(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-07
(54)【発明の名称】結晶性ポリエステルを含むレーザ直接構造化組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20230831BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L69/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511885
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 IB2021057487
(87)【国際公開番号】W WO2022038480
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シァオミン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユナン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,ユン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB02Z
4J002BH01Z
4J002CF03W
4J002CF06W
4J002CF07W
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4J002DE077
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4J002DG048
4J002DJ016
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4J002DL006
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD01Y
4J002FD207
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【解決手段】 熱可塑性組成物が:(a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、を含む。詳細な態様では、少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含み、ポリカルボナートコポリマーが、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含む。さらなる態様では、少なくとも一つの強化用充填剤がガラス繊維を含み、具体的な態様では扁平ガラス繊維を含む。この組成物は、ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、改善された接着性、表面外観、および/または反り特性を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;
(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;
(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;
(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、
を含んでなる熱可塑性組成物であって、全構成成分の組み合わせ重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が、前記複合材料の全重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンテレフタラートグリコール(PETG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラートグリコール(PCTG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタル酸(PCTA)、それらのコポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記ポリカルボナートコポリマーが、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマー、ポリカルボナート-イソフタラート・テレフタラート・レソルシノール(PC-ITR)コポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記ポリカルボナートコポリマーが、約10wt%から約30wt%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含んでなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記強化用充填剤が、シリカ、タルク、マイカ、カーボンブラック、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、中空ガラスビーズ、粉砕ガラス繊維、およびそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記強化用充填剤が、扁平ガラス繊維を含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記LDS添加剤が、重金属混合酸化物スピネル、銅塩、有機金属錯体、金属酸化物、金属酸化物でコーティングされた充填剤、マイカ基板上でコーティングされたアンチモンドープされた酸化スズ、銅含有金属酸化物、亜鉛含有金属酸化物、スズ含有金属酸化物、マグネシウム含有金属酸化物、アルミニウム含有金属酸化物、金含有金属酸化物、銀含有金属酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記強化用充填剤とは異なる、約1wt%から約10wt%の鉱物充填剤をさらに含んでなり、
前記鉱物充填剤が、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ドロマイト、珪灰石、硫酸バリウム、シリカ、カオリン、長石、バライト、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記鉱物充填剤がタルクを含んでなる、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
少なくとも一つの耐衝撃性改良剤をさらに含んでなる、請求項1から10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記少なくとも一つの耐衝撃性改良剤が、ポリエチレン-グリシジルメタクリラート(PE-GMA)、スチレン-エチレン/1-ブテン-スチレン(SEBS)、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項11に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、ASTM D3359に準拠して決定される改善された接着性;改善された表面外観;または
