(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】GCMS分析前の試料調製を改善するためのマトリックス加速真空支援収着剤抽出のシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20230831BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20230831BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G01N1/22 L
G01N30/00 B
G01N30/72 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509703
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 US2021045578
(87)【国際公開番号】W WO2022035983
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518320904
【氏名又は名称】エンテック インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーディン, ダニエル ビー.
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AC12
2G052AD02
2G052BA22
2G052EA08
2G052EB01
2G052EB11
2G052ED07
2G052GA27
2G052HC22
(57)【要約】
本明細書に開示される技術は、GC又はGCMSによる分析の前の化学物質の抽出を改善することができる。液体又は固体試料は、試料抽出デバイスを更に含む真空下の閉鎖システムの試料容器内に配置することができる。アセンブリは、試料容器の底部、試料容器の上部、及び試料抽出デバイスの温度を別々に制御することができる3ゾーンヒータ内に配置することができる。試料容器の底部から試料容器のヘッドスペースへの蒸気フラックスは、目的の化合物を試料抽出デバイスに送達することができるが、マトリックス化合物は、試料容器のヘッドスペース内で再凝縮して、試料抽出デバイスへ送達されないようにすることができる。抽出は、目的の化合物が収着剤へ実質的に移動するまで継続し、その後、分析のために抽出物をGCMSに熱脱着することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空下で試料を調製するための閉鎖システムであって、前記システムが、
前記試料を保持するように構成された試料容器と、
収着剤と、
第1の温度を前記試料容器の第1の部分に適用するように構成された第1のヒータと、
前記第1の温度よりも低い第2の温度を前記試料容器の第2の部分に適用するように構成された第2のヒータと、
前記第2の温度を維持するように構成された1つ又は複数のヒートシンク、ファン、又は周囲温度未満冷却デバイスと、
前記第2の温度よりも高い第3の温度を前記収着剤に適用するように構成された第3のヒータと
を備えるシステム。
【請求項2】
前記試料容器と前記収着剤を収容する試料抽出デバイスとの間に真空気密シールを形成するように構成された真空スリーブ
を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料抽出デバイスが、前記システム内で真空が引かれている間、真空源に連結されるように構成されたポート又はシールを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記収着剤が、試料抽出デバイス中に配置され、前記試料抽出デバイスが、前記試料の1つ又は複数の化合物の分析のために前記システムから取り外されるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のヒータが、前記第1の温度を周期的に修正するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムが、前記試料容器と前記収着剤との間にトランスファーラインを含まない、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムが物理的かき混ぜ装置を含まない、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記収着剤が、前記試料の1つ又は複数の化合物を収集し、前記試料のマトリックスをはじくように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
真空下の閉鎖システム内で試料を調製する方法であって、前記方法が、
前記システムであって、前記システムが、試料容器と、収着剤と、第1のヒータと、第2のヒータと、第3のヒータとを備える、システムにおいて、前記試料が前記試料容器内に配置されている間に、
前記第1のヒータを用いて、第1の温度を前記試料容器の第1の部分に適用することと、
前記第2のヒータを用いて、前記第1の温度よりも低い第2の温度を前記試料容器の第2の部分に適用することと、
1つ又は複数のヒートシンク、ファン、又は周囲温度未満冷却デバイスを介して、前記第2の温度を維持することと、
前記第3のヒータを用いて、前記第2の温度よりも高い第3の温度を前記収着剤に適用することと
を含む方法。
【請求項10】
真空ポンプを介して、前記システム内の真空を引くことと、
前記真空を引くことの後に、前記システム内の前記真空を維持することであって、前記システム内で前記真空が維持されている間に、前記第1の温度、前記第2の温度、及び前記第3の温度が適用される、維持することと
を更に含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記収着剤を含む試料抽出デバイスのポート又はシールを通じて前記真空が引かれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の温度を前記第1のヒータを用いて周期的に修正すること
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記収着剤を介して、前記試料の1つ又は複数の化合物を収集することと、
前記収着剤を介して、前記試料のマトリックスをはじくことと
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記試料の前記1つ又は複数の化合物を収集することの後に、
前記収着剤を含む試料抽出デバイスを前記システムから取り除くことと、
前記試料の前記1つ又は複数の化合物を分析することと
