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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】体外循環補助のための制御
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/33 20210101AFI20230831BHJP
   A61M 60/113 20210101ALI20230831BHJP
   A61M 60/36 20210101ALI20230831BHJP
   A61M 60/515 20210101ALI20230831BHJP
   A61M 60/546 20210101ALI20230831BHJP
   A61B 5/353 20210101ALI20230831BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20230831BHJP
【FI】
A61B5/33
A61M60/113
A61M60/36
A61M60/515
A61M60/546
A61B5/353
A61B5/352
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023507687
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(85)【翻訳文提出日】2023-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2021071695
(87)【国際公開番号】W WO2022029139
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】102020004698.3
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517259221
【氏名又は名称】ゼニオス アーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】523037635
【氏名又は名称】ホーホシューレ・オッフェンブルク
【氏名又は名称原語表記】HOCHSCHULE OFFENBURG
【住所又は居所原語表記】Badstrasse 24,77625 Offenburg,Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハインケ、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヘールト、ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】エシンガー、ステフェン
(72)【発明者】
【氏名】シムンディック、イーボ
【テーマコード(参考)】
4C077
4C127
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077BB10
4C077DD01
4C077EE01
4C077HH18
4C077HH21
4C077JJ03
4C077JJ08
4C077JJ16
4C127AA02
4C127BB05
4C127GG01
4C127GG02
4C127GG07
(57)【要約】
本発明は、体外循環補助のための開ループおよび閉ループ制御ユニット、そのような開ループおよび閉ループ制御ユニットを備えるシステム、ならびに対応する方法に関する。体外循環補助のための開ループおよび閉ループ制御ユニット(10)が提案され、本制御ユニットは、事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号(12)の測定値を受信するように構成され、ECG信号(12)は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備える。開ループおよび閉ループ制御ユニット(10)は、少なくとも1つの時点についてのデータ点を空間的および/または時間的に評価し、評価されたデータ点に基づいて心周期内の少なくとも1つの振幅変化(14)を決定するように構成された評価ユニット(100)を備える。開ループおよび閉ループ制御ユニット(10)はさらに、少なくとも1つの振幅変化(14)の後の事前定義された時点で体外循環補助のための開ループおよび/または閉ループ制御信号(16)を出力するように構成される。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外循環補助のための制御ユニットであって、
事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信するように構成され、ここにおいて、前記ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備え、
前記制御ユニットは、少なくとも1つの時点について前記データ点を空間的および/または時間的に評価し、前記評価されたデータ点から前記心周期内の少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成された評価ユニットを備え、
前記制御ユニットは、前記少なくとも1つの振幅変化の後の事前定義された時点で前記体外循環補助のための制御信号を出力するようにさらに構成される、制御ユニット。
【請求項2】
前記評価ユニットは、事前定義された時間間隔にわたる前記データ点を、前記ECG信号の少なくとも1つの心周期フェーズに基づいて評価し、前記時間間隔内の前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項1に記載の制御ユニット。
【請求項3】
前記評価ユニットは、少なくとも2つの時点についてのデータ点に基づいて前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項1または2に記載の制御ユニット。
【請求項4】
前記評価ユニットは、心周期フェーズの特徴である少なくとも1つの特定の振幅変化を決定するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項5】
前記評価ユニットは、P波またはR波の特徴である少なくとも1つの特定の振幅変化を決定するように構成される、請求項4に記載の制御ユニット。
【請求項6】
前記ECG信号は、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、前記第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、前記評価ユニットは、前記データ点を空間的に評価し、前記測定信号の加算または平均化に基づいて前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項7】
前記ECG信号は、経胸壁ECGリードおよび/または経食道ECGリードの測定信号を備え、および/または、前記ECG信号は、心臓刺激を伴う患者のECG信号である、請求項1~6のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項8】
前記評価ユニットは、少なくとも2つの心周期についての振幅変化と、前記振幅変化の時間間隔および/または頻度とを決定するように構成され、前記制御ユニットは、前記時間間隔および/または前記頻度を特徴付ける信号を出力するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項9】
前記評価ユニットは、前記ECG信号から検出された連続する各心周期において、前記少なくとも1つの振幅変化を連続的に、好ましくはリアルタイムで決定するように構成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項10】
前記評価ユニットは、前記データ点を時間的に評価し、前記少なくとも2つの心周期における時間的に対応する少なくとも1つの時点についての前記データ点の加算または平均化に基づいて、前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項11】
前記評価ユニットは、10~40個の心周期または10~100個の心周期、好ましくは40~80個の心周期からの前記データ点の平均化または加算に基づいて、前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項10に記載の制御ユニット。
【請求項12】
前記少なくとも2つの心周期とで時間的に対応する前記時点は、前記少なくとも2つの心周期の各々において出現する同じ基準点からの同一の時間的間隔によって定義され、前記基準点は、好ましくは、前記ECGの信号によって、特に前記ECG信号の最大値によって形態学的および/または生理学的に事前定義される、請求項10または11に記載の制御ユニット。
【請求項13】
ディスプレイと結合した状態で、
- それぞれの対応する時点についての前記ECG信号から検出された連続する心周期と、
- 前記決定された少なくとも1つの振幅変化と、
- 前記評価されたデータ点の範囲を特徴付ける調整可能な時間的範囲インジケーションと、
を表すための信号を前記ディスプレイに出力するように配置されており、
