(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】カソード材料
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230831BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230831BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/36 C
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023510479
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 GB2021052094
(87)【国際公開番号】W WO2022034330
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】マリン フロリド,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ハマー,エバ-マリア
(72)【発明者】
【氏名】ポプリ,スリニバサラオ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA29
5H050CB12
5H050FA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、リチウム二次電池のカソード材料として有用な改良された粒子状リチウムニッケル酸化物材料、及びその製造方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件を満たす粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料であって、
(i) 前記リチウムニッケル複合酸化物が、式1の組成を有し、
Li
aNi
xCo
yMg
zO
2+b 式1
式中、
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0<z≦0.2
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1であり、
(ii) 前記リチウムニッケル複合酸化物材料は、D50が2μm以上7μm以下の範囲内となる体積ベースの粒子サイズ分布を有し、
(iii) 前記リチウムニッケル複合酸化物材料の平均一次粒子サイズが、0.5μm以上4μm以下の範囲内である、前記粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項2】
0.85≦x<1、0<y≦0.15、及び0<z≦0.10である、請求項1に記載の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項3】
前記D50が2μm以上5μm以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項4】
前記平均一次粒子サイズが0.5μm以上2μm以下の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物材料のc軸の長さが、粉末X線回折パターンのリートベルト分析によって測定されて14.190オングストローム未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項6】
前記粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料が、D90<10μmによって特徴付けられる粒子サイズ分布を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムニッケル複合酸化物材料の調製プロセスであって、前記プロセスが、
(i) 前記D50が1μm以上7μm以下の範囲内となる体積ベースの粒子サイズ分布を有する前記リチウムニッケル複合酸化物の前駆体を提供するステップ、
(ii) 前記前駆体を少なくとも1つのリチウム含有化合物と混合するステップ、
(iii) 前記リチウムニッケル複合酸化物材料が形成されるように前記混合物を焼成するステップ
を含み、前記焼成が650℃以上725℃以下の範囲の温度に2~8時間加熱し、その後、775℃以上875℃以下の範囲内の温度に加熱する、前記調製プロセス。
【請求項8】
前記リチウム含有化合物が水酸化リチウムである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記前駆体がニッケル金属水酸化物である、請求項7または8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記前駆体が、複数の結晶粒を含む二次粒子の形態である、請求項7~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記焼成ステップを、少なくとも90体積%の酸素を含む雰囲気下で実施する、請求項7~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記混合物を、775℃以上875℃以下の範囲内の温度に4~20時間、好ましくは4~12時間加熱する、請求項7~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記焼成が、650℃~725℃に加熱するステップの前に、400℃以上500℃以下の範囲内の温度で1~4時間加熱するステップを含む、請求項7~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記プロセスが、前記リチウムニッケル複合酸化物をコーティングするステップをさらに含む、請求項7~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記プロセスが、好ましくはミリング後の前記リチウムニッケル複合酸化物のD90が10μm未満となるように、前記リチウムニッケル複合酸化物をミリングするステップをさらに含む、請求項7~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記プロセスが、前記リチウムニッケル複合酸化物材料を含む電極を形成するステップをさらに含む、請求項7~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記プロセスが、前記リチウムニッケル複合酸化物材料を含む前記電極を含む電気化学セルを作製することをさらに含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項7~15のいずれか1項に記載のプロセスによって得られるか又は得ることができるリチウムニッケル複合酸化化合物。
【請求項19】
(i) 式1の組成を有し、0.5μm以上4μm以下の範囲内の平均一次粒子サイズを有する第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物と、
(ii) 粒界によって分離された複数の結晶粒を含む二次粒子の形態の第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む、正極活物質。
【請求項20】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料が、式3の組成を有し、
Li
a3Ni
x3Co
y3A
z3O
2+b3 式3
式中、
Aが、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2
0.5≦x3<1
0≦y3≦0.5
0≦z3≦0.2
-0.2≦b3≦0.2
x3+y3+z3=1である、請求項19に記載の正極活物質。
【請求項21】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記粒子が表面層を含み、前記表面層が、前記粒子のコアに存在するよりも高濃度のコバルト及び/またはアルミニウムを含む、請求項19または請求項20に記載の正極活物質。