を更に含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年8月11日に出願された米国仮特許出願第63/064,334号の利益を主張するものであり、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、試料調製に関し、より詳細には、拡散真空抽出を介して試料を調製するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GCMS)は、沸点が-253℃(水素など)から600℃超(6~8環PAHなど)の化学物質を測定するために広く使用される技術となっている。化合物がGCMSに適合するためには、例えば、この技術の動作制約(典型的には-50℃~400℃)内で適度に高い蒸気圧を有しながら、気相中でGCカラムを通過して検出器に至るのに十分に熱的に安定でなければならない。GCMS注入前に、GC適合性化合物のみがGCに導入されるように、試料のクリーンアップを行うことができる。場合によっては、非GC適合性化合物がGCカラムの入口又はカラム自体に堆積し、その結果多くの化合物の吸着又は反応(存在量の減少)が起こり、それによって測定精度に影響を及ぼすことがある。一部の化合物は熱分解して全く新しい化合物になることがあり、アーチファクトと呼ばれるものを生成し、実際にはこれらのアーチファクトは試料中に含有されていないにもかかわらず、実際に含有されていると分析者に思わせることがある。
【0004】
加えて、過剰な水はGCカラムを損傷し、同時に注入された標的化合物との相互作用を引き起こし、質量分析計の信号を抑制する可能性があるため、GCMSシステムは過剰な水の注入に敏感である可能性がある。少量の水(例えば、0.1~0.2ul)であっても、質量分析計内の真空を変化させる可能性があり、その結果イオン化効率が低下したり、気相衝突が増加して電子増倍管や他のイオン検出器へのイオン移動効率が低下したりする。
【0005】
いくつかの技術は、多種多様なマトリックス(水、飲料、血液、尿、食品、消費者製品など)からGCMS適合性化合物を抽出することができるが、これらの技術には、GC適合性化合物を回収し、非GC適合性化合物を排除し、抽出物への揮発性試料マトリックスの混入(例えば、水分、アルコール)を低減又は最小化するという最終目標の達成を妨げる制限がある場合がある。いくつかの抽出技術では、液体又は固体試料の上のヘッドスペースを使用して抽出プロセスを行うが、これはヘッドスペースには揮発性又は少なくとも半揮発性である化合物しか含まれず、それによって抽出から試料の不揮発性成分が排除されるためである。試料との接触を必要とする他の技術は、抽出物から不揮発性化合物を除外するのにあまり効果的でない可能性があるため、これ以上説明しない。これらの直接接触技術としては、溶媒抽出(液体/液体、ソックスレーなど)、完全浸漬SPME、スターバー抽出(SBSE)、Hi-Sorb、固相抽出などが挙げられる。
【0006】
試料抽出技術の目標は、以下を含むことがある。
感度の向上
精度の向上
干渉の低減
アーチファクト形成の低減
分析時間の短縮
化合物の沸点範囲の拡大(少なくとも完全な標的リストを含むまで)
極性及び非極性の両方のGC適合性化合物の回収率の向上
熱的に不安定な化合物の回収率の向上
液体及び固体試料、又はそれぞれの混合物の取扱い能力
多試料の自動化の提供
キャリーオーバーの低減
分析器の清浄度の維持
危険な溶媒を使用しないこと
【0007】
以下は、GCMS試料調製に使用又は提案されてきた多くの静的及び動的ヘッドスペース技術、並びに上記リストに関連するそれらの主な欠点である。
パージアンドトラップ(1976年) 220℃未満で沸騰する揮発性化合物に限定される。汚染、キャリーオーバー、及びマトリックス干渉を受ける。トラップ及び分析器までの経路が長い。
真空蒸留(米国EPA、1990年) 液体窒素が必要であり(高価、使用が困難である)、水蒸気除去が不十分であり、250℃未満で沸騰する化合物に限定され、自動化が困難である。市販のシステムがこれまで作成されていない。
SPME(1990年) ファイバ上の限定された相がマトリックス干渉を引き起こし、次の分析への高いキャリーオーバー(1~10%)があり、300℃未満で沸騰する化合物に限定される。
SPME ARROW(2015年) SPMEよりも10倍多い相であるが、キャリーオーバーの問題が依然として存在し、より重い化合物の回収率が低い。沸点範囲が不十分である。
VASE(2016年) 真空支援収着剤抽出(Vacuum assisted sorbent extraction)。水分除去率が低く、分析に不整合が生じ、抽出時間が長く、抽出温度が上昇するにつれて真空度が低下する。
PECE(2018年) 収着剤トラップ上に水分が凝縮することにより、多くの化合物を収着剤から除去して元の試料マトリックスに戻す「ホットリンス」が生成される。
FEVE(2019年) 完全蒸発真空抽出(Full Evaporative Vacuum Extraction)。閉鎖システムを形成しないため、100℃未満で沸騰する多くの化合物は保持されない。溶解していない固体を有する試料用ではない。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、試料調製に関し、より詳細には、拡散真空抽出を介して試料を調製するためのシステム及び方法に関する。本明細書に開示される技術は、試料から不揮発性化合物を除去し、目的の標的化合物を効果的に回収し、抽出完了後の試料抽出デバイスから水分を更に排除することを含めてGCMS注入前に可能な限り多くの水分を排除することが可能である。
【0009】
マトリックス加速真空支援収着剤抽出(Matrix-Accelerated Vacuum-Assisted Sorbent Extraction)(MA-VASE)技術が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、(例えば、液体及び/又は固体の)試料を含有する試料バイアルを、真空スリーブによって、1つ又は複数の収着剤を含む試料抽出デバイスに連結することができる。システム内を真空に引くことができ、試料バイアルの底部のゾーンA、試料バイアルのヘッドスペースのゾーンB、及び収着剤抽出デバイスの収着剤のゾーンCの3つのゾーンの温度を独立して制御することができる。例えば、ゾーンBを最も低温にすることができ、ゾーンAを最も高温にすることができる。いくつかの実施形態では、この構成において、試料の1つ又は複数の揮発性及び/又は半揮発性化合物を、真空下の拡散プロセスにおいて収着剤に移動させることができる。いくつかの実施形態では、試料は収着剤を通して引き込まれないので、試料の液体マトリックスはサンプリングプロセス中に収着剤と接触しないが、代わりに、気相及び蒸気相化合物がゾーンAで蒸発すると収着剤に到達するので、拡散的に収集される。
【0010】
本明細書に開示される技術は、GCMS分析の前に試料調製を行う際の、抽出効率及びマトリックス除去を改善することができる。本開示のいくつかの実施形態は、目的の化学物質が試料から試料抽出デバイス110へ移動するのを支援するために揮発性マトリックスを使用する。抽出中の複数の温度ゾーンは、閉鎖システム内の蒸気フラックスを生成し、次いで排除することができ、これにより、不揮発性化合物を残しながら、試料収集デバイスへの化学物質の移動を加速することができる。溶媒抽出を使用する場合や濃縮デバイスを試料マトリックスに直接曝露する場合よりも、不揮発性化学物質を効果的に除去することができる。試料から不揮発性化学物質を効果的に除去することで、GCMS分析器を清浄に保つことができ、その結果、分析器のメンテナンスの前の試料分析の数を最大にすることができる。揮発性及び半揮発性化合物を試料抽出デバイスに含まれる収着剤に抽出した後、例えば、収着剤を溶媒抽出してGCMS若しくはLCMSへ液体注入するか、又はGCMS分析器へ収着剤を直接熱脱着して分析の感度を向上することができる。この改良された試料抽出技術は、実験室で何百もの試料を無人で分析できるように自動化することができる。