前記評価ユニットは、前記結合されたディスプレイから調整信号を受信し、前記調整された相対的な時間的範囲における連続する心周期についての前記時間的範囲の調整時に前記少なくとも1つの振幅変化を決定するようにさらに構成される、請求項10~12のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項14】
前記ECG信号は、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、前記第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、前記評価ユニットは、前記少なくとも2つの測定信号についての前記データ点の平均化または加算に基づいて、前記少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される、請求項10~13のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項15】
前記評価ユニットは、好ましくは1.3よりも大きい指数で、それぞれの前記データ点または前記評価されたデータ点をべき乗するように構成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の制御ユニット。
【請求項16】
前記指数は、1.3~5.0または1.3~2.0である、請求項15に記載の制御ユニット。
【請求項17】
患者の体外循環補助のためのシステムであって、
- 患者静脈アクセスおよび患者動脈アクセスに流体接続可能であり、前記患者静脈アクセスから前記患者動脈アクセスへの血流を提供するように適応された血液ポンプを備える、体外循環補助のためのデバイスと、
- 前記患者からECG信号を受信するためのインターフェースと、
- 前記デバイスに通信可能に結合された、請求項1~16のいずれか一項に記載の制御ユニットと、前記制御信号は前記血液ポンプを設定するための制御信号である、
を備える、システム。
【請求項18】
前記インターフェースに通信可能に結合されたECGデバイスをさらに備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
体外循環補助を制御するための方法であって、
- 事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信することと、ここにおいて、前記ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備え、
- 少なくとも1つの時点についての前記データ点を評価することと、ここにおいて、前記評価は、空間的および/または時間的に行われ、前記心周期内の少なくとも1つの振幅変化が、前記評価されたデータ点から決定され、
- 前記少なくとも1つの振幅変化の後の事前定義された時点で前記体外循環補助のための制御信号を設定することと、
を行うステップを備える、方法。
【請求項20】
前記決定された少なくとも1つの振幅変化は、P波またはR波の特徴である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ECG信号は、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、前記第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、前記データ点は、空間的に評価され、前記少なくとも1つの振幅変化は、前記測定信号の加算および/または平均化に基づいて決定される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記ECG信号は、経胸壁ECGリードおよび/または経食道リードの測定信号を備える、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの振幅変化が少なくとも2つの心周期に対して決定され、前記振幅変化の時間間隔および/または頻度が決定され、前記時間間隔および/または前記頻度を特徴付ける信号が出力される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの振幅変化は、前記ECG信号から検出された連続する心周期ごとに連続的に決定される、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
各時点は、心周期ごとに等しい基準点からの時間的距離をあけて選択され、前記データ点は時間的に評価され、前記少なくとも1つの振幅変化は、前記基準点に対して時間的に対応する少なくとも2つの心周期からの少なくとも1つの時点についての前記データ点の平均化または加算に基づいて決定される、請求項19から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの振幅変化は、10~100個の心周期または10~40個の心周期、好ましくは40~80個の心周期からの前記データ点の平均化または加算に基づいて決定される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
心周期ごとの前記時点は、基準点に対して時間的に一定であり、前記基準点は、好ましくは、ECG信号によって形態学的および/または生理学的に事前定義される、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
基準点に対して時間的に対応する時点についての前記ECG信号から検出された連続する心周期と、前記少なくとも1つの振幅変化と、前記評価されたデータ点の範囲を特徴付ける調整可能な時間的範囲インジケーションとがディスプレイ上に示され、前記結合されたディスプレイから調整信号を受信すると、前記少なくとも1つの振幅変化が、連続する心周期についての前記調整された相対時間範囲内で決定される、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ECG信号は、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、前記第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、前記少なくとも1つの振幅変化は、前記少なくとも2つの測定信号についての前記データ点の平均化または加算に基づいて決定される、請求項19~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
それぞれの前記データ点または前記評価されたデータ点は、好ましくは1.3より大きい指数でべき乗される、請求項19~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記指数は、1.3~5.0または1.3~2.0である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
体外循環補助の時間的トリガ安定性をモニタリングするための方法であって、
- 事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信することと、ここにおいて、前記ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備え、
- 少なくとも1つの時点についての前記データ点を評価することと、前記評価は、空間的および/または時間的に行われ、前記心周期内の少なくとも1つの振幅変化は、前記評価されたデータ点から決定され、前記決定された少なくとも1つの振幅変化は、好ましくはP波またはR波の特徴であり、少なくとも1つの振幅変化は、少なくとも2つの心周期に対して決定され、
- 前記振幅変化の時間間隔および/または頻度を決定することと、
- 前記振幅変化の前記時間間隔および/または前記頻度が事前定義された閾値を超えたときに信号を出力することと、
を行うステップを備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外循環補助のための制御ユニット、ならびにそのような制御ユニットを備えるシステムおよび対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓のポンプ容量またはポンプ機能が低下した場合、心原性ショックが起こる場合があり、これにより、心拍出量または心駆出の減少に起因して、脳、腎臓、および血管系全般などの末端臓器の灌流または血流を減少させる恐れがある。そのような急性心不全により、組織および臓器の急性の血液欠乏、ひいては低酸素症とも呼ばれる酸素欠乏が生じ、これにより、末端臓器が損傷する可能性がある。ほとんどの場合、このような心原性ショックは、急性心筋梗塞(AMI)または心筋梗塞の合併症の結果として起こる。しかしながら、このような生命を脅かす状況は、バイパス術などの外科的処置の合併症として、または不十分または低下した肺機能に起因して起きる可能性もあり、最終的には、伝導系の障害、構造的心疾患、または心筋の炎症過程により生じる可能性がある。早期血管再生、強心薬の投与、および機械的補助などの要因により、患者の生理学的状態が改善する可能性があるが、心原性ショックの場合の死亡率は、依然として50パーセント以上のままである。
【0003】
患者の状態を安定させるために、機械的補助を提供するとともに循環系に迅速に接続することができる循環補助システムが開発されている。該システムは、心臓の冠動脈を含む、臓器の血流および灌流を改善し、低酸素状態を回避することができる。例えば、血液ポンプが、それぞれ血液の吸引および送血のために、静脈カニューレを用いて静脈アクセスに接続され、動脈カニューレを用いて動脈アクセスに接続されて、例えば酸素供給器を介して低圧側から高圧側への血流を提供するので、患者の循環を補助することができる。