低減された反り、
を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルの代わりにポリカルボナートを含む比較組成物と比較して、ASTM D523に準拠して試験される改善された光沢を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項15】
LDS用途に使用するのに好適なレーザ直接構造化(LDS)組成物である、請求項1から14のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結晶性ポリエステル系のレーザ直接構造化(LDS)組成物に関するものであり、詳細には、結晶性ポリエステルとポリカルボナートコポリマーとを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ活性化およびその後の化学メッキ手順を含むレーザ直接構造化(LDS)は、携帯電話技術などの家電産業における回路部品の生成に広く使用されている。詳細には、LDS工程は、モバイル装置のアンテナを作製するのに使用される場合がある。ポリカルボナート(PC)系のLDS材料は、流動性、機械的特性、寸法安定性のバランスが良いので、アンテナメーカーに好まれている。しかし、PCは耐薬品性が低く、その結果、アルカリメッキの侵食、よって表面光沢が低くなる問題を生じる可能性がある。この問題は、ガラス充填PCでさらに深刻になる。PCが侵食される結果、ガラスが「浮いた」ような外観になり、顧客にとって望ましくない。少なくともこれらの理由から、ガラス充填PCのLDS材料は好まれない。
【0003】
モバイルアンテナ用途の高弾性率要件を満たすために、ガラス充填ポリアミド(PA)LDS材料が使用されており、これは、良好な耐薬品性と、アルカリメッキ後の高光沢表面とを与える。しかし、PAの異方的特徴の結果、結晶性ポリマーの共通の問題である反りが生じる。PAの保湿の問題はさらに、誘電安定性の低さにつながり、これはアンテナ性能に影響を与え、5Gモバイル用途には好適でない。
【0004】
これらの欠点および他の欠点は、本開示の態様によって対処される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様は、(a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、を含む熱可塑性組成物に関する。詳細な態様では、少なくとも一つの結晶性ポリエステルは、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含み、ポリカルボナートコポリマーは、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含む。さらなる態様では、少なくとも一つの強化用充填剤はガラス繊維を含み、具体的な態様では扁平ガラス繊維を含む。この組成物は、ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、改善された接着性、表面外観、および/または反り特性を有する。
【0006】
必ずしも縮尺通りに描かれていない図面において、同様の数字は、異なる図における同様の構成成分を記述する場合がある。異なる文字の接尾辞を有する同様の数字は、同様の構成成分の異なる実例を表す場合がある。図面は概して、本明細書で考察される様々な態様を、限定するものとしてではなく、例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の態様による比較組成物および実施例組成物のメッキ性能を比較する写真である。
【
図2】
図2は、本開示の態様による比較組成物および実施例組成物の反り性能を比較する写真である。
【
図3】
図3は、本開示の態様による比較組成物および実施例組成物の反り性能を比較する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、PCの耐薬品性の問題および結晶性ポリマーの反りの問題に対処するポリエステル/PCコポリマーブレンドに関する。本開示による組成物は、流動特性、機械的特性、寸法安定特性、および耐薬品特性において良好でバランスのとれた性能を提供する。結晶性ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタラート(PBT))とPCコポリマーの組み合わせは、携帯電話アンテナのような高弾性率用途に好適な組成物を提供し、このアンテナは現在および次世代の通信用途の両方にとって有益なものである。
【0009】
本開示は、本開示の以下の詳細な記載およびそこに含まれる実施例を参照することによって、さらに容易に理解することができる。様々な態様では、本開示は:(a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、を含む熱可塑性組成物に関する。
【0010】
本化合物、組成物、物品、システム、装置、および/または方法が開示され記載されるのに先立って、それらが、別途指定のない限り具体的な合成方法に、また別途指定のない限り詳細な試薬に限定されず、よって当然ながら異なり得ることは、理解されよう。また、本明細書で使用される用語が、詳細な態様を記載する目的のためだけのものであって、限定することを意図されないことも理解されよう。
【0011】
本開示の構成要素の様々な組み合わせ、例えば、同一の独立請求項に従属する従属請求項からの構成要素の組み合わせが、本開示によって包含される。
【0012】
さらに、別途明示のない限り、本明細書に記載されるいかなる方法も、そのステップが具体的な順序で実行されるよう要求していると解釈されるようなことは、決して意図されないことが理解されよう。したがって、方法の請求項が、そのステップが従うことになる順序を実際に記載していない場合には、またはそのステップが具体的な順序に限定されることが請求項または明細書において別途具体的に示されていない場合には、いかなる点においても、順序が推察されるようなことは、決して意図されない。これは、ステップの配置または操作の流れに関する論理にかかわる事柄;文法上の構成または句読点から導かれる平易な意味;および明細書に記載された態様の数またはタイプを含め、解釈にとっての考えられるいかなる非明示的な根拠にも適用される。
【0013】
本書に記載されるすべての公開文献は、引用されるそれらの公開文献に関連する方法および/または材料を開示し記載するために、参照により本書に組み込まれる。
定義
【0014】