【0011】
本明細書中に記載されるMA-VASEは、-50℃~約550℃で沸騰する化合物を含む試料の調製を含め、上記の技術を超える利点を有する。飲料水及び廃水分析のための米国EPA VOC法は、典型的には、約-25℃~220℃の沸点範囲をカバーするものであるため、MA-VASEは、特に高沸点化合物について、現在の非溶媒ベースのEPA法を改良したものである。現在、EPAの「新興汚染物質リスト(Emerging Pollutants List)」には600を超える化合物があり、多くの研究者が、現在のEPA法に見られる抽出方法に適していない化合物の分析方法の開発に取り組んでいる。MA-VASEは、他の技術で可能であるよりも広い範囲の化合物に対して優れた試料調製溶液を提供する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出システムを示す図である。
【
図1B】いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出システムを示す図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、試料を調製する例示的な方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、本明細書の一部を形成し、実施され得る具体的な例を例示することによって示される添付図面を参照する。他の例を使用することができ、本開示の例の範囲から逸脱することなく、構造的変更を行うことができることを理解されたい。
【0014】
本開示は、試料調製に関し、より詳細には、拡散真空抽出を介して試料を調製するためのシステム及び方法に関する。本明細書に開示される技術は、試料から不揮発性化合物を除去し、目的の標的化合物を効果的に回収し、抽出完了後の試料抽出デバイスから水分を更に排除することを含めてGCMS注入前に可能な限り多くの水分を排除することが可能である。
【0015】
マトリックス加速真空支援収着剤抽出(MA-VASE)技術が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、(例えば、液体及び/又は固体の)試料を含有する試料バイアルを、真空スリーブによって、1つ又は複数の収着剤を含む試料抽出デバイスに連結することができる。システム内を真空に引くことができ、試料バイアルの底部のゾーンA、試料バイアルのヘッドスペースのゾーンB、及び収着剤抽出デバイスの収着剤のゾーンCの3つのゾーンの温度を独立して制御することができる。例えば、ゾーンBを最も低温にすることができ、ゾーンAを最も高温にすることができる。いくつかの実施形態では、この構成において、試料の1つ又は複数の揮発性及び/又は半揮発性化合物を、真空下の拡散プロセスにおいて収着剤に移動させることができる。いくつかの実施形態では、試料は収着剤を通して引き込まれないので、試料の液体マトリックスはサンプリングプロセス中に収着剤と接触しないが、代わりに、気相及び蒸気相化合物がゾーンAで蒸発すると収着剤に到達するので、拡散的に収集される。
【0016】
本明細書に開示される技術は、GCMS分析の前に試料調製を行う際の、抽出効率及びマトリックス除去を改善することができる。本開示のいくつかの実施形態は、目的の化学物質が試料から試料抽出デバイス110へ移動するのを支援するために揮発性マトリックスを使用する。抽出中の複数の温度ゾーンは、閉鎖システム内の蒸気フラックスを生成し、次いで排除することができ、これにより、不揮発性化合物を残しながら、試料収集デバイスへの化学物質の移動を加速することができる。不揮発性化学物質は、溶媒抽出を使用する場合、又は濃縮デバイスを試料マトリックスに直接曝露する場合よりも効果的に除去することができる。試料から不揮発性化学物質を効果的に除去することで、GCMS分析器を清浄に保つことができ、その結果、分析器のメンテナンスの前の試料分析の数を最大にすることができる。揮発性及び半揮発性化合物を試料抽出デバイスに含まれる収着剤に抽出した後、例えば、収着剤を溶媒抽出してGCMS若しくはLCMSへ液体注入するか、又はGCMS分析器へ収着剤を直接熱脱着して分析の感度を向上することができる。この改良された試料抽出技術は、実験室で何百もの試料を無人で分析できるように自動化することができる。
【0017】
本明細書中に記載されるMA-VASEは、-50℃~約550℃で沸騰する化合物を含む試料の調製を含め、上記の技術を超える利点を有する。飲料水及び廃水分析のための米国EPA VOC法は、典型的には、約-25℃~220℃の沸点範囲をカバーするものであるため、MA-VASEは、特に高沸点化合物について、現在の非溶媒ベースのEPA法を改良したものである。現在、EPAの「新興汚染物質リスト(Emerging Pollutants List)」には600を超える化合物があり、多くの研究者が、現在のEPA法に見られる抽出方法に適していない化合物の分析方法の開発に取り組んでいる。MA-VASEは、他の技術で可能であるよりも広い範囲の化合物に対して優れた試料調製溶液を提供する可能性がある。
【0018】
図1A~
図1Bは、いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出システム100及び130を示す。いくつかの実施形態では、試料抽出システム100及び130は、(例えば、液体又は固体の)試料102を含有する1つ又は複数の試料バイアル104と、1つ又は複数の試料抽出デバイス110と、真空スリーブ106とを含むことができる。いくつかの実施形態では、試料抽出デバイス110は、1つ又は複数の収着剤112a及び112bと、複数の外部シール114a~cと、ポート115と、弁116とを含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、
図1Aに示されるシステム100は、各々が試料バイアル104に連結された10個の試料抽出デバイス110を含むことができる。例えば、
図1Aに示す図は、2組の試料抽出デバイス110-試料バイアル104の5列のうちの1列である。いくつかの実施形態では、10個の試料の抽出を同時に行うことができる(例えば、手動、完全に自動、又は部分的に自動で)。
【0020】
