコアを凌駕した。認知低下のリスクがある患者の早期の臨床的同定は、より良好な診断及び予防措置を可能にし得る。
【0271】
これらのデータは、ESM-1を使用して、無症候性梗塞のリスクを評価し、疾患を分類し、疾患重症度を評価し、(治療強化/減少を目的として)治療を導き、疾患転帰(リスク予測、例えば脳卒中)を予測し、治療モニタリング(例えば、抗凝固薬onESM-1レベルの効果)し、治療層別化(治療選択肢の選択;例えば、SWISS AFからの長期及び選択)することができることを示唆している。
【0272】
実施例2:循環ESM-1レベルに基づく白質病変(WML)の予測
SWISS-AFデータ中のデータは、ESM-1が患者の白質病変(WML)の存在と相関することを示している。
【0273】
物質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアが0から3.0の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、及び3は重度WMLを示す。ESM-1とWML患者との関連を比較するために、Fazekasスコア2未満(no)対Fazekasスコア2以上(yes)の2つの群に分類した。
図1は、中等度又は重度のWMLを有する患者では、軽度又はWMLを有しない患者と比較してESM-1が増加することを示す。
【0274】
WMLの程度は、臨床上の無症候性脳卒中(Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60.doi:10.1016/j.pneurobio.2016.04.005)によって引き起こされ得る。これは、臨床脳卒中のリスクを予測するためのESM-1の有用性を更に主張する。
【0275】
Fazekasスコア<2(なし)対Fazekasスコア≧2(あり)の患者を識別する循環ESM-1の能力は、0.60のAUCによって示される。認知症患者の脳の白質変化。加齢及びWMLスコアの変化は、アルツハイマー病患者の認知症の重症度に関連すると記載されている(Kao et al.,2019)。
【0276】
年齢もまた、臨床脳卒中の重要な予測因子である。そのため、循環中のESM-1レベルが有意に増加したデータは、中等度又は重度のWMLを示すだけでなく、加齢性脳疾患、例えば血管性認知症も示すと考えられる。
【国際調査報告】