また、本明細書で使用される用語が、詳細な態様を記載する目的のためだけのものであって、限定することを意図されないことも理解されよう。本明細書で、そして特許請求の範囲で使用されるとおり、用語「含んでなる」は、「からなる」および「から実質的になる」態様を含むことができる。別途定義されているのでない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の業者によって広く理解されているものと同じ意味を有する。本明細書では、そして添付の特許請求の範囲では、本明細書で定義されるものとされる複数の用語が参照されることになる。
【0015】
本明細書で、そして添付の特許請求の範囲で使用されるとおり、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から明らかにそうでないと指示されているのでない限り、複数の指示対照を含む。よって、例えば、「ポリカルボナートコポリマー(a polycarbonate copolymer)」への言及は、二つ以上のポリカルボナートコポリマーの混合物を含む。
【0016】
本明細書で使用されるとおり、用語「組み合わせ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物、および同類のものを含む。
【0017】
範囲は、本明細書では、一つの値(第1の値)から別の値(第2の値)までとして表現することができる。そのような範囲が表現される場合、その範囲は、いくつかの態様では、第1の値および第2の値のうちの一つまたは両方を含む。同様に、値が近似値として表現される場合には、先行詞「約」の使用により、詳細な値が別の態様をなすことは理解されよう。さらに、各範囲の端点は、他の端点との関係において、そして他の端点とは独立に、有効値であることが理解されよう。また、本明細書で開示される複数の値が存在すること、そして各値が、その詳細な値そのものに加えて、「約」その値としても本明細書に開示されることも理解される。例えば、値「10」が開示される場合には、「約10」もまた開示される。また、二つの特定の単位の間の各単位もまた開示されることも理解される。例えば、10と15が開示されている場合には、11、12、13、14もまた開示される。
【0018】
本明細書で使用されるとおり、「約」および「のところまたはその近傍」という用語は、問題の量または値が、指定値、近似的に指定値、または指定値とほぼ同じとすることができることを意味する。本明細書で使用されるとおり、別途指示または推察されているのでない限り、それは、表示された公称値±10%のばらつきであると、概して理解される。この用語は、特許請求の範囲に記載された均等な結果または効果が類似の値によって助長されると伝えることを意図している。すなわち、量、サイズ、配合、パラメータ、ならびに他の量および特性は、正確ではなく、正確である必要はないが、公差、変換係数、丸め、測定誤差、および同類のもの、ならびに当業者に公知の他の要因を反映して、所望に応じて近似値および/または大きいもしくは小さいものとすることができると理解される。概して、量、サイズ、配合、パラメータ、または他の量もしくは特性は、そのように明示されているかどうかにかかわらず、「約」または「近似値」である。定量的な値の前に「約」が使用されている場合には、パラメータはまた、具体的に言明されているのでない限り、その具体的で定量的な値自体も含むと理解される。
【0019】
開示されるのは、本明細書に開示される方法内で使用される組成物自体のみならず、本開示の組成物を調製するために使用される構成成分である。これらの材料および他の材料は本明細書に開示されているので、これらの材料の組み合わせ、部分集合、相互作用、群などが開示されている場合には、これらの化合物のそれぞれの様々な個別のおよび集合的な組み合わせと順列の具体的な言及を明示的に開示することはできないにしても、それぞれが本明細書で具体的に企図され記載されているということは、理解される。例えば、特定の化合物が開示、考察され、それらの化合物を含む複数の分子に対して行うことができる複数の修正形態が考察される場合には、具体的に企図されるのは、それらの化合物それぞれのおよびあらゆる組み合わせと順列、ならびに反対のことが具体的に指示されているのでない限り可能となるその修正形態である。よって、分子A、B、およびCの類のみならず、分子D、E、およびFの類が開示され、組み合わせ分子の例であるA-Dが開示されている場合には、それぞれが個別に言及されていなくても、それぞれが個別に、そして集合的に企図され、組み合わせ、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、およびC-Fが開示されているとみなされることを意味する。同様に、これらのいずれの部分集合または組み合わせもまた開示される。よって、例えば、A-E、B-F、およびC-Eという部分群が、開示されるとみなされる可能性がある。この概念は、本開示の組成物を作るおよび使用する方法におけるステップを含むがこれらに限定されない、本出願のすべての態様に適用される。よって、実行できる様々な追加のステップがある場合には、これらの追加のステップの各々が、本開示の方法のいずれの具体的な態様または態様の組み合わせを用いても実行できることが理解される。
【0020】
本明細書および結びの請求項の範囲において、組成物または物品中の詳細な構成要素または構成成分の重量部について言及があれば、それは、その構成要素または構成成分と、組成物または物品中の重量部で表現されている他の構成要素または構成成分との間の重量関係を示す。よって、2重量部の構成成分Xと5重量部の構成成分Yを含有する化合物では、XとYは2:5の重量比で存在し、化合物中に追加の構成成分が含有されているかどうかにかかわらず、そのような比率で存在する。
【0021】
構成成分の重量パーセントは、反対のことが具体的に言明されているのでない限り、その構成成分が含まれる配合物または組成物の全重量を基準にする。
【0022】
本明細書で使用されるとおり、用語「数平均分子量」または「Mn」は、互換的に使用でき、試料中のすべてのポリマー鎖の統計平均分子量を指し、式:
【0023】
【数1】
によって定義され、式中、M
iは鎖の分子量であり、N
iはその分子量の鎖の数である。M
nは、ポリマー、例えばポリカルボナートポリマーについて、分子量標準、例えばポリカルボナート標準またはポリスチレン標準、好ましくは認証されたまたは追跡可能な分子量標準を用いる、当業者に周知の方法によって、決定することができる。
【0024】
本明細書で使用されるとおり、用語「重量平均分子量」または「Mw」は互換的に使用することができ、式:
【0025】
【数2】
によって定義され、式中、M
iは鎖の分子量であり、N
iはその分子量の鎖の数である。M
nと比較して、M
wは、分子量平均への寄与を決定する際に所与の鎖の分子量を考慮している。よって、所与の鎖の分子量が大きいほど、その鎖のM
wへの寄与は大きくなる。M
wは、ポリマー、例えばポリカルボナートポリマーについて、分子量標準、例えばポリカルボナート標準またはポリスチレン標準、好ましくは認証されたまたは追跡可能な分子量標準を用いる、当業者に公知の方法によって、決定することができる。