いくつかの実施形態では、システム130を使用して、一度に1つの試料を抽出することができる。いくつかの実施形態では、システム130は、複数(例えば、2つ)の試料抽出デバイス110を交互に再使用して、試料抽出及び分析を連続的に行うために使用することができる。例えば、試料抽出は、試料分析と同じ時間行うことができるため、ある試料を第1の試料抽出デバイス110内に抽出することができ、それと同時に別の試料を第2の試料抽出デバイス110から脱着して分析することができる。そして、この例では、第2の試料抽出デバイス110を再使用して別の試料を抽出しながら、第1の試料抽出デバイス110で抽出された試料を分析することができる。いくつかの実施形態では、同じ試料抽出デバイス110を用いてこのプロセスを数百回又は数千(thousands)回以上繰り返すことができる。このプロセスは、必要に応じて、完全に又は部分的に自動化することができる(例えば、オートサンプラ又は他のロボットを用いて)。システム100と共通の構成要素に加えて、システム130は、試料抽出デバイス110交換用の真空ポート132、真空シール134、及び摺動カバー136を含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、試料抽出デバイス110は単一の収着剤を含む。いくつかの実施形態では、試料抽出デバイス110は、2つ以上の収着剤112a及び112bを含み、試料の1つ又は複数の化合物が試料抽出デバイス110に入る試料抽出デバイス110の開口部に最も近い収着剤は、試料の1つ又は複数の化合物に対して最も弱い親和性を有し、試料抽出デバイス110の開口部からより遠くに配置された収着剤は、より強い化学親和性を有する。例えば、収着剤112aは、試料の1つ又は複数の化合物に対して収着剤112bよりも低い化学親和力を有することができる。このようにして、より重い化合物は、試料抽出デバイス110の開口部により近い、より弱い収着剤(例えば1つ又は複数の試料化合物に対する化学親和性が低下した収着剤)に保持することができ、吸着するためにより大きな表面積又は他のより強い吸着剤が必要な場合のある、より軽い化合物は、より弱い収着剤を通過して、より強い収着剤によって収集することができる。この手法は、熱脱着時に全ての化合物を放出するのに必要な温度を低下させることができ、これにより、熱的に不安定な化合物の反応を低減することができ、収着剤サンプリングデバイスの寿命を改善することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、試料抽出デバイス110は、試料抽出デバイス106の外面が試料容器104のヘッドスペースの外側に(例えば、実質的に)留まることができるように、試料容器104に連結することができる。このようにして、例えば、試料抽出デバイス110の外面は、試料の1つ又は複数の化合物によって汚染されていない状態を維持することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、抽出する試料102は、試料容器104(例えば、試料バイアル)内に配置することができ、試料抽出デバイス110は、試料容器104の上部に配置することができる。このようにシステム100又は130を組み立てることにより、例えば、試料容器104、真空スリーブ106、及び試料抽出デバイス110の間に真空気密シールを形成することができる。次いで、試料抽出デバイス110の弁116若しくはポート115又は他の手段のいずれかを通じて、(例えば真空源を使用して)システムに真空を適用することができる。いくつかの実施形態では、真空源は、真空ポンプ、又は閉鎖システムから気体を除去するその他のシステムである。いくつかの実施形態では、真空引きすることは、収着剤112a~bを通して液体又は固体マトリックスを「引っ張る」のではなく、代わりに、試料容器104のヘッドスペースから気体を排出して、ヘッドスペース化合物の拡散速度を加速すると同時に、以下でより詳細に説明する「マトリックスからヘッドスペースへの」蒸気輸送機構の生成も可能にする。この真空は、実質的なものであってもよく、例えば、抽出システムの最も低温部分でのマトリックスの揮発性画分の蒸気圧のみに限定されてもよい(水の場合、25℃で大気圧の約1/30番)。いくつかの実施形態において、ゾーンBの温度が、最終的にシステムの真空を制御する。いくつかの実施形態では、試料抽出デバイス110及び試料容器104を(例えば、真空スリーブ106を用いて)密閉することにより、試料抽出システム100又は130内に、最初のヘッドスペース化合物(例えば、空気、窒素、他の固定された気体)が排気された後は質量がシステムに出入りすることができない閉鎖システムを作成することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、抽出中に3つの温度ゾーンが維持される。これらは、例えば、
図1A~
図1BにゾーンA、B、及びCとして列挙されている。いくつかの実施形態では、システムは、隣接するゾーンの温度に対する各ヒータの直接的影響を大幅に防止又は低減するために、温度ゾーンの間に断熱材122a及び122bを含むことができる。ヒータ124a~cを使用して、各ゾーンの温度を維持することができ、何らかの冷却制御(例えば、ヒートシンク126、ファン、又は電子冷却システム)を使用して、後述するように、マトリックス凝縮によって生成された熱などのゾーンB内の熱を除去することができる。いくつかの実施形態では、例えば、水蒸気がゾーンBで凝縮するときに発生する熱などによって、熱がゾーンAからゾーンBに伝わることがある。したがって、いくつかの実施形態におけるゾーンBの効果的な冷却は、ゾーンAとゾーンBとの間の温度差を制御するために重要である場合があり、これにより、試料の蒸気フラックスを増加又は最大化し、試料の抽出速度を増加又は最大化することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、互いに異なる温度を有する温度ゾーンを生成することにより、急速な蒸気及び凝縮物の形成を引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、蒸気及び凝縮物がシステム100又は130の真空下で形成され得る速度は、例えば、真空下では気相分子の移動度がより高いことに起因して、大気圧で生じ得る速度よりもはるかに速い可能性がある。例えば、システム100又は130内に引かれた最初の真空は、以下に詳述されるように、比較的低温での正の蒸気フラックスの生成を可能にすることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、ゾーンAは、抽出されようとする(例えば、液体及び/又は固体の)試料を含有することができるが、試料の一部は、ゾーンB内に延在してもよく、抽出プロセスが進行するにつれて、試料の1つ又は複数の(例えば、揮発性、半揮発性)化合物は、ゾーンC内の収着剤112a~bに移動する。A内の液体試料を加熱すると、液体試料が膨張し(密度が低下し)、上昇し、例えば混合プロセスを生じさせることができる(例えば、機械的、磁気的などのかき混ぜ装置又は攪拌機を使用せずに)。液体(例えば、又は固体)試料の温度が上昇するにつれて、その温度は、液体試料の沸点(例えば、又は固体試料内の液体含有物の沸点、又は固体自体の沸点)に近づくことができ、一般に、例えば、試料バイアル104内の蒸気圧など、(例えば、液体又は固体)試料102の上方の蒸気圧が上昇し得る。本明細書で使用される場合、「沸点」という用語は、試料の揮発性液体画分の蒸気圧が試料容器のヘッドスペースの蒸気圧と等しくなる温度であると理解され、前述のように、この温度は、大気圧での揮発性マトリックスの標準沸点温度より十分に低くなることができる。例えば、水は、760Torr(標準大気圧)のヘッドスペース圧力では100℃で沸騰するのに対し、18Torrのヘッドスペース圧力では25℃で沸騰することができる。
【0027】