【請求項22】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記粒界におけるコバルトの濃度が、前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記結晶粒におけるコバルトの濃度よりも大きい、請求項19~21のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項23】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記粒界におけるアルミニウムの濃度が、前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記結晶粒におけるアルミニウムの濃度よりも大きい、請求項19~22のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項24】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、D50が5μm以上20μm以下の範囲内となる体積ベースの粒子サイズ分布を有する、請求項19~23のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項25】
前記第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料が、請求項1~6のいずれか1項に記載の材料である、請求項19~24のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項26】
前記第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料が、前記組成物の10~40重量%を構成する、請求項19~25のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項27】
前記第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の前記結晶粒のサイズが250nm未満である、請求項19~26のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項28】
電極の形成方法であって、
(i) (a)式1の組成を有し、0.5μm以上4μm以下の範囲内の平均一次粒子サイズを有する第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料、及び(b)粒界によって分離された複数の結晶粒を含む二次粒子の形態の第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む電極スラリーを形成するステップ、
(ii) 前記電極スラリーを集電体に塗布し、乾燥させるステップ、
(iii) 前記電極をカレンダー加工するステップ
を含む、前記形成方法。
【請求項29】
前記(i)のステップが、請求項19~27のいずれか1項に記載の正極活物質を含む電極スラリーを形成することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~6もしくは請求項18のいずれか1項に記載のリチウムニッケル複合酸化化合物を含む電極、または請求項7~15のいずれか1項に記載のプロセスにより形成されるリチウムニッケル複合酸化化合物を含む電極、または請求項19~27のいずれか1項に記載の正極活物質を含む電極、または請求項27もしくは請求項28に記載のプロセスによって形成される電極。
【請求項31】
請求項30に記載の電極を含む電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、リチウムイオン二次電池のカソード材料として有用性を有するリチウムニッケル複合酸化物材料、及びリチウムニッケル複合酸化物材料を製造するための改善されたプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物材料は、リチウムイオン二次電池中のカソード材料として有用であることがわかっている。一般的には、リチウムニッケル複合酸化物材料は、水酸化物またはオキシ水酸化物などのニッケル金属前駆体をリチウム源と混合し、次いでこの混合物を焼成することによって産生される。焼成プロセス中、ニッケル金属前駆体は、リチウム化及び酸化され、中間相を介して結晶構造変換を受けて、所望の層状LiNiO2構造を形成する。
【0003】
ニッケル金属前駆体は、通常、高いpHでアンモニアの存在下で混合金属塩溶液の共沈によって形成される。次いで、前駆体とリチウム源の混合物を700℃などの高温に保持することを含む焼成プロセスによって、所望の結晶相の形成が行われる。そのようなプロセスは、リチウムニッケル複合酸化物材料を、粒界によって分離された多数の小さな結晶粒(一次粒子とも呼ばれる)を含む二次粒子の形態で提供する。
【0004】
WO2017/189887A1は、電気化学的に活性な粒子の製造方法を記載しており、この方法は、水酸化リチウムまたはその水和物と、ニッケルを含む前駆体水酸化物とを含む第1の混合物を製造し、第1の混合物を最高温度700℃まで焼成することを含む。実施例1では、多結晶2D α-NaFeO2型層状構造粒子の2つの試料の調製が記載されている。前駆体水酸化物をLiOHと混合し、次いで25℃から450℃まで毎分5℃にて2時間の浸漬時間で加熱し、続いて700℃(または680℃)の最大温度まで毎分2℃にて6時間の浸漬で第2の昇温を行う。
【0005】
そのような材料は、良好な電気化学的性能を提供することができるが、例えば、電極製造に使用される高密度化プロセス中に、圧力下で亀裂や粒子の破損が発生する可能性がある。これにより、充放電サイクルを繰り返すと電気化学的性能が低下し、電池の寿命が短くなる可能性がある。さらに、そのような材料は、放電率が増加するにつれて電力の出力が低下する可能性がある。
【0006】
リチウムニッケル複合酸化物材料を製造するための改善されたプロセス、及び改善された電気化学的特性を有するリチウムニッケル複合酸化物材料に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、圧縮下での破損の可能性または粒子サイズ(または粒子径)が小さいために取り扱いが困難になる可能性を有する従来技術の材料に関して、リチウムニッケル複合酸化物粒子のサイズ(または径)及び構造を変更することによって、加工性に優れ、充放電サイクルを繰り返した際の放電容量保持率が向上した改良された材料が製造され得ることを発見した。そのような材料は、以前にリチウムニッケル酸化物材料を形成するために使用された焼成特性を変更することによって、有利に製造され得ることもわかった。さらに、本明細書に記載のリチウムニッケル複合酸化物材料を他のリチウムニッケル複合酸化物材料とブレンドして、目標の電極密度の達成に必要な、圧縮を低減した電極の形成を可能にし、高放電率での放電容量保持率が向上した電極を提供し得ることを見出した。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様では、以下の要件を満たす粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料(または粒状リチウムニッケル複合酸化物材、particulate lithium nickel composite oxide material)を提供する:
(i) リチウムニッケル複合酸化物は、式1の組成を有し、
LiaNixCoyMgzO2+b 式1
式中、
0.8≦a≦1.2
0.7≦x<1
0≦y≦0.3
0<z≦0.2
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1であり、
(ii) リチウムニッケル複合酸化物材料は、D50が2μm以上7μm以下の範囲内にあるような体積ベースの粒子サイズ分布(または粒度分布、particle size distribution)を有し、
(iii) リチウムニッケル複合酸化物材料の平均一次粒子サイズ(または一次粒径、average primary particle size)は、0.5μm以上4μm以下の範囲内である。
【0009】
粒子サイズ分布をさらに最適化することにより、電極を形成した場合に、サイクルを繰り返した際の放電容量維持率を向上させるリチウムニッケル複合酸化物材料が提供され得ることも見出された。したがって、リチウムニッケル複合酸化物材料は、D90<10μmを特徴とする粒子サイズ分布を有することが好ましい。
【0010】
本明細書に記載のプロセスは、加熱及び冷却サイクルの繰り返し及び関連するプロセスの非効率性を必要とせずに、単一の焼成プロセスで第1の態様による有利な材料を提供する。
【0011】