【0026】
本明細書で使用されるとおり、用語「分子量分散度」または「PDI」は互換的に使用することができ、式:
【0027】
【数3】
によって定義される。PDIは1以上の値を有するが、ポリマー鎖が均一な鎖長に近づくにつれて、PDIは1に近づく。
【0028】
本明細書で使用されるとおり、用語「BisA」、「BPA」、または「ビスフェノールA」は、互換的に使用することができ、式:
【0029】
【化1】
で表される構造を有する化合物を指す。BisAは、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール;p,p’-イソプロピリデンビスフェノール:または2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを指すものとすることもできる。BisAは、CAS番号80-05-7を有する。
【0030】
本明細書で使用されるとおり、「ポリカルボナート」は、カルボナート結合で結合した一つまたは複数のジヒドロキシ化合物、例えばジヒドロキシ芳香族化合物の残基を含むオリゴマーまたはポリマーを指し、ホモポリカルボナート類、コポリカルボナート類および(コ)ポリエステルカルボナート類も包含する。
【0031】
ポリマーの成分に関して使用される用語「残基」および「構造単位」は、本明細書を通じて同義である。
【0032】
本明細書で使用されるとおり、用語「重量パーセント、「wt%」、および「wt.%」は、互換的に使用することができ、別途指定されているのでない限り、組成物の全重量を基準にした所与の構成成分の重量パーセントを示す。すなわち、別途指定されているのでない限り、すべてのwt%値は、組成物の全重量を基準にする。開示された組成物または配合物中の全構成成分のwt%値の総和は100に等しいことを理解されたい。
【0033】
本明細書で反対のことが別途言明されているのでない限り、すべての試験基準は、本願出願時点で有効な最新の基準である。
【0034】
本明細書に開示された材料はそれぞれ、市販されている、および/またはその製造方法は当業者に公知である。
【0035】
本明細書に開示された組成物は、特定の機能を有することが理解される。本明細書で開示されているのは、開示された機能を実行する特定の構造的要件であるが、開示された構造に関連する同じ機能を実行できる様々な構造が存在すること、そして同じ結果をこれらの構造が典型的には実現することは理解される。
熱可塑性組成物
【0036】
本開示の態様は:(a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、を含む熱可塑性組成物に関する。全構成成分の組み合わせ重量パーセント値は100wt%を超えず、全重量パーセント値は複合材料の全重量を基準にする。
【0037】
いくつかの態様では、少なくとも一つの結晶性ポリエステルは、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンテレフタラートグリコール(PETG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラートグリコール(PCTG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタル酸(PCTA)、それらのコポリマー、またはそれらの組み合わせを含む。詳細な態様では、少なくとも一つの結晶性ポリエステルは、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含む。
【0038】
いくつかの態様では、組成物は、約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルを含む。他の態様では、組成物は、約30wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルを含む。さらなる態様では、組成物は、主要構成成分として少なくとも一つの結晶性ポリエステルを含む;すなわち、少なくとも一つの結晶性ポリエステルは、組成物中の他のいかなる構成成分、例えばポリカルボナートコポリマーまたは強化用充填剤よりも多量に存在する。さらなる態様では、少なくとも一つの結晶性ポリエステルは、ポリカルボナートコポリマーよりも多量に組成物中に存在する。
【0039】
好適なポリカルボナートコポリマーには、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマー、ポリカルボナート-イソフタラート・テレフタラート・レソルシノール(PC-ITR)コポリマー、またはそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらには限定されない。
【0040】
いくつかの態様では、組成物は、約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーを含む。特定の態様では、組成物は、約1wt%から約30wt%のポリカルボナートコポリマーを含む。詳細な態様では、組成物は、少なくとも一つの結晶性ポリエステルと比較して、より低い含有量のポリカルボナートコポリマーを含む。
【0041】
特定の態様では、ポリカルボナートコポリマーは、約10wt%から約30wt%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含む。具体的な態様では、PC-Siコポリマーは、約15wt%から約25wt%、または約18wt%から約22wt%、または約20wt%のシロキサン含有量を有する。
【0042】
強化用充填剤は、シリカ、タルク、マイカ、カーボンブラック、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、中空ガラスビーズ、粉砕ガラス繊維、およびそれらの組み合わせを挙げてもよいが、これらには限定されない。特定の態様では、強化用充填剤はガラス繊維を含む。いかなる好適なガラス繊維を使用してもよい。
【0043】
詳細な態様では、ガラス繊維は、扁平ガラス繊維である。繊維の扁平性は、繊維の矩形断面の幅と高さの間の比の関数である。いくつかの態様では、扁平ガラス繊維は、少なくとも2の扁平性を有する。他の態様では、ガラス繊維は、約2から約10、または約2から約5、または約4の扁平性を有する。
【0044】
LDS添加剤は、重金属混合酸化物スピネル、例えば、銅クロム酸化物スピネル;銅塩、例えば水酸化リン酸銅、硫酸銅、チオシアン酸銅、スピネル系の金属酸化物(酸化銅クロムなど)、有機金属錯体(パラジウム/パラジウム含有重金属錯体など)、金属酸化物、金属酸化物でコーティングされた充填剤、マイカ基板上でコーティングされたアンチモンドープされた酸化スズ、銅含有金属酸化物、亜鉛含有金属酸化物、スズ含有金属酸化物、マグネシウム含有金属酸化物、アルミニウム含有金属酸化物、金含有金属酸化物、銀含有金属酸化物、または同類のもの、または前述のLDS添加剤の少なくとも一つを含む組み合わせなどを挙げてもよいが、これらには限定されない。