【0004】
しかしながら、患者自身の心臓活動の複雑さおよびダイナミクスにより、体外補助の正確な調時または調節が必要となる。例えば、通常、十分な酸素を心筋に供給する心臓自体の冠動脈の血流は、一般に心周期の拡張期に生じ、それに応じて左心室は確実に空になっている。これは、左心室内の充満圧が極力低い場合に、すなわち、収縮期の終わりまたは拡張期の始まりに、冠動脈がその管腔を可能な限り最大限に広げ、血液流量および酸素供給量を増加させることができるからである。したがって、冠動脈の灌流のための体外循環補助は、灌流が好ましくは拡張期の始まりに行われるが収縮期中の灌流が回避されるように制御されるべきである。
【0005】
体外補助を制御するために、心電図(ECG)からの測定信号を検出し、それを使用して心周期の異なるフェーズの対応する特徴的な振幅を決定することができる。例えば、心周期の収縮期フェーズの特徴であるRピークまたはR波は、通常、例えばQRS群において、心周期の他のフェーズから容易に区別可能である。したがって、R波を、所与のレイテンシを伴って、連続する拡張期フェーズにおいて血液ポンプを制御するために使用することができる。
【0006】
ECG信号を提供するために、異なる解剖学的領域に位置付けられるまたは挿入される異なるECGリードが提供され得る。これは、測定信号の特定の変動性を引き起こす。さらに、刺激に関連した干渉または病態生理学的な干渉が、有用信号と干渉信号の比を大幅に悪化させるので、心周期における振幅の決定が困難になる可能性があり、その結果、所望の振幅を検出できない、または決定することができなくなる。これにより、心臓活動および心臓機能のモニタリングに一貫性がなくなるだけではない。それどころか、振幅をトリガ信号として使用するので体外循環補助の制御が誤った時間にトリガされる恐れがあり、その結果、計画された心周期フェーズで補助が提供されなくなる。
【0007】
DE 10 2010 024 965 A1から、ECG信号におけるR波を決定するための方法が知られており、これにより、ECG信号とMRI撮像法との同期が改善される。R波は、閾値比較を使用するのではなく、ECG信号の時間導関数を用いて、事前定義された時間期間に対して決定される。ECG信号の導関数は、時点ごとの個別のデータ点に基づいており、特に磁場によって引き起こされる干渉および変動を考慮に入れる妥当性試験にかけられる。しかしながら、病態生理学的に関連したまたは個別の自然発生的異常も、特に植込み型ペースメーカによって引き起こされる刺激に関連した干渉も、考慮に入れていない。この方法は、さらに、R波との直接的な同期、すなわち、体外循環補助の制御に必須である事前定義されたレイテンシを伴わない同期を常に提供している。
【0008】
したがって、体外循環補助の制御のためのトリガ信号の安定性が様々な生理学的状態下で改善されるように、ECGからの有用信号と干渉信号の比を最適化する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
既知の最新技術に基づいて、本発明の目的は、体外循環補助のためのトリガ信号の安定性の改善を可能にすることである。
【0010】
本目的は、独立請求項によって達成される。好ましい実施形態が、従属請求項、明細書、および図によって定義される。
【0011】
したがって、体外循環補助のための制御ユニットが提案され、本制御ユニットは、事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信するように構成され、ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備える。制御ユニットは、少なくとも1つの時点についてデータ点を空間的および/または時間的に評価し、評価されたデータ点から心周期内の少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成された評価ユニットを備える。さらに、制御ユニットは、少なくとも1つの振幅変化の後の事前定義された時点で体外循環補助のための制御信号を出力するように構成される。
【0012】
異なるまたは様々な心周期または心臓活動を事前定義された時間期間において記録することができ、各心周期は、例えば、心周期の始まりから心周期の終わりまでの指定された時点を定義することができる。これにより、例えば、絶対的な時点を使用した評価と比較して、異なる心周期との比較が簡単になる。よって、連続する心周期の異なる心周期フェーズ、特に連続する心周期のこれらの心周期フェーズの経過を比較することができる。したがって、データ点は、連続する心周期における同一の時点で収集され、その結果、連続する心周期における同一の時点で収集されたデータ点は、互いに対して比較またはオフセットされ得る。このようにして、心周期フェーズの時点ごとに有用信号を表示することができる。
【0013】
さらに、単一の心周期の同じ時点について、ECG信号を提供するために異なるECGリードが提供され得、その結果、対応する数のデータ点が時点ごとに提供され得る。したがって、異なる測定信号により、特定のECGリードからの選択的なデータ点を処理のために使用できることが可能になる。
【0014】
したがって、少なくとも2つのデータ点が、事前定義された時間期間内の時点ごとに利用可能である。記録または検出された心周期の数および/または利用可能なECGリードの数に依存して、より多数のデータ点が時点ごとに提供されてもよい。事前定義された時間期間は、例えば、処置の持続時間によって、または記録された心周期の事前定義された数によって定義することができる。
【0015】
したがって、空間的および/または時間的評価により、個々の干渉信号の補正が可能になり、その結果、心周期内の少なくとも1つの振幅変化の決定が容易になり、精度が改善する。換言すれば、そのような有用信号の改善が、ECG信号の基準データセットを必要とすることなく、時点ごとの現在の少なくとも2つのデータ点に基づいて可能になる。そのような基準セットは、いずれにしても存在していないか、または体外循環補助および/またはペースメーカによって提供される患者の心臓刺激の場合には可能でさえない。
【0016】
さらに、時点ごとのデータ点を使用することにより、リアルタイムでの振幅変化の決定が可能になり、その結果、例えば、植込み型ペースメーカによる刺激に関連した干渉、病態生理学的に引き起こされる干渉、または個々の自然発生的な異常も考慮に入れることができ、これらで振幅変化の決定が複雑にならない。それによって、心臓刺激に関連しない外因性干渉信号は、好ましくは考慮されない。特に、外因性干渉信号、撮像法によって誘発される、例えばMRI撮像中に誘発される干渉信号、または他の磁場誘発の干渉信号が、好ましくは除外される。リアルタイムで検出されたECG信号の直接処理により、制御信号が現在測定されている測定信号に基づくことと、患者の循環補助のために、現在受信されているECG信号を直接的に、すなわち特に時間的遅延なしに考慮に入れることとが可能になる。これは、単に以前に記録されたデータに基づくにすぎない(すなわち、データが最初に収集され、記憶され、その後処理されるが、直接的に使用されない)、または仮想シミュレーションのために使用されるだけである、ECG信号の予後を提供する方法とは対照的である。さらに、特定の時点における振幅変化が提供または予測され得、その結果、少なくとも1つの時点についてのデータ点を用いて、振幅変化が所与の時間に実際に発生するかどうかがモニタリングされてよい。
【0017】
さらに、体外循環補助のための制御信号または調節信号の出力は、結合された体外循環補助デバイスの対応するパラメータまたは動作パラメータの即時の設定または調整を引き起こしてよい。例えば、体外循環補助システムにおける、血液ポンプ、例えば無閉塞血液ポンプのための1つまたは複数のポンプドライブまたはポンプヘッドが制御または調節されてよい。よって、ECG信号を使用して、対応する心周期フェーズにおける所望の血液流量を提供することができる。
【0018】
血液ポンプは、血液を吸引または送り出して低圧側から高圧側への血流を提供するために、静脈カニューレを介して静脈アクセスに、動脈カニューレを介して動脈アクセスに接続され得る。好ましくは、血液ポンプは、使い捨て品または単回使用品として形成され、それぞれのポンプドライブから流体的に分離され、例えば磁気結合により容易に結合され得る。制御ユニットは、対応する信号を出力することによってポンプドライブのモータを作動させ、したがって、血液ポンプの速度または回転速度を変化させることができる。
【0019】
ECG信号はさらに、少なくとも1つのECGデバイスに接続されたインターフェースを介して制御ユニットへと供給されるかまたは制御ユニットから受信されてよい。しかしながら、制御ユニットは、好ましくは、ECGデバイスの一部として形成されるか、またはECGデバイスを制御ユニットに取り付けることができるように形成される。それによって、制御ユニットは、他の構成要素から独立して使用することができ、小型設計を有することができる。好ましくは、ECGデバイスは、体外循環補助のためのシステムの単一のハウジング内に、例えば、ECGカードまたはECGモジュールの形態のセンサボックス内に一体化されている。しかしながら、代替的に、制御ユニットは、補助されている患者から、例えば、体外循環補助システムの外部に配置された心臓モニタから外部ECG信号を受信するように構成されてもよい。これにより、システムをさらにより小型にすることが可能になる。