したがって、本発明の第2の態様では、式1の組成物を含むリチウムニッケル複合酸化物材料の調製プロセス(またはリチウムニッケル複合酸化物材料の調製方法、process for preparing a lithium nickel composite oxide material)を提供し、このプロセスは、
(i) D50が1μm以上7μm以下の範囲内にあるような体積ベースの粒子サイズ分布を有するリチウムニッケル複合酸化物の前駆体を提供し、
(ii) 前駆体を少なくとも1つのリチウム含有化合物と混合し、
(iii) 混合物を焼成(またはか焼、calcine)してリチウムニッケル複合酸化物材料を形成し、この焼成は650℃以上725℃以下の範囲の温度に2~8時間加熱し、その後、775℃以上875℃以下の範囲内の温度に加熱するステップを含む。
【0012】
本発明の第3の態様では、第2の態様によるプロセスによって得られる、または得ることができるリチウムニッケル複合酸化化合物を提供する。
【0013】
第1の態様の粒子は、さらに、他のリチウムニッケル複合酸化物材料と有利に組み合わせ得る。そのような組み合わせは、好適な電極密度を達成するために電極高密度化プロセス中に必要とされる圧力の低下に関連する利点を電極の形成中に提供することが見出された。さらに、この粒子の組み合わせを有する電極は、高放電率での放電容量保持率を増加させる。したがって、本発明の第4の態様では、
(i) 式1の組成を有し、0.5μm以上4μm以下の範囲内の平均一次粒子サイズを有する第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物と、
(ii) 粒界によって分離された複数の結晶粒を含む二次粒子の形態の第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む正極活物質を提供する。
【0014】
本発明の第5の態様では、
(i) (a)式1の組成を有し、0.5μm以上4μm以下の範囲内の平均一次粒子サイズを有する第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料、(b)粒界によって分離された複数の結晶粒を含む二次粒子の形態の第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む電極スラリーを形成するステップ、
(ii) 電極スラリーを集電体に塗布し、乾燥させるステップ、
(iii) 電極をカレンダー加工するステップ
を含む、電極の形成方法を提供する。
【0015】
第5の態様の方法のステップ(i)は、第4の態様による正極活物質を含む電極スラリーを形成することを含むことが好ましい場合がある。
【0016】
本発明の第6の態様では、第1の態様または第3の態様のリチウムニッケル複合酸化化合物を含む電極、第2の態様のプロセスによって形成されるリチウムニッケル複合酸化化合物を含む電極、第4の態様による正極活物質を含む電極、または第5の態様のプロセスにより形成される電極を提供する。
【0017】
本発明の第7の態様では、第6の態様による電極を含む電気化学セルを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で形成された前駆体材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2】実施例2で形成されたリチウムニッケル複合酸化物材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図3】実施例9で形成された電極A上面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図4】実施例9で形成された電極B上面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図5】実施例10において電極Cに加える一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。
【
図6】実施例10において電極Dに加える一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。
【
図7】実施例10において電極Eに加える一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、本発明の好ましい及び/またはオプションの特徴を記載する。本発明のいずれの態様も、文脈により別段の要求が無い限り、本発明の任意の他の態様と組み合わせてよい。任意の態様の好ましい及び/またはオプションの特徴のいずれも、文脈により別段の要求が無い限り、個々に、または、一緒に、本発明の任意の態様と組み合わせてよい。
【0020】
本発明は、式1のリチウムニッケル複合酸化物材料を提供する。リチウムニッケル複合酸化物材料は、結晶質または実質的に結晶質の材料である。材料は、α-NaFeO2型構造を有し得る。
【0021】
式1において、0.8≦a≦1.2である。aが0.90以上、または0.95以上であることが好ましい場合がある。aが1.10以下、または1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a≦1.10、例えば0.95≦a≦1.05であることが好ましい場合がある。a=1であることが好ましい場合がある。
【0022】
式1では、0.7≦x<1である。0.75≦x<1,0.80≦x<1,0.85≦x<1または0.90≦x<1が好ましい場合がある。xは、0.99、0.98、0.97、0.96または0.95以下であることが好ましい場合がある。0.75≦x≦1、例えば、0.75≦x≦0.99、0.75≦x≦0.98、0.75≦x≦0.97、0.75≦x≦0.96または0.75≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。0.80≦x≦1、例えば、0.80≦x≦0.99、0.80≦x≦0.98、0.80≦x≦0.97、0.80≦x≦0.96または0.80≦x≦0.95であることがさらに好ましい場合がある。0.85≦x<1、例えば、0.85≦x≦0.99、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96、または0.85≦x≦0.95であることも好ましい場合がある。
【0023】
式1では、0≦y≦0.3である。yは、0.01、0.02または0.03以上であることが好ましい場合がある。yは、0.2、0.15、0.1または0.05以下であることが好ましい場合がある。0.01≦y≦0.3、0.02≦y≦0.3、0.03≦y≦0.3、0.01≦y≦0.25、0.01≦y≦0.2、または0.01≦y≦0.15であることも好ましい場合がある。
【0024】
式1では、0<z≦0.2である。0<z≦0.15、0<z≦0.10、0<z≦0.05、0<z≦0.04、0<z≦0.03、または0<z≦0.02であることが好ましい場合がある。
【0025】
式1では、-0.2≦b≦0.2である。bが-0.1以上であることが好ましい場合がある。bが0.1以下であることも好ましい場合がある。-0.1≦b≦0.1、またはbが0もしくは約0であることがさらに好ましい場合がある。
【0026】
0.8≦a≦1.2、0.75≦x<1、0<y≦0.25、0<z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1が好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.80≦x<1、0<y≦0.2、0<z≦0.2、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1であることが好ましい場合がある。0.8≦a≦1.2、0.85≦x<1、0<y≦0.15、0<z≦0.15、-0.2≦b≦0.2、及びx+y+z=1であることが好ましい場合がある。
【0027】
リチウムニッケル複合酸化物材料は、D50が2μm以上7μm以下の範囲内にあるような体積ベースの粒子サイズ分布を有する。本明細書で使用されるD50という用語は、体積加重分布のメジアン粒子径を指す。D50は、レーザー回折法を用いて決定してもよい。例えば、D50は、粒子を水に懸濁させ、Malvern Mastersizer 3000を使用して分析することによって、決定してもよい。D50が2μm以上5μm以下の範囲内にあることが好ましい場合がある。
【0028】