【0045】
特定の態様では、LDS添加剤は、重金属混合酸化物スピネル、銅塩、有機金属錯体、金属酸化物、金属酸化物でコーティングされた充填剤、マイカ基板上でコーティングされたアンチモンドープされた酸化スズ、銅含有金属酸化物、亜鉛含有金属酸化物、スズ含有金属酸化物、マグネシウム含有金属酸化物、アルミニウム含有金属酸化物、金含有金属酸化物、銀含有金属酸化物、またはそれらの組み合わせを含む。詳細な態様では、LDS添加剤は、銅クロマイトブラックスピネルを含む。
【0046】
いくつかの態様では、組成物は、強化用充填剤とは異なる約1wt%から約10wt%の鉱物充填剤をさらに含む。鉱物充填剤には、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ドロマイト、珪灰石、硫酸バリウム、シリカ、カオリン、長石、バライト、またはそれらの組み合わせなどを挙げてもよいが、これらには限定されない。特定の態様では、鉱物充填剤はタルクを含む。
【0047】
組成物は、いくつかの態様では、少なくとも一つの耐衝撃性改良剤をさらに含む。特定の態様では、少なくとも一つの耐衝撃性改良剤は、ポリエチレン-グリシジルメタクリラート(PE-GMA)、スチレン-エチレン/1-ブテン-スチレン(SEBS)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0048】
熱可塑性組成物は、従来のLDS組成物と比較して、詳細には従来のPBTおよびポリカルボナート系の組成物と比較して、改善された特性を有する。一態様では、組成物は、ASTM D3359に準拠して決定される、ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して改善された接着性を有する。本明細書で使用されるとおり、改善された接着性は、7ワット(W)以上のレーザパワーレベルで、および1ヘルツ(Hz)の周波数でクロスハッチテープ(cross-hatch tape)試験によって測定される場合に、平均接着性が少なくとも1Bグレード分だけ増加することを意味する。
【0049】
他の態様では、組成物は、ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、改善された表面外観を有する。さらなる態様では、組成物は、PBTを含まない比較組成物と比較して、改善された表面外観を有する。改善された表面外観は、組成物のモールド成形された試料において浮遊する強化用充填剤(例えば、ガラス繊維)がさらに少ないことによって、視覚的に観測することができる。改善された表面外観はまた、L*a*b*表色法(すなわち、国際照明委員会(CIE)によって定義されたIELAB色空間)を使用して測定される改善された光沢に基づいて評価してもよい。
【0050】
特定の態様では、組成物は、ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、低減された反りを有する。反り、または曲げは、組成物のモールド成形された試料において視覚的に観測することができる。詳細な態様では、反りは、少なくとも100ミリメートル(mm)×100mm、例えば150mm×150mmであるがこれには限定されない組成物の試料をモールド成形し、この試料の平坦性を観測することによって評価することができる。他の態様では、反りは、約135mmの直径および約0.9mmから約1.2mmの厚さを有するディスクをモールド成形することが関与する定量化方法を使用して評価することができる。
【0051】
いくつかの態様では、組成物は、ASTM D523に準拠して試験される、少なくとも一つの結晶性ポリエステルの代わりにポリカルボナートを含む比較組成物と比較して改善された光沢を有する。
【0052】
詳細な態様では、組成物は、LDS用途での使用に好適なレーザ直接構造化(LDS)組成物である。
製造方法
【0053】
本明細書に記載される一つまたはいずれか前述の構成成分は、最初に互いにドライブレンドするか、または前述の構成成分のいずれかの組み合わせとドライブレンドしてもよく、次いで、シングルまたはマルチフィーダから押出機に供給するか、またはシングルまたはマルチフィーダから押出機に別個に供給してもよい。本開示で使用される充填剤はまた、最初にマスターバッチに加工し、次いで、押出機に供給してもよい。構成成分は、スロートホッパ(throat hopper)、またはいずれかのサイドフィーダ(side feeder)から押出機に供給してもよい。
【0054】
本開示で使用される押出機は、単軸スクリュ、複数軸スクリュ、噛み合型同方向回転または逆方向回転スクリュ、非噛み合い型同方向回転または逆方向回転スクリュ、往復動スクリュ、ピン付きスクリュ、スクリーン付きスクリュ、ピン付きバレル、ロール、ラム(ram)、ヘリカルロータ(helical rotor)、コニーダ(co-kneader)、ディスクパックプロセッサ(disc-pack processor)、種々の他のタイプの押出装置、または前述の少なくとも一つを含む組み合わせを有してもよい。
【0055】
また構成成分を一緒に混合し、次いで、溶融ブレンドして熱可塑性組成物を形成させてもよい。構成成分を溶融ブレンドすることには、せん断力、伸長力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、または前述の力もしくはエネルギーの形態の少なくとも一つを含む組み合わせの使用が関与する。
【0056】
コンパウンディング中の押出機のバレル温度は、樹脂が半結晶性有機ポリマーである場合には、ポリマーの少なくとも一部が溶融温度程度以上の温度に達する温度、または樹脂が非晶質樹脂である場合には、流動点(例えばガラス転移温度)に設定することができる。
【0057】
前述の構成成分を含む混合物は、必要に応じて複数のブレンドステップおよび形成ステップに通してもよい。例えば、まず熱可塑性組成物を押出成形して、ペレットに形成してもよい。次いで、ペレットをモールド成形機に供給し、そこでいずれかの所望の形状または製造物に成形してもよい。あるいは、単一の溶融ブレンダーから吐出される熱可塑性組成物を、シートまたはストランドに形成し、アニーリング、一軸または二軸延伸などの押出後工程に通してもよい。
【0058】
本工程における溶融の温度は、いくつかの態様では、構成成分の過剰な熱劣化を避けるために可能な限り低く維持される場合がある。特定の態様では、溶融温度は約230℃と約350°Cの間に維持されるが、ただし処理装置内での樹脂の滞留時間が比較的短く維持されるという条件で、さらに高い温度を使用することもできる。いくつかの態様では、溶融処理された組成物は、押出機などの処理装置からダイの小さな出口孔を通って出る。得られた溶融樹脂のストランドは、水槽に通すことによって冷却してもよい。冷却されたストランドは、包装およびさらなる取り扱いのためにペレットに切り分けることができる。製造の物品