【0020】
少なくとも1つの振幅変化は、さらに好ましくは、特徴的なECG信号であり、これは、制御ユニットを血液ポンプと同期させることを可能にし、その結果、制御ユニットからの制御信号の規則的または周期的な出力が提供されてよい。例えば、電気的興奮伝導系におけるそれぞれの範囲または振幅の変化は、心臓の収縮期フェーズまたは拡張期フェーズの特徴であり得、その結果、血液ポンプを、他のフェーズとオーバーラップすることなく、事前定義された時間および事前定義されたフェーズにおいて動作させることができるように、制御信号が出力され得る。
【0021】
好ましくは、評価ユニットは、所定または事前定義された時間間隔にわたるデータ点を、ECG信号の少なくとも1つの心周期フェーズに基づいて評価し、時間間隔内の少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される。例えば、データ点またはECG信号は、少なくとも1つの振幅変化が1つまたは複数の特徴的な特性に対応するように、QRS群を検出または決定するために使用されてよい。
【0022】
データ点の評価を特定の時間間隔に制限することは、データ処理および処理の加速を容易にして、例えば、異なる条件下で、例えばより多数のデータ点がある場合に、振幅変化をリアルタイムで決定できることを確実にするだけではない。より高い精度の振幅変化の決定も可能にする。例えば、制御に無関係な振幅変化を無視するまたは隠すことができ、特定のデータ点もしくは1つまたは複数の時点および対応する心周期フェーズのために計算能力を使用することができる。同時に、高い分解能の振幅変化決定が提供される。
【0023】
心周期内の特定の時点についての絶対的な振幅変化だけでなく、より正確な振幅の経過も決定できるようにするために、評価ユニットは、好ましくは、少なくとも2つの時点についてのデータ点に基づいて少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される。例えば、ECG信号および対応するデータ点は、500Hzの周波数でサンプリングされてよく、その結果、1秒当たり2つのそれぞれの時点の間に2msが存在する。振幅変化の経過または相対的な勾配を決定するために、連続する時点または互いに距離をあけた時点のいずれかである2つの時点でもう十分である場合がある。
【0024】
しかしながら、好ましくは、少なくとも1つの振幅変化は、2~500個の時点、さらに好ましくは50~150個、または少なくとも50個もしくは100個もしくは150個の時点という多数の時点に対して決定される。例えば、評価ユニットは、QRS群内のすべてのデータ点を評価することによって少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成されてよい。したがって、時点の数は、現在の心不整脈および/または心臓刺激に依存して選択することができる。例えば、心室期外収縮の発生が増加した場合には5~10個の時点が選択されてよく、不規則および/または稀な心室期外収縮および/または上室期外収縮の場合には10~100個の時点が選択されてよい。さらに、時点の数は、検査の持続時間にしたがって、および/またはセットアップ構成に依存して選択することもでき、その結果、500個よりも多い数の時点が提供または選択されてもよい。時点の数は、例えば、ペースメーカ依存および心室VVIペーシングの場合、10~10,000個の時点であってもよい。
【0025】
さらに、心拍出量は、患者自身の心臓活動によって、ならびに例えばペースメーカによる刺激により提供され得る。これらの場合、病態生理学的干渉または刺激に関連した干渉が生じる場合があるが、これらは、時点の特定の選択によって、例えば、少なくとも1つの振幅変化を決定するための対応する時間間隔を提供することによって抑制することができる。
【0026】
体外循環補助のための制御信号の提供は、上述したように、心臓機能に対する最大限の補助を提供するために一度に生理学的状態で行われるべきである。したがって、時間的に安定したトリガ信号として使用することができる振幅変化を決定するべきである。そのため、評価ユニットは、好ましくは、心周期フェーズに特徴的な少なくとも1つの選択された振幅変化を決定するように構成される。さらに、P波または特にR波に特徴的な少なくとも1つの選択された振幅変化を決定することが好ましい。
【0027】
しかしながら、例えば、ECG信号の事前定義されたセクションにわたって、またはECG信号の示差的な点から、他の振幅変化を決定することもできる。しかしながら、好ましくは、データ点から少なくとも1つのR波またはR波が決定され、それを用いて、事前定義されたレイテンシ時間を伴ってトリガ信号が出力される。例えば、血液ポンプの動作パラメータのための制御信号が、R波の検出、例えば、最大振幅の検出後の事前定義された時点で出力されてよく、それに応じて、血液ポンプは、典型的には遅延を伴って調整または設定されてよい。
【0028】
したがって、少なくとも1つの振幅変化を決定することにより、時間的に安定し、心電図的にトリガされ、血行動態的に最適化された、同期された体外循環補助が提供される。
【0029】
データ点の評価は、空間的および時間的の両方で行われてよい。したがって、ECG信号は、好ましくは、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、評価ユニットは、データ点を空間的に評価し、測定信号の加算または平均化に基づいて少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される。
【0030】
例えば、空間的および/または解剖学的間隔が存在してよい、リードおよび対応する信号の空間的分離は、一方では、有用信号から例えば心臓の刺激による特定の干渉信号までの距離が改善されることと、これらの干渉信号が、少なくとも1つの振幅変化の決定を損なわないように、可能な限り回避され、少なくとも部分的にフィルタ除去され得ることとを確実にすることができる。他方では、ECGリードの空間的分離により、例えば、心臓興奮線の生理学的信号に変動または変化がある場合でも、可能な限り最強の有用信号を有するECG信号を記録または検出することが可能になる。
【0031】
したがって、信号平均化の一環としての測定信号またはそれぞれの空間的に分離したデータ点の加算または合計または平均化は、複数のECGリードまたは信号源の使用により、有用信号と干渉信号の比を少なくとも1.2倍、例えば1.4倍改善し、その結果、より弱い測定信号または変動の場合でも、少なくとも1つの振幅変化を明確にまたは一義的に決定することができる。換言すれば、有用信号と干渉信号の比を、複数のn個のECGリードについてnの平方根の係数だけ改善することができ、その結果、少なくとも1つの振幅変化を、より弱い測定信号または変動でも一義的に決定することができる。2つのECGリードを用いると、
【数1】
の改善を達成することができる。
【0032】
この改善は、例えば、すべての周波数で理想的なノイズが存在するときに達成することができるが、例えば、生体信号干渉の場合に発生し得る非理想的なノイズ信号の場合には低減する可能性がある。
【0033】
有用信号と干渉信号の比の対応する改善は、時間的平均化または信号平均化によって達成することもでき、改善は、例えば、少なくとも2つの平均化されたR波トリガ心臓活動からの平均化された心臓活動または心臓周期の平方根数nからもたらされる。したがって、制御信号を時間的安定性の高いトリガ信号として出力することができる。
【0034】
好ましくは、ECG信号は、経胸壁ECGリードおよび/または経食道ECGリードの測定信号を備える。ECGリードの数は、それぞれのデータ点の数に限定されず、その結果、原則として、データ点の評価のためにECGリードの選択肢がある。例えば、複数の経胸壁ECGリード(I、II、III、aVR、aVL、aVF、V1、V2、V3、V4、V5、V6)および(双極)経食道ECGリード(Oeso 12、Oeso 34、Oeso 56、Oeso 78)が、電子記録分析のために提供されてよく、それぞれのECGリードタイプのうちの1つまたは2つをデータ点のために使用することができる。
【0035】
トリガ安定性は、通常、処置期間全体に関連し、そのため、好ましくは、事前定義された時間期間にわたってモニタリングされてよい。したがって、評価ユニットは、少なくとも2つの心周期についての振幅変化と、振幅変化の時間間隔および/または頻度とを決定するように構成されてよく、制御ユニットは特に、時間間隔および/または頻度を特徴付ける信号を出力するように構成される。
【0036】
特徴付け信号は、例えば、瞬間的または現在の振幅変化と最後に決定された振幅変化との間の現在の時間間隔、例えばR-R間隔、および/または、例えば、場合により現在の偏差を有する平均時間間隔であり得る。信号はまた、例えば、ディスプレイ上にグラフ表現を引き起こすことができ、それぞれの心周期における指定または特定の振幅変化がマークまたは特定される。よって、振幅変化が同じまたは類似の時間に決定されたかどうかだけでなく、正しい時間、例えば、振幅の始まりまたは終わりではなく最大値のときに決定されたかどうかも決定することが可能である。したがって、マーキングを使用して、時間的安定性を容易に視覚的にモニタリングすることができる。