リチウムニッケル複合酸化物材料の平均一次粒子サイズは、0.5μm以上4μm以下の範囲内である。本明細書で使用する一次粒子という用語は、粒界によって分離されたより小さな粒子から形成されていない粒子を意味する。平均一次粒子サイズが0.5μm以上3μm以下の範囲内であることが好ましい場合がある。一次粒子サイズが0.5μm以上2μm以下の範囲内であることがさらに好ましい場合がある。
【0029】
平均一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡観察から画像解析を用いて球相当径の算術平均を求めることにより決定してもよい。例えば、走査型電子顕微鏡を用いて、粒子の大きさに応じて1000~10000倍の倍率で観察する。認識可能な特性を有する約200の粒子を分析用に選択する。一次粒子の等価直径を球状直径の算術等価物として決定するために使用される画像解析及び算術平均を計算して、平均一次粒子サイズを決定する。
【0030】
2μm以上7μm以下の範囲内のD50、特に2μm以上5μm以下の範囲内のD50の値と、0.5~4μmの平均一次粒子との組み合わせは、リチウムニッケル複合酸化物粒子が、少数の一次粒子からなり、電極形成時の加工性を向上させることを示す。利点として、リチウムニッケル複合酸化物材料により電極を形成する場合、粒子は実質的にモノリシック粒子の形態であることがさらに見出された。本明細書で使用される場合、モノリシック粒子は、唯一の一次粒子から形成される粒子を意味する。
【0031】
好ましくは、体積ベースの粒子サイズ分布は、D90が10μm未満であるような粒子サイズ分布である。D90は、レーザー回折法を用いて決定してもよい。D90は、小粒子サイズ側から累積百分率90に相当する粒子サイズである。D90が9μm未満、または8μm未満であることがさらに好ましい場合がある。
【0032】
本明細書に記載のD50及び平均一次粒子範囲と組み合わせると、10μm未満のD90値を有する材料は、充放電サイクルを繰り返した際に放電容量保持率が向上することが見出された。D50が2μm以上5μm以下の範囲内にあり、D90が10μm未満、例えばD90が5μmを超え10μm未満であることが特に好ましい場合がある。
【0033】
好ましくは、リチウムニッケル複合酸化物材料のc軸の長さは、リチウムニッケル複合酸化物材料の粉末X線回折パターンのリートベルト分析(Rietveld analysis)によって測定され、14.190オングストローム未満、例えば、14.180~14.190オングストロームである。c軸パラメータが14.190を超えて増加すると、充放電サイクルを繰り返した際の放電容量保持率などの電気化学的性能が低下する可能性がある。
【0034】
本明細書に記載のリチウムニッケル複合酸化物材料を、D50が1μm以上7μm以下の範囲内にあるような体積ベースの粒子サイズ分布を有するリチウムニッケル複合酸化物の前駆体を提供するステップを含むプロセスを使用して調製してもよい。
【0035】
リチウムニッケル複合酸化物の前駆体は、ニッケルと1つ以上の追加金属とを含み、リチウム含有化合物との反応及び熱処理により層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物に変換され得る化合物である。ニッケル金属前駆体は、沈殿したニッケル金属化合物であってもよく、例えば、共沈殿した混合ニッケル金属化合物であってもよい。
【0036】
リチウムニッケル複合酸化物の前駆体は、ニッケル金属水酸化物、オキシ水酸化ニッケル金属、またはそれらの混合物であってもよい。
【0037】
リチウムニッケル複合酸化物の前駆体は、式2の化合物を含むことが好ましい場合があり、
[Nix2Coy2Mgz2][Op(OH)q]α 式2
式中、
0.7≦x2<1
0≦y2≦0.3
0≦z2≦0.2であり、
pは0≦p<1の範囲にあり、qは0<q≦2の範囲にあり、x2+y2+z2=1であり、αは全体の荷電バランスが0であるように選択される。好ましくは、pは0であり、qは2である。言い換えれば、好ましくは、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体は、一般式[Nix2Coy2Mgz2][(OH)2]αを有する純金属水酸化物である。上記のように、αは、全体の電荷均衡が0になるように選択される。したがって、αは、0.5≦α≦1.5を満たし得る。例えば、αは1であってもよい。
【0038】
値x2、y2、及びz2は、本明細書に記載のプロセス後に式1の所望の組成を達成するように選択されることが当業者には理解されるであろう。
【0039】
0.75≦x2<1、0<y2≦0.25、0≦z2≦0.2であることが好ましい場合がある。例えば、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体は、式Ni0.90Co0.05Mg0.05(OH)2、Ni0.90Co0.06Mg0.04(OH)2、Ni0.90Co0.07Mg0.03(OH)2、Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)2、Ni0.88Co0.08Mg0.04(OH)2、Ni0.90Co0.08Mg0.02(OH)2、またはNi0.93Co0.06Mg0.01(OH)2の化合物であってもよい。
【0040】
前駆体がニッケルコバルト水酸化物、オキシ水酸化ニッケル金属またはそれらの混合物であること、及びマグネシウム塩、例えば水酸化マグネシウムなどのマグネシウム含有化合物を焼成前に前駆体と混合することもまた好ましい場合がある。
【0041】
一般的には、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体の粒子は、複数の結晶粒(一次粒子)からなる二次粒子の形態で提供される。
【0042】
前駆体材料は、当業者に周知の方法によって製造される。通常、これらの方法は、例えば、アンモニアとNaOHなどの塩基の存在下で、硫酸金属などの金属塩の溶液からの混合金属水酸化物の共沈を伴う。いくつかの場合では、好適なニッケル金属、例えば、混合金属水酸化物は、当業者に公知の商業的供給者から取得可能な場合がある。
【0043】
D50が1μm以上7μm以下の範囲内にあるような体積ベースの粒子サイズ分布を有するリチウムニッケル複合酸化物の前駆体を提供する。このサイズの範囲内の前駆体材料を使用すると、本明細書に記載の制御されたD50及び平均一次粒子サイズを有するリチウムニッケル複合酸化物の製造が可能になることがわかっている。D50が1μm以上5μm以下、2μm以上4μm以下、または約3μmの範囲内にあることが好ましい場合がある。
【0044】
前駆体を、少なくとも1つのリチウム含有化合物と混合する。前駆体粒子と混合してもよい好適なリチウム含有化合物には、無機リチウム塩などのリチウム塩が含まれる。水酸化リチウムが特に好ましい場合がある。
【0045】
次いで、混合物を焼成して、リチウムニッケル複合酸化物材料を形成する。焼成は、650℃以上725℃以下の範囲の温度に加熱することを含む。少なくとも650℃の温度に加熱することにより、所望の層状構造への変換が保証される一方で、725℃未満の温度を維持することにより、焼成のこの段階での粒子の成長が制限される。
【0046】
混合物を、650℃以上725℃以下の範囲内の温度に2~8時間加熱する。この温度範囲で少なくとも2時間加熱すると、所望の層状構造への変換が保証される。この温度範囲で8時間を超える時間は、所望の構造を形成するのに必要ではなく、焼成プロセス全体のエネルギー効率を低下させることが分かった。
【0047】
続いて、焼成特性は、775℃以上875℃以下の範囲内の温度まで加熱することを含む。775℃を超えて加熱すると、所望の一次粒子サイズを形成可能であることが分かった。875℃を超えて加熱すると、形成されるリチウムニッケル複合酸化物材料の電気化学的性能に有害であることが分かった。875℃を超えて加熱すると、酸化リチウムの不純物レベルが増加することも観察されている。好ましくは、焼成特性は、775℃以上850℃以下、775℃以上825℃以下または約800℃の範囲内の温度まで加熱することを含む。
【0048】
一般的に、混合物を775℃以上875℃以下の範囲内の温度に4~20時間加熱する。少なくとも4時間の加熱により、所望の一次粒子サイズを形成することができる。20時間を超えて加熱すると、材料の初回サイクル放電容量が減少することが分かった。この期間は、4~12時間、または6~10時間であることが好ましい場合がある。
【0049】