【0059】
特定の態様では、本開示は、熱可塑性組成物を含む、成形された、形成された、またはモールド成形された物品に関する。熱可塑性組成物は、例えば、携帯電話、タブレットコンピュータ、パーソナルコンピュータ、ノートブック、およびポータブルコンピュータ、および他のそのような機器、医療用途、RFID用途、自動車用途、および同類のものなどが挙げられるがこれらには限定されない個人または商業用電子装置の物品および構造的構成成分を形成する、射出成形、押出成形、回転成形、ブロー成形、および熱成形などの様々な手段によって、有用な形状の物品にモールド成形することができる。さらなる態様では、物品は押出成形される。さらに別の態様では、物品は射出成形される。
【0060】
本開示の構成要素の様々な組み合わせ、例えば、同一の独立請求項に従属する従属請求項からの構成要素の組み合わせが、本開示によって包含される。
本開示の態様
【0061】
様々な態様では、本開示は、少なくとも以下の態様に関するものであり、それらを含む。
【0062】
態様1. (a) 約1wt%から約99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;
(b) 約1wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーと;
(c) 約10wt%から約50wt%の強化用充填剤と;
(d) 約1wt%から約10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、
を含んでなる、からなる、またはから実質的になる熱可塑性組成物であって、全構成成分の組み合わせ重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が、前記複合材料の全重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【0063】
態様2. 前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンテレフタラートグリコール(PETG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラートグリコール(PCTG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタル酸(PCTA)、それらのコポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、態様1に記載の熱可塑性組成物。
【0064】
態様3. 前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含んでなる、態様1に記載の熱可塑性組成物。
【0065】
態様4. 前記ポリカルボナートコポリマーが、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマー、ポリカルボナート-イソフタラート・テレフタラート・レソルシノール(PC-ITR)コポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、態様1から3のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0066】
態様5. 前記ポリカルボナートコポリマーが、約10wt%から約30wt%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含んでなる、態様1から3のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0067】
態様6. 前記強化用充填剤が、シリカ、タルク、マイカ、カーボンブラック、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、中空ガラスビーズ、粉砕ガラス繊維、およびそれらの組み合わせを含んでなる、態様1から5のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0068】
態様7. 前記強化用充填剤が、扁平ガラス繊維を含んでなる、態様1から5のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0069】
態様8. 前記LDS添加剤が、重金属混合酸化物スピネル、銅塩、有機金属錯体、金属酸化物、金属酸化物でコーティングされた充填剤、マイカ基板上でコーティングされたアンチモンドープされた酸化スズ、銅含有金属酸化物、亜鉛含有金属酸化物、スズ含有金属酸化物、マグネシウム含有金属酸化物、アルミニウム含有金属酸化物、金含有金属酸化物、銀含有金属酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでなる、態様1から7のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0070】
態様9. 前記LDS添加剤が、銅クロマイトブラックスピネルを含んでなる、態様1から7のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0071】
態様10. 前記強化用充填剤とは異なる、約1wt%から約10wt%の鉱物充填剤をさらに含んでなり、
前記鉱物充填剤が、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ドロマイト、珪灰石、硫酸バリウム、シリカ、カオリン、長石、バライト、またはそれらの組み合わせを含んでなる、態様1から9のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0072】
態様11. 前記鉱物充填剤がタルクを含んでなる、態様1から10のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0073】
態様12. 少なくとも一つの耐衝撃性改良剤をさらに含んでなる、態様1から11のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0074】
態様13. 前記少なくとも一つの耐衝撃性改良剤が、ポリエチレン-グリシジルメタクリラート(PE-GMA)、スチレン-エチレン/1-ブテン-スチレン(SEBS)、またはそれらの組み合わせを含んでなる、態様12に記載の熱可塑性組成物。
【0075】
態様14. ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、ASTM D3359に準拠して決定される改善された接着性を有する、態様1から13のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0076】