ゾーンA内の熱が液体を(例えば部分的に)気化させると、大気圧での化合物の沸点よりもはるかに低い温度/圧力の組合せであっても、試料内の化学物質を同様に気相に送達することができる。システム100又は130は閉鎖システムであるので、システム100又は130全体が単一の温度にされた場合、システム100又は130内の圧力は、その特定の温度に対して平衡が達成されるまで上昇する可能性があり、その後、例えば、気相への液体の正味の移動はそれ以上起こらない。この例では、結果として生じる状態は、システム100又は130全体にわたってマトリックスの凝縮を引き起こす可能性が高い。しかしながら、これは、例えば、3つの温度ゾーンを有するシステム100又は130を動作させる場合には当てはまらない。いくつかの実施形態では、システム100又は130の3つの温度ゾーンは、試料104化合物の連続的な蒸発及び凝縮を引き起こし、システム内の試料104の混合効果を生じさせることができる。ゾーンAを下から加熱すると、揮発性マトリックスの温度を上昇させることができ、それによって、揮発性マトリックスの密度を減少させ、試料マトリックス内で揮発性マトリックスを上昇させて、混合プロセスを実行し、目的の化合物が、例えば、気相輸送のために表面に連続的に提示されることを確実にすることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、ゾーンBは、(例えば、断熱材122aによって)ゾーンAから断熱されることができ、ゾーンAよりも低温にすることができる。したがって、蒸気がゾーンB内に膨張するとすぐに、エネルギーは、より低温のゾーンでの衝突(真空下でのより速い拡散速度に起因してより速く発生する)によって蒸気相分子から引き離されることができ、化合物は、例えば、ゾーンB内の試料容器104の表面上のエアロゾル又は液滴のいずれかとして、再び液体に合体することができる。気体を液体に戻す変換によって、システムが抽出プロセス中に閉鎖システムであるので、正味流量を(例えば、実質的に)0に減らすことができ、これにより、エアロゾルが、例えば、ゾーンCに向かって移動し続けるのではなく、ゾーンA及びBに「定着」することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、いったん気相中に解放されると、一次マトリックス化合物自体(例えば、水)ほどマトリックス中に高度に溶解しない化学物質は、エアロゾル及び液滴に凝縮するのとは対照的に、気相中に留まる傾向があり得る。この傾向により、拡散し続けることができるので、例えば、それらが(例えば、拡散的に)収集されることになるゾーンC内の収着剤112a及び112bのうちの1つ又は複数へ達することができる。いくつかの実施形態では、ゾーンCは、ゾーンBの温度よりもわずかに高い温度に保持することができ、これにより、ゾーンCにおける望ましくない揮発性マトリックス化合物(例えば、水、アルコールなど)の収集を防止又は低減することができる。したがって、いくつかの実施形態では、試料抽出プロセス中、収着剤112a~b上に液体マトリックスは収集されない。例えば、水マトリックスの場合、ゾーンCのより高い温度により、相対湿度を100%未満にすることができる。更に、いくつかの実施形態では、一次マトリックス化合物(例えば、典型的かつ主に水性又は水/アルコール混合物)を吸収又は吸着しない1つ又は複数の収着剤112a~bを選択することができる。例えば、ゾーンCの温度がゾーンBの温度よりも高いために、ゾーンC内の各分子のエネルギーレベルをゾーンB内の化合物のエネルギーレベルよりも高くすることができるので、ゾーンB内のマトリックスの再凝縮によって生成されたエアロゾルが偶然にゾーンCに到達したとしても、ゾーンCの温度によりエアロゾルはゾーンCから「蒸発」し、ゾーンBに再分布することができる。
【0030】
例えば、ゾーンBにおけるマトリックスの凝縮の間、蒸気が凝縮するにつれて熱が放出されることがあり(例えば、気化熱)、ゾーンA及びCよりも低く、設定点温度に可能な限り近い温度を維持するために、ゾーンBから熱を除去しなければならない。いくつかの実施形態では、ゾーンBが十分な熱を受動的に放出するようにゾーンAの温度を低下させる(例えば、それによって、ゾーンBによって必要とされる必要な凝縮及び熱伝達率を低下させる)ことによって、又は熱伝達フィンを有するヒートシンク126などの熱伝達及び/若しくは熱除去機構を、空気ファンを使用することによって、若しくはゾーンBの周りに再循環冷却液を使用することによって提供することによって、ゾーンB内の温度を維持することができる。一般に、還流プロセスが速いほど(例えば、ゾーンBの温度に対してゾーンAの温度が高いほど)、必要となるゾーンBからの熱除去量は多くなるが、例えば、より速い還流はまた、蒸気フラックスを増加させ、目的の全ての化合物を実質的に回収するのに必要な抽出時間を短縮することができる。
【0031】
例えば、液体が蒸発すると、液体/蒸気境界には、組成物が0でない距離にわたって100%液相から100%気相へと変わる遷移層が存在する。したがって、例えば、遷移ゾーン内のある点においては、マトリックスは90%の液体及び10%の気体であり、次に80%の液体及び20%の気体など、100%気相が達成される点まで続く。マクロスケールではこの距離は比較的小さいかもしれないが、分子スケールではこの距離は小さくない可能性がある。本明細書に開示されるMA-VASEプロセスでは、試料容器104のヘッドスペースに向かう気体の正の流れが存在することができるので、標準的な機械的混合を使用するときにヘッドスペースに入ることに抵抗がある可能性のある、より重い化合物は、この相転移プロセス及びマトリックスの強制的な流れに巻き込まれることによってヘッドスペースに「押し込まれる」ことができる。蒸気がより低温のゾーンB内で再凝縮するとき、同様の分子は互いに優先的に凝縮することができ、標的化合物は、収着剤112a~bへと続くことができる気相に留まる可能性がより高くなり得る。エアロゾルは、試料マトリックス(例えば、ゾーンA)内に直接沈降して戻るか、又は凝縮して重力の影響下で「排出」されて試料容器104の底部の試料102内に戻ることができる。ゾーンAに戻ると、化合物の蒸発及び凝縮を連続的に繰り返して、抽出プロセスを完了することができる。この蒸発/エアロゾル化手法により、試料の表面積を増加させることができる(例えば、物理的なかき混ぜ(stirring)又は攪拌(agitation)装置を使用せずに)。試料を等温で混合する他のシステム/技術は、試料抽出デバイス110の方向の蒸気フラックスを利用せず、したがって、蒸気フラックスがないために、より遅い抽出速度となることがある。更に、真空下ではなく大気圧下で進行する技術でも、より遅い抽出速度となることがある。
【0032】
本明細書で提示されるMA-VASE技術は、他の抽出技術に伴ういくつかの問題を解決することができる。例えば、収着剤112a~bは、トランスファーラインの使用を排除するのに試料102に十分に近接して配置され得るが、凝縮したマトリックスとの接触を回避するのに十分に離れて配置され得る。トランスファーラインを通して試料をパージする技術では、トランスファーラインの当該使用により、トランスファーラインの内表面上で化合物反応を引き起こす可能性があり、非常に重い(しかし、部分的に揮発性の)化合物がその表面に永久的に付着する可能性があり、これにより将来の抽出事象において標的化合物を保持する可能性がある膜が生成され、それによって、化合物の回収を実行ごとに一貫性のないものとなる可能性がある。実行ごと及び長期間(何百もの試料)にわたる方法の一貫性は重要であるが、ほとんどの抽出技術、特に、例えば試料と抽出デバイスとの間でトランスファーラインを使用する抽出技術では達成されていない。MA-VASEでは、例えば、収着剤112a~bを試料容器104の上部に配置することによってトランスファーラインを排除することができる。試料容器は、一度だけ使用され、その後廃棄されてもよく、抽出システムの一部が複数回使用される他の抽出システムで見られるような、より高濃度の試料の実行によるキャリーオーバー(汚染)の可能性を排除している。