焼成特性が第1の低温保持を含むこと、及びプロセスが350℃以上550℃以下の範囲内の温度に2~8時間加熱し、650℃以上725℃以下の範囲内の温度まで2~8時間加熱し、続いて775℃以上875℃以下の範囲内の温度まで加熱することを含む焼成を含むことが好ましい場合がある。第1の低温保持は、400℃以上500℃以下の範囲内の温度で実施することがさらに好ましい場合がある。第1の低温保持は、400℃以上500℃以下の範囲内の温度で1~4時間実施することがさらに好ましい場合がある。第1の低温保持を含めることにより、より規則的な構造を有するリチウムニッケル複合酸化物材料を提供することができる。
【0050】
焼成ステップは、CO2フリーの雰囲気下で実施してもよい。例えば、CO2フリーの空気を、加熱中及び任意選択で冷却中に材料上に流してもよい。CO2フリーの空気は、例えば、酸素と窒素とのミックスであってもよい。好ましくは、雰囲気は、酸化雰囲気である。本明細書で使用される場合、用語「CO2フリー」は、100ppm未満のCO2、例えば、50ppm未満のCO2、20ppm未満のCO2、または10ppm未満のCO2を含む雰囲気を含むことを意図している。これらのCO2レベルは、CO2スクラバーを使用して、CO2を除去することによって達成され得る。
【0051】
CO2フリーの雰囲気は、酸素と窒素との混合物を含むことが好ましい場合がある。混合物が窒素及び酸素を1:99~90:10、例えば1:99~50:50、1:99~10:90、例えば約7:93の比率で含むことがさらに好ましい場合がある。
【0052】
焼成は、当業者に公知の任意の好適な炉、例えば静置型炉(管状炉またはマッフル炉など)、トンネル炉(材料の固定層が、炉、例えば、ローラーハースキルン、プッシュスルー炉などの炉内を通って移動する)、または回転炉(スクリューフィードまたはオーガーフィード回転炉など)で実施することができる。焼成に使用される炉は、一般的に、制御されたガス雰囲気下で操作することができる。材料の固定層を有する炉、例えば、静置型炉またはトンネル炉(例えば、ローラーハースキルンまたはプッシュスルー炉)内で焼成ステップを実施することが好ましい場合がある。
【0053】
材料の固定層を有する炉内で焼成を行う場合、高エネルギーミリングを受けた中間体を、通常、焼成前に焼成容器(例えばさやまたは他の好適なるつぼ)に充填する。
【0054】
任意選択で、焼成後に得られるリチウムニッケル複合酸化物材料上でコーティングステップを実施する。
【0055】
コーティングステップは、リチウムニッケル複合酸化物を、1つ以上のコーティング金属元素を含むコーティング組成物と接触させることを含み得る。1種以上のコーティング金属元素は、水溶液として提供され得る。好適には、1種以上のコーティング元素は、1種以上のコーティング金属元素の塩の水溶液として、例えば、1種以上のコーティング金属の硝酸塩または硫酸塩として提供され得る。1種以上のコーティング金属元素は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、及び亜鉛、例えば、リチウム、ニッケル、コバルト、及びマグネシウムから選択される1種以上であってもよい。
【0056】
コーティングステップは、一般的に、固体をコーティング組成物から分離するステップ、及び任意選択で材料を乾燥させるステップを含む。分離は、好適には、濾過により実施するか、またはリチウムニッケル複合酸化物及びコーティング溶液を噴霧乾燥することにより、分離及び乾燥を同時に行うことができる。コーティングされた材料を、その後の加熱ステップに供してもよい。
【0057】
焼成後(該当する場合、コーティングステップの前または後)に、リチウムニッケル複合酸化物材料をふるいにかけてもよい。例えば、50~60ミクロンのふるいを使用してリチウムニッケル複合酸化物材料の粒子をふるい分けして、大きい粒子を除去してもよい。
【0058】
あるいは、またはさらに、プロセスに、リチウムニッケル複合酸化物材料をミリングするステップを含めてもよい。ミリングは、粒子が所望のサイズ及び/または粒子サイズ分布に達するまで実施してよい。例えば、リチウムニッケル複合酸化物材料の粒子は、D90が10μm未満となるような体積粒子サイズ分布を有するまでミリングすることが好ましい。
【0059】
本明細書に記載のリチウムニッケル複合酸化物材料(以下、「第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料」)を、結晶粒界によって分離された複数の結晶粒を含む二次粒子の形態の第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料と有利に組み合わせてもよい。粒子状ブレンドに第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含めることにより、電極を形成するために必要な圧力を低下させて、所望の電極密度を達成し、高放電率での電力出力を向上させることができる。
【0060】
通常、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、層状α-NaFeO2型構造を有する。
【0061】
好ましくは、第2のリチウムニッケル複合酸化物材料は、式3の組成を有し、
Lia3Nix3Coy3Az3O2+b3 式3
式中、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、W及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a3≦1.2
0.5≦x3<1
0<y3≦0.5
0≦z3≦0.2
-0.2≦b3≦0.2
x3+y3+z3=1である。
式3において、0.8≦a3≦1.2である。a3は、0.9または0.95以上であることが好ましい場合がある。a3は、1.1以下、または1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a3≦1.10、例えば、0.95≦a3≦1.05であるか、またはa3=0もしくは約0であることが好ましい場合がある。
【0062】
式3では、0.5≦x3<1である。0.6≦x3<1、例えば、0.7≦x3<1、0.75≦x3<1、0.8≦x3<1、0.85≦x3<1または0.9≦x3<1が好ましい場合がある。xは、0.99、0.98、0.97、0.96または0.95以下であることが好ましい場合がある。0.75≦x3<1、例えば、0.75≦x3≦0.99、0.75≦x3≦0.98、0.75≦x3≦0.97、0.75≦x3≦0.96または0.75≦x3≦0.95であることが好ましい場合がある。0.8≦x3<1、例えば、0.8≦x3≦0.99、0.8≦x3≦0.98、0.8≦x3≦0.97、0.8≦x3≦0.96または0.8≦x3≦0.95であることがさらに好ましい場合がある。0.85≦x3<1、例えば、0.85≦x3≦0.99、0.85≦x3≦0.98、0.85≦x3≦0.97、0.85≦x3≦0.96、または0.85≦x3≦0.95であることも好ましい場合がある。
【0063】
式3において、0<y3≦0.5である。y3は、0.01、0.02または0.03以上であることが好ましい場合がある。y3は、0.4、0.3、0.25、0.2、0.15、0.1または0.05以下であることが好ましい場合がある。0.01≦y3≦0.5、0.02≦y3≦0.5、0.03≦y3≦0.5、0.01≦y3≦0.4、0.01≦y3≦0.3、0.01≦y3≦0.25、0.01≦y3≦0.20、0.01≦y3≦0.1、または0.03≦y3≦0.1であることも好ましい。
【0064】
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、Mn、W及びCaのうちの1つ以上である。好ましくは、Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、W及びCaのうちの1つ以上である。Aは、少なくともMg及び/またはAlであるか、またはAは、Al及び/またはMgであることがさらに好ましい場合がある。Aが、複数の元素を含む場合、z3は、Aを構成する元素のそれぞれの合計量である。
【0065】
式3では、0≦z3≦0.2である。0≦z3≦0.15、0≦z3≦0.10、0≦z3≦0.05、0≦z3≦0.04、0≦z3≦0.03、0≦z3≦0.02、またはz3が0もしくは約0であることが好ましい場合がある。
【0066】