態様15. ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、改善された表面外観を有する、態様1から14のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0077】
態様16. ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、低減された反りを有する、態様1から15のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0078】
態様17. 前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルの代わりにポリカルボナートを含む比較組成物と比較して、ASTM D523に準拠して試験される改善された光沢を有する、態様1から16のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0079】
態様18. LDS用途に使用するのに好適なレーザ直接構造化(LDS)組成物である、態様1から17のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0080】
態様19. 約1wt%から約30wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステル、および約30wt%から約99wt%のポリカルボナートコポリマーを含んでなる、態様1から18のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【実施例】
【0081】
以下の実施例は、本明細書で特許請求される化合物、組成物、物品、装置、および/または方法がどのように作られ評価されるかの完全な開示および記載を当業者に提供するために提示されるものであり、純粋に例示的であることが意図され、開示を制限することは意図されないものである。数(例えば、量、温度など)に関して正確性を保証するよう努力がなされているが、多少の誤差および偏差を勘定に入ることが望ましい。別途指示のない限り、部は重量部であり、温度は℃または周囲温度であり、圧力は大気圧または大気圧近傍である。別途指示のない限り、組成を指す百分率はwt%である。
【0082】
記載された工程から得られる製造物の純度および収率を最適化するために使用できる、反応条件、例えば、構成成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、ならびに他の反応範囲および条件の多数の変形形態および組み合わせが存在する。そのような工程条件を最適化するため必要なのは、妥当で通常の実験だけであろう。
【0083】
本明細書に記載される比較組成物および実施例組成物に使用される材料を表1に示す。
表1 - 材料
【0084】
【0085】
これらの組成物から、通常の工程に従ってペレットをコンパウンディングした。樹脂と添加剤は予め混合してメインスロートから供給し、ガラス繊維は押出機の下流に供給した。PC系(比較)組成物は、毎時40キログラム(kg/時)の出力、毎分300回転(RPM)のスクリュ速度、0.6バールの真空、55%のトルク、255~265℃のバレル温度、および265℃のダイ温度を使用してコンパウンディングした。PBT(比較例および実施例)組成物は、50kg/時の出力、200RPMのスクリュ速度、0バールの真空、80%のトルク、240~250℃のバレル温度、および250℃のダイ温度を使用してコンパウンディングした。
【0086】
このペレットを、表2に記載の条件に従って射出成形した。
表2 - 射出成形のパラメータ
【0087】
【0088】
形成された組成物を表3に例示する。
表3 - 比較組成物および実施例組成物
【0089】
【0090】
表3の組成物(C1、C2、Ex1~Ex3)の特性を表4に列挙する。
表4 - 表3の組成物の特性
【0091】
【0092】
40キロヘルツ(KHz)および100KHzでASTM D3359に準拠して様々な出力で試験したC2、Ex1、およびEx2の具体的な接着特性を表5に与える。
表5 - 接着特性
【0093】
【0094】
比較組成物C1は、従来のLDS用途の30wt%ガラス繊維充填PCを用いており、比較組成物C2は、従来のLDS用途の30wt%ガラス繊維充填PBTを用いた対照配合物である。Ex1およびEx2は、PBTおよびPCコポリマーを、同一のガラス繊維タイプおよび投入量で組み合わせたものである。Ex3は、PC-ITRコポリマーを主要構成成分として含むPBTブレンドである(ガラス繊維のタイプおよび投入量は同じであるが、耐衝撃性改良剤は含まない)。比較組成物C0は、より理想的な対照としてEx1およびEx2に近いはずであるが、その性能は試験しなかった。
【0095】
表4に示されるとおり、実施例組成物Ex1およびEx2は、同等の機械的特性を有し、より良好な熱的特性を有する。また、レーザ活性化後の化学メッキの場合では、メッキ指数がともに0.9となったが、これは十分な金属堆積を示唆している。従来、ガラス繊維充填PC LDS化合物は、メッキ時の耐薬品性が低いことに起因して、ガラス繊維の浮きによる外観不良を示している。しかしこれに対し、PBTとPCコポリマー(シロキサンまたはITR)を含む実施例組成物Ex1およびEx2は、メッキ後の大幅に光沢のある外観を有することが観測された。これは主に、結晶性PBTによるさらに強い耐薬品性に起因するものである。さらに、表4の85°幾何条件の光沢データも、結晶性ポリエステル(PBT)/PCコポリマー組成物(Ex1、86.1%の光沢、およびEx2、80.6%の光沢)の外観が、PCを含む比較組成物(C1、73.5%の光沢)よりも良好であることを証明している。
【0096】
C2、Ex1、およびEx2の組成物のメッキ済みチップを
図1に例示する。これらの組成物および他の組成物の接着データを、表5に与える。従来のPBT組成物C2と比較して、実施例組成物Ex1およびEx2は、より高いレーザ出力(7~11ワット(W))および周波数(100ヘルツ(Hz)以上)でさらに良好なメッキ効率を示している。これは、レーザ燃焼時にPCコポリマーがより優れた炭化物形成能力を有することに起因する一方で、燃焼したPBTはより多くの燃料(CH
2単位)を放出し、損傷/破壊された表面および金属層のさらに悪い堆積につながる場合がある。
【0097】
比較組成物C3(ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーまたはポリカルボナート-イソフタラート・テレフタラート・レソルシノール(PC-ITR)コポリマーを含むポリカルボナートコポリマーを含まないもの)と、Ex1およびEx2とを比較することで同様の性能が示されている。実施例組成物Ex1およびEx2は両方とも、100KHzの周波数、7W以上で、良好なメッキ特性を維持している一方、比較組成物C3はそうではない。
【0098】