【0037】
評価ユニットは、好ましくは、ECG信号から検出または記録される連続する各心周期にわたりまたはその間に少なくとも1つの振幅変化を連続的に決定するように構成される。それによって、トリガ信号の不安定性が即時に検出され、評価を調整することによって除去され得る。例えば、測定信号を提供するための代替のECGリードおよび/またはデータ点を評価するための代替の時間間隔が選択されてよく、評価ユニットは、有利なことに、決定された振幅変化に対する改善を提供するために設定の自動調整を可能にするように構成され得る。例えば、任意選択的に1つまたは複数の時点に対してデータ点または取得された測定信号のための閾値が記憶され得、例えば、それぞれの閾値を下回るまたは超えるときに、代替のECGリードまたは代替の時間間隔が振幅変化を決定するために自動的に選択される。
【0038】
空間的評価に加えて、またはその代わりに、データ点の時間的評価が提供されてよい。したがって、評価ユニットは、各心周期のそれぞれのデータ点、特に時間的に互いに対応するデータ点(すなわち、心周期における基準点、例えば心周期における信号の最大値に対して時間的に各々等しく離隔した連続する心周期のデータ点)を評価し、少なくとも2つの心周期からの少なくとも1つの時点について記録された対応するデータ点の平均化または加算に基づいて少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成されてよい。
【0039】
上述したように、異なる心周期または心臓活動を事前定義された時間期間において記録することができ、各心周期は、例えば、心周期の始まりから心周期の終わりまでの時点を定義することができる。よって、連続する心周期の異なる心周期フェーズ、特にこれらの心周期フェーズの経過を互いに比較することができ、その結果、(心周期の定義された基準点に対して)時間的に各々等しく離隔した異なる連続する心周期の同じ時点についてのデータ点は、同じそれぞれの心周期フェーズの有用信号を表す。したがって、好ましくは、心周期ごとのデータ点が、それぞれの心周期において、すべての心周期で同一に選択される定義された基準点の前または後の同じ時点で決定されるように、データ取得が行われ、基準点は、好ましくは形態学的および/または生理学的に事前定義される。事前定義された基準点は、典型的には、ECG信号における特徴的な特性、すなわち、ECG信号が各心周期において生じるときの、ECG信号(P、Q、R、S、T)のうちの1つの開始、またはこれらの信号のうちの1つの最大値の時点である。例えば、すべての心周期において、R波の最大値の時点を基準点として定義することができる。心周期によって決定されるこの基準点の出現は、心周期ごとに時間的に変わり、その結果、例えば、心周期のR波または別の特徴は、1つの心周期において、次に続く心周期のものよりも早くまたは遅く出現する可能性がある。それにもかかわらず、このECGの特徴は、本発明にしたがって記録または検出される心周期の各々において基準点のままである。そのため、心周期ごとのデータ点の測定は、各心周期に対して個々に、ただしこの事前定義された基準点への一定の時間依存性を伴って実行される。各心周期において、データ点は、心周期にわたって事前定義された頻度にしたがって基準点の前および後に測定され、すなわち、データ点は、基準点の出現の前および後に1μsごとまたは2μsごとに一定の速度で取得済み心周期の各々において取得される。
【0040】
したがって、時間的平均化、すなわち、データ点の平均化または加算により、例えば関連する心周期範囲内になく、そのため特定の心周期フェーズの特徴でない個々の外れ値が、それにもかかわらず振幅変化の決定を損なわないということが可能になり、これは、特に対応するデータ点の値が他の心周期で比較的小さいからである。このようにして、決定された振幅変化が事前定義された範囲内にあるかどうかと、トリガ信号が安定しているかどうかとをリアルタイムでモニタリングすることができる。
【0041】
2つの心周期からのデータ点を用いた平均化または加算は、干渉信号と比較して有用信号をすでに改善しているが、3つ以上の心周期にわたる平均化または加算が好ましい。したがって、評価ユニットは、少なくとも10個、例えば10~100個または10~40個または10~35個の心周期、好ましくは少なくとも40個、例えば40~80個の心周期からのデータ点の平均化または加算に基づいて少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成され得る。上述したように、複数のn個の心周期または心臓活動に対する有用信号の(理論的な)改善は、平方根に対応する係数、すなわち√nだけ増加され得る。25個の心周期の平均化により、有用信号または干渉信号の距離を(理論的に)5倍改善することができる。
【0042】
しかしながら、心周期の数はこれらの数に限定されない。したがって、例えば、比較的顕著な外れ値を補償するためには、100個を超える心周期が提供され得る。しかしながら、例えば、変化した生理学的状態への迅速な適応を可能にするために、10~40個の心周期からのデータ点を評価することもできる。
【0043】
少なくとも1つの振幅変化の決定はさらに、例えば、固定の期間または時間間隔を延長または制限するために、手動で調整されてよい。好ましくは、制御ユニットは、ディスプレイと結合した状態で、決定された少なくとも1つの振幅変化の相互に対応する時点についてのECG信号から検出された連続する心周期と、評価されたデータ点の範囲をマークする調整可能な時間的範囲インジケーションとを表すための信号をディスプレイに出力するように構成される。評価ユニットはさらに、有利なことに、結合されたディスプレイからまたはそれを介して調整信号を受信し、時間範囲が調整されるまたは調整されたときに、調整された相対時間範囲内の連続する心周期の少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成されてよい。
【0044】
よって、例えば、それぞれの心周期またはそれぞれの心周期のうちの時系列的に決定された選択物と現在決定された少なくとも1つの振幅変化とのオーバーラップが、ディスプレイ上にグラフ表現で示され得、時間ウィンドウは、対応するデータ点を評価するための現在の時間間隔を備える。時間ウィンドウを調整することによって、例えば水平軸上で限界値をシフトすることによって、少なくとも1つの振幅変化に関連している表示されている心周期フェーズに対する表示された心周期の要求条件に依存して、時間間隔をシフトおよび/または延長もしくは短縮することができる。これは、少なくとも1つの振幅変化を最適化するための特定の柔軟性と、結果としてさらには直感的な操作とをユーザに提供する。
【0045】
データ点の時間的評価についても、ECG信号は、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備えてよく、第1および第2のECGリードは、互いに空間的に分離しており、評価ユニットは、少なくとも2つの測定信号についてのデータ点の平均化または加算に基づいて、少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される。
【0046】
2つの測定信号からのデータ点は、例えば、データ点が時間的および空間的の両方で平均化されるような値を共に形成してよい。例えば、ECGリードのうちの少なくとも1つは、経食道ECGリードおよび対応するプローブまたはセンサとして構成され得る。これには、例えば心臓刺激の場合の潜在的な干渉信号までの距離と、ひいては有用信号とがそれに応じて改善されるという利点がある。
【0047】
データ点の時間的平均化および空間的加算も提供されてよい。この場合、例えば、空間的に分離したECGリードからの少なくとも2つの測定信号からのデータ点が、それぞれの時点について加算または合計されてよく、加算されたデータ点は、次いで、2つ以上の心周期について平均化され得る。このようにして、有用信号と干渉信号との間の関係または比、ならびにトリガ信号の安定性がさらにより改善される。したがって、時間的平均化または空間的加算は個々に有用信号の著しい改善を既に可能にしているが、空間的および時間的評価の組合せは、潜在的な干渉信号をさらにより低減し、患者のより正確な信号最適化された循環補助を可能にするのに特に有利である。
【0048】
好ましくは、評価ユニットはさらに、それぞれのデータ点または評価されたデータ点を乗算し、特に、好ましくは1.3よりも大きい係数または指数でそれらをべき乗するように構成される。好ましくは、係数は1.3~約5.0、または1.3~3.0、または1.3~2.0である。
【0049】
このようにして、データ点または個々の測定信号がさらに改善され、より低い測定値と比較してより高い測定値が強調され、したがって潜在的な干渉信号を低減することができる。係数または指数は、検出頻度と、検出および評価された心周期の数との両方に依存し得る。したがって、空間的および/または時間的評価と組み合わせたべき乗により、有用信号をさらに改善し、したがって、より安定した患者の体外循環補助を提供するために振幅変化の決定をさらに容易にすることができる。
【0050】
上述の目的は、患者の体外循環補助のためのシステムによってさらに達成される。したがって、本システムは、患者静脈アクセスおよび患者動脈アクセスに流体接続可能であり、患者静脈アクセスから患者動脈アクセスへの血流を提供するように適応された血液ポンプを備える体外循環補助のためのデバイスと、患者からECG信号を受信するためのインターフェースと、デバイスに通信可能に結合された、上述した制御ユニットと、を備え、制御信号は血液ポンプを設定または調整するための制御信号である。