【0033】
いくつかの実施形態では、ゾーンAからの動的流れ及びゾーンB内の静的拡散流れ(蒸気の大部分が再凝縮して蒸気の流れを排除するため)を生成することにより、少なくとも試料の99%超(又は微量成分分析については試料の99.99+%)に対して、ゾーンC内の正味の流れが0であるため、実質的に収着剤へのチャネリングを伴わない拡散プロセスにおいて、標的化合物がゾーンC内の収着剤112a~b上に収集することができる。1つ又は複数の化合物が、拡散移動技術を使用する場合よりも更に収着剤に押し込まれるチャネリングは、動的ヘッドスペースシステム(例えば、パージ及びトラップ、その他)で問題となる場合がある。チャネリングの低減により、試料抽出デバイス110の熱脱離中の回復を改善し、収着剤112a~bの洗浄に必要なベークアウト時間(及びそれによって収着剤自体への熱応力の量)を低減し、1つの実行から次の実行への1つ又は複数の化合物のキャリーオーバーを低減することができる。動的ヘッドスペース技術は、典型的には0.1~1%の範囲(化合物に依存)のキャリーオーバーを有し得るが、MA-VASEなどの静的拡散サンプリング技術は、0.01%をはるかに下回るレベルのキャリーオーバーを示し得る(例えば、チャネリングの減少に起因)。
【0034】
MA-VASEはまた、機械的な混合の必要性を排除することができる。例えば、多くのSPMEシステムでは、より重い標的化合物の回収率を改善するために高速攪拌機を使用している。機械的混合は、境界層を連続的にリフレッシュして、ヘッドスペースへの伝達速度を高めることができる。比較的遅い攪拌速度でも試料の上面をリフレッシュすることができるが、機械的混合を使用するほとんどのSPME法は、混合が高速である場合に回収率の改善を示し、例えば、高いほど良好である。回収率の増加は、低速ではなく高速で混合した場合に、メニスカスのサイズを増加させる効果よりも大きい。実際には、高速で混合すると、液体マトリックスがヘッドスペース内に「飛び散る」又は「投げ込まれる」可能性があり、試料マトリックス自体の完全な液滴がSPMEファイバに送達される可能性があり、気相分子のみをファイバに到達させることができる望ましい「清浄な」ヘッドスペース手法とは異なっている。このエアロゾルの移動により、低蒸気圧の標的化合物の回収率を増加させることができるが、その代償として、塩、タンパク質、炭水化物などを含む不揮発性化合物もファイバに移動するため、ファイバの寿命が短くなる可能性があり、分析中にアーチファクトの生成をもたらす可能性がある。MA-VASEにおける、液体(例えば、又は固体)試料102の、試料102の沸点未満の温度での蒸発は、例えば、試料102から直接エアロゾルをほとんど又は全く発生させないことができる。いくつかの実施形態では、MA-VASE手法で生成される唯一のエアロゾルは、凝縮ゾーンBで形成されるエアロゾルである。これらの凝縮エアロゾルは、例えば、不揮発性化合物が気化しないため、揮発性及び半揮発性化合物のみを含むことができる。マトリックスの加速(蒸気フラックス)は、ゾーンA及びBの温度を修正することによって調整することができ、これにより、気相に入らない可能性があるより重い非GC適合性化合物を排除しながら、目的の化合物の回収を増加又は最大化することができる。したがって、MA-VASEは、試料容器104内の試料の過剰な飛散を引き起こす可能性がある機械的攪拌を使用する代わりに、標的化合物を気相に推進するためにマトリックス自体のフラックスを引き起こし、次いで排除することによって、揮発性及び半揮発性化合物を試料102から収着剤112a~bに移動させる優れた方法である可能性がある。
【0035】
抽出中、ゾーンAは、典型的にはゾーンBの温度よりも高いある一定の温度に保つか、又は周期的なプロセスで上昇及び低下させることができる。いくつかの実施形態では、ゾーンA内の温度が周期的に変動しても、ゾーンAはゾーンBよりも高い温度のままであり得る。いくつかの実施形態では、ゾーンAの温度は、ゾーンBの温度よりも高い温度とゾーンBの温度よりも低い温度との間で周期的に変動してもよい。ゾーンAの温度を周期的に修正することにより、抽出プロセス中にゾーンAを一定の温度に維持する場合に比べ、蒸気フラックスの密度を増加させることができる。温度の上昇速度は、異なる用途及び試料タイプに対して評価することができ、試料抽出デバイス110へのマトリックス移動量を最小にしながらも最も速く抽出を達成する、ゾーンAにおける温度変化の速度及び量を決定することができる。例えば、試料抽出デバイス110に移送される水の量を低減又は最小化する方法を開発することができる。
【0036】
場合によっては、抽出プロセス中の1回又は複数回で、ゾーンAをゾーンB又はCよりも低い温度にしてもよく、ゾーンBをゾーンA及びCよりも高い温度に加熱してもよい。このような温度により、ゾーンB内の試料容器104の壁に付着したより重い目的の化合物を放出することができ、ゾーンAが再び加熱されると再揮発して収着剤112a~bに入ることができる。いくつかの実施形態において、より重い目的の化合物は、代わりにゾーンA及びCの両方に分配されてもよい。これらの状況では、ゾーンAからゾーンCへの抽出が継続できるように、ゾーンAを3つのゾーンの最高温度まで再加熱し、ゾーンBの温度をゾーンA及びCの両方よりも低い温度に戻すことによって、ゾーンAに戻った化合物をゾーンCに移動させることができる。このようにして、例えば、重いGC適合性化合物の回収率を増加又は最大化させることができる。
【0037】
いくつかの状況において、ゾーンBで収集された重い化合物を放出するために、ゾーンBの温度をゾーンAの温度まで一時的に(例えば、周期的に)上昇させ、一方、ゾーンCの温度をゾーンA及びBの温度よりもわずかに高くすることができる。この技術は、ゾーンBの上昇した温度でのほぼ100%の湿度条件を用いて、ゾーンBの試料容器の内壁から最も重い化合物を放出してゾーンCに再び拡散する機会を有するのを助けることができることを確実にすることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、熱的に不安定な可能性がある試料を処理する場合、ゾーンBは、抽出プロセス中にゾーンAが(例えば、実質的に)室温(例えば、25~40℃)に留まることができるように、周囲温度未満に冷却されてもよい。いくつかの実施形態において、天然物の試料を調製する場合、ゾーンAの温度は25~40℃とすることができ、天然物を「調理」する可能性のある40℃を超える温度は避ける。ゾーンAがこの範囲の温度である場合、例えば、所望のフラックスを達成するために、ゾーンBは0~10℃の範囲の温度とすることができ、ゾーンCは30℃以上の温度とすることができる。いくつかの試料について、天然産物中の不揮発性画分は、40℃程度の低い温度で「調理」され、アーチファクトを生じる可能性があるが、揮発性画分はアーチファクトを生じることなく、ゾーンCでより高い温度にさらされ得る。いくつかの実施形態では、ゾーンCの温度はゾーンA未満である。いくつかの実施形態では、ゾーンCの温度はゾーンA以上である。