式Iでは、-0.2≦b3≦0.2である。b3が-0.1以上であることが好ましい場合がある。b3が0.1以下であることも好ましい場合がある。-0.1≦b≦0.1、またはb3が0もしくは約0であることがさらに好ましい場合がある。
【0067】
0.8≦a3≦1.2、0.75≦x3<1、0<y3≦0.25、0≦z3≦0.2、-0.2≦b3≦0.2、及びx3+y3+z3=1であることが好ましい場合がある。0.8≦a3≦1.2、0.75≦x3<1、0<y3≦0.25、0≦z3≦0.2、-0.2≦b3≦0.2、x3+y3+z3=1、及びA=Mg単独で、またはAl、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。0.8≦a3≦1.2、0.75≦x3<1、0<y3≦0.25、0≦z3≦0.2、-0.2≦b3≦0.2、x+y+z=1、及びA=Al単独で、またはMg、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることが好ましい場合がある。0.8≦a3≦1.2、0.75≦x3<1、0<y3≦0.25、0≦z3≦0.2、-0.2≦b3≦0.2、x3+y3+z3=1、及びA=Al及びMg単独で、またはV、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Sr、及びCaのうちの1つ以上との組み合わせであることがさらに好ましい場合がある。
【0068】
第2のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、1つ以上の結晶子から構成され得る複数の結晶粒(一次粒子としても知られる)を含む二次粒子の形態である。結晶粒は、粒界によって分けられている。一般的に、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、250nm未満、例えば1~250nmのサイズを有する結晶粒から形成される。結晶粒のサイズ(最も長い粒子寸法の長さ)は、走査型電子顕微鏡で観察され得る。
【0069】
第2のリチウムニッケル複合酸化物材料が表面層を含むことが好ましく、表面層は、粒子のコアに存在するよりも高濃度のコバルト及び/またはアルミニウムを含む。
【0070】
あるいは、またはさらに、第2のリチウムニッケル複合酸化物材料は、濃縮された粒界を含む、すなわち、粒界における1つ以上の金属の濃度が、結晶粒内の1つ以上の金属の濃度よりも高いことが好ましい場合がある。第2のリチウムニッケル複合酸化物材料の結晶粒間の粒界におけるコバルトの濃度は、結晶粒内のコバルトの濃度よりも大きいことが好ましい。あるいは、またはさらに、結晶粒間の粒界におけるアルミニウムの濃度が、結晶粒内のアルミニウムの濃度よりも大きいことがさらに好ましい場合がある。コバルト及び/またはアルミニウムで粒界を濃縮することにより、粒子の劣化が防止され、電極の寿命が延長される。
【0071】
結晶粒内及び粒界におけるコバルト及び/またはアルミニウムの濃度の差は、少なくとも1原子%、例えば、少なくとも3原子%または少なくとも5原子%であってよい(粒界のコバルト濃度(原子%)から一次粒子中のコバルト濃度(原子%)を差し引くことによって計算される)。
【0072】
粒界及び結晶粒内のコバルトまたはアルミニウムなどの金属の濃度は、集束イオンビームミリングなどの切片化技術によって薄くスライスされた(例えば、厚さ100~150nmの)粒子の切片について、粒界の中心、及び隣接する結晶粒の中心のエネルギー分散型X線分光法(EDX)分析によって決定され得る。
【0073】
一般的に、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、D50が少なくとも3μm、例えば少なくとも4μm、少なくとも5μmとなるような体積ベースの粒子サイズ分布を有する。第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の粒子は、一般的に、D50が30μm以下、例えば25μm以下または12μm以下となるような体積ベースの粒子サイズ分布を有する。第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の粒子は、3μm以上30μm以下の範囲内、例えば、4μm以上25μm以下、または5μm以上20μm以下のD50を有することが好ましい場合がある。本明細書で使用されるD50という用語は、体積加重分布のメジアン粒子径を指す。D50は、レーザー回折法を使用することによって(例えば、粒子を水に懸濁させ、Malvern Mastersizer 2000を使用して分析することによって)決定してもよい。
【0074】
好ましくは、第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50は、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50未満である。第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50が2μm以上9μm以下(好ましくは2μm以上7μm以下)の範囲内にあり、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50が5μm以上20μm以下の範囲内にあることがさらに好ましい場合がある。第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50が2μm以上6μm以下の範囲内にあり、第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料のD50が8μm以上15μm以下の範囲内にあることがさらにより好ましい場合がある。
【0075】
第1及び第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、粉末としてブレンドしてもよく、または電極スラリーの形成中に組み合わせてもよい。
【0076】
正極活物質は、第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料と第2粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料とを、例えばシェーカーミキサーを用いて混合することにより形成してもよい。一般的に、第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、10~90重量%の正極活物質を含む。第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、10~80重量%の正極活物質、10~70重量%の正極活物質、10~60重量%の正極活物質または15~50重量%の正極活物質を含むことが好ましい場合がある。第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料は、20~40重量%の正極活物質を含むことが特に好ましい場合がある。計算モデリングは、20~40重量%の第1の粒子状材料を含有させることにより、ブレンドされた成分の最適なパッキングが提供されることを示している。
【0077】
第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料、または第1及び第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料の組み合わせを有利に使用して、電極を形成してもよい。
【0078】
電極の形成は、第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料、または第1及び第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む電極スラリーを形成するステップを含む方法によって達成され得る。スラリーは、溶媒、結合剤、炭素材料、及び追加の添加剤の1つ以上を含み得る。電極スラリーは、第1及び第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含む正極活物質を他のスラリー成分と混合することによって、または第1及び第2の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を他のスラリー成分に対して所望の比率で別々に添加することによって形成され得ることは当業者には理解されよう。
【0079】