【0051】
好ましくは、本システムは、インターフェースに通信可能に接続されたECGデバイスも含む。
【0052】
制御ユニットは、例えば、ECGデバイスの一部として形成されていてよいし、またはECGデバイス内に一体化されていてもよく、したがって、独立したユニットとしてシステムに結合されていてもよい。したがって、ECGデバイスは、システムのインターフェースに通信可能に接続され得る。これにより、システムが他の構成要素の存在から独立して使用されることも可能になる。好ましくは、ECGデバイスは、システムの単一のハウジング内に、例えば、ECGカードまたはECGモジュールの形態のセンサボックス内に一体化されている。しかしながら、代替的に、制御ユニットはまた、補助されている患者から、例えば、システムの外部に位置するまたは配置された心臓モニタから外部ECG信号を受信するように構成され得る。これにより、システムをさらにより小型に形成することができる。
【0053】
制御ユニットはまた、システム設定、特に血液ポンプおよび/またはECGデバイスのパラメータを入力および読み取るためのユーザインターフェースを有するコンソールに収容され得る。例えば、コンソールは、ユーザが操作することができるキーボードを有するタッチスクリーンおよび/またはディスプレイを含んでよい。制御ユニットは、血液ポンプを動作させ、作動させ、制御し、調節し、モニタリングし、血液ポンプをそれぞれの患者の心周期と同期させることを可能にする。
【0054】
例えば、制御ユニットは、受信したECG信号および心拍数を記録することができ、ディスプレイは、現在のECG信号をグラフで示し、現在のまたは平均化されたトリガ頻度および/またはトリガ安定性を数値的に示す。さらに、ECG信号またはそれぞれの心周期の特徴的な特性をグラフ表示で強調またはマークすることができ、それにより、例えば、R波の形態のQRS信号における振幅変化として決定されたトリガ信号を、ECG信号または現在の心周期においてマークすることができる。さらに、複数の振幅変化間またはトリガ信号間の時間間隔または心拍数などのさらなる設定がECG信号において表され得、その結果、ユーザが、患者の生理学的状態に対する血液ポンプの制御および調節をモニタリングすることができる。
【0055】
インターフェースは、例えば、体外循環補助デバイスの圧力センサなどの様々なセンサおよびECGデバイスにコネクタを介して接続されてよいセンサボックスとして構成され得る。
【0056】
上述の目的は、体外循環補助デバイスを制御/調節するための方法によってさらに達成される。本方法は、少なくとも、
- 事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信することと、ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備え、
- 少なくとも1つの時点についてのデータ点を評価することと、ここにおいて、評価は、空間分解および/または時間分解して行われ、心周期内の少なくとも1つの振幅変化は、評価されたデータ点から決定され、
- 少なくとも1つの振幅変化の後の事前定義された時点で体外循環補助のための制御および/または調節信号を設定することと、
を行うステップを備える。
【0057】
好ましくは、少なくとも1つの決定されたまたは特定の振幅変化は、P波またはR波に特徴的である。よって、例えば、特定のR波に基づいてトリガ信号を出力することができ、トリガ信号の安定性は、空間的および/または時間的な観点でデータ点を評価することによって大幅に改善される。
【0058】
したがって、本方法によれば、ECG信号が、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、第1および第2のECGリードが、互いに空間的に分離しており、データ点が空間的に評価され、少なくとも1つの振幅変化が、測定信号の加算および/または平均化に基づいて決定されることをもたらすことができる。好ましくは、ECG信号は、経胸壁ECGリードおよび/または経食道リードの測定信号を備える。
【0059】
時間的トリガ安定性のモニタリングの改善のために、少なくとも1つの振幅変化が少なくとも2つの心周期に対して決定されてよく、振幅変化の時間間隔および/または頻度が決定されてよく、時間間隔および/または頻度を特徴付ける信号が出力される。例えば、信号は、グラフ表現を含むことができ、トリガ信号は、心周期における決定された振幅変化に基づいて、または対応するそれぞれの時点下でマークされる。
【0060】
さらに、少なくとも1つの振幅変化が、ECG信号から検出された連続する各心周期の間または連続する各心周期にわたり連続的に決定されることをもたらすことができる。よって、少なくとも1つの振幅変化の決定を、患者の生理学的状態の現在の変化に即時に適応させることができる。
【0061】
最後に、データ点の時間的評価が提供されてよい。したがって、各心周期の任意の時点が使用されてよく、時間的に対応する連続する心周期のデータ点が時間的に評価され、少なくとも1つの振幅変化が、(基準点に対して時間的に等しく離隔している)少なくとも1つの時点について記録された少なくとも2つの心周期からのデータ点の平均化または加算に基づいて決定される。
【0062】
好ましくは、少なくとも1つの振幅変化は、少なくとも10個、例えば10~100個の心周期、好ましくは少なくとも40個、例えば40~80個の心周期または10~40個の心周期からのデータ点を平均化することに基づいて決定される。
【0063】
時間的平均化または加算に起因して、例えば関連する心周期範囲内になく、そのため特定または指定の心周期フェーズの特徴でない個々の外れ値が、振幅変化の決定を損なわない。これは、対応するデータ点の値が他の心周期で比較的小さいからである。このようにして、決定された振幅変化が意図されたまたは事前定義された範囲内にあるかどうかと、トリガ信号が安定しているかどうかとをリアルタイムでモニタリングすることができる。
【0064】
少なくとも1つの振幅変化の決定はさらに、例えば、指定された時間期間または時間間隔を延長または制限するために手動で調整されてよい。したがって、その各々が同じ基準点に関連している一致する時点についてのECG信号から検出された連続する心周期と、少なくとも1つの振幅変化と、評価されたデータ点の範囲を特徴付ける調整可能な時間範囲インジケーションとがディスプレイ上に示され、結合されたディスプレイから調整信号を受信すると、連続する心周期についての同じ基準点に関連する調整された相対時間範囲内で少なくとも1つの振幅変化が決定される。
【0065】
時間的平均化に加えて、ECG信号が、第1のECGリードからの第1の測定信号と、第2のECGリードからの第2の測定信号とを少なくとも備え、第1および第2のECGリードが、互いに空間的に分離しており、少なくとも1つの振幅変化が、少なくとも2つの測定信号についてのデータ点の平均化または加算に基づいて決定されることをさらにもたらすことができる。
【0066】
本方法のさらなる利点ならびに可能な実施形態およびさらなる拡張形態については、上述した制御ユニットに関して既に詳細に説明しているので、冗長にならないようにするために、対応する態様の繰り返しての説明は行わない。しかしながら、対応する開示内容は、引き続き本方法に適用される。
【0067】
上述の目的は、体外循環補助の時間的トリガ安定性をモニタリングするための方法によってさらに達成される。本方法は、少なくとも、
- 事前定義された時間期間にわたって、補助されている患者のECG信号の測定値を受信することと、ここにおいて、ECG信号は、心周期内の時点ごとに複数のデータ点を備え、
- 少なくとも1つの時点についてのデータ点を評価することと、評価は、空間的および/または時間的に行われ、心周期内の少なくとも1つの振幅変化は、評価されたデータ点から決定され、少なくとも1つの決定された振幅変化は、好ましくはP波またはR波の特徴であり、少なくとも1つの振幅変化は、少なくとも2つの心周期に対して決定され、
- 振幅変化の時間間隔および/または頻度を決定することと、
- 振幅変化の時間間隔および/または頻度が事前定義された閾値を超えたときに信号を出力することと、
を行うステップを備える。
【0068】
振幅変化の時間間隔および/または頻度を決定することにより、時間的安定性、すなわち、トリガ信号が、同様の時間間隔を伴って、かつそれぞれの心周期フェーズに対する正しい時点において、決定された振幅変化に基づいて出力されるかどうかである時間的安定性が提供されることが可能になる。例えば、小さい偏差は無視してよいが、平均時間間隔の10~15パーセントの許容範囲を超えたときなど、時間間隔の事前定義された割合を超える偏差により、信号の出力が生じてもよい。
【0069】
信号は、可聴警告信号や、例えば、出力されたトリガ信号のタイムラインのセクションにディスプレイ上の視覚的マークもしくは警告を含んでよい。
【0070】
本発明の好ましいさらなる実施形態について、以下の図面の説明において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】複数の経胸壁ECGリードおよび2つの経食道ECGリードについての洞調律を有する心電図の経過を示す。