【0039】
いくつかの実施形態では、(例えば、固体)試料の1つ又は複数の揮発性及び/又は半揮発性化合物の抽出前に、揮発性マトリックス(例えば、水及び/又はアルコール)を試料に添加することができる。いくつかの実施形態では、この揮発性マトリックスは、(例えば、固体)試料の揮発性及び/又は半揮発性化合物が気相に移動するのを助けることができる。例えば、土壌試料は、水及び/又はアルコールを添加し、続いてMA-VASE抽出した場合に、揮発性及び半揮発性含有物の放出を可能にし得る。この場合、ゾーンA、B、及びCの初期温度は全て、抽出プロセスの残りの時間の温度よりも高くすることができ、液体マトリックス中の固体試料を十分高温に加熱して、例えば固体試料マトリックス内に他の方法で固定されている目的の化合物の抽出を行うことができる。いくつかの実施形態では、短時間の固体から液体への抽出の後、ゾーンA、B、及びCの温度を通常のMA-VASE抽出温度まで低下させることができ、これにより、確実にゾーンC内の収着剤112a~bの温度を、目的の化合物の潜在的に広い沸点範囲に対してより高い親和性を達成するのに十分に低温にできる。予備抽出の間、例えばゾーンBはゾーンA及びCよりも低い温度である。
【0040】
抽出期間(マトリックス及び測定する化合物に応じて5分~24時間であるが、典型的には0.2~4時間)の後、ゾーンCの温度をゾーンA及びBの温度よりわずかに高く維持して、冷却中のゾーンCにおけるマトリックスの凝縮を防止しながら、全てのゾーンを冷却することができる。この間、いくつかの実施形態では、システムがまだ真空下にあるため、ゾーンCの試料抽出デバイス110から揮発性マトリックスを更に除去することができ、任意の水又は揮発性マトリックスがシステムのより低温部分(例えば、ゾーンA及びB)へ迅速に達することができ、試料抽出デバイス110上又はその内部に残る揮発性マトリックスの量を最小限に抑えるという最終的な目標を達成することができる。抽出プロセスが完了すると、試料抽出デバイス110をアセンブリ(例えば、試料容器104、真空スリーブ106)から取り外すことができ、多くの異なる熱脱着システムのうちの1つを使用して、GCMS内に熱脱着することができる。
【0041】
図2は、本開示のいくつかの実施形態による、試料を調製する例示的な方法200を示す図である。いくつかの実施形態では、
図1A~
図1Bを参照して上述したシステム100又は130を使用して、方法200を実行することができる。いくつかの実施形態では、方法200の1つ又は複数のステップは、方法を実行するための命令を(例えば、非一時的コンピュータ可読記憶媒体に)格納する1つ又は複数のプロセッサによって自動化することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、試料容器104、試料抽出デバイス110、及び真空スリーブ106をともに接続して、閉鎖システムを形成することができる。試料容器104は、試料容器104が試料抽出デバイス110及び真空スリーブ106に接続されるとき、(例えば、液体又は固体)試料を収容することができる。いくつかの実施形態では、試料容器104、試料抽出デバイス110、及び真空スリーブ106を接続することにより、システム100又は130内に真空気密シールを形成することができる。いくつかの実施形態では、試料容器104、試料抽出デバイス110、及び真空スリーブ106は、
図1A~
図1Bに示すように3ゾーンヒータ内に配置することができ、その結果、ゾーンA、B、及びCの温度は、互いに(例えば、実質的に)独立して制御することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、システム100又は130に真空204を引くことができる。いくつかの実施形態では、真空源、例えば閉鎖システムから気体を除去するように構成された真空源などを使用して真空を引くことができる。例えば、真空は、試料抽出デバイス110の上部弁116又は側部ポート115を通して引くことができる。いくつかの実施形態では、異なる方法で真空を引くことができる。いくつかの実施形態では、試料容器104と、試料抽出デバイス110と、真空スリーブ106との間の真空気密シールにより、試料調製中にシステム内の真空を維持することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、プロセス200中、システム100又は130の複数のゾーンの温度は、1つ又は複数のヒータ(例えば、ヒータ124a~c)、ヒートシンク(例えば、ヒートシンク126)、及び/又は他の加熱及び/又は冷却システムを用いて、互いに(例えば、実質的に)独立して制御206することができる。例えば、ゾーンBは、ゾーンA及びゾーンCの温度よりも低い温度で保持することができ、ゾーンCは、ゾーンAよりも低い温度とすることができる。いくつかの実施形態では、断熱材122a及び122b並びにヒートシンク126は、ゾーンA、B、及びCの温度を互いに断熱するのを助けることができる。いくつかの実施形態では、プロセス200の間、ゾーンAの温度は一定であってもよく、又は周期的に変化してもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、プロセス200は、収着剤112a~b中に試料の1つ又は複数の化合物を収集すること208ができる。例えば、(例えば、液体、固体)試料102の1つ又は複数の揮発性又は半揮発性化合物は、ゾーンAからゾーンBに蒸発することができ、いったん蒸気相になると、収着剤112a~bによって収集することができる。いくつかの実施形態では、収着剤112a~bは、マトリックスの化合物を排除するように選択することができる。例えば、疎水性収着剤を使用して、水試料から水を排除することができる。更に、ゾーンBの温度はゾーンCの温度より低くすることができるので、収着剤112a~bに到達するマトリックスの1つ又は複数の化合物は、収着剤112a~bから蒸発し、試料容器104内に戻ることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、プロセス200は、ゾーンA及びBをゾーンC内の温度よりも(例えば、わずかに)低い温度に冷却することなどにより、試料収集デバイス106(例えば、その中に含まれる収着剤112a~b)を脱水すること210を含むことができる。このように試料収集デバイス106を脱水することにより、収着剤112a~bからマトリックスを除去することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、プロセス200は、収着剤112a~bによって収集された化合物に対して化学分析(例えば、GC又はGC-MSによる)を行うこと212を含むことができる。