PBTやポリアミドなどの結晶性ポリマーの場合では、反りが共通の問題である。PCコポリマーを含むPBTブレンドは、大型モールド成形部品の場合でさえ、より良好な寸法安定性を与える。
図2に実証されるとおり、比較例のPBT板状体(C2、最上部)は、モールド成形時にかなりの曲げを有していた。10wt%のPC-ITRコポリマーを含む中央の板状体(SLX、Ex1)は、大幅に良好な平坦性を有していた一方、48.5wt%のPC-ITRコポリマーを含む最下部の板状体(SLX、Ex3)は、完全に平坦である。
図3にさらに実証されるとおり、最下部の板状体(PC-ITRコポリマー、Ex1)は、従来のポリカルボナートを含む最上部の板状体(C3)よりも大幅に平坦であった。
【0099】
上記は、例示的なものであること、そして制限するものではないことが意図される。例えば、上記の実施例(またはその一つもしくは複数の態様)は、互いに組み合わせて使用してもよい。他の態様は、例えば、当業者が上記を検討した時点で使用することができる。要約書は、米国特許法施行規則第1.72条(b)項に従って、読者が技術開示の性質を速やかに把握できるようにするために提供されるものである。それは、特許請求の範囲または意味を解釈または制限するためには使用されないとする理解と併せて提出される。また、上の、発明を実施するための形態において、様々な特徴が、開示を能率的にするためにグループ化される場合がある。そうであっても、特許請求されていない開示された特徴がいずれの請求項にとっても本質的であるということを意図するわけではないと解釈されるのが望ましい。むしろ、進歩性のある主題が、特定の開示された態様のあらゆる特徴よりも少ない特徴のなかにある場合がある。よって、添付の特許請求の範囲は、実施例または態様として、発明を実施するための形態に組み込まれ、各請求項は別個の態様としてそれ自体独立しており、そのような態様は、様々な組み合わせまたは順列で互いに組み合わせることができることが企図される。本開示の範囲は、そのような請求項が権利を有する均等物の最大限の範囲と共に、添付の特許請求の範囲を参照しつつ定められるのが望ましい。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 1wt%から99wt%の少なくとも一つの結晶性ポリエステルと;
(b) 1wt%から99wt%のポリカルボナートコポリマーと;
(c) 10wt%から50wt%の強化用充填剤と;
(d) 1wt%から10wt%のレーザ直接構造化(LDS)添加剤と、
を含んでなる熱可塑性組成物であって、全構成成分の組み合わせ重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が、前記複合材料の全重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンテレフタラートグリコール(PETG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラートグリコール(PCTG)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタル酸(PCTA)、それらのコポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルが、ポリブチレンテレフタラート(PBT)を含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記ポリカルボナートコポリマーが、ポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマー、ポリカルボナート-イソフタラート・テレフタラート・レソルシノール(PC-ITR)コポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記ポリカルボナートコポリマーが、10wt%から30wt%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサン(PC-Si)コポリマーを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記強化用充填剤が、シリカ、タルク、マイカ、カーボンブラック、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、中空ガラスビーズ、粉砕ガラス繊維、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記強化用充填剤が、扁平ガラス繊維を含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記LDS添加剤が、重金属混合酸化物スピネル、銅塩、有機金属錯体、金属酸化物、金属酸化物でコーティングされた充填剤、マイカ基板上でコーティングされたアンチモンドープされた酸化スズ、銅含有金属酸化物、亜鉛含有金属酸化物、スズ含有金属酸化物、マグネシウム含有金属酸化物、アルミニウム含有金属酸化物、金含有金属酸化物、銀含有金属酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記強化用充填剤とは異なる、1wt%から10wt%の鉱物充填剤をさらに含んでなり、
前記鉱物充填剤が、炭酸カルシウム、ドロマイト、珪灰石、硫酸バリウム、カオリン、長石、バライト、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記強化用充填剤がタルクを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
少なくとも一つの耐衝撃性改良剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記少なくとも一つの耐衝撃性改良剤が、ポリエチレン-グリシジルメタクリラート(PE-GMA)、スチレン-エチレン/1-ブテン-スチレン(SEBS)、またはそれらの組み合わせを含んでなる、請求項11に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
ポリカルボナートコポリマーを含まない比較組成物と比較して、ASTM D3359に準拠して決定される改善された接着性;改善された表面外観;または
低減された反り、
を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
前記少なくとも一つの結晶性ポリエステルの代わりにポリカルボナートを含む比較組成物と比較して、ASTM D523に準拠して試験される改善された光沢を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項15】
LDS用途に使用するのに好適なレーザ直接構造化(LDS)組成物である、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【国際調査報告】