図2A】植込み型ペースメーカによる心臓の刺激がない場合と刺激がある場合の、空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図2B】植込み型ペースメーカによる心臓の刺激がない場合と刺激がある場合の、空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図2C】植込み型ペースメーカによる心臓の刺激がない場合と刺激がある場合の、空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図2D】植込み型ペースメーカによる心臓の刺激がない場合と刺激がある場合の、空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図2E】植込み型ペースメーカによる心臓の刺激がない場合と刺激がある場合の、空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図3】本発明に係る制御ユニットの概略図である。
図4】事前定義された時間期間にわたる2つの空間的に分離したECGリードの心電図経過を示す。
図5】本発明に係る、図4に示されるデータ点の空間的評価に基づく複数の振幅変化の決定を示す。
図6】本発明に係る、図5において決定された振幅変化に基づく制御信号の出力を示す。
図7A】本発明に係るデータ点の代替的な空間的評価およびグラフ表現を示す。
図7B】本発明に係るデータ点の代替的な空間的評価およびグラフ表現を示す。
図8A】異なる数の心周期および事前定義された時間間隔にわたる、本発明に係る時間的評価に基づく振幅変化の決定を示す。
図8B】異なる数の心周期および事前定義された時間間隔にわたる、本発明に係る時間的評価に基づく振幅変化の決定を示す。
図8C】異なる数の心周期および事前定義された時間間隔にわたる、本発明に係る時間的評価に基づく振幅変化の決定を示す。
図9】本発明に係る、振幅変化を決定するための時間間隔のモニタリングおよびグラフィカル調整の可能性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、好ましい実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図において、対応する、類似の、または同様の要素は、同一の参照番号で示し、冗長にならないようにするために繰り返しての説明を省略する場合がある。
【0073】
図1は、複数の経胸壁(T)ECGリードおよび2つの経食道(O)ECGリードについての洞調律を有する心電図の進行または経過を示し、この例によれば、ECG信号が、第3度AVブロックを有し、植込み型除細動器(ICD)のDDDモードでの右心房同期双極右心室刺激を伴う患者からのものであることが示されている。しかしながら、この図に示されている経過は、単に例示的なものとみなすべきである。ECG信号記録の過程で決定され、他の心疾患または治療に特徴的な他の側面も適宜に記録または検出することができる。換言すれば、ここに示される例は、特定の病態生理学的状態および/または治療に限定されない。
【0074】
事前定義された時間期間にわたり記録され、図1に表示されたECGリードの測定信号は、経胸壁ECGリードI、II、III、aVR、aVL、aVF、V1、V2、V3、V4、V5、およびV6からの測定信号と、双極経食道ECGリードOeso 12およびOeso 34からの測定信号とを含む。しかしながら、リードの数およびタイプは限定とみなすべきではない。原則として、少なくとも1つの振幅変化を決定するためにECGリードの任意の選択物を使用することができる。よって、1つの解剖学的領域内と異なる複数の解剖学的領域についての両方で、空間的に分離した測定信号検出を行うことができる。
【0075】
したがって、測定信号は、例えば、本発明に係る空間的および/または時間的分析もしくは評価を可能にするために処理および評価され得る。
【0076】
ECG信号のデータ点の空間的および/または時間的評価には、有用信号と干渉信号の比を改善することができるという利点がある。これにより、心周期内の振幅変化をより正確に決定することができる。干渉信号は、例えば、心臓の刺激の結果として、または病態生理学的な理由により、またはさらには自然発生的に、発生する可能性があり、その結果、ECG信号の規則性または安定性が低下し、振幅変化、例えばR波の決定が損なわれる。
【0077】
複雑な異なる心臓活動を伴う対応するECG信号の例が、非刺激状態と刺激状態とで図2A図2Eに示されている。
【0078】
図2Aはしたがって、2つの空間的に分離したECGリードからの第1の測定信号12Aおよび第2の測定信号12B、ならびに対応する和信号12Cの心電図経過を示し、ECGリードIIおよびIIIは、経胸壁ECGリードである。経過において、Rピーク16またはR波の検出によって6つの振幅変化が決定され、この経過は、左から右に、心房トリガ心室刺激中の対応する測定信号を示している。この経過では、R波16の比較的安定した決定が可能であり、測定信号12A、12Bは、著しい変動または異常を示していない。図2Bは、3つの空間的に分離したECGリードの心電図経過を示し、ECGリードIIおよびIIIは経胸壁ECGリードであり、ECGリードOeso 5/6は左心房双極経食道ECGリードである。経過において、R波を検出することによって2つの振幅変化が決定され、双極右心室刺激の阻害の場合、心室期外収縮の場合、およびnarrow QRS群の場合の信号の経過が左から右に表されている。したがって、異なる心不整脈に起因する変動が存在し、これにより、R波の場合のように振幅の変化を決定することが困難になる。
【0079】
図2Cでは、対応する連続する振幅変化も決定され、経過は、双極右心室融合刺激の場合、および双極右心室刺激の阻害を伴う心室期外収縮の場合の対応する測定信号を左から右に示している。よって、振幅変化を経時的に十分な精度で決定できない場合、トリガ信号の不安定性につながり得る、測定信号の変動が生じる可能性があることが分かる。
【0080】
図2Dでは、2つの右心室刺激心臓活動と、それに続く1つの心室期外収縮および2つの自然発生的心臓活動とが左から右に示されており、図2Eでは、2つのQRS形態が示されている。したがって、患者、心疾患、および刺激に依存して、異なる変動を測定信号から記録することができる。
【0081】
本発明に係る制御ユニット10の概略図が図3に示される。この実施形態では、制御ユニット10は、2つの異なるECGリードのECG信号12を受信するように構成され、制御ユニット10内の評価ユニット100は、2つの異なる測定信号12A、12Bについての対応するデータ点を評価する。よって、例えば、振幅変化14の決定を容易にし、有用信号と干渉信号の比を改善するために、空間的評価を行うことができる。
【0082】
制御ユニット10は、ECG信号を受信するために特定の結合が必要とならないように、ECGモジュールとして構成または形成される。しかしながら、ECGモジュールは、制御ユニット10によって適宜に制御または調節されることができるように体外循環補助システムまたは体外循環補助デバイスとの通信可能な結合を可能にするインターフェース(図示せず)を含むことができる。
【0083】
制御ユニット10はまた、決定された振幅変化に基づいて制御信号16を出力するように構成される。例えば、それぞれの心周期におけるR波に特徴的な1つまたは複数の振幅変化14を決定することができる。次いで、制御信号16は、Rトリガ信号として出力され得、例えば、患者の冠動脈の灌流の改善を提供するようにレイテンシ期間を伴って血液ポンプを動作または制御するために使用されてよい。
【0084】
空間的評価の例が図4図6に示される。図4(上)には、ECG信号12が記録されており、図示されている。事前定義された時間期間にわたり、第1のECGリードからの第1の測定信号12A(中央)および第2のECGリードからの第2の測定信号12B(下)が記録され、制御ユニットまたは評価ユニットによって受信された。この例において、ECGリードは、互いに空間的に分離しており、図1および図2のECGリードII(中央)およびIII(下)に対応する。
【0085】
この例では、ECG信号12は、左心室駆出率が65%であり、洞調律、高度のAVブロックを有し、植込み型ペースメーカのVVIRモードでの間欠性双極右心室刺激を伴う冠動脈疾患の患者からのものである。図4は、事前定義された時間期間におけるECGリードIIおよびIIIの合計7つの心臓活動を示しており、y軸が測定信号12A、12Bの振幅を示し、x軸が500HzのサンプリングレートでのECG信号12の時間的経過を示しており、したがって「500」の間隔は1000msに相当する。
【0086】
示されている測定信号12Aおよび12Bから考えると、有用信号は、異なる心臓活動とで、また異なる解剖学的領域で異なり、したがって、振幅サイズだけでなく、それらの時間的分布においても変わる可能性があるということになる。しかしながら、制御ユニットの評価ユニットにおいて、測定信号は、空間的にまたは空間分解能で評価され得、例えば、図5に示すように、加算されてよい。したがって、測定信号12A、12Bを加算することによって、有用信号と干渉信号の比を1.4倍改善することができ、その結果、振幅変化14の決定を大幅に容易にし、より正確に提供することができる。これは、例えば、図5の第3および第4の心臓活動についての、図4における対応する振幅に対する振幅改善によって示される。
【0087】