好ましくは、電極スラリーは、第1のリチウムニッケル複合酸化物材料と第2のリチウムニッケル複合酸化物材料を重量比1:9~1:1で含む。電極スラリーが、第1のリチウムニッケル複合酸化物材料と第2のリチウムニッケル複合酸化物材料を重量比1:4~1:2.5で含むことが特に好ましい場合がある。
【0080】
電極を形成するために、スラリーを集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面に塗布し、乾燥させる。次いで、電極をカレンダー加工して、電極の密度を増加させる。利点として、第1及び第2の電極活物質の組み合わせを使用することにより、粒子の損傷及び電極寿命の短縮につながる可能性のある高いカレンダー圧を使用することなく、高い電極密度(>3.3g/cm3)を達成することができる。
【0081】
一般的に、本発明の電極は、少なくとも2.5g/cm3、少なくとも2.8g/cm3、または少なくとも3g/cm3の電極密度を有する。それは、4.5g/cm3以下、または4g/cm3以下の電極密度、例えば3g/cm3~4g/cm3の密度を有し得る。電極密度とは、電極(電極が形成される集電体は含まない)の電極密度(質量/体積)である。したがって、電極密度は、活物質、あらゆる添加剤、あらゆる追加の炭素材料、及びあらゆる残りの結合剤からの寄与を含む。
【0082】
好ましくは、電極が実質的にモノリシック粒子の形態の第1の粒子状リチウムニッケル複合酸化物材料を含むように電極形成を実施する。これはSEMで観察され得る。
【0083】
本発明のプロセスは、本明細書に記載の材料を含む電極を含む電池または電気化学セルを作製(または構築)することをさらに含み得る。電池またはセルは一般的に、アノード及び電解質をさらに含む。電池またはセルは一般的に、二次(再充電可能な)リチウム(例えば、リチウムイオン)電池であってよい。
【0084】
ここで、以下の実施例を参照して本発明を説明する。実施例は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【実施例】
【0085】
体積ベースの粒子サイズ分布パラメータの測定
リチウムニッケル複合酸化物材料の試料を水に添加した。得られた分散液について、レーザー散乱式粒子サイズ分布測定装置(Mastersizer MS3000、Malvern Instruments Ltd.により製造)を用いて粒子サイズ分布測定を行い、それによって体積ベースの粒子サイズ分布を測定した。得られた累積粒子サイズ分布曲線から、最小粒子側から測定した累積50%の粒子径(D50)を求める。同様に、最小粒子側から測定した累積10%時の粒子径(D10)を累積10%径とし、最小粒子側から測定した累積90%時の粒子径(D90)を累積90%径とする。
【0086】
平均一次粒子サイズの測定
リチウムニッケル複合酸化物材料の試料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分析し、粒子サイズに応じて1,000~10,000倍の倍率で観察する。認識可能な特性を有する約200の粒子を画像分析用に選択する。平均一次粒子サイズは、選択された粒子の球相当直径の算術平均として決定した。
【0087】
粉末X線回折測定及び結晶子サイズの導出
Cu Kα放射線(λ=1.5406+1.5444オングストローム)を使用するBruker AXS D8回折計を使用して反射配置でPXRDデータを収集した。2θ=10~130°の間で0.02°ステップで、データセットを収集した。PDF-4+データベースを参照してBruker AXS Diffrac Eva V5(2019)を使用して相同定を実施し、観測したすべての散乱が既知の結晶構造に確実に割り当てられるようにした。Bruker-AXS Topas 5を使用して2θ=17~70°でリートベルト法を実施し、NIST660 LaB6から収集した参照データを使用した基本パラメータアプローチを使用して機器パラメータを決定した。
【0088】
実施例1:リチウムニッケル複合酸化物前駆体の形成
式Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)2のリチウムニッケル複合酸化物前駆体を以下のように調製した。硫酸ニッケル(II)六水和物(636.9g)、硫酸コバルト(II)七水和物(59.23g)、及び硫酸マグネシウム七水和物6.49g)を水(量2Lの溶液量を達成するために加える)に溶解することにより、全金属濃度1.33Mの混合金属硫酸塩溶液を調製した。
【0089】
この混合金属硫酸塩溶液、NaOH溶液(25重量%)、及びアンモニア溶液(28%NH3(560mL)を440mlの蒸留水で希釈することによって調製)を、蒸留水(1.36L)を含有する、密閉されジャケット付きの反応容器に同時に供給した。反応温度を60℃に維持し、水酸化ナトリウムの添加速度を変えることにより、反応混合物のpHを10.6の目標pHに維持した。アンモニア溶液と混合金属硫酸塩溶液の添加速度は、アンモニア:MSO4のモル比が2:1になるように設定した。添加が完了した後、反応物を60℃で20時間撹拌した。
【0090】
次いでスラリーを濾過し、材料を蒸留水(6×1L)で洗浄した後、乾燥させて前駆体材料(165g)を得た。材料をICP-OESで分析し、所望の元素組成を確認した。
【0091】
粒子サイズ分布は、Malvern Mastersizer 3000を使用して測定し、3.43μmの平均D50値が得られた。
【0092】
前駆体材料を走査型電子顕微鏡法(SEM)によっても分析し(
図1)、それにより、前駆体材料が複数の結晶粒(一次粒子)を含む二次粒子から形成されたことが示された。
【0093】
実施例2-リチウムニッケル複合酸化物材料(Li
1.02
Ni
0.91
Co
0.08
Mg
0.01
O
2
)の調製
実施例1で調製したニッケル金属前駆体(20g)をLiOH(5.25g)とブレンドし、次いでターブラミキサーで30分間ブレンドした。次いで、混合物をサッガーに入れ、以下の焼成特性を使用して酸素流(2L/分)の下で焼成した:5℃/分で450℃の温度まで加熱し、450℃で2時間保持し、2℃/分で700℃の温度まで加熱し、700℃で6時間保持し、10℃/分で800℃の温度まで加熱し、800℃で6時間保持する。試料を100℃に冷却した後、グローブボックスに移した。次いで、試料を乳棒と乳鉢を使用して粉砕し、不活性雰囲気下で56μmのふるいを使用してふるいにかけた。
【0094】
材料をICP-MSで分析し、所望の元素組成を確認した。この材料を、粉末X線回折によっても分析し、それにより、この材料が所望のα-NaFeO2型構造を有していることが示された。
【0095】
粒子サイズ分布は、Malvern Mastersizer 3000を使用して測定し、5.45μmの平均D50値が得られた。
【0096】
リチウムニッケル複合酸化物材料を、走査型電子顕微鏡(SEM)によっても分析し(
図2)、それにより、リチウムニッケル複合酸化物材料が、典型的な粒子サイズ0.5~2μmの一次粒子から形成されていることが示された。
【0097】
実施例3-焼成特性の変動及び焼成後のミリング
実施例2の方法を繰り返すことにより焼成特性を調査したが、ただし、表1に示すように焼成特性を変動させた。実施例2N及び2Qは、80gの前駆体材料を使用して大規模に実施した。実施例2Qで形成された材料をミリングして、D90<10μmを達成した。
【表1】
【0098】
実施例2A~2Tで形成された材料を、リチウム化レベル(誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による非リチウム金属に対するリチウムの量の比)、XRD特性、及び粒子サイズについて分析した(表2)。
【表2】
【0099】
このデータは、第3の保持温度を900℃に上げると(実施例2A)、より低温の焼成と比較してXRDから得られるcパラメータが増加することを示している。
【0100】
実施例2Dで製造された材料のSEM分析により、第3の保持温度750℃は、所望の粒子範囲内で一次粒子を形成するのに十分ではないことが示された。この材料は、電気化学試験には供されなかった。SEM分析による実施例2Qで形成された材料の平均一次粒子サイズは1.04μmであった。他の材料については、SEM分析により、平均一次粒子サイズが0.5~4μmの範囲であることが示された。
【0101】
実施例5-高温保持なしの焼成特性を使用したLi
1.02
Ni
0.91
Co
0.08
Mg
0.01
O
2
の二次粒子の形成(比較例)