いくつかの実施形態では、分析の前に、試料抽出デバイス110の収着剤112a~bに保持された1つ又は複数の化合物を、収着剤112a~bから熱脱着又は抽出(例えば、溶媒を使用して)することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される1つ又は複数の技術は、(例えば、完全に、部分的に)自動化することができる。例えば、複数の試料容器104、試料抽出デバイス110、及び真空スリーブ106のアセンブリを、ヒータ124a、124b、及び124c、ヒートシンク126、並びに断熱材122a及び122bが一体化された試料トレイ内に配置することができ、複数の試料の調製を同時に行うことができる。いくつかの実施形態では、オートサンプラが真空ポンプを操作して全てのアセンブリを真空に引くことができ、コンピュータを介してゾーンA、B、及びCの温度を制御して、複数の試料の自動調製を一度に行うことができる。いくつかの実施形態では、オートサンプラは次に、試料抽出デバイス110を(例えば、1つずつ)、収着剤112a~bによって保持された化合物を脱着又は抽出して次に分析するためのシステムに移送することができる。したがって、いくつかの実施形態では、試料調製プロセスを制御するコンピュータは、本明細書に開示される1つ又は複数のプロセスの1つ又は複数のステップを実行するための命令を(例えば、非一時的コンピュータ可読媒体を介して)格納するメモリを含むことができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、試料の分析が完了した後、試料容器104、真空スリーブ106、及び試料抽出デバイス110を、1つ又は複数の他の方法に従ってベークアウト又は洗浄し、再使用することができる。
【0050】
本明細書に開示される技術は、GCMS分析前の試料調製の速度及び品質を改善するのに使用することができる。GCMSを使用する、以下を含むほとんど全ての分野で、これらの技術の恩恵を受けることができる。
石油化学 (プラスチック、合成物質)
環境 (飲料水、排水、土壌、汚泥)
臨床 (血漿、尿、呼気凝縮液、リンパ液、組織分析、メタボロミクス)
食品及び飲料 (フレーバー、オフフレーバー化合物、汚染物質、規制化合物)
アルコール飲料 (ビール、ワイン、蒸留酒)
消費者製品 (香料、臭気、規制汚染物質)
科学捜査 (乱用薬物、促進薬)
軍事 (化学兵器剤)
【0051】
本開示のいくつかの実施形態は、手動又は多試料の自動分析の両方をサポートする。他の分析方法と同様に、抽出前に回収化合物を各試料に添加して、試料調製が適切に行われたことを検証することができる。
【0052】
したがって、上記によれば、本開示のいくつかの実施形態は、真空下で試料を調製するための閉鎖システムであって、システムが、試料を保持するように構成された試料容器と、収着剤と、第1の温度を試料容器の第1の部分に適用するように構成された第1のヒータと、第1の温度よりも低い第2の温度を試料容器の第2の部分へ適用するように構成された第2のヒータと、第2の温度よりも高い第3の温度を収着剤に適用するように構成された第3のヒータとを備える、システムを対象とする。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、システムは、試料容器と収着剤を収容する試料抽出デバイスとの間に真空気密シールを形成するように構成された真空スリーブを更に備える。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、試料抽出デバイスは、システム内で真空が引かれている間、真空源に連結されるように構成されたポート又はシールを含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、収着剤は、試料抽出デバイス内に配置され、試料抽出デバイスは、試料の1つ又は複数の化合物の分析のためにシステムから取り外されるように構成されている。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、システムは、第2の温度を維持するように構成された1つ又は複数のヒートシンク、ファン、又は周囲温度未満冷却デバイスを更に含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、第1のヒータは更に、第1の温度を周期的に修正するように構成される。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、システムは、試料容器と収着剤との間にトランスファーラインを含まない。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、システムは物理的かき混ぜ装置を含まない。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、収着剤は、試料の1つ又は複数の化合物を収集し、試料のマトリックスをはじくように構成されている。
【0053】
いくつかの実施形態は、真空下の閉鎖システム内で試料を調製する方法であって、システムであって、システムが、試料容器と、収着剤と、第1のヒータと、第2のヒータと、第3のヒータとを備える、システムにおいて、試料が試料容器内に配置されている間に、第1のヒータを用いて、第1の温度を試料容器の第1の部分に適用することと、第2の加熱器を用いて、第1の温度よりも低い第2の温度を試料容器の第2の部分に適用することと、第3のヒータを用いて、第2の温度よりも高い第3の温度を収着剤に適用することとを含む方法を対象とする。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、本方法は、真空ポンプを介してシステム内の真空を引くことと、真空に引いた後、システム内の真空を維持することであって、システム内で真空が維持されている間に、第1の温度、第2の温度、及び第3の温度が適用される、維持することとを更に含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、収着剤を含む試料抽出デバイスのポート又はシールを通じて真空が引かれる。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、本方法は、1つ又は複数のヒートシンク、ファン、又は周囲温度未満冷却デバイスを介して、第2の温度を維持することを更に含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、本方法は、第1の温度を第1のヒータを用いて周期的に修正することを更に含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、本方法は、収着剤を介して試料の1つ又は複数の化合物を収集することと、収着剤を介して試料のマトリックスをはじくこととを更に含む。追加として又は代替として、いくつかの実施形態では、本方法は、試料の1つ又は複数の化合物を収集した後に、収着剤を含む試料抽出デバイスをシステムから取り除くことと、試料の1つ又は複数の化合物を分析することとを更に含む。
【0054】
添付の図面を参照して実施例を完全に説明してきたが、様々な変更及び修正が当業者には明らかとなることに留意されたい。かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施例の範囲内に含まれるものとして理解されるべきである。
【国際調査報告】