振幅変化を正確に決定することができ、したがって、例えば振幅の最大勾配または最大値をより正確に決定することができるので、振幅の改善により制御信号16の出力の改善が可能となる。したがって、振幅変化は、体外循環補助のためのトリガ信号16として働くことができ、ここにおいて、トリガ信号16の時間的安定性が確保されている。
【0088】
これは、例えば図6から考えると、それぞれの2つのトリガ信号16間の時間的距離が、深刻な不規則性を示さず、よって、トリガ信号16が、対応する心周期フェーズにおける体外循環補助の制御/調節のために提供または出力され得るということになる。この例では、制御信号16およびトリガ信号16は、決定されたRピークに基づいて出力される。しかしながら、これらの信号16はまた、決定されたP波またはECG信号の他の特徴的な振幅変化に基づいて、対応するレイテンシ時間を伴って出力されてもよい。
【0089】
したがって、データ点の空間的評価に基づく時間的トリガ安定性の改善は、体外循環補助の正確な制御に特に有利であり得、干渉信号を抑制または補正することができる。例えば、心不全および冠動脈疾患があるが正常な左心室ポンプ機能をもつ植込み型ペースメーカの患者において、双極右心室刺激などの間欠性刺激から生じる干渉信号が抑制または補正され得る。
【0090】
図7Aおよび図7Bは、本発明に係るデータ点の代替的な空間的評価およびグラフ表現を示す。したがって、データ点は、図7Aに示されるように時間期間全体にわたり空間的に評価され、制御ユニットに結合されたディスプレイ上にオーバーラップと色分けを用いて表示され得、その結果、有用信号の改善および決定された振幅変化の時間的安定性も容易にモニタリングすることができる。
【0091】
またデータ点の評価は、代替のデータセットのための図7Bに示されるように、特定の時間間隔に対して、または心周期フェーズの特定の時間範囲に対してのみ行われてもよい。
【0092】
したがって、例えば、第1の測定信号の勾配に基づいて検出することができるR波に対してのみ、測定信号の空間的評価または加算が実行される。空間的に評価されたデータ点は、心周期フェーズの特定の時間範囲についての第1の測定信号のデータ点の拡張として表わすことができ、この範囲は、例えば、評価されたデータ点の閾値を超えることによって定義される。
【0093】
本発明によれば、図8A図8Cに示すように、振幅変化を決定するためのデータ点の時間的評価を提供してよい。この例示的な実施形態では、各時点は、各心周期の相対的な時点を形成する。評価ユニットは、時間的にデータ点を評価し、少なくとも2つの心周期からの少なくとも1つの対応する時点についてのデータ点を平均化することに基づいて少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成され、該少なくとも2つの心周期からの少なくとも1つの対応する時点とは、少なくとも2つの心周期における同じ基準点、例えば、図8Aに示されるように、少なくとも2つの心周期について常に信号の最大値、例えばR波、に対して同一の時間的距離を有する。
【0094】
データ点は、心周期における時間的に対応する時点の各々について適宜に平均化される。しかしながら、代替的に、加算を行うことができる。図8A図8CにおいてPがP波の始まりをマークし、QがQ波の始まりをマークし、SがS波の終わりをマークしている、検出されたQRS群の例では、振幅の変化は、特定の時間間隔内の推移によって決定される。例えば、データ点は、以下の式を使用して時間的に評価することができる。
【数2】
ここで、n個の点が合計され、jは、n個の心周期の各々に対応する特定の時点についての時間期間内の単一のデータ点であり、iは、それぞれの心周期である。したがって、対応するn個のデータ点に対して平均値が計算または形成される。n個の心周期における時点とは、例えば、各心周期において、それぞれの心周期における基準点(例えば、ECGの信号の最大値、例えばR波)の出現前または出現後の期間y(μs)の後のことである。心周期ごとに、時間yにおけるデータ点が決定され、すべての心周期における時間yにおけるこれらのデータ点についての平均値が形成される。時間y~yでも同様のプロシージャが行われる。
【0095】
振幅変化はさらに、対応する制御信号16またはトリガ信号16の出力の働きをし、QRS群内で適宜マークされる。
【0096】
心周期における時間的に対応する時点ごとに複数の心周期で時間的平均化することに起因して、連続する心周期の異なる心周期フェーズ、特にこれらの心周期フェーズの経過を互いに比較することができ、その結果、選択された基準点に時間的に対応する同じ時点についての、ただし異なる連続する心周期についてのデータ点が、同じそれぞれの心周期フェーズについての有用信号を表す。したがって、時間的平均化により、例えば関連する心周期範囲になく、そのため特定の心周期フェーズに特徴的でない個々の外れ値が、それにもかかわらず振幅変化の決定を損なわないことが可能になる。これは、対応するデータ点の値が他の心周期で比較的小さいからである。
【0097】
比較する心周期の数を増加させると、例えば、10個の心周期を有する図8Bおよび65個の心周期を有する図8Cから分かるように、例えば規則的な心調律の場合のトリガ信号16の時間的安定性をさらに改善することができる。本例におけるデータ点および測定信号は、数が増加されただけでなく、低い測定信号値を有するデータ点が目立たなくなるようにべき乗もされた。これは、心周期の数が増加された場合に、同時にそれぞれの曲線のギザギザがさらに少なく、すなわち偏向が少なくなっているということによって例示されており、その結果、干渉信号を少なくとも部分的に抑制することができる。図9は、本発明に係る、振幅変化を決定するための時間間隔18のモニタリングおよびグラフィック適応または調整の可能性を示す。
【0098】
時間的平均化では、n個の心臓周期または心臓活動に特定または事前定義されたトリガ点、好ましくはRトリガ16が必要となる可能性がある。少なくとも1つの振幅変化の決定は、例えば、固定または選択された期間または時間間隔を延長または制限するために、手動でさらに調整することができる。したがって、好ましくは、制御ユニットは、ディスプレイと結合した状態で、それぞれの対応する時点についてのECG信号から検出された連続する心周期と、決定された少なくとも1つの振幅変化と、評価されたデータ点の範囲をマークする調整可能な時間範囲インジケーションとを表す信号をディスプレイに出力するように構成される。評価ユニットはさらに有利なことに、結合されたディスプレイから、またはそれを介して調整信号を受信し、時間範囲の調整時に、連続する心周期についての調整された相対時間範囲内の少なくとも1つの振幅変化を決定するように構成される。
【0099】
したがって、この例によれば、現在の心周期と2つの最後の心周期とのオーバーラップが、例としてグラフ表現で示されている。また、グラフ表現は、現在決定された少なくとも1つの振幅変化と、制御および調節信号16またはトリガ信号16の現在の出力のための時間マーカとを、制御ユニットに結合されたディスプレイ上に示し、時間ウィンドウは、対応するデータ点を評価するための現在の時間間隔18を備える。換言すれば、時間ウィンドウは、サンプリング複合群のためのモニタリング期間を形成し、心周期は、好ましくは、時間間隔18内の完全なデータセットを記録するために完全に時間ウィンドウ内にある。図9には、作為的な形態を有する心周期の概略図が示されている。
【0100】
示された時間間隔はやはり例示的なものにすぎないが、事前定義された値として事前設定することもできる。好ましくは、時間ウィンドウは、少なくとも現在の心周期が、形態学的および/または生理学的に事前定義された基準点から開始して、好ましくはやはり対応する基準点まで示されるように選択または設定される。したがって、例えば、時間ウィンドウは、先行するT波の終わりから現在のT波の終わりまでの現在の心周期を少なくとも表す時間間隔18を表すことができる。
【0101】
時間ウィンドウを調整することによって、例えば水平軸上で限界をシフトすることによって、時間間隔18は、表示された心周期が少なくとも1つの振幅変化に関連する心周期フェーズをどのように必要とするかに依存して、シフトおよび/または延長もしくは短縮され得る。これは、少なくとも1つの振幅変化を最適化するための特定の柔軟性およびさらには直感的な操作をユーザに提供する。よって、時間ウィンドウを調整またはシフトするとき、ウィンドウ内のトリガ信号の位置もシフトすることができる(図示せず)。この場合、3つの連続する心周期、すなわち現在の心周期と最後の2つの心周期とがオーバーラップして表示されているが、上述したように、振幅変化を決定するために、2つ以上、例えば10個または65個の心周期のみが提供されることもあり得る。
【0102】
適用可能な場合、例示的な実施形態において示されたすべての個々の特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、組み合わせおよび/または交換することができる。
【符号の説明】
【0103】
10…制御ユニット
12…ECG信号
12A…第1の測定信号
12B…第2の測定信号
12C…和信号
14…振幅変化
16…制御信号またはトリガ信号
18…時間間隔
100…評価ユニット
O…経食道ECGリード
P…P波の始まり
Q…Q波の始まり
S…S波の終わり
T…経胸壁ECGリード
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
【国際調査報告】