実施例1で調製したニッケル金属前駆体。式Li1.02Ni0.91Co0.08Mg0.01O2のリチウムニッケル複合酸化物材料に従って、実施例2の方法と類似の方法を使用して材料を変換し、ただし、焼成特性は以下のとおりであった:5℃/分で450℃の温度まで加熱し、450℃で2時間保持し、2℃/分で700℃の温度まで加熱し、700℃で6時間保持した後、冷却する。
【0102】
実施例6-高温保持なしの標準焼成特性を使用したLi
1.02
Ni
0.91
Co
0.08
Mg
0.01
O
2
(10μmの前駆体を使用)の二次粒子の形成(比較例)
式Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)2であり、10μmのD50を有するリチウムニッケル複合酸化物前駆体を、実施例1と同様の方法を使用して製造した。式Li1.02Ni0.91Co0.08Mg0.01O2のリチウムニッケル複合酸化物材料に従って、実施例2の方法と類似の方法を使用してこの材料を変換したが、ただし、焼成特性は以下のとおりであった:
5℃/分で450℃の温度まで加熱し、450℃で2時間保持し、2℃/分で700℃の温度まで加熱し、700℃で6時間保持した後、冷却する。
【0103】
実施例7-コバルトとアルミニウムの粒界が濃縮されたLi
1.02
Ni
0.87
Co
0.11
Mg
0.01
Al
0.01
O
2
の二次粒子の例示的な調製
100mLの水中に11.745gのCo(NO3)2・6H2O、1.855gのLiNO3、及び2.422gのAl(NO3)3・9H2Oを含有する水溶液を60℃~65℃に加熱した。実施例6と類似の方法に従って形成された100gの基材を、激しく攪拌しながら急速に添加した。スラリーを60℃~65℃の温度で、上清が無色になるまで撹拌した。次いで、スラリーを噴霧乾燥した。
【0104】
噴霧乾燥後、粉末を、99%+アルミナるつぼに充填し、N2:O2が80:20であるCO2フリーの人工混合空気下で焼成した。焼成は、130℃(5℃/分)まで上昇させて、5.5時間保持し、450℃(5℃/分)まで上昇させて1時間保持し、700℃(2℃/分)まで上昇させて2時間保持し、130℃まで自然冷却させた。焼成及び冷却を通して粉体層上に人工の混合空気を流した。このようにして表題の化合物を取得した。次いで、試料を130℃で炉から取り除き、パージされたN2で満たされたグローブボックスに移した。
【0105】
ローリングミル(rolling bed mill)上の高アルミナライニングミルポット内で試料をミリングした。ミリングの目標エンドポイントは、D50が10~11μmの時点であり、D50をミリング後に測定したところ、9.5μmであることが分かった。試料を53μmのふるいにかけ、パージされたN2で満たされたグローブボックスに保管した。
【0106】
この方法に従って生成されたリチウムニッケル複合酸化物材料の試料を、FIB-TEM(集束イオンビーム透過型電子顕微鏡法)によって分析した。画像は、結晶粒間の粒界と二次粒子の表面がコバルトとアルミニウムの濃縮を示しており、結晶粒に存在するコバルトとアルミニウムに比べて、粒界及び表面においてより高濃度であることが示されている。
【0107】
実施例8-ブレンドされた正極活物質の形成
実施例8A-実施例7に従って形成された材料の試料(70重量%)を、実施例2の方法に従って形成された材料(30重量%)と混合した。材料をターブラミキサーで30分間混合した。
【0108】
実施例8B-実施例7に従って形成された材料の試料(75重量%)を、実施例2の方法に従って形成された材料(25重量%)と混合した。材料をターブラミキサーで30分間混合した。
【0109】
実施例9-実施例2または実施例6の材料から形成された電極の形成及びSEM分析
活物質:C65:PDVF(94:3:3)の電極配合とギャップブレード(125μm)を使用して、電極を印刷した。電極を印刷した後、オーブンで120℃にて1時間乾燥させる。カレンダーローラーを使用して電極を3.0~3.3g/cm3の密度に圧縮した。
【0110】
電極Aは、実施例2のリチウムニッケル複合酸化物材料を含んでいた。電極Bは、実施例6の方法に従って形成されたリチウムニッケル複合酸化物材料を含んでいた。電極AのSEM分析(
図3)は、活物質が顕著な一次粒子割れのないモノリシック粒子として存在することを示す。対照的に、電極BのSEM分析(
図4)は、粒子割れが発生したことを示している。
【0111】
実施例10-実施例7の材料または実施例8A及び8Bのブレンド組成物を含む電極の形成及びSEM分析
(i) 実施例7の方法により製造した表面改質リチウムニッケル複合酸化物材料(30個の電極、電極C)、または(ii)実施例8Aによるブレンド組成物(30個の電極、電極D)、または(iii)実施例8Bによるブレンド組成物(30個の電極、電極E)のいずれかが組み込まれた電極を印刷した。
【0112】
94:3:3(活物質:C65:PVDF)の電極配合とギャップブレード(300μm)を使用して、電極を形成した。電極は、オーブン内で120℃にて1時間乾燥させた。電極C(緻密化工程前)の平均電極充填量は2.37g/cm3であり、電極D(緻密化工程前)では2.57g/cm3であった。
【0113】
次いで、圧力負荷の増加に伴う電極の密度進化を調査した。電極密度3.3g/cm
3を目標値とする。
図5は、電極Cに適用する一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。3.3g/cm
3を達成するために、電極Cの一軸加圧で9トンの荷重を加える必要がある。
【0114】
図6は、電極Dに適用する一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。3.3g/cm
3を達成するために、電極Dの一軸加圧で5トンの荷重を加える必要がある。
【0115】
図7は、電極Dに適用する一軸圧力の増加に伴う密度の増加を示す。3.3g/cm
3を達成するために、電極Eの一軸加圧で5トンの荷重を加える必要がある。
【0116】
ブレンドされたリチウムニッケル複合酸化物材料を組み込んだ電極システムに必要な圧力は、約50%少なくなる。
【0117】
電極C及びDは、SEMによって分析した。電極Cの場合、3.3g/cm3の密度を達成するには9トンの負荷が必要である。SEM分析は、この圧力では、電極の表面の球がかなり損傷を受け、押しつぶされることを示した。電極Dは、3.4g/cm3の密度を達成するために5トンを必要とし、最小の粒子損傷がSEMによって観察される。9トンの同様の負荷を電極Dに適用した場合、SEMによっていくらかの表面損傷が観察されるが、密度は3.7g/cm3に達する。
【0118】
電気化学的試験
電気化学プロトコル:圧縮された電極を14mmのディスクに切断し、真空下で120℃でさらに12時間乾燥させた。
【0119】
アルゴンで満たされたグローブボックス(MBraun)内で組み立てられたCR2025コインセルタイプにより電気化学試験を実施した。リチウム箔をアノードとして使用した。多孔性ポリプロピレン膜(Celgard 2400)をセパレータとして使用した。エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)と1%のビニルカーボネート(VC)との1:1:1混合物中の1M LiPF6を電解質として使用した。
【0120】
セルは、Cレートを使用してMACCOR 4000シリーズで試験し、3.0~4.3Vの電圧範囲を使用して、保持試験を行った。Cレート試験では、セルを0.1C及び5C(0.1C=200mAh/g)で充電及び放電した。容量保持試験は、試料を1Cで50サイクルにわたって充電及び放電して実施した。
【0121】
実施例2及び実施例5で製造された材料の試験結果を表3に示す。データは、900℃での焼成が、充放電サイクルを繰り返した後に容量保持率を有意に低下させたことを示している。D90の減少(実施例2Q)により、容量保持率は増加した。容量保持率は40時間の第3の保持によっても増加したが(実施例2P)、これには第1のサイクルの放電容量の減少が伴っていた。700℃(実施例2S)での保持の除去は、サイクル寿命の保持に悪影響を及ぼす。
【表3】
【0122】
電気化学的結果(実施例10で製造された電極):
同等の電極密度を有する実施例10で形成された電極を、上記の電気化学プロトコルを使用して試験した。結果を表4に示す。このデータは、ブレンドされた材料が二次粒子単独と同等の放電容量を提供することを示している。ブレンドされた材料は、利点として、高い放電率での放電容量の保持を増強する。
【表4】
【国際調査報告】